解説!新任担当者のためこれからの株主総会対策~第2回~(2018.3)

2018/03/07 / 総合研究室 研究員  鈴木 昭博 プリント

2.株主総会実務における重要ポイント

 前回までは、様々な社会情勢の変化が生じている点について概観いたしました。
今回は、この点を踏まえて、企業は、株主総会において、これまでと同様の対策で良いのか、これまでと違った対策が必要であるならば、どのような対策が必要なのかについてみていきます。

(1)これまでの株主総会

 総会屋や特殊株主への対策として、議長権限による退場や強行採決を可能とするシナリオが、いわば奇策として採用され、いつしかそれが定着し現在に至っています。そこでは、議事の進行は、議長の議事整理権の最大限の活用と議場の秩序維持義務に基づく退場命令権も活用され、短時間で終了する運営方式を目的としています。また、質疑応答においては、一問一答を原則としてかけ合いを避けるとともに、質問数を制限して議事の混乱を防ぐなど、議長が揚げ足をとられないよう最小限の回答方針となっています。総会の目的事項ではないとして、回答を拒否する想定問答なども、その典型といえます。
 しかしながら、前述のように、社会が変化し、コーポレートガバナンス・コードが制定された背景事情に鑑みれば、今後の株主総会は適宜見直しを図っていなければなりません。いわゆる「シャンシャン総会」の時代は終わったとの認識をお持ちいただき、これまで質問がなかった、または数個の質問しか寄せられず平穏無事に総会が終了していた企業も、今後は株主との対話の姿勢や株主提案や株主質問が多数寄せられることを前提とした対策が必須と言えます。
 ただし、注意が必要なのは、従来型の議事進行や株主総会運営が今後は全く使えないということではありません。実質的な、健全かつ建設的な形での株主との対話を確保しようとすれば、不規則発言や私的かつ株主共同の原則に反する発言・言動などについては、適切な議事進行により、これらを抑止していく必要があります。従来型の総会運営は、会社法上の瑕疵がないことを前提としている以上、会社法に基づく株主総会が開催される限りは、その内容が、いわゆる足元、基本形として踏襲されつつ、そこに新しい時代の要請を取り入れて、変化・応用させていくことが求められているのです。砂上の楼閣は脆くも崩れ去るように、これまでの議事運営を一気に変えることが非常に難しいということは、実務担当者の皆さんにもお分かりいただけると思います。

(2)今後の株主総会のポイント

 そこで、今後の株主総会対策としては、以下に挙げる点を踏まえていただきたいと思います。

・フィードバック
 株主総会の傾向は、企業それぞれにあり、それに合わせた対策はこれまでも行ってこられたことと思います。しかしながら、企業を取り巻く環境や株主総会に関する動向、そして株主の顔ぶれについては、上述のように変化に暇がなく、これまでと同様の対策を行っていたのでは、足元をすくわれかねません。
 そこで、次年度の参考とすべく、まずは、準備段階から終了後までを総括し分析することにより、株主総会における課題を洗い出すことが不可欠です。もっとも良いのは、終了直後でしょう。一息つかれている時期ではありますが、役員や担当部門の責任者が一堂に会する機会はなかなか持てないと思いますので、終了後の熱いうちに、しっかりと総括しておくことが重要となります。
 また、議長からの視点や回答を行った役員の視点、事務局からの視点など様々な角度から、感じたことなどが薄れないうちに出し合うだけでも良いと思います。具体的な分析や課題などは、担当部門にて後日行うことも可能だからです。さらには、社内の視点だけではなく、社外の視点も入れることが必要でしょう。事務局に入っていた弁護士だけではなく、IR・SR会社やコンサルティング会社などを加えることで、他社の動向などの情報を得ることで比較検討も可能になります。特に、質問への回答については、客観的に意見交換しておくことが望ましいといえます。

・株主との対話
 スチュワードシップ・コードにより、機関投資家は、受託者責任を全うするよう要請されています。これを受けて、機関投資家は、いわゆる「アクティビスト(物言う株主)」として、その活動を活発化しています。
 しかしながら、機関投資家だけを注視すれば事足りるということではありません。においても、機関投資家のような受託者責任はないまでも、開かれた総会や株主との対話を求める社会的要請を受けて、その活動を活発化させており、機関投資家に対するスチュワードシップ・コードのようなガイドラインが、個人株主に対してはなく、権利行使も多分に私的な関心事項に偏向する場合もあることから、より適切な対応が求められています。
つまり、今日においては、どのような株主であれ、企業としては差異なく対応しなければならなくなり、すべての株主が「アクティビスト(物言う株主)」であるとの認識に改めていただきたいと思います。
 そのため、個人投資家を意識した株主総会の運営やそれ以外での場での対話のあり方、分かりやすい情報開示のあり方を検討しなければなりません。ましてや、企業にとって、最高意思決定機関である株主総会においては、"株主目線"での対応が不可欠です。特に、個人株主は、機関投資家や議決権行使助言会社、他の個人株主の活動をインターネットなどでよく見ています。模倣とまでは言えないまでも、これまで株主としてやりたいと考えていた株主の権限行使を、他の株主を参考して行う可能性は非常に高まっています。
 企業としては、特に、議決権と質問権などの株主の権限行使の機会を設けて、平等に対応することが求められ、株主のために適正な質疑応答の機会を確保することは欠かせません。これにより、質問等が多数寄せられ、総会の所要時間が長時間化する可能性もありますが、企業の姿勢として、充実した対話を行っていくことを前提としていただきたいと思います。

3.準備のポイント

以上の対策のポイントを踏まえて、実際の準備のポイントをみていきます。

(1)株主チェック

 平成29年3月に警察庁が発表した平成28年度の統計によれば、総会屋は依然として全国に230人ほどいます。目立った大きな動きはありませんが、それでも昨年は、大阪府内の企業に総会屋が接触し大阪府警に相談していたとの報道もありました。株主総会に出席することを目的に現在も複数社の株を保有する総会屋は存在し、大々的な活動ではないにしても、実際に活動は行われています。
 また、企業における反社会的勢力の排除が強く要請されている昨今、株主と言えども例外ではなく、いわゆる反社チェック等の実施は必須と言えます。現に、過去に当社にご相談いただいた上場企業の大株主に、反社会的勢力の可能性が高い人物がいることが判明した事例がありました。株主ということもあり、現実的には排除への取組みは難しいところではありますが、レピュテーションリスクの懸念もあるため、企業としてどのような姿勢で臨むのかが問われることになります。大株主ではなくても、例えば、取引先とトラブルになった際に、取引先の関係者が反社会的勢力に依頼して株を買い、株主総会において当該取引先を代表して企業の姿勢を正したりすることで、事情を知らない他の株主とすれば、この企業は暴力団関連企業と取引をしているのか等の疑念を植えつけることも想定できないわけではありません。
 なお、反社会的勢力だけではなく、反市場勢力や特殊株主・特異株主等については、一般的には証券会社から情報提供がなされていますが、企業としても近時の活動状況などを事前に調査することは、対策を立てる意味合いでも行ったほうが良いでしょう。

(2)運営方針の決定

・受付対応方針
 株主との"対話"が掲げられている現在の株主総会においては、受付や案内・誘導の重要性が以前に比べて増しています。企業にとっての最高意思決定機関である株主総会の参加者であり、出資者である株主への応対は、CS対応と同等以上の丁寧さ、迅速さが必要であり、株主からも企業の姿勢の一つとして注視されています。
 多くの企業では、この対応に新入社員などの若手社員をスタッフとして配置していますが、初めて来場する株主も少なくない中で、株主にとって、企業にとっても、このスタッフたちは、まさに"会社の顔"であることをあらためてご認識いただきたいと思います。
 若手社員の立場からすれば、応対について口頭ベースのみのレクチャーを受けただけでは不安であり、そこにさらに臨機応変な対応を求められれば、そこには失敗できないことへの恐怖感が生まれます。しかしながら、株主からすれば、若手社員であることは預かり知らぬところであり当該企業の社員であることには変わりがないため、不適切な応対は、企業イメージの低下につながる可能性が高いことに留意しておかなければなりません。
 たとえば、株主総会会場としてホテルを利用する場合には、ホテルスタッフが管理するクロークを利用することができるため、トラブル発生の可能性は低いと考えられますが、大ホールや貸会議室、自社施設などを利用する場合には、クロークが備え付けられていない会場も少なくありません。この場合、クロークとして若手社員が対応しなければいけないこととなりますが、冬季にはコート類、雨天時には雨具類などの預かり物だけではなく、他企業の株主総会に参加した株主の場合には、その際配布されたお土産なども預けられる可能性もあります。このお土産が割れ物や生ものだった場合、適切な保管をしなければその責任は企業に求められることとなり、クレームや金銭的補償の要求に発展する危険性は拭えません。そのため、荷物の預かりに関する対応方針の取決めをしっかりと行い、対応予定の社員に対して周知・徹底とともに、ロールプレイング・予行演習等を通して実際に肌で感じることが必要となります。
 また、議決権行使書を忘れた株主への対応、視覚的または聴覚的な障害がある株主が付添い人や盲導犬・聴導犬とともに来場した場合の応対は、議決権行使にも関わるため、特に重要な事項です。これらも現場で即断対応できる事項でもないことから、事前の取り決めやこのような事態を想定したロールプレイングなども重要になります。
 一方で、日本語の理解がまったくできない外国人株主が通訳とともに来場した場合の対応は、どのようにすればよいのかなどの問題もあります。コーポレートガバナンス・コードへの対応状況に関しては、招集通知の英訳に関してはコンプライ率が低い状況ですが、それと同様、議場での英語対応等については、いまだ十分な検討・対策がなされていない企業も散見されます。現状では、株主総会会場への入場資格を株主に限るとしている企業も相当数あることから、企業側で通訳を用意していない場合には、株主が同伴した(株主ではない)通訳を入場させることは問題となる可能性もあります。しかしながら、今後は、対話促進や株主の実質的な権利保護を実現するためには、無条件にとはいかないまでも、広い範囲において通訳者の入場や英語対応(会場内への通訳の配置を含む)につき、対応していかざるを得ない状況となることを念頭に置いておかなければなりません。当然、それに伴うリスクや課題の検討も必要になることは言うまでもありません。
 いずれにしても、受付をはじめ、案内・誘導のスタッフを配置する場合、対応マニュアルを作成しこれをレクチャーし、これらの対応に慣れた社員を1、2名配置するだけでは不十分であることを、あえて申し上げておきたいと思います。

・警備方針
 東京都内の複数の企業の株主総会では、株主による不規則発言に対し、議長権限による退場命令が出されるケースがたびたび起こっており、過去にも同様の事案が発生している企業では、株主の不規則発言や退場への対応に苦慮することなく、適切に対応できる企業も少なくありません。
 しかし、他の地域においても、同様の不規則発言に対する対応を要するケースは生じており、すべての企業において、これらの対応について、適切に対応する術は、議長自らが習得・再確認する必要性は高いと言えます。
 一方で、警察官の臨場で十分と判断し、警備員を配置しない企業もあります。しかし、基本的に警察官は、不規則発言などによる議事進行の妨げとなる行為に対しては、即座に対応できるものではなく、刑事的に問題のある、たとえば傷害の疑いが強い行為が現行犯の状況において行われている等の場合に対してのみ対応が可能であると考えておかなければなりません。また、警察官は、議長の権限下にあるものではないため、仮に議長が退場を命じたとしても、警察官はその命において動くことはありません。したがって円滑な議事の進行を担保するうえでは警備員を配置することは必要不可欠と言えます。
 では、警備員を配置するに当たり、自社の社員を警備員(警備スタッフ)とすることで良いのでしょうか。上述のような議長権限による退場の場合、警備員(警備スタッフ)には、何らリスクはないのでしょうか。
 株主総会における警備の目的は、株主、役員、社員の安全の確保と適正な総会運営であり、総会の妨害予告などの厳重な警戒を要する場合を除いて、企業と株主との対話が求められている昨今の株主総会においては、来場する株主を"お迎えする"姿勢の警備が最善と考えられます。
 しかし、これは全く警戒しないということではありません。地震や火災が発生した場合には、率先して、株主、役員などの安全を確保するため、適切に誘導する必要性があり、議長や他の役員に詰め寄ろうとする株主や株主同士における諍いが生じた場合には即座に対応をしなければなりません。特に、後者においては、これらの株主を単に制止すれば良いというものではありません。押さえつけたり、羽交い絞めにしたりして制止し、会場外へ連れ出した場合、かえって訴訟などの二次的・三次的な対応が必要となるリスクがあります。改めて、注意しておかなければならないのは、株主総会は会社としての重要なイベントですから、そこでの事故・受傷等は、後々、企業としての安全配慮義務違反の事態を生起することも考えられるということです。
 以上を踏まえると、社員を警備スタッフとするのではなく、CS的な対応ができ、いざという時には、迅速に、適切に対応できる経験とノウハウを有した外部の警備員を配置することが最良と言えるでしょう。
 なお、来場者が多数見込まれ、第2会場や第3会場などを設ける場合においても、当該会場に警備員を複数名配置することは不可欠です。加えて、役員控え室や役員懇談会の会場への警備員の配置も十分な検討が必要です。
 また、不祥事や内紛などが起き、注目を浴びている企業においては、マスコミの取り囲み取材ばかりでなく、利害関係者からの妨害工作の懸念もあるため、熟練の身辺警護員や警備員を配置することにより事態を回避するか、もしくは、事態を避けるため会場周辺のホテルなどに宿泊するなどの対策を視野に入れて検討する必要があります。このような場合は、会場の従業員が使う裏動線の活用も含めて、警備的知見が不可欠であることはいうまでもありません。
 なお、その他、内紛劇がある企業などについては、打合せは、通常の会議室を利用するのではなく、情報漏えい対策として別室を利用することや盗聴・盗撮対策を講じることなどを検討したほうが良いでしょう。

・想定問答集
 確認にはなりますが、想定問答集作成の目的は何でしょうか。会社法上、株主総会において、特定の事項について株主質問がなされた場合、法令に定められた事由があるときを除いて、取締役や監査役は必要な説明をしなければならないとされています。安易に目的事項に関連しない質問と判断した場合など、これに反した場合には、説明義務違反を理由に決議の取消しという事態を招きかねません。しかしながら、質問に対して迅速に判断し、適切に回答することは経験豊富な役員でも難しい場合があります。したがって、あらかじめ質問を想定し、回答を事前に検討することは、説明義務を果たすために必要な対策だと言えます。
 また、株主総会が株主との建設的な対話の場として強く求められている現状からすれば、これまで目的事項に関連しない質問と判断できた事項も、今後は一概にそう判断できなくなる可能性があることも認識しなければなりません。たとえば、実際にあったケースですが、自社製品・サービスのユーザーである株主からクレームと質問が混在している場合などがありました。サービス向上の観点から言えば、企業としては把握し改善に努めることは当然と言えますし、株主としても業績に関わると考えていますので、これに対して、ただのクレームと判断し、回答を拒否することは早計と考えられます。また、取締役の素行や噂などについても、取締役選任議案に絡めて、取締役としての資質を判断するための判断材料として質問することが可能であり、こうなれば議案に関するものとして、相当程度の回答は必要になってきます。したがって、回答の範囲を限定せず、広く構えて適切に回答できるよう準備をすることを推奨します。
 なお、当社がたびたび直面する担当者のぼやきは、役員陣の当事者意識が低いということです。せっかく作成した想定問答集を一度も開くことなく、リハーサルに臨んでいるというのです。たしかに役員ともなれば多忙極まりないことは分かりますが、多くとも数回しか行われないリハーサルを実のあるものとするためにも、事前の準備として、暗記まではしないまでも目を通していただきたいところです。
 想定問答の回答例を参考に担当役員がしっかりと回答例を自分の言葉で考え、それを他の役員も確認するなどして、過不足を補い、最終的な内容を想定問答集に反映して共有することが望まれます。そこで解決策となり得るのが、回答者を議長である社長だけではなく、質問に関する担当部門の役員とする回答者方針を定めることです。自身が回答するとなれば、真剣にならざるを得ません。この方法は、他のメリットとしては、議長の負担軽減にもなります。もちろん、株主総会当日の議長の差配で、回答者の指名等は可能ですが、事前に、壇上に立つ役員全員が、当事者意識を持って、積極的に答弁・説明しようという姿勢が重要となるのです。
 なお、監査役による回答については、これまで議長の裁量によるところでしたが、コーポレートガバナンス・コードでは、監査役の守備範囲を狭く捉えることは適切ではなく、能動的・積極的に権限行使をするよう求められていることから、説明義務の範囲外に該当し得る事項であっても監査役が積極的に回答する方針とすることを検討すべきです。
 さらに、回答については、説明義務違反とならぬよう注意が必要である一方で、話し過ぎにも注意が必要です。「社長は話がうまいから」「慣れているから」との話をたびたび耳にしますが、興が乗ってきてしまうと回答時間も長くなり、ついインサイダー情報にまで話が及んでしまうリスクが高まります。このようなリスクが想定される場合には、想定問答集に備考として記載するとともに、回答の範囲を限定して、役員等が株主総会当日に自身の判断で、想定問答を著しく超える答弁をする事態は避けなければなりません。
 その意味で、想定問答集については、株主から質問が想定される範囲というほかに、会社の見解として回答・説明して良い範囲を特定するものであることを改めて認識しておく必要があります。

・シナリオ
 議事進行要領とも言いますが、網羅的に、時系列で当日の議事運営に関して記載されているため、台本とも言えます。これを作成することは、決議取消となり得る原因を排除し、議事運営の公正さを確保するためにも必須と言えるため、あらゆる事象を想定し、どのように対応するかを記載するなどして緻密なものへと仕上げる必要があります。
 このようなシナリオを作成するにあたり、事前に決定しなければならいことは、決議事項(議案)の上程の方法です。上程の方法は、一括上程方式と個別上程方式とがありますが、弊社としては、一括上程方式を推奨しております。それは、個別上程方式の場合、議案ごとに説明と株主質問を繰り返すことになり、議案や株主質問の数が多ければ多いほどに総会時間が長時間化する恐れがあり、そのため議長が疲弊するばかりでなく、株主の発言機会が多くなることで、議場の混乱を招くリスクも高まるためです。どちらの方式を採用するかは、議長の裁量の範囲内と解されており、多くの企業で一括上程方式が採用されています。
 また、企業と株主との対話の場である株主総会においては個別上程方式により議案ごとに丁寧な審議を心がけるべきで、一括上程方式は、株主の発言の機会を制限するものであるという意見もありますが、必ずしもそうとは言い切れません。個別上程方式の場合、個々の議案について、議案説明、質疑、決議というフローとなるため、その議案についてしか質問することができず、その機会を逃せば、事後的にも質問の機会を失うことになります。一方、一括上程方式とすれば、株主は議案の順序に関係なく質問ができますので、質問機会を失う事態は回避できます。その意味では、一括上程方式は株主の発言の機会を広く設けていると言うことができ、審議不足で決議取消となるリスクを軽減することもできるのです。したがって、議案の上程は、一括で行うことをお勧めいたします。
 なお、議事を進行するうえで、議長の指名を受けずに株主が発言をする、不規則な発言などもあり得ます。議長は、会社法上、株主総会の秩序を維持し、議事を整理する権限を付与されており、株主といえどもこれに従わなければ、建設的な対話の場を乱す行為となります。そのため、議長は、不規則発言を行っている株主に対して制止する権限を有し、この指示に従わない場合には、当該株主を議場外へ退場させる権限をも有していますが、この退場命令においても注意が必要となります。不規則発言を行ったからと言って、即刻退場を命じることができるかと言えば、そうではありません。株主も人ですから感情的になることはありますし、退場となれば株主は、質問などの権限を行使する機会を失うことにもなります。だからこそ、退場命令は、その行使が難しいのです。
 会社法では、「議長の指示に従わないとき」に退場させることができるとされていますので、議事進行上も、適切な指示を出していく必要があります。まず、不規則な発言を止めるよう指示・注意します。それでも発言を止めないようであれば改めて止めるように指示し、議長の指示に従うように警告し、議長の指示に従わない場合は、退場していただく旨告知します。そして、それでも不規則な発言を止めないようであれば、議場の混乱回避と議事進行上の秩序の維持の観点から、当該株主に対する退場を命じざるを得ません。このように、注意、警告、退場命令の段階を経なければ、株主の権利を害したと決議取消の事由となりうるとされていますので、細心の注意を払った対応が求められます。
 株主総会に慣れた議長であっても、目の前で突発的なことが起こっていれば、多少なりとも動揺するでしょう。しかし、警備員(警備スタッフ)は、議長の退場命令があって初めて当該株主を議場外へと誘導することができますので、はっきりと当該株主へ退場を命じる必要があります。したがって、こうしたイレギュラーが発生した場合に、議長としてどのように対応すれば良いのかをシナリオに明記し、リハーサル等で、退場命令のタイミング等、ロールプレイング等も交えて、しっかりと確認することが重要です。
 そして、動議への対応にも備えておく必要があります。動議には、株主総会の運営や議事進行に関する手続的動議と招集通知に記載のある議題や議案に関する実質的動議(議案の修正動議)があります。株主の発言が、質問や意見なのか、動議なのか不明瞭な場合もあり得ます。この場合には、事務局内に控えている弁護士と連携し確認が必要でしょう。特に注意が必要なのは、修正動議です。株主総会の本題であり、株主から質疑時に出される議案の修正案は修正動議として、議場に諮らなければなりません。これに過不足(瑕疵)があれば、その株主総会において決議された事項は、訴訟においてすべて取消される可能性さえあるとされています。
 修正動議への対応としては、多くの場合は、原案先議、すなわち会社側が上程した議案を先に採決し、その可決をもって、修正案(修正動議)が否決されるという運用を行います。ここで注意が必要なのは、修正動議が出された時点でその旨を告知し、また採決終了時に修正案が否決された旨を告知しなければならないことです。
 修正動議は絶対に出されないとは言い切れないため、これらの対応もまた、シナリオに明記して、リハーサル等で、ロールプレイング等も交えて、弁護士立会いのもと、しっかりと流れや告知事項・タイミングを確認することが重要です。
 この他、株主が名乗らずに質問した場合や質疑の終了のタイミングなどの注意事項を明記することも必要でしょう。場合によっては、株主提案を盛り込んだシナリオが必要となることも考えられます。いずれにしても、議長が議事を円滑に進行できるように、万全の対策が講じられたシナリオをリハーサル前までに仕上げる必要があります。

・リハーサルの実施
 結論から言えば、今こそ"本気のリハーサル"が必要不可欠です。
 しばしば目の当たりにするのは、音響や映像と合わせて、議長の議事進行の確認としてシナリオの読み合わせを行う、さらに言えば、読み合わせさえも流し読みするリハーサルです。この場合、株主質問も指定され、議長は用意された回答を読み上げるのみで済ませられることもあります。その回答も議長のみで、他の役員陣は座っているだけということもあります。さらには、リハーサルを株主総会当日に、言葉通りに"済ませる"企業さえあります。上場1年目の企業や就任1年目の社長は、他社で議長経験がある方もおりますが、初めて議長をやる社長の場合には、特に注意が必要です。また、定款によっては、議長を社長ではなく会長が務める可能性もあります。しかしながら、会長は、普段から全社的な対応を自ら行っていることは少なく、(社長に比べても)有している情報も少ないことが一般的だと言えるでしょう。この場合、回答に窮するばかりでなく、不適切な回答となることもあり得ます。
 これまで述べてきたように、現在の株主総会は、企業と株主との"対話"の場へと変化しています。これまでは何事もなく終了してきた企業さえも、今後はどのような株主総会となるか未知数と言えます。機関投資家による議案に対する反対表明や株主提案など、上場・未上場に関係なく、起こりうることを認識していただきたいと思います。いわゆる「シャンシャン総会」の時代は、終わったと言えるでしょう。たとえ、今後の株主総会において何事もなく終えられたとしても、「今回は今回で、次回はどうなるか分からない」と思っていただきたいと思います。
 では、以上の点を踏まえた"本気のリハーサル"とは、どのようなリハーサルを言うのでしょうか。
 顧問弁護士や信託銀行より、様々なアドバイスを受けてリハーサルを実施している企業においても、株主総会本番では、不規則発言や不規則行為が行なわれ、これを議長が上手く捌けずに議場が混乱し騒然となる、といったケースも少なくありません。まして、不祥事の発覚や業績が振るわず赤字決算となった企業においては、このようなことが起こり得る可能性は非常に高まります。このようなことが起こり得る原因は、弁護士が控え、体制としては整った事務局が、実際には事務局として機能していない点が挙げられます。なぜなら、リハーサルにおいて、議長と事務局の連携体制が確認されていないためです。
 株主総会のリハーサルは、本番で失敗して、議長である社長や役員が株主の前で恥をかかないために実施するものであり、社長をはじめ他の役員への遠慮から、単なるシナリオの読み合わせやありきたりの質問を行なう場では決してないということを強く訴えたいと思います。逆に言えば、厳しい想定のリハーサルを行い、その対処方法を事前に検討・確認することこそが、実効性のある株主総会対策であり、議長が多くの株主の前で恥をかかないための重要なリスクマネジメントであると言えるでしょう。

4.当日の心構え

 株主総会の成功は、当日までの準備で"9割方"決まるとの考えからこれまで、株主総会に向けた準備について論じてきました。
 そして、株主総会当日は、議長と、議長を支える事務局にかかっています。事務局担当者の心構えとして、事務局は、株主総会における「参謀役」との認識をお持ちいただきたいと思います。さらに言えば、株主総会が成功するか否かは、事務局がカギと言っても過言ではありません。
 議事の進行に集中している議長をいかにサポートするか。特に、質疑に際しては、回答までの時間を短縮するように努めるのではなく、時間をかけてでも、より正確に回答するよう努めることが、議長の負担軽減と「株主との対話」実現のためには肝要であると申し上げておきます。

5.おわりに

 最後に、当社でも毎年6月を中心に、上場企業の会員企業から株主総会の会場警備や役員の身辺警護業務を多数ご用命いただいています。また、企業を取り巻くリスク環境等の変化に伴う株主構成の多様化や名物株主の存在、レピュテーション対策等から株主総会コンサルティング業務のご用命をいただく会員企業も増えています。さらには、企業不祥事があった企業に対するクライシスコミュニケーションの一環として、株主総会運営をサポートさせていただくケースも増えています。
 当社が提供している株主総会コンサルティングや株主総会警備では、特に、多様化する株主や一般株主の増加に伴う株主総会での質問の質的変化等を踏まえて、実際の株主総会でミスしないためのシミュレーションやリスクコンサルティング、そして実地支援を行っています。
 株主総会の危機管理対策で何かお困りのこと、ご不安のことがあれば、お気軽にお問い合わせいただければと思います。

(了)

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