災害BCP強化に向けた考察(第一回)
~想定論及び訓練のあり方について~(2017.11)

2017/11/08 / 総合研究室 部長 西尾 晋 プリント


 本年は、当社においても、多くの企業で災害対応やBCPに関する各種のトレーニングを相当数支援している。BCPについては、策定の段階から訓練による実効性確保・脆弱性の検証のプロセスに移行している企業も多くなっている可能性も考えられる。

 地震大国日本としては、大地震発生後の対応要領はもちろん、昨今の気象状況を踏まえると、台風や水害に関する対応要領の整備も重要になってくる。

 BCPの策定実務においては、私の過去の論考でも指摘・考察してきたように、従来の原因(インシデント)別BCP(いわゆる原因事象型BCP)から、結果(リソース別の被害)別BCP(いわゆる結果事象BCP)推奨の流れを受けて、災害事象別にそれぞれの特殊要因を検証・考察する視点が従来よりも後退しているようにも感じられる。しかし、BCPを考える上では、対策を行う要員の参集や通信インフラ、ライフラインの機能状況を勘案することは欠かせず、その点を踏まえれば、自然災害についても、その他のインシデントについても、ある程度、それぞれの特殊要因を踏まえた対策・体制整備が欠かせない。


 そこで、今回は、前回のBCP関連の一連の論考では十分に言及できていなかった点について、最新の状況も盛り込みながら、主に災害BCP強化に向けた留意点について、考察することとする。

=防災対策・事業継続体制を考える上での基本的視座と想定論について=

1.防災対策・事業継続体制を考える上での基本的視座

 まず、防災対策・事業継続体制を考える上での基本的視座を整理してみたい。防災対策・事業継続体制を考える上での基本的視座としては、次の3つを挙げておく。


(1)防災対策と事業継続対策に共通する要素は、いずれも「生命」の確保・維持が至上命題である。

 防災対策は、災害発生時の被害を可能な限り少なくし、人命を守るための取組である。

 一方、事業継続対策は、事業活動を通常通り続けることが困難な状況において、一時的な大ダメージを乗り切って、企業の生命である事業活動を継続するための取組である。

 両者は、いずれも「生命」を守るための活動である。

 したがって、事業継続対策を強化する上では、防災対策は欠かせないし、災害時の生命維持活動を目的とした災害医療のトリアージ的な考え方も事業継続対策の中では有 用である場合も少なくない。


(2)両者は、実際の災害時には何が起こるかわからないという難しさを内包している。

 防災対策は、強化すればするほど、コストがかかるが、どんなにコストをかけたからといっても完璧なレベルになることはない。理屈の上では、津波を止められるはずだった防潮堤が東日本大震災の際に津波の威力に屈して崩壊した現実を直視する必要があるし、地震等で複合的な事象が生じれば、そもそも技術基準・仕様では想定されていない中での使用・利用を余儀なくされてしまう。

 事業継続の観点からは、特に自然災害の場合は自社だけでは事業継続が困難な状況に陥る可能性も低くない上、ライフラインや交通・通信等が相当期間試用できない状況で対応していかなければならないことは過去の例からも明らかである。

 

(3)これらの状況を踏まえると、防災対策や事業継続対策を強化・推進していく上では、「現実の姿に学び、それをもとに考え、できることを確実に実施していくこと」が重要となる。

 防災対策の基本は「自助」にある。自分自身が生き残ることが最重要であるが、この視点を、日ごろの防災対策の中でどこまで意識・対策しているか。事業継続を考えるなら、その中枢を担う幹部こそ、尚更生き残らなければいけないが、幹部が防災訓練に参加しない等の企業も少なくない。防災及び事業継続の基本が、そこは個人の問題として、個人任せにされているケースも少なくない現実を直視しなければならない。

  一方、事業継続対策についても、実際の活動やアクションは、社会混乱の状況下で行うことを忘れてはならない。シナリオ通りには進まず、想定外の状況が生じることを前提にしておかなければならない。発生した状況を踏まえて、その中で最善を尽すことが求められる。

 往々にして、「以前は大丈夫だった」とか「東日本大震災や熊本地震では大した被害もなく、BCPは機能した」として、今後発生する災害でもうまく機能するはずという油断を生みやすい。被災後の状況は個別に異なる以上、以前大丈夫だったから次も大丈夫とは言い切れないにも関わらず、過去の成功体験や経験が、大きなバイアスや障害となって、対策が疎かになるリスクは、危機管理においては、常に戒めとして考えておく必要がある。

2.想定論に関して

 防災対策やBCPの整備を進める上で、ポイントとなるのは、「想定シナリオ」である。この点は、BCP対策の力点のおき方が変わった今も、進化・深化しているようには感じられない点は、非常に残念である。

 シビアアクシデントは、「そんなことは起こらない」とか「そんな事態になれば、何もできないから、考えてもしかたない」というようなご都合主義的な発想により、既定の想定シナリオの中で、訓練を実施しようとする企業も少なくない。又、訓練についても、災害状況を想定し、その対応力をあげるための訓練であるはずなのに、おおよそ災害状況下では考えられないようなカード(状況付与のためのカード)を利用するなど、実践性の疑わしい訓練を行っているケースも依然として多く散見される。

 実際に企業のBCPを見ても、勤務時間外の発災に関する規定や対応要領が書かれていないことがほとんどである。

 想定論について言えば、人は自分に都合よく想定してしまう。想定したくないことはあえて想定しない。福島第一原発の事故でも、都合の悪いシナリオは想定されていなかった。しかし、そもそも危機管理とは、最悪を想定して、準備・対策するものである。災害対策についても自分に都合悪いシナリオを想定しておくことが重要である。

 例えば、

  • 休日・深夜の発災
    • 休日や深夜など、社員が原則的に在社していない状況で大地震が発生したことを想定しているか。熊本地震は夜間から未明にかけて大きな揺れが続いた。現実に夜間・深夜帯に大きな地震が最近でも起きているのである。熊本地震を踏まえて、同じような時間帯に地震がおきた場合の安全対策やBCPを見直した企業はどのくらいあるだろうか。
       休日・深夜の発災を想定した場合は自宅での安全対策やプライベートの領域まで踏み込まざるをえない。各家庭での備蓄等まで踏みこんだ対策を行うことは企業としても抵抗があるかもしれないが、例えば、家具の固定等、生命に関わる事項については、研修や資料を用いて周知しておく必要がある。寝室等で家具が固定されていなければ、家具の下敷きになり負傷するリスクがある上、場合によっては命を落とす可能性もある。
  • 真夏・真冬等の季節要因
    • 大地震の場合は停電や節電の影響で、空調設備が使えない可能性がある。熱中症のリスクがただでさえ高い最近の国内の気象環境を考慮すると、真夏に、避難所で避難生活をしたり、事業者の片付け等をしなければならないとなると、熱中症のリスクはさらに高まることになる。備蓄に関して、水は3日分等言われるが、このように熱中症リスクが高まる環境下では到底3日分では全然足りないということは十分に想定できるであろう。
       真冬についても、暖房が使えない状況下では風邪等の罹患の可能性も増していくものと考えられるほか、地域によって凍傷等のリスクも想定しておかなければならない。
  • 出張時の被災
    • 出張先で大地震に遭遇することもある。この場合、土地勘がある場合はともかく、職場以外はそれほど土地勘もないと考えられることから、避難や移動にも支障がでる可能性が高い。そもそも現在の居場所が安全なのか、地勢的なリスクも把握できていないことがほとんどであることから、安全確保の面でもリスクがあることを十分に認識しておかなければならない。

 以上一例を挙げたが、運転中の状況や休日に家族(小さなお子様)と一緒の状況など、検討しておくべき状況はいくらでもある。想定の幅を広げたリスクや課題についても、機会を見つけて、社員自ら想定・検討することが重要である。

 また、想定については、上記のように想定シナリオを広げること以外にも、業務実施時に大地震に遭遇した場合、どのような事態・被害が考えられるかについても検討しておく必要がある。エレベーターへの閉じ込めや途中駅での移動困難、事務所内での怪我や施設での火災(なお、火気がなくても、電気火災のリスクもある)等、想定される事象や被害を多々あげることができる。

 防災訓練やBCP対応訓練の際には、既定のシナリオでの訓練だけではなく、想定外の状況での訓練・シミュレーションを行うこともぜひ検討いただきたい。日ごろから想定外の状況を踏まえて思考・判断する訓練を行っておけば、被災時に想定外のことがおきても、それなりの判断・行動ができるようになる。

3.実効性担保にむけた検討事項

 防災マニュアルやBCPは、在社時の被災が前提であることが多いことは既に指摘した通りであるが、その他にも、なぜか通信が繋がる前提、電気が使える前提であることが多い。また、担当者が無事で通常通り勤務できる前提で作成されており、別の専門外のスタッフが行うことを前提に業務仕様書やチェックリスト等が明記されていることも稀である。

 訓練やシミュレーションについても、例えば、避難訓練は電気のついた避難時の障害物もない状況で行われていることが多く、また、事業継続上重要な役割を担うはずの社長や役員、経営幹部は参加しない等の状況がまだまだ圧倒的に多いのが現状である。安否確認訓練についても、参加率・返信率が低いままとか、社長や役員はレスポンスしてこないまま何度も繰り返されるなど、どうしても社内での都合や関係者の面子が重視された形で行われてしまう傾向にある。

 先に述べたように、防災やBCPは人や企業の生命を守るための取組である。したがって、100%参加する訓練である必要があるし、可能な限り100%参加されるような仕組み作りが求められる。不参加者を社内で公表したり、部門別の参加・実施状況を公表したりして、参加・実施しないことがネガティブに働くような運用も重要になってくる。

 ここで、訓練等のあり方について、実際の災害対応経験者の指摘も踏まえて、危機管理の観点から、どのような訓練を行うべきか、当社の業務も踏まえて紹介しておきたい。


 まず、東日本大震災で実際に対応に当たった有識者の指摘を紹介する。

  • 日本の災害対応の問題点の一つがハザードの分析です。今でも消防や医療の関係者に対して、福知山線の事故の写真を見せて、この状況で、ハザードはどこにあるかという問題をよく出すことがありますが、多くの人は答えることができません。
     ※出典:リスク対策.COM
         Vol39 巻頭Interview「互いが信じあえる危機対応シ ステムの構築」
          ~災害現場からの提言~(秋冨慎司氏)
  • 情報が入ってこない中でどこまでイメージできるかは、実際に災害を経験していないとなかなかできないことです。~(中略)。こうしたイメージ力を高めていくには、実際に災害を経験するか、訓練を数多くこなすしかないわけです。首都直下地震や南海トラフで出されている被害想定をもとに、訓練をして、最悪の事態をイメージするトレーニングを積んでいくことが大切です。

     ※出典:リスク対策.COM
          Vol39 「次の巨大災害に教訓を生かせ」
          ~岩手県災害対策本部の闘い~(越野修三氏発言部分)
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 このように、実際の現場で起こりうる事象や被害を専門機関である消防や医療関係ですら、なかなか想起できないこと、あるいは最悪の状況を踏まえたイメージトレーニングが実際の状況では役に立つことが指摘されている。この点は、上記の通り、私の解説部分でも想定シナリオの拡大や業務で起こりうるリスクの想定訓練の重要性として言及・指揮したとおりであるが、企業内で各種の災害対応訓練を行う場合に、常に念頭におくべき留意事項といえる。

 当社では、クライアントの現況にもよることから全てというわけではないが、次のような目的で、災害対応訓練の実施を支援させていただいている。

  • 危機管理における「事態想定力」の強化
    • 災害発生後には、様々な事象が起こりうることを演習やグループワーク等を通じて学習する
  • 各現場における「危機対応力」の検証
    • 混乱状況下における対応要領を確認するとともに、実現性や課題について議論する。
  • 災害対応体制の「課題ととるべきアクション」の明確化
    • 今後の危機対応に関する課題を整理するとともに、有事の際の対応体制について考察する。
    •  

 また、訓練の実施に際しての工夫としては、事前シナリオで状況を付与しつつ、途中でシビアインシデントを適宜付与し、実際にどのようなことが起こりうるのか、そのときにどのような対応をすべきなのかを検討してもらい、現場におけるハザード察知力を高めていただくようにしている。

訓練においては、マニュアル等にしたがって適切に行動ができるか等の行動の訓練も重要であるが、災害時にはその場その場で適宜の判断や役割外の対応も求められることから、判断の訓練を多く行っておく必要がある。

 もちろん、訓練においては、地理的条件や業務内容を勘案して過酷条件となりうる状況を適切に付与して訓練強度をあげること、実際の現場を想定した条件設定(例えば、実際災害状況下では、カードで状況がわかりやすく付与されることなどあり得ない点を考慮して、あえて聞き取りにくい音声通話や途切れ途切れの通話、情報が全くない中でもアクションを考えてもらう等)をした上での訓練も適宜実施していくことが求められる。

4.前提としている想定と想定外への準備(第一回まとめ)

 今回は、防災対策やBCPの想定や訓練のあり方について言及してきたが、第一回の総括として、災害対応にみる危機事態の特殊性を補足しておきたい。


 まずは、秋冨氏、越野氏が語る災害対応の教訓を紹介する(先ほどのものとは別の内容)。

  • 「情報を制するものは災害を制する」と言われていますが、発災当初は8割以上の情報が誤報です。けれども、その中に本当に対応しなくてはいけないものが隠されています。そして、情報がないことが重要な情報だったりもするのです。日本では、正しい情報が常に入ってくることを前提に災害対応を考えますが、実は「情報マネジメント」の必要性を理解していない。
  • 災害対応では、活動の目的を決めたとき、それを行うために、どのような情報が必要になるのか、情報を収集する前に具体的な項目を決めておき、それに基づき、情報を収集します。しかし、多くは誤報だったり、同じ内容が別々のところから入ってきたりする。そこで重要になるのが情報の集約化と分析です。
    僕はこれを情報のトリアージと呼んでいますが、信頼度が低くても人命にかかわるような重要なことに対しては対応度をあげないといけない。逆に、信頼度が高くても優先度が低ければ後回しにしなくてはいけない。~(中略)最も状況を把握している現地からの声を優先的に聞き入れるべき。
     ※出典:リスク対策.COM
         vol39 巻頭Interview 「互いが信じあえる危機対応システムの構築」
          ~災害現場からの提言~ 秋冨慎司氏
  • 「あのような大災害の突発事案というのは、最初から情報が入るはずがないのです。」
  • 「災害対応は、マニュアルに書かれていることなど、ある前提条件の中だけで考えると、必ず行き詰まります。市町村が機能していない中で、自分たちがどう行動すべきか難題に直面する中で、いかに臨機応変に動くことが大切か我々は学びました。」
         ※出典:リスク対策.COM
         vol39  「次の巨大災害に教訓を生かせ」~岩手県災害対策本部の闘い~越野修三氏の発言部分

 このように、災害時は情報収集・判断が容易ではないばかりではなく、想定外の事態の中での臨機応変な対応も欠かせない。情報が錯綜し、難しい状況の中で決断が求められるという災害対応・BCMの特性については、別の指摘も紹介しておきたい。


 神淡路大震災時に救助・災害支援の指揮を執った海上自衛隊の指揮官は、自著の中で、次のように述べている。

  • 非常時は、必ず情報が錯綜し、状況を把握するまでに時間がかかる。指揮官が全てを知ってから判断しようと思っていると、対応が遅れて、その間に被害がどんどん広がってしまう。(⇒危機対応の特徴)
  • 非常時はいくら想定しても、法律や規則で定められていないことばかり。定められていないことについては、一応、上の人に報告してから動くのが原則。しかし、実際には、いちいち報告している暇はないし、現場としては報告している間も事態は変化するので、その対応に追われる。上層部では何か助けてやりたいけど、現場の状況が何も見えず、何をしていいのか分からない。結局、三すくみの状態になってしまう。非常時ではこのようなジレンマが必ず起こる。そうならないために、普段からある程度の権限を現場の人間に与えておく必要がある。何より、部下との信頼関係が非常時には重要になる。(⇒非常時のジレンマと平素からの信頼関係の構築)
  • 危機というのは大概初めてのこと。初めてであり、処理する時間もない。それでも直ぐに何かをやらなければいけない。これを危機という。時間的に余裕があってゆっくり考え、マニュアル通りにやれば収まるのであれば、それは危機ではない。本当の危機では、ほとんど「お手上げ状態」になる。マニュアル通りにやって人が死ぬより、マニュアルには書いていないけど命を救った方が良いに決まっている。(⇒マニュアルはあくまで指針)
     ※出典:「危機突破リーダー」(仲摩徹彌著・草思社刊・2013年2月)
     ※(⇒)部分は、筆者のまとめ

 以上の通り、災害対応を実際に行った経験者の指摘には、共通する内容のものが多い。これらの指摘を踏まえて、想定論のあり方や訓練のあり方を今一度見直していくだくことをお勧めしたい。


 最後に、防災対策・BCPの強化に向けては、ぜひ、次の2点に留意していただきたい。

  • 「通常のオペレーションが機能しないこと」を前提に考えておく 企業の規模や事業の特性に応じて可能な限りの準備は行いつつ、「それが使えない場合があること」「想定外のことが起こること」を常に念頭に置く。
  • 全てを事前に想定することは難しく、発生事態を踏まえて、対応していかざるを得ない

第1回 以上

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