危機管理と5S+「S」(上-中)(2018.11) 

2018/11/07 / 総合研究部 部長 西尾 晋 プリント

 前回に引き続き、今回も「危機管理と5S+『S』」について論じていきたい。なお、前回は一気に20個のSをご紹介したが、連載の都合上、今回(今月)と次回(来月)は、それぞれ5個ずつの紹介とさせていただく。


■慎重さ
 21個目の「S」は、「慎重さ」である。
 「急いてはことを仕損じる」という言葉があるが、危機管理の観点からも性急な行動は悪い結果をもたらす場合がある。迅速な行動力や対応は必要であるが、早計な判断はかえって、状況の悪化を招きかねない。また、種々のリスクを十分に勘案せずに軽率に行動する場合も同様である。
 その意味で、慎重に判断・分析して、冷静に行動することで、事態の悪化を招くことを防止していくことが重要である。もちろん、慎重を通り越して、臆病になってしまえば、特にクライシスの局面では、かえってその消極的姿勢がマイナスに働くが、ただ急げばよいということではない。
 したがって、危機管理を行っていく上でも、「慎重さ」は重要な要素であるといえる。


■指揮・指示
 22個目は、「指揮・指示」である。
 クライシス対応やトラブル対応においては、トップのリーダーシップ等が往々にして注目されるが、これらに対して組織的な対応行っていくうえでは、責任者による「指揮」や「指示」が欠かせない。
 そして、この「指揮」や「指示」がうまくいかなければ、危機事態への対応を失敗したり、被害の拡大を招く事態に陥りかねない。その意味では、特にクライシス対応の局面においては、責任者の「指揮」や「指示」は極めて重要であり、危機管理を考えていく上でも、その「指揮」や「指示」のあり方に注目していかなければならない。
 また、昨今、明らかになっている企業不祥事においても、コンプライアンス上問題のある「指示」がなされているものもある。間違った「指示」が不祥事を招き、企業の信用失墜を招くことから、平時のリスクマネジメントの観点からも、「指示」のあり方は重要である。
 したがって、「指揮・指示」は、危機管理においても、重要な要素といえるであろう。


■信頼・信用
 23個目は、「信頼・信用」である。
 企業で危機管理を行う究極的な目的は、危機管理を通じて、トラブルやミスを低減し、お客様や社会からの「信頼・信用」を得て、企業価値を向上させていくことにある。
 顧客や社会からの「信頼・信用」は、企業が社会に存在し、収益を上げていくためには不可欠の要素であり、それなくしては、企業の存続はない。コンプライアンス違反により、中小企業を中心に多くの企業が倒産・廃業に追い込まれるが、それはまさに、コンプライアンス違反により、社会の「信頼・信用」を失ったからである。
 そうならないために、危機管理を行い、社会からの「信頼・信用」を維持していくのであり、その意味では、危機管理と「信頼・信用」は非常に密接な関係にあるものといえる。
 そこで、私は、「信頼・信用」も危機管理と5S+「S」の一つとしたい。


■支持(お客様からの支持)
 24個目は、「支持(お客様からの支持)」である。
これは、上記の「信頼・信用」とも関連するが、お客様からの「信頼・信用」は具体的には日々の購買活動等を通じて「支持」の形で具現化される。「支持」は、「信頼・信用」が具体化したものと考えることができるから、「信頼・信用」が危機管理の重要な要素と考えるならば、「支持」も同様となる。
なお、実際の危機対応においても、社会から相当程度「支持」される対応を行わなければ、危機対応は失敗する。その意味で、「支持」の有無が危機対応の巧拙を物語るということができる。この意味でも、「支持」は危機管理を行う上で、常に考慮しておかなければならない要素といえる。
 したがって、「支持」も危機管理に必要な要素であると言える。


■試行運用(リスク対策の定着に向けて)
 25個目の「S」は、「試行運用(リスク対策の定着に向けて)」である。
 リスクマネジメントを推進していく上で、「試行運用」は極めて重要なキーワードである。各種の規定やマニュアルを作成しても、それが現場で適切に運用できるかどうか分からない。そのまま現場の運用に任せてしまうと、現場の事情に合わせて勝手なローカルルールができたりしてしまう。
 そこで重要になるのが「試行運用」である。本格的に運用を開始する前に、実際の現場で試しにその内容をやってみて、現場で無理がある部分を修正したり、不明確な部分を明確化したりして、運用しやすい内容に再修正・ブラッシュアップしていく。こうして、現場で運用可能な規定やマニュアルができていくことになる。
 出来上がったマニュアル等は、最初は「紙」料でしかない。それを実際に「試」してみることで、ここはこう「思」う等の意見が出てくる。その内容を吟味・精査して、当初の「紙」料に反映することで、初めて、実用に耐えうる「資料」になる。「紙」→「試」→「思」→「資」の「し」の4プロセスが非常に重要であり、これを飛ばしてしまうと、その「紙」料は形・形式だけの「死」料になってしまう。
 このプロセスが重要なのは、人材育成の場面においても同様である。様々な「紙(情報)」を元に、実際に「やらせてみて(試す)」、そこで得られた感想や反省(「思」ったこと)が糧となり、当初の「紙(情報)」が、有用な「資料」になっていく。
 このように、リスクマネジメントを推進していく上でも、人材育成を行っていく上でも、「試行運用」は極めて重要なプロセスである。
 したがって、「試行運用」も危機管理に重要な要素といえる。


続く

                               

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