SPNの眼

集団窃盗の脅威と店舗におけるロス対策

2016.10.05
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1.小売業におけるロスの削減

  日本の小売業におけるロス額は、1兆円を超えるという調査があります(センター・フォー・リテイル・リサーチ社 邦題「世界の小売業におけるロスと犯罪により発生するコストについての調査」)。この調査によると日本における小売業の売上高ロス率は1.04%です。小売業の売上高営業利益率が2.1%(経済産業省「商工業実態基本調査」)であることを踏まえると決して少ないとはいえず、営業利益の約半分に相当する金額がロスとして消えていることになります。ロスの要因にはさまざまなものがあり、代表的な要因にはオペレーションミスによるもの、在庫管理上のもの、検品・検収時の管理によるもののほか、従業員や顧客による窃盗などがあります。そのうち、顧客による窃盗(万引き)は前出のロスに関する調査によるとロス額のうち57.1%を占めています。また、小売業者に対するアンケート(全国万引防止機構「第11回全国小売業万引被害実態調査分析報告書」)においても不明ロスのうち顧客による窃盗の占める割合は52.4%となっています。いずれの調査からも、ロスのうち約半分以上の割合が顧客による窃盗(万引き)と認識されている実態がわかります。

【図表1】不明ロス金額の原因別推定割合

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出典:全国万引犯罪防止機構「第11回全国小売業万引被害実態調分析報告書」

 ロスの要因と対策には、システムによる統制のほかにヒューマンマネジメントによる統制があり、両者共にトライ&エラーを繰り返す中で事後的な反省によって蓄積された資源を意識的に活用しようとする姿勢がロスに関する統制体制を強化することにつながります。顧客による窃盗であれば、盗まれやすい商品を特定したり、犯行時間帯や犯行方法などを把握したり、その上で対策を従業員全員が徹底する必要があります。逆説的にいえば、ロスに対する統制体制を強化するには全従業員が犯行を事後的に検証するような組織学習による対策の進化を継続的に行うことが必要であり、一朝一夕にはノウハウの蓄積はできないところにロス対策の難しさがあります。
 また、そのようなノウハウは公開されておらず、仮に公開されていたとしても各社が置かれている状況により他社のノウハウが即有効になるとも限りません。本来、そのようなノウハウは事後的な反省によって得られていくものです。このように、自社でそのノウハウを蓄積するには膨大な時間とコストが必要となります。したがって、ロス対策に一定のノウハウを有している外部機関からの協力を得て各社の状況に応じたロス対策を講じることは、時間や労力を買っていることになります。それでも、改善することによって利益につながり得る現状の莫大なロスの金額と外部機関に投じるコストを比較すれば、一般的には外部機関を利用することに対する有用性が認められるところです。

 ロスを改善することによる経営上のインパクトは損益計算書に及ぼす影響をみることでわかります。結論からいえば、商品評価損、棚卸減耗費など販売費および一般管理費(販管費)を中心としたロスの削減はダイレクトに利益の増加につながります。
 ロス削減による利益増加と同等の金額をロス削減ではなく、広告宣伝費や人件費等の削減によって実現しようとした場合、結果的に売上の低下や従業員のモラールの低下などに影響します。安易な経費削減は、持続的な利益の確保という点では、本末転倒ではないでしょうか。同様にロス削減による利益の増加を、売上のアップだけで達成しようした場合は、莫大な売上の増加(仮定する利益増加額が1,000万円、営業利益率が5%の場合、1,000÷5%=2億円)が必要です。つまり、1,000万円のロスを改善することは、2億円の売上アップと同等の効果があるということです。

 したがって、ロス対策は経営上の重要事項として戦略的な取り組みとして経営陣をはじめとした幹部層が率先してマネジメントしていくことが必要です。

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2.新たな犯罪(集団窃盗)

1) 外国人集団窃盗グループ

 店舗のロスに占める顧客による窃盗の割合は約6割弱というデータは前述しましたが、その顧客による窃盗も多様化している傾向が強くなってきています。従来は個人的・刹那的な犯行が中心でしたが、昨今は組織的・計画的な犯行に移行してきており、抜本的に対策を考えなければならない時期になっていると言えます。そのような組織的・計画的な犯行が拡大してきた背景には、社会経済のグローバル化やIT技術の発達に伴い、盗品の海外処分のルートが容易に形成されるようになった側面もあると考えられます。最近では、とりわけ外国人による集団窃盗(万引き)が目立つ状況です。

 そのような状況の中、まずは、在留外国人の人数の変化をみてみましょう。総務省統計局による在留外国人の2015年の総数は約268万人と2012年対比で約2割増加しています。その中で特に顕著な増加を示しているのが、ベトナム人です。2015年のベトナム人の在留者は約14万9千人と2012年対比で279.7%となっています。さらに特徴的なのが、「留学」の在留資格によるベトナム人の増加です。2015年は約4万9千人と同じく2012年対比では565.3%と5倍以上の増加となっています。このような統計上の極端な在留外国人の変化には何かの要因があるように思われますが、あくまで客観的な数値に基づき、もう少し詳しく状況を確認してみたいと思います。

【図表2】国籍・地域別 在留資格(在留目的)別総在留外国人(アジア総数上位4国抜粋)

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出典:総務省統計局「在留外国人統計(旧登録外国人統計)」

 それでは、外国人による刑法犯全体の検挙件数をみてみましょう。刑法犯全体の検挙件数は9,714件(平成27年度 警察庁刑事局組織犯罪対策部「来日外国人犯罪の検挙状況」)と前年の9,664件と減少している一方で、万引き事件の検挙の増加を反映して、検挙人員は6,187人(平成27年度)と前年の5,787人から増加しています。全体の半数以上を占める窃盗の検挙件数は6,303件(平成27年度)と前年の6,716件から413件も減少しているにもかかわらず、検挙人員は3,168人(平成27年度)と前年の3,012人から156人増加しています。1件あたりの検挙人員の増加を示すこのようなデータからも、外国人による「組織的な」窃盗の拡大に何らかの関係があるものと推察できます。

2) 国籍別

 平成27年中の刑法犯検挙状況を主要国籍別にみると、過去10年以上の長期にわたり最も多かった中国(2,390件)をベトナム(2,556件)がついに上回りました。ベトナムが検挙件数の27.1%、同人員の23.8%の構成比を占めています。
 さらに主要犯罪種別の検挙件数を国籍別にみると、強盗および窃盗、万引きではベトナムが中国を上回っています。侵入窃盗、詐欺、支払用カード偽造では中国、自動車盗および車上ねらいではブラジルの占める比率が高くなっています。特に万引きに限ってみれば、ベトナムは、1,841件と構成比にして57.3%を占めるなど顕著に多くなっており、二番手の中国の651件、構成比20.3%とは大きな開きがみられます。このような統計数字をみれば、万引きにおいてベトナムの存在感が際立っていることが分かります。

3) 滞在資格別

 在留外国人の変化と「留学」の在留資格の顕著な変化は前述しましたが、その検挙状況をみてみましょう。在留資格別の刑法犯検挙人員を平成27年とその10年前とを比較すると、不法滞在が72.5%も減少している一方で、正規滞在は19.1%の減少に留まっています。正規滞在の検挙人員を、国籍別に同じく10年前と比較すると「留学」では、中国が約4分の1に減少した一方で、ベトナムが約5倍に増加しています。つまり、「ベトナム人の留学」が在留資格別にみたなかで最も多く検挙されていることがわかります。

【図表3】在留資格(正規滞在)別の刑法犯検挙人員

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出典:警視庁刑事局組織犯罪対策部「来日外国人犯罪の検挙状況」

4) 集団窃盗組織の構成

 このように客観的な検挙状況等の数値が裏付けるように小売の現場でも外国人による集団窃盗が目立つ状況にあります。組織的・計画的犯行は当社が把握するだけでも何百にものぼる「職業的窃盗グループ」によって行なわれています。これらのグループによって盗まれた商品は、国内にある各グループの隠れ家的拠点や「盗品ディーラー」の拠点に集約され、インターネットを通じて国内や海外処分のルートにて転売されています。また、グループ間での盗品の交換も行なわれているようです。

 窃盗グループの構成員には、一般社会人もいますが、前述の検挙実態が示すように留学生が多くを占めるようになってきています。留学生として来日してインターネットを通じて知り合い、グループを結成して犯行を繰り返しているのではないかと考えられます。また、その一部には、職業的に犯行をする目的で「留学生」という在留資格を隠れ蓑にして、繰り返し来日しているケースもみられます。ビザの期限を迎えると一旦帰国して、再度留学生として来日するケースなどです。「留学」の在留資格者の検挙件数・人員の増加にはこのような背景があるのです(当然ですが、全ての「留学生」を一律に論じているのではなく、一部の不遜な窃盗を行なっている「留学生」が問題であるという認識です)。

5) 被害実態(犯行手口)巧妙化

 集団窃盗には、活動地域を比較的狭い生活範囲に固定して犯行を繰り返すグループがあるほか、首都圏のように隣接する県を跨いだ広域なエリアで活動するグループもあります。たとえば、神奈川県の複数の店舗で犯行におよんだ翌日には千葉県で犯行におよぶ、いわば、ヒット&アウェー方式のようなケースも確認されています。犯行地域や犯行店舗を広域かつ時期的に分散することで、摘発されるリスクを軽減しているものと思われます。
 また、集団窃盗や大量窃盗は店舗側が比較的早い段階で窃盗に気づくことから、それを避ける意味で1回の犯行で盗む量を減らすなどの「工夫」も見られます。このような「工夫」を施した結果、彼らが自ら掲げる「成果目標」を達成するためには「少量多店舗」のスタイルで犯行におよぶことになります。
 犯行エリアの広域化や「少量多店舗」の犯行スタイルは、「研究」によって生み出した「工夫」であり、彼らが「摘発」を最も恐れていることの裏返しでもあります。したがって、摘発を逃れながら同時に成果もあがるその「工夫」は進化するものであり、私たちはその「工夫」を知ることで効果的な対策を打つことができるのです。

 次に、犯行の概要に続き、具体的な犯行の手口について述べていきます。彼らが狙う商品には共通の特徴があります。結論から言うと、転売できる市場性や価値を有している商品です。具体的にはファンデーション、アイシャドウ、乳液、豆乳フェイスパックなどであり、日本の化粧品の商品価値(特にアジアにおける)を背景とした商品の被害が目立ちます。その他ではサプリメントが目立ちます。市場性ということでは、季節の変化に合わせて盗む商品も変化することも分かっています。転売するためには市場のニーズに合わせた商品の「仕入」が必要です。春・夏では日焼け止め、夏は水中ゴーグル、また、春・秋では新色の化粧品が狙われることになります。

 詳細な手口としては、販売しているバッグに盗品を入れてバッグごと盗む方法も確認されています。これは、大型のバッグなどを持たずに入店することでマークされ難い「工夫」と言えます。したがって、店舗側としては、手ぶらであっても注意を逸らしてはならないことになります。また、手の込んだ手口としては、バッグ内にアルミ箔を貼って防犯センサーに防犯タグが反応しないように細工していたケースも確認されています。また、買い物かごから商品のバッグ、または、持参のバッグに盗品を移し入れる行為は、人目につき難い、柱やゴンドラなどの死角などで行われているといった実態もあります。

 さらに、摘発されないための「工夫」として、商品を集める人物、商品をバッグなどに隠匿する人物、商品を店外に持ち出す人物、見張り役の人物など複数の犯人が役割分担を行い連携しているケースも確認されています。1人何役も兼任することもあるので、連携する仲間の数は自由自在で、その多寡による決め付けは危険でもあります。目立たないということと犯行の精度とのバランス、あるいは犯人のスキルなど連携面も考慮した事情で決めているものと推測できます。

6)他の犯罪との関連および広がり

 犯行エリアの広域化によってその移動には車が使われることもあり、その車両の調達のために自動車窃盗までおこなうグループの存在が確認されています。盗難車両には、ナンバーの付け替えおよび一部番号の偽造などの細工が施されているケースもあります。また、そのように犯罪の領域を広げるグループの中には薬物(危険ドラッグ等)の販売まで手がけ、犯罪組織として凶悪化する傾向も見られ、さらに注意が必要です。そのような凶悪的なグループに対抗するには直接的な身柄の確保は非常に危険を伴いますので、警察への情報提供による解決が望まれます。自社の被害情報に関する情報収集とその手口・犯人像の分析等の情報を警察へ事前に提供して、協力を得て犯人確保につなげることが望ましく、さらには、提供情報は警察が速やかに動けるような具体的な情報であることも望ましく、高度なノウハウを有する専門家による調査・分析が有効だと言えるでしょう。

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3.これからのロス対策

 先に触れたように窃盗グループの実態とその犯行手口を知ることは、効果的な対策を行っていく上で必要不可欠です。小売業にとってこのような情報の収集は、経験的に蓄積していくということだけでは、「被害」を前提にするという大きなコストを支払うことにもつながります。コストと効率の観点からは店舗の外(情報を提供する能力のあるもの)に積極的に情報を収集していく必要性が高いことがお分かりいただけるかと思います。

 しかしながら、このような集団窃盗に関する情報の共有は進んでいないのが現状です。図表4は集団窃盗における同業者との情報共有の状況を質問した結果です。すでに情報共有をしているのは、全体の22.3%に留まっています。検討中を含めても約4割しか情報共有に関心がないという現状で、事業者の意識の低さが顕著に見られます。

【図表4】集団窃盗における同業者との情報共有

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出典:全国万引犯罪防止機構「第11回全国小売業万引被害実態調分析報告書」

 集団窃盗が広域のエリアで業態やチェーンを跨いで巧妙に行なわれている現状では、従来行なわれているような自社内の店舗間や警察との連携だけ(例えれば、「点」の視点からの対応)をしていたとしても対策としては十分な効果は見込めません。巧妙かつ広範囲に行われる窃盗集団に対しては、自社だけでなく近隣の同業者間でそれこそ、窃盗団に立ち向かうべく集団窃盗対策協定等を結んで情報共有・手口分析並びに警察等への情報提供と協力体制を集約して対応・統括する専門家が必要ではないでしょうか(例えれば、「線」や「面」での対応の視点が求められています)。集団窃盗の手口を知り尽くした保安員が窃盗グループの動向を予測した情報のリレーション体制を活用し、機動的にその配置を変えるような柔軟なシステムによって対応可能になるものと考えられます。

 また、窃盗グループを一掃するには、全員が摘発できるような具体的かつ鮮度の高い情報を警察に提供する必要があります。そのような調査にも専門的なノウハウが必要であることは前述のとおりです。

 窃盗団は被害店舗の店名等のタグを転売時に正式な日本での商品であるとのアピールに利用しています。また、他の窃盗団からするとそのような情報は「この名前の店は盗み易い」という印象を持ち、店舗においては更なる被害拡大(ロス拡大)に繋がりかねない危険性や、商品管理体制の脆弱性を一般顧客を含めたステイクホルダーに対して示しかねない(深刻なレピュテーションリスクを生じかねない)危険性もあります。

 このような窃盗によるロスを削減することで、直接的な利益への貢献のほかにも無駄な作業や効果の薄い対策に要する労力などを排除することで、従業員のモチベーションアップや店舗内の雰囲気が醸成する店格のアップなど消費者の満足度の向上も期待されます。顧客満足を損なわない、あるいは、顧客満足の向上にもつながるような実効的な対策が求められます。

 以上、当社内の店舗ロス削減対策プロジェクトにおいて店舗ロス対策として実施しているロスマイニング®・サービス業務(防犯体制分析、食品衛生管理分析、内部不正分析、クレーム対応分析コンプライアンス体制分析、在庫管理体制分析、労務管理分析等) は、店舗のロスの要因を前述の詳細な分析によって構造化し、効果的なソリューションを提供しています。今回はロスマイニング®・サービスの業務のノウハウの一部である「集団窃盗の脅威と店舗におけるロス対策」についてレポートいたしましたが、次回は(久々の登場となる)「危機管理おやじ」がこれらの窃盗におけるロスにおいて、どのような顧客の行動に注意すれば良いのか、その際の対策、防犯意識向上等について掘り下げて「つぶやく」予定です。

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