反社会的勢力対応 関連コラム

実効性ある反社チェックのために(2)

2020.08.18

取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人

反社チェックのイメージ画像

【もくじ】―――――――――――――――――――――――――

1.実効性ある反社チェックのために(2)

(1)警察情報の提供の限界

(2)入口における見極めの限界

(3)出口における見極めの限界

(4)最近の暴力団情勢

2.最近のトピックス

(1)AML/CFTを巡る動向

(2)特殊詐欺を巡る動向

(3)薬物を巡る動向

(4)テロリスクを巡る動向

(5)犯罪インフラを巡る動向

(6)その他のトピックス

・暗号資産(仮想通貨)を巡る動向

・IRカジノ/依存症を巡る動向

・犯罪統計資料

・令和2年警察白書(概要)

(7)北朝鮮リスクを巡る動向

3.暴排条例等の状況

(1)暴排条例の改正(兵庫県)

(2)暴排条例の改正(愛媛県)

(3)暴排条例に基づく逮捕事例(兵庫県)

(4)暴排条例に基づく勧告事例(愛知県)

(5)暴排条例に基づく逮捕事例(東京都)

(6)暴力団対策法に基づく禁止命令(暴力行為の賞揚等の規制)事例(神奈川県)

1.実効性ある反社チェックのために(2)

(1)警察情報の提供の限界

反社会的勢力の見極めの実務においては、企業における自律的・自立的な反社チェック以外に、警察から暴力団等に関する情報提供を受けることも重要なステップと位置付ける必要があります。とはいえ、企業が望むような情報を警察が全て提供してくれるわけではなく、警察の内部通達「暴力団排除等のための部外への情報提供について」に基づいた対応となっていることを理解しておくことが重要です。

さて、当該通達においては、「特に、相手方が行政機関以外の者である場合には、法令の規定に基づく場合のほかは、当該情報が暴力団排除等の公益目的の達成のために必要であり、かつ、警察からの情報提供によらなければ当該目的を達成することが困難な場合に行うこと」、「条例上の義務履行の支援、暴力団に係る被害者対策、資金源対策の視点や社会経済の基本となるシステムに暴力団を介入させないという視点から、(略)可能な範囲で積極的かつ適切な情報提供を行うものとする」と情報提供の主旨、姿勢が明示されています。したがって、情報提供を受ける事業者としては、情報提供により達成される「公益」や「最終手段性」を警察が認識できる形で依頼することが肝要となります。排除実務においては、この警察による情報提供は事実上必須のステップであるため、相談にあたっては、以下のような項目について説明ができるよう準備を行ったうえで相談することが求められています。

  • 自助努力で行った調査内容(疑わしいとする根拠)
  • 組織としての排除の意思
  • 実現可能性を裏付ける暴排条項等の締結状況
  • 排除に向けた取組み状況や個人情報管理の状況 等

また、本通達では、提供される情報の範囲として、「事業者が、取引等の相手方が暴力団員、暴力団準構成員、元暴力団員、共生者、暴力団員と社会的に非難されるべき関係を有する者等でないことを確認するなど条例上の義務を履行するために必要と認められる場合には、その義務の履行に必要な範囲で情報を提供するものとする」と規定されており、ベーシックな反社会的勢力の範囲が網羅されています。

一方で、この通達では、「情報の正確性の確保」について、「暴力団情報を提供するに当たっては、(略)必要な補充調査を実施するなどして、当該情報の正確性を担保すること」とされ、「情報提供に係る責任の自覚」として、「情報の内容及び情報提供の正当性について警察が立証する責任を負わなければならないとの認識を持つこと」と立証責任を意識した慎重を期した情報提供のあり方が前面に出ている点にも注意が必要です。さらに、平成25年12月改定では、「情報の正確性の確保について」は、「暴力団情報を提供するに当たっては、その内容の正確性が厳に求められることから、必ず警察本部の暴力団対策主管課等に設置された警察庁情報管理システムによる暴力団情報管理業務により暴力団情報の照会を行い、その結果及び必要な補充調査の結果に基づいて回答すること」といった記述が追加されるなど、立証責任を見据えた一層の情報の正確性へのこだわり(属人的な情報提供を極力排する意図)が見てとれる内容となっています(平成30年月の更新でも同様です)。したがって、情報が提供されないケースもあることは認識しておく必要があるということになります。警察といえども、反社会的勢力を100%把握できているわけではありませんし、情報提供を求めた結果、「シロ」という回答だったにせよ、「クロという確証がない」といった認識の持ちようも企業には必要となるのです。あくまで、「自社として関係を持つべきでない」との結論を導くためのステップのひとつであって、企業の自律的な判断が大前提であり、法的に問題なく対応できるだけの根拠に欠けるということであり、取引可否においては、そのあたりをふまえた総合的な判断とすべき(すなわち、「クロでない」との回答を「シロ」と直結しないとの考え方に立つということ)と認識する必要があります。

なお、警察が立証責任に慎重になるには相当の理由があり、例えば、詐欺事案において、被告が「準構成員」に当たるかどうかを巡る裁判が京都地裁で審理されるなど、全国で同様の状況が散見されています。この事案では、元会社役員の男が準構成員であることを隠して、不動産業者を通じて自宅用マンションの売買契約をしたとして詐欺罪に問われたもので、契約書には準構成員など「反社会的勢力」でないことを確約する暴排条項があり、この条項への該当の可否が問われています。準構成員については、実際には、日ごろの人間関係や暴力団との関与の度合いなどから警察が認定するとされているところ、報道によれば、検察側が「組事務所の掃除や組員の送り迎えをしていた」との元組員の証言を引き出す一方で、弁護側は「知人に組員はいるが、組員になる前からの知り合いで、組の活動とは無関係」と主張、また、警察に照会した際には、準構成員としての開示はなされなかったといいます。準構成員の認定、警察の情報提供のあり方、企業の自律的・自立的な判断など様々な論点を含んでおり、極めて慎重にとらえる必要があります。

(2)入口における見極めの限界

反社会的勢力は「本質的にグレー」な存在であることは前回の本コラム(暴排トピックス2020年7月号)でも述べたとおりですが、そもそも、反社会的勢力の範囲は社会情勢によっても変動しうる不明確なものでもあり、警察が認定するものだけが反社会的勢力ではありません。最終的には「関係を持つべきでない」と企業が個別に判断するものとなりますが、結果的に「企業が判断した時点ではなく、社会が評価を下した時点」における社会情勢がその適否を判定しているとさえいえる、あいまいなものである点にも注意が必要です。したがって、入口における反社チェックの精度をどんなに高めても、100%事前に把握することは困難です。企業が反社会的勢力との関係を断つことは当たり前であり、警察のデータベース(DB)を利用することが最も精度の高い方法だと社会的には認識されている可能性がありますが、このような「社会の要請」と「反社会的勢力排除の本質的な意味」あるいは「企業実務」とのギャップが厳然と存在することをふまえれば、企業は、(1)可能な限り反社会的勢力の端緒を広く捉えながら、個々の状況と社会情勢(社会の要請レベル)を慎重に見極めていくこと、(2)反社会的勢力に該当するか否か、取引してよいかといった判断を可能な限り合理的かつ論理的に導くこと、(3)説明責任を果たせるかどうかの観点からそれらを評価していくことといった観点が重要となります。

(3)出口における対応の限界

入口における反社チェックに限界があることを前提とすれば、企業としては、「疑わしい」という端緒を得た時にどれだけ適切な対応ができるかの中間および出口(排除、関係解消)戦略が極めて重要となります。ただし、社会の要請は、「疑わしいものを何故放置するのか」といった、至極当然のことながら実は極めて厳しい水準にまで高まっており、その点についても、「反社会的勢力排除の本質的な意味」あるいは「企業実務」と「社会の要請」との間にギャップがあると言えます。そして、その出口における限界もまた、反社会的勢力の範囲の不明確さに起因しているのです。とりわけ、既存取引先との関係解消においては、訴訟に耐えうるような明確な根拠が一般的には必要であり、属性の立証については警察に情報提供を求めることが実務上は必須となります。ところが、既に述べた通り、警察サイドも立証責任があることから情報提供に慎重な姿勢を見せており、必ずしも十分な確証が得られるわけではないのが現実ですし、属性の立証が困難な場合は、その他の解約事由への該当がないか、他の方法で実質的に関係を解消できる方法はないかの検討をすることになるものの、それでも簡単に関係解消に踏み込めるわけではありません。

出口対応の難しさについては、平成25年のメガバンクの関与した反社会的勢力への融資問題で言えば、オリコが同行の債権を代位弁済したのは147件、計約1億8,000万円にのぼる一方、その中で暴排条項が入っていた契約が39件、うち融資金を一括請求したのは1件のみという状況で、すべて正常債権であったという事実があり、このような状況では、即時回収が相当難しいことが推測されます。したがって、実務上は「継続監視」という状態に置くしかないのですが、社会の目には「放置」していると映るかもしれない点が、この出口問題における最大の懸念事項となるのです。

それに対して、企業の取るべき対応としては、具体的には、(1)反社会的勢力に該当するか否かを、民間事業者で出来る最大限の努力により手を尽くし(適切な第三者による調査や弁護士からの意見書の取り付け等も考えられる)、そして、(2)その結果をふまえた取引可否判断を可能な限り合理的かつ論理的に導くことだといえます。また、取引可否判断においては、シロかクロではなく、「継続監視」や「追加取引には応じない」「次回契約更新せず」といった状況に応じた具体的なステイタスを付与することが考えられるところです。さらには、「社会の目」を強烈に意識して、そのステイタスの適正性や遵守状況をモニタリングするなどして、いつでも「説明責任」を果たしうるだけの準備をしておくことが次に重要となります。

(4)最近の暴力団情勢

「3つの山口組」が大きな転機を迎えています。まず、神戸山口組の有力組織である「山健組」が神戸山口組のトップ、井上邦雄組長派と反井上派の2つに分裂、最高幹部の池田組(本部・岡山市)や黒誠会(本部・大阪市)、正木組(本部・福井県敦賀市)が離脱したとされ、神戸山口組自体の存亡の危機に立たされています。さらに、離脱する組として、それ以外に、井上組長の出身母体である健竜会も含まれているとの情報もあるうえ、多ければ10以上の三次団体が神戸山口組を離れるとも言われています。また、自らヒットマンとなって逮捕され、獄中にいる中田浩司・山健組組長は、犯行について否認を貫いており、本人は無罪を勝ち取って数年で復帰できると自信を持っているとされ、弁護士を通じて指示を出しているようです。最近の神戸山口組については、5年前に結成された当時の警察庁の「組織犯罪の情勢」では構成員と準構成員で約6,000人だったものの、昨年のデータでは、3,400人と半分近くにまで落ち込んでおり、構成員だけみれば、1,000人を下回っている状況だといいます。なお、黒誠会や正木組は完全に暴力団から足を洗い、引退する一方で、池田組は、暴力団組織として活動は続けるといいます。池田組は、神戸山口組ではトップクラスの資金力を誇っており、神戸山口組から抜けても大丈夫との判断をしたと見られています(なお、池田組長は5年前の六代目山口組分裂のときに井上組長に抗争資金として3億円ともいわれる資金提供をしたものの、井上組長は六代目山口組になんら打撃らしい打撃を加えることなくカネだけを食ったことに対する不満や、池田組自身、2016年5月に当時の若頭を射殺され、さらに今年5月にも若頭が銃撃されているにもかかわらず井上組長は六代目山口組に「返し」(報復)さえしないことに不満を抱えていたと言われています)。一方で、山健組や神戸山口組から分裂した、絆会の織田組長と連携していく方向との指摘もあります。なお、このような状況となった背景として、山健組は神戸山口組に高額の上納金を納めているところ、その中のかなりの額が井上組長個人の懐に入っており、今年1月の特定抗争指定に加え、新型コロナウイルスの感染拡大で身動きが取れなかったことから、山健組の中田組長は会費減額を打診したものの、井上組長が承諾しなかったことが挙げられるようです(なお、もともと神戸山口組全体としては上納金の額を下げたものの、井上組長は自らの出身母体である山健組だけは、自分の組だからいいだろうと下げなかったという経緯があるようです。山健組を腹心の中田組長に譲ったのに、お金を含めた実権は譲ろうとしなかったことで、両者の確執が生まれたとも見られています。そもそも神戸山口組が六代目山口組から分裂した背景にあったのもこの「上納金」であり、皮肉なものだといえるでしょう)。加えて、井上組長が神戸山口組を立ち上げたときに、他団体に対して、「抗争は山健組がする」との条件で参加を呼びかけていたこともあり、他の組織が六代目山口組側から襲撃を受けてもなかなか報復しないのはそういう事情があるとも言われており、このような意味でも、今回の山健組の離脱は決定的に神戸山口組の弱体化に直結することになると考えられます。

今年3~4月からくすぶっていた絆會(旧、任侠山口組)の解散については、結成時の目標に掲げた六代目山口組の再統合が現状では困難と判断し、組員の移籍や離脱に歯止めがきかず、2018年末に比べ約100人減少したこと、さらに絆會が尼崎市の本部事務所の使用を禁じた仮処分決定に従っていないとして「公益財団法人暴力団追放兵庫県民センター」が2020年4月、周辺の住民に代わって絆會に対し1日あたり100万円の制裁金を支払わせる「間接強制」を神戸地裁に申し立てたことなどが背景事情としてあったといわれてきました。ところが、7月14日に開かれた絆會の緊急執行部会で正式に撤回され、これにより絆會が当面の間、解散しないことが明確となりました。ただ一方で、3年前の発足当初から掲げる目標「脱反社」には、いささかの変更もないことも確認されているといいます。、あた、8月11日には絆會は、執行部人事を大幅に替えたようです。一部報道によれば、旧執行部の池田若頭(真鍋組組長)、山崎本部長(古川組組長)、紀嶋若頭補佐(織田興業会長)、田中若頭補佐は、いずれも引退届を出したといい、これにより具体的に「脱反社」を目指すことになったということです。つまり絆會は暴力団対策法が指定する暴力団でありながら、他方、「脱反社」も目指すという姿勢を貫いています。もちろん、引退届を出したからといって「脱反社」がすぐに実現するはずもありません。彼らの理屈としては、週刊誌情報によれば、「組員が正業を持てるようにする、しかし、現在は組員が組を辞めても最低5年間は暴力団扱いされ、就職はもちろん会社を持つことも難しい。新しく銀行口座も開けず、住まいも借りられない。これがいわゆる「5年ルール」だが、この5年ルールをぶち壊して、元組員や組員が正業を持てるようにする。それが我々の挑戦だと考えている」、「末端の組員や元組員が食えないことでは六代目山口組も一緒。現状の組運営が上層部だけ食えればいいとなっている。絆會はこうした上厚下薄の組運営を根底からひっくり返したいと考えている」、「組員一人一人が正業を持てば、覚せい剤や管理売春、賭博など悪事に手を染めなくて済むようになる。正業がうまく回っていれば、町内の世話焼き活動にも手を出せるかもしれない」、「ヤクザのこういう状態が絆會の目指す「脱反社」だ」と主張しています。なお、企業実務の視点から言えば、「5年卒業基準」に当てはまるかどうかではなく、本当に暴力団から足を洗い、真の意味で「更生」できているのか、警察に照会しても「離脱」して「更生」したと回答してもらえるのか(可能性としては限りなく困難であることが予想されますが)といった点が、「脱反社」と認定できるかの判断ポイントとなりそうです。

一方、結局、独り勝ちの様相を呈し、雌雄が決したように見える状況で、六代目山口組は、現時点では表立って目立った動きはなく、静観を決め込んでいるように見えますが、おそらくは冷静に両団体の動向を分析し、「3つの山口組」の再統合、「六代目山口組一極化」に向けて水面下で動いていることが予想されます。なお、その中で、今年春から夏にかけて、山健組から六代目山口組弘道会系の有力組織である野内組(野内組長は、現在弘道会若頭というナンバー2に就任、六代目山口組の高山若頭にも可愛がられるなど飛ぶ鳥を落とす勢いです)への移籍者が相次いでいたという事実も明らかになっています。さらに、絆會からも野内組に移籍する動きが急加速しており(前述したとおり、絆會は一時期、解散へ向けた内部での話し合いが持たれていましたが、こうした動きも大きな原因となったとされています)、山健組、絆會からの移籍は数十人規模となっているといいます。

いずれにせよ、「3つの山口組」は、それぞれ今まさに大きな転機を迎えており、その動向を注視していく必要があります。

全国唯一の特定危険指定暴力団「工藤会」のトップとナンバー2が殺人罪などに問われた公判の被告人質問がいよいよ福岡地裁で始まっています。これまで市民や企業を狙った事件に関与したとして、多くの組員が有罪判決を受けてきています。両被告が関与したと検察側が主張する4つの市民襲撃事件について、今回の公判で審理されていますが、これまでのところ、決定的な証拠といえるだけのものは出ていません。そのような状況で始まった野村被告に対する被告人質問では、「(指示や承諾は)ありません」、「4つの事件全てにつき無罪です」などと主張しており、当初の予想どおり、検察側が組員と両被告の共謀を立証できるかポイントとなりそうです。具体的なやり取りについては、たとえば報道によれば、序列が上の人間が、下に襲撃などを指示できるのかという質問に「事件は指示できない」と返答、組員が何らかの事件を起こす前に報告を受けることはないとし「共謀性が生まれるため」と説明したといいます。検察側は、工藤会の強固な組織性と指揮命令系統を明らかにし、トップの関与がなかったはずがないとの構図を描いていますので、被告はこれを全面的に否定した形となりました。さらに、総裁という立場については、「権限はないし、口出しはできない」と述べ、影響力はない立場だったと主張、「隠居の立場」、「飾り。何の権限もない」、「引退すれば誰とも会うことがない。余生が寂し過ぎるから、おらしてもろうとるとです」などと発言しているようです。さらに、事件への工藤会の関与を考えなかったか問われると「ひょっとしたらとは思った」と述べつつ、「いちいち上のもんに『こういう事件を起こす』という者はいません」と述べたといいます。一方、ナンバー2の田上被告に対する被告人質問では、「一切関与していません」と述べ、改めて無罪を主張、「組全体でシノギ(資金獲得活動)をすることはない」とし、漁協利権が絡む北九州市の大型港湾工事も関心はなかったと説明しています。また、検察側に野村被告をどう思うか聞かれたときは、「好きですね。人間として。尊敬もしています」などと話しているようです。公判はまだ続いていますが、検察幹部は、「いずれの事件も捜査されれば工藤会の関与が疑われ、会に重大な影響を及ぼすことが容易に想像される。両被告の指示や了承なしにはなしえないはずで間接事実の積み上げで立証する」とのコメント(2020年7月30日付毎日新聞)もあり、全面的に主張がぶつかりあう中、今後の展開は予断を許さず、引き続き注視していきたいと思います。

次に、最近の報道から、暴力団に関係するものをいくつか紹介します。

  • 新型コロナウイルス対策として休業要請に応じた事業者に協力金を支払う制度について、支給対象外の暴力団組員ではないと偽り30万円をだまし取ろうとしたとして、宮城県警暴力団対策課などは、詐欺未遂容疑で住吉会系幹部の居酒屋経営者を逮捕しています。新型コロナの協力金で、暴力団排除条項に基づく詐欺容疑での摘発は全国初となります。報道によれば、同容疑者は「組員として積極的に活動していない」と一部否認しているといいます。また、同様の構図となりますが、休業要請の支援金をだまし取ろうとした疑いで、酒梅組の組員が詐欺未遂で逮捕されています。今年5月、自身が経営するバーの新型コロナウイルスによる休業要請支援金を申し込む際、暴力団員ではないと偽り、大阪府から50万円をだまし取ろうとした疑いが持たれているといいます。報道によれば、暴力団員への支給を禁止している大阪府は警察に申請者の身元を確認しており、その結果犯行が明らかになったとういことであり、給付金の審査等の脆弱性から詐欺等に悪用されるケースも報道されている中、反社チェックを厳格に行っていることがうかがわれ、個人的には安心しています。また、10万円の特別定額給付金の申請締め切りが迫る中、自治体や民間団体がホームレスらに受給を促す取り組みに本腰を入れているとの報道もありました。住民登録がないために受給をあきらめたり、制度を知らなかったりする人たちに必要な手続きを手助けし、生活再建につなげるのが狙いとされていますが、一方で、本コラムでたびたび指摘しているとおり、ホームレスを囲い込み、給付金や生活保護の受給などに利用する「貧困ビジネス」も活発化しており、支援が機能するのか懸念されるところです。
  • 警備会社の役員から「用心棒代」とみられる現金1,000万円以上を受け取っていたとして、組織犯罪処罰法違反の疑いで、会津小鉄会の幹部が逮捕されています。報道によれば、約2年半にわたり、京都市下京区の警備会社の男性役員から、用心棒代とみられる現金計1,160万円を受け取った疑いがあるということです。男性役員は従業員に架空の給料を支払う形で不正経理を行い、幹部の妻と娘の口座に52回に分けて金を振り込んでいたとようです。
  • 相模原市の本村市長は、暴力団との関係が指摘される福岡県久留米市内の建設会社(暴排トピックス2020年7月号で取り上げましたが、福岡県・福岡市・北九州市から「暴力団関係事業者に対する指名停止/排除措置が講じられています)の男性経営者から、2016~2019年の4年間に482万円の政治献金を受け取っていたことを明らかにしています。この建設会社については、前回の本コラム(暴排トピックス2020年7月号)で、「2020年7月3日付福岡県民新聞が詳細を報じており、「平成14年に設立され、実質的な経営を担う会長の経営意欲は旺盛で、毎期売り上げを伸ばし、最近は年商20億円内外まで成長してきた。更に、大手設計事務所に食い込み関東地区にも進出、公共工事にも積極的に取り組み、業界の注目を集めていたのも事実」ながら、「今回の代表者らの逮捕で公共工事の指名停止が18ケ月にも及び、建設業の許可も取り消しとなる見込みが強くなったことから、事業の継続を断念し処理を弁護士に依頼した。県南地区における土木建設業界と地元暴力団の関係は深く、長年に亘っての習慣は一朝一夕で改善できず、何らかの裏取引が行われているとして、福岡県警は今後も取り締まりを強化する様だ」との報道を紹介しました。直近の週刊誌等でも、「神奈川県内では病院の移転事業や自治体関連の建設工事などで、ブローカー的な立場で設計会社とゼネコンをつないだりして」いたようだと指摘されています。報道後、相模原市議会では、市長に事情説明を求める特別委員会を設置する議案が提出されました。本村市長は、当初は「問題ない」としていたものの、男性が暴力団関係者とは知らなかったとはいえ、「道義的な問題がある」と判断し、あわせておよそ682万円を返金すると表明しました。その後の採決の結果については、賛成は自民党市議団15人のみで議案は賛成少数で否決されています。
  • 大阪の繁華街でトラブル相手の男性2人を鉄パイプのようなものを使って集団で暴行し、重傷を負わせたとして大阪府警が凶器準備集合と傷害の疑いで指名手配している住所、職業不詳の容疑者について、府警捜査4課と淀川署は、写真を公開しています。大阪・ミナミを拠点に活動していた半グレ集団「アビスグループ」のメンバーとみられており、府警はこれまでに、集団暴行に関与したとして、アビスグループのリーダーとみられる容疑者や、岡山県を拠点とする不良集団のメンバーを逮捕しています。また、府警は、新たに同容疑で建設作業員の少年(19)も逮捕したことを発表、集団暴行をめぐる逮捕者は計14人になっています。また、半グレ関連では、プロ野球公式戦などの勝敗を予想する野球賭博を主催したとして、沖縄県警組織犯罪対策課は、賭博場開張図利の容疑で自称経営コンサルタントの男(50)を再逮捕しています。同容疑者については、前回の本コラム(暴排トピックス2020年7月号)でも紹介したとおり、労働基準法違反(強制労働の禁止)の容疑で八重山署に逮捕、送検されています。さらに、この容疑者を、沖縄県警組織犯罪対策課は、自身が経営に関わる飲食店の元従業員の男性に因縁を付け、「眉毛も髪もそってこい」などと要求した上、後日、本島中部のサウナ店で男性の頭髪をカミソリでそるなどの暴行を加えたとして、強要と暴行の容疑で逮捕しています。直近の報道では、大阪府の自称清掃殺菌業の男と報じていますが、どうやら容疑者は、今年4月ごろから、(コロナ禍で観光客が激減し、経営していた石垣島の複数の飲食店を手放し)拠点を沖縄県内から大阪に移し、オゾンでコロナウイルスを消滅させる「コロナバスターズ」などと称した清掃事業を始めていたと報じられています。さらに、この容疑者については、「桜を見る会」に参加していた地下格闘技団体「強者」の創設者で、大阪の半グレの元祖であることも報じられています。
  • 密売目的で覚せい剤を所持したとして、大阪府警は、覚せい剤取締法違反(営利目的所持)の疑いで、六代目山口組系組長を現行犯逮捕しています。府警は容疑者の車や自宅などから覚せい剤約1.16キロ、コカイン約33グラム(末端価格計約7,490万円)を押収しています。報道によれば、河内長野市で駐車中の乗用車の中で、手提げの金庫に入った覚せい剤を所持していたというもので、同市などの路上で売りさばいていたとみられています。また薬物絡みでは、覚せい剤約150グラム(末端価格1,000万円相当)を販売目的で所持していたとして、北海道警薬物銃器対策課と札幌南署が、覚せい剤取締法違反(営利目的所持)の疑いで、六代目山口組系誠友会幹部を逮捕したという事件もありました。報道によれば、札幌市内の路上で袋に入れた微量の覚せい剤を販売目的で所持していたといい、道警は容疑者を同容疑で現行犯逮捕、その後、関係先の札幌市内のマンションなどから、販売用に小分けされた覚せい剤計約150グラムを押収したものです。また、同じ北海道では、閉鎖されたゴルフ場に侵入し大麻数十株を栽培していたとして、稲川会系高橋組の構成員ら2人が逮捕されるという事件も発生しています。今年4月から6月にかけ北海道安平町早来の旧ゴルフ場に侵入し、建物内やコース外の草地などに大麻数十株を栽培していたといいます。報道によれば、ゴルフ場は2013年に閉鎖され、所有する会社が税金を滞納したため北海道安平町が差し押さえていて、今年6月に町の職員らが売却手続きに訪れたところ、大麻が栽培されているのを発見したということです。警察は2人が大麻を密売する目的で栽培し、暴力団の資金源になっていたとみて追及しているということです。その他、薬物関係では、営利目的でコカインを所持したとして、神奈川県警薬物銃器対策課は、麻薬取締法違反(営利目的所持)の疑いで、稲川会系組員を逮捕しています。横浜市中区にある貸し倉庫の中に、ポリ袋4袋に入れられたコカイン約97グラム(末端価格約97万円)を営利目的で所持したというものです。さらに、工藤会系組員が、覚せい剤と大麻所持の疑いで逮捕された事件もありました。太宰府市にある自宅マンションの駐車場に止めていた車の中に、覚せい剤15グラム、末端価格およそ100万円相当や、大麻6グラム、およそ36,000円相当、注射器10本などを隠し持っていたと報じられています。なお、この事件に関連して、同じく工藤会系組員の男など2人が、覚せい剤取締法違反などの疑いですでに逮捕されており(数十人の乱用者と売人数人の氏名や携帯電話番号を記したとみられるメモなどが見つかっています)、警察は工藤会の組織的関与の疑いも視野に調べを進めるということです。
  • 北海道警札幌豊平署や捜査四課などは、札幌市白石区にある六代目山口組二次団体「茶谷政一家」の若頭と幹部が詐欺容疑で逮捕しています。札幌市白石区の会社役員らと共謀し、入居するのが暴力団構成員であることを隠してアパートの賃貸契約を結んだというものです。報道によれば、アパートの大家には会社役員が経営する企業の寮にすると偽って賃貸契約を結び、実際には幹部が居住していたといい、当時刑務所に服役していた幹部が出所してきた後の住居を確保するため、若頭が会社役員らに契約を依頼したとみられています。暴力団同士の抗争激化に備え、警察が団員の身辺捜査を進めていくなかで事件が発覚したということです。
  • 不動産取引を巡って因縁をつけ、高級外車など計約1,700万円相当を脅し取ったとして、警視庁組織犯罪対策特別捜査隊は、浪川会幹部ら男3人を恐喝容疑で逮捕しています。なお、この事件の被害者は東京・西五反田の土地取引を巡って大手住宅メーカー積水ハウスが約55億円をだまし取られた地面師事件に関与したとして詐欺容疑などで逮捕され、その後不起訴となった受刑者だということです。報道によれば、「俺らは浪川会のヤクザだ。1億円支払え。お前を殺しに来た」などと言い、現金60万円とカルティエなどの腕時計3本(時価計900万円相当)、BMW車1台(同800万円相当)を脅し取ったということです。
  • イタリアのマフィアで最強とされる犯罪組織の収益を裏付けとした債券を世界の投資家が購入していたことが、英フィナンシャル・タイムズ紙が調査した財務書類や法的文書で明らかになっています。イタリア南部カラブリア州を拠点とするマフィア組織「ヌドランゲタ」がダミー会社を通じて一部保証した債券を欧州最大級の投資銀行バンカ・ジェネラリが購入していたということも報じられており、今の日本の感覚からするとかなり異常な状況が今でもイタリアでは継続していることを痛感させられます。

2. 最近のトピックス

(1)AML/CFTを巡る動向

昨年6月、AML/CFT(アンチ・マネー・ローンダリング/テロ資金供与対策)の文脈から暗号資産(仮想通貨)の規制を強化しようと、FATF(金融活動作業部会)が、暗号資産関連企業に対する規則を適用する方針を発表しました。急速に拡大する暗号資産の規制に向けた初めて国際的な動きとなり注目されました。本規制については、FATFに参加する日本を含めた35以上の国や委員会、理事会はこれらのガイダンスをベースとしたルールを2020年の6月までに定める必要があり、その後はFATFによるモニタリングも開始される予定となっていました。今般、金融庁から「暗号資産・暗号資産交換業者に関する新たなFATF基準についての12ヵ月レビューの報告書」が公表されていますので、以下紹介します。

▼金融庁 金融活動作業部会(FATF)による「暗号資産・暗号資産交換業者に関する新たなFATF基準についての12ヵ月レビューの報告書」の公表について
▼暗号資産・暗号資産交換業者に関する新たな FATF 基準についての 12 ヵ月レビューの報告書要旨(仮訳)
  • 金融活動作業部会(FATF)は、マネロン・テロ資金供与(ML/TF)及び大量破壊兵器の拡散金融を防止するための国際基準を設定する政府間組織である。2019年6月、FATFは、暗号資産(virtual assets)及び暗号資産交換業者(VASPs)に関するマネロン・テロ資金供与対策(AML/CFT)上の要件を明確に設定するため、国際的な(FATF)基準の改訂を公表した。その際、FATFは、FATF基準の実施を促進し、課題を特定し、また進捗状況をモニタリングするための対話を業界と行うため、コンタクト・グループ(Virtual Assets Contact Group)を設立することで合意した。またFATFは、暗号資産セクターのタイポロジー(犯罪類型)、リスク、市場構造の変化に関するモニタリングに加え、各法域及び民間セクターによる改訂後のFATF基準(現基準)の実施状況を評価するため、「12カ月レビュー(12-month review)」を実施することで合意した
  • 本報告書は、12カ月レビューの結果を整理したものである。本報告書は、現基準の実施に関して、全体として、官民双方において進捗が見られたことを確認している。(今回のレビューのためのサーベイに回答した)54の法域のうち35の法域が現基準を実施しており、そのうち32の法域は暗号資産交換業者を規制対象とし、3の法域は暗号資産交換業者の活動を禁止している。残る19の法域は、国内法制において現基準をまだ実施していない。暗号資産交換業者の監督および暗号資産交換業者によるAML/CFT上の義務の実施は概ね初期段階にあるが、確実に進捗が見られている。官民双方で対処すべき問題は引き続き残るものの、特に暗号資産交換業者において「トラベルルール(travel rule)」の実施を可能とするための技術的な解決策(technological solutions)に関し、進捗が見られる
  • 現時点では、現基準の改訂の明確な必要性は確認されていない。今回のレビューにおいて、現時点で現基準の改訂を必要とする根本的な問題は特定されなかった。しかしながら、官民において依然として相当の量の作業が必要である。今回のレビューで回答を行った法域の半数以上は、暗号資産交換業者に対するAML/CFT上の義務を導入したと回答したものの、全てのFATF加盟国及び、より広く9のFSRBs2から構成されるグローバルネットワーク(Global Network)において、現基準が実施されなければならない。現基準の有効性は、全ての法域が現基準を実施し、かつ民間セクターが(現基準に基づく)AML/CFT上の義務を履行するかどうかにかかっている。また、官民双方からのフィードバックにおいて、現基準をどのように実施するかに関し、(既存のものと比べて)より詳細なFATFガイダンスが必要であることが示されている。この対象には、(現基準の実施に関し)対応能力の低い法域(lowcapacity jurisdictions)向けに特化したガイダンスの策定も含まれ得る
  • 暗号資産セクターは動向が速く、また技術的な変化が大きい産業であり、このことは、継続的なモニタリング及び官民の対話が必要であることを意味する。同時に、1年間という本レビューの期間は、現基準の影響や暗号資産市場がどのように変化したかを十分に理解する上では、比較的短いものであった。従って、FATFは、引き続き暗号資産に焦点を当てるとともに、以下の行動を実施することで合意した。FATFは、
    1. 暗号資産及び暗号資産交換業者に対する強化されたモニタリングを継続し、暗号資産及び暗号資産交換業者に関する現基準の実施状況についての第2回12ヵ月レビューを2021年6月までに実施する。この間、各法域は現基準を国内で法制化するための期間を(現基準が最終化された2019年6月から数えて)2年間確保したことになり、また暗号資産業界は、グローバルにトラベルルールのソリューションを導入するための時間を確保したことになる
    2. 暗号資産と暗号資産交換業者に関する改訂ガイダンスを公表する
    3. 2020年10月までにred flag indicators4及び適度に抽象化された犯罪事例を公表することで、暗号資産取引におけるML/TFリスク、及びML/TF目的での暗号資産の悪用の可能性に対する理解を、引き続き促進する
    4. コンタクト・グループを通じ、暗号資産交換業者、ソリューション・プロバイダー(technology providers)、技術者(technical experts)、学者を含む、民間セクターとの対話を継続・強化する
    5. (5)VASP監督当局間の国際協力を強化するための検討プロジェクトを継続する
  • 本報告書に記載の通り、これらのアクションは、来年に向けた暗号資産に関するFATFの行動計画を定めたものである。また、本報告書の報告内容は、(FATFによる)ステーブルコインに関するG20への報告書における、FATFの結論を支持するものである

また、日本の暗号資産業界においては、2020年7月8日付日本経済新聞で日本暗号資産取引業協会の会長が、「自主規制ルール案を遅くとも1年以内に策定する方針」を明らかにしたほか、「規制強化で国境をまたぐ取引は減るだろう」と指摘、中央銀行デジタル通貨(CBDC)のように裏付け資産のあるデジタル通貨の開発が官民で進んでおり、裏付け資産を持たない暗号資産にとっては逆風との指摘もある中、「決済手段としての利用などの啓蒙活動を増やしたい」と述べている点が注目されます。

さらに、関連して、本コラムでその動向を注視している中央銀行デジタル通貨(CBDC)におけるAML/CFTの方向性についても、FATFから「いわゆるステーブルコインに関するG20財務大臣・中央銀行総裁へのFATF報告書」が公表されていますので、その内容も確認してみます。

▼金融庁 金融活動作業部会(FATF)による「いわゆるステーブルコインに関するG20財務大臣・中央銀行総裁へのFATF報告書」の公表について
▼いわゆるステーブルコインに関する G20 財務大臣・中央銀行総裁への FATF 報告書要旨(仮訳)
  • いわゆるステーブルコイン(so-called stablecoins)は、金融のイノベーション及び効率性を加速させるほか、金融包摂を改善する可能性を秘めている。ステーブルコインは、従来は小規模で取引されてきたに過ぎない一方で、(ステーブルコインに関して)新たに登場したプロジェクト提案は、特に巨大なテクノロジー・通信技術又は金融機関によって提供される場合において、グローバルな規模で広範に利用される(mass-adopted)可能性がある。その他の巨大な価値移転システムと同様に、こうしたマス・アダプション(mass-adoption)されやすい特性は、マネロン・テロ資金供与(ML/TF)目的で利用することに対するステーブルコインの脆弱性をより大きなものとし、その結果、ML/TF目的で(ステーブルコインが)犯罪に悪用されるリスクを著しく増加させる
  • 金融活動作業部会(FATF)は、ML、TF、大量破壊兵器の拡散金融を撲滅するための国際基準を設定している。FATF基準は、具体的なマネロン・テロ資金供与対策(AML/CFT)上の義務を、個人と金融システムをつなぐ仲介業者(金融機関等)に対して課している。暗号資産のML/TFリスクを軽減するため、FATFは、2019年6月、ML/TFに対する十分な範囲の予防措置の実施を暗号資産交換業者(VASPs)に対して要請するため、FATF基準を改訂した
  • 2019年10月、G20はFATFに対し、ステーブルコイン、特に「グローバル・ステーブルコイン(即ち、マス・アダプションが発生する可能性のあるステーブルコイン)」に関するAML/CFT上の問題を検討するよう要請した。本報告書は、ステーブルコインに関するAML/CFT上の問題の分析を整理するものである。金融安定理事会(FSB)や国際通貨基金(IMF)から公表される相互補完的な報告書では、ステーブルコインの他の影響(金融システムの安定及びマクロ経済への影響等)が検討されている
  • FATFは、ステーブルコインは、匿名性、グローバルな普及、違法資金の多層化(による本人確認の困難化)の可能性という点において、一部の暗号資産と同様に潜在的なML/TFリスクを抱えていると認識している。コインの設計次第で、ステーブルコインは、アンホステッド・ウォレット(unhosted wallet)を経由した匿名での個人間取引(P2P取引)を許容する可能性がある。これらの特徴は、(ステーブルコインの)ML/TF上の脆弱性を示すものであり、こうした脆弱性は、マス・アダプションが発生すれば高まることになる
  • 進行中のプロジェクト及び現在提案されているプロジェクトを精査すると、仮に実際に、ステーブルコインの価値が安定し、より使い勝手が良くなり、巨大通信プラットフォームへの統合を求める巨大企業によって提供されるのであれば、ステーブルコインは、多くの暗号資産よりも、マス・アダプションを達成する可能性が高いと見られる
  • (2019年6月に)改訂されたFATF基準(現基準)は、ステーブルコインに対して明確に適用される。現基準下では、ステーブルコインは、その商品の特性次第で、暗号資産又は伝統的な金融資産のいずれかに該当すると考えられる。ステーブルコインの枠組みに関与する様々な関係主体は、現基準下でのAML/CFT上の義務を遵守することになる。どの事業者がAML/CFT上の義務を負うことになるかは、ステーブルコインの設計次第であり、特に、ステーブルコインの機能の中央集権性(又は分散性)の度合や、事業者の活動内容による
  • 中央集権的な枠組みのステーブルコインでは、単一の事業体が枠組み全体のガバナンスを担うほか、(カストディアル・ウォレット(custodial wallet)の提供や交換・移転サービスによって、)ステーブルコインの価値安定化や移転を実施し、ユーザーインターフェースを提供している可能性がある。分散型の枠組みのステーブルコインでは、システムを統治する中央事業体は存在せず、価値安定化や移転の機能、及びユーザーインターフェースは、多様な異なる事業体の間で又はソフトウェアを通じて、分散的に実施される可能性がある。中央集権型・分散型の枠組みは排他的なものではなく、ステーブルコインは両者の枠組みの間に位置するいかなる形態にもなり得る。例えば、ステーブルコインの枠組みとして、価値安定化は中央集権的に行われる一方で、ユーザーインターフェースは(エコシステム内の)他の暗号資産交換業者間で分散的に実施されるということがあり得る
  • 重要なこととして、(エコシステム内の)他の事業者(例:ウォレット提供者)が負う義務とは別に、ステーブルコインの中央開発者(central developer)・中央ガバナンス主体(central governance bodies)は、金融機関又は暗号資産交換業者としての活動を行っている場合に、現基準下で(エコシステム全体の)AML/CFT上の義務を負うことになる。ステーブルコインの中央ガバナンス主体は、ステーブルコインの機能や、誰が枠組みにアクセスできるか、そしてAML/CFT上の予防措置が枠組みの中で確保されているかを決定・判断する立場にあるため、ステーブルコインのエコシステム全体のML/TFリスク軽減措置を実施するユニークな立場にある。例えば、中央ガバナンス主体は、価値移転のシステムへのアクセスを、AML/CFT規制を遵守する暗号資産交換業者を通じてのみ可能とすることを確実にし得る。しかしながら、全てのステーブルコインに、容易に特定できる中央ガバナンス主体が存在するわけではないと考えられる
  • 現時点で認知されている(ステーブルコインの)モデルに基づき、FATFは、マス・アダプションが発生する可能性のあるステーブルコインは、特定可能な中央開発者もしくは中央ガバナンス主体を伴う形で、一定程度中央集権化されるであろうと考えている。FATFは、これらの中央開発者もしくは中央ガバナンス主体が、現基準下で、一般的に金融機関(例えば、決済手段の発行及び管理に関わる事業者)もしくは暗号資産交換業者(例えば、(FATF基準上の用語を定義する glossary で規定される、暗号資産交換業者の5つの活動類型のうちの1つである)participation in and provision of financial services related to an issuer’s offer and/or sale of a virtual assetを行う事業者)に該当すると考えている。このように中央開発者・中央ガバナンス主体がFATF基準の規制対象となることは、ステーブルコインのML/TFリスクを低減する上で重要な統制である。また、中央集権型の枠組みにおいてであっても、(対顧客で取引を行う)交換所・移転サービスや、カストディアル・ウォレットの提供者等、AML/CFT上の義務を負う(中央開発者もしくは中央ガバナンス主体以外の)様々な他の事業体が(エコシステム内に)存在し得る
  • こうした特定可能な中央組織(central body)が存在しない、分散型のステーブルコインは、それ自体はオペレーションの分散によってより大きなML/TFリスクをもたらす可能性があるものの、FATFは、中央集権型の枠組みよりもマス・アダプションが発生する可能性は低く、したがって関連するML/TFリスクは(依然存在するものの)比較的小さいと考えている。しかしながら、分散型の枠組みにおいてであっても、(対顧客で取引を行う)交換所・移転サービスやカストディアル・ウォレットの提供者等、AML/CFT上の義務を負う様々な事業体が(エコシステム内に)存在し得る。重要なこととして、商品をローンチさせるために必要なプロセスは完全に分散化することはできないため、分散型のステーブルコインのローンチ前に、(分散型のステーブルコインに関係する)事業体がAML/CFT上の義務を負うことが想定される
  • FATFは、現基準下で仲介業者に求められる予防措置が、現在存在しているステーブルコインによってもたらされるML/TFリスクを低減するために機能してきたと考えている。したがって、FATFは現時点では、現基準を改訂する必要があると考えてはいない。しかしながら、FATFは、ステーブルコインが、注視を不可欠とする技術革新の速い分野であり、各法域は現基準を効果的に実施しなければならないと認識している
  • 特にステーブルコインのML/TFリスクは、とりわけマス・アダプションを発生させる可能性があり、匿名性が高められたコインのML/TFリスクについて、継続的かつフォワード・ルッキングに分析され、また当該商品がローンチされる前に低減されることが重要である。ステーブルコインは、自身の機能を多数の法域に分散させながら、急速にグローバルに利用可能となる可能性があるため、各法域間での国際協力が、ML/TFリスクに適切に対処することを確実にする上で重要である
  • また、FATFは、更なるアクションを必要とし得るステーブルコインの潜在的なリスクを特定した。即ち、AML/CFTの枠組みが脆弱もしくは存在しない法域(即ちAML/CFT上の予防措置を適切に実施できないであろう法域)に拠点を置くコイン、分散型ガバナンス構造を有するコイン(即ちAML/CFT上の措置が適用可能な仲介業者が存在しないコイン)、そしてアンホステッド・ウォレットを経由した匿名でのP2P取引(即ち規制された仲介業者を経由しないで取引が行われる場合)である
  • 従って、FATFは4つのアクションを提言する
    • FATFは、全ての法域が優先課題として、暗号資産及び暗号資産交換業者に関する現基準を実施することを要請する
    • FATFは、2021年6月までに、現基準の実施状況及びその影響に対するレビューを行い、FATF基準改訂が必要かどうかを検討する。この取組みには、暗号資産がもたらすリスク、暗号資産市場、そして匿名でのP2P取引を促進し得るマス・アダプションの可能性を秘めた(ステーブルコインの)枠組みの提案に対するモニタリングを含む
    • FATFは、暗号資産に関する広範なFATFガイダンス改訂の作業の一環として、ステーブルコイン及び暗号資産に関し、各法域に対してガイダンスを提供する。このガイダンスでは、アンホステッド・ウォレットを経由した匿名でのP2P取引がもたらすML/TFリスクに対処するために各法域において利用可能な手段を含めて、AML/CFT統制が、ステーブルコインにどのようにして適用されるかという点について、更なる詳細を提示することになる。
    • FATFは、暗号資産交換業者の活動を監督する当局のグローバルなネットワークを発展させるため、各国監督当局の協力・情報共有および監督当局としての対応能力強化に関する、国際的な枠組みを強化する
  • これらの活動を支援するため、FATFは、G20が範を示し、メンバー国による現基準の実施を確実なものとし、また(G20以外の)他の法域に対して同様の対応をとるよう求めることを、要請する

さて、消費者庁は、特定商取引法と預託法の改正に向けた方針を示す骨子案を同庁の有識者検討会に提案しています。8月中には報告書がとりまとめられ、来年の通常国会で改正案が提出される見通しです。

▼特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会 報告書骨子(案)

その中で、インターネット通販やフリマアプリといったデジタルプラットフォーム上での取引を巡るトラブルに対応するため、販売者の身元確認を徹底させる規定の必要性が盛り込まれています。骨子案では、プラットフォーム企業とオンラインショッピングモールへの出品者の双方に対し、出品者の氏名、住所を虚偽記載できないよう特定商取引法で規定すべきだと提言する内容となっています。フリマのようなデジタルプラットフォーム上では、出品者の本人確認手続きの脆弱性により、現金の出品や盗難品の転売などの「犯罪インフラ化」が懸念され、AML/CFTの観点からも「場の健全性」が求められるのではないかと本コラムでも指摘してきました。プラットフォーム事業者と出品者の本人確認が厳格になされることで、「追跡可能性の確保」が格段に向上することになり、犯罪インフラ化を抑止することにつながるものとして、期待したいと思います。

その他、AML/CFTに関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 大阪出入国在留管理局に収容中、金融機関の口座を買い取ると同じ収容者の男性に持ち掛けたとして、大阪府警は、犯罪収益移転防止法違反容疑でカメルーン国籍の無職の容疑者を逮捕しています。報道によれば収容中の外国人男性に「要らない口座があれば一つ2万で買います」などと持ち掛けた疑いがあり、同府警は買い取られた口座が、特殊詐欺グループなどによる犯罪収益の出し入れに使われた疑いもあるとみて、他にも声を掛けられた収容者や共犯者がいないか調べているということです。
  • 三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行、りそな銀行、埼玉りそな銀行の大手5行は、低コストの新たな銀行間送金システム(全国銀行資金決済ネットワーク:全銀システム)の構築を検討すると発表しています。各行が無料で提供しているスマホアプリや決済アプリを通じて少額の送金を行う場合に、手数料を従来より割安に設定する方向だといいます。報道(2020年8月6日付日本経済新聞)によれば、既存の全銀システムは送金を受ける側の銀行が手数料も受け取るしくみで、大手行から地方銀行への支払いが大幅に超過している状況にあり、新たなインフラが浸透すれば地銀の減収は必至の情勢で足並みが揃うまでは紆余曲折が予想されます。さらにキ、ャッシュレス決済の事業者にとって手数料の引き下げは利点となるものの、独自のシステムで利用者を増やしてきた経緯もあり、複数の事業者が使える少額決済システムの構築を警戒する意見も多いようです。
  • 静岡銀行は、アクシオンが提供するサービスを活用して、これまで窓口や郵送で実施していた本人確認をオンライン化すると発表しています。同行のリリース(2020年8月13日)によれば、本サービスについて、「アクシオンでは、2018年11月に「犯罪収益移転防止法」の施行規則改定により、オンラインでの本人確認が可能となったことを受け、スマートフォンで撮影した顔画像と本人確認書類の顔写真を照合して本人確認を行うサービス「proost」を開発しました。本サービスは、お客さま合意のもと取得した本人確認情報(氏名、住所、生年月日、顔写真等)を「proost」にデータとして蓄積します。お客さまが各種サービスを申し込まれた際、蓄積データとの照合により、なりすましなどの不正利用の防止が可能になるとともに、諸手続きの簡素化など、安全性と利便性の向上が期待できます」といった説明がなされています。さらに、今後についても、「静岡銀行では、本年6月にアクシオンが提供する不正探知プラットフォーム「Detecker」を採用しており、本サービスとのシステム連携を実施することで、インターネット取引におけるセキュリティ対策の強化を図るとともに、お客さまに安心してご利用いただける金融インフラの提供とDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に努めます」、「具体的には、インターネット経由での口座開設において、現在は、本人限定受取郵便による本人確認を行うため、手続きの完了まで1~2週間を要していますが、「proost」導入後は、不正検知システムと連携した精度の高い本人確認が可能となり、口座開設までの期間を短縮できます」、「今後も両社の連携により、静岡銀行のお客さまが店頭に来店されることなく、住所変更等の各種手続きをスマートフォンやホームページなどインターネットチャネルで完結できるよう検討を進めます」としています。
(2)特殊詐欺を巡る動向

「特殊詐欺の被害者は、人間関係が希薄で自分を過信する人が多い」という興味深い調査結果が報道されていました(2020年7月15日付毎日新聞)。愛知県警が心理学の観点から特殊詐欺被害者の特性を把握しようと、専門家にアンケート調査を依頼、分析結果から、特殊詐欺の被害者が「人とのつながりが薄い」「自分は大丈夫」などと考える傾向が浮かびあがったといいます。以下、同記事から抜粋して引用します。

友人関係について、「友人はいるが心は通じていない」と感じる頻度を尋ねた設問では「常にある」「時々ある」との回答の割合が、詐欺被害に遭った人で全体の36.6%。逆に詐欺被害を免れた人は11.5%にとどまり大差がついた。また、「同じ町内で行事や会合へ一緒に行く人」の人数を聞いたところ、「誰もいない」と回答したのは、被害者で43.4%。免れた人は13.7%で、ここでも人間関係が希薄だと考える人ほど被害に遭っていることが裏付けられた。

事件前「自分は被害に遭わない」と考えていた人の割合は、被害者で59.4%、免れた人は28.8%となり、約2倍の差となった。自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりしてしまう心理作用「正常性バイアス」の働きが詐欺被害のリスクを高めることが裏付けられた。

一方で他人を信頼しやすい人ほど被害に遭いやすい傾向も浮き彫りに。「私は人を信頼する」「ほとんどの人は信頼できる」「人は基本的に善良で親切である」との問いに「非常に肯定」「やや肯定」と回答した割合は被害者の方が多く、免れた人との差はいずれも2~3倍の開きがあった。

原田准教授は「被害者の方が人とつながりたいという欲求が強く、家に来る人を信じやすい傾向にある」と分析。「身近に一人でも相談できる人がいることが重要。あいさつや立ち話レベルではなく、一緒に行動できる人の有無が被害阻止の鍵を握る」と指摘した。

また、関連して、同じく愛知県警、が昨年、特殊詐欺の被害に遭われた方にアンケートを実施した内容を取りまとめたレポートが公表されていますので、あわせて紹介します。

▼愛知県警  特殊詐欺被害者へのアンケート調査(令和元年中)

本調査結果からは、まず「約90%の方が、被害に遭うまで「自分は被害に遭わない」「考えたこともない」と考えていた」ことが明らかとなり、「自分だけは大丈夫」と思わずに、日頃から「振り込め詐欺」の具体的な手口を知り、防犯意識を持つことが大切と指摘しているほか、「固定電話への着信をきっかけとした割合が圧倒的に多い」こと、「固定電話をきっかけとした被害の96%が60歳以上の方で占められて」いることから、「留守番電話設定」や「被害防止機能付の電話機」などの固定電話対策が被害に遭わないための重要な対策であると指摘しています。また、「息子などをかたり現金を手渡しさせる手口」は、全ての年代で最も知られている手口であり、犯人に狙われやすい世代が、その他の4つの手口(還付金詐欺、キャッシュカード詐欺盗、訴訟関係費用を名目としたハガキや封書が届き電子マネー購入や現金を送付させる手口、有料サイト未納料金等の名目として電子マネーの購入やコンビニ決済をさせる手口)の認知度が低いこと、「犯人はあらゆる手口を駆使して現金などをダマし取ろうとしており、様々な手口を知っておくことが大切だ」とも指摘しています。さらに、特殊詐欺に関して、注意して見聞きする情報配信媒体については、全ての世代で「テレビ」が最も多くを占めている一方で、世代が若くなるにつれ「インターネット」の割合が大きくなっていること、新聞やテレビ、インターネットでは毎日のように特殊詐欺のニュースが取り扱われており、様々な媒体から情報を得て学ぶことが大切だと注意喚起しています。さらに、「家族や地域での会話」や「新聞、テレビ等での情報収集」の割合が高く、これに併せ、他の対策も取っておくことで被害に遭いにくくなること、特に「被害防止対策用電話機の活用」は効果的であるとしています。また、約25%の方がキャッシュカードを使用しておらず、不要と考えており、金融機関でキャッシュカードのみの解約ができることから、狙われやすい世代に対して検討をうながしています。

次に、例月とおり、直近の特殊詐欺の認知・検挙状況等について確認しておきます。

▼警察庁 令和2年6月の特殊詐欺認知・検挙状況等について

令和2年1月~6月における特殊詐欺全体の認知件数は6,861件(前年同期8,018件、前年同期比▲14.4%)、被害総額は128.6億円(152.3億円、▲15.6%)、検挙件数は3,451件(2,949件、+17.0%)、検挙人員は1,207人(1,248人、▲3.3%)となっています。ここ最近同様、認知件数・被害総額ともに減少傾向にあります。加えて、検挙件数、検挙人員ともにその落ち込みに比較して増加傾向にある点は、摘発が進み、特殊詐欺が「割に合わない」状況になっていることを示しているといえます。なお、後述しますが、直近の犯罪統計資料によれば、暴力団犯罪のうち、詐欺の検挙件数は708件(1,108件、▲36.1%)、検挙人員は516人(643人、▲19.6%)となっており、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、暴力団の詐欺事犯への関与が激減していることがより際立つ対照的な数字となっています。類型別では、オレオレ詐欺の認知件数は1,041件(3,575件、▲70.1%)、被害総額は28.8億円(35.9億円、▲19.8%)、検挙件数は1,014件(1,510件、▲32.8%)、検挙人員は305人(764人、▲60.1%)などとなっています。また、キャッシュカード詐欺盗の認知件数は1,705件(1,393件、+22.4%)、被害総額は24.0億円(23.0億円、+4.3%)、検挙件数は1,250件(519件、+229.5%)、検挙人員は364人(133人、+173.7%)などとなっており、分類の見直しもあり、前期との比較は難しいとはいえ、キャッシュカード詐欺盗の被害の深刻化が顕著であることは指摘できると思います。さらに、預貯金詐欺の認知件数は2,142件、被害総額は0,2億円、検挙件数は480件、検挙人員は363人(従来オレオレ詐欺に包含されていた犯行形態を令和2年1月から新たな手口として分類)、架空料金請求詐欺の認知件数は891件(1,710件、▲47.9%)、被害総額は32.2億円(43.3億円、▲25.6%)、検挙件数は316件(662件、▲52.3%)、検挙人員は76人(298人、▲25.5%)、還付金詐欺の認知件数は766件(1,155件、▲33.7%)、被害総額は10.4億円(14.0億円、▲25.7%)、検挙件数は244件(163件、+49.7%)、検挙人員は27人(9人、+200.0%)などとなっています。また、融資保証金詐欺の認知件数は192件(139件、+38.1%)、被害総額は2.1億円(2.0億円、+5.5%)、検挙件数は9件(52件、+73.1%)、検挙人員は26人(9人、+188.9%)、金融商品詐欺の認知件数は37件(16件、+131.3%)、被害総額は2.0億円(1.0億円、+100.0%)、検挙件数は15件(16件、▲6.3%)、検挙人員は14人(15人、▲6.7%)となっています。これらの類型の中では、「融資保証金詐欺」「金融商品詐欺」が増加している点に注意が必要かと思います。

犯罪インフラの状況については、口座詐欺の検挙件数は336件(418件、▲19.6%)、検挙人員は210人(249人、▲15.7%)、盗品等譲受けの検挙件数は1件(4件、▲75.0%)、検挙人員は0人(2人)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は1,233件(1,087件、+13.4%)、検挙人員は1,024人(896人、+14.3%)、携帯電話端末詐欺の検挙件数は107件(144件、▲25.7%)、検挙人員は86人(105人、▲18.1%)、携帯電話不正利用防止法違反の検挙件数は15件(23件、▲34.8%)、検挙人員は13人(14人、▲7.1%)、組織犯罪処罰法違反の検挙件数は46件、検挙人員は15人などとなっています。これらのうち、犯罪収益移転防止法違反の摘発が増加しているのは、金融機関等におけるAML/CFTの取組みが強化されていることの証左ではないかと推測されます。

また、被害者の年齢・性別構成について、特殊詐欺全体では、男性(25.3%):女性(74.7%)、60歳以上(89.7%)、70歳以上(80.0%)、オレオレ詐欺では、男性(19.2%):女性(80.8%)、60歳以上(98.3%)、70歳以上(94.8%)、融資保証金詐欺では、男性(69.5%):女性(30.5%)、60歳以上(27.7%)、70歳以上(10.9%)と、類型によって傾向が全く異なることもある点は認識しておく必要があります。なお、参考までに、特殊詐欺被害者全体に占める高齢被害者の割合については、オレオレ詐欺97.8%(女性の割合80.5%)、キャッシュカード詐欺盗96.0%(78.6%)、預貯金詐欺98.6%(85.9%)、架空料金請求詐欺41.7%(59.3%)、還付金詐欺85.5%(64.9%)、融資保証金詐欺19.5%(11.8%)、金融商品詐欺83.8%(74.2%)、ギャンブル詐欺18.5%(50.0%)、交際あっせん詐欺16.7%(0.0%)となり、類型によってかなり異なる傾向にあることが分かりますが、概ね高齢者被害の割合が高い類型では女性被害の割合も高い傾向にあることも指摘できると思います。このあたりについては、以前の本コラム(暴排トピックス2019年8月号)で紹介した警察庁「今後の特殊詐欺対策の推進について」と題した内部通達で示されている、「各都道府県警察は、各々の地域における発生状況を分析し、その結果を踏まえて、被害に遭う可能性のある年齢層の特性にも着目した、官民一体となった効果的な取組を推進すること」、「また、講じた対策の効果を分析し、その結果を踏まえて不断の見直しを行うこと」が重要であることがわかります。

なお、報道によれば、新型コロナウイルス感染に便乗した詐欺事件(未遂も含む)の被害が3月上旬以降、全国で88件確認され、被害額が計約8,395万円にのぼること、給付金や助成金などを名目にした手口が多いこと、被害は7月中旬までに20都道府県で確認されたこと、偽の電話やメールを通じた特殊詐欺が、このうちの41件、約7,258万円を占めていること、自治体や金融機関の職員を名乗り、「給付金を受け取るにはキャッシュカードを新しくする必要がある」「手続きを代行する」などと偽り、被害者宅を訪れた人物がキャッシュカードをだまし取ったり盗んだりする手口が目立つこと、被害の多くが、キャッシュカードで現金を引き出されていたことなどが確認できます。さらに、新型コロナウイルス対策として1人10万円が支給される国の特別定額給付金に便乗し、キャッシュカードをだまし取る詐欺事件が急増していること、同給付金を巡り、各地で詐欺電話が相次いでおり、支給のための本人確認などで自治体が申請者に電話するケースがあり、犯行グループとの区別がつきにくいことから被害が発生しているといい、警察や自治体は「役所からキャッシュカードの暗証番号や口座番号を聞くことはない」と注意を呼びかけています。

また、最近では、「法務省管轄支局」などと実在しない公的機関を装った架空請求詐欺の封書が個人宅に届くケースが相次いでおり、「料金が未納」「連絡がない場合は訴訟を起こして給料などを差し押さえる」と迫る内容が目立っています。これまで、架空請求詐欺では、はがきで金銭を要求するケースが多かったものの、今年に入ってから封書が届いたという情報が相次いでおり、はがきが警戒されるようになったため、信ぴょう性を高める文言を記載した封書型に手口を変えてきたのではないかと考えられています。

次に、最近の国民生活センターからの注意喚起等の情報をまとめて紹介します。

▼国民生活センター 新型コロナウイルスに便乗した悪質商法にご注意!(速報第7弾)-受給資格がない人に持続化給付金の不正受給を持ちかける手口に気をつけて!-

新型コロナウイルスの感染拡大に関連した相談が、全国の消費生活センター等に寄せられており、その中から、速報第7弾として、「サラリーマンでも無職でも持続化給付金100万円が受け取れる」などといった、受給資格がない消費者へ不正受給を持ちかける非常に悪質な勧誘事例を被害の未然防止のために紹介されており、具体的な相談事例として、(1)友人から「サラリーマンでも持続化給付金が受け取れる」と不審な誘いを受けた事例として、「学生時代の友人から無料通話アプリにメッセージが届いた。特定の会社を通じて持続化給付金を申請すると、サラリーマンでも無職でも100万円の給付金が受け取れるという。その会社が前年度の確定申告書類を作り、申請するようだ。その会社の名前を聞いたところ「名前はないが、税理士がついているので心配ない」とのことだが不審だ。「給付金を受け取った場合、その6割を会社と税理士に支払うことになる」と言われた。私は断ったが、友人はこの会社を通じて給付金を受取りたい人を探しているので、紹介料があるのかもしれない。怪しいので情報提供する(受付年月:2020年7月 契約当事者:30歳代 女性 給与生活者)」といったものや、(2)友人から「自営していることにして申請すれば持続化給付金がもらえる」と誘われた事例、(3)知人から「事業主でなくても持続化給付金を受給可能」と謳うサービスを勧められた事例が紹介されています。そのうえで、消費者へのアドバイスとして、以下のとおり述べています。

  1. 受給資格がない人に持続化給付金の不正受給を持ちかける誘いには絶対に乗らないでください
    • 持続化給付金は事業者(個人事業者も含む)に対して支払われます。事業を行っておらず受給資格がないサラリーマンや学生、無職の人が、自身を事業者と偽って申請をすることは犯罪行為(詐欺罪)にあたると考えられます。誘いに乗った消費者自身も罪に問われる可能性が高いです
    • 「サラリーマンでも無職でも持続化給付金が受け取れる」「自営していることにして申請すれば持続化給付金がもらえる」などといった、受給資格がない人に持続化給付金の不正受給を持ちかける非常に悪質な誘いには絶対に乗らないでください。
  2. 友人や知人、SNSを通じて誘いを受けてもきっぱり断りましょう
    • 友人や知人から誘いを受けたという事例が複数見られるほか、SNSを通じて誘われたという事例も寄せられています。不正受給は罪に問われる可能性が高いため、たとえ友人からの誘いであっても、きっぱりと断りましょう
  3. 不審に思った場合や、トラブルにあった場合は、最寄りの消費生活センター等に相談しましょう
▼国民生活センター  各種相談の件数や傾向 更新
▼架空請求

「利用した覚えのない請求が届いたがどうしたらよいか」という架空請求に関する相談が多く寄せられていること、請求手段は、電子メール、SMS、ハガキ等多様で、支払い方法も口座への振込だけではなく、プリペイドカードによる方法や詐欺業者が消費者に「支払番号」を伝えてコンビニのレジでお金を支払わせる方法等様々であることが紹介されています。さらに最近の事例として、「スマートフォンにデジタルコンテンツの未納料金に関するSMSが届き、電話をすると支払いを求められた。心当たりがないがどうするべきか」、「スマートフォンに身に覚えのない請求メールが届いた。電話をすると有料動画サイト料金約25万円が未納だという。どうすればよいか」、「大手通販業者から未払いに関するSMSが届いた。心配で連絡してしまったが、大丈夫か」、「自宅に総合消費料金に関するハガキが届いた。心当たりはなかったが電話をすると個人情報を聞かれた。今後どう対処すべきか」、「自宅に民事訴訟最終通達書と書かれているハガキが届いた。何の請求か分からないが、どうしたらよいか」といったものが紹介されています。

▼次々販売

1人の消費者に業者(複数の業者の場合も含む)が商品等を次々と販売する「次々販売」に関する相談が寄せられており、最近の事例として、「高齢の母がエアコン掃除の勧誘電話をきっかけに、その後、換気扇掃除、風呂掃除と次々と申し込みをした。必要がないものなら解約したい」、「エステ体験をした後、約40万円の痩身エステを契約した。その後も次々にエステの契約をさせられ約60万円の決済をしたが、また新たな契約を勧めてくるので嫌気がさした。中途解約して返金してほしい」、「過去に損害を被ったビジネスの被害金を取り戻せると言われ、次々と高額な手数料を支払ったが被害金の返還も相手からの連絡もなくなった。どうすればよいか」、「痩身エステを契約後、施術に行くたびに脱毛エステや美容機器を次々と勧められ、契約してしまった。解約できないか」、「訪問販売業者から押入れ用の乾燥剤を購入し、後日その代金の集金の際に、まだ足りないので追加で購入するよう言われ、また契約した。不審だし、高額なので解約したい」といったものが紹介されています。

▼健康食品や魚介類の送りつけ商法

健康食品や、カニなどの魚介類の購入を勧める電話があり、強引に契約をさせられてしまったり、断ったのに商品が届いたりするという相談が寄せられており、最近の事例としては、「知らない事業者から健康食品の勧誘電話があり断ったにもかかわらず商品が届いた。このまま送り返してよいか」、「申し込んでいない鮭の切り身セットが届き、家族が代引きで支払ってしまった。既に開封してしまったが、注文していないので返金してほしい」、「母宛に海産物の購入を勧める電話があり、断っていたが担当者に押し切られ、カニを送付することに応じてしまったという。解約したいがどうすればよいか」、「母宛に海産物が届き、今後は送らないようにと業者に伝えたが、再度代引きで商品が届いた。返品したいが業者と連絡が取れない」といったものが紹介されています。

▼マルチ取引

マルチ取引で扱われる商品・サービスは、健康器具、化粧品、学習教材、出資など様々であり、マルチ取引の相談では、解約・返金に関するものが多くなっていること、マルチ取引とは、商品・サービスを契約して、次は自分が買い手を探し、買い手が増えるごとにマージンが入る取引形態であることが指摘されており、最近の事例として、「大学生の息子が友人に誘われ暗号資産の投資の契約をした。人の勧誘も勧められている。対処方法を知りたい」、「母がマルチで水素水生成器等を契約しているようだ。やめさせたいがどうしたらよいか」、「人を紹介すると紹介料がもらえると誘われ、化粧品と美顔器をクレジットを組んで購入した。中途解約を申し出たところ30万円を一括で請求されたが高額で支払えない」、「学生時代の友人に「海外口座を開設し暗号通貨を運用する。人に紹介すると儲かる」と誘われ、友人に資金を預けた。解約を申し出たところ、全額の返金はできないと言われた」、「友人から誘われたセミナーで投資のコンサルティング契約を勧められた。「人を紹介すると報酬が得られる」と言われ、借金をして契約したが、解約したい」といったものが紹介されています。

▼アフィリエイト・ドロップシッピング内職

「『ネット上で簡単にできるお仕事』と誘われて契約したが、まったく収入にならない」など、アフィリエイト・ドロップシッピングに関する相談が寄せられていること、アフィリエイトの仕組みは、消費者がホームページやブログなどを作成し、製品、サービスなどの宣伝を書き、広告主(企業など)のサイトへのリンクを張ります。ホームページやブログの閲覧者がそこから広告主のサイトへ移行して、実際に商品の購入などにつながった場合、売上の一部が自分の収入(利益)になるというものであること、また、ドロップシッピングは、消費者が実際に自分のホームページなどで、商品を販売します。販売用の商品の仕入れ費用や売れた場合の手数料の支払いなどもあるため、売れたとしても、思ったほど簡単に収入にならないという場合があることなどが指摘されています。最近の事例としては、「知人からオンラインカジノやブックメーカーの情報商材をアフィリエイトで広めるだけで稼げる副業を勧誘され申し込んだ。怪しいのでクーリング・オフしたい」、「インターネットで見つけた副業サイトに登録した。後日、電話で「絶対儲かる」と説明され、アフィリエイトの情報商材を契約したが、解約・返金してほしい」、「アフィリエイトで高収入を得るという動画広告の中で、10万円の登録料を支払えば仕事を始めるための有益な情報が得られるとあり契約したが、具体的な情報は得られなかった。返金を申し出ているが事業者から返答がない」、「SNSで知り合った友人から、オンラインカジノのアフィリエイトで人を紹介すると儲かると勧められ、契約したが不審だ。解約したい」、「アフィリエイトで稼いでいるという人のブログで紹介されていたシステムを購入し、事業者に使い方を聞いたが、教えてもらえなかった。返金してほしい」といったものが紹介されています。

▼訪問購入

「不用品や和服の買い取りのはずが貴金属を買い取られた」といった相談が寄せられており、最近の事例として、「高齢独居の父宅に不用品を買い取るという業者から電話があり、明後日来訪されることになった。不審なので断り方を相談したい」、「訪問してきた業者に金のネックレスを売った。安く売ってしまったと後悔し業者に電話をかけているが電話にでない。クーリング・オフしたい」、「不要な衣服等を買い取るという業者が自宅に来て、売りたくないと断っているのに指輪やブレスレットなどを査定され持って帰られてしまった。その際クーリング・オフはできないと言われたが、今からでも取り戻せないか」、「不要な衣料品はないか」と電話があり、靴とかばんを買い取ってもらうことにしたが、自宅に来た業者に「貴金属や商品券はないか」と迫られ、アクセサリーを売ってしまった」、「見積もりのつもりで業者に家に来てもらい、ネックレスと指輪を売却したが、買取価格が安すぎたと後悔した。解約したいと申し出たができないと言われ、どうすればよいか」といったものが紹介されています。

▼国民生活センター PIO-NETにみる2019年度の消費生活相談の概要

2019年度の相談件数は934,944件で、2018年度(996,498件)に比べ減少した。「架空請求」の減少が影響しており、「架空請求」の相談は、2012年度から2018年度にかけて再び増加し、2017年度と2018年度は20万件を超えたが、2019年度は10.9万件と大幅に減少しています。また、70歳以上の相談の割合は24.5%と依然として全年代で最も多い一方、20歳未満、20歳代、30歳代、40歳代の割合が増加しています。また、2018年度と比較して、定期購入などのトラブルがみられる「健康食品」「化粧品」、営業員の説明・勧誘や外貨建て生命保険のトラブルがみられる「生命保険」、ラグビーワールドカップ等のチケット転売トラブルがみられる「スポーツ観戦」、訪問販売・電話勧誘販売による電力会社切り替え等のトラブルがみられる「電気」において相談件数の増加が目立っています。さらに、新型コロナウイルスの影響で、マスクやトイレットペーパー等が品切れで購入できないという相談や、価格の高騰や転売に関する相談、インターネット通販で購入したが商品が届かないという相談がみられるほか、海外パックツアーの解約に伴うキャンセル料や返金に関する相談がみられるといいます。「通信販売」に関する相談の相談全体に占める割合は2013年度以降、販売購入形態別で最も高く、2019年度は32.8%で、「インターネット通販」に関する相談が多くみられ、「訪問販売」「電話勧誘」「ネガティブ・オプション」「訪問購入」は70歳以上の相談が多く、「マルチ取引」では20歳代の相談が多い結果となりました。契約購入金額は合計金額3,962億円、平均金額94万円であり、既支払金額は合計金額1,388億円、平均金額37万円と、2018年度に比べ合計金額、平均金額ともに減少しています。販売方法・手口別にみると、増加傾向にある「代引配達」では、注文した覚えのない美顔器を代引配達するとのメールが届いたという相談、「クレ・サラ強要商法」では、20歳代を中心に情報商材などを高額契約させられたという相談がみられているといいます。

▼国民生活センター 2019年度訪日観光客消費者ホットラインに寄せられた相談のまとめ

訪日窓口に寄せられた相談としては、「2019年度の相談件数は、369件であり、件数を月別にみると2019年10月と2020年1月から3月の相談が他の月に比べて増加しました。2019年10月はラグビーワールドカップ開催に伴う訪日観光客の増加、2020年1月から3月にかけては新型コロナウイルス感染拡大が相談件数が増加した要因の一つと考えられます。なお、2018年度は訪日窓口を開設した2018年12月から2019年3月の4カ月間で62件でした」と指摘しています。また、窓口に寄せられた相談のうち訪日観光客からの相談としては、「訪日窓口に寄せられた相談のうち、訪日観光客からの相談は264件であり、時期別にみると訪日中の相談が145件(55%)と最も多く、次いで訪日後が85件(32%)、訪日前が34件(13%)でした」、「通訳対応言語別でみると、中国語での相談は161件(61%)、次いで英語が61件(23%)と、中国語と英語で8割以上を占めました」、「商品・役務等別分類でみると、「宿泊施設」が75件(28%)と最も多く、次いで「外食」が31件(12%)でした」、「対応言語別に商品・役務等別でみると、「宿泊施設」や「外食」などは、どの言語においても一定程度の相談が寄せられているものの、「健康食品」や「化粧品」など買い物に関連するものは、ほとんどが中国語による相談でした」、「相談内容別にみると、「契約・解約」「接客対応」に関する相談が多く寄せられました」となっています。

▼国民生活センター 注文していないのに海外から植物の種子が送られてきたという相談が寄せられています

最近、全国の消費生活センター等には、注文していないのに海外から植物の種子が送られてきたという相談が寄せられており、外装に植物検査合格証印のない種子が海外から届いた場合は、最寄りの植物防疫所に相談していただきたいこと、また、代金の請求を受けたなどトラブルに遭った場合には、すぐに最寄りの消費生活センターに相談していただきたいことなどを注意喚起しています。具体的な相談事例として、「国際郵便で袋入りの黒い種子のようなものが私宛に郵送されてきた。身に覚えが無い。どう対処すべきか」、「昨日、ポストに私宛の国際郵便が届いていた。開封すると植物の種が入っていたが、注文した覚えはない。どうしたらいいか」などがあり、消費者へのアドバイスとしては、以下が述べられています。

  1. 外装に植物検査合格証印のない種子が海外から届いた場合は、最寄りの植物防疫所に相談してください
    • 心当たりの無い種子が届いても、庭やプランターなどに植えないでください。また、種子がビニール袋に入っている場合は、ビニール袋を開封しないでください
    • 植物防疫法の規定により、植物防疫官による検査を受けなければ、種子などの植物は輸入ができません。輸入時の検査に合格した場合は、外装に合格のスタンプ(植物検査合格証印)が押されます。もし、輸入検査を受けていない(外装に合格のスタンプのない)植物が届いたら、そのままの状態で、最寄りの植物防疫所に相談してください
    • 海外から注文していない植物が郵送された場合は、植物防疫所にご相談ください(植物防疫所)
  2. 代金の請求を受けたなどトラブルに遭った場合には、すぐに最寄りの消費生活センターに相談してください
    • 注文していない植物の種子などが送られてきて、代金の請求を受けたり、不審な点があったりした場合はすぐに最寄りの消費生活センターに相談してください
    • 特定商取引法上の「ネガティブ・オプション」に該当する場合、商品の送付があった日から14日間を経過したときは、販売業者による商品の引取りに応じる必要がない

最近の特殊詐欺の事例について、報道からいくつか紹介します。

未成年者が関与した事例としては、まず北海道警札幌・西署が、高齢女性からキャッシュカードを盗んだとして、窃盗の疑いで北海道苫小牧市の男子大学生(19)を逮捕した事例があります。仲間と共謀し、金融庁職員を装って札幌市中央区の70代女性宅を訪れ、女性がキャッシュカード計7枚と暗証番号を書いたメモを入れた封筒を別のものとすり替え盗んだと見ており、同署は特殊詐欺グループの一員として、カードを受け取る「受け子」役だったとみて捜査しているといいます。また、高齢女性からキャッシュカードを盗み、口座から現金を引き出したうえ、大麻を隠し持ったとして、神奈川県警捜査2課は、窃盗と大麻取締法違反(所持)の疑いで、会社員を逮捕しています。容疑者は特殊詐欺の実行役を募る「リクルーター」役で、取り調べに対し、「(実行役の)中野という名前は聞いたこともない」などと供述、大麻については「自分で吸うため、持っていた」と容疑を認めているといいます。さらに、高齢女性からキャッシュカードをだまし取り、現金を引き出したとして、神奈川県警捜査2課は、詐欺と窃盗の疑いで、岩手県花巻市の職業不詳の少年(18)を逮捕しています。1月に氏名不詳者らと共謀のうえ、市役所職員などを装って、神奈川県藤沢市に住む80代の無職女性から、キャッシュカード3枚をだまし取り、同市内の金融機関のATMで現金計110万円を引き出したというもので、少年は同じ岩手県出身で、共犯のアルバイトの少年(17)=同容疑で逮捕=らを犯行グループに勧誘したうえ、だまし取ったカードや引き出した現金を回収していたとみられています。また、氏名不詳者と共謀のうえ、金融機関の職員を装い、70代の無職女性宅に電話をかけ、「古いキャッシュカードを新しくする手続きを進めています」などと嘘を言い、金融機関の職員を装って女性宅を訪れ、カード2枚をだまし取ったというものです。カードを使って女性の口座から現金30万円を引き出したとして、窃盗の疑いで容疑者を逮捕しています。報道によれば、取り調べに対し、「引き出した額の1割を報酬として受け取った」などと供述しているようです。

また、横浜の80代無職女性が、現金1,500万円をだまし取られる特殊詐欺被害にあっています。報道によれば、女性宅に女性の知人を装った男から電話があり、「何度も電話したのに、どこに出かけていたの。会社のお金の送付先を間違えてしまい、1,500万円から2,000万円くらい必要。お金を取りにいきます」などと嘘を言われ、同日午後、自宅に続けて現れた知人の上司のおいと、部下を装った男2人に現金計1,500万円を手渡し、だまし取られたものです。女性はかかってきた電話の相手を、普段懇意にしている商店の店員だと勘違いし、話を信じてしまったといい、後日商店に連絡を取り、だまされたことに気付いた女性が110番通報し、事件が発覚したものです。さらに、金融機関職員などを装って高齢者からキャッシュカードを盗み取ったとして、静岡県警御殿場署は、窃盗の疑いで会社員を再逮捕しています。金融機関の職員になりすまして御殿場市の無職女性(79)宅を訪れ、キャッシュカード1枚を、持参したカードとすり替えて盗んだというものです。報道によれば、市役所や金融機関の職員になりすました人物が、女性宅に「健康保険の還付金がある」「キャッシュカードを確認しに行く」などと電話していたといい、女性の口座から現金20万円が引き出されていたようです。また、愛知県岡崎市の70代の女性が1,400万円超をだまし取られた事例では、女性宅に大手企業社員を名乗る男から不審な電話があり、女性が男に指示された番号に電話すると、金融庁職員をかたる男から「口座に入っている現金は差し押さえの対象になる。東京に現金を保管する場所がある」と言われたため、この女性は、男が指定した東京都内の雑居ビルやアパートの一室に、5回に分けて計1,433万円を宅配便で送ってしまったということです。不審に思った女性が長女に相談、岡崎署に被害届を出したものです。

新型コロナウイルス対策に関連した給付金制度等を悪用した詐欺事案も多発しています。たとえば、中小企業や個人事業主を支援する国の持続化給付金100万円をうその申請でだまし取ったとして、兵庫県警が会社役員ら男3人を詐欺の疑いで逮捕しています。報道によれば、100人以上の名義を使って申請を繰り返したとみられています。中小企業庁がインターネット上に開設した持続化給付金の申請ページで書類を添付してうその内容を申し込み、100万円を容疑者の預金口座に入金させたといいます。さらに、また、一律10万円が支給される特別定額給付金をオンライン申請でだまし取ったなどとして、石川県警珠洲署は、私電磁的記録不正作出・同供用と詐欺などの疑いで、無職の容疑者(50)(有印私文書変造・同行使罪などで起訴済み)を再逮捕しています。石川県能登町の男性に成り済まし、オンラインで特別定額給付金を同町に申請、自分が管理する預金口座に現金10万円を振り込ませたというもので、同署は、容疑者が何らかの方法で男性の個人情報を手に入れ、自分のマイナンバーカードを使って申請したとみているとのことです。また、新型コロナウイルスの感染拡大に便乗した詐欺事案も多発しています。現金1,000万円をだまし取ったとして、京都府警北署は、詐欺容疑で飲食店店員(25)を逮捕、仲間と共謀して無職男性(86)の自宅に息子を装って電話し、「友人の保証人になったが、その友人が新型コロナに感染したので代わりに金を支払わなければならなくなった」と嘘をつき、自宅を訪れた仲間の男=詐欺罪で起訴=が男性の妻(80)から1,000万円を受け取り、現金をだまし取ったというものです。また、大阪府警捜査2課は、大阪府内の80代女性が息子を名乗る男から電話で「熱が出てコロナかもしれない。PCR検査の結果待ちだ」などと言われ、現金50万円をだまし取られたと発表しています。報道によれば、女性宅に三男を名乗る男から「コロナかもしれない」と電話があり、女性が心配すると、続けて男は「友達と株をして大損した。150万円段取りしてほしい」と要求、女性は銀行のATMで現金50万円を引き出し、自宅近くの路上で三男の代理という男に手渡したというものです。さらに、特別定額給付金に絡み、大阪府内の80代女性からだまし取ったキャッシュカードで現金300万円を引き出したとして、大阪府警豊中署は、窃盗容疑で無職の容疑者(21)を逮捕しています。なお、報道によれば、「給付金が振り込めないのでキャッシュカードを交換する必要がある」といった嘘でカードをだまし取られる被害は府内で13件(2020年7月14日時点)確認され、不正に引き出された現金は計約1,300万円に上っているといいます。また、80代女性が、,000千万円の詐欺被害にあった事例も報じられています。女性方に金融機関の職員をかたる男から「あなたの名義で新聞社の株を買った」と電話があり、その後、新聞社社員や査察団体の職員を名乗る男からの電話があり、「新聞社に査察が入り、株を買い戻す必要がある」、「金は後で戻ってくる」などと言われたため、女性は6回にわたり、電話で指示された通りに自宅近くのスーパーの駐車場で受け取り役の男に現金計3,600万円を渡したというものです。女性は返金を求めるために電話をしたが連絡が取れなくなっており、署に相談して被害が発覚しています。

珍しい手口としては、「パチンコ攻略法教えます」という手口の詐欺容疑で会社役員が逮捕される事例もありました。報道によれば、昨年9~10月ごろ、グループのメンバーと共謀し、仙台市太白区の20代女性に対してパチンコの攻略情報を受けるための登録料などと偽り、5回にわたって現金計約149万円を振り込ませ、だまし取ったというものです。なお、東京都内にあるグループの拠点から見つかった名簿などから、被害は全国で計約1,400人、計約2億5,000万円にのぼる可能性があるというから驚きです。また、名義貸しトラブルの解決名目で金をだまし取る「架空料金請求」の手口が大阪府内で相次いでいるといいます。報道によれば、「犯罪にあたる」などの脅し文句で平常心を失う高齢者も多く、1,000万円を超える高額の被害も出ているといい、大阪府警は犯行グループの手口や被害を見抜くポイントを紹介する動画を公開し、注意を呼びかけています。和歌山県では、同県警和歌山西署が、和歌山市内の60代男性が、2018年6月までの約2年間で計約6,600万円をだまし取られる特殊詐欺被害にあったと発表、男性は2013~14年にも約2億2,000万円の特殊詐欺被害にあっており、この被害金を「取り返す」などと言い寄られ、信じたとみられています。男性はこの男に取り返すことを依頼、その後、「取り返したので手数料を払ってほしい」などと言われ、2016年6月~2018年6月、計51回に分けて現金を振り込んだというものです。

さて、前回の本コラム(暴排トピックス2020年7月号)では、「最近では特殊詐欺のアジトの摘発が進み、アパートやマンションを1カ月単位(あるいは数週間単位)で転々とする形態からウイークリーマンションへ、ホテルや空き家、人里離れたペンションなどアジト自体も変遷を続けていますが、そもそも「移動するアジト」も摘発を逃れる知恵として拡がっており、高速道路などを移動しながらの車中からや、今回の事例のように駐車場に止めた車の中からといった手口も確認されています」と指摘しました。関連して、車中を拠点に詐欺の電話をかけていた男らが逮捕された事件で、別の高齢者からもキャッシュカードを詐取したなどとして、警視庁捜査2課は詐欺と窃盗の疑いで男3人を再逮捕しています。このグループで現金やカードを受け取る役目の「受け子」だった会社員をグループに引き入れた会社員も詐欺と窃盗の容疑で新たに逮捕しており、2人は会社の同僚だということです。また、警察官を装って高齢男性からキャッシュカード6枚をだまし取ったとしたとして、大阪府警捜査2課などが、詐欺容疑で男4人を逮捕していますが、4人は関東圏で活動する特殊詐欺グループのメンバーとみられ、グループが大阪に新たな活動拠点を設置しようとしている情報をつかみ、大阪市福島区内の民泊施設に出入りしていることを同府警が突き止めたということです。報道によれば、府警は同施設を家宅捜索し、4人がいた室内から携帯電話8台やSIMカード15枚、複数のマニュアルを押収、4人が民泊施設を転々としていたとみているということです。

一方、直近では、特殊詐欺被害を防止した事例が数多く報じられていますので、前回の本コラム(暴排トピックス2020年7月号)に続き、今回も集中して取り上げたいと思います。コンビニ店員の事例だけでなく、銀行員や一般人などの事例もあり、いずれも参考になります。なお、これまで指摘しているとおり、平時からの事例の共有をはじめとする教育研修、上司と部下の良好なコミュニケーション、警察等とのスムーズな連携、そして「声をかける勇気」「お節介さ」がその成否を分けるものとして共通しているように思われます。

コンビニ店員の事例では、まず兵庫県豊岡市内にあるローソンの2店舗のスタッフが、それぞれ架空請求詐欺を防いだとして豊岡南署から感謝状を贈られたとの報道がありました。両店とも、電子マネー類を買おうとする客の様子がおかしいことに気づき、声をかけたというものです。そのうちの1つの事例では、男性がやり取りした相手の電話番号について、スタッフがネットで検索したところ、詐欺のブラックリストに載っていたというものでした。報道によれば、「詐欺ですよ。こんなもん払わなくていいですから」と説得し、警察へ通報したということです。署長は「コンビニや金融機関は詐欺防止の最後のとりで。勇気を持って声をかけ、機転を利かせて防いでいただき、ありがたい」と述べていますが、まさに「おかしい様子に気づく(その背景にある意識付けや知識(情報)のインプットがあったはずです)」、「声をかける勇気」、「電話番号を検索するという機転」が被害を未然に防止することにつながった好事例だといえます。また、「パソコンがウイルスに感染した」と電子マネーを買いに来た高齢女性が特殊詐欺被害に遭っていると疑った松山市内のセブンイレブンの店員が、女性宅まで出向いて被害を水際で防いだという事例もありました。70代女性が「電子マネーはありますか?」と尋ねてきたことから事情を聴くと、「サイトに出てきた電話番号に電話したら『パソコンがウイルス感染した。電子マネーを2万円分買え』と言われた」とノ回答、ノートパソコンの画面を見せてもらおうと思ったが、女性は機器の扱いに不得手だったため徒歩約5分の自宅へ確認に行き、詐欺を見破ったということです。これはまさに「お節介さ」が功を奏した好事例だといえます。さらに、福岡県警が、詐欺被害を未然に防いだとして、セブンイレブンの店員に感謝状を贈った事例もありました。報道によれば、80代の男性が30分以内にコンビニで5万円分のプリペイドカードを買って連絡するよう言われ、焦った様子で来店、それに対し1年ほど前に同様に「5万円のプリペイドカード2枚」を購入した50代男性のケースを思い出したこの店員が機転を利かせたというものです。カードを買おうとしていた男性に「カードを買ってもパソコンは使えるようになりません」と話しかけたといい、いったん自宅に帰るという男性に、「もう電話には対応しないでくださいね」と念を押し、住所や連絡先を聞き、110番通報、店に来た警察官が男性の自宅へ向かい、詐欺を防ぐことができたというものです。この事例も、過去の経験をふまえ、「5万円」というフレーズですぐに詐欺を疑い、警察との連携までスムーズに対応しているという点で素晴らしい対応だったといえます。

次に銀行員の事例としては、まず4度にわたってニセ電話詐欺の被害を防いだ常陽銀行勝田西支店の60代の女性行員に、茨城県警から(県警史上初となる、署長ではなく)本部長感謝状が贈られています。報道によれば、普段の接客から「言葉のキャッチボール」を心がけているそうで、「息子にお金を持っていかないといけないのよ」という高齢の女性に「大変ですね」と声をかけたら、「実は最近、息子が電話番号を変えてね」と言われ、詐欺だと分かったこともあったといいます。「最初から詐欺かもと身構えているわけじゃなくて、ただ、おしゃべりが好きなだけです」、「ポイントは自然に話を聞き出すこと。これからも警察と連携して詐欺被害を防ぎたい」などと話していますが、何気ない会話から情報を引き出す話術の裏には、豊富な経験と知識がベースにあることも感じさせます

それ以外では、たとえば長野県のタクシーの運転手の事例もありました。報道によれば、月に1、2回、通院や買い物でタクシーを利用する顔なじみの80代女性が珍しい行き先を指定してきたため声をかけると、女性は手提げかばんを大事そうに抱えながら、「知人にどうしても会わなければいけない」と言葉少なに答えたといい、指定場所の駅に着いたが、それらしき人はおらず、女性が車から降りて「知人」に電話すると、今度は東京・八王子に来るよう指示されたといいます。運転手は「十中八九、詐欺だ」と確信するも、いったんは女性を改札まで見送り、会社に戻ったといいます。しかしながら、同僚と話したことで警察に通報、警察の連携により「受け子」と会う直前の女性を保護し、被害を食い止めることに成功したということです。信じ切っている女性を怒らせるわけにはいかないとの思いと「間違ってもいい。今なら間に合う」との気持ちの葛藤があったようですが、これも「声をかける勇気」で一歩踏み込んだ対応ができたことによるものだといえます。一方、「だまされたふり作戦」の成功例もありました。高齢女性から現金をだまし取ろうとしたとして、警視庁葛飾署は詐欺未遂容疑の現行犯で、無職の容疑者(20)を逮捕、他の仲間と共謀し、葛飾区の80代の無職女性宅に息子を装い「会社の書類を送り間違えた。新しい書類を作るのに500万円が必要だ」などと嘘の電話をし、現金を詐取しようとしたのに対し、女性は電話の声が息子と違うことに気付き、署に相談し「だまされたふり作戦」に協力、女性の息子の関係者を装って自宅近く現れた容疑者を捜査員が取り押さえたというものです。高齢者の女性の多くは、「自分は騙されるわけがない」との強い思い込みから、「騙されていない理由を探そうとする」確証バイアスがかかることが分かっています。「声が異なる」のに騙されるのは、その典型であり、このケースでは確証バイアスや強い思い込みに左右されず見破っています。なお、さまざまな調査からは、むしろ「騙されるかもしれない」と警戒心を持っている方の方が騙されにくいことも判明しています。

関連して、詐欺を防止するためのさまざまなツールも出てきていますので、いくつか紹介します。

  • 投資トラブルや悪質な電話勧誘を行う業者が実際に使っていた商材や顧客名簿を活用し、新たな被害を防ごうとしている自治体が紹介されています(2020年7月29日付朝日新聞)。実物を見せて注意喚起したり、業者が狙いをつけた人たちの名簿を元に高齢者の見守りリストを作ったりしているといい、住民たちも「地域の目」となって効果を上げているといいます。なお、警察が特殊詐欺グループを摘発した際に回収した「名簿」を集約して、名簿に掲載されている方々に事前に連絡して注意喚起する取り組み(特殊詐欺被害防止対策電話センター)も数年前から本格的に行われており、こちらも効果をあげているといいます。
  • 福岡銀行は人工知能(AI)開発スタートアップのエクサウィザーズと共同で、顧客が詐欺被害にあったり、認知能力が低下していたりしないか、チェックするサービスを開発したと発表しています。同行のリリース(2020年7月13日)によれば、「超高齢社会を迎えている日本では、詐欺被害、物忘れや買い込み、家族との音信不通、認知症などといった高齢者を取り巻く不安は、歳を重ねるごとに増えています。また、家族の行動の変化はお金の使い方に影響することが多く、特に認知症による行動変化は「口座の支払い状況」によく現れると言われています。このたび開発した「口座見守りサービス」は、銀行口座と接続することでATMや公共料金の支払いデータをAIが分析し、家族の状況をより早く把握することができます。口座の支払い状況の「異常検知」をすることで詐欺や払いすぎなどを早期発見できるほか、「傾向変化」を捉えることで認知機能低下の兆候を発見でき、変化の兆候についてアプリを通じて親子間で共有することができます。試験提供の後、2020年度中に福岡銀行の全口座保有者を対象に本格的なサービス提供を開始します」とされています。AML/CFTや特殊詐欺に悪用されている口座を炙り出すモニタリングシステムはこれまでもありましたが、それまでの平時の当人のふるまいからの「異常値」に着目したモニタリングシステムを通じて、特殊詐欺被害などのトラブルを防止しようという発想は大変素晴らしいと思います。多くの事例を積み重ねて精緻なシステムとなり、トラブルや被害の防止につながることを期待したいと思います。
  • ソフトバンクは、格安ブランド「ワイモバイル」で、新型のシニア向けスマートフォン「かんたんスマホ2」を発売しました。同社のリリースによれば、「全国的に社会問題化している振り込め詐欺や悪質なセールスなどで使用されている不審な電話番号を自動で判別し、発着信時に警告表示・自動ブロックを行う「迷惑電話対策」機能に対応しています。誤って迷惑電話の着信に出てしまっても、通話内容を自動で録音する他、録音している旨の音声ガイダンスを自動で流すようにしています(特許出願済み)。なお、「かんたんスマホ2」は、公益財団法人全国防犯協会連合会が推奨する「優良迷惑電話防止機器」(優良防犯電話)に認定されました」ということです。報道によれば、不審な電話かどうかは、約30,000件の番号情報を持つ外部のシステム会社のデータに、着信の度に自動接続して確認するといいます。特殊詐欺被害防止のためには留守電設定が有効であることは間違いなさそうですが、留守電設定にしていても、「何となく」「思わず」電話に出てしまい被害にあう(あいそうになった)事例もあり、「録音しています」等の撃退ツール、不審電話のデータベース・スクリーニング機能など、まさに特殊詐欺をよく分析したツールではないかと思います。個人的には、その効果を速やかに検証いただき、(改善を積み重ねながら)広く普及してほしいものだと思います。

その他、特殊詐欺以外の詐欺的手法に関する報道から、いくつか紹介します。

  • 「黒く変色した紙幣を元に戻すために現金が必要」などと持ち掛ける「ブラックマネー詐欺」の手口で現金2,500万円を盗んだとして、警視庁捜査3課は、窃盗の疑いで、リベリア国籍の容疑者を逮捕しています。報道によれば、東京都中央区の会社事務所で、川崎市宮前区の会社社長に「変色した紙幣と普通の紙幣を混ぜて薬品をかけるときれいになる」と嘘を言って2,500万円を用意させ、隙を見て盗んだというものです。紙幣がきれいになったかのように社長の前で実演して信じ込ませ、その後「薬品を買いに行ってくる」と席を立ったまま戻らなかったといい、防犯カメラ捜査などで浮上したようです。ブラックマネー詐欺は、2000年ごろから国際的に問題となっている手口で、「犯人はアフリカ系黒人が多く、まず普通の人はその国の情勢に詳しくない。そこへ「国の治安が不安定で、現金は黒くしないと国外へ持ち出せなかった」と言い出す、正当なカネでないと印象付け、被害者が周囲に相談できない儲け話と分からせる。すると、被害者は自分も一味のような心境になり、信用してしまう(捜査関係者)」(2020年8月11日付東スポ)という(ある意味で巧妙な)ものようです。
  • 海外の資産家などを装い、SNS上で親密になった女性をだます「国際ロマンス詐欺」が後を絶たない状況です。直近でも、国際ロマンス詐欺の被害金を引き出したとして、警視庁調布署は、長野県茅野市の無職のフィリピン国籍の2人を組織犯罪処罰法違反(犯罪収益収受)容疑で逮捕しています。被害者の女性は総額約6,000万円をだまし取られたといいます。2人は昨年8~9月、調布市の50歳代の女性が詐取された現金と知りながら、長野県の銀行などで計約1,124万円を引き出した疑いがあるということです。報道によれば、SNSで知り合った男性から結婚をほのめかされたうえ、共同事業への出資も持ちかけられ、「40億円の報酬を受け取るには口座開設費の4,000万円が必要」などと言われ、繰り返し指定の口座に送金したが、今年になって連絡が取れなくなったということです。また、静岡、北海道など4道県警は、だまし取った金を預ける目的で口座を不正に開設したとして、詐欺の疑いで、職業不詳の容疑者と米国籍の英会話講師の男2人を逮捕、組織犯罪処罰法違反(犯罪収益収受)の疑いでナイジェリア国籍の男2人も逮捕しています。4人は「国際ロマンス詐欺」グループのメンバーとみられ、昨年秋ごろから北海道や熊本県などで男女数十人の被害が確認され。被害総額は1億円を超えるということです。一方、その「国際ロマンス詐欺」を見抜き、被害を防いだイオン銀行の行員が神奈川県警加賀町署長から感謝状を贈られた事例もあります。報道によれば、横浜市の女性(81)は、日本人女性を名乗る人物から「イラク戦争に従軍したときの金を元手に日本で商売をしたい。金庫を送るので預かってくれないか」というメッセージをSNSで受け取り、「空輸の際にかかる保険費用6,800ドル(当時約73万円)」の振り込みを求められたため同店に行ったところ、同行員が、振込先がトルコの会社なのを不審に思い警察に通報し、事件が発覚したというものです。銀行では、「国際ロマンス詐欺」の手口について周知しているところも多く、そのような積み重ね(平時からの備え)が重要であることがよくわかります
  • 男女の出会いを仲介する「マッチングアプリ」で知り合った女性に、「お金を倍にして返す」とうそを言って現金の借用書を作成した上、キャッシュカードをだまし取ったとして、警視庁滝野川署は、住所不定の無職の男(24)(別の詐欺罪などで公判中)を詐欺と有印私文書偽造・同行使の容疑で再逮捕しています。報道によれば、容疑を認め、「20歳の頃から同じような方法で約100人の女性をだました」と供述しているとのことです。また、スマホなどの画面に突然、「iPhoneが当選しました」と表示され、クレジットカード情報を入力した結果、金をだまし取られる被害が相次いでおり、「iPhone当選詐欺」と言われています。一般財団法人「日本サイバー犯罪対策センター」のサイトで、被害にあうまでの経緯を動画で説明し、注意を呼びかけています。さらに、クレジットカードなどの情報を盗み取るフィッシング詐欺の発生が過去最悪の水準となっていることにも注意が必要です。新型コロナウイルスの感染拡大でネット通販などが活発になった状況が狙われており、2020年1~6月の報告だけで過去最多だった2019年の1年分を超えています。また、カード番号盗用による不正利用額も高止まりしており、電子商取引(EC)大手サイトを装ったメールやSMS(ショートメッセージサービス)を不特定多数のアドレスや番号に送り、偽サイトに誘導する手口が目立っています。そして、このような事例以外にも、クレジットカードの番号などの情報を盗まれ、知らない間に不正に使われる被害が急増しており、注意が必要な状況です。報道(2020年7月12日付毎日新聞)によれば、2019年の被害額は約220億円で2014年の3倍以上に達しているといい、(これまで本コラムでも紹介してきたような)店舗での決済時に受け取ったカードを店員が盗み見る手口、インターネット上の闇サイト(ダークウェブ)に流れた情報を悪用したりする手口などが横行しているようです。コロナ禍もあって、外出自粛の影響から自宅からネット通販を利用するなどキャッシュレス決済が広がる中、犯罪の手口とその対策の「いたちごっこ」が続いており、根本的かつ完全な対抗策は打ち出されておらず、今後の被害の拡大が懸念されます。
  • 大西洋の島国バハマにある法人からだまし取った金を不正に引き出したとして、警視庁組織犯罪対策総務課は、組織犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)と詐欺の疑いで、人材紹介業の容疑者(70)ら男2人を逮捕しています。報道によれば、容疑者は取引先などを装い企業に虚偽のメールを送って送金させる「ビジネスメール詐欺」グループのメンバーで、現金引き出しの指示役で、計約2億円を不正に引き出したとみて調べているとのことです。なお、ビジネスメール詐欺(BEC)の被害額はFBIのレポートによると2013年10月から2018年5月までに報告されただけで125億ドル(約1兆3,750億円)にのぼり、報告件数は78,617件だといいます。日本では2015年頃よりビジネスメール詐欺の被害が確認されており、2017年12月に日本航空が3億8000万円の被害を出した事例は記憶に新しいところです。また、2018年頃には日本語で書かれたビジネスメール詐欺が確認されています。なお、ビジネスメール詐欺には5つのタイプがあり、(1)取引先との請求書の偽装、(2)経営者等へのなりすまし、(3)窃取メールアカウントの悪用、(4)社外権威のある第三者へのなりすまし、(5)詐欺の準備行為と思われる情報の詐取、と言われています。なお、最近では、ディープフェイクの巧妙化とあいまって、より本物に近い偽の経営者等の画像、動画、音声が作成されており、騙される確率を高めてしまっている実態もあるようです。
  • 前回の本コラム(暴排トピックス2020年7月号)でも紹介しましたが、第2次世界大戦に敗れた日本を統治したGHQ(連合国軍総司令部)が接収したとされる巨額資産「M資金」を提供すると偽って、会社役員の70代の男性から現金計約3億円を詐取したとして、詐欺容疑で無職の容疑者(66)ら男3人が逮捕された事件で、男性からさらに約28.3億円をだまし取った疑いが強まったとして、神奈川県警捜査2課が同容疑で、3人を再逮捕しています。報道によれば、3人は共謀して、M資金を原資とする架空の資金提供を受けるための交渉費の名目などで男性から詐取した疑いが持たれています(なお、被害者は大手飲食チェーンのトップで、ほぼ全額を一度に詐取されたらしく、被害金はすべて個人資金だったといいます)。高齢者の傾向として「自分は騙されるほど愚かではない」との強い思い込みがあり、会社経営者であればさらにその傾向が強固なものとなっていることが推測されるところ、「M資金の話などに自分が騙されるわけがない」として、「騙されていない理由」を探そうとする「確証バイアス」が強く働いてしまったのではないか、さらには、一度騙されてしまえば、「自分がしている投資は架空のものではない」とより強く思い込み、架空でないことを信じたいがためにさらに相手の話を強く信じてしまうという悪循環に陥ってしまったのではないかと考えられます。いずれにせよ、こうした「確証バイアス」から逃れることは難しい現実があり、「周囲が早く気づき、ある程度強く介入できるか」が被害の未然防止、被害拡大の防止のポイントとなりそうです。
(3)薬物を巡る動向

厚生労働省が、警察や海上保安庁、厚生労働省麻薬取締部などが昨年に押収した薬物のうち、覚せい剤が2,649.7キロ(前年比+119.6%)、コカインが639.9キロ(同+306.5%)といずれも過去最多を更新したと発表しています。あわせて、「第五次薬物乱用防止五か年戦略」フォローアップを公表していますので、紹介します。

▼厚生労働省 「第五次薬物乱用防止五か年戦略」フォローアップを公表しました~大麻事犯の検挙人員が過去最多。約6割が30歳未満~

平成31・令和元年の主な薬物情勢のポイントとして、(1)大麻事犯の検挙人員が6年連続増加し、過去最多を更新し、約6割が30歳未満の若年層であった、(2)覚せい剤の検挙人員が44年ぶりに1万人を下回った一方で、覚せい剤の押収量が2トンを超え過去最多を記録した、(3)密輸入事犯の検挙人員が過去最多を記録した、(4)覚せい剤事犯の再犯者率が13年連続で過去最多を更新したことを挙げています。もう少し詳しく見ると、薬物事犯の検挙人員は、13,860人(対前年▲462人、▲3.2%)と2年ぶりに減少、うち、覚せい剤事犯の検挙人員は、8,730人(▲1,300人、▲13.0%)と昭和50年以来44年ぶりに1万人を下回った一方、大麻事犯の検挙人員は、4,570人(+808人、21.5%)と6年連続で増加し、過去最多を更新しています。また、覚せい剤の押収量は、2,649.7kg(+1,443㎏、+119.6%)と初めて2トンを超え、コカインの押収量は、639.9kg(+482.5kg、+306.5%)と前年より大幅に増加し、いずれも過去最多を更新しました。さらに、乾燥大麻の押収量は、430.1kg(+92.8㎏、+27.5%)と4年連続で増加、MDMA等錠剤型合成麻薬の押収量も、73,915錠(+61,608錠、+500.6%)と前年より大幅に増加する結果となりました。また、薬物密輸入事犯の検挙件数は、564件(+181件、+47.3%)と最多であった前年を上回り過去最多を更新、検挙人員も595人(+221人、+59.1%)と前年より大幅に増加して過去最多を更新しています(その他、薬物密輸入事犯のうち、覚せい剤密輸入事犯の検挙人員が過去最多を更新したこと、本コラムでも紹介しているとおり、1トンを超える覚せい剤を押収した事件等、大型密輸入事件を複数摘発したことも特筆されます)。さらに、30歳未満の検挙人員は、覚せい剤事犯は前年より減少したものの、大麻事犯は6年連続で増加して過去最多を更新し、大麻事犯全体の検挙人員の57.4%(+4.1P)となり、若年層・青年層を中心に大麻が蔓延している状況が数字的にもうかがえる結果となっています。一方、覚せい剤事犯の再犯者率は、66.0%(+0.1P)と13年連続増加し、過去最高を更新、覚せい剤事犯の再犯率の高さ(覚せい剤の持つ依存性の高さ)がこちらも数字で示されています。なお、危険ドラッグ事犯については、検挙人員は200人(▲233人、▲53.8%)と前年より大幅に減少しています。

「第五次薬物乱用防止五か年戦略」における「目標1 青少年を中心とした広報・啓発を通じた国民全体の規範意識の向上による薬物乱用未然防止」については、(1)薬物の専門知識を有する各関係機関の職員等が連携し、学校等において薬物乱用防止教室を実施したほか、各種啓発資料の作成、配付、ウェブサイトへの掲載等を行った〔文科・警察・財務・法務・厚労〕、(2)新入社員等を対象とした薬物乱用防止講習や、児童・保護者等を対象とした出前講座の実施、有職・無職少年を対象とした薬物乱用防止読本の作成・配布、政府広報としてインターネットテレビやラジオ等による情報発信等、若年層に焦点を当てた広報啓発活動を実施した〔内閣府・警察・総務・文科・厚労〕、(3)各種運動、有識者による講演会、街頭キャンペーン等、地域住民を対象とした広報啓発活動を実施するとともに、ウェブサイトやリーフレット等の啓発資材に相談窓口を掲載し、広く周知した〔内閣府・警察・消費者・法務・財務・文科・厚労〕、(4)海外渡航者が安易に大麻に手を出さないよう、法規制や有害性を訴えるポスターを関係省庁の連名で作成し、ウェブサイトやSNS等で注意喚起を実施した〔警察・外務・財務・厚労〕などの取組みが紹介されています。

同じく「目標2 薬物乱用者に対する適切な治療と効果的な社会復帰支援による再乱用防止」については、(1)「依存症対策総合支援事業」により薬物依存症治療を実施する医療機関の整備を図るともに、「依存症対策全国拠点機関設置運営事業」により医療従事者の依存症治療に対する専門的な能力の向上と人材養成を実施した〔厚労〕、(2)薬物事犯により検挙され、保護観察が付かない執行猶予判決を受けた者等に対して、再乱用防止プログラム、相談窓口の周知等を実施した〔厚労・警察〕、(3)矯正施設、保護観察所及び更生保護施設において、研修等の実施により職員の専門性向上を図るとともに、関係機関と連携して薬物依存症者に対する適切な薬物処遇と効果的な社会復帰支援を実施した〔法務〕、(4)保健所、精神保健福祉センター、民間支援団体等と連携して、薬物依存症者やその家族に対する治療・回復支援を実施した〔法務・厚労〕などの取組みが紹介されています。

「目標3 薬物密売組織の壊滅、末端乱用者に対する取締りの徹底及び多様化する乱用薬物等に対する迅速な対応による薬物の流通阻止」については、(1)関係機関による合同捜査・共同摘発の推進、暴力団等薬物密売組織の中枢に位置する者に焦点を当てた取締りを推進し、平成31・令和元年中、首領・幹部を含む暴力団構成員等4,638人を検挙した〔警察・財務・厚労・海保〕、(2)平成31・令和元年中、麻薬特例法第11条等に基づく薬物犯罪収益等の没収規定を41人に、同法第13条に基づく薬物犯罪収益等の追徴規定を225人にそれぞれ適用し、没収・追徴額の合計は約5億2,393万円に上った〔法務〕、(3)乱用薬物鑑定の高度化を図り、未規制物質や新たな形態の規制薬物の鑑定に対応するため、資機材の整備を実施するとともに、薬物分析手法にかかる研究・開発を推進し、会議等を通じ関係省庁間で情報共有を実施した〔警察・財務・厚労・海保〕といった成果が紹介されています。

「目標4 水際対策の徹底による薬物の密輸入阻止」については、(1)関係機関間において緊密な連携を取り、捜査手法を共有した結果、統一的な戦略の下に効果的、効率的な取締りが実施され、平成31・令和元年中、水際において、約3,318キログラムの不正薬物の密輸入を阻止した〔警察・財務・厚労・海保〕、(2)麻薬等原料物質に係る輸出入の動向等について、国連麻薬統制委員会(INCB)と情報交換を行うとともに、麻薬等原料物質取扱業者に対し、関係機関と連携して、管理及び流通状況等にかかる合同立入検査等を実施した〔厚労・経産・海保〕、(3)訪日外国人の規制薬物持ち込み防止のため、関係省庁のウェブサイト等での注意喚起に加え、民間団体等に対して広報協力の働きかけを行うとともに、国際会議や在外関係機関を通じて広報・啓発を実施した〔警察・財務・厚労・海保〕といった取組みが紹介されています。

「目標5 国際社会の一員としての国際連携・協力を通じた薬物乱用防止」については、(1)国際捜査共助等を活用し、国際的な共同オペレーションを進めた結果、薬物密輸入事案を摘発した〔警察、財務、厚労、海保〕、(2)第63会期国連麻薬委員会(CND)、アジア・太平洋薬物取締会議(ADEC)、第43会期アジア太平洋薬物取締機関長会議(HONLEA)、第29回国際協力薬物情報担当者会議(ADLOMICO)等の国際会議やその他専門家会合等に出席し、各国における薬物取締状況や薬物の密輸動向及び取締対策等に関する情報を入手するとともに、国際機関や諸外国関係者等と積極的な意見交換を行い、我が国の取組や考え方への理解の獲得に努めた〔警察・外務・財務・厚労・海保〕などの取組みが紹介されています。

さらに、「当面の主な課題」として、(1)平成31年・令和元年の我が国の薬物情勢が密輸入事犯の検挙件数や水際での薬物押収量が過去最多となったことに加え、来年は、本年から延期された東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催に伴い訪日外国人数の増加が見込まれることから、旅客に紛れた密輸入事犯が更に増加することが懸念される。こうした情勢を踏まえ、国内外の関係機関が連携を強化し、海外の密輸組織・密売組織と、国内の暴力団等犯罪組織との結節点の解明に努めるとともに、コントロールド・デリバリー捜査を積極的に活用するなど、徹底した水際対策を実施する必要がある、(2)また、昨今、若年層における大麻の乱用が拡大を続けていることに加え、大麻濃縮物や大麻を含有する食品等が摘発されるなど、乱用される大麻の形態の多様化が認められる。このため、大麻事犯の取締りの一層の強化はもとより、若年層や海外渡航者等の特定の対象者や対象薬物に焦点を当て、薬物の危険性・有害性に関する正しい知識の普及に努めるなど、広報・啓発活動をより効果的に実施する必要がある、(3)さらに、覚せい剤事犯の検挙人員は 44 年ぶりに1万人を切ったものの、覚せい剤事犯の再犯者率は 13 年前から現在まで上昇し続け、13 年前より 11.7 ポイント高い 66%となっている。このような現状を踏まえ、薬物の再乱用防止を徹底するため、薬物乱用者に対する適切な治療と再乱用防止プログラムをより定着させるなど効果的な社会復帰支援をこれまで以上に強化する必要がある、と指摘しています。

さて、最近の薬物情勢の中でも、とりわけ大麻の若年層への蔓延の状況が強く危惧されるところです。よく言われるとおり、大麻は「ゲートウェードラッグ」として、覚せい剤等の常用へとつながる可能性が高く、前述のとおり覚せい剤の依存性の高さについては、「13年前より覚せい剤事犯の再犯率が11.7ポイント上昇して66%となっている」という数字だけでも実感されるところであり、今後、大麻を覚えた若年層が加齢とともに覚せい剤に移行、常習性・依存性を高めれば、これらの数字もさらに上昇することは明らかです。また、本コラムでもたびたび紹介してきたとおり、(1)大麻に含まれるTHC(テトラヒドロカンナビノール)という成分によって感覚や手足のまひ、思考の分裂、重度の妄想や幻覚を引き起こすこと、(2)特に若年層での使用は、成人になったときの統合失調症発症リスクや知能障害に影響を与える可能性があるなど健康面への害悪が深刻なこと(残念ながら若年層にこのような正しい知識が浸透していないこと)、(3) 電子たばこを吸うようにして使う液状の大麻「リキッド」や「ワックス」が急激に拡がりをみせていること、(4)薬物欲しさ・お金欲しさから犯罪を誘発しかねないことなど、若年層の現在・未来に悪影響しか与えないものであり、何としても今の時点で、若年層への蔓延を阻止する必要があります。とりわけ、前述の「当面の主な課題」で指摘があった「乱用される大麻の形態の多様化」について、大麻「リキッド」や「ワックス」の拡がりは極めて憂慮されるところであり、いずれもTHCが濃縮されており、より強い作用を得られるとして使われているといいます。残念ながら、警察が新たな捜査手法を採り入れて取り締まりを強化していますが、さらに捜査をかいくぐるタイプも確認されるなど、規制の見直しが必要な状況だといえます。なお、財務省関税局のまとめでは、昨年1年間に全国の税関が摘発に関わったリキッドやワックスなどの事件は131件で、5年間で倍以上に増えているといいます。こうした側面からも、大麻の「害悪」もまた拡大している状況にあります。以下、最近の報道から、若年層が関与した大麻事犯を中心に紹介します。

  • SNS上で大麻の売買を持ちかけて男子大学生をおびき出し、暴行を加えて現金を奪ったとして大阪府警少年課は、強盗致傷容疑で、府内の17~18歳の男子高校生ら少年5人を逮捕しています。薬物事犯は、売る方も買う方も「犯罪行為」であることから、表面化しにくい性質を持っていますが、報道によれば、いずれも「大麻を買おうとした後ろめたさから警察に届け出ないと思った」と供述し、容疑を認めているといいます。なお、報道(2020年7月21日付産経新聞)に詳しいのですが、一部引用すると、「犯行にあたり少年らが参考にしたのは、SNS上に投稿されていた「逃げ」と「叩き」という手口だった。SNSで大麻の密売人や購入希望者に接触し、大麻や現金を受け取ってすぐ逃げるのが「逃げ」、相手に暴行を加えて現金や大麻を奪うのが「叩き」とされる」と、今回の事件は「叩き」の手口だったと指摘しています(確かに大学生はすぐには通報しなかったものの、母親に説得されて警察に相談、逮捕につながりました)。また、同じ報道では、「府警平野署は6月、恐喝未遂容疑で15~16歳の少年3人を逮捕した。1人が知人から紹介された高校生を公園に呼び出し、大麻と称した葉っぱを売った後、残りの2人が見知らぬふりをして登場。「大麻ちゃうんか。警察に言うぞ」と脅し、通報しない代わりに現金を要求するという手口だった。このときも最終的に通報され、恐喝は未遂に終わった」といった事例も紹介されており、大麻を巡って、別の犯罪が誘発されている実態が分かります。薬物が別の犯罪を誘発しているとの関連で言えば、愛知、三重など5県警による捜査本部は、愛知県内のショッピングモールなどに侵入し衣類など計約300点(販売価格計約500万円)を盗んだ疑いで男3人を建造物侵入、窃盗容疑で再逮捕しています。3人は覚せい剤使用者で作る約10人の窃盗グループのメンバーとみられ、覚せい剤の購入資金を得るため盗みを繰り返していた可能性があるとみられるといいます。報道によれば、グループは、中部地方などで100件以上の窃盗を繰り返した可能性があるとのことです。
  • 自宅アパートで大麻を栽培していたとして、新潟県警南魚沼署などは、県内の高校に通う中越地方在住の女子生徒(19)を大麻取締法違反(栽培)容疑で逮捕したと発表しています。新潟地検長岡支部は、同法違反の非行内容で生徒を家裁に送致しました。報道によれば、「自分が使うためだった」と容疑を認めているといいます。この生徒は家族と同居しており、大麻は屋外から見える場所で、植木鉢で栽培していたようです。さらに、生徒は海外のインターネットサイトを通じて種を購入、栽培方法もインターネットで調べ、水や肥料をやっていたといいます。同署などが情報提供を受けて発覚したものです。インターネットで海外から種を購入、栽培方法を調べつつ、開けっ広げに大麻を栽培するという大胆さ・軽率さは、インターネットの犯罪インフラ性に加え、大麻に対する「罪悪感」がほとんどないという事実を示唆しており、大きな危惧を覚えます。さらに、同じく自宅で大麻を栽培したとして、警視庁池袋署は、大麻取締法違反(営利目的栽培)の疑いで、東京都杉並区の無職少年(19)を逮捕しています。報道によれば、少年はインターネット上で大麻草の種を買い、自宅の屋上や風呂場などで栽培していたといいます。同居している父親や兄弟は気づかなかったとしていい、少年は乾燥大麻を売り、約20万円の利益を得たとみられ、池袋署は販売先などを調べているといいます。こちらの事例は「営利目的栽培」であり、悪質性はさらに増している一方で、やはり大麻の犯罪性に対して感覚が麻痺していることがうかがえます。また、千葉県警は、千葉市花見川区の団地の一室で大麻を栽培、所持したとして、大麻取締法違反(営利目的栽培、同所持)の疑いで、無職の容疑者と会社員(ともに30代)を再逮捕した事例もありました。報道によれば、県警は両容疑者の他にすでに仲間の男2人を逮捕、団地の別室から乾燥大麻約4キロや栽培中の大麻草約80本を押収、末端価格5,000万円以上に相当するといいます。県警は栽培用に部屋を借り、販売目的で育てていたとみているとのことです。なお、別の報道では、男らは稲川会系の関係者とみられるといい、千葉県警が暴力団の組織的な関与や密売ルートなども詳しく調べているといいます。
  • 愛知県警中村署は、岐阜市内の高校生少年(18)を麻薬取締法違反(使用)の疑いで逮捕しています。報道によれば、少年は、愛知県内か岐阜県内またはその周辺で、合成麻薬LSDを使用した疑いがあるといいます。名古屋市中村区の駅で倒れているところを発見され、駆けつけた警察官が声をかけたところ、言動が不審だったため中村署で尿検査を行い、鑑定の結果、LSDの成分が検出されたというものです。

議員、警察官、公務員、教員など社会的地位の高い者による薬物事犯も目につきますので、直近の報道からいくつか紹介します。社会的地位が高いにもかかわらず、倫理感が伴っておらず、極めて残念な事例です。

  • 大麻の密売を繰り返した福岡県宇美町の元町議に、裁判所は、懲役4年6か月、罰金100万円の判決を言い渡しています。報道によれば、同町の町議会議員だった被告は、2018年12月から2019年の8月にかけて、沖縄県に住むアメリカ軍属の男ら4人に対し大麻を販売したなどとして麻薬特例法違反などの罪に問われていたもので、那覇地裁は、「多くの大麻を密売し、結果的に沖縄県内の高校生にまで大麻の害悪を拡散させた」と指摘しています。さらに、議員活動や経営するそば屋の赤字などで金欠状態だったという被告の犯行動機について、裁判長は「結果の重大性を顧みない身勝手な動機」と批判、大麻の密売で安易に金銭を得ようとした発想に、酌むべき事情はないとしています。裁判長の指摘のとおり、まったく理由になっておらず、残念です。
  • 本コラムでも以前紹介した、自宅で大麻を所持し同僚に譲り渡したなどとして、大麻取締法違反(所持)と麻薬特例法違反の罪に問われた大阪府警堺署の元巡査については、高校3年で大麻を使い始め、警察学校に入校中はやめていたものの、昨秋に地元の友人に誘われ再び使用を始めたと公判で指摘されています。さらに、譲り渡した2人は警察学校の同期で、昨秋に被告宅で一緒に大麻を使い、その後は被告が2人の求めに応じて、密売人から購入した大麻を売り渡していたと報じられています。なお、府警は今年6月、被告と西堺署の2人のほか、別に大麻を使用していた南署の巡査の計4人を懲戒免職処分としていることも報じられており、高い倫理か求められる警察にあっても、薬物が浸透している実態に驚かされます。また、警察関係では、密売人から大麻を購入したとして大麻取締法違反に問われた元兵庫県警尼崎南署巡査(23)=懲戒免職=に対し、神戸地裁が、懲役10月、執行猶予3年(求刑・懲役10月)の判決を言い渡しています。報道(2020年8月13日付毎日新聞)によれば、裁判官は、被告が薬物犯罪の捜査で大麻への関心を高め、興味本位で複数回入手、使用したと指摘、「高い規範意識を持つ立場にありながら、強い非難に値する」と批判しています。なお、公判では、交番勤務となり、薬物捜査で実績を上げようとインターネットで調べるうちに、「大麻を吸ってどんな効果やしぐさが出るのか知れば、職務質問に役立つかもしれない」と考え、SNSを利用して大麻を購入するようになったと報じられています。検査不正などの企業不祥事の構図にも似ており、(まったく同情はしませんが)考えさせられます。さらに、知人から大麻を譲り受けたとして、山形県警天童署などは、大麻取締法違反の疑いで、村山地方の警察署交番に勤める男性巡査(20)を逮捕しています。報道によれば、容疑を認め、「自分で吸うために買った」と供述しているといいます。逮捕容疑は、19歳だった今年4月下旬、山形市内で知人男性から乾燥大麻若干量を有償で譲り受けた疑いで、薬物事件の捜査の過程で浮上したようです。巡査は昨年4月に採用され、今年1月から交番勤務だったといいます。さらに、香川県警は、県警職員で高松北署の40代の警務課主任を麻薬特例法違反(譲り受け)の疑いで逮捕しています。報道によれば、高松市内のドラッグストアの駐車場で、インターネットを通じてやりとりしていた相手から、覚せい剤のようなものを譲り受けたというもので、県警のサイバーパトロールで発覚したといいます。県警は取引相手や金の受け渡しがなかったかなどについて詳しく調べているといいます。若年層への大麻の蔓延は、警察官によるこれまでの事例からも十分わかりますが、そもそも警察官への登用の際に、そのような兆候などを見抜くことができなかったのか、今後、採用にあたってどのような対策を講じていくのか、これだけ薬物絡みの不祥事が多発している状況をふまえれば、警察組織としての厳格な対応を求めたいところです。
  • マンションなどで大麻を栽培し密売したとして、北海道警は、大麻取締法違反(営利目的譲渡など)容疑で元札幌国税局職員ら2人を逮捕し、大麻草約1,000株を押収しています。報道によれば、逮捕容疑は、共謀して札幌市内のマンションなどで栽培した乾燥大麻約30グラムを、北海道旭川市の男性に数万円で販売したなどの疑いです。北海道警は6月、国税当局から「職員が大麻を栽培している疑いがある」と通報を受け捜査、容疑者が管理していたマンションを捜索したところ、大麻草や栽培に使用する照明器具などが見つかったといいます。さらに、押収品を分析した結果、この容疑者らは、昨年夏以降、100人以上に大麻を販売、総額1,000万円以上を売り上げていた疑いがあるということです。身内の不祥事を組織的に認知して、警察に通報した対応自体は良いことかと思いますが、これだけの拡がりが認められたという点では、もっと早く「異常な兆候」を察知できなかったのか(大きく拡がったから認知できたのかもしれませんが)、企業不祥事対応の観点からも大きな課題を突き付けられていると思います。
  • 陸上自衛隊習志野駐屯地は、大麻を使用したとして、陸自第1空挺団第1普通科大隊の男性陸士長(24)を懲戒免職処分にしたと発表しています。報道によれば、陸士長は2018年5月頃から今年3月頃にかけて、神奈川県内の公園で複数回、大麻を使用したといいます。陸士長は、4月の抽出検査で薬物の陽性反応があり、「友人から譲り受けた。ストレスを紛らわすために使った」と大麻使用を認めたということです。自衛隊では、隊員に対して不定期に薬物検査を実施しています。内部通達によれば、「幕僚長は、次の各号に定めるいずれかの方法により、検査対象者を選定するものとする。(1)無作為抽出法により抽出した自衛官を検査対象者とする方法 (2)無作為抽出法又は特定抽出法により抽出した部隊等又は集団に属する自衛官を全て検査対象者とする方法 (3)前2号の方法を組み合わせて検査対象者を特定する方法 (4)前3号に定めるもののほか、幕僚長が特に必要と認める方法」で検査対象者を選定、同意書をとって実施するとしています(同意しない場合は、理由を問われる、幕僚長まで報告される、書面での記録が残る、翌年も対象となるといった対応がなされます)。隊員であれば、抜き打ち検査が行われていることは知っているはずであり、本事例もまた「必ずバレる」にもかかわらず手を出したことになります。組織には、有効と思われる抑止策ですら通用しない「異分子」が一定数存在することをあらためて痛感させられます。なお、参考までに、自衛隊が薬物検査を実施する目的は、当該通達によれば、「違法な薬物使用(以下「薬物乱用」という。)を未然に防止することにより厳正な規律を保持するとともに、薬物使用がないことを確認することにより自衛隊に対する国民の信頼を確保することを目的とするものとする」と明記されています。
  • 愛知県警は、30代の千種区役所民生子ども課主事と、40代の市営バスの運転手の両容疑者を覚せい剤取締法違反(使用)容疑で緊急逮捕しています。報道によれば、8月2~11日、愛知県内や周辺で覚せい剤を使用したといい、7月に同法違反(営利目的所持)容疑で逮捕されたイラン人の男2人の携帯電話を解析し、顧客だった容疑者らが浮上、県警は容疑者の自宅を家宅捜索し、注射器1本と覚せい剤が入っていたとみられるビニール袋数枚などを押収したということです。とりわけ、公共交通機関である市営バスの運転手が薬物に継続的に手を出していた事実は、「顧客の命を預かる」という点からみて極めて重いと思われます。前述の自衛隊ほどの強制力はないものの、最近では、鉄道・バス・航空・船舶などの交通・運輸業界を中心に社員の薬物検査を実施しているところが増えています。一方で、厚生労働省の「労働者の個人情報保護に関する行動指針」では、「使用者は、労働者に対するアルコール検査及び薬物検査については、原則として、特別な職業上の必要性があって、本人の明確な同意を得て行う場合を除き、行ってはならない」と明記されており、実施のハードルはそもそも高いことも認識しておく必要があります
  • 愛知県瀬戸市にある瀬戸少年院の宿舎で大麻を栽培したとして、名古屋地検は、大麻取締法違反(栽培)の罪で、30代の元法務教官専門官=麻薬取締法違反(所持)の罪で起訴・懲戒免職=を追起訴しています。報道によれば、瀬戸市の少年院宿舎内の自室で、大麻草1株を栽培したといいます。なお、被告は合成麻薬MDMAを所持したとして、6月に麻薬取締法違反(所持)容疑で逮捕されています。
  • さいたま市教育委員会は、覚せい剤取締法違反(使用)容疑で逮捕された市立尾間木中学校の臨時教諭(33)を懲戒免職処分にしたと発表しています。報道によれば、容疑者は6月から埼玉県川口市内の自宅で覚せい剤を使用、7月15日にさいたま市内の交番に出頭し、県警浦和署に逮捕されました。勤務態度に問題はなかったということですが、同市教育委員会の聞き取りに対し「うつ状態が解消できると思い、インターネットで購入した。不安になって誰かに告白したくなったので出頭した」と話したということです。うつ状態になったことで薬物に手を出したということから、うつ状態と薬物の関係についても、知識として持っておく必要性を感じます。

次に、芸能人らの薬物関連報道からいくつか紹介します。

  • 千葉県成田市内で大麻を所持したとして県警成田署は、「漢a.k.a.GAMI」の名前で活動するラッパーを大麻取締法違反(所持)の疑いで逮捕しています。関係者宅で乾燥大麻約0.5グラムを所持したというもので、大麻を所持している」との情報提供があり、今回の逮捕に至ったということです。なお、同容疑者は今年5月にも新宿区内で大麻を所持したとして同法違反容疑で警視庁戸塚署に現行犯逮捕されています。また他にも、宮崎県警は、人気バンド「DO AS Infinity」の元メンバーでミュージシャンの容疑者を覚せい剤取締法違反(所持)の疑いで現行犯逮捕した事例、大麻を所持したとして、警視庁世田谷署がスタイリストの男を大麻取締法違反容疑で現行犯逮捕した事例、大麻を所持したとして、警視庁渋谷署がフジテレビの人気番組「テラスハウス」に出演していたモデルを大麻取締法違反(所持)容疑で現行犯逮捕した事例などもありました。
  • 覚せい剤取締法違反(所持・使用)と大麻取締法違反に問われた元タレント田代まさし(本名・政)被告の控訴審判決が仙台高裁であり、報道によれば、裁判長は「被告人の薬物への親和性、依存性は根深いものがある」と指摘して、懲役2年6月、うち6月を保護観察付き執行猶予2年とした1審・仙台地裁判決を支持し、被告側の控訴を棄却しています。さらに、覚せい剤や危険ドラッグを所持したとして、覚せい剤取締法違反(所持)と医薬品医療機器法違反(指定薬物の所持)に問われたシンガー・ソングライター槇原敬之被告の初公判が、東京地裁であり、被告は罪状認否で起訴事実を認めています。その後、東京地裁は、「違法薬物に対する抵抗感の乏しさを背景にした悪質な犯行だ」と批判して、懲役2年、執行猶予3年(求刑・懲役2年)の判決を言い渡しました。報道によれば、2018年3~4月、東京都港区のマンション一室で、指定薬物を含む危険ドラッグ「RUSH」の液体約64ミリリットルと覚せい剤の結晶約0.083グラムを所持したほか、今年2月には渋谷区の自宅でRUSHの液体約3.5ミリリットルを所持したというものです。
  • 広島地検は、大麻取締法違反(所持)の疑いで広島県警に逮捕されたプロ野球・千葉ロッテマリーンズのジェイ・ジャクソン元投手(32)=米国籍=を、容疑不十分で不起訴処分としています。同元投手は、千葉市内の自宅で液体状に加工した大麻入りの容器を数本所持していた容疑で逮捕され、球団も契約を解除しています。報道によれば、ロッテは今年2月の春季キャンプ中、全選手を対象に薬物乱用防止を含む講習会を開き、外国人選手も通訳が同席する形で受講したといいます。さらに、 在籍した選手がシーズン中に逮捕される異例の事態を受け、球団はすべての選手や監督、コーチ、スタッフの尿検査を行ったということです。球団本部長の謝罪会見でもあったように、外国人選手のリスク、薬物リスクに対する認識の甘さは否定できないところ、球団関係者全員の薬物検査を速やかに実施するなどの対応は評価できるものです。

その他、薬物に関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • コカインを所持したとして、神奈川県警南署は、麻薬取締法違反の疑いで、無職の被告(26)=傷害罪などで起訴=を再逮捕しています。報道によれば、路上で、麻薬であるコカイン塩酸塩を含む粉末約0.749グラムを所持したというもので、尿検査の結果、陽性反応は出なかったということですが、同じ日、交通トラブルから市内に住む配管工の男性の顔をサバイバルナイフで切りつけるなどしたとして、逮捕されていたということです。薬物を使用しての犯行ではなかったことになりますが、薬物が他の犯罪を誘発するなど、相関関係の高さは指摘できる事例かと思います。
  • 海外からの密輸についても、そのさまざまな手口や関係者の国籍が多様化している状況とともに報じられています。美容クリームに隠した大量の覚せい剤を米国から輸入したとして、静岡県警は、自称建築業の男と無職の女の両容疑者を覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)の疑いで逮捕しています。報道によれば、成田空港の税関検査で、美容院宛ての荷物の中に入っていた複数の美容クリーム内に隠された覚せい剤が見つかったことから、県警が中身をすり替えたうえで(コントロールド・デリバリー捜査)、荷物が届いた美容院を調べたところ、女が「荷物を受け取るために住所を貸してほしい」と依頼していたことがわかったということです。女は男から覚せい剤の送り先を用意するよう依頼されていたといいます。また、合成麻薬NDNA約7,000錠(末端価格約2,800万円相当)を段ボール箱の蓋などの内部に隠してドイツから関西国際空港に密輸したとして、近畿厚生局麻薬取締部と大阪税関関西空港税関支署は、麻薬取締法違反(営利目的輸入)容疑などで、の無職の男とナイジェリア国籍の男の両容疑者を逮捕しています。報道によれば、MDMAは6袋に分け、段ボールを2重に重ねたおもちゃ入りの箱の、蓋や側面の内部に挟み込むようにして詰めていたということです。荷物の宛先は容疑者の自宅アパートで、ナイジェリア国籍の容疑者はアパート付近で無職の容疑者から荷物を受け取ろうとしていたといいます。背後にナイジェリアの密売組織があるとみられています。さらに、ドイツから麻薬を密輸したとして、神奈川県警薬物銃器対策課は、麻薬取締法違反(営利目的輸入)の疑いで、ベトナム国籍のアルバイトを逮捕しています。報道によれば、営利目的でドイツからケタミン約100グラムとMDMA515錠(末端価格計約409万円)を国際郵便物に隠し、輸入したというものです。5月にMDMAをめぐる別の事件を捜査していた過程で容疑者が浮上、容疑者は東京都豊島区巣鴨にあるベトナム人が多く利用するクラブのアルバイト店員で、同課は麻薬を店の客に売るつもりだったとみて捜査を進めているということです。さらに、乾燥大麻を販売したとして、愛知県警薬物銃器対策課などが、大麻取締法違反(営利譲渡)容疑で、無職の容疑者らイラン人の男2人を逮捕したという事例もありました。報道によれば、容疑者らは自宅とは異なるマンション数カ所の宅配ボックスを勝手に使用、暗証番号を設定するなどの手口で、大麻を含む違法薬物を保管していたとみられるとのことです。宅配ボックスを保管場所にする手口は珍しく、犯罪者の知恵の絞り方には驚かされます。なお、コロナ禍によって人の出入国が激減したことで、ショットガン方式と呼ばれる「運び屋」を使った手口が機能しなくなる中、このように国際郵便を使った手口が増えているのではないかと推測されます。この点に関連して、報道(2020年7月12日付毎日新聞)によれば、新型コロナウイルスで国際線の旅客便が激減した影響で、薬物密輸入の中心地の一つとなっている成田空港などで千葉県警が1~5月に検挙した薬物密輸入事件は、前年同期比で73.2%減少した一方で、密輸入事件を除く県内での違法薬物所持などの検挙件数は同7.8%減で、密輸に比べ減少幅は小さいことから、県警薬物銃器対策課は「旅行客を装い違法薬物を携帯密輸する『運び屋』の密輸入は一時的に減ったが、航空貨物などを利用した手口などにシフトしているとみられ、予断を許さない状況だ」と警戒を強めているとコメントしています。
  • 厚生労働省は、埼玉県蕨市の専門商社が販売する製品「CBDオイル」から大麻成分THCを検出したと発表しています。当該製品の情報を同省HPで公表、購入者に地方厚生局麻薬取締部や保健所への提出を呼び掛けていますが、今のところ健康被害の事例は報告されていません。報道によれば、CBDオイルは大麻草のうち規制されていない部分で作られ、ストレス緩和効果があるなどとして売られることが多いといいます。同社社長は「外部から大麻成分が含まれている可能性が指摘されて判明した」と説明、同省に報告したところ、同省の検査で検出されたということです。
  • 報道(2020年7月26日付時事通信)によれば、ブラジルのサンタカタリナ連邦大学が、新型コロナウイルスと最前線で闘う医療従事者にマリフアナ抽出成分を投与し、ストレス軽減効果を測る臨床試験に乗り出すということです。全国300人以上を対象に8月に開始し、来年3月に結果をまとめる方針といいます。実験では、一方のグループに医療業務に支障を来さないよう、酩酊作用をもたらすTHCをごく少量に抑えたマリフアナ抽出油、もう一方にただの液体を投与し、効果の有無を調べるというもののようです。「嗜好用大麻」と「医療用大麻」の違いも十分に認識されないままの状況同様、このような情報から、安易に「大麻は安全だ」との情報が独り歩きしてしまうことが危惧されます(もちろん、筆者も、新型コロナウイルスと戦う医療関係者には敬意を表し、そのストレスを改善・解消する有効かつ安全な手立てが必要だと考えています)。
  • 国連薬物犯罪事務所(UNDOC)は、南米ボリビアでコカインの原料となるコカ葉の畑が2019年に前年比10%拡大したとの報告書を公表しています。報道によれば、同国はコロンビア、ペルーに次ぎ、世界第3位の栽培国で、昨年の栽培面積は25,500ヘクタールで、前年から東京ドーム約510個分に当たる2,400ヘクタール広がったといいます。また、全体の64%は北西部ラパス県のユンガス地方、34%は中部の熱帯コチャバンバに集中しており、国有保護林での違法な栽培も多かったと指摘されています。
(4)テロリスクを巡る動向

イラクが第2の都市モスルを、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)から奪還したと宣言して3年が経過しました。本コラムではその後のISの動向を注視してきましたが、弱体化したはずのISは残党がなお暗躍し、新型コロナウイルスによる混乱に乗じてテロ攻撃を重ねている実態があります。7月から8月にかけても、(1)アフガニスタン東部ジャララバードで、旧支配勢力「タリバン」やISの戦闘員らを収容する刑務所が襲撃される事件が発生、銃撃戦の間に50人以上が脱獄(本コラムで最近その動向を注視しているアフガンでは、IS系戦闘員が約2,200人活動しており、ISとタリバンは表向き敵対関係にあるものの、アフガン政府との和平に否定的なタリバン内の一部強硬派が、水面下でISとテロを画策する動きが指摘されています)、(2)シリア北西部アザズの市内で、爆弾を積んだ車が爆発し、少なくとも市民ら5人が死亡、85人が負傷、(3)アフリカ南部にあるモザンビークで、IS系とみられる武装勢力が、北部モシンボアダプライアの拠点港を襲撃して占拠(周辺では三井物産などが投資する大型天然ガス田の開発が進められており、治安の悪化で事業に影響が出る恐れがあると指摘されています。なお、報道によれば、貧困層が多い北部では、2017年から武装勢力が伸長し、村や警察署、軍施設などを襲撃。これまでに1,000人以上が死亡し、数万人が家を追われたといいます。ISとの関係は不明な点も多いものの、アフリカに拠点を置くIS系の組織がたびたび犯行声明を出しています)などが挙げられます。

そもそも、2015年の最盛期にシリアとイラクで推計30,000人超の兵力を擁したISは、その多くがいま、他国へ移ったり、地下に潜伏したりして掃討を逃れている実態があり、戦闘的なジハード(聖戦)を通じて究極的には「世界をイスラム化する」とのイデオロギーはいまだ健在で、「リアルIS」から「思想的IS」へとその形態を変容させている状態であり、今後、情勢の流動化などに乗じてリアルな勢力を盛り返そうとする可能性(つまり、「思想的IS」から「リアルIS」への反攻)が極めて高いと考えるべきではないかと思われます。本コラムでたびたび指摘しているとおり、シリアやイラクにおいて、ISが実効支配地域を拡大できたのは、政府の機能不全や内戦、宗派・部族対立による混乱といった「人心・国土の荒廃」がテロの温床となっていたためです。今回、コロナ禍の混乱(たとえば、イラクでは新型コロナ対策により、外出制限の取り締まりなどで兵士を都市部に配置換えされたことで、ISが潜む山間部の治安維持が手薄になったことが、IS復活の背景にあると指摘されています。さらに、報道によれば、国連のグテレス事務総長は、新型コロナとテロの関係について「評価は時期尚早」としつつ、ISなどは「統治の失敗や(人々の)不満を利用しようとしている」と警鐘を鳴らしています)や、アフガンからの米の撤退の動きによる「力の空白」が生じ混乱を招くようなことがあれば、ISは各地のローンウルフやホームグロウン・テロリスト、世界中の信奉者やIS元戦闘員、外国人戦闘員などに思想的に呼び掛けていくことが容易に想定されるところです(思想に共鳴したテロが各地で続けば、人々の間に疑心暗鬼が芽生え、それがさらなるテロを生むという悪循環となり、そこにISが実効支配を強めていくという構図の再来が考えられます)。今できることは、テロ発生のメカニズムのネガティブ・スパイラルを絶つこと、コロナ禍に冷静に対処すること、「力の空白」をどう埋めていくかを真剣に検討することであり、これからが正に正念場となるといえます。

その他、最近の報道から、テロを取り巻く状況について、いくつか紹介します。

  • 本コラムでも以前取り上げましたが、ISに加わるため英国からシリアに渡り、英政府から国籍を剥奪された女性について、英裁判所は、女性が政府の判断に異議を唱える機会を得るため帰国を許されるべきだとの判断を下しています。IS支配下で3年間暮らしたこの女性が帰国を希望したとき、受け入れを巡って英国内で大きな議論となったことは記憶に新しいところです。報道によれば、裁判所は、女性が帰国を許されれば国籍剥奪の決定に関して「公平で有効」な訴えを行うことができると指摘、「公正と正義は安全保障上の懸念に勝る」とした上で、女性が治安への脅威だとする十分な理由があれば帰国時に対処できるとも述べたといいます(英内務省は「残念な判決だ」とし、上訴する方針とのことです)。
  • IS研究の第一人者で国内外のメディアに数多くコメントしてきたイラク人のヒシャム・ハシミ氏が、イラクの首都バグダッドの自宅前で銃撃され、搬送先の病院で死亡しました。報道によれば、ハシミ氏が車に乗り込んだところ至近距離で撃たれたといい、犯人はバイクに乗った2~3人組とみられているものの、犯行声明は出ておらず、背後関係は不明だということです。
  • 直近のアフガン情勢としては、政府側が開催したロヤ・ジルガ(国民大会議)で、「流血の事態を終わらせる和平交渉への障害を取り除く」と表明して、強硬派幹部を含むタリバン捕虜5,000人の釈放を完了させることを決議したことが注目されます(今回、タリバンの強硬派幹部ら約400人の釈放を承認したことで、今年2月末に米国とタリバンが調印した和平合意通り、タリバンが求めた捕虜5,000人の釈放が完了することになるものです)。また、同時に、タリバンにも「暴力を停止し、交渉で問題解決を図る」ことを求めています。それに対し、報道によれば、タリバン側もアフガン政府との和平交渉について「われわれが求めてきた捕虜釈放が完了すれば、1週間以内にも開始する」と述べ、前向きな姿勢を示しており、事態が大きく進展することが期待されます。なお、米の動きとしては、エスパー米国防長官が、アフガニスタン駐留米軍を11月末までに現在の約8,600人から「5,000人以下に削減する」と表明している点には注意が必要です。11月の米大統領選に向け、アフガンからの撤収を成果として誇示したいトランプ大統領の意向を受けた発言とみられていますが、「力の空白」によるISのさらなる伸長を招くことにならないか、大きな不安要素ではあります。
(5)犯罪インフラを巡る動向

東日本大震災の復興事業を請け負った大手ゼネコンの支店幹部らに提供する目的などで、複数の下請け企業が不正経理による裏金作りを行っていたことがわかった朝日新聞が報じています(2020年7月27日付朝日新聞)。同報道によれば、裏金は少なくとも計1億6,000万円にものぼるということです。津波災害によるがれき処理工事や、原発事故災害の復興・再生事業など、巨額の国費が投入されましたが、こうした裏金の原資は、復興増税などを主な財源として投じられた国費(すなわち税金)で、工事費の水増しによって作られ、ゼネコン幹部らへの現金提供やキャバクラでの過剰な接待費、海外旅行費などに充てられていたということですから、怒りを禁じえません。ある事例では、工事の契約金額は当初20億円余りだったが、追加工事を理由にした変更が行われ、46億円余りに倍増、工事費の一部が裏金として下請けから支店幹部に流れた疑いが持たれており、「大型の公共工事に不慣れな環境省が、復興の現場で業者側の要求を追認するケースが目立つ」とゼネコン幹部がコメントしているとおり、行政側の監督不十分な状況が「犯罪インフラ」となってしまった事例といえます。そして、この行政によるモニタリング・審査の脆弱性が「犯罪インフラ」化しているケースは、新型コロナウイルスへの対応として実施されている各種給付金等においても残念ながら見られます。新型コロナウイルスの影響で減収した中小企業などに国が支給する持続化給付金を巡り、「申請書類の作成を請け負う」という不審な勧誘がSNSなどで増えているといいます。スピード優先の審査の隙を突いて不正受給を狙うケースもあるようです。実際に、嘘の所得税確定申告を税務署に行った上で、スマートフォンを使い、中小企業庁の持続化給付金申請サイトに確定申告書や売り上げが減ったという台帳などを提出、給付金100万円を振り込ませたとして、山形県警は19歳の男子大学生を逮捕しています。中小企業庁では同様の手口を多数確認、警察に順次通報している状況といい、背後に指南役(税理士などの専門家か犯罪組織かが疑われます)の存在が見え隠れしています。いくらコロナ禍からの救済措置として迅速な手続き・支給が求められているとはいえ、中小企業庁の審査が甘かった側面は否定できないと思われます(今は、特に今年初めて確定申告したとする申請を重点的に調べているようです)。

本コラムでも指摘してきた「給与ファクタリング」を巡っては、「給料日前に給与が受け取れる」などとうたい、高額な手数料を取って現金を貸し付けたとして、大阪府警が、東京都内の業者の従業員4人を貸金業法違反(無登録営業)の疑いで逮捕しています(全国で初めての摘発となります)。報道によれば、法定上限(年利20%)の80倍以上にもなり、「新手のヤミ金融」として府警は出資法違反容疑でも追及するといいます。そもそも給与を受け取る権利を業者に売却することで、手数料を引いた現金を給料日より前に受け取れる仕組みですが、金融庁は「貸金業に当たる」として、利用しないよう呼びかけています。給与ファクタリングを巡っては、東京地裁や大阪簡裁で集団訴訟が起きていますが、今回摘発された会社も提訴されています。また、国民生活センターなどに「勤務先まで督促の電話がかかって来た」といった相談が相次いでいます。同センターによると、給与ファクタリングに関する相談は2018年11月以降、80件以上寄せられており、「執拗な取り立ての電話が家族全員に来る」、「親の所へ行くと荒い口調で言われた」などが紹介されています。

その他、最近の報道から、犯罪インフラ化に関するものをいくつか紹介します。

  • コロナ禍で急激に進む「在宅勤務」が「犯罪インフラ化」しかねないとの指摘もあります。2020年7月18日付ロイターによれば、カナダの金融機関は従業員がトレーディング業務を在宅で行うなど、テレワーク化が急速に進んでいることに対し、一部の専門家が、権限を逸脱した行為やインサイダー取引の可能性への対策の強化が不可欠だと指摘、業務監視体制の真価が問われていると報じています。さらに、カナダ銀行(中央銀行)は5月、テレワーク化の進展で取引パターンの変化といったトレーダーの監視が困難になるなど、金融機関には業務上の脆弱性が高まる恐れがあると警告を発しています。「変化のスピードが非常に速く、規制当局やコンプライアンス当局は迅速に対応する必要がある」との専門家のコメントはまさに正鵠を射るものです。なお、「在宅勤務」については、相対的にミスが発覚しにくく、社員がミスを申告しないケースが増えるリスクや、家庭内暴力、薬物・アルコール依存症に気づくのが遅れるリスクなども指摘されています。企業としては、「在宅勤務」の「犯罪インフラ化」に注意が必要だといえます。
  • 消費者庁は、人工知能(AI)を搭載した製品が増えているのを踏まえ、利用者が注意すべき点などをまとめた報告書を公表しています。利便性が増す一方で、意思に反した商品を注文するなどのトラブルも想定されており、「AIスピーカーに勝手に物品を発注された」、「AI掃除機が暴走し観葉植物を倒し、壊した」などトラブルを実際に経験している消費者も多いと指摘、AIによる融資審査サービスは、従来借り入れが困難だった消費者も借り入れが可能になることで過重債務に陥るリスクがあることなども指摘しています。AIによるブラックボックス化が「犯罪インフラ化」につながりつつあると認識する必要がありそうです。
  • 埼玉県長瀞町の空き地に駐車していたトラックを盗んだとして、埼玉県警は、カメルーン国籍の男性3人を窃盗容疑で逮捕しています。報道によれば、盗まれたトラックは茨城県結城市の自動車を保管・解体する施設「ヤード」に持ち込まれたとみられており、同県北部を中心に、関東では2019年12月~20年7月にトラック約20台が盗まれており、関連を調べているといいます。ヤードは塀や柵で覆われて閉鎖性が高く、一部は盗難車転売の温床になっていると指摘されています(暴排トピックス2019年6月でも、千葉県の「千葉県特定自動車部品のヤード内保管等の適正化に関する条例」や愛知県での同様の条例制定の動きなど「ヤード」の犯罪インフラ化を取り上げています)。なお、埼玉県は7月1日に「埼玉県ヤードにおける自動車等の適正な取扱いの確保に関する条例」が施行されています。条例では、「ヤード内自動車等関連事業者は、ヤード内自動車等関連事業に係る自動車等を受け取ろうとする場合には、当該自動車等を引き渡そうとする者(相手方)の氏名、住所等を確認しなければなりません」、「相手方の氏名、住所等の確認は、身分証明書、運転免許証等の原本の掲示を受けなければなりません」、「ヤード内自動車等関連事業者は、ヤード内自動車等関連事業に係る自動車等を受け取り、又は引き渡したときは、その都度、取引の年月日、自動車等の品目及び数量並びに相手方の氏名、住所等の記録(取引記録)を作成し、作成日から3年間保存しなければなりません」といった多くの規制がかけられ、違反した場合の罰則も定められています。「ヤード」の「犯罪インフラ化を食い止めるものとして、全国的に拡がってほしいものだと思います。
▼埼玉県ヤードにおける自動車等の適正な取扱いの確保に関する条例
  • ネット通販やフリマサイトなどの犯罪インフラ化については、本コラムでも以前から指摘してきましたが、最近では、フリマアプリなどを通じたインターネット上の個人取引が増える中、日用品の売買を巡る摘発例が目立っています。売り方や商品によって法規制があり、警察などが監視の目を強めているものの、そもそもルールを知らないまま個人間取引を行っているケースも多いのではないか(法令などの理解が不足し勝手な解釈から法令違反となっているケースも多いのではないか)と考えられます。フリマが健全な個人間取引の場(マーケット)であるためには、プラットフォーマーとしても参加主体に対するルールや法律の周知にもっと注力すべきではないか、そうしないとその場が「犯罪インフラ化」してしまうとの危機感を持つべきだと考えます。また、新型コロナウイルス禍で、通販サイトでの不正決済が増えているようです。報道(2020年8月4日付日本経済新聞)によれば、通販サイトでクレジットカード番号の流出などによる不正決済額は2~5月の推計で約190億円と前年同月に比べて2割増えたといい、店舗の休業が多かったアパレルや需要の高まったマスクなど、「巣ごもり」需要が狙い撃ちになったと指摘しています。その背景について、専門家が「外出自粛などを受け非対面の需要を開拓しようと急きょ通販サイトを立ち上げた企業が増加。こうしたサイトで簡便に利用できる「オープンソース」のシステムに頼り、セキュリティが甘くなっている事例が珍しくない」と指摘していますが、まさにセキュリティ対策の脆弱性が「犯罪インフラ化」したことが顕著となっているといえます。なお、コロナ禍とサイバー攻撃に関連したものでは、米サイバー対策のラピッドセブン日本法人が、企業などがインターネット上に公開するサーバーや通信機器が抱えるサイバーセキュリティー上のリスクを調査した結果を発表しています。日本企業はデータベース(DB)を外部に直接公開している割合が多く、ウェブシステムによく使われる「MySQL」というデータベースだけでも44,802件が公開されていたといい、同社は情報の盗難を防ぐため、DBの設定の点検を呼びかけています。なお、同社代表は日本の状況について、以下のように分かりやすく述べています。

2020年は、コロナ禍によってもたらされた急激な働き方の変化により、セキュリティの一丁目一番地である脆弱性対策において、サイバーエクスポージャーが与える影響に関する重要性が、ますます注目されるべき状況となりました。当社では、全世界のサイバーエクスポージャー、つまり特別なアクセス権等を有さなくとも、外部一般から閲覧可能なセキュリティの脆弱性に関する調査を、数年にわたり実施しております。当然、これらの外部には、悪意を持って入り口を探している攻撃者も含まれます。情報セキュリティにおける基礎は、資産管理とそれら資産にかかわる脆弱性管理、つまり『何が動いていて、どのドアが閉まっていないか』の管理にあります。一連の調査では全世界・国・業種ごとに、外部から見える『何が動いていて、どのドアが閉まっていないか』の脆弱性が示されています。日本における特徴の一つとしては、WannaCry等で悪用されたこともあり、SMBへの対策意識が確実に向上した点が高く評価できる一方、戸締りに例えると、以前泥棒に侵入された窓の鍵の補修は万全であっても、他の窓やドアが脆弱であれば今後も泥棒に狙われる可能性があるため、局所的ではなく網羅的な対応が必要とされていることが分かりました。

  • SMS(ショートメッセージサービス)による本人確認「SMS認証」を不正に行って取得された通話アプリが、少なくとも3件の特殊詐欺に使われ、約300万円の被害が出ていたと報じられています(2020年7月29日付毎日新聞)。報道によれば、通話アプリは法律による本人確認の義務がない「IP電話」で、SMS認証が不正に行われると利用者の特定が難しくなり、認証代行が特殊詐欺の温床になっている(犯罪インフラ化している)実態が浮き彫りになっています。本コラムでも紹介してきたとおり、特殊詐欺事件ではこれまでレンタル携帯電話やプリペイド式の携帯電話などが悪用されてきましたが、2006年に全面施行された携帯電話不正利用防止法によって本人確認が厳格化され、最近はIP電話が使われるケースが目立っています。報道の中で、埼玉県警の調べでは、2019年に県警が把握した特殊詐欺で使われた電話番号のうち、約6割がIP電話だったといます。IP電話については法律による本人確認の義務はなく、通信会社の自主的な取り組みでSMS認証などが行われており、特殊詐欺グループが身元を隠して電話番号を入手するために認証代行を利用していた可能性が考えられ(さらには、偽名アカウントは、電子決済を使ったマネー・ローンダリング、オークションの不正出品などで身元を隠すために悪用される可能性もあり)、SMS認証による本人確認の限界をふまえた新たな認証の仕組みやルールの策定などの対応が急務となっています。
  • 国内の企業や公的機関に対するサイバー攻撃で確認されている新種のマルウエア(悪意あるプログラム)が、短期間にバージョンアップを繰り返して急速に機能強化されており、現状で海外での確認例はなく、日本を標的に開発された可能性も指摘されています。セキュリティ関連の社団法人「JPCERTコーディネーションセンター」では2019年12月から2020年6月にかけ、マルウエア「ロードインフォ」が仕込まれた標的型メールが複数のメディア系企業や公的機関に計16件届いたことを確認、一方で他の国で見つかった例は把握していないということです。また、コロナ禍とサイバー攻撃との関係で言えば、ワクチン開発企業への攻撃などが問題となっていますが、中国政府と関係するハッカーらが今年に入り、新型コロナウイルスワクチンに関するデータを盗むため、米バイオ医薬大手のモデルナを標的にしたことが分かったと報じられています(2020年7月31日付ロイター)。米司法省は先週、新型コロナウイルスに関する研究データや軍事機密などをサイバー攻撃により盗んだとして、中国人2人を起訴したことを明らかにしています。その報道によれば、2人は今年1月、コロナワクチン開発で知られるマサチューセッツ州のバイオ企業のコンピューターネットワークに対し「偵察」を行ったとされ、専門家によれば、「偵察」活動には、公開されているウェブサイトの脆弱性の調査や、ネットワーク侵入後の重要アカウントの探索など、幅広い行動が含まれるとしています。さらに、別の報道では、この2人については、中国政府から(マルウエアを提供するなど)支援を受け、中国を拠点に米国や日本など各国企業や政府機関へのハッキングを繰り返しており、その対象範囲は、IT関連や医薬品のほか、軍事関連やゲームソフト、あるいは香港の人権活動家の情報や米国の軍事衛星の情報、チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世の事務所と支援者の電子メールの内容など幅広い業種、内容に及んでいたといいます。このような産業スパイとサイバー攻撃との関係で言えば、2020年7月20日付日本経済新聞の「企業機密、闇市場で売買 ズームの弱点「数億円で」」という記事が大変重要な警鐘を鳴らしていますので、以下、一部引用します。

「テレワークを拙速に導入したことでシステムに欠陥を抱える日本企業の情報が、ハッカーの間で大量に流通している」と警鐘を鳴らす。「3密」を避けるために進む工場の遠隔制御もリスクを増幅する。攻撃者は対策の甘い端末から企業ネットワークに入り込み、経営の中枢を担うシステムの乗っ取りを試みる。テレワークの普及は、侵入口が今まで以上に増えることと同義だ。…欧州の一般データ保護規則(GDPR)が情報管理を怠った企業に数百億円の制裁金を科すケースもあるなど、規制も厳しさを増す。「買収後に情報流出の事実が判明したら思わぬ紛争に発展する可能性もある」(霞ケ関国際法律事務所の高取芳宏弁護士)攻撃者は人工知能(AI)を駆使し、時に国家の支援を受けながら企業の弱点を突いてくる。19年の米調査では、情報流出被害に遭った中小企業の10%が廃業を余儀なくされた。サイバー対策を軽視する企業は存続すら危うくなりかねない。

  • 本コラムで取り上げる「犯罪インフラ」の代表格である「闇サイト(ダークウェブ)」と「テレグラム」についても簡単にふれておきます。「ダークウェブ」については、個人情報やクレジットカード情報の売買、薬物や銃器の売買、違法なアダルト製品、児童ポルノ製品、著作権を無視した映像、音楽などの海賊版製品のやりとりが、「ダークウェブ」上で、匿名性の高い「暗号資産」を使って頻繁に行われている実態はあるところ、今では薬物すらまともに入手するのは難しいとの指摘があります。実態として、犯罪者が匿名性の高さを悪用して支払いだけ受けてブツを送らない、偽物を送るといったことが横行しているといい(騙された被害者も後ろめたいところがあるため警察に相談しない)、さらには、何らかの足跡・痕跡をダークウェブにアクセスする過程で残してしまうことから警察など当局が本気になれば摘発に結び付きやすいことなどが分かってきたということです。また、日本国内では特殊詐欺など犯罪の連絡手段、海外ではテロ組織の通信手段として悪名高いメッセンジャーアプリ「テレグラム」については、ロシアのプーチン政権がこれまで使用規制をかけていたものを、ここにきて解除しています。規制が技術的に不可能との結論に達したほか、「テレグラムがテロリズムや薬物犯罪との闘いに積極的に協力を始めた」ことが挙げられています。ダークウェブにせよテレグラムにせよ、そもそも犯罪目的で開発されたものではなく、それが「犯罪インフラ化」してきた流れがある一方で、悪用を防ぐことができれば(あるいは悪用できない何らかの理由や事情、制御がなされ、利用環境に変化が生じれば)、それは利便性や強固やセキュリティの確保、表現の自由を守る「インフラ」となることも考えられるといえます。

本コラムで関心を持ってその動向を注視している「SNSの犯罪インフラ化対策(誹謗中傷対策)」については、国も迅速に対応しており、直近では、以下のような動きがありました。

まず、総務省は、法務省などと共同で、SNSの適正な利用を呼び掛ける特設サイトを開設した。「No Heart No SNS(ハートがなけりゃSNSじゃない!)」をスローガンに、情報モラルの向上を呼び掛る取組みを始めました。活動には、フェイスブック日本法人やLINEなどSNS各社で構成する一般社団法人ソーシャルメディア利用環境整備機構(SMAJ)も参加しています。

▼総務省 一般社団法人ソーシャルメディア利用環境整備機構、総務省及び法務省によるSNS上の誹謗中傷の問題に関する啓発活動の取組について
▼一般社団法人ソーシャルメディア利用環境整備機構(SMAJ)「No Heart No SNS」(2020年7月21日公表)
▼SMAJ 法務省、総務省と共同で、SNSのより良い利用環境実現に向けたスローガン#NoHeartNoSNSを発表 あわせてNSで悩んでしまった際に役立てていただくための特設サイトを開設
▼法務省インターネット人権相談:法務省の人権擁護機関ではインターネットでも人権相談を受け付けています。
▼▼違法・有害情報相談センター(総務省支援事業):違法・有害情報相談センターは、インターネット上の誹謗中傷に関する削除依頼の方法について、専門知識を持った相談員によるアドバイスを行っております

SNS上の誹謗中傷の問題に関する啓発活動の一環として、総務省は、一般社団法人ソーシャルメディア利用環境整備機構及び法務省と共同して、「No Heart No SNS」すなわち「ハートがなけりゃSNSじゃない!」をスローガンに、SNS上のやり取りで悩む方に役立てていただくための特設サイトを開設しました。たとえば、「あなたを傷つけようとする人が大切な人でないなら、少し距離を置きましょう。SNSには、見たくない投稿を見ないようにするための「ブロック」や「ミュート」機能があります。「ブロック」や「ミュート」を使ってひと休みしましょう」、「「ブロック」や「ミュート」の機能は、サービスによって名称や操作方法が異なります。詳しくは、ソーシャルメディア利用環境整備機構が提供する安心・安全なサービス利用のための情報をご確認ください」などと有用なサイトを紹介しています。さらに、「傷つけてくる言葉に、あなたがじっと我慢している必要はありません。SNSにもルールはある。「通報」や「問い合わせ」からサービスの運営者に伝えることで、ルール違反の投稿の削除を依頼することができます。あなたを傷つけようとする人がルールを守らなくても、ルールがあなたを守ってくれます」、「削除の依頼手順」として、(1)削除依頼をしたい投稿のURLやアドレスなどを控えます(画面や動画も保存しておきましょう)、(2)サービスの「通報」や「お問い合わせ」(削除依頼等の専用ページ)を探します(「通報」や「お問い合わせ」は、サービスによって場所が異なります。詳しくは、お使いのサービスのヘルプ等を確認してください)、(3)「通報」や「お問い合わせ」(削除依頼等の専用ページ)が表示されたら、フォームに従って、必要事項の入力をします。内容をもう一度確認し、送信します」といった流れが記載されています。そして、「SNSのことで、1人で悩まないで。声を聴かせてください。絶対に誰かが力になってくれます。相談窓口に相談しましょう(あなたが青少年だったら、保護者や先生など信頼できる大人にも相談しましょう)」といったメッセージなども掲載されています。

また、「インターネット上の誹謗中傷への対応の在り方に関する緊急提言」のパブコメがかけられていましたが、その結果が公表され、緊急提言が発信されています。なお、前回の本コラム(暴排トピックス2020年7月号)にてその内容を詳細に紹介しておりますので参照願います。以下については、パブコメにおける意見とそれに対する総務省の見解の中から参考になるもののみを抽出しています。

▼総務省 「インターネット上の誹謗中傷への対応の在り方に関する緊急提言」及び意見募集の結果の公表
▼別紙1 「プラットフォームサービスに関する研究会 インターネット上の誹謗中傷への対応の在り方について(案)」に対する意見募集で寄せられた意見
  • 「インターネット上の誹謗中傷に関する原因分析や実態調査を行う」、7(1)において誹謗中傷への対処方法について「事業者の創意工夫により、導入を検討することが期待される」と記載させていただきます。いただいた御意見については、今後検討を進めていく上での参考とさせていただきます
  • インターネットサービスを実名で利用することを義務づけた場合、自由な言論の確保への支障や、表現の自由を萎縮させるおそれなどの懸念が生じると考えられ、極めて慎重な検討が必要と考えます
  • 御指摘を踏まえ、「高度の伝播性ゆえに被害が際限なく拡大しうるという特徴がある」、「匿名の陰に隠れた誹謗中傷は許されない」、「インターネット上のサービスの性質は様々であることから、個々のサービスの形態や性質に応じて検討を深めることが必要」と記載させていただきます
  • なお、検索サービスについても、今回の検討の対象に含まれていると考えており、繰り返しになりますが、「個々のサービスの形態や性質に応じて検討を深めることが必要」であると考えます
  • 御指摘を踏まえ、「両者の切り分けの判断が事業者にとって困難な場合があることにも留意しつつ、違法情報と有害情報とで対応が異なる点と、対応が変わらない点を意識しながら、対策を講ずることが必要」と記載させていただきます。また、「「法的には必ずしも権利侵害情報(違法情報)に含まれない情報」についての対処方法は、基本的には事業者の裁量に委ねられるべき」旨については、7(1)において御指摘を踏まえ、「基本的には事業者の判断に基づく対応に委ねられるべき」と記載させていただきます
  • 御指摘を踏まえ、3の見出しを「誹謗中傷のうち権利侵害情報(違法情報)と権利侵害に至らない情報(有害情報)の相違への留意」とし、「それ単体では一見権利侵害に当たらない個別の誹謗中傷の書き込みであっても、特定の者が継続して大量に書き込みを行うことや、多数の者が書き込みを行うことにより結果として大量の書き込みが行われることにより、社会的受忍限度を超える結果として、違法情報と評価されることもあり得るなど、政府として、誹謗中傷に関する違法性の判断基準についての議論を深める必要があるとの指摘がある。」と記載させていただきます
  • 御指摘を踏まえ、「インターネット上の誹謗中傷に関する原因分析や実態調査を行うとともに、産学官民の多様なステークホルダーによる協力関係の構築を図りつつ、総合的な対策を講じていくことが重要である」と記載させていただきます。
  • 御指摘を踏まえ、「誹謗中傷を行わないための啓発活動の強化(誹謗中傷が他人を傷付けるものであり、場合によっては犯罪として制裁を受ける可能性があることを周知することなど)を、学校や地域社会等とも連携して行うことが必要」、「啓発活動の強化(誹謗中傷が他人を傷付けるものであり、場合によっては犯罪として制裁を受ける可能性があることを周知することなど)を、学校や地域社会等とも連携して行うことが必要」であると記載させていただきます
  • 御指摘を踏まえ、「発信側の対策だけでなく、ミュートやブロックといったコンテンツフィルタリング機能の活用方法や削除対応の方法、悩みを一人で抱え込まず相談できる窓口の存在についての周知など、受信側の対策も含む」、「産学官民が連携して多面的な分析を行うことが重要」と記載させていただきます
  • 御指摘を踏まえ、「プラットフォーム事業者には、法令を遵守する限度で、サービスを設計する自由があり、規約等に基づき、自らのサービスが認めないコンテンツの種類を定めて、違反するコンテンツに対して削除等の対策を実施することが認められるべき」という指摘については、文意をわかりやすくする観点から、「自らの自由なサービス設計において定める規約やポリシーに基づき、主体的に情報の削除等の対応を行うことも期待される」と記載させていただきます
  • 法務省人権擁護機関等の政府機関からの削除依頼については、「当該削除依頼を踏まえ、サイト運営者において、「他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由」があると判断した場合や自らのポリシーに照らして削除を行うことが相当であると認められる場合には、迅速な削除等の対応が求められる」としており、政府機関等からの申告があることのみをもって削除することを強く求めるものではありません。この点、趣旨を正確にする観点から、「正当な権限及び専門的知見を持った政府機関等からの申告に応じて、速やかに削除可否の判断を行うなど、適切に対処することも求められる」と記載させていただきます
  • 御指摘を踏まえ、必ずしも大量ではない場合の誹謗中傷も含まれるよう、「これらの有害情報の書き込みに対しては、プラットフォーム事業者は、過剰な削除等による表現の自由への萎縮効果や不当な私的検閲とならないための工夫を講じつつ、自らが定める規約やポリシーに基づき、各事業者のサービスの規模や仕様等に応じて、様々な対応策を自律的に行うことが期待される」と記載させていただきます
  • 事業者においては、違法情報(権利侵害情報)に当たらない有害情報であっても、自らの約款に基づきサービスの仕様に応じた様々な対応策をすでに行っているものと認識しております。また、これらの取組はあくまで法的な規律ではなく自主的に行われるものであると承知しております。御指摘を踏まえ、「自らが定める規約やポリシーに基づき、各事業者のサービスの規模や仕様等に応じて、様々な対応策を自律的に行うことが期待される」と記載させていただきます
  • 御指摘を踏まえ、「それぞれのサービスの規約やポリシーに照らして過剰な削除や不当なアカウント停止等の行き過ぎた対応が行われていないかという点についても明らかにされることが望ましい」と記載させていただきます
  • 記載のとおり、削除義務や過料規定が表現の自由への萎縮効果を生むという批判や、24 時間以内の削除義務規定が違憲と判断されたこと等の諸外国の動向を踏まえると、我が国において削除に関する義務づけや過料等を課す法的規制を導入することについては極めて慎重な判断を要すると考えられます
  • 御指摘を踏まえ、「プロバイダ責任制限法の適用関係については、AI等の技術の普及・進展や、それに伴うプロバイダのコスト負担等の変化、プラットフォーム事業者に求められる役割に対するユーザの期待の変化なども勘案しながら、今後とも時宜に応じ、検討を図っていくことが適当」と記載させていただきます
  • プラットフォーム事業者が自主的に取組を実施し、それらの取組に関する透明性及びアカウンタビリティの確保を図るとともに、政府を含めた産学官民の多様なステークホルダーとの双方向の対話やプラットフォーム事業者自身による対応状況等の公開・説明を通じて、国民(利用者)やメディア等に対して取組の効果や課題などが明らかになることで社会全体としてのモニタリング機能が果たされ、それらの反応を踏まえてプラットフォーム事業者による更なる取組が進められていく、というサイクルが回っていくことが期待されると考えております
  • 御指摘を踏まえ、「各事業者のサービスの多様な規模や性質等に応じて何らかの指標やメルクマールを設定した上で、プラットフォーム事業者による自主的な取組の実績や効果を評価することも考えられる」、「可能な限りプラットフォーム事業者の自主的取組を尊重しながら、産学官民が連携しつつ、柔軟かつ効果的な取組を模索していくことが重要である」と記載させていただきます

また、同じく総務省の有識者会議(プラットフォームサービスに関する研究会)において、インターネット上の誹謗中傷対策に関する有識者らの意見が集約されている資料もありましたので、やや分量が多くなりますが、参考になる点や考えさせられる内容も多いことから、あわせて紹介します。

▼総務省 プラットフォームサービスに関する研究会(第20回)配布資料
▼参考資料 第19回会合における構成員からの主なご意見
  • インターネット上の誹謗中傷対策については、被害者を慮るということを忘れないようにしなければならない
  • 違法性阻却・免責事由をめぐっては、個別事案における一つ一つの判断にかなりの時間・人員等のリソースがかかっており、また、民間事業者に対して、恣意的であってAI・アルゴリズムを用いたブラックボックスでの私的検閲であるなどと言われないような自主的な対応措置を促すためにも、現行法の下で何が違法とされて速やかな対応を要するとされるかといった実定法上の判断基準を示すなど、政府機関間での連携を今よりももう一段進めていただきながら、政府が主体となって進めるべき対応措置があるのではないか
  • インターネットが匿名で発信することができるという特性を持っていることには間違いないが、顕名で発信してはいけないということではないので、「匿名であれば問題だが、顕名であれば問題ない」「匿名であれ顕名であれ問題」「匿名であれ顕名であれ問題ではない」というレベルがあり得るので、そのような整理についても今後何らかの形で議論が進むべき
  • 権利侵害情報と権利侵害に至らない誹謗中傷の相違への留意は必要だが、問題は、権利侵害に至らない誹謗中傷というものをどう考えるかということ。社会的評価の低下が起こるような表現であれば、一旦は名誉毀損のカテゴリーに入った上で、公共性や公益目的、真実又は真実相当性で違法性阻却されるものがある。違法性阻却された表現というものは、ある種の公共性を担っているため、適法ではあるが有害というものを名誉毀損のカテゴリーで考えることができるのか、考えられるとしてそれはどんなものなのかという点は留意する必要がある
  • 名誉感情侵害と言われるようなパターンについては、違法か否かということは総合的に判断されるが、被害者が耐えられないほどの大量の投稿がある場合、大量の投稿によって違法になるということも考えられるため、違法ではないが有害な情報が大量に投稿されると違法になるのであり、当然対応されるべきという考え方もあるのではないか
  • 特定の1人が誹謗中傷の投稿を大量に送ってくるストーカーのようなことに対応することは当然のことだが、一つの件に関して多くの人がたくさんの投稿を行うケースについても問題であるため、後者のケースについても検討を行うべき。大量の投稿であれば問題だが、一件一件見ると問題ではないという整理の仕方はおかしいのではないか
  • 「忘れられる権利」が問題になったときに議論となった検索エンジンはインターネットの入口として非常に重要な役割を持っているため、今回SNS以外の論点について含めた方が良いのではないか
  • プラットフォーム事業者による積極的な取組が求められ、透明性・アカウンタビリティの確保が一層求められるという点についても大いに賛成であるが、一般ユーザからの申告や削除要請に対応する部署の規模等、日本に対してどの程度リソースを投入しているのかということを回答してもらえなければ、責任を果たしてもらえているのか不安なところもあるため、その点を明らかにすることをプラットフォーム事業者の役割として考えてもらうべき
  • SNSの利用者の中には、批判投稿をすることが悪いことだとは知らず、悪意なく投稿している方も多いという報道もあり、利用者が知らない間に加害者になってしまうという問題がある。利用者にとっては、利用規約に禁止事項がたくさん書いてあっても読み切れず、具体的にどのような投稿が問題になるのかという事例があるのか分からないため、当該問題を防ぐことができないのではないか
  • リテラシーという点については、産学官で進めていくということで、どのようなレベルから実施するかという点も含めて考える必要がある
  • 悪意があり誹謗中傷を行うごく一部のラウドマイノリティーのような方もいれば、悪意なく発した一言に集中して誹謗中傷が集まってくるという場合もあるため、誹謗中傷がなぜ起こるのかという原因も幾つか類型化できると思うので、その点を明らかにしていく必要がある
  • 投稿の一つ一つはそれほど悪質なようには見えないけれども、同じ人間が繰り返し多数の投稿を行うと問題となるということについては賛同。継続的に絡んでくるのであれば、嫌がらせ目的であることが徐々に明らかになってくる場合もあると思うので、事業者の方から投稿一つ一つについて規約に反しているかという判断をしていると回答があったが、特定の人間が継続して関係してくる場合については、別途判断する余地もあるのではないか
  • テクノロジー的な観点では、今後膨大な情報量に対してどのようにAIを活用していくかという点で、どういうワードで検索するか等、誹謗中傷対策としてどのように扱うかが重要であり、共通するところは事業者全体で共有し合うというアプローチをすべき
  • 人がすべての投稿を確認することはできないので、クローリングをどのように活用していくかという点については、今後どのように強化していくか考えていくべき
  • 適切な投稿を削除してしまうオーバーキルが1件もないようなルールであれば、明らかにアンダーキルに偏っているし、合理的なルールが定められれば一定数のオーバーキルは不可避であるから、オーバーキルや発信者とは別人の情報を開示してしまう誤爆は重要な問題であるが、オーバーキルや誤爆について事業者を批判的に言い過ぎると運用がアンダーキルに偏ってしまうのではないかと懸念している
  • 誹謗中傷対策について、技術的対応や人海戦術的な対応は大手企業であれば対応可能だと思うが、中小企業や新たに生まれてくる会社では対応が難しいと思うので、ツールの開発や提供、問合わせ対応等、第三者的に複数の企業に対して共有できるような仕組みについても検討する必要があるのではないか
  • インターネット上の誹謗中傷対策についての議論を進めていくと、対応することがすべて同じになり、違法なものの判断基準など全てが同じになってしまうため、多様性についても考えなければならないが、基本として考えるべきことが何か、その上で独自の判断や独自の考え方を許すことのできる範囲はどこかという線引きについても検討する必要がある
  • AIを用いた情報への削除の対応について、特定の要望をピックアップして特定の要望のみを削除するという対応から、例えば自動的な削除を回避する要望などを抽出して削除することができるという観点からすると非常に期待されるが、人間による判断であっても規約上のアカウント停止等も含め透明性の確保には疑義が生じている面があるので、今後誤爆の問題について、透明性の確保と最終的な判断の自動化防止について検討を行う必要がある
  • 誹謗中傷等の投稿について、アルゴリズムを使って削除するだけでなく、投稿の表示順位を上げる、目立たせる、レコメンデーションする、あるいは表示順位を下げるということが非常に重要であり、そういった取組をしているか否かを含めて見えないところもあったので、透明性・アカウンタビリティの向上の点で、モデレーションの概念をもう少し強調したり深掘りした方がよい
  • 削除した投稿については、後に検証するということが非常に重要になると思うので、検証のメカニズムは必ず入れておくべき
  • 国による環境整備について、何か特定の負担があるのか、どのような取組が求められるのか、プラットフォーム事業者側からは非常に関心が高いとともに、ネットを利用者側からも環境整備がなされることへの期待があるが、環境整備の内容について、具体的にどのようなことが考えられるのか
  • 言葉による暴力は、違法でも合法でもないと思っている人が多いと思うので、言葉による暴力も駄目だということについての啓発も環境整備の一環として何かすべきではないか
  • 問題となった投稿が明らかになった場合には、そのサンプルを共通の団体等で迅速に共有するのもよいが、各社で行っているAIの学習データにフィードバックしていくような仕組みが行われるような環境整備を行うべき
  • 権利侵害情報への削除要求の対応に当たっては、長年の議論がある上、プロバイダ責任制限法をはじめとする現行の法的な枠組みで対応を行っているところ、新たに何かもう一歩踏み込んで。新たな法的枠組みにおける対応を求めるということはかなり難しいのではないか。同時に、有害情報についても法的根拠に基づく対応の困難性は、長年にわたる努力と今までの経験があるため、有害情報への対応の方向性について、新たに今回の検討で大きく枠組みを変えることは難しいのではないか
  • プラットフォーム事業者に対する過料等を課す法的規制を導入することについて消極的という整理については賛成
  • プラットフォーム事業者に過料を課すという段階に至るより前に、そもそも誹謗中傷を発信する人が悪いので、本来であれば被害者が発信者に対して速やかに損害賠償請求ができることが重要であるため、賠償のハードルが高すぎないか、賠償額が低すぎないかなど問題のある行為をするハードルを上げることの方を先に検討すべき
  • プラットフォームに対して削除に関する義務付けを行うことについて、極めて慎重な判断を要するという点は大いに賛成
  • プラットフォームの役割として表現の自由を支える基盤になっている面はあるが、取組の透明性やアカウンタビリティの確保という限度で法的関与をすることは可能ではないかと思うので、プラットフォーム事業者に対し、透明性・アカウンタビリティの確保に関する法的枠組の導入の検討など、行政からの一定の関与も視野に入れるという点については賛成
  • 透明性・アカウンタビリティ確保について、事業者の方々からのヒアリングシートの提出が情報収集の方法として想定されているが、誤爆の話など事業者の認識とユーザの認識ということはしばしばずれることがあるので、状況把握の際に何らかユーザの声を情報収集することにも意義があると思う
  • 誹謗中傷ホットラインという相談窓口があることは大変いい試みだと思うが、被害者本人からの相談のみが対象であるところ、被害者本人は被害に遭った際に、相談するという発想に至らない場合も多いので、18歳以上の方でも本人以外から相談を受け付けられるようにするなど、相談窓口の対応の検討をすべき
  • 被害を受けた方は萎縮し、被害を届け出ることができなくなることが容易に想像されるが、物理的な暴力と同様に目撃した人が通報できるような110番のようなものが周知されるべき
  • 日本語で行われている誹謗中傷については対応できる部分があっても、日本語以外の言語で行われている権利侵害情報に該当する書き込みについては対応できていないと思うので、日本語以外の言語による誹謗中傷対応をどうすべきか検討する必要がある
  • ウェブ上でどのような情報が流通しているかということについて、独立した第三者あるいは研究者等が信頼できるデータにアクセス・分析し、状況を明らかにすることができるという重要性というのは、昨年開催した会合でも少し議論されたところであり、国際的にも公益のデータアクセスが重視されているところであるため、論点として視野に入れるべき
  • ブロックやミュートという機能が問題の解決にはならないと思うので、ある程度投稿時に抑制があってもよいと思うが、教育的配慮や誤爆の救済になると思うので、抑制する際にはその理由を示すべき
  • ブロックやミュートといった機能を活用した対策についてはもっともなことであり、高く評価すべきだが、問題になった事例はこれらの機能を知らなかったために悲劇的な結果になったということではないと思うので、これらの機能があるからよいという整理にしてはならない
  • インターネット上の誹謗中傷への対応として、ミュートやブロックという機能は確かに有効な方法ではあるが、それらの機能は自分から自分を誹謗中傷する投稿が見えなくなるだけで、他の人からは当該投稿が見られているのであれば、被害者としては気持ちが収まらない面もあると思うので、特に被害者救済という意味でもう少し他の方法も考えていかなければならない
  • 「誹謗中傷」という用語は曖昧さを含むため、議論の対象や範囲の明確化が求められるとともに、誹謗中傷への対応の方向性を政府が主体となって議論するには、表現の自由や名誉・プライバシーなどのいずれも重要な価値とのバランスを考慮すべき
  • 今後の基本的な対応方針をめぐる選択肢として、現行法の下で違法とされる言論の対象範囲を拡大するのか、時間や人員等のリソース配分やより弱い立場の人に不利益が不均衡にかかる格差との関係でこれまで対応が不十分だったところを手当てするのか、ないしは両方なのかという点について方向性の明確化をすべき

さて、総務省のこのようなスピード感のある取組みをふまえ、高市総務相は、インターネット上の誹謗中傷対策として、8月中に省令を改正すると表明しています。被害者がSNS運営企業などに投稿者の電話番号開示を請求できるようにし、弁護士を通じて携帯電話会社に直接、損害賠償請求に必要な名前と住所を照会できるようになり、被害者の負担軽減につながることが期待されます。一方、直近の報道(2020年8月9日付日本経済新聞)によれば、インターネット上で後を絶たない個人・企業への中傷や著作権侵害の対策に、米国の裁判所を通じて発信者情報の開示を求める司法制度(いわゆる「ディスカバリー」と呼ばれる証拠開示制度)の活用が日本国内で広がり始めているということです。投稿先のSNSの多くを米国企業が運営することもあり、国内制度より迅速に情報が開示され、その内容も幅広く、弁護士からは「普及すれば不正投稿の抑止につながる」との声も上がっているといいます。「ディスカバリー」においては、氏名や住所、IPアドレスだけでなく、電話番号、メールアドレスなど、サービスに登録された情報の全てが開示対象となるうえ、「有料サービスの場合はクレジットカード情報が登録されていることもあり、発信者の特定につながる手掛かりとなる。裁判所の命令も1~2日で出ることもあり、申し立てから1カ月以内に開示に至ることも多い」と指摘されています。いずれにせよ、あらゆる手法を駆使しながら、誹謗中傷対策を高度化していくことで、その抑止につながればと思います。

さて、LINEは、誹謗中傷やデマなど有害コンテンツへの対応について、利用者や有識者からのパブリックコメント(意見公募)を初めて実施しています。同社は対話アプリの個人間のやりとり以外での様々なサービスで、トラブル防止へ投稿削除などの対応をとっていますが、今回、「有害なコンテンツへの対応方針に関して」を公表、外部から幅広く意見を募り、今後の対策に反映させる狙いがあります。同社はすでに他社に先駆けて「透明性レポート」(LINE Transparency Report)を定期的に公表し続けていますが、前述の総務省のパブコメへの回答や有識者の意見にもあるように、「事業者の自律的な取組み」が求められる中、国民や消費者に対し、積極的に自らの姿勢を説明する姿勢、コミュニケーションを取ろうとする姿勢は高く評価できるものであり、他の事業者においても同様の取組みを期待したいと思います。

▼LINE 有害なコンテンツへの対応方針に関して

問題意識として、「有害なコンテンツが当社のサービス上で広く拡散することにより及ぼす影響とそれらの情報への対応のバランスについては、コミュニケーションインフラとして慎重に図る必要があると考えています。有害なコンテンツとは、社会的な混乱を招いたり、生命・身体・財産を害したりする情報、テロリズムや暴力的な過激主義につながる情報などを指しています」、「有害なコンテンツへの対応としては、オープンなコミュニケーションの場における社内でのモニタリングに加え、ユーザ自らが通報できる機能の提供とともに、スパム行為や児童ポルノなどの違法行為や迷惑行為に対処しております。(前提として、LINEは、お客様のプライバシー保護を経営の最重要事項のひとつとし、個人情報の定義を法律よりも幅広く捉え、また「LINE」における通話内容およびトークルームでの送受信内容などは「通信の秘密」として特に厳密な保護の対象としており、それらについては社内において監視をしておりません。)」、「昨今、SNSプラットフォームがテロ行為のプロパガンダに利用されたり、偽りの情報によって社会の混乱に利用されたりするケースが散見されています。オープンとクローズドの両面を提供するLINEは、プラットフォームであると同時に、ニュースや漫画等のコンテンツサービスを提供する事業者として、サービスの性質に配慮した形で自由なコミュニケーションとプラットフォームとしての品質を維持し、そのバランスについて明確にする責任があると考えています」としています。そのうえで、以下のような対策を今後検討・強化していく方針としています。

  • コンテンツテイクダウンに関連する施策
    • 適切なポリシーを策定するための部門横断タスクフォースの設置
    • 社外の有識者とのコミュニケーション
    • 政府や同様の取り組みを実施する企業や団体との連携強化
    • 既存のコンテンツモニタリング基準の見直し
    • モニタリングの補助を目的とする確認ツールの開発および改良
    • テイクダウン結果に関する統計レポートの開示
  • フェイクニュースに対する施策
    • スマートフォンニュースサービス「LINE NEWS」における品質の高いメディアパートナーとの連携
    • 広告掲載条件の作成と開示
    • テイクダウン以外の方法での対処の検討
    • 学校や自治体への講師派遣、オリジナル教材の開発などリテラシー教育への協力
  • テロや暴力行為に関連するコンテンツに対する施策
    • 政府および協力企業・団体とのコンテンツ情報の共有

その他、SNSやインターネット上の誹謗中傷対策等に関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 今回の総務省の対応などのきっかけにもなった、5月に東京都内の自宅で死去したプロレスラーが出演していた人気番組「テラスハウス」について、フジテレビは、「制作側が出演者に対し、言動、感情表現、人間関係などについて指示、強要したことは確認されなかった」などとする検証結果を公表しています。公表内容によれば、女性と男性出演者とのトラブルをきっかけにSNS上で批判が集まったことも「予見できず、SNSを炎上させる意図はなかった」と釈明するなど、やはり「火消し目的」の印象が強いのは否定できない内容に見えます。遺族の母親のコメント(2020年7月31日付毎日新聞)として、「演出については、遺族である私や花の同僚には聞き取り調査の依頼もなく、出演者の調査も不十分だ。(第三者機関によるものではなく)内々の調査で、公平、公正な調査だとはとても思えず、怒るとかではなく、ただ悲しいです」、「『炎上させる意図はなかった』とは、これだけ実際に誹謗中傷が花に集中していて、何を寝ぼけたことを言っているのかと。しかも前回のシリーズでも炎上はあったわけで、それで炎上が予想できないのであれば、リアリティー番組を作る資格があるのか疑問です」が掲載されていましたが、個人的にはそのとおりと大変残念に感じています。なお、同日の同じ毎日新聞の報道で、有識者が、「分かりやすい指示はなくても、無言の圧力を出演者が感じていたかもしれない。細かいシーンのやり取りに限らず、番組制作の根本的な姿勢や体制、現場の『空気』まで全体的に検証しないと、真の原因究明にはならない。その結果、掲げた再発防止策も具体性に欠けている。他局も含め、同様の番組を作る場合に参考にし、共有できるような内容になっていない」、「SNSの反応と視聴率や配信数との関連がないことなどを理由に挙げているが、理解しがたい理屈だ。テラスハウスはネット配信での視聴をメインに据えた番組で、ネット上の反響は番組制作側にとって関心事だったはずだ」、「調査するテレビ局側も、調査される番組制作側も問題を大きくしたくない点は共通する。その間で聞き取りなどをした結果が、果たして中立・公正といえるのだろうか」などと指摘していますが、正鵠を射る内容だと思います。
  • 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、インターネット上で誹謗中傷やデマ、臆測などの書き込みが増える恐れがあるとして、岩手県は、問題があると判断した書き込みを画像で保存する業務を始めています。書き込まれた相手が名誉毀損で訴訟を起こす際などに画像を提供し、裁判の証拠として活用してもらうことを想定しているといいます。また、自治体の取組みとしては、群馬県の山本知事が、全国初の制定に向け検討を進めている「インターネット上の誹謗中傷被害者支援条例」について、年内の制定を目指すと表明していることも注目されます。専門家らの意見を聞く有識者会議の初会合も開催され、検討作業が本格化しています。
  • 仙台市立小2年だった女児へのいじめに悩んだ母親が2018年に娘と無理心中したとされる問題に絡み、同市の男性が「子どもがいじめに加担した」とするインターネットへの虚偽の投稿で名誉を傷つけられたと訴えた訴訟の判決で、仙台地裁が請求を一部認め、プロバイダ4社に投稿者の情報開示を命じていたことが明らかとなりました。報道によれば、インターネット掲示板に、男性の子どもだと認識できる記述とともに、「加害者」「人殺し」などとする投稿が8件あったといいます。また、発信者開示請求に関するものとしては、直近では、茨城県守谷市の常磐自動車道で昨年8月に起きたあおり運転殴打事件で、「同乗者の女性」との虚偽投稿をされ(女性の顔写真や氏名、勤務先の会社名などが記載された画像もあったといいます)名誉を傷つけられたとして、東京都の会社経営の女性が岐阜市のインターネットプロバイダに発信者情報の開示を求めた訴訟で、岐阜地裁が、同乗女性と原告女性が同一とは認められず、投稿は「原告の社会的評価を低下させるもの」で名誉権を侵害したと指摘し、氏名や住所などの開示を命じる判決を言い渡しています。
  • 米ツイッターは、利用者が自らの投稿に返信できる人を制限する機能を導入したと発表しました。中傷や嫌がらせを防ぎ、利用者が安心して投稿できるようにするのが狙いで、返信を認められない人も投稿を閲覧したり、コメントを付けてリツイートしたりすることはできるといいます。新機能では投稿する前に、返信できる人を(1)全員(2)自分がフォローしている相手(3)投稿で関連付けた相手のみ、の三つから選んで設定できるようになっています。ツイッターは5月から新機能を試行し、悪意ある返信を防ぐ効果を確認したとしています。今後の誹謗中傷対策の実効性を高める事業者の自律的な取組みの一つとして評価したいと思います。
  • 海外の動向としては、まずトルコ国会が、SNSへの規制を強める法案を、エルドアン政権の与党・公正発展党などの賛成多数で可決したことが注目されます。SNS各社は今後、トルコに代表スタッフを置いて投稿をめぐる苦情に対応することを求められることになり、守らない場合、罰金などが科されるといいます。報道によれば、新法はSNS各社に対し、トルコでの利用者に関するすべてのデータの保管も義務づけるなどしており、新法により、自由に意見を表明できる場が狭められるとの恐れが指摘されています。国連人権高等弁務官の報道官も、この法制化の動きについては、「今回の法案は、政府がソーシャルメディアをコントロールする強力な道具となる」と懸念を示していました。また、ドゥテルテ大統領の強権的な統治が続くフィリピンで、メディアへの圧力が強まっています。政権に批判的な報道で知られる民放最大手は放送停止を命じられ、ネットメディア「ラップラー」のCEOらは、掲載記事で実業家の名誉を毀損したとして裁判所から有罪判決を受けています。
(6)その他のトピックス
①暗号資産(仮想通貨)を巡る動向

新型コロナウイルスの感染拡大により、貴金属の金と暗号資産(仮想通貨)のビットコインがともに急騰しています(金は年初来で3割、ビットコインは5割上昇しています。また、安全資産の代表格である金に代わる投資先として、ビットコインにも資金が流入している状況ともいわれています)。報道(2020年7月28日付日本経済新聞)では、「両者に共通するのは通貨に似た性質を持つが、特定の発行国を持たない「無国籍」である点だ」と指摘、「両者の上昇は、米ドルをはじめとする法定通貨への不信感を映す」、「新興国ではコロナ禍で膨らんだ財政赤字が通貨安のリスクを高めており、先進国以上に金やビットコインへの資金シフトが起きる可能性がある」との指摘など大変興味深いものです。

また、暗号資産関連の最近のニュースとしては、日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告(会社法違反などで起訴)が保釈中に逃亡した事件で、逃亡を手助けしたとして米国内で逮捕された米国籍の親子2人に、ゴーン被告の息子が計約50万ドル(約5,300万円)を暗号資産で送金していたことが、米司法当局が連邦裁判所に提出した裁判資料で明らかになったといったものや、暗号資産取引所の米コインベースが主要な米暗号資産取引所では初めて株式公開を計画していることが分かったといい、早ければ年内にも上場する可能性があるというというものがありましたが、とりわけ、LINEが独自の暗号資産「LINK」の取り扱いが開始されたことが注目されます。

▼LINE 暗号資産取引サービス「BITMAX」、LINE独自の暗号資産「LINK」の取扱いを8月6日に開始

リリースによると、LINKは、2018年から海外向けの暗号資産交換所「BITBOX」で取引されていましたが、国内では登録手続きに時間がかかり取り扱いが遅れていたもので、今回、LINEが日本国内で運営する暗号資産取引所「BITMAX」で取引できることとなったものです。なお、その特徴は、「LINEが独自開発したプライベートブロックチェーン「LINK Chain」を用いて発行した暗号資産」だと紹介されています。BITMAXで取引できる暗号資産は、LINK、ビットコイン、イーサリアム、リップル、ビットコインキャッシュ、ライトコインで、BITMAX上で日本円と交換することも可能です。その意義について、同社のリリースによれば、「「LINK」は、「LINEトークンエコノミー」におけるインセンティブの役割を果たします。ユーザーはサービス内での貢献活動によってインセンティブとして「LINK」を受け取ることができ、サービスの成長によりトークンエコノミーが拡大し、「LINK」の需要が増えれば「LINK」自体の価値も上がる可能性があります。ユーザーがインセンティブとして獲得した「LINK」を様々な「dApp」サービスで利用できるよう、現在LINEファミリーサービスやパートナー企業と準備を進めています。また、「LINK」は「BITMAX」を通じて法定通貨に換えることも可能です」と紹介されています。具体的には、LINE上のコンテンツへのレビューに対する報酬や、LINEスタンプなどのクリエイターに対する還元にLINKを活用するなど、LINEで提供するサービスとLINKを連携した経済圏の拡大を目指すということかと思われます。

さて、本コラムでその動向を注視している中央銀行デジタル通貨(CBDC)について、前述したとおり、AML/CFTの観点から「いわゆるステーブルコインに関するG20財務大臣・中央銀行総裁へのFATF報告書要旨」が公表されています。そこでは、多くの暗号資産より「中央集権型のステーブルコイン」の方が、「分散型のステーブルコイン」と比べても「中央集権型のステーブルコイン」の方がマスアダプション(大規模な普及)が発生する可能性があると指摘されています。そのような中で、CBDCにおいては、中央集権型と分散型の間でどうバランスをとるかが課題となりそうです。直近のCBDCを巡る動きとしては、日本でも、「経済財政運営と改革の基本方針2020~危機の克服、そして新しい未来へ~」(骨太方針2020)において、CBDCについて「中央銀行デジタル通貨については、日本銀行において技術的な検証を狙いとした実証実験を行うなど、各国と連携しつつ検討を行う」と明記されたことは極めて大きなトピックかと思われます。本コラムでも紹介したとおり、日銀は今年1月に欧州中央銀行(ECB)をはじめとする海外の5中銀などと共同研究を始めており、政府も日銀と足並みをそろえ、米欧との協議を本格化させる方向に舵を切ったことになります。さらに、日銀は、CBDC発行の課題を探る専門組織「デジタル通貨グループ」を決済機構局に新設しました。米FBが昨年、民間主導のデジタル通貨・リブラの構想を打ち出し、中国などは発行に向けた準備を進める中、日銀は「デジタル通貨の発行計画はない」との立場を現在でも貫いていますが、CBDCへの関心が世界的に強まっており、金融システムや金融政策に与える影響などの調査に本格的に着手することになります。なお、報道によれば、グループ長は企画役が就くのが一般的であるところ、「格上の審議役に担当させる異例の人事」(日銀幹部)からは、日銀の本気度がうかがわれます。さらに、その本気度については、日銀の雨宮副総裁がインタビューで、「一段ギアを上げて検討を進める必要がある」と述べ、新型コロナウイルスの影響でキャッシュレス化が進む可能性があることを踏まえ、民間企業と連携して実証実験を実施する意向を示しつつ、「公的部門がどの程度、個人情報にアクセスするのが適切かという非常に難しい問題がある」などを指摘したこと(2020年7月29日付産経新聞)、あるいは、決済機構局長がインタビューで、「(CBDCの検討は)日銀として当面の最優先事項の一つと位置づけて取り組む」、「準備のステージから一段レベルを引き上げて検討を進める」と語っていること(2020年7月29日付朝日新聞)などからも分かります。なお、同局長は、CBDCの基本機能として、現金と同様にだれでもどこでも使える「ユニバーサルアクセス」と、災害時に電源などのない状況でも使える「強靱性」の二つの特性が大切と指摘していますが、この点については、前回の本コラム(暴排トピックス2020年7月号)において、日本銀行のレポート「中銀デジタル通貨が現金同等の機能を持つための技術的課題」について紹介していますので、参照いただければと思います。

その他、国内外のデジタル通貨を巡る最近の報道では、三菱UFJフィナンシャル・グループの亀沢社長は、独自のデジタル通貨「coin」を2020年度下期に発行する方針を明らかにした(2020年7月13日付毎日新聞)ことが注目されます。報道によれば、飲食店紹介サイト「ホットペッパーグルメ」や旅行予約サイト「じゃらん」、容院予約サイト「ホットペッパービューティー」などを運営するリクルートグループと共同で、まずはリクルートのサイトに加盟する店舗でスマホ決済を始める予定といい、「リクルートが持つ若年層との接点と、我々の金融ノウハウとを合わせてサービス提供したい」と述べています。亀沢社長は、コインの発行について「いろいろあって遅れた面があるが、新型コロナウイルス問題もあったのでタイミング的にはちょうど良いかもしれない」と述べています。なお、本コラムでも以前紹介したとおり、同グループの三菱UFJ銀行も、ほかのメガバンクやKDDI、セブン銀行、NTTグループ、JR東日本などとともに、デジタル通貨でのデジタル決済インフラの実現を目指すための勉強会に参加しており、勉強会は9月ごろまで行われる予定です。本勉強会については、「デジタル通貨やデジタル決済インフラに対する課題と解決方法の検討、議論を進め、実現に向けた合意点を見出し、サービスやインフラの標準化の方向性を示すことを目的」としており、主要な論点としては、「国内外におけるデジタル決済、デジタル通貨の実例研究」、「ブロックチェーン、分散型台帳技術など新しいデジタル技術の取引・決済インフラへの応用、デジタル通貨決済の潜在的な活用領域とその効果、望ましい姿、将来の可能性」、「サービス提供範囲、利用価値の対価、提供者・関係者の役割、標準化など実現における課題」が予定されています。その中で、三菱東京UFJ銀行の「coin」とJR東日本のSuica(スイカ)の連携なども検討されると見られています。

また、T&Dホールディングス傘下の大同生命が、デジタル通貨の実証実験を開始したと発表しています。

▼大同生命 デジタル通貨の発行実験の実施-生命保険業界への応用可能性を検証-

リリースによれば、「国内生命保険会社としては初めて、ディーガレットが構築している「ブロックチェーン上でデジタル通貨を発行・管理するプラットフォーム」を用いて自社ブランドのデジタル通貨を発行し、実証実験参加者に限定した仮想経済圏を構築します。参加者がスマートフォンアプリでデジタル通貨を保有し、物品購入や、スマートコントラクトによる自動積立等を行うことで、デジタル通貨やブロックチェーン技術の生命保険業への応用可能性を検証します」ということです。さらに報道によれば、専用のデジタル通貨「DLDC」を発行した上で、同社の役職員100人程度がスマホアプリ「ダイドーウォレット」上で保有、8月末までの約2カ月間、物品購入や、日々の歩数など健康活動の成果に基づく自動積み立てなどに活用し、技術的な課題を洗い出し、保険料収納や保険金支払いなどの業務を自動化する「スマートコントラクト」と呼ばれる取り組みにも活用が可能か検証するということです。

一方、海外では、中国配車サービス大手、滴滴出行(ディディ・チューシン)は、中国人民銀行(中央銀行)が推進するデジタル通貨の決済システムの試験に向け、人民銀傘下のデジタル通貨研究機関と提携したと発表しています。報道によれば、同社の配車アプリでの試験運用に取り組んでいるといい、同社は発表文書で、「革新的金融サービスを提供する実体経済セクターの発展を支援する」という政府の方針を受け、提携が決まったと説明しています。中国人民銀行は紙幣の印刷コスト削減やマネーサプライの管理強化に向け、独自のデジタル通貨導入の可能性を模索するため、6年前に研究チームを立ち上げていたといいます。また、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、アフリカ諸国がモバイルマネーやロボットといった最先端のテクノロジーを使った対策を次々と打ち出しているとの報道がありました(2020年7月22日付朝日新聞)。先進国が段階的に技術を進歩させてきたのに対し、経済発展で出遅れたアフリカ諸国で一足飛びに最新技術が普及する「リープフロッグ(カエル跳び)」と呼ばれる現象が起きているといいます。さらに、ブラジル中央銀行は、米FBがブラジルで展開していた決済・送金サービスについて、当面の間、送金を認めない方針を明らかにしたことも注目されます。米IT大手に金融分野を握られることを警戒したとみられています。報道(2020年8月4日付日本経済新聞)によれば、ブラジルでは国民の6割近くにあたる1億2,000万人がワッツアップを利用しているとされ、日常生活に定着、サービスが本格稼働すれば、銀行や地場のフィンテック企業への影響が懸念されていました。このあたりはFBのリブラ構想に対する世界の反応の縮図とでもいえるかと思います。

②IRカジノ/依存症を巡る動向

カジノを含む統合型リゾート(IR)事業をめぐる汚職事件については、衆院議員秋元司被告=自民離党=がすでに起訴されていますが、贈賄側の被告に偽証を持ち掛けたなどとして組織犯罪処罰法違反(証人等買収)容疑で3人の会社役員が逮捕されています(なお、証人等買収罪は、2017年7月施行の改正組織犯罪処罰法に盛り込まれ、適用は初めてとみられます)。そのうちの会社役員(淡路容疑者)が以前代表だった会社(48ホールディングス)については、「必ず値上がりする」などとうたって暗号資産「クローバーコイン」を販売し、特定商取引法違反(不実告知など)で消費者庁から2017年に3カ月の取引停止命令を受けていたこと、さらに、この会社については、共謀した疑いが持たれている別の会社役員(佐藤容疑者)が今も役員として就任していること、あるいは、この会社役員(淡路容疑者)については、安倍首相主催で行われた「桜を見る会」にも出席していたことや秋元被告が保釈されて以降、定期的に面会していたことなども明らかになっています。なお、秋元被告について、弁護人を「受任した」としていた元検事の郷原信郎弁護士が「弁護方針の違い」を理由に辞任したということもありました。秋元被告周辺でのこのような動きによって、IR事業の健全性にとっても芳しくない状況にあり、大変残念です。一方で、事実関係を詳らかにして、それをふまえてIR事業のさらなる健全性の向上につながることを期待したいと思います。

新型コロナウイルスの感染拡大により、自治体からの申請期間などを定めるIR基本方針の公表が先送りされているなど、一連のスケジュールが不透明となっていますが、赤羽国土交通相は、来年1月から予定する自治体からの申請受付期間を延期するかどうかに関し、コロナ禍によるIR事業者の経営面などへの影響を考慮して慎重に判断する考えを示しています。報道によれば、「新型コロナの影響により自治体のパートナーとなるIR事業者も大変な状況で、先行きが見通せないという声もある。現場の自治体の状況を丁寧に確認しながら対応する」と述べています(なお、別の報道では、政府関係者が基本方針の策定時期について「白紙としている」と述べてもいます)。いずれにせよ、そもそも特定複合観光施設区域整備法(IR整備法)が公布から2年となる7月26日までには基本方針を策定する方向で調整してきたものの、新型コロナウイルス感染対策も基本方針に盛り込む必要が生じたことなどから慎重に作業を進めており、公表時期を「未定」としている状況のようです。当初、アフターオリンピック(そして、2025年大阪・関西万博開催をふまえた)経済成長戦略の起爆剤と位置付けられてきたところ、ウィズコロナ/アフターコロナにおける成長戦略として新たに位置づけていくことになりそうです。このような政府の動きに翻弄されているのは参入を目指している自治体です。報道によれば、大阪府・大阪市は、2027年3月末まで、としていた開業時期について、「1~2年程度延期される」(大阪市長)との見通しを表明、公募の事業者提案書の提出期限は当初の4月から当面延期となり、事業者決定の時期は見通せていない状況が続きます。新型コロナの影響で、日米の渡航制限によりカジノ事業者であるMGM側との打ち合わせも満足に実施できない状況が続いているといいます(2020年7月19日付産経新聞の記事で、専門家の木曽氏は、「コロナ禍で条件変更もやむを得ない社会状況がつくられてしまった」と指摘、「唯一のパートナー候補を逃すわけにはいかない弱みがあり、府市にとっては厳しい交渉になるだろう」としていますが、早々と事業者を選定してしまったことが今となっては良いことだったのか不透明になってしまっているようです)。一方の横浜市も、市独自の実施方針公表を6月から8月にずらしたものの、横浜市長は「撤回はない」と誘致事業継続の意向をあらためて示しています。横浜市のIR誘致については、ここにきて反対派などのさまざまな動きも見られます。まず、反対派の民団体「カジノの是非を決める横浜市民の会」が、平原副市長と面会し、新型コロナウイルス感染拡大の影響を踏まえた誘致の経済効果を算出することなどを求めています。それに対し、平原副市長は「改めて事業者の意見を聞き、前回(事業者に)示してもらった収支構造が適切なのか確認する必要がある」と応じています。また、建築家らのグループが、「カジノ反対だけでは未来がない」と、予定地となる同市臨海部の再開発構想を独自に発表しています。報道によれば、海外のカジノ事業者による閉ざされた施設とせず、職住一体の観光都市づくりを提唱し、市民や企業による参画や議論を呼びかけています。さらには、予定地とは異なりますが、横浜市西部に広がる米軍施設跡地で、東京ディズニーランド(TDL)並みの規模がある大型テーマパークの構想が持ち上がっているようです。相鉄ホールディングスが民間地権者との検討に参画し、市は公共交通機関の新設や区画整理で後押しする計画で、現時点で少なくとも1,300億円規模の投資が見込まれており、大部分が公金でまかなわれる可能性があるものの、事業者の誘致の成否は不透明だということです。

なお、海外のカジノ事業者もコロナ禍に苦しめられている状況ですが、IR大手の米ウィン・リゾーツが横浜市内に開設した事業所を閉鎖しています。コロナ禍や日本政府の作業の遅れなどを受け、横浜市でのIR参入戦略を見直す可能性もあると言われています。一方、シンガポールでは、4月から営業を休止していた娯楽施設が再開し始めています(ただし、カジノの入場は会員限定のようです)。また、中国はマカオと広東省の越境規制を緩和しています。マカオを訪れる中国人の50%近くが広東省からということもあり、起爆剤としてのカジノ復興が期待されています。

また、依存症関連では、政府が今年度実施する「ギャンブル依存症」に関する全国実態調査で、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛と依存症との関係を調査すると報じられています(2020年7月7日付毎日新聞)。報道によれば、自粛期間中は、自宅滞在が増えるとともに、競馬場やボートレース場、場外発売所での馬券・舟券の発売が中止になった影響で、競馬や競艇のインターネット投票が増加、依存症患者の増加や症状の悪化が懸念されており、自粛期間の前後でどのような変化があったかなどを調べるということです。なお、2017年度に実施した全国調査では、ギャンブル依存症にかかった経験があるとみられる人は成人の3.6%に当たる約320万人、直近1年間に依存症が疑われる状態だった人は約70万人(0.8%)と推計されています。コロナ禍とギャンブル依存症の相関関係がどのようなものか、大変興味深いと言えます。なお、同様に、ネット依存に関する富山大学の調査結果が公表され、平成30年時点で4.2%の児童がネット依存症とみられるといい、コロナ禍においては在宅時間が長くなったことから、ネット依存症の児童がさらに増加している可能性が指摘されています。コロナ禍がさまざまな領域に大きな影響を与えていることを痛感させられます。

③犯罪統計資料

今年上半期(1~6月)に全国の警察が認知した刑法犯は30万7,644件(暫定値)となり、昨年同期より15.4%減少したことが分かりました。18年連続の減少ではあるものの、減少幅は今回が最も大きく、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛が影響したと考えられます。特に街頭犯罪が大幅に減少したことが特筆されますが、罪種別では、従来同様、「窃盗犯」が7割近くを占め、昨年同期比▲17.8%、また、詐欺や横領などの「知能犯」も▲9.6%、殺人や強盗などの「凶悪犯」は▲5.7%となりました。街頭犯罪について詳しくみると、車や自転車などの乗り物盗が▲22.2%、自動販売機狙い▲41.6%、ひったくり▲39.8%、車上狙い▲21.1減、(カーナビなどを持ち去る)部品狙い▲18.4%などとなっており、外出自粛との相関関係が想像できる状況だといえます。なお、参考までに、街頭犯罪の抑止に効果があるとされる防犯カメラについては、警察が設置している街頭の防犯カメラは今年3月末現在、32都道府県で計2,043台にとどまっており、民間事業者や自治体などの防犯カメラの画像が捜査の大きな武器になっている状況にあります。

▼警察庁 犯罪統計資料(令和2年1~6月)

令和2年1~6月の刑法犯の総数は、認知件数307,644件(前年同期363,654件、前年同期比▲15.4%)、検挙件数は136,531件(141,217件、▲3.3%)、検挙率は44.4%(38.8%、+5.6P)となり、令和元年における傾向が継続される状況となっています。犯罪類型別では、刑法犯全体の7割以上を占める窃盗犯の認知件数は211,409件(257,107件、▲17.8%)、検挙件数は85,369件(87,501件、▲2.4%)、検挙率は40.4%(34.0%、+6.4P)であり、「認知件数の減少」と「検挙率の上昇」という刑法犯全体の傾向を上回り、全体をけん引していることがうかがわれます(なお、令和元年における検挙率は34.0%でしたので、さらに上昇していることが分かります)。うち万引きの認知件数は43,047件(48,145件、▲10.6%)、検挙件数は31,688件(33,003件、▲4.0%)、検挙率は73.6%(68.5%、+5.1P)であり、令和元年に続き、認知件数が刑法犯・窃盗犯を上回る減少傾向を示しています。検挙率が他の類型よりは高い(つまり、万引きは「つかまる」ものだということ)一方、ここのところ検挙率の低下傾向が続いたところ、今回プラスに転じている点は心強いといえます。また、知能犯の認知件数は16,354件(18,099件、▲9.6%)、検挙件数は8,434件(8,913件、▲5.4%)、検挙率は51.6%(49.2%、+2.4P)、さらに詐欺の認知件数は14,619件(18,099件、▲9.9%)、検挙件数は7,132件(7,417件、▲3.8%)、検挙率は48.8%(45.7%、+3.1P)と、とりわけ検挙率が高まっている点が注目されます(なお、令和元年は49.4%でしたので、少しだけ低下しています)。

また、令和2年1月~6月の特別法犯の検挙件数の総数は32,176件(34,154件、▲4.2%)、検挙人員は27,736人(29,185人、▲5.0%)となっており、令和元年においては、検挙件数が前年同期比でプラスとマイナスが交互し、横ばいの状況が続きましたが、前月に続き減少する結果となりました。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は3,093件(2,868件、+7.8%)、検挙人員2,243人(2,175人、+3.1%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数1,327件(1,139件、+16.5%)、検挙人員は1,100人(933人、+17.9%)、不正アクセス禁止法違反の検挙件数は235件(182件、+29.1%)、検挙人員は56人(67人、▲16.4%)、不正競争防止法違反の検挙件数は33件(31件、+6.5%)、検挙人員は41人(35人、+17.1%)、銃刀法違反の検挙件数は2,483件(2,587件、▲4.0%)、検挙人員は2,187人(2,247人、▲2.7%)などとなっており、特に入管法違反と不正アクセス禁止法違反、不正競争防止法違反が継続的に大きく増加し続けている点が注目されます(体感的にもこれらの事案が増加していることを実感していますので、一層の注意が必要な状況です)。また、薬物関係では、麻薬等取締法違反の検挙件数は413件(448件、▲7.8%)、検挙人員は210人(213人、▲1.4%)、大麻取締法違反の検挙件数あ2,611件(2,577件、+1.3%)、検挙人員は2,222人(2,036人、+9.1%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は5,335件(5,392件、▲1.1%)、検挙人員は3,732人(3,809人、▲2.0%)などとなっており、大麻事犯の検挙が令和元年から継続して増加し続けていること、一方で、覚せい剤事犯の検挙件数・検挙人員ともに減少傾向にあります。なお、覚せい剤事犯については、前月はいったん増加に転じて注目していましたが、4月以降、再度減少しており、減少傾向が続くか注目されるところです(参考までに、令和元年における覚せい剤取締法違反については、検挙件数は11,648件(13,850件、▲15.9%)、検挙件数は8,283人(9,652人、▲14.2%)でした)。

なお、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯の国籍別検挙人員の総数は263人(230人、+14.3%)、国籍別では。中国48人(44人、+9.1%)、ベトナム37人(35人、+5.7%)、ブラジル32人(19人、+68.4%)、韓国・朝鮮18人(15人、+20.0%)、フィリピン12人(16人、▲25.0%)、インド10人(5人、+100.0%))などとなっており、令和元年から大きな傾向の変化はありません。

暴力団犯罪(刑法犯)総数については、検挙件数は5,364件(9,855件、▲45.6%)、検挙人員は3,252人(3,831人、▲15.1%)となっており、とりわけ検挙件数が引き続き激減している結果となりました。やはり、特定抗争指定や新型コロナウイルス感染拡大の影響が色濃く反映されたものと考えられます(なお、令和元年は、検挙件数は18,640件(16,681件、▲0.2%)、検挙人員は8,445人(9,825人、▲14.0%)であり、暴力団員数の減少傾向からみれば、刑法犯の検挙件数の減少幅が小さく、刑法犯に手を染めている暴力団員の割合が増える傾向にあるとも推測されるところです。今回の激減した状況が今後もどれだけ続くのか注視していきたいと思います)。さて、犯罪類型別では、暴行の検挙件数は417件(489件、▲14.7%)、検挙人員は397人(443人、▲10.4%)、傷害の検挙件数は641件(772件、▲17.0%)、検挙人員は733人(843人、▲13.0%)、脅迫の検挙件数は194件(191件、+1.6%)、検挙人員は176人(171人、+2.9%)、恐喝の検挙件数は181件(245件、▲26.1%)、検挙人員は225人(302人、▲25.5%)、窃盗の検挙件数は2,436件(5,945件、▲59.0%)、検挙人員は499人(621人、▲19.6%)、詐欺の検挙件数は708件(1,108件、▲36.1%)、検挙人員は516人(643人、▲19.6%)、賭博の検挙件数は26件(61件、▲36.1%)、検挙人員は94人(66人、+42.4%)などとなっており、暴行や傷害、脅迫、恐喝事犯の減少が続く一方、これまで増加傾向にあった窃盗と詐欺が一転して大きく減少した点(さらに、暴行等の減少幅をも大きく上回る減少幅となっており、特定抗争指定や新型コロナウイルス感染拡大の影響がまさにこの部分に表れているものとも考えられます)は注目されます。また、暴力団犯罪(特別法犯)の総数については、検挙件数は3,442件(3,915件、▲12.1%)、検挙人員は2,536人(2,782人、▲8.8%))となっており、こちらも大きく減少傾向を継続している点が特徴的だといえます。うち暴力団排除条例違反の検挙件数は28件(8件、+250.0%)、検挙人員は78人(15人、+420.0%)、銃刀法違反の検挙件数は65件(77件、▲15.6%)、検挙人員は51人(51人、±0.0%)、麻薬等取締法違反の検挙件数は76件(106件、▲28.3%)、検挙人員は23人(36人、▲36.1%)、大麻取締法違反の検挙件数は489件(578件、▲15.4%)、検挙人員は340人(386人、▲11.9%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は2,282件(2,506件、▲8.9%)、検挙人員は1,583人(1,707人、▲7.3%)などとなっており、令和元年の傾向とやや異なり、大麻取締法違反の検挙件数・検挙人員が大きく減少に転じている点が注目されます。さらに、覚せい剤取締法違反についても令和元年の傾向を大きく上回る減少となっている点も注目されます。いずれも、新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛の影響で対面での販売が減っている可能性を示唆していますが、(覚せい剤等は常習性が高いことから需要が極端に減少することは考えにくいこと、さらに対面型からデリバリー型に移行しているとの話もあり、正確な理由は定かではありません(なお、令和元年においては、大麻取締法違反の検挙件数は1,129件(1,151件、▲1.9%)、検挙人員は762人(744人、+2.4%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は5,274件(6,662件、▲20.8%)、検挙人員は3,593人(4,569人、▲21.4%)でした)。

④令和2年警察白書(概要)

令和2年版の警察白書の概要が公表されていますので、簡単に内容を紹介します。なお、この概要版では主に特集・トピックスの紹介がなされており、本編については現時点では未公開となっています。今後、本編が公表され次第、本コラムでもあらためて紹介したいと思います。

▼警察庁 令和2年警察白書
▼令和2年警察白書 概要

今回の警察白書においては、冒頭で「高齢化の進展と警察活動」と題する特集が組まれています。高齢者の犯罪被害の現状として、「刑法犯認知件数のうち、高齢者注が被害者となった件数(高齢者の被害件数)は、刑法犯認知件数全体の減少とともに減少し、令和元年(2019年)中は約9万2,000件となった。一方、刑法犯認知件数に占める高齢者の被害件数の割合(高齢者の被害割合)については、平成21年(2009年)以降一貫して増加しており、令和元年中は、12.3%となっている」、「令和元年中の特殊詐欺の認知件数と被害額はいずれも前年より減少したものの、高齢者を中心に多額の被害が生じており、依然として高い水準にある。特殊詐欺の被害者は、高齢者が約8割を占め、今後ますます高齢者人口の割合が増えていく中、特殊詐欺等の被害防止は、喫緊の課題である」と指摘されています。また、高齢者を狙った悪質商法の現状については、「令和元年中に警察に寄せられた利殖勧誘事犯(出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律、金融商品取引法、無限連鎖講の防止に関する法律等の違反に係る事犯)に係る相談のうち、高齢者からの相談件数は367件と、全体の約4分の1を占めている。また、令和元年中に警察に寄せられた特定商取引等事犯(訪問販売、電話勧誘販売等で事実と異なることを告げるなどして商品の販売や役務の提供を行う悪質商法。具体的には、訪問販売等の特定商取引を規制する特定商取引に関する法律違反及び特定商取引に関連する詐欺、恐喝等に係る事犯)に係る相談のうち、高齢者からの相談件数は3,149件と、全体の約半数を占めている」と指摘しており、その対策として、「利殖勧誘事犯では、被害者が被害に遭ってから気付くまでに時間を要する場合が多いことから、早期の事件化を図るとともに、犯罪に利用された預貯金口座の金融機関への情報提供等を推進している。また、特定商取引等事犯では、被害者自身で解決しようとして警察への届出までに時間を要する場合もみられることから、ウェブサイト等を通じて早期の相談を呼び掛けている」と紹介されています。その他にも、「窃盗犯について高齢者の被害割合は増加傾向にあり、令和元年中のひったくりの時間帯別被害割合をみると、65歳未満では、日没後となる20時から4時までの被害割合が66.3%を占めているが、高齢者では、12時から20時までの被害割合が61.2%を占めている」、「厚生労働省の調査によると、平成30年度に市町村及び都道府県で受け付けた高齢者虐待に関する相談・通報件数は、高齢者の世話をしている家族、親族、同居人等(養護者)によるものが3万2,231件(うち虐待と判断された件数は1万7,249件)となっており、そのうち、虐待の種別(複数回答)は、身体的虐待が67.8%で最も多い」、「令和元年中の高齢者の交通事故による死者数は1,782人と、死者数全体の55.4%を占める。これを状態別にみると、歩行中が46.0%、自動車乗車中が31.0%、自転車乗用中が16.8%を占めている。また、歩行中死者数については、高齢者が全体の約7割を占めており、高齢者はおおむね年齢層が高いほど人口10万人当たり歩行中死者数が多い傾向にある」、「令和元年中の認知症に係る行方不明者届の受理件数は1万7,479件であり、統計をとり始めた平成24年以降、増加を続けている」といった指摘もあります。

また、高齢者による犯罪として、「近年、刑法犯の検挙人員が減少している中、高齢者人口及び総人口に占める高齢者人口の割合の増加もあり、高齢者の刑法犯検挙人員は、平成10年代に大幅に増加し、その後も高い水準を維持している。また、検挙人員総数に占める高齢者の割合は、平成元年(1989年)から令和元年(2019年)にかけて2.1%から22.0%に上昇した。高齢者による犯罪の主なものは、万引き、占有離脱物横領、暴行及び傷害で、これらの犯罪の検挙人員で高齢者の刑法犯検挙人員の約7割を占める」、「刑法犯及び特別法犯の全逮捕人員に占める高齢者の割合は増加傾向にある」と指摘、「日常生活に支援を要する高齢被留置者にも適切な処遇を行うための備えが必要となる。警察では、このような被留置者に対し、かゆ食等を提供したり、浴槽の形状に配慮したりするなどの措置を講じている。また、一部の府県警察において、留置担当官等に対し、介護の専門家による介助研修を実施し、必要な知識・技能を習得させるための取組を行っている例もある」などといった取組みが紹介されています。また、「令和元年中の刑法犯検挙件数全体に占める高齢者による刑法犯の検挙件数の割合は17.0%で、そのうち万引きの割合は48.7%と約半数を占めている。高齢者による万引きに関しては、背景として、血縁、地縁、その他のコミュニティとの関係が希薄になっていることなどがうかがわれることを踏まえ、警察では、高齢者の社会との絆の強化を目的とした取組を推進している」といった取組みも紹介されています。

また、トピックスとしては、「新型コロナウイルス感染症に対する警察の取組」、「科学捜査を支える取組」、「準暴力団の動向と警察の取組」、「いわゆる「あおり運転」(妨害運転)に対する警察の取組」、「皇宮警察本部の活動」が取り上げられています。このうち、新型コロナウイルス関連では、「警察では、令和2年3月に「新型コロナウイルス感染症対策本部」において決定された、「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」等に基づき、関係機関との連携を図るなどして、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う混乱等に乗じた犯罪に関する情報の入手に努めるとともに、取締りを徹底している。また、こうした犯罪を防止するため、地域の犯罪の発生状況等に応じて各種広報媒体や巡回車両によるスピーカー広報等を通じて防犯情報の提供や注意喚起に努めるとともに、各種犯罪の発生状況を踏まえたパトロール等の警戒活動を強化している」ことや「都道府県知事による住民に対する外出の自粛要請に伴い、繁華街でのトラブル等の発生を防止するため、地域警察官によるパトロールを強化するなどの所要の措置を講じている」ことなどが紹介されています。また、準暴力団への対応としては、「近年、暴走族の元構成員等を中心とする集団に属する者が、繁華街・歓楽街等において、集団的又は常習的に暴行、傷害等の暴力的不法行為等を敢行している例がみられるほか、特殊詐欺や組織窃盗等の違法な資金獲得活動を活発化させている。こうした集団の中には、暴力団のような明確な組織構造は有しないが、犯罪組織との密接な関係がうかがわれるものも存在しており、警察では、こうした集団を暴力団に準ずる集団として「準暴力団」と位置付けている」、「警察では、繁華街・歓楽街等における準暴力団による暴行、傷害等の犯罪の続発や準暴力団のメンバーと暴力団の密接な関係に着目し、これまでも、準暴力団に係る実態解明及び取締りの強化を図ってきたところである。準暴力団が、暴力的不法行為以外に、特殊詐欺やみかじめ料の徴収等の違法な資金獲得活動を行っている実態がみられるほか、暴力団との関係を深め、犯罪行為の態様を悪質化・巧妙化している状況がうかがえることなどを踏まえ、部門・所属の垣根を越えた実態解明の徹底に加え、あらゆる法令を駆使した取締りの強化に努めている」といった記述がなされています。準暴力団の動向や取締りの状況等については、本コラムでもたびたび紹介していますが、その実態の把握・解明とともに、暴力団対策同様、犯罪行為の態様の悪質化・巧妙化への対応は急務であり、「あらゆる法令を駆使して」取締りを強化する必要性が増しているといえます。

(7)北朝鮮リスクを巡る動向

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は、朝鮮戦争の休戦協定締結から67年を迎えたのに合わせて演説し、「我々の頼もしく効果的な自衛的核抑止力によって、わが国家の安全と未来は永遠に保証される」と述べました。米国に対抗する核兵器の存在をアピールするとともに、自国の体制が保証されない限り非核化には応じない考えを改めて強調したもので、さらに「あらゆる圧迫と挑戦に打ち勝ち、我々は核保有国へと自己発展の道を歩んできた」とも述べ、核・ミサイル開発を正当化しました。実は、演説の半月ほど前、米CNNテレビは、北朝鮮の首都平壌に近い施設で、核弾頭の製造を活発に続けている可能性があると報じています。米ミドルベリー国際大学院の研究者が最新の衛星写真を分析した結果で、報道によれば、この施設の存在は2015年に同大学院の研究者らが確認していたが、これまで核計画に関連する施設かどうか判断できず公表していなかったといいます。ただ最新の分析では、施設の保安状況や地下施設の存在などから核施設の特徴があると指摘、トラックや輸送コンテナが出入りするなど施設は活発に稼働しており、核弾頭を製造していることを示唆しているとの分析結果を伝えています。これらをふまえれば、2018年6月に米朝会談で非核化への「断固として揺るがない決意」を表明しておきながら、結局、この2年余り、非核化への進展はなかったということがはっきりしたといえます。この点については、2020年8月4日付産経新聞の主張が参考になります。曰く、「北朝鮮はより多くの核弾頭を保有し、多様な弾道ミサイルを発射した。正恩氏の発言を看過してはならない。米朝間の「交渉優先」機運を背景にこの間、北朝鮮への政治、経済、軍事的圧力は緩んだ。非核化交渉の再開に向けては、「最大限の圧力」レベルに態勢を立て直すことが第一である。国連安全保障理事会の決議違反である短距離弾道ミサイル発射を米国が容認したのは大きな間違いだった。違法行為に寛大なメッセージを与えてしまった。米韓合同軍事演習の延期や縮小も無用の配慮だった。北朝鮮に外交的善意など通用しない。…17年12月までの安保理決議に盛り込まれた制裁は、十分に強力な内容である。問題なのは履行状況であり、掛け声だけで改善されないのはもはや明らかだ。安保理の北朝鮮制裁委員会からの中国、ロシアの排除など、監視態勢全般を見直す議論が必要である。…今は「最大限の圧力」の再構築に全力を挙げるときだ」といった主張ですが、日本が直視すべき現実は、北朝鮮が核を保有し、日本に照準を合わせた核ミサイルを配備していることであり、金正恩委員長の判断一つで、北朝鮮の核が日本にとって単なる脅威ではなく、実際に使用されうる段階に来ているということです(関連して、北朝鮮が7月5日に新型の対艦巡航ミサイルを日本海へ発射し韓国軍もそれを探知していたにもかかわらず、「通常の夏季海上訓練の一環」として公表を見送ったということも発覚しています。北朝鮮が相次いで巡行ミサイルを発射し精密攻撃能力の向上を図っていること、性能が向上すれば日米韓の脅威となることは間違いないこと、などを考慮すれば、当然公表して共有すべきことであり、このような連携の足並みの乱れを北朝鮮はさらに利用することも予想されるところです)。なお、北朝鮮の核開発については、国連専門家パネルも、核の小型化実現の可能性を指摘しています。9月公表予定の中間報告書によれば、専門家パネルは、北朝鮮が「核開発施設を維持し、核関連物質の製造も続けている」などと指摘、その上で、過去6回の核実験で得た技術から、「弾道ミサイルに搭載できる小型化した核兵器の開発を実現した可能性がある」とする複数の加盟国の分析を紹介しています。なお、本件については、日本政府も2019年、2020年版の防衛白書(後述します)で、「小型化・弾頭化を既に実現しているとみられる」などと明記しており、その脅威がすでに身近なところまできていることが分かります。

この専門家パネルの中間報告では、核開発以外では、北朝鮮の国連安保理制裁逃れの実態についても言及されています。今年3月以降、海上で物資を移し替える「瀬取り」の手口で、安保理制裁決議で輸出を禁じている石炭の密輸出を再開させ、違法な資金を得ているとも警告しています(なお、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で今年1月下旬から3月上旬は中断されたものの、その後「瀬取り」を再開、5月7日までに33回の密輸が確認され、大半は中国の港に運ばれたこと、石油精製品の密輸入についても、今年1月~5月だけで56回「瀬取り」を行い、推定で計160万バレル超の密輸入が確認されたことも指摘しています)。さらには、昨年12月が本国送還期限だった北朝鮮人労働者についても、中国やシリアでは新たな契約も確認されるなど、国外の飲食店や建設現場などで今も活動を続け、外貨収入を得ていると指摘しています(なお、出稼ぎ労働者については、新型コロナウイルスを理由に本国に送還されていないとも指摘しています。安保理決議では、北朝鮮労働者の送還状況に関する加盟国の報告期限を今年3月末としていたものの、報告書を期日通りに提出したのは約40カ国で、全体の2割にも満たなかったことも判明しました)。また、2020年8月4日付日本経済新聞によれば、この中間報告書では、北朝鮮によるサイバー攻撃についても言及されており、北朝鮮の最高指導部の指示で対外工作活動を担う偵察総局が主導していること、2020年には安保理の6理事国について少なくとも11人の外交官らが標的になったこと、特定の組織や人物を狙い、偽の電子メールを送る「スピア・フィッシング」と呼ばれる手法を使っていること、米グーグルが提供する通信サービス「Gメール」のアカウントや、米フェイスブックの対話アプリ「ワッツアップ」も攻撃対象になったこと、制裁下での資金調達では、金融機関にサイバー攻撃を仕掛けて暗号資産(仮想通貨)を不正に取得する試みが相次いでいるものの、北朝鮮が暗号資産を一般の通貨に変換する手段は明らかになっていないことなどが盛り込まれているといいます。なお、関連して、イスラエル軍は、北朝鮮が関与するハッカー集団「ラザルス」からのサイバー攻撃を阻止したと発表しています。報道によれば、ラザルスはビジネス向けSNS「リンクトイン」で、国際的な企業のCEOや人事部門の幹部を装い、イスラエルの大手防衛産業の従業員に転職を誘うメッセージを個別に送り、その際、企業のネットワークに侵入して機密情報を収集しようとしたということです(情報漏えいなどの被害は確認されていないようです)。なお、国連安保理による北朝鮮制裁に関連して、国連の専門家から成る独立調査委員会は、ベネズエラと北朝鮮間に存在し得る軍事とテクノロジーに関する協定について、国連安全保障理事会の対北朝鮮制裁決議に違反している可能性があるとベネズエラに指摘しています。米国は、2018年のベネズエラ大統領選が不正に行われた疑惑からマドゥロ大統領を退陣させる目的で同国に制裁を科しており、ベネズエラは外交面でも孤立しており、こうしたことがイランや北朝鮮など米国の敵国とベネズエラの関係強化を促していると見られています。

さて、北朝鮮国内への新型コロナウイルスの流入を完全に阻止していると主張してきた北朝鮮ですが、ついに、韓国から3年ぶりに北朝鮮・開城市へ不法に戻った男性が、新型コロナウイルスに感染していた疑いがあることがわかったとして、開城市を7月24日午後から完全封鎖するなど対策を取りました(その後、8月14日に解除されています)。報道によれば、金正恩委員長は、「去る6か月間、全国的に強力な防疫対策を講じて全てのルートを閉鎖したにもかかわらず、国内に悪性ウイルスが流入したと見られる危険な事態が発生した」と指摘し、当該地域に「非常事態」を宣布しています。なお、それでも北朝鮮の労働新聞は、新型コロナウイルスの国内感染者が「いまだに1人も発生していない」と報じています。「開城市に致命的な災難をもたらす危険が造成された」としながら、党が「人民の安寧のために重大な政治的決断を下した」として、防疫措置は適切と報じています。また、防疫で最も重要なのは「国境と領空、領海を完全封鎖することだ」と強調、封鎖を継続し、輸入物資への検査や消毒を徹底するように求めています(なお、この新型コロナウイルスの感染が疑われている脱北者の男性(24)が韓国北西部の軍事境界線を泳いで越え、北朝鮮に入った問題で、韓国軍は、監視カメラなどに映った男性の姿を計7回見逃していたと明らかにしています。報道によれば、男性の動きは軍の監視カメラや熱画像監視装置に映っていたものの、監視兵は映像の質が悪く気づかなかったり、北朝鮮本土の状況に集中して見ていなかったりしたといい、軍は、警戒部隊を指揮する海兵隊の師団長を解任するなどの処分を行ったということです。巡行ミサイル発射の事実を公表しないことなどとあわせ、韓国軍の独断なのか、規律の緩みなのかは不明ながら、懸念が残ります)。いずれにせよ、新型コロナウイルス流入を防ぐ国境封鎖を続ける北朝鮮が、経済難の長期化に対応するため食料生産の強化や化学工業の開発に力を入れているとの報道もありました(2020年7月26日付朝日新聞)。農作物などの増産や生活必需品の国産化を進めつつ、中国やロシアの支援を受けて苦境を乗り切る考えのようだと指摘しています。金正恩委員長は昨年末、米朝関係が改善しないまま国際的な経済制裁が長期化することを念頭に「自力更生」を訴えています。養鶏工場の近代化を急ぐのは、制裁に加え、1月から続ける国境封鎖という「二重苦」を前に、食料確保を進める姿勢を国内に示したものとも考えられます(なお、直近では、豪雨の影響で、住宅約16,680世帯、公共施設約630棟が破壊、浸水するなど深刻な被害が出ていることが13日に開催された朝鮮労働党政治局会議で報告されたと北朝鮮の朝鮮中央通信が報じています。なお、金正恩委員長は「ほかの誰でもない我が党が全面的に責任を取らなければならず、人民の苦痛を共にし、和らげるために寄り添っていかなければならない」と述べたとされます。現状は「三重苦」の状態だともいえそうです)。なお、この経済的状況については、韓国の大韓貿易投資振興公社(KOTRA)が、北朝鮮の2019年の貿易額が前年比14.1%増の約32億4,500万ドル(約3,470億円)だったとする統計結果を発表しています。報道によれば、前年を上回るのは2016年以来3年ぶりで、2017年に厳格化された国連安保理の経済制裁で北朝鮮経済は大きく落ち込んだものの、制裁に抵触しない軽工業品の輸出で外貨稼ぎを図っていると見られています。とはいえ、貿易額は2016年の半分の水準にまで落ち込んでいることに加え、新型コロナウイルスの影響で今年5月までの中朝貿易は減少しており、再び落ち込むことが予想されます。なお、直近の経済的苦境については、2020年7月21日付日本経済新聞に詳しく、「頼みの綱が貿易総額の9割強を占める中国。中国税関総署によると、1~5月に北朝鮮の中国からの輸入額は2億9500万ドル(約320億円)で前年同期比68%減少。中国への輸出額は1800万ドルで同81%も減った」、「北朝鮮は6月、韓国との南北共同連絡事務所を爆破するなどの強行姿勢を続けている。このため制裁緩和の見通しは立っておらず、制裁を逃れる密輸に躍起だ。貿易商社によると、制裁対象の衣料品では生地や糸を中国から輸送し、平壌で縫製して送り返す加工貿易もこのほど再開した。海上にそれぞれの船を並べて禁輸品を移し替える「瀬取り」も行われている」といった指摘がなされています。このような状況に対し、韓国統一省は、世界食糧計画(WFP)を通じ、北朝鮮に1,000万ドル(約10億円)の人道支援を実施すると発表、乳幼児や妊婦に栄養食品を提供する事業にあてられるといいます。韓国は2019年にもWFPや国連児童基金(ユニセフ)の事業に800万ドルを拠出、韓国政府はWFPの要請を受け、支援を検討していたが、北朝鮮が6月に南北共同連絡事務所を爆破したため、決定を先送りしていたものです。なお、2019年に韓国が5万トンのコメの支援を決定した際は、北朝鮮が受け入れを拒んだ事実もあります。なお、別の報道では、韓国の文在寅政権が北朝鮮の酒と韓国のコメを交換するといった「物々交換」方式による南北交易の開始を模索しているというものもありました。金銭取引を伴わない現物の交易で対北制裁を回避し、悪化した南北関係修復の呼び水にしたい考えのようですが、国際社会による制裁の足並みを乱しかねない上、制裁違反の疑いも指摘されているほか、前述したとおり、肝心の北朝鮮が歓迎する見込みも薄いとみられています。

ただ、こういう状況をふまえ、北朝鮮の行動をより冷静に分析し、その危険な行為に安易に譲歩すべきではないと考えます。最後に、前回の本コラム(暴排トピックス2020年7月号)で指摘したことをあらためて強調しておきたいと思います。

北朝鮮が苦境を脱するには、巧みに展開される瀬戸際外交に幾度となく謀られ、脅しに屈してきた過ちを繰り返すのではなく、彼ら自身が平和的方策を取るしかないと考えるべき、分からせるべきです。国際社会の脅威となっている核・弾道ミサイルを放棄し、拉致問題解決など過去の犯罪行為を清算することで、国際社会から受け入れられることこそ今後とるべきプロセスであり、そこに妥協は許されないと国際社会が今一度確認する必要があると思われます(関連して、茂木外相が、「米国も中国も韓国も同じ立場と思っているが、一部で制裁を緩和しないと(北朝鮮が非核化に向けて)動かないとの議論もある」と指摘、「もう一回国際社会をまとめいく努力が必要だ」と語ったのは正しいと考えます)。

さて、北朝鮮の脅威が現実的なものとなっていることをふまえ、直近で、2020年版の防衛白書が公表されています。白書では、新型コロナウイルスの感染が拡大する中での中国の動きを取り上げ、引き続き海洋進出を活発させているほか、偽情報の流布を含む宣伝工作を行っているとの指摘があると警戒感を示したほか、新型コロナ禍の中でも中国が日本の周りの海空域で活動を拡大させていると指摘し、「国際的な協調・連携が必要な中、東シナ海においては、力を背景とした一方的な現状変更の試みを継続」しているとし、尖閣諸島(中国名:釣魚島)周辺の領海に中国公船が繰り返し侵入していることを取り上げています。以下、ダイジェスト版から中国や北朝鮮の動きを中心に、重要なポイントをかいつまんで紹介します。

▼防衛省 令和2年版防衛白書
  • 北朝鮮は、極めて速いスピードで弾道ミサイル開発を継続的に進めてきており、19(令和元)年5月以降には、30発を超える新型と推定される短距離弾道ミサイルや潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)などを発射しました。これらの新型と推定される短距離弾道ミサイルは、固体燃料を使用して通常の弾道ミサイルよりも低空で飛翔するといった特徴があり、発射の兆候把握や早期探知を困難にさせることなどを通じて、ミサイル防衛網を突破することを企図していると考えられます。このような高度化された技術がより射程の長いミサイルに応用されることも懸念されます。北朝鮮は攻撃態様の複雑化・多様化を執拗に追求し、攻撃能力の強化・向上を着実に図っており、このような能力の強化・向上は、発射兆候の早期の把握や迎撃をより困難にするなど、わが国を含む関係国の情報収集・警戒、迎撃態勢への新たな課題となっています。防衛省・自衛隊は、関係省庁や米国などと緊密に連携しながら、必要な情報の収集・分析及び警戒監視に全力を挙げ、わが国の平和と安全の確保に万全を期しています
  • 中東地域においては、緊張が高まる中、船舶を対象とした攻撃事案が生起し、19(令和元)年6月には日本関係船舶の被害も発生しました。このような状況のもと、中東地域における平和と安定及び日本関係船舶の安全の確保のためのわが国独自の取組の一環として、情報収集を目的とした海上自衛隊の艦艇を派遣するとともに、既存の海賊対処部隊を活用することとなりました
  • 令和2年、日米同盟は60周年を迎えました。「日米安保条約はいつの時代にも増して不滅の柱。アジアとインド・太平洋、世界の平和を守り、繁栄を保証する不動の柱だ」安倍総理は1月19日、外務省飯倉公館で開かれた現行の「日米安全保障条約」の署名60周年を記念する式典に出席し、あいさつを述べました。安倍総理は「宇宙、サイバースペースの安全、平和を守る柱として同盟を充実させる責任がある」として、今後も同盟を強化していく決意を表明。「60年、100年先まで自由と民主主義、人権、法の支配を守り、強くしていこう」と呼びかけました
  • 新たな領域
    • 現代において宇宙空間は、各種の観測衛星、通信・放送衛星、測位衛星などが打ち上げられ、社会、経済、科学分野など官民双方の重要インフラとして深く浸透しています。安全保障分野においても、主要国は、平和及び安全を維持するための宇宙利用を積極的に進めています。宇宙空間を利用するにあたっては、その安定的な利用を確保する必要があります。しかしながら、スペースデブリ(宇宙ゴミ)が急激に増加しており、スペースデブリと人工衛星が衝突して衛星の機能が著しく損なわれる危険性が増大しています。また、わが国周辺国において、人工衛星に接近して妨害・攻撃・捕獲するキラー衛星の開発・実証試験が進められていると指摘されており、宇宙空間の安定的利用に対する脅威が増大しています
    • 近年の情報通信技術の発展により、インターネットなどの情報通信ネットワークは人々の生活のあらゆる側面において必要不可欠なものになっており、そのため情報通信ネットワークに対するサイバー攻撃は、人々の生活に深刻な影響をもたらしうるものです。このような状況のもと、諸外国の政府機関や軍隊のみならず民間企業や学術機関などの情報通信ネットワークに対するサイバー攻撃が多発しており、重要技術、機密情報、個人情報などが標的となる事例も確認されています。防衛省・自衛隊においてもサイバー領域を活用した情報通信ネットワークは、様々な領域における活動の基盤であり、これに対する攻撃は、自衛隊の組織的な活動に重大な障害を生じさせます
    • 電磁波は、日常生活において、テレビ、携帯電話による通信、GPSによる位置情報などさまざまな用途で利用されています。安全保障分野においても、従来から指揮通信や警戒監視などに使用されてきました。近年の技術の発展により、その活用範囲や用途が拡大し、現在の戦闘様相における攻防の最前線と認識されています。これら電磁波領域において優勢を確保することは、領域横断作戦の実現のために不可欠となっています
  • 領域横断作戦
    • 現代の戦闘様相は、陸・海・空という従来の領域のみならず、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域を組み合わせたものとなっています。このような状況において、脅威に対する実効的な抑止及び対処を可能とするためには、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域において攻撃を阻止・排除することが不可欠であり、このような新たな領域における能力と陸・海・空という従来の領域における能力を有機的に融合した「領域横断作戦」により領域横断的な戦力発揮を行うことが死活的に重要となっています
  • 北朝鮮
    • 北朝鮮は、これまで6回の核実験を実施し、核兵器の小型化・弾頭化を既に実現しているとみられるほか、近年、前例のない頻度で弾道ミサイルの発射を繰り返すなど、大量破壊兵器や弾道ミサイル開発の推進及び運用能力の向上を図ってきた。こうした北朝鮮の軍事動向は、わが国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威
    • 18(平成30)年6月の米朝首脳会談で金正恩委員長は朝鮮半島の完全な非核化の意思を表明したが、19(平成31)年2月の米朝首脳会談は、米朝双方がいかなる合意にも達することなく終了
    • 19(令和元)年12月の朝鮮労働党中央委員会総会において、金正恩委員長は米国の対北朝鮮敵視が撤回されるまで、戦略兵器開発を続ける旨表明
    • 17(平成29)年9月の6回目となる核実験は、水爆実験であった可能性も否定できず過去6回の核実験を通じた技術的成熟などを踏まえれば、既に核兵器を弾道ミサイルに搭載するための小型化・弾頭化の実現に至っているとみられる
    • 16(平成28)年来、70発を超える弾道ミサイルなどの発射を強行。その特徴は、(1)長射程化、(2)飽和攻撃のための必要な正確性、連続射撃能力及び運用能力の向上、(3)奇襲的な攻撃能力の向上、(4)低高度を変則的な軌道で飛翔、(5)発射形態の多様化
    • 特に、近年、ミサイル関連技術の高度化を図ってきており、19(令和元)年5月以降の3種類の新型短距離弾道ミサイルは固体燃料を使用して通常の弾道ミサイルよりも低空で飛翔をするといった特徴を有しており、ミサイル防衛網の突破を企図。高度化された技術がより射程の長いミサイルに応用される懸念
    • 北朝鮮は、攻撃態様の複雑化・多様化を執拗に追求し、攻撃能力の強化・向上を着実に図っており、発射兆候の早期の把握や迎撃をより困難にするなど、わが国を含む関係国の情報収集・警戒、迎撃態勢への新たな課題に
    • 「瀬取り」などによる国連安保理の制裁逃れを図っているとみられ、19(平成31・令和元)年には、国連安保理決議が定める上限を大きく上回る量の石油製品を不正に輸入したなどとの指摘

3.暴排条例等の状況

(1)暴排条例の改正(兵庫県)

本コラムでもたびたび指摘してきた六代目山口組によるハロウィン行事による児童や近隣住民への菓子配りの問題(住民懐柔策であること、未成年者が暴力団員と親交を持つことでリクルートされたり、事件等に巻き込まれるケースが想定されることなど)について、兵庫県は兵庫県暴排条例を改正し、未成年者への金品の提供を禁じる規定などを新たに追加し、7月31日までパブリックコメントを募集していました。追加が予定されている新たな規定としては、そのほかにも「事務所に入れる」、「支配下に置くために電話や面会をする」ことを禁じること、違反した場合は兵庫県公安委員会が中止命令を出し、繰り返される場合は6カ月以下の懲役か50万円以下の罰金を科すことができること、組織的な行為の場合は代表者の責任も問える、といった内容となっています。報道によれば、暴力団側が18歳未満の子供を組事務所へ立ち入らせる行為にはすでに13都府県が暴排条例で罰則を設けているところ、金品などの提供を罰則付きで禁じる条例は、可決されれば全国初だということです。

▼兵庫県警 暴力団排除条例の一部を改正する条例案の概要

パブコメではまずその背景と目的について、「県内では、暴力団員が様々な通信手段を用いて青少年に接触を図り、複数の青少年を暴力団事務所に出入りさせたり、金品を供与したりするなどして自己の支配下に置き、これらの青少年と集団で殺人事件を敢行するという凶悪な事件が発生しているほか、暴力団員が青少年を風俗営業店で働かせたり、児童買春や薬物犯罪に関与させたりするなどの福祉犯罪が発生」していること、「近年ハロウィン行事と称し、暴力団が住民懐柔策として、近隣の児童生徒等を暴力団事務所に招き入れて菓子類を配布している状況が認められます。青少年が暴力団事務所に立ち入ったり、暴力団員から利益の供与を受けることは、「暴力団はやさしくてかっこいい、将来加入したい」といった暴力団に対する憧れを抱かせるとともに、暴力団による犯罪に利用される要因となっており、また、青少年が暴力団員と接触することは、暴力団同士のトラブルに巻き込まれる被害にあうおそれがあるなど、暴力団は青少年に不当な影響を与える存在であり、青少年の健全な育成を阻害している現状」にあると指摘しています。そのうえで、「このような情勢に鑑み、青少年に対する暴力団の不当な影響を排除し、青少年のより一層健全な育成を推進することを目的とした、暴力団排除条例の一部改正を検討しています」としています。

改正の概要としては、以下が掲げられています。

  1. 青少年の暴力団排除意識を醸成するための取組
    • 青少年の育成に携わる者(保護者、教育機関等)は、青少年が暴力団の排除の重要性を理解して、暴力団に加入したり、暴力団員による犯罪の被害を受けたりすること等がないように指導、助言その他の必要な措置を講じるように努めることとします。
    • 県は、関係機関等と連携して、上記の措置を講じようとする者に対して、講師の派遣や情報の提供その他の必要な支援を行うこととします
  2. 暴力団員による青少年への禁止行為
    • 暴力団員による青少年の健全な育成を阻害する要因となる次の行為を禁止します。
    • 正当な理由がある場合を除き、青少年を暴力団事務所等に立ち入らせる行為
    • 暴力団の活動として、青少年に金品その他財産上の利益(金銭・財物以外も含めた財産上の利益をいう)を供与する行為
    • 暴力団(員)の支配下に置く目的で、青少年に面会の要求、電話、電子メール、つきまとい等をする行為
  3. 青少年への禁止行為に対する措置
    • 【暴力団員に対する行政命令の発出】
      • 禁止行為に違反した暴力団員に対しては、公安委員会が中止命令を発出し、当該暴力団員が更に反復して当該行為を行うおそれがある場合には、再発防止命令を発出します。
    • 【暴力団の代表者等に対する行政命令の発出】
      • 暴力団の代表者等の指示、命令、容認又は助長の下に行われると認められる配下暴力団員による禁止行為が更に反復して行われるおそれがある場合には、代表者等に対して、配下暴力団員が当該行為をすることを防止するために必要な事項を命じる再発防止命令を発出します。
    • 【罰則】
      • 命令違反をした暴力団員又は代表者等には、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金を科します。
      • 警察官の措置警察官は、青少年に対して、暴力団事務所等に立ち入り、暴力団員から利益の供与を受け、又は暴力団員と交際しないよう必要な指導等を行うこととします。
(2)暴排条例の改正(愛媛県)

愛媛県では、「愛媛県暴力団排除条例」の一部改正に向けて、8月13日までパブリックコメントを募集していました。愛媛県のサイトによれば、「愛媛県暴力団排除条例は、暴力団の排除に関し、基本理念を定めて県及び県民等の責務を明らかにするとともに、暴力団の排除に関する基本的施策、青少年の健全な育成を図るための措置、暴力団員等に対する利益の供与の禁止、祭礼からの暴力団の排除等を定めることにより、社会から暴力団排除を推進して、県民の安全で平穏な生活を確保し、社会経済活動の健全な発展に寄与することを目的として、平成22年に制定されたもの」であり、「本条例制定後、暴力団取締りや暴力団対策法、暴力団排除条例の効果もあり、約10年間で県内の暴力団勢力数は減少傾向にありますが、いまだ、その壊滅には至って」いないこと、「現在、指定暴力団六代目山口組と神戸山口組が対立抗争の状態にあり、県民の安全で平穏な生活を確保するためには、規制を強化し、さらなる暴力団排除を推進する必要」があると指摘しています。そのうえで、新たに、(1)公の施設の利用における暴力団排除の新設、(2)暴力団事務所の開設及び運営禁止区域の拡大、(3)暴力団員による青少年への禁止事項の新設、(4)特定事業者(旅館・ホテル・ゴルフ場)の施設利用契約禁止の新設、(5)他人の名義利用禁止等の新設、(6)罰則の新設を行うこととしています。

▼愛媛県 「愛媛県暴力団排除条例の一部改正案」に対する意見の募集について
▼愛媛県暴力団排除条例の一部改正について(概要版)

本改正内容は多岐にわたっており、なかなか興味深いものとなっています。たとえば、(1)公の施設の利用における暴力団排除の新設では、「県は、県が設置した公の施設の利用許可申請があった場合、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資すると認めたときは、その利用の許可をしないことや既に与えている許可を取り消す等の措置を講ずることができるようにします」というもので、他の暴排条例にはあまり見かけない具体的な内容となっています。また、(2)暴力団事務所の開設及び運営禁止区域の拡大については、「暴力団事務所の開設及び運営禁止区域を、都市計画法で規定する住居系用途地域及び商業系用途地域にまで拡大します。住居系用途地域は、将来にわたって住居用途として計画的に整備され、今後も多数の青少年の居住が想定される地域であり、商業系用途地域は、駅や商業施設等、青少年が利用する施設が多数存在する地域です。このような地域に暴力団事務所を開設又は運営させることは青少年の健全な育成に著しく悪影響を及ぼします」としており、これまで対象施設を列記するという「点」で規制する暴排条例が多かった(愛媛県も同様)ところ、住居系用途地域と商業系用途地域まで「一気に」「広域な面」での規制区域拡大を図り、全国でも有数の厳格さとなる点が注目されます。また、(3)暴力団員による青少年への禁止事項の新設については、前項の兵庫県暴排条例の改正における「金品その他財産上の利益の供与」とまではいかないものの、「暴力団員が是非分別能力の未熟な青少年を犯罪行為に誘ったり、露店や風俗店で働かせるなど、その支配下に置く目的で、青少年に対して、面会要求、電話、ファックス、メール、つきまとい、待ち伏せ、進路の立ちふさがり、住居や勤務先等の通常所在する場所付近での見張り、押しかけ、LINE等のSNSの送信、ブログ等へのコメントの行為を行うことを禁止します」といった具体的な例示がなされており、最近の状況、手口等をきちんとふまえたものとして評価できると思います。さらに、(4)特定事業者(旅館・ホテル・ゴルフ場)の施設利用契約禁止の新設については、(鹿児島県暴排条例などに先例があるものの)とりわけユニークなものといえ、「「旅館」、「ホテル」、「ゴルフ場」については、暴力団の襲名披露や継承式等の行事、一般の方を巻き込んだ収益目的のゴルフコンペの会場に利用されるなど、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる行事が開催されるおそれの高い施設です。これらの事業者が暴力団の活動に利用されることを知って契約することがないようにするため、施設利用契約の禁止を新設します」とその趣旨が説明されています。他の暴排条例では「事業者の責務」として一般的に規定がなされているところ、特定事業者として対象施設を絞って、どうすべきかを明確かつ具体的に記載されており、大変興味深いものです。(5)他人の名義利用禁止等の新設については、すでに他の暴排条例においてもみられるものですが、「現行の条例では、事業者の責務として、いわゆる「暴力団排除条項」に関する規定を設けているところ、暴力団員は自己が暴力団員である事実を隠し、他人の名義を利用して契約手続を行うなどしています。こうした規制逃れを防止するために、暴力団員が、自己が暴力団である事実を隠蔽する目的で、他人の名義を利用することや、その事情を知って、暴力団員に自己又は他人の名義を利用させる行為の禁止を新設します」と説明されています。(6)罰則の新設は、他の暴排条例でも盛り込まれており、これまでの愛媛県暴排条例において実効性確保の点で不十分だったところを補うものといえます。総じて、今回の改正内容は、全国の暴排条例の改正状況等を徹底的にリサーチし、最新の暴力団情勢、反社会的勢力の動向等を見極めつつ、現行の不十分な部分を真摯に見直し、厳格な内容へと改正しているという点で、大変高く評価できるものと思います。

(3)暴排条例に基づく逮捕事例(兵庫県)

神戸・三宮の性風俗店からみかじめ料130万円を受け取ったとして、兵庫県警暴力団対策課と生田署などは、兵庫県暴排条例違反の疑いで、神戸山口組大門会会長を逮捕しています。また、神戸山口組山健組組員についても同容疑で再逮捕しています。報道によれば、店側の関係者は「20年前から暴力団にあいさつ料を払っていた」と供述しているといいます。また、これに先立ち、走行中の車内で、三宮で店舗型性風俗店の営業を容認したり、もめ事の解決を行ったりする対価として現金90万円を手渡し疑いで店長が、受け取った疑いで山健組組員が逮捕されています。みかじめ料を脅し取ることは恐喝罪にあたりますが、立件のハードルが高いことから、2018年10月の兵庫県暴排条例改正で直罰規定が盛り込まれたもので、報道によれば、本条項による逮捕は初めてだということです。

▼兵庫県暴排条例

同条例においては、事業者については、第24条(暴力団排除特別強化地域における特定接客業者の禁止行為)第2項において、「特定接客業者は、暴力団排除特別強化地域における特定接客業の業務に関し、暴力団員又は暴力団員が指定した者に対し、その営業を営むことを容認すること又はその営業所等における顧客、従業者その他の者との紛争の解決若しくは鎮圧を行うことの対償として利益の供与をしてはならない」との規定があり、暴力団については、第25条(暴力団排除特別強化地域における暴力団員の禁止行為)第2項において、「暴力団員は、暴力団排除特別強化地域における特定接客業の業務に関し、特定接客業者から、その営業を営むことを容認すること若しくはその営業所等における顧客、従業者その他の者との紛争の解決若しくは鎮圧を行うことの対償として利益の供与を受け、又は指定した者に当該利益の供与を受けさせてはならない」との規定があります。さらに、違反した場合の罰則については、第31条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」として、「(3)相手方が暴力団員又は暴力団員が指定した者であることの情を知って、第24条第1項又は第2項の規定に違反した者」および、「(4)第25条第1項又は第2項の規定に違反した者」が規定されています。

(4)暴排条例に基づく勧告事例(愛知県)

名古屋市の風俗グループから用心棒代を受け取ったとして、愛知県警捜査4課は、六代目山口組弘道会幹部で、高山組組長ら2人を愛知県暴排条例違反容疑で逮捕しています。報道によれば、十数年前から用心棒代を受け取っていたとみられ、少なくとも直近3年間で1,900万円を集めていたということです(なお、逮捕された高山組組長は犯行当時はやはり用心棒代を受け取っていたして実刑判決を受け、服役中であり、組織内の指示命令系統がどうなっていたかも興味深いところです)。なお、このグループは愛知県内のキャバクラなど約20店舗を束ねる、従業員約1,000人規模の市内最大の組織で、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う愛知県と名古屋市の休業要請協力金50万円をだまし取ったとして、グループの幹部らが詐欺罪などで起訴されてもいます。

▼愛知県暴排条例

同条例においては、事業者については、第22条(特別区域における特定接客業者の禁止行為)第2項において、「特定接客業者は、特別区域における特定接客業の事業に関し、暴力団員に対し、顧客その他の者との紛争が発生した場合に用心棒の役務の提供を受けることの対償として利益の供与をしてはならない」との規定があり、暴力団については、第23条(特別区域における暴力団員の禁止行為)第2項において、「暴力団員は、特別区域における特定接客業の事業に関し、特定接客業者から、顧客その他の者との紛争が発生した場合に用心棒の役務の提供をすることの対償として利益の供与を受けてはならない」との規定があります。さらに、違反した場合の罰則については、第29条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」として、「二 相手方が暴力団員であることの情を知って、第二十二条第一項又は第二項の規定に違反した者」、「三 第二十三条第一項又は第二項の規定に違反した者」が規定されています。

なお、今年5月、鹿児島県内の飲食店経営者から「用心棒代」として現金を脅し取った恐喝の疑いで、鹿児島県警は、四代目小桜一家系の幹部を含む男4人を逮捕しています。報道によれば、県内で飲食店を共同経営する20代の男性2人に対し、入店を断られたのを理由に因縁をつけ、「用心棒がいないなら俺たちがやってやるから毎月5万円払え」などと言って、5万円を脅し取った疑いがもたれているといいます。前述した兵庫県や愛知県の事例と異なり、鹿児島県暴排条例においては、特別区域における特定接客業者の禁止行為等の規定がなく、立件のハードルが高い「恐喝」罪を適用していますが、今後、鹿児島県暴排条例の改正も待たれるところです。

(5)暴排条例に基づく逮捕事例(東京都)

昨年10月ごろから毎月25,000円を六代目山口組系組員にみかじめ料として支払ったとして、警視庁は、東京・湯島でキャバクラなどの店を通行人らに勧める「キャッチ」をしていた男(23)を東京都暴排条例違反容疑で逮捕しています。昨年10月、みかじめ料対策を強化した同条例の改正により、同種条例で全国に先駆けて規制対象に「キャッチ」が加わっており、報道によれば、同条項が適用されたのは全国初だということです。なお、暴力団組員についても、すでに同条例違反容疑で逮捕されています。

▼東京都暴排条例

同条例第2条(定義)において、第11項「特定営業」が定義されており、「ト 道路その他公共の場所において、不特定の者に対し、次に掲げる行為のいずれかを行う営業(イからヘまでのいずれかに該当するものを除く)」として、「(1)イからヘまでのいずれかに該当する営業に関し、客引きをすること。(2)イからヘまでのいずれかに該当する営業に関し、人に呼び掛け、又はビラその他の文書図画を配布し、若しくは提示して客を誘引すること。(3)イからヘまでのいずれかに該当する営業に係る役務に従事するよう勧誘すること。(4)写真又は映像の被写体となる役務であって、対価を伴うものに従事するよう勧誘すること」となっています。さらに第12項で「特定営業者」について、「特定営業を営む者をいう」と定義されています。そのうえで、第25条の3(特定営業者の禁止行為)第2項において、「特定営業者は、暴力団排除特別強化地域における特定営業の営業に関し、暴力団員に対し、用心棒の役務の提供を受けることの対償として、又は当該営業を営むことを暴力団員が容認することの対償として利益供与をしてはならない」 と規定されています。さらに、違反した場合の罰則については、第33条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」として、「三 相手方が暴力団員であることの情を知って、第25条の3の規定に違反した者」が規定されています。

(6)暴力団対策法に基づく禁止命令(暴力行為の賞揚等の規制)事例(神奈川県)

神奈川県公安委員会は、暴力団対策法に基づき、対立抗争事件を起こして服役した六代目山口組系組幹部に対し、2025年6月22日までの間、組側から称賛や慰労の目的で金品の供与や地位の昇格、もてなしなどを受けてはならないとする禁止命令を出しています。報道によれば、この幹部は2004年、対立する稲川会系組員を拳銃で殺害したとして逮捕され、懲役18年の実刑判決が言い渡されて、今年6月22日に出所しています。神奈川県公安員会は2013年に、六代目山口組の篠田建市(通称・司忍)組長に対しても、この幹部への称賛などを禁じる命令を出しているとのことです。

▼暴力団対策法

暴力団対策法においては、第30条の5(暴力行為の賞揚等の規制)で、「公安委員会は、指定暴力団員が次の各号のいずれかに該当する暴力行為(略)を敢行し、刑に処せられた場合において、当該指定暴力団員の所属する指定暴力団等の他の指定暴力団員が、当該暴力行為の敢行を賞揚し、又は慰労する目的で、当該指定暴力団員に対し金品等の供与をするおそれがあると認めるときは、当該他の指定暴力団員又は当該指定暴力団員に対し、期間を定めて、当該金品等の供与をしてはならず、又はこれを受けてはならない旨を命ずることができる。ただし、当該命令の期間の終期は、当該刑の執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から五年を経過する日を超えてはならない」と規定されています。なお、参考までに、第2項では、「公安委員会は、前項の規定による命令をした場合において、当該命令の期間を経過する前に同項に規定するおそれがないと認められるに至ったときは、速やかに、当該命令を取り消さなければならない」との規定もあります。

(7)暴力団対策法に基づく再発防止命令事例(神奈川県)

性風俗店の従業員にみかじめ料の要求を繰り返したとして、神奈川県公安委員会は、稲川会系組員に対し、暴力団対策法に基づく再発防止命令を出しています。報道によれば、この組員は昨年9月、性風俗店の従業員に「俺にも立場ってもんがあるからな」などと言い、みかじめ料を要求したとして、11月に神奈川県警川崎署長から中止命令を受けていたところ、その後、今年4月にも区内の別の性風俗店従業員に「とりあえず今月お願いします」などと言い、同様にみかじめ料を要求したとして、5月に同署長から2回目の中止命令を受けています。同公安委は、この組員が今後、さらに類似の行為を行う恐れがあるとして、再発防止命令を出したといいます。なお、再発防止命令に反して1年以内に類似の行為を行うと、再発防止命令違反の容疑で逮捕されることになります。

なお、暴力団対策法第12条の2において、「公安委員会は、指定暴力団員がその所属する指定暴力団等に係る次の各号に掲げる業務(略)に関し暴力的要求行為をした場合において、当該業務に従事する指定暴力団員が当該業務に関し更に反復して当該暴力的要求行為と類似の暴力的要求行為をするおそれがあると認めるときは、それぞれ当該各号に定める指定暴力団員に対し、一年を超えない範囲内で期間を定めて、暴力的要求行為が当該業務に関し行われることを防止するために必要な事項を命ずることができる」と規定されています。

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