解説!新任担当者のためこれからの株主総会対策~第1回~(2018.2)

2018/02/07 / 総合研究室 研究員  鈴木 昭博 プリント

1.はじめに

 2014年2月に「『責任ある機関投資家』の諸原則」、いわゆる日本版スチュワードシップ・コードが策定・公表され、2015年6月には「コーポレートガバナンス・コード」が施行された。200超の機関投資家が諸原則の受け入れを表明し、上場企業においてはコーポレートガバナンス・コードの適用の対応に追われることとなっています。

 その後、2016年11月に金融庁と東京証券取引所に設置された「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」において、その後の改革を実質的なものとすべく議論がなされていますが、こうした動きの中で、株主総会にかかる実務も、その変更を余儀なくされています。

 これらについては、弁護士や証券会社などにおいて、すでに多く言及されているところですが、本稿では、新任の株主総会担当者や新規上場会社の担当者の一助となるよう、株主総会にかかる動向を確認するとともに、当社として、これまで多くの企業で支援してきた経験を踏まえ、危機管理の観点から、対応のポイントを整理し、今後の株主総会実務における対策について検討します。

(1) 企業をめぐる社会情勢

 世界規模における2017年の新規上場数は、アジア地域の活況が影響し前年比45%増と10年ぶりの高水準となり、この勢いは2018年も継続すると見られています。日本においても、日本取引所の発表によれば、2016年の新規上場数は83社であったのに対し、2017年は93社と10社も増加しています。ある証券会社では、「市場が活況で、企業が上場に積極的になっていることから、2018年の新規上場数も2017年と同程度となる」との予測を立てています。

 こうした状況の中で新規上場の意向がある企業に対して行われた、新規上場の目的に関するある調査では、従来から上位を占めている「知名度や信用度の向上」、「優秀な人材の確保」、「資金調達力の向上」は依然として上位を占めていますが、わずかながら「社内管理体制の強化」の割合の上昇がみられました。これは、ここ数年で、企業の不祥事が多数発覚し、その後の経営に大きく影響することがあらためて認識され、新規上場を目指す企業においてもコンプライアンスの推進が新規上場を果たすこと、上場後の市場価値向上のために重要であるとの意識が強まったとも言えるでしょう。ましてや、既に上場を果たしている企業においては、コンプライアンスの推進が実効性のあるものであることは言うまでもないでしょう。

 さらに、上述のように、不祥事が立て続けに発覚していることを受けて、企業を取り巻く環境は決して穏やかなものではなく、ステークホルダーからの視線は厳しくならざるを得ない状況下にあります。とりわけ、株主にとって企業の経営状況は最大の関心事であり、市場が活況を呈しているということは、投資家の活動も活発化すると言えるでしょう。そのため、市場価値を低下させるような経営上の重要事項に対しては、株主代表訴訟に及ぶケースも少なくありません。

 そのため、関係省庁では、上述の2つのコードに対して、改革が機能していないとの見方を強め、実効性のある改革をなされるようその動きを活発化しています。

(2)株主総会をめぐる社会情勢

 そこで、まずは、株主総会にかかわる事項について、関係省庁や企業、機関投資家、個人投資家の動きについて、それぞれの立場で概観いたします。

①関係省庁

A)金融庁

 2015年7月に森信親長官が就任して以降、金融機関の統治改革や営業姿勢の転換などの政策を進め透明性強化を促すなどの改革を進めています。また、株主総会に関しては、機関投資家として、議決権行使の状況を開示するよう求めるなどの改革を進めており、今後、さらにその改革は加速するとの見方がなされています。

 近年、株主提案権の乱用とも言えるケースが増えていたことを受けて、金融庁は、その対策に乗り出し、上限案をまとめており、早ければ2019年の通常国会において会社法改正案として提出される見通しです。しかし、それまでは、乱用のリスクは変わりません。

 また、金融庁は、企業と投資家の対話促進のため、投資家に必要な情報を分かりやすく効率的に伝える方策として、法務省と連携し、事業報告書と有価証券報告書の表記統一化を図るべく、2018年3月期決算分から適用される見通しです。「純資産」と「純資産額」、「従業員の状況」と「使用人の状況」、大株主の株式所有割合、取締役や監査役の報酬総額等が対象となります。

B)フォローアップ会議

 「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」は平成27年9月24日の第1回目開催以降、これまで13回開催されています。

 これは、「『日本再興戦略』改定2015 」(平成27年6月30日閣議決定)のもと、スチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コードの積極的な普及と定着を促進しており、このフォローアップと更なる充実に向けて必要な施策を議論・提言することを目的としています。

 これまで、政策保有株式、取締役会等、企業と機関投資家の間の建設的な対話、コーポレートガバナンス改革の進捗状況と深化に向けた取組み等について議論されています。

C)経済産業省

 経産省は上場企業に対して、顧問や相談役の役割を明示するようルール化する見通しで、早ければ2018年からの実施見込みです。2016年の株主総会から機関投資家が相談役・顧問制度の新規導入には反対の方針を打ち出しており、これを受けて、相談役や顧問制度の廃止に動き出した企業も少なくありません。

 依然として相談役や顧問などの名誉職を設置している企業に対しては、機関投資家だけではなく、一般株主からもその処遇等に関して、厳しい質問が寄せられることも想定しなければなりません。特に企業不祥事を起こした企業に対しては、顧問や相談役などの(いわゆる)名誉職の影響力による慣行の継続が原因と考えられる場合などは、そもそもそのような役職を設置していたことへの指弾も含めて、厳しい追及がなされるものと考えられます。

②企業のスタンス

 上場企業におけるコーポレートガバナンス・コードの対応状況について、東京証券取引所の発表によれば、全73原則を「コンプライ」している会社は、25.9%、9割以上の原則を「コンプライ」している会社は88.9%となっています。

 また、2016年度において「エクスプレイン」率が高かった原則のうち、2017年度に「コンプライ」が進んだ原則は、補充原則4-11③『取締役会の実効性評価』で71.3%、原則4-8『独立社外取締役の2名以上の選任等』で84.8%でした。なお、「エクスプレイン」率が最も高い原則は、補充原則1-2④『議決権電子行使プラットフォームの利用・招集通知の英訳』でした。

 コンプライする企業が多い現状を踏まえつつ、株主との対話やその根底にある企業価値向上の趣旨に鑑みて、エクスプレインをしっかりと行っていくことも今後、重要になってくるものと思われます。

 また、当然のことながら、コンプライした項目についても、それが単純に説明責任を回避できるほど甘いものではなく、コンプライしたことによる運用の実績や効果測定、それを踏まえた今後の方針などについても、機関投資家や一般株主からの質問も予想され、企業にも相応の説明責任が求められてくるものと考えられます。

 ちなみに、"アクティビズム"がアメリカから世界に広がったとの見方もある中で、たとえその存在が招く結果が多少は、気乗りしないまでも、アメリカ企業の80%は、物言う株主の存在は企業にとって有益であるとの認識があります。

 例えば、PwCアメリカ法人が、2016年10月に発表した「PwC企業取締役調査(2016年)」によると、「物言う株主は自社の戦略や執行、資本配分に関する評価の効率の向上に強い影響力を持っているか」という質問に対し、調査対象とした上場企業の取締役884人のうち80%が、「少なくともある程度はそう思う」と答え、また、自社の経営と資本配分の改善につながったと答えた取締役も、同程度の割合に上っています。

③一般株主のスタンス

 単なる株主ではなく、ファンであったり、元社員であったり、ヘビーユーザーであったりする方も株主総会に積極的に参加されます。このような株主は企業への思いも人一倍強いため、時として、告発的な質問やクレーム的な質問、辛辣な経営批判、商品やサービス・人事などへの具体的な要望など、様々な質疑がなされます。

 企業として、機関投資家だけではなく、日々自社の商品やサービスをご利用いただいているユーザー株主への対応も疎かにはできません。特にクレーム的質問などへの回答・対応は、ややもすると、紋切り型になりがちですが、その中でも、自社の取組や企業価値向上に向けた説明を行っていくことが望まれます。

そして、彼らは、情報の発信者でもあります。米国のYouTuberの迷惑行為が問題となりましたが、現在では誰もがSNSなどで手軽に情報を発信することができますし、個人ブログ、みんかぶ、YAHOOファイナンス等の掲示板など、情報発信の場も増えています。今後も、このような掲示板の書き込みや各種の投資関連情報に触発されて、株主発言が増加したり、株主総会の場での対話を求める傾向も強まって来ることも想定しておかなければならず、企業としてのそれを見越した準備・訓練・対策が求められます。

 なお、SNSの普及・発展は、株主総会運営においても大きな影響を及ぼしています。既に一般の記者会見等においても、記者が事案概要や質疑の様子をTwitterでつぶやき、それをみたネットユーザーが、当該ツイートにリツイートする形で、追加・関連質問を出して記者がそれを会見の場で質問するという事態や、ツイートを見て、すぐに会社側に電話をして会見での発言の真意を問いただす(会社側としては、会見が進行中であるため、広報や総務部門でもリアルタイムではその内容を把握できていない場合も少なくない)という事態も発生しています。株主が株主総会会場から、ある程度リアルタイムで、議長の発言や質疑の状況、株主総会の様子などをツイートし、それを全く関係のない(株主でもない)ネットユーザーがみて、リツイートの形で、関連質問や更に混乱させるような入れ知恵をしているケースも現実に起きています。あるいは、ツイートを見てすぐにIR等に電話を入れ、株主総会での議長等の発言の真意を問いただしたり、矛盾する回答を引き出そうとしたりすることも可能です。

 入学試験での携帯電話を使った不正が行われる時代です。株主総会でも実質的に株主でない人の質問を出席した株主が議場内でのTwitterを介して行う、リアルタイムでの動画配信を目的として、録音・録画が禁止されているにもかかわらず、公然と撮影したり、隠し撮りをしたりする株主も存在していることに留意しなければなりません。

 会場係は、単に案内するだけではなく、議場内や株主の動向にも目を光らせ、不審な動きがあれば、当該株主に注意をするとともに、議長等と連携して適宜警告し、適切な秩序維持権限を発揮できるようにサポートしていかなければなりません。この場合、どのように注意をし、議長とどのように連携をとるか等の確認・訓練が重要です。

 IT時代の株主総会においては、会場係の役割は重大です。リハーサル等では、会場係が参加することは少ないですが、今後は、より重要性を増してくることから、リハーサル等で様々なケースを想定したロールプレイングを行う等、企業側の意識改革も必要になってきます。

 なお、一般株主との関係では、株主提案への対応についても触れておきたいと思います。一時期流行した敵対的買収防衛策の議案については、機関投資家からの反対も根強く、最近では上程する企業も減っていますが、個人株主や投資家による株主提案、企業買収も再び活発化してきています。

 最近の株主提案をみると、完全に私的な価値観に基づく株主提案や私物化に等しいと思われる提案なども目立っており、個人株主の増加や株主提案のハードルの低さに起因する事例も散見される一方、企業としては株主共同の利益に繋がるとは考えにくい株主提案を招集通知や参考書類に記載しなければならないことに伴い、印刷コストの増大(結果として、利益額にも影響する)を招くなど、弊害も出ています。このような株主共同の利益に繋がらないような乱用的な株主提案については制限を加える動きがあることは既に紹介した通りです。

 株主提案への法的な対応等については、弁護士にお任せするとして、本稿では危機管理的観点から、株主提案への企業としての対策について、留意事項をいくつか挙げておきたいと思います。

 まずは、早期に経営陣、顧問弁護士、証券会社、IR・SR担当部門またはコンサルティング会社等からなる対策・対応チームの編成がいつでもできる体制づくりを行うことです。できることなら、株主提案がなされる前に、当該株主が株付けしていないかの確認を定期的に実施していくことが重要となります。

 ただし、模倣的に株主提案をする株主が現れる可能性は否定できないことには留意が必要です。

 なお、会社によっては、定款によりその要件が緩和されているため、定款の定めをあらかじめ確認しておく必要もあります。

 次に重要なのは、近時の株主総会において、どのような株主提案がなされているか、その動向を常にチェックしておくことです。最近では、インターネット上で賛同者を募るケースもあることからSNS対策も必要になります。株主総会への対応は、総務部門やIR部門、法務部門等が中心になる会社が多いと思いますが、株主提案の動向チェックやSNS対策等も実施できるよう、組織内の連携体制を見直しておくことも忘れてはなりません。

 なお、お家騒動や経営の主導権争いに端を発する株主提案については、対策が難しくなる場合があります。内通者が社内にいる可能性も高いながらも、誰が誰に通じているのかの把握も難しいため、特に情報管理の面で、種々の配慮が必要になるからです。

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