暴排トピックス 2017年8月号
~仮想通貨/ブロックチェーン/非対面取引と反社リスク対策

2017/08/09 / 取締役 主席研究員 芳賀 恒人 プリント


1.仮想通貨/ブロックチェーン/非対面取引と反社リスク対策

 口座動態情報やインターネットを利用して「完全非対面」で事業性融資に踏み切る動きが広がっています。例えば、スウェーデンのFintech企業では、顧客によっては名前とEメールアドレスを入力するだけで、0.4秒で融資を即決する仕組みが既に始まっています。また、金融庁も、これまでマネー・ローンダリングなどの犯罪に口座が使われることを防ぐため、犯罪収益移転防止法(犯収法)で、銀行や証券会社などの特定事業者に対して、申込者に書類を郵送し本人が実際に住んでいるかどうか確認することを義務付けていますが、最近では、犯罪防止対策をきちんと講じた上でネットだけで手続きを済ませる仕組み作り、すなわち、「非対面での本人確認手続き」のあり方について、関連法令の改正も視野に検討を始めており、さらには、Fintech企業が金融業務に参入する際の行政手続きの負担を軽くして、Fintech企業の参入を促す方策を講じていく方向であることなども報じられています。また、クラウドファンディングの仮想通貨版といえる「新規仮想通貨公開(ICO=Initial Coin Offering)」による企業の資金調達手法も現実のものとなっているほか、メガバンクでは、マネー・ローンダリングなどの不正取引検知後の調査工程の一部にロボットやAIなどを活用し(いわゆるRegtech)、今後、当局への届け出にも利用していくということです。

 これらのイノベーションを可能にしているのがFintechをはじめとする技術革新ですが、技術革新には、ここで紹介したような「正」の側面だけでなく、必ず「負」の側面も存在します。IMF(国際通貨基金)は、Fintechに関する報告書の中で、ビットコインなどの仮想通貨や新たな送金、決済サービスが「国際的な支払いの利便性を改善する」と評価した一方で、匿名性がマネー・ローンダリングのリスクを高めると警告しています。技術革新によって、「非対面での本人確認」や「非対面での取引を完結させる」ことが可能になるのは確実ですが、一方で技術革新は犯罪者にも等しくその果実がもたらされるのであり、犯罪の手口もまた、ますます高度化・巧妙化するとの認識を強く持つ必要があります。「悪意を持った者」の高度な技術によるなりすまし、偽装等の匿名性の高さを、新しい仕組みから完全に排除できるかと言えば、そう簡単なものではありません。新たな技術の開発に携わるチャレンジャー達は、「正」のリスクテイクをしながら飛躍を遂げる一方で、「負」のリスクの視点(利用者保護を高い次元で実現するために必要な悪意の視点や犯罪集団の実態やその手口等の理解や分析)がどうしても欠けてしまいがち(あるいは後回しにしてしまいがち)です。技術革新があらゆる領域で新たな利便性をもたらしている今こそ、「新しいリスク」に対する「慢心」を排除し、負の側面に十分配慮した慎重な姿勢が不可欠だと考えます。


 その懸念が現実のものと感じさせる事件が、直近で相次いで発生しています。

 そのひとつは、インターネット上の仮想通貨「ビットコイン」を使って少なくとも40億ドル(約4,400億円)相当のマネー・ローンダリングに関与した疑いで、ロシア人の男がギリシャで拘束された事件があげられます。麻薬取引などで犯罪組織が得た不法収益をビットコインで受け付け、米ドルなどの現金に換金する手口で、男が自ら運営に関わっていたブルガリアのビットコイン取引所(BTC-e)を利用したマネー・ローンダリングの首謀者とされるほか、男が関わったマネー・ローンダリングと2年前に破綻したビットコイン取引所マウント・ゴックス(MTG)へのハッキングとの関連も指摘されています(MTGから容疑者個人のウォレットやBTC-eに送金されていく様子が可視化されたチャートが出回っています)。さらに、2014年に世界に拡散したランサムウェア「クリプト・ウォール」で集められた身代金が、最終的にBTC-eに一括して集められたとも言われています。つまり、これら一連の事件においては、「自らが運営する取引所」に脆弱性があることがポイントであり、規制の緩い「取引所」を悪用して「犯罪インフラ化」した事例と言えます。どんなに仮想通貨がブロックチェーン技術を使って安全性や透明性を謳っていても、その「つながり」「面」のどこか1か所でも「悪意」の抜け穴が存在し、それが塞げない(資金の流れを止められない)のであれば、それはもはや犯罪を助長する高度なインフラでしかありません。


 また、米司法省が、世界最大の闇サイト「アルファベイ」を欧州やアジアの司法当局と連携して摘発した事件も相当な衝撃を与えています。闇サイトについては、本コラムでもこれまでたびたび紹介してきましたが、「ダークウェブ」と総称され、アクセス元の場所や端末を特定できないようにする匿名化ソフト「Tor」などを使わないと閲覧できないようになっています。このため、違法薬物の取引など犯罪が行われていても販売者や購入者の特定は難しく、取引にはビットコインなどの(匿名性の高い)仮想通貨が使われることなどもあって、正に巨大な犯罪インフラとなっているのです。

 今回摘発されたアルファベイでも、摘発時、違法薬物や毒性のある化学物質の販売告知が25万件以上出品されていたほか、偽造身分証明書、銃器なども販売されていたということで、4万人の売り手が参加し、20万人超の顧客が利用していたと報じられています。そして、この闇サイトとビットコインの親和性の高さについてもよく指摘されているところです。ただ、仮想通貨は「匿名性が高い」とされていますが、そもそもそのベースの技術となるブロックチェーン自体はガラス張りであり、ビットコインの場合、(上記のMTG事件のチャートのように)その取引はすべて記録が残り確認ができる状態となっています(それが一方で健全性や安全性、透明性の高さというアピールポイントにもなります)。したがって、ビットコインの匿名性の高さは、そのビットコインアドレスと個人情報が結びついていないところに起因していますが、日本でも、仮想通貨交換業者(取引所)が犯罪収益移転防止法上の特定事業者となり、本人確認(取引時確認)が義務化されたことで、ビットコインの匿名性については解消されていく方向ではないかと思われます。一方で、ビットコイン以外の仮想通貨(例えば、DASH、Zcash、Moneronなど)には、そもそも取引の流れを追跡できないものがあり、匿名性の高さが保たれたままで流通しています。実際、これらの仮想通貨は多くの闇サイトで使われており、その意味では、仮想通貨の匿名性の高さという「犯罪インフラ」性には、十分な注意が必要な状況は今後も続きます。


 さらに、ビットコインを巡っては分裂騒動も勃発しました。仮想通貨の持つ特徴でもある、中央銀行のような一元的な管理機関のない点が逆に仇となり、システム処理の限界から業者間で対立が生じてサービスの停止・制限にまで追い込まれ、ついには分裂して新たに「ビットコインキャッシュ」が誕生することとなりました。このように、仮想通貨は、極端な値動きや犯罪インフラ化など急成長のひずみを見せ始めており、最近では、これらに加えてシステム処理の限界や通貨の分裂などの「新しいリスク」が急激に増している状況にあります。利用者は、この利便性の裏に潜むリスクに対する認識や備えが十分にあったのか疑問ですし、このビットコインの分裂事例も、仮想通貨を巡る利用者の安全(利用者保護)と利便性のバランスを取ることの難しさについて考えさせられました。


 さて、このような仮想通貨(ブロックチェーン技術を活用した国際送金、電子マネー決済等)においては、その取引参加者から反社会的勢力を排除していくことが仮想通貨交換業者に求められています。そして、ブロックチェーン技術の応用は、電子カルテなど多様な分野で今後も導入されていくと思われますが、その「つながり」の中に反社会的勢力等の「悪意」が入り込むことを排除することが当然求められることになります。以下、これらの仮想通貨/非対面取引と反社リスク対策、AML(アンチ・マネー・ローンダリング)/CTF(テロ資金供与対策)のあり方という新たな領域について、少し考察してみたいと思います。


 まず、仮想通貨からの暴排(ブロックチェーンからの暴排/非対面取引からの暴排)を考えるにあたっては、「反社会的勢力をどう捉えるか」が最も重要であり、それは結局、「どこまで本気でやるか」と密接に関係することを認識すべきだと思います。

 以前、カジノ事業からの暴排について考察しました(暴排トピックス2015年10月号を参照ください)が、その時のフレームワークを使って整理すれば、まず、反社会的勢力の捉え方は、(1)属性要件等ベースの反社会的勢力(主に属性要件に着目した捉え方)、(2)実態ベースの反社会的勢力(暴力団等と何らかの関係が疑われ、最終的には『関係を持つべきでない相手』として、事業者が個別に見極め、排除していくべきものとする捉え方)、(3)結果ベースの反社会的勢力(反社チェックの限界から、事業者が現に捕捉できているものを反社会的勢力とする捉え方)の3つに大きく分類できます。このうち、「属性要件等をベースとした捉え方」、また、特に「結果をベースとした捉え方」でよしとするのであれば、反社会的勢力排除は、仮想通貨等の取引内で「目に見えている反社会的勢力」の侵入を防ぐことを意味することになり、相応の信頼性の高いデータベース等を活用することで、ある程度実現は可能だと言えます。

 一方で、「実態をベースとした捉え方」、「真の受益者」からの反社会的勢力排除を目指すのであれば、そもそも、反社会的勢力が、直接取引に参画せず、実際の取引参加者を前面に出しつつ、自らを二重・三重に巧妙に姿を隠そうとすることが容易に想像でき、したがって、その反社チェックのスタンスも、KYC(Know Your Customer)では不十分で、KYCC(Know Your Customer's Customer)/KYCCCの視点から見つけ出そうとすることが求められます。したがって、それを反社チェックの実務に落とし込んだ場合、広範囲からの情報収集が必要、かつ、相当の工数と人の目や判断が必須となり、実務上はスピード感やコスト等での問題を抱えることになり、実現のハードルはかなり高いと指摘せざるを得ません。「仮想通貨からの暴排」と言った場合、反社会的勢力をどう捉えるかがポイントとなると指摘したのは、このような事情からです。


 さらに、仮想通貨取引や非対面取引においては、「真の受益者」を特定すること自体、相当の困難が伴います。それは、「真の受益者」の特定実務においては、偽名・借名・なりすましなど本人確認の精度に大きく左右されることが理由のひとつです。その中で、仮想通貨取引や非対面取引において本人確認の脆弱性や匿名性の高さが存在するのであれば、それはそのまま犯罪インフラ化に直結します(先に紹介した闇サイトと仮想通貨の関係などが代表的なものと言えます)。

 一方で、とりわけ匿名性の高さは、仮想通貨の利便性にもつながる部分であり、この部分の規制を強化すると一定割合の利用者が離れていくことが容易に想像できますので、匿名性の強弱のコントロールは、利便性と規制強化(利用者保護)がトレードオフの関係にあることと密接に関連します。一方、匿名取引を完全に排除し、本人確認の精度をどんなに高めたとしても、それでも、「真の受益者」からの反社会的勢力排除は難しいとも指摘しておきたいと思います。すなわち、仮想通貨取引の「見える化」(既に説明した通り、ベースとなる技術がブロックチェーンであるがゆえに、その関係性は全て記録され、取引の「見える化」が実現することになります)が推進されれば、反社会的勢力が直接取引に関与することを抑制することにつながる可能性はありますが、反社会的勢力が自ら取引に参加しないという意味での反社会的勢力排除(=目に見える反社会的勢力排除)を実現できたとしても、反社会的勢力の意を受けた第三者等に取引させることによって、結局、「真の受益者」は目に見えないところまで深く潜在化して、その結果、仮想通貨取引の透明性自体が、逆に反社会的勢力の潜在化だけでなく、マネー・ローンダリング等の犯罪を助長することにつながりかねないとさえ言えるのです。つまり、「シロ」の人間に取引させ、そのことによって、仮想通貨取引参加者自体の透明性・健全性が担保されたとしても、仮想通貨取引内での複雑な送金を通じて犯罪収益を隠匿することができれば、仮想通貨空間が悪用される可能性はさらに高くなります。また、仮想通貨空間内で資金の流れを完全に隠匿できなくても、相当数に分散するなど複雑な取引ができさえすればよいと考えるかもしれません。どちらにしても、この 「透明性・健全性」自体が悪用されるリスクはゼロにはならないと言うことです。

 ただし、仮想通貨取引においては、最終的に「取引所」でリアルな通貨(現金)等に「換金」するプロセスが不可欠であり、仮想通貨空間内で分散したり複雑な動きをみせた仮想通貨も、最終的にはこの「換金」を目がけて1点(もしくは複数のポイント)に収斂していく動きを見せることになります。仮想通貨空間内の流通において、反社会的勢力や不正取引を認知・検知しようと取引途上審査等も含めて厳格なモニタリングを行うことが重要ではありますが、現実には「シロ」に取引させておけば、そこで認知・検知される可能性はそれほど高くありません。しかしながら、極論すれば、最終的に取引所において集約された仮想通貨が現金化(OUT)されてからのリアルな資金の流れ(すなわち、現状のAML/CTFでのモニタリング)の精度を向上させない限り、一連の取引の「真の受益者」から反社会的勢力を排除することは困難のままということになります。


 そして、このリアルなAML/CTF、それらに加えて反社チェック(これらを「KYCチェック」と総称します)の精度を向上させることが、仮想通貨取引(ブロックチェーン取引/非対面取引)におけるKYCチェックの精度向上に直結するとの認識は、今後の制度設計においては極めて重要なポイントとなるのではないかと考えます。

 もう少し具体的に言えば、まず、(反社会的勢力が直接自分で仮想通貨取引等に参画することは考えにくい以上)取引の「IN」と「OUT」の地点における「属性」だけに着目しても全体像は見えないのであり、「属性」だけでなく、「行為(ふるまい)」「モニタリング(どのような取引をどのような相手とどのようなタイミングで実施しているか等)」「リアル(仮想通貨空間以外における現金や取引の流れ、そこに関与してくる関係者の状況等)」の視点、あるいは、仮想通貨と通貨(現金)の切れ目ないAML/CTF、KYC/KYCC/KYCCCの視点こそ重要となるはずです。そして、仮想通貨空間内の関係性(やりとりやふるまいなど「行為」等のモニタリング)を把握すること、リアルな世界における関係性(現金や資産の流れや人的交流、資本的・経済的つながりの状況の精査、モニタリングなど)を把握すること、その両者をともに把握したうえで、その関係性を精査することが、この取り組みの実効性を高めることにつながるのではないかと考えます。

 想通貨やブロックチェーンといった新しい技術革新の成果について、リスクに対しても万能と捉える関係者は残念ながら多いように思われますが、悪意の視点や犯罪者の実態、巧妙な手口等の理解や分析など、その「負」の側面にも十分配慮して、仮想通貨取引(ブロックチェーン取引/非対面取引)の「IN」までの流れと「OUT」以降の流れにも着目すること、「点」ではなく、「線」や「面」で捉えようとすることが重要であり、今後、仮想通貨交換業者や金融機関との間の広範囲の密接な連携があってはじめて、仮想通貨からの暴排(ブロックチェーンからの暴排/非対面取引からの暴排)の実現に一歩近づくことができるのではないかと思われます。

2.最近のトピックス

(1) 暴力団情勢

 前回の本コラム(暴排トピックス2017年7月号)で紹介した、東京・銀座の高級クラブなど約50店が暴力団からみかじめ料を払わされていた恐喝事件では、指定暴力団六代目山口組国粋会系の暴力団組長ら8人が警視庁に逮捕されましたが、警視庁組織犯罪対策4課は、恐喝容疑で、神戸市灘区にある指定暴力団六代目山口組の総本部を約60人態勢で家宅捜索を行っています。

 徴収したみかじめ料が上納金として上部組織である六代目山口組に流れているとみて捜査が続いています。また、警視庁は、「銀座地区暴力団排除ローラー作戦」と称し、同地区にある数百店を捜査員らが訪問して被害の有無を確認し、暴力団から不当な要求の根絶を呼び掛ける作戦を展開するなど、その撲滅に取り組んでいます。一方で、歓楽街から暴力団を排除するため、兵庫県警が5月に発足させた「歓楽街特別暴力団対策隊」(特暴隊)は、500人態勢の隊員らが、毎夜交代で巡回して、一定の成果を上げているようですが、この特暴隊が神戸・三宮などの約10,000店を調査したところ、暴力団が飲食店主らに「みかじめ料」を要求している実態が明らかになったとの報道(平成29年7月31日付産経新聞)もありました。「要求を断るとトラブルになるので、みかじめ料を支払っている」「支払わなければ周囲の店から浮いてしまう」といった生々しい証言があり、そのような理由で支払いを続けている店も存在しており、執拗な要求に対し暴力団対策法に基づく中止命令を出したケースもあったということです。

 暴力団対策法や暴排条例の施行からかなりの時間が経過していますが、いまだにみかじめ料が暴力団の資金源であり続けていることを実感させられます。後述しますが、兵庫県は同県暴排条例を8月1日付で改正施行し、このような商業地への組事務所新設を禁じる規制を新たに設けました。兵庫県や兵庫県警が行う、これらの取り組みが暴力団の資金源に打撃を与えられるかどうかは、やはり、当事者である飲食店等の事業者の意識を変革していけるかにかかっています。みかじめ料の支払いは、明らかに暴排条例に違反する行為ではありますが、東京都暴排条例のように、勧告を受ける前に申告することで「適用除外」となる可能性があることを、事業者に正しく理解してもらうことが重要だと思われますし、福岡県警のように、1軒1軒回りながら、暴排条例による勧告を行わないかわりに情報提供や誓約書を提出させるといった地道な説得もまた効果があるようです。いずれにせよ、暴力団を利用しようという「悪意」ある事業者は論外としても、暴力団の威力等に屈してやむなく支払いを続けている事業者も多いと推測される中、そのような事業者がここで暴力団との関係を遮断できるかどうかは、今が勝負どころではないかと思われます。


 さて、「関係を持つべきでない相手」である反社会的勢力の中には、警察で「準暴力団」とカテゴライズされている「半グレ集団」も排除の対象に含まれますが、中国残留孤児2世らで作る「怒羅権」も準暴力団に指定されています。この怒羅権は、オレオレ詐欺や還付金詐欺、ドラッグ、キャバクラの経営、恐喝などで資金を荒稼ぎしていると言われています。最近、この怒羅権の元リーダーの男が、拳銃2丁などを隠し持っていたとして、銃刀法違反(加重所持)の疑いで警視庁に逮捕されています。逮捕されたこの元リーダーは、指定暴力団住吉会系暴力団元組員であり、その武勇伝も多いのですが、最近、怒羅権内部で分裂騒動が勃発し、元リーダーを追い落とす動きが顕在化しており、今回の摘発も反対勢力が警察に情報を流したのではないかとも言われています。準暴力団は、暴力団でない分、一般人とのトラブルも多く、その抗争の激化は一般人を巻き込む可能性も考えられる状況であり、注意が必要です。

 また、反社会的勢力の属性のひとつである「総会屋」については、「平成28年における組織犯罪情勢」によれば、人数が230人(グループ構成員40人、単独人員190人)とされており、会社ゴロ(企業等を対象として、経営内容、役員の不正等に付け込み、賛助金等の名目で金品を喝取するなど暴力的不法行為等を常習とし、又は常習とするおそれがある者)等(875人)を加えても1,105人という規模となります。総会屋は、1970年代後半の最盛期には8,000人を超えたという説もあり、衰退の一途を辿っているという状況です。

 直近では、金属製造大手上場企業の株主総会を混乱させる見返りに賄賂を受け取ったとして、大阪府警捜査4課が、会社法違反(収賄)の疑いで、総会屋を再逮捕(総会屋の身分を隠して口座を開設したなどとして今年6月に詐欺容疑で既に逮捕)、また、同法違反(贈賄)などの疑いで同上場企業の元取引先の運送会社社長を逮捕するという事案が発生しています。元取引先社長が総会屋に、同上場企業との取引を再開させるよう圧力をかける(同上場企業の担当者を脅す)とともに、不規則発言等で総会を混乱させることを依頼していたということで、一般人が総会屋を使って企業を脅した事例となります。過去の反省をふまえ、上場企業による総会屋への対応が正しく浸透し、不当な要求には応じず、総会の場での不規則発言等へも適切に対応し、株主としての意見には真摯に対応するという当たり前の対応を貫くことが当たり前となっており、そのような企業の全うな対応が総会屋の存在意義を打ち消していったとも言え、企業が正しい対応を行うことが、暴力団をはじめとする反社会的勢力への対応にとって重要であることをあらためて感じます。


 さて、直近で注目すべき最高裁の決定がありました。暴力団排除条項に基づく預金口座の解約は不当だとして、指定暴力団道仁会の会長ら幹部2人が三井住友銀行とみずほ銀行に解約の無効確認を求めた訴訟で、最高裁第3小法廷は、幹部側の上告を棄却、幹部側の請求を棄却した1審・福岡地裁と2審・福岡高裁の判決が確定しています。暴排条項を理由に、既に開設されていた口座の解約を有効と認めた判断が最高裁で確定するのは初めてとなります。本件については、過去の本コラム(暴排トピックス2016年3月号)でも解説していますが、福岡地裁は、「暴排条項を追加した規定(約款)の事前周知、顧客の不利益の程度、過去に遡って適用する必要性を総合考慮すれば解約は有効」として、請求を棄却する判決を下していました。また、特に、口座開設後に暴排条項を導入するなど、個別の合意がなくても事後的に既存の契約を変更できるとした点でも極めて画期的な判決であったと評価できます。さらに、口座が不正利用された場合に「事後的な対応で被害回復や、反社会的勢力が得た利益を取り戻すことは困難」として解約の合理性を認め、暴力団幹部の不利益についても限定的として、「反社会的勢力の所属を辞めるという自らの行動で回避できる」と指摘したとされます。金融機関の口座解除実務においては、今回と同様のケースでは、訴訟リスクへの懸念から慎重にならざるを得ない状況がありましたが、今回の最高裁の決定により、今後は既存口座の解除が進むものと期待されます。

(2) 特殊詐欺を巡る動向

 警察庁から、平成29年上半期における特殊詐欺の認知・検挙等の状況が公表されています。

警察庁 平成29年上半期における特殊詐欺認知・検挙状況等について


 これまで本コラムでその動向を注視してきた通り、平成29年上半期における認知件数は8,863件(前年同期比+2,421件、+37.6%)と前年から大幅に増加している一方で、被害額は186.8億円(▲13.1億円、▲6.5%)と昨年に引き続き減少しています。とはいえ、依然として高水準の状況にあり、特徴としては、既遂1件当たりの被害額が、224.1万円(▲109.3万円、▲32.8%)と、被害額の比較的小さい犯行が多数回行われる傾向が継続している点があげられます。また、7府県(青森、長野、愛知、三重、京都、島根、宮崎)において被害額が前年同期比で半減しているということであり、金融機関による振り込み制限を積極的に導入しているエリアとの関係がうかがわれます(つまり、効果が出ている可能性が数字的にも読み取れそうです)。一方で、東京、千葉、神奈川、兵庫、福岡など一部の大都市圏では認知件数・被害額のいずれも増加しているということで、引き続き注意が必要な状況です。また、類型別では、オレオレ詐欺が、認知件数3,709件(+940件、+33.9%)、被害額93.6億円(+12.7億円、+15.8%)となったほか、架空請求詐欺は、認知件数2,668件(+1,063件、+66.2%)、被害額58.4億円(▲19.8億円、▲25.3%)と件数が大きく増えた一方で被害額が大きく減少しています。また、還付金等詐欺については、認知件数1,986件(+424件、+27.1%)、被害額22.4億円(+3.5億円、+18.7%)と認知件数・被害額ともに増加傾向にあります。さらに、とりわけ注目されるのが、電子マネー型(有料サイト利用料金名目等の架空請求詐欺の占める割合が99.4%)について、認知件数1,530件(+1,049件、+218.1%)、被害額7.8億円(+5.6億円、+259.6%))と大幅に増加していること、一方でキャッシュカード手交型の認知件数1,428件(+1,110件、+349.1%)、被害額20.5億円(+12.4億円、+152.3%)についても急激な増加が見られる点です。また、高齢者(65歳以上)が被害者となった特殊詐欺の件数は6,376件(+1,294件、+25.5%)となり、その割合(高齢者率)は71.9%(▲6.9%)となるなど、高齢者の被害防止が引き続き大きな課題です。


 被害防止の対策については、まず、金融機関等と連携した声掛けにより、既遂件数を上回る件数の被害を阻止し、阻止率は51.4%と5割を超えた点がその成果として挙げられます。特に、還付金等詐欺対策として、金融機関と連携し、一定年数以上にわたってATMでの振込実績のない高齢者のATM振込限度額をゼロ円(または極めて少額)とし、窓口に誘導して声掛け等を行う取組を推進していることは本コラムでもたびたび紹介してきましたが、平成29年6月末現在で、(全国521の金融機関のうち)37都道府県の217金融機関(およそ4割)で実施されており、54件を阻止したということです。ただ、振り込み制限によって利便性が損なわれるなどの懸念もあり、大手銀行やゆうちょ銀行は現段階では実施していません。報道によれば、「利用者が多いため制限がかかった顧客の窓口対応が大変になる」といった弊害もあるようですが、被害が半減した地域もあるなど一定の成果があることは実証されていることから、東京など大都市圏での被害が増加傾向にあることとあわせて考えれば、今後、大手金融機関においても導入を検討すべきではないかと思われます。なお、本取り組みを全国に先駆けて始めた岡崎信用金庫では、振り込め詐欺防止対策の一環として、7月から70歳以上かつ一定期間にATMで50万円超の引き出しのない口座顧客について一日当たりのキャッシュカード引き出し限度額を50万円までに制限する新たな取り組みを始めています。詐欺の被害は銀行振り込みだけでなく、現金の送付や手交などもあり得ることから、このような対策も有効だと思われ、今後、取り組みが拡がることを期待したいと思います。

 また、本コラムでも紹介してきた、(1)特殊詐欺等の捜査過程で押収した高齢者の名簿を活用したコールセンターによる注意喚起、(2)犯行使用された電話に対して、繰り返し架電して警告メッセージを流し、電話を事実上使用できなくする「警告電話事業」(平成29年6月末現在で対象となった1,001番号のうち、効果があったのは845番号(84.4%)に上るということです)、(3)自動通話録音機について自治体等と連携した無償貸与等(平成29年6月末現在、39都道府県で約7万台を確保)、(4)犯行に利用された携帯電話について役務提供拒否に関する情報提供(平成29年6月末現在、3,727件の情報提供を実施)などの対策が導入・運用され、成果に結びついているようです。


 その他にも、従来同様、犯行拠点(アジト)の摘発を推進しており、上半期としては過去最多の35箇所(+4箇所)を摘発しています。なお、検挙件数については1,963件(▲368件、▲15.8%)と前年同期比で減少したものの、検挙人員は1,080人(+60人、+5.9%)と増加しています。また、暴力団の関与についても、検挙被疑者に占める暴力団構成員等の割合は約25.0%となっています。さらに、犯罪インフラ対策として、預貯金口座や携帯電話の不正な売買等、特殊詐欺を助長する犯罪の検挙も推進しており、検挙件数2,170件(+230件)、検挙人員1,583人(+233人)の成果を挙げています。今後、レンタル携帯電話やMVNO(仮想移動体通信事業者)の携帯電話について、引き続き役務提供拒否に関する情報提供を推進するほか、固定電話に関しても、特殊詐欺への悪用実態について無力化を引き続き推進していくとのことです。


 また、このような摘発強化の流れを避けるため、最近、中国から電話をかける「かけ子」グループが増えていることは以前も指摘した通りです。直近では、中国当局が、福建省で日本人35人を詐欺容疑で刑事拘留し、日本政府に通報してきたということです。報道によれば、35人は中国から日本に電話をかけて多額の現金をだまし取る「振り込め詐欺」に関与した疑いがあり、警察庁が中国側に協力を要請していたもので、中国での摘発人数としては過去最多となるということです。これを契機として、中国を拠点とする詐欺集団の解明につながる可能性が期待されるところです。なお、先日、改正組織犯罪処罰法が施行され、8月10日から効力が発生する、海外に逃亡した犯罪者の引き渡しを円滑にする国際組織犯罪防止条約(TOC条約)による犯人引き渡しも今後は考えられるところです。いずれにせよ、日中の協力のもと、中国を拠点とする集団が摘発されたことで、他の犯罪組織や詐欺集団への抑止効果が期待したいと思います。


 その他、直近で報道された詐欺犯罪について、その手口等を中心にご紹介しておきたいと思います。

  • 代金の後払いが可能な商品を、虚偽の氏名で注文するなどしたとして、商品詐取容疑で会社員ら4人が逮捕されています。ネット掲示板で商品を受け取る「受け子」を募集し、宅配された商品を会社員宅に転送させた後、転売していたもので、これまでに約40社が運営する通販サイトで約1,200件の注文をし、総額1,000万円を超える商品を詐取した疑いがあるということです。
  • ショート・メッセージ・サービス(SMS)でグーグルの偽サイトに誘導する「スミッシング」の手口で現金を詐取したとして、警視庁は、男2人を電子計算機使用詐欺などの疑いで再逮捕しています。2人は、昨春以降、不特定多数にSMS約30万件を送り、全国の約1,000人から計約2,000万円をだまし取ったとみられてますが、この「スミッシング」の摘発は全国で初めてだということです。
  • メールに添付された文書ファイルを開くと、中にアイコンのような画像が埋め込まれており、さらにクリックさせることでウイルスに感染させる新たな手口のサイバー攻撃が今春から国内企業で相次いでいるということです。これまでの添付ファイルによる攻撃とはパターンが異なるため、通常の対策ではすり抜けてしまう可能性もあり、IPA(情報処理推進機構)などは被害が拡大する恐れがあるとして、詳しい情報を公表して注意を呼び掛けています。

IPA サイバー情報共有イニシアティブ(J-CSIP)運用状況(2017年4月~6月)レポート

  • 代金払っても商品が届かない「売り付け詐欺」が急増しているということです。今年上半期は3,878件(昨年同期比+458件)で、5年前から3.3倍に増えています。ツイッターなどのSNSや、インターネット掲示板で「売ります」などの投稿に応じて代金を払っても商品は届かず、最後は相手と連絡さえ取れなくなるもので、管理者がいるインターネットオークションと違い、個人間のやり取りのため、泣き寝入りするケースも多いということです。
  • 「売り付け詐欺」に似たもので、「チケット譲ります」とSNSに書き込まれたものを信用して振り込んでもチケットは届かないというものも増えているようです。チケットの入手が困難な場合、手ごろな価格で譲ると持ちかけられれば飛びついてしまう人は多いほか、SNSに書き込むだけで買い手が見つかるため、詐欺がしやすくなっている状況もあると考えられます。
  • 平成27年の北陸新幹線開業後、孫などを装って高齢者から現金を直接受け取る「手交型」の詐欺事件が急増しているということです。開業前の平成26年は未遂を含め8件だったものが、開業後は年40件ほどで推移しており、金融機関の対策が進む「振込み型」から「手交型」に手口が移ってきている状況があります。
(3) カジノからの暴排を巡る動向

 カジノを中心とした統合型リゾート施設(IR)導入に向けて、有識者会議「特定複合観光施設区域整備推進会議」から報告書が政府に提出され、パブリックコメント募集中となっています。

首相官邸 「特定複合観光施設区域整備推進会議取りまとめ~「観光先進国」の実現に向けて~」に係る意見募集等を開始します!

特定複合観光施設区域整備推進会議取りまとめ~「観光先進国」の実現に向けて~本文

 本報告書を基に政府がIR実施法案を作成し、秋に開かれる予定の臨時国会に提出される見通しですが、本報告書に関する市民向けの説明会を全国9カ所で開催する予定も組まれています。なお、本報告書については、以前の本コラム(暴排トピックス2017年6月号)でとりまとめ前の骨格をご紹介しておりますが、およそ以下のような点がポイントとなるものと思われます。

  • カジノ事業免許はIR事業者のみに付与
  • 事業者のみならず、役員、株主、取引先等幅広い関係者に対し、免許・認可等の際の背面調査を通じて廉潔性を確保
  • カジノ事業の従業者もカジノ管理委員会による確認等を通じて廉潔性を確保
  • 施設供用事業者は免許、土地権利者は認可の対象とし、廉潔性を確保
  • IR施設との相対的な位置付け及び「ゲーミング区域」の上限値(絶対値)で規制
  • カジノ内で行えるカジノ行為は刑法上の「賭博」に限定
  • カジノ事業に係る業務の委託を原則禁止
  • 与信はカジノ事業者のみ行えることとし、与信対象を外国人等に限定、カジノ場内にはATMを設置できない
  • いわゆる「ジャンケット」は認めない
  • 日本人等の入場回数を長期(1か月程度)及び短期(1週間程度)で制限
  • 入場に当たって、日本人等に、マイナンバーカードにより本人確認を実施、入場回数を確認
  • 20歳未満の入場禁止、20歳未満を対象とする広告・勧誘を禁止
  • 事業者に、本人・家族申告による利用制限措置を義務付け
  • IR区域外では、カジノ事業に関する広告物等の設置を原則禁止
  • 犯罪収益移転防止法の枠組みに加え、一定額以上の現金取引の報告を義務付け
  • 暴力団員の入場禁止をカジノ事業者及び暴力団員本人に義務付け など

 また、以下、本報告書の中から、反社会的勢力排除の実務に関連する部分をご紹介し、解説を加えていきます。

 まず、本報告書では、「IR 事業の中で実施するカジノ事業については、IR 事業者が公共政策的な機能の一環を担うことに鑑みて、本来違法である賭博行為を例外的特権として認めるものである。それゆえに、IR 事業を実施しない者がカジノ事業を実施することは認められず、賭博の実施主体となるIR 事業者は高い廉潔性を有する必要があることから、極めて厳格な要件をクリアした者のみに対しカジノを実施することを許容するべきである」と厳格な免許制度を導入する背景が説明されています。そのうえで、具体的な「参入規制」として、以下の6つの原則が示されています。

原則a.カジノ事業免許に基づく廉潔性確保と厳格な規制

  • カジノ事業については、免許制の下で、事業者及び関係者から反社会的勢力を排除するなど高い廉潔性を確保するとともに、事業活動に対し厳格な規制を行うべきである。また、カジノ事業免許については更新制とすべきである。

原則b.カジノ事業免許の主体をIR 事業者に限定

  • カジノ事業免許を受けることができる主体は、一体性が確保されたIR 事業者に限定すべきである。

原則c.IR 事業者やその役員のみならず幅広く関係者の廉潔性等を背面調査により審査

  • IR 事業者、そのカジノ事業及び非カジノ事業部門の役員のみならず、IR事業活動に支配的影響力を有する外部の者等についても幅広く廉潔性等の審査の対象とすべきである。

原則d.株主等について認可制等で規制

  • カジノ事業免許に係るIR 事業者の株主等については、認可制等の下で、反社会的勢力の排除等その廉潔性を確保すべきである。

原則e.IR 事業者が行う取引(委託契約を含む。)についても認可制等で規制

  • 非カジノ事業部門を含めIR 事業者が行う全ての事業部門における取引(委託契約を含む。)について、認可制等の下で、反社会的勢力等を排除すべきである。

原則f.カジノ管理委員会の体制を整備し、徹底した背面調査を実施

  • 免許・認可の際の審査対象者のみならず、必要に応じて、あらゆる関係者(子会社等、2次・3次・それ以上の繋がりを有する者等を含む。)に対して、どこまででも徹底的な背面調査を行うべきである。このため、十分な調査権限や人員・体制をカジノ管理委員会に整備すべきである。

 いずれの原則も厳格な内容となっていますが、とりわけ、原則cについて、「その対象範囲をIR 事業者やその役員のみに限定すれば、IR 事業活動に支配的影響力を有する背後者等の廉潔性等を確認することができず、カジノ事業の廉潔性等の確保が徹底できない」との説明が加えられていますが、これこそ反社会的勢力の実態をふまえたあるべき姿(考え方)であると評価できます。すなわち、反社会的勢力の実態(あるいは、マネー・ローンダリング犯罪の手口等)は、「KYCからKYCC/KYCCC」へとますますその不透明化が進んでおり、このような実態をふまえれば、「目に見える範囲」の反社会的勢力を排除するだけでは不十分であり、「直接は見ることができない」ところにいる「支配的影響力を有する背後者等」である「真の受益者」を特定し、「真の受益者」からの反社会的勢力排除を目指すべきだと言えます。


 さらに、原則eに関する説明で、「公益目的達成のため刑法の賭博罪の例外をごく少数に限って認めるという例外的特権としての性格を有するものであり、こうした性格に鑑みれば、取引先も含め、カジノ事業から生じる収益を受け取る者についても高い廉潔性を求めるべき」と明記されている点も特筆すべき点だと言えます。反社会的勢力排除においては、東京都暴排条例や福岡県暴排条例に規定がある「関連契約からの暴排」の実現、すなわち「商流全体からの反社会的勢力排除」「商流の健全性の担保」を目指すべきというのが、正にあるべき姿(考え方)であり、「カジノ事業から生じる利益を受け取る者」からの反社会的勢力排除を明確に示した点は高く評価できると思います。この点は、東京電力福島第一原発事故からの復興過程で、除染事業等の多重請負構造の中から反社会的勢力を排除することができていない現実と対極にあり、復興事業からの暴排も、同様の観点で強い姿勢で取り組んでもらいたいと思います。


 また、原則fにおける「どこまででも徹底的な背面調査を行うべき」との姿勢をベースに、必要なリソースを整備すべき(目的達成のために十分なリソースを投入すべき)とする提言は正にその通りです。一方で、一般の事業者の反社チェックは、「徹底して実施したくても十分なリソースが割けない」のが実態であること、「実効性のある調査を実現するためには、その調査主体には十分な能力が備わっていなければならない」との言及とあわせれば、相当な態勢を構築する覚悟が求められていると言えます。


 また、「暴力団員等の入場禁止」については、以下の制度設計の方向性が示されています。


 法令により、暴力団員をカジノ施設に入場させない義務をカジノ事業者に課すとともに、暴力団員本人に入場してはならない義務を課すべきである。また、暴力団員以外の者であっても、反社会的勢力の者等カジノ施設の秩序維持のために排除の必要がある者についても、カジノ事業者に排除義務を課し、また、カジノ施設利用約款に規定することで、本人に対してもカジノ施設への入場を禁止することを義務付けるべきである。さらに、カジノ施設への全ての入場者に暴力団員や反社会的勢力の者等でない旨を表明する措置等を導入すべきである


 海外では、マフィアのメンバーがカジノでプレイすること自体を規制していないケースもある中、本報告書では、「暴力団員は、賭博をはじめとする不法行為を資金源としたり、マネー・ローンダリング等の違法行為を組織的・常習的に行ったりするおそれがあるほか、従業員や他の顧客を畏怖させて安全にカジノ行為に興じる環境を損なうおそれがある」、「従事者と対等な立場でカジノ行為に参加する顧客からも暴力団員を排除する必要がある」、「不利益の程度は小さく、カジノ施設の健全な運営の確保という公益は、入場を排除されることにより侵害される暴力団員の利益に比べて保護の要請が高い」などと明快に暴力団の入場を認めない姿勢が示されており、これまでの暴排実務(判例等を含む)で蓄積されてきたロジックなどが、法令ベースの強制力を伴った形で示された点が画期的です。なお、暴力団員を排除すること自体は、警察庁の情報提供等の「公助」が期待できる分野でもあり、そうであれば、その排除実務レベルはそれほど高くはないものと推測されます(この制度設計自体は、海外におけるAML/CTF等に関する各種制裁リストへの該当者を排除する実務に相当します)。

 一方で、その周辺にいる「反社会的勢力」については、以前もご紹介した通り、「排除の必要性はあるものの、その該当性は必ずしも明白ではなく、外延が不明確であるため、法令により入場を禁止する対象として規定することが困難」であるとの認識のもと、「カジノ事業者に対し、事業活動を通じてこのような者に当たると判断した者についてカジノ施設への入場・滞在を禁止する措置を講ずる義務を課すとともに、カジノ施設利用約款において、カジノ施設への入場を禁止することを義務付ける」とした点や表明確約・誓約書の取り付けなども、これまでの暴排実務の延長線上にあり、事業者はこれまでの取り組みをさらに徹底することになりますので、全く違和感はありません。このように、(狭い意味での)「暴力団排除」については、制裁リストをベースとした実務という点でAML/CTF等の実務と共通するものの、制裁リストの範囲を超えて、事業者が自ら認定して排除しようとする「反社会的勢力排除」の取り組みは、日本独自の実務ではありながら、そこまで徹底しようとすること自体、正に「世界最高水準の規制」であろうとする姿勢が示されていると言えると思います。


 また、これらの実務に関連して、以下の提言がなされている点も実務の観点からは重要であり、官民挙げて目指していくべきものと考えます。ただし、警察の支援を仰ぐことは極めて重要ではあるものの、実際の場面では、(必要な情報提供など)実務上の限界が厳然と存在しており、民間事業者としては、そのような厳しい現実をふまえ、これまでも最大限の努力をしながら反社会的勢力に関する情報を収集し、それを有効に活用しようと模索してきた経緯と実績があります。民間事業者によるその実績がカジノ事業からの暴排実務においてもフルに活用していける環境整備作りもまた、「公助」「共助」「自助」の実効性を高めることにつながるはずであり、(ともすれば、公助レベルでの取り組みでよしとなりがちな風潮はありますが、これだけの厳格な反社会的勢力排除の姿勢が明確に示されている以上)本分野における官民連携の実現を期待したいと思います。


 反社会的勢力の情報把握については、「自助・共助・公助」の考え方が重要。IR 事業者は自助として、反社会的勢力等のデータベースを構築する必要がある。また、共助として、IR 事業者間で反社情報を共有することが望まれる。加えて、自社の反社データベースでは限界があるため、公助として、IR事業者間で暴対法上の「不当要求情報管理機関」に該当する団体を設立し、警察の支援を受けやすくすることが望まれる。また、法の執行に関しては、警察当局からの必要なデータの提供等の万全の協力が望まれる。

(4) テロリスク対策を巡る動向

 花火見物客ら86人が犠牲となったフランス南部ニースのトラック暴走テロ事件から1年が経過しました。この事件の後、欧州では自動車などを使ったテロ事件が続き、身近にある自動車や刃物などを用いたテロを未然に防ぐ難しさが浮き彫りになりました。直近でも、難民としてドイツに入国しイスラム過激派グループとの関わりを持ち、精神的な問題も抱えていたとされる男がハンブルクのスーパーで刃物を使って買い物客らを襲い、7名の死傷者を出したテロ事件や、豪で(ISの意を受けて)航空機を手製の爆発物を使って爆破しようと計画した男4人が逮捕される事件などが発生しています(なお、ドイツの治安当局は、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)らの移動を即座に把握し、テロなどを未然に防ぐことが目的に、重大犯罪を起こす可能性がある危険人物を特殊な防犯カメラの「顔認証」機能で把握し、行動を監視するシステムの運用実験を始めています)。一方、そのISは、国家樹立を宣言した主要拠点であるモスルが陥落し、今、米国軍が支援するクルド勢力によってその首都ラッカも半分が陥落し、ISの弱体化とその抑え込みが成功しつつあります。しかしながら、ISは、イラク北部や西部には依然、その支配地域が残っているほか、今後、ISで訓練を受けた戦闘員らが、北アフリカや東南アジア、欧州に散らばり、テロを起こす危険性も指摘されているほか、ISの過激思想に感化された組織や個人によるテロの懸念は根強く残ったままです。前回も指摘した通り、ISがもともとリアルな国土を持つ国家というより、思想的につながる国家である以上、テロは(いつでもどこでも)実行可能であり、「思想」をキーに若者などの流入が途絶えることもなく、「実体」はなくても「実態」は存続し続けるものと考えられ、テロの脅威とは、今はそのような次元にあると認識する必要があります。


 そのようなテロを取り巻く情勢について、最近公表されたテロに関する報告書や調査結果等を紹介しておきます。

 まず、米国務省が発表したテロ活動に関する2016年版の国別報告書では、イラク、シリアで追い込まれたISが両国以外に拡散することに警鐘を鳴らしています。とりわけ、繁華街やイベント会場など攻撃が容易な「ソフト・ターゲット」を狙って、自動車や刃物といった「単純な手段」で大量殺害を目指すテロを防ぐため各国に情報共有を呼びかけています。

U.S.DEPARTMENT of STATE ; State Department Releases Country Reports on Terrorism 2016

 本報告書では、世界でのテロ件数が前年比9%減の11,072件、死者数も同13%減の25,621人でいずれも2年連続減少し、地域別では、アフガニスタン、シリアなどで減り、イラク、トルコなどで増加したと報告されています。さらに、テロ支援国家リストとして掲載されたのは、昨年に続いて、イラン、スーダン、シリアの3カ国で、2008年に解除された北朝鮮は含まれていません。イランについては「2016年も最大のテロ支援国家だった」と名指しで批判しています。また、ISは昨年の1年間でおよそ4分の1の支配地域を失ったこと、イラク、シリアにはなお100カ国以上からの外国人戦闘員が数千人存在しているものの、出入国管理などの取り組みで両国への流入は阻止されていることなども指摘されています。さらに、ソーシャルメディアに関しても、インターネット上でのISの情報発信は75%減少、公式の映像も2015年8月の761件から1年間で194件に急減しているということです。正に、ISを特徴付ける「思想」をキーとしたつながりを作り出す、全世界の若者を過激思想に感化させテロ活動へと駆り立てる「SNS戦略」が崩れていることからも、その弱体化の状況を推し量ることができます。


 また、米調査機関ピュー・リサーチ・センターは、「自国の安全保障に対する主な脅威」に関する各国での世論調査の結果を公表しています。

Pew Research Center;Globally, People Point to ISIS and Climate Change as Leading Security Threats

 本調査によれば、世界的には、自国の安全保障に対する主な脅威として、「IS」と「地球温暖化」を挙げる人が多かったという結果となりました。特に、米ロや欧州では「IS」、中南米やアフリカでは「温暖化」を大きな脅威と見なす傾向にある一方で、日本では76%がサイバー攻撃を挙げており、ISや温暖化を上回り、調査対象国で唯一トップだったということです。


 また、テロリスク対策の動向としては、日本政府が、イラク国内のIS元兵士や民兵らを対象に、武器引き渡しの見返りに職業訓練を施す「武装解除・動員解除・社会復帰(DDR)」事業を、国連と協力して実施するとの報道がありました。昨年の伊勢志摩サミットの「G7首脳宣言」の付属文書「テロ及び暴力的過激主義対策に関するG7行動計画(骨子)」で明記されていた「教育等を通じた異文化間、異宗教間の対話や理解を通して多元的共存、寛容、ジェンダー間の平等を促進」を具体的に推進するものであり、また、日本らしい国際平和やテロリスクへの貢献の仕方であり、今後の取り組みに期待するとともに、高く評価したいと思います。

 一方、EUでは、テロ組織の資金源を根絶させるため、古代遺跡に関わる彫刻や考古学的な価値のある工芸品など文化財のEU域内への輸入取り締まりの強化に乗り出し、欧州委員会が新法を加盟国政府と欧州議会に提出しています。ISなどが遺跡や博物館から略奪した文化財を密売して資金源にしていることに対応する狙いがあるといいます(なお、ISから文化財を守る必要性については、昨年の伊勢志摩サミットで出されたG7行動計画の中に、テロ対策として、「文化財の不正取引」(テロ組織の支配地域に由来する文化財の不正取引阻止の努力、インターポールの関連データベースの拡大・利用)が盛り込まれていました)。また、ISが東南アジア等に浸透しつつあることに対抗するため、フィリピン、インドネシア、マレーシア、ブルネイ、オーストラリア、ニュージーランドの6か国が会合を開き、地域へのIS勢力浸透を阻止するため、各国が情報共有など協力強化で一致しています。報道によれば、「相手は国際的なネットワークを持ち、1国で対応するのは不可能だ」として、周辺国と協力する重要性も確認されたとのことです。ISが、リアルな国土というより、「思想」をキーにネットワークを形成していることをふまえれば、リアルな地理上の「点」のみで対応するのは限界があり、「面」での対応、「面」を構成するもの同士の情報共有が重要となることは、言うまでもありません。


 次に、日本のテロリスク対策の状況を確認しておきたいと思います。日本におけるテロリスク対策については、国際的には自国の安全保障に対する脅威のトップが「IS」という緊迫した情勢であることが共通認識である中、ISらが日本をターゲットに名指ししたり、実際に邦人が巻き込まれる事件が多発しているにもかかわらず、むしろ、2020年東京オリンピック・パラリンピック(以下「東京五輪」)を見据えたリスク対策の方に力点が置かれているようです。とはいえ、テロ等準備罪の新設をもひとつの契機として、テロリスク対策に関する様々な報道が増え始めている点は、国民の間にテロリスクへの関心の高まりを生むという意味では大きな意味があると思います。以下、最近のテロリスク対策の取り組みに関する報道からいくつか紹介しておきます。

  • 警視庁と海上保安庁は東京湾で海上テロを想定した大規模な合同訓練を実施しています。東京五輪では水上競技以外にも多くの会場が臨海部に設置されるほか、羽田空港自体が海に囲まれており、東京湾も往来船舶が過密な状態であり、概して海上テロリスクは極めて高いと思われます。そのような状況において、海上保安庁の船舶は外国不審船対応で南西に大きく割かれているなど、東京五輪開催エリアに向ける警備リソースが充分ではないことも不安要因として挙げられます。
  • 東京五輪の会場が分散していることや、デザインが二転三転した新国立競技場を含め、会場の整備が当初の計画より大幅にずれ込んでいることが大きなリスクとなりつつあります。計画の遅れが訓練の遅れを生み、実戦を想定した訓練が不足することによって、隠れた脆弱性を見つけられない可能性が指摘されはじめています。
  • 警視庁は競技会場が集中する東京臨海部のテロ対策を大幅に強化する一環として、海上からのテロに備える専門部隊の新設に加え、臨海部を走る鉄道会社の協力を得て緊急時に防犯カメラ映像の提供を受けられるようにするということです。
  • 警察庁は国際テロなど大会の安全に関する情報を集約し、脅威やリスクを分析する「セキュリティ情報センター」を設置しました。同センターは、国の関係機関から集約したテロやサイバー攻撃、大規模災害などの情報を分析評価、大会の開催や運営に重大な影響を及ぼす可能性のある場合は、直ちに内閣官房に設置される「セキュリティ調整センター」に提供するなど、分析結果を関係機関に提供する機能を有しています。
  • 放射性物質を使った核テロを防ぐため、空港の手荷物検査で核物質を検知する装置や、結晶構造などが個々に異なっている核物質の指紋(特徴)をデータ登録して不正な拡散を防ぐ技術を、日本原子力研究開発機構が開発し、実用化にむけて準備を急いでいます。
  • 世界が注目する東京五輪はハッカー集団の格好の標的であり、万一被害が出れば国の威信にも関わるものであり、実際にロンドン五輪では、開会式に電力システムが狙われ、大会期間中、約2億件のサイバー攻撃が発生したと言われています。東京五輪まであと3年を切り、ようやく政府もサイバーテロ対策に本腰を入れ始めましたが、人材不足も相まって、専門家の間では、対策の遅れを懸念する声が日増しに高まっています。
  • 警視庁は、最新のハイテク機器を活用して東京五輪の安全確保を目指していますが、最大の懸念は人の集まる場所(ソフトターゲット)を狙ったテロへの対策であり、同庁は東京マラソンなどでさまざまな機器を試行し、検討を重ねています。具体的には、「ランニングポリス」の投入や「ウエアラブル(身体装着型)カメラ」の導入、「群衆行動解析システム」の試験運用、カメラ搭載気球による撮影、迎撃用ドローンの導入、将来的には顔認証機能の導入による不審者検知などに取り組んでいます。
  • 米軍施設を狙ったテロを防止するため、警視庁麻布署などは、東京都港区の米軍関係者向け宿泊施設でテロ対策訓練を行いました。バスジャックによる侵入を想定し、米軍や同署管内にある各国大使館の関係者、近隣住民ら約170人が参加、管理権が及ばない米軍施設での訓練は異例だということです。
  • JR九州は、新幹線全編成にテロ対策で防犯カメラを導入する方針を明らかにしています。防犯カメラは客室前後の電光掲示板付近やデッキの天井部に取り付けられ、常時録画するものの、取り扱いができる社員を限定し、乗客のプライバシーに配慮するとしています。
  • アメリカン航空の客室乗務員が成田空港から出国する際、拳銃の実弾30発を自分のバッグ内に所持し、保安検査で発見されたとの報道がありました。危険物の機内持ち込みを防ぐ保安検査は通常、米国からの出国時と日本への入国時にも行われているはずであり、なぜ、客室乗務員が実弾を所持したまま通過できたのか、銃刀法違反の疑いで調べているということですが、水際での入国チェック態勢に脆弱性があるとすれば極めて由々しき問題であり、早急な改善が望まれます。
(5) AML/CTFを巡る動向

 海外からの送金への対応に不慣れな地方の金融機関を通じたマネー・リーンダリング事犯等が特に増えていることをふまえ、金融庁は金融機関のマネー・ローンダリング対策(AML)等の状況を把握する実態調査に乗り出すとの報道(平成29年7月10日付日本経済新聞)がありました。本コラムでも以前紹介したように、昨年発生した、この海外からの不正送金事件では、送金先として使われた日本国内の口座の95%が地銀や信金の口座であり、職員らの海外口座が絡む取引に不慣れな状況や、外国語が堪能な行員が少ないといった「脆弱性」が突かれた形となりました。また、報道によれば、昨年の改正犯罪収益移転防止法(改正犯収法)で新たに義務付けられた取引時確認の厳格化、実質的支配者の特定実務などにおいて、メガバンクや地銀などでその取り組みにばらつきがあり、現状では不正の抜け穴になる恐れがあると指摘されています。AML/CTFの実務においては、特定の「点」(メガバンク等)で対策が強化されていても、すべての金融機関という「面」の中に脆弱な部分(地銀や信金等)があれば、犯罪者はそこを突けばよく、結局、「面」全体の有効性・実効性が担保されないことになります。したがって、すべての金融機関が足並みを揃えて、高い次元でのAML等に取り組む必要があるのです。年内にも公表される予定の金融庁の報告書を待ちたいと思いますが、その結果如何では、FATF(金融活動作業部会)から平成26年に名指しで日本の取り組み姿勢を批判する声明が出されたように、あらためての勧告等が出される可能性や脆弱性を突く犯罪組織等からの攻撃の激化、国際的な金融取引網からの排除といった厳しい措置等も予想されるところです。


 AML/CTFの取り組みは金融機関に限られるものではなく、犯収法では、様々な特定事業者が指定されていますが、郵便物受取サービス業者(私設私書箱業)もそのひとつです。今般、同事業者が、国家公安委員会による意見陳述及び経済産業省による立入検査の結果、犯収法上の取引時確認義務及び確認記録の作成・保存義務を履行していなかったとして、経産省から違反行為を是正するために必要な措置をとるべきこと等を命じた行政処分を受けています。

経済産業省 犯罪による収益の移転防止に関する法律違反の特定事業者(郵便物受取サービス業者)に対して行政処分を行いました

 具体的な命令の内容としては、(1)犯収法に関し、組合員及び使用人に対する教育や同法に係る事務を円滑に進めるための規程の整備を図るなど、関係法令に対する理解及び遵守の徹底、(2)取引時確認並びに確認記録の作成及び保存に係る業務の見直し、(3)取引時確認の義務違反がある契約のうち、契約が終了していない顧客についての取引時確認の実施並びに確認記録の作成及び保存の義務違反がある契約についての確認記録の作成及び保存の実施、があげられています。

(6) テロ等準備罪を巡る動向

 改正組織犯罪処罰法の成立、施行を受けて、国際組織犯罪防止条約(TOC条約)が8月10日から発効します。

外務省 国際組織犯罪防止条約(TOC条約)を含む4条約の受諾書の寄託

 上記外務省のリリースによれば、国際組織犯罪防止条約等は、「テロや人身取引、密入国を含む国際的な組織犯罪を一層効果的に防止し、これと戦うための協力を促進するための国際的な枠組みを創設することを目的とするもの」で、(同時に発効する)国連腐敗防止条約は「公務員等に係る腐敗行為を防止することを目的とするもの」であり、「我が国としては、これらの条約の締結を契機に、テロや人身取引、密入国を含む国際的な組織犯罪や国際的な問題である公務員等に係る腐敗行為に対し、国際社会と緊密に連携して、犯罪対策の更なる強化に努めていく」とされています。


 TOC条約発効によって、外交ルートを介さずに捜査・司法当局が直接やりとりできるようになるほか、他国からの情報収集や犯罪人引き渡しなど、国際社会との連携がスムーズになるほか、捜査共助できる相手が、現在の32の国と地域から187の国と地域に広がることになります。前述した特殊詐欺グループ摘発の場面での日中協働など、今後、犯罪組織による詐欺事件や薬物事犯、マネー・ローンダリング事犯やITが絡む国際犯罪などの分野などでもその力を発揮できるようになればと期待したいと思います。

 なお、改正組織犯罪処罰法で新設された「テロ等準備罪」については、特に暴力団の資金源対策にとっても有効な手段を獲得したと評価できると思います。したがって、暴力団側の危機感は相当なものがあり、指定暴力団六代目山口組が対策マニュアル(タイトルは「共謀罪を考える」)を作成、機関紙でも取り上げ、勉強会等も開催している実態が明らかになっています。報道から見えてきたその内容はおよそ以下の通りのようです。

  • 法律の実績作りのためにヤクザが集中的に(取り締まりの)対象とされる可能性が高い
  • トップを含め根こそぎ摘発、有罪にしようというもの
  • 警察に殺人目的とでっち上げられ、他の組員、幹部、さらには親分クラスが共謀罪に問われるケースも起こりえる
  • 対象となり得るケースとして、「暴力団組員らが、対立する暴力団の構成員を襲って監禁した上、拳銃で射殺することを計画」、「暴力団組員らが、談合をしていると因縁を付けて事業者らから現金を騙し取ることを計画」などを例示
  • 対象とならないケースとして、「会社の同僚数名が、居酒屋で、上司の悪口で盛り上がり、『殺してやろう』と意気投合」、「近所の主婦同士が、井戸端会議で、仲の悪い主婦の話題になり、『嫌がらせに自転車を盗もう』と意気投合」などを例示

 一方、報道(平成29年7月11日付朝日新聞)では、準備段階の行為を立件できるようになったとはいえ、摘発に必要とする捜査手法がなく警察の現場では使えないという意見も紹介されています。資金集めなどの準備行為を立証するための「会話傍受」(現行の通信傍受法では、他の方法では困難な場合かつ対象犯罪が13に限定されているなど要件が厳しすぎて活用が限定的にならざるを得ないとされます)や、警察官が犯罪組織の構成員になりすまして内部情報を集める「仮装身分捜査」(とりわけ、秘密保持を徹底している暴力団の実態解明に有効と考えられます)などこそ、摘発には有効だという意見も説得力があります。なお、これらの新たな捜査手法は海外で既に導入されていることから、日本での導入も望まれるところですが、「テロ等準備罪」という効果をかなり限定したものでさえ、国民の理解を得ることが難しいことをふまえれば、「犯罪の害悪」と「捜査手法の高度化」の関係、それらと「プライバシーや人権侵害」との関係について、日本国内で成熟した議論ができるまでまだまだ時間がかかると思われ、日本が国際的な抜け穴(セキュリティホール)として犯罪組織のターゲットとされる可能性は否定できません。

(7) 犯罪インフラを巡る動向

◆地面師(登記手続き)

 東証一部上場の大手住宅メーカーの積水ハウス社が、「当社が分譲マンション用地として購入した東京都内の不動産について、購入代金を支払ったにもかかわらず、所有権移転登記を受けることができない事態が発生」したとのリリースを公表しています。

積水ハウス株式会社 分譲マンション用地の購入に関する取引事故につきまして

 本資料によれば、70億円の土地取引(支払い済みは63億円)において事件が発生、「当社は何らかの犯罪に巻き込まれた可能性が高いと判断し、直ちに顧問弁護士によるチーム体制を組織のうえ、捜査機関に対して被害の申入れを行い、その捜査に全面的に協力すると共に、支払済代金の保全・回収手続に注力」しているということです。


前回の本コラム(暴排トピックス2017年7月号)では、不動産鑑定の問題を取り上げましたが、土地絡みのものとして、バブル期に暗躍した「地面師」と呼ばれる詐欺グループが最近またその活動し始めている点にあらためて注意が必要です(なお、地面師については、暴排トピックス2017年6月号でも事例を取り上げています)。登記上の手続きにおいて偽造書類等を使って土地が勝手に転売される詐欺犯罪という意味で、登記手続きの脆弱性、あるいは、司法書士などがその専門性(肩書き)を悪用する(される)「専門家リスク」などがその根底にあります。また、東京五輪を控え、地価が上がり続ける首都圏などで、所有者が高齢で放置されたままの空き地が狙われやすい傾向にあるようです。本件でも、所有権者の知らない間に、本人確認用の印鑑登録証明証、パスポートなどが偽造され、それを利用した「成りすまし犯」が手付金を受け取っていたと推測されます。


◆専門家リスク(医薬品業界)

 前回の本コラム(暴排トピックス2017年7月号)では、医薬品業界(関連して医療業界)のリスク感性に問題があるのではないかと指摘しました。そもそも医薬品が生命に関わるもので厳格な管理が求められること、高額な商品であれば転売リスクが高くより一層管理を厳格化する必要がある、といったリスク管理上の常識から見れば、いまさらこのレベルでよいのかという状況にあります。医薬品業界では安心を蔑ろにする不祥事が相次いでいますが、まずはこの世間一般からあまりにも乖離したリスク感性から正していく必要があると思われます。そして、残念ながら、この1か月の間にも、以下のような実態が報道されており、その問題の根深さを感じさせます。

  • 神奈川県茅ケ崎市立病院からがん治療薬「オプジーボ」など約1億円分の医薬品を不正に持ち出し、他人になりすまして業者に不正に販売し約6,100万円の利益を得たとして、神奈川県警が、同病院の薬剤師を組織犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)の疑いで追送検しています。
  • 神奈川県は、同県茅ヶ崎市立病院で昨年9月以降、計約1億428万円相当の医薬品(16種851箱)が紛失した可能性があるとの内部調査結果を発表しました。抗がん剤やウイルス感染を予防する医薬品などが、医師の指示がないまま使用済みになっていたり、未使用分が返却されていなかったりしていたということであり、神奈川県警に対応を相談しているということです。
  • 聖マリアンナ医科大学病院が、3人分の致死量に相当する筋弛緩剤1本を紛失したと発表しています。報道によれば、同病院では通常、施錠した金庫で筋弛緩剤を保管しているものの、投与者が決まっているものは患者のベッド横にある無施錠のボックス内に置いているということです。

◆道具屋

 貸金業者を装い融資を申し込んだ人に、「カードを送ってもらえれば融資希望額を入金して返す」などと嘘を言って、今年1~7月の間に計約300枚のキャッシュカードを詐取したとして、無職の男ら7人が詐欺の疑いで逮捕されるという事件がありました。報道によれば、容疑者らは特殊詐欺グループに口座などを売る「道具屋」であり、容疑者らが提供したカードや口座情報は別のグループによる詐欺に悪用され、被害額は少なくとも5,000万円に上るとのことです。

 特殊詐欺においては、他人名義の「携帯電話」「銀行口座(口座情報)」「名簿(個人情報)」が犯罪に必要な「三種の神器」と呼ばれていますが、それぞれにそれを提供する専門の犯罪インフラ事業者が存在します。本件は、他人名義の口座(口座情報)を提供する犯罪インフラ事業者ですが、生活保護を受けている人に銀行で口座を作らせ買い取るといった貧困ビジネスの中にも同様の犯罪インフラ事業者が存在します。暴力団の本質は「暴力性・組織性・犯罪性(犯罪親和性)」にあり、それをふまえれば、反社会的勢力排除の本質を「犯罪集団の活動や犯罪を助長する者との関係を持たない」と広く捉えていくことも必要です。したがって、「犯罪インフラ事業者と関係を持たない」ことは、反社会的勢力排除の目的に適うものであり、事業者においては、このような姿勢(反社会的勢力の範囲に犯罪インフラ事業者を含めて排除していくこと)を明確に打ち出し、徹底していただきたいと思います。

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(8) その他のトピックス

◆競売からの暴排

 本コラムでも指摘してきた通り、民事執行法による不動産競売においては、暴力団員であることのみを理由として不動産の買受けを制限する規律は設けられておらず、これまで、不動産競売において買い受けた建物を暴力団事務所として利用する事例や、その転売により高額な利益を得た事例などが見られました。このような「競売からの暴排」について、法制審議会から規定の改正案(中間試案)が出されています。

法務省 法制審議会民事執行法部会第10回会議

部会資料10-2 民事執行法の改正に関する中間試案のたたき台についての説明資料

 大枠では、暴力団員はもちろん、暴力団員や元組員が役員を務める法人の買い受けも認めないこと、競売で入札を申し込む際に暴力団組員や元組員でないことの誓約を求めること、虚偽だった場合には罰則を設けること、裁判所は最高額の入札者について、警察に照会して暴力団員や元組員に該当するか判断し、第三者を隠れみのにしていると認められる場合も照会すること、などが盛り込まれています。以下は、その骨格となります。

  • 買受けを制限する者の範囲を、「暴力団員」、「暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者」、「法人でその役員のうちに暴力団員等に該当する者があるもの」とする
  • 執行裁判所の判断による暴力団員の買受けを制限する(上記のいずれかに該当する者であると認めるときは、売却不許可の決定をしなければならない)
  • 執行裁判所の判断のための警察への照会を行う
  • 最高価買受申出人が決定した後に執行裁判所が、最高価買受申出人が第三者の計算において買受けの申出をした者であると認めるときは、当該第三者(その者が法人である場合にあってはその役員)が暴力団員等に該当するか否かについて警察へ照会する
  • 執行裁判所は、第三者(その者が法人である場合にあってはその役員)が暴力団員等に該当するとは認められないときは、警察への照会をせずに売却の許可又は不許可の判断できる
  • 暴力団員に該当しないこと等の誓約をさせる(当該法人でその役員のうちに暴力団員等に該当する者がないこと等)
  • 最高価買受申出人(その者が法人である場合にあってはその代表者)が故意により虚偽の陳述をした場合において、最高価買受申出人につき売却不許可の決定が確定したときは、執行裁判所は、当該最高価買受申出人が民事執行法第66条の規定により提供した保証の返還を請求することができない旨を決定できる(虚偽誓約に対する制裁として保証の不返還)
  • 誓約をした者が故意により虚偽の陳述をした場合につき罰則を設ける

 本資料では、上記骨格案について、それぞれの提案趣旨が説明されていますが、そのうち何点かをとりあげて、以下、検討してみたいと思います。

 まず、「暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者」については、(1)暴力団が過去に暴力団に所属していた者などの周辺者を利用するなどして資金獲得活動を巧妙化させていること、(2)元暴力団員は暴力団を離脱した後も暴力団との間に何らかの関係を継続している蓋然性があると考えられること、(3)元暴力団員を不動産の買受けの制限の対象とすることにより、形式的な離脱による規制の潜脱を封ずるという効果も期待ができること、などをその理由にあげています。いずれも、現状の暴力団等反社会的勢力の実態をふまえたものとなっていますが、注目しておきたいのは、「5年卒業基準」の妥当性・合理性の根拠であり、本資料においては、最高裁が示した「暴力団員は、自らの意思により暴力団を脱退し、そうすることで暴力団員でなくなることが可能」という基準(平成27年3月2日付最高裁判決)と、他の法令の状況や最近の暴排の取り組み状況などから、「暴力団員でなくなった日から5年という期間での買受けが制限されるにすぎないのであれば、必ずしも過度な制約を課するものとまではいえない」とする捉え方との間のバランスの中から「5年の規制を設けることは合理的である」とする結論が導かれています。なお、本コラムのスタンスとしては、「真に更生している者を妨げるべきではない」とする規範と、「暴力団等反社会的勢力の再犯率の高さをふまえれば、5年卒業基準は、リスク管理上あまり意味がない(重視すべきではない)」とする厳しい実態との間で、ケースバイケースで判断していく必要があると考えています。今回の規制案を見る限り、「競売からの暴排」においては、残念ながら、「5年卒業基準」を採用し、それ以上の制約を課さないものとなっており、おそらくは、それ以上に巧妙に姿を隠している反社会的勢力を排除することころまでは射程に含まれていません。今後は、基準が明確になることで、その裏をかく反社会的勢力による買受けの横行や、一定期間経過後の転売等に注意していく必要がありそうです。


 また、法人における排除すべき対象の認定基準として、「役員に1名でも暴力団員等が含まれていれば、暴力団がその法人を利用し得るものと考えられるため、現在、暴力団員等が役員である法人による買受けを制限する」とされています。この点については、それ自体全く異論ないものの、実態として、ここで定義されている「暴力団員等」(暴力団員と5年以内の元暴力団員)があからさまに役員に就任しているかについては、残念ながら、そのような法人はあまりないのではないかと思われます。やはり、このように基準が明確になることにより、今後、競売に参加する法人は、表面的には共生者等やその意を受けた第三者が役員として登記され、反社会的勢力が実質的に経営を支配したり、経営に関与している実態を確認することなく、手続きが進められてしまう可能性が高いことになります。


 さらに、本資料においては、「宅地建物取引業者など、法令上、暴力団員等でないことが免許等の要件とされている者が最高価買受申出人であるような場合には、警察への照会を要しないこととする考え方」や、「例えば、過去の一定期間内に、他の競売事件で買受人となったことがある者については、その事件記録にある警察からの回答を再利用することとして、新たな照会を省略することが可能かどうかも、引き続き今後の検討課題となり得る」といった今後の方向性が示されています。この点も、そもそもの排除すべき対象の定義の狭さからくる論理的帰結であり、反社会的勢力と一定の関係を有するような不動産事業者は確実に存在しており(形式的・表面的には暴力団員等に該当しない)、その点を考慮せずにチェックの対象外とすることは、問題がないとは言えません(もちろん、チェックしたとしても、暴力団員等の関与が「見えない」ようにすればすり抜けられますので、結局は「定義の狭さ」に起因する限界があると言えます)。また、「再利用によるチェックの省略」についても、やはり、その間に法人の実質的支配者等が変化してします可能性があること等をふまえれば、このような形で明文化することには問題があるように思われます。


 以上のように検討してみると、「競売からの暴排」の規制が新設されることは歓迎されるべきこととはいえ、実質的に反社会的勢力を排除できるかとの視点からみれば、不十分であると指摘せざるを得ません。今後の議論で、反社会的勢力の実態に即した実効性ある規制のあり方を深めていただくことを期待したいと思います。


◆パナマ文書

 昨年、各国指導者らのタックスヘイブン(租税回避地)利用の実態が記載され、大きな話題となった「パナマ文書」ですが、まだまだ余波は続いています。パナマ文書から疑惑が表面化して実際に国のトップの進退にまで発展した事例として、同文書の流出当初にアイスランドの首相が辞任に追い込まれたものがありましたが、最近も、パキスタンのシャリフ首相とその親族の課税逃れ疑惑などをめぐって、野党などが同国の最高裁に調査を求めていたところ、最高裁が、シャリフ氏が調査に対して虚偽の証言をしたと認定、議員資格を無効と判断し首相を事実上失職させています。また、パナマ文書騒動を受けて、OECD(経済協力開発機構)の京都での租税委員会において、脱税対策に非協力的な国・地域を特定する基準が定められました。その「ブラックリスト」については、OECDが昨年11月に、ケイマン諸島、パナマ、バヌアツなど約20カ国・地域をリストアップし、改善を要求していましたが、先日ドイツで開催されたG20でその改善状況をふまえた公表がなされ、結果的にはトリニダード・トバゴ1カ国のみの掲載となりました。本当にそうなのか、このブラックリストの信頼性を疑いたくなりますが、実際にリストに同国しか登録されなかったことについて、「(ほかの国は)基準に合うよう、その場しのぎに見た目を整えただけ。実態は変わっていない」(経済官庁幹部)との報道(平成29年7月31日付産経新聞)もあります。ただ、たびたび指摘しているように、本コラムとしては、タックスヘイブンを巡る問題の本質は、あくまでマネー・ローンダリングやテロ資金供与をはじめとする犯罪収益の隠匿や犯罪を助長している点にあると捉えています。本来明らかにされるべきリスト(情報)は、こうした不透明かつ問題ある資金の流れであり、それが明るみに出ることによって、テロリストや国際安全保障の脅威となる北朝鮮等、日本の暴力団等の反社会的勢力などの資金を断つことにつながる(犯罪を抑止できる可能性がある)という点からもっと国際的な取組みが強化されるべきだとあらためて申し上げておきたいと思います。


◆平成29年警察白書

 警察庁から、平成29年版の警察白書が公表されています。今年の特集は、「交通安全対策の歩みと展望」となっています。ここでは、本コラムと関連の深い、「サイバー犯罪・サイバー攻撃への被害防止対策」、「ストーカー規制法の改正を踏まえたストーカー事案への対応」、「特殊詐欺の手口の変遷と警察の取組」、「六代目山口組・神戸山口組対策」、「国際テロ情勢と警察の取組」のトピックスについて、紹介しておきたいと思います(なお、ご紹介する内容は、それぞれの分野の報告書が既に公表されているものとの重複が多くなっています)。

警察庁 平成29年警察白書

平成29年警察白書 概要版

【サイバー犯罪・サイバー攻撃への被害防止対策】

  • 警察庁では、一般のインターネット利用者に向けたサイバーセキュリティのためのポータルサイト「"サイバーポリスエージェンシー"」において、サイバー犯罪・サイバー攻撃の情勢や手口に関する情報等を公開し、適切な被害防止対策を講ずるよう注意喚起を行っている
  • サイバー犯罪・サイバー攻撃による被害を防止するためには民間事業者との連携が重要であり、警察では、一般財団法人日本サイバー犯罪対策センター(JC3)と連携し、被害防止のための情報発信を行っているほか、サイバー攻撃の標的となるおそれのある事業者等と共同対処訓練を行うなど、官民の連携による様々な被害防止対策を講じている
  • サイバー空間の脅威への対処には、国際的な取組が求められるところ、警察では、平素から外国捜査機関等と緊密に連携し、国際的な被害防止対策を実施している

【ストーカー規制法の改正を踏まえたストーカー事案への対応について】

  • 改正ストーカー規制法は、加害者の行為が激化し、事態が急展開して重大事件に発展するおそれが大きいなどのストーカー事案の特徴を踏まえ、加害者に対し、警察がより迅速に行政措置又は検挙措置を講ずることを可能とするものであり、被害者の身体、自由及び名誉に対する危害の防止が更に図られることとなっている
  • 察では、平成27年度から、危険性・切迫性が高い事案の被害者等の安全を確保するため、緊急・一時的に被害者等を避難させる必要がある場合に、ホテル等の宿泊施設を利用するための費用について、公費で負担することとしている
  • 成28年度から、警察が加害者への対応方法やカウンセリング・治療の必要性について地域精神科医等の助言を受け、加害者に受診を勧めるなど、地域精神科医療機関等との連携を推進

【特殊詐欺の手口の変遷と警察の取組】

  • 平成28年中の特殊詐欺の被害総額は前年より減少したが、認知件数は増加(この点は、既にご紹介した平成29年上半期の状況と同じ)
  • 平成28年中の検挙人員のうち、暴力団構成員等が26.3%を占めており、特殊詐欺が暴力団を始めとする犯罪組織の資金源となっている状況がうかがわれる(この点についても、平成29年上半期では、検挙被疑者に占める暴力団構成員等の割合が約25.0%となっています)
  • 平成28年中の特殊詐欺の被害者の78.2%を65歳以上の高齢者が占め、特にオレオレ詐欺(95.9%)、還付金等詐欺(93.1%)及び金融商品等取引名目の特殊詐欺(89.6%)においてその割合が高く、高齢者が特殊詐欺の標的となっている(平成29年上半期における高齢者率は71.9%と、78.2%からは6.3ポイント減少してますが、高齢者の被害防止が引き続き大きな課題であることに違いはありません)
  • 警察では、犯行拠点の摘発やだまされた振り作戦の実施のほか、架空・他人名義の携帯電話等が犯行グループの手に渡らないようにするため、携帯電話の不正利用等の特殊詐欺を助長する行為の取締りや悪質なレンタル携帯事業者の検挙を推進(犯罪インフラ事業者対策についても、平成29年上半期においても、預貯金口座や携帯電話の不正な売買等、特殊詐欺を助長する犯罪の検挙を積極的に行い、2,170件(+230件)、1,583人(+233人)の成果を上げています)

【六代目山口組・神戸山口組対策について】

  • 両団体が対立抗争の状態にあると判断した平成28年3月7日以降、両団体の対立抗争に起因するとみられる不法行為は、平成29年5月末までに19都道府県で48回発生。うち銃器発砲は6回、火炎瓶使用は3回、暴力団事務所等への車両突入は10回
  • 警察では、取締り及び警戒活動に加え、暴力追放運動推進センターや弁護士会と緊密に連携し、事務所撤去訴訟を始めとした暴力団排除活動を支援

 なお、上記以外でも、「(3つの山口組と指定暴力団住吉会・指定暴力団稲川会という)主要団体の占める割合は7割以上に及んでいるが、平成27年8月の六代目山口組の分裂に伴い、神戸山口組が結成されて以降、暴力団構成員及び準構成員等の総数のうち六代目山口組が半数弱を占めていた一極集中の状態から、変化が生じている」、「伝統的資金獲得犯罪の検挙人員が占める割合は3割程度で推移しており、これらが有力な資金源となっているといえる一方、暴力団の威力を必ずしも必要としない詐欺の検挙人員が占める割合が増加しており、暴力団が資金獲得活動を変化させている状況もうかがわれる」など、暴力団の変質・変化に着目していく必要性を感じさせる記述となっています。


【国際テロ情勢と警察の取組~2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて~】

  • 海外では、大規模スポーツイベントを狙ったテロ事件が発生、ISは、インターネット上の機関誌で、屋外でのイベントや集会等をテロの標的とするよう呼び掛けるなどしており、今後も、大規模スポーツイベント等において、このようなプロパガンダに呼応したテロが発生することは否定できない
  • 東京大会では、競技会場が4つの地区に集約されたリオ大会と異なり、競技会場が都内及び都外に分散配置されることから、会場ごとに高いセキュリティレベルを確保するため、警戒力の効果的かつ効率的な投入等について検討を進めていく必要がある
  • 警察では、東京大会に向けて、関係機関と連携して、サイバー攻撃及び攻撃者に関する情報収集・分析等を推進するとともに、サイバー攻撃の発生を想定した共同対処訓練を実施

 上記のトピックス以外でも、「薬物事犯の検挙人員は13,411人と、引き続き高い水準にあるほか、船舶を利用した覚醒剤の大量密輸入事犯が相次いで検挙されるなど、薬物情勢は依然として厳しい状況にある」、「銃器情勢は、六代目山口組と神戸山口組との対立抗争に起因するものを始め、暴力団等によるとみられる銃器発砲事件が繁華街や住宅街において相次いで発生し、銃器使用事件も112件発生するなど、厳しい状況にある」、「暴力団構成員等が関与したものは76件と、全体の19.6%を占めており、暴力団が詐欺や窃盗等により獲得した資金についてマネー・ローンダリングを行っている実態がうかがわれる」といった現状認識に加え、例えば、捜査手法の高度化という観点からは、「取調べをめぐる環境の変化や科学技術の発達等に伴う犯罪の悪質化・巧妙化等に的確に対応し、客観証拠による的確な立証を図ることを可能とするため、DNA型鑑定及びDNA型データベースを効果的に活用するための取組を推進」しているといったことや、刑事訴訟法等の改正により、証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度が創設されたほか、通信傍受法も改正され、平成28年12月から、特殊詐欺や組織窃盗等の組織犯罪についても新たに通信傍受が活用できることとなったことなどがあげられています。


◆平成29年上半期犯罪統計

 警察庁から、平成29年上半期の犯罪統計資料が公表されていますので、概要をご紹介しておきます。

警察庁 平成29年1~6月犯罪統計

 今年上半期(1~6月)の刑法犯全体の認知件数は450,887件で、前年同期比▲7.7%と、15年連続で減少となり戦後最少をさらに更新しています。一方で、検挙件数は前年比▲2.6%の161,302件、検挙率は35.8%と昨年同期に比べて1.9ポイント上がっています。また、窃盗犯全体の認知件数は320,312件(355,540件 ▲9.9%)、検挙件数は101,875件(103,712件 ▲1.8%)、うち万引きの認知件数は55,234件(57,925件 ▲4.6%)、検挙件数は38,938件(40,227件 ▲3.2%)と減少傾向が続く一方で、知能犯全体の認知件数は24,003件(21,723件 +10.5%)、検挙件数は10,258件(10,853件 ▲5.5%)、うち詐欺の認知件数は21,630件(21,723件 +11.7%)、検挙件数は8,548件(9,079件 ▲5.8%)と相変わらずの増加傾向となっています。さらに、特別法犯全体の送致件数は35,029件(34,935件 +0.3%)、うち軽犯罪法の送致件数は4,154件(4,629件 ▲10.3%)と減少した一方で、入管法の送致検数は2,087件(1,723件 +21.1%)と増加しています。

 また、覚せい剤取締法の送致件数は6,991件(6,886件 +1.5%)、大麻取締法の送致件数は1,786件(1,567件 +14.0%)と薬物関係については増加傾向を示している点が気になります。なお、暴力団に関しては、暴力団犯罪(刑法犯)全体の検挙件数は9,653件(12,559件 ▲23.1%)、検挙人員は4,962人(5,713人 ▲13.1%)、うち窃盗の検挙件数は5,393件(6,743件 ▲20.0%)、詐欺の検挙件数は1,140件(1,565件 ▲27.2%)といずれも大きく減少しています(暴力団構成員等の減少状況との関係も考慮する必要があります)。なお、詐欺の検挙件数だけでみれば、全体の減少率が▲5.8%であったのに対し、暴力団犯罪としては▲20.0%と、全体よりも大きく減少しています。同様に、暴力団犯罪としての覚せい剤取締法の検挙件数は3,367件(3,560件 ▲5.4%)、大麻取締法の検挙件数は516件(465件 +11.0%)であり、全体の傾向と比較した場合、特に暴力団による覚せい剤取締法違反の減少傾向が顕著となっています。このような傾向が今後も続くのかについては十分注視していく必要があると思われます。また、それ以外では、暴力団排除条例(暴排条例)の検挙件数は6件と、昨年の2件から増えたほか、容疑者の特定につながった捜査手法として、職務質問は18.4%、取り調べ、防犯カメラ等の画像はともに7.4%といった結果となっています。特に、防犯カメラ等の利活用が急速に進んでいる状況がうかがえ、技術革新の波が捜査手法にも確実に及んでいると言えます。


◆反社会的勢力対応マニュアルのあり方

 指定暴力団山口組系組幹部に、トラブルになっていた男性の住所を道案内して教えたとして地方公務員法(守秘義務)違反の容疑で水戸市職員2人が逮捕されるという事件がありました。その報道(平成29年7月12日付産経新聞)の中で、反社会勢力への対応についてはマニュアルが定められており、総務法制課に相談し、組織的に対処することになっているものの、この仕組みが機能しなかった(幹部も反省すべき)といった趣旨の内容がありました。また、逮捕された2人について、「2人ともまじめな職員。前向きで一生懸命で、頼りがいがあった」との所属長のコメントもありました。どのような経緯でそのような対応を行ってしまったのか、なぜ反社会的勢力対応マニュアルが機能しなかったという背景についての詳細は不明ですが、一般的には、「マニュアルがあることも知らない」、「マニュアルがあることは知っているが内容まではよく分からない」といった周知不足、「マニュアルの内容は分かっていたが、実際の場面では全く使えなかった」という内容の精度の問題、「理解していたつもりだが、応用できなかった」といった具体的な落とし込みの不足などの問題が考えられるところですが、「マニュアルの内容も十分理解していたが、それでも実際の場面では、相手の言いなりにならざるを得なかった」といったケースも十分考えられます。反社会的勢力は、常に実戦を通じてその手口を磨いており、正に「脅しのプロ」ですが、対する役職員は、教育研修・訓練が十分でないまま戦いの場に放り込まれる(十分な備えがないままそのような状況に直面する)のが実態だと思われます。したがって、最低限、対峙する場面を想定した(より具体的な)マニュアルの作り込みと役職員に対する十分な落とし込み(教育研修・訓練)が必要となります。また、問題となった職員が「まじめ」であるがゆえに、「組織に迷惑をかけられない」とする誤った組織への忠誠心が働いてしまい、組織への相談等もなされず「組織的な対応」ができなかった可能性も考えられます。このようなケースも、中途半端な知識や常識が対応を誤らせるわけですから、事業者としてしっかりとした教育研修を平素から行っておく必要があるということになります。そして、全ての役職員が認識しておくべきこととしては、反社会的勢力が常に組織として動いている以上、対峙する者も個人ではなく組織として対応すべきということです。加えて、相手が「脅しのプロ」である以上、個人で何とかできる相手ではなく、早い段階でそれまでの対応状況を包み隠さず組織と共有し、「組織対組織」の構図に持ち込むことが重要です。この「組織として対応する」ことの本当の意味が分かれば、最前線にいる職員も、不当要求に応じないよう一生懸命頑張れるでしょうし、個人で孤立無援の戦いを強いられているわけではないことを十分意識できることによって、無理な判断や誤った忠誠心で対応を誤るような事態は避けられるようになるものと思われます。


◆薬物リスクの動向

 前回の本コラム(暴排トピックス2017年7月号)では、薬物リスクはもはや個人の問題ではなく、社名とともに事件が公表されるリスクがあることを考えれば「企業のリスク」として捉えるべき状況になっていることを指摘しました。覚せい剤や大麻が広く流通するようになり、その利用者の底辺が拡大していることで、「大麻は安全」といった誤った知識や、「すすめられたので安易に手を出した」といった薬物モラルの低下も顕著となっています。直近では、山梨県忍野村の議長まで務めた元村議が、覚せい剤取締法違反(所持)で起訴された(逮捕を受けて辞職)といった事例や、会社員が、自宅など計7室で大麻草189株を水耕栽培したり、乾燥大麻を所持したりしたとして、大麻取締法違反(営利目的栽培、営利目的所持)の疑いで逮捕・送検された事例(近畿厚生局麻薬取締部は乾燥大麻計約7.4キロ(末端価格約4,000万円相当)を押収したということです)などが報道されています。

 また、薬物リスクについては、平成28年の警察白書において、平成28年中の薬物事犯の検挙人員が13,411人と、引き続き高い水準にあるなど薬物情勢は依然として厳しい状況にあるとの指摘があるほか、前述した通り、平成29年上半期の統計では、覚せい剤取締法の送致件数は6,991件(6,886件 +1.5%)、大麻取締法の送致件数は1,786件(1,567件 +14.0%)と増加傾向を示しており、「利用者が増えていること」と「犯罪組織にとって儲かるシノギである」との2つの事実が密接に結びついてネガティブ・スパイラルに陥っていることから、今後も予断を許さない状況が続くと認識する必要があります。

 なお、大麻(マリファナ)の合法化の動きについて、南米ウルグアイで、嗜好品としてのマリフアナの市販が解禁となり、同国内16店舗の薬局で販売が始まりました。同国では2013年に、密売防止を目的として政府の管理下でマリファナを提供するため、世界で初めてマリフアナの販売や使用を合法化する法律が成立しています(その後、嗜好品としての大麻は米ネバダ州やワシントン州などでも合法化されています)。報道によれば、価格は密売価格の5~7割で設定されており、売り上げの7割が生産費に充てられ、残りの3割は政府の麻薬依存防止政策などに活用されるということです。大麻(マリファナ)の安全性については賛否両論あるところ、麻薬密売組織の資金源への打撃や薬物依存症対策に資する取り組み(一種の社会実験)として、今後の状況の推移を注視していきたいと思います。


◆忘れられる権利を巡る動向

 本コラムでもたびたび取り上げている「忘れられる権利」の動向については、今年1月の最高裁の「プライバシー保護が情報公表の価値より明らかに優越する場合に限って削除できる」と削除に高いハードルを課した判断が出て以降、それに沿った判決が続いています。前回の本コラム(暴排トピックス2017年7月号)でも、過去に振り込め詐欺で逮捕された事実について、「振り込め詐欺は10年以上わが国の大きな社会問題で、男性はグループのリーダーだった。逮捕事実は現在も社会的な関心の対象だ」と東京高裁が指摘して男性の請求を退ける判断が出されていますが、直近でも、グーグルで自分の名前を検索すると望ましくない検索結果(その内容については、具体的に特定された報道は見当たらず、媒体によって、「不名誉な内容」「かつて不良グループに属していたこと」「暴力行為を連想させる集団との関係が表示される」「犯罪に関わっているかのような表現をした検索結果」「自分と関係のない犯罪行為を連想させる記事」「犯罪を連想させる検索結果」など様々な表記がなされていますが、この事実自体、大変興味深いものです)が表示され、人格権が侵害されるとして、日本人の男性が米グーグルに237件の検索結果を削除するよう求めた仮処分で、最高裁第2小法廷が男性側の特別抗告を棄却、一部は削除不要とした東京高裁の判断が確定しています。この裁判では、東京地裁では、検索結果が「素行が不適切な人物との印象を与える」として122件の削除を命じた(検索サイトに表示される検索結果自体の削除を命じる司法判断は異例のこととして話題になりました)のに対し、このうち66件について、グーグルが削除命令の取り消しを求める「保全異議」を申し立てていたもので、それに対し地裁は63件の削除命令を取り消し、東京高裁も支持していたもので、今回、その判断が確定したことになります。忘れられる権利が日本で認められるためのハードルが高い状況にある(知る権利を重視する方向にある)一方で、インターネット上においては、新聞等のメディアが個人情報保護を盾にした個人からの削除要請に比較的応じている事実や、(一度表示されると半永久的に削除されないというネットの特性もあり)匿名報道化が進んでいること、一定期間経過後に報道記事自体を削除していることなど、知る権利がやや軽んじられる傾向にあるように感じます。反社会的勢力など犯罪者は不透明化の度合いを強め、ますます潜在化していく一方ですが、このようなやや安易な削除・匿名化傾向は、彼らの不透明化とその活動をさらに助長するのではないかと危惧されるところです。


◆北朝鮮リスクを巡る動向

 北朝鮮の暴走が止まりません。北朝鮮は、先月、大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星14」の2回目の試射に成功しました。報道によれば、金正恩氏は、「米本土全域が我々の射程圏内にあることがはっきり実証された」と強調し、米国等を挑発しています。以前も指摘した通り、北朝鮮リスクの増加に対して、軍事的脅威、ミサイル落下という人命に直接関係する事項に対する備えももちろん重要ですが、事業者にとっても、北朝鮮リスクの拡がりに注意が必要な状況となっています。


 このような事態を想定し、政府は、北朝鮮の弾道ミサイル飛来を想定した住民避難訓練を三重県津市で8月26日に行うと発表するなど、国内各地で訓練を実施しています。一方で、「ミサイル発射の目的は米国を交渉のテーブルに着かせることだ。『武力攻撃』の想定は現実性がない」として、避難訓練はいたずらに脅威をあおるとの批判も出ているようです(平成29年7月29日付産経新聞)。ただ、本コラムでは、以前、滋賀県内の小中高校と幼稚園が、弾道ミサイル飛来への注意喚起文書を児童生徒に持ち帰らせたところ、保護者から、「子供の不安をあおる」、「根拠があるのか」などと疑問視する声が県や市町などに寄せられたという事案を取り上げました。それに対して、与えられた情報について、大人が自らの常識や良識をふまえて子供にどう伝えるか、どう接するべきかを主体的に考えるべき場面であり、「命を守る」教育がこれまで全くなされてこなかった日本の危機管理の「底の浅さ」が露呈したと言えると指摘しました。北朝鮮のミサイル発射の目的が何であれ、日本国内に「絶対に着弾しない」との保証がない以上、「命を守る」ために何をすべきかを知っておくべきであり、事業者としても、社員(やその家族)を守るために何をしておくべきかについても、震災時の行動基準やBCPを検討することと同様に、事業者のリスク管理事項ではないかと考えます。


 北朝鮮リスクの延長線上で事業者がリスクとして認識しておくべきもののひとつに、「労働力の犯罪インフラ化」の実態があげられます。この点について、外国に派遣された北朝鮮労働者の雇用者に対する制裁などを盛り込んだ法案が米上院で可決され、北朝鮮政権への制裁強化に慎重姿勢を見せる中国、ロシアが北朝鮮労働者の受け入れ国となっており、北朝鮮の外貨獲得を実質上手助けしていると指摘しています。また、EUも、労働者の受け入れ制限の検討を始めています。直近では、日本政府も、中国政府に対し、北朝鮮労働者の国内受け入れを制限するよう、外交ルートで複数回にわたり要請していたという報道がなされています。なお、2017年の人身売買報告書によれば、その総数は約5万~8万人いるとされ、その収入も年間数億ドル(数百億円)に上るといわれています。それが核・ミサイル開発の資金源のひとつであるという意味で、(本来は労働者に正しく還元されるべき)労働力さえ犯罪インフラとしてしまう北朝鮮の蛮行は許しがたいものであり、事業者としても、北朝鮮の犯罪につながるような労働力の受け入れや、そのような行為や事業を行っている企業や団体等との取引の排除などについても取り組んでいく必要があると言えます。

U.S.DEPARTMENT of STATE;Trafficking in Persons Report 2017

 また、AML/CTFや外為法等の規制対応と同じ文脈で、米は、中国やロシア企業に対する金融制裁(北朝鮮とのマネー・ローンダリングなど違法取引)を強化する方向性を明確に打ち出し始めています。例えば、北朝鮮と取引のある第三国の企業や金融機関を制裁対象とする「二次的制裁」を、中国企業を中心に発動していく考えを示しており、中国遼寧省瀋陽市や同丹東市の貿易会社などへの制裁が検討されているほか、シンガポールなど東南アジアで活動しているロシアの貿易会社やその関係者への制裁も検討されているようです。また、北朝鮮への「テロ支援国家」再指定も検討中であるということです。このような状況をふまえれば、日本の事業者としても、中国やロシアの関連企業が北朝鮮との違法取引を行っているのであれば、そのような企業との取引を行わないようにすべきであり、たびたび指摘している通り、自らの「商流の健全性」を担保すべく、取引先のKYCやKYCC/KYCCCの観点から取引先管理の厳格化に向けた対応を行っていく必要があると言えます。

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3.最近の暴排条例による勧告事例ほか

(1) 東京都の勧告事例

 警視庁がこれまで東京都暴排条例を適用した案件の一覧が公表されていますので、あらためて紹介しておきたいと思います(最終更新は昨年7月時点であり、過去、本コラムでご紹介した事案も含まれていますが、このような一覧は企業内の研修で活用していただきたいと思います)。

警視庁 東京都暴力団排除条例適用事案

  • 造園業者が、指定暴力団傘下組織が資金源としている観葉植物リース業務を代行し、都内の飲食店等における植物の交換や代金回収をするなど、同組織に利益を供与していた(平成23年12月)
  • 飲食店経営者による利益供与事案飲食店経営者が、指定暴力団同士の親睦会の場所として店舗を提供し、両暴力団組織に利益を供与した(平成24年5月)
  • 不動産業者が、管理する都内の駐車場において、指定暴力団傘下組織に無償で駐車場所を提供し、同組織に利益を供与していたが、当該不動産業者が警察に違反事実を申告したことから、勧告を行わず適用除外としたもの。(当該暴力団組織の幹部にのみ勧告を実施)(平成24年6月)
  • マットレンタル業者が、指定暴力団傘下組織が資金源としているマットのレンタル契約を継続し、都内の飲食店等におけるマットの配達・提供を行うなど、同組織に利益を供与していた(平成24年8月)
  • マッサージ店経営者が、利用客のクレジットカード決済を行うため、指定暴力団傘下組織幹部が指定した者に対し、クレジットカード売上票と現金を割引交換し、利益を供与していた(平成24年12月)
  • 飲食店経営者が、指定暴力団傘下組織幹部がいわゆるノミ行為を行うための場所として店舗を提供するなどし、利益を供与していた(平成25年2月)
  • 指定暴力団傘下組織幹部が暴力団排除宣言をした飲食店店主から利用を拒絶する旨を告げられたところ、威迫し、不安を覚えさせるような方法で妨害したことから、当該暴力団組織幹部に対し、同行為をしてはならない旨を命じた(平成25年5月)
  • コンサルタント業者が、指定暴力団傘下組織幹部に事業者名義の車両を無償で提供し、利益を供与していた(平成25年9月)もの。
  • 飲食店経営者は、指定暴力団傘下組織幹部が行ったパーティーに際し、現金を提供し、芸能人はショーを行い、利益を供与した(平成25年9月)  飲食店責任者が、指定暴力団の会合場所を提供し、同組織に利益を供与していた(平成25年10月)
  • 魚介類等の仕入れ業者が、事業の後ろ盾となってもらうために、指定暴力団傘下組織幹部に現金を提供し、利益を供与した(平成25年12月)  飲食店店長が、指定暴力団の会合場所を提供し、同組織に利益を供与していた(平成26年1月)
  • 土木工事業者は、都内で開催されたイベントにおいて、出店する露店のあっせんを依頼された際、指定暴力団傘下組織幹部に露店の出店をあっせんし、利益を供与した(平成26年4月)
  • イベント組合は、都内で開催された祭りにおいて、指定暴力団傘下組織幹部に露店の区割り等を行わせる便宜を図り、利益を供与した(平成26年4月)
  • 飲食店責任者は、指定暴力団傘下組織幹部に対し、飲食店駐車場を車両の駐車場所として提供し、利益を供与していた(平成26年4月)
  • 指定暴力団傘下組織組員は、同組織の新年会を開催するに当たり、暴力団員である自らの名義では開催場所を利用できないと考え、他人の名義で場所を利用し、都内在住の男性は、自己の名義を利用させた(平成26年4月)
  • 飲食店経営者が、指定暴力団の会合場所を提供し、同組織に利益を供与していた(平成26年7月)

 全体的に見れば多様な形態となっていますが、とりわけ飲食店に絡むものが多いように思われます。また、注目したいのが「適用除外事例」で、これは、それまで利益供与していたものの、自ら警察に違反事実を申告したことによって「適用除外」となったものです。東京都暴排条例においては、第28条(適用除外)において、「第24条第3項(注:情を知っての利益供与)又は第25条第2項(注:情を知っての自己の名義利用)の規定に違反する行為を行った者が、前条(注:勧告)の規定による公安委員会が勧告を行う前に、公安委員会に対し、当該行為に係る事実の報告又は資料の提出を行い、かつ、将来にわたってそれぞれ違反する行為の態様に応じて第24条第3項又は第25条第2項の規定に違反する行為を行わない旨の書面を提出した場合には、前条の規定を適用しない」と規定されています。本条例制定時には、多くの事業者が適用除外規定を活用して排除に取り組むものと期待されましたが、ここで公開されている勧告事例を見る限りはまだまだ十分な活用がなされていないようです。一方で、東京都暴排条例が施行されてもうすぐ丸6年が経過しますが、(先の銀座の飲食店におけるみかじめ料の支払い事例などのように)いまだに条例に違反して暴力団等に利益供与を行っている事業者も多いものと推測されます。暴排を巡る社会情勢がこれだけ変化してもなお、利益供与を続けることは、世間からは「被害者」とはみなされず、「悪質な事業者」とさえ見なされかねないリスクがあります。その意味では、事業者は、コンプライアンス部門などが認知していないだけの、「現場だけが知っている」利益供与事例が本当にないのか、あらためて総点検すべきタイミングかもしれません。そのためにも、社内の研修等で、ここで紹介した暴排条例勧告事例を取り上げながら、「何が条例に違反するのか」を具体的に役職員に理解させることが重要となります。

(2) 兵庫県暴排条例の改正(平成29年8月1日施行)

 以前の本コラム(暴排トピックス2017年5月号)でその動向をお伝えしていますが、兵庫県暴排条例が改正され、8月1日より改正施行されています。

兵庫県 兵庫県広報

 暴力団排除条例(平成22年兵庫県条例第35号)の一部について、第13条中「敷地」の右に「(当該施設の用に供するものと決定した土地を含む。)」を加え、「若しくは準住居地域」を「、準住居地域、近隣商業地域若しくは商業地域」に改めるというもので、規制の網を従来の住居系地域から、商業系地域まで拡げる全国初の取り組みです(とはいえ、既存の施設は対象とはなりません)。報道(平成29年8月1日付神戸新聞)によれば、兵庫県内の繁華街やその周辺で運営されている暴力団事務所が7月末時点で約30カ所に上ることが判明し、一戸建てのほか、ビルの一室が利用されているケースもあったということです。暴排条例の規制逃れのために進出したものと推測され、今回の改正により、こうした地域への新たな事務所進出を禁止されることになり、暴力団はますます拠点を新設することが難しくなります。兵庫県内では、指定暴力団六代目山口組、指定暴力団神戸山口組、任侠団体山口組の3団体の総本部が所在し、実質的な抗争状態にありますが、今回のように拠点作りを規制することで、組織の弱体化を進めようとする狙いもあると思われます。一方で、分裂当初の指定暴力団神戸山口組や任侠団体山口組の定例会の開催場所を固定しないなどして、指定要件逃れも見られたように、規制の対象外となる兵庫県以外の自治体での拠点新設にはまだ「抜け穴」がある状態であり、(この点が条例であることの弱点ですが)全国的に統一的な取り組みを行っていくことにより、「点」ではなく、「面」での排除の動きにつながってほしいと思います。

(3) 暴力団対策法による中止命令の発令事例(長野県)

 暴力団から抜けようとした男性を脅し、警察の中止命令にも従わなかったとして、暴力団対策法の脱退妨害行為に対する中止命令違反の疑いで長野県の指定暴力団住吉会傘下組織の組長が逮捕されています。報道によれば、同組長は今年6月10日、組織から抜けようとした49歳の男性を脅したとして脱退妨害行為の中止命令を受けたにもかかわず、同月30日にも同じ男性を「そんなの通ると思ってんのか」などと脅し、警察は中止命令に従わなかったとして逮捕されたもので、平成4年に暴力団対策法が施行されて以来、長野県内で検挙されるのは初めてだということです。


 なお、暴力団対策法では、指定暴力団員が組への加入強要、脱退妨害などに関する行為を禁止しています(第16条、第17条)が、これに違反した者に対しては、暴力的要求行為の場合と同じく、公安委員会が 中止命令などの必要な命令を出すことができます。この命令に従わない場合は、罰則(3年以下の懲役、250万円以下の罰金)が適用されるので、警察はこの時点でこれらの者を逮捕することができます。

暴力団追放兵庫県民センター 組への加入強要、脱退妨害などに関する行為の例

  1. 少年(20歳未満)に対して組に加入することを強要、勧誘したり、脱退を妨害する行為
  2. 威迫して、組に加入することを強要、韓愈したり、脱退を妨害する行為
  3. 威迫して、密接関係者(親族等)の組抜け料を要求したり、その居場所を教えることを強要する行為
  4. 威迫して、密接関係者(親族等)が組に加入することを強要、勧誘したり、脱退を妨害する行為
  5. 配下の組員や他の指定暴力団員に対して、1.~4.の行為をすることを命じたり、依頼する等の行為
  6. 不始末の謝罪や組抜けを認める代償として、指詰め(断指)を強要、勧誘又は補助する行為
  7. 配下の組員や他の指定暴力団員に対して、6.の行為をすることを命じたり、依頼する等の行為
  8. 少年に対して入れ墨を施したり、強要する等の行為
  9. 他の指定暴力団員に対して、8.の行為をすることを強要したり、依頼する行為

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