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内部不正の事例から見る企業側の不備と抑止対策

2019.12.17
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総合研究部 上席研究員(部長) 伊藤岳洋

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皆さま、こんにちは。

本コラムは、消費者向けビジネス、とりわけ小売や飲食を中心とした業種にフォーカスした経営リスクに注目して隔月でお届けしております。

今回は内部不正をテーマに考察していきたいと思います。

内部不正の事例から見る企業側の不備と抑止対策

従業員は会社にある資産にアクセスが可能です。現金の保管場所を知っており、オペレーションの関係からパスワードも一部の従業員には知らされていることも往々にしてあります。また、各種の合鍵を持つことも不可能ではありません。従業員は、これらに関するセキュリティを熟知しており、不正を働いた場合のリスクを把握できていると考えた方がよいでしょう。さらに、従業員は注意深い管理者と不正に無関心な管理者を容易に知ることもできます。つまり、従業員は不正が発覚するリスクを最小限に抑えて、確実に不正の果実を得ることができる存在と捉えることができます。さらには、個人情報や営業機密などアクセス権限を設置して、アクセスを制限していたとしても権限を持つ人間が不正を実行した場合は、多くの場合は成功してしまうでしょう。

実際の内部不正の事例を見てみましょう。19年10月に勤務先の日本マクドナルドから3,000万円を横領したとして、財務税務IR部統括マネージャーの男性が業務上横領容疑で逮捕されました。この従業員は、預金口座の管理などを担当しており、19年1月から9月にかけて約50回、会社の当座預金の口座から小切手を振り出して銀行で換金していました。逮捕分も含め、約7憶円を横領したとみられています。報道によれば、横領した金はFX投資に使ったといいます。FXとは、外国の通貨を売買し、その差益を狙う取引です。お金の交換レートを為替レートといい、この為替レートの変動を利用した差益を目的とした金融商品ということです。需要の大きい通貨は値上がりし、需要が少ない通貨は値下がりします。つまり、交換レートですから値上がり分と値下がり分の総和はゼロになります。FX投資がゼロサムゲームといわれる所以です。さらに、FXは拠出金の25倍まで取引できます。たとえば、4万円の拠出で100万円分の取引ができます。つまり、元手以上何倍もの負けを背負うリスクが非常に高いということです。これらのことから、FX投資は投機性が非常に高いので、「投資ではない」と区別する人もいます。

報道によると、この従業員は大手総合商社で海外赴任時にFX投資で同僚や親せきから集めた2億円を失い、その総合商社を退職、自己破産したということです。その後、日本マクドナルドに転職したといわれています。事実だとすると、投機への中毒性が疑われるような行動です。基本的な依存のメカニズムは、賭け事や薬物への依存となんら変わりません。自己破産をどのように捉えて採用するか否かは企業の判断になるでしょうが、信用力の判断のひとつとして確認すべきでしょう。特に資金や機密情報を扱う部署での採用を予定しているなら、慎重な信用調査が求められます。自己破産は官報に掲載され、調べることも可能です。信用調査では、個人情報の取得が制限されますが、公知の情報へのアクセスに制限はないので、最大限活用することも調査方法のひとつです。

次に機密情報について見ていきましょう。企業が所有している機密情報には、製品に関するものから、顧客リストや製品の使用履歴やカルテのような機微情報もあるかも知れません。これらの情報を従業員が故意か故意でないかにかかわらず、漏らした場合は、会社に深刻なダメージを与えることがあります。

2014年に発覚したベネッセ個人情報流出事件は、社会に大きな影響を与えると同時に同社に深刻なダメージを与えた事例としてインパクトがありました。ベネッセのデータベースの個人情報が外部に持ち出され、最大約3,504万件の個人情報が流出した事件です。流出した情報は、進研ゼミなどの顧客情報であり、子供や保護者の氏名、住所、電話番号、性別、生年月日などです。この事件では、ベネッセのグループ企業であるシンフォームに勤務していた派遣社員のエンジニアが逮捕されました。ベネッセは顧客情報に関するデータベースの運用や保守管理をシンフォームに委託していました。同社はさらに複数の外部業者に分散して再委託をしていました。前述の派遣社員はその再委託先から派遣されて、データシステム管理を担当し、顧客情報にアクセスできる権限を保有していました。また、顧客DBにアクセスできる貸与PCに私物のスマートフォンを充電目的で接続した際、スマホにデータをコピーできることに気付き、不正を始めたといいます。後にこの点に、ベネッセの管理に落ち度があったかが問われることになります。

ここで問題であるのは、機密情報にアクセスできる権限者が不正を働いたということです。機密情報にアクセスできる権限を持つものが、不正を働くこと自体は容易なはずです。ベネッセのケースでは、システムやマネジメントによるバックチェック機能がほとんどなかったのでしょう。「内部不正の抑止」という視点においては、「①不正をさせない体制作り、②不正をしてもすぐに発見できる体制作り、③不正をした者が適切に懲戒処分を課され、そのことが公表される体制作り」が必要になります。具体的には、システムやマネジメントによるバックチェックが機能するよう運用の徹底を図る必要があります。また、仮に不正が起きたとしてもそれを早く発見して厳しい対処を行ない、それが公表される仕組みが重要です。内部不正は「割に合わない」ということを浸透させることが抑止効果を高めます。

ただ、この「割に合わない」は、個人の事情によって大きく異なりますので、極論すれば、体制づくりの前提として性善説に依拠することは非常に危険であるといわざるを得ません。不正の動機として、個人の経済的事情は際限がありません。ベネッセのケースでは、逮捕された派遣社員は「金がなくて生活に困っていたので、名簿業者に複数回売却した。総額は数百万円になった」と供述したと報道されています。一般に、数百万で人生を台無しにするほどのリスクを背負って勤務先で罪を犯すことは「割に合わない」はずです。それでも、不正を働くのは「経済的な不正の動機」は、個人によって異なると強く認識しなければならないということです。したがって、繰り返しになりますが、「社員や責任者が不正を働く」前提でバックチェックを有効に機能させる体制にすべきです。

また、刑事裁判では個人情報を持ち出したとして、不正競争防止法違反の罪状に問われました。弁護側は、流出した個人情報は「営業秘密にあたらない」として無罪を主張しました。東京地裁判決では、ベネッセ側が機密保持対策を講じていたと認め、弁護側の主張を退けました。東京高裁では、懲役2年6か月(東京地裁より1年減刑)の実刑、罰金300万円の判決が下されました。ここで強調したいのは、営業秘密にあたるかどうかが、裁判の争点のひとつになったということです。

そもそもこのような情報は、管理・保護を厳格に行う必要があります。機密情報へのアクセスを資格や役割によって制限したり、取り扱いを制限したりすべきというのが一般です。機密文書であれば、セキュリティ対策が施された保管庫に管理する必要もあります。不正競争防止法においては、秘密管理性、有用性、非公知性(公然と知られていないこと)という3つの要件を満たしている場合、営業秘密として保護されます。不正に営業秘密を流出させれば、不正競争防止法違反で逮捕・起訴され、損害賠償請求を受ける可能性があります。秘密として管理されていると認められるには、情報にアクセスできる者が制限されている、情報にアクセスした者が営業秘密であることを認識できるようにしていることが必要です。また、有用性の点では顧客リストも経営効率の改善に役立つものとして秘密として保護されます。そのような点からセキュリティ対策が施された保管庫に管理し、アクセスを制限する必要があるのです。また、個人情報や機微情報の保護や機密情報など守られるべき情報について、どのようなものが該当するのか、取り扱う場合はどのように管理するのかといった従業員への教育を定期・不定期で行うことは不可欠です。

ベネッセのケースでは、私物スマートフォンの持ち込みを禁じなかったなど、ベネッセ側の情報管理に落ち度があったため、東京高裁では減刑されました。したがって、外形的に営業秘密に該当するかどうかという要件を満たすだけではなく、実際に不正を想定して、ルールの抜け穴を埋めるような運用の実効性を高めることが対策として必要だということです。もはや、個人情報は重要な資産であるという認識を強く持って、現場に立って不正を想定した対策を徹底しなければ、情報流出を持続的に防ぐことはできず、流出したときは杜撰な管理として流出させた企業への批判は免れません。

取り上げた日本マクドナルドとベネッセの両事例で共通するのは、権限ある者の不正であるという点です。犯行の機会が制度的にあったということです。また、繰り返しになりますが、個人の経済的な不正の動機には際限がありません。さらに、動機と正当化はセットで不正を誘発します。性善説による統治が限界にきているといえます。性善説を前提とせず、不正を実行してやろうという者の目でルールや運用を点検する必要があります。

加盟店オーナーからの通報窓口設置、セブンイレブン

セブンイレブン本部は加盟店オーナーからの通報を受け付ける窓口を設置しました。24時間営業の問題に加えて、店舗を担当するスーパーバイザーがオーナーに無断でおでんを発注していたことが問題となっていたことも背景のひとつです。まず、おでんという商材についてみていきましょう。おでんという商材は、立地・客層の違いや接客レベルがもっとも販売に反映されます。おでん什器に食材を並べる陳列方法であるため、清潔感のない店舗はお客様に購入を躊躇させます。一方で、ファーストフードとして1つから季節性の高い商品を手軽に購入でき、ランチやおつまみとしてのニーズがあることも事実です。1万円以上の日販がある店舗も少なくありません。販売のピークは、気温が低下し始める秋口で、具体的には10月から11月にかけてとなります。気温と販売との相関は認められるものの、最低気温のピークである1月から2月とは販売ピークは異なります。販売ピークに向けて、8月下旬から本部によるおでんの新規推奨が始まり(基本的に通年の登録はあります)、9月に導入が本格化します。この時期はまだ残暑が厳しい日もあり、販売が安定しません。したがって、「見せる」だけで廃棄につながることが少なくありません。ただ、「見せる」ことでニーズを掘り起こすというのが本部の理論です。一方で、オーナーからみると廃棄をコントロールしないと粗利益がマイナスになる「リスク商材」です。さらに、おでんのよい状態をキープするには、1日2度の什器の洗浄とつゆの入れ替え、都度の具材とつゆの補充などのメンテナンスにスタッフが手をかけなくてはならないため、コスト上昇の圧力になります。手間を省くと売れない、売れないから廃棄が増える、廃棄が多いので陳列を少なくすると、さらに売れないという悪循環に陥ります。おでんに対して後ろ向きのオーナーは珍しくありません。ところが、本部は産地(産地は気候に応じて移り変わります)にこだわった具材やつゆをリニューアルして新商品として晩夏から推奨していきます。商品部と連動して運営部は販売目標を設定して「セール」を行います。セールの結果は、店舗別、スーパーバイザー別、ディストリクト別、ゾーン別に集計され、階層別の競争が繰り広げられることになります。このような環境の中で、往々にして未導入店舗が「犯人」のように扱われるのです。コンビニにとって標準化は「常識」でした。標準化した商品、サービスの実現はメリットであり、絶えずフランチャイジングの課題でもあります。しかしながら、「常識」も変化していくと認識すべきでしょう。これまで、本部は「徹底力」を武器に成長した成功体験が未だ強烈にあります。筆者もスーパーバイザー当時、担当店に未導入があり会議で立たされた経験があります。もはや、一律の幅は変わりつつあり、需要にあった品ぞろえをしなければ、お客様には持続的に支持されません。需要は、仮説と検証でわかるものです。スーパーバイザーの任務は加盟店の継続的な利益の最大化です。具体的には客層に合わせた品揃え、接客、クリーンネスを追求することです。スーパーバイザーはオーナーを「説得」して「検証」する矜持を持って欲しいし、本部は矜持を育てるべきです。

セブンイレブン、残業代未払い

セブンイレブンが加盟店で働くアルバイトやパート従業員の残業手当の一部が支払われていなかったと公表しました。同社の調査によると、1970年代から支払っていなかった可能性があるといいます。不足額は、記録のある2012年3月以降だけで従業員3万人分、計約4憶9千万円、一人あたりの平均は約1万6千円で最高で280万円のケースもあるといいます。また、本部は従業員からの問い合わせ窓口を設けました。セブンではフランチャイズチェーン加盟店が従業員を雇用して管理し、人件費を負担しますが、給与計算システムを構築して計算と給与の支払いはチェーン本部が代行しています。大手コンビニチェーンでは、ほぼ同様の仕組みです。実際には、加盟店オーナーがストアコンピューターに従業員の勤務時間を登録するか、出退勤システムにより集計しているかになると思われますが、いずれにせよ給与計算の計算式の中身自体は本部側の範疇です。あらかじめ登録してある従業員の口座に登録計算された結果をもとに本部から給与の支払いがされます。従業員の給与は、加盟店の人件費として経費に計上され、他の経費と同様に利益から控除されます。フランチャイズチェーンに加盟するとオーナーは仕入れや経費といった資金繰りやそれらの事務手続きから解放されるというメリットがあり、それは加盟店オーナー募集の際にも本部が強調する項目のひとつになっています。フランチャイジングの強みであるはずの、会計システムの一部である給与計算システムの計算式に誤りがあったことは、フランチャイジングの信頼性を大きく損なったといえるでしょう。加盟店オーナーは、従業員の雇用主であり、給与の支払い者です。代行者が誤った手続きをしたとしても、加盟店オーナーは法的な一切の責任を逃れることはできません。労働基準監督署が9月に1店舗に指摘したことから本件は発覚しています。加盟店オーナーからすれば、労基署のチェックが厳しくなることを心配しているはずです。また、セブンイレブンは記録のない12年2月以前も含めて、対象者に不足分を支払う方針です。当該残業代は本来加盟店オーナーが負担すべきものです。過去の本来支払われるべき残業代は加盟店オーナーの利益の増加として処理されています。細かい話にはなりますが、税金や社会保険、健康保険に影響しているものと考えられます。不足分の支払いやこのあたりの修正まで正確に行うとすれば、時効分を除いたとしてもかなりの手間がかかるものと思われます。

今回のセブンイレブンの残業手当の一部が支払われなかった誤りは、以下の法律に反するものです。

「法第37条5項の規定によって、家族手当及び通勤手当の他、次に掲げる賃金は、同条第1項及び第4項の割増賃金の基礎となる賃金には算入しない。」(労働基準法施行規則21条)

  1. 家族手当
  2. 通勤手当
  3. 別居手当
  4. 子女教育手当
  5. 住宅手当
  6. 臨時に支払われた賃金
  7. 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金

このように限定的に列挙されたものですので、上記以外の手当はすべて割増賃金の基礎賃金としなければなりません。それにもかかわらず、セブンイレブンは「精勤手当」「職責手当」を割増賃金の基礎賃金に算入していませんでした。さらに、割増賃金率を本来1.25倍しなければならないところ、0.25倍しかしていませんでした(セブンイレブンHP)。

労務に関する基礎的な部分での誤りであり、なぜこのような単純な誤りが発生し、長期間にわたり放置されていたのか非常に疑問です。さらに、2001年に労基署が精勤、職責の両手当につく残業手当の一部が算入されていないとの指摘を受けていたが、公表しなかったため、事態が拡大したとの見方ができます。依然、パートやアルバイトの当該計算式の誤りが放置されました。公表せず、事態が悪化した後で公表しなければならない事態は、マネジメントとして最悪です。また、不祥事を認識した時点で、他には似たようなことがないのかチェックし、再発防止策を徹底するという危機管理の基本が疎かにされた事例であり、他山の石とすべきです。

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