2018年の反社リスク対策(2)(2018.2)

2018/02/14 / 総合研究室 主席研究員 芳賀 恒人 プリント

1. 2018年の反社リスク対策(2)

(1) 最近の暴力団を巡る情勢

 昨年、指定暴力団神戸山口組から分裂した任侠山口組が、早ければ今年度内にも指定暴力団に指定される運びとなりました。これにより、国内最大勢力である指定暴力団六代目山口組は、この2年半の間に3つの指定暴力団へと分裂することになります。兵庫県公安委員会は、任侠山口組への意見聴取を2月26日に実施することを通知し、神戸市中央区の兵庫県警本部前掲示板で公示しており、報道によれば、任侠山口組の現有勢力範囲は1都1道2府12県に及び、構成員数は約460人で、兵庫県尼崎市内の傘下組織「真鍋組」事務所が本部と認定されています。

 さて、任侠山口組の指定暴力団への指定については、同組織の分裂・立ち上げ時から注目していましたが、あらためて指定の要件を確認してみると、暴力団対策法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)では、第2条で、「その団体の構成員(その団体の構成団体の構成員を含む)が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体をいう」と暴力団を定義したうえで、第3条において、「指定」の要件を示しており、簡単に言えば、暴力団のうち、(1)暴力団員が生計の維持、財産の形成又は事業の遂行のための資金を得るために暴力団の威力を利用することを容認することを実質上の目的とする団体であって、(2)犯罪経歴を保有する暴力団員が一定割合を占め、(3)首領の統制の下に階層的に構成された団体を「指定暴力団」に指定するとされています。一方、彼らのこれまでの発言や発信されている情報等を見ると、この3つの要件のうち、1つ目の「実質上の目的」と彼らの発言の中にある「親睦団体」というワードの関係や、最後の「首領の統制の下に階層的に構成された団体」については、発言から導かれる新組織像が、「盃事を否定し、組長を置かず、フラットな組織を志向する親睦団体」であることなどと比較した場合、その要件を充足しない可能性(相当厳格な立証が求められる可能性)が否定できない状況にあります。また、当初は「偽装脱退(分裂)」なのか「内部対立」なのか見極めが難しく、暴力団対策法の枠内で規制したい警察当局は「内部対立」として対応にあたってきましたが、時の経過や襲撃事件をはじめとする抗争の状況等から、実質的には織田氏を首領とする新たな組織ということが明確になってきており、「分裂」であり「指定暴力団への指定が可能」と判断されたものと推測されます。指定暴力団への指定によって(これまでもそうでしたが)暴力団対策法上の各種規制の対象になるほか、「特定危険指定暴力団」や「特定抗争指定暴力団」といった一層厳しい規制をかけることも可能になりました。既存の暴力団のあり方に一石を投じ、自らを反社会的勢力から脱却(暴力団から離脱)することを最終的な目標としていた任侠山口組ですが、まずは、既存の規制の枠に再定義され、指定暴力団・反社会的勢力として、自らの存在意義を社会に示していくことが迫られます。

 平成29年12月末現在の全国の暴力団情勢についてはまだ公表されていませんが、一部の府県では公表されておりますので、簡単に紹介しておきたいと思います。

まず、福岡県については、組織数が約150組織、暴力団構成員が1,230人(前年比▲150人、▲10.9%)、準構成員等は800人(▲60人、▲7.0%)、合計2,040人(▲200人、▲8.9%)と10年連続で減少する結果となりました。平成28年末の状況と比べると、暴力団構成員総数は▲6.7%(さらに、平成27年末では▲5.1%)でしたので、減少割合が年々拡大していることが分かります。さらに、暴力団構成員の減少割合については▲6.8%、準構成員等は▲7.5%でしたので、暴力団構成員の減少幅の方がより大きくなっています。なお、全国的には準構成員等の方が多くなっている中、福岡県内については、構成員がいまだに圧倒的に多いという特徴が引き続きみられます。

▼福岡県警察 平成29年12月末における福岡県の暴力団勢力

 

また、組織別でいえば、指定暴力団五代目工藤会については、暴力団構成員360人(県外を含め380人、▲50人)、準構成員等260人(同320人、±0人)、計610人(同690人、▲50人、▲6.8%)と福岡県全体より減少幅が小さい点が注目されます。頂上作戦により同会トップ以下幹部が逮捕され、組織の統制が効かず離脱者も増加していると見られていましたが、数字を見る限りはその勢力の衰えは限定的であり、注意が必要な状況であることに変わりはありません。その他の組織では、指定暴力団道仁会の暴力団員数は430人(▲30人)、指定暴力団太州会は150人(▲40人)、指定暴力団三代目福博会は210人(▲10人)、指定暴力団浪川会は200人(▲40人)などとなったほか、六代目山口組が320人(▲40人)、神戸山口組が90人(▲10人)などとなっており、太州会の減少幅が際立って大きい以外はある程度組織を維持している状況がうかがえます。

 一方、大阪府についても数値が公表されており、全暴力団の組織数が190、勢力数2,900人とされています。うち、六代目山口組については、組織数80、勢力数1,100人、神戸山口組の組織80、勢力数1,100人、その他 組織数25、勢力数750人などとなっています。

 一方、最近の動向で注目されるのは、前回の本コラム(暴排トピックス2018年1月号)でも紹介した、兵庫県警が暴力団事務所など県内の拠点施設の撤去に乗り出し、50カ所以上ある拠点施設の危険性などを判断し、使用差し止めを住民と進める全国初の専門チームを今年春にも編成するとした「神戸方式」とでもいうべき取り組みがいよいよ現実味を帯びてきたという点です。報道によれば、組事務所撤去費用として、兵庫県警が500万円の予算要求を行ったほか、新年度から「ふるさと納税」制度を活用する方針を固めたということです。500万円を目標に全国から寄付を募り、弁護士費用などに充てるというもので、正に市民・国民の意思が投影される仕組みと位置付けることにもなり、これはよいアイデアだと思われます。

 また、いわゆる「日本版司法取引」が6月から導入されることが決定し、暴排との関係も注目されるところです。司法取引は昨年5月、刑事司法改革関連法の一つとして成立・導入されるものですが、端的に言えば、容疑者や被告が共犯者らの犯罪事実を捜査機関に明らかにすれば、検察官が不起訴にしたり、求刑を軽くしたりするなど刑事処分を軽減できるものです。対象となる犯罪は、暴力団や振り込め詐欺などの組織犯罪、贈収賄などの経済犯罪、薬物銃器関連、詐欺、組織犯罪処罰法の組織的詐欺のほか、独占禁止法違反や特許法違反などとなっています。暴力団犯罪におけるトップの指示や関与については、最近になって工藤会関係の裁判で認定する事例、振り込め詐欺やみかじめ料の損害賠償請求において使用者責任が認定される事例が増えている流れを受けて、司法取引によってその傾向がますます強まることが予想されます。一方で、たとえば司法取引に応じて、暴力団組員が「組長に犯行を指示された」と証言したとして、この組員やその家族の身の安全を報復などから守ることができるかと問われればそれも難しい現実があり、現に工藤会の公判では、証人の組員に対し組側から有形無形の圧力がかかっているようです(この点、米の証人保護プログラムでは、名前や仕事を変え、居住地を変えることも可能です。日本で同様の仕組みを整えることは一足飛びには不可能であり、結局、安全を保証できなければ、暴力団や薬物・銃器などの本格的な組織犯罪で取引を活用することは難しいのではないかという懸念があります)。さらに、振り込め詐欺の首謀者の摘発についても、犯行グループにおける個々の役割が細分化しており、多くの場合、首謀者のことを本当に知らないか、同じように報復を恐れる状況に置かれているか、といった現実があり、こちらも実際のところは難しい面も多いと感じます。いずれにせよ、この論点については、暴排や特殊詐欺対策等にも大きく影響することが予想されることから、今後も本コラムで取り上げていきたいと思います。

 また、最近、注目される点としては、暴排に対する市民の反応の鈍さが一部拡がっていることも挙げられます。例えば、兵庫県で、公益財団法人「暴力団追放兵庫県民センター」が中学・高校で実施している暴排教室が、昨年は1校しか実施されず「開店休業」に陥っているとの報道がありました(平成30年1月31日付毎日新聞)。背景には、「組員の子の心を傷つける」「差別につながる」など教育現場の懸念があると言われています。教育現場から見れば人権擁護の観点も重要であり、もっともな意見のように見えますが、社会的に暴排の気運が高まる中、兵庫県暴排条例が「青少年の健全な育成を阻害する」ため暴力団を県民生活から排除すべきと定め、青少年の育成過程において暴排意識を醸成すべき状況下にあって、暴排と人権擁護のあり方、青少年教育のあり方については、もっと社会的な議論を深めていくべきではないかと思います。というのも、一方の福岡県では、福岡県警が採用している臨時職員「暴排先生」が活発に活動をしている実態があるからです(福岡県内の中学・高校560校で暴力団排除講演を行い、8人が暴排先生として活動しているということです)。また、報道(平成30年1月19日付西日本新聞)では、昨年の暴力団員の社会復帰対策状況が取り上げており、「離脱を支援した者」が121人、「就労を支援した者」は17人といった結果となっています。ただ、中でも注目したいのが、暴力団を辞めるに至った事例であり、「子どもに『暴力団を辞めてほしい』と言われ、進学の影響などを考えて、決断した」、「子どもの婚約が、突然破棄されたので、暴力団を離脱したい」、「上納金を納めるのがつらく、服役中に離脱を決意していた」、「暴力団を辞めて、生活保護を申請したい。就労支援をしてくれるのであれば、お願いしたい」、「いったん暴力団から逃げたが連れ戻され、脱退を認めてもらえない」といった実情が列記されています。とりわけ、兵庫県の教育現場との関係で言えば、青少年に正しく暴排意識を醸成することが親に離脱を迫ることにつながり、その結果、離脱の実現につながるといった連関が見られるのであり、やはり、このような地道な取り組みを継続していくことが重要だと気づかされます。一方、同じく兵庫県の事例となりますが、10月にあったハロウィーンイベントを前に、兵庫県警から子どもを参加させないよう指導を求められた神戸市教育委員会が、「組員の子どもが差別される」などとして「知らない大人から物をもらわないように」と文言を和らげて伝えていたとのことで、暴排教室と同様の構図(教育する側が人権擁護を重んじる一方で暴排の重要性を軽んじている状況)が見られます。また、同様に兵庫県神戸市の事例として、六代目山口組が例年12月28日に行う恒例行事の餅つきに、組関係者だけでなく複数の地元住民も餅をもらいに訪れていたようです。報道では、「餅をもらうことは悪いとは思っていない。私は被害を受けたことがないから」などと話す女性が紹介されていましたが、これもまた、暴排意識を、継続的に、正しく醸成してこなかった自治体・教育委員会等のスタンスが招いたものだと言えると思います(この問題は、何も兵庫県に限ったことではなく、全国的に暴排意識の醸成、青少年育成への取り組みはこれからの課題だと認識する必要があります)。

 また、暴力団との関係というより、反社会的な活動を行っているという点で、広義の「反社会的勢力」と位置付けてもよい「極左暴力集団」の現状等について警察庁が公表しており、以下、簡単に紹介します。

▼警察庁 極左暴力集団の現状等について

 警察庁による極左暴力集団の定義としては、「社会主義革命・共産主義革命を目指し、平和な民主主義社会を暴力で破壊することを企てている集団」とされています。昭和30年代初頭、路線対立等の理由から、日本共産党を除名されたり、離党した者が中心となって誕生した組織等であり、成立の経緯や指導理論等から多数のセクトが存在しています。さらに、誕生から半世紀以上が経過し、この間、街頭で火炎びん、鉄パイプ等の武器を使用した暴力的な行為を繰り返してきたほか、基地、皇室及び成田空港建設等に反対し、民間人を巻き込む凶悪な「テロ、ゲリラ」事件を引き起こすなど、市民生活を混乱させ、我が国の治安に大きな影響を与えてきたと指摘しています。さらに、自らの主義主張を通すために、対立するセクト間で殺人や傷害等の内ゲバ事件を敢行するなど、依然として「テロ、ゲリラ」事件を敢行する一方で、周囲に警戒心を抱かせないよう、暴力性・党派性を隠しながら大衆運動や労働運動に介入するなどして、組織の維持・拡大をもくろんでいるとしています(勢力は約2万人)。また、警察は、極左暴力集団に対する事件捜査及び(違法行為の準備等が行われるおそれのある)非公然アジト発見に向けたマンション、アパート等に対するローラーを推進し、平成29年中に、非公然アジト3か所を摘発したほか、極左活動家ら30人を検挙したということです。なお、極左暴力集団の主なセクトとして、以下が紹介されています。

  • 「革マル派」(正式名称:日本革命的共産主義者同盟革命的マルクス主義派)
    • 非公然組織を有し、警察や対立する団体、個人等に対し、住居侵入、窃盗、電話盗聴等の違法行為を伴う調査活動も敢行
  • 「中核派」(正式名称:革命的共産主義者同盟全国委員会)
    • 非公然組織を有し、過去には数多くの「テロ、ゲリラ」事件を敢行・国鉄闘争を基軸に、反原発闘争等を中心とした闘争を継続し、組織の維持・拡大を企図
  • 「革労協」(正式名称:革命的労働者協会)
    • 非公然組織を有し、多くの「テロ、ゲリラ」事件のほか、死傷者を出す凄惨な内ゲバを敢行・「成田闘争」、「反戦、反基地闘争」等を通じて、両派とも組織の維持・拡大を企図

(2) 厳格な顧客管理

 前回は、2018年の反社リスク対策のあり方として、「暴力団」は今の形では存続できない状況が、今年、全国で出現する可能性が高まっていること、暴力団という組織のあり方自体について、最終的に消滅することはないが多くの組織自体は極限までスリム化すること、一方で、準暴力団や周辺者という、それを取り巻く「反社会的勢力」の範囲や役割が拡大していく傾向もより明確になること、したがって、事業者としては、反社チェックにおいて確認すべき範囲を拡大する必要に迫られることになり、これまでの反社チェックのあり方では「限界」が露呈し、より踏み込んだ実務に取り組むべき流れとなること、などを指摘しました。


 反社会的勢力の巧妙化や不透明化の深化に伴い、これまでも指摘してきた通り、真に排除すべき反社会的勢力としての「真の受益者」の特定の困難さが深刻化しています。企業は「目に見えない相手」との戦いを強いられていますが、反面、それは事業者に「どこまでやるか」という本気度を迫るものだとも言えます。顧客の利便性を追求するあまり、表面的なチェックで「見つからない」ことをよしとすることで本当によいのか、不十分な取り組みは、むしろ犯罪組織を助長することにつながりかねないことにますます注意が必要です。

 前回指摘した通り、反社会的勢力自体も、準暴力団や特殊詐欺グループが台頭することで、その様相をますます多様化させており、そのような状況の変化に対して、自社の取組みが暴排(反社会的勢力排除)という社会の要請を充足するだけの「厳格な顧客管理」と呼べるレベルにあるのか、今後、あらためて問われるようになると言えます。例えば、特殊詐欺という犯罪を助長する「犯罪インフラ」事業者である悪質な不動産事業者やレンタル携帯事業者などと取引することは、自社が間接的に特殊詐欺に加担していることになる「分かりやすい構図」です。それでもなお、そのような者と取引をすべきかと問われれば、結論は自明ですが、ではそのような事業者でないかどうかを見極めるだけのチェック態勢が整っているのかと問われれば、十分な取り組みができているとは言えない事業者も少なくないのではないと思われます。つまり、反社会的勢力の変化に対して、「どこまでやるか」「どこまで本気で取り組むか」が、社会全体からの暴排においても重要な意味をもつことになると言えます。

 また、本コラムでたびたび指摘している通り、「厳格な顧客管理」は、今後ますます、実務として暴排の枠を大きく超えていきます。前述のような「取引NG形態の多様化」が企業実務に大きな影響を及ぼし始めていることにお気づきでしょうか。具体的には、今や反社会的勢力をはじめとする犯罪組織との関係を排除すべきであるのはもちろんですが、マネー・ローンダリングやテロ組織に対する資金供与、さらには、北朝鮮等への経済制裁、特殊詐欺等を支える犯罪インフラなど、「取引NG」の範囲は拡大する一方です。加えて、贈収賄やカルテル、タックスヘイブン経由の不透明な取引、不公正取引への関与といったコンプライアンスの観点からの要請の拡大、さらには、「倫理的(エシカル)消費」や「持続可能な開発目標(SDGs)」「ESG投資」などに代表される「健全性」の意味の拡大・多様化も視野に入れる必要があります。例えば、少年の強制労働により収穫されたコーヒー豆の取引はフェアではない、あるいは、環境破壊を行っている企業への融資は金融機関として行うべきではないというのが現在の世界的な潮流となっており、そのような観点もまた「厳格な顧客管理」のひとつの要素となります。

 これらに加えて、今後の反社リスク対策においては、自らの商流の健全性を確保するための「サプライチェーン・マネジメント」(KYCからKYCCへ)、「モニタリング」も重要なキーワードとなります。既に、暴排やAML(アンチ・マネー・ローンダリング)/CFT(テロ資金供与対策)の実務において、相手先と「点」でつながるところだけを確認するのでなく、相手を取り巻く状況を可能な限り「面」で確認することで、取引の健全性を確保するという発想が、犯罪組織の手口の巧妙化への対応策として求められています(例えば、平成27年版警察白書に紹介されている「今の時代、暴力団構成員自らがシノギ(資金獲得活動)を行うことは難しいので、不良グループや破門者(元暴力団構成員)を利用し、堅気(かたぎ)の者を会社の代表者にして経営させている」との事例が、正にその必要性を示しています)。また、暴排実務では、「入口」と「出口」だけでなく、継続的に取引先の健全性等を監視/異常を検知=モニタリングする「中間管理」が定着しつつあり、犯罪の手口の高度化や反社会的勢力(一般的に犯罪組織と置き換えてもよいでしょう)の不透明化の実態から、「入口」で完璧に排除することが困難であることをふまえ、既に取引してしまっている反社会的勢力をモニタリングによって抽出し排除していくといった、新たな顧客管理のあり方に変化しています。これもまた「厳格な顧客管理」のひとつであり、その実務においては、取引NG形態や健全性の意味の多様化もふまえ、「今の社会の目線から見て取引してよいか」を常に検証する「ジャッジメント・モニタリング」が、コンプライアンス・リスク管理に不可欠なものとなっています。例えば、以前は問題とされなかった「暴力団員名義の銀行口座」を排除する流れなどはその代表例と言えます(なお、関連して、金融業界において、今後、口座解除の取り組みが中小金融機関に浸透する一方で、暴力団員の「最後の一口座」の死守のためトラブルが表面化する可能性が高まっていると指摘しておきたいと思います。「生活口座」の考え方を巡っては最高裁の判断も出たとはいえ、中小金融機関の対応は困難を極めることが予想されます)。そして、この流れは全ての事業者に共通のものであり、最低限の反社チェックしか実施していない事業者(DBに過度に依存している事業者など)は、DBで該当のない人物が、「ネットの風評を見れば分かる」、「地元では有名な話だ」、「本人の話に嘘が多い」などの端緒を見逃してしまうことで反社会的勢力であることを見抜けず、社会的に批判を浴びることになるかもしれません。したがって、今後の反社リスク対策においては、DBの限界もふまえれば、今まで以上に厳格に顧客の端緒を見極める「現場の目」の精度の向上(目利き力の向上)が要請されるようになるのではないかと考えられます。

 このように、今後、入口のチェックの限界をモニタリングの強化で乗り越える構図はますます強まると言えますが、実務的には、モニタリングの重要性が増すということは、属性だけなく「行為(ふるまい)」検知の強化、端緒情報収集=従業員の目利き力の強化が求められることになります。そのためには、AIやロボットなどシステムの高度化とともに高いリスクセンスとコンプライアンス意識を持った人材を育成するという両面からの取り組みが必要であり、高度化する犯罪への対応として「厳格な顧客管理」に多様な視点が求められる中、事業者の本気度が問われることになります。

2.最近のトピックス

(1) 仮想通貨を巡る動向

●NEM流出事件と規制強化の動向

 仮想通貨「NEM」(時価約580億円相当)が不正アクセスによって外部に流出する事件が発生し、その被害者は26万人にも及ぶと言います。盗まれたNEMは、その一部(少なくとも5億円程度)がダークウェブ(アクセス元の場所や端末を特定できないようにする匿名化ソフト(Tor)を使ってのみ接続できるネット空間で、麻薬、銃器、個人情報、サイバー攻撃の不正プログラムなどが売買され、犯罪が行われていても販売者や購入者の特定は難しく、取引には(匿名性の高い)仮想通貨が使われる犯罪インフラ)で他の仮想通貨と交換されていることが明らかとなっています。(なお、直近の報道によれば、この数日間で、海外の交換業者「Yobit」などを通じて、約21億円相当分まで交換が進んでいることが明らかとなっています)。当初、盗まれたNEMを追跡可能な「目印(タグ)」を付けることに(「JK17」と名乗る善意のホワイトハッカーが)成功していたものの、犯人側が多数に小分けして短時間の間に転売することで、その印もなくなっていることも判明し、いよいよその追跡が困難となっています。その一方で、今後、ダークウェブ等を介してNEM から別の仮想通貨に交換、その後、(おそらくはいくつかのプロセスを挟んで)現金化するというルートが見えてきた以上、マネー・ローンダリングが本格化することが予想されます。(これも、直近の報道によれば、「Yobit」は口座開設時の本人確認がないなど匿名性が高い交換業者で、数多くの仮想通貨を取り扱っていることで知られており、取引のたびに新規口座を開設しているようです。この海外の交換業者の犯罪インフラ性も悪用された形と言えます)。犯人側は、ここに至るまでいくつかの方法を模索した形跡があり、海外の多くの取引所に分散して移動させる、奪ったNEMのごく一部をフィリピンのIT企業の資金調達に応募(ICO)するといった様子も見られます。なお、直近では、日本人男性が、流出したNEMの一部をダークウェブのサイトを介して他の仮想通貨(ライトコイン)と交換していたことが明らかとなり、既に、警視庁サイバー犯罪対策課がこの男性を任意で事情聴取しているようです。報道によれば、この男性は、NEMはコインチェックから流出したものと認識していたということで、今後の捜査の進展が待たれます。一方、NEMを流出させた仮想通貨取引所(みなし業者)コインチェックは、2月13日から日本円の出金を再開しました。出金処理は申請した順番に対応するため、指定の口座に振り込まれるまで時間がかかる場合があるということですが、今回再開するのは日本円出金だけで、仮想通貨の売買や引き出しのめどは立っておらず、まだまだ混乱は続きます。

 さて、今回の犯罪は、一言で言えば、「コインチェックの管理態勢の脆弱性が突かれた」ということになりますが、同社だけの問題ではない、仮想通貨を取り巻く本質的な問題にも目を向ける必要があります(直近でも、イタリアの仮想通貨交換業者「ビットグレイル」から仮想通貨「Nano」が外部に流出していたことが明らかとなり、報道によれば、流出額は1億7,000万ドル(約180億円)相当に上るということです。ますます、個別の事業者の問題の枠にとどまらない、仮想通貨を取り巻く要素の脆弱性が浮かび上がっています)。まず、コインチェック社の管理態勢の脆弱性については、既に多くの報道がなされているように、通常は、より安全性が高いコールドウォレット管理(ブロックチェーンの秘密鍵をネットワークから隔離して管理する方式)を行うべきところ、同社は、NEMは「システム的に難しかった」としてホットウォレット(オンラインに接続された状態)で管理していたということが明らかとなっています。さらに、マルチシグを未導入だったという点も大きな脆弱性として指摘されています。マルチシグは、秘密鍵が万が一盗難された場合に備え、秘密鍵を3~5つに分散管理し、うち2~3つを運用する管理方法ですが、セキュリティは高くなるものの、「即時出金には対応できない」「オペレーションが増える」など利便性を欠くという課題があり、「安全性か利便性かはトレードオフの関係にある。コインチェックは即時送金など利便性を売りにしていた」との専門家の指摘があるように、利用者保護と利便性のトレードオフのあり方、すなわち同社のスタンスにリスク管理上の大きな問題があったということが言えると思います(もちろん、その利便性を多くの人が指示してきた現実もあります)。さらに、このような技術的な課題のみならず、運用面でもリスク管理上の脆弱性を抱えていたことが明らかです。それは、まず、流出の2~3日前、同社の社内ネットワークに米国、ドイツ、オランダの3か国のサーバーから不正接続が続いていたことが警視庁の解析で後で判明しましたが、この仮想通貨の送金に必要な「暗号鍵」等の管理情報を盗もうとした不正アクセス行為を、リアルタイムにまたは速やかに認知できなかった運用上の脆弱性が指摘できます。また、同社は不正アクセスなどを把握するためNEMの残高を定期的に確認していたものの、午前と午後に1回ずつ、1日に計2回しか行っていなかったことも明らかになっています。これらのことから、残高はもちろん不正アクセスなどの異常を即座に検知する体制(常時監視態勢)がほとんど整っておらず、(記者会見中にも流出が続いていたように)被害を徒に大きくしてしまったとさえ指摘できると思います。そして、これらの流出の原因の背景には、(同社が認めているように)人手不足や技術導入の困難さがあるのは確かですが、その限界を認識しながら安全対策を怠り、一方で利便性を追求し顧客を獲得し続けてきた責任は厳しく問われるべきだと言えます。

 また、同社の問題に限らない部分で言えば、金融庁の監督のあり方という点も大きな課題を残しています。日本は、世界に先駆けて仮想通貨交換業者(いわゆる取引所)を登録制にする仕組みを、昨年の改正資金決済法施行により実現しています。昨年10月の段階で16社が登録されたものの、コインチェック社を含む17社が継続審査中となり、継続審査の事業者は、安全対策などの行政指導を前提に「みなし業者」として営業継続が認められることとなりました。しかしながら、この「みなし業者」の制度自体に矛盾があったことは否定できません。特に、コインチェック社について言えば、同社が取り扱う仮想通貨の種類は相当な数に上りますが、そのうち、「Monero」「Dash」「Zcash」については、その匿名性の高さから取引履歴を追跡できず、マネー・ローンダリングやテロ資金の温床になる恐れがあるとして金融庁が登録を認めなかったと言われています(さらに、「Monero」については、北朝鮮との関係が疑われています)が、問題を指摘しつつも一方で「みなし業者」としての営業継続を認めていた点は正に矛盾・ダブルスタンダードだったと言えると思います(なお、金融庁は、同社がこれらの匿名性の高い仮想通貨の取り扱いについて、犯罪資金のマネー・ローンダリングに悪用されるリスクを再三指摘し、取り扱いを続けるならば、どのような対策を取るつもりなのかを問い続けていたと言います。しかし、同社側には対策を検討する態勢が十分にできておらず、反応は鈍いままだったとされます。本来は十分な対策が講じられるまで営業停止など指示できたにもかかわらず、業界保護の観点から営業を継続させたという点が大きな問題となります)。日本は、仮想通貨に対しては、「利用者保護とイノベーションのバランスに注意」しつつとのスタンスを取り続けていますが、それがこのような形で問題を発生させた遠因となったことは間違いのないところです。また、金融庁の仮想通貨交換業者に対する監督のあり方として課題が残る点として、その事業者の運営実態が不透明であるにもかかわらず営業継続を認めている点からも指摘できます。実際の事業者の中には、その「本店」に看板も表札もなく、賃貸のシェアスペースで営業しているなど、銀行や証券会社では決して許されない「緩い」運営体制が容認されています。さらには、「取引所」と呼ばれながら自ら儲けを狙って売買する「投資家」の側面も色濃くあり、取引所自体が犯罪インフラ化しかねない「危うさ」を構造的に持っています。そのような「危うい」事業者に数百億円を取り扱う「金融」業の資格を実質的に与えている(運営できていること自体が、金融庁の"お墨付き"として市場や国民からの信頼を得ている)としたら、これもまたダブルスタンダードの弊害だと言えると思います。

 なお、金融庁は、この問題を受けて、コインチェック社に改正資金決済法に基づく改善命令を発出したほか、間髪入れず(その改善書の提出を待たず)立入検査の実施に踏み切っっています。さらには、他の仮想通貨交換業者に対しても立入検査を通告、既に大手で登録業者の「テックビューロ」と「GMOコイン」での立入検査に着手しています。また、警察庁、消費者庁とのさらなる連携強化に向け、局長級の3省庁連絡会議も開催しています(具体的には、本事案に対するこれまでの3省庁の対応、利用者保護に向けた取組み、コインチェック社以外の仮想通貨交換業者やみなし仮想通貨交換業者への対応、無登録業者への対応等について、意見交換を行っています)。さらに、報道によれば、金融庁は、近々、無登録の仮想通貨交換事業者(マカオに本社があるブロックチェーンラボラトリー)に対し、同法が禁じている日本での営業や勧誘をしており、投資家が損害を被る恐れがあると判断し、改正資金決済法に基づく初めての警告を出す見通しで、是正しない場合は刑事告発するということです。無登録事業者による国内での違法営業が活発になっているため、監視体制を強化するとされ、ここにきて、規制・監督の強化の姿勢を明確に示した金融庁の矢継ぎ早の対応が注目されています。

 関連して、仮想通貨リスクへの対応としての民間事業者における規制強化の事例も出ています。国内では、大手銀行やクレジットカード会社が仮想通貨の取引制限や審査の厳格化に動き出しており、報道によれば、りそなグループは仮想通貨交換事業者をマネー・ローンダリングのリスクがあるとして、新規の法人口座開設や既存口座の監視を厳しくする新たなルールを設けたほか、JCBは国内での新規契約を認めない方針を打ち出しています。また、海外では、いち早く英米の銀行が仮想通貨購入のためのクレジットカード利用を禁止しています。報道によれば、英のロイズ・バンキング・グループは、同行のクレジットカード利用者がビットコインなどの仮想通貨を購入することを認めないと表明、ロイズ銀行やスコットランド銀行、ハリファックスなどグループすべてのカードが対象となっています。

 さて、今回のNEMの問題を受け、日本国内も国際社会も、急速に規制強化に傾きつつあります。これまでも指摘されてきた仮想通貨のもつ匿名性や投機性・利便性などの「犯罪インフラ性」が、今回の巨額流出事件を契機にクローズアップされ、(韓国の情報機関が、北朝鮮がサイバー攻撃で韓国から数十億円規模の仮想通貨を奪取したと韓国国会に報告したほか、今回のNEMの事件についても北朝鮮の関与の有無を調べているというように)北朝鮮の関与や、犯罪組織等が、マネー・ローンダリングや相場操縦等に悪用して莫大な利益を得ている実態を浮かび上がらせつつあり、これ以上の「犯罪インフラ化」の阻止は国際的に喫緊の課題だと言えます。その意味で、ドイツ連銀の「国ごとの規制は限定的で、国際的な協力を通じた規制のみが効果的」との指摘は仮想通貨リスクの本質を突いていると言えます。そもそも仮想通貨がインターネット上の取引であるだけに国境の壁は事実上なく、一部の国で規制を強めてもどこまで実効性が上がるかは不透明であり(AML/CFTと同じ構図ですが)、国際社会が連携して規制を強化すべきだと言えます。このあたりの規制強化の流れとしては、例えば、国際決済銀行(BIS)支配人は、仮想通貨は「おそらく通貨として持続可能ではない」、「政策介入を行うべき強い論拠がある」、「これらの資産は、消費者や投資家保護に関連した懸念を引き起こす恐れがある。関係当局には投資家や消費者を教育し保護する義務があり、対応を準備する必要がある」と述べていますし、メイ英首相は、仮想通貨が犯罪に悪用される可能性があるため、「真剣に」精査する必要があるとの考えを明らかにしています。さらに、国際通貨基金(IMF)専務理事は、各国は仮想通貨の発展に伴うメリットとリスクの双方を考慮した上で、規制の有無および方法を決定すべきと、米財務長官は、仮想通貨を巡る最大の懸念は違法な活動に利用されることだとし、そうした事態を回避することが最も重要だと、米資産運用大手ブラックロックCEOは、仮想通貨は金融システム全体を脅かす恐れがあり、世界全体で対応する必要があると、それぞれ述べています。このように、国際レベルでの規制のあり方を求める機運が高まる中、3月には、主要20か国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議が開催される予定であり、仮想通貨の世界的な規制について議論される見通しとなっています。日本も積極的に参画し、各国の合意形成を促す必要があります。中央集権の軛から解放されたはずの仮想通貨に対して、国際社会による規制がいよいよ本格化することになりました。

●ICOと規制強化の動向

 コラムでもたびたび指摘している通り、ベンチャー企業が仮想通貨で事業資金を得る「イニシャル・コイン・オファリング(ICO)」については、低コストで世界中から資金を集められるのが特徴である一方で、詐欺的な手口も一部で出ており、国際的に問題となっています。ホワイトペーパーに掲げたプロジェクトが実施されない、約束されていた商品やサービスが実際には提供されないなどのほか、ICOに便乗した詐欺の事例も散見されています。

 金融庁は、既に国内投資家向けにICOに関する注意喚起を行っています(暴排トピックス2017年11月号を参照ください)が、ICOのルール整備に向け、仮想通貨取引所の業界団体と協議に入っていますが、当面は法令規制ではなく、業界団体による自主ルールでの対応を目指すとされています。また、直近では、IOSCO代表理事会表明「ICOs(Initial Coin Offerings)に関する懸念」の仮訳をサイト上で公表しています。

▼金融庁 IOSCOによる「IOSCO代表理事会表明:ICOs(Initial Coin Offerings)に関する懸念」の公表について

▼IOSCO メディアリリース(仮訳)

▼Regulators' Statements on Initial Coin Offerings

 それによると、ICOs(「トークンセールス」又は「コインセールス」とも呼ばれる)とは、「典型的には、分散型台帳技術を活用し電子的なトークン(証票)を発行した上で、入札や出資等を通じて、ビットコインやイーサといった仮想通貨(まれに、米ドルやユーロといった法定通貨)との引換えにトークンを投資家に販売すること」であり、これらICOs は「標準化されているものではなく、法律・規制上の位置づけも個々のICOs の状況により異なる」ものだとされます。一方で、ICOs に関しては明確なリスクが存在するとして、「ICOs への投資は非常に投機的なものであり、投資家は投資資金の全てをリスクに晒すことになる。プロジェクト及び事業への資金を賄うべく適切に投資機会を提供する事業者もいる」、「一方で、外国の業者による、オンライン上でリテール投資家を対象とするICOs が増加している。こうしたICOs は、規制の枠外のものである場合や現在の法令に照らし、違法に活動しているものである場合があり、投資家保護上の懸念を惹起している」、「更に、詐欺の事例も見られるため、投資家はICOs への投資判断を行うにあたり大変慎重に行動すべきであることを心に留めておく必要がある」といった懸念が表明されています。

 世界的にICOをはじめ仮想通貨に対する規制強化を求める動きが活発化しており、特に、米ではその傾向が強く、米証券取引委員会(SEC)は、仮想通貨に投資するファンドの安全性や投資家保護に対する懸念を表明、SEC委員長は議会で、ICOで発行される「トークン」と呼ぶデジタル権利証や通貨について、条件次第では証券法上の有価証券にあたり、SECへの登録が要るとの見解を示し、これまで登録されたものはないが「これまでみてきたICOは全て有価証券だ」と指摘、多くのICOが証券取引法違反にあたるとの見方を示すとともに今後、監視を強める姿勢を示しています。また、米商品先物取引委員会(CFTC)が初めて仮想通貨運営者3人を提訴した(3人の被告のうち1人は、仮想通貨取引やその他のサービスを提供すると話を持ちかけ、顧客の出資金を横領。別の被告はねずみ講の容疑で、集めた資金をまとめて仮想通貨ビットコイン投資に運用するとのうたい文句で600人超の顧客から110万ドルを集めていたということです)ほか、信頼性に疑いのある仮想通貨の調査に乗り出したと言われています。また、米テキサス州とノースカロライナ州が、仮想通貨「BCC」を扱う業者ビットコネクトに対して業務停止命令を出しています。同社は、業務停止命令を受けたことや、外部からのサイバー攻撃で運営に支障が出たことを理由として運営する仮想通貨取引所を閉鎖すると発表しています。また、中国当局は、既にICOを禁止し、すべての仮想通貨取引所を閉鎖するなど、仮想通貨に関する取り締まりを相次いで行っていますが、特に海外のプラットフォームを対象に規制強化を準備しているということです。さらに、韓国では、仮想通貨取引に熱中した若者が自殺するなど社会問題となる一方、若年層の失業率が高く、同国内では仮想通貨取引が生活向上の"夢の手段"の一つとなりつつあり、規制への反発の声も高まっていると言います。韓国政府も投機の過熱を抑えるため、先月、実名が確認された人にのみ取引を認める新たな規制を導入し透明性を高めようとするなど、仮想通貨規制に本腰を入れ始めています。

 なお、E&Yが、ICOが月平均100回のサイバー攻撃を受けているとするリポートを発表しています。これまでのICOによる資金調達総額37億ドルのうち、およそ10%に相当する4億ドル程度がサイバー攻撃によって盗まれたとする驚くべき内容で、ICOの投資リスクが浮き彫りになった形です。被害につながったサイバー攻撃のうち、最も広く利用された手段はフィッシング詐欺で、月間の被害額は最大150万ドルだったほか、ハッカーがICOプロジェクトのウェブサイトに侵入して情報を改ざんし、仮想通貨購入のために払い込んだ資金を偽のデジタルウォレットに誘導する手口を使う場合もあったということです。

▼Ernst & Young ; Big risks in ICO market: flawed token valuations, unclear regulations, heightened hacker attention and congested networks

 ICO以外でも仮想通貨を巡る問題は国内外で拡がっており、以下、いくつか紹介しておきます。

  • 急激な相場上昇などで注目される仮想通貨に便乗した攻撃が発生しており、「SpriteCoin」なる実在しない仮想通貨のウォレットとして配布されていたファイルの中身はランサムウェアだったという事例がありました。仮想通貨に関心を持つ人々が集まるフォーラムなどで収益性が高いなどと吹聴され拡散されているようです。
  • コインチェックを装った偽アカウントが「料金を支払えば出金できる」と虚偽のツイートを行っているとの情報が寄せられているとし、消費者庁は、Twitterで注意を呼び掛けています。1月末ごろから、コインチェックを装った偽アカウントが「0.02ビットコインを送金すれば出金する」と虚偽のツイートが投稿されており、「コインチェック事件に便乗した詐欺では」と話題になっていたものです。
  • 仮想通貨を巡る消費者相談が前年度の2倍近く1800件超になっていると国民生活センターが注意を呼び掛けています。以前は、業者から「必ず値上がりする」などと勧誘を受けて購入したとの相談が大半だったものが、最近ではインターネットで自ら調べたり、知人の勧誘で購入したりするケースも増えているということです。同センターでは、「まずは金融庁のHPで業者が登録されているか確認を。仮想通貨は価格変動が激しいだけでなく、今回のように不正アクセスされることもある。こうしたリスクを理解していない人は購入しない方がいい」と注意を呼び掛けています。
  • 米フェイスブックは、インターネット上の仮想通貨やネット上で発行したコインによる資金調達などの広告を全世界で禁止すると発表しています。詐欺や不正の助長を防ぐのが狙いとみられます(このあたりのスタンスは、自らの社会への影響力の大きさを自覚した自主的な取り組みとして評価できると思います)。約20億人の利用者を抱える同社の方針は、仮想通貨市場に大きな影響を与えそうで、報道によれば、同社は「広告を出しているのに誠実に運営していない会社が多くある」と禁止理由を説明しているということです。
  • 大手金融機関は仮想通貨取引との関わりが深まるに従い、従業員による不正な仮想通貨取引への対処という厄介な課題に直面しているとの報道がありました(平成30年2月8日付ロイター)。仮想通貨は匿名性が高いため、従業員が個人の口座を使ってインサイダー取引など不正行為を行うと把握が難しいためで、既に法律専門家や金融機関の元従業員によると、仮想通貨取引は金融機関の主要事業の一角に食い込むにつれて、コンプライアンス部門の監視が厳しくなっているということです。報道は海外の金融機関の事例とはいえ、今後、国内の金融機関はもちろん、インサイダー取引排除の観点からも多くの事業者にとっても対応策の検討が急がれる分野と言えそうです。
(2) 特殊詐欺を巡る動向

 警察庁から、平成29年の特殊詐欺認知・検挙状況等が公表されています。以下、そのポイントについて紹介していきたいと思います。

▼警察庁 平成29年における特殊詐欺認知・検挙状況等(暫定値)について

 まず、特殊詐欺全体の認知件数は18,201件(前年比+4,047件、+28.6%)と前年から大きく増加し、7年連続の増加となった一方で、被害額は390.3億円(▲17.4億円、▲4.3%)と3年連続で減少しています(依然として高水準であることは間違いありません)。その結果、既遂1件当たりの被害額は、226.7万円(▲80.9万円、▲26.3%)と前年から大きく減少する結果となりました。都道府県別では、5県(青森、山梨、愛知、香川、宮崎)において被害額が5割以上減少した一方で、東京、埼玉、千葉、神奈川、兵庫、福岡など一部の大都市圏を中心に、16都道府県において、認知件数・被害額がいずれも増加する対照的な結果となっています。前回の本コラム(暴排トピックス2018年1月号)で、警視庁管内と大阪府警管内の状況を比較しましたが、東京は認知件数・被害額がいずれも増加、大阪はいずれも減少という同じ大都市圏でも全く対照的な結果となっています(大阪では特に還付金等詐欺による被害が劇的に減少、東京は特殊詐欺全体の被害が深刻化している傾向にあります)。

 類型別では、オレオレ詐欺の認知件数が8,475件(+2,722件、+47.3%)、被害額が203.4億円(+36.2億円、+21.7%)、架空請求詐欺の認知件数が5,754件(+2,012件、+53.8%)、被害額が127.9億円(▲30.4億円、▲19.2%)、還付金等詐欺の認知件数が3,137件(▲545件、▲14.8%)、被害額が35.9億円(▲6.7億円、▲15.8%)となっており、これら3手口で認知件数全体の約95%を占めています。オレオレ詐欺と架空請求詐欺は、認知件数が大幅に増加(ただし、被害額についてはオレオレ詐欺が増加、架空請求詐欺が減少)した一方で、還付金等詐欺は、関係事業者と連携した取組を推進した結果、認知件数・被害額ともに減少に転じています。また、手口別では、「キャッシュカード手交型」の認知件数が4,004件(+3,053件、+321.0%)、被害額が57.3億円(+37.2億円、+185.9%)、「電子マネー型」の認知件数も2,914件(+1,650件、+130.5%)、被害額も15.5億円(+7.9億円、+104.1%)と大幅に増加している点が注目されます。「収納代行利用型」については、認知件数924件、被害額8.3億円と、下半期に急増しているものの被害額の比較的小さい犯行が多数回行われる傾向が継続しています。一方、「振込型」の認知件数は4,789件(▲837件、▲14.9%)、被害額は71.0億円(▲18.7億円、▲20.8%)と大きく減少しており、主に還付金等詐欺が減少したことによるものだと言えます。

 特殊詐欺全体での高齢者(65歳以上)の被害の認知件数は、13,163件(+2,102件、+19.0%)、特殊詐欺全体の高齢者被害の認知件数が占める割合(高齢者率)は72.3%(▲5.8P)となり、相変わらず高齢者による被害が高止まりしている現実があります。手口別では、オレオレ詐欺(96.1%)、還付金等詐欺(93.8%)で、高齢者被害の認知件数が占める割合(高齢者率)が9割以上に上っていますが、架空請求詐欺、融資保証金詐欺においては、高齢者以外の年齢層にも被害が見られます。架空請求詐欺の認知件数の増加に伴い、特殊詐欺全体の高齢者率は前年から減少したものの、高齢者の被害防止が引き続き課題となっています。その高齢者の被害防止等に向けた対策としては、まず、金融機関等と連携した声掛けにより、認知件数とほぼ同数の被害を阻止しており、阻止率は約5割(49.8%)に上っている点は特筆されます。高齢者の高額払戻しに際しての警察への通報につき、金融機関との連携を強化しているほか、(本コラムでもたびたび紹介している通り)還付金等詐欺対策として、金融機関と連携し一定年数以上にわたってATMでの振込実績のない高齢者のATM振込限度額をゼロ円(又は極めて少額)とし、窓口に誘導して声掛け等を行う取組を推進(47都道府県・378金融機関(地方銀行の74.3%、信用金庫の95.8%)で実施)した結果、平成29年中に105件を阻止(累計では114件)する成果を挙げています。また、前回の本コラム(暴排トピックス2018年1月号)で、行動経済学を応用した消費者詐欺被害の予防の紹介の中で、「一度被害を受けた消費者のうち約3 割は、12か月以内に再被害に遭っており、一般的消費者の被害遭遇率の約5 倍に相当するレベル。再被害防止のためには、一度被害を受けた消費者に対して、「説得的話法」への警戒方法の学習を促すとともに、家族など周囲の見守りなどのサポートが一層重要」といった指摘をしていますが、実際、特殊詐欺等の捜査過程で押収した高齢者の名簿を活用し注意喚起(25都府県でコールセンターによる注意喚起)の実施、自動通話録音機について、自治体等と連携した無償貸与等の普及活動の推進(平成29年12月末現在、44都道府県で約8万台を確保)、全国防犯協会連合会と連携した迷惑電話防止機能を有する機器の推奨を行う事業の開始などの取り組みが一定の成果につながっていると言えます。さらに、手口別では、「電子マネー型」への対策として、コンビニエンスストアと連携し、声掛け用シート等を活用した電子マネー購入者への声掛けの推進、「収納代行利用型」への対策として、コンビニエンスストアや収納代行会社と連携し、利用者への声掛け、端末機の画面に注意喚起を表記するなどの被害防止対策などを推進しているとのことです。

 一方、犯行グループの壊滅に向けた検挙対策の状況については、架け子を一網打尽にする犯行拠点(アジト)の摘発を推進し、過去最多の箇所数を摘発(68箇所、+11箇所)したほか、「だまされた振り作戦」による受け子等の検挙を推進し、前年を上回る人員を検挙(912人、+16人)といった成果に代表されるように、特殊詐欺全体の検挙件数は4,654件(+183件、+4.1%)、検挙人員は2,490人(+121人、+5.1%)となり、前年から増加しました。ただ、一方で、犯行グループは、役割の細分化が進んでおり、今後の摘発はさらに難しいものとなりそうです。また、特殊詐欺は組織犯罪であり、暴力団の一定の関与も認められるところ、検挙被疑者に占める暴力団構成員等の割合は約24.7%に上りました。さらに、犯行ツール(犯罪インフラ)対策も積極的に推進しており、以下のような成果が挙がっています。

  • 犯行に利用された電話に対して、繰り返し架電して警告メッセージを流し、電話を事実上使用できなくする「警告電話事業」を平成29年5月に開始(平成29年12月末現在で対象となった3,998番号のうち、効果があったのは3,237番号と81.0%に上ります)
  • 犯行に利用された携帯電話に関して、利用が拡大するMVNO(仮想移動体通信事業者)の携帯電話についても役務提供拒否に関する情報提供を推進(9,314件の情報提供を実施)
  • 預貯金口座や携帯電話の不正な売買等、特殊詐欺を助長する犯罪の検挙を推進し、検挙件数は4,355件(+271件)、検挙人員も3,269人(+364人)と前年を大きく上回り、とりわけ検挙人員は過去最多を記録

さらに、以下、報道ベースのものもありますが、都道府県における昨年1年間の状況について主なものを紹介します。

  • 昨年1年間に東京都内で発生した特殊詐欺の認知件数は3,510件(前年比1,478件増)となったようです。統計開始の平成18年以降で2番目に多い水準となり、警視庁は、刑事部、組織犯罪対策部、生活安全部など所属部署を横断した捜査員約290人体制で「特殊詐欺対策プロジェクト」チームを発足しました。警視庁はこれまでも摘発強化に努めてきましたが、被害が再び急増してきたことから新たなチームの結成につながったということです(大阪府は昨年4月に同様の組織を立ち上げ、大きな成果を挙げています)。現金受け取り役の「受け子」ら犯行の末端役にとどまらず、主導役を摘発し、詐欺グループの壊滅を目指すとしており、報道によれば、発足式では、副総監が「犯行グループの背後に見え隠れする暴力団などの取り締まりを含め、特殊詐欺根絶に向けた対策を一層強化する」と述べたということです。
  • 大阪府警管内における特殊詐欺全体の件数は、前述した通り、1,597件(前年同期1,633件、前年同期比▲2%)、被害金額は37.5億円(52.6億円、▲29%)と認知件数・被害金額ともに減少しました。

▼大阪府警察 大阪府下の特殊詐欺発生状況(暫定値)

 類型別では、振り込め詐欺の件数は1,573件(1,567件、±0)、被害金額は36,4億円(48.8億円、▲25%)、オレオレ詐欺の件数は486件(405件、+20%)、被害金額は17.8億円(14.4億円、+24%)、架空請求詐欺の件数は502件(381件、+32%)、被害金額は12.2億円(25.3億円、▲52%)、融資保証金詐欺の件数は41件(56件、▲27%)、被害金額は0.5億円(0.8億円、▲36%)、還付金等詐欺の件数は544件(725件、▲25%)、被害金額は5.8億円(8.3億円、▲29%)であり、認知件数では還付金等詐欺の減少が、被害金額では架空請求詐欺の減少が大きく貢献しているようです。なお、特殊詐欺全体における被害者のうち、男性29%、女性71%、65歳以上の高齢者の割合は特殊詐欺全体で74%、オレオレ詐欺96%、架空請求詐欺34%、還付金等詐欺94%となっていますが、全国的な傾向とほぼ同じとなっています。

  • 福岡県内の特殊詐欺の認知件数は597件(前年比+245件、+69.6%)、被害金額は11.4億円(+4.8億円、+72.7%)と急激に増加しています。平成23年以降、被害は増加を続け、平成27年に18.4億円と過去最高を記録したものの、未然防止活動などで平成28年には6.7億円まで減少、今回、再び上昇に転じる結果となりました。
  • 兵庫県内の特殊詐欺の認知件数は766件(前年比+341件、+80.2%)、被害額は約14.6億円(▲0.2億円、▲1.4%)となっています。昨年8月には神戸市灘区で県内過去最悪となる約1.4億円の被害が発覚しています。なお、報道によれば、同県内では、高齢者からキャッシュカードをだまし取り、ATMで出金する手口が増えたのが特徴で、1度に得られる額は数十万円程度にとどまるが、手間が少なくリスクが低いため、犯人側の間で浸透したとみて同県警が警戒を強めているということです。
  • 富山県内の特殊詐欺の認知件数は116件(前年比+2件)、被害金額は1.9億円(▲1.3億円)となり、3年連続で減少したということです。また、被害を阻止した件数は279件(+105件)、阻止した額も約2.3億円(+0.4億円)といずれも過去最多で、阻止率は71.7%にも上り、全国でもトップクラスだということです。

また、最近報道されたもののうち、特殊詐欺の被害防止に関する取り組みについては、以下のようなものがありましたので、紹介します。

  • 徳島県警は、警告の音声を流した後に、会話を録音する機能を備えた「不審電話撃退装置」(着信があると、「振り込め詐欺などの被害防止のため会話内容が自動録音されます」との警告が流れ、会話を全て録音する装置)の利用者に行ったアンケート結果を公表しています。それによると、装置を設置した利用者で特殊詐欺などの被害に遭った人はいないということで、「不安が減った」などの意見も多く、一定の効果が示されたということです。
  • 栃木県の宅配業者が、空き室を使った詐欺グループの存在を昨年2度も察知して警察に相談し、検挙につながったということです。アパートの空き室は、ネット通販で不正に購入した商品の受け取り先にされるだけではなく、特殊詐欺でだまし取った現金の送付先になる場合も多く、首都圏で多くみられる手口です。報道によれば、同県の宅配業者の足利営業所は、ネット通販の荷物量が増加した頃から、宅配事業が犯罪に悪用される可能性があるとして、警戒を強めていたということであり、「ドライバーは配送エリアが決まっているので異変に気づきやすい。ちょっとしたことが犯罪防止につながるので、今後も地域の安全に貢献していきたい」との所長のコメントは、事業者における特殊詐欺対策への貢献という点で極めて示唆に富むものだと言えます。
  • 詐欺に引っ掛かったと装いおびき出した容疑者を、通報を受けた警察官が待ち伏せる「だまされた振り作戦」で、「オレオレ詐欺」撲滅につなげようと、大阪府警和泉署は作戦に協力してくれる市民に詐欺の手口や電話応対の方法を指導し「だまふりGメン」として登録する取り組みを始めています。詐欺の電話を受けると、だまされたふりをして警察と協力し、犯人検挙に協力する高齢者をあらかじめ「Gメン」として登録する仕組みで、府警で初めての試みとなります。
  • 特殊詐欺にあった高齢者の体験記がいくつか報道されています。例えば、最初の電話から受け子が自宅に来るまでの時間はわずか1時間しかなく、矢継ぎ早の展開に「頭が真っ白になった」といったものや、「混乱すると相手のペースにのみ込まれてしまう」、「自分は大丈夫との思いがあったが、実際には考える間もなかった」といった証言があり、多くの高齢者に周知してい欲しいものだと思います(以前も紹介した通り、高齢者は、「自分は騙されない」という自信過剰傾向にあり、かつ、「自分が詐欺被害に陥るほど愚かであるとは思いたくない」という自尊心が強い傾向にあります)。
  • 全国銀行協会(全銀協)は、振り込め詐欺等の被害防止啓発活動に取り組んでおり、交通広告を活用し、JR東日本およびJR西日本の社内モニターに還付金詐欺への注意を促す動画を放映する取り組みや、全国の医療関連施設に設置された専用ディスプレイで還付金詐欺およびキャッシュカード手交型の詐欺事案への注意を促す動画を放映するなどの活動を行っています。
  • 東京東信用金庫は、都内で特殊詐欺の未然防止を呼びかけるロールプレイング大会を開いています。最優秀賞は「東京オリンピック詐欺」を実演した支店が受賞、「東京オリンピックのチケットを購入するから定期預金を解約したい」という顧客を不審に思った営業担当が、事務長に相談、警察との連携で詐欺を食い止めるストーリーを演じたということです。
  • 1日に2人の「オレオレ詐欺」被害を阻止したとして、近畿大阪銀行藤井寺支店恵我之荘出張所に大阪府警から感謝状が贈呈されています。2人とも「息子が株で失敗」したと、電話で息子を装い、高齢女性から現金をだまし取ろうとした手口に騙されそうになったところを行員らが説得したということで、1日に2人の被害を食い止めた事例は極めて珍しいと言えます。
  • 警視庁成城署では、地域の学生ボランティアら約50人が参加し、高齢者宅を訪問し、オレオレ詐欺など特殊詐欺で金銭の受け取り役となる「受け子」を撃退するステッカーを貼り付けるキャンペーンを行っています。「オレオレ詐欺110番通報協力の家」と書かれたステッカーは、世田谷区や同署が1,000枚を作製したもので、受け子が現金やカードを受け取りに来る手口が急増していることを踏まえ、高齢者宅の玄関ドアや門付近に貼り付けたということです。
(3) AML/CFTを巡る動向

 以前の本コラム(暴排トピックス2017年12月号)では、金融庁から出された「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン(案)」及び「主要行等向けの総合的な監督指針」等の一部改正(案)に対するパブリックコメントについて、そのポイントを紹介いたしましたが、先日、そのパブコメの結果等で、金融庁の考え方が示されましたので、以下、簡単にご紹介いたします。

▼金融庁 「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン(案)」及び「主要行等向けの総合的な監督指針」等の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等について

▼コメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方

 まず、本ガイドライン全体を通して強調されている「経営陣による関与」については、マネロン・テロ資金供与リスクが経営上の重大なリスクになりかねないことを的確に認識し、取締役会等において、マネロン・テロ資金供与対策(以下「AML/CFT」という)を経営戦略等における重要な課題の一つとして位置付けることや、経営陣の責任において組織横断的な枠組みを構築し、戦略的な人材確保・教育・資源配分等を実施するといった取り組みが推奨されています。例えば、これまで、AML/CFTを専ら国際部等、国内部門と切り離して独自に形で取り組んできたのであれば、今後は、国内外の組織横断的な課題と位置付けていくことが重要だと言うことだと思います。また、顧客管理、リスク評価、取引モニタリング・フィルタリング等の様々な分野において、システムの共同運用等の業界共通で利用できるインフラ・プラットフォーム等については、関係法令等とも整合した形で、我が国金融システム全体の対策の効率的・効果的な向上の観点から有用な場面も想定されるものと考えており、必要かつ適切な場合には、業界団体や中央機関等も中心的・指導的な役割を果たしながら、検討が進められることが重要との考えが示されています。関連して、国内のグループ会社間の顧客情報・取引情報の情報共有態勢の整備に当たり、個人情報保護法や金融商品取引法など我が国の法制上、どこまでの情報の共有が可能かとの問いに対し、金融庁としては、「個人情報保護法の第三者提供の例外に該当し得る例示として、「暴力団等の反社会的勢力情報、振り込め詐欺に利用された口座に関する情報、意図的に業務妨害を行う者の情報」が挙げられており、犯罪収益移転防止法に基づく疑わしい取引の届出をした顧客情報・取引情報も同様に上記例外的な場合に該当し得るものと考える」との考え方を示しており、注目されます。

 また、リスク管理のあり方という点では、「本ガイドラインを踏まえたAML/CFTの整備について、一律に当庁の承認等を得なければならない旨を定めた法令等があるものではありませんが、各金融機関等においては、本ガイドラインにおける「対応が求められる事項」等と現状とのギャップを的確に把握し、対応の高度化を進めることが必要」(とにかく現場の実態把握をベースとして、リスク評価・リスク分析等を行っていくことの重要性が示されています)、「リスクベース・アプローチにおけるマネロン・テロ資金供与リスクの検証に当たっては、犯罪収益移転危険度調査書を踏まえる必要があるほか、FATF(Financial Action Task Force、金融活動作業部会)や内外の当局等の情報、各金融機関等における個別具体的な事情等を適切に勘案することが重要」(調査書を表面的になぞったような、ひな形的なリスク分析・リスク評価でなく、自立的・自律的な取り組みを要請しています)、「金融機関等がグループを形成している場合には、グループとして一貫したマネロン・テロ資金供与対策を実施すること」、「リスクを細分化し、当該細分類ごとにリスク評価を行うとともに、これらを組み合わせて再評価を行うなどして、全社的リスク評価の結果を「見える化」する」(部分最適だけでなく全体最適の視点が重要であることを示しています)、「各金融機関等の規模や特性に応じて、リスク評価を見直す期間は異なります。定期的な見直しについては、少なくとも1年に1回は見直しを検討することが必要であるほか、新たなリスクが生じたり、新たな規制が導入されたりした場合等に、随時見直すことが考えられる」、「本ガイドラインについては、FinTechその他の様々な動向の変化も踏まえながら、必要に応じて、見直していく。また、AML/CFTにおけるFinTech等の活用については、ガイドラインにも記載のとおり、AI、ブロックチェーン等の新技術が導入・活用され、今後も大きな進展が見込まれるところであり、こうした新技術を活用する余地がないか、前向きに検討を行っていくことが期待される」(時代の変化に柔軟に対応した規制のあり方を志向していると言えます)といった記述が注目されます。

 また、反社リスク対策との関連で言えば、「入口」「中間管理(モニタリング)」「出口」の3つのプロセスの厳格な管理の考え方に役立つものとして、「本ガイドラインにおいては、「取引モニタリング」とは、異常取引の検知等を通じてリスクを低減させる手法をいい、「取引フィルタリング」とは、制裁対象取引等の検知等を通じてリスクを低減させる手法をいう」(反社リスク対策においては、前者は行為(ふるまい)の検知をいかに行うかであり、後者はDBS(データベーススクリーニング)や風評チェック等により相手を見極める手法だと言えます)、「顧客及び実質的支配者について、何を、いかなる方法で確認・勘案等すべきかについては、単一の法令・ガイドライン等で求められる最低水準を画一的に全ての顧客に当てはめるのではなく、リスクが高い場合についてはより深く、証跡を求めて確認を行うなど、リスクに応じた対応を図るべき」(反社リスク対策においても、疑わしい相手について、可能な限り手を尽くして見極めようとする姿勢が重要であり、実質的支配者等の確認と通ずるものがあります)、「高リスク顧客については、通常の顧客における確認項目に加えて、定期的に、例えば1年ごとに、資産・収入の状況、資金源、商流等を確認する、リスクが高まったと想定される場合については、個別に確認を実施すること等が考えられる。これに加えて、各金融機関等において設定した確認項目や頻度が実効的なものとなっているかを含め、実施状況につき検証を行い、必要があれば見直しを行う態勢とすることも求められる」(反社リスク対策における定期チェックは通常1年に1回程度、何等かの形で実施することが望ましいとされているほか、端緒や変化があれば随時チェックを行う運用が通常であり、AML/CFTの実務と同様の考え方だと言えます)、「必要とされる情報の提供を利用者から受けられないなど、金融機関等が自ら定める適切な顧客管理を実施できないと判断した顧客・取引等については、取引の謝絶を行うこと等を含め、リスク遮断を図ることを検討し、また、その際には、AML/CFTの名目で合理的な理由なく謝絶等を行わないことが必要」(反社リスク対策における「出口」対応のあり方、とりわけ、反社会的勢力の立証が難しい場合、他に解約事由がないか検討する際に参考になります)、「その判断から届出をするまでに「1か月程度」を要する場合、「直ちに行う態勢を構築」しているとはいえない」(疑わしい取引の届出の認知から報告まで1か月かかるようでは十分な態勢とは言えないとする「スピード感」は、反社リスク対策においても参考にすべきです)など、AML/CFTと反社リスク対策の実務の共通項が多いことが実感できます。

 なお、より具体的な実務とはなりますが、いくつか紹介すると、「送金業務における送金依頼人・受取人の確認等については、第一次的には、委託元金融機関等が実施することになるものと考えられる。他方、受託する金融機関等においても、委託元金融機関等における態勢整備の不備は自らのマネロン・テロ資金供与リスクに直結するものであることを踏まえ、委託元金融機関等の管理態勢を適切に監視することが求められる」(AML/CFTでは、1つの金融機関でも低いレベルだと金融システム全体に影響するとの認識が強烈に必要とされることがよく理解できます)、「国内PEPs(Politically Exposed Persons)については、外国PEPsと対策の必要性の程度が異なるため、慎重な検討を行う必要があり、本ガイドラインに明示的には記載していない」(この点については、パナマ文書やパラダイス文書でタックスヘイブンを活用した国内PEPsも存在したことや政治家の贈収賄リスクが高いことなどをふまえれば、早急に検討すべき課題だと思われます)、「本ガイドラインにおける「本人確認事項」については、犯収法上の「本人特定事項」のほか、例えば、顧客及びその実質的支配者の職業・事業内容、経歴、資産・収入の状況や資金源、居住国等が含まれ得るより広い概念だが、あらゆる顧客や実質的支配者に対して、一律に各項目を確認・勘案等することを求める趣旨ではない」(反社リスク対策における疑わしい相手のチェックをどこまで行うべきかと同様、一律に定められるような問題ではないと言えます)などが挙げられます。

 また、このガイドライン等を巡っては、金融庁が、金融機関との意見交換の場でも、その考えを明確にしていますので、以下、簡単にご紹介します。来年予定されているFATFの第4次審査に向けて、当局としての強い姿勢が感じられること、「マネロン・テロ資金供与対策は、1つの金融機関でも低いレベルだと金融システム全体に影響する」との危機感のもと、全体の底上げの重要性を訴えつつも、個々の金融機関の自立的・自律的な取り組みを促す方向にあること、などが読み取れます。

▼金融庁 業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点

▼共通事項(主要行/全国地方銀行協会/第二地方銀行協会/日本損害保険協会)

 まず、「経営環境の変化が加速化しており、金融機関は、最低基準を守ることに安住していては、その変化に遅れをとり、最低基準の達成すら危うくなる。本来、利用者にとってより良い商品・サービスを提供する金融機関が選択され全体の水準が向上する環境が望ましい。そのため、いつまでも最低限の実務に留まるのではなく、より優れたプラクティスに向けて各金融機関が改善を図っていくべきものである」こと、このため、「これまでの形式を重視した「最低基準検証」だけではなく、「見える化」や「対話」を通じて、ベスト・プラクティスを追求する金融機関の取組みを促していく」ことが示されています。さらに、金融機関に対して、「いつまでも最低限の実務に留まるのではなく、より優れたプラクティスに向けて各金融機関が改善を図っていくべきもの」と厳しく迫っています。その上で、本ガイドライン(案)について、「金融機関の実効的な態勢整備を促すために、マネロン等に係るリスク管理の基本的考え方を明らかにしたもの」であり、具体的には、「マネロン・テロ資金供与リスクに関し、各金融機関が行うべき基本的事項として「リスクベース・アプローチ」(金融機関が自らマネロン等に係るリスクを評価し、これに見合った措置を講ずること)によるリスク管理の実行が必要であることを明記」、「AML/CFTは、1つの金融機関でも低いレベルだと金融システム全体に影響する一方、各金融機関が直面しているリスクは規模・業容等に応じて異なり、自らのリスクに応じた対策が求められる」と、AML/CFTに対する基本的な考え方・スタンスが示されています。そのうえで、前述のコメント等でも見られたように、「今後、各金融機関におかれては、ガイドライン記載の対応が求められる事項と現状とのギャップ、及びそのギャップを埋めるべく今後何を行うのかという点について、検討をお願いしたい」と、まずは現状の実態把握をしっかり行うことの重要性が強調されています。

 さらに、金融庁は、「マネー・ローンダリングやテロリストへの資金供与の未然防止は、日本の金融システムの健全性を維持する観点から、重要な課題であり、2019年には、FATFによる第4次対日相互審査も予定されており、国際社会におけるテロ等の脅威が増す中で、官民が連携して体制を強化することが必要」であり、「金融庁における体制強化の一環」として、AML/CFTに係るモニタリングの企画等を行うため、「マネーローンダリング・テロ資金供与対策企画室」を設置しています。

▼金融庁 マネーローンダリング・テロ資金供与対策企画室の設置について

 金融庁によれば、当室は、金融機関のAML/CFTに関して、(1)FATF審査への対応に関する企画・調整、(2)国際的な業務を展開する金融機関のAML/CFTに関する業務についてのモニタリングの企画等を行うことを目的としています。

(4) テロリスクを巡る動向

 イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)掃討を進める米軍主導の有志国連合は、イラク、シリアにおけるISの支配地域の約98%を奪還したとして、イラクでの駐留部隊の規模を情勢に応じて縮小させる方針を明らかにしており、今後、イラクでの活動の重心を、戦闘支援から国境管理や訓練指導に移すとしています。また、米は、米軍の増強計画など国防の方向性を示す戦略文書「国家防衛戦略」を、トランプ政権として初めて発表し、軍拡を急速に進める中国とロシアを米国主導の秩序に挑む「現状変更勢力」と位置付け、主要脅威として明示、国防の最優先事項を「テロとの戦い」から、中露との長期的な「大国間競争」に転換する方針を打ち出しました。さらに、2016年3月にブリュッセル空港や地下鉄での連続テロで多数の死傷者を出したベルギーは、同国の4段階のテロ警戒水準を上から2番目の「深刻」から3番目の「中位」に引き下げたと発表しています(発表を受けて、空港や主要駅、重要施設などを中心に警備に当たってきた軍兵士の数が減らされました)。このように、国際社会は急速に「IS後」へとシフトしていますが、テロとの戦いはまだ終わってはいません。(直近の報道によれば、ISの最高指導者アブバクル・バグダディが空爆で死亡したと思われていたところ、シリア近郊のIS支配領域に潜伏している可能性が高いことが分かったようです。事実であれば、今後のISの動向について注視していくことが必要です)。専門家によれば、今もISに忠誠を誓う者がイラクとシリアに約1万人おり、実際に戦闘に参加している人数は1,000~1,500人ほどだと推定されています。全盛期の約45,000人からは大幅に減ったものの、今なお散発的なテロは各地で続くなど、一定の勢力を維持しているとされます。また、ISの最大拠点だったイラク北部モスルでは、子どもたちは暴力支配の「後遺症」に苦しみ、破壊しつくされた街の再建には巨額の資金が必要で、残虐な過激派が街と住民に残した傷を癒やすのは容易ではなく、国際社会のさらなる支援が不可欠な状況になっています。さらに、アフガニスタンのカブールでは最近、ISと旧支配勢力タリバンが競うようにテロを繰り返し、手口も巧妙化しており、最近も大規模な自爆テロが発生しています。IS拡大阻止のためタリバンを支援していたロシアに対し、米トランプ政権がアフガン戦争への関与を強める中、国家の中枢である首都を攻撃することで、政府や外国軍への信頼を失墜させる狙いがあるとみられるなど、「IS後」ゆえの混迷が深まっている状況です。

 一方、IS帰還兵の帰国によって「脱過激化」とローンウルフ型テロ対策の封じ込めのバランスに頭を悩ませる欧州においては、ISへの脅威と「IS後」のロシアの脅威を念頭に、「徴兵制」復活の動きがあります。スウェーデンがこの1月から8年ぶりに復活させたほか、仏もマクロン大統領が公約通り徴兵制復活を宣言しています。ナチスの反省の上に立つドイツですら、最近の治安情勢の悪化をふまえ、国内で議論が続いています。また、米においては、米情報機関が捜査令状なしで外国人のインターネット通信を監視できる外国情報監視法の条項を6年間延長する法案が成立しています。テロ組織などとつながりを持つ国外にいる外国人を対象に、国家安全保障局(NSA)による電話・通信の傍受を可能にするもので、プライバシー侵害への懸念が根強く、議会にも慎重論があったものの、トランプ大統領の強いイニシアティブにより成立したものです。なお、テロ対策とプライバシーの侵害との緊張関係という点では、アジアやアフリカの新興国で、携帯電話の利用者に指紋などの生体情報を登録させる動きが広がっていることも挙げられます。バングラデシュやナイジェリアなどはすでに導入済み、タイはこの2月から始まっています。報道(平成30年1月20日付時事通信)によれば、爆弾の起爆装置に使われることの多い携帯電話の利用者を生体情報により精度高く特定できることで、携帯電話のテロなどの犯罪への悪用を防ぐとともに、捜査にも活用する狙いがあるとされます。当然ながら、政府による個人監視が強まると懸念する声も聞かれ、今後、ISの残党や現地勢力等がテロを引き起こす可能性が高いとされるアジア・アフリカ地域における治安対策・テロ対策とプライバシー侵害のバランスをどう取るか、極めて難しい問題となっています。

 さて、「IS後」の国際情勢が、様々なバランスを求められる中、日本としては、日本独自の国際社会への貢献のあり方を模索すべきだと言えます。先日、政府は、北朝鮮の外貨獲得源を断つため、北朝鮮と国交のあるアフリカやアジア地域の途上国への支援を強化する方向性を打ち出しています。武器取引やマネー・ローンダリングの規制強化に必要な人材育成や機器導入を支援し、制裁の抜け道を塞ぐ狙いがあるとされますが、同時に、「IS後」のテロ対策にも通じるものだと言えます。日本は、既に、日本独自のテロ対策・復興支援として、武器の蔓延や不安定なエネルギー供給などが社会不安の要因だとして、武器回収や火力発電所の改修支援、教育など「武装解除・動員解除・社会復帰」事業を推進する方針も打ち出しています。テロや北朝鮮リスクの拡散防止のため、正に、伊勢志摩サミットで示された「多元的共存」「寛容」「平等」の趣旨に則った日本独自のやり方で積極的に貢献していくことが求められていると言えるでしょう。

 さて、「事業者が講ずべきテロ対策」については、まだよく理解されていない事業者も多数存在しているものと思われますが、以下、警視庁が作成した資料から、そのポイントについて、簡単にご紹介しておきたいと思います。いずれも「不審」という「感覚」に頼りがちなものが具体的な事例が記されており、テロ対策の観点から事業者として、役職員としてどのように対応すべきかが理解できると思います。また、是非、社内研修等の一環としてご活用いただければと思います。

▼危機管理対策の心得

▼中小企業におけるテロ対策マニュアル

 テロを未然に防ぐためには、市民や事業者からの情報提供が不可欠であり、実際にこれまでも多くのテロが通報により未然に防止されているところ、「不審者」「不審物」とは、以下のような特徴があるようです。

■不審者

  • 同じ場所を行ったり来たりするなど不自然な行動をしている
  • 見かけない車両が、長時間駐車している
  • 天候や季節に合わない不自然な服装をしているなど、その場にそぐわない格好をしている
  • 施設周辺で、施設内を覗き込んで中の様子を窺っている
  • 見かけない人がうろつきながらメモや録音をしたり、写真やビデオで不自然な撮影をしたりしている
  • 双眼鏡や望遠鏡を使用して不自然な行動をしている
  • 防犯カメラの設置場所や撮影方向等を確認又は記録している
  • 警備システム等を作動させるなど、システムの機能や警備体制等を意図的に試すようなことをしている
  • 人目を避けるようにしながら、バッグ等の荷物を置き去ろうとしている
  • 関係者以外容易に立ち入れないような場所を、見かけない人が興味深そうに眺めている
  • 身分証明書の提示を拒否する  など

■不審物~「さわるな」「ふむな」「けとばすな」

  • 放置された荷物等で、持ち主が不明である
  • 発見されにくいように隠匿して置いてある
  • 粘着テープやひも等で厳重に包装、固定されている
  • 中から機械音のようなものが聞こえる
  • 火薬や薬品の臭いがする
  • 脅迫やトラブルの後に不審物が発見された
  • 身に覚えのない郵便物で、差出人もはっきりしない

■不審物隠匿場所(参考)

  • 物置場・待合室・チケット販売所・コインロッカー・売店・食堂・ゴミ箱・トイレ(化粧室) ・自動販売機付近・公衆電話付近・座席(観覧席)の下・階段、踊り場・非常口付近・駐車場・駐車中の車両・植込み・中央制御室(コントロールルーム)等重要施設付近 など

■爆発物の特徴

【注】トラップ式の起爆装置の可能性もあることから、持ち上げたり開被したりせず、あくまでも外形観察に止めること

  • 金属反応がある
  • 電線(リード線)・回路基盤・電池・時計が見える
  • 粘着テープやひも等で厳重に包装、固定されている
  • 「危険」などのメモ書きや「爆発」などの表示がある
  • 改造してある木製あるいはプラスチック製の箱や不自然な工作物である
  • 火薬や薬品の臭いがする
  • 中からにじみ出た液体等の汚れがある
  • 不審な出来事(脅迫電話やトラブル等)の後に、不審物が発見された

また、「不審郵送物(郵便物・小包等)」への対応としては、以下の通りです。

■不審郵送物の着眼点(一般留意点)

  • 突然の配送、発送元に見覚えがない、見知らぬ人からの発送である
  • 差出人の住所・氏名が記載されていない、虚偽の住所又は同住所が存在するかどうか裏付けが取れない
  • 宛名が、新聞雑誌の切り抜きを貼っていたり定規等を使用して書かれていたり不自然である
  • 必要以上に「親展」、「至急」、「取扱注意」等の表示がある
  • テープや紐を多用するなど、必要以上に厳重な包装である
  • 液体が漏れ包装紙や封筒にシミや汚れ、湿り気があり、異臭を発している
  • 金属反応がある
  • 時計の秒針を刻むような音がする
  • 差出人からの脅迫電話や差出人とのトラブルがある
  • 配達人の服装、腕章、配達車等がいつもと違い、配達人の態度がどことなく不自然である

■郵便物の留意点

  • 郵便物の中にボール紙や金属が
  • 入っているような硬さ、重さ、厚さがないか
  • 粉末が入っているような感触がないか
  • 重さが片側に偏っていないか
  • 糊しろの部分に紐や針金様のものがついていないか
  • 切手が多すぎるなど、不自然に切手の金額が高くないか

■小包の留意点

  • 配達伝票に記載されている商品
  • 名や大きさに比べて重さが不釣合いでないか
  • 表面に、「爆発物」、「危険物」等の表示がないか
  • 包装紙、紐、シール等が一度使われたようなものではないか
  • 金属が入っているような硬さがないか
  • 小包の中から紐等が不自然に出ていないか

また、業種別留意事項のうち、主なポイントについては、以下の通りです。

■共通~従業員の管理の徹底

  • 普段から従業員同士のコミュニケーションを図り、定期的に面接を実施するなど、お互いの変化にすぐ気づけるようにする
  • 新規採用者を朝礼等で紹介するなど、働いている者同士の顔が見える職場づくりをし、従業員が見慣れない人間の存在に疑問を持つような習慣をつける
  • 従業員の制服、名札、バッジ、鍵などの管理を適正に行う

■宿泊業~身分確認・通報連絡

  • まず重要なことは、利用者の身分確認を徹底すること。日本国内において活動、潜伏している可能性のあるテロリストの情報収集や追跡調査をする上で、ホテルや旅館等からの情報は非常に重要
  • 利用者が外国人の場合は、旅券番号等を正確に把握する
  • 不審な動向や言動がある利用者がいる場合、警察に通報する

■食品取扱業~施設の強化(食品テロへの対応)

  • 製造工程における監視機能を充実させ、死角のないレイアウトと環境整備を徹底し、加害行為を容易に発見できるようにする
  • 直接食品に手を触れる場所など、有害物質を混入しやすい場所には監視カメラを設置するなど、重点的に対策を
  • 食品保管場所については補助鍵を設置して、窓などの侵入可能場所については格子を設けるなど、不審者侵入防止を徹底する
  • 商品の積下ろし、積込み作業は、食品を取扱う上で脆弱な箇所であり、人による監視や、監視カメラを設置するなどの対策を強化する
  • 井戸、貯水、配水施設へは、出入り可能な従業員を限定し、他の者には入らせない

■運送業~車両の保守管理

  • 保有車両の保管場所においては、車庫内外の巡回を積極的に行い、異常の有無を確認
  • 車両の保管場所には、重点的にセンサーや防犯カメラ等を設置して、盗難防止に努める
  • 防犯カメラの映像は録画しておく
  • 車両を無人にする際は、確実なドアロックを
  • 荷物の積降ろしの際は、可能な限り、車両や荷物から目を離さないようにする
  • 万一、保有車両が盗難に遭った際は、すぐに警察に通報を

■集客施設~「見せる警戒」の実施

  • 従業員や警備員による警戒は、利用者等に対しても警備を実施していることが目で見てわかるように行い、常に警戒が行われている場所であるということを印象付ける
  • 防犯カメラやセンサーなどの防犯資器材を目立つ場所に多数配置し、テロを起こしにくい雰囲気を作る
  • コインロッカーやゴミ箱を設置する場合は、なるべく人目につく場所に設置し、中が見える透明なものにすると有効

■危険物、薬品等取扱業~危険物の管理

  • 危険物の貯蔵施設における保管状況、保安体制等を再点検し、盗難、紛失防止を徹底
  • 危険物の運搬中における盗難又は紛失を防止するため、各種防護対策を強化する
  • 危険物消費場所等における適正な管理を徹底し、盗難、不正流出の防止に努める
  • 危険物を取り扱う際は目を離すことなく、見張り等を配置する
  • 危険物の売買、譲渡するときの手続きや法令を遵守する
(5) 犯罪インフラを巡る動向

●ダークウェブ

 仮想通貨NEMの問題では、不正送金先の口座の持ち主が「ダークウェブ」と呼ばれる匿名性の高いインターネット空間で、他の仮想通貨との交換を行ったことが明らかとなりました。ダークウェブについては、本コラムではたびたび取り上げていますが、アクセス元の場所や端末を特定できないようにする匿名化ソフト(Tor)を使ってのみ接続できるネット空間で、麻薬、銃器、個人情報、サイバー攻撃の不正プログラムなどが売買され、犯罪が行われていても販売者や購入者の特定は難しく、取引には(匿名性の高い)仮想通貨が使われることなどもあって、正に巨大な犯罪インフラとなっています。最近では、昨年8月に、米司法省が、世界最大のダークウェブ「アルファベイ」を欧州やアジアの司法当局と連携して摘発した事件が記憶に新しいところです。アルファベイでは、摘発時、違法薬物や毒性のある化学物質の販売告知が25万件以上出品されていたほか、偽造身分証明書、銃器なども販売されており、4万人の売り手が参加し、20万人超の顧客が利用していたと報じられています。そのようなダークウェブについて、今般、警察庁は、初の実態調査に乗り出す方針であると報じられています(平成30年1月28日付日本経済新聞)。一般にはアクセスできない水面下での取引の流れや入手経路などを探り、2020年に東京五輪・パラリンピックが迫る中、政府機関や重要インフラを狙った大規模サイバー攻撃への備えの強化が狙いだということです。調査はダークウェブの運営側と接触するノウハウを持つ海外の複数の情報セキュリティ会社の中から国内の代理店を通じて委託する形などを想定しているようです。報道では情報セキュリティ分野が触れられていますが、ダークウェブではあらゆる犯罪が行われていることから、日本の暴力団等の反社会的勢力の資金源となっている可能性や、多くの犯罪インフラの売買がなされている可能性もあり、そのような実態の解明もまた期待したいところです。

●専門家リスクほか

 様々な分野の「専門家」が、自らの専門性を犯罪に悪用・転用する行為(意識的に悪用する場合だけでなく、有用性がいつのまにか転用され悪用されてしまう場合などもあります)や、それによって犯罪の手口の高度化・巧妙化を助長しているリスク(専門家リスク)については、最近、様々な分野で顕著に見られるようになりました。その背景には、分野を問わず、技術やノウハウが高度に専門化・細分化し、それ以外の者には分かりにくくなっていること、有用性と悪用の境目も専門家以外には判別しにくくなっている状況(さらには専門家すら判別が難しい状況)などが挙げられると思います。最近では、1980年に根絶が宣言された天然痘の原因ウィルスによく似たウウィルスを人工的に合成したと、カナダと米国の共同研究チームが米科学誌で発表したことが波紋を呼んでいます。同じ技術を用いれば、感染力が強く致死率も高い天然痘ウィルスを作製できる可能性が高く、テロリストや犯罪組織らによる技術の悪用への懸念が高まっているためです。報道(平成30年2月6日付毎日新聞)によれば、天然痘ウィルスについては、旧ソ連が第二次世界大戦後も生物兵器化を目的に研究していたことが知られており、ソ連崩壊の際に技術やウィルス株が流出した可能性が指摘されており、米軍や日本の自衛隊は海外の一部地域へ赴く際、軍事目的でウィルスが使われた場合に備え、今でも天然痘ワクチンを接種しているとされています。軍事用と民事用の「デュアルユース」の問題は以前から悩ましい問題ではありましたが、今回の天然痘ウィルス作製技術は、そもそも社会的な意義や高リスクという点で公表されるべきではなかったように思われます。専門家であれば、成果を誇示する前に、その成果がどのような悪影響を及ぼすか、その重大性にまで思想を深めるべきであり、それを取り巻く関係者においてもその「専門家リスク」の高さを正しく評価し、慎重な対応をすべきではなかったか、今後の検証が望まれます。

 さて、本コラムでは、医薬品業界(関連して医療業界)のリスク感性に問題があるのではないかとたびたび指摘しています。そもそも医薬品が生命に関わるもので厳格な管理が求められ、高額な商品であれば転売リスクが高くより一層管理を厳格化する必要がある、といったリスク管理上の常識から見れば、現状はいまさらこのレベルでよいのかという状態です。医薬品業界では安心を蔑ろにする不祥事が相次いでいますが、まずはこの世間一般からあまりにも乖離したリスク感性から正していく必要があると思われます。高額なC型肝炎治療薬「ハーボニー配合錠」の偽造品が流通した問題については、最近になって、医薬品医療機器法違反容疑で広島県の夫婦が逮捕されています。このハーボニーの偽造品は、これまで東京都の卸売業者と奈良県の薬局から計15本が見つかっており、流通の過程には、同夫婦が持ち込んだ卸売業者をはじめ、薬局や病院などから余った薬を安く仕入れて転売する「現金問屋」が複数関与していました。本件では、「現金問屋」と呼ばれる卸売業者が、「秘密厳守」として相手の身元を確認せず医薬品を安価で仕入れる商慣行や、外箱がない状態でも流通できてしまう状況が問題視されました。この問題を受け、厚生労働省は、今般、医薬品医療機器法の施行規則などを改正し、卸売業者や薬局が医薬品を仕入れる際は販売許可証や身分証などで身元を確認することを義務化、医薬品の製造番号や使用期限なども書面で保存する、卸売業者や薬局が封を開けて販売した場合は、開封した薬局の名前や住所を表示するといったことを要請しています。このような規制の強化によって、問題ある商慣行が改善し、もってリスク感性の鈍さから脱却することを期待したいところです。ただ、最近でも、同じ医療業界の「医師」による向精神薬の不正譲渡の事案が発覚しています(麻薬取締法違反(営利目的譲り渡し)の疑いで精神科医が逮捕されたものです。患者数十人に対し、正規の診察をせずに宅配を含めて不正な譲渡を繰り返したほか、薬の一部は自らも使用していたようです)。その意味では、医薬業界における仕組みやリスク感性(あるいは常識)全般の立て直しが急務だと言えます。


 さて、その他にも、最近の犯罪インフラにかかる事例としては、以下のようなものがありました。

  • 在留カードや免許証の偽造品を使ったとして、ベトナム人の33歳の男2人が出入国管理法違反(偽造在留カード行使)などの容疑で群馬県警に逮捕されています。また、偽造した在留カードを密輸しようとしたとして、警視庁東京空港署は、関税法違反(無許可輸入未遂)の疑いで中国人留学生を逮捕しています。北京から航空機で羽田空港に入国する際、偽造の在留カード93枚を密輸入しようとした疑いのほか、偽造用とみられるデータ未入力のカード1,150枚も押収しています。これらの犯罪の背後には、中国を拠点とする偽造グループが存在すると言われており、インターネットやSNSを通じた購入の実態があるとのことです。偽造カードによって家を借りたり、口座を開設したりすることが容易になるほか、テロなどの犯罪の温床となるおそれがあり、注意が必要な状況です。群馬県警の事例では、事業者が採用面接の際に偽造に気づいたことが端緒となっており、正に事業者による水際での摘発が重要であると言えます。
  • マレーシア人詐欺団が、全国のJR線が乗り放題となる特別切符「ジャパン・レール・パス(JRパス)」を使って全国を移動しながら、各地の小売店でブランド品などを偽造カードで購入していたことが明らかとなりました。報道(平成30年2月1日付産経新聞)によれば、JRパスは、乗り降りの際に有人改札でチェック、パスにスタンプを押す方式で、交通系ICカードに比べ記録が残りにくいとされ、訪日客にとって利便性が高い一方で、その「足がつきにくい」という特徴が犯行グループに悪用された形となります。また、「足がつきにくい」という意味では偽造カードの利用もそうであり、広域を移動しながらの犯行であることとあわせ、今後、訪日外国人の増加に伴い、犯罪組織等が日本国内を飛び回って犯罪を敢行するおそれがあり、全国各地の警察間の連携が試されることになります。
  • 偽造した印鑑登録証明書などを使用し、東京都品川区の土地を登記しようとしたとして、警視庁捜査2課は、偽造有印公文書行使などの容疑で、会社役員ら5人を逮捕しています。容疑者らは所有者に成り済まして土地の売買代金をだまし取る「地面師」グループとみられており、グループはこの品川区の土地をめぐる取引で港区の不動産会社から約3億6,000万円を受け取ったが、会社は土地を取得できなかったということです。「地面師」の問題は、登記上の手続きにおいて偽造書類等を使って土地が勝手に転売される詐欺犯罪という意味で、登記手続きの脆弱性、あるいは、司法書士などがその専門性(肩書き)を悪用する(される)「専門家リスク」などがその根底にあります。また、東京五輪を控え、地価が上がり続ける首都圏などで、所有者が高齢で放置されたままの空き地が狙われやすい傾向にあるようです。目の前にいる人間が何者かを客観的に証明することすら実は難しいという本人確認手続きの困難性を痛感させられます(対面取引ですら困難であるのに、非対面取引における本人確認手続きを簡略化しようとする動きについては、大きな懸念を覚えます)。
(6)その他のトピックス

●薬物を巡る動向

 報道(平成30年2月6日付毎日新聞)によれば、昨年(平成29年)1年間に全国の警察が摘発した覚せい剤密輸事件での押収量は1,068キロ(暫定値)で、過去2番目の多さだったということです。過去最多だった平成28年よりも360キロ減少しましたが、統計がある2002年以降で初めて2年連続で1トンを超えています。一方、後述する犯罪統計資料(平成29年分)によれば、「覚せい剤取締法」違反の認知件数は14,065件と前年の14,945件から▲5.9%、検挙人員も9,900人と前年の10,259人から▲3.5%と減少傾向が続いています。密輸事件での押収量の増加が、海外から国内への流入量が増えていることを示す一方で、認知件数が減少していることから、国内で覚せい剤が広く深く浸透しつつある状況が懸念されるところです。また、本コラムでたびたび指摘している通り、覚せい剤以上に急速に浸透しつつある大麻についても、「大麻取締法」違反の認知件数が3,907件と前年の3,378件から+15.7%、検挙人員も2,957人と前年の2,479人から+19.3%となっており、数値面でもその浸透ぶりがうかがえます。さらに、暴力団の資金源としての薬物事犯という観点で言えば、昨年1年間の暴力団関係の覚せい剤取締法違反の認知件数は6,844件と前年の7,493件から▲8.7%となった一方で、大麻取締法違反については、認知件数が1,086件と前年の1,002件から+8.4%となっており、大麻と暴力団の関係が一層緊密になっている状況がうかがえます。

 さらに、前回の本コラム(暴排トピックス2018年1月号)でも紹介した通り、大麻の栽培に関する報道も相次いでおり、埼玉県内の大麻事件の検挙人数が10月末時点で56人に達し、昨年1年間(59人)に迫る勢いで増加していること、とりわけ栽培に関する検挙は件数・人数ともに大幅に増えており、一軒家やマンションなどを利用した「栽培プラント」が相次いで摘発されているといったものや、栃木県警が、販売目的で大麻を所持、栽培していたとして、大麻取締法違反容疑で男2人を逮捕し、大麻5.9キロ(末端価格3,540万円相当)と栽培中の大麻草92本を押収した(平成に入ってから栃木県内の押収量としては最大)といったものがありました。直近ではそれらに加えて、東京都文京区のマンション一室で、販売目的で乾燥大麻約2,550グラムを所持した上、大麻草73本(乾燥大麻950グラム相当)を栽培した疑いで男が逮捕された事例が報道されています。報道によれば、部屋の火災報知器が作動し、近所の住民が110番して発覚したもので、部屋は無人でベランダの窓から中に入ったところ、大麻草を発見、室内に生活用品はなく、栽培に使う肥料や保管用の瓶が見つかったということです。また、奈良県でも、男2人が、営利目的のため乾燥大麻を若干量所持した疑いで逮捕されていますが、マンションの部屋から異臭がするとの通報があり発覚しています(大麻草5株や照明器具などが押収されています)。これら、密売組織に属さない個人がマンションの一室などで大麻を大量に「水耕栽培」して検挙される事件が相次いでいる背景には、家庭園芸人気の高まりで水耕栽培のキットがインターネットなどで安価に入手できる環境が挙げられます。これらの事例が「異臭」や「人気がないのに大量の電気が消費されている(火事につながる)」といった端緒から、近所の通報等で発覚することが多く、その端緒等をまとめた埼玉県警HPの大麻栽培プラントに関するページをあらためて紹介しておきます(暴排トピックス2018年1月号で詳しく紹介しています)。

▼埼玉県警察 大麻の乱用が急増中!私たちの身近な場所で大麻栽培が!

 本コラムでこれまで指摘している通り、大麻の危険性を「誤解」によって軽視している状況を早急に改善する必要があります。大麻を巡っては、一般人の大麻栽培の問題にとどまらず、世界的な大麻合法化・非処罰化の国や地域(例えば、北米、中南米)などからの流入量の増加、危険ドラッグから大麻、大麻から覚せい剤へのシフトなどの危険な事態の定着化・深刻化が進行しています。また、大麻の有害成分であるテトラヒドロカンナビノールが品種改良を経て強力になっていること(有害性が高まっていること)、最近では、「大麻ワックス」と呼ばれる自生大麻に比べて数十倍の濃度の幻覚成分を持ち、抽出するための容器やフィルターのセットがインターネットで販売され、電子たばこなどで手軽に吸引されているような危険なものも流通しています。正に、これまで以上に大麻の違法性・有害性を国民にきちんと伝えていくための広報が重要となります。

 それ以外にも、薬物事犯に関して注目すべき報道としては、以下のようなものがありました。

  • 東京都練馬区のアパートの一室で、危険ドラッグ約185キロ(約36億円相当)を保管していたとして、警視庁と関東信越厚生局麻薬取締部の合同捜査本部が、医薬品医療機器法違反(販売目的貯蔵)の疑いで、男6人を逮捕しています。危険ドラッグの一度の押収量としては過去最大規模で、男らは危険ドラッグをインターネット上で販売していたとみられています。大麻や覚せい剤の動向の影に隠れがちな危険ドラッグですが、今でも厚生労働省等がネット上の監視を厳しく続けているものの、これだけの量の危険ドラッグがいまだに流通している現実にあらためて気づかされます。
  • 「頭がスッキリする」「集中力が高まる」などの効果をうたう「スマートドラッグ」について、厚生労働省は、個人輸入の規制を強化するとのことです。報道(平成30年1月16日付日本経済新聞)によれば、スマートドラッグに厳密な定義はないものの、本来、注意欠如・多動性障害(ADHD)やてんかん、睡眠障害などの治療に使われる医薬品で、脳の血流を増やし中枢神経を覚醒させる成分が含まれ、記憶力や行動意欲を高める作用があるといい、受験生らに拡がっているということです。一方で、倦怠感といった副作用や依存性も指摘されており、今後、「健康被害や乱用の危険があると判断した時点で規制対象に追加する」(同省)ということです。「スマートドラッグ」という名称から気軽に服用し、乱用につながれば、危険ドラッグや大麻、覚せい剤といった薬物に進行する可能性も否定できず、規制に向けての早急な見極めが必要だと思われます。
  • 宮城県警銃器薬物対策課と仙台北署は、東北大学の留学生6人を麻薬取締法違反(譲り受け)容疑で逮捕したと発表しています。逮捕されたのはニュージーランドやスイス、フィリピンなど6か国の20~26歳の男女で、5人は同じ学生寮に住んでいたということです。同大はHP上で「留学生の受け入れにあたっての審査体制の強化と留学生への禁止薬物に関する教育に徹底して取り組んでいく」とコメントしています。本コラムでたびたび指摘している通り、薬物犯罪は個人的な犯罪ではあるものの、報道によって所属組織名が明かされるケースも多く、レピュテーションを毀損するという意味では組織を取り巻くリスクのひとつと位置づける必要があります。世界最高水準の教育・研究・社会貢献を目指す大学として「指定国立大学」に指定されている大学だけに、留学生による違法薬物リスクについては、その多様性の中に潜むリスクとしてあらかじめ想定できたはずであり、もっと感度を高くして徹底的に取り組むべき事項だったと指摘できると思います(研究分野ではグローバルスタンダードを充足していても、リスク管理の分野ではグローバルスタンダード化に遅れをとっていると言うことです)。

▼東北大学 外国人留学生の逮捕について


●犯罪統計資料(平成29年1~12月分)から

 警察庁から、犯罪統計資料(平成29年1~12月分)が公表されています。

▼警察庁 犯罪統計資料(平成29年1~12月分【確定値】)

 本統計資料によれば、平成29年1~12月の刑法犯全体の認知件数は915,042件と、前年同期の996,120件から▲8.1%となり、戦後最少を記録しました。刑法犯の7割超を占める窃盗犯の認知件数が655,498件と前年の723,148件から▲9.4%と大幅に減ったことが大きな要因ですが、刑法犯の減少は15年連続であり、ピーク時の2002年(285万件)の3分の1の水準にまで減少しています。その要因としては、防犯カメラの普及があげられます(とりわけ、窃盗犯の31.3%、刑法犯全体の22.4%を占める自転車の盗難対策に防犯カメラが極めて有効であることは各種の実証実験から明らかとなっており、昨年についても、自転車盗は前年比▲13.1%と大幅に減少しています)が、それ以外にも地域の防犯パトロール強化など官民一体の取り組みが功を奏していると言えると思います。なお、参考までに、「万引き」の認知件数は108,009件(前年同期112,702件、前年同期比▲4.2%)となった一方で、知能犯の認知件数は47,009件(45,778件、+2.7%)、うち「詐欺」の認知件数は42,571件(40,990件、+3.9%)と全体的な減少傾向とは逆に増加していることが分かります(前述の通り、このうち特殊詐欺の認知件数は18,201件と前年から4,047件増、前年比+28.6%でした)。また、検挙件数については、刑法犯全体では▲3.0%の327,105件で、検挙率は1.9ポイント増の35.7%にとどまっています。一方で、殺人や強盗などの重要犯罪に限ると検挙率は80.3%に達し、19年ぶりに8割を超える結果となりました。報道によれば、検挙率は、1950年代から80年代後半にかけて5~7割台で推移してきたものの、90年前後から低迷し、2001年に過去最悪の19.8%を記録、その後、改善傾向にあるものの、以前の水準を回復していない現状にあります。認知件数に見られる犯罪の数は劇的に減少しても、検挙率が低くとどまっていることから、「体感治安」がなかなか上昇しない要因のひとつと思われますが、認知件数の増加は、警察の相談体制が強化されたために、それまで被害者が泣き寝入りしていたような犯罪が掘り起こされているといった側面があり、一方で、刑法犯全体の71.6%を占める窃盗事件について、マンパワー不足から余罪調査が十分にできなくなったこと、また軽微な犯罪で検挙実績を積み上げるより、より重大な犯罪の捜査に人的資源を振り向けるようになったこと(これも「リスクベース・アプローチ」のひとつです)も、検挙率の低下につながっている側面があると言われています。そして、重要犯罪の発生率の低さや検挙率の高さが世界でも際立っている一方で、国民の「体感治安」が改善しない背景には、現実に起きている殺人事件の認知件数とは無関係に、メディアで「凶悪」というキーワードとともに殺人等の重要犯罪が報じられる件数が増えていることや、インターネットやSNSの普及により犯罪情報が瞬時に広まるといった要因も挙げられると思います(この点は、多くの人が「自分の周りでは治安がそれほど悪化していないが、日本のどこかでは治安が悪化している」と感じているとの調査結果からも分かります)。

 また、特別法犯について言えば、認知件数は72,860件と前年の73,132件とほぼ横ばい(▲0.4%)となり、検挙人員についても62,469人(▲0.3%)と同様の傾向となりました。主要な法令別では、「犯罪収益移転防止法」においては、認知件数は2,581件(1,978件、+30.5%)、検挙人員は2,163人(1,481人、+46.0%)、「不正アクセス禁止法」では認知件数は648件(502件、+29.1%)、検挙人員は180人(132人、+36.4%)と、それぞれ認知件数・検挙人員ともに大きく増加しており、特殊詐欺の増加に伴う犯罪インフラ系の犯罪やサイバー攻撃等の犯罪など「組織犯罪」絡みが多発している点が特に注目されます。また、薬物犯罪においては、「覚せい剤取締法」の認知件数は14,065件(14,945件、▲5.9%)、検挙人員は9,900人(10,259人、▲3.5%)、「大麻取締法」の認知件数は3,907件(3,378件+15.7%)、検挙人員は2,957人(2,479人、+19.3%)などとなっており、大麻犯罪が大きく増加していることがデータ上からも分かります。さらに、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯の検挙人員について、国別では、中国、ベトナム、ブラジル、フィリピン、韓国・朝鮮の順となっており、例えば、自動車盗はブラジル、侵入盗は中国がそれぞれトップであり、国別の犯罪の傾向も見られます。

 暴力団犯罪については、暴力団員数の減少などもあり、刑法犯全体の認知件数は20,277件と、前年の25,570件から▲20.7%、検挙人員も10,393人(12,177人、▲14.7%)と大きく減少する結果となりました。主な罪種では、窃盗の認知件数は11,303件(▲21.6%)、詐欺の認知件数は2,379件(▲19.3%)などと、刑法犯全体の傾向以上に減少傾向が鮮明になっています。その他、殺人(+24.6%)、放火(+27.3%)と凶悪犯罪が増加した一方で、暴行(▲15.0%)、傷害(▲13.9%)、脅迫(▲0.8%)、恐喝(▲21.6%)など「威力を示して」系は軒並み減少しています。また、特別法犯全体については、認知件数は10,188件(11,110件、▲8.3%)、検挙人員は7,344人(7,873人、▲6.7%)となり、このうち、暴力団排除条例違反の認知件数は12件(14件、▲14.3%)、覚せい剤取締法違反の認知件数6,844件(7,493件、▲8.7%)、大麻取締法違反の認知件数は1,086件(1,002件、+8.4%)などとなっています。


●忘れられる権利を巡る動向

 本コラムでもたびたび取り上げている「忘れられる権利」を巡る動向については、昨年1月の最高裁の「プライバシー保護が情報公表の価値より明らかに優越する場合に限って削除できる」と削除に高いハードルを課した判断が出て以降、それに沿った判決が続いており、その後、特段の大きな変化等は見られません。ただ、直近では、約10年前に資格のない者に一部の診療行為をさせた疑いで逮捕され、罰金刑を受けた歯科医師が、グーグルで自分の名前を入力すると、かつて逮捕された際の記事が検索結果として表示されるとして、グーグルに検索結果の削除を求めた訴訟(横浜地裁は歯科医の請求を棄却する判決)で、男性側が「逮捕からは既に10年以上が経過している」と主張したのに対し、東京高裁は、「今なお歯科医師としての資質に関わる事実として、公共の利害に関するものだ」と指摘しています。本件を報道されている範囲から最高裁の基準に照らせば、「約10年前」の「歯科医師法違反」事案については、歯科医の資質という公益性(知る権利)がプライバシーの侵害に優越すると理解することができます。

 また、グーグルで会社名を検索すると「詐欺」などと表示され名誉が傷つけられたとして、東京都のインターネット関連会社が検索結果242件の削除を求めた訴訟で、東京地裁が、検索結果の表示に公益性や真実性がなく、「被害者に重大で回復困難な損害が生じる恐れ」がある場合には削除が認められるとの基準を示した上で、「検索結果が真実でない証拠がない」として会社側の請求を退ける判決を言い渡しています。報道によれば、「詐欺師」「だまされた」との結果が表示されること自体は会社の社会的評価を低下させるとした上で、「実際に詐欺行為が行われていれば、消費者に警鐘を鳴らす必要がある」、「振り込め詐欺に対する社会的関心は高く、事件で男性の果たした役割は決して小さくはない」などとして公益性を認定したということです(男性は執行猶予期間の終了から約6年が過ぎていましたが、逮捕歴を公表する必要性を否定できない=公益性(知る権利)がプライバシーの侵害に優越すると判断されたことになります)。一方で、内容が「真実でないと認めるに足りる的確な証拠がない」とし、損害の有無は判断していません。先の最高裁の判断においては、名誉毀損の観点では削除基準に言及がなく、その削除基準のあり方も注目されましたが、専門家の「公益性や真実性、重大な損害の有無を削除基準としたのは妥当な判断だ。特に今回は純粋な個人の名誉ではなく、会社の事業内容に対する評価が判断の対象のため、判決では公共性を重視した。一方、被害者側が重大な損害を具体的に証明するのは困難で、削除のハードルが高すぎるという批判も出るかもしれない」(平成30年1月31日付産経新聞)とのコメントの通り、「公益性」「公共性」「真実性「重大な損害の有無」などがその判断基準となっており、最高裁の判断に沿った妥当なものと言えると思います。

 また、特に性犯罪における犯歴等の取り扱いについては、厚生労働省が、(過去に実刑判決を受けた保育士が登録を取り消されないまま勤務し、園児への傷害致死罪などで起訴される事件が発生したことを受け)幼児へのわいせつ事件などを起こした保育士の登録取り消しを徹底するため、児童福祉法の関連省令を改正し、保育士の逮捕情報を把握した時点で、取り消しに向け確認することを都道府県に義務付けることとし、あわせて、逮捕を知った保育所などにも速やかに報告させるよう都道府県に促す方針だということです。ただ、都道府県をまたがる問題で保育士登録情報等を国が一元管理し、市町村の犯罪歴の把握と直結しない限りは実効性に乏しいように思われます。その点、ポーランド政府は、性犯罪の再発防止策として強姦や児童への性的虐待で有罪となった768人の顔写真や氏名などを誰でも閲覧できるWeb上のDBで公開する取り組みを1月から始めています。報道によれば、関係する当局や機関に閲覧を限定した上で、児童ポルノに関連した犯罪などに及んだ2,614人のデータベースも開設し、学校長らに職員採用時の確認を義務付け、該当者の雇用を禁じたということです。また、欧米や韓国では性犯罪者をGPS監視する仕組みが整備されています。忘れられる権利の議論とはまた別の次元で、性犯罪については、公益性(知る権利)がプライバシーの侵害に優越することが明確になっていると言えます(国際的な動向からみれば、日本はまだ、性犯罪者のプライバシーに配慮をしていると言えます)。

 このように(性犯罪者の事例も含め)忘れられる権利が日本で認められるためのハードルが高い状況にある(知る権利を重視する方向にある)のは確かですが、一方で、インターネット上においては、新聞等のメディアが個人情報保護を盾にした個人からの削除要請に比較的応じている事実や、(一度表示されると半永久的に削除されない、検索が可能というネットの特性もあり、顕名での報道に慎重にならざるを得ず)匿名報道化や、(同様の観点から)一定期間経過後に報道記事自体を削除する傾向にあるなど、現実の報道においては、知る権利がやや軽んじられる傾向にあるように感じます。反社会的勢力など犯罪者は不透明化の度合いを強め、ますます潜在化していく一方ですが、その存在を報道等によってしか知る術のない国民や事業者にとっては、このようなやや安易な削除・匿名化傾向は、インターネット検索や記事検索を行ってもヒットしない(該当しない)という形で、本質的かつ潜在的なリスク(例えば、暴力団や詐欺犯の再犯率の高さなど)を見抜くことが難しくなっており、そのことによって、彼らの不透明化とその活動をさらに助長するのではないかと危惧されるところです。


●技術革新と犯罪対策

 神奈川県警が全国で初めて人工知能(AI)を活用した取り締まりの新システムの導入を検討しているとの報道がありました。大量のデータを基に自ら学習する「ディープラーニング(深層学習)」と呼ばれる手法を採用し、犯罪学や統計学、過去に事件事故が起きた場所や時間、気象条件や地形などさまざまなデータを取り込むことで、連続発生した事件の容疑者が同一かどうかを分析したり、容疑者の次の行動を予測したりするほか、事件事故が起きやすい時間帯と場所を確率で示すシステムの構築を目指すということです。海外では既に導入実績がありますが、今後、予測された時間帯や場所をパトロールの順路に組み込むなどして、治安向上や迅速な対応につなげられると期待されています。なお、警視庁も昨年12月に、AIなどの活用方法を探る有識者検討会を発足させています。同庁が蓄積する過去の犯罪データと天候などの公開データを組み合わせ、犯罪が発生する危険性が高い時間や場所を予測する、急ブレーキをかけた自動車のデータを交通事故予測に活用する、大規模イベントの集客データを雑踏警備に役立てたりすることなどを想定しているということです。また、平成30年1月30日付日本経済新聞には、犯罪を阻む「三種の神器」という極めて興味深い記事がありました。すなわち、鮮明な「4K」映像とそれをリアルタイムに伝達する事を可能にする「5G」(次世代通信規格・第5世代)、それらの情報を「AI」が高精度・高速度で解析することで、不審者の動きを察知し犯罪を未然に防ぐことも可能となるとされ、正に「警備革命」と呼ぶにふさわしい状況がすぐそこまで来ているというものです。

 一方で、これらの技術革新の恩恵は、警備側だけでなく、テロリストや犯罪組織など攻撃する側にも等しくもたらされる点に注意が必要です。防御の高度化は攻撃の高度化をもたらし、犯罪を阻む「三種の神器」は犯罪インフラとしての「三種の神器」となりかねない諸刃の刃でもあり、残念ながら、いつも攻撃する側が圧倒的に優位な状況は変わりません。この「技術革新」というワーディングは、「万能感」を過度に期待させる傾向にありますが、犯罪対策においてはもう少し冷静に評価する必要があると言えます。さらに、技術革新と犯罪対策という視点からは、AIを活用した予測取り締まりが人権侵害につながる恐れがあるとの指摘も的を射たものと言えると思います。事件や事故の芽を早期に摘み取るためにAIに過度に依存すれば、自ずと一般市民の監視につながりますし、それだけでなく、事前に(リスクがあると)選別された者に対してより厳格な監視を行うといった方向に進むのであって、ナチスの選民思想を持ち出すまでもなく、人権侵害に容易になりかねない危険性を孕んでいます。また、忘れてはならないのは、AIの導き出す結論が本当に正しいのかという点です。AIやロボットなど技術革新が進むほど、規制当局が(実は、使用している事業者も)業務を適切にリスク評価し統制していくことが困難になっているのです(日々進化・深化する仮想通貨を取り巻くリスクの変化の把握に当局も大変苦労していると聞きます)。言い換えれば、ディープラーニングが進むほど、誰もそのロジックを理解できない状況が到来すると言うことです。実際、最近の米の調査で、AIを活用したオンライン融資を利用した消費者は、より深刻な負債を抱えているという驚くべき実態が指摘されています。アルゴリズムの欠陥をブラックボックスのまま放置することなく、批判的に解析し、厳しく検証し、適切に管理していくことがもちろん必要となりますが、この事例の示しているものは恐ろしい前兆のように思われます。奇しくも、日銀の黒田総裁は、技術革新の影響について、「金融機能を担う主体の広がり、新たな形のシステミックな重要性が生じる可能性、プライバシーへの配慮、人工知能のガバナンスなどが重要になる。従来は資産規模が重要だったが、今後はグローバルなITプラットフォームや膨大なビッグデータ、広く使われるアルゴリズムなどが金融安定を維持するうえで重要性の度合いを増していく」と述べています。AIやロボットが持つロジックがブラックボックス化すれば、そのシステミックな、些細なミスに気づかないまま、プライバシーなど人権侵害につながりかねないほか、事業そのものや社会に対して想定外の巨大な損害をもたらす可能性すらあります。事業者はブラックボックス化を防ぐため、技術革新に対する過度な期待を排し、冷静にリスク管理を徹底していく必要があり、それはまた、技術革新と犯罪対策の関係においても同様のことが言えると思います。


●北朝鮮リスクを巡る動向

 平昌オリンピックが開幕し、韓国と北朝鮮の統一チームの結成など、朝鮮半島の雪解けムードが演出されていますが、韓国を含む国際社会は、北朝鮮に対する制裁の手を無条件に緩めてはならないことをあらためて確認する必要があります。昨今の北朝鮮の動き自体が制裁の効果が出てきている証左でもあり、北朝鮮の核・ミサイル開発を断念させ、朝鮮半島有事を回避するためには、今が最も重要な時期だと考えられます。

 さて、その北朝鮮については、制裁逃れに関する報道が相次いでいます。例えば、国連安全保障理事会(安保理)北朝鮮制裁委員会の専門家パネルがまとめた報告書によれば、北朝鮮が昨年、国連安保理の制裁を逃れて石炭などを輸出し、合計2億ドル(約220億円)近い収入を得ていたということが明らかになっています。報道によれば、北朝鮮から石炭が輸出された39件の取引を調査したところ、輸出先はロシアと中国、韓国、マレーシア、ベトナムで、昨年8月に輸出が全面禁止となる前に、制裁決議に従って輸入を届けたのはマレーシアの1件だけで、そのほかはすべてが制裁違反とみられるということです。さらに、報告書では、石炭などの制裁逃れの手口について、北朝鮮は所在地を示す船舶信号の操作や、荷物の積み替え、書類で石炭の産地を偽るなどの方法を組み合わせていたということであり、「北朝鮮は世界の石油サプライチェーンや共謀する外国人、海外の会社登記、国際銀行システムを悪用することで、最新の制裁決議を既に逃れている」と指摘しています(それはつまり、これらの国際経済を成り立たせているインフラが、北朝鮮の制裁逃れのための犯罪インフラとしての機能も併せ持ってしまっていることを示しています)。北朝鮮に対する制裁の実効性については、AML/CFT同様、「どこか1つの国・地域・事業者等でも制裁逃れを支援する"抜け道"となっていれば、制裁包囲網全体の実効性に影響を及ぼす」と言え、今の制裁逃れが横行している状況では、十分な制裁効果が発揮されないままだと言えます。

 さらに、直近でも、台北市の検察当局が、国連安保理の制裁決議に反して北朝鮮産の無煙炭を密輸したとして、テロ資金支援防止法違反などの容疑で台湾北部・新北市の貿易会社の実質的な責任者の男を拘束したと発表しています。密輸に使われた貨物船は船の位置情報を発信する自動船舶識別装置を切っていたほか、偽の産地証明を使い、航行日誌も偽造していたということです。台湾関連では、その他にも、平壌であった貿易展覧会に台湾の業者が出展するなど、水面下で取引が続いている疑いがあり、長年にわたり貿易を続けてきた経緯があるとはいえ、台湾当局は国際社会における役割を果たすべく、北朝鮮の"抜け道"根絶に躍起となっており、制裁に違反して北朝鮮との貿易を行うことのないよう域内の企業に呼び掛けるとともに、監視を続けていると表明しています。

 なお、関連して、北朝鮮に対する制裁の実効性を高めるため、警戒監視活動を行っている日本の海上自衛隊の哨戒機が、制裁対象となっている北朝鮮船籍のタンカーとドミニカ船籍のタンカーが海上で接触しているのを確認、洋上で積み荷を移し替える「瀬取り」と呼ばれる密輸取引だったとみられています(海自では昨年末から、従来のパトロールに加え、密輸船の警戒監視を行っていたということです)。

 また、平昌オリンピックに関して言えば、(最終的には北朝鮮側が撤回しましたが)万景峰号への燃料供給が実現していれば(いくら例外的措置とはいえ)明白な制裁違反に問われかねない状況だったと言えます(そもそも、韓国国内の港への入港自体、同国独自制裁に抵触する例外措置がとられており、国内外で批判に晒されています)。さらに、報道(平成30年1月31日付産経新聞)によれば、北朝鮮の最新の動きとして専門家は、「サイバー犯罪」に着目し、「国際銀行システムの間でフィリピンやスリランカなどセキュリティシステムの弱い国の中央銀行がニューヨークに送金する際、数千億円規模の"強盗"が発生する。最新ではビットコイン市場にも入りこんでいる」と指摘しています。こうした北朝鮮による仮想通貨の犯罪インフラ化の実態については、前回の本コラム(暴排トピックス2018年1月号)でも指摘した通り、破たんした韓国の仮想通貨取引所へのサイバー攻撃などへの北朝鮮の関与も取り沙汰されており、今や外貨獲得手段の細る一方の北朝鮮にとっては「ネット空間が頼り」とでも言える状況です。北朝鮮のサイバー攻撃力アップの背後には、ロシア企業が北朝鮮にインターネットへのアクセスを提供し始めているほか、イランも北朝鮮に装置を提供、北朝鮮のハッカーが南アジアや東南アジアの国々から活動しているといった具合に、世界の一部の国が北朝鮮に何等かの協力をしていると言われています。その他、「北朝鮮のハッカーらが女性専門職を装い、入社志望や業務提携の提案をし、顔写真と共にマルウエアを仕込んだメールを社員らに送付する手口でサイバー攻撃をしかけている」、あるいは、「仮想通貨の採掘コードをインストールし、採掘した通貨を北朝鮮の大学のサーバーに送る仕組みのソフトウエアが発見された」、「北朝鮮のハッカー集団が昨年の秋ごろから、スマホを使ったインターネットバンキング利用者の暗証番号などを盗む攻撃を開始している」といった状況が散見されており、その手口の巧妙化やバリエーションの多様化、攻撃の激化が確認されていることから、今後、その動向により注視していく必要があると言えます。

 前述の専門家は、「制裁は難しいもので、その限界を現実的に見据える必要はある。しかし日本の安全保障上、北朝鮮の核・ミサイル戦力をできる限りペースダウンさせて押さえ込む努力は死活的に重要だ。堅実に"抜け穴"を1つずつ埋めていくしかない」とも指摘していましたが、正にその通りだと言えます。

 そのような中、日本としてできることを1つずつ実行していくことが重要となります。政府は、北朝鮮の外貨獲得源を断つため、北朝鮮と国交のあるアフリカやアジア地域の途上国への支援を強化する方針を打ち出しています。武器取引やマネー・ローンダリングの規制強化に必要な人材育成や機器導入を後押し、国連安保理による北朝鮮制裁決議の抜け道をふさぎ、核・ミサイル開発を放棄させることにつなげたい考えだということです。また、日本としてできることとしては、「危機意識の醸成」と「実効性ある訓練の実施」という点も挙げられます。徒に危機感を煽ることは望ましくないものの、「正しく恐れ、正しく備える」ことが求められていると言えます。その意味では、国と東京都などが先月実施した、北朝鮮からの弾道ミサイルを想定した訓練などは大きな意味があると思います。これは、東京都文京区の東京ドーム周辺にある地下鉄駅や遊園地などで、住民らによる避難訓練が実施されたもので、都内でのミサイル飛来を想定した訓練は初めてでした。報道によれば、参加した住民からは、「訓練自体はスムーズにできた。危機感や共助の精神が住民で共有できたと思う」という意見だけでなく、「国や行政は、個別のケースに対応した細かな避難の指針のようなものを具体的に示すべきではないか。実際に直面したときに何をするのが正しいのか、混乱が生じるかもしれない」といった苦言まで、幅広い感想や意見を惹起したようで、それこそが訓練が実施された大きな意味ではないかと考えます。また、文部科学省は、北朝鮮の弾道ミサイルへの対応などを定めた危機管理マニュアルの見直しに向けてて手引きを作成したということです。詳細は後日ご紹介しますが、「いたずらに不安を煽る」といった一部の危機意識の薄い指摘に惑わされず、青少年に危機管理的教育・訓練を促す点は高く評価したいと思います。さらには、国や地方自治体レベルにおいて、もっと究極的なシナリオを想定するところから始めて、実践的な危機管理態勢をしっかり整えることが急務だと言えます。例えば、昨年は北朝鮮の漁船が数多く漂着しましたが、漂着船を装ったテロや軍事行動の可能性や感染症対策の視点、不法入国者への対応、海上での船舶検査や拿捕に向けた(戦闘状態をも想定した)態勢の整備など、実践的な検討とそれに伴う法整備・法解釈の整備等もまた急務だと言えます。


3.最近の暴排条例による勧告事例ほか

(1) 神奈川県の勧告事例

 神奈川県公安委員会は、同県横浜市内で開かれた指定暴力団双愛会系幹部の誕生日会で、ギターを演奏した音楽家、会費として約1万円を支払った参加者、幹部ら4人に対して、神奈川県暴排条例に基づき勧告しています。前回の本コラム(暴排トピックス2018年1月号)では、岐阜県の暴力団組長が盃事の儀式に使用するため毛筆で書いた幕30枚の制作を依頼し、同県内の書道家が請け負ったとして、暴力団組長と書道家に対して、岐阜県暴排条例に基づき勧告がなされた事例や、「事始め式」に使う毛筆の書を作成した美術家の事例を紹介しましたが、芸術・芸能の分野においても暴排は例外ではないことを、関係者はあらためて認識すべきだと言えます。

▼神奈川県暴排条例

 なお、神奈川県暴排条例については、第2条(定義)で「暴力団経営支配法人等」として、「法人でその役員(業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者をいい、相談役、顧問その他いかなる名称を有する者であるかを問わず、法人に対し業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者と同等以上の支配力を有するものと認められる者を含む。)のうちに暴力団員等に該当する者があるもの及び暴力団員等が出資、融資、取引その他の関係を通じてその事業活動に支配的な影響力を有する者」として、「共生者」の意味合いを持つ法人を規制の対象として明示している点がユニークだと言えます。したがって、例えば、反社チェックの努力義務について、他の暴排条例で「暴力団関係者でないことを確認するよう努める」と定められているところ、同県暴排条例第22条(契約の締結における事業者の責務)では、「当該取引の相手方、当該取引の媒介をする者その他の関係者が暴力団員等又は暴力団経営支配法人等でないことを確認するよう努める」と定められています。このような「共生者」を含む考え方が、平成23年4月の制定当初から明示されている点は高く評価できると思います。さらに、第23条(利益供与等の禁止)においては、事業者に対する禁止行為として、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなるおそれがあることを知りながら、

(1)暴力団員等、暴力団員等が指定したもの又は暴力団経営支配法人等に対して出資し、又は融資すること

(2)暴力団員等、暴力団員等が指定したもの又は暴力団経営支配法人等から出資又は融資を受けること

(3)暴力団員等、暴力団員等が指定したもの又は暴力団経営支配法人等に、その事業の全部又は一部を委託し、又は請け負わせること

(4)暴力団事務所の用に供されることが明らかな建築物の建築を請け負うこと

(5)正当な理由なく現に暴力団事務所の用に供されている建築物(現に暴力団事務所の用に供されている部分に限る。)の増築、改築又は修繕を請け負うこと

(6)儀式その他の暴力団の威力を示すための行事の用に供され、又は供されるおそれがあることを知りながら当該行事を行う場所を提供すること

(7)前各号に掲げるもののほか、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなるおそれがあることを知りながら、暴力団員等、暴力団員等が指定したもの又は暴力団経営支配法人等に対して金銭、物品その他の財産上の利益を供与すること

 など、具体的な態様が明示されています。

 今回の事例における音楽家と参加者は、同条第2項第7号に該当するものとして勧告を受けたものと考えられます。さらに、同じく勧告を受けた暴力団幹部については、第24条(利益受供与等の禁止)の「暴力団員等又は暴力団経営支配法人等は、情を知って、前条第1項若しくは第2項の規定に違反することとなる行為の相手方となり、又は当該暴力団員等が指定したものを同条第1項若しくは第2項の規定に違反することとなる行為の相手方とさせてはならない」に該当したものと考えられます。なお、同県暴排条例においては、第16条(暴力団事務所の開設及び運営の禁止区域等)で、他の暴排条例同様、暴力団事務所の開設・運用の制限を規定していますが、第3項に、「前2項の規定は、第1項に規定する区域以外の区域において開設され、若しくは運営される暴力団事務所又は前項の規定により第1項の規定を適用しないこととされた暴力団事務所を開設し、又は運営する者に対する当該暴力団事務所の使用の差止めの請求、損害賠償請求その他の周辺住民の正当な権利の行使を妨げるものと解してはならない」との規定が、やはり平成23年4月の制定当初から定められており、現在の暴力団事務所使用差し止め請求等の流れを先取りしているものとして、高く評価できると思います。

(2) 神奈川県の逮捕事例

 前項に同じく、神奈川県暴排条例に基づき、禁止区域で暴力団事務所を開設・運営したとして、同県暴力団対策課と浦賀署が、指定暴力団稲川会系組長の男を逮捕ししています。前述した通り、同県暴排条例は学校や図書館などから200メートル以内の場所で事務所の開設・運営を禁じていますが、報道によれば、同組長は、都市公園の敷地から200メートル以内にある雑居ビルの1室に事務所を開設し、昨年5月から今年1月まで運営したとされています。なお、同県警の摘発としては2例目になるようです。

(3) 東京都の逮捕事例

 東京都暴排条例で禁止されている区域に暴力団事務所を開設したとして、警視庁は、「実質の運営者」である暴力団幹部を逮捕しています。報道によれば、今回、新宿区内に新たに事務所を開設した指定暴力団極東会の傘下団体は、それまで休眠状態であったところ、極東会ナンバー4の総本部長を務める幹部が、勢力拡大を画策して、組の復活と事務所開設を主導していたとされます。組事務所開設容疑での立件については、前項の稲川会の事例のように、組長や組員ら事務所の開設・運営に直接的に関わる者に限られていましたが、今回のように上部団体の幹部にまで立件対象が拡大されるのは極めて異例となります。なお、東京都暴排条例では、第22条(暴力団事務所の開設及び運営の禁止)で、「暴力団事務所は、次に掲げる施設の敷地(これらの用に供せられるものと決定した土地を含む。)の周囲200メートルの区域内において、これを開設し、又は運営してはならない」と定めています。さらに、第33条(罰則)では、「第22条第1項の規定に違反して暴力団事務所を開設し、又は運営した者」について、「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」と定めており、これらの規定を読む限り、「実質の運営者」を罰則の対象とすることに問題はなさそうであり、今後の組織活動の実態解明や他の捜査への応用等に期待できそうです。

▼東京都暴力団排除条例(全文)

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