暴排トピックス

取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人

相談する人のイメージ画像
【もくじ】―――――――――――――――――――――――――
1.暴力団排除条例(以下「暴排条例」)Q&A
2.金融検査結果事例集(平成23検査事務年度後期版)
(1)反社会的勢力排除態勢については、「反社会的勢力に関する情報収集が甘い」と指摘して
 「例えば、マスコミ情報及びインターネットを通じた情報収集が行われていない」と具体的な
 反社チェック手法が例示されており、金融庁が「最低限やるべき手法」としてネット検索や
 記事検索・データベース検索くらいは行うべきであると考えていることが窺われます。

(2)AMLにおいても、分類上の「地域銀行」を中心に、以下のような指摘がみられます。
3.暴対法改正の事業者への影響
(1)第9条(暴力的要求行為の禁止)における一部文言修正
(2)第9条(暴力的要求行為の禁止)における暴力的要求行為の追加
(3)第30条の6(縄張に係る禁止行為)
(4)第32条(国及び地方公共団体の責務)
(5)第32条の2(事業者の責務)
(6)第46条(罰則)
4.暴力団関連ニュース
(1)震災融資制度を申請した暴力団関係企業を未然に防止
(2)NPO法人名義の携帯電話が犯罪グループに流出し犯罪を助長
(3)利益供与の可能性があり山口組総本部内の自販機を撤去
(4)破門状のFAX送信トラブルが多くはがきに戻す
(5)埼玉県暴力団排除条例1年、身分照会が大幅増
(6)暴排条項導入、行政側に遅れ
(7)定期券の不正換金
(8)暴力団借地は物納不可
5.原発と暴力団
(1)東京電力の被爆隠しと暴力団
(2)浜岡原発関連工事会社の社長が暴力団にアパートを提供
(3)原発避難指示区域内の不動産取引の一時停止
6.CTF(テロ組織資金供与対策)に関する事例(英大手銀のイランとの違法取引)
7.暴排条例勧告事例
(1)千葉県①
(2)千葉県②
(3)福岡県(久留米市)
(4)富山県
(5)大阪府
(6)東京都

1.暴力団排除条例(以下「暴排条例」)Q&A

前回に続きまして、暴排条例に関して皆さまからよく聞かれる質問にお答えし解説を加えていきたいと思います(ただし、ここに示す見解は筆者の私見によるものであることをあらかじめお断りしておきます)。

Q1既存取引先について、報道記事等から反社会的勢力との関係が疑わしいが、警察相談では思うような回答が得られなかった。どのような理由が考えられるか。

A1警察相談を行っても十分な回答が得られない場合には、警察における情報提供に関する内部通達との絡みで、いくつかの可能性が考えられます。

▼平成23年12月22日警察庁刑事局組織犯罪対策部長:暴力団排除等のための部外への情報提供について

1.対象者が、貴社の暴力団排除条項(以下「暴排条項」という)に定める排除対象者の定義(範囲)に該当していない

報道記事等から反社会的勢力との関係が疑わしいとしても、警察としては情報提供をした結果、確実にその対象が排除されることが大前提となっているため、暴排条項に排除対象としての定めがない者に関する情報の提供は自ずと制限されることになります。
注意すべき点としては、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(平成19年6月)に基づき暴排条項を整備している企業の多くが、反社会的勢力の定義として「共生者」まで明確に含めておらず、加えて、最近の動向をふまえた見直しも行っていないため、結果的に(排除対象として遭遇することの多い)密接交際者などを排除できない形になっているということがあげられます。

2.貴社として、該当した場合「必ず排除する」との姿勢を明確にしていない

前項と関連しますが、警察の情報提供の要件は「その情報提供が公益の実現に資すること」であり、該当した場合「必ず排除する」ことが大前提となりますので、警察に情報提供をお願いする場合は、貴社のそのような姿勢を明確に示すことが求められます

3.警察として「クロ」と認定するだけの事実(確証)を掴んでいない

前述の通達にも記載されている通り、警察は、情報の正確性を確保し、提供する情報の正当性を立証する責任があることから、現在捜査中であるとか十分な確証が得られていない段階での民間への情報提供は行えません(行いません)。

企業としては、警察からの情報を最終手段的に活用する一方で、十分な回答が得られないことを理由として、安易に「シロ」と判断することもあってはなりません。

反社会的勢力か否かは、最終的には「関係を持ってよいか」と深い関係があり、反社会的勢力との関係が明らかかどうかではなく、その疑いを背景として(レピュテーションの観点も含め)自社が「関係を持つべきでない」と自律的に判断するのであれば、暴排条項を使わないで関係を解消する方策を探ることになります。

Q2上場企業とその関連会社については、証券取引所のルールに従っていることを根拠として、チェック不要と考えるのは少々乱暴でしょうか。また、自己名義の銀行口座を保有していれば、銀行のチェックを通っていることから、ある程度安心できると認識していますが、これは合理的でしょうか。

A2まず、上場企業なら安心とか、銀行口座を持っているから安心という考え方は、リスク管理上は採るべきでないというのが結論です。

確かに、証券取引所では、反社会的勢力排除のために厳格なルールを設け、上場企業に対しても十分な取り組みを求めていますが、市場からの退場はあくまで「反社会的勢力」に明確に該当することが前提ですから、現在の反社会的勢力の実態の不透明化・巧妙化をふまえれば、それを立証し市場からの退場を突きつけるのは非常に難しく、逆に、不十分なままでのアクションは、徒らに市場の混乱を招いたり、取引所が損害賠償請求等を受ける事態を招く可能性が高く、上場廃止措置のハードルは相当高いと言えるでしょう。

だからこそ、「不適切な合併」「実質的存続性の喪失」といった市場からの撤退を促すようなルールの新設・厳格化で対応しようとしていますし、反社会的勢力に支配された企業が上場を維持する期間(タイムラグ)が発生してしまうと理解する必要があります。

一方、銀行口座や証券口座の契約解除実務についても、金融機関サイドは取組みを進めているとはいえ、上場企業同様、完全な排除が難しいのが現実であり、証券取引所への上場や金融口座の保有というのは参考情報にすぎないと考えるべきでしょう。

また、上場廃止や口座の解除は実務的にはかなり慎重に行われており、「あの会社(個人)と関係を持つことは望ましくない」といった認識が世間的に広まっていることも多く、未だに関係を持ってしまっていることが重大なレピュテーション・リスクとなりうると認識する必要があります(共生者として見られる可能性すら考えられます)。

したがって、企業には、証券取引所や金融機関が実際にアクションを起こす前に、自らを守るために、自立的・自律的に端緒情報を収集・調査・判断し、関係解消を図っていくことが求められると言えます。

2.金融検査結果事例集(平成23検査事務年度後期版)

金融庁では、平成17年以降、金融機関が適切な管理態勢を構築する上で参考となる事例を公表していますが、一般の事業会社に先行した取組みを行っている金融機関の実態・課題は、今後の取組みのレベル感・方向性を考えるうえで大変参考になります。

今回は、8月に公表された本事例集における指摘事項について、反社会的勢力排除とAML(アンチ・マネー・ローンダリング)に絞っていくつか取り上げておきたいと思います。
ちなみに、平成24検査事務年度の重点検査項目にこの2つも含まれており、金融庁としても重大な関心を持っていることがうかがえます。

▼金融庁:金融検査結果事例集(平成23検査事務年度後期版) ▼金融庁:平成24検査事務年度検査基本方針のポイント

(1)反社会的勢力排除態勢については、「反社会的勢力に関する情報収集が甘い」と指摘して「例えば、マスコミ情報及びインターネットを通じた情報収集が行われていない」と具体的な反社チェック手法が例示されており、金融庁が「最低限やるべき手法」としてネット検索や記事検索・データベース検索くらいは行うべきであると考えていることが窺われます。

また、その他にも、以下のような指摘がなされています。

    • 全銀協から提供される凍結口座名義人リストに記載のない反社会的勢力については、口座の異動状況を把握するにとどまっており、取引の解消に向けた具体的な対応方針などを検討していない
    • 反社会的勢力への与信にかかる条件変更において、捜査当局へ照会を行うなど、圧縮・解消に向けて厳格に対応していない
    • 暴力団との関係が疑われる情報を把握した場合であっても、警察情報等により反社会的勢力と断定できない限り、反社会的勢力管理の対象としていない

従来から一歩踏み込んだようにも感じられるこれらの指摘から、警察情報への過度な依存(主体性の欠如)、監視するだけのモニタリング態勢や反社会的勢力を狭く捉えて運用する(形式的な運用)だけではもはや不十分とする当局の姿勢の「厳格化」が窺えます。

(2)AMLにおいても、分類上の「地域銀行」を中心に、以下のような指摘がみられます。

    • 少額で開設された口座などについて、不正利用の早期発見ができないまま、短期間のうちに振り込め詐欺に利用され、捜査当局の依頼により口座凍結に至っている事例が繰り返しある
    • 疑わしい取引の届出に該当する可能性のある取引かどうかを営業店に判断させているものの、営業店の判断状況を検証しておらず、また、自店検査や内部監査でも検証させていない

AMLにおいては、反社会的勢力排除の取組みと共通する課題も多いのですが、とりわけ中小金融機関の取組みレベルや行員の意識の低さ、制度設計の甘さが指摘されており、残念ながら、日本のAMLの取組みは緒に就いたばかりだという感じがします。

3.暴対法改正の事業者への影響

前回の本コラムでも「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(以下「暴対法」)」の改正について取り上げていますが、ここでは、事業者に関係する事項をピックアップしてみました。

以下をご覧いただくとお分かりの通り、事業者に対する規制としては「暴力団排除条例」があるものの、この(本来は暴力団員を規制する法律である)暴対法においても、規制の対象となる行為が新たに規定されている点に注意が必要です。

(1)第9条(暴力的要求行為の禁止)における一部文言修正

例えば、「用心棒の役務(営業を営む者の営業に係る業務を円滑に行うことができるようにするため顧客との紛争の解決又は鎮圧を行う役務をいう。)」における「顧客」を「顧客、従業者その他の関係者」に、あるいは、別の箇所では「公共工事」を「売買、賃借、請負その他の契約」「売買等」に変更するなど、規制の対象となる範囲が拡大されています。

(2)第9条(暴力的要求行為の禁止)における暴力的要求行為の追加

  1. 相手方が拒絶しているにもかかわらず指定暴力団等の威力を示して次の行為をすることを暴力的要求行為として規制する行為に追加されています。
    • 金融商品取引業者等に対し、金融商品取引行為を行うことを要求すること
    • 銀行等に対し、預金等の受入れをすることを要求すること
    • 宅地建物取引業者に対し、宅地等の売買等をすることを要求すること
    • 建設業者に対し、建設工事を行うことを要求すること
    • 暴力団の示威行事の用に供されるおそれが大きい施設の管理者に対し、当該施設を利用させることを要求すること
  2. 国等が行う公共工事の契約又は入札に関する暴力的要求行為の規制について、国等の契約又は入札全般をその対象とするとともに、「人に対して入札に参加しないこと等をみだりに要求する行為」が規制の対象に追加されています。

(3)第30条の6(縄張に係る禁止行為)

「営業を営む者又はその代理人、使用人その他の従業者」が、用心棒を依頼する、商品の販売等、債権の取立て等を指定暴力団員に要求、依頼等してはならないことが追加されています。

(4)第32条(国及び地方公共団体の責務)

売買等の契約に係る入札に参加させないようにすべき「対象」として、以下が明記されています。

  1. 指定暴力団員
  2. 指定暴力団員と生計を一にする配偶者(婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む)
  3. 法人その他の団体であって、指定暴力団員がその役員となっているもの
  4. 指定暴力団員が出資、融資、取引その他の関係を通じてその事業活動に支配的な影響力を有する者(前号に該当するものを除く)

(5)第32条の2(事業者の責務)

「事業者は、不当要求による被害を防止するために必要な第14条第1項に規定する措置(SPN注:不当要求防止のための責任者の選任や対応方法に関する指導等)を講ずるよう努めるほか、その事業活動を通じて暴力団員に不当な利益を得させることがないよう努めなければならない。」と明記されています。

(6)第46条(罰則)

新たに規定された「特定危険指定暴力団等」の指定暴力団員で、警戒区域において又は警戒区域における人の生活等に関して暴力的要求行為等をした場合に、これまで「中止命令」に違反した場合に罰則が与えられるものが、直接罰則を与えられるように変更されています。

4.暴力団関連ニュース

ここでは、企業活動を偽装するなどして活動している実態や、企業として注意しておくべき動向・参考にすべき最近の事例について、いくつかご紹介しておきたいと思います。

(1)震災融資制度を申請した暴力団関係企業を未然に防止

福島第一原発事故に伴う『特定地域中小企業特別資金』制度(原発事故で移転を余儀なくされ、県内移転先で事業を再開する企業向けで3,000万円を限度に無利子無担保で貸し付ける制度)について、暴力団関係企業からの融資申請がこれまで6件あり、総額約1億2,000万円にのぼったものの、いずれも公益財団法人福島県産業振興センターと福島県警が情報共有などで連携し、審査段階で暴力団関係企業と見分けることができたため、融資は実行されなかったことが報道されています。

公的な融資制度を悪用している例はこれまでも数多く報告されていますが、多くは審査基準の緩さや審査のずさんさを突かれて詐欺にあってしまったものですが、この事例では、未然に防止できた成功例であり、事前審査の重要性がよく理解できるものと思います。

(2)NPO法人名義の携帯電話が犯罪グループに流出し犯罪を助長

横浜市を拠点に全国で慈善事業を手掛けていた2つのNPO法人が法人名義で契約していた携帯電話約2,000台が、不特定多数の手に渡り、少なくとも100台が振り込め詐欺や薬物密売、強盗、暴力団の対立抗争などに使用されていたとの報道がありました。

携帯電話の不正販売は、販売会社社員等の関与により、これまでも犯罪組織に大量に渡ってしまった事例がありますが、今回はNPO法人を使った手法として注目されます。

携帯電話会社側はNPO法人を事前にチェックして「問題ない」と判断したようですが、携帯電話は振り込め詐欺やヤミ金などの犯罪の「3種の神器」とも言われ(残りは個人情報、第三者名義の通帳)、携帯電話各社および販売会社には、携帯電話自体が直接的に暴力団の活動を助長する可能性があるとの強い危機感と社会的責任を持って、(電気通信事業法に関わらず)暴力団排除の観点からの努力が求められていると言えます。

(3)利益供与の可能性があり山口組総本部内の自販機を撤去

指定暴力団山口組総本部の敷地内に置かれていた飲料水の自動販売機について、設置した大手飲料水メーカーが組側への利益供与に当たる可能性があるとして撤去したとの報道がありました。

コンビニ等での販売においては、(相手が暴力団員と知っていても日常消費の範囲であれば)「活動助長」に当たらない可能性が高いのですが、暴力団の敷地内での販売であれば、(例え日常消費だとしても)組織内の人間のみの利用に限定されるわけですから「活動助長性」が認められる可能性が高いと言えるのではないでしょうか。

(4)破門状のFAX送信トラブルが多くはがきに戻す

組員の追放を周知する「破門状」のはがきを印刷する行為は、活動助長性があると認められるため、印刷を受注した業者が指導や勧告の対象になりえますし、組員側も同様の規制を受ける可能性があります。

そのため、山口組でも、破門状の送付手段をはがきからFAXに切り替えていたものの、FAXの誤送信などのトラブルが相次いだため、最近、再びはがきに戻したとの報道がなされています。

そうなると、その印刷業者が暴排条例の利益供与違反に該当する可能性が高いわけですから、警察による当該業者の指導・勧告といった適切な対応を期待したいと思います。

(5)埼玉県暴力団排除条例1年、身分照会が大幅増

埼玉県暴排条例が施行されて1年、同県警には暴力団員に関する事業者からの身分照会が、条例施行前の10年の年間553人から、施行後の1年間は9,878人になり、なかでも金融機関、不動産業者、建設業者が目立つとの報道がありました。

また、埼玉県暴排条例による適用事案は5件あり、中学校から200メートル以内の場所に事務所を置いて組員が逮捕された事例、暴力団に「組葬」の会場を提供した葬祭業者やみかじめ料(用心棒代)を払った運転代行業者ならびに関わった組幹部らに勧告を出した事例などがあるということです。

現実に、このように警察情報を積極的に活用して暴排の取組みを推進している事業者が増えていることが窺われます。貴社におかれましても、自社の反社チェックの仕組みの延長線上に警察相談等外部専門機関との連携を位置付け、実効性ある取組みを行って頂きたいと思います。

(6)暴排条項導入、行政側に遅れ

山形県では、身分を隠して銀行口座を開設したとして、2月に暴力団幹部組員の男が詐欺容疑で県警に逮捕され、金融機関が契約書に明記した暴排条項が今年初めて暴力団組員の逮捕につながった事案がありましたが、一方で、契約事務が多い県や市町村等行政の反応は鈍いという報道がなされています。

公共事業等の受注実績により自らの健全性を主張する暴力団関係企業の手口を考えれば、このような認識や取組みの甘い自治体が真っ先に狙われるであろうことは容易に想定されることから、行政側には一刻も早く本腰を入れて取り組んで頂きたいと思います。

(7)定期券の不正換金

JR西日本の元駅員が定期券を不正に換金した事件に関連して、兵庫県警暴力団対策課などは指定暴力団山口組系暴力団組長らを有価証券虚偽記入容疑で逮捕しています。

JR西日本の調査では、元駅員らによる定期券の不正被害は計659件、約8,600万円に上り、「金の一部は知人の暴力団組員に渡した」などと供述しているとのことです。

そもそも定期券の不正発券は他にも起こりうるはずですから、組織として、不正の端緒情報がもっと早く掴めなかったのか原因を十分に分析する必要がありますが、不正けん制の仕組みの不備だけでなく、同社内における暴排意識の醸成が不十分であったことがうかがえます。

社内不正の背後に暴力団等が潜んでいる事例でもあり、自社で発生が予見される社内不正の手口をきちんと分析し対応策を講じることはもちろんのこと、暴排意識をはじめ、社内不正への企業姿勢(規則・ルールの厳格化と厳格な処罰)の明確化により、不正を働かせにくい社風を醸成することも極めて重要なことと言えます。

(8)暴力団借地は物納不可

財務省は、遺産を相続した人が金銭ではなく不動産などの現物で相続税を納める「物納」に関し、暴力団関係者が借地権などを設定して居住している土地については物納可能な財産から除外するよう関係法令を改正し、2013年度の税制改正要望に盛り込む方針であると発表しています。

国有地の上に暴力団関係者が居住することを認めないという意味であるとともに、土地の所有者に賃借人である暴力団員の排除を強く促すという意味もあると思われ、彼らの活動の場を狭めていく一つの有効な策だと思われます。

5.原発と暴力団

(1)東京電力の被爆隠しと暴力団

東電の孫請け会社で線量計に鉛カバーをしてごまかしていた事例が発覚しましたが、その他にも線量計について「スイッチを切る」「身につけない」「紛失する」といった実態があったようです。

さらに、原発作業は多重の下請け構造の中で手数料がピンハネされるなど暴力団等の資金源となっている事例も散見されますし、末端で働いているのは多くが立場の弱い日雇いの労働者であって暴力団等を使った強引な(違法な)派遣問題も発覚しています。

本事案における担当者には、暴力団の活動を助長するといった認識もなかったと思われますが、結果的には、被ばくの危険に曝されたのは弱い立場の人間であり、彼らを搾取し手配したのが暴力団という構図から、原発作業の厳しさ、暴排の取り組みの困難さを認識させられます。

(2)浜岡原発関連工事会社の社長が暴力団にアパートを提供

中部電力浜岡原発の業務や工事の受注の受け皿として、数十の地元業者でつくる地元協力会社の社長で土木会社の取締役だった男性が、昨年まで、自身が所有するアパートの部屋を暴力団に無償提供していたとのことです。

静岡県警は、男性が暴力団に財産上の利益を不当に与えていたと市と県に通報し、指名業者だった当該会社を2カ月間の入札参加停止とする措置が、中部電力も1ヶ月間の発注停止措置を行っています。

当該取締役個人の行為なのか、組織的な行為なのか報道からは十分に判断できませんが、民間レベルにおいても同社との取引を回避する動きが続くであろうことから、同社が自ら健全性を訴えていかない限り、中長期にも経営に大きな影響を与えることが予想されます。

(3)原発避難指示区域内の不動産取引の一時停止

福島の原発事故に伴う警戒区域などの避難指示区域について、政府が不動産取引の一時停止を自治体を通じ地権者らに要請しているとの報道がありました。

現実に、地元の不動産業者には、警戒区域内の土地の売買の問い合わせがあるとのことで、暴力団等に不動産がわたった場合、放射性物質による汚染土を保管する中間貯蔵施設の用地交渉等が難航する可能性が高く、暴力団等の新たな資金源となりかねません。

地権者や不動産取引業者の意識に期待したいところですが、彼らの現状を考慮すれば一概に責めることも難しいという側面もあると思われ、国としても何らかの代替措置等を明示することが求められると言えるでしょう。

6.CTF(テロ組織資金供与対策)に関する事例(英大手銀のイランとの違法取引)

米ニューヨーク州当局は、英金融大手スタンダード・チャータード銀行が、米国が経済制裁を科しているイランの金融機関との間で10年間近く2500億ドル(約19兆5千億円)規模の違法取引をしていたとして、3億4000万ドル(約268億円)の和解金を支払うことで合意しています。
その他にも、大手英銀のロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)やイタリアの大手銀行ウニクレディトも同様の疑いで調査が入るなど米当局による追求が厳しさを増しています。

なお、参考までに、スタンダード・チャータード銀行は、過去、山口組五菱会による巨額のマネー・ローンダリング事件にも関与しており、その他にも日本支店は、コンプライアンス管理・リスク管理・内部管理態勢等の不備により金融庁の行政処分を受けています。

あわせて、前回の本コラムでも取り上げた英大手銀行HSBC(香港上海銀行)にかかるマネー・ローンダリング事案に関連して、格付け会社S&Pが、同行が抱える資金洗浄疑惑により、顧客を失う恐れや規制当局から罰金を科せられたりした場合の費用がかさむ可能性があるとして、格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げています。

米当局の積極的なAML/CTFの摘発の動きは今後も注視していく必要があり、日本でも来年「犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯罪収益移転防止法)」の改正実施が控えていること、HSBCの事案に関連して日本の北陸銀行にも影響が及んでいることなどを考慮すれば、いよいよ日本でも本腰を入れる時期が来ていると認識する必要があります。

7.暴排条例勧告事例

(1)千葉県①

千葉県公安委員会は、未成年を暴力団事務所に入れたとして、指定暴力団松葉会組員に対し、千葉県暴排条例(少年を暴力団事務所に立ち入らせることの禁止)に基づく中止命令を出しています(同条例に基づく中止命令は施行後初めてとなります)。

(2)千葉県②

千葉県の九十九里海岸の海の家に対して飲料を高額で購入させようとしたとして、千葉県警は、指定暴力団住吉会系組員ら3人に中止命令を出しています。
九十九里海岸の片貝海水浴場など4カ所の海の家10店舗に対して、ウーロン茶などの飲料を1箱10,000~20,000円で購入するよう要求、店側は昨年までは「付き合い」で、ウーロン茶などを購入していたということです。

海の家については、昨年、神奈川県で摘発事例があり、その反省を受けて要求を拒否した事例も報道されていましたので、千葉県においても毅然とした対応の有効性が証明されたということだと思います。

(3)福岡県(久留米市)

久留米署は、久留米市暴力団排除条例に基づき、格闘技団体代表が指定暴力団道仁会系組員と交流し、道場の運営に組員が関与していた疑い(密接な関係)があるとして、格闘技団体を市に通報したと発表しています。

(4)富山県

富山県公安委員会は、指定暴力団山口組組員に現金500万円を支払ったとして飲食店を経営する県内の男性に利益供与をやめるよう暴力団排除条例に基づき勧告し、組員には金銭を受け取らないよう勧告しています(富山県では初めての勧告事例となります)。

(5)大阪府

暴力団幹部が社長に就いているとして、府警は、大阪市内の建設会社について、公共事業入札から排除するよう府と大阪市、国に通報しています。同社では平成21年6月、山口組系暴力団幹部が社長に就任しており、今年6月下旬、建設業許可の更新を申請した際、府が府警に照会し、社長が暴力団幹部と判明したということです。

(6)東京都

東京都新宿区内の飲食店に足ふき用マットをレンタルし、1カ月の売り上げ約30万円のうち約27万円を指定暴力団極東会系組幹部に提供する利益供与を行ったとして、都公安委員会は、東京都暴排条例に基づき、埼玉県内のレンタル業者に対し、利益供与を止めるよう勧告しています(あわせて、この組幹部にも利益の受け取り中止を勧告しています)。

Back to Top