暴排トピックス

取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人

暴力団のイメージ画像

当社では、この度、反社会的勢力排除に取組む全ての企業や実務者を支援するため、反社会的勢力に負けない組織づくりのためのノウハウと、「入口」「中間管理」「出口」における管理のあり方の実践メソッドをまとめた書籍「反社会的勢力排除の『超』実践ガイドブック~ミドルクライシスマネジメントvol.3」をレクシスネクシス・ジャパン株式会社より出版いたします(3月31日発売。全国主要書店やAmazon等でお求めいただけます)。暴力団融資問題を契機として社会の要請がますます深化・厳格化し、混迷の度合いを増す現状に対し、最新の実務指針を提示、反社会的勢力排除の実務を一歩先へと導きます。

1.平成25年の暴力団情勢と金融庁指針

(1)平成25年の暴力団情勢

警察庁から、平成25年の暴力団情勢についての報告書が公表されています。

①平成25年末現在の暴力団員数

平成25年末現在の暴力団員(暴力団構成員および準構成員)は前年比で4,600人減(前年比7.2%減)の5万8,600人であり、4年連続で統計の残る昭和33年以降最少を更新、5万人台になるのは初となります。

また、暴力団構成員は25,600人で、前年に比べて3,200人減少(前年比11.1%減)しており、準構成員についても、33,000人と前年に比べて1,400人減少(同4.1%減)しています。暴力団構成員数の減少度合いが著しく高く、その結果、準構成員の割合が56.3%にまで達していることからも、ますます、暴力団の潜在化の傾向が強まっているように思われます。

また、平成23年10月までに全国で施行された暴力団排除条例(以下「暴排条例」)や度重なる暴力団対策法(「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」)の改正など、これまでの暴力団対策に一定の効果が出てきている表れと言えると思います。現に、山口組が今年の指針として「窮すれば通ず」を掲げているように、その危機感は強く、必死な状況に追い込まれていることから、逆に言えば、企業や個人の少しばかりの「脇の甘さ」でさえ命取りになりかねない危機的な状況(有事)であるとの認識も必要です。

一方、これだけの急激な減少が続いている状況(平成24年末では同10.1%減、平成23年末では同10.6%減)を捉えるにあたっては、暴排条例等における規制対象者たる「元暴力団員の5年卒業基準」のもつリスクや、暴力団員として活動することがますます難しくなっている現状をふまえた「偽装離脱」や「偽装解散」といった側面も考慮する必要があります。

暴力団対策法や全国の暴排条例が直接規制している暴力団員等が減少したからといって、企業が関係を持つべきでない反社会的勢力が必ずしも減少しているわけではなく、むしろ、暴力団という枠にこだわらない、より拡がりをもった「反社会的勢力」排除の考え方を明確にする必要に迫られており、企業実務における反社チェックや排除実務の難易度がますます上がっているとの認識が必要だと言えます。

②平成25年の暴力団の摘発状況

平成25年の暴力団構成員等の摘発件数は43,4557件(前年同期比▲10.6%)、検挙人数は22,861人(前年同期比▲5.3%)となり、いずれも減少傾向にあります。その背景には、暴力団員の減少が考えられますが、その活動が不透明化している現状にあっては、引き続き警戒が必要であることに変わりはありません。

また、特異事項としては、事業者襲撃事件が23件、対立抗争に起因する不法行為が27回発生したという点があげられます(具体的には、山梨県での対立抗争の勃発など)。また、犯罪種別では、窃盗、恐喝、覚せい剤取締法違反が多いこと、詐欺の検挙人員やマネー・ローンダリング関連の摘発は増加が続いていることなどが、昨年同様あげられます。さらに、伝統的資金獲得犯罪(覚せい剤や恐喝、ノミ行為等)に占める暴力団構成員等の比率は50%前後と刑法犯全体が6%台であるのに比して高く、相変わらず、暴力団の主要な資金源となっている状況がうかがわれます。

③暴力団排除条例の状況

平成23年10月に全国47都道府県で暴排条例が施行されたのに続き、平成25年末までに、全ての市町村で暴排条例が制定された自治体が35府県に及ぶなど、取組みが加速している状況にあります。

また、平成25年における暴排条例に基づく勧告件数は、勧告が71件、指導が2件、中止命令が7件、検挙が3件となっています(参考までに、平成24年には、勧告が68件、指導が3件、中止命令が6件、検挙が5件)。

なお、同レポートには、以下のような検挙事例が紹介されています。

  • 道仁会傘下組織組長らが、条例で定める暴力団事務所の開設又は運営の禁止区域内に暴力団事務所を開設し、運営したことから、条例違反として検挙(福岡、6月検挙)
  • 山口組傘下組織幹部が、条例で定める暴力団排除特別強化地域において、飲食店経営者から用心棒代を受けていたことから、条例違反として、同幹部と同経営者を検挙(京都、12月検挙)
④地方自治体や各種業法による排除事例

地方自治体による公共事業からの排除事例として、以下のような事例が紹介されています。

      • 工藤會傘下組織幹部を殺人未遂等で検挙したところ、その捜査の過程で、同幹部と密接な交際を有し、又は社会的に非難されるべき関係を有していた事業者5社が判明したことから、県等に通報し、公共事業から排除(福岡、3月)
      • 会津小鉄会傘下組織組員らを詐欺で検挙したところ、その捜査の過程で、同組員らが経営に関わっていた清掃業者2社が判明したことから、府及び市に通報し、公共事業から排除(京都、3月)
      • 山口組傘下組織幹部を詐欺で検挙したところ、その捜査の過程で、建設会社役員が同幹部に車両を貸し与えるなど、同役員が同幹部と社会的に非難されるべき関係を有していたことが判明したことから、国の機関や府等に通報し、公共事業から排除(大阪、4月)

また、各種業法に定めた暴力団排除条項の活用による排除事例として、以下のような事例が紹介されています。

      • 県からの意見聴取に基づいて産業廃棄物収集運搬業許可の申請業者を調査したところ、その代表取締役が山口組傘下組織組員であることが判明したことから、その旨県に回答し、申請を不許可とした(愛知、4月、岐阜、5月)
      • 県からの意見聴取に基づいて産業廃棄物処分業許可の申請業者を調査したところ、山口組傘下組織組員が実質的に事業活動を支配していることが判明したことから、その旨県に回答し、申請を不許可とするとともに、同申請業者が既に取得していた産業廃棄物収集運搬業の許可を取り消した(長野、5月)
      • 労働者派遣法違反で山口組傘下組織幹部らと共に建設会社役員を検挙し、同役員の刑が確定したことから、県が建設業許可を取り消した(福井、4月)
⑤準暴力団

平成25年中、「準暴力団」が関与したとして、全国の警察が昨年、殺人や傷害などで少なくとも101件の事件を摘発したということです。本報告書でも、準暴力団については、「近年、繁華街・歓楽街において、暴走族の元構成員等を中心とする集団に属する者が、集団的又は常習的に暴行、傷害等の暴力的不法行為等を行っている。こうした集団は、暴力団と同程度の明確な組織性は有しないが、暴力団等の犯罪組織との密接な関係がうかがわれるものも存在する」と言及されています。

具体的な形態として、「暴走族の元構成員を中心とする集団」や「地下格闘技団体の選手等を中心とする集団」をあげ、「関東連合OBグループ」「チャイニーズドラゴン」「強者」などの団体名が列挙されています。

なお、最近の報道によれば、新たに、八王子周辺で活動していた「打越スペクターOBグループ」と、大田区を拠点としていた「大田連合OBグループ」の2グループが含められたとされています。

⑥平成25年における生活経済事犯の検挙状況等

利殖勧誘事犯(未公開株、社債等の取引や投資勧誘等を仮装し金を集める悪質商法)や特定商取引等事犯(訪問販売、電話勧誘販売等で不実を告知するなどして商品の販売や役務の提供を行う悪質商法)については、平成25年の消費者相談センターへの相談のうち、契約当事者が高齢者であったものの割合は73.0%であり、商取引に不慣れな高齢者が詐欺的な手口により狙われている現状がうかがわれます。

一方、ヤミ金融事犯(出資法違反(高金利等)及び貸金業法違反並びに貸金業に関連した詐欺、恐喝、暴行等に係る事犯)の被害は前年から1.5%減少しているものの、平成25年における検挙事件に占める暴力団構成員等が関与するものの割合は15.8%と、前年同期の割合(14.8%)と比べて上昇していること、貸金業に関連した携帯電話不正利用防止法違反や通帳詐欺等、助長犯罪の検挙が増加していることや、貸与時本人確認を履行せずにヤミ金融業者へ携帯電話を貸与するレンタル携帯電話事業者の存在がうかがわれるなど、今後も新たな手口の出現への警戒なども含め注意が必要な状況にあります。

(2)金融庁指針

昨年末、金融庁より「反社会的勢力との関係遮断に向けた取組みの推進について」と題した、金融機関における今後の反社会的勢力への対応態勢整備等にかかる方向性が示されました。「反社会的勢力との取引の未然防止(入口)」「事後チェックと内部管理(中間管理)」「反社会的勢力との取引解消(出口)」の3段階のプロセスを柱としたものですが、今回、この方向性に沿った、より具体的な監督指針・金融検査マニュアルの改正案が公表されました(平成26年3月26日までパブリックコメントを募集中です)。

例えば、監督指針の改正案においては、概ね、以下のような内容について新たに追記されています。

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本コラムでもこれまでお話してきた通り、暴力団融資問題を契機とした社会的な要請の深化・厳格化のもと、反社会的勢力排除の取組みにおいては、反社会的勢力の不透明化・手口の巧妙化やそもそもの定義・捉え方の曖昧さに起因して、真の受益者の特定の困難さ、関係を持つべき相手かどうかを見極めていくことの困難さ、関係解消実務の困難さ、あるいは、それらに伴う「説明責任」や取締役の善管注意義務の履行のための「経営判断の原則」、さらには、それだけでは払拭することが難しい「レピュテーション・リスク」への対応といった様々な限界や困難さがあるものの、だからといって「何もしない」「これまでの取組みレベルでよい(仕方ない)」ということが「放置」とみなされることを十分認識する必要があります。そして、それは、金融機関に限った話でないことは、もはや自明のことです。

そして、これらの限界を乗り越えていくための、当社の考える企業の今後の実務指針としては、以下のようなものであると考えます。

①入口における対応強化

● 限界をふまえた「民間企業として出来る最大限の努力」を追求し続けること

      • 形式的な反社チェックや役職員の意識に浸透しない取組みであってはならず、役職員の「暴排意識」や「リスクセンス」を極限まで高め、センシティブな組織であることが求められる
      • 「収集できる情報量の不足」/「スピードや利便性、精度の両立が困難」/「真の受益者の特定が困難」といった限界を十分認識し、緊張感を持った業務遂行や改善に努めること

● 重層的なデータベースの活用

      • 自助・共助・公助のデータベースを可能な限り組み合わせ、情報の鮮度を保ちながら、その精度を高める努力を怠らないこと

一方で、データベースに過度に依存しない、端緒情報を広く収集できるような入口審査のあり方を模索すること

● 本人確認精度の向上

      • 反社会的勢力の不透明化・潜在化や手口の巧妙化へ対応するためには、真の受益者の特定が今後極めて重要となる
      • そのためには、犯罪収益移転防止法上の特定事業者だけでなく全ての事業者が本人確認の精度向上に努めることが重要である
      • KYCからKYCCへの着眼点の拡がりを意識したチェック態勢の構築も求められる
②継続監視、モニタリングの重要性

● 入口における見極めの限界をふまえた「グレー」取引の継続監視態勢のブラッシュアップ

      • 定期・不定期に相手の情報を積極的に収集しつつ、関係解消に備える態勢の運用が求められる
      • 放置・不作為とみなされるリスクをヘッジするためにも、「グレー取引の継続監視」のあり方が今後の最重要の検討課題・取組みポイントと認識すべき

● 高頻度・重層的なデータベース・スクリーニングの実施

      • 入口におけるデータベース活用だけでなく、事後チェックとして、グレー対象・ホワイト対象においても、それぞれのステイタスに応じた活用のあり方を検討していくべき

● 日常業務における端緒情報の収集・報告・調査

      • データベースの限界を乗り越えるためには、役職員の「暴排意識」と「リスクセンス」を磨きあげることが重要
      • 個人の感性が組織運営に反映されるようなセンシティブなあり方を志向すべき

● 取引可否判断の妥当性に関する「ジャッジメント・モニタリング」の導入

      • 社会の目線は、実際の判断時点ではなく常に「現時点」が基準であることをふまえ、当時の判断が今の目線で問題がないかを自問自答し続けることが重要
③出口における対応強化

● 関係解消の根拠・手法の吟味

      • 反社会的勢力排除以外での関係解消事由への該当、その他合意解約、実質的な関係解消、預金保険機構による特定回収困難債権の買取制度の積極的な活用の検討など、関係を解消するために「手を尽くす」ことが求められる

● 法的リスク、経営判断の原則、説明責任、レピュテーション・リスク

      • 関係解消に伴う「法的リスク」への対応、「経営判断の原則」による取締役の善管注意義務の履行、「説明責任」を果たしてもなお、「レピュテーション・リスク」への対応、重大な関心をもっていくことが必要
④預金保険機構による特定回収困難債権の買取制度の活用

今回の金融庁指針でもその有効な活用が推奨されていますが、(その活用の枠外にある)一般の事業者の今後の実務においても、特定回収困難債権の買取対象債権の認定のあり方が、反社会的勢力認定のひとつの目安となる可能性も考えられます。

特に「暴力団関係企業」「密接関係者」の認定に関する運用がポイントと思われますが、以下にそのガイドラインから一般事業者にとっても参考となる部分についてご紹介いたします(下線は筆者による)。

● 買取対象債権

金融機関(預金保険の対象となるのは、銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫、連合会等)が保有する貸付債権のうち「金融機関が回収のために通常行うべき必要な措置をとることが困難となるおそれがある特段の事情があるもの」と規定されています。

● 属性要件(抜粋)

      • 暴力団関係企業
        「暴力団員が実質的にその経営に関与している企業」とは、暴力団員が商業登記簿上の役員や株主li出資者である企業だけでなく、顧問・相談役等として企業の経営に影響を与えている場合や、人的関係・融資関係・資本関係・取引関係等を通じて事業活動に相当程度の影響力を有する企業をいう。
      • 暴力団又は暴力団員と密接な関係を有する者その他上記①~⑥(略)に準ずる者
        暴力団又は暴力団員が実質的に経営を支配している法人等に所属する者など2(1)①~⑥(略)には直接当てはまらないが、暴力団等との関係などに着目し、その言動等からみて実質的に同一とみなすことができる者をいう。

● 行為要件(抜粋)

      • 暴力的な要求行為
        犯罪行為である傷害・暴行・脅迫・強要・業務妨害行為等が該当するほか、これに至らない脅迫的な行為等であっても、それによって金融機関が職員の安全確保等の観点から回収のために通常行うべき必要な措置をとることが困難となる場合
      • 法的な責任を超えた不当な要求行為
        当該金融機関で発生した些細な業務上のミスや個人情報の漏洩事件などに乗じた債務・利息の減免要求、債務返済のリスケジュールの要求等
      • 取引に関して、脅迫的な言動をし、又は暴力を用いる行為
        犯罪としての脅迫行為に限られず、脅迫罪を構成するに至らない金融機関等に対する脅迫的な言動も含まれる
      • 風説を流布し、偽計を用い又は威力を用いて貸出先の信用を毀損し、又は貸出先の業務を妨害する行為
        インターネット上に当該金融機関に関する根拠のない誹謗中傷を書き込むケースや、取引先などに同様の書類を送付するなどの行為、誹謗中傷を繰り返す街宣行為、窓口で大騒ぎをすることにより窓口業務を滞らせるなどの行為

● 買取実績(累計)

平成25年8月時点で、累計15件 295,739千円(属性要件12件 行為要件1件 両要件2件)

● 回収

整理回収機構が預金保険機構から買取り、回収する仕組み

これらの仕組みが機能することは、一面では金融機関の健全性を担保していくためには意味あることだと言えますが、過度に依存することで、「入口」における見極め、「出口」における排除の姿勢に「甘さ」や「隙」が生じることはあってはなりません。そもそも、「認知」「判断」「排除」の取組みは金融機関の本来的業務であって、自律的に行うべき課題なのです。

2.最近のトピックス

(1)マネー・ローンダリング関連

①JAFIC年次報告書(平成25年暫定版)

JAFIC(警察庁刑事局組織犯罪対策部犯罪収益移転防止管理官)から最新のマネー・ローンダリング対策の現状に関する報告書が公表されています。

報告書によると、平成25年中における組織的犯罪処罰法にかかるマネー・ローンダリング事犯の検挙事件数は、法人等経営支配事件2件、犯罪収益等隠匿事件171件、犯罪収益等収受事件99件の合計272件、昨年の238件から14.3%増となり、過去10年でみれば、4倍以上になっています。

ⅰ.平成25年における「疑わしい取引」の届出状況

平成4年の麻薬特例法施行により開始された本制度による届出件数は、施行当時は年間わずか12件だったのに対し、平成25年には349,361件(前年対比▲4.1%)となっており、トレンドとしては、特にここ数年で大きく件数を伸ばし続けている状況にあります。

届出件数の増加の背景として、JAFICでは、「社会全体のコンプライアンス意識の向上に伴い、金融機関等が反社会的勢力や不正な資金の移動に対する監視姿勢を強化していること」「金融機関等を対象とする研修会において、疑わしい取引の参考事例等を周知してきた効果が出ていること」等があると指摘しています。

また、金融機関等は、ハード、ソフトの両面から様々な対策を講じており、特に、多数届出を行っている金融機関は、マネー・ローンダリング対策担当者の増強や不正検知システムの導入によって、疑わしい取引を発見する態勢の強化を行うことで、業務内容に応じて疑わしい顧客や取引等を検出・監視・分析するとともに、職員に対してハンドブック等の資料を基にマネー・ローンダリング対策等に関する教育を徹底し、個々の職員の能力向上を図っている状況にあります。

なお、業態別の具体的な届出状況については、以下の通りとなっています。

        • 特定事業者における業態別の届出状況としては、「銀行」が全体の89.7%を占めるなど圧倒的に取組みが進んでいる状況にある。ただし、経年で見た場合、その比率が徐々に低下しつつあり、他の業態での取組みも活発化していることがうかがえる。
        • 銀行以外では、「信金・信組」(4.0%)、「金融商品取引業者」(2.1%)「クレジット事業者」(1.5%)「保険会社」(0.9%)「両替業者」(0.6%)と続き、とりわけ、「保険会社」や「貸金業者」がここ数年で3~5倍近い伸びを示していることが注目される。
ⅱ.平成25年における「疑わしい取引」情報の決用状況

JAFICでは、特定事業者から寄せられた「疑わしい取引」に関する情報を集約・分析し、都道府県警察、検察庁、税関、証券取引等監視委員会等に提供していますが、それが犯罪の端緒として検挙に結びつくケースも増えています(平成25年には、前年より5,523件増加し193,844件)。主なポイントは以下の通りです。

        • 詐欺関連事犯(詐欺及び電子計算機使用詐欺並びに犯罪収益移転防止法、金融商品取引法及び携帯電話不正利用防止法違反)は計776件と全体の80.7%を占めて最も多く、預貯金通帳等の詐欺又は譲受・譲渡、インターネットの掲示板や出会い系サイトを利用した詐欺、暴力団員による保険金詐欺、未公開株等の購入を名目とした詐欺事件等が検挙されている。
        • それ以外には、不法滞在関連事犯(入管法違反)、薬物事犯(覚せい剤取締法違反)、ヤミ金融事犯(貸金業法及び出資法違反)、建設関連事犯(労働者派遣法及び建設業法違反)、知的財産権侵害事犯(商標法、著作権法及び不正競争防止法違反)、会社関連事犯(会社法違反、強制執行妨害及び背任)などが続いている。
        • 暴力団員による債権取り立て名目の恐喝事件、暴力団による組織的な賭博事件等の検挙実績もある。
ⅲ.暴力団構成員等が関与するマネー・ローンダリング事犯

平成25年中に組織的犯罪処罰法に係るマネー・ローンダリング事犯で検挙されたもののうち、暴力団構成員等が関与したものは、犯罪収益等隠匿事件で35件及び犯罪収益等収受事件で40件の合計75件で、全体の27.6%を占めています。成人人口(平成26年2月現在1億478万人)に対する暴力団員(58,600人)の構成比(0.06%)からみると、この分野において暴力団がいかに高く関与しているかが分かる結果となっています。

暴力団構成員等が関与したマネー・ローンダリング事犯を前提犯罪別に見ると、詐欺が9件、窃盗が5件、ヤミ金融事犯が6件等となっており、暴力団構成員等が多様な犯罪に関与し、マネー・ローンダリング事犯を敢行している実態がうかがわれます。

なお、具体的な事例としては、以下のようなものが紹介されています。

● 労働者派遣事業を営んでいた山口組傘下組織幹部の男らは、労働者派遣禁止業務である建設業務に労働者を派遣し、その報酬合計約2,050万円を、他人名義の口座に振り込み入金させていたことから、組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)で検挙(静岡、10月)

● ヤミ金融業を営んでいた工藤會傘下組織構成員の男らは、借受人に返済金合計約580万円を複数の他人名義の口座に振り込み入金させていたことから、組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)で検挙(福岡、2月)

● 覚せい剤の密売人である双愛会傘下組織周辺者の男は、宅配便を利用した覚せい剤の密売を行っていたが、購入客に覚せい剤の代金合計約310万円を他人名義の口座に振り込み入金させていたことから、麻薬特例法違反(薬物犯罪収益等隠匿)で検挙(岡山、1月)

なお、これらのデータはあくまで「暴力団構成員等」が敢行した犯罪の集計であり、彼らが直接的に関与する事例の方が少ないであろうことからみても、マネー・ローダリングが様々な形で意外と身近なところで行われていることや、暴力団等によるマネー・ローンダリング事犯への関与が極めて高いといった認識を持つことが重要です。

②マネーミュール

外国に送金するだけで手数料がもらえるとする、マネー・ローンダリングのための「運び屋」であるマネーミュールについては、報道によれば、不正送金が平成25年11月までに218件確認されており、被害額も2億6,000万円に上るということです。平成25年のネットバンキングの不正送金被害は1,315件、被害額は14億600万円と過去最悪のペースで増加しており、マネーミュールも被害拡大の一因だと言われています。

なお、最近でも、マネーミュールによりマネー・ローンダリングに加担したとして、京都府警サイバー犯罪対策課などが、会社員の男2人を犯罪収益移転防止法違反容疑で京都地検に書類送検しています(マネーミュールで国内の協力者が摘発されたのは全国3例目となるようです)。

マネーミュールは、一般人を「犯罪インフラ」化するとともに、総じて銀行よりも本人確認が甘い資金決済業者と呼ばれる海外送金サービス業者を使わせるのが特徴で、「脇の甘い」事業者が、マネー・ローンダリング等の犯罪を助長する「犯罪インフラ」化している状況に十分な注意が必要です。

(2)ビットコインを巡る動向

ビットコインの主要取引所であるマウント・ゴックス社(東京)が経営破たんしました。破たんの原因究明には相当の時間を要すると思われますが、ここでは、現時点における世界の動向や今後の展望についてまとめておきたいと思います。

まず、日本政府は、主要国では初めて取引ルールを示し、ビットコインを法律(民法)上の通貨ではなく「モノ」と認定し、貴金属などと同じく取引での売買益などは課税対象にすること(企業がビットコインの売買などで利益を得た場合は、法人税として課税できるほか、所得税や消費税の課税対象にもなりうること)、銀行での取り扱いや証券会社の売買仲介は禁止することを公表しています。

一方、日本以外では、カナダの取引所を運営する「フレックスコイン」が、ハッカーによる攻撃で取引業務を停止し、預かり資産の896ビットコイン(約6,000万円相当)が盗まれたとの報道がなされました。一方で、別のビットコインの取引所業者の「ポロニエックス」も、保管していたビットコインの12.3%が盗まれたと公表しています。また、米紙によれば、過去3年間に設立されたビットコイン取引所40カ所のうち18カ所が閉鎖されており、顧客口座からビットコインが消失するケースが少なくなく、その中には詐欺によるものもあったということでも報じられています。

また、米国や英国では、ビットコインなど仮想通貨に税規制の動きが出ており、英国の税当局はビットコインなど仮想通貨を正規の通貨とほぼ同様に扱う規制を近く公表する見通しとのことです。

さらに、マネー・ローンダリングやテロ資金の対策を担う国際組織である金融活動作業部会(FATF)は、インターネット上の仮想通貨が「無国籍通貨」として利便性が高い半面、マネー・ローンダリングに使われるなど犯罪の温床となる恐れがあると判断し、世界的な調査を始める方針だと言うことです。

今回の破たん劇や、巨額の資金の流入と取引価格の乱高下、実際にマネー・ローンダリング等の重要犯罪に利用されてきた事実等を見れば、国際的な犯罪組織の相当の関与が疑われるところであり、(ビッドコインの消失や取引所の破たんが「仕組まれた詐欺」の可能性も含め、莫大な収益を手に入れた勢力が確実に存在することから)これら規制の動きがむしろ遅きに失したのではないかとも思われます。これ以上の「犯罪インフラ」化を阻止することが求められており、今後の動向を注視していきたいと思います。

(3)暴力団融資問題で株主代表訴訟へ

みずほ銀行の親会社である「みずほフィナンシャルグループ」の個人株主が近く、現社長ら歴代役員を相手取り、十数億円規模の支払いを求める株主代表訴訟を東京地裁に起こすと報道されています。

当該株主は昨年12月、みずほFGに対し歴代役員19人に、取締役会などを通じ暴力団組員らへの融資を把握することができたのに阻止する義務を怠り、そのためグループ全体の信用を傷付け、企業価値を損なったなどとして、合計16億7,000円の賠償を求める訴えを起こすよう提訴請求していました。しかし、みずほFG側は、当該株主への回答書で、役員らの違法行為を否定し、提訴する考えがないことを明らかにしたということであり、今後の動向が注目されます。

(4)企業や団体と反社会的勢力との関係

①進学塾代表の暴力団への利益供与事件

東海地方で私立小学校や進学塾を運営するグループ代表が、平成16年と17年に、指定暴力団山口組弘道会の資金源とされる風俗店グループ側に3億円ずつ計6億円を融資、それらの資金が風俗ビルの建設や賭けゴルフの借金返済に充てられたということです。さらに、平成10年に当該風俗業者が暴力団捜査の対象と報じられた後も、当該代表は風俗業者から仕事を請け負ったり、起業相談に乗ったりしていたとも報じられています。

社会からの暴力団排除の実現のためには、人材の供給源を断つべく、青少年への教育・啓蒙が極めて重要と認識されている中、教育に携わる者としてあってはならないことであり、経営トップの個人的な問題・資質の問題として矮小化することなく、それを黙認してきたであろう組織自体のあり方の見直しも必要だと言えます。

②愛知県漁連会長が暴力団組長の密漁を支援

密漁するための暴力団組長の船を正規の漁船と偽って県に登録したとして、愛知県漁業協同組合連合会(県漁連)会長と山口組系暴力団組長ら男女3人が公正証書原本不実記載・同供用などの疑いで逮捕されています。

本件についても、同会長だけの問題ではなく、共謀あるいは黙認することとなった県漁連の役職員の意識、内部統制システムの脆弱性の問題として、真摯に捉えて改善していくことが必要だと思われます。

3.最近の暴排条例による勧告事例ほか

(1)勧告事例(佐賀県)

佐賀県内の飲食店や自動車販売店など20業者に、暴力団の下請けで観葉植物を配達などを行い、相当価格のリース代を受け取ったなどとして、佐賀県公安委員会が同県暴排条例に基づき、園芸サービス業者と飲食業者、暴力団組長の3者に勧告がなされています。

飲食業者は暴力団が観葉植物のリース代金回収に使うと知りながら、預金口座を提供して名義を貸し、数万円の報酬を受け取っていたということで、20業者に対しても契約をやめるよう指導がなされたということです。

(2)勧告事例(大阪府)

暴力団組員に現金5万円を渡し、客の未払い飲食代3万円の取り立てを依頼、回収した2万円を「成功報酬」として渡したとして、大阪府公安委員会は、府内でスナックを経営する男性に、暴力団への利益供与を禁じた府暴排条例に基づく勧告を行っています。

(3)ゴルフ詐欺を巡る裁判の動向

組員の利用を禁止している宮崎市内のゴルフ場で、暴力団組員であることを隠してゴルフ場を利用したとして詐欺罪に問われ、一、二審で有罪判決を受けた暴力団組長と組員の裁判で、最高裁が詐欺罪の成立を認めたそれぞれの判決を見直す可能性が出てきたということです。

最近では、暴力団が身分を隠してゴルフ場を利用する行為を詐欺として立件する事案が増えていますが、ここで最高裁がこれまでの判断を覆すようになれば、今後の暴排実務にとって大きな影響を及ぼしかねず、今後の動向を注視していきたいと思います。

(4)組事務所使用差し止めの代理訴訟

公益財団法人「暴力追放広島県民会議」は、住民数十人の委託を受け指定暴力団5代目共政会2代目有木組組長を相手取り、組事務所の使用差し止めを求める訴訟を広島地裁に起こしました。暴力団対策法が昨年1月に改正施行されて、適格団体による代理訴訟が認められるようになってからの提訴は全国初となります。

報道によれば、住宅街にある事務所周辺は通学路もあり、住民生活が脅かされ不安を感じるなど憲法で保障された人格権に反するとしており、室内の紋章やちょうちん、設置された監視カメラの撤去も求めているということです。

なお、最近、国家公安委員会は、この適格暴力追放運動推進センターとして、新たに、茨城や京都などのセンターを認定しました。これにより、適格団体は現時点で合計34団体となりました。一刻も早く全国全てのセンターが認定されることを期待したいと思います。

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