暴排トピックス

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1.暴力団排除条例(以下「暴排条例」)Q&A

まずは、いつものように、暴排条例に関して皆さまからよく聞かれる質問にお答えし解説を加えていきたいと思います(ただし、ここに示す見解は筆者の私見によるものであることをあらかじめお断りしておきます)。

Q1相対取引で株式を買い取る場合、相手が反社会的勢力ではない、いわゆる「反市場勢力」であったら、それは利益供与に当たるのでしょうか。

A1東京都暴排条例を例に、同条例が利益供与の禁止の相手方としている「規制対象者」(2条5号)に該当するか否かの問題として考えます。

▼東京都:東京都暴力団排除条例

「反市場勢力」とは、一般的には、不公正ファイナンス、株式市場における不正な取引を行う者などとされていますが、暴排条例上の「規制対象者」にそのまま該当するわけではありません。

つまり、反市場勢力が、例えば「暴力団員である」「暴力団が経営支配する企業の役員で、その暴力団の威力を示すことを常習とする者である」ということであれば、「規制対象者」に該当し利益供与の対象となり得ること、そうでない場合は、直接的に反市場勢力と取引をしたとしても、「暴排条例上は」利益供与違反とはならないということを理解する必要があります。

ただし、反市場勢力の資金の出所やその還流先等に暴力団等の関与があるのであれば、その反市場勢力は反社会的勢力と見なせるのであり、暴排条例上の解釈はともかく、企業としては「関係をもつべきでない」として慎重に判断することが求められると言えるでしょう。

Q2暴排条例が施行されている中、企業としてやるべきことにはどのようなことがありますか。

A2暴排条例の主旨からみて今企業が取組むべきこととしては、例えば、以下のようなことが考えられます。

  1. 企業姿勢の明確化
    • 反社会的勢力との関係を一切遮断するとの企業姿勢の宣言と徹底
    • 自社が関係を持つべきでない反社会的勢力(暴力団等)の定義(範囲)の明確化と全役職員間での共有
  2. 全役職員の意識改革
    • 疑わしいとの端緒を把握するために必要な高い意識やリスクセンスの醸成に向けた教育活動
    • 暴排条例の内容の周知
  3. 暴排条項の整備
    • 全ての関係先との契約への暴排条項の導入(それ以外でも誓約書・確認書・表明確約書などの形で締結)
    • 暴排条項の限界をふまえた契約内容・取引形態等の工夫(関係解消策の検討)
  4. 反社チェックを内部統制システムに位置づける
    • 疑わしい情報の集約・分析・判断の仕組みや基準の整備
    • 新規取引開始時や定期・不定期のチェック体制の整備
  5. 疑わしい取引の存否の精査
    • 既に接点がないか、疑わしい取引がないかの総点検

1~4については、反社会的勢力排除の内部統制システムの重要な要素・取組み課題であり、平時から着実に実行していくことが有事の際には極めて有効だと言えますが、現時点で企業がまずすべきこととしては⑤が極めて重要であると考えます。

暴排条例が施行されて既に1年以上の期間が経過しており、それにも関わらず、現場の当事者が「それと知りながら関係を継続する」行為については、暴排条例の主旨に反する、あるいは利益供与違反と見なされる可能性があります。

企業としては、(私的な交流を含め)現場でそのような関係の継続がないか、関係が隠蔽されていないかについて、現場からの情報を待つだけでなく、自ら積極的に「見つけに行く」ことが求められています。

さらには、大阪府暴排条例施行規則(第3条「暴力団密接関係者」の定義)などをふまえれば、企業の内側に潜むリスクとして、少なくとも管理職以上における暴力団等との私的な関係を含む一切の関係がないことを確認していくことも企業の存続には必要なことだと言えます。

▼大阪府:大阪府暴力団排除条例施行規則(平成23検査事務年度後期版)

2.海外反社対応

(1)テロ資金供与

前回もご紹介しましたが、8月に米国ニューヨーク州の金融規制当局がスタンダード・チャータード銀行の米国拠点が米国の経済制裁対象であるイランの中央銀行を含む金融機関との間で10年以上にわたって2,500億ドル(現在の為替で約20兆円)もの不正な取引を行っていたと発表、その後、3億4,000万ドル(約268億円)の和解金を支払うことで合意しています。

また、その他にも、大手英銀のロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)や香港上海銀行(HSBC)、イタリアの大手銀行ウニクレディトなども同様の疑いがかけられているところです。

現在、イランとの取引については、「資金洗浄・テロ資金供与対策に懸念のある国」に指定されているため問題視されていますが、ここでは、本来的な意味での「テロ資金供与」の実態についてお話したいと思います。

実は、海外反社対応においては、マネー・ローンダリングとテロ資金供与は、同列に語られることが多いのですが、そもそもは別の犯罪であって、決定的に重要な相違があります。

端的に言えば、テロ資金供与とは、イデオロギー的・違法・政治的な目的のために資金を使用するものであり、資金自体は違法に生み出されたものとは限りません。

一方、マネー・ローンダリングにおいては、(暴力団の収益獲得活動のように)違法な行為から得た資金(犯罪収益)が絡んでおり、その目的は、その資金を合法的に使えるように資金の出所を不明確にすることにあるという点が大きな違いだと言えます。

さらに、資金の流れをみてみると、マネー・ローンダリングにおいては、フロント企業(暴力団関係企業など)やタックスヘイブン(英領バージン諸島やケイマン諸島など)を経由するといった複雑な取引関係が顕著であるものの、結局は、資金はそれを生み出した人物・団体のところに戻るという意味で「循環的」であるのに対し、テロ資金供与においては、生み出された資金は、テロリスト・グループやテロ活動のために寄付的に使われることから「直線的」であるという違いもあります。

もっとも、テロ資金供与においても、結局は、資金提供者とテロリスト・グループとの「つながりを偽る(関係を分かりにくくする)」必要があり、その実行過程(資金の流れ)でマネー・ローンダリングに似た手法を採ることが多いため、実務上は、アンチ・マネー・ローンダリング(AML)/テロ資金供与対策(CTF)における抽出(認知)や排除の観点からは「異常な兆候」という共通した着眼点が必要だと言えるのです。

ただし、その手法が「資金源を隠蔽する」という点では同じでも、マネー・ローンダリングにおいては、顧客の財務状況または想定される活動からみて不自然にみえる預け入れ等の「疑わしい取引」がその端緒の中心となるのに対し、テロ資金供与においては、金額的には検知システムの監視対象外となるような少額の取引の中から、関係のなさそうな相手との電信送金、現金密輸、デビットカードやクレジットカード利用等により、ごく一般的な費用(食費や賃料等)に使われるといった特徴などを有しており、その中から取引当事者間の「疑わしい関係」を導き出す着眼点が必要となるといった相違があるという点にも注意が必要です。

したがって、国内の反社チェックにも通ずることでもありますが、検知システムや表面的・単眼的なチェックにとどまることなく、「異常な兆候」を見逃さない監視・チェック体制や取引担当者の高い意識が求められると言えます。

なお、参考までに米同時多発テロにおけるハイジャック犯の金融取引の特徴として以下のようなものが例示されていることを紹介しておきたいと思います。

  • UAE、サウジアラビア、ドイツ等の外国との少額の電信送金による直接受領
  • デビットカードからの引き出し率が高い
  • 残高照会の回数が多い
  • 預け入れが行われるとすぐに引き出される
  • 取引全般が、監視対象金額未満
  • ATMでの取引は、複数名がその場に居合わせていた

(2)マネー・ローンダリングと商流

金融庁では、「マネー・ローンダリング」について、「違法な起源の収益の源泉を隠すこと。例えば、麻薬密売人が麻薬密売代金を偽名で開設した銀行口座に隠匿する、詐欺や横領の犯人が騙し取ったお金をいくつもの口座を使い、転々と移動させて、出所をわからなくするといった行為がその典型とされています。このような行為を放置すると、犯罪収益が将来の犯罪活動に再び使われたり、犯罪組織がその資金をもとに合法的な経済活動に介入し、支配力を及ぼすおそれがあることから、マネー・ローンダリングの防止は犯罪対策上の重要な課題となっています。」(金融監督庁「マネー・ローンダリング対策」)と述べています。

そもそもマネー・ローンダリングは単体で成立するものではなく、関係先・取引先等との「何らかの関係(資金の流れ)」が前提となる行為であって、「マネー・ローンダリング自体が一つの商流を形成している」とも言えるのです。

したがって、その商流上に位置してしまうなどして、それと知らずにマネー・ローンダリングに加担してしまう可能性は否定できませんし、外形上、商流にあるという事実だけで、「マネー・ローンダリング協力者」としてグローバルビジネスから排除されることもありうると言う点に注意が必要です。

BCP(事業継続計画)においては、サプライチェーン・マネジメント(SCM)やデマンドチェーン・マネジメント(DCM)の観点からの取引先の選定・管理が注目されていますが、AML/CTF、さらには反社会的勢力排除の観点からも、その商流上に位置する取引先等の健全性に注意を払うことが求められているのです。

言い換えれば、AMLの取組みにおいては、「KYC(KnowYourCustomer顧客をよく知ること)」が重要だとよく言われていますが、今や、「KYCC(KnowYourCustomer’sCustomer顧客の関係者を知ること)」まで求められているということであり、「銀行間の取引」という表面的なやり取りを見る(監視する)だけでは十分ではなく、「銀行口座保有者やその背後」にいるそれぞれの取引関係者の異常な関係を如何に抽出するかが重要となってきていると言えるのです。

具体的に、先の香港上海銀行(HSBC)のマネー・ローンダリング事案に絡んだ北陸銀行の事例で考えてみれば、同行として、トラベラーズチェックを利用する日本の中古車販売業者が健全かどうかの確認だけでは足りず、(ロシアとの中古車売買という取引形態からみて当然疑うべき「高リスク取引」であることから)当該業者の資金が(送金主や受取主の周辺で)どのように流れているのかまで把握しておくべきということになります。

▼北陸銀行(平成24年8月2日):米国上院議会常設調査小委員会の報告書における香港上海銀行(HSBC)のマネーロンダリング問題に関して

なお、商流に位置する関係者の健全性という観点で言えば、東京都暴力団排除条例における「関連契約(当該事業に係る契約に関連する契約)」(第18条)からの暴力団等の排除においても、単に取引の相手方だけを確認すれば足りるのではなく、その関係者(YourCustomer’sCustomer)の健全性についても十分に注意を払い、万が一の際には確実に排除するよう要請しているのは、正に同じ文脈で理解する必要があると言えます。

3.暴力団排除条例施行から1年

この10月で、東京都と沖縄県が暴排条例を施行して1年が経過したことになります。その間、暴力団対策法の改正をはじめ、市町村レベルでの暴排条例の施行など、暴力団排除に向けて官民一体となった取組みが進む一方で、暴力団による事業者に対する報復行為や勧告事例なども後を絶ちません。

ここでは、各地で「暴排条例施行1年」をどのように総括されてきたかを当時の地元紙の報道内容等から紹介することで、今後の取組みの参考にして頂きたいと思います。

(1)宮崎県(平成23年8月1日施行)

宮崎県警に対する暴力団情報の照会件数は、不正目的の口座開設を防ぐ金融機関を中心に53件(8月末現在)に上り、すでに昨年1年間の5倍を超えたとのことです。

(2)埼玉県(平成23年8月1日施行)

埼玉県暴排条例施行後、埼玉県警は積極的に摘発や勧告を進め、学校の敷地近くに暴力団事務所を開くことを禁じた条例の規定に基づき、2月には指定暴力団住吉会系組長を逮捕、関係者と協力して、事務所の撤去にこぎ着けています。

また、暴力団が資金獲得の場としている「組葬」に場所提供した葬祭業者や、みかじめ料を渡した運転代行業者に勧告を行ったほか、祭りの露天からの暴力団員排除も進められています。

さらに、この1年間で、埼玉県警には計9,878人について暴力団と関係があるかどうかの照会があり、条例施行前は、生活保護や公営住宅の入居審査などを行う自治体からの照会がほとんどであったのに対し、施行後は金融機関、不動産業者、建設業者を中心に、ホテルやゴルフ場などにも広がりを見せているということです。

(3)静岡県(平成23年8月1日施行)

中部電力は、暴力団排除対策協議会の設立総会を開催し、浜岡原子力総合事務所が直接発注する主な請負業者35社、約100人が出席する中、今後、浜岡原発に関連する請負業者約800社と共同で暴力団排除を強めていく方針を明らかにしています。

さらには、静岡県百貨店協会に加盟する百貨店4社とイオングループが、暴力団組織名での中元、歳暮を受け付けないなどの対策をすでに実施、金融機関も預金口座の開設拒否や既存口座の解約なども進められています。

また、暴力団の利益になると知りながら正月飾りを提供したり、資金集めが目的の組名義の葬式「組葬」を執り行った葬祭業者など事業者5人、組員5人に、業者名や氏名公表の一歩手前となる「勧告」を出しています。

(4)神奈川県(平成23年4月1日施行)

神奈川県内では、今年4月までに、全33市町村において暴排条例が整備されています。

事業者においても、例えば。神奈川県内に約300店舗ある大手自動車販売店では、今年1月から顧客に対して「暴力団員ではない」などとする確認書の提出を求めているということであり、過去暴排条例に基づく勧告を受けた「海の家」関係では、27カ所ある海水浴場の各組合が「暴力団に組合員の資格を与えない」などとする約款や規約などを整備したり、同県質屋組合連合会にも契約の約款に「暴力団排除」を盛り込むといった取組みが進められています。

(5)奈良県(平成23年7月1日施行)

これまで奈良県暴排条例に基づく勧告・指導は計4件で、具体的には事務所のリフォームを請け負った業者らに対して出されています。

また、奈良県暴力団追放県民センターへの相談は、2011年度の実績が119件にのぼり、前年度から55件増えるなど取組みが浸透しつつあるようです。

(6)和歌山県(平成23年7月1日施行)

取引先が暴力団関係者ではないかという事業所からの照会は施行後203件あり、前年同期の90件の2倍以上となったということです。

また、行政処分は出ていないものの「暴力団の跡目継承の儀式に民宿の客間を提供」「暴力団から門松の注文を受注」「暴力団員が県有地でイベントを開催しようとした」として関係者へ指導したとのことです。

(7)千葉県(平成23年9月1日施行)

これまでに、用心棒代として暴力団員に金銭を提供する「利益供与違反」などがあったとして、千葉県暴排条例に基づき4件の勧告が行われています。

一方、千葉県内の飲食業やゴルフ場、遊技場などの各業界の14団体が、条例の理念に沿って独自の「暴力団排除宣言」を実施し、その結果、千葉県暴排条例や暴力団排除宣言に基づき暴力団組員の利用を禁止しているゴルフ場に身分を隠して入場したとして、千葉県内の暴力団幹部が詐欺容疑で逮捕された事例もありました。

なお、千葉県暴排条例に基づき千葉県警から勧告を受けた事例としては、「建設会社経営者が暴力団に協力する目的で、口座に現金5万円を振り込む」「麻雀店経営者が暴力団組員に店を守ってもらう目的で、口座に現金2万円を振り込む」「建設会社役員が暴力団に協力する目的で、口座に現金50万円を振り込む」「運転代行会社経営者が、用心棒代として、暴力団組員の入居するマンションの家賃5カ月分、計49万円を肩代わりした」といったものがあげられています。

(8)福井県(平成23年4月1日施行)

福井県内の電力やガスなど公益事業者や金融機関は、各種契約時の契約書や取引約款に暴力団関係者との関係を絶つ排除条項を規定、また、暴力団関係者かどうか、事業者から県警への照会件数は前年比で2.4倍増えるなど事業者の取組みが本格化、その結果、実際にある金融機関では、照会の結果、これまでに数人が関係者と判明し、取引をやめたとのことです。

また、昨年6月には、福井県暴排条例により、みかじめ料を受けた暴力団組員と支払った飲食店経営者に福井県公安委員会が勧告したケースもありました。

(9)兵庫県(平成23年4月1日施行)

指定暴力団山口組総本部がある兵庫県内には約90の暴力団が事務所を置き、県外の直系組長が総本部に通うため30か所ほど別宅があるとみられていますが、この1年で新たな拠点は確認されていないとのことです。

また、兵庫県百貨店協会は暴力団関係の贈答品の販売を拒否、兵庫県印刷工業組合も、組名の入った破門状などの印刷物を取り扱わないことを決定、兵庫県神社庁は約3,800の神社に対し、暴力団の集団参拝を断るよう要請するなどの取り組みが進められています。

なお、兵庫県公安委員会は、平成23年中に、組員への「用心棒代」支払いや山口組総本部の改修工事を請け負った業者らを対象に3件の勧告を出しています。

(10)大阪府(平成23年4月1日施行)

大阪府暴排条例施行後の1年間で8件16人に条例を適用、また、暴力団に関する相談件数は725件、暴力団対策法に基づく中止命令は267件と、件数はいずれも前年より約4割増加する結果となっています。

具体的な適用事例には、「暴力団が会合で使用するマイクロバスを貸し出した」とする暴力団への利益供与、あるいは「条例の禁止区域に事務所を構えた」といったものがあげられます。

(11)愛知県・三重県・岐阜県(平成23年8月1日施行)

暴排運動に積極的に取り組む動きが進む一方で、報復を恐れて関係を明かさない事業者もおり、愛知、三重、岐阜3県の暴排条例に基づく勧告は計7件にとどまっています。

(12)京都府(平成23年4月1日施行)

京都府内の暴力団組員数(準構成員を含む)は昨年末時点で880人と前年同時期より290人減り、初めて1,000人を切った一方で、条例違反の摘発はゼロで、組織の活動の潜在化を危惧する声も出ています。

昨年4月~12月、自治体などからの身元照会は7,004件、計3万3,477人で、この8か月間だけで前年1年間(5,053件、計1万8,400人)を上回るなど、取組みが進んでいます。

一方、京都府暴排条例には、他府県の条例のように祭礼から暴力団を排除する規定がなく、その結果、京都府内では、各寺社で営業する露店からの排除ができておらず、京都府警が個別に申し入れを行っている現状にあり、改善が求められます。

(13)東京都(平成23年10月1日施行)

警視庁に寄せられた暴力団に関する相談件数が前年同期の約1.5倍(1,715件増の5,540件)に急増するとともに、施行前は「暴力団から脅迫された」などの被害を訴える内容が中心の相談も、施行後は取引先が暴力団関係者かどうかを確認するものが増加、「暴力団との契約を解除したい」という具体的な相談もあるとのことです。

また、資金難に陥った組員が組織を離脱するケースが続出する一方で、東京都暴排条例に基づく勧告は4件にとどまり、暴力団ではないため条例の網にかからない「不良グループ」(反グレなど)の活動が活発化するなど、運用や対策の難しさも浮き彫りとなっています。

4.暴力団関連ニュース

ここでは、企業活動を偽装するなどして活動している実態や、企業として注意しておくべき動向・参考にすべき最近の事例について、いくつかご紹介しておきたいと思います。

(1)福岡県「暴力団立ち入り禁止標章」掲示店舗への攻撃が続く

北九州市では8月下旬から、標章を掲げる店などの関係者が切りつけられる事件が相次いでおり、9月末時点で4件発生したほか、標章を掲げる飲食店を狙い、「次はお前だ」といった脅迫電話が約90件相次ぐなどしており、福岡市の中州でも放火事件が起きています。

飲食店や企業などからのみかじめ料を主な資金源としている福岡の組織にとって暴排条例施行によるダメージが大きい証左であり、一方で、幅広い資金源を持ち、手口の巧妙さ・実態の不透明化がすすむ山口組などに代表される組織の動向(表向き警察や事業者に対して攻撃を行わない)とは様相が異なり、暴力団の2極化がうかがえる点が注目されます。

ただ、福岡では実際にこの標章を撤去する店舗も相当数増えているということであり(さらには、昨日(平成24年10月9日)の報道では、北九州市において標章を撤去した店舗の入居するビルへの放火という事件も発生しています)、彼らに屈することのないよう、警察当局には一刻も早い安全確保・活動の封じ込めが求められるのは言うまでもありません。

なお、東京都暴排条例では第14条「保護措置」、福岡県暴排条例では第7条「警察による保護措置」にそれぞれ必要な措置を構ずべき旨明記されている点も紹介しておきたいと思います。

(2)山梨県警元暴力団組員から訴えられる

暴力団から脱退しようとしていたにもかかわらず、甲府署員らによって組長らと同署で面会させられ、組幹部から組に戻るよう脅迫行為を受けたり、頭を殴られたりし、署員もそれを制止せず傍観していたことから、精神的な苦痛を受けたとして、元暴力団組員の男性が山梨県を相手取り、慰謝料など約113万円の支払いを求める訴訟を東京簡裁に起こしています。

事実であれば大変由々しき問題であり、暴排条例においても元暴力団員の離脱を促進することが明記されている(東京都暴排条例第12条「暴力団からの離脱促進」など)こともふまえれば、その重要な担い手である警察の姿勢も問われています。

(3)暴力団関係者の土地で駐車場運営数百万円の利益供与か

コイン式駐車場を展開する大手企業が、指定暴力団住吉会系暴力団関係者が代表を務める不動産管理会社と土地の賃貸借契約を結び、駐車場を運営していたことが判明、利用料が暴力団に流れた可能性があり、同社は「このような事態になり深く反省する。再発防止に努めたい」とコメントしています。

報道によれば、「社外からの情報提供」を端緒として暴追センターに照会した結果分かったとのことであり、既に契約解除のうえ営業も終了しているということです。

端緒を得た時点で速やかに対応することも重要となりますが、本来は、社外ではなく社内において自ら認知できることが望ましいあり方であり、新規取引開始時のみならず契約更新時など定期的に、あるいは不定期に、端緒を得るため、(相手の属性が未来永劫シロとは限らないとの緊張感を持って)粛々と業務を適正に実施していくことの重要性を認識させられる事例であると言えます。

(4)暴力団組長らと暴行被害男性和解名古屋地裁

指定暴力団山口組系の組員から暴行を受け、大ケガをした男性が、トップにも責任があるとして山口組の篠田建市組長ら4人に約1,200万円の損害賠償を求めた裁判は、男性に850万円を支払うことを条件に和解したということです。

暴力団対策法は、2008年の改正で、暴力団員に脅し取られるなどした金銭を、その暴力団の代表者に請求することができるなど、被害を回復することに資する規定等が新設されており、同様の訴えはこれまで全国で5件あり、和解が成立したのは今回で4件目となります。

なお、先日の報道(平成24年10月4日)によれば、東京・北青山で2006年、ビル管理会社顧問の男性が指定暴力団山口組系組員に刺殺された事件を巡り、男性の遺族が山口組の篠田建市組長や後藤忠正・元後藤組組長らに計約1億8,700万円の損害賠償を求めた訴訟についても、裁判外での和解が成立したということです。

経済的に困窮する組織が増えている現状においては、十分なけん制にもなり、実際に行使することで直接的なダメージも与えられることから、暴排対策上の有効なツールとして、もっと積極的に周知されるべきだと考えます。

▼政府広報オンライン(2008年11月):暴力団員から脅し取られるなどしたお金は、勇気を持って損害賠償請求しましょう。~暴力団対策法が改正されました~

(5)住吉会も「国際犯罪組織」として米財務省の制裁リストに追加

米財務省は指定暴力団住吉会と福田晴瞭会長、西口茂男総裁の2人に対し金融制裁を科すと発表、米国内の資産が凍結され、米国民との取引も禁じられます。

昨年7月の米大統領令において、米は、日本の「ヤクザ」を、武器売買、売春、人身売買、マネー・ローンダリングなどに関与している「国際犯罪組織」と認定しており、今回は、山口組(平成24年2月)に続いて2団体目の指定となります。

組織名や幹部名での取引を規制することの実質的な効果については甚だ疑問ではありますが、グローバルレベルでの厳しい姿勢や、間接的でもそれらとの接点を断つべきであることの重要性が明確に伝わり、国内においてもそのメッセージの意味を十分認識する必要があります。

5.暴排条例勧告事例等

(1)神奈川県

暴力団事務所に使用されることを知りながら事務所の建築を請け負った(既に引き渡され事務所として使用されている)として、神奈川県公安委員会は、神奈川県暴排条例に基づき、相模原市の建設会社に対し、建築を請け負わないよう勧告しています(暴力団事務所を建設した建設業者が勧告を受けるのは同県内では始めてとなります)。

一方で、建築を依頼した指定暴力団稲川会系暴力団幹部に対しても建築を請け負わせないよう勧告がなされています。

(2)福岡県

福岡県警は、指定暴力団道仁会幹部と密接交際したとして、福岡県暴排条例(下請けからの排除)に基づき、久留米市の造園業「安徳造園」を福岡県などに通報しています。

同社代表が、昨年12月以降、同県内外のゴルフ場で、道仁会幹部らと6回にわたってゴルフをするなどしており、代表と幹部は高校で先輩後輩の関係だということです。

▼福岡県:暴力団関係事業者に対する指名停止措置等一覧表

(3)愛知県(暴力団排除条例の改正)

愛知県警と愛知県は、暴力団排除条例を改正し、住宅地などに暴力団が進出するのを防ぐため、公園から200メートル以内で暴力団事務所の新設を禁じるとのことです。

なお、愛知県の条例では現在、青少年保護の観点から、小中学校や公民館、図書館などから200メートル以内での暴力団事務所の新設を禁じていますが、公園を追加することで、より一層、暴力団活動の制約につながるものと思われます。

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