内部通報制度の実効性検証の課題に関する考察(2018.4)

2018/04/03 / 総合研究室 部長 西尾 晋 プリント


~内部通報制度の実効性検証の課題に関する考察~

 昨年の日本を代表する製造業者等の不祥事以降、改めて内部通報制度への関心が高まっている。社内窓口から外部窓口へ切り替えるケースや、グループで設置していた企業が、自社単体で内部通報窓口を設けるケース、あるいは内部通報窓口の利用対象者を取引先にまで広げるケースなど、当社の第三者内部通報窓口(リスクホットライン®:以下、RHL)のお問い合わせや導入をいただく企業の要望も多様化・活発化している。
 これらのケースでは総じて、内部通報制度を活性化・積極活用しようという意向が感じられるが、内部通報制度を活性化し、実効性を高めて行こうとする場合、外部窓口への変更や利用者の拡大等もさることながら、自社の内部通報制度や通報対応の有効性・合理性を分析・検証する、内部通報制度のレビューについても忘れてはならない。
 2016年12月に消費者庁から公表された「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」(以下、ガイドライン)においても、第三者による検証・評価や内部通報制度の評価・改善に関する提言が盛り込まれている。
 もちろん、ガイドラインが法的拘束力を有するものではない以上、必ず実施しなければいけないものではないが、ガイドラインに盛り込まれている以上、今後の流れとして、不祥事等が発生した場合は、内部通報制度が機能していたのか、その実効性評価の実施状況や内容・それを踏まえた改善状況なども注目されることになる。また、取引先やサプライチェーンにおけるコンプライアンスやCSRの推進の観点から、内部通報制度の設置状況だけではなく、内部通報制度の評価・検証・改善の実施状況等にも関心が寄せられてくるであろう。
 そこで、今回は、内部通報制度の評価・検証の課題と方策について考察してみたい。


1.ガイドラインにおける内部通報制度の実効性確保の要請

 2016年12月に消費者庁から公表されたガイドラインでは、内部通報制度について、単に設置するだけではなく、それが従業員等から見て、「利用しやすい」「通報しやすい」ものであることを要請している。
 例えば、「安心して通報ができる環境の整備」に関して、

従業員の意見の反映等
 従業員の意見・要望を反映したり、他の事業者の優良事例を参照したりするなど、従業員が安心して通報・相談ができる実効性の高い仕組みを構築すること

環境整備
 リスク情報が可能な限り早期に幅広く寄せられるよう敷居が低く、利用しやすい環境を整備すること。また、窓口利用者の不安を解消するため通報の取扱いや通報者保護の仕組みに関する質問・相談に対応すること。更に、内部通報制度の運用実績概要を個人情報に配慮しつつ従業員に開示し、制度への信頼性を高めていくこと

仕組み等の周知
 通報対応の仕組みやコンプライアンスのみならず、公益通報者保護法やガイドラインの内容についても、経営幹部や従業員に対して、社内広報や研修を通じて、十分かつ継続的に周知すること

 等を列記している。

 これらの記述から読み取れることは、内部通報制度の評価・検証に際しては、現在自社内で設置されている内部通報窓口が、内部通報窓口の利用者にとって、「利用しやすい」、「通報しやすい」状況になっているかを検証し、現行の内部通報窓口の運用面における課題を抽出する必要があることが示唆される。


 また、第三者等によるレビューについては、「調査・是正措置の実効性の確保」として、「通報対応の状況について、中立・公正な第三者等による検証・点検を行い、調査・是正措置の実効性を確保することが望ましい」とするほか、「(内部通報制度の)評価・改善」として、「内部通報制度の実効性を向上させるため、例えば、整備・運用の状況・実績、周知・研修の効果、従業員等の制度への信頼度、本ガイドラインに準拠していない項目がある場合にはその理由、今後の課題、等について、内部監査や中立・公正な第三者等を活用した客観的な評価・点検を定期的に実施し、その結果を踏まえ、経営幹部の責任の下で、制度を継続的に改善していくことが必要である」としている。
 なお、前段の「調査・是正措置の実効性の確保」については、中立・公正な第三者等による検証・点検が「望ましい」とされているが、後段の「(内部通報制度の)評価・改善」については、内部監査や中立・公正な第三者等を活用した客観的な評価・点検を定期的に実施し、制度を継続的に改善していくことが「必要である」とされていることに注意が必要である。
 これらの記述から読み取れることは、内部通報窓口そのものや通報対応過程における調査・是正措置の妥当性・有効性に関して、多角的な見地から、客観的に評価し、内部通報制度や窓口における今後の改善事項を明確にしていく必要があることが示唆される。


2.内部通報制度の検証・点検を行う上での難しさ

 それでは、上記の提言を受けて、内部通報制度の検証・点検を行う場合、どのような点に留意しておくべきだろうか。ガイドラインの要請自体はもっともな内容であるが、実際に内部通報制度の検証・点検を行っていく上では、大きな3つの課題を認識し、それを克服する方策を検討していく必要がある。
 そこで、内部通報制度の検証・点検を行っていく上での難しさについて、ここで説明していきたい。


1)社内における検証・点検の難しさ
 まず、一つ目は、内部通報という秘匿性・匿名性の高い情報を扱う窓口を対象とするだけに、社内での検証・点検が極めて難しいことである。
 すなわち、内部通報は、通報内容の秘匿性や匿名性確保を要請の強く働き、社内でも、通報内容に関しては受付部門や調査部門等、限られた特定の関係者のみで共有され、しかも、当該スタッフにも保秘義務を課して厳格な情報管理を行うことも要請される。したがって、そもそも内部通報に関する対応方法等について、社内で広く意見交換することが難しく、ノウハウの蓄積がしにくい。
 また、内部通報制度や調査・是正措置の有効性や合理性を評価するであろう内部監査 部門やコンプライアンス・内部統制関連部門自体が、内部通報の受付や調査・是正措置 の実施等に関与しているケースがあり、お手盛りを回避した形での、中立・公正、客観 的な評価を行うことが構造的に難しい場合もある。


2)内部通報制度の整備・運用全般にわたるノウハウが公開・共有されない
 二つ目は、対応等の有効性や合理性を評価しようにも、他社事例や他社のノウハウがなかなか公開・共有されないため、比較評価が難しいことである。
 すなわち、自社の内部通報制度や自社での対応について、他社の事例・知見を用いた 検証をしようにも、そもそも内部通報で寄せられる情報は各社の恥部にかかわる場合 もあり、また極めて機微な内容を取扱う関係上、通報内容や調査・是正の方法、窓口と しての対応内容等に関する他社の事例や知見に関する情報が公開・共有されることは 稀であり、自社の対応内容等の有効性・合理性を他社と比較して評価することが難しい。
 また、実際に、有効性・合理性を評価する上では、内部通報の受付や調査に関する実 務的知見はもちろん、内部通報制度全般や内部統制システム、組織管理やリスクマネジ メント、不正調査や労務を始めとする各種コンプライアンスに関する知見等が総合的 に必要となることから、社内や外部の専門事業者においても、対応できる人材を確保す るのが難しい。
 さらに、内部通報の受付を行う専門事業者等においても、セミナー等において、同業 他社の参加を拒否するケースも見受けられ、そこで説明・公開されるノウハウや知見が そもそも有効性評価や合理性評価に使える知見なのか、その客観的な評価が難しく、評 価指標としては信頼しにくい。

 

3)評価・検証の指標作りが難しい
 三つ目は、上記の各課題を踏まえると、そもそも内部通報制度や調査・是正措置の有効性評価等を行うための評価指標の作成が難しいことが挙げられる。
 すなわち、ガイドラインでは内部監査部門での評価・検証も想定されているが、内部 監査部門としても、なかなか他社事例等を参照しにくいところもあるため、窓口の対応 の良否や調査の適切性、有効性・合理性を判断する指標が作りにくい。
 また、そもそも有効性を評価するためには、評価・監査するスタッフも内部通報実務 に関する一定の知見や経験がなければならないが、そのような人材は決して多くない。
 さらに、内部通報制度の検証・評価に関する指標や基準・知見が、現時点ではあまり 普及しておらず、せいぜい消費者庁のガイドラインを用いることになることから、合理 的かつ有効な評価を行う為の具体的な項目の洗い出しも容易ではない。
 そもそも、消費者庁のガイドラインは公益通報者保護法を大前提としているが、法令 違反等の通報対象事実の通報をベースとする公益通報と、ハラスメント等の人間関係 も含めた広範なリスク抽出を前提とする内部通報とでは、その射程範囲や対応が微妙 に異なる点も考慮すれば、ガイドラインの内容だけでは、内部通報制度そのものを有効 性評価を担保しうるか懸念もあるといわざるを得ない。


3.上記課題を克服するための方法論に関する考察

 以上、3つの観点から内部通報制度の評価・検証に関する課題を説明してきたが、項目として整理すれば、克服すべき項目は、次の4つとなるであろう。すなわち、「社内における検証・点検の難しさ」、「ノウハウが公開・共有されない」「評価・検証の指標作りが難しい」「内部通報制度の有効性評価に関する知見・人材不足」である。
 そこで、それぞれの項目について、具体的に考えられる対応策を検討してみたい。
 まずは、「社内における検証・点検の難しさ」についてである。この項目については、4つめの「内部通報制度の有効性評価に関する知見・人材不足」とも関係するが、社内での意見交換等が難しい以上、自社において、内部通報制度の評価・点検を行う部門や担当者が、内部通報制度の運用に関する相応の知見や他社の有効な取組みについて、多くの情報を収集することが考えられる。しかし、そのような情報収集の機会は、あまり多くない現実がある。この点をどのように克服するかが、課題となるであろう。
 「ノウハウが公開・共有されない」、あるいは、「評価・検証の指標作りが難しい」については、そもそも内部通報制度や調査・是正措置の有効性に関するノウハウが必要である以上、内部通報実務についての豊富な経験・実績があり、しかも内部通報対応+αに関する実務経験や知見も豊富である人材やそれに基づく資料を確保することが考えられる。しかし、内部通報実務やそれ以外の実務経験・知見を有している専門家は僅かであり(有効性評価という観点からは、受付スタッフのスキルのチェックが必要な場合もあるが、このようなスキルチェックを行うには、チェック者自ら、通報受付・対応に関する実務経験が豊富であり、その知見を一般化・体系化できている必要があることは論を待たないであろう)、民間事業者においても、通報の取次ぎは行っていても、調査や是正、組織的改善の知見まで有していない事業者も存在していることから、この点をどのように克服するかが、課題となるであろう。
 このように考えると、内部通報制度や調査・是正措置の実効性・有効性評価を自社で行うことは、現時点においては、かなりハードルが高い上、第三者機関に依頼する場合であっても、その事業者の選定が重要になるであろう。そもそも、自社による評価では、中立・公正、客観的な評価といえるのか、その疑問は拭えない。自社で行うにしても、少なくともその際に用いる指標は、自社内での知見に留まらない外部の知見も加味したものであることが求められる。
 なお、この点については、ガイドラインでは、内部通報制度の評価・改善について、「ステークホルダーへの情報提供」も提言されていることも見逃してはならない。すなわち、ガイドラインでは、「各事業者における内部通報制度の有効性の程度は、自浄作用の発揮を通じた企業価値の維持・向上に関わるものであり、消費者、取引先、従業員、株主・投資家、債権者、地域社会等のステークホルダーにとっても重要な情報であるため、内部通報制度の評価・点検の結果を、CSR報告書やウェブサイト等において積極的にアピールしていくことが適当である」とされている。評価・点検の結果を、ステークホルダーに積極的に公表するのであれば、その評価・点検に用いた指標や、評価・判断の合理性を相当程度担保しておくことが重要であることはいうまでもない。


4.最後に

 最後に、具体的な動きは私自身十分に把握できていないが、消費者庁は、内部通報制度に関する認証制度を整備したい意向であるとの情報もある。2016年12月に公表されたガイドラインは旧ガイドラインと比べると、ボリュームもかなり増え、記載されて項目も、比較的網羅的かつ詳細になっている。

 ただ、実際の認証や評価点検には、項目(WHAT)だけではなく、手法(HOW)についても具体的かつ詳細な検討が必要であり、また、担当者のスキルチェック等を行うならば、スキルマップ等も必要になる。この点に関して、当社のRHLにおける内部通報対応経験やその過程で蓄積されている契約企業の対応例、あるいは通報内容に多く寄せられる案件や不正・危機事案への対応経験・知見、あるいは内部統制システムも含めた企業危機管理に関するノウハウ等を勘案して考えると、ガイドラインの内容では心許ない部分もある。
 認証制度の整備や認証のための評価指標作りは、言うほど簡単ではないとは思われるが、今後、消費者庁が認証制度を整備するのであれば、どういうメンバーで、どのような指針を作成するか、その動向に注目してみたい。

以上

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