三匹の社労士・HRリスク相談室(1)(2018.5)

2018/05/30 / 総合研究室 プリント

三匹の社労士・HRリスク相談室(1)

 エス・ピー・ネットワークに生息する三匹(?)の社労士が、職場における、「人」にまつわる様々なお悩みの解決を目指し、初動対応や法的な責任、再発防止など、三匹それぞれの観点からコメントします。


【プロフィール】

イヌ社労士:
 公認不正検査士という顔も持ち、自慢の嗅覚で「事件」の裏側を読み解く(やや偏屈)。

クマ社労士:
 鮭をもらった恩は一生忘れない。法律も大事だけど・・・義理とか人情とかも好き。

ネコ社労士:
 猫なで声と鋭い爪をあわせ持ち、企業内での人事実務経験が豊富。産業カウンセラーでもある。


今月のお悩みは、こちら。

 人事部に、入社4年目になる女性社員から、次のような相談が寄せられました。どうすべきでしょうか?


 上司である男性(既婚者)から、業務中・プライベートの時間に関わらず、頻繁にLINEが送られてきて、食事に誘われたり、時には卑猥な言葉を投げかけられたりすることもありました。また、残業で二人きりになった際には髪を撫でられたこともありますが、私が強い口調で拒否することができなかったため、上司は嫌がっているとは思っていないのか、セクハラ行為はなくなりません。私は仕事のしづらさから不眠症になり、このほど病院から休職を要するとの診断書が出ました。会社はどのように責任をとっていただけるのでしょうか。


【ネコ社労士】
 私からは、初動対応について、実務者目線で考えてみますね。


<初動対応の方向性>
 まず考えるのは、セクハラの事実確認と相談者のケアを並行して進めることでしょうか。
 セクハラはとてもデリケートな問題で、相談者に対する配慮は必要ですが、かといって、相談者の言うことを全て鵜呑みにすれば、時に「加害者」とされた方を不当に扱うことにもなりかねません。セカンドハラスメント(ハラスメント被害を口に出したことで受ける二次被害)とならないよう、相談者の心情に配慮しつつも、冷静な事実確認は欠かせません。疑いの眼で見るわけではありませんが、やはり女性も様々で、恋心が冷めた途端に「セクハラだ!」と言い出す方がいないとも言い切れないのが現実です...。


<相談者のケア>
 「要休職」の診断書を持って来たならば、会社の休職規程にしたがって、休職の手続きを進めることになるでしょう。主治医に回復に必要な期間を確認し、当面の休職期間を取り決めます。休職中の定期連絡や、延長する場合の手続き、復職を判定するための手順や復職可能とする条件等、事前にまとめておくと便利です。
 ここで気をつけたいのは、休職の目的を取り違えないことです。休職は、「会社が責任をとって、被害者の生活を補償する」ための制度ではなく、「また元気に働けるようになるために、いったん休んでいただく」ための制度です。会社とご本人で、「元気に働けるようになる」というゴールを共有した上で、手続きを進めましょう。必要に応じて、会社側の産業医との面談等も設定してよいと思います。現段階では、「元気に働けない要因」がセクハラだとの確証はありませんので、私ならば、「会社はどのように責任をとっていただけるのでしょうか」という問いは、そっとスルーします。まだ労災申請等について、ご本人とお話しする段階ではないと思います。


<相談者への事実(詳細)確認>
 セクハラが「元気に働けない」原因であるならば、会社はご本人が休職中に、その要因を、少なくともご本人が復職できるレベルまで小さくしなければなりません。そのためには、セクハラの事実を検証し、必要な対処をすることになりますが、それにはやはり、ご本人に対する詳細な事実確認が必要です。体調がある程度回復したら、ヒアリングへの協力を打診してはいかがでしょうか。精神的に不安定になる心配があるならば、ご本人の許可を得て、ご家族にもフォローをお願いしておくとよいでしょう。セクハラに関するヒアリングであることは伏せたままでも、「会社の人と話したことがストレスになってしまうかもしれないので」等、ご家族に見守りをお願いする口実は容易に作れます。ご家族に対して、「会社が誠実に対応している」という姿勢を示すこともできますので、変に隠したり、遠慮したりせず、ご家族を積極的に巻き込むことも考えてよいと思います。(会社がご家族と接触することを、極端に嫌う方もいます。その場合は、不調の原因が、本当はご家族に起因している場合もあります。ご家族を避ける理由も、可能な限り聴き出しておきましょう。)
 被害を受けた方の中には、思い出すことも話すことも辛いと、詳細なヒアリングを拒否される方もいるかもしれません。しかし、「あなたが被害に遭ったことを、きちんと証明することで、会社はあなたを守れるし、反省すべき人に反省を促すこともできるから」と、穏やかに声を掛け、ぽつりぽつりでも話していただけるよう、寄り添っていくことになるでしょうか。一度に全てお話しいただくのは難しいかもしれません。できるだけご本人のペースで話せるよう、可能な限り配慮してください。話を聴くのは、必ずしも女性でなければならないとは思いません。穏やかに、誠実に、根気強く耳を傾けられる方が適任でしょう。ただ、状況にもよりますが、男女問わず、2人きりになることはあまりお勧めできません。2人で話を聴き、内1人は気配を消してメモに徹するくらいが無難ではないでしょうか。
 ヒアリングでは、いつ頃からどんなことが行われたのか、そのきっかけや、ご自身がどう対応してきたか(被害者を責めないように注意!)、現在の状況がどうかを把握しましょう。何か物的な証拠があるならば、その提出も受け、保全してください。本ケースならば、LINEのトーク画面を(一部分だけでなく、経緯を含めて)確認させていただくことになるでしょう。もし休職が急を要するものでなく、現在も被害が続いているならば、「こんな時に被害に遭う」という状況を聴き、偶然を装って現場を押さえてしまえば手っ取り早いかと思います。例えば「残業で2人きりになったとき」が危険ならば、「忘れ物を取りに戻った」体で現場を押さえ、加害者を「現行犯」で捕らえられれば、加害者への事実確認もスムーズですし、被害者の保護もしやすくなります。
 また本ケースでは、「入社4年目」の女性が被害を訴えています。「いつから」「何がきっかけで」セクハラが始まったかは、慎重にヒアリングしたいところです。入社してすぐから始まったのであれば、「なぜ今、相談しようと思い立ったか」は、ご本人の心情に配慮しつつも、きちんと確認しておくべきと思います。しばらく問題なく働いた後にセクハラが始まったのであれば、元々別の女性が被害を受けており、その女性の退職を機にターゲットにされたとも考えられますので、余罪を確認するためにも、そのタイミングをできるだけ正確に思い出してもらってください。


【イヌ社労士】
 では私からは、企業が問われる責任や、直接的な問題解決に必要な法的ポイントについてお話ししましょう。


<「ハラスメントのトライアングル関係」に注意しよう>
 本ケースのようなセクハラ事案に限らず、ハラスメント全般への対応で会社が注意すべきひとつに、加害者とされる側(以下、単に加害者とします。)への慎重な対応があげられます。  ハラスメントの被害申告がなされると、その訴えの内容が深刻であればあるほど、また訴えの態様が激しければ尚更に、会社側は穏便な解決を急ぐあまりに被害者側へ寄り添い過ぎ、結果として「冤罪」や過重な処分等を行うことで加害者側の反発を招く事例が多くあるとみられ、訴訟件数も増加傾向にあります。
 2016年12月に「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」が公表され、各社の内部通報制度が活性化する中、弊社の第三者窓口サービスであるリスクホットライン®においてもハラスメント関連の通報・相談は目に見えて増加しています。内部通報制度の適正な整備・運用によりハラスメント被害者の救済可能性が高まるのはもちろん望ましいことですが、それは会社にとって、過去に経験のないような対応を突然迫られる機会が増加することにもなります。レポートラインからの被害申告も含め、解決に向け努力したつもりが会社側のリスクを高めることにならないよう、本ケースにおいてもポイントとなる「ハラスメントのトライアングル関係」について重点的に解説しておきたいと思います。
 ここでいうトライアングルとは、ハラスメント被害を申告する従業員(以下、単に被害者とします。)、加害者、そして会社との三者関係を指しています。
 被害者は会社側に対し、男女雇用機会均等法や労働契約法等に基づきハラスメントの解消や再発防止の環境整備を要求することができます。そして係争事案に発展する場合には、加害者に対してはハラスメントという不法行為責任、会社に対しては当該不法行為に伴う使用者責任(という不法行為責任)や、職場環境配慮義務違反による債務不履行責任に基づいて損害賠償請求ができます。被害者の視座からは、会社もまた加害者に位置づけられうることはご承知のとおりであり、本ケースでの被害者もこの立ち位置にあります。 見落としがちなのが加害者と会社の関係です。会社側には被害者の救済や要求等に対応する責任があるとともに、事情に応じて加害者に対し人事異動や懲戒処分を行う場合があります。また、会社が主導して被害者と金銭解決等を行った場合、(使用者責任部分の何割程度が求償できるかの議論は割愛して、)会社は加害者に対して加害者が負担すべきであった金額を請求できる立場になります。
 しかし、加害者の立場からすれば、会社から不本意な配置転換命令や懲戒処分を受けたり、多額の金銭を請求されたりといった不利益を課されるわけですから、会社による加害行為の認定に対しては黙っていられるはずがありません。言い逃れのできないくらいの確証や明確な被害算定根拠等があるならば別として、加害者からすれば会社は「敵」とすら見えるわけで、ここにはトラブルがつきものだという認識が必要です。
 本ケースで言えば、被害者が申し立てた上司の個々の言動が仮に事実であったとしてさえ、どのような状況下で行われたのかによっては注意指導の対象にこそなったとしても、懲戒処分等の不利益を課すまでのものかどうかには慎重な判断が必要になるわけです。個々の事実に(その真偽は別として)客観的証拠がないのならば尚更です。私どもがご相談いただく事案の中には、従業員の一部が集団でハラスメントの虚偽申し立てを行い、気に入らない上司を配置転換に追いやったと疑われるケースもありました。そちらはパワハラ事案であり、加害者は指導の厳しい上司であったため、完全な「冤罪」とまでは主張できずに一度は会社の処分に従った加害者が反旗を翻し、会社に再調査や処分取消しを求めてきた事案でした。
 また最近では、ハラスメント事案に関し被害者従業員の親族等が乗り出して来て、会社側に解決を迫る事例も目立ちます。こうしたケースでは、会社の外側から迅速な解決を強硬に迫られた挙句、つい社内のことであれば会社側でなんとでもなるだろうとの甘い認識から、証拠も十分でないまま加害行為を過大に認定してしまいやすくなります。これは、まさしく「ハラスメントのトライアングル関係」を見失った判断と言えるでしょう。
 本ケースでは特に、被害女性さえ「上司は嫌がっているとは思っていない」という可能性を認識しているのであり、事実認定については「揉めるのが当然」という認識で臨むべきでしょう。当事者双方や関係者からの事実確認など、情報の拡散にも注意した十分かつ周到な調査に基づき、あくまで客観的事実によってのみ判断していくこと。加害者とされた上司の人権に配慮し、公正な評価機関や懲戒システムにより加害者側にも納得性の高い結論を下していくことが重要です。


【クマ社労士】
 最後に、再発防止については私から。


<「何を」再発させないのか>
 前項までの「事実確認・初動対応」や「ハラスメントのトライアングル関係」でも明らかなように、こうした事案への対応には「公正さ」という軸が求められます。しかしながら、こうした事案は、はっきりと決着がつくものばかりではありません。ハラスメントのトライアングル関係における登場人物としての「被害者、加害者、および会社」は、いずれも100%正しいということはなく、またいずれも100%間違ってはいないのでしょう。また、そこには「トライアングルの外側」として、事情を知っている被害者や加害者の周辺の従業員がいて、それぞれの見方、感情を抱いて事案の着地点を見ています。
 こうした場合、「何を」再発させたくないのかを検討する必要があります。まず、適切な調査によって加害者の言動に就業規則その他に定める禁止事項への違反が認められたのであれば、社内諸規程に定める手続きを踏み、懲戒処分が課されることが再発防止の出発点になるでしょう。あるいは、被害者の申告内容に客観性が著しく乏しかったり、加害者を貶めるといった不誠実な相談・通報であったりする場合には、被害者への指導が必要となるでしょう。さらに、それらの前提として、ハラスメントについて、正しい理解を促す取り組みが足りない場合や、相談・通報制度を利用する従業員への制度の趣旨・目的の周知が足りない場合には、会社として研修その他による取り組みが不可欠です。どれかに重点を置くことが求められる場合もあれば、全てに対応する必要があることも想定されます。
 そして、前述のようにトライアングルの外側をも見据えれば、少なくとも「会社としての不作為(または不作為に見える状態)」だけは避ける必要があります。こうした事案への対応を通じて、会社としての取組みが以下のどの段階へアプローチしているのかが明確になることが望まれます。


(1)そもそもハラスメント行為をなくす、あるいは低減するための取組み
(2)仮にハラスメントが生じても、それを早期に発見する取組み
(3)信賞必罰


 まず、(1)ハラスメント行為自体へのアプローチとしては、会社主導とするべきですが全てはカバーしきれません。まして、管理職だけに「ハラスメントとは何か」あるいは「やってはいけないこと」について研修等を実施するのでは不十分です。一般職も「ハラスメントとは何か」を正しく理解するべきでしょう。そして、研修等においては、ハラスメントの定義を学習するだけではあまり効果がなく、ハラスメントについて「議論する場」が望ましいと言え、付け加えるならば階層別であるほど議論が深まります。ただし、決して上席者に対する不平不満・愚痴を言い合う場ではなく、自分たちが何をするべきかを話し合う場です。筆者は昨年25回ほどハラスメントをテーマに企業の研修を実施する機会を得ましたが、その中のある企業において全従業員に対してハラスメント研修を実施しました。3つの階層(管理職層、担当職層、およびその中間層に対して、それぞれ数十名規模)に対して同一の事例検討(3人の登場人物がそれぞれの立場から見た「組織の問題点」を言い合う内容)を用意しました。すると、それぞれの階層は、自分たちの階層以外については活発に議論します。例えば、中間層は管理職層のマネジメント不足や担当職層が学ぶべきことについては盛んに議論します。しかし、「自分たちがなすべきこと」は手薄になりがちです。階層別に分けた場合のファシリテーターには、参加者の議論が「自分たちがなすべきこと」へ向くようなアシストが求められます。可能であれば、「きれいごと」で結論を出さない、言い換えれば「難しい問題ですね」で終わるのは避けたいところです。
 次に、(2)早期発見については、その大部分をレポートラインが担います。そして(何等かの理由による)レポートラインの目詰まりに対して、「バイパスルート」として内部通報窓口(制度)、その他の相談窓口が補完します。あくまでも補完であって、バイパスルートが前面に出ることは、レポートラインの弱体化のみならず、バイパスルートの趣旨・目的の周知不足(制度利用者の不理解)を意味します。また、ここでは「トライアングルの外側」の従業員が傍観者になってしまい問題となる事象を放置してしまっている状況があるのであれば、それもまた問題です。
 最後に、(3)信賞必罰については、会社としての秩序維持という目的の下、トライアングルの外側への目配せという側面もあります。すなわち、加害者にお咎めを受けるべき要因が強い場合、ハラスメントが許されないことが明確に発信される一方、被害者に改善するべき点が多い場合、不誠実な相談・通報が許されないこともまた、明らかになるべきでしょう。
 いずれにしても、「何を」再発させないのか、言い換えれば、ハラスメントの行為自体、そうした行為に対して見て見ぬふりをする行為、あるいは相談・通報に名を借りた「個人的な感情のもつれに対する発露」といった制度の不理解、そして、過去の事案に対する会社の不作為(そう見える状態も含めて)に対する従業員の諦め・・・。「何を」再発させてはならないのか、改めて見つめなおす必要があるでしょう。



 「HRリスク」とは、職場における、「人」に関連するリスク全般のこと。組織の健全な運営や成長を阻害する全ての要因をさします。
 「HRリスク」の低減に向けて、三匹の社労士は今日も行く!


※このコーナーで扱って欲しい「お悩み」を、随時募集しております。

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