熊本地震 第2回(2017.3)
2017.03.27昨年の4月に発生した熊本地震からまもなく1年を迎えます。昨年の熊本地震発生後、当社としても3回にわたり視察を行いました。地震被害の大きさを踏まえて、企業の防災対策の参考としていただきたく、視察時の状況を報告させていただくことにします。
なお、当社では、現在も熊本市内のクライアント店舗等においての危機管理対策を支援しています。今回のリスクフォーカスレポートは、現地の状況を徒に拡散させるものではなく、事業継続、生活再建に向けて、危機管理会社の視点から、震災後の危機管理対策等について考察を行うことを目的とするものであることを予めお断りしておきます。
視察の目的
当社では、「視察を通じて震災の記憶化と、震災後の当社の社会的責任につき検討するための調査をする」ことを視察の目的としました。
2016年5月3日(火)から5日(木)にかけて先遣隊が視察を実施し、同年10月3日(月)から5日(水)にかけて第1班、同年12月10日(土)から12日(月)にかけて第2班が視察を行いました。
先遣隊および第1班の状況
視察時の状況について、先遣隊から、次のような報告がありました(以下、「先遣隊報告」)。
「熊本市内の被害も小さくない。特に店舗業態でその傾向が顕著で、大型商業施設やシュールーム型店舗では依然として営業停止中が多かった。余震も続いており、建物内に片付けに入れないという現状にあるものと考えられる。
閉鎖中店舗のセキュリティ状況は分からないが、商品在庫や現金が建物内にある可能性は高く、敷地内で一定期間の警備等の必要性も一考に値するものと考える。
また、震災対応サービス(ボランティアや企業支援活動を含む)の検討をより一層推進していきたい。」
また、第1班による視察時の報告は、以下の通りです(以下、「第1班報告」)。
「被害の大きかった益城町の復興は、工事業者の不足から進んでいないのが現状。『私たちにとって、震災はまだ終わっていない』というヒアリング時の現地の担当者の言葉が印象的であった。建物の取り壊しをしたくとも月単位、年単位の順番待ちということだった。
被災地のニーズとしては、震災直後、それも警察や行政の応援体制が整う前の侵入窃盗に対する警備などがあると感じた。一方、平常時のルールを緊急時にそのまま適用することに対して不満の感情を抱いていた。その辺りは、バランスというか柔軟なルールの運用の指針などを事前に整備しておく必要があるのではないか。
また、企業としてのBCPが各拠点にまで浸透していないことがわかった。今後、防災対策・BCP構築支援の可能性があると感じる。」
第2班の視察内容
熊本市
(1) 熊本市民病院
・先遣隊
崩落危険性が報道され、患者が一時的に避難した熊本市民病院(熊本市湖東、先遣隊報告)(↓下図)
・第2班
第2班視察時は足場が撤去されています。所々外壁が剥がれて落下したことが窺え、注意喚起の貼り紙がありました(熊本市湖東)。(↓下図)
災害発生時には、重要な医療拠点となる市民病院の建物も、崩落の危険性が報道されたり、外壁が剥離するなどの状況から、改めて地震のエネルギーの大きさを認識するとともに、建物の耐震補強の難しさ(限界)を痛感しました。
(2) 某スーパーマーケット
先遣隊視察時は、店舗は閉鎖され、駐車場にてテントを出して販売(熊本市水前寺、先遣隊報告)を行っていましたが、第2班視察時には、建物自体取り壊されていました。
敷地を一周してみたものの、再建の予定等を含めて、何も掲示物が見当たらず、インターネットで調べたところでは、2016年5月をもって建物が解体されたということがわかったのみでした。
推測にはなりますが、建物の損傷の程度が深刻で営業再開には至らなかったものと思われます(熊本市内)。
(3) 熊本県社会福祉協議会 熊本県ボランティアセンター ボランティアコーディネーターからのヒアリング
熊本県社会福祉協議会の熊本県ボランティアセンターを訪問しました。先遣隊が視察した熊本地震発生直後には、ボランティアのニーズとしては、がれき撤去がほとんどであり、仮設住宅建設後は引っ越し等の要望があったものの、第2班視察時点では、がれき撤去のニーズが減ってきているとのことでした。その分、仮設住宅でのイベント(炊き出し、クリスマスパーティ、餅つき等)や長期的な見守りのニーズがメインとなっていました。
そして、第2班視察時の担当者の方からは、物資よりは義援金等の資金援助の方がありがたい旨のお話もありました。理由としては、「物資はニーズに合致するかわからない部分があるものの、義援金等であれば被災者のニーズに適合した施策を講じることが出来るため」とのことでした。
他方、防犯や警備の視点では、仮設住宅ごとに自治会が組織され始めてきているものの、運営体制や実施内容は仮設住宅によって差があるとのことでした。具体的には、安全協会と連携して防犯カメラを設置する仮設住宅があったり、あるいは試験的に一人暮らしの方へブザーを配布して「駆けつけ体制」を構築しつつある仮設住宅があったりする一方、物干し竿がなくなる(ただし、盗まれたかどうかは不明)などの報告もあり、全ての仮設住宅で統一した防犯体制が確立されているわけではない様子です。
当該センターの担当者によれば、第2班視察時点において、ボランティアとして最もニーズがあるのは、上記防犯体制等、長期間かつコンスタントに携わってもらえることであり、次に単発のイベントの運営、あるいは義援金等の資金面の援助といった順になるとのことでした。
(4) 熊本市の様子
第2班視察時点の熊本市内は、通常営業している店舗、建て替え工事中の店舗、あるいは解体後の更地となっている状態に分類され、熊本地震後、建物の診断を終え、継続か解体かの判断を経て判断の実施の段階に移っていることが読み取れました。
また、ボランティアのニーズも地震発生直後からは変化してきている様子が垣間見えました。
益城町
(1) 公共施設等
(ア)町役場等
・先遣隊
益城町役場の様子。建物の損傷が著しく、敷地内は立ち入り禁止。暫定の対策本部は、隣接する公民館を利用。駐車場には炊き出しやシャワー、トイレ等設置(益城町宮園、先遣隊報告)。(↓下図)
・第2班
益城町役場の敷地内には入れるものの、依然として建物内は立ち入り禁止でした。先遣隊が報告した駐車場(炊き出しやシャワー等、トイレ等が設置)では、炊き出し等が行われている様子はありませんでした。がれき等が撤去され、徐々に復旧に向けて動き出しているように感じられました。(↓下図)
公民館の入り口には、「応急修理制度」と「みなし仮設住宅」の案内が掲示されており、復興に向けて少しずつ動き出している様子です。(↓下図)
詳細は隣接する「輝らめき館」で案内が行われているようでしたが、土曜日(12/10)のため休業していました(益城町宮園)。(↓下図)
益城町役場周辺は、国土交通省 国土技術政策総合研究所(*1)の調査においても倒壊建物の状況が示されています。
図表2 益城町町役場周辺の倒壊率の分布
※出典:国土技術政策総合研究所「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会 報告書概要」
(イ)益城町総合体育館
・先遣隊
先遣隊からは、広域避難場所の益城町総合体育館の状況について、駐車区画の場所取りが横行し、駐車できない状況であること、誘導員は入り口のみで中にはいないことが報告されていました(益城町木山、先遣隊報告)。
・第2班
現在は広域避難所としては利用されていないため、駐車中の車両はほとんどありませんでした。しかし、体育館は建物に損傷(天井部分)があり、立ち入り場所が制限されていました(写真右、益城町木山)。(↓下図)
(ウ)熊本空港(益城町小谷)
・先遣隊
重要拠点である熊本空港の状況について、先遣隊からは、熊本空港国際線ターミナルは閉鎖。国内線ターミナルも施設内の立ち入り禁止区域が目立ち、使えるトイレ等も制限されている旨報告されていました。
・第2班
第2班視察時は、先遣隊の報告にあった国際線ターミナルは、就航便の発着前後だけ開設されている様子でした。
国内線ターミナルも一部復旧工事中となり、引き続き、立入が制限されていました。
一方、(国際線・国内線ターミナルの利用制限にもかかわらず)多くの方々が熊本空港を利用されており、駐車場がほぼ満車となっていました。また、土曜日(12/10)の16時時点における出発便は8便を残しており、(特に国内線ターミナルにおいて)空港としての利用が徐々に戻りつつあるのではないかと思いました。
(2) 住宅地の被害状況
・先遣隊
益城町役場に続く道路は、地震の影響をあまり感じさせず、ガラス張りの店舗(クリーニング店)、パチンコ店や飲食店も通常定業しておりました(益城町)。
しかしながら、表通りから一本入ると様相が一変しました。木造住宅、築年数が相当経過していることが推察される建物を中心に倒壊しており、地震発生から8か月が経過しても手つかず(手が付けられないものと考えます)の状態でした(益城町)。
近くでは、倒壊した神社もありましたが、宮司さんによると、当日夜にイベントを企画しているとのことでした。このことから、宮司さんとしては、建物の再建より地域住民のコミュニケーションを重要視していることがわかりました(益城町)。
益城町宮園地区の中で比較的新しく見える医院でも、建物自体には損傷がないように見えるものの、駐車場には亀裂が入っていました(益城町)。
・第2班
先遣隊報告にて倒壊が激しいとされていた地区は、徐々に建物の解体が進み、更地が増えている状況です。至る所で重機が稼働する音が聞こえていました(益城町)。
(3) 益城町社会福祉協議会
・第2班
益城町社会福祉協議会ボランティアセンター(支え合いセンター:益城町安永)を訪問しヒアリングにご協力いただきました。
同センターは、農業用機械器具製造会社のグラウンドに設置されており、同社は、熊本地震発生時に町役場等の公営施設が使用不可にあることを知り、ただちに所有するグラウンドを同センターに提供することを申し出たとのことでした。
また、同社労働組合が主導して、地震発生直後からの数週間、同センターの職員に対しても炊き出しをしていたとのことです。
出入り口では、ボランティアの方々が、支援やボランティアに来た人たちを出迎えたり、見送ったりしている様子が、とても印象的でした。
同センターの担当者のお話によると、地震発生直後は約700人/週ものボランティアが同センターを訪れていたとのことですが、第2班視察時点では約150人/週となっており、特に金曜日のボランティアが不足しがちとのことでした。高速道路の無料化が2016年11月末で終了してしまい、ボランティアの方が激減してしまうのではないかと危惧されていたとのことですが、幸いにも2017年3月末まで無料期間が延長されたとのことです(福岡県の博多市内から高速道を使って益城町まで移動した場合、往復で5,000円程度かかります)。
ボランティアの方には、住民から寄せられた要望(がれき撤去、リフォームに伴う家財道具の移動、移動させた家財道具の整理、清掃等)に対して、立候補制(必要な作業に対して、ボランティア自身が選ぶ形)で担当してもらっているとのことでした。がれき撤去等の力仕事は男性ボランティア、家財道具の移動後の整理や清掃等は女性ボランティアを中心に行われているとのことでした。
治安は以前よりは安定しているものの、依然として夜間に女性が一人で外出することは控えるようにしているとのことです。熊本県警本部のOBが中心となって組織されている防犯協会が主導的に治安維持にあたっていると聞きます。
同センターが課題として捉えていることは、地域住民が同センターに対して「何を頼めるのか」が周知されておらず、まだまだ届かない声があるのではいかという点です。そのため、日々住宅を周り、ニーズの掘り起しを行っています。社会福祉協議会としては、今回の地震を経て、地域のコミュニケーションの重要性を再認識しているとのことでした。
なお、ボランティアの受付や組織だった運営については、各市区町村の社会福祉協議会が主導的に運営しており、いずれの地域で災害が発生しても、基本的には社会福祉協議会に情報・人材・設備等が集約されるとのことでした。
また、各地の社会福祉協議会では、平常時に、有事の訓練をしているとのことですが、地震発生時には訓練とは規模が全く異なることや、想定外の出来事が起きたため、(訓練をしていたとしても)混乱が避けられなかった様子です。
(5) 益城町の様子
益城町の被害状況は甚大であり、熊本市内と異なり、木造建築や相当な築年数が経過したと思しき建物の損傷が深刻で、少しずつ工事が始められていることが感じられました。
そのため、この益城「町」社会福祉協議会のボランティアセンターへのヒアリングから得られた「家屋等の復旧あるいは防犯に関するニーズ」は、熊本「県」福祉協議会へのヒアリングから得られた内容(家屋等の復旧ニーズよりも、イベント等のコミュニケーションににーずが移っている)とは異なるものでした(なお、熊本県福祉協議会へのヒアリングに際しては、熊本「市」のニーズではなく、熊本「県」全体におけるニーズの傾向をヒアリングしています)。
すなわち、福祉協議会の情報収集は的確に行われていることが窺えるものの、熊本「県」で把握しているニーズと、市区町村それぞれが把握しているニーズに若干の乖離がありました。このことからは、震災発生直後のみならず、一定期間経過後も地域ごとのニーズを把握することの難しさが浮き彫りになったように感じました。
【参考資料】
(*1)国土技術政策総合研究所、平成28 年(2016 年)熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会 報告書概要、p2