暴排トピックス

取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人

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1.みずほショック(その3)~今後の指針

これまで2回にわたり、今回の暴力団融資問題を契機として、暴力団排除(反社会的勢力排除)にかかる諸問題について考察してきましたが、今回は、それらの実務面における困難さや限界をふまえつつ、組織的対応を念頭に置いた「内部統制システム」のあり方とその実効性を確保するために必要な視点について、お話していきたいと思います。

(1)内部統制システムの構築とは

ここでいう内部統制システムについては、会社法上の「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要な体制」として整備すべきものと位置付けますが、内部統制システム構築義務に関しては、法務省の「内部統制システムの整備自体は、会社法を待つまでもなく、各社の事情に応じて、業務執行者の善管注意義務の一環として求められるものであり、会社法の施行によりその整備が義務づけられることとなるようなものではありません。業務執行者が善管注意義務の一環として構築していたはずの内部統制システムを引き続き構築・維持していただければよい」といった見解の通り、当然のもの(所与のもの)として認識する必要があります。

内部統制システムは「仕組みやルール」と「社風(統制環境)」という形で既にどのような事業者にも存在するものです。これを、リスク管理の視点から見れば、「今ある仕組みや社風」を社会の要請を踏まえて見直していく営み(動的なもの)として捉える必要があります。

一度定めた「仕組みやルール」を適宜見直していくことは、実務上、極めて困難な営みですが、暴排にかかる社会の要請レベルが高度化・厳格化している現状においては、「従来からの取組みを漫然と継続する」ことが「放置」と見なされるリスクに繋がることも認識しなければなりません。一方で、その「仕組みやルール」を形式的に運用していくだけでは、反社会的勢力の実態の不透明化や手口の巧妙化に対抗できるはずもなく、そこに「魂を入れる(実効性を確保する)」必要があります。それが「社風」の役割であり、突き詰めれば、個々の役職員レベルにおける「暴排意識」や「リスクセンス」の徹底と底上げに注力する必要があるということになります。

本来、自然に形成されていくような面のある「社風」自体を見直していくには相当の動機や勇気・覚悟、そしてエネルギーが必要であり、「社風」を見直すことを厭わない、それを可能にする柔軟性(レジリエンシー)が組織に備わっていなければなりません。「社風」を変えるのは、「仕組みやルール」を見直すこと以上に困難な営みですが、それを可能にするのは、やはり、社会の目を強烈に意識した「経営トップの強い意志・姿勢」であり、「仕組みやルールの定着が社風を変え、社風が仕組みやルールの実効性を高める」といった相互作用も意識しながら、内部統制システムを不断に見直していくことが、内部統制システム構築の本質的な意味と言えます。

今回の問題を受け、暴排の取組みの困難さ、限界について考察してきましたが、社会の要請レベルの変化をふまえれば、それでもなお、民間企業として出来る最大限の努力により、社会に対する説明責任を果たせるだけの取組みをし続ける必要があることがお分かり頂けるものと思います。

(2)現時点における内部統制システム構築のポイント

では、反社会的勢力排除の内部統制システム構築とはどのようなものでしょうか。

一言でいうなら、「認知」「判断」「排除」の各プロセスの取組みレベルを、社会の要請に適合させることであり、それを「いかに正しく行うことができるか」がポイントとなります。とりわけ、暴排の取組みにおいては、現場レベル(個々の役職員)の「暴排意識」や「リスクセンス」の自発的な発露が最も重要であり、厳格なコンプライアンス(あるいは、形式的コンプライアンス至上主義)に陥りがちな「やってはいけないことをやらない」という形での取組みであってはならないという点が重要となります。以下に、この反社会的勢力排除の内部統制システム構築のポイントについて簡単に説明していきます。

①強い危機感の認識

暴排は、今、正に「有事」の状況にあります。政府指針、暴排条例の施行によって企業の意識が高まりを見せるとともに、暴対法の度重なる改正によって、暴力団等の反社会的勢力による資金獲得活動は確実に難しくなっている状況と言えます。したがって、彼らも相当追い込まれていることから、企業側の「脇の甘さ」が命取りになりかねないという強い危機感を社内で共有する必要があります。

また、このような「有事」の状況であるにもかかわらず、抜本的な対応策がないのが現状です。だからといって、「何もしない」ことはありえず、「これまでの取組みレベルに安住すること」すら致命的なダメージを被る可能性があるという危機感も持つ必要があります。

したがって、強い危機感に裏打ちされた、内部統制システムの絶え間ないブラッシュアップこそが、最終的にはこの「有事」を勝ち抜く大きな武器となることを改めてご認識頂きたいと思います。

②「正しく行う」とは

先ほど、「認知」「判断」「排除」の各プロセスを「正しく行う」ことが本取組みのポイントであるとお話しましたが、企業の意思決定や行動を「正しく行う」とは、つまるところ、「常識」的な対応を組織として行うことに他ならず、個人と組織の常識が一致しているということに帰着します。

具体的には、役職員一人ひとりが暴力団等の反社会的勢力を「社会悪」として捉え、個人的に関係を持ちたくないと心から思っていること(=社会の常識)をベースとして、組織もまた、彼らと関係を持つことは「おかしい」と判断し排除に向けて行動できることと言えます。残念なことに、過去の慣習等に囚われたり、問題を隠ぺいしようとする意図が働くなど、(排除に踏み込めない)例外的な理由を設けてしまうことによって、個人と組織の判断・考え方に乖離が生じ、そのような状況が個人の自発的な発露の妨げとなる悪循環に陥っている組織も多いのが現実ではないでしょうか。

このような個人の常識な感覚と組織の意思決定・行動が一致することこそ、取組みの実効性を高めるポイントであり、コンプライアンス体制、内部統制システムが有効に機能した状態であると言えます。

③目に見える属性が全てではない

もう一つ忘れてならないことは、反社会的勢力排除の取組みとは、単に目に見える契約当事者からだけではなく、「真の受益者」から反社会的勢力を排除することこそが本質的な要請であるという点です。

これまで指摘してきた通り、彼らは、代理契約、偽名・借名・なりすましをはじめ匿名化スキームの複雑化をすすめ、「契約当事者が本人でない」「データ上の本人と一致しない」状況など「真の受益者」の潜在化を図っている状況にあります。その意味では、反社チェック(見極め)をはじめ、暴排の取組みは最終的には「本人確認精度の問題」に帰結するとさえ言えると思います。

そのような状況をふまえれば、関係者による共謀、犯罪スキームなど背後関係・相関関係の把握の重要性が増しているのであり、金融機関や不動産事業者等の犯罪収益移転防止法に定める「特定事業者」に限らず、一般の事業者においても、AML(アンチ・マネー・ローンダリング)実務における「KYC(KnowYourCustomer)からKYCC(KnowYourCustomer’sCustomer)へ」の流れや「マネー・ローンダリングや詐欺等の組織犯罪の動向・手口の把握」といった視点が必要となっています。

④不作為とは真逆の企業姿勢が求められる

暴排の取組みにおける様々な限界をふまえれば、そのスタート地点の認識としては、「既に取引しているかもしれない」との強い危機感と覚悟が必要です。したがって、これだけ厳しい社会の要請下にあっては、反社会的勢力との関係の端緒が社名の各部署から上がってくるのをただ待つのでなく、組織として、いち早く(外部から指摘される前に)「問題を見つけにいく」といった不作為とは真逆の企業姿勢が求められています。

また、排除すべき対象の範囲や関係のあり方は、「判断時点」という過去ではなく「現時点」における社会の目が判断基準となっています。その間の社会情勢の変化により、過去「問題ない」「このくらいは大丈夫」と判断したものが、今になって問題視されるリスクが既に顕在化しています。つまり、暴排の問題は、現在進行形として、過去に遡って深刻な拡がりを認識すべきだと言えるのです。したがって、過去の自社の取組みすら厳しく自己批判していく「ジャッジメント・モニタリング」の視点もまた重要だと言えます。

(3)認識しておくべきポイント

最後に、反社会的勢力排除の内部統制システム構築にあたり、認識しておくべきポイントについて、前項と一部重複しますが、以下の通り、列記しておきます。

①強い危機感=「有事」であるとの認識

「認知」においては、企業が反社会的勢力を「100%認知することは不可能」との厳しい前提に立つことが必要であり、その帰結として、リスク管理の視点からは、「排除」の実現可能性を高めるために、平時から有事を想定し、最大限の準備をしておくべきだと言えます。有事の際の対応は、その時点の社会の目から評価されることからも、また、実際の排除実務の難易度を考慮しても、現時点でやるべきことをやり尽くした、手を尽くした、と客観的に言えるレベルまで取り組むことを目指すべきだと言えます。

②認知・判断・排除の取組みにおいて重要な認識

まず、反社会的勢力の侵入が、「人」を介して、組織の弱さや例外的な取扱い等の「隙」を突いて生じている現実を強く認識する必要があります。つまり、役職員一人ひとりのレベルでの「暴排意識」を極限まで高めることが「接点」となることを食い止め、日常業務の甘さから彼らの侵入を許すといったことも避けられるのです。

また、反社会的勢力との関係の端緒が日常業務の中に潜んでいると認識することも、とりわけ「認知」のプロセスにおいては極めて重要です。つまり、役職員一人ひとりのレベルでの「リスクセンス」を極限まで高めることで、様々な形ですり抜けられてしまっている反社会的勢力を認知することに直結するのです。

これらの個人レベルでの高い「暴排意識」や「リスクセンス」に裏打ちされた実効性の高い取組みを、組織として機能させていくためには、反社会的勢力との関係の端緒を、組織的に、いつでも、どこからでも認知でき、それを正しく見極め、適切な判断のもと、速やかに排除できるための仕組みやルールとなるよう配慮していくことが求められます。それこそが、反社会的勢力排除の内部統制システムの本質的なあり方だと言えます。

2.最近のトピックス

(1)企業と暴力団

①第二地方銀行による暴力団関係企業への融資事案

2007年に、同行に対して虚偽の決算書などを提出し、元幹部が代表取締役となっている企業へ融資させた疑いで、指定暴力団共政会系組織の元幹と行政書士が逮捕されています。

報道によれば、同社は、墓石の卸・販売、設置などを目的に設立されていますが、実体がほとんどなかったとされています。

実際に同社の登記情報を見る限り、2006年事業目的が多岐に渡っており、企業実態が掴みにくい状況です。また、代表者として登記されている元幹部については、2010年に市議や会社社長らとともに会社員を脅した疑いで逮捕、報道もされています。

同行がどのような経緯で本件融資を実行し、代表者の逮捕報道(=属性の表面化)を受けて関係解消に向けてどのように取り組んできたかの経緯が不明ではありますが、そもそも架空会社に近い企業に融資を行うこと自体、「目利き力」の低下の表れと言えます(あるいは、コンプライアンスを担保する内部統制システム上の重要な欠陥、内部統制システムの限界といった別の次元の視点が必要な状況だったのかもしれません)。

社会情勢の変化(厳格化)により、過去の事案が発覚、追求されるリスクが格段に高まっている中、事業者として十分な説明責任を果たすためには、社内(行内)で顕在化した、あるいは、過去何らかの対応によって封じ込めてきた「ミドルクライシス」をあらためて現時点の目線で見直し、その過程で現時点の社会的要請に応えられない事案を洗い出して、あらためて適切な判断・対応をしていくといった取組みが、(好むと好まざるに関わらず、また、実務上困難か否かに関わらず)不可欠となっています。

さらには、社内外の「個人」としての意識の高まりは、外部からの通報・問い合わせやマスコミや行政機関等へのタレコミ、社員による内部告発といったリスクを格段に高めており、正に今、組織として自発的に取り組む必要性が高まっていることもあわせて認識する必要があります。

②地方銀行による暴力団関係企業への融資事案

同行が2002年6月に親族1人に融資した際、土地に3,500万円の抵当権を付け、同10月にはこの土地に新築された建物に抵当権を追加設(警察はこの時点で建物を組事務所と認定)、抵当権の設定は今年3月まで続いていた事実があります。警察では、融資した金が組事務所の建築費に充てられた可能性があると見ているとのことです。

本事案についても、詳細な事実関係は不明ですが、前項同様の問題意識や着眼点が必要と思われます。

③上場企業と株主総会対策

2011年に東証2部上場の住宅関連会社で実質オーナーを務める男性が右翼団体の塾長に、指定暴力団住吉会系の幹部の名前をあげて現金2,200万円を脅し取られたとして、当該塾長が逮捕されています。

同社が発行した新株予約権の割当先の代理店などを名乗って男性に接近し、株主総会に出席しないことなどを条件に、男性が1億円を支払うとする合意書を結んだものの、代理店の実体がないことなどが発覚、今年2月に逮捕状が出ていたものです。

本事案は、総会屋の手口そのものに応じてしまった男性側の認識の甘さに由来するものと言えますが、「新株予約権の割当先」「架空会社」といった切り口は昨今の反社会的勢力の活動の典型的なものであり、十分な事前チェックと早期の警察・弁護士への相談など「入口」における初動対応の拙さがあったものと推測されます。

④土佐電鉄問題

以前も本コラム(暴排トピックス2013年4月号)で取り上げましたが、土佐電気鉄道の前社長が昨年5月、株主と面談した際に指定暴力団山口組幹部の名前を出すなどした問題で、同席していた高知県議でもある前会長が、健康上の問題を理由として県議を辞職する意向を議会事務局に伝えたということです。なお、高知県議会は9月定例会で、前会長の県議としての社会的、道義的責任を問う決議を可決しています。

本問題については、特定株主への対応の様子が録画され動画サイトに投稿される、高知県等から本年度の補助金等が凍結されるといった異常な事態となりましたが、既に外部調査委員会の報告書が公表されています。

▼土佐電気鉄道株式会社「外部調査委員会に関する調査結果等について」

報告書では、組長(故人)との関係を誇示したとされる元会長、元社長の言動は、「元組長は約30年前に暴力団を引退していた」などとして高知県暴排条例には違反しないと結論付けています。一方で、元会長の「個人商店的な状態だった」と企業統治の欠如を指摘、コンプライアンス上の問題点などを列挙し、「企業風土とも言うべき非常に根深い問題がある」としています。

⑤北九州市での企業トップ襲撃事件

北九州市の建設会社社長が何者かに刃物で切りつけられ、顔や腕などを負傷する事件があり、福岡県警は、手口などから暴力団による殺人未遂事件の可能性があるとしています。

なお、同県警では、暴力団に危害を加えられる恐れがある民間人を保護するため、2011年12月に専門組織「暴力団対策身辺警戒隊」を設けていますが、男性は保護対象ではなかったということです。

(2)AML(アンチ・マネー・ローンダリング)/CTF(テロ資金供与対策)

①仮想通貨「ビットコイン」を巡る動向

最近、仮想通貨「ビットコイン」を巡る報道が相次いでおり、認知度の高まりとともに、各種犯罪への波及(犯罪インフラ化)が懸念される状況となっています。米議会では公聴会が開かれ、当局は(違法行為のために使われる恐れがあるとの見解を出しているものの)ビットコインが合法的な通貨であるとしています(中国当局も同様の見解)が、その辺りもこの状況に拍車をかけている大きな要因と考えられます。

最終的には流通量(供給量)が決まっており、どこかで必ずリアル通貨と交換する仕組みである限り、その交換レートは一定の水準に収斂することが予想され、投機しても無制限に価値が上昇することはありえないとも言われていますが、その交換レートがここ1カ月で5倍にまで急騰しています。

【注】なお、直近の動向として、中国の中央銀行(中国国民銀行)が通貨として流通・使用はできないと通知、それを受けて、ネットサービス大手「百度」での決済サービスが停止されたことを受けて、暴落しているようです。

その背景として、多額のアングラマネーを抱えた中国の富裕層(特権階級)が大挙、マネー・ローンダリング目的でビットコイン市場に参入したためと言われています。迅速、廉価に加えて、ビットコインの最大の特徴は「情報の秘匿性(匿名性)」にあり、金融機関を通さないで決済するため資金の流れが分からない(最終的に「取引所」でリアルな通貨と交換することにはなりますが)形になっているうえ、プログラムが暗号化されているので、通常は所有者やその保有額を特定することもできないという点にあると思われます。

以前の本コラム(暴排トピックス2013年10月号)でもお話しましたが、違法薬物のサイバー闇市場として悪名をはせてきた「シルクロード」が米連邦捜査局(FBI)の摘発を受けて閉鎖されましたが、その決済にはビットコインが使われていました。

また、いわゆる「取引所」で41,000ビットコイン(現在の取引レート1,000ドル換算で約4億1,000万円相当、事案発生当時のレートで約1億3,300万円相当)がハッカーによって盗まれる事件が発生しています。記録を残さず自由に迅速に送金でき、手数料も安いことから通信販売などの決済に利用が広がっているビットコインの安全性について十分な対策を講じないと、今後、仮想空間の中でも「銀行強盗」が頻発しかねない状況となっています。

以前より警告しているように、仮想通貨が違法薬物の売買やマネー・ローンダリングなど国際犯罪に利用される「犯罪インフラ化」が現実のものとなっており、早急に国際的な監視体制を確立する必要があると思われます。

②美術品オークション市場を巡る動向

美術品オークション市場では、記録的な高値が連発しています。11月にはフランシス・ベーコンの絵画が約1億4,240万ドル(約142億円)で落札されたほか、その翌日にはアンディ・ウォーホルの作品に約1億545万ドル(約105億円)の値がつくなどしており、アジアやロシアなどからの資金が価格をつり上げているとの見方が多いようです。

また、オークション会社大手のサザビーズやクリスティーズらが中国でのビジネス強化に乗り出していますが、その背景には、投資対象として美術品の購入意欲が強い富裕層だけでなく、膨大な裏金をかかえた共産党幹部などの特権階級の存在があると言われています。中国では、最近になって不動産の不良債権化が表面化しつつあり、裏金の新たな行き場が模索されており、こうした美術品へのアングラマネーの流入が顕在化しているというわけです。

こうした構図は、前項の仮想通貨と全く同じであり、マネー・ローンダリングや脱税、その前提である贈収賄や違法薬物売買、人身売買といった国際犯罪組織の活動を助長するものとして、一層の国際的な監視が必要だと言えます。

③国民銀行(韓国)東京支店

同行が、韓国企業の日本法人などに対し限度額を超えて融資を行うため、親族など他人名義で書類を作成し迂回融資していたことが発覚、その不正融資額は5年間で1,700億ウォン(約156億円)にのぼるとのことです。さらに、その不正融資の見返りにリベートを受け取る手口によって巨額の裏金づくりが行われており、このうち20億ウォン(約1億8,600万円)以上が韓国に持ち込まれたということです。

なお、この東京支店をめぐっては、行員が日本の暴力団のマネー・ローンダリングに関与した疑いがあるとして今年春に金融庁の調査を受けています。

(3)振り込め詐欺

「特殊詐欺」の被害が、今年1~10月に383億円に上り、2004年の統計開始以降、年間で過去最悪の被害だった2012年の364億円を既に上回るペースとなっています。

▼警察庁「特殊詐欺の認知・検挙状況等について(平成25年10月)」

特に「オレオレ詐欺」による被害が目立ち、10月までの被害額は134億円で、昨年同期に比べて46億円(52%)増えているという状況です。

なお、特殊詐欺とは、「面識のない不特定の者に対し、電話その他の通信手段を用いて、預貯金口座への振込みその他の方法により、現金等をだまし取る詐欺をいい、オレオレ詐欺、架空請求詐欺、融資保証金詐欺、還付金等詐欺、金融商品等取引名目の特殊詐欺、ギャンブル必勝情報提供名目の特殊詐欺、異性の交際あっせん名目の特殊詐欺及びその他の特殊詐欺を総称したものをいう」とされています。

報道によれば、「捜査は現状では手詰まり状態」であり、打開策として犯行グループの解明のため現行法では認められていない詐欺事件での通信傍受を求める声も高まっているとのことです(同法では、「薬物」「銃器」「集団密航」「組織的な殺人」の4種類の事件に限って電話の傍受を認められています)。

振り込め詐欺事件などでの通信傍受の適用については、法制審議会(法相の諮問機関)の特別部会で議論が進められているところであり、電話での通信傍受だけでなく、犯行拠点での会話を傍受する捜査手法についてもテーマとなっているようです。

▼法務省「法制審議会特別部会第21回会議(平成25年11月7日開催)」

また、これまでも何度か取り上げてきたように、インターネットバンキングのIDが盗まれるなどして口座から預金が不正に引き出される被害も相次いでおり、犯行グループが口座から移した金の流れをたどられないよう、身元確認が甘い電子マネーサービスを使ったり、第三者を「運び屋」に仕立てて海外に送金させたり(マネーミュール)と、「足跡」を隠す手口も巧妙になっています。

そのような中、特に高齢者が「オレオレ詐欺」で狙われている現状をふまえ、以下のような新たな取組みが行われています。

      • 警視庁は11月から、金融機関やメーカーなど会社員にターゲットを絞った研修を開始。実際に社員の親らに詐欺を装う電話をかける訓練も盛り込まれているとのこと。
      • 富山市では、独り暮らしの高齢者などに電話の通話録音装置を無料で貸し出す取組みを開始。電話に接続すると、「この通話は詐欺防止のため自動録音されます」との趣旨のメッセージが流れ、通話内容を録音する市販のもの。

警視庁の取組みは、自社でも独自に実践できる内容であり、社員やその関係者から犯罪被害者を出さないための取組みとして、もっと注目されてよいのではないでしょうか。

(4)本人確認の脆弱性が「犯罪インフラ化」

犯罪の手口の巧妙化のひとつに、「本人確認」の脆弱性を突くといったものがあげられます。AMLにおいては必須の実務であり、今年4月に施行された改正犯罪収益移転防止法でさらに強化されていますが、犯罪者側がそのスキームを熟知してすり抜けるものと、事業者側が形式的な確認にとどまり、背後の犯罪組織の関与を見抜けずにすり抜けられてしまうものと、大きく大別されるように思われます。

AMLの実務においては、従来から「KYC(KnowYourCustomer)」の重要性が認識されていますが、現在では、「KYCC(You’reyourCustomer’sCustomer)」として、より取引の拡がりや背後関係を意識した詳細な把握が要請されています。

一方、反社会的勢力の関与を見抜くうえでも、これらと同じ発想が求められており、その帰結のひとつが「本人確認」の精度の向上だと言えます。さらには、それが犯罪収益移転防止法上、取組みが義務付けられている「特定事業者」のみならず、全ての事業者が、反社会的勢力を助長することのないよう、取り組むべき課題である(少なくともそのような視点を持つべきである)と言えると思います。

直近1カ月の間だけで、以下のような事例がありましたが、いずれも、本人確認の何らかの脆弱性と犯罪の関係、すなわち「犯罪インフラ化」している点がポイントであり、もはや企業実務にはかかすことのできない視点であることを認識して頂きたいと思います。

    • 約7年半の間に、複数の金融機関から約50件、計12億円をだまし取ったとして、不動産会社社長が詐欺と有印私文書偽造・同行使の疑いで逮捕されていますが、知人から紹介を受けたホームレスの名義で契約していたことなどが判明しています。
    • 知人の会社が利用するように装って携帯電話の法人契約を結んだとして、電子計算機使用詐欺容疑でIT関連会社社長が逮捕されています。不正に取得した携帯電話は約1万台におよび、この携帯で登録したSNSのアカウントを出会い系サイトの利用者に転売していたものです。さらに、携帯本体は振り込め詐欺グループなどに転売したとみられ、実際に詐欺事件に利用された可能性があるとのことです。
    • 身分確認をせずに携帯電話用のICカード「SIMカード」を貸し出したとして、携帯電話不正利用防止法違反(匿名貸与営業)容疑で、携帯レンタル会社役員が逮捕されています。同社が貸し出した携帯が35件の振り込め詐欺事件に利用され、総額約1億3,000万円の被害が出ているということです。
    • ガス会社から契約者情報を聞き出したとして、不正競争防止法違反(営業秘密侵害)の疑いで調査会社を運営する男が逮捕されています。少なくとも3つの偽名を使っており、ストーカー殺人事件などに利用されたとも言われています。
    • 外国人が日本で名乗る通称名(通称)を悪用し、スマホやタブレットが不正売買され、組織犯罪処罰法違反(隠匿)と詐欺の疑いで韓国籍の男が逮捕されています(組織的な背後関係は今のところうかがわれないものの、このような立件は全国初ということです)。短期間に何度も変更した通称を使い分け、端末の購入と転売を繰り返した疑いがあるということです。手続き上、要件が整っていれば応じざるを得ないとする行政側の言い分もありますが、本当に合理的な理由であったのかは再検討の余地があると言えます。

(5)その他の偽装の手口

①偽装質屋

質屋を装って貸金業を営んだなどとして、貸金業法違反(無登録営業)と出資法違反(高金利)容疑で、質屋チェーンの運営会社元社長らが逮捕されています。本店だけで年金受給者ら約1,200人に総額4億円以上を貸し付けていたとみられるということです。

②偽サイト対策で口座凍結

ブランド品などのインターネット販売サイトを装って金をだまし取る「偽サイト」の被害を未然に防止するため、大阪府警が今年9月以降、金融機関に協力を求め、代金の振込先となっていた206口座を凍結していますが、偽サイト対策での口座凍結は全国初となります。

偽サイトのほとんどは海外のサーバー経由で、凍結した口座のうち183口座は中国人名で、その約半数をすでに出国した留学生名義が占めるなど、犯人特定が難しい状況にある中、実際に被害を食い止められた事例もあるということで、今後も同様の取組みが拡充することが望まれます。

3.最近の暴排条例による勧告事例ほか

(1)勧告事例(秋田県)

暴力団員が発行するカレンダーへの広告掲載料として1万円を供与したとして、秋田県公安委員会は、飲食店を経営する男性に、同県暴排条例に基づき暴力団に利益供与しないよう文書で勧告しています。なお、同条例の適用は秋田県内では初となるということです。

報道によれば、同県警では、同男性に事前に暴力団に利益供与しないよう指導したものの、従う意思を見せなかったための措置とのことであり、暴排意識が未だに社会的に浸透していないことを痛感させられます。

(2)茨城県議が一般質問で「暴力団排除条例は違憲」

守谷市の指定暴力団「松葉会」事務所の撤退を求める住民運動を巡り、同県議が、暴対法で禁止行為とされている「住民に不安を覚えさせる恐れ」や「粗野で乱暴な言動」は存在せず、「事務所を構え、銀行口座を開き、余暇にゴルフという普通のことができない。生活手段すら奪われ、逆に社会不安や不測の事態を引き起こしかねない」と述べ、「法の下の平等を定めた憲法に違反する」と条例の撤廃を求めたということです(12月6日の同県議会の一般質問で)。

それに対し、同県警本部長は「暴力団は排除すべき対象。憲法違反にはあたらない」と答弁し、暴力団との対決姿勢を改めて示しています。

これだけ暴排意識が高まっている現時点の社会情勢において、県議という立場でこのような発言を公にすること自体、大きな違和感と失望、強い憤りを感じます。

既に、公営住宅からの暴力団員の排除が争点となった平成21年10月の最高裁の判例によれば、暴力団構成員という地位は、暴力団を脱退すればなくなるものであって社会的身分とはいえず、暴力団のもたらす社会的害悪を考慮すると、暴力団構成員であることに基づいて不利益に取扱うことは許されるというべきであるから、合理的な差別であって、憲法14条(法の下の平等)に違反するとはいえないと判断されていますし、そもそも市民の安全と平穏を脅かす「社会悪」である暴力団が「排除すべき対象」であることは論を俟ちません。

本コラムでは、企業における暴排の取組みが実効性を持つためには、最終的には、役職員一人ひとりが「暴排意識」と「リスクセンス」を高く持ち続けること、それが組織の意思や行動と齟齬がなく組織をあげて徹底されることが重要だと繰り返しお話していますが、社会における暴排も全く同じ構図ではないでしょうか。とりわけ、指導者たる者については、高い身分・地位の方には相応の果たさなければならない社会的責任と義務があるとする「ノブレス・オブリージュ」の意味をよく噛みしめて頂きたいと思います。

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