リスク・フォーカスレポート

ソーシャルメディアリスク編 第六回(2014.2)

2014.02.19
印刷

1.ソーシャルメディアリスク対策の現状

 マイナビは2014年1月24日、「新入社員・内定者のソーシャルメディア利用対策状況調査」(回答者数281人)の結果を発表した。

 同調査に回答した企業の人事・採用担当者は、新入社員・内定者へのソーシャルメディア利用対策について、「非常に重要」(17.1%)、「重要」(51.9%)と回答しており、約7割の企業がソーシャルメディアの利用について対策が重要だと考えていることがわかる。

 一方で、自社での新入社員・内定者に対する研修については、「全く実施しない」(43.4%)、「ほとんど実施していない」(29.2%)と回答。必要性を感じながらも対策できていない企業がかなり多く、実施していない理由としては「ソーシャルメディアへの社内での理解度が低い」、「何を説明・教育すればよいかわからない」、「社内でガイドラインなどが定められていない」といった回答が大多数を占めている。

 本調査は「新入社員・内定者」へのソーシャルメディア利用対策を対象としているが、上記の回答のようにほとんど対策を実施していない現状から、全社的にもソーシャルメディア利用上のリスクに対する啓蒙や教育が進んでいないということが推測される。

2.自社における現状を知る

 これまでソーシャルメディアを介した事故が起きていないから、今後も安全だとは決して限らない。むしろ現在、いかなる企業・組織もソーシャルメディア関連のリスクから逃れられないのが現実である。下記必要最低限のチェック項目を用いて、自社におけるソーシャルメディア・SNS利用のリスクに対する安全度を確認していだだきたい。チェックに該当しない項目については、具体的な行動を考える材料として検討していく必要がある。

 ソーシャルメディアに対する自社の意識と安全性について

candr10006a

3.ソーシャルメディア利用上のリスク(スピードと燃やす人)

●スピード

 従業員のソーシャルメディア利用による事故の特徴は、軽率な言動や非倫理的行為、さらに何気ない書き込みまでも騒ぎ立てられる対象となり、ネットワークを介して瞬く間に拡散されることにある。さらに、一度流出した情報を削除することは事実上不可能であり、「機密情報の漏えい」や「企業イメージの毀損」「企業の信用失墜」といった深刻な被害をもたらすことになる。

 ポジティブな情報ならともかく、ネガティブ情報の圧倒的に速い情報拡散性こそが、企業や組織にとって、非常に大きなリスクとなる。

 また、企業の論理が一定程度通用するマスメディアを相手にする場合と異なり、対象は執拗とも思える情報探索と情報発信力を備えた不特定多数の個人である。標的にされると、数時間のうちにまとめサイトが立ち上がり、投稿者(社内関係者の場合)の身元が暴露され、その情報が引用され拡散し、保存されてしまう。

 炎上の際の対応として、半日~1日後には企業として公式コメントを出すのが望ましいが、事実関係を確認し対策を協議したうえで社内決裁を取って対処するという通常の手続きの対応ではもちろん遅く、危機管理委員会を立ち上げて対策本部長に情報を集約し、社外窓口を一本化するといった危機管理の対応の仕方でも間に合わない可能性が高い(ケースバイケース)。

●燃やす人

 「失言」「不適切発言」の範囲は定義されているわけではない。ネットユーザーの誰かが問題だと思えば批判を受けることもあり得る。いくら慎重に言葉を選んでいても、何が問題になるか発信した時点ではわからない。アーカイブに蓄積された過去の発信に言いがかりをつけて燃やすこともできる。炎上は、たやすく攻撃を受けるが、守るのは非常に困難であるといえる。

 炎上は単一のメディアでは起きない。ツイッターが発火点だとしても、NAVERまとめ、ツイッターでの発言をまとめるtogetter、まとめブログなどに一度集約されて多くの人に見られるようになる。それに気付いたネットニュースが素早く記事化することもある。

 拡散過程では多数のユーザーがかかわることになり、炎上の当事者は無数のネットユーザーと対峙する形になるが、全てを相手にする必要はない。反論するメディアやツールは絞っていくべきである。一方で燃やす側は、一人一人の関与が薄いため責任感も乏しい。集約された情報をリツイートしたり、シェアしたりすることも炎上に加担していると言えるが、当事者意識はさらに薄くなるともいえるが、それ以上に面白がる、溜飲を下げるといった心理が強い。

 それ故、より深刻なのは、炎上に付随するプライバシーの暴きで、氏名や所属する大学・企業・自宅住所や家族まで写真でネット上に公開されてしまうことである。間違った情報が個人に紐付けられて拡散し、就職や転職に影響を及ぼすケースすらある。

4.企業・組織における事前対策

 一般的な事前対策としては、1.)顧客情報等の守秘義務に関する研修をし、そのうえで従業員に誓約書を提出させる。2.)「ソーシャルメディアに業務内容などを投稿してはならない」といた内容のソーシャルメディアポリシーやガイドラインを設けて周知する、といったことが挙げられる。

■事前準備その1

 ポリシーやガイドラインの策定にあたっては、前段階のプロセスとして従業員におけるソーシャルメディア利用の(1)「現状把握」をして、(2)「リスク抽出」することが、実効性のある運用にとって重要になる。

 また、事故発生時の対応についてもあらかじめ要領をまとめておくのが望ましい。ソーシャルメディアによる事故が発生した場合、情報拡散は制御不能であり、初期対応の誤りによって被害を拡大させてしまうこともある。万が一の際に、迅速かつ適切に対応できるよう、連絡体制や窓口担当者の決定方法等をあらかじめ定めておくことが必要である。

 さらに、問題発生から調査、社内通知や社外対応までの流れを迅速化できるように、予め整理しおくことが重要である。

 自社に合ったソーシャルメディアポリシーや有事の際の緊急マニュアル等を準備・整備する他、最終的には企業組織の規模に合わせソーシャルメディア専任部門を設けるか、専門会社へ外部委託することが望ましい。既にソーシャルメディアポリシーはあっても、全社的な理解に繋がっていなければ、リスクは軽減されていないので注意が必要である。

(1)現状把握
「現状把握」では、アンケートやヒアリングによって従業員が「どのようなソーシャルメディアを」「どれくらい利用しているのか」「具体的にはどのような情報を配信しているのか」等の利用状況や意識を把握する。

(2)リスク抽出
「リスク抽出」では、現状把握によって得られた結果から「従業員のソーシャルメディア利用において、どのような情報発信や投稿、行動がリスクになるのか」。また自社のその他規程や、参考になる他社の運用状況などから発生する可能性のあるリスクを低減するためにはどのようなルールや仕組みが必要になるかを検討する必要がある。

(3)誓約とモニタリング
その他にも従業員の利用ルールを示すガイドライン遵守のための、誓約書の取り交わし、従業員の理解向上のための研修や勉強会が必要になる。また、炎上等の危機発生時における、早期発見のための監視やモニタリングも重要である。

■事前準備その2

 従業員は、雇用契約を結び勤務する以上、たとえアルバイトであっても「守秘義務」や「職務専念義務」等の義務が発生するということをしっかり理解してもらい、公私混同せず、業務や会社、仕事に関する内容をプライベートなSNSに書き込まない等、義務と責任を自覚してもらう必要がある。(これらを怠り、使用者や第三者に損害を与えた場合には「損害賠償請求」も発生する可能性もある等)

(1)就業規則の説明や誓約書
入社時に就業規則の説明をおこなう過程において、労働者の義務や責任について教育することが重要である。誓約書についても、その内容を充分に説明しておかなければならない。さらに、当社においてはどのような行動が義務違反となるのか、できるだけ具体的に説明することが望ましい。

(2)就業規則、諸規定の見直し
教育実施にあたっては、現行の就業規則や諸規則が当該問題のような新しい状況に対応できているかどうか見直しておく必要がある。懲戒に当たっては、服務に関する条文の中に、情報漏えいや信用失墜に係る事項が定められているか、モニタリングに係る事項が定められているか等について確認する必要がある。

(3)継続的な教育の実施
入社後においても、業務習得の段階に応じて、定期的に教育を実施する。自らの言動が関係者へどのような影響を与えるか、事例をもとに考えてもらうことが有効である。また、禁止事項ばかりではなく、情報公開範囲の設定方法等の知識についても指導しておくことが望まれる。

5.ソーシャルメディアリスクの範囲

 企業・組織にとって「ブランド価値の保護」の促進のため、SNSでのコミュニケーション参加は最早避けられない。顕在・潜在含む顧客と良好な関係を築くことによって、ブランド価値・企業価値を高めていくことは非常に重要なことである。

 一方で、自社内から発生するリスクだけではなく、競争相手や一般の消費者から起因・発生するレピュテーション、噂などにも十分注意を払う必要がある。この場合、従業員の指導や教育だけでは充分ではない。いわゆる「ネガティブ情報の監視」は、情報の発信者が自社外から来る事を想定する必要性から、ソーシャルメディアやSNS内で自社の商品やサービスに関するネガティブキャンペーンや、根拠のないデマ・噂が独り歩きをしない様に、風評全般をチェックするための対策である。根拠が明らかでないネガティブ情報が拡散し、やがてもっともらしい内容を伴って、風評被害につながる状態・プロセスを不作為のまま放置する事は非常に危険である。

 ソーシャルメディア上に流布している自社に関する情報・発信を察知し、自社にとって不都合な情報発信の拡散を防ぐには、常時監視をする以外に現状方法はない。

 ソーシャルメディリスクとして、社内関係者の発信する情報が大きな火種となるケースが多発しており、それをいかに未然に防ぐかが企業・組織が取るべき対策として重要になってきている。また、リスクが顕在化したときには、そのタイミングと過程をいかに早く察知するかがポイントになる。

 いわゆる「炎上」という事象は氷山の一角であり、潜在的な事故まで視野に入れ、炎上に至らしめないような管理が必要である。

 それは、気づかれていない機密情報の漏えい、公になれば信用を失う可能性のある投稿、静かに浸透していくネガティブキャンペーン等々・・・である。微細な兆候であってもこれを放置せず、若干の危機として捉え、このようなリスクは必ず顕在化してクライシスになるという認識を前提として持っていなければならない。それは、今回は(前回でもよい)何故、炎上一歩手前で済んだのか、何が付加されれば炎上となってしまっていたのか、という問いに答えるための、自社(環境・資産・機会・競合)分析が綿密になされていることを要請している。

※セミナーや研修について

 ソーシャルメディアリスクに対策においては、ガイドラインの策定や誓約も当然重要です。しかし、前提として、ソーシャルメディアやインターネットの仕組みに内在するリスク(怖さ)を十分に理解できているのかということがより重要になります。
当社では現代の世相を反映したリスクの急先鋒であるSNS利用上のリスクや情報管理に関して、セミナーや研修を数多く実施しております。
セミナーや研修を通じて、新社会人に限らず、全社的に教育を実施しインターネットの特性や情報モラルを理解するやリスクを認識させたい際は、是非ご相談ください。

【お問い合わせ】
株式会社エス・ピー・ネットワーク総合研究室
Mail:souken@sp-network.co.jp
TEL:03-6891-5556

Back to Top