暴排トピックス

コンプライアンスやリスク管理に関するその時々のホットなテーマを、現場を知る
危機管理専門会社ならではの時流を先取りする鋭い視点から切り込み、提言するコラムです。

実効性ある反社チェックのために(1)(2020.7)

執筆者:主席研究員 芳賀恒人

【もくじ】―――――――――――――――――――――――――

1.実効性ある反社チェックのために(1)

2.最近のトピックス

(1)AML/CFTを巡る動向

(2)特殊詐欺を巡る動向

(3)薬物を巡る動向

(4)テロリスクを巡る動向

(5)犯罪インフラを巡る動向

(6)その他のトピックス

・暗号資産(仮想通貨)を巡る動向

・IRカジノ/依存症を巡る動向

・犯罪統計資料

・忘れられる権利等を巡る動向

(7)北朝鮮リスクを巡る動向

3.暴排条例等の状況

(1)暴排条例に基づく勧告事例(大阪府))

(2)暴排条例に基づく再発防止命令の発出(福岡県)

(3)暴力団関係事業者に対する指名停止措置等事例(福岡県)

(4)暴排条例の改正(富山県)

(5)暴力団対策法に基づく中止命令・再発防止命令の発出事例

実効性ある反社チェックのために(1)

(1)反社データベース活用の正しい理解を

反社チェックに欠かせない「反社データベース」について、その活用について正しく理解し、反社チェックの限界を認識することが実効性ある反社チェックを行うためにまずは必要なこととなります。

銀行業界では、2018年1月から、警察庁の暴力団等に関する情報データベースを金融機関と接続する取り組み(公助)が始まっています。それ以外にも、全銀協・生保協会・損保協会等が保有するデータベース(共助)の活用、事業者が自ら収集するなどして保有しているデータベース(自助)をグループ・ガバナンスの一環としてグループで保有する反社データベースを共有するといった動きが加速しています。ただし、民間事業者が活用できるデータベースは、「既に何等かの形で公知となった者の情報」であり、「現時点の実態を正確に示すものではない」こと、「実務上は同姓同名・同年齢の問題から同一性の精度に問題がある」ことなどの限界があります。加えて認識すべき点として、警察や暴追センターが提供する情報が全ての反社会的勢力をカバーしているわけではなく、むしろ、警察庁の内部通達「暴力団排除等のための部外への情報提供について」(平成25年12月改定、平成31年3月更新)に明記されている「立証責任」(情報の内容及び情報提供の正当性について警察が立証する責任を負わなければならないとの認識を持つこと)や「情報の正確性」の確保に鑑み、提供して問題のない確証のある情報(例えば、現役の暴力団構成員など)に限定される傾向が一層強まっている点があげられます。その帰結として、データベースに登録されている者や情報提供の対象者が比較的直近の属性や犯罪に紐付いている傾向にあること(つまり、データベースに「時系列的な厚み」があまり期待できないこと)、したがって、共生者や周辺者(最近活動が活発化している「準暴力団」など)といったグレーゾーンに関する情報があまり期待できないこと(経験的に、グレーゾーンに位置する者は、「直近ではない過去」に何らかの犯罪に関与しているケースが多いため、共生者等の把握にはデータベース上の「時系列的な厚み」が必要不可欠です)、さらには、そのようなデータベース上の属性を有する者が、チェックの対象となる者(=契約等の当事者)になりうるかといった根本的な懸念すら拭えない状況にあります。そして、当然のことながら、反社会的勢力は、そのようなリスクを、代理契約、偽名・借名・なりすまし等によってヘッジしている現実があるのです。データベースの活用においては、まずはこれらの限界について、十分認識しておくことが必要です。

さらに、データベースを巡る問題として、「反社会的勢力の範囲はどこまでか」が実務上の大きな課題となります。そもそも、反社会的勢力排除の取組みにおいては、反社会的勢力の範囲(定義)が明確でなく、あいまいなままであることがその難しさの根本的な要因となっています。一方で、その範囲(定義)さえ明確に線引きがなされ、それが社会全体での共通認識となれば、(データベースの限界は別として)社会からの反社会的勢力排除が実現されるかといえば、答えは「否」です。極論すれば、事細かに詳細まで定義すべきではありません。

反社会的勢力については、当社では、「暴力団等と何らかの関係が疑われ、最終的に『関係を持つべきでない相手』と個別に見極めて、排除していくべきもの」と定義していますが、それは、そもそもが「本質的にグレーな存在」である実態を踏まえたものです(桜を見る会を巡る騒動の際に閣議決定として出された「反社会的勢力(反社)は、その時々の社会情勢に応じて変化しうるものであり、限定的かつ統一的に定義することは困難」という見解は実は正しい捉え方といえます)。一方で、反社会的勢力の範囲を詳細に定義することが可能になれば、データベースの収集範囲が明確となり、その結果、データベースの精度が向上し、排除対象が明確になり、暴排条項該当への属性立証も円滑に進むであろうことは容易に想像できます。

しかし、そこに落とし穴が潜んでいるのです。

反社会的勢力の範囲の明確化は、反社会的勢力の立場からすれば、偽装脱退などの「暴力団対策法逃れ」と同様の構図により、「反社会的勢力逃れ」をすすめればよいだけの話となります。社会のあらゆる局面で、排除対象が明確になっており、データベースに登録されている者を、あえて契約や取引の当事者とするはずもなく、最終的にその存在の不透明化・潜在化を強力に推し進めることになると考えられます。その結果、実質的な契約や取引の相手である「真の受益者」から反社会的勢力を排除することは、今まで以上に困難な作業となっていくのは明らかです。そして、反社会的勢力の資金源を断つどころか、逆に、潜在化する彼らの活動を助長することになりかねず、結局はその見極めの難易度があがる分だけ、自らの首を絞める状況に追い込まれることになります。

さらに、反社会的勢力の範囲の明確化を事業者側から見た場合、排除すべき対象が明確になることで、「それに該当するか」といった「点(境目)」に意識や関心が集中することになることから、逆に、反社チェックの精度が下がる懸念もあります。そもそも、反社会的勢力を見極める作業(反社チェック)とは、当該対象者とつながる関係者の拡がりの状況や「真の受益者」の特定といった「面」でその全体像を捉えることを通して、その「点」の本来の属性を導き出す(炙り出す)作業でもあります。表面的な属性では問題がないと思われる「点」が、「面」の一部として背後に暴力団等と何らかの関係がうかがわれることをもって、それを反社会的勢力として「関係を持つべきでない」排除すべき対象と位置付けていく一連の作業です。その境目である「点」だけいくら調べても、反社会的勢力であると見抜くことは困難であり(さらに、今後その困難度合が増していくことが予想されます)、全体像を見ようとしない反社チェックは、表面的・形式的な実務に堕する可能性が高くなると考えられます。

反社会的勢力の範囲を明確にすることで、表面的・形式的な暴力団排除・反社会的勢力排除の実現は可能となると考えられます。企業実務においてリソース等に限界がある以上、また、一方で営利を目的とする企業活動である以上、最低限のチェックで良しとする考え方もあることは否定しませんが、既に述べた通り、私たちに求められているのは、暴力団対策法によって存在が認められた暴力団や当局が認定した暴力団員等、あるいは、「現時点で認識されている反社会的勢力」、便宜的に枠を嵌められた、限定された存在としての「目に見える反社会的勢力」の排除にとどまるのではなく、「真の受益者」たる「暴力団的なもの」、「本質的にグレーな存在」である「目に見えにくい反社会的勢力」の排除が本筋であることを忘れてはなりません。反社会的勢力の範囲を明確にすることが、直接的に相手を利することにつながり、対峙すべき企業が自らの首を絞めるとともに、自らの「目利き力」の低下を招くものだとしたら、これほど恐ろしいことはないのです。

(2)目利き能力を如何に高めるか

反社チェックにおいては反社データベースを活用したスクリーニングが一般的ですが、真に憂慮すべき問題は、情報を利用する側の企業姿勢にあります。つまり、反社データベースに「依存」「安住」するあまり、それ以上の取組みについて「思考停止」に陥ってしまうこと(これで十分だと誤信してしまうこと)、もっと言えば、反社会的勢力の不透明化や手口の巧妙化の現実をふまえれば、現場の「目利き」力を高めるべき状況にあるにもかかわらず、「思考停止」によってその能力の低下すら招きかねないという点にあります。例えば、企業が暴排コンプライアンスについて、営業活動を阻害する「やっかいなもの」との認識を持っており、「データベースで確認しさえすればよい」といった活用の仕方が推奨されることによって、一定の「お墨付き」を得られるとの感覚があるとすれば、根本的な解決には程遠いと言わざるを得ません。そもそも反社チェックとは、日常業務の中から「疑わしい」端緒を把握し、それを基に組織的に見極め、排除に向けて取り組むことに他なりません。現場の端緒情報を軽視しデータベースに依存することだけでは反社チェックの精度を十分に確保することは難しいし、現場における暴排意識やリスクセンスの向上なくしては、反社会的勢力の実質的な排除、あるいは、その前提となる見極めすら期待できません。それが実質的に高い精度が期待できないデータベースであればなおさら、それがどのようなものであれ、「データベースに該当しないこと=反社会的勢力でない」との短絡的な思考が、それ以上の思考を停止させ「目利き」力を低下させること、つまり、反社会的勢力排除のためのデータベースが、反社会的勢力排除の実効性を阻害するという本質的な矛盾を生じさせる危険性を孕むことを強く認識すべきです。

反社チェックは反社リスク管理態勢の出発点です。反社チェックを支えるものは、あくまで現場における高い「暴排意識」と「リスクセンス」であり、データベースはそれらと相互に補完しあう役割を担っているにすぎません。反社会的勢力につながる端緒情報をデータベースから得られることは、現場の意識を高めること、すなわち、チェック(観察力)の精度を高めることにつながります。また、現場で収集された風評や取引や接触等を通じた違和感や怪しさといった「ぼんやりとした」端緒情報にデータベースが客観的な事実(確証)や示唆を与えることもあります。データベース・スクリーニング自体は「必要条件」や「十分条件」にはなりうるものの、単独で「必要十分条件」にはなり得ないといった性質のものです。なお、現場が拾い上げる端緒情報の精度については、あるメガバンクでAML/CFTの取組みについて伺ったところ、AMLシステムにおける膨大なロジックによりシステム的に抽出された端緒情報(異常値)と現場行員から寄せられた疑わしいとの端緒情報の「精度(この場合は、最終的に金融庁に「疑わしい取引」として届出をすることになる比率)」を比較すると、後者の方が圧倒的に高いということでした。データベース偏重が現場の思考停止を生むことをリスクとして認識しながら、現場の目利き力を高めるためには、まずは、「何かおかしい」と個人が思えること・気付くこと(リスク感覚が麻痺していないこと)、その個人的な感覚が組織の感覚とマッチすること(組織の論理が個人の常識や感覚を封じ込めないこと)、つまり、組織の外においては健全に機能する各人の「社会の目」を組織内にどれだけ取り込めるかという組織風土(社風)に着眼する必要があります。したがって、組織風土の醸成との観点から言えば、「風通しが良い」、「正しいことを正しく行う」、「正しいことが評価される(正しいことをやろうとして犯した失敗にはある程度寛容である)」といった当たり前のことが、暴排の取組みにおいても極めて重要だと言えるのです。

(3)反社チェックにおけるデータベース・スクリーニングの位置付け

そもそも、反社会的勢力を見極める作業(反社チェック)とは、当該対象者=「点」とつながる関係者の拡がりの状況や「真の受益者」の特定といった「面」でその全体像を捉えることで、その「点」の本来の属性を導き出す(炙り出す)作業です。表面的な属性で問題がないと思われる「点」が、「面」の一部として背後に暴力団等と何らかの関係がうかがわれることをもって、それ「関係を持つべきでない」反社会的勢力として排除すべき対象と位置付けていく一連の作業であって、この本質的な反社チェックのあり方から見た場合、データベース・スクリーニングに代表される機械的・システム的なチェックやそれに伴う判断は、あくまで本来的な反社チェックの「一部」あるいは「代替策」に過ぎないと言えます。「預金口座の開設」、「保険契約」、「クレジット契約」、「個品割賦購入契約」といった大量かつスピーディな処理が求められている業務においては、効率性と精度をある程度のところで両立させる有効な方法が他にないが故の「代替策」であって、他の手法とどれだけ組み合わせられるかは企業努力次第ということになります。したがって、このような手法に依存することが多い「入口」審査においては、データベースの限界と相まって精度が不十分である(すなわち、不完全である)こと、結果として、反社会的勢力がすり抜けて入り込んでしまっていることを強く認識した業務運営を行うべきだと言えます。したがって、「入口」審査の限界をふまえた「事後チェック」(中間管理)の精度向上の視点が一層重要となります。データベース・スクリーニングの手法に限って言えば、データベースの更新の都度行うという高頻度のスクリーニング、あるいは、複数のデータベースを組み合わせて利用することによって「粗い網の目」を狭めていく工夫などが考えられます。実際、IPO(新規上場) の場面では、自社による反社チェック(記事検索サービスやインターネット検索、専用データベース等の活用による自律的・自立的なチェック)以外にも、主幹事証券の保有するデータベース、証券取引所の保有するデータベースと少なくとも3段階の異なるデータベースによるスクリーニングを実施することで、万全を期すための努力を行っています。また、データベース・スクリーニングが本来的な反社チェックの「代替策」に過ぎないことをふまえれば、「融資契約」、「代理店・加盟店等の業務委託契約」、「売買契約」をはじめとする他の契約類型においては、「登記情報の精査」「風評の収集」「実体・実態確認」その他の反社チェックの手法を組み合わせるなど、反社チェック本来の形に近づける努力をすべきであるし、それが求められていると認識すべきです。さらに、「入口」審査の限界をふまえた「事後チェック」の精度向上においては、データベース・スクリーニングの高頻度かつ重層的な活用以外にも、中途でのモニタリング強化の視点が必須です。そこでの主役は、現場レベルの「日常業務における端緒情報の把握」であり、一人ひとりが「暴排意識」と「リスクセンス」をフルに発揮できる環境作りと情報の集約・審査体制の整備、さらには排除を可能にする積極的な仕掛け作りが求められます。

(4)最近の暴力団情勢

国内最大の指定暴力団六代目山口組と、分裂した神戸山口組が今年1月に特定抗争指定暴力団に指定されてから間もなく半年となります。同指定による組織活動の大幅な制限に新型コロナウイルスの感染拡大も重なり、しばらく目立った抗争はなく、暴力団が関わる犯罪件数自体も減少していたところ、5月末に岡山市内で神戸山口組系幹部が六代目山口組系幹部に銃撃される事件が発生しました。これにより、分裂抗争が再燃する恐れが一気に高まり、警察当局は指定の延長や活動を規制する「警戒区域」の拡大により、取り締まりを強化しています。なお、水面下では、勢力の大きい六代目山口組側による切り崩しが続いているとの情報もあり、神戸山口組側は組織の解散や幹部の引退、組員の六代目山口組側への流出が相次いでいるとの情報もありますが、神戸山口組側も簡単にあきらめるはずもなく、抗争の長期化を見据えた関係者(警察・六代目山口組・神戸山口組など)の動きが見られています。なお、特定抗争指定については、激化する抗争に歯止めがかかると期待される一方、両組織が区域外での活動を活発化させる恐れも否定できないところです。今年1月に区域設定された愛知県や兵庫県内では区域外への幹部の会合や居宅の移転が確認され、今回の区域の追加につながっています。また、区域外だった岡山市でも、今年に入り六代目山口組最高幹部らによる会合や儀式の開催が確認されています。岡山県内でも岡山市での規制を逃れ、六代目山口組の直系団体がある津山市、神戸山口組の直系団体がある倉敷市などへ拠点や活動の場を移す危険性も残っています。そういう意味でも、警察当局は、抗争の長期化を見据えたこのような動きを注視し、適切かつ迅速に対応を講じていくことが求められています。

さて、今回の岡山市で神戸山口組系幹部が銃撃された事件を受け、岡山、鳥取、島根、愛媛の4県で六代目山口組と神戸山口組を「特定抗争指定暴力団」に指定するための一連の意見聴取が完了し、4県の公安委員会は7月7日に指定する運びとなりました。活動を厳しく制限する「警戒区域」が設定されるのは愛知や兵庫など現在の6府県から10府県に増えることになりました。警戒区域の拡大は初めてで、神戸山口組系池田組と山口組系大同会の事務所がある岡山市、鳥取県米子市のほか、関係先がある松江市や愛媛県四国中央市が新たに警戒区域になります。なお、銃撃事件とは別に、六代目山口組幹部の会合や神戸山口組幹部の居宅の移転が確認されたとして、愛知県は同県あま市を、兵庫県は同県南あわじ市を追加する方向で、警戒区域は名古屋、大阪、神戸など現在の10市から16市となります。また、これに先立ち、兵庫、愛知など6府県の公安委員会は、六代目山口組と神戸山口組に対する「特定抗争指定暴力団」への指定を、効力が切れる7月7日から10月6日まで3カ月間延長すると官報で公示、延長は2回目となります。また、今回の銃撃事件を受け、鳥取県公安委員会は米子市内にある六代目山口組系大同会と傘下組織の事務所計3か所に、暴力団対策法に基づく事務所資料制限の本命令を出しています。また、同様に、岡山県公安員会も、神戸山口組系池田組の組事務所の使用制限の本命令を出しています。

次に、福岡県内における指定暴力団の動向について確認します。まず、工藤会については、新たな活動拠点として福岡県公安委員会が6月3日に官報で公示した同会系2次団体の組事務所について、事務所のビルと土地を所有する工藤会暫定トップで会長代行の組長(72)が親族の企業に売却する手続きを始めています。県警は新拠点に対する使用制限命令などの回避を狙った可能性も視野に、今後の動向を慎重にみています。同組長は、官報に公示する前の3月に県公安委が意見聴取した際も事務所の閉鎖と売却の意向を示していました。その後、福岡県公安委員会は6月26日に暴力団対策法に基づく使用制限命令の発令を視野に県警本部で同会側を意見聴取しており、聴取に臨んだ同会暫定トップの会長代行らは、事務所の防犯カメラを外し、固定電話も解約、テナント募集の張り紙もしていると明かし、事務所を親族企業へ売却する手続きを進めているとして、活動拠点としての実態がないなどと訴え、発令をけん制しました。しかしながら、7月2日には、福岡県公安委員会は今後も組織の活動に使用される恐れがあると判断、同事務所について、暴力団対策法に基づき同会構成員の出入りを禁止する使用制限命令を出しました。また、工藤会トップの総裁野村悟被告(73)とナンバー2の会長田上不美夫被告(64)が、組織犯罪処罰法違反(組織的殺人未遂)などの罪に問われた4つの一般人襲撃事件について公判が福岡地裁で進められていますが、2013年の看護師襲撃事件では、たとえば、「被害者の看護師の見張り役として関わった同会系組幹部が事件前、被害者が勤務するクリニックで実際に施術を受け、顔を覚えた」のと証言、「看護師の元同僚が、事件後に野村被告が勤務先の北九州市のクリニックを訪れ「あの人は刺されても仕方ない」と言った」との証言、事件に関与した者しか知り得ない情報を野村被告が知っていたことが法廷で明らかになった」、「元組員2人が、事件後に現金15万円を受け取ったことを明らかにした」、「工藤会系組幹部が出廷し、事件に使われた刃物は自ら購入し、実行役には「ちょっと手伝ってほしいことがある。ある人物の顔を切って尻を刺してほしい」と伝えた」との証言、「福岡県警が通信傍受した同会系組幹部の音声が法廷に流れ、使い捨て携帯電話を準備したという意味とみられる「電話を9台用意した」という言葉や、「明日予定通りね」「はい、分かりました」「具合悪い仕事なんですよ」「言わんでいい」といったやり取り、「あれのあれは、あれまた用意しとうけ」と、意味が判然としない会話もあった」などといった証言等があり、審理は終了しました。続いて、2014年の歯科医師刺傷事件の審理が始まり、「同会ナンバー2の田上不美夫被告が、歯科医師の父に危害を加えかねないことを示唆していたことが証人尋問で明らかとなった。2014年2月に親族は田上被告から「脅しじゃないぞ。本当にやるぞ。会の方針やけの」という趣旨の伝言を頼まれたことを明かした。しかし、代表理事は工藤会の意向に応じず、同3月に親族が田上被告と会った際は「分からせるしかないな」と話したという」といった重要な証言や、「襲撃された歯科医師の親族の男性が証言。福岡県警に事件内容を語ったのは両被告の逮捕後だったと明かし、工藤会について「上から『行け』と言われたら行くような連中で、恐ろしいと感じていた」と述べた」、「事件の約3カ月前に田上被告が漁協に関する利権に関心を示し、事件を示唆する発言をしていた」といった内容も出ています。

また、無登録の貸金業(ヤミ金)で得た違法な収益を上納させたとして、福岡県警は6月16日、福岡市の指定暴力団福博会トップの金城国泰容疑者(61)を、組織犯罪処罰法違反(犯罪収益等収受)容疑で逮捕しています。2019年1月に逮捕されるまでの4年間に、ヤミ金融などでおよそ4,500万円の利益を上げていた組員から現金7万円を上納金の名目で受け取ったというものです。金城容疑者は今年6月5日の継承式で高齢の前会長(81)に代わり、組織トップの会長職に就いたばかりであり、県警は組織の収益構造や新体制など実態の解明を目指すとしています。福博会の福岡県内の勢力は2019年末時点で準構成員らを含み約180人で、六代目山口組と親密な関係にあり、県警は六代目山口組と神戸山口組との抗争が県内に波及しないよう警戒しているといいます。さらに、福岡市博多区の歓楽街・中洲で無許可営業したとして摘発されたキャバクラ店の経営に関与したとして、福岡県警博多署は、浪川会の本部事務所などを風俗営業法違反容疑で家宅捜索しています。店は「暴力団員立入禁止」の標章を店舗出入り口に掲示しており、暴力団排除に取り組んでいる姿勢を示しながら実際は浪川会の資金源になっていた可能性があり、同署が実態解明を進めています。内偵捜査で経営者らが浪川会関係者と親交があり、店の売上金の一部が同会に流れていた疑いが浮上、家宅捜索で書類など数百点を押収したということです。標章は、福岡県暴排条例に基づき、飲食店が県公安委員会に申し出て掲示するものですが、容疑者は別の人の名義で店を営業し、標章を利用したとみられています。残念ながら、結果的に実質的支配者の確認の不十分さが露呈したことになり、「暴排標章」が「暴排キャバクラ」として悪用されてしまったことは、極めて残念です。

暴力団の関与した薬物関係では、354億円相当の覚せい剤密輸を図ったとして、住吉会系の組員が逮捕されています。本事件は、昨年12月、熊本県天草市の港で、密輸目的の590キロ、末端価格354億円相当の覚せい剤が漁船から見つかったものとして話題となりましたが、容疑者は19歳の少年を、共犯の男らへの指示を通じて、船に乗るよう勧誘した疑いが持たれているとのことです。また、自宅アパートの敷地内で覚せい剤2グラムを所持していた疑いで、静岡、福井両県警が稲川会系組織の関係者と無職の男の2人を再逮捕しています。昨年4月、覚せい剤取締法違反(使用)の疑いで男性=執行猶予付き有罪判決=を逮捕、入手経路などの捜査で両容疑者が判明し、覚せい剤取締法違反(共同所持など)の疑いで逮捕したもので、両容疑者は同じアパートの別の部屋に住んでいるということです。また、東京・渋谷のスクランブル交差点で乱闘騒ぎを起こしたとみられる、暴力団組員とイラン人が逮捕されています。逮捕された六代目山口組系の幹部ら4人と、イラン人の容疑者ら2人は、今年4月、渋谷のスクランブル交差点で殴り合うなどした暴行の疑いが持たれているといいます。報道によれば、当時、イラン人側が、組幹部に「薬はいらないか」と声をかけ、暴力団グループ側が「覚せい剤を売買するなら、みかじめ料か覚せい剤を渡せ」と言って、乱闘騒ぎになったようです。センター街で薬物の密売が横行していることを示す事件でもあります。

また、暴力団の関与した詐欺関係では、警視庁は、特殊詐欺事件に関与したとして稲川会系組員の男を逮捕し、関係先として稲川会の関連施設を家宅捜索しています。昨年10月、町田市の70代の女性から不正に入手したキャッシュカードを使い、およそ300万円を引き出したなどの疑いで稲川会系組員を逮捕したものです。本コラムでも紹介したとおり、稲川会では5月、「特殊詐欺への関与は厳禁」とする文書を傘下の構成員らに通知していますが、警視庁は、こうした特殊詐欺で得た金が資金源の一部になっているとみて実態解明をすすめているといいます。また、高齢男性からキャッシュカードをだまし取るなどしたとして、暴力団組員ら男女3人が逮捕された事件で、埼玉県の大宮署は、詐欺と窃盗の疑いで、極東会傘下組織幹部=恐喝罪で起訴=を逮捕しています。神奈川県綾瀬市の70代の無職男性方に金融機関職員を名乗って電話をかけ、キャッシュカード1枚をだまし取り、金融機関のATMで現金50万円を引き出した疑いがもたれています。

その他、暴力団が関与した事件では、暴力団幹部の男が、暴力団幹部であることを隠して、建設会社を実質経営していた疑いで逮捕されたというものもありました。報道によれば、六代目山口組傘下組織幹部が2017年、暴力団幹部であることを隠して、建設会社の設立申請を行い、実質経営していた建設業法違反の疑いが持たれているといいます。容疑者は「もうヤクザから抜けているので正規の申請だと思っていた」と容疑を一部否認しているようです。なお、容疑者は、建設会社設立に必要な資格を持っていた男(76)に金を渡して名義を借りていた疑いも持たれていて、警視庁は会社設立のくわしい経緯を調べているといいます。また、男性を焼肉店の名義人にさせた上、1年間働かせたとして、大阪府警捜査4課などは、強要容疑で、六代目山口組系幹部の男と組員の男ら4人を逮捕したというものもありました。男性は組員の男らに賭博などで借金があり、店で働いた分の給料は全て借金返済のため取り上げられていたといいます。組幹部の男はこの焼肉店を資金獲得活動に使っており、暴力団組員では賃貸借契約を結べないため、男性を利用したということです。また、直近では商標法違反の事例も相次ぎました。まず、高級ブランドの偽物のバッグなど50点余りを販売目的で所持していたとして六代目山口組系の暴力団員が商標法違反の疑いで逮捕されています。警察は、暴力団の資金源になっていた可能性もあると見て入手ルートなどを調べているといいます。報道によれば、フランスの高級ブランド「ルイ・ヴィトン」や「エルメス」などの偽物の財布やバッグなど計52点を販売目的で所持したとして商標法違反の疑いが持たれているといいます。また、岡山県警津山署は、商標法違反(類似商標商品の販売)の疑いで、六代目山口組幹部と自営業の男の両容疑者を逮捕しています。報道によれば、美作市内で、ルクセンブルクに本社がある「ディースクエアード2・ティ・エム・ソシエテ・アノニム社」が商標登録しているロゴに似せたマークが入ったズボン1着を知人男性に手渡しで販売した疑いがもたれており、組幹部の自宅から同社や別ブランドの衣類を大量に押収、鑑定を進めるとともに入手経路を調べているといいます。

新型コロナウイルス感染拡大に伴う各種給付金の不正受給に暴力団が絡む事案も散見されています。愛知県の要請を受けて休業したと偽り、新型コロナウイルス対策の協力金50万円をだまし取ろうとしたとして、県警中署は、キャバクラ店の経理担当で会社員を詐欺未遂の疑いで逮捕しています。協力金の不正な申請をめぐる逮捕は全国で初めてとみられています。このキャバクラ店の営業を把握した県警が、協力金を申請していないか名古屋市に問い合わせ、申請が発覚したといいます。その後、新たに指示役とみられる風俗店グループ経営の男2人を逮捕、警察は店の売上金などの流れについても調べています。また、新型コロナウイルスの影響で業績が悪化した事業者が利用できる特別貸付制度をめぐり、申込書を偽造した疑いなどで神戸山口組傘下組織の幹部と妻でスナック経の女性が、有印私文書偽造と詐欺未遂などの疑いで逮捕されています。報道によれば、2人は容疑者からスナックの経営を任されている女性の名前や印鑑を使って、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で業績が悪化した事業者向けの貸付の申込書を偽造し、今年4月に兵庫県内の金融機関に提出して実質無利子の特別貸付250万円の交付を受けようとした疑いがもたれているといいます。また、不正受給のために、ホームレスや生活困窮者の奪い合いが始まっているともいわれています。彼らを1人抱え込めば、各種の補助金を申請する名義人に仕立て上げることができ、生活保護の申請から口座を契約させ、補助金などの申請などに何度でも「使える」という「貧困ビジネス」を展開している実態があります。

直近の半グレの動向についても確認しておきます。まず、6月初旬には、東京・新宿の歌舞伎町で暴力団とスカウト業者の間でトラブルが発生し、組員たちが「スカウト狩り」を行うという信じられない事件が発生しています。事件の背景にはスカウト同士の縄張り争いによる衝突があり、さらにこれに暴力団も加わり、流血騒ぎとなったというものです。新型コロナの影響で、歌舞伎町を訪れる人が激減、その結果、風俗店のスカウトたちの間で、女性の奪い合いが激化し、縄張り争いとして表面化したことに端を発したものといいます。話題となっているスカウト会社は、警察の取り締まりで暴力団が身動きを取りづらくなったのをいいことに、やりたい放題しており、半グレに近いとも指摘されています(ただし、半グレとして明確に位置づけられているわけではありません)。なお、反社会的勢力の周縁部分に位置し、明確に暴力団とは区別されている半グレですが、半グレかどうか判然しないこのスカウト会社のようなアウトローの存在もまた「反社会的勢力」と捉えて「関係をもたない」ことは実務的には問題ないと考えられます。さて、神戸市の繁華街の質店に1月、マスク姿の男が押し入り高級腕時計6本が奪われた事件で、兵庫県警捜査1課が、強盗致傷などの疑いで、半グレグループ「89(バグ)」のリーダー(21)=別の強盗致傷罪などで起訴=ら男3人を再逮捕しています。3人は神戸の事件から8日後の1月15日に大阪市内の時計店で起きた強盗事件に関与したとして、5月下旬までに大阪府警に逮捕されていました。また、今年3月、京都府長岡京市の住宅に男らが押し入り現金などが奪われた事件で、指示役とみられる2人が逮捕されています。強盗致傷などの疑いで逮捕されたのは、大阪府枚方市に住む無職の男(21)と自称・飲食店従業員の少年(18)で、住人の男性(53)をハンマーで殴って重傷を負わせたうえ、現金約20万円や高級時計など約107万円相当を奪った疑いがもたれているといいます。報道によれば、男らはいわゆる半グレグループのメンバーで、今回逮捕された2人が犯行を指示していたとみられます。実行犯の男らは事件の後に車で逃走し、大型トラックと正面衝突しています。また、地下格闘技団体の「強者」の創設者が、従業員を脅迫して働かせたとして、労働基準法違反(強制労働の禁止)の疑いで沖縄県警に逮捕されています。なお、この人物は今の大阪の「半グレ」の基礎を築いたともいえる人物であり、今でこそ大阪を離れ石垣島でステーキ店を経営しているものの、未だにこの人物を慕って石垣島に尋ねていく人間も多いといいます。(本コラムでも取り上げた)大阪で準暴力団に指定されている「半グレ」である「アビス」も「拳月グループ」も元は強者でした。なお、石垣島については、最近は強引な客引きが社会問題となっており、今回の逮捕については、沖縄県警の別の狙いも見え隠れしています(なお、石垣島には前述した「スカウト狩り」を逃れた人物が逃げ込んできたという情報もあります)。

その他、暴力団等反社会的勢力に関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 愛知県警は、地方公務員法(守秘義務)違反の疑いで捜査4課の男性巡査部長(36)を書類送検し、停職3カ月の懲戒処分にしています(巡査部長は依願退職しています)。報道によれば、2017年12月~20年3月、5回にわたり、暴力団関係者の男に携帯電話や通信アプリで、捜査情報などを教えた疑いがもたれています。なお、情報を教えるよう要求したとして、同法違反の教唆容疑で男も書類送検されています。巡査部長は数年前、取り調べで男と知り合ったといい「暴力団の情報をもらっており、情報を提供することで関係を継続したかった。金銭などのやりとりはなかった」と説明、県警は捜査に影響はなかったとしています。2019年10月と2020年4月、別の4課員が捜査で情報漏えいを把握し、内部調査して発覚したということです。
  • 3月期決算企業の定時株主総会は6月26日に集中日を迎えました。かつては議事進行を妨げるなどして金品を要求する総会屋が暗躍しましたが、法規制や取り締まりの強化でその数は最盛期の1,700人から現在では約200人にまで減っています(そのうち、精力的に活動しているのはごくわずかと言われています)。
  • 出所者の雇用を支援する法務省の矯正就労支援情報センター「コレワーク」が、福岡市や札幌市など全国6カ所で新たに開設され、これまでのさいたま市と大阪市と合わせて全国計8カ所体制に増強されました。新型コロナウイルスの感染拡大を受けた雇用情勢の悪化が懸念されるところ、建築・土木業を中心とする求人は堅調だといい、労働人口の減少に伴う慢性的な人手不足を背景に、刑期を終えた出所者の雇用に熱い視線が注がれているといいます。法務省によると、2013~2017年は有職者の再犯率が8%だったのに対し、無職者は3倍超の25%であり、再犯防止策において雇用対策は極めて重要であると位置づけられています。その流れで、このような取り組みが暴力団離脱者支援にもつながり、まっとうに更生しようとする者を後押しすることになることを期待したいと思います。

2.最近のトピックス

(1)AML/CFTを巡る動向

政府は第40回未来投資会議において、新型コロナウイルス感染拡大に伴う「新しい働き方」を実現するための具体策を柱とする成長戦略原案を提示しました。具体的には、(1)新しい働き方の定着、(2)決済インフラ・キャッシュレスの環境整備、(3)デジタル市場への対応、(4)オープンイノベーションの推進、(5)モビリティへの変革などが示されていますが、その中で、「振込手数料の見直し」や「AIを活用したAML/CFT実務に対応する規制のあり方」の検討についても触れられています。

▼首相官邸 未来投資会議(第40回) 配布資料
▼資料1-1:成長戦略実行計画案

以下、この「成長戦略実行計画案」のうち、関係するところを確認していきます。

まず、「我が国の決済システムは長い歴史を持ち、非常に堅固に作られてきた半面、新しいシステムへの適応が難しい。また、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、キャッシュレス化が一層進む中で、多様な事業者が参入し、決済の高度化が一層求められる状況となっているとの指摘がある」として、「第4次産業革命の進展に伴う決済インフラの構築」を掲げる中で、「振込手数料の見直し」を図る旨が明記されています。そこでは、「第4次産業革命の進展に伴い、キャッシュレス決済の利用シーンが拡大する中、決済は多頻度になり、なおかつ少額化している。一方、キャッシュレス決済を提供する店舗への売上の入金も銀行振込によって行われているため、振込手数料の負担がキャッシュレス決済普及の障害となっている」こと、このため、「振込手数料の背景にあるコストの相当部分を占め、40年以上不変である銀行間手数料につき、その見直しを図る」必要があること、見直しにあたっては、「全国的な決済ネットワークインフラを安定的かつ効率的に運営する観点から、全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)が定める仕組みに統一し、コスト構造の見える化を行いつつ、コストを適切に反映した合理的な水準へ銀行間手数料の引下げを実施する」としています。また、「多頻度小口で送金する利用者の利便性向上の観点から、振込金額の多寡にかかわらず振込1件ごとに手数料が発生する料金体系について、利用頻度に関わらず定額で手数料を支払う仕組みも設けるなど、料金体系の多様化を促す」とも明記されています。

さらに、「デジタル技術の社会実装を踏まえた規制の精緻化」として、「従前、業法等の画一的な規制によって、企業のビジネスモデルが規定されていたが、今後、AI等の活用によって企業の提供する商品・サービスの大幅な機能向上が可能になるため、技術をうまく活用する企業のビジネスモデルが競争力を持ち、それが顧客本位のサービスにつながるという指摘がある。デジタル技術の実装が進展して、データによる状況把握の精度が高まることを前提に、ソフトロー的な手法を意識した、新しい時代にふさわしい規制制度の在り方について、具体的に検討を行うことが必要である。このため、モビリティ、フィンテック/金融、建築の3分野を中心に、中長期的な観点から実証事業を実施し、将来の規制の在り方に係る問題点や課題を洗い出すとともに、その深掘りや他分野への展開を図る」ともされています。そのうち、「フィンテック/金融分野」については、「プロ投資家対応として、顧客の取引履歴データ等の分析を進め、投資家としての能力と関連性のある項目を特定できれば、プロ投資家規制について、当該項目を踏まえた規制へと見直す」こと、「金融商品販売における高齢顧客対応として、高齢者の取引履歴データ等の分析を進め、投資家としての能力と関連性のある項目を特定できれば、高齢顧客対応についても、当該項目を踏まえた規制へと見直す」こと、さらに、「マネー・ローンダリング対策として、各金融機関が人手を介して取り組んでいるマネー・ローンダリングに関係する顧客リスク評価等の業務について、AIを活用して取り組むことで効率化できないか検討する。その結果を踏まえ、AIの活用を前提とした規制へと見直す」ことが挙げられています。なお、この「デジタル技術の社会実装」については、AML/CFT関連では、「本人確認」サービス分野ではすでに様々なサービスがスタートアップにより導入されています。例えば、2020年7月4日付日本経済新聞では、運転免許証やマイナンバーカードなどの身分証を使った本人確認サービスをオンラインで提供、顔認証と組み合わせることもできるTRUSTDOCK社のサービス、銀行の口座開設の本人確認や電子商取引(EC)の決済などに加え、オンライン診療での患者の本人確認、人材紹介会社によるアルバイト応募者の非対面での確認といった新しい使い方がされ始めている、Liquid社のスマホを使った顔認証サービス「eKYC」、マイナンバーカードとひも付けをして「デジタルID」として使えるアプリの提供を始めたブロッグハイブ社の技術が紹介されています。また、報道によれば、「調査会社のマーケッツ・アンド・マーケッツによると、生体認証などデジタルによる本人確認の世界市場は24年に305億ドル(約3兆2600億円)と19年の2倍強に伸びる見通し」だとされており、AML/CFT分野におけるデジタル技術の社会実装が急速に普及していくことを感じさせます。

また、全銀システムの振込手数料の見直しについては、海外送金(クロスボーダー送金)分野においても待ったなしの状況です。日本は諸外国に比べてコストが高く、その改善が急務となっていますが、その要因と今後の課題について、日本銀行がレポートを公表しています。前述した「成長戦略実行計画案」でも示された「AML/CFT実務のAIを活用した効率化」と「AI活用を前提とした規制のあり方の検討」は、クロスボーダー送金の分野でも当てはまり、AIを含めた「デジタル技術の社会実装」により、クロスボーダー送金コストの低減、KYCをはじめとするAML/CFT実務の効率化(コンプラ対応事務の効率化)の実現、それに連動した「規制・監督のあり方の見直し」が迫られている状況にあります。そこに、米FBの「リブラ」問題に端を発したステーブルコイン構想の議論が、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあって、社会実装に向けてその動きを加速させている状況も加わり、クロスボーダー送金を含むクロスボーダー決済のあり方がまさに問われています

▼日本銀行 クロスボーダー送金コストの決定要因
▼全文

レポートでは、「金融の技術革新は決済サービスの利便性やコスト効率性の改善をもたらしている。クロスボーダー送金においては、より速く、より安く、より透明性が高く、そしてより多くの人々が利用可能なサービスの提供に向けて、銀行やノンバンク決済事業者が競い合いながら改善に努めてきている。こうしたもと、クロスボーダー送金コストは低下していきているが、そのコスト水準は国際社会が目標とするレベルからはまだ大きく乖離しており、クロスボーダー送金の利用者に十分な恩恵が行き届いているとは言えない状況にある。このため、2020年2月に開催されたG20サミットでは、グローバルなクロスボーダー決済の改善をG20の優先事項として取組みを強化していくことを決めた」ことをふまえ、本レポートにおいて「クロスボーダー送金のコストの更なる引き下げには、コストの決定要因を的確に把握することが不可欠である。こうした問題意識のもと、本稿は、世界銀行の国際送金のデータベースを用いて、送金コストの定量分析を行った」としています。その分析によれば、まず、「クロスボーダー送金コストは、各国の決済制度や慣行、システム接続上の問題に加え、市場の競争構造に左右され、これらの要因がコストに及ぼす影響度合は国によってまちまちである。日本のクロスボーダー送金市場は、事業者間の競争は激しいが、わが国固有の決済制度やビジネス慣行などに起因する要因がコスト高につながっている可能性が考えられる」と指摘しています。「グローバルベースでみると、これまで、送金時間の短縮やアクセスポイントの改善、銀行と送金専門事業者間の競争等が送金コストの低下に寄与してきたが、今後、コストの更なる低下を促していくうえでは、各国が直面している構造要因を特定化し、国際的な協調による課題対応も含めて、適切な解決策を見出していく必要がある」こと、「リブラに代表されるステーブルコインの構想は、クロスボーダー決済を含め既存の決済サービスにどういった問題があり、それをどう改善していくべきかという問いを社会に投げかけた。2019 年 10 月に公表された G7 の報告書でも指摘されたように、グローバル・ ステーブルコインが実現するには様々な課題の解決が必要であるが、クロスボーダー送金コストの高さや金融包摂など、既存の決済サービスには改善すべきポイントが多く残されている。ステーブルコインのような民間部門のイノベーションは、そうした既存の決済システムが抱える課題に対する解決案として生まれてきたと言える」、「国際社会は、リブラ構想が公表されるより前から、クロスボーダー決済の改革に向け強い意欲を示してきた。例えば、2009 年の G8 サミットでは、クロスボーダー送金の平均コストを先行き 5 年間で 10%から 5%へ低下させるという数値目標が掲げられた」、しかし、こうした国際社会の取り組みにもかかわらず、「これまでのところ、クロスボーダー送金のコストは十分に低下しておらず、同時に、送金経路ごとのコストのばらつきも大きい状態が続いている 。こうした中、2020 年 2 月に開催された G20 サミット では、金融安定理事会(FSB)に対して、決済・市場インフラ委員会(CPMI)やその他の関係基準設定主体や国際機関と協調して、2020 年 10 月までに、グローバルなクロスボーダー決済を改善するためのロードマップを作成することが要請された」、「FSBは、この4月に、クロスボーダー決済の現状把握と課題特定のための報告書(Stage1 報告書)を公表している。同報告書は、クロスボーダー送金の問題として、(1)不統一なデータ基準や(決済プラットフォーム間の)相互運用性の欠如、(2)マネー・ローンダリング防止やテロ資金供与対策(AML/CFT)やデータ保護などのコンプライアンス対応の複雑さ、(3)各国決済システムの限定的な稼働時間と時差、(4)陳腐化した技術を使ったレガシープラットフォーム、などを指摘している。また、これらの問題が、クロスボーダー送金市場への参入障壁となり、事業者間の競争を弱める方向に作用しているとも指摘している」ことなどが述べられています。そのうえで、具体的な分析結果として以下のようなものが指摘されています。

  • 新技術や新しいインフラを用いた送金手段が普及するほど、送金速度が速くなり、かつ送金コストも低下するという現象が生じていることが推測される。さらに、3年間で、相対的にコストの高いコールセンターのシェアが低下する一方、コストの低いインターネットのシェアが上昇しており、こうしたアクセスポイントの変化も送金コストの押し下げに寄与してきたことがわかる
  • 送金者が現金を決済手段として用いる場合の送金コストは、銀行口座を利用する場合に比べて、8%ポイント有意に高くなる。これは、現金による送金は、銀行にとって AML/CFT 関連の事務コストが多くかかることが関係しているとみられる。相対的に送金コストの高い現金のシェアは、2%ポイント程度上昇しており、こうした変化は、銀行口座をもたない顧客による送金の増加を反映しているとみられる。銀行口座をもたない顧客がコストの高い現金決済という方法でしかクロスボーダー送金サービスにアクセスできないのであれば、その点は、FSB が報告書で指摘している「限定的なアクセス」の問題であり、改善の余地がある
  • 送金専門事業者数が増加傾向にあった 2018 年ごろにかけて、時間効果のマイナス幅も拡大傾向にあり、その後の 2 年間は送金専門事業者数が頭打ちとなるなかで、時間効果のマイナス幅も拡大傾向が止まっている。こうした相関関係は、送金専門事業者の市場への参入によって銀行との間での競争が働き、その結果として、銀行の送金コストがグローバルに低下したと解釈することができる。また、銀行サービス市場への参入に比べると、送金単体のサービス市場へ参入障壁は低く、より競争的であることを示唆している
  • 送金元の国(仕向け国)の効果については、米国(ベンチマーク)から送金する場合に比べ、ブラジルからの送金が 11%ポイント、日本からの送金が 9%ポイント、それぞれ有意に高い。したがって、日本やブラジルから送金する場合、どの銀行を利用するかによらず、あるいは、どのような決済手段を利用するかにもよらず、日本やブラジルから送金するという要因だけで米国から送金する場合より約 10%ポイント送金コストが高くなることを示唆している。日本固有の共通要因 としては、国内における送金を担う内国為替制度(全銀システム)と、海外との送金を担う外国為替円決済制度の二重構造による非効率性が影響している可能性がある。また、銀行システムと SWIFT との接続において、日本はベンダーの介在によってコストが押し上げられているとの指摘も聞かれる
  • 銀行経由の送金とは対照的に、ブラジルや日本の推計値は米国(ベンチマーク)の推計値と統計的に有意に異ならない。このことは、送金専門事業者経由の送金では、銀行経由の送金で観察されたようなブラジルや日本に固有のコスト押し上げ要因が働いていないことを意味している。また、送金先の国(被仕向け国)の効果についても、推計値のばらつきは、送金専門事業者経由の場合、銀行経由に比べ、かなり小さいことがわかる
  • 送金ビジネスモデルでは、送金者と受領者が送金専門事業者の顧客であり、決済取引の開始(入金)から終了(着金)まで、一つの事業者が運営するプラットフォーム内で完結しているため、送金チェーンが短くなっている。このため、送金専門事業者の推計では、国別の違いが表れにくくなっている可能性がある。これに対して、銀行経由の送金の場合には、受領者が送金者の銀行の顧客である例は少ないため、仕向け国の銀行と被仕向け国の銀行とが、それぞれの法域での決済慣行や規制に基づいて対応する以上、国ごとの違いが生じやすくなっていると考えられる
  • 日本では、(ベンチマーク対比)プロバイダ効果が送金コストを押し下げる方向に働いている一方、送金国固有の要因が送金コストを押し上げている。推計結果からは日本の送金市場は競争的であるように窺われる。一方、送金国固有の要因としては、FSB の報告書が指摘しているように、送金にかかるデータフォーマットの標準化が不十分であることや(決済プラットフォーム間の)相互運用性の欠如、コンプライアンス対応の事務コスト、レガシーシステムの問題などが挙げられよう。実際、日本の送金コストの高さの背景には、先に指摘した通り、決済システムの業界特有の制度や慣行に関する構造問題やシステム接続の問題が関係していると考えられる。いずれにしても、これら国固有の要因の大きさにばらつきがあるのは当然と考えられる。今後、送金コストの更なる低下を促していくうえでは、それぞれの国の事情を踏まえ、適切な解決策を見出していく必要があろう
  • 日本銀行は、本年 5 月には、「決済の未来フォーラム クロスボーダー送金分科会」を開催して、主要な送金サービス提供企業(銀行、送金専門事業者)や業界団体と、クロスボーダー送金の改善に向けた取り組みについて意見交換を行った。本文中で指摘した日本固有の摩擦の解消に加え、AML/CFT にかかる規制・監督の標準化や、顧客の本人確認(KYC)情報の共有化によるコンプラ対応事務の効率化の必要性など、様々な対応策が指摘された。日本銀行としては、今後も、内外の関係当局や国内の送金サービス提供企業と協力しながら、クロスボーダー決済の改善に向け努めていきたいと考えている

その他、国内外のAML/CFTに関する報道から、いくつか紹介します。

  • 欧州連合(EU)欧州委員会は、EUのアンチ・マネー・ローンダリング規制を国内法に十分組み入れていないとして、オーストリアとベルギー、オランダの3カ国をEU司法裁判所に提訴したと発表しています。報道(2020年7月3日付ロイター)によれば、欧州委は声明で、履行が不十分な点について、賭博法(オーストリア)や、金融情報部門が資料や情報をやりとりする仕組み(ベルギー)、企業や他の法人の受益所有権に関する情報供与(オランダ)を挙げているといいます。EU司法裁は加盟国に対する最終的な司法権を持ち、欧州委は3カ国への金融制裁の認可を求めています。今夏にも予定されている昨年のFATF(金融活動作業部会)による第4次対日相互審査の結果の公表ですが、日本でも、現時点においてさえすべての特定事業者が高いレベルで取り組みができているとは言い難い状況にある中、先行するEUの厳格な対応を見るにつけ、AML/CFTに真摯に取り組むべきことをあらためて痛感させられるところです。
  • 銀行口座などの高額買い取りをインターネット上で持ち掛けたとして、神奈川県警国際捜査課などは、犯罪収益移転防止法違反容疑でベトナム人3人を逮捕しています。報道によれば、文京区にある同容疑者らのアジト2カ所からは銀行通帳約470冊などが見つかったということです。FB上で「銀行口座を高く買い取る」などの投稿をベトナム語で行い、口座などの譲り渡しを求めたとされ、日本から帰国するベトナム人らが買い取りに応じたとみられるようです。残念ながら、買い取った口座は東京都や大阪府で発生した少なくとも8件の特殊詐欺事件で使用されていたことも判明したといいます。外国人口座の売買が「犯罪インフラ化」している実態をよく表す事件だといえます。
(2)特殊詐欺を巡る動向

まずは直近の特殊詐欺の認知・検挙状況等について警察庁の公表資料から確認しますが、前回から、詐欺の分類や表記(呼称)が見直されていますので、あらためて詐欺の類型の定義を確認するところから始めたいと思います。

  • オレオレ詐欺:親族、警察官、弁護士等を装い、親族が起こした事件・事故に対する示談金等を名目に金銭等をだまし取る(脅し取る)ものをいう。
  • 預貯金詐欺:親族、警察官、銀行協会職員等を装い、あなたの口座が犯罪に利用されており、 キャッシュカードの交換手続きが必要であるなどの名目で、キャッシュカード、クレジットカード、預貯金通帳等をだまし取る(脅し取る)ものをいう。
  • 架空料金請求詐欺:未払いの料金があるなど架空の事実を口実とし金銭等をだまし取る(脅し取る)ものをいう。
  • 還付金詐欺:税金還付等に必要な手続きを装って被害者にATMを操作させ、口座間送金により財産上の不法の利益を得る電子計算機使用詐欺事件又は詐欺事件をいう。
  • 融資保証金詐欺:実際には融資しないにもかかわらず、融資を申し込んできた者に対し、保証金等の名目で金銭等をだまし取る(脅し取る)ものをいう。
  • 金融商品詐欺:架空又は価値の乏しい未公開株、社債等の有価証券、外国通貨、高価な物品等に関する虚偽の情報を提供し、購入すれば利益が得られるものと誤信させ、その購入名目等で金銭等をだまし取る(脅し取る)ものをいう。これら金融商品に対して、購入意思のない被害者に名義貸しをさせた後、名義貸しをしたことによるトラブル解決名目等で金銭等をだまし取る(脅し取る)ものを含む
  • ギャンブル詐欺:不特定多数の者が購入する雑誌に「パチンコ打ち子募集」等と掲載したり、不特定多数の者に対して同内容のメールを送信する等し、これに応じて会員登録等を申し込んできた被害者に対して会員登録料や情報料等の名目で金銭等をだまし取る(脅し取る)ものをいう
  • 交際あっせん詐欺:不特定多数の者が購入する雑誌に「女性紹介」等と掲載したり、不特定多数の者に対して「女性紹介」等を記載したメールを送付するなどし、これに応じて女性の紹介等を求めてきた被害者に対して会員登録料金や保証金等の名目で金銭等をだまし取る(脅し取る)ものをいう
  • その他の特殊詐欺:上記特殊詐欺の類型に該当しない特殊詐欺をいう
  • キャッシュカード詐欺盗:警察官や銀行協会、大手百貨店等の職員を装って被害者に電話をかけ、「キャッシュカードが不正に利用されている」等の名目により、キャッシュカード等を準備させた上で、隙を見るなどし、キャッシュカード等を窃取するものをいう。
▼警察庁 令和2年5月の特殊詐欺認知・検挙状況等について

令和2年1月~5月における特殊詐欺全体の認知件数は5,729件(前年同期6,592件、前年同期比▲13.1%)、被害総額は106.7億円(126.0億円、▲15.3%)、検挙件数は2,709件(2,338件、+15.9%)、検挙人員は970人(998人、▲2.8%)となっています。ここ最近同様、認知件数・被害総額ともに減少傾向にあります。加えて、検挙件数、検挙人員ともに増加傾向にある点は、摘発が進み、特殊詐欺が「割に合わない」状況になっていることを示しているといえます。なお、後述しますが、直近の犯罪統計資料によれば、暴力団犯罪のうち、「詐欺」の検挙件数は525件(890件、▲41.0%)、検挙人員は416人(503人、▲17.3%)となっており、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、暴力団の詐欺事犯への関与が激減していることがより際立つ対照的な数字となっています。類型別では、オレオレ詐欺の認知件数は840件(3,055件、▲72.5%)、被害総額は23.4億円(31.8億円、▲26.4%)、検挙件数は884件(1,221件、▲27.6%)、検挙人員は262人(626人、▲58.1%)などとなっています。さらに、認知件数を形態別でみると、損失補填金等名目が498件、横領事件等示談金名目が52件、借金等の返済名目が51件、妊娠中絶費用等名目が18件、傷害事件等示談名目5件、その他216件などであり、オレオレ詐欺においては「損失補填金等名目」が圧倒的に多くなっていることが分かります。また、キャッシュカード詐欺盗の認知件数は1,517件(1,056件、+43.7%)、被害総額は21.6億円(17.2億円、+25.6%)、検挙件数は957件(402件、+138.1%)、検挙人員は292人(100人、+192.0%)(平成30年1月以降、警察庁刑事局捜査第二課に報告があったものを計上)などとなっており、分類の見直しもあり、前期との比較は難しいとはいえ、キャッシュカード詐欺盗の被害の深刻化が顕著であることは指摘できると思います。さらに、預貯金詐欺の認知件数は1,759件、被害総額は0.2億円(実質的な被害総額は21.1億円)、検挙件数は308件、検挙人員は272人(従来オレオレ詐欺に包含されていた犯行形態を令和2年1月から新たな手口として分類)、架空料金請求詐欺の認知件数は688件(1,416件、▲51.5%)、被害総額は25.9億円(35.0億円、▲26.0%)、検挙件数は262件(562件、▲53.3%)、検挙人員は66人(234人、▲71.8%)などとなっています。なお、架空料金請求詐欺の認知件数を形態別でみると、有料サイト利用料名目が382件、訴訟関係費用名目が67件、名義貸しトラブル等名目が36件、情報買取抹消料金等名目が5件、その他198件となっており、架空料金請求詐欺においては、「有料サイト利用料名目」が圧倒的に多くなっていることが分かります。さらに、還付金詐欺の認知件数は647件(911件、▲29.0%)、被害総額は8.7億円(11.3億円、▲23.0%)、検挙件数は179件(79件、+126.6%)、検挙人員は21人(4人、+425.0%)、認知件数を形態別でみると、医療費名目が405件、健康保険・社会保険等名目が189件、税金名目が34件、年金名目が9件、その他34件であり、還付金詐欺においては、「医療費名目」が圧倒的に多くなっていることが分かります。融資保証金詐欺の認知件数は170件(116件、+46.6%)、被害総額は1.7億円(1.3億円、+29.1%)、検挙件数は69件(41件、+68.3%)、検挙人員は19人(4人、+375.0%)、金融商品詐欺の認知件数は32件(16件、+100.0%)、被害総額は1.7億円(1.0億円、+71.4%)、検挙件数は14件(14件、±0%)、検挙人員は13人(13人、±0%)、金融商品詐欺の認知件数を形態別でみると、有価証券等名目が23件、外国通貨名目が3件、物品名目が1件、その他5件などとなっています。ギャンブル詐欺の認知件数は51件(17件、+200.0%)、被害総額は0.8億円(1.8億円、▲56.3%)、検挙件数は22件(7件、+214.3%)、検挙人員は3人(8人、▲62.5%)となっています。これらの類型の中では、「還付金詐欺」「融資保証金詐欺」「金融商品詐欺」が増加している点に注意が必要かと思います。

犯罪インフラの状況については、口座詐欺盗の検挙件数は292件(323件、▲9.6%)、検挙人員は178人(196人、▲9.2%)、盗品等譲受け等の検挙件数は1件(2件、▲50.0%)、検挙人員は0人(1人)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は1,014件(886件、+14.4%)、検挙人員は836人(746人、+12.1%)、携帯電話端末詐欺の検挙件数は86件(116件、▲25.9%)、検挙人員は67人(86人、▲22.1%)、携帯電話不正利用防止法違反の検挙件数は10件(22件、▲54.4%)、検挙人員は8人(13人、▲38.5%)、組織犯罪処罰法違反(令和2年1月以降、警察庁刑事局捜査第二課に報告があったものを計上した)の検挙件数は30件、検挙人員は8人などとなっています。これらのうち、犯罪収益移転防止法違反の摘発が増加しているのは、金融機関等におけるAML/CFTの取組みが強化されていることの証左ではないかと推測されます。

また、被害者の年齢・性別構成について、特殊詐欺全体では男性25.1%:女性74.9%、60歳以上89.8%、70歳以上80.3%、オレオレ詐欺では男性18.9%:女性81.1%、60歳以上98.2%、70歳以上94.8%、融資保証金詐欺では男性68.4%:女性31.6%、60歳以上28.4%、70歳以上9.7%と、類型によって傾向が全く異なることもある点は認識しておく必要があります。なお、参考までに、特殊詐欺被害者全体に占める高齢被害者の割合については、オレオレ詐欺97.9%(女性の割合78.6%)、キャッシュカード詐欺盗95.6%(78.3%)、預貯金詐欺98.7%(80.8%)、架空料金請求詐欺39.4%(57.9%)、還付金詐欺86.6%(64.8%)、融資保証金詐欺19.4%(13.3%)、金融商品詐欺84.4%(77.8%)、ギャンブル詐欺17.6%(55.6%)、交際あっせん詐欺20.0%(0.0%)となり、類型によってかなり異なる傾向にあることが分かりますが、概ね高齢者被害の割合が高い類型では女性被害の割合も高い傾向にあることも指摘できると思います。このあたりについては、以前の本コラム(暴排トピックス2019年8月号)で紹介した警察庁「今後の特殊詐欺対策の推進について」と題した内部通達で示されている、「各都道府県警察は、各々の地域における発生状況を分析し、その結果を踏まえて、被害に遭う可能性のある年齢層の特性にも着目した、官民一体となった効果的な取組を推進すること」、「また、講じた対策の効果を分析し、その結果を踏まえて不断の見直しを行うこと」が重要であることがわかります。

消費者庁から「令和2年版消費者白書」が公表されています。それによると、2019年に全国の消費生活センターなどに寄せられた相談は933,000件で、2018年より9万件減少しています。2018年は2007年以来、11年ぶりに100万件を突破していましたが、今回は100万件を下回る結果となりました。とりわけ、架空請求関連の相談が26万件から13万件に半減したのが大きな要因となっています。しかしながら一方で、健康食品などの商品をインターネット通販で1回だけ購入したつもりが、いつの間にか「定期購入契約」を結ばされたなど定期購入に関する相談は44,370件と倍増したほか、アダルトサイトやオンラインゲームなど通信サービスに関する相談が167,000件と突出して多いこと、SNSに関する相談も過去最多の21,975件だったことが分かりました。また、新型コロナウイルス関連の相談は、5月20日までに32,555件寄せられているといいます。品不足や転売、抱き合わせ販売に関するもの、キャンセル料関連、詐欺や悪質商法の可能性があるものが目立つと指摘されています。以下、その概要について紹介します。

▼消費者庁 令和2年版消費者白書の公表について
▼【概要】令和2年版 消費者白書

2019年度に消費者庁に通知された消費者事故等は11,944件となり、その内訳は「生命身体事故等」が2,632件、「財産事案」が9,312件。重大事故の通知を端緒として、ベビーベッドの収納棚が不意に開き乳児が窒息する重大事故等について注意喚起を実施。消費者安全法の規定に基づき、通知された財産事案を基に、事業者名の公表の注意喚起を13件実施。主な事案は、簡単に稼げると見せかける手口、チケット転売の仲介サイト等であると紹介しています。さらに、2019年の消費生活相談件数は、93.3万件、前年に比べ約9万件減少。架空請求に関する相談件数が半減(26.0万件 → 13.0万件)。相談件数全体の減少の主因になったこと、商品・サービス別の相談件数では、「通信サービス」、「商品一般」が突出、相談1件当たりの支払額では、「工事・建築・加工」が109.3万円で最高、次いで「土地・建物・設備」が89.2万円であること、高齢者の消費生活相談件数は、2019年は減少も、相談件数での割合は、2018年に続き3割超にのぼること、商品・サービス別では、「商品一般」が最多、ほかではインターネット関連が上位にあること、若者の相談では、女性のみならず男性でも「美容」が上位にのぼり、20歳代では「フリーローン・サラ金」も上位にあり、若者を中心に、各年齢層で「定期購入」やSNSが関連している消費生活相談が増加していること、三つの台風の上陸により、2019年は「自然災害」に関する相談件数が、2018年を上回り、8月以降、台風被災地が単位人口当たり相談件数の上位になったこと、2020年初頭の新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大により、日常の消費生活に大きな影響が及び、消費生活相談として、転売や航空券等のキャンセル料、送り付け商法等に関するものが寄せられていること、消費者庁は、マスク等の物資の需要増に対応するとともに不当表示や悪質商法による消費者被害の防止等への取組を実施したこと、2019年に入り、「チケット転売」の相談件数が増加、相談件数は前年の約4.2倍になったこと、とりわけラグビーワールドカップ開幕(2019年9月)前後には「チケット転売」の取引金額が高額化したことなどが紹介されています。また、「情報商材」に関する消費生活相談件数は、約7,700件にのぼり、20歳代での増加が顕著となっていること、「マルチ商法」では、「サービス」に関するものの相談割合が過半数(“モノなしマルチ”)を占めています。さらに、2019年年間の消費者被害・トラブル額は、推計約4.7兆円(既支払額(信用供与を含む))となり、消費生活相談の平均契約購入金額及び平均既支払額は共に減少、「ファンド型投資商品」が減少する結果となりました。また、インターネットが消費者の取引手段として浸透し、電子商取引市場が拡大したこと、フリマアプリは2012年に登場、6年で巨大な市場(6,392億円)に成長したことや、消費者の決済手段のキャッシュレス化が進展、2019年12月には、84.7%がキャッシュレス決済を利用したことなども指摘しています。

その他、食品ロスに関する動向や、「持続可能な社会の形成に向けて、各当事者が共通の目的をもって協働し、健全な市場の形成を通じて取組を進めていくことが不可欠。食品ロスやプラスチックごみの問題は、消費者・事業者・行政が共に取り組む「協働行政」の手法が適する分野。消費者行政として、「消費者志向経営の普及」と「エシカル消費の啓発」を一体的に推進」していること、「近年の急速なデジタル技術の発展・デジタル市場の拡大等により、消費者の利便性等が向上した一方で、デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引で新たな消費者トラブルも発生。また、デジタル化の中で消費生活にもたらす新たな課題への対応も求められている。消費者庁では、有識者による検討会を開催するなど、デジタル化への対応を検討」していること、「誰もが、どこに住んでいても、生涯を通じて、様々な場で、消費者教育を受ける機会が提供されるよう、消費者教育推進会議の議論を踏まえ、具体的な施策を検討し、実施。成年年齢引下げを見据え、実践的な消費者教育の実施を推進するため、若年者の消費者教育分科会において、2019年7月に消費者教育教材の提供方法及び効果的な周知に関する今後の方向性等について提言」したこと、「2020年3月に、2020年度から2024年度までの5年間を対象とした「地方消費者行政強化作戦2020」を策定。2020年7月に、新たな恒常的な拠点として、「新未来創造戦略本部」を開設。(1)全国展開を見据えたモデルプロジェクトの拠点、(2)消費者政策の研究拠点、(3)新たな国際業務の拠点 のほか、災害時のバックアップ機能、消費者庁の働き方改革の拠点として位置付け」たことなどもあわせて取り上げられています。

さて、新型コロナウイルス感染症関連の消費者トラブル事案のうち、「給付金・助成金」に関連した相談事例も増えているといいます。国民生活センターのサイトで事例が紹介されていますので、紹介します。

▼国民生活センター 給付金・助成金に関連した相談事例(速報)

≪公式≫給付通知」と称する不審なメールが届き、返信を求められた事例では、「パソコンで使用しているメールアドレスに、「≪公式≫給付通知」という送信者名(差出人名)で、「給付番号 No-XXXXXXX(7桁の数字の羅列)」という件名の不審なメールが届いた。本文には「個人給付金を預かり中です」「お客様口座へ送金させていただきます」「ご説明を希望される場合は≪資料請求≫と記載しこのメールにご返信ください」「申し込み用のURLを送らせていただきます」といった記載がある。怪しいので情報提供する」(2020年6月受付 70歳代 男性)といったものがあります。また、「市民生活センター」を名乗るところから、メールで給付金手続きデータ処理費用を請求され、支払ってしまった事例では、「「市民生活センター」を名乗るところから、フリーメールアドレス宛に「給付金に関するお知らせ」というメールが、携帯電話に届いた。文面の最後にURLがあり、クリックすると「給付金手続きのデータ処理のため3万5000円を支払ってください」と表示された。本当かどうか迷ったが、給付金がもらえないと困ると思い、記載された通り、コンビニで電子マネーを3万5000円購入し、その番号をメールした。よく考えると詐欺だと思う。返金してほしい」(2020年6月受付 30歳代 男性)といったもの、特別定額給付金の代理申請業務を行う団体を名乗る者から電話で個人情報や口座情報を聞かれた事例では、「知らない相手から、「マイナンバーを持っている人はインターネットからの手続きが可能で早期に特別定額給付金10万円が給付されるが、マイナンバーを持っていない人は複雑な手続きが必要になる。家族にマイナンバーカードを持っている人はいるか」と電話があり、「いない」と伝えると、「団体の名称はまだ決まっていないが、国から代理申請業務を委託されている団体だ。手数料はかかるが、氏名、住所、電話番号、振込銀行口座を教えてくれれば一日も早く困った人に給付することができる」と言われた。「いずれ10万円が給付されるのでつなぎ融資もできる。利息として2、3万円差し引いた金額を振り込む」とも言われたが、怪しいと思う。詐欺ではないか」(2020年4月受付 契約当事者:50歳代 男性)といったもの、特別定額給付金とマイナンバーカードの申請代行をするとの電話があった事例では、「携帯電話に若い男性から電話があり、「新型コロナウイルスの件で国から一律に10万円を給付することになったが、より早く手元に届けるために申請代行をする。マイナンバーカードなら1週間以内に確実に振り込まれるため5月中旬までに10万円が入金される。通常マイナンバーカードを作るのには1カ月かかり、そうなると10万円をもらえなくなるかもしれない。マイナンバーカードの取得率が低いので、その手伝いをする。うちもボランティアではないので申請手続きに2、3万円の手数料はかかるが家に居ながらにして10万円がもらえる」と言われた。相手の名前を尋ねると「立ち上げたばかりなので正式名称がついていない」と言ったので、詐欺だと思い電話を切った」(2020年4月受付 契約当事者:50歳代 男性)といったもの、役所を騙ったSMSが届き、金融機関の口座番号を入力するよう求められた事例では、「市役所から「新型ウイルス緊急救済措置としてお年寄りの居る世帯に現金入金します」というSMSが届いた。記載されたURLにアクセスして金融機関口座番号を入力するようだ。不審なので入力したくない」(2020年4月受付 契約当事者:40歳代 女性)といったもの、「インターネットサービスを一定額以上利用した人にお金を給付する」というメールが届いた事例では、「政府の関係機関のようなところから「インターネットサービスを一定額以上利用した人に、5千万円を上限として給付する。全国から300名が選出された」というメールが届き、名前も載っていた。銀行口座を登録したところ、給付を代行するサイトの費用と手続き料として合計1万数千円が必要というメールが届いた。どうしたらよいか」(2020年4月受付 契約当事者:80歳代 男性)といったものが紹介されています。これらの最新事例をふまえ、国民生活センターでは、「行政機関の職員を名乗る、行政から委託されたという業者などからの怪しい電話や訪問、心当たりのない送信元からの怪しいメール・SMS、SNSなど、怪しい・おかしいと思うものには反応しないようにしましょう」、「新型コロナウイルスに便乗した悪質な勧誘を行う業者には耳を貸さないようにしましょう」、「不審に思った場合や、トラブルにあった場合は、最寄りの消費生活センター等に相談しましょう。今後、新たな手口の勧誘が行われる可能性があります。少しでもおかしいと感じたら早めにご相談ください」と消費者に対してアドバイスを行っています。

特殊詐欺ではありませんが、直近では、戦後日本を占領したGHQ(連合国軍総司令部)が国内で接収した金や銀を原資とする、旧日本軍の秘密資金を提供するとかたって、交渉費用名目で会社経営者の男性から1億3,000万円をだまし取ったとして、神奈川県警が3人の男を詐欺の疑いで逮捕しています。男性が男らに振り込んだ総額は約31億円にも上るといいます。こうした詐欺は、過去にもたびたび起きていて、GHQ経済科学局長だったマーカット少将の名前から、「M資金詐欺」と呼ばれています。報道によれば、3人は共謀して、平成30年5~6月の間、70代の会社経営者に対して、「基幹産業育成のため、最大2,800億円の資金提供が受けられる」との架空の話を持ちかけ、交渉費や資金を保管する倉庫代などの名目で現金をだまし取ったといい、3人は「終戦後にGHQが接収した秘密資金(M資金)を英国で管理している人物と接触できる」などと話をもちかけ、男性を信じ込ませていたようです。被害者の状況についての詳細は分かりませんが、M資金詐欺は一般にも広く知られているにもかかわらず騙される経営者が多い点は大変興味深いものでもあり、高齢者(とりわけ女性)が特殊詐欺に騙されるメカニズムと同様、「確証バイアス」が強く作用していることがうかがわれます。つまり、高齢者の傾向として「自分は騙されるほど愚かではない」との強い思い込みがあり、会社経営者であればさらにその傾向が強固なものとなっていることが推測されるところ、「M資金の話などに自分が騙されるわけがない」として、「騙されていない理由」を探そうとする「確証バイアス」が強く働いてしまったのではないか、さらには、一度騙されてしまえば、「自分がしている投資は架空のものではない」とより強く思い込み、架空でないことを信じたいがためにさらに相手の話を強く信じてしまうという悪循環に陥ってしまったのではないかと考えられます。いずれにせよ、こうした「確証バイアス」から逃れることは難しい現実があり、「周囲が早く気づき、ある程度強く介入できるか」が被害の未然防止、被害拡大の防止のポイントとなりそうです。

さて、最近の特殊詐欺に関する報道から、いくつか紹介します。

  • 高齢者からキャッシュカードを詐取し、現金を引き出したとして、警視庁捜査2課は詐欺と窃盗の疑いで、住居・職業不詳の容疑者ら男3人を逮捕しています。報道によれば、容疑者らはグループ内で高齢者宅に電話をかける「かけ子」役だったといい、日中に都内のホームセンターを乗用車で訪れ、駐車場の車内から電話をかけていたといいます。アジトの摘発が進み、アパートやマンションを1カ月単位(あるいは数週間単位)で転々とする形態からウイークリーマンションへ、ホテルや空き家、人里離れたペンションなどアジト自体も変遷を続けていますが、そもそも「移動するアジト」も摘発を逃れる知恵として拡がっており、高速道路などを移動しながらの車中からや、今回の事例のように駐車場に止めた車の中からといった手口も確認されています。さらに、直近でも、東京・新宿の民泊の一軒家から警察官を装って嘘の電話をかけて高齢の女性からキャッシュカードをだまし取ったとして、警視庁捜査2課は詐欺容疑で、いずれも住所不定、無職の26~59歳の男8人を逮捕したという事例もありました。警視庁は、現場の一軒家を家宅捜索し、多数のスマホや名簿類などを押収したといいます。男らが民泊を短期で借り換えるなどして拠点を変えながら詐欺を重ねていたと見られています。マンションやウイークリーマンションもそうですが、民泊を短期間で借り換えていくためには、専門の事業者の協力をはじめ、組織力・資金力が必要となります。アジトの巧妙化の実態に加え、架空名義や他人名義の飛ばし携帯の利用とあわせると、特殊詐欺グループの摘発の難易度がどんどん高まっていることを感じさせます。
  • 新型コロナウイルス感染拡大に乗じた特殊詐欺の手口もいくつも報じられています。たとえば、山梨県甲斐市の70代女性宅に長男を名乗って「PCR検査の際に荷物をなくしてしまった。会社の小切手が入っていた。支払いができないと首になってしまう」などと嘘の電話をした上、会社関係者を装って訪問し、現金をだまし取った手口がありました。検査結果が陽性だったとも嘘をつき、動揺を誘っていたとみられ、その巧妙さには驚かされるばかりです。また、別の事案としては、大阪府内に住む70代女性が医療機関の職員をかたる男から「あなたの名前で新型コロナウイルス対策に必要な消毒液やマスク、人工呼吸器を購入しているので代金を支払ってほしい」などと嘘の電話を受け、名義貸しのトラブル解決費用として、4回にわたり現金合計1,942万円をだましとられる特殊詐欺被害に遭ったというもの、京都市北区の無職男性(86)宅に息子を名乗って「新型コロナウイルスに感染した友人の代わりに金を支払わなければならない」などと嘘の電話をかけた後、男性宅を訪問し、現金1,000万円がだまし取られたものもありました。さらには、新型コロナウイルスの感染対策で、休業要請などに応じた事業者に支払われる大阪府の支援金50万円をだまし取ろうとしたとして、大阪府警南署は、大阪市中央区のブラジル国籍の飲食店経営ら2人を詐欺未遂の疑いで逮捕した事案もありました。同店は1カ月間休業したように装っていたものの、実際には営業時間の短縮もせず、未明まで開店していたといいます。報道によれば、同区の支援金の申請は5万件以上に上る一方、実態調査を行う職員は2人だけで、チェックが甘くなっていた可能性があるということです。また、支援金・給付金絡みでは、大阪府警が、国が一律10万円を配る「特別定額給付金」を名目にした詐欺事件が、大阪市などで5件相次いだと発表しています。被害額は計約280万円に上るといい、「自治体や金融機関の職員が口座情報や暗証番号を聞くことはないので、注意してほしい」と注意喚起しています。
  • 前述した消費者白書でも指摘されていますが、若者を対象としたプリペイド式電子マネーを悪用した架空料金請求詐欺が相次いでいる実態もあります。携帯電話のショートメッセージなどに反応して電話で問い合わせたら最後、数日で多額をだまし取られる手口で、被害者自身も、また電子マネーを販売するコンビニエンスストア側も「詐欺に遭うのは高齢者」との先入観があり、水際対策は乏しいということで正に盲点として注意が必要な状況です。報道で捜査関係者が、「県間移動制限で受け子を地方に送り込めない分、非対面型に犯人グループが注力しているのではないか」と述べていますが、社会情勢に応じて手口を柔軟に変化させ、確実にだましていく巧妙さには驚かされます。また、同様に消費者白書で指摘されていた「定期購入契約」トラブルについても同様の構図が見られ、「新しい生活様式」が求められる中、非対面取引に潜む詐欺リスクへの対応が急務だといえます。
  • キャッシュカード詐欺も数多く報道されています。たとえば、「女性宅に警察官を名乗る男から「銀行の偉い人があなたの口座の情報を横流ししている」「お金をおろされると危ないので、カードを止めに行く」などと電話で連絡してきた。キャッシュカードの暗証番号も尋ねられ、女性は伝えたという。まもなく、警察官を名乗る別の男が女性宅を訪問。女性が用意したカード2枚に女性の目の前で、はさみで切り込みを入れ、「これでカードは使えなくなった」と安心させた。しかし、実際はカードの磁気部分には影響はなく、カードが停止したかのように見せかけただけだった。口座からは2~15日の間に複数回、現金1,400万円が引き出された」というもの、「役所の職員などになりすまして、川崎市麻生区に住む80代の無職女性宅に「後期高齢者の保険料が払い戻される」などと嘘の電話があり、キャッシュカード2枚がだまし取られたうえ、現金計50万円を引き出された」というもの、「大阪府に住む90代の無職男性の自宅に金融機関の職員を装った男などから「カードが古くなっているので新しくする必要があります」などと嘘の電話があり、カードをだまし取られ、50万円が引き出された」というものなどがありました。また、キャッシュカード2枚をだまし取られた80代女性が、普段は留守番電話にしている家の電話を「なぜかその日は取ってしまった」がために騙された事例もありました。報道によれば、「まさか自分が被害に遭うとは思わなかった」、「オレオレ詐欺などは知っていたが、この電話が詐欺とは思わず、暗証番号も伝えてしまった」というものです。本コラムでも詐欺被害防止には留守番電話が有効であると紹介してきましたが、「なぜか取ってしまった」という行動はまさに盲点であり、考えさせられます
  • 「受け子」に若者が利用されている実態も数多く報じられています。たとえば、山形県警は、山形県上山市の70代女性から、全国銀行協会の職員を装って女性宅を訪れ、キャッシュカード2枚を盗んだとして、窃盗の疑いで千葉県市原市の高校生の少年(16)を逮捕したと発表しています。特殊詐欺グループの一員で、別の受け子役の少年を勧誘していたともみられています。2人は同じ高校の同級生で、当時は新型コロナウイルス感染拡大の影響で休校中だったといいます。また、警察官を名乗り、60代男性からキャッシュカードをだまし取ろうとしたとして大阪府警豊中署は、詐欺未遂容疑で大阪府内に住む女子高校生(15)を逮捕しています。報道によれば、女子高生は黒のスーツ姿で同府豊中市の男性宅を訪問、「巡査」と書かれた偽の写真入り身分証を見せ、持参した封筒にキャッシュカードと通帳、暗証番号を書いたメモを入れるよう指示したものの、不審に思った男性が拒否したということです。こうした若者の「受け子」の多くは軽い気持ちで、アルバイト感覚で応募しており、勧誘する側もツイッター上や闇サイト上で、「高収入」「裏バイト」とうたうなどしており、指示役の名前も顔も知らない、受け子が指示役とのやりとりに使うアプリはすぐに通信履歴が抹消されてしまう、無人ATMから被害者自身が操作して送金させるなど、摘発には多くの壁が立ちはだかる現実もあります。

直近では、特殊詐欺被害を防止した事例が数多く報じられています。本コラムでは、これまでもコンビニ店員の事例を中心に紹介していましたが、銀行員や一般人などの事例もあり、参考になります。これまで指摘しているとおり、平時からの事例の共有をはじめとする教育研修、上司と部下の良好なコミュニケーション、警察等とのスムーズな連携、そして「声をかける勇気」「お節介さ」がその成否を分けるものとして共通しているように思われます。

まず、コンビニで被害を防止し事例をいくつか紹介します。たとえば、うそ電話詐欺を防いだとして、山口県警周南署は、周南市のコンビニエンスストア「ローソン徳山須々万店」の店員に感謝状を贈っています。店員の原田さんは、来店した常連客の20代女性が35万円分の電子マネーを購入しようとするのを不審に思い、声をかけたところ、女性は携帯電話でインターネットサイトを見ていたら登録完了と表示され、退会するため表示された連絡先に電話すると、退会手数料として35万円の支払いを求められたと言ったことから、警察に相談するよう促し、被害を防いだというものです。報道によれば、原田さんは「本当によかった。声をかけられるのを嫌がるお客さんもいるが、声かけは大事だなと思った。気軽に話ができるお店をつくりたい」とコメントしています。また、別のコンビニでの事例として、「70代の男性客が電子マネー30万円分を買おうとしたため「何に使うんですか」と尋ね、店長と警察に相談するよう説得。客はかたくなに「大丈夫」と答えながらも「警察に相談します」と話し、車で立ち去った。客が他店で電子マネーを購入するのではないかと店員らは不安に思い、別の店員が男性の車のナンバーを書き留め、店長が同署に通報。警察がナンバーを手がかりに客の元へ駆けつけたところ、客は既に特殊詐欺グループに電子マネー20万円分を使用するためのコードを伝えてしまっていたが、警察官が支払いの差し止めを事業者に依頼して間に合い、被害を未然に防ぐことができた」といったものがありました。この事例では、退店した客の行動を心配して警察と連携しながら被害を防いだ点が素晴らしく、まさに顧客本位の商売の賜物、別の言い方をすれば「お節介」が功を奏した事例だと評価できると思います。また、特殊詐欺被害を2度防いだとして、埼玉県警久喜署は、ファミリーマート鷲宮東大輪店店長に感謝状を贈ったという事例もありました。店長の薄根さんは、70代男性が携帯電話で通話しながら電子マネー7万円分を買おうとしていたため、事情を聴いたところ、「パソコンを直すためにサービスセンターと話している」と説明され、不審に思って電話を代わると片言の日本語を話す女性が電話口に出たため、不自然に思い、警察に通報したというもので、その前にも70代女性が電子マネー25万円分を買おうとしたため、警察に通報していたものです。さらに、「80代男性がプリペイドカード10万円分を購入しようとした。不審に思った店員が話を聞いたところ「パソコンを起動したら『ウイルス除去が必要』と表示された。表示された番号に電話すると、すでに除去作業を始めているので、代金を10万円分のプリペイドカードで支払うように指示された」と説明した。男性は午後3時ごろにもプリペイドカードを購入するため来店し、その際はその店員から再確認を促され帰宅していた。この店員は男性が詐欺の被害に遭っている可能性があると判断し、110番通報。男性の被害を防いだ」事例、「60代の男性が店で8万5千円分の電子ギフトカードを購入しようとした。高額だったためアルバイト店員が使い道を尋ね、詐欺だと気づいた」事例(この店員は2年連続で詐欺被害を防止したとして警察から感謝状を贈られています)、「携帯電話で話しながら60代男性が駆け込んできて、約3万5,000円分の電子マネーを購入しようとしたが、同店では男性が指定したカードの取り扱いはなかった。すると、男性は通話相手からの指示で、別のカードの購入を求めてきた。一連の行動を不審に思ったアルバイトで大学生の竹越さんは「詐欺かもしれない。おかしいですよ」と伝え、ほかのコンビニに行こうとする男性を引き留めた。オーナーも不審に感じ、同署へ通報。詐欺被害の防止につながった」事例(竹腰さんの「おかしいですよ」と伝えた勇気もさることながら、「『詐欺かもしれない』とアンテナを張っておくことが大切だと思った」のコメントは極めて重要な示唆を含んでいます)、「レジにいた店長の川口さんは60代の男性に「振り込みをしたいがやり方が分からない」と声をかけられた。男性がその場で携帯をスピーカーフォンにして電話をかけると、相手は「アマゾンギフトカードを8万円分購入して」などと指示。不審に思った川口さんは「振り込め詐欺のような感じがしますが、おたくはどういう方ですか」と直接聞いたが明確な返答がなかったため、詐欺だと確信し110番通報した」という事例(店長が電話に割り込むという「お節介」の典型とはいえ、強い正義感が被害を防止したという点で大変高く評価できると思います)、「セブンイレブン浦和埼玉大学店の店長らによると、5月1日昼過ぎごろ、「新聞を毎日買いに来る70代の男性が「ビットキャッシュカードを買いたい」「どうやって使うの?」とレジにいた店員に声をかけた。普段と違うものを買おうとしたのを不審に思った関根さんは購入しないように男性を説得。男性は焦って決断しきれない様子だったため、関根さんが同僚の店員に相談し、署に通報した」事例(この事例は、普段と異なる兆候を確実にとらえ、お客さまのことを考えて行動に移した点が大変参考になります)などがありました。

次に、銀行員が被害防止をした事例もいくつか紹介します。たとえば、「「身内に不幸があった」という説明を不審に思った職員が、上司と一緒に女性宅を訪ねた。女性と夫はそわそわした様子で、実は息子から「会社のかばんをひったくられた。大事な手形が入っていて300万円必要」と電話があったのだという。目の前で「息子」から何度も電話がかかってきたため職員が電話をかわった。被害を届け出た先の警察署名を尋ねても、男は答えられない。「息子さんに連絡を」。職員に促された女性が連絡を取り、詐欺だとわかった」という事例がありました。前述のコンビニの事例にも電話を代わって詐欺を見抜いた店長の事例がありましたが、第三者がこのような形で(やや強い対応とはなりますが)介入することで被害を未然に防ぐことにつながることがよくわかります。また、「携帯電話で話しながらATM(現金自動預払機)に近づく高齢者には行員が声をかけるなどのルールを、警察と協力して設定しているところ、大阪府枚方市の70代女性が携帯電話で話しながらATMに向かうなど不審な行動を見せたため、パート行員と副支店長で事情を聴いたところ、医療還付金の手続きを装う特殊詐欺であることがわかった。残高確認などの手続きで振り込まれてしまう手口で、振り込み直前だった」というものもありました。平時から手順を定め、それを確実に実践することで被害防止につながる好事例と思われます。ほかにも、「千葉市の70代女性が来店し、慌てた様子で現金約200万円を引き出したいと申し出た。案内員の照井さんが理由を確かめると、女性は「息子がお金が必要になり、奈良県からすぐに取りに来る」と話したという。緊急事態宣言下で、県外からお金を取りに来るという話を不審に思い、支店から同署に通報し詐欺と発覚した」事例(不審に思うというリスクセンスが見事に発揮された好事例と言えると思います)、「高齢女性が区役所職員などを名乗る男らにキャッシュカードをだまし取られる詐欺事件があった。男はカードで現金を引き出そうとしたが、女性から相談を受けた金融機関の担当者が直前に口座を停止し、現金被害は免れた。その差わずか数十秒」だったという事例などがありました。また、銀行員ではないものの、銀行にきていた会社員が、「携帯電話で話しながらATMを操作する80代女性を見て、「詐欺ではないか」と思い声をかけて制止。近くにいた男性に通報してもらった。女性はすでに一部の金額を振り込んでしまっていたが、会社員の声かけでさらなる被害を防ぐことができた」といった事例もありました。さらに、インターネットを通して知り合った外国人が交際や結婚をほのめかし、恋愛感情を抱かせて多額の現金を要求する「国際ロマンス詐欺」の被害が後を絶たない中、「奈良県天理市の女性がSNSで知り合った相手は「英国人の男性医師」だった。「日本で医者として活動する」。男性はそう伝え、86万円を指定の銀行口座に振り込むよう求めてきた。女性がその手続きをしようとしたとき、銀行のパート職員は「国際ロマンス詐欺じゃないか」と疑い被害を防止した」事例や、「宮崎市の60代男性がSNSで4月に知り合った自称米軍看護師の女性から「戦地を転々としている。両親は死んだ」など身の上話をされ、「退職金や荷物を預かってほしい」として搬送費名目で40万円の振り込みを依頼。窓口で行員が不審に思い、「もう一度よく確認を」と男性を帰した。翌日また来店した際、別の行員が対応。4人で説得し、署に通報したことで被害を防いだ」事例などもありました。

それ以外の特殊詐欺を巡る報道から、いくつか紹介します。

  • 群馬県警前橋署は、中国籍で専門学校生(22)を詐欺未遂容疑で現行犯逮捕しています。専門学校生は仲間と共謀して、前橋市の無職女性(82)女性宅に複数回電話し、銀行協会職員や警察官を装って「あなたのカードが悪用されている。新しくする」などとうそを言い、カードをだまし取ろうと女性宅にカードの受け取りに訪れたが、帰省中の孫で渋川署勤務の男性署員(22)が特殊詐欺と見抜いて取り押さえたというものです。
  • 被害者から現金を受け取る「受け子」として特殊詐欺に関与したとして、警視庁は容疑者(69)を詐欺容疑で逮捕しています。受け渡し場所の町田簡裁に容疑者がTシャツにキャップ姿で現れたため、弁護士事務所員が来ると聞いていた被害者が「弁護士事務所から来たはずなのに格好がおかしい」と不審に思い、別の事件の捜査手続きで居合わせた町田署員が気づいて職務質問したというものです。容疑者は、「友人から預かっているお金を急きょ返さないといけなくなった」とうそを言い、町田簡裁を指定して「弁護士事務所の人が行くから」と伝え、女性から300万円を受け取った疑いがもたれています。報道によれば、女性は、弁護士事務所を名乗る容疑者に現金を渡す一方、確認のためうその電話をかけてきた「かけ子」にその場から電話、そのやり取りを聞いていた町田署員が容疑者に職務質問したということです。
  • キャッシュカードを狙った特殊詐欺事件が全国的に後を絶たない中、最近の特殊詐欺は、あらかじめ受け子を待機させた地域に狙いを定めて詐欺電話をかける手口がほとんどで、最近は警察等への通報の隙を与えないよう受け子が通話中に被害者宅を訪れる犯行が目立つといいます。カードの暗証番号は「カードを交換するのに必要」などとして聞き出し、ひとたびカードが受け子に渡ればすぐに貯金が引き出されてしまうおそれがあり、長野県警は、犯行直後の摘発に力を入れ、「逃げられる前に捕らえる」作戦を展開しているとの報道がありました(2020年6月14日付朝日新聞)。怪しい電話や実際に被害があった地域で一斉に捜索、カード受け取り役の「受け子」を見つけ、被害を未然に防止したり被害金が戻ってきたりしたケースも実際にあるということです。犯行の未然防止や被害回復のためにも、詐欺だと思ったらすぐに110番することが極めて重要であることを認識させられます。
(3)薬物を巡る動向

国立精神・神経医療研究センターは昨年に大麻使用などに関する全国調査を実施し、結果をまとめています。過去に1度でも経験したことがある15~64歳は推計値で160万6,6388人(2017年比約27万人増)に上り、過去最多を更新しています。2018年秋から1年間の使用者は推計9万2,381人で、警察による昨年の大麻事件摘発者数(4,321人)と比較すると約21倍に当たるという興味深い結果となっています。

▼国立精神・神経医療研究センター 薬物乱用・依存状況の実態把握と薬物依存症者の社会復帰に向けた支援に関する研究

薬物使用の生涯経験率(全体、男性、女性)は、大麻(1.8%、2.5%、1.2%)、MDMA(0.3%、0.5%、0.1%)、コカイン(0.3%、0.6%、0.1%)、生涯経験者数の推計値は、大麻(約161万人)、コカイン(約30万人)、MDMA(約27万人)、薬物使用の過去1年経験率は大麻(0.10%、0.16%、0.06%)、覚せい剤(0.04%、0.09%、該当なし)、薬物使用に誘われた経験率(過去1年)は、大麻(0.27%)が最も多く、コカイン(0.08%)、覚せい剤(0.03%)などの結果となりました。また、薬物の入手可能性については、「なんとか手に入る」および「簡単に手に入る」という回答を「入手可能」として再分類したところ、大麻(5.6%)、覚せい剤(4.0%)、MDMA(3.4%)、コカイン(3.3%)などの結果となりました。さらに、大麻使用に対する考えは、「どのようなことがあっても使うべきではない」71.0%、「使うべきではない」17.8%、「少しなら構わない」0.5%、「個人の自由」2.1%などとなっています。なお、「個人の自由」という回答は、女性0.9%に対して、男性では3.5%であり、男女間に有意差が認められています。また、覚せい剤使用に対する考えは、「どのようなことがあっても使うべきではない」85.8%、「使うべきではない」8.7%、「少しなら構わない」0.1%、「個人の自由」0.7%と大麻より問題視する割合が増えています。また、大麻については、大麻使用者が引き続き増加していることが明らかとなり、その背景には、「複数の要因が関係していると考えられる」としています。第一の要因は、大麻の入手機会の変化で、大麻使用に誘われた経験を持つ一般住民は全体の3.4%であり、1995年からの20年以上のモニタリング期間中最も高くなったといいます。第二の要因は、大麻使用に対する意識の変化で、「大麻使用を肯定する考えが若年層で広がりつつある」と指摘しています。特に20代において拡がっており、「アメリカの一部の州、近年ではカナダにおいて、嗜好目的での大麻使用を認める政策に転換されたことなど、インターネット上に大麻使用を肯定するような情報が溢れており、若年層に何らかの影響を与えている可能性は否定できない」としています。第三の要因は、危険ドラッグからの転向の可能性を挙げています。「アンダーグラウンド化した危険ドラッグを探し、インターネット上をさまよい続けている者もいれば、規制強化を契機に薬物使用を中止した者、危険ドラッグから依存対象を他の物質に切り替えた者もいる」といいます。ある研究では、「規制強化後に、危険ドラッグから他の物質に依存対象を変えた患者のうち、約半数が覚せい剤や大麻に切り替えた」とのことです。逆に、薬物使用経験を持たない者に、薬物使用をしない理由を聞くと、「そもそも薬物に興味がない」という理由がもっとも多く、「法律で禁止されているから」、「身体や精神に悪影響があるから」と続いています。これらの結果から、「一般住民は、そもそも薬物には興味がなく、日常生活で薬物使用について考える機会がない者が圧倒的に多いという事実、健康被害よりも法律で禁じられること自体が薬物使用を抑止する役割を果たしていることを示唆する結果といえる」と指摘しています。そして、「近年では、ハームリダクションの文脈から、薬物使用に対して、非犯罪化や非刑罰化が論じられるようになった。国内におけるハームリダクションを議論する際には、こうした一般住民における薬物使用に対する価値観や考えも考慮に入れることが必要であろう」と提言しています。

さて、上記の研究結果でも分析されていた若年層の大麻汚染ですが、警察内部にも広がっていたことが明らかとなり大きな衝撃が拡がっています。20代前半の男性巡査4人が懲戒免職処分となった大阪府警のほか、兵庫県警や京都府警でも昨年から今年にかけ、20代の男性巡査が懲戒免職となったというものです。職業倫理観の欠如と言えばそれまでですが、それだけ若年層に大麻が蔓延し、たばこ感覚にまで麻痺している証左でもあります。本コラムで何度も指摘しているとおり、大麻の有害性・依存性の高さは科学的事実であり、海外の大麻合法化は、「犯罪組織対策」や「経済的合理性」の観点からやむを得ない帰結に過ぎません。一方、日本では大麻使用者率は50%を大きく下回っており、合法化すれば使用率を引き上げ、薬物依存症患者を増加させるだけであり、そこに合理性は全くないことをあらためて強調しておきたいと思います。若者の未来のために、大麻の危険性に関する正確な知識の広報や事業者における従業員教育等、より踏み込んだ取組みが急務だといえます。

覚せい剤や大麻などの薬物事件で有罪となった人のうち、保護観察中の人に課される再犯防止のためのプログラムが、新型コロナウイルスの影響で中断や大幅な遅れを余儀なくされているといいます。薬物を断つ苦しさを対象者同士で語り合うグループミーティングが、「3密」にあたると判断されているためです。覚せい剤取締法違反で2018年に検挙された人のうち、再犯者は66・6%にのぼるなど薬物事犯は「再犯率の高さ」が大きな課題となっています。再犯防止の一環として、薬物事件で服役して仮釈放されたり、保護観察付きの執行猶予判決を受けたりした人には、各地の保護観察所で「薬物再乱用防止プログラム」の受講が義務づけられているところ、基礎疾患を抱えた受講者もいる中、やむを得ないとはいえ、1日も早い全面再開を期待したいと思います。

さて、国内外の薬物を巡る報道から、いくつか紹介します。

  • 覚せい剤約2キロを郵便で密輸したとして、覚せい剤取締法違反と関税法違反の罪に問われた香港人の女性の控訴審判決で、札幌高裁は、覚せい剤取締法違反について無罪とした札幌地裁の判決を支持し、検察側の控訴を棄却しています。裁判は被告が違法薬物とどの程度認識していたかが争点で、裁判長は判決理由で「トリュフなどを密輸するつもりだっただけで、覚せい剤と知っていたと認定するには合理的な疑いが残るとした原判決が不合理であるとは言えず、事実の誤認はない」と指摘しています。なお、札幌地裁は、覚せい剤取締法違反について無罪とした上で、税関の許可なく荷物を輸入するなどした関税法違反の罪は成立するとして罰金100万円を言い渡していました。
  • 昨年12月~今年5月の間、3回にわたり、SNSを使って同県西尾市のベトナム人の男の自宅に大麻草を宅配便で発送し、10万円で譲り渡した疑いで、愛知県警国際捜査課などは、大麻取締法違反(営利目的譲渡)容疑でベトナム国籍の容疑者を逮捕しています。同容疑者は昨年新設された在留資格「特定技能」で在留しており、この資格者の逮捕は全国初とみられます。この事件の背景として、ベトナム人のSNSに対する規範意識の低さと在留ベトナム人の生活苦を指摘する報道もありました(2020年6月26日付日本経済新聞)。特に前者については、大麻関連の犯罪はベトナムで多数摘発され、大麻成分入りのチョコ、ケーキなどが堂々とSNSで売られているなど、SNSが売買の温床になっているといい、そのハードルの低さが大麻の通販に手を出しやすい背景要因となっているようです。後者の生活苦については、新型コロナウイルス感染拡大に伴って解雇、自宅待機などを勤務先、研修先から言い渡される人が相次いでおり、従来の技能実習生に比べて能力の高い特定技能の在留者でも手を出さざるを得ない状況に追い込まれていたともいえます。
  • コカインを所持したとして、大阪府警高槻署は、麻薬取締法違反(所持)容疑で医師の男(34)を逮捕しています。報道によれば、「知り合いの売人から買った」「仕事と家庭のストレスを発散するためだった」と容疑を認めているといいます。容疑者は、自宅で微量のコカインを所持していたとされますが、「大麻を使って気分が悪くなった」と自ら119番し、救急搬送されたといいます。消防から通報を受けた同署が容疑者の部屋でコカインを発見したということです。
  • 新潟県警は、新潟市などの大学生ら19~20歳の男6人を大麻取締法違反(所持)で、同市の飲食店従業員の少年(18)を同法違反(譲渡)の疑いで逮捕しています。大学生の1人は、新型コロナウイルスの感染拡大で県内の実家に帰省していたといいます。6人は、知人宅で、乾燥大麻約3グラムを所持するなどした疑いがあり、飲食店従業員はこの大麻を6人のうち1人に49,000円で売った疑いがあるといいます。
  • 小笠原諸島・母島の自宅で大麻を所持していたとして、警視庁組織犯罪対策5課などは、大麻取締法違反(営利目的所持)の疑いで無職の容疑者を逮捕、同法違反(単純所持)容疑で同居のアルバイトも逮捕しています。2人は都営住宅に同居しており、室内からは乾燥大麻約1,500グラム(末端価格約900万円)や大麻草3鉢、栽培道具などが押収されたといい、島民からの情報で発覚したということです。また、大麻の栽培での摘発では、大麻草118本を自宅で栽培したなどとして、京都府警下京署が、大麻取締法違反(営利目的栽培など)の疑いで、配送員の男と無職の男を逮捕しています。2人は友人同士で、自宅からは照明器具など栽培道具が押収されたといいます。
  • 自宅で乾燥大麻約8グラムを所持したとして、警視庁葛飾署は、大麻取締法違反の疑いで、日本テレビの子会社「フォアキャスト・コミュニケーションズ」の社員を現行犯逮捕しています。別の大麻に関する事件の捜査で、容疑者の関与が浮上、自宅を家宅捜索し大麻を発見したということです。本コラムでたびたび指摘しているとおり、従業員の逮捕は社名報道されることで会社のレピュテーションに直結します。薬物に手を出さないことは「常識」ではありますが、そのような「常識」が通用しない者やそれを何らかの理由で破ってしまう者が組織には一定数存在します。個人の「常識」や「倫理観」に依存するのは危機管理上問題があり、役職員に対して薬物に関する啓蒙・研修を実施していくべき状況になっていると認識すべきです。
  • 薬物事犯の捜査において違法が認定されるケースが相次いでいます。覚せい剤取締法違反(使用)の罪に問われ、違法な身柄拘束があったことを理由に無罪が確定したさいたま市の男性が、民事上の責任を問い、国と東京都に約1,000万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は、都に165万円の支払いを命じています。刑事裁判と同様に、警察官が職務質問で男性を転倒させて、現場にとどめた行為を違法と認定したものです。報道によれば、裁判長は「移動の自由を完全に奪う行為で、任意捜査として相当とは認められない」と述べたとされます。また、覚せい剤を隠したスーツケースを成田空港に持ち込み密輸したとして、覚せい剤取締法違反などの罪に問われたスロバキア国籍の男性被告に、千葉地裁は、「同意も令状もなく手荷物の解体検査をしており、税関の検査には重大な違法性がある」、「解体検査は旅客の被る不利益が極めて大きく、特段の事情がない限り同意も令状もなく行うことは許容されない」として無罪判決を言い渡しています。男性は税関でスーツケースを解体して検査する同意書への署名を拒否、税関職員は同意や令状のないままカッターなどで破壊し中から覚せい剤を見つけたというものです。
  • 有名人の薬物問題に関する報道もありました。元プロ野球選手の清原和博さん(52)が、覚せい剤取締法違反罪に対する懲役刑の執行猶予期間(4年)が6月15日で満了したことを受けて、「これからの人生を薬物依存症で苦しむ人たちと、野球界、特に私自身の原点でもある高校野球にささげたい」との談話を文芸春秋を通じて発表しました。一方、覚せい剤取締法違反(所持・使用)と大麻取締法違反に問われ、1審で懲役2年6月、うち6月を保護観察付き執行猶予2年の判決を受けた元タレント田代まさし(本名・政)被告(63)の控訴審初公判が仙台高裁で開かれ、弁護側は「3月から薬をやめるための治療を始めている。続けることに意味がある」などと述べたといいます。今度こそ薬物を断ってほしいものだと思います。
  • 国連が定めた国際麻薬乱用撲滅デーの6月26日、タイ中部アユタヤ県で覚せい剤などの違法薬物が焼却されました。報道によれば、一度の処分量としてはタイで過去最大の3トンで、3日間に分けて焼却したといいます。覚せい剤24.2トンのほか、ヘロインやコカインなどで、559億バーツ(約1,940億円)以上に相当、国内で実施した2,751件の取り締まりで押収したものとのことです(覚せい剤の一部は日本向けだったようです)。焼却に立ち会ったアヌティン保健相は「タイが違法薬物の社会流入と取引を認めないことを国際社会に示す」と強調した。
  • テロリスクを巡る動向

米国務省が、国際的なテロリズムの動向に関する2019年版報告書を公表しています。報道によれば、白人至上主義など「人種や民族の差別を動機としたテロ(REMT)」が国際社会の深刻な脅威になっていると指摘、2015年以降、この傾向が続いているといいます。報告書では、2019年に起きた人種関連テロとして、ニュージーランド中部クライストチャーチのモスク銃撃などに加え、ヒスパニック系が標的となったテキサス州エルパソの銃乱射事件も挙げています。また、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)については、2019年10月に米軍が行った作戦で、最高指導者バグダディ容疑者は死亡したものの、世界中で系列組織や支持者を通じて攻撃を続けていると言及、特にアフリカでISに忠誠を誓う組織の行動が活発化していると指摘しています。最近でも、ナイジェリア北東部ボルノ州で、武装勢力が複数の町を襲撃し、住民や政府軍兵士計60人以上を殺害した事件が発生しています(その数日前にも、ボルノ州の別の地区が襲われて住民少なくとも69人が死亡する事件が発生しています)が、イスラム過激派ボコ・ハラムから派生しISに忠誠を誓う勢力が犯行声明を出しています。また、ISについては、イタリア警察が、シリアのISが製造した覚せい剤のアンフェタミン14トンを押収したとの報道がありました。一度に押収したアンフェタミンの量としては世界最多であり、AFP通信の報道によると、押収したのは「カプタゴン(Captagon)」と呼ばれる錠剤8,400万錠で、ナポリ南方のサレルノ港で発見されたコンテナ3台に隠されていたといい、末端価格で約10億ユーロ(約1,200億円)相当にも上るといいます。「ISは主にシリア産の薬物の密売でテロ活動の資金を調達していることが分かっており、シリアは過去数年間で世界最大のアンフェタミン製造国になっている」、「カプタゴンはもともと医療目的で使用されていたが、違法に製造されたものが戦闘中のIS戦闘員に広く服用されたことから「ジハード(聖戦)・ドラッグ」と呼ばれている」とも報じられています。

さて、本コラムでその動向を注しているアフガニスタンの和平に向けた米国と反政府組織タリバンの歴史的な合意から4カ月が経過しました。本コラムでもたびたび紹介してきたとおり、アフガン政府のガニ大統領は当初、タリバンの戦力が増す懸念などから捕虜の解放を拒否していましたが、米国の説得もあり、これまでに3,0000人を解放した、先月には残る2,000人も解放する方針を示していましたが、実現していません。タリバンでは、捕虜自身や家族から解放されないことへの不満が出ているといい、政府に圧力をかける目的で攻撃を強化しているとみられており、治安の悪化が顕著になっています。なお、報道によれば、タリバンは5月下旬に政府や米国の要請に応じる形で3日間の停戦を実施、その後は攻撃の再開を宣言せず、犯行声明も少なくなっており、タリバンのムジャヒド報道官は「タリバンは多くの攻撃を行っておらず、戦闘があったとしても自衛的な行為だ。政府は言いがかりをつけて和平を妨害しようとしている」と主張しているといいます。なお、米中央軍はタリバンとの和平合意に基づき、駐留米軍を約8,600人に削減したことを明らかにしています。合意に盛り込まれた2021年5月までの完全撤収については「条件が満たされれば」とし、タリバンに戦闘行為の抑制を求めています。このような状況下、タリバンが米軍を主力とする有志連合の兵士殺害への懸賞金をロシアから受け取っていたとすると米紙が報道しましたが、タリバンは声明で「2019年のジハード(聖戦)はいかなる外国の諜報機関や外国の恩恵に負うものではない」と否定しています。また、在米ロシア大使館もツイッターで、「根拠がなく匿名の告発が、米英駐在の大使館職員を危険にさらしている」と反発しています。さらに、トランプ政権はこれまで、トランプ氏が「説明を受けていない」とツイッターに投稿、国家情報長官やホワイトハウスの報道担当官も報道を否定、国防総省報道官は「報道を裏付ける証拠は見つかっていない」と強調するなど、米当局内にも情報の信ぴょう性を疑問視する声があったとして、「大統領は報告を受けていない」と主張しています。それに対して、報道(2020年7月1日付時事通信)によれば、「米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は、ロシア軍情報機関が管理する銀行口座からアフガニスタンの反政府勢力タリバンとつながりのある口座に多額の資金が送られていたと報じた。米当局が送金の事実を示す電子データを傍受していた。ロシアがタリバンに懸賞金を提示し、米兵殺害を奨励していたという情報を裏付ける証拠になる可能性がある」としており、今後さらなる議論を呼びそうです。いずれにせよ、本コラムでもたびたび指摘してきたとおり、政府の機能不全や内戦、宗派・部族対立による混乱といった「人心・国土の荒廃」がテロの温床となります。混乱の度合いを深めていくアフガン情勢については、米軍撤退という「力の空白」が生じ混乱を招くようなことがあれば、ISは各地のローンウルフやホームグロウン・テロリスト、世界中の信奉者やIS元戦闘員、外国人戦闘員などに思想的に呼び掛けていくことが容易に想定されるところです(思想に共鳴したテロが各地で続けば、人々の間に疑心暗鬼が芽生え、それがさらなるテロを生むという悪循環となり、そこにISが実効支配を強めていくという構図の再来が考えられます)。今できることは、テロ発生のメカニズムのネガティブ・スパイラルを絶つこと、「力の空白」をどう埋めていくかを真剣に検討することであり、これからが正に正念場となります。

フィリピンのドゥテルテ大統領が「反テロ法」に署名し、同法が成立しました。今後、大統領が任命した反テロ組織がテロリストと認定した個人や団体を令状なしに最長24日間拘束したり、90日間にわたって監視・盗聴することなどが可能となります。報道(2020年7月3日付日本経済新聞)によれば、反テロ法は従来の「人間の安全保障法」に代わって制定されたもので、治安当局が裁判所から令状の交付を受けずに容疑者を逮捕、拘留できる期間を14日間とし、10日間延長できると定めています。従来は最長3日で、同国憲法は戒厳令下でも3日に限定しているところ、テロ容疑者の摘発で強大な権限が当局に与えられることになります。さらに、摘発の対象も拡大、テロ行為を共謀して実行した者とする従来の範囲から、テロ行為に直接関わらなくても、あおったり、組織に勧誘したりした者などを含められました。そのうえ、最高刑は従来の禁錮40年から終身刑に重くなっています。フィリピンでは反政府勢力によるテロが散発的に起き、政府軍との衝突が続いています。2017年には南部ミンダナオ島でイスラム過激派による大規模な武装蜂起が起き、1,000人以上が死亡、最近も同島で6月下旬、共産党系の武装組織が国軍部隊を襲う事件があったばかりであり、政府は反テロ法でこれらの勢力の掃討を強化することを狙っているとされますが、テロの定義が広く人権抑圧につながる懸念が拡がっています。

(4)犯罪インフラを巡る動向

インターネットで融資を仲介するソーシャルレンディング(SL)に出資した個人投資家22人が、勧誘時に虚偽の説明をされて損害を被ったとして、SL大手「みんなのクレジット(現スカイキャピタル)」などに計約1億円の損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は、同社側に全額の支払いを命じる判決を言い渡しています。報道によれば、同社はHP上で、多様な企業に貸し付け、価格変動などのリスクを下げる「分散投資」をうたい、投資家などから出資金を募ったものの、実際は同社の関係企業に大半を貸し付けていたもので、判決は「勧誘文言は実態に反していた」と指摘、「誤解を招く文言での勧誘は認められない」と結論づけています。小口から出資できる利便性から投資家の人気を集めているSLの「犯罪インフラ」性が露呈した形となります。同様に、本コラムでもたびたび指摘している、売掛債権を素早く現金化できる「ファクタリング」の「犯罪インフラ」化、「給与ファクタリング」の被害も拡大しています。新型コロナウイルスの影響で給与収入が減った利用者らが「違法な高金利の貸し付けに当たる」として返金を求める集団訴訟が各地で起こされ、金融庁や国民生活センターが注意喚起しています。金銭の貸し借りの形を取らないため、「借金ではない」とうたい、貸金業の登録がない業者が手掛けるケースが多いといいます。ただ、会社が第三者に給与を支払うことはできず、譲渡した給与債権分の金銭は利用者が回収して業者に渡す契約になっているため、実質的には手数料分の利息を伴う借り入れと同じことになります。さらに、通常の形の「ファクタリング」についても、無登録のヤミ金業者がファクタリングを装って高利の融資をしている例があり、「ファクタリングの犯罪インフラ化」に注意が必要な状況です。

▼国民生活センター 給与のファクタリング取引と称するヤミ金に注意!-高額な手数料や強引な取り立ての相談が寄せられています-
「給与の債権を売れば金銭を受け取れる」などと宣伝する「給与ファクタリング(給料ファクタリング)」に関する相談が全国の消費生活センター等に寄せられています。給与ファクタリングを行う業者(以下、「給与ファクタリング業者」)は「債権の買い取りなので金銭の貸し付けではない」などとうたっていますが、実態は貸金業であり借金と同じです。相談事例では、生活の困窮を背景として、「借金ではない」「ブラックOK」などという宣伝につられて給与ファクタリングを利用し、高額な手数料を請求されたケースや、強引な取り立てを受けたケースもみられます。貸金業法の登録を受けずに給与ファクタリングを業として行う者はヤミ金融業者(以下、「ヤミ金」)ですので、利用しないよう消費者に注意を呼び掛けます。

<相談事例>

  • 子どもの治療費が必要になり、「借金ではない」という給料ファクタリング業者でお金を借りたら勤務先にも取り立てられた
  • 子どもがケガをして急に高額な治療費が必要になり、インターネットで検索して簡単にお金を用立 てることができる給料ファクタリング業者に電話をした。7万円を手渡しで受け取り、次の給料日に12万円を銀行振込で返済する予定だった。業者は「給料を債権として買取っているので、金銭貸借ではない。金利ではなく手数料だ」と言っている。期日の前日に業者から電話があり「明日の何時に振り込むか」と聞かれたので予定時刻を答えた。しかし、その後すぐに事業者から勤務先や自宅に電話がかかってきて、勤務先と家族に知られて大騒ぎになった。自分は期日に遅れた訳ではないのに、このようなことをされてとても困っている。まだ返済していないが、年利を計算すると700%以上になるので違法ではないか。(2019年8月受付 契約当事者:40歳代、男性)
  • その他、以下のような相談も寄せられています
  • 「ブラックOK」の給料ファクタリング業者から毎月借りているが、返済日の変更を申し出たら凄んだ口調で拒否された
  • 失業して給与ファクタリング業者と契約したが家族へ執拗(しつよう)に取り立てられている
  • 給料ファクタリング業者と契約したが、返済遅延をしたら強引な取り立てを受けた
  • ギャンブル依存症の息子が任意整理中なのに給与ファクタリング業者から借金した
  • 新型コロナウイルスの影響で収入が減り、給料ファクタリング業者から融資を受けた

<消費者へのアドバイス>

インターネット広告等で「借金ではない」「ブラックOK」などと宣伝して、個人の賃金債権を買い取ると称して手数料を差し引いて金銭を提供し、個人から金銭を回収する「給与ファクタリング(給料ファクタリング)」のトラブルが発生しています。給与ファクタリング業者などのヤミ金に金銭を支払う前に、まずは消費生活センター等に相談をしてください

  • ファクタリングと称していても借金と同じ!
  • 年率換算で数百パーセントもの高額な手数料を請求される!
  • 勤務先や家族への強引な取り立てが発生している!
  • 借金のことなどで困っていたら、自治体の相談窓口や最寄りの消費生活センター等に相談しましょう

偽造クレカは「犯罪インフラ」の代表格ですが、偽造したクレジットカードを所持したなどとして、警視庁組織犯罪対策特別捜査隊はマレーシア国籍の男3人を不正電磁的記録カード所持容疑などで逮捕しています。3人はマレーシア人の偽造カード製造グループのリーダー格で、容疑者は製造役とみられています。報道によれば、グループによる偽造カードの被害額は2019年11月~今年6月で1億円を超えるとみられ、「製造工場」を捜索し、偽造カードや偽造前の「生カード」約2,100枚を押収したといいます。カードの名義はカードを使う買い子ごとに実際の名前で偽造しており、いずれも磁気式で、磁気を用いないIC式に比べて偽造しやすいとされる点が悪用されたようです。なお、本件は東京税関からの情報提供で発覚したということです。偽造という点では、組織的に偽造在留カードを提供していた中国籍の女性が、不法残留していた中国籍の20代の女から依頼を受け、女の顔写真が印刷された偽造在留カードを中国から国際宅配便で女の自宅に郵送し、代金1万円を口座に振り込ませたとして逮捕されています。容疑者は日本に不法残留する中国人らへ偽造在留カードなどを提供するグループのメンバーで、報道によれば、組織の拠点は中国で日本の運転免許証や学生証なども偽造し、日本に送付していたとみられています。グループはSNSなどで依頼を受け偽造品を提供、容疑者は、代金の受け取り役だったとみられ、銀行口座にはこの5年間で、中国人など185人から計540万円が振り込まれており、売り上げは、中国に送金していた可能性があるということです。

携帯電話絡みの「犯罪インフラ」事案としては、使用目的を偽り、携帯電話会社からSIMカードをだまし取ったとして、愛知県警は、イラン国籍の会社役員(64)を詐欺容疑で逮捕したというものがありました。自らの会社名義で約90台の携帯電話を入手し、大半をイラン人薬物密売組織に提供したとみられています。報道によれば、逮捕容疑は2019年12月2日、同市内の携帯電話販売店で、経営する会社名義で契約している携帯電話4台のSIMカードを、密売組織に譲り渡す目的を隠して貸与させ、だまし取ったというもので、携帯電話は、密売組織にとって仲間との連絡調整のほか、取引の唯一の連絡手段となり正に「犯罪インフラ」となっており、1台2,000万~3,000万円で取引されるとの情報もあるということですから驚かされます。携帯電話の関連では、携帯電話のショートメッセージサービス(SMS)を利用した「SMS認証」を代行して第三者に不正にアカウントを取得させたとして、埼玉県警は、神奈川県秦野市の女性容疑者(40)を私電磁的記録不正作出・同供用容疑で逮捕した事例もありました。SMS認証が代行されると、第三者がアプリを事実上匿名で利用できてしまうため、代行が犯罪の温床になっている「犯罪インフラ」化している可能性があるとみられています。

さて、本コラムでもたびたび指摘しているとおり、インターネットやSNSの「犯罪インフラ」化が深刻化しています。東京都八王子市の男子高校生が拳銃で自殺した事件が世間に衝撃を与えましたが、拳銃をはじめ麻薬や違法薬物、児童ポルノやリベンジポルノの映像や画像、偽造クレジットカードなど、ありとあらゆる「違法商品」の取引が行われている場が、闇サイトやダークウェブと呼ばれる「犯罪インフラ」です。この場は、特殊詐欺の受け子など「闇バイト」として犯罪グループのリクルートに使用されることもあり、実際に特殊詐欺やアポ電強盗などが実行されました。また、コロナ禍の混乱に乗じて世界各地でサイバー攻撃が展開されましたが、その背後では、ダークウェブで攻撃を企図するハッカーらのやり取りが急増、日本を狙ったとみられる書き込みもあったといいます。報道(2020年6月26日付日本経済新聞)によれば、新型コロナに乗じた攻撃の謀議や攻撃ツールに関する情報交換は3月半ばから急増、同月第3週に約7万4,000件を検知して第1週の3倍に跳ね上がり、4月も週5万~6万件ほどで推移したといいます。閲覧者の情報を抜き取る偽の感染状況マップの提供を持ちかけるような投稿もあったとされ、実際にこの時期、欧州やアジア太平洋地域を狙った攻撃も増加していました。また、SNSが誹謗中傷の「ネットリンチ」の場を提供している実態や、こうした闇サイトやダークウェブによる決済の多くは暗号資産(仮想通貨)が使用されており、暗号資産の匿名性の高さが摘発を難しくさせている実態があります。このように、闇サイトやダークウェブ、さらにはインターネットやSNSが「犯罪インフラ」として機能している現状に対して、ネット空間に蔓延する悪意を根絶することは難しいうえに、法整備や緊密な国際連携も必要となることなど対策は困難を極めます。ただ、難しいからといって犯罪や悪意を放置したままでは犯罪や犯罪組織を助長することに他ならず、知恵を絞ってできうる限りの対策を継続的に切れ目なく実施していくこと、いたちごっことなるのも厭わず手口を分析し続け対策を進化・深化させ続けること、あきらめた時点で犯罪実行者の勝ちという危機感を強く持ちながら粘り強く実施していくしかないと考えます。なお、インターネットやSNSの「犯罪インフラ」化との観点から言えば、他にも以下のような事案が直近でありました。

  • 米国のインターネット銀行に対するサイバー攻撃が急増しており、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出制限や、銀行店舗の閉鎖でネット銀の利用が伸びるなか、「コロナ対策」を装って個人情報を盗む手法が目立っているようです。預金者のネット利用の拡大は銀行にとって効率化につながる一方、セキュリティ対策のコストもかさむため、新たな頭痛の種となっているといいます。
  • ホンダが6月上旬に受けた大規模なサイバー攻撃について、ここで使われたとみられるウイルスが、同社内のネットワークで動きやすいよう特別に開発されたものである可能性が高いこと、無差別ではなく、はじめからホンダを標的にした形跡があったことが専門家の解析でわかったといいます。本件からもうかがえるように、サイバー攻撃は巧妙さを増しており対策が急務となっています。
  • サイバー攻撃の巧妙さという点では、インターネットバンキングのシステムを悪用され、預貯金を不正送金される被害が急増していることも挙げられます。被害防止の対策として導入された「ワンタイムパスワード」が狙われる手口も目立っており、新型コロナウイルスの影響で利用者が拡大するなか、警察や関係機関が警戒を強めている状況にあります。
  • 何者かが自分に成り済ましてツイッターのアカウントを開設したとして、神奈川県内の未成年の男性が、開設に使われた携帯電話番号の開示をツイッター社に求めた訴訟の判決で、東京地裁は、「開設は男性をおとしめる目的で悪質。投稿が違法なのは明らかだ」として開示を命じています。インターネットに投稿した発信者の情報開示を巡って、ネット接続業者に携帯番号の開示を命じた判決はあるものの、ツイッターなどSNSの運営業者に命じるのは珍しいということです。
  • コロナ禍による外出自粛で店舗販売からインターネット通販にシフトした衣料品通販サイトの不正注文被害が昨年の3倍超、家電は2倍超になるなど、詐欺や成り済ましなどの不正注文が増えている実態が明らかになっています。通販サイトの不正検知を手掛ける「かっこ」が、約2万サイトについて昨年2~5月と今年の同時期を比較したところ、不正注文件数は3%増、被害額は21%増えたこと、業種別では衣料品の不正注文が昨年の1,446件から4,216件に急増し、被害額も34倍になったこと、家電の被害額は全体で2.48倍となったことなどが指摘されています。なお、不正販売の関連でいえば、コンサートやスポーツイベントなどのチケットを高値で転売することを禁じたチケット不正転売禁止法が施行され1年が経過しました。国内の仲介サイトでの高額転売には歯止めがかかったものの、海外サイトやSNSを介したトラブルは、今も後を絶たないといいます。
  • 政府は電子商取引(EC)の不正出品防止策に乗り出しました。「売り場」を提供する運営者に、出品者の本人確認やトラブルが発生したときの責任を明示するよう求めるなど、ネット通販の消費者を保護するための新法をつくる方向だということです。架空の連絡先を届け出た出品者が偽ブランド品を販売する事例が多発しているため、悪質な出品者の排除を運営者に促す狙いがあるといいます。報道(2020年7月2日付日本経済新聞)では、「新たな法律の柱となるのは出品者の企業・個人の身元確認の強化だ。出品者の氏名や住所、連絡先といった本人確認をどう実施しているかを運営業者に開示させる。人命や安全に関わる場合は、こうした情報を直接、消費者に開示させる。現在でもサイト運営者は身元確認情報の届け出を出品の条件にしているが、運営者によって対応はまちまちだ。法律などでも規定していない。厳格な運営者は法人の出品者に登記簿謄本や印鑑証明の提出を求め、銀行口座の情報とも照合する場合がある。一方でこうした詳細な情報を求めない運営者もいる」などと報じられていますが、プラットフォーマーには「場の健全性を確保する」責任があるのではないかと本コラムでは以前から指摘してきましたが、いよいよ「場の健全性」にかかる責任の所在が明確化され、「悪意が排除される環境が整備される」方向に動き始めたことは、ECサイト全体の健全性につながるものとして大いに期待したいと思います。

さて、インターネットやSNSの登場は利便性と犯罪インフラ性の両面を有し、社会や経済に大きな影響を与えましたが、今後、人工知能(AI)や機械学習(ML)もまた同様の可能性を秘めているといえます。したがって、犯罪サイドの悪用リスクが顕在化し被害が深刻化する前に、適切な規制・監督のあり方を確立しておく必要があります。この点について、証券監督者国際機構(IOSCO)がガイダンスを提案、コメントを求めています。

▼金融庁 IOSCO による市中協議文書 「市場仲介者と資産運用業者における人工知能(AI)と機械学習(ML)の利用に係るガイダンス」 公表について
▼市中協議文書(原文)
▼IOSCOメディアリリース(仮訳)

リリースでは、「証券監督者国際機構(IOSCO)の代表理事会は、IOSCO メンバーが市場仲介者と資産運用業者による人工知能(AI)と機械学習(ML)の利用を規制・監督することに資するガイダンスを提案し、これに対するコメントを求める」ものであり、「これらのテクノロジーの活用は、実行速度の上昇や投資サービスのコスト低下等による利益を企業及び投資家にもたらすことができると同時に、リスクの惹起・増大や金融市場の効率性低下、消費者や他の市場参加者への被害を及ぼす可能性がある」としています。その結果として、「潜在的なリスクを軽減し消費者被害を防ぐため、規制当局は金融市場における AI・ML の利用と管理に対する注目を強めている。2019 年には、IOSCO 代表理事会は AI・ML を重要な優先事項と位置づけた」、「市中協議文書「市場仲介者と資産運用業者における人工知能と機械学習の利用」は、IOSCO メンバーが AI・ML を利用する市場仲介者と資産運用業者を監督するための適切な規制枠組みを構築することに資する6つの原則を提案している。提案された原則においては、市場仲介者と資産運用業者が以下の特徴を備えることを求めている」としています。

  • AI・MLの開発、テスト、活用、パフォーマンスの監視に対する適切なガバナンス、管理とモニタリングの枠組み
  • AI・MLを導入、監督し結果を検証するために十分な知識、スキルと経験を、スタッフが有している ことを確認していること
  • 企業がAI・ML を完全に実装する前に潜在的な課題を特定できるよう、開発とテストのプロセスが頑強で、一貫性があり、明確に定義されていること
  • 投資家、規制当局や他の関連のある利害関係者に対する適切な透明性と情報開示

また、「提案されたガイダンスは、AI・ML を活用する市場仲介者と資産運用業者に対し期待されるコンダクトの規範を反映している。このガイダンスに拘束性はないが、IOSCOメンバーは自らの規制・監督枠組みの文脈において、提案された原則を注意深く検討することが奨励される」こと、「本文書を準備するにあたり、IOSCO は市場仲介者及び資産運用業者と、AI・ML についての議論とサーベイを実施した。本文書は、企業がこれらのテクノロジーをどのように活用しているかを分析し、それに伴うリスクを特定し、リスクにどのように対処しているかを説明している」こと、また、「国際通貨基金(IMF)や金融安定理事会(FSB)等の国際機関により公表されたAI・MLに関するガイダンスについての章を含んでいる」こと、「IOSCO は、本市中協議文書に対するコメントを 2020 年 10 月 26日まで募集している」ことが述べられています。AI・MLを巡るコンダクト・リスクへの迅速な対応として注目していきたいと思います。

その他、犯罪インフラを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 自宅で宅配物を受け取る際に他人の名前で署名したとして、私印偽造・同使用罪に問われた中国籍の女性に、京都地裁が無罪判決(求刑・懲役1年)を言い渡しています。報道によれば、インターネットのショッピングサイトで時計を購入する際、架空の日本人名義で注文、数日後、自宅で荷物を受け取る時に、注文時の日本人名で受取人欄に署名したもので、裁判官は、宅配便を受け取る時の署名について「配達員は注文者が指定する人に荷物を届ければよく、通称名で署名しても不利益は発生しない」、「他人の署名を偽造したとはいえない」と指摘し、罪に当たらないと結論づけています。悪意をもった見方をすれば、架空名義での発注と荷物の受け取りを可能にするロジックであり、なりすまし等による犯罪を助長しかねないのではないかと懸念されるところです
  • 全国で高級車約200台を盗んだ窃盗グループに電子キーの代わりとなる特殊機器を譲渡し、犯行を手助けしたとして、兵庫県警が窃盗幇助の疑いで、奈良市内で鍵店を営む60代の男を書類送検しています(なお、本事件については2016年4月~2019年5月、兵庫や千葉など全国12都府県のマンションや民家の駐車場で発生、男女6人のグループがすでに摘発されています)。悪用された機器の販売元が摘発されるのは異例だということですが、正に「犯罪インフラ」の典型であり、それを知りながら譲渡するのは紛れもなく「幇助」にあたるものとして厳しく取り締まっていく必要があると考えます。
  • 新型コロナウイルスの感染拡大で打撃を受けた中小企業や個人事業主を支援する「持続化給付金」をめぐり、高額手数料を取って書類作成を請け負う業者がSNSで顧客を集めているといい、多くは給付金支給後に手数料を受け取る「成功報酬」をうたい、満額が受給できるよう書類改ざんを示唆する業者もいるとのことです。迅速給付ありきで簡素化した申請手続きが、不正の温床になっている可能性、すなわち給付金制度の「犯罪インフラ」化が進んでいることが強く危惧され、審査や監視を強化すべき状況にあるといえます。当たり前のことですが、提出書類だけでは不正を判別するのは難しく、悪意ある者を示唆する各種データや実態確認なくして不正を断つことは困難であり、迅速化・簡素化の要請と不正排除・対応の厳格化との間のバランスのとり方が(税金が投入されることと相まって)大変難しい状況となっています
  • 休眠会社を利用して嘘の取引を持ちかけ、商品をだまし取ったとして、大阪府警捜査2課などは、詐欺容疑で、25~48歳の男3人を逮捕しています。計20社から総額約1億円以上の被害相談があるといい、商品は家電販売店などに転売していたとみられています。報道によれば、容疑者らは、現在は営業していない宿泊事業の会社名を利用、会社名が入った名刺を配ったり、営業所と偽ってビル一室に案内したりして相手を信用させた上で、「民泊の設備管理で、災害に備えた発電機が必要」と取引を持ちかけていたといいます。
  • HSBC、スタンダード・チャータード銀行、シティグループといった銀行で、香港の住民から「送金ができない最悪の事態に備え」、オフショア口座の開設に関する問い合わせが増えているといいます。香港国家安全法が制定されたことを受けて、懸念が広がっていることが背景にあるといいます。香港を巡って米中関係が悪化する中、香港からの資本流出や資産の換金性に対する懸念が現実のものとなってきました。ただし、オフショア口座については、犯罪収益の隠匿をはじめ、租税回避行為など「犯罪インフラ」化が懸念される部分もあり、当局などは監視を強める必要があるといえます。
(6)その他のトピックス

①暗号資産(仮想通貨)を巡る動向

2020年6月9日付日本経済新聞で、暗号資産(仮想通貨)について、2020年1~5月に約14億ドル(1500億円)が詐欺や盗難で流出したとの米サイファートレース社の調査結果が紹介されていました。大きなハッキング事件が確認されていない一方、在宅勤務者を狙うなど新型コロナウイルスの感染拡大に便乗する犯罪が増えたのが特徴だといいます。報道によれば、「企業から従業員あての連絡を装ったフィッシングメールが在宅勤務者に送られ、感染するとシステムファイルが暗号化されてしまう。被害者がビットコインなどの仮想通貨で身代金を支払うまでファイルが復元されない」というもので、「新型コロナと関連させたサイバー攻撃の脅威はドイツや台湾、日本で増えているという。在宅勤務で使うパソコンなどのセキュリティが整わないうちに、組織的に標的になった可能性がある」と指摘しています。さらに、本コラムでもたびたび指摘していますが、以下のとおり、現在の暗号資産の規制の脆弱性も的確に述べられています。

不正流出が続く一方、仮想通貨の資金移動の透明性を高める試みは道半ばだ。マネー・ローンダリング対策などを検討する政府間機関であるFATF(金融活動作業部会)は19年に、送金者と受取人の情報をそれぞれの仮想通貨交換業者が交換する「トラベルルール」を導入するよう勧告したが、新 型コロナの影響で各国の規制導入の議論は遅れている。日本の仮想通貨交換業者の本人確認は厳格だが、世界ではずさんな国も多い。トラベルルールが発動されていない現状では「相手のアドレスが実質的にどこの国のアドレスかを把握しきれない」(大手仮想通貨交換業者幹部)ため、ルール整備が急務となっている。

最近の国内の暗号資産を巡る報道としては、過去の事件に関するものが目に付く程度です。まず、マウントゴックス事件の元社長について、2013年2~9月、同社の取引システムに接続し、サイト上の口座に計3,350万ドルが入金されたようにデータを改ざんしたとされるところ、私電磁的記録不正作出・同供用の罪に問われた控訴審で「会社の破綻を回避するためのデータ入力で、不正行為ではない」などと無罪を主張していたものの、東京高裁は「過去に行った架空のビットコインの作成を隠蔽するのが目的で、不正にあたる」と退けたというものがありました。なお、元社長については、顧客から預かった資金を着服したとして、業務上横領罪にも問われましたが、2019年3月の1審判決は同罪の成立を否定、同罪については無罪が確定しています。また、2018年、当時のレートで543億円相当の暗号資産NEMがコインチェックから不正に流出した事件で、不正流出したNEMと知りながら取得したとして、組織犯罪処罰法違反(犯罪収益収受)の罪に問われた医師は、東京地裁の初公判で無罪を主張、報道によれば、弁護側は「前提となる流出の実行犯が特定できておらず、犯罪なのかどうかも分からない状態で、被告の犯罪は成立しない」と述べたといいます(流出させた人物を不正アクセス禁止法違反容疑で捜査中ではあるものの、いまだ逮捕に至っていません)。2件ともに世間の耳目を集めた事件であり、今後も状況を注視していきたいと思います。

さて、本コラムでその動向を注視している中央銀行デジタル通貨(CBDC)については、新型コロナウイルス感染拡大の影響が色濃くなっている点が注目されます。現金を使わないキャッシュレス決済の利用が世界的に拡大しており、CBDC開発が加速化されていることが明らかとなっています。たとえば、報道によれば、国際決済銀行(BIS)のイノベーション・ハブ局長は、「紙幣や硬貨を通してウイルスに感染する証拠はほとんどないが、新型ウイルス感染症(COVID-19)の拡大により、われわれの生活のあらゆる面でこれまでに見られなかったデジタル化の実験が促されている」とし、「COVID-19の感染拡大は、CBDCの開発を最速ギアに入れた出来事として経済史に残るだろう」と述べています。また、感染リスク以外にも、とりわけ給付金の迅速な受け渡しの観点からもデジタル通貨のメリットが実感できる点も大きいのではないかと思われます。

CBDCを巡っては、中国が数年内の「デジタル人民元」の発行に向けた準備を急ぎ、米連邦準備理事会(FRB)も独自研究を進めています。2019年に米フェイスブック(FB)主導のデジタル通貨「リブラ」の構想が浮上し、自国通貨の流通が細れば金融政策や銀行システムに大きな影響を与えかねないとの懸念から、CBDCの検討が各国で進んでいますが、それらと比べ日本の取組みの遅れは否定できません。しかしながら、中国がデジタル通貨技術の国際標準化で主導権を握れば「安全保障上の脅威になる」ことは間違いなく、こうした危機感から、直近では、日本銀行が技術的課題に関するレポートを公表し、CBDC実現に向けた実証事件などの準備が加速する可能性を示しています(レポートの中で、「日本銀行としては、実証実験等を通して、技術面からみた実現可能性(フィージビリティ)を確認していくとともに、海外中銀や内外の関係諸機関と連携をとりながら、CBDCに関して検討を進めていく方針である」と述べています)。以下、(技術的な側面は除き)本レポートの重要と思われる部分について抜粋して紹介していきます。

▼日本銀行 中銀デジタル通貨が現金同等の機能を持つための技術的課題

まず、本レポートの要旨については、以下のとおりまとめられています。

中銀デジタル通貨(CBDC)が現金同等の機能を持つためには、「誰もがいつでも何処でも、安全確実に利用できる決済手段」であることが求められる。したがって、CBDCを検討する際には、CBDCが「ユニバーサル・アクセス(Universal access)」と「強靭性(Resilience)」という2つの特性を備えることが技術的に可能かどうか検討することが重要なテーマとなる。

ユニバーサル・アクセスの観点からは、多様なユーザーが利用可能な端末の開発が重要となる。強靭性に関しては、通信・電源途絶への耐性を備えたオフライン決済機能を備えることが望ましい。スマートフォンを用いたケースでは、オフライン決済に必要な機能の多くに既存技術を転用可能とみられる一方、実用化に際しては、機能の安定性や処理性能の確保、コストの面などにおいて課題も残る。ユニバーサル・アクセスの確保に関しては、スマートフォンを保有していないユーザー向けの端末の開発も検討課題となろう。

CBDCについて検討する際には、こうした技術的な課題に加え、セキュリティ確保のためのセーフガードや、プライバシーとAML/CFTの両立といったコンプライアンス上の課題への対応も重要である。これらは、オンライン、オフライン決済にかかわらず重要な課題であるが、オフライン環境下ではより対応が難しくなるため、しっかり検討を行う必要がある。セキュリティに関しては、端末の定期交換などを通じて、オフライン環境におけるCBDCの偽造リスクに対応する必要があろう。また、オフライン環境では、管理者が脅威を常時把握できないため、CBDCの利用金額に一定の上限を設けて被害規模を予め限定することも一つの選択肢であろう。コンプライアンス面では、プライバシーの確保に向けた検討が重要である一方、AML/CFTの観点から不正リスクを抑制するために、決済情報の事後収集やオフライン利用金額の上限設定などを検討する必要がある

本レポートの本文では、あるべき方向性について、以下のような説明がなされています。

  • 個々の経済主体の経済活動を支えるうえで、誰もが使える便利で安定性の高い決済手段の存在は不可欠であり、デジタル社会においても、その供給を中央銀行が担うべきということに異論を挟む人は少ないと考えられる。中央銀行デジタル通貨(CBDC)の発行意義も、基本的にはこの点に求められよう。つまり、CBDCが現金同等の機能を持つためには、「誰もがいつでも何処でも、安全確実に利用できる決済手段」であることが求められる。すなわち、CBDCは、「ユニバーサル・アクセス(Universal access)」と「強靭性(Resilience)」を備えることが望ましい
  • ユニバーサル・アクセスに関しては、CBDCの利用対象者を制限することがないよう、設計面で工夫が必要と考えられる。例えば、特定の端末に利用を限定するケースでは、当該機器を購入できない人々の利用が阻害されるほか、操作性や携帯性に課題があれば、多くのユーザーから受け入れられない可能性もある。子供から高齢層まで幅広い世代が利用できることが望ましいし、さらには訪日外国人観光客も利用できればなお望ましい。また、決済機能を個人から法人への送金(例:店舗での決済)に限定するのではなく、現金と同様に、個人間も含めた双方向の送金(P2P)でも利用できるよう設計されなければならない
  • 強靭性の面では、インターネット等のコンピュータ・ネットワークを利用したオンライン型サービスの脆弱性の克服が課題となる。伝統的なクレジットカードやデビットカードに加え、近年利用が進んでいるスマートフォンを用いた新たな決済手段の多くは、通常、送金や支払を行う際に何らかのネットワークにオンライン接続している必要があり、システム・通信障害時に利用が制約される。また、オンライン決済は継続的な電力供給が必要である。例えば、店舗等に設置される読取用の決済端末の多くは、常時オンラインを前提としており、停電時の利用には自家発電機等の設備が必要となる。自然災害の多い日本では、強靭性を備えた決済手段へのニーズは高いと考えられる

また、「プライバシーの確保とAML/CFTへの対応」については、以下のとおり述べられています。

  • 決済における匿名性やプライバシーをCBDCにおいてどのように、そしてどの程度確保していくかは重要な課題である。一般に、口座型CBDCに比べ、トークン型CBDCの方が暗号技術を活用することにより、ユーザーの特定を回避するための匿名性を確保しやすい。もっとも、口座型の場合でも、CBDCの設計上は、口座に実名とは異なる仮名等を用いることで、口座と本人情報との紐付けを回避することにより、匿名性を確保することは可能である。
  • 一方、デジタル決済においては、プライバシーや匿名性への配慮と同時に、AML/CFTへの対応を両立させていくことが重要である。オンライン決済における匿名性と(AML/CFTへの対応に不可欠な)取引データの追跡可能性については、日本銀行が技術的な観点から調査研究を進めている。オフライン決済に関しては、CBDCの台帳管理者(や公的当局)が決済情報を把握することが困難になるため、AML/CFTへの対応のハードルも一段高くなる。すなわち、オフライン決済情報については、取引当事者のいずれかの端末がオンライン接続されない限り、台帳管理者や公的当局は把握することができない。オンライン接続が可能な端末でも、ユーザー同士が決済情報を秘匿するためにオンライン接続を回避し続ければ、当局はいつまでも決済情報を把握できない。また、カード型のように機能を限定した端末の場合、オンライン機能の搭載が難しい可能性があり、こうしたケースでは、当局による決済情報の把握は困難と考えられる。このように、ユーザーが端末のオンライン接続を回避できる設計であれば、ユーザー同士が秘匿意思を持つ限り、当局に対してプライバシーを確保できるが、当局にとっては、AML/CFTへの対応が困難になる
  • AML/CFTやプライバシーの問題にどう対応すべきかは、中央銀行が直接所管する分野ではなく、公的当局が決済以外の観点も含め様々な観点から多角的に検討する必要がある。仮に、決済情報が把握できない状態を一切許容しない場合には、そもそもオフライン決済の利用を禁じる他ない。一方、オフライン決済を許容しつつ、不正取引のリスクを抑制するアプローチを採るのであれば、台帳へのオンライン接続の都度、過去の決済履歴の台帳記録を求めることで、異常な反復取引などを検知できるようにすることが必要になる。また、セキュリティ面への対応と同様、オフライン取引に利用制限を設けることも一つの選択肢となる。例えば、ローカル型の価値保蔵金額に上限を設けたり、少額の反復取引による大口化を防止するために、毎月の価値保蔵回数や累計利用金額を限定することが選択肢となる。カード型等のオフライン専用端末の場合は、一回の購入で入手可能な個数に上限を設ける方法が考えられる。もっとも、これらの対応は不正抑止につながる一方、オフライン決済を小口取引に限定すれば、災害時等における利用や利便性を損なう面もあるため、両者のバランス確保が重要となる

なお、CBDCを巡っては、直近では、リトアニア中銀が、ブロックチェーン技術をベースにしたデジタル通貨「LBCOIN」24,000トークンの先行販売を開始するとのことです。報道によれば、中銀当局者は、LBCOINは、CBDCに非常に類似したものになるとし、「社会が求めているものを提供する必要がある」と説明しています。

②IRカジノ/依存症を巡る動向

新型コロナウイルス感染拡大の影響はカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の整備計画にも及んでいます。安倍首相は、「新たに生じうる諸課題も踏まえ必要な準備を丁寧に進める」とし、新型コロナの収束後は「観光が再び回復していく。IRは観光先進国の実現を後押しする」と語ったほか、赤羽国交相は日本でのIRの開業について「おそらく2020年代後半に想定されている」と述べています。また、国交相は「新型コロナウイルス感染症が広がりを見せる中、誘致を目指す自治体と連絡を取りながら、来年1~7月までの申請期間に支障がないかどうか確認を取っているところだ」とも述べてはいるものの、そもそも1月の予定だった基本方針の決定が現在まで進展が見られないうえ、来年1月4日~7月30日に予定されている自治体からの申請受付期間を延期するかどうかも、いまだ方向性が明確に示されていません。現時点で横浜市、大阪府・市、和歌山県、長崎県の4地域が誘致を表明していますが、日本参入を目指す海外のIR事業者の業績が悪化し、自治体の準備にも遅れが出ているなど、先行きの不透明感が増していくばかりです。報道によれば、米国内での2020年のIR企業の売上高がラスベガスで2019年比▲45%、その他の地域で▲30%も落ち込む見通しだといい、米市場での業績悪化が米系IR事業者の日本参入にも足かせとなるのは必至の情勢です。それに伴い、巨額投資が困難になる可能性も指摘されており、開業時期の見直しや事業規模縮小などの検討も必要となりそうです。そして、経営環境が厳しいのは日本の事業者も同様であり、たとえば大阪の万博開催とIR開業を前提とした鉄道延伸計画自体、経営環境の激変を受けて鉄道各社も軒並みトーンダウンしている状況です。また、自治体においても、横浜市がIR実施方針案の市議会での説明を見送ったほか、大阪府・市も7月の予定だった提案書類の提出期限を当面の間、延長すると発表しています。なお関連して、大阪府・市が当初目指していた2025年国際博覧会(大阪・関西万博)前の開業から2026年度末に延び、さらに2027~28年度まで遅れる見通しとなったようです。なお、横浜市の誘致については、横浜市の政財界に影響力を持ち、「ハマのドン」などと呼ばれる横浜港運協会の藤木幸夫会長(89)が、23年務めた会長を退任したことも大きなポイントとなりそうです。報道(2020年6月18日付朝日新聞)では、「藤木氏は、市が横浜港・山下ふ頭にIRを誘致することに強硬に反対してきたが、退任がIR誘致のゆくえに影響を及ぼす可能性もある」と指摘されています。

さて、神奈川県は、同県のギャンブル等(「ギャンブル」は、競馬、競輪、オートレース、モーターボート競走といった公営競技を指し、「等」は、パチンコやパチスロ等の射幸行為を指す)依存症の実態を把握し、今後の本県におけるギャンブル等依存症対策推進の参考とするため、「娯楽と生活習慣に関する調査」を実施、その調査結果の速報が公表されています。

▼神奈川県 県内のギャンブル等依存症の実態調査の速報について

住民基本台帳からの無作為抽出された県内(横浜市を除く)に居住する18歳から74歳の方6,750人に対して郵送による調査票の配布及び回収の方法で実施されたもので、回答者数は2,687人(回収率39.8%)となりました。なお、うちSOGS(世界的に最も多く用いられているギャンブル等依存の簡易スクリーニングテスト。12項目(20点満点)の質問中、その回答から算出した点数が5点以上の場合にギャンブル等依存症の疑いありとされる)の過去1年以内、生涯の質問に全て回答した者は2,257人となっています。調査結果のポイントとしては、過去1年以内の「ギャンブル等依存が疑われる者」の割合推計は、18歳以上の人で0.8%(95%信頼区間:同様の方法で標本調査と区間の作成を100回行った場合、そのうち95回程度で真の値を含む区間は0.4%~1.2%)、生涯における推計値は4.9%、最もよくお金を使ったギャンブル等は「パチンコ・パチスロ」、過去1年以内の「ギャンブル等依存が疑われる者」の賭け金は、平均で1か月に30万円(平均には証券の信用取引、または先物取引市場への投資に係る高額案件が含まれている)、中央値3万円であったということです。

▼横浜市 「横浜市民に対する娯楽と生活習慣に関する調査」の結果について

横浜市も今年4月に同様のアンケート結果を公表しており、それによれば、過去1年以内のギャンブル等の経験をもとにした「ギャンブル等依存症が疑われる者」の割合推計は成人の0.5%、「最もお金を使ったギャンブル等」については「パチンコ・パチスロ」、「ギャンブル等依存症が疑われる方の過去1年以内の賭け金(1か月平均)」については、1か月に25万円、中央値は3万円であり、概ね神奈川県と同様の結果となっています。

また、本コラムでもたびたび取り上げてきた香川県で4月から施行された「ネット・ゲーム依存症対策条例」について、地域の子供たちのゲーム利用時間の減少にはあまり効果が上がっていないことが分かったということです。

▼ゲームエイジ総研 新型コロナウイルスの影響でゲームのプレイ時間は増加傾向 依存症対策条例が施行された香川県の状況は?~一律の時間規制ではなく、意識を持ってもらうことが重要~

本調査の結果によれば、「全国的な学校の休校が始まった3月7日以降で、プレイ時間は増加し、一旦落ち着きが見られるものの、3月30日週から、再度増加傾向にありました」、「全国の10代のデータを見ると、なだらかな上昇傾向にあることがわかります。一方で、香川県に絞ったデータを見てみると、学校が休校になった3月7日前後からプレイ時間が増加し、条例が施行された4月1日には一旦プレイ時間が減少。その後緊急事態宣言の発令にあわせて増加傾向になっていることがわかりました。しかし、増加・減少はあるものの、全国の10代と比較して香川県の10代のゲームプレイ時間が多いわけではなく、同程度であることがわかります」と結論付けたうえで、「香川県の「ネット・ゲーム依存症対策条例」は依存防止のために利用時間を制限するという条例ですが、親や子供に“依存防止”の意識を持ってもらうための意味付けとして考えると、データでの実態や在住者の意見から見ると、それほど影響力は少ないのが実態のようです」と指摘、「在住者の方の「ゲームをやりすぎるのは良い事とは言えないが、大切なのは時間を制限するのではなく、ゲーム以外にも興味のあることを見つけたり、ゲームを通じてでもいいのでコミュニケーションをとって普段の生活をより楽しく、充実したものにすることが大切だと思う。」(30代男性、小学生高学年)というコメントがありましたが、目指す“依存防止”という意図を伝える・意識してもらうには、どのようにゲームと向き合うか、ゲームを通じてどのような経験をするのか等、一律に時間制限をすることとはまた違ったアプローチの方法が考えられるのではないでしょうか」とまとめられています。なお、公平性の観点から、前回の本コラム(暴排トピックス2020年6月号)で紹介した香川県サイドの主張について、あらためて紹介しておきたいと思います。

香川県は「県民の声」に回答する形で、「「平日は60分まで」などの利用時間については、令和元年11月に国立病院機構久里浜医療センターから公表された全国調査結果において、平日のゲームの使用時間が1時間を超えると学業成績の低下が顕著になることや、香川県教育委員会が実施した平成30年度香川県学習状況調査において、スマートフォンなどの使用時間が1時間を超えると、使用時間が長い児童生徒ほど平均正答率が低い傾向にあるという結果などを参考に、基準として規定されたものである」こと、「条文の見出しである「子どものスマートフォン使用等の制限」について、「制限」が「家庭におけるルールづくり」に修正されるとともに、家庭におけるルールづくりの「基準」とされていた「平日60分まで」などの利用時間や「午後9時まで」などの使用の終了時間は、「おおよその基準」を意味する「目安」に修正」されていること、「このような家庭で決めたルールを保護者が子どもに遵守させるよう努めていただくことを目的としたものである」ことなどを説明しています。

その他、最近の依存症関連の報道から、いくつか紹介します。

  • オンラインゲームやテレビゲームのやり過ぎで日常生活が困難になる「ゲーム障害」に対応するため、消費者庁が全国の消費生活センターの窓口機能を強化し、当事者や家族からの相談を医療機関や民間支援団体に確実につなぐ仕組みを、今年度中に整備する方針を固めたということです。報道によれば、ゲーム人口は増加し、最近では新型コロナウイルスによる外出自粛や休校の影響もあり、未成年者を中心にゲーム依存の深刻化が懸念されているところ、実際に消費生活センターへの相談も増加しており、高額な課金に関する内容や「ゲームをやめられない」など依存症が疑われるものも多いといい、国として初めて相談体制の整備に乗り出すことになったものです。なお、今後、消費生活センターの相談員向けに、ギャンブル依存症のマニュアルを参考に相談マニュアルが作成されるようです。
  • 飲みやすさと低価格で近年売り上げが急速に伸びているアルコール度数7~9%のストロング系チューハイについて、アルコール依存症に取り組む専門家からは飲み過ぎや依存症を誘発するリスクが大きいと警鐘を鳴らす発信が相次いでいるといいます。報道(2020年6月17日付毎日新聞)でが、専門家が「実感として、ここ数年のアルコール依存症患者の7~8割は『ストロング系』を常飲している」と指摘しており、大変驚かされます。なお、コロナ禍における在宅勤務により、飲酒量が増えているとの報道もあり、今後も注意が必要な状況です。そのような中、オリオンビール(沖縄県)が「消費者の健康配慮のため」として今年に入って自社のストロング系チューハイの生産終了を決め、業界に一石を投じています。食品業界において「人々の健康」は最大の価値観を持つものであることを考えれば、正に社会的要請への適切かつ迅速な対応という現時点の「コンプライアンス」を体現する決断だと高く評価したいと思います。

③犯罪統計資料

新型コロナウイルスの緊急事態宣言が発令された4~5月の全国の刑法犯認知件数(暫定値)は93,095件で、前年同期比で36,360件(▲28.1%)も減少しています。特に、空き巣や街頭犯罪が減っており、外出自粛などで人出が減ったことが影響したと考えられます。また、その影響もあってか、今年1月か5月までの累計も255,097件と、戦後最少だった2019年の同期を15.6%下回るペースで推移しています。

▼警察庁 犯罪統計資料(令和2年1月~5月)

令和2年1月~5月の刑法犯の総数は255,097件(前年同期302,082件、前年同期比▲15.6%)、検挙件数は108,708件(113,936件、▲4.6%)、検挙率は42.6%(37.7%、+4.9P)となり、令和元年における傾向が継続される状況となっています。犯罪類型別では、刑法犯全体の7割以上を占める窃盗犯の認知件数は177,048件(213,916件、▲17.2%)、検挙件数は67.652件(70,368件、▲3.9%)、検挙率は38.2%(32.9%、+5.3P)であり、「認知件数の減少」と「検挙率の上昇」という刑法犯全体の傾向を上回り、全体をけん引していることがうかがわれます(なお、令和元年における検挙率は34.0%でしたので、さらに上昇していることが分かります)。うち、万引きの認知件数は35,562件(40,523件、▲12.2%)、検挙件数は25,592件(27,061件、▲5.4%)、検挙率は72.0%(66.9%、+5.2P)であり、令和元年に続き、認知件数が刑法犯・窃盗犯を上回る減少傾向を示しています。検挙率が他の類型よりは高い(つまり、万引きは「つかまる」ものだということ)一方、ここのところ検挙率の低下傾向が続いたところ、今回プラスに転じている点は心強いといえます。また、知能犯の認知件数は13,421件(14,984件、▲10.4%)、検挙件数は6,870件(7,199件、▲4.6%)、検挙率は51.2%(49.0%、+3.2P)、さらに詐欺の認知件数は12,031件(13,492件、▲10.8%)、検挙件数は5,862件(6,022件、▲2.7%)、検挙率は49.7%(44.6%、+4.1P)と、とりわけ検挙率が高まっている点が注目されます(なお、令和元年は49.4%でしたので、少しだけ低下しています)。

また、令和2年1月~4月の特別法犯の検挙件数の総数は25,883件(27,483件、▲5.8%)、検挙人員は21,924人(23,391人、▲6.3%)となっており、令和元年においては、検挙件数が前年同期比でプラスとマイナスが交互し、横ばいの状況が続きましたが、前月に続き減少する結果となりました。犯罪類型別では、 犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は1,083件(999人、+15.3%)、検挙人員は897人(778人、+15.3%)、不正アクセス禁止法違反の検挙件数は220件(126件、+74.6%)、検挙人員は45人(51人、▲11.8%)、不正競争防止法違反の検挙件数は30件(26件、+15.4%)、検挙人員は39人(29人、+34.5%)、銃刀法違反の検挙件数は1,979件(2,075件、▲4.6%)、検挙人員は1,749人(1,799人、▲2.8%)などとなっており、特に入管法違反と不正アクセス禁止法違反、不正競争防止法違反が継続的に大きく増加し続けている点が注目されます(体感的にもこれらの事案が増加していることを実感していますので、一層の注意が必要な状況です)。また、薬物関係では、麻薬等取締法違反の検挙件数は328件(370件、▲11.4%)、検挙人員は169人(175人、▲3.4%)、大麻取締法違反の検挙件数は2,005件(2,002件、+0.1%)、検挙人員は1,700人(1,573人、+8.1%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は4,140件(4,220件、▲1.9%)、検挙人員は2,998人(2,977人、▲2.7%)などとなっており、大麻事犯の検挙が令和元年から継続して増加し続けていること、一方で、覚せい剤事犯の検挙件数・検挙人員ともに減少傾向にあります。なお、覚せい剤事犯については、前月はいったん増加に転じて注目していましたが、今回、再度減少しており、引き続き減少傾向が下げ止まったのかどうか注目されるところです(参考までに、令和元年における覚せい剤取締法違反については、検挙件数は11,648件(13,850件、▲15.9%)、検挙件数は8,283人(9,652人、▲14.2%)でした)。

なお、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯の検挙人員総数は211人(186人、+13.4%)、国籍別では、中国40人(37人、+8.1%)、ベトナム29人(27人、+7.4%)、ブラジル26人(17人、+52.9%)、韓国・朝鮮14人(12人、+16.7%)フィリピン9人(15人、▲40.0%)、インド9人(3人、+200.0%)などとなっており、令和元年から大きな傾向の変化はありません。

暴力団犯罪(刑法犯)総数については、検挙件数は4,078件(7,742件、▲47.3%)、検挙人員は2,499人(3,062人、▲18.4%)となっており、とりわけ検挙件数が前月に続き激減している結果となりました。やはり、特定抗争指定や新型コロナウイルス感染拡大の影響が色濃く反映されたものと考えられます(なお、令和元年は、検挙件数は18,640件(16,681件、▲0.2%)、検挙人員は8,445人(9,825人、▲14.0%)であり、暴力団員数の減少傾向からみれば、刑法犯の検挙件数の減少幅が小さく、刑法犯に手を染めている暴力団員の割合が増える傾向にあるとも推測されるところです。今回の激減した状況が今後もどれだけ続くのか注視していきたいと思います)。さて、犯罪類型別では、暴行の検挙件数は315件(406件、▲22.4%)、検挙人員は295人(374人、▲21.1%)、傷害の検挙件数は491件(647件、▲24.1%)、検挙人員は575人(681人、▲15.6%)、脅迫の検挙件数は143件(148件、▲3.4%)、検挙人員は129人(130人、▲0.8%)、恐喝の検挙件数は134件(191件、▲29.8%)、検挙人員は165人(238人、▲30.7%)、窃盗の検挙件数は1,858件(4,598件、▲59.6%)、検挙人員は371人(488人、▲24.0%)、詐欺の検挙件数は525件(890件、▲41.0%)、検挙人員は416人(503人、▲17.3%)などとなっており、暴行や傷害、脅迫、恐喝事犯の減少が続く一方、これまで増加傾向にあった窃盗と詐欺が一転して大きく減少した点(さらに、暴行等の減少幅をも大きく上回る減少幅となっており、特定抗争指定や新型コロナウイルス感染拡大の影響がまさにこの部分に表れているものとも考えられます)は注目されます。また、暴力団犯罪(特別法犯)の総数については、検挙件数は2,658件(3,102件、▲14.3%)、検挙人員は1,947人(2,208人、▲11.8%)となっており、こちらも大きく減少傾向を継続している点が特徴的だといえます。うち暴力団排除条例違反の検挙件数は25件(6件、+316.7%)、検挙人員は51人(12人、+325.0%)、銃刀法違反の検挙件数は55件(57件、▲3.5%)、検挙人員は42人(36人、+16.7%)、麻薬等取締法違反の検挙件数は55件(89件、▲38.2%)、検挙人員は20人(28人、▲28.6%)、大麻取締法違反の検挙件数は381件(475件、▲19.8%)、検挙人員は268人(314人、▲14.6%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は1,749件(1,954件、▲10.5%)、検挙人員は1,227人(1,342人、▲8.6%)などとなっており、令和元年の傾向とやや異なり、大麻取締法違反の検挙件数・検挙人員が大きく減少に転じている点が注目されます。さらに、覚せい剤取締法違反についても令和元年の傾向を大きく上回る減少となっている点も注目されます。いずれも、新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛の影響で対面での販売が減っている可能性を示唆しています(なお、令和元年においては、大麻取締法違反の検挙件数は1,129件(1,151件、▲1.9%)、検挙人員は762人(744人、+2.4%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は5,274件(6,662件、▲20.8%)、検挙人員は3,593人(4,569人、▲21.4%)でした)。

④忘れられる権利等を巡る動向

「忘れられる権利」を巡り、興味深い判決が出ています。事案としては、2012年に旅館の女湯の脱衣所に侵入したとして建造物侵入容疑で逮捕された男性について、ツイッター上に事件を報じた記事のURLが投稿されたものの削除を巡って争われているもので、1審・東京地裁(2019年10月)は、ツイッターは、検索サイトのように必要不可欠な情報流通の基盤になっているとまでは言えないと指摘して、ツイッター投稿は検索サイトの検索結果よりも低いハードルで削除できるとの判断を示し、逮捕から7年以上経過したことなどを踏まえ、投稿の削除を命じています。

さて、最高裁は平成29年、グーグルをめぐる同種裁判の決定で、「情報の収集、整理及び提供はプログラムにより自動的に行われるものの、同プログラムは検索結果の提供に関する検索事業者の方針に沿った結果を得ることができるように作成されたものであるから、検索結果の提供は検索事業者自身による表現行為という側面を有する」としたうえで、削除を認めるかどうかの考慮要素として「当該事実の性質及び内容」、「当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度」「その者の社会的地位や影響力」、「上記記事等の目的や意義」、「上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化」、「上記記事等において当該事実を記載する必要性」の6項目を示しました。そして、「当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、検索事業者に対し、当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当」と指摘しています。第1審では、グーグルとツイッターの相違について、東京地裁はツイッターの検索について「投稿日時の順に表示しているにすぎない」と指摘、検索サイトが持つ表現行為という側面はないとし、「グーグルのような情報流通の基盤になっていない」として、より緩和した要件で削除を認めています。さらに、「逮捕から期間が経過し、公表の公益性は相当減少している」と指摘(男性の逮捕歴が公表され続ける場合とされない場合の利益を比較すれば、逮捕から約7年が過ぎ、当時、大きく取り上げられた事件でもないことなどから、公益性は低いとしています)、男性の新生活の平穏や更生が妨げられないよう保護されるべきだとし、「ツイッターの伝達される範囲は限られるとしても、公表されない場合の利益が優越する」、「公表されない法的利益は、公表を続ける必要性に優越する」として、最高裁が示した「明らかな優先」までは求めない判断をしています。

平成29年の最高裁の忘れられる権利に関する判断については、以前の本コラム
暴排トピックス2017年2月号)では、「最高裁の判断が、「表現の自由」や「知る権利」を重んじたのは評価できるとしても、「公共性」と「時間の経過」の比較衡量の観点(何年経てば犯罪報道の公共性がなくなるのか)からの判断が「明確に」示されなかった点(考慮要素の中に「社会的状況のその後の変化」との文言はありますが)は残念で、このあたりは、さまざまな個別の事情についての今後の裁判実務に委ねられることになり、実務上の課題としては残ることになります」と指摘しました。

それに対し、今回の東京高裁の判決はまず、ツイッターの位置づけについて、全世界で6番目にアクセスが多いサイトであり、トランプ大統領をはじめとして各界の著名人も利用することなどを踏まえれば、「現代社会で情報流通の基盤として大きな役割を果たしている」と指摘し、第1審と異なる見解を示しています。さらに、投稿の削除を請求できるのは「誰でも閲覧できる状態を続ける必要性などと比べ、公表されない法的利益が明らかに優越する時に限られる」と述べ、2017年の最高裁決定が示したグーグルなどの検索サイトでの削除の判断基準を踏襲、その上で、原告の男性が逮捕されたのは、のぞき目的で女湯の脱衣場に侵入した容疑で「決して軽微な犯罪ではない」とし、公益目的で投稿されたと判断、グーグルなど一般の検索サイトでは既に逮捕歴が表示されず、男性が不利益を受ける可能性が低下していることも考慮し、「削除する利益が明らかに優越するとはいえない」と結論づけ、原告の請求を退け、削除を認めませんでした。ただし、ツイッターの検索が「表現行為」に当たるかどうかの判断は示されていません。ともに最高裁の判断基準を踏まえたとはいえ、1審と2審でまったく異なる結論となった点は興味深いとともに、ネット上の犯罪歴の削除について、「社会的状況のその後の変化」をどう反映させるのか、グーグルとツイッターの相違点としての「情報流通の基盤性」とは何か、「公益性」と「時間の経過」の比較衡量など、やはり、同種訴訟で下級審の判断を積み重ねた上で、どのような場合に削除が認められるのか、最高裁が判断を示す必要があるとの思いを強くしました。

さて、関連して、ツイッターのリツイートが名誉棄損にあたるとして損害賠償責任を負うのかが問われた大阪高裁の判断もあわせて注目したいと思います。「リツイート」と呼ばれる機能は、拡散や共有、応援などさまざまな目的があるとされますが、元大阪府知事の橋下徹氏がジャーナリストを相手取った訴訟で大阪高裁が、昨年9月の1審に続き名誉毀損を認定しています。報道によれば、「元ツイートが社会的評価を低下させる内容の場合、リツイート主も経緯や動機を問わず法的責任を負う」と指摘しています。元ツイートが真実だとの証拠はない上に、ジャーナリストのリツイートが炎上や拡散されることなく、後に削除されたことも考慮しても、「橋下氏の社会的評価を低下させた」と認めています。さらにツイッターの特性について、投稿内容が短期間でも「際限なく拡散する可能性や危険性がある」などと言及、リツイートを含め、投稿者は「経緯や動機を問わず、リツイート主は投稿の責任を負う」と具体的に明示、「表現が人の客観的評価を低下させるか否かについて、相応の慎重さが求められる」と結論づけました(一方で、投稿する側の心理については、自身も酷いネットリンチにあった芸人が、「多くの人は「許せない」という処罰感情から、ネットで容疑者の住所や名前を特定しようとし、一部の共通項から割り出したデマ情報を流す。デマは「犯人は社会悪なので何をしても良い」という正義感と、「色々調べた上で見つけたので正しい情報」という思い込みで拡散される。正義と暴力は紙一重です」と述べています。正しいことをしているとの思いがあるのであれば、だからこそ、正しいかどうかを相応の慎重さをもって確認すべきだということがよくわかります)。本件はおそらく上告され最高裁の判断に委ねられるになると思いますが、気軽に他人の投稿を簡単に共有・拡散できるリツイートを巡っては、SNSによる「ネットリンチ」が社会問題化している中、他人を傷つけたり、デマが拡がったりする弊害もあるとの認識も浸透しつつあり、リツイートする投稿が正しいのか、一次情報の真偽を慎重に確認したうえで、相応の責任を思って行うべきこと、安易な情報拡散は厳に慎むべきこと、「表現の自由」の裏側には「投稿する責任」を自覚すべきであること、といったそもそものリテラシーの定着につながることを期待したいと思います。

さらに、事実無根のツイッターの投稿で名誉を傷つけられたとして、大阪市の松井市長がインターネット接続業者(プロバイダー)のKDDIに発信者情報の開示を求めた訴訟の判決が大阪地裁であり、裁判官は匿名の投稿者の氏名と住所、メールアドレスの開示を命じています。匿名の投稿者は昨年3月上旬、ツイッターでネット上の記事を引用し、「(松井氏が過去に)女子中学生を暴行し自殺に追いやった」などと2度にわたり投稿、判決理由で裁判官は「そうした事実がないことは証拠上明らかで、ネット上の記事にも客観的裏付けはない」と認定、政治家への評価という公共性や公益目的があるとしても「投稿は松井氏の社会的評価を低下させた」としています。

さて、SNSの誹謗中傷対策については、フジテレビのリアリティー番組「テラスハウス」に出演したプロレスラー、木村花さん(22)が、視聴者らから誹謗中傷を多数受けた後に死去した問題で、番組スタッフから過剰な演出があったことを木村さんが母に告げていたことや、制作側がスケジュールや演出を含む撮影方針に従わせる誓約書を出演者側と交わしていたことなども明らかになっています。誓約書には「スケジュールや撮影方針(演出、編集を含む)に関して、全て指示・決定に従う」との項目があり、誓約内容に違反して制作に影響が出た場合、出演者側が1話分の制作費を最低額とする損害賠償を負う内容も盛り込まれていたということで、その是非、制作サイドの責任についてさらなる議論を呼びそうです。

一方、時事通信の6月の世論調査で、SNSなどインターネット上の誹謗中傷に対する法規制の強化について尋ねたところ、「賛成」が87.6%で、「反対」の10.3%を大幅に上回る結果となり、規制強化を受け入れる地盤が醸成され、社会的な機運の高まりを見せています。さらに、ヤフーなどインターネット企業でつくる「セーファーインターネット協会」が、業界独自の取り組みとして、ネット上の書き込みによる中傷被害対策の窓口を設置し、相談受け付けを始めています。報道によれば、被害者や保護者などからの相談に応じて内容を確認、悪質な投稿についてはSNS事業者や掲示板の運営者に削除を依頼し、被害者の救済を図るもので、該当する書き込みについて、協会の担当者が「個人を特定可能かどうか」「個人の評価を低下させているかどうか」「公共性や公益性がないことが明らかかどうか」といった基準に沿って、表現の自由との兼ね合いから削除の是非を判断する仕組みだということです。判断する側にも相応の負担がかかりますが、業界が率先して社会問題の解決にあたろうとする姿勢は評価できると思います。

さらに、本件については、行政も素早い動きで反応しています。まず、群馬県がSNSなどインターネット上で誹謗中傷を受けた被害者を支援する条例を制定することを明らかにしています。SNSの中傷被害者を支援する条例は全国初で、悪質な投稿をした発信者の特定などで専門家の助言を受けられるようにし、被害回復を支援するとして、秋にも被害者の相談を受け付ける窓口を設置、弁護士らが悪質な投稿の削除や、投稿者を特定するために必要な証拠保全の方法を助言し、被害者の精神面でのサポートも図るとしています。また、総務省は、インターネット上の誹謗中傷対策について有識者会議を開き、SNS事業者(当初は米国のツイッターやフェイスブック、グーグルとヤフー、LINEの5社が対象)に投稿削除など被害抑止に向けた取り組み状況を公表させ、国が実効性などをチェックして評価する仕組みを導入する方針を確認しています。当面は事業者が自主的に取り組みを進めて公表することを促すものの、不十分な場合は法的な対応を含め、「一定の関与も視野に入れる」としています。また、総務省が示した対応方針では、名誉毀損罪や侮辱罪に当たるような違法な書き込みでなくても、大量の中傷の投稿は大きな精神的苦痛を与えかねない有害情報だと指摘、SNS事業者は表現の自由にも配慮し過剰な削除にならないようにしながら、適切な対策を講じることを求めています

▼総務省 インターネット上の誹謗中傷への対応の在り方についての意見募集
▼インターネット上の誹謗中傷への対応の在り方について(案)

本案では様々な論点についての方向性が示されており、大変興味深い内容となっていますが、たとえば「ユーザーに対する情報モラル向上及び ICT リテラシー向上のための啓発活動」については、「インターネット上の誹謗中傷への対策としては、それぞれのユーザーが他人を個人として尊重し、SNS を始めとするインターネット上での自らの書き込みに対して他人が傷つく可能性を想像し、誹謗中傷を行わないよう心がけるなど、ユーザー自身の情報モラルが最も重要と考えられる」、「プラットフォーム上での誹謗中傷が深刻化していることから、SNS を始めとするプラットフォーム事業者や業界団体は、情報モラル教育や SNS の適切な使い方などを含む ICT リテラシーの向上の推進や、誹謗中傷を行わないための啓発活動の強化を行うことが必要と考えられる」、「また、これらの取組を推進するに当たっては、そもそも誹謗中傷への対策としてどのような内容の情報モラル及び ICT リテラシーの向上のための啓発活動が必要なのか、どのような属性の人が誹謗中傷を行っているのか、どのような内容の情報モラル及び ICT リテラシー向上のための啓発活動が効果的なのかといった点について、産学官が連携して分析を行った上で、真に効果的な対策に取り組むことが有効だと考えられる」としています。

また、「プラットフォーム事業者による削除等の対応の強化」については、「プラットフォーム事業者を含む様々なサイト運営者が行いうる誹謗中傷への対応として、まず権利侵害情報(違法情報)については、書き込みの削除や非表示、アカウントの停止(以下、「削除等」という。)を行うことが考えられる。プラットフォーム事業者は、わかりやすい削除等の申告の仕組みを設けるとともに、被害を受けたユーザー等からの申告に応じて、迅速な削除等の対応を実施することが求められると考えられる」、「この点、プラットフォームサービス上では大量の情報が流通することから、ユーザー等からの申告を待たずに、自ら大量の情報を常時監視し、権利侵害情報(違法情報)を見つけた上で迅速な対応をとることを一律に求めるのは適切とは言えないものの、今後機械学習を含む AI によるアルゴリズムを活用した技術が普及・進展し、コストが低減するなどにより導入が容易になるような場合においては、プラットフォーム事業者は、ユーザーや第三者からの申告がなくとも、自らの規約に基づき、主体的に情報の削除等の対応を行うことも期待されると考えられる」、「また、権利侵害情報(違法情報)について、プラットフォーム事業者は、ユーザーからの申告のほか、正当な権限及び専門的知見を持った政府機関等からの申告に応じて適切に対処することも求められると考えられる」、「特に、法務省人権擁護機関は、「重大な人権侵害事案」において名誉毀損、プライバシー侵害等に該当する場合には、被害者からの申告等を端緒として削除依頼をプラットフォーム事業者を含むサイト運営者に行っているが、当該削除依頼を踏まえ、サイト運営者において、「他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由」があると判断した場合や自らのポリシーに照らして削除を行うことが相当であると認められる場合には、迅速な削除等の対応が求められると考えられるプロバイダ責任制限法名誉毀損・プライバシー関係ガイドライン抜粋 「この削除依頼に基づき、プロバイダ等が送信防止措置を講じた場合には、「他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由がある」場合(法3条2項 1号)に該当し、プロバイダ責任制限法の規定に基づき、プロバイダ等が削除による発信者からの損害賠償責任を負わない場合が多いと考えられる」、「一方で、例えば、不特定多数の者による権利侵害に至らない、個別の誹謗中傷の書き込み(有害情報)については法的な根拠に基づく対応を求めることは困難であるものの、書き込まれた被害者にとっては大量の誹謗中傷の書き込みは大きな精神的苦痛になることも想定されることから、こうした大量の誹謗中傷(有害情報)の書き込みに対しては、プラットフォーム事業者は、過剰な削除等による表現の自由への萎縮効果や不当な私的検閲とならないための工夫を講じつつ、利用規約等に基づいて自ら適切な対策を講じることが求められると考えられる」、「その際、プラットフォーム事業者が上記の誹謗中傷への対応の必要性と表現の自由への萎縮効果のバランスを考慮した対応を実施するための方策として、コンテンツの削除等だけでなく、AI による表示順位・頻度抑制等のコンテンツモデレーションや、規約に基づくサービス設計技術(アーキテクチャ)の工夫による何らかの仕組みの導入を検討することが期待されると考えられる(例えば、ユーザーの選択に応じたコンテンツフィルタリング機能、一定の短期間の間に大量の誹謗中傷が集まった場合に自動的に検知を行い一時的に非表示にする機能、投稿内容について再考・再検討を行う機会を設ける機能など)」といった方向性が示されています。

「透明性・アカウンタビリティの向上」については、「利用者が安心・信頼してプラットフォームサービスを利用することができるよう、上記で記載したプラットフォーム事業者による自律的な情報の削除等の対応に加えて、それらの取組が適切に行われていることが利用者や社会全体に対して明らかにされることが望ましいと考えられる」、「また、利用者の表現の自由を確保する観点から、プラットフォーム事業者によって過剰な削除や不当なアカウント停止等の行き過ぎた対応が行われていないかという点についても明らかにされることが望ましいと考えられる」、「プラットフォームサービスの提供に当たって、利用者や社会全体が把握することができるようにすることが重要であることから、プラットフォーム事業者は、自らの取組の透明性やアカウンタビリティを確保する方策についても、上記の対応と同時に積極的に取り組むことが適当であると考えられる」、「プラットフォーム事業者による透明性やアカウンタビリティの具体的な確保方策としては、例えば、 (1)誹謗中傷等に関連して、どのような種類・性質の情報又はアカウントに対して、どのような対応を行うのか、自らが提供するサービスの全体的な考え方や具体的な対応に関するポリシーをあらかじめ明確に定めてわかりやすく公開すること、(2)ポリシー等に基づいて、自らが実際に行った取組の結果を公開すること、(3)取組の効果について分析を行い公開すること、(4)取組の効果や誹謗中傷の流通状況について外部の研究者等が調査分析を行う際に必要な情報を提供すること、(5)削除やアカウント停止等の対応に関して利用者からの苦情や問合せ等がある場合に備え、苦情受付態勢及び苦情処理プロセスを適切に定め、利用者に対してわかりやすく公開し、適切に運用を行うこと などの取組を実施することが望ましいと考えられる」、「上記を始めとした透明性やアカウンタビリティの確保方策について、グローバルにサービスを提供している国外のプラットフォーム事業者においては、米国や欧州のみで実施しており、必ずしも我が国では実施されていない場合があるところ、これらの取組について、欧米と我が国との間の誹謗中傷の流通状況、社会状況、法制度等の違いに留意しつつ、可能な限り我が国でも実施されることが望ましいと考えられる」、「さらに、問題となる情報の分類及び具体的な対応に関するポリシーの策定、透明性レポート等の作成・公開、苦情受付態勢の整備などに関しては、我が国の利用者に対して、わかりやすく、我が国における個別事情に応じた対応が行われることが期待されると考えられる」、「具体的には、(1)日本語で我が国の利用者にもわかりやすい形でポリシーや透明性レポートなどの情報を公開すること、(2)透明性レポートを公開する際には、グローバルな対応件数の総数だけではなく、我が国の国内における対応件数についても併せて公開すること、(3)日本語を正しく理解できるスタッフを十分確保した上で、日本語で手続可能な適切な苦情受付態勢および苦情処理プロセスを整備するとともに、裁判手続を含めた国内での迅速な救済メカニズムを確保すること、(4)誹謗中傷に関する日本特有のプラットフォーム上の情報流通の問題にも適切に対応できるポリシーを策定すること、などの取組を実施することが望ましいと考えられる」、「以上のとおり、プラットフォーム事業者が自主的に取組を実施し、それらの取組に関する透明性及びアカウンタビリティの確保を図るとともに、プラットフォーム事業者自身による対応状況等の公開・説明を通じて、国民(利用者)やメディア等に対して取組の効果や課題などが明らかになることで社会全体としてのモニタリング機能が果たされ、それらの反応を踏まえてプラットフォーム事業者による更なる取組が進められていく、というサイクルが回っていくことが期待されると考えられる」としています。

さらに、「国における環境整備」については、「政府は、プラットフォーム事業者と連携・協働し、また、一定の法的枠組みも含めて、プラットフォーム事業者における誹謗中傷に関する様々な取組が円滑に行われるよう支援するための環境整備を行うことが適当であると考えられる」としています。

また、「事業者による削除等の対応に関する取組」については、「現状、プロバイダ責任制限法においては、削除措置を講じた場合等における免責規定を設けることにより、プラットフォーム事業者を含むプロバイダによる自主的な対応を促進することとしている。これに関し、プラットフォーム事業者による迅速かつ確実な削除を求めることを目的として、違法情報について一定の削除義務や適切な対応を行わなかった際に過料を課す法的規制を導入することが必要であるという声もあるところ、どう考えるか。この点、ドイツの立法例があるところ、削除義務や過料規定が表現の自由への萎縮効果を生むという批判や、フランスにおいて最近立法された法律について 24 時間以内の削除義務規定が違憲と判断されたこと等の諸外国の動向を踏まえると、我が国において削除に関する義務づけや過料等を課す法的規制を導入することについては極めて慎重な判断を要すると考えられる」、「プロバイダ責任制限法に定める免責規定の適用関係に関する解釈や運用については、AI 等の技術の普及・進展や、それに伴うプロバイダのコスト負担等の影響の変化に併せて、さらに、プラットフォーム事業者に求められる役割に対するユーザーの期待の変化なども勘案しながら、今後とも時宜に応じて柔軟な対応を図っていくことが適当と考えられる」としています。

「透明性・アカウンタビリティ確保」については、「前述のとおり、プラットフォーム事業者による誹謗中傷対策の取組に関しては、透明性やアカウンタビリティの確保方策がまずは自主的に進められることが重要であり、政府は、それらの方策の取組状況について、ヒアリングシートの提出を求めること等により、本研究会等の場を通じて随時適切に把握することが適当であると考えられる」、「また、プラットフォーム事業者を通じた状況の把握のみならず、例えば、後述の「違法・有害情報相談センター」の活用等により、ユーザー側の状況の把握も同時に行うことが適当であると考えられる」、「その際、何らかの指標やメルクマールを設定した上で、プラットフォーム事業者による自主的な取組の実績や効果を評価することも考えられる」、「今後、仮にこれらの自主的スキームが達成されない場合、あるいは誹謗中傷の問題に対して効果がないと認められる場合には、プラットフォーム事業者に対して、透明性・アカウンタビリティの確保方策に関する行動規範の策定及び遵守の求めや、透明性・アカウンタビリティに関する法的枠組の導入の検討など、行政からの一定の関与も視野に入れて検討を行うことが適当であると考えられる」としています。

「発信者情報開示」については、「インターネット上の誹謗中傷により被害を受けた者が、被害回復のために匿名の発信者を特定するための制度として、プロバイダ責任制限法において発信者情報開示制度が規定されているところ、より迅速かつ確実な被害救済のために、発信者情報開示の在り方を見直すべきではないか。この点、同制度の見直しについては、今年4月より別途総務省において開催している「発信者情報開示の在り方に関する研究会」における議論に委ねることとし、同研究会と連携しつつ、総合的な誹謗中傷対策を検討していくことが適当であると考えられる」としています(なお、この点については、総務省の有識者会議において、SNSで名誉毀損にあたる書き込みをした発信者の情報を、被害者側に開示する新たな裁判手続きを作ることで一致しています。匿名の書き込みの発信者を短期間で特定できるようにする狙いがあり、開示ルールを定めるプロバイダ責任制限法の改正を視野に、7月に対策をとりまとめることとしています。新しい手続きでは、被害者の訴えを受けて、裁判所がプロバイダに対し発信者情報を提出するよう命令できる仕組みを想定しています。報道(2020年6月25日付毎日新聞)によれば、有識者からは「発信者が匿名で意見を述べたり、プロバイダも意見陳述に参加したりできる仕組みが良い」、「裁判をしてもいいと思う人しかインターネット上で表現できなくなるのでは」と乱用を避ける仕組みが必要との意見も出ているようです。なお、発信者の情報をプロバイダが任意で開示する要件の緩和や、任意開示された発信者からプロバイダが裁判を起こされないようにする「免責規定」の導入などは、プロバイダが安易に開示に応じれば、発信者を萎縮させ表現の自由を脅かす恐れがあることなどから反対意見が多く、見送られています)。

「相談対応」については、「インターネット上の誹謗中傷により被害を受けた者が様々な観点から相談を行うことが可能な体制整備を官民が連携して取り組んでいくことが必要であると考えられる」、「総務省においては、インターネット上に流通した情報による被害に関係する一般利用者からの相談を受け付け、具体的な削除要請の方法等について的確なアドバイス等を行う「違法・有害情報相談センター」を運営しているところ、法務局、セーフライン、警察、地方自治体といった他の相談機関との連携を深める観点から、例えば、これら機関との定期的な意見交換の機会を設けて、相談内容に応じてそれぞれの相談機関が得意とする分野について適宜紹介を行う等の連携対応をより充実させたり、相談を必要としている被害者に対して違法・有害情報相談センターの存在が届くよう、例えば、寄せられている相談事例を類型化して公表する等の周知広報に力を入れたりするとともに、更なる体制強化を図ることが必要であると考えられる」としています。

誹謗中傷や名誉棄損に関するその他の報道から、いくつか紹介します。

  • コロナ禍では感染者や周辺への誹謗中傷が相次いだことは記憶に新しいところです。報道(2020年6月27日付朝日新聞)で取り上げられている事例では、家族が感染した40代の男性はインターネット上で激しいバッシング、地域では差別も受け、その時のデマは今もくすぶり続けており、「目に見えない新型コロナより、人の方がよほど怖い」とのコメントは考えさせられます。
  • ヘイトスピーチ対策として、全国で初めて刑事罰を盛り込んだ川崎市の差別禁止条例が7月1日に全面施行されました。人種や国籍などを理由としたいわれのない差別の根絶が目的とされ、違反認定の手続きを厳格化して、憲法で保障する「表現の自由」を侵害しないよう配慮したものとなっています。すでに、7月2日には、ツイッターへの書き込み2件が、市の条例が禁じる「不当な差別」にあたる可能性があるとして、削除などの拡散防止や内容の公表をすべきかどうか、有識者5人でつくる差別防止対策等審査会に諮問したことが明らかとなっています。
  • 世界的な著名企業の約3割が米FBなどSNSへの広告を一時停止する可能性があることが、業界団体の世界広告主連盟(WFA)の調査で明らかになっています。FBなどに対するヘイトスピーチへの厳格対応を求める広告ボイコットは大手企業で相次いでおり、約4割が対応は未定と回答しており、ボイコットはさらに広がる可能性があるとされています。調査はWFAに加盟する58企業が対象で、広告支出の年間総額は約920億ドル(9兆9,000億円)に上るともいわれており、FBの対応が後手に回っていることで、業績へのダメージも避けられない状況となっています。この日はドイツのVWが、FBへの広告の一時停止を明らかにした。「ヘイトを含む投稿は注記を付けずに公開されてはいけない。対応は必須だ」と指摘した。
(7)北朝鮮リスクを巡る動向

北朝鮮が南北融和の象徴である開城の共同連絡事務所を爆破しました。韓国の脱北者団体が金正恩朝鮮労働党委員長の体制などを批判するビラを大型風船で北朝鮮側にバラまいたことへの報復を予告後、3日後には実行に移したことになります。その前には、韓国との全通信線を遮断し、軍事境界線付近の軍備強化(軍事的行動計画を作成、具体的には、(1)南北協力事業の金剛山観光地区と開城工業地区への部隊展開、(2)2018年9月の南北軍事分野合意に従って非武装地帯(DMZ)から撤去した軍の監視所を再び設置、(3)西南海(黄海)上を含む全ての前線に配置された砲兵部隊の態勢を強化し、軍事訓練を再開、(4)韓国にビラを散布するために前線の地域を開放の4つの計画)にも着手しました(後にいったん保留としています)。韓国への敵対姿勢の背後には、コロナ禍で中国との国境が封鎖され経済活動が低迷していることに加え、旱魃などで人口の約4割の1,000万人が直面しているとされる食料不足の深刻化(平壌市内でさえ水や食料の供給に問題があるとの報道もあり、党や軍幹部、エリートが集まる平壌の市民の不満は権力基盤を揺るがしかねない危険性を孕むことになります)、健康問題がささやかれるなどしたことも含めた後継者問題(もっと言えば、常にクーデターの危険と隣り合わせと言われるほど政権転覆の緊迫した状況にあるとの報道もあります)、2018年の南北首脳会談で交わした「板門店宣言」にある韓国の経済協力が実施されていないことに対する不満など複数の要因が指摘されています。なお、最近のあからさまな韓国に対する批判は、緊張を高めることで国内の引き締めを図る狙いがあるほか、米朝会談の破談における韓国の行動に対する強烈な不満もあるようです。なお、このあたりは、2020年7月3日付日本経済新聞に詳しいのですが、今や金正恩氏の妹で実質ナンバー2となった「金与正氏は対話による解決を訴えた15日の文氏の演説を「胸がむかつく」「責任を転嫁する鉄面皮な詭弁」などとこき下ろした」うえで、談話で文氏を「北南関係をけん引すべき責任ある当事者」だと指摘、それなのに、米朝関係が行き詰まった背景には外的要因をあげるばかりで、不作為によって「(北朝鮮の)信義を裏切った」と主張した」といいます。「ハノイで破談したのは、金正恩氏が米国との取引カードを1枚しか用意していなかったからだ。300の核施設が集積する寧辺の廃棄と引き換えに経済制裁の解除を求めたが、トランプ大統領は他の秘密施設や長距離ミサイルを含む「寧辺+α」の非核化措置を望んだ」、「金正恩氏は自信を持って会談に臨んだようだが米国の方針を完全に読み誤っていた」、「この寧辺廃棄という発想が出てきたのが、18年9月に平壌で開かれた南北首脳会談だ」、「韓国当局からの情報を通じ、楽観的な見方に傾いた可能性がある」というものです(この点は、ボルトン氏の回顧録でも、「(米朝協議は)正恩氏や我々の真剣な戦略というより、韓国の統一問題と関わっている」「文大統領にとっては非核化よりも南北関係(が重要)」とも指摘し、文政権の仲介外交を痛烈に批判しています)。なお、当時、「日本政府は米国が北朝鮮との会談に厳しい姿勢で臨むことを把握していた」とされます。「北朝鮮は南北境界近くでの軍事行動計画を発表したが、金正恩氏が保留を表明して寸止めにしている。韓国次第でいつでも再考しうるとして文政権を圧迫する」と指摘しています。なお、対韓国への痛烈な挑発行為を妹の金与正氏が一手に引き受けている背景として、「兄の代わりに悪役を担うため」であり、正恩氏本人は「後々、南北・米朝関係が改善するなど政策的変化があった時」に備えている可能性があるとの韓国の国防相の見方もあり、なかなか説得力があります。同国防相は、自身の肉親である妹を前面に押し出すことで圧力を高める一方、対話の余地は最後まで残そうとしているとし、「(経済)制裁や新型コロナウイルスによる困難な状況」や、「責任を韓国におしつけて体制の結束を図る目的」があると分析しています。

さらに、その中でのコロナ禍です。報道(2020年6月27日付産経新聞)によれば、北朝鮮の首都平壌で新型コロナウイルスの感染が広がっていい、平壌の党幹部など特権階級への食糧配給が数カ月前から止まったとも伝えられています。北朝鮮経済は対外貿易の約9割を中国に頼っていたところ、新型コロナ対策で中朝国境を全面遮断し、今年1月~4月の対中貿易はほぼゼロ、金正恩朝鮮労働党委員長が6月7日の党政治局会議で、「人民の生命と安全を保護する国家的対策」として「平壌市民の生活保障」に言及したのも、新型コロナと食糧不足のためだったことがはっきりし、食糧事情の逼迫に加え平壌での新型コロナ感染拡大が、金正恩体制を根底から揺さぶっている状況が明らかになりつうあります。なお、直近では金委員長は、7月2日に党政治局拡大会議を開催し、同国は新型コロナウイルスの侵入を徹底的に防いだと表明、「世界全体における公衆衛生危機にもかかわらず、われわれは、この極めて有害なウイルスの侵入を徹底的に防ぎ、安定的に流行を阻止しており、輝かしい成功を収めている」と述べ、感染者の発生を完全に否定しています。そのうえで、新型コロナ対策で「わずかにでも自己満足したり気を緩めたりする」べきではないとし、「最大限の警戒」を維持するよう求めたといいます(参考までに、金委員長の動静が写真付きで報じられるのは、政治局会議に参加したと伝えられた6月8日以来となります)。

このように北朝鮮の行動を冷静に分析し、その危険な行為に安易に譲歩してはならないことが重要になると思われます。北朝鮮が苦境を脱するには、巧みに展開される瀬戸際外交に幾度となく謀られ、脅しに屈してきた過ちを繰り返すのではなく、彼ら自身が平和的方策を取るしかないと考えるべき、分からせるべきです。国際社会の脅威となっている核・弾道ミサイルを放棄し、拉致問題解決など過去の犯罪行為を清算することで、国際社会から受け入れられることこそ今後とるべきプロセスであり、そこに妥協は許されないと国際社会が今一度確認する必要があると思われます(関連して、茂木外相が、「米国も中国も韓国も同じ立場と思っているが、一部で制裁を緩和しないと(北朝鮮が非核化に向けて)動かないとの議論もある」と指摘、「もう一回国際社会をまとめいく努力が必要だ」と語ったのは正しいと考えます)。

その他、北朝鮮を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 韓国統一省は、今年4─6月に韓国に入国した北朝鮮からの脱出者は12人にとどまり、前年同期の320人から急減したことを明らかにしています。報道によれば、2003年に四半期ベースでの集計を開始して以降、最低の水準となっており、急減した理由として、新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため北朝鮮の近隣諸国が国境を封鎖し、移動が困難になったためではないかと考えられています。前述したとおり、北朝鮮は新型コロナの感染者発生を確認していませんが(ただし、同国内では感染拡大している状況との報道もあります)、厳格な国境封鎖や検疫を導入しています。
  • ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は、今年1月時点の核弾頭総数が世界で計13,400個となり、昨年同時点から465個(約3%)減少したとの推計を発表しています。全体として減少傾向が続いているものの、昨年20~30個だった北朝鮮は30~40個に増強されている点に注意が必要な状況です。北朝鮮は昨年、新型の短距離弾道ミサイルや潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験を繰り返し実施、長距離弾道ミサイル実験こそなかったものの、核・ミサイルの質・量ともに増強が確実に進んでいることは疑いようがなく、今後、国際社会の脅威とならないよう厳格に監視・対応していく必要があるといえます。
  • 2020年6月30日付朝日新聞によれば、新型コロナウイルスの流入を防ぐための国境封鎖を続ける北朝鮮に、中国から大量の民間資本が流入しているということです。国連の長期の経済制裁により、北朝鮮の外貨保有高は減っているとされますが、人民元の流入が外貨の減少幅を抑えるのに役立っているというものです。中国国境に近い北西部の新義州で活発に建設作業が続いており、中国の民間資本が入り、資材の多くも中国製、最近は「プロジェクト投資」と呼ばれる事業が増えており、国境封鎖後も投資の形で外貨が流入しているようです。国連制裁で北朝鮮への外貨送金ができないため、中国側は国境の川にこぎ出した小舟を使い、陸地や水上で北朝鮮側に現金を渡しているという実態も明らかにされています。北朝鮮の行動変容には、国連による経済制裁の厳格な履行が有効だと考えられる中、中国(やロシア)がその制裁網に1点でも「穴」を空けてしまえばその効果はほとんどなくなってしまうことは自明の理です。北朝鮮の制裁履行のためには、そのような「穴」を1個ずつ封じ込めていく地道な取り組みも求められていることが分かります。
  • 国連人権理事会は、北朝鮮の人権状況を非難し、日本人拉致被害者の即時帰国要求などを盛り込んだ決議を採択しました。同様の決議は13年連続となります。北朝鮮代表団は採決を前に発言し「決議は中傷に満ち、事実誤認だらけだ」と不快感を表明、日本を含む47理事国のうちベネズエラ、エリトリアが反対を表明しています。決議は「長年にわたり、かつ現在も進行中の組織的で、広範囲にわたる、言語道断の人権侵害」を非難、日本人拉致問題についても2014年5月の日朝両国のストックホルム合意で北朝鮮が再調査を行うとしながら「前向きな行動が欠けている」と指摘しています。

暴排条例等の状況

(1)暴排条例に基づく勧告事例(大阪府)

知人の事業者から400万円を借金したとして、大阪府公安委員会は、神戸山口組系の50代幹部に対し大阪府暴排条例に基づき利益供与を受けないよう勧告しています。報道によれば、幹部は「若い衆に飯を食わせたり服を買ったりすることができず、活動資金が欲しかった」と説明しているといいます。なお、報道にはありませんでしたが、資金を提供した知人の事業者についても、相手が暴力団関係者であることを「知って」行った場合は、同条例上の利益供与を行ったものと考えられます。

▼大阪府 大阪府暴力団排除条例

大阪府暴排条例では、第十四条(利益の供与の禁止)において、「事業者は、その事業に関し、暴力団の威力を利用する目的で、又は暴力団の威力を利用したことに関し、暴力団員等又は暴力団員等が指定した者に対し、金品その他の財産上の利益又は役務の供与(以下「利益の供与」という。)をしてはならない。」と定められており、そのうえで、第十六条(暴力団員等が利益の供与を受けることの禁止)において、「暴力団員等は、事業者から当該事業者が第十四条第一項若しくは第二項の規定に違反することとなる利益の供与を受け、又は事業者に当該事業者がこれらの項の規定に違反することとなる当該暴力団員等が指定した者に対する利益の供与をさせてはならない。」との規定があり、今回の神戸山口組系幹部はこの規定に抵触したものと考えられます。その結果、第二十二条(勧告等)第3項「公安委員会は、第十四条第一項若しくは第二項又は第十六条第一項の規定の違反があった場合において、当該違反が暴力団の排除に支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあると認めるときは、公安委員会規則で定めるところにより、当該違反をした者に対し、必要な勧告をすることができる。」に基づき、勧告がなされたものといえます。

(2)暴排条例に基づく再発防止命令の発出(福岡県)

福岡県公安委員会は、福岡県暴力団排除条例に基づき、道仁会の小林哲治会長に対し、今後1年間、組員がみかじめ料要求のために久留米市と福岡市の飲食店店主や県内の建設業者らに面会を求めることなどを禁じるよう再発防止命令を出しています(発出は昨年6月以来2回目となります)。

▼福岡県 福岡県暴排条例

福岡県暴排条例第二十条の二では、「暴力団員は、自己の所属する暴力団の暴力団員の縄張(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第九条第四号に規定する縄張をいう。)を設定し、又は維持する目的で、特定接客業者であって暴力団排除特別強化地域に営業所を置くもの若しくは第十七条の二各号に掲げる者又はこれらの代理人、使用人その他の従業者に対し、次に掲げる行為をしてはならない。ただし、第一号及び第二号に掲げる行為については、当該行為をするに当たり、暴力団員であること又は暴力団と関係を有することを告げ、又は推知することができるような言動を行う場合に限る。」として、「三 面会その他の義務のないことを行うことを要求すること。」が禁止行為として規定されています。そのうえで、同条第7項において、「公安委員会は、暴力団員がその所属する暴力団のためにする行為として第一項から第三項までの規定に違反する行為をした場合において、当該暴力団の暴力団員が更に反復してこれらの規定に違反する行為をするおそれがあると認めるときは、公安委員会規則で定めるところにより、当該暴力団を代表する者又はその運営を支配する地位にある者に対し、一年を超えない範囲内で期間を定めて、当該暴力団の暴力団員がこれらの規定に違反する行為をすることを防止するために必要な事項を命ずることができる」と規定されており、今回の2回目の再発防止命令の根拠となっています。

(3)暴力団関係事業者に対する指名停止措置等事例(福岡県)

福岡県、福岡市、北九州市において、3社が指名停止措置および排除措置が取られています。

▼福岡県 暴力団関係事業者に対する指名停止措置等一覧表
▼福岡市 競争入札参加資格停止措置及び排除措置一覧
▼北九州市 福岡県警察からの暴力団との関係を有する事業者の通報について

福岡県に「指名停止措置」(福岡県建設工事競争入札参加資格者名簿に登載されている業者に対し、一定の期間、県発注工事に参加させない措置で、当該期間は、県発注工事の、(1)競争入札へ参加すること、(2)随意契約の相手方となること、(3)下請業者となること、ができない)を取られた土木建設業者は、「役員等又は使用人が、暴力的組織又は構成員等と密接な交際を有し、又は社会的に非難される関係を有している」(福岡県)として、18カ月の指名停止となりました。なお、福岡市では、「暴力団との関係による」として12カ月、北九州市では、「当該業者の役員等が、暴力団と「社会的に非難される関係を有していること」に該当する事実があることを確認した」として、「令和2年6月26日から18月を経過し、かつ、暴力団又は暴力団関係者との関係がないことが明らかな状態になるまで」と公表され、自治体による措置の違いも出ています。なお、本件については、2020年7月3日付福岡県民新聞が詳細を報じており、「平成14年に設立され、実質的な経営を担う会長の経営意欲は旺盛で、毎期売り上げを伸ばし、最近は年商20億円内外まで成長してきた。更に、大手設計事務所に食い込み関東地区にも進出、公共工事にも積極的に取り組み、業界の注目を集めていたのも事実」ながら、「今回の代表者らの逮捕で公共工事の指名停止が18ケ月にも及び、建設業の許可も取り消しとなる見込みが強くなったことから、事業の継続を断念し処理を弁護士に依頼した。県南地区における土木建設業界と地元暴力団の関係は深く、長年に亘っての習慣は一朝一夕で改善できず、何らかの裏取引が行われているとして、福岡県警は今後も取り締まりを強化する様だ」とされています。

また、ほかの2社(うち1社の本社は神奈川県相模原市となっています)については、福岡県から、「役員等又は使用人が、暴力的組織又は構成員等と密接な交際を有し、又は社会的に非難される関係を有している」として、18カ月の「排除措置」(福岡県建設工事競争入札参加資格者名簿に登載されていない業者に対し、一定の期間、県発注工事に参加させない措置。当該期間は、県発注工事の、(1)下請業者となること、(2)随意契約の相手方となること、ができない)が取られています。なお、福岡市では「暴力団との関係による」として12カ月、北九州市では、「当該業者の役員等が、暴力団と「社会的に非難される関係を有していること」に該当する事実があることを確認した」として、「令和2年6月26日から18月を経過し、かつ、暴力団又は暴力団関係者との関係がないことが明らかな状態になるまで」と公表されています。

(4)暴排条例の改正(富山県)

富山県では、「富山県暴力団排除条例」の一部改正を予定しています。富山県警のサイトによれば、「本条例は、平成23年8月に施行され、官民一体となった暴力団排除活動を推進した結果、暴力団の資金獲得活動及び人的基盤構築の阻止に一定の効果は認められました。しかしながら、県内の主要繁華街では、事業者がいまだに暴力団と交際し、関係遮断が図られていない実態が散見されるほか、暴力団が組織実態を隠蔽しながら活発に不法行為を行うなど、予断を許さない現状が認められることから、暴力団排除をより一層強化し、県民及び事業者の安心安全かつ平穏な生活を確保するため、必要な改正を行うものです」としています。報道によれば、2019年末時点で、同県内で暴力団4組織、構成員計約260人が把握されており、同県号排条例施行後約8年半で組織数は3分の1、構成員数は半数に減ったということですが、それでも依然として脅威が認められることから、改正に踏み切ったものと思われます。

▼富山県暴力団排除条例の一部改正に対する意見募集

具体的な改正内容としては、最近の他の自治体の暴排条例に改正動向に同じく、「暴力団排除特別強化地域の新設」と「暴力団事務所の開設及び運営の禁止区域の拡大」が柱となっています。前者については、「現在の条例では、既に県民が暴力団員等に利益供与することは禁止されているところ、県内の繁華街ではいまだに暴力団員が飲食店等からみかじめ料や用心棒料を徴収して活動資金としている実態が確認されているため」、富山市桜木町地域・富山駅前地域・高岡駅前地域の「県下主要繁華街を暴力団排除特別強化地域に指定し、同地域内で風俗営業や飲食店等を営む営業者が、暴力団員から用心棒の役務の提供を受けることや、暴力団員に用心棒料やみかじめ料として利益供与することを禁止し、違反した場合は暴力団員と営業者の双方に罰則を科す」というものです。また、後者については、「現在の条例では、学校・裁判所・児童福祉施設・公民館・図書館・博物館・青少年自然の家・少年鑑別所等、青少年がよく利用する施設の敷地から周囲 200 メートル以内の区域における暴力団事務所の開設及び運営を禁止しているところ、「都市公園」は青少年がよく利用する代表的な施設であり、青少年の健全な育成のための環境を確保する必要があるため」、都市公園法に規定する「都市公園」の周囲200メートルを規制区域として追加し、違反した場合は罰則を科すことになります。さらに、「都市計画法で規定する用途地域のうち、青少年が多数居住している「住居系用途地域」や、駅や商業施設等青少年が利用する施設が多数存在する「商業系用途地域」において、暴力団事務所が存在することが青少年の健全育成に悪影響を与える要因となるため」、都市計画法に規定する「住居系用途地域」及び「商業系用途地域」を規制区域として新設し、違反した場合は、中止命令の後、罰則を科すことになります。なお、その中止命令を行う前に、「違反事実を確認するための必要な調査として立入検査を行うことで、中止命令の妥当性を担保するとともに、立入検査の拒否等の違反に対し罰則を科すことで、立入検査の実効性を担保するため」、 上記調査のための警察職員による立入検査を新設し、立入りを拒否等した場合は、罰則を科すことになるとのことです(なお、この部分は他では見られない規定と思われ、調査だけでなく中止命令や活動の封じ込めに実効性を持たせるものとして評価できると思います)。

(5)暴力団対策法に基づく中止命令・再発防止命令の発出事例

東京・銀座で無許可のままタクシー事業を営む「白タク」をしていた運転手にみかじめ料を要求したとして、東京都公安委員会が暴力団対策法に基づき、住吉会系組幹部に再発防止命令を出しています。報道によれば、組幹部は2012年ごろから、この運転手をとりまとめ役に銀座の白タク運転手数人から月計約5万円を徴収していたといい、「白タク」自体そもそも違法営業であることから、トラブルがあっても警察に相談しづらいことにつけ込み、その防止や解決名目で取り立てていたと考えられます。みかじめ料といえば深夜営業の飲食店や風俗店を対象とするケースが想起されますが、暴力団が資金源獲得活動の幅を拡げている一つの新しい証左であり、注意が必要です。また、報道によれば、会社経営の60代男性に「今年も縁起物を買ってくれ。会社の事務所に持って行く」と電話し、男性に絵皿1点を1万5千円で購入させたとして、佐賀県警唐津署は、暴力団対策法に基づき、浪川会系組員2人に対し、不当な方法で物品の購入を要求しないよう中止命令を出しています。また、再発防止命令の発出事例としては、神奈川県公安委員会が、稲川会系の組員に対し、高校3年の男子生徒らに因縁をつけて金品を要求したというものがありました(なお、本件においては、2月と4月に中止命令を受けていたところ、同様の行為を繰り返す恐れがあると判断されたものです)。

▼暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律

みかじめ料については、暴力団対策法第9条(暴力的要求行為の禁止)において、「指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない。」として、「四 縄張(正当な権原がないにもかかわらず自己の権益の対象範囲として設定していると認められる区域をいう。以下同じ。)内で営業を営む者に対し、名目のいかんを問わず、その営業を営むことを容認する対償として金品等の供与を要求すること。」が禁止行為として規定されています。また、押し売りについては、同じく同法第9条において、「五 縄張内で営業を営む者に対し、その営業所における日常業務に用いる物品を購入すること、その日常業務に関し歌謡ショーその他の興行の入場券、パーティー券その他の証券若しくは証書を購入すること又はその営業所における用心棒の役務(営業を営む者の営業に係る業務を円滑に行うことができるようにするため顧客、従業者その他の関係者との紛争の解決又は鎮圧を行う役務をいう。第三十条の六第一項第一号において同じ。)その他の日常業務に関する役務の有償の提供を受けることを要求すること。」が禁止行為として規定されています。また、中止命令の発出については、第11条において、「公安委員会は、指定暴力団員が暴力的要求行為をしており、その相手方の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該暴力的要求行為を中止することを命じ、又は当該暴力的要求行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる。」と規定されています。さらに、「再発防止命令」については、同法第11条第2項において、「公安委員会は、指定暴力団員が暴力的要求行為をした場合において、当該指定暴力団員が更に反復して当該暴力的要求行為と類似の暴力的要求行為をするおそれがあると認めるときは、当該指定暴力団員に対し、一年を超えない範囲内で期間を定めて、暴力的要求行為が行われることを防止するために必要な事項を命ずることができる」と規定されています。

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