30秒で読める危機管理コラム

危機管理のプロの観点から時事ニュースを考察しました。

サプライチェーン・マネジメントの厳格化への対応の必要性

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が南北首脳会談の際に独ダイムラーの最高級車を使用していたことが物議を醸している。北朝鮮に対しては2006年の核実験以降、国連安保理の制裁で独車の輸出が禁止されているからだ。同社は、「15年以上北朝鮮とは取引がなく、国連制裁を順守している」と販売を否定したが、制裁逃れの実態が垣間見えた形だ。同様の事例として、イスラム国の宣伝動画にトヨタ製の車両が大量に登場し、米財務省が情報提供を求めた事例、直近の国連安保理北朝鮮制裁委員会専門家パネル報告書でも指摘された日本製クレーンがミサイル開発に転用された事例などがある。サプライチェーン・マネジメントの厳格化の要請がこのレベルまできたことをふまえ、事業者には、自らの商流に「悪意」を紛れ込ませないための厳格な顧客管理が一層求められよう。(芳賀)

組織犯罪対策における捜査協力者の保護はどうあるべきか

暴力団関連事件の捜査に協力した男性が、暴力団の報復を避けるため東京家裁に戸籍上の姓名の変更を申し立て、両方の変更が認められたという。報道によれば、男性は過去に暴力団関係グループに長期間所属、事件の捜査に協力するも、その過程で逮捕されている。そもそも姓名ともに変更が認められるのは極めて異例だが、男性は「捜査協力者の氏名変更を容易にすべきだ」と訴える。ただ、本件は、暴力団関係者の「ホワイト化」が公的に認定されたという極めて重要な意味を持ち、あくまで個別の事情を汲んだものと限定的に捉えるべきだろう。偽装離脱やネーム・ローンダリングによる犯罪が横行する中、「報復の恐れ」だけで安易に姓名の変更が認められるべきではない。日本版司法取引とともに、組織犯罪対策における捜査協力者の保護のあり方が問われている。(芳賀)

求められる違法民泊に対する取り締まり態勢の強化

住宅宿泊事業法が来月施行され、空き部屋などを有料で貸し出す民泊が解禁される。宿泊施設不足の解消策として期待が高まる一方、違法な民泊が、覚せい剤の製造や監禁殺人、盗撮事件など犯罪の場として悪用されている状況への対応も急務だ。徒に規制を強化してもヤミ民泊が潜在化するだけで、振り込め詐欺などの犯罪集団やテロリストの潜伏先となる恐れは依然として残る。犯罪を助長しかねない民泊については、まずは自治体や捜査当局による取り締まりと摘発の強化が急務だが、課題はリソースだ。近隣住民などから寄せられる通報や稼働実態の監視等の重要性が増す中、コストと人員をどれだけ割けるかがポイントとなるが、限界もある。市民への協力呼びかけや巡回指導、調査等を外部に委託するなど官民連携の監視態勢のあり方も模索していくべきだろう。(佐藤)

日本企業におけるイノベーション停滞のリスク

日本の研究開発費のこの10年間の伸びは、アジアの4.1倍、米国の86%増に対し、12%増に留まるという。特にAIやIT分野の遅れが懸念されている。日本全体の研究開発費はGDP比で3.6%と米国や中国を上回っているが、基礎研究の伸び悩みが指摘されている。新しい知を求める知の探索よりも既存の知を改良していく知の深化に偏っているといえよう。企業が革新的な技術、あるいは商品を生み出すというイノベーションは、既存の知と別の知を組み合わせること、新しい組み合わせを試みることにほかならない。知の探索を怠り、知の近視眼化が顕著になる傾向は、中長期的なイノベーションが停滞するというリスクを組織内に内在させる。企業は組織として知の探索と知の深化のバランスを保ち、そのようなトラップを避ける戦略・体制・ルール作りを進めることが重要だ。(伊藤)

海賊版サイト「知らぬ間に加担」─複雑化するネット広告、掲載先の健全性は大丈夫か

漫画やアニメなどを無断でネット上に掲載する「海賊版サイト」が話題を集めている。政府は特定サイトへのアクセス遮断を回線事業者に促したが、効果は限定的で場当たり的な措置に過ぎない。海賊版サイトの収入は広告掲載料に依存しており、根本的な解決に向けてはこれを絶つほかない。政府が名指ししたサイトにも上場企業を含め多数の事業者が広告を掲載しており、それらの広告主が間接的に違法サイトを幇助していた。昨今のネット広告は、掲載先を多数抱える代理店に依頼するのが一般的で、別の代理店への再委託が連鎖することも少なくない。だからといって実際の掲載先を把握せず違法サイトに掲載されたとなれば、コンプライアンス違反の疑義もあろう。事業者においては「自社の広告がどんなサイトに配信されているのか」正確に把握することが肝要だ。(山岡)

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