SPNの眼

2014年度6月期までの株主総会を踏まえた今後の株主総会対策について(2014.8)

2014.08.06
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 すでに8月に入ってしまったが、株主総会集中月の本年6月の株主総会を振り返って、その傾向を整理しつつ、今後の株主総会の危機管理対策について改めて考察してみることとする。

 本年の6月までの株主総会で、株主から出された質問に関して、当社及びその他の情報を総合して大まかな項目を列記すれば、下記の通りであった。

    • 業績(結果)に関する対する説明要求(特に赤字の原因追及)
      当然のことながら、株主としては、業績、特に赤字の場合の収益低下や目標未達の原因や見通しの甘さ、経営責任等に対しては、厳しい質問や追及を行っている。
    • 株価向上策や株式政策に関する質問
      業績は黒字ながら株価が上がらない企業や、景気が向上している中で依然として株価が低位安定している企業に対しては、株価向上に関する施策等について、質問がなされている。
      また、会社側が実施する(又は実施した)株式政策(業績向上目的のストックオプション等を含む)についても、その意味や効果、実施の理由と結果責任等についての質問も行われている。
    • 労務管理体制や労働環境に関する質問(労務関連の訴訟への対応、労務管理体制(労働時間に関して、リストラの是非等の今後のリスク要因)
      係争中の労働争議についての質問や業績への影響、その他労務管理体制(時間管理)変更の理由や、労働安全衛生に関する質問が出されている。また、リストラを実施したことについて、それへの批判や経営責任等についての質問・意見が出されている。
    • 将来に向けた人材確保・育成に関する取り組みについての質問
      特に新規事業や業績拡大中の業務に関して、人材の確保や人材育成に関する考え方や施策等についての質問も行われている。
    • 広告・宣伝の在り方や効果に関する質問
      コマーシャルへの注文や広告・宣伝の効果についての質問・意見等が出されている。
    • 会計基準の変更に関する説明要求や計算書類についての詳細説明要求
      特に業績に関して赤字が続いている会社について、会計基準の変更や監査法人の変更があった場合には、その理由や適否について質問されている。また、財務諸表についても、費用の内訳や詳細等について説明を求めている。
    • 海外情勢を踏まえた業績への見通しに関する説明要求
      海外の事業に関しては、政治・外交問題に絡む事業への影響、今後の海外事業の見通し、海外各国におけるカントリーリスクへの対応策などに関する質問が行われている。
    • 新規事業や新規参入業務の展望や収益見通し
      国の経済政策その他により、新たなビジネスチャンスが生まれつつある分野についての参入意向、事業の見通し、リスク管理の方策等に関する質問が行われている。
    • 風評に関連した質問
      今やインターネットの普及より、株式取得ている企業に対する情報は、インターネットにより収集している一般株主が多く存在することから、それらの風評に影響される質問も多く見受けられる。その代表例が「ブラック企業」に関する内容であり、その真偽の確認や対応策、人材確保に関する考え方などが質問されている。
    • その他
      一般株主が増加している影響も含め、お土産の中止や内容に関する意見、株主総会の開催日に関する質問(週末開催)、社外取締役の担っている役割等に関する質問・意見等が行われている。

 以上のように、多様化する株主から様々な質問が出されており、議長からの回答に終始することなく、担当の取締役に答弁させる等、企業側も極力丁寧にその質問に答えようとする意向が見られた。また、元従業員や企業OBからの質問も増えており、議長の元上司や同僚という企業もあることから、議長の議事運営にも一定の緊張感がもたらされているものといえるであろう。

 積極的に株主総会に参加する個人株主も増え、企業と株主の間で活発なやりとりがなされることは、株主総会の本来の在り方を考えても良い傾向といえる。一方で、企業としては、一般の個人株主の関心領域は広く、相応の説明ができる準備と対応が求められることはいうまでもない。

 すでに、指摘したように、一般株主の積極的な株主総会への参加を視野に入れた、企業側の想定問答集の充実や説明資料の充実、招集通知の工夫などが、企業価値や株主からの企業評価につながることを改めて認識しておくことが重要となるであろう。

 一方で、

  • 株主共同の利益に反するような自らの関心事項に関する事前質問を行い企業に官公庁への電話を強要する株主
  • 審議入りを待たずして大声で議長解任等を叫ぶ株主
  • 議決権行使書を持参せず免許証を提示して株主総会に入場しようと試みた者(当株主総会における議決権を有する株主ではない者)
  • 株主総会終了後に特定役員等との個人的な接触や名刺交換を試みようとした株主
  • 所定以上のお土産を持ち帰ろうとして受付で執拗に要求する株主

 等、企業側の従来以上に危機管理対策を充実することが必要であると考えられる事例も認められた。また、実際に不規則発言を繰り返す株主等退場を命じざるを得ないケースもあり、議長の株主総会の議事運営に関する事前演習や流れの確認等は不可欠であるといえるであろう。

 某社の株主総会では、株主を退場させる際に、係員と株主が倒れ、救急車で運ばれる事例も発生したと報道されていたが、株主の不規則発言への対応や退場への対応が、場合によっては当該株主はもちろん、周辺に着席している他の株主の安全脅かしかねない点を改めて認識しておく必要がある。

 特に会社の重要イベントである株主総会で、株主が受傷等することは企業としては回避しなければならず、警察の臨場要請や対応に慣れた警備員の導入や従業員で警備を行う意向であっても、かならず退場等への対応に関する留意点を事前に確認しておくことが欠かせない。

 株主総会が荒れそうだと企業側が予測しているのであれば、なおさら危機管理対策を充実しなければ、事故やトラブルにより株主総会を中断せざる得ない事態も発生しかねないことに留意しなければならない。

 なお、報道その他の種々の情報によると、株主が相当数の株主提案を行った企業も少なくないようであり、法律上の権利の行使とはいえ、一般株主の質問よりも株主提案を正当化するための会社への批判的質問・意見、あるいは株主提案の正当性の主張等に長時間を費やすことで、株主総会自体が長期化し、かえって一般株主の質問の機会や意欲を失わせる事態を招きかねないリスクにも今後は着目していく必要がある。

 既に実施している会社もあるが、質問数の制限や類似質問の禁止によるできるだけ多くの株主への審議参加と審議の長時間化防止、質問の事項の偏向回避等、議長の議事進行や審議方法の工夫も、今後は一層重要になるであろう。

 その意味で、企業の株主総会の準備の充実やリスク想定、そしてそれらを踏まえた円滑かつ有意義な株主総会実施に向けた危機管理が今後も重要な課題となることを再度提言しつつ、今回のSPNの眼を締めくくりたい。

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