暴排トピックス

取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人

キャッシュカードのイメージ画像

【もくじ】―――――――――――――――――――――――――

1.利便性と悪用リスクのトレードオフ

2.最近のトピックス

1) 暴力団組織の動向

2) 特殊詐欺の動向

3) テロリスク対策/アンチ・マネー・ロンダリング(AML)の動向

4) タックスヘイブン(租税回避地)を巡る動向

5) 捜査手法の高度化の動向

6) 従業員教育と高度化の動向

7) 犯罪インフラを巡る動向

・携帯電話

・偽造旅券(入国審査の脆弱性)

・在留カード

・私設私書箱

・金の密輸

8) その他のトピックス

・離脱者支援の動向(北九州市の取り組み)

・忘れられる権利の動向

・仮想通貨の規制の動向

3.最近の暴排条例による勧告事例ほか

1) 佐賀県の勧告事例

2) 愛知県の勧告事例

3) 詐欺による逮捕事例

4) 暴対法に基づく中止命令の事例(和歌山県)

1. 利便性と悪用リスクのトレードオフ

 17都府県のコンビニのATM(現金自動預払機)から現金が不正に引き出された事件は、セブン銀行以外にも、ゆうちょ銀行と「イーネット」のATMからも現金計4億円以上が盗まれており、被害額はあわせて20億円近くに上ると言われています。
 既に、「出し子」と見られる数名が逮捕されていますが、南アフリカのスタンダード銀行が発行した1,600枚のクレジットカードを偽造したカードが使用されたことなどから、(同行に何らかの協力者を持つ)国際犯罪組織による犯罪と考えられる一方で、(事件発覚まで時間がかかることを見越した)休日の早朝のわずか3時間ほどの間に一気に引き出すその手口の鮮やかさや、それを可能とする100人以上とみられる「出し子」の手配などの犯罪の遂行状況をみると、背後に、日本を熟知した「プロ」、すなわち、特殊詐欺を手掛ける複数の半グレ集団や暴力団が介在していた可能性が高いのではないかと推測されます。

 さらに、報道によれば、偽造クレジットカードは既に1万枚以上がアンダーグラウンドで流通しているとのことですので、今回のような事件や気付かれにくい小規模の事件などが今後も繰り返し行われる可能性(さらには、既に実行され、被害にまだ気付いていない可能性)が高いと思われ、注意が必要な状況にあると言えます。

 さて、そもそも今回、「何故、日本のATMが狙われたのか」については、「ATMのネットワーク管理が甘く、不正分析ソフトに見破られないこと」「旧式で安全性が低い『磁気ストライプ』のカードが通用し、クレジットカードの暗証番号を検証する『Chip and PIN(チップ・アンド・ピン)システム』への対応が遅れていること」「実行犯である『出し子』を手配するネットワークが出来ていること」といった諸条件が揃っているからだと言えるでしょう。これまで日本は、様々なインフラやサービス・ツール等が比較的孤立した(ガラパゴス化した)状態にあることから、国際犯罪組織やサイバー犯罪グループのターゲットにはあまりなっていなかったように思われますが、今回の事件によって、明らかに日本がターゲットとなったことを示す大きな転機となったと言えるかもしれません。そして、そのような状況にもかかわらず、不正防止・監視・検知・対応といったいずれについても対策が追い付いていない現状が浮き彫りになったとも言えます。

 実は、本事件の直前に、経済産業省は、クレジットカードの不正使用を防ぐため、ICカードに対応した読み取り端末の導入を加盟店に義務づけることや、カード会社にも悪質な加盟店やセキュリティ対策が不十分な加盟店への調査義務を課すといった方向性を打ち出しています。早ければ今年の臨時国会に割賦販売法の改正案を出し、2018年にも義務化するとのことでしたが、本事件を防ぐにはあまりに遅い対応だったと指摘せざるを得ません。

 なお、本事件の背景には、海外からの観光客が、日本に来てもクレジットカードで現金を引き出せるようにするため、政府が2015年の成長戦略に海外発行のクレジットカードでの現金引き出しが可能なATMの普及促進を明記したことにより、銀行が準備を進めてきたことがあげられます。事件を受けて、各行は限度額の引き下げを相次いで実施していますが、利便性を高めれば犯罪被害に遭うリスクが高まり、犯罪を防ごうとして引き出し限度額を下げれば利便性が落ちてしまうというジレンマに陥っています(そもそも、海外ではクレジットカードを使用することがスタンダードな中、あえて小口の現金引き出しサービスを強化して、その脆弱性が狙われたという構図は滑稽にも映ります)。

 さらに、「出し子」の手配等について注目してみると、単に頭数を揃えるだけではこれだけの手際の良い実行は不可能です。逮捕された容疑者らの供述からは、別人名義でレンタカーを借りたり、比較的広範囲の複数のコンビニを回ったりしていたといい、緻密な計画性を持っていることがうかがえる「プロ」の仕事と言えます。これだけの計画性や組織性、遂行能力の高さを有している犯罪組織は、日本においては暴力団と特殊詐欺集団しかなく、海外の国際犯罪集団との緊密な連携のもと、今回の事件が発生したものと考えるべきだと思います。また、今後、引き出した20億もの現金が、国内外でどのように流れるのか、マネー・ローンダリング事犯への発展もあわせて考えていく必要があります。

 いずれにせよ、今回の事件を、「利便性」と「悪用リスク」の間のトレードオフの関係の視点から着目することもできると思います。前述した金融機関におけるジレンマ(利便性と犯罪被害抑止)がその代表ですが、このような「利便性」を追及するあまり、「脇の甘さ」が生じてしまう部分を、暴力団等の反社会的勢力は見逃すことなく突いてくる(いち早く察知して悪用する)のであり、彼らが、最先端の技術やツール、ビジネスモデルなど、さらにはその領域を問わず、柔軟性や先進性、応用力や行動力を有している点が、さらに驚かされるところです。

 さて、この「利便性」と「悪用リスク」のトレードオフについて、今、正に注意が必要なものとして、「人工知能(AI)」と「IoT(Internet of Things)」があげられます。いずれも悪用された場合、人間や社会に対して、予測もできないほどの極めて大きな害悪をもたらすことが考えられ、そうであるがゆえに、反社会的勢力をはじめとする犯罪者らが、いち早くその悪用に知恵を巡らしているものと思われます。

 「人工知能(AI)」という言葉は、米国の認知科学者のジョン・マッカーシー氏が1956年の国際会議で「アーティフィシャル・インテリジェンス」と命名したのが始まりだと言われています。AIの最近の進歩は目覚ましく、人間の脳の仕組みを参考にしながら、膨大なビッグデータから学習するディープラーニング(深層学習)などさまざまな機能を実現しています。

 そのような中、今年3月、米マイクロソフト社がインターネット上で行ったAI「Tay」の実験がわずか1日で中止されるということがありました。報道(2016年6月4日付産経新聞)によれば、一部の人から浴びせられた差別的発言を忠実に「学習」し、「ヒトラーは間違っていない」といった不適切な発言をしたためだということです。この事案は、正に、AIの「悪用リスク」を端的に示すものとして注目されるべきものと言えます。例えば、最近は、「他人と話を合わせるAIの技術」や「音声を再現する技術」の向上は目覚ましいものがあり、その一方で、それらの技術が組み合わさって振り込め詐欺に悪用された場合、相手を騙す技術の高さゆえに、その影響の大きさは計り知れないものになると思われます。あるいは、「心を持っているように見えるAI」の実現も考えられるところですが、ソーシャルゲーム(例えば、恋愛モノなど)と組み合わせた場合、そのリアリティ等から利用者のゲームへのめり込み度合いも増すことから、際限なく課金される方向に誘導することすら考えられるのです。
 このように、AIは、人間に多くの「利便性」や「幸福」をもたらす一方で、「悪用リスク」も確実に高まっていることを指摘しておきたいと思います。そして、このような現状や未来に対する危機感から、AIのあり方について、一定の方向性(歯止め)を打ち出す動きも出ています。

人工知能学会倫理委員会 人工知能研究者の倫理綱領(案)

 日本における人工知能研究の第一人者たちにより議論された結果として公表された倫理綱領案として大変示唆に富むものですが、以下、悪用リスクに関係する部分について抜粋してみます(下線部分は筆者)。この内容をふまえた正しい研究や活用により、悪用リスクを適切にコントロールしていくことを期待したいと思います。

  • 人工知能はその汎用性と潜在的な自律性から人工知能研究開発者の想定しえない領域においても人類に影響を与える可能性があり、人工知能研究開発者によって為された研究開発がその意図の有無に関わらず人間社会や公共の利益にとって有害なものとなる可能性もある
  • 人間が創造したものによって人間の幸福を損ねることがあってはならないことを人工知能研究開発者はここに確認し行動する。
  • 人工知能研究開発者はその研究開発した人工知能がもたらす結果について検証し、潜在的な危険性については社会に対して警鐘を鳴らさなければならない
  • 人工知能研究開発者は研究開発が意図せず他者に危害を加える用途に利用される可能性があることを認識し、もしも人工知能が悪用されていることを発見した際には、技術を悪用する者に対して説明を求め、その説明が正当なものでない場合には、悪用されることを防止する措置を講じなければならない

 次に、IoTの悪用リスクについて考えてみます。

 IoTの悪用事例については、AIに比べれば想像しやすいものがありますが、例えば、海外では、不満を持った退職者が遠隔から自動車の管理サービスを不正操作し、自動車を発進できなくしたり、ホーンを鳴らしたりする事件や、銀行が管理するATMの物理鍵を複製し、その鍵を用いてATMの保守扉を開けてウイルスを感染させた上で、ATMのUSB端子にモバイルデバイスをつなげて現金を払い出させる事件、米国大手小売業がPOS用ウイルスに感染し、4,000万人のクレジット・デビッドカード情報及び7,000万人の顧客情報が漏えいした事件などが実際に発生しています。
 また、日本でも、2004年にはHDDレコーダーが踏み台にされた事例、2013年、2015年には複数メーカーのプリンター複合機に蓄積されたデータがインターネットで公開状態となるという事例が多発していますし、自動車盗難防止システムの再設定機能を抜き出したツールがインターネットで販売され、自動車の窃盗に利用されているというケースなどもあります。
 また、IoTによって新たに発生するリスク(発生の可能性)として、「遠隔操作された自動車を爆発させることによるテロ」などは代表的なものですが、それ以外にも、「単独では問題がないのに、つながることにより想定されなかったハザードや脅威が発生する」や、「対策のレベルが異なるIoT機器・システムがつながることで、対策レベルが低いIoT機器・システムが攻撃の入り口になる」、「留守宅に侵入して家電の設定を変更し、不正なサイトに接続させる」、「不正に防犯カメラを遠隔操作して犯行時の画像を消去する」なども考えられるところです。

 これらのリスクの想定や対応の指針(ガイドライン)については、総務省から公表されていますので、是非、参考にしていただきたいと思います(上記で紹介した事例なども本ガイドラインからの引用を含んでいます)。

総務省 「IoTセキュリティガイドライン」(案)に関する意見募集(6月14日まで)

「IoTセキュリティガイドライン」(案)

「IoTセキュリティガイドライン」(案)の概要

 本ガイドラインが示しているす「5つの指針」や「21の要点」は、大変興味深いものですが、その詳細についてはここでは割愛します。また、IoTの「利便性」については、イメージしやすいと思われますので、ここでは特に言及しませんが、本ガイドラインを一読すれば、様々な場面で「悪用リスク」が高いことが実感できると思います。例えば、本ガイドラインの冒頭に示された「IoT特有の性質とセキュリティ対策の必要性」(以下に項目のみ紹介します)を確認するだけでも、利便性の裏に潜むその脆弱性や危険性を読み取ることができるでしょう。

【性質1】脅威の影響範囲・影響度合いが大きいこと

【性質2】IoT機器のライフサイクルが長いこと(構築・接続時に適用したセキュリティ対策が時間の経過とともに陳腐化)

【性質3】IoT機器に対する監視が行き届きにくいこと

【性質4】IoT機器側とネットワーク側の環境や特性の相互理解が不十分であること(接続するネットワーク環境は、IoT機器側のセキュリティ要件を変化させる可能性があるなど)

【性質5】IoT機器の機能・性能が限られていること

【性質6】開発者が想定していなかった接続が行われる可能性があること

 反社会的勢力などの犯罪組織にとっては、このような特有の性質と構造的な脆弱性を有するIoTは、正に「犯罪インフラ」であり、IoTが普及すればするほど、これまで困難だった犯罪の実現やこれまでにないほど大規模かつ大きな収益が見込める犯罪の実行を可能にしてしまうと思われます。私たちは、IoTがそのような犯罪や犯罪組織の活動を助長しかねないリスクを直視し、適切にそのリスクを抑え込んでいく必要があります。

 さて、これまで見てきた通り、「ATM」「AI」「IoT」(あるいは、本コラムでたびたびとりあげている「仮想通貨」「タックスヘイブン」などもそうですが)に代表される新しいサービスや技術・スキームなどに対しては、高い「利便性」と裏腹の関係にある「犯罪悪用リスク」の存在を必ず認識すること、そして、今後、さらなる技術の進歩と普及が見込まれる一方で、悪用リスクも急激に増大することをふまえた対応(利便性と悪用リスクのトレードオフに向き合っていくこと)が求められることになります。

 犯罪組織は常に規制の緩いところ、新しいビジネスキーム等を狙って介入してくることは、これまでも何度も指摘しているところです。現状は、国も事業者も、消費者のためを思って、あるいは競合他社との差別化や優位性を打ち出すために、利便性を追求するあまり、悪用リスク対応が後手に回りがちの状況にあります。さらに、国や事業者、あるいは消費者においては、リスクの想定の甘さ(想像力の欠如)や海外などを含む先進事例や事故事例、ヒヤリ・ハット事例等の情報収集力や、そのような情報に対するリテラシーの低さなどが顕著だと言えますです(さらに言えば、そのあたりの感性は、犯罪組織より著しく劣っているとさえ言えます)。賢い消費者なら、自らの消費行動が犯罪を助長してしまう構図にそろそろ気付いてよいはずですし、(悪用される危険性が高いと知って)本当にこれ以上の利便性が必要なのかどうか、一度立ち止まって考えてみてもよいかもしれません。そして、事業者も、利便性の追求の結果、逆に消費者にとって不利益や危険性が生じる結果になっていないか、十分な検証と説明責任を果たすこと、さらには、自社のサービスやビジネスが犯罪を助長しかねないことまであらかじめ認識すること(悪用リスクを常に念頭に置いて開発等を進めるべきだということ)、今後、その結果の重大性や影響の及ぶ範囲の拡がり・深刻度合いが深まっていくことも考えれば、冷静にさをもってそのトレードオフを慎重に見積もり、方向性を柔軟に見直していく勇気が求められると言えるでしょう。

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2. 最近のトピックス

1) 暴力団組織の動向

 既にご存知の通り、岡山市の指定暴力団神戸山口組傘下の「池田組」ナンバー2の高木若頭が同市内で射殺された事件で、対立状態にある指定暴力団6代目山口組傘下の「高山組」組員が出頭し、逮捕されています。池田組は、山口組分裂の際の当初からの神戸山口組の主要メンバーであり、かつ、豊富な資金力をバックに6代目山口組から神戸山口組への引き抜き工作に数多く携わってきた経緯もあり、神戸山口組側の怒りは相当なものと言われています。一方の高山組は、6代目組長(司忍)の出身母体である「弘道会」(名古屋)の直系組織であることから、今後、抗争が激化する(直接衝突する)可能性はやはり高いものと思われ、抗争の激化への警戒が必要な状況にあると言えます。

 ただし、本事件を契機に、抗争が激化することとなれば、警察が、双方を「特定抗争指定暴力団」への指定に持ち込むことが考えられます。山口組が昨年8月に分裂してから、抗争とみられる事件は全国で70件以上発生しており、対立抗争状態と認定した今年3月7日から5月末までに、双方の構成員が約460人逮捕されている状況に加えて、サミット休戦が空けるや否やサミット休戦が空けるや否や本事件が発生しており、警察庁は、既に全国の警察に対し、取り締まりの強化や抗争の続発防止を求める通達を出しています。

 また、これらの動きとは別に、2008年に6代目山口組から絶縁処分(後に除籍処分に変更されています)を受け引退した後藤忠政(元後藤組組長)が、移住先のカンボジアから一時帰国しており、新たな第3極の立ち上げも噂されるなどその動向に注目が集まっています。真偽は分かりませんが、分裂の火種は山口組以外にもあることから、それらの不満分子を糾合しつつ、神戸山口組に最終的に合流するといった話も流布しています。神戸山口組ですら指定暴力団に指定されるまで8カ月を要しており、その間は法的な規制が一時的に緩くなることや、今後、双方の山口組が「特定抗争指定暴力団」に指定されれば、抗争だけでなく彼らが重んじている義理事や定例会、あるいは移動までもが著しく制限されることになり、厳しいシノギがさらにやりにくくなるといった甚大な影響を受けることになることなどを考えれば、抗争指定をきっかけに新たな第3極が立ち上がるという可能性もゼロではないと言えるかもしれません。いずれにせよ、抗争の行方、警察の動向、第3極立ち上げに向けた動きなど、今後の状況を注視しておく必要があります。

 そして、このような(直接的な衝突だけでなく、引き抜き合戦や情報戦、糾合に向けた駆け引き等まで含めた)抗争の激化が予想される状況下では、抗争に相当の資金が必要になることから、事業者に対する暴力的不法行為や詐欺等、あるいは薬物犯罪や強盗等が増加する可能性があります。さらに、(事件化されるかどうかに関わらず)事業者との合法的な経済取引等を装った資金獲得活動の活発化やその奪い合いが激しくなることも予想されます。そして、警察も、そのような動きを見越して、今後は、資金源の断絶に力を入れることが予想されますので、共生者の動向の監視や摘発の強化、共生者との取引を自覚的に行うような悪質な事業者の摘発(摘発手段には様々なものが考えられるところです)などが強化されていくものと思われます。これまで指摘してきた通り、事業者は、これまで以上に、反社チェックや関係解消、不当要求等への対応など、あらゆる場面における反社リスク対策の「質を磨く」ことが求められていると認識する必要があります。さらには、個々の事業者のそのような取組みの中から得られた端緒情報等を警察等に提供するなどして、官民挙げた暴排(反社排除)の質的向上を目指すべき状況にあると言えると思います。

 なお、兵庫県公安委員会は、6月13日に、指定暴力団6代目山口組を暴力団対策法に基づき再指定し官報に公示しています。期間は6月23日から3年間で、指定は9回目となります。また、国家公安委員会は、暴力団対策法に基づき、住吉会と稲川会、工藤会、旭琉会をそれぞれ指定暴力団として再指定することを確認、東京都と福岡県、沖縄県の公安委員会が今後、官報に公示することになりますが、いずれも6代目山口組同様、9回目の指定となります。参考までに、今年3月時点の構成員数は、住吉会が約3,200人、稲川会が約2,800人、工藤会が約470人、旭琉会が約380人となっています。

 また、山口組の動向とは別に、特定危険指定暴力団工藤会(北九州市)に関する報道も最近目立っています。

 北九州市で2012年9月に、福岡県暴排条例に基づく暴力団組員の立ち入りを禁じる「標章」を掲示した飲食店経営会社役員の男性を刃物で刺して殺害しようとしたとして、工藤会系組幹部ら7人が殺人未遂容疑などで逮捕されています。当時、同市内で同様の襲撃事件が相次ぎましたが、立件されるのは今回が初めてとなります。

 また、同会幹部が被告となった殺人未遂事件の裁判員裁判で、同幹部の知人とみられる男が、閉廷後、複数の裁判員に「よろしく」などと声を掛けていたことが発覚、福岡地裁は、判決期日を取り消し、対応を検討していますが、裁判員に対する請託(依頼)や威迫が理由とみられる判決期日の取り消しは初めてだということです。さらに、本件では、被告側弁護人が辞任を申し出たほか、裁判員4人も辞任を申し出て解任されるという異例の事態となっています。現行制度では、今回のような事態を完全に防ぐのは不可能だと言われており、「最も凶暴」(米財務省)と評される工藤会の恐怖と混乱を招く手法には驚かされますが、司法の場においても暴力団を利することとならないよう、毅然と対応されることを求めたいと思います。

 なお、司法の場における暴排に関連したものとして、(工藤会の事例ではありませんが、)拘置所に勾留されていた指定暴力団山口組系幹部が、娘の結婚式に出席したいとして勾留の執行停止を申請し、大阪地裁が挙式当日の数時間に限って認めたという事例が報道されています。一般の人でもなかなか認められにくく、逃亡リスクもある中、資金集めともなりかねない結婚式に出席するとの理由でのこの措置には、十分な説明が欲しいところです。

2) 特殊詐欺の動向

 平成27年の特殊詐欺の認知・検挙状況等が警察庁から公表されています。

警察庁 特殊詐欺認知・検挙状況等(平成27年・確定値)について

特殊詐欺認知・検挙状況等(平成27年・確定値)について

 本統計によると、昨年1年間の特殊詐欺全体の認知件数は13,824件(前年比+432件、+3.2%)、被害額は482.0億円(▲83.5億円、▲14.8%)となり、被害額は減少に転じたものの、依然として高水準で推移していることが分かりました。また、既遂1件当たりの被害額は377.5万円と、前年から77.0万円減少(▲16.9%)しています。
 また、首都圏1都3県における認知件数・被害額が大幅に減少した一方で、地方大都市圏の大阪、岡山、福岡などにおいては逆に増加しており、首都圏における取り締まりや金融機関の取組みが強化されたことで、犯罪を敢行しにくくなった犯罪グループが、周辺エリアや地方に活動をシフトしている状況が鮮明となったと言えます(それ以外にも、同窓会名簿等を悪用した「上京型」犯罪が、例えば北陸新幹線の開業などとも相まって増えた影響なども考えられるところです)。

 一方、取り締まりについては、検挙件数は4,112件(+860件、+26.4%)、検挙人員は2,506人(+521人、+26.2%)と、いずれも平成23年以降で最多となったほか、アジト(拠点)の摘発に力を入れた結果、60箇所(+19箇所)の犯行拠点の摘発と、343人(+177人)を検挙しています。また、摘発された60箇所の犯行拠点の内訳をみると、「賃貸マンション」が33箇所、「賃貸オフィス」25箇所、「ホテル」2箇所となっており、一所にとどまらず移動しながら犯行を行っている実態と、「賃貸」物件が悪用されていること(不動産事業者に協力者が存在する、真の受益者の特定まで審査の精度が高まっていない、といった賃貸物件を手配できる状況があること)が伺える結果となっています。また、受け子等の被疑者に関する興味深いデータとして、「被疑者として逮捕された790人の多くが逮捕の段階で否認」するも、「最終的には606人が起訴されており、起訴された者の比率は76.7%に上る」こと、平成26年における刑法犯の起訴率が38.5%、詐欺の起訴率は55.0%であることと比較すると、かなり高い割合となっていることが取り上げられています。

 また、本コラムでもたびたびそのあり方に疑問を呈しているレンタル携帯電話については、携帯電話不正利用防止法に基づく役務提供拒否が行われるよう携帯音声通信事業者に情報提供して、犯行に悪用されるレンタル携帯電話の無力化を推進、平成27年中の情報提供は、13,162件に上ったということです。さらに、被害者から犯行グループに被害金が渡るのを阻止するため、金融機関、郵便・宅配事業者、コンビニエンスストア等に対して、声掛けや通報を依頼しているところ、これによる阻止件数は12,332件、阻止率は49.1%となり、平成20年以降で最高となっています。
 なお、これに関連して、特殊詐欺のアジト根絶に向けた取組み強化の一環として、豊島区と池袋・目白・巣鴨の3警察署が「特殊詐欺等のアジト発見の着眼点」を作成し、公開していますので、ご紹介いたします。

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1.犯行拠点(アジト)の着眼点

(1) 建物の形態、管理状況

  • マンション、オフィスビル、雑居ビルを使用しているケースが大多数を占める
  • 管理人が不在など、比較的管理の弱いところが多い

(2) 出入り状況

  • 3~10人くらいの男が朝入り、夜まで全く出入りがない
  • 男数人が暮らしているが、ほとんど部屋の出入りがない

(3) 昼間帯の様子

  • 数人の男が電話をかけ続けている声が聞こえる
  • 数人の男が明らかに在室しているが、チャイムを鳴らしても応答がない
  • ドアを開けても、殊更に室内の様子を隠そうとする

2.詐取金送付先の着眼点

(1) マンションの一室等が、詐取金の送付先として使用されている

(2) 生活実態がないにもかかわらず、多くの配達物が届く/p>

(3) 空き室の郵便受けに投函される不在連絡票を目当てに、同所付近を徘徊する

(4) 不審者がいる

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 一方で、高齢者(65歳以上)被害の特殊詐欺の件数は10,641件(+68件、+0.6%)で、その割合(高齢者率)は77.0%(▲2.0P)と依然高い水準にあるほか、有料サイト利用料金等名目の架空請求詐欺等において、コンビニエンスストア等で電子マネー(プリペイドカード)を購入させ、そのIDを教えるよう要求して、カードの額面分の金額(利用権)をだまし取る手口が急増、高齢者以外(10~50歳代)でも被害に遭いやすい手口とされていることから、今後の対策が急がれます。

 また、警察庁から、平成28年4月の状況についても公表されていますが、基本的には平成27年の状況の延長線上にあると言えます。

警察庁 平成28年4月の特殊詐欺認知・検挙状況等について

 平成28年4月の特殊詐欺発生状況は、認知件数(既遂)は3,987件(前年同期比▲355件、▲8.2%)、被害総額は127.5億円(同▲31.1億円、▲19.6%)となり、認知件数・被害額ともに前年を下回る状況となっています。うち、オレオレ詐欺については、認知件数1,631件(同▲117件、▲6.7%)、被害総額50.76憶円(同▲7.2億円、▲12.4%)、架空請求詐欺についても、認知件数1,016件(同210件、▲17.1%)、被害総額44.53億円(同▲11.75億円、▲20.8%)と同様の傾向にあります。

 ただし、還付金詐欺については、認知件数1,005件(同+202件、+25.2%)、被害総額12.44億円(+3.9億円、+45.7%)と、認知件数・被害額ともに増加傾向にある点が特徴的で、注意が必要です。

3) テロリスク対策/アンチ・マネー・ローダンリング(AML)の動向

①テロリスク対策を巡る動向

 前回の本コラム(暴排トピックス2016年5月号)では、ISをはじめとする「テロの本質」について、以下のように指摘しています。

 欧米的価値観が歴史の中で獲得し、育んできた「国家」の概念、「自由」や「プライバシー」の概念に対して、いわば「思想」「主義」によって物理的・地理的な限界を超えて結びついているIS的価値観には、「国家」「自由」「プライバシー」などの概念は存在せず、むしろ否定されるべきものです。つまり、現状のテロを取り巻く状況は、IS的価値観によって、欧米的価値観が「大きく揺さぶられている、試されている」とも指摘できると思います。

 これに関連して、ローマ・カトリック教会のフランシスコ法王が、欧米がイラクやリビアの文化を考慮せずに民主主義を輸出しようとしたことが、テロが続く現状につながった(テロを助長した)との見解を示しています。報道によれば、「あまりに欧米式の民主主義のモデルが輸出された」「文化を考慮せずに前へ進むことはできない」と指摘したとされ、同法王が両者の異なる価値観の衝突が現状のテロの本質であると捉えていることが伺えます。その意味では、欧米的価値観の押し売りに対するIS的価値観の抵抗がテロの本質であると言い換えることができ、そうであるならば、テロリスクを低減していくための重要なキーワードのひとつには、やはり「寛容」があげられるのではないかと思われます。

 さて、先日終了した伊勢志摩サミットは、結果的には、(愉快犯と思われる脅迫はあったようですが)テロ等の治安上の重大な事案等は発生せず、まずはその直接的な脅威を抑え込んだと言う意味で評価できると思います(だからといって、日本のテロリスクが低くなったわけではありません。米フロリダ州での米国史上最悪の銃乱射事件のようなテロは相変わらず世界中で頻発していますし、日本では今後、世界的なイベントの開催が続きますので、相変わらずターゲットとなっています)。前回も指摘した通り、テロリスクには多様な側面があり、事業者もテロリスクを身近なものと捉え、テロ資金供与対策(CTF)の観点から、自らのビジネスがテロを助長することがないよう不断の取組みが求められていることはあらためて認識していただきたいと思います。

 そのサミットの成果として、首脳宣言の付属文書や財務大臣・中央銀行総裁会議における行動計画などが公表されており、今後のテロ資金供与対策(CTF)の具体的な方向性が提示されています。

G7首脳宣言 付属文書 テロ及び暴力的過激主義対策に関するG7行動計画(骨子)

財務省 テロ資金対策に関するG7行動計画(仮訳)

 これらの文書から、主要な部分を以下に抜粋して紹介しておきたいと思います。

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●テロ資金供与は、テロリストが攻撃を実行し、ネットワークを維持し、プロパガンダを通じてそのイデオロギーを拡散する手段を提供するもの

●G7は、テロ資金供与に対する世界規模の闘いを強化するために協働すること、そして金融活動作業部会(FATF)及びその他の関連する国際機関の取組に引き続き強いリーダーシップを発揮することをコミットする

●G7の資金情報機関(FIU)が、潜在的なテロリスト及びテロリストに関連する活動につながる情報の、多国間での交換を進展させることを通じ、新しく革新的な情報交換及びテロ資金供与対策の国際協力の方式を検討し、その結果、FIUの予防的分析を強化する

●G7は、G7各国の要件を見直す観点から2016年9月末までにFATF基準の関連する敷居値を分析し、最も効果的にテロ資金供与と闘うためにFATFと協働し続ける

●すべてのG7各国が、仮想通貨やプリペイドカード等の新しい決済手段にFATF基準を適用する、または適用に取り組むことを確認し、FATF加盟国間で新たな決済手段に関するこれらの基準の実施を推奨するようFATFと協働する

●具体的なテロ対策

  • 安全保障理事会の関連決議の履行
  • 情報共有と協力(G7関係当局間の情報共有強化。インターポールの各種データベースの活用、国際的な司法協力の強化)
  • 国境警備(関係当局間の協力強化、関連プログラム(世界税関機構セキュリティ・プログラム等)の利用、乗客予約記録等の活用)
  • 航空保安(国際民間航空条約が定める標準、勧告の履行等、能力育成等)
  • テロ資金対策(情報交換・協力の促進、将来的な基準強化の検証、対象を特定した金融制裁実施の協調、FATF強化への支持)
  • 文化財の不正取引(テロ組織の支配地域に由来する文化財の不正取引阻止の努力、インターポールの関連データベースの拡大・利用)
  • 民間部門との連携(インターネット関連企業等との連携、美術市場や収集家に対する文化財不正取引阻止のための協力呼びかけ)

●社会における(暴力的過激主義に代わる)他の意見を表明させる力と寛容の促進

  • 教育等を通じた異文化間、異宗教間の対話や理解を通して多元的共存、寛容、ジェンダー間の平等を促進
  • 市民社会やコミュニティ(特に女性、若者)との連携 など

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 上記の中では、航空搭乗者情報やインターポール等の持つテロリストの情報、文化財関連情報などの「国際的な情報共有の強化」に向けた具体的な行動が今後のキーポイントとなることは間違いないところですが、冒頭に指摘した「寛容」や「異文化・異宗教間の対話や理解」「多元的共存」といったキーワードが散りばめられている点にも注目したいところです。

 さらには、「仮想通貨やプリペイドカード等の新しい決済手段にFATF基準を適用する」と言及している点にも注目されます。後述するように、日本でも、サミット開催直前のタイミングで仮想通貨に対する規制を設ける改正資金決済法等が成立し、FATF基準を適用していく方向性が定ま決まっています。ただし、プリペイドカード等へのFATF基準の適用については、欧州のテロで悪用されたことや日本でも特殊詐欺に悪用されている現状もあって何らかの規制が必要である一方で、日本国内でおいても決済手段として普及が進む電子マネーに影響が出る可能性もあり、「利便性と悪用リスクのトレードオフ」の観点から、今後の規制の動向を注視していきたいと思います。

 また、テロの最新の実態について、米国務省が、「Country Reports on Terrorism 2015」を公表しています。

U.S. State Department ; Country Reports on Terrorism 2015

Full Report-Country Reports on Terrorism 2015 (PDF)

 本報告書によると、2015年に世界で発生したテロ件数は、前年比約13%減の11,774件、死者は同約14%減の28,328人ということです。また、テロが発生した92カ国のうちイラク、アフガニスタン、ナイジェリア、シリア、パキスタンの5カ国での死者数が全体の74%を占めているといった驚くべき状況も報告されています。なお、ISについては、イラクなどでテロが少なくなり、世界でのテロ件数、死者数とも前年比で1割以上減少したこと、イラクやシリアで大量の外国人戦闘員を含む相応の勢力を維持しているものの、支配地域の40%を失ったことなどの指摘がなされています。

 その他、報道によれば、昨年11月にパリ同時多発テロを経験したフランスでは、テロ実行犯に対する実質的な無期刑や、危険人物に対する自宅軟禁の適用を柱とするテロ対策強化法が成立しています(フランス国内では、ここまで様々な勢力からの揺り戻しの動き等もあって審議が難航、ようやく成立までこぎつけた印象があります)。また、ドイツでは、スマホや携帯電話に使うプリペイド式のICカード「SIMカード」の販売時に、身分証明書の確認を義務付けることなどを柱としたテロ対策法案を閣議決定しています。
 これまでドイツでは、プリペイド式のSIMカードは身元確認なしで店頭購入が可能なため、テロリスト等に悪用される危険性が指摘されていました。なお、日本では、2008年に携帯電話不正利用防止法が成立し、既にSIMカードの取引時の本人確認が必須となっています。
 ただし、総務省によれば、海外の事業者が発行しているSIMカードについては、国際ローミング等に対応した白ロムに取り付けることや、国際ローミングサービスを申し込むことによって、国内で通話が可能となる可能性もあるものの、日本の事業者が提供するSIMカードでなければ、同法の対象とならない点に注意が必要です。

 最近の米フロリダ州での銃乱射テロに加え、現在、フランスでは、サッカー欧州選手権(ユーロ2016)が開催されており、再び欧州でテロの発生リスクが高まっています。そのため、米国務省も、欧州全域の大型イベント会場や観光地、交通機関などが「テロ攻撃をける潜在的なリスクがある」として、渡航する米市民に注意を促す警報を出しています。なお、日本でも、外務省から、米でのテロ等を受け、イスラム教のラマダン期間中のテロ発生リスクに対して注意喚起情報が発出されています。

外務省 海外安全ホームページ 米国:フロリダ州オーランド市における銃撃テロ事件の発生に伴う注意喚起

②アンチ・マネー・ローンダリング(AML)を巡る動向

 スイスの金融監督当局が、同国のプライベートバンク「BSI」がマレーシアの国営投資会社「1MDB」との取引において、使途不明金や元子会社を通じた不透明な資金の流れがあり、AML上の取引時確認義務について「深刻な違反を犯した」と認定したと報じられています。さらに、シンガポール金融通貨庁も、同行のシンガポール子会社に業務停止を命じています(また、約10億円の罰金も課したということです)。
 1MDBは、マレーシアのナジブ首相が設立したファンドで、同ファンドから首相へ7億ドルにも及ぶ不正な資金提供の疑惑が持たれていますが、本件は、これらスイス・マレーシア・シンガポールだけでなく、米国・英国・ルクセンブルグ・フランス・香港等へと捜査網が広まっており、巨額のマネー・ローンダリング事案へと拡大する可能性があります。

 また、米財務省は、北朝鮮を「主要なマネー・ローンダリング懸念先」と認定し、兵器開発資金を調達する目的で国際金融システムを利用できないよう制裁強化に乗り出したと報じられています。北朝鮮の金融機関が第三国の銀行を経由して米国の金融機関の口座を利用することを禁止する措置を通じて、北朝鮮の大量破壊兵器や弾道ミサイル開発などに世界の金融機関が悪用されないための包囲網を形成することを狙っているとされます。マネー・ローンダリングは、お金の流れを連鎖によって作り出すものですが、このような取組みを米国以外にも連鎖させることによって、資金の流れを途絶させることを実現し、北朝鮮の暴走を食い止めることにつなげていただきたいと思います。

4) タックスヘイブン(租税回避地)を巡る動向

 パナマ文書ショックを契機として、タックスヘイブンに関する理解や認識が進みつつありますが、ここでは、その金融資産の実態に関する客観的な資料を紹介しておきたいと思います。まずは、国連貿易開発会議(UNCTAD)から、租税回避地を利用した投資の動向調査結果が公表されています。

UNCTAD;Investment flows through offshore financial hubs declined but remain high

Global Investment Trend Monitor, No. 23

 本調査結果によると、2010~14年に英領のバージン諸島(BVI)やケイマン諸島の租税回避地を利用した投資額を、国・地域別で見た場合、香港が1,480億ドル(約15兆7,500億円)で全体の33%を占めていること、米国が930億ドル(21%)、ロシアが770億ドル(17%)、さらには、香港と中国本土を合わせると、1,930億ドル(43%)にも上ることが分かります。

 また、以下の財務省の資料においても、過去30年間、金融取引などへの税率を低くしている国・地域である「オフショア・センター(OC)」の銀行拠点は、ほぼ一貫して世界最大の対外負債(預金等)残高を有しており、2015年3月現在、4.3兆ドル(約460兆円)の預金等を域外から受け入れており、その残高が、世界の17%を占めているという実態が報告されています。

内閣府 第7回 国際課税ディスカッショングループ(2016年5月26日)資料一覧

財務省説明資料(国際課税を取り巻く経済環境の構造変化)(2/5)

同(4/5)

 本資料によると、米、英に並んで、OCの銀行拠点が一貫して対外債権保有残高ベースで世界3位以内に入っており、2015年3月現在、約4兆ドルの対外貸付債権を有していること、日本からの対外直接投資残高は過去20年で約5倍に増加しているものの、上位15か国の顔ぶれに大きな変化はないこと、ただし、顕著な変化として、中国及びオランダ向け直接投資が過去20年で10倍以上拡大し、両国がアメリカに次ぐ日本からの主要な投資先として存在感を高めていること、1996年時点では上位10カ国・地域に名を連ねていなかったケイマン諸島が、2014年にはアメリカに次ぐ63兆円の日本からの投資残高を有する証券投資先として存在感を高めていることなどが分かります(なお、前回もご紹介した通り、日本はケイマン諸島と法人登記や資金運用などの情報を交換する協定を結んでおり、ペーパーカンパニーを利用した資産隠しなどは、かなり困難になっています)。

 さらに、これら某大な額の預金等がOCに積み上がっていることを受けて、「オフショア・センター利用状況の透明性の向上が必要」「オフショア・センターがキャッシュボックスとして利用された場合に、適切な課税が確保できるよう、関連する制度の強化が必要」といった指摘がなされています。

 このようにタックスヘイブンが世界の金融において重要な位置を占めている実態が明らかになる一方で、その匿名性の高さ等が悪用されて、犯罪収益のマネー・ローンダリングやテロ資金供与の犯罪インフラ化している実態にも注意が必要です。

 最近の報道によれば、極秘裏に核兵器の開発を進めていたカダフィ政権時代のリビアが、世界各地のタックスヘイブンを隠れみのにして関連機器の代金を支払っており、当時の為替レートで総額1億1,000万ドル(約130億円)に上ったということです。国際安全保障上の重大な脅威である違法な核開発にもタックスヘイブンが悪用されていたことになり、その透明性の確保はやはり急務と言えます。さらに、トレンドマイクロが、サイバー犯罪者がタックスヘイブンを悪用しているかの実態を調査したところ、アンダーグラウンド市場において、国外へのマネー・ローンダリングを宣伝するさまざまな広告が確認され、その中でも架空会社設立の画一的なサービスを提供するサイバー犯罪者も確認されており、タックスヘイブンがサイバー犯罪の犯罪インフラの一つとなっていることが明らかになっています。

トレンドマイクロ サイバー犯罪者の租税回避地の利用実態

 本調査結果によると、国外に資金を移動するサービスの多くは、ドイツやロシアのアンダーグラウンド市場で確認され、パナマ、BVIおよびドミニカ共和国内の会社が利用されており、サイバー犯罪者の間では、これら 3カ国がこうしたサービスに人気の国であることが伺えるということです。

 さて、タックスヘイブンの利便性と悪用リスクの実態の両面を様々な資料をもとに見てきましたが、その適正な活用・悪用リスクの排除については、先日の伊勢志摩サミットの主要議題のひとつとして取り上げられ、その結果として、G7首脳宣言においても、「法人及び法的取極の実質的所有者の透明性の改善は、腐敗、脱税、テロリストへの資金供与及び資金洗浄のためにこれらの主体や取極が悪用されることを防止するために極めて重要である」と言及されています。

G7伊勢志摩首脳宣言(仮訳)

 また、具体的な行動として、経済協力開発機構(OECD)は、日米欧などG20の要請を受けて策定中の悪質な租税回避地の認定基準として、租税回避地に設立された企業の実質所有者が開示されるかどうかを盛り込む方向と言うことです。報道によれば、この基準は、「国際的な情報交換協定への参加の有無」「情報報交換対象の範囲」「国内体制の整備状況」などが審査項目で、その情報交換対象の中に、銀行口座情報や企業の会計情報に加えて「実質所有者情報」も含めるものとされ、基準は各国が制裁課税などの対抗措置を発動する根拠になります。さらに、悪質な租税回避地の「ブラックリスト」を作成することや、悪質な租税回避地に資金を送金した時点で、本国並みの税金を課すことなども検討しているということです。

 さらに、日本においても、脱税及び租税回避行為への対策は着実に取組みが進んでいます。

 前回の本コラム(暴排トピックス2016年5月号)では、日本政府が、BVIやスイスをはじめ、スイスと並ぶプライベートバンクの本場ルクセンブルク、ケイマン諸島、バミューダなどのタックスヘイブンについても、欧米諸国の求めに応じて租税情報の交換や情報開示に応じる協定に合意していることを紹介しましたが、先月には、パナマ文書ショックの発信源となったパナマ共和国との間でも同協定が締結に向けて合意しています(なお、同国との同様の協定は日本が最初となります)。

財務省 パナマ共和国との租税情報交換協定について実質合意に至りました

 なお、本件について、財務省は、「この協定は、OECDが策定した国際基準に基づく金融口座の情報交換に必要な自動的情報交換を含む両税務当局間における実効的な情報交換について規定するものであり、一連の国際会議等で重要性が確認されている国際的な脱税及び租税回避行為の防止に資することとなる」とコメントしています。

 パナマ文書ショックについては、各国政府や要人のスキャンダルといったセンセーショナルな報道のされ方がなされましたが、これまで指摘した通り、タックスヘイブンを巡る問題の本質はそこではありません。租税回避行為も問題ではありますが、その利用の中で最も深刻な問題は、あくまでマネー・ローンダリングやテロ資金供与といった犯罪収益の隠匿や犯罪を助長している点にあります。本来明らかにされるべきリスト(情報)は、こうした不透明かつ問題ある資金の流れであり、それが明るみに出ることによって、ISなどのテロリストや国際安全保障の脅威となる北朝鮮等、日本の暴力団等の反社会的勢力などの資金を断つことにつながる(犯罪を抑止できる可能性がある)という点にもっと着目すべきだと思われます。その意味では、パナマ文書ショックは、単なるスキャンダル暴露ではなく、「その先の脅威との戦い」という視点から捉えるべきだと言えます。

5) 捜査手法の高度化の動向

 前回の本コラム(暴排トピックス2016年5月号)で、「伊勢志摩サミットの開催を控え、国内でもテロ対策への関心が高まっているとはいえ、日本の法規制等の現状は欧米に比べてまだまだ遅れています。例えば、重大犯罪の謀議に加わっただけで処罰対象となる「共謀罪」新設のための組織犯罪処罰法改正案は何度も廃案になっていますし、司法取引の導入や通信傍受の適用範囲を広げる刑事司法改革関連法は棚上げ状態です。」と指摘したばかりですが、サミット開催直前に、「刑事訴訟法等の一部を改正する法律」が成立し、取り調べの可視化や司法取引の導入、通信傍受の適用範囲拡大などの捜査手法の高度化が大きく進むこととなりました。

参議院 刑事訴訟法等の一部を改正する法律案(5月24日成立)

議案要旨

本法案の主な内容は以下の通りとなります。

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1.取調べの録音・録画制度の創設

  • 検察官、検察事務官又は司法警察職員が、逮捕又は勾留されている被疑者の取調べ等を行うときは、一定の例外事由に該当する場合を除き、その全過程を録音・録画しておかなければならない。

2.証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度の創設並びに刑事免責制度の創設

  • 一定の財政経済犯罪及び薬物銃器犯罪を対象として、検察官が、弁護人の同意を条件に、被疑者・被告人との間で、被疑者・被告人が他人の犯罪事実を明らかにするための供述等をし、検察官が不起訴や特定の求刑等をする旨の合意をすることができる。
  • 裁判所は、検察官の請求を受けて、決定により、免責を与える条件の下で、証人にとって不利益な事項についても証言を義務付けることができる。

3.犯罪捜査のための通信傍受の対象事件の拡大及び手続の効率化

  • 現行法が規定する傍受の要件に加えて、あらかじめ定められた役割の分担に従って行動する人の結合体により行われると疑うに足りる状況があることを要件とした上で、現行法上薬物銃器犯罪等に限定されている対象犯罪に、殺人、略取・誘拐、詐欺、窃盗等の罪を追加する。
  • 暗号技術を活用することにより、傍受の実施の適正を確保しつつ、通信事業者等の立会い・封印を伴うことなく、捜査機関の施設において傍受を実施することができるなどの措置を講じる。

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 まず、取り調べの可視化については、可視化が義務付けられるのは裁判員裁判対象事件と検察の独自捜査事件で、報道によれば、全事件の3%程度と言われています。ただし、この裁判員裁判対象事件は、殺人、傷害致死など人の命にかかわる犯罪や現住建造物等放火罪、覚せい剤密輸など、刑の重い重大犯罪が対象となっていることをふまえれば、可視化が義務づけられた効果は小さくはないものと考えます。

 また、司法取引については、巧妙化している組織犯罪に対して有効ではないかと考えます。暴力団の犯罪のように末端の組員が逮捕された場合に、首謀者の関与(組織の関与)を引き出すことはなかなか難しいとされていますが、司法取引によって実行犯の刑を軽くすることと引き換えに、組織の関与を引き出すことができれば、その効果は極めて大きいのではないでしょうか。ただし、8割で司法取引が行われているという米国の状況をみる限り、多くの識者が指摘するように、「冤罪」を誘発しかねないリスクがある点には注意が必要です。

 また、通信傍受の適用範囲の拡大について、現在は、薬物関連犯罪、銃器関連犯罪、集団密航、及び、組織的に行われた殺人の捜査に限られていますが、今後は、振り込め詐欺などの組織的な詐欺や窃盗、傷害などが加わるほか、傍受の際の通信事業者など第三者の立会が不要となったことで、これまで以上に大きな効果が見込めるのではないかと期待されています。一方で、裁判所の令状なしの傍受までは認めていないので、テロを未然に防止することは依然として難しく、このあたりは今後の課題となるものと思われます。

6) 従業者教育と薬物問題

 五輪代表候補だったバドミントン選手が違法賭博に関与していた問題やスポーツ選手の薬物問題などを受け、各スポーツ団体は警察から講師を招いて選手向けの講習会を強化しているほか、株主総会を控えた上場企業が、株主からの質問に備えて、自社チームの配下選手に対する特別研修を実施したり、スポンサーとして資金提供等をしているチームに対して研修の実施状況を確認したりする動きも見られるようになりました。

 また、前回もご紹介した通り、JOC(日本オリンピック委員会)は、JOC加盟団体の全競技の日本代表クラスの選手を対象に、コンプライアンスなどに関する教育プログラムの受講を義務付けたほか、国際総合大会への派遣規定を改定し、反社会的勢力との関係を持たないなど、順守事項の具体例を明示しています。その他、日本体育協会が、JOCに加盟している競技団体に対し、強化指定選手の「行動指針」の策定状況などについて調査を始めましたが、各競技団体の行動指針の策定状況について具体的な調査が行われるのは初めてということです。

 これまであくまで「個人の資質の問題」と「他人事」のように軽視していたこれらの問題について、スポーツ団体として、「人格形成への積極的な関与」「団体としての健全性の担保」といった「我が事」の視点から、真正面から取り組むような流れとなっている点は高く評価したいと思います。本コラムでもこれまでもお話してきましたが、表面的な研修では内容が素通りしてしまう、一定割合の選手へのフォロー(個別の指導やプライベートの監視など)の重要性や、厳格な上下関係やタニマチ文化というプロスポーツ等が置かれている構造的な要因と絡め、指導者層の意識改革もまた重要であることなどをあらためて指摘しておきたいと思います。

 なお、研修や監視の重要性に関連して、社員らによる薬物事件を未然に防ごうと、違法薬物のおそろしさを学ぶセミナーや抜き打ち検査を実施する企業が増えているという報道がありました(平成28年5月6日付毎日新聞)。その中では、薬物検査を受託する専門機関によると、昨年度の検査件数は約10年前から倍増しており、米国では食品やサービスなど幅広い業界が検査を実施、定期検査で薬物事件を防止し、早期発見やケアにもつなげる考え方が浸透しているとも報じられています。

 また、薬物問題に関連した動きとして、この6月からスタートした「一部執行猶予制度」も注目されます。刑期の一部だけ刑務所で服役させ、残りの刑執行は猶予して釈放する仕組みで、主な対象として想定されているのが、正に薬物犯罪です。受刑者を早めに出所させる代わりに、更生のためのプログラムを受ける期間を長く設けることで再犯を防いでいこうとする試みであり、大変意義あるものと評価したいと思います。これらの先行する米国の取組みを参考にするなどして、日本でも新たな試みなどを積極的に展開していくことで、「社会全体からの薬物の排除」の基盤が整っていくことを期待したいと思います。

 また、前回ご紹介した全日本スキー連盟所属の未成年2選手が大麻を吸引した問題で、JOCは、同連盟の選手が過去にも同様の問題を起こしたことから、法令順守の対策が不十分などとして同連盟を「勧告処分」にしていますが、一方の日本バドミントン協会については「指導処分」にとどまっています。その他、大麻問題の発覚したプロ野球球団職員は懲戒解雇に、インターネット上に規制薬物の使用をそそのかす内容を書き込み、麻薬特例法違反で罰金刑を受けたなどとして、東京大学は、職員を諭旨解雇の懲戒処分にするなど、各団体が身内の薬物問題や違法賭博問題に対して厳しい処分を下したことが相次いで報道されています。
 これらの懲戒処分の妥当性については、あくまで参考資料ではありますが、人事院による公務員の懲戒処分の指針が公表されており、「賭博」については、「賭博をした職員は、減給又は戒告とする」「常習として賭博をした職員は、停職とする」となっている一方で、「麻薬・覚せい剤等の所持又は使用」については、「麻薬・覚せい剤等を所持又は使用した職員は、免職とする」と一段厳しい処分となっている点が注目されます。

人事院 懲戒処分の指針について(最終改正:平成27年2月27日)

 さて、問題に関わった者の懲戒処分と関連して、元有名プロ野球選手の覚せい剤問題はどう考えるべきでしょうか。彼は先日、執行猶予付きの有罪判決を受けましたが、今後、覚せい剤の誘惑を完全に断ち切ることができるかが最大のポイントとなるにしても、彼が更生しようが挫折しようが、それをただ社会が見ているだけでは、今後もスポーツ選手の薬物問題は永遠に解決しないように感じます。

 前回の本コラム(暴排トピックス2016年5月号)で紹介した陸上競技の高平選手の「ルールがあってこそのスポーツであり、スポーツがあってこそのアスリートがあることを私たちアスリートは忘れてはいけません。ルール違反は、私たち自身の存在を否定する行為であり、私たち自身の首を絞める行為です。・・・私たちの競技だけでなく、私たちの振る舞いに全世界が注目しています。現在スポーツ界で起きている問題を機に、我々アスリートは自らを再定義し、我々がアスリートであることの意味と意義を見つめ直していきましょう。」という問いかけの本質的な意味を、社会はもっと注目し考えていくべきだと思います。
 つまり、アスリートが自らを再定義するだけにとどまらず、社会が、スポーツの存在意義やスポーツビジネスを含むスポーツのあり方を真剣に考えること、あるいはマスコミの垂れ流すストーリーでは計り知れない薬物の本当の怖さにどう向き合っていくか・伝えていくかなどを考えることが、(彼の謝罪を見守るでなはく)本当に重要なことだと思います。

日本陸上競技連盟アスリート委員会 アスリートの皆様へ(代表 高平 慎士選手)

7) 犯罪インフラを巡る動向

①携帯電話

 振り込め詐欺などに悪用される他人名義や架空名義の携帯電話(いわゆる飛ばし携帯)は、(ほとんどが不正な取引と言っても過言ではない)レンタル携帯とともに、正に犯罪インフラの代表的な存在です。携帯事業者は、適切な本人確認手続きを行う法に基づく義務がありますが、今般、携帯電話の契約をする際に本人確認をしなかったとして、KDDI社に総務省から是正命令等が出されています。

総務省 KDDI株式会社による携帯電話不正利用防止法違反に係る是正命令等

 2013年6月から2014年6月までの間、山口県下関市の家電量販店で、同社と派遣契約を結んだスタッフが、外部の人間と共謀して故意に免許証などによる本人確認をしないなどの42件の不正な販売をしていたほか、それ以外にも、福岡市の販売代理店で438件、東京の代理店で581件の不正があったということです。本件を受けて、総務省は、携帯電話不正利用防止法違反の是正命令および本人確認記録の作成義務の徹底を指導したほか、「携帯電話が振り込め詐欺等の犯罪に不正に利用されることを防止するため、引き続き、法の厳正な執行に努めてまいります」とのコメントを公表しています。

 本件は転売目的の不正と考えられますが、このような不正は業界の構造的な問題として考える必要がありそうです。

 KDDI社に先立ち、5月には、ドコモ社においても、同社の代理店の社員が、顧客から以前受け取っていた書類を流用し、法人名義の新規契約を勝手に締結、端末を中古販売業者に転売した事例や、同僚から入手した知人の本人確認書類を流用して架空契約を締結して端末を転売した事例が報道されています。また、同社は、過去には、販売店の女性店員らが(暴力団関係者を名乗る男に脅されるなどしたことから)販売したように見せかけて店舗から盗んだり、知人名義を勝手に使うなどして数百台の携帯電話が暴力団に渡り、それらが実際に振り込め詐欺等に悪用されたといった事例もありました。

 これらの事例は、「派遣スタッフ」「外部者との共謀」「販売代理店」「暴力団から脅されての不正」などがキーワードですが、これらは正に内部不正の典型的なパターンだと言えます。犯罪に悪用されることが自明な「転売目的の不正」が、「過去から」「業界内で」横行しているにもかかわらず、「直接的な監視の目が行き届きにくい部分(派遣スタッフや販売代理店)に対する管理の不在」「厳格なルールを遵守しようとするモチベーションやモラルの欠如」「トラブルへの初期対応の誤り」といった、組織の構造的な脆弱性に有効な対策を講じてこなかった事業者の不作為が招いたものとも言え、その結果の重大性に鑑みて、企業の社会的責任を厳格に果たしていただきたいものだと思います。

 一方、携帯電話の転売目的での不正な流出事例については、内部不正だけではなく外部からの脅威である「盗難」によるものも後を絶ちません。そもそも盗まれた端末は、携帯事業者により回線の利用停止措置がとられるため、通話やネット利用ができなくなるのですが、それでも犯行が収まる気配はありません。その背景には、報道によれば、盗品が海外で中古品と偽って販売されたり、部品が転売されたりするケースなどがあり、転売価値が高いことがあげられるようです。

 このように、携帯電話は、犯罪インフラとして悪用されるほか、内部と外部の両面からの攻撃に晒されている極めてリスクの高い商品であることから、本人確認手続きの厳格な実施や従業員に対する「刺さる」研修の実施、販売チェーン・マネジメント(派遣スタッフや販売代理店など販売従事者に対する管理)や在庫管理・防犯対策の厳格化など、全方面にわたるリスク管理のあり方が問われていると言えます。

②偽造旅券(入国審査の脆弱性)

 成田空港で、国際線で入国しようとした(中東地域の国籍とみられる)男が、偽造の疑いが強い旅券(フランス国籍の他人の旅券の写真欄に、その男の写真が上から貼り付けられていたもの)を持っていたのに、東京入国管理局の職員が審査で見逃し、一時入国を許可、その後税関検査で発覚し、入管難民法違反(不法入国)の疑いで逮捕、送検されるといった事件がありました。伊勢志摩サミット開催前のテロ警戒を強化していた最中の、入国管理局による水際での審査の脆弱性を浮き彫りにしたと言えます。
 前回の本コラムでも指摘しましたが、入国審査の脆弱性については、既に「偽装難民」が押し寄せて審査業務がパンクしているとの状況もあわせて考えれば、深刻な問題だと言えます。今回の事件は、税関検査により入国を阻止できましたが、巧妙な偽造旅券を見抜くのはそもそも難しく、サミットでも確認された国際間のブラックリストの共有や、最後の砦でもある「目視を含む、人間の五感をフルに活用した端緒の把握」といった複合的な取組みが、テロ等の犯罪組織対策として不可欠になっていくものと思われます。

③在留カード

 日本に実在しない中国人名の在留カードの写しと住民票を銀行に提出して架空口座を開設し、通帳をだまし取ったとして、詐欺容疑で中国籍の居酒屋経営者が逮捕されています。報道によれば、国内のベトナム人に偽造在留カードを密売していたベトナム国籍の男らのグループの資金の流れを捜査した結果、今回の口座が浮上、偽造在留カードは中国から届けられていたとのことで、密売による犯罪収益を中国に送金するためのマネー・ローンダリングに口座が使われた可能性が高いと考えられます。また、同容疑者は、中国語SNS「微信」を通じ、中国人とみられるユーザーからネットバンキングに開設された口座の口座番号やパスワードなどの情報を受け取ったとして、犯罪収益移転防止法違反で再逮捕されており、架空口座の開設と斡旋を行っていた疑いがあります。

 架空口座自体、犯罪インフラの最たるものと言えますが、在留カードについては、ICチップが入っていない偽物であっても、警察や入国審査でない限りは本物かどうかを見極めることは難しいと言われています。口座開設時の本人確認を行う金融機関、住民票の発行の際に確認する自治体、賃貸等の手続きの際に確認する不動産事業者のいずれもが、その場で確実に見極めていくことは困難であり、外国人犯罪の根絶には、この在留カードの偽造防止や本物であることを確認できるツール等の導入などが不可欠であると言えます。

④私設私書箱

 偽造の運転免許証を使って私設私書箱を開設したとして、偽造有印公文書行使と有印私文書偽造・同行使容疑で、指定暴力団山口組系幹部が逮捕されています。同幹部は、(偽造有印公文書行使罪などで逮捕された)女性に偽造の免許証や携帯電話を渡して、私設私書箱事業者に申し込ませ、不正に私設私書箱を開設させており、報道によれば、偽造された免許証は、実在する免許証の写真や名前、住所などが書き換えられており、特殊詐欺の現金送付先に当該私設私書箱を利用しようとしていたとのことです。

 郵便物受取サービス業(私設私書箱事業者)は、2008年の犯罪収益移転防止法の改正により、同法上の「特定事業者」に指定されており、契約にあたっては厳格な本人確認手続きが求められています。少し古いものの、2012年に当該事業者の実態調査が行われていますので以下に紹介しておきます。

経済産業省 平成24年度「郵便物受取サービス業者における犯罪収益移転防止法に対する意識等実態調査」調査報告書

 本調査の結果によれば、3割の事業者で過去に何らかのトラブルに遭遇したことがあるとのことであり、その内容としては、「違法な郵便物の授受に使用された」(55.2%)が最も多いほか、「契約者の名義が不自然、契約者が受取人と異なっていた」(31.0%)、「郵便物の契約者や送付者などからのクレームがあった」(24.1%)などが続くほか、「免許証が偽造だった」「現金が送られてきたことがあった」などの自由回答もありました。また、本人確認をする際の問題点として、「利用者のなりすましが一層巧妙になってきている」(19.8%)、「利用者が本人確認に応じない」(8.3%)などがあげられており、偽造免許証による上記の犯罪のような問題に多くの事業者が直面している実態がうかがえます。
 なお、本人確認においては、大半の事業者が100%対面にて実施していることや、「顔写真付きの本人確認書類の提示」(57.0%)や「複数の本人確認書類の提示」(22.3%)などを求めている事業者も多いことから、レンタル携帯電話事業者の実態調査と比較すれば、高いレベルで取り組んでいることがううかがえます(なお、レンタル携帯電話事業者の実態については、暴排トピックス2016年1月号などを参照ください)。

⑤ 金の密輸

 以前も取り上げましたが、金の密輸が急激に増えています。金の価格自体が高騰していることもありますが、金の価格は世界的には非課税であるのに対し、日本国内で貴金属店に売れば消費税が課されることから、密輸して国内で転売することで、確実に消費税分が儲かるという構造的な要因があります(一方で、発覚しても消費税や罰金の支払いで金は返却される点も、チャレンジするに値する構造的な要因と言えます)。この「確実に儲かる」ことや、万が一発覚しても痛手が少ないことなどから、既に暴力団の資金源のひとつになっています。

 最近でも、大阪で130キロの金塊(約10.7億円相当)を密輸しようとして男女10名を摘発した事件や、暴力団組員らが、プライベートジェット機で海外から那覇空港に持ち込んだ金地金約110キロ(約5億円相当)を税関に申告せず、沖縄地区税関に押収されたというかなり大がかりな事件がありました。身体に巻きつけるなど隠匿の方法も巧妙化しており、前述の入国審査同様、税関等による水際での審査において、会話や目視、五感等をフルに活用しながら、チェックの精度を上げていく必要があると言えます。

8) その他のトピックス

①離脱者支援の動向(北九州市の取組み)

 福岡県警を中心に推進してきた指定暴力団工藤会の壊滅作戦に伴う大量の離脱者の支援問題を抱える福岡県では、本年3月に、みかじめ料など暴力団への資金提供を自主的に申告すれば、福岡県公安委員会が中止勧告や業者名の公表を見送ること(リニエンシー制度の導入)や、組織から離脱した元組員の就労支援に関する規定などを柱とする福岡県暴排条例の改正を行いました(詳細は、暴排トピックス2016年4月号を参照ください)。

 この福岡県の取組みに加えて、工藤会本部が所在する北九州市では、福岡県警の要請を受けて、離脱者の社会復帰を促進する目的で、同市が発注する建設工事の競争入札参加資格の格付けにおいて、暴力団離脱者を雇用する企業を優遇する取り組みを来年から始めることを公表しています。

北九州市 入札参加資格における暴力団離脱者雇用の加点について

 この制度は、建設工事競争入札参加資格の審査において「暴力団から離脱した者の雇用」を加点項目に追加(10点)するもので、加点要件としては、北九州市内業者で、以下のすべての条件を満たしていることとされています。

  • 公益財団法人福岡県暴力追放運動推進センター(暴追センター)に、協賛企業として登録されていること
  • 審査基準日(又は電子申請月)以前1年間の間に、福岡県警察又は暴追センターが就労の支援を行った暴力団離脱者を雇用したこと
  • 同一人の雇用で、雇用期間が3か月以上であること

 全国でも初めてとなる意欲的な取組みと評価したいと思いますが、一方で、本取組みの実効性については懸念される部分もあります。それは、本制度の対象となる企業が、「北九州市内業者」となっている点で、暴力団の中でも、とりわけ工藤会からの離脱者は福岡県外(遠隔地)での就職を希望するケースが多いと言われています(それだけ工藤会の締め付けが厳しく、万が一見つけられた場合の制裁の厳しさがあると言われています)。したがって、同市内の事業者の下で働こうとする離脱者がどれほどいるのか、現実的には厳しい状況ではないかと思われます。このような事情もあって、離脱者支援の取組みにおいては、全国規模での連携は必要不可欠であり、だからこそ、も他の自治体にも同様の取組みが広がることを期待したいと思います。

②忘れられる権利の動向

 以前の本コラム(暴排トピックス2016年4月号)でも紹介した通り、欧州司法裁判所が2014年5月にグーグル社のほか米マイクロソフトなどインターネット検索サービスを提供する企業に対し、個人の氏名を検索した際に表示される情報のうち不適切なものを削除するよう個人が要請する権利(忘れられる権利)を認める判決を下したことを受けて、グーグル社は同判決にしたがいつつも、削除の範囲をドイツの「Google.de」やフランスの「Google.fr」など欧州に限定して対応してきました。

 このような同社の対応に対して、フランスの個人情報保護を取り扱う独立行政法人(フランスの情報処理および自由に関する全国委員会:CNIL)は、欧州だけでなく全世界のネット検索結果から削除するよう指示しましたが、同社は、「一国が、他国に住む人間がどのような内容にアクセスできるかを管理する権限を持つべきではない」と主張してこれを拒否、CNILは、今年3月に、同社が指示を拒んだとして、同社に対し10万ユーロの罰金を課しました。

 報道によれば、同社は、この措置に対して、「忘れられる権利」に理解を示し真摯に対応してきたことを主張しながら、「われわれは事業を展開する国の法律に従う」スタンスながら、フランスの国内法が国際的に適用される場合、より民主的でない国が情報の統制に向け導入している国内規制を国際的に適用するよう要請し始める恐れが出てくるとの懸念を示して、上告しています。中国(グーグル社は現時点で中国事業から撤退しています)やロシアなどでネット規制の強化が図られていることなども念頭に置いているものと思われますが、表現の自由を巡る政府当局との攻防は、アップル社と米連邦捜査局(FBI)の間のスマホロック解除問題と同じ構図と言えます。

 表現の自由は尊重されるべきものである一方で、プライバシーへの配慮やテロリスクへの対応もまた同様に尊重されるべきであり、その比較考量が恣意的に操作されたり、都合よく悪用されることが問題だと言えます。「忘れられる権利」と知る権利などの「公益性」との間の緊張関係については、その判断基準やガイドラインを安易に策定することで、逆に悪用リスクを高めかねないこと(例えば、暴力団離脱情報を「忘れられる権利」として、安易に「5年」を削除基準にしてしまうことなどがあれば、それは暴排の取組みを後退、あるいは無力化してしまいます)を考えれば、今はまだ高い緊張度を保ちつつ議論を深化させるべき時期だと言えると思います。

③仮想通貨規制の動向

 いわゆるビットコイン等の「仮想通貨」を規制する改正資金決済法が、先日、成立しました。少し分かりにくいのですが、「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律」として銀行法、農業協同組合法等、電子記録債権法、資金決済法がそれぞれ一部改正され、仮想通貨については、資金決済法の一部改正の形式を採っています(以下のうち、「参議院 改正内容」のファイルに詳細な改正内容が収録されています)。

金融庁 情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律

説明資料

参議院 改正内容

 さて、「仮想通貨」については、本法によって、以下の通り、事実上の通貨としての機能を持っているものとしてはじめて定義されています。

  • 物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
  • 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの

 そのうえで、「仮想通貨交換業」について、「仮想通貨の売買、他の仮想通貨との交換」「媒介、取次、代理」「利用者の金銭又は仮想通貨の管理(カストディ)」の3つの業務を行うものと定義されており、仮想通貨と通貨との売買だけではなく、仮想通貨間の交換も対象となっている点が注目されます。

 また、この「仮想通貨交換業」については、金融庁が監督官庁となり、登録制を導入、登録に際しては、株式会社であることや業務遂行に適合する資本要件・財産的基礎、執行適正性・体制整備等の厳格さが求められています。さらに、「利用者の財産を自己の財産と分別して管理し、定期的にその管理の状況について、公認会計士又は監査法人の監査を受けることの義務付け」「利用者保護の観点から金融分野における裁判外紛争解決制度(金融ADR制度)を設けること」「帳簿書類及び報告書の作成、公認会計士又は監査法人の監査報告書等を添付した当該報告書の提出、立入検査、業務改善命令等を受けること」など、資金決済事業者としては最も厳格な要件を備えることが求められています。これらの規制に加えて、犯罪収益移転防止法上の「特定事業者」にも位置付けられることから、口座開設時における本人確認等、取引記録の保存、不審取引の通報などについても義務化されています。

 本規制の導入により、いよいよ仮想通貨の本格的な流通(利便性の実現)とグローバルレベルでの悪用リスクへの対応の両輪がスタートすることになります。既に、国際犯罪組織等がその犯罪に悪用する事例が多数報告されていることからも、これらの厳格な規制の「実効性をもった運用」が求められます。

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3.最近の暴排条例による勧告事例ほか

1) 佐賀県の勧告事例

 佐賀県公安委員会は、賃貸する物件が暴力団事務所として使われているのを黙認していたとして、自営業者と暴力団組長に対して、同県暴排条例に基づき勧告を行っています。同県の暴排条例が2012年1月に施行されてから、勧告は5回目になるということです。この自営業者は、暴力団側と木造2階建ての建物の賃貸借契約を結び、その後、事務所になっているのを把握して以降も契約を継続するなどして利益供与したとされます。報道によれば、当該業者と組長は契約を解除する姿勢を示したということです。

2) 愛知県の勧告事例

 愛知県公安委員会は、昨年、愛知県内の指定暴力団神戸山口組系事務所で、抗争対策として窓を鉄板でふさぐなどした工事をしたとして、名古屋市の建築会社と神戸山口組系の会長と組長に対し、同県暴排条例に基づき今後行わないよう勧告しています。本ケースでは、「工事」を利益供与と捉えて、双方を勧告の対象としており、昨年8月末の山口組分裂後、こうした勧告は全国初だと思われます。暴排条例上の勧告措置を適切に実施していくことによって、抗争を助長するような事業者の動きや抗争そのものの抑制につながることを期待したいと思います。

3) 神奈川県の勧告事例

 神奈川県公安委員会は、指定暴力団山口組系の組幹部と知りながら飲食代を供与したとして、運送会社社長に利益供与しないよう、また、あわせて、組幹部の男にも利益を受けないよう同県暴排条例に基づき勧告をしています。報道によれば、暴力団の威力を利用する目的で、組幹部に計114万円相当の飲食代を供与したということです。また、組幹部は飲食店や建設会社の経営者らを会員とする個人的な親睦会を組織していたとのことで、会員が、「暴力団の威力を利用する目的」で会費を支払っていたとすれば、暴排条例に抵触する可能性がありそうです。

4) 詐欺による逮捕事例

① 暴力団員の身分隠して車購入(兵庫県)

 暴力団員の身分を隠して車を購入したとして、兵庫県警は、詐欺容疑で、指定暴力団山口組直系で「直参」と呼ばれる幹部の一人である「奥州会津角定一家」組長や幹部、自動車販売業の男とディーラー社員の男の計4人を逮捕しています。販売業者が当該社員に同幹部を紹介、当該ディーラーは暴力団排除を明確に掲げて取り組んでいたにもかかわらず、同社員は、幹部が暴力団員と知りつつも契約に応じたということです(さらに、暴力団に対する利益供与と知りながら販売していますので、暴排条例にも抵触する行為となります)。契約に至る詳細な事情は分かりかねるものの、暴排の取組みや社員教育の浸透の難しさを感じさせる事例であるとも言えます。

② 暴力団組長の身分を隠して口座開設(兵庫県)

 暴力団組長の身分を隠してインターネットで金融機関の口座を開設し、キャッシュカードをだまし取ったとして、兵庫県警は、詐欺容疑で、指定暴力団山口組直系で「直参」の1人である「早野会」会長と妻を逮捕しています。報道によれば、妻は「口座は私自身が使うために開設した」と容疑を否認しているということです。
 また、これとは別に、指定暴力団神戸山口組直系「西脇組」幹部も、同様に明石市内の金融機関から通帳とキャッシュカードをだましとったとして詐欺の容疑で逮捕されています。こちらは、報道によれば「組員が口座を作れないという説明は受けていない」と容疑を否認しているということです。

 これらのうち、前者の事例については、妻名義でのインターネット経由の申し込みに対して、(おそらくDB等への直接的な該当がなかったため)いったん口座開設に応じたものの、適切な事後チェックの実施(「真の受益者」の特定など)によって問題を把握、契約解除に持ち込んだものと推測されます。
 また、後者の事例については、「反社会的勢力でないことの確認」手続きを何らかの形で実施している(通帳等の交付を受けたことから、金融機関に対して関係がないことを誓約した)はずですので、当該幹部の主張は認められることはないでしょうが、筆者が実際に某メガバンクで「反社会的勢力でないことの確認」手続きを行った際には、書面上のチェックボックスへのチェックのみで、「反社会的勢力に該当しないことを確認しています」といった程度の、十分な説明がなされていない実態がありました(その意味では、「説明を受けていない」との申し立てを受けてしまう余地は十分あると思われます)。このあたりは、ゆうちょ銀行における最高裁の判断では、詐欺罪の成立に関して、約款への暴排条項の明記、申し込み時の表明・確約等の取組みはもちろん、「応対した局員は、本件申込みの際、被告人に対し、前記申込書3枚目裏面の記述(注:表明・確約書のこと)を指でなぞって示すなどの方法により、暴力団員等の反社会的勢力でないことを確認」したとの指摘がなされています。実務として普段から「やるべきこと」を、「民間事業者として出来る最大限の努力」に近い取組みレベルで、高い暴排意識を持った役職員が誠実に実施すること、それを客観的に説明できることが重要だと言えるでしょう(暴排トピックス2014年5月号を参照ください)。

最高裁第2小法廷平成26年4月7日決定

③ 所有者に無断で組事務所に使用(和歌山県)

 借りていたガレージをインターネットによる通信販売店舗として使用していると誤信させ、暴力団事務所として使用していることを所有者に告げなかったとして、和歌山県警は、詐欺容疑で指定暴力団神戸山口組の傘下組織組長と組員を逮捕しています。
 この事例に限らず、とりわけ不動産事業者は、物件が暴力団事務所や特殊詐欺のアジト(拠点)など犯罪に使われないこと、犯罪組織の活動を助長することがないことを契約時に確認するのは当然のこととして、用法に違反がないか、定期・不定期にモニタリングすることがこれまで以上に求められていると認識すべき状況にあります(この点については、暴排トピックス2016年1月号において、「本人確認の精度向上、真の受益者の特定(法人の実質的支配者の特定)という観点からは、書面上の確認だけでなく、利用状況や関係者の出入り、資金の流れといった『実態確認』の徹底が今後求められていくことになると思われます」と指摘していますので、あわせてご参照ください)。

5) 暴対法に基づく中止命令の事例(和歌山県)

 和歌山市の歓楽街のラウンジの経営者からみかじめ料などの名目で金を受け取ったとして和歌山県警は、指定暴力団六代目山口組傘下組織組長と組員に対して、暴対法第9条(いわゆる27の禁止行為が列挙されていますが、このうち「4 みかじめ料を要求する行為」=縄張内で営業を営む者に対して、あいさつ料、みかじめ料等名目のいかんを問わず金品を要求する行為の禁止)に基づく中止命令を出しています。なお、暴対法では、第9条の中止命令に従わなかった場合は、3年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金を科すことを定めています。

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