三匹(?)が語る!HRリスクマネジメント相談室(9)「本人が『悪気はなかった』と言う不正にどう対処する?」(2019.6)

2019/06/25 / 総合研究部 プリント

 職場におけるトラブルは複合的。社内の様々な関係者の協力を得て、複数の視点で捉えなければ、解決が難しい問題も多々あります。でもやっぱり最後は「人」!HRリスクマネジメントが重要です。


 職場における様々なトラブルを解決すべく、今、エス・ピー・ネットワークに生息する動物たちが立ち上がりました!初動対応や法的な責任、再発防止など、三匹それぞれの観点から熱く語ります。


【今月の三匹・プロフィール】


fene.pngフェネックさん:
大きな耳はリスクを察知するアンテナ。情報セキュリティの専門家で、産業カウンセラーという一面も。でもなぜか方向音痴。



chau.pngチャウチャウさん:

大きなモコモコボディにつぶらな瞳。怖そうに思われがちですが、怖くないワン。クレーム対応に防災・BCPなどなど、企業危機管理全般について、一晩中でも熱く語るワン。



cat1.pngネコさん:
猫なで声と鋭い爪をあわせ持ち、企業内での人事実務経験が豊富。社会保険労務士で、産業カウンセラー、実はキャリアコンサルタントでもある。悪い人には「シャーッ!」ってします。



今月のご相談は、こちら。

某メーカーの営業部長です。入社以来、本人は「わざとではない」と言いますが、微妙な「悪さ」ばかりをする、Aさんについての相談です。


 Aさんは、中途採用で正社員(営業担当)として入社し、半年が過ぎたところです。試用期間の3ヵ月が過ぎた頃、最初のトラブルが発生しました。廃棄する予定で倉庫に仮置きしてあった、業務用の検査機器がなくなったんです。産廃業者の引き取り日が決まり、倉庫から出そうとしたら、どこを探しても「ない!」と。慌てて社内で聞きまわったところ、若い契約社員が、某オークションサイトに出品されている「それらしい機器」を指差し、「噂ですけど...」と、小声でAさんの関与を教えてくれました。

 Aさんに確認すると、「安くても売れれば、廃棄費用もかからないし、会社のためになると思った」と、出品を認めました。本人は「悪気はなかった」「経費削減になると思った」と繰り返し、反省しているようにも見えたので、出品を取り消させただけで不問に付したのですが...。Aさんは、その後も度々「怪しい行動」をするのです。

 Aさんは、会社の独身寮に入居しているのですが、同じ寮に住む別の社員から、「知らない人が寮に出入りしている」と連絡を受けて調べると、Aさんの部屋に友人が居候していることが判明しました。Aさんが「臨時収入があった」と社内で話していたのは、どうやらその友人から「家賃」をせしめていたためのようです。Aさんに確認すると、Aさんはあっさり認め、「友人が困っていたので」と涙ながらに訴えます。「1週間以内に退去させるから」との約束通りに友人はいなくなったため、これ以上、問題にはしませんでした。

 そして今日、Aさんの交通費の経費精算で、不審な点が見つかりました。Aさんと同行していた者に確認すると、やはり実際に使ったルートではない、少し高い、遠回りのルートで計算されています。100円程度の違いではありますが...不信感がつのるばかりです。指摘をすればきっと、「間違えた」「次回からはきちんと確認する」などと、反省の言葉を述べるのだろうな、と思うのです。ただ、こうも続くと...わざとやっているのではないかと、疑いたくもなります。

 いったい、どうしたらよいものでしょう?


【ネコさん】

cat1.pngニャーン、いますよね、こういう人!大金を動かすような大胆な不正はないものの、小さな「悪さ」なのか「ミス」なのか、悪いとわかっているのかいないのか、反省しているのかいないのか、なんだかモヤモヤすることを繰り返す人、います!


<要注意人物・Aさん>

 なぜAさんがこのようなことを繰り返すのか?それは、わかりません。もしかしたら、万引きを繰り返す「クレプトマニア」に似たような何かがあるのかもしれませんし、Aさんが言うことが本当か嘘かもわかりませんものね。(厳しく問い詰めたところで、泣きながら反省の言葉を繰り返すだけしょう?たぶん。)

 また、一度指摘されたことは、繰り返していないのでしょうか。「まだない」だけなのか、「自分の意志で悪さ(?)を止められる」のかも、まだ現時点ではわかりません。ただ、この様子だと、たとえ「同じこと」を繰り返さないように注意できたとしても、「同じようなこと」は続きそうな気がします。

 Aさんの場合は、試用期間が過ぎるまでは大人しかった(気付いていない「悪さ」があるのかもしれませんが)り、周囲が薄々勘付くような、不審な言動が見られたりもしていますので、ネコとしては、Aさんはかなり「怪しい」と思ってしまいます。現段階でAさんが「意図的に悪さをしている」とまでは言えませんが、少なくとも、Aさんは継続的に注意深く見守るべき「要注意人物」ではあると思います。


<「不問に付す」のは問題あり!>

 とりあえず、現在までの対応でマズイと思うのは、「その場で上司が注意」しただけで済ませてしまっていることです。

 何か「事」が起きたら、すぐに就業規則の服務や懲戒の項目をご確認いただきたいのです。営業部長さんは、すぐにしかるべき部署へご相談ください。今回発生したことが、何らかの形で禁止されているか、懲戒の事由に含まれているかを確認し、もし当てはまる項目が全くないならば、カバーできるような項目を設定しておくべきだと思います。もちろん、就業規則の変更は、必要な手続きを経て行うものですので、すぐにはできないかもしれませんが、可能な限り早く、見直しをお勧めします。また現在の規程で、明らかに「悪いこと」と明記されているならば、「すぐに止めたから」と不問に付すのではなく、「ダメなものはダメ」であることを、正式に釘を刺しておきたいところです。「指導書」的なものがあるのか、懲戒のルートにのせて「けん責」等で戒めるのかは、その会社のルール次第ではありますが、少なくとも、この部長さんのように「その場での注意指導だけで済ませる」のは、「組織としての対応」としては、望ましくないと思います。

 きちんと規程や指導・懲戒の記録が整っているところで、「同じこと」を繰り返したならば、「より重い扱い」を受けることになるのが普通です。本人に同じことを繰り返さないよう、注意させることにもつながりますし、繰り返した場合には、合理的な対処も可能となります。

 ただ、「同じこと」はせず、「同じようなこと」を新たに起こした場合は、「繰り返し」とまでは言えないでしょう。その場合、「より重い処分」は難しいとしても、やったこと・その程度に応じて、「きちんと処分」していれば、やはりAさんを牽制する効果はあります。Aさんが意図的に悪さをする人だったならば、Aさんにとってこの会社は「悪さをしづらく、居心地が悪い会社」となりますので、早々に逃げ出してくれるのではないでしょうか。

 最も悪いのは、ちょっとくらい悪さをしても、「なぁなぁで済まされる会社」だと認識されてしまうことです。踏むべきステップを踏まず、現場レベルで「解雇」を通告したり、程度に見合わない過激な懲戒処分を行うことはもちろんいけませんが、「行うべき懲戒を行わないこと」も、よろしくないのです。

 なお、もしAさんの言動が、病気や障害等によるものだったとしても、会社がひたすら被害を我慢し続けるのはおかしなことです。本人に、病気を治そう、軽減させよう、または病気や障害とうまく付き合えるようにしようと動機付け、適切な医療や支援につなげるためにも、やはり「不問に付す」ばかりではいけないのです。もちろん、過度の懲戒やハラスメントをしたり、合理的配慮を行わなかったりするのはダメですよ。


<そもそも「採用」の時点で...>

 気になるのはもうひとつ、採用時の見極めに問題はなかったか、という点です。何かしらの兆候は見えたと思うのですけれど。

 例えば、前の会社を辞めた理由とか、面接時の態度とか。退職理由は、当然自分に不利になるようなことをはじめからは言わないはずですが、同じ業界で、同じようなポジションなのに「ステップアップ」を理由としていたり、前職までの「志望理由」と「退職理由」、今回の「志望理由」が全くつながっていなかったりすれば、もっと掘り下げて聞いてみるべきだと思うのです。面接時の態度も、やけに調子よく面接者と話を合わせようとしたり、面接者以外の人に「探り」を入れるような質問をしたり、面接者の前とそれ以外の人(権限がなさそうに見える人)の前で態度が変わったりするならば、やはりもっと掘り下げて確認すべきだと思います。

 もちろん、「失礼な聞き方」「疑っていることが見え見えの聞き方」はダメですが、丁寧な「掘り下げた質問」は、「疑われる要素がない人」にとっては、「じっくり話を聴いてくれる態度」と映るでしょう。「疑われて然るべき人」は、さらっとかわしたいことを深く聞かれれば、自分から逃げ出しますよね。だってそこでは「悪さ」をしづらいでしょうから。

 面接で全てがわかるとは言いません。しかし、少しでも「採用すべきでない人を採用するリスク」を減らしたいならば、採用時の面接は、もっと工夫の余地があると思うのです。人手不足に悩む今だからこそ、起きてしまった不正の調査や懲戒など、余計なところに時間をかけている場合ではないはずです。起きる前に防ぐこと、起きたとしてもできるだけ早期に解決できることを目指し、会社の基盤を整備していきましょう。


【フェネックさん】

fene.png皆さん、こんにちは。屋内でも道に迷いますよ。

今回の相談内容は、福岡県の森にいる仲間達も呼んで協力してもらいました。バリ嬉しかぁ、めっちゃ助かったばい。

 さて、今回のご相談にあるAさんの行為ですが、フェネックとしては、もはや「ちょっとしたミス」や「勘違い」ではなく、「不正」として捉えて対策を考えていくべきだと思います。「小さなことだし悪質じゃない」、「まだ大きな問題になっていないから大丈夫」、「Aもいずれ心を入れ替えて、がんばってくれるだろう」で済むような問題でしょうか。いえ、Aさんのような人間は、徐々に行為をエスカレートさせ、取り返しがつかない問題の起爆剤となる可能性をはらんでいるため、放置してはいけないのです。

 社内における不正は、例えば、急な羽振りの良さ、突然の退職、備品の異常発注、異常な経費計上、在庫差異など、さまざまな形で「兆候」として現れますが、そういった「兆候」を放置し続けると、「管理の緩い、何でもありのソフトターゲット」と見透かされ、組織が不正の温床と化していくことになります。最悪の場合は「外部の犯罪集団」に介入され、関係を断ち切ることが非常に困難な「抜き差しならない状態」になる場合もあります。

 ですので、「兆候」に気づくリスクセンスを組織内で醸成すること、そして、「兆候」に対しては、ネコさんが言う「不問に付さない」といった対応がとても重要だと思います。


<周囲を巻き込むタイプに要注意!>

 ここで不正者のタイプに少し触れておきます。同じ不正でも、自らがやる場合と、誰かにやらせる場合の2つのパターンがあります。自らが不正に手を染めるケースであれば、発覚して罰せられても自業自得ですが、何よりも怖いのが、自分の手を汚したくないがために周囲の誰かを巻き込むタイプです。

 「不正に巻き込まれる?」と聞いて、ある人は、「そんなの、断ればいいじゃない」「誰かに相談したり内部通報すればいい」と思うかもしれません。一方で、巻き込まれるタイプの人は、自分が抵抗することで別の人が巻き込まれてしまうのではないだろうかと考えたりします。そして、ためらっている間に、断り切れない状態に追い込まれてしまうのです。不正の常習犯は、概してそういう抵抗力の弱い人間を狙って、囲い込み、利用しようとします。

 また、人がよくて向上心の強い人を探し、彼らをそそのかして不正をさせるというパターンもあります。その場合、最初は直接的な指示はせず、目の前で「今、大変なんだよ」「誰かが解決してくれればなあ」など、同情心を煽るような言い回しをします。これに対して、ターゲットが「自分がやりましょうか」と言いだしたら、しめたものです。もし不正が見つかっても、自分は直接指示した覚えはないと言い張れば逃げ切れるからです。このような巻き込みタイプへの対策としては、そういう人間がいるということを認識したうえで、自分の行動が正しいか正しくないかという基準で物事を判断する習慣を身に付ける(身に付けさせる)ことが重要になると思うわけです。


<Aさんへの対応>

 Aさんが起こした問題がもっと重大であれば、最初から懲戒処分や解雇に踏み切ることも考えられますが、今の時代、特に日本では、いきなり解雇に踏み切ると違法と判断される可能性が高いので注意が必要です。

 今回のAさんの行為について言えば、まず会社として行うべきは、今後の牽制の意味も込めて、明確に「注意する」ことだと思います。そして、注意をする際のポイントは口頭だけでなく、行為内容や指導内容を書面にして本人にも交付し、会社としても記録として残しておくことです。「会社としては何度も注意したのに改善されなかった!」という証拠を残しておくことが後に処分等を下す際の重要な材料になります。

 問題を起こした社員が自分の行為を正当化し、会社に対して、労働者の権利(地位の保証や金員など)を求めてくるケースは少なくありません。中には、そもそも問題行為があったことすら否定してくる場合もあります。

 そこで、指導・注意を繰り返しても改善されないといった事情を証拠として残しておくことが重要であり、「証拠作り」には以下のような方法があります。

  • 業務日報等に問題行為を記録する
  • 注意や処分を行う場合には書面を交付し、同じ内容のものを会社に保管する(受け取ったことを承認する署名等を取得しておくと、なおよいでしょう)
  • 問題行動があった際に都度「注意書」や「改善指導書」を作成して交付する
  • 本人に「顛末書」を書かせ、本人にも経緯や原因を整理させる
  • 反省及び再発防止について念書を提出させる...など

 Aさんの一連の行為をみると、発覚しているものだけで済んでいるのか、他部署・他部門で同様のことがないかとても気になります。

 不正・違反防止に対する組織的な取り組みとしては、「不正はどんな人間でも起こしうる」「不正は組織や環境に誘発される」という基本認識のもと、不正を生まない組織環境の構築が求められます。組織内でコンプライアンス違反が「放置」されていると、そこにいる従業員は、社内規定や上司の指示・命令をタテマエと認識し、信頼感や社内モラルが低下するだけでなく、不正を誘発する要因にもなり得ます。したがって、以下の項目に対する定期的なチェック・警鐘が必要です。

  1. 小さな怠慢やミスが放置されている。
  2. 周囲(上司・同僚等)が注意しない(もしくはできない)
  3. 小さな怠慢・ミスは許されるとの誤った認識が共有され、抵抗感がなくなる(習慣化)。
  4. また、認識していても、ここまで許されるなら、「もう少し散乱・破損しても大丈夫だろう」と自分で勝手にこじつける心理が働く(合理化)。
  5. 違反や怠慢が放置されることにより、従業員同士で相互に注意しあわないことで、信頼感やモラルの低下が常態化する。)

 最も基本的な部分となりますが、遠隔地や個々の現場においても、ローカルルール化しないよう小さな怠慢やミスでも見て見ぬふりをせず、注意できる環境を構築すること、例えば、風通しの良さといった良好な職場環境の醸成が求められます。ここでは、内部通報窓口を有効に活用したうえで、法令違反、規則違反や不正行為などを未然に把握し、怠慢や違反を放置しない、見通しのきかない場所をなくすということもミスやルールの逸脱、不正抑止には非常に重要なのです。


【チャウチャウさん】

chau.pngはじめまして、チャウチャウです。この「3匹が切る」(勝手にコーナー名を変えるな!と突っ込みが入りそうですが)には初登場です。満を持してなのか、ようやく重い腰をあげたのかは、皆様のご想像にお任せします。


 本件の相談を見ると、企業様の悩みは、今後どうしたらよいだろうということだと思います。処分等の方向性については、ネコさんが、不正後への対応についてはフェネックさんが解説してくれていますので、私は、不正予防の観点を考えていきたいと思います。


<不正発生のメカニズム>

 内部不正に関する考え方については、不正のトライアングルが有名です。

 (以下引用、抜粋の上要約) (*1)

 人が不正行為を実行するに至る仕組みについては、導き出した「不正のトライアングル」理論が、広く知られている。「不正のトライアングル」理論では、不正行為は、(1)機会、(2)動機、(3)正当化という3つの不正リスク(「不正リスクの3要素」)がすべてそろった時に生起する(米国の犯罪学者であるD.R.クレッシー(1919-1987)が実際の犯罪者を調査して提唱)。

    1. 「機会」:不正行為の実行を可能ないし容易にする客観的環境のことで、不正行為をやろうと思えばいつでもできるような職場環境のこと。
    2. 「動機」:不正行為を実行することを欲する主観的事情のことで、自分の望み・悩みを解決するためには不正行為を実行するしかないと考えるに至った心情のこと。
    3. 「正当化」:不正行為の実行を積極的に是認しようとする主観的事情のことで、自分に都合の良い理由をこじつけて、不正行為を行う時に感じる「良心の呵責」を乗り越えてしまうこと。

 しかし、Aさんの事例では、本人の言い訳等を勘案すると、この不正のトライアングルの理論だけでは、なかなか対応が難しいことが分かると思います。


<不正発生のメカニズム~SPNの考え方:組織的な要因も加味すべき>

 不正のトライアングル理論は、確かに内部不正の予防・対応に一定の示唆を与えてくれます。特に、不正や犯罪の「個人」的な側面に着目をすれば、不正の3要素((1)機会、(2)動機、(3)正当化)が重要な要素であることは間違いありません。しかし、組織としての不正対策を考える場合、この理論だけで検討していくには、実務上、いささか無理があると思います。

 既にネコさんやフェネックさんの解説にもあったように、上司の指導や日ごろのチェック体制が不正の予防にも影響します。不正のトライアングルでは、統制環境に関するものは、多くの場合、不正の「機会」の一要素として考慮しておくことになるかと思いますが、「機会」は、行為時の環境として、やはり不正等を行える状況にあったという意味に捉えるのが素直であり、そこに組織的な不備を諸々読み込むのは拡大解釈(逆に言うと、「強引に理論に当てはめるために、文言の意味を都合よく解釈した」)と言えるではないでしょうか。


 組織としての不正対策を考えていく場合は、不正の3要素の他に、重要なファクターが4つあります。


<不正の3要素以外に重要な4つの組織的要因>

 まず、「当事者の理解・認識」です。これは、不正の要素の動機や正当化の中では整理しにくいですが、実際のところ、犯罪や不正・コンプライアンス違反には、「当事者の理解・認識」が大きな影響を及ぼします。

 例えば、ルールがあっても、そのルールを正しく理解していない、当該行為がルール違反と認識していないというケースは、それが意図的な言い訳の場合であれ、本当に当事者の理解・認識不足であれ、犯罪や不正・コンプライアンス違反行為を行ってしまうことになります。仮に「備品の私的利用・流用・転売は禁止する」という規定があっても、A君に「廃棄する物品も備品である」という認識がなく、また、この規定がそのような意味まで包含していると理解していなければ、相談事例のようにインターネットのオークションサイトに出品等することは「不正」であるとは、本人は思わないのです

 従って、日々の業務指導やコミュニケーション、不正後の注意の中で規定やルール等の具体的な意味を理解させ、正しく認識しているかを確認し、本人の意識を変えていくことが必要になります。これがなければ、「不正」の認定が難しいからです。


 次のファクターは、「マネジメント」です。ネコさんやフェネックさんの解説にもあったように、上司の指導や日ごろのチェック体制が不正の予防にも影響します。不正や犯罪を行うことへの人の目によるチェックという意味でも、上司等のマネジメントは重要な意味を持っています。特にコミュニケーションの状況は、その基本となりますので、部下への無関心や放置、腫れ物扱い等によるコミュニケーション不全は、そのままチェック機能の低下を意味します。

 ただ報告連絡相談の重要性を強調しても、そのフィルターは当人であり、当人の基準・指標で報告・連絡・相談がなされることになりますので、形式的な報告・連絡を受けて満足していては、到底リスクを見つけることもできませんし、不正の抑止には繋がりません。当人が都合の悪い情報は、多くの場合報告も相談もされてこないのです。

 しっかりと現場のリスクを把握し、又は不正を抑止するためには、上司は待ちの姿勢ではなく、積極的に関与して現状の報告を求めたり、具体的な進捗等を確認したりして、積極的なコミュニケーションを行うとともに、必要に応じてサポート要員(お目付け役)を配置したり、業務内容を変更したり、必要な指示を出すなどのマネジメントが重要になります。

 もちろん、発生した不正に対して、どのような指導を行い、どのような処分を下すかも、この「マネジメント」の領域に含まれることは言うまでもありません。

 相談の事例では、上長は、要注意人物であるA君に対して、このような積極的なマネジメントを行った様子は見受けられず、A君の不正疑惑行為を何度か許してしまっています。


 3つ目は、組織体制の不備です。これは、そもそもルールがない、標準化されておらず個々人でやり方が異なる、指標や基準が曖昧である、記録や保管のルール、チェック体制が整備されていない等の、いわゆる内部統制システムの不備の状況が代表例として挙げられます。これも従来の不正のトライアングルでは不正の「機会」や「正当化」の要因に、解釈で当てはめてきていますが、本人個人が不正や犯罪に至る要因と、それを促進する組織要因は分けて考えなければ、「対策」には結びつきません。

 相談事案では、「業務用の検査機器がなくなったんです。産廃業者の引き取り日が決まり、倉庫から出そうとしたら、どこを探しても「ない!」と。」記載されていますので、そもそも検査機器の保管・記録・チェックの体制がなかった、あるいはあってもそれが確実に行われていませんでした。その意味で、組織体制に不備があったと言えます。


 そしてもう一つ重要なのは、「システムの状況」です。これはITシステムだけではなく、防犯カメラ等も含めたセキュリティに関する機器全般を指します。

 例えば、監視カメラは犯罪に対して一定の抑止力はありますから、検査機器の保管場所に設置するだけで不正等に対するけん制になりますし、正当な理由なく当該場所に立ち入っていたのであれば、カメラの映像を頼りにその理由を尋ねることもできます。寮に部外者が出入りしたことが確認できますし、映像を頼りに早い段階で、当事者に状況の説明を求めることもできます。あるいは、メール監視ツールやアクセスログの収集等を通じて、交通費請求の場合の不正の兆候(意図的かどうかについても)をある程度監視することができますので、要注意人物への警戒には有効です。少なくとも痕跡があれば、それを手がかりに、上記のようなコミュニケーション、マネジメントを検討することができます。


<まとめ>

 今回は、不正と疑わしい行為を繰り返すA君の採用や処分等の是非に関する人事的な考察、そして不正行為への対応とその背景に関する解説を経て、企業で不正対策を進めていく上での着眼点(不正3要素+当社が加味する4要素)について解説してきました。

 不正は行為者が悪いのは間違いありませんが、行為者のみの能力・資質に問題を矮小化しては、組織的な改善に繋がりません。

 当社が加味する4つの要素のような組織的要因により、不正リスクを低減させることが重要です。



 「HRリスク」とは、職場における、「人」に関連するリスク全般のこと。組織の健全な運営や成長を阻害する全ての要因をさします。

 職場トラブル解決とHRリスクの低減に向けて、エス・ピー・ネットワークの動物たちは今日も行く!

 ※このコーナーで扱って欲しい「お悩み」を、随時募集しております。

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(*1)公認不正検査士協会を主管する株式会社ディークエストホールディングスのHP
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