リスク・フォーカスレポート

危機管理的顧客対応 番外編(2013.2)

2013.02.27
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 皆さん、こんにちは。総合研究室の西尾です。先月までBCMSに関するリスクフォーカスレポートを担当していましたが、今回は、3月6日から全3回に渡り開催される企業危機管理アカデミーの開催を前に、講師の一人として、危機管理アカデミーで取り上げるクレーム対応・不当要求対応の実践ノウハウについて、その概要を紹介しつつ、現代における顧客対応リスクとその対策について、考えてみたいと思います。

 コラム系企画では、久々のクレーム・不当要求対応のテーマとなりますが、お悩みの方々は、ぜひ、参考にしていただけますと幸いです。

1.顧客対応をめぐる社会環境の変化

(1)企業にとって、顧客対応をめぐる社会環境は大きく変化しており、「顧客対応リスク」は以前にも増して増大しています。顧客対応をめぐる社会環境の変化としては、各種法律の制定による顧客対応そのもの位置づけの変化とインターネットの発達に伴う顧客の購買行動の変化と消費者の発言権の増加、そしてそれに伴う顧客対応リスクの増加・変化が挙げられる。

 「各種法律の制定による顧客対応そのもの位置づけの変化」については、各種消費者保護法制による規制は、正に営業面も含めた顧客対応のあり方そのものを規律する内容となったことで、顧客対応そのものが、サービスや接客・待遇の問題から、コンプライアンスそのものに関する問題へと変化したといえる。

 また、「インターネットの発達に伴う顧客の購買行動の変化と消費者の発言権の増加」については、インターネットの普及により、通信販売による商品購入はもちろん、映画や音楽の鑑賞、金融取引等が自宅にいながらにして可能となり、消費者のレビューに対してポイントや特典をつけて、レビューを多く集め、ユーザーの評価により企業活動やブランドにランキングをつける等が当たり前に行われる状況になったことで、消費者は便利なサービスを享受しつつ、ユーザーとして、企業の事業活動を評価するという形で、消費者の権利意識と企業等に対しての発言権が高まっていること、そして店舗等に居合わせたお客様が従業員の言動等を携帯電話等から簡単にSNS上に書き込むことができるようになったことなどにその変化を読み取ることができる。

(2)これらの顧客対応を巡る社会環境の変化により、企業の顧客対応リスクも大きく増加・変化している。

 顧客対応リスクとしては、苦情や要望も含めた消費者の声が多くなり、答えられなければ、お客様が離れ、淘汰されることで、企業の競争力が低下しかねないため、例えば、レビューや口コミサイトでの顧客の声の顕在化やそれへの過剰反応が顧客対応の不統一を招き、結果として顧客からの評価・信頼を損ねる結果をもたらしかねないという競争力低下のリスクがある。

 一方で、消費者の選択権の拡大により、企業やサービスの選択に際して有無を問題とする物理的満足度基準から、より自分の嗜好に合わせた心理的満足度基準へのシフトしていること、そしてこの心理的満足度基準へのシフトにより、自身の満足度や不満を前面に出した主観的クレームが増加する一方で、企業は、顧客満足というスローガンの下、消費者の心理的満足度基準に応えるべく、対応が顧客毎に個別化し、統一かつ公平な対応が行えずに、対応次第で種々のロスを生みかねないという不当要求対応ミスによるロス増大リスクがある。

 現代の顧客対応においては、この両者のリスクを天秤にかけながら、バランスを取っていくことが求められるのである。

2.顧客対応指針①~危機管理の視点から

(1)上記の競争力低下リスクと不当要求によるロス増大リスクのバランスを考えた場合、特に重要となってくるのは、重要な経営資源(無形資産)である顧客の声である「クレーム」と、ロスの源泉である「不当要求」とを区別して対応していくことである。前者は経営上プラスになるものである一方で、後者はロスを生み経営上マイナスになるものである。そのベクトルの向きが180度異なる。

 従来、国内の顧客対応においては、両者が曖昧なまま運用され、CS(CustomerSatisfaction)の名の下に、個別のお客様の言いなりになっているケースも少なくなかった。

 顧客対応リスクを踏まえた、危機管理的顧客対応指針の出発点としては、顧客の声としての「クレーム」と過剰・法外な要求である「不当要求」の区別をすること、すなわち、顧客からなされる申し出には、「クレーム」と「不当要求」の2つの分類があることを明確にすることが重要である。

(2)ただ、クレームと不当要求を区別することが重要であるとしても、いざ顧客対応を行う場面、特に初期対応の段階では、全くどちらなのかは判断できないため、その内容を吟味すべく、お客様から発せられる情報を的確に把握しなければならない。

 実際の対応の局面を見ていると、特に初期対応においては、お客様から「どうしてくれる」「どうなっている」と問い詰められると、何とか企業としてなしうる対応を説明しようとして、かえってしどろもどろになったり、説明の矛盾を付かれて言質をとられたりという場面に出くわすことがある。顧客対応における初動対応は、企業の担当者にとっては、簡単なように見えて、実はミスをしやすい状況にあるのである。

 初動対応はお客様から発せられた情報の「内容」を把握・整理するステージであることは既に述べたとおりであるが、そのために行うべきことは、3つしかない。すなわち、①お客様の話を聞くに徹すること、②事実関係を確認・明確化すること、③対応時の記録を適切に行なうこと、の3つである。この3つの基本の内容を見ると、そんなの当たり前だと思うかもしれないが、この3つ、簡単なようで非常に難しい。特に不当要求対応に苦慮するときは、初期対応において、この3つの基本が適切に実行できていないケースが少なくない。

(3)初動対応における3つの基本の一つ目は、お客様の話を「聞く」に「徹する」です。単に、話を「聞く」ではありません。受身のスタンスではお客様から与えてもらえる情報には限りがあるし、お客様自身で論点が必ずしも整理されているとは限らない。特に感情的になられている場合などは特にその傾向が顕著である。あるいは、交渉を有利に進めようと、自分では、「どうしてくれる」「なぜ、こんなことになる」というのみで、一切具体的な話をしようとしないお客様もいる。そのような話の全体像も見えない状況で、お客様の話全てに何らかの回答・対応をしようとすることは、後々、大きなミスに繋がりかねかない。だからこそ、徹底的に話を聞くこと、聞き出すことが不可欠なのである。

 ただ、実際の対応、特に不当要求の場面においては、不当要求を行なう者は、自らの要求を通すべく、様々な話題転換や論点のすり替え等を駆使してくる。簡単に言えば、話を二転三転させてくる。この中で、お客様の話題転換や論点のすり替えによって自身が混乱して対応ミスをしてしまうことは、何としても避けなければならない。そこで重要になるのが、お客様の話を「メモ」して記録化・可視化することである。

 お客様から与えられる状況が多くなればなるほど頭の中だけでそれを記憶するのは不可能であるし、伝言ゲームや「百聞は一見にしかず」の諺を喩えとして出すまでもなく、耳だけを頼りにした情報収集は不確実性(リスク)が高いものである。特に、対応中は、次から次へと話が出てくる可能性があるので、ミスをしない対応をするためには、十分なリスクマネジメントを行っておく必要がある。つまり、お客様の複雑な話をミスなく聞いていくためにも、危機管理対策として、「メモ」を取ることが不可欠なのである。

 しかし、単にメモを取れば、話が聞き出せるというものではない。特に不当要求の場合は、不当要求者は、企業の担当者に十分な情報と時間を与えずに、「どうしてくれる」と回答を求めてくることが多い。このようなケースでは、企業側の担当者から回答を引き出そうとする質問に対して、再度質問をしたり、話を聞きだしたりするための捌きの対応が重要になる。初期対応は、話を聞くに徹するステージである以上、企業の担当者としては、回答を引き出されてしまうことを回避しなければならない。

 以上が3つの基本の一つ目の「話を聞くに徹する」であるが、具体的な対応ノウハウについては、企業危機管理アカデミー等、別の機会に詳細にお話したい。

(4)初動対応における3つの基本の二つ目は、事実関係の確認・明確化である。特に不当要求対応においては、企業としての対応力は、「事実確認力」で決まるといっても過言ではない。したがって、不当要求対応の極意の一つとしては、如何に事実確認に徹することができるかにある。

 事実の確認・明確化に当たっては、5W3Hはもちろん、「因果関係」と「損害(不利益)」の有無・内容についても確認しておかなければならない。ん。また、客観的裏づけを確保することが重要であることから、極力、お客様の理解、協力を得ながら録音・録画、写真、診断書、利用明細、自社の電磁的記録(利用履歴)など、事実及び損害等を客観的に証明できる物証を確保することに注力する必要がある。

 事実関係の確認ができないことで不当要求に応じてしまうことの無いよう、事実確認のために対応を打ち切る判断とその対応で押し切る勇気が必要になる。

(5)初動対応における3つの基本の三つ目は、対応時の記録を適切に行なうことである。今まさに目の前でお客様に対応している状況では、論点のすり替えや、仮定条件付け、比較などの話題転換によって、自らの主張や要求を通そうとする不当要求者が存在したり、お客様が感情的になってしまって話がエスカレート又は、二転三転したりすることが少なくないことは既に述べた通りである。

 このような状況を踏まえると、正に目の前のお客様に対応しているその「現在進行形」の状況を如何に記録し、錯綜する事実関係や話の内容を整理するかが、極めて重要になってくる。

 お客様対応中の「現在進行形」を記録することを主眼に置いた記録方法が不可欠であり、多くの対応履歴を「記録」に残すという場合においては、お客様とのやり取りを録音している企業も少なくないであろう。

 しかし、「録音」は、後々、話の内容を確認したり、証拠を残したりする局面では、絶大な効果を発揮しますが、対応中、少し前にお客様が言ったことを確認したいと思ったら、録音を止めないと確認できないが、止めてしまっては録音している意味がない。要するに、対応中の「現在進行形の記録」という観点から言うと、顧客対応における危機管理手法として、「録音」だけでは不十分であることに注意しなければならない。

3.顧客対応指針~不当要求対応実務を踏まえて

(1)さて、「お客様の話しを聞くに徹する」ことが重要であることは既に説明した通りであるが、実際に対応する際は、この「話」の中身に着目しなければならない。お客様の「話」は、大きく分けて、「事実」、「不満(感想)」、「意見(主張・主観・推測)」、「要求(要望)」4つの要素から構成されている。

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(2)「事実」については、3つの基本の2つ目でも説明した通り、確認・明確化することが、その対応指針となる。最初から4要素が明確に分けられるわけではないため、前述の3つの基本を使って、「事実」の部分を抽出しながら、内容を精査し、篩い分けていく必要がある。

 「不満」については、その原因を特定し、問題解決を図ることが、その対応指針となる。「不満」は必ずしも直接的に表明されるとは限らないが、「不満」は顧客満足度に大きな影響を及ぼす。クレームリスクマネジメントにおいては、「顧客の声」という形で、「意見」に着目してしまいがちであるが、顧客満足度を向上させるという目的から考えると、本来のクレームリスクマネジメントとは、満足度を低下させている、この「不満」の原因を聞きだして改善を図ることに他なりません。

 「意見」は、お客様の気持ちや考えの表明であり、お客様の内面が表明されたものといえる。相手が意見という形で、「気持ち」をぶつけてきている以上、こちらも「その気持ちを受け止め」(傾聴)て、「気持ちで返す」(感謝・参考・御礼)ことが、その対応指針になる。特に不当要求対応では、この「意見」の取り扱い、捌きが対応の勘所となる。

 「要求」についても、必ずしも表明されるわけではないが、お客様から、何らかの要求が表明された場合は、その内容についての受け入れの是非を判断し、決定した方針にしたがって、一貫した対応を行うことが重要である。要求については、基本的に受け入れられるか、受け入れられないかのどちらかであり、受け入れられるときは、対応においてそれほど問題となりませんので、実際には、受け入れられないときにどうするかが、ここでの問題である。

(3)ここで、「要求」に対する対応についていくつか、言及しておきたい。まず始めに取り上げておきたいのは、「対案の提示」といわれる対応プロセスについてである。巷にあふれるクレーム対応等に関する書籍では、お客様に対する「対案(解決策)の提示」を推奨するものが多い。CS対応においてはその対応も間違いではないが、不当要求対応においては、その対応姿勢が、逆に自分の対応を苦しめる要因になりかねないことを付記しておきたい。不当要求者にとっては、納得しうる対案は、本人が望む内容(ただし、この内容は社会的にみて法外・過剰・不当)でしかないのである。

 そして、もう一つ、お客様から明確な要求が出ていない場合の対応について取り上げたい。この場合、往々にして行なわる対応も、「対案の提示」というプロセスに従って、何らかの解決方法を提示して、要求の選択肢を相手方に与えてしまっているケースが少なくない。しかし、このような状況で考えなければいけないのは、相手方が表明している意見(や気持ち)に応えること、すなわち、謝罪や感謝等の気持ちを表明することである。

 一方で、お客様から「要求」が出された場合には、その要求の内容が、お客様の声として傾聴すべき「クレーム」なのか、ロスを生む要因となる「不当要求」なのか、その内容の正当性を見極める必要がある。要求内容の正当性を見極める際の基準としては、次の5つがある。

 まず、「要求内容の正当性(要求根拠)」について、①当社側に「非」があるのか(責任の有無)、②因果関係があるのか、という2つを判断する。要は、「当社側落ち度により、お客様に損害を与えた」といえるかどうかを判断するのが、この2つのフィルターの役割である。

 次に、「要求行為の正当性」を判断する。要求を通そうと暴行や脅迫をされた場合は、それに屈する形で要求を受け入れるべきではない。

 最後に、「要求内容の妥当性」について、①対価性(等価値性)、②関連性の2つの視点で検討する。「対価性(等価値性)」は、「過剰な要求」になっていないかを判断するものであり、「関連性」は、「不合理な要求」になっていないかを判断するものである。

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(4)この5つの基準を使って、お客様の話の内容を判断していくと、その内容が顧客の声として積極的に活用していくべき「クレーム」なのか、応諾してしまうことで種々のロスを生み出し、善良なお客様への裏切りにもなる「不当要求」なのかが判断できる。もちろん、顧客対応の基本は、CS対応にあることから、若干過剰気味な要求まで一律に「不当要求」とする必要はないが、5つの基準に照らして総合的に判断することで、企業として応じることができるかどうかの判断が可能となる。

 なお、「クレーム」、「不当要求」それぞれの場合の対応の指針は下記の図の通りである。注意しなければならないのは、不当要求対応に関する「毅然かつ断固たる対応」というのは、高圧的に押さえ込むという意味ではないことである。けんか腰での対応はその対応姿勢自体は社会から理解されるのは難しく、ましてインターネットの普及・浸透の現状を踏まえると、不当要求者にその高圧的な対応の部分のみがインターネット上にアップされるなどして、かえって揚げ足をとられる事態に発展しかねない。

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4.顧客対応は、もちろんお客様本位の対応が基本であり、一人ひとりのお客様に真摯に向き合うことが最も重要である。

 その意味では、CS対応については、対応指針・対応プロセスを標準化しすぎることは、かえってマニュアル主義的な弊害を生みかねない。

 一方、不当要求については、要求はどんどんエスカレートする傾向にある上、基本的には現行の運用の変更や企業側のロスを生じさせるものであることから、個々個別の対応をすることは、かえって大きな損失を生みかねない。そこで、不当要求対応については統一的な対応指針に基づいた組織的対応、ブレない対応が重要である。

 本原稿ではご紹介した内容は、どのような事案の対応においても負けない(大怪我)をしないための5つの指針(危機管理的顧客対応5ヶ条)のダイジェストである。5つの指針とは、

①初動対応の重要性
②クレーム、不当要求の二分類
③初動対応における3つの基本
④お客様の話の4つの要素
⑤要求内容見極めのための5つの基準

 である。

 原稿としての制約上、ダイジェストの解説にならざる得ないが、企業危機管理アカデミー「危機管理的顧客対応5ヶ条~不当要求への実践対応ノウハウ」では、実際のロールプレイングを交えて、負けないための5ヶ条を習得いただけるように解説・演習をおこなっている。実践ノウハウはロールプレイング等の演習を通しての方が腑に落ちるものである。ご興味のある方は、ぜひ、このノウハウを習得していただきたい。

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