暴排トピックス

SNSの「犯罪インフラ」性を無効化せよ~トクリュウ対策、金融犯罪対策の強化に向けて

2025.08.04
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首席研究員 芳賀 恒人

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1.SNSの「犯罪インフラ」性を無効化せよ~トクリュウ対策、金融犯罪対策の強化に向けて

警察庁は、「令和7年版警察白書」を公表しました。SNSを取り巻く犯罪と警察の取り組みが特集されています。本コラムでは毎回SNSの「犯罪インフラ」性について取り上げていますが、投資・ロマンス詐欺や闇バイト、オンラインカジノ、違法薬物、暗号資産、児童の性的搾取、誹謗中傷、誤・偽情報、世論工作、サイバー攻撃、マネー・ローンダリング(マネロン)などにSNSが直接・間接に悪用されている実態があるうえ、「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」等反社会的勢力の活動を助長する中核的なツールでもあり、多くの犯罪の温床となっています。とりわけトクリュウは、単なる新しい犯罪グループではなく、既存の治安体制の「穴」を突いた構造的な脅威であり、その脅威と対峙するためには、市民一人ひとりが、SNS上の危険な勧誘に敏感になり警戒心を持つこと、そして、社会全体で「匿名の犯罪」を許さない仕組みづくりが重要です。そのためにも、彼らの構造的な脅威を特徴づけ、形成しているSNSの犯罪インフラ性を無効化することが極めて重要だといえます。なお、今回の白書であらためて「犯罪インフラとして悪用されている」と指摘されたことは、個人的に大変感慨深いものがあります(警察白書ではこれまで犯罪インフラは地下銀行や偽装結婚などを指すことが多いところ、筆者は以前から独自に「犯罪を助長するサービスや仕組み、あるいは脆弱性を有するサービスや杜撰な運用等」という意味で使用してきた経緯があるためです。SNSはその典型です)。白書では、SNSを捜査や広報啓発に活用していることなど、その有用性についても紹介しています。一方、SNS対策の重要性に加え、警察官がSNSで身分を偽り犯罪グループに接触する「仮装身分捜査」や、押収した機器を解析する「デジタルフォレンジック」の活用、存在しない人物名義の口座を開設し、犯罪組織に渡す「架空名義口座捜査」の導入なども紹介されており、SNSとの有意義な連携が期待されるところです。

SNSはさまざまな犯罪に悪用されることが多い以上、その対策は「トクリュウ対策」、「金融犯罪対策」、「治安対策」の要であるといえます。さらに、SNSの持つ特性から、匿名性との戦い、リアルに限らないオンライン空間もその領域に含み、越境犯罪を可能にする「超国家性/無国籍性」を有していることから、日本に限らず国際的な課題であるともいえます。私たちはSNSの利便性に着目するあまり、その弊害に目を背けてきたのではないでしょうか。実はSNSのもつ利便性をある程度制限することで、これらの対策の深化、無効の実現は可能になるともいえます。SNSの関わる犯罪被害を低減していくために官民挙げて、あるいは点から線、面へと国際的な連携を深めていくことで、その弊害、「犯罪インフラ」性を無効化することが急務です。私たち一人一人が、そのために、まだまだやれること/やるべきことはたくさんあるとの認識を持ち、少しだけでも意識を変えていく必要があるといえます。

▼警察庁 令和7年版警察白書
  • SNSを取り巻く犯罪と警察の取組
    • 情報通信技術の著しい発展が社会に様々な便益をもたらす反面、インターネットで提供される技術やサービスの中には、犯罪インフラとして悪用され、犯罪の実行を容易にし、あるいは助長するものも存在しており、これらへの対策が喫緊の課題となっています。
    • 例えば、多くの国民が利用するSNSについても犯罪インフラとして悪用される側面もみられます。具体的には、SNSを通じて対面することなく、やり取りを重ねるなどして関係を深めて信用させたり、恋愛感情や親近感を抱かせたりして金銭をだまし取るSNS型投資・ロマンス詐欺の被害は極めて憂慮すべき状況にあります。また、各種犯罪により得た収益を吸い上げる中核部分は匿名化され、SNSを通じるなどしてメンバー同士が緩やかに結び付くなどの特徴を有する「匿名・流動型犯罪グループ」が、SNS上で高額な報酬を示唆して犯罪の実行者を募集し、詐欺、強盗・窃盗等の犯罪を実行させた上で、末端の実行者を言わば「使い捨て」にしている実態がみられます。これらの犯罪をめぐる情勢は極めて深刻な状況にあり、国民の体感治安を悪化させる大きな要因となっています。
    • さらに、SNSが薬物の密売や児童買春等の違法行為に悪用されている実態もみられるほか、児童ポルノ等の違法情報や犯罪を誘発するような有害情報に加え、偽情報・誤情報のSNS上における投稿・拡散が社会問題化しています。
    • 令和6年(2024年)中のSNS型投資・ロマンス詐欺の認知件数は1万237件、被害額は約1,272億円と、前年に比べて認知件数及び被害額のいずれも著しく増加している。
    • これらの詐欺では、犯行グループがSNSやマッチングアプリを通じて被害者と接触した上で、他のSNSに連絡ツールを移行し、やり取りを重ねて被害者を信用させ、預貯金口座への振込み等により被害金をだまし取るといった手口がみられる。同年中の被害状況をみると、被害者の年齢は、男女共に40歳代から60歳代の被害が多く、また、1件当たりの平均被害額は1,200万円を超えている
  1. SNS型投資・ロマンス詐欺
    • 令和6年中のSNS型投資・ロマンス詐欺の検挙人員は129人(うちSNS型投資詐欺は58人、SNS型ロマンス詐欺は71人)であったが、こうした犯罪への関与がうかがわれる匿名・流動型犯罪グループに対する取締りや実態解明を更に強化するとともに、関係機関・団体等と連携した対策を強力に推進していくことが急務である
    • SNS型投資・ロマンス詐欺については、犯行グループから被害者への連絡手段としてSNSアカウントやマッチングアプリが悪用されている実態に鑑み、犯行に利用されたSNSアカウント等について、被害者からの通報及び警察からの要請に基づき、SNS事業者等において犯行に利用された犯行グループのSNSアカウント等を特定し、速やかに利用停止等の措置を実施するスキームを構築し、運用してい。
    • SNS型投資・ロマンス詐欺が急増しているほか、法人口座を悪用した事案もみられるなど、預貯金口座を通じて行われる金融犯罪への対策が急務となっている。令和6年8月、金融庁と連携し、一般社団法人全国銀行協会等に対して、法人口座を含む預貯金口座の不正利用等防止に向けた対策を一層強化するため、警察への情報提供・連携の強化等を要請した。これを踏まえ、警察では、金融機関の取引モニタリングにより詐欺の被害のおそれが高い取引を検知した場合に、都道府県警察への迅速な情報提供を行う連携体制の構築を進めている
    • 国民を詐欺から守るための総合対策2.0の策定
      1. 匿名・流動型犯罪グループの存在を見据えた取締りと実態解明の推進
        • 匿名・流動型犯罪グループの活動実態の変化に機動的に対応し、事件の背後にいる首謀者や指示役も含めた犯罪者グループ等の弱体化・壊滅のため、部門の壁を越えた効果的な取締りを推進するとともに、匿名・流動型犯罪グループの資金獲得活動等に係る実態解明を進める。
      2. SNS事業者及びマッチングアプリ事業者に係る本人確認の厳格化
        • SNSやマッチングアプリアカウントを悪用し、利用者を信用させるなどして、詐欺被害につながっている事案が確認されていることから、引き続き、SNS事業者及びマッチングアプリ事業者に対し、アカウント等の開設時に本人確認を実施するよう働き掛ける。
      3. 通信履歴の保存の義務化
        • 捜査機関が被害を認知し、犯罪に関与している人物を特定するために通信事業者から所有する通信履歴を取得した時点で、通信履歴が残されていない場合が一定数存在していることから、通信事業者の通信履歴の保存の在り方について、通信履歴の保存の必要性や妥当性、保存期間や費用面の課題とともに、電気通信事業における個人情報等保護に関するガイドラインの改正や通信履歴の保存の義務付けを含め検討する。
      4. インターネットバンキングの申込み時における審査の強化
        • インターネットバンキング利用が被害の高額化の一つの要因になっていることがうかがわれることから、インターネットバンキングの初期利用限度額の適切な設定、利用限度額引上げ時の利用者への確認や注意喚起等の取組を推進する。
      5. 金融機関間の情報共有の枠組み創設
        • 犯罪者グループは複数の預金取扱金融機関の口座を保有し、被害金が犯罪者グループの手に渡る前に口座凍結を行うことを困難にさせていることから、犯行に使用される口座の情報を迅速に捜査機関と共有し、かつ、犯罪者グループによる被害金の出金を防ぎ被害回復を図るため、預金取扱金融機関間において不正利用口座に係る情報を共有しつつ、速やかに口座凍結を行うことが可能となる枠組みの創設について検討する。
        • 組織的な詐欺に対する各国との連携強化の推進
          • 令和5年(2023年)12月に茨城県水戸市で開催されたG7内務・安全担当大臣会合、令和6年(2024年)3月にロンドンで開催された国際詐欺サミット等により、国境を越える組織的詐欺と闘う国際的な気運が高まる中、同年9月、16か国及び3機関の参加を得て、国際詐欺会議(Global Fraud Meeting)を東京都で開催した。本会議では、国際的な協力関係の一層の強化に向け、警察庁長官による基調演説を実施したほか、各国の政府、国際機関等が把握する最新の脅威情報・取組状況、検挙事例を踏まえた着眼点・教訓等を共有し、参加国等の発表を踏まえつつ、海外拠点の摘発等に係る国際捜査協力や各国の詐欺対策について、実務的な議論を行った。
  2. 偽情報・誤情報
    • 近年、SNSや動画配信・投稿サイト等のデジタルサービスの普及により、あらゆる主体が情報の発信者となり、インターネット上で膨大な情報が流通し、誰もがこれらを入手することが可能になっている一方で、インターネット上の偽情報・誤情報は、短時間で広範に流通・拡散し、国民生活や社会経済活動に重大な影響を及ぼし得る深刻な課題となっている。
    • 例えば、大規模災害発生時におけるインターネット上の偽情報・誤情報については、信ぴょう性の確認や判断に時間を要し、被災地等において救助活動への支障や社会的混乱を生じさせるおそれがある。
    • 警察では、関連事業者に対して警察活動で把握した当該情報等について削除依頼等を行うとともに、災害に関連した偽情報・誤情報に対するSNS等を通じた迅速かつ効果的な注意喚起を実施しているほか、違法行為に対しては厳正な取締りを行うこととしている。
    • 近年、国際社会においても、いわゆる伝統的な安全保障の領域にとどまらない動きとして偽情報等の拡散への懸念が高まっている。海外においては、偽情報等の拡散が軍事的手段と共に複合的に用いられている例があるほか、選挙の公正を害する可能性が指摘されるなどしているところ、偽情報等の拡散は、普遍的価値に対する脅威であるのみならず、我が国の治安にも悪影響をもたらし得るものである。また、生成AI技術の発展等に伴い、巧妙な偽情報が大量に生成され、SNS等で拡散されるリスクへの対応が重要な課題となっている。
    • 令和6年(2024年)2月、カナダの研究機関は、中国企業が我が国を含む30か国の現地報道機関を装った偽サイトを運営し、中国当局の見解に沿った情報の発信を行っているとの報告書を発表した。また、同年9月には、米国司法省が、米国大統領選挙に際し、米国内の分断を増幅するような偽情報等を拡散したロシア国営報道機関職員2人を起訴したと発表した
  3. 薬物事犯
    • 我が国の薬物情勢は依然として厳しい状況にある。さらに近年、SNS上で薬物の密売情報を掲載して購入を勧誘し、購入希望者が応募すると匿名性の高い通信手段に誘導して取引を行うなど、密売の手口が巧妙化している。例えば、大麻の乱用者を対象とした実態調査によれば、大麻の入手先を知った方法として、SNSを含む「インターネット経由」が全体の4割弱を占め、年齢層が低くなるにつれてその占める割合は高くなるなど、SNSを利用した密売が若年層の薬物乱用に拍車をかけていることがうかがわれる。警察では、薬物の供給の遮断と需要の断絶に向け、関係機関と連携しつつ、取締りや効果的な広報啓発活動を推進している。
  4. 児童の性的搾取等
    • SNSは、匿名性が高く、見ず知らずの相手と容易に連絡を取り合うことができる特性から、児童の未熟さや立場の弱さを利用した児童買春等の悪質な事犯の「場」として悪用されている実態があり、中には児童の殺害にまで至った事案も発生している。
    • 令和6年中の児童買春、児童ポルノや不同意性交等などの性犯罪を含むSNSに起因する事犯の被害児童数は、1,486人と前年から減少したものの、近年これらの事犯の被害児童数は依然として高い水準で推移している。特に、小学生の被害児童数が近年増加傾向にあり、被害児童の低年齢化が懸念される状況にある。
    • 児童の性的搾取等が児童の心身に有害な影響を及ぼし、かつ、その人権を著しく侵害する極めて悪質な行為であるとの認識の下、警察では、児童の性的搾取等の撲滅に向けて、取締りの強化等の取組を推進している。
  5. 匿名・流動型犯罪グループによる犯罪実行者の募集
    • 匿名・流動型犯罪グループは、犯罪を実行するに当たって、SNS等において、仕事の内容を明らかにせず、「高額」、「即日即金」、「ホワイト案件」等、「楽で、簡単、高収入」を強調する表現を用いるなどして、犯罪実行者を募集している実態が認められる。同グループは、このような犯罪実行者を募集する情報(犯罪実行者募集情報)への応募者に対して、あらかじめ運転免許証や顔写真等の個人の特定に資する情報を匿名性の高い通信手段を使用して送信させることで、応募者が犯行をちゅうちょしたり、グループからの離脱意思を示したりした場合には、個人情報を把握しているという優位性を利用して脅迫するなどして服従させ、犯罪実行者として繰り返し犯罪に加担させるなどの状況がみられる。また、応募者が犯罪を実行したとしても約束した報酬が支払われない場合もある。
    • 首謀者、指示役、犯罪実行者の間の連絡手段には、匿名性が高く、メッセージが自動的に消去される仕組みを備えた通信手段を使用するなど、犯罪の証拠を隠滅しようとする手口が多くみられる。さらに、暴力団構成員や海外に所在する首謀者や指示役が、SNSを用いて犯罪実行者を募集して応募者に特殊詐欺等を実行させているケースや、応募者を海外に渡航させて犯行に加担させているケースもみられる
    • 強盗・窃盗等についても、SNSや求人サイト等で「高額」、「即日即金」、「ホワイト案件」等の文言を用いて犯罪実行者が募集された上で実行される実態がうかがわれる。このような匿名・流動型犯罪グループによるものとみられる手口により実行された強盗事件等の中には、被害者を拘束した上で暴行を加えるなど、その犯行態様が凶悪なものもみられ、特に、令和6年8月以降、東京都、埼玉県、千葉県及び神奈川県の1都3県において相次いで発生した強盗事件等によって、国民の体感治安が著しく悪化した。
    • 警察庁では、一般のインターネット利用者等から、違法情報等に関する通報を受理し、警察への通報、サイト管理者等への削除依頼等を行うインターネット・ホットラインセンター(IHC)を運用している。近年、インターネット上に犯罪実行者募集情報が氾濫していることを踏まえ、「いわゆる「闇バイト」による強盗事件等から国民の生命・財産を守るための緊急対策」を受けて、犯罪実行者募集情報の実効的な削除のため、令和7年2月、IHCにおいて犯罪実行者募集情報を違法情報と位置付けるとともに、同年3月、体制を増強した。また、警察では、SNSにおける返信(リプライ)機能を活用し、犯罪実行者募集情報の投稿者等に対する個別警告等を推進している。
    • SNSや求人サイト等において、通常の求人情報を装った、「受け子」や「出し子」等の特殊詐欺等の犯罪の実行者を募集する違法・有害な求人情報に関し、都道府県警察及び都道府県労働局がそれぞれ把握した情報について、相互に情報共有を行っており、警察では、犯罪実行者募集情報等の発信が、職業安定法に規定する「公衆道徳上有害な業務に就かせる目的」での「労働者の募集」等として違法行為に該当することに鑑み、この種の犯罪の取締りを推進している。
    • SNSで犯罪実行者を募集する手口による犯罪に対しては、首謀者や犯罪実行者等の検挙といった取締りの推進に加えて、犯罪に加担させないための広報啓発や募集に応じてしまった者に犯行を思いとどまらせるための広報啓発が重要である。
    • インターネット上で高額な報酬のアルバイトへの高い関心を示す者に対して、インターネット上での行動に応じて犯罪実行者募集情報の危険性等を伝えるターゲティング広告を実施したほか、東京都、埼玉県、千葉県及び神奈川県内の、若年層が多く集まる繁華街等において、犯罪実行者募集に応じないよう、アドトラックを活用した呼び掛けを実施するなど、若年層に対する注意喚起に取り組んでいる
  6. 情報技術解析の重要性
    • デジタル・フォレンジックの捜査への活用
      • 犯罪に悪用された電子機器等に保存されている電磁的記録は、犯罪捜査において重要な客観証拠となる場合がある。電子機器等に保存されている情報を証拠化するためには、電子機器等から電磁的記録を抽出した上で、文字や画像等の人が認識できる形に変換するという電磁的記録の解析が必要である。しかし、電磁的記録は消去、改変等が容易であるため、これを犯罪捜査に活用するためには、適正な手続により解析・証拠化することが重要である。
      • このため、警察では、警察庁及び全国の情報通信部(注2)の情報技術解析課において、都道府県警察が行う犯罪捜査に対し、デジタル・フォレンジックを活用した技術支援を行っている。
    • 犯罪の取締りのための技術支援体制
      • 情報化社会の進展は、匿名性が高く、追跡が困難なサイバー空間を利用した様々な犯罪の実行を容易にさせており、こうした犯罪の取締りにおいては、高度な技術的な知見が必要となっている。
      • このため、警察では、警察庁及び全国の情報通信部に情報技術解析課を設置し、都道府県警察等に対し、捜索・差押えの現場でコンピュータ等を適切に差し押さえるための技術的な指導や、押収したスマートフォン等から証拠となる情報を取り出すための解析の実施についての技術支援を行っている。
      • また、警察庁高度情報技術解析センターは、高度で専門的な知識及び技術を有する職員を配置するとともに、高性能な解析用資機材を整備し、破損した電磁的記録媒体からの情報の抽出・可視化、不正プログラムの解析等を行っている
    • 解析能力向上のための取組
      • 近年、不正プログラムを悪用したサイバー事案が多発する中、その手口の巧妙化・多様化により、不正プログラム解析には極めて高い技術力が求められている。また、IoT機器をはじめとする新たな電子機器やそれに関連するサービスの社会への定着、スマートフォン等のアプリの多様化・複雑化、自動運転システムの実現に向けた技術開発等が進む中、警察捜査を支えるためには、最新の技術に対応した解析能力の向上を図っていく必要がある。
      • このため、警察では、解析手法の開発や資機材の整備、高度な解析技術を持つ職員の育成のほか、犯罪に悪用され得る最先端の情報通信技術の調査・研究を推進している。
    • スマートフォンの解析
      • 近年、スマートフォンが、様々なコンテンツやアプリケーションの利用が可能なモバイル端末として普及している中、犯罪に悪用されたスマートフォンに保存されている情報は、犯罪捜査において重要な客観証拠となり得る。このため、警察では、押収したスマートフォンから、通信履歴、位置情報、写真等の証拠となる情報を取り出すための解析を実施している。
      • また、警察庁高度情報技術解析センターでは、スマートフォンメッセージアプリに記録された暗号化済みメッセージデータを可視化する手法を開発するなど、新たな解析手法の開発等にも取り組んでいる。これらの解析手法は、全国の情報通信部による解析等を通じて、都道府県警察の捜査に役立てられている。
      • 犯罪捜査の過程で押収したスマートフォン等の電子機器は、変形、燃焼、水没等により破損していることが少なくない。このような場合、警察では、破損した電子機器の機能回復及び情報の抽出・可視化を行い、解析を実施している。
  7. SNS上の違法・有害情報の探索・分析におけるAI技術の活用
    • SNSをはじめとするインターネット上には、児童ポルノ、規制薬物の広告に関する情報等の違法情報や、違法情報には該当しないが、犯罪や事件を誘発するなど公共の安全と秩序の維持の観点から放置することができない有害情報が多数存在している。
    • また、近年、匿名・流動型犯罪グループ等による犯罪の実行者を直接的かつ明示的に誘引等(募集)する情報(犯罪実行者募集情報)も氾濫しており、応募者らにより実際に強盗、特殊詐欺等の犯罪が実行されるなど、この種情報の氾濫がより深刻な治安上の脅威となっている。
    • このような情勢の中、サイバー空間の安全・安心を確保するためには、インターネット上に膨大な量の情報が流通していることを踏まえ、AIをはじめとする先端技術も活用しながら、違法・有害情報の流通・拡散防止を図っていく必要がある。
    • 警察では、サイバーパトロール等による違法・有害情報の把握に努め、これを端緒とした取締り及びサイト管理者等への削除依頼を実施している。警察庁では、インターネット利用者等から違法・有害情報に関する通報を受理し、警察への通報、サイト管理者等への削除依頼等を行うインターネット・ホットラインセンター(IHC)を運用するとともに、インターネット上の違法・有害情報等を収集し、IHCに通報するサイバーパトロールセンター(CPC)を運用している。
    • CPCでは、SNS上の情報の探索・分析を効率化するため、令和5年、重要犯罪密接関連情報を自動収集してその該当性を判定するAI検索システムを導入し、サイバーパトロールの高度化を図っている。
    • また、警察庁では、令和3年度にAIを活用してSNSにおける規制薬物に関する情報等の探索・分析を行う実証実験を実施した。具体的には、規制薬物の広告等に関するSNS上の投稿をAIに学習させることで、SNS上の投稿の中から、規制薬物の広告等に関するものをAIにより効率的に抽出する仕組みを構築した。同実証実験の結果、規制薬物の広告等に関するSNS上の投稿を高い精度で抽出できることが確認できたことから、警察庁において、AIを活用してSNS上の犯罪実行者募集情報等を効率的に抽出する仕組みを構築し、デジタル庁によるAI活用の高度化に向けた助言や支援を得つつ、犯罪実行者募集情報の投稿者等に対する返信(リプライ)機能を活用した迅速な個別警告等の効率化を図っている。
  8. サイバー特別捜査部による暗号資産の追跡
    • SNSを悪用した犯罪等においては、犯罪収益が暗号資産の形で隠匿されるなどの実態がみられる。関東管区警察局サイバー特別捜査部では、こうした犯罪に悪用される暗号資産の移転状況を追跡するとともに、追跡結果の横断的・俯瞰的な分析を行い、その結果を都道府県警察と共有している。こうした分析により、従来の捜査では必ずしも明らかにならなかった複数事案同士の関連性や背景にある組織性及び上位被疑者が浮き彫りになっており、今後もこうした犯罪の更なる匿名性の打破が期待される。
    • また、警察庁サイバー警察局では、暗号資産の移転状況の追跡を困難にし得る技術や手法に対抗するため、外国捜査機関から職員を招へいするなど、追跡技術の研究を推進するとともに、国際連携を通じた追跡能力の強化に取り組んでいる。
  9.  新たな捜査手法の確立
    1. 仮装身分捜査の導入
      • SNS等のインターネット上において犯罪実行者が募集された上で実行される犯罪に的確に対処するため、捜査員がその身分を秘して募集に応じ、検挙等につなげる「雇われたふり作戦」を行う場合において、架空の本人確認書類等を使用する「仮装身分捜査」を適正かつ実効的に実施するに当たっての手続その他の遵守事項を令和7年(2025年)1月に定めており、一部の都道府県警察において「仮装身分捜査」が開始されている。これにより、実行犯の身柄の早期確保、首謀者や指示役の検挙を進めていく。
    2. 架空名義口座捜査等の導入に向けた検討
      • 犯罪者グループは、他人名義の預貯金口座等を違法に取得するなどして、犯行に利用していることから、犯罪者グループの上位被疑者の検挙、犯罪収益の剝奪等を図るとともに、口座の悪用をけん制するため、捜査機関等が管理する架空名義口座を利用した新たな捜査手法等を検討することとしている。
    3. 暗号化技術等に係る調査・研究、新たな法制度導入に向けた検討
      • 犯罪者グループの壊滅のためには、匿名性の高い通信アプリをはじめとする犯罪に悪用される通信アプリ等について、被疑者間の通信内容や登録者情報等を迅速に把握することが重要である。
      • こうした被疑者間の通信内容等を迅速に把握するために効果的と考えられる手法について、諸外国における取組を参考にしつつ、技術的アプローチや新たな法制度導入の可能性も含めて検討することとしている
  10. サイバー人材の体系的な育成の推進のための態勢の充実強化
    • 犯罪収益の暗号資産への交換や匿名性の高い通信手段の利用、SNS上での犯罪実行者の募集等サイバー空間の脅威の情勢が極めて深刻であるため、全ての警察職員のサイバー事案対処能力の底上げが必要不可欠であることから、警察大学校及び警察学校におけるサイバー教育の拡充並びに警察庁及び都道府県警察のサイバー人材の育成の更なる推進のための態勢の充実強化を図ることとしている。
  11. 捜査活動を踏まえた対策の不断の見直し
    • 匿名・流動型犯罪グループは、SNSや匿名性の高い通信アプリ、インターネットバンキング、暗号資産といった新たな技術やサービスを悪用しながら、その手口を刻々と複雑化・巧妙化させている。警察では、取締り等を通じて犯罪の手口の変化を迅速に把握するとともに、幅広く関係機関・団体等と連携し、対策の強化を図ることとしている。
  12. 国際捜査の徹底・外国当局等との更なる連携
    • 匿名・流動型犯罪グループは、SNS等で犯罪実行者を募集し、犯行に加担させるなどの手口で特殊詐欺等の犯罪を実行しており、その中には、海外に所在する首謀者や指示役が SNSを用いて犯罪実行者を募集しているケースや応募者を海外に渡航させて犯行に加担させているケースもみられる。こうした観点から、国境を越える組織的詐欺等の犯罪への対処が喫緊の課題となっている。
    • 警察庁では、外国で活動する犯罪グループの情報を入手した場合、その摘発に向けて、関係国の捜査機関と積極的に情報交換を行っているほか、被疑者や証拠品の引渡しに向けて、ICPO等を通じた捜査協力、外交ルートや条約・協定を活用した国際捜査共助等を推進しており、引き続き外国当局等との更なる連携強化を図ることとしている。
  13. 情勢に応じた効果的な広報・啓発の実施
    • 警察では、常に変化する犯罪の手口を把握し、迅速かつ的確に、詐欺等の被害に遭いやすい人に訴求する広報・啓発の手段を選定し、真に犯罪抑止に効果を発揮する広報・啓発を適時に行うこととしている。また、SNS上等における犯罪実行者募集情報に応募して犯罪に加担してしまうことがないよう、広報・啓発の対象となる者の年齢層や地域等を考慮し、訴求力の高い著名人の協力を得るなど効果的な広報・啓発の内容、媒体、方法等について検討の上、幅広く関係機関・団体等と連携して取り組むこととしている。
    • 警察では、SNSを取り巻く犯罪を含め、社会情勢等に応じて大きく変化する犯罪情勢を的確に捉えた上で、犯罪対策を強力に推進し、「世界一安全な日本」を実現することで、国民の期待と信頼に応えていく。

警察白書では、上記特集以外にも、「第2章 生活安全の確保と犯罪捜査活動」、「第3章 サイバー空間の安全の確保」、「第4章 組織犯罪対策」、「第5章 安全かつ快適な交通の確保」、「第6章 公安の維持と災害対策」など、領域に応じてレポーティングされていますが、以下、組織犯罪対策の記述を中心に紹介します。

  • 組織犯罪対策
    1. 匿名・流動型犯罪グループの情勢
      • 暴力団勢力が衰退していく中、暴力団のような明確な組織構造は有しないが、先輩・後輩、友人・知人といった人間関係に基づく緩やかなつながりで集団を構成しつつ、暴力団等と密接な関係を有するとうかがわれる集団も存在しており、警察では、従来、こうした集団を暴力団に準ずる集団として「準暴力団」と位置付け、取締りの強化等に努めてきた。
      • こうした中、近年、準暴力団に加え、SNSや求人サイト等を利用して実行犯を募集する手口により特殊詐欺等を広域的に実行するなどの集団がみられ、治安対策上の脅威となっている。これらの集団は、各種資金獲得活動により得た収益を吸い上げている中核部分は匿名化され、実行犯はSNS等でその都度募集され流動化しているなどの特徴を有する新たな形態のものである。
      • 警察では、こうした集団を「匿名・流動型犯罪グループ」と位置付けた上、その動向を踏まえ、繁華街・歓楽街対策、特殊詐欺対策、侵入強盗対策、暴走族対策、少年非行対策等を担う関係部門間における連携を強化し、匿名・流動型犯罪グループに係る事案を把握するなどした場合の情報共有を行い、部門の垣根を越えた実態解明を図るとともに、あらゆる法令を駆使した取締りの強化に努めている。
      • 匿名・流動型犯罪グループの中には、その資金の一部が暴力団に流れているとみられるものや、暴力団構成員をグループの首領やメンバーとしているもの、暴力団構成員と共謀して犯罪を行っているものも確認されている。匿名・流動型犯罪グループの中には暴力団と何らかの関係を持っているものもみられ、両者の間で結節点の役割を果たす者も存在するとみられる。
      • 令和6年(2024年)中の匿名・流動型犯罪グループによるものとみられる資金獲得犯罪について、主な資金獲得犯罪の検挙人員を罪種別にみると、詐欺が過半数を占め、次いで窃盗、薬物事犯、強盗、風営適正化法違反の順となっている。
      • 匿名・流動型犯罪グループは、特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺に加え、令和6年8月以降、関東地方において相次いで発生した、SNS等で募集された犯罪の実行者による凶悪な強盗等や、悪質ホストクラブ事犯、組織的窃盗・盗品流通事犯、悪質リフォーム事犯のほか、インターネットバンキングに係る不正送金事犯等のサイバー犯罪に至るまで、近年、治安対策上の課題となっている多くの事案に深く関与している実態が認められる。
      • 警察では、こうした多様な資金獲得活動に着目した取締りにより、匿名・流動型犯罪グループに対して効果的に打撃を与えるとともに、組織的犯罪処罰法等の積極的な適用により犯罪収益の剝奪を推進している。
      • 匿名・流動型犯罪グループは、獲得した犯罪収益について巧妙にマネー・ローンダリングを行っている。その手口は、コインロッカーを使用した現金の受渡し、架空・他人名義の口座を使用した送金、他人の身分証明書等を使用した盗品等の売却、暗号資産・電子マネー等の使用、犯罪グループが関与する会社での取引に仮装した出入金、外国口座の経由等、多岐にわたり、捜査機関等からの追及を回避しようとしている状況がうかがわれる。
      • 特に、暗号資産を悪用したマネー・ローンダリングへの対策として、警察では、こうした様々な犯罪に悪用される暗号資産の移転状況を追跡するとともに、警察庁において、追跡結果を横断的・俯瞰的に分析し、その結果を都道府県警察と共有している。こうした取組により、例えば、インターネットバンキングに係る不正送金事犯と特殊詐欺事案に関して同一被疑者の関与が判明するなど、従来の捜査では必ずしも明らかにならなかった複数事案の関連性や、背景にある組織性等が浮き彫りになっているところであり、今後も更なる捜査の進展が期待される。
    2.  暴力団等対策
      • 六代目山口組と神戸山口組の間では、平成31年4月以降、拳銃を使用した殺人事件等が相次いで発生するなど、対立抗争が激化し、地域社会に大きな不安を与えた。こうした状況を受け、令和2年1月、兵庫県等の公安委員会が、暴力団対策法に基づき、特に警戒を要する区域(以下「警戒区域」という。)を定めた上で、両団体を「特定抗争指定暴力団等」に指定した。令和6年末現、9府県17市町を警戒区域と定めている。
      • また、神戸山口組から離脱した池田組と六代目山口組の間でも、令和4年5月以降、サバイバルナイフを使用した殺人未遂事件が発生するなど、対立抗争が激化する状況が認められたことから、令和4年12月、岡山県等の公安委員会が、両団体を特定抗争指定暴力団等に指定した。令和6年末現在、7府県8市を警戒区域と定めている。
      • さらに、神戸山口組から離脱した絆會と六代目山口組の間でも、令和4年1月以降、拳銃を使用した殺人事件が発生するなど、対立抗争が激化する状況が認められたことから、令和6年6月、大阪府等の公安委員会が、両団体を特定抗争指定暴力団等に指定した。令和6年末現在、8府県10市を警戒区域と定めている。
      • 警戒区域内では、事務所の新設、対立組織の構成員に対するつきまとい、対立組織の構成員の居宅又は事務所付近のうろつき、多数での集合、両団体の事務所への立入り等の行為が禁止されることから、それぞれの抗争の情勢に応じて警戒区域を追加するなどの措置を講じることにより、対立抗争に伴う市民への危害の防止に努めている。
      • 暴力団を壊滅するためには、構成員を一人でも多く暴力団から離脱させ、その社会復帰を促すことが重要である。警察庁では、令和5年に閣議決定された「第二次再犯防止推進計画」等に基づき、関係機関・団体と連携して、構成員に対する暴力団からの離脱に向けた働き掛けの充実を図るとともに、構成員の離脱・就労、社会復帰等に必要な社会環境及びフォローアップ体制の充実に関する効果的な施策を推進している。
    3. 来日外国人犯罪対策
      • 令和6年(2024年)中の来日外国人による刑法犯の検挙件数に占める共犯事件の割合は41.1%と、日本人(12.5%)の約3.3倍に上っている。罪種別にみると、万引きで22.6%と、日本人(3.4%)の約6.7倍に上る。
      • このように、来日外国人による犯罪は、日本人によるものと比べて組織的に行われる傾向がうかがわれる。
      • 来日外国人で構成される犯罪組織についてみると、出身国や地域別に組織化されているものがある一方で、より巧妙かつ効率的に犯罪を行うために様々な国籍の構成員が役割を分担するなど、構成員が多国籍化しているものもある。このほか、面識のない外国人同士がSNSを通じて連絡を取り合いながら犯行に及んだ例もみられる。
      • また、近年、他国で行われた詐欺事件による詐取金の入金先口座として日本国内の銀行口座を利用し、詐取金入金後にこれを日本国内で引き出してマネー・ローンダリングを行うといった事例があるなど、犯罪行為や被害の発生場所等の犯行関連場所についても、日本国内にとどまらず複数の国に及ぶものがある。
      • 来日外国人で構成される犯罪組織が関与する犯罪インフラ事犯には、地下銀行による不正な送金、偽装結婚、偽装認知、不法就労助長、旅券・在留カード等偽造等がある。
      • 地下銀行は、不法滞在者等が犯罪収益等を海外に送金するために利用されている。また、偽装結婚、偽装認知及び不法就労助長は、在留資格の不正取得による不法滞在等の犯罪を助長しており、これを仲介して利益を得るブローカーや暴力団が関与するものがみられるほか、近年では、在留資格の不正取得や不法就労を目的とした難民認定制度の悪用が疑われる例も発生している。偽造された旅券・在留カード等は、身分偽装手段として利用されるほか、不法滞在者等に販売されることもある。
      • 令和6年中の来日外国人による刑法犯の検挙状況をみると、ベトナム人やカンボジア人による窃盗犯等の増加に伴い、検挙件数・検挙人員共に増加した。また、特別法犯の検挙状況を同様にみると、フィリピン人やタイ人による薬物事犯等の増加に伴い、検挙件数・検挙人員共に増加した
    4. 薬物銃器対策
      • 令和6年(2024年)中の薬物事犯の検挙人員は1万3,462人と、引き続き高い水準にあり、我が国の薬物情勢は依然として厳しい状況にある。特に20歳代以下の若年層による大麻事犯が相次いで検挙されている。このような情勢の中、令和6年12月には、大麻の施用罪を含む大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律が施行された。薬物は、乱用者の精神や身体をむしばむばかりでなく、幻覚、妄想等により、乱用者が殺人、放火等の凶悪な事件や重大な交通事故等を引き起こすこともあるほか、薬物の密売が暴力団等の犯罪組織の資金源となることから、その乱用は社会の安全を脅かす重大な問題である
      • 令和6年中、覚醒剤事犯の検挙人員は前年より増加し、全薬物事犯の検挙人員の45.5%を占めている。覚醒剤事犯の特徴としては、検挙人員に占める暴力団構成員等の割合が高いことのほか、30歳代以上の検挙人員が多いことや、他の薬物事犯と比べて再犯者の占める割合が高いことが挙げられる。
      • 令和6年中、大麻事犯の検挙人員は、全薬物事犯の検挙人員の45.1%を占め、前年に続いて高い水準にある。近年、面識のない者同士がSNSを通じて連絡を取り合いながら大麻の売買を行う例もみられる。大麻事犯の特徴としては、他の薬物事犯と比べて、検挙人員のうち初犯者や20歳代以下の若年層の占める割合が高いことが挙げられる
      • 薬物犯罪組織の壊滅を図るため、組織犯罪の取締りに有効な通信傍受等の捜査手法を積極的に活用し、組織の中枢に迫る捜査を推進している。さらに、薬物犯罪組織に資金面から打撃を与えるため、麻薬特例法の規定に基づき、業として行う密輸・密売等やマネー・ローンダリング事犯の検挙、薬物犯罪収益の没収・追徴等の対策を推進している。このほか、インターネットを利用した薬物密売事犯対策として、サイバーパトロールやインターネット・ホットラインセンター(IHC)からの通報等により薬物密売情報の収集を強化し、密売人の取締りを推進している。
    5. 犯罪収益対策
      • 暴力団等の犯罪組織を弱体化させ、壊滅に追い込むためには、犯罪収益の移転を防止するとともに、これを確実に剝奪することが重要である。警察では、犯罪収益移転防止法、組織的犯罪処罰法及び麻薬特例法を活用し、関係機関、事業者、外国のFIU等と協力しながら、総合的な犯罪収益対策を推進している。
      • 犯罪収益が、犯罪組織の維持・拡大や将来の犯罪活動への投資等に利用されることを防止するためには、これを剝奪することが重要である。警察では、没収・追徴の判決が裁判所により言い渡される前に犯罪収益の隠匿や費消等が行われることのないよう、組織的犯罪処罰法及び麻薬特例法に定める起訴前の没収保全措置を積極的に活用し、没収・追徴の実効性を確保している。

犯罪対策は警察だけで完結するものではなく、官民の連携や国際連携が極めて重要となっています。ここで一般市民とうまく連携して成果を引き出した犯罪対策の例を1つ紹介します。愛知県警と協力してサイバー犯罪の防止に取り組む「大学生サイバーボランティア」が2025年6月中に発見した偽サイト数が1万2264件に上ったといいます。偽サイトの発見数を競う大会形式を取り入れた効果といいます。県警は発見した偽サイトを警察庁に報告し、閲覧防止の措置をとっています。大学生サイバーボランティアは2012年から活動しており、2025年5月末時点で県内14大学の136人が登録しているといいます。ネット上をパトロールして児童ポルノなど有害な投稿を見つけたり、県民向けに啓発活動したりするのが主な役割で、近年は通販サイトなどに偽装した偽サイトにまつわる被害相談が後を絶たないことから、県警が効果的に偽サイトを見つける手法として企画したのが、大学生に発見数を競ってもらう大会の開催だといいます。県警によれば、偽サイトの主な特徴は、(1)サイト内の商品がどれも大幅に値引きされている(2)支払い方法が口座振り込みや電子決済に限られている(3)会社概要に無関係の企業名や住所が記載されている、の3点などだといいます。県警サイバー犯罪対策課の松本課長は「大会形式にした効果は想像以上に大きく、学生たちがやる気を出してくれた。開催の継続も含め、より効果的な被害防止策を考えていきたい」と話しています。大学生が「自分ごと」として取り組むことができることが最大のポイントだと思われ、他のさまざまな犯罪対策にも応用可能ではないかと考えます。

国民の体感治安の悪化を招いた、2022~23年に全国で相次いだ指示役「ルフィ」らによる強盗事件を巡り、実行犯を勧誘したとして強盗致傷ほう助などの罪に問われた犯行グループ幹部・小島智信被告の裁判員裁判で、東京地裁は、懲役20年(求刑・懲役23年)の実刑判決を言い渡しています。幹部として逮捕・起訴された4人のうち、判決が言い渡されるのは初めてとなります。判決によれば、小島被告は2022年10~12月、東京都稲城市や中野区、山口県岩国市の住宅で、現金や金塊など計約7600万円相当が強奪されるなどした三つの事件の実行役をフィリピンから勧誘して強盗をほう助、2019年には仲間と共謀し、現地から高齢者らにうその電話をかけて現金計約5400万円をだまし取っています。被告は初公判で起訴事実を認めていました。裁判長は判決理由で、グループはフィリピンに拠点を置き、共犯者を「リクルート」して組織内で細かく役割分担するなどビジネスとして犯行に及んでいたと認定、トクリュウによる同種事件の中でも「高度なシステム化、匿名化により、組織として犯罪が続けられる点で非常に悪質だ」、「海外にいながら秘匿性の高い通信アプリを悪用し、多くの若者が実行役として使い捨てにされた。一般市民の安全を脅かす新しいタイプの重大犯罪だ」などと非難しています。また、小島被告については特殊詐欺事件で現金の回収や報酬の管理など資金の取り扱いを任されていたと指摘、組織トップの側近のような立場で「犯罪組織を円滑に運営し、活動を維持、拡大するために重要な役割を果たしていた」とし、従属的な立場だったとする弁護側の主張を退けました。一連の事件では2023年2月、小島被告のほか、渡辺優樹、今村磨人、藤田聖也の3被告がフィリピンから強制送還され、3被告は強盗の指示役として、強盗致死罪などに問われています。一連の広域強盗事件では、警視庁と4府県警の合同捜査本部が8事件を「重点対象」に指定、2023年12月の捜査終結までに実行役ら44人を逮捕し、押収したスマホを解析するなどして、フィリピンを拠点としていた小島被告ら4人の立件に至っています。ルフィグループが特殊詐欺から強盗へと手口を凶悪化させたのは2022年5月、京都市内の時計店で腕時計が奪われた事件とされます。「闇バイト」の応募者らで構成される実行役への指示は過激化していったとみられ、2022年12月には広島市で強盗傷害事件に関与、2023年1月には、東京都狛江市の住宅で当時90歳の住人女性の手足を縛って暴行、死亡させる強盗致死事件を引き起こしました。警視庁と愛知県警の合同捜査本部は2025年4月、ルフィグループの被害金のマネロンに関わったとみられる犯罪組織幹部らを摘発しており、犯罪収益の流れなどの実態解明は続いています。

特殊詐欺に絡み、盗んだキャッシュカードで現金約72万円を不正に引き出したとして、窃盗罪に問われた小山智広被告に東京地裁は、「金額は高額とは言えないが、刑事責任は重い」として、懲役3年6月(求刑懲役5年)の判決を言い渡しています。警視庁によると、フィリピン拠点の暴力団系の詐欺・窃盗集団「JPドラゴン」の幹部で、判決は、被告が、同国を拠点に「ルフィ」を名乗り広域強盗を指示したとされる特殊詐欺グループ幹部の渡辺優樹被告の下で、「かけ子」を管理するリーダーとして重要な役割を果たしたと認定、判決によると、渡辺被告らと共謀し、2019年4月に警察職員に成り済まし、東京都の50代女性からキャッシュカード8枚を受け取り、現金を引き出したといいます。なお、JPドラゴンはフィリピンの富裕層や政治家が好む闘鶏ギャンブルを現地で運営して、政財界にネットワークを拡大、現地の警察官を護衛として雇うとともに、風俗店や飲食店の経営のほか、日本人を狙った特殊詐欺などで資金を獲得、現在もフィリピンで活動を続けているメンバーがいるとみられています。福岡県警が窃盗容疑で逮捕状を取った吉岡竜司容疑者=フィリピンで現地当局が拘束中=がリーダーで、小山被告ら十数人が所属するとされ、メンバーは、左手の親指の付け根に「 JP DRAGON 」と入れ墨があり、オレオレ詐欺や投資詐欺、ロマンス詐欺など次々と手口を変えて犯罪を敢行、「警察官をかたってだます手口が多かった」(捜査幹部)といいます。同じくフィリピンで特殊詐欺に手を染め、後に指示役らがルフィと名乗る広域強盗事件を起こした犯罪組織との接点も少なくなく、小山被告は、ルフィグループ幹部今村被告=強盗致死罪などで起訴=らと同じ北海道の出身で、かつて同じ特殊詐欺グループで活動していましたが、互いにグループへの不満を抱える中で、関係を深めたとされます。JPドラゴンがルフィグループに送金を依頼したり、犯罪に使う名簿を渡したりと友好関係にありましたが、時に対立、同グループ幹部の小島被告=一審懲役20年=は自身の公判で「JPドラゴンのメンバーがルフィグループ幹部に『逮捕状が出ている』と虚偽情報を伝えて仲裁名目で約5500万円をだまし取ったり、かけ子メンバーを乗っ取ったりした」という趣旨の話をしています。なお、小山被告は2023年2~3月、弁護士を使って警視庁原宿署の接見室に持ちこませたスマホを通じ、勾留中の今村被告とアクリル板越しに通話、「JPドラゴンのシノギ(仕事)について余計なことを言うな」と口止めもしていたとされます。

暴力団員が「親子」や「兄弟」など疑似的な血縁関係を結ぶために杯を交わす「盃事」ですが、住吉会傘下組織幹部らが2023年春、山梨県内のホテルで香港マフィア「14K」の関係者とこの儀式を執り行っていたことが警察の摘発で判明しました。現場には仲介役とみられる準暴力団チャイニーズドラゴンの幹部の姿もあり、捜査当局は海を越えた犯罪組織の「結節点」を注視していると報じられています(2025年7月14日付産経新聞)。対等を意味する「五分の兄弟盃」を結んだとされ、当日は30人ほどの関係者が参加したといいます。暴力団社会で盃事は身分関係を固める重要な意義を持ち、「一家に代々受け継がれてきた流儀に従う」(暴力団関係者)とされます。警視庁は2025年6月、暴力団であることを隠してホテルを利用したとして詐欺容疑で総長ら5人を逮捕、その後、いずれも不起訴となり釈放されています。注目されるのは、この場に、中国残留孤児2世らで構成される準暴力団「チャイニーズドラゴン」幹部らが参加していたことで、日本語を解さない14Kの関係者らに対し、媒酌人の口上を通訳するなどしていたといい、捜査関係者はこのチャイニーズドラゴン幹部が盃事を「仲介」していたとみています。警視庁が2023年9月に都内で発生した別の事件について幹部らを摘発した際、押収した携帯電話から今回の盃事の動画が見つかったといいます。14Kは、香港のマフィア「香港三合会」の一つで、三合会は17世紀、当時の清朝に抵抗した政治結社が売春や賭博などを支配する犯罪組織になったものの総称で、構成員は数万人規模とも言われています。香港では構成員であること自体が取り締まり対象になるため、秘密性が高いとされています。ただ、国境をまたいだ盃事は、これまでにも確認されており、2016年10月には極東会と台湾マフィア「四海幇」の両幹部が「五分の兄弟盃」を交わし、盟約を結んでいます。一般的に暴力団が海外マフィアと盟約を結ぶ狙いについて、薬物の取引や、相手国への拠点設置を進めやすくするなどの理由が考えられるところです。近年はカンボジアやフィリピンなどの海外を拠点に特殊詐欺などに関与するトクリュウの摘発も相次いでおり、警察当局は国境をまたいだ動きを見せる反社会的勢力への警戒を強めているといいます。

絆會の本部事務所(主たる事務所)について、国家公安委員会が新たに大阪府寝屋川市香里北之町の建物と認定しています。絆會の本部事務所を巡っては建物の解体や売却によって流転を繰り返してきた経緯があります。指定暴力団として規制するには本部事務所の特定が必要で、警察当局が新たな本部事務所の特定を進めていたものです。新たに本部に認定された建物はもともと傘下組織の事務所で、警察当局が組員の動向を見極めた結果、本部事務所として使用していると判断、大阪府警は速やかに暴力団対策法に基づく事務所の使用を制限する仮命令を発出しています。建物は住宅街の一角にあり、今後、近隣住民の代理として「暴力追放推進センター」(暴追センター)が事務所の使用差し止めを求める訴訟を起こす可能性があります。絆會(金禎紀=通称・織田絆誠=会長)は2017年4月、六代目山口組から分裂した神戸山口組からさらに離脱する形で、「任俠団体山口組」(当時)として設立されました。神戸山口組とともにそれぞれ六代目山口組と対立し、抗争状態にありますが、本部事務所の認定を巡っては流転してきました。当初は2018年2月、兵庫県尼崎市のビルが本部事務所とされたところ、暴追センターが使用差し止めを申し立て、同9月に神戸地裁が使用を禁じる仮処分を出し、結局、民間事業者がこの土地を購入、2021年12月に建物は解体されています。2023年7月に大阪市中央区のビルが新たな本部事務所と認定されましたが、このビルについても同様の動きがあり、2024年12月に民間へ売却され、警察当局が新たな本部事務所の特定を進めていたものです。警察庁によると、2024年末時点で絆會の構成員と準構成員は計140人、本部事務所が新たに大阪府寝屋川市の建物と認定されましたが、2017年の結成以来、公的な認定と使用実態が必ずしも合致しない状態が続いてきました。拠点の流動化は、本部事務所の特定を規制の前提としている暴力団対策法の「網」からこぼれかねず、専門家からは同法を見直すべきだとの指摘も上がっています。暴力団対策法は1992年に施行されましたが、当時は暴力団が事務所を公然と構えていることが一般的でした。しかし、現在ではスマホなどの通信機器が発達し、ある捜査関係者は「事務所を持つメリットが薄れている」と話しており、「リモートワーク」化の可能性も指摘されているところです。社会的な暴排機運の高まりや2015年の六代目山口組分裂に伴う取り締まりの強化も、約30年前が想定した状況との「乖離」を生じさせています。2013年施行の改正法で、近隣住民に代わって各地の暴力追放運動推進センターが事務所使用禁止の仮処分を裁判所に求められる「代理訴訟制度」が設けられ、事務所周辺住民が、この制度を利用することは珍しくなくなりました。こうした「二重の規制」を背景に、本部事務所の流転は絆會以外でも起きており、神戸山口組は2015年の設立以来、当初の兵庫県淡路市から神戸市中央区、そして現在は同県稲美町と2度にわたり本部事務所の認定が変わっています。福岡県警本部長などを歴任した京都産業大の田村正博客員教授(警察行政法)は「(暴対法制定時は)暴力団としての組織実態はありながら、事務所だけが無くなるという事態を想定していなかった可能性がある」と指摘、「時代の変化に柔軟に対応し、本部事務所が流動化している状況では組長の住居を本部とみなすといった規定を新たに加える法改正も検討すべきだ」としており、筆者としても概ねその通りかと考えています。

トクリュウを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 違法な高金利で現金を貸し付けたとして、沖縄県警は、出資法違反(高金利)の疑いでいずれも住所、職業不詳の2人の容疑者を逮捕しています。ヤミ金融を営むトクリュウのメンバーとみられ、県警はグループが2021年6月以降、少なくとも約600人に総額約4億円を貸したとみて、実態解明を進めるとしています。報道によれば、外務省から2人がベトナムを強制退去されるとの連絡を受け、捜査員を派遣、日本に移送する機内で逮捕状を執行したといいます。逮捕容疑は共謀の上、2021年12月~2022年2月と2023年4~8月、県内の30~60代の4人から口座に金を振り込ませるなどし、法定金利(1日3%)を超える利息を受け取ったとしています。
  • 性風俗店に女性を紹介したとして、大阪府警は、スカウトグループ「ナチュラル」幹部の田中容疑者ら男4人を職業安定法違反(有害業務紹介)の疑いで逮捕しています。ナチュラルは東京都や名古屋市、福岡市でも活動する国内最大規模のグループで、報道によれば、田中容疑者は大阪エリアを統括し、数十人のメンバーを率いていた。繁華街の路上で女性に声をかけるなどして、100人以上を店に紹介したとみられています。グループはSNSに「関西大阪スカウト募集」などと投稿しメンバーを募集、大阪市内のマンションの一室やレンタルルームを拠点とし、府警は捜索で現金約4000万円や女性の名簿を押収したといいます。なお、メンバー間の連絡には外部の人間が使用できない特殊なアプリが使われていたといいます。グループは、女性を風俗店に紹介した見返りに店側から現金を受け取る「スカウトバック」で稼いでいたとされ、府警は田中容疑者の自宅から現金約3900万円を押収、金の流れなど組織の実態を調べています。
  • 千葉県警は、ソープランドで売春場所を提供したとして売春防止法違反の疑いで、会社役員ら男5人を現行犯逮捕しています。報道によれば、警視庁などの合同捜査本部から、大規模スカウトグループ「アクセス」による女性の紹介先だったとして情報提供があったものです。統括管理したり、従業員として働いたりしていたといいます。警視庁は2025年6月、「アクセスは解体した」との認識を示しています。関連して、福島県警は、ソープランドを経営して売春場所を提供したとして、売春防止法違反の疑いで、会社役員を逮捕しています。警視庁に摘発された大規模スカウトグループ「アクセス」から女性の紹介を受けたとみられています。
  • 男性客への売春を仲介したなどとして、大阪府警は、自営業の容疑者と無職の容疑者ら男4人を売春防止法違反容疑で逮捕しています。府警は、4人が若い女性らの売春を仲介する70人規模のトクリュウのメンバーで、それぞれリーダーと数人いる幹部の一人とみて実態解明を進めています。また、この女性2人の証言などから、2人が容疑者らの仲介で2025年3月、岡山、兵庫、鳥取の各県を含めそれぞれ60~70人を相手に1人あたり1万5千円で売春を繰り返していたとみています。府警は同2~4月、大阪の繁華街・ミナミの「グリ下」(グリコ看板下)に出入りする女子高校生らを東北地方や北陸地方に連れ出して売春を繰り返させたとして、別の男3人を相次いで逮捕、容疑者はこれらの捜査の過程で浮上し、女子高校生が絡む別の売春事件をめぐって同6~7月に売春防止法違反容疑などで逮捕・起訴されています。このグループは、約130人の少女らを全国各地に連れ回し、過酷な状況で売春させていたとみられています。
  • メンズエステ店で違法な性的サービスを行ったとして逮捕・起訴された富山大学准教授の男が、自身が経営を手伝うメンズエステ店の女性従業員から現金150万円を脅し取った疑いで3度目の逮捕をされています。このほか、関連する事件で富山市内の暴力団組長の男も逮捕されています。この恐喝事件に関連して、弁護士でないにもかかわらず、和解をとりまとめるなどの法律事務を扱った疑いで、六代目山口組傘下組織、三代目一会五代目山昇組の組長が逮捕されたものです。報道によれば、元准教授の容疑者が、組長に対し、10万円を報酬に、恐喝した女性とメンズエステ店の店長との和解を依頼したとみられています。警察はトクリュウの関連があるとみて、資金の流れなどを調べています。
  • 2025年4月、愛知県を拠点とするトクリュウ「ブラックアウト」のメンバーらが大阪・ミナミの宗右衛門町に凶器を準備して集まったとして逮捕された事件で、大阪府警は、六代目山口組、弘道会傘下の三重県にある組事務所に家宅捜索に入っています。「ブラックアウト」をめぐっては、グループの首魁でフィリピン国籍のタキワキ容疑者ら複数のメンバーが、2025年4月28日の深夜、大阪ミナミの宗右衛門町に駐車中の車内で、花火様のもの、竹刀、木製バット、金属バット、斧、バール、金槌、金属製パイプ、スタンガン、催涙スプレー、模造刀、木刀などの凶器を準備して集まるなどした疑いですでに逮捕されています。「ブラックアウト」は大阪のトクリュウグループと金銭トラブルになっていたとみられ、タキワキ容疑者はSNSを通じてメンバーを集めていて、敵と味方の判別をするために、白色の養生テープを配って、足や腕に巻くように指示をしていたということです。その後の捜査で、六代目山口組弘道会の傘下組織が「ブラックアウト」の後ろ盾になっているとみられることから、今回の家宅捜索に踏み切ったということです。「ブラックアウト」は、2024年9月に結成され、末端メンバーを含めると構成員は100人規模だったとみられていますが、これまでに14人のメンバーが逮捕されています。こうした状況の中、首魁のタキワキ容疑者は、6月10日付けで大阪府警と愛知県警に解散届を提出したということです。解散届は公的なものではありませんが、「これまでさまざまな違法行為を繰り返してきた。今回、大阪府警本部捜査第四課に逮捕されたことで、メンバーの将来を考えると、本日付で解散することとした」などと書かれていたということです。大阪府警は「今後もブラックアウトの動向を注視していくとともに、徹底して捜査を進めていく」としています。
  • 春日部市を拠点とした不良グループ「旺成会」を無断で脱退した元メンバーを拉致し、暴行や監禁をしたとして、これまでにリーダーの男や少年ら6人が逮捕されていた事件で、県警組織犯罪対策1課と少年課、大宮署は、加害目的略取と傷害、監禁の疑いで、いずれも同会のメンバーで住所不定、無職の男2人を逮捕しています。同会は同日、大宮署に解散届を提出しています。県警は、同会が住吉会との接点を持っている可能性があるとして、住吉会の新たな本部事務所(東京都港区芝浦)を家宅捜索しています。2人の容疑者は、住吉会傘下組織の組員に連れられて大宮署へ出頭、県警は旺成会について、2024年7月時点で13人のメンバーが所属していることを確認、県東部などの縄張りをバイクで走るグループなどに対して暴力で排除するなどしていたといいます。解散届を出した住吉会傘下組織の組員は大宮署に対して、「住吉会の本部に捜索が入り、大きな迷惑がかかることになるので解散するべきと思い、面倒を見ていた私が解散届を出すことにした」、「金輪際このようなグループをつくらせないことを固く誓います」といった趣旨の話をしているといいます。

闇バイト対策に企業が取り組んでいる事例を紹介します。

  • オンライン上での本人確認サービスを手掛けるELEMENTSは、スポットワークと呼ばれる単発の仕事を仲介するサービス向けに「闇バイト」の求人掲載を防ぐサービスの提供を始めています。求人を出す事業者について代表者などの本人確認を徹底することで、闇バイトの求人掲載を防ぐ狙いがあります。闇バイトはXなどSNSが主な募集手段とされますが、内容を偽って仲介サービスに疑わしい求人が掲載される場合もあり、同社のサービスでは、求人を出す事業者について代表や担当者の身元確認を徹底したり、法人が実在しているか確認したりすることで悪質な事業者の求人掲載を防げるとしています。求人事業者の代表者、担当者の本人確認はマイナンバーカードなどのICチップの読み取りと、自身で撮影する正面からの顔画像を活用、本人確認は求人への応募者の個人情報が求人を出した企業に渡る前に実施、ICチップの情報を読み取ることで偽造された書類の利用を防ぐことを想定しています。闇バイトの求人を出す人物は顔をはっきりと記録されることを嫌うことから、求人掲載の抑止につながる効果が期待できるとみています。商業登記などと照合し求人を出している事業者が実在しているかを確認する、同じ顔画像の人物が別名で登録されており、書類偽造が疑われる過去の事例と照合することもできるといいます。厚生労働省は 2024 年 11 月、仲介事業者向けに闇バイト対策を要請、これを受けて、タイミーなどの仲介事業者で対策サービスのニーズが高まっています
  • 社会問題となった「闇バイト」に伴う犯罪などを防ぐことを目的に、ケーブルテレビ事業を手掛ける「ジェイコム湘南・神奈川」が地域自治会と連携して防犯カメラの設置を進めているといいます。防犯カメラは犯罪の抑止効果があるとされ、同社はこれまでに約680の自治会とカメラ設置を含む協定を締結しているといいます。同社では、サービスの案内やメンテナンスで管内の隅々までめぐる社員が少なくなく、業務特性から「ながら見守り」が可能だといいます。さらに、警察署との安全協定も進め、自治会との協定では、犯罪や事故発生、不審者などの早期通報を行うほか、特殊詐欺防止などの啓発活動にも協力しているといいます。取り組みの原点は、どこよりも地域に根差したメディアであるという矜持で、同社は地域の住民とともに社会課題を解決していくことを掲げています。

2.最近のトピックス

(1)AML/CFTを巡る動向

本コラムで継続的に取り上げてきた証券口座乗っ取り事件について、金融庁と日本証券業協会(日証協)は、インターネット取引の対策を盛り込んだ指針案を公表しています。顔や指紋を使った生体認証やPKI(公開鍵暗号基盤)と呼ぶ暗号化技術など高い安全性を備えた本人確認の手法を必須にするものですが、導入には多額の投資が必要となり、顧客の利便性確保のため勢いのあったネット取引に逆風となる可能性があります(実際、SBI証券は今回の問題で80億円の損失があったことを公表していますが、他の証券会社も同様です)。証券口座が犯罪組織による不正アクセスで乗っ取られ、株式が勝手に売買される問題が起きたことを受けて、金融庁や日証協は安全対策を議論していたもので、金融庁は証券会社に適用する監督指針、日証協は会員会社が参照するネット取引に関するガイドラインをそれぞれ改定します。ログイン時や証券口座からの出金時に、指紋や顔などの生体認証を使う「パスキー」や、PKIといった高度な認証の採用を求めるもので、著しく逸脱した証券会社は行政処分などの対象になるため、実質的なルールに近い位置づけとなります。生体認証等を活用した高度な多要素認証の導入以外にも、不正なログインや取引などを顧客に通知する機能や、認証に連続して失敗した場合に自動でログインできなくなる機能を備えることも明記、不正取引の被害があった場合には、状況を精査して被害回復に向けて真摯に取り組むよう求めたほか、犯罪防止策や被害発生後の対応が不十分で被害が多発した場合は、金融商品取引法に基づく業務改善命令を出す方針も示しています

多要素認証に対応済みの証券会社のほとんどは、メールや携帯電話番号を使ったメッセージ機能で一時的なパスワードを送る方法を用いていますが、文字列による認証では犯罪組織に瞬時に突破されるリスク(リアルタイムフィッシングの手口の横行)もあり、安全性の高い生体認証に水準を引き上げることにしたものです。金融庁と日証協はそれぞれの新指針の策定にあたり、盛り込む内容を擦り合わせており、サイバー犯罪対策を手がけるカウリスの島津敦好社長は「生体認証の必須化は乗っ取り防止に有効だ」と評価、「証券会社側で疑わしいアクセスを主体的にはじく監視強化と両輪で整備しなければならない」と提起しています。対面大手5社やSBI、楽天の各証券は2025年7月上旬までに、利用者に一時的なパスワードの入力などを求める多要素認証を全ての取引手段で必須にしたことで、金融庁によると、同6月の不正取引件数は783件とピークだった同4月の2932件から減少し、一定の効果をあげているといえます。一方で被害を受けた証券会社の数は拡大しており、6月時点の累計で17社にのぼり、犯罪組織の標的は中堅・中小の証券会社に移っているとみられています。多要素認証に加えて、高度な生体認証まで必須になれば、規模の小さい証券会社は投資が利益に見合わない懸念が生じます。生体認証の採用には数億円、運用にも年間で億円単位の費用が発生するとの見方があり、今後さらなる高度化への対応も視野に入れる必要があり、その負担はますます重くなることが想定されます。補償についても、口座乗っ取り被害を巡る大手証券会社の対応は割れており、野村証券など対面が中心の証券会社は、被害にあった顧客に対して不正売却された株式を元通りに戻す「原状回復」を原則とする一方、陣容が限られるネット証券は市場部門が小さく、株の調達が難しいため、金銭による補償(半額補償)が軸になる見通しです(ネット証券の被害補償を巡っては、SBIでの被害者が被害者団体を発足させ、原状回復を求める活動を始めています。補償を増やす要求が広がる可能性は残ります)。補償方針に分断が生じたからこそ強く求められるのは顧客への説明責任だといえます。口座乗っ取りの主な手口は、偽サイトに誘導し個人情報を入力させる「フィッシング」であり、顧客個人の不注意があった半面、IDやパスワード以外で個人を特定する多要素認証の導入すらなかった証券会社もありました。補償を考えるうえで難しいのは顧客個人との責任分担で、全員に全額を埋め合わせれば、今後同様の被害が出た際の前例をつくることになり、セキュリティ意識を高めるための対策をとっているのに、全額補償による油断が生まれては逆効果になりかねません。そもそも担当の営業マンがつく対面証券に比べ、相対的に強い自己責任に基づいてきたのがネット証券での売買であり、契約の約款ではパスワード流出などによる不正取引は補償の対象外としてきた前提もあり、ネット証券は「全額補償ではモラルハザードを生みかねない」との指摘も一理あるところです。このように対面証券とネット証券とで方針が割れている以上は顧客への説明を十分にする必要があることは間違いのないところです。今回のような乗っ取り事件は手段を変えて今後も続く可能性があり、全額補償が当たり前となればフィッシングなどへの個人の警戒に逆効果になりかねず、補償の充実による投資への安心感の確保との間でネット証券の判断は揺れている状況です。

▼金融庁「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」等の一部改正(案)の公表について
▼(別紙1)「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」の一部改正(案)【新旧対照表】
  • インターネット取引は、金融商品取引業者にとっては低コストのサービス提供を可能とするものであるとともに、利用者にとっては利便性の高い取引ツールとなり得るものである。一方、インターネット取引は、非対面で行われるため、異常な取引態様を確認できないことなどの特有のリスクを抱えている。
  • 金融商品取引業者が顧客にサービスを提供するに当たっては、顧客の財産を安全に管理することが求められる。従って、金融商品取引業者においては、利用者利便を確保しつつ、利用者保護の徹底を図る観点から、インターネット取引に係るセキュリティ対策を十分に講じるとともに、顧客に対する情報提供、啓発及び知識の普及を図ることが重要である。
  • 内部管理態勢の整備
    • インターネット等の不正アクセス・不正取引等の犯罪行為に対する対策等について、犯罪手口が高度化・巧妙化し、被害が拡大していることを踏まえ、最優先の経営課題の一つとして位置付け、取締役会等において必要な検討を行い、セキュリティ・レベルの向上に努めるとともに、利用時における留意事項等を顧客に説明する態勢が整備されているか。
    • また、インターネット取引の健全かつ適切な業務の運営を確保するため、金融商品取引業者内の各部門が的確な状況認識を共有し、金融商品取引業者全体として取り組む態勢が整備されているか。
    • その際、金融ISACやJPCERT/CC等の情報共有機関等を活用して、犯罪の発生状況や犯罪手口に関する情報の提供・収集を行うとともに、有効な対応策等を共有し、自らの顧客や業務の特性に応じた検討を行った上で、今後発生が懸念される犯罪手口への対応も考慮し、必要な態勢の整備に努めているか。
    • 加えて、リスク分析、セキュリティ対策の策定・実施、効果の検証、対策の評価・見直しからなるいわゆるPDCAサイクルが機能しているか。
  • セキュリティの確保
    • セキュリティ体制の構築時及び利用時の各段階におけるリスクを把握した上で、自らの顧客や業務の特性に応じた対策を講じているか。また、個別の対策を場当たり的に講じるのではなく、効果的な対策を複数組み合わせることによりセキュリティ全体の向上を目指すとともに、リスクの存在を十分に認識・評価した上で対策の要否・種類を決定し、迅速な対応が取られているか。
    • インターネット取引に係る情報セキュリティ全般に関する方針を作成し、各種犯罪手口に対する有効性等を検証した上で、必要に応じて見直す態勢を整備しているか。また、当該方針等に沿って個人・法人等の顧客属性を勘案しつつ、「金融分野におけるサイバーセキュリティに関するガイドライン」や日本証券業協会の「インターネット取引における不正アクセス等防止に向けたガイドライン」等も踏まえ、提供するサービスの内容に応じた適切なセキュリティ対策を講じているか。その際、犯罪手口の高度化・巧妙化等(「中間者攻撃」や「マン・イン・ザ・ブラウザ攻撃」など)を考慮しているか。
    • また、フィッシング詐欺対策については、メールやSMS(ショートメッセージサービス)内にパスワード入力を促すページのURLやログインリンクを記載しない(法令に基づく義務を履行するために必要な場合など、その他の代替的手段を採り得ない場合を除く。)、利用者がアクセスしているサイトが真正なサイトであることの証明を確認できるような措置を講じる、送信ドメイン認証技術の計画的な導入、フィッシングサイトの閉鎖依頼等、提供するサービスの内容に応じた適切な不正防止策を講じているか。
    • (注)情報の収集に当たっては、金融関係団体や金融情報システムセンターの調査等、金融庁・警察当局から提供された犯罪手口に係る情報などを活用することが考えられる。
    • インターネット取引を行う場合には、提供するサービスの内容に応じて、以下の不正防止策を講じているか。また、内外の環境変化や事故・事件の発生状況を踏まえ、定期的かつ適時にリスクを認識・評価し、必要に応じて、認証方式等の見直しを行っているか。
      • ログイン、出金、出金先銀行口座の変更など、重要な操作時におけるフィッシングに耐性のある多要素認証(例:パスキーによる認証、 PKI (公開鍵基盤)をベースとした認証)の実装及び必須化(デフォルトとして設定)
      • (注1)フィッシングに耐性のある多要素認証の実装及び必須化以降、顧客が設定に必要な機器(スマートフォン等)を所有していない等の理由でやむを得ずかかる多要素認証の設定を解除する場合には、代替的な多要素認証を提供するとともに、解除率の状況をフォローした上で、認証技術や規格の発展も勘案しながら、解除率が低くなるよう多要素の認証の方法の見直しを検討・実施することとする。
      • (注2)フィッシングに耐性のある多要素認証を実装及び必須化するまでの間は、代替的な多要素認証を提供するとともに、当該実装及び必須化に向けた具体的なスケジュールについて顧客に周知する必要がある。また、それまでの期間においても、振る舞い検知やログイン通知等の検知機能を強化する必要がある。
      • 顧客が身に覚えのない第三者による不正なログイン・取引・出金・出金先口座変更を早期に検知するため、電子メール等により、顧客に通知を送信する機能の提供
      • 認証に連続して失敗した場合、ログインを停止するアカウント・ロックの自動発動機能の実装及び必須化
      • 顧客のログイン時の挙動の分析による不正アクセスの検知(ログイン時の振る舞い検知)及び事後検証に資するログイン・取引時の情報の保存の実施
      • 不正アクセスの評価に応じて追加の本人認証を実施するほか、当該不正が疑われるアクセスの適時遮断、不正アクセス元からのアクセスのブロック等の対応の実施
      • その他、日本証券業協会の「インターネット取引における不正アクセス等防止に向けたガイドライン」においてスタンダード(着実に実行する必要があるもの)とされた措置の実施
    • さらに、例えば、以下のような不正防止策を講じているか。
      • 取引時や他の銀行口座との連携サービス提供時におけるフィッシングに耐性のある多要素認証の提供
      • 取引金額の上限や購入可能商品の範囲を顧客が設定できる機能の提供
      • 不正なログイン・異常な取引等を検知し、速やかに利用者に連絡する体制の整備
      • その他、日本証券業協会の「インターネット取引における不正アクセス等防止に向けたガイドライン」においてベストプラクティス(対応することが望ましいもの)とされた措置の実施
  • 顧客対応
    • インターネット上でのID・パスワード等の個人情報の詐取の危険性、類推されやすいパスワードの使用の危険性(認証方式においてパスワードを利用している場合に限る。)、被害拡大の可能性等、様々なリスクの説明や、顧客に求められるセキュリティ対策事例の周知を含めた注意喚起等が顧客に対して十分に行われる態勢が整備されているか。
    • 顧客自らによる早期の被害認識を可能とするため、顧客が取引内容を適時に確認できる手段を講じているか。
    • 顧客からの届出を速やかに受け付ける体制が整備されているか。また、顧客への周知(公表を含む。)が必要な場合、速やかにかつ顧客が容易に理解できる形で周知できる体制が整備されているか。特に、被害にあう可能性がある顧客を特定可能な場合は、可能な限り迅速に顧客に連絡するなどして被害を最小限に抑制するための措置を講じることとしているか。
    • 不正取引を防止するための対策が利用者に普及しているかを定期的にモニタリングし、普及させるための追加的な施策を講じているか。
    • 不正取引による被害があった場合には、被害状況を十分に精査し、顧客の態様やその状況等を加味したうえで、顧客の被害補償を含め、被害回復に向けて真摯な顧客対応を行う態勢が整備されているか。
    • 不正取引に関する記録を適切に保存するとともに、顧客や捜査当局から当該資料の提供などの協力を求められたときは、これに誠実に協力することとされているか。
  • その他
    • インターネット取引が非対面取引であることを踏まえた、取引時確認等の顧客管理態勢の整備が図られているか。
    • インターネット取引に関し、外部委託がなされている場合、外部委託に係るリスクを検討し、必要なセキュリティ対策が講じられているか。
  • 監督手法・対応
    1. 犯罪発生時
      • インターネット取引における不正アクセス・不正取引を認識次第、速やかに「犯罪発生報告書」にて当局宛て報告を求めるものとする。
      • なお、財務局は金融商品取引業者から報告があった場合は直ちに金融庁担当課室に連絡すること。
    2. 問題認識時
      • 検査結果、犯罪発生報告書等により、金融商品取引業者のインターネット取引に係る健全かつ適切な業務の運営に疑義が生じた場合には、必要に応じ、法第56条の2第1項に基づき追加の報告を求める。その上で、犯罪防止策や被害発生後の対応について、必要な検討がなされず、被害が多発するなどの事態が生じた場合など、投資者保護の観点から問題があると認められる場合には、法第51条に基づき業務改善命令を発出する等の対応を行うものとする。

金融庁と警察庁は、証券口座の乗っ取り事件を受け、金融業界全体に不正アクセス対策の強化を要請しています。安全性が確保できない場合はサービス停止の検討を促す異例の内容で、強固な認証システムの導入やID・パスワードなどを盗む偽サイト対策に業界を挙げて取り組むよう求めています。証券業界のほか、銀行や保険、暗号資産交換業を含むほぼすべての金融機関の業界団体が対象で、背景には少額投資非課税制度(NISA)が浸透する中で、被害拡大を放置すれば国が掲げる「資産運用立国」の実現に水を差しかねないとの危機感があります。要請ではインターネットを通じたサービスを実施する際に生体認証を用いた「パスキー」など強力な多要素認証の実施を求めたほか、偽サイトの監視強化や、顧客への積極的な注意喚起や相談対応の強化なども要請、十分な仕組みが整備できない場合は商品・サービスの停止も含めて検討する必要があると指摘していますが、とりわけ、対策が足りない場合にサービス停止の検討を促すといった強い内容の要請文を業界全体に出すのは異例だといえます。背景には強い危機感があり、証券口座乗っ取りでは、証券会社は補償の方針を検討してきたが、なかなか足並みがそろわず、業界からは「不正アクセス対策を厳しくすると顧客の利便性を損なうのではないか」という懸念も上がったといいます。金融庁は「どの業態でも狙われる可能性がある。金融システム全体を揺るがす事態にもなりかねない」として、「顧客が安心できるサービス基盤を構築する責任が事業者にはある」(幹部)と判断し、今回の要請に至ったとされますが、誤った顧客満足ではなく、顧客の資産を守るという金融機関の使命に基づく「顧客本位」を貫くべきというのが筆者の考えです。また、被害が別の業界に及ぶ可能性もあり、インターネットバンキングの不正送金などかねて標的になりやすかった銀行業界では、セキュリティ強化が進んだ企業から対策の弱い企業に標的が移る傾向にあり、口座乗っ取り事件では、業界として隙があった証券口座が狙われたことで被害が広がった可能性があり、被害を未然に防ぐため、脆弱性が浮き彫りになっていない金融サービスでも先手を打って対策の強化を求めた形となります(筆者としてはこの対応を高く評価したいと思います)。前述のカウリスの島津社長は「証券口座の乗っ取りでも現金化は預金口座を通じて行われている」と指摘、「不正アクセスへの対策は証券だけなどひとつの業態では不十分で、金融業界全体で取り組まないと意味がない」と警鐘を鳴らしていますが、正に正鵠を射るものと思います。

世界のマネー・ローンダリング(マネロン)対策の国際基準をつくる金融活動作業部会(FATF)は国境を越えた送金に関する規制を強化する方針です。銀行や国際送金サービスを担う資金移動業者に、誰から誰への送金なのか明確にするよう求めるもので、デジタル技術の進展でクロスボーダー(国際)送金がマネロンに悪用される事例が増えており、取引の透明性を高める狙いがあります。FATFはこのほどフランスで開いた総会で、40のマネロン審査方針のうち国際送金に関わる勧告を改定、FATFは2026年秋にも、金融当局や金融機関が実務で使う指針を決めるとしています。FATFには日米など39カ国・地域が加盟し、勧告は加盟の有無によらず200以上の国・地域に適用されています。犯罪集団が新しい決済サービスを含む国際送金を悪用するケースは増えており、2022年には米ウォルマートの送金サービスが詐欺へ悪用されているのを防止しなかったとして米連邦取引委員会(FTC)が同社を提訴しています(同社は資金移動業者の代理店として顧客にサービスを提供していました)。日本でも警察庁によると、資金移動サービスを悪用したマネロン取引が2021~23年で40件確認されているといいます。新しい規制の柱は2つあり、ひとつはクロスボーダー送金に関して各国・地域の銀行同士がやりとりする情報を増やし、資金の送付側と受け取り側が誰なのか明確にすることで、従来の審査基準では送金の際に氏名や口座番号を受け取る側の銀行に通知すればよかったところ、住所や生年月日の通知も新たに義務付けるほか、受け取り側の金融機関に対し、送付側からの情報が正しいかどうか確認することも求めるとし、法人取引と個人取引のいずれも対象になるといいます。もうひとつはクロスボーダー送金の規制を、その前後の国内の資金移動にも課すことで、例えば、A国から資金移動業者のサービスを利用してB国へ送金する際、資金移動業者がB国内に持つ口座から実際の受取人の口座への資金移動については国内送金扱いとされ、国際送金の規制は課されず、資金移動業者のサービスを使った場合、A国とB国のそれぞれの銀行口座の間で合算で資金がやりとりされるため、実際に誰から誰に送っているのかが不透明でしたが、FATFの勧告改定では、B国内で資金を受け取った資金移動業者が、実際の受取人の口座を管理する同国の銀行に対し、誰からの送金なのかという情報を伝える義務を課すことになり、銀行や資金移動業者にとっては規制強化となります。最終的な送金先の名義人の問題は残るものの、資金の流れがより透明化されることで、犯罪収益の移転の未然防止や事後的な摘発につながる可能性が格段に高まるものと思われます。FATFは2030年末までに新たな規制に沿った運用を実施するよう求めていますが、金融機関はシステム対応などが必要となる見込みで、かなりの負荷となると予想されます。銀行同士で送金に伴って通知する情報を増やすには国際送金の新しい標準規格「ISO20022」の導入などの選択肢がありますが、日本の銀行間送金網「全国銀行データ通信システム(全銀システム)」は対応しておらず、システム改修も難しいという指摘があります。国際送金システムの国際銀行間通信協会(SWIFT)はISO20022に対応しているものの、手数料が高額だという課題があり、業界からは「実際のシステム対応をどのようにするかは未定だ」(メガバンクの担当者)と困惑の声が上がっているといいます。FATFや金融庁はこうした声を受けて、金融庁を含む各国・地域の当局と金融機関が意見交換する官民連携の枠組みを設ける方向で、業界の実情や要望をくみ取って円滑な移行を促すとしています。FATFは今回の勧告見直しと並行し、犯罪性が極めて薄い取引にも過剰なマネロン対策を講じている場合は対応を見直すよう求めています(リスクベースアプローチに基づく簡素化された措置のあり方の見直し)。各国・地域の当局や金融機関がリスクに応じた対策をとり、実効性を高めるのが目的で、規制のメリハリをつけ、金融機関の過剰な負担を避ける狙いがあります。

マネロン対策の負荷が高いことへの対応として、地方銀行が海外送金や決済などの外国為替業務から撤退する動きが相次いでいます。マネロン対策の負担増に加え、世界的な決済網である国際銀行間通信協会(SWIFT)の仕様変更も拍車をかけており、海外企業との取引に使う決済手段を提供できない地銀が増えれば、中小企業の海外展開に影響する可能性があります。金融機関が海外の企業などへ送金する際は、マネロン対策として、職業や事業内容、過去の取引実績といった情報を確認する必要があり、為替業務の取り扱いをやめた銀行は「取引そのものの確認もそうだが、送金先に稼働実態があるか現地へ赴いて商流を追うなど作業量は膨大だ」と述べています。本コラムでも取り上げてきましたが、地銀の外為業務縮小は、2018年2月に金融庁が金融機関へガイドラインを出すなどマネロン対策を厳格化したことから2019年ごろに相次ぎ、その後も犯罪収益やテロ資金の提供などにつながる可能性がある「疑わしい取引」を見極めるためのシステム導入など、金融機関はより厳しいチェック体制が求められるようになっています。さらに、2024年12月にはマネロン対策の不備でイオン銀行に業務改善命令が下されました。こうした中で外為業務から撤退する地銀が目立つようになっています。SWIFTの仕様変更への対応は、メガバンクで100億円規模の費用がかかるとされており、地銀でも重い負担となることも背景にあります。報道で銀行外為業務が専門の近大の花木教授は「金融機関は決済インフラを担っており、マネロン対策は非競争領域といえる。金融機関をはじめ官民が情報連携するなど、協調するのが有効だ」と指摘していますが、正にそのとおりかと思います。

金融庁が銀行業界に対し、預金口座をオンラインや郵送で開設する際、運転免許証の画像で行う本人確認手続きを早期に廃止するよう要請しています。口座が偽造され特殊詐欺などに悪用されるケースが後を絶たないためで、原則廃止予定だった2027年4月を待たず、なりすまし防止機能が高いマイナンバーカードの活用を促しています。本人確認の厳格化は犯罪収益移転防止法が定める特定事業者が対象となっており、銀行だけでなく証券会社やクレジットカード会社なども含まれており、金融庁は今後、金融業界に幅広く周知するとみられます。

マネロンの手口の高度化の実態を見せつけられる事件も発生しています。特殊詐欺の被害金を他人名義の口座に移すなどしたとして、警視庁が、石川県白山市の20代の会社員らベトナム国籍の男2人を組織犯罪処罰法違反(犯罪収益仮装)や電子計算機使用詐欺の容疑で逮捕しています。被害金は埼玉県内の40代男性が、警察官をかたった特殊詐欺でだまし取られた約1430万円の一部で、2人は現金を別の口座に振り替える役でした。同庁が男性の被害金の流れを調べたところ、まず複数の口座へ分けて送金し、さらに別の口座への分散・集約を繰り返しており、約1430万円のうち約800万円が計11の口座を介して、中古車販売会社など1都4県の計8社に送金されていたことが判明、一連の送金は11口座の間を1時間で20回移動させていたといいます。最終的に中古車販売会社には、車両の購入費名目で数百万円が振り込まれており、同社を通じて、乗用車とバイク計20台以上がロシアのウラジオストク港やパキスタンのカラチ港に輸出されていたといいます。被害者の振り込みから車が国外輸送されるまでの期間は早いケースで10日ほどで、悪用が判明した11口座のうち、8つは外国人名義で、捜査幹部は「組織化された外国人らのマネロングループが国内で暗躍しているおそれがある」とみています。情報セキュリティ大手ラックの小森・エバンジェリストは「犯罪収益を短時間に多数回移転させるマネロンの手口は近年目立ってきた」と指摘、背景には金融機関や警察によるATMへの監視強化があるといいます。また、犯罪収益は海外で現金化されるケースが目立ち、特殊詐欺組織が国外に拠点を移していることも関係しているとみられています。高速の資金洗浄を防ぐためには、警察と金融機関が情報を共有して不審な口座を凍結したうえ、管理している容疑者を摘発する必要がありますが、警察から金融機関への口座情報の照会は1件あたり数日~1週間程度かかる例も多く、迅速に対応できているとは言いがたい現状です。この点、金融機関と警察との間の情報共有に関する協定が拡がっており、金融機関側もAI等を活用したアンチ・マネロン・システムの精度向上の取組強化と情報共有の迅速化によって被害の防止や摘発の強化に期待が集まります。犯罪収益を隠す手法の巧妙化が特殊詐欺をさらに助長している面もあり、抑止には警察と金融機関の連携、国際捜査連携がキーとなります。

その他、最近のマネロンを巡る国内外の報道から、いくつか紹介します。

  • ルフィグループなど特殊詐欺に関与したとしてマネロン組織の幹部らが逮捕された事件で、警視庁などは、詐取金をマネロンしたとして、2人の容疑者を組織犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)容疑で再逮捕しています(逮捕は5回目)。報道によれば、2人は2023年5~6月、架空請求詐欺の手口で、新潟県と栃木県の60~70代の男女計3人から詐取した現金を暗号資産「ビットコイン」に交換、仲間が管理する別の暗号資産「テザー」の口座に送金した後、現金化された計約5億5000万円を受け取って隠した疑いがもられています。現金は、容疑者らが都内の路上などで仲間から受け取り、別の容疑者の当時の自宅に運んでいたとされます。2人は犯罪組織からマネロンを請け負っていたとみられ、2023年4~6月に詐欺などで得た計約13億円をマネロンしたとみられています。容疑者宅には、指示役「ルフィ」らのグループによる強盗事件の被害金の一部も運び込まれており、同庁はこの金もマネロンし、指示役に還流していたとみています。
  • 海外のオンラインカジノの賭け金を巡るマネロン事件で、神奈川県警は、オンラインカジノの収益で自宅マンションを購入してマネロンしたとして、40~50代の男2人を組織犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)の疑いで再逮捕しています。報道によれば、2人は2022年7月頃、海外にサーバー拠点を置くオンラインカジノの賭け金などの収益であることを隠して、会社役員の男の自宅マンションの一室を約1億円で購入し、マネロンした疑いがもたれています。2人は、不特定多数の客に賭博をさせたとして同法違反(組織的な常習賭博)の疑いで逮捕されていました。県警は、会社役員の男が賭け金などを管理する決済システムの統括役、会社員の男が会社役員の男を補佐する立場だったとみています。
  • 米国は、イエメンの親イラン武装組織フーシ派とつながる石油密輸・制裁回避ネットワークと見なした組織と個人に新たな制裁を発動しています。米財務省は声明で、この日に制裁対象となったイエメンとアラブ首長国連邦(UAE)の個人2人と5団体について、フーシ派に利益をもたらす石油製品輸入とマネロンの最重要実行者に含まれると説明しています。フォーケンダー財務副長官は「フーシ派は石油製品輸入から莫大な利益を上げ、国際金融システムへのアクセスを確保するため便乗商人と結託している」と指摘、「こうしたいかがわしいビジネスネットワークはフーシ派のテロ活動手段の基盤となっており、財務省はあらゆる手段を駆使して活動計画を阻止していく」と述べています。
  • 米紙WSJは、米金融取引業規制機構(FINRA)がモルガン・スタンレーのマネロンリスクに関する顧客審査方法を巡り調査していると報じています。調査対象は2021年10月から2024年9月までのウェルスマネジメント・トレーディング業務における顧客審査、リスクランキングと関連慣行だといいます。報道によれば、モルガン・スタンレーのウェルス部門とインスティテューショナル・セキュリティーズ部門の米国内外の顧客に関する情報を求めており、また、組織図、報告ライン、顧客リスクスコアリングツールの詳細も要求しているといいます。FINRAに最初に送られたデータが不完全、あるいは不正確だったと懸念を示す従業員もおり、FINRAが不備を指摘した後、モルガンSが追加情報を提供することになったものです。
  • インドの金融犯罪対策庁は、同国の富豪ムケシュ・アンバニ氏の弟で著名実業家であるアニル・アンバニ氏率いるリライアンス・アニル・アンバニ・グループの関連施設35カ所をマネロンと公的資金横領の疑いで捜索しています。報道によれば、同グループは2017~19年にイエス銀行から借り入れた300億ルピー(3億5000万ドル)を多数のペーパーカンパニーを通じて不正に流用、融資を受ける前にイエス銀行の関係者に賄賂を渡していた疑いが持たれています。捜査では、イエス銀行にも融資の承認手続きに重大な違反があったことが判明、具体的には、財務が悪化した企業への融資、不良債権を隠すための不正な融資、財務状況の偽装などに関与していたといいます。なお、アニル・アンバニ氏の企業グループでは2017年以降、複数の企業が破綻しています。

(2)特殊詐欺を巡る動向

警察庁は、2025年上半期(1~6月)の特殊詐欺の被害が暫定値で過去最悪の1万3213件(前年同期比+4256件)に上り、被害額が前年同期の約2.6倍の約597億3000万円だったと発表しました。警察官を装ってスマホなどに電話をかけ、LINEなどに誘導する「・警察官等をかたり捜査(優先調査)名目で現金等をだまし取る手口(ニセ警察詐欺)」の手口が4割弱で、若者も標的にされていると指摘しています。ニセ警察詐欺は4737件に上り、被害額は約389億3000万円で、被害者の年代は幅広く、30代が最多の20.5%、20代18.7%、60代14.2%と続いています。約7割は携帯電話の着信が入り口になっており、その後、LINEなどのSNSに誘導し、偽の警察手帳や逮捕状の画像を送信、「犯罪に関与しているか判断する」などとウソを言って、現金や暗号資産を振り込ませるのが主な手口です。「2時間後からこの電話は使えなくなる」などと、まず自動音声ガイダンスが流れる手口も増えており、1件あたりの被害額は約828万円と、他の特殊詐欺の3倍以上と被害額が多いのも特徴です。なお、女性被害者の一部は、ビデオ通話で「身体検査する」などと言われ、服を脱がされる性被害も受けていました。詐欺電話の7割超は「+」から始まる国際電話番号で、末尾が「0110」など、警察署からの電話を装うケースが目立ちました。警察への信頼を逆手に取った手口で、警察庁は、スマホへの国際電話の着信を規制するアプリの利用を呼びかけています。このほか、上半期のSNS型投資・ロマンス詐欺の認知件数は5345件(前年同期比+235件)、被害総額は約590億8000万円(▲70億9000万円)で依然被害は高止まりしたままとなっています。SNS型詐欺は、マッチングアプリやインスタグラムなどを入り口とし、株や暗号資産などへの投資名目で金銭を要求する手口が目立ち、警察庁は「会ったことのない人に投資を勧められたら詐欺を疑い、相談ダイヤル(#9110)に連絡してほしい」としています。また、海外を拠点としたグループが関与している疑いがあり、海外当局と連携した国際捜査を通じた拠点の摘発にも力を入れるとしています。

▼警察庁 特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等(令和7年上半期・暫定値)について
▼広報資料
  1. 認知状況
    1. 特殊詐欺
      • 特殊詐欺の認知件数(以下1(1)において「総認知件数」という。)は13,213件(+4,256件、+47.5%)、被害額(以下1(1)において「被害総額」という。)は597.3億円(+369.4億円、+162.1%)と、前年同期に比べて総認知件数、被害総額ともに著しく増加。
      • オレオレ詐欺、預貯金詐欺及びキャッシュカード詐欺盗(以下3手口を合わせて「オレオレ型特殊詐欺」という。)の認知件数は7,846件(+3,922件、+99.9%)、被害額は470.0億円(+342.3億円、+268.2%)で、総認知件数に占める割合は59.4%(+15.6ポイント)。
      • 架空料金請求詐欺の認知件数は2,870件(+296件、+11.5%)、被害額は69.2億円(+7.4億円、+12.0%)で、総認知件数に占める割合は21.7%(-7.0ポイント)。パソコンのウイルス除去をサポートするなどの名目で電子マネー等をだまし取る「サポート名目」の認知件数は679件(-377件、-35.7%)、被害額は8.5億円(+2.2億円、+34.8%)で、架空料金請求詐欺の認知件数に占める割合は23.7%(-17.4ポイント)。
      • 警察官等をかたり捜査(優先調査)名目で現金等をだまし取る手口(以下「ニセ警察詐欺」という。)による被害が顕著であり、認知件数は4,737件、被害額は389.3億円で、総認知件数に占める割合は35.9%。オレオレ詐欺の認知件数は6,278件(+4,138件、+193.4%)、オレオレ詐欺の認知件数におけるニセ警察詐欺の認知件数は4,601件(73.3%)で、その大半を占める。この手口は令和6年後半頃から被害の増加が顕著であり、本年上半期の総認知件数及び被害総額が前年同期に比べて著しく増加している主たる要因となっている。
      • 副業を名目として現金等をだまし取る手口(以下「副業詐欺」という。)による被害が目立っており、認知件数は832件、被害額は14.1億円で、総認知件数に占める割合は6.3%。
      • 都道府県別の認知件数は、東京都が2,165件(+627件、+40.8%)と最も多く、次いで大阪府1,626件(+333件、+25.8%)、神奈川県1,134件(+303件、+36.5%)、兵庫県960件(+361件、+60.3%)、愛知県914件(+251件、+37.9%)、埼玉県884件(+211件、+31.4%)、福岡県687件(+383件、+126.0%)、千葉県562件(+145件、+34.8%)の順。総認知件数に占めるこれら8都府県の認知件数の割合は67.6%(-2.9ポイント)。これら8都府県の人口が全人口に占める割合(51.4%)と比べても高い割合となっており、被害が大都市圏に集中。
      • 1日当たりの被害額は3.3億円(+2.0億円、+163.5%)。
      • 既遂1件当たりの被害額は464.6万円(+203.6万円、+78.0%)。ニセ警察詐欺の既遂1件当たりの被害額は828.7万円、ニセ警察詐欺を除いた特殊詐欺の既遂1件当たりの被害額は254.9万円と、ニセ警察詐欺が既遂1件当たりの被害額を押し上げている主たる要因。
      • 振込型の認知件数は8,213件(+4,214件、+105.4%)、被害額は369.8億円(+247.1億円、+201.3%)と、いずれも増加し、総認知件数に占める割合は62.2%(+17.5ポイント)、被害総額に占める割合は61.9%(+8.1ポイント)。
      • 振込型におけるインターネットバンキング(IB)利用の認知件数は3,167件、被害額は220.2億円で、振込型全体に占める割合は、認知件数が38.6%、被害額が59.5%。
      • 振込型において、暗号資産交換業者の口座に振込みを行う暗号資産振込の認知件数は214件(+68件、+46.6%)、被害額は32.0億円(+18.2億円、+131.9%)。
      • 暗号資産送信型の認知件数は371件(+347件、+1,445.8%)、被害額は57.8億円(+48.1億円、+496.7%)。振込型における暗号資産振込と合わせると、一次的な被害金等交付形態が実質的に暗号資産であるものが総認知件数に占める割合は4.4%(+2.5ポイント)、被害総額に占める割合は15.0%(+4.7ポイント)。
      • 振込型以外の主な交付形態の総認知件数に占める割合は、現金手交型が13.2%(-1.8ポイント)、キャッシュカード手交型・窃取型が12.5%(-8.4ポイント)、電子マネー型が6.6%(-10.7ポイント)。
      • 特殊詐欺全体における高齢者(65歳以上)被害の認知件数は6,978件(+659件、+10.4%)で、法人被害を除いた総認知件数に占める割合は52.9%(-17.8ポイント)。
      • オレオレ詐欺の認知件数を年代別にみると、80代以上が1,454件(+356件、+32.4%)と最も多く、次いで30代が988件(+891件、+918.6%)、70代が925件(+432件、+87.6%)、20代が915件(+833件、+1,015.9%)となっており、オレオレ詐欺の認知件数に占める20代と30代の割合は30.3%(+22.0ポイント)。架空料金請求詐欺の認知件数は、60代が596件(-48件、-7.5%)と最も多く、次いで70代が516件(-135件、-20.7%)、20代が487件(+240件、+97.2%)、30代が296件(+103件、+53.4%)となっており、架空料金請求詐欺の認知件数に占める20代と30代の割合は27.3%(+10.2ポイント)。オレオレ詐欺や架空料金請求詐欺では、高齢者以上に20代及び30代の若い世代にも被害が広がっており、総認知件数に占める高齢者の割合が減少している主たる要因。
      • オレオレ詐欺及び架空料金請求詐欺以外の手口では、高齢者被害の認知件数は3,175件(-248件、-7.2%)で、これらの手口に占める割合は78.4%(-2.5ポイント)と、これらの手口では高齢者被害の割合は高いものの認知件数は減少。
      • ニセ警察詐欺の認知件数は、30代が973件と最も多く、次いで20代が884件となっており、若い世代に被害が拡大。他方で、被害額は、70代が105.5億円と最も多く、次いで60代が99.4億円となっており、70代及び60代の被害額が大きい。
      • 被害者を欺罔する手段として犯行の最初に用いられた当初接触ツールの総認知件数に占める割合は、電話79.1%(+2.9ポイント)、メール・メッセージ12.0%(+3.5ポイント)、ポップアップ表示 6.3%(-7.0ポイント)、はがき・封書等 2.6%(+0.6ポイント)と、電話による欺罔が8割近くを占める。
      • 主な手口別では、オレオレ型特殊詐欺及び還付金詐欺では電話が9割以上。架空料金請求詐欺ではメール・メッセージが39.2%(+16.6ポイント)、ポップアップが27.4%(-18.0ポイント)、電話が26.9%(-1.6ポイント)。
      • 警察が把握した、電話の相手方に対して、住所や氏名、資産、利用金融機関等を探るなどの特殊詐欺が疑われる電話(予兆電話)の件数は165,292件(+93,834件、+131.3%)で、月平均27,549件(+15,639件、+131.3%)。
      • 予兆電話の総件数に占めるこれら8都府県の合計件数の割合は55.2%(-5.9ポイント)。これらの地域における認知件数の総認知件数に占める割合(63.9%)と比べると割合が低くなっており、予兆電話が大都市圏に集中することなく、地方にもかかってきている。
    2. SNS型投資・ロマンス詐欺
      • SNS型投資・ロマンス詐欺の認知件数(以下この項において「総認知件数」という。)は5,345件(+235件、+4.6%)、被害額は590.8億円(-70.9億円、-10.7%)と前年同期に比べて、総認知件数は増加、被害額は減少。
      • 都道府県別の認知件数は、大阪府が542件(+59件、+12.2%)と最も多く、次いで東京都533件(+150件、+39.2%)、愛知県481件(+113件、+30.7%)、兵庫県454件(-20件、-4.2%)、福岡県301件(-25件、-7.7%)、神奈川県260件(-23件、-8.1%)、岐阜県155件(+7件、+4.7%)、広島県149件(-31件、-17.2%)の順となっており、総認知件数に占めるこれら8都府県の合計認知件数の割合は53.8%(+2.0ポイント)となっており、特殊詐欺に比べ大都市圏への集中は見られない。
      • 1日当たりの被害額は3.3億円(-0.4億円、-10.2%)。
      • 既遂1件当たりの被害額は1,105.9万円(-189.4万円、-14.6%)。
    3. SNS型投資詐欺
      • SNS型投資詐欺の認知件数は2,884件(-702件、-19.6%)、被害額は351.2億円(-153.3億円、-30.4%)と認知件数、被害額ともに前年同期に比べて減少。
      • 振込型の認知件数は2,100件(-1,104件、-34.5%)、被害額は266.4億円(-179.2億円、-40.2%)、暗号資産送信型の認知件数は711件(+396件、+125.7%)、被害額は81.2億円(+38.5億円、+90.1%)と、被害金等交付形態が暗号資産送信型にシフトしている傾向が見られるが、暗号資産送信型の増加に比して、振込型の減少が大きく、SNS型投資詐欺の被害額が減少している主たる要因。SNS型投資詐欺の認知件数に占める割合は、振込型が72.8%(-16.5ポイント)、暗号資産送信型が24.7%(+15.9ポイント)であり、被害額に占める割合は、振込型が75.9%(-12.5ポイント)、暗号資産送信型が23.1%(+14.7ポイント)。
      • 振込型におけるインターネットバンキング利用の認知件数は1,424件(-479件、-25.2%)、被害額は200.1億円(-106.5億円、-34.7%)で、振込型全体に占める割合は、認知件数が67.8%(+8.4ポイント)、被害額が75.1%(+6.3ポイント)。
      • 振込型において、暗号資産交換業者の口座に振込みを行う暗号資産振込の認知件数は52件(-57件、-52.3%)、被害額は3.5億円(-10.1億円、-74.4%)。暗号資産送信型と合わせると、一次的な被害金等交付形態が実質的に暗号資産であるものがSNS型投資詐欺の認知件数に占める割合は26.5%(+14.6ポイント)、被害額に占める割合は24.1%(+12.9ポイント)。
      • 被害者の年齢層は、男性、女性ともに40代から60代が多数を占め、幅広い年代に被害が及んでいる。
      • 被害者の性別は、男性が1,715人(-151人、-8.1%)、女性が1,169人(-548人、-31.9%)と、男性の被害がSNS型投資詐欺の認知件数の約6割を占める。
      • 当初接触ツールは、Instagramが596件(-342件、-36.5%)、LINEが422件(-272件、-39.2%)、Facebookが337件(-266件、-44.1%)と、これらのツールで全体の約半数を占める。他方、これら以外のツールをみると、投資のサイトが298件(-106件、-26.2%)、X(Twitter)が295件(+187件、+173.1%)、TikTokが208件(+118件、+131.1%)、YouTubeが189件(+155件、+455.9%)と、当初接触ツールの多様化が認められる。
      • 被害時の連絡ツールは、LINEが2,582件(-738件、-22.2%)と、全体の約9割を占める。
      • 当初の接触手段は、ダイレクトメッセージが1,386件(+546件、+65.0%)、バナー等広告が866件(-1,016件、-54.0%)と、ダイレクトメッセージを当初の接触手段とする被害が増加傾向にあり、これらが全体の8割近くを占める。
      • ダイレクトメッセージのツール別内訳は、Instagramが345件(+109件、+46.2%)、Facebookが245件(+69件、+39.2%)、LINEが222件(+65件、+41.4%)と、これらのツールで全体の半数以上を占める。
      • バナー等広告のツール別内訳は、Instagramが180件(-402件、-69.1%)、投資のサイトが162件(-105件、-39.3%)、YouTubeが144件(+115件、+396.6%)と、これらのツールで全体の半数以上を占める。
      • Instagram、Facebook及びLINEのダイレクトメッセージ、YouTubeにおけるバナー等広告を接触手段とする認知件数の増加が、被害が高止まりしている主たる要因。
      • 認知件数をみると、ダイレクトメッセージがバナー等広告を上回っているものの、バナー等広告については、令和7年3月以降増加に転じている。その内容は、著名人になりすます偽広告も見られるものの、「暗号資産投資で安定した収入」、「株式投資で儲かる」などの文言を含む広告が見られた。
      • 被疑者が詐称した身分(地域)は、日本(国内)が2,158件(-728件、-25.2%)。
      • 被疑者が詐称した職業は、投資家が899件(-391件、-30.3%)、会社員186件(+51件、+37.8%)、その他著名人76件(-584件、-88.5%)。
    4. SNS型ロマンス詐欺
      • SNS型ロマンス詐欺の認知件数は2,461件(+937件、+61.5%)、被害額は239.6億円(+82.4億円、+52.4%)と、認知件数、被害額ともに前年同期に比べて増加。
      • 金銭等の要求名目は「暗号資産投資」が最多となっており、認知件数は920件(+424件、+85.5%)と、SNS型ロマンス詐欺の認知件数に占める割合は37.4%(+4.8ポイント)。被害額は102.0億円(+45.9億円、+81.7%)と、SNS型ロマンス詐欺の被害額に占める割合は42.6%(+6.9ポイント)。
      • 主な被害金等交付形態の認知件数は、振込型が1,460件(+271件、+22.8%)、暗号資産送信型が828件(+587件、+243.6%)、被害額は、振込型が142.1億円(+9.1億円、+6.8%)、暗号資産送信型が94.0億円(+72.2億円、+331.1%)。SNS型ロマンス詐欺の認知件数に占める割合は、振込型が59.3%(-18.7ポイント)、暗号資産送信型が33.6%(+17.8ポイント)であり、被害額に占める割合は振込型が59.3%(-25.3ポイント)、暗号資産送信型が39.2%(+25.4ポイント)。
      • 振込型におけるインターネットバンキング(IB)利用の認知件数は747件(+170件、+29.5%)、被害額は97.3億円(+8.2億円、+9.2%)で、振込型全体に占める割合は認知件数が51.2%(+2.6ポイント)、被害額が68.5%(+1.5ポイント)。
      • 被害者の年齢層は、男女ともに、40代から60代が多数を占め、幅広い年代に被害が及んでいる。
      • 被害者の性別は、男性が1,552人(+599人、+62.9%)、女性が909人(+338人、+59.2%)と、男性の被害が全体の認知件数の約6割を占める。
      • 当初接触ツールは、マッチングアプリが796件(+259件、+48.2%)、Instagramが575件(+233件、+68.1%)、Facebookが473件(+135件、+39.9%)と、これらのツールで全体の7割以上を占める。
      • 被害時の連絡ツールは、LINEが2,290件(+864件、+60.6%)と、全体の9割以上を占める。
      • 当初の接触手段は、ダイレクトメッセージが最多となっており、2,251件(+1,039件、+85.7%)と全体の9割以上を占める。
      • ダイレクトメッセージのツール別内訳は、マッチングアプリが731件(+363件、+98.6%)、Instagramが557件(+242件、+76.8%)、Facebookが447件(+152件、+51.5%)と、これらのツールで全体の8割近くを占める。
      • 被疑者が詐称した身分(地域)は、日本(国内)が1,433件(+681件、+90.6%)と認知件数の半数以上を占める一方、東アジア、東南アジア、日本(国外)等の海外の地域もみられる。
      • 被疑者が詐称した職業は、投資家248件(+89件、+56.0%)、会社員214件(+56件、+35.4%)、会社役員181件(+84件、+86.6%)のほか、芸術・芸能関係や医療関係等様々なものがみられる。
  2. 検挙状況
    1. 特殊詐欺
      • 特殊詐欺全体の検挙件数は2,974件(+354件、+13.5%)、検挙人員(以下2(1)において「総検挙人員」という。)は1,017人(+135人、+15.3%)と、いずれも増加。
      • 手口別では、オレオレ型特殊詐欺の検挙人員は818人(+125人、+18.0%)で、総検挙人員に占める割合は80.4%(+1.9ポイント)。
      • 中枢被疑者の検挙人員は27人(+9人、+50.0%)で、総検挙人員に占める割合は2.7%(+0.6ポイント)。
      • 役割別では、受け子が634人(+90人、+16.5%)と最も多く、総検挙人員に占める割合は62.3%(+0.7ポイント)。
      • 預貯金口座や携帯電話の不正な売買等の特殊詐欺を助長する犯罪で2,442件(+155件、+6.8%)、1,737人(+73人、+4.4%)を検挙。
      • 暴力団構成員等の検挙人員は217人(+45人、+26.2%)で、総検挙人員に占める割合は21.3%(+1.8ポイント)
      • 暴力団構成員等の検挙人員のうち、受け子は115人(+35人、+43.8%)、リクルーターは25人(+3人、+13.6%)、出し子は24人(+9人、+60.0%)
      • 少年の検挙人員は202人(+24人、+13.5%)で、総検挙人員に占める割合は19.9%(-0.3ポイント)。少年の検挙人員のうち、受け子は150人(+31人、+26.1%)で、少年の検挙人員の74.3%(+7.4ポイント)を占める。
      • 受け子の検挙人員(634人)に占める少年の割合は23.7%(+1.8ポイント)と、受け子のおよそ4人に1人が少年。
      • 外国人の検挙人員は88人(+44人、+100.0%)で、総検挙人員に占める割合は8.7%(+3.7ポイント)。
      • 外国人の検挙人員のうち、受け子は48人(+22人、+84.6%)、出し子は15人(+7人、+87.5%)で、それぞれ外国人の検挙人員の54.5%(-4.5ポイント)、17.0%(-1.1ポイント)を占める。
      • 国籍別では、中国が32人(+14人、+77.8%)と最も多く、次いでベトナムが18人(+15人、+500.0%)、マレーシアが13人(+7人、+116.7%)の順。
      • 国籍別に役割をみると、中国は受け子が18人(+7人、+63.6%)、ベトナムは出し子が10人(+7人、+233.3%)、マレーシアは受け子が11人(+6人、+120.0%)とそれぞれ最も多くなっている。
      • 特殊詐欺の受け子等として検挙した被疑者973人(+120人、+14.1%)のうち、受け子等になった経緯は、SNSから応募が383人(+14人、+3.8%)と最も多く、次いで知人等紹介が331人(+46人、+16.1%)となっており、受け子等として検挙した被疑者のうち、SNSから応募が39.4%、知人等紹介が34.0%を占める。
    2. SNS型投資・ロマンス詐欺
      • SNS型投資・ロマンス詐欺全体の検挙件数は195件(+135件、+225.0%)、検挙人員は103人(+66人、+178.4%)と、いずれも増加。
      • 手口別では、SNS型投資詐欺の検挙件数は86件(+57件、+196.6%)、検挙人員は36人(+20人、+125.0%)で、SNS型ロマンス詐欺の検挙件数は109件(+78件、+251.6%)、検挙人員は67人(+46人、+219.0%)。
      • 役割別では、主犯が32人(+25人、+357.1%)と最も多く、次いで出し子が18人(+10人、+125.0%)、受け子が14人(+9人、+180.0%)。
      • 主犯32人のうち単独犯は23人(+17人、+283.3%)で、組織的な犯行ではない事例の被疑者も含まれる。
      • 検挙人員のうち、暴力団構成員等は2人(+2人)で、役割別では受け子1人、主犯1人。少年は3人( + 3人 ) で、役割別では主犯3人。外国人は29人(+21人、+262.5%)で、役割別では出し子が11人(+8人、+266.7%)、受け子が4人(+1人、+33.3%)と、これらで半数を占める。
      • 外国人の国籍別では、ベトナムが12人(+10人、+500.0%)と最も多く、次いで中国が10人(+7人、+233.3%)の順。国籍別に役割をみると、ベトナムはその他6人(+6人)、中国は出し子4人(+3人、+300.0%)がそれぞれ最も多くなっている。
      • SNS型投資・ロマンス詐欺の受け子等として検挙した被疑者68人(+38人、+126.7%)のうち、受け子等になった経緯は、知人等紹介が24人と最も多く、次いでSNSから応募が22人となっており、受け子等として検挙した被疑者のうち、知人等紹介が35.3%、SNSから応募が32.4%を占める。
  3. 対策の取組
    1. 「国民を詐欺から守るための総合対策2.0」を踏まえた取組
      • 令和7年4月22日、犯罪対策閣僚会議において、一層複雑化・巧妙化する詐欺等について、手口の変化に応じて機敏に対策をアップデートするとともに、犯罪グループを摘発するための実態解明の取組や犯罪グループと被害者との接点の遮断といった抜本的な対策を強化する必要性を踏まえ、「国民を詐欺から守るための総合対策2.0」が決定された。これに基づき、中枢被疑者の検挙の徹底を図るとともに、詐欺の手口の変化に応じた情報発信をタイムリーに行いつつ、関係省庁や事業者と連携した一層踏み込んだ対策を強力に推進。
    2. 被害防止対策の推進
      1. 犯人からの電話を直接受けないための対策の推進
        • ニセ警察詐欺をはじめ、高齢者以外の20代、30代を含む幅広い年代の被害も増加。これは特殊詐欺等の手口が巧妙化し、犯人側と接触してしまえば、誰もがだまされるおそれがあるということを意味する。したがって、機械的・自動的な仕組みによって、詐欺の電話をはじめとする犯人側からの接触手段を適切に遮断し、国民が犯人側と接触せずに済む環境を実現することが重要。この点、令和5年7月以降、国際電話番号を利用した特殊詐欺が急増しているが、固定電話については、「国際電話不取扱受付センター」に申し込めば、固定電話・ひかり電話を対象に国際電話番号からの発着信を無償で休止可能。
        • また、携帯電話については、国際電話の着信規制が可能なアプリを利用することにより、着信を遮断可能。
        • 警察では、このような国際電話の利用休止等が特殊詐欺の被害防止に極めて有効であることを広く社会に呼び掛け、社会全体の機運を醸成する活動を「みんなでとめよう!!国際電話詐欺#みんとめ」と呼称して推進。
      2. 関係事業者と連携した被害の未然防止対策の推進
        • コンビニエンスストア店員や金融機関職員等による声掛け等により、9,403件(-1,353件、-12.6%)、67.9億円(+31.5億円、+86.7%)の被害を防止(阻止率17 42.2%、-12.9ポイント)。*阻止件数を認知件数(既遂)と阻止件数の和で除した割合
        • ニセ警察詐欺において、SNSが被疑者と被害者との連絡ツールに使用されている状況を踏まえ、SNS事業者と連携した注意喚起を行う取組を推進。
    3. 犯行ツール対策の推進
      1. 金融機関との情報連携体制の構築
        • 令和6年6月の犯罪対策閣僚会議で決定された「国民を詐欺から守るための総合対策」に、金融機関において詐欺被害と思われる出金・送金等の取引をモニタリング・検知する仕組み等を構築し、警察へ迅速な情報共有を行う取組の推進が盛り込まれたことを踏まえ、 同年8月、警察庁は金融庁と連携し、一般社団法人全国銀行協会等の金融機関団体に対し、同取組に係る連携体制の構築について要請。警察庁及び都道府県警察は、順次、金融機関と協定を締結するなど、本取組を推進している。令和7年6月末現在、44警察本部と515金融機関が、警察庁と全国に顧客を有する都市銀行等10行が連携中。
      2. 犯行に利用されたSNSアカウントの利用停止措置の推進
        • 警察が認知したSNS型投資・ロマンス詐欺及び特殊詐欺の犯行に利用されたLINEアカウントの利用停止や削除等を促すため、LINEヤフー株式会社に情報提供したアカウントは8,299件(SNS型投資・ロマンス詐欺3,777件、特殊詐欺4,522件)。
        • 警察が認知したSNS型投資・ロマンス詐欺及び特殊詐欺の犯行に利用されたFacebookアカウント及びInstagramアカウントの利用停止や削除等を促すため、Meta Platforms, Incに情報提供したアカウントは265件(SNS型投資・ロマンス詐欺229件、特殊詐欺36件)。
      3. 犯行に利用された電話番号の利用停止等
        • 主要な電気通信事業者に対して、特殊詐欺に利用された固定電話番号等の利用停止要請を実施し、固定電話番号239件、050IP電話番号754件を利用停止。また、犯行に利用された携帯電話について、役務提供拒否に係る情報提供を257件実施。
    4. 取締り及び実態解明の推進
      1. 匿名・流動型犯罪グループの存在を見据えた取締りと実態解明の推進
        • 匿名・流動型犯罪グループの活動実態の変化に機動的に対応し、事件の背後にいる首謀者や指示役も含めた犯罪者グループ等の弱体化・壊滅のため、部門の壁を越えた効果的な取締りと、匿名・流動型犯罪グループの資金獲得活動等に係る実態解明の推進。
      2. 外国捜査機関との連携及び海外拠点に関する被疑者の摘発
        • 国境を越える組織的詐欺と闘う国際的な機運の高まりも踏まえ、東南アジア諸国の外国捜査機関との間で、情報交換や協議等を通じて、取締りの重要性について認識を共有するとともに、国際連携を強化。
        • ニセ警察詐欺について
          1. ニセ警察詐欺の被害の流れ
            • 当初接触ツールはほとんどが電話、そのうち携帯電話への架電が約7割
            • 欺罔の段階では、連絡ツールがLINEをはじめSNS等に移行
            • 主な被害金等交付形態の8割以上が振込型
          2. 主な欺罔方法
            • 「2時間後からこの電話は使えなくなる」などの自動音声ガイダンス
            • 指定された番号を押すと、通信事業者等を名乗る者につながる
            • 「あなた名義の携帯電話が犯罪に使われている」などと言われ、警察官等をかたる者に電話が代わる
            • やりとりがSNS等に移り、アプリを使用して、警察官等をかたる者とビデオ通話したり、相手方から警察手帳、逮捕状の画像等が送信される
            • 「あなたのお金が犯罪に関与しているか判断する」などと言って、現に使っている口座の全ての金額を振り込むよう要求
          3. 認知件数等からみた特徴
            • 被害は幅広い年代にわたるが、全体のうち30代が973件(20.5%)と最多、次いで20代が884件(18.7%)
            • 30代・20代は、携帯電話への架電がほとんど
            • 60代以上では固定電話への架電も多くみられる
            • 「2時間後からこの電話は使えなくなる」「使用する場合は1番を押してください」などの自動音声ガイダンスを利用した被害も発生。犯人側が自動発信機能等を利用して大量に架電している実態もうかがわれる
            • 犯行に利用される電話番号の多くは「+1」等から始まる国際番号
            • 実在する警察本部や警察署等の電話番号を偽装して表示させる手口を確認。「+」から始まる国際番号表示による偽装が多かったが、中には「+」表示のない正規の電話番号を偽装した手口も散見
          4. 被害額等からみた特徴
            • 既遂1件当たりの被害額828.7万円(他の特殊詐欺(254.9万円)の3.3倍)
            • 年代別の既遂1件当たりの被害額 60代以上が1,559.2万円と高額
            • 主な被害金等交付形態別の被害額
            • 振込型261.5億円(ニセ警察詐欺全体の67.2%)
            • 暗号資産送信型既遂1件当たりの被害額が1,897.1万円と高額(認知件数は267件と多くはないが、本年3月から4か月連続で増加)
          5. 被害者が詐欺の受け子等の犯罪の道具として使われる手口
            • 被害者が警察官等を名乗る者からの指示により、別の特殊詐欺事件の受け子等として犯行に加担させられる手口を確認
            • 検挙人員のうち、本手口により受け子等として犯行に加担させられた者は5人
          6. 犯行に加担させる文言
            • 資金調査に協力してほしい。個人宅に行き、お金や通帳を受け取るだけの簡単な調査である
            • 信用があるか確認する。口座をなるべく作ってもらい、そこにお金を振り込むので、指定された口座に振り込んでほしい
            • 犯罪をしていないなら、それを証明するために捜査に協力するように
          7. 加担させられた行為
            • 被害者方を訪れ、免許証を提示して警察官を名乗り、キャッシュカードを受け取った(受け子)
            • 「言われたとおりやらないと振り込んだお金は返らない。」等と言われ、自身の口座に振り込まれた詐欺の被害金を引き出し、被疑者に指定された口座に振り込んだ(出し子)※受け子、出し子の両方をさせられた事例も確認
          8. 犯行中の認識
            • (本物の)警察の秘匿調査に協力していると信じていた
            • 指示に従わなければ逮捕されてしまうと思っていた
            • 自分が振り込んだお金が返金されるために送金した
  • 性的な被害を伴う手口
    • 警察官を名乗り電話を架け、SNS等のビデオ通話に誘導し、偽の「警察手帳」や「逮捕状」を示すなどして、「犯罪に加担していないことを証明するため」などとして金銭を要求するとともに、わいせつな行為を強要する性的な被害を伴う手口を確認
    • 都道府県警察から警察庁に報告があったものは48件(※未遂・相談事案を含む。)
    • 犯人の手口
      1. 身体確認名目
        • 「あなたには犯人の疑いがある。犯人の身体には刺青が入っているので確認させてほしい。」などと被害者に申し向けてビデオ通話中に服を脱がせる。
      2. 行動確認名目
        • 「あなたを逮捕しないためにはビデオ通話で監視する必要がある。」などと被害者に申し向けて、ビデオ通話でトイレや入浴中も映像送信を継続させ行動を監視する。
      3. 身体検査名目
        • 「身体検査をするので服を脱いでください。」「下着に物を隠していないか確認する。」などと被害者に申し向け、ビデオ通話中に服を脱がせる。
    • 副業詐欺について
      1. 手口の概要
        • 認知件数832件(特殊詐欺全体の6.3%)被害額14.1億円(同2.4%)
        • SNS上等で、「短時間」「簡単」等の甘言で副業を勧める広告等を入口とした詐欺が令和7年1月以降毎月100件以上発生
        • 現金等をだまし取る名目として確認されている代表的なものは以下のとおり
          • 「動画をスクリーンショットして送るだけ」等の簡単な作業で報酬が支払われるとうたい、スクリーンショットを画像送信すると「あなたが操作ミスをしたせいで、他の人にも迷惑がかかる」などと損失の補償を名目とするもの
          • 「SNSでゲームのPRをするだけで報酬が得られる」などとコンサルタント料を名目とするもの
      2. 特徴
        • 年代別60歳未満が2%。性別女性が65.5%(約6割が30代以下)
        • 当初接触ツールSNSが5%と最多
        • 男女別SNSの内訳男性は20代から60代まで「TikTok」、女性は20代から50代まで「Instagram」がそれぞれ最多
        • 主な被害金等交付形態振込型が9%既遂1件当たりの被害額157.3万円(うちIBが58.9%、既遂1件当たりの被害額は169.7万円)暗号資産送信型が5.2%、既遂1件当たりの被害額401.5万円
  • 有料サイト利用料金等名目
    • 認知件数689件(+85件、+14.1%)架空料金請求詐欺全体の24.0%(+0.5ポイント)
    • 被害額25.5億円(+1.0億円、+4.2%)架空料金請求詐欺全体の36.8%(-2.7ポイント)
    • 既遂1件当たりの被害額402.7万円(-5.6万円、-1.4%)
    • 被害者の61.8%(-1.4ポイント)が65歳未満、年代別では60代が20.9%(-4.1ポイント)と最多、次いで70代が19.6%(+0.1ポイント)、50代が18.1%(+1.6ポイント)
    • 当初接触ツール携帯電話が59.4%※と最多、次いでSMSが26.4%
    • 主な被害金等交付形態別の認知件数ATMが75.8%※と最多
    • 年代別既遂1件当たりの被害額90代が2557.1万円(+282.1万円、+12.4%)と最多、次いで60代が582.7万円(-200.8万円、-25.6%)、50代が552.2万円(+258.6万円、+88.1%)
  • サポート名目
    • 認知件数679件(-377件、-35.7%)架空料金請求詐欺全体の23.7%(-17.4ポイント)
    • 被害額8.5億円(+2.2億円、+34.8%)架空料金請求詐欺全体の12.3%(+2.1ポイント)
    • 既遂1件当たりの被害額143.4万円(+81.5万円、+131.8%)
    • 被害者の80.5%(+4.3ポイント)が60代以上、そのうち男性が78.8%(-0.4ポイント)。年代別では60代が36.3%(+3.9ポイント)と最多、次いで70代が31.9%(-1.9ポイント)、80代が11.7%(+2.1ポイント)
    • 主な被害金等交付形態別の認知件数電子マネー型が68.2%(-25.2ポイント)と最多、次いでインターネットバンキングが28.7%
    • 年代別既遂1件当たりの被害額80代が300.4万円※と最多、次いで60代が135.0万円、40代が132.3万円
    • 主な被害金等交付形態別既遂1件当たりの被害額インターネットバンキングが565.4万円と、電子マネー型の46.9万円(-1.5万円、-3.2%)の12.0倍
  • SNS型投資・ロマンス詐欺の「当初接触手段」の変化について
    1. SNS型投資詐欺
      1. 「ダイレクトメッセージ」が最多、「バナー等広告」が増加に転じる
        • 令和6年5月以降「バナー等広告」が減少に転じ、下半期には「ダイレクトメッセージ」が最多となり、令和7年上半期も同様の状況が継続
        • 「バナー等広告」は、令和7年3月以降増加傾向
      2. 「バナー等広告」においてかたられた著名人の変化
        • 令和6年上半期に多くかたられた著名人の多くは、令和7年上半期では減少
        • 新たにかたられるようになった者の増加もみられる
    2. SNS型ロマンス詐欺
      • 「ダイレクトメッセージ」が最多の状況が継続
      • 当初接触手段では、令和7年上半期も「ダイレクトメッセージ」が最多の状況が継続
      • 当初接触ツールでは、令和7年上半期も「マッチングアプリ」が最多の状況が継続。サービス別では、一貫してAが最多で、「マッチングアプリ」全体の4割前後を占める状況が継続
  • SNS型投資・ロマンス詐欺の「金銭等要求名目」の変化について
    1. SNS型投資詐欺
      • 金銭等の要求名目は、「株投資」が最多
      • 令和6年上半期は、「FX投資」、「暗号資産投資」、「株投資」、「金投資」の順に多かった
      • 令和7年上半期は、「株投資」、「暗号資産投資」「FX投資」の順で多くなっている
      • 令和7年4月以降は、「株投資」が「暗号資産投資」を上回っている
    2. SNS型ロマンス詐欺
      • 金銭等の要求名目は、「暗号資産投資」が最多
      • ロマンス詐欺の金銭等の要求名目は、令和7年上半期も「暗号資産投資」が最多の状況が継続
      • 令和7年から統計を取り始めた「ネットショップ経営」が増加傾向
  • SNS型投資・ロマンス詐欺被害における主な被害金等交付形態の特徴
    • 振込型3,560件(-833件、-19.0%)、5億円(-170.1億円、-29.4%)
    • うちIB利用2,171件(-309件、-12.5%)、4億円(-98.4億円、-24.9%)※本年上半期は増加傾向
    • 暗号資産送信型1,539件(+983件、+176.8%)、2億円(+110.7億円、+171.6%)※本年上半期は緩やかに増加傾向
    • IB利用の既遂1件当たりの被害額1,369.9万円(-226.0万円、-14.2%)振込型のIB利用以外(6万円)の1.7倍、暗号資産送信型(1,138.3万円)の1.2倍と、被害額を押し上げる一因に
    • 「暗号資産投資」名目の主な被害金等交付形態暗号資産送信型が9%(+29.0ポイント)。暗号資産について知識のない被害者であっても、アプリのダウンロードやアカウント作成、暗号資産の送信方法等を犯人側が詳細に指示する手口が目立つ
  • だまされないための対策
    1. 「捜査対象になっている」と言われたら
      • 警察官を名乗る者から電話で捜査対象となっていると言われた場合は詐欺を疑い、電話を切って警察相談専用電話(♯9110)に御相談ください。
      • それ以外の場合は、電話をかけてきた警察官の所属や名前を確認の上、一旦電話を切り、御自身で警察署等の電話番号を調べるなどして御相談ください。
    2. 犯人側からの接触手段を遮断する環境作りが重要
      • 特殊詐欺等の手口は巧妙化しており、犯人側と接触してしまえば、誰もがだまされるおそれがあります。機械的・自動的な仕組みによって、犯人側と接触せずに済む環境を実現することが重要です。
      • 携帯電話は、国際電話の着信規制が可能なアプリの利用をお願いします。
      • 固定電話は、国際電話の発着信を無償で休止できる国際電話不取扱受付センターに申込みをお願いします。国際電話不取扱受付センターへ直接、ウェブ(国際電話利用契約の利用休止申請 https://www.kokusAI-teishi.com)から申込むこともできます。また、書類で申請する場合は、申請書類を最寄りの警察署で受領できます。
    3. 最近のSNS型投資・ロマンス詐欺の手口の特徴を踏まえた対策
      • SNSのダイレクトメッセージは、受け取るメッセージの相手や内容等を制限する設定があるため、同機能を活用してください。
      • バナー等広告の内容に「必ずもうかる」「元本保証」などの表現がある場合は、詐欺の可能性があるため、どんなにうまい話でも、当該バナー等広告の利用は控えてください。
      • SNSやマッチングアプリ等を通じて親密に連絡を取り合っていたとしても、一度も会ったことのない人から暗号資産投資や株投資を勧められた場合は詐欺を疑い、警察相談専用電話(# 9110 )に御相談ください。
      • SNSやマッチングアプリ上で知り合った後、一度も会わないまま短期間でLINEに誘導された場合は詐欺を疑ってください。
      • 金融商品取引業者や暗号資産交換業者を利用する際は、金融庁・財務局に登録された事業者であるかを金融庁・財務局のホームページで確認してください。
      • このほか、SNSやマッチングアプリを提供する事業者が発信している防犯情報を確認することも有効です。

凍結口座から資金を引き出そうと、コンサルティング会社「スタッシュキャッシュ」が不当な強制執行をかけていた問題で、警視庁は、同社の実質的経営者の男、同社代表の男の両容疑者ら男計3人を詐欺と公正証書原本不実記載・同行使容疑で逮捕しています。虚偽の内容の公正証書を悪用していたとみられています。一連の問題は刑事事件に発展しました。報道によれば、3人は共謀して2024年8月、都内の公証役場で、スタッシュ社がリクルタス社に現金650万円の貸し付けがあるとする虚偽の内容の公正証書を公証人に作成させた上、この書面を基に、同社名義の凍結口座を差し押さえる強制執行を東京地裁に申し立てて認めさせ、口座から残金の約610万円をだまし取った疑いがもたれています。公正証書は、金銭の貸し借りなどを公証人が法的に証明する書面で、条件を満たせば判決と同様に強制執行の根拠にでき、今回の逮捕容疑で使われた証書には、貸主と借り主の代表として男2人の名前が記載されていました。リクルタス社名義の口座は、詐欺事件の被害金の移転先になっていたとみられ、同庁は、3人が被害金の流れを把握していたとみて詳しい経緯を調べています(公正証書作成の約3か月前に凍結口座を買い取っていたことも判明しています)。スタッシュ社の公正証書による強制執行を巡っては、リクルタス社とは別の広告関連会社との公正証書について、記載された貸金債権の存在は認められないとした東京地裁判決が確定しています。リクルタス社の口座からも資金が引き出された疑いが判明したことで、スタッシュ社が公正証書を用いて資金を回収したケースは計6件、計約3億6000万円となりました。このほか、スタッシュ社は外国人に貸し付けがあるとする強制執行も行っており、債務者とされるベトナム人に郵送された支払い督促の書面を、別の人物が本人になりすまして受け取っていた疑いが浮上しています。本件は、「犯罪収益の移転を防ぎ、被害回復を図る仕組みをないがしろにする悪質な犯罪」(警察幹部)であり、筆者としても憤りを感じています。

この問題を受け、日本公証人連合会は全国の公証人に対し、公正証書の慎重な作成を求める通知を出しています。公正証書の不正利用を防止するためには公証人間の情報共有が重要だとして、不審な事案の報告も呼びかけています。同連合会は、公正証書の作成を求める不審な依頼があるとして2025年1月にも同様の通知を出していましたが、法務省と連携して行っている調査で虚偽の内容の公正証書が繰り返し作成された疑いが確認されたことから、あらためて注意喚起が必要と判断したとみられます。なお、公正証書を作成する際は、公証人が当事者に確認し借用書なども参照しますが、口座の明細などの確認まではしないといい、日本公証人連合会は「債権者と債務者の双方がうそをついた場合、不正を見抜くのは難しいケースもある」としていますが、2024年11月頃、別の依頼を受けた際、公証人が貸し借りを裏付ける詳細な客観資料を求めたところ、連絡が途絶えたといいます(いかに職業的懐疑心をもって職務に忠実に正しく対応することが重要かをあらためて認識させられます)

なお、本件を受け、2025年2月に最高裁も全国の裁判所に注意を呼びかけています。一方、裁判所からの債権差し押さえ命令が出れば、金融機関はそのまま応じるのが一般的ですが、今回の犯行グループの申し立てを受けて出された命令に対して、三菱UFJ銀行は2024年7月以降、裁判所からの債権差し押さえ命令が17件に上ったものの、不審な点があったことから応じなかったといいます。差し押さえ命令の内容と保有する口座情報が一部整合しないことに気付いたといいます。同行の担当者は「口座凍結の経緯や銀行に求められる社会的責任などを考慮し、今後も慎重に判断したい」と述べており、大変高く評価したいと思いますが、一方で、金融機関は裁判所からの命令に従わなければ債権者に訴えられるリスクもあります。金融問題に詳しい金田万作弁護士は、公証役場と裁判所の双方が注意を払う必要があると指摘、「公正証書の作成の際、本当に金の貸し借りがあったのかを詳細に確認する必要がある。裁判所も、債権差し押さえ命令を出す際にそれが凍結口座か確認し、そうであれば特に慎重になるべきだ」と指摘しています。さらに言えば、三菱UFJ銀行のように金融機関としても不整合に気づけるか、ここでも職業的懐疑心をいかに発揮するかがポイントとなるように思います。なお、口座の凍結は本来、犯罪被害金の外部流出を防ぎ、被害回復に充てるために行われるものであり、振り込め詐欺救済法を所管する金融庁は、凍結口座への不当な強制執行が相次ぐ問題を「報道で初めて知った」とし、実態を調べる意向を示しています。また、金融機関の対応について、同庁監督局の担当者は「不当な執行があることを念頭に顧客の口座を適切に管理する必要がある。情報収集に努め、不審点があれば執行に応じない判断をすることも大切だ」と話していますが、金融機関による犯罪対策に詳しい久保田隆・早稲田大教授(国際金融法)は、「引き出しに応じなかった銀行の対応は評価すべきだが、すべての金融機関に同じ対応を求めるのは酷で、金融庁による統一的な指針が求められる」と指摘しています。

以前の本コラムで取り上げましたが、大阪府は2025年8月1日、65歳以上の高齢者を対象に、ATMの操作時に携帯電話での通話を禁じることなどを盛り込んだ「大阪府安全なまちづくり条例」の改正条例を施行しました。「オレオレ詐欺」や税金・保険料が戻ってくるとだましてお金を振り込ませる「還付金詐欺」といった特殊詐欺の被害は深刻化しています。2024年の大阪府内の被害額は60億8000万円あまりと2023年(約36億6000万円)から6割以上増え、過去最大額となりました。1日あたり1700万円近くがだまし取られている計算になります。深刻化する詐欺被害を防ぐことが目的で、金融機関などにも防止措置を課す内容ですが、違反しても罰則はありません。通話禁止の義務化は全国で初めてとなります。条例ではほかに、コンビニなどの事業者に対し、高齢者にプリペイドカードを販売する際、詐欺被害の恐れがないかを確認することなどを求めています。大阪府はこれまで、条例の対象となるATMを設置する府内の金融機関や、プリペイドカードを販売するコンビニ、商業施設などに条例を周知しており、同10月1日以降は、府内の70歳以上で過去3年間に振り込みをしていない高齢者の口座の振り込み上限額を、1日10万円以内に設定するよう金融機関に義務付けます。大阪府の担当者は「今や電車内で通話をしないのは当たり前。同様に、時間はかかるかもしれないがATMを操作しながら通話はしないことを常識のように広めていければ」と話しつつ、「こうした対策を進めると若者を狙ったり、インターネットバンキングを介したりするなど、詐欺犯の手口は多様化しており、今回の条例改正だけでは被害を防ぐことは難しい。詐欺被害をひとごとではなく自分のこととして捉えながら最新の手口について情報収集を心がけ、家族や周囲に広めてほしい」と呼びかけています。

特殊詐欺で現金を引き出す「出し子」が、現金を振り込ませる行為に直接関わっていなくても電子計算機使用詐欺罪が成立するかが争われた刑事裁判の上告審判決で、最高裁第3小法廷は、指示役らとの共謀を認め、罪が成立するとの判断を示しています。その上で、一部無罪とした2審判決を破棄し、被告の男性を逆転有罪としました。これにより懲役4年とした1審判決が確定します。電子計算機使用詐欺罪は、コンピューターなどに虚偽の情報や不正な指令を与えて不法な利益を得た場合に適用され、高齢者らにATMを操作させ、現金を振り込ませる特殊詐欺も対象になります。弁護側は公判で、被告は現金を引き出しただけで、振り込ませる行為には一切関わっていないと主張、窃盗罪は認めたものの、電子計算機使用詐欺罪については指示役らとの共謀が成立しないとして無罪を主張、1審・青森地裁八戸支部は2023年3月、現金を振り込ませる行為と振込先から現金を引き出す行為には一体性があるとし、どちらの罪も有罪として懲役4年を言い渡しました。これに対して、2審・仙台高裁は2024年1月、被告は被害者に現金を振り込ませる行為の内容を把握していなかったと指摘、指示役らとの共謀を否定して電子計算機使用詐欺罪は無罪とし、懲役3年6月に減刑していたものです。それに対し最高裁小法廷は、男が共犯者の指示通りに待機し、電話を受けて現金を引き出す行為を繰り返していた点を重視、現金が詐欺の被害金だと十分に想起させるもので、「共犯者と暗黙のうちに意思を通じ合ったと評価できる」などとして詐欺の共犯にあたると結論付けました

国連の国際移住機関(IOM)は、東南アジア各地の犯罪拠点に連れ去られた外国人が、特殊詐欺への加担を強いられているケースが急増していると警鐘を鳴らしています。ポープIOM事務局長は「現時点で数十万人が捕らわれている」として、保護に向けた対策を関係国に呼び掛けました。本コラムでも継続的に取り上げていますが、ミャンマーなどの拠点には、高額報酬で誘われた外国人が監禁状態に置かれ、SNSを通じた詐欺の実行役を強制されています。ポープ氏は、そうした特殊詐欺による被害が「年間400億ドル(約6兆円)に上り、監禁されている人の多くは、移民や職を求める若者、子供たち、障害者らだ」と訴えています。また、連れ去られた人の解放にIOMが協力しているとしつつ「救い出されるより、逮捕され、訴追され、処罰されるケースが多い」と懸念を表明、「強制された行為によって収監されるべきではない」と述べ、救出された人々の処罰ではなく保護を可能にする法整備を各国政府に求めています。そのミャンマー東部の特殊詐欺拠点が拡大していると報じられています(2025年7月7日付日本経済新聞)。2025年2月の大規模摘発後も建設が続き、犯罪拠点を一掃できていないことが判明したといいます。同国軍政によれば、ミャンマー国内全体で2023年10月から2025年6月までに6万6000人超の外国人を特殊詐欺や賭博のために不法滞在したとして母国に送還されています。犯罪組織は大規模な拠点を維持、拡大できるほど莫大な金を稼いでおり、詐欺に従事したという男性によれば、10万ドル超の入金があったことを知らせる中国式の太鼓が頻繁に鳴り響いていたといいます。収益は、詐欺の被害者だけでなく、労働者の犠牲の上に成り立っていることも明らかです。また、拠点はミャンマー・タイ国境に留まらず、国連薬物犯罪事務所(UNODC)が2025年4月に公開した報告書によれば、東南アジアの国境地帯に点在し、ミャンマーの犯罪組織の一部は摘発強化を受けてラオスやカンボジアなど国外に移動したといいます。国境を越えた犯罪に対応するため、日本は現地当局と連携を強化しており、カンボジア北西部ポイペトで2025年5月、特殊詐欺に関与した疑いで日本人29人が現地当局に拘束されましたが、トクリュウの海外拠点だった疑いがもたれています。国連の推計によると、詐欺拠点による2023年の被害額は東・東南アジアだけで最大370億ドル(約5兆3000億円)にのぼり、タイ国家警察で詐欺犯罪捜査を指揮するトライロン中将は「詐欺組織の収入は麻薬組織を上回り、世界最大規模だ」と説明しています。摘発を強化しても「詐欺組織は手口や場所を変えて対応している」とし、撲滅に向けた国際協力の深化の重要性を説いています。また、ミャンマーのミャワディ周辺は2010年代から中国資本によるカジノ開発が進み、新型コロナウイルス禍でカジノが閉鎖されるとオンラインカジノの運営拠点となり、さらにロマンス詐欺や振り込め詐欺の温床へと変貌しました。国境警備隊(BGF)は開発に深く関わっていた当事者で、土地のリースや警備で利益を得て、詐欺組織の活動も黙認していたとされ、詐欺摘発に本気で対応しているかは疑問符がつきます。米財務省は、BGFとその指導者ら3人を「国際的なオンライン詐欺をほう助した」として制裁対象に加えています。また、国境地帯での詐欺横行の責任の一端は隣国タイにもあります。ミャンマー国境のタイの町メソトでは、中心部から数キロ離れた密林をインド系男性らが歩いており、ミャンマーの詐欺拠点につながる抜け道で、タイ警察は詐欺組織から見返りを得て見逃しているとみられています。特殊詐欺の問題に長年取り組むタイの下院議員、ランシマンは、「国境は大都市圏から離れていてもタイ警察には人気の勤務地だ」と皮肉っています。

また、米シンクタンク、アメリカ平和研究所はカンボジアのオンライン詐欺の規模を年128億ドル(約1兆8000億円)と分析しています。主力産業である縫製業の規模を上回り、国内総生産(GDP)の30%に相当する水準だといいます。マンゴー加工工場の跡地に建てた施設に2024年10月、警官隊が突入、一部メディアによると中国人や韓国人ら1000人以上が拘束され、詐欺や人身売買に関与した疑いがあり、中国人らはプノンペンとの往来を繰り返していたといいます。犯罪集団はカネと暴力で地域社会を掌握、政治家ら地元の有力者と親密な関係を築き、捜査当局や軍関係者とも癒着、「地方ほど中央政府の監視の目が届かず、警察や役人が汚職に手を染めやすい」との指摘もあります。アメリカ平和研究所は東南アジアを拠点とするオンライン詐欺の被害額について、全世界で少なくとも640億ドル(約9兆1500億円)近くと推計され、犯罪の担い手は東南アジア全体で30万人以上いると分析しています。特にタイやミャンマー、ラオスの3カ国の国境が集まる地域はかつて「ゴールデン・トライアングル(黄金の三角地帯)」と呼ばれ、ケシ畑が広がり、密造した麻薬の世界への供給源となっていましたが、麻薬からオンライン詐欺などに変えつつ、犯罪者を呼び寄せています。米財務省はゴールデン・トライアングルで経済特区を運営する趙偉や、犯罪集団「14K」を束ねるカジノ経営者の尹国駒らを人身売買や詐欺、麻薬密売の疑いで制裁対象としています。「地域を越えた課題の対処で連携を強化する」と石破茂首相は2025年5月に来日したカンボジア首相のフン・マネットと詐欺犯罪への対応で合意しましたが、そのフン・マネットの親族にも詐欺に関与した疑いがあると指摘されています。また、カンボジア当局は摘発強化をアピール、政府は5月、過去3年でオンライン詐欺や人身売買に関与した約2万4000人を摘発し、詐欺行為に加担した外国出身の4840人を救出、出身国は20か国を超えると明らかにしました。ただ、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは2025年6月に発表した報告書で、カンボジア当局は摘発の際、拠点を運営する中国系組織と「協力や調整を行っている」と非難、摘発後も運営を続ける拠点が多く存在すると指摘し、当局の対応は「見せかけ」だと批判しています。東南アジアに巣くう犯罪ネットワークの闇は深く根絶は容易でないことがわかります。

暴力団等反社会的勢力が関与した特殊詐欺等を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 高齢者から2900万円相当の金塊をだまし取ったとして、警視庁は、いずれも住吉会傘下組織組員で住居不定2人の容疑者を詐欺容疑で逮捕しています。同庁は、2人が特殊詐欺グループのメンバーで、仲間と共謀し、2022年1月~23年1月に首都圏で現金約1億円や金塊をだまし取ったとみています。2人の逮捕容疑は2022年1月、別の人物と共謀し、東京都港区の80代女性に、教育機関で働く息子を装って「学校の印鑑が入ったかばんをなくした。行事に必要なお金をおろしに行けないので、貸してほしい」などと電話をかけ、金塊4キログラム(2900万円相当)と現金60万円をだまし取ったというものです。同庁はこれまでに、女性宅を訪ねた「受け子」役の少年を詐欺容疑で逮捕していました。
  • サイバー保険の加入金の名目で愛知県西尾市の男性から現金300万円をだまし取ったとして、住吉会傘下組織幹部ら男3人が詐欺の疑いで逮捕・書類送検されました。3人は他の者と共謀し2025年4月、通信会社の社員になりすまして西尾市に住む男性の携帯電話に「スマホが悪用されていて、サイバー保険に入る必要がある」などとうその電話をかけ、現金300万円をだまし取った疑いが持たれています。3人は、1週間ほど前にもセキュリティ会社の職員を装って「アプリの料金が未払いになっていて法的措置をとる」などと言い、同じ男性から130万円分の電子マネーの利用券をだまし取ったとみられています。
  • 行政職員や銀行員をかたり、女性から現金をだまし取ったなどとして、福島署は、詐欺や窃盗などの疑いで極東会傘下組織組長を逮捕しています。トクリュウの指示役とみて捜査しています。同署は、実行役を務めたとして、詐欺や窃盗などの疑いで福島県在住の男3人を逮捕していました。逮捕容疑は、3人と共謀して埼玉県飯能市の70代女性に「生活補助金の申請がされていない」「新しいカードに変更する必要がある」などとうそをつき、キャッシュカードを詐取し、現金を引き出した疑いがもたれています。

特殊詐欺・SNS投資詐欺・ロマンス詐欺を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。なお、被害金額の大きい事件を中心に取り上げています。

  • 警察官をかたってキャッシュカードをだまし取ったとして、愛知県警春日井署は、名古屋市南区の無職の男を詐欺容疑で逮捕しています。男は特殊詐欺で1億円以上をだまし取られた後、詐欺グループに勧誘され、「受け子」をしていたとみられています。男は、警察官をかたって愛知県春日井市の80代の無職女性方を訪れ、キャッシュカード2枚をだまし取った疑いがもたれています。女性の前で、スマホで別の人物と通話し、女性の口座が犯罪に使われている恐れがあると伝えたといいます。同署幹部によると、男は同5月に、警察官をかたる人物から1億円以上をだまし取られる被害にあったといいます。
  • 愛知県警小牧署は、愛知県犬山市の70代の男性から300万円をだまし取ろうとしたとして、兵庫県姫路市の男子高校生(16)を現行犯逮捕しています。「指示役から荷物を受け取るよう指示された。夏休みにまとまったお金が欲しかった」と供述しているといいます。県警守山署も同日、同様に現金をだまし取ろうとしたとして名古屋市の高校生(16)を同容疑で逮捕していました。いずれも特殊詐欺グループで現金を受け取る「受け子」とみて調べを進めています。逮捕容疑は、氏名不詳者が息子に成り済まして被害者に電話をした後、それぞれの高校生が弁護士の関係者を装って現金をだまし取ろうとしたとしたものです。
  • 埼玉県警東入間署は、ふじみ野市の60代男性医師がSNS上で投資詐欺被害に遭い、約3億9000万円をだまし取られたと発表しています。特殊詐欺の被害としては埼玉県内で過去最高額といいます。報道によれば、男性には、2025年3月中旬ごろからSNS上で知り合った証券会社員を名乗る男性らから「証券会社の特権口座を開設してください」「約20%の割引価格で購入することができる」などのメッセージが届き、株式の購入を持ちかけられ、同4~6月、55回にわたって計3億8994万円あまりを指定された複数の口座に送金、預けた金を引き出せず、6月29日に被害に気付いたといいます。
  • 富山中央署は、捜査機関の人間を名乗る人物などから電話で捜査協力を持ちかけられた富山市の70代男性が、約1億8000万円をだまし取られたと発表しています。報道によれば、2025年3月中旬、男性宅の固定電話に「NTTのカネモト」を名乗る男から「あなたの電話番号を止めてほしいと依頼されている」と電話があり、その後「検事正のタケウチ」を名乗る男から「犯人の家からあなたの通帳が発見された。捜査協力を得られないと逮捕される」などと言われたといい、男性は、タケウチの指示で複数のインターネットバンキングの口座を開設し、LINでやりとりしながら、同3月13日~4月5日までの間、計22回にわたり計約1億8000万円を振り込んだものです。
  • 群馬県警高崎北署は、高崎市の60代の女性法人役員が約1億5800万円分の暗号資産と現金約1900万円をだまし取られる詐欺被害に遭ったと発表しています。SNSによるロマンス詐欺の被害額としては県内最大といいます。女性は2024年11月、SNSで知り合って好意を持った日本人男性を装う人物に投資を持ちかけられ、同12月から2025年3月まで計19回、約1億5800円分の暗号資産を購入して人物に送ったほか、電子取引所のカスタマーサポートを名乗る人物から同3月、払い戻しに関わる税金などを請求され、同月18、19日に計2回、現金約1900万円を指定口座に振り込んだものです。その後、取引に使用していたサイトが使えなくなって被害に気づいたといいます。
  • 兵庫県警長田署は、神戸市長田区の70代の無職女性がSNS上で知り合った人物から投資話を持ちかけられ、現金計約1億3609万円をだまし取られる詐欺被害にあったと発表しています。報道によれば、女性は2025年3月、動画投稿サイト「ユーチューブ」で投資関連の広告にアクセスしたところ、有名投資家のテスタ氏のアシスタントを名乗る人物からLINEで「もうかる株式取引がある。投資しませんか」などと持ちかけられ、その後指示された銀行口座に同4月~5月、計17回にわたり現金計約1億3609万円をインターネットバンキング経由で振り込み詐取されたものです。女性が閲覧していた架空の投資サイトの画面上には投資で利益が出ているように表示されており、さらに「利息の税金として約5千万円を払え」と要求され家族に相談、同署に被害を届け出たものです。
  • 千葉県警君津署は、君津市の60代の無職男性が「電話de詐欺」の被害にあい、現金約1億1000万円をだまし取られたと発表しています。報道によれば、男性は2025年2月中旬頃、偽のニュースサイトに掲載された投資関連サイトにアカウントを登録、その後、トレーダーなどを名乗る男女から電話で「暗号資産を購入すれば利益が得られる」とうそを言われ、同6月中旬までに約20回にわたり、暗号資産の購入費用などの名目で指定された銀行口座に現金を振り込んだものです。
  • 京都府警東山署は、京都市東山区の団体職員の60代の男性が警察官や検察官を名乗る男らから現金約7620万円をだまし取られる事件があったと発表しています。報道によれば、2025年6月、男性宅にNTTをかたる自動音声による電話があり、ガイダンスに従ったところLINEに誘導され、その後、警視庁の警察官などを名乗る男らから「あなたの口座に入金されている現金は犯罪収益の可能性がある。調査の必要がある」などと告げられ、警察官らの名刺を画像で示された男性はこれを信じ、同7月22日まで現金計7620万200円を指定された口座に振り込んだものです。詐欺への注意を呼び掛ける京都府警のチラシを見た男性が家族に相談し、翌23日に東山署に申告したといいます。
  • 札幌北署は、札幌市北区の60代男性がSNSで投資話を持ちかけられ、約6千万円をだまし取られたと発表しています。男性は実業家の前沢友作氏をかたる人物らから株の投資を勧められたといい、投資詐欺事件として捜査しています。報道によれば、男性のスマホに2025年5月、実在する証券会社を装うアカウントからメールが届き、男性は実業家が集まるというSNSグループに登録、「多く利益を得るには高い掛け金が必要」などと勧められ、同6月~7月、十数回にわたり指定された口座に振り込んだものです。
  • 埼玉県警飯能署は、飯能市の50代の無職女性が金塊4個(約2200万円相当)をだまし取られる詐欺被害にあったと発表しています。報道によれば、2025年5月以降、女性方に通信会社職員を名乗る男などの声で「携帯電話が犯罪に使われている」、「無罪を証明するために金塊を購入して」などと複数回の電話があり、女性は金塊を購入し、同6月3日、指示された同市内の公衆トイレにケースごと置いたところ、何者かに持ち去られたといいます。県西部では、同様の手口での詐欺被害が相次いでおり、同5月には坂戸市の男性が、7月には川越市の男性がそれぞれ数千万円相当の金塊をだまし取られており、県警が注意を呼びかけています。

本コラムでは、特殊詐欺被害を防止したコンビニや金融機関などの事例や取組みを積極的に紹介しています(最近では、これまで以上にそのような事例の報道が目立つようになってきました。また、被害防止に協力した主体もタクシー会社やその場に居合わせた一般人など多様となっており、被害防止に向けて社会全体・地域全体の意識の底上げが図られつつあることを感じます)。必ずしもすべての事例に共通するわけではありませんが、特殊詐欺被害を未然に防止するために事業者や従業員にできることとしては、(1)事業者による組織的な教育の実施、(2)「怪しい」「おかしい」「違和感がある」といった個人のリスクセンスの底上げ・発揮、(3)店長と店員(上司と部下)の良好なコミュニケーション、(4)警察との密な連携、そして何より(5)「被害を防ぐ」という強い使命感に基づく「お節介」なまでの「声をかける」勇気を持つことなどがポイントとなると考えます。また、最近では、一般人が詐欺被害を防止した事例が多数報道されています。特殊詐欺の被害防止は、何も特定の方々だけが取り組めばよいというものではありませんし、実際の事例をみても、さまざまな場面でリスクセンスが発揮され、ちょっとした「お節介」によって被害の防止につながっていることが分かります。このことは警察等の地道な取り組みが、社会的に浸透してきているうえ、他の年代の人たちも自分たちの社会の問題として強く意識するようになりつつあるという証左でもあり、そのことが被害防止という成果につながっているものと思われ、大変素晴らしいことだと感じます。一方、インターネットバンキングで自己完結して被害に遭うケースが増えており、コンビニや金融機関によって被害を未然に防止できる状況は少なくなりつつある点は、今後の大きな課題だと思います。以下、直近の事例をいくつか紹介します。

  • ニセ警察官詐欺を見破ったのは、虚偽の電話を受けた40代男性の妻でした。電話から漏れ聞こえたのは「自分は『大阪県警』って、自己紹介したんですよ」と即座に嘘を見破ったといいます。特殊詐欺の電話だと疑った妻はタブレット端末で通話の録音を開始し、夫には会話をできるだけ引き延ばすよう、身ぶりで指示、「警察官」は「あなたの身の潔白を証明する必要がある」「出頭しなさい」「協力を拒むと生活面で困ることになるよ」などと、男性の不安を増幅させる言葉を繰り返し、捜査への協力を求め、「逮捕する」と不安をあおる手口でしたが、男性が「警察官」に名前や所属を聞いても答えず、やがて「警察官」が一方的に通話を打ち切って、会話は終了したといいます。通話時間は18分にも上りました。
  • 京都銀行墨染・藤森支店で特殊詐欺の被害を防いだとして、伏見署は行員3人に感謝状を贈っています。通報につながったのは、小さな違和感で、行員がスマホを指で動かしながらATMを操作する30代の女性に「1日に振り込める限度額はいくらですか」と聞かれたため、女性に振込先を確認すると、スマホにショートメッセージで「三菱ufj銀行」とあったといいます。正式には大文字の「UFJ」であり、違和感を覚え、詳しく聞いたところ、警察をかたる何者かに「資金洗浄に使われているか調べるために、お金を振り込んで」と指示されていたといいます。「詐欺だ」と上司に相談し、警察に通報したといいます。
  • 兵庫県警の女性巡査長から現金をだまし取ろうとしたとして、県警特殊詐欺特別捜査隊などは、詐欺未遂の疑いで、住所、職業不詳の容疑者を現行犯逮捕しています。報道によれば、同隊の女性巡査長に犯人側から電話がかかり、高齢女性のふりをするなどして対応し逮捕につなげたといいます。巡査長には息子がおらず、機転をきかせて高齢女性の声まねをして対応、以降も4~5回にわたって電話があった末、神戸市東灘区のJR甲南山手駅に現金300万円を持ってくるよう指示を受け、女性巡査長を含む隊員8人が現場へ向かい、女性巡査長は白髪のかつらを被り、マスクに日傘を差して高齢女性に変装、同日午後、受け渡し場所に現れた容疑者に、女性巡査長が「現金です」と空の紙袋を入れたエコバッグを手渡し、中身が空と分かった容疑者は数十メートル逃走しましたが、同行していた同隊員が現行犯逮捕したものです。

事業者が特殊詐欺抑止のために協力した事例をいくつか紹介します。

  • 過去最悪のペースで増える静岡県内の特殊詐欺被害を防ごうと、静岡県警と理容店がタッグを組みました。顧客とあれこれ話す理容店の特徴を生かして詐欺の手口や被害を伝え、犯罪に使われがちな国際電話の利用休止を促すというものです。組合では、加盟店に県警の啓発チラシを届け、2割ほどの店には国際電話の利用休止についての「確認票」を配ったといいます。最寄りの警察署で利用休止の印を押してもらうと、協賛する店で夏向けのシャンプーなどのサービスが受けられる仕組みとしました。
  • 特殊詐欺被害が深刻となる中、京都府警中京署は介護事業を運営する「洛和会ヘルスケアシステム」と協力事業を開始しています。利用者と強い信頼関係にあるヘルパーから直接声をかけてもらい、国際電話の利用休止などを啓発していくものです。京都府警中京署員が施設スタッフら約60人に特殊詐欺の手口や被害状況、被害を未然に防ぐ方法などについて講義、その後、実際にヘルパーが利用者の自宅へ向かって声掛けを行っています。矢野理事長は「ヘルパーはお客さまの性格なども分かっており信頼関係がある。高齢者に寄り添えるようにしたい」と話しています。
  • 特殊詐欺の被害を防ごうと、大阪府警四條畷署は、AI付きの小型カメラを大阪電気通信大と共同開発し、大東市の金融機関のATMに設置しています。利用客が携帯電話で通話しながらATMを操作すると、カメラが自動検知、警告音が鳴り、電話を切るよう促す仕組みです。大阪電気通信大によると、AIが利用客の手首と耳の距離などを読み取り、通話中かどうかを識別するといい、四條畷署は今後、特殊詐欺を阻止できた数を集計し効果を確認するほか、別の金融機関にも導入を働きかける予定としています。

青森県八戸市は、市税の未納者に対して納付を求める「催告」に携帯電話のショートメッセージサービス(SMS)を活用する方針を決めています。郵送などに比べて費用が安く済み、業務の効率化につながるといい、2025年11月の開始を目指すといいます。現在は文書の郵送のほか、電話の自動音声システムで催告を行っているところ、郵便物を開封しなかったり、知らない電話番号に出なかったりするケースが増えているといいます。このため、同課は「本人に見てもらえる可能性が高まれば」と、携帯電話に短いメッセージが送れるSMSの活用を決めたといいます。氏名や納税額などの個人情報は記さない。とし、市の広報誌やホームページで「催告は振り込め詐欺ではない」などと周知した上でSMS催告を実施するとしています。ただ、「詐欺ではない」との周知が逆手に取られてSMSを使って詐欺に誘導されることがないか、懸念は残ります。

(3)薬物を巡る動向

米国で過剰摂取による死亡が深刻化している合成麻薬「フェンタニル」の問題が、日本に波及してきました。がんの痛みを抑える鎮痛剤などに使われるフェンタニルが密造・密売され、米国で依存者が激増、麻薬の中でも格段に効果と依存性が高く、多幸感を求めて過剰摂取した結果、死亡する事例が相次ぎ、米政府は「2024年は少なくとも約4万8千人が死亡した」と発表し、「フェンタニル危機」といわれる深刻な社会問題となっています。「中国から密造原材料が輸出され、メキシコ、カナダで精製されて米国に流入している」と米政府は批判しています。密造フェンタニルは、品質管理された医療用のものとは全く異なり、動物用の鎮痛剤など不純物が混合され、肉体を壊死させ、死に至らしめるもので、安価で売買されるため拡散が速く、「最悪の麻薬」といわれています。ケシ由来のアヘンに含まれる「モルヒネ」と似た作用を持つ薬物は「オピオイド」と総称され、天然由来のものには呼吸抑制や便秘を引き起こすという欠点があり、フェンタニルはその点を改良するため、1960年代に合成されたものです。モルヒネの100分の1の量で同等の鎮痛効果を発揮し、がんの緩和治療や手術時に使われています。薬物乱用問題に詳しい武蔵野大の阿部和穂教授(薬理学)によれば、米国では製薬会社の戦略もあって、30年ほど前からオピオイドが安易に処方され、依存症が広がり、効果が切れる際には強い不快感に襲われるといい、2010年代になると、より強い効果を持つフェンタニルが求められるようになりました。その後、コロナ禍で乱用が爆発的に増加、米疾病対策センター(CDC)のデータでは、2021~23年に毎年7万人以上がフェンタニルを中心とする「合成オピオイド」の過剰摂取で死亡したといいます。この間に大量供給されたのは、正規の医薬品ではなく密造品で、錠剤や粉末の形で出回っているとみられています。フェンタニルはごく微量でも一気に摂取すると死に至る危険性があるにもかかわらず、密造品に含まれる成分量や添加物は不明で、乱用が死に直結しました。なお、フェンタニルのように「ゾンビ化」を引き起こす薬物として、香港や台湾で問題となっている未承認の麻酔薬「エトミデート」も沖縄を中心に乱用が広がりつつあり、薬物問題を巡っては日本も「危険水域」に足を踏み入れているといえます。その背景にあるのは、日本の社会状況であり、薬物の力を借りれば、満たされない思いや「何をしてもうまくいかない」という閉塞感を一時的に忘れられるというのが薬物で得られる「多幸感」の正体で、経済不況や社会的孤立、生きづらさは薬物乱用の動機になるのであり、根本的にはこうした問題の解決を図ることが求められているといえます。

日本国内では医療用に処方されたフェンタニルを治療目的以外に悪用した事件が3年前に2件摘発されていますが、これまで日本ではフェンタニル関連の不正輸出入の摘発事例はありません。財務省は、フェンタニル」に関し、2010~18年に全国の税関で4件の密輸を摘発していたと公表、確認可能な1991年以降、現在までにこの4件以外の摘発例はないとしています。さらに、警察庁は、国内では2000年以降、10都道府県警で計17件の摘発例があったと発表、鎮痛作用があるフェンタニルの使用や所持は、正当な医療行為を除き、麻薬取締法で規制されていますが、17件のうち15件は、医師や看護師ら医療関係者が自身に注射したり、病院から盗んだりした事件で、残る2件はフェンタニルを含む薬剤テープを交際相手に貼り付けて死亡させるなど、医療用に処方されたフェンタニルの不正使用でした。これまでに営利目的での密輸や所持などの事件は確認されておらず、同庁は「日本では乱用が拡大している実態は認められない」と分析しています。なお参考までに、同様の作用を持つフェンタニルに似た物質が国内で確認され、2018年には強力な「カルフェンタニル」が麻薬指定されるなどしており、現在は20種類以上の類似物質が麻薬取締法の規制対象になっています。また、医療用の悪用が相次いでいることもあり、これまでも各都道府県は医療機関へ定期的に検査を行い、流出などを警戒、2025年6月に厚労省は全国の麻薬取締部・都道府県へ通知を発出しています。さらに密造を防ぐため、原料の輸出入、小売りなどを行う事業者が不審な取引を確認した場合や在庫の紛失などがあった際、自治体などへ届け出ることなどを促しています。(報道で中国の組織の拠点があったとされた)愛知県では事業者への立ち入り検査も行われています。警察関係者も以前から流通動向を注視、警察庁の楠長官は、「刑事事件として取り扱うべきものがあれば厳正に対処する」と述べ、関係省庁や国際機関と連携した取り締まりの意向を示しています。

しかしながら、2025年6月に日本経済新聞が報道で、フェンタニルの流通の「拠点」が日本の名古屋市にあったと報道されたこともあり、厚生労働省監視指導・麻薬対策課の担当者は「犯罪組織の摘発状況によって、調達ルートも刻々と変化している」と指摘するなど、日本としても、実害が判明する前に水際対策を強化する必要性があると認識している状況がうかがえます。現時点で密造品が出回った形跡は確認されていないものの(さらに報道を受けても表立って危機感を表明するようなこともないのがむしろ不自然に映るくらいですが)、依存性が高く米なので深く蔓延していることから国内外の反社会的勢力の介入でいつ流入してもおかしくないとの危機感を持つ必要があります。「最悪の麻薬」が日本を経由したうえで製造され流通している現実を直視し、国内での蔓延を阻止すべく、警察は厚生労働省などの薬物当局と連携し、水際対策を徹底して流入を防ぐ必要があります。また、国際機関との密な情報交換も必要です。政府は関連薬品の管理・追跡を徹底し、密輸は絶対に許さないとする日本の立場を米国に示す必要もあります。密造フェンタニルを国内に流入させず、国民を守ることが何よりも重要であり、米国のフェンタニル危機は日本にとって決して対岸の火事ではありません。

関連して、米の専門家が日本経済新聞で「たとえばカナダのバンクーバー港を拠点にした高級魚トトアバの不正取引だ。密漁者がメキシコ近海で不正操業し、バンクーバーを中継地にして中国へ大量のトトアバを違法輸送していた。カナダと米国の当局がともに予期していなかった経路であり(中国とメキシコの犯罪組織が絡む点で)フェンタニル問題と類似している」、「韓国でも、メキシコを発して中国を経由してきた貨物船から大量のコカインが摘発される事例があった。長距離を行き交う貨物船は途中に多数の国の港に寄るのが通例だ。その分、密輸に悪用される機会も増える」「スピードの問題もある。大量の貨物のなかには、生鮮食品など素早く検査を済ませなければいけない対象も多い。フェンタニル原料も、バナナなど腐る前に届けなければならない貨物に紛れて密輸されることが多い」「米国では運送会社に貨物の中身を確認させるなど、企業に責任を負わせるルールづくりが検討されていた時期がある。こうした議論がふたたび活発になる可能性がある」などと指摘していましたが、俯瞰的にみれば、類似の構図は他でも散見されているのであり、フェンタニル以外でも犯罪組織が関与した何らかの取引が日本を経由して行われている可能性は低くないと考えられます。そのうえで、この専門家は「両国間の警察や関連当局が捜査上の協力を深め、日本に入港する貨物の監視が欠かせない。違法薬物だけでなく『オピオイド』と総称するあらゆる麻薬性鎮痛剤は(合法であっても)化学原料の段階から扱いには目を光らせるべきだ。運送船などの監視や取り締まりの強化が求められる」「国内ではまず真っ先に、違法薬物全般に対して需要減少をめざすべきだ。フェンタニルだけに限るのではなく(コカインやヘロインなど)ほかの薬物対策も切り離せない。薬物乱用者はフェンタニルが手に入らなければ、ほかの麻薬に手を出す可能性が高いからだ」「フェンタニルについては、過剰摂取による呼吸困難や意識低下を改善させるナロキソンのような拮抗剤もある。乱用のリスクとともにこうした緊急時の対応策について、若者をはじめ広く人々に伝える教育活動も進めなくてはならない」と指摘していますが、今まさに日本として考え、アクションに移すべきことだと思います。

2025年7月16日付日本経済新聞の記事「国連、合成麻薬対策の作業部会新設へ日本経由のフェンタニル密輸疑惑で」によれば、国連薬物犯罪事務所(UNODC)の幹部は、米国へ合成麻薬「フェンタニル」を不正輸出する中国の組織が日本に拠点を持っている疑いが浮上したことを受け、対策の一環として東南アジア諸国や中国、日本が参加する情報共有や協力のための作業部会の新設を検討すると表明しています。同氏は麻薬や組織犯罪に取り組むUNODCの最高幹部の一人で、長年にわたってアジアの麻薬対策を主導しており、日本が米国へのフェンタニルの流入ルートとして利用されたことは「驚くべきことではない」と語り、製造に必要な化学物質の製造拠点になっている東南アジアから中南米に直接輸送すると取り締まりの対象になる可能性が高いが「日本を経由して日本の輸出品とすれば犯罪組織にとって露見のリスクが低くなる」と指摘、さらには、中南米に化学物質を輸送する犯罪組織は、常に国際的な複数の流通ルートを利用していると指摘しています。このため、日本やアジア全域の関係国は、合成薬物全般に関連する化学物質の輸送を管理するための地域戦略を確立する必要があると訴えています。そのためにUNODCとして情報共有や規制や法執行のあり方の協議を進めるため、アジア各国の当局者で構成する作業部会の立ち上げを検討していると明らかにしたもので、戦略をまとめるうえで「地域の安定と安全保障の利益を共有する日本は極めて重要なパートナーだ」と言明しています。中国も国内で覚せい剤の一種であるメタンフェタミンの問題が深刻になっていることを受け、麻薬や組織犯罪の分野で国連に協力しているとも明かしています。「世界最大級の化学産業を持つ中国を(合成麻薬対策のための)話し合いの場に巻き込まなければ、解決策は機能しない」と強調しています。日本には、ミャンマーで製造されるメタンフェタミンの流入が脅威になっているとも指摘、「(同国の)軍事政権下で、武装組織と組織犯罪グループが協力して生産を増やしており、高く売れる日本やオーストラリアに輸出しようとしている」と警鐘を鳴らしています。日本政府関係者によると、首相官邸は疑惑を巡る報道やフェンタニル対策を最重要課題と位置づけるトランプ米政権の動向を踏まえ、2025年7月初旬にUNODCにフェンタニル対策での協力を打診、国連としての貢献策を検討してきたとのことです。

トランプ米大統領は、国内で乱用が深刻化している合成麻薬フェンタニルについて、規制薬物の分類でヘロインや合成麻薬LSDと同じ「1類」に指定し、所持や密輸入などへの厳罰化を盛り込んだ超党派の法案「HALTフェンタニル法」に署名し成立させています。模倣品を含むフェンタニルの関連物質も対象となります。フェンタニルは原料が中国で製造され、メキシコ、カナダ両国から流入しているとされ、トランプ政権は高関税措置を利用して、3カ国に取り締まりを強化するよう圧力を強めています。トランプ氏はホワイトハウスでの署名式で「街から密売人を一掃し、この問題を完全に根絶する」と強調しています。一方、中国外務省の報道官は、フェンタニルは米国の問題であり、中国の問題ではないと改めて強調、フェンタニル問題に絡む米国の関税は「麻薬対策に関する中米の対話と協力に深刻な影響を与えた」と発言、その上で、米国が本当に中国と協力したいのであれば「客観的な事実を直視」し「対等で、敬意を持った、互恵的な」形で対話すべきだと述べています。

警察や海上保安庁、厚生労働省麻薬取締部などによる2024年の大麻事件の摘発者数が6342人(前年比▲5.39%)となりました。過去最多の2024年からは減少したものの、依然高水準となっています。摘発者のうち30歳未満が72.5%を占めており、厚労相は「(若年層は)引き続き乱用期の渦中にある。予防啓発など対策を徹底する」と述べています。薬物事件全体の摘発者数は2024年比1.63%増の1万4040人、うち覚せい剤は6306人(+3.84%)と9年ぶりに増加しています。大麻の摘発者数は2年連続で覚せい剤を上回りました。押収量は覚せい剤が1473.3キロ(▲8.01%)、乾燥大麻が452.3キロ(▲46.8%)でしたが、MDMAなどの合成麻薬は23万2509錠(+37.0%)、コカインは301.4キロ(+436.3%)と大幅に増えています。薬物密輸の摘発件数は409件(▲13.4%)、摘発者数は475人(▲15.6%)となりました。

大学運動部での大麻を巡る報道について、いくつか紹介します。

  • 山梨学院大のレスリング部の男子部員が大麻成分を含むとみられるクッキーを食べた後、寮から飛び降りて大けがをした問題で、厚生労働省がクッキーに含まれていたとされる成分を調査しているといいます。警察の捜査で違法成分は検出されませんでしたが、厚労省は有害成分の有無を調べ、有害性が確認された場合、規制などの対応を検討するとしています。この問題では、クッキーを食べた男子部員が2025年5月、寮の2階から飛び降りて頭の骨などを折る重傷を負いました。部員は飛び降りた後、再び2階に戻って飛び降りようとしたが、本人はその際の記憶がないということです。厚労省関係者によると、同省監視指導・麻薬対策課が警察庁から情報提供を受け、成分について有害性の有無を調べています。近年、大麻の違法成分「THC(テトラヒドロカンナビノール)」と化学構造が似た成分を含む食品などが次々と販売されており、違法ではないものの、人体に有害な成分が見つかることもあり得るとし、同省は有害だと判断した場合、医薬品医療機器法上の指定薬物に追加し、所持や使用などを禁止しています。ただ、新製品が登場して規制が追いつかない面もあり、同省幹部は「安易に手を出して重篤な結果をもたらすこともある。注意してほしい」と注意喚起しています。
  • 乾燥大麻を営利目的で所持するなどしたとして、専修大学4年の元柔道部員が逮捕された事件で、警視庁多摩中央署は、元柔道部員の男を麻薬取締法違反(使用)容疑で再逮捕しています。男は2025年3月上旬~6月13日までの間、東京都内や神奈川県内などで大麻を使用した疑いがもたれており、男は同日未明、東京都多摩市内でレンタカーを運転中に職務質問を受けた際、車内から乾燥大麻約71グラム(末端価格約35万円)が見つかり、同法違反(営利目的所持)容疑で逮捕されていました。男は職務質問された際、警察官の胸ぐらをつかんだとして、公務執行妨害容疑で現行犯逮捕されており、尿検査で大麻の陽性反応が出ていたものです。車内からは、小分けにされた植物片56袋や大麻リキッドとみられる容器十数本、計量器も見つかり、同署が入手経路を調べています。男は現行犯逮捕後に柔道部を退部、同大は柔道部を活動停止にしています。
  • 奈良地検は、奈良県天理市内のドラッグストア駐車場で売人から大麻を譲り受けたとして、麻薬取締法違反(譲り受け)の疑いで2025年6月に逮捕された天理大元ラグビー部員を不起訴処分としています。地検は「諸般の事情を総合的に考慮した」としています。一方、被告は、天理大元ラグビー部員で麻薬取締法違反の罪で起訴された別の被告と共謀の上、被告の自室で大麻を所持した同法違反の罪で起訴されています。

暴力団等反社会的勢力が関係する薬物問題について、最近の報道からいくつか紹介します。トクリュウの関与が目立ち始めている印象があります。

  • 覚せい剤を所持、使用した疑いで、稲川会傘下組織組員が逮捕されています。報道によれば、暴力団組員は2025年6月、佐久市内の自宅で覚せい剤を営利目的で所持した疑いで現行犯逮捕されました。その後の捜査で、2025年6月上旬ごろから同月19日までの間に佐久市内などで覚せい剤を使用した疑いで同7月9日に再逮捕されました。男は営利目的で所持していたことは否認していますが、所持していたこと、使用は認めているということです。男の自宅からは約5グラム(末端価格14万6914円)の覚せい剤と電卓型電子秤が押収されています。
  • 営利目的で大麻を所持したとして、岐阜県警などは、麻薬取締法違反(営利目的共同所持)の疑いで自称、岡山県倉敷市宮前、職業不詳の容疑者ら男6人を再逮捕した。県警によると、6人全員が岡山県出身の20代で、トクリュウの可能性があるとみて捜査しています。報道によれば、2025年6月、営利目的で岐阜県の宿泊施設で大麻約150グラム(約75万円相当)を所持したとしています。6人は、盗品と知りながらロレックス1点を保管したとして、盗品等保管の疑いで、岐阜県警などに逮捕されていましたが、捜索時に大麻草のようなものを発見したといいます。大阪府警や兵庫、奈良、三重、岡山の各県警と合同捜査本部を設置し、捜査を進めているといいます。
  • 闇バイトを使って大麻を密輸したとして、京都府警は、大麻取締法違反(営利目的輸入)の疑いで、2人の容疑者を逮捕しています。京都府警によれば、2人はトクリュウのメンバーで、1人が指示役、別の1人が闇バイトのリクルートを担当、互いに面識はなく、秘匿性の高い通信アプリを使って勧誘や情報共有などを行っていたとみられています。2人の逮捕容疑は、闇バイトに応募した男=同罪で公判中=らと共謀し、2024年7月、タイから大麻草約377グラムを輸入したなどとしています。また京都府警は、闇バイトに応募した男から被告名義のネットバンキング口座のキャッシュカード1枚などを譲り受けたとする犯罪収益移転防止法違反容疑でも容疑者を逮捕しています。

その他、薬物を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 大麻を所持したとして、兵庫県警西宮署は11日、麻薬取締法違反(所持)の疑いで、兵庫県西宮市の中学3年の男子生徒を逮捕、送検したと発表しています。同署によると、男子生徒は容疑を認め、「インスタグラムをみて興味をもった」と話しているといいます。逮捕・送検容疑は2025年6月、自宅で大麻約933グラムを所持したとしています。同日、男子生徒の部屋に入った母親が、タバコの空箱に入った紙巻タバコ状のものを発見、母親から相談を受けた職場関係者が「職員の息子が大麻のようなものを持っている」と同署に通報、中身を鑑定した結果、大麻と判明し、同署が同法違反容疑で逮捕していたものです。男子生徒は、同6月に大阪市内で知らない男に声をかけられ、男から大麻約1グラムを2500円で購入したと話しているといいます。
  • 熊本県警御船署は、自宅で乾燥大麻を所持したとして麻薬取締法違反(所持)の疑いで、熊本市の中学3年の男子生徒(15)を逮捕しています。同容疑で家宅捜索し、自室から透明な袋入りの大麻が見つかっていました。報道によれば、2025年2月、男子生徒や同年代の複数人に職務質問し、言動や状況から大麻を所持している疑いが浮上し、捜査していたもので、逮捕容疑は、乾燥大麻約1グラムを所持したというものです。熊本市教育委員会は取材に「重く受け止めている。再発防止策を徹底していく」と話しています。
  • 和歌山地裁田辺支部で、麻薬取締法違反の罪に問われている20代の男の被告に対する初公判があり、和歌山地検田辺支部は拘禁刑6カ月を求刑しています。報道によれば、2025年6月に施行された改正刑法に基づき地検が拘禁刑を求刑するのは県内で初めてだといいます。改正刑法では、刑罰から懲役と禁錮をなくし、新設の拘禁刑に一本化され、同6月1日以降に起きた事件や事故に適用されます。起訴状によると、男は同6月4日、田辺市内の路上に停車中の車内で大麻5グラム弱を所持していたとされます。
  • タイから大麻草の種を密輸入したとして、福岡県警・門司税関・九州厚生局麻薬取締部は、大野城市上の会社役員を大麻草栽培規制法違反(種子の輸入制限)容疑で逮捕しています。2025年3月の施行以降、同容疑での検挙は全国初といいます。逮捕容疑は、同4月、タイのスワンナプーム国際空港で搭乗する際、発芽不能処理をしていない大麻草の種11粒を入れた携帯灰皿をスーツケースに隠し、福岡空港に輸入したとしています。県警などによると、容疑者はタイの大麻ショップで種を購入、「海外から持ち込むことは法律違反とは知らなかった」と供述しているといいます。同法は2023年12月に改正大麻取締法として公布、2025年3月から大麻草の種の輸入行為そのものが規制されるようになりました。
  • 日本の郵便局を経由しない私的な米国の軍事郵便で、大麻を液状に加工した「大麻リキッド」を密輸しようとしたとして、沖縄地区税関は、関税法違反の疑いで、米国籍の住所不定、自称自営業の容疑者を那覇地検沖縄支部に告発、支部は受理しています。沖縄県警が2025年6月、税関からの通報を受け、訪沖中の容疑者を麻薬取締法違反(輸入)の疑いで逮捕していたものです。告発容疑は同6月、米国の「非公用軍事郵便」を使い、在沖縄米軍人の関係者宛てに麻薬約9グラムを密輸しようとしたものです。税関によると、容疑者は、米海兵隊員の夫を持つ自分の娘宛てに、米南部サウスカロライナ州から荷物を発送、米軍キャンプ・フォスター(沖縄市など)内の郵便局で輸入検査をしていた税関職員が、せっけんが入った箱の中に隠されていた大麻リキッドを発見したものです。
  • 福井県警敦賀署や大阪税関などによる合同捜査班は、氏名不詳者と共謀し、タイから覚せい剤約14キロ(末端価格8億円相当)を密輸したとして、覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)の疑いで、同県敦賀市の無職の容疑者(48)=麻薬特例法違反の疑いで逮捕=を再逮捕しています。「覚醒剤が入っているとは知らなかった」と容疑を否認しているといいます。署などは国際的な薬物密輸組織が関わっている疑いがあるとみて、調べています。再逮捕容疑は2025年5月~6月、2度にわたりタイから関西空港に空輸された段ボール箱内のティッシュボックスに覚せい剤を隠し、輸入したとしています。税関職員が覚せい剤を発見、容疑者は自宅で覚せい剤と認識し、国際宅配貨物2個を所持したとして、同6月に麻薬特例法違反の疑いで現行犯逮捕されていました。
  • スーツケースに入れた覚せい剤約5キロ(末端価格約2億8千万円相当)を密輸入したとして、大阪府警関西空港署は、覚せい剤取締法違反(営利目的共同輸入)の疑いでタンザニア国籍で自称整備士の容疑者を逮捕しています。「覚せい剤が入っていることは知らなかった」と容疑を否認しています。逮捕容疑は、2025年6月、アラブ首長国連邦(UAE)から関西国際空港に到着した際、スーツケース内に覚せい剤を隠し、密輸したとしています。関空到着後、機内への預託荷物だったスーツケースを大阪税関が検査、スーツケースの収納ケースなどにカーボン紙の包みが6つあり、中から結晶状の覚せい剤が見つかったといいます。
  • 大麻由来の有害成分THC(テトラヒドロカンナビノール)を含む粘性液体を米国から密輸しようとしたとして、東京税関は、関税法違反(禁制品輸入未遂)容疑で、大阪府寝屋川市、自営業の被告)を東京地検に告発しています。「麻薬を送ってくれとは頼んでいない」と容疑を否認しています。税関は米国拠点の犯罪組織が秘匿性の高い通信アプリで被告に受け取りを依頼していたとみています。告発容疑は氏名不詳者と共謀し2025年5月、米国から発送したTHCを含む液体約920グラムを成田空港に到着させ、密輸しようとした疑いがもたれており、税関職員の検査で発見しました。発送時、宛先は横浜市内の架空の住所だったところ、途中で寝屋川市内の住宅に変更されていたものです。
  • 藤沢市大庭の障害児支援施設「ファミリー・キッズ」で、大麻草2本を栽培したとして、神奈川県警薬物銃器対策課などは、施設運営会社の社員を大麻草栽培規制法違反(栽培)の疑いで逮捕しています。容疑を認め、「自分で使うために栽培していた」と話しているといいます。容疑者は施設の管理者で、大麻は自身の仕事部屋の一角で鉢に植えて栽培していたといいます。施設の利用者は立ち入らない部屋だったといいます。県警本部に「施設内で大麻を栽培している」と情報提供があり、捜査を進めていたものです。
  • 自宅で覚せい剤を所持したとして、覚せい剤取締法違反の罪に問われたトラック運転手の男性被告の控訴審判決で、名古屋高裁は、懲役2年6月とした1審名古屋地裁判決は「重大な事実の誤認がある」として破棄し、無罪を言い渡しています。判決によると、2023年10月、男性の当時の妻が「(男性の)リュックサックのポケットから覚せい剤を発見した」と通報、警察官が自宅やリュックを捜索しても見つからなかったものの、男性を任意同行した後、妻がリュックのポケットから見つけたという覚せい剤を提出、男性は、覚せい剤約212グラムを所持したとして起訴されたものです。1審判決は妻の証言の信用性を認めましたが、裁判長は「ポケットに覚せい剤が入っていた場合、警察官が発見できなかったのは不自然だ」と指摘、「妻が警察官に相談して覚せい剤を提出した経緯は通常では考えにくく、捜索後に妻が入れたとしか考えられない」と判断したものです。

厚生労働省は、市販薬の乱用防止に向けて18歳未満への市販薬の大量販売を禁止する案を示しています。対面・オンラインともに大量販売を制限して、若者を中心に広がる市販薬の大量摂取を防ぐ狙いがあります。2025年5月に成立した改正医薬品医療機器法を踏まえ、厚生科学審議会の部会で厚労省が規制案を示し、大筋了承となったものです。せき止め作用のあるエフェドリンなど、脳を興奮または抑制させたり、幻覚を生じさせたりする恐れがあり、乱用を防ぐ必要がある薬が対象となります。大容量製品や複数個の販売を制限するもので、同1月時点の規制案では20歳未満を対象としていましたが、民法における成年年齢と整合性をとり、規制は2026年5月までに実施するとしています。20歳前半の若者に市販薬の乱用が広がっていることや、高校生の乱用リスクが高いとのデータを踏まえ、若年層が購入する際に年齢・本人確認の徹底を求め、購入者が18歳に達していても高校生である場合は、購入理由や使用状況を確認するといった対応を求めるとしています。

海外における薬物を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • メキシコ政府はカリフォルニア湾原産で全面禁止していた大型魚「トトアバ」の輸出を一部解禁しています。トトアバの乾燥浮袋は中国で高級食材として珍重され、密漁が米国との外交問題に発展したこともあるといいます。養殖魚の食肉部分に限った輸出許可で追跡を強化し、新たな密輸を防ぐ狙いがあります。メキシコではコカインやフェンタニルの米国への密輸を手掛ける麻薬カルテルが各地で暗躍しており、カルテルは中国から麻薬の原料を輸入する一方、メキシコで密漁したトトアバを中国に送って大金を稼いでいる構図があります。こうした犯罪組織が多く関与していることから、トトアバは「海のコカイン」の異名で知られてきました。2024年6月、国家警備隊(GN)はメキシコ中西部ハリスコ州のバスターミナルでトトアバの浮袋とみられる乾燥した魚の内臓、80個を押収、ハリスコ州は凶悪な犯罪組織「ハリスコ新世代カルテル(CJNG)」の本拠地で、メキシコ最大規模の「シナロア・カルテル」もトトアバの密輸に関わっていたのが確実視されています
  • タイ北部チェンマイで7月、2歳の女児が大麻成分を含むグミを誤って約10粒食べ、一時意識不明となる事件が発生しました。これを受け、ソムサック保健相は、大麻入り飲食物を製造・販売する業者に対し、適切な許可や表示があるか調査し、違反があれば取り締まるよう関係当局に指示したと発表しています。タイは2022年にアジアで初めて大麻を解禁しましたが、犯罪の増加や若年層への影響が問題視され、2025年6月から政府は一転して規制強化に乗り出しています。
  • ブルガリアの税関当局は、トルコとの国境の検問所で、ベルギー駐在のコンゴ(旧ザイール)の外交官ら3人が乗った外交官ナンバーの車両からコカイン約206キロ(約33億円相当)を押収したと発表しています。ブルガリアの陸路国境で押収された過去最大のコカイン量だといいます。同国は、バルカン半島における麻薬密輸の中継地だとされています。当局や地元メディアによると、コカインは、トルコ側に入境しようとした車両から、五つのスーツケースに入って見つかり、当局は外交官の男のほか、同乗者のブルガリアとベルギー国籍の男女の計3人を拘束、背景を調べています。
  • フランスで麻薬の密売が深刻化し、社会問題化しています。国連薬物犯罪事務所(UNODC)の年次報告でコカインの生産量や使用者数が2023年に過去最悪を記録するなど、麻薬の蔓延は世界的な傾向です。フランスでも昔から麻薬に伴う犯罪はありましたが、フランス社会をいま大きく揺るがすのは、パリや南部マルセイユなど一部の大都市にとどまっていた麻薬の「波」が、グルノーブルを始めとする地方都市、南東部ニースのような観光地、そして人口数千人の田舎の町村までのみ込もうとしているためです。新型コロナウイルスの感染拡大で国境が封鎖され、人の移動が止まるなか、SNSによる注文に応じて個人の家まで麻薬を宅配する新しい形態の密売が広まり、その過程でパリや南部マルセイユのような大都市だけでなく、地方の「需要」を開拓していったとされます。大都市と違って地方の警察は人員も少なく対応が遅れており、末端で関わっている密売人には北アフリカ出身のマグレブ系やアフリカ系移民のルーツを持つ若者も多いといい、大都市でマフィアが牛耳っていた密売の構造も大きく変化しているといいます。全体から見れば麻薬犯罪にかかわる移民系の若者はごく少数ですが、モロッコなどマグレブ地域の一部の出身者は、祖国で大麻の栽培などにかかわっている親類らがいるケースもあり、麻薬を比較的手に入れやすい環境にあるようです。さらにフランスでは貧困が固定化された地域があり、そこで生まれ育った若者の多くが移民のルーツを持つという現実があり、そこから高等教育を受けて社会の階層を上がるのは容易ではなく、貧困の中で犯罪とつながってしまうことから、移民系の若者が麻薬の問題に巻き込まれるケースが多いと考えられています。治安当局が押収した麻薬の統計などを見ると、爆発的に増えているのはコカインの流通で、北米の「市場」が飽和状態にあるため、密売人はフランスを含む欧州で新たな市場を探しているといいます。コカインは主に南米、大麻はモロッコから来ていますが、レバノンやアフガニスタンからも入ってきているようです。同時に、コカインは、以前はショービジネス界や富裕層などごく一部しか消費していなかったはずが、値段が下がったことやSNSなどで容易に買えるようになったことで、普通の人たちが使う状況が生まれています。欧州レベルで連携して取り締まりにあたる必要がある状況ですが、欧州諸国の中でも大麻の使用を合法化した国があるなど、麻薬の取り締まりに対するスタンスに違いがあり、国境をまたいだ連携は難しいのが実情です。
  • 2021年当時、大きな盛り上がりを見せた医療・娯楽用大麻の解禁は、本格的に拡大する気配を見せていました。医学誌「アディクション」に掲載された調査によれば、米国では日常的に大麻を使用している人口は約1800万人と、飲酒者の1500万人を上回る数字となりました。ニューヨーク、バージニア、コネチカット、ニューメキシコの4州で娯楽用大麻が合法化され、アラバマ州でも医療目的での使用が認められました。当時のバイデン政権に対しては、連邦法の改正により大麻企業の金融サービス利用や、州をまたぐ在庫管理が容易になるとの期待も高まっていました。今はそうした高揚感はありません。長期的な問題の1つは、米国やカナダでの合法化によって大麻の供給が急増し、過剰に出回ったことが挙げられます。価格は大幅に下がり、激しい競争が起きており、ニューヨークでは2021年の合法化以降、認可販売店の数が300店舗にまで急増、この間に米国での平均小売価格は32%下落したといいます。大麻関連企業は、市場に成長の兆しがほとんどないという現実に直面しています。2024年から2025年にかけて、娯楽用大麻を合法化した米国の州は1つもなく、トランプ政権が大きな政策転換に踏み切る可能性も低いとみられています。米麻薬取締局(DEA)は2024年、大麻を物質規制法の分類において「スケジュール2」から「スケジュールⅢ」に変更する可能性を示唆、連邦規制が一部緩和され、経費の税控除などが可能になると期待されていましたが、そのプロセスは現在停滞しているといいます。米国以外でも市場拡大は進んでおらず、タイでは2025年6月、若年層の依存症への懸念から娯楽向けの使用を禁止する方針が発表されました。同国では3年前に大麻を違法薬物リストから外したばかりでした。こうした状況で、ドイツの動向が注目されています。ドイツでは2024年、大麻の所持と少量生産を非犯罪化しました。ただし商業的な大規模栽培の許可には至っていません。ただ市場規模はまだ小さいうえ、たとえば認可販売店や薬局向けのライセンスは、欧州各国の指導者が違法輸出の急増を懸念していることもあって実現していない状況があります。ビジネスありきではなく、大麻の有害性を大前提としたビジネスのあり方があらためて問われているといえます
(4)テロリスクを巡る動向

2025年7月に実施された参議院選挙の期間中、候補者に危害を加えるなどといったSNSの危険な投稿が900件近くに上ったことが分かりました。警察庁は参院選に向け、特定の組織に属さずテロ行為に及ぶ「ローン・オフェンダー」対策のため、「LO脅威情報統合センター」を設置しました。全国の警察などから集まったSNSの危険な投稿は889件あり、中には「首洗って待ってろ」「見つけたら撃ちますよ」などと、候補者らに危害を加える内容の書き込みも確認されました。危険性が高いと判断したものは、投稿者に直接警告したということです。一方、参院選にあたって警察庁が審査した街頭演説会場の警備計画は約400件に上ったといい、このうち71%で、警護員の配置や人員の増強などの修正を指示したといいます。熱中症対策の影響もあり、街頭演説の5割は屋内で行われ、主催者や警察などによる手荷物検査の実施率は99%で、金属探知機などでカッターやはさみなどの危険物が見つかるケースが約140件あったといいます。

九州電力玄海原子力発電所(佐賀県)構内の上空に、ドローンとみられる飛行体が侵入しました。施設への被害は確認されていませんが、核物質防護上、看過できない重大事案だといえます。この問題では、原子力規制委員会が2025年7月26日午後10時半ごろ、緊急時情報ホームページで「午後9時ごろ、玄海原発で原子力施設の運転に影響を及ぼすおそれがある核物質防護情報が通報された」と発表、翌27日午前0時過ぎに「玄海原発構内でドローン3機が飛行中であることが確認された」としましたが、27日正午過ぎに「ドローンと思われる三つの光が確認された」と訂正されましたが、原発は航空機によるテロ対策を想定しているものの、ドローン攻撃への対策は追いついていないのが現状で、攻撃可能な機体が容易に原発建屋に近づける、警備上の脆弱性が浮き彫りになったといえます。なお、飛行体が原発敷地内や周辺の上空で確認されていた時間は、少なくとも2時間程度に上る点も極めて由々しき問題だと思います(一方、防犯カメラに飛行体の映像は残っていなかったといい、小型ドローンを捉えることもできない実態があります。また九電から自治体に詳細な連絡があるまでに30分くらいかかったといい、迅速な情報共有という点も課題が残りました)。国際的にも原発へのドローン接近事案は増加傾向にあり、他の電力会社の原発においても対策と警戒体制の構築が必要だといえます。国内でもテロに利用される危険性が指摘されており、実際に首相官邸や自衛隊などの重要施設に侵入した事例もあり、法規制が強化されているところです。首相官邸屋上で未確認のドローンが発見された事案では、ドローンには放射性物質を含む土砂が入った容器や発炎筒などが搭載され、威力業務妨害容疑で逮捕された男性は「反原発を訴えるために飛ばした」と供述しています(正に日本国内でのテロとしての悪用だといえます)。そもそもドローンは軍事利用とともに技術を進化させてきた歴史があり、2001年のアフガニスタン戦争で初めて武装ドローンが運用され、2016~17年には、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)がイラク北部で小型爆弾を積んだドローンによる攻撃を多用、南米ベネズエラでも2018年8月、マドゥロ大統領の演説中にドローンが上空で爆発し負傷者が出るなど、テロを含むドローン攻撃への対応は国際的な課題となっています。今回の事案では、現役の玄海3、4号機をはじめ、廃炉中の1、2号機などの設備に異常は確認されていませんが、上空からのテロ行為や破壊工作、軍事攻撃への防備の手薄さに対する警鐘だといえ、政府と電力会社、警察は自衛隊の協力も得て、原子力施設周辺の対策を早急に強化すべきです。原発上空での飛行を強力な電波で阻止するジャミング装置などの導入も検討する必要がありそうです。海外でもドローンによる原発への妨害事例が増えており、フランスや米国では防御装置の導入が進行中だといいます。政府は玄海原発での事案を機に、諸外国で先行している空域危機管理のための技術情報を収集し、安全体制構築を急ぐべきだといえます。また、民生用ドローンはいまや、技術の進歩により、原発や他の重要施設にとって脅威となる段階に達しています。今回の玄海原発への侵入で留意すべきは、夜間に複数機で飛来している点です。海外の事例では、背後に組織化された悪意の主体の存在が推定される場合に見られるパターンであり、今回の背後関係についてもさらなる調査が必要だといえます。原発再稼働や新設をめぐる議論が進む中、原子力行政にかかわる全ての主体は今回の事案を教訓として、ドローンを含む新たな脅威への日々の備えを怠ってはならないというのが、今回得られた最大の教訓だといえます。

2025年9月の世界陸上選手権の開催を前にテロへの警戒を呼びかけるため、警視庁は、会場となる国立競技場内で研修会を開き、インフラ関係など民間企業や官公庁など約70団体から100人が参加しています。テロの情勢やテロ対策に関する情報や知識などを共有して理解を深め、官民の連携を強化しています。都内では、11月には聴覚障害者の国際スポーツ大会「デフリンピック」の開催も予定されています。大きな注目を集める国際的なスポーツイベントは海外でテロの標的になった例もあり、警視庁は警戒を強めています。警視庁警備部長は「テロを許さない社会機運を醸成し、不審者や不審物に目を光らせて、テロを行おうとする犯意をくじいていくことが極めて重要だ」と話していますが、正にそのとおりであり、ローンオフェンダー(LO)などは市民社会になかに完全に溶け込んでいることもあり、警察だけが警戒するのではなく、市民一人ひとりのレベルでリスクの芽を感じ取って、それを共有しながら可能な限り早い段階で摘んでいくことが求められています。

公安調査庁は、オウム真理教の後継団体主流派「Aleph(アレフ)」について、団体規制法に基づく再発防止処分を公安審査委員会に請求しています。教団の教祖・麻原彰晃こと松本智津夫元死刑囚(2018年に刑執行)の次男が役職員としてアレフの組織運営を主導していると初めて指摘、アレフがこうした状況について、同法で義務づけられた報告をしなかったなどとして、土地・建物の新規取得禁止など、現在の5回目の処分より厳しい内容を求めています。発表によれば、SNS上に2024年秋、「私は2代目の教祖」などと話す次男のものとされる音声が流出、公安当局はその後、音声は次男のものと確認し、音声を含む複数の証拠から、次男が団体の「実質的支配者」と判断したといいます。同庁による調査の結果、次男はアレフの構成員かつ役職員で、2代目「グル(宗教指導者)」を自称し、2014年頃からアレフの意思決定に関与して組織運営を主導していることが確認されたといいます。松本元死刑囚の妻も構成員・役職員で、後見的に補佐する立場にあるとしています。次男と妻の居住地とされる埼玉県越谷市内のマンションがアレフの活動拠点になっているとも指摘しています。アレフは、次男や妻が構成員・役職員であることや越谷市内の拠点について報告しておらず、同庁は今回の再発防止処分の請求理由について、「無差別大量殺人行為に及ぶ危険性の程度を把握することが困難になっている」としています。アレフは、資産状況などを適切に報告しなかったなどとして、2023年に初めて再発防止処分を受けています。現在受けている5回目の処分では、全国約20施設のうち計16施設の全部または一部について、居住用を除く団体の土地・建物の使用や寄付の受領が禁じられています。同庁は、資産報告が十分でないなどとしてアレフに施設の使用や寄付金受領を禁じる半年間の処分請求を重ねており、現在の処分は9月20日までで、今回はこれらに加え、今後新たな施設をつくる恐れがあるとして、北海道や埼玉、千葉など12都道府県での土地や建物の新規取得や借り受けを禁じる処分も初めて求めています。正直、10年以上前から続いている実態をようやく今になって把握できたという点をどう評価すべきか、難しいところです。実態を把握されまいと巧妙にふるまってきたアレフにも問題はあるとはいえ、把握する能力を公安当局が十分に持っていないのではないかという懸念も払しょくできません。

▼公安調査庁 無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律に基づく再発防止処分の請求について
  • 公安調査庁長官は、令和7年7月22日、令和6年1月12日に8回目の期間更新決定を受け、観察処分に付されている、いわゆるオウム真理教と同一性を有する、「人格のない社団Aleph」の名称を用いる団体について、無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律の規定に基づき、公安審査委員会に対し、再発防止処分の請求を行いました。
  • 現在、再発防止処分下にある「Aleph」は、麻原彰晃こと松本智津夫の絶対的影響下にあり、依然として無差別大量殺人行為に及ぶ危険性を保持しており、さらに、麻原の二男が、2代目「グル」を自称し、その意思決定に関与して組織運営を主導するとともに、麻原の妻もそれを後見的に補佐する立場にあります。令和7年1月の再発防止処分請求以降においても、同法で定められている報告すべき事項の一部を報告しておらず、公安調査庁としては、報告の是正を求めるため、指導文書の発出を繰り返し行ってまいりました。
  • しかし、麻原の二男らが運営を主導する「Aleph」は、指導文書の受取を拒否した上、いまだに報告すべき事項の一部を報告せず、無差別大量殺人行為に及ぶ危険性の程度を把握することが困難である状況に変化は見られません。
  • このため、現在の再発防止処分の期間満了後においても、引き続き、必要な限度で活動の一部を一時的に停止させるとともに、速やかにその危険性の程度を把握するため、改めて再発防止処分の請求を行ったものです。
  • 今次請求に係る処分の内容は、(1)特定地域における土地・建物の新規取得又は借受けの禁止、(2)「Aleph」管理下の土地・建物の全部又は一部の使用禁止、(3)金品等の贈与を受けることの禁止であり、処分の期間は6か月間が相当であると考えております。このうち、(1)については、「Aleph」において土地・建物の新規取得などのおそれが看取されるところ、これを放置した場合、麻原の二男らが運営を主導する「Aleph」の活動状況及びその前提となる施設の把握が困難となることから、新たに処分の内容を追加して請求しました。
  • 今後は、公安審査委員会において、審査の上、決定がなされるものと考えております。
  • 公安調査庁としましては、引き続き、観察処分の適正かつ厳格な実施により、公共の安全を確保し、松本・地下鉄両サリン事件等の被害者・御遺族や地域住民を始め国民の皆様の不安感の解消・緩和に鋭意努めてまいる所存です。

海外のテロを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 2025年7月15日付日本経済新聞の記事「ロシアがタリバン政権承認、中国も接近ユーラシアの秩序揺さぶる」は大変参考になりました。世界の東西にまたがるユーラシア大陸の南部で、地域情勢が転機を迎えており、アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンの暫定政権を、ロシアが世界で初めて正式に承認したのがきっかけとなっているとの指摘です。その内容をかいつまんでまとめると、「ロシアと中国はタリバンを「パートナー」とみなし、安全保障と経済の両面でアプローチを続けています。タリバンはもとをたどれば1980年代、ソ連のアフガニスタン侵攻に対抗し生まれた武装集団で、1990年代末にほぼ全土を掌握したものの、タリバンの政権は2001年に米国による空爆などを受け崩壊、再び復権したのは2021年の駐留米軍の撤退に伴い親米政権を倒した後となります。タリバン支配下でアフガンは国際社会から孤立し、米欧や日本では女性に対する人権抑圧や麻薬の生産などが厳しく批判されました。日本はアフガンの主要な支援国でしたが、タリバン復権後は2国間の援助を停止しています。一方、中国はロシアの正式な承認を受けて、「国際社会と暫定政権が接触を拡大することに賛成だ」と述べています。中ロがアフガン問題で足並みをそろえる理由は主に2つあり、ひとつは広域のテロ対策で、もうひとつは南アジアや中東へと至る輸送ルートの確保です。ロシアでは2024年3月、モスクワ郊外のコンサートホールでのテロ事件で、130人以上が死亡、この銃撃テロに関与したとされるのが、アフガンの一部地域で活動を続け、タリバンとも敵対するISで、中国もISが国内の新疆ウイグル自治区の過激派と連携する事態を恐れているという背景事情があります。また、中ロはともに2国間の支援拡大や鉱物資源の開発などでタリバンを支える動きを強めています。今後はロシアに続き、中国や旧ソ連・中央アジアの国々がタリバン暫定政権の承認に動く可能性があります。国際的孤立を逃れ、経済発展を急ぎたいタリバンは中ロが主導する「上海協力機構(SCO)」への正式加盟も希望しています。問題視されるのはアフガン情勢の危険度ですが、現状は安定的な状態を保っています。欧州との対立で南へ輸出先の開拓を迫られるロシアと、海上輸送を補う陸上の輸送網を拡大したい中国、そして内陸国で外洋への出口を求める中央アジア諸国の利益が一致、ロシアによるタリバン暫定政権の承認は、ユーラシアの貿易の流れに大きな変化をもたらす潜在力を持つといえます」というものです。
  • ルビオ米国務長官は、シリア暫定政権のシャラア大統領が率いていた過激派組織シャーム解放機構(HTS、旧ヌスラ戦線)の「外国テロ組織」指定を解除すると発表しています。対シリア制裁の解除を命じる2025年6月30日の大統領令に基づいて、国際金融システムから孤立したシリアを救済し、内戦からの復興を後押しする狙いがあるといいます。HTSは国際テロ組織アルカイダが源流で、ルビオ氏は声明で、暫定政権が、あらゆる形態のテロと闘い、HTSを解散すると表明していることを受けた措置だと説明、「安定し、統一され、平和なシリアを実現するための重要な一歩だ」としています。トランプ米大統領は1期目に、イスラエルと一部のアラブ諸国との関係を正常化させる「アブラハム合意」を仲介しており、2期目は参加国の拡大を目指しています。シリア暫定政権にも、経済制裁の解除を進める代わりに、合意に加わるよう要請しています。シリアとの関係改善は欧州の各国も進めています。英国は、内戦以来途絶えていた外交関係の再開を発表、ラミー外相が、英閣僚として14年ぶりに現地を訪問し、シャラア氏らと会談、9450万ポンド(約190億円)の追加の人道・復興支援を表明しています。
  • 国際刑事裁判所(ICC)は、アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンの最高指導者アクンザダ師ら2人に対する逮捕状を発付しています。ICCの予審判事部は、タリバン暫定政権の女性抑圧政策を、アクンザダ師らが命じるなどした合理的な根拠があるとし、人道に対する罪に当たる疑いがあるとしています。予審判事部は、タリバン暫定政権による女性抑圧は、2021年8月の復権以降、少なくとも2025年1月20日まで続いてきたと指摘、基本的人権が侵害され、住民の自由の制限などが横行してきたと批判しています。ICCの検察官は2025年1月に逮捕状を請求、アフガニスタンは2003年からICC加盟国となっていますが、タリバン暫定政権は同7月にロシアが正式承認しただけで、国際社会では認められていません。暫定政権は今回の逮捕状も無視するとみられ、アクンザダ師らの拘束や身柄の引き渡しに応じる可能性は低いとされます。
  • 国連総会(193か国)は、アフガニスタンのイスラム主義勢力タリバン暫定政権について、女性に対する「抑圧的な政策」を非難し、タリバンに政策の見直しを求める決議案を賛成多数で採択しています。米国とイスラエルの2か国は「決議の内容は実効性を欠く」などとして反対し、アフガン対応を巡って国際社会との温度差が浮き彫りとなりました。決議では女性の権利回復や人道支援を求めており、米国のバイデン前政権ではこうした支援を重視する姿勢をとってきましたが、トランプ政権では関与縮小の傾向が強まっています。今回の決議について、米国の代表者は「米国はタリバンを深く疑っており、(決議は)我々の利益を損なうものでしかない」と反対理由を述べていますが、賛成に投じた日本の国連次席大使は、女性の抑圧政策などは「アフガンの繁栄の可能性と国際社会との信頼構築を著しく損なう」と指摘、一方で「日本は支援の手を緩めることはない」と述べ、アフガン支援は継続するとしています。
  • ルビオ米国務長官は、インド・カシミール地方で2025年4月に発生し、26人が死亡した武装勢力による襲撃を巡り、パキスタンのイスラム過激派組織「ラシュカレ・タイバ」の分派とされる「抵抗戦線(TRF)」を「外国テロ組織」に指定したと発表しています。TRFは襲撃の責任を当初認めていましたが、数日後に否定しています。ラシュカレ・タイバも米がテロ組織指定しています。インドのジャイシャンカル外相はXへの投稿で「印米テロ対策協力の力強い確認」だと述べ、米国による今回のテロ組織指定を歓迎しています。
  • シンガポール内務省は、国内のテロの脅威が依然として高いとの報告書を公表しています。背景にはイスラエル・パレスチナ紛争や「過激な思想の浸透が続いている」ことがあるとしています。現時点で差し迫った攻撃を示す情報はないものの、ISがガザの紛争や国内の不満に乗じて、武装闘争を正当化する宣伝活動を強化しているといいます。報告書によると、2023年10月のイスラム組織ハマスによるイスラエル奇襲攻撃以降、シンガポール人6人が同紛争を理由に武装闘争を支持したり、武装闘争への参加を準備していたといいます。報告書はシンガポールが「西側諸国やイスラエルとの友好関係や、象徴的な建造物の存在」などを背景に「テロリストや過激派から引き続き魅力的かつ正当な標的とみなされている」と分析、特にインターネットを利用する若者の間で自己過激化が見られることが大きな脅威だとしています。直近ではモスクへの銃撃やISへの参加を計画していた10代の2人に、裁判なしで長期間容疑者を拘束できる「国内治安維持法」が適用されています。

(5)犯罪インフラを巡る動向

飲食宅配代行サイト「出前館」の配達員アカウントを不正に譲渡したとしてコンサルタント会社役員らが逮捕された事件で、譲渡されたアカウントを利用して配達をしていた外国人が計約1400人に上ることが判明しています。警視庁国際犯罪対策課によれば、容疑者らが他人名義でアカウントを取得させた外国人の内訳はウズベキスタン人が約1000人で最も多く、ベトナム人が約300人で続き、このほかにロシアやパキスタン、ミャンマー、インドの国籍の人もいたといいます。容疑者らのグループは外国人に名義を貸す日本人と、配達員を希望する外国人を、SNSを通じて募集していました。今回逮捕された7人の中には、不正取得したベトナム人や名義を貸した日本人も含まれえいるといいます。「配達員アカウント」が犯罪インフラ化していた今回の事件では、外国人が配達で得た報酬の一部が容疑者に渡っており、2022年以降、約5400万円を得ていたとみられています。出前館を巡る大規模な名義貸しが発覚したきっかけは交通事故とされ、2023年9月、ペダル付き原動機付き自転車「モペット」で配達していたウズベク人による人身事故が発生、警視庁の捜査で登録の名義が日本人だったことが判明したものです。出前館は不正の発覚を受け、配達員の稼働時に顔認証で本人確認する仕組みを導入しています。同社は、「不当なアカウントの貸し出しについての法的対応を含め、断固として許容しない強い姿勢と対応で臨んでいる。不正行為が無くなるよう注意喚起などを行うとともに、継続して不正対策を講じる」とのコメントを出していますが、犯罪インフラ化してはじめて対応を強化するのではなく、金融犯罪に限らず犯罪対策の一環として本人確認はもはやすべてのサービスのインフラとなっていることをすべての事業者は認識する必要があると思います。

技能実習制度の犯罪インフラ化が深刻です。佐賀県伊万里市の母娘強盗殺人事件で、佐賀県警に逮捕されたベトナム人の男は現役の技能実習生でした。技能実習制度を巡っては、よりよい待遇を求めるなどして実習生の逃亡が頻発、2023年は約9800人が逃亡し、うちベトナム人は約5500人で半数以上を占めています。同制度は2年後に新たな「育成就労」に変わりますが、新制度では職場を移ることも可能となるため、就労生が都市部へ集中する懸念も出ています。在留外国人統計によると、技能実習生は2024年末時点で45万6595人、このうちベトナム人が21万2141人で約46%と最多を占めています。ベトナム人実習生をめぐっては、ベトナム人同士で寮生活し、同じ職場で働き、日本語を学ぶ必要性を感じないため、結果的に日本社会となじまない「社会内社会」が形成されているとの指摘があります。一方で、実習生の中にはよりよい待遇を求めて逃亡する者が後を絶たず、2023年1年間に逃亡した9753人のうち、ベトナム人は5481人で約56%を占め、逃亡者は在留資格を取り消され、不法滞在状態となる場合もあり、ベトナム語で「部隊」を意味する「ボドイ」と呼ばれるSNSを通じた組織に入り、犯罪に手を染めてしまう悪循環も指摘されているところです。警察庁「令和6年における組織犯罪の情勢」によると2024年の来日外国人の刑法犯6368人のうち、実習生や元実習生は986人、このうちベトナム人が647人と外国人刑法犯の約10%を占めています。

カップルの出会いの場として定着しつつあるマッチングアプリを巡り、消費者トラブルが相次いでおり、マッチングアプリの犯罪インフラ化が進行しています。デートと称して不当な料金を要求する「ぼったくり店」に連れて行かれたり、投資詐欺に巻き込まれたりするケースがあり、運営会社側はマイナンバーカードを使った認証制度を導入するなど対策に乗り出しています(こうした点からも、精度の高い本人確認が犯罪対策における重要なインフラとなっていることが分かります)。東京都消費生活総合センターに寄せられるマッチングアプリに関する相談は2020年度ごろから急増し始め、2021年度に1000件を超え、2024年度も871件にのぼっています。トラブルの中身は、ぼったくりや投資詐欺などの被害のほかにも、恋愛感情や親近感を抱かせて金銭をだまし取る「ロマンス詐欺」に巻き込まれるケース、既婚者が未婚と偽ってアプリを利用し、トラブルになるケースなどさまざまです。も目立つ。マッチングアプリは結婚相手を見つける場として定着しつつあり、こども家庭庁が5年以内に結婚した40歳未満2000人を対象に行った2024年の調査によると、半数超がアプリを使用した経験があると答え、25%は結婚相手との出会いのきっかけがマッチングアプリと答えています。アプリの運営会社も対策に動き始めており、そのポイントとなるのが本人確認の精度向上(マイナカード等の活用)です。ある会社では詐欺などが疑われるやりとりを検知するシステムも導入、「悪い目的を持った人ほど、すぐに対面や他のSNSなどに誘導しようとする傾向がある。誘われてもアプリ内でのやりとりを続けてほしい」と注意を呼びかけているといいます。金融犯罪対策と共通項が多く、すべての事業者が金融犯罪対策から学ぶことがあると感じています。

本コラムでその動向を注視してきたオーストラリアのSNS規制ですが、同国政府は、16歳未満のインターネット利用を制限する法律に関して、当初は対象外としていた動画投稿サイト「ユーチューブ」も規制対象に含めると発表しています。法律は2025年12月に施行される予定で、インスタグラムやTikTok、Xなどが規制対象となっています。豪政府によると、16歳未満はユーチューブのアカウントを作成することが禁じられます。アカウントなしでも動画の視聴は可能ですが、動画を自身で投稿したり、他の利用者が投稿した動画にコメントしたりすることはできなくなります。ロイター通信によると、ユーチューブ側は豪州の13~15歳の4分の3近くがユーチューブを利用しているとしますが、アルバニージー首相は「SNSは子どもたちに社会的な害を与えている。政府は保護者の味方だと伝えたい」と述べ、ソーシャルメディアを運営する企業には「社会的責任がある」と強調しています。政府は当初、ユーチューブは「教育にも役立つ」と規制対象から除外していましたが、豪ネット規制当局が2025年6月、多くの子どもがユーチューブ上で暴力などの場面を含む有害コンテンツに接しているとし、ユーチューブも対象に加えるよう勧告していたものです。現地メディアによると、ユーチューブを運営するIT大手グーグルは強く反発しており、政府を提訴する方針も示しているといいます。法律では、子どもや親への罰則はなく、事業者が16歳未満のユーザーを排除する措置を怠るなどした場合、最大4950万豪ドル(約48億円)の制裁金が科される内容となっています。

EUの執行機関である欧州委員会は、域内でSNSサービスを手がける事業者向けの新指針を公表しています。未成年向けでスマホ依存を防ぐため、メッセージを読むと画面に「既読」と表示されるような機能をオフにするよう要請しています。SNSの「既読」通知を巡る問題は、日本だけでなく欧州でも深刻で、例えば子どもが友達同士でメッセージを素早くやり取りする際、「既読」と表示されることが返信へのプレッシャーにつながると指摘されています。すぐに返信しないと意図的な無視である「既読スルー」をしたとみなされ、いじめにつながるケースもあり、結果的に会話が終わらず、スマホの過剰利用につながっているとされます。欧州委は違法コンテンツの排除をオンライン事業者に義務付けるデジタルサービス法に基づく指針で、未成年向けのSNSではこうした機能をあらかじめオフにするよう求めています。同時に動画コンテンツなどに関し「プッシュ通知」や自動再生で注意をひき付ける手法も、長時間使用につながるおそれがあるためやめるよう促しています。小規模事業者を除くEU域内でSNS事業を展開する全てのサービスを対象に早急な対応を呼びかけています。指針のため罰則は設けられていませんが、今後同じような内容の法整備も進めて圧力を強めるとしています。未成年者のSNSアカウントについてはあらかじめ非公開の設定とし、見知らぬ人からの接触機会を減らすよう迫っています。SNSを使っていると、性的や暴力的で不快なコンテンツが「おすすめ」として表示されることがあり、欧州委はSNS事業者にこうしたシステムの改善も要求しています。未成年が「もう見たくない」と感じたコンテンツを運営企業にすぐに伝達でき、再びすすめられないようにする仕組みをつくることも指針に明記しています。未成年がSNS上で知り合った人から求められ、性的な内容や個人情報を投稿してしまうことがあることから、ネット上での拡散を防ぐため、欧州委は未成年が投稿したコンテンツについてダウンロードやスクリーンショットで保存できなくする設計も推奨しています。EUはオンライン上の未成年保護を、デジタル政策の「最優先課題」として位置づけており、プラットフォーマーによる寡占を防ぐデジタル市場法(DMA)やAI事業者向けの規則が施行段階に入り、新たな規制の矛先をSNS企業に向けています。

関連して、SNSで知り合った相手に性的な画像や動画を送らせ、拡散すると脅して金品を要求する「セクストーション」の被害が広がっています。支援団体によると、主に未成年者からの相談が相次ぐほか、被害の約7割が男性といいます。加害者は、海外の外国人犯罪グループが多く、欧米より法整備が遅れている日本にターゲットを移しているとみられています。手口は巧妙で、SNSに子供が接する時間が増える夏休みは特に注意が必要です。英語の練習や、恋愛トーク、悩み相談など、加害者は、被害者と何気ないSNS上でのやりとりを重ね、信頼感を抱かせた上で、性的画像を送らせ、相手から画像を送られたら自分も返さなければならない気持ちになる「返報性の原理」が働くように仕向けるといいます。脅迫の過程では、さらに精神的な揺さぶりをかけるのが特徴で、「あと10分で拡散する」と脅し、冷静さを失わせ、考える余裕を与えない手法や、20万円を要求した後、「2万円で許してやる」と譲歩するようにみせかけ、被害者を追い詰めていく手口で、被害者は、画像を送った罪悪感もあり、周囲に相談できず、やり取りを続けてしまうケースがあり、深刻化してしまいます。こども家庭庁が公表する調査報告書によると、2019年以降、米国では被害に遭い、自ら命を絶った子供も出るほどセクストーションの被害が拡大、米連邦捜査局(FBI)が警報を発する事態となり、複数の州がセクストーションを取り締まる州法を制定するなど規制が進んでいます。日本の支援檀大「はっぷす」によれば、ナイジェリアやフィリピンなど海外を拠点とする外国人犯罪グループが、通話役や脅し役などに役割分担し、犯行に及んでいるケースが多く、AIの進歩などで翻訳精度が上がり、言語の壁が突破できるようになったことで、日本を標的にするようになったとみられています。ここでも、金融犯罪との共通項がみられます。

マギー・ハッサン米上院議員(民主党)は宇宙企業スペースXのイーロン・マスクCEOに書簡を送り、米国民に対する詐欺行為を行う東南アジアの国際犯罪組織が衛星インターネットサービス「スターリンク」を利用するのを阻止するよう求めています。ハッサン氏は、東南アジアのさまざまな国際犯罪組織による米国民への詐欺行為が、スターリンクを利用することで容易になっているとする最近の報告書を紹介、米財務省の金融犯罪取り締まりネットワーク(FinCEN)によると、これら犯罪組織は米国民から数十億ドルを巻き上げているとも指摘しています。同氏は「スペースXのサービス規定では詐欺行為によるアクセス停止が認められているにもかかわらず、ミャンマー、タイ、カンボジア、ラオスの犯罪ネットワークはスターリンクを使い続けている模様だ。スペースXは、犯罪者が米国民を標的とするためにサービスを利用するのを阻止する責任がある」と訴えています。筆者としても金融犯罪対策の強力な一手であり、ぜひ実現してほしいものだと思います。

QRコードから偽のウェブサイトに誘導し、パスワードを読み取ったり金銭を詐取したりするサイバー攻撃の被害が増えています。サイトのURLをクリックさせる従来型のフィッシング詐欺と比べて不正なQRコードを判別することが難しいためで、民間調査で偽メールに占める割合は過去3年間で10倍に増えたといいます。メール文面のURLをクリックさせて偽サイトに誘導するフィッシング詐欺に対して、QRコード経由で誘導する詐欺は「クイッシング」と呼ばれ、文字列が表示される偽URLと比べて、QRコードは人間の目には見分けがつきにくいのが被害増加につながっています。2025年6月中旬、スマホ決済「PayPay」の利用者が被害に遭ったことが話題になりました。同社を装う発信元からのメールに表示された複数のQRコードを読み取ったところ、銀行口座から不正に決済されたといいます。米グーグルは2025年3月、ロシアの関係者がメッセージアプリの認証情報を奪うため、偽のQRコードをウクライナ軍関係者に送りつけていると公表しています。グーグルは「この手法は近いうちに対象範囲を広げる」と警戒を呼びかけています。偽メールを防ぐ対策としては、なりすましを検知する技術「DMARC」の導入が効果的とされ、企業がメールサーバーに導入することで自社になりすますメールの配信を防げ、少額の予算で設定できるものの、日本では認知不足や、正規メールが届きにくくなるとの懸念から導入が遅れています。プルーフポイントの2024年12月の調査で、日本で受信前に削除する「拒否」や迷惑フォルダに振り分ける「隔離」といったディーマーク対応済みの企業は2割程度にとどまり、欧米各国の6割程度に遠く及ばず、大半は監視(モニタリング)のみで有効な対応策を講じられていないのが現状です。情報セキュリティ対策を巡る不作為が被害をもたらし、自社にとどまらず、関係先への攻撃の踏み台となれば「加害者」でもあり、そうした観点も併せて検討すべきだといえます。

警察庁は、国際ハッカー集団「フォボス」などが扱う身代金要求型ウイルス「ランサムウェア」を無効化するソフトを独自開発し、同庁ホームページで公開を始めています。被害企業が身代金を払わずにデータを復旧できる、世界的にも画期的な取り組みです。無効化に成功したのは、ロシアの技術者らで構成される「フォボス」や「エイトベース」が扱うウイルスで、機密データを暗号化して「情報を公開する」と迫る手口で、被害は2018年以降22か国で約2000件に上り、国内でも医療機関や情報処理サービス会社などで約90件確認されています。警察庁サイバー特別捜査部は各国との共同捜査で容疑者を特定する一方、闇サイトで発見したランサムウェアの生成プログラムの設計情報に加え、米連邦捜査局(FBI)が押収したデータの分析を重ね、復号ソフトの開発に成功したものです(特捜部の30代の男性技官の成果とのことです)。ソフトは同庁ホームページからダウンロードが可能で、ウイルスで暗号化されたファイルを選択し、「復号」のボタンを押すだけで、元のファイルに戻せる仕組みだといいます。ソフトは欧州警察機構(ユーロポール)などのサイトでも公開され、各国での被害回復に生かされています。なお、ランサムウェアの復号ツールとしては、特捜部が2023年12月、別の攻撃集団「ロックビット」に関するものを開発し、各国で使われてきています。警察庁の専門人材の集約が奏功したともいえます。2022年4月に前身が発足したサイバー特捜部はサイバー分野の知見が深い370人規模(併任含む)の体制で、最新動向に詳しい民間人材も登用、警察幹部は「職員が集中的に分析業務に従事できる環境がある。専門知識を持った人材が協力し相乗効果が生まれた」と強調しています。報道でサイバーセキュリティ大手トレンドマイクロの佐藤健氏は「攻撃側の端末やサーバーを差し押さえて調査するのは法執行機関ならではの手法」とし、復号ツールの開発は「日本のサイバー能力のアピールにもつながる」と指摘していますが、筆者も同感です。なお、現在活動しているランサムウェア集団は数十以上あるとされます。警察庁によれば、国内の被害は2024年7~12月に108件あり、高水準で推移しています。暗号化を省いて情報の暴露のみを取引材料として身代金を要求する「ノーウエアランサム」と呼ばれる手口も近年目立っています。サイバー攻撃を想定した事業継続計画(BCP)を策定していない企業ほど、影響が長期化する傾向があり、警察庁はランサムウェアの被害に遭った場合、通信記録を保全し速やかに警察へ通報・相談するといったBCPの策定を企業側に要請しています。

▼警察庁 ランサムウェア Phobos/8Baseにより暗号化されたファイルの復号ツールの開発について
  1. 復号ツールの概要等
    • 関東管区警察局サイバー特別捜査部において、世界各国で少なくとも2,000件の被害が確認されているランサムウェアhobos/8Baseによって暗号化された被害データを復号するツールを開発し、令和7年6月、警察庁サイバー警察局からユーロポールに提供した。
    • この度の情報発信については、世界中の被害企業等の被害回復が可能となるよう、日本警察が米国FBIの協力を得ながら復号ツールを開発し、日本警察とユーロポール、米国FBIにおいて、同ツールの有意性が実証されたことから、ランサムウェア対策を世界規模で進め、その活用を促す観点から実施することとしたものである。
  2. 日本警察の今後の対応
    • 日本国内の被害企業等に対して、最寄りの警察署等への相談を促すと共に、相談があった場合には、その求めに応じ、復号ツールを活用して被害回復作業を実施することとしている
▼ランサムウェア Phobos/8Baseにより暗号化されたファイルの復号ツールの利用について
▼ガイドライン

企業へのサイバー攻撃の入り口に、個人で利用しているスマホやパソコンなどの端末が狙われている実態があります。個人の私用端末にマルウエア(悪意のあるソフトウエア)を仕込み、業務利用していた際に保存された企業データを盗む手口が増えており、個人の端末の脆弱性が攻撃の穴となっており企業側の対策は急務となっています。2023年に米ID管理大手のオクタが攻撃の標的になったのが、個人端末から攻められた代表例の一つと言われます。社員が個人で利用していた端末がマルウエアに感染したのを発端に、会社の業務用の情報へのアクセスを許した可能があるとされ、私用のグーグルのアカウントの認証情報を奪われ、情報を同期していた会社のシステムの認証情報も盗まれました。社員が個人で利用していた端末がマルウエアに感染したのを発端に、会社の業務用の情報へのアクセスを許してしまったもので、この手口でよく使われるのが情報を窃取することに特化したマルウエア「インフォスティーラー」です。侵入した端末に保存されている情報を、使用者に気付かれないように奪い、得た認証情報などをサイバー攻撃に悪用したり、闇サイトで販売したりといったケースがあり、年々被害は増加傾向にあるといいます。従業員個人の端末を企業の業務に使うことを許している企業は意外と多く、KELAが2024年の7~8月に実施した調査によれば、インフォスティーラーに感染した300台の端末のうち約65%が個人端末だったといいます。個人端末は業務用と比較してセキュリティ対策が十分ではないうえ、幅広いサイトやメールと接点を持つため狙われやすいという脆弱性を有しています。MMD研究所が2025年5月に発表した調査(国内などの企業に属する20~69歳の経営者や正規の従業員、公務員が対象)によれば、業務でスマホや携帯電話などを使う会社員などのうち41.9%が私用の端末と電話番号を使っていたといい、企業規模を分けた調査結果によると、中小企業では業務で私用のものを使う傾向が高いことも判明しています

セキュリティが手薄な中小企業を狙ったサイバー攻撃が増えているといい、防御が堅固な大企業を直接攻撃せず、取引先などサプライチェーンを構成する中小企業のパソコンやサーバーに侵入し、そこを「踏み台」に標的企業への攻撃を仕掛ける手口の流行が背景にあるとされます。サイバー人材の慢性的な不足も対策の遅れに拍車をかけており、人材不足を補うような民間のサービスや法整備の拡充が望まれます。関連会社を踏み台に不正侵入被害を受けた国内大手メーカーのセキュリティ担当者は、「一部のグループ会社でシステムのセキュリティが雑に設定され、グループ全体と比べて性能が劣る状態だった。被害に遭うまでそれに気づけなかった」と述べていますが、正に「サプライチェーンのセキュリティのレベルはその中の最も脆弱な企業と同じレベルだ」と考える必要があります。サプライチェーンを構成する大部分の企業の防御レベルに達していなかった関連会社が狙われ、最終的に企業秘密や個人情報が盗まれることになります。帝国データバンクが2025年6月に発表した実態調査で、1年以内にサイバー攻撃を受けたことが「ある」とした中小企業の割合は15.4%で、大企業の19.1%に迫っています。従来はより大きな「戦果」を得られる大企業を狙った攻撃が目立っていましたが、帝国データバンクの担当者は、直近は対策が比較的手薄な中小企業に標的が移ってきたと指摘、サプライチェーンを通じた踏み台攻撃の流行に加え、闇サイトでウイルスなどが安価で販売され、知識がなくても手軽に攻撃できるようになったことも、標的の拡大につながっているとされます、トレンドマイクロの福田俊介氏は「人材の量も質も足りていない」と指摘、採用面では好待遇の大企業にかなわず、入社しても、セキュリティ確保の対象がパソコンやスマホに加え、今ではサーバーやアプリ、クラウド、AIなどに拡大、求められる知識の専門性も深まっており、人材育成が難しくなっており、結果として人員も知見も不足したセキュリティ担当が、情報システム担当も兼務させられ、社内システムのトラブル解消まで担う企業も珍しくないといい、福田氏は「社内にある電子機器の現状把握すら手が回らない」と懸念しています。政府は官民一体の人材育成策に乗り出した一方、短期的にはサプライチェーン企業に求められる対策水準を事業内容などでランク分けし、評価する制度の2026年度内開始を目指しています。対策すべき内容や実施状況を可視化し、民間の取り組みを進めたい考えです。

組織内で文書を共有する米マイクロソフトのサービス「シェアポイント」の脆弱性を悪用したサイバー攻撃を巡り、同社は中国の3つのハッカー集団が初期に攻撃を試みていたことが分かったと発表しています。同社によると、ハッカー集団が脆弱性を悪用して標的組織に対して初期アクセスを試みていたといい、2つは同社が「LINEnTyphoon」と「VioletTyphoon」と名付けた中国の集団で、中国政府の支援を受けているとしています。もう一つは中国を拠点とする他の攻撃者「Storm-2603」だといいます。マイクロソフトのソフトの弱点を突いた攻撃では、2023年に中国を拠点とするハッカーが、米政府機関職員のメールシステムに侵入する事態が起きています。直近でもマイクロソフトが米国防総省に提供しているクラウドサービスで、中国拠点の技術者がシステムにアクセスできる状態になっていたことが判明しています。安全保障上の懸念が強まり、同社は中国拠点の技術者を除外すると表明しています。安全保障上の脅威という点では、EUと北大西洋条約機構(NATO)は、ロシアが欧州およびその他の地域における安全保障と民主主義の弱体化を狙った「悪意あるサイバー活動」とハイブリッド攻撃を行っていると非難しています。英国は、欧州各国の政府や機関への攻撃を含む「継続的な悪意あるサイバー活動」を理由に20人以上のロシアのスパイ、ハッカーなどに制裁を科すと決定、EUは「英国と完全に連帯し、ロシアが英国とEUを含むパートナー諸国の安全保障に及ぼす具体的な脅威を引き続き非難する」と表明しています。一方、中国の国家インターネット情報弁公室は、米エヌビディアのAI半導体「H20」に安全保障上の懸念があるとして、同社の責任者に対して説明や資料提出を求めたと発表しています。同弁公室は、H20に位置情報を追跡したり、遠隔操作により停止したりする機能が搭載されている可能性を指摘、データセキュリティー上の観点から説明を求めたといいます。H20はエヌビディアが米国の輸出規制を回避するため、中国市場向けに性能を落とした製品で、トランプ米政権は2025年4月にH20も規制対象としましたが、その後の米中協議を経て規制を緩和した経緯があり、エヌビディアは、対中輸出を再開すると表明したばかりでした。

総務省はサイバーセキュリティを脅かす情報の収集・分析でAIの活用を始めるといいます。見つけにくい闇サイトなども含む多様な情報を集めたデータベースを2026年度までに構築するとしています。専門人材の経験知をAIに実装し、日本にとっての脅威の度合いを素早く判定できるようにする狙いがあります。国立研究開発法人の情報通信研究機構がプロジェクトの中心となりますが、発足したばかりの政府の国家サイバー統括室などとの連携も検討するとしています。ネット上の公開情報を分析するオープンソースインテリジェンス(OSINT)の先端的な手法にたけたAIの実現をめざし、ダークウェブと呼ぶ匿名性の高いサイトや、ハッカー集団が使うような隠語も学習させ、新設するデータベースは政府内での攻撃への備えや原因究明の調査報告などに生かす一方、民間企業への情報提供は現時点では想定していないといいます。近年はサイバー攻撃の増加や巧妙化が目立ち、2024年のサイバー攻撃関連の通信量は10年ほど前に比べると10倍に達したといいます。生成AIでマルウエアを作成できるとの指摘もあり、人間に代わって自律的に働く「AIエージェント」を悪用したサイバー攻撃も新たな脅威として注目を集めています。総務省は生成AIのサイバーセキュリティに特化した指針も2025年度末までに策定する予定としており、AIの誤作動を引き起こす命令文「プロンプトインジェクション」などへの技術的な対策を検討し、盛り込む方針といいます。

AIや生成AIを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 米国務省は、AIを悪用してルビオ国務長官を装い、他国の外相らに音声メッセージなどが送信される不正行為を確認したと明らかにしています。ルビオ氏になりすます行為は、政府の機密情報などを入手する目的があるとみられ、同省が調査を始めています。米紙WPは、AIを使ってルビオ氏の声や文体に似せた偽の音声やテキストのメッセージが作成され、2025年6月中旬以降に少なくとも外国の外相3人のほか、米国の州知事と連邦議会議員各1人に送信されたと報じています。送信には、スマホのメッセージ機能や民間通信アプリ「シグナル」が使用されたといいます。同省報道官は、同紙の報道を事実と認め、「情報保護の責任を重く受け止め、サイバーセキュリティの強化に努める」と述べています。具体的なやり取りの内容や被害の有無、送信先の人物が誰なのかについては明らかにされていません。
  • 米IT大手メタは、EUが策定したAIモデル向けの行動規範に署名しない方針を明らかにしています。メタ幹部はSNSに「過剰だ」と投稿し、欧州の規制方針に懸念を示しています。EUでは2024年にAI規制法が成立し、来年から本格的に規則が適用されます。行動規範はこの法律を補完するもので、企業側に安全性や著作権への対応、透明性確保に向けた具体的な対策を求めています。ロイター通信によると、米マイクロソフト首脳は規範に署名する可能性が高いとの認識を示し、米オープンAIも規制に従う意向だといいます。
  • この10年で、AIの進化は予測を次々と、しかも劇的に上回ってきました。オープンAIとグーグル・ディープマインドの大規模言語モデル(LLM)は、2025年に国際数学オリンピックで金メダル相当の成績に達しましたが、これは、専門家が2021年時点で予測していたよりも18年早かったといいます。LLMは拡大を続けている。その背後には、テック企業間の「勝者総取り」の競争と、米中両国の国家レベルの争いがあるとされます。両国とも「2位は致命的敗北」と考えています。27年には、GPT-4構築時の1000倍の計算資源でLLMを訓練できると見込まれている。オープンAIのサム・アルトマンCEOは、AIが2026年に「人間が思いつかない洞察」を生むようになると見ています。AIは既にLLMの進化に使われており、2028年には自らの改良を主導するとの予想もあります。
  • 情報収集や言論空間の中心がSNSへと移りつつあるなか、事実関係を確かめる「ファクトチェック」の手段に、生成AIを使う人が増えています。ただ、生成AIをファクトチェックの手段として使うことには、少なくとも三つの深刻なリスクがあります。一つ目は、政治的な主体に操作される危険性があること。二つ目は、間違いを犯すこと。三つ目は、AIを使ったフェイク画像や動画、事実に基づかない情報を出力してしまう「ハルシネーション」が、偽情報の拡散につながる可能性があることです。いくつかの団体の調査では、「プラウダ・ネットワーク」と称する自称ニュースメディアが、日本を含む49カ国を対象に、様々な言語で150のニュースサイトを開設、毎日、数百件に及ぶロシアのプロパガンダ(宣伝)を含むコンテンツを発信していたところ、注目すべきは、これらのサイトの閲覧者数自体はほぼゼロであったにもかかわらず、LLMのトレーニングデータとして重大な役割を果たしていたとされます。チャットGPTはネット上で公開された記事やサイトの情報を、グロックもXを含む公開データをトレーニングに活用しているため、世間の目に触れていない偽情報サイトでも、学習データとして取り込まれる可能性があるということになります。実際、チャットGPTなどLLMを使った主要な10の生成AIサービスのうち、3割がプラウダの情報を回答として使い、そのリンクを出典として提示したケースもあったといいます。日本でも中国などが関与する可能性を否定しきれません。研究者などがLLMのアルゴリズムやデータ構造にアクセスできる透明性と、どんなデータを学習させたのかを明示する説明責任が生成AIには不可欠だといえます。
  • ある調査の結果、自分の頭だけを使ったグループはより深い学習成果と自分の成果物への強い一体感を示しましたが、検索エンジンを使ったグループは努力と成果のバランスがとれた、中程度の内面化を示し、AIを使ったグループは、ツールの効率性から恩恵を受けたものの、記憶の痕跡が弱く、自己モニタリングが低下し、自身の著作であるという意識も欠如していたということが分かりました。つまり、努力をすればするほど得られるものも大きくなり、効率を求めれば求めるほど思考は浅くなるということです。しかし、本当に恐ろしいのは、自分の頭だけで取り組んだ被験者は複数の脳領域間で高い連結性を示した一方、検索エンジン利用者は低く、AI利用者は最も低い結果となりました。真剣に考えることは知的能力を強化する一方、AIに思考を任せたり、AIが出力した内容を手直ししたりするだけでは、頭にとってはゼロカロリーに過ぎないということが判明しています。
  • 自閉症やADHDなどの発達障害、ディスレクシア(失読症)などの学習障害がある人々は「ニューロダイバージェント(神経多様性を持つ人々)」とも呼ばれ、同僚との会話や友人とのやり取りといった場面で相手の意図をくみ取れなかったり、意図しない印象や誤解を与えてしまうなど、社会との「ずれ」を経験することがありますが、AIチャットボットは、社会における様々な場面をリアルタイムでサポートしてくれる、意外な味方として台頭しています。過度の依存などリスクを危惧する声はあるものの、いまや多くのニューロダイバージェント当事者が、この技術を命綱のように考えているといいます。ただ、AIがなければ機能できない状態に陥ったり、技術そのものの信頼性が損なわれた場合、過度な依存は有害になり得るのであり、実際、AI検索エンジンの多くで既にその兆候が見られるとの指摘があります。「AIが物事に混乱を生み、誤ったことを言うようになったら、人々は技術だけでなく自分自身のことも見放してしまうかもしれない」との指摘は考えさせられます。
  • AIが人間の相談や悩みに答える「AIコンパニオン」の利用が世界の若者の間で広がっています。友人のような存在として注目される一方、過度な依存を懸念する声も上がっています。AIコンパニオンは生成AIを活用した消費者向けのサービスとして急速に普及しており、事務的なやりとりに終始するチャットボットとは異なり、感情的なつながりを重視するのが特徴で、利用者の好みや性格まで理解し、友人のように振る舞うのが特徴です。孤独を癒やすパートナーとして利用が広がる一方、依存性の高さが社会問題として浮上する可能性があります。米国では2024年、14歳の少年が自殺したのはキャラクターAIで会話に依存したのが原因として、遺族が同社と開発を支援した米グーグルに対して訴訟を起こしています。オンラインサービスの安全性改善に取り組む一般社団法人トラスト&セーフティ協会の田中理事は「感情を伴うやり取りができるAIサービスには高い需要がある一方、未成年への影響などのリスクもある。事業者には年齢認証や危険な会話への対応が求められ、業界全体のルール作りも必要だ」と指摘しています。
  • 米国の10代の7割以上が、AIで作成したアバター(分身)と個人的に会話する「AI友達」を使ったことがあるとの調査結果が公表されました。若者の間で急速に普及する中、利用者の情緒に対する悪影響など安全面への懸念も広がっています。NGO「コモンセンス・メディア」が13~17歳の1060人を対象に実施した調査では、72%がAI友達を少なくとも1回は利用したことがあり、52%は月に数回使っていたといい、利用の動機について、30%が「楽しいから」、28%が「好奇心から」と回答しています。一方で、安易な利用に伴う懸念も出ており、回答者の3分の1は真面目な話をする相手として、実在の人間ではなくAI友達を選択、24%は自分の本名や居場所といった個人情報を伝えていたといいます。また、34%はAI友達の言動を不快に感じた経験があったといいます。AI友達に傷つけられることが頻繁にあるわけではないものの、同NGOは「たとえ小さな割合であっても、利用者の多さを考えれば、かなりの数の若者がリスクにさらされていると言える」と指摘、安全対策が強化されるまで、18歳未満はAI友達を利用しないよう呼び掛けています。
  • 写真は約200年前に誕生し、視覚情報の革命をもたらしましたが、近年、AIの進歩で実在しない画像が氾濫し、その役割が脅かされているといえます。AIは写真と異なる存在だとして受賞を辞退し、両者の違いを議論すべきだと主張したドイツの写真家、ボリス・エルダグセン氏は、「写真は現実の世界から反射された光を捉えることで作られるが、AI画像はアルゴリズム(計算処理)によって生成された幻覚だ。創造のプロセスが根本的に異なる。AIはわれわれを物理的な現実の制約から解放し、あり得なかった概念を視覚化できる。その可能性は計り知れない」と指摘しています。

(6)誹謗中傷/偽情報・誤情報等を巡る動向

インターネット上の地図サービス「グーグルマップ」の口コミで名誉を傷つけられたとして、歯科医院の院長がサービスを運営する米グーグルに投稿の削除を求めた訴訟で、東京高裁は、請求を認めなかった1審判決を取り消し、同社に投稿の削除を命じる判決を言い渡しています。問題となったのは、甲府市の歯科医院に対する「十分な説明、検査なしに、銀歯を取り歯を削ろうとする歯医者に驚いた」などとする2件の投稿で、医院側が2023年に提訴、高裁判決は、口コミを書かれた対象者が名誉毀損を理由にサイト運営者に削除を求める場合、その内容が真実でないことなどを証明する必要があるとした上で、治療前に問診や検査を行う手順を踏んでいるとの医院側の説明が虚偽とは認められず、「特定の患者に手順を変更するとは想定しがたい」など、投稿の内容が真実とは言えないと判断、投稿は不適切な診療を行うとの印象を与え、社会的な評価を低下させるものだとして、名誉毀損を認め、削除を命じたものです。2024年11月の1審・東京地裁判決は、口コミは投稿者の主観的な不満を述べたものにすぎず、社会的な評価を低下させるものとは言えないなどとして医院側の請求を棄却していました。

また、インターネットの口コミ欄で中傷されたとして、大阪府内の歯科医師2人が投稿者に330万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、大阪高裁は、投稿者に約26万円の賠償を命じた1審・大阪地裁判決を変更し、約74万円に増額しました。投稿者の特定にかかった調査費55万円の賠償をどの程度認めるかが争点で、1審の4万円から27万5000円に増やしたものです。判決によれば、投稿者は2023年5月、2人の歯科医院を訪問、グーグルマップの口コミ欄に「知識は20年以上前のもの」などと書き込んだといいます。歯科医師側は控訴審で、調査費について、全額の賠償を認めた判例が複数あると主張、これに対し、裁判長は、投稿による権利侵害の程度が限定的だったとし、こうした事情を踏まえ、半額が相当と判断したものです。

沖縄のテーマパーク「ジャングリア沖縄」に関し、インターネットの地図サービス「グーグルマップ」に投稿された数百件の口コミの大半が29日までに閲覧できなくなりました。同サービスを運営するグーグルは実際の体験に基づかない不適切な投稿が急増したため削除したと説明しています。同マップではジャングリア沖縄に関する口コミが一時400件を超えていましたが6件にまで減少、グーグルは報道で「ポリシー違反の口コミの大量流入を検知した。ここ数日の口コミを削除し、保護措置を適用した」と説明しています。環境への影響を懸念する投稿が多く寄せられたものと考えられています。ジャングリア側は不適切なコメントを運営会社に報告することができますが、自身で削除はできません。

大阪市内のクラブで働く女性が、常連客の男性からインスタグラムで繰り返し誹謗中傷をされたとして、男性のアカウントの削除を求める仮処分を申し立て、東京地裁が、インスタを運営するIT大手・米メタに対して削除を命じる決定を出しています。専門家によれば、投稿の削除を命じる司法判断は少なくないものの、アカウントの削除は表現の自由を制約しかねないとの懸念があったため、今回の決定は異例だといいます。女性側によると、男性はインスタで、恋愛感情を抱かせて金銭をだまし取る「ロマンス詐欺」の被害を女性から受けたなどと主張、2024年8月下旬以降、「ただの売春婦」「血祭りにする」「ぶっ56す(ぶっ殺す)」といった誹謗中傷や脅迫の投稿によって人格権を侵害されているとして、2025年4月に仮処分を申し立てたものです。男性はインスタの機能のうち、投稿後24時間で閲覧できなくなる「ストーリーズ」という機能や、保存されないライブ配信を主に使用していたといい、女性側は申立書で「アカウント自体を削除することしか誹謗中傷を止めるすべはない」と訴えていました。東京地裁は決定で女性側の申し立てを相当と認め、メタ社に削除を命じました。男性のアカウントのフォロワーは多い時期で約16万7千人に上っていたといい、女性側代理人弁護士は「投稿が自動的に消えてもフォロワーが拡散するリスクもある。アカウントの削除が認められたことは、被害者保護の観点で大きな意味がある」と話しています。アカウントの削除が命じられた事例では、著名人になりすましたケースなどがあります。報道でネット上の誹謗中傷に詳しい神田知宏弁護士は「アカウントの削除は将来の投稿まで止めてしまうため、表現の自由との関係から難しいのが現状だ。今回の仮処分は珍しく、脅迫的な投稿が今後も続く可能性を女性側が立証できたことが裁判官の判断に影響を与えたのではないか」と指摘、さらにストーリーズのように投稿が消えても、被害者側がスクリーンショットなどで証拠を残していれば法的な責任追及ができるとし、「消えるから問題ないと思っている投稿者は意識のアップデートが必要だ」と指摘しています。

ゲーム業界が、消費者から理不尽な要求や誹謗中傷を受ける「カスタマーハラスメント(カスハラ)」に頭を悩ませていると報じられています(2025年7月22日付産経新聞)。以前からゲームへの不満に対してユーザー側の暴力的な言動に発展することは珍しくありませんでしたが、近年はクリエイターを名指しで中傷する投稿がSNSなどで目立っており、各社は「カスハラ対応方針」を発表し、悪質な場合は法的措置も検討すると警告していますが、歯止めがかかっていない状況だといいます。報道でゲーム業界に詳しい東洋証券シニアアナリストは「ゲームが満足のいく出来じゃなかったときに一部のファンが暴言を吐いてしまうことは昔からあった。近年は、企業がクリエイターを広告塔にするようになったことで個人がターゲットになってしまっている」と説明しています。ゲーム業界に限らず、これまではネット上での誹謗中傷は見過ごされてきた経緯があります。セガは2024年7月、従業員個人にSNS上で度を越えた誹謗中傷を行った人物に法的措置を行ったと発表、発信者情報の開示請求が認められ、当事者と交渉の結果、示談が成立したといいます。同社は「ゲーム制作に携わる方々への誹謗中傷が依然として見受けられる現状を深く憂慮している」とコメント、2023年にカスハラへの対応方針を策定して以降、従業員が安心して働ける環境づくりに努めているとしています。

日本プロ野球選手会は、大阪市で臨時大会を開き、SNSでの選手への誹謗中傷対策として、悪質な投稿を監視するシステムを導入するように日本野球機構(NPB)に求める方針を固めました。選手会の会沢翼会長は「選手から、なくしてほしいという声がすごく多い」と述べています。選手会では2023年に誹謗中傷被害について弁護士に相談できる窓口を設置、現在は数十件の相談が寄せられているといいます。一般社団法人選手会の丸佳浩理事長は「家族が被害を受けているケースもある。NPBや球団が一緒に取り組んでいかないと」と必要性を強調しています。

ロシア・カムチャツカ半島付近で2025年7月30日に発生した巨大地震で、過去の災害時と同様、SNS上ではデマも確認されています。災害情報の共有の場として、SNSは存在感を増す一方、偽情報は場合によって命取りにもなりかねない危険性を孕んでいます。Xでは、海岸に巨大な波が押し寄せる様子を映したような虚偽の内容の動画が投稿され、「カムチャツカ地域の一部で4メートルの津波が観測された」というメッセージが添えられ、数十万回閲覧されました。過去にも同様の動画が出回っており、転用されたとみられています。日本や中国で出回った「7月5日に大災害が起きる」というデマに絡め、今回の警報を「予言があたった」とする投稿もみられました。さらに、震源地近くにシロイルカが座礁し、「地震の前兆か」などとするデマがSNSで拡がりました。同半島でシロイルカが座礁した情報は2年前のものでしたが、このときの動画や画像が使い回されたとみられています。総務省は当日、「インターネット上で科学的根拠のない言説など、真偽不明の情報が流通するおそれがある。偽・誤情報には十分注意を」とXで呼びかけています。また専門家は「災害時にデマは必ず広がるとの前提に立って行動する必要がある」と警鐘を鳴らしています。また、社会が混乱する中、とにかく自分を安心させる情報がほしいという心理が大きい」と指摘、こうした心理が働くと、信頼性の低い情報であっても「不安を取り除きたい一心で飛びつく傾向がある」といいます。デマの拡散手法にも3種類あり、「一つは世の中を混乱させたいと思う愉快犯、もう一つは金稼ぎを目的する人、そして、最後は自分が知ったことをいち早くみんなに伝えたいと思う『良かれ拡散』だ」と説いています。近年は特にSNSで表示回数(インプレッション)を増やして、収益を得ることを目的に刺激の強い投稿を繰り返す「インプレゾンビ」が横行、こうした迷惑アカウントの大量発生もデマが拡散しやすい要因の一つになっているとみられています。専門家は「SNSで不安の解消はできない。重要なのは災害時にはデマが拡散するとの前提に立って行動すること。まずは行政やマスコミなど信頼できる情報に触れることを徹底し、真偽不明なものに触れたら拡散や共有しないことを心掛けてほしい」と述べていますが、正に正鵠を射るものと思います。また、防災・危機管理サービスを提供するベンチャー企業の「スペクティ」の分析によれば、津波警報発令に対しては、過剰反応との批判も聞かれ、特に、規模の小さな津波に過度な警報が出され、社会活動や経済活動に不必要な混乱を生じさせたという意見があった」とも分析、一方で、「気象庁は過去の経験から、津波の規模を過小評価することのリスクを避けるため、最大級の警戒を呼びかけることが重要だと判断したと考えられる」と評価、「実効性のある避難行動を促しつつ、不要な混乱を最小限に抑えるバランスを見出すこと」が課題と指摘していますが、正にそのとおりかと思います。

警察庁は、参院選投開票日前日までの約1か月間に、候補者や要人らに危害を加えるといった趣旨の危険な投稿が、SNS上で計889件確認されたと発表しています。同庁は今回の参院選にあたり、一人で過激化する「ローン・オフェンダー(LO)」の前兆情報を集約する「LO脅威情報統合センター」を初めて設置、SNS上の殺害予告などの情報を分析、その結果、2025年6月16日~7月19日にXやインスタグラムなどで確認された危険な投稿は計889件に上り、中には、石破首相や岸田前首相を名指しし、「生命狙われてもおかしく無い。防弾チョッキは着といた方がええよ」「(街頭演説に)来たら命ねえかもな」と脅す投稿もあったといいます。同庁は、投稿者を特定して各警察本部に連絡し、本人への警告につなげたといいます。

SNSと選挙という観点では、危うい状況もあったと筆者は感じています。例えば、「日本人ファースト」を掲げ、外国人規制を訴える参政党が支持を広げましたが、SNS活用に長けており、投稿数が多いだけでなく、神谷代表の街頭演説などを拡散する支持者に対し、SNSのうまい活用方法を指南、1つの投稿に対するリポスト(転載)数も多くなり、その結果、他の政党も外国人政策について言及し始め、参院選の大きな争点になり、政府も外国人問題に対応する司令塔組織を設置したとの流れがありますが、この時点でSNSが参院選を大きく動かしたといえます(誤・偽情報という文脈でも検証が必要な状況だと思います)。SNSには良い面も悪い面もある。兵庫県知事選では関心が集まった結果、投票率が約15ポイントも上昇しましたが、デメリットとしては、煽情的な話題や怒りが拡散されやすいことが挙げられます。広告収入目当てで過激な投稿をする人もおり、そうした情報が蔓延すると意見が極端化していったり、対立していったりし、兵庫県知事選を巡っては大量の誹謗中傷が広がり、元県議が亡くなってしまいました。深刻な民主主義の危機だといえます。ある研究によれば、偽情報を見聞きした人の中で、それが偽と気づけている人は14.5%しかいないといい、批判的思考態度が取れていると自己評価が高い人ほどだまされやすい傾向にあるといいます。さらに、国際的に見ても日本在住の方は情報検証をしない傾向にあるといい、情報の真偽を見極めたり、正しく活用したりするためにメディア情報リテラシーを教育課程に組み込む段階に来ているといえます。このように、情報拡散が容易なSNSの仕組みが民主主義を危機にさらしています。独裁的なリーダーらが発信するわかりやすいメッセージには「偽」の内容が含まれることが多く、人々から社会への信用を奪いかねない危険を孕んでいます。政治に不満を持つ層を救い上げるため、SNSなどで偽情報を操って扇動する権威主義的な政治家が目立つようになっているのは事実で、独裁的なリーダーは偽情報をわかりやすい「解決策」として提示することに長けているといえます。一方、偽情報が多く拡散されると民主主義への不信感は高まり、さらに権威主義的な社会に傾いていくことになります。SNSはマスメディア以上に利用者のリテラシーとモラルを要求しているといえ、私たち一人ひとりが発信者となるため、不用意に偽情報の拡散や世論の操作に関与・加担することがあり得ることになります。SNSは社会を惑わせたり、自己利益のために使ったりしたい人にとって便利なツールであり、私たちはどんな偽情報が流布されて、世論操作が行われているかに注意を払うべきだといえます。投稿の真偽を見分けるには個人のリテラシーが必要になります。ただ、偽情報は巧妙で、いつでもだまされる可能性があるという認識も重要で、特に、わかりやすい極端な情報には気をつけるべきだといえます。相手は感情に訴えるなどテクニックを熟知しており、安易に拡散しないことも重要です。

世論工作の可能性について取り上げましたが、今回の参院選で、外国勢力によるSNSなどを使った選挙介入が行われているのではないかと懸念が高まっています。2025年7月19日付毎日新聞の記事「日本でも選挙介入?米機関「親ロシア」認定したアカウントも凍結」によれば、ニュースまとめサイト「JAPANNEWSNAVI(JNV)」のアカウントと、関連する複数のXアカウントが運営ルールに違反しているとして、立て続けに凍結されたといい、これらのアカウントは、「反ワクチン」や外国人政策を巡って、誤りだったり、不正確だったりする情報に基づく政権批判などを投稿し、拡散してきたとされます。凍結の理由は公表されていませんが、SNSでは「反政府系の偽情報を大量に流し、ロシアの情報工作に利用されている」との声が上がっていました。Xのルールでは、選挙の妨害や自動化機能を使ったトレンド操作などを禁止しており、凍結されたXの関連アカウントのうち、二つは米シンクタンク「大西洋評議会」のデジタルフォレンジック研究所(DFRLab)によって、「親ロシア」と指摘されたアカウントだったといいます。いずれのアカウントも2024年2月までの1年間だけでフォロワー数が13~250倍に急増、DFRLabは「日本国内の政治に関する偽情報の拡散に寄与していると考えられる」と指摘しています。また、JNVに関連する8アカウントのフォロワーの動向を調査したところ、フォロワーの約4~9割が、ロシア国営メディア「スプートニク」の日本語版の記事をリポスト(再投稿)したことがあったことが分かっています。日本の主な新聞や週刊誌の6つの公式アカウントでは、リポストしたことがあるフォロワーは約3~15%にとどまっていたことと比較しても、ロシアとの関係性が疑われる状況だといえます。調査した東京大学の鳥海教授は「ロシアによる積極的関与の有無は不明ですが、スプートニク自体はプロパガンダ機関であり、拡散自体を影響工作とみなすべきでしょう」と指摘しています(米欧当局はロシア当局の思惑に沿ったプロパガンダや偽情報を発信しているとしてスプートニクを問題視している。米国務省は2024年9月、スプートニクの運営母体を含むロシア国営メディアを制裁対象に加えましたが、ロシア政府と連携して世界各国で情報工作しているとの理由からでした)。さらに、こうした記事の拡散が、機械的に増幅されている可能性も浮上しており、ある調査で2025年2~3月、ジJNV関連アカウントを調査したところ、「ボット的」な拡散が全体の約35%を占めていたことが分かりました。人間の利用者に見せかけて、特定の情報や主張を大量に拡散することで、世論を誘導する目的で使われることがあるといいます。Xには、利用者の過去の閲覧履歴などに基づき、関心が高いと考えられる投稿が優先的に表示される仕組みがあり、JNVだけでなく、前述した「外国人規制」を巡る一連の流れも、こうした仕組みによって増幅されたものと考えられます。日本はSNSを悪用した誹謗中傷や闇バイト勧誘への規制を進めていますが、一方でSNSを使った情報工作に関する議論が多いとはいえない状況にあります。明らかな誤・偽情報はともかく、プロパガンダは法規制が難しいといえます。前述した東京大学の鳥海教授は「メディアの中には情報工作を目的としたものも存在する。しかし海外のメディアの傾向を調べるのは特にコストがかかる。どのメディアを信頼するか判断するための社会的な支援も必要になるだろう」と指摘していますが、日本ではあまり意識されていない視点ではありますが、正に正鵠を射るものと思います。

2025年7月18日付朝日新聞の記事「偽情報追うSNS「覆面捜査官」EU、「おすすめ」のアルゴリズム監視」は大変興味深いものでした。例えば、「無料で提供されるSNSは、広告収入を増やすため、利用者の目線を釘付けにし、広告の視聴時間を最大化しようとする。活躍するのがアルゴリズムだ。エンゲージメント率(投稿に対する反応の多さ)や、利用者の「いいね」などのデータをもとに、表示される投稿の順番や「おすすめ」などを決める。この仕組みが時に、偽情報などが拡散する「起爆剤」となる。真偽不明だったり過激で感情をあおったりする投稿の表示を増やすことがある。アルゴリズムが偏っていれば、利用者が目にする情報も偏り、「ネット世論」が操作されかねない」との指摘はその通りだと思います。そして、「この問題に向き合ったEUは、利用者保護を目的に、SNS運営会社などプラットフォーム企業に透明性や責任ある対応を義務づけるデジタルサービス法(DSA)を制定。昨年2月、全面施行させた」、「たとえば選挙で、ある候補者の偽情報が広く拡散されていれば、誰の投稿が起点となり、なぜ広がったのか。どんな情報が引用されたのか、SNSのおすすめ機能が拡散を後押ししていないか。一つひとつを丹念に追跡する。職員の一人はこう話した。「まるで覆面捜査官だ」とはいえ、「偽情報」とは何かを判断するのは容易ではない。内容の真偽だけでなく、主観も入りやすい。一つの尺度となるのが「量」だという」、「もう一つ重要なのは、情報の出どころだという」、「国の情報機関はこの間の不可解な動きに気がついた。国の情報機関が特定した約2万5千のティックトックアカウントが、「ルーマニアを操作の波から守る」「西側勢力がウクライナ戦争を続けたがっている」といった陰謀論を交えた同氏の主張を支持する投稿を拡散し合い、組織的に膨らませていた。さらに、カネの動きも。ティックトックは政治関連コンテンツに対する報酬支払いや有料広告を禁止している。ルーマニア情報庁によると、同サービス内の「ギフト機能」を通じて、拡散に関わったインフルエンサーに少なくとも100万ユーロ(約1億7千万円)が支払われた可能性があるという。動きの背後に、ロシアの関与が疑われた。情報機関が公開した文書は憲法裁の決定の根拠となった。憲法裁は決定文の中で、ジョルジェスク氏が「ソーシャルメディアプラットフォームのアルゴリズムを不正に利用した」と指摘した上で、「有権者の意思表示の歪みをもたらした」と断じた」、「ティックトック運営会社を監査した会計事務所KPMGは24年報告書で、選挙も含めた同社のアルゴリズムのリスク管理について、「監査を完了できない」と判断した。DSA違反の疑いでEUが調査している2件に触れ、「リスク評価無しに影響の大きい機能を導入した疑いがある」としつつ、「判断に必要な情報が不足している」と指摘した」、「偽情報を含め、名誉毀損など個人の権利を侵害する情報については、法規制がすすんだ。欧州連合(EU)のデジタルサービス法(DSA)を参考にした「情報流通プラットフォーム対処法」(旧プロバイダ責任制限法)が今年4月に施行。大規模なSNS事業者に対し、権利を侵害された人からの削除申請に迅速に対応するよう義務づけた。ただ、偽情報対策への政府の関与には表現の自由の観点から難しさがつきまとう。政府が投稿内容の真偽を判断したり、事業者に削除そのものを義務づけたりすれば、国の検閲になりかねず、多くは事業者の自主規制に頼らざるをえないのが実情だ。総務省は今年3月に「違法情報ガイドライン」をつくり、虚偽広告など違法な情報を列挙して明示した。主要なSNS事業者は利用規約で違法な情報の投稿を禁止しており、ガイドラインを参考に迅速な削除対応を促す狙いだ」といった内容は誤・偽情報の流通対策、とりわけSNS対策の在り方にさまざまなヒントをもたらしているものと感じます。

その他、誤・偽情報を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 穏やかな国民性から「ほほえみの国」とも言われるタイですが、カンボジアとの国境紛争を巡ってはSNS上で敵意をあおるような強硬論や、偽・誤情報が飛び交い、混乱に拍車を掛けているといいます。両国の衝突初日から「#タイは平和を愛す、だが戦いを恐れない」といったタイ語のハッシュタグを付けた投稿がフェイスブックなどで大量に拡散されており、「カンボジアはいつもルールを破る。決して交渉するな」「市民や非武装地域を狙って攻撃している」といったコメントも相次いでいる状況です。一方、カンボジア側でも、タイ側の攻撃で負傷したとされる民間人の写真とともに、「なぜタイは戦争を望むのか」「カンボジアに正義を」といった投稿が広がり、それぞれのユーザーが「#カンボジアが先に始めた」「#タイが戦争を始めた」とハッシュタグで互いを非難し合う状況にもなっており、ナショナリズム的な言説がSNSを通じて過熱している状況です。さらに、兵士の死者数や寺院の制圧など、さまざまな真偽不明の情報が次々と投稿されており、タイ政府のアンチフェイクニュースセンターは「いずれも偽情報だ」として警戒を呼びかけています。
  • 世界でSNSの誤・偽情報への懸念が強まるなか、国民のメディアリテラシーが世界一高いと評される北欧フィンランドの教育に注目が集まっています。国を挙げて推進する「だまされない」ための教育は日本にも示唆を与えるものです。メディアリテラシーは報道の信ぴょう性を見極めたり、情報を適切に活用したりする能力を指し、フィンランドは東欧ブルガリアの機関が主に欧米諸国を対象に実施する調査で首位に立っています(日本は47カ国中22位)。2025年7月19日付日本経済新聞によれば、「どこに掲載された記事?」「記事で強調、省略されている視点は?」「情報の拡散で利益を得るのは誰?」といった形で、フィンランドの教育現場では信頼できる情報を見分けるポイントなどリテラシー向上を目的としたポスターが活用されているといいます。同国のメディアリテラシー教育は冷戦下の1950年代に本格的に始まり、70年代から国の教育課程に組み込まれ、近年は幼児教育にも取り入れ、小中学校では情報源の有用性を確認したりメディアが与える影響を分析したりする授業があるといいます。リテラシー教育に力を入れる背景のひとつに、1300キロあまり国境を接するロシアのプロパガンダや偽情報と戦ってきた歴史があり、非軍事手段も組み合わせたハイブリッド攻撃を防ぐのは限界があり「だまされない力」を養う教育に力点が置かれています。報道でも指摘されていた、「フィンランドの学校は批判的思考を重視し、先生の言うことを疑問視する姿勢が推奨される。リテラシー教育の土台が整っている」という状況は(日本というぬるま湯での教育と比較するとあまりに)衝撃的でさえあります。

(7)その他のトピックス

①中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産を巡る動向

米議会は、暗号資産の一種「ステーブルコイン」の規制法(GENIUS法)案を可決、トランプ大統領も署名して成立しています。ステーブルコインに制度的な信頼性を与える内容で、金融取引の新たな決済手段として普及が進む可能性があります。ステーブルコインは、ドルなどの法定通貨と価値が連動するよう設計されたデジタル通貨で、従来は規制が緩く、犯罪の温床になるとの指摘もありましたが、GENIUS法は、ステーブルコインに関する米国初の包括的な規制の枠組みとなるもので、当局による監督の義務付けや裏付けとなる資産の情報開示などが盛り込まれ、透明性や信頼性を高めて利用者が安心して使えるようにすることを目指しています。具体的には、発行者にはステーブルコイン1ドルにつき同額の米ドルや短期米国債など流動性の高い資産を裏付けとして持つことを義務付けるほか、準備資産の保有状況の詳細を毎月開示することも求めるといった内容です。さらには、本コラムでも取り上げたとおり、2022年にはアルゴリズム型の「テラUSD」が一時8割近い暴落を演じ、のちに廃止となりましたが、担保型でも国債などの安全な資産ではなくビットコインといった変動の大きい資産を裏付けとするケースもありますが、これらは発行者として認められなくなります。ステーブルコインを使えば、銀行振り込みやクレジットカードなどと比べ、低コストで決済が可能になるとされ、ウォルマートやアマゾン・ドット・コムなどの米大手企業が発行を検討していると報じられています。また、ドル連動型のステーブルコインが米国外でも広く普及すれば、ドルの基軸通貨としての地位を支える効果もあるとみられています(GENIUS法により、ステーブルコインの発行額が増えれば、発行者は裏付け資産の保有も増やす必要があり、短期の米国債の買い需要が膨らみ、巨額の財政赤字で米国債の発行を増やさざるを得ない米政府にとっては救世主になるほか、米国債の需要が増えることで金利を低下させることになり、ドルの世界の基軸通貨としての地位も次世代にわたり確保することになるとの見立てです)。暗号資産の代表的な銘柄であるビットコインなどの購入にステーブルコインが使われており、米ブルームバーグ通信は「暗号資産業界にとって大きな勝利だ」と報じています。ビットコインの価格は、この1年で約2倍に上昇、暗号資産情報サイトのコインマーケットキャップによると、一時約12万3000ドル(約1800万円)をつけ、史上最高値を更新しています。さらに、ドル建てのステーブルコイン全体の時価総額は40兆円に迫る勢いで、ステーブルコインの市場規模は今後数年で2兆~3兆ドルと現状のおよそ10倍に達するとの声もあります。ENIUS法によって制度整備が進めば、より幅広い投資家が購入しやすくなるとみられる一方、GENIUS法はステーブルコインの発行企業が破綻した場合の消費者保護対策や、詐欺やマネロンなどの犯罪行為を防ぐための措置が不十分との指摘もあります。前回の本コラム(2025年7月号)でも紹介しましたが、世界各国の「通貨の番人」の中央銀行が参加する国際決済銀行(BIS)は2025年6月、「1コイン=1ドル」と等価での交換が完全には保証されていない点や、マネロンや詐欺などに利用されやすいといった問題点を列挙し、通貨として機能するには「不十分だ」と評価しています。なお、トランプ政権は法定通貨ドルそのものをデジタル化する中銀デジタル通貨(CBDC)の発行には、プライバシー侵害の恐れがあるなどの理由で反対しており、米議会下院は、「反CBDC監視国家法案」を可決しています。

香港でステーブルコインの免許制度が2025年8月1日より開始され、将来の人民元建ての発行に道が開かれることになります(香港金融管理局(HKMA)は、ステーブルコインの初めての発行許可が2026年早々になるとの見通しを示しました)。前述のとおり、トランプ米政権がステーブルコインを通じた米ドル覇権の強化に動くなか、中国が香港を足がかりにデジタル決済分野で対抗する構図が浮かびます。まずは香港ドルや米ドルに連動するステーブルコインの発行により、ネット通販などでの利用を見込み、将来はデジタル資産の決済でも活用が進むことが予想されます。香港当局はデジタル金融に注力しており、2024年からはブロックチェーン(分散型台帳)技術で電子的に発行する財産的価値(トークン)を、資産運用や貿易金融などに幅広く適用する実証実験を始めています。今回の条例はHKMAから免許を取得した業者のみが発行や投資家への販売ができると定め、発行・所有額と同額の資産を持つことが義務付けられ、適切な情報開示やマネロンの防止措置なども必要になります。株式市場ではステーブルコインに関連する銘柄が話題をさらい、HKMAは「ステーブルコインは投機ではなく決済手段だ」「初期段階では数社しか承認しない」と冷静な対応を呼びかけています。一方、金融業界では人民元建てのステーブルコインの発行に道を開くかどうかに注目が集まっています。米ジーニアス法は米ドル建てのステーブルコインの普及拡大を後押しする。一方で香港の条例は裏付けとなる法定通貨を特定していないためです。中国当局は資本流出を警戒し本土での暗号資産取引を禁止しつつ、「一国二制度」の香港では振興策を後押しし、「暗号資産の実験場」として活用してきた経緯があるほか、中国はCBDCの「デジタル人民元」に注力し、世界をリードしているとみられてきました。ステーブルコインはCBDCと決済手段として重複し、需要を食い合うリスクもあるところ、実際、中国内外でデジタル人民元の利用が思うように伸びておらず、焦りがあったのではないかとの見方もあります。ステーブルコインはすでに99%が米ドル連動で、普及すれば米ドルの支配力は強まることになります。ロシアのウクライナ侵略で米国は基軸通貨ドルを「武器化」し、ロシアを金融システムから締め出しました。中国がデジタル分野でも人民元の国際化を急ぐ背景には、米ドルの覇権強化に対する強い危機感があるとされます。

中国・上海の規制当局、上海市国有資産監督管理委員会は、ステーブルコインとデジタル通貨への戦略的対応を検討するため、地方政府関係者を集めた会議を開催しています。暗号資産の取引が禁止されている中国で大きな転換を示唆する動きとみられています。国内の専門家や大手企業は人民元に連動したステーブルコインの開発を求めています。公式SNSアカウントへの投稿によると、同委員会の賀青主任は会議で「新興技術に対する感度を高め、デジタル通貨に関する研究を強化」する必要があると述べています。この動きが今後どのようになるのか、香港の動向とあわせ注目されます。

韓国でもステーブルコインの導入に向けた動きが加速しています。李在明大統領が率いる新政権は暗号資産の活用に積極的で、なかでも自国通貨ウォンに連動するステーブルコインは国益にかなうとして優先的に法整備する方針です。先行する日本の法制度についても調査・研究を進めているとされます。ステーブルコインの法整備では日本が先行しており、2023年施行の改正資金決済法でステーブルコインを電子決済手段として定義し、銀行や資金移動業者による発行を認めています。ただ、韓国銀行(中央銀行)はウォン連動のステーブルコインには慎重姿勢で、金融政策や決済システムへの影響が読み切れず、ウォン相場の波乱要因になりかねないとみているといいます。

ブロックチェーン分析会社エリプティックは、ロシアの通貨ルーブルに連動するステーブルコインの取引量が2025年7月に急増し、累計で400億ドルを超えたと発表、こステーブルコインはロシアが西側諸国の決済制限を回避する手段として活用している可能性があるとみられています。2022年2月にウクライナへ侵攻したロシアに対する西側諸国の制裁の一環としてロシアの銀行が国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除されるなど、ロシアの貿易決済手段の選択肢は大幅に制限されており、ロシアは国際決済の代替ルートを模索しています。ロシアの国防関連金融機関プロムスビャズバンクと決済企業A7はともに西側の制裁対象となっていますが、両社は外国貿易の決済手段にすることを目指し、2025年1月にキルギスを拠点とする新たなステーブルコイン「A7A5」の市場投入を発表、エリプティックはA7A5について、ロシアの企業や個人が従来の金融システムを迂回して制裁を回避する上でますます効果的に機能していると述べています。ブロックチェーン分析会社TRMラボはA7A5を制裁回避に関与しキルギスに登録された暗号資産関連企業群の一部と位置付け、こうした企業群はロシアが中国から民生用・軍事用に使用可能な「デュアルユース製品」を中央アジア経由で輸入していることにも関係している可能性があるといいます。ステーブルコインであるA7A5は、ほとんどのロシアの銀行が提供できない国際決済を可能にすることになり、今後の動向を注視する必要があります。

米証券取引委員会(SEC)は、暗号資産に連動する上場投資商品(ETP)の開示要件に関する新たな指針を発表しています。指針はSECの暗号資産規制を巡る与党・共和党の劇的な方針転換を示し、暗号資産連動型ETF(上場投資信託)の承認に向けた第一歩となりました。SECは専門の作業部会を立ち上げるなど、新規制の策定に取り組んできましたが、指針は、SECが進める暗号資産ファンドのための新たな枠組みの第1弾となります。報道によれば、資産運用会社はSECの取引・市場部門がさらに申請手続きの効率化に関する指針を公表することに期待を寄せており、一連の政策で新商品の登場が加速するとみられています。

金融庁は、暗号資産の法改正に向けて議論のたたき台となる「ディスカッション・ペーパー」をまとめ、金融商品取引法(金商法)の改正を議論するうえで焦点になる論点を整理しています。暗号資産のリスクや発行条件などの情報開示の強化やインサイダー取引への対応などを盛り込んでいます。ペーパーでは暗号資産をめぐる環境の変化を踏まえ、決済手段から「投資対象と位置付けられる状況が生じている」と指摘、株などの金融商品に義務付けられている利用者保護のための無登録業者の勧誘行為の禁止や、発行者の情報開示義務などを案として示したほか、インサイダー取引規制の新設についても検討を促しています。また、金融審議会(首相の諮問機関)の作業部会は、暗号資産に関する法制度を見直すための議論を始めました。暗号資産が主に投資目的で取引されているのを受け、金融商品取引法に位置づけて利用者保護を図る狙いがあり、未公表の内部情報をもとに売買するインサイダー取引の規制の新設などが論点になります。金融庁は規制の見直しの「基本的な考え方」として、暗号資産を金商法で位置づける選択肢を挙げました。金商法は情報開示の促進や投資詐欺への対応などを規定するものです。一方、株式や債券など発行者が明確な有価証券とは異なる特性をもつことを踏まえて法規制のあり方を検討する必要があると指摘しています。ある委員は2018年のコインチェックの大規模な流出事件などを挙げ「盗まれた資金が戻ってきたことはなく、流出した際に当局が対応を取れない」と述べたほか、リスク許容度の高くない個人が大きな損失を被る事態を防ぐため「取引に不適合な一般の個人を取引に参加させるべきでない」との指摘もありました。

▼金融庁 金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」(第1回) 議事次第
▼資料6 事務局説明資料②
  • 現状認識等
    1. 暗号資産の投資対象化の進行
      • 2019年金商法改正時と比べ、暗号資産を巡る状況が変化。暗号資産の投資対象化が進展し、少なからぬ内外の投資家において暗号資産が投資対象と位置付けられる状況が生じている。
      • 国内では、暗号資産交換業者における口座開設数が延べ1,200万口座超、利用者預託金残高は5兆円以上に達し、投資経験者の暗号資産保有者割合は約3%で、FX取引や社債等よりも保有率が高くなっている。また、米国では、ビットコイン現物ETFに投資する機関投資家が1,200社を超えている。
    2. ブロックチェーン技術等の発展/健全な暗号資産投資
      • Web3の健全な発展は、わが国が抱える社会問題を解決し、生産性を向上させる上で重要。ブロックチェーン技術を基盤とする暗号資産取引の拡大は、デジタルエコノミーの進展につながり得る
      • 暗号資産はボラティリティが相当程度高いものの、その取引に係る適切な投資環境整備を図ることで、オルタナティブ投資の一部として、リスク判断力・負担能力のある投資家による資産形成のための分散投資の対象にもなり得る。
    3. 詐欺的な投資勧誘等
      • 国民の投資対象としての認識が広まっている反面、詐欺的な投資勧誘も多数。金融庁にも、暗号資産等に関する苦情相談等が継続的に寄せられている(足下、月平均で300件以上)。
      • 暗号資産取引に関する投資セミナーやオンラインサロン等も存在。中には利用者から金銭を詐取するなどの違法な行為が疑われるものも生じている。
  • 環境整備の必要性
    • 今後、暗号資産取引市場が健全に発展するためには、更なる利用者保護が図られ、暗号資産取引について国民から広く信頼が得られることが不可欠。その信頼を失って我が国におけるイノベーションへのモメンタムが損なわれることのないよう、必要な環境整備を行っていくことが必要。
    • 一方、規制を過重なものにすると、利用者や事業者の海外流出を招くことで結果的にわが国の競争力を削いでしまいかねないことにも留意しながら、諸外国の規制動向も踏まえた検討が必要。
    • 利用者保護とイノベーションの促進のバランスの取れた環境整備が重要。
  • 暗号資産投資を巡る喫緊の課題
    1. 情報開示・提供の充実
      • 暗号資産発行時のホワイトペーパー(説明資料)等の記載内容が不明確であったり、記載内容と実際のコードに差があることが多いとの指摘がある
      • 現状の交換業者に対する自主規制では、暗号資産の発行者に正確な情報開示・提供義務がない
    2. 利用者保護・無登録業者への対応
      • 近年、海外所在の業者を含め、交換業の登録を受けずに(無登録で)暗号資産投資への勧誘を行う者が現れているほか、金融庁にも詐欺的な勧誘に関する相談等が多数寄せられている
      • 政府広報オンラインや東京都消費生活総合センター等においても、詐欺や悪質なトラブル等への注意喚起を実施
    3. 投資運用等に係る不適切行為への対応
      • 暗号資産取引についての投資セミナーやオンラインサロン等も出現。中には利用者から金銭を詐取するなど違法な行為が疑われるものもある
      • 政府広報オンラインや東京都消費生活総合センター等においても、詐欺や悪質なトラブル等への注意喚起を実施
    4. 価格形成・取引の公正性の確保
      • 米国等でビットコイン等の現物ETFが上場されるなど、国際的に暗号資産の投資対象化が加速
      • IOSCO等で、伝統的な金融市場と同程度のインサイダー取引も含めた詐欺・市場乱用犯罪への対応強化等が勧告されている。また、欧州等でも法制化等の動きがある
  • 規制見直しの基本的な考え方
    • 前頁で記載した諸課題は、情報開示や投資詐欺、価格形成の公正性等に関するものであるため、伝統的に金商法が対処してきた問題と親和性があり、金商法の仕組みやエンフォースメントを活用することも選択肢の一つ。
    • 規制見直しを図る対象を検討する場合、暗号資産の性質に応じた規制とする観点や取引等の実態面にも着目し、以下のような2分類(類型(1)、(2))に区分して検討することが考えられるか。
    • 具体的な規制の見直しに当たっては、暗号資産が株式等の典型的な有価証券とは異なる特性を有することを踏まえながら、適切な規制のフレームワークを検討する必要。
      1. 類型(1)【資金調達・事業活動型】
        • 資金調達の手段として発行され、その調達資金がプロジェクト・イベント・コミュニティ活動等に利用されるもの
        • 調達資金の利用目的や調達資金を充てて行うプロジェクト等の内容について、暗号資産の保有者(利用者)との情報の非対称性等を解消する必要性が高いのではないか
      2. 類型(2)【上記以外の暗号資産】(非資金調達・非事業活動型)
        • 類型(1)に該当しないもの(例:ビットコインやイーサのほか、いわゆるミームコイン等を含む。)
        • 実態としてビットコイン等は流通量が多く、利用者が安心して暗号資産の取引できるよう適切な規範を適用するなどの環境整備を行っていくことが重要ではないか
        • また、いわゆるミームコインを対象としたり、ビットコイン投資等を名目とする詐欺的な勧誘等による利用者被害も多く生じており、ビットコイン等に限らず、広く規制対象として利用者保護を図る必要性が高いのではないか
  • 情報開示・提供規制のあり方
    • 情報の非対称性を解消し、投資者(暗号資産の保有者)が投資に際して暗号資産の機能や価値を正しい情報に基づいて判断できるよう、情報開示・提供規制を強化する必要があるのではないか
      1. 類型(1)【資金調達・事業活動型】
        • 暗号資産への投資に当たり、暗号資産の信頼性と価値に影響を与える情報が重要。具体的には、暗号資産に関する情報(そのルールやアルゴリズムの概要等)や暗号資産の関係者の情報、プロジェクトに関する情報、リスクに関する情報等が考えられるか。
        • こうした情報を最も正確に開示・提供できる者は、当該暗号資産の発行により資金調達する者であるため、当該者に対し、投資者との情報の非対称性を解消するための規制を設けることが考えられるのではないか。
        • 一方、全ての暗号資産の発行を一律に規制するのではなく、多数の一般投資家に対し勧誘が行われる暗号資産の発行等について規制することが考えられるのではないか
      2. 類型(2)【上記以外の暗号資産】(非資金調達・非事業活動型)
        • 類型(1)の暗号資産とは異なり、特定の発行者を観念できないものが多く、その発行者に対して情報開示・提供義務を設けることは馴染みにくいと考えられる。
        • 当該暗号資産を取り扱う交換業者に対し、暗号資産に関する情報の説明義務や、価格変動に重要な影響を与える可能性のある情報の提供を求めることが考えられるか。
    • 業規制のあり方
      • 暗号資産が投資対象となっている現状を踏まえ、利用者保護の観点から、発展途上であるトークンビジネスやイノベーションへの影響にも配慮しつつ、暗号資産投資に係る業規制を強化する必要があるのではないか。
      • 現行法上、暗号資産の売買・交換等を業として行う行為には、法令に基づく交換業規制及び日本暗号資産等取引業協会(JVCEA)の自主規制が課されている。こうした規制を全体として見ると、金商法令に基づく規制と概ね同様の規制体系が整理されている。一方、当該自主規制の中には金商法では法令レベルのものもあるが、利用者保護を図る観点から、これをどのように考えることが適当か検討が必要ではないか。
      • 無登録業者による違法な勧誘を抑止するため、より実効的かつ厳格な規制の枠組みが必要ではないか。
      • 暗号資産取引についての投資セミナーやオンラインサロン等が出現している現状に鑑みれば、暗号資産交換業に該当しない現物の暗号資産を投資対象とする投資運用行為や投資助言行為について規制対象とすることが適当ではないか。
      • また、組織的な詐欺等の犯罪収益の移転のために暗号資産が悪用されていることや、事業者がハッキングを受けて暗号資産が流出することによりテロ資金の供与につながる懸念も存在する。この点、暗号資産に対する規制は一定の整備がなされており、引き続き、交換業者における業務の健全かつ適正な運営が確保されるよう、実務面での取組みが期待される。
    • 市場開設規制のあり方
      • 多数の当事者を相手方とする集団的な取引の場を提供する場合、適切な価格形成や業務運営の公正性・中立性は重要であることから、金商法では取引プラットフォームに市場開設規制が課されている。
      • 暗号資産に関しては、暗号資産証拠金取引について、現在、一部の業者は顧客同士の注文のマッチング(板取引)を行っているが、「金商法上の『市場』とまでは評価される状況にない」との整理の下、取引所の免許を求めていない。
      • 暗号資産現物取引において、顧客同士の注文のマッチング(板取引)を行っている暗号資産交換業者も存在。
      • 顧客同士の注文のマッチング(板取引)は、一定の価格形成機能を有するとも考えられる。一方で、多くの暗号資産について、同一の銘柄が海外の取引所も含めた多数の取引所(暗号資産交換業者)で取引されている現状に鑑みれば、個々の取引所の価格形成機能は限定的とも考えられる。
      • 他の交換業者でも取引されている暗号資産については、仮にその交換業者が倒産した場合でも、顧客にとって取引を行う場所は他にも確保されており、また、他の交換業者で取引されていない暗号資産であっても、暗号資産の取引は交換業者を通さず取引し得るものであることも、暗号資産取引の特性として挙げられる。
      • こうした点を踏まえると、多数の当事者を相手方とする集団的な取引の場を提供する以上、適切な取引管理やシステム整備が必要ではあるものの、現時点では、こうした暗号資産の取引所に対して、金融商品取引所に係る免許制に基づく規制や金商業者に係るPTSの規制のような厳格な市場開設規制を課す必要性は低いと考えられるのではないか。
    • 暗号資産のインサイダー取引への対応
      • 暗号資産に係る不公正取引については、金商法において、上場有価証券等に係る規制と同様に、不正行為の禁止に関する一般規制等が設けられているが、インサイダー取引を直接の規制対象とする規定はない(※:金商法上、上場有価証券等について未公表の重要事実を知った内部者は、その事実の公表前に取引を行うことが禁止されている。また、証券会社、金融商品取引所と証券取引等監視委員会の有機的な連携に基づく市場監視により、規制の実効性の確保を図っている。
      • IOSCO勧告や欧韓の法制化の動き等も踏まえ、暗号資産に係るインサイダー取引について抑止力を高める観点から何らかの対応強化を検討することが必要ではないか
      • 様々な課題があるため、規制や市場監視態勢のあり方について更に検討を深めていく必要がある。
      • いずれにせよ、インサイダー取引を含め、不公正取引規制の実効性を確保する観点から、業界・当局の市場監視態勢の向上も重要ではないか。

暗号資産は決済手段としての活用が見込まれていましたが、近年は国内外で投資対象としての側面が強まっています。米国のトランプ大統領が暗号資産業界の振興を打ち出し、直近3カ月程度ではビットコイン価格は高騰しています。日本暗号資産等取引業協会(JVCEA)によると暗号資産の国内の口座開設数は延べ1200万口座を超え、身近な投資商品となりつつあります。こうした背景から、暗号資産を税率20%の金融所得課税の対象にしたり上場投資信託(ETF)に組み込んだりといった業界や投資家からの要望が強くなってきています。一方で、暗号資産に関するトラブルも増えています。金融庁の「金融サービス利用者相談室」に寄せられた苦情や相談は足元の平均で月300件以上となり、全体の1割を占めるようになりました。前述のとおり、暗号資産を扱う交換業者への規制は現在、資金決済法に基づいており、投資家保護のための情報開示などは業界団体の自主規制に頼る部分が大きいです。金融庁は暗号資産を金商法に明確に位置づけて投資家保護に本腰を入れたうえで、税制優遇やETFへの組み込みを検討することにしました。暗号資産は全世界で取引されており、所在地が海外で日本の法律上登録がない事業者が日本に住む人に投資を勧誘するなどといった違法な事例が増えています。資金決済法でも金融庁に登録せずに「暗号資産交換業」にあたる業務を行うと罰則がありますが、無登録業者の勧誘行為を取り締まる規定は不十分であり、投資家を保護するため、違法な勧誘を抑止する厳格で実効性がある規制が議論される見通しです。暗号資産をインサイダー取引規制の対象に含めるかどうかも検討事項です。現行の金商法には暗号資産の相場操縦といった不正行為に対する規制はあるものの、インサイダー取引そのものを禁じる規定はありません。暗号資産の場合、発行者が存在しないケースもあり、インサイダー取引の認定は簡単ではありません。ただし投資対象として法的に位置づける以上、市場の透明性を高める努力は不可欠です。暗号資産への姿勢は米国と欧州連合(EU)などでも異なります。米国は活用を推進し、EUでは包括的な規制が施行されました。日本としてこうした新しいテクノロジーにどのように向き合っていくかも注目すべき点となります。

その他、暗号資産に関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 英フィナンシャル・タイムズ(FT)は、JPモルガン・チェースが暗号資産を担保とした融資の提供を検討していると報じています。来年にもサービスの開始を予定しているといいます。同社のジェイミー・ダイモンCEOは長年、暗号資産に批判的な立場をとってきましたが、銀行がビットコインやイーサリアムなどの暗号資産を担保として、顧客に融資をすることを検討しているということです。第1段階として、暗号資産で運用する上場投資信託(ETF)を担保とした融資の提供を計画しているとみられています。ダイモン氏は業界での過度なレバレッジ取引やマネロンなどを念頭に、かねて暗号資産に後ろ向きな姿勢を示しており、2025年5月には「(顧客が暗号資産を)買うことを許可しても、我々がそれを保管するつもりはない」と述べていました。米国ではバンク・オブ・アメリカやシティバンクなど複数の大手行が、ステーブルコインの立ち上げ作業を進めるなど、トランプ米政権が暗号資産の促進に向けた法整備に取り組んでいることが背景にありますが、JPモルガンと言う金融大手の今後の動向が注目されます。
  • 暗号資産交換所大手の米コインベースは自社サイトで、新たに取り扱うデジタルコインについて「厳格な」審査を行った上で取引を許可していると利用者に明言しています。この審査は新規コインの発行に関わる人物や、市場操作・詐欺などのリスクを調べて顧客を保護するのが目的で、長い時間を要することもありますが、トランプ米大統領が2025年1月、2期目開始の3日前に立ち上げた公式ミームコイン「$トランプ」の上場については、コインベースはわずか1日で判断を下しています。ミームコインとは文化的流行や著名人に関係のある暗号資産で、実態的な価値はなく、過去の事例が示すように価格の乱高下が激しく、投資家に損失をもたらす傾向があります。2025年7月1日付ロイターによれば、暗号資産市場のデータおよび業界の発表を分析したところ、$トランプは他の最近の大型ミームコインと比べ、主要暗号資産取引所において異例の早さで上場を果たしていたことが分かったといいます。小口投資家を保護するためリスクの高いコインを慎重に審査しているという取引所の主張とは矛盾する状況となっているほか、一部の取引所は、トランプ氏やその関係者が多くの$トランプコインを保有しているにもかかわらず、上場を認めています。このような場合は通常、関係者が大量に売却すると価格が急落し、他の投資家に影響が出る可能性があるため、注意が必要だと考えられています。
②IRカジノ/依存症を巡る動向

国内初のカジノを含む統合型リゾート(IR)の建設が大阪万博会場の隣の夢洲で進んでいます。2030年秋ごろに開業し、年間約2000万人の来訪者を見込み、大阪府・市や経済界は観光だけでなく大阪湾岸部の活性化や都市力の向上をIRに託していますが、いくつものハードルが待ち受けています。本コラムでも取り上げましたが、実現に向けて当面の課題は建設工事で、2023年末から液状化対策を進めてきたとはいえ、軟弱地盤には深くまで杭を打たねばならないほか、万博では地中からのメタンガス発生問題も起きており、IR建設工事も予断を許さない状況です。さらにIRの事業計画についても、カジノはIRの施設面積の3%以内に抑えられていますが、年間5200億円を見込む売上高の8割を稼ぐ形でなっていますが、計画通りいくか懸念も多いところです。集客面では、中国の富裕層の来客を見込んでいるものの、中国の不動産不況などでラスベガスや東南アジアのカジノへの中国人の来訪は減少しています。また、韓国やフィリピンなどアジアでは相次いで新しいカジノもできているほか、国際的にオンラインカジノの普及など競争が激化している状況にあります。さらに交通アクセスなどインフラ整備も大きな問題です。夢洲への鉄道は大阪市高速電気軌道(大阪メトロ)中央線のみ。JR桜島線の夢洲延伸など構想はあるが、決定したものはない状況です。そして、やはり違法であるオンラインカジノの爆発的な浸透で懸念が高まるギャンブル依存症への対策が重要性を増しています。国内では違法なオンラインカジノ・スポーツ賭博の横行で、カジノ開設への不安が高まっている状況にあり、IRがオンラインカジノへの入り口になりかねないとの懸念も強いものがあります。IRの近くにはユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)があり若者への影響も心配されます。政府は2025年6月、改正ギャンブル等依存症対策基本法を成立させ、オンラインカジノの広告や宣伝を違法としました。オンラインカジノの利用が違法であることをしっかり周知するなどさらに対策を進めなければ、IRへの理解は得られないといえます。

前述のとおり、2025年6月、改正ギャンブル等依存症対策基本法が成立し、オンラインカジノへの規制が強化されていますが、いまだに賭博ビジネスが合法な海外でライセンスを取得していることから「安全」だとうたうサイトもあります。大原則として、日本国内から金銭を賭ける行為は違法で、賭博罪に問われることになります。また、サイトの広告塔になる有名人やSNSで宣伝して報酬を得る「アフィリエイター」がいるため、合法だと思って利用する人もおり、摘発された利用者のなかには「グレーだと思った」と話す人も少なくありません。本コラムではたびたび取り上げていますが、警察庁が2024年7月~2025年1月に初めて実態を調査した結果、推計で利用経験者は約337万人、賭けの総額は年間約1兆2423億円にのぼることが判明、全体の約2%は「現在も利用している」と回答し、違法性を認識していたのは、全体の半数ほどにとどまる結果となりました。利用経験者の多くは興味から始めており、10代では話題作りや暇つぶしでの利用が目立ちました。また、依存症の自覚を持っている利用経験者は6割にのぼっています。スマホ1台あれば場所を問わず24時間利用できる手軽さから、歯止めがかからずのめり込んでしまう人が多く、他のギャンブルに比べて短期間でギャンブル依存症に陥る傾向がみられます。今回成立した改正ギャンブル等依存症対策基本法は、サイトの開設やSNSなどでの宣伝を禁止し、罰則はないものの、違法性が周知されることで、SNSの投稿などが減ることが期待されています。報道で警察庁保安課長は「利用が蔓延して巨額が海外の事業者に流れており、利用や依存の問題はもはや『個人の問題』ではなく、国として手を打つ必要がある」と話していますが、正に正鵠を射るものと考えます。こうした状況を受けて、日本政府はサイトのライセンスを出している国や地域に対して、日本からの利用を禁止することなどを要請しています(警察庁が実態調査で調べた日本向け40サイトの中には、既に利用できなくなったものもあるといいます)。一方、総務省の有識者会議では、サイトへの接続を強制的に遮断するブロッキングの可否も検討されていますが、憲法が保障する「通信の秘密」の侵害が懸念されることから、慎重な議論が続いています。オンラインカジノの摘発は近年増えており、2024年は279人と、5年間で2.3倍になりました。背景には、SNSで緩くつながって犯罪に関与するトクリュウの存在があり、収益がトクリュウに流れている可能性があり、利用者だけでなく、決済代行業者など運営側の取り締まりも進めています。警察量保安課長は報道で「彼らはオンラインカジノサイトにぶら下がる形で犯罪収益を得ており、依存が広まれば広まるほど利益を上げ潤っている実態がある」と指摘、利用者の賭け額などに応じてサイト側から受け取れる報酬が増える形で、2025年に入っても、巨額の賭け金を扱いマネロンしていた決済代行グループが摘発されています。同課長はこれまで、賭博がスマホなどで完結することから利用の実態が見えにくく、オンラインカジノの違法性の周知が不十分な点もあったとし、運営に関与する者の取り締まりや啓発活動を徹底し、「依存症患者や賭博の被疑者となってしまう人を減らし、犯罪収益を得るためのビジネスモデルを断ちたい」と述べていますが、官民挙げてオンラインカジノを巡るビジネスモデルを無効化していくべきだといえます

上記でも指摘しましたが、警察庁は、オンラインカジノを運営する海外のカジノ事業者などに対し、日本国内向けのサイトを削除するよう要請する方針を明確にし、規制を強化した改正ギャンブル等依存症対策基本法が先月成立したことを受けた対応で、2025年9月下旬の実施を目指すとしています。サイトの大半は海外で合法的に運営されており、削除要請に実効性を持たせられるかが課題となります。改正法では、日本国内向けにカジノサイトを開設・運営することを禁じ、広告や宣伝についても「違法」と明確化したことから、警察庁は、海外事業者を含め、サイト運営者やプロバイダへの削除要請に乗り出す方針で、同庁の委託を受けてネット上の違法・有害情報に対処する「インターネット・ホットラインセンター」(IHC)の運用指針を改定する方向です。IHCは、児童ポルノ画像や薬物密売などの違法情報についてサイト管理者らに削除要請しています。今後、オンラインカジノサイトや同サイトに誘導するウェブ広告や動画などは要請の対象外であったところ、警察庁側が把握しているカジノサイトのほか、サイバーパトロールで得た情報をIHCが集約し、サイトへの削除依頼を求めることになります。一方、指針の改定案では、「日本語対応」「おすすめランキング」など、問題となる勧誘の文言を例示、オンラインカジノの「無料版」を紹介していたり、サイト利用の違法性を併記したりしていても、違法賭博への誘導などと判断される可能性があるほか、カジノでプレーする映像に、サイトに接続するURLを添付するような投稿も削除依頼の対象となるといいます。関連してスポーツ庁は、オンラインカジノなど違法賭博に関する注意喚起の事務連絡を日本オリンピック委員会(JOC)や競技団体などに出し、「有名選手が広告塔として露出していると、問題がないかのように映ってしまう」ことから、海外であってもオンラインカジノ広告への出演は「控えることが望ましい」との見解を示しています。事務連絡では、国内でのオンラインカジノの利用や、誘導するインターネット上での情報発信が違法であることを強調、選手や指導者への周知を求めると同時に、社会的な影響力のある海外拠点の日本代表選手らに対しても注意を呼びかけるよう、各組織に要請しています。

オンラインカジノ対策の大きなテーマの1つは「ブロッキング」です。違法なオンラインカジノ利用の抑止策を検討する総務省の有識者会議が、基本的な考え方などを示した中間論点整理をまとめています。カジノサイトへの接続を強制的に遮断する「ブロッキング」について、(当面は見送るものの)今後、必要性や社会的利益など四つの段階を踏んで検証する方針を示しています。会議は2025年秋にも検証作業を始め、年内をめどにブロッキングに関する一定の方向性を示すとしています。ブロッキングは、初めて使う人や若年層の利用を未然に防げるなど抑止策として有効だとの見方がある一方で、実施するには、プロバイダー(通信事業者)が全利用者のすべての通信先を確認する必要があり、憲法などが保障する「通信の秘密」に抵触することが避けられません。中間論点整理では「ブロッキングの実施には、合法的に行うための環境整備が求められる」として、4段階で丁寧に検証することが適当だと指摘しています。具体的には、(1)他の対策を尽くしても被害が減らないといった「必要性」や、対策としての「有効性」(2)実施によって得られる社会的利益と、通信の秘密の侵害で失われる利益のバランス(3)実施する場合に新規立法が必要かどうか(4)実施する場合の手続きなど具体的な制度内容、の4点について、順番に検証するとしています。カジノサイトの利用抑止策には、スマホなどで閲覧を制限する「フィルタリング」や、サイトへ誘導するSNSの投稿を削除するといった方法もあり、会議では、通信の秘密を侵害する恐れがないこうした対策の効果も見極め、ブロッキング導入の是非を検討する方針としています。筆者としても慎重な議論が必要であることは理解できるところ、急速なオンラインカジノの普及とそれに伴うギャンブル依存症の蔓延、トクリュウへの資金流出、海外への国富の流出などの現状は放置できず、一刻の猶予も許されない状況でもあり、ブロッキングに代わる有効な対策があればベストですが、そうでない場合は(児童ポルノ問題で児童が受ける人権侵害は重大かつ深刻であるとして認められている)ブロッキングの導入を急ぐよう求めたいと思います

▼総務省 オンラインカジノに係るアクセス抑止の在り方に関する検討会(第 6 回)
▼ 資料6-2 中間論点整理(案)の概要(事務局)
  • 検討の基本的視座
    • オンラインカジノの弊害は深刻であり、一の対策に依拠するのではなく、官民の関係者が協力し、実効性のある対策を包括的に講じていくことが重要である。その中で、アクセス抑止策についても検討していくべきである。
    • アクセス抑止策の一手段であるブロッキングは、すべてのインターネット利用者の宛先を網羅的に確認することを前提とする技術であり、電気通信事業法が定める「通信の秘密」の保護に外形的に抵触し、手法によっては「知る自由・表現の自由」に制約を与えるおそれがある。通信事業者がブロッキングを実施するためには、合法的に行うための環境整備が求められる
    • 具体的には、(1)ブロッキングは、他のより権利制限的ではない対策(例:周知啓発、フィルタリング等)を尽くした上でなお深刻な被害が減らないこと、対策として有効性がある場合に実施を検討すべきものであること(必要性・有効性)、(2)ブロッキングにより得られる利益と失われる利益の均衡に配慮すべきこと(許容性)、(3)仮に実施する場合、通信事業者の法的安定性の観点から実施根拠を明確化すべきこと(実施根拠)、(4)仮に制度的措置を講じる場合、どのような法的枠組みが適当かを明確化すべきこと(妥当性)という4つのステップに沿って、丁寧に検証することが適当である。
    • また、上記の検証に当たっては、主要先進国において、立法措置の中でブロッキングを対策の一つとして位置づけている例も参考にすべきである。
  • アクセス抑止の全体像とブロッキング
    • フィルタリング
      • 利用者の端末等において、利用者や保護者の同意に基づき、特定サイトの閲覧を制限。
      • 利用者・親権者の同意がある場合のみ有効。
      • 閲覧制限サイトのリストは、フィルタリング事業者の判断による。
      • 青少年には義務付け、依存症患者には導入働きかけが進展する等、一定の効果あり。
    • 情報の削除
      • 場の提供等を行う事業者が、利用規約等に基づき違法・有害情報を削除。
      • 利用規約等に基づく削除については、私人間の契約に基づくもの。
      • 削除の可否は、サイト運営者等の判断による。
      • 情報が違法化されれば、事業者は約款に基づく削除が容易に。
    • ジオブロッキング
      • サイトを開設する事業者が、IP等に基づいて特定の国・地域のアクセスを制限。
      • サイト運営者の判断による制限であり、通信の秘密に関する課題はない。
      • 制限の可否は、サイト運営者等の判断による。
      • 海外事業者については、強制できない。
      • 技術的な回避策あり。
    • CDN対応
      • CDN事業者が、利用規約等に基づき違法・有害情報の削除、契約を解除等。
      • CDN事業者に求められる対応に応じて要検討。
      • オンラインカジノ事業者の契約状況による。
    • 検索結果の非表示・警告
      • 検索事業者が、特定のサイトを非表示にしたり、警告表示を行ったりする。
      • 検索サービスの客観性・中立性、国民の知る権利とのバランスが必要。
      • 具体的な仕組を踏まえて検討(過剰制限のおそれ等)。
      • アルゴリズム対策とのいたちごっこの側面。
    • ドメイン名の利用停止
      • レジストリが、特定のドメイン名の利用を停止。
      • レジストリに求められる対応に応じて要検討。
      • 具体的な仕組を踏まえて検討(過剰制限のおそれ等)。
      • 海外事業者については、強制できない。
    • ブロッキング
      • ISPが、利用者の同意なく、特定のアドレスへのアクセスを遮断。
      • 通信の秘密の侵害に該当する(実施には法的根拠が必要)。
      • 具体的な仕組みを踏まえて検討(過剰制限のおそれ等)。
      • 技術的な回避が容易。
  • ブロッキングに関する法的検討
    • 必要性(ブロッキング以外の対策が尽くされたか)
      • ブロッキングは、インターネット接続事業者(ISP)が、オンラインカジノの利用者だけでなく、すべてのインターネット利用者の接続先等を確認し、通信当事者の同意なく遮断等を行うものであり、電気通信事業法が規定する通信の秘密の侵害に該当する。
      • 違法情報を閲覧する者の知る自由や違法情報を発信する者の表現の自由については要保護性自体が問題となり得るが、ブロッキングで用いられる手法は、技術的には違法情報に限らず、あらゆる情報の遮断を行うことができるものであることから、遮断先リストの作成・管理の在り方によっては、誤って遮断する「ミスブロッキング」や過剰に遮断する「オーバーブロッキング」等の課題があることが指摘されている。
      • このように、ブロッキングが、電気通信事業法が定める「通信の秘密」の保護に外形的に抵触し、手法によっては「知る自由・表現の自由」に制約を与え得るものであり、とりわけ電気通信事業法上の通信の秘密の侵害の構成要件に該当する行為であることから、実施には慎重な検討が求められる。すなわち、ブロッキングが単に有効な対策であるだけでは足りず、他のより権利制限的ではない有効な対策が尽くされたかどうかを検証することが必要である。
      • この点、児童ポルノの流通防止については、国内における児童ポルノサイトの運営や情報の頒布に関与した者の取締りに加え、海外のサイト運営者に対する削除要請等、国内外においてその対策が積極的に行われてきた。また、SNS事業者等による利用規約等に基づく削除を含めて、他の手段が一定程度講じられている中にあってもなお、被害が減らないという実態があり、それを踏まえて、総務省の有識者検討会においてブロッキングを実施するための考え方が整理されたという経緯があり、この観点から参考になる。
      • オンラインカジノについては、フィルタリング、削除、ジオブロッキング等、他のより権利制限的ではないアクセス抑止策の実効性を検証するとともに、支払抑止等のアクセス抑止策以外の様々な対策についての実効性も併せて検証し、これらの対策を尽くした上でなおブロッキングを実施する合理的必要性があるかどうかを検討すべきである。
      • フィルタリングについては、すでにオンラインカジノを含むギャンブルは小学生から高校生までの全年齢向けに制限対象とされており、フィルタリングの提供を義務付けている青少年インターネット環境整備法の存在も相まって、少なくとも青少年向けには一定の取組が行われているといえる。フィルタリングサービスは、本人の同意があれば、青少年以外にも利用可能であることから、例えば依存症患者やその法定代理人、医療従事者等に対して一層の普及促進を図っていくことが考えられる。フィルタリングについては、「ギャンブル等依存症対策推進基本計画」を踏まえ、今後一層の普及促進の取組が期待される。
      • 一方、オンラインカジノの広告や誘導を行うSNS事業者や検索事業者による削除等の取組については、一定程度対応が進んでいるものの、いまだ国民が容易にカジノサイトにアクセス可能な状況がある。この点については、上記改正「ギャンブル等依存症対策基本法」で違法行為としての明確化が図られ、IHC(インターネット・ホットラインセンター)の「運用ガイドライン」や総務省「違法情報ガイドライン」に明記されることにより、国内のSNS事業者等による削除が一層進むことが期待されることに加え、国外のサイト運営者等に対しても、ジオブロッキングの要請を行いやすい環境も整うことから、まずはこれらの対策の効果の検証を行うことが適当である。
      • なお、オンラインカジノサイトの運営者は、トラフィック負荷の分散やサイバーセキュリティ対策の観点から、CDNサービスへの依存を高めているとの指摘がある。CDN事業者については、違法情報対策の観点から、利用規約等に基づく削除等の取組の強化が期待されているが、ネットワーク構成において実際に果たしている役割は契約毎に区々であること、海賊版対策を巡って訴訟が生じていること等から、まずは実態を把握することが求められる。
      • 政府として、当面の間、上記の対策を包括的に進めるとともに、一定の期間を置いた上で、それらの対策を尽くしたとしてもなお違法オンラインカジノに係る情報の流通が著しく減少しない場合には、ブロッキングを排除せず、追加的な対応を講じることが適当である。
    • 有効性(対策としてのブロッキングは有効か)
      • ブロッキングについては、技術的な回避策(例えば、VPN等によりDNSサーバーを迂回する方法)があると指摘されており、近年では、特定のスマートフォン等の端末におけるプライバシー保護を目的とする機能を利用することにより、誰でも容易に回避することができるようになっているとの指摘がある。児童ポルノサイトのブロッキングが検討された時と比べ、大きな環境変化を踏まえた議論が必要である。
      • 一方で、カジュアルユーザや若年層がギャンブル等依存症になる前の対策が重要であり、ブロッキングは、これらの者に対し、オンラインカジノの利用を抑止することが可能であり、ひいてはギャンブル等依存症になることを未然に防止するなど、予防的効果があるとの指摘もある
      • 上記観点も踏まえ、ブロッキング実施国における実施手法や効果を検証しつつ、引き続きブロッキングの有効性に関する検討を深めていくべきである。
      • なお、ブロッキングの有効性については、許容性(検討した有効性を前提に、全ての利用者の通信の秘密を侵害することとの関係で、均衡しているといえるか)の観点からも検討すべきである。具体的には、例えば、単に接続を遮断するだけではなく、オンラインカジノが違法であるとの警告表示を行うことで、よりブロッキングの予防的効果をあげられるとの指摘にも着目した議論をすべきである。
    • 許容性(ブロッキングにより得られる利益が失われる利益と均衡するか)
      • 上記を踏まえ、検討を行った結果、仮にブロッキングを行う必要性・有効性が認められる場合、ブロッキングが国民の基本的人権である通信の秘密を侵害する行為であることから、閲覧防止のための手段として許容されるためには、ブロッキングによって得られる利益が通信の秘密の保護と均衡するものであるかどうかを検討する必要がある。
      • 電気通信事業法第4条が規定する通信の秘密の侵害行為は、直接の罰則が適用される刑事犯であるため、違法性を阻却するためには、刑法の考え方に基づき、法令行為(第35条)又は緊急避難(第37条)が成立するか否かが論点となる。
      • 過去の検討では、児童ポルノサイトについて、児童の心身に対する生涯にわたる回復しがたい被害という被害の深刻さを踏まえ、総務省の有識者検討会等において緊急避難が認められるとの考え方が採られた一方、海賊版サイトについては、著作権者の経済的利益のために通信の秘密の制限することについて否定的な見解が示された(東京高判令和元年10月30日)。
      • 上記は、緊急避難の成立要素である「法益の権衡」に関する判断であるが、仮に法令行為とする場合、通信の秘密の重要性を踏まえれば、緊急避難の法理を基礎としつつ、これを類型化して法定化することが考えられる
      • オンラインカジノの利用は、刑法上の賭博行為に該当することから、ブロッキングによって得られる利益を評価するにあたっては、賭博罪の保護法益について検討することが出発点となる。通説・判例によれば、賭博の保護法益は「勤労の美風」という社会的秩序であるとされること(最大判昭和25年11月22日)から、これのみで通信の秘密の侵害を正当化することは困難である。
      • 他方、オンラインカジノについては、賭け額の異常な高騰や深刻な依存症患者の発生など、きわめて深刻な弊害が報告されており、ブロッキングによって得られる利益は、必ずしも賭博罪の保護法益(社会的法益)に留まらず、刑法上の議論に尽きるものではない。
      • 以上を踏まえ、ブロッキングにより得られる利益が失われる利益と均衡するかにつき具体的な検討が必要である。
    • 実施根拠(仮にブロッキングを実施する場合どのような根拠で行うか)
      • 上記を踏まえ、必要性・有効性と許容性が認められる状況において、電気通信事業者がブロッキングを行う場合、通信の秘密の侵害に外形的に当たることから、どのような根拠の下で合法的に行うことができるかを検証する必要がある。
      • 刑法上の違法性阻却事由のうち、電気通信事業者によるブロッキングに実質的に適用しうる法理は、法令行為又は緊急避難のいずれかである。海賊版の事例において、法解釈(緊急避難の考え方)に基づき自主的にブロッキングの実施を表明した事業者が訴訟を提起され、実質的に敗訴ともいいうる判決が示されたことを踏まえれば、実施主体である電気通信事業者における法的安定性を確保する観点から、仮にブロッキングを行う場合には何らかの法的担保が必要である。特に、ブロッキングにおいて犠牲にされる利益は、電気通信事業者自身が処分可能なものではなく、あくまで利用者である国民一般のものであることから、電気通信事業者における法的安定性を確保することはきわめて重要である。
      • なお、児童ポルノにおいては、事案の性質上、訴えを提起する当事者があまり想定されないが、一般論として、法解釈によるブロッキングには、個々の事業者に常に訴訟リスクが伴う点に留意が必要である。
      • 仮に法解釈(緊急避難)で行う場合は、ブロッキングを実施する電気通信事業者において、個々の事案ごとに緊急避難の要件を満たしているかを検討し、事業者自らの判断(誤った場合のリスクは事業者が負担)で実施するかどうかを決めることになる。オンラインカジノサイトについては、無料版やゲーム等との区別が容易ではないことも指摘されているところ、仮に法令によって遮断対象や要件等を明確にしなければ、「ミスブロッキング」や「オーバーブロッキング」のリスクが高まり、法的責任(通信の秘密侵害罪、損害賠償責任)を回避するために遮断すべきサイトのブロッキングを控えることが考えられ、対策の法的安定性を欠くことになる。
      • これを踏まえると、仮にオンラインカジノサイトのブロッキングを実施する場合には、法解釈に基づく事業者の自主的取組として行うのではなく、何らかの法的担保が必要である
    • 妥当性(仮に制度的措置を講じる場合どのような枠組みが適当か)
      • 上記を踏まえ、必要性・有効性と許容性が認められる状況において、電気通信事業者が法令に基づいてブロッキングを行う場合、通信の秘密との関係で問題とならないようにするために、どのような枠組みとすることが適当かを検討する必要がある。
      • ブロッキングは、あくまで、違法情報の流通によってもたらされる弊害を除去する目的を達成するためのアクセス抑止策の一つであり、その枠組みを検討するに当たっても、当該弊害の除去という本来の政策目的に基づく規制体系の中で位置づけられるべきである。特に、カジノを巡っては、IR法制定の過程でランドカジノの合法化の要件が定められた一方、オンライン化の是非や要件については具体的な議論が先送りとなった経緯がある。先に述べたとおり、オンラインカジノについては、公営競技のオンライン提供において講じられているような対策がないことが、依存症をはじめとする弊害を悪化させている面があることから、ブロッキングの制度設計に当たっても、カジノ規制全般に対する議論抜きにその在り方を検討することは困難である
      • 具体的な制度を検討するに当たっては、通信の秘密の制限について厳格な要件を定めた例である「重要電子計算機に対する不正な行為による被害の防止に関する法律」(いわゆる能動的サイバー防御法)や、フランスをはじめ違法オンラインカジノ規制の一環としてブロッキングを法制化している諸外国の例が参考になる。
      • 少なくとも、以下の論点について具体的な検討が必要である。
        • 遮断義務付け主体(遮断対象リストの作成・管理を適切に行う主体(オンラインカジノ規制と密接に関連)など)
        • 遮断対象(対象範囲の明確化(国外・国内サイト、国外サイトのうち日本向けに提供するサイト、無料版の扱い等)など)
        • 実体要件(補充性(他の対策では実効性がないこと)、実施期間、実施方法など)
        • 手続要件(事前の透明化措置として、司法を含む独立機関の関与、遮断対象リストの公表など。事後的な救済手段として、
        • 不服申立手続・簡易な権利救済手段の創設、実施状況の報告・事後監査の仕組など)
        • その他(実施に伴う費用負担、誤遮断時の責任の所在(補償)など)
  • 概括的整理と今後の検討に向けて
    • オンラインカジノは、我が国の社会経済活動に深刻な弊害をもたらしており、喫緊の対策が求められている。その際、違法オンラインカジノをギャンブル規制の中でどのように位置づけ、実効的な対策を実現するかという観点から包括的に取り組む必要があり、政府全体で対策の在り方を検討していくべきである。
      1. オンラインカジノの利用が違法ギャンブルであるという前提に立ち、官民の関係者が協力し、包括的な対策を講じるべき。
        • (包括的な対策の例:決済手段の抑止、違法行為に対する意識啓発・教育、取締り、アクセス抑止等)
      2. 上記の包括的な対策の中で、アクセス抑止についても、有効な対策の一つとして検討すべき。
        • (アクセス抑止策の例:端末等におけるフィルタリング、サイト運営者等による削除、通信事業者によるブロッキング等)
        • アクセス抑止策の一手段であるブロッキングについては、「通信の秘密」や「知る自由・表現の自由」に抵触しうる対策である。そのため、実施の必要性を判断するに当たっては、今後の規制環境や犯罪実態の変化等を踏まえ、他の権利制限的ではない手段が十分に尽くされたといえるか検証するとともに、オンラインカジノ固有の侵害性の内実を突き詰めた上で、ブロッキングにより得られる利益が失われる利益と均衡しているかを検証していくべきである。その際、ブロッキングは技術的な回避が容易になりつつあるといった大きな課題がある一方、ギャンブル等依存症等の予防的な効果があるとの指摘も踏まえ、ブロッキングの有効性に関する検討を深めていくべきである。
        • それでも被害が減らず、上記のとおり、(1)他の権利制限的ではない手段が十分に尽くされていること及び対策として有効性があること、(2)ブロッキングにより得られる利益が失われる利益と均衡していることが認められる場合、ブロッキングの実施が可能となる。実施にあたっては、ギャンブル規制における位置づけや法的安定性の観点から、法解釈に基づく事業者の自主的取組として行うのは適当でなく、法的担保が必要である。今後、諸外国法制や他の通信の秘密との関係を整合的に解釈した法制度を参考にしつつ、通信の秘密との関係で問題とならないようにするために、どのような枠組みが適当であるかについて、遮断義務付け主体、遮断対象、実体要件、手続要件等を具体的に検討していくべきである

オンラインカジノが社会問題化しているのは日本だけではありません。最近ではフィリピンの状況について相次いで報じられています。同国では、オンラインカジノへの流れを助長しているのは、ソーシャルメディアとデジタルウォレット(電子財布)だとする論調がみられます。規制当局フィリピン娯楽賭博公社(PAGCOR)のデータを引用した各種報道に基づくと、同国でオンラインカジノは急速に普及しており、第1・四半期に事業運営者から得た税収・手数料収入は推計で510億ペソ(約1300億円)に上り、フィリピン政府がカジノ業界から2025年これまでに得た総収入のおよそ半分を占めるといいます。ドゥテルテ前大統領は2016年にオンラインカジノに門戸を開きましたが、事業者のほとんどは中国資本で、フィリピン国外の顧客をターゲットにしたものでした。コロナ禍で外出が困難になると、フィリピン政府は税収を確保する狙いから、事業者にオンラインカジノのライセンスを発行し始め、どこからでも遊べるオンラインカジノは瞬く間に普及、コロナ禍後も人気は続き、企業や政府、そして幸運な勝者に莫大な利益をもたらしています。現在のマルコス大統領は2024年、国外企業の活動を禁じましたが、国内のスロットマシーンやポーカー、ルーレットといった伝統的なカジノゲームのデジタル版は引き続き認可され、モバイル端末でアクセスできます。こうしたオンラインカジノ自体は合法ではあるものの、規制当局は業界に制約を課したり、アクセスできる人を制限したりするといった義務を果たせなかったと指摘されています。報道によれば、プレーヤーはゲームに参加すると、子どもでも扱えるような人気の電子決済アプリを通じて全ての稼ぎを引き出す形になるといい、認可事業を禁止すれば「プレーヤーを違法で規制されておらず安全性が担保されないサイトに向かわせる」(ロイター)ほか、業界で働く約5万人の雇用を脅かすことになるとの指摘もあります。こうした状況に対し、カトリック教会は「オンラインカジノは今、麻薬やアルコール、その他の依存症と同様にわれわれの社会における公衆衛生危機になっている」として、オンラインカジノを「倫理と社会の危機」と受け止め、禁止を呼びかけています。フィリピン議会では与野党の対立が続きますが、オンライン賭博の規制強化については超党派で一致しつつあり、こうした動きを受けてマルコス大統領は施政方針演説で新たな規制や禁止措置に言及しています。ギャンブル依存症になる人が増え、犯罪やマネロンの温床だとの批判が強まる中、規制強化策としては、ゲーム会社への入金制限や利用開始年齢の引き上げ、手数料徴収などが検討項目に挙がっています。上院議員がまとめた法案は、低所得者の利用を防ぐため、最低入金額を1万ペソ(約2万6千円)に引き上げる内容を盛り込み、事業者から手数料を徴収し、ギャンブル依存者の社会復帰を支援する施設の費用に充てるというもので、下院でも野党勢力が法案を提出、国内大手の電子決済アプリなどでオンライン賭博につながる広告の掲載を禁止するほか、利用者に厳格な本人認証を義務づけるというものです。オンラインカジノをめぐっては、マルコス氏が2024年の施政方針演説で「POGO」と呼ばれる外国人向けオンラインカジノ事業者を禁止すると発表、ドゥテルテ前政権下で中国人を主要顧客に急成長し、経済発展に寄与した半面、POGO業者が人身売買や違法薬物の取引をするなど犯罪拠点として社会問題になったためです。2024年末を期限にPOGOが禁止され、一部の悪質な業者が国内向けに流れ込んでいるとの指摘もあり、スマホや電子決済サービスの普及で長時間ギャンブル漬けになる人は多く、外国人向けに限らず国内利用者にも対策が必要だとの機運が高まっています。一方、フィリピン国内には規制を強めた場合の経済への副作用を心配する声もあり、フィリピン娯楽賭博公社(PAGCOR)によると、2024年の賭博事業の収益は国内市場全体で前年に比べて3割増の3723億ペソとなり、このうちオンラインは1545億ペソと2023年から2.6倍になり、全体の収益の4割を占めており、規制を強化すれば、不動産市況の悪化や税収減など国内経済への打撃は避けられないほか、日本と同様に海外の悪質サイトへの流入をどう防ぐかも課題となります

オンラインカジノの規制を強化する流れは、海外の他の国でも強まっています。ブラジルでは2025年1月からオンラインカジノサイトの運営に許可制を導入、企業にマネロン防止法の順守を求め、利用者には顔認証など本人確認を必要としています。ニュージーランドはオンラインカジノを合法化し、2026年以降にオークションを通じてライセンスを得た業者のみがサービスを提供できるように法整備を進めています。また、本コラムでもその動向を取り上げているタイにおけるカジノ合法化については、法案が撤回されています。法案はペートンタン首相が率いる最大与党「タイ貢献党」の目玉政策でしたが、同党は今後、世論の動向を見て議会に再提出するタイミングを探るとみられています。仏教の教えが深く根ざすタイでは公営宝くじや競馬を除く賭博行為が長く禁じられており、カジノはタイ人の価値観に反するほか、犯罪の温床になるといった懸念が根強くあり、バンコクでは頻繁に法案に反対するデモが起きていました。タイ政府は法案撤回の理由を「国民の理解を得るのに時間がかかる」と説明していますが、実際は政局の混乱が決定打となったと考えられています(ペートンタン氏は、隣国カンボジアとの国境紛争をめぐり、タイ軍を批判した電話音声が流出し、解任を求める訴えを起こされるなどし、2025月7月1日、憲法裁判所に職務停止を命じられています。現在は副首相が首相代行を務めており、政権運営上の不安要素を少しでも減らしたい狙いもあるとみられています)。世界のカジノ大手は合法化を見据えてタイ進出をもくろみ、タイ政府も少なくとも1000億バーツ(約4500億円)の投資を誘致できると試算していましたが、政情不安によりタイの投資先としての信用度が下がるリスクは顕在化しつつあります。

2025年7月20日付日本経済新聞によれば、日本のスポーツベッティング(賭博)が巨大市場に膨らんでいるといい、民間の推計では、国内居住者が海外のウェブサイト経由で違法に賭けた金額は年6兆円に達しており、合法の公営競技を含めると世界4位の規模だといいます。国内競技が海外から無断で賭けられる「ただ乗り」も横行し、収益が流出する状況だといいます。特に懸念されるのが八百長と依存症のリスクです。海外では事業者との提携や多国間連携で問題を予防する取り組みが広がっており、キーとなるのが「マコリン条約」で、締約国では省庁などが協力して対策機関をつくり、八百長の摘発が義務付けられ、2025年7月中旬までに43カ国が署名、15カ国が批准しています。大きなお金が動くにもかかわらず、国内のスポーツ界にデータの販売料などの還元はほとんどないうえ、チームのロゴや選手の肖像、映像も無断で使われています。スポーツ賭博は2010年頃から欧米で合法化が相次ぎ、その後は市場規模の拡大が続いており、独スタティスタの調査によると、米国では賭け金総額から配当金を除いた収益が2029年に2019年の10倍の3兆7000億円に達する見通しだといいます。各国の合法化の背景には、管理された賭博を提供することで、反社会的勢力と結びついた違法市場に対抗する狙いがあるとされています。現在、G7でスポーツ賭博が違法なのは日本だけの状況です。一方、全米ギャンブル問題評議会の調査によれば、米国で実質的に合法化された2018年以降の4年間で愛好者が増えたことに伴い、ギャンブル依存症に陥るリスクが3割上昇したといいます。さらにSNSでのアスリートへの誹謗中傷や脅迫の被害が深刻化したという指摘もあります。日本でもスポーツ賭博とどう向き合うのかが問われており、社会の理解を得て法制化するハードルは高く、八百長やギャンブル依存症の防止に本格的に取り組む必要も当然ある一方で、見えないところで動く巨額のマネーと、そこに絡む問題を無視し続けるわけにもいかないと日本経済新聞は指摘しています。本コラムとしても、薬物の問題同様、オンラインカジノやスポーツベッティングを通じて反社会的勢力が資金源としているほか、マネロンなどの犯罪が行われ、多額の国富が海外に流出している現状は看過できず、合法化の議論も過度にタブー視することなく真摯に公平公正に「どう向き合うか」が問われているとの問題意識をもっています。

③犯罪統計資料から

2025年上半期に警察が認知した刑法犯の件数は、2024年同期より1万6056件増(+4.6%)の36万5963件となりました。上半期としては3年連続の増加となり、新型コロナウイルス禍前だった2019年の36万3654件(確定値)を上回り、令和で最悪の結果となりました。とりわけ詐欺が3万2413件(+19.4%)、窃盗が24万3529件(+2.9%)となり、全体の増加に影響しています。なお、窃盗のうち、自動車盗が29.2%増、オートバイ盗が30.1%増、万引が6.6%増、殺人や放火などの重要犯罪は7031件(3.6%増)、強盗や不同意性交(旧罪名含む)の増加が影響したとみられ、ひったくりなどの街頭犯も11万8021件(2.7%増)となりました。

▼警察庁 令和7年上半期における刑法犯認知・検挙状況について【暫定値】
  1. 刑法犯認知・検挙状況
    • R(令和)6末/R6.6末/増減数/増減率(%)
    • 認知件数 365,963 / 349,907 / 16,056 / 4.6
    • 検挙件数 141,195 / 133,489 / 7,706 / 5.8
    • 検挙人員 94,406 / 90,460 / 3,946 / 4.4
    • 検挙率(%) 6 / 38.1 /+ 0.5 ポイント
  2. 主な特徴点
    1. 認知状況
      • 令和7年上半期における刑法犯認知件数は36万5,963件で、前年同期比で6%増加した。このうち、詐欺の認知件数は3万2,413件で、前年同期比で19.4%増加しており、刑法犯認知件数の増加に対する寄与率(データ全体の変化を100とした場合に、構成要素となるデータの変化の割合を示す指標)は32.8%となった。また、窃盗犯の認知件数は24万3,529件で、前年同期比で2.9%増加しており、刑法犯認知件数の増加に対する寄与率は42.2%となった。
      • 令和7年上半期における重要犯罪の認知件数は7,031件と、前年同期比で6%増加した。
      • 街頭犯罪の認知件数は11万8,021件で、前年同期比で7%増加、侵入犯罪の認知件数は2万9,112件で、前年同期比で9.5%増加した。また、重要犯罪の認知件数は7,031件で、前年同期比で3.6%増加した。
    2. 検挙状況
    3. 令和7年上半期における刑法犯の検挙件数は14万1,195件、検挙人員は9万4,406人で、共に前年同期(13万3,489件、9万460人)を上回った(それぞれ前年同期比で8%、4.4%増加)。少年の検挙人員は1万769人で、検挙人員全体の11.4%となった(前年同期は全体の10.7%)。
    4. 令和7年上半期における刑法犯の検挙率は6%で、前年同期比で0.5ポイント増加した。
    5. 重要犯罪の検挙率は2%で、前年同期比で1.3ポイント増加した

例月同様、令和7年(2025年)1月~6月の犯罪統計資料(警察庁)について紹介します

▼ 警察庁 犯罪統計資料(令和7年1~6月分)

令和7年(2025年)1~6月の刑法犯総数について、認知件数は365963件(前年同期349907件、前年同期比+4.6%)、検挙件数141195件(133489件、+5.8%)、検挙率は38.6%(38.1%、+0.5P)と、認知件数、検挙件数がともに増加している点が注目されます。刑法犯全体の7割を占める窃盗犯の認知件数が増加していることが挙げられ、窃盗犯の認知件数は243529件(236753件、+2.9%)、検挙件数は81923件(77676件、+5.5%)、検挙率は33.6%(32.8%、+0.8P)となりました。なお、とりわけ件数の多い万引きについては、認知件数は52466件(49234件、+6.6%)、検挙件数は34959件(32662件、+7.0%)、検挙率は66.6%(66.3%、+0.3P)と大幅に増加しています。その他、凶悪犯の認知件数は3528件(3319件、+6.3%)、検挙件数は3039件(2856件、+6.4%)、検挙率86.1%(86.1%、±0P)、粗暴犯の認知件数は29571件(27983件、+5.7%)、検挙件数は23189件(22988件、+0.9%)、検挙率は78.4%(82.1%、▲3.7P)、知能犯の認知件数は34736件(29447件、+18.0%)、検挙件数は9882件(8526件、+15.9%)、検挙率は28.4%(29.0%、▲0.6P)、とりわけ詐欺の認知件数は32413件(27150件、+18.0%)、検挙件数は8244件(6988件、+18.0%)、検挙率は25.4%(25.7%、▲0.3P)、風俗犯の認知件数は9151件(8094件、+13.1%)、検挙件数は7535件(6356件、+18.5%)、検挙率は82.3%(78.5%、+3.8P)などとなっています。なお、ほとんどの犯罪類型で認知件数が増加しているほどには検挙件数が伸びず、検挙率が低調な点が懸念されます。また、コロナ禍において大きく増加した詐欺は、アフターコロナにおいても増加し続けています。とりわけ以前の本コラム(暴排トピックス2022年7月号)でも紹介したとおり、コロナ禍で「対面型」「接触型」の犯罪がやりにくくなったことを受けて、「非対面型」の還付金詐欺が増加しましたが、コロナ禍が明けても「非対面」とは限らないオレオレ詐欺や架空料金請求詐欺なども大きく増加しています。さらに、SNS型投資詐欺・ロマンス詐欺では、「非対面」での犯行で、(特殊詐欺を上回る)甚大な被害が発生しています。

また、特別法犯総数については、検挙件数は30120件(30535件、▲1.4%)、検挙人員は23487人(24402人、▲3.7%)

と検挙件数・検挙人員ともに減少傾向にある点が大きな特徴です。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は2604件(2812件、▲7.4%)、検挙人員は1762人(1902人、▲7.4%)、軽犯罪法違反の検挙件数は2873件(3152件、▲8.9%)、検挙人員は2825人(3175人、▲11.0%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は2298件(2814件、▲18.3%)、検挙人員は1634人(2060人、▲20.7%)、児童買春・児童ポルノ法違反の検挙件数は1469件(1680件、▲12.6%)、検挙人員は756人(949人、▲20.3%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は2250件(2030件、+10.8%)、検挙人員は1723人(1576人、+9.3%)、銃刀法違反の検挙件数は2070件(2153件、▲3.9%)、検挙人員は1752人(1839人、▲4.7%)、などとなっています。減少傾向にある犯罪類型が多い中、犯罪収益移転防止法違反等が大きく増加している点が注目されます。また、薬物関係では、麻薬等取締法違反の検挙件数は4758件(856件、+455.8%)、検挙人員は3334人(494人、+574.9%)、大麻草栽培規制法違反の検挙件数は67件(3337件、▲98.0%)、検挙人員は54人(2649人、▲98.0%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は4233件(3912件、+8.2%)、検挙人員は2785人(2615人、+6.5%)などとなっています。大麻の規制を巡る法改正により、前年(2024年)との比較が難しくなっていますが、大麻事犯の検挙件数がここ数年、減少傾向が続いていたところ、2023年に入って増加し、2023年7月にはじめて大麻取締法違反の検挙人員が覚せい剤取締法違反の検挙人員を超え、その傾向が続いています(今後の動向を注視していく必要があります)。また、覚せい剤取締法違反の検挙件数・検挙人員ともに大きな減少傾向が数年来継続していたところ、最近、あらためて増加傾向が見られています(覚せい剤は常習性が高いため、急激な減少が続いていることの説明が難しく、その流通を大きく支配している暴力団側の不透明化や手口の巧妙化の実態が大きく影響しているのではないかと推測されます。言い換えれば、覚せい剤が静かに深く浸透している状況が危惧されるところです)。なお、麻薬等取締法が大きく増加している点も注目されますが、2024年の法改正で大麻の利用が追加された点が大きいと言えます。それ以外で対象となるのは、「麻薬」と「向精神薬」であり、「麻薬」とは、モルヒネ、コカインなど麻薬に関する単一条約にて規制されるもののうち大麻を除いたものをいいます。前述したとおり、コカインについては、世界中で急増している点に注意が必要です。また、「向精神薬」とは、中枢神経系に作用し、生物の精神活動に何らかの影響を与える薬物の総称で、主として精神医学や精神薬理学の分野で、脳に対する作用の研究が行われている薬物であり、また精神科で用いられる精神科の薬、また薬物乱用と使用による害に懸念のあるタバコやアルコール、また法律上の定義である麻薬のような娯楽的な薬物が含まれますが、同法では、タバコ、アルコール、カフェインが除かれています。具体的には、コカイン、MDMA、LSDなどがあります。

また、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯国籍別検挙人員対前年比較について総数236人(217人、+8.8%)、ベトナム51人(37人、+37.8%)、中国35人(36人、▲2.8%)、フィリピン19人(15人、+26.7%)、インドネシア13人(3人、+333.3%)、ブラジル12人(16人、▲25.0%)、バングラデシュ7人(3人、+133.3%)、タイ6人(2人、+200.0%)、パキスタン6人(6人、±0%)、マレーシア5人(0人)、スリランカ5人(9人、▲44.4%)、などとなっています。ベトナム人の犯罪が中国人を大きく上回っている点が最近の特徴です。

一方、暴力団犯罪(刑法犯)罪種別検挙件数・人員対前年比較の刑法犯総数については、検挙件数は3939件(4613件、▲14.6%)、検挙人員総数は1999人(2472人、▲19.1%)、暴行の認知件数は188件(226件、▲16.8%)、検挙人員は169人(203人、▲16.7%)、傷害の認知件数は339件(415件、▲18.3%)、検挙人員は382人(480人、▲20.4%)、脅迫の認知件数は117件(147件、▲20.4%)、検挙人員は106人(152人、▲30.3%)、恐喝の認知件数は156件(147件、+6.1%)、検挙人員は172人(173人、▲0.6%)、窃盗の認知件数は1695件(2296件、▲26.2%)、検挙人員は276人(362人、▲23.8%)、詐欺の認知件数は8245件(720件、+14.4%)、検挙人員は439人(481人、▲8.7%)などとなっています。とりわけ、詐欺については、2023年7月から減少に転じていたところ、あらためて増加傾向にある点が特筆されますが、資金獲得活動の中でも活発に行われていると推測される(ただし、詐欺は薬物などとともに暴力団の世界では御法度となっています)ことから、引き続き注意が必要です。

さらに、暴力団犯罪(特別法犯)主要法令別検挙件数・人員対前年比較の特別法犯について、特別法犯全体の検挙件数は1914件(2194件、▲12.8%)、検挙人員総数は1155人(1398人、▲17.4%)、入管法違反の検挙件数は6件(16件、▲62.5%)、検挙人員は6人(16人、▲62.5%)、軽犯罪法違反の検挙件数は16件(20件、▲20.0%)、検挙人員は12人(18人、▲33.3%)、迷惑防止違反の検挙件数は19件(48件、▲60.4%)、検挙人員は15人(47人、▲68.1%)、暴力団排除条例違反の検挙件数は12件(36件、▲66.7%)、検挙人員は21人(49人、▲57.1%)、銃刀法違反の検挙件数は30件(34件、▲11.8%)、検挙人員は25人(22人、+13.6%)、麻薬等取締法違反の検挙件数は456件(123件、+270.7%)、検挙人員は220人(44人、+400.0%)、大麻草栽培規制法違反の検挙件数は13件(389件、▲96.7%)、検挙人員は6人(230人、▲97.4%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は1090件(1239件、▲12.0%)、検挙人員は643人(785人、▲18.1%)、麻薬等特例法違反の検挙件数は100件(47件、+112.8%)、検挙人員は52人(12人、+333.3%)などとなっています(とりわけ覚せい剤取締法違反や麻薬等取締法違反については、前述のとおり、今後の動向を注視していく必要があります)。なお、参考までに、「麻薬等特例法違反」とは、正式には、「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」といい、覚せい剤・大麻などの違法薬物の栽培・製造・輸出入・譲受・譲渡などを繰り返す薬物ビジネスをした場合は、この麻薬特例法違反になります。なお、法定刑は、無期または5年以上の懲役及び1,000万円以下の罰金で、裁判員裁判になります。

北朝鮮リスクを巡る動向

北朝鮮情報を専門とする韓国メディア「デイリーNK」が運営するシンクタンク「デイリーNKアンドセンター」が、中国で働く北朝鮮出身の労働者らについての調査報告書をまとめています。その内容を報じた毎日新聞によれば、労働者の厳しい人権状況のほか、北朝鮮が新型コロナウイルス対策としての国境封鎖を解除した2023年夏以降も、新たに多くの北朝鮮労働者が中国入りしている実態も確認されたといいます。中国で調査した30人のうち20人はコロナ封鎖の解除後に中国に来た人たちだったといい、本コラムで以前から取り上げているとおり、国連の安全保障理事会は2017年の対北朝鮮の制裁決議で、加盟国に対し、北朝鮮労働者に就労許可を与えることを原則禁止し、2019年末までに本国に送還するよう義務付けましたが、コロナ禍もあり、2023年夏までは北朝鮮側による国境封鎖により送還が物理的に困難な時期ではありました。しかしながら、解除後も多くの北朝鮮労働者を中国が受け入れているとすれば、制裁は完全に骨抜きになっていることになります。また、報告書は労働者に対する劣悪な待遇も明らかにしており、労働者の月給は3000元(約6万1000円)ほどであることに加え、実際に労働者が受け取る賃金はその2割の約600元だったといいます。差額は北朝鮮当局などに上納されているといいます。また金日成主席の誕生日など記念日には別途、金を徴収されるといいます。それでも北朝鮮内の経済状況が厳しいため、中国での出稼ぎを希望する労働者は後を絶たないとされます。ただ、当局の審査を通過するには地元の党幹部や職場の指導員らへの賄賂が必須だといいます。また、工場の外貨獲得目標を達成するために女性労働者が売春させられた事例など深刻な性被害の実態も明らかになっています。また、職場や居住環境も過酷で、労働時間は1日12~14時間、逃走防止のためパスポートや身分証明書などは工場側に奪われ、電話など外部との連絡手段も絶たれ、24時間態勢で監視要員がつくといいます。今回、調査対象となった工場からは米国や韓国など少なくとも15カ国に水産加工品が輸出されており、包装には「中国産」とだけ書かれているものの、その背後の人権侵害は隠されており、強制労働が国際的な供給網に組み込まれていることが明らかになりました。北朝鮮が関与する取引については、CPF(拡散金融対策)の観点から、核・ミサイル開発に資金が使われるリスクがあることに加え、いわゆる「ビジネスと人権」の観点からも「救済」が急務であることが示され、北朝鮮の関与する取引のもつ深刻なリスクの存在を認識すべきだと思います。

なお関連して、米国のトランプ政権が打ち出した、米国際開発局(USAID)など対外援助機関の「解体」方針が、北朝鮮の内情を調査する韓国などの人権団体の活動にも深刻な影響を及ぼしていると報じられています(2025年7月19日付毎日新聞)。米国からの助成金の一部が途絶え、資金不足に陥っているためで、こうした団体が「消滅の危機にある」と専門家らが警鐘を鳴らしているといいます。北朝鮮では内外のメディアが自由な取材、報道をできず、経済状況を含めた内情を知ることは極めて難しいとされます。韓国などの人権団体は、脱北者に対する聞き取り調査や北朝鮮内部から入手した独自情報の公開などを通じて、北朝鮮の人権状況などの実態を国際社会に伝える役割を果たしてきましたが、こうした団体の運営が危機に直面、北朝鮮での拷問や収容所での実態など5万6000人以上の事例のデータベース化を進めてきたNGO団体「北韓(北朝鮮)人権情報センター」(NKDB)の宋韓娜センター長は報道で「私たちを含む多くの団体がこの半年、財政的に困難な状況にある」と語っています。その原因は、トランプ政権の方針で、米国は冷戦期から、経済開発や人道支援だけではなく、国務省の民主主義・人権・労働局(DRL)やUSAID、米政府の財政支援で運営されている非営利組織の「全米民主主義基金(NED)」を通じて、世界各地で民主主義の発展や人権状況の改善に関連する活動を支援しています。世宗研究所(韓国)によると、北朝鮮の人権問題に取り組む韓国などの団体も、米国から年間で合わせて約1000万ドル(約14億8000万円)の助成を受けていますが、「米国第一主義」を掲げるトランプ政権はこうした政策を全面的に否定、2025年1月にDRLの資金を凍結すると表明し、2月にはNEDに割り当てられた予算も差し止め、7月にはUSAID本部を閉鎖しています。

北朝鮮と労働者の関係という点では、北朝鮮IT労働者の問題もあります。直近では、米財務省が、北朝鮮出身のIT技術者の身分を偽り、米企業の遠隔業務を請け負わせて収益を上げたなどとして、北朝鮮国籍の男3人と中国遼寧省の丹東に拠点を持つ貿易会社に制裁を科しています。報道によれば、男らは貿易会社の運営に関わり、ベトナムに拠点を設けた関連会社を使い、北朝鮮出身のIT技術者を米企業の遠隔業務などに従事させていたといいます。貿易会社は朝鮮労働党軍需工業部のフロント企業で、収益は核・ミサイル開発などの外貨収入源になっていたとみられています。

ロシアのウクライナ侵攻の問題では、ロシアと北朝鮮との関係の深化も大きな動きの一つです。北朝鮮国営の朝鮮中央通信(KCNA)は、金正恩朝鮮労働党総書記が訪朝中したロシアのラブロフ外相と会談し、金総書記が両国関係について「同盟関係の水準」にあると評価、「共同の核心的利益を守るための重要問題」や地域情勢についての認識をすり合わせたと報じています。またロシアのウクライナ侵攻については「根源的解決に向けたロシアの全ての措置を無条件に支持する用意がある」と表明しています。北朝鮮は2024年10月以降、ロシアに兵士を派遣しており、追加派兵やウクライナとの和平交渉について協議した可能性があります(北朝鮮は、ロシアのクルスク地方の復興支援に約6000人の軍事・建設部門の技術者を派遣することを約束したとも報じられています)。両氏は2024年6月に締結した包括的戦略パートナーシップ条約締結に基づいて、2国間関係の「全面的な拡大と発展を強く推進する」ことで一致しています。また、露外務省によると、ラブロフ氏はプーチン大統領が「近い将来、(金氏と)直接会うことを期待している」と伝えています。一方、ウクライナ大統領府のイェルマーク長官は、ロシアが北朝鮮にシャヘド型ドローン(無人機)の技術を提供し、製造を支援していると述べています。イェルマーク氏は「ロシアが「シャヘド136」自爆型ドローンの技術を北朝鮮に移転し、生産ラインの設置を支援しているほか、ミサイル開発の交換に関与していることが確認されているとSNSに投稿したものです。この点については、日本の専門家も、1か月ほど前にロシアと北朝鮮の軍事協力が加速していることから、「ロシアが北朝鮮に無人機の製造を委託する可能性がある」との見方を示していました。ロシアと北朝鮮の接近している状況としては、ロシアと北朝鮮の首都を結ぶ直行便が就航したことも挙げられます(定期便としては30年以上ぶりといいます)。

ロシアとの蜜月ぶりの一方で、米国や韓国との関係はかなり深刻化しています。北朝鮮の金総書記の妹、金与正党副部長は、トランプ米大統領が再開に意欲を示す米朝対話を巡り、北朝鮮を「核保有国」と認めることが前提となるとの考えを表明しています。米ホワイトハウス当局者は、トランプ氏が北朝鮮の完全な非核化に向け、金総書記との対話に引き続き意欲を示していると述べていたところでした。金与正氏は、トランプ氏が1期目に金正恩氏と会談した2018~19年と比べ、北朝鮮の「不可逆的な核保有国の地位や能力、地政学的環境が根本的に変わった」と主張、「核保有国の地位を否定しようとするいかなる試みも徹底的に排撃する」と強調しています(「地政学的環境」の変化とは、ロシアと北朝鮮の軍事協力の深化を指すとみられます)。今回の談話には、北朝鮮を「核保有国だ」と言及したこともあるトランプ氏の出方を探る思惑があるともみられています。金与正氏は米朝両首脳の「個人的関係は悪くない」としながらも、この関係を通じて非核化を目指すのは「愚弄」になると指摘、「核を保有する2つの国家が対決的な方向へ進むのは決して互いの利益にならない」と強調しています。非核化の問題を巡っては、トランプ氏は1期目の2018~19年に金総書記と3回会談しましたが、2019年2月のハノイでの会談は非核化の進め方を巡って決裂した経緯があります。その後、北朝鮮は核・ミサイル開発を加速し、2023年には憲法に「核保有国として核戦力を高度化する」と明記すると決めたことは本コラムで注視してきたとおりです。

韓国については、金与正氏の談話で、韓国の李在明政権との対話を拒否する立場を明らかにしています。北朝鮮との対話を模索する李政権が2025年6月に発足して以降、北朝鮮が南北政策に関して公式の立場を示すのは初めてとなります。金与正氏は談話で、「我々はソウルでいかなる政策や提案が出てこようと興味がなく、韓国と向き合うことも、議論する問題もない」と強調、また、韓国軍が軍事境界線で行ってきた拡声機による宣伝放送を李政権が中止したことについて、「やるべきではなかったことを元に戻したに過ぎない。評価されるようなことにはならない」と切り捨て、その上で、「李政府がいくら同族のまねをして、正義を尽くすかのように騒ぎ立てても、韓国を敵とする我々の国家の認識に変化はあり得ない。朝韓関係の性格を根本的に変えた歴史の時計の秒針を逆戻りさせることはできない」、「韓国は絶対に和解と協力の対象にはなり得ないという極めて重大な歴史的結論に到達できた」とし、「同族」という関係性を脱却したと主張しています(本コラムでも取り上げたとおり、金総書記は2023年12月、南北を「敵対的な2国家関係」と位置付け、平和的な統一を目指す従来の方針から転換しています)。李政権は、保守系の尹錫悦前政権で悪化した北朝鮮との関係の改善を訴え、就任直後に北朝鮮向けの宣伝放送を中止するなど、金総書記に秋波を送り続けていますが、与正氏はこれを「評価されることではない」と切り捨てた形ですが、それでも、李大統領は「平和的な雰囲気の中で韓国と北韓(北朝鮮)の信頼の回復が重要だ」と述べ、引き続き北朝鮮側に対話を呼びかける考えを示しています。金与正氏は李政権について「韓米同盟に対する妄信と、(北朝鮮との)対決構図は前任者と少しも変わらない」と指摘し、2025年8月に予定される米韓合同軍事演習を強く批判しています。

中国との関係は微妙な状況が続いているように見えますが、金総書記は、朝鮮戦争(1950~53年)の休戦協定締結から72年となるのを前に、中国人民義勇軍の参戦をたたえる友誼塔を訪れて「戦闘での功績は永遠に忘れない」と述べています(2024年の訪問時には言及があった中朝の「血盟」や友好関係には触れられませんでした)。

米国とイスラエルがイランの核施設を攻撃したこともあり、イランと北朝鮮との関係についても注目する必要がありそうです。イランと北朝鮮は従来、ミサイルや核開発などで協力関係にあると言われてきました。東アジアの安全保障に詳しい、バルイラン大学(イスラエル)のアロン・レフコウィッツ・アジア研究学部長は今後、イランが核不拡散条約(NPT)から脱退する事態や、北朝鮮に「代理の核実験」を要請する可能性などが考えられると語っています(朝日新聞)。北朝鮮はイランの代理勢力に武器を売っており、北朝鮮は中東での紛争を、自国の軍事産業にとっての好機と考えているとされます。イランに対する今回の攻撃が、北朝鮮に対して、自らを守るためには核兵器を保持する必要があるという教訓を与えた可能性があります。

KCNAは、3隻目となる5000トン級の新型駆逐艦を2026年10月までに同国西部の南浦市の造船所で建造することが決まったと報じています。造船所で関係者が決起集会を開き、建造の開始を宣言したといいます。北朝鮮は2025年、5000トン級の新型駆逐艦を2隻進水させ、金総書記は同級かそれ以上の駆逐艦を毎年2隻建造する計画を明らかにしていました。一方、北東部の羅津造船所で建造された2隻目は一時、海面に横倒しになる事故が起きたことはすでに紹介したとおりです(その後、あらためて無事進水しました)。

3.暴排条例等の状況

(1)暴力団排除条例の改正(新潟県)

改正新潟県暴力団排除条例(暴排条例)が2025年8月1日に施行されました。飲食店などの特定営業者が暴力団にみかじめ料を払うことなどを禁じる「特別強化区域」に、新たに上越市の一部を加えることなどが柱で、暴力団の資金源の一部になっているとされるトクリュウ対策の強化も狙うとしています。新潟県暴排条例が施行された2011年の同県内の暴力団構成員らは約1150人だったところ、2024年末時点では約500人まで減少、全国的にも減少傾向が続いていますが、依然として暴力団が関与する事件が後を絶たないことから「まだまだ排除の余地がある」として改正されたものです。社会情勢の変化に応じて適宜改正を続ける姿勢は素晴らしいものですし、今回の改正では、筆者としてはとりわけ「特定営業の拡大」としてすべての飲食店にまで規制対象を拡げたこと、さらには「暴力団排除活動に対する妨害行為の規制の新設」が加えられたことは大変高く評価したいと思います。他の自治体も、継続的な見直しに取り組んでほしいと思います。

▼新潟県暴力団排除条例の改正概要
  • 第1 新潟県暴力団排除条例の改正の必要性
    • 新潟県では、平成23年に新潟県暴力団排除条例を施行し、さまざまな暴力団排除活動を推進しておりますが、いまだに一部の飲食店や風俗店等の事業者の中には、暴力団に利益を供与しているなどの実態が確認されております。
    • 条例では、暴力団排除の基本理念を定め、県民の責務を明らかにするとともに、必要な規制を設けておりますが、県民の安心で安全な社会生活を確保するため、暴力団を取り巻く社会情勢の変化に合わせた、さらなる規制の強化が求められていることから、この度、以下の改正を行います。
  • 第2 新潟県暴力団排除条例の改正概要
    1. 暴力団排除特別強化区域の拡大及び規制の強化
      1. 条例では、新潟市(新潟駅周辺地区・古町地区)、長岡市(長岡駅周辺地区)を暴力団排除特別強化区域に指定し、区域内で営業する風俗営業等の特定営業者が、暴力団に対し、用心棒を頼んだり、みかじめ料や用心棒料を支払ったりすることを禁じていますが、この度、飲食店や風俗店等が多く存在する上越市の「高田地区」と「直江津地区」も新たに追加することとします。
        • 上越市仲町1丁目から6丁目までの区域/上越市本町1丁目から7丁目までの区域/上越市西本町1丁目から4丁目までの区域/上越市中央1丁目から5丁目までの区域/上越市住吉町の区域
      2. 特定営業の対象拡大
        • 暴力団排除特別強化区域における特定営業について、これまで深夜営業に限っていた飲食店営業を、全ての飲食店営業に対象を広げるとともに、新たに風俗案内所営業及び客引き・スカウト行為を対象に追加します。
      3. 禁止行為の拡大
        • 暴力団排除特別強化区域において、これまでの規制に加え、暴力団員が特定営業に従事することや、特定営業者が暴力団員を特定営業に従事させることを禁止します。違反した者には罰則(1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)が科されます。
    2. 祭礼等からの暴力団排除の規制を新設
      • 【祭礼等の主催者等の義務等(第12条の2)】
        1. 祭礼等における禁止行為
          • 祭礼、縁日、花火大会等(以下「祭礼等」といいます。)の主催者が、祭礼等の運営に暴力団の威力を利用したり、暴力団から利益の供与を受けたりすることのほか、暴力団員、又は暴力団員から指定された者を祭礼等の運営に関与させたり、それらの者に露店を出店させたりすることを禁止します。公安委員会は、違反が疑われる場合には、調査や立入検査を実施し、違反した者に対しては、勧告や公表を実施します。
        2. 露店出店者による利益供与の禁止
          • 祭礼等に出店する露店出店者が暴力団員、又は暴力団員から指定された者に利益を供与することを禁止するとともに、暴力団員、又は暴力団員から指定された者が露店出店者から利益の供与を受けることを禁止します。公安委員会は、違反が疑われる場合には、調査や立入検査を実施し、違反した者に対しては、勧告や公表を実施します。
        3. 祭礼等の主催者の義務
          • 祭礼等の主催者は、暴力団排除に関する規約や露店出店者の募集に関する要領を定めるとともに、露店出店者に暴力団員でないことを誓約させるなど、暴力団排除のための必要な措置を講じなければならないものとします。
    3. 他人の名義利用に対する規制を新設
      • 【他人の名義の利用の禁止(第12条の3)】
        • 暴力団員の事実を隠蔽するため、暴力団員が他人の名義を利用することを禁止します。
        • また、何人も暴力団員に対して自己の名義を利用させることを禁止します。
        • 公安委員会は、これらの違反が疑われる場合には、調査や立入検査を実施し、違反した者に対しては、勧告や公表を実施します。
    4. 青少年に対する禁止行為の規制を新設
      • 【青少年に対する禁止行為(第15条の2)】
        • 暴力団員が、青少年を暴力団事務所に立ち入らせることや、暴力団に加入させるために青少年に面会を要求することなどを禁止します。違反した者に対しては、公安委員会から中止命令や再発防止命令が発出されるとともに、命令に違反した者には罰則(6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)が科されます。
    5. 暴力団事務所の開設及び運営に対する規制を強化
      • 【暴力団事務所の開設及び運営の禁止(第16条)】
        1. 保護対象施設に都市公園を追加
          • 暴力団事務所について、学校、公民館及び図書館等の保護対象施設の周囲200メートルでの開設や運営を禁止しているところ、新たに都市公園法(第2条第1項)で定める都市公園を追加します。
        2.  住居地域等における暴力団事務所の開設や運営の禁止
          • 暴力団事務所について、都市計画法(第8条第1項第1号)で定める住居地域、商業地域及び工業地域(工業専用地域を除きます。)での開設や運営を新たに禁止します。違反した者に対しては、公安委員会から中止命令や再発防止命令が発出されるとともに、命令に違反した者には罰則(1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)が科せられます。
          • 令和7年8月1日の条例改正前に開設された暴力団事務所について、本条例は適用されません。ただし、既にあった暴力団事務所が、別の暴力団の事務所となった場合はこの限りではありません。
    6. 暴力団排除活動に対する妨害行為の規制を新設
      • 【暴力団排除等の妨害の禁止(第16条の2)】
        • 暴力団を離脱した者の就労支援や、暴力団員の施設利用を拒否するなど、暴力団排除活動を行う者やその親族等に対し、威迫したり、つきまとったりするなど不安を覚えさせるような方法で妨害することを禁止します。違反した者に対しては、公安委員会から中止命令や再発防止命令が発出されるとともに、命令に違反した者には罰則(1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)が科されます。
    7. 立入検査の規定を新設
      • 【立入検査(第20条の2)】
        • 条例違反が疑われる場合で、説明や資料の提出を求める調査では明らかにすることができないと認める場合には、警察職員に、暴力団事務所等に立ち入らせて検査させたり、質問させたりすることができるものとします。この立入検査を拒んだり、妨げたり、質問に対して答えなかったりした者には罰則(20万円以下の罰金)が科されます。
    8. 命令の規定を新設
      • 【命令(第22条の2)】
        • 青少年に対する禁止行為、住居地域等における暴力団事務所の開設や運営にかかる禁止行為及び暴力団排除活動に対する妨害行為に違反した者に対しては、公安委員会から中止命令や再発防止命令を発出できるものとします。この命令に違反した者には罰則(※)が科されます。
        • (※)青少年に対する禁止行為については6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金、住居地域等における暴力団事務所の開設や運営にかかる禁止行為及び暴力団排除活動に対する妨害行為については1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金

(2)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(神奈川県)

神奈川県警暴力団対策課と横須賀署などは、神奈川県暴排条例違反の疑いで、稲川会傘下組織組長、稲川会傘下組織幹部、会社員の男3人を逮捕しています。報道によれば、2024年11月、横須賀市内で、同条例で暴力団排除特別強化地域と定められている同市若松町1丁目の社交飲食店の男性経営者から、用心棒料やみかじめ料として、会社員を介して現金1万円の供与を受けたものです。男性は約10年前からみかじめ料を払っていたとみられ、別の暴力団員とのトラブルを組長と幹部に相談したところ「解決するには200万円必要」などと言われたため、県警に相談していたといいます。

▼神奈川県暴排条例

同条例において、社交飲食店の経営者については、第26条の3(特定営業者の禁止行為)第2項において、「特定営業者は、暴力団排除特別強化地域における特定営業に関し、暴力団員に対し、用心棒の役務の提供を受けることの対償又は当該営業を営むことを暴力団員が容認することの対償として利益の供与をしてはならない」と規定され、第32条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」として、「(3)相手方が暴力団員であることの情を知って、第26条の3の規定に違反した者」が規定されています。また、暴力団員については、第26条の4(暴力団員の禁止行為)第2項において、「暴力団員は、暴力団排除特別強化地域における特定営業に関し、特定営業者から、用心棒の役務の提供をすることの対償又は当該営業を営むことを容認することの対償として利益の供与を受けてはならない」と規定され、第32条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」として、「(4)第26条の4の規定に違反した者」が規定されています。

(3)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(大分県)

2025年5月、大分市都町の飲食店で女性社員に因縁をつけ、「みかじめ料」を要求したとして、大分県警は飲食店経営の35歳の男に中止命令を発出しています。報道によれば、男は2025年5月下旬、大分市都町にある飲食店の女性社員に対し、因縁をつけたうえで、「みかじめ料」として毎月6万円を支払うよう要求、男は六代目山口組傘下組織の組員と一定の関係にあり、女性社員と顔見知りだったということです。警察は今後、不当な要求行為を行わせないため、暴力団対策法に基づき中止命令を発出したものです。男は2024年6月、暴力団組員が客引きをしていた男性に不当に現金を要求した現場に立ち会っていて、中止命令を受けていました。

▼ 暴力団対策法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)

「準暴力的要求行為」とは、指定暴力団員以外の者が、指定暴力団員の行う暴力的要求行為と同様に、暴力団の威力を示して暴力団対策法第9条に掲げる不当な要求行為(27類型)を行うことをいいます。本件行為は、暴力団対策法第九条(暴力的要求行為の禁止)において、「指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない」として、「二人に対し、寄附金、賛助金その他名目のいかんを問わず、みだりに金品等の贈与を要求すること」に該当するものと思われます。そのうえで、暴力団対策法第十二条の五(準暴力的要求行為の禁止)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、当該各号に定める指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等に係る準暴力的要求行為をしてはならない」として、「4ハ当該指定暴力団等の威力を示すことを常習とする者で前三号のいずれかに該当するもの」が規定されています。そして、第十二条の六(準暴力的要求行為に対する措置)において、「公安委員会は、前条の規定に違反する準暴力的要求行為が行われており、その相手方の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認める場合には、当該準暴力的要求行為をしている者に対し、当該準暴力的要求行為を中止することを命じ、又は当該準暴力的要求行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる」と規定しています。

(4)暴力団関係事業者に対する指名停止措置等事例(福岡県)

久しぶりとなりますが、福岡県、福岡市、北九州市において、1社について「排除措置」が講じられ、公表されています。

▼ 暴力団関係事業者に対する指名停止措置等一覧表
▼福岡市 競争入札参加資格停止措置及び排除措置一覧
▼北九州市 福岡県警察からの暴力団との関係を有する事業者の通報について

福岡県における「排除措置」とは、福岡県建設工事競争入札参加資格者名簿に登載されていない業者に対し、一定の期間、県発注工事に参加させない措置で、この期間は、県発注工事の、(1)下請業者となること、(2)随意契約の相手方となること、ができないことになります。今回、「役員等又は使用人が、暴力的組織又は構成員等と密接な交際を有し、又は社会的に非難される関係を有している」(福岡県)、「暴力団との関係による」(福岡市)、「該当業者の役員等が、暴力団構成員(指定暴力団五代目工藤會構成員等)と「密接な交際を有し、又は社会的に非難されるべき関係を有していると認められるとき」に該当する事実があることを確認した」(北九州市)」として公表されています。なお、本件については排除期間に差異があり、「令和7年8月1日から令和9年1月31日まで(18ヵ月間)」(福岡県)、「令和7年7月18日から令和8年7月17日まで(12カ月)」(福岡市)、「令和7年7月24日から18月を経過し、かつ、暴力団又は暴力団関係者との関係がないことが明らかな状態になるまで」(北九州市)と示されています(排除期間の開始日が自治体によって異なる点も注目されます)。これまでも指摘しているとおり、3つの自治体で、公表のあり方、措置内容等がそれぞれ明確となってはいるものの、公表のタイミングや措置内容等が異なっており、大変興味深いといえます。

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