平成30年犯罪収益移転危険度調査書を読み解く(2018.12)

2018/12/11 / 取締役副社長 総合研究部 主席研究員 芳賀 恒人 プリント

1. 平成30年犯罪収益移転危険度調査書を読み解く

(1) 平成30年犯罪移転危険度調査書の公表

 今回3回目となる「犯罪収益移転危険度調査書(平成30年版)」(以下「30年調査書」)が公表されています。

▼国家公安員会 平成30年犯罪収益移転危険度調査書

 30年調査書は、当然ながら日本における「アンチ・マネー・ローンダリング(AML)/テロ資金供与対策(CFT)」の根幹となるリスク分析・リスク評価であるとともに、本コラムの射程範囲である組織犯罪領域における、「暴力団/反社会的勢力」「特殊詐欺」「仮想通貨」「テロリスク」「薬物」「金の密輸」「カジノ」といった分野とも密接に関連した内容となっています。したがって、今回は、本調査書の内容について、関連分野について詳しく紹介していきたいと思います。

 まず、30年調査書について、その主な内容を概観したいと思います。前年の調査書から「前提犯罪ごとのマネー・ローンダリングの手口等の分析結果」「特に実質的支配者が不透明な法人の悪用事例の分析結果」「特に仮想通貨、貴金属、電話転送サービスの分析結果」といった部分が追加され、全体手的に事例等も豊富となったように思われます(以下の表における※印は昨年と比べて本年主に追加等を行った内容となります)。

  1. マネー・ローンダリング事犯等の分析
    • (1) 主体(暴力団、来日外国人、特殊詐欺の犯行グループ等)
    • (2) 前提犯罪(窃盗、詐欺、出資法・貸金業法違反、電子計算機使用詐欺、常習賭博及び賭博場開張等図利、風営適正化違反、売春防止法違反等)
       ※ 前提犯罪ごとのマネー・ローンダリングの手口等を分析した結果を記載
  2. 危険度の高い取引
    • ア. 取引形態
      • (1) 非対面取引
          ※ オンラインで完結できる仕組みを導入した規則改正を踏まえた内容の記載
      • (2) 現金取引
      • (3) 外国との取引
    • イ. 国・地域
      • FATF声明によりマネー・ローンダリング等への対策上の欠陥を指摘されている国・地域:イラン、北朝鮮(本項目は、FATF声明を踏まえており、要因としての国・地域は、同声明に応じて変化(27年調査書では、これに加えてアルジェリア、ミャンマーを記載))
          ※ 過去3年間におけるFATF声明等の推移について記載
    • ウ. 顧客の属性
      • (1)反社会的勢力(暴力団等)
      • (2)国際テロリスト(イスラム過激派等)(28年調査書で追加)
      • (3)非居住者
      • (4)外国の重要な公的地位を有する者
      • (5)実質的支配者が不透明な法人
          ※ 特に実質的支配者が不透明な法人の悪用事例の分析結果等を追加記載
          (「写真付きでない身分証明書を用いる顧客」を29年調査書で除外)
  3. 危険性の認められる商品・サービス
    • (1)預金取扱金融機関が取り扱う商品・サービス(預貯金口座、預金取引、内国為替取引、貸金庫、手形・小切手)
    • (2)保険会社等が取り扱う保険
    • (3)金融商品取引業者等及び商品先物取引業者が取り扱う投資
    • (4)信託会社等が取り扱う信託
    • (5)貸金業者等が取り扱う金銭貸付け
    • (6)資金移動業者が取り扱う資金移動サービス
    • (7)仮想通貨交換業者が取り扱う仮想通貨(28年調査書で追加)
    • (8)両替業者が取り扱う外貨両替
    • (9)ファイナンスリース事業者が取り扱うファイナンスリース
    • (10)クレジットカード事業者が取り扱うクレジットカード
    • (11)宅地建物取引業者が取り扱う不動産
    • (12)宝石・貴金属等取扱事業者が取り扱う宝石・貴金属
    • (13)郵便物受取サービス業者が取り扱う郵便物受取サービス
    • (14)電話受付代行業者が取り扱う電話受付代行
    • (15)電話転送サービス事業者が取り扱う電話転送サービス
    • (16)法律・会計専門家が取り扱う法律・会計関係サービス
         ※ 特に仮想通貨、貴金属、電話転送サービスの分析等を追加記載
  4. 危険度の低い取引
    • ア. 要因
      • (1)資金の原資が明らかである
      • (2)国又は地方公共団体を顧客等とする
      • (3)法令等により顧客が限定されている
      • (4)取引の過程において、法令により国等の監督が行われている
      • (5)会社等の事業実態を仮装することが困難である
      • (6)蓄財性がない又は低い
      • (7)取引金額が規制の敷居値を下回る
      • (8)顧客等の本人性を確認する手段が法令等により担保されている
    • イ. 取引
      • 規則第4条で規定する簡素な顧客管理が許容される取引(ただし、疑わしい取引等に該当する場合は簡素な顧客管理は許容されない)
  5. 新たな技術を活用した商品・サービス
    • 電子マネー

 本年の主な調査結果の概括的な総論としては、「現状、所管行政庁においては、調査書の内容を踏まえてガイドラインを策定するなどした上、各事業者に対し、マネー・ローンダリング等のリスクを管理する体制の構築・維持を求めるとともに、これらの事業者に対して、犯罪収益移転防止法等の法令遵守状況及びリスク評価やそれに基づくリスクベース・アプローチの実施状況等について実態調査を行っている。そして、このようにして得られた情報等を基にして、所管する業態や事業者のリスクを特定、評価した上で、リスクに応じた指導・監督等を推進するなどしている」こと、「具体的なリスクへの対応としては、預金取扱金融機関及び資金移動業者に対して海外送金を含む送金取引に重点をおいた監督の強化、仮想通貨に対して専門のモニタリングチームを設置した上で、仮想通貨交換業者に対する登録審査や立入検査等の推進、貴金属の取扱事業者に対して法令上の義務の不履行や理解不足に対する行政指導の徹底等の措置が図られている」こと、「一方、特定事業者においても、リスク評価及びリスクベース・アプローチの取組によって、効果的なマネー・ローンダリング等対策が推進されている。例えば、調査書や所管行政庁によるガイドライン等の内容を踏まえつつ、自らが提供している商品・サービスや営業地域の地理的特性等を包括的かつ具体的に検証を行ってリスクを特定し、経営陣の関与の下、組織全体として効果的な管理体制の構築を図っている事業者もある。しかしながら、それらの取組に関しては、現状、業態や事業者ごとに格差が見受けられ、事業規模の小さな事業者ほど、このような取組が低調となる傾向も一部では認められている」ことなどが指摘されています。なお、「一方、事業規模とリスクの関係については、一般に事業規模が大きくなるほど、その中に紛れた犯罪による収益を特定し、追跡することが困難となること等から、危険度が上昇する面もあるが、取り扱う商品・サービスの内容が同じであれば、マネー・ローンダリング等に悪用される固有の危険性は事業規模に応じて大きく異なるものではないことに、所管行政庁及び事業者は留意をする必要がある」との指摘は、正にその通りであり、中小の特定事業者がリソースの不足を理由に取り組みが遅れている一方で、その固有の危険性は大手の特定事業者とそう違わないのが事実であって、やはりマネー・ローンダリング対策の本質(一か所でも抜け道(脆弱性)があれば、面全体の有効性が阻害されてしまうこと)からみれば看過できない状況だと言えます。この点は、「一部の業態や事業者のみが、リスクベース・アプローチに基づいた実質的なマネー・ローンダリング等対策を行っていても、必要な資源配分を行わずに形式的な対策しか行われていない業態や事業者が残れば、マネー・ローンダリング等を行おうとする者は、こうした対策の徹底されていない業態や事業者を通じてマネー・ローンダリング等を行うため、結局、マネー・ローンダリング等を効果的に防ぐことができない。このため、マネー・ローンダリング等を効果的に防止するためには、全ての業態及び事業者において、それぞれのリスクに基づいて、実質的な対策の推進を図っていくことが必要不可欠である」「事業者は、法令上の義務履行の徹底は当然のことながら、法令違反等の有無を形式的に確認するのみにとどまらず、自らの業務の特性とそれに伴うリスクを包括的かつ具体的に想定して、直面するリスクを特定し、実質的な対応を行うことが必要」と厳しく言及されており、注目されます。
なお、特定事業者によるリスク評価及びリスクベース・アプローチの取組例が示されており、参考になりますので、以下、いくつか紹介します。

 【預金取扱金融機関】

  • 自社が届け出ている疑わしい取引の内容を分析し、外国送金に関して仕向及び被仕向送金先の国・地域の傾向、外国人名義の口座に関して国籍の傾向、顧客に関して職業や業種の傾向等から独自のリスク指標を抽出している事例
  • 調査書における直接的な記載のみにとどまらず、記載の趣旨を勘案し、留学生や短期就労者等の帰国を前提とするような外国人は帰国時における口座の不正転売の可能性があること、現金を集中的に取り扱う業者は取引における不正資金の混入の可能性があること等、具体的なリスクを特定している事例
  • 営業店ごとに商品等の取引実績、顧客の属性や地理的な特徴等が異なることから、それぞれが個別に商品・サービス、取引形態、国・地域、顧客属性等に着目した分析を行っている事例
  • 帰国時における口座売却等のリスクに対して、外国人の就労生や就学生等の顧客について、その在留期間を確認した上で、システムによって管理している事例
  • 少額で開設された口座、遠隔地の顧客の口座、設立又は移転後間もない法人の口座等を管理対象先口座に指定し、同口座への振込依頼が発生した場合には、口座開設目的との整合性確認や振込依頼人の意思確認等を行い、整合性が確認できない場合は取引謝絶や疑わしい取引の届出等を実施することを社内規程によって整備している事例

 【クレジットカード事業者】

  • 商品券等の換金性の高い商品の購入を短期間に行う取引を高リスク取引に特定し、それらをモニタリングシステムで検知した場合は、クレジットカード機能を停止し、名義人に電話で利用内容や使用者の確認等を行っている事例
  • クレジットカードの利用可能枠について、申込みから1年が経過するまでは、原則としてその増枠を認めないことにより、マネー・ローンダリングを企図する者の契約に関するリスクを低減させている事例

 【宅地建物取引業者】

  • 過去において取引を中止する又は何らかの理由によって取引が成立しなかった顧客との取引についてデータベース化して全社的に共有し、当該顧客に関して以後の取引が生じた場合は、顧客管理を強化する又は取引を謝絶するなどの措置を講じている事例
  • 反社会的勢力との取引を見逃さないために、反社会的勢力の言動等に関する特徴点について事業者独自のチェックリストを作成し、顧客管理において活用している事例

 次に、「マネー・ローンダリング事犯等の分析」として、主体のうち「暴力団」「来日外国人」「特殊詐欺の犯行グループ等」、手口のうち「前提犯罪」「マネー・ローンダリングに悪用された主な取引等」の記載があります。


 まず、「暴力団」については、「我が国においては、暴力団によるマネー・ローンダリングがとりわけ大きな脅威として存在している。平成29年中のマネー・ローンダリング事犯の検挙事例のうち、暴力団構成員及び準構成員その他の周辺者(以下「暴力団構成員等」という。)によるものは50件で、全体の13.9%を占めている」こと、「前提犯罪ごとにマネー・ローンダリング事犯における過去3年間の暴力団構成員等の関与状況を見ると、検挙件数では詐欺や窃盗が多いが、一方で検挙総数に占める暴力団構成員等の比率を見ると、ヤミ金融事犯、賭博事犯及び売春事犯等において暴力団構成員等が深く関与している実態が認められる」ことが指摘されています。検挙件数ではご法度とされる前提犯罪が多く、暴力団構成員等の比率においては伝統的資金課獲得活動とされる前提犯罪が多い結果となっています。次に、「来日外国人」については、「平成29年中のマネー・ローンダリング事犯の検挙事例のうち、来日外国人によるものは27件で、全体の7.5%を占めている」こと、「過去3年間の組織的犯罪処罰法に係るマネー・ローンダリング事犯の国籍別の検挙件数では、中国、ベトナム、ナイジェリアの順に多く、特に中国が全体の半数以上を占めている。来日外国人による組織的な犯罪の中で、マネー・ローンダリング事犯が敢行されている実態が認められ、中国人グループによるインターネットバンキング不正アクセスに係る不正送金事犯、ベトナム人グループによる万引き事犯、ナイジェリア人グループによる国際的な詐欺事犯等に関連したマネー・ローンダリング事犯等の事例がみられる」ことなどが指摘されていますが、国によって犯行に特徴がある点が極めて興味深いところです。また、「特殊詐欺の犯行グループ等」については、「特殊詐欺の犯行グループは、首謀者を中心に、だまし役、詐取金引出役、犯行ツール調達役等にそれぞれ役割分担した上で、組織的に詐欺を敢行するとともに、詐取金の振込先として架空・他人名義の口座を利用するなどし、マネー・ローンダリングを敢行している」こと、「自己名義の口座や偽造した身分証明書を悪用するなどして開設した架空・他人名義の口座を遊興費や生活費欲しさから安易に譲り渡す者等がおり、マネー・ローンダリングの敢行をより一層容易にしている」ことなどが指摘されており、本コラムでこれまで紹介してきた通りの内容となっています。


 「前提犯罪」については、「27年から29年までの間におけるマネー・ローンダリング事犯の前提犯罪別の検挙事件数は、窃盗が419件と最も多く36.7%を占め、次いで、詐欺(308件、26.9%)、出資法・貸金業法(昭和58年法律第32号)違反(83件、7.3%)、電子計算機使用詐欺(42件、3.7%)、常習賭博及び賭博場開張等図利(38件、3.3%)となっている」ということです。このうち、窃盗については、「窃盗の犯行形態は多様であり、被害額が比較的少額なものもあるが、暴力団や来日外国人グループ等の犯罪組織によって職業的・反復的に実行され、多額の犯罪収益を生み出す事例がみられる」こと、「近年増加傾向にあるベトナム人犯罪のうち多数を占める万引き事犯は、窃盗の実行とその後の転売等が計画的かつ組織的に行われているものもあり、盗難品の転売に際しては、宅配便等を使って遠隔地から買い取り、その代金の支払を口座への振込みで行っている事例がみられる」こと、「暴力団や来日外国人グループ等によって敢行される組織的な自動車盗では、周囲が鉄壁で囲まれたいわゆるヤードに盗難自動車が運び込まれて解体された後、海外へ不正輸出等されている事例がみられる」「ヤードに持ち込まれた自動車が盗難品であることを知りながら買取り、保管するもののほか、侵入窃盗で得た多額の硬貨を他人名義の口座に入金して払出し、事実上の両替を行うもの、盗んだ高額な金塊を会社経営の知人に依頼して、金買取業者に法人名義で売却させるもの、中国人グループ等が不正に入手したクレジットカード情報を使って、インターネット上で商品を購入し、配送先に架空人や実際の居住地とは異なる住所地を指定するなどして受領するもの等がある」とその実態を取り上げています。また、「詐欺」については、「国内外の犯行グループ等によって職業的・反復的に実行されており、架空・他人名義の預貯金口座を利用するものや、法人による正当な取引を装うものなど、合法的な経済活動の周辺で多額の犯罪収益を生み出している実態が認められる」との指摘が興味深いと言えます。そのうえで、「例えば、暴力団が特殊詐欺を敢行している事例、国際的な犯罪組織が国外で敢行した詐欺の収益が我が国の金融機関に開設された口座を通して流入している事例、来日外国人が国外から偽造クレジットカードを持ち込み、我が国の百貨店等において高級ブランド品をだまし取っている事例等がみられる」こと、「特殊詐欺の被害金を架空又は他人の名義の口座に振り込ませるものが多く、振込先として使用する口座に振り込まれた被害金は、被害発覚後の金融機関等による口座凍結の措置等を回避するため、入金直後に払戻されたり、他口座へ送金されたり、複数の借名口座を経由して移転されたりするなどの傾向も認められる」こと、「隠匿先となる口座の名義は、個人名義、法人名義、屋号付きの個人名義など、詐欺の犯行形態によって様々であるが、具体的な事例として、来日外国人が帰国する際に犯罪グループに売却した個人名義口座が特殊詐欺の振込先に悪用されたもの、特殊詐欺の収益の振込先にするために実態のない法人を設立して法人名義口座を開設して悪用したもの、外国で発生した詐欺事件の収益の振込先にするために屋号付名義の個人口座を開設して悪用したもの等がある」と、かなり詳細な手口が多数紹介されている点は参考になります。そのうえで、犯罪インフラとして、「取引時確認等の義務の履行が徹底されていない郵便物受取サービスや電話転送サービスを取り扱う事業者が、特殊詐欺等を敢行する犯罪組織の実態等を不透明にするための手段として悪用されている事例がみられる」との指摘もなされています。さらに、「電子計算機使用詐欺」としては、「インターネットバンキングに係る不正送金事犯の形態としては、他人のID、パスワード等を使って金融機関が管理する業務システムに対して不正にアクセスし、他人の口座から預金を不正送金するものがあり、平成29年中の被害は発生件数425件に対して被害額は10億円を超えており、多額の犯罪収益を生み出している」こと、「近年では、同事犯は減少傾向にある一方、仮想通貨交換業者等への不正アクセスによる不正送信事犯が増加傾向にある」こと、「特殊詐欺については、暴力団の関与が認められるほか、インターネットバンキングに係る不正送金事犯については、国際犯罪組織の関与が認められ、犯罪組織が多額の犯罪収益を獲得するために、組織的にそれらの犯行を行っている実態が認められる」と指摘している点は興味深いものと言えます。また、「出資法・貸金業法違反」については、「無登録で貸金業を営み、高金利で貸し付けるなどのいわゆるヤミ金融事犯等の犯行形態が認められる。その態様は、多重債務者の名簿を基にダイレクトメールを送り付けたり、不特定多数の者を対象にインターネット広告や電話を使って勧誘したりするなど、非対面の方法によって金銭を貸し付けて、他人名義の口座に振り込ませて返済させるもの等がある」こと、「平成29年中のヤミ金融事犯の検挙状況を見ると、被害金額は90億円を超えるなど、多額の犯罪収益を生み出している。また、暴力団が職業的・反復的にヤミ金融を営み、有力な資金源としている実態が認められる」こと、「ヤミ金融事犯を前提犯罪としたマネー・ローンダリング事犯の手口としては、返済金を他人名義の口座に振り込ませるものが認められ、それらの隠匿先となる口座は、ヤミ金融の債務者が借入金の返済代わりに譲渡した個人名義の口座等が悪用されている事例がみられる」こと、「他人名義や架空の事業者名等で開設した私書箱に返済金を送付させる手口、貸付けに際して借受人に手形・小切手を振り出させ、返済が滞った際に金融機関の取立てにより他人名義の口座に入金させる手口、借受人との間で架空の販売契約を結び、これをクレジット決算することで返済金を入手する手口等の事例がみられる」ことなど、本類型についても詳細な手口が示されており参考になります。また、「薬物事犯」については、「平成29年中に日本に密輸された覚醒剤の量は、捜査機関に押収されたものだけでも1,000キログラムを超えており、覚醒剤の密輸が多額の犯罪収益を生み出していることがうかがわれる」こと、「29年中に薬物密売関連事犯で検挙された人員の半数以上が、暴力団構成員等であるなど、薬物事犯が暴力団にとって有力な資金源となっている実態が認められる。さらに、近年では、暴力団が海外の薬物犯罪組織と結託するなどしながら、覚醒剤の流通過程(海外からの仕出しから国内における荷受け、元卸し、中間卸し、末端密売まで)にも関与を深めていることが強くうかがわれる」こと、「薬物密売に係るマネー・ローンダリング事犯の手口として、代金を他人名義の口座に入金させて隠匿又は収受するものがある」ことなどが紹介されています。
また、「マネー・ローンダリングに悪用された主な取引等」として、典型的な例を以下に示しています。


  • 詐欺の被害金を他人名義の口座に振込送金させる(内国為替取引)
  • 窃盗の被害品を他人名義で売却して現金化する(現金取引)
  • 盗んだ現金を他人名義の口座に預け入れる(預金取引)
  • 外国で発生した詐欺事件の被害金を、国内の口座に送金させる(外国との取引)
  • 詐欺による被害金を実態のない法人名義の口座に振り込ませる(法人格)
  • 詐欺の被害金を郵便物受取サービス業者を経由して収受する(郵便物受取サービス)
  • 窃盗の被害品である金塊を知人を使って法人名義で売却する(宝石・貴金属)

 さて、次は「危険性の認められる主な商品・サービス」です。
まず、「預金取扱金融機関が取り扱う商品・サービス」については、「平成27年から29年までの間の預金取扱金融機関による疑わしい取引の届出件数は110万248件で、全届出件数の91.6%を占めている」こと、疑わしい取引の参考事例」に例示された類型のうち届出件数が多かったものと類型ごとの届出件数等として、「職員の知識、経験等から見て、不自然な態様の取引又は不自然な態度、動向等が認められる顧客に係る取引」(204,599件、18.6%)、「暴力団員、暴力団関係者等に係る取引」(163,613件、14.9%)、「多数の者から頻繁に送金を受ける口座に係る取引。特に、送金を受けた直後に当該口座から多額の送金又は出金を行う場合(95,971件、8.7%)」、「経済的合理性のない多額の送金を他国から受ける取引(72,832件、6.6%)」、「多額の現金又は小切手により、入出金(有価証券の売買、送金及び両替を含む。以下同じ。)を行う取引。特に、顧客の収入、資産等に見合わない高額な取引及び送金や自己宛小切手によるのが相当にもかかわらず、あえて現金による入出金を行う取引」(67,758件、6.2%)、「多額の入出金が頻繁に行われる口座に係る取引」(55,622件、5.1%)、「通常は資金の動きがないにもかかわらず、突如多額の入出金が行われる口座に係る取引」(55,284件、5.0%)などとなっています。トップは、これこそ「疑わしい取引」の典型的な事例であると言えますが、システム的に検知されたものというより、現場の職員の「目利き力」から抽出された成果と考えれば、まだまだ現場の目が重要であることの証左であるとも言えます。また、現状について、「預貯金口座は、預金取扱金融機関への信頼や預金保険制度に基づく預金者保護制度の充実等により、手持ち資金を安全かつ確実に管理するための手段として広く一般に普及している。また、昨今は、店頭に赴くことなく、インターネットを通じて、口座を開設したり、取引をしたりすることが可能となっており、その利便性はますます高まっている。一方で、このような特性により、預貯金口座は、マネー・ローンダリング等を企図する者にとっては、犯罪による収益の収受や隠匿の有効な手段となり得る」ことが指摘されています。そのうえで、預貯金口座がマネー・ローンダリングに悪用された事例として、以下のようなものが紹介されています。


  • 本国に帰国した外国人や死者の口座について、解約手続等の措置を執ることなく利用し、詐欺や窃盗等の犯罪による収益を収受又は隠匿した事例
  • 金銭の対価を得る目的で売却された口座、架空名義で開設した口座、不正に開設された営業実態のない会社名義の口座等を利用し、詐欺、窃盗、ヤミ金融事犯、風俗事犯、薬物事犯、偽ブランド品販売事犯等の様々な犯罪による収益を収受又は隠匿した事例

 また、貸金庫がマネー・ローンダリングに悪用された事例として、

  • だまし取った約束手形を換金し、その現金の一部を親族が契約した銀行の貸金庫に保管していた事例
  • 詐欺事件の犯罪収益が暴力団組織へ上納され、暴力団幹部が家族名義で契約している銀行の貸金庫に隠匿していた事例
  • 偽名を使い多数の銀行と貸金庫の賃貸借契約を締結して犯罪による収益を隠匿していた事例

 さらに、手形・小切手がマネー・ローンダリングに悪用された事例として、

  • ヤミ金融業者が、多数の借受人に対して元利金として小切手等を振り出し、郵送させ、預金取扱金融機関の取り立てにより他人名義の口座に入金させていた事例
  • 高額な資金を外国に密輸する手段として悪用された事例
  • 薬物密売組織により高額な資金を分割して移転する手段として悪用された事例

 「金融商品取引業者等及び商品先物取引業者が取り扱う投資」については、その特徴として、「投資を行うことによって、多額の資金を様々な商品に転換できるほか、投資対象の中には複雑な仕組みのものもあり、その資金の出所を不透明にして犯罪による収益の追跡を困難にすることができる」と指摘しており、金融商品取引業者等及び商品先物取引業者を通じて行われる投資がマネー・ローンダリングに悪用された事例として、「偽名で開設した証券会社の口座に詐欺事件の犯罪収益を入金して株式を購入していた事例」「業務上横領により得た収益を商品先物取引に投資していた事例」が紹介されています。


 「貸金業等が取り扱う金銭貸付け」については、「利便性に乗じて、犯罪による収益を取得した者が、貸金業者等からの貸付け及びそれに対する返済を繰り返すなどして、当該収益の追跡を困難にすることができる」とその特徴を指摘、「平成27年から29年までの間の貸金業者等による疑わしい取引の届出件数は17,202件で、「疑わしい取引の参考事例」に例示された類型のうち届出件数が多かったものと類型ごとの取引件数は、暴力団員、暴力団関係者等に係る取引(7,212件、41.9%)、架空名義口座又は借名口座であるとの疑いが生じた口座を使用した入出金(6,053件、35.2%)」だということです。また、「強盗や詐欺で得た収益を貸金業者への債務の返済に充当していた事例等」もあると紹介しています。


 「資金移動業者が取り扱う資金移動サービス」については、「資金移動サービスの導入により、安価な送金手数料で容易に外国へ送金することが可能となったこと等から、外形的には適法な送金を装いつつ、資金移動業者の提供するサービスをマネー・ローンダリング等の手段として悪用する者が現れるようになった」とその特徴を紹介しています。具体的な事例としては、「報酬を伴う外国送金の依頼を受けた者が、当該送金が正当な理由のあるものでないことを認識しながら、資金移動業者を利用して送金を行ったマネーミュール事犯」、「危険ドラッグを販売した者が、その収益を他人名義の口座に隠匿した上、外国からの原料調達に充当し、資金移動業者を利用して支払を行っていた事例」、「外国送金に係る地下銀行を営む者が、あらかじめ送金先国にプールしておく必要がある資金を資金移動業者を利用して補填していた事例」、「詐取した自動車を売却して得た犯罪収益を資金移動業者を利用して海外送金していた事例」のほかに、「過去には、インターネットバンキングに係る不正送金事犯の犯罪収益を別の口座に移し、さらに、資金移動サービスを悪用して、外国へ送金するマネーミュールが行われている例も見られた」としています。


 「仮想通貨交換業者が取り扱う仮想通貨」については、30年調査書ではかなり詳細に記述がなされているのが特徴です。仮想通貨の特徴としては、「ビットコイン等の多くの仮想通貨は、取引履歴がブロックチェーン上で公開され、取引追跡が可能であるという特徴がある。しかしながら、取引に利用されるウォレットが、本人確認等の措置が義務化されていない国・地域の仮想通貨交換業者や、個人の取得・管理に係るものである場合、取引により移転した仮想通貨の所有者を特定することは困難となる」こと、「仮想通貨交換業者の取引は、その大半がインターネットを利用した非対面で行われていることから、対面取引と比べて匿名性が高い。さらに、仮想通貨の種類によっては、移転元と移転先とのつながりを不明瞭にする匿名化技術等を実装することで匿名性を高めたものもある。取引の中でこうした匿名性を高めた仮想通貨との交換が行われることでその後の取引等の追跡は困難となる」ことがあげられています。また、「平成29年4月から12月の間の仮想通貨交換業者による疑わしい取引の届出件数は、669件であり、その理由としては、顧客の情報に着目したもののほか、架空名義や借名での取引が疑われるものなどが多く認められ」るということであり、疑わしい取引の内容として、以下のようなものが紹介されています。

  • 異なる氏名・生年月日の複数の利用者が使用した本人確認書類に添付されている顔写真が同一
  • 同じIPアドレスから複数の口座開設・利用者登録がされている
  • 利用者の居住国が日本にもかかわらずログインされたのが日本国外である
  • 同一携帯番号が複数のアカウント・利用者連絡先として登録されていたが、使用されていない電話番号である
  • 仮想通貨がマネー・ローンダリングに悪用された事例として、以下のようなものがある
  • 不正に取得した他人名義のアカウント及びクレジットカード情報等を利用して仮想通貨を購入後、海外の交換サイトを経由するなどして日本円に換金し、その代金を他人名義の口座に振り込んでいた事例
  • 他人になりすまして仮想通貨交換業者との間における仮想通貨交換契約に係る役務の提供を受けること等を目的として、当該役務の提供を受けるために必要なID、パスワード等の提供を受ける等の犯罪収益移転防止法違反等の事例ほかとして、以下のようなものがある
  • 来日外国人が開設した仮想通貨口座のID、パスワードを第三者に有償で提供した事例
  • 他人名義の本人確認書類を使用して仮想通貨交換業者に口座を開設した事例
  • 違法薬物の取引や児童ポルノのダウンロードに必要な専用のポイントの支払いに仮想通貨が用いられていた事例

 そのうえで、「実際、その匿名性を悪用し、不正に取得した仮想通貨を仮想通貨交換業者を介して換金し、他人名義の口座に振り込ませていた事例等があることも踏まえれば、仮想通貨は、マネー・ローンダリング等に悪用される危険性があると認められる」と結論づけています。また、「仮想通貨取引が世界規模で拡大し、それを取り巻く環境も急激に変化していることも考慮に入れると、仮想通貨がマネー・ローンダリング等に悪用される危険度は、他業態よりも相対的に高いと認められる。さらに、預金取扱金融機関がマネー・ローンダリング等対策を強化していることから、マネー・ローンダリング等を行おうとする者は、預金取扱金融機関が取り扱う商品・サービスに代えて、仮想通貨取引を用いることも懸念され、こうした事情も仮想通貨の危険度を高めることとなる」こと、「仮想通貨取引を取り巻く環境の急激な変化に対して、適時適切な危険度の低減措置を行っていくことは容易ではなく、それらの取組が不十分な場合は適切な低減措置が図れず、危険度はなお高いままとなる」ことなどをその理由としてあげています。(預金取扱金融機関の取り組みが進むこととの対比の指摘は新鮮ですが)相対的に取り組みが不十分なところが狙われることはすでに指摘した通りであり、仮想通貨については、今後、厳格な対応が要請されていると言えます。なお、アルゼンチンで今月1日にまで開かれていた20カ国・地域(G20)首脳会議は、仮想通貨を用いたAML/CFT規制は「FATFに則ったやり方で進める」という方針を打ち出しています。首脳宣言の中で、「国際的なスタンダードで合意されたオープンで耐性のある金融システムは、持続的な経済成長を支える上で不可欠だ。(中略)我々は、銀行ではない金融仲介業における継続的な発展を楽しみにしている。金融セクターにおける技術の潜在的な恩恵は、リスクが削減された時にもたらされることを示すため、我々は努力を続ける。我々は、FATFのスタンダードに則って暗号資産がマネーロンダリングとテロ資金供与の手段とならないように規制する。また必要があれば、他の対応方法を検討する」ことは盛り込まれたもので、今後の国際的な取り組み強化の流れの中で日本も適切な対応が迫られることになります。


 「宅地建物取引業者が取り扱う不動産」については、「平成27年から29年までの間の宅地建物取引業者による疑わしい取引の届出件数は24件であり、「疑わしい取引の参考事例」に例示された類型のうち届出件数が多かったものと類型ごとの届出件数」については、「多額の現金により、宅地又は建物を購入する場合(6件、25.0%)、自社従業員の知識、経験等から見て、不自然な態様の取引又は不自然な態度、動向等が認められる顧客に係る取引(6件、25.0%)であり、不動産がマネー・ローンダリングに悪用された事例としては、「売春により得た収益を原資として、親族名義で土地を購入していた事例」や「薬物の密売人等が、薬物の密売により得た収益等を使って、知人の名義で、生活用の不動産や薬物製造に使用する不動産を購入していた事例」、「詐欺により得た収益をマンションの購入に充てていた事例」などが紹介されています。


 「宝石・貴金属等取扱事業者が取り扱う宝石・貴金属」については、「平成27年から29年までの間の宝石・貴金属等取扱事業者による疑わしい取引の届出件数は183件」であり、「疑わしい取引の参考事例」に例示された類型のうち届出件数が多かったものと類型ごとの届出件数としては、「自社従業員の知識、経験等から見て、不自然な態様の取引又は不自然な態度、動向等が認められる取引」(91件、49.7%)、「多額の現金により購入する場合」(17件、9.3%)、「顧客の収入、資産等に見合わない多額の購入又は販売を行う場合」(17件、9.3%)があげられています。また、「宝石及び貴金属が、マネー・ローンダリングに悪用された事例として、我が国では、以下のような事例等があり、これらの取引は、売買契約の締結時に他人へのなりすましや偽造された身分証明書等の提示により本人特定事項を偽るなど、より一層匿名性を確保した態様により行われている」として、「窃盗により得た金塊を金買取業者に売却する際に、知人によって法人名義で売却させた事例」や「窃盗により得た現金により、宝石店において他人名義で貴金属を購入していた事例」があり、外国でも、「薬物犯罪により得た収益で金塊を購入し、それを外国に密輸した事例」等があるなど、「その匿名性の高さや換金・運搬の容易さから、宝石及び貴金属がマネー・ローンダリングに悪用されている実態がある」と指摘しています。

 次に、「引き続き利用実態等を注視すべき新たな技術を活用した商品・サービス」として「電子マネー」について記載があり、「金銭的価値を電磁的記録等に変換してICチップやネットワーク上のサーバ等に保存することができる前払式支払手段は、運搬性に優れているほか、多くの場合、発行時の本人確認は氏名・生年月日等の自己申告で足り、本人確認書類等の提示は不要であることから、匿名性が高く、ICカード等の媒体の譲渡が可能である」とその特徴(危険性)を指摘しています。そのうえで、電子マネーがマネー・ローンダリングに悪用された事例として、「詐欺により得た電子マネーをインターネット上の仲介業者を介して売却し、販売代金を他人名義の口座に振り込ませていた事例等がある」としています。また、「電子マネーの普及に伴い、架空の有料サイト利用料金等の支払を求められた被害者が、コンビニエンスストア等で電子マネー(プリペイドカード)を購入し、そのIDを教えるよう要求され、プリペイドカードの額面分の金額(利用権)をだまし取られるなど、電子マネーが犯罪に悪用される事例が発生していることから、マネー・ローンダリング事犯を防止する観点だけではなく、犯罪被害全般を防止する観点から、関係省庁や業界団体等において注意喚起等の取組が進められている」と指摘しています。


 30年調査書では「カジノ」についても取り上げられています。それによると、まず、FATF(金融活動作業部会)が平成21年に公表したレポートやFATF勧告等では、海外においては、複数の国・地域で、合法的にカジノが行われている中、マネー・ローンダリングの危険性として、以下のようなものが指摘されているようです。

  • カジノは現金が集中する事業であり、しばしば24時間営業を行い、多額の現金取引が素早く行われること
  • カジノは、口座、為替送金、外貨両替等の多様な金融サービスを提供すること
  • 地域によっては、カジノを金融機関ではなく娯楽場として認識し、マネー・ローンダリング等対策が十分になされていないこと
  • 地域によっては、カジノ業界における職員の離職率が高く、マネー・ローンダリング等対策のための教育訓練等が十分になされていないこと
  • また、カジノに関連するマネー・ローンダリング事犯の手口として、以下のようなものが指摘されています。
  • 犯罪収益でカジノチップを購入し、それを使うことなく、再び現金に払い戻す手口
  • カジノチェーンを利用して、犯罪収益をカジノ口座から他の口座に送金する手口
  • 他の顧客のチップを犯罪収益で買い取る手口
  • 多額の小額の紙幣やコインを、カジノの窓口において、より管理のしやすい高額の紙幣に両替する手口

 さらに、カジノに対する規制に関して、FATFの新「40の勧告」では、カジノ事業者に対して、「顧客との間で3,000米ドル/ユーロ以上の金融取引を行う場合に、顧客の身元確認及び照合等の顧客管理の措置を行うこと」、また、「資金洗浄・テロ資金供与対策を効果的に実施するための措置として、カジノを免許制とすること」、「犯罪者又はその関係者がカジノの所有者又は受益所有者にならないようにするためなどのために法的措置を講ずること」、「権限ある当局が効果的にカジノを監督すること」等を要請している点は注目され、日本におけるカジノの管理についても、基本的に本内容を履行しつつ(それ以上の)「世界最高水準の規制」が目指されていることが想起され、この点についても、「これを踏まえ、本年成立した特定複合施設区域整備法では、犯罪収益移転防止法を改正し、カジノ事業者を特定事業者に追加し、チップの交付等の一定の取引について、顧客に対する取引時確認、取引記録の作成・保存、疑わしい取引の届出等を義務付けることとしている。また、特定複合観光施設区域整備法では、これらの規制に加えて、犯罪収益移転防止規程の作成の義務付け及びカジノ管理委員会による審査、一定額を超える現金とチップの交換等のカジノ管理委員会への届出の義務付け並びにチップの譲渡・譲受け・持出しの規制等により、マネー・ローンダリング対策を講じていくこととしており、カジノがマネー・ローンダリングに悪用されない環境作りが行われていくこととなる」と紹介しています。


 また、「危険度の高い取引」のうち取引形態別では、「非対面取引」についても記載されており、「非対面取引は、取引の相手方と直に対面せずに行う取引であることから、同人の性別、年代、容貌、言動等を直接確認することにより、本人特定事項の偽りや他人へのなりすましの有無を判断することができない。また、本人確認書類の写しにより本人確認を行う場合には、その手触りや質感から偽変造の有無を確認することができない。このように、非対面取引においては、他人になりすますことを企図する者を看破する手段が限定され、本人確認の精度が低下することとなる」とその特徴(脆弱性)を指摘しています。さらに、「非対面取引は対面取引と比べて匿名性が高く、容易に氏名・住居等の本人特定事項を偽ったり、架空の人物や他人になりすまして取引を行うことを可能とする。具体的には、偽変造された本人確認書類の写しを送付すること等により、本人特定事項を偽ったり、他人になりすましたりすることが可能となる」として、危険度の高い取引であることを指摘しています。また、非対面取引がマネー・ローンダリングに悪用された事例として、以下のようなものが紹介されています。そして、「実際、非対面取引において他人になりすますなどして開設された口座がマネー・ローンダリングに悪用されていた事例があること等から、非対面取引は危険度が高いと認められる」とリスク評価されています。

  • 窃取した健康保険証等を用い、インターネットを通じた非対面取引により他人名義で開設された口座が盗品の売却による収益の隠匿口座として悪用されていた事例
  • 架空の人物になりすまして非対面取引により開設された口座が、詐欺やヤミ金融事犯等において、犯罪による収益の隠匿口座として悪用されていた事例
  • インターネットバンキングに係る不正送金事犯において、偽造の身分証明書を使用した非対面取引により開設された複数の架空名義口座が振込先に指定されていた事例

 なお、この「非対面取引」のリスク評価を裏返せば、「対面取引」については、取引の相手方や本人確認書類を直接観察することができることから、悪用されるリスクが低いことになりますが、たびたび指摘している通り、「地面師」の事例のように、対面取引でありながら、目の前の人間と書面上の人間が同一か否かを見極めることが困難なケースもあり得るところです。やはり、重要なことは、最前線にいる役職員のリスクセンス・「目利き力」をいかに底上げしていくかに収斂することになります。


 「現金取引」については、「現金取引の特徴として、遠隔地への速やかな資金移動が容易な為替取引と異なり、実際に現金の物理的な移動を伴うことから、相当な時間を要する。その一方で、現金は流動性が高く、権利の移転が容易であるとともに、現金取引は匿名性が高く、取引内容に関する記録が作成されない限り、資金の流れの追跡可能性が低い」こと、現金取引がマネー・ローンダリングに悪用された事例として、以下のようなものがあり、「現金取引は、流動性及び匿名性が高く、現金を取り扱う事業者において、取引内容に関する記録が正確に作成されない限り、犯罪による収益の流れの解明が困難となる。実際、他人になりすますなどした上で、現金取引を通じてマネー・ローンダリングを行った事例が多数存在すること等から、現金取引は危険度が高いと認められる」とリスク評価されています。


  • 盗品を架空又は他人名義で質屋や古物商等に売却するなどして現金を入手する事例
  • 暴力団構成員等が、売春や賭博等による違法な収益を、みかじめ料や上納金名目等で現金で受領する事例

 「外国との取引」については、「外国との為替取引は、銀行間におけるコルレス契約に基づいて支払委託が行われることが多く、このような取引は短時間に隔地間の複数の銀行を経由することから、犯罪による収益の追跡可能性を著しく低下させる」こと、また、「コルレス業務においては、金融機関は取引を行う立場により送金依頼人等と直接の取引関係にない場合があるため、コルレス先におけるマネー・ローンダリング等防止のための体制が不十分である場合には、マネー・ローンダリング等に巻き込まれるおそれがある」こと、さらに、「例えばコルレス先が営業実態のない架空銀行(いわゆるシェルバンク)である場合やコルレス先がその保有口座の架空銀行による利用を許容している場合には、外国為替取引がマネー・ローンダリング等に用いられる危険性が高い」といった特徴(脆弱性)についての指摘があります。それに加えて、「諸外国の中には、法人の役員や株主を第三者名義で登記することができる制度を許容している国・地域等もあり、それらの国・地域において設立された実態のない法人が、犯罪による収益の隠匿等に悪用されている実態も認められ、また、それらの匿名性の高い法人口座等を複数経由するなどにより、最終的な送金先が不透明になる危険性を高めることとなる」としています。また、「近年、国際犯罪組織によって、外国における詐欺の収益が我が国の金融機関に送金される国際的なマネー・ローンダリング事犯の発生等も認められ、これらの事案の背景には、我が国の国際社会での信頼度や金融システムへの高い信頼性のほか、我が国と被害発生国における時差を利用することで犯罪の発覚を遅らせるなどの複数の要因があると考えられる」こと、「外国との取引においては、上記のコルレス契約に基づく銀行間の為替取引等以外に、キャッシュ・クーリエ(現金等支払手段の輸出入)によるマネー・ローンダリング等も可能」であることについても指摘されています。そのうえで、外国との取引がマネー・ローンダリングに悪用された事例として、我が国では、以下のようなものがあり、「これらの事件の主な特徴として、1回の送金額が高額であり1億円を超えることもあること、受取人と送金人で送金理由が異なることがあること、送金を受けた額のほぼ全額を現金で払出し請求することがあること、送金元から後日組戻し依頼がなされることがあること等が認められる」といった点が興味深いと言えます。

  • アメリカ、ヨーロッパ等において敢行した詐欺事件における詐取金を我が国の銀行に開設した口座に送金させた上、口座名義人である日本人が偽造した請求書等を当該銀行の窓口で提示して、正当な取引による送金であるかのように装って当該詐取金を引き出した事例
  • サーバをハッキングして、外国の企業に対して取引相手を装い、代金の振込先が変更になった旨の偽のメールを送り、我が国に開設された営業実態のない会社名義の口座に当該代金を振り込ませ、一度に多額の現金を引き出した事例

 その他、来日外国人らによる外国送金に係る地下銀行事案や外国の事例としては、以下のようなものが紹介されています。

  • 顧客から送金依頼を受けて他人名義の口座に振り込ませ、現金を引き出した後に旅行バッグ等に入れて外国へ密輸した事例
  • 顧客から送金依頼を受けて他人名義の口座に振り込ませ、中古重機や農機具等を購入した後、正当な貿易を装ってこれらを輸出して現地で換金することで、実質的に外国への送金を行っていた事例
  • 犯罪による収益が、国境を越える大口の現金密輸、実際の商品価格に金額を上乗せして対価を支払う方法による取引等によって外国に移転されていた事例

 また、関連して、「最近の我が国における国際組織犯罪の動向をみると、来日外国人で構成される犯罪組織が、出身国に存在する犯罪組織の指示を受けて犯罪を敢行するなど、その人的ネットワーク、犯行態様等が一国内のみで完結せず、国境を越えて役割が分担されることで、犯罪がより巧妙化かつ潜在化している実態があり、こうした事案に伴う収益が海外に還流される危険性も認められる」ことも指摘されています。


 「危険度の高い取引」のうち顧客の属性と危険度については、「FATFの新「40の勧告」解釈ノートにおけるマネー・ローンダリングやテロ資金供与の危険度を高める状況の例(「顧客が非居住者である」、「会社の支配構造が異常又は過度に複雑である」)、FATFの第3次対日相互審査での指摘(「顧客が外国の重要な公的地位を有する者である場合には、通常の顧客管理措置に加えて、一定の措置を実施すべき」、「写真が付いていない書類を本人確認に用いる場合は、二次的な補完措置をとること」)に加え、暴力団構成員等によるマネー・ローンダリング事犯検挙事例の存在、厳しいテロ情勢等を参考にして、取引の危険度に影響を与える顧客の属性」として、以下を特定しています。

  • マネー・ローンダリング等を行おうとする者として、(1)反社会的勢力(暴力団等)及び(2)国際テロリスト(イスラム過激派等)
  • 顧客管理が困難である者として、(3)非居住者、(4)外国の重要な公的地位を有する者及び(5)実質的支配者が不透明な法人

 まず、「反社会的勢力(暴力団等)」については、「暴力団は、恐喝、窃盗等のほか、振り込め詐欺をはじめとする特殊詐欺、金地金の密輸事犯等の時代の変化に応じた様々な資金獲得犯罪を行っている。さらに、近年、組織実態を隠蔽する動きを強めるとともに、活動形態においても、企業活動を装ったり、政治活動や社会運動を標ぼうしたりするなど、更なる不透明化を進展させている」こと、「獲得した資金が課税、没収等の対象となったり、獲得した資金に起因して検挙されたりする事態を回避することを目的として、しばしば、マネー・ローンダリングを行い、個別の資金獲得活動とその成果である資金との関係を不透明化している実態がある。犯罪による収益は、新たな犯罪のための活動資金や武器の調達等のための費用に使用されるなど、組織の維持・強化に利用されるとともに、合法的な経済活動に介入するための資金として利用されている」こと、「近年、繁華街・歓楽街等において、準暴力団が、集団的又は常習的に暴行、傷害等の暴力的不法行為等を行っている例がみられる。準暴力団は、暴力団と同程度の明確な組織性は有しないが、暴力団等の犯罪組織との密接な関係がうかがわれるものも存在しており、様々な資金獲得犯罪や各種の事業活動を行うことにより、効率的又は大規模に資金を獲得している状況がうかがわれる」ことなどが取り上げられています。また、「平成27年から29年までの間の疑わしい取引の届出件数は120万642件で、そのうち、暴力団構成員等に係るものは19万4,805件で、全体の16.2%を占めている」こと、「平成27年から29年までの間のマネー・ローンダリング事犯の検挙事件は1,138件で、そのうち、暴力団構成員等の関与が明確になったものは220件であり、全体の19.3%を占めている」ことなど、暴力団構成員等とマネー・ローンダリングの親和性の高さがうかがえるデータが示されています。また、暴力団構成員等が関与したマネー・ローンダリングの事例としては、以下のようなものがあり、「暴力団を始めとする反社会的勢力は、財産的利益の獲得を目的に、様々な犯罪を敢行しているほか、企業活動を仮装・悪用した資金獲得活動を行っている。このような犯罪行為又は資金獲得活動により得た資金の出所を不透明にするマネー・ローンダリングは、反社会的勢力にとって不可欠といえる。よって、反社会的勢力との取引は危険度が高いと認められる」とリスク評価されています。

  • 特殊詐欺等の詐欺事犯、ヤミ金融事犯、薬物事犯、労働者派遣法違反等で収益を得る際に、他人名義の口座を利用するなどして犯罪による収益の帰属を仮装する事例
  • 暴力団がその組織や威力を背景にみかじめ料や上納金名目で犯罪による収益を収受している事例
  • 暴力団員が売春事犯の犯罪収益と知りながら、親族名義の口座に現金を振り込ませ犯罪収益を収受した事例

 「国際テロリスト(イスラム過激派等)」については、「欧米諸国を始めとする国々でテロ事件が多発するなど、現下のテロ情勢は非常に厳しい状況にある。また、イラク・シリアで戦闘に参加していた外国人戦闘員が母国に帰還又は第三国に移動してテロを行うことなどが懸念されている。このように、テロの脅威が国境を越えて広がっていることからも、各国が連携してテロ資金供与対策を講ずることが不可欠である」こと、「ISILがイラク及びシリアにおける支配地域の大部分を失ったことや、各国がイラク及びシリアへの外国人戦闘員の渡航を規制する措置を講じていることなどにより、ISILに参加する外国人戦闘員は減少したとみられるものの、今後、外国人戦闘員が母国に帰還又は第三国に移動してテロを行うことが懸念されるほか、イラク及びシリア以外の紛争地域に多数の外国人戦闘員が流入し、当該地域の紛争を激化又は長期化させたり、世界中に過激思想を広めたりすることが懸念される」ことなど、本コラムでこれまで取り上げてきたテロリスクを巡る動向がまとめられており、「テロ資金供与の脅威・脆弱性に関する国際的な指摘等を踏まえると、テロ資金供与の特性」として、以下のようなものを指摘しています。

  • テロ資金は、テロ組織によるその支配地域内の取引等に対する課税、薬物密売、詐欺、身代金目的誘拐等の犯罪行為、外国人戦闘員に対する家族等からの金銭的支援により得られるほか、団体、企業等による合法的な取引を装って得られること
  • テロ資金供与に関係する取引は、テロ組織の支配地域内に所在する金融機関への国際送金等により行われることもあるが、マネー・ローンダリングに関係する取引よりも小額であり得るため、事業者等が日常的に取り扱う多数の取引の中に紛れてしまう危険性があること
  • テロ資金の提供先として、イラク、シリア、ソマリア等が挙げられるほか、それらの国へ直接送金せずに、トルコ等の周辺国を中継する例があること

 とりわけ、「小額であり多数の取引の中に紛れてしまう」「直接送金ではなく周辺国を中継する」といった部分は、事業者のチェックの困難さを示すものとして重要な示唆だと思われます。また、FATF勧告では、「非営利団体が悪用される形態として、テロ組織が合法的な団体を装う形態、合法的な団体をテロ資金供与のパイプとして利用する形態及び合法目的の資金をテロ組織に横流しする形態を示している」こと、「同勧告及び解釈ノート等を踏まえると、テロ資金供与に対する非営利団体の脆弱性」として、以下のようなものが示されており(非営利団体の犯罪インフラ化として)注目されます。

  • 非営利団体は、一般社会の信頼を享受し、相当量の資金源へのアクセス権を有し、しばしば現金を集中的に取り扱うこと
  • テロ行為にさらされている地域やその周辺において活動し、金融取引のための枠組みを提供しているものがあること
  • 活動のための資金の調達と支出における主体が異なる場合等があり、使途先が不透明になり得ること
  • テロ組織やその関係者が慈善活動を名目に非営利団体を設立して調達した資金をテロリストやその家族への支援金にすること
  • 合法的な非営利団体の活動にテロ組織の関係者が介入し、非営利団体が有する金融取引を悪用して、紛争地域等で活動するテロ組織に資金を送金すること
  • 合法的な非営利団体の活動によって得られた資金が、国外にあるテロ組織と関連を有する非営利団体に提供されてテロ資金となること

 また、「我が国に対するテロの脅威や、テロ資金供与の脅威・脆弱性に関する国際的な指摘等を踏まえると、我が国においても、以下のような懸念があり、特にイスラム過激派等と考えられる者との取引は、テロ資金供与の危険度が高いと認められる」との重要な指摘があり、「テロが極めて密行性の高い行為であり、収集されるテロの関連情報の大半が断片的なものであることから、上記危険度を踏まえた更なる情報の蓄積及び継続的かつ総合的な分析が引き続き求められる」としています。

  • イスラム過激派等が、イスラム諸国出身者のコミュニティに潜伏し、当該コミュニティを資金調達等に悪用すること
  • 外国人戦闘員によって資金調達等が行われること
  • 我が国の団体、企業等の合法的な取引を装ってテロ資金が供与されること

 「非居住者」については、「外国に留まったまま郵便やインターネット等を通じて取引を行う者(以下「非居住者」という。)は、常に相手方と対面することなく取引を行うことから、その取引は匿名性が高い。したがって、非居住者は、本人確認書類の偽変造により、容易に本人特定事項を偽り、又は架空の人物や他人になりすますことができる。また、非居住者との継続的な取引において、既に確認した本人特定事項等を当該非居住者が偽っていた疑いが生じた際や当該取引がマネー・ローンダリング等に悪用されている疑いが生じた際に、当該顧客に対して事業者が執り得る本人特定事項の確認等の顧客管理措置が居住者に比べて制限されてしまう」といった特徴(脆弱性)が指摘されています。
また、「外国の重要な公的地位を有する者」については、「外国の重要な公的地位を有する者(FATFは、国家元首、高位の政治家、政府高官、司法当局者、軍当局者等を例示している。)は、マネー・ローンダリング等に悪用し得る地位や影響力を有するほか、非居住者であったり、居住者であっても主たる資産や収入源が国外にあったりすることから、事業者による顧客等の本人特定事項等の確認及び資産の性格・移動状況の把握が制限されてしまう性質を有する。また、腐敗対策に関する法規制の厳格さは国・地域により異なる」といった特徴(脆弱性)が指摘されています。


 「実質的支配者が不透明な法人」については、「マネー・ローンダリング等を企図する者は、法人の特性を悪用し、法人の複雑な権利・支配関係を隠れみのにしたり、取締役等に自己の影響力が及ぶ第三者を充てるなどし、外形的には自己と法人との関わりをより一層不透明にしつつ、実質的には法人及びその財産を支配するなどして、マネー・ローンダリング等を行おうとする」と、その特徴(脆弱性)が指摘されており、「法人の犯罪インフラ化」の実態として興味深いと言えます。そのうえで、「法人を悪用したマネー・ローンダリング事犯の検挙事例等を見てみると、法人を悪用してマネー・ローンダリング等を意図する者は、以下のような実態を悪用している」としています。

  • 取引における信頼性を享受し得ること
  • 多額の財産の移動を頻繁に行うことができること
  • 合法的な事業収益に犯罪収入を混入させることで、違法な収益の出所を不透明にすることができること

 そのうえで、「法人を悪用した手口の中でも、実態のない又は不透明な法人を悪用するものは、事業活動や実質的支配者の実態が不透明であることから、その後の収益の追跡を困難にする。具体的には、以下のような手口によって法人を支配し、同法人名義の口座を犯罪収益の隠匿先に悪用するなどの実態が認められる」としています。

  • 犯罪による収益の隠匿等に悪用する目的で、実態のない法人を設立する
  • 犯罪による収益の隠匿等を企図する者が、第三者が所有する法人を違法に取得する

 さらに、「株式会社が多く悪用される背景には、出資金の調達や多額の資金移動を伴う取引において、株式会社の社会的認知度や信用性の高さなどが利用されていると考えられる」としています。また、「以下のような事業者のサービスを悪用することにより、法人等は、実際には占有していない場所の住所や電話番号を自己のものとして外部に表示し、事業の信用、業務規模等に関して架空又は誇張された外観を作出することにより、実態のない法人を設立・維持することが可能となる」として、犯罪インフラ事業者に警鐘を鳴らしています。

  • 郵便物受取サービス業者(自己の居所又は事務所の所在地を顧客が郵便物を受け取る場所として用いることを許諾し、当該顧客宛ての郵便物を受け取り、これを当該顧客に引き渡す業務を行う)
  • 電話受付代行業者(自己の電話番号を顧客が連絡先の電話番号として用いることを許諾し、当該顧客宛ての当該電話番号に係る電話を受けてその内容を当該顧客に連絡する業務を行う)
  • 電話転送サービス事業者(自己の電話番号を顧客が連絡先の電話番号として用いることを許諾し、当該顧客宛ての又は当該顧客からの当該電話番号に係る電話を当該顧客が指定する電話番号に自動的に転送する役務を提供する業務を行う)

 さらに、法人がマネー・ローンダリングに悪用された事例として、以下のようなものを取り上げています。

  • 第三者を代表取締役にして設立した会社の実質的支配者が、詐欺による収益を当該会社名義の口座に隠匿していた事例
  • 実態のない法人名で、インターネット上の電子書籍販売に関する副業のあっせんを行うホームページを開設し、当該副業のあっせんを申し込んできた者から、サーバのバージョンアップに関する必要費用等の名目で現金を架空名義の口座に振り込ませてだまし取っていた事例
  • 知人に依頼して実態のない株式会社を設立させて開設した同会社名義の口座に、正当な事業収益を装って、売春による収益を隠匿していた事例

 また、前回の本コラム(暴排トピックス2018年11月号)では休眠NPOの犯罪インフラ化について紹介しましたが、法人・休眠会社の犯罪インフラ化を阻止するための取り組みとして、30年調査書では「休眠みなし解散制度」について紹介しています。すなわち、「会社法には、休眠会社のみなし解散制度があり、これは、休眠会社の転売、不正な登記変更等によって得られた法人が犯罪に悪用される危険度を低減させるものである。みなし解散は26年度以降毎年実施されており、その数は、26年度が約8万7,000件、27年度が約2万1,000件、28年度が約2万1,000件と、いずれも2万件以上に上っている」と指摘しています。さらに、「実質的支配者が不透明な法人」については、「法人は、所有する財産を複雑な権利・支配関係の下に置くことにより、その帰属を複雑にし、財産を実質的に支配する自然人を容易に隠蔽することができる。このような法人の特性により、実質的支配者が不透明な法人は、その有する資金の追跡を困難にする」こと、「実際、詐欺等の犯罪による収益の隠匿手段として、実質的支配者が不透明な法人の名義で開設された口座が悪用されていた事例があること等から、実質的支配者が不透明な法人との取引は危険度が高いと認められる」とリスク評価されています。


 「写真付きでない身分証明書を用いる顧客」については、「写真なし証明書は、被証明者にのみ交付される書類である点において、被証明者と持参した人物の同一性の担保となるものの、写真付き証明書と比べて、その同一性の証明力が劣ることは事実であり、取引時確認を行う取引であっても、本人確認書類として写真なし証明書を用いる場合、当該人物が他人になりすますことを看破できないおそれがある。したがって、写真なし証明書には、マネー・ローンダリング等に悪用される脆弱性が認められ、写真なし証明書を提示する顧客等との取引は、写真付き証明書が用いられた取引と比べて危険度が高いと認められる」と指摘しています。一方で、「26年の犯罪収益移転防止法の改正並びにこれに伴う施行令及び規則の改正により、27年及び28年の犯罪収益移転危険度調査書においては、写真なし証明書を提示する顧客等との取引は、写真付き証明書が用いられた取引と比べて危険度が高いと評価していたが、現在、その危険度は低下したものと認められる」とのリスク評価がなされています。そのうえで、「一方、写真なし証明書は、写真付き証明書と比べ、その同一性の証明力が劣ることに変わりはないこと等を踏まえると、特定事業者においては、犯罪収益移転防止法上の本人確認方法を遵守するとともに、顧客が意図的に写真付き証明書の提示を拒む場合等については、マネー・ローンダリング等に悪用される危険性があるものとして、引き続き注意を払う必要がある」と注意を促している点に注意が必要です。


(2) オンラインで完結する自然人の本人特定事項の確認方法の追加

 本コラムでも紹介している「オンラインで完結する自然人の本人特定事項の確認方法」について、先月末(平成30年11月30日)、「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則の一部を改正する命令」が公表されています。この改正で実現することとなった「オンラインで完結する自然人の本人特定事項の確認方法の追加」は、金融庁が「変革期における金融サービスの向上にむけて~金融行政のこれまでの実践と今後の方針~(平成30 事務年度)」で掲げた、「金融デジタライゼーション戦略の11 の施策」の中で位置付けた取組の一つと位置付けられているもので、フィンテックを活用したものとしても注目されるところです。

▼金融庁 「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則の一部を改正する命令」の公表について

 あらためて、改正の概要については、以下の通りとなります。

  1. オンラインで完結する自然人の本人特定事項の確認方法の追加
    自然人の本人特定事項の確認方法に、以下の方法が追加される
    • (1) 顧客から写真付き本人確認書類の画像と本人の容貌の画像の送信を受ける方法(6条1項1号ホ)
    •  ※ インターネット上のビデオ通話機能を利用した方法も可
    • (2) から写真付き本人確認書類のICチップ情報と本人の容貌の画像の送信を受ける方法(6条1項1号へ)
    • (3) 顧客から一枚に限り発行される本人確認書類の画像又はICチップ情報の送信を受けるとともに、銀行等の預貯金取扱金融機関又はクレジットカード会社に当該顧客の本人特定事項を確認済であることを確認する方法(6条1項1号ト(1))
    • (4) 顧客から一枚に限り発行される本人確認書類の画像又はICチップ情報の送信を受けるとともに、当該顧客の預貯金口座(銀行等において本人特定事項を確認済であるもの)に金銭を振り込み、当該顧客から当該振込を特定するために必要な事項が記載されたインターネットバンキング画面の画像等の送付を受ける方法(6条1項1号ト(2))
       ※ 各方法で使用できる書類の種類や留意事項等、詳細な要件については、
         条文及びパブリックコメント結果参照
  2. 非対面取引時の郵便により行う自然人の本人特定事項の確認方法の改正
    なりすましによる不正事例を防止するため、顧客から本人確認書類の送付を受け顧客宛に書留郵便物等により転送不要郵便等として送付する確認方法に関する改正や、本人限定受取郵便に用いることのできる本人確認書類(顔写真付きのものに限られる)に関する改正が行われる(6条1項1号チ~ル)
  3. ▼顧客から本人確認書類の送付を受け顧客宛に書留郵便物等により転送不要郵便等として送付する確認方法に関する改正
  4. 法人の本人特定事項の確認方法の追加
    顧客から法人の名称及び本店等の所在地の申告を受け、かつ、登記情報提供サービスから登記情報の送信を受けたり、国税庁法人番号サイトで公表されている情報を確認する方法が追加される。(6条1項3号ロ、ハ)
      ※ 一部の場合を除き、本店等に書留郵便等により転送不要郵便物等を送付する
        必要がある
  5. 法令の規定に基づき、顧客財産の分別管理を目的とする信託取引を、簡素な顧客管理が許容される取引に追加(4条1項1号)

 本件はパブリックコメントが行われておりましたので、あわせてその結果についても確認しておきたいと思います。以下、金融庁のコメントから重要と思われるものを抜粋して紹介します。事業者らのフィンテックの活用による利便性の追求に対して、「事業者の責任において提供するもの」「本人特定事項の確認のために必要な要素を満たしていると合理的に認められるものであることが求められる」「AML/CFTという法の趣旨に従って、許容されるものかどうかを判断する」「ソフトウェアに問題があった場合には、特定事業者が監督上の措置の対象となる」といった制限事項を繰り返し述べている点が印象的です。

▼警察庁 刑事局組織犯罪対策部組織犯罪対策企画課犯罪収益移転防止対策室(JAFIC) 「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則の一部を改正する命令案」に関する意見の募集結果について
▼【別紙1】意見公募手続の実施結果
  • スイフトを利用した令第7条第1第1号ソに掲げる取引に関しては簡素な顧客管理を行うことが許容される取引とすべき旨の要望を踏まえて検討した結果、今回、新規則第4条第1項第9号を改正することとしているもの

  • 当該ソフトウェアの性能等は、本人特定事項の確認のために必要な要素を満たしていると合理的に認められるものであることが求められます。例えば、他人へのなりすまし等の防止が特定事業者に求められるのは当然であるところ、画像が加工されないことを確実に担保するため、ソフトウェアは画像の加工機能がないものでなければなりません。必要な要素を性能等が満たしていないと認められれば、特定事業者が監督上の措置の対象となり得ます

  • 特定事業者が提供するソフトウェアには、スマートフォン向けのアプリケーションも含まれます。当該ソフトウェアを使用する端末については、特定事業者が提供する専用端末、一般人が所有している携帯端末又はパーソナルコンピュータのいずれも認められます

  • 「特定事業者が提供するソフトウェア」とは、顧客等の本人特定事項の確認を行おうとする特定事業者の提供するソフトウェアをいいます。また、「特定事業者が提供するソフトウェア」には、第三者が開発し特定事業者に提供したソフトウェアや特事業者と他の特定事業者とで共用されているソフトウェアも含まれます。当該ソフトウェアはあくまでも当該特定事業者がその責任において提供しなければならず、ソフトウェアに問題があった場合には、特定事業者が監督上の措置の対象となります

  • 特定事業者が提供するソフトウェアを使用して撮影及び送信が行われる必要があるところ、FAXの利用は想定し難いと考えております。また、現時点で想定されていない技術の利用については、マネー・ローンダリング、テロ資金供与の防止という法の趣旨に従って、許容されるものかどうかを判断することとなると考えております

  • 写真付き本人確認書類については、「同条第一号ハからホまでに掲げるものを除く」と規定しているところ、外国人の本人特定事項の確認においても、写真の付いていない本人確認書類の利用は認められません

  • 特定のファイルの形態を想定しているわけではありません。ただし、本人特定事項の確認のために必要な要素を満たしていると合理的に認められるものであることが求められます。そのため、本人特定事項の確認に必要な情報が十分に判別できないものや、本人確認書類の真正性の判別が困難なものは認められません。例えば、容貌や本人確認書類の撮影内容が十分に判別できないような小さなものは認められません

  • 白黒画像はカラー画像に比べて本人特定事項の確認のために得られる情報量が少なく、本人特定事項の確認に支障が生じることから、認められません。また、解像度についても、本人特定事項の確認に支障が生じる場合は認められません

  • 「特定事業者が提供するソフトウェア」とは、顧客等の本人特定事項の確認を行おうとする特定事業者の提供するソフトウェアであり、撮影も送信も本人特定事項の確認時に行われるものに限られます。あらかじめ撮影された場合には加工されるおそれが高まるほか、本人特定事項の確認の時点における顧客等の実在性の確認等の観点からも支障があると考えられます

  • 特定取引を行うに際して、容貌と本人確認書類に係る本人確認用画像情報が同時期に撮影される必要があるところ、他人を騙してその容貌と本人確認書類の両方を撮影することは容易ではないことから、不正の抑止が図られると考えております

  • 「厚みその他の特徴」は外形、構造、機能等の特徴から本人確認書類の真正性の確認を行うものです。撮影された本人確認書類と「厚み」を確認した当該本人確認書類とが同一のものであることを保証する機能を有し、それが検証できることを担保する措置が講じられているのであれば、必ずしも「厚みその他の特徴」が画像として撮影されていなくとも、許容されると考えられます。また、特徴として厚みを確認することができる部分を撮影させる場合、本人確認書類を斜めに傾けて、当該本人確認書類の記載の全部又は一部が写るようにして撮影させるなど、当該本人確認書類の厚みであることが分かるようにする必要があります

  • 本人確認用画像情報の送信を受けると同時にその内容を確認しなければならないわけではありませんが、特定取引を行うに際して確認されたと合理的に認められる期間内に確認を行う必要があります。なお、銀行口座開設後に本人確認書類の真正性の確認ができなかった場合には、特定事業者の責任となる可能性があると考えられます

  • 従来から、本人特定事項の確認業務の委託については、あくまで、委託した特定事業者の責任において受託者により確実に行われるのであれば可能と考えられており、このことに変更はありません。また、本人確認用画像情報の保存を受託者が行うことも認められますが、委託した特定事業者が、自社の営業所で保存している場合と同様に、必要に応じて直ちに確認記録を検索できる状態を確保しておく必要があります。そして、当該措置が的確に行われない場合には、当該特定事業者が監督上の措置の対象となります

  • 特定事業者は、本人特定事項の確認時に、容貌や本人確認書類の実物を撮影させてその送信を受ける必要があることから、容貌や本人確認書類の実物を事前に撮影した写真を撮影させてその画像の送信を受けることは認められません。特定事業者は、この点を確認できようにする必要があります。その具体的な方法は特定事業者が判断することとなりますが、例えば、本人特定事項の確認時にランダムな数字等を顧客等に示し、一定時間内に顧客等に当該数字等を記した紙と一緒に容貌や本人確認書類を撮影させて直ちに送信を受けることなどが考えられます

  • 他の特定事業者がなりすまし等の疑いがあることを特定事業者に連絡したからといって、基本的には法違反になるものではありません。また、個人情報保護法との関係については、なりすまし等の疑いがあった場合には、個人情報保護法上の「個人データ」に該当する情報を特定事業者に情報提供することがあることをあらかじめ契約約款に盛り込むなどにより、他の特定事業者は適法に対応することが可能と考えております

  • 新規則第6条第1項第1号ト(1)が「他の特定事業者」による確認を根拠とする本人確認方法を認めているのは、顧客等との間に継続的な取引関係が構築されていることを前提としたものです。したがって、他の特定事業者に開設されている預貯金口座が解約されているなど、他の特定事業者と顧客等との間の継続的な取引関係が認められない場合に、新規則第6条第1項第1号ト(1)の方法を利用することは認められません

  • 氏名が異なっている場合には基本的には認められないと考えられます。住居についても同様ですが、マンション名やハイフン等、単なる表記上の違いにより完全に一致しない場合にあっては、同一の住居を示していと認められる場合があると考えられます

  • 「当該顧客等しか知り得ない事項その他の当該顧客等が当該確認記録に記録されている顧客等と同一であることを示す事項」とは、例えばID・パスワードのほか、静脈等の生体情報等の利用が想定されます。他の特定事業者の名称や口座番号は該当しないと考えらます。また、同一であることの確認ができるのであれば、複数の申告は必要ありません

  • 全ての手続を合理的な期間内に完了する必要があります。特定事業者がサービスを提供するよりも前に必ず本人特定事項の確認が完了していなければならないわけではありませんが、サービスの提供を行ったものの、その後確認が合理的な期間内にできなかった場合には、取引がマネー・ローンダリング等に悪用されている疑いが生じた場合の対応に支障が生じることが考えられることから、サービスの提供に先立って本人確認をしておく必要性は高いと考えています

  • 顧客等の預貯金口座は本人確認済みである必要があるところ、例えば、振込先金融機関が、その全ての顧客について本人確認済みであることを公表している場合には、特定事業者は、当該振込先金融機関に開設された当該顧客等の預貯金口座が本人確認済みのものであると判断することができると考えられます。また、振込先金融機関が全ての顧客等について本人確認済みでなかったとしても、インターネットバンキングの利用顧客については全て本人確認済みであって、その旨を公表している場合には、特定事業者は、当該顧客等が当該インターネットバンキングの利用者であることを確認すること(例えば当該インターネットバンキングの利用画面のスクリーンショットの送付を受けて確認することが考えられます。)により、本人確認済みであると判断することができると考えられます。また、電話等により個別に振込先金融機関に問い合わせる方法も想定されます

  • (「当該振込みを特定するために必要な事項」とは)単に振込日、振込人及び金額が確認できたとしても、振込額や振込人名が容易に推知できるものである場合には、特定事業者からの振込みを受けた者へのなりすましのおそれがあると考えられます。「当該振込みを特定するために必要な事項」としては、例えば、振込額をランダムにして振り込んだり、又は振込人名をランダムにして振り込んだ際の、当該振込額や当該振込人名が考えられます

  • 法人番号公表サイトは、法人の役員を確認できないことから、転送不要郵便物の送付が要件として課されている一方で、登記情報提供サービスは、法人の役員も確認できることから、代表権を保有する役員については転送不要郵便を不要としたものです

  • 補完書類については、従前より居住実態が確実に裏付けられる領収証等を認めており、携帯電話領収証、公共料金の請求書及び口座振替のお知らせを認めることは予定しておりません。クレジットカード払いによる領収証に代えて発行されるものであって、公共料金の支払い事実が確認できることにより居住実態が確実に裏付けられる書類については、事実上の領収証として、補完書類として取り扱っても差し支えありません

  • 「同居する者」は親族に限られません。公共料金の領収証書が「同居する者のもの」であることを確認する方法としては、例えば、領収証書の名宛人の姓と顧客等の姓の一致により確認することが考えられます。姓が一致しない場合等には、顧客等との関係を確認するほか、例えば、領収証書の名宛人の本人確認書類を利用したり、顧客等に対して当該領収証書の内容(例:電気の使用状況)について詳細な説明を求めることなどが考えられます。また、領収証書がカナ文字で記載されていることにより姓の一致の確認に影響がある場合には、より慎重な確認をすることが適当と考えられます

(3) その他のAML/CFTを巡る最新の動向

 国内外でAML/CFTを巡って金融機関の問題が多数発覚しています。以下、最近の報道から紹介します。


  • 米紙ニューヨークタイムズは、三菱UFJフィナンシャル・グループが北朝鮮のマネー・ローンダリングに関与した疑いで、米連邦検察当局が捜査していると報じています。2017年後半に召喚状を受け取ったということであり、検察当局は、三菱UFJが、北朝鮮との国境付近で事業を行う中国人顧客について、身元確認を行う仕組みの導入を怠った疑いがあるとみているとのことです。また、国際的な制裁リストの対象となっている企業や人物と取引をしないようにする内部システムを意図的に無視したともみているとも言われています。今のところ、北朝鮮が三菱UFJを通して資金洗浄を行ったという明確な証拠は見つかっていないものの、検察当局は、システム上の欠陥を重大視しているということです。

  • 前回の本コラム(暴排トピックス2018年11月号)でも取り上げましたが、デンマーク最大のダンスケ銀行で、エストニア支店を舞台に8年間で総額2000億ユーロ(約26兆円)もの巨額のマネー・ローンダリングが行われていたという事実は文字通りのスキャンダルでした。本疑惑ではCEOが辞任する事態にまで発展しましたが、調査報告書によれば、2007~2015年の間、エストニア支店を通じて行われた巨額の国際送金について、「このうち相当部分が(不正を)疑われる」と指摘、居住実態のない「非居住者」15,000人の口座を調査対象とし、6,200人について不正が「疑われる」という驚くべき内容が報告されています。なお、資金の出所はロシアとエストニア国内が各23%で最大を占めたといいます。

  • エストニアとともにバルト三国の1つラトビアでは今年2月、大手ABLV銀行が北朝鮮の弾道ミサイル開発にかかわる団体と違法取引し、マネロンに関与したとして、米国の制裁を受けています。それにより同行は資金繰りが急速に悪化し、破綻に追い込まれました。

  • 欧州中央銀行(ECB)が、マルタのピラトゥス銀行について、マネー・ローンダリングを行ったとして銀行免許を取り消す厳格な処分を行っています。ピラトゥス銀行を巡っては、アゼルバイジャンとマルタの高官への賄賂資金を取り扱ったと女性ジャーナリストが指摘していましたが、このジャーナリストは1年前、爆死しています(この問題については、以前の本コラムでも取り上げています)。

  • さらに直近では、マネー・ローンダリングに関与した疑いで、ドイツの検察当局は、フランクフルトに本拠を置く金融大手、ドイツ銀行に家宅捜索に入っています。2016年に明らかになったパナマ文書問題に絡み、行員2人が、タックスヘイブンを活用し、顧客のマネロン目的の会社設立を手助けした疑いが持たれているということです。ドイツ銀行は、過去も、ロシア人の富裕層による数十億ドル相当のマネー・ローンダリングを行員が手助けした疑惑に関係するニューヨーク州金融サービス局(DFS)の調査を決着させるため、4億2,500万ドル(約479億円)の支払いに同意したほか、中国共産党中央規律検査委員会書記と関連する会社からのマネロンでアメリカ政府に調査されているなど、経営再建中でした。また、ドイツ銀行は前述したダンスケ銀行のマネロン疑惑に関与したとの疑惑も一部メディアで報じられているところです。

  • 米政府は、フランスの大手銀行ソシエテ・ジェネラルがキューバやイランなどに対する米国の制裁に違反したとして、米政府に総額約13億4,000万ドル(1,510億円)の罰金を支払うことで合意したと発表しています。米国の制裁に違反した銀行への罰金では過去2番目の規模で、金額的には大半がキューバ取引だったということです。さらに同銀行はマネー・ローンダリング規制法違反でニューヨーク州当局に9,500万ドル(107億円)を支払うことにも合意したということです。

 その他、平成30年12月7日付日本経済新聞によれば、金融庁は、抜け穴を塞ぐことを目的に、銀行がマネー・ローンダリングのリスクに応じ全顧客を格付けするよう要請したということです。融資先の分類のように3段階程度に分類し、貿易業者などリスクが高い客には送金のたびに目的や取引内容を示す証拠提出などを求めるなどして、「誰による取引か」を把握する狙いがあるとされます。来年秋のFATFの対日審査ではマネロンリスクの高低を把握したうえでいかに防ぐための枠組みをつくり、有効に機能しているかという「実効性」が問われるところ、このような手法で実効性の高いリスクベース・アプローチによる管理を行っていることをアピールする狙いもありそうです。報道によれば、具体的には、まず3メガバンクに早期の体制整備を求めたうえで、数年かけて地域金融機関を含むすべての金融機関に対応を促していく計画といいます。例えば、「非事業性個人」と呼ばれる一般の個人は基本的には「低ランク」ではあるものの、一度でも海外に送金すると「中ランク」に引き上げられて、監視のレベルを高めるような運用イメージにようです。ただ、AML/CFTの強化は顧客の利便性を制限することでもあり、一般の顧客が送金しようとしても、銀行から理由を詳しく尋ねられたり、一定額以上の送金を拒否されたりする可能性もあるなど、利用者にとっては預金や送金が使いにくくなる場面が増えることが予想されるところです。関連して、金融庁の遠藤長官は、金融機関との懇談の場で、「来年までに全て完璧にするのは難しい」とした上で、「FATFの審査への対応はマネロン対策のレベルを上げるきっかけ」であり、「(FATFの審査が)終わった後も継続的な対応が必要だ」と指摘しています。なお、この場では、中小金融機関から「人材が不足している」「検査のしくみも新たにつくらなければならない。温かく指導してほしい」といった声も出たようですが、30年調査書では「事業規模とリスクの関係については、一般に事業規模が大きくなるほど、その中に紛れた犯罪による収益を特定し、追跡することが困難となること等から、危険度が上昇する面もあるが、取り扱う商品・サービスの内容が同じであれば、マネー・ローンダリング等に悪用される固有の危険性は事業規模に応じて大きく異なるものではないことに、所管行政庁及び事業者は留意をする必要がある」との指摘の通り、中小金融機関といえども徒にレベル感を下げるのはAML/CFTの主旨からいえばおかしいことであり、もっと強い自覚を促したいところです。なお、本人確認の強化という点では、厚生労働省は、他人の公的医療保険の保険証を使って受診する「なりすまし問題」(医療費高騰の要因ともなりかねない)の防止策として、医療機関を受診する患者に顔写真付き身分証明書の提示を求める方向で検討に入ったという報道がありました(平成30年12月7日付朝日新聞)。「なりすまし」については、外国人労働者の受け入れ拡大に関連して議論になっているものの、国籍を問わない「平等の原則」に沿って、日本人にも提示を求めることになります。ただ、日本人が誰でも運転免許証やパスポート、マイナンバーカードなどの顔写真付き身分証明書を持っているわけではない「証明弱者」の問題もあり、(外国人は在留カードを携帯していなければ入管法違反の疑いが生じるので原則提示させる一方で)当面は提示がなくても受診することはできるということです。なお、報道によれば、保険証に顔写真を付けることも、「保険証更新の度に写真を準備する利用者の負担と、保険者の事務作業を考慮すると、実現のハードルは高い」(厚労省幹部)といった背景もあるようですが、本コラムでもたびたび指摘している通り、AML/CFTにおいては、世界的に「顔写真付き身分証明書」の提示がマストとなっているだけに、(マイナンバーカードの普及遅れ対策とともに)証明弱者問題の抜本的な解決を急ぎたいところです。


 最後に、本コラムで定期的に紹介している「金融庁と業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点」について、最新のものから重要と思われる部分を抜粋して紹介します。

▼金融庁 業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点
▼主要行

 まず、コンプライアンス・リスク管理について、スルガ銀行問題等を受けて、「投資用不動産向け融資については、顧客の収入状況等の改ざんや抱合せ販売等、顧客保護等の観点からの問題や、顧客が返済不能となり金融機関において損失が生じるといった信用リスク管理上の問題が確認されているところ」であるとの現状認識を示したうえで、「9月に公表した「実践と方針」にも記載のとおり、当庁は、投資用不動産向け融資に係る融資審査・管理態勢、顧客保護等管理態勢や法令等遵守態勢に問題がないか、横断的なアンケート調査を通じた深度あるモニタリングを実施する」としています。さらに、「各金融機関において、コンプライアンスは経営の問題であるとの認識が醸成されること、ビジネスモデル・経営戦略と一体の最適なリスク管理態勢の整備や問題事象の未然予防に向けた自律的な取組みがなされることを期待している。是非、各金融機関において、そのビジネスモデル・経営戦略を踏まえ、何が自社にとってのリスクにつながるか検討を進めていただきたい」と要請しています。また、「今後、先進的な取組みも含めて、広くコンプライアンス・リスク管理に関する実態把握を行いたいと考えており、引き続きご理解・ご協力をお願いする。収集した事例やプラクティス、共通課題等を取りまとめ、皆様にフィードバックさせていただきたいと考えている」として、好事例も含めて吸い上げてフィードバックしていくことが示されました。
AML/CFTについては、「前回の意見交換会(9月11 日)においても、AML/CFTの強化についてお願いさせていただいているが、本件は極めて大切な問題であるので、今一度、お願いさせていただきたい」として、「皆様のマネロン担当部署と当庁の担当室との間では、すでに緊急チェックシートやギャップ分析等を踏まえ、マネロン・テロ資金供与対策の進捗状況についてヒアリングをさせていただいているが、現時点で、FATF が期待する水準に達していない先があり、より一層のスピード感をもった対策の推進が必要と考えている」と厳しい現状認識を示しています。さらに、「メガバンクをはじめとする各行におかれては、来年秋に予定されているFATF 対日相互審査のインタビューを受ける可能性が極めて高いことから、自らがインタビューを受けるという認識で、「我が事」として態勢整備を進めていただきたい」と当事者意識を強くもつよう要請しています。そのうえで、「特に、審査で問われるのは、リスクベース・アプローチに基づくマネロン・テロ資金供与対策の構築とその有効性であり、包括的かつ具体的なリスク評価とリスクに応じた低減措置をどの程度適切かつ有効に行っているか等、FATF の審査手引書に定められた審査項目に沿って、具体的な文書や取引管理状況等の証跡に基づいた合理的かつ説得的な説明を行う必要がある」こと、「残された時間は少ないが、具体的にどのような態勢を整備していくかという段階に移ってきており、引き続き、業界内外との連携や当局と連携を密にして、来年秋のFATF 審査に備えていただきたい」こと、さらには「なお、海外の事例であるが、先月、デンマーク最大の銀行であるダンスケ・バンク(Danske Bank)が、同行の海外支店の一つであるエストニア支店を経由した総額2千億ユーロ相当のマネー・ローンダリング事案に関して内部調査書を公表し、CEO が辞任を表明した。根本原因には、海外拠点に対するガバナンスの脆弱性もあるようである。海外業務を展開している主要行等におかれては、レピュテーショナル・リスクのみならず海外当局からの行政処分も含め多くのリスクに晒されており、このような海外事例も一例として、グループそしてグローバルベースのAML/CFTの強化に取り組んでいただきたい」としています。
また、役員面談からの気付きについてのフィードバックもあり、「一部の金融機関では、チーフ・リスク・オフィサー(CRO)自身が、CRO 職の責務について欧米G-SIFIs を参考にしながら探求し、責任を果たそうとする取組みや、リスクに関する情報を感度高く得る仕組みの構築に不断の努力を続けている取組みがみられている」こと、「リスクテイクに対する牽制機能という面では、CRO が営業部門の案件に対する拒否権を有するのではなく、議論を通じて牽制機能を果たしていると意見があった。どのような実質的な議論が行われ、リスクテイクに影響を与えているのか、今後、さらに対話を深めていきたいと考えている」ことなどが示されています。
さらに、「今事務年度の「実践と方針」について(着眼点)」として、以下のようなものが示されました。

  • 経営環境が厳しい中での収益力強化に向けた具体的な取組み
  • 各銀行が海外業務や海外資産を拡大する中で、海外当局とのコミュニケーションの充実を含めた法令等遵守態勢の確立や経営・リスク管理、ガバナンス態勢をグループ全体でどのように高度化しているか
  • 銀・信・証のグループ連携強化の動きや手数料収入の拡大に向けて金融商品の販売に注力する動きの中で、優越的地位の濫用のおそれや顧客ニーズを無視した過度な営業推進が行われていないか、法令等遵守態勢や顧客本位の業務運営の観点から
  • 障がい者や高齢者、外国人材等の多様な顧客ニーズへの対応、インターネット等を利用した非対面取引の安全対策や不正送金への対応、振り込め詐欺等の金融犯罪対策
▼全国地方銀行協会/第二地方銀行協会

 地銀・第二地銀向けには、主要行と同じ内容に加え、「金融機関の将来にわたる健全性と金融仲介機能」として、「収益上の深刻な課題、健全性の問題を抱える金融機関については、金融仲介の取組みに時間をかけて取り組んでいただいていることは理解しつつも、比較的短い時間軸の中で、健全性の改善に向けた早急な対応を行う必要があり、当局としても適切に対応していく。その際、経営状況に見合わないような配当を維持することや、決算の見栄えを気にするあまり、有価証券含み損の処理を先送りすることについても、社外取締役も含めた経営陣等とも十分に議論し、注意を喚起していく」こと、「手段を選ばずに収益さえあげれば良いという、収益先にありきの考え方は、機能強化法の趣旨に反すると考えている。あくまで、本業支援や事業性評価によるリスクをとった貸し出しなどその地域における金融仲介機能の発揮によって収益が生み出される状況になっているかをよく注意して議論していかなければならない。ただし、ここでも、時間軸が重要」であること、「金融機関の業務運営においては、顧客を保護し、法令等を遵守するのは当然であり、経営陣による適切な経営管理の下、そうした業務運営が実現されていく必要がある」こと、「こうした観点も踏まえ、9月に公表した「実践と方針」にも記載のとおり、金融庁は、投資用不動産向け融資に係る融資審査・管理態勢、顧客保護等管理態勢や法令等遵守態勢に問題がないか、横断的なアンケート調査を通じた深度あるモニタリングを実施する」ことをしめしています。

2. 最近のトピックス

(1) 最近の暴力団情勢

 前回の本コラム(暴排トピックス2018年11月号)において、犯罪インフラ化しており注意が必要なものとして、「休眠NPO法人」(休眠状態にある特定非営利活動法人)を紹介しました。最近、福岡県警が、この休眠NPO法人について「暴力団の統制下にある」と結論づけて、福岡県に通報(結局は自主解散)するという事例がありました。報道(平成30年12月2日付毎日新聞)によれば、「このNPO法人は2002年に福岡県内に設立され、人権擁護運動をするはずだったが、「面倒くさくなって」放置し、休眠状態になった。創立者が知人(男性)に相談したところ「環境問題をやろう」と誘われたため同意し、印鑑や関係書類を渡した。ところが、代表理事が創立者から知人の連れてきた親交者に取って代わられるが、親交者は指定暴力団幹部と密接な関係を持つ人物だったという。そして4人しかいなかった理事は2009年10月に44人に急増、2010年6月には50人に達した」というものです。捜査関係者によれば、これらの大半は暴力団関係企業(フロント企業)の役員など、いわゆる暴力団関係者だといいます。暴力団側の動機や乗っ取り後に何をしたのか詳細は不明だが、寄付で感謝状を受け取るなどしていることから、「肩書取得」による信用獲得が目的ではないかと見られています。なお、福岡県警は、福岡県に対する通知文書の中で、(1)暴力団員との共犯被疑者(容疑者)として代表理事や多数の理事が逮捕、起訴されている、(2)多くの理事が暴力団関係企業の理事等を兼任している、(3)役員人事はすべて暴力団幹部の指示のもとに行われている、などと指摘し、「適当な措置をとる必要がある」としているとのことです。さて、本来、NPO法人を所管するのは各自治体です。報告書が未提出の休眠NPO法人が多いのは事実であり、そのような場合、特定非営利活動促進法(NPO法)は、「過料を科す」「認証を取り消すことができる」と定められていますが、厳格に適用するかどうかは各自治体に任されています。しかも、報道によれば、ある自治体の担当者は、「報告書さえ出せば、活動実績がなくても手が出せない。実態把握は難しく野放しだ」という面もあり、自治体自体のリソースの問題も絡み厳格な管理も望めない状況であり、NPO法人の犯罪インフラ化の懸念はますます強くなっています。翻って、チェックする側の企業としては、NPO法人だからといった安心することなく、実在性や稼働実態も含めて確認をしていくことが必要だということです。


 また、大阪市西成区の歓楽街・飛田新地の飲食店から、売春の収益の一部を受け取ったとして、食品の激安販売で知られる「スーパー玉出」創業者(74)が逮捕されました。報道(平成30年12月4日付産経新聞)によれば、この事件では、まず、今年5月に飛田新地にある「銀河」で売春相手を紹介したとして、売春防止法違反容疑で指定暴力団山口組系「極心連合会」の幹部(若頭)や内妻らが逮捕されています。売春の売り上げを組織の大きな資金源としているとの見立てで捜査を進めたところ、銀河の土地や建物の所有者が同社や関連会社と判明したものです。組織犯罪処罰法では、犯罪によって得られた収益を受け取ることが禁じられており、銀河から同社に金が渡っていれば抵触する疑いが強く、資金の流れを調べたところ、銀河側からペーパーカンパニーを経由して、定期的に同社の口座に現金が入金されていることが確認されたといいます。さらに、内妻が府警に対し、銀河がこの場所で開業したのは幹部の口利きだったと説明、同課は、同社社長が売春に使われると知りながら店舗を貸し、賃料を得ていたと判断、帳簿などから裏付けられた3カ月分の賃料135万円を逮捕容疑としたということです。この創業社長については、自らもCMやバラエティー番組に出演し、「スーパー玉出」をPRしてきたが、過去には警察に摘発され、暴力団とのつながりが表面化したこともあったといいます。報道によれば、平成10年には、在留資格のないフィリピン人らを不法就労させたとして、府警が入管難民法違反(不法就労助長)の疑いで逮捕。当時の捜査では、事務所から暴力団の「代紋」が入った灰皿などが見つかったといいます。このような「密接交際者」は共生者であって関係をもつことは基本的にNGとなります。スーパーの経営を外れていたとはいえ社長のまま逮捕されており、同社としては、今後、この社長との関係をきちんと絶ち、その他、反社会的勢力との関係がないかを徹底的に確認して、万が一関係があるものについては遮断していくといった「ホワイト化」の取り組みが不可欠となります。創業社長との関係を断つのは、事業継続も含めて困難が伴いますが、暴力団との関係も企業存続に係るリスクであり、徹底的な暴排に取り組んでいただきたいものだと思います。


 さて、警察庁が内部通達で「協力雇用主からの暴排」を指示しています。

▼警察庁 協力雇用主からの暴力団排除の推進について

 協力雇用主とは、再犯の防止等の推進に関する法律(平成28 年法律第104号。以下「再犯防止推進法」という。)第14 条において、「犯罪をした者等の自立及び社会復帰に協力することを目的として、犯罪をした者等を雇用し、又は雇用しようとする事業主」と定められており、保護観察所の長が、保護観察に付されている者及び更生緊急保護の対象となる者(以下「保護観察対象者等」という。)に対し、更生保護法(平成19 年法律第88 号。以下「法」という。)第58 条に規定する補導援護及び法第85 条に規定する更生緊急保護における就職の援助を行うに当たり、保護観察対象者等の雇用に協力する事業主を指すものです。警察庁と法務省との間で交わされた本合意書は、保護観察対象者等に対して適切な就労先を確保することに加え、再犯防止推進法第14 条において公共調達における協力雇用主の受注の機会の増大を図るよう配慮することとされ、再犯防止推進法第23 条において協力雇用主等民間の団体等の再犯の防止等に関する活動の促進を図るため、財政上又は税制上の措置等の必要な施策を講ずること等が規定されていることも踏まえ、暴力団への公金支出を防止するべく、保護観察所から都道府県警察に対し、協力雇用主として保護観察所への登録を希望する事業主及び協力雇用主として保護観察所へ登録されている事業主について、暴力団排除事項該当性の有無を照会するものとなります。具体的に、協力雇用主から排除する対象となるのは以下のとおりです。なお、暴力団対策主管課長等は、暴力団員等による協力雇用主の登録業務等への不当介入事案があった場合、積極的に事件化を検討するとともに、必要に応じて、保護観察所職員等関係者に対する保護対策を適切に実施することとしています。

  1. 法人等(個人、法人又は団体をいう。)の役員等(個人である場合はその者、法人である場合は役員又は支店若しくは営業所の代表者、団体である場合は代表者、理事等、その他経営に実質的に関与している者をいう。)が、暴力団(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成3年法律第77 号)第2条第2号に規定する暴力団をいう。以下同じ。)、暴力団員(同法第2条第6号に規定する暴力団員をいう。以下同じ。)又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者であるとき
  2. 役員等が、自己、自社若しくは第三者の不正の利益を図る目的又は第三者に損害を加える目的をもって、暴力団又は暴力団員を利用するなどしているとき
  3. 役員等が、暴力団又は暴力団員に対して、資金等を供給し、又は便宜を供与するなど直接的あるいは積極的に暴力団の維持、運営に協力し、若しくは関与しているとき
  4. 役員等が、暴力団又は暴力団員であることを知りながらこれを不当に利用するなどしているとき
  5. 役員等が、暴力団又は暴力団員と社会的に非難されるべき関係を有しているとき

 また、再犯防止の関連で、内閣府が「再犯防止対策に関する世論調査」を実施していますので、主な結果について、以下に紹介します。

▼内閣府 再犯防止対策に関する世論調査

 本調査結果によれば、再犯防止に協力する民間協力者として、次の方々(少年補導員、保護司、少年指導委員、更生保護施設など)がいることを知っているか聞いたところ、「いずれか知っている」とする者の割合が81.6%となっており、その内容として「少年補導員」を挙げた者の割合が63.6%と最も高く、以下、「保護司」(57.4%)、「少年指導委員」(42.4%)、「更生保護施設」(41.1%)などの順となりました。また、民間協力者を増やすためには、国は、何をするべきだと思うか聞いたところ、「民間協力者の活動を紹介する広報を充実する」を挙げた者の割合が47.2%、「民間協力者に対して、活動する場所の提供や財政的な支援を充実する」を挙げた者の割合が45.2%と高く、以下、「民間協力者に対する研修を充実する」(34.4%)、「民間協力者の団体と協力して、1日体験など誰もが気軽に参加できるような機会を増やす」(27.4%)などの順となりました。さらに、犯罪をした人の立ち直りに協力したいと思うか聞いたところ、「思う」とする者の割合が53.5%、「思わない」とする者の割合が40.8%という結果となりました。「思わない」とする回答割合が想像以上に高く驚きましたが、再犯防止に極めて重要となり「社会的包摂」の実現には高いハードルがあることを痛感しました。また、どのような協力をしたいと思うか聞いたところ、「再犯防止に関するボランティア活動に参加する」を挙げた者の割合が41.0%と最も高く、以下、「広報・啓発活動に参加する」(27.5%)、「更生保護施設(出所後、直ちに自立更生することが困難な人たちに対して、一定期間、宿泊場所や食事を提供する民間の施設)にお金や品物などを寄付する」(26.9%)、「協力雇用主(犯罪前歴を承知の上で雇用に協力する事業主)として、犯罪をした人を雇用する」(17.7%)、「インターネットを活用して広報・啓発活動の情報を発信する」(17.7%)などの順となっています。さらに、協力したいと思わない理由を聞いたところ、「犯罪をした人と、どのように接すればよいかわからないから」を挙げた者の割合が44.9%、「自分や家族の身に何か起きないか不安だから」を挙げた者の割合が43.0%と高く、以下、「犯罪をした人と、かかわりを持ちたくないから」(35.5%)、「具体的なイメージがわかないから」(24.7%)、「時間的余裕がないから」(24.4%)などの順となり、再犯防止の取り組みを正しく広報することの重要性をあらためて感じました。その再犯防止に関して、広く国民の理解や関心を深めるためには、国は何をするべきだと思うか聞いたところ、「テレビや新聞などでの広報を充実する」を挙げた者の割合が56.8%と最も高く、以下、「学校の授業で取り上げるよう働きかける」(45.4%)、「地域や社会教育の場で話し合う機会をもつよう働きかける」(30.1%)、「ホームページやSNSなどのインターネットでの情報発信を充実する」(28.8%)、「パンフレットやポスターを増やす」(27.1%)、「誰もが参加できる講習会などのシンポジウムを充実する」(24.4%)などの順となり、できるところから始めていただきたいものだと思います。また、再犯防止のためには、具体的にどのようなことが必要だと思うか聞いたところ、「刑事司法関係機関(刑務所、少年院、保護観察所等)による一人ひとりの問題性に応じた、きめ細かな指導や支援を充実する」を挙げた者の割合が54.6%、「仕事と住居を確保して安定した生活基盤を築かせる」を挙げた者の割合が50.6%と高く、以下、「被害者の置かれた状況や心情を理解させる」(41.3%)などの順となっており、「物質的な居場所」を与えるところが先行し、「社会的包摂」には至っていない現状を確認しました。さらに、犯罪をした人が仕事に就くために、国は何をするべきだと思うか聞いたところ、「刑務所や少年院の中で、施設から出た後に役立つ技能や資格を取得させるための教育を充実する」を挙げた者の割合が57.7%と最も高く、以下、「協力雇用主の活動を支援する」(41.0%)、「犯罪をした人に対して、仕事に就く意欲を向上させるための働きかけを強化する」(34.3%)、「刑事司法関係機関とハローワークなどの職業紹介事業者が連携した支援を強化する」(33.9%)、「広く国民に周知するなどして、協力雇用主を増やす」(31.8%)などの順となっています。また、高齢者の再犯を防ぐために、国は何をするべきだと思うか聞いたところ、「犯罪をした高齢者であっても受け入れる老人ホームなどを増やす」を挙げた者の割合が47.5%と最も高く、以下、「犯罪をした高齢者であっても参加できる地域の居場所を作るよう働きかける」(41.1%)、「家族や親族が受け入れるように働きかけを強化する」(32.5%)、「刑務所で認知症予防や運動機能向上に取り組ませる」(30.4%)、「刑事司法関係機関に配置する福祉の専門家を増やす」(27.0%)、「刑事司法関係機関で保健医療・福祉サービスやその手続について、積極的に情報提供を行う」(27.0%)などの順、薬物依存者の再犯を防ぐために、国は何をするべきだと思うか聞いたところ、「薬物依存症の治療を専門とする医療機関を増やす」を挙げた者の割合が53.6%と最も高く、以下、「刑事司法関係機関で薬物依存症からの回復のための専門的なプログラムを実施する」(44.7%)、「刑務所に収容する代わりに、薬物依存症の治療を優先した仕組みを整備する」(44.5%)、「薬物依存症からの回復を支援する民間団体の活動を支援する」(36.3%)などの順、犯罪をした少年少女の再犯防止のために、国は何をするべきだと思うか聞いたところ、「少年院や保護観察所で、被害者の置かれた状況や心情が理解できるよう教育を充実する」を挙げた者の割合が46.8%、「少年院などで高等学校卒業程度認定試験や進学のための教育を充実する」を挙げた者の割合が42.7%、「学校における非行防止や薬物乱用防止に関する教育を充実する」を挙げた者の割合が40.9%、「犯罪をした少年少女の保護者に対して、育て方や親子関係に関する相談・助言を強化する」を挙げた者の割合が40.0%、「社会の一員としての意識や規範意識を高めるため、ボランティア活動に参加させる」を挙げた者の割合が37.7%などの順とそれぞれなっています。そして、最後に再犯防止のためには、犯罪をした人を社会から排除・孤立させるのではなく、再び受け入れることが自然にできる「誰一人取り残さない」社会の実現が大切である、という意見について、どう思うか聞いたところ、「そう思う」とする者の割合が79.5%、)、「そう思わない」とする者の割合が17.2%という結果となりましたが、「社会的包摂」の考え方をより広く広報し、その実現のための具体的な施策を展開していくことによって、実現可能性を高めることができるのではないかとの思いを強くしました。


 その他、暴力団等反社会的勢力に関する最近の報道からいくつか紹介します。


  • 指定暴力団神戸山口組の本拠をめぐり、兵庫県公安委員会は、国家公安委員会の決定に基づき、組の「主たる事務所」が淡路市の組事務所から神戸市中央区のビルに変更されたことを官報で公示しました。神戸地裁が昨年10月、淡路市の組事務所を暴力団が使用することを禁じる仮処分を決定しましたが、国家公安委員会は、地裁決定を受けて組側が神戸市のビルに本拠機能を移したと判断していたものです。

  • 密漁品の高値取引が横行しているナマコなどについて、漁業法の罰金を現行の200万円から3000万円へ大幅に引き上げる漁業法が改正されました。罰金を支払っても利益を得られる「取り得」を防ぎ、暴力団の資金源を断つのが狙いです。これまでは違反しても立件するには、販売目的で密漁していることを立証しなければならなかったところ、これを都道府県の許可なく取っただけで検挙できるようにするものです。ナマコは卸売市場を通さず、加工業者と直接取引されることが多く、密漁品が出回りやすい現状をふまえ、罰金引き上げに加え、密漁品を引き取る業者への罰則も新たに設けられることになります。

  • 11月30日に公証人施行規則が改定施行されています。株式会社、一般社団法人および一般財団法人設立における定款認証の際に、実質的支配者が暴力団関係者やテロリスト出ないことを申告させるものです。なお、昨年の春には、変更登記の際に、株主リストの提出を義務付ける法改正もなされています。これにより、明らかに暴力団関係者の潜在化は進むと考えらえるほか、定款認証を必要としない合同会社等を設立する反社会的勢力が増える可能性があるなど、その実効性が懸念されるところです。

  • 絶滅が危惧されるニホンウナギの稚魚「シラスウナギ」の「産地証明書」を発行する業界団体が発足しました。稚魚は高値で取引されるため「白いダイヤ」と呼ばれ、暴力団の資金源になっているとも指摘されています。今後、産地証明書の発行を通じ、不正取引の防止を目指すということであり、暴排に積極的に取り組んでいただくことを期待したいと思います。

  • 特殊詐欺に暴力団が関与していると言われていますが、一方で、その関係を立証することは困難を伴うようです。報道(平成30年11月17日付時事通信)によれば、「(現金を引き出す)出し子の勧誘役や差配役を検挙できるようになったくらい」で、暴力団の組織的な資金調達活動と認定するのは難しい現実があります。そして、暴力団幹部らの関与を裏付けることはさらに困難を極めるとも指摘されています。驚くべきことに、詐欺グループは、メンバー間の連絡に履歴の残らない通話アプリを使ったり、内部情報を水溶紙に印刷したりして摘発に備えているといいます。また、非組員は捕まっても、「組の関与を話さないよう脅されている」とのことです(一方で、特殊詐欺グループの役割が細分化されていることから、末端の人間は首謀者等の情報は知らされていない可能性もあります)。前回の本コラム(暴排トピックス2018年11月号)で紹介したとおり、警察庁は9月、特殊詐欺への関与が疑われる暴力団について、詐欺罪の適用が困難な場合、あらゆる法令で検挙し、組織弱体化を図るよう全国の警察に通達していますが、立件のハードルをどう崩していくか、正にここからが正念場だと言えます。

  • 原野商法の被害者から土地取引を装い現金をだまし取ったとして、警視庁組織犯罪対策4課が詐欺容疑で逮捕したグループが、相手を信用させるため、土地所有者との交渉や不動産関連の書類作成など細かく役割を分けていたことが分かりました。組対4課によると、逮捕したのは13人で、その中には準暴力団「関東連合OBグループ」のメンバーが含まれており、詐取金が暴力団に流れていた可能性もあるといいます。

  • 専門職を対象とした在留資格を持つベトナム人に資格外の単純労働をさせたなどとして、入管難民法違反容疑で札幌市の暴力団員ら8人が逮捕されました。北海道警は、逮捕された容疑者が所属する指定暴力団山口組系「誠友会」事務所など2カ所を家宅捜索しています。容疑者らがベトナム人の給与の一部を搾取するなど労働者のあっせんで不正な利益を得て暴力団の資金源にしていたとみて調べているということです。暴力団が労働者派遣への関与を強めているのは間違いなく、資金源獲得活動のひとつとして、「社内暴排」のあり方を検討すべき時期にきていると思われます。

  • 指定暴力団山口組の「直参」と呼ばれる2次団体の事務所がある福島市庭坂地区の住民らが、事務所撤去を求める「暴力団追放庭坂地区住民の会」を設立、暴力団追放宣言をし、その後、事務所の使用差し止めを求める手続きをとるなど、県警や県弁護士会などと協力して撤去を目指しています。暴力団対策法の改定以降、組事務所の使用差し止め請求や立ち退き請求の動きが活発化していることは大変よい兆候であり、各地の暴追センターとの連携のもと、「泣き寝入り」することなく暴排が力強く推進していくことを期待したいと思います。

  • 福岡県警の「筑後地区暴力団集中取締本部」が、暴力団対策部に設置されました。いずれも指定暴力団の道仁会と浪川会の取り締まりを強化し、上層部を一気に摘発する「頂上作戦」も視野に入れているということです。暴力団抗争が激しかった10年ほど前に比べると活動は沈静化したとされるが、報道によれば、両団体とも勢力は維持しており、資金源となるみかじめ料要求も後を絶たない状況であるといいます。また、報道によれば、筑後地区では飲食店など事業者を対象にした事件が継続的に発生しており、福岡県公安委員会の中止命令は、みかじめ料など金品の不当要求が群を抜いており、今年は既に道仁会13件、浪川会4件の中止命令が出ているということです。

  • 神戸市長田区の住宅街で10月に起きた発砲事件で、銃刀法違反容疑で現行犯逮捕された指定暴力団神戸山口組系組員が住んでいた暴力団関連施設について、市内の建物所有者が組側との賃貸契約を打ち切ったことが分かりました。当然と言えば当然ですが、(事前に確認できなかったのかどうかは今度の課題としても)毅然とした対応でかなりのスピード感をもって関係解消を図った点は高く評価できる事例だと思います。

(2) 特殊詐欺を巡る動向

 まずは、例月通り、平成30年1月~9月の特殊詐欺の認知・検挙状況等についての警察庁からの公表資料を確認します。

▼警察庁 平成30年10月の特殊詐欺認知・検挙状況等について

 平成30年1月~10月の特殊詐欺全体の認知件数は13,525件(前年同期14,740件、前年同期比▲8.2%)、被害総額は233.3億円(269.8億円、▲13.5%)となり、認知件数・被害総額ともに減少傾向が継続しています(減少幅はやや縮小しています)。なお、検挙件数は4,124件となり、前年同期(3,512件)を17.4%上回るペースで摘発が進んでいます(検挙人員も2,193人と前年同期比+24.0%であり、摘発の精度が高まっていると言えます)。うち振り込め詐欺の認知件数は12,770件(14,515件、▲8.2%)、被害総額は227.2億円(255.8億円、▲11.2%)となっており、特殊詐欺全体の傾向に同じく、件数・被害額ともに減少傾向が継続しています。また、類型別の被害状況をみると、オレオレ詐欺の認知件数は7,492件(6,647件、+12.7%)、被害総額は106.1億円(126.6億円、▲16.2%)と件数の増加傾向は続くもののその増加ペースはやや鈍化しており、被害額も減少傾向が続いています(つまり、1件あたりの被害単価の減少が顕著となっています)。また、架空請求詐欺の認知件数は4,001件(4,643件、▲13.8%)、被害総額は97.6億円(92.1億円、+6.0%)と件数の減少と被害額の増加傾向が継続しています(つまり、1件当たりの被害単価が増加していることになります)。さらに、融資保証金詐欺の認知件数は341件(467件、▲27.0%)、被害総額は5.1億円(5.5億円、▲7.3%)、還付金等詐欺の認知件数1,544件(2,758件、▲44.0%)、被害総額は18.5億円(2931.5億円、▲41.2%)と、これらについては件数・被害額ともに大きく減少する傾向が継続しています。これまで猛威をふるってきた還付金等詐欺の件数・被害額が急激に減少する一方、それととって替わる形でオレオレ詐欺が急増している点(特殊詐欺全体でみれば件数が減少に転じた点は特筆すべき変化ではありますが、それでも高水準を維持している点)に注意が必要です。なお、それ以外の傾向としては、特殊詐欺全体の被害者については、男性24.3%、女性75.7%、60歳以上83.0%(70歳以上だけで67.9%)と、相変わらず全体的に女性および高齢者のセグメントにおいて被害者が圧倒的に多い傾向がみてとれます(さらに、その傾向に拍車がかかっている点に注意が必要です)。また、犯罪インフラの検挙状況として、口座詐欺の検挙件数は1,088件(1,299件、▲16.2%)、盗品譲受けの検挙件数は21件(5件、+300.2%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は1,981件(2,025件、▲2.2%)、検挙人員は587人(738人、▲20.4%)、携帯電話端末詐欺の検挙人員は200人(273人、▲26.7%)、携帯電話不正利用防止法違反の検挙件数は35件(42件、▲16.7%)、検挙人員は35人(43人、▲18.6%)などとなっています。


 さて、一向に勢いが衰えない特殊詐欺被害ですが、警察庁は平成30年9月25日付の内部通達で特殊詐欺対策を総合的に推進するよう指示を出していますので、紹介します。

▼警察庁  総合的な特殊詐欺対策の推進について

 本通達は、「個々の特殊詐欺事件の実行犯検挙や突き上げ捜査に加えて、事件の背後にいるとみられる暴力団、準暴力団、不良外国人、暴走族、非行少年等に対しても、次の点に留意し、情報収集や取締りを行うこと」とするもので、「暴力団、準暴力団等」については、「事件の背後にいるとみられる暴力団、準暴力団等を弱体化することが特殊詐欺の抑止につながると考えられることから、特殊詐欺そのものでの検挙が困難であっても、暴行・傷害、薬物犯罪、金の密輸入、強盗・窃盗等あらゆる法令による検挙に努めること」「また、暴力団、準暴力団等にとって、特殊詐欺は有力な資金源となっている実態がうかがわれ、それを元に新たな犯罪に関与している可能性がある。これを念頭に置いて平素から実態把握を進め、それに基づく戦略的な取締りを行うこと」との指示となっています。また、「不良外国人」については、「不良外国人については、受け子としての検挙が急増しているほか、特殊詐欺に用いられる銀行口座の転売を組織的に行うなどの事例が確認されている。不良外国人が犯行に関与し、あるいは犯行ツールを提供しているといった実態に留意して情報収集を進め、犯行グループに関わる不良外国人についてはあらゆる法令を駆使した取締りを行うこと」との指示、「暴走族」については、「犯行グループの人材供給源とも言える暴走族に対しては、犯行グループとの接点について情報収集するとともに、活動実態の把握と取締りを行うこと」との指示、「非行少年」については、「特殊詐欺で検挙される少年の多くが受け子であり、友人や先輩から誘われ、安易に犯行グループの一員となるという実態が見受けられることから、このように特殊詐欺に関わる非行少年の周辺関係について情報収集を進め、必要な対策を講じること。併せて、特殊詐欺で検挙される少年の再犯者率は、刑法犯少年全体と比べて著しく高い状況にあることから、例えば、少年院等の関係機関との連携を強化するなどして少年が特殊詐欺に関与しないための取組を推進すること」との指示がそれぞれ出されています。特殊詐欺の被害防止を図るための広報啓発活動については、「これまで高齢者を対象に犯行手口を紹介するなどの注意喚起を中心に行ってきた」ところ、「その子供や孫の世代への働きかけを強化して、日常的に家族間で連絡を取り合うといった機運を醸成することも高齢者の被害防止に有効であると考えられる」として、こうした点を考慮して、効果的な広報啓発を実施するよう指示しています。セグメントごとの特徴をふまえた指示であり、とりわけ、暴力団・準暴力団について「特殊詐欺そのものでの検挙が困難であっても、暴行・傷害、薬物犯罪、金の密輸入、強盗・窃盗等あらゆる法令による検挙に努めること」というのは、暴力団・準暴力団対策および特殊詐欺対策の両面から摘発を強化する強い姿勢の表れだと思います。


 さて、特殊詐欺対策のうち、埼玉弁護士会の弁護士らがAIを使い、架空請求の疑いがあるはがきなどを瞬時に見破るスマホのアプリを開発したとの報道がありました(平成30年12月5日付毎日新聞)。身に覚えのない請求書やはがきなどをスマホで写真撮影してアプリで送信すると、過去の詐欺事案で使われた文面などのデータを蓄積したAIが数秒間で判定し、「架空請求の疑いが濃厚です!」などと表示、AIによる判定が難しい場合は、弁護士らが写真を確認してラインで通知するというものです。AIを活用した犯罪未然防止(特殊詐欺撃退)のよい取り組みとして、広く普及してほしいものだと思います。また、高齢女性から現金をだまし取ろうとしたとして、大阪府警河内署が、専門学校生の少年(18)を詐欺未遂の疑いで逮捕していますが、普段は関西弁なのに、標準語で金を無心する「孫」を不審に思った女性が、詐欺を見破ったということです。関西圏の方が首都圏より特殊詐欺の被害が少ないとされる理由のひとつが、首都圏の犯行グループが「関西弁」を上手く話せないことが言われていますが、それを裏付けるかのような事案となります。また、大阪府警がかけ子ら3人を逮捕した事案では、拠点としていた東京都東大和市のビルの一室を捜索したところ、約1,300人分の名簿や携帯電話約40台などを押収しています。特殊詐欺の三種の神器のうちの「名簿(個人情報)」と「飛ばしの携帯」がやはり使われており、名簿屋や道具屋など犯罪インフラ事業者の存在をうかがわせるものだと言えます。
一方、特殊詐欺の類型は多様性を見せている状況にあり、最近の報道では以下のようなものがありました。


  • 警察官が詐欺を見破れず被害を発生させてしまった事例が起きています。大阪市港区の金融機関の窓口で、女性が「家具を買う」と言って多額の現金を引き出そうとしたため、職員が不審に思って通報、駆けつけた港署の男性巡査部長(50歳代)は、女性に頼み、携帯電話で息子を名乗る男と話をしたところ、男が「母親は家具を購入すると聞いている」と話したため、内容に矛盾がないと判断したもので、女性は男が「投資で金が必要」として金を要求したことを、巡査部長に伝えていなかったのだといいます。女性はその後、市内で息子の代理人を名乗る男に約300万円を手渡してしまったということです。かけ子側が女性への話の内容から瞬時に切り替えて警察に対応したこと(おそらくはマニュアル等が手元にあったのではないかと推測されます)、女性がかけ子の要求内容を警察官に正確に伝えていなかったことなどがその要因だと思われますが、特殊詐欺への対応の困難さをあらためて感じる事案です。

  • 中国・吉林省を拠点に高齢女性にうその電話をかけ、キャッシュカードをだまし取ったとして、大阪府警が大阪市の男ら計3人を詐欺容疑で逮捕しています。この事案は前回の本コラム(暴排トピックス2018年11月号)でも紹介した中国を拠点としたかけ子が逮捕されたものと同一であり、インターネットの「裏仕事掲示板」というサイトを通じて勧誘され、1~4月、中国東北部の吉林省延吉市に滞在しており、拠点はマンションの一室で、トップは「社長」と呼ばれる中国人男性、男を含む日本人3人が、名簿を基に日本の高齢者に電話をかけ続けていた実態が明らかとなっています。

  • 「不正トラベル」と呼ばれるネット詐欺の被害が急増しているということです。報道(平成30年12月7日付日本経済新聞)によれば、産官学連携のサイバー犯罪対策組織である日本サイバー犯罪対策センター(JC3)によると、2017年の被害額は50億円以上になるといいます。不正トラベルとは、フィッシング詐欺やウイルス(マルウエア)などを使って盗んだ他人のクレジットカード情報を悪用するネット詐欺の一種で、旅行をしたいと考えている第三者を巻き込むのが特徴で、他人のクレジットカード情報を何らかの手段で盗み、外国の旅行者のためのホテルや施設を、日本人名義のカードで予約するものです。現物が発生せずすべてオンラインで完結するため発覚しにくい、クレジットカード会社のチェックに引っ掛かりにくい(旅行はたまに行く人がほとんどであり異常値と見抜けない)といった点が成功率を高めている要因となっています。あくまで個人が情報を漏えいされないようガードすること、不正利用がないかを常に注視することが前提ですが、クレジットカード会社における「異常検知システム」の精度向上や旅行の予約時のチェックの強化などが今度の課題になるものと思われます。

  • 取引先や同僚を装ったメールで金銭をだまし取る「ビジネスメール詐欺」が以前から世界で横行しています。詐欺グループは国境をまたいだネットワークを持っており、米国の非政府組織(NGO)がだまされて送金した9,300万円を不正に引き出したとして、仙台市で中古品輸出会社を経営する日本人の男(59)が7月、組織犯罪処罰法違反などの疑いで警視庁に逮捕されたという事例もあります。ここ5年間の被害は世界で1兆円を超えるともいわれ、今年に入って日本語のメールも出回り始めるなど日本企業も標的となっている可能性があり、注意が必要な状況です。なお、実際の国内の被害例としては、JALが、昨年12月20日、偽の請求書メールにだまされて約3億8,000万円の被害を受けたことは記憶に新しいところです。一方、スカイマークでは、2016年6月、取引先の担当者を名乗る約40万円の請求書が届き、支払先を香港の銀行口座に変更すると記されていたことから担当者もだまされて振り込もうとしたもののすでに口座が凍結されていたため被害を受けずに済んだという事例がありました(その後、取引先に確認して偽メールだったと判明)。口座変更メールは昨年10月にも届いたものの、以前の未遂事件について社内で注意喚起をしていたため、担当者が取引先への問い合わせで偽メールだと見抜き、被害を防いだということもあったようです。あくまでも内部統制システム上の牽制機能をきちんと発揮すること、変更手続きの際は相手方にあらためて口頭で確認するなどすれば防げる可能性が高まるのではないかと考えます。

  • 国民生活センターが「地方裁判所管理局」からの架空請求は無視してください!とする注意喚起を行っています。
    ▼国民生活センター 「地方裁判所管理局」からの架空請求は無視してください!
    全国の消費生活センターに、「『地方裁判所管理局』と名乗る機関からハガキが届いた。ハガキには、『特定消費料金訴訟最終告知のお知らせ』と書かれていた。地方裁判所と名乗っていたので、記載されていた電話番号に連絡しようとしたところ、家族から架空請求ではないかと連絡を止められた。対処方法を教えて欲しい」という相談が寄せられているといいます。ハガキには、「貴方の利用されていた契約会社、ないし運営会社から契約不履行による民事訴訟として、訴状が提出されました事をご通知致します」「裁判取り下げ最終期日を経て訴訟を開始させて頂きます」と記載されており、「裁判取り下げなどのご相談」に関しては、固定電話の問い合わせ先に連絡するように誘導しており、連絡がない場合は、「原告側の主張が全面的に受理され執行官立会いの元、給料差押え及び動産、不動産物の差し押さえを強制的に履行させて頂きますので裁判所執行官による執行証書の交付を承諾していただくようお願い致します」などと脅して不安にさせる文言も記載されています。「地方裁判所」と名乗っているものの、裁判所とは一切関係ない。裁判所の名称を不正に使用しているものです。さらに、「書面での通達となりますのでプライバシー保護の為、ご本人様からご連絡頂きますようお願い申し上げます」と記載されており、本人から連絡するように強調しています。しかし、正式な裁判手続では、訴状は、「特別送達」と記載された、裁判所の名前入りの封書で郵便職員が直接手渡すことが原則となっており、ハガキで郵便受けに投げ込まれることはありません。ハガキが届いても絶対に連絡を取らないようにすることが大事で、連絡してしまうと、相手から弁護士を紹介すると言われ、弁護士を名乗る者から、訴訟を取り下げるための費用が必要であると説明され、金銭を請求されたケースもあるといいます。少しでも不安を感じたら、消費生活センター等(消費者ホットライン188(いやや))に相談をした方がよいと思われます。

  • さらに、国民生活センターは、「あなたの携帯電話番号が記載された架空請求は無視してください!」とする注意喚起も行っています。
    ▼国民生活センター あなたの携帯電話番号が記載された架空請求は無視してください!
    全国の消費生活センターに、「『重要』と書かれた封書で、『訴訟最終告知のお知らせ』という書面が届いた。書面には氏名と携帯電話番号の記載があり、契約不履行により、身辺調査の開始および訴状の提出がされたとのことだ。連絡するよう書いてあり、取り下げ最終期日の記載もある。差出人に身に覚えはない。架空請求として無視してよいだろうか」という相談が寄せられているということです。封書(書面)には、消費者の住所、氏名、携帯電話番号の他、「貴方の携帯電話で利用されていた、契約会社ないしは運営会社側から契約不履行による民事訴訟として、身辺調査の開始、訴状の提出がされました事をご通知致します」「裁判の取り下げ最終期日を経て訴訟を開始させていただきます」と記載されており、「裁判取り下げなどのご相談」に関しては、差出人である事業者の固定電話の問い合わせ先に連絡するように誘導しています。以降は前述の「地方裁判所管理局」からの架空請求の流れと同じとなります。したがって、封書(書面)が届いても絶対に連絡を取らないようにすることが大事であり、連絡してしまうと、調査費用、延滞料、公正証書代金などの名目で、金銭を請求されたケースもあるということなので、少しでも不安を感じたら、消費生活センター等(消費者ホットライン188(いやや))に相談をした方がよいと思われます。

  • 警察官などを装ってうその電話をかけ、高齢者からキャッシュカードをだまし取る「手渡し型」の特殊詐欺が全国で急増しているようです。暗証番号を聞き出して現金を詐取する手口で、報道によると、今年1~9月の認知件数は計4,152件で、昨年同期に比べて約1.6倍にもなっているとのことです。特に大阪や東京などの都市圏で爆発的に増え、大阪府内では約5倍に上るということです。以前は金融機関で高齢者らに現金を振り込ませるケースなどが多かったところ、窓口での声掛け対策や高齢者のATM利用制限などの取り組みが進んだため、詐欺グループが手早く現金を入手できる「手渡し型」が増えたものと推測されます。

  • 「パソコンに内蔵されたカメラでアダルトサイトを閲覧している姿を撮影した。家族や同僚らにばらまく」などと脅す内容の偽メールを送りつけて仮想通貨をだまし取る詐欺被害が相次いでいる問題で、10月中に国内で約1,000万円相当の被害が発生していたということです。報道によれば、当初は偽メールの件名に「緊急対応!」「あなたの心の安らぎの問題。」などの文言が使われていたところ、10月下旬からは「あなたのパスワードが侵害されました」などの文言とともに、利用者がネット上で過去に使ったパスワードなどを表示するパターンが主流になってきており、(パスワードはインターネット上に流出した個人情報が悪用されていると推測されるところ、利用者はサイバー攻撃で自分のパソコンを乗っ取られたと思い込んでしまうなど)動揺させる手口が被害拡大につながっているとみられています。このような流れを見るにつけ、犯罪者が人の心の動きをよく研究して成功率を高めるための工夫をしていることを痛感させられます。

(3) 仮想通貨を巡る動向

 仮想通貨とAML/CFTについては、30年調査書の内容を既に紹介しました。以下、「仮想通貨交換業等に関する研究会」の検討過程を追いながら、仮想通貨の規制のあり方について考えてみたいと思います。議事録として公表されているものから、関連して重要と思われる部分を箇条書きで紹介したいと思います(一部言い回し等筆者にて加筆修正)。

▼金融庁 「仮想通貨交換業等に関する研究会」(第7回)議事録
  • 現在、仮想通貨交換業者として登録されている16社のうち7社において、仮想通貨交換業者の証拠金取引が提供されている。これは仮想通貨デリバティブ取引の一形態であり、今後さらに新たなデリバティブ取引の類型が登場することも想定されているところだ。

  • 業者におけるシステム上の不備やサービス内容の不明確さ等に起因する利用者からの相談が金融庁に相当数寄せられている。仮想通貨を用いた証拠金取引に係る相談等の件数は、前年同期比で増加。平成30年1月から9月までの件数は、合計で376件、同じ時期の外国為替証拠金取引に係る相談等の件数の75件よりもかなり多くなっている。主な相談等の内容としては、ロスカットが機能しない等のシステム上の不備に関するものや、途中でレバレッジ倍率等のサービス内容が変更されるといったサービス内容の不明確さ等に関するものが主なところだ。

  • デリバティブ取引は、価格変動リスクの回避・軽減等のさまざまな目的で、将来、原資産を一定の価格で取引すること等をあらかじめ契約しておくものであり、一般に、原資産に係る将来のキャッシュフローを取引当事者の意思で変換する機能を有するものと考えられる。こうしたことから、金商法においても、原資産の如何を問わず、デリバティブ取引を金融規制の対象とし得る枠組みが整備されている。これらを踏まえれば、仮想通貨デリバティブ取引についても、金融の機能を有すると捉えることが適当と考えられるが、どうか。

  • 仮想通貨の有用性についての評価が定まっていないことや、既に、国内において、相当程度の仮想通貨デリバティブ取引が行われており、利用者からの相談も相当数寄せられていること、足許では専ら投機を助長しているとの指摘があることなどをふまえ、仮に規制の導入が期待されると考えられる場合、どのような規制が適切か。

  • 現状、国内では、仮想通貨デリバティブ取引の証拠金倍率がFX取引と同じ最大25倍に設定している業者もある。日本仮想通貨交換業協会の自主規制規則案では、FX取引と同水準のリスク量とすることを念頭に、証拠金倍率の上限を4倍と規定されているが、1年間は会員自身が決定する水準でも可とする時限措置もある。

  • 仮想通貨の売買・交換を業として行うことは、資金決済法の規制対象とされているが、仮想通貨信用取引自体に対する金融規制は設けられていない。

  • 仮想通貨の場合、仮想通貨そのものがどのような経済的意義を有するのか。その仮想通貨の価格をデリバティブ取引や、あるいは先物取引等によって安定させるのか、投機によってより攪乱させるのか不明だが、そうすることにどのような政策的な意義があるかについては、残念ながら現時点では評価が定まらないところではないか。

  • 仮想通貨であっても、最適なデリバティブの価格が、何が適切かというのは、原資産との価格との関係で決まってくるものだ。その関係で成立する価格が非常に明らかであれば、公正な価格形成といえ、仮想通貨だからといって、ともかく禁止しなければいけないというものではないかもしれない

  • 包括的な規制のほうが、2つの意味でいい。まずこの分野に関しては、技術の進歩というのがこれからも起こっていくが、形を変えた形での色々な取引というのが将来的には起こってくる可能性はある。後追い的に限定してということになるよりは、ある程度包括的なルールを決めておいたほうがいいだろう。もう一つは、グローバルな観点で、包括的な規定が海外では主流だという。これはクロスボーダーの取引というのが非常に活発であるという観点等も考えれば、国際的な規制のシンクロナイズ、類似の規制というのを課すというのは一つの視点ではないか

  • 規制をすればそれで足りるということではなくて、実際の取引に当たっている方々がもう少し目線を上げて、取り組んでいただかないと、いくら規制を加えたからといって、実際の利用者の方からのご不満、ご相談というのは減ってこないのではないか。

  • 評価が定まっていないというのは、今後、一定の意義を持つ可能性もあるわけで、そのような可能性を意識して、もともと現物取引というか、仮想通貨自体の取引が規制のもとに許されているということなのだと思う。方向性としては、適正化をしつつ、市場ができていく、さらに積極的に育成する方向となることもあり得る前提で、今後は進んでいく可能性がある。

  • 現物の仮想通貨取引の現状を見ると、ほとんどが投機的取引であるということからすると、そもそもリスクヘッジの対象となるような取引自体が現状どの程度あるのかという点については、非常に疑問。

  • 仮想通貨デリバティブについて違法であるということを明らかにして、禁止をするというのも一つの方向。他方で、仮想通貨のデリバティブ取引が現在存在しているということを前提としなければならないということに鑑みると、一定の規制をきちんとしていくということはあるべき方向ではないか

  • もともとデリバティブ取引は、賭博の構成要件に該当するため、違法性阻却が認められるためにはそれなりの整備が前提となるということになろうかと思うので、その観点からも規制の整備は必要だ。

  • 現状、仮想通貨が発展途上の技術であるということに鑑みると、また、その仮想通貨がゼロになる可能性があるという指摘もあるところからすると、そうしたことを前提とすべきで、管理の方法というのは、ゼロになってもよい資産を原資とするかどうかというところが一つのチェックポイント、重要なチェックポイントのひとつではないか

  • 仮に主に犯罪やマネー・ローンダリングに悪用されていて、犯罪者がたくさん持っているような仮想通貨があったときに、ここに流動性を供給して、価格を押し上げることが適切であるかというと、かなり疑問がある。現物として扱うべき仮想通貨よりも狭い範囲で、先ほど流動性が低いものは相場操縦等のリスクもあるので扱わないほうがいいのではないかという話もあったが、主にあまり不適切な使途で広く使われているものに関しても、あまり市場を過熱させないために証拠金取引を認めないという考え方はあるのではないか

  • 現在、こうした証拠金取引等の顧客は、約14万人存在するということだが、これは現物取引の顧客数の約4%に相当するが、その一方で、取引高としては全体の8割強を占めている状態にある。証拠金取引等は、レバレッジを効かせているので、取引高が多くなるのは当然だが、逆に言うと、約14万人という、ごく一部の顧客によって仮想通貨の価格のボラティリティが増幅し、その結果として、当初、資金決済法という枠組みを整備した際に想定していた、決済手段としての活用を逆に困難にしているという面も否定できないのではないか

  • 適合性原則については、勧誘を禁止するという狭い意味での「狭義の適合性原則」のほかに、業者が利用者の知識、経験、財産等に適合した形で販売を行わなければならないという「広義の適合性原則」があるとされている。こちらの広義の適合性原則を徹底してもらうことによって、素人がいきなりハイリスクのレバレッジ取引に入るということをできないようにしてはどうか

  • 仮想通貨を受託するということは、受託者がサイバー攻撃の対象となるおそれもあり、受託に当たっては、仮想通貨の盗難、流出リスクに備える必要がある。さらに、今後登場する新たな仮想通貨も含め、仮想通貨ごとのシステムや実務フローの構築など、全種類の仮想通貨への対応が現実的に可能かという問題点がある

  • 実需でもって匿名通貨が必要となる場合というのはかなり限定されてくる。場合によっては、犯罪等に巻き込まれていることもあり得る話で、単に口頭で確認するというレベルではなく、例えばランサムウェアで身代金を要求されているような場合であれば、画面キャプチャを残しておくとか、ある程度きちっと証跡を保存していただく。

  • SWIFT等を使って送金している場合というのは、相手先のアドレスというのもきちっとKYCされたものだが、仮想通貨、匿名通貨の場合には、送金先のアドレスというのは必ずしも取引所等のKYCされたアドレスとは限らない。そうすると、ブロックチェーンで資金の流れをある程度追うことはできるが、果たしてその交換所からお金をおろした方が、果たして犯罪の犠牲者なのか、それとも犯罪者とグルで換金のところの手伝いをしているのかと、かなり不明瞭になってくるケースも出てくる

  • 犯罪者側はビットコインをTorと言われる匿名ネットワークを使って、いわゆるダークウェブで換金したが、そのときに、主にビットコインに換金したと言われている。そのビットコインの所有者が誰であるかということは、確かにブロックチェーンをたどればわかるが、でも、それが毎回アドレスを変えて、まさにサトシ・ナカモトが理想的な方法として書いたように、匿名的に使えるようになってしまっていた。という意味では、ビットコインだって匿名通貨だというふうに言えなくもない

  • 2015年のFATFのガイドラインの考え方に従うならば、重要なことはきちんと本人確認されたアカウントにできるだけ取引を寄せていって、犯罪等が起こったときにトレースしやすくするということがもともとのFATFガイドラインであり、資金決済法改正の趣旨だと考えている。現状、ビットコインの現物での引き出しを認めている以上、現物を引き出して、DEX等で取引をすれば、Moneroなり、入手できてしまう。そういった形でDEXを使われるよりは、きちっと目的を明確にした上で、交換所で取引をいただいたほうが、結果として、ある程度無実を晴らしやすい形で暗号通貨を利用できるのではないか。

  • もともとビットコインが目的としていた仮想通貨の世界というのは、匿名性がある世界なので、たまたま今、DashとかMoneroのほうがビットコインよりも匿名性が高い形で設計されているという状況はあるが、こういった技術は今後一部にとどまるのではなくて、ビットコインをはじめとした主流の仮想通貨にそういった機能拡張が施されることも十分に可能性として考慮した上で、規制の枠組みについて考えていく必要があるのではないか
    ▼金融庁 「仮想通貨交換業等に関する研究会」(第8回)議事録

  • ICOにより発行するトークンについては、値上がりを期待した投機目的で購入されているとの指摘があるほか、利用者保護上のリスクも指摘されているところ、トークンの価格が下落したり、約束されたサービス等が実際には提供されない。ICOに関する権利内容が曖昧である。ずさんな事業計画や詐欺的な事案も多い。

  • 資金決済法との関係では、ICOにおいて発行されるトークンが不特定の者に対する代価の弁済に使用でき、かつ、不特定の者を相手に法定通貨と相互に交換できること、または、不特定の者を相手に仮想通貨と相互に交換できること、これらの場合については、当該トークンは、資金決済法上の仮想通貨に該当し、売買またはその仮想通貨との交換等を業として行うことは、仮想通貨交換業に該当すると考えられる。

  • 金融商品取引法との関係では、ICOが、投資としての性格を持つ場合、かつ、法定通貨で購入されること、または、仮想通貨で購入されるが、実質的には、法定通貨で購入されるものと同視されることを満たす場合については、金商法の規制対象になると考えられる。

  • 日本仮想通貨交換業協会は、ICOに関する自主規制規則として、資金決済法上の仮想通貨に該当するICOトークンについて、類型の如何を問わず、対象事業の適格性、実現可能性の審査義務、販売開始時、販売終了時点、販売終了後の継続的な情報提供の義務等を規定することを検討しているところである

  • なぜ既存の資金調達手段ではなくて、ICOなり、STOといった資金調達手段が選ばれているのか。ここをしっかりと理解をしないと、そのために何をするべきかという議論は極めて難しい。なかなかそこまでまだ踏み込めていないという印象がある。

  • いわゆる金融規制の枠組みで考えた場合、投資型のものに関しては金融規制の対象であるけれども、ユーティリティや無保証型のものというのは、いわゆる金融規制ではない。これは一つの法律から外形的に導き出される議論としてはあり得るべしと思うが、一方で、国全体で考えたならば、おそらく今後、消費者問題が起きてくるのは、まさに無保証型とか、ユーティリティトークンが現に日本では発行されていて、おそらく消費者庁に来ている問い合わせ等も含めて、そちらのほうが多いのではないか。仮にそこを金融規制の射程に含めないということをここで方向として決めていくならば、ただし、それは別に何ら規制しないでいいということではなくて、たまたま所掌が異なるのであって、国としてはきちっとどこかで議論すべきであるということは、ここの中できちんと明確にしたほうがいい。それがほったらかしになるということは非常に問題がある。

  • 悪いICOが存在していると、それが非常に支配的になり、良い業者が立ち行かなくなってしまうというような可能性がある。それはやはり規制すべきだという観点は大事で、悪い業者が良い業者を駆逐しないような制度設計というのを基本的にはつくるべきだという観点が大事ではないか

  • リスクの大小、あるいはリスクのわかりやすさという点は大事で、まず少額であれば、あまり大きな問題ではない。クラウドファンディングでもそうかもしれないが、大きな金額になれば、それはかなり別の観点というのが必要となる。だが、そもそもこういうものは、基本的には少額の投資をたくさん幅広く集めるという意味で適していると思うので、金額が少なければ比較的規制は少なくてもいいかもしれないという観点は、この場合でもあり得る。

  • もう一つの重要な観点は、リスクのわかりやすさというのも大事で、例えば通常の金融商品であれば、どういう形で価格が変動するかというのは、大体わかっているが、こういう新しい分野では、予想もしなかったようなリスクがしばしば最近は発生しており、やはり投資家が金額の大小にかかわらず、「こんなことも起こるの?」みたいなことが起こるのは避けるべきだろう

  • ICOはかなりの部分、現行法でいえば、資金決済法上の仮想通貨交換業規制の適用になるから無法地帯ではないとは思うが、仮想通貨交換業規制は販売業者規制であって、発行開示、継続開示といった市場規制が伴わないものであり、現状ではやはり全くもって不十分ではないか

  • 詐欺的な販売が行われれば、もちろん取り締まる必要があるし、実際、現に被害が出ているのであれば、放置できない問題であって何らかの規制が必要だと思うが、ただ、それが有価証券規制かと言われると、それは違うのではないか。仮にそれが金融的な色彩を帯びるとすれば、むしろ仮想通貨の定義に入ってくるものについて、現在の仮想通貨交換業の規制を充実させるとか、その他の販売規制・取引規制で対処すべき問題であって、発行体がその後、何らの義務も負わない以上、継続開示などの問題にはならないのではないか。

  • ICOだからといって、何か特別なルールをつくるというのは、機能とリスクに応じたルールを適用していこうという基本的な考え方とも相入れないように思うし、あとはICOという、これはいわば道具、あるいは技術だと思うが、その技術によってルールが大きく変わってくるということはあまり適切ではない

  • トークンの値上がりが見込めるなどとしてICOを行うということは、これは基本的には厳に禁止されるべき。投資取引という観点からいうと、断定的判断の提供に該当する行為ということになるし、収益の分配をともなわない取引では、実質的に虚偽説明に該当するような場合も出てこようかと思われ、この点は留意が必要かと思う

  • 適切な資金、あるいは購買力の移転を実現するという観点からは、出資に際して、対象事業の適格性や実現性に関する審査がきちんと何らかの形で行われる。それから、事業の遂行過程において、適切な継続的なモニタリングが行われるということが重要だ

  • 不公正取引規制についても、上場されていない有価証券については、現行の金商法の下では、インサイダー取引規制や相場操縦の規制の適用がないと理解しているが、ICOについては、インサイダー取引とか相場操縦のおそれがあると思われ、規制をする必要がある

  • 詐欺的なものが少なくないというが、その実態として、詐欺的なものがどのぐらいの割合のものがあるのかについて数字を示すなどして、単なる抽象的な警告ではなくて、もっと具体的な警告を行う必要性がある。場合によってはさらに踏み込んで、民事的な規律として、取消権のようなものを与える、クーリングオフ、あるいはもっと一般的に取消権を与えるという追加的な消費者保護というのも考えられる

  • スタートアップ企業ということであれば、本来、投資家によるエンゲージメントは非常に重要なはず。ところが、ICOにおいては、投資家がトークンを売り抜けてしまうことによって、そういった十分なエンゲージメントが果たされていないという傾向があり、そもそもスタートアップ企業に対する資金提供の手法として、本当にこれで良いのかという問題意識も持っている。

  • 我が国においても、新たな法的な枠組みをICOのためだけに整備するという形ではなく、例えば個別のICOの事案に対して、資金決済法や金融商品取引法等への該当可否をより柔軟、かつ厳格に判定した上で、違反があればしかるべき対応をとるといったような、現状の延長線上のアプローチのほうが現実的ではないか。

  • 最近、ICOのアドバイザリー会社が行った調査によると、2017年中に行われた世界のICOのうち、約8割が詐欺(scam)であったという報告がなされている。「初めから約束したプロジェクトを実現する意図がなかった」という意味で、詐欺であったということ。この8割というのは驚くべき数字。つまり、ICOの市場のうち、大半がそういう、あわよくば、うまく資金を調達してやろうという思惑で行われているということになる。まず出発点として、こうした点を認識したうえで、規制の必要があるかどうかを議論しないといけないと思う

  • ホワイトペーパーというプロジェクトの計画書を書いて、それを発表すれば資金が調達できる。そのホワイトペーパー自体もかなりいい加減なものが多く、他のICOの案件からカット・アンド・ペーストしてそのまま使っているというような案件も結構あるようで、かなりいいかげんなものが多い。また、その内容をチェックする主体もないので、実際にそのプロジェクトがそのとおり行われるという保証はどこにもない。それから、発行体についても全くオブリゲーションがない。いつまでに何をやらなくてはいけないというオブリゲーションはないので、通常は、ICOで数億円とか数十億円をもらってしまえば、それで遊んで暮らせるわけで、一生懸命事業をやろうというインセンティブは全くないということになる。そういうチェックする主体がないということが、先ほどの詐欺的な事例が横行するというところにつながっている.

  • スタートアップの企業が、厳しい情報開示が求められると、それが負担で資金調達が十分にできないという事情も理解できない訳ではない。しかしながら、情報開示をあまりにも軽減すると資金調達者にモラルハザードが起きるのではないか。他人様からお金を集める際に、事業計画を丁寧に正しく説明するということは基本中の基本ではないかと思うが、そこが確実に担保できるのかどうかというところが不安になる

  • 今回は投資型についての規制を主に議論することになるという認識だが、ユーティリティ型の方が日本では広がっており、消費者から苦情が出はじめているという。ユーティリティ型は金融庁の所管ではないかもしれないが、一般の方はどれが何型という区別の認識は難しいと思う。省庁の枠を超えて、ICOトークンに関わる規制について考えていただく必要がある

  • トークンには本当に様々なものがあるので、逆に、ひとまとめにすることには危険があり、やはり機能なり、リスクなりに応じて、規制を考えたほうがいい。その場合に、ある程度の類型化はやはり必要。その上で、それをどう類型化して規制していくかというときに、縦割りなのか、横割りなのか。既存の規制の枠組みに当てはめるような形で、こういう類型のものはこう、こういう類型のものはこうと申し上げたが、その方向性がわかりやすく、むしろすき間が生じにくくなる。例えば仮想通貨法制を別途つくり上げてしまうよりも、そちらのほうがいいのではないか

▼金融庁 「仮想通貨交換業等に関する研究会」(第9回)議事次第
▼資料2 説明資料(事務局)
  • 仮想通貨の売買・交換・それらの媒介・取次ぎ・代理に関して顧客の仮想通貨を管理することは、資金決済法上、仮想通貨交換業に該当する。一方、仮想通貨の売買等は行わないが、顧客の仮想通貨を管理し、顧客の指図に基づき顧客が指定する先に仮想通貨を移転させる業務(以下、ウォレット業務)を行う者(以下、ウォレット業者)も存在するが、当該ウォレット業務は、仮想通貨の売買等を伴わないため、仮想通貨交換業には該当しない

  • ウォレット業務は、顧客の支払・決済手段を管理し、当該支払・決済手段を顧客が指定する者に移転させる行為を行うものであり、以下の点を踏まえると、決済に関連するサービスとして、金融規制の導入が期待されるとも考えられるが、この点についてどのように考えるべきか。

    • ウォレット業務には、サイバー攻撃による顧客の仮想通貨の流出リスク、ウォレット業者の破綻リスク、マネロン・テロ資金供与のリスクなど、一部、仮想通貨交換業と共通のリスクがあると考えられること
    • 仮想通貨はインターネットを介し容易にクロスボーダーで移転が可能であり、国際的に協調して対応することが重要であるところ、FATF(金融活動作業部会)において、仮想通貨交換業に加え、ウォレット業務もマネロン・テロ資金供与規制の対象にすることを各国に求める旨の改訂FATF勧告が採択されたこと(本年10月19日)
  • ウォレット業務に対する規制の導入が期待される場合、そのリスクに鑑み、仮想通貨交換業のうち顧客の仮想通貨の管理に係る以下のような対応と、同様の対応を求めることが考えられるが、この点についてどう考えるべきか。
    • 登録制
    • 内部管理体制の整備
    • 業者の仮想通貨と顧客の仮想通貨の分別管理
    • 分別管理監査、財務諸表監査
    • 仮想通貨流出時の対応方針の公表、弁済原資の保持
    • 利用者保護又は業の適切な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められる仮想通貨を取り扱わないこと
    • 顧客の本人確認、疑わしい取引の当局への届出等
  • 仮想通貨の現物取引については、以下のような事例もあるとの指摘がある
    • 仮想通貨交換業者に係る未公表情報(新規仮想通貨の取扱開始)が外部に漏れ、情報を得た者が利益を得たとされる事案
    • 仕手グループが、SNSで特定の仮想通貨について、時間・特定の顧客間取引の場を指定の上、当該仮想通貨の購入をフォロワーに促し、価格を吊り上げ、売り抜けたとされる事案
  • 現状、仮想通貨の現物取引については、個人が容易に参加できる顧客間取引の場が存在し、また、価格が乱高下しているとの指摘があるが、こうした行為を禁止する規制はない

  • 多くの仮想通貨には、企業価値等に基づく本源的価値が観念し難く、また、その取引は資本市場の形成に必要不可欠な株式等の取引とは経済活動上の重要性が異なるとも考えられるが、仮想通貨の現物取引について、不公正な行為に係る行為主体を限定しない罰則等の導入といった対応を通じ、取引環境の健全性や公正な価格形成を確保していくべき経済的意義があるかどうかについて、どのように考えるべきか。

  • 仮想通貨(株式等に相当するICOトークンを除く)の現物取引については、以下の点を踏まえると、法令上、発行者等に係るインサイダー取引規制を設けることには困難な面があるとも考えられるが、この点についてどのように考えるべきか
    • ビットコイン等の多くの仮想通貨には発行者が存在しないこと
    • 発行者や仮想通貨の仕様を決定するインナーが存在する場合でも、発行者等はグローバルに存在し得るものであり、また、該当者を特定することにも困難な面があると考えられること
    • 多くの仮想通貨には企業価値等に基づく本源的価値が観念し難く、何らかの権利が付与されたICOトークン(仮想通貨に該当するもの)についても、その設計の自由度は高いため、様々な権利が付与される可能性があることを踏まえると、金融商品取引法のインサイダー取引規制のように、何が顧客の取引判断に著しい影響を及ぼす未公表の重要事実かをあらかじめ法令で明確に特定することには困難な面があると考えられること
  • 仮に、仮想通貨デリバティブ取引を金融商品取引法の規制対象にし、当該市場の開設に免許を必要とする場合、以下の点も踏まえ、多数の市場参加者の参加を可能とする公共性を有する取引所市場の存在が必要かどうかについてどのように考えるか
    • 第7回の研究会における討議において、仮想通貨デリバティブ取引は、社会的意義の程度と比して、過当な投機を招くこと等の害悪の方が大きいとの意見があったこと
    • 多くの仮想通貨には企業価値等に基づく本源的な価値が観念し難い中で、取引所の取引には、多くの個人の取引を誘引するおそれがあること
    • 天候デリバティブ等と異なり、経済活動を行う上でのヘッジ手段としての性格を見出し難いこと
▼金融庁 仮想通貨交換業等に関する研究会」(第10回)議事次第
▼資料2 説明資料(事務局)
  • ICOについては、以下のような問題を指摘されることが多い一方で、グローバルに調達できる、中小企業が低コストで調達できる、流動性を生み出すなど、既存の資金調達手段にはない可能性があるとの指摘もある。
    • ICOが有効に活用されたとされる事例をほぼ見出し難い
    • 杜撰な事業計画と詐欺的な事案が多く、既存の規制では利用者保護が不十分(注 海外の研究者などによる報告書では、78%のICOプロジェクトが詐欺(scam)案件であるなどの指摘もある)
    • 他の利害関係者(株主、他の債権者等)の権利との関係も含め、トークンの権利内容に曖昧な点が多い
    • 多くの場合、投資家は転売できればよいと思っており、発行体は資金が調達できればよいと思っているのが現状であり、規律が働かず、モラルハザードが生じやすい
  • 上記の点やこれまでの研究会の議論も踏まえると、ICOを禁止するのではなく、詐欺的事案が多いこと等を踏まえ、適正な自己責任を求めつつ、一定の規制を設けた上で、利用者保護や適正な取引の確保を図っていくことが適当と考えられる。投資性を有するICOには下記のような規律が求められると考えられるが、どうか。
    • 発行者と投資家との間の情報の非対称性を解消するための、継続的な情報提供・開示の仕組み
    • 詐欺的事案を抑止するための、販売業者等、第三者が関与しスクリーニングを及ぼしうる仕組み、発行者自身や当該第三者への監督を及ぼしうる仕組み
    • 発行者と投資家との情報の非対称性の大きさや、投資家の投資能力・経験等に応じて、流通の範囲等に差を設ける仕組み
    • 流通の場において、公正な取引が行われるようにするための、流通の場の提供者に対する監督を及ぼしうる仕組み
    • 不公正な行為を抑止する仕組み
  • 既存の資金調達の例を見ると、例えば、新規の株式公開(IPO)に伴う元引受けでは主幹事証券会社が、株式投資型・ファンド型CFの仲介ではCF仲介業者が、それぞれ法令上の審査義務を負い、具体的な審査項目は自主規制において定められている。ICOについても、詐欺的な行為や内容が曖昧な権利の発行・流通の防止、キャッシュフローの裏付けとなる事業の実現可能性の確認等の必要性は異ならないと考えられる。そのため、発行者と異なる第三者が、トークン表示権利の発行者に係る事業・財務状況を審査することが考えられるが、どうか。また、ICO特有の審査項目として、どのようなものが考えられるか。

  • ICOにおいては、トークン表示権利の自己募集も多いとされる。詐欺的な行為や内容が曖昧な権利の発行・流通の防止等の必要性を踏まえると、自己募集よりも、投資型CFにおけるCF仲介業者のように、第三者である仲介業者による審査を経る方が、お手盛りの危険の排除、審査実務の蓄積・発展の観点から、より望ましい形と考えられるが、この点についてどのように考えるべきか。

  • ICOについては、杜撰な事業計画や詐欺的な事案が多いとの指摘もある中で、投資者保護の観点から、一般投資家に広く販売することは控えるべきとの意見がある。このため、上場していないトークン表示権利については、非上場株式等と同様に、適格機関投資家以外への投資勧誘を、例えば、上記と同様に制限することにより、一般投資家への流通を一定程度抑止することが適当かどうかについて、どのように考えるべきか。また、仮に投資勧誘を制限する場合、いかなる行為を投資勧誘と捉えることが適当か。

  • トークン表示権利についても、流通の場における不公正な行為を抑止する仕組みが必要と考えられるところ、仮に、トークン表示権利を金融商品取引法の規制対象たる有価証券と同等なものとして位置付けた場合、不正行為の禁止や風説の流布等の禁止は、当然に適用されることになる。また、取引所に上場された場合、相場操縦の禁止の対象ともなる。他方、インサイダー取引規制は、会社情報の適時開示制度を前提とするものであるところ、トークン表示権利については、その設計の自由度が高い一方、何が投資者の投資判断に著しい影響を及ぼす重要事実に該当するかは現時点において明らかでない。こうしたことから、インサイダー取引規制については、実施例の蓄積や自主規制による適時開示の充実といった状況が生じた後に、改めて検討することも考えられるが、どうか。

  • ICOにおいて発行されるトークンが、下記を満たし、かつ、法定通貨建てでない場合、当該トークンは資金決済法上の仮想通貨に該当すると考えられる
    • 不特定の者に対して代価の弁済に使用でき、かつ、不特定の者を相手に法定通貨と相互に交換できること
    • 不特定の者を相手に仮想通貨と相互に交換できること
  • 発行者が存在する仮想通貨については、利用者保護の観点から、仮想通貨交換業者の顧客が適切な情報提供を受けられるよう、仮想通貨交換業者に対し、以下のような情報を顧客に提供することなどを求めることも考えられるが、どうか。
    • 発行者に関する情報、発行者が仮想通貨の保有者に対して負う債務の有無・内容、発行価格の算定根拠
    • ICOの場合には、上記に加え、発行者が作成した事業計画書、事業の実現可能性、事業の進捗
  • ICOについては、詐欺的事案が多いとの指摘があることを踏まえると、購入者自らが自己責任で十分に注意することについて繰り返し注意喚起を行うことや、仮想通貨交換業者において、特に厳正な審査を行い、問題がないと判断したもの以外の販売を行わないといった対応が必要とも考えられるが、どのように考えるべきか。また、以下のような事例もあるとの指摘もあり、ICOに係る詐欺的事案の抑止の観点から、監督上、無登録営業について適切に対応していくことも重要である。
    • 日本国内にある者が仮想通貨に該当するICOトークンを発行
    • 当該発行者が、国内の者に対して、トークンの内容や購入方法を宣伝し、(日本で無登録の)海外の仮想通貨の交換業者を通じ、トークンを販売
▼資料3 説明資料(事務局)
  • ICOに関する海外での調査・報告等
    • 78%のICOプロジェクトが詐欺(scam)案件であるとオンライン上のコミュニティで認識されている(Satis Group のレポート, 2018.07)
    • 71%のICOは、製品やプロトタイプを全く市場に提供していない(Ernst & Young のレポート, 2018.10)
    • ホワイトペーパー等の販売資料で約束した内容(トークンの供給量上限・譲渡制限の有無等)が、実際のトークン設計に反映されていないケースがある(ペンシルバニア大学ロースクール研究者らによる研究, 2018.07)
    • リターンがプラスとなるICOプロジェクトの数は、ICO実施後、時間が経過すればするほど急速に減少する(GreySpark Partners のレポート, 2018.09)
    • 米国にて、2018年9月末までに20件のサイバー関連案件(ICO、暗号資産事案を含む)を検挙、225件以上を捜査中(SEC執行部門の年次報告書, 2018.11)
▼資料4 説明資料(事務局)
  • 仮想通貨の設計・仕様は様々であり、中には、移転記録が公開されず、マネー・ローンダリング等に利用されるおそれが高い追跡困難な仮想通貨等の存在も知られてきている。このため、仮想通貨交換業者において、利用者保護や業務の適正な遂行の確保の観点から問題がある仮想通貨を取り扱わないための措置を講じる必要があるか。

  • 一方で、問題がある仮想通貨を予め法令等で明確に特定することは困難であることが想定され、行政当局と認定協会が連携し、柔軟かつ機動的な対応を図っていくことが重要か。

  • 具体的には、現状、行政当局に対する事後届出の対象とされている仮想通貨交換業者が取り扱う仮想通貨の変更を事前届出の対象とし、行政当局が、必要に応じて、認定協会とも連携しつつ、柔軟かつ機動的な対応を行い得る枠組みすることが適当か。

  • 認定協会の自主規制規則には、以下の内容が規定されている。各仮想通貨について、仮想通貨交換業者における取扱いの是非を判断する際には、利用者保護や業務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められるか否かの観点から、個別具体的に判断することが重要か。
    • 会員は、新たな仮想通貨の取扱いを開始する場合には、認定協会に対して事前に届け出なければならない
    • 認定協会が取扱いの開始に異議を述べた場合、会員は当該仮想通貨の取扱いを開始してはならない
    • 認定協会は、会員に取扱いを認めた仮想通貨の概要説明書を公表する
  • ウォレット業務のリスクや国際協調の必要性を踏まえれば、ウォレット業務を行う業者について、仮想通貨交換業者に求められる対応のうち、顧客の仮想通貨の管理について求められる以下のような対応と同様の対応を求めることが適当か。
    • 登録制
    • 内部管理体制の整備
    • 業者の仮想通貨と顧客の仮想通貨の分別管理
    • 分別管理監査、財務諸表監査
    • 利用者保護や業務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められる仮想通貨を取り扱わないこと
    • 仮想通貨流出時の対応方針の公表、弁済原資の保持
    • 顧客の本人確認、疑わしい取引の行政当局への届出
  • 仮想通貨デリバティブ取引等について、業規制を導入する際に、仮想通貨交換業への規制導入時に設けられたようなみなし業者に係る経過措置を設ける場合には、当該みなし業者に対し、以下のような対応を求めることが適当か。
    • 業務内容や取り扱う仮想通貨等の追加を行わないこと。
    • 新規顧客の獲得を行わないこと(少なくとも、新規顧客の獲得を目的とした広告・勧誘を行わないこと)
    • ウェブサイト等に、登録を受けていない旨や、登録拒否処分等があった場合には業務を廃止することとなる旨を表示すること。また、登録の見込みに関する事項を表示しないこと
  • こうした対応に加え、みなし業者として事業を行う期間の長期化を回避する観点から、適切な制度上又は監督上の対応についても、検討が必要か。

  • 国際的な動向等を踏まえれば、法令上、「仮想通貨」の呼称を「暗号資産」に変更することが考えられるか。


 最後に、仮想通貨を巡る最近の報道から社いくつか紹介します。

  • 政府・与党は仮想通貨の取引などで得る所得の悪質な申告漏れを防ぐため、仮想通貨交換業者などに情報を照会する制度を設ける方針を固めたということです。報道(平成30年11月24日付日本経済新聞)によれば、仮想通貨の売買やシェアリングサービスなどのオンライン取引は、誰が実際に取引をしているのかを当局が把握しづらく、どのくらい申告漏れがあるのかすら分からないし、業者が個人情報の提供に応じる義務はなく、税逃れを追い切れないのが実情のところ、取引にかかわる氏名と住所、マイナンバーを交換業者などに求める「情報照会制度」を作り、(守秘義務との兼ね合いはあるものの)悪質な取引への税務調査を徹底し、税金をきちんと払っている人との不公平感をなくすということです。

  • 金融庁に登録せず、米国の投資会社「SENER」をかたり、高配当をうたった架空の金融商品で現金を集めたとして、警視庁生活経済課は、金融商品取引法違反(無登録営業)の疑いで、旅行会社代表ら8人を逮捕しています。同社を巡り集められた出資金の総額は、現金と仮想通貨ビットコインを合わせ、約83億円相当にも上るということです。このうち、同法の規制対象の「グレーゾーン」になっている仮想通貨約78億円相当も集めていたとされ、警視庁は投機対象として注目されていた仮想通貨に目をつけて摘発を逃れようとした可能性もあるとみて、実態解明を進めるところです。なお、マルチ商法の仕組みで増えた顧客は秋田、山梨、宮崎の3県を除く全国44都道府県で延べ約6千人に上っています。

  • 仮想通貨の外部流出を起こしたコインチェックが全9通貨の取引を再開しています。外部の専門家による技術的な検証を経てということです。同社は、今年1月の仮想通貨ネムの巨額流出事件後、マネックスグループの傘下で経営体制の立て直しを進めるとともに、金融庁から行政処分を受け、匿名性が高く、資金洗浄に悪用されるリスクが高い4通貨の取り扱いを廃止しています。

  • 仮想通貨の外部流出を起こしたテックビューロは、交換サイト「Zaif」事業をフィスコ仮想通貨取引所に譲渡しました。これによりテックビューロは解散し、交換業者としての金融庁登録は抹消されることになりました。抹消は16ある登録業者で初めてとなります。取引低迷や金融庁の監督強化を背景に、業界再編や淘汰が続く可能性があります。

  • 米証券取引委員会(SEC)は、報酬を受け取っていることを明かさず、仮想通貨を発行して資金調達する「新規仮想通貨公開(ICO)」への投資を違法に勧誘したとして、ボクシング世界5階級制覇のフロイド・メイウェザー選手が罰金など計約61万ドル(約7,000万円)を支払うことで同意したと発表しています。

  • 報道(平成30年11月24日付ロイター通信)によれば、貨幣の「代替通貨」を目指すビットコインについて、その価格は一時に比べて落ち着き、決済通貨としての基本的特徴である「安定性」を満たし始めたものの、実は決済における利用は今年劇的に減っており、投機的資産からまともな代替通貨への脱皮に苦労している状況にあるといいます。ビットコインが依拠するブロックチェーン技術は、1秒当たりの処理能力が主要クレジットカード会社に比べてほんのわずかにとどまることから、利用拡大は見込めないのがその大きな要因となっているともいいます。関連して、ここのところビットコインの価格が最高値の5分の1以下になっていますが、その背景に、ビットコインの今後の開発の方向性をめぐり開発団体の意見が割れ分裂したことが指摘されています。報道によれば、「今回は分裂後にビットコインとビットキャッシュのどちらが新通貨として存続できるのかなど、先行きが見えない状況を投資家が嫌気した」(日本仮想通貨交換業協会)ことでビットキャッシュの相場下落に作用し、さらには、11月には米証券取引委員会(SEC)が仮想通貨技術を使った資金調達の取り締まりを強化したことで、摘発される仮想通貨交換業者が増加したことを受け、今後の規制の不透明感から相場は低調に傾き、ビットコインなど他の仮想通貨にも売りが波及したと言われています。

  • 仮想通貨の採掘(マイニング)には高性能なコンピュータが大量に必要であり、ビットコインなど主要な仮想通貨の採掘に、世界中でどれだけの電力が使われているかと言えば、報道(平成30年11月24日付産経新聞)によれば、現時点でもスロヴェニアの電力消費に匹敵するということです。研究者たちは、仮想通貨市場がこのまま拡大を続ければ、それが排出する温室効果ガスによって2030年代半ばまでに地球の平均気温が2℃上昇するとの見方を示しており、仮想通貨の社会的害悪のひとつとして認識する必要がある状況となっています。

(4) テロリスクを巡る動向

 イラクがイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)との戦闘終結を宣言して1年が経ちました。最盛期はイラクとシリア両国の約3分の1の領土を支配した「リアルIS」没落の一方で、実戦経験を持つIS戦闘員が世界各地に分散、テロが続くなど「ローンウルフ/思想共鳴IS」はいまだリアルな脅威となっています。国連はIS残党が両国内に依然として2~3万人残っていると指摘、十分な戦闘訓練を積んだ戦闘員やISに共鳴する「数千人の外国人戦闘員」も健在です。このあたりの状況については、前述の30年調査書にも簡潔にまとめられており、「ISIL(ISのこと)は、「対ISIL有志連合」に参加する欧米諸国等に対してテロを実行し、その実行の際に爆弾や銃器が入手できない場合にはナイフ、車両等を用いるよう呼び掛けており、29年中には欧米諸国でテロ事件が相次いで発生した。また、同年5月、ISILを支持する勢力がフィリピン南部の都市マラウィの一部を占拠し、同勢力とフィリピン政府との戦闘が5か月間継続した。ISILがイラク及びシリアにおける支配地域の大部分を失ったことや、各国がイラク及びシリアへの外国人戦闘員の渡航を規制する措置を講じていることなどにより、ISILに参加する外国人戦闘員は減少したとみられるものの、今後、外国人戦闘員が母国に帰還又は第三国に移動してテロを行うことが懸念されるほか、イラク及びシリア以外の紛争地域に多数の外国人戦闘員が流入し、当該地域の紛争を激化又は長期化させたり、世界中に過激思想を広めたりすることが懸念される」と指摘しています(なお、テロを受け入れてしまう土壌としては、貧困や混乱等による過激思想の若者らへの浸透が指摘できますが、例えば、イラクの貧困率は30%前後と高く、テロ組織の誘惑を断つにはISに襲われた街も含めて経済を上向かせ、若者の雇用を拡大することが不可欠などころ、蔓延する汚職が海外からの投資を妨げ、経済活性化の起爆剤は見当たらないのが現実です)。
さて、このような状況に対して、各国は、偽造旅券で逃走するIS戦闘員の流入を完全には阻止できていませんし、多くの監視対象を十分に監視できる態勢も整っていないのが現実です。日本でも高性能爆薬の製造が市販品で可能なことが示され無関心ではいられません(本コラムでも取り上げた名古屋の少年については、名古屋地裁は「TATPの製造量は多量で、近所の公園で爆発させた行為はかなり危険だ」と指摘、3Dプリンターによる拳銃の製造や、銃器の製造資金を得るために覚せい剤を製造したことについても「違法性を十分認識していた。特別な知識や技能がなくても製造できることを実証したもので、社会的な危険が極めて大きい」と非難しています。また、彼らだけでなく、最近では、自宅で単発式の拳銃1丁と銃弾139個を営利目的で製造したとして、ネットの「闇サイト」で「武器屋」と名乗っていた30歳の元自衛官が電子計算機損壊等業務妨害容疑で書類送検されています)。30年調査書でも、「過去には、殺人、爆弾テロ未遂等の罪で国際刑事警察機構を通じ国際手配されていた者が、不法に我が国への入出国を繰り返していたことも判明しており、過激思想を介して緩やかにつながるイスラム過激組織のネットワークが我が国にも及んでいることを示している。また、我が国にもISILを支持したり、ISILのプロパガンダに共鳴する者がいるほか、ISILに戦闘員として加わるため、シリアへの渡航を企てた疑いのある者が把握されている」との指摘もあり、G20やラグビーW杯、2020年東京五輪・パラリンピック(以下「東京五輪」)の開催など世界的に注目を集めるイベントが今後続く日本においては、(現在までのところ、日本国内において、国際連合安全保障理事会が指定するテロリスト等によるテロ行為は確認されていないからこそ)テロ対策は正に喫緊の課題だと言えます。その点、政府は来年度、海外のテロ情報を集約する「国際テロ情報収集ユニット」を拡充する方針で、新たに欧州に活動拠点を設け、職員も約10人増やして約100人体制とするもので、東京五輪などを標的にしたテロを未然に防ぐため、情報収集能力の強化を図る狙いがあるということです。しかしながら、テロ対策は国や警察だけでは十分ではなく、官民挙げての取り組みが求められるのであり、爆薬等の製造やテロリストのアジト化を防止するという意味では、薬品の販売、宿泊やネットカフェ利用、賃貸契約時の本人確認の徹底、(テロや爆破予告をいち早く察知するための)ネットやSNSの監視など、事業者ができることは多いと言えます。また、テロリスト(特にロンリーウルフ型のテロリスト)が市井に潜伏しているところ、それを炙り出すとともに、テロを実行しにくい状況を作り出すための、地域や社内のコミュニケーション・包摂の重要性をあらためて認識すること、端緒を把握したときに速やかに共有できるための周知徹底等なども、事業者として取り組むべき課題のひとつだと言えると思います。


 さて、テロ対策にも通じることとして、先日のハロウィーン客でにぎわう東京・渋谷で、一部の若者らが"暴徒化"して軽トラックが横転させられた事件について、警視庁は、東京や神奈川、山梨に住む20代の男4人を逮捕しています。報道(平成30年12月5日付産経新聞)によれば、群衆の中から容疑者を浮かび上がらせたのは、現場周辺に設置された約250台の防犯カメラや、通行人が撮影していた動画だったといいます。外国人観光客らで混雑が予想される東京五輪・パラリンピックを見据え、警視庁は雑踏警備の態勢充実に加え、こうした「街頭の目」を活用した速やかな摘発が、テロや犯罪の抑止につながるとしていますが、正にその通りであり、例えば、新宿・歌舞伎町では15年ほど前から防犯カメラの設置を始めていますが、当時、歌舞伎町で年間2000件あった刑法犯の認知件数は、違法風俗店などの摘発強化と相まって、今では半分以下の水準で推移するまでとなりました。報道によれば、暴力団同士のトラブルがあっても、仲間の組員が応援に駆けつけるより先に、映像で異変を察知した警官が到着できることが浸透し、「見られている」というけん制効果が高まった結果だと言えます(一方で、その防犯カメラが乗っ取られるリスクはIoTの拡がりとともに深刻化しているのも事実であり、情報セキュリティ対策との両輪で進めていく必要があります)。このように、防犯カメラや無数の人が撮影した動画など「街頭の目」という「点」をたくさん集め、犯罪者やテロリストの動きを「線」で捉えることが可能になれば、そして、それがリアルタイムで分析できればより一層、犯罪抑止や予防につながり、ソフトターゲット対策への応用も期待できるところです。そして、今回は、何より、大衆・群衆に紛れ込むことで隠れて犯行を行っても(見つからないと思っても)、「監視の目が届いている(必ず摘発される)」とけん制できたこと(実績を示せたこと)は大きな収穫だったのではないかと考えます。


 以下、最近の報道からテロ対策に関するものをいくつか紹介します。


  • 財務省はEUの加盟諸国と航空旅客の情報をやり取りする仕組みづくりに乗り出すとの報道がありました。日本への直行便の搭乗客に関する詳細な情報を得るため、2019年春にも主要国とそれぞれ2国間協定を結ぶ方針であり、2019年に開催されるG20会議や2020年の東京五輪・パラリンピックをにらみ、密輸やテロ対策を強化する取り組みのひとつとなります。具体的には、平成30年11月27日付日本経済新聞に詳しいですが、日本の税関はWCO(世界税関機構)の指針や関税法に基づき、日本への航空便の旅客に関して氏名や国籍、予約日や旅行日程など30項目以上を含む「乗客予約記録」(PNR)を入手し、米国やアジアなどEU加盟国以外の国からの旅客のリスクはこれによって判断しているところ、EUは個人情報保護を理由にPNRの提供に応じていないのが現実で、日本に到着する航空便のうちEU内の航空会社が運航するものは全体の4%に上るものの、氏名や性別など最低限の乗客情報しか取得できないため、テロの水際対策としては不十分だったものを、2国間協定で打破していこうとするものとなります。

  • 日米間で犯罪者の指紋情報を互いに提供する日米重大犯罪防止対処協定(PCSC協定)に基づくシステムが来年1月5日に運用が開始されるということです。テロなど重大犯罪への関与が疑われる人物の入国を防ぐのが主な目的ですが、日本側は重要未解決事件の遺留指紋についても順次、米国側に照会する方針だということです。対象は長期3年以上の懲役・禁錮に当たる犯罪が原則となっていますが、殺人予備などテロにつながる疑いがある犯罪も含まれるということで、こちらもテロの水際対策の実効性を高める施策として極めて有効だと思われます。

  • 大阪府は、阪急電鉄と合同で、同市北区の梅田駅でテロ対策訓練を実施しています。テロへの危機意識を共有する狙いがあるということです。訓練は、爆発物を所持したテロリストが現れたとの想定で行われ、テロリスト役の警察官が刃物を振り回す中、鉄道警察隊員が「動くな」と大声を上げながら棒などで応戦して取り押さえるものでした。また。テロリスト役が所持した爆発物を、防護服を着た機動隊員が処理し、駅員らは避難誘導に当たったということです。

  • ラグビーW杯日本大会を来年に控え、国や大阪府などは、試合会場となる同府東大阪市の花園ラグビー場で、国民保護法に基づくテロ対策訓練を実施しています。各機関の対処能力の向上と連携強化を図るのが目的で、国と府が共同で実動訓練をするのは初めてだということです。訓練では、同ラグビー場にテロリストが化学物質サリンを放置し、場外では爆発が起きて多数の死傷者が出たと想定して行われています。

  • 福島県警は、人の流れの激しい公共交通機関を狙ったテロを想定し、総合訓練をJR福島駅で実施しています。福島市は東京五輪・パラリンピックの野球・ソフトボール会場で、最初の競技開催地となっており、来年6月のG20大阪サミットなども念頭に機動隊や機動捜査隊のほかJR東日本、福島交通から約100人が参加し、訓練は路線バスに乗りこんだテロリスト2人が駅西口で乗客を殺傷し逃走したとの設定で行われています。

  • 茨城県警は、平成31年に県内で開かれる茨城国体や貿易・デジタル経済担当相会合に向け、笠松運動公園で、テロ対策の総合警備訓練を実施しています。警護中の要人への襲撃や競技場スタンドでのテロ発生を想定し、約100人が参加し、要人警護の訓練では、同公園陸上競技場正面玄関に到着した要人役を、拳銃を持ったテロ実行犯役が襲撃し、県警警護要員が素早く実行犯役を制圧、要人役を保護することが行われています。

  • 東京五輪・パラリンピックを控え、警視庁原宿署は、JR新宿駅南口にある国内最大規模の高速バスターミナル「バスタ新宿」でテロ対策訓練を初めて実施しています。爆発音がして不審なバッグが発見されたとの想定で、関係者約200人が参加したということです。報道によれば、「3階のバス降車場で「ドン」と音がし、駆け付けた警察官が不審なバッグを残して立ち去ろうとする男に職務質問。男は武器を取り出して抵抗したため、警備犬が飛び掛かり制圧した。爆発物処理班も出動し、アームの付いた特殊な機器を使ってバッグを安全な場所に移動させた」といった複合的・実践的な内容のものだったようです。

(5) 犯罪インフラを巡る動向(タックスヘイブン)

 日産自動車会長のカルロス・ゴーン容疑者の報酬過少記載事件で、日産の子会社がタックスヘイブン(租税回避地)などの会社に投資資金を移し、ゴーン会長の自宅用物件の購入などにあてていたことが分かっています。報道(平成30年11月22日付日本経済新聞)によれば、日産は2010年ごろ、資本金約60億円を全額出資してオランダに子会社「ジーア」を設立していますが、社内会議では、ベンチャービジネスへの投資が目的と説明されていたようです。その後、ジーアは、タックスヘイブンとして知られる英領バージン諸島(BVI)に設立した孫会社に資金の一部を移動、孫会社は2011年、ブラジル・リオデジャネイロのリゾート地、コパカバーナにある高級マンションを5億円超で購入、改装などの費用も孫会社が負担し、マンションはゴーン会長の自宅として無償提供されていたというものですが、さらにこのジーアがBVIにつくった別の孫会社は、ジーアからの資金でレバノンの会社を買収、このレバノンの会社がベイルートにある高級住宅を約10億円で購入しており、この物件もゴーン会長の自宅として無償で提供されていたものです。タックスヘイブンの問題については、本コラムでもたびたび指摘してきましたが、課税逃れの観点にとどまらないタックスヘイブンの問題の本質を考えるうえで、かつて、金融庁関係者から、BVIのファンド等を引受先にしているファイナンスは「不公正ファイナンス」である可能性が高い(さらには、「P.O BOX 957 Tortola BVI」とする私書箱を住所に使っている場合はよりその可能性が高い)との指摘がなされていた点は知っておきたいところです。このような不公正ファイナンスの引受け手である海外のファンドの「真の所有者(beneficial owner)」は、実際は日本にいて、反社会的勢力とつながっていることも多い(いわゆる「黒目の外人」と呼ばれている人たち)とも言われています。タックスヘイブンのもつ「犯罪インフラ」性については十分な注意が必要であることは言うまでもありませんが、今後、CRS(グローバルでの税逃れ対策の切り札と期待されている、世界各国の口座情報を自動的に交換して資産を「ガラス張り」にする共通報告基準)や、タックスヘイブンの実態を暴いた「パナマ文書」「パラダイス文書」等の分析、その他新たなリーク等により、タックスヘイブンに設立された夥しい数のペーパーカンパニーの「真の所有者」や「複雑な送金経路と資金移動の実態」が解明されること、そして、そこに関わる怪しい人脈や怪しいビジネスの解明がすすむこと(過去の事案・悪用の痕跡であったとしても、そこに登場した人物や団体・組織の関連を知ることは極めて有用な情報となります)を期待したいところです。
さて、そのパナマ文書を巡って動きがありました。米司法省は、パナマ文書に絡み、顧客の資金隠しに加担したとして、パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」の弁護士ら関係者4人が脱税やマネー・ローンダリングなどの罪で、米国で起訴されたと発表しています。なお、米国でパナマ文書関連の訴追は初めてだということですが、報道によれば、司法省は、4人がパナマ文書で指摘された犯罪の枠組みで数十年間にわたり米国を欺いたと非難、4人のうちドイツ人2人と米国人1人は既に逮捕されており、パナマ人弁護士1人が逃亡しているということです。


 一方、タックスヘイブンを悪用した課税逃れ対策についても国内外で動きが激しくなっています。(前述した)国際的な課税逃れ対策として世界各国の金融口座情報が自動的に交換される「CRS」の運用が日本でも始まり、今後、国税当局による情報の活用が本格化することになりますが、既に「資産隠し」の発覚を恐れた富裕層が自主的に修正申告をする効果も出ているとのことです(平成30年12月4日付日本経済新聞)。一方、交換前に海外口座を対象外の国に移す動きもあり、こうした課税逃れをいかに防ぐかが課題となりそうだといいます。なお、関連して、個人の課税逃れ防止の一環としては、政府・与党は、仮想通貨取引やシェアリングエコノミーなどで得た所得の悪質な課税逃れを防ぐため、新制度を作る方針だということです。国税当局が取引仲介業者に対し、申告漏れや脱税に関係する取引をした疑いがある利用者の情報を照会できるようにするため、2019年度の与党税制改正大綱に盛り込むとしています。また、法人の課税逃れ対策としては、政府・与党は多国籍企業の国際的な課税逃れ対策の一環として、海外のグループ会社への利払いに対する課税を強化する方針だということです。グループ内で意図的に多額の資金の貸し借りをして、利払いという形で国内の利益を法人税率の低いタックスヘイブンに移転するのを防ぐのが狙いで、外資系企業などがこの手法で、本来、国内で課税されるはずの利益を海外に移転している可能性があること、OECDが対策を勧告(英や独は既に導入済み)していること、などから対策を強化することになります。


 関連して、国税庁は、平成29事務年度(平成29年7月~平成30年6月)の所得税などの調査結果を発表しています。富裕層の申告漏れ所得は前事務年度比51.9%増の670億円に上り、現在の集計方法になった2009事務年度以降で最高となっています。

▼財務省 平成29事務年度における関税等脱税事件に係る犯則調査の結果

 財務省は、平成29事務年度に、全国の税関が行った輸入品に対する関税及び内国消費税に係る犯則事件の調査(犯則調査)の結果をまとめています。ポイントは以下のとおりです。

  1. 平成29事務年度に犯則調査に着手した件数は1,456件(前年度比約1.4倍)と、過去最高を記録
  2. 犯則調査の結果、処分(通告処分又は告発)を行った件数は841件(前年度比約1.5倍)と過去最高を記録。また、処分した事件に係る脱税額は、総額で約17億2千万円(前年度比約1.8倍)。処分した事件のうち、約96%(691 件)が航空機旅客による密輸。その隠匿手口は、これまで多く見られたサポーターを使って体に巻きつける手口等のほか、特殊な形態に加工して下着に隠匿したり、モバイルバッテリー内に隠匿して密輸しようとするなど、巧妙な隠匿手口が新たに見つかっている。その他、体内への隠匿など悪質な手口も引き続き散見される
  3. 処分した事件のうち、金地金の密輸事件が720件(前年度比約1.5倍)を占めた。その脱税額は総額で約15億円(前年度比約1.7倍)となり、処分件数・脱税額が、いずれも過去最高を記録
  4. 金地金の密輸事件以外の主な処分事例として、タオル等の繊維製品や隠元豆等の豆類等の低価申告による関税等脱税事件があった
  5. 摘発 事例
    • 東京税関は、香港来商業貨物(航空)に対する検査において、金地金約38kg (消費税等脱税額約1,300 万円)を摘発し、告発した。本件は、反社会的勢力である準暴力団関係者の関与が認められた
    • 同一組織による他の金地金密輸事件が摘発されており、これら一連の密輸事件の調査から、密輸の流れ(循環スキーム)が判明した。この循環スキームでは、まず、仕入役が香港で非課税の金を調達し、韓国へ向かい、韓国の国際空港のトランジットエリアにおいて運搬役に金を渡す。運搬役は、監視役と共に日本へ渡航し、金を密輸する。金は福岡のホテル等で回収役へ渡す。回収役は、売却役Aへ金を渡し、福岡の金地金買取店の福岡支店で金を売却し、それとほぼ同時に、売却役Bが同買取店の東京本店で売却代金を受け取る。当該売却代金を基に、香港で金を購入し、前記スキームを繰り返す
(6) その他のトピックス

 1. 薬物を巡る動向

 以前の本コラム(暴排トピックス2018年10月号)で警視庁の「大麻を知ろう」というサイトをご紹介しました。まずは、そこから「大麻を巡る4つのウソ」について再掲し、正しい認識を持っていただきたいと思います。


 大麻にまつわる4つのウソがある。これらのウソが想像以上に世の中に広がっている。「大麻は精神病にならない」については、一見普通に生活しているような人でも、実は記憶障害が出ていること、無気力になる「無動機症候群」の割合が多いことが分かっている。「大麻には依存性がない」については、大麻は覚醒剤に比べると効きが緩やかなこと、また、急に使用をやめても、少し不眠になったり、食欲不振になる程度なので使っている本人は依存性があることに気が付きにくいことがある。「大麻は体に良い」については、医療大麻よりも良い薬はいっぱいあること、一方で医療大麻の錠剤は、一定時間かかって体内で溶けるようになっているから血中濃度が上がるのをなだらかにコントロールしてくれるという点は理解が必要。「大麻を禁止するのは国の間違い」については、大麻は、いろいろな国の調査で最高使用率は50%といわれていることから、大麻を合法化しても国民の半分は使わないのであって、合法化しようとしている国やアメリカの一部の州は50%以上の人が常用してしまっていたため合法化に踏み切ったもの。こうなってしまった場合、大麻を合法化してももう使用者数は増えないから医療費などは増えないし、取り締り費用なども必要なくなる、国や州で管理すれば税収になったり、マフィアなどに流れる金もなくなるといった事情もある。日本は先進国の中では大麻の常用者率が極端に低い国。もし日本で大麻を合法化してもデメリットしかない。


 さて、その警視庁のサイトにおいて、最新の情報(専門家へのインタビュー)が掲載されていますので、紹介します。今回の情報も大麻の恐ろしさを十分に伝えるものとなっています。

▼警視庁 大麻を知ろう
▼スペシャリストへのインタビュー 第三回 大阪大学大学院医学系研究科 木村 文隆 准教授

 木村先生の研究グループは、これまで分かっていなかった「大脳皮質が神経回路を形成するメカニズム」を明らかにしましたが、そのメカニズムを解明する中で、「エンドカンナビノイド」が脳の中で重要な働きをしていることがわかったといいます。このエンドカンナビノイドは、人の脳内で作られているもので、エンドカンナビノイドが伸びすぎた神経線維をきれいに整理してくれることで脳の神経回路が正しく作られていくという働きをしているところ、カンナビノイド、特にTHCはエンドカンナビノイドと同じような働きをしてしまうといい、エンドカンナビノイドがCB1という受容体に結合して不要なシナプスを適度に弱めたり、刈り込んだりして整えてくれる(退縮)ところ、THCもこのCB1に結合できてしまうといいます。さらに、THCは不要なシナプスだけでなく、必要なシナプスまでも見境なく刈り込んでしまうことから、シナプスを整えるどころか必要な神経回路も無くなってしまうということになるようです。そして、このCB1は脳のいたるところにあるので、大麻を使った場合は、大脳皮質の「感覚野」「運動野」「連合野」全てに効いてしまうことになります。したがって、大人が大麻を使えば、シナプスを子供の時のように伸びきっていないような状態に退縮してしまうことになり、人間として変ではないかも知れないけれど、機能がずっと落ちてしまっている状態=「幼稚化」といえる状態になるといいます。一方、青少年期は脳を作っている段階であり人間として重要な感情や人格、知能といったものも作られている最中であり、大変怖いものとなります。そして、記憶を担当する「海馬」にもCB1があるので記憶に影響が出ますし、脳の中にある「側坐核」という快楽中枢には特にCB1がたくさんあるため使えば気持ちよくなるという効果があるのですが、例えれば、大麻は、薄くまんべんなく脳全体をむしばんでいくというイメージで、大麻を使えば使うほど神経回路は削られていくのに対し、覚せい剤は側坐核にだけ効くという特徴があるので気分が高揚する効果があるものの、結局、大麻の方が脳の広範囲で効くという意味でより「怖い」とも言えるとのことです。大麻を使うと、ぼんやりしたり、物がきれいに見えたり、音がよく聞こえるのは、カンナビノイドが「感覚野」「運動野」「連合野」など全てに効いてしまうからであり、ぼんやりするのは感覚の機能が落ちているだけでなく、「連合野」も含めて脳全体にも効いているから意識レベルが上がらないという面もあり、物がきれいに見えるといったのは「感覚野」や「連合野」で無秩序な興奮が起こっていると説明できるようです。このように、大麻を使うと、カンナビノイドが脳の神経回路を削りとってしまう、1回でも使えば削られてしまう、使えば使うほど削られてしまうという悪影響があるのです。人間として形成されたものが失われてしまったり、まともな脳が作られなくなってしまうことを考えれば、若者は、これから脳が成長していく段階であり、大人以上に深刻な問題が生じるだろうから大麻に手を出すことは絶対に止めるべきです。若者を中心に大麻が蔓延している状況だからこそ、この記事にあるような「事実」を正しく世の中に浸透させていくための広報が重要だと考えます。


 さて「事実」を正しく伝えることの重要性という意味では、テレビ朝日の人気刑事ドラマ「相棒 シーズン17」で、薬物依存症者の描写が差別的だったとして、市民団体や研究者らでつくる「依存症問題の正しい報道を求めるネットワーク」が、「放送が偏見を助長し、依存症者の社会復帰を妨げることを憂慮する」としてテレ朝に抗議文を出すなど社会の批判に晒され、厚労相が、薬物依存症患者について「正しい理解の普及に努めたい」と言及するところまで拡がりを見せました。しかしながら、それにより薬物の危険性に関する正しい知識が社会に浸透したかといえばまだ不十分であり、今後も地道に広報し続ける必要があると思います。また、危険性に対する誤解としては、「大麻は安全」、「大麻リキッドは簡単に吸えて安全」といったものがありますが、大麻使用が合法化された北米の一部などで製品化され、近年は密輸されて国内でもまん延している状況です。大麻の幻覚成分を濃縮した液体「大麻リキッド」の密輸入が相次いで摘発されており、今年の鑑定件数はすでに400件を超え、昨年の約16倍に達しているということです。電子たばこで簡単に吸引できることから、厚生労働省関東信越厚生局の麻薬取締部(麻取)などは、薬物乱用のきっかけになる「ゲートウェー・ドラッグ」になる恐れがあるとして、警戒を強めているといいます。


 その他、薬物を巡る最新の報道からいくつか紹介します。


  • 国際郵便で乾燥大麻を輸入したとして、大阪府警薬物対策課は、大麻取締法違反(輸入)の疑いで、アメリカンフットボール日本社会人Xリーグ「パナソニックインパルス」所属選手の容疑者を逮捕しています。また、同法違反(所持)の疑いで、同じチームの選手を現行犯逮捕しています。いずれも米国出身で、米国から国際郵便を使って大麻約26グラムを輸入した疑いと、自宅で若干量の大麻を所持した疑いがもたれています。大麻の違法性については、本コラムでは日本と米の各州で相違があるのはこれまでも指摘していますが、常習性の問題だけでなく、その違い(日本では厳格に処罰されること)を十分に理解できていなかったのもひとつの要因と推測しています。

  • 大阪大学は、覚せい剤取締法違反(所持)の疑いで逮捕、起訴されたとして、大学院基礎工学研究科の特任研究員(29)を懲戒解雇しています。報道によれば、同被告は、覚せい剤入りの袋を持って広島県警福山東署駅前交番に出向き、逮捕されたということです。10月下旬から体調不良を理由に大学を休んでおり、大学の聞き取りに対し「このままでは正しい生活が送れないのではと不安になった」と話しているということです。

  • 九州厚生局麻薬取締部小倉分室は、「片岡不動尊」住職(57)を覚せい剤取締法違反(使用)容疑で逮捕したと発表しました。同容疑者は、子供たちに薬物の乱用防止を呼びかける講師の認定を受けていたということで、自宅で覚醒剤を注射して使用した疑いがもたれています。報道によれば、「2年ほど前から週に数回使うようになった」と容疑を認めているということですが、住職であり、かつ薬物の乱用防止を主導する立場の人間の問題として衝撃は大きいものがあります。

  • 覚せい剤などの薬物依存者の回復や社会復帰を支援する民間リハビリ施設「ダルク」は、依存症に苦しむ人たちの社会復帰を後押ししてきた実績がある一方で、施設に不安を覚える周辺住民も多いといいます。滋賀県東近江市の「東近江ダルク」で昨年9月、入所者が殺人未遂事件を起こすと住民から移転を求める声が上がるなどしています。(暴力団離脱者支援の問題も同様ですが)入所者の更生と地域との共生の両立の難しさが浮き彫りになっていると言えます。

  • 名古屋市港区の倉庫で覚醒剤約340キロ(末端価格200億円以上)が見つかった事件で、名古屋地検は、現場の倉庫を借りていた自動車部品販売会社の代表で中国籍の容疑者(49)を、台湾籍の男3人や何者かと共謀して倉庫内で覚醒剤889.4グラムを営利目的で所持したとして、覚せい剤取締法違反(営利目的所持)の罪で起訴しています。


 2. 金の密輸を巡る動向

 タックスヘイブンの項でも紹介しましたが、平成29年7月から平成30年6月までの1年間に全国の税関が金の密輸で罰金や刑事告発といった処分をした件数が、前年の同期間の約1.5倍に当たる720件になったことが分かりました。税込み価格で転売し8%の消費税分を儲けようとしたとみられます。さらにその脱税額は約1.7倍の約15億円に上り、処分件数・脱税額は、いずれも過去最高を記録しています。なお、国税庁によれば、処分した事件のうち、約96%(691件)が航空機旅客による密輸となっているほか、その隠匿手口は、これまで多く見られたサポーターを使って体に巻きつける手口等のほか、特殊な形態に加工して下着に隠匿したり、モバイルバッテリー内に隠匿して密輸しようとするなど、巧妙な隠匿手口が新たに見つかっていますが、その他にも、体内への隠匿など悪質な手口も引き続き散見されているということです。なお、貿易統計上の平成29年(1~12月)の日本の金の輸入量は約5トンなのに対し、輸出量は約215トンであり、国内の生産量や消費量を勘案すると160トン前後が密輸で流入した可能性があることも分かってきました。このような急増する金の密輸を防止するため、政府・与党は国内業者が金を買い取る際の身元確認を厳格化する方針を固めたということです。買い取り業者が税務申告する際、金を売りに来た人の身分証の控えが無い場合は消費税の控除を認めないようにするもので、来年10月の消費税増税を控えた密輸対策強化の一環として、年末にまとめる税制改正大綱に盛り込むことになりました。


 また、金の密輸において、地方空港が「犯罪インフラ」化している実態も明らかになってきています。税関も摘発に力を入れてはいるものの、密輸入グループも警戒が薄いところを狙い、攻防が繰り広げられているのです。宮崎地裁で11月、韓国籍の男女3人に執行猶予付きの有罪判決が言い渡されましたが、3人が問われたのは、韓国から金塊を密輸しようとした関税法違反(無許可輸入未遂)罪などで、公判の冒頭陳述で、検察側は、「福岡空港は摘発されるとのうわさが密輸関係者の中で広まり、韓国から比較的近く、航空運賃が抑えられる宮崎空港に目を付けた」「宮崎は検査少ない」と主張し、判決もまた、「密輸が最も成功しやすそうな宮崎空港に狙いを定めた」と指摘したということです。チェック態勢のバラつきが「犯罪インフラ」化することのないよう、水際対策の底上げをお願いしたいところです。一方、金の密輸入に歯止めをかけようと財務省は、昨年11月、検査体制の強化などを柱とする緊急対策を打ち出しましたが、国内市場では不正取引に巻き込まれることをおそれて国際的な認定地金の買い取りもやめる企業が増え、混乱に陥っている状況があるということです。報道(平成30年11月26日付日本経済新聞)によれば、財務省の「ストップ金密輸緊急対策」には、門型の金属探知機を増やすなど水際の検査体制の強化、処罰の強化、情報収集・分析の充実という3つの柱があり、いずれも「簡単に密輸できない」と思わせるために必要な対策で、さらに、財務省や経済産業省が今夏、密輸が疑われる地金の買い取りはしないように指導を強化したことで、密輸品と分かった場合のリスクをおそれる多くの企業がその指導後に扱いを停止したというものです。国際認定の地金すら流通しないという異常事態となっているものの、犯罪対策の観点からの厳格な見極めと犯罪リスクのバランスの解は見い出せておらず、来年10月の消費税の10%への引き上げによる密輸量の増加が見込まれることも含め、混乱はまだまだ続きそうです。


3.暴排条例等の状況

(1) 東京都暴排条例による勧告事例

 中学校の近くに暴力団の組事務所を開設したとして、警視庁組織犯罪対策3課は、東京都暴排条例違反などの疑いで、指定暴力団住吉会の3次団体「堺組」組長と同組幹ら4人を逮捕しています。昨年11月、中学校から200メートル以内にある中野区の住宅に組事務所を開設し、今月5日まで使用した疑いがもたれていますが、報道によれば、中学校の約60メートル先の住宅に組事務所を開設、組長の男は「事務所ではない」と容疑を否認しており、組幹部の男らはこの家にスポーツジム運営会社を登記し、室内にバーベルなどを置くなどして仮装していたと見られ、警視庁は、出入りしているのは主に組員と組関係者で、ジムの実態はないと断定しています。さらに、この組幹部の男は「関東連合」(解散)の元メンバーで、昨年頃からこの組に当時の仲間の加入が相次いでいるともいいます。

▼警視庁 東京都暴力団排除条例(全文)

 東京都暴排条例に6おいては、第22条(暴力団事務所の開設及び運営の禁止)に、「暴力団事務所は、次に掲げる施設の敷地(これらの用に供せられるものと決定した土地を含む。)の周囲200メートルの区域内において、これを開設し、又は運営してはならない」との規定があり、中学校は「一 学校教育法(昭和22年法律第26号)第1条に規定する学校(大学を除く。)又は同法第百24条に規定する専修学校(高等課程を置くものに限る。)」に該当します。そして、その違反に対しては、第33条(罰則)に「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」との規定があり、「一 第22条第1項の規定に違反して暴力団事務所を開設し、又は運営した者」に該当するとして今回の逮捕に至ったものと考えられます。


(2)岡山県暴排条例による勧告事例

 暴力団の威力を利用し、業務上のトラブル解決を図ったとして、岡山県公安委員会は、岡山県暴排条例に基づき、飲食事業者男性(60)に同様の行為をやめるよう勧告しています。報道によれば、暴力団の威力を利用した行為に対する勧告は県内で初めてだということです。勧告では、男性は同事業者が経営する岡山市内の風俗店で、来店客による女性従業員の引き抜きに関するトラブルの解決を暴力団員に依頼したというものです。

▼岡山県警察 岡山県暴力団排除条例

 岡山県暴排条例第16条(暴力団の威力の利用等の禁止)に、「1事業者は、暴力団の威力を利用し、又は暴力団の活動を助長する目的で、暴力団員等をその行う事業に利用し、又は従事させてはならない」、「2事業者は、前項に定めるもののほか、その行う事業に関し、暴力団の威力を利用してはならない」との規定があり、今回は「女性従業員の引き抜きに関するトラブルの解決を暴力団員に依頼した」ということですので、第2項が適用されたものと推測されます。そして、その違反については、第21条(説明又は資料提出の請求)に、「公安委員会は、第十五条、第十六条、第十八条第二項又は前条第二項の規定に違反する行為をした疑いがあると認められる者その他の関係者に対し、公安委員会規則で定めるところにより、これらの規定の施行に必要な限度において、説明又は資料の提出を求めることができる。」との規定があるほか、第21条(勧告)に、「公安委員会は、第十五条、第十六条、第十八条第二項又は第十九条第二項の規定に違反する行為があったときは、当該行為をした者に対し、暴力団の排除について必要な勧告をすることができる。」との規定があり、これが適用されたものと考えられます。


(3)暴力団との密接交際に関する事例

 国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産「戸畑祇園大山笠」振興会の運営委員長だった同区の建設会社役員の男(49)が、特定危険指定暴力団工藤会系組長の宴席に出席していたことが分かりました。福岡県警は、男と暴力団との間に密接な交際があったことを理由に、男が実質的経営者だった建設会社、廣栄有限会社、天輝産業有限会社、天豐産業株式会社を公共工事の下請けから排除するよう国や県、同市に通報しています(それを受けて、北九州市、福岡県、福岡市でそれぞれ排除措置が講じられ、事業者名と代表者名が公表されています)。なお、報道(平成30年11月30日付毎日新聞)によれば、振興会は男が運営委員長だった昨年3月の会則改正で暴力団関係者の排除を明示したものの、男はその後も組員と複数回会食するなど交際が続いていたということであり、逮捕後に運営委員長を解任されています。

▼福岡県 暴力団関係事業者に対する指名停止措置等一覧表
▼福岡市 競争入札参加資格停止措置及び排除措置一覧
▼北九州市 暴力団と交際のある事業者の通報について

 上記のうち、北九州市の火通報事業者一覧によれば、通報内容は「当該業者の役員等が、暴力団と「社会的に非難される関係を有していること」に該当する事実があることを確認した」とされ、「平成30年12月4日から18月を経過し、かつ、暴力団又は暴力団関係者との関係がないことが明らかな状態になるまで」排除措置が講じられることになります。ちなみに福岡市の措置は、「暴力団との関係による」として「平成30年11月30日から平成31年11月29日まで」の1年間となっており、北九州市との相違があります。また、福岡県の措置は、「役員等又は使用人が、暴力的組織又は構成員等と密接な交際を有し、又は社会的に非難される関係を有している」として、「平成30年12月5日から平成32年6月4日まで(18ヵ月間)」と北九州市と同様の措置となっています。


 また、東京・中央区の神社で暴力団組長からの奉納金の受け取りを拒否した宮司を脅したとして、指定暴力団稲川会系幹部の男ら2人が警視庁に逮捕されています。組の総長からの奉納金の受け取りを拒否され、「どうなっても知らねえぞ」などと脅した疑いがもたれています。報道によれば、神社では、10年ほど前からこの組からの奉納金を受け取っていたが、警視庁の指導を受けた宮司が今年から受け取りを拒否することを決めていたということであり、警視庁と連携しながら毅然とした対応を貫いたことが分かります。


(4)福岡県暴排条例の適用事例(標章関係)

 福岡東署は、指定暴力団傘下組織組員(34)に、暴力団対策法に基づく中止命令(高利債権取立行為)を出しています。報道によると、組員の男は福岡市の無職男性(36)に対し、「俺のことは聞いとるやろうけど、返済日守ってくださいよ」などと暴力団の威力を示して債務の履行を要求したということです。
暴力団対策法では、「第二章 暴力的要求行為の規制等」「第一節 暴力的要求行為の禁止等」において、第9条(暴力的要求行為の禁止)に、「指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない」と規定されています。そのうち、「六 次に掲げる債務について、債務者に対し、その履行を要求すること」のうち、「イ金銭を目的とする消費貸借(利息制限法(昭和二十九年法律第百号)第五条第一号に規定する営業的金銭消費貸借(以下この号において単に「営業的金銭消費貸借」という。)を除く。)上の債務であって同法第一条に定める利息の制限額を超える利息(同法第三条の規定によって利息とみなされる金銭を含む。)の支払を伴い、又はその不履行による賠償額の予定が同法第四条に定める制限額を超えるもの」または「ロ営業的金銭消費貸借上の債務であって利息制限法第一条及び第五条の規定により計算した利息の制限額を超える利息(同法第三条及び第六条の規定によって利息とみなされる金銭を含む。以下この号において同じ。)若しくは同法第九条に定める利息の制限額を超える利息の支払を伴い、又はその不履行による賠償額の予定が同法第七条に定める制限額を超えるもの」のいずれかに該当するものと推測されます。そして、その違反として、第11条(暴力的要求行為等に対する措置)に「公安委員会は、指定暴力団員が暴力的要求行為をしており、その相手方の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該暴力的要求行為を中止することを命じ、又は当該暴力的要求行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる」と規定されており、これが適用されたものと考えられます。

▼暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(暴力団対策法)

【もくじ】へ

関連コンテンツ
Quickスクリーニング・システム(Web版)

反社会的勢力にかかる公知情報データベースにダイレクトにアクセスして、検索することが可能な、即時検索型反社チェックツールです。

健全度分析

対象企業およびその関連企業について、登記情報や風評等多面的な観点からの詳細な分析を通じて、反社会的勢力との関係についての有用な判断材料を提供するサービスです。

グローバル・スクリーニング

各国から制裁対象となっている個人や組織(海外反社)をはじめ、海外企業や個人のコンプライアンス・海外リスク情報に関する懸念性チェックの代行サービスです。

内部統制システム整備サポート

整備ポイントを絞っての支援からコンプライアンス委員会の運営による全社的かつ トータルな構築支援まで、企業のニーズに応じて支援内容を設計、実施を支援します。

反社会的勢力対策・対応

万が一、反社会的勢力との関係が認知された場合の、詳細な調査や企業としての対応方針・排除計画の策定、各専門家との連携、対応実務等をサポートします。

暴排トピックス

公式ツイッター

SPクラブメンバーズサイト