防犯編 第二回

2014/01/29 / 総合研究室 研究員 前田 弘樹 プリント

 前回は、社会全体の万引きの動向や小売店舗における不明ロスの実態をみましたが、今回は、各種調査からみえてくる、小売店舗における万引き対策の実態と、万引き犯の考えをもとにし、実際に有効な対策について考えていきたいと思います。

1.万引き対策の実態

1)小売店舗における万引き対策

 実際の小売店舗において実施している万引き対策としてどのような施策を講じているか、『第8回全国小売業万引き被害実態調査』(以下『万引き調査』)をもとに考察していきたいと思います。

 この『万引き調査』(回答企業数625社)において、「万引き犯罪の防止策として、各店舗に実施させているもの」との質問に対する上位5つの回答(複数回答)を見ると、(1)従業員にお客様への声掛けをさせている(80.6%)、(2)防犯カメラを付けさせている(69.0%)、(3)商品陳列を工夫させている(36.2%)、(4)社員等に店内巡回をさせている(36.2%)、(5)保安警備員を配置させている(32.3%)となっています。

 この回答だけを見る限りでは、万引き防止策として不自然な点はありませんが、『万引き調査』の項目と、次項2)で取り上げる『万引きに関する調査研究報告書』を比較し、突き合わせてみると、上記の回答では、万引き対策としては不十分である可能性が浮き上がってきます。

 まずは『万引き調査』の項目から「万引き犯罪の防止のために実施している従業員教育」を見てみると、この問いに対しては、(1)朝礼等で万引き防止をテーマに取り上げさせている(40.3%)、(2)万引き防止マニュアルを作成・配布させている(31.8%)、(3)ロス費用の発生状況を人事評価に反映させている(12.8%)、(4)外部講師によるセミナーを活用している(3.0%)、(5)万引き防止実施訓練を行っている(1.8%)、(6)その他・無回答(34.4%)、といった順位になっています。

 (1)(2)(3)による万引きに対する意識を高める取り組みは、万引き対策として有効と考えられますが、先の「各店舗で実施させているもの」に対する回答で「(1)従業員にお客様への声掛けをさせている」が8割となっていたのに対して、「従業員教育」の回答では「(5)万引き防止実施訓練を行っている」が2%にも達しておらず、非常に少なくなっており、「教育」と「実施」との間に大きな乖離が見られます。

 (1)(2)(3)により"万引き対策"の知識や、意識を高める取り組みは行ってはいるものの、実際の現場で対応を行うに当たって、その知識を行動に移すことは容易ではありません。やはり対応能力は、実際の訓練によって培われるものですので、知識を修得することをもって、"万引き対策"とするには不充分であるのです。

 実施訓練を行っていないために、実際の現場において万引きしそうな人の見極めや、誰に、いつ、どのタイミングで声をかけたらよいのかなど、実践的な勘が養えない可能性があります。そのため具体的な抑止効果は期待できず、単なるスローガンで終わってしまうと言わざるを得ません。

2)万引き犯の考えていることは何か

 警視庁管内の各警察署において"万引き被疑者"として取調べを受けた者(1,050人)に対して、行われた『万引きに関する調査研究報告書』をみていくと、万引き犯の考えが見えてきます。この調査から、実際に有効な万引き対策を考えることができます。

 「(もし)こうされたら万引きを断念した」との問いかけに対して、万引き被疑者は、(1)店員からの声かけ( 62.0%)、(2)警備員の配置(16.8%)、(3)防犯カメラの設置(1.8%)、(4)その他(4.3%)、(5)断念することはない(1.8%)、(6)不明(13.3%)との回答が得られています。

 この回答をみると「(1)店員からの声かけ」により、62.0%が万引きを断念した可能性があるとしている一方で、「(3)防犯カメラの設置」に対しては、僅か1.8%と非常に少ないことが分かります。さらに、「(1)店員からの声かけ」に「(2)警備員の配置」を合わせると、8割弱が「断念する」としているため、防犯システムよりも「人」による防犯対策の方が「犯行を断念させる」心理効果が強いと考えられます。

 また、犯行の動機・原因として「何故その店を選んだのか」の問いに対しては、(1)店員等が少ない(6.4%)、(2)自宅付近(6.0%)、(3)死角が多い(5.2%)、(4)品揃えが良い (3.6%)、(5)何時も利用している(1.5%)、(6)防犯カメラがない(0.4%)、(7)特に理由なし(68.0%)、(8)その他・不明(8.9%)との回答順となっています。

 「(7)特に理由なし」と「(8)その他・不明」の合計が77%弱もあるため、その他の回答肢群はどれを取っても「店舗を選んだ理由(動機)」としては、相対的に弱いと言わざるを得ません。特に、「(6)防犯カメラがない(から)」を理由に犯行場所(店)を選んだのは、0.4%と極めて低い数値となっています。

 そのため、2つの回答から"防犯カメラの設置・存在は防犯対策(牽制効果)"としては、実はあまり有効ではないという可能性が浮かび上がってきます。つまり、万引き犯としては、「防犯カメラがあろうがなかろうが、やるときはやる」との心理的要因が働いていることが垣間見れます。

 この『万引きに関する調査研究報告書』の結果を踏まえると"万引き犯罪の防止(予防)策"としての「防犯カメラの設置」は、実際のところ、それほど効果を期待できないと考えるのが妥当のようです。

 しかし、この調査は被疑者(犯行を行った人)を対象としていますので、万引きを実行に至らなかった人(潜在的万引き犯)を対象とした場合、結果は違ったものになる可能性もあります(「防犯カメラがあったから、万引きを実行しなかった」等の回答が多いなど)。

 ダミーも含めたカメラの設置台数、レイアウトや陳列方法の変更等の現場的工夫による抑止効果がどの程度あるのか、別の視点からの調査報告も期待したいところです。

 また、防犯カメラ映像が証拠となり、犯人が後日逮捕された、などというニュースも少なからずありますので、一概に"防犯カメラを導入するのは意味がない"という結論を出すことは、証拠能力としての効果が期待できることからも早計と言えるでしょう。

2.万引き対策の理論

1)万引き防止ガイドラインと防犯理論

 東京万引き防止官民合同会議が発行した「万引き防止対応ガイドライン」においては、①万引き防止対応マニュアル(ソフト対策編)、②防犯環境設計基準(ハード対策編)、③補足時対応マニュアルといった項目立てをしており、小売店舗などにおいての万引き防止の観点から、対策や補足時の対応マニュアルなどを盛り込み、参考事例を含め網羅的に解説しています。

 ①ソフト対策編では、店舗従業員の望ましい行動や心がける必要のある考え方などを解説し、②ハード対策編では、店舗内において対策として有効な施策について解説を行っています。

 ▼ 「万引き防止対応ガイドライン」、東京万引き防止官民合同会議、平成23年2月

 同ガイドラインの内容をみていくと、犯罪原因論や犯罪機会論などを参考にして策定されていることが窺え、その中でも特に犯罪機会論を主眼において策定しているものと考えられます。

 犯罪原因論とは、犯罪を行い、捕まった人たちの考えをもとにして、犯行におよんだ原因を究明し、その原因を除去する事後的な対応を考えており、一方の犯罪機会論は、潜在的犯罪者に犯行の機会を与えないことによって未然に犯罪を防止することを主眼としています。

 原因論では犯罪者(犯罪を実行した者)に着目し、犯罪者の人格面(異常性)や、劣悪な境遇(家庭環境・学校内でのいじめ・会社でのストレスなど)に犯罪の原因を求め、それを取り除くことによって、犯罪を防止しようとする考え方です。犯罪者の「家庭環境は」「経済状態は」「悩みがあったのか」などのように、社会的な境遇、家庭環境や心理状態などの、犯罪者特有の異常な人格とならないために必要な更生や対処法などを考えています。

 しかし、犯罪者の人格や境遇を変える対策などを考えて実行したとしても、結果的に全ての犯罪者を改善するのは難しいのが現実です。

 各種事件が発生し、ニュースなどで報道されるときには、犯罪者の性格や家庭環境などを取り上げられることが多く、歪んだ性格や劣悪な家庭環境などを取り上げていいます。犯罪者が犯罪に及んだ要因を知るためには有効かもしれませんが、被害に遭わないために必要な情報ではありません。

 被害者の観点に立って、犯罪被害に遭わないために・回避するためにはどうすればよいかを考えたのが、犯罪機会論です。機会論においては、犯罪の発生要件は「犯罪者」、「標的(小売店舗では商品)」、「環境」の3つが揃った時点において犯罪は発生すると考えています。この要件の内、1つでも欠けると犯罪は発生しませんので、いかにして3つが揃う機会を喪失させるか(実際上は、実社会を前提とする以上、「犯罪者」と「標的」という要件を外すことは難しい)という観点から対策(「環境」という3つ目の要件に関して)を考えています。

 犯罪者(潜在的犯罪者)はどこにでも存在するものとの前提に立ち、防犯のためには機会を与えず、状況を変えることで回避する方法を考えています。犯罪の標的になるものには「抵抗性」を高め、環境(場所)には「領域性」と「監視性」を高めることで、犯罪を発生しにくい、防犯に強い状況を作り出すことが可能であると考えています。

 同理論を小売店舗において活用するためには、店内のレアウトや防犯カメラなどのハード面と、勤務している従業員の行動や意識などのソフト面の2つの側面から対策を考える必要があります。

 「領域性」とは、犯罪者が物理的・心理的に入りにくいと思わせる状況を作り出すことですが、領域性を高めるハード面の工夫としては、ゲートなどを設置し、店舗区画を明確にすることであり、ソフト面は、従業員が働いている店舗そのものに対する意識を高め、この場所では犯罪(万引き)を絶対に起こさせないとの強い自衛意識が必要となります。

 「監視性」とは、死角がない状態を作りだすことで、犯罪者が見られている・監視されていると感じる状況を作り出すことであり、監視性を高めるハード面の工夫としては、防犯カメラや防犯ミラーなどを設置することや、商品棚の配置や高さなどを変えて、死角がない状態をつくることです。

 ソフト面では、従業員の声掛けなどによって監視性を高めることが可能となってきます。監視性の強化により、領域性も明確となり、結果として領域性も高められる効果もあります。

 1.では「防犯カメラの効果は限定的」と記載しましたが、それは「犯罪者(すでに犯罪を行った者)」に対してという限定があったためであり、上記の理論では「潜在的犯罪者(犯罪を行う前の者)」に対する効果も含めているため、条件が異なっています。要は、前者が犯罪後を起点に予防対策を考えているのに対して、後者は犯罪前を起点に予防対策を考えようとしているという違いがあります。

 「抵抗性」とは、犯行を容易に出来ない状態を作ることであり、抵抗性を高めるハード面での工夫としては、施錠やケース内に入れるなど持ち出すことが出来ない状態にしたり、防犯タグなどの防犯装置を付けて容易に店外に持ち出すことが出来ない状況を作り出したりすることなどがあげられます。

 ソフト面では、商品棚などを整理整頓するなど、商品管理をすることにより管理意識を高めることで、誰かが持ち出したらすぐに発見される可能性があることを感じ取らせることで、結果として抵抗性が増すことになります。空箱陳列などもこの「抵抗性」を高めるための一つの工夫です。

 気を付けないといけないのは、ハード面とソフト面が両立する必要があることです。商品を施錠して持ち出せないようにしたとしても、管理意識が低く鍵を放置したり、施錠し忘れたりすると、機能しないことになります。

 同理論では、「領域性」「監視性」「抵抗性」はそれぞれが関連しあっており、これら3つを高めることによって、犯罪者にとっては犯行を行うコスト(見つかったり、捕まるリスク)が高まります。犯罪が成功した場合に得られる利益と差引して、コストの方が高くなれば、犯行を断念すると考えられます。従業員に見つかり捕まることで、司法機関に引渡され刑罰を科せられる可能性があることもコスト(心理的プレッシャー)を高める一因となっています。

 ▼ 参考文献:「犯罪は「この場所」で起こる」小宮信夫(光文社新書2005年8月20日)

2)おわりに

 1.で見てきた小売店舗における対策と、2.で見てきた、防犯理論を重ねてみると、対応策として重なる部分も多々あり、理論にも合致する対策となっている状況が見て取れたかと思います。しかし、前述したとおり、ソフト面とハード面の双方ともに実行する必要があり、どちらかが欠けることで、対策としては不十分なものになってしまうことも理解しておく必要があります。

 今回は、被害者側(小売店舗)で対策可能な環境への取り組み方などをみてきましたが、犯罪者そのものを減少させるための取り組みとして、立法論や社会政策の観点も必要な取り組みですので、時機を見て取り上げていきたいと思います。

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