暴排トピックス

コンプライアンスやリスク管理に関するその時々のホットなテーマを、現場を知る
危機管理専門会社ならではの時流を先取りする鋭い視点から切り込み、提言するコラムです。

反社会的勢力との不適切な関係~吉本興業「闇営業」問題を考える~(その2)(2019.8)

1.反社会的勢力との不適切な関係~吉本興業「闇営業」問題を考える~(その2)

 吉本興業などの芸人らが、会社に無届けで反社会的勢力のイベントに出席、報酬を得ていたとして処分を受けた、いわゆる「闇営業」問題については、前回の本コラム(暴排トピックス2019年7月号)でも取り上げました。今回も、その後の動向や本問題において実務上、考えるべき論点等について、いくつか取り上げてみたいと思います。

 直近の大きな動きとしては、同社が経営アドバイザリー委員会の初会合を開催したことがあげられます。報道によれば、この場でも、反社会的勢力との決別は真っ先に議題となったようです。前回も指摘したとおり、同社はこれまでも反社会的勢力との決別に向けて動いており(具体的には、(1)外部の調査企業と提携し、徹底した調査をしている、(2)会社の顧問に警察OBを迎え入れている、(3)東京都、大阪府の暴力追放推進センターと連携している、(4)コンプライアンスに関する小冊子を作成している、(5)年に数回、現役の警察の方を招いて講演を行っている、(6)万一、芸人や社員が予期せぬ形で反社と遭遇してしまった場合に備えて、顧問の警察OBや総務部、法務部の人間が24時間対応する電話窓口を社内に設けている等)、岡本社長も、「反社との決別について、日本で一番厳格な会社になる」と語っています。このような取り組みに対して、委員の一人は「世の中の人たちは、吉本はまだ、昔のように反社とつながりがあるのではというイメージを持っている。ここまで対策をやっていたのは知らなかったので、こうした努力はもっと知らしめるべきだ」と述べたようです。なお、委員からは「知識の習得だけでなく、定着するための方法を検討すべきだ」との指摘もあったといいます。

 筆者も本問題に関して多くのメディアから取材を受けましたが、筆者の考えは、「やるべきことはやっていたと思う。しかし、芸能界を取り巻く反社リスクが高かった」(令和元年7月25日付東スポWeb)とコメントしたとおりです。つまり、反社リスクはその企業を取り巻く状況や当該企業の立ち位置によって異なるものであり、自らがそのリスクを厳しく評価し、それに見合った十分なリスク対策を講じるべきものです。本問題に関して言えば、(1)同社と反社会的勢力との関係にかかる過去からの経緯とそれに伴う(2)レピュテーション・リスク、(3)芸能界周辺における反社リスクのあり様、(4)暴力団関係者のみならず特殊詐欺グループや半グレ(準暴力団)の脅威と(5)社会の目線の厳格化(前回述べた「反社会的勢力」の範囲の拡大)、(6)反社会的勢力の不透明化の実態や手口への理解、(7)現状の反社リスク対策のレベル感・実効性など、厳格に評価すべき項目は膨大です。たとえ同社の取り組みが社会的にみて十分な内容であるかのように見えたとしても、反社リスクやそれに伴うレピュテーション・リスクの巨大さ・怖さは、個人や会社の「生殺与奪の権利を握られる」ところにあります(芸人らが同社から契約解消されたり、岡本社長と大崎会長が結果的に1年間の50%減棒処分を科され、会社の体質も厳しく糾弾されるなど、個人も企業も社会的に大きな「制裁」を受ける事態となったことは、一般の事業者にとっても衝撃的だったのではないでしょうか)。

 今回の問題では、同社が前述したような取り組みをしていたとしても、「結果的に十分に取り組めていなかったということ」と社会が明確にNOを突きつけたこと自体がすべてです。同社が「最大限の努力としてここまでやっていた」と説明責任を果たそうとしていることは理解できるものの、実際のところ、「反社リスクはもっと大きかった」という現実があり、結果的に社会の要請や社会の目線の厳しさを見誤ったこと、リスク評価の甘さが招いた結果であるとの評価となります。一例としては、今回問題となった特殊詐欺グループもスポンサーとして関与していたイベントにタレントを派遣していたという事実があげられます。同社としては、イベント会社が反社会的勢力とつながりがないことを確認してはいたものの、そのスポンサーの一つが詐欺集団のフロント企業だった事実を見抜けなかったわけですが、この点について岡本社長も「先の先(スポンサー)までチェックしきれていなかったことは、非常に反省しなければいけない」と率直に取り組みに甘さがあったことを認めています。そして、この点については、本コラムでは、反社チェックのあり方として、反社会的勢力の実態をふまえれば、従来の「KYC(Know Your Customer)チェック」だけでは不十分であり、よりスコープを拡げた「KYCC(Know Your Customer’s Customer)チェック」、「KYCC管理態勢の構築」へと取り組みを進化・深化させていくことが重要とすでに指摘してきたところです(たとえば暴排トピックス2018年3月号など参照ください)。ただ、一方で、問題となったイベントの詳細は不明ですが、「すべてのイベント会社、イベントについてスポンサーまでチェックすべきか」という問いかけには、一般的には「RBA(リスクベース・アプローチ)」の考え方を援用して、リスク評価による軽重は認められてよいと考えられる一方で、同社を取り巻く状況を総合的に鑑みて、「タレントが絡むイベントであれば(広告塔として悪用されるなど)反社リスクは極めて高い」とリスク評価して、「すべての関係者をチェックする」とのルールを平時から策定しておく必要があるのではないかともいえます。

 さらに、反社リスクのもつ「生殺与奪の権利を握られる」点に関しては、問題となった特殊詐欺グループのうち逮捕された人物については、(グループとしては当時すでに犯罪に手を染めていたものの)実際に逮捕されたのは問題となった忘年会後のことであり、いわば「後付けの反社認定」だったという意味では気の毒な面があるのも事実です。しかしながら、50万円とも100万円ともされる破格の高額なギャラについて、「まったく問題ない会合」だと何の疑問も感じない方が不自然(あるいは感覚が麻痺している状態)です。「反社会的勢力とか反社会的な集団ではないか」、「よからぬイベントではないか」と慎重に構える(そもそも闇営業ではなく、会社を通して判断を仰ぐ)のが一般的な「知識」や「常識」「良識」「見識」です。彼らがそのような「懸念」すら抱かなかったのか、「懸念」はあっても「大丈夫」と勝手に判断したのか、すべて「認識」していたのか、(後付けの反社認定で一律に切り捨てるのではなく)いずれのレベルに本人の意識があったかが本来は問われるべきであり、それに応じた批判や処分であるべきではないかと思われます。ただし、会社としては最低限、「懸念」があれば立ち止まる、相談すべきことを日ごろからしっかり伝え、それ以外の勝手な判断は「生殺与奪の権利を握られる」ものとして厳しく戒めることが重要ではないでしょうか。それだけの反社リスクの高さ・大きさ・怖さまでしっかりと伝え切れていたのか、それが、同社が足りなかった部分のひとつだともいえます。さらに一言付け加えるならば、そもそも食えない芸人がどのような行動をとるかに同社としては目を光らせるべきだった(リスクとして認識しておくべきだった)ということにもなりますが、それにしては6,000人という規模はあまりに大きいのではないか、というのも率直な感想です。そして、今まさに副業・兼業が社会に広がる中、不透明化・巧妙化する反社会的勢力と知らないうちに関わりを持つ可能性は芸人に限らず、一般人である私たちにもあります。ましてや、SNSで誰もが知り合い、気軽に業務などを提供してしまう時代であれば、「知らずに接点をもち」「サービス提供の対価として報酬を受け取る」リスクは身近になってきているともいえます。事業者の取り組みはもちろん、一個人としてどう防衛していくのか、個人として社会全体としてどう取り組むべきかをあらためて考えないといけない状況にきているといえます。

 なお、同社がすでに設置している「24時間相談窓口」は、一般の事業者が独自に実施するには大変な取り組みであり、その場から「離脱できる」、「リスクを低減できる」可能性を秘めているという点で極めて高く評価できるものです。大崎会長のインタビュー(デイリー新潮)では、具体的に「このホットラインは、たとえば、夜遅くに芸人が居酒屋で飲んでいたとします。すると近くに座っていた人から、「お前、芸人か。一杯飲めや」と言われてビールを注がれた。怖くて飲んでしまったけれど、そこですぐ電話をすれば、対応を話し合える。実際に、悩みの相談のような内容や、「僕たちのライブのチケットを買ってもらった人の兄がそのスジらしい。その兄も見に来ると言っているようだが、どうすればいいか」といったケースもありました」といった事例が語られています。このような取り組みこそ、社内でより浸透させることで、「懸念」の段階で踏みとどまることを可能にするものであり(もっといえば、そのような態勢が整っていることが広く知られることで、反社会的勢力なども安易に近づくことのリスクを認識するなど、抑止効果もあるかもしれません)、自社で運営していくのは大変な苦労があると推察されるところ、同社を取り巻く反社リスクの高さに見合った取り組みの一つだといえると思います。

 また、本問題では、謹慎処分を受けた芸人らが処分を解かれる方向となったことが報道されていますが、一つだけ指摘しておきたいのが、特殊詐欺グループの会合に「知らずに」出た者と、明らかに暴力団関係者が出席する会合に「知らずに」出た者とが(謹慎期間という点で)同じ処分となっている点に違和感を覚えるということです。特に、後者については、暴力団排除条例(暴排条例)に抵触しかねないという点で前者とはレベル感が異なると思われます。もちろん、暴力団関係者と「知らないで」参加したのであれば、暴排条例に抵触することにはならないと考えられますが、本当にそう言い切れるのかがポイントとなります(ないことの証明は「悪魔の証明」ですから困難ですが、一般的に、暴力団関係者の会合に出席する場合、関係者から事前に「このような人たちだから粗相のないように」とレクチャーを受けるものであることをふまえれば、「知らずに」出たとする経緯の説明が難しいようにも思われます)。同社として、このあたりをどう整理されたのか、本来なら説明責任を果たしてほしい部分でもあります。

 なお、前回の本コラム(暴排トピックス2019年7月号)では、テレビ局のリスク認識の甘さについても、「そもそも、芸人を起用する時点や起用後の状況についても、厳格なチェックやモニタリングを「能動的に」「主体的に」実施すべきはテレビ局であって、コンプライアンスやリスクマネジメントを徹底すべきは吉本興業だけでなくテレビ局もそうであるべきだ」と指摘しました。この点については、日本テレビやテレビ朝日が、吉本興業に対し、事実関係の確認やガバナンスの徹底などを求める申し入れ書を送付したとの報道がありました。具体的な内容としては、「第三者委員会を設置しての早急な事実確認」、「反社会的勢力との関係を遮断する具体的な施策の公表」などだということですが、これは一般の事業者においても、取引先等に反社会的勢力との関係について疑義が発生したときに、その事実確認等を求める手法として認識しておいていただきたいことでもあります。「能動的に」「主体的に」報告を求める姿勢を示すことで、自社(本問題の場合はテレビ局)のステークホルダーに対しても十分な説明責任を果たしていくことにつながるといえます。

 今回の問題を受けて、今、事業者が行うべきことは何かーそれは、一連の報道で反社リスクに関心が高まっている今こそ膿を出し切るチャンスだと捉え、徹底的な研修等のアクションを起こすことではないでしょうか。実際に、大手芸能事務所のワタナベエンターテインメントが、社員、所属タレントに向けたコンプライアンスセミナーを実施したとの報道もありました。筆者もAERA誌で、「研修の実施や、反社の問題はきちんと対応するので情報を上げてくれと従業員に呼びかけてほしい。『いま言ってくれるならこれまでの問題は問わない』など会社の強い意志を示す形で情報を上げやすくする方法もあります」、「コンプライアンス研修や実際の事例の共有など教育も重要だが、従業員が会社にものを言いやすくする環境作りが必要だ。 「相談できない、あるいは相談しても『数字が足りないんだからガンガン行けよ』と言われるような職場だと、自分が黙ってさえいれば大丈夫だろうと考え反社との接点を持ってしまいます。現場が防波堤になるかどうかの境目はそこにあります」」とコメントしましたが、この点をぜひ認識していただきたいと思います。そして、最も重要なものは、間違いなく現場の社員の「暴排意識」と「リスクセンス」ですが、もしかしたら最も重要なことは現場の判断を担う管理職やリーダーのあり方かもしれません。現場における事実上の「反社リスク許容ライン」は、実は現場の管理職等のレベルによって定まります。現場によって「反社リスク許容ライン」にバラつきがあることを企業として認識できているのか、あるとしてそれが許容できる範囲なのか、今一度、全社的に見直してみるよい機会だと思います。

 さて、特定危険指定暴力団工藤会の本部事務所の売却問題で、北九州市は、撤去費用や税金など必要経費を除いた売却益全額を福岡県暴力追放運動推進センター(暴追センター)が管理することで、市と工藤会、暴追センターが大筋合意したと発表しています。売却先は未定ですが、報道によれば、工藤会は、売却先から支払われた購入費のうち、固定資産税の滞納分や建物の解体費用など必要経費だけを受け取るとする預託契約を、暴追センターと結ぶということです。残りの売却益は暴追センターが管理し、工藤会による事件の被害者が起こした民事訴訟で和解や判決により金額が確定すれば、暴追センターが賠償金を支払うというスキームで、被害者側への振り込み事務などは、市や県警でつくる市暴力追放推進会議が担うことになるといいます。現時点の状況について、北九州市長は「事務所撤去の進捗状況は6合目から7合目」と評価していますが、売却先の確保が今後の大きな課題として残されており、「一日も早い撤去に向け、県警など関係機関と一丸となって努力したい」と述べています。なお、工藤会の事務所を巡っては、福岡県公安委員会が、北九州市小倉北区の本部事務所など3カ所について、暴力団対策法に基づく使用制限命令の延長を決めています(期間は3カ月)。
なお、事務所撤去の動きとしては、直近では、群馬県での取り組み事例がありました。報道(令和元年8月14日付毎日新聞)によれば、指定暴力団稲川会の二次団体が構えていた富岡市内の事務所について、群馬県警と群馬弁護士会とが連携して同県では初めて撤去に成功したというものです。本事案は、昨年10月に、土地と建物の所有者が「暴力団を立ち退かせたい」と富岡署に相談したことに端を発し、県、県警と弁護士会、群馬県暴追センターが開設する相談窓口で詳しく事情を聴取、建物の契約内容が実情と異なっていたり、家賃が未納だったりしたため、群馬県弁護士会民事介入暴力被害者救済センター運営委員会の弁護士が所有者の代理人となり、事務所の明け渡しを求めて前橋地裁高崎支部に民事訴訟を提訴したものです。当初、暴力団側は立ち退きを拒否していたようですが、和解が成立し、今月1日に完全撤去に至ったということです。暴力団対策法の改正もあり、全国で、立ち退き請求や使用差し止め請求などとあわせ組事務所撤去の動きがみられますが、官民挙げた取り組みが加速することを期待したいと思います。

 さて、吉本興業の問題でも話題となった半グレ(準暴力団)ですが、NHKが放映した半グレ特集(半グレ 反社会勢力の実像)が大きな反響を呼んでいます。番組では、「平成に衰退した暴力団にかわって、勢力を拡大させた犯罪集団「半グレ」。振り込み詐欺や脱法ドラッグ販売など、さまざまな闇ビジネスを展開するために離合集散を繰り返す、暴走族出身者などを指す言葉だ。暴力団と異なり、構成員も曖昧で、事務所などの明確な根城を持たず、暴力団対策法や暴力団排除条例による規制もきかない。犯罪集団とカタギという2つの顔を持つ彼らは、高学歴者を取り込みながら、ネットを使った詐欺など、さまざまな闇のビジネスモデルを構築。そこでもうけた金を土地や株などの正業に投資してさらに肥大化している。番組は東京と大阪を舞台に、半グレの最前線を取材。社会を脅かす、知られざる犯罪者集団の実像に迫る」(NHK)といった内容で、半グレ自身が堂々と登場するなど、その実態をリアルに描き出している部分もあり、見応えのある内容だったと思います(残念ながら、一方で半グレ自身の宣伝として悪用された側面も否定できないようです。半グレの実態を報じる番組が、半グレを増長させ、半グレに憧れを抱く若者を生み出すという本末転倒の事態を招かないか懸念されるところです)。実態を警察でも把握できていない半グレですが、公式にはなかなか見えてこない部分もあり、雑誌系の記事からその実態の一端を参考までに紹介しておきたいと思います(あくまで雑誌系の記事であり、その信憑性等については読み手の判断にお任せすることになります)。

  • (池袋で裏カジノが摘発されるという事案があったが)「特に、中国人の富裕層を日本の半グレ、それも中国と縁(因縁がある)の深いドラゴンが一年近くにわたって斡旋していたということ。この事実は、すでになんらかのラインが確立している、と考えるべきであろう。つまり、日本人のほとんどが知らないうちに、暴力団でもない準暴力団が国際的な犯罪ルートを作り上げていたのだ。日本の半グレ・ドラゴンが独自ルートで築き上げたシノギを警察は把握することが出来るのか」、「賭博の摘発ひとつにしても、組対(組織犯罪対策課)と生安(生活安全課)というように、各事案で動きも変わってくるだろう。今後、早急な対策を講じない限り、想像の上をいく犯罪の国際化を防ぐことは難しい。」(TABLO)
  • オレオレ詐欺などを含む特殊詐欺と暴力団との境界が暴力団側、詐欺側、取り締まり側の全面で曖昧になってきた。暴力団にはこのところ、新人を組員登録しない傾向がある。組員としての登録は新人にとって法的な不利益ばかりだし、組にとっても警察の的を大きくするだけだから、最初から組員とは別の扱いをする。たとえば半グレとして組とは別のところで特殊詐欺グループを結成・運営させ、収益金の一部を組に上納させるなどだ。」(日刊ゲンダイ)
  • 「三宮は神戸山口組一強でミカジメとかのヤクザの片棒を担ぐ隙が無いからです。いくつかの地下格闘技などを主体としたグループはあるのですが、それらは指定されるほどの組織犯罪的な活動はしていない。もちろん、マークはされていますけどね」(兵庫県警元刑事)。実際に大阪府警は発表していないが、個人名でグループを形成している半グレを準暴力団と指定している。この理由は、その名前があまりにも有名なために、発表をすることが宣伝効果となって逆効果となることを危惧しているからだ。(TOCANA)

 その他、最近の報道から、暴排に関するものをいくつか紹介します。

  • 東郷証券が損失補てんで金融庁から登録取り消しの行政処分を受けました。関東財務局のサイトでは、事案について、「当社の取締役であって、その実質的経営者として業務全般を統括するとともに、商品デリバティブ取引等を目的とする株式会社さくらインベストの実質的経営者としてその業務全般を統括していた林泰宏、当社の代表取締役管理本部長として顧客からの苦情の処理等の業務を統括していた野水裕資、当社の顧問として当社の経理業務を担当していた上村昌也らは、平成28年7月下旬から平成31年1月下旬までの間、顧客8名に対して、取引所為替証拠金取引について生じた損失の一部を補填するため、合計約6,970万円相当の利益を自ら又は第三者をして提供した」、「平成29年10月中旬頃から平成31年1月下旬までの間、当社で取引所為替証拠金取引を行っていた顧客4名との間で、現金による損失補填の契約をした上、その契約に基づき、各顧客らに合計約6,210万円の現金を提供した」と指摘しています。参考までに、なぜ損失補てんをするに至ったかについては、「顧客にいたとされる指定暴力団の会長への穴埋めが動機だったとみられている。会長を紹介したのは高校野球経験者で、十数年前に巨額詐欺容疑で逮捕された投資コンサルタント。解説者として活躍する元巨人選手を通じてこのコンサルタントと知り合った林は、暴力団会長から投資してもらい、利益を出そうとして失敗したようだ」といった情報が流布しています。
  • 福岡県暴追センターが現役の組員に暴力団からの離脱を呼びかけるチラシを作成したといいます。これまでは民間に暴力団の要求を断るよう呼びかける啓発が多く、組員向けのチラシは全国的にも珍しいといえます。報道によれば、今後、福岡県警を通じて組員らに配り、離脱を促したい考えで、同センター専務理事は、「組織から抜けたいと思いながら迷っている組員が踏み出す一歩になってほしい」と話しています。暴排の活動の進展に伴って、暴力団離脱支援の取り組みは今後ますます重要となります。民間サイドの意識改革や社会全体の意識改革による「受け皿」作りは極めて重要ですが、一方の暴力団側も、偽装離脱の横行や離脱しても定着しない状況が続けば、企業や社会から理解を得るのは難しく、今後は「離脱」に向けた本気度が問われることになります。その意味でもこのような取り組みもまた今後、重要となると考えられます。
  • 東京・池袋で7月、外国人観光客らを相手に営業していた違法カジノ店が摘発されました。多額の金を投じる富裕層を集め、約1年間で1億円超の利益を得ていたといいます。報道によれば、訪日客数が年間3,000万人を超えるなか、日本を訪れる裕福な外国人の財布に群がる闇の観光ビジネスが目立ってきたといいます。訪日客マネーが犯罪組織に流れないよう摘発を強化すべきであるのは論を俟ちませんが、前述の池袋の半グレの動向のように、「想像の上をいく犯罪の国際化」への対応もまだ急務です。
  • NHKは、「NHKから国民を守る党」の党首が「全員ではないが暴力団関係者を普通に使っている」と発言したことに対し、公式サイトに、「暴力団関係者に対して、受信料の契約・収納業務を委託することはない」とする文書を掲載しています。受信料の契約や収納に当たる法人事業者との業務委託契約で、反社会的勢力と関係がないことを条件にしていると説明、法人や従業員に関係が判明した場合は直ちに契約解除するなど、「反社会的な勢力の排除を徹底している」と強調しています。

警察庁が、「第3次犯罪被害者等基本計画」の見直しを図りました。同計画は、「4つの基本方針」として、(1)尊厳にふさわしい処遇を権利として保障すること、(2) 個々の事情に応じて適切に行われること、(3)途切れなく行われること、(4) 国民の総意を形成しながら展開されることを掲げています。さらに、「5つの重点課題」に、(1) 損害回復・経済的支援等への取組、(2) 精神的・身体的被害の回復・防止への取組、(3) 刑事手続への関与拡充への取組、(4) 支援等のための体制整備への取組、(5) 国民の理解の増進と配慮・協力の確保への取組があげられています。具体的な推進策について、暴力団関係の犯罪被害者に関するものにも言及がありましたので、以下抜粋して紹介します。

▼警察庁 第3次犯罪被害者等基本計画(日本語版)

  • 暴力団等による保護対象者に対する危害を未然に防止するため、暴力団等から危害を受けるおそれのある者を保護対象者として指定し、その者が危害を受けるおそれの程度に応じ、その危害を防止するための必要な措置を講じるなど、警察組織の総合力を発揮した保護対策を推進する。【警察庁】
  • 暴力団犯罪の被害者については、警察において、都道府県暴力追放運動推進センターや各弁護士会の民事介入暴力対策委員会等とも連携しつつ、暴力団犯罪による被害の回復を支援する。【警察庁】
  • 2. 最近のトピックス

    (1)令和元年警察白書(概要)

     警察庁から平成30年警察白書の概要が公表されていますので、本コラムに関係の深い領域についてポイントを紹介いたします。

    ▼警察庁 令和元年警察白書 概要版

     まず、国際テロ情勢としては、AQ(アルカーイダ)及びその関連組織が米国等に対するテロの実行を呼び掛けているほか、ISIL(IS、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」)が世界各地でテロを実行するよう呼び掛けていること、ISILは、インターネットを積極的に活用して支持者に対する呼び掛けを行っており、例えば、声明やインフォグラフィックを通じ、爆弾や銃器が入手できない場合には、刃物、車両等を用いてテロを実行するよう呼び掛けており、実際に、刃物、車両等を用いたテロ事件が欧米諸国等で発生していると指摘しています。また、日本におけるテロリスクの動向としては、在アルジェリア邦人に対するテロ事件(平成25年)、スリランカにおける連続爆弾テロ事件(平成31年)等、近年、海外で邦人や我が国の関連施設等の権益がテロの標的となる事案等も現実に発生していることや、欧米等の非イスラム諸国で生まれ又は育った者が、ISILやAQ等によるインターネット上のプロパガンダ等に影響されて過激化し、自らが居住する国やイスラム過激派が標的とする国の関連施設等の権益を狙ってテロを敢行するホームグローン・テロリストによる事件が数多く発生していること、我が国においても、過去にはICPO国際手配被疑者の不法入国事件も発生しており、過激思想を介して緩やかにつながるイスラム過激派組織のネットワークが我が国にも及んでいることを示していること、これらの事情に鑑みれば、我が国に対するテロの脅威は継続しているといえると指摘しています。さらに、近年のテロ情勢を特徴付けるものとして、イラク及びシリアに世界100か国以上から3万人以上が渡航したとされている外国人戦闘員の存在が挙げられるとし、平成30年中には、イラク及びシリアからアフガニスタンに移動する外国人戦闘員の数が増えたとされているなど、外国人戦闘員の今後の動向については注視する必要があるとも指摘しています。一方、「近年、欧米諸国で発生したテロ事件をみると、イラクやシリア等の紛争地域への渡航歴がなく、テロ組織等によるプロパガンダやイスラム過激派が敢行した過去の事件に影響を受けて過激化したとみられる個人による事件が多いという特徴もみられる」、「ISILは、自らが所在する場所でテロを行うよう呼び掛けており、そうした呼び掛けに呼応したホームグローン・テロリストの中には、過激化してからテロを実行するまでの期間が短い者もいるとされていることから、こうした脅威を速やかに探知し、未然防止することが必要となる」との指摘はまさにとのとおりで、これまでも本コラムで主張してきたことでもあります。また、近年、刃物、車両等の入手が容易な凶器が用いられるテロ事件の発生が目立つことも特徴と言え、「刃物、車両等については、爆弾や銃器と比べて規制が緩く入手が容易であることから、テロの準備段階においていかにその動向を探知し、未然防止するかが課題となっている」こと、さらには、「偽造身分証、3Dプリンタ、小型無人機、爆発物等原材料、情報通信技術等といったテロリスト等に悪用され得る科学技術等及びこれらを悪用する者を適切に把握することが求められている」という点も、本コラムでは、以前から犯罪インラフ対策に官民挙げて注力すべきと指摘しているとおりです。また、「インターネットが国民生活や社会経済活動に不可欠な社会基盤として定着する中、我が国において、社会の機能を麻痺させる電子的攻撃であるサイバーテロが発生することも懸念される」とも指摘しています。

     これらの状況に対して、本白書では、テロを未然に防止するためには、幅広い情報を収集して的確に分析することが不可欠であること、警察では、警察庁警備局外事情報部を中心に各国治安情報機関等との連携を一層緊密化するなど、テロ関連情報の収集・分析を強化するとともに、その総合的な分析結果を、重要施設の警戒警備等の諸対策に活用していること、国際テロ対策を推進するためには、我が国一国のみの努力では限界があり、世界各国との連携・協力が必要不可欠であることから、警察庁では、諸対策に関する国際会議等に積極的に参加していることなどを紹介しています。また、警察では、テロリスト等の入国を防ぐため、出入国在留管理庁や税関等の関係機関と連携し、事前旅客情報システム(APIS)等を活用した水際対策を推進していることや、平素から防衛省・自衛隊と緊密な情報交換を行うほか、武装工作員等による不法行為が発生したという想定の下、陸上自衛隊との共同訓練を実施していること、警察による取組のみでは十分ではないことをふまえ、関係機関、民間事業者、地域住民等と緊密に連携してテロ対策を推進することが望まれること、そのため、警察では、テロ対策に関する様々な官民連携の枠組みに参画していることなどが紹介されています。また、AML/CFTの観点からも、我が国では、テロ資金提供処罰法に基づき、テロリストに対するテロ資金の提供等を規制していることや、犯罪収益移転防止法に基づき、顧客等の本人特定事項等の取引時確認、疑わしい取引の届出等を特定事業者に対し求めていること、さらに、外為法及び国際テロリスト財産凍結法に基づき、令和元年(2019年)5月末現在、404個人106団体の国際テロリストを財産の凍結等の措置をとるべき者として公告していることなどが紹介されています。

     次に、特殊詐欺の状況については、昨年中の認知件数と被害額はいずれも前年より減少したものの、高齢者を中心に一日当たり約1億円もの被害が生じているなど、依然として深刻な情勢にあるとしたうえで、警察では、だまされた振り作戦や犯行拠点の摘発といったこれまでの取組に加え、特殊詐欺事件の背後にいるとみられる暴力団、準暴力団等に対する多角的な取締りを推進していることにも言及しています(本コラムでも警察庁の内部通達として紹介したものです)。また、特殊詐欺の被害全体に占める65歳以上の高齢者の割合(高齢者率)は、引き続き高水準で推移しており、平成30年の高齢者率は、78.1%に上っていること、特に、オレオレ詐欺では96.9%、還付金等詐欺では84.6%と、高齢者率が極めて高く、高齢者の被害防止が喫緊の課題となっていることから、警察庁では、オレオレ詐欺をはじめとする特殊詐欺の効果的な被害防止対策に役立てるため、親族を装うオレオレ詐欺の被害者等に対する調査を実施したことも取り上げています(本コラムでも以前紹介しました)。

     その他、警察では、偽造クレジットカードを使用した犯罪に関する情報共有やクレジットカードの100%IC化を含むセキュリティ対策の推進に係る協力要請等を行い、関係団体との連携の強化を図っているほか、国内外の関係機関と連携して、偽造クレジットカードを使用した犯罪の取締りを推進するなど、偽造クレジットカードの供給網の壊滅を図っていることも指摘しています(いわゆる「犯罪インフラ」対策としてその重要性については本コラムでもたびたび述べているとおりです)。また、国内外の関係機関との連携を強化し、海外の薬物犯罪組織と暴力団等との結節点の解明を進めるとともに、水際対策と上位者への突き上げ捜査の徹底により、覚せい剤の供給網の壊滅を図っていることや、疑わしい取引に関する情報の分析及び当該分析の結果を活用した取締りを推進しているほか、金融機関等を対象とした研修会において、疑わしい取引に関する情報が活用された事例を紹介することで理解と協力の促進を図ったりするなど、国内外の関係機関と連携した国際的なマネー・ローンダリング対策を推進しているといった取り組みも紹介されています。

    (2)AML/CFTを巡る動向

     今秋に迫ったFATF第4次対日相互審査をふまえた、海外送金や外国人口座管理を中心とした金融機関の対応については、本コラムでもたびたび紹介してきました。たとえば、ゆうちょ銀行は、10月から窓口での海外送金を1回500万円までに制限するとしています(なお、1日あたり200万円としているインターネットバンキング「ゆうちょダイレクト」の海外送金の限度額は変更しません)。ゆうちょ銀は口座数が約1億2,000万と国内でもっとも多いほか、外国人が口座を開設しやすい面もあるといい、対策の強化が急務となっていますが、同行は、「ゆうちょダイレクト」による国内送金の限度額を10月4日から1日あたり1,000万円に引き下げるほか、送金を扱う郵便局を3,210局から1,194局に減らすということです。それ以外でも、報道(令和元年7月26日付ニッキン)で、地方銀行で海外送金手数料の引き上げが相次いでいる状況が明らかになっています。AML/CFTの厳格化が求められるなか、対応する行員の増員や新たなシステム導入に伴うコスト負担が重くなっていることが背景にあるとされ、とりわけ窓口取引の引き上げ幅の方を大きく設定する傾向がみられ、(取引先および金融機関双方の)業務効率化に寄与するウェブ取引の利用を促す狙いもあると考えられます。一方で、そもそも海外送金は「高リスク」取引の典型であるところ、収益性の低下を受けて小規模の地域金融機関などでは外国為替業務から撤退する動きも見られることはこれまでもたびたび紹介してきたとおりです。本報道やその後の報道(令和元年8月9日付ニッキン)から、いくつか紹介します。

    • 十六銀行は7月22日に手数料を改定、窓口から海外送金する場合、従来の4,500円から8,000円に増額しています。また、海外からの送金を受け取る際の手数料を2,500円(+1,000円)としています(なお、法人向けウェブ取引料金は据え置くということです)。
    • 広島銀行は9月決済分から、窓口取引については3,500円(+1,000円)、ウェブ取引は個人向けが1,500円(+500円)、法人向けが2,000円(+500円)となるということです。
    • 静岡銀行も9月から窓口取引について、海外送金が8,000円(+4,000円)、海外からの受取り時にも1,500円の手数料を新設するようです(入金処理において受取先に電話確認した上での対応など労力がかかることから、他行でも同様の動きが広がっているといいます)。なお、十六銀行同様、法人向けウェブ取引料金は据え置くとのことです。
    • 北海道信金では7月から、全81か店で取り扱っていた海外送金を本店営業部など10か店に集約しています。また、海外から受け取る取り扱い店舗も24か店にしています。北海道の小規模金融機関では、他にも、大地みらい信金が本店などで取り扱っていた外貨両替業務を(実績が少ないとの理由で)5月に休止、留萌信金も8月30日をもって同業務を休止、AML/CFT対応の預金規定の改定も稚内信金など一部で準備中とされています。さらに、報道によれば、「銀行に送金を断られた輸出業者が流れてきている」という声もあり、厳格に対処しなければ」という機運が高まっているということです。相対的に対応に甘さの見られる小規模金融機関の対応の遅れによって、速やかな対応を行った相対的に規模の大きい金融機関から、「海外送金等にかかるマネロン・テロ資金供与リスク」が移転している状況がうかがわれ、結果的に、犯罪組織等を利することになるのではないかと危惧されるところです。AML/CFTをはじめとするリスク管理においては、「点」から「線」「面」へとその防御の思想を拡大し、実際の防御レベルを高めていく必要があるところ、一部の対応の遅れや取り組みレベルの低さが「穴」「抜け道」とならないよう、あらためて業界全体としてレベルを底上げしていくことを期待したいと思います
    (3)特殊詐欺を巡る動向

     今年上半期(1~6月)に警察が把握した特殊詐欺の被害は8,025件で、被害額は約146億1,000万円だったことがわかりました。以下に詳述しますが、前年同期より735件(8.4%)、約39億8,000万円(21.4%)減少、1日当たりの被害額も約8,000万円と前年同期より約2,000万円減少しましたが、全体的に高止まりの傾向は続いていること、被害者の隙を見てキャッシュカードを偽物とすり替える手口(今後、特殊詐欺(窃盗)と新たに分類されることになりました)が急増していること、直近では(規模は相対的に小さいものの)還付金等詐欺の手口が急増していることなどが特徴として挙げられます。なお、報道によれば、今回アポ電の状況についての初めて調査も行われ、警察庁は、都道府県警から報告を受けた「予兆電話」(名前や住所、家族構成といった個人情報のほか、現金の保管状況などを尋ねるもの、だましの文言や金銭の要求がなかったものも含む)を集計した結果、3カ月間にすべての都道府県で確認され、東京9,942件、埼玉3,621件、大阪3,024件、千葉2,938件、神奈川2,413件の順に多く、この5都府県で全体の62.2%を占めたということです。また、強盗事件に発展し、死者が出たケースもあること、不審電話が多いと詐欺の被害も多い傾向があることなども分かってきており、「予兆電話」の段階から十分な注意が必要であることがうかがえます。また、特殊詐欺(窃盗)については、警視庁の集計が報道されており、前年同期の約3.7倍の336件に急増しているということです。被害額も計5億5,444万円に上るほか、被害者は70代以上が全体の9割弱を占め、男女別では女性が7割強に上っていること、オレオレ詐欺や架空請求詐欺など1,354件のうち67%がカードを狙ったものだったということです。

    ▼警察庁 令和元年6月の特殊詐欺認知・検挙状況等について

     平成31年1月~令和元年6月の特殊詐欺全体の認知件数は8,025件(前年同期8,760件、前年同期比▲8.4%)、被害総額は146.1億円(185.9億円、▲21.4%)となり、認知件数・被害総額ともに減少傾向が継続しています(なお、減少幅の拡大が続いていましたが、今回は前月より縮小しています)。なお、検挙件数は2,940件となり、前年同期(2,632件)から+11.7%と昨年を大きく上回るペースで摘発が進んでいることがわかります(検挙人員は1,282人と昨年同期(1,342人)から▲4.5%の結果となりましたが、全体の件数が大きく減少している中、摘発の精度が高まっていると評価できると思います)。また、今回の統計から、「特殊詐欺(詐欺・恐喝)」と「特殊詐欺(窃盗)」の2つのカテゴリーにあらたに分類されています。「特殊詐欺(詐欺・恐喝)」とは、「オレオレ詐欺、架空請求詐欺、融資保証金詐欺、還付金等詐欺、金融商品等取引名目の特殊詐欺、ギャンブル必勝法情報提供名目の特殊詐欺、異性との交際あっせん名目の特殊詐欺及びその他の特殊詐欺を総称したものをいう」ということですので、従来の「振り込め詐欺」となりますが、「特殊詐欺(窃盗)」とは、「オレオレ詐欺等の手口で被害者に接触し、被害者の隙を見てキャッシュカード等を窃取する窃盗をいう」とされ、最近の本手口の急増が反映された形となります。その特殊詐欺(詐欺・恐喝)については、認知件数は6,632件(8,196件、▲19.1%)、被害総額は125.7億円(178.8億円、▲29.7%)と、特殊詐欺全体の傾向に同じく、認知件数・被害総額ともに大きく減少する傾向が続いています(なお、、検挙件数は2,429件(2,484件、▲2.2%)検挙人員は1,147人(1,289人、▲11.0%)とやはり同様の傾向となっています)。また、特殊詐欺(窃盗)の認知件数は1,393件(564件、+247.0%)、被害総額は20.3億円(7.1億円、+285.9%)、検挙件数は511件(148件、+345.3%)、検挙人員は135人(53人、+254.7%)と、正に本カテゴリーが独立した理由を数字が示す形となっています。

    類型別の被害状況をみると、まずオレオレ詐欺の認知件数は3,570件(4,561件、▲21.7%)、被害総額は35.8億円(69.0億円、▲48.1%)と、認知件数・被害総額ともに大幅な減少傾向が続いています(なお、4ヶ月前に増加傾向から一転して減少傾向に転じて以降、ともに大幅な減少傾向が続いています。なお、検挙件数は1,510件(1,631件、▲7.4%)、検挙人員は781人(926人、▲15.7%)となっています)。また、架空請求詐欺の認知件数は1,722件(2,461件、▲30.0%)、被害総額は43.3億円(56.2億円、▲23.0%)、検挙件数は665件(543件、+22.5%)、検挙人員は308人(278人、+10.8%)、融資保証金詐欺の認知件数は138件(218件、▲63.3%)、被害総額は1.9億円(2.6億円、▲73.1%)、検挙件数は52件(95件、▲45.3%)、検挙人員は9人(15人、▲40.0%)、還付金等詐欺の認知件数は1,157件(850件、+36.1%)、被害総額は14.0億円(10.7億円、+30.8%)、検挙件数は163件(126件、+29.4%)、検挙人員は12人(24人、▲50.0%)となっており、特に還付金等詐欺については、認知件数・被害総額ともに減少傾向となっていたところから、一転して大幅に増加しており、今後の動向に注意する必要があります。なお、それ以外の傾向としては、特殊詐欺全体の被害者の年齢別構成について、60歳以上87.2%・70歳以上74.1%、性別構成については、男性23.9%・女性76.1%となっています。参考までに、オレオレ詐欺では、60歳以上98.2%・70歳以上94.0%、男性13.4%・女性86.6%、融資保証金詐欺では、60歳以上41.4%・70歳以上14.8%、男性77.3%・女性22.7%などとなっており、類型別に傾向が異なっている点に注意が必要であり、前回の本コラム(暴排トピックス2019年7月号)で紹介した警察庁「今後の特殊詐欺対策の推進について」と題した内部通達で示されている、「各都道府県警察は、各々の地域における発生状況を分析し、その結果を踏まえて、被害に遭う可能性のある年齢層の特性にも着目した、官民一体となった効果的な取組を推進すること」、「また、講じた対策の効果を分析し、その結果を踏まえて不断の見直しを行うこと」が重要であることがわかります。また、犯罪インフラの検挙状況としては、口座詐欺の検挙件数は417件(661件、▲36.9%)、検挙人員は255人(358人、▲28.8%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は1,073件(1,264件、▲15.1%)、検挙人員は886人(1,025人、▲13.6%)、携帯電話端末詐欺の検挙件数は144件(145件、▲0.7%)、検挙人員は106人(117人、▲9.4%)、携帯電話不正利用防止法違反の検挙件数は29件(20件、+45.0%)、検挙人員は22人(21人、+4.8%)などとなっています。

     関連して、特殊詐欺の被害が社会的に大きな問題となっていることを示すものとして、国民生活センターの集計から「PIO-NETにみる消費生活相談」の状況について紹介してます(なお、PIO-NET(パイオネット:全国消費生活情報ネットワークシステム)とは、国民生活センターと全国の消費生活センター等をオンラインネットワークで結び、消費生活に関する相談情報を蓄積しているデータベースのことをいいます)。

    ▼国民生活センター 2018年度のPIO-NETにみる消費生活相談の概要
    ▼2018年度のPIO-NETにみる消費生活相談の概要

     その結果によれば、2018年度の相談件数は991,575件と、2017年度(941,341件)に比べて5.3%増加、主に「架空請求」の増加が影響していると分析されています。その「架空請求」の相談は、2012年度から再び増加傾向にありますが、法務省等の公的機関をかたる架空請求のハガキに関する相談が2017年度より増加している影響で、2018年度は22.6万件と大きく増加しています。また、「架空請求」の相談は、50歳以上の女性に多くみられたということです。なお、70歳以上の相談の割合は、2018年度は24.7%と過去10年間で最も高くなったのが特徴ですが、その背景には、60歳代、70歳以上の割合が近年増加している一方、20歳未満、20歳代、30歳代、40歳代、50歳代の割合が減少している状況があります。また、2017年度と比較して、電話勧誘・訪問販売による電力会社の切り替え等のトラブルがみられる「電気」、通常価格より安い価格で購入したところ、実際は定期購入だったといったトラブルがみられる「化粧品」「健康食品」、暗号資産(仮想通貨)等に投資すれば利益が得られるなどと勧誘される「ファンド型投資商品」において相談件数の増加が目立っています。さらに、「通信販売」に関する相談の全体に占める割合は29.9%と、2013年度以降、販売購入形態別で最も高く、「インターネット通販」に関する相談が多くみられたこと、「訪問販売」「電話勧誘」「ネガティブ・オプション」「訪問購入」は70歳以上の相談が多く、「マルチ取引」では20歳代の相談が多かったこと、契約購入金額は合計金額4,281億円、平均金額110万円であり、既支払金額は合計金額1,492億円、平均金額42万円となり、2017年度に比べ合計金額、平均金額ともに減少しこと、販売方法・手口別にみると、増加傾向にある「サイドビジネス商法」「利殖商法」のほか、「マルチ取引」で、投資や情報商材など儲け話に関する相談がみられることなども特徴だといえます。

     続いて、消費者庁や国民生活センターから最近発表されている詐欺等にかかるいくつかの事例について、注意喚起や社内研修等の活用の意味から以下に紹介します。

    ▼消費者庁 SMSを用いて未納料金の名目で金銭を支払わせようとする「日本通信株式会社をかたる架空請求」に関する注意喚起
    ▼SMSを用いて未納料金の名目で金銭を支払わせようとする「日本通信株式会社をかたる架空請求」に関する注意喚起

     本手口は、消費者の携帯電話に「ご利用料金のお支払い確認が取れておりません。本日中に〇〇-〇〇〇〇-〇〇〇〇日本通信(株)お客様センター迄ご連絡ください」などと記載したSMS(ショートメッセージサービス)を送信するとともに、SMSに記載された電話番号に連絡してきた消費者に対し、「現在、裁判の手続中ですが、すぐに支払えば裁判手続を止められます」などと告げ、虚偽の利用料金を、前払式電子マネーのIDを連絡させるという方法で支払わせようとするものです。消費者庁が調査したところ、「日本通信株式会社」をかたる事業者について、「消費者の利益を不当に害するおそれがある行為(消費者を欺き、又は威迫して困惑させること)を確認したため、消費者安全法(平成21年法律第50号)第38条第1項の規定に基づき、消費者被害の発生又は拡大の防止に資する情報を公表し、消費者の皆様に注意を呼びかける」としています。なお、同事業者については、消費者庁の調査によれば、送信するSMSで、「日本通信(株)お客様センター」、「日本通信(株)サポートセンター」などと称しており、いずれも「日本通信(株)」を含む名称を用いているものの、その実体は不明であり、実際のところ、商業登記上、「日本通信株式会社」は複数実在するものの、これらの会社が上記の行為の一部にでも関与したという事実は確認されていない(消費者を欺く行為)といいます。さらに、全国の勧誘事例において同事業者が消費者にかたった所在地及びSMSに記載された電話番号を調査しても同事業者の特定には至っておらず、その実体は不明だということです。そのうえ、同事業者は、「この電話を切ってしまうと裁判手続が進んでしまいます」、「警察の嫌疑がかかっています」等の文言を用いて消費者を不安に陥れ、執ように動画サイトの利用料を支払うよう要求するものの、同事業者が消費者に告げた動画サイトはそもそも実在せず、未納料金も存在しなかったことが確認されているということです(消費者を威迫して困惑させる行為及び消費者を欺く行為)。このように、詐欺には正に「実体」がないまま「実態」を偽る「ペーパーカンパニー」が使われていることがよく分かるものと思います。法人であれ個人であれ、「身に覚えのない請求をされる」など疑わしい状況に遭遇しても、冷静にその請求内容の根拠や、請求元の実在性や正当性などを慎重に確認したうえで判断していくことが大事だということになります。本件をふまえ、消費者庁は、消費者へのアドバイスとして、「実在する日本通信株式会社は、本件とは全く無関係であり、SMSで未納料金を請求することはない。慌てて連絡をしないこと。身に覚えのない金銭を執ように請求される」、「前払式電子マネーを購入してそのIDを連絡しろというのは典型的な詐欺の手口。絶対に応じないこと。一旦支払うと、お金を取り戻すことは極めて困難」、「このようなSMSや電話での身に覚えのない請求に「おかしいな」と思ったら、各地の消費生活センター等や警察に相談を」、「消費生活センター等では、消費者から相談を受け、トラブル解決のための助言や必要に応じてあっせんを無料で行っている(ので相談を)」などと呼びかけています。

    ▼国民生活センター 友だちから誘われても断れますか?若者に広がる「モノなしマルチ商法」に注意!

     前述のとおり、マルチ商法の相談では、健康食品や化粧品などの「商品」に関する相談が多くみられますが、近年、ファンド型投資商品や副業などの「役務」に関する相談が増加しており、2017年度・2018年度は「商品」より「役務」の相談が多くなっているということです。こうした「役務」のマルチ商法(以下、「モノなしマルチ商法」)の相談は特に20歳代・20歳未満の若者で増加しており、友人やSNSで知り合った人などから、暗号資産(仮想通貨)や海外事業等への投資やアフィリエイトなどの儲け話を「人に紹介すれば報酬を得られる」と勧誘され契約したものの、事業者の実態や儲け話の仕組みがよく分からないうえ、事業者に解約や返金を求めても交渉が難しいというケースが多くみられるようです。具体的な事例として、同サイトでは、「中学時代の友人からいい話があるから会わないかという電話があり、レストランで会った。別の勧誘者も同席し、「海外の不動産に投資をすれば仮想通貨で配当があるので、消費者金融で借金をしても埋め合わせができる。投資者を紹介すれば紹介料を受け取ることができるので、借金の返済は簡単だ」と説明を受けた。学生だと借金できないので結婚式の費用として借りるように指示され、消費者金融4社から総額約130万円を借金して、代金を友人に手渡した。しかし、契約書面や領収書は受け取っておらず、セミナーにも参加したが投資の仕組みの説明は全くなかった。友人に解約の連絡をしたところ、半額しか返金できないと言われた」、「マッチングアプリで知り合った男性に勧誘され、株の勉強会に入ったが、儲からない」、「カフェで知り合った人に仮想通貨のウォレットのアフィリエイトを勧誘された」といったものが紹介されており、その問題点として、(1)契約のきっかけは友人・知人からの誘い、(2)人を紹介すれば報酬を得られることばかり強調されるが、儲け話の実態はよく分からない、(3)友人・知人から勧誘されると断りにくい。借金をしてまで契約するケースも、(4)解約や返金を求めようとしても連絡先が不明確で交渉が困難、といった点を指摘しています。その対策・対応としては、当然のことながら、「実態や仕組みが分からない「モノなしマルチ商法」は契約しない」こと、「友だちや知り合いから勧誘されても、きっぱりと断る」こと、「安易にクレジットカードでの高額決済や借金をしない」こと、「不安に思った場合やトラブルになった場合は消費生活センター等に相談を」ということになります。手口としては「若者をターゲットとしている」点がポイントであり、友人関係を上手く使い、十分な知識がないといった点を突いて成功率を高めているといえます。

    ▼国民生活センター “ニセ”消費生活センターを案内する新手の架空請求の手口にご注意!

     前述した事例は請求元が架空の事業者だったものですが、あろうことかニセの消費生活センターを案内され、「お金を支払うように」とウソの助言をされるという新手の架空請求の手口に関する相談が、国民生活センターに寄せられているといいます。具体的には、「SMSに「利用料金の支払いがない。お客様センターに相談するように」というメッセージが届いた。記載された番号に電話をかけると、大手信販会社Aを名乗り、「有料コンテンツの未納料金があり、債権回収の委託を受けた。30万円を支払うように」と言われた。心当たりはなかったので「国民生活センターに相談する」と伝えたところ、「その窓口は、今の時間は相談を受け付けていない」と言われ、居住地の自治体の消費生活センターだという電話番号を案内された。電話をかけて経緯を説明すると、「その請求は確かにAからのものなので、支払う必要がある」と言われ、指示されたとおりにプリペイド型電子マネーで30万円を支払ってしまった。その後、Aを名乗る業者から再度電話があり、「さらに2つの有料コンテンツの未納が見つかった。総額50万円を支払うように」と言われ、怪しいと気付いた。案内された番号は、自治体の消費生活センターの番号ではなく、ウソの番号だった」というものです。このような事例に対しては、当然ながら、消費生活センター等への相談は、局番なしの「188(いやや!)」に電話する、不審なSMSやメール、ハガキが届いても絶対に連絡してはいけないといったことが注意点になります。

     特殊詐欺にだまされるメカニズムについては、本コラムでもたびたび取り上げてきたところですが、報道(令和元年8月2日付産経新聞)では、特殊詐欺事件では、高額アルバイトと称して高校生や大学生が犯行グループの末端で現金を受け取る実行役に勧誘され、軽い気持ちで犯行に加わってしまうケースが目立つことをふまえ、保護者が子供の異変に気づくことが歯止めとなるが、そのためには日常的に家庭内のコミュニケーションを円滑にしておくことが肝心だと指摘しています。最近では、不良仲間など人づてによる勧誘に加え、SNSで「裏バイト」などと称し、仕事内容を明かさずに高額の報酬をちらつかせて募集する事例も目立ってきていますが、それとて本来は「怪しい」と本人が気づくことが重要であり、そのための「知識」や「常識」を高校生や大学生にどう定着させるかが大きな課題だといってよいと思います(直近では、インターネットバンキングに不正アクセスして得た現金を、自分の口座に送金させたとして、電子計算機使用詐欺などの疑いで、男子大学生(19)を逮捕、18~19歳の男子大学生4人を書類送検しています。報道によれば、5人は振り込まれた金を別の口座に移す役割で、「知らない男に楽に稼げるバイトだと誘われた。非合法な金と分かっていた」と供述しているといい、「知識」はあっても「常識」に基づく正しい行動に結びついていない実態、その定着の難しさを痛感させられます)。報道の中にもあるように、「いったん犯行グループに足を踏み入れてしまうと抜け出そうとしても脅迫を受け、脱退が難しくなる恐れもある」、「約束された報酬が支払われないことも多い」といった情報とあわせ、その誘いに乗っても、高額な報酬など得られず「割に合わない」結果となると教育していくことも重要です。また、特殊詐欺被害者には「自分はだまされるはずがない」との思い込みによって「確証バイアス」(思い込み等によって、都合のよい情報だけ集め、都合の悪い情報は遮断するような傾向)がかかっていることが多いことは、本コラムでも紹介してきましたが、急に身に覚えのない請求や身内の窮地といった情報が入り、「焦りを覚えると、平素なら普通にできていることができなくなる」という点も知っておくべきことだと思います。それによって、「犯行の手口を知っていても考えが及ばなくなり、犯人がいう方法以外の対処策を見つけられない状況」に追い込まれ、「確証バイアス」によって、さらに拍車がかかるというネガティブ・スパイラルに嵌ることになります。このようなネガティブ・スパイラルを断つ方法として最近注目されているのが、「留守電に録音し、スピーカーで聞くこと」だといいます。渦中に直接耳に情報を届けるのではなく、自分のペースでスピーカーを通して録音を聞くことで冷静な判断が可能になるといい、それに加え、録音設定にしておくことで、犯人側からみれば証拠が残ることから録音を嫌う傾向にあることから、そもそものアプローチを遮断することにも有効だといえます。やはり、「防犯対策を多重化することでリスクを下げられる。人はだまされるものだと自覚し、過信に陥らないようにすることが出発点だ」といえると思います。

     その他、最近の特殊詐欺を巡る報道から、いくつか紹介します。

    • 前述した高齢者の隙を見てキャッシュカードが入った封筒を偽物とすり替えて奪う「カードすり替え詐欺盗」について、大阪府警が、犯行道具一式を写した画像が見つかったことを明らかにしています。特殊詐欺グループの「受け子」とみられる男を詐欺未遂容疑で現行犯逮捕し、押収したスマホに画像が記録されていたもので、時間がたつと消える時限式のアプリで、指示役に画像を送信していたといいます(アプリ自体の犯罪インフラ化の実態が垣間見えたといえます。さらに、特殊詐欺グループは、水溶性のメモを利用するなど証拠を隠滅させることには相当の工夫をしている実態があります)。報道(令和元年8月1日付毎日新聞)に具体的な写真が掲載されていますが、画像にはキャッシュカードを入れる茶色と白色の封筒、偽の身分証を入れるパスケース、本物のキャッシュカードとすり替えるために用意したポイントカードなどが写っており、男は画像を送信して「これでよろしいでしょうか」などと指示を仰ぎ、「了解です」と返信をもらっていたということです。さらに、カードをすり替えて奪う犯行手順を記したメッセージも見つかっており、「すり替えの手順について」と題したメッセージには「○○警察△△の件で伺いました」「封入作業を行わせていただきます」というセリフや、封筒にカードを入れる手順が記されていたといいます。
    • 特殊詐欺の実行犯役の募集がツイッター上で行われるケースが増えていることを受けて、愛知県警は、こうした募集の投稿に直接返信し、警告する取り組みを始めています。報道によれば、警察の取り組みとしては全国初だということです。ツイッターの投稿内容には、「受けの仕事。初心者でも1件成功20万円」「ブラックバイト日給10万円」など特殊詐欺の実行犯役の募集をにおわす投稿が1日1,000件ほど確認されており、このような投稿に対して、「こちらは愛知県警察ですが。このツイートは、詐欺の実行犯を募集する不適切な書き込みのおそれがあります。詐欺罪は10年以下の懲役です!・・・「1回だけなら」「絶対バレない」という思いが、あなたの人生を台無しにします!」といった内容で返信・警告するもので、その実効性が注目されます。
    • 区役所などをかたって「還付金がある」とだまし、携帯電話で指示してカネを振り込ませる還付金等詐欺対策のため、東京都足立区はATMコーナーで携帯電話の通話を遮断する装置の運用を始めています。本コラムでも紹介しているとおり、すでに金融機関などによる導入例はありますが、行政が導入するのは全国初だということです。物理的に携帯電話を使わせないことで、被害を少なくすることができる即効性・実効性の高い方法なだけに(コストはかかるものの)行政も積極的に導入をすすめていただきたいものだと思います。
    • 不特定多数の相手にメールなどを送りつけたり、家族をかたったりする手口で金をだまし取る特殊詐欺被害の防止に向けて、東京都は、無料通信アプリのLINEと連携協定を締結しています。報道によれば、全国の自治体で初めての取り組みだといい、公式アカウント「特殊詐欺対策・東京都」を開設、啓発や情報発信を行うということです。公式アカウントではAI(人工知能)を使い、請求書のはがきを撮影・送信するだけで架空請求かどうかを判定、前日の被害額や、アポ電(犯行予兆電話)が確認された地区の一覧も表示できるといった内容となっています。
    • 横浜信用金庫とNTT東日本神奈川事業部は、AIを使ってATMでの振り込め詐欺を未然に防ぐ実証実験を始めると発表しています。カメラや音声検知システムを使って、利用客が振り込め詐欺に遭遇しているか判定するもので、不審な場合は店舗への警告通知やATM画面での注意喚起などを通じて詐欺被害を未然に防ごうとするものです。リリースによれば、(1)AI カメラによる映像監視システムとして、「ATM をご利用するお客様の映像から、振り込め詐欺に遭っている可能性をAIにより判定。不審な場合はアラームにより店舗に通知」する、(2)クラウド音声検知による音声監視システムとして、「ATM をご利用するお客様の発話から、振り込め詐欺に遭っている可能性をAIにより判定。不審な場合はアラームにより店舗に通知すると同時にディスプレイにて警告を表示」する、というものです。
    ▼横浜信用金庫 AIカメラと音声検知により振り込め詐欺を未然に防止 ~ATM コーナーにおける振り込め詐欺対策実証実験の実施~
    (4)暗号資産(仮想通貨)を巡る動向

     暗号資産を巡る動向では、現在、米FB(フェイスブック)が発行を計画している「リブラ」に関する議論が相変わらずホットです。前回の本コラム(暴排トピックス2019年7月号)でも、そのインパクトや課題について、以下のように指摘しました。

     規模が大きくなれば、当然ながら通貨の秩序を揺さぶりかねないインパクトを秘めており、その破壊力の大きさから、各国当局は早くも消費者保護やマネー・ローンダリングへの対応などけん制の声を上げ始めています。そもそもこれだけの圧倒的な経済圏が成立すれば、売り買いや送金の記録が特定企業に握られ、利用されることへの不安もあり、FBは大量の個人情報が外部流出するなど情報管理の甘さが批判されてきたもの事実です。さらに、「リブラ」への規制の緩い国では、マネー・ローンダリングやテロ資金供与の温床になりかねない危険性も孕んでいます。さらに、暗号資産の規制については世界に先駆けて導入・運用してきた日本においても、「リブラ」はこれに該当しない可能性があるとさえいわれており、何らかの規制の必要性が感じられるところです。なお、これらについては、「銀行口座をもたない新興国の人々などに向けてもビジネスの機会を開く。技術革新とグローバル化を背景とする、まさに21世紀型の金融インフラとなりうる。それゆえに国や業態ごとに細分化された従来の制度や規制の枠におさまりにくいのも事実だ。利用者そして広く経済や社会の安全性を保つため、各国が連携して課題を洗い出す必要がある。国境をまたぐ金融取引が容易になれば抜け穴も増える。対面でも難しい本人確認をどう徹底するかは大事な課題だ」(令和元年6月25日付日本経済新聞)との指摘があり、極めて示唆に富むものだといえます。そして、このような状況だからこそ、利便性とリスクを慎重に見極め、新たなルールの構築に向けて各国と連携して対処してくことが極めて重要だといえます。

     以下、前回に引き続き、「リブラ」を巡るさまざまな懸念の声や動向について、報道等から拾ってみます。

    • まず、当事者であるFBのマーク・ザッカーバーグCEOは、「私たちは、安全で安定し、十分に規制されたものを提供しようとしている」と述べて、世界各国の規制当局から安全性などへの懸念が相次ぐなか、当局への協力姿勢を示しています。同氏は「写真を送るのと同じくらい簡単にお金を送ることができることは、新しいビジネスの機会を切り開くだろう」とも述べ、(さまざまな声がある中)「リブラ」発行に意欲を見せています。
    • 日本の金融庁は、「リブラ」をどう規制していくべきか頭を悩ませているようです。価格を安定させる仕組みを持つ「リブラ」は、思惑次第で価格が急変動する従来の暗号資産とは異質な存在であるうえ、約27億人のFB利用者に一気に広がる可能性があり、不正使用などのリスクもかなり大きなものとなりかねない懸念があることなどがあげられます。報道によれば、金融庁内では「既存の法制での対応は無理」との声も上がっており、既存業態とは別物として各国と連携しながら規制を構築していくことになるものと想定されているようです。なお、三菱UFJフィナンシャルグループが独自のデジタルコインを実用化する方向ですが、こちらは「1コイン=1円」を保証することから、やはり法律上は暗号資産として扱われないと考えられており、「リブラ」は暗号資産とMUFJコインの間に位置付けられるともいえそうです。どちらにせよ、新たな国際的な規制の枠組みが必要となるという意味では、「リブラ」のもつ拡がりの大きさをふまえればマストかと思います。
    • 英国の情報保護当局にあたる情報コミッショナー事務局(ICO)は、欧米など6カ国・地域の当局と連名で「リブラ」のプライバシーについて懸念を表す声明を発表しています。利用者が世界に広がる金融サービスとなる可能性があるなか、個人情報の扱いについて明確な方針を示すよう求めています。今回の共同書簡にはICOのほか、EU、米連邦取引委員会(FTC)がメンバーに入っているほか、アルバニア、オーストラリア、カナダ、ブルキナファソの情報保護当局も名を連ねています。
    • 暗号資産交換業で、インターネットに接続した状態で顧客資産を預かる「ホットウォレット」からの不正流出が続いていますが、そもそも暗号資産は銀行口座と異なり、他の口座に移す際のセキュリティが弱い特性があります。したがって、「リブラ」も暗号資産技術を多用する想定で、流出の懸念は拭えないことになります。報道によれば、運営団体のリブラ協会は「リブラ」の流通を、認定した暗号資産交換業者などに委ねる方針であり、業者は顧客資産を預かったり、販売用の在庫を抱えたりする場合にはホットウォレットに保管する必要が出てくることになります。「リブラ」で不正流出事案が発生すれば、影響が桁外れに大きくなる可能性も否定できず、このあたりのセキュリティ上の課題を今後どう解決していくかも重要なテーマとなります。
    • 「リブラ」や暗号資産への対応についての井上哲也氏の論考(令和元年7月30日付ロイター)では、「世界的な保護主義の下でのサプライチェーンの再構築や、貿易摩擦が金融摩擦に転化する可能性も考えると、一部の新興国にとっては新システムの構築は最終的なオプションとなり得るだろう。主要国の当局は、新たな試みを一方的に排除し、結果として監視や制御が難しい地域や領域で新たな決済システムが構築されるような事態を招くことは避けなければならい。そのためには、新たな「通貨」となりうる仕組みを念頭に置いて、最低限順守すべき原則(ミニマム・スタンダード)を導入するとともに、新興国政府やそうした取り組みを企画している当事者と密接な対話を行うことによって、新たな試みを「取り込む」ことの方がより重要と思われる」、「情報技術の発展に伴うコストの顕著な低下や分析の高度化といったメリットを活用する上では、既存の銀行よりも、顧客の取引情報の高度な活用によって収益を上げるビジネスモデルを確立した非金融業からの新規参入者が優位であるように見える。「通貨」発行に伴う収益性の点から見れば、リブラにしても、準備資産の運用益よりも、取引や利用者情報を蓄積して分析し、その成果を別のサービスで活用することに主眼があるものと推察される。リブラの場合、皮肉なことにフェイスブックの過去の対応と結びつく形で個人情報の扱いが懸念材料になっているが、一般的には、個人情報の活用を一律に禁止するのでなく、適切なルールの下で有効活用する可能性が存在するはずである」などと示唆に富む指摘がなされています。
    • 「リブラ」や暗号資産とスイスの独自の立ち位置に関する三井美奈氏の論考(令和元年8月11日付産経新聞)も大変興味深く、「税金が安く、規制が緩いことに加え、「第三者への顧客情報の秘匿」の伝統で世界中から資金を集めてきたが、近年は「マネー・ローンダリングや脱税の温床」と批判を浴び、国際圧力に押されて情報開示を迫られた。銀行の「安全神話」崩壊で資金流出の動きが出始め、スイスは「次の手」を繰り出す必要に迫られた。リブラは「金融システム外に置かれ、銀行口座を持たない17億人」を視野に入れる。発行を始めれば、スイスが名実ともに仮想通貨の世界的中心地となるのは間違いない。スイスは、国際規制の先手を打ち、独自のルールを定めることで仮想通貨取引のつなぎとめを狙う。昨年2月にはICOのガイドラインを策定。金融機関向けのマネー・ローンダリング防止法を援用する仕組みを作った。スイスがあえて独自の道をたどるのは、歴史的な中立国で、世界中のNGOが集まる国柄にも起因する。仮想通貨には、貧困層支援への期待も大きい。仮想通貨への国際規制が強まれば、スイスは先手先手で圧力をかわし、イタチごっこが続くだろう。アルプスの小国はしたたかに生き残り策を探っている」との指摘は独自のスタンスを貫いてきたスイスの狙い等がよく分かり、大変示唆に富む内容だと思います。
    • 「リブラ」に限定されたものではありませんが、ベラルーシなどの小国が暗号資産のハブを目指す動きとして、「ロンドンやニューヨークといった主要金融センターは、伝統的な金融サービスの規制を暗号資産セクターにも適用しており、安全性を求める大手機関投資家には魅力的かもしれない。しかし暗号資産スタートアップ企業の多くは、法令順守の複雑さやコストの高さによって参入を阻まれる場合がある。逆にセーシェルやベリーズなど規制が緩い法域なら、市場アクセスはずっと簡単だ。しかし、こうした場所は投資家への保護措置が少なく、マネー・ローンダリングの監視も甘い。こうした中、ベラルーシ同様、バーレーン、マルタ、英領ジブラルタルなど暗号資産産業に新規参入している国や地域は、第3の道を提供しようと目論んでいる。暗号資産特有の規則を作って規制面の安全性を確保するとともに、税制優遇などのメリットを提供して企業を誘致しようとしているのだ」との報道(令和元年7月31日ロイター)もまた興味深いといえます。一方で、中国人民銀行(中央銀行)決済局次官が、中国が独自の暗号資産発行に向け「ほぼ用意が整った」と明らかにしたという点も気になるところです。さらに、(そもそも暗号資産を否定してきた中国ではありますが)暗号資産の発行は中国人民銀行と金融機関による「二層構造」を採用する見通しとした上で、ブロックチェーン(分散型台帳)技術は中国での取引高への対応が困難であるため、同技術のみに依存することはないとも語ったようです。

     その他、暗号資産を巡る国内外の動向から、いくつか紹介します。

      • 暗号資産のマネー・ローンダリング対策で国際連携が動き出すとする報道がありました(令和元年8月9日付日本経済新聞)。FATFが送金時の個人情報を共有できるシステムを検討し、マネロンやテロ資金供与といった悪用の防止につなげ、暗合資産を国家的に管理していない国が多いなか、国際的な連携で犯罪対策を進めるというものです。新システムはSWIFT(銀行の決済において国際金融取引の内容をコンピューターと通信回線を使って伝送する国際銀行間通信協会システム)を参考に検討し、実際に整備や運用をする企業や団体などに参加を呼びかけ、顧客の口座番号や住所などの情報を即時に共有し、当局も把握できるようにするものとなりそうです(新システムの開発は日米欧のG7やオーストラリア、シンガポールなど約15カ国が中心となり、日本も財務省や金融庁などが積極的に関わるということです)。暗号資産の取引の流れをつかみ、不正を迅速に把握して対処できるようにすることが期待されることから、今後の動向に注目したいと思います。
      • 前回の本コラム(暴排トピックス2019年7月号)でも紹介した約30億円の暗号資産が不正流出した交換業者ビットポイントジャパンは、9カ月前の昨年10月に外資系のセキュリティ会社から、匿名性の高いネット空間「ダークウェブ(闇サイト)」で、不正アクセスの対象の一つとして名指しされているとの指摘を受けていたことを明らかにしています。同社は、「実際の攻撃と関連があったかは不明」としていますが、当時はセキュリティ対策は十分と考えており、詳細は聞かなかったようですが、結果論とはいえ、謙虚に指摘を受け止めていれば、事前に何らかのアクションを講じられた「かも」しれません。セキュリティ対策に「完璧」はなく、一方でどこまでやればよいかの「際限」もなく、セキュリティ対策にどう向きあうべきかを考えさせられます。なお、同社は、不正流出が発生したことに伴う特別損失が約36億7,000万円になる見通しだと発表しています。2019年9月中間連結決算に計上、2020年3月期の業績予想については「適切かつ合理的な算定が困難」として公表していません。
      • 暗号資産や海外事業への投資をめぐるマルチ商法について、10~20代からの相談が増加しています。友人やSNSで知り合った人から勧誘され契約したものの、事業者やもうけ話の仕組みの実態が不明なため、解約・返金の交渉が難しいケースが多いとして、国民生活センターが注意喚起しています。
      • 経済的困窮が続くイランで暗号資産「ビットコイン」ブームが過熱しているといいます。とりわけ、モスク(礼拝所)の電力料金が無料のため、イランのビットコインのマイニング事業者がモスクに拠点を移しているとの指摘もあるようです。そもそもイランでは暗号資産の取引は違法ですが、1年前は米国の経済制裁への対抗手段として「暗号資産を国の通貨として扱う」との方針を示していました。この方針を1年もたたずに制限を設けること自体、何か深刻な事態が起きている可能性(つまり、それだけ国民の困窮度合いが深刻化しており、指導者の指導力の低下の現実があるなど)もがうかがえます。
    (5) テロリスクを巡る動向

     報道(令和元年8月9日付朝日新聞)によれば、米国防総省の監察官室が、ISについて、シリアで「復活してきている」との報告書をまとめたということです。ISについては、本コラムでも「リアルIS」から「思想型IS」へ、そして「リアルIS」復活の動きについて取り上げています。具体的には、インドに「州」の設立を主張して、今年5月10日に声明を出しインド軍を攻撃したとも明らかにしたことや、同4月29日には、約5年ぶりに最高指導者アブバクル・バグダディ容疑者だとする動画を公開したことなどの動きから、組織の衰退が進むなか、インドでの「支配領域」の保持を宣言し、影響力を誇示する狙いがあると考えられます。またISは、声明でインドを「ヒンド州」と表現、北部のカシミール州でISの戦闘員がインドの「背教者の軍」と交戦し、殺害、負傷させたとする報道もあり、以前の暴排トピックス(2019年6月号)では、「インドでの「支配領域」の主張は初めてであり、具体的な地域や、実際に組織化されているかは不透明であり、今後の動向を注視する必要があります」と指摘しました。その後、ISは、パキスタンに「パキスタン州」の設立をも宣言しています。活動拠点としたイラクとシリアで続く掃討作戦で追い込まれる中、「南アジア」全体での影響力を誇示する狙いがあると考えられます。このような動きがある中、米国防総省の報告書では、ISはイラクとシリアで多くの支配領域を失ったにもかかわらず、イラクでは戦闘能力を強化し、シリアでは勢いを盛り返していると指摘したということであり、その背景には、両国の現地部隊が長期的な作戦や複数の作戦を同時にできず、ISはその弱点につけ込んでいる構図があるといいます。これまで米軍はシリアに地上部隊を派遣し、少数民族クルド人を中心とする「シリア民主軍」(SDF)を支援してきましたが、昨年12月にトランプ大統領が米軍の全面撤退を発表したものの、国内外の反発を受けて一部残留継続を発表、3月にはISの「完全制圧」を宣言するといった流れとなっています。2016年に日本がG7 伊勢志摩サミットにおいて取りまとめた「テロ及び暴力的過激主義対策に関するG7 行動計画」等においては、(1)テロ対処能力向上、(2)テロの根本原因である暴力的過激主義対策及び(3)穏健な社会構築を下支えする社会経済開発のための取組から成る総合的なテロ対策強化がうたわれましたが、テロ発生のメカニズムをふまえれば、(1)や(2)の側面だけで対策は完了せず、(3)すなわち、「人心と国土の荒廃は政情不安だけでなくテロの温床ともなる」ことへの対策も極めて重要だといえます。社会経済的な側面からのアプローチによってテロを封じ込める、社会経済的な精神面・経済面での充足感が人々の「疑心暗鬼」や「憎悪」、「亀裂」「分断」を和らげ、テロ発生の「芽」を摘んでいくといった取り組みがあわせて行われない限り、このような「隙」を突かれることになりかねないということがよく分かります。そして、本コラムでたびたび指摘しているとおり、この部分こそ、日本が国際社会におけるテロ対策において活躍できる領域として今後、力を入れていくべきだと思います。

     さて、日本のテロ対策について考える中、最近、「選択」(2019年8月号)誌に「原発テロ対策」と題するレポートが掲載されており、大変興味深く読みました。本コラムでも以前紹介した「特定重大事故等対処施設」(特重)と呼ばれる原発のテロ対策施設について、原子力規制委員会は、5年間の設置猶予期限までに完成しない場合、原発の運転停止を命じる判断をしました。さらに、同委員会は「未知の活断層による地震」「警報発令がない津波」「想定を超える火山灰」などの対策を、最近相次いで要求し、安全審査のハードルを引き上げている実態があります。同誌はその状況を、原子力規制委員会が「電力会社に青天井の安全対策工事を強いることで自らの保身としている」、「原発を動かすのではなく、動かせなくすることを自らの存在証明としている」と厳しく指弾しています。その是非はともかく、そもそもの原発のテロ対策においては、専門家の「原子炉を守るには特重よりも、原発周辺にポールや風車を林立し、航空機衝突を防ぐ方が現実的」との意見はもっともであり、「航空機衝突は不可能ということが知れ渡れば、これらの障害物がテロの抑止力になる」、「もっとも、障害物を事前に破壊しようと特殊部隊が上陸してくることは十分想定される」、「(自衛隊も)原発が攻撃されて初めて出勤するこということであり、自衛隊に原発警護の任務があるわけではない」、「(特重の位置、規模、形状はすべて機微情報であるにもかかわらず)機微情報は野党にも漏えいしており、「機微情報が北朝鮮へ渡れば、特重は特殊部隊に狙われ、また弾道ミサイルの標的にもなりかねない」、「電力各社が一千億円超を投じて建設を急ぐ特重施設が、逆にテロ・戦争の誘引になるとしたら、これほど愚昧な話はない」と続けて厳しく指摘します。正にこのようなちぐはぐな状況こそ、日本のテロ対策の実効性のなさ、テロリスクへの認識の浅さを露呈したものであり、官民挙げてテロリスクへの感度と知識、対応力を高めていくことが急務だといえます。

     このように日本ではまだまだテロリスクについて感度が低い状況があるように思われますが、世界のテロ等発生状況をまとめた公安調査庁のサイトがありますので、今年7月から直近の8月18日までの間に世界で発生したテロ等について以下に紹介します。一部報道されたものもありますが、あらためて世界では頻繁に相当規模のテロ等が発生している現実(あるいは、ISやタリバン関係が犯行声明を出しているテロ等がいまだに多い現実)が理解いただけるものと思います。

    ▼公安調査庁 世界のテロ等発生状況より(令和元年7月~8月中旬まで 抜粋)
      • 2019/8/14(水):アフリカ(サハラ以南)・チャド
        チャド西部・ラク州で,女性が地元有力者宅に対する自爆テロを実行し,同国軍兵士1人を含む6人が死亡,多数が負傷。軍関係者は,「ボコ・ハラム」による犯行と指摘
      • 2019/8/14(水):中東・北アフリカ・ソマリア
        ソマリア南部・下シェベレ州アウディーグル(Awdheegle)で,武装集団が,同国軍基地に対する自動車自爆テロを2度実行した後,同基地を襲撃し,兵士少なくとも6人及び従軍記者1人の計7人が死亡,兵士多数が負傷。14日,「アル・シャバーブ」が犯行を自認
      • 2019/8/10(土):中東・北アフリカ・リビア
        リビア東部・ベンガジのショッピングモール前で,自動車爆弾が爆発し,国連職員3人が死亡,同職員3人及び市民複数が負傷。同国治安当局は,同爆発が国連リビア支援ミッション(UNSMIL)の車列を標的とするテロ攻撃と指摘
      • 2019/8/7(水):南西・南アジア・アフガニスタン
        アフガニスタン首都カブールの警察施設前で自動車自爆テロが発生し、民間人を含む14人が死亡、140人以上が負傷。同日、「タリバン」が犯行声明を発出
      • 2019/8/4(日):中東・北アフリカ・エジプト
        エジプト首都カイロで市内道路を逆走していた車両が多重衝突を起こした上、自爆テロを実行し、20人が死亡、47人が負傷。同国治安当局は、イスラム過激組織「ハスム」の犯行と指摘
      • 2019/8/2(金):中東・北アフリカ・イエメン
        イエメン南部・アブヤン州で武装集団が治安部隊の基地を襲撃。数時間の戦闘の末、同部隊員ら少なくとも19人が死亡、多数が負傷。同日、「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)が犯行声明を発出
      • 2019/8/1(木):中東・北アフリカ・イエメン
        イエメン南部・アデン州の警察署で自動車自爆テロが発生し、警察官ら11人が死亡、少なくとも29人が負傷。2日、ISILの「イエメン州」が犯行声明を発出
      • 2019/7/31(水):南西・南アジア・アフガニスタン
        アフガニスタン西部・ヘラート州の幹線道路上で走行していたバス付近で路肩爆弾が爆発し、少なくとも34人が死亡、17人が負傷。犯行主体は不明
      • 2019/7/28(日):南西・南アジア・アフガニスタン
        アフガニスタン首都カブールで大統領選挙(9月28日投票)に向けた選挙活動期間初日である同日、ガーニ大統領が推す副大統領候補の選挙事務所に対し、自動車の爆発や銃撃などが発生し、6時間の戦闘の末、少なくとも20人が死亡、副大統領候補を含む50人以上が負傷。犯行主体は不明
      • 2019/7/27(土):アフリカ(サハラ以南)・ナイジェリア
        ナイジェリア北東部・ボルノ州マイドゥグリ近郊で武装集団が葬儀中の住民を襲撃し、住民21人が死亡。その後、武装集団に対する反撃を試みた住民ら44人が殺害され、少なくとも計65人の住民が死亡、住民10人が負傷。地元当局は「ボコ・ハラム」の犯行と指摘
      • 2019/7/24(水):中東・北アフリカ・ソマリア
        ソマリア首都モガディシュの同市長事務所で女性による自爆テロが発生し、同市行政関係者6人が死亡、同市長を含む多数が負傷。同日、「アル・シャバーブ」が犯行声明を発出
      • 2019/7/25(木):南西・南アジア・アフガニスタン
        アフガニスタン首都カブールで鉱物・石油省の職員送迎バス付近において自爆を含む2度の爆発が発生し、少なくとも8人が死亡、16人が負傷。26日、ISIL(イスラム国)の「ホラサン州」が犯行声明を発出
      • 2019/7/22(月):中東・北アフリカ・ソマリア
        ソマリア首都モガディシュの国際空港付近で同国軍検問所に対する自動車自爆テロが発生し、少なくとも兵士17人が死亡、多数が負傷。同日、「アル・シャバーブ」が犯行を自認
      • 2019/7/22(月):中東・北アフリカ・シリア
        シリア首都ダマスカスのアル・カダム地区で自動車に仕掛けられた即席爆発装置(IED)が爆発し、市民1人が死亡。同日、ISILが犯行声明を発出
      • 2019/7/21(日):南西・南アジア・パキスタン
        パキスタン北西部・カイバル・パクトゥンクワ州デラ・イスマイルカーン郡で病院の救命センター出入口付近においてブルカを着用した女性が自爆し、少なくとも8人が死亡、数十人が負傷。同日、「パキスタン・タリバン運動」(TTP)が犯行声明を発出
      • 2019/7/19(金):南西・南アジア・アフガニスタン
        アフガニスタン首都カブールでカブール大学の出入口付近において爆弾が爆発し、少なくとも8人が死亡、33人が負傷。犯行主体は不明であるが、「タリバン」は犯行を否定
      • 2019/7/18(木):南西・南アジア・アフガニスタン
        アフガニスタン南部・カンダハール市の州警察本部前で自動車自爆テロが発生し、少なくとも12人が死亡、60人以上が負傷。同日、「タリバン」が犯行声明を発出
      • 2019/7/15(月):中東・北アフリカ・イラク
        イラク首都バグダッドのマーリフ地区で自爆テロが発生し、市民2人が死亡、22人が負傷。ISILが犯行声明を発出
      • 2019/7/12(金):中東・北アフリカ・ソマリア
        ソマリア南部・下ジュバ州キスマヨで武装集団が、地元有力者による会合が開催されていたホテルに対する自動車自爆テロを実行した後、治安当局と12時間にわたって銃撃戦を展開し、地元有力者や米国人などの外国人を含む計26人が死亡、56人以上が負傷したほか、武装集団5人が死亡。13日、「アル・シャバーブ」が犯行声明を発出
      • 2019/7/7(日):南西・南アジア・アフガニスタン
        アフガニスタン南東部・ガズニ市で国家保安局(NDS)支局に対する自動車自爆テロが発生し、少なくとも12人が死亡、200人が負傷。「タリバン」が犯行声明を発出
      • 2019/7/1(月):南西・南アジア・アフガニスタン
        アフガニスタン首都カブールで武装集団が、国防省兵站施設に対し爆弾を積載したトラックの大規模爆発を伴う複合攻撃を仕掛け、8時間の銃撃戦の末、少なくとも6人が死亡、100人以上が負傷したほか、武装集団5人が死亡。「タリバン」が犯行声明を発出

     その他、国内外におけるテロを取り巻く様々な状況について、報道からいくつか紹介します。

     愛知県は、県庁内の約40部署に8月6日未明、テロを示唆する脅迫めいたメールが届いたと発表しています。報道によれば、県民安全課など6課に対し、県庁や県外の宗教団体施設など複数箇所に「サリンとガソリンをまき散らす高性能な爆弾を仕掛けた」などと書かれたメールが送られたというもので、「県庁職員らを自動小銃で射殺する」などの文言もあったといいます。また、同じメールアドレスから県企業庁など33部署に対し、個人の名前や住所を羅列して、「射殺する」「国会議事堂、大阪市役所を爆破する」などと書かれたメールも送られたといいます。また、国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」で、元従軍慰安婦を題材とした「平和の少女像」を展示した企画展「表現の不自由展・その後」に脅迫文が届くなどして中止された事件で、愛知県警は、トラック運転手(59)を威力業務妨害容疑で逮捕しています。報道によれば、「間違いない」と容疑を認めているといい、捜査の過程で県内のコンビニが発信元であることを特定。店内の防犯カメラの解析などから容疑者が浮上したということです。
    このように、愛知県だけでなく、日本の全国の自治体でも爆破予告が相次いでおり(ほとんどが愉快犯)、予告を受けて庁舎内の市民らを避難させた自治体がある一方で、パニックが起きるリスクを考慮し、あえて予告内容を周知せず確認作業を優先させた所もあるなど、統一的なマニュアル等がないこともあって、その対応に頭を悩ませている実態があります。「爆破予告」への対応としては、原則的には、万難を排して市民らを施設から避難させるなどして安全を確保することを最優先に考えるべきですが、愉快犯はそのような状況をみて行動をさらにエスカレートさせていく可能性があることや、パニックから避難誘導に失敗して被害を拡大したり損害が生じかねないのも事実であり、ケースバイケースで冷静に判断・対応していくしかありません(その意味では、以前、米国で爆発物を仕掛けたとする脅迫メールが寄せられ、連邦捜査局(FBI)が捜査に乗り出した事件がありました。この事件においては、ロサンゼルス当局は、同市と近郊の学区内のすべての公立学校を閉鎖し、約1,000校の計64万人を自宅待機としましたが、ニューヨーク市警は、当該脅迫メールは信頼に値しないと判断して休校措置をとりませんでした。同一の脅迫行為に対して、極めて対照的な対応がとられたという意味で、危機管理上、大変興味深い事例だといえますが、ニューヨーク市警が、「信頼に値しない」と判断したことは、状況の見極めとあわせ、極めて冷静かつ高度なものだったと推測されます)。いずれにせよ、自治体だけでなく、不特定多数が集まる施設運営管理者などの事業者においても、避難のためのマニュアルの策定と実際の訓練を適宜行いつつ、シミュレーションを数多くこなすことで、判断の合理性や迅速性、柔軟性を積み重ねていくことが、本番で冷静かつ適切な判断を行うためには必要なことだといえます。さらに、愉快犯を含めそのような脅迫行為を絶対に許さず、警察等と連携して業務妨害等で事件化するといった「強い姿勢」を対外的に示していくことは、抑止の観点からも極めて重要です。

     米テキサス州エルパソで20人以上が死亡した銃乱射事件は、移民を標的にした憎悪犯罪(ヘイトクライム)の可能性が高いようです(容疑者が全米の宗教施設や公的機関などを対象とする「標的リスト」を持っていたことが明らかとなり、米連邦捜査局(FBI)は、容疑者が暴力的な思想の影響を受けた可能性があるとみて「国内テロ」として捜査すると発表しています)。さらに、容疑者が「犯行声明」を投稿したとされるネット掲示板が、「憎悪」を増幅させてきたとして非難が強まっています。本件を受けて、当該ネット掲示板は、サイトの維持に必要なサービスを提供してきた企業が掲示板との関係を相次いで解消し、閲覧できなくなっています(なお、今回、問題となっているのは「8chan」という掲示板で、日本の「2ちゃんねる」が原型ともいわれています)。以前から、この掲示板では、白人至上主義など過激なやりとりが匿名で盛んに行われていたということであり、今年3月に発生したNZクライストチャーチ銃乱射テロにおいても容疑者が「犯行声明」を投稿するのに利用していたことがわかっています。(トランプ大統領の移民を巡る発言が「憎悪」を助長しているとの批判もある中)、「憎悪」がテロ発生のメカニズムに深く関与していること、SNSやネットが憎悪犯罪を助長していることを示しているともいえます。米国で相次いだ「銃乱射テロ」については、前述の「伊勢志摩サミットG7行動計画」になぞらえれば、(1)テロ対処能力向上については、銃規制強化(バックグラウンドチェックの強化やヘイトクライムの兆候があれば銃へのアクセスを制限する等)の動きがあるほか、(2)テロの根本原因である暴力的過激主義対策については、適切な法整備やSNS等の事業者の一定程度の協力が欠かせない状況だといえます。なお、この点については、NZでのテロを受けて、今年5月に、各国首脳や大手IT企業トップらが「クライストチャーチ宣言」を採択し、テロを助長する危険思想や暴力的な投稿の拡散防止へ向けた官民協力を確認しました。宣言で各国政府は、テロや暴力的な過激主義に立ち向かい、適切な法整備に努める方針を確認、IT企業側は、テロリストや過激主義者の投稿とネット上での拡散を阻止し、危険な投稿の「即時かつ永久的な削除」を約束する内容となりました。ただ、法的拘束力はなく企業の自主的な取り組みに委ねられている現状に変わりはないことや、IT産業集積国で今回「憎悪」犯罪を防ぐどころか助長した可能性すら否定できない米国や、急速にIT化が進む中国は参加しなかったことなど課題も多いといえます。その米国は「我々はオンライン上のテロ対策を継続する」としながらも、「表現の自由も尊重する」とする声明を発表し、宣言を支持しておらず、今後、ネットのテロ悪用防止に実効性のある仕組みを作るには、米国や中国の関与を促しつつ、議論を継続していく必要があることを再認識させられます(残念ながらその間も銃乱射テロは世界各地で頻発する可能性があり、その状況に対して「表現の自由」や「武装権」を盾に不作為が継続することになることも指摘しておきたいと思います)。

     その他、米国務省が、英領ジブラルタル自治政府が解放したイランの大型タンカーについて、イランからシリアに石油を輸送することで、米国が外国テロ組織に指定したイラン革命防衛隊を支援していたと指摘し、同タンカーの関係者には深刻な結果が待ち受けていると警告する声明を発表しています。声明では、テロ組織である革命防衛隊の支援に関与した船舶の乗組員は、米国への査証の発給拒否や入国禁止の対象になり得るほか、発給済みのビザも取り消される可能性があるといいます。企業にとっては、北朝鮮制裁への対応と同様、米国によるイラン制裁関連についても、AML/CFT(とりわけテロ資金供与対策)の取り組みが求められていることをあらためて認識する必要があります。実務的には、北朝鮮やイラン等の各種制裁リストに対するスクリーニング、サプライチェーンを含めた商流全体の健全性の確保(KYCだけでなくKYCCにまでリスク管理の対象を拡大する)等を通じて、制裁対象や不適切な相手との接点を封じ、取引を阻止していくこと(顧客管理の厳格化)が求められています。

     以前の本コラム(暴排トピックス2019年6月号)で、日本でテロが起こりにくい一方で「通り魔」的な犯行が多い理由について、専門家の考察を交えて考えてみましたが、そこでは、「ネット空間だけでなくリアル空間で居場所を見つけることで、人生がうまくいかない者は過激思想に接触する機会が生まれやすい」、「通り魔による悲惨な犯罪を減らすためには、社会に適応するのが難しい者を抱える身内だけでなく、社会全体の対応もまた問われているといえるだろう」といった点が重要だと指摘しました。そして、安易に「通り魔」的犯行と「ひきこもり」を結びつけるつもりは毛頭ありませんが、「ひきこもり」は今や社会問題であり、その発生メカニズムを紐解けば、テロや通り魔的犯行を引き起こす予備軍の一部となってしまっていることも否定できません。以下、最近の「ひきこもり」対策について紹介させていただきますが、読者の皆さんには、広く「社会的包摂」のあり方を考えていただきたいと思います。

     直近の報道によれば、内閣府が、ひきこもりや不登校を抱える40歳未満の人を想定し、市町村などがSNS上で相談を受けるシステム作りを始めるということです。全国の自治体には相談窓口はあるものの、ひきこもりの人には窓口を訪れたり、電話をかけたりすることに抵抗感を持つケースが多く、SNSを使って悩みを打ち明けやすい環境を整えるのが狙いといい、今秋にも一部自治体で試験導入し、全国展開を目指すといいます。また、厚生労働省のサイトから「ひきこもり対策推進事業」について紹介します。

    ▼厚生労働省 ひきこもり対策推進事業

     まず、「ひきこもりの状態にある方やそのご家族への支援に向けて」という厚労相のメッセージを紹介します。そのままテロ対策における「社会的包摂」の重要性と言ってもよいことがご理解いただけると思います。

     川崎市や東京都練馬区の事件など、たいへん痛ましい事件が続いています。改めて、これらの事件において尊い生命を落とされた方とそのご家族に対し、心よりお悔やみを申し上げるとともに、被害にあわれた方の一日も早いご回復を願っています。
    これらの事件の発生後、ひきこもりの状態にあるご本人やそのご家族から、国、自治体そして支援団体に不安の声が多く寄せられています。これまでも繰り返し申し上げていますが、安易に事件と「ひきこもり」の問題を結びつけることは、厳に慎むべきであると考えます。
    ひきこもりの状態にある方やそのご家族は、それぞれ異なる経緯や事情を抱えています。生きづらさと孤立の中で日々葛藤していることに思いを寄せながら、時間をかけて寄り添う支援が必要です。
    誰にとっても、安心して過ごせる場所や、自らの役割を感じられる機会があることが、生きていくための基盤になります。ひきこもりの状態にある方やそのご家族にとっても、そうした場所や機会を得て、積み重ねることが、社会とのつながりを回復する道になります
    また、ひきこもりの状態にある方を含む、生きづらさを抱えている方々をしっかりと受けとめる社会をつくっていかなければならないという決意を新たにしました。まずは、より相談しやすい体制を整備するとともに、安心して過ごせる場所や自らの役割を感じられる機会をつくるために、ひきこもりの状態にある方やそのご家族の声も聞きながら施策を進めていきます。そして、より質の高い支援ができる人材も増やしていきます。
    ひきこもりの状態にある方やそのご家族は、悩みや苦しみを抱え込む前に、生活困窮者支援の相談窓口やひきこもり地域支援センター、また、ひきこもり状態にある方が集う団体や家族会の扉をぜひ叩いて下さい。国民の皆様におかれましては、あらゆる方々が孤立することなく、役割をもちながら、ともに暮らすことができる、真に力強い「地域共生社会」の実現に向けて、ご理解とご協力をお願いいたします

     さらに、「ひきこもり対策推進事業」については、厚生労働省において、従来から、精神保健福祉、児童福祉、ニート対策等において、ひきこもりを含む相談等の取組を行ってきたところ、平成21年度からは、これらの取組に加え、「ひきこもり対策推進事業」を創設、また、平成30年度からは、生活困窮者自立支援制度との連携を強化し、訪問支援等の取組をふくめた手厚い支援を充実させるとともに、ひきこもり地域支援センターのバックアップ機能等の強化を図っているということです。

    (1)ひきこもり地域支援センター設置運営事業(平成21年度~)

    • ひきこもりに特化した専門的な第一次相談窓口としての機能を有する「ひきこもり地域支援センター」を都道府県、指定都市に設置し運営する事業
    • このセンターは、ひきこもりの状態にある本人や家族が、地域の中でまずどこに相談したらよいかを明確にすることによって、より適切な支援に結びつきやすくすることを目的としたものであり、本センターに配置される社会福祉士、精神保健福祉士、臨床心理士等ひきこもり支援コーディネーターを中心に、地域における関係機関とのネットワークの構築や、ひきこもり対策にとって必要な情報を広く提供するといった地域におけるひきこもり支援の拠点としての役割を担うもの

    (2)ひきこもり支援に携わる人材の養成研修・ひきこもりサポート事業(平成25年度~)

    • この事業は、ひきこもりの長期、高齢化や、それに伴うひきこもりの状態にある本人や家族からの多様な相談にきめ細かく、かつ、継続的な訪問支援等を行うことを目的とする事業
    • 具体的には、各都道府県、指定都市において訪問支援等を行う「ひきこもりサポーター」(ピアサポーターを含む。)を養成し、養成されたひきこもりサポーターを地域に派遣し訪問支援等を行うもの。また、30年度からは、市町村において、利用可能なひきこもりの相談窓口や支援機関の情報発信をするとともに、ひきこもり支援拠点(居場所、相談窓口)づくり等を行っている

    (3)ひきこもり対策推進事業の強化(平成30年度~)

    • 生活困窮者自立支援制度において、訪問支援等の取組を含めた手厚い支援を充実させるとともに、ひきこもり地域支援センターのバックアップ機能等の強化を図り、相互の連携を強化する
    • これにより、住民に身近な市町村でのひきこもり支援を充実・強化し、隙間のない支援を実現する
    (6)犯罪インフラを巡る動向

     特殊詐欺では被害者の多くが自宅への電話でだまされています。さらに、犯罪に使われた電話の8割がアナログ回線やIP電話であり、その番号は市場で売買され、犯行グループが電話転送サービスを悪用するなど、電話の「犯罪インフラ」化が進んでいる実態があります。前回の本コラム(暴排トピックス2019年7月号)でも紹介した、政府が新たに策定した「オレオレ詐欺等対策プラン」では、警察などが大手通信事業者に協力を要請し、悪質な再販業者が大手事業者と新規の番号契約をできなくしたり、詐欺に使われたことが判明した番号を利用停止にする取り組みが明記されました。そもそも固定電話はユニバーサルサービスであって、「社会インフラ」だから制限できないとされてきたところ、ようやく「犯罪インフラ」化の阻止に動き出したことは評価できると思います。とはいえ、特殊詐欺が長年、極めて深刻な被害をもたらしてきたことは明らかであり、それを「社会インフラ」の名の下に「犯罪インフラ」化を放置してきた「不作為」は問題だといえます。一般的に、「規制」は被害の発生を受けて事後的に導入されるものではありますが、「規制」のあり方こそ社会情勢の変化に敏感でなければならないと思います(最近、総務省が、2021年にも固定電話サービスを提供する義務を緩和するという報道がありました。また、総務省が郵便の土曜配達をやめる制度改正も準備していることとあわせ、公共サービスの見直しが広がっているとの文脈ですが、収益性によって見直すことができるのであれば、暴排や犯罪インフラの観点からの規制の強化をまずは図っていただきたいものです)。

     以下に最近の報道から、「犯罪インフラ」に関するものをいくつか紹介しますが、いずれも、過去、本コラムにおいて「犯罪インフラ」化の懸念を指摘してきているものであり、未だ有効な解決策が講じられていない(講じることが難しいのは理解できるものの)点は歯痒さを覚えます。

     待機児童対策の切り札との期待を担った企業主導型保育事業で、問題が相次いでいます。助成金の不正受給事件が各地で明るみに出たほか、保育士の一斉退職や運営休止、需要の少ない地域での乱立なども起きています。背景には、保育の受け皿作りを急ぐあまり、開設の門戸を広げる一方で、審査など基本的な事務処理が追いついていない体制の不備があるとされます。直近では、企業主導型保育所数カ所に対する整備助成金あわせて約5億円をだまし取ったとして、詐欺の疑いで逮捕されたコンサルタント会社の社長が追起訴されています。企業主導型保育事業は企業が主に従業員向けに設置する保育所に対し、国が整備費の75%を助成するもので、決定後に工事請負契約書などを提出すれば助成額の最大半額を受け取れ、工事完了報告後に全額を受け取ることができるというものです。本件の被告は、これまで全国で30件以上の助成金申請に関わり、約22件で助成決定を受けていますが、助成金を詐取したとされる5カ所は名古屋、大阪、福岡の各市内で、いずれも2018年中に運営を始めるとしていたが開園していないのが実態です。被告のコンサルタント会社社長は7月に保育所設置名目で横浜幸銀信用組合から融資金約1億990万円をだまし取ったとして、詐欺罪で起訴されていますが、内閣府から事業を委託された公益財団法人「児童育成協会」は、不正受給の発覚などを理由に6施設の助成取り消しを決定、別の7施設については、開所の見通しが立たないなどとして、設置者の側から申請を取り下げました。同協会では、助成金の交付前に決定を取り消した1施設を除く計12施設に対し、計約12億円の返還を命じたものの、約7億円は未返還だということです。なお、この社長は、以前、別の名前で法人を経営し、反社会的勢力との交友関係や地面師との接点などがとかく疑われていた人物でもあります。そして、この人物はネット上では「3つの名前」を使い分けていたといい、大手銀行はだまされなかったものの、一部金融機関が「真っ黒な履歴のはずが名前を変えたことで真っ白な履歴」となり別人と思って融資してしまったことが推測されます。このようなネーム・ローンダリングの手口への警戒が必要であることも本事案からは学ぶべきことといえると思います。そして、「審査など基本的な事務処理が追いついていない体制の不備」、すなわち審査の脆弱性が「犯罪インフラ」化して不正受給を招いたものといえ、その資金がよろしくない筋に流れたとすれば、極めて深刻な問題ともなりえます。

     国際的な課税逃れ(租税回避行為)対策については、本コラムでもたびたび取り上げていますが、国税庁が今夏、国内の個人や法人が海外の金融機関に保有する口座の調査を本格化させるとの報道がありました(令和元年8月10日付産経新聞)。世界約100カ国・地域の税務当局が参加する情報交換制度(共通報告基準:CRS)によって国境を超えたデータ入手が可能となり、既に相続税の申告漏れを発見した事例もあり、報道によれば、国税庁関係者は「富裕層の資産隠しや企業の租税回避行為にメスを入れたい」と意気込んでいるようです。CSRには、英領ケイマン諸島などタックスヘイブン(租税回避地)も加わっており、日本は昨年から参加、世界64カ国・地域の口座情報約55万件を入手しており、今後、課税逃れの資金移動や反社会的勢力や犯罪組織等の絡む犯罪収益の移転の状況がより詳細に把握できる可能性が高まっており、期待したいと思います。なお、国際課税逃れ対策としては、CSR以外に「国外財産調書」制度があります。同制度は、海外に計5,000万円超の資産を保有する個人に義務づけられているものですが、直近で、この調書を提出せず脱税したお金を海外口座に隠していたとして、京都市の家具輸入販売会社社長が、大阪国税局によって国外送金等調書法違反(不提出)と所得税法違反の罪で京都地検に告発されています。国外財産調書制度が導入された平成26年以来、調書不提出による国外送金等調書法違反罪での告発は全国初だということです。国税当局は、CRSで得た口座情報と国外財産調書などを突き合わせて分析することで、国内の富裕層が保有する海外資産を把握、タックスヘイブンなどを利用した税逃れの解明を目指しており、その実効性を期待したいと思います。
    なお、国際的な課税逃れという点に関連して、北海道・ニセコ地区の不動産取引をめぐり、国内外の不動産会社や外国人投資家らが、札幌国税局から総額約30億円の申告漏れを指摘されたことがわかったとの報道がありました(令和元年8月8日付朝日新聞)。報道によれば、別荘用地の売買で利益を得たのに税務申告していない事例などへの指摘が約10件相次いだといいます。札幌と東京の両国税局は、各国の会社の登記や不動産業者からの情報、インターネット情報などから取引に関わった会社を特定、香港やサモア、英領バージン諸島などの5社に約15億円の法人税の申告漏れを指摘しています。取引が複雑巧妙になってきている中、当局の国際化対応への本気度が問われているといえます。

     その他、最近の報道から、犯罪インフラに関するものをいくつか紹介します

      • 中国での転売目的を隠して東京都心の3次元(3D)地図を約200万円で購入し、だまし取ったとして、警視庁公安部は、詐欺容疑で元中国籍の貿易会社役員の男を書類送検しています。報道によれば、地図には首相官邸などが含まれ、男は中国に持ち込み転売していたと見られています。高精度の3D地図はドローンの自動非行などで活用が拡がる一方で、海外で諜報、ミサイルのルート選定といった軍事目的で使用される恐れがあり、データを販売しているNTT空間情報では契約で海外への転売を禁じています。警視庁公安部では中国の情報機関が関与した情報収集工作の疑いもあるとみているといいます。
      • 虚偽の確定申告書などを作成して在留資格の更新手続きを手助けしたとして、警視庁保安課は、税理士の男を入管難民法違反容疑で書類送検しています。在留資格の不正取得に関わったとして税理士が同容疑で摘発されるのは初めてだということであり、警視庁は同様の方法が横行している可能性もあるとみて、税理士会など関係機関に協力を要請する方針だといいます。在留資格の不正取得自体、犯罪インフラ化している実態がありますが、それを税理士が助長している構図となり、士業のモラルの低下への対応や実態解明が急務だといえます。
      • インターネットで融資を仲介するソーシャルレンディング(SL)を巡り、出資の際の説明が虚偽だったため、損害を被ったとして、投資家143人と2法人が、SL業者に計約3億4,740万円の損害賠償などを求める集団訴訟を東京地裁に起こしています。報道によれば、同社のSLは証券取引等監視委員会の検査で、融資対象の除染事業が存在しなかったり、融資先が道路工事を受注していなかったりしたことなどが判明したといい、金融庁が今年3月、金融商品取引業の登録を取り消し、多くの出資者への配当が行われない状況が続いています。そもそもSLというスキーム自体、暗号資産のICO同様、詐欺的な要素が入り込む余地が大きく、極めて犯罪インフラ化しやすいものだといえます。また、前回の本コラム(暴排トピックス2019年7月号)でも取り上げたSNSの「個人間融資」もまた似たような構図であり、こちらも実害が発生するなど、犯罪インフラ化している実態があります。インターネットの匿名性等を悪用したこれらのスキームにはまだまだ確たる「信用」を供与するスキームが存在していないこともあり、今後も十分な注意が必要だといえます。
      • インターネット関連では、他にも、ブログにFX(外国為替証拠金取引)を扱う金融会社の広告を載せ、広告を通じてFX口座を開設した際に得られる収入を申告せず、約5,400万円を脱税したとして、名古屋国税局が所得税法違反容疑で健康補助食品販売会社の男性社長を名古屋地検に告発したという事案もありました。社長は他人の名前でブログを立ち上げて、約20のFX会社のバナー広告(これらは成功報酬型のインターネット広告「アフィリエイト広告」と呼ばれています)を通じて、他人の名前でFX売買用の3万~4万の口座を開設、新規の口座開設の場合に広告会社経由でFX会社から支払われるアフィリエイト収入を申告しないという手口です。アフィリエイトのスキーム自体が犯罪インフラ化したものといえますが、それを可能にしたのがインターネットの「匿名性」とそれを悪用した「口座開設手続きの脆弱性」(他人名義で口座が次々と開設できるという脆弱性)にあることは言うまでもありません。
      • 前回の本コラム(暴排トピックス2019年7月号)でもスマホ決済サービスの犯罪インフラ化(セキュリティの脆弱性等)について指摘していますが、金融庁はキャッシュレス送金・決済を手がける資金移動業者を対象に、立ち入りを含めた集中検査を始めるとのことです。不正利用が相次いでいることを受け、システムの安全性や利用者保護、AML/CFTなどの内部管理体制が十分かどうかを重点的に点検、不備が見つかれば行政処分を検討するとされ、いよいよ規制強化に本腰を入れたようです。なお、今秋に予定されているFATFの第4次対日相互審査では、国内金融機関の対応状況が調査されることになりますが、資金移動業者も対象となる見込みであり、1社の不備が日本全体の評価を下げかねないとも懸念されているところ、脆弱性を塞ぐ取り組みは待ったなしの状況です。
    (7)その他のトピックス

    ①薬物を巡る動向

     前回の本コラム(暴排トピックス2019年7月号)でも紹介しましたが、経済産業省の現役官僚が覚せい剤取締法違反(輸入・使用)などの罪で起訴され、懲戒免職処分に付されています。また、事務次官も監督責任を認めて訓告処分となっています(職場でも使用していたことを鑑みれば一定の責任は免れないと思われます)が、社会的制裁とともに人事上の厳格な処分も「組織の強い姿勢」を示すものとして重要だと考えられます。同様に、文部科学省の現役官僚も、自宅マンションで覚せい剤と大麻を数グラムずつ所持していたとして、覚せい剤取締法違反(所持)と大麻取締法違反(所持)容疑で厚生労働省関東信越厚生局麻薬取締部(麻取)に現行犯逮捕されましたが、こちらも懲戒免職処分に付されています(なお、経済産業省では処分内容を同省サイトで公表していますが、文部科学省では公表されておらず、本人以外の関係者の処分については不明です。両事案ともに職場から覚せい剤が発見されていることから、類似性があるといえますが、文部科学省の対応から「組織の強い姿勢」が感じられない点は残念です)。現役キャリア官僚が続けて逮捕されること自体極めてショッキングですが、本件を通じて、事業者としても「まさかうちの社員が」「まさか職場で」ではなく、薬物事犯に社員が関与してしまうことは、「当社でも起こりうる」問題であって、レピュテーションを毀損するリスクのひとつとして、「常識の問題だから」と社員任せにしないこととあわせ、「自分事」として捉え、何らかのアクションを起こすべき時にきているといえます

     その他、薬物問題に関する最近の報道からいくつか紹介します。

    • 京都府警は、大麻を所持し、同僚の腕時計などを盗んだとして、京都府警察学校初任科生の巡査(23)を懲戒免職処分としています。報道によれば、同被告は2014年の柔道世界ジュニア選手権の優勝者で、大阪府守口市の実家で大麻を所持したとして、大麻取締法違反容疑で現行犯逮捕されたもので、大麻について、「大学4年の秋から月2回程度使用していた」と供述しているということです。
    • 大麻を所持したり、買ったりしたとして、高知県四万十市の市営食肉センターの20~30代の臨時職員の男3人が大麻取締法違反容疑で高知県警に逮捕されています。報道によれば、乾燥大麻を所持したとして、6月下旬に当時臨時職員だった男(37)を逮捕、7月には、男から大麻を購入したとして、同法違反(譲り受け)の疑いで、24歳と37歳の臨時職員を逮捕、3人の自宅などから大麻の種子とみられる植物片や吸引に使う道具などが見つかったといいます。なお、同市では、7月下旬に高知県警から3人が逮捕されたと連絡を受け、センターの全職員に聞き取り調査を実施、その結果、他に同様の疑いがある職員はいなかったということです。事件の発覚を受け、速やかに調査を行った点は評価できるといえますが、一方で、(薬物検査を行うわけでなく)聞き取り調査だけでどれだけ判明するかは疑問であり、これ以上蔓延していないことを望みます。
    • 約2.3キロ(末端価格約4,724万円)相当のコカインを密輸したとして、大阪府警は、貿易業の男(71)を麻薬及び向精神薬取締法違反の疑いで逮捕しています。コカインが入った袋をキャリーバッグの間仕切り部分などに隠し、ブラジル発の旅客機に乗せて関空に持ち込んだ疑いがあり、入国時、空港で借りた車椅子を使っていたといいます。報道によれば、「インターネットで知り合った男から報酬20万~30万円の約束で運んだ」と説明しているということですが、一方で、車椅子だと手荷物検査をされにくくなると思った可能性があるようです。
    • サプリメントに偽装した覚せい剤をカナダから密輸するなどしたとして、兵庫県警は、覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)などの疑いで、カナダ国籍の建設業の男(50)を逮捕しています。報道によれば、関西国際空港での税関の検査で覚せい剤入りカプセルが見つかったことから、近畿厚生局麻薬取締部神戸分室、神戸税関との合同捜査で、荷物の受け取り役だった容疑者を割り出し、神戸市内で逮捕したということです。この容疑者は短期滞在資格で入国しており、宿泊先で隠し持っていた覚せい剤を含めると、押収量は約2キロ(末端価格約1億2,200万円)にも上るといい、組織的犯行の可能性が高いと考えられます。
    • 覚せい剤を荷物のジーンズ内に隠してカナダから密輸したとして、大阪府警薬物対策課は、覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)の疑いで、指定暴力団東組系組長ら男2人を逮捕しています。報道によれば、共謀し、カナダから覚醒剤約2キロ(末端価格約1億2,000万円)を国際貨物で成田空港に密輸したとしていい、覚せい剤は衣料品として送られたジーンズ29本の腰回りの布地の中に隠していたようです。税関職員が荷物の中身を検査し見つけたということですから、職員の「リスクセンス」が発揮された事例ともいえそうです。参考までに、税関職員の「リスクセンス」を磨くコツは、「正常を知る」だそうです。形状や申告書との整合性など「正しいこと」をしっかり叩き込んでおくことによって、「異様なもの」「違和感」が際立つという趣旨ですが、反社会的勢力を見極める際にも大変参考になる「コツ」だと思います。どういったことが「正しいこと」で、どういったことが「普通でない」のか、自らのビジネスシーンにあてはめて、社内で共有していくことが、見極めの精度を高めることにつながります。
    • 国連薬物犯罪事務所(UNODC)は、コカインの南米コロンビアでの生産能力が2018年に前年比5.9%増の1,120トンとなったと発表しています。犯罪組織によって主に米国に密輸されており、2017年に過去最大だったコカの木の違法栽培面積は1.2%減の169,000ヘクタールとなったものの、栽培技術の向上などにより生産性が向上しているほか、価格も1割前後上昇しており、貧しい栽培農家にとって魅力は高まっているという状況です。日本でも芸能人のコカインによる逮捕事件が報道され注目されましたが、財務省の「平成30年の全国の税関における関税法違反事件の取締り状況」の中でも、「コカインの押収量が約152kg(前年比約15.5倍)、MDMAの押収量が約9kg(前年比約80.4倍)など急増(コカインの押収量は過去最高)している点が極めて特徴的であり、急激に蔓延している状況がうかがわれ、注意が必要な状況だといえます。

     さて、海外の動向では、米ニューヨーク(NY)州が、娯楽目的での大麻(マリフアナ)使用を非犯罪化したことが注目されます。これにより少量の大麻所持は罰金刑となり、逮捕されることはなくなりました(なお、同州知事が目指す大麻使用の合法化までには至っていません)。本コラムでたびたび取り上げてきているとおり、米国ではコロラド州が2014年に初めて娯楽目的での大麻使用を合法化した後、現在は11の州とコロンビア特別区(首都ワシントン)で完全に合法化されていますが、これ以外にも、NY州を含む15の州が非犯罪化しています。なお、米国では連邦法の下で、大麻はなお非合法であることはこれまでも指摘してきたとおりです(報道によれば、オバマ前政権下で州政府が大麻合法化について独自の決定を下せるようになりましたが、トランプ政権は、州政府が合法化していても連邦法に則る必要があるとの立場を示しているといいます)。
    さらに、報道(令和元年8月12日付時事通信)によれば、西欧の小国ルクセンブルクが嗜好用の大麻の合法化を検討しているということであり、実現すれば(悪影響を懸念する声の根強い)欧州では初となります。ただ、欧州では初となることから、旅行客が「大麻ツアー」に押し寄せる事態が容易に想定されるため、対象は居住者だけに限られる見通しだといいます。嗜好用大麻を巡る米国内の状況は前述のとおりですが、国別では、ウルグアイが2013年に世界で初めて合法化し、2017年に市販が解禁されています。また、昨年、先進国では初となるカナダでも解禁され話題となりました。一方、欧州では医療利用合法化の動きはあるものの、嗜好用を認める法律はなく、オランダでは一定限度内で嗜好用が黙認されているに過ぎない状況です。報道では、ルクセンブルク副首相は、「過去50年の薬物政策はうまくいかなかった」とし、合法化は、若者が闇市場で売人から大麻を入手し、さらに危険性の高い薬物に手を染めるのを防ぐ効果があるとして、他の欧州各国にも同様の措置を促しているといいます。さらに、直近でも嗜好用大麻が、モルヒネなどの鎮痛薬の過剰摂取による死亡率を少なくとも20%減らすという米国の調査結果が公表されるなど、効果を裏付ける研究も過去からいくつかあり、それが合法化に向けた動きを後押ししている実態があります。
    ただ、このような世界の動向に対して、本コラムではたびたび大麻の危険性等について指摘してきました。具体的には、(1)医療用と娯楽用は違うこと、(2)大麻は依存性が高いこと、(3)若年層の蔓延は脳の健全な発達を阻害するものであり絶対に阻止すべきであること、(4)合法化の流れは大麻の安全性ではなく医療費等にかかる経済合理性の観点からの動きであって日本での合法化は避けるべきであること、などです。このような動きが日本での誤解を助長することを危惧するとともに、若年層への正確な知識の周知徹底、事業者における従業員教育の試み等の取組みが拡がることを期待したいと思います。

    ②犯罪統計資料

    ▼警察庁 犯罪統計資料(平成31年1月~令和元年7月分)

     平成31年1月~令和元年7月の刑法犯の認知件数の総数は431,262 件(前年同期470,519件、前年同期比▲8.3%)、検挙件数の総数は165,054件(176,004件、▲6.2%)、検挙率は38.3%(37.4%、+0.9P)となり、平成30年の犯罪統計の傾向が継続している状況です。犯罪類型別では、刑法犯全体の7割以上を占める窃盗犯の認知件数は305,156件(334,502件、▲8.8%)、検挙件数は101,479件(108,931件、▲6.8%)、検挙率は33.3%(32.6%、+0.7P)と刑法犯全体を上回る減少傾向を示しており、このことが全体の減少傾向を牽引する形となっています。うち万引きの認知検数は56,281件(59,117件、▲4.8%)、検挙件数は38,365件(41,947件、▲8.5%)、検挙率は68.2%(71.0%、▲2.8P)となっており、検挙率が他の類型よりは高い(つまり、万引きは「つかまる」ものだということ)ものの、ここ最近低下傾向にある点は気になるところです。また、知能犯の認知件数は21,250件(24,618件、▲13.7%)、検挙件数は10,556件(11,331件、▲6.8%)、検挙率は49.7%(46.0%、+3.7P)、うち詐欺の認知件数は19,068件(22,276件、▲14.4%)、検挙件数は8,826件(9,427件、▲6.4%)、検挙率46.3%(42.3%、+4.0P)ととりわけ検挙率が大きく高まっています。今後も、認知件数の減少と検挙件数の増加の傾向を一層高め、高い検挙率によって詐欺の実行を抑止するような構図になることを期待したいと思います。
    また、平成31年1月~令和元年7月の特別法犯については、検挙件数の総数は40,862件(40,642件、+0.5%)、検挙人員は34,793人(34,585人、+0.6%)となっており、こちらも平成30年を上回るペースで検挙が進んでおり、とりわけ今回、検挙件数は前年同期比でプラスに転じたことが特徴的です。犯罪類型別では、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は1,355件(1,489件、▲9.0%)、検挙人員は1,110人(1,254人、▲11.5%)、不正アクセス禁止法違反の検挙件数は321件(192件、+67.2%)、検挙人員は85人(56人、+51.8%)、不正競争防止法違反の検挙件数は37件(20件、+85.0%)、検挙人員は42人(24人、+75.0%)などとなっており、とくに不正アクセス禁止法違反の急増ぶりが注目されます(体感的にもん不正アクセス事案が増加していることを実感していますので、一層の注意が必要な状況です)。また、薬物関係では、麻薬等取締法違反の検挙件数は534件(509件、+4.9%)、検挙人員は257人(239人、+5.8%)、大麻取締法違反の検挙件数は3,026件(2,548件、+18.8%)、検挙人員は2,367人(1,915人、+23.6%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は6,363件(7,759件、▲18.0%)、検挙人員は4,561人(5,343人、▲14.6%)などとなっており、大麻事犯の検挙が平成30年の傾向を大きく上回って増加し続けている一方で、覚せい剤事犯の検挙が逆に大きく減少し続けている傾向がみられており、今後も注視していきたいと思います(参考までに、平成30年における覚せい剤取締法違反については、検挙件数は13,850件(14,065件、▲1.5%)、検挙件数は9,652人(9,900人、▲2.5%)でした)。
    なお、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯の検挙人員総数は259人(291人、▲11.0%)、中国50人(69人、▲27.5%)、ベトナム37人(35人、+5.7%)、ブラジル22人(30人、▲26.7%)、フィリピン18人(15人、+20.0%)、韓国・朝鮮18人(24人、▲25.0%)、アメリカ11人(7人)、パキスタン7人(6人)、インド5人(1人)などとなっており、こちらも平成30年の傾向と大きく変わっていません。
    暴力団犯罪(刑法犯)総数については、検挙件数は10,924件(11,034件、▲1.0%)、検挙人員は4,592人(5,373人、▲14.5%)となっており、暴力団員数の減少傾向からみれば、刑法犯の検挙件数の減少幅が小さく(つまり、刑法犯に手を染めている暴力団員が増える傾向にあるとも推測され)、引き続き注視していく必要があると思われます。うち窃盗の検挙件数は6,487件(5,973件、+8.6%)、検挙人員は768人(889人、▲17.6%)、詐欺の検挙件数は1,285件(1,365件、▲5.9%)、検挙人員は786(965人、▲18.5%)などであり、「平成30年における組織犯罪の情勢」において、「近年、暴力団は資金を獲得する手段の一つとして、暴力団の威力を必ずしも必要としない詐欺、特に組織的に行われる特殊詐欺を敢行している実態がうかがえる」と指摘されていましたが、最近では窃盗犯の検挙件数の増加が特徴的であり、「貧困暴力団」が増えていることを推測させることから、こちらも今後の動向に注視する必要があると思われます。また、暴力団犯罪(特別法犯)総数については、検挙件数は4,425件(5,601件、▲21.0%)、検挙人員は3,153人(4,077人、▲22.7%)、うち暴力団排除条例の検挙件数は14件(9件、+55.6%)、検挙人員は23人(45人、▲548.9%)であり、暴力団の関与が大きな薬物関係では、麻薬等取締法違反の検挙件数は125件(105件、+19.0%)、検挙人員は37人(33人、+12.1%)、大麻取締法違反の検挙件数は638件(666件、▲4.2%)、検挙人員は422人(436人、▲3.2%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は2,870件(3,8181件、▲24.8%)、検挙人員は1,978人(2,600人、▲23.9%)などとなっており、とりわけ覚せい剤から大麻にシフトしている状況がより鮮明になっている点とコカイン等と思われる麻薬等取締法違反が検挙件数・検挙人員ともに伸びている点が注目されるところです(平成30年においては、大麻取締法違反について、検挙件数は1,151件(1,086件、+6.0%)、検挙人員は744人(738人、+0.8%)、覚せい剤取締法違反について、検挙件数は6,662件(6,844件、▲2.7%)、検挙人員は4,569人(4,693人、▲2.6%)でした。また、暴力団員の減少傾向に反してコカイン等への関与が増している状況も危惧されるところです)。

    (8)北朝鮮リスクを巡る動向

     北朝鮮に対する制裁決議の履行状況を監視する国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会・専門家パネルが、中間報告書をとりまとめています(今後、制裁委員会での議論を経て9月上旬に公表される予定です)。令和元年8月10日付産経新聞にその内容が詳しく、網羅性も高いと思われますので、以下引用します。

    北朝鮮が数百人のIT技術労働者を海外に派遣して外貨を稼ぎ、現地でサイバー攻撃などの違法行為にも当たらせていることが9日、国連の報告書原案で分かった。国連外交筋は、北朝鮮が核ミサイル開発のために行う違法な資金調達の中で、サイバー攻撃の比重がますます大きくなっていると警戒を強めている。
    サイバー攻撃の実態を指摘したのは、国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会専門家パネルがまとめた中間報告書。安保理理事国などでの議論や修正を経て来月にも公表される見通し。
    産経新聞が内容を確認した報告書原案によると、北朝鮮の弾道ミサイル開発を主導してきた朝鮮労働党の軍需工業部が、傘下にある貿易会社を利用してソフトウエア開発者などIT関連の技術労働者を派遣。数百人の労働者の派遣先は欧州、アジア、アフリカ、中東と多岐にわたる。
    北朝鮮のIT労働者は月平均で3,000~5,000ドル(約31万~約53万円)を稼ぎ、その大半を北朝鮮に送金。派遣先の会社は実際には北朝鮮が運営しているが、現地人を名義上のトップに据えて隠蔽工作を行っている。こうした労働者は不正ではないITの仕事のほかに暗号資産(仮想通貨)を違法に得るなどサイバー攻撃にも関与しているという。
    報告書は、北朝鮮がこれまでにサイバー攻撃を通じて最大で20億ドル(約2,115億円)を違法に得た疑いがあり、核兵器など大量破壊兵器の開発資金に使われた可能性があると分析。攻撃を受けたのは韓国やインド、チリ、バングラデシュ、ナイジェリア、ポーランドなど17カ国におよび、近年は、銀行よりも追跡が困難で監視が緩い仮想通貨取引業者への攻撃が目立っている。
    北朝鮮のサイバー人材育成にも言及されている。非常に若い年齢で人材を選抜するなど綿密な育成プロセスを取り、特別な訓練を施しているという。
    報告書は、洋上で船から船へ石油精製品を移し替えて密輸する「瀬取り」も引き続き横行しており、制裁違反だと強調。安保理決議で定めた石油精製品の年間輸入量50万バレルを今年4月までに超えたと指摘した。北朝鮮の主要産物である石炭については、輸出が安保理決議で全面禁止されているにもかかわらず、1~4月に少なくとも127回、計93万トンが輸出された。

     北朝鮮がサイバー攻撃を通じて、金融機関から不正送金をさせる、暗号資産を不正に流出させる、北朝鮮の外交官が、制裁を回避するため、家族、大使館等の名義を使用して複数の口座を管理し、北朝鮮への輸出を支援する、さらにはインターネット空間でマネー・ローンダリングを行うなどして資金源としていることについては、本コラムでもたびたび指摘しているとおりです。したがって、少なくとも企業の実務においては、北朝鮮制裁リスクは、AML/CFTやサイバーセキュリティの文脈で国際的な抜け穴とならない取り組みが求められていることもこれまで述べてきたとおりです。なお、巨額の暗号資産が盗まれたコインチェック事件について、(今回も含め以前から)制裁パネル報告書などで「北朝鮮のハッカー集団」の関与の可能性が指摘されているところ、報道によれば、「未知のハッカー集団」という見方も出始めているようです(さらには、ロシア系のハッカーとの関連が指摘されているウイルスが、コインチェック社員のパソコンから検出されたともいわれています)。報道(令和元年6月17日付朝日新聞)によれば、事件発生の直後から、韓国の国家情報院は「北朝鮮が起こした可能性がある」と示唆、北朝鮮のハッカー集団「ラザルス」が、各国の暗号資産交換所に送りつけたとされるメールの文面を示していましたが、コインチェック関係者はメールについて「事件とは無関係だ」と断言、「慎重な判断が必要だ」と指摘しています。いずれにせよ、不正流出等の背景には国際的な犯罪組織の関与が濃厚であり、企業にとっては、AML/CFTの取り組みはもちろんのこと、北朝鮮等制裁リストスクリーニング、サプライチェーンを含めた商流全体の健全性の確保やサイバーセキュリティ体制の整備等を通じて取引を阻止していくこと(顧客管理の厳格化)が求められているといえます。なお、制裁リストのスクリーニングの重要性については、直近でも、米財務省が、北朝鮮の核兵器搭載可能な弾道ミサイル開発に関与し、国連安保理の制裁決議などに違反したとして、ベトナムに拠点を置く北朝鮮国籍の貿易会社(北朝鮮の弾道ミサイル開発を主導してきた朝鮮労働党の軍需工業部の傘下企業)の幹部1人を米国独自の制裁対象に指定していますが、適宜、制裁対象が増えている状況にあり、新規取引はもちろん、既存取引先に制裁対象となっている法人・個人が存在しないか、定期・不定期に確認すべき状況にあるといえます。
    なお、直近では日本でも、北朝鮮に家具などを不正輸出したとして、大阪府警外事課などが、外為法違反(無承認輸出)容疑で元貿易会社社長の男を書類送検しています。報道によれば、男は「総額500万円ぐらい利益があった」と供述しているといい、北朝鮮に11回にわたって輸出申告価格計約6,000万円分の日用品を不正輸出したとみられています。北朝鮮制裁逃れに日本をはじめ各国がめを光らせている中、このような「穴」が見つかるのは大変残念であり、「穴」を塞ぐことの難しさを痛感させられます。

     さて、北朝鮮の動向としてもうひとつ重要なことは、7月25日以降既に6回にわたって短距離弾道ミサイル等と思われる飛翔体を発射し続けている点もあげられます。8月11日から始まっている米韓の合同軍事演習に対する武力示威だとして、今後も追加発射される可能性が高いとする見方が大勢ですが、それ以外にも注目すべき点がいくつかあります。
    まず、米トランプ大統領が、「我々は、短距離ミサイルについては何ら合意していない。私にとって問題ない」、「我々が協議しているのは核であって、短距離ミサイルは話し合っていない。ほかの多くの国々も、この種のミサイルは発射実験している」などと述べ、問題視しない考えを明らかにしている点です。米国も日本も韓国も、この飛翔体について「弾道ミサイル」と断定しており、それはすなわち国連制裁決議違反となることを示しており、英独仏も「弾道ミサイル」と断定し、「北朝鮮の核、弾道ミサイルの開発がやむまで国際社会による制裁は続けられなければならない」とする声明を発表しています。そのような中、「短距離だから問題ない」との理屈は成り立ちません。金正恩朝鮮労働党委員長との個人的な関係から「北朝鮮の非核化」に向けた成果を引き出したい(それに向けた深謀遠慮も否定しません)とはいえ、日米韓の連携の強化も試されている状況だけに、「明確にNO!」を突きつけるべきであり残念です。なお、米トランプ大統領のトーンに近いのが、肝心の国連安保理であり、米朝協議の機運がしぼむことを懸念して北朝鮮批判には慎重なスタンスをとっており、国連安保理のそのようなスタンスを良いことに、北朝鮮が制裁逃れを続けている(続けられている)という構図が崩れていません。

     また、これらの動きに対する日本政府の対応の「消極的なスタンス」もまた気になるところです。菅官房長官が、北朝鮮の飛翔体発射について「国連安全保障理事会決議を完全に履行するとの方針で日米は一致している」、「朝鮮半島の非核化に向けて安保理決議を完全に履行すべく、引き続き米国とあらゆるレベルで緊密に連携していきたい」と、防衛相も「短距離弾道ミサイルはわが国の国防の観点からは脅威に違いない」、「国連安保理決議に違反する」とそれぞれ語ってはいるものの、日朝対話を模索する政権の対応は、全体的に静観の姿勢を貫いており、「国難」と表現した2年前に比べて明らかに鈍いといえます。直近の8月16日の飛翔体発射に際しても、防衛相が防衛省に姿を見せたのは発射から約2時間半が経過した午前10時半ごろであり(首相官邸での台風10号対策の関係閣僚会議に出席した事情もあるとはいえ)、情報収集や分析を進める防衛省の幹部会議は防衛相の登庁まで開かれなかったといいます。さらに、首相も午後には静養先の山梨県鳴沢村の別荘に移動しています。これらの政権の動きに対して、報道によれば、自民党の二階氏は「政府や米国は表面上は静観の体だが、(北朝鮮が)着々と(ミサイルの)性能実験を進め、完成度を高めていると判断せざるを得ない。このことは看過できない」と述べ、緊張感のない政府の対応を疑問視していますが、まったく同感です。さらに、二階氏は、「発射状況の分析によれば、少なくとも3種類の新たな弾道ミサイルの開発、実証実験を進めていると考えられる」、「完成度を高めていると判断をせざるを得ず、看過できない」とも発言しており、リスクの質の変化を匂わせているだけに、政権の対応の「鈍さ」には不安を覚えます。

     この二階氏の発言に関連して、今回、北朝鮮が発表している「新型戦術誘導兵器」は低空飛行や軌道の変更が可能な新型ミサイルと推定され、撃ち落としにくい高度で飛行し、下降段階で軌道が変わる複雑な動きが特徴であり、短距離とはいえ現在の迎撃体制で対応できるか、日本が射程に入る可能性があることもあわせれば、大きな不安が残る点も指摘しておきたいと思います。具体的には、令和元年8月10日付日本経済新聞が詳しいのですが、それによれば、日本の迎撃体制としては、イージス艦のレーダーや警戒管制レーダーでミサイルを探知・追尾し、イージス艦に搭載した海上配備型迎撃ミサイル「SM3」や地対空誘導弾パトリオットミサイル(PAC3)で迎撃する形(今後は、地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」も加わる予定)であり、(1)SM3で撃ち落とせるのは高度70キロ以上であって今回の弾道ミサイルのように高度が50キロ程度の新型ミサイルには対応が難しいこと、(2)PAC3は弾道を計算して着弾直前の迎撃を担うが、変則軌道への対応が困難なこと、さらには、(3)新型ミサイルがレーダーで捕捉できない可能性も専門家から指摘されていることなど、現状の迎撃体制での対応が難しい可能性があるということです。

    3. 暴排条例等の状況

    (1)静岡県暴排条例の改正

     静岡県暴力団排除条例が8月1日に一部改正・施行されています。最近の他の自治体の改正動向に同じく、繁華街における暴力団への利益供与などの取り締まりを強化し、「市民の安全な生活の確保と社会経済活動の健全な発展を目指」すとしています。

    ▼静岡県暴力団排除条例
    ▼静岡県警察 静岡県暴力団排除条例一部改正パンフレット

     なお、報道(令和元年8月1日付静岡新聞)によれば、同県内の繁華街を巡っては今年3月、浜松市で飲食店の客引き同士のトラブルがあり、片方の飲食店の後ろ盾になっていた神戸山口組系組員が店側から連絡を受け、浜松市に来訪、この際、他人に成り済ましてホテルを利用したとして組員ら9人が建造物侵入容疑で逮捕されたほか、もう一方の飲食店の背後にも地元暴力団が存在し、トラブルに介入していたことが確認されたといいます。前者の飲食店は、サラリーマンや大学生も利用する居酒屋だということであり、普通の居酒屋ですら暴力団と密接な関係を有している可能性が示唆されており、今回の暴排条例の改正を機に、暴力団側だけでなく居酒屋側にも罰則が適用されることになったことから、当該規定を楯に密接な関係を解消することにつながることを期待したいと思います。
    なお、主な改正点については、まず(他の自治体の動向と同じく)暴力団の排除を特に必要とする繁華街として「暴力団排除特別強化地域」が指定されています。具体的には、三島市(泉町、一番町、本町、芝本町、広小路町)、沼津市(上土町、大手町1丁目・2丁目・3丁目・4丁目・5丁目、添地町、高島町、町方町)、富士市(富士町、本町、吉原2~4丁目)、静岡市(葵区黒金町、紺屋町、呉服町2丁目、七間町、昭和町、駿河町、常盤町1丁目、常盤町2丁目、人宿町1丁目、御幸町、人宿町2丁目、両替町2丁目、駿河区南町)、浜松市(中区旭町、板屋町、鍛冶町、肴町、神明町、砂山町、田町、千歳町、伝馬町、平田町、旅籠町、連尺町)の5市6繁華街が指定されています。また、「暴力団排除特別強化地域」内で料理店や麻雀店、ゲームセンター、出会系喫茶、クラブ等、コンパニオン派遣業、風俗案内所、風俗情報誌発行などを営む「特定営業者」が、暴力団員などに用心棒料やみかじめ料を支払うと罰則を受けることになります。具体的には、「暴力団排除特別強化地域」内で、「特定営業者」が「暴力団員から用心棒の役務の提供を受けること」「暴力団員等に用心棒料やみかじめ料を支払うこと」、暴力団員等が「特定営業者に用心棒の役務を提供すること」「特定営業者から用心棒料やみかじめ料を受け取ること」が罰則の対象となります。なお、当該規定に違反すると、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられることになりますが、特定営業者が自ら違反事実を申し出た場合、刑が軽減または免除される自主減免規定がある点は東京都暴排条例の改正点と同様です。参考までに、「用心棒料」については、「営業に係る業務を円滑に行うことができるようにするため、顧客、従業員その他の関係者との紛争の解決又は鎮圧を行うことの代償として暴力団員が要求する金品等」、「みかじめ料」については、「営業に係る業務を行うことを容認することの代償として暴力団員が要求する金品等」をいうと定義されています

    (2)熊本県暴排条例に基づく逮捕事例

     熊本県八代市の住宅を暴力団事務所として使用していたとして指定暴力団道仁会の幹部ら組員2人が熊本県暴力団排除条例違反の疑いで逮捕されています。報道によれば、この住宅は小学校から200メートルほど離れた場所にあり、そもそも容疑者の知り合いが所有していたところ、当該知人が死亡したあと、暴力団事務所として使用し、複数の暴力団関係者が出入りするのが確認されたということです。

    ▼熊本県暴力団排除条例

     同県暴排条例第21条(暴力団事務所の開設及び運営の禁止)において、「何人も、次に掲げる施設の敷地の周囲200メートルの区域内においては、暴力団事務所を開設し、又は運営してはならない」として、(1)学校教育法(昭和22年法律第26号)第1条に規定する学校(大学を除く)及び同法第124条に規定する専修学校(高等課程を置くものに限る)とされています。さらに、第6章(罰則)第35条では、第21条第1項の規定に違反した者について、「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」と規定されています。

    (3)指名停止・排除措置公表事例(福岡県 2事例)

     福岡県、福岡市、北九州市において、(1)福岡県宗像市の塗装店の「役員等又は使用人が、暴力的組織又は構成員等と密接な交際を有し、又は社会的に非難される関係を有している」(福岡県)、「当該業者の役員等が、暴力団と「社会的に非難される関係を有していること」に該当する事実があることを確認した」(北九州市)として、また、(2)福岡県篠栗町の建設業者の役員らが指定暴力団3代目福博会系の組員であることが確認されたとして、それぞれ指名停止措置(排除措置)が講じられ公表されていますので、紹介します。

    ▼福岡県 暴力団関係事業者に対する指名停止措置等一覧表
    ▼福岡市 競争入札参加資格停止措置及び排除措置一覧
    ▼北九州市 暴力団と交際のある事業者の通報について

     なお、(1)の排除期間については、福岡県は「令和元年7月25日から 令和3年1月24日まで(18ヵ月間)」、福岡市は「令和元年7月18日から令和2年7月17日まで」、北九州市は「令和元年7月24日から18月を経過し、かつ、暴力団又は暴力団関係者との関係がないことが明らかな状態になるまで」と自治体によりバラつきが見られる措置内容となっています。また、(2)については、代表者が暴力団構成員である事例であり、3つの自治体ともに「排除措置36か月(北九州のみ、「36か月を経過し、かつ、暴力団又は暴力団関係者との関係がないことが明らかな状態になるまで」としています)と措置としては最長となっています。

    (4)暴力団対策法に基づく再発防止命令の発出事例(神奈川県/福岡県)

     神奈川県公安委員会は、正月飾りの購入を不正に要求したとして、稲川会系組幹部に対して暴力団対策法に基づく再発防止命令を出しています。報道によれば、同幹部は昨年12月、同市内の設備会社に対して正月飾りの購入を要求したとして、今年4月に厚木署長から中止命令を受けたほか、昨年11月にも、市内の別の設備会社に対して正月飾りの購入を要求しており、同県公安委員会が、この幹部が今後も類似の行為を行う恐れがあるとして、再発防止命令を出したものです。
    また、福岡県公安委員会は、暴力団の威力を示して高金利の取り立てをしたとして、暴力団対策法に基づき、指定暴力団太州会系組幹部に再発防止命令を出しています。報道によれば、この組幹部は今年2月下旬ごろ女性に対し、4月30日には女性以外にも、太州会の威力を示して法定金利を超す債務の支払いを迫ったということであり、同県公安委員会が、今後も同じような行動を繰り返す恐れがあるとして、再発防止命令を出したものです。

     なお、暴力団対策法では、再発防止命令に違反すると、暴力団対策法第47条の「三年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」という罰則が適用されることになります。

    ▼暴力団対策法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)

    (5)暴力団対策法に基づく中止命令の発出事例(福岡県)

     福岡県警は、指定暴力団六代目山口組系組員に対し、暴力団対策法に基づき、中止命令(みかじめ料要求行為、用心棒料等要求行為)を出しています。報道によれば、同組員は福岡県内在住の自営業男性が経営する飲食店を訪れ、男性に対して「お前どこから面倒みてもらいようとや」「毎月5万円持ってこい」などと暴力団の威力を示し、みかじめ料や用心棒料などを要求したということです。
    なお、暴力団対策法では、第9条(暴力的要求行為の禁止)において、「指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない」と定めており、今回の事例は、第4項「縄張(正当な権原がないにもかかわらず自己の権益の対象範囲として設定していると認められる区域をいう。以下同じ。)内で営業を営む者に対し、名目のいかんを問わず、その営業を営むことを容認する対償として金品等の供与を要求すること」に該当するものと考えられます。なお、第11条(暴力的要求行為等に対する措置)において、「公安委員会は、指定暴力団員が暴力的要求行為をしており、その相手方の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該暴力的要求行為を中止することを命じ、又は当該暴力的要求行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる」としています。

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