暴排トピックス

取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人

スクランブル交差点のイメージ画像

昨年は、「暴排トピックス」をご愛読頂きまして、誠にありがとうございました。

おかげさまで、昨年末には、「暴排トピックス」を再編集した「SPNレポート2012~企業における反社会的勢力排除の取組みvol.2」をリリースすることができました(SPクラブ会員の皆さまには順次お届けしておりますが、弊社HPからの無料ダウンロードは2月1日から可能となります)。

本年も「暴排」をテーマに、旬の話題をお届けしてまいりたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

1.暴力団の歴史と社会との関わり

暴力団排除の取り組みをしていくうえでは、「暴力団」の歴史と社会との関係の変遷についても理解を深めておくことが重要だと思われます。

これまで「必要悪」として、社会と共存できてきたとも言える彼らを、「今」「何故」排除しなければならないのか、企業もその構成員である役職員も十分に理解できていないことが、実効性ある取り組みの阻害要因となっているようにも思われます。

今回は、原点に立ち返り、この点を考えてみたいと思います。

暴力団の歴史

暴力団という呼び名そのものは第二次世界大戦後マスコミによって名付けられたものと言われていますが、警察庁「平成19年版警察白書」における「戦後の資金獲得活動の変遷」によれば、その組織実態は江戸時代にまで遡ることができ、暴力団の別称でもある「やくざ」は「博徒」と「的屋」に端を発しているとされます。

▼警察庁「平成19年版警察白書」~戦後の資金獲得活動の変遷

「博徒」は常習的に賭博を行い、それにより生計を立てている者及び集団を指し、「渡世人」などとも称され、「家」「組」「会」などの集団を名乗って、縄張りの中で賭博を開帳し収益をあげていました。

一方、「的屋」は、いわゆる露天商として主に祭礼時の寺社境内や参道などで屋台を出して食品や玩具などを売る商人を指し、彼らは祭事とともに移動することを常としていることからトラブルが絶えず、秩序維持を担う指導者や組織が現れます。その上層部団体に暴力団化した組織が生まれ、屋台は場所代(ショバ代)を上層部団体に上納するという仕組みが形成されたようです。

このような「博徒」や「的屋」から自然発生的に形成された組織やその秩序維持の在り様、すなわち「やくざ」組織が、現在の暴力団組織の基礎となっているのです。

第二次世界大戦終結の直後は物資が不足し闇市が栄えたことから、特に露店を本職としている的屋系の組織が勢力を増すとともに、当時の劣悪な治安状況において、警察に代わって暴力団組織が治安維持の役割を果たす一方、新たに戦後の混乱の中で形成された愚連隊などの不良集団が徐々に暴力団組織化するという流れも生じました。

その後、日本の急速な経済復興に伴い、港湾労働者の手配や興行など合法的な経済活動を行うための組織として「企業舎弟(フロント企業)」などの形態も生まれ、薬物や売春などの伝統的犯罪による資金獲得に加え、バブル期には特に金融・不動産市場での資金獲得活動を本格化させ、政治経済に深く根付く存在となっていきます。

その後のバブル崩壊後の不良債権処理においても、(一説には、全体の半分を占めるとも推測された)暴力団の関与する問題不動産物件の処理が進められず、政治家や官僚、産業界との癒着などを背景としてその存在感を強めながら、一方では資金獲得活動の多様化・巧妙化・国際化を進めていったのです。

その過程で、バブル期の地上げやバブル崩壊後の債権回収などに代表される強引なやり方や、不良債権処理の妨害など暴力団の悪質さが社会問題化したことを受け、平成4年に暴力団対策法(正式名称「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」)が施行され、暴力団の活動は大きく制限されることになりました。

しかしながら、これまでもお話してきたように、暴力団対策法の施行が、結果的には、暴力団の実態の不透明化(潜在化)、振り込め詐欺や次々と現れる詐欺的手法など手口の更なる巧妙化・洗練化を推し進めることにもなり、一般の市民生活・企業活動に一層深いところまで食い込むことになります。

このような社会への害悪が顕著に認められるようになるに至り、暴力団の排除は警察のみでは徹底が難しいとして、「警察対暴力団」から「社会対暴力団(反社会的勢力)」への転換を図る目的で、全国で相次いで「暴力団排除条例」が施行される流れとなったのは皆様もよくご存知の通りです。

「必要悪」としての暴力団

暴力団が「必要悪」として社会的に受容されてきたことは歴史的に見ても紛れもない事実です。

警察や弁護士による対応とは別次元でグレーな解決を求める者が、社会には一定数存在し、暴力団がいわば「非合法的なもの」を求めるニーズを満たすニッチかつユニークな存在であることがその背景にあり、いわば社会の潤滑油として、彼らの居場所が社会の中に確固としてあったことが、「必要悪」として長い間社会的に受容されてきた理由であると考えられます。

また、暴力団や暴力団員が「義理人情に篤い」「正義」といった日本人好みのイメージを映画等のメディアを介して国民の間に刷り込まれてきていることもあげられます。

確かに、暴力団、やくざ等の別称である「極道」は道を極めるという意味であって、そのような求道者を志向する個人又は集団という性格も一面にはあるとはいえ、今の組織の現状としては、それどころか、むしろ社会的弱者を含め広く市民や企業を対象とした搾取を行っているという極めて卑劣な「外道」(道を外れる)であり、そのことを多くの市民が正確に認識しない(暴力性に怯えて正視してこなかった)ことが、「必要悪」として彼らを肯定する社会的な素地となってきたと考えられます。

また、メディアにより植えつけられた「アウトロー」「かっこいい」「底辺から力で這い上がる」「金を持っている」といったイメージが若年層を中心に影響を与え、暴力団員のリクルーティング(人材供給)につながっているのも現実であり、社会的に不適応な若年層や社会的な底辺層を中心に人材の供給が絶え間なく行われ続けている実態があります。

暴力団を「必要悪」とみる風潮は今でもありますが、社会経済の変化に対応し、(警察や弁護士などに頼らないグレーな解決方法を望む)人々の要求や薬物や博打といった人間の欲望に応えることで「必要悪」として生き延びてきた暴力団は、一般人の目にも明らかに「社会悪」と認められるようになるほどの組織の変質、すなわち「儲け至上主義」的な組織の行動様式が正当化され、それに伴って構成員の行動様式の変質、犯罪収益獲得のための手口の変質によって、社会全体を搾取の対象とするに至り、言い換えれば、「堅気に手を出さない」ことを拠り所として「やくざ」をしぶしぶ許容してきた社会的素地を自ら捨て去ることで「やくざ」が社会的な稼業として成り立たなくなるという「自己崩壊」により、もはや「必要悪」ではなく「社会悪」として排除すべき対象とされるようになったといえます。

さらに、企業の立場から見た場合、彼らを肯定する際の「必要悪」という言葉の「必要」とは、隠蔽したいクロやグレーのトラブル等に対して、グレーに(秘密裏に)解決するために頼る相手ということであり、「グレーな解決」を許容する企業風土・社会的風潮が背景にあります。

しかし、時代はコンプライアンスを求め、グレーなアプローチには「常識」で対応すること、安全確保も含め警察や弁護士等の外部専門家と連携して「真っ当に対応する」ことが今の社会的規範であることを考えれば、そもそも「必要悪」は存在せず、その害悪のみがクローズアップされることになるのであって、今の彼らが社会的に存在する余地はもはやないということになるのです。

2.最近のトピックス

改正暴力団対策法

①特定指定

昨年末、福岡県と山口県の両公安委員会が、改正暴力団対策法に基づき、工藤会を「特定危険指定暴力団」に指定、さらに、福岡、佐賀、長崎、熊本の4県の公安委員会が、道仁会と九州誠道会を「特定抗争指定暴力団」に指定しました。

(そもそもこれらの団体の取締り強化を念頭において制定された)昨年10月の改正暴力団対策法による初めての措置で、各公安委員会が設定した区域内で取り締まりが強化されることになります。

②暴追センターによる訴訟支援

全国の暴力追放運動推進センターが、地域住民に代わって暴力団組事務所の立ち退き訴訟を起こせる制度が1月からスタートしていますが、財政難から1回300万円はかかるとされる訴訟費用の捻出が難しい状況にあると報道されています。

そもそも、制度開始時に訴訟を行うことができる「適格団体」の認定を受けるためには、国家公安委員会が、十分な組織力、専門スタッフの有無、安定した財政基盤の3点を審査するとされており、認定される暴追センター自体も少数にとどまる可能性があり、制度自体の実効性が問われる事態となっています。

▼警察庁「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴う差止請求関係業務を行う都道府県暴力追放運動推進センターの認定の申請に対する審査基準」

詐欺的手法への対応

①国民健康保険の悪用(続報)

前回もご紹介しましたが、現地の病院で支払った治療費の一部を負担する官民の制度を悪用して現金をだまし取ったなどとして、指定暴力団住吉会の副会長を含む同会関係者らが詐欺容疑などで警視庁に相次いで逮捕、起訴されています。

海外の案件の審査が甘くなる点につけ込み制度を悪用、暴力団排除条例の影響で従来通りのシノギが成り立たなくなりつつある中、暴力団の手口の多様化、もっと言えば、「なりふり構っていらない」様子が窺われます。

また、今回の場合、損害保険会社の担当者が、申請された医療費が数十万円と現地の水準からすると異常に高いことを不審に思ったことから不正が発覚したということであり、繰り返しお話しております通り、「日常業務における端緒把握」の重要性・有効性が示されたものと言えます。

②損害保険業界における詐欺的手法への対応

日本損害保険協会は、「保険金不正請求対策室」を新設し、現在、個別の案件ごとに照会に応じる形から、各社から最新の詐欺データを月ごとに集約・分析、フィードバックする形にし、不正請求が疑われる事案のデータベースについても手口まで登録する、各社の保険金支払いデータも集約するといった形で、詐欺グループらのあぶり出しに取り組むということであり、詐欺の封じ込め、反社会的勢力排除の強化につながる有意義な取組みであると思われます。

▼日本損害保険協会「協会長ステートメント(平成24年12月20日)」

③不正口座開設にJAが狙い撃ちされる

ヤミ金融業者に転売する目的で神奈川県内5カ所のJAで13口座を不正に開設したとしてパートの女性が逮捕されています。金融機関では、ヤミ金融などに悪用された口座の名義人をまとめた警察庁のリスト(凍結口座名義人リスト)に基づくチェックが口座開設手続きの中に含まれていますが、JAの店舗に当該リストが届いていなかったことが不正を許した形となったようです。

脇の甘いところから侵入するという反社会的勢力の典型的な手口に類似していると言えますが、最近まで金融機関の全てが当該リストを共有していたわけではないのも事実であり、このような規制強化の取組みこそ「横並び」で隙を作らないようにして頂きたいものです。

アンチ・マネー・ローンダリング(AML)/テロ資金供与対策(CTF)

①邦銀米経済制裁違反で7億円支払い

三菱東京UFJ銀行は、米財務省外国資産管理局(OFAC)の規制対象国となっていたイラン、ミャンマー、キューバ、スーダンの法人や個人が国外に持つ口座に少なくとも97件、計600万ドル(約5億円)に上る送金したとして、同行が約860万ドル(約7億1300万円)を米財務省に支払うことで合意しています。

2007年に社内調査で規則違反の送金を発見し、米財務省に自主的に報告していたということですが、取組みの進んでいるメガバンクにおいても「海外反社」対応の質が問われているということであり、今年4月の犯罪収益移転防止法の改正施行とあわせ、金融機関における取組みが加速、それに伴って一般事業者も金融機関から厳しい眼で監視されるようになるとともに、グローバル化・巧妙化する犯罪組織に利用されたり、知らず知らずのうちに巻き込まれるリスクがあるという点でもはや対岸の火事とは言えない状況になることが予想されます。

②詐欺被害5億円超のマネー・ローンダリングに暴力団も関与

米国で起きた詐欺事件の被害金をマネー・ローンダリングしたとして、警視庁は、組織犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)容疑で、ナイジェリア国籍の損害保険会社員と指定暴力団極東会系組員らを逮捕しています。

容疑者らの口座に主に米国から計約5億8千万円が振り込まれており、大半が犯罪収益で容疑者のナイジェリア国内口座などを通じて同国の犯罪組織に渡ったとみられています。

③郵便物受取サービス業者による犯罪収益移転防止法違反の事例

警視庁は、本人確認をするよう経済産業省から是正命令を受けたにも関わらず確認をしないまま私設私書箱を使わせたとして、郵便物受取サービス業者を犯罪収益移転防止法(犯罪による収益の移転防止に関する法律)違反容疑で逮捕しています。

この私設私書箱については、架空請求詐欺グループが被害者に対し、現金の送付先として指定されており、被害総額は2億4600万円にのぼるということです。

▼JAFIC「犯罪収益移転防止法の概要(平成25年4月1日施行対応)」

④英大手銀行への制裁

以前紹介した英大手銀行によるマネー・ローンダリング・テロ資金供与事案に対する制裁内容が発表されており、いずれも経営に相当なダメージを与えるほどのインパクトがあるものとなっており、本リスクへの対策の重要性を再認識させられます。

香港上海銀行(HSBC)のマネー・ローンダリング事案

米当局は、英金融大手HSBCホールディングスが長年、マネー・ローンダリングに対する警告を無視していた件で、同行との間で、19億ドル(約1560億円)を支払うことで和解したと発表しています。

スタンダード・チャータード銀行の対イラン制裁違反

複数の米国当局(米司法省やニューヨーク連邦準備銀行など)は、対イラン制裁への違反を理由に、英金融大手スタンダード・チャータード銀行に3億2700万ドル(約270億円)の罰金を科しています。

⑤バチカンにおけるマネー・ローンダリング

チカンによるマネー・ローンダリング対策の法令順守が不十分だとして、イタリア銀行(中央銀行)がバチカンでのカード決済業務を担うドイツ銀行に決済業務停止を命じたということです。

多くの観光客が訪れるバチカン美術館の入場券などがカードで買えず、現金払いを余儀なくされているということであり、このような形で市民生活や企業活動にも影響が及ぶこともご認識頂けるものと思います。

⑥北朝鮮偽装会社による取引の実態

北朝鮮がテロ資金供与対策の国際的な制裁網から逃れるため、武器関連の密売やぜいたく品密輸などを行う中国名の偽装会社約70社を使って監視の目を逃れており、あわせて、監視がおろそかな中国の地方銀行に仮名で約150の違法口座を開設しているとのことです。

この事例も脇の甘いところを突破されたものであり、日本でも、地銀や信金・信組、あるいは一般事業会社においても、偽装会社かどうかを見極める十分な監視体制が整備されていない場合、国際的な犯罪に簡単に利用されてしまいかねないという意味で、他山の石とすべきものと思われます。

⑦改正犯罪収益移転防止法の金融実務への影響

今年4月の改正犯罪収益移転防止法の全面施行をふまえた金融庁の監督指針に対するパブリックコメントの結果が公表されています。

▼金融庁「『主要行等向けの総合的な監督指針』及び『金融検査マニュアル』等の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等について」

AML/CTFにおいても、暴力団等の反社会的勢力の関与を疑いながら監視・排除していく視点の重要性が金融庁のコメントから読み取れます。また、金融機関側からも両者の関連についての質問が出ていることからも、関心の高いポイントであることも窺える内容となっています。

なお、参考までに金融庁からは以下のようなコメントが付されています。

  • 取引の相手方が暴力団員もしくは暴力団関係者である、もしくはその疑いがあることは、「顧客等又は代表者等になりすましている疑いがある場合」「関連取引時確認に係る事項を偽っていた疑いがある顧客等」に該当するかを判断する際の一つの要素として考慮すべき内容であると考えられます。
  • 金融機関が犯収法に基づく「取引時確認」及び「疑わしい取引の届出」を行うに際しては、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(平成19年6月19日犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ)の趣旨を踏まえ、反社会的勢力との関係遮断を念頭に置いて、態勢を整備し、適正にこれらを実施する必要があると考えます。

本コラムでも、反社チェックの視点として、犯罪収益移転防止法上の「疑わしい取引」の届出や本人確認手続きなど参考になる点が多いこと、実際に暴力団等の反社会的勢力がマネー・ローンダリングに関与していること、反社チェックとAML/CTFにおける「疑わしい取引」チェックの視点の類似性に着目しながら効率的な取引先管理を検討すべきであることなどを推奨してまいりましたが、金融庁のコメントからも全く同一の姿勢が感じられます。

ゴルフ詐欺

以前、本コラムでもゴルフ場詐欺事案の訴訟を巡って、裁判所の判断が分かれていることをお伝えしておりますが、最近の判例をみると、詐欺罪の成立を認めているものが多いようです。

①宮崎地裁

暴力団員の利用を禁止したゴルフ場で、組長であることを伏せてプレーしたとして、詐欺罪に問われた指定暴力団山口組系組長に懲役1年6ヶ月、執行猶予3年の判決が出され、「組長であることが分かれば、ゴルフ場が申し込みに応じることはなかった。組員の利用禁止は被告も認識していた」と指摘しています。

②神戸地裁

指定暴力団山口組直系組長に懲役1年6ヶ月、執行猶予3年の判決が出され、「立て看板や過去の経験から、利用拒否の可能性が高いと認識していた。利用の申し込み自体が従業員をだます行為」と指摘しています。

③大津地裁

指定暴力団山口組系組長と同組幹部に、懲役1年執行猶予3年と4年の判決がそれぞれ出されています。なお、本事例では、彼らと一緒にゴルフ場を利用していたとして、同じ容疑で逮捕された不動産業の男性とコンサルタント会社経営者については不起訴処分となっています。

暴力団排除と行政

①入札申請時に役員名簿の提出

契約事務からの暴力団排除を徹底するため、神奈川県では新たに入札参加資格の申請時に事業者から役員名簿の提出を求める措置を導入、神奈川県警に照会し、暴力団関係者が確認されれば指名停止にする取り組みを開始するとのことです。2011年4月の神奈川県暴力団排除条例施行以降、契約から排除した実績は2件のみで、今後、実効性ある取り組みとなることが期待されます。

②「看護師等養成所運営費補助金」の不正受給

埼玉県から看護師養成学校運営のための補助金をだまし取ったとして、補助金適正化法違反などが確定した学校法人(破産)に対し、同県が返還を求めていた補助金約2900万円の回収を断念したとのことで、補助金は主に暴力団関係者からの借金の返済に充てていたとされ、多額の公費が反社会的勢力に流れたままになったことになります。

生活保護もそうですが、公的な補助金や融資制度がその審査の甘さから悪用されるケースが後を断たず、とりわけ、実施後のモニタリングがほとんど行われていない現状では、反社会的勢力による組織的な詐取事例が今後も増加することが予想されます。

③差し押さえられた土地を暴力団が公売で買い戻し

暴力団が全国の裁判所の競売で組事務所を取得している問題に関連し、指定暴力団山口組の傘下団体が、大阪国税局に税金滞納で差し押さえられた組事務所の土地を事実上、公売で買い戻していたということです。

以前、本コラムでも問題視した暴力団員の入札参加を許している裁判所の「競売」と同様、公売の買い受け資格にも暴力団排除条項がないことがその背景にあります。

過去の「競売」においても転売により短期間で巨額の利益を暴力団が得ており、行政においては、このような制度の「隙」を速やかに埋める動きが求められます。

④薬物摘発者の2割が生活保護を受給

大阪府警や北海道警、神奈川県警など5道府県警が覚せい剤取締法違反容疑などで逮捕するなどした容疑者らの約2割が生活保護を受給しており、その7割以上が同様の薬物事件で再び摘発されるといった構造となっているとのことです。

覚せい剤など違法薬物売買が暴力団の資金源になっていることをふまえれば、抜本的な再犯防止策、生活保護支給のあり方、双方の関連性をふまえた対策が問われていると言えます。

暴力団排除と企業

①スマホ決済事業と暴力団排除

大手携帯電話会社が米国の決済サービス会社と提携して新たに提供開始されたスマホ決済サービスについては、厳格な加盟店審査とは言えない状況で、犯罪や反社会的勢力の関与、トラブル誘発の懸念も出ているということです。

脇の甘いところ、弱いところから侵入するという彼らの行動様式をふまえれば、当然想定すべきリスクであり、フロント企業(暴力団関係企業)との加盟店契約は暴力団排除条例上の「利益供与違反」にあたるリスクも考慮する必要があります。

②東証1部上場企業にも暴力団との関係の報道

東証1部上場のマンション開発会社が、粉飾決算により債務超過の事実を隠ぺいしていたとして、金融商品取引法違反(有価証券報告書等の虚偽記載)容疑で証券取引等監視委員会と神奈川県警による一斉捜索を受けましたが、その過程の不動産の販売先や仲介者などとして指定暴力団関係者が関与していた疑いがあるとの報道もなされています。

同社がプレスリリースで早々と否定しておりますので、真偽についてはここでは踏み込むことはしませんが、一般的な企業実務において、上場企業を反社チェックの対象外として運用されている事例を多く見かけます。

その場合でも、少なくともインターネット上の風評や開示文書などを最低限確認して現状の把握に努めたうえで、あくまで個社による自律的な判断を行うことが重要だという点を再度ご認識頂きたいと思います。

③証券口座開設時の警察庁データベース照会の取り組み

証券業界においては、株式投資などに必要な証券口座の開設で、申込者が暴力団関係者かどうかを警察庁などのデータベースに直接照会し、「組員」「組員の可能性がある」について結果が得られるシステムについて今年から導入するとのことです。

この取り組みが機能することにより、確かに証券口座からの暴力団排除は進展することが期待されますが、口座の名義や実際の運用において暴力団員が自ら関与することはほとんど考えられず、データベースに依存し過ぎることで、「思考停止」や「目利き」機能の低下、あるいは形式要件を満たしたとする「言い訳」によって、反社会的勢力排除の取り組みが形骸化してしまうことこそリスク管理上最も懸念すべき点となると言えます。

④2チャンネル元管理人の摘発

国内最大のインターネット掲示板「2ちゃんねる」開設者で元管理人の会社役員が、麻薬特例法違反(あおり、唆し)ほう助の疑い(覚醒剤密売などに関する書き込みを放置した容疑)で書類送検されています。

「2ちゃんねる」では、今でも隠語を飛び交わせながら違法な取引が横行しているようですが、違法薬物の売買は暴力団の伝統的な犯罪収益源でもあり、その背後に組織的な関与も疑われ、現に、ある暴力団関係者は「ネットで販路は全国的に広がっている。『2ちゃんねる』はいい販売促進ツールになっている」と語っているとの報道も見られます。

企業実務においては、当たり前のことですが、自社の従業員などが安易に薬物に手を出すことがないよう啓蒙していくことがまずもって重要であり、薬物を通して直接的か間接的かを問わず従業員が暴力団と接点を持ってしまうこと、そこから会社の内部に侵入を許してしまいかねないというリスク認識も必要となります。

3.最近の暴排条例による勧告事例ほか

福岡県暴力団排除条例の改正

福岡県は、組員が縄張りの拡大や維持のために飲食店や建設業者の事務所に立ち入ったり、電話したりする行為を禁止するとのことです。

みかじめ料などの不当要求行為を取り締まる改正暴力団対策法よりさらに規制の網を広げる全国初の規定で、暴力団の勢力拡大防止を狙って、今年2月の福岡県議会への改正案提出を予定しているということです。

暴力団排除条例は、市民や事業者だけでなく暴力団や暴力団員に対しても多くの規制がかけられているのが特徴ですが、そもそも、暴力団対策法による全国一律の規制レベルでは地域の実情から見て不十分な場合もあり、それを補うものとして、地域性をふまえた「暴力団排除条例」が制定されているという建て付けであり、「暴力団員の立入禁止の標章」制度や今回の踏み込んだ規制こそ福岡県の深刻さを表すものであり、その取組みが実を結ぶことを期待したいと思います。

神奈川県①

神奈川県警は、指定暴力団稲川会系組長を神奈川県暴力団排除条例違反(事務所の開設・運営)容疑で逮捕しています。同条例で事務所の開設が禁止された区域内にある川崎市の貸家に事務所を設け運営していたもので、同条例の施行後初の逮捕事例となるということです。

神奈川県②

暴力団に用心棒代として現金を供与したとして、神奈川県暴力団排除条例に基づき、横浜市内の雑貨店経営の男性に対し、暴力団に利益供与をしないよう勧告、指定暴力団稲川会系幹部にも供与を受けないよう勧告しています。男性は「脱法ハーブ」を販売し、開店にあたり、知人を介して同幹部に用心棒を依頼したということです。

青森県

暴力団に開店記念パーティーのチケット120枚(310万8000円相当)を無償提供したとして、青森県暴力団排除条例に基づき、飲食店経営男性社長に対し、金品を供与しないよう勧告、同条例による勧告は初めてだということです。

東京都

暴力団排除条例ではありませんが、暴力団の影響下にあったことが明らかになったとしてNPO法人の認証を、特定非営利活動促進法(NPO法)に基づき取り消しています。同NPO法人については、厚生労働省所管の独立行政法人から助成金を詐取したとして、指定暴力団山口組系元組長や同法人の理事長らが起訴され、有罪判決を受けています(現在控訴中)。

度々指摘してきましたが、NPO法人を隠れ蓑とした暴力団の活動事例が数多く発生していることをふまえ、実務においては、企業と同様に厳格な取引前審査の実施などが必要となります。

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