暴排トピックス

コンプライアンスやリスク管理に関するその時々のホットなテーマを、現場を知る
危機管理専門会社ならではの時流を先取りする鋭い視点から切り込み、提言するコラムです。

西武信用金庫に対する行政処分(2019.6)

1. 西武信用金庫に対する行政処分

 金融庁は、準暴力団幹部と疑われる関係者へ融資していたなどとして、西武信用金庫に信用金庫法に基づく業務改善命令を出しています。反社会的勢力排除の取組みについては、「十分な経営資源を配分することなく極めて少人数の担当者に頼った取組となっているなど、組織的な対応が不十分」、「一部の営業店幹部は、監事から反社会的勢力等との関係が疑われるとの情報提供を受けていた者について、十分な確認を怠り、同者関連の融資を実行している」といった厳しい指摘がなされています。さらに、主力の投資用不動産向け融資でも審査書類の偽造を見過ごすなど問題融資が横行していたことが判明、不動産業者が顧客の預金通帳や物件の家賃収入表(レントロール)などを改ざんし、職員が看過した可能性が高いのは127件、うち73件(139億円分)で改ざんを確認したといい、28店舗で45人が関与したとされます。さらに返済期間を延ばすため、中古物件の耐用年数を長くするよう職員が外部専門家に働きかける例も258件あり、32店舗で90人がかかわったといいます。これらの実態に対して、「業績優先の経営を推進するあまり内部管理体制の整備を怠った」、「強い発言力を持つ理事長に対し十分なけん制機能が発揮されておらず」、「通常の注意を行っていれば分かったはずだがあえて見ないようにした」(金融庁幹部のコメント)等との指摘がなされています。反社会的勢力排除に重要なのは第1線の「健全な意識」と「リスクセンス」であることは、本コラムでもたびたび指摘していますが、それらを「曇らせ」、第2線や第3線を「黙らせ」たのが経営トップ(理事長)であり、「組織全体が思考停止していた」事実は重いといえます。そもそも、反社会的勢力にせよ投資用不動産にせよ、このような「本来貸せない相手」に貸して利益を得ようとする金融機関の本旨を逸脱したモラルハザードの典型事例は増加傾向にあり、一方でそれへの対応として営業のノルマを廃止する動きも見られます。ただ、果たしてそれが「正しく稼ぐ」という本質の理解に資するものかは極めて疑わしいように思われます。本件のような事例を見るにつけ、コンプライアンスやリスク管理の基盤がいかに脆いものか、ただただ痛感させられます。

▼金融庁 西武信用金庫に対する行政処分について
▼関東財務局 西武信用金庫に対する行政処分について
  • 1. 命令の内容
    信用金庫法第89条第1項において準用する銀行法第26条第1項に基づく命令
    • (1)健全かつ適切な業務運営を確保するため、以下を実行すること
      • 本処分を踏まえた責任の所在の明確化と内部統制の強化
      • 融資審査管理を含む信用リスク管理態勢の強化
      • 反社会的勢力等の排除に向けた管理態勢の抜本的な見直し
    • (2)上記(1)に係る業務の改善計画を令和元年6月28日までに提出し、直ちに実行すること
    • (3)上記(2)の改善計画について、当該計画の実施完了までの間、3か月毎の進捗及び改善
        状況を翌月15日までに報告すること(初回報告基準日を令和元年9月末とする)


  • 2. 処分の理由
    当局による立入検査の結果や信用金庫法第89条第1項において準用する銀行法第24条第1項に基づき求めた報告を検証(注)したところ、金庫は業績優先の営業を推進するあまり、内部管理態勢の整備を怠った結果、以下のような問題が認められた。
    (注)「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」
      (平成30年2月6日金融庁発表)への適合状況を含む
    • (1)投資用不動産向けの融資にあたり、形式的な審査にとどまり、不適切な信用リスク
        管理態勢となっている。
      • 融資実行を優先するあまり、融資審査にあたり、投資目的の賃貸用不動産向け融資案件を持ち込む業者による融資関係資料の偽装・改ざんを金庫職員が看過している事例が多数認められる。
      • 投資目的の賃貸用不動産向け融資について、融資期間に法定耐用年数を超える経済的耐用年数を適用する場合には適切な見積りが不可欠である中、経済的耐用年数等を証する書面を作成する外部専門家に対し、金庫職員が耐用年数や修繕費用等を指示・示唆するなどの不適切な行為が多数認められる。
    • (2)反社会的勢力等との取引排除に向けた管理態勢が不十分である。
      • 反社会的勢力等との取引排除に向けた管理態勢については、十分な経営資源を配分することなく極めて少人数の担当者に頼った取組となっているなど、組織的な対応が不十分となっている。特に、反社会的勢力等に関する金庫としての管理区分が限定的に運用されているなど、その管理手法は不十分なものとなっている。
      • このため、一部の営業店幹部は、監事から反社会的勢力等との関係が疑われるとの情報提供を受けていた者について、十分な確認を怠り、同者関連の融資を実行している。
    • (3)内部統制が機能していない。
      • 強い発言力を有する理事長に対して十分な牽制機能が発揮されておらず、上記(2)ⅱに関し、懸念を抱いた監事及び監事会から理事長に対し、複数回にわたって書面で調査を要請したにもかかわらず、理事長は当該要請を拒否し、組織的な検証を怠っているなど、内部統制が機能していない


 さて、本件のうち、反社会的勢力排除の態勢不備の指摘については、(直接的には)関東財務局が初めて行政処分を下した内容とはいえ、あらためて整理が必要な状況があります。大手紙はなかなか報じませんが、ネット媒体や雑誌等の情報から、本件の事実関係については、概ね以下のような内容に集約されると考えられます(あくまで参考程度にとどめてください)。


  • 西武信金立川南口支店の顧客に、地元でスナックや居酒屋を手広く経営している女性がいたが、彼女は準暴力団チャイニーズドラゴン幹部の妻だった
  • 立川市など多摩地区は、チャイニーズドラゴンが跋扈していることで知られており、当該女性の夫もその一人で、傷害容疑で逮捕された前科があるという
  • 同支店の支店長(今回理事長とともに辞任した常勤理事)は、その女性から客を紹介されて取引を拡大していった
  • 西武信金内では、監事が、女性の夫が逮捕歴のあるチャイニーズドラゴンの幹部との情報を入手、理事長に取引停止を進言していた。また、西武信金として、地元警察に照会をしたものの、対象者としていたのは、チャイニーズドラゴンの幹部である夫ではなく女性の方であったため、警察は「暴力団員としての属性がない」との回答があったという
  • 理事長は、その結果から、警察から「お墨付き」を得たと勘違いし、忠告した監事を怒鳴りつけ、取引を継続。その結果、女性本人やその紹介者10人前後で融資総額は合計で40億円近くにまで膨れ上がったという
  • これら一連の融資について、理事長は金融庁に「毎月きちんと返済されている」と、資金回収に自信を見せたという
  • 現時点の状況については、「現在も当該者の関連者に対する融資残高はあります(債務者名義1人、1社で合計326百万円)」(同金庫の令和1年5月24日付リリース)とのことだが、これは女性に対する債権のみであり、これ以外に10人前後に対するものもあるという(総額で40億円近くに上るうえ、チャイニーズドラゴン関連の融資総額は10億円を超えているとの情報もある)

 上記情報をもとに(ある程度正しいものとして)、本件の課題をいくつか整理していきたいと思います(以下に述べることはあくまで私見です)。

 まずは、「準暴力団本人」の確認の問題があります。

 本件では女性のみを照会していますが、本来は夫も照会が必要となる場面として考えます。まず、警察の情報提供の内部通達は今年3月に更新されていますが、平成25年通達と大きな変更はなく、いまだ「準暴力団」であるかどうかを属性のみで回答できる立てつけとはなっていません。したがって、「暴力団員としての属性がない」との回答をそのまま「反社会的勢力ではない」、「準暴力団ではない」と判断するのは問題があるといえます。本件は、夫が「準暴力団ではないか」との疑いから警察への照会に至っています(実際は女性のみ照会)ので、二人について警察へ照会するに際しては、疑いの根拠等を示しながら、(回答いただけるかは別として)「準暴力団ではないか」なり、「暴力団と密接な関係があるのではないか」といった方法も考えられるところです。そのうえで、回答結果のいかんに関わらず、過去の逮捕報道や準暴力団との情報をふまえた「レピュテーションリスク」の観点から、慎重な検討を行うべきだといえます。


 次に、「準暴力団本人ではなく、その親族(女性)への融資」と「準暴力団の親族から紹介された融資」の是非についても検討する必要があります。

 「準暴力団本人への融資」については、現状、おそらくほとんどの金融機関において、「新規」取引においては「取引NG」など相当慎重な判断を下すものと考えられます(既存先についても、即座に「取引NG」とされるかは別として、慎重な判断となると思われます)。また、「準暴力団の親族」のうち、「配偶者」については、暴排実務においては「経済的一体性」を重視して(暴力団本人が直接取引できないことから、配偶者を使って取引を仮装されるケースが多いことをふまえ)暴力団本人と同列に取り扱う運用が一般的です(なお、配偶者以外の親族である、「親」「子」「親戚」等については、原則は同列に扱わないものの、本人との関係性や暴力団等に対する活動助長性などを慎重に見極めて判断する運用となることが多いようです)。「暴力団の配偶者」と「準暴力団の配偶者」で実務が異なるかどうかは実例がまだ多くはないと推測されるものの、「新規」であれば同様に取り扱うことになるのではないかと考えられます。したがって、本件のような場合は、新規融資は本来お断りすべき事例であるといえます。

 また、「準暴力団の親族から紹介された融資」については、まず、「準暴力団本人からの紹介」であれば、これも新規取引であれば「取引NG」など慎重な判断となることに異論はないものと思います。さらに、本件のような「準暴力団本人の配偶者」についても、上記の考え方からやはり相当慎重な判断(取引NG)となるものと考えられます。一方で、「準暴力団本人の配偶者以外の親族からの紹介」であれば、

 いったんは通常の判断基準とはするものの、当該相手先と準暴力団本人の関係性や自行に及ぶレピュテーションリスクなどを見極め、関係性が認められる/レピュテーションリスクが懸念されるのであれば「取引NG」とするでしょうし、関係性がない/レピュテーションリスクの懸念がない場合は、取引はするものの「要監視先」としてモニタリングをしていくことになろうかと思われます。なお、新規取引の場合は、「契約自由の原則」がありますので、レピュテーションリスクの観点を重視して、一律に「取引NG」とする運用も考えられます。また、普通預金取引のみであれば取引は認めるものの、それ以外の与信取引や貸金庫取引等であれば「取引NG」とするのも実務上考えられるところです。


さらに、本件において、「監事から反社会的勢力等との関係が疑われるとの情報提供を受けていた者について、十分な確認を怠り、同者関連の融資を実行」、「懸念を抱いた監事及び監事会から理事長に対し、複数回にわたって書面で調査を要請したにもかかわらず、理事長は当該要請を拒否し、組織的な検証を怠っている」との指摘に関して、「十分な確認」とはどの程度なのか、警察の回答のみで「問題なし」とした理事長の判断の妥当性なども整理しておく必要があります。

結論からいえば、本件は、そもそも準暴力団の配偶者が接点となっていますので、いくら女性に反社会的勢力の属性に何ら問題がないとの回答が警察からあったにせよ、金融機関としては、準暴力団本人と配偶者の関係性が問題になることは認識できたはずであり、警察に両名について照会のうえ、「経済的一体性」や「仮装取引の可能性」を疑い、慎重に判断するのが通常であり(したがって、「あえて見ないようにした」ことが推測されます)、「十分な確認」がなされたとはいえないものと考えられます(十分な確認の結果、この関係性を認識したうえで「全く問題ない」と判断したのであれば、それ自体、昨今の社会の要請や金融庁の求める反社リスク管理態勢からみて重大な不備となります)。同様に、理事長が、警察の回答のみでそれ以上の確認を拒絶したのは不作為(「通常の注意を行っていれば分かったはずだがあえて見ないようにした」)であって、善管注意義務違反にも問われかねないといえます。

 本件の行政処分については、明確に反社会的勢力と認定できないグレーゾーン対応に伴う行政処分としては関東財務局で初であることもあって、「辞任まで追い込む必要があったのか」との声も聞かれるところですが、反社会的勢力排除に限ってみても、善管注意義務違反にも問われかねない重大な不作為があり、準暴力団の活動を利することになる可能性も否定できない状況を招き、放置したこと、内部管理態勢の不備もまた明らかであり、これに投資用不動産向け融資の問題も加味すれば、そういった批判はあたらないのではないかというのが筆者の考えです。

 さて、金融庁の行政処分を受け、西武信金が新理事長名で、「当金庫に対する業務改善命令について」と題する文書をリリースしています。以下、そのうち、再発防止に関する部分からピックアップして紹介します。

▼西武信用金庫 当金庫に対する業務改善命令について

内部統制の強化
実効的な牽制体制を構築し、内部統制の強化を図ってまいります。
現状、以下のような改善対応を実施しております。

  1. 当金庫の業務全般を洗い出し抜本的な管理体制の改善を図ることを目的に、本年3月22 日に外部有識者をスーパーバイザーとした「業務改善委員会」を設置いたしました。
  2. 役員人事・報酬の牽制機能を強化するべく、本年3月22 日に役員等の指名や報酬等を理事長・理事会へ答申する独立委員会組織として外部有識者を評議会議長とした「人事報酬評議会」を設置いたしました。
  3. 監事会からの要請に加え、「人事報酬評議会」から理事長、理事会へ勧告できる制度も創設いたしました。また監査部の主管を監事会としてその独立性を高めました。
  4. 各部署間のコミュニケーションを強化し責任を明確化すべく、本日開催の理事会にて、常務理事の部長職委嘱を廃止し経営に専念させ、また、常務理事以上について共同執務室での業務運営体制とし、牽制機能を強化しました。

信用リスク管理態勢の強化
従来の規程、与信管理、営業店の組織体制、研修体系などを抜本的に見直し、融資審査管理を含む信用リスク管理態勢の強化を図ってまいります。
現状、投資目的の賃貸用不動産融資に関して、以下のような改善対応を実施しております。

  1. 融資審査体制の強化を図るため、本年1月から、投資目的の賃貸不動産融資案件を持ち込む業者の取扱いに係る審査基準を定め、厳正化いたしました。
  2. 日付で、審査部を2部制とし審査担当人員の増加を図りました。
  3. 本年1月、改ざん・偽装の看過や外部専門家に対する指示・示唆の原因となった貸出目標を過度に評価する業績評価基準を見直し、該当評価項目を廃止いたしました。

反社会的勢力等の排除に向けた管理態勢の抜本的な見直し
経営陣の意識改革をすすめ、本日付で反社会的勢力等の排除への対応の担当役員(常務理事)を明確にし、当該役員の下で、反社会的勢力等の排除に向けた管理態勢の強化を図ってまいります。

現状、以下のような改善対応を実施しております。

  1. 当該担当役員は、反社会的勢力等の排除への対応を一元的に所掌するとの観点から、リスク管理統括部、事務部、システム企画部を管掌します。
  2. 本部組織体制を見直し、反社マネロン対応を含むリスク管理部署の新たな人員を配置し体制強化を図っており今後も増員を図ってまいります。
  3. 当金庫で実施している反社会的勢力等の管理区分については、本年5月末までに、リスクの度合いや情報の質に応じ、更に細分化した区分を設けます。また、データベースの整備やシステム対応の高度化を図り、このようなデータベースを活用した管理を徹底してまいります。

 (注)なお、現状当金庫で把握している計数等は以下のとおりです。

  • 暴力団排除条項導入後、本年3月31 日時点で、当金庫の全取引先を調査した結果、当金庫の信用金庫取引約定書に盛り込まれた暴力団排除条項に該当する反社会的勢力との融資取引はありませんでした。
  • 上記「2.処分の理由(2)」の「監事から反社会的勢力等との関係が疑われるとの情報提供を受けていた者」については、警察に確認したところ、「暴力団員としての属性がない」旨の回答を得たことから、暴力団排除条項には該当しないと判断し、現在も当該者の関連者に対する融資残高はあります(債務者名義1人、1社で合計326 百万円)。上記「2.処分の理由(3)」の指摘を踏まえた調査を実施しており、調査結果に基づく対応を行います。

 再発防止策全体としては妥当なところだと思われますが、最後の注釈部分の「「監事から反社会的勢力等との関係が疑われるとの情報提供を受けていた者」については、警察に確認したところ、「暴力団員としての属性がない」旨の回答を得たことから、暴力団排除条項には該当しないと判断し、現在も当該者の関連者に対する融資残高はあります」については、既存取引先の契約解除に関わる部分であるため、新規取引の場合とは異なるものの(新規取引の場合については前述の通りです)、厳密に暴排条項への該当性を検証した結果だと考えられますし、仮に暴排条項を適用したとしても、融資先の状況(一連の融資の借り手は飲食店経営者が多く、十分な担保価値のある不動産を保有している人物は少ないと見られているという情報もあります)を鑑みれば、期限の利益を喪失させて債権を一括で回収することが困難(この場合、再利回収機構の特定回収困難債権の買取り制度の利用が可能なのかどうかも微妙なところです)であって、「債権回収の最大化」を図ろうと思えば、そのまま契約を継続する(「毎月きちんと返済されている」ことが望ましい)と考えるのもあり得ることです。いずれにせよ、本件に限らず一連の契約については、返済状況や属性等の変化など、今後も十分なモニタリングをしていくべきだといえると思います。

 さて、金融機関と準暴力団の不適切な関係以外にも、直近では、芸人と特殊詐欺グループの不適切な関係も問題視されています。FRIDAY記事に端を発した一連の報道によれば、吉本興業は、反社会的勢力のパーティーに会社を通さず芸人を出席させる「闇営業」をしたとして、お笑い芸人との契約を解消したと明らかにしています。同人の仲介で複数の芸人が振り込め詐欺グループに関係する勢力のパーティーに出席したといい、同人らは同社の聞き取りに「(反社会的勢力とは)知らなかった」と答えたということですが、吉本興業は、「闇営業は社の規律に違反し、巻き込まれた芸人のイメージを著しく低下させた」と判断、話し合いの上で契約解消に至ったということです。問題となった特殊詐欺グループには暴力団関係者も多数在籍していたほか、宴席等で彼ら自身が当該芸人に対して特殊詐欺グループであることを伝えていたといいますから、「闇営業」という規律違反(契約違反)とあわせ処分はやむを得ないものと考えられます。吉本興業としては、以前の大物司会者の暴力団との密接交際が社会問題化した過去もあり、厳格な対応を貫いた点は評価できますが、やはり芸能人と暴力団関係者の接点を完全に断つことの難しさをあらためて痛感させられます。一方、特殊詐欺グループのパーティーに出席していた芸能人らはテレビ等に相変わらず出演している状況もあり、「詐欺グループの集まりとは知らなかった」との主張をそのまま鵜呑みにしている点は違和感が残るところです。

 次は、暴力団と特殊詐欺の関係が争点となった裁判について紹介します。

 措定暴力団住吉会系の組員らによる特殊詐欺の被害に遭った茨城県の女性3人が暴力団対策法上の使用者責任規定に基づき、住吉会の関会長と福田前会長に計約700万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、水戸地裁は、3人のうち2人に対する605万円の賠償を会長らに命じています。報道によれば、組員が住吉会の威力を利用して「受け子」を集め、詐欺グループを構成したと認定、会長らが特殊詐欺について、暴力団対策法上の使用者責任を負うとの判断を示したものです。特殊詐欺で暴力団トップに暴力団対策法上の使用者責任を適用したのは全国で初めてとなります。本コラムでもたびたび紹介しているとおり、2008年施行の改正暴力団対策法では、「暴力団の威力」を利用して他人に危害を加えたり財産を奪ったりした場合、末端の組員が行った場合でも組幹部の責任を問えると規定しています。判決は、組員が被害者に直接威力を使わなくても、共犯者集めなど犯罪実行までの過程で威力を利用していれば使用者責任が生じると指摘、今回の事件では、受け子探しを指示された男は、組員が住吉会系の暴力団員であることを認識して恐怖心を抱いており、組員もそのことを知っていたと認定し、「威力の利用」にあたると判断、会長らは「損害を賠償する責任を負う」とされました。一方で、受け子役の男については、だまし取った現金を回収する男の腕に入れ墨があることを見ていたものの、暴力団員が関与しているという認識があったとは確認できず、「威力の利用には当たらない」と判断されています。

 それに対し、住吉会系組員らによる特殊詐欺の被害者が、組員と住吉会最高幹部ら8人に1,950万円の損害賠償を求めた別の訴訟の判決で、東京地裁は、実行犯の組員に1,100万円の賠償を命じています。一方、幹部ら7人への請求は棄却、「詐欺に暴力団の影響力が使われたとは認められない」と判断しています。報道によれば、判決では、「組員が共犯者をどのように手配し、管理・統制していたか明らかではない」などとして幹部らの責任を否定したほか、「組員が住吉会の資金獲得のため詐欺を行った証拠はない」として、従業員らの不法行為の責任を雇用主らが負うとする民法の「使用者責任」の成立も否定しています。組員の男は詐欺グループの中心人物に受け子を紹介しているものの、その人物と住吉会側との関係も明らかでないこと、詐取された金が住吉会側の収益となった証拠もないことなどから、「組員の男が住吉会の事業として詐欺行為をしたとは認められない」と結論づけています。報道の中で、原告代理人弁護士が、暴力団対策法、民法いずれの「使用者責任」も否定した判決を受けて、「想定外の判決。暴力団内部の収益の移動を被害者が立証するのは難しい。その困難な立証を強いるものだ」と批判していますが、筆者としても、その立証のハードルの高さから使用者責任を認められないとするのは暴力団と特殊詐欺グループの関係性の実態をふまえれば違和感を覚えます。2件とも控訴審でさらに議論が深化していくことを期待したいと思います。

 また、静岡県南伊豆町の海岸で不審な小型船内から覚せい剤約1トンが見つかり、警視庁などが押収しています。一度の押収量としては国内最多で、末端価格は約600億円に上るという大規模なものです。警視庁や海上保安庁などが背後に暴力団が関与しているとみて数年前から捜査していたようで、海上で積み荷を移し替える「瀬取り」による密輸とみて内偵を進めていたといいます。本件については、警視庁組織犯罪対策5課などは覚せい剤取締法違反(営利目的共同所持)容疑で、覚せい剤を荷揚げしていた24~40歳の中国人の男7人を逮捕しています。なお、この小型船は5月末に横浜市内の会員制クルージングクラブを出港し、事件前日に約600キロ南方の太平洋で覚せい剤を受け取っていた疑いがあることが分かっています。さらに、逮捕された中国人グループの一部に香港出身者が含まれていたことも判明しており、過去にこの海域で行われた密輸では、香港から覚せい剤が運ばれたとの情報もあるということです。関連して、台湾が絡んだ覚せい剤の大量密輸事件が全国で相次いで摘発されている実態があります。財務省によると、台湾から国内に密輸された覚せい剤の押収量は、2015年は4件で45キロ、2016年は16件で104キロ、2018年は9件で345キロと急激な増加傾向にあります。報道(令和元年6月5日付産経新聞)の中でコメントしている暴力団関係者によれば、台湾からの密輸が増えた理由について、海上で船同士が薬物の受け渡しをする「瀬取り」が増えていること、「台湾からだと、船の燃料の給油をせずに四国付近まで往復出来るので、様々な場所で取引がしやすい」といった要因があるといいます。

最後に、暴排を巡る警察庁の内部通達から最近のものをいくつか紹介します。特に筆者が下線を引いた部分が注目されます。

▼警察庁 証券市場における暴力団等排除対策の推進について(通達)

 証券市場から暴力団等を排除することは、暴力団の資金源対策の観点から、極めて重要であるため、日本取引所グループ(以下「JPX」という。)の暴力団等排除の取組を支援するため、各都道府県警察にあっては、下記事項に留意し、証券市場からの暴力団等排除対策の推進に努められたい。

  1. JPXからの暴力団関係相談
    JPXのうち自主規制業務を行っているのは、日本取引所自主規制法人(以下「自主規制法人」という。)であることから、自主規制法人から関係都道府県警察の暴力団対策主管課に対し、証券市場において暴力団等の関与が疑われる場合に相談がなされる
  2. 暴力団情報の提供上の留意事項
    暴力団関係相談に対する暴力団情報の提供に当たっては、「暴力団排除等のための部外への情報提供について」(平成31年3月20日付け警察庁丙組組企発第105号ほか)に基づき、迅速かつ適切に対応すること
  3. 情報の厳格な管理
    自主規制法人から暴力団関係相談がなされた場合、金融商品取引法(昭和23年法律第25号)に定められている重要事実に該当し得る情報に接する場合もあることから、当該情報を知った者がその公表前に当該情報に係る企業の有価証券の売買を行えば、同法で禁止されるいわゆるインサイダー取引となるおそれがあることを情報に接する者に周知徹底すること。また、暴力団対策主管課においては、所属長から指定された暴力団排除業務担当者(複数人可)のみが、自主規制法人からの暴力団関係相談の事務を処理することとし、必要な場合を除き、担当者以外の者が当該相談に係る情報に接しないようにすること
  4. 警察庁刑事局組織犯罪対策部暴力団対策課への事前連絡
    自主規制法人から暴力団関係相談を受けた都道府県警察は、自主規制法人に暴力団情報を提供する前に警察庁刑事局組織犯罪対策部暴力団対策課に連絡すること
▼警察庁 暴力団構成員等に対する課税措置の促進について(通達)
  1. 課税通報制度の目的
    課税通報制度は、警察活動を通じて把握した暴力団構成員等の合法、非合法を問わないあらゆる収益等について税務当局に通報し、税務当局が課税及び徴収措置をとることによって、暴力団の資金源を封圧することを目的とする
  2. 通報に当たっての留意事項等
    • 暴力団構成員に係る重点的な通報
    • 暴力団の資金獲得活動に効果的に打撃を与えるため、暴力団構成員に係る通報を積極的に行うものとし、特に、首領等に対する通報を重点的に行うこと
    • 幅広かつ積極的な通報
    • 企業等からの賛助金、寄付金等の名目で得た収益など、直ちにその取得行為を犯罪行為として立証し難いものであっても、課税及び徴収漏れの疑いがあるものについては、積極的に通報すること
    • 税務当局との緊密な連携
    • 通報した事案について、税務当局から資料提供の要請等があった場合は、捜査に支障のない範囲で積極的に協力すること
  3. 税務職員に対する危害防止措置の徹底
    • 税務職員に対する危害の防止措置
    • 税務当局から要請があった場合は、積極的に警察官を現場に派遣し、警戒に従事させるなど、暴力団構成員等からの危害防止措置を講じること
    • また、税務当局から要請がない場合であっても、暴力団構成員等から危害を加えられるおそれがあると認められる場合は、その旨を税務当局へ連絡した上で、同様の措置を講じること
    • 税務職員に対する危害発生時の措置
    • 税務職員が、暴力団構成員等から危害を加えられた場合は、速やかに検挙措置をとるとともに、同種事案が再発しないよう危害防止措置の徹底を図ること
  4. 連絡体制
    • 前記の通報及び危害防止措置をとるに当たっては、平素から税務当局と緊密な連絡を保つよう配意すること
    • なお、税務当局との連絡体制については、別に定める
  5. 保秘の徹底
    • 課税通報は、税務当局による税務調査等を開始するための「端緒」であり、通報の事実や内容等が外部に漏れた場合、税務調査等に支障を及ぼす可能性があることから、あらゆる場面において保秘の徹底を図ること
    • また、税務調査等の終了後であっても、通報事実等が公になった場合、今後の税務調査等への対抗策を講じられる可能性があることから、保秘の徹底を図ること
  6. 教養
    • 暴力団取締りに従事する捜査員のみならず、各職員に課税措置の持つ意義及びその必要性を十分認識させるとともに、課税措置に必要な税務関係知識について教養を徹底し、課税通報制度の効果的な運用を図ること
▼警察庁 特定回収困難債権の買取りに関する預金保険機構との合意書の締結について

 預金保険法(昭和46年法律第34号、以下「法」という。)の一部改正に伴い、法第101条の2に定める特定回収困難債権の買取りに関して預金保険機構(以下「機構」という。)及び警察庁との間で、機構が警察庁に対して行う照会要領について下記のとおり合意したので、事務処理上遺漏のないようにされたい。なお、下記運用要領については、別添1の合意書のとおり、機構と協議済みであり、また、別添2のとおり、機構が定めた「特定回収困難債権の買取りに係るガイドライン」が示されているので申し添える。

  1. 特定回収困難債権の買取り制度の概要
    法の一部改正に伴い、機構は特定回収困難債権(暴力団員等が債務者又は保証人となっている債権等金融機関が回収のために通常行うべき必要な措置をとることが困難となるおそれのある特段の事情がある債権)の買取・回収を行うことが可能となり、各金融機関から機構に買取申請があった場合、機構は買取・回収を実施し、金融システムの全体の安定化を図ることとしたものである
  2. 照会の対象
    機構が警察庁に行う対象者(以下「暴力団員等」という。)は次のとおりである
    • 暴力団
    • 暴力団員
    • 暴力団員でなくなった時から5年を経過しない者
    • 暴力団又は暴力団員が経営を支配していると認められる関係を有する者
    • 暴力団又は暴力団員が経営に実質的に関与していると認められる関係を有する者
    • 自己、自社若しくは第三者の不正の利益を図る目的又は第三者に損害を加える目的をもってするなど、不当に暴力団又は暴力団員を利用したと認められる関係を有する者
    • 暴力団又は暴力団員に対して資金等を提供し、又は便宜を供与するなどの関与をしていると認められる関係を有する者
    • その他暴力団又は暴力団員と社会的に非難されるべき関係を有する者
  3. 合意書の要旨
    機構の担当部長(以下「機構担当部長」とう。)は金融機関から申請があった債権の債務者又は保証人(以下「債務者等」という。)について、警察庁刑事局組織犯罪対策部暴力団対策課の長(以下「暴力団対策課長」という。)に対し照会し、暴力団対策課長は、当該債務者等に関する暴力団員等の該当性について、当該機構担当部長に回答することとする

  4. 各都道府県警察の対応
    上記照会に関して、警察庁から各都道府県警察に対して暴力団員等に関する該当性について照会があった場合、的確に対応すること

  5. 警察庁への報告
    各都道府県警察は、特定回収困難債権の債務者等が暴力団員等であることを確認した場合は、速やかに警察庁刑事局組織犯罪対策部暴力団対策課に報告すること

  6. 保護対策の徹底
    特定回収困難債権の買取りに関して、これに反発する者による関係者に対する危害が生じる可能性もあることから、必要に応じ、金融機関及び機構の担当者等について、保護対策実施要綱(平成6年8月24日付け警察庁丙暴暴一発第17号)に基づく迅速かつ適切な保護措置を講じること

2. 最近のトピックス

(1)AML/CFTを巡る動向

 三井住友銀行などメガバンクは、AML/CFTの観点から店頭の窓口で口座開設などの際に行う本人確認や取引目的のチェックを厳しくする取り組みを開始しています。三井住友銀行では、国籍、経済制裁対象国との取引の有無などを確認項目に加えると明らかにし、日本国籍を持たない場合、在留資格と在留期間も尋ねるなど、既存の口座所有者にも、情報の再確認や追加提出を求める機会が増えるということです。以下、同行のサイトから今回の対応に関する預金規定等の改定内容について紹介しますが、一定の公共性があり保守的な対応が要請される普通預金規定においてすら、実務的に踏み込んだ内容となっている点が注目されます


▼三井住友銀行 「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」を踏まえた預金規定等改定のお知らせ


 例えば、普通預金規定では、「解約等」の条項において、以下(4)~(6)が追加されています。

2.次の(1)から(6)までの一つにでも該当した場合には、当行は、預金者に通知することにより、この預金取引を停止し、またはこの預金口座を解約することができるものとします。この場合、到達のいかんにかかわらず、当行が解約等の通知を届出の住所にあてて発信した時に預金取引が停止され、または預金口座が解約されたものとします

 (1)~(3)省略

  1. (4)当行が法令で定める本人確認等の確認を行うにあたって預金者について確認した事項または後記11の2(1)もしくは(2)の定めにもとづき預金者が回答または届出た事項について、預金者の回答または届出が虚偽であることが明らかになったとき

  2. (5)後記11の2(1)から(3)までのいずれかの定めにもとづく取引の制限が1年以上に亘って解消されないとき

  3. (6)この預金がマネー・ローンダリング、テロ資金供与、経済制裁関係法令等に抵触する取引に利用され、またはそのおそれがあると認められるとき


 また、「取引の制限等」の条項(11の2)が新設されています。

  1. (1)当行は、預金者の情報および具体的な取引の内容等を適切に把握するため、預金者に対し、各種確認や資料の提出等を求めることがあります。この場合において、預金者が、当該依頼に対し正当な理由なく別途定める期日までに応じていただけないときは、入金、振込、払戻し等の本規定にもとづく取引の全部または一部を制限することがあります。

  2. (2)日本国籍を保有せずに本邦に居住している預金者は、在留資格および在留期間その他の必要 な事項を当行の指定する方法によって当店に届出てください。この場合において、届出のあった在留期間が経過したときは、当行は、入金、振込、払戻し等の本規定にもとづく取引の全部または一部を制限することがあります

  3. (3)前記(1)の確認や資料の提出の依頼に対する預金者の対応、具体的な取引の内容、預金者の説明内容およびその他の事情に照らして、この預金がマネー・ローンダリング、テロ資金供与、経済制裁関係法令等に抵触する取引または法令や公序良俗に反する行為に利用されるおそれがあると認められる場合には、当行は、入金、振込、払戻し等の本規定にもとづく取引の全部または一部を制限することがあります

  4. (4)前記(1)から(3)までの定めにより取引が制限された場合であっても、預金者の説明等によりマネー・ローンダリング、テロ資金供与または経済制裁関係法令等への抵触のおそれが解消されたと認められるときは、当行は速やかに当該取引の制限を解除するものとします。


 三井住友銀行と同様の改定については、地域銀行も予定しており、例えば、東京スター銀行と西京銀行は6月、足利銀行と常陽銀行、西日本フィナンシャルホールディングス(FH)とふくおかフィナンシャルグループ(FG)は9月、広島銀行は10月に踏み切るほか、肥後銀行と鹿児島銀行を傘下にもつ九州FGも6月中に改定を発表するとのことです。また、報道(令和元年6月4日付日本経済新聞 九州・沖縄版)によれば、AML/CFTの観点から、例えば、西日本FHとふくおかFGでは、法人用口座は取引目的や事業の実態を把握するため、即日での口座開設サービスを廃止するなど業務を厳格化するといいます(一方、個人の生活口座については引き続き即日開設できるとしています)。また、ふくおかFGは顧客情報を継続的に管理し、事業の評価に基づく融資にも役立てる新システムを秋にも稼働させる予定ということであり、FATFの対日相互審査を一つの大きな契機として、業務の厳格化・高度化・効率化が進むことになります。一方で、AML/CFTの観点からはリスクが高いと見られる海外送金については、(全国的にも同様ですが)制限をかける動きも広がっており、鹿児島銀行はすでに、出所の確認が難しい現金による海外送金を原則停止しています。西日本シティ銀行は6月28日に、61店舗で海外送金を取りやめるほか、すでに3月にも43店舗で終了させるなど、同業務を扱う店舗を全体の3割ほどに絞り込んでいるといいます。また、報道(令和元年5月10日付ニッキン)によれば、信用金庫業界においても、外国為替業務を縮小する動きが広がっているということであり、4月までの直近1年間で、預金残高5,000億円以上(2018年9月末時点)の82信金のうち、少なくとも25信金が窓口での現金による海外送金受け付けを中止するなどの対応を公表しているということです。一方、海外送金の取扱件数が多い首都圏の大手信金では、過去3年分の海外送金取引から不審な案件を抽出し、点検しているとのことです。各行がリスクベース・アプローチに基づき、業務の見直しに取り組んだ結果と思われますが、これらの動向を見るにつけ、地域金融機関にとって海外送金は極めてリスクが高い業務であることが推測されます(だからこそ、これまで実際のマネー・ローンダリング事犯に悪用されてきた現実があったといえます)


 その一方で、金融庁は、送金サービスなど決済分野における規制の見直しに向けた報告書案をまとめ、1度に数万円までの少額の送金に限って参入障壁を下げるほか、資金移動業者を取り扱う金額に応じて3分類に再編し、サービスの機能やリスクに応じて規制を改める方向を示しています。金融とITが融合する「フィンテック」が台頭するなか、異業種参入による新たな金融サービスを制度面から後押しするとしていますが、AML/CFTにおける海外送金のリスクの高さとの整合性をどうとるべきか、課題があるように思われます。しかしながら、銀行が少なく、また口座を持たない人が多くを占める「金融途上国」においては、送金業務などはすでに銀行を使わないサービスが普及しており、旧来の仕組みを突き崩しつつあるのが現実です。それはまた、固定電話網が未整備の国で、携帯電話が爆発的に普及したのと同じ構図だといえます。銀行以外にサービスが多様化するのは世界的な潮流であり、規制緩和もまたその流れの中にありますが、AML/CFTの観点から「リスクが高い」とされた送金業務について、その代替となる新たなサービスにおいても、銀行同様のリスク管理態勢が構築されていなければ、マネロンやテロ資金供与に悪用される可能性は極めて高いといえます。また、海外送金については、これらの動きとは別に、日米欧の有力銀行など14社が5月に新会社を設立して、ブロックチェーン(分散型台帳)の技術を使って各国の通貨に対応した電子通貨を発行し、銀行間取引を効率化する取り組みを模索し始めています。各国の中央銀行の当座預金に置くお金をもとに電子通貨をやりとりする構想で、セキュリティ面だけでなく、(これまでいくつもの銀行を経由して送金してきたことと比較すれば)業務効率上も顧客の利便性も高いレベルで両立できそうですが、一方で、銀行を介さない仮想通貨も有力視されており、海外送金の代替サービスを巡る競争が激化しそうです。


 また、最近の金融庁と金融機関の意見交換会の内容から関連する部分について紹介します。


▼金融庁 業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点
▼主要行


 留学生らが帰国する際に売る日本の銀行口座が、マネロンや特殊詐欺で得た資金の受け皿に使われる事例が相次いでいることを受けて、大手銀行などが外国人による口座開設の審査を厳しくしています。出入国管理法改正で外国人労働者が増えれば、口座売買が広がるリスクも高まることになり、金融庁は金融機関に対策の徹底を求めていますが、一方で、政府から外国人の円滑な口座開設の要請もあり、難しい対応を迫られています。このような外国人材受入れに伴う利便性の向上の観点とAML/CFTの観点からの実務の厳格化のバランスが問題となる中、「今月1日に改正入管法が施行され、新たな在留資格による外国人材の受入れが始まっている。外国人の皆様が生活していくにあたり、お困りにならないよう、当庁から金融機関の皆様に対し、(1)円滑な口座開設や、(2)多言語への対応の充実、また、(3)在留カードを使った本人確認等の手続きの明確化、(4)これらの取組みをガイドラインや規定で整備すること、等を要請している。当庁の調査によると、主要行におかれては、ほぼ全ての銀行が、既に内部規定を整備し、行内のイントラネットに掲載したり、研修を実施していらっしゃると承知している。こうした取組みが各営業店の職員の方々に伝わるよう、周知・徹底して 頂きたく、我々としても、皆様の取組みの進捗状況や浸透度合いを確認していく」、「また、外国人の方々は日本語が不自由な場合もあると思うため、円滑な口座開設に向けて、受入れ企業のサポートが重要である。本日の資料として配布しているが、犯罪への関与の防止も含め、当庁として受入れ企業の皆様に具体的にサポート頂きたい事項を今月上旬に取りまとめ、「パンフレット」として、当庁のウェブサイトに公表し、皆様にもお送りしている。皆様の御取引先の中にも、外国人材を受け入れている企業がおありになると思うが、こうした取引先企業にパンフレットを配布して、サポートを頂けるよう、ご協力をお願いしたい」、「なお、外国人向けの口座開設手続き等に係るパンフレットについても現在、当庁において作成中。全銀協におかれても、顧客向けのチラシを13 言語で作成し、会員の皆様に共有されていると伺っている。こうしたチラシがあると、外国人の方は円滑に口座を開設できるようになり、口座売買やマネロン等の犯罪防止にも有効と思うため、来店時にお渡しできるよう、営業店への周知徹底をお願いしたい」として、どちらかといえば、「円滑な口座開設」、「外国人にもわかりやすい手続きの明確化」などが前面に出ているように思われます。また、AML/CFTについては、「全銀協において、外国人顧客の口座の継続的管理に係る留意点を取りまとめ、3月末に会員行に周知されたと伺っている。犯罪防止の観点から、在留カードを使った本人確認により、帰国時期を把握し、口座を開設したお客様については、帰国時に連絡を取って 口座解約を促すことが重要である。全銀協においては、マネロン・テロ資金供与対策の観点から、3月末に普通預金規定の雛形を改正し、預金者の情報や具体的な取引の内容等について、正当な理由なく期限までに御回答頂けない場合には、入金、払戻し等の取引の一部を制限するなど、リスクに応じた対応が明確化されたと承知している。一部の金融機関におかれては、既に普通預金約款改訂していらっしゃると承知しているが、その他の金融機関におかれましても、約款の見直しも検討の上、顧客のリスクに応じた対応を強化して頂くようお願いしたい」としており、これまでの方向性を繰り返し強調しています(なお、外国人受入れについては、前段との兼ね合いから、AML/CFT上の厳格な対応を後段で指摘することで相互のバランスをとっているようにも見えます)。


 その他、AML/CFTに関する動向について、最近の報道から、いくつか紹介します。


  • 三菱UFJ銀行は、利用者の本人確認をする他社向けに自行の口座情報を提供すると発表しています。邦銀初となるサービスで、クレジットカードの発行を申し込んだり証券会社に口座を開いたりする際、ネット上の申請フォーマットで自分の本人確認に関する情報を三菱UFJ銀行が提供するのを認める意思を示し、書類の郵送で数日~1週間かかっていた本人確認が即時でできるようになるというものです。利用者にとっては手続きが早く簡単になる、事業者も郵送の手間やコストを省けるといったメリットがあります。

  • 日本は今秋にFATFの対日相互審査を控えており、さらには、G20サミット議長国の威信にかけてもAML/CFTで後手に回るわけにはいかない事情もあり、金融庁は銀行など伝統的な金融機関に加え、本人確認の甘さや取引の匿名性が指摘される仮想通貨交換業者の監督も厳格化しています。報道(令和元年5月18日付日本経済新聞)によれば、暗号資産(仮想通貨)交換業者のFSHOに金融庁が立ち入り検査した結果、犯罪の疑いがある取引が複数発覚したといいます。同じ顧客が多額の仮想通貨を短期間に何度も現金化する疑わしい取引があったにもかかわらず、業者は見過ごしていたとのことであり、出どころ不明の資金が反社会的勢力などに渡ったおそれがあるなど、事態を重くみた金融庁は同社に対し交換業者としての登録を初めて拒否しています。また、他社でも「本人確認が不十分で顧客の登録住所が『私書箱』だった」というずさんな事例も発覚しています。

  • 日米欧や新興国などG20が暗号資産のAML/CFTで足並みをそろえ、(日本が先行して実施してきた)暗号資産(仮想通貨)交換業者に登録制を導入するなど金融当局の監視強化で合意する見通しということです。暗号資産は個人間で国際送金できる利便性が強みですが、各国で規制や取引ルールに温度差があり、それが不正送金の抜け穴となっていましたが、その穴を塞ぐ方向で一致したことになります。ただ、各国の姿勢は今なお温度差があり、いくら規制を強めても、監視の緩い国へ取引が流れると金融当局の目が届きにくくなる恐れがあり、結局抜け穴が存在することになる可能性が指摘されています。さらにG20は、ITを使ったマネロンやテロ資金供与を阻止するため、追加対策を2021年までに立案するよう関係当局へ要請する方針を固めています。暗号資産のほか、フィンテクの活用などで、これから普及する新技術の悪用も想定して規制を脅かすリスクを洗い出し、抜け穴を塞ぐことを目指すことになります。


 最後に、AML/CFTとは直接関係ありませんが、今後の暗号資産やフィンテックの動向から新たなリスクが登場することが予想されています。現段階では明確に認識できないとしても中長期的に何らかのリスクとなるもの=「コンダクト・リスク」への対応が今後のリスク管理の一つの大きな潮流となります。その「コンダクト・リスク」への対応の必要性を痛感させられたのが、野村総合研究所の研究員が「上場基準が250億円以上とされる可能性が高くなっている」との情報を漏洩した問題です。


▼金融庁 野村證券株式会社及び野村ホールディングス株式会社に対する行政処分について


 本件では、野村HD/野村証券に対して金融庁が「業務改善命令」という厳しい行政処分を下しています。その内容を精査してみると、金融庁は、「法令等諸規則に違反する行為ではないものの、(略)資本市場の公正性・公平性に対する信頼性を著しく損ないかねない行為」と指摘、本件がコンダクト・リスクからの問題提起であることを明確にしています。さらに、「本件行為は、(ア)本件行為を適切に規律する規程が存在しなかったこと、(イ)本件行為に関与した社員がコンプライアンスの本質を理解しておらず、より有益な情報源を有していると示すことにより自らの評価を高めたいとの動機を優先し、市場の公正性・公平性の確保という証券会社にとって重要な役割に対する意識が不十分であるなど、証券会社の社員として求められる水準のコンプライアンス意識が欠如していたこと、(ウ)外部機関投資家に対する不適切な情報提供について、これを未然に防止すべき審査・監督体制が適切に整備されていなかったこと等を原因として発生したものと認められる」と厳しい指摘が並んでいます。さらに、平成24年の増資インサイダー事案との類似性を指摘し、「本件行為が発生し、本件行為に気付き得た社員がいたにもかかわらず、疑問や是正の声が挙がることなく、結果的にそれが看過されていた」、「社員に対する意識調査において、コンプライアンスを法令遵守に限定して捉え、本件行為について問題ないと評価する意見も一部ではあるものの確認されている」ことをもって、コンプライアンス態勢が不十分と厳しく指弾しています。コンダクト・リスクへの対応の難しさに加え、一部の社員の行為が組織の問題と捉えられ行政処分に直結した点は、コンプライアンスの本質を考える上で極めて重要な示唆に富むものといえ、今後のコンプライアンス・リスク管理の徹底にあたって十分に浸透させなければならないものといえそうです。また、コンプライアンス・リスク管理においては、もはや「受け身」は許されず、「声を上げない」不作為も厳しく問題視されていることをふまえれば、組織を成す一人ひとりの「自立・自律」的な行動の「質」まで問われるところまできていることを示しており、形式的・表面的な取り組みでは足りず、役職員一人ひとりの内面に向けてどう落とし込んでいくか(どこまで取り組めば個人と組織の問題を切り離せるのか)、大きな課題を突き付けられたようにも感じます。

(2)特殊詐欺を巡る動向

 警察庁から平成30年の特殊詐欺の認知・検挙状況等の確定値と概況を分析したレポートが公表されています。主な内容については、すでに以前の本コラム(暴排トピックス2019年2月号)で詳細に紹介していますのでそちらを参照いただきたいと思いますが、特殊詐欺の認知件数については、2月に公表した暫定値より3件多い16,496件となっています。

▼警察庁 特殊詐欺認知・検挙状況等(平成30年・確定値)について


 次に、例月通り、平成31年1月~4月の特殊詐欺の認知・検挙状況等についての警察庁からの公表資料を確認します。

▼警察庁 平成31年4月の特殊詐欺認知・検挙状況等について


 平成31年1月~4月の特殊詐欺全体の認知件数は4,600件(前年同期5,558件、前年同期比▲17.2%)、被害総額は66.4億円(93.9億円、▲29.3%)となり、認知件数・被害総額ともに減少傾向が継続し、さらに減少幅が大きく拡大しています。なお、検挙件数は1,623件となり、前年同期(1,369件)を+18.6%と昨年を大きく上回るペースで摘発が進んでいます(検挙人員については707人と前年同期比▲4.6%の結果となりましたが、傾向的には摘発の精度が高まっている様子がうかがえます)。また、特殊詐欺のうち振り込め詐欺の認知件数は4,567件(5,476件、▲16.6%)、被害総額は63.6億円(90.5億円、▲29.7%)と、特殊詐欺全体の傾向に同じく、件数・被害額ともに大きく減少する傾向が継続しています。また、類型別の被害状況をみると、オレオレ詐欺の認知件数は2,611件(3,119件、▲16.3%)、被害総額は28.5億円(44.6億円、▲35.3%)と2か月前に増加傾向から減少に転じて以降、被害額も大幅な減少傾向が継続しています。また、架空請求詐欺の認知件数は1,172件(1,687件、▲30.5%)、被害総額は25.8億円(37.6億円、▲31.4%)と件数・被害額ともに大幅な減少傾向が継続しています(2か月前に被害額が増加傾向から減少に転じています)。さらに、融資保証金詐欺の認知件数は93件(153件、▲39.2%)、被害総額は1.0億円(1.7億円、▲43.6%)、還付金等詐欺については、認知件数は691件(517件、+33.7%)、被害総額は8.3億円(6.6億円、+25.8%)と、件数・被害額ともに数年ぶりに再び増加傾向に転じておりその傾向が継続している点には注意が必要です。現状、特殊詐欺全体でみれば件数・被害額ともに減少傾向あるものの、依然として高水準を維持しているといえます。なお、それ以外の傾向としては、特殊詐欺全体の被害者については、全体では男性22.4%/女性77.6%、オレオレ詐欺では男性12.7%/女性82.5%、融資保証金詐欺では男性76.1%/女性23.9%、架空請求詐欺では男性32.0%/女性68.0%、還付金等詐欺では男性34.9%/女性65.1%などと類型別に大きく異なる割合となっている点は興味深いといえます。また、60歳以上は85.8%(70歳以上だけで72.0%)と顕著な偏りをみせており、全体的にみれば、女性および高齢者のセグメントにおいて被害者が圧倒的に多い傾向がみてとれます(さらに、その傾向に少しずつではありますが拍車がかかっている点に注意が必要です)。また、犯罪インフラの検挙状況として、口座詐欺の検挙件数は268件(428件、▲62.6%)、盗品譲受けの検挙件数は7件(0件)、検挙人員は5人(0人)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は707件(813件、▲13.0%)、検挙人員は586人(631人、▲7.1%)、携帯電話端末詐欺の検挙件数は97件(75件、+29.3%)、検挙人員は67人(65人、+3.1%)、携帯電話不正利用防止法違反の検挙件数は12件(11件、+9.1%)、検挙人員は8人(10人、▲20.0%)などとなっています。


 さて、高齢者から還付金名目で現金をだましとったとして逮捕された暴力団関係者の男が、「かけ子」や「受け子」に半グレの少年らを使うケースが増えています。例えば、六代目山口組の竹中組関係者が昨年8月、尼崎市の70代の女性に市役所の職員を装って、「国民健康保険料の還付がある」などとうその電話をかけ、キャッシュカードをだまし取り現金50万円を引き出した疑いで逮捕されていますが、大阪府警はこれまでに少年8人を含む13人を逮捕、だまし取った金が総額は約3,500万円に上り、暴力団に流れていたとみて捜査しているとの報道がありました。ただし、特殊詐欺における暴力団と半グレの関係は様々であることに注意が必要です。これまでの様々な事件報道を振り返ってみると、暴力団員自ら直接犯罪に関与しているケースもあれば、暴力団は表向き一切手を出さず、完全に半グレを下請けとして使っているケース、半グレが主体的に特殊詐欺を行いつつ暴力団に一定の額を上納しているケース(組織的な上納やグループ首謀者らの個人的な上納など、こちらも様々なケースがあります)、さらには、半グレとして特殊詐欺を行っていたグループがその後暴力団員になるケース(特殊詐欺のメンバーが構成員として大量に移籍したケースもあります)や、そもそも暴力団員であることを隠して表面的には半グレなどと称して特殊詐欺に関与するケースなどがあります。


 また、最近では、取引先などを装ったメールで金をだまし取る「ビジネスメール詐欺」の被害が続いています。香港では、日本企業と海外企業のメールのやりとりをハッキングしていて、送金のタイミングで途中から割り込み、本物の書類も添付してだますといった巧妙な手口が横行しているようです(令和元年6月4日付日本経済新聞)。日本企業の被害だけでなく、国際的な詐欺の舞台として日本が選ばれてしまっているケースも多く(ナイジェリア人が指示役、日本人が出し子として組織犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)などの疑いで逮捕されたケースもあります)、「詐欺の実行グループ、金の回収グループ、出し子のグループと役割を分担し、国際的な犯罪組織を構成していると推認されるが、実態解明には至っていない。海外の関係機関とも協力して捜査を進める」(警視庁)という現状です。なお、記事の中では、「日本企業は、通常の手順と異なる依頼をメールなどの文書で受けた場合、相手先の実在する担当者に電話でも確認するといった対策を強化してほしい」、「(被害にあわないために)何重にも防御策を講じる必要がある」、「返信先に本物と同じアドレスを表示させるのも技術的に難しくはない。また、メールアドレスが1つでも盗まれると、会社全体や取引先にも攻撃が拡大する恐れがある」、「企業はセキュリティーソフトなどシステムを整え、詐欺を念頭において送金に関する社内規定を整備するだけでは足りない。不審と感じた場合に社内や取引先と情報共有したりすることも重要」などと専門家らが指摘していますが、ビジネスメール詐欺への対応はまさに内部統制システムやサプライチェーン・マネジメントの問題でもあり、技術的側面や物理的側面の整備はもちろんですが、組織面や従業員の心理的要因にまで踏み込んだ対策が求められているといえます。なお、関連して、海外における特殊詐欺の事例として、最近では、携帯電話の発信番号を偽装して家族や当局から電話がかかってきたように見せかけ、誘拐や不正行為をでっち上げ金銭をだまし取る事件が米国で相次いでいるようです。日本でも使えるスマホのアプリなどが悪用されているとみられ、米政府機関は詐欺の新たな手口として注意を呼びかけているとのことです。


 その他、最近の特殊詐欺の手口を巡る報道について、いくつか紹介します。


  • 警察官を装って高齢者からキャッシュカードと現金をだまし取ったとして、兵庫県警長田署は、プロ野球オリックス元選手を詐欺と窃盗の疑いで逮捕しています。尼崎市の80代の高齢男性方に警察官と名乗って「キャッシュカードが犯罪に関連している」などと電話し、キャッシュカード2枚をだまし取り、その後、現金約200万円を引き出したというもので、特殊詐欺グループの勧誘担当だった可能性があるとみられています。

  • 警視庁は、東京都大田区の80代女性が自宅に白い粉が入ったビニールの小袋が届いた後、薬物捜査をかたる男らからキャッシュカードをだまし取られ、口座から約117万円を引き出されとして、警視庁が詐欺容疑で調べているといいます。報道によれば本件は、「女性宅に小袋が入ったレターパックが届いたのは6月2日」、「差出人は関東に住む知らない人物で文書などは添えられておらず、不審に思いながらも放置していた」ところ、翌3日に「あなたが麻薬を売っている情報がある」などと警視庁の捜査員を名乗る男らから電話があり、暗証番号などを聞き出された後、訪ねてきて「保険機構の職員」と名乗った人物にカードを渡してしまったというものです。新たな手口であり、同様の白い粉が届いたとの通報が3日以降、都内でほかに9件あるということであり、注意が必要です。

  • FBで知り合った米軍人をかたる男に送金するため、勤務先の老人保健施設から計1,000万円を着服したとして、業務上横領罪に問われた60代の女性被告に対し、名古屋地裁は、懲役1年8月(求刑・懲役2年6月)の実刑判決を言い渡しています。この「国際ロマンス詐欺」の被害にあいながら横領に手を染めた事件について、判決では「被害は多額で常習的な犯行」、「送金した自己資金分の返還を受けていないことは同情に値するが、好意を抱いた外国人に会いたいとの思いで犯行に及んだことは正当化できない」と指摘しています。

  • 注文を受けた仏像が完成したと高齢者にうその電話をかけ販売したとして詐欺容疑などで通信販売業の社長らが逮捕された事件で、滋賀県警は、電話の「かけ子」向けのマニュアルを公開しています。高額商品を買ったことがあるかや、通帳を自分で管理しているかなど、だましやすい相手かどうかを探る要点を解説しており、かけ子は電話した高齢者に「高額商品を買ったことがあるかどうか」を確認し、購入経験がある場合は金額や分割払いだったかを聞き出し、相手の経済状態を調べ、この時点で勧誘に乗ってこない相手は諦めるなどと記載されているといいます。

  • 消費者庁は令和元年度に入ってからも、すでに2件の悪質事業者に対して注意喚起を行っています。うち1件は、「ゲーム感覚で毎日3万円稼げる」などとうたい、有料の仮想通貨の取引補助アプリを販売していたものです。同事業者は複数の仮想通貨交換所間で価格差が生じた際に、通知音及び点滅で知らせる機能を持った、アービトラージツール然としてふるまうアプリケーションを販売、無料アプリの提供からLINEや電話でのやり取りを経て、徐々に高額のアプリを売り込むという手法を取っていたことが報告されています。アプリを最初は無償で提供、取引を疑似体験させて有料会員になるよう勧誘し、約10万円を支払わせるというもので、高性能なアプリの利用料として約50万円を求めた例もあったものの、確実に収益を得られる仕組みにはなっておらず、広告のような利益を得た人もいなかったといいます。

  • 本コラムでも紹介してきたタイを拠点とした特殊詐欺グループの事件では、SNS上などで密かに流行っている「個人間融資」を通じて、結果的に返済に困窮した者を「かけ子」等に利用している実態(実際にタイで逮捕された者のうち複数人がお金に困りヤミ金に手を出していた多重債務者で、半ば強制的に違法労働に従事していた可能性)がありますが、それ以外にもアジトの一軒家は、逮捕された15人とは別人名義で借りられていること、多数のPCやIP電話等の犯罪インフラが手配されていること(多額の資金が必要であること)などを総合的に勘案すれば、背後に手配役などを含む組織的な関与が疑われており、かつ逮捕者された男らの本籍地は九州・沖縄が多いといった状況から九州の暴力団関係者がいる可能性が高まっています。


 さて、特殊詐欺対策を巡る金融機関の対応を巡って訴訟となったことが報道されています。特殊詐欺被害を防ぐため、家族の同席なく高額の預金を解約しないよう信金に求めていたのに、守られず被害にあったとして、東京都の女性(81)が、さわやか信用金庫に約1,550万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴したというものです。報道によれば、女性は2016年10月、長男の上司を名乗る男から電話で「(長男が)ミスをした。解雇されないためには大金が必要だ」と言われ、1人で信金を訪れて約1,550万円の預金を解約し、自宅付近まで来た男に渡したという事件で、犯人は見つかっていないようです。本件では、特殊詐欺被害を心配し、女性や長男が解約の際の家族の同席を申し入れていたとされ、信金側が事前にその申し入れを何らかの形で応諾していたのであれば対応に問題があるといえそうですが、今後、金融機関の実務に大きな影響を与えること(特殊詐欺対応の負担が一層増す可能性)も考えられるところであり、その推移を注視したいと思います。


 また、大阪府が「大阪府安全なまちづくり条例」に特殊詐欺に関する条項を追加する改正を行い、6月1日から施行されています。昨年6月に大阪市内の民泊施設を拠点としていた特殊詐欺グループが摘発されたことをふまえ、不動産業者や宿泊施設の事業者に対し、部屋が特殊詐欺に悪用されないよう契約時等に確認する努力義務や、万が一悪用された場合は明け渡しを申し入れるよう求める努力義務などのほか、特殊詐欺の実態をふまえた様々な規定が盛り込まれており、市民や事業者として果たすべき役割も多数規定されています(暴排条例の構成に極めて似ている点が興味深い点です)。以下に当該条項を紹介しますので、是非、確認いただきたいと思います。


▼大阪府警察 「大阪府安全なまちづくり条例」条文~特殊詐欺に関する条項追加


第十九条
府は、特殊詐欺(詐欺(刑法(明治四十年法律第四十五号)第二百四十六条の罪をいう。)又は電子計算機使用詐欺(同法第二百四十六条の二の罪をいう。)のうち、面識のない不特定の者を電話その他の通信手段を用いて対面することなく欺き、不正に取得した架空の名義又は他人の名義の預金口座又は貯金口座への振込みその他の方法により、当該者に財物を交付させ、又は財産上不法の利益を得、若しくは他人にこれを得させるものをいう。以下同じ。)の被害を防止するため、特殊詐欺の根絶に向けた施策を総合的かつ計画的に推進する。

2 府は、市町村と連携して、府民及び事業者に対し、特殊詐欺の被害の防止に必要な広報、啓発等の活動を行うものとする。

3 府は、府民が特殊詐欺に加担しないよう、府民に対し、周知を図るものとする。


第二十条
府民は、特殊詐欺に関する知識及び理解を深め、府及び市町村が実施する特殊詐欺の根絶に向けた施策に協力するよう努めるものとする。

2 事業者は、特殊詐欺に関する知識及び理解を深めるとともに、府及び市町村が実施する特殊詐欺の根絶に向けた施策並びに府民、事業者及びこれらの者が組織する団体が実施する特殊詐欺の根絶に向けた自主的な活動に協力するよう努めるものとする

3 事業者は、特殊詐欺の犯行の態様に鑑み、犯行手段として利用され、又は利用されるおそれがある商品等の流通及び役務の提供に際し、特殊詐欺の手段に利用されないための措置を講ずるよう努めるものとする

4 青少年の育成に携わる者は、青少年が特殊詐欺に加担しないよう、青少年に対し、指導し、助言し、その他適切な措置を講ずるよう努めるものとする。


第二十一条
府民は、次の各号のいずれかに該当する場合には、警察官に通報するよう努めるものとする。

(1)その言動から特殊詐欺の被害に遭うおそれがある者を発見したとき

(2)自己又は家族、親族、近隣住民その他の者が、特殊詐欺と疑われる電話、郵便物等を受けたとき

2 事業者は、特殊詐欺の犯行の態様に鑑み、犯行手段として利用され、又は利用されるおそれがある商品等の流通及び役務の提供に際し、特殊詐欺の被害に遭うおそれがある者を発見したときは警察官に通報するとともに、特殊詐欺の被害の防止を図るため当該被害に遭うおそれがある者の注意を喚起し、特殊詐欺を行っていると思われる者を発見したときは警察官に通報するよう努めるものとする


第二十二条
何人も、自己が貸付けをしようとする府の区域内に所在する建物が特殊詐欺の用に供されることとなることを知って、当該貸付けに係る契約をしてはならない

2 建物の貸付けをしようとする者は、当該貸付けに係る契約の締結の前に、当該契約の相手方に対し、当該建物を特殊詐欺の用に供するものでないことを書面により確認するよう努めるものとする。

3 建物の貸付けをしようとする者は、当該貸付けに係る契約において、次に掲げる事項を定めるよう努めるものとする。

(1)契約の相手方は、当該建物を特殊詐欺の用に供してはならないこと。

(2)貸付けをした建物が特殊詐欺の用に供されることが判明したときは、当該貸付けをした者は、催告をすることなく当該契約を解除することができること。

4 建物の貸付けをしようとする者が前二項に規定する措置を講じた場合において、当該貸付けをした建物が特殊詐欺の用に供されることが判明し、当該行為が当該建物の貸付けに係る契約における信頼関係を損なうときは、当該貸付けをした者は、当該貸付けに係る契約を解除し、又は当該建物の明渡しを申し入れるよう努めるものとする


第二十三条
建物の貸付けの代理又は媒介をする者は、当該代理又は媒介に係る建物が特殊詐欺の用に供されることとなることを知って、当該建物の貸付けに係る契約の代理又は媒介をしてはならない。

2 建物の貸付けの代理又は媒介をする者は、当該建物を貸し付けようとする者に対し、前条第二項及び第三項に規定する措置を実施することを助言するよう努めるものとする。


第二十四条
旅館業法(昭和二十三年法律第百三十八号)第三条第一項の許可を受けて旅館業を営む者、住宅宿泊事業法(平成二十九年法律第六十五号)第三条第一項の届出をして住宅宿泊事業を営む者及び国家戦略特別区域法(平成二十五年法律第百七号)第十三条第一項の認定を受けて同項に規定する国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業を営む者(以下この条において「旅館営業者等」という。)は、当該業を営む施設が宿泊しようとする者により特殊詐欺の用に供されることとなることを知って、当該施設に宿泊させてはならない

2 旅館営業者等は、当該施設が特殊詐欺の用に供されることが判明したときは、当該宿泊者に対し、当該施設からの退去を求めるよう努めるものとする。


第二十五条
何人も、特殊詐欺の用に供されることとなることを知って、個人情報データベース等(個人情報の保護に関する法律(平成十五年法律第五十七号。以下この条において「法」という。)第二条第四項に規定する個人情報データベース等をいう。以下同じ。)を提供してはならない

2 個人情報取扱事業者(法第二条第五項に規定する個人情報取扱事業者をいう。)のうち第三者に個人情報データベース等を有償で提供することを業とする者は、第三者に個人情報データベース等を提供するに際し、法第二十五条第一項の規定による記録の作成等を行う場合には、運転免許証の提示を受ける方法その他の公安委員会規則で定める方法により、公安委員会規則で定める事項の確認を行うよう努めるものとする。

3 前項の確認を行った者は、公安委員会規則で定めるところにより、当該確認に係る記録を作成し、当該記録を作成した日から三年間保存するよう努めるものとする。


 その他、特殊詐欺対策に関する最近の報道から、いくつか紹介します。


  • 静岡県警の本部長が、振り込め詐欺などの被害の一掃に向けた「特殊詐欺総合対策班会議」の中で、「本県は交通網の発達による地理的利点と温和な県民性から犯罪者グループに狙われやすい」と指摘したとの報道がありました。その上で、幅広い情報収集、あらゆる法令を駆使した戦略的取り締まり、高齢者がだまされたふりをして通報する「だまされたふり作戦」による摘発の推進を指示、高齢者に対して繰り返し広報・啓発を行う必要性も強調したといいます。反社リスクには地域性による高低があることは否定できない事実ですが、特殊詐欺対策をこのような視点から分析して、リスク対策に活かそうという発想(具体的な対策は王道的なものですが)は評価できるのではないかと思います。

  • 特殊詐欺の「架空請求詐欺」を防いだとして大阪府警河内長野署は、会社社長と「ローソン三日市駅前店」店長の2人に、感謝状を贈呈しています。買い物で来店した社長が、店内に入ってきた80代の女性が携帯電話で「5万ポイントの何を買ったらいいんですか」などと会話しているのに気づき、「高齢者を狙った詐欺ではないか」と店員に連絡、店長がすぐに110番して、被害防止につなげたというものです。特殊詐欺対策を警察任せ、事業者任せにしがちな傾向がある中、一市民としてできる行動を示した好事例であり、「社会的な見守り」の視点が特殊詐欺対策にとって重要であることも示しているともいえます。

  • 特殊詐欺事件の「受け子」として高校生などの少年たちが摘発されるケースが後を絶たない中、少年が特殊詐欺の加害者となるのを防ごうと、犯罪グループの勧誘手口などを紹介する啓発DVDを、神奈川県警と県内の高校生が協力して制作したということです。「狙われる少年~特殊詐欺に加担しないために~」で、再現ドラマの役者や編集を高校生が行っているのが特徴で、同年代に親近感を持ってもらう狙いがあるといい、報道によれば、制作に参加した高校生は「特殊詐欺に加担してしまう可能性は身近にあると知ってほしい」と話しているということです。

  • 前回の本コラム(暴排トピックス2019年5月号)では静岡県警の取り組みを紹介しましたが、千葉県警生活安全総務課は、警察官をかたる特殊詐欺の「アポ電」(アポイントメント電話)の音声(約1分間)を公開しています。県内では、こうした電話を端緒にキャッシュカードをだまし取られる被害も発生しており、報道によれば、「警察がカードを要求することはない。このような電話があればすぐに警察に電話してほしい。日ごろから家族で話し合ったり、在宅時も留守電にしたりして対策を進めてほしい」と話しています。
  ▼千葉県警察 電話de詐欺 実際の犯人からの電話音声

  • 大阪府警は特殊詐欺対策として、全ての警察官・職員約23,000人に、固定電話の通話内容を自動的に録音する機器の設置を呼び掛けています。メーカーと共同開発した特注品で、まずは警察官の家族から防犯に取り組み、効果を検証した上で府民の購入も促すということです。警察職員に録音機設置を呼び掛けるのは全国で初めての取り組みとなります。

  • 警察官などを語る「受け子」にキャッシュカードなどを騙し取られる特殊詐欺被害を水際で防ごうと、大阪府警枚岡署は、犯人への警告や高齢者らに注意を喚起するステッカーを、住宅玄関のインターフォンなどに貼り付ける活動を始めています。受け子にキャッシュカードなどを渡さない「イエローカード作戦」としてステッカーを考案、「枚岡発の被害ゼロを目指したい」と意気込んでいるということです。

  • 愛知県内の15信用金庫はキャッシュカードを使ったATMでの振り込み制限の対象年齢を70歳以上から65歳以上に引き下げるということです。報道によれば、ATMを利用する還付金等詐欺被害を防ごうと、2016年に70歳以上の利用者への制限を開始して以降、60代の被害者が急増したためだといいます。制限を開始した2016年の還付金等詐欺の認知件数は352件であったところ、2018年には147件にまで減少、さらに、2016年の認知件数のうち74.4%の被害者が70歳以上であったところ、2018年には36.1%となるなど本取り組みの効果が確認された一方で、60代の被害者は2016年の16.5%から2018年には49%と半数を占めるようになるといった弊害も明確になったことから、厳格な対応に踏み切ったものといえます。特殊詐欺対策はこのような「モグラたたき」の側面はありますが、状況に応じて、適切な対応を模索し「続ける」ことが重要だといえます。

  • 本コラムでもたびたび指摘してきましたが、特殊詐欺の被害防止をめぐり、金融機関の窓口やATMでの高額引き出しの対応が課題になっています。特殊詐欺の1件あたりの平均被害額は200万円以上に上り、高額被害を防ぐため、上記のように金融機関は出金限度額を引き下げるなど対応を進めていますが、利便性との兼ね合いから限界もあるところです。そのような中、報道(令和元年5月18日付産経新聞)によれば、AIを活用したATMが開発されるなど各方面で、水際での被害防止に向けた取り組みの模索が続いているということです。記事の中で、「詐欺グループの話術は巧みで、だまされる人をなくすのは難しい。だからこそ、ATMや窓口で被害を最小限にとどめる水際対策が重要だ」と警察幹部が話していますが、今後、人とシステム、仕組みを適切に組み合わせて、多重防御の発想で被害を防止していくことがさらに重要となっていくものと思われます。

  • 上記に関連しますが、佐賀銀行は振り込め詐欺を未然に防ぐため、AIを活用したATMコーナー監視システムを6月から本格導入しています。AIカメラが利用者の行動や年齢などを画像解析し、詐欺に合っている可能性が高いと判別すると「携帯電話のご利用はお控えください」といったアナウンスで注意喚起を行うもので、設置箇所は非公表ですが、駅やデパートなど店舗外の無人ATMコーナー10カ所以上に取り付け、警察とも連携して防止に努めるということです。無人ATMが特殊詐欺に悪用されている実態もふまえれば、とてもよい取り組みだと思われ、このような工夫が拡がっていくことを期待したいと思います。
(3)暗号資産(仮想通貨)を巡る動向

 本コラムでもその動向について取り上げてきた、仮想通貨の交換業者への規制強化などを盛り込んだ資金決済法や金融商品取引法の改正法が今国会で可決、成立し、今後1年以内に施行されることになりました。暗号資産を巡る規制については、2017年4月に世界に先駆けて資金決済法で交換業者に登録制を導入しましたが、取引そのものには明確な規制がありませんでした。国内の取引の大半は証拠金取引が占めていることをふまえ、投機熱の高まりを懸念する声も強いため規制を強化することとなったものです。今回、新たに規制が強化されたポイントとしては、交換業者向けには、不正流出に備え、顧客の暗号資産を高いセキュリティで管理(コールドウォレット)することや、弁済資金の確保を義務化すること、投機を助長するような広告や勧誘の禁止、取り扱う暗号資産の変更は事前の届け出制とし、問題の有無を確認することなどがあげられます。また、取引については、証拠金取引は外国為替証拠金(FX)取引と同様に規制することとし、証拠金倍率に上限を設けること(別途、内閣府令で証拠金倍率の上限を2~4倍と定める方向)、風説の流布や価格操作など不公正取引を禁止することなど、投資型のICOについては、暗号資産による出資募集を規制対象に明確化することなどが柱としてあげられます。さらに、仮想通貨の名称は「暗号資産」に変わることになります(本コラムでも以降「暗号資産(仮想通貨)」あるいは単に「暗号資産」と表記します)。今後、交換業者の新規参入は増え続ける見通しで、現在は100社以上が登録待ちの状態といいます。金融庁はAML/CFTなどを厳格に審査した上で順次、登録作業を進めることとしていますが、近年相次ぐ顧客の資産流出事件への対応を厳格に行うことで顧客の信頼回復につなげていけるかがポイントとなりそうです。関係者は「健全な市場が整備されれば、機関投資家の参入を含め市場が広がる」と期待していますが、一方で、「4月末時点で登録業者は19社。代表的な仮想通貨ビットコインの価格は足元で復調しているものの、17年末のピークからは半分以下にとどまる。最大で25倍あった証拠金倍率(レバレッジ)の上限は2~4倍になる方向で、かつてのような活発な売買は見込みにくい。人材や技術力で優位に立つ大手の参入で競争が激しくなる中、独自サービスで差別化できない業者の淘汰が進む可能性がある」(令和元年5月16日付日本経済新聞)の指摘もあるように、暗号資産を取り巻く環境は今後も厳しいことが予想され、利用者の保護と技術革新の両立が課題となっていくものと思われます。


 さて、その登録状況については、報道によれば、インターネットイニシアティブ(IIJ)の持ち分法適用会社であるディーカレットは設立から1年あまりで3月に登録業者に認定され4月から取引を開始しています(同社の株主は、三菱UFJ銀行や三井住友銀行、野村HD、大和証券グループ本社といった金融大手に加え、JR東日本などが名を連ねており、こうした企業との連携を進めていくと表明しています)。また、楽天グループの楽天ウォレットも今夏に始める予定(楽天銀行との提携やAI技術を使った自動応答のチャットサービスの提供などが予定されています)のほか、ヤフーが子会社を通じて出資するTAOTAO(旧ビットアルゴ取引所東京)も参入、ヤフー子会社のワイジェイFXなど金融業界で経験のある社員も加わり、ペイペイとの協業も視野に展開することが見込まれています。このように、暗号資産業界は、昨年相次いだ巨額の不正流出事故に端を発した再編が一巡し、大手を軸に独自サービスを競う段階に入っており、その中で競争がさらに激化することは目に見えています。その結果、やはり利便性とセキュリティ(顧客保護)とを一層高い次元で両立して独自のサービスが提供できる登録業者だけが生き残っていく(それを可能にする大手資本など基盤がしっかりしていることが不可欠)ということだと思います。


 さて、前述した金融庁「業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点」において、日本仮想通貨交換業協会とのものも公表されていますので、紹介します。


▼金融庁 業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点
▼日本仮想通貨交換業協会


 まず、「認定後半年経過したが、その間にも改正法案の提出や新規業者の登録等行っているところ、環境変化のスピードが早い暗号資産業界において、自主規制機能を継続的に発揮するためには、自主規制規則について機動的に見直し、充実させることが重要と考えている」こと、「各暗号資産交換業者において、自主規制規則に則した内部規程を概ね策定したと認識している。ただし、内部規程は整備するだけでなく、その内容の適切性や十分性、遵守・定着されることが重要である。この点、各事業者が策定した規程に則り、自主規制を確実に遵守していくよう、貴協会において、実効的なモニタリングを期待している」というように、内部管理体制について、形式的な整備で終わらせることなく実効性ある運用まで求め、自主規制団体を中心に有効なモニタリングを効かせるべきことを求めています。また、リスク管理態勢については、「不正流出対策について、技術委員会の知見も活用し、より厳格な対策等の検討を続けていると承知。また、自主規制団体として、国内外の最新の不正流出事例及びその攻撃手法等に関する情報の収集・分析・周知を徹底してほしい。」、「コールドウォレット管理体制について、内部不正やオペリスクの観点から今後、各事業者における牽制・防止態勢のより一層の整備を求めたいと考えているところ、貴協会にもご協力願いたい」と、自主規制団体への対策の強化の要請とともに、金融庁としてもより一層の厳格化な規制を考えていることが示されており、より一層高い次元での利便性と顧客保護の両立が課題となるといえます(一方で、以前も紹介したとおり、コールドウォレットで管理する暗号資産が相対的に増えた結果、今度は内部者による不正引き出しのリスクが浮上してきており、金融庁が業者を調査したところ、一部の業者で担当者を定期的に交代させるなどのルールが作られていなかったことが判明しており、新たなリスク管理態勢の強化も迫られています)。また、「民事執行法等における債権差押え等に関して、債権者が裁判所への申立てにより、債務者以外の第三者から債務者の財産の情報を取得する手続を新設すべく、改正案が国会へ提出・審議されている。暗号資産交換業者については、当該手続における第三者である金融機関の対象となっておらず、通常、利用規約に基づき、差押命令を受けた顧客によるサービス利用を停止・解約するといった対応を行っていると聞いているが、業界として、民事執行制度の趣旨を踏まえ、関係法令が遵守されるよう、適切な対応をお願いしたい」といった点も確認しておくべき点です。暗号資産を巡る様々な実務がまだまだ手探りである点は否めません(例えば、暴排の観点からの取引解除の際の残存資産の返却方法など銀行口座や証券口座の契約解除とは異なる論点が多数あることが想定されるところです)が、類似の対応を参照しながら、手探りで積み重ねていくことになろうかと思います。


 さて、暗号資産の取引をめぐり、全国で少なくとも50人と30社による総額約100億円の申告漏れが指摘されています。2017年末に主要通貨「ビットコイン」の相場が年初の約20倍に高騰しており、このころに多額の売却益を得たのに税務申告しなかったり、実際よりも少なく申告したりしたケースが相次いだとみられています。ビットコインの誕生から10年が経過し、暗号資産は新しい決済手段として脚光を浴びる一方、「投機」の対象としても注目を集め、暗号資産の「犯罪インフラ」性を悪用した税逃れが横行する実態が浮かび上がりました。今回の事案は、暗号資産の換金(売却)を代行していた都内の会社が、2018年5月までの1年間に約2億円の所得隠しを指摘されたもので、報道によれば、同社は資金決済法で義務づけられた国への登録をせず、ブローカーやSNSなどから換金依頼を集約、換金額の数%の手数料を取っていたということです。報道(令和元年6月5日付朝日新聞)で当該企業の代表が、「登録業者で普通に売買すると取引記録が残ってしまうので、手数料を払ってでも税金をごまかそうとした人が多かった」と述べていますが、まさに規制強化の網をかいくぐって暗号資産の「犯罪インフラ」性を悪用しようとした実態が垣間見えます。

 また、独自の暗号資産「サークルコイン」を販売していた会社Aが東京国税局と沖縄国税事務所の税務調査を受け、平成29年5月期までの2年間で約9億円の所得隠しを指摘されています(重加算税を含む追徴税額は約3億円)。報道(令和元年6月6日付産経新聞)によれば、A社は米ラスベガスの会社Bが発行したとするサークルコインを東京などで販売していたものの、このB社の会実態はなく、A社の代表を務める男性の知人らが設立、サークルコイン自体も都内のシステム開発会社が発行していたことが国税側の調査で分かったというものです。A社が仕入れ代金として経費計上した約9億円は、仮装・隠蔽を伴う所得隠しと判断されたようです。このように、企業が独自の暗号資産を発行し、資金を集める手法であるICOについては、本コラムでもたびたび指摘してきたとおり、国内外で「詐欺的な事案や事業計画がずさんな事案も多い」と指摘されていたところであり、本事案もその典型的な事例であり、暗号資産やICOのもつ「犯罪インフラ」性が課税逃れに悪用されたものといえると思います。

 このように個人がインターネットを介した暗号資産取引などで得た収入に適正に課税するため、国税庁は、全国の国税局などに専門のプロジェクトチームを設置し、情報収集の体制を強化すると発表しています。多額の利益を得た顧客の情報を事業者から入手するなどし、無申告や過少申告による課税逃れを防止するというもので、3月末に成立した改正国税通則法(2020年1月施行)により、一定条件の下、国税当局は多額の利益を得た顧客などの情報を事業者に照会することが可能になることをふまえたものとなります。なお、事業者が正当な理由なく情報提供に応じない場合は罰則もあり、これまで事業者に任意の情報提供を求めて断られることもあったところ、報道(令和元年6月5日付日本経済新聞)で国税庁幹部が「法律に基づいて顧客情報を照会できるようになったことは強力な武器になる」と話しているとおり、暗号資産の「犯罪インフラ」性を封じる有効な手法だといえそうです。各地の専門PTは法施行後、この制度に基づいて暗号資産の交換業者、ネットオークションや民泊仲介サイトの運営業者などから情報を入手し、多額の申告漏れの発見に生かす見通しだといい、今後の成果を期待したいと思います。


 最後に海外の暗号資産を巡る動向について、いくつか紹介します。


  • 英金融行動監視機構(FCA)によると、同国での通貨やビットコインといった暗号資産による詐欺の被害額は2018年度(19年4月末過去1年)に2,700万ポンド(約3,438万ドル)に上ったとされます。1件当たりの平均被害額は14,600ポンド、被害届は前年の3倍以上に増え、1,800件となり、詐欺犯がソーシャルメディアを使って「すぐにもうかる」インターネット取引サービスを宣伝するケースが多かったということです。

  • 前回の本コラム(暴排トピックス2019年5月号)でも紹介したとおり、米フェイスブック(FB)が暗号資産を発行する計画があるとされ、FBは5月に、データ分析や投資に加え、ブロックチェーン技術や決済に取り組むフィンテック企業をスイスに設立しています。一方で、米商品先物取引委員会(CFTC)の委員長が、FBとの協議は、同社の暗号資産の計画がCFTCの監督を受けるものかどうかを理解するための初期的な段階だと明らかにしています。FBは送金や買い物での利用を検討しているとされ、実現すればインターネット通販で最も利用される仮想通貨になる可能性があり、暗号資産の「安定化」につながれば、市場の健全性が進むことも予想されるところであり、今後の展開に注目したいと思います。

  • 大阪市で開かれるG20サミットへの政策提言をまとめた、シンクタンク関係者の枠組み「T20」の会合に参加した米ミルケン研究所のクロード・ロペス氏は、インターネットを介した個人間でのお金の貸し借り「ピア・ツー・ピア(P2P)レンディング」や暗号資産などが、各国の異なる環境の中で広がっていることを指摘したうえで、新しい金融サービスに対しても各国が共通した定義を持って監視・対処できるよう、「G20は枠組みをデザインしていくべきだ」と述べたほか、その枠組みを通して「リスクを認識することは強靱な金融システムを作ることになる」、「先進国と発展途上国が参加し世界経済の多くを占めるG20の議論は非常に役に立つ」として、サミットでフィンテックや暗号資産に関する国際的な監視、規制ルールの導入を目指していくべきだと指摘しています(令和元年6月5日付産経新聞)。確かに、もはや国境を飛び越えるインターネットを介したフィンテックや暗号資産を、各国の異なる規制下でバラバラに監視することは、「規制の緩い」抜け穴探しにつながり悪用リスクを高めるだけであり、同氏の指摘するとおり、国際的な強靭な金融システムの構築が急がれます。

(4)テロリスクを巡る動向

 スリランカ同時爆破テロから2か月が経とうとしています。前回の本コラム(暴排トピックス2019年5月号)でも指摘したとおり、今回のテロの背景にはイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)の関与が認められ、「リアルIS」から「思想的IS」への流れがあります。そして、ザフラン・ハシム容疑者が率いた犯行グループの全容もいまだ不明であり、再度のテロ発生への懸念もぬぐえないことと相まって、テロ発生の事実自体によって、社会に、疑心暗鬼や憎悪、「亀裂」「分断」がもたらされ、そのことによって、すでにIS/テロ受容の土壌が醸成され始めているという事実は、極めて重いものだといえます。最近の報道も、異なる宗教が一定の摩擦はありつつも共存してきた社会を、事件が分断した様子を伝えるものが多い気がします。例えば、「少数派のイスラム教徒への警戒感と敵意が拡大し、キリスト教徒らによる襲撃事件が相次いでいる」、「イスラム教徒への敵視が続くかと思うと不安で仕方ない」、イスラム教信者から「一部のならず者の犯行だ」「イスラム教は平和を願う宗教だ」と偏見を必死に取り除こうとする声が聞かれる、といったものが代表的です。テロが発生する背景にあるのは、「憎悪」「混乱」「分断」「亀裂」などですが、それと関係のない国や地域ですら、一度テロが発生してしまえば、人々の間に「不審」「不信」から「憎悪」などの感情が芽生え、「自分たちと異なる」ものに対する「疑心暗鬼」や「憎悪」が台頭し、ついには社会に「分断」「亀裂」がもたらされ、そのことがあらたなテロ発生をもたらす・・・というテロ発生のネガティブ・スパイラルが、今、スリランカで起きているのです。このようなテロ発生のメカニズムをISやテロリストが熟知しているがために、各地のローンウルフ型テロリストやホームグウン・テロリスト(あるいは、全世界に散らばっている信奉者やIS元戦闘員、外国人戦闘員など)に思想的に呼び掛けて蜂起させ(あるいはそれに刺激されて自立的な蜂起へと駆り立てられ)、(テロとは無縁そうな国や地域にさえ)社会の分断をもたらし、それに伴う「混乱」を引き起こすことを企図しているのであり、それこそがテロリストの真の狙いだといえます。そして、このようなテロ発生のメカニズムから日本も逃れられない現実を直視する必要があります。

 一方、報道(令和元年5月21日付朝日新聞)によれば、ダボス会議を主宰する世界経済フォーラム(WEF)総裁は、「中東地域には、二つのシステムが同時に存在する。新たなテクノロジー、100社以上のスタートアップ企業など経済発展のシステムと、紛争、テロ、過激主義、若年層の失業などガバナンス(統治)にかかわるシステムだ。前者が後者を押さえ込めるように取り組みたいのです」と述べていますが、これはまさに、2016年に日本がG7 伊勢志摩サミットにおいて取りまとめた「テロ及び暴力的過激主義対策に関するG7 行動計画」等に基づき、(1)テロ対処能力向上、(2)テロの根本原因である暴力的過激主義対策及び(3)穏健な社会構築を下支えする社会経済開発のための取組から成る総合的なテロ対策強化と呼応するものと考えられます。伊勢志摩サミットにおける成果文書のひとつ「テロ及び暴力的過激主義対策に関するG7行動計画」において明記された「寛容」や「異文化・異宗教間の対話や理解」「多元的共存」など共通の価値観と思われたものすら、IS/テロの凶暴性の防波堤となりえなかった事実は、今後のテロ対策を考えるうえでは極めて重い事実して伸し掛かってきます(これらの普遍的な価値観と思われるものですら、結局は共通のものではなかった、IS/テロの行動原理は全く別の価値観に基づくものであることをあらためて突きつけられたことが衝撃でした)が、その限界をふまえつつ、社会経済的な側面からのアプローチによってテロを封じ込める、すなわち、社会経済的な精神面・経済面での充足感が人々の「疑心暗鬼」や「憎悪」、「亀裂」「分断」を和らげる可能性がありそうなことは直観的に理解できるところです。テロを宗教的な対立という視点からのみ捉えていては、有効な打開策を打ち出すことは難しいのも事実であり、日本が国際社会におけるテロ対策において活躍できる領域として今後、力を入れていくべきだと思います。


 最近のISの動向について特筆されるのは、まず、インドに「州」の設立を主張している点が挙げられます。また、5月10日に声明を出し、インド軍を攻撃したとも明らかにしています。ISは4月29日に、約5年ぶりに最高指導者アブバクル・バグダディ容疑者だとする動画を公開したばかりであり、組織の衰退が進むなか、インドでの「支配領域」の保持を宣言し、影響力を誇示する狙いがありそうです。報道によれば、ISは、今回の声明で、インドを「ヒンド州」と表現、北部のカシミール州でISの戦闘員がインドの「背教者の軍」と交戦し、殺害、負傷させたとしています。インドでの「支配領域」の主張は初めてであり、具体的な地域や、実際に組織化されているかは不透明であり、今後の動向を注視する必要があります。さらに、ISは、さらにパキスタンに「パキスタン州」の設立をも宣言しています。活動拠点としたイラクとシリアで続く掃討作戦で追い込まれる中、「南アジア」全体での影響力を誇示する狙いがあると考えられます。また、ISと日本という意味では、ISと接点があるとして指名手配されていた日本国籍の元立命館大学准教授、モハマド・サイフラ・オザキ容疑者が、3月にイラクで米軍に拘束されていたことがわかりました。オザキ容疑者は、バングラデシュの若者をISへ送り込む役割を担っていたとされ、2016年7月に首都ダッカで日本人7人を含む人質20人が殺害されたテロ事件では、犯行グループの勧誘を仲介したとみられています。報道によれば、米軍により、IS戦闘員の中でも、組織中枢やテロ情報にアクセス可能だった「重要かつ危険な人物」の一人として尋問を受けている可能性があるということです。本件については、バングラデシュと日本との二重国籍とはいえ、れっきとした日本人テロリストだという事実、約15年間、日本で暮らし、日本の大学で学び、教えていたという事実を重く受け止める必要があります。各種報道を総合すれば、テロ組織は、社会に不満を持つ若者の勧誘や戦闘員としての訓練、資金、武器の提供など、世界規模での作業を経て実行に移されるものであり、オザキ容疑者は、その一端を日本で担ったこと、日本経由でテロリストが移動している可能性など、日本がISの活動拠点となり、テロを助長した側面もあると考えれば、もはや日本もテロとは無縁ではないと考えるべきだということです。本コラムでもたびたび指摘しているとおり、東京五輪を来年に控え、社会全体でテロへの警戒レベルを高め、事業者や市民がそれぞれの立場で「できること」を考え、実践していくこと(例えば、市民であれば、市井に潜むテロリストやテロの前兆事象の把握や通報など、事業者であれば、不審な購買行動の把握や通報など)が求められています


 また、以前の本コラム(暴排トピックス2019年4月号)でも取り上げたニュージーランド(NZ)銃乱射テロにおけるSNSのあり方を巡る議論については、同テロから2カ月となる5月15日、SNSがテロリストに悪用されるのを防ぐ取り組みを検討する国際会議がパリで開かれ、各国首脳や大手IT企業トップらが「クライストチャーチ宣言」を採択し、テロを助長する危険思想や暴力的な投稿の拡散防止へ向けた官民協力を確認しています。宣言で各国政府は、テロや暴力的な過激主義に立ち向かい、適切な法整備に努める方針を確認、IT企業側は、テロリストや過激主義者の投稿とネット上での拡散を阻止し、危険な投稿の「即時かつ永久的な削除」を約束する内容となりました。ただ、法的拘束力はなく企業の自主的な取り組みに委ねられている現状に変わりはないことや、IT産業集積国である米国や、急速にIT化が進む中国は参加しなかったことなど課題も多いといえます。なお、米国は「我々はオンライン上のテロ対策を継続する」としながらも、「表現の自由も尊重する」とする声明を発表し、宣言を支持しておらず、今後、ネットのテロ悪用防止に実効性のある仕組みを作るには、米国や中国の関与を促しつつ、議論を継続していく必要があります。なお、本宣言と関連して、NZのテロへの対応で批判を浴びたFB(フェイスブック)は、テロの犯行声明を共有するなどしたユーザーのライブストリーミングの使用を30日間禁止することに加え、AIの監視をすり抜けるよう編集されたコンテンツを検出するための技術開発に750万ドル(約8億2,000万円)を投資することを表明しています。なお、関連して同社は、偽アカウント22億件を削除したと発表しています。偽アカウントの削除件数が急増した理由について、一度に、大量のアカウントを自動作成しようとするサイバー攻撃が増えているためと分析しており、FBはAIなどを駆使し、大半の偽アカウントを開設から数分以内に削除しているといいます。ただ、一方で、FB側の対策をかいくぐってなお使われる偽アカウントは約1億1,900万件あり、月間利用者数の5%に上るということです。また、報告書では1~3月に削除した有害な投稿の件数も公表しており、内訳として、暴力的な描写が3,360万件、性的な描写が1,940万件、テロリストを称賛する投稿が640万件、ヘイトスピーチ(憎悪表現)に関する投稿が400万件などとなっていることを明らかにしました。また、SNSの投稿監視態勢の強化という点では、動画投稿サイトのユーチューブが、ネオナチなど至上主義的な内容や、銃乱射事件など暴力的な事件の発生を否定する動画の投稿を禁止する方針を発表しています。ユーチューブはこれまでヘイトスピーチ(憎悪表現)を含む動画の拡散を防ぐ措置をとってきたところ、特定の投稿を禁止するのは初めてとなるといいます。投稿が禁止される条件として「年齢、性別、人種、カースト、宗教、性的指向、兵役経験などの資質に基づく差別、隔離、排除を正当化するために、ある集団がより優れていると主張する動画」と説明しており、参考になります。また、SNSとテロ対策という観点では、米がテロ対策の一環として、ビザの申請の際にSNSアカウントの申告を義務化したことも特筆すべき取り組みです。これは、テロリストら危険人物が入国するのを防ぐため、就労や留学で米国のビザを申請する際に、過去5年間のソーシャルメディアのアカウント情報を申告することを義務づけるというもので、フェイスブックやツイッター、インスタグラム、中国の動画サイトなどで過去5年間に使ったアカウント名やメールアドレス、電話番号などの記入が求められ、虚偽の申告をすれば罰せられる可能性があるといいます。


 さて、先日、川崎20人殺傷事件が発生しましたが、何らかの主義主張・イデオロギーが背景にあるテロとは異なるものの、通り魔とは、その犯行手口・手段や結果の重大性は類似性があります。この点、「なぜ日本では「世の中への報復」がテロではなく通り魔を生むか」という国際政治学者の六辻彰二氏の論考がNewsweek Japan誌上に掲載されており、大変興味深い内容です。以下、参考となる部分について、少し長くなりますが、抜粋して引用します(下線部は筆者)。


  • テロリストが社会変革を叫ぶのに対して、通り魔は自己発散そのものに重点があるといえる。

  • なぜ、日本ではテロリストではなく通り魔が目立つのか。一言で言えば、社会に破壊衝動を抱きやすい者を吸収する場が、日本ではほとんどないからだ。日本では社会に適応するのが難しい者が家族・親族に世話されることが多いが、身内でもあくまで独立した個人として扱う欧米圏では、成人後は家から追い出されることが珍しくない。そのような場合、安定した職がなく、また公的支援も受けず、孤立した個人に居場所を与える役割を、宗教関係者や慈善団体が担うことが多い。

  • そうした人的ネットワークのなかで「君は悪くない。悪いのは世の中で、これを正す必要がある」と吹き込まれ、過激な思想を自分のものとする者は少なくない。

  • ネット空間だけでなくリアル空間で居場所を見つけることで、人生がうまくいかない者は過激思想に接触する機会が生まれやすいといえる。そのため、たとえ犯行そのものは単独のいわゆるローンウルフ型だったとしても、テロリストの多くは特定の勢力の影響を受けている

  • 負のエネルギーを集積する場がない(それがあった方がよいと言っているわけではない)ことは、「世 の中への報復」を意識した者が単独で、しかもメッセージなしに凶行に及ぶ土台になる。日本でテロリストより通り魔が目立つことからは、諸外国と比べても孤立しやすい社会のあり方をうかがえるのである。

  • こうした日本社会に特有の状況は、破壊衝動にかられる者への対応で、他国にはない難しさを浮き彫りにする。通り魔が目立つことは、少なくとも同時多発的、組織的な犯行になりにくいことを意味する一方、テロリストの場合よりも行動を事前に予測・警戒することが難しい

  • どの国でも当局によるテロ対策は、拠点となる組織や指導者をマークすることが中心になる。そこには、過激な説法をするイスラーム聖職者やオピニオンリーダー的な白人至上主義者が含まれ、彼らを糸口に関係者や予備軍を洗い出すことが一般的だ。日本でも公安調査庁などは主にオウム真理教やその後継団体アレフ、革マル派、在特会などをマークしている。

  • しかし、通り魔の場合、その予備軍はネット空間でもリアル空間でも孤立しやすいため、それまでに家庭内暴力を含む何らかの犯罪や迷惑行為が明るみになっていなければ、当局が事前に絞り込むことは不可能に近い。そのうえ、低所得、ひきこもり、メンタルな問題などはそもそも警察の担当ではなく、こうした問題を担当する社会福祉事務所などは治安機関との情報共有をほとんど想定していない

  • こうした情報不足は、通り魔事件の発生を事前に兆候を察知することを難しくする一因といえるだろう。

  • あらゆる個人の問題を「家族が対応するべき」と決めつけたり、何かあれば家族・親族まで罵詈雑言を浴びせられたりする風潮が多少なりとも改められなければ、身内が事前に情報提供することすら難しくなりやすい。その意味で、通り魔による悲惨な犯罪を減らすためには、社会に適応するのが難しい者を抱える身内だけでなく、社会全体の対応もまた問われているといえるだろう


 本論考にある「(テロリストについて)ネット空間だけでなくリアル空間で居場所を見つけることで、人生がうまくいかない者は過激思想に接触する機会が生まれやすいといえる。そのため、たとえ犯行そのものは単独のいわゆるローンウルフ型だったとしても、テロリストの多くは特定の勢力の影響を受けている」、「通り魔が目立つことは、少なくとも同時多発的、組織的な犯行になりにくいことを意味する一方、テロリストの場合よりも行動を事前に予測・警戒することが難しい」、「通り魔の場合、その予備軍はネット空間でもリアル空間でも孤立しやすい」、「当局が事前に絞り込むことは不可能に近い」といった指摘は、社会的包摂のあり方、リスク対策のあり方についていろいろ考えさせられるところです。

 なお、昨年発生した東海道新幹線殺傷事件から1年が経ちましたが、通り魔的犯行への対応の難しさをあらためて痛感します。報道(令和元年6月7日付朝日新聞)によれば、被告は警察の調べに「社会を恨んでいる。誰でもいいから殺したかった」などと供述しているほか、逮捕されてから「会いたくない」と面会を拒絶し、手紙すら受け取らない状況が続いているということです(まさにリアル空間で孤立を深めている状況です)。一方、国や事業者の対策については、国交省は省令を改正し、今年4月から乗客の手荷物として梱包していない刃物を持ち込むことを禁止、対象はナイフ、包丁、はさみ、のこぎりなどで、各社が運用を開始していること、JR東海では、車内ではさみやカッターナイフを使っていた乗客に乗務員が使用を控えるよう伝えた事例もあったが、いずれも乗務員の指示に従い、降車にまでは至らなかったこと、JR西日本やJR九州でも、車内を巡回する警備員の増員や乗務員の防護装備の充実などに注力していること、東海道新幹線では、5月末までに警備員が全列車に同乗する態勢をとったことなどが挙げられています。発生を未然に察知し予防することは難しい通り魔ではありますが、単独犯であること(あるいは訓練された者でないことが多いであろうこと)をふまえれば、事件発生時に乗客らを守るための何らかのアクションが取り得るともいえます。今後も継続して対策をブラッシュアップしていくことが求められます。

 一方、今年正月に原宿で発生した暴走事故もまた通り魔的ではありましたが、最近の報道によれば、事件の約半年前、火炎放射器として使おうと現場に持参した高圧洗浄機とは別の大型洗浄機を購入していたことも判明するなど、無差別殺傷事件を長期にわたり計画していた可能性があることがわかってきています。さらに、容疑者の住居にあったパソコンを解析した結果、イスラム教関連の書籍の購入履歴が見つかったほか、海外でのテロに関する情報を収集した形跡もあったということです(ただし、特定の宗教や政治団体への所属は確認できなかったようです)。これらの情報をふまえれば、明確な・特定の主義主張・イデオロギーに基づくものかどうかは不明ながら、通り魔的要素をもちつつも、本質的にはローンウルフ型テロリストではないかと考えられます。つまり、日本でもテロが起こり得ることが示されたものとして捉える必要があります。


 最後に、テロリスク対策に関する最近の報道から、いくつか紹介します。


  • 山口県宇部市の山口宇部空港内の貨物倉庫で「爆発物の疑いがある貨物を発見した」と、航空貨物の取扱業者から県警に通報がありましたが、県警機動隊の爆発物処理班は爆発物ではないことを確認したという事案がありました。貨物は羽田行きの航空機に載せる予定だったジュラルミンケース(縦約40センチ、横約30センチ、高さ約20センチ)で、中には書類などが入っていたということです。通報した取扱業者によると、ケース表面から、爆薬に含まれる成分が複数回検出されたといいます。この影響で、空港周辺の道路が午後6時20分頃から約1時間規制され、空港への出入りができなくなりました。不審物かどうかを見極めるスキルを高める努力はもちろん必要ですが、本事例のように、道路規制や運航停止などの大きな影響が生じるのを承知で、「声を上げる」勇気は高く評価できるものです。

  • 政府は今年度、各国の情報機関とテロ情報を交換する組織「国際テロ情報収集ユニット(CTUJ)」に「欧州班」を新設しました。従来、イスラム過激派などの動きが活発なアジア、中東、アフリカに置いていましたが、近年は欧州でのテロが頻発しており、テロに関する情報の入手体制を強化し、在外邦人の安全を確保する狙いがあります。2020年東京五輪・パラリンピックなど国内での大規模イベントが控える中、日本国内でのテロ事件の未然防止にもつなげたいところです。

  • 原子力規制委員会が、原発に設置が義務づけられているテロ対策施設の設置期限が守れない場合、原則として原発の運転停止を命じると決めたことを受けて、原発4基の再稼働を追い風に業績を回復させてきた関西電力が、新たな苦境に立たされることになりました。施設の完成が遅れて原発が停止すれば、大幅な減益は避けられず、規制委に運転継続への理解を求めていく方針だが、今後の展開次第では経営戦略の見直しを迫られることになります。関連して、九州電力は、定期検査中の玄海原発3号機に新設するテロ対策施設「特定重大事故等対処施設」(特重施設)の工事計画の一部を原子力規制委員会に申請し、原発の稼働停止を避けるために設置期限の2022年8月までに完成を目指すと発表しっています。認可され次第、工事に着手するとしています。重要インフラにおけるテロ対策が喫緊の課題とされているところ、電力会社もその対策を急ぐ必要があるといえます。

  • 2020年東京五輪・パラリンピックを控え、厚生労働省は、化学テロでサリンなどの有毒ガスが散布された際、医師でなくても解毒剤注射を打つことを可能にする方向で検討に入りました。化学テロが発生した際、医療機関搬送後の解毒剤投与では遅過ぎるとの指摘に対応するもので、現行法上は、注射を他人に打つのは医療行為に当たり、医師や看護師以外は医師法違反になるところ、現場となった汚染地域(ホットゾーン)で、消防隊員や自衛官らによる注射を可能にする方向で議論を進めるということです。

  • 東京都は、大阪市で6月に開催される主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)や、9月開幕のラグビーW杯日本大会などに備え、5月16日から都庁舎の警備を強化しています。G20 サミットが開催される6月27~29日は入庁の前に、手荷物検査などを導入する予定としており、警備強化は11月15日まで続きます。都庁舎では展望室を訪れる観光客が大勢押し寄せており、自由に出入りできていましたが、出入り口などで手荷物検査や金属探知機による所持品検査を行うことになります。観光客の利便性を損なうとはいえ、テロ対策としては当然のことだといえます。

  • 大阪G20サミットについて、外務省は「日本が主催する国際会議としては史上最大規模」と強調、警備体制の整備など大がかりな準備が進んでいます。すでに重要地域でのドローンの飛行を全面的に禁止するなど、大阪府警は警備の準備を本格化させており、「史上最大の警備」と位置づけ、2万5,000人超の警察官を動員して要人の安全確保やテロ防止に臨んでいます。

  • USJ(ユニバーサルスタジオジャパン)は、6月1日から手荷物検査を強化しています。これまで不定期に行っていた入場時の手荷物検査を毎日実施、全ての荷物について「かばんの底が見えるまで確認」しているといいます。また、サミット前後4日間は施設内にあるコインロッカーの使用を禁止、サミット期間中は大阪市内を中心に大規模な交通規制が行われるため、車での来場自粛も呼びかけるといった対策を講じています。

  • G20サミットに備え、第5管区海上保安本部は、主会場となる国際展示場「インテックス大阪」がある人工島・咲洲付近で、テロやサミットの妨害活動を想定した海上警備訓練を行っています。約200人と巡視船など18隻、ヘリコプター1機の態勢で行われ、サミットに向けた海保の訓練では最大規模となりました。訓練は不審なプレジャーボートが停止命令を無視し、岸壁に近付いてきたなどと想定して行われました。

  • G20サミットを前に、神戸市中央区の神戸ハーバーランドで、銃乱射テロを想定した訓練が行われています。兵庫県警や民間企業から約100人が参加し、テロリストを摘発する手順などを確認しています。官民が連携してテロ防止に取り組もうと、生田署や同区内の企業などが昨年2月に設立した「いくたテロ対策パートナーシップ」が主催、訓練はイベント会場に現れたテロリストが、来場者に銃を乱射したとの想定で行われました。

  • G20サミットに備え、京阪電鉄とリーガロイヤルホテルは、大阪市北区の京阪中之島駅などで、大阪府警天満署や消防と合同で約100人態勢のテロ対策訓練を行い、連携を確認しています。訓練は、渡辺橋-中之島駅間を走行中の車内で薬物が散布されるテロが発生し、犯人が避難した利用者に紛れて中之島駅直結の通路からリーガロイヤルホテル内に逃げたという想定で行われました。

  • G20サミットに備え、JR西日本が、相生-姫路間を走行中の新幹線のぞみで、凶器を持った不審者が周囲の乗客を襲ったと想定で訓練を実施しています。防護装備品を着用した車掌らが犯人に対処する一方、別の乗務員が負傷者を避難誘導し、姫路駅で待ち受けていた警察官が車内に突入して犯人を取り押さえるといった内容で行われました。また、ホームでは消防隊員が、負傷者に対して治療の優先順位を決めるトリアージを実施、その後、犯人が車内に残したバッグを、機動隊の爆発物処理班が回収するといった対応も確認しています。

  • 茨城県つくば市で開かれるG20の貿易・デジタル経済担当相会議を前に、つくば市消防本部は、市豊里交流センターでテロ対策訓練を実施しています。訓練は、会場で不審な液体がまかれ負傷者が出ているとの想定で行われ、4月に市消防本部に発足したテロ対応チーム「特殊災害対応部隊」や県警などから計約60人が参加、関係機関の連携の手順を確認しています。

  • 麻生財務相は、G20サミットを前に、全国の税関トップを集め、テロ防止に向けた水際対策の徹底を指示しています。財務省内で開かれた税関長会議で、「テロ対策が課題となっており、税関は勝負ともいうべき時期を迎えている」と、取り締まりを強化するよう呼び掛けています。

  • G20サミットに備え、奈良県警生駒署などは、同県生駒市の宝山寺第二駐車場でテロ対処訓練を実施しています。生駒署員や県警機動隊員ら約30人が参加し、緊急時の初動対応や爆発物処理の手順を確認しています。訓練は、検問を振り切り逃走した車を発見し停車させたところ、刃物を持った男が降りてきて警察官を襲撃、その場で取り押さえるも、車内には爆発物の入ったかばんが積まれていたとの想定で行われています。
  • 福岡市で開かれるG20財務相・中央銀行総裁会議について、福岡開催としては過去最大級のイベントを前に、警察はテロへの警戒を強めています。世界各地で民間人を狙ったテロが頻発するなか、福岡県警は民間企業や市民にも協力を要請、官民一体で前例のない規模の警備に挑む姿勢を見せています。

  • G20サミットに備え、大阪府警などは、石油などを運ぶタンクローリーやトラックの運転手らに、サミット期間中の安全確保の徹底や運転自粛を呼びかけています。サミット前後4日間は、大規模な交通規制や検問が行われる予定となっており、タンクローリーによる事故が発生したり、盗まれてテロに使用されたりした場合は影響が大きいとして実施しているものです。

  • G20サミットに備え、大阪空港を運営する関西エアポートと大阪府警、兵庫県警などが、不審者が空港の滑走路に侵入したとの想定でテロ対策訓練を実施しています。訓練には約60人が参加、バイクの男が警備員の隙を突いて、一般人が入れない制限区域のゲートを突破、侵入し、滑走路方面に逃げたとの想定で行われました。滑走路を封鎖し、管制塔などへ連絡、航空機の移動停止を要請する手順を確認、最後は駆け付けた警察官が「G20反対」と叫ぶ男を取り押さえるという内容でした。

  • 警視庁は、東京五輪の競技会場や羽田空港などがある東京沿岸部でのテロに対処するため「臨海部初動対応部隊」(WRT)を発足しました。サブマシンガンを携行した隊員らが水上バイクやゴムボートに乗って警備に当たるもので、同庁で五輪に向けた対テロ部隊が発足するのは初めてとなります。重武装テロに対応する精鋭部隊「緊急時初動対応部隊」(ERT)とともに第6機動隊内に設置され、潜水士や小型船舶の免許を保有する隊員が海上で警戒監視に当たり、有事の際はテロリストの上陸や洋上への逃亡を防ぐことになります。
(5)犯罪インフラを巡る動向

 本コラムでたびたびとりあげているタックスヘイブン(租税回避地)の「犯罪インフラ性」については、あらためて説明するまでもありませんが、直近では、貴金属商社大手の創業者と、英領バージン諸島のタックスヘイブンにある会社が、東京国税局から所得税と法人税計約66億円の申告漏れを指摘されていた事例が記憶に新しいところです。さて、こうしたタックスヘイブンは「国際的な課税逃れ」のための「犯罪インフラ」性も高く、国際的な租税回避を防止するためにOECDが、非居住者に係る金融口座情報を税務当局間で自動的に交換するための国際基準である「共通報告基準(CRS)」の運用を開始しています。現在、日本を含む 100 を超える国・地域がCRS に参加し、参加各国に所在する金融機関は、管理する金融口座から税務上の非居住者を特定し、当該口座情報を自国の税務当局に報告、報告された情報は各国の税務当局間で相互に共有されています。今般、昨年9月に導入された当該制度により、90カ国以上の政府が約4,700万件のオフショア口座の情報を交換したと表明しています(令和元年6月7日付ロイター)。さらに、情報交換の対象となった口座に入金されている資金は総額4兆9,000億ユーロ(5兆5,000億ドル)で、日本の国内総生産(GDP)を上回る規模となっているということです。このような成果について、OECD事務総長は、「G20 を通じて設計・施行した透明性向上に向けた取り組みにより、巨額の海外資産が見つかった。今後、各国の当局が効果的に課税できるだろう」と表明、税務コンプライアンスはすでに改善しているとの見方を示しています。課税逃れの「犯罪インフラ」性の排除につながったCRSの取り組みはまずは期待を裏切らない成果をあげていますが、今後、その資産の詳細が把握されることで、AML/CFTや犯罪組織がらみの資金の流れが明らかとなることも期待したいと思います。


 また、国内の「住」を巡る「犯罪インフラ」の状況についても、いくつか見てみたいと思います。まず、元ホームレスなど生活の苦しい人たちが利用する「無料低額宿泊所」について、厚生労働省は、最低限の設備や運営方法を記した基準案を公表、1部屋をベニヤ板などで区切り複数のスペースを設ける簡易個室と多人数の居室は3年以内に解消を図るとしています。また、直近の厚生労働省の調査によれば、無料低額宿泊所の利用者のうち、45.2%に知的障害の可能性、22.1%に認知症の可能性があることがわかったということです。劣悪な環境下に利用者を押し込み、知的障害や認知症の可能性のある「社会的弱者」などを相手に生活保護費を搾取する「貧困ビジネス」を排除するため、基準案では最低基準に従わない悪質な事業者に対し福祉事務所が新規紹介をしないことや、暴力団の排除なども盛り込まれています。「無料定額宿泊所」が「貧困ビジネス」の舞台として「犯罪インフラ」と化している状況の改善は急務であることを痛感させられます。また、民泊については、規制の厳しさ(?)から「闇民泊」のような悪質な事業者は排除されつつあると見られていますが、摘発されているのは氷山の一角でしかなく、実際は、無数にある海外の民泊サイトのうち、「緩い」海外の旅行会社とのみ契約するなど、むしろ地下に潜って増えているのではないかと考えられます。さらに、闇民泊は売春の目的で悪用されるケースも増えているといった指摘もあります。闇民泊売春は摘発が難しく、(週刊誌情報ではありますが)「今後は裏風俗の1ジャンルとして確立されていくだろう」、「ある闇民泊売春には、万が一の時の逮捕要員である書類上の物件所有者とは別に影のオーナーがいます。暴力団などの資金源となっている可能性も考えられます」といった情報も信憑性が高いものと思われます。暴力団の資金源の「犯罪インフラ」化している闇民泊については、監視・摘発すべき行政側のリソースの限界もあり、社会全体で監視の目を光らせていくことが重要であり、今後もその動向を注視していく必要があると思われます。また、以前から本コラムでは「犯罪インフラ」の典型として紹介してきた「空き家」について、最近でも特殊詐欺(架空請求詐欺等)に悪用されている実態が明らかになりました。4月に東京都内で発生した特殊詐欺事案では、アパートの空き部屋が宅配便の送付先になっていることを不審に思った宅配業者の通報で被害を水際で防ぐことができています(荷物の中には70代男性がだまされて送った100万円超が入っていたといいます。このように、無料定額宿泊所・闇民泊・空き家の共通点としては、管理・監視の甘さや、外形的に正規の居住宅等と区別がつきにくい点などが挙げられます。また、「不審な」人の出入りや状況等が何かしらのきっかけで把握されない限りは、「見つけにいく」ことが難しい実態があります。管理主体の取り組みでは限界があるから「犯罪インフラ」化が進むのであり、犯罪を許さない、暴力団等の犯罪組織を助長させてはならないとの共通認識のもと、関連する事業者(たとえば、不動産事業者や宅配事業者、近隣に所在する事業者など)や市民による社会的な監視態勢(社会の目)を強化していくといった発想も必要だと思います。


 さて、本コラムでもたびたび取り上げてきましたが、テロにも使われる高性能爆薬(過酸化アセトン(TATP)やより強力な四硝酸エリスリトール(ETN))を作ったとして、警察に摘発された元大学生と高校2年生がSNSで情報交換していたことが判明しています。報道(令和元年5月18日付産経新聞)によれば、元大学生は拳銃や覚せい剤も製造、SNSでやりとりしていた高校生も、ETNや原料だけでなくウランをネットで購入したり、天然の鉱石からウラン精鉱を精製しネット上に出品していたといいます。報道の中で警察が指摘しているとおり、こうした人物が過激化し、テロリストに変貌する恐れもあり、東京五輪を控え「完璧な対策はなく、一般市民の協力が不可欠だ」と指摘している点はまったく同感です。そして、一連の事件を支えているのは、危険な情報やノウハウを入手するためのネットやSNS、爆薬の原料が簡単に入手できる本人確認等の甘さ、危険物質の入手や出品が可能なネットオークション(その監視態勢や本人確認などの仕組みの甘さ)などであり、さまざまな「犯罪インフラ」が組み合わさって危険な状態を作り出していることを実感させられます。繰り返しになりますが、何の思想的背景もなく興味本位であっても(過激思想に染まればなおさら)、これらの「犯罪インフラ」が、結果的に深刻なテロをもたらす可能性を高めていること、すべての事業者や市民が「犯罪インフラ」を助長させないとの意識を持ち、「社会全体の協力」のもと、ワンランク上の取り組みを進めることで、そのリスクの低減につながるのではないかと考えます。


 また、海外の犯罪組織が関与する車の盗難事犯において、「犯罪インフラ」として重要な役割を果たしているのが解体施設「ヤード」ですが、愛知県は、自動車などの解体や保管をする作業場「ヤード」に盗難車が持ち込まれ、解体・転売されることを防ぐための条例案を6月県議会に提出するとのことです。同県は昨年中の自動車盗被害額が全国で2番目に多く、ヤードも同県内に200か所以上あると言われている中、盗難車の処分ルートを断つことが喫緊の課題とされていたところ、ヤードを営む事業者に所在地の届け出や運び込んだ人の身分確認を義務付け、警察が単独でヤードに立ち入り検査することも可能になるといい、その効果が期待されます。

なお、先行事例としては、千葉県が「千葉県特定自動車部品のヤード内保管等の適正化に関する条例」を平成27年4月から施行されています。


▼千葉県特定自動車部品のヤード内保管等の適正化に関する条例


 本条例では、その目的の1つである「県民の平穏な生活の確保」に対応する手段として、「特定自動車部品のヤード内保管等に係る原動機の取引の相手方に関する氏名等の情報について確認をさせ、不正品の疑いがあると認めるときには警察官への申告をさせることで、不正に取得された自動車又は自動車部品をヤードに持ち込みづらい状況にし、ヤードの適正化を図る」ほか、「規定の実効性を確保するため、知事によるこれらの規定に違反している者に対する勧告について規定」、「本条例の実効性を担保するために、行政指導にとどまる勧告とは別に、処分としての性質を有する措置命令の規定」、「知事が、当該職員に、必要に応じて特定自動車部品のヤード内保管等を行っていると認められる者の事業場等に立ち入り、帳簿等を検査させ、又は関係者に質問させることができる権限を定め」、「特定自動車部品のヤード内保管等の適正化のための立入検査を行うに当たり、警察官の援助により当該職員(行政職員)の身の安全を守ることによって、当該職員の円滑な職務の執行を確保」、「条例の実効性を確保するため、違反者に対して、一定の刑罰を科することを規定」、「行為者本人を処罰するとともに、その業務主である法人又は自然人をも併せて処罰する」といった内容となっています。


 その他、最近の事件や報道から、犯罪インフラについていくつか取り上げていきます。


  • トレンドマイクロ社などセキュリティ会社3社がハッキングされ、ウイルス対策ソフトのプログラムコードなどが盗まれた可能性があるといいます。報道(令和元年5月20日付朝日新聞)によれば、アドバンスト・インテリジェンス社の報告として、ハッカー集団Fxmspは、ロシア語と英語を使う人物で構成されているといい、2017年ごろからロシア語のインターネット闇サイトを中心に活動、セキュリティ業界では「ロシア系ハッカー」とみられており、世界各国の政府や企業の機密情報を盗み取っては、闇サイトで販売を繰り返していたということです。同社の調査では、これまでに100万ドル相当の利益を得ており、その技術力は「トップクラス」だといい、「闇サイト」の「犯罪インフラ」化を示すものでもあります。

  • 本人確認をせずに携帯電話の通信に必要なSIMカードを貸し出したとして、神奈川県警特殊詐欺対策室などは、携帯電話不正利用防止法違反容疑で、東京都新宿区の携帯レンタル会社の社長を逮捕しています。昨年6月、運転免許証の提示を受けるなどの本人確認をせずに、数万円の利用料金でSIMカードを氏名不詳者に貸与した疑いがあるといいます。「レンタル携帯」の「犯罪インフラ」性については、以前の本コラム(暴排トピックス2014年9月号)でも取り上げましたが、警視庁が、8事業者がレンタルしていたと思われる携帯電話4,796回線を調べたところ、契約書が作成されていた4,618件(96.3%)のうち、「本人確認の方法」「本人特定事項」等、携帯電話不正利用防止法で規定された記録すべき事項が全て記録されていたのは144回線(3.1%)に過ぎず、しかも、そのうち113回線は書類を偽装した旨供述したということです。さらに、身分証明書の偽変造が認められたものは4,369回線(94.6%)に上ること、真正な身分証明書のコピーが添付されていた247回線で、連絡が実際についたものは50回線(20.2%)、当該者にレンタル契約の認識がなかったものが48回線(96.0%)だというのですから、正に、レンタル携帯電話のほぼ全てが犯罪のために利用されているという驚くべき実態が明らかになっています。

  • 他人のクレジットカードを支払先に指定したスマホ決済サービス「ペイペイ」のアカウントを勝手に使い、名古屋市の家電量販店からブルーレイレコーダーとノートPC(販売価格計約35万円)をだまし取ったとして男が逮捕されています。ペイペイを使った詐欺事件の摘発は全国初となりますが全国で同様の被害が相次いでいるということであり、組織的な犯行の可能性もあるようです。本件では、詐欺グループが佐川急便を装ったメールを送りつけてウイルス感染させたスマホから携帯電話番号などの個人情報を盗み出し、ペイペイのアカウントを勝手に作って不正利用していたということです。ペイペイが求める本人認証を巧妙にすり抜けており、それが「犯罪インフラ」性を帯びていることが明らかとなった以上、同様の仕組みを採用する企業は不正対策の強化が求められるといえます。なお、昨年12月に開催した同社の「総額100億円還元キャンペーン」で、利用総数のうち0.996%が不正だったということですが、今年1月21日に本人確認を強化し、5月13日時点での不正利用は0.003%に劇的に改善したといいますが、それでもこのような事案は発生しており、対策の質を高める継続的な取り組み、犯罪組織との闘いを強いられています。

  • 一般家庭やオフィスで使われているルーターの多くが、脆弱性を抱えたままアップデートされずに放置されており、「犯罪インフラ」化しているといいます。IoTの普及等によって、その危険性は増す一方であり、つなぐだけで使える「利便性」と「セキュリティ」のトレードオフで、現状、利用者も事業者も十分な対策を講じておらず、犯罪者を利する状況が続いているようです。

  • 検察庁を装ったサイトを見せることで被害者を信用させて、現金を振り込ませる手口の特殊詐欺が各地で相次いでいます。報道によれば、愛知県内では昨年4月に初めて確認され、これまでに8件計約765万円の被害が出ているほか、岐阜県でも昨年10月、同様の電話がかかってきたとの相談が1件あったといいます。被害者は全て比較的インターネットを使い慣れている30~40代の女性といい、それを悪用した犯行とみられています。インターネットの「犯罪インフラ」性が悪用されていますが、その利用に慣れているからこそ騙される点が巧妙だといえます。

  • 看護師を装い、無資格でインスリン注射や採血をした疑いのある千葉県の男が、高い時給を得るために免許証を偽造し身分を偽ったとみられる事案が発生しています。千葉県警は、この男を偽造有印公文書行使と保健師助産師看護師法違反の疑いで逮捕していますが、かつて事務職として働いていた施設で入手した看護師の看護師免許証をコピーし、自身の名前に貼り替えたということです。偽造した看護師免許証のコピーを使って約5年前から複数の施設で勤務し、収入を生活費にあてていたとみられますが、そもそも偽造した看護師免許証のコピーを見抜けなかった実務の脆弱性が突かれた形だといえます。

  • 大阪市内で今年4月、偽造クレジットカードを所持していたとしてマレーシア人の男が大阪府警に逮捕された事件で、府警は男が出入りしていた市内のマンション一室を捜索したところ、身近な機器で簡単にカードが作られている実態が判明したといいます。報道によれば、見つかったカードは約1,600枚で、偽造に必要な第三者の個人情報も大量に出回っている中、それらの「犯罪インフラ」が組み合わさってその危険性は高まる一方だといえます。大阪府警は、密輸時の摘発を避けるため、国内での偽造にシフトする恐れがあるとみて警戒を強めているということですが、特殊詐欺の国内外の動向とあわせ、アジト(拠点)のあり方に変化が生じており、注意が必要だといえます。
(6)その他のトピックス

1.薬物を巡る動向

 関東信越厚生局麻薬取締部が大麻取締法違反の疑いで、アイドルグループ元メンバーと女優が逮捕しました。昨今、著名人の薬物事件は後を絶ちませんが、とりわけ若者に人気の著名人であればなおさら、青少年への悪影響も懸念されるとことです。2018年版警察白書によると、大麻事件の摘発人数は2014年以降、4年連続で増加、2017年に摘発された3,008人のうち、年代別では20代が1,174人と最多、うち中高生も55人に上るなど、若年層の大麻乱用が深刻化していることは、本コラムでもたびたび指摘してきたとおりです。そして、その背景には、(1)大麻にまつわる誤った情報がインターネット等で流布しており、興味本位で手を出してしまう実態があること、(2)2014年に医薬品医療機器法(旧薬事法)が改正され、危険ドラッグ等の指定薬物だけでなくその疑いがあるものも販売停止になったことで入手が困難となったことから、大麻に「回帰」した可能性があること、(3)スマホを持つ中高生が増え、ネットで入手方法が調べられる現状があることなどが挙げられます。とりわけ、本コラムでたびたび指摘していますが、若年層への大麻蔓延対策は、「正しい情報」を「正しく届ける」ことが最も重要ではないかと考えています。残念ながら、直近でも、沖縄県警が、大麻取締法違反(所持など)の疑いで、高校生3人を含む沖縄県内の16~19歳の男女5人を逮捕しています。そのうち、高校生3人(女子2人と男子1人)については、いずれも自宅などで大麻を所持していた疑いがもたれており、さらに、譲り受けた疑いで無職の少女(18)を、譲り渡した疑いで女子高校生の知人の少年(19)を、それぞれ逮捕しています。報道によれば、沖縄県警は、高校生らがSNS上で「野菜」という隠語を使い大麻の取引をしていたことをつかみ、複数の事件として捜査していたということで、高校生らは調べに「興味本位で吸った」「体に影響はないと思っていた」などと供述しているといいます。まさに危惧していることが現実となっており、「大麻は安全(体に影響ない)」といった誤った情報の浸透、簡単に入手できるネットやSNSという「犯罪インフラ」の定着からいかに若者を引き離すかが喫緊の課題です。若年層への蔓延を防ぐためには、誤った認識を正し、自らを律する力をつける教育が大切で、たとえば、兵庫県警が昨年、県内の小中高校で、薬物の危険性を訴える講座を約260回開いたとの報道もありましたが、このような地道な啓発活動が重要であることは間違いありません。一方で、たとえ「正しい情報」を適切に届けても、それが届かない者も一定数いるはずであり、認識していたとしても「一時」の「強い興味」で「簡単に入手できる環境」が揃っていれば、その誘惑に負けてしまう者も少なくないはずです。したがって、ネットやSNSの監視活動(ネットパトロール)や摘発(取り締まり)の厳格化、犯罪であること(社会的に制裁を受けること)を適正に広報するといった取り組みもあわせて重要だといえます。


 また、どちらかといえば興味本位で手を出す学生とは別に、20代~30代まで含めた若年層において、「ストレス」から手を出すケースも多いといえます。先日覚せい剤取締法違反(輸入・使用)などの罪で起訴された経済産業省の現役キャリア職員(28)も、「仕事で悩み、処方薬を飲んでいたが、より強い効果を求めて覚せい剤に手を出した」と供述しているようです。また、報道によれば、今年2月に東京・池袋で密売人から初めて覚せい剤を入手して以降4月に逮捕されるまで、インターネットで繰り返し購入し、職場のトイレや会議室でも使用していたということですから、その「依存性」の強さに驚かされます。なお、本件について同省は同被告を懲戒免職にしたと発表しています。また、事務次官も監督責任を認めて訓告処分となりました(職場でも使用していたことを鑑みれば一定の責任は免れないと思われます)が、社会的制裁とともに人事上の厳格な処分も「組織の強い姿勢」を示すものとして重要だといえます。さらに、直近では、厚生労働省関東信越厚生局麻薬取締部(麻取)は、文部科学省の現役キャリア職員で、同省初等中等教育局参事官補佐を、自宅マンションで、覚せい剤と大麻を数グラムずつ所持していたとして、覚せい剤取締法違反(所持)と大麻取締法違反(所持)容疑で現行犯逮捕しています。なお、本件でも、職場からも覚せい剤とみられる薬物が見つかり、麻取が鑑定を進めているといいことです。現役キャリア官僚が続けて逮捕されること自体極めてショッキングですが、本件を通じて、事業者としても「まさかうちの社員が」「まさか職場で」ではなく、「当社でも起こりうる」問題であってレピュテーションを毀損するリスクのひとつとして、薬物問題を「自分事」として捉え、何らかのアクションを起こすべき時にきているといえます。


 また、「無知」が犯罪につながっていますケースも散見されています。今年3月には、東京都荒川区で、社交ダンスのイベントで体調不良を訴えた7人の尿から大麻の成分が検出された事件で、警視庁は大麻製品のチョコレートを会場に持ち込んだとして、イベントに参加した70代の男性を大麻取締法違反(所持)の疑いで書類送検しました。報道によれば、大麻が合法である米・コロラド州の製品で、男性は「米国でもらい、疲れたときに食べてもらおうと思った」と説明、大麻製品とは知らずにイベント会場に差し入れたということです。この問題の本質は、「嗜好用大麻が合法化されている国や地域と日本の法制度の違いに注意が必要」というところにあるのではなく、そもそも大麻は健康に悪影響を及ぼすものであって手を出すべきものではないこと、大麻入りクッキーであることを「知らず」に犯罪に巻き込まれる可能性を示している点にあり、そのようなリスクを認識させられます。そして、「無知」が法令違反につながった事例として、直近では、あへん法で規制されているケシを無許可で輸入・販売していた事業者が公表された事例がありました。


▼厚生労働省 不正けし(ソムニフェルム種)の回収について
▼東京都における報道発表資料


 公表された情報によると、「都内事業者のホームページ上において、あへん法により所持等が禁止されている「けし(ソムニフェルム種)と思われる植物のドライフラワー」が広告されていたことから、当該事業者に対し立入調査を行ったところ、所持や譲渡等が、あへん法で規制されているけし(ドライフラワー)をオランダから輸入し、全国に販売されていたことがわかった」、「都では、当該事業者に対して販売中止及び自社ホームページに注意喚起文書の掲示を指導するとともに、福祉保健局ホームページに当該ドライフラワーの写真等を掲載し、当該品を購入した方に対して注意喚起し回収を図ることとした」といった対応がなされています。そもそもは、住民から、「不正けしと思われる植物のドライフラワーの販売広告を発見した」との情報提供があったもので、東京都が当該事業者から当該ドライフラワー約40本の任意提出を受け、試験を実施した結果、当該ドライフラワーが、あへん法で規制されているパパヴェル・ソムニフェルム・エル(けしがら:けしの麻薬を抽出することができる部分(種子を除く)をいう)であると断定したということです。また、入手経路等の流通状況を調査した結果、オランダの商社から当該事業者が輸入し、フラワーショップ等を通じて市場に流通されていたことが判明、当該けしがらは、本年2月以降、1束あたり約20本で、230束が輸入されたこと、5月27日までに121束が販売されたこと、65束については、他府県に販売されたことがわかっています。花や植物を扱う専門家が、「無知」によって違法薬物を取り扱う事態を招いたことは、リスク管理上の重大な不備であり、同事業者に限らず、仕入れ態勢の見直しや薬物に対する深い理解の習得など、今後講ずべき取り組みは多いといえます。翻って、他の業界の事業者においても、専門性を過信したり、現場に過度に任せきりの態勢を放置することで、リスクや問題に気づけないことはあってはならず、「専門性の陥穽」に陥ることのないようリスク管理態勢の見直しを図る「他山の石」としていただきたいと思います。


 前回の本コラム(暴排トピックス2019年5月号)では、文部科学省が作成した「「ギャンブル等依存症」などを予防するために」という指導用資料を紹介しましたが、厚生労働者から「ご家族の薬物問題でお困りの方へ」(家族読本)という資料が公表されています。身近な方の薬物依存症からの回復のために、文科省の資料同様、その仕組みから具体的な対応要領までわかりやすくまとめられています(ただし、読むのがつらいリアルな実態も描かれています)ので、「正しい情報」を「正しく伝える」ツールのひとつとして、社内研修用の資料等にも活用できるのではないかと思われます。以下に、一部引用して紹介しますが、ぜひ一度、お読みになることをおすすめいたします。


▼厚生労働省 ご家族の薬物問題でお困りの方へ(家族読本)身近な方の薬物依存症からの回復のために
▼全体版


  • 薬物依存症は国際的に認められている精神障害のひとつです。覚せい剤・シンナー・大麻などの依存性のある薬物を使いつづけているうちに心身に異変が生じ、薬物を使いたいという気持ち(渇望)が強くなりすぎて、自分ではコントロールできなくなり、現実にいろいろと不都合が生じているにもかかわらず薬物を使いつづけてしまう障害です。市販の鎮痛薬や咳止め薬、病院で処方される睡眠薬や精神安定薬なども、使い方を誤ると依存症になる可能性があります

  • 薬物乱用とは、ルールに反した「行い」に対する言葉で、社会規範から逸脱した目的や方法で、薬物を自ら使用することを言います。覚せい剤、麻薬(コカイン、ヘロイン、LSD、MDMA など)は、製造、所持、売買のみならず、自己使用そのものが法律によって禁止されています。したがって、それらを一回使っただけでも乱用です。未成年者の飲酒・喫煙も法により禁じられているため、一回の飲酒・喫煙でも乱用です

  • 薬物の乱用を繰り返すと、薬物依存という「状態」に陥ります。薬物依存と言う状態はWHO(世界保健機関)により世界共通概念として定義づけられていますが、簡単に言えば、薬物の乱用の繰り返しの結果として生じた脳の慢性的な異常状態であり、その薬物の使用を止めようと思っても、渇望を自己コントロールできずに薬物を乱用してしまう状態のことです

  • 覚せい剤精神病の幻覚や妄想は、3ヶ月以内の治療で約80%は消し去ることができます。しかし、幻覚や妄想が治ったからといって、薬物依存までもが「治った」わけではないのです。苦労して何とか本人を入院させたにもかかわらず、幻覚・妄想の消えた本人に懇願されて退院させたところ、ほどなく覚せい剤を再乱用され、再び本人を病院に連れて行かざるを得なくなったという体験を持つ家族は少なくありません。薬物依存と薬物(慢性)中毒の違いを理解することがきわめて重要です

  • 残念ながら、依存症になってしまった脳は元の状態には戻らないと考えられています。その意味で、依存症が完全に治るということはありませんが、きちんと治療を受けて薬物を止めつづければ、多くの人は通常の社会生活を営み、薬物依存症によって失ったものを少しずつ取り戻すことができます。これを回復と言います

  • 回復には、大まかにいって4つの段階があります。この4つの段階とは、(1)薬物によって疲弊し衰弱した身体が正常化するという「身体の回復」の段階、(2)薬物による幻覚・妄想がなくなり、思考力や記憶力が正常化するという「脳の回復」の段階、(3)薬物依存症によって歪んでしまった物の考え方、感じ方、生活習慣が正常化するという「心の回復」の段階、そして最後に、(4)薬物依存症によって壊れてしまった人間関係が修復され、周囲からの信頼をとりもどすという「人間関係の回復」の段階です

  • 薬物依存症は、その人の心と身体をむしばむだけではありません。家族の誰かが薬物依存症におちいると、家族はその悪い影響を受けて、気がつかないうちに病んでいきます。依存症が「家族の病」であると言われているのはこのためです。薬物依存症の進行に伴って、家族にも一定の変化がみられるようになります。依存症の人を長い間抱え込んでいると、心理状態や行動パターンが変わってくるのです

  • ご本人の回復に時間がかかるのと同じように、ご家族がご本人との間に適切な距離をとれるようになるまでにも時間がかかるといわれています。家族会でも多くの方が長い時間をかけて、依存症の勉強をしたり適切な対応法を学んだりしています

  • 最初の一回に手を出すことで、多くの人はそれまでと違う物の考え方・感じ方をするようになります。後に薬物依存症となった方のなかで、最初の一回のとき、「なんだ、たいしたことないじゃないか」「特に危なくもなさそうだ」「これくらいなら自分でコントロールできる」と感じたという人は意外に多いのです。こんな具合に事実を自分に都合良く歪めてとらえ、いわば「自分で自分をだます」のが、依存症者の特徴ですが、最初の一回の時点で、こうした特徴が早くも芽吹いていることが少なくないというのは、ぜひとも強調しておきたい点です


 その他、薬物問題に関する最近の報道からいくつか紹介します。


  • メキシコの司法当局は、メキシコ市発成田行きの旅客機内で日本人の男性が発作を起こし、緊急着陸後に死亡を確認したと発表しています。司法解剖の結果、胃や腸からコカインが入った計246個の袋が見つかり、当局は死因を麻薬の過剰摂取による心不全と断定しています。大量のコカインをのみ込み、日本に密輸しようとしていたとみられています。東京税関が平成30年に摘発した「不正薬物密輸入事犯の取締り状況」においても、手口として、スーツケース等の旅行鞄への隠匿工作、「体内隠匿」、身辺への巻付けなど、さらには、繊維製品への浸み込ませ、液体物へ溶かすなどの巧妙な手法を用いて密輸が行われていたとの指摘があります。

  • 民泊施設を受取場所にして覚せい剤を密輸したとして、福岡県警は中国籍の男を覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)などの疑いで逮捕しています。宿泊者が目立ちにくい民泊の特性を利用(悪用)し、他の複数人と共謀し、覚せい剤約1.4キロ(末端価格約8,400万円)を隠したカップ麺などの荷物をタイから郵便で輸入するなどした疑いということです。民泊が様々な犯罪の隠れ蓑として悪用される事例は後を絶たず、その「犯罪インフラ」性を解消する取り組みが、利便性や数字上の実態(激減している)にマスクされてほとんど進展していない(対策強化はビジネスモデルに大きな影響を与えることから放置されている)のは問題だといえます。

  • ブラジル北部マナウスの4か所の刑務所で、麻薬密売組織間の抗争で受刑者計55人の死亡が確認されたということです。ブラジルでは刑務所の過剰収容が深刻化し、犯罪組織による暴力も横行しているといいます。4か所のうち、アニジオジョビン刑務所では、対立する麻薬密売組織が暴動を起こし、受刑者15人が死亡。この刑務所では2017年1月にも受刑者による暴動で56人が死亡する事件があったということです。なお、関連して、ブラジルの2017年の殺人被害者は65,602人と過去最悪を記録したという報道がありました(令和1年6月6日付時事通信)。殺人発生率は過去最悪の人口10万人当たり31.6人(2016年の日本の発生率は0.3人、米国は5.4人、麻薬戦争が続くメキシコは19.3人ということですから、その発生率の高さはケタ違いです)。さらに、銃器が使用された割合は72.4%に達していること(政権は治安対策として銃器をめぐる規制緩和を急いでいるといいますが、果たして殺人事件の減少に歯止めがかかるのかは疑問です)、犠牲者の9割は男性で、5割以上は若者、4分の3は黒人、15~19歳の男性の死因で「殺人」は6割を占めるという深刻さです。ファベーラ(貧困街)を牛耳る麻薬密売組織絡みの暴力が年々深刻化していることが浮き彫りとなる数字であり、薬物問題の恐ろしさをあらためて実感させるデータだといえます。


2.IR/カジノ/ギャンブル依存症を巡る動向

 カジノを含む統合型リゾート(IR)整備の意義や目標を定める「基本方針」について、政府は今夏にも予定していた公表時期を秋以降に先送りする方針を固めたということです。さらに、IRにつくるカジノの規制を担う「カジノ管理委員会」の設置について、委員の人事案を今国会に提出せず、政府が予定していた7月1日から当面先送りすることになるようです。ギャンブル依存症の拡大への懸念などからカジノ開業に対する国民の抵抗感が根強いなか、夏の参院選への影響を避ける狙いがあるとみられています(IR/カジノ法案の成立までの道のりも政治的な状況に左右され続けてきましたが、開業までの道筋も一筋縄ではいかないようです)。したがって、基本方針の公表の遅れは、2020年代前半をめどに最大3カ所でIRを開業させる予定にも影響が出る可能性も考えられるところです。

 その一方で、政府は、日本を訪れる外国人旅行客の増加を受け、観光庁内に新部署「国際観光部」を7月1日付で設置する方向です(既存の国際観光課を格上げ)。訪日客を2020年に4,000万人とする目標に向け体制強化を図る狙いがあり、外国人の利用者が多いIRの認定なども担当することになるといいます。また、自治体独自の動きとして、前回の本コラム(暴排トピックス2019年5月号)でも紹介したとおり、大阪府と大阪市がIR事業者から事業概要(コンセプト)を募る独自の要項を発表しましたが、コンセプト募集に対して7つの事業者グループが参加登録したと発表しています。MGMリゾーツ・インターナショナルがオリックスと共同登録したほか、ウィン・リゾーツ、ゲンティン・シンガポール、メルコリゾーツ&エンターテインメント、ラスベガス・サンズといった大手が名を連ねています(その他2グループは非公表を希望)。なお、報道(令和元年6月3日付産経新聞)によれば、その他のエリアについても、例えば、和歌山市の人工島「和歌山マリーナシティ」へのIR誘致を目指す和歌山県では今年5月、フランスのIR事業者、グループ・ルシアン・バリエールが、参入に向けて同市内に事務所を開設、北海道苫小牧市でも4月、カジノやホテルを手がける米ハードロック・インターナショナルが支店を開いたほか、長崎県では4月、テーマパークを運営するハウステンボスが、IRを誘致する県や佐世保市に対し、土地の一部をIR建設地として売却することで基本合意(ただし、同社は、IR運営への参画については、投資の回収に不安があるとして否定的)、横浜市は5月末、IRが開業した場合の経済効果が最大で年1兆6,000億円に及ぶとの調査結果を公表し誘致への意欲を見せています(調査には米ウィン・リゾーツなど12団体が協力したものの、市経済界などの一部にカジノへの強い反発があり、誘致方針は定まっていない状況です)。さらに、東京都では3月、来夏の五輪開催後の湾岸開発を検討する会合でIR誘致が提案され、実際に誘致を決めるかどうか注目されます。このように、誘致の成否には、自治体・事業者双方の思惑や取り組みが複雑に絡みつつも、いよいよその動きが活発化しているようです。


 なお、社会的に関心の高いギャンブル依存症対策については、本コラムでも、新たに策定された推進基本計画の内容等について毎回取り上げていますので繰り返しませんが、令和元年5月21日付産経新聞において、大谷大の滝口直子教授(社会学)の指摘を、以下に引用して紹介します。


「他国の依存症対策を追随しようとしているが、予防と治療を統合的に行うことが重要」と話す。滝口教授によると、先行して取り組む他国が成果を上げているわけではない。イギリスは今年に入って、予防に重点を置いた対策から「いかにギャンブルの害を減らすか」という方向に転換。カナダは若者の予防教育を実践したが、依存症の防止に直接つながる証拠は得られなかったという。日本ではカジノ解禁に向けて環境整備が進むが、滝口教授は「賭け金の限度設定など効果的な対策をやれば事業者の歳入は減るし、自治体も税収はほしい。そのせめぎ合いの中でどれだけ実効性がある対策が取れるかだ」と指摘している。


 筆者も以前、朝日新聞社の取材に応じ、「きちんと調査するには莫大な費用と人手が必要だ。入場規制やいかさまなどの不正対策も、厳しくすればするほど客離れを起こすため、民間事業者がどこまで対策を徹底するかは不透明だ」とのコメントが掲載されました(平成30年7月18日付朝日新聞)。本コメントを通して、厳格な規制とビジネスとしてのカジノ・IR事業の関係、反社チェックの限界、事業者がどこまで本気で「清廉性」を追求するのか・できるのか、といった様々な課題が含まれていることを指摘してきましたが、ギャンブル依存症対策においても同様のことがいえるということです。

 さて、その事業者の取り組みについては、例えば、前述した金融庁の「業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点」の「主要行」向けにおいても、「政府の「ギャンブル等依存症対策推進基本計画」が閣議決定された。全銀協においては、先月(3月29日)から貸付自粛制度の運用が開始されたので、各行におかれては、基本計画を踏まえ、店舗において周知用のチラシを利用者の目につきやすい場所に設置するなど、制度の周知をお願いしたい。また、基本計画においては、各金融機関におけるギャンブル等依存症に関する相談拠点の周知などの取組みの検討が求められている。現在、全銀協において具体的な対応を検討中と伺っているが、相談拠点の周知についても、協力をお願いしたい」との要請があり、金融機関としての取り組み強化が始まっています。


 依存症対策という関連では、世界保健機関(WHO)は、先月の総会で、オンラインゲームやテレビゲームのやり過ぎで日常生活が困難になる「ゲーム障害」を新たな依存症として認定した「国際疾病分類」最新版を承認しました。アルコールやギャンブルなどの依存症と並んで治療が必要な疾病となり、2022年1月から施行され、世界中の医療関係者が診断や調査で使用することになります。報道によれば、日本国内では中高生の7人に1人がインターネット依存症とのデータもあるなど、医療関係者はゲーム依存の広がりを危惧しており、早期の治療を呼びかけているところ、WHOの推計では、ゲームをしている人の2~3%がゲーム障害とみられるといい、引きこもりなどで調査に反映されない潜在的な患者も少なからずいるのではないかと推測されています。いずれにせよ、ギャンブル依存症対策や薬物依存症対策に限らず、ゲーム依存症対策も青少年に対しいかにアプローチしていくかが重要なポイントのひとつだと思われます。そして、「依存症」そのものが要因からみて誰にでもなる可能性を秘めており、社会全体に十分な理解が必要でもあります。以下、前回の本コラム(暴排トピックス2019年5月号)でもとりあげた文部科学省が作成した「「ギャンブル等依存症」などを予防するために」からの引用です。


一般的にニコチン、アルコール、薬物、ギャンブル等、ゲームなどを「やめたくてもやめられない」状態のことを「依存症」といいますが、医学的には「嗜癖(しへき)」という用語を使います。「嗜癖」の対象は、ニコチン、アルコール、薬物などの特定の「物質」の摂取と、ギャンブル等の「行動」に分けられます。その対象が「物質」の摂取の場合は「物質依存」といい、対象が「行動」の場合は「行動嗜癖」といいます。

いずれの嗜癖行動も興味・関心から始まりますが、のめり込むかどうかは、「心理的な要因(ストレスなど)」、「環境的な要因(簡単に手に入れやすい、いつでも、どこでもできる)」、「家族の要因(家庭環境等)」といった要因が関わると考えられています。行動嗜癖は、誰でもなる可能性があり、開始年齢が低いほど、陥りやすい傾向があります


3.犯罪統計資料

▼警察庁 犯罪統計資料(平成31年1~4月分)

 平成31年1~4月の刑法犯の認知件数総数は234,874件(前年同期254,099件、前年同期比▲7.6%)、検挙件数は91,826件(96,531件、▲4.9%)、検挙率は39.1%(38.0%、+1.1P)となり、平成30年の犯罪統計の傾向が継続しています。犯罪類型別では、刑法犯全体の7割以上を占める窃盗犯の認知件数は165,892件(180,893件、▲8.3%)、検挙件数は56,679件(60,400件、▲6.2%)、検挙率は34.2%(33.4%、+0.8P)と刑法犯全体を上回る減少傾向にあり、全体の傾向に大きな影響を与えています。このうち万引きの認知件数は32,017件(34,010件、▲5.9%)、検挙件数は21,848件(24,070件、▲9.2%)、検挙率は68.2%(70.8%、▲2.6P)となっており、検挙率が他の類型よりは高いものの低下傾向にある点は気になるところです。また、知能犯の認知件数は12,171件(14,261件、▲14.7%)、検挙件数は5,963件(6,135件、▲2.8%)、検挙率は49.0%(43.0%、+6.0P)、うち詐欺の認知件数は11,017件(12,941件、▲14.9%)、検挙件数は5,963件(6,135件、▲2.8%)、検挙率は45.5%(39.2%、+6.3P)となっています。認知件数の減少と検挙件数の増加の傾向を一層高め、高い検挙率によって詐欺の実行を抑止するような構図になることを期待します。

平成31年1~4月の特別法犯の検挙件数総数については22,140件(21,083件、+5.0%)、検挙人員は18,967人(17,952人、5.7%)となり、こちらも平成30年を上回る検挙状況となっています。このうち、麻薬等取締法違反の検挙件数は303件(275件、+10.2%)、検挙人員は151人(134人、+12.7%)、大麻取締法違反の検挙件数は1,544件(1,223件、+26.2%)、検挙人員は1,224人(949人、+27.5%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は3,242件(3,849件、▲15.8%)、検挙件数は2,281人(2,607人、▲32.6%)などとなっており、大麻事犯の検挙が平成30年の傾向を大きく上回って増加している一方で、覚せい剤事犯の検挙が逆に大きく減少している点は今後も注視していきたいと思います(平成30年における覚せい剤取締法違反については、検挙件数は13,850件(14,065件、▲1.5%)、検挙件数は9,652人(9,900人、▲2.5%)でした)。また、来日外国人による重要犯罪の総数は・総数139人(148人)、中国27人(38人)、ベトナム18人(16人)、ブラジル16人(15人)、フィリピン11人(6人)、韓国・朝鮮8人(17人)などとなっているのは平成30年の傾向に同じです。

暴力団犯罪(刑法犯)の検挙件数は検挙件数5,789件(5,899件、▲1.9%)、検挙人員2,497人(2,665人、▲6.3%)となっており、平成30年においては検挙件数が18,681件(20,277件、▲7.9%)、検挙人員が9,825人(10,393人、▲5.5%)でした。うち窃盗の検挙件数は3,454件(3,336件、+3.5%)、検挙人員393人(465人、▲15.5%)、詐欺の検挙件数696人(630人、+10.5%)、検挙人員416人(463人、▲10.2%)など、平成30年の傾向同様、窃盗の検挙が減少する一方で詐欺の検挙が増加していることから、「平成30年における組織犯罪の情勢」で指摘されている「近年、暴力団は資金を獲得する手段の一つとして、暴力団の威力を必ずしも必要としない詐欺、特に組織的に行われる特殊詐欺を敢行している実態がうかがえる」点を示す数字となっています。また、暴力団犯罪(特別法犯)の検挙件数は検挙件数は2,305件(2,693件、▲14.4%)、検挙人員1,651人(1,915人、▲13.8%)、うち暴力団排除条例違反の検挙検数は3件(5件、▲40.0%)、検挙人員10人(21人、▲52.4%)、大麻取締法違反の検挙件数は357件(309件、+15.5%)、検挙人員239人(206人、+16.0%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は1,446件(1,817件、▲20.4%)、検挙人員991人(1,212人、▲18.2%)などとなっており、とりわけ薬物事犯において覚せい剤から大麻にシフトしている状況がより鮮明になっている点が注目されるところです(平成30年においては、大麻取締法違反について、検挙件数は1,151件(1,086件、+6.0%)、検挙人員は744人(738人、+0.8%)、覚せい剤取締法違反について、検挙件数は6,662件(6,844件、▲2.7%)、検挙人員は4,569人(4,693人、▲2.6%)でした)。


(7)北朝鮮リスクを巡る動向

 昨年6月12日にシンガポールで行われた初の米朝首脳会談から1年となります。今年に入って2回目の会談も行われたものの、現状、目立った進展はありません。それどころか、5月に入って北朝鮮は弾道ミサイルと思われる飛翔体を立て続けに発射するという行動に出ました。この発射を巡っては、日本は国連制裁決議に違反すると厳重に抗議した一方で、韓国はいまだ「ミサイルに関して(種類などを)分析中だ」と弾道ミサイルとはまだ断定していないという立場を崩していません。さらに、米では、トランプ大統領が、北朝鮮による今月の短距離ミサイル発射が国連の安全保障理事会決議に違反すると思わないとの見方を示し、核実験や中距離ミサイルは発射していないとしたうえで、米朝協議の行方について「合意に至る事ができると思う」などとも述べて、米国内で批判に晒されています。それに対し、ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)が北朝鮮の短距離弾道ミサイル発射を「国連安保理決議違反だ」と批判、米国務省報道官も、北朝鮮の大量破壊兵器を巡るあらゆる計画は国連安保理決議に違反しているとして、「北朝鮮の大量破壊兵器を巡るあらゆる計画は国連安保理決議と矛盾する。しかし、米国の焦点は北朝鮮の大量破壊兵器計画の平和的な終焉で交渉を試みることだ」と述べるなど政権内の足並みの乱れが露わとなっています。そのような隙をみてか、北朝鮮外務省報道官が「米国が対(北)朝鮮敵視政策に執着し続けるなら、共同声明の運命は約束できない」、「我々の忍耐にも限界がある」とし、「米国は一日も早く我々の要求に応える方が良い」と主張、共同声明を反古にすることも示唆しながら、米国に対北制裁の早期解除を求める姿勢を強めています。なお、その背景には、以前も指摘したとおり、北朝鮮の食料不足が深刻化している実態があると考えられます。国連食糧農業機関(FAO)と国連世界食糧計画(WFP)が今年3~4月の2週間、北朝鮮で調査を実施した報告書によれば、北朝鮮の昨年の農作物生産量は約490万トンで、既に行われた援助などを除き、約136万トンの食料が不足していることが判明、猛暑や洪水などの影響で昨年の農作物生産量が過去10年で最悪水準となり、人口の約4割に当たる1,000万人を超える住民が食料不足に見舞われているということです(令和元年5月13日付時事通信)。さらに、金正恩朝鮮労働党委員長は2月のハノイでの米朝首脳会談が物別れに終わって以降、経済の「自力更生」を強調し、制裁の長期化に備える構えを見せています。「制裁解除が見込めない中、食料難が指摘される状況を逆に利用し、国内向けに援助を「戦利品」(北朝鮮元駐英公使の太永浩氏)と宣伝することも考えられる」との指摘はまさに正鵠を射るものと考えます。なお、関連して、北朝鮮で「賄賂」が横行しており、国連人権高等弁務官事務所が改善を要求しているとの報道もありました(令和元年年5月28日付時事通信)。報道によれば、その原因が食料配給制の崩壊などにあり、住民らに賄賂を強いている状況があるといいます。北朝鮮では1990年代半ばに食料配給制度が崩壊し、住民が生計を立てるために闇市場が発達、一方、闇市場の利用は当局の取り締まりの対象になりやすいことから賄賂が蔓延し、当局者も収入を補うために汚職に手を染めているという悪循環に陥っているというものです。食料不足を巡る人々の窮乏の深刻化や国際社会による経済制裁の長期化、人道的支援すら政治的に利用されてしまう現状が、結果的に北朝鮮国民にのみ犠牲を強いている状況は何とか打破したいところ、国際社会の足並みの乱れは歯がゆいばかりです。

 なお、前述した金融庁の「業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点」の「主要行」向けにおいても、北朝鮮制裁対応について、「国連安保理の北朝鮮制裁委員会の専門家パネルが、直近1年間の加盟国による北朝鮮制裁の履行状況の調査結果と加盟国への勧告を取りまとめた報告書を公表した。報告書によると、北朝鮮が資金を獲得するため、サイバー攻撃を高度化し、金融機関からの不正送金や、仮想通貨交換業者から多額の仮想通貨を不正流出させた事例、北朝鮮の外交官が、制裁を回避するため、家族、大使館等の名義を使用して複数の口座を管理し、北朝鮮への輸出を支援した事例等が記載されている。報告書の内容も踏まえ、他国や金融機関と情報交換を行い、サイバー対策やマネロン・テロ資金供与対策を引き続き強化していく必要があると考えている。今後とも、御協力をお願いしたい」といった要請がなされています。少なくとも企業の実務においては、北朝鮮制裁リスクは、AML/CFTやサイバーセキュリティの文脈で国際的な抜け穴とならない取り組みが求められているといえます。

3. 暴排条例等の状況

(1) 神奈川県暴排条例に基づく勧告事例

 暴力団幹部に自動車を無償で提供したとして、神奈川県公安委員会は、同県暴排条例に基づき、県内にある商業協同組合代表理事の男性に利益提供をしないよう、また稲川会系組幹部の男に利益供与を受けないよう、それぞれ勧告しています。報道によれば、2人は以前からの知り合いで、男が電話で男性に暴力団対策法や暴排条例によって「最近では車も買えない」と話したところ、男性は「うちの車でよければ使ったら」と回答、昨年12月上旬、男性は組合の事務所を訪れた男に組合が所有する国産の普通乗用車を無償提供したというものです。


▼神奈川県警察 神奈川県暴力団排除条例


 神奈川県暴排条例における「利益供与の禁止」の規定ぶりは他の暴排条例とやや異なっていますので、詳しく紹介します。まず、第23条(利益供与等の禁止)第1項については、「事業者は、その事業に関し、暴力団員等、暴力団員等が指定したもの又は暴力団経営支配法人等に対し、次に掲げる行為をしてはならない」として、(1)暴力団の威力を利用する目的で、金銭、物品その他の財産上の利益を供与すること、(2)暴力団の威力を利用したことに関し、金銭、物品その他の財産上の利益を供与することが規定されており、この点は他の暴排条例と同じです。なお、「暴力団経営支配法人等」とは、同県の暴排条例独自のものであり、「法人でその役員(業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者をいい、相談役、顧問その他いかなる名称を有する者であるかを問わず、法人に対し業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者と同等以上の支配力を有するものと認められる者を含む。)のうちに暴力団員等に該当する者があるもの及び暴力団員等が出資、融資、取引その他の関係を通じてその事業活動に支配的な影響力を有する者をいう」と第2条で定義されています。いわゆる「暴力団関係企業」や「共生者」といった者を、暴排条例の制定(平成23年4月)当時から排除対象として明確にうたい、具体的に定義している点は先進的であり、今なおここまで踏み込んでいる暴排条例も珍しく(他では、「暴力団員等又は暴力団員等が指定した者」といった表記が一般的。他には、東京都暴排条例の「規制対象者」として、「暴力団の威力を示すことを常習とする者であって、当該暴力団の暴力団員がその代表者であり若しくはその運営を支配する法人その他の団体の役員若しくは使用人その他の従業者若しくは幹部その他の構成員又は当該暴力団の暴力団員の使用人その他の従業者」といった定義があります)、大変すばらしいことだといえます。

さて、第23条(利益供与等の禁止)第2項には、「事業者は、その事業に関し、次に掲げる行為をしてはならない」として、 他の暴排条例ではあまり見られないのですが、以下のように禁止行為が具体的に列挙されています。


  1. (1)暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなるおそれがあることを知りながら、暴 力団員等、暴力団員等が指定したもの又は暴力団経営支配法人等に対して出資し、又は融資すること

  2. (2)暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなるおそれがあることを知りながら、暴力団員等、暴力団員等が指定したもの又は暴力団経営支配法人等から出資又は融資を受けること

  3. (3)暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなるおそれがあることを知りながら、暴力団員等、暴力団員等が指定したもの又は暴力団経営支配法人等に、その事業の全部又は一部を委託し、又は請け負わせること

  4. (4)暴力団事務所の用に供されることが明らかな建築物の建築を請け負うこと

  5. (5)正当な理由なく現に暴力団事務所の用に供されている建築物(現に暴力団事務所の用に供されている部分に限る。)の増築、改築又は修繕を請け負うこと

  6. (6)儀式その他の暴力団の威力を示すための行事の用に供され、又は供されるおそれがあることを知りながら当該行事を行う場所を提供すること

  7. (7)前各号に掲げるもののほか、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなるおそれがあることを知りながら、暴力団員等、暴力団員等が指定したもの又は暴力団経営支配法人等に対して金銭、物品その他の財産上の利益を供与すること。


 さらに、第3項で、「何人も、前2項の規定に違反する事実があると思料するときは、その旨を公安委員会に通報するよう努めなければならない」 との規定も置かれており、こちらも他の暴排条例には見られない通報義務(努力義務)が明記されている点も注目されます。

それ以外の細かいところでは、例えば、第22条(契約の締結における事業者の責務)第2項において、「事業者は、その事業に関して書面による契約を締結するときは、その契約書に、当該契約の履行が暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することが判明したときは当該契約を解除することができる旨を定めるよう努めるものとする。ただし、当該契約の履行が暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなるおそれがないことが明らかなときは、この限りでない」との規定があります。現状の実務において、ほぼすべての契約等に暴排条項が導入されていることを鑑みれば、ただし書き部分は、あえて明記する必要性を感じないところではあります(制定当時の状況を反映しているものと推察されますが、実際のところ、このような規定は他の暴排条例では見当たらず、現状もふまえれば削除してもよいのではないかとも思われます)。

(2) 静岡県暴排条例に基づく公表事例

 静岡県暴力団排除条例第24条の規定による勧告を受けた者が正当な理由がなく当該勧告に従わなかったため、静岡県暴排条例第25条に基づき、氏名が公表された事例がありました。最近では、昨年9月に愛知県暴排条例に基づく公表事例がありましたが、公表事例自体、それほど多くはなくいのですが、厳格に運用されていることは大変高く評価できると思います。

▼静岡県警察 静岡県暴力団排除条例第25条の規定に基づく公表(令和元年5月17日)

1 勧告に従わなかった者の氏名及び住所(略)

2 公表の原因となる事実

標記の者は、暴力団六代目山口組六代目清水一家幹部の立場にある暴力団員であり、静岡県内で無店舗型性風俗特殊営業を経営する事業者から、その行う事業に関し、暴力団の威力を利用する目的であることの情を知って、平成28年1月28日頃から平成28年7月25日頃までの間、8回にわたり交付された現金合計約94万円の供与を受けたことにより、静岡県暴力団排除条例第18条の規定に違反したことから、同条例第24条の規定による勧告を受けた者であるが、正当な理由なく当該勧告に従わず、静岡県内で無店舗型性風俗特殊営業を経営する事業者から、その行う事業に関し、暴力団の威力を利用する目的であることの情を知って、平成30年10月中旬頃、交付された現金10万円の供与を受けたものである。


▼静岡県暴力団排除条例

 参考までに、静岡県暴排条例の第25条(公表)では、「公安委員会は、第23条の規定により説明又は資料の提出を求められた者が次に掲げる行為をしたときは、公安委員会規則で定めるところにより、その旨を公表することができる」とされ、(1)正当な理由がなく説明又は資料の提出を拒んだとき、(2)虚偽の説明又は資料の提出をしたとき、を定めています。さらに、第2項では、「前条の規定による勧告を受けた者が正当な理由がなく当該勧告に従わなかったときも、前項と同様とする」としています。本事例ではこの第2項が適用されてものと考えられます。

(3) 指名停止・排除措置公表事例(福岡県)

 福岡県、福岡市、北九州市において、福岡県春日市の土木業者について、代表者が指定暴力団道仁会系組員だったとして指名停止措置(排除措置)が講じられ公表されていますので、紹介します。


▼福岡県 暴力団関係事業者に対する指名停止措置等一覧表
▼福岡市 競争入札参加資格停止措置及び排除措置一覧
▼北九州市 暴力団と交際のある事業者の通報について


 本件については、代表者が暴力団構成員である事例であり、3つの自治体ともに「排除措置36か月(北九州のみ、「36か月を経過し、かつ、暴力団又は暴力団関係者との関係がないことが明らかな状態になるまで」としています)と措置としては最長となっています。

(4) 暴力団対策法に基づく再発防止命令(神奈川県/静岡県)

 神奈川県公安委員会は、用心棒代を要求したとして、稲川会系組幹部に対して暴力団対策法に基づく再発防止命令を発出しています。報道によれば、この幹部は、昨年11月、横浜市内の居酒屋の経営者に「俺がこの店の面倒を見てやるよ」などと言って用心棒代を要求したとして、今年1月に同県警伊勢佐木署長から中止命令を受けていたものの、その後、3月にも別の居酒屋の経営者に用心棒代を要求したとして、同署長から2回目の中止命令を受けています。同県公安委員会は、男が今後、さらに類似の行為を行う恐れがあるとして、再発防止命令を出したということです。また、静岡県警察の公表内容によれば、昨年11月から12月にかけ、静岡県東部の事業者に対し、暴力団の威力を示して正月飾りの購入を要求した指定暴力団六代目山口組藤友会系幹部及び組員の男2人に対し再発防止命令を発出したということです。

 なお、暴力団対策法では、再発防止命令に違反すると、暴力団対策法第47条の「三年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」という罰則が適用されることになります。

▼暴力団対策法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)


(5) 東京都暴排条例の改正動向

 以前の本コラム(暴排トピックス2019年2月号)でご紹介しましたが、来年の東京五輪・パラリンピックの開催に備え、東京都は、6月4日に開会する定例議会へ暴力団排除条例の改正案を上程しています。今回の改正の具体的な内容としては、(1)都内の主な繁華街を「暴力団排除特別強化地域」と指定し、同地域における「特定営業者」及び「客引き等を行う者」が暴力団員に対し用心棒料、みかじめ料の利益を供与する行為や、暴力団員がこれら利益の供与を受けること等を禁止するもの、(2)暴力団排除特別強化地域:風俗店、飲食店が集中し、暴力団が活発に活動していると認められる地域を指定、(3)特定営業者及び客引き等を行う者の禁止行為として、「暴力団員又は暴力団員が指定した者から用心棒の役務の提供を受けること」、「暴力団員又は暴力団員が指定した者に用心棒の役務を受けることの対償として利益を供与すること(いわゆる「用心棒料」)又は営業を営むことを容認する対償として利益を供与すること(いわゆる「みかじめ料」)」を明記、(4)「暴力団員の禁止行為」として、「特定営業者又は客引き等を行う者に用心棒の役務を提供すること」、「特定営業者又は客引き等から用心棒の役務の提供をすることの対償として利益の供与を受けること又は営業を営むことを容認する対償として利益の供与を受けること」、(5)罰則として、「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金(特定営業者、客引き等を行う者は自首減免規定あり)」がそれぞれ定められたものとなります。とりわけ、現行条例にも罰則はあるものの、「勧告」「公表」などの手続きを経る必要があり、みかじめ料の支払いが発覚しても、手続きの途中段階で店側が暴力団との関係を絶つなどし、これまで双方に罰則が適用されたケースはないのが現状のところ、今回の改正で、罰則を「即座に」適用できる規定を設け、摘発要件のハードルを下げることで初期段階から暴力団への利益供与の「芽」を摘もうとしている点が注目されます。

 実は、今回のこのような改正のきっかけとなったのは、昨年8月の東京地裁の判決だといわれています。報道(平成31年2月15日付産経新聞など)によれば、平成29年6月、警視庁組織犯罪対策4課が、東京・銀座で複数の飲食店関係者らからみかじめ料を徴収したとして、恐喝容疑で指定暴力団山口組系組長らを逮捕、組長ら2人を恐喝と恐喝未遂の罪で起訴していますが、その後の公判で、みかじめ料を支払ったクラブ店長らが「断ろうと思えば断れた」「恐怖心を感じたことはなかった」と証言、「支払った側に『脅し取られた』という意識が希薄だった点が判決の決め手となり、昨年8月、東京地裁が恐喝罪について無罪が言い渡されたというものです。現行制度での暴力団対策での限界が露呈したものであり、その強い危機感が今回の改正につながったということです。また、東京五輪で収入増が見込まれる飲食店から暴力団等の反社会勢力への資金流入を防ぐ意味でも、早期の店の規制強化は不可欠だったといえます。さらに、今回の改正では、店が支払いを申告すれば罰則を減免する規定(リニエンシー)の導入も含まれており、店側が暴力団等との関係を断つインセンティブを高める工夫もなされている点は評価できると思います。一方で、福岡県暴排条例による標章制度導入の際に多発した(工藤会による)一般人襲撃事件を持ち出すまでもなく、暴力団の主要な資金源にかかる規制強化であり、今回の改正が暴排のさらなる進展、暴力団の資金源の枯渇化に真に資するものとなるためには、店側が安心して暴排に取り組めるような、具体的な安全確保策もまた重要なポイントとなります。



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