暴排トピックス

コンプライアンスやリスク管理に関するその時々のホットなテーマを、現場を知る
危機管理専門会社ならではの時流を先取りする鋭い視点から切り込み、提言するコラムです。

コロナ禍と特殊詐欺(2020.6)

執筆者:主席研究員 芳賀恒人

【もくじ】―――――――――――――――――――――――――

1.コロナ禍と特殊詐欺

2.最近のトピックス

(1)暴力団情勢

(2)薬物を巡る動向

(3)AML/CFTを巡る動向

(4)テロリスクを巡る動向

(5)犯罪インフラを巡る動向

(6)その他のトピックス

・暗号資産(仮想通貨)を巡る動向

・IRカジノ/依存症を巡る動向

(7)北朝鮮リスクを巡る動向

3.暴排条例等の状況

(1)暴排条例に基づく逮捕事例(神奈川県)

(2)暴力団対策法に基づく中止命令事例(福岡県)

1.コロナ禍と特殊詐欺

新型コロナウイルスの感染拡大で社会活動が大きく制限されている中、特殊詐欺グループをはじめとする詐欺グループ等の犯行が活発化しています。外出自粛によって、高齢者自身が在宅している時間が長期化していること、不安や混乱が広がる現状は、詐欺グループにとって絶好の機会ともなっているのです。それ以外にもコロナ禍は、特殊詐欺グループにとっての「おいしい構図」を創り出しており、今まさに、私たちは被害防止のために「知恵を絞る」ことが求められています。

そもそも、特殊詐欺の被害防止においては「確証バイアス」(無意識のうちに自分に都合のいい情報、自分の主張を後押しするような情報ばかりを集める傾向のこと、思い込み)からいかに逃れられるかがポイントの一つとなります。残念ながら、警察庁の調査によれば、「自分は被害に遭わないと思っていた」と回答した割合は、被害者が78.2%、事業者の協力により被害に遭わなかった者が78.0%、家族・親族が見破り被害に遭わなかった者が71.5%と、自ら見破った者の56.8%よりも高い値を示すなど、被害にあう可能性を過小評価する傾向があります。また、被害者、事業者の協力により被害に遭わなかった者、及び家族・親族が見破り被害に遭わなかった者については、その約7割が通話中に犯人側からトラブルの内容を聞かされる前にすでにだまされており(電話を受けた時点でだまされているということです)、だまされた理由として「声がそっくりだったから」が最も高い割合を占めているといいます。確証バイアスの怖さは、「自分はだまされるわけがない」との強い思い込みから、子どもや孫以外の人間であるにもかかわらず「脳内で変換されて」本人であると思い込んでしまうところにあり、そもそも電話を受けた段階で本人と信じてしまう点が真に恐ろしい部分でもあります。さらに、だましの電話を受けた際の心理状況について、被害者、及び事業者の協力により被害に遭わなかった者の大半が「自分がお金を支払えば息子を救えると思った」、「親族が起こしたトラブルを聞いて、驚いた」、「『今日中に』などと時間を区切られたので焦ってしまった」などと回答しており、だましの電話を受けた際に冷静な判断ができなくなっていることがうかがわれます。これらを踏まえると、だましの電話を受けた際に確実に見破ることは難しく、また、いったんだまされてしまうと冷静な判断が十分に期待できないことから、犯人からの電話に出ないことが最も重要だと言えます。具体的な対策として、迷惑電話防止機能(過去の迷惑電話をブロックする、「録音しています」とメッセージが流れるなど)を有する機器の活用等が有効です。また、渦中に直接耳に情報を届けるのではなく、自分のペースでスピーカーを通して録音を聞くことで冷静な判断が可能になるといい、それに加え、録音設定にしておくことで、犯人側からみれば証拠が残り、録音を嫌う傾向にあることから、そもそものアプローチを遮断することにもつながります。とっさの場合や確証バイアスに囚われている人間に何を言ってもその「思い込み」を排除させるのは難しく、犯人側もその心理状態を見越して畳み掛けてくる状況を鑑みれば、そもそも「怪しい電話には出ない」ことが最善の策であり、留守番電話設定にしておくことが対策として有効です。なお、特殊詐欺被害防止の実績としては、本コラムでもコンビニの取組みを紹介するケースが多いのですが、直近では、以下のような阻止事例がありました。

  • タクシー会社が詐欺容疑者の検挙に協力した事例が相次ぎました。1つ目は、タクシー会社に奈良署から、「奈良市の80代女性が男にキャッシュカード2枚をだまし取られた。女性宅の近くでタクシーを降りた男はいないか」との電話がかかってきたことを受け、配車履歴やGPS情報から当該タクシーを特定、すでに3回携帯電話から予約して利用した実績あり、ドライブレコーダーから男の容姿や服装などを警察と共有、その日の夜、当該携帯電話から予約の電話が入ったことから、警察と連携して逮捕につながったというものです。タクシー会社側の特殊詐欺被害防止の意義の認識と献身的な協力があってのことで、さまざまな事業者においても、協力できる可能性があることを認識させてくれる好事例かと思います。また、2つ目のタクシー会社の好事例としては、「未払い料金」を知らせるメールを受けた60代女性がメールにあった番号に電話、「コンビニで50万円分の電子マネーを買い、記されたバーコードの画像を送るように」と指示されたためタクシーに乗車、1軒目のコンビニで25万円分を買った後、別のコンビニに行くよう話す女性に、運転手が「近くに警察があるので、おまわりさんに相談して『払った方がいい』と言われたらコンビニに行きましょう」と提案、警察に行き、被害を免れたというものです。この事例については、報道によれば、「ラジオでこのような詐欺があると聞いていた」とのことであり、本人の正義感・行動力に加え、社会的な広報・啓蒙の重要性を感じさせるものです。
  • 80代女性宅を水道工事に訪れた業者の男性が、警察をかたった特殊詐欺の電話を受けている現場に偶然居合わせ、被害を未然に防いだという事例もありました。作業中に、電話の会話を断片的にしか聞いていなかったものの、キャッシュカードの暗証番号を女性が口にしたことで、もしやと思い電話を切った女性に事情を聴いたところ、「捕まった詐欺グループが私の通帳から預金を下ろしたと説明を受けた」とのことから、詐欺を確信して警察にすぐさま通報、事なきを得たというものです。高齢者は確証バイアスに囚われだまされていたものの、男性が特殊詐欺に関する知識(情報)を持っており、リスクセンスを働かせ、高齢者に思い切って声をかけたことが被害防止につながったことになります。この事例も、どのような事業者でも協力できる可能性があることを示唆するものといえます。
  • 60代の男性が、インターネットを使用中に画面に警告が表示され、電話をかけたところ約8万円分のカードを購入するように指示されたことから、コンビニで高額のプリペイドカードを購入しようとしたところ、コンビニの女性店員が声をかけ、男性が「パソコンの修理に使う」と答えたことを不審に思い警察に通報、被害防止につながったという事例もありました。この女性店員は、昨年に続き2回目の被害防止に貢献したということであり、本人のリスクアンテナの高さはもちろんのこと、(声をかけるのはためらいがあったとしながらも)勇気をもって声掛けをすることが重要だと感じさせます。
  • 銀行の窓口に来店した市内在住の50代の女性客から、「SNSで交流している男性に約200万円を振り込みたい」との要請があり、男性はクルーズ船に乗船している医師であり、3月ごろから連絡を取り合っているらしいなどと話を聴くうちに、女性行員は、振込先の口座名義などに不審点を感じ、思いとどまるよう説得して未然防止につながったという事例もありました。報道によれば、その日の朝の勉強会で行員らが国際ロマンス詐欺について学んだ矢先だったということです。本件は決して偶然ではなく、日頃から被害防止のための研修・意識付けを継続的に実施してきた組織としての成果という評価ができると思います。

さて、次に直近の特殊詐欺の認知・検挙状況等について警察庁の公表資料から確認しますが、今回から、資料上、詐欺の分類や表記(呼称)が見直されており、まずは、あらためて詐欺の類型の定義を確認するところから始めたいと思います。

▼>警察庁 令和2年4月の特殊詐欺認知・検挙状況等について
  • オレオレ詐欺:親族、警察官、弁護士等を装い、親族が起こした事件・事故に対する示談金等を名目に金銭等をだまし取る(脅し取る)ものをいう。
  • 預貯金詐欺:親族、警察官、銀行協会職員等を装い、あなたの口座が犯罪に利用されており、キャッシュカードの交換手続きが必要であるなどの名目で、キャッシュカード、クレジットカード、預貯金通帳等をだまし取る(脅し取る)ものをいう。
  • 架空料金請求詐欺:未払いの料金があるなど架空の事実を口実とし金銭等をだまし取る(脅し取る)ものをいう。
  • 還付金詐欺:税金還付等に必要な手続きを装って被害者にATMを操作させ、口座間送金により財産上の不法の利益を得る電子計算機使用詐欺事件又は詐欺事件をいう。
  • 融資保証金詐欺:実際には融資しないにもかかわらず、融資を申し込んできた者に対し、保証金等の名目で金銭等をだまし取る(脅し取る)ものをいう。
  • 金融商品詐欺:架空又は価値の乏しい未公開株、社債等の有価証券、外国通貨、高価な物品等に関する虚偽の情報を提供し、購入すれば利益が得られるものと誤信させ、その購入名目等で金銭等をだまし取る(脅し取る)ものをいう。これら金融商品に対して、購入意思のない被害者に名義貸しをさせた後、名義貸しをしたことによるトラブル解決名目等で金銭等をだまし取る(脅し取る)ものを含む
  • ギャンブル詐欺:不特定多数の者が購入する雑誌に「パチンコ打ち子募集」等と掲載したり、不特定多数の者に対して同内容のメールを送信する等し、これに応じて会員登録等を申し込んできた被害者に対して会員登録料や情報料等の名目で金銭等をだまし取る(脅し取る)ものをいう
  • 交際あっせん詐欺:不特定多数の者が購入する雑誌に「女性紹介」等と掲載したり、不特定多数の者に対して「女性紹介」等を記載したメールを送付するなどし、これに応じて女性の紹介等を 求めてきた被害者に対して会員登録料金や保証金等の名目で金銭等をだまし取る(脅し取る)ものをいう
  • その他の特殊詐欺:上記特殊詐欺の類型に該当しない特殊詐欺をいう
  • キャッシュカード詐欺盗:警察官や銀行協会、大手百貨店等の職員を装って被害者に電話をかけ、「キャッシュカードが不正に利用されている」等の名目により、キャッシュカード等を準備させた上で、隙を見るなどし、キャッシュカード等を窃取するものをいう。

令和2年1月~4月の特殊詐欺全体の認知件数は4,630件(前年同期5,369件、前年同期比▲13.8%)、被害総額は87.7億円(97.5億円、▲10.1%)、検挙件数は2,128件(1,923件、+10.7%)、検挙人数は806人(786人、+2.5%)となっています。ここ最近同様、認知件数・被害総額ともに減少傾向にありますが、認知件数の減少幅より被害総額の減少幅が小さいことから、被害額の単価が上昇している点が懸念されます。なお、ここ最近の動向に同じく、検挙件数、検挙人員ともに増加傾向にある点は、だんだん特殊詐欺が「割に合わない」状況になっていることを示していると言えます。類型別では、オレオレ詐欺の認知件数は689件(2,611件、▲73.6%)、被害総額は19.3億円(28.5億円、▲32.3%)、検挙件数は715件(996件、▲28.2%)、検挙人員は228人(518人、▲56.0%)、また、キャッシュカード詐欺盗の認知件数は1,281件(769件、+66.6%)、被害総額は18.6億円(10.7億円、+73.4%)、検挙件数は756件(300件、+152.0%)、検挙人員は245人(79人、+210.1%)などとなっています。分類の見直しもあり、前期との比較は難しいのですが、キャッシュカード詐欺盗の被害が深刻化していることは指摘できると思います。また、架空料金請求詐欺の認知件数は523件(1,172件、▲45.4%)、被害総額は22.5億円(25.8億円、▲12.8%)、検挙件数は204件(488件、▲58.2%)、検挙人員は55人(155人、▲64.5%)、還付金詐欺の認知件数は511件(691件、▲26.0%)、被害総額は6.4億円(8.3億円、▲23.1%)、検挙件数は153件(72件、+112.5%)、検挙人員は18人(6人、+200.0%)、融資保証金詐欺の認知件数は153件(93件、+64.5%)、被害総額は1.5億円(1.0億円、+52.0%)、検挙件数は58件(38件、+52.6%)、検挙人員は17人(3人、+466.7%)、金融商品詐欺の認知件数は24件(16件、+50.0%)、被害総額は1.0億円(1.0憶円、+7.1%)、検挙件数は11件(11件、±0.0%)、検挙人員は10人(10人、±0.0%)、ギャンブル詐欺の認知件数は39件(13件、+200.0%)、被害総額は0.6憶円(1.7億円、▲68.0%)、検挙件数は16件(6件、+166.7%)、検挙人員は2人(5人、▲60.0%)などとなっています。これらの類型の中では、「還付金詐欺」「融資保証金詐欺」「金融商品詐欺」が増加している点に注意が必要かと思います。犯罪インフラの状況については、口座詐欺の検挙件数は244件(268件、▲9.0%)、検挙人員は153人(164人、▲6.7%)、盗品等譲受け等の検挙件数は1件(7件、▲85.7%)、検挙人員は0人(5人)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は851件(707件、+20.4%)、検挙人員は693人(586人、+18.3%)、携帯電話端末詐欺の検挙件数は70件(97件、▲27.8%)、検挙人員は57人(67人、▲14.9%)、携帯電話不正利用防止法違反の検挙件数は9件(12件、▲25.0%)、検挙人員は12人(8人、+50.0%)などとなっています。これらのうち、犯罪収益移転防止法違反の摘発が増加しているのは、金融機関等におけるAML/CFTの取組みが強化されていることの証左ではないかと推測されます。また、被害者の年齢・性別構成について、特殊詐欺全体では男性25.0%:女性75.0%、60歳以上90.0%、70歳以上80.9%であり、やはり高齢者・女性の類型に注意が必要な状況です。とりわけ、オレオレ詐欺では男性19.3%:女性8.7%、60歳以上98.3%、70歳以上94.8%とその傾向が強まる一方、融資保証金詐欺では男性68.8%:女性31.2%、60歳以上29.7%、70歳以上10.9%と、類型によって傾向が全く異なることもある点は認識しておく必要があります。このあたりについては、以前の本コラム(暴排トピックス2019年8月号)で紹介した警察庁「今後の特殊詐欺対策の推進について」と題した内部通達で示されている、「各都道府県警察は、各々の地域における発生状況を分析し、その結果を踏まえて、被害に遭う可能性のある年齢層の特性にも着目した、官民一体となった効果的な取組を推進すること」、「また、講じた対策の効果を分析し、その結果を踏まえて不断の見直しを行うこと」が重要であることがわかります。

さて、コロナ禍において特殊詐欺グループの活動が活発化していることは前述のとおりですが、全国の警察が認知した新型コロナウイルス感染拡大に乗じた詐欺被害(コロナやマスク、消毒液などの文言が使われた事件を集約、未遂含む)が、3月上旬から5月末までに17都道府県で計45件あり、被害総額は計4,028万円にのぼり、うち特殊詐欺は20件、3,453万円だったということです。なお、国民に1人10万円を配る「特別定額給付金」などの支援策に乗じた詐欺は17件あったといいます。こうした数字からも、特殊詐欺グループが、コロナ禍における不安や混乱につけ込み、「コロナ」「マスク」「消毒液」などのキーワードを散りばめながらだましの確率を高めている様子がうかがえます。また、別の統計では、同じく新型コロナウイルスに便乗した詐欺事件の3月上旬から5月17日までの被害が16都道府県で39件確認され、被害額は約3,550万円にのぼっており、うち15件は、国民への「給付金」「助成金」「補助金」「支援金」などを口実にキャッシュカードや通帳、現金を用意させ、偽物とすり替えたり、だまし取ったりする手口だったということであり、これらもだましのキーワードだといえます。なお、これらの手口においては、自治体職員を装って家を訪問するケースが多いとも指摘されており、コロナ禍において自治体の動向が報じられ、関心を集めている状況をふまえ、リアリティを増すための演出がなされたことが推測されます。ほかにも、インターネット上でマスクを注文したのに商品が届かない被害や、世界保健機関(WHO)と関係するような団体の職員を名乗る人物から「近所で感染者が確認された」として検査費を要求されたケース、「町内会で子どもにパンを配りたい」などと言われて商品をだまし取られたパン屋もあったといいます。いずれにせよ、特殊詐欺グループがコロナ禍の社会経済情勢に応じて、不安や混乱に陥れるためのキーワードを盛り込みながら手口を少しずつ変えて、だましの確率を高めているという「狡猾さ」が際立っています

一方、特殊詐欺グループによるとみられる強盗事件も相次いでいます。報道によれば、東京都内では1~4月、被害が前年同期の6倍の18件に上ったということです。警視庁が、強盗事件のうち、資産状況を調べるための予兆電話「アポ電(アポイントメント電話)」が事前にあったり、特殊詐欺で狙われることが多い高齢者が被害に遭ったりした事件の件数を集約したところ、15件については、アポ電はなかったものの以前に特殊詐欺被害に遭った人もいたということです(なお、昨年1年間の被害は10件だったことから、コロナ禍における急増ぶりが際立ちます)。もともと特殊詐欺グループは役割が細分化され、末端の人間が逮捕されても首魁にまで捜査の手が及ぶことは多くないのが実情です。このコロナ禍において、若年層だけでなく中高年層においても、「お金欲しさ」からSNSの「闇バイト」募集に応募してしまった実行役は後を絶ちません(言い換えれば、「トカゲのしっぽ」である受け子や出し子のリクルートがこれまでより容易になっている状況が生じています)。最近も、受け子をして逮捕された19歳の少年が「すし屋でアルバイトをしていたが、新型コロナウイルスの影響でバイトができず、金に困っていた」と供述した事例、20代の埼玉の若手実業家とその社員がキャッシュカード詐欺盗で逮捕され、「コロナで仕事がなく、キャッシュカードを受け取るだけでお金がもらえるバイトがあると聞き岡山に来た」と供述した事例などがありました。このように、コロナ禍における末端の「トカゲのしっぽ」の手配が容易となっている構図がさらなる凶悪化を推し進めている可能性が指摘されており、捜査当局は全国的に警戒を強めています。

コロナ禍における特殊詐欺をはじめとする消費者被害の事例が急増していることに伴い、消費者生活相談も増えているといいます。国民生活センターがその概要を公表していますので、全体像や手口を確認していただくため、以下に紹介します。

▼国民生活センター 新型コロナウイルス関連の消費生活相談の概要(2020年1月~4月)

国民生活センターでは、全国の消費生活センター等に寄せられた新型コロナウイルス関連の消費生活相談をPIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)で収集しており、2020年1月~4月における新型コロナウイルス関連の消費生活相談(2020年5月15日までの登録分)について傾向や事例がまとめられています。それによると、同時期に新型コロナウイルス関連の消費生活相談は27,469件で、1月155件、2月2,369件、3月9,973件、4月14,972件と急増していることが明確に読み取れる状況です。さらに、最も多いのはマスク関連で、マスクの品不足や高価格に関する相談や、インターネット通販で「商品が届かない」などの相談のほか、4月以降は「注文した覚えのないマスクが届いた」といった相談もみられること、トイレットペーパーについては、品不足や高価格、インターネット通販に関する相談が3月に多く寄せられていたこと、国内・海外旅行、航空券、ホテルなどの旅行・宿泊関連や、結婚式場、スポーツジム等では、「新型コロナウイルス感染症の感染予防等を理由にキャンセルしたところ、規約通りのキャンセル料を請求された」など解約や解約料に関する相談が多くみられたこと、新型コロナウイルスに便乗した悪質商法も寄せられており、「マスクを無料送付する」などのメール・SMSや、行政機関をかたった電話等で、消費者の個人情報や銀行口座番号・クレジットカード番号等を詐取しようとするケース、「新型コロナウイルスが水道水に混ざっているので除去する」、「新型コロナウイルス治療薬を開発する大手製薬会社名で、社債の購入代金の支払いを求められた」といった悪質な勧誘、特別定額給付金に関連した詐欺が疑われるケース、などがみられたことなどが指摘されています。なお、相談事例としては、以下のようなものが紹介されています。

【事例1】注文した覚えのないマスクが届いた

【事例2】ネットでマスクを注文したが、届かない

【事例3】結婚式場をキャンセルしたら、キャンセル料を請求された

【事例4】結婚式場の日程変更を提案されたが、新型コロナウイルスが終息するとは思えない

【事例5】スポーツクラブを退会したが、翌月分の会費を支払うよう説明された

【事例6】ヨガ教室を休会したいが、休会費がかかると説明された

【事例7】ネットで消毒用アルコールを注文したが、詐欺サイトのようだ

【事例8】ネットでトイレットペーパーを注文したが、届かない

【事例9】海外旅行をキャンセルしたが、全額返金してもらえないか(募集型企画旅行)

【事例10】航空券をキャンセルしたところ、手数料を請求された(手配旅行)

【事例11】ホテルをキャンセルしたら、キャンセル料を請求された

【事例12】入居していない賃貸アパートの家賃を免除してもらえないか

【事例13】居酒屋のキャンセルをしようとしたら、キャンセル料を請求された

さらに、国民生活センターが緊急的に実施したされた「新型コロナウイルス給付金関連消費者ホットライン」の内容についても公表されています。

▼国民生活センター 「新型コロナウイルス給付金関連消費者ホットライン」の受付状況(第2報)-通帳やキャッシュカード、マイナンバーなどは、絶対に教えない!渡さない!-

国民生活センターでは、新型コロナウイルス感染症対策の給付金等に関する消費者トラブルの相談を受け付けるため、5月1日より「新型コロナウイルス給付金関連消費者ホットライン」を開設していますが、この1カ月間の受付状況を速報としてとりまとめています。相談件数については、1カ月間で2,835件の相談を受け付け、うち特別定額給付金等の申請方法など給付金関連の相談件数は2,721件で、そのうち特別定額給付金等の詐欺が疑われる相談件数は51件あったといいます。給付金等の詐欺が疑われる相談事例としては、「見知らぬ女性が自宅を訪問し、給付金の申請に必要と言われ、銀行の通帳等を渡した」というもの(昨日、見知らぬ若い女性2人が自宅を訪ねてきた。女性は「姪の知人」を名乗り、「特別定額給付金の給付申請に必要なので通帳を預かる」と言われた。信用して銀行の通帳とキャッシュカードも見せたところ、通帳とキャッシュカードを持って去っていった。印鑑は渡していないという70代女性からの相談)、その他、以下のような相談や、持続化給付金に関連した相談も寄せられているといいます。

  • 「給付金申請手続きを代行するのでマイナンバーカードを貸して」と電話があった
  • 自治体の職員から「特別定額給付金の申請を代行する」と電話があった
  • 自宅に自治体を名乗り給付金の手続きサービスをすると電話があった
  • 「給付金の受付番号が届いていない」と電話があり、振込先銀行口座を教えた
  • 「手続きを急いでいる方」と書かれた給付金申請書がポストに入っていた
  • 郵送で申請した直後にSMSが届き、口座番号や暗証番号を入力してしまった

これらの事例をふまえ、国民生活センターは消費者に注意喚起・アドバイスを行っています。例えば、「利用規約等で解約条件やキャンセル料をよく確認しましょう」、「インターネット通販でのトラブルに気を付けましょう」、「注文した覚えのない商品が届いたら、受け取りや支払いをしないようにしましょう」、「新型コロナウイルスに便乗した悪質商法が発生していますので注意しましょう」、「不安に思った場合や、トラブルが生じた場合、また「怪しいな?」と思ったら、すぐに最寄りの消費生活センター等へ相談しましょう」、「給付金の手続きに必要」などとウソの説明をしたり、自治体や給付金申請手続きの代行などをかたり、自宅への訪問や電話、メール等により個人情報、銀行等の通帳や口座番号、キャッシュカード、マイナンバーカードなどの情報や金銭を詐取しようとする手口に注意しましょう」、「暗証番号、口座番号、通帳、キャッシュカード、マイナンバーは「絶対に教えない!渡さない!」、「市区町村や総務省などが、現金自動預払機(ATM)の操作をお願いすること・受給にあたり、手数料の振込みを求めること・メールを送り、URLをクリックして申請手続きを求めることは絶対にありません!」といった内容です。いずれも、冷静な状況であればだまされることはないと考えられますが、前述したとおり、警察庁の調査からは、だましの電話を受けた際の心理状況について、被害者、及び事業者の協力により被害に遭わなかった者の大半が「自分がお金を支払えば息子を救えると思った」、「親族が起こしたトラブルを聞いて、驚いた」、「『今日中に』などと時間を区切られたので焦ってしまった」などと回答しており、だましの電話を受けた際に冷静な判断ができなくなっていることがうかがわれる結果となっており、ましてやコロナ禍の不安や混乱の状況下においては、よりだまされやすい(冷静な判断ができなくなっている)と認識する必要があります。当事者はもちろんですが、家族や関係者は、これまで以上に高齢者の状況には十分な注意は払う必要があるといえます。

なお、国民生活センターのサイトでは、最近の類型別の相談件数や傾向がまとめられています。その中からいくつか紹介します。

▼国民生活センター 各種相談の件数や傾向
▼架空請求

資料によれば、「利用した覚えのない請求が届いたがどうしたらよいか」という架空請求に関する相談が多く寄せられていること、請求手段は、電子メール、SMS、ハガキ等多様で、支払い方法も口座への振込だけではなく、プリペイドカードによる方法や詐欺業者が消費者に「支払番号」を伝えてコンビニのレジでお金を支払わせる方法等様々であるといいます。さらに、最近の事例として以下が取り上げられています。

  • 大手通販業者から未払いに関するSMSが届いた。心配で連絡してしまったが、大丈夫か
  • 自宅に総合消費料金に関するハガキが届いた。心当たりはなかったが電話をすると個人情報を聞かれた。今後どう対処すべきか
  • SMSに滞納料金があると連絡があり電話をした。有料サイトの料金を支払うように言われたが身に覚えがない。支払うべきか
  • スマートフォンにコンテンツ料の入金確認が取れないとのSMSが届き、電話した。問われるままに個人情報を伝えてしまい心配だ
  • 自宅に民事訴訟最終通達書と書かれているハガキが届いた。何の請求か分からないが、どうしたらよいか
▼次々販売

1人の消費者に業者(複数の業者の場合も含む)が商品等を次々と販売する「次々販売」に関する相談が寄せられており、最近の事例として以下が取り上げられています。

  • エステ体験をした後、約40万円の痩身エステを契約した。その後も次々にエステの契約をさせられ約60万円の決済をしたが、また新たな契約を勧めてくるので嫌気がさした。中途解約して返金してほしい
  • 過去に損害を被ったビジネスの被害金を取り戻せると言われ、次々と高額な手数料を支払ったが被害金の返還も相手からの連絡もなくなった。どうすればよいか
  • 痩身エステを契約後、施術に行くたびに脱毛エステや美容機器を次々と勧められ、契約してしまった。解約できないか
  • 訪問販売業者から押入れ用の乾燥剤を購入し、後日その代金の集金の際に、まだ足りないので追加で購入するよう言われ、また契約した。不審だし、高額なので解約したい
  • 訪問販売業者が実家の母のもとに訪ねてきて、アクセサリーや下着を次々に契約させている。母は年金や貯金を崩して支払っているが、解約できないのか
▼健康食品や魚介類の送りつけ商法

健康食品や、カニなどの魚介類の購入を勧める電話があり、強引に契約をさせられてしまったり、断ったのに商品が届いたりするという相談が寄せられているといい、最近の事例として、以下が取り上げられています。

  • 申し込んでいない鮭の切り身セットが届き、家族が代引きで支払ってしまった。既に開封してしまったが、注文していないので返金してほしい
  • 母宛に海産物の購入を勧める電話があり、断っていたが担当者に押し切られ、カニを送付することに応じてしまったという。解約したいがどうすればよいか
  • 電話で健康食品を勧められたが、電話を切った。後日自宅に注文していない商品が届いた。返品したい
  • 母宛に海産物が届き、今後は送らないようにと業者に伝えたが、再度代引きで商品が届いた。返品したいが業者と連絡が取れない
▼マルチ取引

マルチ取引とは、商品・サービスを契約して、次は自分が買い手を探し、買い手が増えるごとにマージンが入る取引形態であり、マルチ取引で扱われる商品・サービスは、健康器具、化粧品、学習教材、出資など様々であること、マルチ取引の相談では、解約・返金に関するものが多くなっていることを指摘、最近の事例として、以下が取り上げられています。

  • 母がマルチで水素水生成器等を契約しているようだ。やめさせたいがどうしたらよいか
  • 人を紹介すると紹介料がもらえると誘われ、化粧品と美顔器をクレジットを組んで購入した。中途解約を申し出たところ30万円を一括で請求されたが高額で支払えない
  • 学生時代の友人に「海外口座を開設し暗号通貨を運用する。人に紹介すると儲かる」と誘われ、友人に資金を預けた。解約を申し出たところ、全額の返金はできないと言われた
  • 友人から誘われたセミナーで投資のコンサルティング契約を勧められた。「人を紹介すると報酬が得られる」と言われ、借金をして契約したが、解約したい
  • 学生である息子がアルバイト先の先輩に勧められ、マルチ業者から商品先物取引に関する学習用USBを借金して購入した。クーリング・オフできるのか
▼アフィリエイト・ドロップシッピング内職

「『ネット上で簡単にできるお仕事』と誘われて契約したが、まったく収入にならない」など、アフィリエイト・ドロップシッピングに関する相談が寄せられていること、アフィリエイトの仕組みは、「消費者がHPやブログなどを作成し、製品、サービスなどの宣伝を書き、広告主(企業など)のサイトへのリンクを張ります。ホームページやブログの閲覧者がそこから広告主のサイトへ移行して、実際に商品の購入などにつながった場合、売上の一部が自分の収入(利益)になるというものです」と紹介されています。さらに、ドロップシッピングは、「消費者が実際に自分のホームページなどで、商品を販売します。販売用の商品の仕入れ費用や売れた場合の手数料の支払いなどもあるため、売れたとしても、思ったほど簡単に収入にならないという場合があります」と紹介されています。最近の事例として、以下が取り上げられています。

  • インターネットで見つけた副業サイトに登録した。後日、電話で「絶対儲かる」と説明され、アフィリエイトの情報商材を契約したが、解約・返金してほしい
  • アフィリエイトで高収入を得るという動画広告の中で、10万円の登録料を支払えば仕事を始めるための有益な情報が得られるとあり契約したが、具体的な情報は得られなかった。返金を申し出ているが事業者から返答がない
  • SNSで知り合った友人から、オンラインカジノのアフィリエイトで人を紹介すると儲かると勧められ、契約したが不審だ。解約したい
  • アフィリエイトで稼いでいるという人のブログで紹介されていたシステムを購入し、事業者に使い方を聞いたが、教えてもらえなかった。返金してほしい
  • 儲からなければ全額返金保証付きという電子たばこを売るドロップシッピングを契約した。商品は売れなかったが、業者から保証がない。対処法はないか
▼訪問購入

「不用品や和服の買い取りのはずが貴金属を買い取られた」といった相談が寄せられており、最近の事例として、以下が取り上げられています。

  • 訪問してきた業者に金のネックレスを売った。安く売ってしまったと後悔し業者に電話をかけているが電話にでない。クーリング・オフしたい
  • 不要な衣服等を買い取るという業者が自宅に来て、売りたくないと断っているのに指輪やブレスレットなどを査定され持って帰られてしまった。その際クーリング・オフはできないと言われたが、今からでも取り戻せないか
  • 「不要な衣料品はないか」と電話があり、靴とかばんを買い取ってもらうことにしたが、自宅に来た業者に「貴金属や商品券はないか」と迫られ、アクセサリーを売ってしまった
  • 見積もりのつもりで業者に家に来てもらい、ネックレスと指輪を売却したが、買取価格が安すぎたと後悔した。解約したいと申し出たができないと言われ、どうすればよいか
  • 高齢の母に不用品を買い取ると電話があり、明日取りに来ることを母は了承したと言うが不審なので断りたい。どうすればいいか

上記以外で最近の特殊詐欺を巡る報道から、特徴的なものをいくつか紹介します。

  • 新型コロナウイルス対策で国民に一律10万円が支給される「特別定額給付金」に便乗し、キャッシュカードをだまし取ったとして岡山県警倉敷署は、詐欺の疑いで大阪市の無職の少年(17)を現行犯逮捕しています。報道によれば、何者かと共謀して金融機関職員をかたり、倉敷市の無職の女性(80)に電話で「給付金の手続きはもうしていますか」、「後期高齢者の方は特別に銀行が代わりに給付金の申請手続きを行えます」などと語り、女性宅を訪れてキャッシュカード2枚をだまし取ったというものです。本事例は、だましの語りの内容が巧妙であることに驚かされます。だからこそ、背後にいる特殊詐欺グループの存在がいかに大きいかを感じさせるものだといえます。
  • オレオレ詐欺の被害に遭った東京都内の高齢女性宅に強盗が押し入り、男2人が強盗未遂容疑などで逮捕されています。報道によれば、女性宅に多額の現金があるとの情報を詐欺グループが強盗グループに流した可能性があり、警視庁が同様の事件への警戒を強めているといいます。なお、本件については、警視庁は「強盗が入る可能性がある」として自宅から避難するよう女性を促したが、女性が拒んだため、捜査用カメラを設置したとのことであり、このカメラに2人の姿が映っていたと報じられています。この点は、警察庁の調査でも、被害者の3割弱が、だましの電話等を受けてから現金等を交付するまでの間、金融機関等から現金等を渡すのを思いとどまるよう声を掛けられていたものの、結果的に被害を防ぐことができていなかったという結果に重なります(それだけ、確証バイアスに囚われると厄介であり、それに加えて、高齢者・女性ほど頑なになりがちで事態をより悪化させてしまうといった課題が指摘できます)。なお、この事例でも、男2人はツイッター上の「闇バイト」の募集に応じて強盗に入ったといい、犯罪の入口としてのSNS・闇バイトの問題も深刻です。警視庁は、女性宅に現金があるとの情報を得た人物が、ツイッターで強盗の実行役を募ったとみているといい、コロナ禍で犯罪の凶暴化の傾向が見られることとあわせ、今後、同様の手口が増加するのではないかと危惧されます。
  • 高齢者からキャッシュカードをだまし取り、現金を引き出したとして、詐欺罪と窃盗罪などに問われた仙台市の無職の女(22)が秋田地裁で懲役3年、執行猶予5年の判決を受けました。報道(2020年5月24日付読売新聞)によれば、SNSを通じて「闇バイト」に誘われたという女は、取材に「手軽なSNSを入り口に詐欺グループに使われ、罪を犯してしまった」と後悔を語っています。連絡は秘匿性が高いとされる通信アプリ「テレグラム」を使って行われ、女は指示されるまま、テレグラムをスマホにインストール、本人確認と言われ、身分証明書と顔写真を送信すると、「あなたの担当者」を名乗る男から着信があり、「俺らの組織は警察につかまったことがないし、そもそも高齢者のために手助けする仕事。君みたいな人はたくさんいたし、稼げるよ」と誘われたといいます。結局は使い捨ての存在でしかなく、本記事で有識者が、「以前はインターネット掲示板を使った事例が多かったが、最近は幅広いユーザーがいるSNSを使った『闇バイト』の募集が増えている。『高収入』『即日稼げる』などのうたい文句で具体的な内容を記載しておらず、警察も取り締まりにくい。SNSを使い慣れた人は知らない誰かとつながることに抵抗がなく、興味本位で見た募集をあやしいと思っても、言葉巧みに誘われ、手軽に稼げるバイト感覚で犯罪に手を染めてしまうのだろう。SNSで知らない誰かがバイトに誘ってくる場合は警戒するべきだ」と指摘していますが、正にそのとおりかと思います。SNSの犯罪インフラ化は、SNSに慣れていること自体が犯罪の入口となりうるという点で大変恐ろしいものだと痛感させられます。
  • 本コラムでもたびたび紹介してきましたが、キャッシュカードに切れ込みを入れ、もう使えなくなったと安心させてだまし取る手口の特殊詐欺が目立ち始めています。切れ込みの場所次第ではカードの使用に影響がなく、現金が引き出されてしまう点がポイントです。大阪府警がその手口を解説した詐欺グループの「マニュアル」を押収したとの報道(2020年5月25日付読売新聞)がありましたが、それによれば、カードの画像付きで、切れ込みは銀行番号や店番号、口座番号、ICチップなどを避け、2センチくらい入れるように解説、「切り込み箇所を間違えると使えなくなるので、事前にイメトレをしておく」と助言し、「手品みたいに、切り込みを入れたよ。だから使えなくなったね、ってとこを強調する」と被害者を油断させるよう指示していたといいます。
  • 以前の本コラムでもたびたび紹介しましたが、詐欺の被害者が被害を取り戻そうと受け子になってしまった事例については、残念な思いで受け止めました。同様に、18歳の女性が同じ手口で自分もだまされたことからアイドルグループのコンサートチケット代を詐取したとして逮捕された事例もありました。これらについて、2020年6月2日付産経新聞の記事で、捜査幹部が「オレオレ詐欺に遭うと『なぜだまされたのか』と親族から責められ、一人で抱え込むことがある。その結果、善悪の区別がつかなくなり、犯罪に手を染めることも考えられる」とコメントしていました。犯罪者心理の核心を突くものだといえ、大変考えさせられます。
  • 海外でもこの手の犯罪は後を絶ちません。オーストラリアで新型コロナウイルスの感染防止のために外出規制が行われる中、自宅で孤独を感じる人々の心に付け込み、子犬の販売を装って前金など金銭をだまし取る行為が急増しているとして、当局が注意を呼び掛けているとの報道がありました(2020年5月19日付時事通信)。手口は外出規制に伴って購入前の犬に会いに行けないことを利用、うそのサイトやネット広告を使って、カブードルやフレンチブルドッグなど人気のある犬の販売を装い、前金などを求められるもので、実際に支払った後に連絡が取れなくなるということです。豪競争・消費者委員会(ACCC)によれば、このような子犬の販売を装った詐欺の被害金額は今年に入って既に約30万豪ドル(約2,100万円)と、昨年の36万豪ドルを超える勢いとなっており、特に4月には報告件数が通常の約5倍に増えたということですから驚かされます。コロナ禍が詐欺を容易にしてしまう構図は万国共通であり、さまざまな手口に関する情報が世界中で共有される状況に危惧を覚えます

なお、1980年代の豊田商事事件以降、消費者被害が繰り返されてきた「販売預託商法」が原則禁止される見通しになりました。消費者保護に軸足を置いた抜本的な方向転換となるという意味で大きなトピックだといえます。販売預託商法は、物品などを販売すると同時に顧客からその物品を預かり、実質的な元本保証をして別の顧客に貸し出すなどし、配当を生むと勧誘する商法で、実際は売り上げ収入の一部を別の顧客の配当に回す「自転車操業状態」で、破綻して元本が戻らないケースがたびたび社会問題になってきました。特徴としては、配当が続く間は被害が表面化しづらいことが指摘されており、2017年に経営破綻したジャパンライフなどのケースでは行政の対応の遅れも指摘されています。報道によれば、本件を検討してきた消費者庁の有識者委員会では、委員から、「悪質業者ほど規制が緩いところに流れるので、重い規制が有効」、「過去の大型被害を踏まえれば、全面禁止が分かりやすい」といった声が相次ぎ、原則禁止の方向で制度を見直すことになったということです(なお、正当な事業活動に限って例外として認める方向だといいます)。

2.最近のトピックス

(1)暴力団情勢

5月30日、岡山市北区に事務所を置く特定抗争指定暴力団神戸山口組系池田組の幹部(前谷若頭)が同区で腹部を銃撃され重傷を負ったほか、同組員も負傷するという事件が発生しました。岡山県警は、鳥取県米子市の特定抗争指定暴力団六代目山口組系大同会の幹部(岸本若頭代行)を逮捕、六代目山口組と神戸山口組の対立抗争事件とみています。当日は、2016年に池田組幹部(高木忠若頭)が六代目山口組系組員に射殺される事件があり、別の場所でその幹部の法要が営まれており、岡山県警と兵庫県警が警戒を強化していたタイミングでした(法要には多数の組関係者が出席、前谷若頭は法要を終えて事務所に戻ったところを銃撃されており、容疑者(岸本若頭代行)が事前に法要の日程などを把握した計画的犯行で、組の警戒が手薄な状況を狙ったと考えられています)。両団体が「特定抗争指定暴力団」に指定される中、「警戒区域」以外で発生した事件とはいえ、明らかな抗争事件であり、容疑者は独断で犯行に及んだことを示唆しているものの、組織の関与をどこまで裏付けられるかが今後の焦点となりそうです。なお、報道(2020年6月6日付山陽新聞ほか)によれば、今回銃撃された前谷若頭はかつて六代目山口組系大石組に所属し、六代目山口組の分裂後、他の組員を引き連れて池田組に移籍、一方、大同会は大石組と近い関係にあり、前谷若頭は移籍への報復として銃撃された可能性が指摘されています。さらに岡山県内の勢力図も事件の背景にあるとされます。全国では六代目山口組系の構成員数が神戸山口組系の3倍にのぼる一方、岡山県内においては神戸山口組系が7割以上を占めており、このため六代目山口組は、高山清司若頭が昨年10月に出所後、岡山県内で勢力拡大へ攻勢を強めているとも言われています。なお、関連して、本事件の一部始終をとらえた監視カメラの動画がすでに流出しています。実は、両組織が抗争状態に入った当初から、両組織ともにメディアやSNSを介した情報戦が繰り広げられています。お互いのネガティブな情報を流し合って相手を貶める狙いがあり、これまでも抗争にまつわる事件が起きるたびに動画や画像が広がっていました。今回もいずれかの組織の関係者が意図的に流していると考えられます。

さて、本事件を受けて、鳥取県警は、大同会や傘下組織の事務所計3カ所に暴力団対策法に基づく使用制限の仮命令を出しました。これにより、組員が事務所で会合を開くことなどができなくなります。なお、岡山県警も池田組事務所1カ所の使用を制限する仮命令を出しています。なお、参考までに、暴力団対策法第十五条は、「指定暴力団等の相互間に対立が生じ、当該対立に係る指定暴力団等の指定暴力団員により敢行され又は当該対立に係る指定暴力団等の事務所(暴力団の活動の拠点となっている施設又は施設の区画された部分をいう。第三十二条の十一第一項を除き、以下同じ。)若しくは指定暴力団員若しくはその居宅に対して敢行される一連の凶器を使用した暴力行為(以下この章において「対立抗争」という。)が発生した場合において、当該対立に係る指定暴力団等の事務所が、当該対立抗争に関し、当該対立抗争に係る指定暴力団等の指定暴力団員により次の各号に掲げる用に供されており、又は供されるおそれがあり、これにより付近の住民の生活の平穏が害されており、又は害されるおそれがあると認めるときは、公安委員会は、当該事務所を現に管理している指定暴力団員(以下「管理者」という。)又は当該事務所を現に使用している指定暴力団員に対し、三月以内の期間を定めて、当該事務所を当該各号の用又は当該指定暴力団等の活動の用に供してはならない旨を命ずることができる」として、「一 多数の指定暴力団員の集合の用」、「二 当該対立抗争のための謀議、指揮命令又は連絡の用」、「三 当該対立抗争に供用されるおそれがあると認められる凶器その他の物件の製造又は保管の用」を定めています。

また、本コラムでもたびたび紹介したとおり、愛知や兵庫など6府県の公安委員会は今年1月、両組織を特定抗争指定暴力団に指定、名古屋市、大阪市、神戸市など10市を「警戒区域」とし、組員らは区域内でおおむね5人以上での集合などが禁じられることとなりましたが、今回の事件で、指定範囲を岡山県に拡げる可能性も否定できないところであり、容疑者の携帯電話の通話履歴や拳銃の入手ルートなどから背後関係を洗い出すなど、今回の事件の全容を解明し、組織の関与の有無、警戒区域指定拡大の必要性を見極めていくことになります。なお、本事件が、警察が警戒している状況の中で強行されたこと、池田組からすれば過去の高木若頭、今回の前谷若頭と2名の幹部が銃撃されたことから、「返し(報復)」の可能性が高まっていることもあり、警察としては、六代目山口組について、工藤会と同じ「特定危険指定暴力団」への指定も視野に入れているのではないかとの情報もあります。なお、「特定危険指定暴力団」とは、暴力団対策法第三十条の八において、「公安委員会は、次の各号のいずれかに掲げる行為(略)が行われた場合において、指定暴力団員又はその要求若しくは依頼を受けた者が当該行為に関連して凶器を使用して人の生命又は身体に重大な危害を加える方法による暴力行為を行ったと認められ、かつ、当該指定暴力団員の所属する指定暴力団等の指定暴力団員又はその要求若しくは依頼を受けた者が更に反復して同様の暴力行為を行うおそれがあると認めるときは、一年を超えない範囲内の期間及び当該暴力行為により人の生命又は身体に重大な危害が加えられることを防止するため特に警戒を要する区域(以下この章において「警戒区域」という。)を定めて、当該指定暴力団等を特定危険指定暴力団等として指定するものとする」と定められています。

さて、六代目山口組傘下の織田組が東大阪市に移した事務所について、大阪地裁は、組事務所としての使用を差し止める決定を出しています。大阪府暴力追放推進センターが暴力団対策法に基づき、平穏に生活する権利を侵害されたと訴える近隣住民ら約30人の代わりに仮処分を申し立てていたもので、決定は織田組に対し、組員定例会の開催や看板の設置などを禁じています。六代目山口組の特定抗争指定暴力団への指定に伴って大阪市中央区の織田組の事務所に使用制限がかかり、今年1月、東大阪市内に移転させていたもので、報道によれば、特定抗争指定暴力団への指定に伴い移転した事務所の使用を差し止める仮処分決定は全国初となります。一方、静岡県吉田町の本部事務所を撤去し、東京都内に移転する動きを進めていた六代目山口組の2次団体「良知二代目政竜会(良知組から名称変更)」が、富士宮市に拠点を置く可能性があるとして、静岡県警が警戒を強めているということです。報道によれば、同団体は、移転を計画していた都内の建物が3月に暴力団事務所としての使用を禁じる仮処分決定を受け、行き場を失っていたもの(本件も本コラムで取り上げましたが、この移転先として予定していた東京都足立区の建物に1月、トラックが突っ込む事件が発生、松葉会系組員が建造物損壊の疑いで逮捕された事件があり、背景に暴力団同士の縄張り争いがあったとされることから足立区が申し立てを行い、東京地裁が使用禁止の仮処分を決定、組員の立ち入りや会合の開催などが禁じられたものです)で、富士宮市は六代目山口組内で「武闘派集団」とされ、豊富な資金力でも知られた後藤組(2008年解散)が本部事務所を置いていた地で、住民らは不安を募らせているといいます。

神奈川県など18都道県で活動する稲川会が今月、構成員らに「特殊詐欺への関与は厳禁」とする文書を配ったことについては、前回の本コラム(暴排トピックス2020年5月号)でも取り上げました。この件については、週刊誌上の捜査関係者のコメントとして、「やはり被害金返還を求める訴訟への対策だろう。しかし、こんな書面を作成して通知したところで、トップが責任を逃れるのに役立つことはない。証拠能力はゼロに等しい。裁判所を説得する材料には全くならない」と指摘していましたが、そのとおりかと思いますし、そうあるべきだと考えます。本コラム冒頭で取り上げたとおり、コロナ禍と特殊詐欺の「相性の良さ」は否定できないところであり、飲食店からのみかじめ料や花見や祭りのテキ屋の商売などシノギが激減する中、末端の組員は自分たちの稼ぎに不安を感じて新型コロナウイルスに便乗した特殊詐欺に精を出し、この時期に取れるだけ取ろうというのが現状かと思われます。当然ながらそのような実態をふまえ、稲川会執行部も、本気で特殊詐欺を禁止するつもりはないのではないかと推測されます。つまり、裏返せば、今回の文書配布は、使用者責任を問われないようにするための隠れ蓑的な意味(アリバイ)に過ぎず、それが明白過ぎてもはや「証拠にならない」ということかと思われます。

さて、預金保険機構が行っているいわゆる反社債権の買い取りを行う「特定回収困難債権買取制度」の利用実績について、金融庁が業界団体との意見交換会で触れています。

▼金融庁 業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点
▼共通事項(主要行/全国地方銀行協会/第二地方銀行協会/全国信用組合中央協会/生命保険協会/日本損害協会/日本証券業協会/日本投資顧問業協会/労働金庫業界)

それによれば、「預金保険法に基づき、債務者又は保証人が暴力団員である等の特定回収困難債権、いわゆる反社債権の買取りを預金保険機構が行う「特定回収困難債権買取制度」というものがある。制度開始以降、90金融機関から累計287件、約75億円の債権を買い取っており、多くの金融機関に本制度を積極的に活用していただいている一方、活用実績がない金融機関も存在しているところ。各金融機関におかれては、引き続き反社会的勢力との関係遮断に努めていただくともに、仮に、反社債権の保有が判明した場合には、積極的に本制度をご活用いただきたい」と述べています。そこで、あらためて、この「特定回収困難債権買取制度」について簡単に確認しておきたいと思います。

▼預金保険機構 特定回収困難債権の買取り

平成23年(2011年)5月13日に成立した預金保険法の一部を改正する法律により、特定回収困難債権買取制度が創設され、預金保険機構は、本制度に基づき特定回収困難債権を買取ることが可能となっています(なお、買取りは、整理回収機構に対し委託されています)。その目的は、「金融機関の財務内容の健全性の確保を通じて信用秩序の維持に資するため」とされ、買取対象となり得る債権については、「同条第1項において、金融機関が保有する貸付債権又はこれに類する資産として内閣府令・財務省令で定める資産」とされています。そのうち「金融機関が回収のために通常行うべき必要な措置をとることが困難となるおそれがある特段の事情があるもの」が「特定回収困難債権」定義されています。具体的な事例としては「属性要件」と「行為要件」が示されています。いわゆる平成19年の政府指針(犯罪対策閣僚会議申し合わせ「反社会的勢力による被害を防止するための指針」)に「共生者の5類型」を加えたものに準じた理解で差し支えないですが、「暴力団関係企業」として、「暴力団員が実質的にその経営に関与している企業、準構成員若しくは元暴力団員が実質的に経営する企業であって暴力団に資金提供を行うなど暴力団の維持若しくは運営に積極的に協力し、若しくは関与するもの又は業務の遂行等において積極的に暴力団を利用し暴力団の維持若しくは運営に協力している企業をいう」とされ、「なお、「暴力団員が実質的にその経営に関与している企業」とは、暴力団員が商業登記簿上の役員や株主・出資者である企業だけでなく、顧問・相談役等として企業の経営に影響を与えている場合や、人的関係・融資関係・資本関係・取引関係等を通じて事業活動に相当程度の影響力を有する企業をいう」と具体的に示されている点は注目すべきかと思われます。また、「特定回収困難債権の買取対象となる具体例(参考)」には以下のような具体的な事例が掲載されており、社内研修等の参考資料として活用できるものと思われます。

  • 暴力的な要求行為
    • 債務者が、金融機関職員に対し、「競売すれば火をつける。」等の脅迫的な言動により、競売手続の停止を要求した事案
    • 債務者が、金融機関職員に対し、「競売を続けたら殺す。」と脅迫し、競売手続の中断を要求した事案
  • 法的な責任を超えた不当な要求行為
    • 債務者から依頼された者が、競売申立ての通告をなされているにもかかわらず、暴力団の名刺等を示し、執拗に債務の減額要求を行った事案
    • 債務者が、金融機関との訴訟に関して、和解に応じなければマスコミ等を利用して金融機関を中傷する旨申し向けるなど、不当な和解要求を行った事案
    • 金融機関による債権回収を妨害することを生業としている者(いわゆる「整理屋」)が介入し、「金融機関に対し返済を拒否するのみならず、時効完成による債務消滅を企図したり、金融機関による保証人への連絡を阻害するといった言動を繰り返す」、「金融機関に対し自らの介入を誇示したり、サービサーへの債権売却を勧め、返済を拒否する発言を繰り返す」ことにより、金融機関による債権回収を断念させることを企図した事案
    • 取引に関して、脅迫的な言動をし、又は暴力を用いる行為
    • 債務者が、返済交渉に際して、金融機関職員に対し、日本刀をちらつかせたり、「自分の生 活を守るためには、敵は殺す。」と発言したりするなど脅迫的な言動をした事案
    • 債務者が、返済交渉に際して、反社会的勢力との関係を暗に示したうえ、大声を出して机を叩く、蹴り上げるなどの暴力を用いる行為を行った事案
    • 債務者法人の代表者が、返済交渉に際して、「ふざけた事をしていたら首をとるぞ。」と脅迫的な言動をした事案
    • 債務者法人の役員(取締役)が、返済交渉に際して、金融機関職員が保証人(代表取締役)宅を資産調査したことに因縁をつけ、「報復として担当者の自宅に毎日、若い者を連れて行く。」、「家族はいるのか。」等の脅迫的な言辞を弄した事案
    • 金融機関職員が延滞解消できなければ債権譲渡もあり得る旨説明したところ、債務者が、暴力団の名刺を示したうえ、「債権譲渡なんてことになったら、何をするかわからねえぞ。」等の脅迫的な言動をした事案
    • 保証人が、返済交渉に際し、本人名義の暴力団の名刺を金融機関職員に示し、後日、金融機関職員が「このままでは法的手段をとらざるを得ない。」旨説明をしたところ、「そのときには、ブルドーザーを持ってくる。」等の脅迫的な言動をした事案
    • 金融機関職員が債務者に返済交渉のため架電したところ、債務者が、「誰から、ここにいると聞いた。言わんかい。」「一人で今すぐ近くの公園でも、ここでも来い。必ず一人で来い。」と脅迫的な言辞を弄した事案
    • 債務者及び保証人が、金融機関の代理交渉に当たっていた顧問弁護士の事務所に現れ、大声で騒ぎ、いきなり携帯電話で事務所及び同弁護士を撮影した後、「このまま事件を担当していけばどうなるか、覚えておけ。」等との脅迫的な言辞を弄し、身の危険を感じた当該弁護士が代理交渉を辞退した事案
    • 債務者は、返済交渉に際し、債権引受元の金融機関職員に対し、応接室内で、机・椅子を蹴る、物を投げる、大声を出す等、暴力的な言動を行うとともに、担保不動産の先順位設定者が競売を申し立てたことに関し、「先順位設定者の事務所で、机や椅子を荒らした。」と威迫的な言動をした事案
    • 債務者は、返済交渉に際し、保証子会社の顧問弁護士に対し、「金融機関はやくざみたいなもんや。俺は●●組(暴力団)の●●も知っているし、●●組(暴力団)の●●も知っている。」と暴力団の名称を示して暴力団員等との関係性を示した事案
    • 債務者法人の代表者は、返済交渉に際し、金融機関職員に対し、「(立場が)上の者から電話をさせろ、その時にお前の不逞を晒し、金融機関で働けなくしてやる」と発言した他、50分間罵声を浴びせる等、脅迫的な言動を繰り返した事案
    • 保証人は、返済交渉に際し、債権回収会社の職員に対し、「俺は(金融機関の)上の人間を知っているからお前のことを話してやる。」「覚悟しとけ、クビだからな。」と発言した他、「お前の名前は●●●●だろ。この前聞いた名前をしっかり覚えているからな。」と脅迫的な言動をした事案
  • 風説を流布し、偽計を用い又は威力を用いて当該金融機関の信用を棄損し、又は当該金融機関の業務を妨害する行為
    • 債務者が、社会運動標榜ゴロ等を利用して、金融機関に対し、根拠のない誹謗中傷を行うこと等により、日常業務を妨害した事案
    • 債務者が、金融機関の賃料差押えを妨害するため、元暴力団組員との仮装の金銭消費貸借契約証書を公証人に提出のうえ、元組員に建物の賃料債権を譲渡したように装い、賃料を同人の口座に振り込ませて隠匿した事案
    • 債務者が、金融機関の担保物件差押えを妨害するため、債務者法人関係者間で建物内の動産について譲渡担保設定したことを仮装した事案
    • 債務者法人の前代表取締役が、同法人の取引停止処分があった後、金融機関の競売等を妨害するため、同金融機関の根抵当権設定時に担保物件上に存在していなかった車庫を当時から存在していたとして虚偽の登記をした事案
  • その他上記に準ずる行為
    • 元暴力団幹部が代表者である債務者法人の担保物件を、暴力団が組事務所として占有のうえ、隣室との間の壁を壊す等の改造を行い、競売を妨害した事案
    • 債務者法人の代表者が自社の株式を反社会的勢力と繋がりがある者に譲渡したことにより、同法人が反社会的勢力に乗っ取られ、同人らが、同法人の経費支払いを停止し、担保不動産の賃料収入等の売り上げを流失させた事案
    • 債務者法人が、担保物件の一部を暴力団組長に賃貸し、同人に暴力団事務所として使用させて、競売の妨害を図った事案
    • 債務者が、金融機関に無断で暴力団員に対して担保物件を売却し、同暴力団員が担保物件の所有者となり、競売が困難になった事案(当該担保物件は暴力団事務所として使用されている)

なお、特定回収困難債権の買取決定の実績としては、金融庁のコメントのとおり、これまでの累計で合計287件、買取債権総額が7,477,197千円、買取価格総額が842,849千円でした。また、要件別内訳としては、属性要件が217件、行為要件が60件、両要件が10件となっています。

福岡市の指定暴力団福博会のトップが高齢により交代することが判明しています。報道によれば、博多区の本部事務所で継承式があり、10年以上トップだった長岡寅夫会長(81)が退き、金城国泰理事長(61)が4代目に就いたということです。福博会は六代目山口組と親密な関係にあり、式には六代目山口組の中核組織弘道会の幹部も姿を見せたといいます。福岡県内に本拠を置く5つの指定暴力団のうち会長交代は2018年4月の浪川会以来となり、組員減少が続く福博会は六代目山口組の後ろ盾を必要としている状況もあり、六代目山口組と神戸山口組との抗争が福岡県内に波及する可能性も否定できないところです。また、福岡県北九州市に本拠地を置く特定危険指定暴力団工藤会について、福岡県公安委員会は、暴力団対策法に基づき新たな本拠地を定め、官報で公示しました。工藤会暫定トップの会長代行が組長を務める2次団体矢坂組の事務所で、旧本部事務所が2月に撤去されたことに伴う措置となります。なお、報道によれば、矢坂組は5月下旬、福岡県警に事務所を閉鎖する意向を伝え、本拠地認定に抵抗、備品を撤去するということです。本拠地として「主たる事務所」に認定されると、暴対法に基づく事務所の使用制限命令の対象とされ、組織活動のために使用できなくなる可能性があることが背景として考えられるところです。

その他、暴排を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 札幌弁護士会は、業務中に関係者に暴言を吐いたとして、同会所属の弁護士(40)を業務停止3か月の懲戒処分としています。同弁護士は2018年、暗号資産(仮想通貨)の取引を巡り、被害を受けたとされる消費者の救済を担当、同年10月、取引業者への指導を求めて北海道財務局の職員と面談した際、対応に不満を募らせ、「その筋のやからとつながりがある」と反社会的勢力との関係性をほのめかすなどしたとされます。事実であれば弁護士としての品位を欠く行為ですが、一方で、同弁護士は、「事実認定には納得していない。日弁連に異議申し立てをする」などとコメントしています。
  • 大阪・ミナミの繁華街の高級時計店で今年1月に発生した強盗事件で、大阪府警捜査1課は、強盗傷害容疑で、半グレグループ「89(バグ)」のリーダーを逮捕しています。報道によれば、同グループのメンバーらと共謀し、経営者らの顔にスプレーを噴射して軽傷を負わせ、金品を奪おうとしたというものです。なお、「89」については、関西4府県で10件の強盗や窃盗を繰り返し、約1,500万円を盗んだとも報じられています。なお、大阪府警は半グレ専従班を発足させていますが、これまで「アビス」に加え、「拳月」「テポドン」「モロッコ」「TOP」「風花一門」、そして「89」といった半グレを次々摘発しています。
  • 岡山、広島県の瀬戸内海でナマコを密漁したとして、尾道海上保安部、福山東署などの合同捜査本部は、漁業法違反(無許可操業)などの疑いで指定暴力団浅野組系組員を逮捕しています。同市の男性漁業者ら4人と共謀し、両県知事の許可を受けずに福山港周辺で潜水器などを使ってナマコ約480キロ(約29万円相当)を捕った疑いがもたれているということです。同本部は、この組員が中心的役割を担っていたとみて、ナマコの販売ルートなどを調べているといいます。
(2)薬物を巡る動向

前回の本コラム(暴排トピックス2020年5月号)では、薬物の国内での流通について、「コロナ禍が若者の薬物依存を助長している構図が注意が必要」として、以下のとおり指摘しました。

薬物の国内での流通については、コロナ禍に伴う外出自粛を背景にインターネットを通じて拡がりを見せている状況にあるようです(流通価格が上昇していることから需要の高まりが指摘できます)。学校の休校や会社の雇い止め、アルバイト切りなどによって家に閉じこもらざるを得ない若者たちが、興味本位でインターネット等を通じて覚せい剤を購入し、ハマっていく構図が顕在化しつつあり、売りさばく側の暴力団も、その資金源である夜の町の閉鎖や売春や風俗営業からの収益が低迷する中、覚せい剤などのドラッグの密売に活路を求めているといった構図もあります。若年層が薬物に簡単にリーチできる状況、コロナ禍で薬物に手を出してしまいかねない状況が、今あり、若年層の蔓延を防ぐ対策が急務となって います。なお、参考までに、ドラッグ乱用者の行き着く先は、「1:3:3:3」と言われています。つまり1割は命を失い、3割は刑務所か精神病院に、3割は行方不明(死ぬまで使い続け)、残り3割が何とか専門家や自助グループ、医療機関の助けを受け、その回復へと向かっていくという意味です。残りの3割でもすべてが薬物依存症から回復できるとは限らず、それだけ厳しい現実をもっと知ってもらう必要があるといえます。

また、外出自粛を受けて、人目を避けて薬物を受け取るリスクを避けるため、インターネットやSNSで「隠語」を使って注文し、自宅までデリバリーするようなケースが増加しており、特殊詐欺の受け子のように若者を使って届けるような事例もあるようです。若年層への薬物の蔓延は、購入費用欲しさの危ないバイトに手を出すといった「次の犯罪」をもたらす悪循環に陥っている点にも注意が必要です。一方の暴力団等の反社会的勢力にとっても、覚せい剤等の薬物がコロナ禍の最大の「シノギ」(資金獲得活動)となっていると言ってよい状況です。さまざまな媒体に暴力団関係者や捜査関係者等が証言しているものを目にしますが、例えば、「いま組織を支えているのはシャブ(覚せい剤)だ。シャブは重要なシノギだ」、「根強い覚せい剤の需要が存在しているのはもちろんだが、供給ルートとして、国際的な薬物犯罪組織が、暴力団を相手として取引を活発化させていることが考えられる」、「人がアルコールや薬物に溺れる大きな要因に“ストレス”や“暇”、それに“孤独”がある。コロナ禍による自粛生活にはそうした条件がそろっており、ドラッグの類いは売れるべくして売れた」、「3月の半ば頃から急にリピートするお客さんが増えた」、「客層はいつもと同じ。普通のサラリーマン、主婦、水商売の人とか。緊急事態宣言中はいつもより若い人が増えた感じはする」、「実際は今も在庫は十分にあるという話だが、このまま渡航制限が続けば海外からの仕入れが減少し、卸元は出し渋りをはじめるだろう。そうなれば値段も高騰する」、「国民全員に10万円給付ということは、日本に住むすべてのジャンキーにカネが入るということ」といった具合です。このような実態を目の当たりにすれば、つくづく「シノギ」は、表社会の経済状況に左右されるものではあるものの、人の欲望に直結した違法な商売であり、多様な手段を獲得しているがゆえに、どのような状況に追い込まれようともそう簡単にその経済的基盤を崩すことは容易ではないことを痛感させられます(コロナ禍で言えば、心に痛みやストレスを抱え、孤立している人ほど薬物が持つ「依存性」に対して脆弱性を有するものであり、そこにつけ込まれている構図があるとともに、夜の繁華街のシノギのダメージを特殊詐欺がカバーするといった構図があるといったことが挙げられます)。また、暴力団などの反社会的勢力が、「知恵を絞って」、絶えず新しいシノギのネタを探す、新たな手法を導入する、その執念、本気度にはいつも驚かされます。

最近の薬物を巡る報道から、いくつか紹介します。

  • 自宅で大麻を所持したとして、大阪府警は、堺署地域課の巡査(22)を大麻取締法違反(所持)の疑いで逮捕しています。報道によれば、自宅で大麻16グラムを隠し持っていたといい、容疑を認め、「大麻を吸ったことがある」と話しているということです。なお、発覚の経緯も興味深く、この巡査が保険の勧誘をしているという情報が寄せられ、上司が事情聴取、任意で携帯電話を確認したところ、ポリ袋に入った植物片の画像が見つかり、大麻の使用を認めたというものです。警察官という職務につきながら、大麻を使用する、副業をする、携帯電話に薬物の画像を残したままにするといった行為は信じられないものがありますが、個人の資質の問題と切り捨てるのではなく、やはり、どのような組織にもこのような「常識の通用しない」者が存在していること、そもそも入口(採用)の段階で見抜けなかったのか(見抜くための仕掛けはなかったのか)、端緒情報の収集にアンテナを張っておくことの重要性、事実確認の進め方など組織として平素から備えておくべきことがたくさんあることを痛感させられます。
  • 静岡市内の繁華街で大麻を所持していたなどとして、清水署などが10~20歳代の男女約10人を大麻取締法違反容疑(所持)などで摘発しています。静岡市内の飲食店で客引きのアルバイトをしていた大学生が大半で、報道によれば、摘発された学生らは「興味本位で手を出した」という趣旨の供述をしている一方で、依存のため継続購入したケースもあったとみられるということです。また、客引きのアルバイトとしている学生らをターゲットに売り渡していた少年も同法違反容疑(営利目的譲渡)で逮捕されています。「興味本位」「継続購入」、「未成年同士の売買」など若年層への大麻の蔓延を象徴する典型的な事例だと言えます。
  • 覚せい剤などを隠した靴の入った小包を受け取ったとして、警視庁組織犯罪対策5課は、いずれもベトナム国籍の容疑者ら25~30歳の男女5人を麻薬特例法違反(規制薬物所持)容疑で現行犯逮捕しています。在日ベトナム人向けに営利目的で輸入したとみられています。報道によれば、東京税関がベトナムから航空貨物で届いたスニーカーの中敷きの裏に、小分けにされた覚せい剤やケタミン、MDMAを見つけ、中身を入れ替え捜査(泳がせ捜査:コントロールド・デリバリー)を行い、5人がそれぞれ埼玉県内の自宅などで荷物を受け取った後に逮捕したということです。2019年は国際郵便などを使ったベトナム人による薬物密輸事件の検挙はなく、珍しい事例とも言えますが、摘発に至っていなかっただけで、在日ベトナム人の間にも薬物が蔓延している実態があるのかもしれません。また、容疑者の多くは新型コロナウイルスの影響で2月以降、仕事やアルバイトを失っていたということから、そのあたりにも背景事情がある可能性もあります。
  • 東京都大田区で、職務質問を無視して逃げた車に歩行者の女性がはねられ死亡したひき逃げ事件で、道交法違反などの疑いで逮捕された30代の女性容疑者の尿から、覚せい剤の成分が検出されたといい、「薬を飲みすぎたことが原因なのか、衝突するまでのことは覚えていない」と供述しているといいます。そもそも不審者情報で駆け付けた署員の職務質問を振り切り、車を急発進させ、信号無視するなどして逃走したあげく、約850メートル先で歩道に乗り上げ女性をはねた疑いがもたれており、職務質問を受けた現場近くで注射器が見つかるなど、事件前に薬物を摂取した疑いがあります。このような事例を見るにつけ、薬物が身近なところにまで蔓延していること、薬物が第三者に危害をもたらす深刻さを痛感させられます。
  • 末端価格600万円相当の乾燥大麻を巡り、住吉会傘下の暴力団幹部ら2人が逮捕された事件で、愛知県警は新たに48歳の人材派遣会社の役員を逮捕しています。容疑者は、刈谷市内の飲食店で乾燥大麻およそ1キロ、末端価格600万円相当を営利目的で所持した疑いが持たれています。会社役員の自宅から、暴力団幹部の口座に数百万円振り込んだ伝票が見つかっているといい、薬物密売グループの一員と見られています。
  • 海外の事例ですが、新型コロナウイルスの特効薬を開発したとうたって、麻薬成分入りの液体を処方したとして、アフガニスタン政府は首都カブールの民間診療所を閉鎖したとの報道がありました(2020年6月4日付朝日新聞)。報道によれば、「15分で効く」などとうわさが広がり、患者が殺到、患者らに「独自に調合した薬」を数滴ずつ飲ませていたといいます。診療所は無料で数千人を治療したと主張し、効果を信じた政治家や市民が保健省に承認を求めていたところ、同省の検査で麻薬アヘンなどの成分が含まれていることが判明したというものです。最初は無料で処方し、後に有料化して利益を上げようとした可能性も指摘されています。新型コロナウイルスによる不安や混乱に乗じた犯罪であり、アフガニスタンが大麻やあへんの原料となるケシの一大産地であることを想起せずにはいられません。
(3)AML/CFTを巡る動向

コロナ禍によって金融機関の実務に大きな影響が出ていますが、海外送金の実務も例外ではありません。また、感染防止のため人員など業務体制を縮小しているのは、日本の金融機関だけでなく海外でも同様です。日本の金融機関では、顧客から海外送金の依頼を受け、中継金融機関を経由し相手国金融機関へと送ることになりますが、中継機関を含めて業務体制が縮小傾向にあり、3月にはフィリピンへの送金が一時的にできなくなる事態も発生したといいます。そうでなくても、海外送金の実務においては、昨今ではAML/CF(アンチ・マネー・ローンダリング/テロ資金提供対策)の強化から事務が厳格化していることもあり、必要書類の確認なしに実行されることもありえず、今後しばらく、海外送金の実務の混乱は続く可能性がある点に注意が必要です。前回の本コラム(暴排トピックス2020年5月号)では、KYC実務の効率化の例として、三井住友銀行などメガバンク3行と横浜銀行、ふくおかフィナンシャルグループが、NECと共同で口座開設時の本人確認などをオンラインで完結できる共通基盤(それぞれの銀行が保有する顧客情報を外部の事業者が本人確認に利用できる基盤)を展開すると発表したことを紹介しました。そして、直近では、海外送金の効率化として、みずほ銀行が新たなサービスをリリースしています。

▼みずほ銀行 法人向け外為被仕向送金消込サービス「MRCS」の提供開始について

本リリースによれば、海外送金は、国内送金と異なり、関係者間でやり取りをする情報量や介在する関係者が多いことに加え、送金フローの中で経由する銀行の手数料が発生する等、「送金 人名」 、「金額」 、「メッセージ」等の項目が当初想定した内容と異なる形で送られてくるケースが多く、お客さまが着金時に取引を特定するのには多大な時間がかかっていたといいます。同行は、受取人の「口座番号」については他の項目に比べ正確な内容で送られてくるケースが多いことに着目し、海外の送金依頼人へ請求書を発行する際に、現在ご利用の「口座番号」に「送金依頼人識別番号」を組み合わせた番号を「口座番号」として通知することで、受取人が「口座番号」から送金依頼人や当該取引を特定する実証実験を行った結果、着金時の早期消込が実証できたことから、法人向け外為被仕向送金消込サービス「MRCS」を開発、6月1日より提供開始したということです。外為被仕向送金の消込作業をサポートするサービスは、邦銀初となるといいます(特許出願中)。本サービスの利用による正確な口座情報に基づく取引確認作業により、消込作業時間が短縮化され、長年の課題であったお客さまの事務負担軽減が見込まれるとしています(なお、在宅での作業でも短時間で取引を特定でき、事務作業の効率化が見込まれるとも紹介されています)。

また、国内では、新型コロナウイルスへの対応として、全国民に一律10万円を給付する「特別定額給付金」の給付手続きに関連して、マイナンバーと個人口座情報をひも付ける「緊急時給付迅速化法案」が今国会に提出する動きとなっています。法案は、個人の申し出に基づいてあらかじめ国がマイナンバーと口座番号をひも付けする「口座名簿」を作成し、今後、経済危機や自然災害の際に国民への給付金を迅速に支給できる仕組みを整えるとの内容で、行政が個人口座を把握することへの慎重論もあるものの、新型コロナウイルスの感染拡大で今後追加的な現金給付を行う際、迅速に給付する理解を求める方向だということです。マイナンバーカードの普及率の低さから、給付手続きが混乱している現状から見れば、今回、個人口座を行政に提供した実績をふまえ、一気に進めることの意義はあると思います。今後、マイナンバー情報の漏えい事例も後を絶たない中、マイナンバーと口座情報がひも付くことで、より一層の情報管理の厳格化が行政には求められるともいえ、仕組みをしっかりと整えることも急務だといえます。

AML/CFTに関連して、海外の報道から、いくつか紹介します。

  • 米財務省は、米国の制裁対象となっているイランの民間航空会社「マハン航空」と取引をしていたとして、中国企業1社を新たに制裁対象に指定したと発表しています。米国内の資産が凍結され、米国人との取引が原則禁じられることになります。報道によれば、財務省は声明で、イラン政府がマハン航空を利用し、「イラン人技師や機材を搬送してベネズエラのマドゥロ政権を支援している」と主張、ベネズエラ側は、対価としてイランに金の延べ棒を提供しているとの情報もあるといいます。ポンペオ国務長官も、「マハン航空は世界中に武器やテロリストを輸送している。中国はこれを受け入れている数少ない国の一つだ」と強調し、中国政府の対応も批判しています。
  • 米司法省は、マネー・ローンダリングなどの容疑が持たれている中国人元当局者の身柄が、スウェーデンから米国に引き渡されたと明らかにしています。容疑者は河南省で穀物倉庫の管理責任者を務めていた1998-2011年当時、数百万ドルの資金を洗浄した上に、カリフォルニア州モントレーパークの不動産物件2件を購入するための資金に利用した疑いが持たれているといいます。この容疑者を巡っては中国政府が身柄引き渡しを求めており、スウェーデンの最高裁は昨年、政治活動を理由に容疑者が迫害を受ける恐れがあるとして、中国の身柄引き渡し要求を棄却していました。
  • 新型コロナウイルス感染拡大防止対策において、ブラジルのリオデジャネイロ州のビツェル知事に汚職容疑がかけられています。報道によれば、野戦病院の建設費などを過大に計上し、差額を不正に取得した疑いが持たれているといい、裁判所の命令を受け、汚職やマネー・ローンダリング、組織犯罪などの容疑で自宅や妻の関係先などの捜査が開始されています。中南米はもともと政財界に汚職が蔓延しており、新型コロナウイルス感染拡大が続くなか、各国で問題が露見しています。本件では、汚職が医療崩壊の一因となっていることが明らかになりましたし、ボリビアでは前保健相が人工呼吸器を不当な高値で輸入した疑いで身柄を拘束されたほかコロンビアやパラグアイでも同様の疑惑が発覚しています。AML/CFTの実務においては、外国PEPs(外国の政府等において重要な地位を占める者)のチェックがマストであり、PEPsについては「厳格な顧客管理措置」まで求められています。汚職はマネー・ローンダリングと絡むケースが多いこともあり、このような政財界の汚職の蔓延状況を見るにつけ、外国PEPsの精査の重要性を痛感させられます。なお、犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則15条に規定されている、外国PEPsとは、以下を指します。
  1. 国家元首
  2. 日本における内閣総理大臣その他の国務大臣及び副大臣に相当する職
  3. 日本における衆議院議長、衆議院副議長、参議院議長又は参議院副議長に相当する職
  4. 日本における最高裁判所の裁判官に相当する職
  5. 日本における特命全権大使、特命全権公使、特派大使、政府代表又は全権委員に相当する職
  6. 日本における統合幕僚長、統合幕僚副長、陸上幕僚長、陸上幕僚副長、海上幕僚長、海上幕僚副長、航空幕僚長又は航空幕僚副長に相当する職
  7. 中央銀行の役員
  8. 予算について国家の議決を経、又は承認を受けなければならない法人の役員
(4)テロリスクを巡る動向

国連はアフガニスタンの反政府武装勢力タリバンが国際テロ組織のアルカイダとの関与を維持していることに警鐘を鳴らす報告書をまとめています。報道(2020年6月2日付日本経済新聞)によれば、報告書は、「アフガンで数百人のアルカイダが活動しており、タリバンと連携している」と明記、「タリバンは米国と和平合意の交渉を進める際にもアルカイダと定期的に相談していた」とも言及し、タリバンとアルカイダが密接な関係を保っているとの見解を示したうえで、タリバンが国際テロ組織にアフガンを利用させないことを約束した2月末の米国との和平合意に反していると指摘し、アフガンでの和平協議の行方を懸念する内容となっています。アフガンにはタリバンに加え、アルカイダなど20を超えるテロ組織があるとみられ、アフガンのガニ大統領もタリバンにほかのテロ組織との関係断絶を求めているが、タリバンは応じる構えを見せていません。タリバンとほかのテロ組織との関係が絶たれない限り、アフガン政府と和平合意に基づく今後の統治に関する交渉の進展は望めないといえます。そのアフガン情勢については、和平合意に基づきアフガン政府は、タリバンの捕虜900人を解放したことが注目されます。今年2月の米国とタリバンの和平合意後も、政府軍とタリバンが激しい戦闘を続けているなか、タリバンがイスラム教のラマダン(断食月)明けの祝祭「イード」の期間、停戦を実施すると宣言したことを受けた措置で、政府側がこれまで解放した捕虜は約2,000人となりました(なお、そもそもの和平合意では、アフガン政府側がタリバンの捕虜を最大5,000人、タリバンは政府側の捕虜を最大1,000人、それぞれ解放した後、停戦に向けた協議を開くというものです)。なお、アフガン政府内でのガニ大統領とアブドラ元行政長官の対立による政権の混乱は、(トランプ大統領が今年11月の大統領選に向けた成果として米軍の完全撤収に意欲を示しており、和平進展を急がざるを得ない事情を背景とした)米国の介入によって、アブドラ氏がガニ氏を大統領と認める一方、自らは反政府勢力タリバンとの和解を担う評議会トップに就くという形で合意しました。とはいえ、両者の対立は解消されておらず、今後も閣僚人事等で紆余曲折が予想され、混乱は続くと見られています。このような混乱に、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)が乗じて跋扈する可能性が考えられますが、直近では、IS復活に向けた大々的な動向は報じられていません。いずれにせよ、本コラムでもたびたび指摘してきたとおり、政府の機能不全や内戦、宗派・部族対立による混乱といった「人心・国土の荒廃」がテロの温床となります。アフガンにおける米軍撤退という「力の空白」が生じ混乱を招くようなことがあれば、ISは各地のローンウルフやホームグロウン・テロリスト、世界中の信奉者やIS元戦闘員、外国人戦闘員などに思想的に呼び掛けていくことが容易に想定されるところです(思想に共鳴したテロが各地で続けば、人々の間に疑心暗鬼が芽生え、それがさらなるテロを生むという悪循環となり、そこにISが実効支配を強めていくという構図の再来が考えられます)。今できることは、テロ発生のメカニズムのネガティブ・スパイラルを絶つこと、「力の空白」をどう埋めていくかを真剣に検討することであり、これからが正に正念場となります。

さて、米国では、ミネソタ州ミネアポリスでの白人警官による黒人暴行死事件を受けて、各地で抗議デモや暴動が起きています。抗議デモが一部暴徒化していることも大きな問題となっていますが、これについて、トランプ大統領が「アンティーファ(ANTIFA)」と呼ばれる極左勢力が暴力行為を扇動しているとして「テロ組織に指定する」とツイッターで表明し、物議を醸しています。報道によれば、アンティーファは「反ファシズム」や「反グローバリズム」を唱える暴力集団で、これまでも国際会合の会場周辺などで警官隊を襲撃したり、社会不安をあおる目的で車両や商店を焼き打ちしたりするなどの行為を繰り返してきましたが、現行の法制では国内の組織や団体を「テロ組織」に指定する法的根拠がありません。また、アンティーファは指導者や構成員が明確な組織体ではなく、極左思想の持ち主がソーシャルメディアなどで緩やかに連なっているだけと指摘されるなど実態が明確でなく、実際にテロ組織に指定できるかは定かではありません(なお、アンティーファが「テロ組織」と認定する法的根拠がない、実態が不明確である、という2点においては、日本の「半グレ」のあり方に通じるものがあります。半グレもまた、現時点で「暴力団関係者」と認定する法的根拠がなく、アメーバ状の緩い組織であり、犯罪によって社会に恐怖と混乱をもたらしているからです)。直近ではトランプ大統領に加え、米司法長官も「アンティーファ」などの「過激な扇動者」や海外グループが米社会の分断拡大を図っていると指摘、「アンティーファなどの過激派集団や異なる政治的信念を持った組織が暴力的な活動に参加し、扇動している証拠がある」、「一連の暴動でアンティーファやその同調勢力により扇動され実行された暴力行為は国内テロであり、しかるべく対処する」、「海外組織もあらゆる面で関与しているようだ」と述べています。一方、2020年6月3日付ロイターの報道では、抗議デモに伴う破壊や略奪は、騒ぎに便乗した者による犯行が大半を占めると当局が分析していること、トランプ大統領らが主張する「極左集団による扇動」を示す証拠は限られており(可能性は言及されている)、アンティーファと対立する白人至上主義者らがインターネットを通じて暴力行為を呼び掛け、デモ参加者と治安組織との対立をあおっていると指摘しています。白人至上主義者もアンティーファも混乱に乗じて扇動している構図が見え隠れしており、どちらか一方のみとは言えない可能性があります。

昨年12月に米フロリダ州の海軍基地で米兵3人が死亡した銃撃事件で、連邦捜査局(FBI)は、容疑者の持っていたアップルのスマホ「iPhone」のロック解除に独自に成功したと明らかにしています。容疑者とアルカイダ系組織との関連をFBIが突き止めたのは、そのデータ解析の結果だったといいます。容疑者は犯行時、2台のiPhoneを所持、FBIはアップル社に対し、ロック解除への協力を求めてきたものの、アップル社からの協力は得られなかったということです。このFBIとアップル社を巡る「スマホロック解除問題」は以前から本コラムでも取り上げていたものです(暴排トピックス2016年5月号)。当時の本コラムから抜粋して紹介します。

プライバシー保護とテロリスクの緊張関係で言えば、米アップル社と米連邦捜査局(FBI)の間のスマホロック解除問題があります。現時点の状況としては、米アップル社が個人情報保護を理由にロック解除には応じない姿勢を貫いている一方で、FBIは第三者の協力で解除に成功しています(同社に対して捜査協力を命じる裁判所の命令は取り下げられました)。また、FBIは、別の違法薬物の捜査のためにスマホのロック解除をアップルに求めているニューヨーク州での訴訟を続けると表明したものの、こちらもロック解除が出来たため、結果的に取り下げています。これにより、緊張関係のバランスをどうとるべきかの議論が深まらないままとなってしまいましたが、引き続き、今後の議論や動向を注視していきたいと思います。(略)ISのようにSNSを巧みに利用した広報活動を容易に行わせないという意味で、これらのIT企業の対応は、テロリスクの封じ込めに「手を尽くして、できることを適切に実施していくこと」の重要性をあらためて認識させられます。さて、一方で、これらの問題は、プライバシー保護や表現の自由とテロリスクの緊張関係という視点だけでなく、テロリスクとソーシャルメディアのあり方という視点を提供するものでもあります。テロを称賛するような過激な書き込みにどう対処するか(例えば、米ツイッター社などのようにIT事業者の自立的な判断で削除すべきか否か、事後的に削除すべきか・拡散される前に削除すべきか等)、あるいは、(米アップル社などが拒んでいるような)テロリストの暗号解読に協力すべきか、といった争点について、積極的に削除や捜査協力を求める声が高まる一方で、ネット上の自由な投稿に自らの存立基盤を有している中で「自己検閲」することになりかねないとの懸念も根強いものがあります。(略)このように、捜査当局と事業者、あるいは利用者(一般市民)の間には、テロ対策と表現の自由や知る権利、プライバシー保護の間でまだまだ深い溝がありますが、テロリスクの高まりを背景として、テロ対策の緊急性や公益性の高さ、ソーシャルメディアのもつ活動助長性の高さを共通認識としつつ、乗り越えていかなければならない課題だと言えるでしょう。

(5)犯罪インフラを巡る動向

新型コロナウイルスによる経済の悪化で、生活に困窮した人を対象とする兵庫県社会福祉協議会の貸付金に申し込みが急増している状況がある一方で、この貸付金をうその書類でだまし取ったとして5月、40代の無職の男が県警に逮捕されています(2020年6月3日付朝日新聞)。困窮者にいち早く生活費を届けるための制度が審査の脆弱性を突かれた形(審査の脆弱性が「犯罪インフラ化」した事例)であり、残念です。報道の中で関係者が、「申請が殺到したため、普段のような審査ができない。窓口で聞き取った内容を信じるしかなく、事件は残念だ」、「審査を厳格にすれば、必要な人への貸し付けが滞る」とコメントしていますが、緊急性・社会的公平性・公共性と審査の厳格さの両立、犯罪インフラ化の阻止という極めて難しい課題をコロナ禍は突き付けています。同様の構図では、非正規労働者の待遇改善を支援する「キャリアアップ助成金」の不正受給が全国で横行していることも報じられています。大阪府警は4月までに指南役ら30人を詐欺容疑で摘発、急増する申請に対して、十分な審査を行う体制が整っていないことが不正受給の背景にあったとされます。報道によれば、「労せずしてもうかる国の支援制度がある」とコンサルタント会社顧問だった30代の男らは接骨院の事業主らを集めたセミナーで、こんな誘いの言葉をかけていたということであり、審査の甘さは周知の事実であったこと示すものでもあり、被害を早期に食い止めることができなかったのか、組織としての再発防止の徹底が求められるところです。

さて、SNSの犯罪インフラ化については、本コラムでも何度も指摘してきたところです。直近では、恋愛リアリティ番組「テラスハウス」の出演者だった女子プロレスラーがSNS上で誹謗中傷を受けて自殺した問題が波紋を広げており、あらためてSNSが内包するさまざまな問題がクローズアップされています。本件では、特にSNSという匿名性を隠れ蓑とした「誹謗中傷」、「言葉の凶器」、「匿名の悪意」、「ネットリンチ」、「指殺人」という残酷な状況が明るみになりましたが、(1)インターネット、SNS上で権利侵害を受けたときの被害救済の仕組みやSNS事業者の社会的責任をどう考えるか、(2)リアリティ番組の在り方をはじめとする放送局側に問題はなかったか、(3)誹謗中傷を受けた人のケア体制をどうすべきか、(4)SNS利用者のネットリテラシーの向上を図るべきではないか、といったところが大まかな今後の論点になるものと考えます。

論点(1)については、本件を受けて、ツイッターやフェイスブックの日本法人やLINEなどが加盟するSNSの事業者団体が、いち早く、他人への嫌がらせや名誉毀損を意図した投稿をした利用者にはサービスの利用停止などの措置を取るとの緊急声明を発表しました。声明では、利用者の「表現の自由」や「通信の秘密」を最大限尊重するとした一方で、被害者から投稿者を特定する情報の開示を求められた場合、法令に基づき適切な範囲で情報提供すると明記しています。さらに、国も素早い動きを見せており、総務省の有識者会議は、SNSで名誉毀損にあたる書き込みがあった場合、SNS事業者が被害者側に開示する情報に、書き込んだ人物の電話番号を加えることとし、匿名の書き込みの発信者を特定しやすくする方向で一致、開示ルールを定めるプロバイダー責任制限法の改正を視野に、7月に対策を取りまとめる方向となりました(もちろん、表現の自由を過度に規制することを意図するものではありませんが、被害者救済をしやすくする方向での法改正となります)。同法は、名誉毀損や著作権侵害といった情報をSNS事業者などが削除しなかった場合に、発信者情報の開示を請求できる権利を規定するもので、現在の省令では、氏名や住所、メールアドレスなどを開示させることが可能ではあるものの、事業者が氏名や住所などの情報を持っていないこともあります。一方、電話番号は事業者が把握していることが多く、開示対象に追加されれば、弁護士が電話会社に照会するなどして発信者の特定につながりやすいとされます(被害者側は電話番号がわかれば、弁護士を通じて携帯電話会社などに住所や名前といった発信者の個人情報を照会できるようになるため、裁判の手続きが1度で済むようになるメリットがあります。また、顧客情報として管理されている電話番号は、IPアドレスの保存期間よりも長く残っている場合が多く、発信者を特定しやすくなりますが、そもそもメールアドレスで本人確認を行うなど、利用者の電話番号を把握していないSNSでは、これまでと変わらないことになります)。なお、現行でも、不適切な投稿について「権利侵害が明らか」という要件を満たせば、事業者が自らの判断で不適切な投稿者の情報を、裁判手続きを経ずに開示する「任意開示」がありますが、その運用が事業者に任されており、訴訟リスクを孕むため実際にはほとんど開示される例はないようです。実際のところ、報道でツイッター社の日本法人は、「要件を満たしているか判断することが非常に困難だ」と説明しています。そもそも名誉毀損罪の成立には、不特定多数に具体的事実を示し、社会的評価を低下させる必要があることから、本件のように「消えろ」「気持ち悪い」などとする罵倒の類では適用は難しく、より具体的な本人をおとしめるような内容が必要とされるとの指摘もあります(そこまで徹底的に貶められないと法的に保護されないという点には、表現の自由との兼ね合いとはいえ、個人的には大変な違和感を覚えます)。さらに、有識者も「何が『中傷』に当たるかは個別事案ごとに当事者間で議論するのが基本で、公権力の介入が強まると言論空間の萎縮を招く」と警鐘を鳴らしていますが、そのような危ういバランスをとることの困難さがあるのも事実です。

論点の(2)については、リアリティ番組に公共性があるのかというそもそも論もあります。今回の件では、出演者が実名で人格を“ネタ”としてさらされ、攻撃も受けやすい「リアリティ番組」の問題性を浮き彫りになりましたが、このような番組は海外でも人気が高い一方で、出演者の自殺が続いており、番組側などの対策が求められるのは当然の流れと言ってよいと思われます。報道(2020年5月29日付毎日新聞)で、専門家が「実在する人間の人格や人間関係をエンターテインメントとして見せることに、リアリティ番組の構造的な危うさがある」と指摘していますが、正にそのとおりだと考えます。さらに、今回の件では、同番組を制作する会社が、出演者の行動の一部を切り取るような炎上を助長する編集を行い、ネガティブな側面を強調していたとも報じられています(出演者からも批判の声が上がっていたようです)。さらに、制作スタッフは、プロデューサーの方針に加え、視聴者の反応を測る意味で、ネット上の書き込みを参考にしていたとも報じられており、まさに番組を制作、放映する側の責任について問題がなかったとは言えず、今後のあり方を考える反省材料にしてほしいものだと思います。

さらに論点(3)の被害者のケア体制もまた急がれるところですが、一つの取組みとして、一般社団法人のセーファーインターネット協会が、インターネット上で誹謗中傷行為に悩む人から相談を受けるホットラインを6月下旬にもオンラインで始めると発表したことは注目されます。さらに、相談内容に応じて、投稿者やプロバイダー事業者に削除を要請したり、発信者情報の開示を請求したり、対応を助言、企業側にも迅速な削除や任意の開示を促すということです。報道で同協会は、「誹謗中傷は大きな社会問題だ。企業側も表現の自由や通信の秘密とのバランスに苦慮している。相談者との間に立って、適切な対応につなげたい」とコメントしていますが、このような取組みが拡がることを期待したいと思います。

最後の論点(4)のネット利用者のリテラシー向上は、永遠の課題であり、今後も継続的な政府広報や情報発信、さまざまな事例をとおしてより成熟した社会を目指していくことになります。過去、ある芸能人が悪質な書き込みをしていた男女7人を名誉毀損や脅迫の疑いで訴え、書類送検された事件がありました。ネット上の書き込みによる事実無根の誹謗中傷で一斉摘発された初のケースとなりましたが、この芸能人と面識がなかった容疑者らは「自分はデマ情報にだまされた被害者」と一様に訴えるなど、罪の意識は希薄だったことが分かっています。今回の件で、誹謗中傷を問題視する声が上がる中、自らの投稿に不安を感じた利用者らが弁護士に相談するケースも相次いでいるといいます。SNS上での発言に付きまとう「安易さ」は、リテラシーの未成熟さの表れでもあり、冷静になれば問題があることが分かる人が多い現状をふまえれば、「いかに安易な投稿をしないか」の視点からの投稿者・SNS事業者双方の対策が求められるといえます。なお、一つの参考として、新型コロナウイルスについて、さまざまな機関や媒体が発信する情報が明確で分かりやすいと思っている人はほぼおらず、約7割が信ぴょう性をチェックしていることが、立命館大学のサトウタツヤ教授(社会心理学)らがオンラインで実施したアンケートで分かったと報じられています(2020年5月19日付毎日新聞)。同教授は「知る必要が高まり、いろいろな媒体を使っているが、明確な情報があるとは思っていないようだ。疑いの目を持ち、情報をしっかりと見ているのでは」と分析しています。報道内容に厳しい目を向けて自立的・自律的にチェックするリテラシーが定着しつつある兆候だとすれば、今後に期待できる動きだと評価できると思います。

さて、SNSを巡る議論に関連して、米トランプ大統領のツイッターへの投稿について、ツイッター社が読者にファクトチェック(真偽確認)を促す警告を付ける措置を2度講じたこと、それに対し同大統領が、ソーシャルメディア企業を「厳しく規制もしくは閉鎖する」とけん制したことも大きな波紋を呼んでいます。ツイッター社は「オンライン上の言論とインターネットの自由の未来を脅かす」と反論しましたが、全く正しいスタンスだと思われます(一方、FB(フェイスブック)のザッカーバーグCEOは「FBもしくはインターネットプラットフォームが事実の仲裁人であるべきとは考えない。何が事実で何がそうでないかを決めることは危険な一線だ」として削除しない方向を示し、従業員も含め大きな反感を買っています。直近では、同CEOは方向性を修正する発言を行い、今後の動向が注目されます)。なお、米通信品位法230条は、SNS上で不適切な投稿があっても運営会社に法的責任は課さないことを定めています。その一方で、投稿の削除やアカウントのブロックは認められています。新型コロナウイルスの感染拡大ではSNS上のデマが世界を混乱させ、ネットリンチも過激化、過激テロ組織の勧誘や違法薬物売買、児童ポルノなど、SNSは犯罪の温床化、「犯罪インフラ化」が急激に進行する深刻な状況にあります。このような状況を看過することは許されず、悪意の排除に向けた運営会社の自主的取り組みは必要不可欠だと言えると思います。なお、米通信品位法230条については、2020年6月6日付ロイターの「ネット企業めぐり大統領令、トランプ氏は何を変えたいのか」に詳しく、例えば、「230条の中核的な目的は「双方向性のコンピューターサービス」のすべての所有者について、第三者が投稿したいかなるコンテンツについても法的責任を免責することにある。インターネット時代の幕開けのころ、新しい種類の通信サービスの出現を奨励するには、そうした保護が必要だという考え方があった。・・・主にネット空間のポルノを規制することを目的とした「通信品位法」の一部として成立した。この法律は事実上、あらゆるウェブサイト業者や関連サービス業者を、ユーザーが投稿したコンテンツを巡る訴訟から保護する。・・・230条を変えられるのは議会だけだ。2018年、同法は、性的人身売買に利用されたプラットフォームを訴えることができるように修正された。ネット企業の力が強まるにつれて、議会の一部からは、例えばテロ行為を称賛するコンテンツの拡散や、特定のヘイトスピーチを巡り、ネット企業に責任を取らせるよう法改正すべきだと提唱する動きがある。今回の大統領令は、230条の規定運用を明確化するよう米連邦通信委員会(FCC)に求めている。大統領令は、人を欺くような、差別的な、あるいはネット企業のサービスの条件と矛盾する行為を巡っては、企業は免責が取り消されるべきだとしている」と指摘しています。今後、SNSを巡って国内外の議論がますます活発化していくことが予想され、本コラムとしてもその動向を注視していきたいと思います。

前回の本コラム(暴排トピックス2020年5月号)でも指摘したとおり、コロナ禍においてサイバー攻撃が激化している状況があります。そもそも2019年に発生したデータの不正アクセスでは、最大の動機がスパイ行為ではなく金銭的利益だったことが、サイバー犯罪に関するベライゾン・ビジネス・グループの年次報告書で指摘されています。ロイターの報道によれば、報告書は81カ国で生じた事例32,000件超と確認済みの不正アクセス約4,000件の調査に基づき、不正アクセス10件中約9件が金銭的な利益が動機になっていたと分析しています。また、確認された不正アクセス件数は前年の倍に増加したといいます。新型コロナウイルス感染症の流行で外出が制限される中、企業へのサイバー攻撃は増加するとみられています。さらに、サイバー攻撃は企業を対象とするだけではなく、国と国との間の攻防に及んでいることも知っておく必要があります。最近では、三菱電機やNEC、神戸製鋼所、そしてNTTコミュニケーションズなどが不正アクセスを受けて顧客情報や個人情報が流出する事案が相次ぎましたが、共通して防衛省との取引が狙われたことが明らかになってきています。ここまでくるともはや企業に対する不正アクセス事案にとどまらず、国家安全保障上の脅威、「サイバー防衛」として取り組むべき問題であるといえます。実際のところ、日米安保条約第5条の適用について、昨年、日米は「サイバー攻撃が、一定の状況で、武力攻撃と見なしうる」と相互に確認しています(つまり、サイバー攻撃で日本の重要インフラや人的な被害が起きれば、日本への武力攻撃とみなし、条約に基づき米軍が相手国に反撃するといったシナリオが想定されているということです)。なお、国際間のサイバー攻撃を巡る報道としては、以下のようなものがありました。

  • 英格安航空会社(LCC)のイージージェットは、今年1月下旬にサイバー攻撃を受け、顧客約900万人のメールアドレスや渡航情報に加え、2,200人超のクレジットカード情報が流出したと明らかにしましたが、その手口などから中国のハッカー集団がサイバー攻撃に関与している疑いがあると見られており、この数カ月に複数の航空会社が狙われていたということです。過去の動きから金銭ではなく、特定の個人を追跡するための渡航情報の取得が目的とみられているようです。
  • 米国家安全保障局(NSA)は、ロシアが特殊な技術を用いてハッキングを行っているとして、政府当局や民間企業に警戒するよう呼び掛けています。報道(2020年5月29日付ロイター)によれば、最も影響を受けた業種や不正アクセスされた組織数、対象となった具体的な地域などは明かされていませんが、ロシア軍の情報機関であるロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)のハッカーが、リナックスなどユニックス系の基本ソフト(OS)に標準的に採用されているメール転送エージェント「イクシム」の脆弱性を狙ってハッキングを行っているといいます。なお、この脆弱性は昨年修正されたものの、一部のユーザーはアップデートしておらず、電子メールを読まれたり不正操作されたりする可能性があり、民間レベルでも注意が必要です。
  • 中国政府が関与するハッカー集団が、今年11月の米大統領選に向け民主党候補指名を確実にしたジョー・バイデン前副大統領陣営のスタッフにサイバー攻撃を仕掛けたと、グーグル幹部が、ツイッターへの投稿で明らかにしています。さらに、再選を目指すトランプ大統領陣営スタッフの電子メールアカウントが、イランからのサイバー攻撃を受けていたとも明かになりました。グーグル社は情報が盗まれた形跡はないとしています。前回の2016年の大統領選ではロシアが関与するハッカーが民主党全国委員会に攻撃を仕掛けて幹部のメールを流出させ、トランプ氏の対抗馬だったクリントン候補に不利な工作をしたとされます。今年の選挙ではロシアに加え、中国やイラン、北朝鮮によるサイバー攻撃への警戒感が強まっています。

コロナ禍に伴う生活苦に追い込まれた人たちが、犯罪インフラに取り込まれる事例も相次いでいます。本コラムで以前紹介し、注意喚起してきたものでは、例えば、知らぬ人同士がネットでつながりお金を貸し借りする「個人間融資」において、実態はヤミ金業者だったり、見返りに性行為を求めてきたりするケースも確認されています。また、「給与の前借り」などとうたい、事実上現金を貸し付ける「給与ファクタリング」についても違法な取り立てにあうといった被害が目立ち始めました。コロナ禍で困窮する人が増える中、多重債務に陥るケースが出る恐れも指摘されています。なお、直近では、「給与ファクタリング」は違法だとして、大阪府内の利用者8人が、東京、千葉、福岡の3都県の業者に計約720万円の支払いを求める訴えを大阪簡裁などに起こしています。報道によれば、法定の約50倍にあたる年利5,214%の利息を「手数料」として取られるケースもあり、利用者らは「新手のヤミ金だ」と批判、原告の男性らは、手数料が出資法が定める上限金利(年109・5%)を超え、貸金業の登録もしていないと指摘、取引は違法だとして、返済額全額の賠償などを求めています。一方で、銀行が「クラウドファクタリング」と呼ばれる金融サービスに注目している状況もあります。企業が取引先から代金を受け取る権利(売り掛け債権)を業者に売る「ファクタリング」を、オンラインの手続きのみで完結できるようにしたサービスですが、銀行融資などと比べてより早く現金を手にできるとして、新型コロナウイルスの影響で資金繰りに悩む中小企業の間でも利用が増えているものです。銀行側にとっては、人手をかけずに一定の手数料がとれるため、長引く超低金利環境下で注目されるのも理解できるところですが、「給与ファクタリング」の犯罪インフラ化をふまえれば、「ファクタリング」そのものの規制の厳格化も検討すべき状況にあり、慎重な対応を求めたいところです。

その他、犯罪インフラに関する報道から、いくつか紹介します。

  • 外国人専門の中堅の人材派遣会社とグループ会社が、外国人の入国手続きで虚偽の雇用契約書を提出する不正をしていた疑いがあると報じられています(2020年5月20日付朝日新聞)。出入国在留管理庁(入管庁)の名古屋出入国在留管理局から受託し、公的な窓口業務などを担っているところ、日本で技術者や通訳として働く外国人向けの在留資格「技術・人文知識・国際業務(技・人・国)」を得やすくするため、虚偽の雇用契約書を作成していたというものです。事情を知らないまま来日した外国人の中には、日本で予期せぬ職探しを迫られるケースもあったといいます。現在、名古屋入管が事実関係を調査しているということです。公的手続きの杜撰さが、犯罪に悪用されてはなりません。
  • 生物兵器などに転用が可能な噴霧乾燥装置「スプレードライヤー」を中国に不正に輸出したとして、外為法違反(無許可輸出)容疑で横浜市の精密機械製造会社「大川原化工機」社長ら同社の3人が逮捕された事件で、警視庁公安部は、韓国にも同種の装置を輸出したとして、3人を同容疑で再逮捕しています。経済産業省の許可を得ず、自社製スプレードライヤー(輸出価格約800万円)を韓国の大手化学製品メーカーに輸出したというもので、同社から第三国への転売は確認されていないということです。兵器への転用が可能なことを知りながら不正輸出を行う行為はまさに犯罪インフラ的であり、問題は大きいと考えます。
  • 中部国際空港で4月中旬、韓国から輸入された電動工具の中に金塊約18キロ(約1億円相当)が隠されているのが見つかり、名古屋税関が押収したということです。報道によれば、密輸の疑いがあり、税関と愛知県警が関税法違反や消費税法違反などの容疑で調べているといいます。本コラムでもたびたび紹介してきたとおり、海外から持ち込む際は10%の消費税を納める必要があるところ、密輸して転売することで、消費税分の利ざやを稼ぐことができる「犯罪インフラ」になりかねない脆弱性を有しています。金は「有事の安全資産」と言われ、新型コロナウイルスの感染拡大で需要が高まり、価格が上昇傾向にある状況下であり、同様の事件が多発することへの警戒が必要な状況だといえます。なお、本事件では、金塊は航空貨物として電動工具十数点の中に分けて隠され、工具の構造に合わせて成形されていたということです。薬物の密輸同様、巧妙に隠匿してくる犯罪者に対して、税関が水際で摘発しており、頼もしい限りです。
(6)その他のトピックス
①暗号資産(仮想通貨)を巡る動向

本コラムでは、ここ最近、米FBの構想する米ドルなどの法定通貨に裏打ちされたデジタル通貨「リブラ」を巡る議論、そこから拡がる国際的な「ステーブルコイン」の議論について取り上げています。直近では、中央銀行が発行するデジタル通貨などの課題を議論する検討会が発足したことが注目されます。

▼DeCurret(ディーカレット) 日本におけるデジタル通貨の決済インフラを検討する勉強会を開催

本リリースによれば、近年、分散型台帳技術を活用した民間企業によるデジタル通貨発行、一部の中央銀行の動き等もあり、デジタル社会に適したデジタル通貨決済の効率性、利便性への期待が高まっているところ、同時にプライバシーの確保、犯罪防止対策、技術的リスクなどの懸念も出てきており、日本における価値あるデジタル通貨実現の方向性が求められているとの問題意識をふまえ、日本において価値あるデジタル通貨でのデジタル決済インフラの実現を目指すための勉強会を6月から9月にかけて開催するとしています。なお、本勉強会は、3メガバンク、国内主要企業、有識者等の参加者(報道によれば、JR東日本やNTTグループ、セブン&アイ・ホールディングスなど、オブザーバーとして日銀や財務省、金融庁、総務省、経済産業省など)により構成され、「デジタル通貨やデジタル決済インフラに対する課題と解決方法の検討、議論を進め、実現に向けた合意点を見出し、サービスやインフラの標準化の方向性を示すことを目的」としているということです。また、主要な論点としては、「国内外におけるデジタル決済、デジタル通貨の実例研究」、「ブロックチェーン、分散型台帳技術など新しいデジタル技術の取引・決済インフラへの応用、デジタル通貨決済の潜在的な活用領域とその効果、望ましい姿、将来の可能性」、「サービス提供範囲、利用価値の対価、提供者・関係者の役割、標準化など実現における課題」が予定されています。本コラムでもこれまで指摘してきたとおり、中国などはすでに中央銀行が発行するデジタル通貨の実証実験を始めており、日銀も欧州中央銀行(ECB)などと共同研究をしていますが、「通貨発行権」という経済政策の根幹にかかわる問題はもちろん、FBのリブラ構想のような民間のデジタル通貨と中央銀行によるデジタル通貨が競合するようになれば、「民間銀行」を衰退に追い込むことにもなりかねません。また、この議論では、銀行やキャッシュレス業者がそれぞれ発行するデジタル通貨の相互利用についても取り上げられるようです(なお、3メガバンクとJR東日本などが、デジタル通貨や電子マネーの相互利用に向けた検討を始めるとの報道もありました。3メガのデジタル通貨をJR東のSuicaと連携できるようにする方向だといいます)。民間のデジタル通貨は店ごとに使える通貨が異なるほか、個人間の送金もできないことが普及を妨げており、「デジタル円」の導入を通じて、相互利用を可能にする方法などを検討するといいます。当然ながら課題も多く、デジタル通貨や電子マネーが預金口座と双方向につながれば預金保険の適用やAML/CFT、プライバシー保護、サイバー攻撃による窃取リスクへの対応なども急務です。このようなさまざまな課題を抱えながらも、利便性と安全性のバランスをどうとるか、「日本にとって最適な金融インフラをつくるにはどうしたらいいか」(元日本銀行決済機構局長の山岡浩巳座長)、課題の解決や今後の具体的な導入につながる実りある議論を期待したいところです。

なお、中央銀行が発行するデジタル通貨(CBDC)に関する論考としては、2020年5月23日付ロイターに掲載されたコラム「コロナで加速するキャッシュレス化、中銀は対応急げ」も興味深いものでした。新型コロナウイルス感染拡大がもたらした新しい生活様式として、「汚れた紙幣を捨て去り、より接触が少ない買い物手段に乗り換えている」こと、「消費者がいったん変えた習慣は、そのまま定着することが少なくない。ニールセンによると、中国の消費者の90%近くは、パンデミック収束後も必要な品物をネットで買い続けると話している」こと、新興国などでは保管価値に対する国の裏付けの必要性から現金が重視されているものの「今回のパンデミックで、紙幣や硬貨がやがて旧時代の遺物と化す流れが、確固としたものになろうとしている」ことなどから、現金からCBDCの普及に弾みがつくのではないか、現金の脱税や金融犯罪への悪用リスクの低減につながる可能性があるといったものです。なお、関連して、「国際決済銀行(BIS)が4月3日に公表した報告書によると、新型コロナウイルスのパンデミックに伴って、人々の間で現金を通じてウイルスに感染するのではないかとの懸念が高まっており、インターネットでは「現金」と「ウイルス」とで検索した事例が過去最多を記録した」こと、「アイルランド中央銀行のデータに基づくと、4月第1週の現金引き出し額は3月第1週に比べて57%減少。フランスの通信会社オレンジは、同国がロックダウン(封鎖)に突入した3月に、モバイル決済額が前月比60%増加」したこと、「スウェーデン中銀は2月、デジタル法定通貨「eクローナ」の試験運用を開始したと発表」したことなども参考になります。

その他、暗号資産(仮想通貨)やCBDC等を巡る最近の報道から、以下を紹介します。

  • 中国人民銀行(中央銀行)総裁は、電子的な法定通貨「デジタル人民元」について、「いつ正式発行するかというスケジュール表はまだない」と述べています。市場でくすぶる早期発行観測を打ち消した形ではありますが、報道によれば、デジタル人民元の設計は「基本的に完了した」と述べたほか、現在、実証試験でシステムの安定性などを検証していると説明し、発行準備が順調に進んでいることをうかがわせるものでもあります。ただ、こうした検証は「研究開発過程で、正式発行を意味しない」とも指摘し、かなり慎重な姿勢を見せています。
  • 報道(2020年5月27日付読売新聞)によれば、米FBが発行計画を主導する暗号資産「リブラ」に関連し、リブラの保管や送金に使うサービスの名称を「カリブラ」から「ノビ」に変更したと発表しています。名称を変えた理由は明らかにしていないものの、暗号資産の名称と似ており、FBとの関係の深さを問題視されるのを避けるためとの見方が出ているようです。など、サービスの構想は変更しないということです。
②IRカジノ/依存症を巡る動向

新型コロナウイルスの感染が世界的に広がり、前回の本コラム(暴排トピックス2020年5月号)でも紹介したとおり、IR運営の米最大手のラスベガス・サンズが、日本での事業参入を断念したと報じられました。日本では1兆円規模の投資を計画していたものの、新型コロナウイルスの感染拡大で業績が悪化したことが響いたこと、日本での参入が認められても、付与される事業免許の有効期限が短く、収益性に問題がある点なども断念の理由であるとされます。最大手の参入断念は、ほかのIR事業者も新型コロナウイルスによる収益悪化の構図は同じであり、今後の動向が注目されます。関連して、すでに事業者が1つに絞られた大阪(大阪府・大阪市)については、松井市長が、2026年度末としていた開業時期が1、2年延期されるとの見通しを示しました。報道によれば、新型コロナウイルスの影響で参入を目指す事業者との協議が進んでいないこと(事業者である米MGMゾーツ・インターナショナルが来日できない状況が続いているようです)を理由に挙げ、「投資余力が落ちているということも勘案しながら開業時期を見定めていきたい」と述べています。さらに、6月に予定していた事業者決定の日程も3カ月延期したものの、協議はほぼ進んでおらず、事業者を決められる時期も見通せないといいます。一方、国は2021年1~7月に自治体から区域整備計画を受け付け、最大3カ所の開業を認めるスケジュールについて、現時点で変更の予定はないとしています(ただし、政府はIRに関する基本方針の決定を7月以降に先送りすることを決めました。当初は1月に決める予定だったところ、すでに半年以上の遅れが確定、感染の状況次第でさらに後ろにずれる可能性も否定できない状況です)。なお、日本側の事業者であるオリックスも、松井市長の発言を受けて、「決められたスケジュールに従って、これまでと変わらず(参入に向けた)検討を進めていく」とのコメントを発表していますが、同社の井上社長が、5月22日の決算説明会で、新型コロナウイルスの影響でMGMの米施設が閉鎖されている事実などを踏まえ、「IRがオリックスにとって良い投資になるのか、再検討している」などと、大阪IRの参入に慎重ともとれる発言を行っていたことも見逃せません。アフター・オリンピック、アフター万博における経済政策の目玉と位置付けられるIRですが、目下の新型コロナウイルスの感染拡大とアフター・コロナにおいて実現可能なのかというところまで先行き不透明感が増しています。

なお、和歌山県についても、IRの事業者公募で、応募してきた2社からの提案審査書類の提出期限を約1カ月半、先送りすると発表しています。11月中旬を予定していた事業者選定も来年1月ごろまで延期するといいます。提出期限については、当初、8月31日としていたところ、新型コロナウイルス対策で県境を越えた移動が制限された影響などを考慮したということです。

一方、横浜市については、すでに実施方針の公表を6月から8月に変更することを公表していますが、横浜市がIR誘致に関する市民説明会で実施した参加者対象のアンケートを分析したところ、4割近くが「反社会的勢力の関与」や「治安悪化」に不安を抱いていることが明らかになっています。依存症・治安対策の周知を目的に始めた説明会であったところ、これらの理解を深めることができたと回答した人は1割未満と、懸念の払拭には至っていない現状が浮き彫りになっています。

▼横浜市 IR(統合型リゾート)市民説明会の開催について

本ページではすでに実施された区ごとのアンケート結果が見られますが、例えば最もアンケート回答数が多かった港北区では、「理解が深まった」が8.7%、「全く深まらなかった」が27.2%、「分かりづらかった内容」(複数回答、有効回答数340)として、「依存症への具体的な対策」(124)「治安への具体的な対策」(109)が上位を占めているほか、「あなたや家族・友人など身近な人たちにとって、IRはどのような部分に不安を感じますか」(複数回答、有効回答数311)について、「反社会的勢力の関与」(130)、「周辺地域の治安悪化」(122)、「依存症の増加」(118)、「横浜市のイメージの悪化」(99)が上位を占める結果となりました(なお、同程度に回答数が多かった神奈川区の結果も、「理解が深まった」が19.3%、「全く深まらなかった」が17.0%とやや異なる以外は、ほぼ同じ傾向となっています)。自由記述の内容を見ると、反対意見が圧倒的に多い(罵詈雑言をはじめ激烈な内容も多い)うえ、説明会当日の反対派の「野次」がものすごかった様子が伝わります。したがって、説明会に出席された方のスタンスを考えれば、アンケート結果もこのような傾向となることも理解できるところですが、反社会的勢力の関与がもっとも大きな不安である点については、不安を払拭するためにより丁寧な説明が求められていること、説明責任を果たすためにも、より一層厳格なチェックを行うべきことをふまえた対応が必要だと思われます。とりわけ、以前の本コラム(暴排トピックス2019年9月号ほか)で以下のような主旨の指摘を行っていますが、ぜひとも検討いただきたいところです。

  1. カジノ事業における反社会的勢力排除に向けた取り組みの視点(本質論)
    大前提としてカジノ事業に求められているのは、「世界最高水準の廉潔性・適格性」「十分な社会的信用性」。一方、法令およびガイドラインで求められているのは、「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成3年法律第77号)第2号第6号に規定する暴力団員又は同号に規定する暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者(以下「暴力団員等」という。)」の排除であるが、以下の視点が必要ではないか。

    • 法令およびガイドライン上の要請は「暴力団員等の排除」だが、それだけでよいのか。
    • たとえば、暴力団員等との関係がうかがわれる「共生者」や「半グレ」、「特殊詐欺グループ」などは「十分な社会的信用性を有する者」とは言えないし、世界最高水準の廉潔性・適格性という観点を加味すれば、本来的には、事業者のこれまでの反社会的勢力排除の取り組み以上のレベル感で取り組むべき。
    • 反社会的勢力の実態をふまえれば、KYCでは不十分、KYCC(実質的支配者の確認)まで踏み込むべき。
    • 事業の長期的な安定性・継続性をふまえれば、高いレベルでの「中間管理」(適切な事後検証/継続的な顧客管理))が求められると認識すべき。
    • あわせて、中途で排除すべき事情が発生した場合、「適切な排除」を実施する体制も求められる
    • 法令およびガイドラインの趣旨をふまえ、「事業者が自ら高いレベル感を設定して取り組むべき」
  2. 背面調査
    • 個人が「暴力団員等」に該当しないことを確認するだけで十分なのか
    • 反社リスクの現状をふまえれば、レピュテーション・リスクは大きく、反社会的勢力の範囲を拡大して調査を行い、個別に判断していくことが望ましい。法人を構成する役員個人のチェックが課されているのみであるが、法令およびガイドラインの趣旨をふまえれば、法人自体の廉潔性・適格性についても十分確認すべき(事業者の自主的な取り組みとして実施すべき)
    • 法人の場合、実態として、その役員に暴力団員等が就任しているケースよりも、「実質的支配者」やその周辺者に問題があるケースのほうが圧倒的に多く、いずれのケースでも発覚すれば「カジノ事業自体のレピュテーション」を大きく毀損する可能性がある
    • 自治体としては、法令およびガイドラインの趣旨をふまえ、法人も含む、広範囲かつ相応の深度のある(調査対象を可能な限り拡大して)背面調査を実施したうえで、その適否を判断していくことが望ましいといえる
  3. IR事業者と事業者との契約
    • 個人の属性のスクリーニングだけでなく、個人・法人の風評や過去の記事検索など「手を尽くして」ネガティブ情報を収集したうえで、カジノ事業に求められる「廉潔性・適格性」「十分な社会的信用性」の観点から、「取引してよいか」「関係をもってよいか」判断していくことが求められている
    • 契約の相手方について、法人および役員(背面調査と同等)双方の廉潔性・適格性について十分確認すべき
    • 事業者として通常実施している反社チェックのレベル感以上で取り組むことが望ましい
    • 実質的支配者、KYCCの観点からどこまでチェックすべきかについては今後の課題(たとえば、建設における重層的な下請構造における反社チェックのあり方など)
    • 中間管理としての「定期・不定期のチェック」の運用を厳格に行うことも重要
  4. 入場時のチェック
    • そもそも暴力団員等のみ入場を認めないとの運用でよいか
    • カジノ事業者として「入場を認めない反社会的勢力」をどの範囲とするかは自主的な判断に委ねられている(範囲を拡大すれば、「スピード」「認定」「排除」が困難になる傾向はあるが、誓約書以外にも、施設管理権の一環として、あらかじめ入場規制が「事業者の裁量」のもと規定されている点を広く周知しておくなども工夫も必要)
    • 証券業界や銀行等がすでに接続している警察庁のDB(データベース)の活用が(あるいは都道府県公安員会等との連携なども)考えられるところ、IR事業者とのDB接続については現時点ではハードルが高いことや、接続できても「精確な回答」までに時間を要すること、本人確認の方法など、速やかな入場禁止措置の手段としては課題が多い
    • 当社のような民間の反社会的勢力に関するDBを活用する場合、本人かどうかの「同一性」をどの程度の情報で判断するか、(警察の情報提供による根拠が不十分な中で)タイムリーにその場からどのような形で排除するのか(同一性や排除の根拠を巡るトラブルが考えられ、実務的にどう対応すべきか)など、今後、十分な検討が必要

なお、横浜市のサイトにIRに関するFAQが掲載されていますので、あわせて紹介しておきます。

▼横浜市 新型コロナウイルス感染症に関連した「IR(統合型リゾート)」に関するよくあるご意見・ご質問
問1.IRに関する作業をとめて新型コロナウイルス感染症対策に注力するべき

  • 日本型IRは、観光の振興、地域経済の振興等に寄与する事業であり、人口減少、超高齢社会の進展、経済活力の低下など、横浜の将来的な課題に向けて、2020年代後半の実現を目指して進める必要があると考えています。
  • IRについては、区域整備計画の認定申請期間が令和3年の1月4日から7月30日と示されている中で、予算の議決をいただきながら、6月の実施方針等の公表に向けて作業を進めてきました。
  • 現状では、国も、また横浜市としても、1日も早く事態を収束させることを第一として、新型コロナウイルス感染症対策に全力で取り組んでいます。
  • その上で、IRという国家的なプロジェクトを、国と一体となって進めていくために、こうした状況を総合的に勘案し、実施方針等の6月公表を2か月遅らせ8月とするなどスケジュールを工夫しています。
  • 引き続き、市民の皆様への説明を丁寧に行いながら、事業を進めていきます。

問2.IR事業の令和2年度予算を減額して、新型コロナウイルス感染症対策などに振り向けるべき

  • IRについては、「横浜IRの方向性」や「実施方針」の公表を6月から8月に2か月遅らせましたが、最終的に令和3年の7月30日までに国へ区域整備計画を認定申請するということで進めていますので、現在のところ予算の減額は考えていません。
  • 新型コロナウイルス感染症対策については、今後もしっかり実施していきます。

問3.IR事業を中止し、その人員を新型コロナウイルス感染症対策などに振り向けるべき

  • 現状では、1日も早く事態を収束させることを第一として、新型コロナウイルス感染症対策に全力で取り組んでいます。
  • その上で、将来の横浜の経済のためにIRを進める必要があり、そのための実施方針の策定や横浜IRの方向性等の公表、パブリックコメントの内容集計などの作業も行っています。

問4.新型コロナウイルスなどの感染症に脆弱でリスクの高いIR事業はやめるべき

  • IR事業は、長期間にわたって、安定的で継続的な事業の実施を確保することが必要であることから、感染症や災害など、さまざまなリスクを想定し、対策を行う必要があります。今後、策定する区域整備計画等に具体策を盛り込んでいきます。

問5.新型コロナウイルス感染症の影響で延期になっているIR市民説明会を全区で実施するべき

  • 18区で行う予定の市民説明会は、現在は新型コロナウイルス感染症拡大防止に係る対応方針に基づき、6区で延期となっており、新型コロナウイルス感染症の発生状況を踏まえ、再開について検討していきます。
  • 今後も感染症対策に全力で取り組み、市内での発生状況等も注視し、市民の皆様 にご理解を深めていただくための説明を丁寧に行いながら、事業を進めていきます。

さて、香川県が制定した「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例」について、その違憲性が問われる事態となりました。高松市の男子高校生(17)と母親が今夏にも香川県を相手に訴訟を提起するといい、報道(2020年5月20日付毎日新聞)によれば、「代理人弁護士によると、親子は保護者の第一義的責務を定めた第6条と、子供のゲーム時間の目安を定めた第18条の違憲性を提起。いずれも制定過程から「家庭への介入ではないか」などと批判や疑念の声が上がっていた条文で、憲法13条が保障する幸福追求権やプライバシー権、自己決定権などの侵害にあたると主張している。条例18条については政府が3月、「ゲーム時間の制限に係る有効性及び科学的根拠は承知していない」とする見解を示している。親子はこれを根拠に「条例の目的に科学的な正当性が認められない」と指摘。国が同様の時間規定を盛りこんだ立法措置を予定していないことも踏まえ、「条例は法律の範囲内」とした憲法94条に反しているとも訴えている」との論旨のようです。

▼香川県弁護士会 「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例」に対する会長声明(R02/05/25)

また、香川県弁護士会も、「本条例18条2項は、憲法13条が定める子ども及びその保護者の自己決定権を侵害するおそれがあり、教育の内容及び方法に対する公権力の介入は抑制的であるべきという憲法上の要請に違反し、さらに児童の権利に関する条約(以下「子どもの権利条約」という)に基づき、我が国においても最大限尊重されるべき「児童が文化的及び芸術的な生活に十分に参加する権利」及び「子どもが意見を聴取される権利」を損なうものとして、到底、看過できない」、「香川県の小中学生が、全国平均に比して学業成績が低下しているとの事情やそれがインターネットないしコンピュータの過剰な使用によるとの事情は認められず、他の都道府県が特に条例で規制を設けていない中で、これを行う必要があるほどに香川県においてネット・ゲーム依存症が「大きな社会問題となっている」との社会的事実を見いだすことはできない」、「インターネット及びコンピュータゲームは子どもたちの知的好奇心や創造性をはぐくむとともに、今後の生活に必須となる情報通信技術に興味関心を持たせる契機としての正の側面も有するものであり、本条例においてこれらの有用性が十分に考慮されているとはいえない」、「自己決定権の観点からは、子どもが保護者の下で余暇・レクリエーションの時間をどのように過ごすか、そして保護者がどのような教育方針に基づいて子どもに教育を行い、いかに育てるかは、いずれも個人の尊厳に関わる人格権の一内容として十分に尊重されなければならず、公権力がむやみに介入するべきではない」、「ルールの根幹を為す使用時間(1日当たりの使用時間、夜間の使用制限)については、同条2項において「目安」という表現こそ用いられているものの、実際には一律の具体的数字を提示した上でルールづくり及びその遵守を求めるものであり、同文言は、家庭内のルールづくりにおける保護者の裁量行使を委縮させ、子どもの具体的意見がルールづくりに反映されることを妨げるものであって、本条例18条2項の規定は、実質的に子どもの権利条約12条が子どもが意見を聴取される権利を保障する趣旨に違背するものである」などとその違憲性について厳しく指摘しています。

▼香川県 県民の声 ご提言の内容

それに対して、香川県は「県民の声」に回答する形で、「「平日は60分まで」などの利用時間については、令和元年11月に国立病院機構久里浜医療センターから公表された全国調査結果において、平日のゲームの使用時間が1時間を超えると学業成績の低下が顕著になることや、香川県教育委員会が実施した平成30年度香川県学習状況調査において、スマートフォンなどの使用時間が1時間を超えると、使用時間が長い児童生徒ほど平均正答率が低い傾向にあるという結果などを参考に、基準として規定されたものである」こと、「条文の見出しである「子どものスマートフォン使用等の制限」について、「制限」が「家庭におけるルールづくり」に修正されるとともに、家庭におけるルールづくりの「基準」とされていた「平日60分まで」などの利用時間や「午後9時まで」などの使用の終了時間は、「おおよその基準」を意味する「目安」に修正」されていること、「このような家庭で決めたルールを保護者が子どもに遵守させるよう努めていただくことを目的としたものである」ことなどを説明しています。

今後、司法の場でどのような判断がされるのか、注目したいと思います。なお、秋田県大館市も香川県と同様の条例の制定を準備していたところ、訴訟が提起される見通しとなったことを受け、策定を一時中断、「条例化は必要」だが訴訟の行方を注視すると報じられています。

(7)北朝鮮リスクを巡る動向

前回の本コラム(暴排トピックス2020年5月号)では、国連安全保障理事会(国連安保理)が、北朝鮮制裁委員会の下で制裁違反を調べる専門家パネルの年次報告書について紹介しました。そこでは、北朝鮮が瀬取りによる石炭の密輸出、IT関連の出稼ぎ労働者等を外貨獲得のために世界各地に派遣していること、高級車や酒など高級品の密輸入、北朝鮮が関与している可能性がある暗号資産交換所の存在などが指摘されており、本コラムは、「中国やロシアが「意図的に」手引きして(便宜を図って)いる実態が浮かび上がっており、そもそもの北朝鮮に対する制裁の実効性が無効化されてしまっている(制裁は面で行われるべきところ、1か所でも抜け穴があれば全体が無効化されてしまう脆さもあります)といえます」と指摘しました。

直近においては、米司法省が、北朝鮮に対する制裁を逃れ、核・弾道ミサイル開発の資金調達などのため25億ドル(約2,700億円)以上のマネー・ローンダリングなどを行ったとして、北朝鮮の朝鮮貿易銀行元幹部ら北朝鮮人28人、中国人5人を起訴したと発表しています(米検察が朝鮮貿易銀行の海外秘密口座から見つけ出して凍結した資金だけで6,351万ドルにものぼります)。報道(2020年5月29日付産経新聞、同31日付中央日報など)によれば、北朝鮮制裁違反の摘発では過去最大の金額だといいます。なお、朝鮮貿易銀行については、北朝鮮の核・ミサイル開発資金源として米地当局によって制裁対象に指定されています。今回起訴されたのは、北朝鮮の貿易決済銀行「朝鮮貿易銀行」の元総裁や元副総裁、タイで銀行の秘密支店を運営した元情報機関員ら33人で、海外にある同行のフロント企業や秘密支店を使って北朝鮮の資金調達を支援していたということです(この33人についても、ほとんどが米当局により制裁対象に指定されています)。このマネー・ローンダリングのネットワークは中国やタイ、ロシア(モスクワ・ウラジオストク・ハバロフスク)、オーストリア、リビア、クウェートなど世界各地に展開されているともいい、北京では現在も秘密支店が活動を続けているとされます。今回の摘発によって、米朝の非核化協議の膠着状態が続く中、北朝鮮の核・弾道ミサイル開発に一定のダメージを与えることができたと評価できる一方で、これだけ世界中に広範なマネー・ローンダリングのネットワークを張り巡らせていたことが明らかとなり、まだまだ「氷山の一角」に過ぎないであろうこと、そして(国連安保理の専門家パネルの指摘もある)北朝鮮制裁の難しさの一つである中国やロシアの深い関与があり、米当局が警告を発したに過ぎないこと、などもあわせて考えておく必要があります。

また、前回の本コラム(暴排トピックス2020年5月号)でも紹介しましたが、今年4月中旬、米政府高官は、北朝鮮によるサイバー攻撃の恐れがあると警告し、銀行など金融機関に対し特に警戒するよう呼び掛け、米国務省、財務省、国土安全保障省、連邦捜査局(FBI)が共同勧告を発表しています。勧告が出された理由は不明ですが、北朝鮮のハッカーは金融機関を標的にしていると非難されているところ、国務省は電子メールで、今回の勧告は「北朝鮮のサイバー攻撃による驚異に対抗するための」望ましい措置を提供したとしていました。これについて、報道によれば、北朝鮮外務省は声明で「米国が言及しているいわゆる『サイバー上の脅威』に、わが国が何ら関係していないことを明確にしたい」と指摘したということです。また、米政府は核ミサイル問題や人権問題、テロリストへの資金援助やマネー・ローンダリングを巡る非難などとともに、サイバー攻撃に関する疑惑を攻撃の手段に用いようとしているとし、「わが国のイメージを汚し、揺さぶりをかけること」が目的だとしています。

北朝鮮を巡る最近の動向としては、北朝鮮で朝鮮労働党中央軍事委員会拡大会議が開かれ、金正恩朝鮮労働党委員長が出席し、核抑止力を一層強化するなどの新たな方針が示されたことが特筆されます(正恩氏の動静を巡る憶測が飛び交ったことは記憶に新しいですが、本件も前回の肥料工場の視察報道から22日ぶりとなりました)。報道によれば、会議では「敵対勢力の持続的な軍事的脅威」を牽制するため、軍事技術の向上や新部隊の編成などについて討議したといい、「核抑止力を一層強化し、砲兵の攻撃能力を決定的に高めるための重大な措置を講じた」ということです。米朝交渉の停滞で制裁解除が望めず、厳しい経済状況に新型コロナウイルスが追い打ちをかけるなか、核や弾道ミサイル開発の強化を強調して国内の引き締めを図ったと考えられます。さらに、北朝鮮の朝鮮労働党統一戦線部報道官が、「開城の北南共同連絡事務所を撤廃する」との談話を発表したことも注目されます。この連絡事務所を巡っては、金正恩党委員長の妹の金与正党第1副部長が4日に出した談話で、北朝鮮にまかれている正恩氏批判のビラへの対応を韓国側に求め、閉鎖を示唆していたものです。なお、報道官談話は、与正氏を「対南事業を総括する第1副部長」と位置付けたうえで、与正氏が事務所閉鎖などを検討するよう5日に指示したと報じられています。与正氏については、正恩氏の動静不明の時期に後継者の一人と浮上した人物ですが、健康不安説や後継者問題などがくすぶっていることもあらためて視野に入れておく必要があると思われます。このあたりは、前回の本コラム(暴排トピックス2020年5月号)でも、「いったん軍部や金正恩氏の一族、さらに事態に便乗しようとする勢力の間で権力闘争が始まれば、北朝鮮内外で暴力的な動きが発生してもおかしくないということです。そこに、中国や米国、韓国がそれぞれ有利な立場を獲得しようとすることで、事態が複雑化するのも目に見えています。さらには、金正恩氏体制下での暫定的な市場経済導入の動きも頓挫する恐れがあります。やはり、金正恩朝鮮労働党委員長は、姿を見せても動静が不明でも常に世界を不安に陥れる存在であることは間違いなく、世界も徒に振り回されることのないよう、情報収集と分析を抜かりなく行っていくことが重要だ」と指摘しています。

その他、北朝鮮を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 2016年に17都府県のコンビニの現金自動預払機(ATM)から18億円超が偽造カードで引き出された事件で、直後に日本を出て北朝鮮に入国した男が「偽造カードをばらまいた」などと話していたことが分かったと報じられています(2020年4月5日付共同通信)。警察庁に国内の他の捜査機関から情報が寄せられ、男が主導的に事件に関与した疑いがあり、警視庁が捜査したといいます。この事件は南アフリカの銀行から不正取得した顧客情報を悪用、約1,600カ所のコンビニなどのATM約1,700台からわずか2時間で引き出されており、当初から国際犯罪組織と国内の指定暴力団6団体(六代目山口組・稲川会・五代目工藤會・七代目合田一家・道仁会・神戸山口組)が組んだ大がかりな構図が指摘されていたものです。
  • 宇宙分野を専門的に扱う自衛隊で初の部隊「宇宙作戦隊」が、航空自衛隊府中基地に発足しています。報道によれば、人員は約20人で、宇宙ごみ(スペースデブリ)などが人工衛星にぶつかる危険がないかを、レーダーなどで監視することが任務となるといいます。衛星が壊れれば気象観測や航空管制など広い分野に影響するほか、防衛上の情報収集もできず、北朝鮮のミサイル対応にも影響しかねないこと、デブリだけでなく、他国には衛星を攻撃できる装置をつくる動きもあり、こうした脅威から日本の衛星を守ることが新部隊の役割だとされています。
  • 総務省消防庁は、ミサイル発射や災害情報を国から自治体に伝える全国瞬時警報システム(Jアラート)の今年度1回目の一斉伝達試験を実施しています。新型コロナウイルスへの対応で繁忙なことなどを理由に、埼玉県内と東京都内の自治体は不参加だったということです。本コラムでもたびたび紹介しているとおり、Jアラートは、人工衛星や地上回線を通じて国が緊急情報を自治体に配信、自治体が、Jアラートシステムに接続した防災行政無線や登録制メールで情報を住民に伝えるものですが、機器の配線不良などトラブルがたびたび発生しており、一斉訓練が極めて重要だと考えられます。新型コロナウイルス対応のためとはいえ、自然災害同様、北朝鮮の弾道ミサイル発射事案も相次いでいる中、複合事案への対応訓練という意味でも、実施を検討すべきではないかと考えられます。

3.暴排条例等の状況

(1)暴排条例に基づく逮捕事例(神奈川県)

稲川会系組員に名義貸しをしたとして、神奈川県警暴力団対策課は、神奈川県公安委員会が神奈川県暴排条例に基づき、自営業の男性に利益供与をしないよう、また組員に利益供与を受けないよう、それぞれ勧告しています。報道によれば、当該組員は自営業の男性に対して、自身が暴力団員のためスマホの購入ができない旨を説明したうえで、「名義を貸してほしい」などと依頼し、同県内の携帯電話販売店で自身が使うスマホを男性に契約させたというものです。組員は月に1万円を通話料などとして、自営業の男性に支払っていたといいます。なお、名義の利用禁止に関して暴排条例の勧告が行われるのは、今回が同県内初だということです。

▼神奈川県警察 神奈川県暴力団排除条例

神奈川県暴排条例では、第26条の2(名義利用等の禁止)において、第1項「暴力団員は、自らが暴力団員である事実を隠蔽する目的で、他人の名義を利用してはならない」、第2項「何人も、暴力団員が前項の規定に違反することとなることの情を知って、自己又は他人の名義を暴力団員に利用させてはならない」と規定しています。本事例は、明らかに暴力団員は隠蔽する目的があり、自営業の男性も、明らかに「情を知って」自己の名義を暴力団員に利用させており、正に典型的な「名義貸し」の事例となります。なお、勧告については、同暴排条例第28条 (勧告)で、第1項「公安委員会は、第23条第1項若しくは第2項、第24条第1項、第25条第2項、第26条第2項又は第26条の2第1項若しくは第2項の規定に違反する行為があった場合において、当該行為が暴力団排除に支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあると認めるときは、公安委員会規則で定めるところにより、当該行為をした者に対し、必要な勧告をすることができる」との規定に基づくものとなります。

(2)暴力団対策法に基づく中止命令事例(福岡県)

政府の新型コロナウイルス対策で1人10万円が受け取れる「特別定額給付金」の話をして、「まとまった金が入ると思う」などと告げ、違法な貸付金の返済を迫ったなどとして、福岡県警は、浪川会系組幹部に、暴力団対策法に基づく中止命令を出しています。報道によれば、この組幹部は、福岡県内の60代の無職女性に、利息制限法の規定を超える月2割の高金利で6万円を貸し、電話で「今度、コロナの関係でまとまったお金が入ると思うので、その時は俺に連絡してください」などと告げ、浪川会の威力を示したということです。

▼暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(暴力団対策法)

違法な貸付金の返済を迫った行為については、暴力団対策法の第九条(暴力的要求行為の禁止)「指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない」のうち、「六 次に掲げる債務について、債務者に対し、その履行を要求すること。イ 金銭を目的とする消費貸借(利息制限法(昭和二十九年法律第百号)第五条第一号に規定する営業的金銭消費貸借(以下この号において単に「営業的金銭消費貸借」という。)を除く。)上の債務であって同法第一条に定める利息の制限額を超える利息(同法第三条の規定によって利息とみなされる金銭を含む。)の支払を伴い、又はその不履行による賠償額の予定が同法第四条に定める制限額を超えるもの」に該当したと考えられます。そのうえで、中止命令の発令については、同法第十一条 (暴力的要求行為等に対する措置)「公安委員会は、指定暴力団員が暴力的要求行為をしており、その相手方の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該暴力的要求行為を中止することを命じ、又は当該暴力的要求行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる」に基づくものだと考えられます。

Back to Top