内部通報 関連レポート

 第一回では、当社の内部通報第三者窓口「リスクホットライン®(以下「RHL」という)」がこれまでに受付けた通報をもとに、企業の内部通報の利用状況と通報の傾向を紹介しました。

 第二回の今回からは、近年、社会問題にもなっている、ハラスメント(いじめ)やメンタルヘルスについて、通報事例を中心に取り上げ、会社や対応する担当者が留意すべき点等と併せて紹介していく予定です。少しでも職場環境改善のヒントになれば幸甚です。

第二回「これってパワハラですか?」

 これまでに当社のリスクホットライン®(内部通報第三者窓口)に寄せられた通報(2,317件/2014年4月30日現在)のうち、「上司への不満・パワハラ」に分類されるものが942件と最も多く、全体の40.7%を占めている。このことは前回も紹介した通りであるが、そのうちどのぐらいが実際にパワーハラスメント(以下、「パワハラ」)と言えるものだったか。

 当社では、通報者からの質問や要望、報告、会社側からの回答や対応結果など、全てのやり取りの内容を記録し、案件が終了した段階で最終レポートとして会社側に提出するという形で窓口を運用している。そのため、会社側の報告ベースにはなるが、各案件の収束までの流れについてもある程度把握している。この会社側からの情報と通報者からの情報に基づき、当社が「パワハラ」に分類できると考えるケースは約1割である。

 なお、当社では、この10年間の窓口の運営実績から、本当に悪質と判断されるパワハラ案件には同一の傾向があると考えており、本項では、そのようなケースについて紹介しながらパワハラについて考えてみたい。

1.悪質なパワハラ事例の共通項

 リスクホットライン®における『悪質なパワハラ事例』の共通項は、業績のいい拠点の長(営業所長、支店長、店長など)で上席者からの評判もいいタイプの人間がパワハラを行っていたという点である。このような案件では、通報を受けた本部の内部通報担当部門やその人間の配属地域の統括部長やエリア長等が、最初は通報の内容を信じたがらず、『通報する側に問題があるのだろう』などと考えがちな傾向がある。さらに、事実が確認され、数字が下がることを懸念するためか、見て見ぬふりをしたいという意図が感じられたケースも少なくない。

 ここで、対象者が悪質と判断された通報事例(特定されないよう多少加工)を一つ紹介する。

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 初めて窓口を利用させていただきます。

 私がこの会社に転職する時、ある知人から、「あの会社は数字をあげれば上に行けるから、人としてどうかと思うが店長が多いらしいよ」と言われました。今、その現実を目の当たりにしています。A店長は確かに数字はあげていますが、上に対しての態度と部下への態度が180度違います。今はBさんがターゲットにされています。Bさんが言われている内容で特に酷いと思ったものは次の通りです。(私が直接耳にしたものもありますし、Bさんから聞いたものもあります。)「お前はいる意味がないんだよ」「お前って、本当に負け組みだな」「うちの息子なら勘当ものだね。いやぁ~お前のご両親は大変だと思うよ。」「今後、使えない人間はいらないのでどんどん淘汰します。次の第一号候補はもちろんB君、あなただよ」「いらん人間は捨てられるんだよ。わかるよね?」「お前と結婚した女性がいるなんて信じられない。奥さん変人?」「お前の顔は幸が薄すぎる」「まぁ、お前はどこにも転職できないよ」等々。これはごく一部で、Bさんはことある毎にこのような言葉の攻撃にさらされています。私は一度だけですが、「言い過ぎじゃないですか?」と言ってみたことがあります。すると、「俺はあなたの上司。わかってる?」と返されました。Bさんは目立つタイプではありませんが真面目で、決して仕事ができないわけではありません。長くいる人達は皆、感覚がマヒしてしまっているようです。過去に店長のせいでウツになって辞めた人は多いと言いつつ、『辞めた方も弱かった』と片付けています。

 Bさんには私が通報することを話していませんが、最近の様子からこのままでは心が折れるのは時間の問題だと思います。私もいずれターゲットにされるような気がします。

 私の氏名を開示するかどうかは、上記の内容に対する会社の対応方針を聞いてから決めたいと思います。勝手ですが、よろしくお願いします。

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 通報の対象となった社員が数字を上げているケースでは、会社側の対応(調査の掘り下げ方や対象者への処分)が甘くなることが往々にしてあるが、上記のケースは、内容を会社側に報告した直後にご担当者から、「社長が一番嫌いなタイプの人間。調査をして事実であれば然るべき処分をする」との連絡があり、その後、実際に事実関係が確認され、対象者が降格異動(+継続監視)となっている。

 いくら数字が上がっていても、従業員の離職率が高ければ採用や新人教育にコストがかかる。メンタル不調に陥る人が出れば、受診や休職手続き、復職支援等に多大な時間と労力がかかる。さらに、うつ自殺等に発展し、訴訟になり、労災認定をされて敗訴すれば、億単位の損害賠償額の支払い命令がでることにも繋がる。そして何より、人ひとりの人生にも大きく影響を左右することにもなるのだ。目先の利益だけでなく、このような点も意識しながら対応に当たっていただくことが望まれる。

2.気をつけなければならないパワハラ上司のタイプ

 ある臨床心理士が著書(※2)の中で、一番問題になるタイプの人間として、『強烈な自己愛を持つ人』をあげており、前掲の、悪質なパワハラの上司のイメージと被るところが多かったので、ここで同書からそのタイプの特徴に関する部分を引用する形で紹介したい。

【性格】

 ほめられたい気持ち、注目されたい気持ち、上昇志向などが過剰。ある程度の才能があるため、傷付けられた人も最初は自分が悪いのだと思い込みやすい。また、自分を満たすために人への要求は辞さないが、人に利益を与えない。自分より能力が高そうな人を排除しようとする。このタイプが上司になった場合は、部下につぶされる人が出やすい。第三者がいないところで人を傷つけることが多い。

【言葉について】

 悪意を持って言葉を選び、陰湿に人を追い込む。本人のいないところで悪い噂を流す。あるいは、だれもいないところで二人きりのときに、「君には才能がない」「やめたら?」とひどい言葉を伝えるため、その上の上司や周りがひどい人だときづきにくい。相手に「申し訳ない」「自分が悪い」「自分に能力がない」などという気持ちを抱かせるよう、巧妙に立ち回ることもある。

 いかがだろうか。もし皆さまの会社で「寝耳に水」「えっ、あの人が?」といったパワハラの通報や噂が聞こえてきた時には、対象者がこのようなタイプである可能性も視野に、先入観を持たずに調査等の対応を行っていただければと思う。

3.パワハラとは ~これってパワハラですか?~

 相談者からよく聞かれる質問やお申し出に、「上司から朝礼の場で~~と怒られました。これってパワハラですよね?」「知り合いの弁護士から、あなたがそう感じたらセクハラやパワハラは成立すると聞きました。なので、上司をパワハラで処分してください!」というものがある。また、企業のご担当者から「これって一般的に見るとパワハラに該当しますかね?」というご質問をいただくこともある。

 厚生労働省は2012年、「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」の中で職場におけるパワーハラスメントの定義を初公表するとともに、パワハラに当たる具体的な行為を6つの類型に分けて提示した。これが一定の判断基準になっていることは間違いないが、一方で、曲解(極解=極端な理解?)されるケースも見受けられる。例えば、「皆の前で叱責する」という事象は、6つの類型のうちの「 脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)」に当たるとされるため、前掲の相談者のような質問が増えるのだ。しかしながら、1回でもそのようなことがあったら必ず「パワハラ」なのかというとそうではない。その叱責がどのような意図で行われたかやその頻度にもよるのであり、ハラスメントの判例では『継続的』に行われたかもポイントになっている。つまり、例示された行為に当てはまる言動が1回あったからといって、パワハラと認定されるものではなく、当事者や周辺の関係者からの証言をはじめとする背景事情等の調査を充分に実施して初めて判断できるものなのである。そして、被害者側(申し出た側)と加害者とされる側の言い分が食い違った場合で(多くの場合そうだが)白黒をつけたい場合には、司法の場に判断委ねることになるのだ。ということはつまり、判例が一番参考になる指標と言えることから、ここで一つ有名な判例を取りあげる。

 ハラスメントに関する判例のリーディングケースとされている「日研化学事件(平成19年10月15日東京地裁判決)」である。(この判例については、一般社団法人 職場のハラスメント研究所の代表理事 金子雅臣氏の講演会資料「ハラスメント最新事情 ―なぜ起きる、どう対処する―」(※1)にて、詳細かつ分かり易く解説されているので是非ご参照いただければと思う。)ここではそのポイントのみを紹介する。

 この裁判がリーディングケースとなった理由は、うつ自殺をしてしまった部下に対する上司(係長)の言動が、①業務指導の範囲を超えている、②明らかに人格、人権を否定する言動であると判断された点が画期的だったからである。具体的には、「背広の管理を奥さんにやらせろ」「そんな営業成績では子供に成績のことなんか言えないだろう」などの発言が、業務指導とは関係ないとされた。加えて、「目障りだ。もう消えてくれ」という発言が、実質的には「辞めろ」に近いとし、辞めてしまったら業務指導にならないので、業務指導の範囲を超えているとされた。また、「給料泥棒」「そのグズな性格は変えろ」「生き方が間違っている」などが、人格、人権を否定する言動とされた。 この判断がその後のハラスメントの基準や企業の取り組み姿勢に大きな影響を与えている。

 以上のことからすると、今回紹介した通報事例はまさに①と②が当てはまるものであったと言える。従って、もし会社が数字にこだわり、適切に対処しなければ大きなリスクになり得たケースであったと考えている。

 パワハラの判断基準は企業ごとに違い、処分の軽重にも差はあるが、最近では前掲のように基準として参考になる判例や文献が増えてきていることから、振れ幅は小さくなってきていると感じる。

 当然のことだが、パワハラを申し出る側と対象とされる側の言い分が食い違うケースは多く、その都度、司法の場に諮るわけにもいかないため、「会社としてどう判断するか」の基準を決め、常に客観的な視点での対応とパワハラが認められた場合には、公平な視点で然るべき処分を行うことが重要なのである。

参考文献

(※1)「第38回人権・同和問題啓発講演会(平成23年3月3日午後2時30分~4時)ハラスメント最新事情 ―なぜ起きる、どう対処する―」一般社団法人 職場のハラスメント研究所 代表理事 金子雅臣氏

(※2)「グサリとくる一言から自分を守る方法」臨床心理士 渋谷武子著 中経出版

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