暴排トピックス

警察庁「令和元年における組織犯罪の情勢について」を読み解く

2020.04.07
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取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人

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【もくじ】―――――――――――――――――――――――――

1.警察庁「令和元年における組織犯罪の情勢について」を読み解く

(1)暴力団情勢

(2)薬物・銃器情勢

(3)銃器情勢

(4)来日外国人犯罪情勢

2.最近のトピックス

(1)薬物を巡る動向

(2)AML/CFTを巡る動向

(3)特殊詐欺を巡る動向

(4)テロリスクを巡る動向

(5)犯罪インフラを巡る動向

(6)その他のトピックス

・暗号資産(仮想通貨)を巡る動向

・IRカジノ/依存症を巡る動向

(7)北朝鮮リスクを巡る動向

3.暴排条例等の状況

(1)暴排条例に基づく逮捕事例(神奈川県)

(2)暴排条例に基づく逮捕事例(大阪府)

(3)暴排条例に基づく逮捕事例(東京都)

(4)暴排条例に基づく逮捕(不起訴)事例(北海道)

1.警察庁「令和元年における組織犯罪の情勢について」を読み解く

警察庁から「令和元年における組織犯罪の情勢」(以下「本レポート」)が公表されていますので、以下、概観してきたいと思います。

▼警察庁 令和元年における組織犯罪の情勢について
▼令和元年における組織犯罪の情勢

(1)暴力団情勢

本レポートでは、冒頭、「山口組の分裂と対立抗争等」と題した特集が組まれています。本コラムでも紹介してきましたが、「分裂した山口組が3つの指定暴力団として併存する状況となる中、特に、六代目山口組と神戸山口組については、平成31年4月以降、神戸山口組傘下組織組長に対する刃物使用の殺人未遂事件や六代目山口組傘下組織組員に対する拳銃使用の殺人未遂事件、神戸山口組傘下組織組員らに対する拳銃使用の殺人事件等が相次いで発生するなど、対立抗争が激化する状況が認められた」こと、「こうした状況を受け、両団体の本部事務所等の付近の住民の生活の平穏が害されており、又は害されるおそれがあると認め、令和元年10月、兵庫県警察、岐阜県警察、愛知県警察及び大阪府警察が暴力団対策法に基づき、対立抗争に関係する暴力団事務所の使用制限の仮の命令を発出した。その後、同年11月、各事務所について本命令に係る意見聴取の手続を経て、これら4府県の公安委員会が、暴力団対策法に基づき、両団体の本部事務所等計19か所に対し、事務所使用制限命令を発出した。同命令により、これら事務所を多数の指定暴力団員の集合の用、対立抗争のための謀議、指揮命令又は連絡の用等に供することが禁止されることとなった」こと、さらに「令和元年11月に事務所使用制限命令を発出した後も、同月、元六代目山口組傘下組織組員による神戸山口組幹部に対する自動小銃を使用した殺人事件が発生するなど、六代目山口組と神戸山口組に関連する凶器を使用した殺傷事件が続発した」ことを受け、「当該対立抗争に係る凶器を使用した暴力行為が人の生命又は身体に重大な危害を加える方法によるものであり、かつ、更に人の生命又は身体に重大な危害が加えられるおそれがあると認め、岐阜県、愛知県、三重県、京都府、大阪府及び兵庫県の公安委員会が、3か月の期間及び特に警戒を要する区域(以下「警戒区域」という。)を定めて、六代目山口組と神戸山口組を「特定抗争指定暴力団等」として指定することを決定し、令和2年1月7日、官報公示をもって指定に係る効果が発生した」といった3つの山口組分裂から、六代目山口組と神戸山口組の特定抗争指定までの流れが述べられています。また、「対立抗争状態にあると判断した平成28年3月7日から令和元年12月末までに、両団体の対立抗争に起因するとみられる事件は、21都道府県で72件発生し、うち58件で224人の暴力団構成員等を検挙した」といいます。なお、指定の効果については、「同指定により、警戒区域内での事務所の新設、対立組織の組員に対するつきまとい、対立組織の組員の居宅及び事務所付近のうろつき、多数での集合、両団体の事務所への立入り等の行為を禁止されることとなった」と指摘しています。そして、現状、「六代目山口組、神戸山口組及び絆會は、いずれも自身の勢力を拡大するため、他の団体の傘下組織構成員の切り崩しを行い、3団体間の構成員の移動が複雑化するなど、依然として、分裂した各団体の動向は予断を許さない状況にある。これら団体の対立の激化は、一般市民の安全を脅かすとともに、暴力団が威力を高め、その資金獲得力が強化されることにつながることから、今後も引き続き、必要な警戒、取締りの徹底に加えて、状況に応じて暴力団対策法の効果的な活用を推進するなどして、市民生活の安全確保並びにこれらの団体の弱体化及び壊滅に向けた取組を推進していく」と強い危機感のもと取り締まりを継続していくこととしています。

さて、暴力団構成員及び準構成員等(暴力団に所属しないものの、その統制下で外部から活動に関わっていると警察が認めた者)(以下、「暴力団構成員等」)の数については、平成17年以降減少しており、本レポートによれば、令和元年末現在で28,200人(前年同期30,500人、前年同期比▲7.5%)と昭和33年以降で最少人数を更新したことが重要なトピックです。平成30年12月末の前年同期比が▲11.6%であったところ(ここ数年、毎年1割以上の減少が続いていました)、減少幅がやや鈍化する結果となっています。このうち、暴力団構成員の数は14,400人(15,600人、▲7.7%)、準構成員等の数は13,800人(14,900人、▲7.4%)であり、暴力団構成員の比率が51.0%(前年51.1%)となっている点も注目されます(数年前までは準構成員等の方が多い状況がありました)。特に暴力団構成員については、ピークだった1963年の6分の1以下の水準にまで減少しており、(本コラムでもたびたび指摘していますが)そもそも若者の成り手が減っていることに加え、その若者や離脱した組員の一部が繁華街などで暴力行為や違法行為を繰り返す「準暴力団」や「半グレ」に流れている可能性があるとされ、「反社会的勢力」という枠で考えれば、その勢力はまだまだ衰えていないものと推測されます。また、主要団体等(六代目山口組、神戸山口組及び任侠山口組(絆會)並びに住吉会及び稲川会。以下同じ)の暴力団構成員等の数は20,400人(全暴力団構成員等の72.3%)、うち暴力団構成員の数は10,700人(全暴力団構成員の74.3%)となっているのは、従来同様の傾向です。

暴力団構成員等とともに反社会的勢力を構成している「総会屋及び会社ゴロ等」(会社ゴロ及び新聞ゴロをいう。以下同じ)の数は、令和元年末現在、1,000人(1,030人、▲2.9%)と近年減少傾向にあるほか、「社会運動等標ぼうゴロ」(社会運動標ぼうゴロ及び政治活動標ぼうゴロをいう)の数もまた、令和元年末現在、5,500人(5,560人、▲1.1%)と減少傾向にあります。

検挙状況をみると、近年、暴力団構成員等の検挙人員は(暴力団構成員等の数の減少に伴って)減少傾向にあり、令和元年においては、14,281人(16,881人、▲15.4%)となりました。ここ数年は、暴力団構成員等の減少割合と比較して検挙人数は少なかった(言い換えれば、検挙割合が上昇していた)ところ、今回は、暴力団構成員等の減少割合より少ない結果となった点も注目されます(つまり、抗争を巡る報道の多さの割に、暴力団全体でみれば(検挙されるような)資金獲得活動が低調であった可能性が指摘できます)。主な罪種別では、傷害が1,823人(2,042人、▲10.7%)、窃盗が1,434人(1,627人、▲11.9%)、詐欺が1,448人(1,749人、▲17.2%)、恐喝が636人(772人、▲17.6%)、覚せい剤取締法違反(麻薬特例法違反は含まない。以下同じ)が3,593人(4,569人、▲21.4%)で、いずれも前年に比べ減少しており、その減少幅が暴力団構成員等の減少割合を大きく上回っている点が、ここ最近の傾向と大きく異なっており注目されます。さらに、暴力団構成員等の検挙人員のうち、構成員は2,869人(3,405人、▲15.7%)、準構成員その他の周辺者は11,412人(13,476人、▲15.3%)で前年に比べいずれも減少していることも分かります。また、暴力団構成員等の検挙件数についても近年減少傾向にあり、令和元年においては、26,761件(28,334件、▲5.6%)となりました。主な罪種別では、傷害が1,527件(1,758件、▲13.1%)、窃盗が10,748件(10,194件、+5.4%)、詐欺が2,327件(2,270件、+2.5%)、恐喝が491件(592件、▲17.1%)、覚せい剤取締法違反が5,274件(6,662件、▲20.8%)で、前年に比べ窃盗及び詐欺が増加しているほか、覚せい剤取締法違反が大きく減少していることが分かります。なお、近年、暴力団構成員等の検挙人員のうち、主要団体等の暴力団構成員等が占める割合が約8割で推移しているところ、令和元年においては、11,448人で80.2%となっており、このうち、六代目山口組の暴力団構成員等の検挙人員は、5,187人と暴力団構成員等の検挙人員の約4割を占める結果となりました。なお、「六代目山口組は平成27年8月末の分裂後も引き続き最大の暴力団であり、その弱体化を図るために、六代目山口組を事実上支配している弘道会及びその傘下組織に対する集中した取締りを行っている」こと、令和元年においては、「六代目山口組直系組長等4人、弘道会直系組長等9人、弘道会直系組織幹部(弘道会直系組長等を除く)23人を検挙している」といいます。また、対立抗争に起因するとみられる事件は13件発生しており、これらはいずれも六代目山口組と神戸山口組との対立抗争に関するものであり、「刃物や銃器を使用した事件が住宅街等で発生するなど、地域社会に対する大きな脅威となっている」と指摘しています。

また、本レポートでは、「工藤會に対する集中取締り等」についても特集されており、「平成24年12月、福岡県公安委員会及び山口県公安委員会が工藤會を特定危険指定暴力団等として指定し、以降1年ごとに指定の期限を延長しているところ、両公安委員会は、令和元年12月、7回目の延長を行った」こと、「平成26年11月、福岡県公安委員会が当該指定に係る警戒区域内に所在する工藤會の4か所の事務所について、さらに平成27年2月、1か所の事務所について、事務所使用制限命令を発出しているところ、令和元年もこれらの命令の効力が継続している」こと、さらに、「特定危険指定暴力団等の組員が警戒区域内において暴力的要求行為をしたとして、令和元年中、工藤會傘下組織幹部ら3人を逮捕した」ことなどが紹介されています。また、「福岡県警察では、事件検挙等による取締りのほか、工藤會による違法行為の被害者等が提起する損害賠償請求等に対して必要な支援を行っている」こと、さらには、本コラムで詳細に取り上げてきた本部事務所撤去については、「令和元年9月、福岡県北九州市が中心となり、同市、都道府県暴力追放運動推進センター(以下「都道府県センター」)、本部事務所所有法人及び工藤會の間で、同事務所を解体、更地にした後に都道府県センターに売却することや売却代金から解体費用等を差し引いた売却益を工藤會による犯罪の被害者への賠償に充てること等について、覚書が締結された。その後、同年11月、同事務所土地の民間企業への売買契約等が成立し、同月、解体工事が開始された(令和2年2月、解体工事が終了し、同事務所土地に係る所有権が同民間企業へ移転された)」と紹介しています。また、いわゆる「頂上作戦」の成果については、「近年、工藤會総裁、同会長等を含む主要幹部を波状的に検挙し、これらの者を長期的に隔離したことにより、工藤會の組織基盤及び指揮命令系統に打撃を与えている」こと、さらには「福岡県における令和元年中の離脱支援による工藤會離脱者数は32人であった」ことが示されています。そのうえで、「今後とも、未解決事件の捜査を徹底するなど取締りの更なる強化を図るとともに、資金源対策や離脱者の社会復帰対策を更に推進していく」としています。

また、覚せい剤取締法違反、恐喝、賭博及びノミ行為等(以下「伝統的資金獲得犯罪」)は、依然として、暴力団等の有力な資金源になっていることがうかがえる結果となっています。これらのうち、暴力団構成員等の伝統的資金獲得犯罪の検挙人員に占める覚せい剤取締法違反の割合は近年、約8割で推移しており、令和元年中においても同様となっています。さらに、暴力団構成員等の検挙状況を主要罪種別にみると、暴力団構成員等の総検挙人員に占める詐欺の検挙人員は、ここ数年で高止まりしており、詐欺による資金獲得活動が定着化している状況がうかがえる結果となっています。その他、金融業、建設業、労働者派遣事業、風俗営業等に関連する資金獲得犯罪が敢行されており、依然として多種多様な資金獲得活動を行っていることがうかがえます。また、暴力団構成員等に係る組織的犯罪処罰法のマネー・ローンダリング関係の規定の適用状況については、犯罪収益等隠匿について規定した第10条違反事件数が32件であり、犯罪収益等収受について規定した第11条違反事件数が19件、第23条に規定する起訴前没収保全命令の適用事件数は14件となっています。さらに、伝統的資金獲得犯罪の全体の検挙人員のうち暴力団構成員等が占める割合は、近年、40~50%台で推移しており、この割合は、刑法犯・特別法犯の総検挙人員のうち暴力団構成員等の占める割合が6~7%台で推移していることからすると、著しく高いといえ、いかに伝統的資金獲得活動に依存しているかが分かります。また、伝統的資金獲得犯罪に係る暴力団構成員等の検挙人員は4,422人で、暴力団構成員等の総検挙人員の31.0%を占めており、この結果からも、伝統的資金獲得犯罪が有力な資金源となっていることがうかがえます。本コラムでも指摘しているとおり、近年は、暴力団や準暴力団が資金を獲得する手段の一つとして、詐欺、特に組織的に行われる特殊詐欺を敢行している実態がうかがえ、検挙人員のうち暴力団構成員等が占める割合が18.1%(3年前の平成28年末時点では26.3%)であるのに対し、主犯の検挙人員のうち暴力団構成員等が占める割合が44.8%(同28.6%)と著しく高く、暴力団構成員等が犯行を主導している実態がうかがわれるとともに、その傾向が近年さらに強まっていることも分かります

暴力団対策法の施行状況については、近年、中止命令の発出件数は減少傾向にあり、令和元年においては、1,112件と前年に比べ155件減少していること、暴力団対策法施行後の中止命令の累計は、50,821件となっていること、形態別では、資金獲得活動である暴力的要求行為(9条)に対するものが783件と全体の70.4%を、加入強要・脱退妨害(16条)に対するものが130件と全体の11.7%を、それぞれ占めていることが特徴的です。暴力的要求行為(9条)に対する中止命令の発出件数を条項別にみると、不当贈与要求(2号)に対するものが340件、みかじめ料要求(4号)に対するものが101件、用心棒料等要求(5号)に対するものが247件となっています。また、加入強要・脱退妨害(16条)に対する中止命令の発出件数を条項別にみると、少年に対する加入強要・脱退妨害(1項)が13件、威迫による加入強要・脱退妨害(2項)が107件、密接交際者に対する加入強要・脱退妨害(3項)が10件となっています。なお、団体別では、住吉会に対するものが260件と最も多く、全体の23.4%を占め、次いで六代目山口組230件、稲川会175件、神戸山口組88件の順となっていることも(構成員等の人数に比例しているわけではないという点で)大変興味深いところです。さらに、近年、再発防止命令の発出件数は減少傾向にあり、平成29年及び30年においては増加に転じたものの、令和元年においては32件と前年に比べ11件減少しています(なお、暴力団対策法施行後の再発防止命令の累計は、1,930件)。形態別では、資金獲得活動である暴力的要求行為(9条)に対するものが22件と全体の68.8%を占めているほか、準暴力的要求行為(12条の5)及び加入強要・脱退妨害(16条)に対するものがそれぞれ3件となっていること、暴力的要求行為(9条)に対する再発防止命令の発出件数を条項別にみると、不当贈与要求(2号)に対するものが2件、みかじめ料要求(4号)に対するものが3件、用心棒料等要求(5号)に対するものが15件、高利債権取立行為(6号)に対するものが2件となっています。また、団体別では、六代目山口組に対するものが13件と最も多く、全体の40.6%を占め、次いで稲川会7件、松葉会3件の順に多くなっている点も中止命令同様、興味深いところです。令和元年における事務所使用制限命令の発出件数は19件、団体別では、神戸山口組に対するものが11件、次いで六代目山口組に対するものが8件となっています。

暴力団排除条例(以下「暴排条例」)については、平成23年10月までに全ての都道府県において暴排条例が施行されました(なお、市町村における条例については、令和元年末までに45都道府県内の全市町村で制定されている)。各都道府県は、条例の効果的な運用を行っており、各都道府県においては、条例に基づいた勧告等を実施、令和元年における実施件数は、勧告64件、指導5件、中止命令15件、再発防止命令3件、検挙14件となっています。本レポートに紹介されていた勧告事例と検挙事例としては、以下のようなものがありましたので、紹介します(一部、本コラムで過去紹介した事例も含まれています)。

  • 水産物加工業を営む合同会社の実質経営者が、六代目山口組傘下組織組員(28)らが不正に採捕したなまこであると知りながら、なまこ合計約550グラム(取引価格約227万5,000円)を有償で譲り受けたことから、同社に対し、勧告を実施した事例(平成31年1月、北海道)
  • 建設業を営む株式会社の役員ら8事業者が、暴力団の威力を利用することの対償として、住吉会傘下組織幹部(46)らに正月用飾り等の購入名下に現金を供与したことから、同事業者及び同幹部に対し、勧告を実施した事例(平成31年2月、埼玉)
  • 飲食店を営む有限会社の役員(61)が、暴力団の活動を助長し、又は運営に資することとなるおそれがあることを知りながら、稲川会傘下組織組長(52)が主催する忘年会の場所と料理を提供したことから、同社及び同組長に対し、勧告を実施した事例(平成31年2月、神奈川)
  • 道仁会傘下組織組員(30)が、暴力団員が立ち入ることを禁止する旨を告知する標章を掲示している条例により定められた暴力団排除特別強化地域に所在する飲食店(以下「標章掲示店」という。)に立ち入ったため中止命令を発出していたが、他の標章掲示店に対しても同様の行為を行っていたことから、再発防止命令を発出した事例(令和元年10月、福岡)
  • 住吉会傘下組織幹部(49)らが、条例により定められた暴力団事務所の開設又は運営の禁止区域において、暴力団事務所を運営したことから、条例違反として検挙した事例(平成31年1月検挙、栃木)
  • 住吉会傘下組織幹部(50)が、条例により定められた暴力団排除特別強化地域において、風俗営業を営む者から、その営業を営むことを容認することの対償として、条例で禁止される金銭の供与を受けたことから、条例違反として検挙した事例(令和元年11月検挙、警視庁)
  • 都道府県センターでは、暴力団が関係する多種多様な事案についての相談を受理し、暴力団による被害の防止・回復等に向けた指導・助言を行っている。令和元年中の暴力団関係相談の受理件数は4万8,234件であり、このうち警察で2万169件、都道府県センターで2万8,065件を受理した

都道府県センターの活動状況については、平成26年7月までに全て適格都道府県センターとして国家公安委員会の認定を受けており、指定暴力団等の事務所の使用により生活の平穏等が違法に害されていることを理由として当該事務所の使用及びこれに付随する行為の差止めを請求しようとする付近住民等から委託を受け、当該委託をした者のために自己の名をもって、当該事務所の使用及びこれに付随する行為の差止めの請求を行っていること、令和元年中、警察及び都道府県センターが援助の措置等を行うことにより暴力団から離脱することができた暴力団員の数については、約570人となっていることが紹介されています。なお、平成30年は約640人(平成28年、平成29年も約640人)であり、やや減少という結果となりました。

さて、以下、本レポートをいったん離れて、直近の暴力団情勢についてみていきます。

本レポートでも特集された六代目山口組と神戸山口組の特定抗争指定暴力団への指定については、最初の指定から4月7日で3カ月を迎えることとなり、さらに3カ月延長されることが決まっています。最近は表立った衝突はないものの、厳しい規制がかかる「警戒区域」の外に事務所を移転させるなど監視の網を逃れようとする動きも確認されており、抗争は終結しておらず、むしろ警戒を強めるべき状況にあるとみられています。これに関連して、大阪府暴力追放推進センターは、六代目山口組直系「織田組」が大阪府東大阪市に新設した事務所の使用差し止めを求める仮処分を大阪地裁に申し立てています。織田組は今年1月に事務所使用が禁止された大阪市内から東大阪市に事務所を移転しており、住民から不安の声が上がっていたところ、暴力団対策法に規定されている、報復が懸念される地元住民約30人の「代理訴訟」であり、特定抗争指定に伴う事務所移転をめぐる訴訟は全国初となります。報道によると、組側の対応次第では4月中にも決定が出る見通しといいます。織田組をめぐっては、禁止区域(児童福祉施設から100メートルしか離れていない場所)に事務所を開いたとして、大阪府暴排条例違反容疑で組長ら4人が大阪府警に逮捕されています。

また、4月には「抜け穴」の指摘があった暴力団関係者による不動産競売への参加を規制する改正民事執行法が施行されました。警察庁の平成29年の調査では、全国に約1,700ある暴力団事務所のうち、約200の物件に不動産競売の形跡があり、競売からの排除策が課題となっていたところ、ついに不動産競売からの暴排が実現することとなります。本コラムでは以前から不動産競売からの暴排の実現を求めていましたが、これまでは民事執行法による不動産競売においては、暴力団員であることのみを理由として不動産の買受けを制限する規定は設けられておらず、不動産競売において買い受けた建物を暴力団事務所として利用する事例や、その転売により高額な利益を得た事例などが見られました。今後、入札参加者には暴力団組員でないことを陳述させることとし、裁判所は最高額の入札者が組員かどうかを警察に照会し、もし組員だった場合は、売却の不許可を決定するといったスキームとなりました。本件については、以前の本コラム(暴排トピックス2018年9月号)でそのスキームについて、詳細に検討しています。以下、あらためて紹介します。

まず、「暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者」については、中間試案において、(1)暴力団が過去に暴力団に所属していた者などの周辺者を利用するなどして資金獲得活動を巧妙化させていること、(2)元暴力団員は暴力団を離脱した後も暴力団との間に何らかの関係を継続している蓋然性があると考えられること、(3)元暴力団員を不動産の買受けの制限の対象とすることにより、形式的な離脱による規制の潜脱を封ずるという効果も期待ができること、などがその理由となっているとしています。いずれも、現状の暴力団等反社会的勢力の実態をふまえたものとなっていますが、注目したいのは、「5年卒業基準」の妥当性・合理性の根拠であり、中間試案においては、最高裁が示した「暴力団員は、自らの意思により暴力団を脱退し、そうすることで暴力団員でなくなることが可能」という基準(平成27年3月2日付最高裁判決)と、他の法令の状況や最近の暴排の取り組み状況などから、「暴力団員でなくなった日から5年という期間での買受けが制限されるにすぎないのであれば、必ずしも過度な制約を課するものとまではいえない」とする捉え方との間のバランスの中から「5年の規制を設けることは合理的である」とする結論が導かれています。それは、本要綱案にも踏襲された形ですが、本コラムのスタンスとしては、「真に更生している者を妨げるべきではない」とする規範と、「暴力団等反社会的勢力の再犯率の高さをふまえれば、5年卒業基準は、リスク管理上あまり意味がない(重視すべきではない)」とする厳しい実態との間で、ケースバイケースで判断していく必要があると考えています。今回の要綱案 については、「競売からの暴排」においては、残念ながら、「5年卒業基準」を採用し、それ以上の制約を課さないものとなっており、おそらくは、それ以上に巧妙に姿を隠している反社会的勢力を排除することころまでは射程に含まれていません。今後は、基準が明確になることで、その裏をかく反社会的勢力による買受けの横行や、一定期間経過後の転売等に注意していく必要がありそうです

また、法人における排除すべき対象の認定基準として、中間試案では「役員に1名でも暴力団員等が含まれていれば、暴力団がその法人を利用し得るものと考えられるため、現在、暴力団員等が役員である法人による買受けを制限する」とされており、本要綱案でも法人の役員を確認する運用となっています。この点については、それ自体全く異論ないものの、実態として、ここで定義されている「暴力団員等」(暴力団員と5年以内の元暴力団員)があからさまに役員に就任しているかについては、残念ながら、そのような法人はあまりないのではないかと思われます。やはり、このように基準が明確になることにより、今後、競売に参加する法人は、表面的には共生者等やその意を受けた第三者が役員として登記され、反社会的勢力が実質的に経営を支配したり、経営に関与している実態を確認することなく、手続きが進められてしまう可能性が高いことになります。

さらに、中間試案では、「宅地建物取引業者など、法令上、暴力団員等でないことが免許等の要件とされている者が最高価買受申出人であるような場合には、警察への照会を要しないこととする考え方」や、「例えば、過去の一定期間内に、他の競売事件で買受人となったことがある者については、その事件記録にある警察からの回答を再利用することとして、新たな照会を省略することが可能かどうかも、引き続き今後の検討課題となり得る」といった方向性が示されていましたが、本要綱案ではこのあたりの定めは特段ありません。中間試案でみられた考え方は、そもそもの排除すべき対象の定義の狭さからくる論理的帰結であり、反社会的勢力と一定の関係を有するような不動産事業者は確実に存在しており(形式的・表面的には暴力団員等に該当しない)、その点を考慮せずにチェックの対象外とすることは、問題がないとは言えません(もちろん、チェックしたとしても、暴力団員等の関与が「見えない」ようにすればすり抜けられますので、結局は「定義の狭さ」に起因する限界があると言えます)。また、「再利用によるチェックの省略」についても、やはり、その間に法人の実質的支配者等が変化してしまう可能性があること等をふまえれば、このような形で明文化することには問題があるように思われます。

以上のように検討してみると、「競売からの暴排」の規制が新設されることは歓迎されるべきこととはいえ、実質的に反社会的勢力を排除できるかとの視点からみれば、まだまだ不十分であると指摘せざるを得ません。今後、反社会的勢力の実態に即した、より実効性ある規制に向かっていくことを期待したいと思います。

新型コロナウイルスが猛威を振るう中、暴力団全体の動静が報じられる機会が激減していますが、不気味な静寂を見せているのは表面的なものであり、やなり水面下では不穏な動きがあるようです。週刊誌の情報(2020年3月21日文春オンライン)とはなりますが、今年1月から2月にかけて、弘道会内の複数の傘下組織から十数人分の大量の「破門状」や「除籍状」が通知されていたといいます。それによれば、「不祥事があれば破門、絶縁、除籍などは当然のことでよくあること。珍しいことではない」と言われるところ、今回は短期間で大量の処分者が弘道会内で出ていたことに警察当局も注目しているといいます。この大量破門について、ある暴力団幹部が「大量の処分者を出したということは、この処分者たちが半年後、1年後ぐらいにデカい仕事をするかもしれないということ。大きな仕事とはもちろん、神戸(山口組)側に対する事件を起こすということ」と指摘している点に注目したいと思います。警察庁組織犯罪対策部幹部も、「事件をやらせようとする者たちを事前に処分しておくことで、組織から切り離しておくという意図かもしれない。偽装破門ということだろう」との見方を示しているといい、筆者もまた同様に捉えています。さらに、「多くの処分者を出したのは、いずれ弘道会でも特殊詐欺事件で賠償請求訴訟を起こされた場合に、詐欺に関与していた組員たちは組織とは無関係と主張するためということも考えられる」といった見方も示されており、この点もよく考えられた動きであることを裏付けるものとして注目したいと思います。

また、工藤會を巡る動向では、北九州市の北橋健治市長が北九州市議会本会議で、工藤會の本部事務所が撤去されたことについて「市のイメージアップに大きく寄与し、市民の体感治安や安心感の向上につながる」と強調、事務所撤去について、市が2018年5月から検討していたことを明らかにしたことが注目されます。息の長い取り組みだったことが分かり、関係者の苦労も報われたのではないかと思われます。また、工藤會トップの総裁野村悟とナンバー2の会長田上不美夫の両被告が殺人罪などに問われている福岡地裁での一般人襲撃事件を巡る公判では、4つの事件のうち元福岡県警警部銃撃事件の証人尋問が終了しています。両被告が指示したとの証言は出なかったものの、事件の実行役らが受け取った現金の趣旨が焦点の一つになっていたところ、様々な証言が出た点が注目されます(例えば、実行役の元組員は「事件後に指示役の組幹部から現金50万円をもらい、事件(への関与)に対するお金と思った」と証言したほか、実行役を手助けした元組員2人も、「田中組」の若頭から指示を受け、事件に関わり「指示役から事件後に現金を受け取った」と述べています)。この事件では、これまでに実行役や送迎役ら5人が実刑判決を受けており、それらの判決では野村被告が意思決定し、田上被告、ナンバー3で理事長の菊地敬吾被告、指示役の組幹部の順に指揮命令があったと認定しており、今後の判断が注目されるところです。なお、本公判の中で、検察側証人として出廷した工藤會系組幹部が証言を拒んだため、裁判長が刑事訴訟法に基づく証言拒絶罪を適用し、その場で過料10万円の決定を言い渡すという場面もあったようです。報道(2020年3月17日付毎日新聞)によれば、証言予定だったのは、野村被告らの出身母体で同会系2次団体「田中組」ナンバー2で、被告は法廷で証言台に立ち、裁判長からうその証言はしないと宣誓するよう求められたものの、「しません」と拒否、裁判長から「宣誓する気はないんですか」と改めて促されても「ありません」と再度拒んだということです。被告は事前に「黙秘権がない場で話すのは嫌だ」と話していたともいいます。あらためて、暴力団トップが絡む指揮命令系統を巡る裁判の難しさを認識させられます。なお、一連の公判では、2013年の看護師刺傷事件の証人尋問も始まっています。野村被告が局部の増大手術とレーザー脱毛の施術を受けたクリニックの担当者だった看護師の女性が、福岡市博多区の歩道で頭や右腕などを刃物で刺されけがを負ったもので、事件に関わった元工藤會系組幹部の判決では、野村被告が看護師に不満を持っており、「(犯行は)報復や制裁として行われたとみざるを得ない」とされています。

その他、暴力団に関する報道から、いくつか紹介します。

  • 前回の本コラム(暴排トピックス2019年3月号)でも取り上げた老舗和菓子メーカー「赤福」グループの酒造会社「伊勢萬」が、指定暴力団の代紋を表示した焼酎を製造、販売していた問題で、三重県は、県内の特徴ある優れた産品を選定する「みえセレクション」から、「伊勢萬」の6商品を取り消したということです。報道によれば、県中小企業・サービス産業振興課により取り消されたのは焼酎「20度ステラハーフムーン香酸ゆず酎」など2013~17年に選定された焼酎、梅酒、エビせんべいなど6商品で、同社から「コンプライアンスに重大な問題があった」などとして辞退届があり、県が2月28日付で取り消したということです。
  • 東京都足立区は、区内にある六代目山口組系の組事務所について、東京地裁に申し立てていた使用禁止の仮処分が認められたと発表しています。報道によると、組事務所の使用を巡って自治体の申し立てによる仮処分を認めた決定は京都市に次いで2例目となるとのことです。決定は組事務所や連絡場所としての使用のほか、構成員の立ち入りも禁止されました。なお、本事務所を巡っては、1月17日未明にダンプカーが突っ込む事件が発生、松葉会系組員が逮捕されており、六代目山口組系列の組との縄張り争いが原因とみられています(なお、1月25日には台東区の松葉会本部事務所に火炎瓶のようなものが投げ込まれる事件も起きています)。
  • 拳銃と実弾を隠し持っていたとして、道仁会系の組幹部らが逮捕された事件で、福岡県警は、久留米市にある道仁会本家事務所を家宅捜索しましたが、最近では珍しいことに、久留米市の道仁会本家事務所では、家宅捜索に入ろうとする県警の捜査員を組員らが取り囲むなど物々しい雰囲気となったようです。
  • 瀬戸内海でナマコを密漁したとして、尾道海上保安部、福山東署などの合同捜査本部は、漁業法違反(無許可操業)などの疑いで福山市の漁業の容疑者ら男8人を逮捕しています。報道によれば、2018年の浅野組系組幹部らによる塩蔵ナマコの違法製造事件で、仕入れ先が密漁をしているとの情報があり調べていたものです。なお、この事件では、広島県食品衛生条例に基づく営業許可を保健所から受けずに、倉庫で塩蔵ナマコを加工製造した疑いで浅野組幹部らが逮捕されており、このグループは2,000万円超の収益を上げ、多くが暴力団関係者に流れていたとみられています。
  • 新型コロナウイルスが猛威を振るう中、高齢者や基礎疾患を持っている人が罹患した場合に重篤化することが判明していることもあり、高齢化が進む暴力団構成員らにとっても脅威となっているとの指摘もあります(また、刺青や覚せい剤で肝臓疾患を抱える者も多いとされ、重篤化の懸念を強める要因となっています)。また、それに加え、特定抗争指定暴力団への指定により、その行動を著しく制約されていることから、図らずも「在宅勤務」となってしまっている実態もあるようです。

次に、半グレを巡る最近の報道についても、以下紹介します。

  • 大阪府和泉市の旅館で売春させるために女性を勧誘し契約したとして、大阪府警生活安全特捜隊は、風俗店経営者ら男女5人を職業安定法違反(有害業務募集)などの疑いで逮捕しています。報道によれば、5人は容疑者をリーダーとして府内で活動する半グレのメンバーで、今年2月、20代の女性従業員に売春させる場所を提供したとして容疑者らメンバーの男女4人を売春防止法違反(場所提供)の疑いで逮捕、関係先から現金約2億6,000万円を押収していたもので、半グレが組織的に売春を行っていたものと疑われています。
  • 大阪府警は、以前から「半グレ」への取り締まりを強化しており、昨年は延べ約310人を検挙しています。この4月には、暴力団捜査を担う捜査4課内に十数人程度の専従班を設置して、取り締まりをさらに強化する姿勢を見せています。報道(2020年3月10日付日本経済新聞)によれば、大阪府内には約50の半グレのグループがあるとされ、例えば、2年前に、ミナミで集団暴行などを繰り返していた「アビス」のメンバー55人を検挙して解散に追い込むなどしたものの、残党とみられる人物らがその後再び犯行を重ねるようになるなど、その活動や組織が緩くアメーバ状であることが特徴であり、当局としては、摘発し続けるしかない状況となっています。さらに、同報道によれば、「大阪府警が2019年に摘発した半グレのメンバーは、グループ幹部を含む延べ約310人で、18年より約100人増えた。摘発人員を罪名ごとにみると、18年は傷害が最多の22%(45人)だったが、19年は8%(24人)に減少。代わって最多となったのが特殊詐欺で、18年の3%(7人)から19年は13%(40人)となった。貴金属店などを狙った侵入盗や大麻など違法薬物の売買も増えている。府警幹部は「17年以降、飲食店などでぼったくりの手口で高額代金を請求し、支払いを断る客に暴行して現金を奪う犯行を集中的に摘発した。より捕まりにくい特殊詐欺などにシフトしているのではないか」と分析」されており、専従班の必要性を感じさせます。
  • 兵庫県警は3月に約2,200人規模の定期異動を行い、とりわけ六代目山口組と神戸山口組との対立抗争を暴圧すること、「半グレ」と呼ばれる準暴力団の取り締まりを強化することなどを目的として、暴力団対策課の捜査員を増員したということです。
  • 報道(2020年3月30日付沖縄タイムス)によれば、沖縄県警は4月1日から、「半グレ」など準暴力団対策や、ドメスティックバイオレンス(DV)・児童虐待対応などを柱として組織改編を行ったということです。準暴力団対策としては、宮古島署と八重山署に組織犯罪対策課を新たに設置しています。本コラムでもたびたび指摘しているとおり、半グレなどが歓楽街を中心に活動を広げている実態があり、実態把握や取り締まりを強化する必要に迫られていました。

最後に、本コラムでも重大な関心をもって取り上げてきている「暴力団離脱支援」について、(本コラムでも以前にも紹介した)廣末登氏の最新の論考を、引用・抜粋して紹介したいと思います(2020年3月10日/4月3日付JBpress)。100%同意できる内容とは言えないものの、「暴力団の終焉」が始まっていること、「暴力団離脱支援」の困難さ、反社会的勢力の捉え方を巡る議論において大きな問題を提起している内容だと思われます。

  • 就職率約3%-この数字は、2010年度から2018年度にかけて、暴力団離脱者のうち就職できた人の割合だ(数字は、警察や暴追センター等で構成される社会復帰対策協議会を通じて暴力団を離脱した者と、就労人員の推移)。暴排条例が全国で施行された2011年度からの数年間は、1%未満だったから、若干、改善しつつあるものの、依然として低い数字であることは否めない。
  • 20年も前、昭和に始めた極道稼業から足を洗って郷里で頑張っている町議が、令和の時代に「桜を見る会」に参加したといって、「反社会的人物を招待していた」と大騒ぎするのが、日本社会の悲しい現実だ(この町議は、各自治体の暴排条例が定める「元暴5年条項」の縛りを十二分にクリアしている)。反社という負のラベルは、いつになったら剥してもらえるのだろうか。
  • 暴力団離脱者(と、その家族)は「反社」と社会からカテゴライズされ、社会権すら極端に制限されている現状がある。だからと言って、暴力団員歴を隠して、履歴書や申請書に記載しないと、虚偽記載となる可能性がある。たとえば、暴力団員を同伴しないという誓約の下で会員となったゴルフ場会員が、暴力団員を同伴して施設利用した事例について、最高裁は詐欺罪を認めている(最判 H26年3月28日,刑集第68巻3号646頁)。
  • 暴排条例が全国で施行された直後の2012年5月18日、参議院において、又市征治議員が、平田健二議長に対し、「暴力団員による不当な行為の防止等の対策の在り方に関する質問主意書」を提出した。その中では、「暴力団排除条例による取締りに加えて、本改正法案が重罰をもって様々な社会生活場面からの暴力団及び暴力団員の事実上の排除を進めることは、かえってこれらの団体や者たちを追い込み、暴力犯罪をエスカレートさせかねないのではないか。暴力団を脱退した者が社会復帰して正常な市民生活を送ることができるよう受け皿を形成するため、相談や雇用対策等、きめ細やかな対策を講じるべきと考える」(第180回国会〈常会〉質問主意書第116号)として、又市議員は、暴力団離脱者の社会復帰における社会的「受け皿」の形成の必要性に言及している。しかしながら、その社会的受け皿は、暴排条例施行後10年目を迎える現在も、十分に形成されていないという現実がある。
  • 「かえってこれらの団体や者たちを追い込み、暴力犯罪をエスカレートさせかねないのではないか」という又一議員の指摘通り、犯罪のプロティアン化(暴力団時代に培った犯罪的スキルやネットワークを駆使して、新たな犯罪に従事すること)を実践する元暴アウトローの犯罪の増加が懸念される事態が生じている。元暴アウトローの犯罪の増加については、毎日新聞の紙面における次のような記事に見ることができる。<2015年に離脱した元組員1265人のうち、その後の2年間に事件を起こし検挙されたのは325人。1000人当たり一年間に5人で、全刑法犯の検挙率2.3人と比べると50倍以上になる。>(毎日新聞2018年12月23日朝刊)
  • 日々を生きるために、暴力団離脱者とて稼がなくてはいけない。とりわけ、家族を養う必要がある暴力団離脱者は必死である。合法的に稼げなければ、非合法的に稼がざるを得ない。彼らが組織に属していた時には「掟」という鎖があったし、任侠界のタブー(麻薬・強盗・泥棒、特殊詐欺などはご法度など)が存在した。しかし、離脱者は、そうした掟にもタブーにも縛られず、法律をものともしないので、金になることなら、どのような悪事にでも手を染めるから、元暴アウトロー(掟に縛られぬ存在)が誕生する。この一事をみても、暴排条例の制定は、社会に大きな変化をもたらし、裏社会に危険な歪みを生んでいる可能性を否めない。もしかしたら、わが国の組織犯罪の性質を一変させ、より悪いものへと変質させている可能性がある
  • 暴力団構成員数が過去最低―暴排の成果だと、素直に喜べない現状がある。暴力団構成員の 減少は、チラシの増刷によるものではないかという疑念が生じる。チラシとは破門状や絶縁状など「処分状」の隠語であり、処分された本人にとって不利益なものである。「状が回った」となれば、その世界では食えなくなるシロモノだが、暴排条例施行以降は、少し趣が変わってきているようだ。一言でいうと、暴力団マフィア化の布石である可能性が否めない。いまの世の中は、暴力団の代紋は邪魔になる。名刺も切れないなら、代紋は組員の精神的支柱以外の意味を持たない。
  • 筆者が見る限り、社会復帰できている人は、家庭がある、地域社会に支えてくれる人が居る、あるいは、慣習的な社会に居場所などを持ちえた人であった。社会的に孤立した人、職場などのいじめに耐えられなかった人は、更生に至らず、再犯で逮捕されるか、元の組織に戻っている。
  • 元暴アウトローは自ら組織の「掟」という鎖を外したが、暴排によりシノギが先細りした暴力団は、あえて組員の鎖を外し、「掟」の外に出向させているおそれがある。暴力団でカネが無いのは、首が無いのと同義であるから、追い詰められた組織は、知恵を絞ってシノギを考えなくては生き残れないのだ。
  • まさに裏社会カオス時代の到来である。病理的に表現すると、ウイルス同士がくっつき、突然変異を始めたような塩梅である。暴力団が半グレになり、暴力団離脱者は元暴アウトローになり、半グレは暴力団のシノギを脅かす。一体全体、どうなっているのか詳しいことは誰にも分るまい。しかし、これは事実である。注意してその手の事件記事を見ていないと気が付かないが、確かに、暴力団、暴力団離脱者(元暴)、半グレの犯罪―それぞれの境界線が不明瞭になってきている。
  • 世の中が不景気になれば、ミカジメは徴収できず、ただでさえ先細りしたシノギがますます厳しくなるだろう。いま、未曽有の天災により、世界に誇る日本の安心・安全な社会が本物だったのか、鼎の軽重を問われる事態に直面している。

(2)薬物・銃器情勢

さて、本レポートは暴力団情勢だけでなく、薬物・銃器情勢、来日外国人犯罪情勢もあわせて収録されています。

まず、薬物事犯の状況ですが、薬物事犯(覚せい剤事犯、大麻事犯、麻薬及び向精神薬事犯及びあへん事犯をいう。以下同じ)の検挙人員は、近年横ばいで推移している中、13,364人(前年13,862人)と前年からわずかに減少しています。このうち暴力団構成員等の検挙人員は4,576人で、薬物事犯の検挙人員の34.2%を占めていますが、検挙人員・薬物事犯に占める割合とも減少傾向にあります。また、外国人の検挙人員は近年増加傾向にあり、1,163人(1,018人)と前年からわずかに増加し、3年連続で1,000人を超えており、薬物事犯の検挙人員の8.7%を占めています。覚せい剤事犯の検挙人員は、薬物事犯の検挙人員の64.2%を占め、その割合は平成24年以降減少している一方で、大麻事犯の検挙人員は、薬物事犯の検挙人員の32.3%を占め、その割合は平成25年以降増加していることも最近の特徴です。また、薬物の押収状況については、薬物種類別でみると、覚せい剤が2,293.1キログラムと大幅に増加して過去最多となるとともに、4年連続で1,000キログラムを超える結果となりました。また、乾燥大麻は350.2キログラム、大麻樹脂は12.8キログラム、大麻草は8,074本といずれも前年から増加しています。なお、MDMAの押収量が大幅に増加したのは、(本コラムでも紹介したとおり)大量密輸入事件を検挙したこと等によるものです。

さて、覚せい剤事犯の検挙人員は、第三次覚せい剤乱用期のピークである平成9年以降、長期的にみて減少傾向にあり、令和元年も8,584人と減少し、前年に引き続き1万人を下回りました。また、覚せい剤事犯の検挙人員のうち、暴力団構成員等は3,738人と検挙人員の43.5%、外国人は761人と検挙人員の8.9%を占めています。令和元年の人口10万人当たりの検挙人員は、20歳未満が1.4人、20歳代が8.3人、30歳代が15.3人、40歳代が15.4人、50歳以上が4.8人であり、最も多い年齢層は40歳代、次いで30歳代となっているほか、違反態様別でみると、使用事犯が4,751人、所持事犯が2,651人、譲渡事犯が419人、譲受事犯が123人、密輸入事犯が333人となっており、使用事犯及び所持事犯で検挙人員の86.2%を占めています。また、(繰り返しとなりますが)覚せい剤事犯の検挙人員は、薬物事犯の検挙人員の64.2%を占めており、依然として我が国の薬物対策における最重要課題となっていることが分かります。その主な特徴としては、暴力団構成員等が検挙人員の4割以上を占めていることや、30歳代及び40歳代の人口10万人当たりの検挙人員がそれぞれ他の年齢層に比べて多いことが挙げられるほか、再犯者率が他の薬物に比べて高いことから、覚せい剤がとりわけ強い依存性を有しており、一旦乱用が開始されてしまうと継続的な乱用に陥る傾向があることがうかがわれる点だといえます。

大麻事犯の検挙人員は、平成26年以降増加が続き、令和元年も4,321人と過去最多となった前年を大幅に上回る結果となりました。また、大麻事犯の検挙人員のうち、暴力団構成員等は780人と検挙人員の18.1%、外国人は279人と検挙人員の6.5%を占めています。人口10万人当たりの検挙人員でみると、近年、50歳以上においては、横ばいで推移している一方、その他の年齢層においては増加傾向にあり、特に若年層による増加が顕著であり、令和元年の人口10万人当たりの検挙人員は、20歳未満が8.7人、20歳代が15.5人、30歳代が7.3人、40歳代が2.7人、50歳以上が0.4人であり、最も多い年齢層は20歳代、次いで20歳未満となっています。違反態様別でみると、所持事犯が3,531人、譲渡事犯が249人、譲受事犯が186人、密輸入事犯が80人、栽培事犯が164人となっており、所持事犯が検挙人員の81.7%を占めているほか、栽培事犯の検挙人員が近年増加傾向にあることも特徴的です。また、大麻事犯の検挙人員は、薬物事犯の検挙人員の32.3%を占めており、その割合は覚せい剤事犯に次いで多くなっています。その主な特徴としては、初犯者率が高いことのほか、特に20歳未満、20歳代の人口10万人当たりの検挙人員がそれぞれ大幅に増加しており、若年層による乱用傾向が増大していることが挙げられます。なお、本レポートでは、「大麻乱用者の実態に関する調査結果」という特集が組まれており、大変興味深い内容となっています。

  • 警察庁では、大麻乱用者の実態を把握するため、令和元年10月1日から同年11月30日までの間に大麻取締法違反で検挙された者のうち、違反態様が単純所持のものについて、都道府県警察の捜査過程において明らかとなった事項を調査し、631人分のデータを集約した。これを、平成30年10月1日から同年11月30日までの間に実施した同様の調査(716人分)と比較した結果は次のとおりであった
  • 対象者が初めて大麻を使用した年齢は、「20歳未満」が最多であり、最年少は10歳以下(1人)、最高齢は60歳以上(1人)であった。初回使用年齢層の構成比の傾向は、30年調査と大きな変化は認められなかった
  • 大麻を初めて使用した経緯は、「誘われて」が最多であり、初めて使用した年齢が若いほど、誘われて使用する比率は高く、その傾向は30年調査と同様である
  • また、その時の動機については、「好奇心・興味本位」が最多であり、初めて使用した年齢が若いほど「その場の雰囲気」の割合が高く、「誘いを断れなかった」との回答もあった。30年調査と比較すると、初めて使用した年齢が30歳代の対象者の動機は、「ストレス発散・現実逃避」の割合が低くなり、20歳未満・20歳代の傾向に近くなった
  • 大麻に対する危険(有害)性の認識は「なし(全くない・あまりない。以下同じ)」が9%であり、覚せい剤の危険(有害)性と比較して大麻の危険(有害)性の認識は低い。また、30年調査と比較すると、「なし」の割合が2.8ポイント増加した
  • 犯行時の年齢層別で大麻に対する最も危険(有害)性の認識が低いのは20歳代であり、30年調査と比較すると、「なし」の割合が3ポイント増加した
  • 大麻に対する危険(有害)性を軽視する理由は、「大麻が合法な国がある」が最多である。また、「依存性はない(弱い)」といった誤った認識を持つ者も多い。また、大麻に対する危険(有害)性を軽視している情報の多くは、「友人・知人」や「インターネット」から入手している状況が確認できた

この実態調査からは、本コラムでもたびたび指摘しているとおり、若年層に対する「正しい知識」の周知徹底の重要さが浮き彫りになっています。本レポートでも、「若年層は友人・知人等から誘われるなど、周囲の環境に流されて大麻に手を出す傾向がうかがわれるほか、検挙被疑者については、大麻に対する危険(有害)性の認識が低下していることが判明した。青少年(18歳未満)は大麻が脳に与える影響を受けやすく、学習や記憶、注意力等の認知機能により深刻な影響をもたらし、精神的症状の発現リスクを高めるほか、大麻には依存性があり大麻の使用を制御できなくなることなど、大麻の危険(有害)性を正しく伝え、大麻を勧められても断る勇気を持つように乱用防止の広報啓発活動を一層強化する必要がある」と指摘していますが、正にその通りだと思われます。

次に、薬物密輸入事犯の検挙件数については、2年連続で300件台であったところ、令和元年は463件と大幅に増加しました。薬物事犯別でみると、覚せい剤事犯は273件と前年(127件)から大幅に増加し、大麻事犯は89件(75件)と増加、麻薬及び向精神薬事犯は101件(122件)と減少しています。密輸入事犯における覚せい剤の押収量は609.5キログラムと、前年(784.4キロ)から増加して高い水準にあるほか、乾燥大麻は120.3キロ(120.6キロ)と前年同様、100キログラムを超え、大麻樹脂は10.5キロ(0.2キロ)と大きく増加しています。さらに、覚せい剤密輸入事犯の検挙人員については、暴力団構成員等は36人(32人)と微増、外国人は246人(103人)と大幅に増加しています。国籍・地域別でみると、日本が87人と最も多く、次いでタイが65人、マレーシアが30人、アメリカが19人などとなっているほか、態様別でみると、航空機を利用した覚せい剤の携帯密輸入事犯の検挙件数が189件と平成8年以降で最多となり、密輸入事犯全体の69.2%を占める結果となっています。具体的な手口としては、二重底にしたスーツケースや着衣・下着の内部に隠匿したり、身体に巻きつけたりして、数百グラムから数キログラムを密輸するものがありました(いわゆる「ショットガン方式」が増加している点は本コラムでも紹介してきたとおりです)。このほか、国際宅配便が60件、郵便物が18件、事業用貨物が3件となっています。仕出国・地域別でみると、タイが56件(構成比率20.5%)と最も多く、次いでマレーシアが37件(同13.6%)、以下、アメリカが35件(同12.8%)、カナダが34件(同12.5%)、トルコが14件(同5.1%)となっています。以上より、大きな傾向としては、覚せい剤密輸入事犯の検挙件数は200件を超えて過去最多となり、航空機利用の携帯密輸が密輸入事犯全体の検挙件数の69.2%を占めていること、また、押収量についても、海上貨物の利用による大量密輸入事犯の検挙により、依然として高水準にあることが指摘できます。そして、こうした状況の背景には、我が国に根強い薬物需要が存在していることのほか、国際的なネットワークを有する薬物犯罪組織が、アジア・太平洋地域において覚せい剤の取引を活発化させていることがあるものと推認されています。なお、大麻密輸入事犯の検挙件数は89件と、前年から増加、態様別でみると、主なものとしては、郵便物が39件、航空機利用の携帯密輸が25件、国際宅配便が23件、事業用貨物が1件となっています。覚せい剤事犯と比べると、航空機利用の携帯密輸によるものの割合は低く、郵便物や国際宅配便を利用したものの占める割合は高くなっていることが分かります。仕出国・地域別でみると、アメリカが38件と最も多く、次いでカナダが15件、オランダ及びフランスが各5件などとなっています。

なお、本レポートでは、「覚せい剤密輸入事犯の現状」と題する特集が組まれており、以下のような指摘があります。

  • 覚せい剤密輸入事犯の検挙件数は、273件と前年より146件増加し、過去最多となった。そのうち最も多い態様は航空機を利用した携帯密輸で、次いで国際宅配便であるが、令和元年はこれら2つの態様が前年より急増した
  • 洋上取引の検挙は年に1、2事件程度であるが、1事件で概ね100キログラムから1,000キログラムと大量の覚せい剤を押収している。また、洋上取引は地理的要因からか、そのほとんどに中国系薬物犯罪組織が関与しているが、検挙場所には特段の傾向は認められず、全国どこの港が利用されてもおかしくない状況にある
  • 航空機利用の携帯密輸は189件と過去最多であり、仕出国・地域別の検挙件数は、タイ、マレーシア等の東南アジアからの仕出しが半数以上を占めている。過去5年間の推移をみると、タイは平成28年を除き上位に入っており、マレーシアも平成30年以降増加している一方、中国、香港、台湾は、減少傾向にある。検挙人員を国籍・地域別にみても、タイ人が64人と最も多いが、タイ人については女性が52人と他国籍・地域の被疑者に比べ非常に多いことが特徴的である
  • 国際宅配便による密輸は、60件と前年より39件増加した。仕出国・地域別の検挙件数は、アメリカ・カナダが突出して多い。また、過去5年間の推移をみると、アメリカは常に上位に入っており、増加傾向にある。パソコンの内部やジーンズのウエスト部分等の様々な物品に覚せい剤を隠匿して密輸入したり、民泊を届け先にして覚せい剤を密輸入するといった巧妙な事例がみられる
  • 薬物犯罪組織は密輸ルートや密輸態様を変遷しつつ、我が国における水際での摘発を免れようとする動きがうかがわれることから、関係機関との連携を一層強化し、水際対策を徹底する必要がある

薬物の密売関連事犯(営利犯のうち所持、譲渡及び譲受をいう。以下同じ)の検挙人員については588人であり、このうち、暴力団構成員等は312人(構成比率53.1%)、外国人は60人(同10.2%)となっています。そのうち、覚せい剤の密売関連事犯の検挙人員は372人であり、このうち暴力団構成員等は240人(同64.5%)と、依然として覚せい剤の密売関連事犯に暴力団が深く関与している状況が続いていることが分かります。また、外国人は43人(同11.6%)となっています。大麻の密売関連事犯の検挙人員は199人であり、このうち暴力団構成員等が63人(同31.7%)と、その割合は覚せい剤事犯に比べ低いものの、大麻の密売関連事犯にも暴力団の関与が認められる状況にあり注意が必要です。また、外国人は14人(同7.0%)となっています。なお、暴力団構成員等による刑法犯及び特別法犯検挙人員は14,281人であり、このうち、薬物事犯検挙人員は4,576人(構成比率32.0%)と最も多くなっており、暴力団による不法行為に占める薬物事犯の割合が高い点も特徴的です。覚せい剤事犯について、暴力団構成員等の検挙人員を組織別にみると、六代目山口組、神戸山口組、任侠山口組(絆會)、住吉会及び稲川会の構成員等は2,855人と、これらで覚せい剤事犯に係る暴力団構成員等の検挙人員全体の76.4%を占めているほか、同様に大麻事犯については、暴力団構成員等の検挙人員を組織別にみると、六代目山口組、神戸山口組、任侠山口組(絆會)、住吉会及び稲川会の構成員等は604人と、これらで大麻事犯に係る暴力団構成員等の検挙人員全体の77.4%を占めています。さらに、暴力団構成員等による覚せい剤事犯の検挙人員を主な違反態様別にみると、使用事犯が2,117人、所持事犯が1,164人、譲渡事犯が238人、譲受事犯が36人、密輸入事犯が36人となっているほか、暴力団構成員等による覚せい剤事犯の営利犯の検挙人員は276人と、全営利犯検挙人員(682人)の40.5%を占めており、覚せい剤の密輸・密売に暴力団が深く関与している状況が続いていることも分かります。また、暴力団構成員等による大麻事犯の営利犯の検挙人員は99人と、全営利犯検挙人員(305人)の32.5%を占めており、大麻の密売等にも暴力団が関与している状況が続いている点にも注意が必要です。

一方、外国人による覚せい剤事犯の営利犯の検挙人員は272人と、覚せい剤事犯の全営利犯検挙人員(682人)の39.9%を占めており、このうち密輸入事犯は229人(構成比率84.2%)となっています。国籍・地域別でみると、タイが62人と最も多く、このうち密輸入事犯が61人、密売関連事犯が1人となっており、次いでマレーシアが29人で、全て密輸入事犯となっています。以下、香港等が21人で、このうち密輸入事犯が15人、密売関連事犯が6人、イランが15人で、このうち密輸入事犯が1人、密売関連事犯が14人、アメリカも15人で、全て密輸入事犯となっています。また、外国人による大麻事犯の営利犯の検挙人員は31人と、大麻事犯の全営利犯検挙人員(305人)の10.2%を占めること、国籍・地域別でみると、ブラジルが8人と最も多く、このうち密売関連事犯が5人、栽培事犯が3人となっており、次いでカナダが5人で、このうち栽培事犯が3人、密輸入事犯が2人となっていること、外国人による薬物事犯を国籍・地域別でみると、ブラジルが196人と最も多く、次いで韓国・朝鮮が179人、フィリピンが110人、以下、アメリカが100人、タイが99人、ベトナムが66人、中国が47人、ペルーが37人、マレーシアが36人、香港等が30人となっていること、とりわけ覚せい剤事犯では、韓国・朝鮮が158人と最も多く、次いでブラジルが111人、以下、フィリピンが90人、タイが86人、中国が38人、ベトナムが36人、マレーシアが34人、アメリカが32人、香港等が29人、イランが19人となっていること、大麻事犯では、ブラジルが79人と最も多く、次いでアメリカが47人、ペルーが20人となっていることなどが分かります。

危険ドラッグ事犯の検挙状況は175事件、182人と前年に引き続き大幅に減少しています。適用法令別でみると、指定薬物に係る医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下「医薬品医療機器法」という)違反、麻薬及び向精神薬取締法違反は、いずれも前年に引き続き減少しています。また、危険ドラッグ事犯のうち、暴力団構成員等による事犯は16事件、16人、外国人による事犯は27事件、27人、少年による事犯は1事件、1人となっています。さらに、危険ドラッグ事犯のうち、危険ドラッグ乱用者の検挙人員は172人(構成比率94.5%)となっており、年齢層別の構成比率をみると、20歳代の占める割合は横ばいであり、30歳代の占める割合は減少傾向、40歳代及び50歳以上の占める割合が増加傾向となっています。また、薬物経験別でみると、薬物犯罪の初犯者が98人(構成比率57.0%)、薬物犯罪の再犯者が74人(同43.0%)、入手先別でみると、インターネットを利用して危険ドラッグを入手した者の割合が36.6%と最も高い結果となっています。危険ドラッグ密輸入事犯の検挙状況は33事件、35人と減少しており、仕出国・地域別でみると、中国及びオランダが7事件と最も多く、次いでフランスが5事件となっています。

(3)銃器情勢

令和元年における銃器情勢の特徴としては、「銃器発砲事件数は13件と過去最少となった前年から増加した」こと、「拳銃押収丁数は、長期的に減少傾向にあるところ、令和元年は401丁で、このうち暴力団からの押収丁数は77丁と、いずれも前年から増加した」ことが挙げられます。依然として平穏な市民生活に対する重大な脅威となる暴力団の対立抗争に起因するものをはじめ、銃器発砲事件が発生しているほか、暴力団の組織防衛の強化による情報収集の困難化や、拳銃の隠匿方法の巧妙化がみられることから、暴力団の組織的管理に係る拳銃の摘発に重点を置いた取締りを強化することとしているということです。

(4)来日外国人犯罪情勢

来日外国人犯罪の総検挙(刑法犯及び特別法犯の検挙をいう。以下同じ)状況については、近年、総検挙件数・人員ともほぼ横ばい状態で推移しているところ、令和元年は、前年に比べ、特別法犯の検挙件数・人員が共に増加していることが特徴的です。刑法犯検挙(日本人等の検挙を含む)に占める来日外国人犯罪の割合は、検挙件数が3.1%、検挙人員が2.9%となっているほか、総検挙状況を国籍等別にみると、総検挙、刑法犯、特別法犯のいずれもベトナム及び中国の2か国が高い割合を占めている点も大きな特徴となっています。さらに、刑法犯検挙状況を包括罪種別にみると、検挙件数・人員とも、凶悪犯、窃盗犯及び風俗犯が減少しており、刑法犯の検挙全体に占める窃盗犯の割合は、検挙件数が57.0%、検挙人員が45.4%と、いずれも前年より減少したものの、依然として最も高い状態が続いています。また、特別法犯検挙状況を違反法令別にみると、入管法違反、銃刀法違反及び薬物事犯の検挙件数・人員が増加しているようです。特に、特別法犯の検挙全体に占める入管法違反の割合は、検挙件数が72.7%、検挙人員が70.2%と、いずれも前年より増加し、また、最も高い状態が続いています。総検挙人員を正規滞在・不法滞在別にみると、令和元年中は、正規滞在の割合が全体の65.8%、不法滞在の割合が34.2%となっており、平成27年からは不法滞在の割合が上昇傾向にあります。また、総検挙人員の在留資格別の内訳(構成比率)は「短期滞在」20.9%「留学」18.2%、「技能実習」18.0%、「定住者」11.1%、「日本人の配偶者等」8.4%となっています(なお、平成31年4月に創設された在留資格「特定技能」を有する者の検挙はなかったということです)。

また、本レポートでは、「留学生・技能実習生の検挙状況」という特集が組まれており、以下が指摘されています。

  • 留学生や技能実習生の失踪、不法残留等が社会問題となっている現状を踏まえ、検挙された外国人のうち留学又は技能実習の在留資格を有する者に着目して分析した。その結果、ベトナム人の留学生や技能実習生について、不法残留で検挙された人員が右肩上がりで増加していることが明らかになった。不法残留者は、その多くが不法就労に従事しているとみられることから、引き続き、動向を注視していく必要がある
  • 過去5年の留学の総検挙人員はわずかな増減はあるものの、ほぼ横ばい傾向で推移しており、令和元年は前年比で97人(4%)減少している
  • 留学の検挙人員を国籍別にみると、令和元年はベトナムが最も多く、次いで中国、ネパールとなっている
  • 検挙人員が最多のベトナム人留学生について、包括罪種別・違反法令別にみると、入管法違反が最も多く、入管法違反の中では不法残留が最も多くなっており、平成27年のベトナム人留学生の検挙人員に占める不法残留の検挙人員の割合が9%のところ、令和元年は37.7%と25.8ポイント上昇し、不法残留の検挙人員は5年間で296人(224.2%)増加している。また、偽造在留カード所持等の検挙人員については、ベトナム人留学生の検挙人員に占める割合は必ずしも高くないものの、5年間で8倍に増加している
  • 過去5年の技能実習の総検挙人員は増加傾向で推移しており、令和元年は前年比で310人(3%)増加している
  • 技能実習の検挙人員を国籍別にみると、令和元年はベトナムが最も多く、次いで中国、インドネシアとなっている
  • 検挙人員が最多のベトナム人技能実習生について、包括罪種別・違反法令別にみると、留学と同様、入管法違反が最も多く、入管法違反の中では不法残留が最も多くなっており、平成27年のベトナム人技能実習生の検挙人員に占める不法残留の検挙人員は2%のところ、令和元年は50.3%と26.1ポイント上昇し、不法残留の検挙人員は5年間で625人(651.0%)増加している。また、偽造在留カード所持等の検挙人員については、ベトナム人技能実習生の検挙人員に占める割合は必ずしも高くないものの、5年間で約8.7倍に増加している

来日外国人犯罪について、刑法犯検挙状況を包括罪種別にみると、近年、検挙件数・人員とも、ほぼ横ばい状態で推移しているところ、令和元年は、前年に比べ、粗暴犯は検挙件数・人員ともわずかに増加している一方、凶悪犯、窃盗犯及び風俗犯は検挙件数・人員とも減少している点がポイントとなります。また、令和元年中に検挙した来日外国人による財産犯の被害総額は約20億円に上り、このうち約11億円(構成比率55.1%)が窃盗犯被害で、約8億8,000万円(同44.2%)が知能犯被害によるものだといいます。窃盗犯の手口別では、侵入窃盗被害が約4億2,000万円(同21.1%)、乗り物盗被害が約2億6,000万円(同13.2%)となっているほか、知能犯の罪種別では、詐欺被害が約8億7,000万円(同43.7%)となっています。国籍等別の刑法犯検挙状況を包括罪種等別にみると、凶悪犯はベトナム及び中国、粗暴犯及び知能犯は中国、窃盗犯はベトナムが多くを占めていること、罪種等別の刑法犯検挙件数を国籍等別にみると、強盗及び窃盗はベトナム及び中国が高い割合を占めていることが分かります。さらに、窃盗を手口別にみると、侵入窃盗はベトナム、中国及びブラジル、自動車盗はブラジル、スリランカ及びロシア、万引きはベトナム及び中国が高い割合を占めている点や、知能犯を罪種別にみると、詐欺は中国及びブラジル、支払用カード偽造は中国及びマレーシアが高い割合を占めている点は、大変興味深い傾向であるといえます。また、刑法犯検挙人員を正規滞在・不法滞在別にみると、過去10年間、正規滞在の割合が9割以上を占め、ほぼ横ばい状態で推移していること、刑法犯検挙件数に占める共犯事件の割合を日本人・来日外国人別にみると日本人は10.3%、来日外国人は31.5%と日本人の約3.1倍となっていること、来日外国人による共犯事件を形態別にみると、2人組は13.7%、3人組は10.2%、4人組以上は7.5%となっていること、罪種等別にみると、窃盗犯のうち、住宅対象の侵入窃盗では、日本人は16.4%、来日外国人は78.0%と日本人の約4.8倍となっていることなどが特徴として指摘できます。

特別法犯検挙状況については、近年、検挙件数・人員とも増加傾向が継続しており、これを違反法令別にみると、要因として、入管法違反の増加が挙げられます。国籍等別の特別法犯検挙状況を違反法令別にみると、検挙件数・人員とも、ベトナムによる入管法違反が大きく増加している一方、中国による入管法違反は減少していること、特別法犯検挙人員を正規滞在・不法滞在別にみると、平成29年に不法滞在の割合が正規滞在の割合を上回って以降、不法滞在の割合が正規滞在の割合を上回っていることなども特徴的です。さらに、入管法違反の検挙状況を違反態様別にみると、過去10年間、不法残留の検挙件数・人員が大きな割合を占めており、検挙件数は平成25年から、検挙人員は平成26年からそれぞれ増加しています。とりわけベトナム人による犯罪の検挙は、来日外国人全体の総検挙件数の35.0%、総検挙人員の28.9%(刑法犯については検挙件数の33.0%、検挙人員の22.4%)を占め、総検挙件数・人員ともに最も多くなっています。さらに、来日外国人全体の刑法犯検挙件数に占めるベトナムの割合を包括罪種等別にみると、万引きが66.1%、侵入窃盗が25.9%等となっています。また、ベトナム人の在留者は、近年「留学」や「技能実習」の在留資格で入国する者が増加しており、一部の素行不良者がSNS等を介して犯罪組織を形成するなどしているといいます。ベトナム人による犯罪は、刑法犯では窃盗犯が多数を占める状況が一貫して続いており、万引きの犯行形態としては、SNS等を介して自国にいる指示役からの指示を受け、数人のグループで、見張り役、実行役、商品搬出役等を分担して、大型ドラッグストア、大型スーパー等に車両で乗り付け、ベトナムで人気の高い日本製の化粧品等、大量の商品を万引きし、窃取した商品を海外に輸出するなど、高い組織性、計画性が認められる点が大きな特徴であることは、本コラムでも以前から指摘しているとおりです。

中国人による犯罪の検挙は来日外国人全体の総検挙件数の26.0% 総検挙人員の25.3% 刑法犯については検挙件数の25.4%、検挙人員の26.1%)を占め、総検挙件数・人員ともにベトナムに次いで多くなっています。中国人犯罪組織は、地縁、血縁等を利用したり、稼働先の同僚等を誘い込むなどしてグループを形成する場合が多いといいます。また、中国残留邦人の子弟らを中心に構成されるチャイニーズドラゴン等の組織も存在することや、中国人の在留者は「技能実習」、「留学」等の在留資格で入国する者が多いものの、金銭的に困窮し、必要な資金調達のため、実習先から失踪する者や留学先の学校等を中途退学する者もおり、その後、不法就労や不法滞在を続けるうちに、その他の犯罪に加担する者も少なくないといいます。過去に多くみられたピッキング等の開錠用具を使用した侵入窃盗や侵入強盗・緊縛強盗などの凶悪犯が減少する一方、近年は、精巧な偽造クレジットカードや不正に入手した他人名義のモバイル決済システムの情報を利用して大量の商品をだまし取る犯罪がみられています。このほか、中国は、偽装結婚、旅券・在留カード等偽造などの犯罪インフラ事犯の検挙が比較的多いこと、中国人による犯罪では、スマートフォンアプリ等を通信手段として使用している場合が多く、犯罪の匿名性、広域性を強めていることなどが特徴として挙げられます。

マレーシア人による刑法犯の検挙件数は188件(前年比176件(48.4%)減少、検挙人員は71人(同26人(26.8%)減少)となっており、検挙件数・人員とも減少しています。減少している主な要因としては、詐欺の検挙件数が83件(同88件(51.5%)減少)、検挙人員が41人(同14人(25.5%)減少)となっており、また、支払用カード偽造の検挙件数が87件(同93件(51.7%)減少、検挙人員が14人(同17人(54.8%)減少)となっていることが挙げられます。マレーシア人による犯罪は、来日外国人全体に占める割合は高くはないものの、自国の犯罪組織から指示され「短期滞在」の在留資格で来日し、日本国内の百貨店等において、偽造クレジット、カードを使用してバッグ等高級ブランド品をだまし取っていた事例が依然としてみられることが特徴的です。

最後に「犯罪インフラ」の状況ですが、そもそも「犯罪インフラ」とは、犯罪を助長し、又は容易にする基盤のことをいい、外国人に係る犯罪インフラ事犯には、不法就労助長、旅券・在留カード偽造、偽造結婚、地下銀行、偽装認知(不法滞在等の外国人女性が、外国人男性との間に出生した子等に日本国籍を取得させるとともに、自らも長期の在留資格を取得する目的で、市区町村に日本人男性を父親とする内容虚偽の認知届等を提出することをいい、その行為は、電磁的公正証書原本不実記録・同供用罪等に当たります)のほか、携帯電話不正取得、偽造在留カード所持等が挙げられます。不法就労助長及び偽装結婚には、相当数の日本人や永住者等の定着居住者が深く関わっており、不法滞在者等を利用して利益を得る構図がみられる点も特徴的です。この犯罪インフラ事犯の検挙状況をみると、不法就労助長は、昨今の人手不足を背景とし、就労資格のない外国人を雇い入れるなどの事例がみられ、検挙件数の僅かな増減はあるものの、おおむね360件から400件の間で推移しています。旅券・在留カード等偽造は、就労可能な在留資格を偽装するために利用されており、平成28年以降、増加傾向で推移しています。偽装結婚は、日本国内における継続的な就労等を目的に「日本人の配偶者等」等の在留資格を取得するための不正な手段であり、近年、減少傾向にあるところ、ブローカー等への報酬等として多額の費用がかかることなどが一因となっているとみられます。地下銀行は、近年、検挙件数は十数件で推移しており、中には数億円を不正送金していた事例がみられます。また、偽装認知は、近年、3件前後で推移しています。

2.最近のトピックス

(1)薬物を巡る動向

上記の「令和元年における組織犯罪の情勢」(本レポート)においても、最近の薬物を巡る動向が詳しく述べられていますが、以下、直近の動向についても簡単に言及しておきたいと思います。

前述したとおり、本レポートの中で20代の摘発者への調査結果が報告されていましたが、大麻の危険性について83.4%が「全くない」、「あまりない」と答えていた点は衝撃的でした。以前、関西、関西学院、同志社、立命館の4大学が2016年度の新入生に調査したところ、大麻、コカイン、LSD、覚せい剤、脱法ハーブなど危険薬物を「絶対に使うべきではない」と回答した学生が91.5%と大半を占めたものの、6.3%は「使うかどうかは個人の自由」と容認する考えを示したこと、薬物使用を目撃した経験については、5.8%が「ある」と答えたこと、薬物の入手に対しては、35.6%が「少々苦労するが手に入る」、24.1%が「簡単に手に入る」と回答(ただし、「実際に販売されているのを見た」としたのは3.3%、「入手方法を知っている」と答えたのは1.8%にとどまっています)といった結果となりました。さらに、本レポートでは、近年はインターネットやSNSを通じた薬物売買が横行しているとの指摘がありましたが、直近の報道(2020年4月2日付日本経済新聞)によれば、同じく関西の4私立大の調査では2019年の新入生のうち56%が薬物を「難しいが手に入る」、「手に入る」と答えており、理由は「インターネットで探せば見つけられると思う」が85%を占めたといいます。このように、学生などの若者にとって、もはや違法薬物は身近な存在となりつつあり、「薬物は絶対ダメとする常識」をいかに浸透させるかが、蔓延を防ぐ「最後の砦」となっていることが分かります。この点について、法政大は2008年に学生が大麻事件で逮捕されたことを受け対策を強化しており、2019年には薬物の有害性を訴える啓発劇を学生の演出で公演するなどしたということです。常識の問題だとして状況を放置するのではなく、学校などと警察が連携して大麻をはじめとする薬物の若者への浸透を防ぐ取組みこそ求められています

さて、直近では、幻覚成分を含む茶を販売したなどとして、販売サイト運営者の男が麻薬取締法違反のほう助の疑いで京都府警に逮捕されています。報道(2020年3月21日付日本経済新聞)によれば、男は昨年7月、麻薬取締法上、麻薬とは定義されていないものの、政令が規制する幻覚成分ジメチルトリプタミン(DMT)を含有する「アカシアコンフサ」の粉末を説明書付きで客に販売、その客が煮出してDMT入りの茶を作り、飲用するのをほう助した疑いで逮捕されたもので、DMTを巡る摘発は初とみられるといいます。弁護人は、「原料の植物は麻薬ではなく、茶にすぎない」、「茶にしてもDMTの結晶になるわけではない。自生する植物の所持や利用を禁止するに等しい」、「DMTは人間の血液や尿にも含まれ、茶を麻薬と見なすことはおかしい」として、不当逮捕と反発しており、今後の動向が注目されます。

また、日本ラグビー協会は、トップリーグ(TL)に所属する全選手を対象にした違法薬物検査を実施し、検査を受けた692人全員が陰性だったと発表しています(帰国した外国籍選手や体調不良などの事情で受けられなかった192人については今後抜き打ちで検査を実施するとしています)。本コラムでも以前から紹介しているとおり、直近でTLに所属する日野に所属するニュージーランド出身の選手が麻薬取締法違反の疑いで逮捕されたことを受けた対応ではありますが、そもそもラグビー界では、昨年から今年にかけて薬物絡みの不祥事が相次いでいます(もっといえば、ラグビー界は以前から薬物との関係を断つことができなかった歴史があります)。昨年6月のトヨタ自動車所属の2選手の事件発覚を受け、TLは、各チームに「インテグリティーオフィサー」と呼ばれる対策責任者を置き、再発防止策を講じてきたものの防ぐことができませんでした。また、TLは、昨年の段階で、TLが主導して所属選手に対する薬物検査を実施しようと関係機関に働きかけたものの、実現には至らなかった経緯があります。今回、日本の一般企業であれば人権問題とも絡んでなかなかできなかった「違法薬物検査」というもう1歩踏み込んだ対応によって、選手の潔白を証明しようとしたTLの姿勢については評価したいと思います(なお、再発防止策としてはこれ以外にも参加16チームに対してコンプライアンスの再徹底など3項目の取り組みを行ったことを証明する書面を求め、全チームから提出があったといいます)。一方、本件を巡っては、薬物事件の再発防止のためにTLを休止した決定に対し、日本ラグー選手会は、「違法行為には毅然とした対応を取るべきだが、無関係な選手については通常通りプレー機会が与えられるべきだ」、「リーグ内の全選手のプレー機会が失われた。我々選手はグラウンドで試合をすることが価値そのもの。今回の判断は我々選手の思いをないがしろにしていると言わざるを得ない。違法行為に無関係なその他の選手については、通常通りのプレー機会が与えられるべきだ」、「責任の大部分を選手が負わされている形」などと反論する声明を出しており、いろいろ考えさせられる展開となっていました。

その他、最近の報道から、薬物を巡るものをいくつか紹介します。

  • 本コラムでもたびたび指摘しているとおり、覚せい剤の密輸を巡っては、散弾銃になぞらえた「ショットガン方式」と呼ばれる手口の摘発が目立っているとの報道が散見されます。小分けにした違法薬物を空路で複数の運搬役に持ち込ませて監視の目をすり抜けようとするもので、東京税関による昨年の摘発は件数・押収量ともに過去最多を記録しています。その背景には、大規模な摘発事件(瀬取りと呼ばれる洋上取引がほとんど)が昨年相次いだこと受けて需要が逼迫したことがあり、海路を避け、監視の目をくぐろうとする密輸グループの工夫の結果だと言えます。さらに、その密輸グループにとって摘発されるリスクが高い運搬役は「使い捨て」であり、多くの場合、SNSで勧誘され、若い世代や金に困った人間が標的とされている実態もあります(最近、特殊詐欺のアジトが海外に移行し、大規模な摘発がなされている構図とほぼ同じだといえます)。それに対し、税関が文字通り「リスクセンス」を働かせて水際で摘発をしているほか、税関や警察が航空会社との連携を強化し、飛行機の不審な予約状況の把握など対策を急いでいるということです。
  • 財務省が密輸阻止に役立てようと、動画投稿サイト「ユーチューブ」による情報発信に本腰を入れ始めているとの報道もありました(2020年3月28日付時事通信)。覚せい剤や金の密輸が深刻化する中、税関を所管する関税局の職員が具体的な手口などを紹介する動画を作成・投稿、密輸対策への関心を高めて通報を増やし、摘発につなげたい考えだといいます。全国の税関による2019年の不正薬物の押収量は前年比約2倍に急増し、初めて3トンを突破、こうした状況をにらみ、財務省は水際対策を強化しており、今後も積極的に新しい動画を投稿する方針だということです。
  • 風景画が描かれたキャンバスに覚せい剤を練り込んで密輸入しようとしたとして、愛知県警は、覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)などの容疑で、いずれも会社員の2人の容疑者を逮捕しています。報道によれば、昨年覚せい剤約550グラム(末端価格約3,300万円)をキャンバスに練り込む形で、英国から密輸入しようとした疑いがもたれているということであり、中部空港に運ばれた不審な小包を名古屋税関が発見し、県警に通報したということです(絵に塗り込まれたものということですから、表面的には判別が難しいと思われるところ、何をもって不審だと思ったのかも知りたいところです)。
  • カナダから覚せい剤約240キロ(約144億円相当)を密輸したとして、厚生労働省関東信越厚生局麻薬取締部は、覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)容疑で、日系のカナダ国籍の水産加工会社経営者を再逮捕しています。報道によれば、市中に持ち込まれた覚せい剤の押収量としては過去最大だということです。バンクーバーからの貨物船で、冷凍エビを装った段ボール20箱に覚せい剤約240キロを隠して東京都江東区青海の青海4号埠頭に密輸したというもので、港に到着した覚せい剤をトラックで東京都武蔵野市吉祥寺本町のウイークリーマンションに運び込んだところを、踏み込んだ捜査員に、1袋(約1キロ)を所持していた同法違反の営利目的所持容疑で現行犯逮捕されていたもので、同部は情報提供を受け、数年前から内偵捜査を続けていたということです。これだけの大規模な密輸事件だけに、背後に密売組織が関与しているとみて、カナダの捜査当局と連携して密輸ルートなどを調べているということです。
  • 前述の本レポートでも大麻栽培の摘発事例が増えているとの指摘がありましたが、直近でも、福岡市内のマンションで大麻を栽培したなどとして、福岡地検が無職の容疑者ら男女4人を大麻取締法違反(営利目的共同栽培など)で福岡地裁に起訴したということです。報道によれば、九州厚生局麻薬取締部は、部屋から大麻草93株と乾燥大麻8キロ(末端価格1,400万円)を押収、容疑者らは「インターネット動画で栽培方法を勉強した」と供述しているといいます。大麻草は挿し木をして根付かせ、水や肥料を与えて照明器具で光を照射するなどして育てていたといい、マンションは男らが栽培用に借りていたとのことです。また、これとは別に、販売目的で、自宅で大麻草を栽培したなどとして、警視庁池袋署は大麻取締法違反容疑で、無職の容疑者を再逮捕した事例もありました。「インターネットで種や器具などを購入した」、「自分で吸うために栽培したもので営利目的ではない」と容疑を一部否認しています。報道によれば、容疑者は東京・池袋の違法営業のパチスロ店から売上金約200万円を奪ったとして、今年1月に強盗容疑で逮捕された事件の捜索で自宅マンションでの大麻草栽培が判明したといい、室内にはテントが張られ、大麻草9鉢や袋に小分けされた乾燥大麻が見つかったということです。なお、以前の本コラム(暴排トピックス2019年4月号)でも紹介しましたが、埼玉県警のHPでは、大麻栽培プラントに関する情報が掲載されており、大変参考になります。
  • ▼埼玉県警察 大麻の乱用が急増中!

本サイトによると、「大麻は、覚醒剤のような化学合成品とは異なり、高度な設備や専門知識がなくても生産することが可能なことから、私たちの身近な場所が、大麻栽培プラントとして利用され、違法薬物の供給源となっている可能性がある」、「大麻は「依存性がない」「安全・無害」「世界では合法」などという誤った情報を信じ、安易な気持ちで手を出すと大変危険」、「大麻は、脳神経のネットワークを切断し、やる気の低下、幻覚作用、記憶への影響、学習能力の低下などを引き起こすとともに、脳に障害を起こす可能性がある恐ろしいもの」などと警告しています。さらには、「こんな場所は要注意」として、「玄関の隙間や家屋の換気口から、大麻特有の青臭い・甘い匂いがする場合は要注意」、「光量の調節のためには、外の光をシャットアウトして暗闇を作る必要がある。大麻栽培プラントでは、雨戸や遮光カーテン等を閉め、さらに目張りをするなど、外の光の差込みや匂いの漏れなどを防いでいるケースが多い」、「人が生活している様子がないのに「電気メーターが常に早く回っている」、「常にエアコンの室外機が回っている」などの特徴がある」、さらには、「必要な作業のため、「連日深夜等に人が短時間立ち寄る」ほか、栽培に必要な「大量の土、肥料、電気設備、植木鉢、ダクトなどを運び込む」、あるいは、「収穫した大麻を、ダンボールやゴミ袋に詰め込み、人に見つからないように持ち出す」といった特徴がある」などといった専門的な情報まで掲載されています。

  • 危険ドラッグを販売目的で貯蔵したとして、警視庁組織犯罪対策5課などは、医薬品医療機器法違反の疑いで、会社役員ら男3人を再逮捕しています。報道によれば、製造工場として使われていたという一軒家などから粉末や液体を押収、約9,700万円相当の危険ドラッグに当たるとして鑑定を進めているといいます。3人が危険ドラッグの製造・販売グループで、2015年12月から昨年11月までに約1億4,000万円の売り上げがあったとみて裏付けを進めているということです。なお、容疑者らは匿名性の高い「ダーク(闇)ウェブ」のサイトなどで集客、一定時間が経過するとメッセージが消える無料通信アプリ「テレグラム」で連絡を取り合い、レターパックで発送していたといいます。様々な「犯罪インフラ」を駆使して犯行が行われていたことがうかがえるという点でも興味深い事例だといえます。
  • 大麻取締法違反などの罪に問われた米国籍の男性(27)に対し、東京地裁は、警察捜査に重大な違法があったとして、無罪判決を言い渡しています。検察側は懲役2年6月を求刑したものの、押収薬物や鑑定書は違法収集証拠に当たるとして証拠能力を否定したものです。報道によれば、判決理由で裁判官は、警察官が職務質問の際に男性を転倒させたことなどを挙げ、「令状によらず被告を制圧し、暴行とも評価し得る行為が繰り返され、種々の違法が重ねられた」と批判したということです。また、これとは別に捜査の違法性が厳しく指摘されたものとして、警視庁が捜査した薬物事件で、警察官が容疑者の車内を捜索するためうその証拠を仕込んだ疑いがあるとして、東京地裁が、男性被告に対し一部無罪とする判決を言い渡したというものもありました。捜索で薬物は見つかったものの、東京地裁は捜査手続きに「重大な違法」があり、証拠にできないと判断したものです。報道によれば、被告は2018年3月に東京都足立区の路上で覚せい剤を持っていたなどとして起訴された事件で、警察車両のドライブレコーダーに、警官が自分のズボンのポケットに手を突っ込んで何かをつかみ、ドアポケットに手を伸ばすような映像があったというものです。東京地裁は「犯罪の重要な証拠になるパケの差し押さえを失念したとは到底考えられない」として、車内の捜索を認めてもらうために仕込んだ疑いがあると認定、「裁判官の判断を大きくゆがめるもので、令状主義の精神を没却(無視)する重大な違法」と非難しています。
  • 米司法省は、南米ベネズエラのマドゥロ大統領を麻薬テロや麻薬密輸の罪で起訴したと発表しています。米国はマドゥロ政権の正当性を認めずに、暫定大統領への就任を宣言している野党のグアイド国会議長を支持しており、起訴はマドゥロ政権への圧力を強めるメッセージとみられますが、外国の元首クラスを起訴するのは極めて異例となります。報道によれば、米司法省はマドゥロ氏に加え、政権高官ら14人も起訴したといいます。司法長官は声明で、「20年間以上にわたり、マドゥロと政権高官はコロンビア革命軍(FARC)と共謀し、コカインを米国社会に持ち込んだ」と主張し、「本日の発表はベネズエラ政府内に広がる汚職を根絶することに焦点を当てた」と述べています。さらには、マドゥロ氏の身柄拘束につながる情報提供には、最大1,500万ドルの報奨金を提供することも明らかにしています。

(2)AML/CFTを巡る動向

金融庁と金融機関の情報交換の場(2019年12月)での、AML/CFTを巡る金融庁の示した内容について、まずは確認します。

▼金融庁 業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点
▼共通事項(主要行/全国地方銀行協会/第二地方銀行協会/日本損害保険協会)

金融庁は、「FATF オンサイト審査が 10 月 28 日から11 月 15 日の日程で行われた。これまでもお伝えしているとおり、マネロン・テロ資金供与対策は、日常業務における取引時確認等といった基本動作の徹底が重要であるとともに、包括的なリスク評価と継続的な顧客管理措置などの態勢整備が重要であり、オンサイト審査でも、こうした点を中心に議論が行われた」ことを明かしています。そのうえで、「マネロン・テロ資金供与対策は、今般のFATF審査をも踏まえ、更に取組みを加速化しなければならない部分がある可能性があり、今後も官民でしっかりと連携していきたいので、引き続きよろしくお願い申し上げる」とし、FATFから何らかの指摘があった(あるいはそれを強く認識させられる何かがあった)ことを示唆しています。また、「なお、顧客リスク評価、継続的顧客管理措置等の対応については、業界全体の高度化や効率化の観点からは、システムを共同化するなどの対応も考えられうるところ。現在、全銀協を中心にシステム共同化の検討が進められるとともに、政府においても、新たに補正予算にてマネロン対策の共同化実証事業が盛り込まれたことから、金融庁としてもこうした取組みに貢献していきたい」と言及しています。いずれにせよ、昨年行われたFATFによる第4次対日相互審査の結果は今年の夏ごろに公表される予定であり、それまでは、金融庁の指摘のとおり、日常業務における基本動作の再徹底、継続的顧客管理措置の高度化が求められている状況に変わりありません。

さて、この4月から犯罪収益移転防止法施行規則の改正が施行され、非対面における本人確認手続きに新たな方法が追加されるなど本人確認の厳格化が一層進むことになりました。その流れに対応すべく、「eKYC」の導入が金融業界で進んでいます。銀行によっては、キャッシュカードの郵送を待たずに最短翌日に口座番号を発行できるのがメリットで、顧客と金融機関の双方にとって事務負担の軽減にもなることから一気に広がることが予想されていたところ、現状では様子見の空気感が広がっています。その背景には、AML/CFTへの対応が厳しく問われる昨今、導入に向けた準備には万全を期す先も多く、他の大手行やカード会社では各ベンダーが提供するシステムの仕様を慎重に吟味しているといった事情や、新たに導入した他の金融機関が問題なく運用できているか様子をうかがっているといった事情もあるようで、金融業界全体に広がるのは少し先になる可能性もあります。また、AML/CFTの観点から相当厳格かつ煩雑な対応を求められる「外国送金業務」について、業務自体の撤退・縮小・制限といった対応をとる金融機関が増えている中、地域金融機関では、外国送金の受け付けを電子化する動きが広がりつつあります。手続きの厳格化が求められる中、紙ベースでは行職員と利用者双方の負担が大きいため、電子化で効率化を図り、利便性も高める方向の取組みも進んでいるといいます。報道によれば、例えば沖縄銀行が今夏にも全店で利用を始めるほか、地方銀行1行が導入を決定、海外送金の縮小・撤退が相次ぐ一方、外国人労働者が多い地域ではニーズも根強く、10機関以上が導入を検討しているとのことです。また、関連して窓口における外貨両替手続きについても、厳格化の要請と事務手続きの効率化の観点から、業務自体を見直す動きが加速しています。例えば、三菱UFJ銀行は、店舗窓口での外貨両替を6月26日に終了すると発表しています。報道によれば、クレジットカード決済などの普及によってそもそも需要が減少しており、外貨自販機や系列の専門店でも扱っていることから業務を効率化する狙いがあるとのことです。なお、同行では、店舗に設置している外貨自販機は7月以降、AML/CFT強化のため、三菱UFJ銀に口座を持つ顧客に利用を限定することも併せて発表しています。

(3)特殊詐欺を巡る動向

2014年6月の消費者安全法(平成21年法律第50号)改正により、地方公共団体は高齢者、障がい者、認知症等により判断力が不十分となった方の消費者被害の防止のために、地域の関係者が連携して見守り活動を行う「消費者安全確保地域協議会(見守りネットワーク)」を設置できることが規定されました。この「消費者安全確保地域協議会」のさらなる設置促進を念頭に置き、また、地域で活動する多様な担い手の見守りに活用されることを目的として、今般、「高齢者・障がい者の消費者トラブル見守りガイドブック」が作成されています。「具体的なトラブル事例を通して、消費者被害の気付き、高齢者・障がい者への声掛け、福祉部門と消費生活センター等の関係機関の連携、消費者問題に関する法律の解説等、見守り活動に必要な知識を体系的に学べるようにしている」と紹介されているとおりの大変役に立つ内容となっているものと思われます。高齢者や障がい者、認知症等により判断力が不十分となった方は特殊詐欺の被害者となるケースも多く、特殊詐欺対策としても有効ではないかと考えられます。以下、本ガイドブックからとりわけ参考となりそうなポイントを紹介します。

▼消費者庁 高齢者の消費者トラブル 見守りガイドブック
▼高齢者・障がい者の消費者トラブル見守りガイドブック

まず、65歳以上の高齢者に関する消費生活相談件数は、2013年以降高水準で推移していたところ、2018年は約35.6万件と、10年間で最多となったほか、85歳以上に関する相談件数も2倍以上となったこと、また、障がい者等に関する相談件数も、この10年間で1.5倍と増加したことが紹介されています。そのうえで、「高齢者・障がい者の消費者被害の特徴」として、以下が示されています。

  1. 被害に遭っていることに気付きにくい
    • 優しい言葉で誘う営業マンを信じてしまい、自分が悪質商法の被害に遭っているということを認識していない場合があります。また、被害に気付かないことから、契約を繰り返して被害が深刻化することがあります。さらに、被害に遭ったと思っても、恥ずかしく思ったり、家族に迷惑をかけたくない、自分自身を責めて周りに相談しない、一人暮らしで相談する相手がいないなど、被害が表面化しにくく、周囲が気付くのが遅れることもあります。
  2. 悪質事業者が狙う高齢者の「お金」「健康」「孤独」の3つの不安(3K)
    • 老後の資金を少しでも増やしたい、いつまでも健康でいたい、話し相手がいなくさびしいといった3つの不安に対して、悪質事業者は話し相手になるなど、親切にして信用させて大切な財産を狙って います
  3. 65歳以上の相談1件当たりの平均既支払金額は、65歳未満の約3倍
    • 65歳未満の相談1件当たりの契約金額の平均は4万円であるのに対して、65歳以上の高齢者の平均は150.9万円に達しています。また、実際に支払った平均金額は、65歳以上では89.4万円に上り、総額では950億円と全体の52.8%を占めています。

また、「声掛けのポイント」として、「消費者被害に遭っているような様子が見られたり、本人から相談されたとき、問い詰めたり、頭から否定するような口調は、本人の心を閉ざしてしまいがちです。一旦は受け入れる気持ちを持って、ゆっくりと状況を聞きましょう。いきなり質問をせず、世間話をしながら何気なく尋ねてみるなど、会話をしていくうちに心を開いてくれることもあります。「お節介」に思われるかもしれないと躊躇することもありますが、場面に応じた自然な会話の流れを工夫してみましょう」といったアドバイスがなされています。また、「声掛けNGワード集」として、「おだてにのるから…」、「欲をかくから…」、「見栄を張るから…」、「だまされているんじゃない?」、「何で信用したんですか?」、「あのような人が言うことを信用してはいけませんよ」、「まるめこまれたんじゃないの?」、「何で契約しちゃったの!」、「あなたにも契約した責任がありますね」、「お金を払ってしまったんですね!」、「契約書をきちんと読まなかったのですか?」、「息子(娘)さんに、相談してから決めなくちゃ!」、「一人でしてしまったのですか?」、「どうして気が付かなかったのですか?」、「何で黙っていたのですか?」、「消費生活センターに相談すべきですよ!」が挙げられており、知らなければ思わず使いそうなNG話法が示されていて参考になります。さらに、本ガイドブックの「肝」とでもいうべき「気付きのポイントとトラブルの特徴」については、以下の15事例が取り上げられており、4コマ漫画と詳しい解説で理解を深めることができる内容となっています。そして、「気付きのポイント」は、正にリスクセンスを磨くためにも大変参考になるものだといえます。

  1. 工事の車が出入りしているのを見掛けて
    • 見慣れない車が止まっている
    • 作業員が頻繁に出入りするなど、工事が続いている
    • 足場が組まれたり、養生が張られたりしている
  2. 部屋の隅に健康食品の箱の山積みを見つけて
    • 見慣れない商品や契約書、振込用紙などがある
    • 電話が頻繁にかかり、長時間話している
    • 電話を切れず、困った様子が見られる
    • お金に困っている様子が見られる
  3. 時々迎えの人と出掛けるのを見掛けて
    • 営業マンらしい人と、車に乗って出掛けていく姿を見掛ける
    • 営業マンらしい人が、訪問したり、荷物を届けている様子がある
    • 新しく購入した着物の話をされたり、その着物を見せてくれたりする
    • お金に困っているような様子が見受けられる
    • 〈家の中での気付き〉カレンダーに見慣れない印が付いている(例えば、年金受給日(偶数月15日)のすぐ後に印がある場合、支払日の可能性があります)
  4. 健康器具など新しく購入した商品をたくさん見つけて
    • 頻繁に出掛けては、何か購入してくるようだ
    • 布団や健康器具、健康食品など、見慣れないものがある
    • お金に困っている様子がある
  5. 大事な指輪を売ってしまったと相談されて
    • 元気がない
    • 見慣れない人が玄関の中に入っていくのを見掛けた
    • 〈家の中の様子〉あまり使わないタンスを開けた様子が見受けられる
  6. 窓口に100万円を引き出しに来たお客様を見て
    • 高額な現金を、金融機関に引き出しに来る
    • ATMに頻繁に来て、現金を引き出している様子が見られる
    • 〈家の中での気付き〉投資や利殖に関するカタログ等が置いてあった
  7. 毎週のように大量の海産物を届けているけれど
    • 注文した覚えがない様子で送付物を受け取っている
    • 食べきれないほどの量の食品が届いている
    • 頻繁に荷物が届く
    • 開封していない宅配物がたくさんある
  8. コンビニで高額な支払をされるお客様が気になって
    • コンビニで、決まった支払先に支払を繰り返している
    • 頻繁に、コンビニから高額な支払をしている
  9. 電気料金の督促通知を見つけて
    • 督促の通知等の請求の通知らしいものが届いている
    • 過度な節約を心掛けるようになった
    • 介護サービスを減らしたいと言うようになった
  10. クレジットカードの支払ができないと相談されて
    • 日常生活で必要と思われる量をはるかに超えた買い物をしている
    • 「買物」をすること自体が目的のような買い方をしている様子が見られる
    • 悩み事やストレスを抱えているようだ
  11. 「セミナーに行く」と言っていたけれど
    • セミナー等の会合に出掛けるようになった
    • 最近、気持ちが高ぶっている様子が見られる
    • 友だちや知人に、商品や儲かる仕事を紹介すると言っている
    • 「すごい人」など、ビジネスで成功した特別な人を話題にしている
  12. スマートフォンの着信音におびえる様子を見て
    • スマートフォンの着信音が度々鳴り、落ち着きなく不安な様子である
  13. オンラインゲームで高額を使っていたことに気付いた、と相談されて
    • 長時間ゲームをして、やめるように言ってもなかなかやめられない
    • ゲームの上達が以前に比べてやけに早い
    • 保護者の覚えのない高額なクレジットの請求があった
  14. 見慣れないアクセサリーをしているのに気付いて
    • 普段はアクセサリーをしていない人がアクセサリーを身に付けている(男性に多い)
    • いつもと違うアクセサリーをしている
    • よく知らない人とデートをする話をしている
    • お金に困っていそうだ
  15. 掃除機が熱くなるのに気付いて
    • かなり古そうな電気製品を使用している
    • たこ足配線やコードを束ねたままで使用している
    • 電子レンジやオーブントースター、グリル等の庫内が汚れている

最後に、「だまされやすさ心理チェック」として、以下のチェック項目が紹介されています。特殊詐欺の被害者にも共通しそうな要注意状況が示されており、気付きのためにあわせて参照すべきと思われます。

  • 自分のまわりにあまり悪い人はいないと思う
  • 知人から「効いた」「良かった」と聞くと、やってみようと思う
  • 迷惑をかけたくないので家族にも黙っていることがある
  • 相手に悪いので人の話を一生懸命聞く方だ
  • 有名人や肩書きのある人の言うことはつい信用してしまう
  • 実際、身近に相談できる人があまりいない
  • たまたま運の悪い人がトラブルにあうのだと思う
  • 人からすすめられると断れない方だ
  • しっかり者だと思われたい

さて、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛の呼びかけの影響からか、今年3月の1カ月間に警視庁が受理した110番件数は前年同期に比べ約27,000件減の約130,000件で、約20%減少したことが分かったということです。外出を控える動きが広がったことで、事件につながるようなトラブルが少なくなっている可能性がありそうです。報道によれば、同庁幹部は「事故や事件に遭遇することが減ったためでは」と分析、特に交通事故に関する通報が減少しているという点は、思わぬ「プラス効果」だと言えそうです。一方、コロナ疲れによるストレス等からDVや児童虐待が増加していることや、新型コロナウイルス関連の詐欺事案の増加などは、残念ながら「マイナス効果」だと言えます(なお、より厳格な外出規制のかかっている米では、米連邦捜査局(FBI)によると、米国内で3月、銃の購入時などに実施される身元照会件数が374万件に達し、公表を始めた1998年11月以降では最多となったと報じられています。新型コロナウイルスの感染拡大が、治安悪化につながることを不安視し、銃で自衛しようとする市民が増えているとみられるといい、日本とは異なる「マイナス効果」だと言えそうです)。さらにその「マイナス効果」でいえば、新型コロナウイルスに関連した消費者からのトラブル相談が1月以降急増し、3月末までに全国から国民生活センターに寄せられた相談件数が少なくとも8,617件にも上ったということです。3月以降は、「ウイルスが水道水に混ざっている」などと持ち掛ける悪質商法とみられる相談もあるなど、今後、新たな手口の勧誘が行われる可能性も否定できず、「根拠のない話には絶対に耳を貸さないように」と注意喚起を行っています。

▼国民生活センター 新型コロナウイルスを口実にした消費者トラブル

新型コロナウイルス関連の相談事例として、以下のようなものが寄せられているといいます。

  • 【事例1】市役所職員を名乗った不審な電話がかかってきた
  • 【事例2】「行政からの委託で消毒に行く」という電話がかかってきた
  • 【事例3】不審なマスク販売広告メールがスマートフォンに届いた
  • 【事例4】マスクを無料送付するというメッセージがスマートフォンに届いた
  • 【事例5】新型コロナウイルス流行拡大の影響で金の相場が上がるとして、金を買う権利を申し込むように言われた

このような事態を受けて、国民生活センターは消費者に対して、「市役所などの行政機関の職員を名乗るあやしい電話や心当たりのない送信元から怪しいメールやSMSが届いても、反応しないようにしましょう」、「新型コロナウイルスに便乗した悪質な勧誘を行う業者には耳を貸さないようにしましょう」、「不審に思った場合や、トラブルにあった場合は、最寄りの消費生活センター等に相談しましょう。今後、新たな手口の勧誘が行われる可能性があります。少しでもおかしいと感じたら早めにご相談ください」といった注意喚起を行っています。なお、「消費者ホットライン 局番なしの188(いやや)番」の利用についてもあらためて推奨されています(最寄りの市町村や都道府県の消費生活センター等をご案内する全国共通の3桁の電話番号)。

また、マスクの入手が困難な状況に便乗した不審なマスク販売広告メールに関する情報が「消費者トラブルメール箱」に寄せられ、調査の結果、架空の広告であることがわかったとして、以下のとおり公表されています。

▼国民生活センター 新型コロナウイルスに便乗した架空の“マスク販売広告メール”にご注意!

具体的な事例としては、「不審なマスク販売広告メールがスマートフォンに届いた。産業資材を扱うメーカー名の送信者名(差出人名)で、マスクの画像と共に「ウイルス、バクテリア、PM2.5、H7N9などをろ過して、汚染された空気の侵入を対策します」などと記載され、「ご購入はこちら」とURLが付いたメールがスマートフォンに届いた。価格は30枚41,800円と高額で「新型コロナウイルスの影響により、物流時間が長くなる可能性があります」などとある。怪しいので情報提供する」(受付年月:2020年3月 情報提供者:40歳代 男性)というものです。国民生活センターがメールの送信者名となっている産業資材メーカーに確認をしたところ、「このメールは架空であり当社ではこのようなメールは送付していない。当社では直接の小売販売を行っておらず、当該画像のマスクも取り扱いがない、当社HP(ホームページ)アドレスは社名を表す単語間に「-」があるが、当該メールに書いてあるURLには「-」が入っていない、当該メールに関する問い合わせが複数件寄せられていることから、HPに注意喚起のお知らせを掲載している」との回答があったということです。また、情報提供者の了解を得た上で安全な環境からURLのページを確認したところ、当該ページが閉鎖されていたことなど、実在する事業者のHPアドレスと類似のURL名を使用していることから、個人情報やクレジットカード情報を不正に取得するなどを目的にしていた可能性があると結論付けています。そのうえで、消費者に対して、「心当たりのない送信元から怪しいメールやSMSが届いても、反応しないようにしましょう」、「マスクの入手が困難な状況に便乗して、架空のマスク販売広告メールなどを不特定多数に送り、メッセージ内のURLをクリックさせる手口と思われる相談が引き続き寄せられています。URLにアクセスすると、フィッシングサイトに誘導され氏名や住所、電話番号などを入力させられることにより個人情報を取得される可能性があります」、「心当たりのない不審な送信元からメール等が届いた場合、メールに記載されたURLには絶対にアクセスしないようにしましょう。また、実在する事業者名等が記載されていた場合でも、メール内の番号に電話したり、URLをクリックしたりせず、不安に思ったら、事業者のHPや問い合わせ窓口に確認しましょう。HP上に注意喚起情報が掲載されていることもあります」、「不審に思った場合や、トラブルにあった場合は、最寄りの消費生活センター等に相談しましょう」、「今後、新たな手口の勧誘が行われる可能性があります。少しでもおかしいと感じたら早めにご相談ください」といった注意喚起がなされています。

次に、新型コロナウイルスを口実に、市役所などの行政機関職員をかたった電話や、「行政から委託を受けている」等として電話をかけ、自宅を訪問しようとする悪質な事例に関する情報が寄せられたとして、以下のとおり公表されています。

▼国民生活センター 新型コロナウイルスに便乗した悪質商法にご注意!-行政機関名をかたる電話、行政から委託されたという業者からの電話には応じないようにしましょう-

具体的な事例として、(1)市役所職員を名乗った不審な電話がかかってきた(市役所の職員を名乗る男から非通知で電話があり、「新型コロナウイルスが流行しているので、気を付けるようにと高齢者に電話しています」と言われた。本当に市役所が電話をしているのか(受付年月:2020年2月 契約当事者:80歳代 女性))といったもの、(2)「行政からの委託で消毒に行く」という電話がかかってきた(「新型コロナウイルスの感染を防ぐために、行政から委託を受けて消毒に回っているが、どうか」と、業者からの電話が自宅にかかってきた。行政とはどこか、と尋ねたが答えなかった。費用はかかるのか、と聞くと「面積によって違う」と言われ、要領を得なかった。翌日も同じ業者から電話があり、「新型コロナウイルス感染防止のパンフレットを持参したい」と言われ、要らないと答えて電話を切った。悪質な業者だと思う(受付年月:2020年2月 契約当事者:80歳代 女性))といった内容のものだといいます。そのうえで、消費者に対して、「市役所などの行政機関の職員を名乗るあやしい電話はすぐに切りましょう」とのアドバイスがなされています。「市役所などの行政機関の職員をかたって高齢者宛てに「気を付けるように」という不審な電話がかかってきたという相談が寄せられています。金銭的な被害はないものの、消費者の個人情報の入手や、所在を確認する意図で電話をかける、いわゆる「アポ電」の可能性が考えられます」、「市役所等の行政機関の職員が、非通知の電話で「新型コロナウイルスに気を付けるように」と連絡をすることはありません。少しでもあやしいと感じたらすぐに電話を切り、応じないようにしましょう」とアドバイスしています。さらに、「「行政から委託を受けている」と言って自宅を訪問しようとする業者からの電話には応じないようにしましょう」ともアドバイスされています。「「行政の委託を受けている」という業者から、住居の消毒を勧誘する電話がかかってきたという相談が寄せられています。さらに、電話を切ったあとも「パンフレットを持参したい」などと言って、自宅を訪問しようとします」、「行政機関が、新型コロナウイルスに関して特定の業者に消毒を委託するケースは、現在のところ確認できていません。あやしいと思った場合には、委託したという行政機関名を確認し、業者の話が事実かどうか、確認するようにしましょう」、「また、業者の来訪に応じると、高額な商品やサービスを勧誘される可能性があります。電話の内容に不審な点があったら、すぐに電話を切りましょう。また、自宅への来訪には応じないようにしましょう」としています。

また、新型コロナウイルスを口実に「新型コロナウイルスが水道水に混ざっている」「排水管が新型コロナウイルスで汚染されている」等、電話やSMSで根拠のない説明を行う悪質な相談事例が全国の消費生活センター等に複数寄せられているとして、以下のとおり公表されています。

▼国民生活センター 新型コロナウイルスに便乗した悪質商法にご注意!-「新型コロナウイルスが水道水に混ざっている」等の根拠のない話には耳を貸さないで

具体的な事例として、(1)「新型コロナウイルスが水道水に混ざっていると不審な電話がかかってきた」というもので、「自宅に突然「新型コロナウイルスが水道水に混ざっている可能性がある。混ざっていた場合はろ過する必要がある。今からウイルスが混ざっているか調査に行くので、お宅の場所を教えてほしい」と電話があった。話し方がとても威圧的で怖かった。もし本当だとしたら市の水道局から通知があるはずだ。おかしいと思ったので、自宅の場所は教えずはっきりと断った。その後訪問もされていないし、電話もかかって来ないが、同様の被害の未然防止のため情報提供したい(受付年月:2020年3月 契約当事者:北関東地方 70歳代 女性)」といった内容だったようです。また、(2)「水道局をかたり新型コロナウイルスがついているので除去すると不審な電話があった」というもので、「数日前水道局をかたって、水道管にコロナウイルスがついているので除去すると携帯に電話があった。不審と思い電話を切ったが、この対応で良かったのだろうか(受付年月:2020年3月 契約当事者:南関東地方 40歳代 女性)」といった内容、(3)「「新型肺炎に下水道管が汚染されているので清掃します」とのSMSが届いた」というもので、「昨日、「新型肺炎に下水道管が汚染されているので清掃します」とのSMSがスマートフォンへ届いた。いったいこれは何なのか(受付年月:2020年3月 契約当事者:近畿地方 50歳代 女性)」といった内容、(4)「排水管高圧洗浄のチラシを見て電話したら「排水管が新型コロナウイルスで汚染されている」と言われた」というもので、「期間限定キャンペーンで排水管高圧洗浄を3,000円で行うというチラシが投函されていた。電話で問い合わせたところ、「排水管が新型コロナウイルスで汚染されている」「当市でも多く発生している」と言われた。料金も3,000円ではなさそうだったし不審なので断り、電話を切った。詐欺だと思うので情報提供する(受付年月:2020年3月 契約当事者:近畿地方 40歳代 女性)」といった内容だったということです。消費者に対しては、「「新型コロナウイルスが水道水に混ざっている」等の根拠のない話には絶対に耳を貸さないようにしましょう」として、「新型コロナウイルスの感染拡大に対する不安につけ込んで、「新型コロナウイルスが水道水に混ざっている」「排水管が新型コロナウイルスで汚染されている」等と説明し、不安をあおる悪質な相談事例が全国の消費生活センター等に複数寄せられています。しかし、これらは根拠のない話であり、現在のところ、そのようなことが実際に起こったケースは確認されていません」、「なお、水道水については、各自治体等が国の法令に従い、適切に塩素消毒を実施するとともに、国が定める水道水質基準に従い、安全な水を供給しています。根拠のない話には、絶対に耳を貸さないようにしましょう」といった注意喚起がなされています。

直近では、市役所などの公的機関や携帯電話会社などになりすまして、新型コロナウイルスを口実に、「助成金があるので個人情報や口座情報を教えてほしい」等と個人情報や口座情報を詐取しようとする事例や、オレオレ詐欺の事例が公表されているので、紹介します。

▼国民生活センター 新型コロナウイルスに便乗した悪質商法にご注意!-「助成金があるので個人情報を教えてほしい」等の“なりすまし”や“オレオレ詐欺”に注意
具体的な相談事例(なりすまし)

  • 【事例1】市の新型コロナウイルス対策室を名乗り、個人情報を聞き出す不審な電話を受けた
    • 「○○市コロナ対策室です。この度は新型コロナウイルス感染のことで、大変ご心配をおかけしています。お見舞い申し上げます。市では、このような皆様に助成金をお配りしています。お子様1人当たり3万円です。つきましてはキャッシュカードの番号又は銀行口座番号に振込みますので番号を教えてください」という電話がかかってきた。被害にはあっていないが、不審だ(2020年3月受付 契約当事者:年代不明、女性)
  • 【事例2】携帯電話会社名で、新型コロナウイルス関係の助成金を配布するとのメールが届いた
    • 「○○○(携帯電話会社名)の会員の皆様へ」とあり、「新型コロナウイルスの影響で不安な日々をお過ごしかと思います。弊社社員一同も早期解決を祈るばかりです。さて、○○○では会員様に少しでも快適な生活を送っていただくため、事態収束まで毎月「助成金配布」を決定いたしました。毎月総額「1億円」を会員の皆様に限定配布させていただきます。」というURLが添付されたメールが届いた。URLを開くと当選金として2,400万円を無料で貰えるとあり、振込口座情報を送信するようになっていた。不審だ(2020年3月受付 契約当事者:30歳代、女性)
  • 【事例3】自宅の固定電話に「新型コロナウイルスの検査が無料で受けられる。マイナンバーが必要。これから自宅に行く」という電話があった
    • 自宅の固定電話に男性の声で「新型コロナウイルスの検査が誰でも無料で受けられる」と言われた。「マイナンバーカードが必要」と言われ、持っていると伝えると「検査は自宅で受けられる簡易なものなので、これから自宅に行く」と言われた。違和感を覚えたので「市役所に確認する」と言うと、一方的に電話が切られた。詐欺ではないか(2020年3月受付 契約当事者:50歳代、女性)
  • 【事例4】信用金庫の職員を名乗る電話があり、新型コロナウイルスの関係で必要と口座番号と暗証番号を聞かれた
    • 信用金庫の職員を名乗る者から、「新型コロナウイルスの関係で確認しないといけない。口座番号の下3桁を教えてください」との電話がかかってきた。下3桁を伝えると、次に「下4桁を教えてください」と言われ、下4桁を伝えたら、暗証番号を聞かれた。暗証番号を答えたかどうかは覚えていない。(2020年3月受付 契約当事者:80歳代、女性)

具体的な相談事例(オレオレ詐欺)

  • 【事例5】息子を名乗り「会社の上司に借りたお金を返して」と電話があり、上司から「新型コロナウイルスで困っているのですぐにお金を返してほしい」と頼まれ、現金を手渡した
    • 自宅に息子を名乗る電話があり、「会社で事件を起こして上司からお金を借りたので、代わりに返済してほしい」と頼まれた。後刻、上司を名乗る男性から電話があり、「息子さんから聞いていると思うが、お金を貸しているので約100万円を返済してほしい。新型コロナウイルスの騒ぎでこちらもお金に困っているので、すぐにでも返してほしい」と言われた。指示通りに約100万円の現金を用意して、自宅で引渡すつもりだったが、再度上司から電話があり、「自身は所用で行けなくなった。代わりに別の人が伺うので、自宅ではなく別の場所で引き渡してほしい」と言われた。返済するのであれば上司本人に手渡したいと伝えたが聞き入れられず、不審に思いながらも指定された場所に行き、若い男性に現金を手渡した。後刻、上司から電話があり、「約100万円は確かに受け取った。本日の夕方に領収書を届ける」と言われたが、来なかった。後から詐欺と気付いたが、どうしたらよいか(2020年3月受付 契約当事者:80歳代、女性)

上記について、消費者に対しては、なりすまし【事例1~4】については、「怪しい電話はすぐに切り、メールは無視してください」として、「新型コロナウイルス対策に便乗し、市役所などの公的機関や携帯電話会社などになりすまして、個人情報や口座情報を詐取しようとする相談が見られます。電話やメール等で「助成金があるので個人情報や口座情報を教えてほしい」と言われたら、詐欺の疑いがあります。こうした電話はすぐに切り、メールは無視してください」といったアドバイス、「絶対に口座情報や暗証番号等を教えたり、キャッシュカード等を渡さないでください」として、「金融機関の職員を装って「新型コロナウイルス関連で確認が必要」と言い、口座情報や暗証番号を詐取しようとする相談がみられます。事業者団体や金融機関、警察が暗証番号を尋ねたり、キャッシュカードや通帳を送るように指示したりすることは一切ありません。電話や訪問をされたり、メール等が届いたりしても、絶対に口座情報や暗証番号等を教えたり、キャッシュカード、通帳、現金を渡したりしないでください」といったアドバイスがなされています。またオレオレ詐欺【事例5】については、「他人には絶対に現金を手渡したり、暗証番号を教えてはいけません」として、「オレオレ詐欺の犯人は、住所等が記載された電話帳や学校の卒業生名簿など、事前に多くの個人情報を入手してから、だましの電話をかけています。家族の職場の関係者や警察等の官公庁、金融機関等を名乗る電話があった場合、すぐに信じることなく、相手の電話番号を調べましょう。そして必ず家族の本来の番号に電話をしてください」、「他人には絶対に現金を手渡したり、キャッシュカードなどの暗証番号を教えてはいけません。お金を「送る・手渡す・振り込む」前に相談しましょう」、「「助成金がある」「お金が返ってくる」などの電話やメールは無視しましょう。不安に思ったり、個人情報や口座情報を伝えてしまった場合は、すぐに警察や消費生活センター等に電話するなど、早めにご相談ください」といったアドバイスがなされています。

また、厚生労働省がLINEと実施したアンケート調査においても、詐欺等が疑われる事案が発生しており、注意喚起がなされています。

▼厚生労働省 【注意喚起】新型コロナウイルス感染症のクラスター対策に資する情報提供に関する取組を装った詐欺にご注意ください~調査を装ってクレジットカード番号等を尋ねるものは詐欺です!~

厚生労働省による注意喚起は、「新型コロナウイルス感染症のクラスター対策に資する情報をご提供いただける民間事業者等と情報提供に関する協定を締結し、新型コロナウイルス感染症のクラスター対策の強化を図るため、3月27日に広く民間事業所等に呼びかけを行い、ご趣旨に賛同いただいたLINE株式会社と「新型コロナウイルス感染症のクラスター対策に資する情報提供に関する協定」を締結したところ」、「現在、LINE株式会社において、サービス登録者に対して健康状態に関するアンケートを実施しているとの情報を得ていますが、このアンケートを装い、クレジットカード番号等を尋ねる等詐欺が疑われる事案が発生しているとの情報が寄せられています」、「LINE株式会社のアンケートでの質問項目は別紙で全てとなりますので、これ以外の項目を問うメッセージ等については回答しないよう、お願いいたします」という内容です。

また、消費者庁は、ネット通販などを手がける30事業者に対し、景品表示法や健康増進法に違反するおそれがあるとみて改善要請を行ったと発表しています。同庁が2月25日~3月6日、緊急監視を実施したところ、「新型コロナウイルスの予防にタンポポ茶」「新型コロナウイルスはマイナスイオンで死滅します!」などとうたう30事業者・46商品が見つかった。同庁はこれらの事業者に対し、表示を改めるよう電話や文書などで求めたということです。

▼消費者庁 新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうする商品の表示に関する改善要請等及び一般消費者への注意喚起について

その他、特殊詐欺を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 新型コロナウイルスに関連した詐欺が横行しているのは日本だけでなく、海外でも同様の事例が見られています。例えば、「米ジョンズ・ホプキンス大学が提供しているマップと酷似した偽の新型コロナウイルスの感染者マップを公開しているサイトへのアクセスには警戒が必要」といったものがあります。悪意あるソフトウェアが組み込まれており、ブラウザーに保存されているユーザー名、パスワード、クレジットカード番号などが盗まれるおそれがあるといいます。また、従来型のメールによるフィッシング詐欺も確認されており、銀行はセキュリティ研修の継続や電子メールのフィルタリング機能の活用などに加え、顧客への注意喚起が求められています。
  • 高齢者から多額の現金をだまし取る特殊詐欺グループのメンバーとして逮捕・起訴されていた男が今年2月、保釈中に新たな特殊詐欺に加担したとして、詐欺容疑で大阪府警に逮捕されています。報道によれば、男は自身の罪を軽くするため、被害弁済に充てる金を集めようと再び特殊詐欺に手を出したとみられるといいます。保釈中の被告の再犯が、年間300億円もの被害が出ている特殊詐欺にも及んでいる実態が明らかになったという点で注目されます。なお、刑事訴訟法では保釈請求があれば、証拠隠滅や逃亡の可能性がある場合を除いて原則認めなければならず、「再犯の可能性」は保釈を判断する要件に入っていないことから、特殊詐欺事件のように社会的弱者を狙う悪質な犯罪は社会に与える影響も大きく、新たな被害者を生まないという社会防衛の視点から保釈制度や要件について見直す必要があるとの指摘もみられます。
  • 大阪府警は、府内の50代の男性が、有料サイトの未払い料金などの名目で43回にわたり、計約1億700万円をだまし取られたと発表しています。同様の架空請求による特殊詐欺の被害が全国で相次いでおり、府警が注意を呼びかけているといいます。報道によれば、男性の携帯電話に「NTT西日本お客様サポート」の職員を名乗り、「ご利用料金の確認が取れておりません」とショートメールが届き、男性が記載された連絡先に電話すると、この職員や「個人データ保護協会」と名乗る男らから、「あなた名義の携帯電話が海外で犯罪に使われ、被害が出ている」などと言われ、示談金を要求されたというものです。類似の事例がこれまでたくさん報道されているにもかかわらず、また極めて怪しい状況であるにもかかわらず、43回にもわたって支払い続けたということは、特殊詐欺の被害防止のための啓発活動がまだまだ不十分であることを示しており、大変残念です
  • キャッシュカードにはさみで切れ目を入れ、使えなくなったように見せかけてだまし取ったとして、大阪府警は、府内の無職少年(19)を詐欺の疑いで逮捕したと発表しています。報道によれば、府内では2019年秋から同様の被害が確認されており、府警が注意を呼び掛けているといいます。受け取りに来た少年が「悪用されないよう切れ目を入れる」と妻の前でカードの一部をはさみで切り、そのまま持ち去ったとされます。なお、少年のスマホからは、「切る場所を間違えると使えなくなる」とICチップや口座番号の打刻などを避けて切るよう指示する図解や、「利用停止の作業を行います」というセリフが書かれたマニュアルが見つかったということです。
  • 高齢女性のキャッシュカードを使ってATMから現金150万円を引き出したとして、奈良県警桜井署は、窃盗の疑いで関西電力社員(25)を逮捕しています。「詐欺の受け子役として家に行き、(キャッシュカードを)受け取った」と容疑を認めているといいます。女性宅に「口座が犯罪に使用されている。桜井署の警察官を行かせます」と電話があった後に容疑者が訪問、キャッシュカードが入った封筒を受け取り、現金を引き出したといい、防犯カメラに写った車のナンバーなどから、容疑者が特定されたようです。関西電力は、「従業員が逮捕されたことを重く受け止めている。今後事実関係を確認の上、厳正に対処するとともに、同様のことがないよう社内で徹底してまいりたい」としていますが、このように、企業は、社員の中に特殊詐欺に加担してしまうような(あるいは薬物に手を出してしまうような)危険分子が必ず潜んでいると認識し、個人の常識に任せるのではなく、企業の名前が公表されてしまうレピュテーション・リスク対策や社会的責任の観点から、企業として社員に対して働きかけていくことの重要性を感じます(ただし、そのような危険分子は、通り一遍の研修や注意関係では「まったく響かない」性質を持っており、そのような危険分子にこそ届くような内容となるよう工夫すること、社員の中に特異な行動を示すものがいないかの「監視」「情報収集」について検討していく必要もあるといえます)
  • 高齢女性から詐取したキャッシュカードで現金を引き出したとして、警視庁捜査1課は、窃盗と詐欺の疑いで、大学生(20)=強盗未遂罪で起訴=を再逮捕しています。報道によれば、カードの受け取りと現金の引き出し役とみられ、「学校からも社会からも必要とされず自暴自棄になった」と容疑を認めているといいます。容疑者は今年1月、渋谷区の携帯電話買い取り店で、店員をスタンガンで脅して現金を奪おうとしたとして、強盗未遂の疑いで逮捕され、その後、起訴されていたといいます。
  • 神奈川県警南署は、横浜市南区に住む70代の無職女性が手渡し型のオレオレ詐欺被害に遭い、現金3,200万円をだまし取られたと発表しています。報道によれば、女性宅を訪れた息子の部下を装った男に現金3200万円を手渡し、詐取されたといい、その後、親族から詐欺の可能性を指摘された女性が、110番通報したことから事件が発覚したといいます。また、高齢女性からキャッシュカードをだまし取ったとして、神奈川県警厚木署は、詐欺の疑いで住所不定、無職の男を逮捕しています。報道によれば、70代の無職女性宅に、市役所や金融機関の職員などを装って「介護保険料の還付金がある」「近くを回っている者にキャッシュカードを渡してほしい」などと嘘の電話をかけ、金融機関の職員になりすました容疑者が女性宅を訪れ、キャッシュカード1枚をだまし取ったというものです。厚木市内では2日朝から似たような不審な電話があったとの通報が相次いだため、同署などが小田急線本厚木駅前で警戒態勢を敷いていたところ、防犯カメラに記録された人物によく似た容疑者を捜査員が発見したということです。これらの事例は、まさに最近の特殊詐欺の典型的な事例ですが、やはりこれだけ特殊詐欺被害や手口が報道されているにもかかわらず、被害が後を絶たないのは極めて残念です。
  • 特殊詐欺グループに関与し、被害者からキャッシュカードを盗むなどして、窃盗罪に問われた、元神奈川県警巡査(25)の論告求刑公判が横浜地裁で開かれ、検察側は懲役6年を求刑して結審しています。報道によれば、論告で、被告がギャンブルなどで借金の返済に窮し、犯行に手を染めるようになったという動機や経緯は「自業自得というほかなく、酌量の余地はない」と指摘、犯行態様は「極めて巧妙かつ悪質」で、現職の警察官でありながら事件に関与したことは「警察官に対する信用を失墜させるもので、被告の刑事責任は重大」としています。また、弁護側は弁論で、被告が受け取っていた報酬は、犯行で引き出した金額の5パーセントであり、「共犯者間の責任の程度は低い」などと強調、反省の意を示していることや懲戒免職など社会的制裁を受けていることを挙げ、寛大な判決を求めたということです。いずれにせよ、警察官が特殊詐欺に手を染めるなどあってはならないことであり、国民感情としては厳しい処分を求めたいところです。
  • フィリピンを拠点にした特殊詐欺事件で、警視庁捜査2課は、警察官や財務省職員に成り済まして盗んだキャッシュカードで現金約300万円を引き出したとして、窃盗容疑で日本人の男18人を再逮捕しています。フィリピンから日本に移送後、別の窃盗容疑で逮捕されていたものです。フィリピン入国管理局は昨年11月、日本に特殊詐欺の電話をかけた疑いがあるとして、マニラ首都圏マカティ市で日本人36人を拘束、警視庁捜査2課は現地に残る18人については、新型コロナウイルスの影響で移送の見通しが立っていないということです。
  • 鳥取県内で2019年に確認された特殊詐欺被害は23件、被害額は2,232万円と高止まりしている状況にあり、鳥取県警捜査2課によると、65歳以上の高齢者が被害者の約7割を占めているといいます。このような現状をふまえ、県西部の4町(伯耆、江府、日野、日南)を管轄する黒坂署では、地元の高校生の声で「この電話は振り込め詐欺などの防犯対策のため、会話内容が録音されます」という音声メッセージを作成する取り組みを始めているといいます(2020年3月17日付朝日新聞)。「独居や高齢者世帯だと思わせないことが、犯人に警戒感を持たせることにつながる」との工夫の結果であり、その成果を期待したいところです。
  • 福井銀行は4月6日から80歳以上を対象に、1日当たりのATMの引き出し限度額を50万円から20万円に引き下げています。キャッシュカードをだまし取る「カード手交型詐欺」や「カードすり替え詐欺」が多発していることに対応したもので、カードをだまし取られても引き出し限度額が低ければ被害額を抑えられる仕組みで、特に被害が多い年代を対象にしたということです。なお、報道によれば、生体認証ICキャッシュカードを使用し、指静脈認証をした場合は200万円の限度額に変更はないということです。以前の本コラムでも紹介したとおり、特殊詐欺の被害の中心が70代から60代に移行しつつあるところでもあり、利便性を損なうとはいえ、被害拡大防止のために金融機関も積極的に取り組んでほしいものだと期待しています。
  • 高齢者から現金をだまし取る特殊詐欺に関与したとして詐欺罪などに問われたコロンビア国籍の被告(26)に対し、東京地裁は、懲役4年4月(求刑・5年6月)の実刑判決を言い渡しています。報道(2020年3月6日付毎日新聞)によれば、被告側は、「特殊詐欺を認識しておらず、書類を運ぶ仕事と思い込んでいた」と執行猶予付き判決を求めたものの、判決は、「当初から(詐欺かもしれないという)『未必の故意』があった」と認定しています。裁判では、幼くして来日したものの学校で日本語を学んだ経験がほとんどなく、日本人の知り合いもいないとする被告が、特殊詐欺という犯罪を理解していたかどうかが争点となりましたが、判決では、男が大麻を扱っていることを知っていたことや、1回3万円の報酬の受け渡し場所が路上だったりしたことにも言及して、「(状況から)何らかの違法行為に関わる仕事と認識していた。高齢者から現金を受け取る仕事であれば、(高齢者が)だまされているのではと考える知識はあり、詐欺の可能性があると想像していたと推認される」と未必の故意を認定しています。本件は被告側が控訴しており、今後の裁判の動向が注目されます。

(4)テロリスクを巡る動向

米国のトランプ大統領がイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)の拠点の完全制圧を宣言して3月23日で1年が経過しました。しかしながら、これまで本コラムで紹介してきたとおり、2014年にイラクとシリアにまたがる地域を支配し「国家樹立」を宣言した疑似国家(リアルIS)の残党は各地に潜伏し、「思想的IS」という形で今もテロの機会をうかがっています。前回の本コラム(暴排トピックス2020年3月号)で取り上げましたが、米政府とタリバンが和平合意文書に署名した歴史的な出来後の裏で、アフガンで米軍がプレゼンスを低下させることで、ISの復活にもつながりかねない懸念があることを指摘しました(現状、和平合意では、米国とタリバンは、アフガン政府がタリバン捕虜を5,000人、タリバンが政府軍などの捕虜を1,000人それぞれ解放すると約束していましたが、アフガン政府は第1弾としてタリバンの捕虜を3月14日から毎日100人、計1,500人まで解放する方針を示していたものの実行しておらず、米国から早期に捕虜解放を進めるよう促されていたものの、両者による和平協議の行方は不透明になっている状況です。このような状況を受けて、ポンペオ米国務長官が予告なしに首都カブールを訪問、アフガニスタンのガニ大統領とアブドラ元行政長官の双方と会談して仲裁を試みたものの不調に終わり、今年予定されたアフガンへの支援を10億ドル(約1,100億円)削減すると発表、さらなる支援削減も示唆し、両氏が和解するよう圧力をかけているなど、さらに状況は混沌としています)。また、現状、各国政府は新型コロナウイルスの感染拡大防止を優先しており(例えば、米国防長官は、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、米軍に出張を含む海外での移動を60日間停止するよう命じています。将校や文官、家族らすべての米軍関係者に適用されるとのことです。ただし、アフガニスタンからの米軍撤収は継続するとされています。それ以外でも、各国の政府では治安対策が後手に回ってしまっているのが現状です)、ISは混乱に乗じて勢力を盛り返す恐れも指摘できるところです。さらに、実際のところ、2020年3月23日付日本経済新聞によれば、ISの復活を示す動きが各地で見られ始めていることが分かります。例えば、イラクではISによる襲撃が増加、シリアでも「昨年末以降、アサド政権軍が北部イドリブ県に立てこもる反体制派への攻撃を強化し、反体制派を支援するトルコ軍との交戦に発展、今月トルコとアサド政権を支援するロシアが停戦に合意したものの、政権側はイドリブ県を奪還する方針を崩していないため、偶発的な衝突が危惧され、ISが混乱を利用して戦闘員の再結集を図る恐れがある」といった状況があります。また、アフガニスタンの首都がブールでの3月の式典襲撃テロやアフリカ・モザンビークでのテロなど、活動活発化の兆しがあります。これまでも指摘してきたとおり、中東やアフリカでは政府で横行する汚職や就職機会の不平等、貧富の格差など問題を抱え、社会の閉塞感が強く、ISは人々の社会への怒りや不満をエネルギーとして成長してきた経緯があります。このように、様々な点で「力の空白」が生じ混乱を招くようなことがあれば、ISは各地のローンウルフやホームグロウン・テロリスト、世界中の信奉者やIS元戦闘員、外国人戦闘員などに思想的に呼び掛けていくことが容易に想定されるところです(思想に共鳴したテロが各地で続けば、人々の間に疑心暗鬼が芽生え、それがさらなるテロを生むという悪循環となり、そこにISが実効支配を強めていくという構図の再来が考えられます)。ISの台頭を許した根本的な問題は解決されていない中、今できることは、テロ発生のメカニズムのネガティブ・スパイラルを絶つこと、「力の空白」をどう埋めていくかを真剣に検討することであり、新型コロナウイルス対応やアフガン情勢への対応をはじめ、世界経済の低迷から世界各地で紛争が勃発・再燃・激化していくことも予想される中、これからが正に正念場となるといえます。なお、ISと新型コロナウイルスとの関連についての報道では、ISが構成員に対し、新型コロナウイルスの感染拡大を理由に欧州に行くことを避けるよう指示を出していると、英紙サンデー・タイムズが報じています。ISはこれまで欧州でのテロ活動を奨励してきたものの、「感染拡大地を避けるよう」通達しているといい、ISも新型コロナウイルスへの対応に苦慮している様子がうかがわれます。さらにIS関連では、米国務省が、ISの最高指導者に就いたムハンマド・サイード・アブドル・ラーマン・マウラ容疑者を国際テロリストに指定したと発表しています。それにより、当然ながら、米国人との取引が禁止され、米国内の資産が凍結されることになります。同容疑者は「サルビ」などの別名でも呼ばれ、昨年10月に最高指導者だったバグダディ容疑者が米軍特殊部隊の急襲作戦で死亡した後、新指導者に就任しています。国務省によると、イラクの少数派ヤジディ教徒の奴隷化や人身売買に関与したほか、世界各地でのテロ攻撃を指揮していたとされます。さらに、直近では、アフガニスタンの情報機関、国家保安局は、ISアフガン・パキスタン地域トップ、アブドラ・オラクザイ幹部とメンバー19人を特殊部隊の作戦で拘束したと発表しています。弱体化が指摘されながらもテロを繰り返す組織に打撃となる可能性があります。同幹部は別名アスラム・ファルーキとして知られ、出身地のパキスタン北西部や隣接するアフガン東部で活動しており、いずれもアフガン南部カンダハル州で拘束したと地元メディアでは報じられており、今後の動向を注視する必要があります。

その他、最近の報道から、テロリスクにかかわるものを、いくつか紹介します。

  • 政府がエネルギー供給や温暖化対策の柱に据える原子力発電所が2020年内に相次いで停止する状況となっています。原子力規制委員会が課すテロ対策施設の完成期限を守れず、3月以降に九州電力、関西電力の4基が順次止まることが決まっています。裁判所の仮処分で運転差し止め中の四国電力の1基を含めると停止原発は年内に最大5基に達し、稼働可能な原発は9基から半減することになります。そもそもテロ対策施設の建設が遅れている問題の背景には、政府や電力会社の危機感の乏しさがあることは否定できない事実です。国のエネルギー政策は安全が確認できた原発を再稼働し、電力の安定供給を果たすとしてきた一方で、テロ対策の重要性がわかっていながら、準備が不十分だったと指摘せざるを得ません。長期化する安全審査や地元同意手続きにテロ対策施設の相次ぐ遅れなどにより、今後のエネルギー政策の抜本的な見直しも必要な状況となっています(それだけテロリスクは巨大であり、その対策の重要性・緊急性が浮き彫りになっています)。
  • 本コラムでもたびたび取り上げてきた放射性物質「アメリシウム」などを無許可で所持したとして、放射線障害防止法違反などに問われた名古屋市の無職の被告に対し、名古屋地裁は、懲役8月、執行猶予3年(求刑・懲役1年)の判決を言い渡しています。報道によれば、裁判長は「社会に不安を与える行為。好奇心や収集欲を満たすための動機は、安易で身勝手だ」と指摘した一方、「悪用の意図はなく、反省している」と述べたということです。被告は、当時の自宅でアメリシウム241の密封容器8個と、爆薬の原料となる塩素酸カリウム約157グラムを所持したとされます。
  • 大規模化学テロとして世界的にも注目された地下鉄サリン事件から25年が経過しました。報道(2020年3月30日付毎日新聞)によれば、厚生労働省の委託を受けた日本中毒情報センーが2018年度に調査したところ、サリンなど猛毒を吸った場合、有機リン系中毒に有効な「アトロピン」や「パム」といった解毒剤による処置がすぐに必要となるものの、センターが東京都内の屋外大型競技会場で750人の患者(重症70人、中等症340人、軽症340人)が発生するというサリン散布シナリオでシミュレーションしたところ、被害者を競技会場から10キロ圏内の災害拠点病院29カ所に搬送しても、各病院の解毒剤の保有量では初期投与分もまかなえなかったことが分かったといいます。このような化学テロへの脆弱性に対し、今年2月から国際水準の化学テロ対策が実現しています。以前の本コラム(暴排トピックス2019年12月号)でも紹介したとおり、海外で使用されている神経剤に対する解毒剤(アトロピン及びオキシム剤)の自動注射機能を有する筋肉注射製剤(以下、「自動注射器」)について、日本においても医師や看護職員(保健師、助産師、看護師及び准看護師)が入ることができない汚染地域等で使用できるようになったものです。通常時は、解毒剤の注射は医療行為に該当し、医師や看護師以外は医師法違反になるところ、自動注射を打てる対象者として、化学テロが発生した際に汚染地域(ホットゾーン)で救急搬送に当たる消防隊員や警察官、自衛官らを想定、治療には早期の解毒剤投与が必要である点などを挙げ、非医師等による自動注射器の使用が許容されることになりました(なお、違法性阻却の可否は個別具体的に判断されるものの、少なくとも5つの条件を満たす場合には、医師法第17条における違法性が阻却されると考えられると結論付けています。すなわち、「当該事案の発生時に、医師等による速やかな対応を得ることが困難であること」、「対象者の生命が危機に瀕した重篤な状況であることが明らかであること」、「自動注射器の有効成分が対象者の症状緩和に医学的に有効である蓋然性が高いこと」、「自動注射器の使用者については、定められた実施手順に従った対応を行うこと」、「自動注射器については、簡便な操作で使用でき、誤使用の可能性が低いこと」です)
  • イスラエル政府は、新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、対内諜報機関シンベトに対して、感染者や自宅での隔離を命じられている人の通信を傍受することを許可したとのことです。外出禁止や外部と接触しないルールを守っているか監視するといいます。通常はテロ対策などのために使われているサイバー技術が感染症対策に転用された事例として興味深いといえます。
  • 米国務省は、イラン産石油化学製品の取引などに関わったとして、大統領令に基づき、中国の貿易会社など9団体と3個人を新たに制裁対象に指定したと発表しています。制裁対象になった団体は、「大連金陽輸出入」など中国企業6社(香港含む)、南アフリカ企業2社、イラン軍関連企業で、ポンペオ国務長官は声明で、対象になった団体・個人の活動は「イラン政権の収入源になっている」と指摘しています。部隊が駐留するイラクの首都バグダッド郊外のタジ基地へのロケット弾攻撃などを含め、テロや地域情勢を不安定化する活動に使われる可能性があると主張しています。

(5)犯罪インフラを巡る動向

前述の本レポート(令和元年における組織犯罪の情勢)でも指摘されているとおり、若年層を中心とした「薬物初心者」への大麻の蔓延が深刻な状況となっています。大麻が「ゲートウェイドラッグ」である以上、今後、覚せい剤等他の薬物を利用する者の増加や薬物依存症の問題がますます深刻となることは確実と思われます。一方で、このような状況は、薬物の売買が暴力団等の犯罪組織の資金源としてこれまで以上に盤石なものとなっていく恐れがあることを示しており、「大麻」「若年層」対策は組織犯罪対策上の喫緊の課題であるともいえます。そして、その対策のカギを握るひとつが、「SNS」「インターネット」「ダークウェブ」「暗号資産」等の「犯罪インフラ」対策です。今後、その「犯罪インフラ」対策の実効性が問われることになりますが、「厳格な監視」に基づく警告・摘発の精度や実効性の向上(国境を越えた法的規制をどうクリアしていくかなど)、「匿名取引」の排除(AML/CFTからも重要な視点です)など、言い換えれば、どれだけ「犯罪インフラ」を無効化できるかがポイントとなると思われます。「犯罪インフラ」は、利便性の裏に潜む「負の側面」が犯罪者に悪用される、各種手続きや監視の緩さ(脆弱性)が突かれて犯罪に悪用されるといった形をとります。逆に言えば、犯罪者は常に「まだ誰も気付いていない、対策が講じられていない穴」をいち早く見つけることに腐心しており、「犯罪インフラ」対策は、そのような犯罪者の立場に立って考えてみることが必要不可欠であるともいえます。そして、いち早く悪用事例を知ること、常に情報を収集・分析して対策に反映させていくこともまた必要不可欠です。以下、最近の「犯罪インフラ」の状況について、いくつか紹介していきます。みなさまのサービス等が悪用されないためのヒントとなれば幸いです。

以前の本コラム(暴排トピックス2020年2月号)でも取り上げましたが、メールアドレスと携帯電話番号の登録だけで使えるスマホの決済サービス「Paidy」を悪用した詐欺行為が問題となっています。詐欺行為は個人間で品物を売買するフリマアプリ「メルカリ」を通じて行われており、加害者はフリマアプリの出品者で、手元にない品物を出品し、落札されると通販サイトからPaidy決済で品物を購入、通販サイト側から直接、落札者のもとに送らせていました。落札者は品物が届くとフリマアプリ経由で出品者に代金を支払うことになりますが、出品者がPaidyへの後払いをしないため、品物を受け取った落札者がPaidy側から代金を請求される例が相次いでいるというものです。今回の詐欺事案のように、Paidyやメルカリが「犯罪インフラ」化した背景には、公的書類などによる本人確認が不要で、携帯電話番号とメールアドレスのみで登録できるPaidyの後払いシステムの手続きの脆弱性が突かれたことが指摘できると思います。さらには、個人間で品物を売買するフリマアプリの特性(知り合いでもない相手との一回性の非対面取引という「信頼性が担保されない取引」)もまた悪用されたものといえます。このような脆弱性を塞ぐもの(後払い決済サービスで生じた不正利用への対策)として、Paidyは、顔認証による本人確認を4月に追加すると発表しています。電子商取引(EC)サイトで家電製品などを買う際、購入者に免許証と顔写真の照合を求めるものです。高額品や家電など、転売されやすい商品を購入する際に、Paidyのアプリで消費者の顔と免許証を撮影してもらい、画像データと登録された氏名などを照合し、本人かどうか確かめる仕組みとなります。その結果、免許証を持たない人は高額の決済などができなくなるといい、今後、免許証以外の公的書類による本人確認も検討するとのことです(これは、いわゆる自分が何者であるかを証明できない「証明弱者問題」でもあります)。

また、新型コロナウイルスが猛威を振るう中、ヤフーや楽天などインターネット大手が、自社のオークションサイトなどで、個人のマスク出品を禁止しています。マスクを高額で転売する行為を禁止するため、政府が国民生活安定緊急措置法を政令改正し、3月15日から施行するのに対応したものです。ヤフーはネットオークション「ヤフオク!」に一般利用者がマスクを出品することを禁止、報道によれば、「利用者が法令違反するリスク」を考慮したといい、自作マスク出品や抱き合わせ販売も制限することとしています。なお、事業者が適正な価格で販売するのは認め、価格が変動するオークション方式を禁じるものとなります(今回の法改正では、薬局、通販サイトなどでの小売り事業者の高額販売は規制対象外であり、結局、マスク不足が解消されていない現実があります)。なお、ヤフー以外にも、楽天のフリーマーケットアプリ「ラクマ」やフリマアプリのメルカリもマスクの出品を禁止しています(プラットフォーマーとして、自社日ビジネスの「犯罪インフラ化」を阻止する取り組みといえます)。消費者の感情に配慮した迅速な対応は評価できるもので、「利用者が法令違反するリスク」を考慮したという点は、プラットフォーマーとして犯罪助長リスクを排除すると解せば、正に最近のコンプライアンス・リスク管理に適った対応であるともいえます。それでも、各社は人工知能(AI)や24時間の監視体制で違反行為を捜索しているものの、「ホチキスの替え芯」や「赤ペン」と表示してマスクをやり取りする出品者も現れ、いたちごっこの懸念があるほか、「著しく高い価格」とは何か、価格は需要と供給で決まり、適正な価格の見極めが難しいなど、実務面では試行錯誤が続いているようです。

似たような構図としては、新型コロナウイルス対応とSNSの関係もあります。SNSの「犯罪インフラ化」には様々な側面があることは、本コラムでもたびたび指摘しているとおりですが、新型コロナウイルスにまつわるデマの拡散にSNSが悪用されることも「犯罪インフラ化」の一つと言えると思います。したがって、SNSで誤った感染情報や治療法、陰謀論が拡散する「インフォデミック」の阻止のため(SNSの「犯罪インフラ化」阻止のため)、FBやツイッターなどソーシャルメディア各社がWHO(世界保健機関)などとの協力強化に乗り出しているといます。FBのマーク・ザッカーバーグCEOは、WHOに対して無料広告枠を必要なだけ提供することを表明、その上で、WHOなど国際機関が、誤りや悪意があると指摘した偽情報を削除していく方針を改めて強調したほか、ツイッターも取り組み強化の方針をブログに掲載、すでにWHOや各国の保健機関などからの公式ツイートが最上位に表示されるようにしているところ、新型コロナウイルスにからんだ不適切なターゲット広告を禁止することも表明しています。

さらに、新型コロナウイルスの感染拡大との絡みでいえば、テレワークや在宅勤務の拡大で利用者が急増している、ネットを使った米国発のテレビ会議システム「Zoom」について、最近になって多くの不具合が指摘されるようになり、開発元が謝罪する事態になっています。利用者の急増とともにトラブルが顕在化しており、米連邦捜査局(FBI)は、Zoomを使った学校のオンライン講義中に何者かが勝手に侵入(ハッキング)し、教師の自宅住所を叫ぶ、ポルノ画像を映したりする、利用者のデータをフェイスブックに無断転送するといった複数の妨害行為が報告されていると発表、テレビ会議を公開したり、会議へのリンクを広く共有したりしないよう、注意を呼びかける事態となっています。同社もプライバシー保護と安全性の不備を謝罪、通常の開発業務を今後90日間にわたり中断し、利用者や専門家から指摘が相次ぐプライバシー保護とセキュリティ対策に集中するとしています。社会インフラとして脚光を浴び始めたZoomの「犯罪インフラ化」を阻止できるか、今が正念場だといえます。

その他、犯罪インフラが懸念されるサービスの脆弱性などに関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 韓国で社会問題化している「n番部屋事件」は、「ネットでモデル募集などと偽って女性を誘い、応募者からプロフィル画像を送らせる。そのログイン情報や、役所で働く協力者から提供を受けた個人情報から身元を割り出す。そのうえで、「言うとおりにしないとばらす」と脅し、断れなくなった女性にわいせつな動画像を要求する。動画像はSNS上のチャットルームで、有料で共有され、過激なほど高値が付いた」というものですが、この卑劣なサイバー性犯罪の容疑者が逮捕され、警察は全容解明に向けて捜査に全力を挙げているものの、早くも壁にぶつかっているといいます。事件に使われたのがロシア生まれの対話アプリ「テレグラム」であり、秘匿性の高さが評価され、かえって利用者が急増する皮肉な展開となっているともいいます。ロシア発祥のテレグラムは通信内容を暗号化して送るため匿名性が高いのが特色で、テロ組織に使われているとの指摘もあり、ロシア連邦保安局(FSB)が利用者の通信内容を解読する技術の提供を要請したが、テレグラムは拒否、プーチン政権は2018年、テレグラムを封じようと1,800万超のIPアドレス(ネット上の住所)遮断に踏み切ったが、テレグラムは徹底抗戦したという経緯があります。テレグラムの「犯罪インフラ」性が社会的な評価を得ることで、犯罪が助長されることのないよう、消費者の健全な常識・見識が問われる局面となっています。
  • 通常の検索ではたどり着けない匿名性の高いインターネット空間「ダークウェブ」に児童ポルノ画像を投稿したとして、大阪府警サイバー犯罪対策課は、児童買春・ポルノ禁止法違反(公然陳列)の疑いで、地方公務員の男を逮捕しています。このサイトの日本語版の管理者で、サイトは昨年2月に設立され、世界中で約5,000万回閲覧されているといいます。サイト内での動画などのやりとりは無償で行われているため、送金先などから利用者を割り出すことができず、これまで摘発を逃れてきたとみられています。同課は昨年8月にサイトを発見、通常のインターネット上に残る断片的な痕跡をたどり、日本語版管理者の特定を進めていたところ、犯罪インフラの代表格であるダークウェブが絡んだ事例で摘発に至ったという点は高く評価できると思います。
  • サイバー対策のトレンドマイクロは、工場に対するサイバー攻撃の実態調査をまとめています。報道(2020年3月13日付日本経済新聞)によれば、架空の企業のシステムを「おとり」としてネット接続したところ、8日に1回の頻度でサイバー攻撃を受け、深刻な被害も6回あったといいます。あらゆるモノがネットにつながる「IoT」を活用するため工場を外部ネットにつなぐ中小企業が増えており、安全対策が急務だとしています。とりわけ工場は一般に稼働率を優先することから、長年利用する制御システムの基本ソフト(OS)にセキュリティ上の欠陥が見つかっても、生産設備の稼働が不安定になることを恐れて更新プログラムを適用せずに使い続けていることが多く、こうした事情からITシステムで一般的なサイバー対策をそのままでは適用しにくいといった課題があるようです。そのような特異性が正に「犯罪インフラ化」につながっていることが分かります。IoTの「犯罪インフラ化」も本コラムではたびたび指摘してきたところですが、その脅威が身近に迫っていることを認識させられます。なお、似たような構図のものとして、産業制御システムを狙う新たなマルウェアが見つかっていることも挙げられます。石油施設や電力網、工場などで使われるようなシステムを停止させて「身代金」を要求するもので、いわゆるランサムウェアと呼ばれる手法ですが、こうした古典的な手法が使われたことから、情報機関などではない普通の犯罪者に産業システムのハッキング技術が浸透している可能性も浮上しており、工場の産業制御システムの脆弱性が指摘できます。国家的スパイや犯罪組織ではなく、一般のサイバー犯罪者が重要なシステムに金銭目的で侵入できてしまうという点で、大変恐ろしいものだと感じます。さらに、似たような構図としては、ここ数年、キーレスエントリーシステムを搭載したクルマの所有者にとって、ハッカーが無線対応のキーを悪用して痕跡を残さずに車両を盗む「リレーアタック」と呼ばれる手法が心配の種になっているところ、物理的なキーの認証に使われる暗号の欠陥(シリアル番号に基づいたものなど簡単に推測できるもの)が悪用される事例が明らかになっているということです。
  • ゲーム内での所持金やアイテムを上限まで増やすことができる、ゲームソフトのセーブデータを改竄できるプログラムを販売したとして、神奈川、新潟など4県警の合同捜査本部が、不正競争防止法違反の疑いで、ゲーム周辺機器販売会社「サイバーガジェット」と、同社代表取締役の男性ら計3人を書類送検しています。神奈川県警によると、平成30年の同法改正でゲームのデータが保護の対象になって以降、法人の摘発は全国初だということです。これも犯罪を助長するという意味で「犯罪インフラ」性が高いものだと指摘できます。
  • 生物兵器などに転用が可能な噴霧乾燥装置「スプレードライヤー」を中国に不正に輸出したとして、警視庁公安部は、外為法違反(無許可輸出)容疑で、精密機械製造会社「大川原化工機」社長、顧問、役員の3容疑者を逮捕しています。スプレードライヤーは液体を霧状にして急速に乾燥させ粒子状にする装置で、医薬品や航空機エンジンなどの製造に使われています。外為法は大量破壊兵器などへの転用が可能な製品や技術をリスト化し、輸出の際に経済産業省の許可を得ることを義務付けており、スプレードライヤーは平成25年に規制対象になっていたといいます。兵器に転用可能である時点で「犯罪インフラ」性の高い商品であることから、その流通・供給にあたっては、高い倫理観も求められるところ、安易に中国に輸出していた(犯罪インフラ化を助長していた)点は問題が大きいものと思われます。
  • インターネットを通じた個人間の金の貸し借りをめぐり、返済できなかった人の住所や勤務先、裸の写真などが投稿される掲示板サイトが問題となっているといいます。報道によれば、個人情報の削除は困難で、被害者の精神的苦痛は大きく、専門家は「不当な告発だ」と警告しています。返済を滞らせたとみられる200人以上の名前や勤務先が掲載され、債権者が「連絡がないと性行為の動画をばらす」と脅す投稿もあるということであり、このような行為を阻止できない(あるいは逆に助長している)インターネット掲示板サイトの「犯罪インフラ」性が指摘できると思います。

(6)その他のトピックス

①暗号資産(仮想通貨)を巡る動向

金融庁と日本仮想通貨交換業協会との情報交換の場(2019年12月)での、暗号資産(仮想通貨)を巡る金融庁の示した内容について、まずは確認します。

▼金融庁 業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点
▼日本仮想通貨交換業協会(令和元年12月20日)

金融庁は、「相場操縦等の不公正取引への対応については、貴協会において、自主規制規則を定めるとともに、スタディグループを開催し、株取引における「監視の着眼点」等を参考として、暗号資産取引における不公正取引防止に向けた体制整備に向けた検討を進めていると承知。暗号資産には株取引と取引形態が異なる点も多いこともあり、会員も実効的な取引審査体制を構築するのに苦慮していると承知。貴協会においては、各会員の知見を集め、「排除すべき不公正取引の具体的な類型」と「不公正取引の抽出基準」を整備するなど、会員の取引審査体制の底上げにご協力いただきたい」と要請しています。その背景には、暗号資産取引において、まだまだ不公正取引が十分に排除できる体制となっていないとの認識が強くあることをうかがわせます。さらに、金融商品取引法(金商法)や資金決済法等の改正に関連して、「暗号資産デリバティブ取引については、暗号資産取引の多く(8割程度)を証拠金取引が占めていることから、今般、金商法を改正し、FX業者同様、第1種金商業者として登録制を導入したところ。そのため、暗号資産デリバティブ業者は、第1種金商業者として登録後、自己資本規制比率が適用されることとなる。現状において十分な自己資本規制比率を確保できていない暗号資産デリバティブ業者においては、必要な資本を確保する方策についても検討していただきたい」こと、「暗号資産の価格形成メカニズムは必ずしも明らかとなっておらず、利用者が妥当でない価格で暗号資産の取引を行うおそれがあると、研究会の報告書にて指摘されているところ。そのため、業界全体として取引価格の透明性を確保するため、今般の改正において、利用者が取引を行う際に参照できる価格(いわゆるベンチマーク)を算出・公表するよう求めているところ。現在、貴協会において、会員とも連携の上、参考価格の算出と公表方法について、検討していると承知しており、引き続き、その実現に向けてご協力いただきたい」こと、「貴協会においては、取引状況の月次調査、取扱暗号資産の情報、会員HPにおける事業報告書掲載など利用者への情報開示に関する取組みを行っていると承知しているが、今後、新規会員も速やかに対応できるよう指導いただくとともに、利用者のためにも更なる情報開示に取り組んでいただきたい」こと、「無登録営業への対応については、貴協会から、無登録業者について逐次、情報提供いただくなど、これまで、会員、協会、当局の3者間で緊密に連携し対応してきたところ。こうした中、改正法においては、新たにいわゆる暗号資産カストディ業務が資金決済法に、暗号資産デリバティブ業が金商法に追加されたことから、これらの無登録営業についても新たに情報収集いただくとともに、連携し対応させていただきたい」ことなどが要請されています。また、ブロックチェーン技術に基づく分散型金融システムについて、「金融庁では、各国の金融当局や技術者、研究者等の幅広いステークホルダーが参画する「国際共同研究」プロジェクトを推進し、国際的な議論をリードしてきた。本年6月に日本が議長国を務めたG20では、こうした分散型金融システムについて、金融当局だけでなく、大学関係者や技術開発者等の幅広いステークホルダーとの対話を通じた新たなガバナンスシステムを構築することの重要性について合意が得られた。こうした国際的な合意も踏まえ、来年の3月9日と10日の2日間、マルチステークホルダーが参加して、ブロックチェーン技術に基づく分散型金融システムの課題や今後の活用可能性等について国際的な議論を行うための「Blockchain Global Governance Conference」(BG2C)を東京において開催する。本会合の開催にあたっては、貴協会とも連携して参りたいと考えているところ、よろしくお願い申し上げる」、さらには、「前回の意見交換会以降、新たにみなし登録業者1社を仮想通貨交換業者として登録した。貴協会においては、金融庁への登録申請前に2種会員としての申込を受けるとともに、当該会員に対し登録に向けた態勢整備等につき、引き続き指導をお願いしたい」といった要請もなされています。

2018年1月のコインチェックの暗号資産NEM流出事件では、被害者約26万人、被害総額約580億円もの被害が発生しました。コインチェックからNEMを盗みだした犯人は、匿名性の高いダークウェブ(闇サイト)でNEMを売るサイトを立ち上げ、盗難したNEMと別の暗号資産とを交換していき、NEMを相場よりも15%安い値段で売りさばくことで、2か月も経たない3月22日には換金が完了したといいます。犯人は交換した暗号資産を多数のアドレスに分散して保存しており、犯人捜索は難航しています。本事件において、不正に流出したものと知りながら取得したとして、東京地検は、組織犯罪処罰法違反(犯罪収益収受)の罪で、会社役員と医師を起訴しています。当時のレートで役員は十数億円分、医師は1億数千万円分を取得したといいます。2人は安価で入手したNEMを、ビットコインなど別の暗号資産に交換して利益を得たとみられており、警視庁は流出させたハッカーについて、不正アクセス禁止法違反容疑を視野に捜査しています。なお、NEM流出に関与した人物はダークウェブ上の闇サイトで、流出した約580億円相当のNEMを相場より15%安いレートでビットコインなどと交換すると持ちかけていたとされ、男らは呼びかけに応じてNEMを入手、さらに、得たNEMを正規の仮想通貨交換所でビットコインに交換していますが、短時間に高速の取引を行う自動取引プログラムを使い、一連の行為を少なくとも数百回にわたって繰り返し、億円単位の利益を得たとみられています。

さて、本コラムでは、ここ最近、米FB(フェイスブック)の構想する米ドルなどの法定通貨に裏打ちされたデジタル通貨「リブラ」を巡る議論、そこから拡がる国際的な「ステーブルコイン」の議論について取り上げています。直近では、各国政府とも新型コロナウイルス対応に忙殺されており、ステーブルコインを巡る議論に関する報道もほとんど見かけることがなくなりました。しかしながら、リブラの衝撃とそれを受けたステーブルコインの議論の成熟化は今後、避けては通れないところまで実体経済がきていると認識する必要があります。あらためて、これまでの議論を整理すると、まずリブラに対する大きな懸念として、(サイバー攻撃による窃取リスク、マネー・ローンダリングやテロ資金供与等への悪用リスク、プライバシー侵害リスク等に加え)国家主権の中核である通貨発行権を脅かしかねないという点にほぼ収斂されるといえます。一方、その間隙を突くように、中国は「デジタル人民元」発行の準備を加速させているほか、欧州中央銀行(ECB)やウルグアイ、スウェーデンなども検討や実証実験を開始しています。そこに、米中両国の対決構図(基軸通貨を巡る覇権争い)も絡み、デジタル通貨の行方に注目が集まっている状況が続いています。そもそも、20億人のユーザーを抱えるFBのリブラが定着すれば、明らかに国際資金の流れは大きく変わり、金融経済規模の小さい国であれば「リブラ化」する可能性は否定できません。正に「通貨発行権」という経済政策の根幹に対するチャレンジに政府・中央銀行はどう対峙するのかが問われている状況にあります。一方、技術革新によって「民間銀行」がこれまで提供してきたさまざまなサービスを、細分化し低コストで提供する流れは加速しており、日本を含めすでに多くの送金業者や決済提供業者が存在し多様なサービスを提供し始めていますが、「少額な国際資金送金」に対してもリブラはチャレンジをしかけることになります(なお、日本における「少額な国際資金送金」の規制緩和もすでに始まっています)。また、リブラなどの民間のデジタル通貨と中央銀行発行のデジタル通貨が競合するようなことになれば、「民間銀行」を衰退に追い込むことにもなりかねません。さらに、デジタル通貨によって個人や企業の取引情報がすべて、発行主体の知るところとなれば「監視経済」「監視社会」化が進むこともリアルに想像できるところです。リブラの「破壊力」は、国(政府)・中央銀行・金融、そして国民にとって、あるいは「お金」そのものにとって、その存在意義を再定義させる必要があるほどの大きさだといえ、その流れが避けられない以上、コロナショック後の経済状況と絡め、今後の議論に注目する必要があります

②IRカジノ/依存症を巡る動向

カジノを含む統合型リゾート(IR)参入を巡る汚職事件を受け、政府は1月末に予定していたIR整備の基本方針策定を先延ばしし、新たに政府関係者と事業者の接触制限を近く盛り込む方針といいます。しかしながら、国内外事業者の強力なロビー活動に有効なのか、実効性には疑問の声も多い状況です。さらに、コロナショックによって、基本方針策定を含むIRを巡る議論自体が止まっており、今後のスケジュール等先を見通せない状況にあります。政府の基本方針が確定しない中で自治体の動きが先行している状況に変わりはないものの、やはりコロナショックにより、自治体は計画の変更を余儀なくされています。例えば、大阪府の吉村知事は、IRの公募手続きを3カ月延期すると発表、開業時期への影響は避けられず、2025年大阪・関西万博開催前の開業を断念することも表明しています。本コラムでもすでに紹介したとおり、大阪府と大阪市が大阪湾の人工島・夢洲で開業を目指すIRには、米国のMGMリゾーツ・インターナショナルとオリックスのグループ1者だけが公募への参加を申請しており、具体的な事業計画を盛り込んだ提案書類の提出期限が4月下旬に迫っていたところでした。

一方、横浜市議会は、一般会計で1兆7,400億円の2020年度予算案を可決していますが、焦点となるIRの推進に4億円を計上しています。横浜市は2020年度からIR事業者の公募や政府に申請する区域整備計画の策定といった誘致作業を本格化させる予定ですが、反対論はいまだ根強く、市民団体は誘致の是非を問う住民投票を求める署名活動を始めるといいます(実際、予算案の採決においても、採決直前には一般傍聴者から発言が相次ぎ、議場は騒然とした雰囲気になり、議長が退席を命じたものの多数の傍聴者が応じなかったため、本会議は一時中断、再開後に採決されるという一幕もありました)。横浜市のIR誘致決定後、ラスベガスサンズ、メルコリゾーツ&エンターテインメント、ウィン・リゾーツの大手3社などが相次ぎ横浜へ参入する意向を表明、2020年度に実施する事業者の公募にはこれらのIR事業者や国内の開発業者が応募する見通しとなっています。また、同市は、IRを説明する約20分の動画「横浜の輝く未来のために~横浜イノベーションIR」をインターネット上に公開しました。同市が開催してきた市民説明会で紹介した、誘致を決めた背景や依存症などの対策といった内容などを動画にまとめ、説明会に参加しなかった人にも誘致の背景やIR施設について理解を深めてもらう狙いがあるといいます。また、同市は4月6日までIRの方向性の素案についてパブリックコメントを受け付けており、どのような意見が集まっているのかも注目されます。

また、同じくIR誘致を表明している和歌山県は、事業者の公募を開始しています。期間は今年8月31日までで、11月中旬ごろまでに事業者を決め、2025年春の開業を目指すということです。和歌山県は2020年2月、事業者に求める条件を盛り込んだ実施方針案を公表、自然や食文化に恵まれた土地柄を生かし、観光を重視した「リゾート型IR」を掲げて、大阪府・市の「都市型IR」との差別化を強調しています。報道によれば、仁坂知事は、「国がスケジュールを変更しない限り、予定通りするしかない」と述べ、コロナショックの中、当初の予定通り手続きを進めていくことを表明しています。

次に依存症に関する最近の動向について確認していきます。

まず、日常生活に支障が出るほどインターネットやゲームにのめり込むことが社会問題になる中、18歳未満のインターネットやゲームへの依存を防ぐことを目的に香川県が全国に先駆けて成立、4月1日から施行されている「ネット・ゲーム依存症対策条例」が賛否両論渦巻く状況となっています。条例は依存防止に向けた県や学校、保護者の責務を規定、家庭内ルールの目安として、「18歳未満のゲーム時間は1日60分(休日は90分)まで」、「小中学生以下は午後9時、高校生などは同10時以降、スマホなどの使用を控える」の2点を示し、子供が守るよう保護者に求める内容となっています。それに対し、先駆的な取り組みとの評価がある一方で、「家庭への介入」、「家庭に自己責任を押しつけている」、「(子供のネット・ゲーム依存について)支援の手を必要とする人が逆に支援から遠のいてしまうのではないか」、「科学的根拠がない」、「議論が拙速だ」などと批判もあがっている状況です。本コラムの立場としては、依存症が病気であるとの問題の本質からみて、医学的な知見から適切な制限を加えることは正しいと考えており、専門家の調査でも依存症と学力の関係なども示されていることをふまえれば、今後の議論に一石を投じるだけの内容の条例であると評価したいと思います。なお、依存症対策で有名な久里浜医療センターが行ったゲーム依存症の実態調査の結果(2019年12月11日付産経新聞)からは、全国の10~29歳を対象に、ゲームに費やす時間や生活への影響について聞き、相関を分析、最近の1年について聞いたところ、85%がゲームをしていたこと、スマホを使うケースが多いこと、ゲーム時間は平日でも2時間以上が男性4割、女性2割に上ること、休日に6時間以上している者も12%いること、6時間以上ゲームをしている人で成績や仕事のパフォーマンス低下は3割、昼夜逆転は5割に上ること、腰痛など体の問題、睡眠障害など心の問題が起きても続けた人は各4割もいること、6時間以上で、学業に悪影響や仕事を失うなどしてもゲームを続けた人は25%、友人や恋人など大切な人との関係が危うくなってもやめられない人も15%いたことなどが判明しています。これらの結果を受け、同報道では、「他人と対戦できるオンラインゲームなどが発達し、長時間のめりこみやすい背景もある。優位に立つために課金するシステムもあり、高額な費用負担に苦しむ例もある。ゲームで過度の刺激を長時間受け、脳の損傷や萎縮が起きるなどの研究も報告されている。厚生労働省研究班の別の調査では中学、高校生のうち1割超がネットへの依存性が高く「病的使用」ともされている。教員や保護者をはじめ、周囲はゲーム依存の危険性など十分理解したい。久里浜医療センターのように予防や治療の専門機関もあるから、相談をためらうべきではない。自分からやめられないのが依存症の怖さである。大切な人間関係を失っても、ゲームが手放せないようでは、情報機器の活用とはほど遠い。」と指摘していますが、正にその通りです。ギャンブル依存症、薬物依存症、ゲーム依存症など、それは例えば「ギャンブル依存症は自分の努力で回復すべきもの」といった指摘をしているだけでは解決できない根深い「病気」であり、適切な治療と支援体制が求められるものだといえます。

さて、消費者庁及び金融庁は、2018年10月に施行されたギャンブル等依存症対策基本法(平成30年法律第74号)等を踏まえ、2019年3月に、「ギャンブル等依存症に関連すると考えられる多重債務問題に係る相談への対応に際してのマニュアル」を見直し、再度発出していましたが、今般、2019年4月に閣議決定されたギャンブル等依存症対策基本法第12条第1項に規定するギャンブル等依存症対策推進基本計画等を踏まえ、更なる内容の充実を図ったということです。以下、本マニュアルからポイントなりそうな部分を紹介したいと思います。

▼金融庁 ギャンブル等依存症が疑われる方やその御家族からの多重債務問題に係る相談への対応に際してのマニュアルについて
▼「ギャンブル等依存症が疑われる方やその御家族からの多重債務問題に係る相談への対応に際してのマニュアル」

まず、「相談者来訪前の準備」における留意点として、「精神保健福祉センターや保健所との間で、御本人やその御家族の支援に成果を挙げている自助グループ、債務の整理に関する専門機関等の連絡先を共有します。また、地方公共団体内の就労支援関係部局や、生活困窮者への支援を行う機関等との間で連絡先を共有することも考えられます」、「例えば、以下のような観点から、精神保健福祉センターを始めとして、地方公共団体での部門間連携や関係機関相互の連携を構築・再確認します。なお、厚生労働省から各都道府県・指定都市宛てに、ギャンブル等依存症である者やその家族等が早期に必要な治療や支援を受けられるよう、包括的な連携協力体制を構築することを依頼しており、当該連携協力体制に参画し、情報交換や知見の収集に努めることは非常に重要です」と指摘しています。なお、ここでいう「観点の例」とは、以下のようなものです。

  • 御本人がこころの問題や自殺のリスクを抱えている可能性
  • 御本人が失業している可能性
  • 御本人がアルコールに対する依存などにも陥っている可能性
  • 相談者(御本人又は御家族)からの相談内容を的確に把握できるよう、ギャンブル等依存症及びギャンブル等に関する一般的な知識を押さえておきます

次に、「相談者来訪時」における留意点としては、「相談者に安心してもらえるようにします。また、ギャンブル等に再度のめり込んでしまい、再び相談に訪れることとなったとしても、御本人を責めないようにします。相談内容が外部には漏れないことを理解していただくとともに、相談員が、相談を寄せている他の方に対するのと同様、相談者に対して陰性感情・忌避感情を持たずに対応していることを実感していただくことも重要です」、「借金の状況を確かめる際には、「御本人から、借金の問題が生じることになった経過をお話しいただく」「御本人から、借金の総額や内訳をあえて口に出してお話しいただく」など、借金の問題に自覚を持っていただく工夫も考えられます」、「借金の問題が生じることになった経過や時間のある際の過ごし方を伺う中で、ギャンブル等により借金が増加した様子がうかがえる場合、以下のような項目について、やり取りに盛り込むことが考えられます」としています。なお、「LOST」と呼ばれる、過去1年間のギャンブル等の経験で、4項目のうち2つ以上該当する場合、「ギャンブル等の愛好家」ではなく、「ギャンブル等依存症」の危険性があるとされますので、注意が必要です。

  • Limitless …ギャンブル等をするときには予算や時間の制限を決めない、決めても守れない
  • Once Again …ギャンブル等に勝ったときに、「次のギャンブル等に使おう」と考える
  • Secret …ギャンブル等をしたことを誰かに隠す
  • Take Money Back …ギャンブル等に負けたときに、すぐに取り返したいと思う

前記の質問に対する御本人の回答から、ギャンブル等へののめり込みがうかがえる場合においては、「御本人による医療機関、保健所や精神保健福祉センターへの相談状況」、「御本人又は御家族による自助グループへの参加状況」などのような事項も質問するようにします。

また、例えば、ギャンブル等へののめり込みの状況を、御本人から伺っている際に、以下のような発言がなされる場合、御本人が自殺のリスクを抱えている可能性があります。そのような場合、関係機関につなぐ際に、関係機関の担当者に付言することが適切です。また、地域によっては、ゲートキーパー(自殺の危険を示すサインに気付き、適切な対応(悩んでいる人に気付き、声を掛け、話を聞いて、必要な支援につなげ、見守る)を図ることができる人をいう)の養成のための研修に相談に対応する者が参加し、能力を涵養することを推奨している例があり、参考となります。

  • 家族には、たくさんの苦痛を与えてしまった。家族にとっては私がいないほうがいいだろう
  • 私は絶対によくならない。本当に役立たずだ
  • あまりにたくさんの問題を引き起こしたので、自分などはよい人生を送るに値しない

さらに、御本人からの説明を伺う過程で、アルコールに対する依存等がうかがえる場合、関係機関につなぐ際に、関係機関の担当者に付言することが適切であること、借金の問題は、御本人又は御家族が予期せぬタイミングで顕在化することが多く、御本人、御家族のいずれも混乱してしまい、解決すべき問題の全体に気付いていない場合や、こころの問題を抱えている場合があるため、御家族のみによる相談であっても、「御本人の相談ではない」 等の形式的な理由のみで相談を断るのではなく、関係機関の連絡先を情報提供するなど、可能な対応をすることが適切だとされます。さらに、「ギャンブル等依存症の治療等のための機関の紹介」及び「関係者間におけるコミュニケーションの確保」における留意点として以下のような点が挙げられています。

  • 上記手順により共有した関係機関の連絡先を基にして、治療等のための機関を紹介するほか、多重債務者相談への対応時につなぐ機関も紹介するようにします
  • ギャンブル等へののめり込みによる借金の場合、御家族が肩代わりすることは、御本人の立ち直りの支障となり、新たな借金の問題を発生させる可能性があります。御本人及び御家族に認識を持っていただくため、関係機関につなぐ際に、付言することが適切です
  • 御本人は、自らがギャンブル等にのめり込んでいることを話したがらない場合が少なくありません。そのため、関係機関につなぐに際し、御本人に関係機関の連絡先を示すのみでは、御本人がアクセスすることをやめてしまう可能性もあることから、御本人の了解が得られれば、御家族にも連絡することが考えられ、また同様に、御本人の了解が得られれば、相談員が関係機の予約を入れることや、追って連絡が入る旨を関係機関に伝えることも考えられます

なお、「ギャンブル等依存症」に相当する医学上の疾病分類としては、「DSM-5」における「ギャンブル障害」が挙げられます。「DSM-5」においては、「ギャンブル障害」 の診断基準について以下のように設定しています。

A 臨床的に意味のある機能障害又は苦痛を引き起こすに至る持続的かつ反復性の問題賭博行動で、その人が過去12カ月間に以下のうち4つ(又はそれ以上)を示している

  • 興奮を得たいがために、掛け金の額を増やして賭博をする要求
  • 賭博をするのを中断したり、又は中止したりすると落ち着かなくなる、又はいらだつ
  • 賭博をするのを制限する、減らす、又は中止するなどの努力を繰り返し成功しなかったことがある
  • しばしば賭博に心を奪われている(例:過去の賭博体験を再体験すること、ハンディをつけること、又は次の賭けの計画を立てること、賭博をするための金銭を得る方法を考えること、を絶えず考えている)
  • 苦痛の気分(例:無気力、罪悪感、不安、抑うつ)のときに、賭博をすることが多い
  • 賭博で金をすった後、別の日にそれを取り戻しに帰ってくることが多い(失った金を「深追いする」)
  • 賭博へののめり込みを隠すために、嘘をつく
  • 賭博のために、重要な人間関係、仕事、教育、又は職業上の地位を危険にさらし、又は失ったことがある
  • 賭博によって引き起こされた絶望的な経済状況を免れるために、他人に金を出してくれるよう頼む

B その賭博行動は、躁病エピソードではうまく説明されない

なお、「ギャンブル等依存症の併存疾患」についても理解しておくことが重要で、「ある病気が他の病気と一緒にみられる場合を併存疾患と言います。ギャンブル等依存には精神疾患の合併が多く、特にニコチン依存を含む物質使用障害、アルコール乱用や依存症といったアルコールの問題、うつ病などの気分障害、パニック障害などの不安障害が多いとされています。独立行政法人国立病院機構久里浜医療センターのウェブサイトによれば、合併する頻度は調査によっても異なりますが、11件の調査をまとめて解 した論文によりますとニコチン依存が60%、アルコールや薬物の問題が58%、躁うつ病を含む気分障害が48%、不安障害が37%などとなっています」との説明がなされています。

さらに、我が国におけるギャンブル等依存症の実態として、「平成29年9月29日付けで、独立行政法人国立病院機構久里浜医療センターの樋口院長、松下副院長により公表された、ギャンブル等依存が疑われる者の割合などの調査結果(平成29年度に全国調査を実施)では、全国の10,000名を対象に面接調査を実施し、4,685名からギャンブル等依存に関する調査項目の有効回答を得たデータを用いて、過去1年以内のギャンブル等の経験等について評価を行い、「ギャンブル等依存が疑われる者」の割合を成人の0.8%と推計」されています。

また、ギャンブル等依存症からの回復に向けて以下のアドバイスがなされています。

  • 本人にとって大切なこと
    • 小さな目標を設定しながら、ギャンブル等をしない生活を続けるよう工夫し、ギャンブル等依存症からの「回復」、そして「再発防止」へとつなげていきましょう(まずは今日一日やめてみましょう。)
    • 専門の医療機関を受診するなど、関係機関に相談してみましょう
    • 同じ悩みを抱える人たちが相互に支えあう自助グループに参加してみましょう
  • 家族にとって大切なこと
    • ギャンブル等をしている方に、家族の行事を顧みなくなった、家庭内の金銭管理に関して暴言を吐くようになった等の変化が見られる場合、ギャンブル等へのめり込み始めている可能性を考慮しましょう
    • 家族だけで問題を抱え込まず、家族向けの自助グループに参加するなど、ギャンブル等依存症が疑われる方に振り回されずに健康的な思考を保つことが何よりも重要です
    • 自助グループのメンバーなど、類似の経験を持つ人たちの知見などをいかし、本人が回復に向けて自助グループに参加することや、借金の問題に向き合うことについて、促していくようにしましょう。ギャンブル等依存症が病気であることを理解し、本人の健康的な思考を助けるようにしましょう
    • 借金の肩代わりは、本人の回復の機会を奪ってしまいますので、家族が借金の問題に直接関わることのないようにしましょう
    • 専門の医療機関、精神保健福祉センター、保健所にギャンブル等依存症の治療や回復に向けた支援について相談してみましょう。また、消費生活センター、日本司法支援センター(法テラス)など借金の問題に関する窓口に、借金の問題に家族はどう対応すべきか相談してみましょう

(7)北朝鮮リスクを巡る動向

北朝鮮は、3月2日に約3カ月ぶりに短距離弾道ミサイルとみられる飛翔体を発射しましたが、その後、3月9日にやはり3発の短距離弾道ミサイルを、21日にも2発の短距離弾道ミサイルを、29日にもやはり2発の短距離弾道ミサイルを立て続けに発射しました。9日の発射については、軌道などから北朝鮮が「超大型放射砲(多連装ロケット砲)」と呼ぶ事実上の短距離弾道ミサイルの可能性が高いとみて分析を進めています(なお、超大型ロケット砲は4つの発射管から同時発射で打撃を与える兵器で、連射能力が求められるものと言われています。北朝鮮は昨年から連射を繰り返しており、発射間隔も縮まっていました。飛距離などから今回は複数の兵器が使われたとの分析も出ており、実戦能力を誇示した可能性が指摘されています)。このような事態に対し、安倍首相は、「弾道ミサイルとみられる」との見方を示したうえで、「今般の北朝鮮の行動は我が国と地域の平和と安全を脅かすものであり、これまでの弾道ミサイルなどの度重なる発射も含め、我が国を含む国際社会全体にとっての深刻な課題だ」、「米国などとも緊密に連携しながら必要な情報の収集分析および警戒監視に全力をあげ、我が国の平和と安全の確保に万全を期していく」と北朝鮮を批判しています。なお、日本政府は、飛翔体が100~200キロ飛行し、日本の排他的経済水域(EEZ)外に落下したと推定しています。また、21日の発射については、落下後に低空飛行し、再び急上昇するプルアップと呼ばれる特異な軌道を描いていたことが、韓国軍当局の分析から指摘されています。韓国軍当局は、北朝鮮が昨年8月に試射した新型戦術地対地ミサイルなどの可能性があるとみて、さらに詳しい解析を進めているとのことです(日本政府も、昨年8月10日、16日の両日に発射されたものと同型で、米国の高性能の戦術地対地ミサイル「ATACMS」に外形や発射方式が類似した新型と分析しています)。この弾道ミサイルの飛距離は約400キロで、高度は100キロ未満、従来型の「スカッド」などに比べて低く、迎撃が難しくなる可能性があるほか、燃料は固体式で、固体燃料をあらかじめ装填することで、発射直前に液体燃料を注入する時間がかからず、発射を敵に察知されにくいメリットがあるといいます。いずれにせよ、北朝鮮の弾道ミサイル発射の技術力・精度が向上していることを示すものとして、その脅威が一段と増していることに注意が必要です。さらに、29日の発射については、日本はこのロケット砲を短距離弾道ミサイルとみなしており、北朝鮮が公開した写真などから、移動式発射台はこれまでの車輪式ではなく、悪路も走れる無限軌道式で、発射管も従来の4本ではなく6本備えていたことが判明、北朝鮮が昨年7、8月に試射したと主張して公開した「新型大口径操縦放射砲」の発射台と類似しており、操縦放射砲を改良した上で「超大型放射砲」と呼称を統一した可能性があるとしています。この29日の発射について菅官房長官は、「国連安全保障理事会決議違反であり、極めて遺憾だ。わが国を含む国際社会の深刻な課題だ」と述べたほか、河野防衛相は、「かなり多いペースで国際社会に挑戦している」として意図の分析を進める考えを示したほか、新型コロナウイルスの感染が北朝鮮国内で拡大しているとの報道に触れて「そうしたことが何らか関係しているのではないか」と指摘、発射を繰り返しているのは、国内の引き締めなど可能性があるとの見方を示しています。さらに、北朝鮮国内で移動制限の措置が続いているとも説明、新型コロナウイルス感染が北朝鮮国内で拡大し、医療体制が脆弱な中で国内の不安抑制を図っている可能性があること、「長期化すれば経済状況の悪化につながり、体制が不安定化する」とも述べています。なお、これだけ活発に弾道ミサイル発射を続ける北朝鮮に対して国際社会の反応は鈍く、理事国の英仏独の要請で国連安全保障理事会がようやく3月31日、オンラインによる非公開の緊急テレビ会議が開催され、会合後、「度重なる弾道ミサイル試射」に深い懸念を表明し、「挑発的行為を非難する」との共同声明を発表しているにとどまっています(今年4回目の発射と異例のペースとなっているにもかかわらず、北朝鮮問題で、安保理のオンライン会合が実施されるのは初めてでした)。正に「形ばかりの非難」が繰り返されるだけで、実効性が伴わず、北朝鮮の傍若無人のふるまいを許してしまっている状況が続いています。

さて、このような北朝鮮の動きの背景にあるのは、新型コロナウイルスの蔓延があることは間違いなさそうです。報道によれば、北朝鮮の中国国境付近に展開する軍部隊で2月末以降、新型コロナウイルスの感染が疑われる死者が100人以上出ているといい、こうした事態を受け「軍の訓練が中止になったケースも出てきている」といいます。さらには、北朝鮮で新型コロナウイルスの感染が広がれば脆弱な医療体制が崩壊する恐れがあるなか、同国が検査体制拡充のため、ひそかに国際機関や友好国などに支援を求めていることがわかったとの報道もありました(2020年3月27日付日本経済新聞)。1月に中国の湖北省武漢市で集団感染が報告されると、北朝鮮は即座に国境を閉鎖したものの、当局が国内に感染者はいないとしてはいるものの、懐疑的にならざるを得ません(国営メディアが伝えた兵士らの映像は2月末以来、初めてマスクを着用しておらず、同国はまた、感染阻止のために外国人に対して実施していた隔離措置をほぼすべて解除したと発表して専門家を驚かせた上、4月初めに大規模な最高人民会議を開くとも宣言するなど、感染者がいないことを必死にアピールしています)。北朝鮮のウイルス対策を支援しているのは世界保健機関(WHO)、国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)、国連児童基金(UNICEF)、非政府組織(NGO)の「国境なき医師団」やロシア、中国などですが、国連経済制裁下にある北朝鮮に合法的に物資を送るため、制裁からの除外を申請しているものの、手続きには数週間かかること、また、他国での需要の急増や輸出規制も医療機器の調達が遅れている理由と指摘されています。さらに、中国国内および中国と北朝鮮間の船舶や航空機、道路や鉄道による物資の輸送が滞っており、事態をさらに難しくしている現状があります。また、NPO「全米北朝鮮委員会(NCNK)」事務局長は、「国境や北朝鮮国内での移動制限は農作物を作付けする準備を妨げる可能性がある。その結果、食糧不足を引き起こし、すでに劣悪な同国の人権状況がさらに悪化する」と指摘しており、極めて憂慮すべき状況にあるといえます。

北朝鮮の弾道ミサイルの度重なる発射と新型コロナウイルス蔓延による危機的状況に対し、国際社会は、国連安全保障理事会の決議違反として容認できない強い姿勢を示す必要があるとともに、技術力・精度の向上と実戦配備への警戒も欠かせない状況となっていることを認識する必要があります。一方で、新型コロナウイルス感染拡大を防止するための国際社会の支援も欠かすことはできません。北朝鮮の国民の生命という人道的な側面はもちろんですが、このウイルスを封じ込めるためには、1点の「穴」も許されず、そのためには人類が共闘して、この難敵に「面」で対峙・退治する必要があります。重要なことは、その支援が感染拡大防止に確実に使わることを担保し、監視していくことであり、体制維持に使われるようなことはあってはならないという点です。そのような認識をあらためて国際社会は共有することが重要ではないかと考えます。

3.暴排条例等の状況

(1)暴排条例に基づく逮捕事例(神奈川県

神奈川県暴排条例の定める禁止区域内に暴力団事務所を開設して運営したとして、神奈川県警暴力団対策課は、暴排条例違反の疑いで、稲川会の2次団体総長と同組員を逮捕しています。報道によれば、2人は共謀のうえ、昨年11月中旬ごろから今年1月16日までの間、暴排条例で暴力団事務所の開設が禁止されている同県小田原市本町のビルに組事務所を置き、運営したというものです。事務所が置かれたビルは横浜家裁小田原支部から200メートル以内にあり、暴排条例によって新たに暴力団事務所をつくることが禁止されているものです。

▼神奈川県警 神奈川県暴排条例

同条例第16条(暴力団事務所の開設及び運営の禁止区域等)では、「暴力団事務所は、次に掲げる施設の敷地(これらの用に供するものと決定した土地を含む。)の周囲200メートルの区域内において、開設し、又は運営してはならない」として、対象施設として「(2)裁判所法(昭和22年法律第59号)第2条第1項に規定する家庭裁判所」が明記されています。そのうえで、第32条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。(1)第16条第1項の規定に違反して、暴力団事務所を開設し、又は運営した者」と規定されており、本件はこれに該当することになります。

(2)暴排条例に基づく逮捕事例(大阪府)

大阪府警は、禁止区域に組事務所を開設したとして、六代目山口組直系組長ら組員3人を、大阪府暴排条例違反の疑いで逮捕しています。六代目山口組が「特定抗争指定暴力団」に指定されたことで、組員が事務所に出入りしたり、集まったりできない「警戒区域」が設定されていますが、容疑者らの組事務所が大阪市中央区にあったため「警戒区域」内として使用制限の対象となったことから、規制を逃れる目的だったとみられています。さらに、報道によれば、同条例で禁止されている児童福祉施設から半径200メートル以内の区域にある東大阪市の3階建ての建物に組事務所を開設したとされます。

▼大阪府 大阪府暴排条例

同条例第18条(暴力団事務所の開設及び運営の禁止)に、「暴力団事務所は、次に掲げる施設の敷地(これらの用に供するものと決定した土地を含む。)の周囲二百メートルの区域内においては、これを開設し、又は運営してはならない」として、対象施設として「二 児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第七条第一項に規定する児童福祉施設又は児童相談所」が明記されています。そのうえで、第25条(罰則)で、「第十八条第一項の規定に違反して暴力団事務所を開設し、又は運営した者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」と規定されており、本件はこれに該当することになります。

(3)暴排条例に基づく逮捕事例(東京都)

警視庁組織犯罪対策3課は、保育所の近くに暴力団事務所を開設したとして、韓国籍で住吉会系組長と同組幹部の両容疑者を東京都暴排条例違反容疑で再逮捕しています。報道によれば、昨年1月、私立保育園から約60メートル離れた板橋区弥生町のマンションの一室に組事務所を開設し、同6月まで使用した疑いがもたれているということです。事務所があるとの情報を得た組対3課がマンションを家宅捜索したところ、額縁に入った上部団体の家訓や代紋のバッジなどを押収、10人程度の組員が室内にいたといい、事務所機能があると判断したということです。さらに、このマンションは妻の名義で契約し、事務所として使用を始める昨年1月以前は容疑者と妻が住んでいたとされ、事務所は現在、別の場所に移動しているということです。

▼警視庁 東京都暴排条例

同条例では、第22条(暴力団事務所の開設及び運営の禁止) において、「暴力団事務所は、次に掲げる施設の敷地(これらの用に供せられるものと決定した土地を含む。)の周囲200メートルの区域内において、これを開設し、又は運営してはならない」として、対象施設として、「三 児童福祉法(昭和22年法律第164号)第7条第1項に規定する児童福祉施設若しくは同法第12条第1項に規定する児童相談所又は東京都安全安心まちづくり条例(平成15年東京都条例第114号)第7条の規定に基づき同法第7条に規定する児童福祉施設に類する施設として東京都規則で定めるもの」が明記されています。そのうえで、第33条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。一 第22条第1項の規定に違反して暴力団事務所を開設し、又は運営した者」と規定されており、本件はこれに該当することになります。

(4)暴排条例に基づく逮捕(不起訴)事例(北海道)

暴力団事務所を保育園の近くに違法に開設したとして六代目山口組系誠友会の構成員ら2人が逮捕・送検されていましたが、不起訴処分となりました。報道によれば、2人は、保育園の周囲200メートル以内にある札幌市中央区のマンションに3次団体「森組」の事務所を開設し、北海道暴排除条例に違反した疑いがもたれていたものです。なお、2017年に同条例が改正されて以降、初めての立件となりました(なお、不起訴処分となった理由については明らかにされていません)。

▼北海道警 北海道暴力団の排除の推進に関する条例(北海道暴排条例)

参考までに、北海道暴排条例では、第19条(暴力団事務所の開設及び運営の禁止)において、「何人も、次に掲げる施設の敷地の周囲200メートルの区域内においては、暴力団事務所を開設し、又は運営してはならない」として、「(5)児童福祉法(昭和22年法律第164号)第7条第1項に規定する児童福祉施設、同法第12条第1項に規定する児童相談所、同法第24条第2項に規定する家庭的保育事業等(同項の居宅訪問型保育事業を除く。)を行う事業所又は同法第59条の2第1項に規定する施設(同項の規定による届出がされたものに限る)」が明記されています。そして、同第26条に「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」として、「(1)第19条第1項の規定に違反して暴力団事務所を開設し、又は運営した者」が規定されており、本件はこれに該当することになります。

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