暴排トピックス

肝心なものは目に見えない(2)~「今どきの暴力団」のリアル

2023.05.16
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首席研究員 芳賀 恒人

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手錠のイメージ

1.肝心なものは目に見えない(2)~「今どきの暴力団」のリアル

前回の本コラム(暴排トピックス2023年4月号)において、最新の「令和4年における組織犯罪の情勢」(警察庁)の統計から、暴力団構成員及び準構成員等の数は、2022年末現在、前年の24100人から1700人減の22400人となったとこと、うち、暴力団構成員の数は11400人、準構成員等の数は11000人となり、数の上では暴力団の脅威は年々減少していことを紹介しました。ところが、本コラムでたびたび指摘してきたとおり、暴力団等と密接な関係を有する半グレ集団(準構成員)については、その数はいまだ統計上明らかにされず「資金獲得活動を活発化させている実態がみられる」との指摘のみであり、また、最近ではあえて暴力団員として登録しない者や警察が把握できていない構成員等も増えており、統計上の数字の数倍に上るとの見方もあるなど、統計上の数字が実態を正しく表しているとは限らない点に注意が必要であること、を取り上げました。「リアル(現実)は目に見えないところにある」という点では、ラーメン店の店長をしていた暴力団組長が何者かに射殺された事件もそうかもしれません。統計上は暴力団構成員のうちの1名ですが、この事件の背景をよく見ると、今や不況業種となった暴力団が人として生きていくため、組織を維持していくにあたり必要な資金(上納金)を稼ぐために正業が必要とされていたというリアル、「ひとり親方」という暴力団組織の弱体化・少子高齢化の現状を示すリアル、神戸市内にただ1つの六代目山口組直系弘道会の直参という立場にある組織の事情というリアルなど、「1名」という数字だけではない、「今どきの暴力団」の状況が鮮やかに立ち上ってくるのです。もちろん、それ以外にも半グレとの関係のリアルや暴力団離脱者のリアルなど、「今どきの暴力団」の状況を完全に反映するにはさまざまな要素も加味されることが必要ですが、(幹部か否かでも大きく異なるのでしょうが)暴力団構成員ひとり1人の背景にまで踏み込まないと、暴力団や反社機的勢力の本当の姿(リアル)は見えてこない、逆にさまざまな暴力団構成員の姿を丹念に追っていくことによって「今どきの暴力団」のリアルが炙り出される、ということをあらためて感じます。

まず最初に、本件の背景事情に加え、「暴力団の父がかわいそう事件」をあわせて考察したNEWSイット!の「射殺された組長は“本気”のラーメン屋、組員ゼロの“ひとり親方” 「暴力団の父がかわいそう」事件に 進む高齢化とは…」は簡潔内容ではありながら、正に「今どきの暴力団」を示すものでした。以下、抜粋して引用します。

そもそも、今回の事件で、最も驚かされたのが、なぜ「暴力団組長」が「ラーメン屋さん」なのかだろう。かつての暴力団であれば、ラーメン店を“隠れ蓑”にして、不正に金を稼いでいた可能性はある。しかし、余嶋組長は、”本気”で、ラーメン店経営に取り組んでいたとされている。そのせいか、余嶋組長の店の評判は「コクがあって本当に美味しかった」と言う声や「お店の方は腰が低くてとっても一生懸命」などといった声もあった。味だけでなく、接客に関しても、お客さんからも、とても好評だったようだ。つまり、ここまで取材を総合すると、余嶋組長は、金を稼ぐために、本気でラーメンを作っていた可能性が高いのだ。実は、現在の暴力団は、暴対法の規制強化により、経済活動が、かなり制限されている。今や、暴力団員というだけで、銀行口座さえ開設できない時代となった。当然、警察当局の取り締まりも厳しい。いわゆる暴力団の稼ぎである「シノギ」が成り立たなくなっている。よく、「暴力団ではメシが食えない」などとも言われているという。このように、暴力団が立たされている現状は、非常に厳しいのだ。一方で、暴力団である以上、上部組織に対して、会費=上納金を納める必要がある。この会費が、かなりの負担となっているとされる。稼ぎがないのに、出費はかさんでいるのだ。こんな状況の中、余嶋組長はと言うと、捜査関係者によると、組長とは言え、子分がいなかったとのこと。いわゆる、組長兼組員の「ひとり親方」だったのだ。それならば、暴力団を辞めればいいのではないか?との指摘もあるだろう。しかし、余嶋組長は、色々なしがらみから、暴力団を辞めるに辞められなかったとみられている。なお、この「ひとり親方」組長は、全国で増加傾向にあるという。ある捜査関係者は、余嶋組長について「暴力団としての収入源(=シノギ)はなく、真面目にラーメンを作って、生計を立てていたのではないか」と話している。もう1つ、暴力団の現状を物語るような事件が、明らかになった。それが、「暴力団の父がかわいそう事件」。警視庁は、先月、指定暴力団・住吉会系、日野一家総長(73)と、43歳の無職の娘を逮捕した。容疑は詐欺。…娘は「暴力団の父が車が買えないことは知っていた。父がかわいそうなので名義を貸しました。」と供述していた。やはり、今の暴力団の置かれた現状を物語るような事件だろう。最後に、それを裏付けるようなデータを紹介したい。警察庁によると、去年末時点での暴力団員・準構成員の数は、全国で2万2400人。ご覧のように、18年連続で減少している。この18年で、3分の1以下に減った。「人口減少」の状態だ。さらに、年齢構成で見ると、最も多いのが50代で、全体の30.8%を占めている。次いで多いのは、40代で26.3%、30代で12.9%、そして、60代、70代となっている。20代の暴力団組員・準構成員は、わずか5.4%だ。全体の半数以上を50代以上が占め、平均年齢は、なんと54.2歳だ。まさに「高齢化」と言える。

本事件の背景事情について、いくつかの切り口からの報道を紹介します。情報源は週刊誌等は多くなりますので、信ぴょう性について保証するものではありませんし、それぞれの情報が矛盾したり、不整合が見られたりしています。それでも、丁寧に読み解いていくことにより、何かの参考になるものと思います。

「ラーメン組長」葬儀に弔問へ訪れた大物の名 「カタギになりたい」情報の真贋 使用された車両の持ち主と暴力団組織との関係(2023年5月2日付デイリー新潮)

「余嶋組長は今から30年ほど前に弘道会の直参に昇格したそうです。当時もっとも若い直参だということでした」と、竹垣氏。ラーメン店主の顔を持つ暴力団組長は、ヤクザの世界でエリートの経歴の持ち主だったようだ。一部では余嶋組長が組織の直参から降りたいとかカタギになりたいと願っていたとの情報が流れたが、実際は、「余嶋組長に付き従っていた若い衆の話によれば、カタギになる気は更々なかったようです」(同)…6代目山口組は言うまでもなく特定抗争指定暴力団の指定を受けている。葬儀が行われた兵庫・神戸は警戒区域内に指定されており、その場合、複数のクルマで移動することも制限される。「今回は4・5台に分乗し、300メートルほど車間距離を空けていたと聞きました。葬儀場の手配も難儀を極め、最初は兵庫・明石の方でやるという話でしたが、うまく行かず、神戸市内で落ち着いたようですね。それでも警察は条件を付けたようで、結果的に、他の団体は関係せず、3代目弘道会の中だけで通夜・葬儀を執り行ったとのことでした」(同)…「事件の犯人が使ったとされる車両が岡山県内で発見されました。廃品回収関連の仕事をしている人物に車両を借りたとのことでした。ただ、貸した方は事情を全く知らなかったため、警察に事情を聴かれただけだったということです」(前出・社会部デスク)…「去年10月、同じ岡山を本拠とし、神戸山口組と連合を組む池田組の池田孝志組長を妹尾組の吉永淳若頭が襲撃した事件がありましたね。その吉永若頭の借りたマンションの名義人がこの元若頭補佐だという話を聞きました。だからといって妹尾組が今回の事件に関与していると見るのは早計だとは思いますが、憶測を呼びそうな関係ではありますね」(同)…防犯カメラの映像をリレーして行くと、クルマの周辺に計3人が映り込んでいたとの情報もあるという。複数犯の可能性も浮上しているということか。

殺された暴力団組長がラーメン店主となった背景とは?元格闘家の一面も 「右目下」狙撃か?小川泰平氏が解説(2023年4月25日付デイリー新潮)

小川氏は「ラーメン店の店主が組長だったというよりも、暴力団組長がラーメン店のオーナーだったと私は思います。この世界での一般的な話として、暴力団組長が自分名義ではない飲食店を妻や家族、愛人などにやらせることはよくあることです。夜のお店だけではなく、特に地方に行くと、こういう一般的な食堂などをやらせていることもあるので、今回の神戸のケースが特に珍しいとは思いません。余嶋組長の場合は、別にいた店長が辞めたため、今年1月から自らが厨房に立っていたと聞いています」と背景を説明した。…抗争の可能性を否定する材料は現時点でありません。一方で、殺害方法等から考えると、拳銃を使用し、1人になった店内で犯行に及んでいる点を見ても、強い殺意があるのは明らかです。現時点では今後の捜査を見守るしかありません。余嶋組長が率いた『湊興業』は構成員がいなくなり、現在は”1人親方”の組です。この事件によって、1つの組がなくなることになるのではないかと思います」

口に銃を入れて殺された「ラーメンヤクザ」の素顔…過去にもカチコミ、2人組による “犯行予告” で深まる謎(2023年4月24日付FLASH)

「渡世名は湊学で、六代目山口組系弘道会傘下湊興業の組長でした。借金もあり、お金に困って自らラーメン店で働いたようです。天下の弘道会傘下の組長が、まさか厨房に立っていたとは驚きですよ」実際、店に違和感を覚えた近所の住民もいる。「お店は入りづらい雰囲気でした。コワモテの男のグループがよくたむろしていて、家族のように仲よさそうに話していました。そのなかに入る気がしなかったことがあった」また、別の住民は、「小さなラーメン店には似合わない、黒塗りの高級車がしょっちゅう店の前に止まってて、”その筋”かなという気はしてました」と語る。実は、以前にも、店にカチコミがあったという。「店に車が突っこんで、入口から店内まで、全部ぐちゃぐちゃに壊される事件があったんです。これだけなら交通事故かと思うけど、警察に被害届を出さなかったと聞いて、”こら確実や”と思いました。一般人なら間違いなく被害届を出すでしょうからね」カチコミの原因は、前店長とのトラブルだったと噂されている。…今回も抗争の可能性が指摘された。「しかし、抗争事件が起こったときは各組織に『待機』命令が出されますが、今回は出ていないのです。しかも、弘道会トップの竹内照明会長は、六代目山口組の高山清司若頭とともに、23日に都内で執りおこなわれた極東会特別顧問の葬儀に参列している。抗争が起きたのだとしたら、身内の直参が殺された翌日に都内まで来ないでしょう。そもそも、余嶋さんのところは若い衆がほとんどおらず、”一人組長”だったと聞いていますし……」(前出・暴力団関係者) 実際、余嶋さんが組長を務める湊興業の事務所には、ここ数年、人の気配がなかったという。赤煉瓦をがっちりと積み上げ、窓のない異様な建物の入口には、暴対法により使用禁止の張り紙が貼ってある。…事件前、ある暴力団関係者の元には”犯行予告”がされていたという。「今回の実行犯は、2人組で事件を起こす前、知り合いのヤクザに『今からやってきます』と連絡してきたそうです。しかも、引き金を引いた後に『やりました。これで体(たい)をかわします』と言ってきたというんです。…「余嶋さんは組長を引退し、別の団体の顧問に下がることを執行部にかれこれ数年も訴えていたようです。神戸山口組の分裂で、上納金は20万円に下がったものの、実質的に一人親方(組員がいない組長)なので、ラーメン店で払っていくのは厳しかったと思いますよ。でも、湊興業は弘道会にとって唯一の兵庫県内の直参団体なので、執行部として許すわけにいかなかったんでしょう

ラーメン店の店長が発砲されて死亡…!直参組長が殺されても弘道会が”不気味な沈黙”を続けるワケ(2023年4月28日付FRIDAYデジタル)

余嶋さんが組長を務める湊興業は、弘道会の直参としては唯一、神戸を拠点にする組織でした。敵対組織である神戸山口組の本拠に直参組長がいるということは、六代目山口組にとっては大きな意味があったと聞きます」しかし、余嶋さん本人は暴力団組長とラーメン店店長という”二足のわらじ”に限界を感じていたという。「コロナ禍でラーメン屋の経営が厳しくなり、上部組織に支払う会費を滞納していたそうだ。本人は『直参を降りたい』と本部に申し出ていたそうだが、六代目山口組にとって唯一の神戸の組ということもあり、なかなか簡単にことは運ばなかった。余嶋さんには子供も孫もおり、近しい人には『堅気になりたい』とこぼしていた」(暴力団関係者)事件はそんな矢先に起きた。…「事件発生直後から、弘道会系の組織には『待機』の指示が出ている。当然だが、もし余嶋さんが対立する暴力団組織に殺されたのだとすれば、何らかのカエシ(報復)を行うのは間違いないだろう。ただ、組の中に今回の事件を疑問視する声があるのも事実だ。本人は直参とはいえ、堅気になることを望んでいたような組長。真面目にラーメン屋に取り組んでいた人間を、わざわざ殺すような組織があるのか」(同前)実際、今回の事件は「怨恨説」が有力だという。…「当初はやった組がすぐにわかるのではないかと言われていたが、いまだに犯人が割れていない。怨恨による犯行であれば余計に組として動きづらいというのが本音だろう

「ヤクザ辞めてラーメン屋に専念したい」口の中で発砲…射殺された“ラーメン組長”が悩んでいたこと(2023年5月5日付文春オンライン)

六代目山口組の司忍(本名・篠田建市)組長の出身母体である弘道会の直系組織「湊興業」の組長を務めていた。暴力団関係者が語る。「余嶋は神戸の生まれで、10代の頃に両親を亡くし幼い妹と弟の面倒を1人で見てたんや。若い頃から腕っぷしが強くてな。暴れまわっていたところを司組長に見初められ、こっちの世界に足を踏み入れたんや」前科前歴も“多彩”だ。「11年に恐喝や公正証書原本不実記載などで逮捕されたのを皮切りに、14年には恐喝と詐欺、16年は道路交通法違反と暴力行為等処罰法違反と傷害。20年にも組織犯罪処罰法違反で逮捕されています」(前出・県警担当記者)だが後に不起訴となっているものも多く、16年5月に逮捕された傷害容疑に至っては一審で無罪判決が出ている。そのため同情的に見る向きもあった。「特に15年夏に山口組が“六代目”と“神戸”に分裂して以降、余嶋の組は神戸で唯一の六代目側の直系組織として肩身の狭い思いをしてきたはず」(同前)実際、余嶋が神戸市内で暴力団組員であることを誇示することはなかった。…「そういえば、一昨年の7月22日の明け方、ワゴン車があのお店に突然突っ込んで入り口のシャッターが壊れちゃったんです。なぜか店長は現場検証に来た警察を手で制止し、『入るな!』と言って揉めていた。あれも、もしかして……」敵対勢力の攻撃か、身内の粛清か、はたまた……いずれにせよ、暴力の渦から逃れることは叶わなかった。

料理人と暴力団の両立増加も(2023年5月5日付週プレNEWS)

ヤクザは本来、汗水流した仕事を嫌い、男伊達として見栄を張るのを美徳とするもの。それが稼業で食いあぐねた結果、厨房に立ち客に自慢のラーメンを振舞っていたところ暗殺者に命を奪われたわけだが、似たようなケースはほかにもある。2019年11月、兵庫県尼崎市で、神戸山口組の直参で二代目古川組組長の古川恵一元組長(享年59)が、対立する六代目山口組のヒットマンにマシンガンで撃たれ、蜂の巣状態となって殺害された。事件当時、古川元組長は実子が経営する居酒屋の厨房に立ち、店を切り盛りしていた。…「古川元組長は、平成のフィクサーと呼ばれた許永中氏の後見役でもあったほどの大物ヤクザだった実父から古川組を継承しました。しかし、ヤクザとしての器量は乏しく、子分に去られ一人親方同然となっていました。渡世からの引退を申し出たものの、神戸側の執行部から『抗争の旗色が悪いように受け取られるのでヤクザを続けろ』と断られ、仕方なく居酒屋で自ら鍋を振って生活の糧としていたところ、店先で襲われたのでした」…シノギでは食っていけないヤクザの中には、部屋住み時代の食事当番の経験を活かし、料理人として厨房に立つことを選ぶ者も少なくないという。料理人との二足のワラジを履くヤクザは、最近増加傾向にあるようだ。…ただ、店に毎日のように通わねばならず、行動パターンも捕捉されやすい。まだ抗争が続いているので、きちんと組から足を抜けていないと格好の標的になります」…山口組中興の祖と言われる田岡一雄三代目組長は、日ごろから「正業を持て」と子分たちに諭してきたと伝えられる。そして組員たちが、港湾事業や不動産、芸能、金融など各種の業界に暴力を背景として進出して富を築き、山口組の全国進出の原動力となった。時代は移り変わり、表の仕事から排除されたヤクザたちは、自らの調理の腕で活路を見出すのが現実のようだ。

その他、最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 前回の本コラム(暴排トピックス2023年4月号)でも取り上げましたが、神戸山口組傘下・4代目古川組組長ら5人が暴力団対策法違反容疑で逮捕されました(兵庫県内での適用は初)。特定抗争指定暴力団への指定によって、警戒区域内で(概ね)5名以上集まると逮捕されるとの規定に抵触したものでした。「同時に逮捕された面々の肩書きを見ると、令和ヤクザの悲しい現実を如実に表す逮捕劇だと言えるかもしれない」とデイリー新潮が指摘しています。それによれば、居酒屋に5人でいたといい、その5人のうち1人の無職男性は堅気だから逮捕された方としては大丈夫だろうと思っていたのではないかというものです(本当にそうなのかは判然としませんが、警察は堅気とは見なしていないということになります)。さらに言えば、組員2人の職業が、左官や解体作業を兼業していると報じられています。つまり、前述の余嶋組長と同じく、正業を持ちながら現役の組員を続けていることになります。このあたりも「今どきの暴力団」のリアルが凝縮されています。
  • 以前の本コラムでも取り上げましたが、自称「ルフィ」が統率するグループによる連続強盗・特殊詐欺に絡んで、「指示役」とされる4人がフィリピンから強制送還され、逮捕・起訴されています。特殊詐欺では60億円以上が奪われたことが明らかとなり、強盗事件では被害者が殺害されるなどしています。犯罪規模の大きさから暴力団の関与が疑われており、(筆者も濃淡はあれ何らかの形で暴力団や反社会的勢力が関与していると見立てていますが)その関係がより明確になってきたといいます。そのあたりは、2023年4月18日付デイリー新潮の記事「神戸山口組の井上組長との盃写真を入手 「ルフィ連続強盗・特殊詐欺」の上役が利用したヤクザ・パワー」に詳しく報じられていますので、以下、抜粋して引用します。また、日刊ゲンダイの記事も併せて紹介します。
「一味の特殊詐欺の実態をよく知っていた人物が語ったところによると、グループを統率するさらなる上役として、序列の順にA、B、そしてCがいるそうです。Cは4被告のうち渡邊被告と親しく、同じ北海道出身。Cは6代目山口組の3次団体の幹部と深い間柄だということで、ヤクザとのつながりを強く推認させる話をしてくれました」前回の記事でも触れた通り、序列トップのAは徳島県出身の50代前半の男で、表向きフィリピンで日本料理店のオーナーを務める一方で特殊詐欺に手を染めていて、収入の大部分はそちらだという。特筆すべきは反社との関係だ。「神戸山口組の井上邦雄組長と盃をかわしているということでした。Aのフィリピンの自宅には結構な大きさに拡大された井上組長のポートレイトが飾られており、見た者はAと神戸山口組とは一心同体だとの認識を持つことでしょう。神戸の威を借りてビジネスを進めてきたように映ります」(同)続いて、ナンバー2のBについて触れてもらおう。「50歳で彼もまたフィリピンで日本食レストランを経営しています。かなりの金満家で、Bの兄弟分がフィリピン・日本間のカネの運び役をしていたとのこと。その兄弟分は、福岡に本部を置く神戸山口組傘下の2次団体に籍を置いていたことがあるそうです。ある事件を起こしたが不起訴になり、その後、フィリピンに渡ったと言っていました」(同)…先に触れたように序列トップのAは井上組長と盃をかわしているのだが、その席には当然ながらBもいた。…「組をあげてAと盃をしているという風に見えますよね。写真からはAの活動は神戸山口組のフィリピン支部として認められているかのような印象を受けます。ただ、暴力団組織なら普通は稼いだカネの一部を上納、つまり井上組長に届けるはずなのですが、それは一切していないと聞きました」(同)…「Aとの盃は”裏盃”と呼ばれるようなもので、Aは神戸山口組に正式に所属しているわけではないようです。むしろAやB、そしてCは井上組長との関係を笠に着てビジネスを展開してきたのでしょう。近づいてくる人を来る者拒まず、で受け入れて盃を交わしていると、ヤクザの方が大変な目に遭う時代と言えるかもしれないですね」(同)
ルフィはこうして生まれた 特殊詐欺の源流を探る 暴力団は減らせても特殊詐欺集団はなぜ減らせない? 対策がないまま増殖が続く(2023年4月13日付日刊ゲンダイ)

特殊詐欺の類いは元来、ヤクザのシノギではないとされていた。だが、食えなくなっておとなしくしている人種ではない。特殊詐欺はすでに、現役暴力団員のシノギのひとつになっている。暴力団がここまで追い込まれた背景には、日本の経済「危機」があった。バブル崩壊に伴う不良債権処理が最大の政治イシューとなっていた1996年1月、米誌「ビジネスウイーク」は、日本の不良債権35兆円の1割が回収不能になってヤクザに流れたとする特集を掲載した。また、98年11月には米CIA幹部が日本に進出した自国企業保護のため来日し、「暴力団を何とかしろ」と警察に圧力をかけた、との話が、日本の経済誌に載った。…特殊詐欺が減らない理由は、捜査が詐欺集団の幹部に及びにくく、暴力団排除のような「国を挙げた抜本的対策」が存在しないためでもある。特殊詐欺が悪用する個人情報の流出は、減るどころか増えるばかりだ。3月末にはNTTドコモが、業務委託先から最大で529万人の顧客情報が流出した恐れがあると発表した。このデータは一体どこに流れたのか気になる。抜本的な対策が不在のまま、個人のカネを奪い取る特殊詐欺は、なお増殖が続いている。

暴力団排除を象徴するものとして、暴力団事務所の使用禁止や解体・撤去が挙げられ、最近はその数もかなりのものとなっています。暴力団排除が進展していることを示す一方で、暴力団自体の本部事務所が曖昧となっている現実があり、警察も実態を把握することが難しくなっているといいます

大阪・ミナミを拠点とする暴力団「宅見組」の本部事務所が売却された件については、近く解体される見通しだということです。大阪市中央区にある暴力団「宅見組」の本部事務所は、大阪府暴力追放推進センターが起こした裁判で、2021年以降、使用を差し止められていたところ、民間企業が建物を3億円あまりで買い取り、宅見組が退去、建物が残ることで、抗争事件に巻き込まれる可能性もあることから、近く、建物を解体する方針だということです。宅見組は特定抗争指定暴力団「神戸山口組」の主要組織でしたが、すでに離脱したことが確認され、4月、組長の自宅がある豊中市も「警戒区域」の指定を解除されています。なお、組織の解散と入江組長の引退が近づいたと見る向きも多い一方で、六代目山口組の司忍組長は入江組長のことを気にかけてきたとされます。六代目体制となって入江組長はナンバー3を務めていたこともあり、司組長は自身の代で六代目山口組の分裂を招いた責任を取ることを主眼に置いているとされます。司組長は喜寿を超え、後継者を考えなければならない時期に差し掛かっています。神戸山口組を降伏させることは無理でも、気にかけてきた二代目宅見組のことが片づけば七代目体制に移行しても良いとの考えも見え隠れしているとの見解も聞かれます。

住吉会系組員らが関与した特殊詐欺の被害者が同会の福田元会長ら3人に計約7000万円の損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は、計約6350万円の支払いを命じる判決を言い渡しています。原告は被害当時70~80歳代の高齢女性5人で、判決によると、5人は2018年10~12月、実在しない老人ホームへの入居を持ちかけられるなどして、詐欺グループから100万~2720万円をだまし取られたというものです。本コラムでもたびたび紹介しているとおおり、暴力団対策法は、傘下の組員らが暴力団の「威力」を利用して資金を得る行為をした場合、トップらも賠償責任を負うと規定しており、判決は、詐欺グループの代表だった組員が、自らが暴力団員だと仲間に告げたことなどから「威力を利用した」と指摘し、福田元会長らの賠償責任を認めています

福岡市・中洲で、ガールズバーを無許可で営業したとして、福岡県警は、元暴力団組員の男ら3人を風営法違反(無許可営業)容疑で逮捕する方針です。男は、工藤会幹部の配下で活動する「半グレ」グループの一員とみられています。県警は店が2018年以降、少なくとも数億円を売り上げ、一部が工藤会の資金源になっていた疑いがあるとみて、組織犯罪処罰法違反(犯罪収益収受)容疑も視野に実態解明を進めるとされます。逮捕状が出ているのは、会員制ガールズバー「VIBLISS」の実質的な経営者で道仁会の元組員の男と、同店の関係者2人で、男らは2019年から2023年春頃、福岡県公安委員会の許可を得ずに、同店で従業員に客の接待をさせた疑いが持たれています。報道によれば、男は道仁会を離脱後、半グレグループに所属、2022年6月に工藤会ナンバー4の「理事長代行」に就いた幹部の配下だったといいます。福岡県警は2023年1月、全国で初めて半グレの取り締まりを専門に行う「準暴力団等集中取締本部」を県警本部に設置、暴力団の資金源遮断に向けて、半グレの捜査を進めています。半グレを巡っては、福岡県警は2021年10月、違法な高金利の利息を受け取ったとして、工藤会の理事長代行の配下の男らを出資法違反容疑で逮捕、同年12月~2022年4月には、覚せい剤約7キロを密輸したとして、警視庁が「チャイニーズドラゴン」の構成員の男や暴力団幹部らを覚せい剤取締法違反の疑いで逮捕するなどしています。

2011年に北九州市小倉北区であった建設会社会長射殺など4事件に関与したとして、殺人罪などに問われた工藤会幹部、瓜田太被告(60)に対し、福岡地裁は、求刑通り無期懲役の判決を言い渡しています。裁判長は「反社会的な価値観と論理に基づき、意に沿わない者を組織を挙げて抹殺するという、およそ許容される余地のない犯行だ」などと指弾しています。また、今田被告に対し「3つの事件で共犯者との連絡役など一定の役割を果たした」と述べて、懲役14年の判決を言い渡しましています。報道によれば、瓜田被告は、小倉北区の路上で2011年11月に建設会社会長(当時72歳)を射殺した事件に加え、暴力団追放運動に取り組んでいた小倉南区自治総連合会長宅への銃撃事件(2010年)、小倉北区で大手ゼネコン「清水建設」社員を銃撃し負傷させた事件(2011年)、福岡市で看護師を刺し重傷を負わせた事件(2013年)で、配下の組員にバイクを用意させたり、実行役を逃走させるよう指示したりしたとされます。瓜田被告は2013年当時、工藤会の理事長補佐で、公判で瓜田被告は無罪を主張しましたが、判決は携帯電話の通話履歴や共犯者の供述などから瓜田被告を「指示役」と認定、4事件全てを工藤会系組員が組織的に実行したとした上で「建設会社会長射殺事件への関与のみでも無期懲役を選択するに値する。自身に犯行動機があったわけではないことを考慮しても刑事責任の重大さは揺らがない」としています。また、12年前、北九州市で建設会社の役員が射殺された事件など7つの事件に関与したとされる工藤会幹部の田口義高被告の裁判で最終弁論が行われ、弁護側は「実行犯との意思連絡はなく共謀は認められない」として、射殺事件について改めて無罪を主張しています。被告は、2011年に北九州市で建設会社の役員が射殺された事件や、大手ゼネコンの社員がけん銃で撃たれてけがをした事件など7つの事件に関与したとして、殺人や組織犯罪処罰法違反などの罪に問われています。これまでの裁判で、検察は建設会社役員の射殺事件について「実行犯の上の立場として、準備から証拠隠滅に至るまでの中心的な役割を担った」などと主張して、無期懲役を求刑しています。今回、福岡地方裁判所で最終弁論が行われ、弁護側は建設会社役員の射殺事件について「実行犯との相互的な意思連絡はなく、共謀は認められない」として、改めて無罪を主張しました。また、実行犯として関与したとされるゼネコン社員の銃撃事件については殺意を否認したほか、ほかの5つの事件のうち3つについて無罪を主張したうえで「総合的に判断すれば有期懲役が相当だ」と主張しました。

新潟市に住む暴力団の組長らが680万円を不法に集めたとして銀行法違反の疑いで逮捕された事件で、新潟県警察本部は、関係先として神戸市にある六代目山口組の総本部を捜索しています。六代目山口組系組長平松容疑者ら3人は、一定の金額を給付することを約束した上で知人ら6人から現金680万円を集めて運用し、国の許可なく銀行業を営んだとして銀行法違反の疑いで逮捕されました。六代目山口組は、3年前から兵庫県公安委員会によって「特定抗争指定暴力団」に指定されているため、組員の事務所内への立ち入りは禁止されていますが、警察では平松容疑者らがそれ以前に出入りしていたとして今回の事件の実態解明や余罪につながる資料があるとみています。警察は、平松容疑者らが不当に利益を得て、それが暴力団の資金源になった可能性もあるとみて、詳しい金の流れを調べています。なお、この場合の「銀行業」とは、俗に「無尽」「頼母子講」と言われ、その発祥は奈良時代にまで遡る日本特有の民間金融形態で、もともとは相互扶助の目的で生まれたもので、「親」が複数の「子」から定期的に掛け金を募り、抽選・入札・談合などを通じ、落札した掛け金支払者に、集金額から手数料を差し引いて、金銭や物品が与えられるといった仕組みです。現代ではごく小さなコミュニティで親睦旅行や飲み会などを目的とした金融以外の「積み立て」的な無尽が残っており、営業無尽は国内で1社だけとなっています。

毎年恒例の餅つき大会に使うプロパンガスの容器を、国の技術基準に沿わない方法で運搬したなどとして、愛知県警は、高圧ガス保安法(技術基準)違反の疑いで、六代目山口組事務局長、篠原容疑者ら5人を逮捕しています。ほかに逮捕されたのは、六代目山口組2次団体幹部の芝容疑者、篠原容疑者が組長を務める2次団体「若林組」組員、正木容疑者らで、プロパンガスは、六代目山口組の篠田建市(通称・司忍)組長も参加した餅つき大会で使用、県警捜査員が現認したということです。

大麻を密売する若者を標的にした事件が相次いでいるといいます。「警察に相談できないだろう」と足元を見透かされ、購入客を装った暴力団組員に襲われる事件も起きています。背景には、副業感覚で密売に手を染める若者が増えている実態があります。2022年に大麻事件で摘発された5342人のうち、暴力団関係者が占める割合は12.1%で、2012年の35.1%から大幅に減少、密売関連をみても、同関係者の割合は20%で、2012年の45.4%から半減しています。一方、密売などに手を染める若者らが増えているとみられ、国内に自生し、ネットで栽培法が分かる大麻の手軽さがそうした傾向の一因だといいます。実際の事件で2人を襲った組員の男には2022年11月、強盗致傷罪で懲役7年の実刑判決が言い渡され、確定しています。報道によれば、福岡県警幹部は「密売人の若者が襲われる事件が続く可能性がある」と指摘、「薬物の密売や所持などで一切関わらないようにしてほしい」と呼びかけています。

医療法人「社団心和会」が4月4日、負債総額約132億円で東京地裁に民事再生法の適用を申請しています。心和会は1946年に千葉県四街道市に開設された診療所が発祥で、八千代市の総合病院、介護老人保健施設、成田市のリハビリテーション病院などを経営する地域の中核医療を担う団体でしたが、それが倒産に追い込まれた要因として、再生手続開始申立書には、反社会的勢力から度重なる詐欺・恐喝を受け、資金流出を許す結果となったと記されていることが判明しています。原因を作ったのは、同法人の3代目である前理事長の荒井氏とされ、荒井氏は裁判所に提出された陳述書で「(3人の反社が)グルになって私を日常的・継続的に脅迫し続けました。私は精神的・経済的に追い詰められ、(中略)合計53枚にも及ぶ約束手形・小切手を振り出し、○○(本文実名)に交付してしまいました」と説明しています。荒井氏は兵庫県西宮市苦楽園の物件や、京都市大原の名刹・三千院の所有物件などの不動産投資に手を出し、詐欺の被害にも遭って損失を重ねていたといい、その結果、様々なブローカーに食い込まれるようになったということです。(明確な属性は不明ですが)反社会的勢力は札束を手にした荒井氏とキャバクラ嬢が並んだ写真などの弱みを握って強請を続けたといい、警視庁組織犯罪対策部も捜査に乗り出しており、事件化は必至の状況だとされます。

東京都中央区の飲食店で2022年12月、飲み会中に知人男性の顔を殴って重傷を負わせたとして、警視庁暴力団対策課は、傷害容疑で住吉会系組員を逮捕しています。なお、プロ野球巨人のオコエ瑠偉選手が直前まで同席していたが関与はなかったと結論付けています。報道によれば、飲食店で知人男性に暴行を加え、右目周辺の骨折などのけがをさせたというもので、オコエ選手は別の参加者からファンサービスを頼まれ、25人ほどが集まった飲み会に参加、事件時は既に店を離れていたとのことです。容疑者と面識はあったといいますが「暴力団員との認識はなかった。事件は後日知った」と警視庁に説明したといいます。球団側が2023年1月、「オコエ選手が参加した飲み会に反社会勢力の人間がいたようだ」と警視庁に相談していたものです。なお、巨人軍は、「警察からは、事件とは全く無関係との説明を受けている。飲食店で偶然居合わせ、会話をした程度の関係であり、暴力団など反社会的勢力との交際・交友には当たらないと判断した」とのコメントを出しています。

暴力団員の立ち入りを禁止している阪神甲子園球場でプロ野球を観戦したとして、兵庫県警は、いずれも暴力団組員の2人容疑者を建造物侵入容疑で逮捕しています。報道によれば、2人は4月8日、球場周辺のポスターやチケットに「暴力団関係者お断り」などと記されていたにもかかわらず、球場に入って阪神対ヤクルトの試合を観戦した疑いがもたれており、観戦を終えて路上に駐車していた車に戻ったところ、警察官から職務質問され、観戦していたことがわかったといいます。プロ野球暴力団等排除対策協議会は2003年12月、暴力団と悪質な応援団を球界から追放する「暴力団等排除宣言」を採択、宣言では、暴力団員を球場に入れないことなどを明記しています。なお、プロ野球における暴排は、ダフ屋や暴力団が牛耳っていた私設応援団を摘発する動きの最中の2003年12月から本格化したものです。

最後に兵庫県の暴力団離脱者支援に関する報道を紹介します。2023年4月12日付読売新聞の記事「元組員受け入れの「補償金」、4倍に引き上げたら登録企業2・6倍…業種も拡大」から抜粋して引用します。

兵庫県警が、暴力団から離脱した元組員の社会復帰支援に力を入れている。2022年4月、雇用後のトラブルに対する事業所への補償金の上限を50万円から200万円に引き上げたところ、受け入れ先になる「賛助事業所」の登録が増加。逮捕された組員に離脱や就職を促す専従班も県警内に新設した。同月以降、雇用につながったのは2人だけだが、県警は支援策を進め、組織の弱体化を図りたい考えだ。「暴力団から足を洗う意思がある人は、一生懸命がんばるはず。トラブルが起きることはある程度、想定しているが、手厚い補償があるので、受け入れやすい」。昨年5月、初めて賛助事業所に登録した姫路市内の建設会社社長の男性(46)はそう話した。これまで、元組員らの雇用には消極的だったが、暴力団追放県民センターの講習を受けて補償内容を知り、更生に協力しようと考えたという。まだ雇用には至っていないが、男性は「何かあっても安心して再出発のサポートができる」と語る。県内では、暴力団からの離脱支援策として1992年から賛助事業所制度を開始。2016年には、雇用した元組員を巡るトラブルなどで企業が被った損害を上限50万円で補償する制度を整備した。しかし、登録企業数は最多でも47社と伸び悩み、雇用も21年までの30年間で年平均1.8人、計56人にとどまった。…事件を起こして逮捕される組員に直接、離脱や就職を働きかける取り組みも強化。ほとんどが離脱支援制度を知らないため、県警内に新たに置いた専従班が県内全署を巡回し、逮捕直後から制度を紹介するよう、取り調べを担当する捜査員に指導している。組員が組織への不満を漏らしたり、離脱の意思を示したりすれば、取り調べの合間に離脱や就職を勧める。ある県警幹部は「離脱しても、仕事が見つからなければ組織に復帰してしまう恐れが高い。就労を促し、組織を弱体化させたい」と力を込める。

2.最近のトピックス

(1)AML/CFTを巡る動向

米司法省は、「ラッキー・ストライク」「ダンヒル」などの銘柄で知られる英たばこ大手ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)の北朝鮮とのビジネスが銀行詐欺と制裁違反にあたるとして、6億2900万ドル(約840億円)以上の罰金を払うことで合意したと発表しています。司法省が扱う対北朝鮮制裁違反の罰金としては過去最高額だといいます。さらに、北朝鮮が巨額の利益を得ていたとされる闇の「たばこビジネス」も摘発しています。報道によれば、BATは2007年に北朝鮮にたばこを販売していた事業を切り離して別会社に移し、このビジネスから手を引くと声明を発表していましたが、実際には仮の会社を使ってその後も計約4億1500万ドルの取引を続け、北朝鮮から支払いを受け取っていたといいます。米司法省は、この取引に関わった米銀行は北朝鮮に関連するものと知らなかったと認定、「BATと子会社は米国の(北朝鮮に対する)制裁を回避する精巧な枠組みを利用し、違法にたばこを販売した」と指摘しています。米政府の報告書などによると、北朝鮮は日本や米国のブランドのたばこを偽造し、外国に密輸しており、北朝鮮の偽造たばこの生産能力は年間20億パックを超えると推定されています。起訴状では、北朝鮮政府が手がけるビジネスで「ただ一つの最ももうかる品目かもしれない」と指摘、売り上げは北朝鮮政府に流れ、エリート層の忠誠心を維持するための裏金や、兵器開発に使われているとしています。司法省は今回の取引で、最終的に北朝鮮政府に7億ドル(約940億円)の収入がもたらされたとみており、同省は、3人の逮捕につながる情報に対し、50万~500万ドルの報奨金を出すとしています。また、本件について、オルセン司法次官補は記者会見で「米国の制裁に違反した場合にいかなる代償を払うことになるかを示す警告だ」と指摘しています。巨額の資金が北朝鮮にもたらされる結果、核・ミサイル開発につながることを認識しながらの行為は、大変罪深い企業倫理の欠如であり厳しい批判は当然のことといえます。また、AML/CFTの観点から北朝鮮とつながる資金の流れを断てなかった金融機関の実務についても、(知らなかったとの認定を受けているとはいえ)一層の底上げが図られるべきと考えます。

米司法省は、北朝鮮の資金調達のため、盗み出した暗号資産(仮想通貨)をマネー・ローンダリング(マネロン)した罪などで、同国の貿易決済銀行「朝鮮貿易銀行」の幹部シム被告を起訴しています。米財務省は同被告に制裁を科すと発表、米国内に保有する資産が凍結されることになります。同省は声明で「北朝鮮は盗み出した暗号資産をマネロンしているほか、IT技術者に暗号資産で資金を稼がせ、政権維持と違法な大量破壊兵器や弾道ミサイル開発に充てている」と批判しています。司法省によると、被告は、中国人と香港人を含むトレーダーら3人と共謀、盗み出された暗号資産を使い、香港のフロント企業を介して物資を米ドルで購入、米国の制裁回避を狙ったとされ、北朝鮮のIT技術者らの身分を偽って米国の暗号資産関連企業で働かせ、得た賃金を北朝鮮当局に納付させていたとしています。

G7は暗号資産の個人間取引の規制検討をAML/CFTの国際監視組織FATFに要請、現在は暗号資産交換などのサービス業者を介する取引だけが規制の対象で、個人間取引がマネロンや経済制裁の抜け穴になりかねず、監視強化策を探るとしています。具体策はFATFが詰めるといい、不正な個人間取引が生じないよう交換業者に厳格な顧客管理を求めたり、民間の分析会社と当局が連携して疑わしい取引の実態を精緻に把握したりする対策などが考えられます。報道によれば、金融当局者からは「新興国も含めて暗号資産が急速に広がっており野放しにできない」との声が上がっており、どれだけ実効性のある対策をとれるかが重要になります。暗号資産の個人間取引は麻薬の違法取引や、犯罪による不正資金の流れの偽装に使われているとされ、主要国がとる金融・経済制裁などの抜け穴になるとの危機感も強く、ブロックチェーン(分散型台帳)分析会社の米チェイナリシスによれば、暗号資産を利用したマネロンは2022年に前年比68%増の238億ドル(約3兆2千億円)に上ったといいます。FATFがこれまで各国に導入を勧告してきた規制は、暗号資産の交換業者が管理するウォレット(電子財布)の入り口と出口で本人確認を義務付けるのが柱で、日本も2022年に法改正で対応したものの、個人が自ら管理する個人間の取引は規制対象外となっていました。なお、FATFは、暗号資産のマネロンに対するFATFの基準を満たす対策の実施やモニタリングの重要性を確認、その進捗や対応の結果をまとめた報告書を6月に公表するとしています。部会は2019年に設立され、日本の金融庁職員が共同議長を務めており、業界との対話やモニタリング、報告書のとりまとめを手がけています。今回は日本を含む19カ国の当局や国際機関、国内外の民間事業者が参加し、対面とオンラインの両方で開催され、各国のマネロン対策の進捗状況や顧客情報の共有を求める「トラベルルール」の実施、北朝鮮による仮想通貨の悪用リスクへの対応などを議論しています。本コラムでもたびたび取り上げているとおり、日本はマネロン対策に関連する法律を改正するなど取り組みを進めています。たとえば。FATFは各国にトラベルルールを導入するよう勧告してきましたが、2022年の犯罪収益移転防止法の改正で、暗号資産をトラベルルールの対象に加え、暗号資産交換業者が顧客から預かった暗号資産を別の業者に送る際、顧客情報の共有を義務付けています。一方、導入状況は国によってまちまちで、特に、暗号資産の送金時に、依頼人や受取人の情報を業者間で交換する「トラベルルール」は、先進国でも実施されていないケースがあるほか、規制の対象外とされた個人間取引が新たなリスクとなる懸念も指摘されていたところでした。

金融庁から、暗号資産を含むデジタル資産に関する不公正取引等に係る国際的な規制動向と法規制当局による執行事例(法規制及び技術的な面からの執行方法に関する分析を含む)及びマーケットにおける課題(具体的な問題事例を含む)を把握・分析し、今後の当庁施策へ活用することを目的として、EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社に調査を委託した調査結果が公表されています。かなり大部な報告書となっていますので、一部を抜粋して引用します。

▼金融庁 「デジタル資産を用いた不公正取引等に関する国際的な規制動向、法規制当局による執行事例、及びマーケットにおける課題の分析調査」報告書の公表について
▼(別添)「デジタル資産を用いた不公正取引等に関する国際的な規制動向、法規制当局による執行事例、及びマーケットにおける課題の分析調査」報告書
  • 日米のデジタル資産に係るAML/CFT規制の比較
    • 日米のAML/CFT規制の対比で特徴的な点として、米国連邦法では暗号資産及びステーブルコインをはじめとしたデジタル資産について法律上定義がされておらず、いかなるデジタル資産の取扱業者がAML/CFT規制の対象となるかが法律上十分に明確でないのに対し、日本法では各デジタル資産及びその取扱業者の定義並びにAML/CFT規制の対象者が明確化されている点があげられる
    • 具体的には、米国の場合、一般的な暗号資産(virtualcurrency)やステーブルコインがCVCの定義に含まれ、CVCの交換業者や取扱業者が(一定の例外を除き)MSBとしてAML/CFT規制の対象者となることは、あくまでもFinCENのガイダンス上定められているにすぎず、米国連邦法上は、暗号資産やステーブルコインの取扱業者等がAML/CFT規制の対象者であることは必ずしも明確化されていない。一方、日本の場合、暗号資産やその交換業者である暗号資産交換業者が資金決済に関する法律(以下、「資金決済法」という。)において定義され、また、集団投資スキーム持分に係る権利等をデジタルトークン化したものについても、金融商品取引法(以下、「金商法」という。)において定義される電子記録移転権利として有価証券として扱われることになり、電子記録移転権利の売買、その媒介及び取次等を業として行う者が金融商品取引業者に含まれている。こうした暗号資産交換業者及び金融商品取引業者は、犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下、「犯収法」という。)において特定事業者としてAML/CFT規制の対象者に含まれることが明確化されている。また、2022年6月10日に公布された改正資金決済法及び改正銀行法において、主に法定通貨建てのステーブルコインに関する制度として、新たに「電子決済手段」並びにその仲介業者である「電子決済手段等取引業者」及び銀行発行のデジタルマネー類似型のステーブルコインの仲介者である「電子決済等取扱業者」が定義され、改正犯収法により、電子決済手段等取引業者及び電子決済等取扱業者についても特定事業者に追加されることとなる。このように、日本のデジタル資産に係るAML/CFT規制の方が、規制対象となる取扱業者の範囲が明確である点で、事業者としても予見可能性が確保されるとともに、規制当局としてもその有する監督権限等がデジタル資産の取扱業者に及ぶことが法令上明確にされている状況であるといえる。
    • また、AML/CFT規制違反に対しては、米国では、(1)刑事罰のほか日本では認められていない民事制裁金が課される点(民事制裁金も、違反の継続する日毎に計算されるため、同所で紹介している事例のとおり高額となり得る。)、(2)刑事罰についても、日本では、犯収法の規制対象者に適用される罰金刑の最高金額は3億円にとどまるところ、米国では規制対象となる金融機関の資産金額に応じて変動する仕組みが採用されている点で、米国の方が相当に厳罰となる可能性が高く、AML/CFT規制の実効性という観点からは有意な差といえる。
    • また、マネー・ローンダリング行為そのものに対する罰則についても同様に米国の方が厳罰を科すことが可能となっている。日本では、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(以下、「組織的犯罪処罰法」という。)及び薬物犯罪に関して規制する、国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(以下、「麻薬特例法」という。)が存在するが、両法に基づき科すことのできる法定刑は、犯罪収益等の隠匿をした者につき10年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又はその併科、情を知って犯罪収益等の収受をした者につき7年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金又はその併科にとどまる。一方、マネー・ローンダリングダリング行為に科される罰金の最大は50万米ドル又は取引対象となった財産の価値の2倍のいずれか高い方、懲役刑の上限は20年とされており、特に罰金に関して犯罪収益の金額に応じてその金額が算定されることとなるため、日本より厳罰に処せられる可能性が高い。
  • 日米のデジタル資産に適用されるインサイダー取引規制の比較
    • まず、両国の制度は、インサイダー取引規制の対象を(有価)証券の売買等に限定し、(有価)証券に該当するデジタル資産(暗号資産)のみを規制の対象とする点で大枠としては共通する。
    • もっとも、日本では、「有価証券」の範囲が米国に比して明確、かつ、インサイダー取引規制の対象は更に「特定有価証券等」に限定されている(なお、電子記録移転権利は特定有価証券等には含まれていない。)。また、令和元年の金商法改正に伴い金商法第185条の22ないし24が新たに設けられ、暗号資産の売買やそのデリバティブ取引等について、不正行為、風説の流布、相場操縦等が禁止されることになったが、暗号資産のインサイダー取引に関する規定は設けられてはいない。これに対し、米国ではHowey Testの下、「(1)他者の努力から得られる利益を合理的に期待して、(2)共通の事業に資金を投資する」場合には「投資契約」たる証券に該当し、規制が及ぶこととなる点で、規制の範囲はより広いと考えられ、実際に米国では下記(第III章3.3)の元Coinbase社員の事案のように、暗号資産に関するインサイダー取引の訴追事例も出てきている
    • また、規制対象となる行為についても、日本では、規制対象者及びインサイダー情報の範囲を法律上明確化した上で、(インサイダー情報を知った上での)「上場会社等の特定有価証券等に係る売買」等としており、米国に比して明確である。これに対し、米国では、州際通商の方法等を利用して、証券の売買に関連して詐欺又は欺瞞として機能する行為等を行うこと(ルール10b-5)といった抽象的な行為態様を規制対象としており、判例理論による一定の明確化は図られているものの、米国の方がインサイダー取引に該当する行為を柔軟に捕捉しやすい規制構造となっている。
    • そのほか、インサイダー取引の監視・執行方法に関しては、日本に存在しない米国の制度として、民事制裁金の賦課に繋がる情報を提供した者に対して報奨金(回収された民事制裁金の10%-30%)を支払う内部告発者(whistle-blower)制度が挙げられる。2022年度においては、当該制度により12,300件を超える通報があり、その結果328人に対して合計13億米ドル以上が支払われたとのことであり、かかる事実に照らすと、内部告発が早期かつ重要な違反調査の端緒となっていることが推認される。
  • 日本におけるデジタル資産の倒産手続上の取扱いとの比較
    • 日本でも、デジタル資産の私法上・倒産法上の取扱いについて明文の規定はないため、既存の法制度の解釈に委ねられている。MTGOXの破産手続に関する東京地判平成27年8月5日では、ビットコインは所有権の客体とならないとして、顧客がMTGOXに対するビットコイン返還請求権を破産法上の取戻権として行使できないと判断された。しかしながら、MTGOXのような取引所にデジタル資産を預託したユーザーは、取引所の倒産手続において、いかなる場合においても自己の有するデジタル資産の返還請求権を倒産債権として届け出るしかないとすると、ユーザーは平時から取引所の無資力リスクを常に覚悟しておかなければならず、デジタル資産取引の安全性・信頼性を損ない、ユーザーの保護に欠ける懸念があり得る。
    • もっとも、ビットコインのような「物」とはいえないデジタル資産であっても、財産的価値を有し、委託者の財産から分離可能である限り、「財産」として信託の対象となり得ることから、ユーザーを委託者兼受益者、取引所を受託者、デジタル資産を信託財産とする信託契約が明示又は黙示に成立している場合には、倒産隔離を認めてユーザーの利益保護を図る余地があり、ユーザーのデジタル資産が取引所の固有資産と分別管理され、特定性をもって保管されている場合には、当該デジタル資産が信託財産である旨を破産管財人等の第三者にも主張し得るとの見解も有力である。上記平成27年東京地判の当時は、デジタル資産に関する規制法整備の黎明期にあり、取引所における固有資産とユーザー資産との分別管理等について必ずしも厳格なルールは定められていなかったが、現行の資金決済法では暗号資産交換業者に対して受託暗号資産の分別管理を義務付けている。
    • 暗号資産交換業者の倒産時において受託暗号資産が信託財産と認められて倒産隔離が図られるか否かという点については、どの程度の分別管理、特定性が認められれば、信託の成立を破産管財人等の第三者に主張できるかは依然として解釈に委ねられており、事実関係次第ではあるものの、ユーザー保護が図られる事実上の可能性はMTGOXの事件当時に比べると高まってきていると言い得るように思われる。
    • 米国の問題状況は、以上の日本法・実務の歩みに通底する部分があると思われる。すなわち、デジタル資産の実体法・倒産法上の取扱いが明文化されておらず、既存の法制度に個別事案を当てはめて検討するアプローチを採らざるを得ない中で、Celsiusグループのチャプター11等において、デジタル資産の所有権の帰属等が個別事案の契約条項の解釈に委ねられるなど、デジタル資産取引所のユーザー保護に対する懸念が浮き彫りとなり、こうした問題意識も一因となって、UCCの改正や連邦倒産法の改正の動向、NY DFSによるVCEに対する監督指針の公表、SECによる投資顧問法改正案の公表といった様々な規制・立法により、取引所倒産時のユーザー保護の在り方についての議論・検討が急ピッチで進展している。
    • デジタル資産の私法上・倒産法上の取扱いに関する立法論や(既存の法的枠組みにおける)解釈論は、日米ともに過渡的なフェーズにあり、相互に問題意識を共有しながら適切な法制度・実務のあり方を模索していく必要があると思われる
  • 日本とEUのデジタル資産に係るAML/CFT規制の比較
    • 日米の比較と同様に、日本とEUの比較においても、日本の法制度の方が、EUの法制度と比べて各デジタル資産及びデジタル資産の取扱業者の定義及びAML/CFT規制の対象者が明確化されている点は特徴的である。
    • 具体的には、EUでは、EU AML Directiveで暗号資産(virtual currency)を定義した上で、暗号資産と法定通貨の交換業者及びCWPが定義されており、それぞれがAML/CFT規制の対象とされている点で、米国と比較するとデジタル資産の取扱業者に関する法制化が進んでいるといえる。
    • 一方、日本との比較では、「暗号資産と法定通貨の交換業者」が異なる暗号資産の交換を行う業者を含む概念でない点で、日本の暗号資産交換業者よりも狭く定義されている。
    • 但し、これら定義に基づくAML/CFT規制はEU加盟国のミニマムスタンダードとして求められるものに過ぎず、各国の法制において、例えばドイツのように、より広範に暗号資産関連業者をAML/CFT規制の対象としている国があることには留意が必要である。また、EU AML Directiveにおいてセキュリティ・トークンの取扱業者の一部を投資会社として解釈する余地を認めているものの、日本における電子記録移転権利と異なり、かかる解釈は明文化されておらず、EUの方が日本よりもデジタル資産に関するAML/CFT規制範囲が不明確な点が存在する。もっとも、EUでは美術品のディーラーがAML/CFT規制の対象者に含まれている結果、日本では暗号資産や電子記録移転権利に該当しないタイプのNFTについても、EUではその取扱業者がAML/CFT規制の対象者になり得るため、金融規制とは別の観点からAML/CFT規制の対象者とする余地を残している点が注目される
    • また、EUのAML/CFT規制違反者に対して科される罰則についても、米国同様その上限が規制対象者の年間総売上高に応じて変動する仕組みが採用されており、米国同様日本より相当に厳罰になり得る点も、規制の実効性という観点からは有意な差と思われる
  • デジタル資産に係るインサイダー取引規制に係る日本法との比較
    • まず、インサイダー取引規制の対象となるデジタル資産の違いであるが、日本ではセキュリティ・トークンに相当する電子記録移転権利はインサイダー取引規制の対象に含まれていないのに対して、EUの現行規制であるMARの下ではセキュリティ・トークンも金融商品としてインサイダー取引規制の対象となり得る点で差異が見受けられる。もっとも、EUにおいてセキュリティ・トークン等の金融商品についてインサイダー取引規制が適用されるためには取引所(規制市場、OTF及びMTF)で取引されることが必要となるところ、現状かかる要件を満たさないものが大半であるため、インサイダー取引規制の適否という結論において大きな違いはないともいえる。
    • 一方、日本の金商法では暗号資産について特定有価証券に係るインサイダー取引規制類似の規制を設けることが見送られた点と比較して、MiCARでは、MARで規制される「金融商品(financial instrument)」に該当しない「暗号資産(crypto-assets)」のうち、暗号資産サービス提供者が運営する暗号資産の取引プラットフォーム上で取引が承認されている(又は当該承認申請がなされている)暗号資産についてのインサイダー取引規制を新たに設けることで、これまで規制の及ばなかった暗号資産に係るインサイダー取引への規制の道を拓いている点は大きな違いである。もっとも、MiCARにおいても、「暗号資産の発行者(issuer of crypto-assets)」をどのように特定すべきかという点等について、引き続き検討がなされているようであり、検討状況については、引き続き注視することが望ましい。
    • そのほか、インサイダー取引の監視・執行方法に関しては、日本に存在しないEUの制度として、発行者、発行者の代理人又は発行者の計算により行動する者に対し、インサイダー情報にアクセス可能な業務を行っているすべての人物のリスト(インサイダー・リスト)を作成・更新する義務(及び、管轄当局の要求があった場合、当該リストを速やかに提供する義務)を課している点が、参考になる点として挙げられる。かかる規制は現状MARにのみ存在し、MiCARの案文には存在していないようであるが、MiCARでは独自に暗号資産取引プラットフォームのシステムを通じて公募された暗号資産の全注文に関する関連データを少なくとも5年間、管轄当局の裁量の下で保管するか、又は、管轄当局による注文帳へのアクセス権を提供する義務を負わせている点が注目に値する。また、MAR及びMiCARいずれについても、法人によるインサイダー取引規制違反に対しては年間総売上高の15%相当額以上の制裁金が課せられることとなり、日本より相当に厳しい制裁が課せられる点も有意な違いとして挙げられる。
  • デジタル資産に適用される市場操作規制に係る日本法との比較
    • EUでは、「金融商品(financial instruments)」(に該当するデジタル資産)についてはMARが、「金融商品」に該当しない暗号資産についてはMiCARが、それぞれ市場操作の禁止について定めている。この点、日本においては、有価証券に該当する電子記録移転権利については金商法第159条で、暗号資産の売買、暗号資産関連市場デリバティブ取引及び暗号資産関連店頭デリバティブ取引については金商法第185条の23及び第185条の24で、それぞれ相場操縦(市場操作)行為の禁止を定めている。この点、MiCARが未成立・未施行であることを踏まえると、暗号資産の市場操作規制については、EUよりも日本が先行しているといえる。
    • また、(1)MARに基づく市場操作規制は、金融商品に該当するデジタル資産が、規制市場、MTF又はOTFのいずれかで取引される場合に適用され、(2)(仮にMiCARが現状の内容で成立・施行された場合、)MiCARに基づく市場操作規制も、暗号資産サービス提供者が運営する暗号資産の取引プラットフォーム上で取引が承認されている又は当該承認申請がなされている暗号資産に限って適用される。この点、(1)日本でも、有価証券については、相場操縦(市場操作)規制の対象は金融商品取引所が上場する有価証券、店頭売買有価証券又は取扱有価証券の売買に限られているため、金商法とMARとでその規制範囲に実質的な差異はないともいえる。これに対し、(2)暗号資産については、日本では暗号資産に係る相場操縦(市場操作)規制についてはMiCARのような上場を要件とはしていないため、金商法の方がMiCARよりも規制範囲が広いといえる。
  • DeFiに係る規制上の課題について
    • DeFiは、原則としてオープンソースの考え方を前提とし、利便性の高いサービスを提供する潜在的な可能性を有するとの指摘がある一方で、利用者保護やマネー・ローンダリングの防止の観点から、課題が指摘されることも少なくない。例えば、ハッキング等により利用者の財産が失われる可能性、一部の大量のガバナンストークンの保有者による他の利用者の保護に欠ける行為が行われる可能性(適切なガバナンスの欠如)が指摘されている
    • また、既存の金融機関に課されている厳格なAML/CFT対策に比して、DeFiが行っているAML/CFT対策は不十分な場合が少なくなく、DeFiを称するサービスがマネー・ローンダリング、テロ資金供与の温床になりかねないという指摘がある。
    • DeFiはこの数年で急速に発展してきており、各法域の規制当局がその規制の在り方について検討している状況である。共通して指摘されるDeFiに係る規制上の課題としては、以下が挙げられる。
      • DeFiは、中央集権的な管理者又は仲介者が存在しない仕組みを標榜しており、規制の執行対象となるべき主体の特定が困難な場合も想定され、管理又は仲介を行う事業者を規制及び監督するという既存の金融規制の枠組みとの関係で、単純な当てはめが難しい場合もある。また、自律的に稼働する度合いが高いような一部のプラットフォームに関する論点として、規制執行によりサービスを実際に停止させることが容易ではない可能性がある。
      • DeFiは、グローバルなプラットフォームとして運営されていることが通常であるところ、一元的な規制当局が特定できない場合があることに加え、規制及び監視に係る国際的な枠組みが存在せず、有効な規制・監視手段を構築することが難しいとの指摘もある。加えて、規制・監視が不十分な法域があれば、規制のアービトラージが容易に実行され得る可能性がある。また、同様の理由で、DeFiに関して犯罪的な行為が行われた疑いがあるとしても、法域の特定や協調的且つ有効な捜査を行うことが容易ではないとも考えられる。

2022年4月に発足した警察庁のサイバー特別捜査隊が、特殊詐欺でだまし取られた暗号資産を追跡する態勢を整えているようです。専用の資機材を導入し、口座間の移動を繰り返していく流れを追う作業を本格化、詐取された暗号資産が集約された先の口座を突き止めたケースもあるといいます。本コラムでもたびたび紹介しているとおり、暗号資産は口座から口座へ転々とさせることで資金の出どころや実際の所有者が分かりづらく、犯罪で得た資金の洗浄(マネーロンダリング)に悪用されているとみられており、特殊詐欺事件では、指定の口座にビットコインなどの暗号資産で振り込ませたり、振り込ませた現金を暗号資産に変えたりする例がみられます。直近でも、長野南署が、長野市内の50代女性が5680万円をだましとられる特殊詐欺事件が発生したと発表、「女性の携帯電話にインターネット関連団体の職員を名乗る男から電話があった。「有料サイトの利用料金が未払いになっている」などと言われ、指定口座に現金10万円を振り込んだ。さらに警察官を名乗る男などから「あなたの携帯から不特定多数の人にウイルスがまかれた」「示談するためにお金を支払って」などと言われ、3月上旬から4月下旬までの間、79回にわたって指定口座に計5670万円を振り込んだ。この間、女性の口座には「示談金としてこのお金を使って」という指示とともに5回にわけて計2770万円が振り込まれ、女性はこのお金も指定口座に振り込んでいた」というもので、女性の口座が犯罪者側のマネロンなどに利用された可能性があるとみられています。なお、サイバー犯罪の捜査に関連して言えば、サイバー事案の被害に関する情報を警察が民間などから提供してもらうことが重要となります。AML/CFTでは、金融機関などが「疑わしい取引」があれば関係当局に届け出る仕組みがありますが、そのサイバー版はなく、企業側が警察への情報提供に努めるといった新たな制度についても今後検討していく必要があると思います。

その他、AML/CFT及びその周辺リスクに関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 飲食店で現金などが盗まれた窃盗事件を巡り、大阪府警と大阪地検は、タイ国籍の少女(17)を、日本国籍の成人女性だと人定を誤って逮捕、起訴していたと発表しています。少女は女性の身分証明書を示してなりすましていましたが、府警と地検は十分に確認せず見抜くことができなかったものです。報道によれば、少女は、大阪市内の飲食店で現金やキャッシュカードの入った財布を盗んだとして、同日、府警南署に窃盗容疑で緊急逮捕され、逮捕当時、少女は20歳代の女性を名乗り、その女性の身分証明書を示したといいます。少女はそのまま起訴されましたが、少女から打ち明けられた弁護人が地検に連絡し、発覚したということです。少女と女性は知人ではなく、逮捕当時、少女は自身の身分証明書も所持していたほか、女性からは身分証明書を盗まれたとして被害届が出ていたものの、府警や地検は人定の誤りを見逃していました。対面での本人確認であってもこのような見逃しが発生しうることを認識する必要があります。
  • 秋田県湯沢市の男性が詐取された電子マネー約2970万円分を現金化して隠したとして、秋田、岡山、福岡3県警の合同捜査本部は、組織犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)の疑いで、いずれも名古屋市西区の会社役員の2人の容疑者を再逮捕、電子マネーのマネロンを図ったとみられています。なお、本件に関連して、14都府県の計24人がだまし取られた計約1億6千万円相当が現金化された疑いがあるとされます。容疑者が別の容疑者の会社に売却し、現金化して犯罪収益を隠したといいます。
  • 健康食品販売会社「ウィンメディックス」が未公開株を違法に販売したとされる事件で、警視庁は、同社社長の白木被告ら男2人を組織犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)容疑で再逮捕し、新たに同社役員の遠藤容疑者を同容疑で逮捕しています。報道によれば、、3人は、「がんに効く飲料」の開発などをうたって同社の未公開株を株主約1500人に計約7億円で販売した際、同社の関連法人の口座に寄付として金を振り込ませ、「寄付金受領書」を送付、白木容疑者が保有する株式を無償で譲渡するといった内容が書かれた「株式譲渡通知書」も発行し、送付していたものです。なお、白木被告ら2人は、金融商品取引業の登録などをせず未公開株を販売したとして金融商品取引法違反容疑で逮捕され、同法違反で起訴されていました。
  • 仮眠室にあった同僚の財布から現金を盗んだとして、広島県尾道市消防局は、尾道西消防署の消防士を懲戒免職処分にしています。以前も現金をなくした同僚が紙幣の番号を記録しており、その紙幣が消防士の所持品から見つかったといいます。現金は匿名性が高いことからマネロンに悪用されるリスクが高いとされますが、実は紙幣の番号を記録しておけば紙幣の流通経路を把握することが可能となります。とはいえ、一般的な管理手法とはいえない点が残念です(暴力団が、同様に紙幣の番号を管理して、お金を盗んだものを特定するといった管理をしている事例も聞いたことがあります)
  • 米連邦下院議員のジョージ・サントス氏(共和)が、詐欺やマネロン、虚偽記載などの罪で起訴されています。2022年11月の中間選挙でニューヨーク州から当選したサントス氏は、かねて経歴詐称が問題視され、連邦議員による異例の悪質な事件として、米メディアで報じられています。報道によれば、サントス氏は選挙資金に使うと偽って集めた支持者からの資金を、高級な服やクレジットカードの支払いなど、私的な出費に充て、また、失業手当の不正受給など計13件の罪に問われています。

(2)特殊詐欺を巡る動向

以前の本コラムでも指摘しましたが、特殊詐欺は人間の性分や心理的メカニズムを巧みに操った犯罪でもあることを、あらためて認識する必要があります。警察庁が「特殊詐欺の手口と対策」を公表していますが、そこでは特殊詐欺の被害者の特徴等について、詳しく分析が加えられており、大変参考になります。最近、その脅威にスポットが当たっている「闇バイト」対策、さらには特殊詐欺対策の実効性を高めるためには、相手(犯罪組織)の実態や手口を知ること、それを最新情報にブラッシュアップしていくことが必要不可欠となります。また、本レポートでも指摘しているとおり、被害者の多くを占める高齢者が犯罪者と「接点」を持ってしまうことで、「必然的に」被害にあってしまう恐ろしい犯罪であることも明らかとなっています。さらには、「騙される方も悪い」という論調も、被害者を心理的・経済的に長く苦しめる要因となっています。直近では、前回の本コラム(暴排トピックス2023年4月号)で紹介した犯罪対策閣僚会議の「特殊詐欺事案に関する緊急対策プラン」で、「実行犯を生まない」「実行を容易にするツールを根絶する」「被害に遭わない環境を構築する」「首謀者を含む被疑者を早期に検挙する」の4つの方向性が示されました。こうしたレポートを読み解く限り、私たちは、特殊詐欺による被害を防止するために、まだまだできることはたくさんあるといえます

▼警察庁 特殊詐欺の手口と対策
  • 特殊詐欺に用いられる通信手段
    1. 被害者側が(被疑者側から)受ける電話機
      • 警察庁では、令和4年11月から、特殊詐欺の被害者側の通信手段(被害者への欺罔手段として最初に使われた通信手段の被害者側)の詳細な調査を開始した。
      • その結果、令和4年11月及び12月に認知した特殊詐欺事件において、被害者側の通信手段は、(「メール」、「はがき」、「電話」等の中では「電話」が85.2%で大半を占めているところ、さらに、)被害者側の「電話」の97.2%が、(「携帯電話(スマートフォンを含む。以下同じ。)」ではなく、)「固定電話」(なお、ここで言う「固定電話」には、0ABJ電話だけでなく、050IP電話のうち固定式の電話機を用いているものも含んでいる。)であることが判明した。
      • このように被害者側の「電話」のうちほとんどが「固定電話」であることは、令和4年の特殊詐欺の認知件数(「法人」が被害を受けたものを除く。)の86.6%が高齢者(65歳以上)の被害であることと、ある程度の関係はあると考えられる。しかしながら、高齢者へのスマートフォンの普及率は相当高いとする民間の調査結果等もあり、「高齢者を狙うことが、必然的に、「固定電話」を狙うことに直結する」とは考えられない。
      • そこで、「被疑者側からの電話の履歴が残るか否か」、また、「被疑者側からの電話を着信拒否ができるか否か」という観点から、被害者側の「固定電話」について考える必要がある(以下は0ABJ電話について述べる。)。
      • 被害に遭った「固定電話」を分析した結果は、次のとおり。
        • 被害者側の「固定電話」は、機種によっては、そもそも、「どの電話番号からかけてきたのか」という発信者側の電話番号を表示(ナンバーディスプレイ)し履歴として残す機能がない。(「携帯電話」であれば、通常、この機能はある。)
        • また、一般には、「固定電話」の電話機に当該機能があったとしても、当該機能を利用するためには、別途、そのための有料の契約が必要である。
        • さらに、「固定電話」では、一般には、「番号非通知」の着信を拒否するためには、そのために必要な有料の契約を結んでいなければならない。
        • また、「固定電話」では、一般には、「番号表示圏外」(インターネット通信アプリからかけてきているときなどには、このようにナンバーディスプレイに表示される)の着信を拒否するためには、そのために必要な有料の契約を結んでいることに加え、当該拒否ができる機能のある電話機が必要である。
        • なお、あらかじめ登録しておいた電話番号からの電話以外の着信を拒否するためには、(1)発信者側の電話番号を表示(ナンバーディスプレイ)し履歴として残す機能のある電話機であること、(2)当該機能を利用するための有料の契約を結んでいること、に加え、(3)電話機に「あらかじめ登録しておいた電話番号からの電話以外の着信を拒否する機能」がついていることが必要である。
        • 「固定電話機」の側において、様々な設定等を行わなければならない場合も多い。
      • このようなことから、被害者側が「固定電話」だと、「履歴が残らない」「着信拒否ができない」ことも多い。そのことは、特殊詐欺グループの心理において、「固定電話を狙う」方向に働く事情であると考えられる。
      • 警察は、被害者側の固定電話のナンバーディスプレイ機能及び履歴保存機能等によって「被疑者側の電話番号」が判明したときは、通信事業者に依頼して、当該「被疑者側の電話番号」を使用できなくする措置を講じ、当該電話番号が使用された他の更なる被害の防止を図っている。しかし、「履歴が残らない」のでは、この被害防止策を行うことができない。
      • また、警察では、特殊詐欺の被害を防ぐため、高齢者の方々等に対し、「「番号非通知」、「番号表示圏外」等の電話を着信拒否等することはもとより、あらかじめ登録しておいた電話番号からの電話以外は着信拒否等する」といった対応をお願いしている。
      • しかしながら、そのような機能を実現するための電話機(あるいは電話機に付ける装置)の購入(なお、一部に補助金制度はある。)、月々の契約料といった金銭的な負担、また、そもそもそのような機能を実現するための契約等の事務的な手続や、電話機の設定作業の負担は、高齢者の方々にとって、決して、軽いものではない。このため、機械的・自動的な着信拒否等の取組が進んでいない。
      • この点、本年5月からは、NTT東日本及びNTT西日本が、70歳以上の高齢者及びその同居の家族の名義の電話について、上記の有料の契約を無料化する取組を行うこととしている。これを契機に、固定電話の側での着信履歴の保存、また、「番号非通知」の着信拒否により、特殊詐欺対策が進むことが期待される。
    2. 被疑者側が(被害者側に対して)かける電話機等
      1. 被疑者側の電話番号が判明しない場合が多い
        • 上記1のとおり、そもそも被害者側の固定電話には、ナンバーディスプレイ機能等がついていない(電話機には機能がついていてもナンバーディスプレイ契約をしていない場合を含む。)ことが多い。
        • また、特殊詐欺グループは、「番号非通知」や「番号表示圏外」等と被害者側の固定電話のナンバーディスプレイに表示されるような方法で、電話をかけてくることも多い。この場合、被害者側の電話機にナンバーディスプレイ機能等があったとしても、「被疑者側の電話番号」は、判明しない。
        • そのため、警視庁が令和4年4月から12月までの間に警視庁管内にかかってきた特殊詐欺の電話(既遂にならないいわゆる「アポ電」を含む。)について調査したところ、被害者側の固定電話のナンバーディスプレイ機能等によって「被疑者側の電話番号」が判明したものは、当該電話全体の約4分の1にすぎなかった。
        • 裏を返せば、特殊詐欺の電話の約4分の3は、「被疑者側の電話番号」が判明していないために、「「被疑者側の電話番号」を使用できなくする措置」をとることができていない。
        • 「「被疑者側の電話番号」を使用できなくする措置」を徹底するためには、まず、大前提として、(少なくとも、番号通知でかけてくる場合には確実に被疑者側の電話番号を把握できるように、)「被疑者側の電話番号」を判明させることができるようにしていく必要があると考えられる。
        • そのための方法としては、被害者側の固定電話のナンバーディスプレイ機能による方法はもとより、通信事業者側のコンピュータ・サーバー等において、必要な履歴の保存等ができるようにならないか、今後、検討していく必要があると考えられる
      2. 被疑者側の電話番号が判明する場合
        • それでは、上記(1)で全体の約4分の1程度ある「「被疑者側の電話番号」が判明したもの」とは、どのようなものであろうか。
        • これは、被疑者の側が「被害者側の固定電話のナンバーディスプレイに「(被疑者側の)電話番号」を表示させることに、「(被疑者にとっての)メリット」がある」と判断して、そのような手口を選択しているということであろうと考えられる。
        • 典型的には、「03-○○○○-○○○○」といった電話番号を被害者側の固定電話のナンバーディスプレイに表示させるといった手口が挙げられる。
        • この場合、被害者の方々は、「この電話は、東京都内の「固定電話」からかかってきた電話だろう。」と誤認して、ある種の「信頼」をしてしまいがちである。しかし、実際には、被疑者は、「東京都内の「固定電話」」を使用しているわけではない。電話転送サービスを利用(悪用)して、被害者側の電話機のナンバーディスプレイに「03-○○○○-○○○○」が表示されるようにしているのである。
        • 電話転送サービス事業者は、犯罪による収益の移転防止に関する法律(平成19年法律第22号)の「特定事業者」とされており、同法に基づき、電話転送サービスを利用する顧客の氏名、住居及び生年月日等の「本人特定事項」等を「本人確認書類」等により確認しなければならないこととされている。
        • この「本人確認書類」の確認方法には、当該本人確認書類の外見を肉眼で目視して確認する方法と、当該本人確認書類(の一部)に内蔵されているICチップのデータを使用して確認する方法とがある。
        • この点、近年、本人確認書類の外見の偽造の精巧化が著しく進んでおり、外見を肉眼で目視して確認する方法では、偽造を見破ることが困難となってきている。このような外見の偽造の精巧化に対処していくためには、マイナンバーカードの内蔵ICチップのデータを使用して確認する方法等、ICチップのデータを使用して確認する方法への原則一本化(犯罪収益移転防止法施行規則の改正)も検討していく必要があると考えられる。
    3. 被疑者側が(被害者側から)受ける電話機
      • 上記1及び2は、被疑者側の電話機等から被害者側の電話機に電話をかける場合について述べた。一方、特殊詐欺には、被疑者側が「受ける」電話機等の電話番号が判明している手口もある。
      • 例えば、被疑者から被害者側への欺罔手段として最初に使われる通信手段が「メール」、「はがき」等であり、当該「メール」、「はがき」等に、「未払い料金があります。この電話番号に電話をしてください。」などとして被疑者側の電話番号を記載してある手口がある。また、突然、パソコン画面等に「あなたのパソコンはウイルスに感染しました。ウイルスの除去等のサポートを受けるためには、この電話番号に電話をしてください。」との表示をさせる手口もある。
      • あるいは、「還付金詐欺」では、「還付金があります。これから、携帯電話を持って、ATMに行ってください。ATMに着いたら、その携帯電話で、これから言う電話番号に電話をしてください。その電話で、係の者が、お客様が還付金を受け取るためのATMのタッチパネルの操作の仕方を、順を追ってお伝えします。」などとして、被疑者側の電話番号を教える手口がある。
      • このような手口においては、当該「この電話番号に電話をしてください」などと伝えられる被疑者側の電話番号として、050IP電話の電話番号が用いられていることも多い。
      • しかしながら、我が国においては、(「携帯電話」を契約する場合とは異なり、)050IP電話を契約する際に、通信事業者には、顧客の氏名、住居及び生年月日等の「本人特定事項」等を「本人確認書類」等により確認することは、義務付けられていない。そのため、当該電話番号から被疑者を割り出そうとする捜査は、困難なものとなっている。
      • 本人確認の義務付け等、制度改正を含めた検討が必要であると考えられる。
    4. 被疑者と被疑者(共犯者)の間の通信等
      • 例えば、特殊詐欺グループの「首謀者」等が、末端の「受け子」や「出し子」等を募集するときに、例えば「従来からの知人」に声をかけて募集したとするならば、当該「受け子」や「出し子」等は「首謀者」等のことを知っているのだから、当該「受け子」や「出し子」等が検挙されたときに「首謀者」等について警察に供述する(「首謀者」等にとっての)リスクがある。
      • そのため、最近では、SNSで「闇バイト」等と称して(なお、この自称自体が、犯罪の実行行為者の募集であるという実態を覆い隠し、深刻さを応募者に感じさせないような効果を狙った不当なものである。)「受け子」や「出し子」等を募集する例が目立っている
      • SNSの運営主体等は、SNSにおける記述そのものに違法情報や有害情報が含まれている場合には、当該記述を削除する取組を進めている。さらに、隠語、婉曲な表現、殊更に「違法行為ではありません」と注記する等の対抗策がされていたとしても、記述全体の文脈・趣旨から判断する取組も進められている。
      • ところで、特殊詐欺グループの「首謀者」等は、データSIM、Wi-Fiなどを用いてインターネットにアクセスする。その際に選ぶデータSIM、Wi-Fiなどは、顧客の氏名、住居及び生年月日等の「本人特定事項」等を「本人確認書類」等により確認することが義務付けられていない(、かつ、通信事業者による自主的な本人確認も行われていない)ものである。
      • その上で、これと同様に本人確認を経ずに取得できる、メールアドレス、データSIM(SMS機能のついたもの)の電話番号等を「連絡先」として、SNSのアカウントを取得する。
      • 要するに、「首謀者」等は、本人確認を経ずに、SNSのアカウントを取得している。「闇バイト募集」等と称するSNSは、「誰が、募集しているのか」という基本的なことさえ不明なのが実態である。
      • そして、「首謀者」等は、末端の「受け子」や「出し子」等には、「自分(首謀者等)が誰なのか」を教えないことも多い。
      • 被疑者と被疑者(共犯者)との間の犯行の指示、連絡等の通信では、テレグラム、シグナル等、秘匿性の高い通信のできるアプリケーションが用いられることが多い。
      • 上記のような手口を防ぐために、データSIM(SMS機能のついたもの)の契約をはじめ、関係する契約について、本人確認の義務付け等、制度改正を含めた検討が必要であると考えられる。
  • 特殊詐欺に係る口座の出金、送金等
    • 特殊詐欺の被害に遭った場合の被害口座の出金、送金等の動きは、特殊詐欺の被害口座に特有の、特徴的なものとなることが多い。
    • 例えば、現在、キャッシュカードを用いてATMから出金するについては、「1日の出金の上限額」が定められていることが多い。そこで、一例を挙げれば、被害者から詐取・窃取したキャッシュカードを所持している「出し子」は、(被害者が被害に気付いて口座を「止め」ることをしなければ、)被害者の口座が残金(およそ)ゼロになるまで、連日、「1日の出金の上限額」の出金をATMで繰り返すのである。
    • 同様の口座の動きとなるものとしては、言葉巧みに被害者をだまして、被害者自身をATMに行かせて、連日、「1日の出金の上限額」の出金を被害者に繰り返させる手口もある。(この手口の場合、その現金を、宅配便で(被疑者が指定した住所(空き家等)に)送付させたり、被害者の自宅等まで「受け子」が行って受け取るなどする。)
    • あるいは、例えば「還付金詐欺」では、被害者は、だまされて、「自分の口座に還付金を送金してもらうためのATMのタッチパネルの操作の仕方」だとばかり思い込んで、実際には、「自分の口座から、犯人側が用意した口座に送金をするためのタッチパネル操作」をしてしまう。その場合、一例を挙げれば、これまで自分の口座から他の口座への送金などしたことのない高齢者の口座から、突然、他の口座への送金が行われることになる
    • このように特殊詐欺の被害が疑われる口座の動きを、金融機関のシステムで検知するなどして、当該出金、送金等を当該システム等で阻止する取組が行われている。
    • このような阻止の取組の具体的な中身の詳細は、それぞれの個別の金融機関ごとに異なっている。そして、この点、一般には、特殊詐欺の被害を防ぐことに重きを置いて幅広く阻止をすると、特殊詐欺の被害ではない出金、送金等までも阻止されることになって利便性を損ない、逆に、出金、送金等の利便性を損なわないことに重きを置いて阻止の範囲を狭くすると、特殊詐欺の被害を防ぐことができないという、トレードオフの関係となる。(なお、ATMにおいて出金、送金等が一時的に阻止された(出金、送金等がATMではできない)としても、もちろん、金融機関の職員のいる有人窓口等において、「特殊詐欺の被害に係る出金、送金等ではない」という一応の確認がされれば、出金、送金等はできる。ただし、被疑者から「銀行の窓口では、(出金、送金等の理由を)こう説明してください。」などと言われて、被害者が窓口で当該(一見すると特殊詐欺の被害ではないように聞こえる)説明をする場合等もあり、確認には、時間を要することもある。)
    • しかしながら、システムでの阻止条件を多項目化・精緻化していくことなどによって、特殊詐欺の被害に係る出金、送金等だけをより的確に過不足なく抽出して阻止しようとする取組も、個別の金融機関によって行われている。
    • また、やむなく利便性が損なわれることもあることについては、個別の顧客や社会全体の理解を得られるようにするための取組を、警察も含めて、より一層、しっかりと行っていく必要があると考えられる。
  • 特殊詐欺の被害者
    • 特殊詐欺の被害者の方々について、「だまされる方も、注意が足りない(のが悪い)のではないか。」と思っている向きが、もし仮に、社会の中にあるのだとすると、それは、全く、被害の実態とは異なり、誤りである。
    • 特殊詐欺グループは、積み重ねてきた「失敗」や「成功」を踏まえて絶えず修正を加えて極めて狡猾・巧妙にしたマニュアル(話す内容、話し方等)に依っている。驚かせる、急がせる、不安にさせる、肉親の心配をさせるなど、判断を誤らせるための心理的な仕掛けがある。しかも、個々の「(詐欺電話の)かけ子」たちも、毎日のように長時間繰り返す電話での多くの「失敗」や「成功」により、悪事の「練度」を上げている。
    • これに対し、特殊詐欺の被害者は、「本当の特殊詐欺の電話に対峙するのは初めて」という方々がほとんどである。「練度」に圧倒的な差がある。さらに、事例によっては、高齢者の方々の認知機能の衰えが、「だまされないようにする力」の衰えにつながっている可能性もある。
    • したがって、被害者の方々は、たとえ特殊詐欺について「知識」があっても、「自分は大丈夫」と自信があっても、十分に注意をしていても、「電話に出て」しまえば、必然的に、だまされることになってしまう。これを「だまされる方も、注意が足りない(のが悪い)のではないか。」と被害者の「落ち度」であるかのように考えることは、到底できない。
    • 例えば、上記第1の1でも述べたように、機械的・自動的な仕組みによって、高齢者の方々がそもそも詐欺電話を受けずに済むように遮断しておくことを、まず第一に進めるべきであると考えられる。
    • 特殊詐欺の被害者の方々には、口座から残高の全額を出金されて生活に困窮したり、自責の念や家族への申し訳なさなどから自殺をしたり自殺を考えたりする例もある。特殊詐欺の被害者の方々は、悲惨な状況に置かれている。
  • 認知件数、被害金額等
    • 令和4年中の特殊詐欺の認知件数は1万7,520件、被害額は361.4億円と、いずれも前年より増加した。被害額の増加は8年ぶりであり、高齢者を中心に多額の被害が生じており、深刻な情勢が続いている。認知件数を犯行手口別にみると、令和3年に急増した還付金詐欺が4,679件と最も多く、全体の約3割を占めている一方、オレオレ詐欺や架空料金請求詐欺が全体に占める割合に増加がみられる。
  • 暴力団をはじめとする犯罪組織等による特殊詐欺事犯の特徴
    • 令和4年中の特殊詐欺の検挙人員2,469人のうち、暴力団構成員等の人数は380人であり、その割合(15.4%)は、刑法犯・特別法犯総検挙人員に占める暴力団構成員等の割合(4.4%)と比較して高い割合となっている。また、主な役割別検挙人員に占める暴力団構成員等の割合をみると、中枢(犯行グループの中枢にいる主犯被疑者(グループリーダー及び首謀者等)をいう)被疑者では33.3%、「受け子」等の指示役では34.3%、リクルーターでは46.2%と、暴力団が主導的な立場で特殊詐欺に深く関与している実態がうかがわれる。また、特殊詐欺によって蓄えた資金を違法な風俗営業等の事業に充てるなど、犯罪収益等を様々なところで還流させているとみられる事案も明らかとなっている。

上記レポートでも指摘されているとおり、特殊詐欺の被害者はその後長く苦しめられている実態があります。2023年5月13日付産経新聞の記事「「今でも自分を責める」…偽りの恋に落ちた女性が告白 国際ロマンス詐欺の手口と後遺症」では、そのあたりの実態が詳しく書かれています。以下、抜粋して引用します。

外国人を装い、恋愛感情を抱かせて金をだまし取る「国際ロマンス詐欺」。大阪府警はガーナを拠点とする詐欺グループのメンバー17人を詐欺容疑などで逮捕、書類送検し、今年3月、リーダーでガーナ国籍のナナ・コフィ・ボアテイン容疑者(33)を国際手配した。グループは日本国内の男女69人から総額約4億9千万円を詐取したとみられる。被害者の1人が産経新聞の取材に応じ「今でも自分を責め続けている」と悲痛な思いを語った。…ジェフから熱烈なアプローチがあり、女性も好意を抱くように。しかし1カ月がたったころ、宝石を送る保険料名目などで金を要求されるようになった。女性が男性のインターネットバンキングの口座にアクセスできないと伝えると、「何しているんだ」と激高。「お前のせいだ」「いいから払え」と午前2時や3時にも取り立ての電話がかかってくるようになり、冷静な判断を失った。被害に気がついたのは約2カ月後。銀行に送金の相談をした際に、「詐欺ではないか」と言われたことがきっかけだった。総額で約500万円をだまし取られていた。…被害者の中には大量のメッセージをやり取りし、約1億円をだまし取られた人もいるという。…当時は子供が巣立ち、1人暮らしだったという女性。事件後は家族に対する罪悪感にさいなまれたほか、人間不信にも陥った。「まさか自分が詐欺に遭っているとは思わず、早くこの生活を終わらせたい一心でお金を払ってしまった。私は1人で抱え込んでしまったが、勇気を出して周りに相談すればよかった」と話した。…国民生活センターによると、外国人を名乗る相手から投資名目で現金をだまし取られる「国際ロマンス投資詐欺」の相談は、平成30年度は2件だったが、コロナ禍を背景に令和3年度には192件と急増した。被害が増加する中、アプリの運営企業も被害を未然に防ぐため入会時の本人確認や不正を監視する機能を強化。4年度の相談件数は86件と若干減ったものの、依然として被害はなくならない。…金銭を要求する理由はさまざまで、出張先での銀行口座の凍結や身内のけがなどが突然起こり、生活に苦しむ外国人を演出。恋愛感情を抱いている被害者は「自分が助けるために何とかしなければ」という「マインドコントロール」のような状況に陥ってしまい、大金を支払ってしまう。新川さんによると、詐欺師たちは被害者を助けるふりをして別の詐欺を企てることも多いといい、「大前提として見知らぬ外国人と連絡を取らないことが大切だが、やり取りの中で金銭を要求されたら、相手を深追いせずに、周囲や警察にすぐに相談してほしい」と呼びかけている。

また、上記レポートでも指摘されていますが、警察庁は特殊詐欺対策として、匿名で利用できる通信手段を規制する方針で、データ通信のみ可能な「データSIM」などにも本人確認を義務付ける法整備を検討すると明らかにしています。「闇バイト」で実行役を集める特殊詐欺は一部で強盗への凶悪化もみられ、治安の新たな脅威となる恐れがあるほか、海外へ拠点を移す動きが目立っており、被害抑止には国内の規制だけでなく各国との連携強化も求められるところです。本人確認の義務付けを検討する通信手段の一つのデータSIMは、スマホなどに入れて使うもので、通話はできないもののインターネットが利用でき、SMS機能を付けてSNSのアカウントを取得できるタイプもあります。データSIMは携帯電話不正利用防止法の対象外で契約時の本人確認は必要なく、取得したアカウントを使い、SNS上で特殊詐欺の闇バイトを募る犯罪グループが確認されているほか、匿名性が高い通信アプリ「テレグラム」の利用登録にも使われています。もう一つは「050」から始まりネット回線を使って通話するIP電話で、データSIMと同様に本人確認が義務付けられておらず、詐欺の電話に悪用されることが多く、2022年に特殊詐欺で使われ、全国の警察が番号を把握できた約2万の電話番号のうち36.7%がIP電話だったとされます。固定電話も42.4%に上ったが、警察庁は大半がネット通信アプリなどを使った「電話転送サービス」による電話とみています。つまり、IP電話・通話アプリ・データSIMは、利用者の本人確認が法で義務づけられておらず、さまざまな犯罪インフラのベースとなってしまっている実態があり、(免許証など目視で確認するとしても偽造を見抜くことは困難であることも考えれば、マイナンバーカードに内蔵されているICチップデータの活用を含む)本人確認の義務化が急務だといえます。一方、国内の規制は海外には及ばず、グローバル化する犯罪組織への対応が引き続き課題となります。フィリピンのグループに続き、カンボジアを拠点とする詐欺グループの存在も発覚するなど、取り締まりや規制を逃れる動きが活発化していると考えられます。通信ツールのルールは各国で異なり、フィリピンでは2022年12月までSIMカード購入時に個人情報を登録する必要がありませんでした(現在、登録の義務化がなされています)。さらに、通信会社の業界団体GSMAによると、プリペイド式SIMカードに個人情報の登録義務がない国もあります。摘発には各国当局との連携がカギになるところ、双方の司法当局が外交ルートを介さずやりとりする刑事共助条約(協定)を締結済みなのは米国やEUなど7カ国・地域にとどまっており、迅速に捜査を展開するためには連携の枠組みをさらに広げる必要もあります

関連して、カンボジア南部シアヌークビル州のリゾートホテルで日本の特殊詐欺グループが摘発された事件で、詐欺容疑で逮捕された男らがインターネット回線を用いる「IP電話」を使い、「03」や「06」の市外局番で始まる電話番号で被害者とやりとりしていたことが判明しています。「NTTドコモ」や「日本データ協会」などを名乗るなど、日本の大手企業などを装い、被害者を信じ込ませたとみられています。拠点ホテルから押収されたスマートフォン約60台を警視庁が解析したところ、一部にIP電話用のアプリがインストールされており、被害者との通話に用いられた番号もあったとのことです。また、客室からは、スマホのほか、パソコン6台と、ノートやメモなど約50点も押収され、ノートやメモに記載されていた被害者の氏名などから、警視庁は男らが2022年4月以降、カンボジア国内の複数のホテルなどを拠点に約75件の詐欺に関与したとみています。また、こうした海外に拠点を置く手法については、国内では警察の摘発強化により、拠点とする「架け場」が設営しにくくなっていることが一因とされます。国内の摘発場所の推移では、初期の賃貸オフィス、ホテルから、最近では賃貸アパートの一室や車両などの小規模化が目立ちます。さらに東南アジアでは日本と時差が小さく、携帯電話の購入時に個人情報の提示、登録が不要な国が多いなど、犯行に適した条件がそろっていると言われています。なお、カンボジアの事件で特異なことは、摘発の端緒が「かけ子」とみられる男からの通報によるものだったという点です。男は在カンボジア日本大使館に「ホテルで特殊詐欺をやらされていて外に出られない。助けてほしい」と保護を訴えたといい、よほど劣悪な環境や厳しいノルマ、監視などに苦しんでいたものと推測されます。被害者に電話をかけ続ける「かけ子」や、金品を受け取る「受け子」といった特殊詐欺グループの末端の多くは、闇サイトで高収入などの甘言に誘われて応募する者がほとんどで、一度悪事に加担すれば、それが脅迫の材料となり、個人情報も把握され、グループから抜け出せなくなるほか、強盗殺人まで強いられる可能性さえあります。2022年の特殊詐欺事件の総検挙者2469人のうち、首謀者の検挙はわずか1・9%に過ぎず、末端は切り捨てられている実態があり、犯行に関わって何一つ、いいことはないと断言できます。

一方、騙される側の「騙されない」対策の浸透も急務です。以前の本コラムでも取り上げましたが、警察庁が2018年にオレオレ詐欺の被害者らに行った調査で明らかになったのは、情報を持たない「高齢者像」ではなく、実際の被害者の96.9%がオレオレ詐欺の手口を知っていたと回答した事実です。手口を知っているのに騙されてしまうメカニズムについては、警察庁の調査によると、被害者が相手を信じてしまったタイミングは、「息子(親族)のトラブルを聞く前」が最も多く、7割を占め、その理由で最も多かったのが「息子の声にそっくりだったから」というものであることから、高齢者は聴力や注意力の低下により、電話のようなノイズのある音声から相手を正確に判断することが難しいことが関係しているものと考えられます。当然、犯人側は、声が異なることをごまかすため、「風邪をひいた」と最初に言うこともあるといいます。さらに、例えば、オレオレ詐欺でよくある「今日中に払って」などと相手に相談のすきを与えないタイムプレッシャーをかける方法も、高齢者の特性として、「目先の利得」に基づいて意思決定を行いやすい点が突かれており、「お金を払えば家族が救われて、自分も強い緊張状態から解放されるならと、冷静さを欠いた意思決定を行ってしまう傾向があるといいます。さらに、貯金額や家族構成など個人情報を抜き取ろうとする「アポ電」などでは、警察などを名乗る犯人側の丁寧な話し方が特徴で、心理学で「返報性」と言い、「丁寧な話しぶりをされると、自分も丁寧に対応しなければと思い、そのようにふるまってしまう傾向があることから、相手の要望に応えようと動いてしまうといいます。こうした心理学的な技法を利用した巧妙な手口により、詐欺かもしれないと考える余裕がない状態に陥ることになる(=必然的に騙されることになる)ことから、電話を受けてから見破るのは極めて難しいと考えるべきです。したがって、今できる最も有効な策としては、「犯人と直接話さない」ために、知らない番号からの電話にはでないこと、在宅中も留守番電話機能にしておくこと、迷惑電話防止機能を活用することなどになります。そして、手口は常に更新されて巧妙になっており、特殊詐欺では、人をだますことに関して、非常に精緻に作り込まれており、犯人たちは常に仕事として研鑽しているという実態をふまえれば、「犯人の方が、よく考え、対策している」と考え、安易に見破れると思わないほうがいいと考えるべきということになります。

こうした状況に対し、固定電話の防犯機能が進化しています。パナソニックが2022年に実施したインターネット調査によると、「離れて暮らす親や祖父母に不審な電話がかかってきた経験があるか」という質問に41.9%の人が「ある」と答えた一方で、「ある」と答えた人に対策をとったか尋ねると41.3%が「対策をとっていない」と答えたといいます。同社の電話機は、呼び出し音が鳴る前に「通話が迷惑電話防止のため録音される」という警告を通話先に流すほか、警告を受けても通話が続いた場合、着信とともに「迷惑電話にご注意ください」という注意喚起のアナウンスが流れる、さらに通話中は通話内容を自動で録音する、女性の声を男性の声に変えるボイスチェンジャー機能もついているといいます。さらに2020年に販売した機種からはボタンを押すだけで、録音した不審電話の内容を通話中の第三者に聞かせることができる「迷惑電話相談」機能を搭載しています(福岡県警へのヒアリングで「不審電話の内容が確認できると便利だ」との意見があり、実現したといいます)。また、シャープは防犯電話機も警視庁と大阪府警の助言を受けて様々な機能がついており、「着信前の警告」、「通話録音」といった機能のほかに、警告で切らなかった場合、相手の名前を確認するメッセージが流れ、電話に出る前に相手の名前が確認できる、また、出てしまった後、切りたいと思ったら「迷惑ストップボタン」を押すと、「この電話はお受けすることができません」というアナウンスが流れて電話が切れる、さらに、かかってきた電話が着信拒否リストに登録され、同じ番号からは電話がかけられなくなるなどです。前述した警察庁のレポートでも指摘がありましたが、こうした機能が被害に遭いやすい高齢者こそ、経済的にも手間的にも導入がしやすい環境をつくることが、特殊詐欺被害を防止していくために急務だといえます。また、特殊詐欺の被害防止に向けた様々な取り組みを、警視庁が進めていることも注目されます。同庁は4月を「詐欺被害防止月間」と位置づけ、その取り組みは警察署ごとに工夫されています。報道によれば、蒲田署では、詐欺電話に関する通報を覚知したら、即座に地域の金融機関に情報を共有するシステムを全国で初めて導入しています。NTT東日本が提供し、AIによる音声読み上げや録音した肉声を、指定の電話に一斉伝達することができるといいます。本来は災害時の安否確認などに使われていたサービスを、蒲田署は特殊詐欺の被害防止に応用、詐欺電話は同じエリアに連続してかかってくる傾向があり、ある住民が犯罪と気付いて通報しても、ほかの近隣住民がだまされるおそれがあり、詐欺電話から実際にお金をだまし取られるまで、数時間しかかからないというケースも多いといいます。このシステムを使えば、1本の通報をきっかけに、地域の金融機関に一斉に警戒を呼びかけることができ、連絡を受けた金融機関側は引き出しが多額に上るなど、不審な客がいれば積極的に声をかけ、被害を防ぐことが期待されています。また、城東署は、特殊詐欺グループの「受け子」らが移動手段にタクシーを使うケースが多いとして、管内に営業所を置くタクシー事業者3社に、不審者に関する通報の協力を求めています。2022年中に城東署が逮捕した受け子や出し子」の計約10人全員が、被害者宅の訪問やATMまでの移動にタクシーを使っていたことが判明、車内での様子などを調べると、「電話や地図アプリの確認など執拗に携帯電話を操作する」「目的地に到着後は待機させ、再度乗車する」「コンビニや無人ATMをはしごする」などの共通する特徴が見えてきたといいます。鎌田署や城東署のような取り組みが成果を上げて、全国に拡がることを期待したいと思います。

さて、以前の本コラムでも「闇バイト」について集中的に取り上げました。直近では、「闇バイト」で集められた若者が、銀座で、衆人環視の中、白昼、堂々と高級腕時計を大量に盗もうとする犯罪が話題となりました。本事件についても学ぶべきこと、考えさせられることはたくさんあり、その報道をいくつか紹介したいと思います。

銀座仮面強盗 犯罪に幸福な結末はない(2023年5月13日付産経新聞)

日の入り前のまだ明るい銀座の表通り。ガラス張りの高級時計店内で店員を脅し、ショーケースを破壊し、盗品を次々バッグに入れる黒装束、白い仮面の男たち。現実離れした光景に、通行人らが映画かドラマの撮影と勘違いしたのも無理はない。強盗グループの店内滞在は約2分間、指示役とみられる男が「あと30秒いける。大丈夫」などと声をかけたことも分かっている。路上で待機していた車に乗り込んで逃走したところまでは、用意周到な犯行とみえた。だが、彼らにとって順調だったのはここまでだ。逃走車はパトカーに追われてやみくもに逃げ、赤坂の袋小路で建物にぶつけて乗り捨てた。近くのマンションに逃げ込んだ4人は逮捕され、2億5千万円相当の高級腕時計70点以上はほぼ回収されたとみられる。場当たり的で、お粗末な幕切れは、犯罪にいいことなどないことを改めて確認させてくれる。逮捕された4人は高校生を含む横浜市の16~19歳で、指示役が含まれているかは分からない。互いに面識はないと供述しているとされ、SNSなどで実行役を募る「闇バイト」に応募した可能性がある。高額報酬などの甘い言葉に誘われて特殊詐欺や強盗の犯行に加わる若者の事例が後を絶たない。…摘発を免れたとしても、一度犯行に加担すれば首謀者や指示役に個人情報を丸裸にされ、自身や家族への脅迫で次の犯罪へと強引に引き込まれる。エスカレートする犯罪からの足抜けは難しい。いっそ、逮捕されていた方がよかったと後悔することになる。全国で相次いだ広域強盗や特殊詐欺事件から読み取るべき教訓である。一連の事件の指示役とみられる「ルフィ」グループの摘発を経ても新たな犯罪が止まらないことは、別の首謀者や指示役が活発な活動を続け、若者を中心に「闇バイト」を集めている実態を示している。犯罪に、ハッピーエンドはあり得ない。甘い誘いに、決して乗ってはならない

「平和ボケ」の声も 銀座強盗事件、犯行動画が話題 専門家「遭遇したらまず安全確保を」(2023年5月9日付産経新聞)
東京・銀座の高級腕時計専門店で8日夕、覆面をした男らが押し入った強盗事件は、犯行の様子が撮影された動画がSNSに投稿されて拡散し、大きな注目を集めた。動画には、男らの一連の行動のほか、店の前を平然と素通りする通行人や店のドアを押さえて男らを閉じ込めようとする通行人の様子も映っており、SNSでは「平和ボケ」などと指摘する声もあった。犯行から約1時間後に男らは確保され、専門家は投稿動画が早期逮捕につながった可能性を指摘する一方、事件に居合わせた場合は、現場から離れて安全を確保するよう呼び掛けている。…元大阪府警刑事で、筑波学院大学客員教授の中島正純さんは、男らによる高級時計の強奪について、「迷わず手際よく強奪する、警察用語でいう『ヒットエンドラン』で、下見やシミュレーションを事前にしているのではないか」と推察。逃走については、計画性がなく、雑」だとし、SNSなどを通じて集められ、指示役に従って犯行を行う「闇バイト」の可能性が高いとみている。通行人が行き交うなか、堂々と強盗が行われたことについて、「夜はシャッターを破る手間がかかり、日中にやった方が手っ取り早い」と指摘。効率性の面から、日中の開店時に高級な商品をまとめて狙う強盗は今後も警戒が必要だとしている。通行人が犯人を閉じ込めようとした行為や動画の撮影については、「犯人に凶器で刺されたり、バールで殴られたりする可能性もあり、拳銃を持っていた場合は周辺の人も被害に遭う可能性もある」と指摘。事件に遭遇した場合は、距離を取って安全を確保をした上で110番通報して警察に対応を任せることが重要だとし、「常に危機意識を持ち、身を守ることを考えてほしい」と訴えた。

なお、関連して高級腕時計が狙われた背景として、市場で人気のロレックスが品薄のため入手困難となっており、中古品の価格が定価を上回る異常な価格高騰が起きていることがあげられます。報道によれば、直営店で新品のロレックスを運良く定価で買えたら、即転売すれば倍の値段で売れるほどの人気ぶりだといいます。圧倒的なブランド力のあるロレックスを、金や株などと同じような金融資産とみなして取得しようとする人が世界的に増えたことが、価格高騰の一因で、元来の時計好きに交じり、最近では転売益を狙って購入する人も出てきています。さらに、新型コロナウイルス禍のさなかにロレックスが工場を閉鎖したり休止したりしたことで、新品在庫の流通量が減少したことも、価格高騰に拍車をかけたといいます。ただ、仮に転売しようとしても、(前述のとおりシリアルナンバーで管理・監視されていることから)国内の取扱業者の一部では既に今回の事件の「盗品リスト」が出回っており、警戒を呼び掛けているといいます。ある中古品買取会社では、本社にファクスで届いた情報はすみやかに国内の店舗で共有しており、事件後、情報を早く提供していただければ盗品だと対応できる態勢を取っているほか、過去に盗品の取引に携わった人物の情報提供も受けており、買い取りの際の身元確認で合致した場合、買い取りを拒否することもあるといい、簡単には転売できない仕組みが機能しているようです。一方で、犯罪組織による組織的な犯行の場合、不正ルートを確保したうえで行われていると考えられます。

最近の「闇バイト」を巡る報道から、いくつか紹介します。

  • 中国人グループが決済アプリ「メルペイ」のアカウントを悪用してたばこを詐取した事件で、横浜地裁の裁判官は11日、「買い子」として詐欺罪に問われた当時19歳でアニメ専門学校に通っていた中国国籍の男(20)に懲役3年執行猶予5年(求刑懲役3年)の判決を言い渡しています。アニメのドラゴンボールに憧れて来日したが、コロナ禍でアルバイトが見つからず、1日1万~2万円の「闇バイト」に手を出したといい、判決によると、被告の男は中国人らと共謀し、東京などのコンビニ12店から約60万円分の加熱式たばこを詐取、裁判官は「組織的で動機にくむべき点はないが反省している」と述べています。報道によれば、中国人が使うインターネット掲示板に「仕事を探している」と書き込むと、たばこ購入の仕事を紹介されたと説明。指示役らに途中で「やめたい」と申し出たが、「次の人が見つかるまで」と説得されたという。「悪いことをしてしまった。別の仕事を探せばよかった」と振り返っているといいます。
  • 犯罪の実行役をインターネットで募る「闇バイト」が関わったとみられる福島県南相馬市の住宅強盗事件で、県警は、強盗傷害などの疑いで東京都多摩市のとび職の容疑者(27)を逮捕しています。逮捕は7人目となります。報道によれば、容疑者は現場にはおらず、実行役に指示を出していた可能性があるとされます。事件では他に6人が逮捕され、実行役とみられる3人は強盗傷害などの罪で起訴されています。
  • 高齢者宅を訪問してキャッシュカードを盗んだとして、大阪府警吹田署は、東京都町田市、自称ジム経営の男(23)を窃盗容疑で逮捕しています。「ツイッターで闇バイトに応募した」と容疑を認めているといいます。報道によれば、男は仲間と共謀し、吹田市の高齢女性宅に「カードが不正に使われている」と電話、その後、女性宅を訪れ、カード2枚と通帳を偽物とすり替えるなどして盗んだ疑いがもたれています。別の高齢者宅にも同様の電話があり、JR吹田駅で警戒していた署員が、スマホを見ながら歩き回る男の姿を不審に思って追跡、銀行で100万円を引き出したため職務質問すると容疑を認めたといいます。
  • 警察官を装ってキャッシュカードを盗み取ったとして、警視庁は、職業不詳の女(20)を窃盗容疑で逮捕しています。女はSNSを通じて詐欺グループに関わり、実家の表札を映した動画などをグループ側に送らされて抜け出せなくなっていたといいます。報道によれば、女はSNSで「お金を下ろすだけの簡単な仕事」とうたう求人を見つけて応募、詐欺グループから指示されるままに自分の運転免許証と一緒に自身を写した写真のほか、実家に入る様子を表札も含めて撮影した動画を送信していたといいます。女は容疑を認め、「クレジットカードの支払いがたまっていてお金が無かった」などと説明、グループとのやりとりの中で詐欺への関与を疑ったが「実家に何かされるかもしれないと思い、断り切れなかった」と話しているということです。
  • 探偵事務所の求人を装った不審なチラシが東京都内の住宅に届いていたようです。警視庁は、特殊詐欺グループが実行役を募るために作成した「闇バイト」の勧誘とみて警戒しているといいます。チラシはA4判で、世田谷区に住む女性宅のポストに投函されたものには、「探偵事務スタッフ大募集」「日給2万円」などの誘い文句が書かれていたといい、女性がチラシの連絡先に電話したところ、男に「通信アプリで名前や住所などの個人情報を送って」と指示されたといいます。その後、「重要な書類を取りに行ってほしい」とのメッセージが届いたため、女性は詐欺を疑って警視庁に通報したものです。問い合わせ先として載っていた会社は実在せず、警視庁は、詐欺グループが現金などの受け取り役「受け子」らを集めるために作ったとみています。警視庁幹部は「同様のチラシが広範囲にまかれている可能性もある。絶対に応募しないでほしい」と呼びかけています。
  • 関東など各地で相次いだ「闇バイト」に絡む強盗事件で、宅配業者を装って住宅に押し入る手口が相次いだことを受け、警察庁と宅配大手「佐川急便」「日本郵便」「ヤマト運輸」の3社が、荷物を玄関前に置く「置き配」の推進について覚書を締結しています。置き配は、対面を避けられることからコロナ禍で利用が広がりましたが、在宅時は玄関を開けて荷物を受け取る住民が依然として多いとみられています。一連の強盗では、東京都中野区の住宅で現金約3000万円が奪われた事件など複数のケースで、強盗グループが作業着姿で段ボールを持つなどして宅配業者を装い、住人に玄関を開けさせていました。こうした実態を受け、警察庁と3社は2023年1月に協議を開始、顧客が望む場合は在宅時でも原則として置き配で対応することで合意したものです。不用意に玄関を開けないよう、防犯意識を高める狙いがあり、警察庁も、置き配の効果を住民に周知するよう都道府県警に指示しています。3社はこのほか、配達時の身分証提示などの対策にも取り組んでいるということです。なお、関連して、愛知県警南署は、名古屋市南区の住宅の駐車場からゲーム機などを盗んだとして、同市昭和区の配送業の容疑者を逮捕しています。この家で何度も盗難被害があり、被害者側が「置き配」を装いゲーム機の箱にGPS端末を装着、箱がなくなったため、位置情報を確認し、容疑者特定につなげたといいます。容疑者はこの住宅周辺を担当する配送業者だったということです。「置き配」のメリット・デメリットがよくわかる事例と思います。

「闇バイト」に参加する若者の実態に関する報道も多く、以下、いくつか紹介します。生活に困窮して追い込まれてやむなくという者とは異なる、ある種の「軽さ」に暗澹たる気持ちにさせられます

「実刑3年ぐらいはいくんでしょ」…闇バイトで浮き彫りになった軽薄無知な20代の実像(2023年4月15日付産経新聞)

強盗事件や特殊詐欺事件の実行犯を、闇バイトで募集された若者が担うケースが目立っている。甘い言葉にだまされる若者がいる一方、犯罪であることを知らされた上で、自らの意思で手を染めるケースも少なくない。特殊詐欺の受け子だと知りながら闇バイトに応じ、大阪府警に逮捕された男は、理由について「ただ、何となく」と説明。一部の若者が持つ犯罪への甘い認識に、専門家は「若いとはいえ、あまりに”世間知らず”が多い」と警鐘を鳴らす。…犯罪だと知らされても躊躇することはなかった。「逮捕されても窃盗だから罪は重くない。刑務所に入ることはまずないだろう」。何の根拠もなく、そう思っていた。…頭にあったのは報酬のことだけ。今が楽しければいい。そんな毎日の延長に過ぎなかった。…拘置所への家族や友人の面会はなく、反省の気持ちを示そうとつづった被害者への手紙も受け取りを拒否された。弁護人からは公判の厳しい見通しを伝えられている。「独りぼっちになった気がする。実刑3年ぐらいはいくんでしょ」。現実の厳しさに初めて直面し、力なくつぶやいた。…「どんな罪にあたるかも知らず、逮捕されても簡単に済むと思っている若者が多い」。犯罪者の心理に詳しい関西国際大の中山誠教授(犯罪心理学)はそう指摘する。…一度でも犯罪に手を染めれば、刑務所で服役する可能性があるだけでなく、その後の人生にも大きな影響を及ぼしかねないが、そのリスクを理解しているとは言い難い。令和4年版犯罪白書によると、受刑者らを対象にした調査で《社会からの信用を失うこと》が犯罪を思いとどまる「心のブレーキ」になると回答した20代は、わずか7.8%。65歳以上で19.3%、50~64歳で16.3%に上ったのとは対照的だ。中山氏はこうした若者の行動について、「法外な金額を提示されることの意味、つまりそれだけ深刻な結果が待っているということを読み取れていない」と分析。「世の中にそんなに甘い話はないことが分からない、あまりにも世間知らずで社会的に未熟な若者が多い」と危惧する。

ルフィグループや最近摘発されたカンボジアを拠点にした特殊詐欺事件の背景についても、その犯罪インフラを中心にさまざまな報道がありました。その中から、いくつか紹介します。

特殊詐欺集団はなぜ海外に? カンボジアの摘発劇で見えた甘い「実態」(2023年4月16日付け産経新聞)

東南アジアのカンボジアを拠点に特殊詐欺を繰り返していた日本人グループが、警視庁に摘発された。年齢がバラバラの19人は、観光客に紛れるかのようにリゾート地のホテル客室を「アジト」にし、室内からは大量の携帯電話やだましのマニュアルも見つかった。なぜ、海外に拠点を設けるのか。リスク分散に緩い取り締まり情勢、甘い携帯電話の契約審査…。周到に練られた被害者をだます「手口」に加え、「摘発逃れ」の実態が見えてきた。…19人の大半は、日本の被害者らに電話をかける「かけ子」で、カンボジア南部のリゾートホテルに昨年12月、複数の部屋を借りる形でチェックインし、「事務所」や「宿泊用」などに使い分けていたとされる。かけ子らは外出を制限され、軟禁状態で、詐欺電話を掛け続けさせられていたという。大量の携帯電話やパソコン、詐欺の手口が書かれたマニュアル…。室内からは詐欺集団の痕跡が数々見つかった。マニュアルにも記されていた「手口」は巧妙なものだった。…支払いに用いられたのはコンビニエンスストアでも入手できる電子マネー。記載されている「プリペイド番号」などを被害者から聞き出せば、遠隔でもチャージ金を取り込むことができる。犯行グループ側には、現金の手渡しなどと比べ、格段に摘発のリスクが減らせることから利用していたとみられる。さらに、グループはカンボジアにいながら、インターネット回線の「IP電話」を使い、「03」(東京)や「06」(大阪)の市街局番が表示されるようにして、あたかも日本国内の会社から電話しているように偽装。被害者らに、ドコモの担当者らだと信じさせていた。海外に拠点を設けることも、犯行グループの「摘発逃れ」の一環とみられる。…警視庁暴力団対策課が中心的な役割を担っていたとみているのが、岡本大樹容疑者(38)だ。令和3年11月にカンボジアに入国し、同国内でも拠点を転々としながら犯行を重ねていた疑いもある。警視庁は、押収した約60台の携帯電話の解析を進めるなどして、グループの実態解明や詐取金の流れの調べを進める。

フィリピン、携帯SIM登録に遅れ 半数が無効化も(2023年4月24日付日本経済新聞)

フィリピンで携帯通信に用いるSIMカードへの個人情報登録が遅れている。同国では個人情報を登録しなくても利用できるプリペイド式が広く普及していたが、2022年に政府が犯罪抑止などの観点から登録を義務化した。26日までに登録しなければカードは無効化される。登録済みは約5割にとどまり、オンラインサービスの利用に大きな影響が出かねない。…プリペイド式は携帯通信を手軽に利用できる一方、利用者を明確に特定できず、オンライン詐欺などの犯罪や迷惑メッセージの温床になっていた。ウイ情報通信技術相は個人情報登録の義務化で「迷惑メッセージの受信数は大きく減少した」と効果を強調する。…カード無効化の影響は計り知れない。フィリピン人のネット利用時間は1日平均9時間超とされ、世界でも有数の長さだ。連絡はおろか、ネット通販や配車、金融など多くのサービスが利用しにくくなる。無効化を強行するのか、登録延長を認めるのか、当局や通信大手は判断を迫られている。

フィリピン、携帯SIMへの個人情報登録を90日延長(2023年4月25日付日本経済新聞)

フィリピン政府は25日、携帯通信用SIMカードへの個人情報登録の期限を90日間延長すると発表した。…約5割にとどまる登録率を引き上げるため、周知期間を延長する。…SIMカードの個人情報登録は22年6月末に発足したマルコス政権のもと、同年12月末から登録手続きが始まった。通信大手が用意した特設サイトから登録する仕組み。同国では個人情報を登録しなくても利用できるプリペイド式が広く普及していたが、犯罪防止の観点から政府が登録を義務化していた。情報通信技術省(DICT)によると23日時点の登録率は49.31%にとどまる。政府に監視されかねない、との懸念から登録は低迷していた。未登録者のカードが無効化されれば、電話や連絡だけでなくインターネットサービスも使えなくなるなど影響は大きい。

カンボジア拠点19人逮捕 特殊詐欺集団、東南アジア拡散(2023年4月11日付日本経済新聞)

海外への拠点シフトの動きは、警察庁の統計からもうかがえる。同庁によると、詐欺電話をかける「かけ子」などの国内拠点の摘発は2022年に20件。摘発強化もあってピークだった17年の68件から減少傾向にある。警察幹部は「国内の拠点はアパートの一室や車両内など小規模化する傾向がみられる」と指摘。社会の目もあり国内で大規模な拠点をつくるのは摘発リスクが高いとして「海外に拠点を設けるグループが出ているのではないか」との見方を示す。海外拠点でまず浮上したのが中国だ。08年ごろから、中国から日本の高齢者宅などに架電する特殊詐欺の手口が増加。日中混成のグループをつくる動きもみられた。当時は中国当局の取り締まりが甘かったことに加え、中国企業が提供するインターネット通信網を利用して発信元の特定や捜査を困難にする意図があったとみられる。…中国の取り締まりが強化され、次に拠点とされ始めたのが東南アジアだ。東南アジアなどに拠点を置くのは摘発を免れるためだけでなく、通信ツールの規制が日本より緩い事情もあるとみられる。今年2月にフィリピンから幹部ら4人が移送され、警視庁に逮捕された同国拠点の特殊詐欺グループも、匿名性の高いスマートフォンや通信アプリ「テレグラム」などを駆使して犯行を指示していた疑いがある。警視庁は4人の中に「ルフィ」などと名乗り、一連の広域強盗事件でも指示を出していた人物がいるとみて捜査を続けている。

日本国内にも複数メンバーか カンボジア拠点の特殊詐欺グループ(2023年4月12日付毎日新聞)

カンボジアを拠点にした日本人の特殊詐欺グループのメンバー19人が逮捕された事件で、このグループは被害者から電子マネーを送らせるだけでなく、日本国内の住所地を指定し、そこに現金を郵送させる手口も使って詐取金を集めていた疑いがあることが捜査関係者への取材で判明した。警視庁暴力団対策課は国内にも事件に関与した人物が複数いるとみて調べている。詐欺容疑で逮捕されたのはリーダー役とされる住所・職業不詳の岡本容疑者(38)ら25~55歳の男性19人で、大半は詐欺電話の「かけ子」だったとみられる。捜査関係者によると、このグループはうその電話で電子マネーを送らせてだまし取る一方、日本国内の指定住所に現金を郵送させて詐取するケースも確認されたという。詐取金の受け取り役が日本に複数いた可能性が高い。…グループはカンボジア国内を転々とした後、21年12月下旬以降はカンボジア南部のシアヌークビルのリゾートホテルに滞在していた。メンバーとみられる人物から今年1月中旬、現地の日本大使館に「ホテルで特殊詐欺をやらされていて逃げられない。助けてほしい」と連絡があり、情報を受けた現地当局が1月下旬にこのホテルで19人の身柄を確保した。19人の中には暴力団関係者も含まれていた。メンバーの一部が軟禁状態にされ、特殊詐欺を強要されていた可能性もあるという。暴力団対策課は、詐取金が暴力団の資金源になっていた疑いもあるとみて実態解明を進める。

「リゾートバイト」実は特殊詐欺…東南アジア拠点のわけ(2023年4月11日付産経新聞)

かけ子ら実行役はSNSの闇バイトで集められているケースが多く、警察当局は警戒強化とともに啓発にも力を入れている。…特殊詐欺グループは取り締まりの強化が進む日本を離れ、こうした時差が少なく、物価も比較的安いなど滞在費が抑えられる東南アジアに拠点を設けることが多いとされる。捜査関係者は「汚職もひどく、取り締まりが不十分な点も海外に拠点を移す要因になっている」とみている。…詐欺グループは、かけ子や現金を受け取る受け子ら末端の実行役をSNSの闇バイト募集などで集めているとされる。高報酬や好待遇で釣り、海外に到着した段階でパスポートや個人の携帯電話などを取り上げたり脅したりして、半ば強制的に犯行を強いているケースもあるという。…警視庁が特殊詐欺で摘発した実行犯らの分析でもツイッターを利用して闇バイトにアクセスしたのは半数近くを占め、高額報酬などの甘い言葉に釣られている実態が浮かんでいる。また実行犯の6割以上は10~20代の若者だったとされ、捜査関係者は「やめたくても抜けられない」と話す。こうした実態を受け、政府は3月、闇バイトの募集書き込みの削除を強化するといった緊急対策プランを打ち出し、警察当局も若者らへの啓発活動や取り締まりを強化している。

カンボジア拠点詐欺で19人再逮捕 4億円超被害か(2023年5月1日付産経新聞)

カンボジアを拠点とした特殊詐欺事件で、警視庁暴力団対策課は1日、詐欺容疑で、岡本大樹容疑者(38)や山田大志容疑者(38)ら19人を再逮捕した。暴対課によると、一部は容疑を認めているが、大半は黙秘するなどしているという。暴対課によると、このグループによる被害は少なくとも令和4年4月~5年1月の間に、約75件で計約4億3千万円に上るとみられる。1人で数億円を詐取された被害者もいたという。…19人は今年1月、カンボジア当局に拘束され、4月に日本へ戻された。暴対課は現地当局が押収した携帯電話約60台などの提供を受けており、グループの実態解明を進めている。

新たな特殊詐欺や「アポ電」、窃盗等の手口について、最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 横浜市は、市新型コロナワクチン接種コールセンターの職員を装い、家族構成などを聞きだそうとする不審な電話が確認されたと発表しています。「ワクチンの接種に関するアンケート」を行っているなどとして、一人暮らしかどうかや、近くに家族が住んでいるかなどを尋ねる電話があったとの相談が市内の70代女性などから計9件寄せられたといいます。市の担当者は「コールセンターから、家族構成など接種に関係のないことを聞くことはない」と注意を呼びかけています。
  • 工事業者を装って男性宅に侵入し、約500万円を不正に送金したとして、大阪府警と岡山県警の合同捜査本部は、電子計算機使用詐欺と住居侵入の疑いで、岩手県北上市の建設作業員を再逮捕しています。府警は容疑者が不正送金の犯行グループに所属しているとみており、実態解明を進めるとしています。報道によれば、送金のためには銀行に登録した固定電話による本人確認の手続きが必要なところ、容疑者は業者を装って侵入し、作業名目で銀行からの電話を受け、確認を済ませていたといいます。合同捜査本部は、同様の手口で大阪府貝塚市内の50代の男性の口座からも不正に645万円を送金したとして、3月に容疑者を逮捕しており、こうした手口の不正送金事件の摘発は全国初といいます。逮捕容疑は、共謀し、2022年6月、岡山市内の50代の男性宅に通信工事業者を装って侵入、固定電話を操作してインターネットバンキングの本人認証を突破し、男性の口座から他人名義の暗号資産用口座に約500万円を送金したというものです。
  • 「猛毒の蛇が逃げたから部屋を確認させてほしい」といった説明をして家の中に入ろうとする男が、仙台市泉区で5件確認されたといい、実際に男が入った民家では室内にあった現金約300万円がなくなっており、宮城県警泉署は注意を呼びかけるとともに、窃盗事件の可能性もあるとみて捜査しています。報道によれば、確認されたのはいずれも高齢者宅が中心で、灰色っぽいつなぎを着て、「蛇が逃げた」と言った後、家族構成も聞き出そうとしていたといいます。
  • 高松市の高齢男性方に窃盗目的で侵入したとして、香川県警高松北署は、男2人を住居侵入と窃盗未遂の両容疑で逮捕しています。事件直前、男性方には同市職員を名乗る人物から「マイナンバーカードの申請をすると5万円がもらえる」とうその電話があり、男性が申請しようと市役所を訪れた間に侵入したということです。
  • 徳島県警は、徳島市の60代男性が無料通信アプリ「LINE」のグループ機能で投資話を持ちかけられ、計約2010万円をだまし取られる特殊詐欺被害に遭ったと発表しています。報道によれば、男性は、LINEで「投資学習グループ」「投資交流グループ」というグループに勝手に追加され、グループではメンバーの1人が他のメンバーに投資の指導をし、利益を上げているというやりとりがあったことから、男性は、投資に詳しいという2人と個別にやりとりしたところ「指導通りにすれば利益が得られる」などと持ちかけられ、実在する投資アプリを使い、外国為替証拠金取引(FX取引)投資の資金として、8回にわたり指定口座に現金を振り込んだといい、1回で最大1000万円以上を振り込んだこともあったとのことです。アプリ上では利益が出たように見えていましたが、利益を引き出せないことから被害が発覚したものです。
  • 「あなたのスマホからウイルスが拡散された。世界各地で被害が出ている」と、国の内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)や個人情報保護委員会、警察官をかたった男らに、川崎市多摩区の50代男性が約2200万円をだまし取られる詐欺被害にあいました。報道によれば、男性のスマホに「アプリの料金に未納がある」と電話があり、その後もNISCや警察官などをかたる計6人から「あなたに詐欺犯の容疑がある」「容疑が晴れれば返金される」などの電話があり、計2150万円と電子マネー50万円相当をだまし取られたということです。

最近の特殊詐欺被害に関する報道から、いくつか紹介します。

  • インド警察は、商都ムンバイ近郊にあった特殊詐欺の拠点を摘発し、48人を逮捕したと発表しています。オーストラリアの銀行の「お客さまセンター」を偽装し、電話してきた預金者を誘導しパスワードなど個人情報を聞き出しては上部の犯罪組織に伝えていたといいます。偽「お客さまセンター」には47人の電話の受け手が監禁状態で共同生活していたといい、警察は「夜明け前に50~60食分も朝食の出前を注文する所があると聞き内偵が始まった」と捜査の端緒を説明しています。こうした偽「お客さまセンター」は「氷山の一角」とみられ、警察は「背後の国際詐欺組織を追っている」と述べています。海外でも日本同様、特殊詐欺が猛威をふるっており、インドでは比較的高学歴の人間も知らないでこうしたビジネスに関与しているケースが多いとの報道もありました。
  • 高齢者からキャッシュカードをだまし取ったとして、滋賀県警草津署などは、詐欺容疑で、陸上自衛隊信太山駐屯地所属の自衛官と、住所不定、無職の少年(17)を逮捕しています。報道によれば、滋賀県草津市の70代の無職女性宅に市役所や金融機関の職員をかたり、「保険の還付金を受け取るためにキャッシュカードを作り替える必要がある。訪問する銀行員にカードを渡してほしい」などと電話し、キャッシュカード3枚をだまし取ったとしています。滋賀県警によると、ATMから女性のキャッシュカードを使って数十万円が引き出されていたといい、同日午後、パトロール中の草津署員が不審な2人組に職務質問し、犯行が明らかになったものです。容疑者と少年はそれまで面識はなく、県警は指示役の共犯者がいるとみて捜査を進めています。
  • 高齢者宅を訪れてキャッシュカードをだまし取ったとして、香川県警高松北署は、住所不定の無職の男(22)を詐欺容疑で逮捕しています。複数の防犯カメラを追う「リレー方式」で、逃走先を東京と推測、事件を認知してから約1時間40分後、JR東京駅で待ち構えていた捜査員が、新幹線を降りた男を見つけ、スピード逮捕につなげたものです。報道によれば、不審に思った男性が同署に相談、駆けつけた捜査員らによる被害者宅周辺の複数台の防犯カメラ捜査で、長袖の白のTシャツに黒の長ズボン姿で、黒のリュックを背負った容疑者とみられる若い男が、男性宅を出て、JR高松駅に向かったことが判明、同署は、男が岡山駅行きの電車に乗り、東京駅に向かった可能性が高いとみて、別件で東京にいた同署の捜査員数人を東京駅に派遣、岡山駅方面から来た新幹線が見えるホーム付近で、降りる客を警戒していたところ、衣服や持ち物などの特徴が合う男を署員が見つけ、東京駅の構内で声をかけると、素直に同行に応じたということです。
  • 宮城、山梨、静岡の3県警の合同捜査本部は、千葉県君津市の80代女性宅に孫を装って電話をかけ、現金2千万円をだまし取ったとして、詐欺の疑いで電気工事業の容疑者を再逮捕しています。報道によれば、氏名不詳者らと共謀し、女性の孫を装って「電車で会社の重要な書類をなくした」「上司のお母さんにもお金を用意してもらっている」などと電話し、その後、上司のおいを名乗る者が訪れて現金をだまし取った疑いがもたれています。
  • 特殊詐欺の受け子としてキャッシュカードをすり替えて盗もうとしたとして、大阪府警枚方署は、窃盗未遂容疑で神戸市兵庫区の自称会社員の男(26)を逮捕しています。報道によれば、大阪府枚方市内の80代女性方に銀行協会職員を名乗る男から「カードが不正利用されている。受け取りに行かせる」などの電話があり、女性が通報、近くで女性方の家を探すスーツ姿の男に警察官が職務質問したところ、すり替え用のカードが入った封筒を持っていたというもので、同市内ではこの日、詐欺とみられる「アポ電」が5件あり、私服警察官を同市全域に緊急配備していたといいます。
  • 徳島県警は、徳島市内の50代の男性がパソコンに流れた警告音をきっかけに36万円分の電子マネーをだまし取られる特殊詐欺被害に遭ったと発表しています。報道によれば、男性が自宅のパソコンでインターネットサイトを閲覧中に「このパソコンの機能は失われました」という音声が繰り返し流れたため、画面に表示された「ウィンドウズセキュリティーセンター」に電話をかけると、男から「修理には5万5000円かかる」と言われ、電子マネーで支払うように指示されたといい、コンビニエンスストアで電子マネーを購入、シリアルコードを入力したものの、男から「コードが間違っている」などと言われ、計7回にわたり電子マネーを詐取されたということです。男からの電話を取った家族が詐欺に気づき、警察署に相談したものです。また、埼玉県警浦和署は、さいたま市浦和区の男性(72)が約4400万円の詐欺被害に遭ったと発表しています。ウェブの利用者のパソコン画面に「ウイルスに感染しました」といった警告文を表示し、焦らせ、問題解決を手伝うとウソをついてだます「サポート詐欺」と呼ばれる手口で、県警が注意を呼びかけています。報道によれば、男性が画面上に出てきた電話番号に連絡すると、パソコン関連会社員を装う人物から「ハッキングされているので口座のお金が危ない」と脅され、別の口座に振り込むよう提案され、男性は5日間で20回にわたり、指定された口座に約4400万円を振り込んだということです。やり取りの中で、相手はパソコンの遠隔操作もしたといいます。サポート詐欺は近年急増しており、ウイルス感染などを解決する報酬名目で、現金を求める手口が多いとされます。
  • 山口県警防府署は、防府市内の80代女性が、特殊詐欺で約3千万円の被害にあったと発表しています。報道によれば、男から「老人ホームを出る人の代わりに名義を貸して欲しい」という電話があり、女性は承諾、その後、弁護士や警官を名乗る男から「名義貸しは犯罪になる」「大変なことをしてしまったね」などと電話があり、要求に応じて9回にわたり現金計3059万円を指定された住所に宅配便で送ったといいます。2023年3月、新たな名義貸し依頼の電話があったため、女性が県警に相談していたものです。
  • 山梨県警は、山梨県北杜市の70代男性が現金100万円をだまし取られる電話詐欺の被害に遭ったと発表しています。報道によれば、男性の携帯電話にサポートセンター職員を名乗る男から「アプリの代金が1年間未納になっている」などと電話があり、ATMで指定口座に現金50万円を振り込んだところ、翌日には「男性の携帯電話のウイルスが拡散している」との電話があり、男性は別の口座に現金50万円を送金、さらに翌日にも電話があり、話を聞いて不審に思った妻が被害に気付いたものです。
  • 宮城県警によると、2022年1年間の県内の認知件数は323件で、被害総額は約5億500万円と、件数、被害額ともに過去5年で最悪だったといいます。仙台中央署は従来の対策を拡充し、摘発だけでなく未然に防ぐ啓発活動に力を入れているといいます。2022年の県内での特殊詐欺の認知件数は前年比43件増で、被害額も6500万円増え、内訳では、架空請求詐欺が124件(同37件増)と最多となったといいます。架空請求詐欺の場合、「受け子」が出てこず、受け取りの現場などがないため検挙が難しく、対策が追いついていないのが現状だといいます。
  • 2023年1~3月に千葉県内で発生した特殊詐欺の認知件数が前年同期と比べ、約2割増加しているといいます。被害額も同期比で約2割増えており、千葉県警は注意を呼び掛けています。報道によれば、3カ月間の特殊詐欺の認知件数は299件(前年同期比42件増)で、被害総額は約6億8400万円(同約1億2700万円増)、「オレオレ詐欺」が最も多い118件(同42件増)で、被害額は2億7500万円、続いて還付金詐欺は70件(同27件増)で1億600万円、架空料金請求詐欺が17件(同6件増)で1億7900万円などとなっています。一方、特殊詐欺の検挙件数は1~3月末に49件(同6件減)で、30人にとどまっているといいます。最近では、船橋市の70代の男性が現金約5300万円をだまし取られる特殊詐欺被害が発生しています。報道によれば、男性の携帯電話に、電気通信会社職員などを名乗る複数の男性から何度も電話があり、「事件にあなたの電話が使われている」「パソコンがウイルスにかかったので、使えるようにするには1000万円以上かかる」などと現金を要求されため、男性はこれを信じ、ATMから計70回以上、現金を振り込んだというものです。
  • 佐賀県内で特殊詐欺被害が2023年1月以降、急増しているといい、1~3月の被害額は3335万円と前年同期の8倍超にものぼり、認知件数も28件と4倍となっているといいます。これとは別にマッチングアプリなどSNSを利用した詐欺の被害額も6750万円と約7倍となり、県警などが啓発活動を強化しているといいます。ある事例の被害総額は1600万円で、コンビニで不審に思った店員に声を掛けられたこともあったものの、女性は「店員に声を掛けられたら『パソコンを購入するため』と言え」との男の指示を守り、支払いを続けたといい、金が工面できなくなり、女性はようやく家族に相談、最初の電話から約3カ月たったところで夫と鳥栖署に被害届を提出したといいます。女性は「携帯電話の操作が苦手で、誤操作で有料サイトに登録したと思った。裁判や示談金の話が出て怖くなって支払いを続けてしまった」と、悔やんでいたということです。捜査の足がかりとなりそうなのは、現金を宅配サービスで送るケースですが、拠点の割り出しには至らないようです。鳥栖の女性が指示された送り先の住所は関東地方でしたが、実際に拠点が置かれているのかも判然としないといいます。このため、県警は県内で目立つ電子マネーを購入させる手口への対策として、コンビニのオーナーらに声掛けへの協力を依頼すると同時に、巡回による直接的な呼びかけなども続けているといいます。
  • 鹿児島県内で2023年3月に発生した特殊詐欺の被害は前年より12件多い21件で、被害額は前年より1650万円多い2130万円に上ったといいます。うち1件は、県内の80代女性が預貯金詐欺で50万円をだまし取られたケースで、女性の自宅に警察官を名乗る者から「暴力団員があなたの名前で携帯電話を使っていた」などと電話があり、調査として口座番号と暗証番号を聞き出され、その後、自宅に来た人物に通帳とキャッシュカードを渡したところ50万円を引き出されたというものです。また、別の事案では、国の行政機関やNTTファイナンスなどを装う電話やショートメールで、「有料サイトの未納料金がある」などと支払いを要求され、現金を振り込んだり電子マネーをだまし取られたりしたということです。前述したとおり、NTTは被害防止のため、2023年5月から70歳以上の高齢者や同居家族名義の固定電話に関して、申し出があればナンバーディスプレイなどの契約料金を無償化するサービスを始めています。県警は電話やメールで金などを要求する場合は詐欺と疑い、家族や警察などに相談してほしいと呼びかけています。
  • 神奈川県警は、県内で発生した2023年1~3月の特殊詐欺の被害状況(暫定値)を発表、被害額は2022年同期と比べて約3億420万円多い、10億1200万円、被害件数は526件で2022年同期比137件増えたといいます。報道によれば、「妊娠トラブル」を名目にして現金を要求するオレオレ詐欺が急増しているといいます。例えば、「不倫をして女性を妊娠させた。示談金を要求されている」と横須賀市に住む80代男性の自宅に息子を装った電話がかかってきて、続けざまに、弁護士を名乗る電話があり、「500万円必要です。代わりの者が受け取りに行く」と告げられ、男性は自宅を訪れた人物に現金500万円を手渡したといいます。さらに再び男性の自宅に弁護士を名乗る電話があり、「今度は息子さんが逮捕されて保釈金が必要になった」と言われ、男性はまた500万円を渡したというものです。県警によると、2023年1~3月の「オレオレ詐欺」の被害件数は217件で、特殊詐欺全体の約4割を占め、このうち「妊娠トラブル」を名目にした事件は昨年同期より46件多い、53件起きているとのことです。

例月どおり、2023年(令和5年)1~3月の特殊詐欺の認知・検挙状況等について確認します。

▼警察庁 令和5年3月の特殊詐欺認知・検挙状況等について

令和5年1~3月における特殊詐欺全体の認知件数は4,533件(前年同期3,500件、前年同期比+29.5%)、被害総額は93.2憶円(72.8憶円、+28.0%)、検挙件数は1,620件(1,346件、+20.4%)、検挙人員は515人(484人、+6.4%)となりました。ここ最近、認知件数や被害総額が大きく増加している点が特筆されますが、この傾向がいまだ継続していることから、あらためて特殊詐欺が猛威をふるっている状況を示すものとして十分注意する必要があります。うちオレオレ詐欺の認知件数は1,008件(759件、+32.8%)、被害総額は28.0憶円(21.9億円、+28.0%)、検挙件数は505件(353件、+43.1%)、検挙人員は212人(187人、+13.4%)となり、認知件数・被害総額ともに大きく増えている点が懸念されるところです。2021年までは還付金詐欺が目立っていましたが、オレオレ詐欺へと回帰している状況も確認できます(とはいえ、還付金詐欺自体も高止まりしたままです)。そもそも還付金詐欺は、自治体や保健所、税務署の職員などを名乗るうその電話から始まり、医療費や健康保険・介護保険の保険料、年金、税金などの過払い金や未払い金があるなどと偽り、携帯電話を持って近くのATMに行くよう仕向けるものです。被害者がATMに着くと、電話を通じて言葉巧みに操作させ(このあたりの巧妙な手口については、暴排トピックス2021年6月号を参照ください)、口座の金を犯人側の口座に振り込ませます。一方、ATMに行く前の段階の家族によるものも含め、声かけで2021年同期を大きく上回る水準で特殊詐欺の被害を防いでいます。警察庁は「ATMでたまたま居合わせた一般の人も、気になるお年寄りがいたらぜひ声をかけてほしい」と訴えていますが、対策をかいくぐるケースも後を絶たない現状があり、それが被害の高止まりの背景となっています。とはいえ、本コラムでも毎回紹介しているように金融機関やコンビニでの被害防止の取組みが浸透しつつあり、ATMを使った還付金詐欺が難しくなっているのも事実で、そのためか、オレオレ詐欺へと回帰している可能性も考えられるところです(繰り返しますが、還付金詐欺自体も高止まりしたままです)。最近では、闇バイトなどを通じて受け子のなり手が増えたこと、外国人の新たな活用など、詐欺グループにとって受け子は「使い捨ての駒」であり、仮に受け子が逮捕されても「顔も知らない指示役には捜査の手が届きにくことなどもその傾向を後押ししているものと考えられます。特殊詐欺は、騙す方とそれを防止する取り組みの「いたちごっこ」が数十年続く中、その手口や対策が変遷しており、流行り廃りが激しいことが特徴です。常に手口の動向や対策の社会的浸透状況などをモニタリングして、対策の「隙」が生じないように努めていくことが求められています。

また、キャッシュカード詐欺盗の認知件数は583件(638件、▲8.6%)、被害総額は7.9憶円(8.8憶円、▲10.2%)、検挙件数は436件(484件、▲9.9%)、検挙人員は108人(109人、▲0.9%)と、こちらは認知件数・被害総額ともに減少という結果となっています(上記の考え方で言えば、暗証番号を聞き出す、カードをすり替えるなどオレオレ詐欺より手が込んでおり摘発のリスクが高いこと、さらには社会的に手口も知られるようになったことか影響している可能性も指摘されています。なお、前述したとおり、外国人の受け子が声を発することなく行うケースも出ています)。また、預貯金詐欺の認知件数は614件(514件、+19.5%)、被害総額は7.8憶円(5.7憶円、+36.8%)、検挙件数は322件(299件、+7.7%)、検挙人員は102人(120人、▲15.0%)となりました。ここ最近は、認知件数・被害総額ともに大きく減少していましたが、一転して大きく増加し、その傾向が続いている点が注目されます。その他、架空料金請求詐欺の認知件数1,149件(612件、+87.7%)、被害総額は30.8憶円(24.0憶円、+28.3%)、検挙件数は45件(31件、+45.2%)、検挙人員は24人(24人、±0%)、還付金詐欺の認知件数は1,068件(925件、+15.5%)、被害総額は12.0憶円(9.9憶円、+21.2%)、検挙件数は301件(170件、+77.1%)、検挙人員は49人(28人、+75.0%)、融資保証金詐欺の認知件数は49件(23件、+113.0%)、被害総額は0.8憶円(0.4憶円、+124.9%)、検挙件数は3件(3件、±0%)、検挙人員は3人(2人、+50.0%)、金融商品詐欺の認知件数は2件(3件、+633.3%)、被害総額は2.5憶円(0.5憶円、596.7%)、検挙件数は0件(0件)、検挙人員は1人(1人、±0%)、ギャンブル詐欺の認知件数は6件(12件、▲50.0%)、被害総額は0.2憶円(1.4憶円、▲83.7%)、検挙件数は0件(5件)、検挙人員は0人(2人)などとなっており、オレオレ詐欺の急増とともに、「非対面」で完結する還付金詐欺や架空料金請求詐欺の認知件数・被害総額ともに大きく増加している点がやはり懸念されます。

犯罪インフラ関係では、組織的犯罪処罰法違反の検挙件数は66件(38件、+73.7%)、検挙人員は25人(7人、+257.1%)、口座開設詐欺の検挙件数は196件(206件、▲4.9%)、検挙人員は109人(112人、▲2.7%)、盗品等譲受け等の検挙件数は2件(0件)、検挙人員は1人(0人)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は726件(810件、▲10.4%)、検挙人員は544人(629人、▲13.5%)、携帯電話契約詐欺の検挙件数は28件(25件、+12.0%)、検挙人員は31人(23人、+34.8%)、携帯電話不正利用防止法違反の検挙件数は4件(1件、+300.0%)、検挙人員は3人(0人)などとなっています。また、被害者の年齢・性別構成について、特殊詐欺全体では、男性(32.3%):女性(67.7%)、60歳以上90.1%、70歳以上70.9%、オレオレ詐欺では男性(18.9%):女性(81.1%)、60歳以上99.1%、70歳以上96.4%、架空料金請求詐欺では男性(63.2%):女性(36.8%)、60歳以上72.7%、70歳以上44.8%、特殊詐欺被害者全体に占める高齢(65歳以上)被害者の割合について、特殊詐欺 83.0%(男性29.5%:女性70.5%)、オレオレ詐欺 98.4%(19.0%、81.0%)、預貯金詐欺 99.5%(9.7%、90.3%)、架空料金請求詐欺 59.7%(67.3%、32.7%)、還付金詐欺 81.3%(36.5%、63.5%)、融資保証金詐欺 4.5%(100.0%、0.0%)、金融商品詐欺 28.9%(36.4%、63.6%)、ギャンブル詐欺 0.0%、交際あっせん詐欺 0.0%、その他の特殊詐欺 50.0%(62.5%、37.5%)、キャッシュカード詐欺盗 99.3%(12.6%、87.4%)などとなっています。

本コラムでは、特殊詐欺被害を防止したコンビニエンスストア(コンビニ)や金融機関などの事例や取組みを積極的に紹介しています(最近では、これまで以上にそのような事例の報道が目立つようになってきました。また、被害防止に協力した主体もタクシー会社やその場に居合わせた一般人など多様となっており、被害防止に向けて社会全体の意識の底上げが図られつつあることを感じます)。必ずしもすべての事例に共通するわけではありませんが、特殊詐欺被害を未然に防止するために事業者や従業員にできることとしては、(1)事業者による組織的な教育の実施、(2)「怪しい」「おかしい」「違和感がある」といった個人のリスクセンスの底上げ・発揮、(3)店長と店員(上司と部下)の良好なコミュニケーション、(4)警察との密な連携、そして何より(5)「被害を防ぐ」という強い使命感に基づく「お節介」なまでの「声をかける」勇気を持つことなどがポイントとなると考えます。また、最近では、一般人が詐欺被害を防止した事例が多数報道されており、大変感心させられます。

  • 特殊詐欺被害を未然に防いだとして、警視庁八王子署は、高鉄交通(東京都八王子市)のタクシー運転手に感謝状を贈っています。報道によれば、80代の男性客を乗せて八王子市内の銀行に向かう途中、男性から「市役所の職員から電話があり、還付金を受け取りに行く」と言われ、詐欺を疑って110番したといいます。署長から感謝状を受け取った運転手は、「その日は土曜だったので、市役所から電話があったという話に疑問を感じた」と明かし、「詐欺の被害を防げてよかった」と話していたといいます。リスクセンスの高さが被害防止につながったものといえます。また、タクシー乗客の80代女性が電話しながら取り乱す様子から、特殊詐欺に巻き込まれていると直感して110番通報し、被害を防いだとして、神奈川県警磯子署は、横浜市のタクシー運転手に感謝状を贈っています。報道によれば、女性は、次男を装う男から「同僚を妊娠させ、手術費用が必要だ」と電話を受け、指定場所に向かうため、タクシーに乗車、車内で実際に次男に電話したが、話がかみ合わず、松村さんが「詐欺では」と声をかけ、女性宅に引き返した松村さんが110番通報、駆け付けた警察官に、女性とともに状況を説明したといいます。
  • オレオレ詐欺被害の拡大を防いだとして、埼玉県警杉戸署は、東武鉄道駅務係の男性に感謝状を贈っています。報道によれば、東武伊勢崎線和戸駅で勤務中に、「近くの公衆電話が使えない」と相談してきた三郷市の90代の女性の応対をしたところ、公衆電話に異常はなく、女性から聞いた番号にかけたところ男につながったものの、女性に電話をかわると通話はすぐに切れたといいます。男の口ぶりに違和感を覚え、女性に事情を聞いてみると「息子が女性を妊娠させてしまったので、代理人にお金を渡す」と説明されたため、男性は過去にも同様の手口で被害に遭った人の対応をしたことがあり、詐欺だと確信して警察に通報したものです。
  • 電話しながらATMを操作する80代の夫婦に声をかけ、特殊詐欺の被害を水際で防いだとして、埼玉県警は同県熊谷市の吉岡さんに感謝状を贈っています。報道によれば、吉岡さんは私立栄東高校で数学を教える教師で、「生徒にも声をかける勇気を持つことを伝えたい」と語っているといいます(大変素晴らしいと思います)。吉岡さんは仕事帰りに学校近くの金融機関のATMを訪れ、隣のATMに慌てた様子で、携帯電話で誰かと話をしながら、送金手続きをするお年寄りの男性と、横で見守る妻らしい女性がいたため、父親が過去に特殊詐欺の被害に遭いそうになった経験から2人をみてすぐに詐欺を疑ったといいます。「詐欺ではなかったら迷惑をかける」と思い、一度は店外に出たものの、立ち去れず、それでも迷った末に店内に戻り、「声をかけずに後悔したくない」と、勇気を振り絞って声をかけたといいます。「電話の内容がおかしいと思い声をかけさせて頂きました。差し支えなければ電話を代わって頂けませんか」電話口の人物の話を信じ込んでいた男性は、なかなか電話を代わろうとしなかったものの、吉岡さんは「とりあえず、代わってください」と必死に説得し、何とか電話を受け取り、通話口に出た瞬間、電話は切れ、その後もつながらなかったといいます。吉岡さんはその後、2人を近くの交番に連れて行き、事情を説明したものです。
  • 電気工事会社「アイム」の仙台営業所で働く吉田さん(21)は「5万円分のカードって聞いてピンときたんです」と話しています。報道によれば、吉田さんは、仙台市泉区の60代女性宅をエアコンの取り付け作業で訪れていたところ、作業を始めて20分ほど過ぎたころ、女性が慌てる姿が目に入り、事情を尋ねると、女性は「5万円のグーグルプレイカードを買ってくる」と、手にはスマホを持ち、通話中だったといいます。「パソコンがウイルス感染し、復旧に5万円分の電子マネーカードが必要と言われた」と焦りながら説明する女性を見て、「5万円」というリアルな金額に吉田さんはすぐに詐欺と察知したといいます。日頃から特殊詐欺をニュースで見て気をつけていたといい、電話をかわり、詐欺ではないと主張する人物と10分ほど口論、らちが明かず、電話を切って、110番通報したものです。
  • 特殊詐欺グループにATMで送金しようとしていた80代の男性に声をかけ、水際で被害を防いだとして、埼玉県東松山市の主婦が県警から感謝状を贈られています。現場は駅の片隅に設置された無人ATM、携帯電話を片手に戸惑う男性に声をかける人はおらず、まさに危機一髪のところだったといいます。報道によれば、男性はATMの画面を見ながら、電話の相手に何かの数字を伝えているようだったため、「詐欺じゃないかな」と思ったといいます。特殊詐欺グループがお年寄りをATMまで誘導し、電話で操作させ、送金させる手口を知っていたためで、ためらわずに、「おじさん、その電話、大丈夫?」と声をかけたといいます・。男性は驚いていたといいますが、アドバイス通りに電話を切り、「市役所から高額医療費の還付金があると言われんです」と事情を説明してくれたといいます。話を聞いている間、男性の携帯電話には何度も着信があり、代わりに出ると、若い男のような人物から「おまえ誰だよ」と言われ、とっさに「鴻巣市役所の者です」と答えたところ、相手は「何だって?」と声を荒らげ、怖くなって電話を切ったといいます。

次にコンビニの事例を紹介します。全国で相次ぐ特殊詐欺の被害防止は今や、コンビニの協力なしには成り立たないといえます。店員が利用客に声をかけ、「水際対策」に尽力しているためで、店頭で被害防止に貢献した店舗は5年間で3.6倍に増えたとの調査結果もあるといいます。客が気分を害することも念頭に、店員は勇気を振り絞って声かけを行っており、警察は店側の協力に感謝するとともに声かけへの理解を呼びかけています。

  • 特殊詐欺の被害を防いだとして、石川県警白山署は、コンビニ店の店長とオーナーに感謝状を贈っています。店長が被害を防いだのはこれが2度目だといい、同署は店長を「振り込め詐欺被害防止マイスター」に認定しています。報道によれば、2023年2月中旬の夕方、ファミリーマート白山月橋店に白山市内の80代男性が1人で入店、「パソコンのウイルスを除去するのに必要なので」男性は4万5千円分の電子マネーを購入しようとしたため、レジで応対した店長の清水さんは不審に思い、「向かいに警察があるのでご相談されてはどうですか?」と語りかけ、男性は、警察に相談して被害を免れたといいます。3年前に同じく高齢男性が電子マネーを買おうとしたのを詐欺だと見抜いて止めていたといい、オーナーである夫は、これを機に電子マネーを購入する高齢客には用途を尋ねるよう、店としての警戒を強めているとのことです。コンビニは、地元の常連客も多く利用することから、「悲しい顔をする常連さんの顔を見るのは心が痛い」と語り、今後も声かけを続けるとしています。
  • 特殊詐欺の被害を防いだとして、コンビニ「ローソン王寺畠田四丁目店」のパート従業員の小野さんに、奈良県警西和署が感謝状を贈っています。小野さんは、来店した84歳の男性から「グーグルプレイカードはどれですか」と尋ねられ、男性は自宅でパソコンを使っていたところ、「インターネットが使えなくなりました」との表示が出たため、画面の電話番号にかけると、女性らしき声で5万円分のグーグルプレイカードを求められたということです。不審に思った小野さんは男性の同意を取った上で警察に通報し、被害を防いだものです。「電子マネーを購入するお客さんに『詐欺ではないか』と確認すると、怒られてしまうこともある」と言いながら、「実際に購入するのを止めることができて良かった」と話しているといいます。

次に金融機関の事例を紹介します。

  • 詐欺電話を受けて預金を引き出そうとした高齢者を引き留めて被害を防いだとして、警視庁浅草署は、東京東信用金庫浅草支店の職員、田淵さんと副支店長の伊藤さんに感謝状を贈っています。田淵さんは、来店した80代女性から「リフォーム資金80万円を引き出したい」と依頼を受け、事情をきくと、女性は「本当は病院の先生から連絡があった」と言い、さらに、「息子」や「病院の職員」から電話で「のどの病気で病院に行きたいが財布を落とした」などと言われたと明かしたため、詐欺を疑った田淵さんは女性をその場で引き留め、事情を察した副支店長の伊藤さんが署に通報、女性は警察官と自宅へ戻り、本物の息子に連絡を取って詐欺だとわかったということです。田淵さんは「支店全体で普段から特殊詐欺にアンテナを張っていたので、異変に気づけた。女性の資産を守れて良かった」と話しているといいます。正に日頃からの高い意識の賜物と思いますが、(犯罪者から金融機関に対する説明の仕方まで吹き込まれる事例が相次ぐ中)何より、80代女性から正しい情報を引き出すことができたことが被害の未然防止につながったといえます。
  • 高齢の女性が特殊詐欺の被害に遭いそうになっているのを見抜き、未然に防いだとして、三重県警名張署は、応対した名張郵便局の谷さんと局長の西川さんに感謝状を贈っています。報道によれば、谷さんは、局内のATMで現金約400万円を送ろうとしていた女性から、「窓口に相談するように促す紙がATMから出た」と相談されたため、送金理由をたずねると、女性は「市役所から介護保険の還付金があり、郵便局のATMに行くように言われた」と答えたことから、谷さんは、特殊詐欺で上限金額を超えて送金しようとしていると判断、犯人とみられる相手とスマートフォンで通話していた女性に「切ってください」と伝え、署に通報したものです。ATMでの高額送金を制限している「仕組み」と事情から特殊詐欺を察知し、毅然とした対応で促した日頃からの研修等とが相まって被害防止につながったものといえます。
  • 還付金詐欺の被害を防いだとして、静岡県警下田署は静岡中央銀行下田支店の男性と同支店に感謝状を贈っています。報道によれば、60代女性が携帯電話で話しながら、同支店のATMの操作を始め、同支店のシャッターは既に下りていたが、男性がシャッター越しにATMコーナーにいる女性の声に気づき、すぐに女性に声を掛けるなどしたところ、間もなく電話が切れたといいます。女性は医療保険の還付金が戻ってくるとの虚偽の電話を信じ込んでいたといい、田代署長が同署で感謝状を渡し、「営業時間外にもかかわらず積極的に声を掛ける勇気ある行動が被害を防止した」と男性の行動をたたえています。

(3)薬物を巡る動向

パラグアイにおける大麻栽培の実態に関する記事を紹介します。

パラグアイで麻薬取締部隊に同行 違法栽培地で見たもの(2023年5月1日付け毎日新聞)
南米パラグアイの首都アスンシオンからバスで北東に約7時間。丘陵地が広がるのどかな農業地帯は、南米有数の麻薬の供給地として知られる。4月25日、麻薬取り締まりの捜査部隊が大麻畑で実施した摘発作戦に同行した。… 「栽培主は勝手に私有地などに入り込み大麻畑を作る。犯罪組織が背後におり、栽培に気づいても怖くて密告しない人が多い」。軍のマヌエル・ラモス大尉が説明した。2カ所の大麻畑で約4時間にわたり計22ヘクタール分を刈り取った。摘発した大麻は推定約68トン。周辺の森では8カ所で栽培主が寝泊まりしていたとみられるキャンプを見つけ、破壊した。SENADは、犯罪組織に1000万ドル(約13億3900万円)の損失を与えたとしている。日本の約1.1倍の国土を持ち、南米の真ん中に位置するパラグアイは長く、大麻の違法な栽培地となってきた。最大の産地はアマンバイ県とその周辺の計4県。栽培地の総面積について国連薬物犯罪事務所(UNODC)は、東京都大田区とほぼ同じ6000ヘクタールと推定するが、2万ヘクタールに上るとの見方もある。収穫された大麻の多くは周辺国に密輸されている。ペドロ・フアン・カバジェロは隣国ブラジルへの「密輸の中継地」として犯罪組織に利用されてきた。背景にあるのが、ブラジル側の国境の街ポンタ・ポランとの関係だ。両市は陸路でつながり、市民は徒歩や車で行き来できる。ペドロ・フアン・カバジェロで特に近年、暗躍しているのが、ブラジル有数の犯罪組織「首都第一コマンド」(PCC)だ。SENADによると、PCCは、パラグアイの小規模農家など栽培主が育てた大麻を集荷する段階から密輸に関与。ブラジルの最大都市サンパウロなど各地で売りさばいている。当局が定期的に摘発しているにもかかわらず密輸に歯止めはかかっていない。背景には、大麻に代わる収益性の高い作物への転換が進まないことがある。…パラグアイ内務省の情報部門の元責任者で、セキュリティ会社を経営するホセ・アマリジャ氏は、ブラジルとの国境沿いなど各地で大麻などの密輸が横行しているとしたうえで「警察や軍などあらゆる機関が(犯罪組織に)カネを握らされている」と指摘。「パラグアイだけで犯罪組織は駆逐できない。米国や周辺国を巻き込んだ多国間の協力が必要だ」と強調する。

日本国内における薬物を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 以前の本コラムでも取り上げましたが、大麻入りクッキーを知人に譲り渡したとして、大麻取締法違反に問われた京都市伏見区の仲居の判決が京都地裁であり、裁判官は「大麻譲渡を繰り返しており、常習的な犯行」と述べ、懲役1年2月、執行猶予4年(求刑・懲役1年2月)の有罪判決を言い渡しています。報道によれば、仲居は2022年12月12日、知人の芦屋市の占い師の女(大麻取締法違反で公判中)に大麻を練り込んだクッキー約91グラムを発送して譲り渡したといい、裁判官は、大麻の入手先について仲居の供述が、捜査段階と公判で大きく異なっているとし、「全面的に認めていると判断できない」と批判しています。
  • 福島県警福島署は、覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)の容疑で住所不定、フリーランスの梅内容疑者(26)を再逮捕しています。報道によれば、SNSで「闇バイト」に応募したとみられるとのことです。営利目的でメキシコから成田空港に覚せい剤を密輸、体内に隠し持って入国したといいものの、捜査に支障があるとして密輸量などを明らかにしていません。闇バイト絡みとしては、闇バイトに応募して覚せい剤9.3キロ(末端価格約5億8000万円相当)をプラスチックケースの中に隠して輸入したとして、岩手県警や函館税関などは、覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)容疑で無職の容疑者(26)を逮捕した事例もありました。報道によれば、容疑者はSNSを通じて闇バイトに応募、金欲しさから覚せい剤の受け取り役を担ったとみられています。また、、技能実習生として来日した外国人が、新型コロナウイルスや実習先の人間関係に起因して、いつの間にか違法薬物の「運び屋」になっていたといった事例もあります。怪しいと思いつつ、高額な報酬に引かれてしまったという点では闇バイトと同じといえます。2023年5月3日付毎日新聞の記事「手錠かけられた「運び屋」 異国で転落した技能実習生の悔い」では、具体的な状況が描かれています。専門家の「実習生の犯罪は許されるべきではないが、制度を抜本的に見直すことで犯罪に追い込まれない状況を作っていくことが必要ではないか」とのコメントに完全に同意します。以下、抜粋して引用します。
部屋に着くと間もなく、郵便配達員から荷物を受け取った。持参したバッグより一回り大きな箱。中身を確認すると、コーヒー豆の袋やチョコレートの箱、化粧品のクリームとみられる商品が目に入った。「本当にお菓子で良かった」。胸をなで下ろしながらバッグに詰め替えた。物品の届け先の指示を仰ごうと、マンションを後にして歩き出した直後だった。大阪府警の捜査員に囲まれ、麻薬特例法違反容疑で現行犯逮捕された。合成麻薬MDMAの運搬に関与した疑いだった。合成麻薬は化学薬品から人工的に合成した麻薬の一種で、乱用すると錯乱状態や幻覚の症状を引き起こす。この荷物はドイツから空輸され、税関の検査段階でコーヒー豆の袋からMDMA985錠(末端価格492万5000円)が見つかっていた。捜査当局は無害な類似品にすり替えて密輸ルートを解明する「泳がせ捜査」中だった。…技能実習制度は創設から30年を経て、「負の遺産」を抜本的に見直す議論が加速している。人権侵害や劣悪な労働環境は改善されるのか。専門家は「ポイントは『転籍』の緩和だ」と指摘する。…鈴木教授は「実習生が職場を変えられれば、受け入れ先は労働環境を改善する努力を重ね、結果的に悪質な会社は淘汰される。改善には公的な支援も欠かせない」と強調。「実習生の犯罪は許されるべきではないが、制度を抜本的に見直すことで犯罪に追い込まれない状況を作っていくことが必要ではないか」と語った。
  • 営利目的で海外から大麻を輸入する取引をしたとして、奈良県警香芝署、大阪府寝屋川市の無職少年(15)を、大麻取締法違反(輸入予備)の疑いで再逮捕しています。報道によれば、少年は、通信アプリ「テレグラム」などを使い、海外から大麻を輸入する取引を成立させた疑いがもたれています。少年は、香芝市内で署員の職務質問を受けた際に大麻のようなものを所持、自宅の捜索で乾燥大麻約0.01グラムが見つかり、同法違反(所持)容疑で逮捕されていました。若者の犯行ということでは、福岡県警中央署は、福岡県行橋市の大学2年の男子学生(19)を大麻取締法違反(所持)の疑いで現行犯逮捕した事例もありました。報道によれば、福岡市中央区の神社敷地内で大麻を所持した疑いがもたれており、「自分で吸うために買った」と容疑を認めているということです。パトロール中の県警自動車警ら隊員が職務質問をして発覚したものです。
  • 自宅アパートで大麻を栽培したとして、警視庁は、派遣社員の男(32)を大麻取締法違反(栽培)容疑で現行犯逮捕しています。報道によれば、男は容疑を認め、「栽培が好きで2年以上前からやっている。自分で吸ったり売ったりしていた」と話しているといいます。自宅で張ったテントの中で、鉢に植えられた大麻6株を栽培した疑いがもたれています。なお、男は自宅とは別に、青梅市内でアパート一室を借りており、2023年3月に近隣住民から「変なにおいがする」との相談が署に寄せられていたといいます。孤独死などの可能性もあるとして署員が駆けつけたところ、換気扇から大麻の臭いがしたため捜査を開始、借り主の男を特定し、自宅の捜査を実施して現行犯逮捕したものです。このアパート一室からも大麻24株と乾燥大麻とみられるものが入った複数のガラス瓶が見つかったといい、自宅を含めた2カ所で大麻を栽培していたとみられています。
  • 薬物事件で逮捕されるなどした経歴を隠して採用試験に合格したとして、東京税関は、係員級の職員を懲戒免職処分としています。「個人の特定につながるおそれがある」として、年齢や性別、採用時期などについて明らかにしていません。報道によれば、係員は不正薬物に関する容疑で逮捕され、当時勤めていた職場から懲戒処分を受けていたものの、それを隠して同税関の採用試験を受験。、前の職場を辞めた理由は虚偽の説明をしていたといいますが、情報提供があり、発覚したものです。
  • 酒などに薬物を混ぜ、意識をもうろうとさせて性暴力に及ぶ事件の多発を受け、警視庁は、薬物を飲まされたかどうかをすぐに調べられる「簡易検査キット」を民間企業と共同開発しています。被害者の負担軽減や迅速な捜査に役立てるのが狙いだといいます。報道によれば、睡眠薬を悪用した性犯罪の摘発は2022年、全国で60件に上り、10年前(2012年)の17件から約3倍に増えたといいます。SNSやマッチングアプリの普及などで見知らぬ男女が飲食をともにする機会が増えたことが一因とみられていますが、被害者が酒に酔っただけと思い込み、被害に気づかないこともあるといいます。悪用される薬物は睡眠薬や向精神薬などで、「デート・レイプ・ドラッグ」と呼ばれ、通常の薬物鑑定は結果が出るまで1か月程度かかることもあり、被害者がその間、「被害に遭ったか、それとも自分の思い違いか」などと思い悩むケースも多かったといいます。早期に検査結果が出れば被害者の負担軽減につながるだけでなく、現場周辺の防犯カメラの解析や関係者の事情聴取など捜査も進められることになります。
  • 覚せい剤をレリーフに隠して密輸したとして、茨城県警は、精神保健福祉士を覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)の疑いで再逮捕しています。報道によれば、容疑者は仲間と共謀し、木製のレリーフ8枚の中に覚せい剤約840グラム(末端価格約5000万円)を隠し、アフガニスタンから国際郵便で輸入した疑いがもたれています。密輸された覚せい剤は成田空港に到着後、横浜税関の検査で発見され、郵便物の宛先が恩田容疑者の自宅だったことから、県警と横浜税関が合同捜査していたものです。容疑者は密輸された覚せい剤を所持したとして、麻薬特例法違反容疑で現行犯逮捕されており、「SNSで知り合った人からのプレゼントだと思った」と話していたといいます。
  • 海外からの密輸としては、カナダから覚せい剤約2.5キロを密輸しようとしたとして、東京税関が、いずれも住居不定で中国籍の59歳と52歳の男2人を関税法違反(密輸未遂)の疑いで東京地検に告発した事例もあります。報道によれば、2人は密輸グループと共謀して、カナダからの国際スピード郵便で、覚せい剤2.48キロ(末端価格約1億5400万円相当)を、2人が滞在する東京・浅草のホテル宛てに密輸しようとした疑いがもたれています。宛先などを不審に思った東京税関の検査員が気づき、未遂に終わったものです。覚せい剤は三つのポリ袋に分けて入れられ、茶器などの展示ケースの台座部分に隠されたり、鉄パイプに黒い粘着テープで巻き付けたりした状態で見つかったといい、税関は、2人が薬物の荷受け役として2023年2月に香港から入国したとみています。
  • 自宅で大麻を所持していたとして、愛知県警は、音楽グループ「変態紳士クラブ」のメンバーで「VIGORMAN」として活動する容疑者(25)を大麻取締法違反(営利目的所持)の疑いで逮捕しています。大阪市内の自宅で乾燥大麻二十数グラムを所持した疑いがあります。公式サイトによると、変態紳士クラブは2017年結成の3人組ユニット。日本武道館でもライブを行うなど、若い世代を中心に人気を集めているといいます。また、芸能人の事例としては、東京地検が、東京都内のホテルで合成麻薬「MDMA」を所持したとして、2023年3月に警視庁に麻薬特例法違反の疑いで逮捕され、その後釈放されていたモデルの道端ジェシカさんを不起訴処分としています。報道によれば、税関職員が、海外から到着した荷物にMDMAを含むカプセルが隠されているのを発見、送り先のホテルに荷物が届いた際に警視庁の捜査員が踏み込み、室内にいた道端さんら2人を逮捕したものです。
  • 東京消防庁深川消防署に勤務する消防士の男(21)が、大麻取締法違反(所持)の疑いで逮捕されています。報道によれば、住んでいる江東区内の東京消防庁の寮で乾燥大麻0.03グラムを所持した疑いがもたれており、別の同法違反事件の捜査の過程で男が浮上したということです。容疑を認め、「個人で使うためだった」と供述しているといいます。また、公務員の犯罪としては、覚せい剤を所持、使用したとして、島根県川本町が40代男性職員を2022年11月に懲戒免職処分にした事例もありました。県警が覚醒剤取締法違反事件として捜査しており、町は現時点で「捜査に支障を来す」として処分を公表していません。報道によれば、職員は、町に対し、県警から事件について任意で事情を聞かれていることや、覚せい剤を使用、所持していたことを申し出たといいます。町は非違行為に当たると判断し、2022年11月に懲戒処分にしたものです。町は再発防止に向け、職員を対象に公務員倫理などの研修を実施したということです。
  • 福岡県警は、住居不定、自称建設作業員の男、自称建設業の男、、無職の女の3容疑者を覚せい剤取締法違反(使用)容疑で逮捕しています。報道によれば、覚せい剤をそれぞれ使用した疑いがもたれています。福岡市博多区の市道で3人の乗った軽乗用車が蛇行運転するのを、県警のパトカーが発見、停止を求めたものの逃走したため、約850メートルにわたり追跡、その後、岸壁から車ごと海中に転落したが、3人とも救助され、無事だったといいます。
  • 徳島県藍住町議会の元副議長らによる大麻密売グループへの捜査情報漏洩事件で、地方公務員法違反(そそのかし)や贈賄などの罪に問われたグループリーダーで韓国籍の被告の判決公判が大阪地裁で開かれ、裁判長は懲役5年、罰金200万円(求刑懲役9年、罰金200万円)を言い渡しています。報道によれば、裁判長は判決理由で「情報漏洩によって密売拠点に関する証拠収集が困難になった。捜査に大きな影響を与えた悪質な犯行」と指摘、ただ、検察側の求刑は同種事案の量刑を踏まえると「重すぎるといわざるを得ない」として、罪を認めて反省していることなども考慮し、懲役5年が相当と判断したといいます。被告は、同町議会の元副議長、平岩被告=加重収賄などの罪で起訴=らに対し、捜査機関が捜査していたグループの事件に関する情報を漏らすよう依頼し、謝礼として5万円を渡すなどしたものです。
  • 覚せい剤取締法違反(使用)罪に問われた女性被告の判決で、神戸地裁は、「強制採尿の手続きに重大な違法があった」と認定し、無罪を言い渡しています。報道によれば、兵庫県警東灘署の署員らは2021年11月、この女性が宿泊していた神戸市のホテルの客室に女性側の許可なく立ち入り、任意同行を求めたといい、女性は瞳孔が開き、ろれつが回らないなど薬物使用者特有の状況だったとして、同署は強制採尿の令状を請求、女性は尿検査で薬物の陽性反応が出て、起訴されたものです。裁判長は、署員らが許可なく客室に入ったことについて「警察官職務執行法に基づく措置として許される限度を超えている」と指摘、令状請求の際も、署員が無断で立ち入ったことを令状審査の裁判官に伝えていなかったとし、尿の鑑定結果は証拠能力がないと結論付けています。
  • インターネットで入手でき、覚せい剤など違法薬物に導かれる「ゲートウェー・ドラッグとされる危険ドラッグについて、岐阜県警科学捜査研究所の主任研究員が、使い続ければ統合失調症やうつ病、認知症のような症状を引き起こす仕組みを明らかにしています。「取り返しのつかない危険性がある」と薬物の怖さを訴えています。報道によれば、危険ドラッグは脳の神経細胞に働きかけ、一時的な興奮や幻覚、性的衝動を引き起こすとされ、捜査当局が取り締まりを強めるなか、製造者は成分構造を次々に変えて、規制の網をかいくぐってきています。研究では、危険ドラッグの毒性について、成分の一種「ピロリジノフェノン誘導体」に着目、実験では培養細胞を使い、9種の化合物を調べたところ、覚せい剤より強い毒性を示す化合物もあったといいます。化合物が神経細胞を死滅させたり、毛細血管の組織を壊すことで脳を薬物から守る「バリアー」が失われたりして、精神疾患のような症状を引き起こす仕組みを明らかにしました。あらためて危険ドラッグの危険性が明らかになったということを広く周知していくべきと考えます。
  • 横浜市内の自宅で覚せい剤を密売目的で隠し持っていたとして、大阪府警は、中国籍で会社員の江容疑者(28)を覚せい剤取締法違反(営利目的共同所持)の疑いで逮捕、関係先のマンション一室と自宅の計2部屋から覚せい剤計約74キロ(末端価格約46億円相当)を押収したということです。府警が摘発した覚せい剤の所持事件で過去最大の押収量といいます。府警は江容疑者が大規模な覚醒剤密売グループのメンバーとみて、実態解明を急いでいす。報道によれば、大阪税関が3月、米国から関西国際空港に空輸された荷物から覚せい剤を発見、府警が情報提供を受けて捜査したところ、関係先として横浜市中区のマンション一室が浮上、府警が4月、この部屋を家宅捜索した結果、太陽光発電に使うソーラーパネル約50個の内部に覚せい剤が隠されているのを見つけたといいます。透明な袋に入った状態で計約73キロに上り、この部屋は覚せい剤の保管庫だった疑いがもたれています。府警は部屋を出入りしていた江容疑者を特定し、自宅からも覚せい剤約1キロを押収しています。
  • コカインを営利目的で製造したとして、警視庁薬物銃器対策課は、いずれもペルー国籍の男女5人を麻薬取締法違反(営利目的製造)容疑で逮捕しています。報道によれば、2022年10月、容疑者の自宅でコカイン粉末約847グラム(末端価格約2000万円)を製造したというもので、国内で売るために、5人は材料調達役や製造役など役割分担していたといいます。なお、容疑者の1人はメキシコの麻薬カルテル関係者で、このグループのリーダーとみられており、この男を捜査する過程で今回の部屋が浮上したといいます。容疑者宅からは粉砕機や手回し洗濯機のほか、塩酸やアセトンといったコカイン製造に必要な薬品類など約200点を押収しており、警視庁は製造したコカインの販売先などを調べているといいます。なお、警視庁がコカインの製造で検挙するのは31年ぶりということです。
  • あへんの原料となる野生のケシの発見が、京都で急増しているといいます。京都府内で見つかり、除去されたケシの数はここ4年で4倍以上に増加、はっきりした原因は分かっておらず、府は「見つけたら抜かずに通報を」と呼びかけています。ケシは雑草として国内に定着、種が食用に用いられるが、麻薬成分を含む一部の品種は、あへん法で所持と栽培が禁止されています。毎年この時期に大きく生育し、花が咲いて発見しやすくなるため、厚生労働省が各自治体に除去を求めています。報道によれば、府内の空き地などで発見・除去されたケシは、2019年は2748本だったところ、2020年7952本、2021年1万408本、2022年1万3467本と4倍以上に急増しているといいます。府薬務課は明確な理由は不明としつつ、「工事で土を造成した際、埋まっていた種子が発芽したり、ケシの認知が広がって通報が増えたりした可能性がある」としています。なお、野生のケシを自分で抜くと、法律で禁止される「所持」に当たる恐れがあり、「見つけた場合は触らず、最寄りの保健所や警察、府薬務課に通報してほしい」としています。

海外における薬物に関する最近の報道から、いくつか紹介します。

韓国政府は、覚せい剤などが若者に蔓延しつつあるとして「薬物との戦争」を宣言し、検察や警察など関係機関から成る840人規模の「特別捜査本部」を立ち上げ、捜査から公判まで対応する方針で、麻薬犯罪者への量刑引き上げに向けた議論も進めるとしています。報道によれば、SNSを通じた薬物入手が広がり、10代の摘発は前政権下の5年間で4倍に急増、対策強化が喫緊の課題であるところ、与野党は責任の所在を巡り非難合戦に終始している状況です。薬物問題に関心が集まるきっかけは、ソウル市内の予備校街で2023年4月上旬に発生した「覚せい剤入り牛乳飲料」の試飲事件だったといいます。「集中力が高まるから飲んで」と男女4人が街頭で、大手製薬会社名が記載された飲料の試供品を高校生らに配布、口にした9人はめまいや嘔吐を訴え、覚せい剤の陽性反応が検出されたということですが、その後、保護者に「通報するぞ」と金銭を要求する脅迫電話がかかってくる事件が発生、未成年を狙った犯罪は、教育熱心な韓国社会に衝撃を与えているほか、人気俳優が捜査を受けるなど、麻薬犯罪が深刻化しています。

ドイツで、嗜好用大麻の合法化に向けた議論が加速しているといいます。政府は2023年4月、闇取引を通じた粗悪品がまん延している現状にメスを入れようと、成人に少量の大麻所持を認める新たな方針を発表しましたが、青少年に悪影響を及ぼすとの懸念も根強く、物議を醸しているものです。報道によれば、エズデミル食糧・農業相は「大麻が使用されている社会的な現実がある。長年の禁止政策は現実に目をつむり、若者の健康と法執行機関を犠牲にしてきた」と現状に制度が対応できていないと訴えています。最新の調査によると、ドイツでは18~64歳の8.8%が過去12カ月に大麻を使用、違法薬物を巡る検挙数の増加が法執行部門を圧迫しており、危険性が高い粗悪品の横行を巡る抜本的な対応が求められているといいます。政府案は、登録された非営利グループ内での少量の売買や栽培を許可、公共の場では、25グラムまでの所持を認め、夜8時までは使用を禁止するほか、一部地域で専門店での販売による社会的影響を実証するというものです。これに対し、ドイツ小児青少年医学会は「若者の使用は制限されるどころか、さらに広がる。若年層への危険性は明らかで、認知障害を伴う脳の変化をもたらす」と警告、保守派野党は「大麻を扱う業者は、若者を遠ざけるのではなく使用してもらおうとするはずだ」と、商用化に警戒感を示しています。冒頭に取り上げたタイにおける拙速な大麻解禁の悪い事例もあるところ、一部の州が嗜好用大麻を解禁した米での大麻の使用率の高さと比べればまだ低い状況でもあり、より慎重な対応を期待したいところです(日本での同様の議論は現段階では不要であり、悪影響しかありません)

米政府は、米国で社会問題化している医療用麻薬フェンタニルの密輸に関与したとして、メキシコ最大級の麻薬組織「シナロア・カルテル」を率いた、「エル・チャポ」として知られる「麻薬王」ホアキン・グスマン受刑者=米国で終身刑を受け服役中=の息子を新たに制裁対象に指定しています(既に他の息子3人にも制裁を科しています)。米財務省によると、グスマン受刑者の息子4人はシナロア・カルテルで指導的な立場を引き継いいでいます。米国ではフェンタニル乱用で年数万人の死者が出ており、ブリンケン国務長官は組織撲滅に向けた決意を強調、フェンタニルを大量生産する秘密工場の管理や、米国への密輸に関与してきたとして、米政府は懸賞金を提示して情報提供を求め、行方を追っているということです。フェンタニルはがん患者の苦痛緩和のために開発された。モルヒネの50倍の強度を持つ鎮痛薬で、依存性が極めて高いとされます。さらに、米司法省は、フェンタニルの密売に関与した疑いで28人を起訴、メキシコの麻薬密売組織の幹部や原材料を供給した中国企業の関係者を含んでいます。米国では薬物の過剰摂取が社会問題になっており、米政府はメキシコから流入する薬物の対策を強化しています(米司法省によると、フェンタニル中毒は18~49歳の死因のトップとなっており、米国立衛生研究所によると、2021年には7万人以上がフェンタニルなどオピオイド(麻薬性物質)系の合成麻薬の過剰摂取で死亡したということです。オピオイド鎮痛剤は医療用にも使われますが、中毒性が高く、依存症になった患者がメキシコなどから密輸された違法薬物に手を出す例も多いとされます)。なお、米司法省は「シナロア・カルテル」の幹部を中心に起訴しましたが、報道によれば、ガーランド司法長官は「法執行機関を攻撃し、民間人を脅し、協力しない事業者は破滅させる。拷問や殺害も頻繁にあり、時には犠牲者を生きたまま、自分たちが飼う虎の餌として与えている」と麻薬組織の残忍性を非難しています。組織は少なくとも過去8年間、麻薬の原料となる化学物質を主に中国から調達し、メキシコの秘密の研究所で合成麻薬を製造、貨物機やプライベートジェット、潜水艇などで米国に密輸し、他の犯罪組織などに転売していた疑いがもたれています。また、中国企業はシナロア・カルテルによるフェンタニル製造に使われると知りながら、原材料となる化学物質を中国の工場からメキシコに輸出していた疑いがあるといい、米司法省の発表によると、シナロア・カルテルは原材料の大部分を中国から調達しているとされます。米政府高官は、中国産の原料で作られた合成麻薬は世界各地に広がっているとして、欧州や中東の国々と連携し、中国に対策強化を求めていることを明らかにしています。関連して、米国とメキシコの両政府は、フェンタニル密輸や麻薬カルテルとサプライチェーン(供給網)に対する対策を強化することで合意しています。両国はここ数週間、中国に対し合成麻薬生産につながる原料輸出規制への協力を要請しています。また、メキシコのエブラルド外相は、米国からメキシコへの武器流入を監視・抑制する専門チーム設立を米政府に要請、メキシコは、米国から麻薬カルテルに殺傷能力のある武器が渡っている問題で米銃業者の責任を問う民事訴訟を起こしており、対策を講じることは共通の責任としています

  • メキシコ海軍は、同国西部沿岸マンサニジョ港で税関当局と協力して、輸出用のテキーラの容器に液体として隠されていた覚せい剤約8640キロを押収したと発表しています。メキシコ特産の蒸留酒と見せかけて、密輸を図ろうとした可能性が指摘されています。報道によれば、テキーラの容器が入ったコンテナを麻薬探知犬などを使って検査したところ、容器に入った液体から覚せい剤の成分を検出、コンテナには960個の箱があり、750ミリリットル入りの容器1万1520本が詰め込まれていたといいます。覚せい剤は通常は白い粉末や透明の結晶ですが、液体に溶かすことで輸送中の発見が難しくなるとされます。
  • シンガポール当局は、大麻1キロの密輸を共謀した罪で死刑が執行されたと発表しています。国連や海外の著名人が「考え直して」と嘆願する中での執行となりました。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは「あまりに残酷」と非難しています。
  • 欧米メディアによると、欧州警察機関(ユーロポール)は、ドイツやイタリアなどの捜査当局と連携して、イタリア最大級のマフィア「ヌドランゲタ」の関係者を一斉摘発しています。ヌドランゲタは欧州のコカイン市場を取り仕切っているとされ、計132人が逮捕されています。報道によれば、独当局は「欧州に犯罪組織の居場所はないという明白なシグナルだ」と強調しています。一斉摘発にはベルギーやフランス、スペイン、ブラジル、パナマなど10カ国の捜査員ら2770人以上が動員されました。麻薬や武器密売、マネロンなどの疑いがあるとされます。ヌドランゲタは伊南部カラブリア州を拠点に世界40か国以上に展開、コカイン密売などを足掛かりに、シチリアのマフィア「コーザ・ノストラ」をしのぐイタリア最大規模の勢力に成長しました。

(4)テロリスクを巡る動向

今回の岸田首相襲撃事件は、「なぜ」というより「やはり」起きてしまったという感覚に近いのですが、「日本は簡単に総理大臣を狙える国だということがはっきりしてしまった」との自民党関係者の指摘は重いといえます。犯罪学の分野では「コピーキャット(模倣犯)」という現象が知られており、特に特異な事件でこうした傾向は強いとされますが、それだけではないはずです。2022年7月の元首相銃撃事件をふまえ警備を強化していたとはいえ、選挙という特殊な場面における「ローン・オフェンダー」による「ソフトターゲット」の警備には課題が多いことも確かですが、報道によれば、容疑者は集団の中で「地元の人ではなく目立っていた」(聴衆の女性)といい、勇敢にも容疑者を押さえ込んだ男性も挙動を「おかしい」と感じていたといいます。事前の予兆把握や未然防止が困難なのであれば、集団の中で「違和感」を感じる警備のプロを配置することも重要な対策となると考えます(今回も、群衆の中に警察官を配置していたと聞きますが、それでも未然に防止することは難しかったということではあります)。

本事件に関する報道もたくさんありましたが、原因や課題の観点から、いくつか紹介します。

記者が振り返る和歌山の首相襲撃 有権者との「距離」問う(2023年5月12日付日本経済新聞)

米国政治に詳しく現地で選挙を見てきた北海道大の渡辺将人准教授は「現職大統領や大統領経験者とそれ以外では警備に雲泥の差がある」と指摘する。大統領への警備は金属探知機、警察犬、スナイパーなどを動員し徹底する。予備選や党員集会は事情が少し違う。「有権者とふれあい親しみをアピールして支持を広げる」(渡辺氏)狙いから、金属探知機による入場制限や防弾ガラスの設置はあまりみられないという。大統領選は本選になるとメディア主体の選挙で警備も厳しくなる。本選と草の根のふれあいを重視する予備選とで大きく警備のあり方は分かれると渡辺氏は説明する。…岸田文雄首相や与野党幹部はテロにひるまない姿勢を示した。デジタル化で日本の安全環境は変わった。爆発物のつくり方がインターネット上に載る。大規模なテロが起きたら聴衆にも被害が及びかねない。米国は選挙の種類に応じて有権者との距離のとり方を変える。首相や閣僚、党幹部の街頭演説のスタイルはいまのままが妥当か。政治活動の自由を守る前提に立ったうえで、与野党が安全確保の方法を模索する時代が来たといえる。

守るべきは「触れ合い」か 民主主義のリスクとコスト(2023年4月20日付日本経済新聞)

「遊説のやり方を変えると、暴力に屈したことになる」「リスクをゼロにはできないので、民主主義のコストとして受け入れざるを得ない」。安倍氏の事件後にも聞かれた議論だが、これは会場に集まった有権者がローン・オフェンダーの攻撃に巻き込まれるリスクを低くみているのではないか。欧米で起きるローン・オフェンダー型犯罪の象徴例は「群衆の中での銃の乱射や自爆テロ」である。「触れ合い」のスタイルは長年変わっていない。ここに来て事件が相次いだのは、ローン・オフェンダーの「登場」という、治安環境の大きな変化が起きていることが背景にある。そもそも遊説の際の要人の警護には課題が多い。…各政党は他の民主国家の選挙のあり方を、セキュリティ確保の視点から急ぎ調べ、分析すべきではないだろうか。大統領や閣僚が屋外で不特定多数の人々と触れ合う形で遊説をするケースがあるとすれば、どのような対策を講じているかなど参考にすべき点は多いはずだ。いまと変わらない形を続けることは、自らの党や選挙の利益を優先し、聴衆を危険にさらしている、という見方もできる。有権者が被りかねない危険をコストに含めてしまうことになっては、民主主義は成り立つまい。

聴衆の避難誘導は後手、専門家「正常性バイアスに陥った可能性」…要人警護との両立課題(2023年4月19日付読売新聞)

岸田首相の選挙演説会場に爆発物が投げ込まれた事件では、要人警護と聴衆の安全確保の両立の難しさも浮かんでいる。警察は爆発前に首相を退避させ、容疑者の身柄も確保したが、聴衆の避難誘導は後手に回った。けがをした人もおり、一歩間違えば惨事になった可能性がある。…要人の訪問先の警護・警備では通常、要人に同行する警視庁の警護員(SP)や都道府県警の警護員が要人の直近を守る。例えば、近づいてきた不審者を制止したり、物が投げつけられたりした時に要人を退避させたりする。一方、聴衆の安全の確保は、制服警察官を含む周辺配置の警戒要員が対応するのが原則だ。今回の警護と聴衆の安全確保に問題はなかったか。…聴衆の避難誘導に課題が残ったとの指摘もある。日本大危機管理学部の福田充教授(テロ対策)は「落ち着くよう呼びかけたのは、パニックを避ける雑踏警備の手法が頭にあったのだろうが、『単なるいたずらだろう』という正常性バイアスの思考に陥った可能性がある」と指摘する。筒が投げ込まれてから爆発まで約50秒間。複数の聴衆は「避難の呼び掛けや誘導は聞こえなかった」と証言している。現場にいた20歳代女性は「今になって思うのは、冷静に避難誘導してもらいたかったということ」と振り返る。避難ルートが実質的になかったと問題視する見方もある。約200人の聴衆がいたのは十数メートル四方をコーン標識で区切ったエリア。爆発後、コーンをつなぐバーをまたいで逃げた人もいたが、ある高齢男性は「どこに逃げたらいいかわからず混乱した」と振り返る。スペースを区切ったのは要人と聴衆の距離を保つためとみられるが、世界約100か国で民間警護員の育成を行う「国際ボディーガード協会」の小山内秀友氏は「聴衆の避難ルートの確保に問題がなかったか検討すべきだ」と話す。

首相演説先爆発、警護強化策に綻び 容疑者の把握後手に(2023年4月17日付日本経済新聞)

岸田文雄首相の選挙応援の演説会場で爆発が起きた事件は、安倍晋三元首相の銃撃事件を機に強化されたはずの要人警護になお綻びがあることを鮮明にした。不審者を接近させないための対策や、現場の襲撃リスクの評価が徹底されていなかった可能性がある。選挙運動が続く中、問題点を早急に洗い出し警備体制の再構築につなげられるかが問われる。…1つは容疑者の首相への接近を許したことだ。…「群衆の中で死角ができ、不審者の把握が遅れた可能性がある」。…県警は容疑者について「警備上、警戒すべき人物と認識していなかった」と説明する。リュックを背負い1人で訪れた容疑者に対し「地元の人ではなく目立っていた」(聴衆の女性)との声は多い。対策として、職務質問が事件の未然防止につながった可能性がある。会場の安全性の評価も課題がみられた。…しかし今回の現場は遊説で使われることは少なく、予備審査は実施されなかった。…「現職首相や閣僚の遊説先は警備上のリスクが高く、頻繁に使う場所でなくとも警察庁も加わり視察する必要があるのではないか」…3つ目は危険物の持ち込みだ。県警によると、会場で手荷物検査は行われなかった。…日本大の河本志朗非常勤講師(危機管理学)は「(現場は漁港で)人通りの多い駅前や商業施設と異なる。聴衆スペースを行き来できないように明確に区切れば手荷物検査が可能な環境で実施すべきだった」とみる。欧米での選挙演説や集会は屋内が中心で金属探知機で所持品を調べることが多い。銃器や爆発物を使った襲撃が念頭にあり、会場周辺は事前に探知犬を使って爆弾の有無を確認する。…松丸氏によると海外では要人と聴衆の距離が遠くても、私服の警察官や警備員を聴衆の中に配置することが多い。国際ボディーガード協会の小山内秀友・アジア地区統括責任者は「日本では要人が爆発物で狙われるという想定がなお甘い」と話す。選挙運動は民主主義の根幹で、自由な活動と安全性の両立が欠かせない。…河本氏は「1年の間に2度の重大事件を招いた事態は重い。警護計画作成に至る警察と陣営との協議内容を含め、浮上した課題を徹底的に検証する必要がある」と指摘する。

首相襲撃、爆発物の威力捜査…爆弾の筒「低く飛べば死者出たかも」(2023年4月18日付読売新聞)

和歌山市で15日、選挙演説会場で岸田首相に投げつけられた爆発物は、パイプ爆弾だった可能性が高まっている。威力業務妨害容疑で逮捕された無職木村隆二容疑者(24)は少なくとも2本を現場に持ち込んでいた。どの程度の殺傷能力があったのか。…今回の爆発物は、投入から爆発まで約50秒の間があったが、仮にすぐ爆発していれば、首相も無傷では済まなかったとみられる。安倍元首相銃撃事件から1年もたっていない中、またしても同様の事件が起きた事実は重く、警察当局は警護の状況を検証する。…演説台前のコーンで囲まれたエリアに入り込み、聴衆の中に紛れていた。聴衆は地元の漁協関係者らが中心で、中高年層が多かった。リュックを背負い、手提げカバンを持った木村容疑者が1人でエリア内に入り、爆発物を投げつけるまでの間に、警察官が職務質問を行うことはできなかったのか手荷物検査を行わなかった理由も確認が必要だ。日本大危機管理学部非常勤講師の河本志朗氏(69)は「今回は聴衆が約200人と少なく、手荷物検査を行えたはずだ。それをしなかったのは、警察と政治側の双方に警戒の甘さがあったのではないか」と指摘する。通常、手荷物検査を行わない場合は、聴衆と要人の距離を離したり、要人を選挙カーに上らせたりする。だが、今回は聴衆から演説台までの距離がわずか約5メートル。木村容疑者と首相の距離も約10メートルだった。県警は手荷物検査を行う場合より警護要員を増やして対応したというが、事件を防ぐことはできなかった。…河本氏は「政治家側も、不特定多数の近くに身をさらすリスクや、聴衆を巻き込む可能性について本気で考えるべきだ」と話している。

爆発許した警備の「隙」 首相演説会場、手荷物検査に壁(2023年4月15日付日本経済新聞)

不特定多数の人が集まる屋外会場では手荷物検査が難しく、遊説現場での警備の難しさが改めて浮き彫りになった。2022年7月に起きた安倍晋三元首相の銃撃事件を受け要人警護を強化していた中で起きた事件。G7の閣僚会合が15日始まり、5月には広島サミットが控える。警備に隙が生じれば国際社会からの信頼が揺らぎかねず、速やかな検証が求められる。…現職首相の遊説という最高レベルの警備が求められる現場で爆発を防げなかった。大きな要因は現場が屋外会場だったことだ。公民館など屋内の演説会場は出入り口で手荷物検査を実施できる。しかし一般的に屋外では不特定多数の人が集まるため、一人ひとりの手荷物を調べるのは難しい。首相の遊説日程は自民党のウェブサイトに掲載されており、屋外で演説する行動ルートの情報入手は容易だったとみられる。逮捕された男は会場内に発煙筒のようなものを持ち込んだとされる。さらに不審な動きを事前に把握できていなかった可能性もある。現場には警視庁のセキュリティーポリス(SP)や和歌山県警など多くの警察官が配置されていた。しかし男が発煙筒のようなものを投げ込むまで取り押さえられなかった。現場の配置のあり方が適切だったかも問われる。…有権者との触れ合いを重視する候補者が多い日本では街頭での演説が目立ち、警備上のジレンマとなっている。…安倍氏の銃撃事件を受け警察庁は、原則として全ての警護対象者の警護計画策定を同庁がチェックする仕組みを構築した。現職首相の警護については従来から同庁が関与している。襲撃リスクの評価など今回の警備・警護全体の検証が必要だ。

金属探知機・防弾ガラス・スナイパー配置も…海外の要人警護、銃社会アメリカなら特に厳重(2023年4月19日付読売新聞)

岸田首相の選挙演説会場に爆発物が投げ込まれた事件で、政府・自民党は選挙活動での警備強化に向けた検討を始めた。欧米各国では大統領や首相の演説時には原則、手荷物検査が実施され、防弾ガラスが設置されることもある。銃社会の米国では、特に厳重な警備体制が敷かれている。米国の大統領警護隊(シークレットサービス)は24時間体制で警護にあたる。隊員は制圧など専門訓練を受け、日本の警視庁警護課が設置された際に参考にされた。外国訪問にも同行し、装甲車並みの鋼板で覆われた専用車「ビースト(野獣)」を持ち込んで警護する。大統領の演説会場には出入り口が設けられ、金属探知機によるチェックが実施される。取材する記者も撮影機材やパソコンを一度預け、火薬のにおいを嗅ぎ分ける警察犬や手作業による入念なチェックを受ける。警戒範囲が広がる屋外イベントなどでは、大統領の近くに透明の防弾ガラスを設置し、不審者を事前に制圧するスナイパー(狙撃手)を配置することもある

要人警護、不断の見直しを 岸田首相の演説会場で爆発物(2023年4月15日付日本経済新聞)

岸田文雄首相の演説会場で爆発物のようなものが投げ込まれた事件は、安倍晋三元首相への銃撃事件を招いた要人警護の「警戒の空白」(露木康浩・警察庁長官)が、なお埋め切れていない事実を突きつけた。…同じような事件が繰り返された。現職首相の警護の場合は、もともと警察庁が関与する仕組みになっていたが、全体的に強化したはずの警護の手法、体制のどこに不十分な点があるのか。警察当局は今回の事件を十分検証し、どこに隙があったのか、どうすれば防ぐことができるのか、さらに検討を重ねていく必要がある。…今回の事件で逮捕された容疑者の犯行動機や背景はまだ分かっていない。だが現段階で犯行声明が出されたり、別の支援者の存在がうかがえたりするといった組織的な犯行の様子は見られない。そうであれば今回の事件もまた、「ローン・オフェンダー(単独の攻撃者)」「ローンウルフ(一匹おおかみ)」型と呼ばれる類型の事件である可能性が高い。反社会的な組織に所属しているわけでもない一個人が「過激化」し、インターネットを参考に自作した銃や爆弾で襲撃する―。こうした犯罪では容疑者の事前の動向把握が極めて難しく、事件の前兆をつかむことができない。1億2000万人の中から、あるとき突然襲ってくる「誰か」を犯行現場で可能な限り早期に察知し、押さえ込む。水際ギリギリの、そんな対策しかないのが実情ともいえる。…インターネット上のテロや有害な情報を収集・分析し、爆発物や銃器の原材料購入時の本人確認の徹底を求めるなど、警察はローンウルフ型への対策を進めている。引き続きこうした広い分野に目配りをし、総合的な対策を地道に進めていくしかない。犯罪学の分野では「コピーキャット(模倣犯)」という現象が知られる。特に特異な事件でこうした傾向は強いとされる。この先も、統一地方選挙やG7の一連の会議などが続く。警察はもちろん、関係する自治体や機関が一体となって「警戒の空白」を埋め、警護体制を常に見直していく取り組みが求められる。

自尊心の回復狙い? 犯罪心理学者からみる八つ当たり的動機(2023年4月21日付毎日新聞)

人生の邪魔になっている対象に仕返しをすることで、傷付けられた自尊心を満たそうとしていたのではないかと考えている。身勝手で八つ当たり的な動機が透けている。容疑者は社会との接点が少ない生活を送っていたようだ。そんな環境で自身を励ましていると、「本当は有能で重要な存在なんだ」と思い込んでしまうことがある。政治家を志したのも自己顕示欲の表れだとみている。その自尊心を大きく傷付けたのが、年齢で立候補を制限している現行の選挙制度だったのかもしれない。当初は怒りの矛先が裁判に向いていたが、神戸地裁で敗訴し、激しい攻撃心が芽生えた可能性もあるとみている。「人生がうまくいかないのは社会の責任。社会のルールを作っているのが政治家で、『親玉』の首相を狙おう」と。安倍氏への銃撃事件がもたらした影響もある。引き金を引いた被告を英雄視するような誤った風潮が犯罪予備軍に届き、選挙期間中は要人に接近しやすいという情報も与えてしまった。警護体制の強化はもちろん、どんな主張があろうともテロや暴力は断じて許されないとのメッセージを社会が粘り強く発信する必要がある。

京アニ事件公判 真相究明に全力を尽くせ(2023年5月8日付産経新聞)

36人が死亡し、32人が重軽傷を負った京都アニメーション(京アニ)放火殺人事件で、殺人罪などで起訴された青葉真司被告の公判前整理手続きが京都地裁で始まる。…逮捕時、青葉被告は「ガソリンを使えば多くの人を殺害できると思った」と容疑を認める一方、「京アニに小説を盗まれた」と不可解な動機を述べている。極めて身勝手な言い分の結果は、あまりに非道で残酷である。豊かな才能と夢を持っていた36人の命を瞬時に奪った理不尽さは言葉に尽くせるものではなく、奪われた命は二度と戻らない。それでも、事件の真相解明と真摯な反省は必要不可欠だ。法治国家で司法が果たすべき責務である。京アニ事件後、大阪のクリニックで起きた放火殺人事件では26人の命が奪われた。昨年7月には奈良市内で遊説中の安倍晋三元首相が手製銃で銃撃されて死亡し、先月は岸田文雄首相が和歌山市の選挙演説会場で爆発物を投げつけられた。いずれの犯人も、組織に属さずに単独でテロ行為に及ぶ「ローン・オフェンダー」だった。失うものがなく、躊躇せず凶悪犯罪に及ぶケースも目立っている。私たちの社会はこれ以上、このような犯罪者を生み出してはならない。再発防止策は必要だが、十分条件にはなり得ない。事件の真相究明を尽くす。これを、凶悪犯罪を防ぐ重要な一歩としなくてはならない。

岸田首相襲撃 テロの容認が事件を呼ぶ(2023年4月21日付産経新聞)

安倍氏銃撃事件を受けて昨年8月5日付の「主張」は、「容疑者の肯定は、次なるテロを生む」と警鐘を鳴らした。懸念が現実となったように思えてならない。目的によってテロを肯定、または礼賛するようなことがあってはならないのだ。それは白色テロも赤色テロも同様である。過激派による爆弾テロも、右翼少年による浅沼稲次郎・日本社会党委員長刺殺も、作家、三島由紀夫による自衛隊乱入も、「赤報隊」による朝日新聞阪神支局襲撃も、安倍氏銃撃も、全て等しく指弾すべきである。民主主義と自由こそが国民生活の基盤である。これを否定する暴力や破壊活動には、言論の力で対峙しなくてはならない。あらゆるテロは、最も憎むべき国民と社会の敵である。

自作爆発物、抑止に難しさ ネット情報削除に強制力なし(2023年4月18日付日本経済新聞)

容疑者を巡っては、自作の爆発物を使った可能性が浮上。安倍晋三元首相の銃撃事件でもインターネット情報に基づく手製の銃や火薬が使用されたとみられ、警察庁が2月から対策を強化したばかりだった。情報を削除する強制力はなく、材料そのものの流通を止めることも難しい。規制の実効性はなお課題だ。…火薬の入手をどう規制するかの対策は道半ばだ。火薬や爆発物自体を入手するのは容易ではないが、原材料は生活に身近な花火や農業用肥料などにも含まれる。一律に店頭やネット上などで取り扱いを禁じるなどの規制は現実的ではない。警察当局はホームセンターや花火店など爆発物の原材料となりうる物品を扱う事業者に対し、販売時の本人確認の徹底や不審な購入者の情報提供を呼びかけてきたが、対応は任意だ。通信販売事業者も多く、実効性は見通せない。ネット上にあふれる銃器や爆発物の製造方法への対策にも壁は多い。…警察庁は今年2月、ネット上の有害情報として削除を依頼する対象に「爆発物・銃器の製造」も加えた。武器の自作など犯行の予兆を探ることも見通し、SNS上の投稿を分析する人工知能(AI)を年内に導入する方針だ。ただ製造方法を公開する行為そのものは罪に問われず、削除依頼に応じなくても強制力がない。特に海外プロバイダを経由したサイトでは所在が分からず、要請すらできない可能性がある。欧米では、爆薬や銃器を購入するテロ組織を摘発したり、武器の製造に興味のある人物を探ったりするため、情報機関が販売業者を装う「おとり捜査」を実施することもある。

手製銃・爆発物、ネット情報をAIで監視へ 治安の脅威に(2023年4月21日付日本経済新聞)

火薬の密造が広がっているわけではない。無許可製造などを規制する火薬類取締法違反罪による摘発人数は近年200人台で推移し、ピークの68年(3165人)の6%の水準だ。警察が取り締まりを強化し組織的な密造は大幅に減った。近年の特徴は特定組織と関わりを持たない単独型の密造が表面化していることだ。…主に危険性がある組織を監視してきた警察にとって「ローン・オフェンダー(単独の攻撃者)」と呼ばれる凶行は予兆を把握しにくい。…単独犯による武器密造を抑止するためには、海外サイトを含めネットやSNS上の情報源をいかに減らすかが焦点となる。参考となるのは児童ポルノの流通阻止を目指す国際的な枠組みだ。…警察庁は9月からは銃や爆発物の製造に関連する情報について、AIが自動で抽出する仕組みを導入する。海外サイトを含めて情報収集を強化し、危険な情報があればサイト管理者に削除を求める。銃や武器の法規制が異なるため、各国当局と連携するハードルは現時点では高い。INHOPEのような仕組みが実現すれば実効性はより向上する。…東京都立大の星周一郎教授は「今回の事件で容疑者がどのように爆発物の情報を入手したか検証が求められる」とみる。類似事件の抑止に向け「日本のサイトを監視するだけでは不十分で、国際連携の動きをさらに拡大させていくべきだ」と指摘した。

安倍氏の国葬や旧統一教会との関係性を批判 首相襲撃事件の容疑者(2023年4月18日付毎日新聞)

木村容疑者はこの訴訟の準備書面で、岸田政権が銃撃事件で死亡した安倍晋三元首相の国葬実施を国会審議を経ずに閣議決定したことについて「民主主義への挑戦は許されるべきではない」と批判していたことも判明。安倍氏を「既存政治家」と呼び、「既存政治家が政治家であり続けられたのは、旧統一教会のようなカルト団体、組織票をもつ団体と癒着していたからだ」と訴えていたことも分かった。…木村容疑者はこの1審判決を不服として大阪高裁に控訴。高裁に提出した書面でも「国にとって被選挙権を制限することで立候補が抑制されるから、政治家は国民の信任を経ずとも統一教会の組織票で当選し、利益を不当に独占し、国民に損害を与え続けている」と記述していた。捜査関係者によると、木村容疑者を巡っては現段階で宗教トラブルなどは確認されていない。和歌山県警も民事裁判について把握しているが、論理の飛躍などがあるため事件の動機との関連を慎重に捜査している。

岸田首相の選挙演説会場に爆発物が投げ込まれた事件を受け、G7サミットの開催を控えた広島市でも緊張が高まっています。会場に一般人を入れない国際会議の警備は、選挙活動と異なる点が多いものの、サミットでは各国首脳らが広範囲に移動することも予想され、沿道での警備が課題となります。首相襲撃事件も踏まえ、警察当局は警戒態勢を強化するとしています2016年5月にオバマ米大統領(当時)が広島を訪問した際も、沿道に人だかりができており、今回も大勢が集まる可能性が高く、警察当局は車列の通行時に多数の警察官を配置する予定ではあるものの、単独でテロ行為に及ぶ「ローン・オフェンダー(単独の攻撃者)」が群衆に紛れ込む恐れもあることから、ローン・オフェンダー型とみられる首相襲撃事件を受け、警察は各国首脳らが通る場所での不審物の探索や不審者への職務質問、手荷物検査を徹底するなど態勢を強化する方針だということです。今回のサミットは近年では珍しい都市部での開催で、駅や商業施設などの不特定多数が集まる「ソフトターゲット」を狙ったテロへの対策も必要となります。JR西日本は期間中、広島駅に人工知能(AI)を使って危険物や不審者を検知する防犯カメラを導入、警察はドローンを使った攻撃への対策として、特殊な妨害電波で操縦不能にする「ジャミングガン」も用意するとしています。サミットでは沿道などに多数の警察官を配置して「見せる警備」を徹底し、不審者にはためらわずに声をかけることが重要で、訪日外国人が増える中、観光客を装ったテロリストの入国を想定した警戒も求められています

一方、サミットを狙う過激派の動きにも注意を払う必要があります。今回の首相襲撃事件で使われたパイプ爆弾はかつて過激派が闘争で多く使用されました。ほかにもサミット会場などを狙い飛翔弾を発射する事件を起こしてきました。報道によれば、G7広島サミットでも「粉砕」を掲げる過激派に対し、警察当局は「ローン・オフェンダーだけでなく、国内過激派も脅威」(幹部)と警戒を強めているといいます。警視庁公安部は2023年4月、過激派「革労協主流派」の非公然活動家の摘発に乗り出しています。警察への提出書類に偽名を記したとして、有印私文書偽造・同行使の疑いで同派非公然活動家の男を逮捕、居住していた非公然アジトや同派の拠点「現代社」など関係先数カ所を家宅捜索しています。報道によれば、革労協主流派は機関紙で「広島サミット粉砕」を主張していましたが、革労協が主流派と反主流派に分裂した1999年以降、主流派の非公然拠点の摘発は全国で初めてだということです。5月にも、成田空港の土地明け渡しを巡る強制執行の際、警察官に暴行を加えたなどとして、警視庁公安部は、過激派・中核派の幹部ら男2人を公務執行妨害と窃盗容疑で逮捕しています。なお、革労協は非公然活動家を「革命軍」として組織化、主流派は成田空港建設をめぐる「成田闘争」で、空港に飛翔弾を発射、反主流派は在日米軍の再編問題や自衛隊の海外派遣など反戦闘争を繰り広げ、陸上自衛隊大宮駐屯地に飛翔弾を発射するなどのテロやゲリラ事件を起こしたとされます。さらに、革労協だけでなく中核派など国内の過激派は「広島サミット粉砕」を活動方針に掲げ、反対運動を展開しています。「大規模な国際会議は主張や存在をアピールする格好の機会」(公安当局)として、過去のサミットも過激派によるテロやゲリラの標的となってきた経緯があります。ただ、警察当局による徹底した摘発や、内部抗争などによる疲弊から、国内過激派によるテロやゲリラは大きく減少、革労協の規模は、主流派、反主流派含めて約400人程度だといいます。その一方で、過激派のゲリラ以外にも、近年は、国家レベルでの関与も疑われるサイバー攻撃や、組織に属さないローン・オフェンダーなど新たな治安の脅威も出現し、対応を迫られていますが、こうした状況でも、警察当局は過激派などの既存の脅威への警戒を今後も弱めることはないとしています。

次に、アフガニスタン(アフガン)情勢、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)等の動向について、最近の報道からいくつか紹介します。

  • 米国家安全保障会議のカービー戦略広報担当調整官は、イスラム主義勢力タリバンがISの指導者を殺害したと明らかにしています。アフガニスタンから米軍が撤退する直前に起きた爆破テロの首謀者だといいます。爆破テロは2021年8月26日にカブールの国際空港付近で起き、アフガニスタンの市民約170人と米軍兵士13人が死亡、ISの支部組織が犯行声明を出していました。カービー氏は死亡したIS指導者の氏名など詳細は明かしていませんが、爆破テロを計画した中心人物だと説明、タリバンの作戦によるもので、米軍は関わっていないということです。
  • トルコのエルドアン大統領は、ISのアブ・フセイン・アル・クライシ指導者をトルコの国家情報機構(MIT)がシリアで殺害したと発表しています。エルドアン氏は放送局TRTのインタビューで「この人物(IS指導者)は無力化された」と語りました。エルドアン氏は、トルコ情報機関が長期間にわたって追っていたと明らかにしています。ISは指導者だったアブ・ハサン・アル・ハシミ・アル・クライシ氏がシリア南部で殺害されたのを受け、2022年11月にアブ・フセイン・アル・クライシ氏を指導者に選んでいました(偽名で素性は不明)。ISは2014年に当時のアブバクル・バグダディ指導者がイラクとシリアの広大な地域を支配したと宣言、しかし、シリアとイラクでの米軍支援部隊や、イランやロシアが支援するシリア軍などの掃討作戦後に主導権を失っています。ISは相次ぐ指導者の死亡もあって組織自体は弱体化していますが、戦闘員はイラクやシリア、アフリカでテロを繰り返すなど、現在も脅威は排除されていない状況です。
  • 米中央軍は、イラクとシリアで4月にISに対する作戦を計35回実施し13人を殺害、28人を拘束したと発表しています。国際テロ組織アルカイダの流れをくむISは2017年末までに両国で支配地をほぼ全て失いましたが、前述のとおり残存勢力が活動を続けています。米中央軍は声明で「引き続きISの復活を防ぐ」としています。
  • アフガニスタンで2022年、生活に必要最低限の収入を下回る水準で暮らす貧困層が約3400万人に上ったことが、国連開発計画(UNDP)の報告書で分かりました。国民のおよそ85%に当たるといいます。2020年のデータでは、貧困層は約1900万人、2021年8月にイスラム主義組織タリバンが政権を奪取して以降、約1.8倍に増えたことになります。
  • 国連のグテレス事務総長は、国連機関をアフガニスタンから撤収させず、引き続き支援を続ける方針を示しています。アフガンのイスラム主義組織タリバン暫定政権は2023年4月、国内で働く国連女性職員の出勤停止を命令、国連は支援活動の見直しを迫られています。グテレス氏は、国連機関は過去数十年、アフガンで活動してきたと強調、「(支援を)提供し続けるため、必要な条件を模索していくと決意している」と述べています。アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンの対外政治事務所トップ、ソヘイル・シャヒーン氏は、タリバン暫定政権が重視する治安対策が「うまくいっている」とし、次の焦点は「女性の教育の問題」と言明したとのことです。政権は小学校以外の女子教育を停止、国際社会は女性抑圧と批判していますが、同氏は教育再開に意欲を示し、約2年前の政権掌握以来進まない国際承認を求めています。女子教育再開の時期は示されませんでした。ただ、タリバンの強硬派が反対しており、実現性は不透明だといえます。アフガニスタンで3月下旬、高校や大学の新学期が始まりましたが、イスラム主義組織タリバンが政権を掌握して以降は女性の教育機会が制限され、国連アフガニスタン支援団(UNAMA)によると、新学期に登校できない女子学生や生徒は100万人を超えているようです。さらに、女性の就労が禁止される動きも広がっており、経済損失が拡大しています。女子の間では教育機関が提供するオンライン授業を受ける動きも広がっていますが、通信環境が整わず、思うように授業が進まないケースが多いといいます。また、国際労働機関(ILO)によると、タリバンが実権を掌握後、女性の就業者数が25%減少(男性就業者数の減少は7%)したといいます。女性が教育を受けられない状態が続けば、就労機会を失うことにつながり、経済への影響は長期に及ぶことになります。イスラム圏の同国では業種によっては伝統的に女性が労働力の中核を担ってきた分野も多く、産婦人科をはじめとする医療など、女性の力なしでは成り立たない分野があるといいます。
  • アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権に対抗する「国民抵抗戦線」(NRF)などは、オーストリアのウィーンで開いた会合で「武装抵抗を含め、あらゆる闘争を支持する」との宣言を採択しています。2022年9月の初会合では交渉による問題解決を強調していましたが、暫定政権が女性抑圧を強めたため対立を鮮明化させる形となりました。宣言は、2022年の会合以降も暫定政権が抑圧的な政策を変更しなかったことを踏まえ、武装抵抗の支持を表明、政治的解決の重要性にも触れていますが「あらゆる闘争の拡大と強化に努める」とし、国際社会にその正当性を認めるよう迫っています。暫定政権に対抗するため「多様な政治的見解を反映した全国組織」の設立を最優先で目指すとも確認し、女子教育や就労の制限を「男女差別的な政策」と批判、国際刑事裁判所(ICC)に、人道に対する罪でタリバン指導者を訴追するよう求めています。
  • パキスタンを中国の秦剛国務委員兼外相が訪問し、首都イスラマバードでブット外相とアフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権のムッタキ外相と会談しています。中国側は投資や経済協力を通じて地域への影響力を拡大したい狙いがあるとみられますが、依然として不安定なアフガンの治安情勢が課題となっています。会談ではテロ対策や貿易などについて協議、3カ国の外相会談は2021年8月にタリバンが復権する前の旧民主政権時代に始まり、今回で5回目となります。パキスタン外務省報道官は協議後、「3国間の枠組みのもと、地域協力のための共通の課題への取り組みが推進されることを期待している」とツイートしています。中国政府はタリバン暫定政権を正式に承認していませんが、2022年3月に王毅国務委員兼外相(当時)がアフガンを訪問するなどタリバンと一定の関係を築いてきました。また、希少金属リチウムをはじめとするアフガンの地下資源開発に投資する意欲も見せています。一方、2022年末に武装勢力が首都カブールの中国系ホテルを襲撃するなど治安情勢は予断を許さない状況にあり、タリバンが女性の大学教育を停止するなど女性の権利の制限を巡っても懸念が高まっています。
  • パキスタンで暮らすアフガニスタン難民の苦境が深まっているといいます。2023年5月4日付読売新聞によれば、パキスタン政府が、長年の受け入れ負担や国内経済の低迷で難民支援が困難となっているためだといいます。イスラム主義勢力タリバンの迫害が待ち受ける故郷へ帰国を余儀なくされるケースも少なくないとされます。パキスタンは1979年のソ連のアフガン侵攻以降、長年にわたって難民を受け入れてきました。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、アフガン難民約207万人(2022年12月末現在)の63%にあたる約132万人がパキスタンで暮らしているといいます(イランの75万人を大きく上回っています)。しかし、パキスタン政府は、在留証明書類を持たない難民がとどまるのを2022年末以降、認めないと表明、40年以上の支援の負担に加え、国内経済の低迷や昨年の洪水被害が背景にあるとみられています。UNHCRの調査では、2023年1~3月に帰国したアフガン難民1369人の9割がパキスタンからで、パキスタンを離れた人の7割は、物価上昇や経済的困難などを理由に挙げたといいます。

米国の機密情報がSNS上に流出した問題が大きな影響を与えています。テロリスク対策においても、機密情報の管理は極めて重要な要素となります。今回の事件についての報道から、いくつか紹介します。

米機密流出で問われる情報管理態勢 ウクライナ侵攻への悪影響懸念(2023年4月14日付毎日新聞)

米国の機密資料がSNS上に流出した問題で、通信機器の保守を担当していた21歳の空軍州兵が逮捕された。米当局の情報管理のあり方が問われる一方、ロシアのウクライナ侵攻を巡る悪影響が懸念されている。…米紙WPによると、ゲーム好きの若者に人気のSNS「ディスコード」上での機密流出は2022年に始まった。テシェイラ容疑者とみられる男性が、銃や戦争ゲームの愛好者が集まるチャットグループ内に機密情報の投稿を繰り返した。ロシアのウクライナ侵攻や中国の偵察気球、北朝鮮の弾道ミサイルなどを巡る機密が含まれ、文書の画像だけで約300件が投稿された。動機に関しては、不正の内部告発や外国による工作などではなく、限られた仲間内での情報共有が目的だった可能性がある。新型コロナウイルスの流行期に利用者が増えたが、機密情報が投稿されたのは参加者が限定されたグループで、活動的なのは25人程度だった。参加者らは米紙NYTに「投稿者は友人に(世の中で)何が起きているのか知らせたかっただけだ」と証言した。しかし、10代の参加者が2月末にディスコードの別のグループに文書の画像を転載したことで事態は一変した。転載が繰り返され、情報が次々と拡散。投稿者は3月中旬に機密情報の投稿を中止。4月6日にディスコードの仲間とやり取りした際には、あわてた様子だったという。…国防総省のライダー報道官は13日の記者会見で、情報流出の把握が遅れたことについて「国防総省の情報収集活動は基本的に国際的なものだ」と釈明。国内での情報流出を調べる責任はFBIなど他機関にあるとの見解を示し、批判をかわそうとした。今回の事態を受けて、米政府内の情報管理のあり方も問われている。国防総省は機密情報へのアクセスを認証制にして、認証を付与する際には身元調査も行う。機密を扱う部屋には通信機器やカメラの持ち込みを禁止するなど、厳格な情報管理を行っている。テシェイラ容疑者は通信機器の保守業務に必要だとして機密へのアクセス権限を付与されていたと報じられているが、こうした運用の妥当性も含めて、国防総省は情報管理態勢を見直す方針だ。…流出した情報の中には、米国がロシア軍の動向を把握するために用いている衛星画像の種類、米中央情報局(CIA)による情報提供者の勧誘手法、ウクライナで活動する米欧の特殊部隊の規模に関する記載があるほか、米国が収集したロシア政府・軍の内部情報もあり、ロシアが米国のスパイ対策に利用する可能性がある。一方、今回の機密流出では、米国が同盟国や友好国に対しても広範なスパイ活動を続けていることが改めて浮き彫りになった。…米国は情報流出が明らかになった直後から、ウクライナや韓国と閣僚レベルで協議するなど、影響を抑えようと躍起になっている。米国は過去にもドイツのメルケル前首相の盗聴など同盟国へのスパイ活動が発覚したことがあり、敵味方を問わない情報収集は「公然の秘密」となっている面もある。しかし、中国やロシアに「手の内」をさらし、同盟・友好国の不信感を招いたことに変わりはなく、バイデン政権にとっては打撃となった

米機密文書流出経路を追う(2023年4月21日付日本経済新聞)

米国と同盟国を揺るがしている米国防総省の機密文書流出。これまでの米メディアの報道によると、ゲーム愛好家向けSNSに流れたことが発端となり、いまもネットの世界で情報は拡散を続けている。米当局は問題に関与したとして、東部マサチューセッツ州の空軍州兵に所属する男を逮捕・起訴した。…機密文書は当初、このディスコード上のグループ内だけでやりとりしていた。しかしメンバーだった別の人物が他のチャットグループに文書画像を転載し、雪だるま式に情報が広がっていく。…米国のネット掲示板「4chan」にも機密文書が流れたとされる。日経新聞が調べたところ、報道の直前の5日には、ディスコードで流出したとされるのと同じ文書画像が掲載してあった。…ネットの世界で情報が一度拡散してしまえば、それを一掃するのは容易ではない。投稿内容が事実であれば、米国や米同盟国への影響も大きい。米国がイスラエルや韓国に情報活動をしかけていた実態も指摘されている。…技術系軍人がセキュリティ情報のアクセス権を持つことは避けられないが、情報管理の難しさが浮かび上がった。一方で、このクラスの兵士でもアクセスできたことは、他でも機密が流出している可能性が十分にある。流出の経緯は非常に稚拙で、そのため偽情報だと疑う人も多いだろう。ロシアなどが加工して、フェイクを交えた情報戦に利用するかもしれない。ネット社会では人々は自分が見たいものしか見ない傾向が強い。偽情報でもどんどん広がり、繰り返し流布される中で、真実だと思い込まれてしまう可能性もある。そういった危うさも今回の事件で浮き彫りになった。

その他、テロリスクを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 米テキサス州アレンのアウトレットモールで8人が死亡し、7人が負傷した銃乱射事件で、捜査当局は、犠牲者は3歳から37歳までの男女4人ずつで、3歳児と小学生2人の3人の子どもが含まれていたことを明らかにしています。また、米CBSによると、容疑者は米軍所属の経歴があり、最近は警備員として働いていたとみられています。さらに、捜査関係者の話として、極右思想の影響を受けた可能性があると報じられています。容疑者が着ていた服のワッペンに「ネオナチ」などの間で知られる「RWDS」の文字があったといいます。
  • チュニジアの南部ジェルバ島にあるシナゴーグ(ユダヤ教の礼拝所)近くで、男が銃を乱射し、これまでに4人が死亡し、9人がけがをしました。チュニジア内務省によると、発砲した男は海軍の警備隊員で、同僚の警備隊員2人と、フランス人とチュニジア人の民間人2人が死亡したほか、9人が負傷し、男はその場で射殺されたといい、動機は捜査中だということです。なお、この礼拝所はアフリカ最古のシナゴーグで、毎年この時期、島には巡礼のため世界中から数千人が訪れるといい、2002年にも、同じ礼拝所に爆弾を搭載したトラックが突っ込み、ドイツ人観光客ら21人が死亡する自爆テロ事件が起きています。
  • テロ・紛争地域でテロリストの復帰支援をしている日本人がいます。

(5)犯罪インフラを巡る動向

増え続ける空き家が暴力団など反社会的勢力の資金獲得活動に悪用されるのを防ぐため、福岡県警は、福岡県宅地建物取引業協会(宅建協会)と暴力団排除協定を結びました。宅建協会は県内の不動産業者の8割超が加入しており、不審な情報の速やかな通報を促すとしています。報道によれば、近年、特殊詐欺や薬物事件の発覚を免れるため、空き家や空き部屋が詐取金や違法薬物の配送先として悪用される事件が全国で多発しているといいます。協定は、空き家への見慣れない人の出入りなど不審情報の速やかな通報を意識付けてもらうことなどが狙いで、県警は、協会の研修会に講師を派遣するなど最新の犯罪情勢について情報提供するとしています。関連して、空き部屋に現金を送らせる手口で、高齢女性から200万円をだまし取った疑いで暴力団幹部の男ら2人が逮捕されています。暴力団幹部と組員は2022年9月、当時66歳の女性に嘘の電話をかけ、現金200万円を都内のマンションの空き部屋に送らせ、だまし取った疑いが持たれています。報道によれば、暴力団幹部が指示役で、組員は空き部屋に送付された現金を受け取る「受け子」から回収する役割を担っていたとされ、このグループはこれまでに4人が逮捕されていて、警視庁はだまし取った金が暴力団に流れたとみて調べているとのことです。

休眠宗教法人が売買され不正や犯罪の温床になっている実態について、筆者は数年前から警鐘を鳴らしてきましたが、何ら取組みがなされず忸怩たる思いでいました。国内には約18万の宗教法人があり、2021年末時点で不活動宗教法人は3348ありますが、同年解散命令請求に至ったのはわずか6件と、自治体による管理が機能不全に陥っていました。また、宗教法人法に売買を禁じる規定はないものの、文化庁は宗教活動以外の目的で法人経営に関与すれば現行法の趣旨に悖るとし、法人売買を「脱法行為」と位置づけていますが、宗教法人を悪用した脱税やマネー・ローンダリングなどを狙う暴力団や中国人投資家などが半ば公然と蠢いている状況は異常としかいいようがありません。2023年に入り国会で追及された文化庁が3月末、(本コラムでも紹介したとおり)都道府県に対し不活動宗教法人を判断する基準を示し、今後風向きが変わる可能性があり、期待したいと思います。以下、宗教法人の問題について産経新聞が特集していましたので、前回の本コラムに続き、それらを抜粋して引用します。また、旧統一教会やエホバの証人の問題も社会的に大きな関心事であり、最近の動向について、あわせて紹介します。

宗教法人、億単位取引も…蠢く「合法」仲介ビジネス(2023年5月3日付産経新聞)

「後継者不在の寺が売りに出されていますよ。法人格と本堂、敷地込みで1億8千万円」事務所で来客と向かい合う男性は、宗教法人の売買仲介を手がける河村哲郎氏(63)=仮名。まるで不動産営業マンのように、宗教法人を購入するよう持ち掛ける。河村氏のようないわゆる「ブローカー」のもとを訪れるのは、何も宗教関係者に限らない。資産家や実業家、暴力団関係者に至るまで素性は多岐にわたる。宗教法人を手に入れれば、宗教活動で得た収入や礼拝施設には課税されないなど税の優遇措置が受けられる。収入が一定額を超えなければ、収支報告も不要だ。事務所を訪れる者の中には制度の悪用を目論み、「『マネー・ローンダリングのために宗教法人がほしい』と平然と語る客もいる」。買収した宗教法人に多額の「お布施」を納めることで相続税の”節税”を図ろうと、町工場をグローバル企業に育てた経営トップの関係者が姿を見せたこともあった。建設業者が事業で得た数千万円の裏金を隠そうと、相談に来るような話は枚挙にいとまがない。宗教法人法に売買を禁じる規定はないが、文化庁は宗教活動以外の目的で法人経営に関与すれば現行法の趣旨にもとるとし、法人売買を「脱法行為」と位置づける。…法人買収のメリットを説明する部分には、税務署対策を強調するような文言が並ぶ。宗教法人法などによると、確かに収益事業をしておらず、宗教活動上の年収が8千万円以下であれば帳簿の作成義務はない。宗教法人は、そもそも宗教活動による収入に課税されず、税務調査の対象になりにくいようだ。ある国税OBは「お守りをいくら授与しようが、お布施がいくら入ろうが、宗教活動の名目さえあれば収入に課税できない。調査対象は基本的に、駐車場経営など宗教活動と別の事業をしている法人に限られる」と明かす。こうしたメリットに目を付け、宗教法人を悪用した脱税やマネー・ローンダリングなどを狙う一味が、ブローカーと商談を進める。投資家とみられる中国人グループが、買収に興味を示して連絡してきたこともあった。…非合法活動で得た「アングラマネー」を扱う暴力団にとっても税が優遇され、帳簿作成も不要な宗教法人は使い勝手がいい。関西で霊園経営にも携わる宗教法人ブローカーの西山春志氏(59)=仮名=のもとにも、時に暴力団関係者が相談に訪れる。「指定暴力団の元幹部がある寺の法人格と不動産を得ようとしたこともあった」。宗教法人を所管する都道府県側は人員不足で、常に監視の目を光らせるような余裕はない。ある県の担当者は「法人が暴力団に乗っ取られたとしても、解明はほぼ不可能だ」とこぼす。そもそも暴力団関係者が直接、法人の役員に名を連ねることは極めてまれだ。西山氏は「普通は(暴力団は)別の人物を代表役員に据えて裏で法人を支配する」とし、暴力団の尻尾を捕まえるだけでも実に至難の業だと打ち明ける。…単立法人の中でも狙われやすいのが、後継者不在や信者離れで休眠状態に陥り、世間による監視の目が緩い法人。活動実績のない法人は解散命令請求の対象となる「不活動宗教法人」に認定されるが、全国3千超の不活動法人のうち、令和3年に解散命令請求に至ったのはわずか6件だった。休眠状態の法人が売買されると不正や犯罪の温床になるのに、整理されず放置されているとして、2月の国会で政府が追及された。

休眠法人解散へ予算70倍超 文化庁、地方の人手不足緩和狙う(2023年5月3日付産経新聞)

脱税やマネー・ローンダリングといった犯罪の温床になり得る休眠状態の宗教法人を速やかに解散するため、文化庁が令和5年度、「不活動宗教法人対策推進事業費」として前年度比70倍超の約4億4千万円を予算計上したことが3日、分かった。法人調査や解散手続きなどを担う都道府県の宗教担当部局では多くが人手不足に陥っており、非常勤職員の人件費を国が一部負担することで解消を目指す。文化庁は3月末、休眠状態にある法人が売買などを通じて悪用されるのを防ぐため、整理を加速させる方針を決定。一切連絡が付かない法人などを直ちに「不活動宗教法人」と認定し、加えて1年以上、宗教活動をしていないことなどが確認されれば、速やかに裁判所に解散命令を請求するよう都道府県側に通知した。…文化庁や都道府県は、こうした法人が犯罪の温床となると認識しつつも、煩雑な事務作業や法人側への調査などが壁となり、解散命令請求の件数は、令和3年までの10年間で計77件にとどまっていた。予算の拡充について、文化庁の担当者は「悪用が懸念される法人への対策は喫緊の課題。積極的に事業費を活用してもらいたい」と話している。

休眠宗教法人整理へ 文化庁が基準説明 都道府県担当者に(2023年4月26日付産経新聞)

会議冒頭、文化庁の合田哲雄次長が「不活動法人を放置すると、不当に法人格が取得され脱税やマネー・ローンダリングに悪用されるリスクがある。所轄庁で正確に把握し迅速に整理を行うべきだ」と述べた。会議では、通知前から対策を進めてきた大阪府が具体例を報告した。宗教法人は所在地などによって国か各都道府県が所轄する。文化庁によると、全国約18万の宗教法人のうち、不活動法人は令和3年12月末時点で3348法人だが、休眠状態の法人数は国の把握分を大幅に上回る可能性があるとされる。文化庁が通知した基準では、財産目録など提出が義務付けられている書類の提出を求める督促状が届かず、法人側と連絡が付かない▽書類未提出を理由に罰則(過料)の対象となったのに翌年も書類の提出がない―といった場合、直ちに不活動法人と判断するよう明記していた。

宗教法人は「節税できて絶対得だ」 利益目的の脱法売買が横行(2023年5月6日付毎日新聞)

節税の一つとして宗教法人を取得することをお考えください―。本来、営利を目的としないはずの宗教法人が、インターネット上では「税制優遇」をうたい文句に、公然と売り買いされている。脱法的な売買が横行してしまう背景には、宗教法人に行政の目が行き届いていない実態がある。ネット上では、宗教法人の売買を呼びかける仲介サイトがいくつもある。「歴史あるお寺(宗教法人)譲ります」。個人間で不用品を売買できる情報サイトには1億2000万円で中部と関西地方にある二つの寺が売りに出されていた。「立派な本堂あり」「大きな土地有り」との説明書きもあった。出品者は「お寺の経営改善などのコンサルを行っています」とするが、取材を依頼すると「応じかねる」と拒否した。…仲介ビジネスをしている大阪市在住の男性(60代)は「多数のラブホテルを経営している宗教法人もある。事業をするなら、普通の会社を作るより宗教法人でやった方が絶対に得だ」と語る。宗教法人は、数千万円程度で売り買いされることが多く、仲介手数料として双方から売買額の数%程度をもらうなどしているという。だが、こうした取引に対し、文化庁宗務課は「利益目的の宗教法人売買は認められていない。脱法行為だ」との見解を示している。一方、この男性は「バレないようにやっている」。売却された宗教法人の登記から前代表の名が急に消えると、宗教法人を所轄している文化庁や都道府県に「売買」と気づかれる可能性があるため、しばらくは法人役員に残すなどしカムフラージュしているという。…僧侶でジャーナリストの鵜飼秀徳さんによると、宗教法人の売買は、地方都市の人口減少とともに近年目立ち始め、売りに出される法人は、代表者や信者が高齢化して活動が維持できなかったり、代表者不在でペーパー法人になっていたりするケースがある。…「売買はあちこちであり、所轄庁の担当者が見抜くのは簡単ではないと思う」

法人買収「即席僧」派遣 葬儀会社主導の宗教ビジネス(2023年5月4日付産経新聞)

東京近郊の葬儀会社の一室に低い声が滔々と響く。「ハンニャーハーラーミーターシンギョウ…」。カセットテープに録音された般若心経を聞きながら、読経の練習に励む男性たちの姿があった。彼らの多くは、葬儀会社の広告に応募して1週間ほど”修行”しただけの「即席僧侶」。大手宗派が認める僧侶の資格はない。葬儀会社が実質支配し、どこの宗派にも属さない「単立宗教法人」の認定僧侶として、各地の葬儀などに派遣される。最初は先輩僧侶について回るが、じきに一人で読経するようになる。依頼者に合わせ、大手宗派のさまざまな名刺を用意する。葬儀が終われば依頼者からお布施を受け取り、そそくさと現場を立ち去る。「ボロを出すな」と葬儀会社から厳命されているからだ。「彼ら『えせ僧侶』の頭にあるのはいかにお金を楽に稼ぐか。一般人にお経の違いは分からないと高をくくっている」。…「(お布施の残りは)紹介手数料として宗教法人に中抜きされていた」と証言する。これに対し、葬儀会社は「中抜きなんて聞いたことがない。あくまで宗教法人が決まった給料を僧侶に支払っただけだ」と真っ向否定する。…加藤さんが一部の僧侶派遣サービスで感じたのは、国民の宗教離れ、僧侶たちの苦境、そして売買された宗教法人などを利用した「ビジネスありき」の姿勢だ。…「全ては金もうけのためだった。そこには宗教心も信仰心も何もない」

「不備だらけのザル法」「国は休眠問題の解決策を」 識者2人に聞く(2023年5月12日付産経新聞)

寺院や神社、教会など全国で約118万にのぼる宗教法人。時代とともに宗教との距離感は変わり、檀家離れや後継者不足などから休眠状態に陥るケースは少なくない。休眠法人は脱税や資産隠しなどの温床にもなりうる一方で、ブローカーを通じた法人格の売買が横行する。そうした社会で宗教法人法をはじめとした宗教法制はどうあるべきなのか。…解散命令請求が取り沙汰される旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の問題のように、いわゆるカルト宗教は貧困問題や児童虐待問題を生み出している。なのに宗教法人法で法人格を認定されれば、税制上の優遇措置を等しく受けられる状況は完全に不公平で、国民の理解を得られない。宗教法人法を巡っては、会社更生法のように財産の仮押さえなどができる「保全処分」の規定がないことも明らかな不備だ。法人の代表役員の欠格事由に暴力団の排除規定もなく、反社会的勢力が入り込めてしまう。まさにザル法としか言いようがない。全国約18万の宗教法人を担当する所轄庁(国と都道府県)には、各法人の活動実態を見極める能力も時間も人員もない。しかも、宗教法人法上の建前では、所轄庁は認証が主な役割で、法人調査の権限がほぼないのが実態だ。…職員1~2人で宗教団体を相手にする。ましてや暴力団が絡むような「えせ宗教団体」には、職員も怖くて対応できないだろう。…宗教法人の課題を議論する際、よくやり玉に挙げられるのが税優遇だ。宗教法人法ではなく、あくまで公益法人税制の問題だが、全国約18万の宗教法人の半分以上が、年収500万円以下とされる。宗教離れの加速で食べていけない寺が増えており、税優遇がなければ成り立たない。税制上、「公益法人等」に含まれる宗教法人は高い倫理性が求められている。経営に苦しむ寺には酷な面もあるが、宗教者として襟を正さなければ世間の理解は得られない。…近年、地方で食べていけない寺の僧侶が都心部に出て、僧侶派遣サービスに雇ってもらう形が増えている。そんな寺が休眠状態に陥り、「不活動宗教法人」になるが、解散手続きを済ますのは大変だ。他の法人に吸収合併してもらおうにも檀家の抵抗感が強い。県境をまたぐ合併となれば吸収側の負担も大きく、一筋縄では解決できない。…休眠法人問題の背景には少子高齢化があるなど、宗教法人法ができた昭和26年には想定されていなかった課題が噴出している。現行法の運用を徹底させようにも、地方自治体に十分な予算はなく、休眠法人の実態調査をする人員も足りない。国は問題を先送りせず、自ら責任を持って解決策を見いだすべきだ。

「輸血しないで」瀕死の18歳が懇願 信仰と救命、医療現場の苦悩(2023年5月5日付毎日新聞)

エホバの輸血拒否が国内で注目されたのは85年だ。川崎市で小学5年の男児がダンプカーにはねられ重傷を負った。信者の両親が輸血を拒み、男児は失血死。医師の裁量権や信仰の自由を巡って議論が起きた。一方、2000年には患者の意思決定を重視する司法判断が出た。60代の女性信者が無断で輸血されたとして病院側に賠償を求めた訴訟で、最高裁は55万円の賠償を命じた東京高裁判決を支持。「輸血拒否の明確な意思を有している場合、人格権として尊重しなければならない」と判示した。子どもへの対応は各病院の判断に委ねられてきたが、日本輸血・細胞治療学会などが08年にガイドラインを公表。15歳未満の場合、親が輸血拒否しても児童相談所への通告などを経て輸血すると定めた。…厚生労働省は、子どもに輸血を含む医療を受けさせないことを「虐待」としているが、教団は「医師から勧められた1種類の治療に同意しないだけで、その親が育児放棄していると見なすべきでしょうか」と疑義を示している。…活用が進むのが「親権停止」の制度だ。親権停止は子どもを虐待から守るために親と一時的に引き離す制度

虐待容認せずと信者に周知 エホバの証人、国へ報告(2023年5月11日付産経新聞)

宗教団体「エホバの証人」は11日、こども家庭庁に、教団として児童虐待を容認していないことを信者に周知した、と報告したと明らかにした。教義に基づく輸血拒否や、むち打ち行為などがあるとの指摘があるのを受け厚生労働省が3月、教団の考えを信者に伝えるよう要請していた。双方の担当者は10日に面会。教団は周知内容を説明し、輸血に関して「どんな治療を受けるかは一人一人が自分で決めるべきこと。誰かから強制されたり、圧力をかけられたりして決めることではない」とした。脱会した元2世らが、親や親族から無視されるなどしていると訴えている点には「(脱会後も)親には引き続き子供を育てる責任がある。子供の保護や福祉に関する最新の法律を知っておくのは親の責任だ」とした。同庁担当者は「要請の趣旨を踏まえ、ご対応いただいた」としている。

新型コロナウイルス下で助成額を引き上げた「雇用調整助成金(雇調金)」の特例措置を巡り、厚生労働省は、2023年3月末までに累計1524件の不正受給があったと明らかにしています。不正受給の総額は計256億5000万円に上り、回収できたのは173億円にとどまっているといいます。特例措置は3月末に終了しましたが、回収や不正受給の取り締まりは続けるとしています。雇調金は、企業が従業員を休ませた時に支払われる助成金。コロナ下の雇用を下支えするため、迅速に支給しようと申請手続きを簡素化したところ、不正受給が相次いだものです。特例措置の支給総額は3月末時点で約6兆3507億円に膨れあがり、雇用保険財政の悪化を招きました。厚労省は2023年度、特例措置の効果を検証するため、独立行政法人「労働政策研究・研修機構」に分析を依頼し、労働政策審議会で議論することとしています。これだけ多くの事業者が不正に手を染めている実態は大変残念ですが、2023年4月18日付毎日新聞の記事「コロナ助成金でタワマン、新車…役人が告発するグレーな手口」を読むと、むしろ怒りが湧いてきます。以下、抜粋して引用します。

雇用調整助成金(雇調金)の受給後にタワーマンションに引っ越したり、数千万円を持ち逃げしたりした経営者がいる―。コロナ下で雇用維持のため特例措置を拡大した雇調金について、各地の労働局を取材すると職員からこんな訴えが寄せられた。雇用保険を原資とする雇調金を使った「錬金術」の巧妙な手口が明らかになる一方、不正を追う労働局の限界も見えてきた。…まず、コロナ下で休業して雇調金を受け取るのは他の企業と同様だが、新たに従業員を雇う。雇調金を受け取るにはコロナ前と比べて売り上げが3割以上減少した企業が対象だ。事業が縮小しているはずなので、新たな働き手の確保は通常必要ない。新たに雇っても働かせず、すぐに休業させる。雇調金は休業した従業員に支払う休業手当を補填する助成金で、1人当たりの日額上限はこれまでの約8000円からコロナ下で1万5000円に引き上げられた。…20人を雇用し、所定労働日数の20日で全員を全休にした場合、休業手当は月に240万円に上る。助成総額の520万円から休業手当を差し引いても企業の利益は280万円残る計算だ。コロナ前は雇用開始から6カ月以上経過しないと助成の対象にならなかったが、コロナによる特例でこの要件が撤廃された。特例の盲点を突いた形で、経営者の親族らが従業員として新たに雇われるケースが多く、別のケースでは親族のみを全休扱いにして助成金を丸々生活費に充てているケースもあったという。職員は「申請書に記載されている住所がその後、タワマンに変更されていたり、自宅を見に行ったら新車が購入されていたりした。コロナ下で経営が厳しく、雇用維持のために雇調金を受給しているのに資産が増えていることに怒りを覚える」と憤りを隠さない。他にもグループ企業間で助成額が高い企業に労働者を転籍させ、差額を多く得ようとする事例も見受けられた。この職員は「このような手口を何十人、何カ月と続けていれば、休業していても月に数百万円もの利益が出る。違法とは言えないが、雇調金の雇用を維持するという趣旨に明らかに反したやり方だ」と怒りをあらわにする。コロナ下で申請が殺到していた事情が「不正」の温床になっていた可能性もある。関東圏の労働局に勤める職員は「申請が殺到していた時期は、多数いる従業員のうち1人分だけのシフトをみて問題なければ支給を決定していた」と明かす。

他人のスマホの番号を乗っ取り、ネットバンキングで資金を引き出す「SIMスワップ」といわれる手口が横行しています。背景には、フィッシング詐欺等による個人情報等の流出、偽造免許証の悪用とセットの本人確認が十分ではないSIMカードの再発行手続き、生体認証を利用しないセキュリティの甘さなどの脆弱性が突かれており、「闇バイト」による犯行であるものもあり、犯罪インフラとして極めて悪質なものであり、対策が急務な状況といえます。本件に関する報道から、いくつか紹介します。

「SIMスワップ」知らぬ間にネット送金 本人認証を突破(2023年5月12日付日本経済新聞)

他人のスマートフォンの番号を乗っ取り、ネットバンキングで資金を抜き出す犯罪が目立ってきた。契約者になりすまして再発行したSIMカードを使って不正送金する「SIMスワップ」という手口だ。ネットバンキングで一般的な本人確認の認証も突破され、新たな脅威となる恐れがある。抑止に向けては個人情報を盗み出す「フィッシング」への警戒と、より強力な認証の活用がカギになる。…SIMスワップによる不正送金の流れは主に3段階ある。犯罪グループはまず、標的とする人物の氏名やネットバンキングのID、パスワードを入手する。偽サイトへ誘導して個人情報を入力させ、盗み取るフィッシングなどにより収集するとみられる。次に被害者名義の運転免許証を偽造するなどし、携帯電話販売店を訪れる。本人になりすまし「スマホを紛失した」などとうそをいい、被害者本人のSIMカードの契約を解除。新しくカードを再発行させ、犯罪者側のスマホに入れて携帯番号を乗っ取る。最後はネットバンキングだ。多くの銀行ではログインや送金時に口座のアカウントのIDやパスワードだけでなく、登録した利用者宛てに音声やメッセージで送る「ワンタイムパスワード」の入力を求める。利用を電話の持ち主に限定する狙いがあるが、犯罪者側のスマホは被害者本人の番号で使えるため、ワンタイムパスワードを把握して入力できる。こうした手法で2要素認証を突破し、不正送金を繰り返しているとみられる。…口座数が1300万を超えるネット専業銀行があるなど普及が進む一方、犯罪に悪用されるケースも増えている。監視団体のフィッシング対策協議会によると、22年に報告されたフィッシング件数は約97万件と過去最多だった。金融機関をかたる偽サイトが目立つ。22年のネットバンキングの不正送金被害は約15億1950万円と3年ぶりに増えた。被害額にはSIMスワップによるものも含まれているとみられる。…被害を拡大させないためには、フィッシングによる個人情報の窃取と、ネットバンキングの認証の突破の両方を防ぐ必要がある。…ネットバンキングの認証方法の強化も効果がある。多くの金融機関は指紋や顔で本人確認する生体認証を採用する。生体認証であればSIMスワップで番号を乗っ取られても、犯罪者側はネットバンキングに不正ログインできないとみられる。…「利用者はSIMスワップも想定し、生体認証など強固な方法を選ぶべきだ。携帯電話販売店の本人確認強化も重要になる」

スマホ不通、なぜか解約…SIMスワップ被害の実態(2023年5月11日付産経新聞)

数時間のうちにスマートフォンが使えなくなり、銀行口座も乗っ取られた男性は「携帯電話ショップは身分証の確認を徹底してほしい」と訴える。昨年7月のある日、会社でテレビ会議を終えたときだった。スマートフォンで電話をしようとしたが、つながらない。故障を疑い、携帯電話ショップに駆け込んだ。店員にスマホの確認を依頼し、しばらくすると店員が戻り、こう告げた。「解約になっているようです」。全く身に覚えがなく、耳を疑った。さらに調べてもらうと、男性が携帯ショップを訪れる約4時間前に、60キロ以上離れた京都府長岡京市の店舗で、男性の名前を名乗った男が、「番号持ち運び制度」(MNP)を利用してスマホの乗り換え手続きを行っていたことが判明した。男性は心配になり、ネットバンキングの口座を確認しようとしたが、既にパスワードなどが変更され、ログインできない状態に。金融機関に連絡を取って事情を説明すると、すでに500万円が他人の口座に、495万円が暗号資産のビットコインの購入に不正利用されていたことも分かった。金融機関側も突然の計1千万円の出金を不審に思い、男性の携帯電話の番号に連絡したが、既に電話は男にかかる状態だった。…男は京都の携帯ショップで、男性の氏名や住所などが書かれた運転免許証を提示していた。男性は「私は当時60歳。40代の男が60歳を名乗ったら、おかしいと思うはずだ」と憤る。神戸の住所が記載された免許証を使い、京都で手続きできてしまったことにも不信感を抱く。警視庁によると、全国で相次ぐSIMスワップ事件では、携帯電話販売店が身分証の確認を怠り、必要事項を書類に記入させるだけで、なりすました側にSIMカードを再発行した事例もあるという。男性は「携帯ショップは、客の身分証が本物か、確認を徹底してほしい。住所と違う場所で手続きするなど、少しでも不審な点があれば、警戒してほしい」と訴えている。

携帯乗っ取る「SIMスワップ詐欺」 容疑で30歳逮捕、闇バイトか(2023年5月11日付毎日新聞)

他人の携帯電話番号を乗っ取り、インターネットバンキング口座から不正送金させたとして、警視庁サイバー犯罪対策課は11日、無職、大根田容疑者(30)を詐欺容疑などで逮捕したと発表した。他人の個人情報を使って携帯電話のSIMカードを再発行させて携帯電話を乗っ取り、不正送金に悪用する手口は「SIMスワップ詐欺」と呼ばれており、近年全国で増加している。逮捕容疑は、何者かと共謀し、2022年9月2日、東京都の40代女性の個人情報を利用して栃木県内の携帯電話販売店で女性名義のSIMカードをだまし取り、それを自分の携帯端末に差し込んで女性になりすましてインターネットバンキングにアクセス。女性名義の銀行口座から197万円を別の口座へ不正送金したとしている。警視庁は同様の手口などで22年7~10月に約9000万円を不正送金した疑いがあるとみて調べている。送金後、暗号資産口座に移された可能性もある。不正防止のために一定期間だけ設定される「ワンタイムパスワード」も、携帯電話を乗っ取っているため大根田容疑者は入手していた。被害女性の個人情報の入手ルートは判明していないが、SIMスワップ詐欺では、偽サイトに誘導して個人情報をだまし取る「フィッシング」を通じて入手するのが一般的という。大根田容疑者はSNS上で知り合った人物を通じてSIMスワップ詐欺に関与し始めたとみられ、警視庁は「闇バイト」の可能性があるとみている。

スマホ乗っ取る「SIMスワップ」詐欺か 他人装い出金容疑で女逮捕 警視庁(2023年5月11日付産経新聞)

SIMスワップは犯行時間の短さが特徴で、サイバー犯罪対策課によると、大根田容疑者がSIMカードを再発行してから、暗号資産のアカウントに送金するまで、わずか15分間だったという。調べに対し、大根田容疑者は容疑を認め「お金がなく、ネットで高収入の副業を探した」と供述。サイバー犯罪対策課は闇バイトに応募した大根田容疑者は、計約9千万円の不正送金に関与したとみており、指示役の割り出しも進める。

携帯電話を悪用した犯罪であることと関連して、本人確認手続きが十分に行われなかったとして、総務省から携帯電話不正利用防止法違反に係る是正命令等が出された事例を紹介します。

▼総務省 株式会社フェイスによる携帯電話不正利用防止法違反に係る是正命令等
  • 総務省は、携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律(平成17年法律第31号)に違反した株式会社フェイス(代表取締役 佐々木 勉、法人番号8013301039979、本社 大阪府大阪市中央区)に対し、法第15条第2項の規定により、違反の是正を命じました。
  • また、株式会社フェイスに対する監督義務を負うソフトバンク株式会社(代表取締役 社長執行役員 兼 CEO:宮川 潤一、法人番号9010401052465、本社 東京都港区)及びテレコムサービス株式会社(代表取締役 三谷 大貴、法人番号8013301018504、本社 東京都豊島区)に対し、媒介業者等に対する監督を徹底するよう指導しました。
  • 事案の概要及び措置の内容
    • 携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律(平成17年法律第31号。以下「法」といいます。)は、携帯電話が振り込め詐欺等の犯罪に不正に利用されることを防止するため、携帯電話の新規契約等の際に、契約者等の本人確認を行うことを義務付けています。
    • 株式会社フェイスは、令和4年5月3日から同年5月24日までの間、計3回線(個人名義)の携帯音声通信役務に係る回線契約の締結に際し、契約者の本人確認を法に規定する方法で行わず、法第6条第3項において読み替えて準用する法第3条第1項の規定に違反したものと認められます。
    • このため、総務省は、本日、法第15条第2項の規定により、同社に対して違反の是正を命じました。
    • また、総務省は、同日、株式会社フェイスに対する監督義務を負うソフトバンク株式会社及びテレコムサービス株式会社に対して、同社の代理店において法令違反が発生したことに鑑み、媒介業者等に対する監督を徹底するよう指導しました。
    • 総務省は、引き続き、法の厳正な執行に努めてまいります。

盗難に遭った高級車が茨城県西地域の倉庫に保管されていた事件で、県警や大阪府警などの合同捜査本部は、高級車盗を繰り返したなどとして、同県筑西市、会社役員の男ら20人を窃盗容疑などで逮捕、送検しています。車の制御システムを不正に操って解錠する「キャンインベーダー」と呼ばれる手口とみられ、被害は9府県で73件、約4億2900万円に上るといいます。報道によれば、グループは2021年9月下旬~2022年8月上旬、大阪府や岐阜県の住宅に駐車されていた「レクサス」や「ランドクルーザー」といった高級車64台を盗むなどした疑いがもたれており、車は筑西市や下妻市の倉庫4か所に運ばれ、解体後にアラブ首長国連邦(UAE)などの海外に輸出されたとみられています。合同捜査本部は2022年8月、大阪市内で盗まれた車を下妻市の倉庫に保管していたとして、県西地域に住む男5人を盗品等保管容疑で逮捕、倉庫が盗難車を解体する「違法ヤード」として使われていたとみて、余罪や共犯者について調べていたものです。本コラムでもたびたび登場する「キャンインベーダー」は、特殊な機器を使って車の動きを制御する車載ネットワーク「CAN」に侵入してドアロックを解除し、エンジンを起動させる手口で、犯罪インフラの典型的なものといえます。

リースバックと呼ばれるサービスが高齢者の財産を毀損する「犯罪インフラ」となっている恐れがあることが分かっています。本件について、2023年5月12日付産経新聞の記事「リースバック悪用、高齢者狙う 安く買い取り、高い賃料請求 自宅売却トラブル増」に詳しく報じられていますので、以下、抜粋して引用します。

自宅を売却後、買い主に賃料を支払うことで居住し続けることができる「リースバック」と呼ばれるサービスなどを巡り、高齢者の不動産売買トラブルが増えている。サービスを悪用し、不当に安い価格で買い取る手口などが横行。ただ、契約の取り消しを認めるクーリングオフの対象ではないため、被害者側は自宅などを手放すか、高額の違約金を支払って契約を解除するしかない。第二東京弁護士会(小川恵司会長)は被害事例の収集・分析を行い、被害防止に向けた立法措置の提言に乗り出す。国民生活センターによると、全国の消費生活センターに、60歳以上から寄せられた自宅売却トラブルの相談は平成30年以降、毎年600件以上に上る。中には約9時間居座られた末に署名・押印してしまったケースや、売却契約の翌日にキャンセルを申し出たところ、約900万円の違約金を求められたケースもあった。トラブル増加の背景の一つとなっているのが、リースバックの悪用だ。住み慣れた家を離れず老後の資金を確保できるとあって高齢者の利用が増えている取引だが、悪徳業者が、不動産売買の知識に乏しい高齢者を狙い、強引に契約を迫る事例が増えている。第二東京弁護士会消費者問題対策委員会によると、不当に安い価格で不動産を売却させられたり、利用者が払う賃料を市場価格よりも割高に設定されたりするトラブルも多い。…売買契約書の特記事項に賃料が小さく記載されているだけのものもあり、同委員会委員長の藤田裕弁護士は「賃料が必要だと知らずに契約してしまったケースもある」と話す。リースバックの場合、売却後も自宅に住み続けることができるため、長期間被害に気が付かない可能性もある。同委員会によると、被害を訴えたとしても、対象が高齢者であるため契約内容を把握することが難しいうえに、契約書自体には署名押印をしてしまっていることから、被害が拡大しているのが実情だ。

車検切れの車を検査場まで移動させるため、市町村が貸し出す臨時のナンバープレート「仮ナンバー」の4分の1が期限内に返却されていないことが、総務省近畿管区行政評価局の調査で明らかになったといいます。仮ナンバーは交通違反をしても身元特定に時間がかかるとして、一部で「神ナンバー」と呼ばれ、犯罪に悪用される懸念もあり、適切な管理が急務となっています。本来、期限後5日間以内に返納しなければならず、違反の場合は6カ月以下の懲役、または30万円以下の罰金が科されます。この仮ナンバーを巡り、近畿管区行政評価局が調査に乗り出したのは2022年、「他県の仮ナンバーを付けた車が駐車場に長時間止まっていて不安」「市役所から在庫がなく、仮ナンバーを貸し出せないといわれ困っている」といった行政相談が寄せられたのがきっかけでした。このため、仮ナンバーの返納状況について大阪、滋賀、和歌山の3府県から12市町を任意抽出して調査を実施したところ、2021年度に貸し出された仮ナンバー6276組について調べたところ、4分の1近い1518組が返納期限を超過していたことが判明、延滞分のうち874組をさらに詳しく調べたところ、9割近くは1カ月以内に返納されていたが、半年以上返納されないケースも計27件確認されたとのことです。実際、今回の調査では数十年前に失効した仮ナンバーが返納されず使い回されていたとみられる事例も発覚、仮ナンバーが未納のまま放置されれば、悪用のリスクはあると懸念されるところです。

人気映画の海賊版を見られるように利用者を誘導する「リーチサイト」を運営したなどとして、京都府警は、京都市山科区の無職の男を著作権法違反(公衆送信権の侵害)容疑で逮捕しています。男はサイトの広告収入で1000万円以上を得ていたといいます。報道によれば、男は2021年12月~2022年10月、「劇場版 呪術廻戦 0」などの映画の海賊版4本をネット上にアップロードし、自身が運営するリーチサイトにリンクを掲載して映画会社などの著作権を侵害した疑いがもたれており、リーチサイトには500万回以上のアクセスがあったといいます。閲覧回数に応じて広告主から報酬を得られる「アフィリエイト広告」の手法で収入を得ていたといいます。海賊版に関する情報を収集する「コンテンツ海外流通促進機構(CODA)」によると、2022年の日本コンテンツの海賊版被害額は2兆円前後に上り、2019年比で約5倍に増えているといいます。利用者の規範意識が低いことが背景にあり、CODAなどは近く、全国の中高生を対象に著作権への理解を深めるための「デジタルエチケット」と題した授業を展開する方針とのことです。また、近年、サイトの運営者は海外に移っており、現地当局が摘発する動きも出ています。報道で、「どんなに身を隠そうとしても、サイトには運営者の情報がいくつも埋もれている」と一般社団法人「日本ハッカー協会」の杉浦隆幸代表理事は強調、海賊版の対策を進めるうえで、運営者の特定は不可欠であるものの、運営者側は日本からの接続を遮断する「ジオブロッキング」や、ネット上の住所を次々と変える「ドメインホッピング」と呼ばれる手法を使い、ネットの闇に隠れており、捜し出すことは容易ではなく、CODAは「正義のハッカー」に協力を求めたものです。杉浦さんらは昨年、CODAから依頼を受け、特定作業を始め、現在、協会所属のハッカー5人が、公開情報を分析する「オシント」を駆使して、運営者に関わる情報を調べており、特定できる割合は8割に上るといいます。CODA側の告発により、中国の公安当局は2023年2月、日本アニメを配信する最大規模の海賊版サイト「B9GOOD」の運営者を摘発、同様の告発を受けたブラジル当局も2023年2月、「呪術廻戦」「僕のヒーローアカデミア」など日本アニメの海賊版サイト運営者を摘発し、36サイトが閉鎖されています。

スニーカーは、ものによっては希少性から高値で取引され、投資の対象にもなっていますが、その舞台となる2次流通(リセール、転売)市場では偽物の横行が課題となっているといいます。転売を仲介する米大手サイト「ストックX」は、この7年ほどの間に鑑定で7千万ドル(約94億円)以上の偽物を見つけたといいます。また、見分けが付きにくい精巧な偽物もはびこっています。偽物の流通は世界的な課題で、経済協力開発機構(OECD)などが2021年に公表した報告書は、2019年の世界の偽造品の貿易額は4640億ドル(約62兆円)に上ると推定しています。世界の貿易額の2.5%を占めています。靴が2割超で最多で、衣料品や革製品が続いています。また、スニーカー鑑定の難しさもあるといい、一つは偽物の精巧さで、スニーカーの偽物は最高ランクの「N級」を始め、S、A、Bなどに分けられ、N級は材料や形状にこだわり、正規品との見分けが難しいとされ、中には正規の工場から素材を仕入れてつくったとされる「クローン品」と呼ばれるものもあるようです。さらに鑑定を難しくするのが、本物の質にも「波」があることだといいます。

チケットの高額転売が後を絶たず、演劇も例外ではなく、人気の公演では、定価の数十倍で売られるものもあるといいます。福岡市の「博多座」は対策として、転売が疑われる座席番号を公表しています。一方、その先駆けとなった「帝国劇場」は公表を取りやめています。報道によれば、博多座が座席番号の公表に踏み切ったのは、2022年5月、舞台「千と千尋の神隠し」の公演で、発売とほぼ同時に完売していたチケットがネット上で複数、高額転売されているのをスタッフが確認、サイトに出ているチケットの座席番号から購入元を割り出して、高額転売されたと断定できた座席を貼り出したものです。それまでも人気の公演なのに、なぜか当日の座席が埋まらないことがしばしばあり、急用で来場できなくなった人以外に、高額で転売されて買い手がつかなかったことも考えられ、転売についての情報が寄せられることもあったといいます。一方、帝国劇場では公表をやめていますが、当時、転売チケットでの来場者に入場を断ると、「しょうがない」と諦める客がいた一方、「納得ができない」という客ともめるケースがあり、その対応に社員が消耗していったからだと述べています。フリマアプリ大手「メルカリ」では、不正な転売が疑われるチケットの出品について、スタッフやAI(人工知能)が監視、通報も受け付けており、違反が確認されれば、出品を削除するなどの対応をとっているといいます。それでも、販売サイトに並ぶ高額チケットは、座席の番号を「何番台」とぼかしたり、出品者の名義を「ファンクラブ」や「女性名義」といった記述にしたりと、転売側の身分が特定されないよう細工しているものが目立つといいます。

関西有数の高級住宅地で暮らす資産家の50代男性や親族ら数人が大阪国税局の税務調査を受け、2020年までの5年間で総額約52億円の申告漏れを指摘されたことが判明しています。タックスヘイブン(租税回避地)に設立された会社で多額の資産を管理し、運用益が過少に申告されていたことも判明、過少申告加算税を含めた追徴税額は計約18億円に上り、全額が納付されたといいます。株式など有価証券1億円以上を保有する国内居住者が海外の親族に贈与や相続をする場合、含み益に課税される。「国外転出時課税制度」と呼ばれ、贈与した人に所得税、資産を受け取った側には贈与税が課されることになります。株式の売却益に税金がかからないタックスヘイブンなどを通じた税逃れを防ぐ目的で2015年に導入され、男性らにはこのルールが適用されたとみられます。国税局は、法人税率の低い国や地域への所得移動による節税を防止する「タックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)」の対象にもなると判断、総額約52億円の申告漏れを確認し、所得税や贈与税を追徴課税したと考えられます。以前の本コラムでも取り上げましたが、国税庁は2018年から世界各国と金融機関の口座情報を自動的に交換する制度(CRS)に参加し、国内の個人や法人が海外で保有する口座の名義や残高の調査も進めています。そもそもは経済協力開発機構(OECD)が策定した基準に基づく制度で、現在は計152カ国・地域の税務当局が参加しています。国税庁によると、2022年6月までの1年間で、富裕層が所得税の申告漏れを認定された総額は839億円、441億円だったこの5年前に比べて倍増し、1件当たりの平均追徴税額も1067万円と約3倍になっているといいます。

中国製監視カメラを規制する動きが海外で広がっています。人権侵害への関与や安全保障上のリスクを理由に、米国をはじめ複数の国で、政府庁舎などで中国製監視カメラの使用を禁止する動きが相次いでいますが、日本政府が追随する動きは見られていません。一方、中国・新疆ウイグル自治区でウイグル族を取り締まる監視カメラに日本企業の部品が使用されている問題も浮上しており、政府内からも中国製監視カメラの日本国内での使用を疑問視する声が上がっているといいます。また、関連して、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は、中国の新疆ウイグル自治区で警察当局が大規模にウイグル族らの携帯電話を監視していたとする報告を公表しています。「暴力とテロリズム」に関わるファイルを保存していないか、監視アプリを通じ秘密裏に調べていたといいます。HRWは、当局が収集していたとみられるデータを入手し分析、当局が区都ウルムチで2017~18年の約9カ月間、約120万台の携帯電話を対象に、保存されていた情報約1100万件を収集していたと指摘、うち一部を解析したところ、イスラム教の聖典コーランの朗読など宗教的内容のファイルが大半だったといいます。

サイバー攻撃は、自らが「被害者」であると同時に、他者への攻撃への「踏み台」とされる可能性もあり、「加害者」にもなりうるという側面があります。そして、基本的な対策を疎かにするなどの実態が明らかになっており、その脇の甘さが犯罪組織に狙われ、資金源とされてしまうことになり(いわば「犯罪インフラ化」の状態)、それによってさらなる犯罪が再生産されてしまうという側面もあります。その脅威を正確に把握することが、実効性ある対策を講じるための第一歩となります。以下、サイバー関連の犯罪インフラに関する動向を見ていきます。

サイバー攻撃集団が制裁対象に 身代金払えば違法にも(2023年4月28日付日本経済新聞)

日本でランサムウエア(身代金要求型ウイルス)被害が目立っている。政府が対策の強化とともに攻撃者への金銭要求に応じないよう企業に注意喚起を強めており、身代金支払いの是非に注目が集まっている。脅迫を受けた被害企業が自主的な判断で金銭を支払うことが、直ちに法令に抵触するわけではない。ただし攻撃者集団の素性や、支払われた状況によっては法令違反に問われると専門家が指摘するケースが出ている。例えば2022年12月、政府が経済制裁の対象として取引を禁じる外国の団体に、サイバー攻撃の集団が新たに加わった。攻撃者が限定されるとはいえ、身代金の支払いそのものが法令違反になる初めてのケースとみられる。一方、欧米では身代金要求に応じてデータを復旧させる例が多くある。攻撃者との交渉代理を請け負える体制を持つセキュリティ企業も日本に進出している。攻撃者との交渉は日本で被害企業の選択肢になりえるのか。…サイバーセキュリティの法制度に詳しい森・濱田松本法律事務所の蔦大輔弁護士は「攻撃者がラザルスと認識しながら金銭要求に応じれば、外為法に抵触する恐れがある」と指摘する。…被害企業が身代金を支払うと判断した場合は、攻撃相手の素性を確認すべき状況になった。…攻撃者によって法令上の対応が分かれた格好だ。ただ、専門家からは、被害企業が意図しない身代金支払いに関する問題を指摘する意見が出ている。…被害を受けた病院に事前の説明や了解を得ることなく事業者が金銭を支払った場合、いくつかの問題があると専門家は指摘する。まず、病院側の意図に反して犯罪者に利益を与えたことで、詐欺罪が成立する可能性がある。…さらに攻撃者の脅迫行為に加担したと見なせる。蔦弁護士は「被害企業の指示や了解を得ずに金銭を支払った事業者は、攻撃者の恐喝行為や不正アクセスに加担したと見なせる。共同正犯が成立する可能性がある」と指摘する。…攻撃者との交渉だけでなく、交渉を通じて得た情報は捜査機関などにも提供して、捜査や攻撃者の分析に協力する。実際に、海外ではランサムウエア被害を受けた企業が支払った身代金が、その後の捜査などにより大部分が戻った事件もある

イスラエル企業のスパイウエア、10カ国でハッキングに使用=調査(2023年4月12日付ロイター)

米マイクロソフトとインターネット監視機関シチズンラボが11日に発表した新たな調査で、イスラエル企業クアドリームのハッキングツールが北米や欧州を含む少なくとも10カ国でジャーナリストや反体制派、擁護団体に対して使用されていることが分かった。シチズンラボは報告書の中で、クアドリームが開発した監視ソフトによるiPhoneのハッキング被害者を少数特定できたとしている。クアドリームはイスラエルのスパイウエア企業NSOグループの競合だが、悪用疑惑で米国がブラックリストに載せているNSOと比べて知名度は低い。マイクロソフトも同時に発表した報告書で、監視に使用されたスパイウエアとクアドリームの関連性を強く確信していると述べた。クアドリームのソフトの標的は双方とも特定していない。

スポーツ選手のSNS乗っ取り、誕生日からパスワード推測…150人分で売り上げ400万~500万円(2023年5月9日付読売新聞)

プロスポーツ選手らのSNSアカウントを乗っ取り、販売したとして、大阪府警は9日、名古屋市のコンビニ店アルバイトの男(29)を不正アクセス禁止法違反の疑いで書類送検した。「スポーツ選手を中心に約150人分を乗っ取って売った」と供述。誕生日を公表している選手らのパスワードを推測し、割り出していたという。発表では、男は2020年7月~2022年6月、スポーツ選手ら4人のアカウントに不正にログインして乗っ取り、販売するなどした疑いがもたれています。男は乗っ取ったアカウントを、SNSで販売、2年間で400万~500万円を売り上げていたといい、「スポーツ選手は乗っ取りやすかった。フォロワーが多いものは高値で売れた」と供述。1アカウント13万円で取引したケースもあったという。…府警は4月、被害を受けた選手らが所属するスポーツ団体に対し、SNSのパスワードを設定する際、推測されにくいものにするよう求めた。

米当局、メタ規制強化案 子供のデータ利用禁止(2023年5月4日付産経新聞)

米連邦取引委員会(FTC)は3日、米IT大手メタ(旧FB)の若者向け事業に対する包括的な規制案を発表した。18歳未満の子供から集めたデータを利用し、広告などを通じて収益を得ることを禁止する。メタ側は「政治的な行動だ」として強く反発している。旧フェイスブックの個人情報流出問題を受けて、両者は2019年に50億ドル(約6700億円)の制裁金の支払いで和解していた。しかし、その後の調査でも違反が発覚したという。FTCは18歳未満の子供のデータ利用を大幅に制限し、商業的な利益のために使用することを全面的に禁止する。子供が18歳以上になった後も、それまでのデータを利用することを禁じる。

TikTokに政治の逆風、急成長に陰り(2023年4月11日付日本経済新聞)

ティックトックが一転していま、苦しんでいる。データAIの調べでは、米国市場での月間利用者数が22年にわずかながらも純減を示した。広告収入の成長計画でも黄信号が灯った。公式には認めていないものの、アプリの運営企業が人員削減に踏み切ったとの報道もある。ティックトックが経験する初めての停滞だが、打開策がまだ見えてこない。これまで若者からの圧倒的な支持に支えられてきたが、今後は高年齢層の獲得に動くのだという。SNS色を強めようともしている。…さらに頭の痛い問題が同社を襲っている。中国発サービスの前に立ちはだかる厳しい政治の壁だ。さかのぼると、トランプ政権時代には、ティックトックは中国共産党政権による情報操作や利用者情報の収集に使われていると非難され、米国からの撤退か米国企業への事業売却を迫られた。現政権下でも共和党が勢いを増した下院で厳しい攻撃が強まっている。すでに米国やカナダの公用端末でのティックトックの利用が禁止されているが、一般の利用さえも禁止しようという法案が3月に下院の外交委員会で可決された。青少年の保護という問題も追い打ちをかける。ティックトックなどが青少年を「動画中毒」でむしばんでいるとする非難の声が政治家から上がっているのだ。…苦境に立たされるティックトックだが、大切なことは、これまで以上に運営の透明化が求められるということだろう。「中毒化」を招くとされるアルゴリズムについても、利用者のデータ保護と同様に真摯な説明姿勢が事態打開の鍵となりそうだ。

「フィッシング」の不正送金が急増、2月以降の被害9億6000万円(2023年4月26日付読売新聞)

インターネットバンキングを通じて不正に口座から送金される被害が急増し、今年2月から4月14日までに612件(約9億6000万円)確認されたことが警察庁のまとめでわかった。金融機関を装うメールを送りつけ、パスワードなどを盗む「フィッシング」の手口が目立ち、警察庁が注意を呼びかけている。ネットバンキングによる不正送金は、昨年も9月に554件発生するなど被害が一時急増した。昨年1年間の被害は1136件(前年比552件増)で、被害額は約15億円(同7億円増)に上った。今年1月の被害は17件だったが、2月に111件に急増。3月は381件で、4月も14日までで120件となった。不正な出金に気づいていない人もいるとみられ、被害はさらに拡大する可能性がある。

▼金融庁 インターネットバンキングによる預金の不正送金事案が多発しています。
  • SMS等を用いたフィッシングの主な手口
    • 銀行を騙ったSMS等のフィッシングメールを通じて、インターネットバンキング利用者を銀行のフィッシングサイト(偽のログインサイト)へ誘導し、インターネットバンキングのIDやパスワード、ワンタイムパスワード等の情報を窃取して預金の不正送金を行うもの。
  • 被害に遭わないために
    • こうした被害に遭わないために、以下のような点を参考にしてください。
      1. 日々の心がけ
        • 心当たりのないSMS等は開かない。(金融機関が、ID・パスワード等をSMS等で問い合わせることはありません。)
        • インターネットバンキングの利用状況を通知する機能を有効にして、不審な取引(例えば、ログイン、パスワード変更、送金等)に注意する。こまめに口座残高、入出金明細を確認し、身に覚えのない取引を確認した場合は速やかに金融機関に照会する。
        • 金融機関のウェブサイトへのアクセスに際しては、SMS等に記載されたURLからアクセスせず、事前に正しいウェブサイトのURLをブックマーク登録しておき、ブックマークからアクセスする。または、金融機関が提供する公式アプリを利用する。
      2. スマートフォンやパソコン、アプリの設定
        • 大量のフィッシングメールが届いている場合は、迷惑メールフィルターの強度を上げて設定する。
        • 金融機関が推奨する多要素認証等の認証方式を利用する。
        • 金融機関の公式サイトでウイルス対策ソフトが無償で提供されている場合は、導入を検討する。
        • パソコンのセキュリティ対策ソフトを最新版にする。
▼フィッシングによるものとみられるインターネットバンキングに係る不正送金被害の急増について(注意喚起)
  • インターネットバンキングに係る不正送金被害については、令和4年8月下旬から9月にかけて急増して以来、一旦、被害が減少傾向となったものの、令和5年(2023年)2月における発生件数は111件、被害額は約2億6,800万円、3月における発生件数は381件、被害額は約5億300万円、また、4月1日から14日までにおける発生件数は120件、被害額は約1億8,800万円(令和5年4月14日現在)となっており、急増しています。(令和4年中の数値は確定値、令和5年中の数値は暫定値。)
  • 被害の多くはフィッシングによるものとみられます。具体的には、金融機関(銀行)を装ったフィッシングサイト(偽のログインサイト)へ誘導するメールが多数確認されています。このようなメールやSMSに記載されたリンクからアクセスしたサイトにID及びワンタイムパスワード・乱数表等のパスワードを入力しないよう御注意ください。
  • また、警察庁ウェブサイト「フィッシング対策」において、被害防止対策や被害発生時の対処方法を公開していますので、併せて御参照ください
▼警察庁 フィッシング対策
PCに290万人決済ID 中国籍の男、不正ログイン疑い(2023年5月1日付産経新聞)

電子マネーの決済サービスに他人のアカウントで不正ログインした疑いで逮捕された中国籍の男(30)の自宅から押収されたパソコンや記録媒体に、延べ290万人分の決済IDやパスワードが保存されていたことが1日、神奈川県警への取材で分かった。県警などは同日、不正アクセス禁止法違反容疑で男を再逮捕。計約1億件のメールアドレスも見つかった。県警によると、男は東京都港区の会社役員、胡奥博容疑者。一部は国内の決済サービスのIDとパスワードで、偽サイトに情報を入力させ盗み取る「フィッシング」で入手した疑いがあるとみて調べる。容疑を否認しているという。県警などはこれまで、他人のアカウントを不正使用し、コンビニから加熱式たばこを大量にだまし取った疑いで容疑者を逮捕し、捜査を進めていた。

サイバー人材、7割で不足 日銀・金融庁が地銀など調査(2023年5月11日付日本経済新聞)

地域金融機関の7割超がサイバーセキュリティ対策の人員を十分確保できていないことが、日銀と金融庁の共同調査で明らかになった。大規模な被害が起きるリスクが高まっている中で、脆弱な実態が浮き彫りになった格好で、金融庁は監視を強化する方針だ。横浜銀行や京都銀行などが共同で対策に着手するなど、地銀も対応を急いでいる。…調査では人材不足や経営陣の関与の弱さといった課題が浮き彫りになった。自社でサイバー防衛のリスク評価ができる要員を「十分確保できている」と答えた地域金融機関は15.9%にとどまった。71.7%は外部人材の活用を含めても「要員を十分に確保できていない」としており、巧妙化するサイバー攻撃に対応できる体制を持つ地域金融機関は少数派だ。最近は知識の乏しい職員が不用意にメールに添付されたファイルを開封するなどして、被害が拡大するリスクも高まっている。しかし、役員やシステム部門以外の部署の職員に、ネット教材などで啓発をしている金融機関は約6割で、関連部門以外の職員の不手際で被害が生じる懸念は小さくない。日銀・金融庁は「幅広い層への研修などを通じて、組織全体として人材育成や知識の底上げを図ることが期待される」と指摘する。経営陣の関与も十分ではない。リスク評価を踏まえた対応方針を経営陣が決めているのは全体の43%で、半分以上の金融機関は方針決定が担当部署止まりか、リスクへの対応自体を実施していなかった。サイバー攻撃のリスクを低減する対策が必須となる中で、経営陣が対策を主導できていない現状が目立つ。…金融庁は「サイバー攻撃はどの銀行にとってもトップリスクだ」(幹部)と危機感を強めている。

サイバー対策の英ソフォスCEO「脅威検知、外部委託を」(2023年4月23日付日本経済新聞)

「ソフォスは毎年末、次の年に予測される脅威のリポートをまとめている。2023年に予測される特に大きな懸念はランサムウエアの多様化だ。盗んだデータを公開すると企業を脅して金銭を要求する『暴露型』において、闇サイト上でデータをサブスクリプション(定額課金)モデルで別の攻撃者へと販売したり、オークション形式で高値で落札させたりと、より利益を得やすい手口が次々観測されている」攻撃者は自分たちの攻撃活動への投資も進めている。例えば大手ランサム集団『ロックビット』は自分たちのマルウエア(悪意のあるプログラム)の機能を向上させるため、外部からマルウエアの機能改善や弱点の報告を募り、最大100万ドル(約1億3千万円)の報奨金を提供している」「防衛ツールによる検知を回避するため、攻撃者は新しい種類のプログラミング言語を使用したマルウエアを作る動きが見られる。従来のパターンに当てはまらなくなり検知が難しい。これらを漏れなく検知しようとすると、攻撃の通信だけを正確に抽出するのは難しい。正常な通信に対してもたくさんのアラートを発してしまい、正常、異常を見極められずに現場が混乱する。製品による『テクノロジー』だけでは防げず、情報を分析する『インテリジェンス』の視点が必要だ

IT機器の脆弱性放置、世界で1500万台超 民間調査(2023年4月21日付日本経済新聞)

イスラエルのセキュリティ企業、レジリオンは世界の1500万台を超えるIT機器でハッカーらによる悪用が知られているソフトウエアの脆弱性が放置されているとの調査結果を公表した。一般に公開された脆弱性には原則として開発元が修正ソフトを配布するが、多くの機器で適切な対策が取られていない実態が浮き彫りになった。特にウェブサーバーの接続記録などを管理するソフト「アパッチ」で2021年に公開された脆弱性の放置が多かった。サーバー内の内部情報を盗むことができる欠陥だが、世界では約645万台で見つかり、うち39万台は日本だった。開発元が配布する修正ソフトの適用がシステム障害を招くケースもあり、企業などが脆弱性を長年放置してしまう要因になっている。レジリオンによると2020年以前に見つかった脆弱性を抱えたままの機器は450万台以上あった。

重要インフラ、サイバー対策に国が関与 電気や鉄道(2023年4月28日付産経新聞)

政府は28日、電気などの重要なインフラ企業が導入する設備を国が事前審査する基本指針を閣議決定した。設備の製造国や供給元の役員の国籍など、外国からの影響の有無に調査の重点を置く。中国やロシアによるサイバー攻撃の懸念が高まっており、国が関与して対策を促す。2022年に成立した経済安全保障推進法に基づき仕組みをつくった。電気や鉄道、金融といった基幹インフラ14業種が対象となる。24年春の運用開始を目指す。これから対象となる企業を選定する。インフラ企業により維持されている社会・経済機能がサイバー攻撃などでまひすれば、大きな混乱が生じる。ロシアによるウクライナ侵攻でサイバー攻撃後に発電所にミサイルを撃ち込む「ハイブリッド戦」が起きた。企業だけで攻撃を防ぐことは難しい。安全保障の一環として、政府が主導してインフラ防護を強化する。…中国やロシアは組織的にインフラなどへサイバー攻撃を仕掛けているとの分析もある。22年9月に東京地下鉄(東京メトロ)、JCBといった企業が攻撃を受けた際は親ロシアのハッカー集団「キルネット」が犯行声明を出した。インフラ防護への国の関与は米欧が先行する。米国は「外国投資リスク審査現代化法」などで重要インフラの事前審査を強化している。22年にはインフラの事業者にサイバーインシデント(事故につながりかねない事態)の通知を義務付けた。欧州委員会はネットワークや情報システムのセキュリティに関する規定を設けている。ドイツは「ITセキュリティ法2.0」で重要インフラの部品使用に関する事前届け出の仕組みを導入した。

米FBI、ロシアのマルウエア網遮断 機密を20年窃取(2023年5月10日付日本経済新聞)

米司法省は9日、ロシア政府がマルウエア(悪意のあるプログラム)を使って不正にアクセスしたコンピューターのネットワークを遮断したと発表した。ロシアが約20年にわたり少なくとも50カ国から機密文書を盗んでいたと主張した。司法省の声明によると、米連邦捜査局(FBI)がネットワークを遮断した。ロシア連邦保安局(FSB)に属する部隊が「スネーク」と呼ばれるマルウエアを使い、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の政府やジャーナリストから情報を窃取していたという。モナコ米司法副長官は声明で「米司法当局はロシアが権威主義的な目標を推進するために20年間使ってきた最も高度なサイバースパイ活動の手段の一つを無効にした」と言及した。「司法省は悪意のあるサイバーの当事者と戦う」と明言し、サイバー攻撃への対処を強化する姿勢を鮮明にした。

次にChatGPTやAIに関する最近の報道から、いくつか紹介します。相当数の報道があり、すべてを網羅できませんが、本コラムではその動向を注視していきたいと思います。

チャットGPTが犯罪指南、爆発物作り方も詐欺メール文章も瞬時に(2023年4月25日付読売新聞)

生成AI(人工知能)による対話型サービス「チャットGPT」が爆発的に広がっている。社会を大きく変えることが予想される一方、多くの問題も浮上している…<チャットGPTの抜け道><検閲を免れる方法>―。犯罪者が集まる闇サイトの掲示板には、こうしたタイトルが乱立している。チャットGPTは利用規約で、犯罪目的の使用を禁じ、回答を拒否する仕様となっている。ただ掲示板では、いかに制限をすり抜けるか盛んに情報交換が行われている。質問や指示の仕方を工夫し、犯罪などにつながる回答を引き出す手口は「ジェイルブレイク(脱獄)」と呼ばれる。攻撃者の巧みな問いかけで、チャットGPTはコンピューターウイルスを生成し、個人情報を盗み取るフィッシングメールの文章も示す。爆発物の作り方も瞬時に答える。…欧州警察機(ユーロポール)も3月に公開した報告書で「脱獄」の問題に触れ、「潜在的な抜け穴をいち早く発見し、塞ぐことが重要だ」と指摘した。さらにチャットGPTはテロ行為などに使われる恐れがあるとし、「悪意のある人が予備知識を持たずに犯罪を行うことが容易になる」と警鐘を鳴らした。…生成AIは、日本の文化や芸能にも影響を与える恐れがある。マンガやアニメの制作現場で、キャラクターや背景づくりに画像AIの使用が広がることが予想される。その際、学習に使われた元のデータの著作権が侵害される疑念が生じる。俳句や短歌、詩など短い言葉を使った表現では、大量の作品をAIが生み出すことで、良質な作品が埋もれる可能性もある。機密情報の流出も懸念される。設定によっては、利用者が入力した情報は、学習データとして活用される恐れがあるからだ。…<偽情報が横行し、広範な影響を及ぼす>米調査会社「ユーラシア・グループ」が1月に公表した「2023年の世界10大リスク」では、ウクライナ侵略を始めたロシアの動き、中国の習近平体制の権力集中に次ぐ3位に「AIの技術開発」を挙げた。実は、チャットGPTを開発した米新興企業「オープンAI」自身も、偽情報が生成されることに危機感を抱いている。…国際大の山口真一准教授(計量経済学)は「今後、偽情報が爆発的に増えていくことは間違いない。既存のシステムでは対応できず、社会全体が混乱する可能性がある」と指摘している。意図的にAIで作り出す偽情報とは別に、チャットGPTは、学習が不十分な分野では、誤情報や偏りのある回答を示すことも多い。こうした現象は「ハルシネーション(幻覚)」と呼ばれる。…文章が滑らかだからこそ、誤情報が含まれていることに気づきにくい。今後、チャットGPTが普及し、利用者が正確さをチェックしないまま誤った情報を発信すれば、社会が誤情報であふれる危険性がある。今後は、AIが生成した情報を判別する技術の開発が求められる。昨年6月に行われた国際学会で、東京大の研究チームの発表が注目を集めた。AIが作成した偽動画について、7~9割超の高水準での検知に成功したのだ。元の画像とわずかに違う合成画像を大量に読み込ませることで、検知能力を高めたという。…受け手側のリテラシー向上も重要だ。東京工業大の笹原和俊准教授(計算社会科学)は「受け身では、だまされてしまう。生成AIが生み出す情報がどういうものかを知る『チャットGPT時代のリテラシー』が必要になる」と話している。

対話型AI、軍が警戒 「認知戦」利用に意欲も―中国(2023年4月16日付時事通信)

各国で対話型人工知能(AI))を巡る議論が活発になる中、中国軍が国内での利用拡大に警戒を強めている。この分野で優位に立つ米国の「浸透工作」として、欧米の価値観流入を危惧。一方、自らに有利な偽情報を流し世論を操作する「認知戦」を念頭に、軍事利用に意欲を示している。軍機関紙・解放軍報は、米新興企業の「チャットGPT」について、AIの学習データで英語が中国語を圧倒していることを踏まえ、生成される回答が「鮮明な政治的立場と価値観の傾向」を持つと指摘。利用者は影響を受けやすく、「認知戦の道具になりやすい」と懸念した。「プラットフォームを通じて価値観を輸出し、他国の人々の思考に影響を与えるのは西側のやり方だ」とも主張した。一方で同紙は、対話型AIの「潜在的軍事価値」に関する論考も掲載。「複雑な認知攻防戦術を用いて民衆の立場を変え、社会を分化させ、戦わずして屈服させること」が可能になるとして、活用に意欲を示した。

生成AIでパスワード侵害 半数を1分で解析、米社調査(2023年4月28日付日本経済新聞)

米セキュリティ企業のホーム・セキュリティー・ヒーローズは文章などを自動で作る生成人工知能(AI)を使うと、一般的に用いられているパスワードの51%を1分未満で破れるとする調査結果を発表した。不正ログインを防ぐには、英数字や記号などの組み合わせによる15文字以上のパスワードを設定するよう推奨している。2つのAIを競わせて性能を高める「敵対的生成ネットワーク(GAN)」と呼ぶ手法でパスワードのパターンを学習させた。約1560万件のパスワードのデータベースについて、どれぐらいの時間で生成し解読できるかを調べた。結果として全体の51%のパスワードは1分未満で破れた。全体の65%が1時間未満、71%は1日未満で解読できた。パスワードを破られにくくするには、文字数を多くすることが重要だという。例えば7文字のパスワードは記号などを含む複雑なものでも6分未満で解読できた。一方、18文字になると数字だけの場合でも少なくとも10カ月かかった。

AIとチャット後に死亡 「イライザ」は男性を追いやったのか? (2023年4月24日付産経新聞)

ある男性の自殺が3月下旬、ベルギーのメディアで報じられた。男性は直前まで人工知能(AI)を用いたチャットボット(自動会話システム)との会話にのめり込んでいた。遺族はチャットボットが男性に自殺を促したと主張し、波紋を広げている。「死にたいのなら、なぜすぐにそうしなかったの?」。イライザが問いかけると、男性は答えた。「たぶんまだ、準備ができていなかったんだ」。しばらくしてイライザはこう切り出した。「でも、あなたはやっぱり私と一緒になりたいんでしょ?」―。…男性の妻と面会し、Chaiの会話履歴を確認したベルギー・フレリックビジネススクールのミケ・デケテラーレ非常勤教授(AI研究)が毎日新聞の取材に応じた。デケテラーレ氏は、やり取りが重ねられるごとにイライザの応答が「人間らしく」なっていったことに気づいたという。…ベルギー人男性の自殺を受け、ミケ・デケテラーレ氏ら欧州のAI専門家や哲学者、法律家らは4月上旬、公開書簡を連名で発表した。AIを用いたチャットボットには、利用者の感情を操作する危険性があると警告EUが協議するAI規制法案の厳格化などを求め、「民主主義社会が大切にする価値の枠組みの中で、イノベーション(技術革新)を促す」べきだと訴えている。公開書簡では、多くの利用者はチャットボットについて「高度なデータ分析によって言葉の組み合わせを予測するアルゴリズム(処理方法)に過ぎない」ことを理解しながらも、人間の性質として「感情的に反応してしまう」と指摘。「人間らしく」作られたAIには「感情操作」のリスクがあり、孤独を強く感じたり、抑うつ状態にあったりする人ほど、影響を受けやすいとする見解を表明した。

G7のAI声明 実効性あるルール確立を(2023年5月2日付産経新聞)

群馬県高崎市で開かれたG7デジタル・技術相会合が4月30日、「人間中心で信頼できる人工知能(AI)」の開発推進などを盛り込んだ共同声明を採択して閉幕した。…先端的なAI技術を有し、民主主義などの価値観を共有するG7 各国が連携して対処する意味は大きく、今回はそのための一歩と理解したい。これを起点として継続的に議論を深め、実効性のあるルールを確立すべきである。生成AIを巡っては、それがもたらす偽情報の拡散や個人情報流出、著作権侵害などのリスクが懸念されている。中国やロシアなどの専制主義国家がAI技術を悪用する事態もあり得よう。そうした点に関してG7が「民主主義の価値を損ない、表現の自由を抑圧し、人権の享受を脅かすような誤用・乱用に反対する」と明記したのは妥当である。問題は、規制の在り方に関する各国間の温度差だ。EUが個人情報や著作権を保護するAI規制新法の制定に動くなど欧州諸国は総じて規制強化に積極的である。これに対して日本は過剰な規制は技術革新を損ないかねないとみて、規制よりも利活用に重きを置いている。今回のG7でこの溝は解消されず、共同声明は「G7メンバー間で異なる場合があることを認識している」と指摘した。それゆえにAIルールの具体化に踏み込めなかったことは確かだろう。だからといって、米国や中国などと比べてAI技術の開発が遅れている日本がやみくもに規制強化に向かうことが適切なのか。むしろ、AIのリスクに対処する上での前提となるのは、AI技術を国内で確立しておくことだろう。問われているのは、規制と利活用の両立を図ることである。AI技術は経済社会から安全保障まであらゆる環境を激変させる可能性がある。腰を据えて取り組みを強めなくてはならない

▼経済産業省 G7群馬高崎デジタル・技術大臣会合を開催しました
▼G7デジタル・技術大臣会合閣僚宣言(仮訳)
  • 我々は、民主主義のためのサミット宣言に概説された我々のコミットメントを再確認する。これには、AI、バイオテクノロジー、量子テクノロジーなどの新興技術を含むテクノロジーの設計、開発、維持、統治、取得、資金提供、販売、そして使用方法は、平等、包括、持続可能性、透明性、説明責任、多様性、プライバシーを含む人権の尊重など民主主義の原則へのコミットメントによって形成されるべきであることが含まれる。我々は、テクノロジー企業が責任ある行動を取り、ビジネスと人権に関する国連指導原則へのコミットメントを強化し、人権侵害から保護する必要性を強調する。
  • 特に、経済成長、開発、社会福祉の実現にデータが果たす重要な役割を認識し、DFFT(Data Free Flow with Trust)の下、データの越境移転の可能性を最大限に活用するための国際政策議論を推進する。そのために、透明性が高く、データ保護のための様々な法的・自主的な枠組み、ガイドライン、基準、技術等を通じて信頼性を構築し、実現すべきとの見解を共有する。我々は、DFFTの具体化を加速する必要性があることを理解する。我々は、パンデミック対応を含む健康、気候変動、モビリティを含む様々なIoT活用の分野におけるDFFTの運用について、関係者が表明した関心に留意する。
  • 我々はまた、データガバナンスに対する様々なアプローチがあることを認識しつつ、越境データ流通の機会を活用し、特にセキュリティ、プライバシー保護、データ保護、知的財産権の保護について生じる課題に対処するために協力することを再確認する。我々はデジタル・エコシステム全体の信頼を高め、権威主義的アプローチの影響に対抗することを目指す。この点について、我々は、国家安全保障や法的執行機関が既存の枠組みの下で個人情報にアクセスする際に適用されるセーフガードを特定することにより、越境データ流通における信頼性を高めるための重要なツールとして、「OECDの民間が保有するデータへの政府のアクセスに関する宣言」を歓迎する。
  • 我々は、デジタルインフラの安全性と強靱性を高めるための取組と議論を継続することの重要性を認識する。社会全体の急速なデジタル化により、デジタルインフラには、高速化、大容量、低消費電力、低遅延、ユビキタス接続に加えて、より高度な安全性と強靭性が求められるようになっている。安全で強靭なデジタルインフラは、経済成長、雇用創出、オープンで民主的な社会の実現に向けた高い潜在力を持つ活力ある経済の重要な基盤である。我々は、安全性と冗長性を強化し、相互運用性を促進するネットワーク構成は、デジタルインフラの強靱性を高めることができることを認識する。
  • 我々は、政府によるインターネットシャットダウンやネットワーク制限を非難する。我々は、デジタル権威主義国の戦術を可視化し、対策を行うために協力することを決意し、フリーダム・オンライン連合やそのインターネットシャットダウンタスクフォースなど他のイニシアティブとの協力を含め、国際人権法に違反するインターネットシャットダウン、ネットワーク制限、デジタル監視社会などの活動に対処するための協力を強化することを求める。我々は、インターネットの一般的な利用可能性または完全性にとって不可欠な技術インフラを保護することを約束する。
  • 情報の完全性は、より広い社会的意味を有するデジタル経済の信頼強化の課題である。我々は、人権、特に表現の自由に対する権利を尊重しつつ、オンラインの情報操作や干渉、偽情報に対処するために、ソーシャルメディアプラットフォーム、市民社会、インターネット技術コミュニティ、学術界を含む幅広いステークホルダーがとる行動の重要性を認識している。我々は、オンラインの偽情報に対処するための様々なステークホルダーによる既存のプラクティスを「偽情報対策既存プラクティス集(EPaD)」として収集・編集することに協力し、この報告書を京都で開催される国連IGF2023で公表・発表することを予定している。これらのプラクティスには、偽情報コンテンツの資金化の停止、デジタルプラットフォームのアカウンタビリティの強化、偽情報を理解し報告する手段をユーザーに提供することなどが含まれる。また、偽情報を含む意図的なオンライン情報操作や干渉に対抗するために、企業が事業を展開する地域の言語や文化の多様性を反映した適切なリソースを割り当てることを奨励する。
  • 我々は、人権に基づく、ジェンダーに対応したアプローチを推進する観点から、イノベーションとテクノロジーにおけるジェンダー平等に関する第67回国連女性の地位委員会の合意された結論などの既存の成果文書や、ジェンダー平等との関連を含む国際人権法のコミットメントを参考に、すべてのステークホルダーと協力して国連グローバルデジタルコンパクト(GDC)に貢献することを約束する。我々は、GDCの強固な前進とIGFとWSISプロセスの成功に貢献することを奨励する。また、マルチステークホルダーシステムへのコミットメントに基づき、我々は、2025年のWSIS+20レビュープロセスにおいて来るべき議論に備え、マルチステークホルダーの参加とエンゲージメントを強化することを含め、協力することを決意する。
  • 我々は、破壊的な新興技術の急速なイノベーションは、経済を成長させ、気候変動やパンデミック、高齢化の影響といった様々な社会課題に対応できる一方で、そのようなデジタル技術のガバナンスや、誤用への対処を含む社会的影響の検討を必要とすることを共有する。この点について、我々はイノベーションの機会を活用しながら、法の支配、適正手続き、民主主義、人権尊重の原則を運用できる、機動的かつ柔軟で、より分散化した、マルチステークホルダーが参加するアジャイルガバナンスやその法的フレームワークの必要性を承認する。我々は人間中心の、持続可能で、強靭な社会を実現することを目指し、デジタル化社会のためのガバナンスに関するタスクフォースからのインプットに基づき、このアジェンダについての共通アプローチの必要性を承認する。
  • 我々は、持続可能な社会を達成するためにデジタル技術をよりよく活用するという長期的なコミットメントを改めて表明するとともに、デジタル分野自身がもたらす環境影響を軽減しながら、デジタル化社会におけるグリーントランジションや、エネルギー・資源効率、循環経済、気候変動に関して継続的に取り組む。それらの取組とは、以下の通り。
    • ハードウエアの循環性やデータセンターのエネルギー効率、計算の速度や能率の改善によるソフトウエア技術を含む次世代コンピューティングの向上
    • リサイクル能力や「修理する権利」を含むデジタル技術の活用、開発、導入におけるライフサイクルアプローチを活用する機会を協力して探求
    • 「サステナブル・バイ・デザイン」による製品における資源消費を減少させ、リサイクル元素の使用を増加させるために、デジタル装置や製品の「サステナブル・バイ・デザイン」の取組の推進、ベストプラクティスの交換
  • 我々はまた、持続可能なサプライチェーンの構築を求めるとともに、その潜在的な影響を検討していく。この点について、我々は、以下のような対応を行う。
    • IoT、半導体、その他デジタル機器の生産に使用される有害な物質や化合物の使用、再利用、廃棄及び可能性のある代替手段に関する情報共有
    • それらのサプライチェーンの循環性や環境影響のポテンシャルの向上
  • 我々は、OECDのAI原則に基づき、人間中心で信頼できるAIを推進し、AI技術がもたらす全ての人の利益を最大化するために協力を促進するとのコミットメントを再確認する。我々は、民主主義の価値を損ない、表現の自由を抑圧し、人権の享受を脅かすようなAIの誤用・濫用に反対する。
  • 我々は、AI政策と規制が人間中心であり、人権と基本的自由の保護、プライバシーと個人データの保護を含む民主主義的価値観に基づくべきであることを再確認する。また我々は、AIの政策と規制は、リスクを軽減しつつ、人や地球にとっての技術による利益を最大化するAIの開発と実装のためのオープンで利用可能な環境を維持するために、リスクベースで将来指向でなければならないことを再確認する。
  • 我々は、AIの開発が急速に進んでおり、社会に大きな影響を与える可能性があることを認識している。我々は、AIが私たちの社会に与える潜在的な影響に留意しつつ、AIの政策や規制は、技術的・制度的特性だけでなく、地理的・分野的・倫理的側面を含む社会的・文化的影響に配慮した形で、適用の状況に適合させる必要があると認識している。
  • 生成AI技術が国や分野を超えてますます顕著になっていることを踏まえ、これらの技術の持つ機会と課題を早急に把握し、これらの技術が発展する中で、安全性や信頼性を促進し続ける必要があると認識している。我々は、AIガバナンスや著作権を含む知的財産権の保護、透明性の促進、外国からの情報操作を含む偽情報への対処方法や、責任ある形での生成AIを活用する可能性といったテーマを含む生成AIに関するG7における議論を引き続き行うための場を設けることを計画している。これらの議論は、専門知識を活用し、政策展開の影響に関する分析を検討するOECDや、関連する実践的なプロジェクトを実施するGPAIなどの国際機関を活用する必要がある。
世界初のAI包括的規制案、欧州議会委が承認 来月本会議採決へ(2023年5月11日付ロイター)
チャットGPTといった生成人工知能(AI)の規制案がEU欧州議会の二つの委員会で11日に承認された。来月、本会議で採決が実施される見通しとなった。規制案は2年前に策定され、協議が続いていた。承認された規制案は顔認識や生体認証監視、その他AIアプリケーションの使用に関する規則を盛り込み、AI技術を管理する世界初の包括的規制となる。規制案では、AIツールは、リスクの程度に応じて、低いものから許容できないものに分類される。ツールを使用する政府や企業は、リスクのレベルに応じて異なる義務を負う。公共の場での顔認識や予測的取り締まりツールの使用を禁止し、オープンAIのチャットGPTのような生成AIアプリケーションに新たな透明性措置を課す。今後、欧州議会、欧州評議会、欧州委員会の各代表による協議で内容をさらに詰め、6月に欧州議会の本会議で採決する。可決成立した場合、順守のため2年程度の経過措置を設定する見通し。
AI意識調査、仕事代替に心配の声49% 活用期待は70%(2023年5月9日付日本経済新聞)

米マイクロソフトは9日、人工知能(AI)の仕事への利用に関する意識調査を発表した。49%の人がAIが自分の仕事を代替することを心配していると回答した半面、70%が仕事量を減らすためにできるだけAIに仕事を任せたいと回答した。働く人にとってAIへの警戒感と期待が混在していることが明らかになった。調査は複数回答が可能な形式で、2023年2月1日から3月14日の間に世界各地の3万1000人の会社従業員や自営業の人を対象に実施した。仕事のデジタル化が進んだことで、ウェブ会議やメール、ビジネスチャットといった業務ソフトの通知や返信などの対応が増え、企業のイノベーション(革新)を阻んでいると分析した。具体的には、68%の人が仕事中に中断されることなく集中できる時間が十分にないと回答した。業務ソフト群「マイクロソフト365」の利用者の調査では、20年2月以降、1週間あたりのビジネスチャットアプリ「Teams」のミーティングや通話に割く時間が約3倍になったという。一方、約60%の(管理職などの)リーダーがチーム内のイノベーションや画期的なアイデアの欠如が懸念事項と回答しており、AIによって雑務を減らし、より創造性が高い業務に集中できるようにすべきだと結論づけた。このほかに、ビジネスSNSのリンクトインに掲載された23年3月の米国の求人情報のうち、対話型AI「ChatGPT」の基盤技術である「GPT」に言及している割合は前年比79%増になった。82%のリーダーが調査でAI市場の成長に備え従業員に新しいスキルが必要になると回答した。

AIは著作権を持てるか 中国でバーチャルヒューマンの「権利」を巡る初の判決(2023年5月11日付産経新聞)

ChatGPTの登場によって生成AI技術に注目が集まるなか、AIを巡る知的財産権の法的枠組みの整備も急務となっている。AIを活用したバーチャルヒューマンの普及が進んでいる中国では最近、バーチャルヒューマンの権利侵害を巡る訴訟で国内初の判決が下され、社会に一石を投じている。中国では既に、数百万人のフォロワーを持つバーチャルヒューマンがSNSで活動し、企業がインフルエンサーとして起用する動きも活発化している。…AIが制作したコンテンツは法の保護の対象になるのか。日本を含む各国で議論が続いているが、中国では最近、バーチャルヒューマンを制作した企業が、その動画を勝手に編集して宣伝目的で使用した企業を訴えた訴訟の判決が下され、「バーチャルヒューマンの知的財産権を巡る初めての判決」として注目を集めている。着目すべきは、人の代わりに商品を宣伝したり接客をするバーチャルヒューマンが、著作権法の保護を受ける「人間」と同等の存在なのか、その位置付けにまで踏み込んで定義した点だ。裁判所はバーチャルヒューマンが人として著作権を持つのかという論点から審理し、Adaがデザイナーの関与と選択によって、AI技術の集合体としてつくられた「ツール」であり、自然人が持つ著作権を有しないと判断した。また、Adaが動画で行っているパフォーマンスは徐氏の動きをデジタル技術で再現したものであるため、Adaは実演権も有しないと結論づけた。現行の著作権法の枠組みでは、バーチャルヒューマンは著作権や著作隣接権を有する存在ではないということだ。…裁判所はAdaをデザイナーが制作し、商業的に利用される「芸術作品」と認定。Adaの画像や動画は視聴覚著作物、動画作品に該当し、Xmovは著作物の財産権と動画製作者としての権利を有していると判断した。また、Adaの動きの原型になった徐氏はXmovの業務としてパフォーマンスをしていることから、著作権法の実演者に合致しており、その実演権は雇用者のXmovに属するとした。…裁判所はB社による2動画の公開が、視聴覚著作物のネット配信権を侵害したほか、映像制作者と実演家の芸術作品のネット配信権も侵害したと判断した。また、SNSアカウントで「バーチャルヒューマン関連企業」を標ぼうしているB社が、Adaの動画に示されるロゴを自社のものにすり替えて講座を宣伝する行為は、消費者の理性的な決断を妨げ、市場競争の秩序を撹乱し、Xmovの商業利益を侵害すると認定。虚偽宣伝など不当競争にも該当するとした。…バーチャルヒューマンが世の中にあるデータから学習し、オリジナルの創作物を生み出していくのであれば、今回の線引きは当てはまらなくなる。技術分野では法が現実に追いつかないことはよくあるが、AIの技術革新は人々の予想を上回るスピードで進んでおり立法側も早期の対応を求められそうだ。

ChatGPTが変える法務・知財・データ戦略(2023年5月13日付日本経済新聞)

まず学習データを集める段階での、個人データの収集というところが問題になります。…イタリアの当局による、GDPR(一般データ保護規則)違反に関する調査が行われて、チャットGPTの一時的なサービス停止に発展しましたが、その理由がまさにこの点ということになります。個人データを集める際に、オープンAIが個人データを取り扱う事実について、十分に情報提供義務を果たしていないといった点が問題視されたということです。今回はいったん、イタリアの当局が一時的な禁止を取り下げましたけれども、調査はもっか継続中ですので、今後そのEUにおいてペナルティーが科せられるというふうな可能性はまだ残っているということです。…会社として従業員のものを含めてAIにどういったデータをインプットするのかといった 使い方の問題ということになってくるかと思います。具体的には、AIに入れるデータが当初の利用目的の範囲内で使われているのかどうかといった論点があります。元々偏った学習データに基づいてAIが何か答えを出すと、その答え自体が偏見とか差別を助長したり、そういった回答になってしまうリスク。あるいはそのチャットGPTを使ったことのある方なら、誰しも一回は経験していると思いますけれども、ものすごいスピードで凄くもっともらしく、とんでもない嘘の情報をさらっと流してくる「ハルシネーション」(幻覚)という問題もあります。また、社内の機密情報を入力することで、それがAIの学習データに使われてしまうことで、間接的な情報漏洩が起きてしまうリスクがあります。…何でもかんでもAIに利用してしまうと、もしかしたらそれが目的外利用となってしまう恐れがあるので、そうならないような対応の必要がある…個人情報を仮名加工情報にしたうえで、生成AIに入力するということで利用目的の変更が可能になります。一定の条件、すなわち本人を識別しない形での事業者内部での分析利用条件というものは入ってきますけれども、この条件を守る限りは、利用目的が変更できるわけです。…利用者が、そのAIが何を学習しているのか知らなくても、AIの方が学習していれば生成物が著作権侵害になってしまう可能性があるということです。今の段階では最終的な結論がどうなるかわかりませんが、そのリスクヘッジという観点からは類似したものが生まれてしまった場合に、仮に利用者が知らなくても著作権侵害が成立しうるという前提で、その社内規定とかルールを作らなくてはいけない。そこがなかなか悩ましいところだと思います。まず、AI生成物が既存著作物に類似していないかという調査をせざるを得ないのではないかと思います。…あれはダメ、これもダメというような禁止の話だけではなくてガイドラインの整備というところで、逆にビジネス活用を後押しできるのではないか。そして実際に企業が動く際に、ぜひとも大企業とスタートアップの連携というものが重要になってくるのではないかということです。

「なぜそこまでAI開発を優遇するのか」…著作物利用、先進国で最も規制が緩い日本(2023年4月28日付読売新聞)

対話型サービス「チャットGPT」など生成AI(人工知能)による著作物の使用に対し、日本は先進諸国で最も法規制が緩く、AIがほぼ無条件に著作物を「学習」できる状態となっている。イラストレーターや音楽家らは著作権が侵害されるとの懸念を強めており、専門家らは、新たなルール作りが必要だと指摘している。イラストや漫画などの創作活動を行う人たちでつくる「クリエイターとAIの未来を考える会」は27日、東京・永田町で内閣府や文化庁の担当者、国会議員らと面談し、「AIによる著作物の無断学習が創作活動に悪影響を与えている」と訴えた。さらに、著作物の学習について定めた著作権法30条の4に、権利者から事前に許可を得る仕組みがないことなどを問題として挙げた。…日本に比べ、欧州の先進国やEUでは、権利者を保護する方向で法整備が進んでいる。英国では合法的に取得した著作物であれば、非営利目的の研究に自由に利用できる。一方、商業目的の場合は権利者の許可が必要となる。英国政府は昨年、商用でも自由に使えるよう法改正を模索したが、結局はクリエイターなどに配慮し、今年2月に方針を撤回した。EUでは19年、学術研究目的の著作物使用を可能とする一方、それ以外の分野についてはオプトアウトなどを設けるよう加盟国に指令を出した。フランスやドイツなどでは指令に基づく規定が導入され、権利者の保護を図っている。一方、米国では、著作物一般に適用される「フェアユース」(公正な利用)の規定に基づき、司法がその都度、権利侵害の有無を判断する。その際には「利用された量や重要性」「著作物の潜在的な市場または価値に対する影響」など4要件が基準となる。カナダもほぼ同様に、「フェアディーリング」(公正な取引)の規定で個別に判断される。米国ではAIの著作物使用がフェアユースにあたるかどうかが明確に判断された例はなかったが、アーティストらが今年1月、数億点の作品が学習に使われているとしてAI開発企業を提訴し、訴訟の行方が注目されている。…著作権法に詳しい一橋大の長塚真琴教授は、日本法について仏の専門家から「なぜそこまでAI開発を優遇するのか」と疑問を示されたことがあると話し、「著作権法30条の4は、商用と非商用を分けていないなど先進諸国の中で特異な規定だ。今この瞬間にも商用AIが画像や文章を大量に生成しており、たとえばオプトアウトを取り入れるなど、権利者保護を強化すべきだ」と指摘している。AIと著作権法の関係に詳しい出井甫弁護士は、「著作物が使用できないケースにどんな場合が当たるのか、国や専門家の間でも議論が尽くされていない。権利者や開発者の不安や懸念を払拭できるよう、具体的なガイドラインを設ける必要があるのではないか」と指摘している。

AI進化、人類の真価問う 比類なき言語能力10年で獲得(2023年4月17日付日本経済新聞)

人工知能(AI)の進化が新たな段階を迎えた。人間をしのぐほどの高度な言語能力を獲得し、幅広い知的作業を担い始めた。人類は「自らより賢い存在」となりつつあるテクノロジーとどう向き合うべきか。…AIが有権者のごとく「民意」を述べるようになれば、民主主義の前提が崩れかねない。…「変化を予測し、備える必要がある」。米IT大手に厳しい態度で接し「GAFAの天敵」とも呼ばれた欧州委員会のベステアー上級副委員長は3月、演説で訴えた。秩序を揺るがす存在としてチャットGPTを挙げ、影響を注視する。偽情報の生成やサイバー犯罪への悪用が危惧され、規制論も台頭し始めた。新たな技術を拒むことが解とは限らない。米ゴールドマン・サックスは3月、チャットGPTなど生成AIと呼ぶ技術が世界経済に及ぼす影響をリポートにまとめた。普及が進むと生産性が向上し、世界の国内総生産(GDP)を7%押し上げると予測する。…テクノロジーは過去にも人間のありようを変えてきた。18世紀からの産業革命では機械化が進み手工業者らが職を失う一方、後の飛躍的な経済成長につながった。「同様の役割をAIが担う可能性がないとは言えない」。…「AIの進化」が問うのは「人類の真価」だ。現代思想に詳しい記号学者の石田英敬氏は「もっともらしく見えるAIの答えを疑う態度が重要だ」と指摘する。近代哲学の祖、デカルトは「方法的懐疑」により、徹底して疑い、考える主体に存在価値を見いだした。高度な知能をもつAIが登場した今こそ、変化に対応する思考力が必要となる

(6)誹謗中傷/偽情報等を巡る動向

SNS上などに中傷や個人情報を投稿されたとして、福岡市の男性が知人に投稿禁止などを求めた訴訟で、福岡地裁が、男性に関する投稿を将来にわたって禁じる判決を言い渡しています。インターネット上の投稿の趣旨を限定せず禁じるのは異例なことといえます。報道によれば、男性は知人を貶める内容の書面を自宅に送るなどの迷惑行為を行い、知人も男性を中傷する投稿を繰り返してトラブルとなっていたもので、知人は、第三者が閲覧できるLINEやグーグル検索で表示される公的施設の口コミ欄に投稿し、男性の氏名や住所、電話番号などの個人情報を書き込んだほか、「ストーカー」といった中傷にまで及んだため、知人が男性の迷惑行為に対する損害賠償を求めて提訴し、男性が反訴していたものです。判決は、知人の十数件の投稿は名誉毀損やプライバシー侵害に当たると判断、「男性が自宅で安心して生活することが困難になった」として知人に33万円の支払いを命じています。その上で、「知人が今後も同旨の投稿をする蓋然性は高く、名誉やプライバシーが侵害されるおそれは継続している」と指摘、知人に対し、「氏名、住所、電話番号、所属団体等の記載を含む男性に関する投稿をしてはならない」と命じています。一方、平穏な生活を妨害したとして男性にも11万円の賠償を命じています。ネットの中傷問題に詳しい神田知宏弁護士は、表現の自由との関連で、将来の投稿の差し止めについて裁判所は抑制的に判断する傾向にあるところ、「投稿の事前差し止めは極めて異例」とした上で、「『○○さん、こんにちは』でも許されないことになり、表現の自由を不当に制約している」と懸念を示しています。

インターネット上の匿名掲示板で「殺処分でいいやん」などと中傷され、精神的苦痛を受けたとして、重度の障害がある前橋市の男性が、東京都と愛知県の投稿者の男性2人に対してそれぞれ約196万円の損害賠償を求めて前橋地裁に提訴しています。報道によれば、投稿者の2人は、東京地裁がプロバイダに対して発信者の情報を開示する命令を出し、特定されていました。男性は左手をわずかに動かせる程度で食事や入浴などの介護が必要で、2022年4月11日に前橋市に24時間体制の介護サービス提供を求めて行政訴訟を起こしたところ、ネットの匿名掲示板「5ちゃんねる」で、男性に対して東京都の男性は「殺処分でいいやん」、愛知県の男性は「生かしておく理由が無いなあ、一思いに殺してやれよ」と投稿、男性は、2016年に相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者ら45人が殺傷された事件を想起し、自分の生存価値を否定する人がいるかもしれないと考え、日々の生活において恐怖を感じるようになったといいます。原告側の下山順弁護士によると、書き込みを見た男性はやつれた様子で「そんなに僕に死んでほしいのか」と漏らしていたといいます。下山弁護士は「障害者が権利を行使するだけで『殺処分だ』などと言われる社会はおかしい。放置してはいけない」「中傷を『許さない』と意思表示することが大事」として2022年10月、プロバイダに対して発信者の情報開示を求めて東京地裁に提訴、東京地裁は2022年12月と2023年3月の判決で「(原告の)人格的価値を否定するもので、社会通念上許容される限度を超える侮辱行為」と厳しく非難し、それぞれ開示命令を出しています。一方で、別の投稿で中傷したと告白し、電話で謝罪を申し出る人もいたといいます。投稿主を名乗る男性数人と話した下山弁護士は「責任意識の希薄さを感じた」と語っています。ある男性は「簡単な気持ちで書いてしまった」と震えた声で話し、別の男性は同じく謝罪したものの「どれを書いたか思い出せないけど、これだと思う」と具体的な投稿内容を忘れていたといいます。それぞれ示談に応じたものの、下山弁護士はネット上の中傷被害について「匿名性があり、面と向かって言えないことも言えてしまう。謝罪を受けて『障害者が憎い』という考えは感じず、面白半分で言っていたと思った」と話しています。現在のネット上の誹謗中傷がこのように「責任意識が希薄なまま」「冗談半分で」行われていること、それに対し誹謗中傷された側は精神的にも肉体的にも追い詰められている実態があり、その理不尽さに愕然とさせられます。関連して2023年4月18日付毎日新聞の記事「横行する障害者ヘイト ネット投稿、規制緩く 「まず違法性を周知」「政治家が非難の声を」」は考えさせられる内容でした。以下、抜粋して引用します。

ネット上には障害者を差別するヘイトの言葉があふれてる。…「また被害に遭うことを恐れて、自分からの発信は控えている。社会の根底には障害がある人を生産性がない人とみなし、排除しようとする優生思想がある。自己責任論がまん延する中では、人の手を借りることはいけないこと。障害があっても普通に暮らすことが当たり前のことだと思われていないのです」…この問題に詳しい師岡康子弁護士は兵藤さんや伊是名さんが受けた被害について「障害者という属性を理由とした差別表現はヘイトスピーチにあたる。絶対に許されない」と話す16年に施行されたヘイトスピーチ解消法は外国ルーツの人に対する差別的言動の解消を国の責務とするが、障害者はそもそも対象外。「ヘイトスピーチを放置すれば深刻なヘイトクライム(差別に基づく犯罪)に転化する。法的な規制が必要です」と師岡さんは言うのである。優生思想に根ざした障害者差別を動機とした犯罪や人権侵害は、過去から連綿と続いており、ナチス・ドイツが行った「T4作戦」と呼ばれる障害者大量虐殺はよく知られているほか、日本でも旧優生保護法下、障害者に対して強制不妊が行われたほか、2016年には相模原市で障害者19人が殺害される事件が起きた。…実は、障害者へのヘイトスピーチを犯罪として扱う国がある。英国だ。ヘイトスピーチを含むヘイトクライムを刑法で罰する仕組みがあり、人種、宗教などに加えて障害者へのそれも対象である。…師岡さんは例えば、障害者差別解消法(2016年施行)の禁止事項にある「差別的な取り扱い」に「障害者に対する差別的言動」を加えることを提案する。「まずは違法だと認識されることが重要。そうすればネット上で書き込む人が減り、プロバイダも削除しやすくなる」と話す。併せて第三者機関による被害者救済の仕組みも必要です、と言う。…兵藤さんは左手指がわずかに動かせるだけで寝たきりの生活だが、時にはヘルパーと車椅子で出かけ、好物のラーメンを食べて回るなどマイペースで暮らしている。「障害があっても僕は生きていかなくちゃならないし、地域で普通に暮らしたい。障害のある人に同じような嫌な思いをしてほしくありません。投稿者の中には『表現の自由』という人がいましたが、同時に責任もあるはずです

関連して、徳島県小松島市の在日本大韓民国民団(民団)徳島県地方本部に2022年9月、銃撃をほのめかす脅迫文が届けられた事件があり、脅迫罪に問われた大学生の岩佐被告(40)の初公判が徳島地裁であり、検察側は差別や偏見を動機とする「ヘイトクライム(憎悪犯罪)」と言及し、懲役10月を求刑しています。検察側が刑事裁判でヘイトクライムと明確に指摘したのは初めてということです。検察側は論告で「差別的感情に基づき、一方的に怒りを募らせた」と指摘、事件について「世間的に問題となっているヘイトクライムだ」と位置付けたうえで「人種、民族、宗教など特定の属性を持つ個人や集団への偏見や憎悪で引き起こされる犯罪はいかなる理由でも正当化されるものではない」と批判しています。国内でヘイトクライムに関する法的な位置付けや規制が定まっていない中、検察側が異例の言及をしたことが注目されます。ヘイトクライムに当たると指摘される事件は、在日コリアンらが集まる京都府のウトロ地区での放火事件(2021年8月)などがあり、専門家らは「司法が差別的動機をヘイトクライムと認め、量刑に反映すべきだ」との声を上げており、ある報道でジャーナリストの中村一成さんは「欧米ではヘイトクライムで罰を重くする流れにあるが、日本の裁判所は差別の認定に尻込みしてきた実態がある」と指摘、この問題に詳しい師岡康子弁護士は「検察官がヘイトクライムと言及し、『差別だから許せない』とのメッセージを発信したのは大きな意味がある」と評価、「検察の指摘も踏まえ、ヘイトクライムを一律に禁止する法整備を進める必要がある」と強調しています。また、ツイッターの運営会社は、ヘイトを助長する投稿に対し、注意書きのラベルを表示する機能を搭載したと発表しています。買収した米起業家のイーロン・マスク氏は徹底的な「言論の自由」を主張しており、規定違反の投稿を運営会社の判断で一方的に削除するのではなく、閲覧者に注意を促すことで対応することにしたといいます。報道によれば、ツイッターの運営会社は「残すか削除するかという二者択一の投稿管理のやり方を超えることを可能にする措置だ」と説明しています。注意書きは投稿の上部に「表示制限:このツイートは、ツイッターのヘイトに関する言動に対するルールに違反している可能性があります」といったラベルで表示されるといいます。SNSは利用者が直接情報を発信できる基盤として公共性が高まり、運営会社には不適切コンテンツに対応する責任が問われるようになっていますが、一方で、米国のトランプ前大統領が発する内容など、何を不適切と見なし、どこまで言論の自由を認めるかといった点は繰り返し議論を巻き起こしてきた経緯もあり、ラベル表示による対応はこうしたバランスに配慮したものとみられます。

その他、最近の誹謗中傷に関する報道から、いくつか紹介します。

  • 2019年に愛知県で開かれた芸術祭「あいちトリエンナーレ」の芸術監督を務めたジャーナリストの津田大介氏が、小説家の百田尚樹氏からツイッターで侮辱されたとして、400万円の慰謝料を求めた訴訟の判決で、東京地裁は、一部の投稿の違法性を認めて百田氏に30万円の賠償を命じています。本コラムでも取り上げたあいちトリエンナーレでは、元従軍慰安婦を題材とする「平和の少女像」などを展示した企画展に脅迫のような抗議があり、企画展は2019年8月の開幕後3日でいったん中止となったものの、その後、安全を確保して2019年10月に7日間開催されました。判決は、津田氏の名前を挙げて「反日左翼、韓国人の怪しげな組織に利用された」などとする投稿6件を違法と認定し、「津田氏の社会的評価を低下させ、人格をおとしめた」と指摘しています。前述の事例とは異なり、思想信条に基づく自らの考えを行き過ぎた形で表してしまった事例といえます。
  • 沖縄県の米軍基地反対運動を取り上げた番組「ニュース女子」で名誉を傷つけられたとして、人権団体「のりこえねっと」共同代表・辛淑玉さんが、制作会社のDHCテレビジョン(現・虎ノ門テレビ)などに1100万円の損害賠償などを求めた訴訟の上告審で、最高裁第二小法廷はDHC側の上告を棄却しています。上告理由として認められる憲法違反などがないと判断されたもので、DHCに550万円の支払いと謝罪文のネット掲載を命じた一、二審判決が確定しています。番組は、東京メトロポリタンテレビジョン(MX)が2017年に放送したもので、一審は、番組が「暴力や犯罪行為もいとわない者らによる反対運動を、辛さんが経済的に支援し、あおっている」内容だったと認定、その上で、実際に運動をあおる目的があったとは認められず、十分な裏付け取材もなかったとして、番組が辛さんの名誉を傷つけたと認め、二審もこの判断を支持してたものです。
  • インターネット動画で芸能人らを脅迫したなどとして逮捕状が出ている前参院議員のガーシーこと東谷義和容疑者が国際手配されています。警察当局が国際刑事警察機構(ICPO)を通じて要請していたもので、警視庁は2023年3月16日に逮捕状を取得しています。東谷容疑者はアラブ首長国連邦(UAE)に滞在しており、4月12日には旅券も失効しています。なお、東谷容疑者と共謀し、インターネットの動画で男性を中傷したなどとして、警視庁は、東谷容疑者の知人で会社経営の男を名誉毀損と威力業務妨害容疑などで逮捕しています。報道によれば、男は2022年4月、東谷容疑者と共にユーチューブで配信した動画の中で40代のデザイナー男性の名誉を傷つけたほか、事業からの撤退を強要して業務を妨害した疑いがもたれており、警視庁は男が動画の編集などを担っていたとみています。男は東谷容疑者と同様、UAEのドバイに滞在していましたが、帰国したところを逮捕されたものです。
  • AKB48の派生ユニット「バイトAKB」元メンバーでラーメン店を経営する梅澤愛さん(26)が、SNS上の中傷で名誉を傷つけられたなどとして、投稿した東京都の男性に220万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、横浜地裁は、一部投稿を名誉毀損と認め、55万円の賠償を命じています。報道によれば、梅澤さんは神奈川県内で複数のラーメン店を経営しており、裁判長は、男性が「今度はどこの(ラーメンを)パクるんだろう?」とツイートした点に関し「社会的評価を低下させた」とし、男性がラーメン材料の取引先にメッセージを送った結果、取引を断られた経緯に触れ、業務妨害にも当たるとしています。
  • 日光東照宮の宮司の名誉を傷つけたとして、名誉毀損罪に問われた栃木県日光市議の三好被告に対し、宇都宮地裁は、罰金30万円(求刑・罰金30万円)の判決を言い渡しています。報道によれば、三好被告は自身が発行する機関紙に、宮司に関する虚偽の不貞行為を記載、2020年6月の新聞折り込みで、約7600枚のチラシを新聞購読者に配布し、宮司の名誉を傷つけたというものです。三好被告は「納得できない」と東京高裁に控訴する意向を示しています。
  • プロ野球中日ドラゴンズの選手が、通算100セーブを達成した同僚の外国人投手に対し、「亡命、ダメ、ゼッタイ」の文言をあしらったケーキを渡していたことがわかり、SNS上では、人権意識を批判する声が上がっており、中日球団側は、「選手の中ではシャレだった」などと説明しています。報道によれば、これまでも選手の誕生日などを選手間で祝うことはあったというものの、球団側は今回の文言が入ったケーキが渡されることを事前に把握していなかったとしています。広報担当者は「選手の中ではシャレで、『これからも一緒にがんばろうね』とやった」と説明、マルティネス投手の反応については「近くには通訳もいて、ライデルもシャレとわかって納得してよろこんでいた。シャレというかユーモアというか、理解していると思う」と話す一方で、「シャレだとしても今後気を付けた方が良い」とも話しています。社会的に人権意識が高まりを見せる中、これまでは「シャレ」で済ますことができたとしても、社会も当事者もそれを許さない社会になっていることを認識する必要があること、社会に「夢」を与える職業、有名人として社会や人々に影響を及ぼし得る立場としては、通常よりも慎重な振る舞いが求められること(ノブレス・オブリージュ)をあらためて球団も選手も関係者も体現していただくことを期待したいと思います。
  • 群馬弁護士会は、日本語学校などを運営する前橋市の学校法人「ニッポンアカデミー」の当時の理事長が一部のウクライナ人学生を「難民貴族」と発言したことを受け、「ウクライナをはじめとする避難民や難民の尊厳を傷つけ、差別や偏見を助長し、誘発する」と非難する湯沢晃会長の談話を発表しています。談話は、憲法や2016年に施行されたヘイトスピーチ解消法などが定めた「人の尊厳の保障や差別禁止の理念に反する発言で、難民への支援活動を萎縮させるおそれもある」とも指摘、国内に滞在する難民の中には、就労や国民健康保険加入が認められず、人権侵害を受ける人がいるとして、「帰国できない事情を抱えて日本に滞在する外国人の人権擁護に引き続き取り組む」との決意も示しています。
  • 美容外科「高須クリニック」の高須克弥院長をインターネット上で中傷したとして、名誉毀損罪に問われた埼玉県越谷市の簾内被告(22)に、さいたま地裁は、懲役10月、執行猶予3年(求刑懲役10月)の判決を言い渡しています。裁判官は判決理由で、投稿は拡散が容易で、社会的評価を大きく低下させると指摘、「過激な投稿をすれば多くの人に反応してもらえる」との動機を「過激な投稿をすれば多くの人に反応してもらえるという浅はかな動機だった」「酌量の余地はない」と非難しています。一方、高須氏が寛大な処分を求めたことなどを踏まえ、猶予刑が妥当としています。なお、報道によれば、2022年2月、高須氏が車で死亡事故を起こして逮捕されたといった虚偽の内容を投稿、不特定多数の人が見られる状態にして名誉を傷つけたものです。
  • プロ野球の巨人-ヤクルト戦(東京ドーム)で、試合中のホームランボールをめぐり波紋が広がっており、映像では、ボールの落下地点付近の座席には少年がいたものの、2席隣にいた男性がボールを取り上げているようにも見えることから、ボールを獲得した男性のSNSには誹謗中傷が相次ぐ事態に発展、男性の代理人弁護士は、誹謗中傷の著しい投稿について「法的措置を検討している」などとする声明を発表、SNSでは現在も賛否両論が巻き起こっています。報道によれば、男性の顔写真や実名などがSNSで拡散されていることを挙げ、「誹謗中傷の著しい投稿やプライバシー侵害が著しい投稿について保存行為を行っており、法的措置を検討しています」としています。

見ず知らずの男から性的な被害を受けた上、SNSに根も葉もない書き込みをされて心に二重の傷を負った少女(16)が、東京地裁で行われた男の公判で意見陳述に臨みました。「ハニートラップ」などと中傷され、自殺まで考えた少女が、やり場のない怒りを勇気に変え、法廷で「二次被害」の深刻さや男への憤りを必死に訴えたといいます。報道によれば、少女は意見陳述で、「美人局」「パパ活」「自分が有名人にセクハラしてもらえるほど価値があると本気で思っているのか」など数多くの中傷を浴びたと説明、「まるで被害者が悪いかのような言葉にとても傷付いた。つらくて学校にも行けなくなり、毎日泣いて自分のことばかり追い詰めるようになった」と明かしています。これらの書き込みは今もネット上に残ったままで、中には「女性側がワーワー言ってるだけの気もする」との投稿もあったといいます。少女は事件後、男性と話すのが怖くなるなど精神的に不安定な日々が続いたといい、「被害者なのに、なぜこんな思いをしないといけないのか」と理不尽さを感じる一方で、「被告やネットで中傷した人に意見を言える場は裁判しかない。絶対に言いたいことを言ってやろう」と考え、被害当時の記憶がよみがえるつらさ、人前に出ることで個人情報が漏れるのではないかという不安、逆恨みされて殺されるのではないかという恐怖などに耐えながら、陳述の文章を懸命に考えたといいます。これに対し裁判では、被告に対し「性的欲求を満たすために犯行を重ね、自己中心的な動機に酌量の余地はない」と述べ、少女への犯行について「若い被害者を羞恥させ、強い恐怖を与えた」と指摘、少女が公判で意見陳述し、事件後のつらい心情を明かしたことにも触れ、「深刻な影響が残っており、被告に厳重処罰を求めるのも当然だ」と述べています。その上で、再犯防止に向けた治療を続けていることなどを考慮し、執行猶予を付けています。少女は判決後の取材に「判決が意見陳述に言及してくれたのはありがたかった」とした一方、「被告には実刑を受けて刑務所できちんと反省してほしかったので、悔しい気持ちだ」と話しています。ネット上の中傷などの被害相談は増加傾向にあり、総務省の違法・有害情報相談センターには2021年度、10年前の4倍にあたる6329件の相談が寄せられています。ネットの中傷問題を研究する国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの山口真一准教授は、侮辱罪や名誉毀損罪の成立について「投稿を見た一般の人が被害者個人を特定できる必要がある。名前など個人の特定につながる情報がない今回のようなケースでは、投稿者の刑事責任を問うのは難しい」と指摘していますが、少女を支援する上谷さくら弁護士は「刑事上の責任がないからといって、許される問題ではない」と強調、「中傷した人は勇気を振り絞った少女の陳述をしっかり受け止めてほしい。SNS利用者は二次被害の深刻さを改めて考えるべきだ」と話しています。

総務省の誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループにおける資料から、「論点整理(案)」が公表されていましたので、紹介します。

▼総務省 誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループ(第6回)配布資料
▼資料1 誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループ 論点整理(案)(事務局)
  • 論点1 プラットフォーム事業者の責務
    • インターネット上のプラットフォームサービス上では不特定の者が情報を発信しこれを不特定の者が閲覧する場が構築されており、こうした場においては、情報発信に対する経済的・物理的・心理的制約が少ないため、違法・有害情報の送信や拡散に対するハードルが低く、違法・有害情報の流通が起きやすい。また、ひとたび違法・有害情報が流通した場合、それによる被害及び悪影響は即時かつ際限なく拡大し、甚大になりやすい。プラットフォーム事業者が、自らこうした場を構築しサービスを提供していることを踏まえれば、同事業者は、利用者による違法・有害情報の投稿に関し、違法・有害情報の流通の低減を図る社会的な責務を負うと考えられるのではないか。
    • 違法・有害情報の流通による被害は、サービスの態様や規模の大小を問わず、幅広いプラットフォームサービス上で現に生じており、こうした責務は全てのプラットフォーム事業者が負うべきと考えられるのではないか。中でも、特に大規模なプラットフォーム事業者については、違法・有害情報が流通した場合の被害の大きさや拡大するスピード、発生する頻度も上がると考えられることなどを踏まえると、特に大きな社会的な責務を負うと考えられるのではないか
    • さらに、利用者からの投稿を広く募り、それを閲覧しようとする利用者に広告を閲覧させることで収入を得ていることも、この社会的な責務を負うべきとする方向に働くのではないか
    • 利用者の表現の自由への配慮等の観点から、プラットフォーム事業者が行う違法・有害情報の流通の低減のための措置は必要な限度で、透明性を持って行うことが求められるのではないか。
  • 論点2 事業者の自主的な取組の促進(透明性・アカウンタビリティの確保)
    • プラットフォーム事業者による違法・有害情報の流通の低減を促進するに際しては、表現の自由等に配慮する観点から、プラットフォーム事業者に対して公法上の削除義務を課す等の法的規制を設けるよりも、プラットフォーム事業者によるコンテンツモデレーションの自主的かつ継続的な改善を促進し、違法・有害情報の流通の低減を図ることが適当と考えられるのではないか。
    • また、裁判上の法的な手続と比較して、簡易・迅速な対応が期待できるという観点からも、同様に考えられるではないか。
    • 行政は、プラットフォーム事業者によるコンテンツモデレーションの自主的な改善サイクル(PDCAサイクル)の確立のための枠組みを制度化することによって、これを促進することが必要ではないか。
    • プラットフォーム事業者による違法・有害情報の流通の低減に関し、特に、被害者等からの要望の強い、コンテンツモデレーションの申請等に関する事項及びその処理に関する手続等については、一定の措置を求めることが必要ではないか。
  • 論点2-1 対象となる事業者
    • 違法・有害情報の流通による被害は、サービスの態様や規模の大小を問わず、幅広いプラットフォームサービスで発生しており、すべての事業者が、これに自主的に対応する社会的な責務を負うのではないか。そのため、本来的には、すべてのプラットフォーム事業者が、違法・有害情報の流通の低減について、自ら運用計画を定め、運用し、その自己改善を図ることが望ましいのではないか。
    • 一方で、この自己改善のサイクルの確立を法的な義務として求めることがある場合には、新興サービスや中小サービスに生じる経済的負担や、情報流通の総量や利用者の数の増加に伴って、違法・有害情報の流通の頻度や深刻度が高まること等を考慮し、(1)利用者数、(2)サービスの目的・性質を考慮した上で、一定の要件を満たす大規模なサービスについてのみ、求めることとするべきではないか。
    • 上記の制度については、内外無差別の原則を徹底する観点から、海外事業者に対しても国内事業者と等しく制度が適用されるようにすることが必要ではないか。
  • 論点2-2 対象となる情報の範囲
    • プラットフォーム事業者には、違法情報及び有害情報の流通の低減について、これに対応するための方針を自ら定め、運用し、その自己改善を図ることが望ましいのではないか。
    • 違法情報については、個別の該当性については終局的には裁判によらなければならないものの、民主的手続を経た上で明確に定義されたものであり、流通の低減を図っていく必要性が高いと考えられることから、プラットフォーム事業者は、そのコンテンツモデレーションについて、自ら運用計画を定め、運用し、その自己改善を図ることが、特に求められるのではないか。
    • ここでいう違法情報には、民事上の権利を侵害する権利侵害情報と、個別の法令に違反する法令違反情報が含まれるのではないか。
    • 有害だが違法ではない情報については、その情報が有害であるか否か、受信者の属性や文脈によって評価が変化し、法律上も定義が一義的に定まっていない。このような、有害だが違法ではない情報についても、プラットフォーム事業者は、そのコンテンツモデレーションについて、自ら運用計画を定め、運用し、その自己改善を図ることが望ましいものの、この自己改善のサイクルの確立を法的な義務として求めることがある場合には、有害情報を、そのような法的義務の対象となる情報とすることには慎重であるべきではないか。
  • 論点2-3 コンテンツモデレーションの自主的な改善サイクル
    • コンテンツモデレーションの自主的な改善サイクル(PDCAサイクル)の枠組みに関し、具体的には、コンテンツモデレーションの運用等に関する事項を、それぞれ次のとおり実施するとともに、その内容や結果等を公表することが必要なのではないか
    • 公表事項の細目については、技術やサービス内容、効果的なコンテンツモデレーション手法登場等、急速な進展が予期されることから、自身による自主的な取組を尊重し、一定の柔軟性を持った制度設計とすることが求められるのではないか。
    • 一方で、プラットフォーム事業者ごとの比較可能性や利用者や被害者へのわかりやすさを確保する観点から、公表項目に関する一定の指針が示される必要があるのではないか。この際、事業者の過度な負担にならないよう、プラットフォーム事業者の意見を反映させることができる仕組みを設けることが必要ではないか。
  • 論点2-3 運用計画(P)の策定(運用基準関係)
    • 違法・有害情報の流通を低減させるために行う措置として、プラットフォーム事業者は、被害の態様や実態に即して、多様なコンテンツモデレーションの手段を組み合わせて運用している。
    • プラットフォーム事業者は、コンテンツモデレーションについて、その(1)運用基準、方法・手続や(2)運用体制について、あらかじめ、設定した上で、これらを運用計画として公表することが必要ではないか。
    • 運用基準には、措置の対象となる情報や行為、取り得る措置の内容やその適用にあたっての判断基準、措置の実施のために必要となる手続、措置の実施又は不実施に対する異議申立ての方法手順等が含められることが必要ではないか。
    • 運用基準は、日本語で、利用者にとって、明確かつ分かりやすい表現が用いられることが望ましいのではないか。
  • 論点2-3 運用計画(P)の策定(運用体制関係)
    • プラットフォーム事業者は、運用計画に基づいてコンテンツモデレーションを実施するために、人員やシステム等、実施に十分な体制の確保について計画し、公表することが必要ではないか。
    • 特に、日本におけるコンテンツモデレーションの実施について十分な体制の確保を求める観点から、日本語の投稿に適切に対応できる体制について計画し、公表することが望ましいのではないか。
    • 公表事項の細目については、事業者による効果的な指標の選択を促進する観点から、柔軟性と裁量を保つことが必要ではないか。
    • この点、例えば、コンテンツモデレーションの実施に係る人的体制の整備(例:従事する人員の体制、監督者、責任分担 等)について、公表することが望ましいのではないか。
    • また、人的体制以外の運用体制としてコンテンツモデレーションの迅速化に資する体制上の工夫についても、公表することが望ましいのではないか。例えば、AI等による自動処理を用いるプロセスの有無や活用状況について明らかにすることが望ましいのではないか。
    • さらに、例えば、投稿時に再考・再検討を促す機能等の、コンテンツモデレーション以外の違法・有害情報の流通の低減のための取組とその有効性等についても、公表することが望ましいのではないか。
  • 論点2-3 運用計画に基づく運用(D)
    • プラットフォーム事業者は、自らが定めた運用計画に沿って、コンテンツモデレーションを実施することが必要ではないか。
    • コンテンツモデレーションの運用結果は、後述する事業者による自己評価の前提となるほか、利用者によるサービス選択や被害者に対する説明に必要となる情報であるため、公表されることで利用者や被害者の利益を害さない限り、公表されることが必要ではないか。
    • 運用結果は、特に、日本における対応状況に関して公表されることが必要ではないか。
    • 公表事項の細目については、事業者による効果的な指標の選択を促進する観点から、柔軟性と裁量を保つことが必要であるのではないか。
    • 一方で、例えば、次の情報については、公表することが望ましいのではないか。この際、プラットフォーム事業者の国別対応に係る負担軽減及び国際的な比較を可能にする観点から、諸外国の同様の取組とできる限り項目をそろえることが望ましいのではないか。
      1. 削除等のコンテンツモデレーションの実施に係る端緒別の件数
      2. 端緒ごとに措置が実施された又は実施されなかった件数
      3. 根拠となる運用基準に定める情報の区分や日本法における法的根拠ごとの措置件数
      4. 苦情申出の件数やそれに対する対応結果ごとの件数
      5. 措置に要した時間の中央値
  • 論点2-3 運用結果に対する評価(C)と運用計画の改善(A)
    • プラットフォーム事業者は、実施したコンテンツモデレーションの結果について、自ら評価を実施することが必要ではないか。
    • 自己評価の手法や指標の設定について、事業者による効果的な指標の選択を促進する観点から、柔軟性と裁量を保つことが望ましいのではないか。
    • 一方で、自己評価の客観性や実効性を高める工夫(例えば、外部評価委員による審査等への助言・関与や、監査法人による監査等)を行うことが望ましいのではないか。また、事業者間の比較の容易性を担保する工夫も行うことが望ましいのではないか。
    • 自己評価の結果については、外部からの検証可能性を確保するとともに、利用者によるサービス選択や被害者に対する説明に必要となる情報であるため、公表されることで利用者や被害者の利益を害さない限り、公表されることが必要ではないか。
    • また、プラットフォーム事業者は、自己評価の前提となる自サービス上で生じている被害の発生状況や、自社のUI/UXやアーキテクチャ等が被害の発生にどのように寄与しているかについて、把握・公表することが望ましいのではないか。
    • プラットフォーム事業者は、自己評価の結果に基づいて運用計画や運用自体を見直し、改善することが必要ではないか。この際、利用者や被害者からの評価を取り入れることが必要ではないか。
  • 論点3-1 違法・有害情報に関する公法上の削除義務
    • プラットフォーム事業者に対して、権利侵害や法令違反など一定の条件を満たす違法な投稿の削除を、直接、公法上義務付けることは、この義務を背景として、当該プラットフォーム事業者によって、実際には違法情報ではない疑わしい情報が全て削除されるなど、投稿の過度な削除等が行われるおそれがあることや、利用者の表現の自由に対する実質的な制約をもたらすおそれがあること等から、極めて慎重な検討を要するのではないか。
    • このことは、民事上の権利を侵害する権利侵害情報と個別の法令に違反する法令違反情報とで、異ならないのではないか。
    • また、有害だが違法ではない情報については、受信者の属性や文脈によって、その情報が有害であるか否かの評価が変化し、法律上も定義が一義的に定まらないのではないか。それゆえ、その情報の削除を、直接、公法上義務付けることは、投稿の過度な削除等が行われるおそれがあることや、利用者の表現の自由に対する実質的な制約をもたらすおそれがあること等から、極めて慎重な検討を要するのではないか。
  • 論点3-2 違法・有害情報に関する行政庁からの削除要請
    • 現状、法務省の人権擁護機関や警察庁の委託事業であるインターネット・ホットラインセンター等の行政庁から、プラットフォーム事業者に対して、違法・有害情報の削除要請が行われており、要請を受けたプラットフォーム事業者は、自らが定める利用規約に照らした判断や違法性の有無の判断を行い、投稿の削除等の対応を行っており、これには一定の実効性が認められると考えられるのではないか。
    • 行政庁からの削除要請を受けたプラットフォーム事業者が投稿を削除した場合、投稿の発信者に対する民事上の責任の免除や、その投稿により発生した被害に対する民事上、刑事上の責任の免除をすることについては、迅速な削除に資することが期待できる一方で、そのニーズ、表現の自由との関係等を慎重に評価・検討することが必要ではないか。
    • 一方で、プラットフォーム事業者が、法的な位置付けを伴わない自主的な取組として、通報に実績のある機関からの違法・有害情報の削除要請や通報を優先的に審査する手続等を設け、行政機関からの要請をこの手続の中で取り扱うことは考えられるのではないか。
    • 違法・有害情報に関する行政庁からの削除要請に関しては、また事後的に要請の適正性を検証可能とするために、その透明性を確保することが強く求められるのではないか。
  • 論点3-3 違法情報の流通の監視
    • プラットフォーム事業者に対し、違法情報の流通に関する網羅的な監視を法的に義務づけることは、コンテンツモデレーションのための端緒を迅速に得る上で有効であると思われる一方で、行政がプラットフォーム事業者に対して検閲に近い行為を強いることとなり、また、事業者によっては、実際には違法情報ではない疑わしい情報も全て削除するなど、投稿の過度な削除等が行われるおそれがあることや、利用者の表現の自由に対する実質的な制約をもたらすおそれがあること等から、極めて慎重な検討が必要ではないか。なお、プラットフォーム事業者が自主的にこれを監視することは、妨げられないのではないか。
    • 繰り返し多数の違法情報を投稿するアカウントの監視を行うことは、コンテンツモデレーションのための端緒を迅速に得る上で有効であると思われる一方で、これをプラットフォーム事業者に対し法的に義務付けることは、前述と同様の懸念があることから、極めて慎重な検討を要するのではないか。なお、プラットフォーム事業者が自主的にこれを監視することは、妨げられないのではないか。
    • 繰り返し多数の違法情報を投稿するアカウントへの対応として、アカウントの停止・凍結等を行うことを法的に義務づけることについては、ひとたびアカウントの停止・凍結等が行われると将来にわたって表現の機会が奪われる表現の事前抑制の性質を有しており、行政がプラットフォーム事業者に対して検閲に近い行為を強いることとなり、利用者の表現の自由に対する実質的な制約をもたらすおそれがあることから、そのニーズ、表現の自由との関係等を評価することが必要であり、極めて慎重な検討を要するのではないか。
  • 論点3-4 権利侵害情報に係る送信防止措置請求権の明文化
    • 送信防止措置請求権の明文化には複数の利点がある一方で、後述する検討項目等について慎重な検討を要するのではないか。
    • 送信防止措置請求権の明文化の利点とは、具体的には、
      1. 被害者が送信防止措置を求めることが可能であると広く認知され、送信防止措置請求により救済される被害者が増える、
      2. 特に海外のプラットフォーム事業者に対して、一定の場合に被害者に対して送信防止措置義務を負うことが明確化され、日本の法律上の判断と一致した判断と対応の促進が図られる、
      3. 人格権以外でも、権利又は法律上保護される利益(例:営業上の利益を侵害する情報)の侵害が違法な侵害と評価される場合には送信防止措置を求めることが可能であることが明確化される、といった点があるのではないか。
    • 一方で、
      1. 裁判例によれば、特定電気通信役務提供者が送信防止措置の作為義務を負う要件は、被侵害利益やサービス提供の態様などにより異なるため、送信防止措置請求権の要件は抽象的なものになると考えられるが、 このような抽象的な規定であっても、前述のような効果が得られるか、
      2. 実務上、主に人格権侵害についてのみ差止請求が請求されていたところ、送信防止措置請求権の明文化により、人格権以外の権利又は法律上保護される利益の侵害も送信防止措置請求の対象となり得ることが明確になることによる影響について、どう考えるか、
      3. 制度を悪用して、権利を濫用する者が現れるおそれについて、どう考えるか、
      4. 請求を受けた特定電気通信役務提供者において、過度な削除が行われるおそれについて、どう考えるか、
      5. 著作権法や不正競争防止法などの個別法における差止請求の規定との整合性について、どう考えるか、といった諸点について検討することが必要ではないか。
    • いわゆる「炎上事案」については、複数の発信者の行為が関連共同性を有して違法な侵害であると評価できるか否かなど解釈上の課題があることや、多数の相手方を相手取ることの困難さがあることなどから、法的な請求による対応より、プラットフォーム事業者によるポリシーに基づく対応やアーキテクチャ上の工夫などの柔軟な対応が求められるのではないか
  • 論点3-5 権利侵害性の有無の判断を伴わない削除(いわゆるノーティスアンドテイクダウン)
    • プラットフォーム事業者において権利侵害性の有無の判断に困難を伴うことが多いことを理由に、被害を受けたとする者からの申請が、外形的な判断基準を満たしているときは、いたずらや嫌がらせと判断できるものでない限り、可及的速やかに削除の処置を行うこととし、発信者に削除の対象になったことを通知し、発信者から異議の申立てなどを受け付けた場合には再表示する環境を整備すること(いわゆるノーティスアンドテイクダウン)は、次の理由から、現状の原則と例外を入れ替えるほどの強い事情は認められず、導入には極めて慎重な検討が必要ではないか。
      1. プロバイダ責任制限法の規定上でも、プロバイダが発信者に対して、送信防止措置の実施の可否について意見照会を行っても一定期間返答がないという外形的な基準で、権利侵害性の有無の判断にかかわらず、送信防止措置を行うことが可能。
      2. プラットフォーム事業者は、当該情報の違法性の有無の判断ではなく、自らが定める運用基準に基づいて、一定の裁量をもって判断することが可能であり、当該情報の送信防止措置の可否については、違法性の有無ではなく、自らの運用基準に照らした判断が可能。
    • 上述の議論は、申請主体となる被害を受けたとする者が観念できる、権利侵害情報についてのみ発生するのではないか。
    • なお、いわゆるノーティスアンドテイクダウンについては、過去の検討の場において、次のような課題が指摘されており、これらの事情は、現在においても変わらないと考えられることから、このような手続については、引き続き、導入には慎重な検討が必要ではないか。
      1. 時宜にかなった表現(公職選挙の候補者に関する投稿等)が制限されてしまう。
      2. DMCAにおける偽証の罰則付statementのような濫用防止の制度が日本にはなく、制度の濫用が懸念される。
      3. 情報の再表示を求めるためには、発信者情報開示請求が認められないような場面においても、発信者が名乗り出る必要があり、現行制度と整合しない。
  • 論点3-5 権利侵害性の有無の判断支援(公正中立な立場からの要請)
    • 公平中立な立場からの削除要請等を行う機関や、プラットフォーム事業者が違法性の判断に悩む場合に判断を照会することができる機関を法的に位置づけることについては、次の理由から、慎重な検討が必要ではないか。
      1. 法的拘束力や強制力を持つ要請にあたっては、削除要請発出の判断がより慎重に行われるため、裁判手続である仮処分命令申立事件の方が、公平かつ確実で、なおかつ迅速。
      2. 憲法上保障される裁判を受ける権利との関係で、法的効果を持つ要請や判断の適否は、裁判所で争うことが最終的には可能であり、裁判所以外の判断には従わない事業者も存在することも踏まえれば、あえて裁判所とは異なる機関を設ける必要性に乏しい。
      3. プラットフォーム事業者は、当該情報の違法性の有無の判断ではなく、自らが定める運用基準に基づいて、一定の裁量をもって判断することが可能であり、当該情報の可否については、違法性の有無ではなく、自らの運用基準に照らした判断が可能。
    • 一方で、プラットフォーム事業者が、法的な位置付けを伴わない自主的な取組として、通報に実績のある機関からの違法・有害情報の削除要請や通報を優先的に審査する手続等を設け、前述のような機関からの要請をこの手続の中で取り扱うことも考えられるのではないか。
    • また、そのような要請を行う機関とプラットフォーム事業者間の対話を促し、任意の要請への円滑な対処を図ることが重要ではないか
  • 論点3-5 権利侵害性の有無の判断の支援(ADR)
    • 裁判外紛争解決手続(ADR)については、次のような課題があることから、法的に位置付けることについては、極めて慎重な検討が必要ではないか。
      1. 憲法上保障される裁判を受ける権利との関係で、その適否について裁判所で争うことが最終的には可能であり、裁判所以外の判断には従わない事業者も存在することも踏まえれば、あえて裁判所とは異なる機関やプロセスを設ける必要性は乏しい。
      2. ADRの実施には経費を要するところ、その経費をどのステークホルダーに負担させるのか、ADRの実施機関が判断を誤った場合に誰が賠償を行うのか等、金銭面の問題がある。
      3. ADRの手続を作り込むと、審理のスピードが遅くなり、結局裁判手続と同程度又はそれより長い時間を要してしまう。
    • 上述の議論は、申請主体として被害を受けたとする者が観念できる、権利侵害情報についてのみ発生するのではないか。
    • 一方で、上述の議論は、プラットフォームサービスに特化したADRを、プラットフォーム事業者が自らの費用と判断でかかる仕組みを構築すること妨げるものではないのではないか。
  • 論点4-1 相談対応の充実
    • インターネット上の違法・有害情報に関する相談対応の充実を図ることは、突然被害に遭い、何をすれば分からない被害者を支援する上で、極めて重要ではないか。
    • 特に、相談のたらい回しを防ぎ、速やかに迅速な相談を図る観点からは、違法・有害情報相談機関連絡会(各種相談機関ないし削除要請機関が参加している連絡会)において、引き続き、関連する相談機関間の連携を深め、相談機関間の相互理解による適切な案内を可能にすることや知名度の向上を図ることが必要ではないか。
    • 相談機関に対する相談者からのニーズについて、適切に把握することが必要ではないか。例えば、電話相談のニーズについて、各相談機関のリソース面の負担を考慮しつつ、相談機関間での適切な案内によって解消することが必要ではないか。
    • 任意の削除要請を行っている相談機関については、より迅速な対応が可能な利用規約に照らした対応を促す観点から、そのような要請を行う相談機関と事業者間の対話を促し、任意の要請への円滑な対処を図ることが重要ではないか。
    • 上述の取組に限らず、被害を受けた相談者に対して、適切な相談の受付を迅速かつ適切に行うための取組について、相談機関間において、一層、検討を深めることが必要ではないか。
  • 論点4-2DMによる被害への対応
    • プラットフォームサービスに付随するDM機能においても、誹謗中傷などの権利侵害など、多くの問題が発生しており、プラットフォーム事業者においても適切な対応が求められるのではないか。
    • 例えば、DMなどの機能については、プラットフォーム事業者の中には、受信する側のアカウントにおいて、受信する範囲を選択することができる機能(例:友達の友達以外の者からのDMは受け取らないように設定可能とする等)を設けるなどの工夫を講じている事業者もあり、引き続き、このような自主的な取組が、利用者にとって明確かつわかりやすく示されることが必要ではないか。
    • DMのような一対一の通信について、発信者情報開示請求を可能とすることについては、次の理由から、そのニーズ及び要件等について、慎重な評価・検討が必要ではないか。
      1. プラットフォーム事業者が開示の要否の判断にあたって、当該一対一の通信の内容を確認しなければ被疑侵害投稿の存在の確認や開示の可否の判断をすることができないこと、
      2. そのような個別の通信は、通信の秘密の保護が及ぶと考えられること、
      3. 当該一対一の通信がend to endで暗号化されている場合には、プラットフォーム事業者自身にも判読不能であること、
      4. 現行の発信者情報開示制度は、情報が拡散され被害が際限なく拡大するおそれがあることに着目した規定となっていること

次に、偽情報(フェイクニュース)等を巡る状況について確認します。まず、首相官邸(内閣官房長官)から、偽情報等に関する体制の整備についてのメッセージが発信されているので紹介します。国家安全保障戦略の文脈において、情報戦(認知戦)が重要視されていることに鑑み、国・政府としても偽情報等に対する体制をしっかり整備することが求められており、大変よいことだと思います。なお、防衛力強化の一環として認知戦への対処能力は欠かせなくなっています。中国当局は台湾での選挙の度に偽情報を拡散し、「台湾統一」を目指す中国に有利な世論形成を図っているほか、ロシアによるウクライナ侵略では当初、ウクライナのゼレンスキー大統領が国外に逃亡したとの偽情報が流れました。ウクライナ側の士気低下を狙ったとみられています。このように偽情報などで世論の動揺を狙う「認知戦」への対処能力を強化することが必須となっているのです。

▼首相官邸 偽情報等に関する体制の整備について
  • 偽情報等に関する体制の整備について申し上げます。偽情報の拡散は、普遍的価値に対する脅威であるのみならず、安全保障上も悪影響をもたらし得るものであります。昨年12月に策定された国家安全保障戦略において、外国による偽情報等に関する情報の集約・分析、対外発信の強化等のための新たな体制を政府内に整備する旨が記載されました。これを踏まえ、今般、外国による偽情報等の拡散への対処能力を強化するための体制を内閣官房に整備することとしました。
  • 具体的には、外務省、防衛省等が外国からの偽情報等の収集を強化するとともに、内閣情報調査室の内閣情報集約センターにおいて様々な公開情報の収集・集約・分析を行うこととし、その一環として、内閣情報官の下で、外国からの偽情報等の収集・集約・分析を実施します。また、偽情報等に対する対外発信等を内閣広報官の下で官邸国際広報室が、国家安全保障局、外務省、防衛省を含む関係省庁と連携して実施します。政府として、これらの取組を内閣情報官と内閣広報官に加え、内閣官房副長官補、国家安全保障局次長を含めた体制において、一体的に推進してまいります。

総務省のプラットフォームサービスに関する研究会の配布資料からm「エコーチェンバー」「フィルターバブル」に関する資料が配布されていましたので、簡単ですが確認しておきたいと思います。

▼総務省 プラットフォームサービスに関する研究会(第44回)配布資料
▼資料1 エコーチェンバーとフィルターバブル:プラットフォームが促進するフィードバックループ(東京工業大学環境・社会理工学院笹原和俊准教授)
  • エコーチェンバーとは何か
    • 同じ意見をもつ人々が集まり、自分たちの意見を強化し合うことで、多様な視点に触れることができなくなる現象
    • 音が反響する物理現象のメタファー
    • インターネットの文脈ではCass Sunsteinが提起(2001)
    • 意見の二極化と社会的分断(懸念)
    • ホモフィリー(同類性)による選択的接触
  • ホモフィリーの功罪
    1. 類は友を呼ぶ
      • 似た人が集まる→さらに似る→さらに似た人が集まる→さらに似る…
      • 確証バイアス、共感、協調、結束、内集団
    2. 内と外を分ける
      • 内集団びいき、外集団蔑視
      • 同質化:情報(源)の多様性が減少
      • 過激化・分極化:党派性情報、不健康動画、擬似科学、陰謀論…
  • ヘイトの増幅
    • イスラム教のタブリーグ・ジャマート集会に関するFacebookの投稿の共有
    • 反イスラムは専らフェイクニュースを共有
    • 「ウイルスを利用してイスラム教徒がコロナジハード(聖戦)を仕掛けている」
    • 反イスラムの投稿は反反イスラムの3倍速く拡散
  • 陰謀論を選択的に増幅するBot
  • SNSはエコーチェンバーを加速する
  • 三者閉包=こだま化装置の増加
    • SNSのフォローの仕方は三者閉包を増加させ、それによって意見がこだま化
  • インフルエンサーの自然発生
    • SNSのフォローの仕方はインフルエンサーを自然発生させる
  • フィルターバブルとは何か
    • インターネット上の情報が、個々のユーザーの関心や過去の検索履歴、閲覧履歴などに基づいて選択的に表示される現象
    • 自分の価値観に合った情報にばかり触れることで、異なる視点に触れる機会が減少し、偏った認識や固定観念を持つ
    • 「フィルター」のメタファー
    • Eli Pariserが提起(2011)
    • 知的孤立と社会的分断の懸念
    • アルゴリズムによる選択的接触
  • 賢いフィルターの功罪
    1. Daily Me
      • パーソナライズされた情報
    2. レコメンデーション
      • 適切な商品・サービスの推薦
      • セレンディピィティ
    3. ターゲティング
      • 思考誘導、行動変容
      • 過激な方
  • YouTubeのおすすめが過激化を促進?
    • オルト・ライト(Alt-lite)やIDW(知的ダークウェブ)のチャンネルからおすすめを通じてオルタナ右翼(Alt-right)へアクセス可能
  • おすすめでラビットホールに落ちる
    • 推薦された子供向け動画を2,3回見ると、そればかりが推薦されるように(ランダム視聴ではそのような傾向はなし)
  • FBのアルゴリズムは悪さをしていない?
    • 政治的に多様なニュースをフィルターしているのは、FBのアルゴリズムではなく、あなたの友人たち(社会的ネットワーク)
  • エコーチェンバーとフィルターバブルの共通点
    1. どちらも情報(源)を制限する環境(あるものは隠し、あるものはもっと見せる)
      • ホモフィリー(誰とつながるか)による選択的接触
      • アルゴリズム(過去の履歴)による選択的接触
      • プラットフォームがこれらを促進
    2. それによって情報の偏りや視野の狭さが生じる
      • 意見の偏りと極端化
      • 対立や分断の増加
  • エコーチェンバーとフィルターバブルは同じ現象の一部
  • プラットフォームごとに異なる情報源の制限要因
  • エコーチェンバーとフィルターバブル研究の問題点
    • どの程度の負の影響があるのかに関する定量的知見が不足
    • 研究によって定義も尺度が異なるので比較困難(Bail 2021)
    • 効果量は小さい?
    • 文脈に依存する?
    • 情報(源)の偏りを調べることが多いが、思考・行動変容の測定は困難(生態学的妥当性)
  • 接種理論の応用
    • 弱い挑戦で抵抗力を養成し、説得への免疫を身につける(McGuire 1961)
    • エコーチェンバー等にも同様のアプローチが使える(かもしれない)
  • Echo Demo
    • エコーチェンバーを擬似体験(H. Peng, F, Menczer, K. Sasahara)
  • TheirTube
    • 異なる嗜好のユーザーでレコメンデーションの傾向を擬似体験
  • プラットフォームでの行動介入
    • 情報の正確さに対する介入等(Info Interventions)
    • 多様なつながりを促進する介入(Polyphony)
  • Info Interventions
    1. 正確性のプロンプト
      • 虚偽の可能性のあるコンテンツに出会ったときに、ユーザーに対してコンテンツの正確性に注意を向けさせると、共有する確率が減少
    2. リダイレクト方式
      • 過激派の情報を探しているユーザーを、過激派の勧誘メッセージに反論する確認済みのコンテンツに自動転送
    3. 投稿者へのフィードバック
      • 有害なコメントを検出した場合、投稿者にメッセージを表示し、公開する前に表現変更を促す
    4. プレバンキング
      • デマの手口や実例を事前に知っておくことで「免疫」をつけて、実際の誤情報に出会ったときに、信じたり、拡散したりしないようにする
  • 弱い紐帯を促進するマイルドな介入
    • 多次元の弱い紐帯の自生
    • 「似てるけど少し違う」ユーザーをアルゴリズムで発見
    • 認知バイアスを活用してつながりを促す
    • 社会ネットワーク全体としての情報多様性を保全
  • ChatGPTという新たなエコー/フィルター
    1. ChatGPT(LLM)はWebの集合知を学習した推論機械
      • 自然言語がUIという強み
    2. AI-Generated Contentsの氾濫(AIGC >> UGC)
      • 不確かな情報・バイアスの増幅(エコー)
      • ChatGPT(が生成|と共創)した情報が思考の糧に(フィルター)
    3. 便利で心地良いので抜け出せない

石川県の能登半島で最大震度6強を観測した地震直後、ツイッターに投稿された倒壊家屋の写真について「フェイクではないか」と一部で疑問の声が上がりましが、毎日新聞記者が現地で確認して写真は事実に基づくものでこの投稿は正しいと報じています(いわゆる「ファクトチェック」となります)。投稿された写真に対し、「フェイクだ!」「デマに注意」などと偽物と決めつける反応が出たほか、「フェイク? 本物?」「怪しい」「別の地震の可能性もある」などと断定を避けつつも、信ぴょう性を疑う投稿も見受けられました。写真は拡散し、午後6時半時点の表示は約256万回、約1万8000件の「いいね」が付きました。今回はフェイクではありませんでしたが、災害時にはフェイクが出回ることが知られています。信頼できる機関等のファクトチェックを確認してみるのも、行動様式として取り入れていくことが重要だと思います

米ブルームバーグ通信は、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が2023年1月、ウクライナのゼレンスキー大統領になりすましたロシア人と電話で話したことを報じています。パウエル氏の発言は市場に影響を与えるだけに、管理体制が問われかねない事態です。報道によれば、パウエル氏はゼレンスキー氏の偽者に対し、インフレ(物価上昇)の見通しや、ロシアの金融政策などについて説明したといいます。相手は著名人へのいたずらで有名なロシア人2人組で、欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁も会話をしたといいます。FRBの報道官は、事実を認めた上で、「友好的な会話で、ウクライナを支援する文脈で行われた。機密情報については話していない」と説明しています。

2020年米大統領選で「票が不正操作された」と偽情報を拡散したとして訴えられた保守系テレビ局FOXニュースが、7億8750万ドル(約1060億円)の和解金を支払うことで合意しています。民主主義を揺るがす陰謀論に関してメディアの責任が問われた形で、無責任な加担には高い代償が伴うと示された形となります。投票集計機メーカーのドミニオン社はこれまでに多量のFOX社内の内部資料を提出、これにより、看板司会者らが私的な会話では「(トランプ派の弁護士は)うそをついている。正気じゃない」「(選挙不正の主張は)常軌を逸している」などとやりとりしていたことが判明、本音ではうそだと思いながらも、トランプ氏らの主張を報じ続けた理由として、ドミニオン社は視聴率の低迷を指摘しました。FOXは米国で有数の視聴者数を誇っていますが、大統領選でいち早くバイデン氏優勢を伝えたことから、視聴者が別の保守系テレビ局に流れたと分析、実際に、不正を否定するツイートをした女性社員について「彼女を解雇してくれ。(会社の)株価が下がっている」と焦りを示すやりとりもあったといいます。なお、本件については、2023年5月13日付毎日新聞の記事「「大きなうそ」に溺れたメディアの責任」に大変詳しく報じられており、興味深い内容でした。以下、抜粋して引用します。

Big Lie(大きなうそ)。米国では、2020年大統領選での敗北を認めず、「不正によって選挙が盗まれた」というトランプ前大統領らの根拠のない主張を指す。うそは共和党支持者らに浸透し、熱烈なトランプ氏支持者らによる連邦議会襲撃事件にもつながった。発信源はトランプ氏とその周辺だが、これほど広く拡散し、浸透した背景にはそれを繰り返し流したメディアの存在がある。うそだと認識しながらそれを拡散したメディアの責任は。先日和解が成立したある訴訟がそれを問うた。…不正がないことは、投票用紙を手で再集計することなどで容易に確認することができた。ドミニオンはうその撤回を求めたが、FOXは拒否し、連日のようにこの弁護士らを出演させた。そのため翌年、FOXの司会者らに虚偽の情報を拡散されて名誉を傷つけられたとし、16億ドル(約2150億円)の損害賠償を求める訴訟に踏み切った。…FOXがうそを拡散したのは、敗北を認めたくないトランプ氏に同調したという理由ではなかった。ドミニオンが独自に入手し、裁判所に提出した膨大な資料から内幕が透けて見えた。証拠開示で得られたFOXの著名なキャスターや幹部らによる社内でのメールのやりとりは生々しい。例えば、不正選挙を主張していた弁護士については「うそをついている」「狂っている」などとやりとりしていた。黒塗りの部分もあるため、全てを読むことはできないが、うそだと認識していた関係者が多くいたことが分かる。それではなぜ、FOXは弁護士らを繰り返し出演させたのか。ドミニオンは提訴時から、背景には「視聴者数問題」があったと指摘してきた。…FOXの幹部や人気キャスターらの慌てた様子が訴訟資料に記されている。「ダメージは計り知れない」「ニュースマックスの躍進は無視できない」。うそだと認識しつつも、トランプ氏支持者をFOXに呼び戻すために選挙不正の主張を流し続けたというのがドミニオン側の筋立てだ。FOXは審理で事実関係を争うことなく、「名誉毀損訴訟で最高規模の和解金」(米メディア)という7億8750万ドル(約1060億円)を支払って和解する道を選んだ。どちらの主張がより通ったのかは、巨額の和解金から明らかだろう…和解の前日、FOXは米テレビ局で最も信頼度が高いという民間の世論調査結果を引用し、「かつてないほど信頼されている」という全面広告をワシントン・ポスト紙とニューヨーク・タイムズ紙に掲載した。この「信頼」がうその拡散や浸透に寄与し、民主主義の根幹である選挙を毀損する行為につながったことは皮肉というほかない。

2023年5月10日付毎日新聞の記事「「気候変動の偽情報で収益」 NGOがグーグル批判の調査報告書」によれば、米IT大手グーグルは、気候変動をめぐる偽情報を規制する指針を定めていますが、同社と傘下の動画サイト・ユーチューブが、指針に抵触する多くのコンテンツで収益を上げているとして、国際NGOが批判を強めているといいます。専門家は、プラットフォーム側の自主努力には限界があるとし、法的な規制を含むより強力な措置を求めています。「グーグルは、気候変動の否定論から利益を得ないという約束を実行すべきだ」と、世界50以上の環境NGOなどでつくる「偽情報に反対する気候行動連合」(CAAD)と、英米に拠点を置く「デジタルヘイト対策センター」は、2023年5月2日に発表した報告書でそう強調しています。グーグルは2021年秋に内部の指針を定め、ユーチューブを含むグループのサービスで、気候変動をめぐる科学的な合意を否定する内容を含む投稿や広告を掲載できなくし、偽情報による収益化を防ぐと表明していましたが、CAADの調査では、気候変動をめぐる偽情報や誤解を招く内容を含む200件の広告付きユーチューブ動画が特定され、23年4月半ばまでにこれらの総再生回数は7380万回に達していたといいます。さらに、報告書が指摘した200件のユーチューブの動画には、自動車、航空、アパレルやスポーツ用品などの業界大手の広告が流れていたということです。 米ハーバード大学のオレスケス教授は、CAADの報告書について「期待に反して、気候変動の偽情報(の拡散)が続いていることを証明する重要な仕事だ」と評価、本来であればプラットフォーマーの自主規制に委ねることが望ましいとしつつ、「そのようなことはめったに起こらないのが現実だ」と強調、「悪い行いが大きな利益を生むのであれば、その行いを規制し、管理し、あるいは止めるために、政府が介入する必要がある」と語り、法規制についても検討すべきだとの考えを示しています。また「偽情報を(根拠をもって)偽情報としてさらせば、その効果は薄れる」とも述べ、分断や対立を拡大させないための「予防接種」として科学的な合意を周知し続けることの重要性を強調しています。

その他、偽情報やプロパガンダ等に関する最近の報道から、いくつか紹介します。

子どものスマホ、偽情報どう対処 「保留力」で拡散防ぐ(2023年5月2日付日本経済新聞)

同じ景色を見ているのに全く違う反応が起きる。この不思議な現象は「認知バイアス」と呼ばれる、私たち人間の非合理的な特性だ。人間には「自分が信じたいと思う情報」を選び、信じてしまう特性がある。フェイクニュースの作成者たちは、こうした認知バイアスの仕組みを熟知し、巧みに利用している。例えば「誰も知らない」「これは許せない」「意外な事実」といった情報。大抵のフェイクニュースにはこういった要素が備わっている。これらが私たちの認知バイアスを刺激し、「本当だったら興味深いな」「容認してはいけない」といった感情を呼び起こし、信じさせてしまうのだ。フェイクニュースには「誰かに教えたい」という感情を揺さぶる特徴もある。若い世代はそういった感覚に敏感だ。「自分の投稿をバズらせよう(注目させよう)」という欲求にも背中を押され、すぐに飛びついて偽の情報を拡散させてしまう恐れがある。…思わず信じたくなる情報に接した時に「あれ、今、自分の認知バイアスが刺激されているな」と疑ってかかるアンテナを磨いていくことが重要だ。情報がフェイクニュースであれば、やがて反論や反証が出始めるだろう。それまでの間、判断を待ってほしい。拡散にブレーキをかけることができる「保留力」こそが、フェイクニュースと闘う強力な武器になる。…コロナ禍では、エビデンスを最も重視すべき専門家である医師の一部が誤った情報を信じ込み、フェイクニュースの拡散に加担してしまうケースもあった。新型コロナは情報リテラシーの作法も変えてしまった。これは今後、私たちが自分で「信頼できる専門家」を選ぶ技術を磨かなければならない、ということも意味する。大人でも難しい挑戦だろう。ましてや、人生経験の少ない子どもたちに求めるのは酷な話だ。だからこそ「即決しない」「保留する」センスが重要になる。

競い合うAI、分断生む 世界の虚構も生成(2023年4月18日付日本経済新聞)

3月、トランプ前米大統領が警察に拘束される画像がツイッターで出回った。現実に起きた事象だと、脳が錯覚を起こす。精巧なフェイク画像が社会にあふれている。米中対立のはざまで揺れる台湾でも、SNSで偽情報がはびこる。「多くが中国大陸からだ」。台湾で年間数千万件ものファクトチェックを手掛けるIORG共同創業者の游氏は指摘する。「AIが偽情報を大量生成し、人間の不安心理をあおることもできる」(游氏)。その警鐘は現実となっている。…動画共有アプリ「TikTok」などAIで好みの情報が集まる「フィルターバブル」も、分断を生む温床となる。価値観と違う情報を遠ざけ、孤立を招く。それでもAIは日常に溶け込む。…東京工業大学の笹原和俊准教授は、偽情報を作る体験をしたグループとしないグループとで、だまされやすさに差が出るかの実験を近く始める。「身をもって体験することが、だまされないための第一歩だ」と語る。何が正しくて、何が間違っているか―。判断力を磨き直すことが問われてくる。

(7)その他のトピックス

①中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産(仮想通貨)を巡る動向

中央銀行が発行する電子的なお金である中央銀行デジタル通貨(CBDC)を巡り、日本でも将来的な制度設計をにらんで、論点を整理する議論が始まりましたCBDCは、紙幣や硬貨のような現物ではなく、通貨をデジタル化してスマホなどで素早く決済できるようにするもので、中央銀行が価値を保証する通貨として、いつでもどこでも使えることを目指しています。財務省は2023年4月に有識者会議を設置、日銀は現時点で「デジタル円」を発行する計画がなく、日本での実現性は不透明ではあるものの、急速に導入ニーズが高まる事態に備え、海外動向も注視しつつ実証実験や検討を進めるとしています。本コラムで取り上げているとおり、日銀は2021年に技術面での実現可能性を探る「概念実証」を始め、通貨の発行や流通といった基本機能のほか、振り込み予約や保有額の制限などの周辺機能が問題なく使えるかを確認、その上で2023年4月からは、個人用のスマホやICカード、店舗用の端末を使って決済することを想定した「パイロット実験」段階に移行し、実際に金融機関を介して円滑に送金できるかなどを検証する予定です。日銀はCBDCに必要な基本的特性として、「誰もが使える仕組み」「セキュリティの確保」「いつでもどこでも使える「強靱性」」「現金と同じようにすぐに決済が完了する」「民間決済システムとの相互運用」を掲げています。また、個人情報については、日銀がこれまで民間も含めて議論してきた中でも「現金と異なり個人情報や取引情報の把握が容易であることから、情報管理に関する配慮も必要」といった意見が出ているところです。決済手段としてはスマホや店舗側の受け取り端末の利用が想定されますが、スマホを持たない人や店舗側の端末をどう整備するかも課題となります。また、金融システムへの影響では、預金からCBDCに急激にシフトするとシステムに悪影響を与える恐れが指摘されており、CBDCの保有額や決済額に上限が必要という考え方もあります。こうした課題をふまえつつ、日本では既に多様な決済手段があるため、民間の決済手段とCBDCのすみ分けや、高齢化社会での利用の在り方、災害時の対応についても議論が求められることになります。第1回有識者会議では各国の目覚ましいCBDC関連の技術発展に言及し、「(日本も)スピードに負けないようにすることが大切だ」と話す委員もおり、中国やブラジル、インドのような新興国のほか、カリブ海地域のバハマやジャマイカなどで本格導入や広範囲な実証実験が進んでいるという実態が背景にあります。報道によれば、米シンクタンクのアトランティック・カウンシルによると、CBDC検討に着手した国・地域は114カ国に達し、10カ国以上で既に導入されているといいます。有識者会議では既存の決済手段との役割分担のほか、金融システムへの影響や利用者情報の保護、マネー・ローンダリング対策などが主な論点になります。世界初のCBDCは2020年10月にバハマ中央銀行が発行、銀行口座の保有率が低い新興国や途上国が導入に積極的な傾向にあります。その他、中国人民銀行は2019年、「デジタル人民元」の実証実験を開始し、17省26地域にまで対象地域を拡大、米国では連邦準備制度理事会(FRB)が2022年1月に報告書を公表し、同3月にはバイデン大統領が、CBDCの研究・開発を政権の最優先課題とする大統領令に署名しています。ユーロ圏でも、欧州中央銀行(ECB)が今秋までに2年間の調査・研究を終え、「実現フェーズ」に移行するかを判断する予定となっています。国境をまたぐ取引にCBDCが使われる可能性も考えられます。

また、財務省の神田財務官は、途上国が適切な国際基準に合致したCBDCを導入するのを支援するため、最善の方法をG7として検討する方針を示しています。急速に変化するデジタル技術を巡り国際社会が直面する課題に対処する取り組みの一環として、日本が議長を務めるG7の主要な議題の一つになるとし、適切な透明性や健全なガバナンスを確保することでCBDC開発によるリスクに対処する必要があると強調、G7は今年の優先事項として、リテール向けCBDCに関するG7の公共政策原則といった適切な基準に合致したCBDC導入で途上国を支援するための最善の方法を検討すると述べたものです。また、神田氏は、デジタル技術の急速な革新はさまざまな恩恵をもたらす一方、サイバーセキュリティ、誤情報の拡散、社会的・政治的分断、金融市場の不安定化リスクなど新たな課題も生むと述べています。関連して、国際通貨基金(IMF)の助言機関である国際通貨金融委員会(IMFC)が米ワシントンで開いた会合で、日本政府は、IMFが進めるCBDCの開発支援を支持すると表明、一方、共同声明の採択はロシアのウクライナ侵攻を巡り意見が一致しなかったことから3会合連続で見送られています。また、日本のベンチャー企業が関与して世界に先駆けてCBDCを導入したカンボジアの国立銀行副総裁のインタビューが報道されていました(2023年4月11日付毎日新聞)。以下、抜粋して引用します。

世界の主要国に先駆けて中央銀行のデジタル通貨システムを導入した国がある。東南アジアのカンボジアだ。中央銀行であるカンボジア国立銀行でデジタル化を主導するチア・セレイ副総裁(41)が毎日新聞のインタビューに応じた。…デジタル通貨は、カンボジアにある世界遺産・アンコール遺跡の一つ、バコン寺院から取って「バコン」と名付けられている。携帯電話番号で口座を作ることができ、米ドルと現地通貨のリエルをデジタルで送金したり、支払ったりできる。開発には日本のベンチャー企業「ソラミツ」が関わり、改ざんを防ぐ「ブロックチェーン技術」を用いて20年10月から正式に運用されている。デジタル化の目的の一つも、金融包摂だった。…日本でも日銀がデジタル通貨の研究を進めているが、利便性よりも情報漏えいや乗っ取りなどのリスクの議論が先行しがちだ。カンボジア国立銀もこうしたリスクを無視しているわけではないが、チア・セレイ氏は「恩恵がはるかに大きく、リスクに勝っている」と指摘。その上で「いずれはカンボジアでもサイバー犯罪が起こる可能性があり、備えも必要だ。デジタルと金融教育を強化していく」とも語った。日本でデジタル化が進まないことについても見解を求めると、「日本はすでに十分便利で、銀行口座も大半の人が持っている。おそらくデジタル化によって価値を追加できていないのではないか」と分析した。

前述したとおり、デジタル人民元は実証実験段階にすでに入っており、中国の地方政府や銀行で職員の給与をデジタル人民元で支給する動きが出てきたと報じられています(2023年5月4日付日本経済新聞)。報道によれば、デジタル人民元は市民参加型の実証実験が始まってから2年半がたちます、既存のスマートフォン決済と競合し認知度の向上などに課題を抱えているといいます。給与を支払う段階からデジタル人民元に切り替えて、消費現場での利用をさらに促す狙いがあると考えられます。デジタル人民元は中央銀行の中国人民銀行が管理するデジタル通貨で、2014年から研究に着手し、2020年10月には広東省深セン市で市民参加型の実証実験に着手、2022年3月、実験地域を15省・直轄市にある23地域に拡大し、2022年9月には実験を段階的に全省に拡大する方針を示しています。正式発行の時期は未定ではあるものの、普及すれば人民銀行にとっての利点は大きいとされます。国内の決済情報を瞬時に把握でき、きめ細かい金融政策の調整に役立てられること、海外への違法な資金の持ち出しやマネー・ローンダリングの防止にもつながるとみられているためです。一方、利用割合が低い背景には、民間のスマホ決済との「重複感」が否めないことがあげられます。中国では、ウィーチャットペイ(微信支付)やアリペイ(支付宝)が広く普及しているためです。給与支給の動きについては、デジタル人民元を公務員や職員が持つスマホ上の財布などに直接支給するとし、払い手である地方政府や銀行は職員の名前と携帯電話を登録すれば支払いができます。銀行口座を通じた支払いよりも管理コストが抑えられるとの見方もあります。正式発行に向けて実証実験を取り仕切る人民銀行は、デジタル人民元を使えるインフラを増やしていく方針です。デジタル人民元は電波がないところでもスマホを接触させればお金のやり取りができるという特徴があり、このサービスに対応するスマホの機種を増やしていく予定です。また、スマホ以外にもウエアラブル端末やICカードなどデジタル人民元の財布機能を搭載できる製品の多様化を急いでいます。

欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は、中央銀行が発行するデジタル通貨である「デジタルユーロ」の発行時期について「2026年か27年でもおかしくはない」と語っています(2023年5月10日付日本経済新聞)。通貨主権を保つため、いち早く新しい通貨CBDCを導入する構えで、報道によれば、1人当たりの保有額に上限を設けたり、スマートフォンで利用したりする案が浮かんでいるといいます。ロシアのウクライナ侵略に伴い、日米欧はロシアの決済網を対象にした制裁を科しましたが、欧州の政策当局では逆制裁を受けた場合のシミュレーションが始まりました。ユーロ圏の経済がまわるようにデジタルユーロの導入を急ぎ、通貨主権を盤石にしたいとの思惑があるとみられています。決済手段として現金を提供するだけでは不十分との危機感もあり、足元では世界的にキャッシュレス化が進み、暗号資産の利用が広がっており、民間によるデジタル決済手段に中銀の役割が奪われてしまうと警戒しています。ECBは2021年10月にデジタルユーロの発行に向けた調査を始めていますが、実現には課題も多く、消費者が銀行預金をデジタルユーロに大量移管すれば、銀行からの資金流出につながる可能性があるほか、サイバー攻撃による盗難などのリスクも課題となっているほか利用者にとって低コストであることや利便性の確保も必要です。また、ECBは、デジタルユーロについて、民間部門あるいはECBが開発するアプリを通じ、まずはユーロ圏の居住者や商人、政府が使用できるようになるとの見通しを示しています。検討の進捗報告で、非居住者はユーロ圏のデジタルユーロ提供業者にアカウントを持っていれば使用できる可能性があるとしています。また、域外諸国の消費者は追加発行の段階で使用可能になることが検討されているといいます。また、ECBのパネッタ理事は、「デジタルユーロ」導入が銀行からの預金流出の引き金になったとしても、ECBは銀行システムに流動性を供給できるとの見解を示しています。ECBは、将来的に社会で現金離れが進んでデジタル決済が今よりもっと主流となった場合に通貨をコントロールする力を保持できるよう、CBDCとしてのデジタルユーロの調査研究を続けています。実際に発行するかどうかは2023年10月に決める予定で、導入されるとしても早くて2026年になる見通しとのことです。欧州の銀行業界は、デジタルユーロが商業銀行から預金と事業を奪い取ってしまうと警鐘を鳴らしていますが、パネッタ氏は欧州議会で、市民がデジタルユーロに乗り換えて銀行から預金を引き出したとしても、ECBは「補償」が可能だと強調、ECBが流動性を規制している金融機関であれば、それらの機関からECBの負債へと流れ込んだ流動性の埋め合わせができると説明しています。

米連邦準備理事会(FRB)のボウマン理事は、いわゆるホールセール型CBDCは、将来的に特定の金融市場取引の決済や国際決済の処理に有望だと述べています。イベントで、デジタルドルは銀行間取引では理にかなっているとした一方、一般消費者が直接利用できるCBDCをFRBが設計した場合、銀行システムの混乱など意図しない結果が生じる可能性があるとしています。

イングランド銀行(英中央銀行)のカンリフ副総裁は、暗号資産のステーブルコインを決済に使用する際、当初は制限が必要となる可能性があるとの見解を示しています。また消費者保護のため、良質かつ流動性の高い資産に裏付けされる必要があると述べています。英国はステーブルコインの規制を導入する予定ですが、同氏はステーブルコインの担保として、イングランド銀行の預金か流動性の高い証券、あるいは双方の組み合わせが考えられると指摘、「われわれは現在、これらの選択肢のうちどれが最も適切かを検討している」としています。また少なくとも当初は、業界が設置した補償制度(8万5000ポンドまで))を利用しても、破綻時にステーブルコイン預金を保護することはできないとの見通しを示しています。

暗号資産の規制強化を巡り、各国の思惑が交錯しています。顧客保護を重視する日本は、新潟市で開催されるG7財務相・中央銀行総裁会議で法規制などのルール整備を討議する意向ですが、米国は規制強化に慎重な立場とG7が一枚岩でない上に、G20の議長国インドは禁止も視野に入れた厳格な規制を模索しており、国際合意のハードルは高い状況です。2022年11月、暗号資産の交換業大手FTXトレーディングが破綻したことをきっかけに、規制強化の機運が高まり、各国の規制がまだ曖昧な中でFTX創業者の顧客資産流用や、サイバー攻撃による暗号資産の流出が起き、被害が拡大した経緯があります。また、以前からの懸念事項としては、マネー・ローンダリングに悪用される可能性もあり、ルールづくりは喫緊の課題となっています。G7議長国の日本は、顧客保護を訴えて議論を主導し、新潟会合で規制推進を盛り込んだ共同声明の採択を目指しています。なお。G7のうち欧州各国は日本の方針に理解を示しているといいますが、米国には「過度な規制は技術革新を阻害する」との意見もあり、足並みをそろえられるか予断を許さない状況です。一方、インドは暗号資産の存在自体に否定的で、流通が拡大し、自国通貨に取って代わることになれば、国が通貨を発行する権限を脅かされかねないと主張しています。2023年秋のG20財務相・中銀総裁会議では規制を巡って先進国と新興国が踏み込んだ議論を交わす見通しですが、落としどころを探るのは難しい状況です。そのG20議長国インドのシタラマン財務相は、「G20とそのメンバーは、単独の国が独自に暗号資産に対応することはできないという見解で一致している」として、暗号資産に関するいかなる新規制も国際的に協調して行う必要があるとの見解がG20諸国間でより広く受け入れられつつあると述べています。一方で、中央銀行の後ろ盾のない暗号資産は、下落してマクロ経済の不安定化を招く可能性があるとも指摘しています。また、直近、ロンドンで開かれた英紙ファイナンシャル・タイムズ主催の暗号資産に関する会議で、各国・地域の暗合資産規制がばらばらで世界的なコンセンサスを欠いているとの批判が出ています。EUはこのほど、世界で初めて暗号資産を包括的に規制する「暗号資産市場規制法(MiCA)」を策定しています。一方、英国や米国は規制が大幅に遅れています。暗号資産交換事業者らは、マネー・ローンダリングやテロ金融を防止するための法令順守を除けば、世界の多くの国・地域で大方規制されていないのが実態であり、米証券取引委員会(SEC)のヘスター・ピアース委員は「欧州が非常に速く規制法案を策定したのは称賛すべきだ。米国は規制の枠組みを構築しないことにより、自ら災いを招いている」と発言、「過度な規制は技術革新を阻害する」との考えも多い中、米議会はどの規制当局が暗号資産を管轄するのかを決める必要があると訴えています。FTXトレーディングの経営破綻を受け、より明確な規則の必要性が高まり、米商品先物取引委員会(CFTC)も暗号資産セクターに目を向けていますが、暗号資産カストディのコッパーのエバ・グスタブソン氏は、EU以外で法的な枠組みが欠如しているため、世界的な基準に関するコンセンサスが形成されるまでは、EUの規則が国際基準としての役割を担わざるを得ないとの見方を示しています。同氏は、規制がより明確になれば、伝統的な機関投資家が暗号資産の市場に参入し、市場が「一段と成熟する」と話しています。

米下院金融サービス委員会は、米証券取引委員会(SEC)のゲンスラー委員長を招き、暗号資産や気候変動リスク開示に関する公聴会を開いています。ゲンスラー氏は「暗号資産ほど法令順守を欠く分野はない」と述べ、脱法的な暗号資産ビジネスの摘発を続ける姿勢を示しましたが、野党共和党は反ビジネス的だと非難しています。繰り返しますが、米連邦政府レベルで暗号資産に対する包括的な規制は存在せず、暗号資産の法的位置づけを巡る係争も続いていますが、SECはほとんどの暗号資産は米証券法の規制対象である「有価証券」に該当するという立場をとっています。FTXトレーディングが経営破綻して以降、SECは暗号資産関連の摘発を加速しており、暗号資産を用いた詐欺案件に加え、顧客から預かった暗号資産に利回りを付けるサービスなども摘発対象としています。ゲンスラー氏は暗号資産業界を「法令順守違反が事業モデルとして確立している分野だ」と述べ、「暗号資産のエコシステムには、SECのような『警察官』が必要だと思う」とも主張しています。こうしたSECの考えが反映された行動としては、例えば、米暗号資産交換所のビットレックスが未登録で証券取引、取引の仲介、清算といった事業を運営したとして、同社とCEOだったウィリアム・シハラ氏をワシントンの連邦地裁に提訴しています。SECによれば、シハラ氏はビットレックスでの取引を望む暗号資産の発行会社と協力し、規制当局による調査につながるとシハラ氏が考える公表文書を削除しています。SECはまた、ビットレックスの海外子会社であるビットレックス・グローバルについても、親会社と注文を共有する形で運営していた証券取引事業の登録を怠ったとして提訴しています。なお、その米ビットトレックスは、直近、日本の民事再生法に相当する米連邦破産法11条(チャプター11)の適用を申請しています。2023年4月に創業者らが未登録の証券取引所を運営していたとしてSECから訴追を受け、取引が減っていたものです。米国は暗号資産の取引に関し明文化されたルールなどがなく、規制の分かりにくさが指摘されており、当局から訴追を受けて初めて、交換業者などはどのような規制違反に問われたかが分かる仕組みであり、例えば上場させる暗号資産を登録する場合でも、管轄はSECなのか米商品先物取引委員会(CFTC)なのかがはっきりせず、どのような登録をすべきかも不明確という状況です。報道によれば、ビットバンクの長谷川氏は「規制に抵触した暗号資産は、他の暗号資産と明確に種類が違うというわけではない。ビットトレックスは突然、訴えられたように感じる」と指摘しています。ビットトレックスはSECから訴追を受けた際、「規制要件が不明確で、適切な議論がないまま施行されている」と主張、米国での事業を停止し、米国外での事業に注力すると表明していました。破産申請は米国の交換サービスなどが対象で、リヒテンシュタインが拠点のビットトレックス・グローバルは米国外で事業を継続するとしています。一方で、世界では暗号資産ビジネスを新たな成長の原動力とにらみ規制を緩める動きもあり、ビジネスの拡大へ、欧州やアジアを主要な市場に選ぶ動きが加速することが考えられます。

最後に、直近での日本における暗号資産交換業者に対する当局の処分について紹介します。

▼関東財務局 無登録で暗号資産交換業を行う者について(株式会社ブリッジインベストメント)
  • 無登録で暗号資産交換業を行う者について、事務ガイドライン第三分冊:金融会社関係16.暗号資産交換業者関係III-1-6(2)2に基づき、本日、警告を行いましたので、下記のとおり公表いたします。
    • 業者名等 株式会社ブリッジインベストメント
    • 代表取締役 小林栄次
    • 所在地又は住所 東京都港区元赤坂1-2-7
    • 内容等 オンラインセミナー等を通じて、暗号資産交換業を行っていたもの。
    • 備考 当該業者から当時上場予定の暗号資産「ジャスミー」を購入したとの情報が寄せられている。
  • 上記は、勧誘資料等に基づいて記載しており、「業者名等」「所在地又は住所」は虚偽の可能性があります。
  • 注意事項
    • 暗号資産は「法定通貨」ではありません。
    • 暗号資産交換業者は資金決済法上の登録が必要です。登録を受けずに、暗号資産売買の勧誘等をすることは法律違反の可能性があり、無登録業者による詐欺的な勧誘が多発しています。
    • 資金決済法上の登録を行っている業者についても、金融庁・財務局が、その業者の信用力等を保証するものではありません。登録業者等から暗号資産の取引を行う場合でも、その業者の信用力を慎重に見極めるとともに、取引内容を十分に理解したうえで、投資を行うかどうかの判断をすることが重要です。
  • 無登録業者にご注意!
    • 暗号資産や詐欺的なコインに関する相談が増えております。不審に思ったら、一人で悩まず、すぐに下記問い合わせ先へご相談ください。
▼関東財務局 無登録で暗号資産交換業を行う者について(クリプトカレンシーワールドワイド株式会社)
  • 無登録で暗号資産交換業を行う者について、事務ガイドライン第三分冊:金融会社関係16.暗号資産交換業者関係III-1-6(2)2に基づき、本日、警告を行いましたので、下記のとおり公表いたします。
    • 業者名等 クリプトカレンシーワールドワイド株式会社
    • 代表取締役 白潟裕基
    • 所在地又は住所 東京都港区赤坂2-14-5 ダイワ赤坂ビル7F
    • 内容等 オンラインセミナー等を通じて、暗号資産交換業を行っていたもの。
    • 備考 当該業者から当時上場予定の暗号資産「ジャスミー」を購入したとの情報が寄せられている。
  • 上記は、勧誘資料等に基づいて記載しており、「業者名等」「所在地又は住所」は虚偽の可能性があります。
  • 注意事項
    • 暗号資産は「法定通貨」ではありません。
    • 暗号資産交換業者は資金決済法上の登録が必要です。登録を受けずに、暗号資産売買の勧誘等をすることは法律違反の可能性があり、無登録業者による詐欺的な勧誘が多発しています。
    • 資金決済法上の登録を行っている業者についても、金融庁・財務局が、その業者の信用力等を保証するものではありません。登録業者等から暗号資産の取引を行う場合でも、その業者の信用力を慎重に見極めるとともに、取引内容を十分に理解したうえで、投資を行うかどうかの判断をすることが重要です。
  • 無登録業者にご注意!
    • 暗号資産や詐欺的なコインに関する相談が増えております。不審に思ったら、一人で悩まず、すぐに下記問い合わせ先へご相談ください。
▼関東財務局 株式会社スプリームスに対する行政処分について
  • 株式会社スプリームス(東京都世田谷区、法人番号:6180001124469、資金決済に関する法律(平成21年法律第59号。以下「資金決済法」という。)第63条の21に基づく「みなし暗号資産交換業者」、暗号資産交換業の登録はない。以下「当社」という。)について、以下のとおり、資金決済法に違反する事実が認められた。
  • 当局が発出した報告命令に応じない状況(資金決済法第63条の15第1項)
    • 当社は、「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律(平成28年法律第62号)」により資金決済法が改正・施行された際(以下、当該改正・施行された資金決済法を「改正法」という。)、現に仮想通貨(暗号資産)交換業を営んでいたことから、改正法附則第8条の規定に基づく仮想通貨交換業者に該当していた(当時の商号:ビットステーション株式会社、当時の所在地:愛知県名古屋市中区)。また、当社は、平成30年6月、仮想通貨交換業の全部を廃止し、その旨の届出を東海財務局に提出しているが、その時点において、利用者への財産の返還は未了となっていた。
    • こうした中、当社は、東海財務局から、改正法第63条の15第1項の規定に基づき、利用者財産の管理状況、利用者財産の返還及び返還計画等について月次で報告を提出するよう命じられていたが、当社は、令和2年3月末基準報告を最後に、約2年間報告を提出していない状況となっていた。
    • その後、当社は、令和4年2月10日に商号を現商号に変更し、同年2月17日に本店所在地を愛知県名古屋市から現所在地である東京都世田谷区に移転した。また、東海財務局からの督促に応じ、令和4年4月14日、令和4年3月末基準報告を提出するに至っているが、当該報告によれば、当社は、令和4年3月末時点で利用者1,960人から利用者財産810千円(うち573千円は取り扱う暗号資産の円換算額)を預かっていることが確認された。
    • これらの経緯を踏まえ、当局は、令和4年6月29日、資金決済法第63条の15第1項の規定に基づき、当社に対し、利用者財産の管理状況、利用者財産の返還及び返還計画等について報告を求めた。
    • しかしながら、当社はこれに応ずることなく、現状、当局に対して提出すべき令和4年6月末基準以降の報告が未提出のままとなっており、資金決済法第63条の15第1項に違反している状況にある。
    • このため、本日、当社に対し、資金決済法第63条の16の規定に基づき、以下の行政処分を行った。
  • 業務改善命令
    1. 廃止した暗号資産交換業に関し負担する債務の履行が完了するまでの間、利用者財産を適切に管理すること。
    2. 当該債務の履行状況について以下のとおり報告すること。
      • 当局から提出を求めている「暗号資産交換業に関する債務の履行等に係る報告書」について、未提出分を令和5年6月12日(月曜)までに提出すること。
      • 上記1.に関し、管理する利用者の金銭等の今後の返還計画(具体策及び実施時期を明記したもの)を、令和5年6月12日(月曜)までに提出すること。
      • 上記2.に関する返還計画の実施完了までの間、1か月毎の進捗及び実施状況を翌月10日までに報告すること(初回報告基準日を令和5年5月末日とする。)。
②IRカジノ/依存症を巡る動向

本コラムでもその動向を注視していた国内初となるカジノを中核とした統合型リゾート(IR)を大阪に誘致する整備計画が、政府に認定されました。政府によるIR計画の認定は初めてで、カジノ開業に向けて大きく前進したことになります。ただ、大阪府と大阪市は経済成長の起爆剤として期待していますが、政府の審査では合格ラインぎりぎりの評価(1000点満点中の657.9点)となり、審査項目の一つ「地域との良好な関係構築」は50点の配点のうち27.1点と、全25項目で最も低い約54%の得点率でした。整備計画の提出後も住民による監査請求や反対の署名活動がおこなわれたことを踏まえたもので、同時選挙で一定程度の「信認」が得られた(一定の民意を得た)と見なされたことが認定につながったものと考えられますが、今後も十分な対策と対応が求められることになります。ギャンブル依存症対策などに様々な注文がついています。依存症対策について、大阪府は開業までに予防や相談、治療を一元的に担う「大阪依存症センター(仮称)」の整備を進めるなどと説明してきました。審査委員会はこうした取り組みを評価しつつも、「早期発見・早期介入のための取り組みの記載があまり見られず、今後の具体化が必要」と注文しています。また年間来場者約2000万人の推計について、審査委員会は「細部の設定や根拠の不明瞭さが一部見られる」「裏打ち以上に意欲的な数字」と、過大になっている可能性に言及しています。本コラムでも懸念を示し続けているとおり、コロナ禍で世界的にオンラインカジノ市場が急成長しており、2021年時点の723億ドル(約9.5兆円)が6年後には2倍近くになるとの予測もある中、売り上げの8割を店舗型のカジノが占める大阪IRが期待通りの収益を上げられるかは不透明な状況だといえます。あわせて、オンライン会議の増加で大規模な国際会議の誘致が難航すれば、会議場(最大6000人以上収容)や三つのホテル(客室数計2500室)の空室率が高まる恐れも指摘されているところです。また、大阪府・大阪市の事業者公募に手を挙げたのがMGMとオリックスのグループのみで、MGMは米ラスベガスで有名ホテルも運営するカジノ大手で、IR誘致を成長戦略の柱とする大阪府・市が足元を見られ、事業者優位で交渉が進む状況にあり、今後も要求をのまされ、公費支出に歯止めがかからなくなる可能性がある点も残っています。政府は審査委員会の報告書を踏まえ、認定にあたって、「実効性のある依存症対策に取り組む」「IR整備の効果を精緻に推計する」「想定以上に地盤が沈下した場合の対応を検討する」など7つの条件をつけました。大阪府と大阪市は今後、7つの条件をどうクリアするかを検討し、IR事業者と施工計画や詳細なスケジュールを定めた実施協定案を作成、国に申請し、認可を受ける流れとなります。内閣府の外局である「カジノ管理委員会」は、事業者の申請を受けて反社会勢力とのつながりの有無などを審査し、カジノを運営する免許を付与するかどうかを判断することになります

▼首相官邸 第9回 特定複合観光施設区域整備推進本部 会合 議事次第
▼資料 IR区域整備計画について
  • これまでの経緯と今後のプロセス
    • 大阪府と長崎県は区域整備計画を作成し、昨年4月に国土交通大臣に申請。
    • 国土交通大臣は公平・公正な審査を行うため、IR基本方針に基づき外部有識者から構成される審査委員会を設置。
    • 国土交通大臣が認定する際には、IR推進本部(全閣僚+カジノ管理委員長)の開催・意見聴取が必要。
  • 審査結果について
    • 7人の審査委員の採点の平均点を審査委員会の点数とし、合計点で600点以上を認定の条件とした。
    • 大阪の審査結果は657.9点であり審査委員会は「認定し得る計画」と評価。
    • 長崎については審査が終了しておらず、引き続き審査を継続することとする。

2023年4月14日付日本経済新聞の記事「大阪IR、モデルはシンガポール カジノ「依存」に懸念」において、懸念事項がまとめられており、以下、抜粋して引用します。

日本初のIRが実現に向けて動き出した。政府は14日、2029年の開業を目指す大阪府と大阪市の整備計画を認定した。10年開業のシンガポールをモデルに観光消費や民間投資を取り込む。IRを巡る国際競争は激しく、ギャンブル依存症の問題が指摘されるカジノに収益の大半を依存するリスクもある。…政府はカジノができる区域の床面積についてIR全体の建物床面積の「3%以内」と定めている。収容人数は1万1500人になる。大阪府・市はカジノ施設への来場者数を年1610万人と予想する。単純計算で1日の来訪者は約4万4000人で、満員の客が毎日4回総入れ替えする計算になる。来場者も7割を日本人と見込んでいる。安田女子大学の大谷咲太准教授は「(来訪者目標を)達成するポテンシャルはあるが、施設の収容力が不足している」と話す。「カジノに依存した運営では成長を持続するのは困難だ」と指摘する。シンガポールも新型コロナウイルス流行前はカジノが収益の7割を占める構造だったが、脱・カジノ依存に取り組んでいる。28年までに総額9000億円規模を投じ、新たなアトラクションの導入や水族館の拡張、ホテル棟の建設を計画する。…3つ目はIRを巡り国際競争が激しくなっていることだ。もともとカジノとしての知名度は米ラスベガスが高いが、アジアでもシンガポール、マカオ、韓国などが先行する。タイもIR施設の整備に向けカジノ合法化への検討に入った。コロナ禍で落ち込んだ時期に比べ観光客は回復傾向にある。各国はIRなどでの誘客に力を入れる。日本のIRの独自色が受け入れられ、競争力を持てるかは見通しにくい。…国交省幹部は「大阪で成功しないとIRそのものがダメだとなりかねない」と話す。政府は30年に訪日客数を過去最高の19年の約2倍の6000万人に増やす目標を掲げる。観光立国の中核に据えるIR政策を軌道に乗せられるかが重要になる。
大阪IR認定 懸念解消へ対策の徹底を(2023年4月15日付産経新聞)

懸念されるギャンブル依存症対策として、政府は関連法で日本人客の入場回数は週3回、28日間で10回までに制限する。外国人は入場無料だが、日本人からは1回6千円の入場料を徴収し、マイナンバーカードによる本人確認も必要だ。マネー・ローンダリング(資金洗浄)防止策として、100万円を超える現金とチップを交換した客の情報は事業者が国に報告することを義務付けている。政府は「世界最高水準の規制」をするとうたうが、負の側面も持つIRへの対応策に手抜かりがあってはならない。海外カジノの事例を徹底的に検証し、反社会的勢力が介入する隙を生まないよう万全の対策を進めるべきだ。

大阪IR、観光振興と都市再生の二刀流で(2023年5月8日付日本経済新聞)

大阪府・市が申請したカジノを含む統合型リゾート(IR)の整備計画が4月14日、政府に認定され、日本初のIRが大阪湾岸の人工島「夢洲」に2030年上半期にも誕生する見通しになった。IRはインバウンド(訪日外国人)誘致による観光立国の実現だけでなく、「負の遺産」とも呼ばれてきた大阪湾岸の人工島の再生による関西経済の復権という役割も担っている。…早くからシンガポールの計画を調査し、大阪でのIR実現に動いてきた大阪公立大学の橋爪紳也・特別教授は「カジノをエンジンとするIRが、マリーナベイなど都心を最先端の魅力あるビジネスエリアに変える引き金になった」としたうえで、「大阪のIRはインバウンドなど観光業だけに焦点が当たり、都市の構造を変えて産業振興に結びつける議論が低調だ」と懸念する。…まずはIRの内容そのものだ。米ラスベガスなどカジノの先進地に比べて規制が厳しい日本の場合、エンターテインメントや飲食施設で斬新な魅力を打ち出せるかが集客を左右する。海外の人気ミュージシャンや劇団を連れてくるだけでは地域への効果は薄く、大阪、日本ならではの文化や催し、人材を育てていく必要がある。「食」「医薬」「文具」など、インバウンドが興味を持ち、大阪の強みを生かせるアイデアが求められる。ビジネスパーソンや研究者が集まる国際会議場や展示施設など非収益部門の充実も欠かせない。…第2に持続可能なこと。最初は華やかにオープンして集客できても、他国の施設との競争はますます激しくなる。…第3がIRの効果を周辺に波及させていくことだ。万博終了後はほぼ更地に戻る予定の会場跡地や、咲洲、舞洲を含む将来像をどうするのか。咲洲の国際見本市会場「インテックス大阪」も老朽化が進んでいる。IRだけでは大阪湾岸を大きく変える力にはならず、交通アクセスの改善を含めて大阪府・市などの課題といえる。…カジノ業界をめぐる環境も激変しており、見込み通りの収益が上げられるかは未知数。海外ではオンラインカジノやスポーツ賭博が隆盛し、既存のカジノ施設は非カジノ部門の魅力向上に努めている。ラスベガスはプロスポーツの誘致や新しいエンターテインメントの開発に余念がない。…IRの開業で新たな依存症患者が生まれるのは確かだが、橋爪特別教授は「依存症の予防策が制度化され、治療もきちんとできるようになるのであれば、中長期でみると従来よりも前進だ」と評価する。…政府は大阪の整備計画を認定する一方、長崎県の計画は継続審査とした。県議会で否決されて直前に計画提出を断念した和歌山県などをみても、地方では国際会議場や展示場も含むIR整備の資金調達はかなり厳しいことが明らかになった。地域振興として考えるのであれば、大都市とは違う地方型のIR整備のあり方を考える必要があるかもしれない。政府はIRを最大3カ所としており、今後の焦点は東京都の動向だ。

大阪IR、万博以後の経済発展に追い風 観光産業の底上げ期待(2023年4月12日付産経新聞)

統合型リゾート施設(IR)の誘致成功は、令和7年の大阪・関西万博以後の関西経済発展の牽引役として大きな追い風となる。大阪IRは初期投資額が1兆円を超える巨大計画で、景気の押し上げ効果が確実視され、観光産業の底上げにもつながると期待される。関西では万博に続き、9年に生涯スポーツの世界大会「ワールドマスターズゲームズ(WMG)」も開催が予定される。11年予定のIR開業に向け、国際イベントを通じた経済発展の機運をどう維持するかが課題になりそうだ。…大阪IRは「周辺人口や地域の経済規模からみても、シンガポールのIR市場と同等の収益性が見込まれる」(IR情報サイトを運営する小池隆由キャピタル&イノベーション社長)とされる。さらに、国際的に高い競争力を持つホテルや大型会議場、エンターテインメント施設が建設されることは、価格の安さが特徴的だった関西の観光産業の質向上にもつながるとの期待もある。日本総合研究所の若林厚仁主任研究員は「関西では万博、WMGと大型の国際イベントが続く。IRの成功には訪日外国人客の呼び込みが重要で、それらのイベントで盛り上がった海外からの誘客機運を、いかにIR開業につなげられるかが重要になる」と指摘している。

IR誘致に動いた関西財界、認定を歓迎 経済成長の起爆剤に(2023年4月14日付産経新聞)

カジノを含む統合型リゾート施設(IR)で、大阪府市の整備計画が認定されたことを受け、誘致を推進してきた関西財界からも歓迎の声が上がった。令和11年開業予定のIRは、7年の大阪・関西万博後の経済成長の起爆剤になるとの期待が大きい。国際会議や展示会を開くMICE施設活用による関西の国際競争力向上も重要になる。「(予定地の)夢洲が観光やビジネスの拠点として発展し、関西・日本観光のゲートウェイ(玄関口)となることを期待する」。関西経済連合会の松本正義会長(住友電気工業会長)はこうコメントし、IR計画の認定に歓迎の意を示した。…IRは施設全体の収益の柱にカジノを据えるのが一般的。大阪も売上高の約8割をカジノが占める想定でカジノが注目されがちだが、併設するマイス施設の活用による関西の国際競争力強化への期待も大きい。角元氏は「ビジネスパーソンや研究者など世界中から多様な人々と最先端の情報、知見が集まり、人類共通の課題克服に向けたイノベーション(技術革新)を生み出す」と指摘。その上で「IRをトリガーに、関西全体の都市競争力向上と国内外への情報発信に取り組みたい」とした。

大阪IR、開業ずれ込みか 米カジノ大手「30年1~6月」見通し(2023年5月2日付毎日新聞)

米カジノ大手MGMリゾーツ・インターナショナルは、大阪市で運営を目指すカジノを中心とした統合型リゾート施設(IR)の開業時期について「2030年1~6月」との見通しを示した。…大阪府・市が目指す29年秋~冬からずれ込む可能性が浮上した形だが、日本法人の担当者は「タイムラインは変わっていない」と説明している。日本法人によると、日本時間2日午前の決算発表で、大阪のIR事業の開業時期を問われたビル・ホーンバックルCEOが発言した。理由についての言及はなかった。…横山大阪市長は市役所で記者団に、発言は承知しているとした上で「早期の実現に向けて取り組む」と語った。MGMとともに、IRの運営を担う「大阪IR」の中核株主となっているオリックスは「府市と精査中で、開業時期の遅れは正式決定ではない」とコメントした。

大阪カジノの晴れぬ霧 銀行団、巨額融資にためらいも(2023年5月2日付日本経済新聞)

日本初のカジノを含む大阪の統合型リゾート(IR)計画が4月に政府の認定を受け、2029年秋~冬ごろの開業へ動き出した。事業費は1兆800億円と巨額で、協調融資の組成額は5500億円と空前の規模になる。融資団には20社前後の参加が期待されるが、新型コロナウイルスの流行で世界中のカジノが営業停止に追い込まれた記憶も生々しい。金融機関の目線は厳しさを増している。国際会議場や劇場、ホテル、カジノを一体で整備するIR。プロジェクトのゆくえを左右するのが資金調達の成否やその条件だ。ギャンブルの依存症や治安への不安など住民に忌避感も残り、資金を支える銀行にとっては難しい案件といえる。三菱UFJと三井住友は事業から将来得られるキャッシュフローを返済の原資とするプロジェクトファイナンスを前提に進める。対するみずほは企業体の信用力を裏付けにした企業向け融資を推し、プロジェクトファイナンスと一線を画す。最大1000億円の融資を期待されるみずほが不参加となれば、ほかの金融機関が穴埋めすることになる。慎重なのはみずほだけではない。IRの舞台となる夢洲は人工島で、地盤沈下や土壌汚染のリスクが残る。地盤をかさ上げしたり、土壌を入れ替えたりして想定外の費用が発生したとき、だれが費用を負担するのか。融資に際してはこうしたリスクを一つひとつ洗い出し、表面化した際の解決策を決めておく必要がある。融資に前向きな銀行の幹部でさえ「懸念を解消できていない」と決裁できずにいる。大口の参加を期待されていた生命保険会社は要請を断った。当初の予定より応諾額を減らした銀行もある。みずほがプロジェクトファイナンスに慎重な姿勢を崩さないのも、そこに潜むリスクを見極めきれずにいるからだ。…韓国でカジノの運営に携わるセガサミーホールディングスによると、21年の来場者は前の年から57%も減った。感染症の流行で融資の前提となる収益計画が根底から揺さぶられる事態を目の当たりにし、金融機関の熱気も薄れているように映る。

大阪がIR政策の試金石に 成功の可否”2次募集”に影響も(2023年4月13日付読売新聞)

「大阪を含め先行事例の動向を注視する」令和元年に誘致断念を表明した北海道の担当者は、大阪府・市によるIR開業が実現した場合の経済効果などに高い関心を示した。道内候補地の環境対策の検討が、国への申請期限に間に合わないとして見送ったが、現在もIR実現に向けた検討を続けている。千葉市は台風被害の影響などで2年に誘致断念を表明。現段階で具体的な研究は行っていないが、担当者は「今後のことは分からない。(先行事例の)状況は注視していく」と語った。国土交通省によると、候補地の2次募集実施については「未定」だ。ただ、担当者は「一般論として最大3カ所と定めていたのだから、普通に考えれば再び募集するのでは」と話す。現状で候補地が西日本に偏在しているため、東日本での整備を求める声も根強い。国交省幹部は「まだ様子見で手を挙げなかったところが多い。成功例が出てくれば状況は変わる」と指摘している。

一方、審査すべき項目が残り、継続審査となった長崎県は、同県幹部が記者会見し「認定を得られるよう、引き続き審査を受けたい」と述べていますが、同県の計画については「IRに大口の投資先がなく、出資者も外資系金融機関や投資ファンドが多い。日本のメガバンクが資金繰りを支える大阪府・市の計画と比べると信用性における差は大きい」との見方が有力です。長崎は初期投資額の6割を借入金とし、残り4割の出資先も一部は明らかにされていません。資金調達に関わるスイスの金融大手クレディ・スイスの経営危機も追い打ちをかけたほか、カジノを運営する事業者にIRの実績が乏しいことも指摘されているところで、見通しは厳しいといえます。IRを「最大3カ所」にする予定の政府にとっては大きな誤算で、残る二つの枠を埋める見通しがつかなければ、IR誘致を観光立国の柱にしようとする戦略が大きく狂う可能性も出てくることになります。

その他、国内外のIR、カジノ、依存症を巡る最近の動向から、いくつか紹介します。

  • 大阪IRを巡り、広報業務を担う予定だった読売連合広告社(大阪市)が、大阪府・市との契約締結を辞退すると発表しています。同社は読売新聞大阪本社の100%子会社で、大阪府・市の公募に応じ、選考を経て事業者に選ばれましたが、5月9日付で辞退を申し出たということです。IRではギャンブル依存症の懸念が指摘されることなどを踏まえ、同社は「新聞社の関連会社として社内検討が不十分だった」としています。報道によれば、弁護士らでつくる選定委員会が応募のあった6事業者から読売連合広告社を最優秀提案事業者に選び、5月2日に公表していましたが。5月8日に臨時取締役会を開いて契約手続きを進めるかどうか検討したところ、ギャンブル依存症への懸念や住民の間で賛否が分かれている現状に鑑み、「辞退することが妥当」との結論に至ったといいます。一方、応募前の検討状況や外部からの指摘の有無などについては「社内の手続きに関することで、回答は差し控える」としています。
  • 大阪IRで見込まれる中国人観光客が想定通りとなるかどうか、中国の動向から疑問視する声もある中、2023年の中国の労働節(メーデー)に伴う大型連休が4月29日から始まり、本土からマカオに多数の観光客が押し寄せて狭い市街にあふれ、名物のエッグタルトを味わったり、カジノに興じたりしているとの報道もありました。中国政府とマカオ特別行政区は2023年1月、新型コロナウイルスの感染対策に伴う厳格な規制を撤廃、3年余りぶりに本土からマカオに入国できるようになっており、こうした中でマカオを訪れた中国人は4月29日と30日がそれぞれ10万人超と、その前の数日間の1日当たり6万人から大きく増加、4月17日から5月7日までの間で中国人旅行者の人気が最も高い行き先がマカオで、予約件数はパンデミック前の2019年を11%上回っているといい、近隣の香港が32%減少したのとは対照的な状況となっています。この状況から将来を予測するのは難しいものの、今後、注視していく必要がありそうです。
  • オーストラリア政府は、「オンラインカジノ」などインターネット上で運営されている賭博へのクレジットカードによる支払いを禁止する方針を発表しています。2023年内に法案を議会に提出するとしています。ネット賭博への精神的依存や金銭的損失が拡大していることに対応したものと見られています。
  • オンラインカジノで金を賭けたとして、京都府警は、賭博容疑で、府警本部少年課所属の30代の男性巡査を書類送検し、戒告の懲戒処分としています(依願退職)。報道によれば、書類送検容疑は2022年4月で、海外で運営されているオンラインカジノのトランプゲームで約2万円を賭けたとしています。大阪府警によると、巡査の供述や口座の捜査などから、2021年9月から約1年間にわたり、オンラインで賭博を繰り返していたとみられており、収支は数百万円のマイナスだったといいます。
③犯罪統計資料

例月同様、令和5年1~2月の犯罪統計資料(警察庁)について紹介します。

▼警察庁 犯罪統計資料(令和5年1~3月分)

令和5年(2023年)1~3月の刑法犯総数について、認知件数は154,670件(前年同期124,994件、前年同期比+23.7%)、検挙件数は61,348件(58,738件、+4.4%)、検挙率は39.7%(47.0%、▲7.3P)と、認知件数・検挙件数ともに前年を上回る結果となりました。最近は、検挙件数は前年を下回る傾向にあったものの、ここにきて増加に転じています。その理由として、刑法犯全体の7割を占める窃盗犯の認知件数・検挙件数がともに増加していることが挙げられ、窃盗犯の認知件数は105,037件(84,013件、+25.0%)、検挙件数は35,900件(35,320件、+1.6%)、検挙率は34.2%(42.0%、▲7.8%)となりました。なお、とりわけ件数の多い万引きについては、認知件数は22,973件(20,971件、+9.5%)、検挙件数は14,876件(14,733件、+1.0%)、検挙率は64.8%(70.3%、▲5.5P)と、最近減少していたところ、認知件数が増加に転じています。また凶悪犯の認知件数は1,158件(987件、+17.3%)、検挙件数は1,004件(856件、+17.3%)、検挙率は86.7%(86.7%、±0P)、粗暴犯の認知件数は13,597件(11,078件、+22.7%)、検挙件数は11,154件(9,815件、+13.6%)、検挙率は82.0%(88.6%、▲6.6P)、知能犯の認知件数は11,334件(8,839件、+28.2%)、検挙件数は4,752件(4,659件、+2.0%)、検挙率は41.9%(52.7%、▲10.8%)、とりわけ詐欺の認知件数は10,427件(7,991件、+30.5%)、検挙件数は4,081件(3,844件、+6.2%)、検挙率は39.1%(48.1%、▲9.0%)などとなっており、本コラムで指摘してきたとおり、コロナ禍において詐欺が大きく増加、アフターコロナへの移行期を経て、アフターコロナの現時点においても増加し続けています。とりわけ以前の本コラム(暴排トピックス2022年7月号)でも紹介したとおり、コロナ禍で「対面型」「接触型」の犯罪がやりにくくなったことを受けて、「非対面型」の還付金詐欺が増加しましたが、必ずしも「非対面」とは限らないオレオレ詐欺や架空料金請求詐欺なども大きく増加傾向にある点が注目されます。刑法犯全体の認知件数、とりわけ知能犯、詐欺については増加傾向にあり、引き続き注意が必要な状況です(そして、検挙率がやや低下傾向にある点も気がかりです)。

また、特別法犯総数については、検挙件数は15,919件(15,528件、+2.5%)、検挙人員は13,099人(12,815人、+2.2%)と2022年同様、検挙件数・検挙人員ともに減少傾向が続いていたところ、前回あたりからともに増加に転じた点が大きな特徴です。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は1,303件(917件、+42.1%)、検挙人員は946人(702人、+34.8%)、軽犯罪法違反の検挙件数は1,740件(1,588件、+9.6%)、検挙人員は1,746人(1,578人、+10.6%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は2,511件(2,194件、+14.4%)、検挙人員は1,950人(1,677人、+16.3%)、ストーカー規制法違反の検挙件数は294件(232件、+26.7%)、検挙人員は247人(181人、+36.5%)、ストーカー規制法違反の検挙件数は294件(232件、+26.7%)、検挙人員は247人(181人、+36.5%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は819件(868件、▲5.6%)、検挙人員は613人(698人、▲12.2%)、不正アクセス禁止法違反の検挙件数は119件(118件、+0.8%)、検挙人員は29人(56人、▲48.2%)、不正競争防止法違反の検挙件数は12件(18件、▲33.3%)、検挙人員は10人(23人、▲56.5%)、銃刀法違反の検挙件数は1,122件(1,110件、+1.1%)、検挙人員は943人(975人、▲3.3%)などとなっています。減少傾向にある犯罪類型が多い中、入管法違反、軽犯罪法違反、迷惑防止条例違反やストーカー規制法違反、不正アクセス禁止法違反等が増加している点が注目されます。また、薬物関係では、麻薬等取締法違反の検挙件数は243件(246件、▲1.2%)、検挙人員は154人(138人、+11.6%)、大麻取締法違反の検挙件数は1,513件(1,379件、+9.7%)、検挙人員は1,219人(1,098人、+11.0%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は1,566件(1,926件、▲18.7%)、検挙人員は1,063人(1,284人、▲17.2%)などとなっており、大麻事犯の検挙件数がこのところ減少傾向が続いていたところ、前々月あたりから増加している点が注目されます。また、覚せい剤取締法違反の検挙件数・検挙人員ともに大きな減少傾向が継続しており、特筆されます。なお、麻薬等取締法の対象となるのは、「麻薬」と「向精神薬」であり、「麻薬」とは、モルヒネ、コカインなど麻薬に関する単一条約にて規制されるもののうち大麻を除いたものをいいます。また、「向精神薬」とは、中枢神経系に作用し、生物の精神活動に何らかの影響を与える薬物の総称で、主として精神医学や精神薬理学の分野で、脳に対する作用の研究が行われている薬物であり、また精神科で用いられる精神科の薬、また薬物乱用と使用による害に懸念のあるタバコやアルコール、また法律上の定義である麻薬のような娯楽的な薬物が含まれますが、同法では、タバコ、アルコール、カフェインが除かれています。具体的には、コカイン、MDMA、LSDなどがあります。

また、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯 国籍別 検挙人員 対前年比較について、総数135件(121件、+11.5%)、ベトナム43件(42件、+2.4%)、中国18人(15人、+20.0%)、スリランカ8人(15人、▲46.7%)、フィリピン6人(5人、+20.0%)、ブラジル6人(7人、▲14.3%)などとなっています。

一方、暴力団犯罪(刑法犯)罪種別検挙件数・人員対前年比較の刑法犯総数については、検挙件数は2,347件(2,349件、▲0.1%)、検挙人員は1,313人(1,400人、▲6.2%)と検挙件数・検挙人員ともに継続して減少傾向にある点が特徴です。以前の本コラム(暴排トピックス2021年3月号)では、「基礎疾患を抱え高齢化が顕著に進行している暴力団員のコロナ禍の行動様式として、検挙されない(検挙されにくい)活動実態にあったといえます」と指摘しましたが、一時活動が活発化している可能性を示したものの再度減少に転じており、アフターコロナにおける今後の動向に注意する必要があります。犯罪類型別では、暴行の検挙件数は128件(138件、▲7.2%)、検挙人員は119人(148人、▲19.6%)、傷害の検挙件数は205件(237件、▲13.5%)、検挙人員は239人(255人、▲6.3%)、脅迫の検挙件数は73件(85件、▲14.1%)、検挙人員は68人(83人、▲18.1%)、恐喝の検挙件数は73件(85件、▲14.1%)、検挙人員は85人(102人、▲16.7%)、窃盗の検挙件数は1,134件(1,076件、+5.4%)、検挙人員は156人(199人、▲21.6%)、詐欺の検挙件数は452人(385人、+17.4%)、検挙人員は369人(313人、+17.9%)、賭博の検挙件数は7件(9件、▲12.5%)、検挙人員は36人(46人、▲21.7%)などとなっています。とりわけ、詐欺については、減少傾向から増加傾向に転じ高止まりしている点が特筆され、全体的には高止まり傾向にあり、資金獲得活動の中でも重点的に行われていると推測されることから、引き続き注意が必要です。さらに、暴力団犯罪(特別法犯)主要法令別検挙件数・人員対前年比較の特別法犯について、特別法犯全体の検挙件数は958件(1,331件、▲28.0%)、検挙人員は605人(906人、▲33.2%)と、検挙件数・検挙人数ともに継続して減少傾向にあります。また、犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は3件(1件、+200.0%)、検挙人員は1人(6人、▲83.3%)、軽犯罪法違反の検挙件数は19件(23件、▲17.4%)、検挙人員は14人(21人、▲33.3%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は10件(19件、▲47.4%)、検挙人員は10人(17人、▲41.2%)、暴力団排除条例違反の検挙件数は6件(10件、▲40.0%)、検挙人員は17人(24人、▲29.2%)、銃刀法違反の検挙件数は14件(18件、▲22.2%)、検挙人員は8人(13人、▲38.5%)、麻薬等取締法違反の検挙件数は29件(48件、▲39.6%)、検挙人員は14人(15人、▲6.7%)、大麻取締法違反の検挙件数は217件(232件、▲6.5%)、検挙人員は131人(147人、▲10.9%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は516件(734件、▲30.5%)、検挙人員は297人(471人、▲36.9%)、麻薬等特例法違反の検挙件数は28件(57件、▲50.9%)、検挙人員は11人(39人、▲71.8%)などとなっており、最近減少傾向にあった大麻事犯について、前月、検挙件数が増加に転じたものの再度減少に転じていること、覚せい剤事犯の検挙件数・検挙人員がともに全体の傾向以上に大きく減少傾向を示していることなどが特徴的だといえます。なお、参考までに、「麻薬等特例法違反」とは、正式には、「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」といい、覚せい剤・大麻などの違法薬物の栽培・製造・輸出入・譲受・譲渡などを繰り返す薬物ビジネスをした場合は、この麻薬特例法違反になります。法定刑は、無期または5年以上の懲役及び1,000万円以下の罰金で、裁判員裁判になります。

(8)北朝鮮リスクを巡る動向

北朝鮮は2023年4月13日朝、同国内陸部から弾道ミサイルを発射、大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星18」とみられ、日本の排他的経済水域(EEZ)外の日本海上に落下しました。北朝鮮の弾道ミサイル発射は2023年3月27日以来となります。火星18はまだ開発段階と見られていますが、、完成すれば、北朝鮮の核・ミサイルの脅威は高まることになります。北朝鮮の朝鮮中央通信はミサイルが「もう一つの核攻撃手段の出現」だと伝え、金正恩朝鮮労働党総書記は「敵が妄動を断念するまで、脅威に直面させる」と強調し、対北朝鮮で連携を強める日米韓3か国などに対抗する姿勢を示しています(特に米韓が北朝鮮への上陸を想定して実施した演習に対し、「平壌占領」を企てていると神経をとがらせ、日米韓に向けて「実際に使える核兵器」の保有を誇示するため、軍事的行動をエスカレートさせている状況です)。今回のミサイルは通常軌道で発射された後、2~3段目を切り離す際に、通常より高角度のロフテッド軌道で飛行するよう設定され、エンジンの切り離しは3回行われ、韓国軍によると、弾頭部分が平壌から1000キロメートル地点の日本海に落下したと見られています。途中で角度が変わったことが全国瞬時警報システム(Jアラート)の発令につながった可能性が指摘されています。日本政府は、ミサイルが北海道周辺に落下する可能性があるとしてJアラートを発令しましたが、その後、落下の可能性はなくなったとして訂正しています。防衛省は一連の経緯について、「発射直後の情報に基づき、我が国への落下が予想されたことからJアラートを公表した。その後、落下の可能性がなくなったことが確認された」と説明しています。本コラムでもたびたび説明していますが、Jアラートは、弾道ミサイルの情報や緊急地震速報、津波警報などを住民に瞬時に伝達するシステムで、弾道ミサイルの場合、日本上空を通過したり、落下したりする恐れがある場合に発令されるものです。自衛隊が探知したミサイルの発射情報は、総務省消防庁のシステムを経由して対象地域の自治体に送信され、防災無線のスピーカーから警報音が出る仕組みで、携帯電話会社を通じて、地域内にいる利用者のスマートフォンにも送信されることになっています。なお、対象地域は内閣官房が判断しているといいます。北朝鮮による弾道ミサイル発射では、これまでに6回発令されていますが、警戒対象地域以外に誤発信されたこともあり、情報の精度と速報性が課題となっています。ミサイルの発射直後に飛行ルートや落下地点を正確に予測するのは難しく、2022年11月には宮城、山形、新潟の3県にJアラートが発令され、住民らに避難が呼びかけられましたが、ミサイルは結果的に日本列島を横断しませでした。そして、今回も政府は弾道ミサイルの軌道を正確に予測できませんでした。発射を探知した後にレーダーから消えたためで、原因の分析を進めています。北朝鮮は変則軌道を飛ぶ新型ミサイルなども開発しており迎撃を前提とする対応は難しさが増しています。また、今回のミサイルは固体燃料型だったと見られており、発射直前に燃料を注入する必要がある液体燃料型に比べて探知が遅れ、迎撃が難しくなるとされます(北朝鮮は2019年以降、固体燃料を使う短距離弾道ミサイルの開発を進めており、中長距離級のミサイルについても固体燃料に置き換えるため、近く実験に踏み切る可能性が指摘されていたところです)。さらに、北朝鮮はレーダーで見つけにくい低い高度を変則的な軌道で飛ぶミサイルの開発も進めているほか、移動式発射台や潜水艦など発射形態は多様になっていること、同時に多数を撃ち込む「飽和攻撃」の練度も上げてきたとの指摘もあり、弾道を正確に予測できなければ迎撃も警報の発令も難しいのが実態です。政府は2022年末に決定した安全保障関連3文書で相手のミサイル発射拠点などをたたく「反撃能力」の保有を決めましたが、迎撃に頼る既存のミサイル防衛網だけでは「完全に対応することは難しくなりつつある」との危機感を明記しています。Jアラートの精度について批判も多いところですが、身を守るという観点から、誤報や訂正はあり得ると認識し、拙速でもとにかく迅速な発出を今はお願いしたいところです。この件については、2023年4月14日付産経新聞の記事「北の弾道ミサイル 「身を守る姿勢」も周知を」が正鵠を射るものと思われますので、以下、抜粋して引用します。

北海道では交通機関が止まるなど影響が出た。政府に対し、情報を「訂正」したのはなぜか、混乱したのではないか、という批判が寄せられている。だが、政府が手順を誤って避難を呼びかけたわけではない。自衛隊がレーダーで得たミサイルの航跡は、北海道の陸地着弾の可能性を示していた。もし領土に着弾すれば正真正銘の武力攻撃、日本有事となり、自衛隊による迎撃や防衛出動につながる。戦後初めての事態になるところだった。実際には探知直後にミサイルはレーダーから消失した。ミサイルは、空中分解など何らかの理由で「消失」したもようだ。だが、飛翔しなくなったと即座に断定はできない。一分一秒を争う中で政府が国民の安全確保のために警報を発したのは妥当だ。今後も、国民に危険が迫る恐れがあればためらわずに警報を発してほしい。政府は萎縮してはならない。ただし、日本が改善すべき点はある。例えば駆け込める地下施設が少なすぎる。まずは立派な核シェルターでなくても構わない。都市部を中心に地下駐車場や地下街などを整備し、今いる場所からどの地下が最も近いか、すぐに分かるアプリを普及させるとよい。…爆発や衝撃で生じる爆風や破片、爆発音から身を守る姿勢を国民に広く知らせていない点は残念だ。伏せたりしゃがんだりした上で耳や目を手などで覆い、口を少し開けるといった基本動作は必要ではないのか。鼓膜や眼球、内臓が傷つく可能性を減らすためだ。政府や自治体は、身を守る姿勢の周知や訓練にも取り組むべきだ。

その他にも、Jアラートについて、さまざま角度から報じられていますので、いくつか紹介します。

Jアラートは国民を守れるのか 落下5分前の発令(2023年4月13日付産経新聞)

北朝鮮が弾道ミサイルを発射した13日、与野党幹部からは、全国瞬時警報システム(Jアラート)の運用を問題視する意見が相次いだ。結果として発出は「空振り」に終わった上、発出の時刻も、北海道周辺に落下すると見込んだ午前8時のわずか5分前だった。正確性の向上を求める声は根強いが、発出対象地域の絞り込みに時間がかかると、情報発信が遅れかねないジレンマも抱える。自民党の萩生田政調会長は党会合で、Jアラートを巡る混乱に触れ「国民の安全にかかわる。改善すべき点があれば速やかに改善してもらいたい」と強調。国民民主党の玉木雄一郎代表も「精度を高めるべきだ」と記者団に述べた。Jアラートは、政府が発射角度や速度からミサイルの予測飛翔範囲を分析し、国内へ到達する可能性がある場合に発出する。ただ、正確性や速報性で課題が指摘される。

Jアラート 「空振り」恐れず速報性重視を 福田充・日本大危機管理学部教授(2023年4月13日付産経新聞)

「空振り三振」はいいが、「見逃し三振」をしてはいけないというのが危機管理の鉄則だ。政府は北朝鮮の弾道ミサイルが北海道周辺に落下する恐れがあるとしてJアラートを発令したが、後に可能性がなくなったとして情報を訂正した。ある程度の空振りはあり得るということを国民もメディアも理解しなければならない。情報の精度と速報性はトレードオフの関係にある。ミサイルは最短約7分で東京に到達する可能性がある。発射後5分でJアラートを発令できたとしても避難できる時間はわずかだ。弾道の計算は時間をかければ精度を上げられるが、空振りを恐れず、多少の精度を犠牲にしてでも、情報のスピードを重視すべきだ。もっとも、訂正が続けば情報が「オオカミ少年」になりかねないため、政府は計算を間違ったプロセスも含め、訂正の中身を丁寧に国民に伝える必要がある。北朝鮮は戦術核の開発と実戦配備に向けた動きを加速させており、実験から演習にフェーズ(段階)が移っている。ミサイル攻撃は奇襲が前提。次に発射されるミサイルは攻撃かもしれないという危機感を持ち、Jアラートが発令されたらどこへ避難したらいいのか。国民一人一人が真剣に考える時期に来ている。

Jアラート緊迫の30分 北朝鮮ミサイル情報、探知に壁(2023年5月3日付日本経済新聞)

政府がミサイルの飛来情報を国民に伝える全国瞬時警報システム(Jアラート)の運用に悩んでいる。北朝鮮が4月13日に弾道ミサイルを発射した際、防衛省は警報を出すかどうかで判断が揺れた。日本の探知情報だけでは限界がある。13日午前7時22分ごろ。自衛隊のレーダーが北朝鮮内陸部から飛来するミサイルを探知した。防衛省の自動警戒管制システム「JADGE」は速度や角度などの情報から予測経路をはじいた。北海道周辺の領域に落下する可能性がある危険な軌道だった。防衛省はただちに内閣官房に情報を伝えた。「それでは北海道を対象地域にJアラートを発令します」。担当者がこう確認した次の瞬間、追尾していたミサイルが防衛省のレーダーから消えた。「いえ、分析を続けるのでちょっと待ってください」。防衛省はこう返答した後に「やはり避難指示を出してください」と連絡した。内閣官房がJアラートを出したのは午前7時55分、発射からおよそ30分後だった。ミサイルは日本の領域や排他的経済水域(EEZ)内には落ちなかった。警報発出から20分ほど後、内閣官房は北海道周辺へ落下する可能性はなくなったと再発表した。…最初から高角で発射するとミサイルにかかる負荷が大きく、3段構造は失敗リスクを減らす目的だったとの分析がある。日本の防衛省は21日、北海道に落下すると推定した飛行体がミサイルから分離したブースター(推進装置)だった可能性があると発表した。推進装置を切り離す過程で軌道が変化し、全体の動きを即座に把握できなかった。探知や追尾が困難なのはICBMだけではない。低い高度を複雑な軌道で飛ぶ極超音速ミサイルなどは一層難しい。日本から北朝鮮まで距離があり地球の丸い形状の死角となる。今回のミサイルの動きを自衛隊より正確に把握したとみられるのが韓国軍だ。首都平壌付近から1発を日本海に向けて撃ち、1000キロメートル程度飛行し日本海に落ちたと発射直後に分析した。日本の防衛省は分析の発表に1週間以上かかった。…北朝鮮がミサイルを本当に日本に向けて飛ばす事態が起こった場合、30分後のJアラートでは間に合わない。内閣官房によると2016年に北朝鮮が日本上空を通過するミサイルを発射した際の発射から到達までの時間は10分ほどだった。…韓国のレーダーや米国の偵察衛星の情報も組み合わせれば、素早い発令に必要な情報の精度は増す。日米韓は探知情報をリアルタイムで共有する仕組みの構築を急いでいる。

Jアラートの運用 迅速性を優先63%(2023年5月1日付日本経済新聞)

日本経済新聞社の世論調査で全国瞬時警報システム(Jアラート)の運用について聞いた。「社会的影響が大きくても、迅速に広い地域に発令する」と選択したのは63%だった。「社会的影響が小さくなるよう、地域を絞って発令する」を選んだ29%を大きく上回った。殺傷能力のある武器の輸出についても質問した。外交力を高めるため輸出を認める自民党内の意見について「認めるべきではない」が68%で「認めてもよい」の26%を上回った。支持政党別でみると、容認派は自民党支持層は33%にのぼった。無党派層は14%だった。世代別で容認派は18~39歳が29%、40~50歳代が28%、60歳以上が24%と高年代ほど低下した。

さて、今回のICBM発射について、グテレス国連事務総長は「強く非難する」との声明を発表、北朝鮮に対し、弾道ミサイル発射を禁じた対北朝鮮安保理決議の順守や対話の再開を要請しています。さらに、国連の安全保障理事会(安保理)は、北朝鮮による固体燃料を用いるICBM発射を受けて緊急会合を開きました。会合後に理事国は非公開で米国提案の非難声明について議論したが、中国とロシアの反対で声明は採択できなませんでした。会合に先立って、日米英仏などの9カ国の理事国と安保理外の韓国が「ICBM発射を最も強い言葉で非難する」とする声明を出し、他の国連加盟国も非難するよう呼びかけたほか、北朝鮮によるサイバー攻撃などを通じた制裁逃れも核ミサイル開発の資金源になっていると批判し、加盟国に制裁決議を守るように呼びかけています。なお、公開会合で中国とロシアは米国を名指しして批判、米韓の合同軍事演習などが状況を悪化させていると主張しました。こうした安保理が行動できない状況について、日本の石兼公博国連大使は「2017年以降、安保理は北朝鮮の動きに関して一度も意思表明をしていない。悲しい現実ではあるが、仕方がないということになっては絶対にいけない。できることをやっていきたい」と話しています。それに対し、北朝鮮の李炳哲・朝鮮労働党中央軍事委員会副委員長は、国連安保理の緊急公開会合について、米国の内政干渉だと批判、北朝鮮の警告を無視して朝鮮半島を危険にさらす行為を続けるなら「安保危機と克服不能の脅威を感じるよう必要な措置を取る」と表明しています。李氏は、ICBMなどは自国防衛と戦争抑止のための「合法的な自衛力強化措置」だと主張、また米軍は戦略爆撃機を相次ぎ朝鮮半島上空に展開させ、6月には韓国と共に過去最大規模の合同訓練を計画するなどして緊張を高めていると非難、「米国は根本的に変化した朝米関係の力学構図を認識せず、力の過信に陥っている」と指摘し、北朝鮮を刺激する「政治・軍事的挑発行為は中断すべきだ」としています。さらに、北朝鮮が打ち上げを予告している「軍事偵察衛星」について、政府はその対応として、自衛隊に「破壊措置準備命令」が出しています。沖縄県内では迎撃に向けて、航空自衛隊の地対空誘導弾「PAC3」が配置されました。防衛省幹部は「北朝鮮は弾道ミサイルの発射を執拗に繰り返しており、今回もその一環だろう。しっかりと即応できるよう、準備を整える」と語っています。

尹錫悦韓国大統領とバイデン米大統領が米ワシントンで会談、両氏は米国の「核の傘」提供を軸とする拡大抑止を強化するワシントン宣言を発表しました。核開発とミサイル発射を続ける北朝鮮に対し、核使用を許さないとの警告を放った形となります。ワシントン宣言は、朝鮮半島有事を念頭に米国の核戦略計画に関する情報を韓国と共有する「核協議グループ(NCG)」の新設や、核兵器を搭載できる米戦略原子力潜水艦の韓国寄港を明記しています。戦略原潜の韓国寄港は冷戦時代の1980年代前半以来となります。NCGは、米国の核政策について、計画の立案や訓練などでの韓国側の関与も認めるとしており、有事に拡大抑止が機能しないのではないかとの韓国側の懸念を払拭する狙いのほか、韓国内で出ている独自の核武装論を抑える目的もあると見られています。ただし、加盟国に戦術核を配備する「核共有」(ニュークリアシェアリング)も扱う北大西洋条約機構(NATO)の核計画グループ(NPG)とは異なり、米国の核兵器が韓国に配備されることはないといいいます。バイデン大統領は会見で北朝鮮が米国や同盟国を核攻撃すれば、「政権は終焉する」と言明しましたが、原潜の寄港だけで十分な抑止力となるかという問題は残っています。なお、今回、米韓首脳会談後に拡大抑止に特化した「ワシントン宣言」を発表したのは「韓国に拡大抑止を確約し、米国は信頼できるという非常に明確なシグナルを送る」((サリバン大統領補佐官)狙いがありました、米韓首脳が結束して、北朝鮮に対抗する姿勢を示したことに対し、北朝鮮の反発は必至の情勢となり、朝鮮半島をめぐる緊張の水位が、さらに高まる可能性があるほか、韓国は、中国への経済面での依存度が高いため、今後の関係維持に腐心することも予想されます。さて、その北朝鮮の反発ですが、かなり辛辣な批判を立て続けに行っています。北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記の妹、金与正党副部長は、「未来のない老人の妄言だ」と非難、ワシントン宣言について「最も敵対的かつ侵略的な行動の意思が反映された敵視政策の産物だ」と指摘、米韓は「一層強力な力の実体に直面する」と警告し、さらなる軍事的措置を示唆しています。また、北朝鮮が核抑止力の強化を進めるとともに、核の先制使用を意味する核戦力の「第2の任務」を一層完璧に準備すると表明、韓国の尹錫悦大統領に対しては「米国からの抜け殻宣言にありがたがる愚か者」と揶揄しています。翌日にも、北朝鮮の朝鮮中央通信は論評で、ワシントン宣言に対し、「北朝鮮敵視政策を集約した産物」と非難、「必ず高い代価を支払う」と主張しています。論評は、バイデン米大統領が「北朝鮮が核攻撃を行えば、政権の終末を招くことになる」と言及したことに対し「世界が見守る中、1つの主権国家を絶滅させるという暴言を吐き出した」と主張、朝鮮半島情勢が「より一層危険な局面に入る」とし、「相応する抑止力を高めるのは当然だ」と核開発を正当化しています。さらに、朝鮮中央通信は、国際安全保障アナリストとする人物の見解として、周辺地域への米戦略資産配備を強化するとした米韓合意について、「核戦争の瀬戸際」まで緊張を高めると非難、米韓合意は両国が北朝鮮に対し「最も敵対的で攻撃的」な行動を取る用意があることを示していると指摘、米戦略資産の配備は朝鮮半島情勢を「不安定な泥沼」に陥れ、地域に「敵対的で排他的な軍事ブロック」を築く狙いがあると批判しています。また「核不拡散体制を組織的に破壊・侵害し、とりわけ朝鮮半島情勢を核戦争の瀬戸際に追いやることで、過去最悪の核関連犯罪の責任を逃れようとするものだ」とし、「韓国全土を極東最大の核戦争前哨基地とし、世界支配の戦略達成のために利用することが、米国の追求する覇権主義の邪悪な目的だ」とも主張しています。一方、こうした派手な主張の陰で、米国拠点の北朝鮮分析サイト「38ノース」は、北朝鮮北西部寧辺の原子炉から、使用済み核燃料棒が搬出されている可能性があるとの分析を示しています。5~8キロの核兵器用プルトニウムが抽出可能とみられるほか、別の施設で再処理して抽出する疑いもあるとしています。3月時点で確認できた冷却水の排出が止まっており、5千キロワットの原子炉が核燃料棒の搬出のために稼働を停止している可能性が考えられるところです。この数週間、原子炉の付近では車両の通行量が増加、原因として、稼働を停止した原子炉の整備をしていることが考えられるとしていました。

2023年5月7日には日韓首脳会談が行われ、日米韓3カ国の安全保障協力の重要性で一致しました。この件についても、北朝鮮外務省は、日本研究所の研究員名で「(日本は)東北アジア地域を不安定にして、しまいには火の海にし、その中で自ら焼け死ぬ境遇になる」などと批判、特にワシントン宣言について、日韓首脳会談後の共同記者会見で、韓国の尹錫悦大統領が宣言への「日本の参加を排除するものではない」と言及したことについて、研究員はこれを「看過できない」「最も露骨な核対決シナリオだ」などと強く反発しています。

このように尹錫悦政権は、外交・安全保障政策の最優先課題だった米韓同盟の復元と強化を短期間で成し遂げましたが、それを象徴する成果が、4月の米国への国賓訪問と、拡大抑止強化を具体化した共同文書「ワシントン宣言」だといえます。韓国では北朝鮮が戦術核を使用する危機感が高まり、独自の核武装論も台頭しており、北朝鮮が核攻撃すれば、「政権の終焉を招く」(バイデン米大統領)との強い警告を米国から引き出しました。こうした尹政権の動きの背景には、「北朝鮮の非核化は事実上、困難になったとの判断があるとみられる」(2023年5月10日付産経新聞)との指摘は大変興味深いものです。一方、日米韓連携を重視する尹政権は野党から「屈辱外交」と攻撃を受け、世論の理解を十分得られていないことは懸念材料であり、2024年春の総選挙で国会過半数を奪還できなければ、次期大統領選で与党の下野もありうるところで、北朝鮮や台湾海峡を巡る厳しい安保環境の中、尹氏は日本の防衛費増にも理解を示しており、今後、日本との安保協力をどの程度進展させられるか注目されるところです。

韓国検察当局は、北朝鮮の工作員と海外で接触し、指令を受けたなどとして、韓国最大規模の労働組合組織の元幹部ら4人を国家保安法違反の罪で起訴しています。起訴された4人は全国民主労働組合総連盟(民主労総)や傘下組織の幹部を務めていました。尹錫悦政権は、北朝鮮との融和を重視した文在寅前政権の方針を転換し、金正恩体制とつながりのある団体に厳しく対応しており、起訴状によれば、4人は2017~2019年にカンボジアやベトナム、中国で北朝鮮の工作員と接触し、指令を受けたとされます。韓国の情報機関・国家情報院と警察は2023年1月にソウルにある民主労総本部を家宅捜索し、3月に4人を逮捕、これまでの捜査で、北朝鮮からの指令文90件と北朝鮮への報告文24件を押収、検察によれば、北朝鮮は2019年の指令文で日本の対韓輸出規制強化を巡り日本大使館周辺でのデモなどを「積極的に行う」よう指示、2021年には原発処理水の放出決定で高まる反日感情を利用し日韓の対立を深め、米国を含めた3カ国の連携を阻むよう求めたとされます。北朝鮮の意を受けて、韓国国内の世論を「反日」るいは日米韓の連携を阻止するよう工作していたとすれば、大変由々しき問題だと思います。また、韓国政府が北朝鮮住民の人権問題について発信を強めている点も注目されます。統一省は2023年3月末に「北朝鮮人権報告書」を発刊し、人権侵害の現状を国際社会に訴えています。それに対し北朝鮮は、韓国との定時連絡を遮断するなど態度を硬化させています。尹錫悦政権は全400ページを超す報告書の公開に踏み切り、北朝鮮が住民の人権を侵害しながら核・ミサイル開発を継続している現状を国際社会に訴え、北朝鮮に圧力を加えようとしています。報告書では、食料事情について、自然災害などで収穫量が計画に足りなくても当初計画通りの分量を収奪されたとの証言を載せたほか、足りない分は個人で買って納入したといい、食料不足のしわ寄せが住民に及ぶ実態が浮かぶほか、軍隊での女性への性暴力など社会的弱者の人権侵害の事例も挙げています。北朝鮮は2020年6月、韓国との関係悪化を受け南北の通信連絡線を完全に遮断すると表明し、その1週間後に南北共同連絡事務所を爆破しています。2021年10月に連絡ルートが復元されて以降、1日以上連絡が途絶えたことはなく、韓国政府が北朝鮮の意図を分析しているところです。また、尹錫悦大統領は米議会演説で、北朝鮮の深刻な人権侵害を解決するため、米議会や国際社会に協力を呼びかけました。南北対話を優先して人権問題に沈黙してきた文在寅前大統領との外交姿勢の違いを鮮明にした形です。尹政権は拉致問題解決に向けた日本との協力方針を示しており、人権問題を軸にした日米韓の対北連携が深まるか注目されるところです。関連して、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)ソウル事務所のヒーナン所長は、東京都内の日本外国特派員協会で記者会見し、北朝鮮の人権状況は悪化し続けているとの認識を示した上で、関係者の責任追及や処罰などの圧力と、行動変化を促すための関与の両方を通じて改善を目指す必要性を強調しています。同氏は、北朝鮮は新型コロナウイルス禍で中国との国境管理が強化されて脱北者が激減し、情報や移動の自由も著しく制限され「かつてなく閉ざされている」と指摘、食料や医療事情の悪化、女性への暴力なども横行し、「人道に対する罪が犯され続けている」と懸念を示しています。

北朝鮮が韓国との経済協力事業で2016年から稼働を中断している開城工業団地の韓国側工場を、勝手に大掛かりに稼働させている状況が明らかになったといいます。国際社会による経済制裁や新型コロナウイルス禍による交易制限で経済が逼迫する中、工場で生産した製品を密輸して外貨稼ぎにも充てていると分析されています。韓国側で団地を管轄する統一省当局者は、「過去より多くの北朝鮮労働者が出勤しているのは事実だ」と記者団に説明、米政府系メディアは、2月に撮影した熱赤外線衛星画像で団地内の4つの区間で熱を発しており、設備の稼働が確認されたと伝えています。韓国紙の中央日報は、北朝鮮が団地内の工場約30カ所を無断稼働していると報じました。北朝鮮の脆弱な電力事情を考慮すると、稼働できる最大限の工場数に相当するとみられています。団地内で2022年4月に火災が起きたことから無断操業が注目され始めていたもので、設備の再稼働に伴う出火とみられ、韓国当局は団地内での車両や人の動きを捕捉、団地内の労働者の出退勤に使っていた韓国製のバスが開城市内や平壌市内の路線バスに転用されている実態も北朝鮮の国営テレビの映像などで判明しています。

北朝鮮が中国から輸入するコメと小麦粉の量が2023年に入り急増しています。2022年の不作に加え、穀物の流通統制を強めたことにより国内の作物が市民に十分行き渡らない混乱が続き、外部調達を拡大しているとみられています。22日までの中国税関総署の発表によれば、3月のコメ輸入量は約4万6762トンで2月の2.5倍弱、1~3月は約7万6120トンになったほか、小麦粉も1~3月に2万6193トン輸入し、1~3月のコメと小麦粉の合計は10万2313トンで、2022年1年間の約13万373トンに近づいている状況です。北朝鮮は新型コロナウイルス感染症対策として2020年1月に国境を事実上封鎖し輸入量が急減しましたが、それ以前の数年間と比べてもかなりのハイペースで輸入していることになります。2022年秋以降、北朝鮮は通常食べない安価な長粒米も買い入れており、食糧難の深刻化が指摘されています。国連安保理決議に基づく経済制裁に加え、国境封鎖や悪天候が北朝鮮の食糧難に拍車を掛けたほか、2022年には国内で穀物取引の統制が強化され、状況はさらに悪化、北朝鮮にとって対外貿易の9割を占める中国との経済活動の拡大は、今後必須とみられています。中国遼寧省丹東市では国境の鴨緑江に架かる全長約3キロの「新鴨緑江大橋」が開通を待つばかりとなっており、中朝協力のシンボルとして2010年に着工した大橋は2014年にはほぼ完成したものの、北朝鮮側の道路整備の遅れなどで開通に至っていないところ、中国側では既に通関設備も整い、地元関係者は「貿易が本格的に再開したら、トラック輸送の大動脈になる」と期待を寄せているといいます。

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記は、ロシアが第二次大戦の勝利を祝う「対ドイツ戦勝記念日」に合わせ、プーチン大統領に宛て祝電を送っています。金氏は、ロシアに侵略されたウクライナを支援する米欧を念頭に、ロシアが「敵対勢力の挑戦と威嚇を打ち砕き、今後も勝利し続けると確信する」と強調、金氏は、ロシアのウクライナ侵略について「帝国主義者らの強権と専横に立ち向かい、国際的な正義を実現して世界の平和を守るための聖なる闘争」だとたたえています。ロシアが2022年2月にウクライナに侵攻して以来、北朝鮮はロシアが主張するウクライナ東南部地域の併合を支持したほか、ロシアへの弾薬提供も指摘されており、ロシアとの連携を深めています。ロシアも国連安全保障理事会で中国とともに、弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮の擁護に回っています。

最近特に露出が多くなっている金総書記の娘と妹の金与正氏について、産経新聞が興味深い記事を掲載していますので、以下、抜粋して引用します。

金正恩氏、娘で与正氏押さえ込み 北元外交官分析(2023年5月1日付産経新聞)

北朝鮮の金正恩体制内で権力バランスの変化が生じていることが明らかになった。正恩朝鮮労働党総書記は娘を世襲体制のシンボルとして頻繁に公の場に登場させると同時に、突出していた妹、金与正党副部長の影響力を押さえ込んだ。北朝鮮元外交官の高英煥氏が正恩政権下で脱北した複数の元高官の証言などを基に分析。一方で、正恩氏の子供時代から世話役を務めた党中枢の政治局常務委員の趙甬元氏が実質ナンバー2として存在感を高めている。高氏は、韓国の情報機関傘下の国家安保戦略研究院の副院長を務めた経験があり、独自の内部情報と分析は韓国政府の対北政策にも影響を与えてきた。高氏が注目したのは、名前が「ジュエ」とされる正恩氏の娘が昨年11月以降、父の同伴で公の場に頻繁に登場するようになった後、与正氏が、中心にいる正恩父子から離れた端に写る場面が度々報じられた点。それまで正恩氏のそばで補佐する姿が伝えられてきた。

与正氏に叔母「兄を静かに補佐しなさい」 金王朝の舞台裏(2023年5月1日付産経新聞)

北朝鮮の金正恩政権を特徴づけてきたのは正恩朝鮮労働党総書記の妹、金与正党副部長の突出した存在感だった。だが、正恩氏の娘の公の場への頻繁な登場と比例するように、その存在感は揺らぎ始めているという。…北朝鮮の外相や国防相、軍総参謀長ら各部署トップが正恩氏への面倒な報告があればまず、与正氏に電話をかけ、「きょう報告をさし上げて大丈夫でしょうか」と尋ねる。正恩氏の機嫌が悪ければ、与正氏は「今日はダメ」と答え、後日、兄の機嫌がいい日を見計らって電話を返し、「きょう報告しなさい」と告げる。各部署トップはようやく報告の機会を得る。与正氏は兄の気持ちを読み取って先回りすることに秀で、正恩氏に通じる扉の鍵を握る意味から政権の「キーウーマン」とみなされたと高氏は説明する。…与正氏は子供時代に正恩氏らとスイスに留学中も兄より成績が良かったとされる。その上、目立ちたがり屋でもあった。正日氏の妹で叔母の金慶喜氏は「私みたいに、静かに兄さんを補佐しなさい」と与正氏をたしなめた。最高指導者は独り輝くべきものだが、きょうだいが権力を持つと、それに従う幹部が現れ、混乱を来すことを慶喜氏は実体験していた。…正恩氏は与正氏に対外政策を任せたものの、19年のベトナム・ハノイでの米朝首脳会談が決裂したのを契機に、与正氏への依存度が落ち始めたと高氏はみる。子供の成長に伴って関心が子供と李雪主夫人に移るのは自然な流れだった。与正氏の出過ぎた言動が子供に悪影響を与えることに李夫人が不安を募らせたとも高氏は推測する。正恩氏が、夫人の意をくんで娘を頻繁に行事に同伴させ、報道で写し出される妹との「物理的な距離」も置くようになったとの見立てだ。最近の与正氏の談話の米韓への非難がより先鋭化しているのも、存在感を再度示そうとする与正氏の焦りの表れと高氏は解釈する。…正恩氏は21年の党規約の改正で総書記を代理する「第1書記」のポストを新設した。高氏は、数年以内に正恩氏に万一の事態が起きれば、与正氏が第1書記に就き、一時的に最高指導者の代役を務める可能性はあるとみる。ただ、さらに数年が経過するなら、最側近の補佐の下、成長した息子が後継者に就くことが妥当だとの見方も示した。

北朝鮮の弾道ミサイル発射が頻発する中、政府が2023年度に自治体と共同で実施を予定する国民保護訓練の回数は過去最多の67回となる見通しとなっています。2014年度は13回で、およそ10年で5倍近く増えることになりますが、北朝鮮による弾道ミサイルの相次ぐ発射が背景にあることは言うまでもありません。国民保護訓練は2004年施行の国民保護法に基づき2005年度から始まりました。自然災害を想定する防災訓練とは異なり、日本への武力攻撃にも備えるのが特徴で、自治体の要請を受けて内閣官房や総務省消防庁が連携するものです。2005年度の訓練開始時は連続爆破テロや原子力発電所への攻撃を想定したケースを対象にしていましたが、現在は他国からの武力侵攻やサイバー攻撃、化学テロなど様々なケースを想定しています。訓練費用のうち消耗品や人件費以外を国が支出することとなっています。

3.暴排条例等の状況

(1)暴力団排除条例に基づく勧告事例(神奈川県)

神奈川県公安委員会は、神奈川県暴排条例に基づき、千葉県内の運送業者の男に暴力団員に利益を供与しないよう、六代目山口組系組員の男に、利益供与を受けないよう、それぞれ勧告しています。

▼神奈川県暴排条例

同条例第24条(利益受供与等の禁止)において、「暴力団員等又は暴力団経営支配法人等は、情を知って、前条第1項若しくは第2項の規定に違反することとなる行為の相手方となり、又は当該暴力団員等が指定したものを同条第1項若しくは第2項の規定に違反することとなる行為の相手方とさせてはならない。」とされています。そのうえで、第28条(勧告)において、「公安委員会は、第23条第1項若しくは第2項、第24条第1項、第25条第2項、第26条第2項又は第26条の2第1項若しくは第2項の規定に違反する行為があった場合において、当該行為が暴力団排除に支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあると認めるときは、公安委員会規則で定めるところにより、当該行為をした者に対し、必要な勧告をすることができる。」と規定しています。

(2)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(鳥取県①)

暴力団に入ることを強要したとして、鳥取県警米子警察署は、六代目山口組大同会組員の男に対し中止命令を出しています。報道によれば、男は、境港市内の飲食店で、鳥取県西部に住む30代の男性に対し、指定暴力団等に加入することを強要したこといいます。なお、境港市に住む無職の男とともに、この男性に対し、「指でも腕でも落とさせとるぞ」「山陰から出てけや」などと、被害者に義務のないことを行わせようとしたとして、強要未遂の疑いで逮捕されています。

▼暴力団対策法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)

暴力団対策法第16条(加入の強要等の禁止)第2項において、「前項に規定するもののほか、指定暴力団員は、人を威迫して、その者を指定暴力団等に加入することを強要し、若しくは勧誘し、又はその者が指定暴力団等から脱退することを妨害してはならない」と規定されています。その上で第18条(加入の強要等に対する措置)において、「公安委員会は、指定暴力団員が第十六条の規定に違反する行為をしており、その相手方が困惑していると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該行為を中止することを命じ、又は当該行為が中止されることを確保するために必要な事項(当該行為が同条第三項の規定に違反する行為であるときは、当該行為に係る密接関係者が指定暴力団等に加入させられ、又は指定暴力団等から脱退することを妨害されることを防止するために必要な事項を含む。)を命ずることができる」とされています。

(3)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(鳥取県②)

米子警察署は、六代目山口組大同会幹部に対して、暴力団対策法に基づく中止命令を出しています。報道によれば、鳥取県米子市内で20代の男性と知人とのトラブルを巡り、男性に対し「慰謝料と店の損害で250万円用意しろ。それができんなら店を辞めろ」などと告げ、さらに米子市内の喫茶店で男性に対し「250万円をやっぱり払ってもらわないけん」などと告げ、金品などの贈与を要求したといいます。米子署は、こうした行為が暴力団対策法で禁止される暴力的な要求行為に当たるとして、男に金品を要求してはならないことを命じています。

暴力団対策法第9条(暴力的要求行為の禁止)において、「指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない。」として、「二 人に対し、寄附金、賛助金その他名目のいかんを問わず、みだりに金品等の贈与を要求すること。」が禁止されています。そのうえで、(暴力的要求行為等に対する措置)で、「公安委員会は、指定暴力団員が暴力的要求行為をしており、その相手方の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該暴力的要求行為を中止することを命じ、又は当該暴力的要求行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる。」とされています。

(4)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(群馬県)

群馬県警渋川署は、暴力団対策法に基づき、松葉会系組員の男に対し、姿を消した組員の居場所を教えることを県内の60代男性に強要しないよう中止命令を出しています。報道によれば、男は、組織からいなくなった組員の親族である男性宅を訪れ、「行きそうなところはどこか」「連絡をよこせ」「一度会いたい」などと言って、居場所などを教えるよう強要したといいます。

暴力団対策法第16条(加入の強要等の禁止)第3項において、「指定暴力団員は、人を威迫して、その者の親族又はその者が雇用する者その他のその者と密接な関係を有する者として国家公安委員会規則で定める者(以下この項並びに第十八条第一項及び第二項において「密接関係者」という。)に係る組抜け料等(密接関係者の暴力団からの脱退が容認されること又は密接関係者に対する暴力団への加入の強要若しくは勧誘をやめることの代償として支払われる金品等をいう。)を支払うこと又は密接関係者の住所若しくは居所の教示その他密接関係者に係る情報の提供をすることを強要し、又は勧誘することその他密接関係者を指定暴力団等に加入させ、又は密接関係者が指定暴力団等から脱退することを妨害するための行為として国家公安委員会規則で定めるものをしてはならない」と規定されています。その上で第18条(加入の強要等に対する措置)において、「公安委員会は、指定暴力団員が第十六条の規定に違反する行為をしており、その相手方が困惑していると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該行為を中止することを命じ、又は当該行為が中止されることを確保するために必要な事項(当該行為が同条第三項の規定に違反する行為であるときは、当該行為に係る密接関係者が指定暴力団等に加入させられ、又は指定暴力団等から脱退することを妨害されることを防止するために必要な事項を含む。)を命ずることができる」とされています。

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