リスク・フォーカスレポート

「ストレスチェック制度」~どうすれば活かせるか?(2)(2016.3)

2016.03.30
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 前回は、ストレスチェック制度をうまく機能させるための前提として、必要なことをまとめました。「集団ごとの集計・分析」の実施もお勧めしましたが、「結果をどう分析してよいかわからない」「結果をどう活用してよいかわからない」と、二の足を踏む声も聞こえてきます。予算がふんだんにあるならば、集団ごとの集計・分析から、その後の職場改善の方法指南まで、しっかり支援してもらえるEAP事業者を選び、活用すれば良いでしょう。社内でプロジェクトチームを組み、積極的に分析や職場改善に取り組めるならば、それに越したことはありません。ただ残念ながら、「経営者の理解を得られず、予算をもらえない」「手伝ってくれる人がいない」等々、思うような集計・分析ができないことを嘆くご担当者様もいらっしゃいます。そこで今回は、できるだけ手軽にできるストレスチェックの結果分析や、その後の活用について、考えてみたいと思います。

1.「集団ごとの集計・分析」実施の是非

 「どう活用するか」の前に、「実施するか、しないか」から、会社の方針を決めていくことになります。前回書いた通り、「集団ごとの集計・分析」(以後、「職場分析」と呼びます)は努力義務であり、「職場分析は実施しない」と衛生委員会で取り決めることも、できないわけではありません。ですが、「職場分析をしない」ということは、会社が職場改善に取り組むつもりはないことの意思表示のようにも見えますし、このストレスチェック制度が機能するかは、労働者本人にかかる部分が大きく、会社が能動的にこの制度を活用する機会は、この職場分析くらいですので、せっかく時間や費用をかけてストレスチェックを行うならば、活用しない手はないでしょう。
 とは言うものの、職場分析を「実施しない」「実施したくない」という会社(というより、経営者でしょうか)もあるようです。その理由としては、次の2点が考えられます。

(1)実施の手間をかけたくない・やり方がわからないため

 最も安価にストレスチェックを行うならば、「厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム」をダウンロードし、産業医の指導の下、実施事務従事者が社内の通知・連絡やデータの整理等を行い、産業医に結果のチェックや面談の実施を依頼する方法になるでしょうか。この場合、社内の手間と産業医の積極的な関与が不可欠となります。実施者はあくまでも産業医ですが、現実には産業医も様々であり、「名前だけ」の産業医が存在することも否定できず、実質的には、社内の「実施事務従事者」がほとんどを取り仕切り、産業医は確認だけ、面談だけとなる可能性もないとは言えません。それで正しくストレスチェックを実施したことになるかどうかはさておくとしても、実施事務従事者の負担を最低限にするために、職場分析は行わないということも考えられます。
 ですが、同プログラムを使用した場合、マニュアル通りに必要項目を設定し、本人に通知するストレスチェック結果の出力や、高ストレス者の判定(いずれも必須)ができるようになっていれば、自動的に「仕事のストレス判定図」が出力できるはずです。この結果を確認するだけでも、最低限の職場分析は実施できますので、難しく考えず、ここから始めてもよいのではないでしょうか。

(2)実施したら改善を期待されるため

 「実施したくない」理由として、本音ではこれが多いのではないでしょうか。せっかくストレスチェックを行い、職場分析を行っても、「どうせ改善のしようがない」と思えば、下手に分析を行い、改善を期待されるより、何もしない方がよいと考える方はいるでしょう。従業員が精神疾患を発病した際、「職場に問題があることを把握していたにも関わらず、改善を行わなかった」となれば、かえって責任を問われるのではないかと心配している会社もあるかもしれません。まだ制度が始まったばかりですので、実際裁判になった時にどう判断されるかはわかりませんが、「問題を把握していたが、改善できていなかった」と、「問題が発覚することを恐れて、分析すら行わなかった」を比較した場合、後者の方が有利だとも考えにくいように思いますが、いかがでしょう。
 目を背けたところで、問題がなくなるわけではなく、目を背けたくなるところにこそ、大きなリスクが潜んでいるものです。まずは問題を把握し、正面から見つめる努力をすべきと考えます。

 ストレスチェックを、外部のEAP事業者等へ委託する場合は、組織分析も同時に委託することになるでしょう。この分析方法や帳票の見易さ等は、各社で異なることと思います。自社の組織形態や課題、規模、ストレスチェックの運営方法や予算、それに委託先の能力等を鑑み、自社に適した委託先を選定することをお勧めします。
 自社で実施する場合も、可能であれば、自社の特性を考慮した集計・分析を試みると良いでしょう。

 

2.職場分析にかかる規程

 職場分析を自社で行うにせよ、委託先で行うにせよ、その内容等は、衛生委員会で調査審議を行い、自社の「ストレスチェック制度実施規程」に盛り込んでおかなければなりません。
 規程には、職場分析の集計単位、集計・分析の方法、組織分析結果の利用方法と共有範囲等を記載することになります。

(1)集計単位

 集計単位は、課ごと、部ごと、勤務地ごと等、会社規模や部課ごとの人数、業務スタイルの類似性等、自社の実態に応じて単位を決めることになります。ただし、個人が特定されることを避けるような配慮が求められており、10人未満になる場合は、集計単位を大きくする(課単位のところを、同部内の複数の課を合算する等)か、分析方法を工夫する必要があります。
 この「10人」という人数は、厚生労働省ホームページに掲載されている「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル(以降、「ストレスチェック実施マニュアル」と呼びます)」で、「集団ごとの集計・分析の最小単位」として挙げられています。そのため、集計単位はあらかじめ実人数が10人以上となるような組織単位で決めているかと思いますが、回答者が思いの外少なく、その組織単位では10人を下回ってしまうことも考えられます。集計の単位は、「回答者」の人数で10名以上となる必要がありますので、誤解のないようご注意ください。

 また、厚生労働省の「ストレスチェック制度関係Q&A」によると、前述の「仕事のストレス判定図」は、「10人を下回る集団でも労働者の同意なく集計・分析できる方法」とされています。とは言うものの、回答者が極端に少なければ個人の特定が危ぶまれますし、そもそも個別の影響を受け過ぎるため、「職場分析」としては不適切な結果ともなり得ます。

(2)集計・分析の方法

 厚生労働省による「ストレスチェック制度実施規程(例)」では、非常にシンプルに、「集団ごとの集計・分析は、マニュアルに示されている仕事のストレス判定図を用いて行う」と例示されています。集計・分析を外部業者へ委託する場合は、委託先と共に文言を検討することになるでしょう。独自の工夫を凝らしたい場合は、どう表現するか悩むところです。規程は、ストレスチェックの実施より先に作成し、周知しなければなりませんが、結果を見てみないと、具体的な分析の方法も想像し難いのではないでしょうか。
 この「ストレスチェック制度実施規程」は、衛生委員会での審議や周知の必要はありますが、就業規則のように労働基準監督署への届出は必要ありません。制度の趣旨からすれば、受検の前に、「どんな情報が、誰に、どのように利用されるか」を従業員が把握でき、それによって受検するかしないかを決められれば良いはずであり、毎年分析方法が変更されたとしても、周知さえ正しくされていれば問題はないはずです。ならば、初年度は何らかの分析方法を試してみるとして、翌年度からは、規程を毎年見直すか、規程には「分析方法をいつ頃、どのように定め、どう周知するか」のみ記載し、その方法で毎年周知するという手も考えられるでしょう。

(3)組織分析結果の利用方法と共有範囲

 規程に定める上で重要な点は、まずは「誰に見せるか」と、「何に使うか」の2点です。

 いくら個人の特定はできないと言っても、誰もが無制限に見られる状態であることは、ストレスチェック指針で不適切とされています。その集計単位となった部署の管理者にとっては、自身の管理能力等の評価にもつながり得る情報と取れるため、管理者に不利益が生じる可能性が危惧されてのことです。よって当然ながら、職場分析の結果を、管理職の評価に利用することはできません。
 「誰に見せるか」については、各社でその実態に応じて取り決めることとなるでしょう。先に利用方法を考え、利用のためには誰がこの結果を知るべきかと考えれば、自ずと決まってくるように思います。少なくとも、経営陣には把握いただく必要があるでしょう。あとは例えば、研修に活かそうと考えるならば、社内の研修担当部署のメンバーに、衛生委員会で徹底的に審議したいならば、衛生委員会のメンバーを指定することになります。いずれにしても、結果について、他所で軽々しく口にしないことを徹底する必要があります。

 組織分析は、最初は手探りで始める会社も多いのではないでしょうか。初めから完璧な分析方法を確立し、毎年その方法で行おうなどと厳しく考えず、今年はこの形でいきましょう、来年はまた今年の反省をふまえて相談しましょう、というくらいのスタンスにしておいてもよいのではないでしょうか。労使間の関係性や社内手続きの煩雑さ等から、会社によって規程改訂のためのハードルの高さは異なるかと思いますが、前述の通り、労働基準監督署へは届出不要の「内規」です。可能な限り見直ししやすい形にし、より良い「落としどころ」を探れるようにする方が、労使双方にとって有益ではないかと思います。

3.職場分析のポイント

 では、職場分析はどのような点に注目すれば、より実態を把握できるか、具体的にいくつか例を挙げ、考えてみたいと思います。

(1)仕事のストレス判定図

 自社で行うにせよ、委託するにせよ、前述の「仕事のストレス判定図」を用いて職場分析を行う会社は少なくないでしょう。この「仕事のストレス判定図」は、健康と関係が深い4つのストレス要因(仕事の量的負担、仕事のコントロール、上司の支援、同僚の支援)をグラフ化できる、手軽な分析ツールです。
 自社と全国平均を比較したり、自社の組織(部署等)ごとに平均値を出し、組織同士を比較したりすることで、自社や自組織の改善すべきポイントや、その優先度を見極めることができると思われます。

 ただし、この図で使われる数値は、各項目における、評価点の単純な平均値であることには注意を要します。例えばある項目の評価点が、同じ職場内でも、極端に高い群と低い群に二分され、何らかの「不公平」が生じている場合も、平均値としては両群の中間に落ち着いてしまい、正しく現況を表すことができません。また、人数が少なければ、個人差の影響も大きく出ます。

 その単位組織全員分の評価点を、同判定図内にプロットできれば、その職場の傾向はわかりやすいでしょう。ですが、人数によっては、結果から個人を特定できる可能性が高いため、実施者である医師等と実施事務従事者だけが扱うならば問題ありませんが、それをもって「職場分析」とし、事業者へ提供するには、個人の特定ができないような工夫と、衛生委員会での審議・規定化が必要です。個人の特定が危ぶまれるような分析方法を無理に押し通しても、受検する従業員の理解を得られず、結果として受検者が減ってしまえば、元も子もありません。

 組織内の不公平感を確認するならば、標準偏差を出してバラツキを見ることをお勧めします。ただ、分析する人にも、活用する人にも、ある程度の統計的なセンスが求められ、会社によっては難しく感じるかもしれません。難しいようであれば、例えば、単純な平均値(mean・その組織全員の評価点を足し、人数で割った点数)だけでなく、最頻値(mode・その組織で最も多く出現した評価点)や中央値(median・その組織内で、評価点を多い順または少ない順に並べたとき、ちょうど中央にある点数)を適宜組み合わせて、見比べることも考えられます。例えば、最頻値や中央値に比べ、平均値が小さいならば、少数の人が極端に低い数値になっていることが予想されます。この程度であれば、統計に関する知識がなくても、個人の特定につながることなく、多少は詳しく職場の状況が見えてくるのではないでしょうか。

 実施事務従事者は、いかに職場の傾向をわかりやすく、かつ個人を特定できないように伝えるか、創意工夫が求められることになります。人事権を持つ方は実施事務従事者になれないという制約はありますが、単なる「入力係」「連絡係」として考えず、人選にご留意いただきたいところです。

(2)回答率

 前述の通り、通常、集計単位は10人未満にならないような組織単位で定められているはずです。それにも関わらず、10人未満になるならば、実人数に比して受検者数が少ないということで、何らかの原因があると考えられます。
 例えば、会社が信頼されていない、忙しくてそれどころではない、そもそも関心がない等、その原因は様々考えられますので、実人数に対する「回答率」も、重要な集計・分析データの一つとして、ご認識いただくべきでしょう。

 また、その組織の長が、「メンタルヘルスなんてどうでもいい」「ストレスチェックなんて意味がない」などと発言していると、その下にいる方はそれに流されてしまいがちです。特に「うつなんて、サボっているだけだ」等、不調者に対する差別や偏見を持った発言は、高ストレス者が医師との面接を拒否する要因にもなり、厳重な注意が必要です。回答率が低いようであれば、役職者にストレスチェックの目的をしっかり伝え、積極的に受検を促すよう、研修等で徹底すべきでしょう。当然、ストレスチェックが導入されたからといって、「ラインによるケア」が不要になったわけではありません。役職者向けのメンタルヘルス研修のメニューの中に、「ストレスチェック制度の意義」を追加してはいかがでしょうか。

(3)その他のデータとの照合

 職場のストレスと密接な関係が見込まれるその他のデータとして、真っ先に思い浮かぶのが、残業時間でしょうか。労働時間の管理は会社の義務ですので、組織ごとの集計も容易でしょう。通常、残業時間の集計データを、組織分析の結果を開示される限られたメンバーが閲覧することに、問題はないと思われます。
 まずはストレスチェックの結果に表れた業務量や難易度等と、残業時間との整合性を確認しましょう。残業時間が多くないにも関わらず、ストレスチェックの職場分析結果では、多忙な様子が伺えるならば、仕事の持ち帰りや隠れ残業等があるか、または厳し過ぎる「残業禁止令」に、かえってストレスを感じている可能性もあります。逆にストレスチェックにおける業務負荷に比して、残業時間が長いようであれば、まずは残業代目当ての生活残業や、「上司が帰るまで帰りづらい」というような「付き合い残業」の横行が懸念されます。ですが、もしその組織のストレスチェック結果が良好であるならば、「残業時間が長くても、良い職場」として認識されているということであり、職場の満足度を向上させるためのヒントが多く含まれている可能性があります。ストレスチェックの組織分析結果は、悪いところを改善することに注力するあまり、良いところを置き去りにしがちです。結果が悪くなる要因を分析することも必要ですが、良いところを分析し、良い点を広めていく視点も忘れないでいただきたいと思います。
 また、ストレスチェックでは一部の人しか回答していない場合でも、残業時間のデータは全員分を確認できるはずです。分析結果を補完するものとして、有効活用しましょう。

 残業時間のデータ以外にも、職場満足度調査等を独自に行われている会社もあるかと思います。目的の異なる調査ですが、情報を補い合うことで、より職場の実態を把握しやすくなるでしょう。会社によっては、ストレスチェックと職場環境調査では、主管部署が異なることもあるかと思いますが、データを有効活用するためにも、結果の共有先は、漏れなく、適切なメンバーを選出いただきたいものです。
 何にせよ、ストレスチェックの職場分析では、現在のストレスの状況を知るものであり、そこから職場改善につなげるには、情報が足りません。細かな原因究明や解決の糸口を探るためには、ヒアリング調査やWebアンケート等、弊社でもお手伝いが可能なサービスがございますので、お気軽にご相談ください。

(4)「感覚」との照合

 通常、一つの部署の中で業務が全て完結することはありませんし、公私含め、他部署との交流もあるはずです。そのため、日常的に「あの部署は大変そうだな」「あの部署は良い雰囲気だな」といった、個人の感覚を持つようになることが普通です。ストレスチェックの組織分析の結果を共有する立場の方であれば、当然、他部署の様子もある程度把握されているでしょう。この個人の持つ「感覚」とストレスチェックの組織分析の結果が、もし大きくズレているならば、その原因はよく調べるべきかと思います。

 「感覚」は、数値化することが難しく、あくまでも「なんとなく」でしかない場合が多いでしょう。ですが、人間も動物であり、危険を察知する能力はあるはずです。ストレスチェックに限らず、受検者・回答者が、回答をコントロールできるアンケートの類は、どこまで真実を答えるかも回答者次第であり、もし結果が「感覚」と大きく異なるならば、何か重大なことを隠そうとする意志が働いている可能性もあります。「なんとなく悪い気がする」ならば、その根拠がどこかに表れていないか、念入りに確認することをお勧めします。
 またもし、組織分析の結果を見る立場の方が、そもそも全く他部署のことがわからないならば、それは非常に困った状態です。部署間連携に問題が生じていないか、この機によくご確認ください。

4.職場分析の結果をどう活用するか

 組織分析の目的は、あくまでも職場改善であり、働きやすい職場づくりです。分析をしただけで終わってしまえば、「現況の確認」はできても、「改善」にはつながりません。むしろ、「せっかく分析をしても、何も変わらない」「改善のためにアクションを起こした形跡すらない」となれば、かえって従業員から会社に対する信頼を失うことにつながり、それは大きなリスクと言えます。

 では、具体的に何をしたらよいのでしょうか。「ストレスチェック実施マニュアル」には、職場環境改善のためのツールとして、「職場環境改善のためのヒント集」や「メンタルヘルス改善意識調査票(MIRROR)」、「従業員参加型の職場環境改善ワークショップ」が紹介されています。いずれも、これから職場改善をするにあたり、何を目指し、どんなスケジュールとするか、目標と計画の策定を支援するツールです。これらのツールを活用し、適正な目標と計画が策定され、その通りに改善が進めば良いのですが…これをそのまま活かせる会社ばかりではないように感じます。「ここまで人と時間をかけられない」「目標と計画はできても、どうせ実現できない」と、最も大切なアクションを尻込みしてしまう会社もあるのではないかと心配になります。

 初年度は特に、会社に対し、「今後への期待」を持つか持たないか、従業員が判定するタイミングです。初回に「何もしない」と見なされたり、あってはならないことですが、結果を元に誰かが不利益な取り扱いを受けたりすれば、翌年度以降のストレスチェックの受検率や職場改善に向けた取り組みへの参加率を大幅に下げる結果につながるでしょう。
 始めから完璧でなくてもかまいません。まずは何らかのアクションを起こし、それを従業員に知ってもらうことが大切だと考えます。あくまでも参考として、「まぁ、これくらいならできるかな」と思っていただけそうなアクションの案を考えてみました。

(1)代表者による、分析結果に対するメッセージの発信

 ストレスチェックの組織分析の結果は、代表者か、少なくとも担当役員の方の目には触れることでしょう。分析結果そのものを全社に開示するわけには参りませんので、せめてその感想と、これからどんな職場づくりを目指して欲しいか、「ビジョン」を示してはいかがでしょうか。

 従業員を大切に思う気持ちは、発信しなければ伝わりませんが、発信すれば大きなインパクトを与えることになります。くれぐれも、お説教ばかりにならないよう、ご注意ください。また、ストレスチェックを受けなかった方へも、日々の業務へのねぎらいの言葉と、ぜひ次回は受けて欲しいというメッセージを示していただきたいところです。

(2)内部通報制度の利用促進

 ストレスチェックの分析結果だけでは、何をどう改善すべきかまではわかりません。ストレスチェックを受検することは、自身の職場環境等を改めて見つめ直す機会にもなりますので、内部通報制度の再周知等を行うならば、ストレスチェックの実施時期は良いタイミングではないでしょうか。

 また、内部通報で発覚した問題に対し、急に何か対策を取ろうとすると、「何かあったな」と勘繰る方が出るものです。余計な詮索や噂話、通報者の特定等を恐れ、対策実行のタイミングに悩む会社もあるようですが、ストレスチェックの職場分析が、内部通報の隠れ蓑ともなり得ます。ストレスチェックと同時期に内部通報を促進し、通報と職場分析のタイミングが合えば、調査も対策もスムーズに行えるのではないでしょうか。

(3)研修の実施

 特にセルフケアを促す研修を実施するタイミングとしては、ストレスチェックの結果通知の時期は最適でしょう。特に初回は、結果の見方や対策の考え方、医師との面接を受けることの勧め等、書面だけでは受け流されがちなことを伝える良い機会になるかと思います。あわせて、過剰なストレスを軽減する発散法や、そもそも余計なストレスを溜めないような思考法等、自分のストレスとうまく付き合っていくためのセルフケア研修は、ぜひ実施していただきたいものです。

 また、職場分析の結果が出る時期は、管理職研修の時期として、適しているのではないでしょうか。管理職による「ラインによるケア」は、決して簡単ではありませんので、継続的な研修が望まれます。この時期の管理職研修を「毎年恒例」としてしまうのもよいでしょう。特に、前述のような「回答率」が低い組織であるならば、その対策は、まずは上司の意識改革からです。

 また、もしハラスメントが疑われるような組織であれば、ハラスメントの防止や叱り方等のセミナーも必要でしょう。これらはいつ実施してもよいものではありますが、「職場分析の結果を受けて実施されたのか?」と管理職がビクッとすれば、問題意識も高まり、従業員としても「会社が自分たちのために動いてくれた」と好意的に認識されるかもしれません。ストレスチェックを、研修にインパクトを持たせるためのツールとして活用することも、考えられなくはないのです。

(4)他部署のことを知る機会を作る

 同じ会社内であっても、部署が違えば雰囲気も仕事の仕方も異なるものです。それら「異なる」組織同士が、協力し合いながら業務の遂行をしていくわけですから、誤解が生じることも多く、互いの理解は欠かせません。「次工程はお客様」という言葉がありますが、まさに、業務をスムーズに実施する上で、互いの業務の流れや苦労する点、要望等を話し合い、理解し合う場は有用でしょう。業務の重複や、効率的でない作業が発見できれば、残業時間の削減にもつながります。

 これらは、グループワーク形式での研修が適しているでしょう。ファシリテートできる方がいれば、自社内ででも十分可能かと思います。「おしゃべりの場」となってしまっても、組織を超えた交流を活性化することにはつながりますので、社内の懇親会やイベントと同じように、気軽に実施してもよいのではないでしょうか。

終わりに

 ストレスチェックは、ストレスに目を向けさせることで、従業員にセルフケアを促し、職場分析を行うことで、職場環境について考えるきっかけを作り、より良い職場環境の醸成を目指そうというものです。1回限りで終わるものではなく、これから毎年、継続的に行うものとなります。一度実施したからといって、すぐにストレスが軽減できたり、職場環境が改善できたりするようなものではありませんが、継続的に傾向を把握することで対策の効果をチェックしたり、毎年定期にストレスについて考える機会を作れたりと、その意義は十分あるように思います。

 ストレスチェックは、「やってはいけない」「やらなければならない」ばかりがクローズアップされがちですが、よくよく見れば「やってもよい」「できる」ことも意外と多い制度です。規程やマニュアル、制度に対する「正しさ」にばかり気を取られ、「義務を果たした」ことで満足してしまう。そして、本来の目的をないがしろにし、会社と従業員の信頼関係を失っていく・・・筆者は、これこそが本制度の最大のリスクだと思っています。

 職場環境が悪ければ、業務に悪影響が出ることを疑う人はいないでしょう。ならば、制度本来の目的を重視し、業務を円滑に推進するための取り組みの一つとして、ストレスチェックや職場分析をうまく活用し、職場環境の改善を進めてはいかがでしょうか。その取り組みの「過程」こそが、大切なのだと思います。ご担当の方がストレスチェックでストレスを溜めないよう、形式にとらわれず、楽しみながら取り組んでいただきたいものです。

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