暴排トピックス

密接交際認定と社名公表措置~慎重さと公益のはざまで

2024.03.11
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首席研究員 芳賀 恒人

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ハンマーに焦点を当て、ほこりで覆われた裁判官テーブル上のファイルのグループ – 未解決の古い事件や司法裁判所での仕事のコンセプト

1.密接交際認定と社名公表措置~慎重さと公益のはざまで

以前の本コラムで取り上げ、その動向を注視していましたが、暴力団組員との密接交際を認定され、福岡県暴力団排除条例(暴排条例)に基づく排除措置で、会社名を公表されたのは不当だとして、福岡市の元社長が同県などに措置の取り消しなどを求めた訴訟の判決が2024年3月に福岡地裁で言い渡されることとなりました。訴訟では元社長側は警察から違法な取り調べを受け、組員だと知っていたと虚偽の自白をしたと主張し、県側は違法な調べはなく、組員と認識していたと反論、排除措置の適法性が争われた訴訟は初めてとみられ、司法判断が注目されます。本件については、2024年2月29日付読売新聞の記事「暴力団組員と「密接交際」認定、会社名公表され倒産…元社長「組員と知らず」「違法な取り調べ」主張」に詳しく報じられています。具体的には、「訴訟で、元社長側は、交流していたこと自体は争っておらず、〈1〉違法な取り調べがあったかどうか〈2〉元社長が組員と認識していたか―が主な争点。元社長側は、この組員が立件された事件の参考人として県警博多署で事情を聞かれた際、警察官から利益誘導的な調べを受け、「組員と知っていた」と虚偽の自白をしたと主張。本人尋問で、組員とは異業種交流会で知り合い、食事会に行くなどしたことを説明したが、「組員とは知らなかった」と訴えた。組員も出廷し、「自分が組関係者という話をしたことはない」と証言した。一方、元社長を聴取した警察官は証人尋問で「自白を迫ったことはない」と強調。県側は、他の食事会参加者の「組員であることは参加者全員が知っている」などとする供述や、組員の経営する飲食店を元社長が利用していたことなどを踏まえ、「組員であることを知らなかったとは考えられない」と反論している。元社長側は、県側から通報や公表に関する事前の説明がなく、反論の機会がなかったとも訴えているが、県側は排除措置は行政処分には当たらないとして、事前の説明などは必要ないとしている。元社長は取材に対し、「うその供述をした当時はそれがどうなるかわかっていなかった。まさか会社が倒産することになるなんて」と語り、県警は「訴訟中なので、コメントは差し控える」としている」というものです。さらに、本件については、筆者も交流のある元日本弁護士連合会民事介入暴力対策委員会副委員長の堀内恭彦弁護士(福岡県弁護士会)のコメントが掲載されており、「密接交際は暴力団の活動を助長する行為のため、排除措置や公表自体は意義あるものだ。一方、認定に至る調査は慎重さと正確性が求められる」と強調。その上で、「今回の訴訟は、裁判所が、警察による調査の客観性や自白の信用性をどう判断するかが鍵。県側が勝てば、現状の運用に理解が得られたこととなり、暴力団排除の後押しとなる。原告側が勝てば、県警は運用の見直しなどを検討する必要性が出てくるだろう」と指摘しており、筆者としても同様に考えています。そもそも「密接交際」の認定については、企業の反社リスク対策にとっては警察への照会が重要なポイントとなるところ、警察も「立証責任」の観点から情報提供に慎重になっていることはやむを得ないとしても、なかなか思うような情報を頂けないもどかしさを感じていることも事実です。今回の訴訟の中で、排除措置の適法性もそうですが、「情を知って」の部分をどのように立証していくのかが大変興味深いところです。なお、本記事において、「同県警は条例が施行された2010年からこれまでに110件を自治体に通報。排除措置や指名停止を受けた事業者は今月27日時点で計178社に上り、公表して間もなく解散した事業者も複数出ている。鹿児島大の宇那木正寛教授(行政法)は「インターネット社会では情報が拡散されやすく、事業者名の公表などは結果的に社会的制裁となる可能性がある。今回の判決内容によっては、事業者側の弁解、防御などの機会を与えることも検討すべきだ」と指摘する」との部分についても、重要なポイントだと感じています。筆者としては、公表される前にすでに社名を変える、役員を全て入れ替えるなどした事業者が存在する(新規で取引する相手には公表されている会社だと認識されない可能性もある)ことも知っています。一方で、本件において会社が倒産し、再就職のための活動を余儀なくされた従業員が、面接等で「おたくも反社と関係があるのか」などの嫌がらせを受けた、再就職に苦労したといった話も漏れ聞こえているところでもあります。反社リスクは企業の存続と従業員の人生に極めて重大な影響を及ぼす大きなリスクであることをあらためて認識すべきであるとともに、その処分の妥当性・公正性・正確性が十分に担保されたうえでの制度運用であるべきだとも強く思っています。

「密接交際」認定の難しさに関連して、直近(2024年2月26日付)で、警察による情報提供に関する内部通達が更新されていますので、以下、あらためて紹介します。部外への情報提供の仕組み自体に大きな変更はありませんが、「匿名・流動型犯罪グループ」についての言及がなされている点が大きなポイントとなります。ただし、「暴力団員等」については、「暴力団員、暴力団準構成員、元暴力団員、共生者、暴力団員と社会的に非難されるべき関係を有する者、総会屋及び社会運動等標ぼうゴロをいう」と従来と同様の定義となっており、「匿名・流動型犯罪グループ」がストレートに情報提供の範囲となっているとは言えないと考えられます。可能性としては、「共生者」や「暴力団員と社会的に非難されるべき関係を有する者」あたりに該当する場合も否定できませんが、情報提供にあたっての注意点(取扱い)として、それぞれ「共生者については、暴力団への利益供与の実態、暴力団の利用実態等共生関係を示す具体的な内容を十分に確認した上で、具体的事案ごとに情報提供の可否を判断すること」、「暴力団員と社会的に非難されるべき関係」とは、例えば、暴力団員が関与している賭博等に参加している場合、暴力団が主催するゴルフコンペや誕生会、還暦祝い等の行事等に出席している場合等、その態様が様々であることから、当該対象者と暴力団員とが関係を有するに至った原因、当該対象者が相手方を暴力団員であると知った時期やその後の対応、暴力団員との交際の内容の軽重等の事情に照らし、具体的事案ごとに情報提供の可否を判断する必要があり、暴力団員と交際しているといった事実だけをもって漫然と「暴力団員と社会的に非難されるべき関係にある者である」といった情報提供をしないこと」と慎重な取り扱いが求められており、情報提供おハードルはかなり高いと考えられます。なお、そもそもですが、本情報提供にあたっては、「暴力団情報については、警察は厳格に管理する責任を負っていることから、情報提供によって達成される公益の程度によって、情報提供の要件及び提供できる範囲・内容が異なってくる」として、「提供の必要性」として、(1)条例上の義務履行の支援に資する場合その他法令の規定に基づく場合、(2)暴力団による犯罪、暴力的要求行為等による被害の防止又は回復に資する場合、(3)暴力団の組織の維持又は拡大への打撃に資する場合があげられているほか、さらに「適正な情報管理」が求められています。さらには、「提供する暴力団情報の範囲」として「条例上の義務を履行するために必要な範囲で情報を提供するものとする」として「まずは、情報提供の相手方に対し、契約の相手方等が条例に規定された規制対象者等の属性のいずれかに該当する旨の情報を提供すれば足りるかを検討すること」など、かなり慎重な運用が求められている点をあらためて認識する必要があります(匿名・流動型犯罪グループが、果たして条例上の義務を履行するために必要な範囲にあたるのかについても、ストレートには判断できるものとは言えないと思われます)。新規取引などは、「提供の必要性」を満たすものではありません(新規取引するかどうかは企業が自立的・自律的に判断すべきもの)し、情報を提供されたら「関係を解消する」ことがマストである(それが公益に資するという意味)点を十分認識すべきことなども指摘しておきたいと思います。

▼警察庁 暴力団排除等のための部外への情報提供について(通達)
  • 暴力団情報については、法令の規定により警察において厳格に管理する責任を負っている一方、一定の場合に部外へ提供することによって、暴力団による危害を防止し、その他社会から暴力団を排除するという暴力団対策の本来の目的のために活用することも当然必要である。
  • 各都道府県においては、暴力団排除条例(以下「条例」という。)が施行され、事業者が一定の場合に取引等の相手方が暴力団員・元暴力団員等に該当するかどうかを確認することが義務付けられるとともに、暴力団が資金獲得のために介入するおそれのある建設・金融等の業界を中心として、暴力団員に加え、元暴力団員等を各種取引から排除する仕組みが構築されている。一方、暴力団は、暴力団関係企業や暴力団と共生する者のほか、最近では匿名・流動型犯罪グループを通じて様々な経済取引に介入して資金の獲得を図るなど、その組織又は活動の実態を多様化・不透明化させている。
  • このような情勢を受けて、事業者からのこれらの者に関する情報提供についての要望は依然として高く、条例においても事業者等に対し、必要な支援を行うことが都道府県の責務として規定されているところである。
  • 暴力団情報の部外への提供については、「暴力団排除等のための部外への情報提供について」(平成31年3月20日付け警察庁丙組企分発第105号、丙組暴発第7号)に基づき行っているところであるが、以上のような情勢に的確に対応し、社会からの暴力団の排除を引き続き推進するため、下記のとおりとするので、その対応に遺漏のないようにされたい。
  • なお、上記通達は廃止する。
  • 基本的な考え方
    1. 組織としての対応の徹底
      • 暴力団情報の提供については、個々の警察官が依頼を受けて個人的に対応するということがあってはならず、必ず、提供の是非について、第6の2に定めるところにより、警察本部の暴力団対策主管課長又は警察署長の責任において組織的な判断を行うこと。
    2. 情報の正確性の確保
      • 暴力団情報を提供するに当たっては、第4の1に定めるところにより、必要な補充調査を実施するなどして、当該情報の正確性を担保すること。
    3. 情報提供に係る責任の自覚
      • 情報の内容及び情報提供の正当性について警察が立証する責任を負わなければならないとの認識を持つこと。
    4. 情報提供の正当性についての十分な検討
      • 暴力団員等の個人情報の提供については、個人情報の保護に関する法律の規定に従って行うこと。特に、相手方が行政機関以外の者である場合には、法令の規定に基づく場合のほかは、当該情報が暴力団排除等の公益目的の達成のために必要であり、かつ、警察からの情報提供によらなければ当該目的を達成することが困難な場合に行うこと。
  • 第2 積極的な情報提供の推進
    1. 暴力団犯罪の被害者の被害回復訴訟において組長等の使用者責任を追及する場合や、暴力団事務所撤去訴訟等暴力団を実質的な相手方とする訴訟を支援する場合は、特に積極的な情報提供を行うこと。
    2. 債権管理回収業に関する特別措置法及び廃棄物の処理及び清掃に関する法律のように提供することができる情報の内容及びその手続が法令により定められている場合又は他の行政機関、地方公共団体その他の公共的機関との間で暴力団排除を目的として暴力団情報の提供に関する申合せ等が締結されている場合には、これによるものとする。暴力団排除を目的として組織された事業者団体その他これに準ずるものとの間で申合せ等が締結されている場合についても、同様とする。なお、都道府県警察においてこの申合せ等を結ぶ場合には、事前に警察庁刑事局組織犯罪対策部組織犯罪対策第一課と協議するものとする。
    3. 第2の1又は2以外の場合には、条例上の義務履行の支援、暴力団に係る被害者対策、資金源対策の視点や社会経済の基本となるシステムに暴力団を介入させないという視点から、第3に示した基準に従いつつ、可能な範囲で積極的かつ適切な情報提供を行うものとする。
    4. 都道府県暴力追放運動推進センター(以下「センター」という。)に対して相談があった場合にも、同様に第3に示した基準に従い判断した上で、必要な暴力団情報をセンターに提供し、センターが相談者に当該情報を告知することとする。
  • 第3 情報提供の基準
    • 暴力団情報については、警察は厳格に管理する責任を負っていることから、情報提供によって達成される公益の程度によって、情報提供の要件及び提供できる範囲・内容が異なってくる。
    • そこで、以下の1、2及び3の観点から検討を行い、暴力団対策に資すると認められる場合は、暴力団情報を当該情報を必要とする者に提供すること。
      1. 提供の必要性
        1. 条例上の義務履行の支援に資する場合その他法令の規定に基づく場合
          • 事業者が、取引等の相手方が暴力団員、暴力団準構成員、元暴力団員、共生者、暴力団員と社会的に非難されるべき関係を有する者等でないことを確認するなど条例上の義務を履行するために必要と認められる場合には、その義務の履行に必要な範囲で情報を提供するものとする。その他法令の規定に基づく場合についても、当該法令の定める要件に従って提供するものとする。
        2. 暴力団による犯罪、暴力的要求行為等による被害の防止又は回復に資する場合
          • 情報提供を必要とする事案の具体的内容を検討し、被害が発生し、又は発生するおそれがある場合には、被害の防止又は回復のために必要な情報を提供するものとする。
        3. 暴力団の組織の維持又は拡大への打撃に資する場合
          • 暴力団の組織としての会合等の開催、暴力団事務所の設置、加入の勧誘、名誉職への就任や栄典を受けること等による権威の獲得、政治・公務その他一定の公的領域への進出、資金獲得等暴力団の組織の維持又は拡大に係る活動に打撃を与えるために必要な場合、その他暴力団排除活動を促進する必要性が高く暴力団の組織の維持又は拡大への打撃に資する場合には、必要な情報を提供するものとする。
      2. 適正な情報管理
        • 情報提供は、その相手方が、提供に係る情報の悪用や目的外利用を防止するための仕組みを確立している場合、提供に係る情報を他の目的に利用しない旨の誓約書を提出している場合、その他情報を適正に管理することができると認められる場合に行うものとする。
      3. 提供する暴力団情報の範囲
        1. 第3の1(1)の場合
          • 条例上の義務を履行するために必要な範囲で情報を提供するものとする。
          • この場合において、まずは、情報提供の相手方に対し、契約の相手方等が条例に規定された規制対象者等の属性のいずれかに該当する旨の情報を提供すれば足りるかを検討すること。
        2. 第3の1(2)及び(3)の場合
          • 次のア、イ、ウの順に慎重な検討を行う。
            • (ア)暴力団の活動の実態についての情報(個人情報以外の情報)の提供
              • 暴力団の義理掛けが行われるおそれがあるという情報、暴力団が特定の場所を事務所としているという情報、傘下組織に係る団体の名称等、個人情報以外の情報の提供によって足りる場合には、これらの情報を提供すること。
            • (イ)暴力団員等該当性情報の提供
              • 上記アによって公益を実現することができないかを検討した上で、次に、相談等に係る者の暴力団員等(暴力団員、暴力団準構成員、元暴力団員、共生者、暴力団員と社会的に非難されるべき関係を有する者、総会屋及び社会運動等標ぼうゴロをいう。以下同じ。)への該当性に関する情報(以下「暴力団員等該当性情報」という。)を提供することを検 討する。
            • (ウ)上記イ以外の個人情報の提供
              • 上記イによって公益を実現することができないかを慎重に検討した上で、それでも公益実現のために必要であると認められる場合には、住所、生年月日、連絡先その他の暴力団員等該当性情報以外の個人情報を提供する。
              • なお、前科・前歴情報は、そのまま提供することなく、被害者等の安全確保のために特に必要があると認められる場合に限り、過去に犯した犯罪の態様等の情報を提供すること。また、顔写真の交付は行わないこと。
  • 第4 提供する暴力団情報の内容に係る注意点
    1. 情報の正確性の確保について
      • 暴力団情報を提供するに当たっては、その内容の正確性が厳に求められることから、必ず警察本部の暴力団対策主管課等に設置された警察庁情報管理システムによる暴力団情報管理業務により暴力団情報の照会を行い、その結果及び必要な補充調査の結果に基づいて回答すること。
    2. 指定暴力団以外の暴力団について
      • 指定暴力団以外の暴力団のうち、特に消長の激しい規模の小さな暴力団については、これが暴力団、すなわち「その団体の構成員が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体」(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第2条第2号)に該当することを明確に認定できる資料の存否につき確認すること。
    3. 暴力団準構成員及び元暴力団員等の場合の取扱い
      1. 暴力団準構成員
        • 暴力団準構成員については、当該暴力団準構成員と暴力団との関係の態様及び程度について十分な検討を行い、現に暴力団又は暴力団員の一定の統制の下にあることなどを確認した上で、情報提供の可否を判断すること。
      2. 元暴力団員
        • 現に自らの意思で反社会的団体である暴力団に所属している構成員の場合と異なり、元暴力団員については、暴力団との関係を断ち切って更生しようとしている者もいることから、過去に暴力団員であったことが法律上の欠格要件となっている場合や、現状が暴力団準構成員、共生者、暴力団員と社会的に非難されるべき関係にある者、総会屋及び社会運動等標ぼうゴロとみなすことができる場合は格別、過去に暴力団に所属していたという事実だけをもって情報提供をしないこと。
      3. 共生者
        • 共生者については、暴力団への利益供与の実態、暴力団の利用実態等共生関係を示す具体的な内容を十分に確認した上で、具体的事案ごとに情報提供の可否を判断すること
      4. 暴力団員と社会的に非難されるべき関係にある者
        • 「暴力団員と社会的に非難されるべき関係」とは、例えば、暴力団員が関与している賭博等に参加している場合、暴力団が主催するゴルフコンペや誕生会、還暦祝い等の行事等に出席している場合等、その態様が様々であることから、当該対象者と暴力団員とが関係を有するに至った原因、当該対象者が相手方を暴力団員であると知った時期やその後の対応、暴力団員との交際の内容の軽重等の事情に照らし、具体的事案ごとに情報提供の可否を判断する必要があり、暴力団員と交際しているといった事実だけをもって漫然と「暴力団員と社会的に非難されるべき関係にある者である」といった情報提供をしないこと。
      5. 総会屋及び社会運動等標ぼうゴロ
        • 総会屋及び社会運動等標ぼうゴロについては、その活動の態様が様々であることから、漫然と「総会屋である」などと情報を提供しないこと。
        • 情報提供が求められている個別の事案に応じて、その活動の態様について十分な検討を行い、現に活動が行われているか確認した上で情報を提供すること。
      6. 暴力団の支配下にある法人
        • 暴力団の支配下にある法人については、その役員に暴力団員等がいることをもって漫然と「暴力団の支配下にある法人である」といった情報提供をするのではなく、役員等に占める暴力団員等の比率、当該法人の活動実態等についての十分な検討を行い、現に暴力団が当該法人を支配していると認められる場合に情報を提供すること。
  • 第5 情報提供の方式
    1. 第3の1(1)による情報提供を行うに当たっては、その相手方に対し、情報提供に係る対象者の住所、氏名、生年月日等が分かる身分確認資料及び取引関係を裏付ける資料等の提出を求めるとともに、提供に係る情報を他の目的に利用しない旨の誓約書の提出を求めること
    2. 情報提供の相手方に守秘義務がある場合等、情報の適正な管理のために必要な仕組みが整備されていると認められるときは、情報提供を文書により行ってよい。これ以外の場合においては、口頭による回答にとどめること
    3. 情報提供は、原則として、当該情報を必要とする当事者に対して、当該相談等の性質に応じた範囲内で行うものとする。ただし、情報提供を受けるべき者の委任を受けた弁護士に提供する場合その他情報提供を受けるべき者本人に提供する場合と同視できる場合はこの限りでない。

関連して、特殊詐欺への対応として、いわゆる悪質な「名簿屋」に関する実態について、個人情報保護委員会に情報を提供することがあるとする通達も同時期(2024年2月14日付)に発出されていましたので、あわせて紹介します。

▼警察庁 悪質な名簿業者等把握時の個人情報保護委員会への情報提供について
  • (概要)
    • 特殊詐欺事件において暴力団や匿名・流動型犯罪グループ(以下「犯罪組織」という。)が特殊詐欺のターゲットを選定するに際しては、氏名や住所等の個人情報がリスト化された名簿を用いている状況がうかがえる。
    • 犯罪組織に名簿を提供する悪質な名簿業者等に対するあらゆる法令を駆使した取締りの推進については、「SNSで実行犯を募集する手口による強盗や特殊詐欺事案に関する急対策プラン」(令和5年3月17日犯罪対策閣僚会議決定)において、実行を容易にするツールを根絶するための対策として推進することとされている
    • 特殊詐欺の用に供されるおそれがあることを知りながら、名簿を犯罪組織に販売する名簿業者を含む個人情報取扱事業者(以下「名簿業者等」という。)の知情性が明らかな場合は、詐欺ほう助等での事件化が見込めるが、個人データ(個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号、以下「個人情報保護法」という。)第16条第3項)の第三者提供の制限等を規定する個人情報保護法においては、当該関係規定に違反しても直罰規定はなく、名簿業者等を監視・監督する個人情報保護委員会による命令等の行政上の措置に従わない場合に同法の罰則が適用され得ることになる(間接罰)
    • そこで、都道府県警察における特殊詐欺事件の捜査過程で悪質な名簿業者等を把握した場合には、個人情報保護委員会における行政上の措置の前提となり得る当該名簿業者等の実態把握に資するため、悪質な名簿業者等の実態について、個人情報保護委員会に対し情報提供するよう指示したものである。

「匿名・流動型犯罪グループ」(トクリュウ)については、本コラムでも集中的に取り上げてきましたが、やはり離合集散を繰り返しながら多様な犯罪に関わるグループであることから、「暴力団のような統制がなく、勢いに任せて犯行に及ぶ恐ろしさがある」(捜査関係者)として、その対策が喫緊の課題(治安対策上の重要な脅威)だといえます。報道(2024年3月3日付毎日新聞の記事「新型の犯罪集団トクリュウ 人違いの傷害事件、統制のない恐ろしさ」)でその実態を知るにつけ、背筋が凍るような恐ろしさを感じます。具体的には、「兵庫県内では「人違い」で事件を起こすケースも発生した。…男性は検察官や裁判官からの質問に黙秘を繰り返し、時折いらだったように「もう示談している」と口にした。弁護側は起訴内容については争わないとした。冒頭陳述などによると、男性は大麻の密売人に暴行を加えようと、客を装ってコンビニの駐車場に呼び出した。目印にしていた密売人の車種と同じ車から降りてきた地方公務員の男性を密売人と見誤り、仲間と囲んで「ものを出せ」などと迫り、首を絞めるなどの暴行を加えた。男性は弁護士からの質問には応じた。事件を起こした理由について、知人が密売人に金をだまし取られたためだとした。傍聴席にはグループの仲間とみられる若い男性が集まっていた。緊張感はなく、法廷内で使用が禁止されているスマートフォンを手に笑顔を見せる。…「大した罪にはならんやろ」。閉廷後、そんな言葉と笑い声が響いた。捜査関係者によると、このグループはリーダーの男性が数年前に発足させた。「悪いことをするのが宿命」と意味する団体名。通信アプリ「テレグラム」などで連絡を取り合い、徐々に人員を増やしていったとみられる。…「トクリュウは暴力団と違い、条例などで活動を抑制することが難しく、つながりも緩いため実態把握がしにくい」という。ただし暴力団との資金的な関係や薬物売買などへの関与が疑われる。「中心メンバーを逃さず、地道に挙げていくしかない」警察庁は23年7月、SNSなどを通じた緩やかな結びつきで離合集散を繰り返す集団をトクリュウと新たに位置付け、部門を超えた人員配置や専従班の設置などを都道府県警に通達した。県警は4月から捜査員を横断的に集め新しい部署を設置する。暴力団との関係も視野に、特殊詐欺や強盗、違法風俗営業など多岐にわたる犯罪の取り締まりを強化する方針だ」というものです。SNSによる闇バイトで軽い気持ちで、あるいはやむにやまれず、犯罪に加担した者だけでなく、そもそも規範意識が低く、犯罪も厭わない者の存在がトクリュウを形づくっている本質(核)なのかもしれません。だとすれば、暴力団のような統制のない連中の、「何をやってくるかわからない薄気味悪い怖さ」に対峙することの難しさを感じざるを得ません。

トクリュウを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 前回の本コラム(暴排トピックス2024年2月号)で取り上げた「鳥貴族」をかたる悪質ぼったくりを行うグループ(準暴力団チャイニーズドラゴン系)について、警視庁暴力団対策課によると、3店舗は毎月5千万円以上を売り上げており、一部は客引きに支払うほか、チャイニーズドラゴンにも流れた疑いがあるとされます。グループが運営する店を巡っては、2022年ごろから「週末料金や着席代までかかった」といった110番通報や相談が相次ぎ、悪評が立つたびに3カ月程度の間隔で店名を変えて営業していたとみられています。グループは20~30人とみられ、若いメンバーが「名ばかりの店長」を務めており、メンバーの出入りも激しく暴力団対策課は、トクリュウの1つの形態とみて、カネの流れや組織の実態解明を進めているといいます。なお、直近では、少年が18歳未満であることを知りながら、午後10時~午前3時の深夜に、通行人に客引き行為をさせたとして、警視庁暴力団対策課などは、児童福祉法違反容疑で、店舗を運営していた陳容疑者と雷容疑者ら4人を再逮捕しています。
  • 2023年来、ホストクラブを取り巻く違法行為が社会問題化したことを受け、警察庁など関係当局は2024年を「悪質ホスト一掃元年」とすべく、被害者救済に本格着手しています。全国警察は店舗への立ち入りなど摘発強化の動きで呼応し、業界側も法令順守に向けた姿勢を見せていますが、被害者の裾野の広がりには歯止めがかかっておらず、警察関係者は「業界側の本気度を確かめなければならない」と警戒心を緩めていません。さらに、暗躍するトクリュウの実態解明なども引き続き進めていく必要があるともしています。2024年1月26日付で警視庁の第99代警視総監となった緒方氏は着任会見で、トクリュウ対策に重点的に取り組む考えを示しています。警察庁の露木康浩長官も2023年11月、「(トクリュウが)悪質ホストクラブの背後で不当に利益を得ている可能性」に言及、警察庁生活安全局長などを歴任した緒方氏の総監就任で、歌舞伎町を中心に「悪質ホスト排除シフト」を敷く姿勢を鮮明にした形といえます。ホストクラブ側にも変化の動きが見られており、2023年12月には歌舞伎町のホストクラブ経営者13人と新宿区が連絡会議を開き、経営者側から吉住区長らに対し、2024年4月から売り掛け(ツケ)での支払いを撤廃し、同月中にも相互監視を行う業界団体を設立する方針を示しています。業界団体には19グループが参加し、歌舞伎町にある約300店をほぼ網羅することになります(現時点ではこうした取り組みに参加する店舗所属のホストによる犯罪もなくなっていません)。
  • 東京・歌舞伎町にあるホストクラブの看板について、大きさや設置の未申請などで数十件の都条例違反が確認されたといいます。警視庁は新宿区などと同日、経営者を集めた説明会を開き、相次ぐ売掛金トラブルについて注意喚起し、看板の適切な設置も呼びかけています。看板設置時に必要な申請をしていなかったり、面積が基準を超えていたりする都屋外広告物条例違反が確認されたものです。警視庁によると、説明会にはホストクラブ157店、メンズコンセプトカフェ5店が参加、区は看板の設置で違反があれば撤去するよう呼びかけ、警視庁は反社会的組織との関係を断ち、違法な料金取り立てや客引きをしないよう求めています
  • 沖縄県内を拠点とするヤミ金グループメンバーの男9人が2024年2月、出資法違反容疑で逮捕された事件で、沖縄県警合同捜査本部は、法定金利の7~8倍の超高金利で現金を貸し付け利息を得ていたとして、同容疑で沖縄市の無職の男など本島中部の男計9人を再逮捕しています。合同捜査本部によると、男らのグループはSNSなどを使い誘客をしており、本島在住の20~60代の男女計6人に複数回にわたって数万円ずつの現金を貸し付けており、数カ月の間の利息分だけで元金の額を上回っていたといいます。関係者によると、グループの指示役とされるのは沖縄県人関係者の男2人で、東南アジア方面に滞在しているとみられ、暴力団関係者との接点もうかがえるといいます。グループの取り立ては悪質で、「売春して返せ」と迫られた債務者が売春行為に及んだなどとして警察に相談していたといいます。同グループはトクリュウと目され、債務者は全国に600人以上、貸付総額は約4億円に上るとみられれています
  • フィリピン入国管理局は、大規模な窃盗の容疑で日本の当局が指名手配していた日本人の男、鹿児嶋容疑者を拘束したと発表しています。福岡県警が逮捕状を取り、日本へ強制送還される見通しです。元暴力団組員らで構成され、警官を装ってキャッシュカードを盗む集団「JPドラゴン」の構成員とみられており、JPドラゴンは「ルフィ」と名乗って広域強盗事件を指示したとされる今村磨人被告=強盗致死罪などで起訴=とつながりがあり、2023年2月には警視庁原宿署に勾留中の今村被告が接見室で、弁護士の持ち込んだスマホを使ってJPドラゴンの日本人幹部と通話した疑いが持たれています(JPドラゴン自体がトクリュウと認定されている旨の報道はありませんが、筆者としては実質的にトクリュウと見なしてよいのではないかと考えています)。鹿児嶋容疑者は2022年11月にフィリピン入国が記録されており、同入管が2023年10月に出した国外退去命令に基づいて2024年3月4日にマニラで拘束し、入管施設に収容、既に出国期限を過ぎ、不法滞在になっていたといいます。
  • 「ルフィ」など匿名で、5都府県8件の強盗事件を指示した容疑者が、警視庁の捜査で全て立件されました。フィリピンからスマホを使い、匿名に隠れて犯行を指示した卑劣な凶悪犯で、犯人たちは秘匿性の高い通信アプリでやりとりしていたため、立件が困難視されていたところ、捜査陣は通信内容を復元し、全事件で「ルフィ」ら指示役を起訴に繋げました。一方、解明に至っていない重要部分も残っており、指示犯らが被害者の資産情報をどこから得たかという情報経路については現時点でも十分に解明されていません。この事件は、自宅など手元に資産のある対象を狙い、特殊詐欺が、奪取効率のより高い強盗犯に変貌したところに強い衝撃があったもので、なぜその被害者が狙われたのか、個人情報がなぜ犯人に流れたのか、体感治安にかかわる核心部分の解明に今後期待したいところです。
  • 他人名義の銀行口座を不正に譲り受けたとして、警視庁は北海道釧路市の無職、佐藤容疑者ら男2人を犯罪収益移転防止法違反容疑で逮捕しています。同容疑者らはSNS上で集客し譲り受けた口座を別の買い取り業者に横流ししていたとみられています。佐藤容疑者は男を口座売買の仲介役として育成していたとみられ、警視庁は佐藤容疑者らがSNS上で「闇バイト」などとして不特定多数から銀行口座や暗号資産の口座の売却を募り、買い取りを仲介するトクリュウとみて実態解明を進めるとしています。佐藤容疑者らは口座売買を仲介するグループの一員で、2023年3月以降に約40人から計50口座以上を譲り受けていたとみられ(応募者には身分証や顔、自宅の写真や動画を送信させていたといいます)、口座は別の業者に最大数十万円で売却され、売り上げを口座の提供者と分けていたといい、売却された口座はネットバンキングの不正送金の1次送金先などに悪用されていたとみられています。関連して、SNSで銀行口座を買い取ると募り、口座番号などの提供を受けたとして、警視庁は無職の男と会社員の男を犯罪収益移転防止法違反の疑いで逮捕しています。サイバー犯罪対策課によると、2人は口座買い取り業者と共謀して2023年9月、Xで銀行口座を買い取るという内容を投稿、ダイレクトメッセージで連絡してきた千葉県の20代男性に4万円支払い、口座番号などの提供を受けた疑いがもたれています。2人は得た情報を、口座買い取り業者に1口座あたり数万円~数十万円で売却、手数料を差し引き、応募者に報酬として支払っていたといいます。応募者とは匿名性の高いSNSでやり取りし、信用情報に問題のない人物の口座は限度額が高く、凍結のリスクが少ないため、高値で取引されていたといいます。2人は2023年3月以降、北海道~九州在住の10~40代の男女計約40人から口座情報を買い取り、手数料として数百万円を得ていたと見られ、買い取られた口座は投資詐欺に使われていたといいます。
  • 東京地検は、監禁事件の被害者に対して警察へ被害届を出さないよう威迫したとして、組織犯罪処罰法違反(強談威迫)の疑いで逮捕されたスカウトグループ「ナチュラル」幹部の30代男性を不起訴処分としています。ナチュラルは国内最大規模とされる風俗スカウトグループで、全国で勧誘した女性を風俗店などへ違法に紹介し、紹介料を得ているとされ、1000人以上が所属しているとされ、警視庁が実態を調べています。
  • 「頂き女子りりちゃん」を巡る詐欺事件に絡んで、ホストクラブへの支払い代の原資が詐取金だと知りながら受領したとして組織犯罪処罰法違反などの罪に問われた元ホストの初公判が名古屋地裁であり、被告は起訴内容を認めています。検察側は冒頭陳述で、被告は2021年3月ごろ、勤務先の新宿・歌舞伎町のホストクラブで、SNSで「頂き女子」を自称していた渡辺被告=詐欺などの罪で公判中=と知り合い、その後も指名されて接客していたと指摘、その際に渡辺被告から収入源は「パパ活」で、それは詐欺だとの説明を受けていたとしています。起訴状によると、被告は2021年10月1日ごろ、ホストクラブの責任者の男と共謀し、渡辺被告が男性からだまし取った犯罪収益だと知りながら、飲食代として909万円を受け取ったとされ、渡辺被告は3人の男性から1億円以上をだまし取ったとして詐欺などの罪に問われています。なお、渡辺被告は、名古屋地裁であった追起訴審理で、男性2人から計約1億円をだまし取ったとされる起訴内容を認めています。
  • 女性客から強引に売掛金(ツケ)を取り立てたとして、警視庁保安課は、ホストクラブ従業員を東京都ぼったくり防止条例違反容疑で逮捕しています。ホストクラブをめぐっては、支払い能力を超える高額な料金を請求し、女性客に多額の売掛金を負わせるなど悪質な営業が問題となっており、警視庁は今回、売掛金を法外な料金請求と判断し、料金の強引な取り立てを禁じる都ぼったくり条例を適用、こうした判断での摘発は警視庁で初めてで、全国でも同様の事例は珍しいとみられています。逮捕容疑は2023年12月1日、20代の女性客に車の中で、「業者が回収に行くことになる」「親に言えないなら、そういうところで借りるしかない」などと威圧的な言動をし、消費者金融の契約申し込みをさせるなどして、売掛金を強引に取り立てたとしています。
  • 女性客にツケ払いの「売掛金」を支払わせるため売春の客待ちをさせたとして、警視庁は8日、東京・歌舞伎町のホストクラブ従業員の男を売春防止法違反(困惑売春)未遂容疑で逮捕しています。男は2023年12月~2024年1月、売掛金を抱えた客の女性にSNSSNSで「売春すればすぐ返せる」とメッセージを送り、健康保険証を取り上げるなどして困惑させ、売春の客待ち行為をさせた疑いがもたれています。女性は2023年10月からホストクラブに通い始め、男を指名、約50万円の売掛金を抱えていたといいます。
  • ホストクラブの売掛金を抱える女性に、デリバリーヘルス(派遣型風俗店)を紹介したとして、大阪府警は、職業安定法違反(有害業務目的紹介)の疑いで、大阪市旭区のホストを逮捕しています。逮捕容疑は2023年11月、大阪市天王寺区のデリヘルに女性を紹介し、雇用させたとしていうものです。2023年以降、大阪府警が売掛金絡みで性風俗店に紹介したとしてホストを逮捕したのは初めてということです。また、ホストクラブの女性客2人に、多額の料金を支払わせるために性風俗店での勤務をあっせんしたなどとして、宮城県警は、ホストクラブ店長とホスト2人の3容疑者を職業安定法違反(有害業務の紹介)の疑いで逮捕しています。ホスト2人は、2023年9~10月、店長の指示を受けて、20代の女性客と30代女性客をそれぞれ、同市内の派遣型風俗店(デリバリーヘルス)に紹介した疑いがもたれています。ホストの2人はマッチングアプリを使って来店を促した上で、20代女性には数百万円、30代女性には1千数百万円の料金を請求、支払いのために女性らに消費者金融などで借金をさせた上で、性風俗店をあっせん、得た収入を借金の返済に充てさせていたといい、グループ内で性風俗店へのあっせんが常態化していたとみて調べる方針だといいます。
  • 東京・歌舞伎町のホストクラブ1店舗で悪質な法令違反があったとして、東京都公安委員会は、風営法に基づき同店に営業停止を命じる行政処分を出しています。2023年3~5月、18歳未満の少女を繰り返し店に立ち入らせ、酒を提供する風営法違反の行為が確認されたものです。警視庁は2023年11月、風営法違反(未成年者への酒類提供)の疑いで運営会社の代表取締役を逮捕し、同社を書類送検していました。悪質なホストクラブを巡っては、歌舞伎町の別の2店舗で風営法違反や都ぼったくり防止条例違反行為が確認され、都公安委が2024年1月に営業停止を命じています。
  • 鹿児島市内のインターネットカジノ店で違法なバカラ賭博などを行っていたとして、六代目山口組傘下組織幹部ら2人が逮捕されています。2人は2022年から2023年11月にかけて、鹿児島市樋之口町など市内3か所のインターネットカジノ店で客に違法なバカラ賭博やスロットをさせていたとして常習賭博の疑いが持たれています。3つの店では、あわせておよそ1億6000万円を売り上げていたとみられるということで、警察は暴力団の資金源になっていた可能性もあるとみて営業の実態を調べています。関連して、東京・歌舞伎町のビル内に賭博店「ミリオン」を開き、客にバカラ賭博をさせたとして、警視庁暴力団対策課は、賭博場開張図利の疑いで、店舗オーナーと共同経営者ら計3人を逮捕しています。暴対課によると、同店は少なくとも2023年6月以降、夜から翌朝にかけて毎日営業し、2023年12月までの約半年間に、会員客計約300人を相手に計約1億5千万円の利益を上げていたとみられています。
  • 愛知県警中署は、名古屋市中区錦のキャバクラ店の経営者ら10人を準詐欺の疑いで逮捕しています。泥酔客のクレジットカードで1650万円の支払いをさせたとみて調べています。報道によれば、会社役員は店を出た後、1650万円の引き落とし通知に気付き、警察に相談、中署は、安価に提供するサービスドリンクに度数が高い酒を混ぜて泥酔させ、クレジットカードを勝手に使う店ぐるみの犯行とみて捜査しています。同店を含む錦三の飲食店では2023年11月~2024年2月、客引きに連れて来られた店で、高濃度の酒で酔わされ、記憶のないままクレジットカードで高額な支払いをさせられたという被害相談が少なくとも15件相次いでおり、被害総額は2300万円を超えるといい、県警は余罪を調べています。
  • 名古屋市のマンションで2023年11月、古物販売店店長の住人男性の遺体が見つかった事件で、愛知県警中署捜査本部は、男性の首を絞めて殺害し、店や男性宅から現金や貴金属など約1300点(計約7400万円相当)を奪ったとして、強盗殺人の疑いで元従業員の無職、内田容疑者を再逮捕しています。貴金属のほぼ全てを換金し、約5千万円をホストクラブの支払いに充てたとみられています。内田容疑者がホストの小山被告の売り上げに貢献しようと、金品を狙ったとみて裏付けを進めています。
  • 大阪・ミナミやキタの繁華街で通行人の男性10人に「財布をなくした」と嘘を言い、計約710万円をだまし取ったとして、大阪府警曽根崎署は、詐欺の疑いで、大阪府内に住む当時19歳だった無職女を逮捕しています。「ホストクラブで遊ぶ金がほしかった。優しそうなサラリーマンを狙った」と供述しているといいます。女は男性らと連絡先を交換、自身のマイナンバーカードを見せ、「キャバクラで働いているので返済能力がある」と信用させた上で、後日面会するなどして手渡しや振り込みで金を受け取っていたといい、女はホストクラブに売掛金があり、詐取した金をホスト遊びや生活費に使っていたとみられています。

警視庁は、譲渡目的で金融機関に口座を開設したとして逮捕した牛込署地域課の巡査を懲戒免職処分としています。SNS上での募集に応じ譲渡した口座の一つで特殊詐欺被害の入金が確認されたといい、同容疑者が闇バイトを通じ詐欺事件に加担した可能性があるとしています。容疑者は2023年10月、SNS上での口座買い取りの募集に応じ、新たに金融機関で口座を開設するなどし、計6口座を有償で譲り渡したといいます。同容疑者は生活費や遊興費のために消費者金融で借りた借金の返済に追われており、「売却目的で口座を作った」と話しているといいます。2023年1月、警視庁が詐欺容疑で容疑者を逮捕し、経緯や売却された口座の悪用の有無などを調べていました。

前回の本コラム(暴排トピックス2024年2月号)でも取り上げましたが、大阪府警は共謀のうえ福岡県大牟田市に本部を置く浪川会総裁の浪川政浩こと朴政浩容疑者ら関係者2人と大阪市内の無職・鈴木容疑者を会社法違反(特別背任)容疑等で逮捕しています。浪川会は九州きっての資金力を持つ暴力団として知られており、総裁である朴の逮捕は衝撃的でした。報道によれば、浪川は1月13日に会社設立の際に虚偽の内容の定款を登記申請に用いたとして電磁的公正証書原本不実記録・同供用容疑で別件ですでに逮捕されていた鈴木(同容疑で再逮捕)とともに大阪府警に逮捕されていました。鈴木は全国にデリヘル数十店舗を展開する業界大手のSグループの運営会社の元代表取締役で浪川会への用心棒代として浪川会組員である中畑が実質的に運営する建設コンサルティング会社と架空のメンテナンス業務契約を締結。2020年10月~2022年2月にかけ34回に亘り合計1092万円を会社名義の口座から入金し、会社に財産上の損害を与えたとして会社法違反(特別背任)容疑での逮捕となったとされます。鈴木は自身が運営していたデリヘルグループの内紛で「トラブルを抱えていた」とも言われているほか、浪川、鈴木らはこの会社法違反容疑のほかにも東京都の条例で暴力団排除特別強化地域として定められている品川区内の場所に風俗の営業所を設け、用心棒代として合計528万円を入金、利益供与したとして東京都暴排条例違反にも問われています。なお、週刊誌情報となりますが、浪川容疑者は、「気さくになんでも相談に乗ってくれる」と、暗号資産、ネット関連、格闘技、風俗などの「ワケあり」の若手経営者に人気が高く、警察関係者には「半グレのケツ持ちで黒幕」と見られているようです。しかも浪川容疑者は海外人脈が豊富で、大阪府警は「浪川と海外半グレ人脈との関係を徹底解明する方針」だといいます。

北海道の六代目山口組傘下組織福島連合は、巨大歓楽街・すすきのを押さえるだけでなく、「ルフィ」グループの渡辺容疑者が率いたトクリュウのケツ持ち役という一面も持っているとされます。2020年2月には、強盗に軸足を移す前の渡辺一派からカネを受け取ったとして、福島連合の組員が組織犯罪処罰法で逮捕され、事務所が家宅捜索されています。週刊誌情報となりますが、「渡辺容疑者は北海道出身で、すすきので客引きやキャバクラ店を経営していた際に福島連合と関係を持ったようです。こうしたことから、渡辺容疑者らが強盗事件の指示役として浮上した際に、ケツ持ちとして福島連合の名も取りざたされました。そして、渡辺一派の逮捕後に、福島連合の最高幹部が、六代目側の高山清司若頭の呼び出しを受けて事件への関与を尋問されましたが、両名とも『関係ありません』ときっぱり否定したそうです。渡辺一派を巡っては、フィリピンに在住の神戸山口組の周辺関係者が後見役として動いていたという見方が強いですが、事件が社会に及ぼしたインパクトがあまりにも大きかったため、警察の突き上げ捜査や民事での使用者責任に問われる事態を六代目本家として強く危惧した現われとみられます」との指摘もあります。

鹿児島県内で活動する暴力団構成員等(構成員、準構成員など)が2023年末時点で約160人(前年比10人減)となり、2005年以降で最少だったといいます。鹿児島県警は取り締まり強化や組員の離脱支援などが奏功しているとみているといいます。組織別の勢力では、鹿児島市に本部を置く小桜一家が約70人(同10人減)で、ピークだった2005~2007年の約330人から7割以上減ったほか、他の指定暴力団は、いずれも前年に比べて横ばいで六代目山口組が約50人、神戸山口組は約10人、絆會は約10人となっています。また、鹿児島県警は2023年、暴力団関係者計42人(同6人減)を傷害や詐欺、覚せい剤取締法違反の疑いなどで摘発しています。一方、勢力が減少している理由について、鹿児島県警は、「取り締まりに伴い、資金獲得活動に窮した組員の組織離れが進んでいる」と述べています。また、鹿児島県警は暴力団からの離脱と就労支援にも力を入れており、2023年4月、「社会復帰アドバイザー」として、県警OBの非常勤職員を採用、離脱した元組員の就労先を探したり、企業の面接に付き添ったりして、社会復帰を後押ししています。また、鹿児島県暴力追放運動推進センターなどと連携し、組員の離脱の促進に取り組んでいるといいます。なお鹿児島県警は2024年4月、トクリュウの取り締まりを強化するため、組織犯罪対策課内に「情報第3係」を新設、トクリュウの組織の実態解明や県内への進出阻止、違法な資金獲得活動の把握にあたるとしています。また、同課内に特殊詐欺対策に重点を置く「連合捜査係」を新たに設け、他の県警が扱う特殊詐欺事件の中で、県内での関与が疑われるものについて嘱託を受けて捜査するとしています。

国家公安委員会は、特定抗争指定暴力団神戸山口組から離脱した絆會について、暴力団対策法に基づく再指定の要件を満たしていることを確認しています。警察庁によると、指定は3回目で、大阪府公安委員会での手続きを経て、近く官報で公示されます。絆會を巡っては、2017年4月に神戸山口組を離脱した一部幹部が「任侠山口組」を結成、兵庫県公安委員会が2020年2月、同組が絆會に名称変更したと官報で公示、2023年7月には、兵庫県尼崎市に置かれていた本部事務所を大阪市中央区に移転したと発表、警察庁によると、2022年末時点で構成員は70人とされます。

市民を襲撃した4事件で殺人罪などに問われ、1審で死刑判決を受けた工藤会トップで総裁の野村悟被告の控訴審判決が2024年3月12日に、福岡高裁で言い渡されます。指定暴力団トップに下された極刑の維持か回避かが最大の焦点となっています。工藤会壊滅に向け、2014年に野村被告を逮捕した「頂上作戦」から約10年となる中、重要な局面を迎えることになります。本コラムでも取り上げてきたとおり、控訴審では、1審で全面否認だった田上被告側が2事件で関与を認め、独断で事件を起こしたとする新たな主張を展開、弁護側は4事件とも野村被告は無関係と強調し、それぞれに首謀者がいるとし、「直接証拠がないまま野村被告との共謀を認定した1審判決は破棄されるべきだ」と訴えています。一方、検察側は「犯行は組織的、計画的であり、野村被告の指示がないとしたら説明がつかない」と反論し、控訴棄却を求めています。報道で、工藤会トップ裁判を傍聴してきた田淵浩二・九州大教授(刑事訴訟法)は控訴審について「弁護側が4事件それぞれに具体的な首謀者を挙げる積極的な主張を展開していた印象を受けた」と語り、そのうえで、2審判決について「田上被告らが主張を変えたことに合理的な理由があると評価されるか否かと、指示を示す有力な証拠がない中、野村被告を首謀者と認定した1審判決が妥当かどうかの判断が極刑維持か回避かの鍵を握るだろう」としています。

神戸山口組の本拠地として直系団体「侠友会」の事務所に使われていた兵庫県淡路市志筑の建物について、2022年1月に土地とともに購入した淡路市は解体する方針を決めています。市は当初、建物を改修した上で災害時に職員が待機する場所として活用する計画でしたが、建築基準法に違反する部分が多いことが判明、それらを改善するための費用が高額になることから、より安い解体を選んだといいます。2024年度以降の着手を予定としています。事務所は、2015年に六代目山口組が分裂した後、離脱した組長らが立ち上げた神戸山口組が本拠地として使用、毎月の定例会などが開かれていたことから、2016年、地元住民が「暴力団追放淡路市民の会」を結成、2017年に暴力団追放兵庫県民センターの「代理訴訟制度」で事務所の使用差し止めが認められた経緯があります。2020年に神戸山口組が特定抗争指定暴力団になり、淡路市が警戒区域に指定されたことにより、事務所への立ち入りは禁止され、淡路市は、事務所が別の暴力団の手に渡るのを防ぐため、土地と建物を購入したものです。

住宅ローン専門会社大手「SBIアルヒ」の代理店を運営する会社の元社員らがSBIアルヒから長期固定金利型住宅ローン「フラット35」の融資金をだまし取ったとされる事件で、警視庁暴力団対策課は、新たに別の代理店運営会社の元社員の高見容疑者を詐欺容疑などで逮捕しています。また、ローン申請の名義人とみられる職業不詳の芦田容疑者も同容疑で逮捕しています。2人は2021年2月、高見容疑者が融資の受け付け担当だったSBIアルヒ代理店を通じ、芦田容疑者名義でフラット35の融資を申請し、企業の在籍証明書や源泉徴収票などを偽造して会社員であるよう装わせ、SBIアルヒから融資金1510万円をだまし取った疑いが持たれています。事件を巡って、暴力団対策課は、不正な融資を仲介したなどとして、池田組系幹部ら男性3人についても詐欺容疑などで再逮捕しています。

子どもと接する職場で働く人に性犯罪歴がないかを確認する新制度「日本版DBS」の創設に向け、こども家庭庁がまとめた法案の骨子案が判明しています。性犯罪歴を照会できる期間について、禁錮以上の刑を終えてから「20年」、罰金以下は「10年」とするとしています。日本版DBSでは、性犯罪歴をデータベース化したシステムを構築、子どもと関わる業務を希望する人に性犯罪歴がないことを雇用主側が確認できるもので、こども家庭庁は、性犯罪者の有罪が確定してから再犯での有罪確定までの期間を分析、禁錮以上は「20年」、罰金以下は「10年」の範囲内に9割以上の再犯者が収まっており、この期間を照会可能とするとしています。刑法では禁錮以上は刑の終了から10年、罰金以下は5年たてば刑が消滅すると定めており、焦点の一つとなっていました。性犯罪歴照会のしくみは「雇用を禁じる」などの強い規制は設けていないため、10年超も可能と判断、前述のとおり、性犯罪を繰り返す人が再び犯罪に及ぶまでの期間を調べたうえで、今回の年数を導き出しています。また、法が保障する「職業選択の自由」との整合性などを考えた場合、「性犯罪歴のある人の就労を禁じる」といった強い規制は難しく、新制度は、新しく雇い入れる場合だけでなく、現職員も定期的に確認することとしており、厳密な要件が求められる解雇も、安易にはできない状況ですが、仮に雇う場合でも、子どもにかかわらない業務に配置転換させるなど、安全確保措置を講じて報告させることで、憲法などとの整合性を保ちつつ、制度の実効性を担保することを考えています。骨子案では、学校や保育所は確認を義務化するものの、学習塾やスポーツクラブなどの事業者の利用は任意とし、認定制を導入するとし、ベビーシッターの仲介業者も認定制の対象とするとしています。確認できる刑の種類は、刑法などの前科だけでなく、痴漢や盗撮など自治体の条例違反も含めるとしています。こうした制度上の仕組みは、反社チェックの実務にも応用できる可能性があるのではないかと筆者は感じています。新規取引開始時、既存取引先の定期チェックというチェックのタイミングは日本版DBSと同じであり、犯罪からの経過年数や暴力団等からの離脱してからの年数の考え方なども、実務的に参考になります

2.最近のトピックス

(1)AML/CFTを巡る動向

世界各国のマネー・ローンダリング(マネロン)対策を調査する国際組織(FATF)が、日本の金融機関の対策を調べる実地審査を2028年8月に実施すると公表しています。FATFのサイトから、現時点で分かっている第5次対日相互審査の方向性については、以下のとおりです。とりわけ「各国のリスクベースの対応状況に、より焦点を当てた審査を実施」すると明言している点は重要であり、日本で問題となっている、特殊詐欺対策や暴力団等反社リスク対策、さらには北朝鮮リスク対策などが実効性を持って行われているかにも焦点が当たる可能性があるということです。2024年3月末までの態勢整備期限をクリアするだけでは足りず、その態勢が実効性を持って運用されているか、自律的な運用となっているかなどがより重要となるということでもあります。

  • FATF第5次対日相互審査の概要(第4次審査からの主な変更点)*FATFサイトより
    • 第5次相互審査実施時期はリスクベースで決定
      • 従来の相互審査は10年間隔であったのに対し、第5次相互審査の期間は6年に短縮される
      • 評価順序は、3つの要因(国の前回評価からの経過時間、ML/TFリスクのレベル、経済と金融セクターの相対的な規模)に基づいて行われるため、評価が最も古く、より高いリスクに直面し、重要な金融セクターを持つ国を優先的に評価される
    • 審査内容もよりリスクベースに
      • 各国のリスクベースの対応状況に、より焦点を当てた審査を実施
      • 「有効性」をより重視し、金融セクターとDNFBPsの水準を別個に審査(異なる領域の有効性の明確化でより強力で的を絞った改善の推奨事項が提供される)
      • 勧告は、AML/CFTの具体的な行動及びタイムラインに焦点を当てた、より結果重視のものに
    • 審査基準および審査後のフォローアップを強化
    • 「重点フォローアップ」「監視対象」(ICRGレビュー対象)適用の基準を厳格化
      • (例)有効性の項目にLowが1つでもあれば、重点フォローアップに該当する
    • 相互審査結果公表後、各国は3年以内に不備に対処する必要
      • フォローアップ評価プロセスは、AML/CFT/CPFの具体的な行動に焦点を当て、より結果重視のものに
  • AML/CFTを巡る今後の方向性
    • 2024年3月末の態勢整備期限以降は、これまでの「ルールベース」から「リスクベース」へ
    • 金融庁「ガイドライン」「FAQ」では、有効性・実効性をより重視
      • 「リスクの特定・評価・低減のための方針・手続・計画等が実行的なものとなっているか、各部門・営業店等への監視等も踏まえつつ、不断に検証を行うこと」「リスクの特定・評価・低減のための手法自体も含めた方針・手続・計画等や管理態勢等についても必要に応じ見直しを行うこと」(金融庁ガイドライン「対応が求められる事項」)
    • 日本を取り巻く環境分析・リスク評価 ⇒「金融犯罪の増加」への対応が急務
    • 特殊詐欺などの金融犯罪リスク対応への関心の高まり
      • 当然、金融機関でのリスク低減策及びその有効性もFATF対日相互審査の対象
    • 個別行はもちろんのこと、官民で連携し、業界全体でのリスク低減策を推進することが必要
  • 金融機関には、整備した態勢を、より自律的に運用し、有効性・実効性を高めていくことが求められることになる

2024年2月22日付日本経済新聞によれば、「マネロンなどの組織犯罪を分析する国連薬物犯罪事務所(UNODC)は、世界で1年間に資金洗浄される額が8000億ドル~2兆ドル(約120兆~300兆円)にのぼると推定する。マネロン対策の強化は国際社会における重要課題で、金融機関での対策が不可欠になっている」、「FATFによる対日審査は19年以来、5回目となる。事前に書類審査を進めた上で、28年8月に2週間から1カ月程度の実地審査が行われる。日本の審査結果は29年2月のFATFの会合で採択される見通しだ。日本は19年の4次審査の総評で実質不合格を意味する「重点フォローアップ国」という評価を受けた。次の審査では、4次審査以降に整備した法令やガイドラインをもとに対策の有効性を示し「通常国フォローアップ国」入りできるかが焦点となる。通常国入りできなければその後の審査が厳格化されるほか、対策が甘いとみなされると金融システム全体におけるマネロンの抜け穴になる可能性もある。格上げが喫緊の課題となる」、「FATFは5次審査で、審査対象国にとってリスクの高い分野に重点を置いて有効性を審査すると明言している。日本は例えば、制裁対象国の北朝鮮に対する制裁対応がきちんと機能しているか、暴力団や特殊詐欺の対策に実効性があるかなどについて審査される可能性がある」、「基礎的な体制整備を終えたメガバンクについては、金融庁が5次審査に向けてどの程度有効な取り組みができているか検証を始めている。有効性は、マネロン検知システムや対策シナリオが十分かどうかなどを銀行自身が調べ、改善策などを金融庁が確認する形で検証する。有効性検証は、基礎的な体制整備が完了したと判断した段階で地方銀行にも広げる考えだ」と指摘しています。

金融庁と主要行等との間の定期的な意見交換会の状況について、直近のものを抜粋して紹介します(AML/CFTに関するものが中心ですが、それ以外の領域についても一部含んでいます)。

▼金融庁 業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点
▼主要行等
  • 令和6年能登半島地震への対応について
    • 冒頭、1月1日夕刻に発生した令和6年能登半島地震においてお亡くなりになった方に改めて心からお悔やみを申し上げるとともに、被災された全ての方々に心よりお見舞いを申し上げる。
    • 今回の地震に伴う災害等に対し、石川県、富山県、福井県及び新潟県に災害救助法が適用されたことを受け、適用地域を管轄する北陸財務局及び関東財務局より日本銀行との連名で「金融上の措置要請」を関係金融機関等に発出した。
    • 被災地で営業している金融機関においては、顧客及び従業員の安全に十分配慮した上で、こうした要請も踏まえ、被災者の声やニーズを十分に把握の上、被災者の立場に立ったきめ細かな対応を改めてお願いしたい。
    • 特に、今後住宅ローンなどの返済に関し、被災者から「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」の手続着手の申出が増加する見込みであるところ、主たる債権者は、当該ガイドラインの要件に該当しないことが明白である場合を除いて、当該申出への不同意を表明してはならないと規定されており、まずは、登録支援専門家(弁護士等)につないだ上で内容の精査をするという実務になっていることに留意されたい。
    • また、今回の災害を踏まえた特例措置として、寄付のための現金振込みや被災者が本人確認書類を亡失した場合等において、本人確認を簡素化、柔軟化できることとする犯罪収益移転防止法施行規則の一部改正が1月11日に公布・施行された。
    • これを踏まえ、金融庁では同日付で要請文を発出したところだが、今般の改正については、犯罪収益の移転や義援金詐欺に悪用されることのないよう、災害義援金募集のための口座開設の申出に応じる場合には取引時確認を厳格に行う等、適切な対応に努めていただきたい。
    • さらに、被災者のために有益な情報を提供できるよう、金融庁ウェブサイトに今般の地震に関する特設ページを開設するとともに、被災者と金融機関との取引に関する問合せ・相談を受け付けるため、「令和6年能登半島地震金融庁相談ダイヤル」を開設した。
  • 事業者支援について
    • コロナ禍を経て、実質無利子・無担保融資の返済が本格化する中、資金繰り支援に注力した段階から、一歩先を見据えて、事業者の実情に応じた経営改善・事業再生支援等に取り組むという新しい段階へと移行していく必要がある。
    • こうした認識のもと、経営改善・事業再生支援の本格化を推進するため、金融機関等による一歩先を見据えた早め早めの対応を促すとともに、事業者に対するコンサルティング機能の強化に関する監督上の着眼点等を盛り込んだ監督指針改正案を公表し、1月31日、パブリックコメントの結果等を公表したところ。
    • 今後所要の修正を行った上で、4月1日から適用開始する予定だが、主要行等においては、適用開始を待つことなく、その趣旨を十分に理解いただき、営業現場の第一線にまで、それを浸透させるとともに、新しい段階における事業者支援を徹底していただくよう、お願いする。
    • また、能登半島地震で被災された事業者等については、今後、被災状況の全容等が明らかとなってくる中で、復興・再建に向けた具体的な支援ニーズが出てくることになる。地震の影響を受けている事業者等の復興・再建の支援に万全を期するべく、政府としても取り得るあらゆる施策を講じていくので、主要行等においても、そうした事業者等に最大限寄り添った柔軟かつきめ細かな支援の徹底をお願いする。
  • フィッシング対策の強化について
    • 2023年初から11月末までにおけるフィッシングによるものとみられるインターネットバンキングにおける預金の不正送金の被害件数及び被害額は、いずれも過去最多を更新し、被害件数5,147件、被害額約80億円となっている。これを踏まえ、2023年12月25日に、金融庁及び警察庁から改めて、一般利用者向けに注意喚起を行っている。また、預金取扱金融機関以外の金融機関の顧客に対しても、フィッシング攻撃による被害が発生している。
    • 被害が発生してから対策を講ずるのではなく、予め対策を進めていただきたい。顧客本位の経営の実現には、顧客資産を守ることが不可欠である。対応が不十分と認められる場合は、経営陣自らの問題としてしっかりと対応していただきたい
▼全国地方銀行協会/第二地方銀行協会
  • マネー・ローンダリング対策について
    • 態勢整備の期限が2024年3月末に迫る中、各行におかれては、経営陣のリーダーシップのもと、対応いただいているものと承知している。
    • 各行における態勢整備の進捗については、協会の皆様の協力のもと、2023年12月末時点の状況をアンケートの形で把握させていただいているところ。その結果、態勢整備に遅れが見られる先については、速やかな対応を促すべく、個別にお声がけさせていただく予定。
    • 各行におかれては、3月末までに業界全体として態勢整備を完了すべく、適切に自己点検を実施し、把握された未対応事項について計画的に取り組んでいただきたい。
    • なお、これまでも申し上げてきたが、来年度以降も態勢整備が不十分な金融機関に対しては、必要に応じ、個別に行政対応を検討していくことを改めてお伝えさせていただく。
  • 共同データプラットフォームに係る高粒度データの報告徴求について(第二地銀協のみ)
    • 金融機関と当局の間で実効的・効率的なデータ収集・管理を行うための共同データプラットフォームについては、
      • 2022事務年度に、主要行と一部の地銀を対象に行った実証実験を通じて、金融機関から提出いただく様々な計表の代替可能性や、モニタリングや分析の高度化に高粒度データを活用できる余地が大きいことを確認した。
      • 実証実験の結果も踏まえ、第二地銀については、これまで、高粒度データの提出可能時期や負担感等を確認するアンケートに御協力をいただいたところ。
    • こうしたアンケート結果も踏まえ、今般、2023年9月期のデータをトライアルデータとして提出いただき、フォーマットを確定のうえ、2025年3月期データより定期徴求を開始したいと考えている。
    • 共同データプラットフォームは新しい取組みであり、金融機関における十分な準備・確認期間を考慮したスケジュールとするなど、引き続き各金融機関の負担に配慮しつつ進めていきたいと考えているので、御協力いただけると幸い。

FATFは、「FATF勧告16の改訂に関する説明文書及び勧告改訂案」と題する市中協議文書を公表しています。今回の改訂は、新たな決済手段・技術・プレイヤーの登場等による決済市場構造の変化、及び、決済規格の標準化を念頭に、”same activity, same risk, same rules”の原則に則り、FATF勧告16の改訂を検討しているものであり、また、安全(safety and security)を維持しつつ、クロスボーダー送金をより迅速で、より安価で、透明性の高い、包摂的なものとするG20 Priority Action Planの一部にも対応するものです。主要な改訂項目としては、1.決済ビジプレイヤーの変化を踏まえた異なるプレイヤーの責任の明確化、2.送付人・受取人情報の内容及び質の改善、3.カード決済への勧告16適用範囲の明確化、が挙げられます。

▼金融庁 FATFによる市中協議文書「FATF勧告16の改訂に関する説明文書及び勧告改訂案」の公表について
▼「FATF勧告16の改訂に関する説明文書及び勧告改訂案」(原文を自動翻訳)
  • 金融活動作業部会(FATF)は、勧告16(R.16)、その解釈ノート(INR.16)、および関連する特定の用語の用語集の改訂を検討しており、決済ビジネスモデルとメッセージング標準の変化に適応させています。
  • R.16/INR.16は、FATF基準が技術的に中立であり続け、「同じ活動、同じリスク、同じルール」の原則に従うことを保証するために更新される必要があります。これらの改正案は、国境を越えた決済をより速く、より安く、より透明で包括的なものにすると同時に、安全性と安心感を維持することも目的としています。G20優先行動計画の一部である目標です。
  • FATFは、R.16/INR.16の改訂案とR.16で使用されている特定の用語の用語集について、R.16/INR.16の改訂案について、すべての利害関係者、特に決済業界から意見を聞きたいと考えています。改訂案は、主要な改正案の政策意図を詳細に説明する説明覚書に添付されています。また、説明覚書には、次のようなさまざまな問題に関する協議のための18の質問が提示されています。
    • カードを使用した商品およびサービスの購入の免除に関する追加の透明性要件。
    • 特定の条件を条件として、R.16免除からの現金または現金同等物の引き出しまたは購入の解除。
    • 支払いメッセージの基本的な発信者と受取人情報の内容と品質を改善します。
    • 受取人金融機関に対して、支払メッセージにおける受取人情報の整合性を確認する義務。そして
    • 支払チェーンの定義と正味決済の条件。
  • FATFは、この問題の技術的な性質上、十分な協議には、公的部門と民間部門の両方の関連機関および専門家との継続的な対話が必要であることを認識しています。この書面による協議は、より広範な協議プロセスの最初のステップであり、この最初の協議への回答から情報を得て、必要に応じてさらなる議論と関与も含まれます。

最近の海外におけるAML/CFT/CPF(拡散金融対策)を巡る報道から、いくつか紹介します。主に米国の露に対する制裁の強化の方向が鮮明となっているといえます。

  • FATFは、アラブ首長国連邦(UAE)を「グレーリスト(監視強化対象国・地域)」から除外しています。FATFは2022年にUAEを同リストに指定、銀行のほか、貴金属や不動産などの取引がマネロンやテロ資金調達に使われるリスクがあるとしていました。UAEはリストからの除外を優先事項とし、マネロン対策を強化、ある銀行関係者はリスト除外により、銀行がUAEの富裕層顧客との取引でコストを削減できるだろうと指摘しています。ただ、グレーリスト入りした後もUAEは世界の富裕層を魅了し続け、暗号資産企業や、ウクライナ侵攻後にはロシア人の間で人気が強まっています。一方、EUはUAEを、南アフリカや北朝鮮など20数カ国とともに、マネロンとテロ資金調達の高リスク国のリストに指定しています
  • 米財務省の金融犯罪捜査網(FinCEN)は、投資アドバイザーに対してマネー・ローンダリングやテロ資金供与の防止を義務付ける新たな規則案を発表しています。FinCENはその前には、不動産部門に対する同様の規則案を公表しており、これらは犯罪の容疑者、不正を行った外国当局者、制裁対象の個人や企業が米国の金融システムにアクセスできる規制システムの穴をふさぐための幅広い取り組みの一環となるとしています。報道によれば、FinCENのアンドレア・ガッキ長官は「この規則案は規制の土俵を整え、米国の経済と国家安全保障を守り、米企業を保護する」とコメントしています。規則案は直近では2015年に提案されたものの適用されなかった内容で、投資アドバイザーにマネロンとテロ資金供与を防止するためのプログラムの採用を義務付けるもので、米証券取引委員会(SEC)に登録されている投資アドバイザーのほか、登録の対象外でSECに報告しているアドバイザーにも適用されることになります。また、既に銀行に義務づけられているように、疑わしい活動を見つけた場合はFinCENに報告することも求められます。米財務省が投資業界のリスク検証を実施したところ、制裁の対象となる個人や犯罪の容疑者、中国やロシアなどの外国事業者が、証券や不動産といった米国の資産や新興企業が開発を進めている人工知能(AI)など機密性が高い新技術にアクセスするために投資アドバイザーを利用した事例が見つかったといいます。
  • 米国のアデエモ財務副長官は、トルコ、アラブ首長国連邦(UAE)、カザフスタンなどの国とロシアとの間の資金の流れに大きな変化が見られていると述べています。対ロシア制裁について、関与が疑われる第三国の金融機関も制裁の対象にすると表明したことが影響しているといいます。バイデン大統領は2023年12月、対ロシア制裁の回避への関与が疑われる第三国の金融機関も制裁対象とする大統領令に署名、金融機関からの報告を含めたデータに基づくと、同大統領令の署名以降、資金の動きが縮小しているとし「金融機関が取引をブロックした可能性があり、資金の流れに大きな違いが出ている」と述べています。金融機関を制裁対象にすることの意味や効果が示された形といえます。
  • 米財務省は、ロシア産原油に上限価格を設ける経済制裁の効果に関する分析を公表しています。制裁逃れの監視を強化した結果、この3カ月間は1バレル19ドルの押し下げ効果が出たと説明、ウクライナ侵攻を続けるロシアの収入に打撃を与えていると自信を示しています。G7などは1バレル60ドルを超える取引を制限する措置を2022年12月に導入、2023年1~9月にはロシアの石油税収が前年同期と比べて40%落ち込んだほか、ロシアが実際の所有者が分かりにくい船舶などを使った「闇取引」を増やしたため、監視強化策を導入した結果、10月時点で12~13ドルだった押し下げ効果は2024年1月には20ドルに達し、2月下旬では19ドル前後で安定しているということです。制裁の目的は、原油の供給不安を招くことなく、価格だけを下げてロシアの収入を減らすことにあり、米財務省は侵攻から2年の節目に合わせて公表した今回の報告書で、価格上限は目的通りの効果を発揮していると強調しています。
  • バイデン米政権は、露のウクライナ侵攻から2年となるのに合わせた大規模な対露追加制裁の全容を公表しています。報道によれば、露の戦争継続や、露反体制派指導者ナワリヌイ氏の獄中死に関連した500超の個人・団体に制裁を発動したほか、禁輸措置を科す「エンティティーリスト」に93社を追加、露以外では中国、トルコ、インド、韓国など少なくとも15カ国の個人・団体が対象となり、第三国経由での戦費・物資の調達を許さない姿勢を示しています。露は不足する兵器を埋め合わせるため、第三国を通じて取引を行うことで米欧などの制裁を回避しており、今回の大規模制裁は、そうした「抜け穴」を塞ぐことが主眼の一つです。特に中国については、精密兵器に不可欠な電子部品などの調達先となっているとして、6社が米国内の資産凍結などの制裁対象に、8社が禁輸対象となっています。また、外交的な仲介役として露、ウクライナ両国と良好な関係を保つトルコの16社を、軍事転用可能な民生品の調達などに関与していたアラブ首長国連邦(UAE)の4社も禁輸対象に追加したほか、露がウクライナ民生施設への攻撃などに多用する自爆型ドローンの供給元であるイランについても、すでに別の制裁対象となっている同国国防軍需省を新たな制裁対象に指定、イランから調達したドローンの組み立ては主に露中部タタルスタン共和国政府傘下の軍需企業が担っていることから、同社やその幹部、関連会社などにも制裁が拡大されています。さらに、制裁回避の手段になっているとして、露中央銀行が保有し国内外で展開する国営決済システムに照準を合わせた制裁スキームを構築、同システムに関連する露銀行や投資会社、ソフト開発会社など20社に制裁を科し、露独自の金融ネットワーク整備を阻止する姿勢を鮮明にしています。

国内におけるAML/CFT/CPFを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 岐阜県警は、国際ロマンス詐欺による犯罪収益と知りながら被害者から計300万円の送金を受け、マネロンしたとして、組織犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)の疑いで、岐阜市領下の会社役員ら68~78歳の男女4人を逮捕しています。報道によれば、容疑者らの口座には複数の被害者から振り込みがあり、4人は暗号資産(仮想通貨)に換えて計約6100万円相当を複数の詐欺組織に送ったとみられています。岐阜県警は詐欺組織が日本の高齢者を標的に勧誘した可能性もあるとみて調べているといいます。4人の逮捕容疑は、共謀して2023年9月上旬ごろ、犯罪収益と知りながら、京都市の70代の無職男性に自身らの口座へ4回にわたって計300万円を送金させた疑いがもたれており、一部を報酬として受け取り、残りを暗号資産に換えて組織に送っていたとみられています。
  • 2022年8月から2023年1月にかけて、北海道釧路市の男が、知人の六代目山口組二代目旭導会構成員の男にキャッシュカード1枚を譲り渡したなどとして、犯罪収益移転防止法違反の疑いで譲り渡した男と受け取った暴力団員の男が逮捕されています。2人は知人で、警察が暴力団関係の捜査をしていたところ、今回の容疑が浮上したということです。金融口座を開設できない組員が、自分の口座として利用するために、知人から譲り受けたとみて調べを進めているといいます。また、暴力団員であることを隠して預金口座を開設し、キャッシュカードをだまし取ったとして、詐欺の疑いで暴力団幹部の男が逮捕されています。男は2018年11月、暴力団員であることを隠して、ウソの申告をして預金口座を開設、キャッシュカードをだまし取った疑いが持たれています。暴力団員の身辺捜査の過程で、最近になって、口座の不正取得の疑いが浮上したということです。
  • コンコルディア・フィナンシャルグループ傘下の横浜銀行は、東日本銀行、神奈川銀行とともに神奈川県警と犯罪収益の移転防止対策に関する協定を結んだと発表しています。犯罪組織によるマネロンなどが横行している現状を踏まえ、最新の犯罪手口などを情報共有し、被害の拡大を防ぐもので、グループ会社の浜銀TT証券や浜銀ファイナンス、横浜キャピタルも一体となって協力体制を整えるとしています。なお、神奈川県警が個別の銀行グループとマネロン対策で協定を結ぶのは全国初だといいます。横浜銀行はこれまでも疑わしい取引を報告するなど捜査協力を進めてきたところ、今後はより迅速に対応できる体制を整えるとし、2024年度からは相互に講師を派遣するなど営業店も交えた研修をし、知見を共有するとしています。報道によれば、横浜銀行は「金融犯罪は多様化している。具体的な業務フローも知ってもらい、多面的にご指導をいただきたい」と述べ、神奈川県警は「マネロン対策は金融機関の協力なしではできない。コンコルディアは海外でも事業展開し、強い影響力を持つ契機となる」と期待を寄せています。
  • 政府は、マイナンバー法などの改正案を閣議決定、氏名や住所、12桁の個人番号などをスマホに搭載可能にし、マイナンバーカードを持ち歩かなくてもスマホのみで本人確認が行えるようにするものです。現在、銀行口座や証券口座の開設にはマイナカードをかざすなどの作業が必要であるところ、スマホ1台で完結できるようになります。アンドロイド端末では、カードの電子証明書機能を搭載して行政手続きができるなどのサービスが2022年5月に始まっており、利便性が高まっていますが、政府は米アップルのiPhoneについても同社と交渉を進めているといいます。なお、改正案には、2026年中の導入を目指す新しいマイナカードで、券面の記載事項から性別を削除することも盛り込んだほか、各省庁などが持つ公的情報のデータベースの整備も進めるとしています。

(2)特殊詐欺を巡る動向

警察庁は、いずれもSNSを使って投資話を持ちかける「SNS型投資詐欺」と「ロマンス詐欺」の2類型の被害を初めて集計(残念ながら、原稿執筆時点(2024年3月10日)執筆で警察庁のWebサイトに掲載はありません)、2023年1年間の認知件数が計3846件に上り、被害総額が計約455.2億円に達したと発表しています。特殊詐欺と同様、SNSなどで緩やかにつながる「匿名・流動型犯罪グループ」の関与が疑われ、2023年下半期からの被害急拡大を受けて初めて集計したもので、全国で確認された被害は、SNS型投資詐欺が2271件、約278億円、ロマンス詐欺は1575件、約177億円、どちらも男性は50~60代、女性は40~50代の被害者が多く、1件あたりの平均被害額は約1200万円に上り、500万円以下が半数を占める一方、1億円超も相次ぎ、最高は3億6000万円でした。また、被害者への最初の接触手段は、SNSにメッセージを送りつける手口が目立ち、どちらも約9割の被害者が「LINE」に誘導され、虚偽の投資話などを持ちかけられていました。日常的に連絡を取るなかで人間関係が構築されるため、被害者が詐欺と気づきにくく、長期間にわたって何度も現金をだまし取られてしまうのが特徴といえます。恋愛感情を抱かせて相手から現金をだまし取る「ロマンス詐欺」は、外国人や海外で暮らす日本人を装いSNSで知り合った相手に「結婚したい」などと恋愛感情を抱かせてから現金をだまし取る詐欺の手口のひとつで、これまでは、詐欺の一種として被害の集計をしていて「ロマンス詐欺」に絞ったものはありませんでした。警察庁は被害が相次いでいることを理由に今回、初めて調査を実施しました。その結果、2023年は被害が1575件あり、177億円を超えていたことがわかり、このうち男性は762人で、女性は813人、年齢別では幅広い年代で被害が確認されましたが、特に多かったのは、50代でした。インスタグラムやフェイスブック、マッチングアプリなどが被害に遭う入口となっており(最初の接触に使われたSNSは、男性被害者はフェイスブック、女性被害者はインスタグラムが最も多く、ダイレクトメッセージや、SNS上に表示される虚偽広告をクリックすることで始まることが多いといいます)、容姿が端麗な他人の写真などを使ったアカウントから「早く結婚したい」「子どもを産んで欲しい」などといったメッセージが送られてくるのが手口で、恋愛関係にあると錯覚させたあと、「2人の将来のための資金」や「投資」などの名目で現金を振り込ませだまし取る手口が典型的なものです。なお、名乗った国籍は、中国や韓国などの「東アジア」(35%)が最も多く、「海外に住む日本人」(18%)、「東南アジア」(12%)の順で、詐称した職業は「会社役員」や「投資家」「医療関係」など様々でした。被害額の平均は1000万円ほどで、最高額は3億6000万円にものぼっています。「ロマンス詐欺」を巡っては、過去にはタイで中国人を中心としたグループが摘発されたほか、日本でも米軍を騙った手口で外国人が逮捕されるなど犯行は場所を問わないのも特徴で、警察庁は摘発に向けSNS事業者と協力し、国や部門を超えて捜査を進めていく方針としています。さらに、SNSを通じて投資に勧誘する詐欺(SNS型投資詐欺)の被害が、2023年7月以降に急増し、258.2憶円にものぼることも分かりました2023年の双方の被害総額は約455億2千万円となり、2023年の特殊詐欺の被害総額(約441億円)を約14億円上回る深刻な状況だといえます。ロマンス詐欺被害の72.4%は「2人の将来のため」などとかたった投資名目で、2024年1月に「新NISA」が始まり、政府が「資産運用立国」を目指すなど、投資への社会的関心の高まりに犯罪グループが乗じている可能性が考えられるところであり、SNSやネット上で投資できる環境が広がっていることや、最近の投資ブームが被害急増の背景にあると見られています。こうした状況をふまえ、警察庁は、都道府県警に実態解明と対策の徹底を指示、刑事や組織犯罪対策、サイバーなどの部門を横断するプロジェクトチームを設置することも通達しています。また、金融機関やSNS事業者などへの注意喚起や捜査協力を要請する方針で、海外に拠点を置く犯罪組織もあることから、外国当局との連携強化も進めるとしています。

「面識もない相手に、そんな大金を注ぎ込むなんて」と、SNS型投資詐欺やロマンス詐欺に巻き込まれた人は世間の冷ややかな反応という「二次被害」にも苦悩することになります。ばかにされるのを恐れ、周囲に相談もできず、孤立しがちで、経済的な被害だけでなく、心にも深い傷を負うことになります。2024年3月4日付産経新聞の記事「「ジャック・リー」にだまされて…ロマンス詐欺被害者に冷たい目 娘の500万円つぎこみ「最低の母」と自責」は、大変示唆に富む内容でした。記事の中では、ロマンス詐欺被害者らのためのトークルームも立ち上げた話もあり、あるルームでは現在30~50代を中心に100人台のメンバーが匿名で登録、主催者は「生活に窮する被害者をメンタル的に少しでもサポートしたい。警察には捜査面で積極的に動いてほしい」と求めています。また、被害者心理に詳しい日本大危機管理学部の木村敦教授(心理学)によれば、「そもそもSNSのユーザーには、知らない人と知り合ってみたいというモチベーションが少なからずある。それが「詐欺の空間」として悪用されているという。自分に悪いことは起こらないだろうという「楽観バイアス」を逆手にとられ、「詐欺かもしれない」と最初は警戒していても次第に都合のよい情報だけを信じるように。国際ロマンス詐欺では「金がほしい」「困っている」といった犯人側の言葉に応じやすくなる。障害があった方が逆にそれを乗り越えようと気持ちが高まる「ロミオとジュリエット効果」が働くのだという。また一度でも金を払ってしまうと、費やした金や時間、労力を惜しみ、撤退しにくくなる「サンクコスト効果」が被害者側に生じる。木村氏は「SNSが詐欺のフィールドとなり、高齢者ではなくてもターゲットになり得るとユーザーの認識を変えていく必要がある」と指摘」していますが、正に騙される構図、メカニズムが明快に示されているものと思います。

空前の株高が続く中、著名投資家や証券会社になりすましたフェイク広告や偽アカウントがインターネット上に横行し、投資初心者がお金をだまし取られるトラブルが相次いでいるといいます。金融庁などが注意喚起していますが、被害の回復や予防のためには広告を掲載する事業者の積極的な情報開示が必要だと思われます。証券会社へのなりすましも確認されており、ネット証券大手「松井証券」は公式のXやフェイスブックなどを開設していますが、社名やロゴを無断使用して投資を勧誘するアカウントや広告が複数見つかり、中には、フォロワー数が極端に少ないこと以外は公式と見分けがつきにくいものもあったといいます。同社はSNS運営者に削除を求めているものの、なりすましは後を絶たず、広報担当者は「いたちごっこだ」と述べています。なりすまし行為の被害回復は難しいうえ、SNS運営者側に偽アカウントの情報公開を求めても拒まれることが多く、裁判で開示させようとしても膨大な時間や費用がかかるなどハードルは高いのが現状です。投資を巡るトラブルの相談も増加傾向にあり、国民生活センターによると、2022年度の株取引に関するトラブルの相談件数は前年度より96件多い809件で、2023年度は2月までに850件を超えており、将来に備えて投資を検討している40代以上の被害が多く、同センターは「SNSをきっかけにした投資は慎重に判断を」と注意を促しています。

最近の報道から、SNS型投資詐欺やロマンス詐欺に関するものをいくつか紹介します。

  • 2024年3月4日付朝日新聞の記事「私はこうして数千万円を失った 増える投資詐欺、被害者が語った手口」は大変リアルな内容でした。具体的には「フェイスブックの広告をクリックすると、LINEのグループに誘われた。メッセージを送ってきたのは、あの村上ファンドの「村上世彰さん」だった。アイコンは「村上さん」の顔写真だった。「(2カ月後の)12月末には、この会は閉めます。それまでに6千万円稼ぎましょう」。金(キン)の売り買いで利益が出るとの触れ込みだった。昨年11月中旬、500万円を入金した。「村上さん」らに案内された専用のウェブサイトにも登録し、12月下旬までに計6回、数千万円を振り込んだ。サイトには入金した金額が反映され、自分で売り買いの操作もできた。「村上さん」は毎朝、アメリカの株式や金の動向の解説メッセージを送ってきた。売り買いをする午後1時と午後8時にLINEで合図を送ってくれた。…現金の振り込みを迫られることはなかった。入金したい時に、「村上さん」とは別のアカウントに連絡すると、口座と入金時間を指定してきた。送金先として指定される銀行口座は6回とも異なり、個人の口座や会社名義だった。異変に気づいたのは、最初の振り込みから1カ月後の12月下旬だった。指定された口座ではなく、前に指定された口座に300万円を送金した時だ。すると、犯人側のアカウントから、「指定の口座に振り込め」と督促のメッセージが2、3回来た。「文句を言われる筋合いはない」と思いながら、銀行窓口で確認すると、送金先の口座が停止されていることを知った。そこでようやく、だまされていたことに気づいた」というものです。こうしたリアルな手口を知ることも騙されないためのひとつの方法となります。
  • 「助手」から「上半期の運営費を追加で払わないと、出金できません」とメッセージがあり、事前説明はなく不審に思いながら、女性は追加で約300万円を支払ったところ、その後、助手と連絡がとれなくなり、アプリにもログインできなくなり、警察に相談し、詐欺と気づいたといいます。女性は「ネットで気軽に投資ができるようになり、気が緩んでいたのかもしれない。とても悔しい」と話しています。LINEを運営する「LINEヤフー」によると、LINEは電話番号やIDがあれば相手の承諾がなくても「友だち」登録でき、グループに追加できることから、同社は、電話番号やIDの検索、友だち追加の許可設定をオフにするほか、知らない相手からの連絡を防ぐ「メッセージ受信拒否」の機能を勧めており、担当者は「怪しいグループに招待されたら、メッセージに応答せず、招待してきた不審なユーザーをブロック・通報した上でグループから退会して」と呼びかけています
  • 山口県警宇部署は、宇部市の80代の男性が投資名目で7000万円をだまし取られる詐欺事件が発生したと発表しています。男性は2024年1月5日、スマホでインターネット上の広告を見て元証券会社員をかたる人物とSNSを使ってやりとりを開始、その後「今取引をすれば30%もうかるチャンスがある」などとメッセージを受け、同25日~2月7日、金や原油などの売買事業への投資名目で銀行などから指定された口座に5回にわたって計7000万円を振り込み、出金しようとしたところ、「手数料として15%を払えば出金できる」として2790万円を要求されたことを不審に思い、宇部署に届け出たといいます。
  • 福岡県警小倉北署は、60代の会社員男性がSNSで投資話を持ちかけられ、計5100万円をだまし取られる詐欺被害に遭ったと発表しています。男性は2023年12月13日、スマホで著名人をかたって投資を呼びかける広告をクリックしたところ、SNS上のグループに招待され、そこで株式などの投資話を受け、2024年1月8日~2月19日、計14回にわたり、指定された口座に計5100万円を振り込んだといい、男性が出金しようとすると「返金には15日かかる」などと言われ、3月5日にグループ側との連絡が取れなくなったといいます。
  • 「自分はだまされないと思っていたのに」と今も悔やんでいる男性がいる一方で、詐欺に気付いて被害を逃れた人もいます。男性が株の購入を申し出ると、「先生」は香港の投資会社の口座に50万円を入金するよう指示、男性は銀行で手続きをしようとしたところ、担当者から詐欺の疑いを指摘され、送金を踏みとどまったということです。男性は取材に、「今思えばメッセージが片言の日本語で、不自然だった」と振り返っています。特殊詐欺同様、金融機関の果たす役割も大きいものがあることを感じさせます。2024年3月4日付産経新聞で、「やりとりに心を動かされてしまった。周りが見えていなかった」と国際ロマンス詐欺で現金650万円を失った奈良県生駒市の40代女性が、当時の心境を語っています。女性に連絡があったのは2023年7月、《偶然あなたの投稿を見つけて、とてもすてきだと思いました》。東京で土壌の研究をしているという40代米国人男性を名乗るアカウントからメッセージが届き、男には6歳の娘がいるといい、小学生の子供がいるシングルマザーの女性と話がはずみ、「何でも共感してくれて毎日やりとりしていた」といいます。さらに、男から結婚を切り出され、自分の子供にきょうだいができることを夢見たといい、そのうち男から先物取引の投資を持ちかけられ、断ったものの「経済力がないと家族が納得しない」と言われ、紹介された投資サイトで取引を始め4回にわたって計650万円を振り込んだといいます。詐欺に気付いたのは約1カ月後、パートナーができて投資を持ちかけられたことを親友に相談すると「それは詐欺。即警察に行きなさい」と言われたのがきっかけだったといいます。
  • 米国人医師などを装ってだまし取った金を引き出したとして、山口県警長門署は、カメルーン国籍で住所不詳(自称・東京都足立区)、無職の男を詐欺容疑で再逮捕しています。男は氏名不詳者らと共謀してSNSで知り合った東京都の40代女性に「日本に行けるように手伝ってほしい」などとうそのメッセージを送り、2019年12月20~26日、管理する口座に4回にわたり計約680万円を振り込ませた疑いがもたれています。男は現金を引き出す「出し子」とみられ、「だまし取られた金とは知らなかった」と容疑を否認しているといいます。男は2024年2月11日、同様の手口で長門市の50代女性から計145万円をだまし取ったとして詐欺容疑で逮捕されていました。

総務省が、深刻化する特殊詐欺やフィッシング詐欺被害を受けて、「ICTサービスの不適正利用への対処のため、議論を行う必要がある」として、ワーキンググループを設置しています。以下、初回の事務局資料を紹介しますが、これまで本コラムでも取り上げてきた取組みが整理されています。なお、今後も議論の動向を注視していきたいと思います。

▼総務省 不適正利用対策に関するワーキンググループ(第1回)
▼資料1-2 ICTサービスの不適正利用対策を巡る諸課題について(事務局資料)
  • ICTサービスの不適正利用に係る背景
    • 特殊詐欺とは、被害者に電話をかけるなどして対面することなく信頼させ、現金等をだまし取る犯罪をいい、手口が多様に存在。令和5年の被害総額※は441.2億円(前年比19%増)。※警察庁調べ
    • フィッシング詐欺とは、実在する企業・金融機関などを装って、電子メールやSMSを送信するなどしてリンクから偽サイトに誘導し、ID・パスワード等を入力させ、個人情報を詐取する犯罪をいう。令和4年のクレジットカード番号盗用被害額※は411.7億円(前年比32.1%増)。※日本クレジット協会調べ
    • いずれも深刻な状況であり、国内外の特殊詐欺等の犯罪の状況を踏まえ、ICTサービスの不適正利用への対処のため、議論を行う必要がある
  • 電話悪用の手口について
    • 電話悪用と対策はいたちごっこ。犯罪者は、一つの手口をふさぐと次の手口に移っていく。
    • 【携帯電話】手軽に利用できる携帯電話を悪用した手口がまず発達
    • 【電話転送】電話転送サービスを悪用し、03番号等を表示させて信用させる手口が発達
    • 【050IP電話】本人確認義務のない050IP電話を悪用する手口。
    • 最近では、海外経由の通信サービスなど、着信時に電話番号が表示されないものを悪用した犯行も確認されている。
  • 総務省におけるこれまでの特殊詐欺対策について
    • 特殊詐欺対策について、総務省は電話を所管する立場から、以下の3本柱で、電話の悪用対策を実施
    • 対策の柱(1)携帯電話不正利用防止法(携帯電話利用者の本人確認)の執行
    • 対策の柱(2)犯罪収益移転防止法(電話転送サービス利用者の本人確認)の執行
    • 対策の柱(3)電話番号の利用停止措置の運用
      1. 携帯電話不正利用防止法の執行(2006.4施行(レンタルは2008.12より対象))
        • 携帯電話の契約時の本人確認を義務付け
        • 総務大臣は、本人確認義務を履行していないキャリアショップ等に対して是正命令を発出
      2. 犯罪収益移転防止法の執行
        • 電話転送サービス事業者等に対して、顧客等の本人確認を義務付け
        • 国家公安委員会からの意見陳述も踏まえ、総務大臣は、義務違反の事業者に対して是正命令を発出
      3. 電話番号の利用停止措置の運用
        • 総務省から事業者団体(TCA・JUSA)への通知に基づき、県警等からの要請に応じて、特殊詐欺に利用された固定電話番号等の利用停止、悪質な利用者への新たな固定電話番号の提供拒否を実施。(2008.3施行(電話転送は2013.4より対象))
  • 「携帯電話不正利用防止法」の概要
    • これまでの経緯
      • 平成17年4月、議員立法により「携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律」が成立。(平成17年法律第31号)
    • 「レンタル携帯電話事業者による本人確認の厳格化等」を内容とする改正法が平成20年6月成立。同年12月から施行。
      • 契約者の管理体制の整備の促進 及び 携帯音声通信サービスの不正利用の防止のため、以下を措置
  1. 契約締結時・譲渡時の本人確認義務等
    • 携帯電話事業者及び代理店に対し、(1)運転免許証等の公的証明書等による契約者の本人確認とともに、(2)本人確認記録の作成・保存(契約中及び契約終了後3年間)を義務付け。
  2. 警察署長からの契約者確認の求め
    • 警察署長は、犯罪利用の疑いがあると認めたときは、携帯電話事業者に対し契約者確認を求めることが可能。また、本人確認に応じない場合には、携帯電話事業者は役務提供の拒否が可能。
  3. 貸与業者の貸与時の本人確認義務等
    • 相手方の氏名等を確認せずにレンタル営業を行うことを禁止。(1)運転免許証等の公的証明書等による契約者の本人確認とともに、(2)本人確認記録の作成・保存(契約中及び契約終了後3年間)を義務付け。
  4. 携帯電話の無断譲渡・譲受けの禁止
    • 携帯電話事業者の承諾を得ずに譲渡することを禁止。
  5. 他人名義の携帯電話の譲渡・譲受けの禁止
  • 「犯罪による収益の移転防止に関する法律」の概要
    • 犯罪による収益の移転防止に関する法律(平成19年法律第22号)は、犯罪による収益の移転の防止を図り、
    • 国民生活の安全と平穏を確保するとともに、経済活動の健全な発展に寄与することを目的として制定(平成20年3月1日施行)。
    • 特定事業者(※)に対して、顧客等の取引時確認、疑わしい取引の届出等を義務付け。※ 金融機関、ファイナンスリース業者、クレジットカード業者、弁護士、司法書士、公認会計士等(特定事業者により義務等は若干異なる)。総務省関係では、電話受付代行業者、電話転送サービス事業者、行政書士、独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構が該当。
    • 特定事業者に対して、以下の事項について義務づけ。
  1. 取引時確認義務
    • 運転免許証等の公的証明書等による顧客等の(1)氏名・名称、(2)住居・本店又は主たる事務所の所在地、(3)生年月日、(4)取引を行う目的、(5)職業・事業内容、(6)実質的支配者の確認を義務づけ。
    • マネー・ローンダリングに利用されるおそれが特に高い取引(ハイリスク取引)については、上記確認事項に加え、その取引が200万円を超える財産の移転を伴うものである場合には「資産及び収入の状況」の確認も義務づけられている。
  2. 確認記録の作成・保存義務
    • 取引時確認を行った場合には直ちに確認記録を作成し、当該契約が終了した日から7年間保存することを義務づけ。
  3. 取引記録の作成・保存義務
    • 特定業務に係る取引を行った場合若しくは特定受任行為の代理等を行った場合には、直ちにその取引等に関する記録を作成し、当該取引又は特定受任行為の代理等が行われた日から7年間保存することを義務づけ。
  4. 疑わしい取引の届出
    • 特定業務に係る取引について、(1)当該取引において収受した財産が犯罪による収益である疑いがあるかどうか、(2)顧客等が当該取引に関し組織的犯罪処罰法第10条の罪若しくは麻薬特例法第6条の罪に当たる行為を行っている疑いがあるかどうかを判断し、これらの疑いがあると認められる場合に、行政庁に対して疑わしい取引の届出を行うことを義務づけ。
  5. 取引時確認等を的確に行うための措置
    • (1)取引時確認をした事項に係る情報を最新の内容に保つための措置を講ずるとともに、(2)使用人に対する教育訓練の実施、顧客管理措置の実施に関する内部規程の策定、顧客管理措置の責任者の選定等の措置を講ずるよう努めなければならない(努力義務)。
  • 特殊詐欺に利用された固定電話番号等の利用停止等スキーム
    • 警察からの要請に応じ、電気通信事業者が以下の措置を実施
      1. 特殊詐欺に利用された固定電話番号等の利用停止措置
      2. 新たな固定電話番号等の提供拒否
      3. 悪質な電話転送サービス事業者の保有する固定電話番号等(在庫番号)の利用停止
  • SNSで実行犯を募集する手口による強盗や特殊詐欺事案に関する緊急対策プラン
    • 「闇バイト強盗」と称されるSNS上で実行犯を募集する手口等を特徴とする一連の強盗等事件が広域で発生。
    • 被害者の大部分が高齢者である特殊詐欺の認知件数は、令和3年以降、増加しており、また、その被害額は、令和4年、8年ぶりに増加。
    • こうした情勢を受け、国民の間に不安感が拡大する中、この種の犯罪から国民を守るため、一層踏み込んだ対策として「SNSで実行犯を募集する手口による強盗や特殊詐欺事案に関する緊急対策プラン」を策定
  • 「実行犯を生まない」ための対策
    • 「闇バイト」等情報に関する情報収集、削除、取締り等の推進
    • サイバー空間からの違法・有害な労働募集の排除
    • 青少年をアルバイト感覚で犯罪に加担させない教育・啓発
    • 強盗や特殊詐欺の実行犯に対する適正な科刑の実現に向けた取組の推進
  • 実行を容易にするツールを根絶する」ための対策
    • 個人情報保護法の的確な運用等による名簿流出の防止等の「闇名簿」対策の強化
    • 携帯電話等の本人確認や悪質な電話転送サービス事業者対策の推進
    • 悪用されるSMS機能付きデータ通信契約での本人確認の推進
    • 預貯金口座の不正利用防止対策の強化
    • 証拠品として押収されたスマートフォン端末等の解析の円滑化
    • 秘匿性の高いアプリケーションの悪用防止
    • 帰国する在留外国人による携帯電話・預貯金口座の不正譲渡防止
  • 被害に遭わない環境を構築する」ための対策
    • 宅配事業者を装った強盗を防ぐための宅配事業者との連携
    • 防犯性能の高い建物部品、防犯カメラ、宅配ボックス等の設置に係る支援
    • 高齢者の自宅電話番号の変更等支援
    • 高齢者の自宅電話に犯罪者グループ等から電話が架かることを阻止するための方策
    • 現金を自宅に保管させないようにするための対策
    • パトロール等による警戒
  • 首謀者を含む被疑者を早期に検挙する」ための対策
    • 犯罪者グループ等の実態解明に向けた捜査を含む効果的な取締りの推進
    • 国際捜査の徹底・外国当局等との更なる連携
    • 現金等の国外持出し等に係る水際対策の強化
  • 既に実行に移した施策
    1. 青少年をアルバイト感覚で犯罪に加担させない教育・啓発
      • 『インターネットトラブル事例集2023年版』に「闇バイト」等に関する注意喚起を掲載。教育委員会、PTA等の関係機関に周知して教育・啓発。(3月)
    2. ナンバーディスプレイ等の普及拡大
      • 高齢者が悪質電話に出ないようにする観点から、総務省からNTT東西に対し、ナンバーディスプレイ等の普及拡大について要請。これを踏まえ、NTT東西において、ナンバーディスプレイ等の無償化を実施。(5月)
  • 準備・検討を進めている施策
    1. 050アプリ電話の契約時の本人確認の義務 現時点で実施済
      • 特殊詐欺への悪用が特に多く確認されている「050アプリ電話」について、契約時の本人確認を義務化する制度改正を準備。【総務省令の改正】
    2. 悪質な電話転送事業者の在庫電話番号の一括利用制限 現時点で実施済
      • 悪質な電話転送事業者が保有する固定電話番号等(在庫電話番号)の利用を一括して制限するスキームの改正を準備。【業界団体への要請文書の改正】
    3. 携帯電話の契約時の本人確認におけるマイナンバーカードの活用 更なる対応が必要
      • 本人確認書類の券面の偽変造による不正契約を防ぐ観点から、携帯電話の契約時の本人確認におけるマイナンバーカードの公的個人認証の活用に向け、業界団体との協議を実施。
    4. SMS機能付きデータ通信専用SIMカードの悪用対策 更なる対応が必要
      • SMS機能付きデータSIMの悪用の実態について、携帯電話キャリアやSMS配信事業者に対して調査を実施。悪用の実態の分析結果を踏まえて対策を検討。
  • SMSを利用するフィッシング詐欺(スミッシング)の状況
    • SMSは、電話番号だけで送信が可能であり、開封率が高いため、数多くの事業者において、SMS認証や簡易な連絡手段として活用されているが、その特徴を悪用し、フィッシング詐欺メッセージの送信にも多く利用されている。
    • 一部キャリア(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク)において、デフォルトオンのSMSフィルタリングが導入(令和4年)されており、文面等を分析したうえで、危険だと判断されるものはブロックされているが、それをかいくぐって届いてしまうものも少なくない。
    • 事業者ヒアリングの結果、スミッシングのメッセージについては、そのほとんどがマルウエアに感染したスマートフォンから発信されているのではないかと指摘されている
  • 特殊詐欺やフィッシング詐欺等のICTサービスの不適正利用への対処に関し、最近の動向等を踏まえ、専門的な観点から集中的に検討する
    1. 特殊詐欺対策
      1. 特殊詐欺被害が引き続き深刻な状況。「足のつかない電話」の発生抑止のため、本人確認書類の偽変造への対応など、本人確認の実効性の向上※に関して取り組むべき事項はあるか。※非対面契約でのマイナンバーカードの公的個人認証の活用等
      2. 特殊詐欺に悪用された電話番号の利用停止スキームが効果をあげていることから、本スキームの適用事業者の拡大※に向けて取り組むべき事項はあるか。※業界団体に加盟していない事業者等
    2. SMSによるフィッシング詐欺(スミッシング)対策

最近の新たな手口や特筆すべき動向など、いくつか紹介します。

  • 全国で相次いだ広域強盗事件に「ルフィ」などと名乗る指示役の一人として関与したとされる渡辺優樹被告=強盗致死罪などで起訴=について、警視庁捜査2課は、タイを拠点にした特殊詐欺にも関わったとして、詐欺や窃盗容疑などで再逮捕しています。渡辺容疑者はフィリピン拠点の特殊詐欺に絡み、これまでに計7回逮捕されていましが、タイを拠点とする特殊詐欺での逮捕は初めてとなります。2017年8月、何者かと共謀し、新潟県の70代女性に警察官を装い電話をかけ、「口座から預金が下ろされている」などとうそを言い、キャッシュカード2枚をだまし取り、現金約40万円を引き出し盗んだというものです。捜査2課によると、渡辺容疑者は2016年1月以降、タイと日本を行き来していたとみられ、タイ中部のリゾート地・パタヤに複数の拠点を設け、十数人規模の詐欺グループのリーダー格だったとされます。警視庁はグループによる被害を計35件確認しており、被害額は計約5000万円に上るといいます。渡辺容疑者は2018年12月ごろ、詐欺の拠点をフィリピンに移し、その後に実行役を集めて強盗をさせるようになったとみられ、2023年1月に東京都狛江市で住民女性が死亡した事件などに関与したとして逮捕、起訴されました
  • 広島県警広署は、呉市内の60代の女性が、能登半島地震に便乗した特殊詐欺で152万円を詐取されたと発表しています。能登半島地震に関係する特殊詐欺の被害は、県内で初めてといいます。女性の自宅に、男の声で「石川で震災があった関係で、国民年金2万8400円の払い戻しがあります」「キャッシュカードで手続きができます」などと電話があり、女性は市内の金融機関で、携帯電話での指示にしたがってATMを操作、3回にわたって計152万4852円を送金したということです。金融機関内のATMで携帯電話をしながら騙されてしまったという点については、防止できなかったのか悔やまれるところです。
  • AIを使った暗号資産運用事業への投資名目で違法に資金を集めたとして、埼玉県警生活経済課は、60代の男性会社役員ら4人を金融商品取引法違反(無登録営業)の疑いで逮捕しています。2019~2022年に北海道や沖縄県など38都道府県の約1000人から計約94億4000万円を違法に集めたとみられ、県警は実態解明を進めています。4人は2021年、金融商品取引業の登録を受けずに東京や埼玉などの男女計4人に対し、暗号資産運用事業に投資すれば配当を得られるなどと勧誘した疑いがもたれており、男性役員らは「AIを使った暗号資産運用のノウハウがある。短期間でもうかり、配当金を支払う」などと1口100万円で出資を募り、出資金は現金で受け取っていたといいます。出資者が知人を勧誘するなどし、男性役員を頂点に裾野を広げる形で出資者を増やしていたとみられています。一部の出資者には配当金が支払われていた一方、出資金が返金されていないケースもあるといい、2021年に出資者の親族が「投資詐欺に遭っているのではないか」などと県警に相談して発覚、2022年1月、県警が男性役員らの関係先を家宅捜索するなどして捜査を進めていたものです。
  • 岩手県警一関署は、「僕の遺産1億5000万円を受け取ってほしい」という有名芸能人を名乗るメールを信じ、一関市の60代の女性が計約200万円をだまし取られる特殊詐欺被害があったと発表しています。メールは2023年5月下旬から複数回にわたって届き、女性は「受け取るには手数料が必要」などという指示に従って、2024年1月までに約50回、電子ギフト券を購入し、その番号を伝えていたといいます。
  • SNSで女性を装って男性を呼び出し、暴行して金を奪うなどしたとして、大阪府警は、高校生と塗装工、美容師アシスタントの男3人(18~19歳)を強盗傷害容疑で逮捕しています。3人は共謀し、大阪府茨木市内の路上で、会社員男性を殴り、スマホなどを奪った疑いがもたれています。また、高校生と塗装工は2023年12月、同市内の公園などで、男子大学生を脅すなどし、8万円やスマホを奪った疑いももたれています。大阪府警によると、3人は約2年前にスケートボードを通じて知り合ったといい、「援助交際」をするとして被害者を呼び出していたといいます。
  • 架空料金請求詐欺の手口が「かけ子」によって具体的に語られている2024年2月28日付読売新聞の記事「架空料金請求詐欺「かけ子」が語った手口…「未納料金あります」1日5万件請求、「返金される」と安心させだます」は興味深いものでした。例えば、「男がいたアジトでは1日5万件前後のメッセージを送り、実際に200~300件の電話がかかってきたという。「相手が真剣に話を聞くのは3割、さらに信じるのはそのうち2割。1人のかけ子が1日10~30件電話をかけ、1~2人をだますペースだった」と振り返る。電話口では、本人確認と称して氏名や住所、生年月日を聞き出す。かけた時点では電話番号しか把握していないため、そこで個人情報を収集する。その後、未納料金を請求。「今日中に払わないと、明日以降裁判の手続きに入る」などと相手を焦らせる。この時、声を荒らげるのではなく、「コールセンターのように丁寧に話す」ことがポイントだ」、「利用履歴を調べるためと偽り、最近使っているSNSやアプリ、ネットショップの利用頻度など様々な情報を聞き出していく」、「男は「『返金される』というのが重要。身に覚えがなくても、みんな何かしら後ろめたい気持ちがあり、『もしかしたら、あれかも』と考えてしまう」と語る」など、リアルな内容でした。「今日中」「電子マネー」という言葉は詐欺だと思うこと、かけ子は丁寧な口調で親身に接してくることも多く、そこにだまされてはいけないこと、電子マネーなどの言葉が出たら電話を切り、警察に相談することが重要だといえます。
  • 2024年3月3日付産経新聞の記事「ドンキ従業員名乗る男から電話 「だまされない自信」のあった被害者が語るマインドコントロールのような特殊詐欺の巧妙手口」も極めてリアルな内容でした。例えば、「「自分はだまされない自信があった。マインドコントロールのような感じだった」。深刻な特殊詐欺の被害が後を絶たない中、大手ディスカウント店の従業員らをかたるグループからキャッシュカードなどをだまし取られ、計150万円以上の被害に遭った川西市の70代女性が取材に応じ、巧妙な手口と自身が受けた精神的な苦痛などを語った。女性宅の電話が鳴ったのは10月18日午前10時ごろ。普段は非通知の不審な電話には出ないが、電話番号がディスプレーに表示されていたため受話器を取ると、相手は大手ディスカウント店「ドン・キホーテ」の従業員を名乗る男だった。「クレジットカードが店で使われている」「女が7万円くらいの時計を買おうとしている」。矢継ぎ早に告げる切迫した声。男は女性の名字や名前、女性の持つカード会社を正確に知っていた。「クレジット消費者協会」に連絡するよう言われ、携帯電話で男から教えられた番号へ連絡した。その後、30分おきに繰り返し協会をかたる別の男からの電話があり、カードの利用停止手続きの進捗状況について説明された。「どこに詐欺団がいるか分からない」「誰にも相談しないでください」。不安をあおるような言葉の数々に、女性は「冷静に考える時間がなかった。そのときはもう完全に信用していた」と振り返る」、「翌日午前9時ごろ、女性が預金している銀行の担当者から「計170万円の多数の利用がある。口座の利用を停止した」と電話があり、ようやく自分がだまされていたことに気付いた。女性は「頭が真っ白になった」とその時の心境を語る」、「女性はその後、自己嫌悪に陥った。事件発覚後の約2週間は不眠ぎみになり、食事も喉を通らなかったという。「一刻も早くこのことを忘れたかった」と振り返る。現在は、警察からの勧めで、自宅の固定電話には、特殊詐欺防止のための録音機能のある専用機器を取り付けている。だが、後悔の念は消えない。女性は「今振り返れば、不審な点はいっぱいあった。おかしいと思ったらすぐに信頼する人に相談すべきだった」と悔やむ。今も詐取された金は女性のもとに返ってきていない」というものです。
  • 2024年2月21日付朝日新聞の記事「「検事」からのLINEを信じ 振り込んで失った勤続38年の退職金」もリアルな内容でした。「たった10日間で、38年間勤め上げた会社からの退職金をほぼすべてだまし取られた。千葉県松戸市に住む会社員の男性(61)は、特殊詐欺の被害に遭った後悔を口にした。犯人らに指示を受けて、最終的に振り込んでしまった金額は、総資産の約6割にあたる約3800万円に上った」、「よく考えると、おかしなことだらけだった。「無実の罪を晴らすためには仕方がないのかと。さっさと振り込んで気が楽になりたかった」。「検事」とのやりとりを重ねていた間、守秘義務を徹底しなければと思い、家族にも相談できなかった。使途は特に決めていなかったが、退職金は将来のためにと、専用の定期預金などで確保していた。入社以来、個人年金も積み立ててきた。いずれも解約し、だまし取られた。交番に被害を届け出に行くと、警察官からは「こんな詐欺に引っかかるなんて」と言われた。自分は「石橋をたたいて渡る」性格だと思ってきた。だが「逮捕」の二文字を告げられた途端、会社や取引先への影響が頭をめぐり、焦りが募った。「『逮捕』の言葉がきっかけで冷静さを失った。ためていたお金を丸々失ってしまった」」というものです。

暴力団等反社会的勢力が関与した最近の事例をいくつか紹介します。

  • 特殊詐欺で現金を受け取る「受け子」を指揮したとして、警視庁、住吉会傘下組織組員とミャンマー国籍の男の両容疑者を詐欺容疑で再逮捕しています。2人はすでに逮捕された男らと共謀して2021年10月、東京都杉並区の80代の無職男性に息子をかたって電話し、計2500万円をだまし取った疑いがもたれており、同課は2021年5月~2022年7月、今回の逮捕容疑も含め、都内の高齢者らから計約1億5千万円をだまし取ったとみられています。組員は十数人の「受け子」グループの統括役で、名前の読み方からグループは「Dの箱」と呼ばれており、うその電話をかける「かけ子」グループからの依頼で、繰り返し被害金を受け取っており、「現金の持ち逃げをしない」として犯罪グループに「評判」が良かったといいます。
  • 還付金詐欺の疑いで、六代目山口組二次団体清水一家の組員2人が逮捕されています。2人は、詐欺グループの一員として、神奈川県に住む60代の男性に区役所の職員を名乗り、うその電話をかけ、自分たちが管理する口座に現金50万円を振り込ませた疑いで逮捕されていますが、清水一家が関与した還付金詐欺は、20府県であわせて60件、被害総額は3000万円にのぼるとみられ、警察は事件の全容解明を進めています。
  • 女性から現金を詐取したとして、大阪府警は、詐欺の疑いで、六代目山口組傘下組織幹部を逮捕しています。容疑者は特殊詐欺のかけ子グループに電話回線を提供し、46都道府県の約850人、約20億円の詐欺被害に関与したとみられています。何者かと共謀して2022年11~12月、架空の有料サイトの利用料金名目で大阪府の70代女性から現金約1200万円をだまし取ったもので、容疑者はいずれも通信事業会社の合同会社スタートアップと合同会社太田商会の実質的経営者で、別の電気通信事業者から購入した回線をかけ子グループに提供していたとされます。女性の詐欺事件で使われた電話回線を大阪府警が調べたところ、提供元が容疑者の会社と判明、全国の被害者が受けた電話の回線も容疑者が提供したものとみられ、最大で約1億円の被害に遭った人もいたといいます。

その他、特殊詐欺被害に関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 特殊詐欺で得た金と知りながら現金約200万円を引き出したとして、警視庁捜査2課は、窃盗の疑いで韓国籍の元NEC社員を逮捕しています。当時は同社の沖縄支店に勤務し、沖縄県内から県外の「受け子」らに指示しており、連絡には匿名性の高い通信アプリ「テレグラム」を使用していたといいます。神奈川県の80代女性が、2023年5月に800万円をだまし取られる特殊詐欺の被害に遭っており、その一部が引き出されたとみられています。別の指示役の口座に入金された約200万円を、静岡県内の4カ所のコンビニで引き出して盗んだともので、捜査2課は、容疑者が逮捕容疑を含め6件、計約2千万円の特殊詐欺事件に関与したとみて、裏付けを進めています。
  • 警察官になりすまし、盗んだキャッシュカードで現金を引き出したとして、警視庁王子署は窃盗の疑いで、横浜市戸塚区の無職の被告=詐欺罪などで起訴=を再逮捕しています。「東京、埼玉、千葉で40件以上成功した」などと話し容疑を認めているといいます。2024年1月下旬までの約3カ月間、東京都内だけで少なくとも14件の特殊詐欺事件に関与しており、被害額は1千万円以上にのぼると見られています。
  • 特殊詐欺に関与したとして、窃盗や電子計算機使用詐欺などの罪に問われた千葉県松戸市の無職の被告について、仙台高検は、9件の電子計算機使用詐欺罪を無罪として懲役3年6月を言い渡した2審仙台高裁判決を不服として上告しています。報道によれば、仙台高裁は「(共犯の)氏名不詳者らから計画全体の説明を受けず、現金を引き出す以外の内容を全く知らなかった」と指摘、還付金を受け取れるとうその電話をかける「かけ子」行為の共謀は認められないと判断し、懲役4年とした1審青森地裁八戸支部判決を破棄したものです。判決によると、被告は2021年10~12月、他人名義のキャッシュカードを使ってATMから計約900万円を引き出したといいます。
  • 千葉県警が発表した2023年1年間の特殊詐欺事件の発生状況によると、認知件数と被害総額は前年を下回ったものの、手口別にみると、未払いの料金などを請求する架空料金請求詐欺は前年の2倍以上に増え、被害総額も約6億1千万円(前年比約2億5500万円増)となりました。捜査4課は架空料金請求詐欺が増えている背景について「犯人が捕まりにくいと考えているためだ」と分析、特殊詐欺事件では、被害金品を自宅まで受け取りに来る「受け子」がいるオレオレ詐欺に比べると、架空料金請求詐欺は犯人と対面せず、スマホのショートメッセージや有料サイトから未払い金を請求するため、犯人が「逃げやすい」と判断している可能性が高いとされます。
  • 山形県警組織犯罪対策課などは、山形県尾花沢市に住む60代の男性会社員が計30万円分の電子マネーをだまし取られる架空請求詐欺被害に遭ったと発表しています。男性は、スマホでウェブサイトを閲覧し、広告をタップすると動画が流れ、突然画面に「40万円の費用がかかります。トラブルを解決したい方は、このボタンを押してください」と表示が出たため、ボタンを押すと電話番号が表示され、かけてみると、男の声で「解約金30万円を支払えば、後で約29万円は返金される」などと伝えられ、電子マネーの購入を勧められ、指示通りにコンビニ3店舗で10万円分ずつ電子マネーのカードを購入し、男に電話で電子マネーを使用するための番号を伝えたといいます。また、別の男の声で複数回電話があり、「過去の未払い分が624万円分ある」などと言われ、男性は不審に思い、尾花沢署に被害を届け出たといいますが、30万円分の電子マネーは戻ってきていません。残念ながらコンビニ3店舗で10万円ずつ電子マネーのカードを購入したところで、気づければよかったと悔やまれるところです。
  • 鳥取県警は、鳥取市内の60代男性らが約150万円をだまし取られる特殊詐欺被害に遭ったと発表しています。男性宅に、市役所年金課職員を名乗る男から「年金の還付金がある。どこの銀行口座を持っているか」と電話があり、金融機関名を伝えると、同じ課の職員を名乗る別の男からATMに行くよう言われ、同居するおいとともにATMへ向かい、男性からATMの操作を任されたおいが、携帯電話で通話しながら男性名義のキャッシュカードで操作したところ、男から「そのカードでは操作できなかった」と言われ、自分のキャッシュカードで同様に操作、結局、男性の口座から約100万円、おいの口座から約50万円をだまし取られたというものです。
  • 神奈川県警加賀町署は、横浜市中区在住の80代女性が、太陽光事業に絡む和解金などの名目で、1550万円を詐取される事件があったと発表しています。女性は2023年10月18日から11月9日にかけて、「太陽光エネルギー供給事業者の社員」や「財務局職員」などを名乗る複数の人物から電話で、「太陽光供給事業の協力者になってほしい」や「トラブルになり、和解金を支払う必要がある」などと現金を支払うよう請求され、女性は受け取りに来た人物に4回にわたり、計1550万円を手渡したといいます。また、相模原南署は、相模原市南区在住の60代男性が、警察官や検察官を名乗る人物から電話で、「詐欺グループがあなたの名義の口座を使っていた。潔白を証明したいなら金融調査に協力するように」などとうそを言われ、現金計約1350万円を詐取される事件があったと明らかにしています。

例月通り、2024年(令和6年)1月の特殊詐欺の認知・検挙状況について確認します。

▼警察庁 令和5年11月の特殊詐欺認知・検挙状況等について

令和6年1月における特殊詐欺全体の認知件数は1,134件(前年同期1,335件、前年同期比▲15.1%)、被害総額は37.4憶円(29.2億円、+28.4%)、検挙件数は408件(492件、▲17.1%)、検挙人員は168人(172人、▲2.3%)となりました。ここ最近、認知件数や被害総額が大きく増加している点が特筆されますが、1月に限って言えば、認知件数と検挙件数が大きく減少しており、この傾向が継続するかどうかを含め、もう少し注視していく必要があるといえます(もちろん、高水準で推移していることから、引き続き十分注意する必要があることに変わりはありません)。うちオレオレ詐欺の認知件数は212件(263件、▲19.4%)、被害総額は9.0憶円(9.0億円、▲1.3%)、検挙件数は111件(155件、▲28.4%)、検挙人員は56人(73人、▲23.3%)となり、認知件数、被害総額、検挙件数、検挙人員もすべても前年同期を下回る結果となりました(とはいえ、相変わらず高止まりしている点に注意が必要です)。2021年までは還付金詐欺が目立っていましたが、オレオレ詐欺へと回帰している状況はいまだ継続していると言ってよいと思われます(とはいえ、還付金詐欺自体も高止まりしたままです)。そもそも還付金詐欺は、自治体や保健所、税務署の職員などを名乗るうその電話から始まり、医療費や健康保険・介護保険の保険料、年金、税金などの過払い金や未払い金があるなどと偽り、携帯電話を持って近くのATMに行くよう仕向けるものです。被害者がATMに着くと、電話を通じて言葉巧みに操作させ(このあたりの巧妙な手口については、暴排トピックス2021年6月号を参照ください)、口座の金を犯人側の口座に振り込ませます。一方、ATMに行く前の段階の家族によるものも含め、声かけで2021年同期を大きく上回る水準で特殊詐欺の被害を防いでいます。警察庁は「ATMでたまたま居合わせた一般の人も、気になるお年寄りがいたらぜひ声をかけてほしい」と訴えていますが、対策をかいくぐるケースも後を絶たない現状があり、それが被害の高止まりの背景となっています。とはいえ、本コラムでも毎回紹介しているように金融機関やコンビニでの被害防止の取組みが浸透しつつあり、ATMを使った還付金詐欺が難しくなっているのも事実で、そのためか、オレオレ詐欺へと回帰している可能性も考えられるところです(繰り返しますが、還付金詐欺自体事態、大変高止まりした状況にあります)。最近では、闇バイトなどを通じて受け子のなり手が増えたこと、外国人の新たな活用など、詐欺グループにとって受け子は「使い捨ての駒」であり、仮に受け子が逮捕されても「顔も知らない指示役には捜査の手が届きにくいことなどもその傾向を後押ししているものと考えられます。特殊詐欺は、騙す方とそれを防止する取り組みの「いたちごっこ」が数十年続く中、その手口や対策が変遷しており、流行り廃りが激しいことが特徴です。常に手口の動向や対策の社会的浸透状況などをモニタリングして、対策の「隙」が生じないように努めていくことが求められています。

また、キャッシュカード詐欺盗の認知件数は108件(196件、▲44.9%)、被害総額は被害総額は1.3憶円(2.7憶円、▲50.9%)、検挙件数は118件(129件、▲8.5%)、検挙人員は42人(38人、+10.5%)と、こちらは認知件数・被害総額ともに減少という結果となっています(上記の考え方で言えば、暗証番号を聞き出す、カードをすり替えるなどオレオレ詐欺より手が込んでおり摘発のリスクが高いこと、さらには社会的に手口も知られるようになったことか影響している可能性も指摘されています。なお、前述したとおり、外国人の受け子が声を発することなく行うケースも出ています。さらには、前述したとおり、キャッシュカードではなく「現金」入りの封筒で同様のすり替えを行う手口も出ています)。また、預貯金詐欺の認知件数は138件(186件、▲25.8%)、被害総額は1.3憶円(2.3億円、▲46.2%)、検挙件数は101件(100件、+1.0%)、検挙人員は46人(35人、+31.4%)となりました。ここ最近は、認知件数・被害総額ともに大きく減少していましたが、一転して大きく増加し、1月はあらためて大きく減少している点は、今後の動向を注視する必要があるといえます。その他、前述した架空料金請求詐欺の認知件数は294件(385件、▲23.6%)、被害総額は7.1憶円(9,4億円、▲24.3%)、検挙件数は21件(16件、+31.3%)、検挙人員は9人(6人、+50.0%)と、認知件数・被害額・検挙件数の急激な増加が目立ってきた中、1月は大きく減少する結果となりましたが、それでも高止まりしているため引き続き注意が必要です(前述したとおり、「サポート詐欺」と「電子マネー」の組み合わせは、犯罪者にとってリスクの低い犯行形態と考えられていることが背景にあるともいえます)。還付金詐欺の認知件数は251件(275件、▲8.7%)、被害総額は3.2憶円(2.9憶円、+10.9%)、検挙件数は55件(92件、▲40.2%)、検挙人員は14人(18人、▲22.2%)、融資保証金詐欺の認知件数は14件(15件、▲6.7%)、被害総額は7.8百万円(29.9百万円、▲74.1%)、検挙件数は1件(0件)、検挙人員は0人(1人)、金融商品詐欺の認知件数は96件(10件、+860.0%)、被害総額は15.1憶円(2.0憶円、+654.9%)、検挙件数は0件(10件)、検挙人員は0人(1人)、ギャンブル詐欺の認知件数は3件(3件、±0%)、被害総額は6.8百万円(14.2百万円、▲52.6%)、検挙件数は0件(0人)、検挙人員は0人(0人)などとなっています。

組織犯罪処罰法違反については、検挙件数は29件(18件、+61.1%)、検挙人員は9人(2人、+350.0%)となり、前年対比で大きく増加しています。また、犯罪インフラ関係では、口座開設詐欺の検挙件数は72件(52件、+38.5%)、検挙人員は22人(33人、▲33.3%)、盗品等譲受け等の検挙件数は0件(1件)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は248件(207件、+19.8%)、検挙人員は175人(148人、+18.2%)、携帯電話契約詐欺の検挙件数は10件(10件、±0%)、検挙人員は13人(10人、+30.0%)、携帯電話不正利用防止法違反の検挙件数は4件(0件)、検挙人員は0人(0人)などとなっています。また、被害者の年齢・性別構成について特殊詐欺全体の男性(36.5%):女性(63.5%)、60歳以上78.6%、70歳以上58.4%、オレオレ詐欺の男性(23.1%):女性(76.9%)、60歳以上91.0%、70歳以上84.4%、預貯金詐欺の男性(9.4%):女性(90.6%)、60歳以上99.3%、70歳以上97.1%、還付金詐欺の男性(33.1%):女性(66.9%)、60歳以上95.2%、70歳以上51.0%、融資保証金詐欺の男性(76.9%):女性(23.1%)、60歳以上0%、70歳以上0%、特殊詐欺被害者全体に占める高齢被害者(65歳以上)の割合について、特殊詐欺 69.3%(男性31.8%、女性68.2%)、オレオレ詐欺 87.3%(18.9%、81.1%)、預貯金詐欺 98.6%(9.6%、90.4%)、架空料金請求詐欺 46.9%(67.4%、32.6%)、還付金詐欺 76.5%(39.6%、60.4%)、融資保証金詐欺 0.0%、金融商品詐欺 26.0%(56.0%、44.0%)、ギャンブル詐欺 66.7%(100.0%、0.0%)、交際あっせん詐欺 0.0%、その他の特殊詐欺 11.8%(100.0%、0.0%)、キャッシュカード詐欺盗 97.2%(14.3%、85.7%)などとなっています。犯罪類型によって、被害者像が大きく異なることをあらためて認識し、被害者像に応じたきめ細かい対策を行う必要性を感じさせます。

本コラムでは、特殊詐欺被害を防止したコンビニエンスストア(コンビニ)や金融機関などの事例や取組みを積極的に紹介しています(最近では、これまで以上にそのような事例の報道が目立つようになってきました。また、被害防止に協力した主体もタクシー会社やその場に居合わせた一般人など多様となっており、被害防止に向けて社会全体・地域全体の意識の底上げが図られつつあることを感じます)。必ずしもすべての事例に共通するわけではありませんが、特殊詐欺被害を未然に防止するために事業者や従業員にできることとしては、(1)事業者による組織的な教育の実施、(2)「怪しい」「おかしい」「違和感がある」といった個人のリスクセンスの底上げ・発揮、(3)店長と店員(上司と部下)の良好なコミュニケーション、(4)警察との密な連携、そして何より(5)「被害を防ぐ」という強い使命感に基づく「お節介」なまでの「声をかける」勇気を持つことなどがポイントとなると考えます。また、最近では、一般人が詐欺被害を防止した事例が多数報道されています。直近でも、高齢者らの特殊詐欺被害を一般の人が未然に防ぐ事例が増加しており、たとえば、銀行の利用者やコンビニの客などが代表的です。埼玉県警によると、こうしたケースは2023年1~8月で104件にのぼり、すでに2022年1年間(103件)を超えたといいます。県警は、街頭での啓発活動や金融機関でのポスター掲示などが一定の効果を上げているとみています。また、被害を未然に防げた「水際防止」は2022年に全体で2215件となり、1888件だった2021年を上回って過去最多を更新しています。2023年も1~8月で1444件と最多に近いペースとなっています。大多数は家族やコンビニ店員、金融機関職員が詐欺と気づいて声をかけたものですが、居合わせた一般の人による声がけや警察への通報は2022年同期(64件)の1.6倍に増えているといいます。特殊詐欺の被害防止は、何も特定の方々だけが取り組めばよいというものではありませんし、実際の事例をみても、さまざまな場面でリスクセンスが発揮され、ちょっとした「お節介」によって被害の防止につながっていることが分かります。このことは警察等の地道な取り組みが、社会的に浸透してきているうえ、他の年代の人たちも自分たちの社会の問題として強く意識するようになりつつあるという証左でもあり、そのことが被害防止という成果につながっているものと思われ、大変素晴らしいことだと感じます。以下、直近の事例を取り上げますが、まずはコンビニの事例をいくつか紹介します。

  • 2023年12月、岡県久留米市のコンビニで、右手に1万円札の束、左手にプリペイドカードを持った50代の男性がレジ前に立ち、「すみません。30万円をこれに」「早くせないかんっちゃん」と焦った様子で、店員は詐欺を疑い、「詐欺の可能性の方が高いと思います」「絶対詐欺」「ほぼ詐欺」、言葉を変え説得を続ける店員に、男性はそれでもプリペイドカードの購入を求め続けたといいます。そんな様子が、県警久留米署が公開したコンビニ店内の映像から明らかになっており、福岡県警が、詐欺を信じ込まされた人と店員のやりとりの映像を公表するのは初めてだといいます。福岡県警は、「いくら説得されても、信じ込んでしまう詐欺の恐ろしさを自分ごととして感じてもらいたい」と指摘、男性が、店員のたたみかけるような説得をうけ、自分が詐欺に遭っているかもしれないと思い直し始めるまで約6分、詐欺を信じ込まされた人がどうなるのか、どう説得すれば詐欺だと気づいてもらえるのか、がわかる映像となっています。店員が、店を出た男性に「警察にも相談しましょう」と伝えようと追いかけると、男性は再びノートを開き、車の運転席で誰かと携帯電話で話しており、声をかけると、男性ははっとした様子で「また電話がかかってきた。毎回違う番号からかかってくるんです」と答えたことから、ここで食い止める必要があると考え、店員がその場で警察に通報したというものです。信じ込んだ人に詐欺だと認識してもらうことの難しさ、粘り強い説得の必要性がよくわかる映像で、多くの方に見ていただきたいと思います。
▼2024年2月20日朝日新聞 「絶対詐欺」たたみかけた店員、気づかせるまで6分 県警が映像公開
  • 特殊詐欺被害を未然に防いだとして、栃木県警栃木署は「セブン―イレブン岩舟和泉店」の女性パート従業員に感謝状を贈っています。従業員は、来店した70代の常連客の女性に、ATMから現金を下ろす方法を聞かれたため、目的を尋ねると、「リンゴの絵が描かれたカードを買えと言われている。払わないと、裁判所から連絡が来てしまう」などと話したため、女性に「絶対詐欺だよ」と伝え、栃木県警が配布する詐欺の手口などが書かれた封筒を使って説得、女性は封筒を見て納得し、警察に通報したといいます。従業員は後日、女性からお礼の手紙を受け取ったということです。
  • セブン―イレブン矢板富田店の笹沼さんは、栃木県内のコンビニ店員でただ一人の「声掛けゴールド・マイスター(名人)」(県警認定)で、1年間に3度、被害を防いだ実績を持っています。最初は2022年のクリスマスイブ、5万円分のマネーカードを購入しようとした70代の女性に、売り場を尋ねられたものの、レジで女性の手元をふとみると、携帯が通話状態だったことから警察に通報し、詐欺とわかったもの、2023年2月には、やはりカードを購入しようとした高齢の女性に「著作権を買うと配当がもらえる」と話しかけられ、「そんなことってあるの?」と疑問を持ったことから「詐欺じゃない!」と訴える女性を説得できないまま警察に連絡したといいます。2023年、栃木県内のコンビニでは88件の詐欺が阻止され、1年間に2回詐欺を防ぎ、県警から「声掛けマイスター」に認定された店員は24人、3回防いで「ゴールド」となったのは今のところ笹沼さん一人といいます(直近でも4回目の防止に成功したといいます)。
  • 全国で特殊詐欺の深刻な被害が続く中、2022年~23年に1店舗で神奈川県内最多の13件を阻止したローソン・スリーエフ大磯国府店では、オーナーによると、「客が電子マネーの売り場や使い方を知らない」「1万円超の高額利用」「高齢者」などは要注意だといい、売り場を聞かれると、レジ前の一番目立つ場所に貼った大磯署の絵付きチラシを見せて「詐欺じゃない?警察に電話しようか」と尋ねることにしているといいます。声掛けに強く反論する人もおり、手口を伝えるチラシを見せるのは効果的だといいます。若くても高額購入者には「お買い物ですか」と声を掛け、日々の業務は多岐にわたるため、「たばこの年齢確認の感覚で特別なことではなく、阻止はコミュニケーションの延長」と気負わないという意識はアルバイトやパート従業員にも浸透し、警察やローソン本社から何度も表彰される成果につながっているようです。時には「(詐欺だとしても)勉強代」と強情な人や、話かけるなというオーラを出す人もいるものの、「うっとうしい」と思われてもいい、「お客さんがだまされて何万円もの被害に遭うくらいなら、明日もあさってもうちのお店で買い物してほしい」と述べています。神奈川県の阻止件数は1768件(337件増)と過去最多を更新しており、特にサポート詐欺を含む架空料金請求詐欺が前年比92件増の202件と伸びが顕著となったようです。神奈川県警本部長は「各警察署からコンビニ店舗などへの協力が浸透していけば、社会の防犯力が更に高まっていく」と期待を寄せています。
  • 鳥取市鹿野町今市のローソン気高鹿野町店に50代の男性が来店、電子マネーカードコーナーから30万円分のアップル・ギフトカードを選んでレジへ焦っている様子だったものの、あまりに高額だったため、対応した女性アルバイト店員は、隣のレジにいた50代の男性店長に相談、店長は「詐欺じゃないですか?」「何に使うんですか」とたずねるも、男性は「自分で使う。詐欺じゃない。急いどる」との回答だったため、「これは詐欺だ」と確信し、すぐに浜村署に通報。警察官が到着するまで待っていてもらうよう説得を続けたといいます。カードは売らず、スマホの通話を誰かとつなぎっぱなしの様子で、男性は駐車場の自分の車へ戻ったため、店長や店員は発車してしまわないかどうか見張り、ナンバーも控え、もし発車してしまったら、次に向かうと思われる近くの別のコンビニ2店に、すぐに電話連絡をする構えまでとっていたといいます。発車してしまったところにちょうどパトカーが到着したということです。
  • 特殊詐欺被害を未然に防いだとして兵庫県警葺合署は、神戸市中央区の「ファミリーマート神戸脇浜海岸通店」の店員2人に署長感謝状を贈っています。2人のうち1人はバングラデシュ出身の留学生で、2023年12月、店を訪れた80代の男性が携帯電話で通話をしながら5万円分のプリペイドカードを購入しようとしたため、マムンさんは販売できないと断り、一緒に勤務していた栗田さんにも「気を付けてほしい」と情報を共有、その後、再び電話をしながら来店した男性は店内のATMを利用して30万円を振り込みたいと依頼、振込先の口座なども分からないという男性の様子を不審に思った栗田さんが電話を代わると、すぐに切れ、後に通信会社を装った携帯電話使用料金の架空請求だったことが判明したといいます。なお、栗田さんは過去にも詐欺を防いでおり、2度目の表彰だといいます。

次に金融機関と一般の方の事例をいくつか紹介します。

  • 高齢者が金をだまし取られる詐欺被害を防いだとして、大阪府警生野署は、生野大池橋郵便局の局長に感謝状を贈っています、局長は2024年1月、窓口を訪れた80代の女性から「区役所から電話があって、ATMを操作すれば還付金1万9000円をもらえると言われた」と相談を受け、局長は詐欺を疑い、「警察に話しましょう」と提案して同署に通報したものです。女性は最初、聞き入れてくれなかったといいますが、「だまされていますよ」と繰り返し説得し、被害を食い止めることができたということです。
  • JAならけん五條支店の渉外係の畠山さんは、担当となってから週1回は女性宅を訪問しており、日ごろから相談も聞く関係だったことから、「振り込みを止めることに迷いはなかった」として、「詐欺の可能性が高いので、振り込みはできません」とはっきり伝えたといいます。女性は2023年11月、スイス人のチェロ奏者を名乗る男とインスタグラムでやりとりを始めたといい、最初は「こっちは何時」「今起きました」「今は何してるの?」など、ちょっとしたやりとりだったところ、2024年1月に入ってから「裁判沙汰になっている」「資産が凍結されている」「弁護士費用を用立てて欲しい」などと言われるようになったといい、恋愛感情を抱かせて現金を要求する「ロマンス詐欺」とみて、五條署は、被害を未然に防いだ畠山さんと松本さんに感謝状を贈っています。
  • 特殊詐欺の被害を防いだとして、栃木県警佐野署は、JA佐野常盤支店の支店長に感謝状を贈っています。感謝状を県警から受けるのは3度目だといいます。支店長は、60代の女性が休止中のATM周辺で携帯電話で長い間しゃべっているのを監視モニターで確認、事情を尋ねたところ、この日朝、男が年金事務所やJA本部をかたり、「還付金の受け取りが今日まで」「農協のATMに向かって」などと女性のもとに電話をかけていたことがわかり、支店長は「それは詐欺ですよ」と女性に伝え、落ち着かせてから警察に通報したといいます。支店長は詐欺を見抜くコツについて、「客との距離感を縮め、普段とは違う行動をしていることに気づくこと」と説明、「疑いを持ったら、焦らず、丁寧でゆっくりな言葉遣いで話しかけるようにしている」と語っていますが、正にそのとおりだと思います。
  • 島根県警組織犯罪対策課と出雲署は、いずれも東京都足立区の無職の男(19)と男子高校生(15)を詐欺未遂容疑で逮捕しています。2人は共謀して、出雲市内の70代女性宅に「介護施設の入居優先権があります」「断るなら別の人に権利を譲ってほしい」などとウソの電話をかけ、女性が断ると、「別人の入居が決まった」「名義貸しは詐欺になる。解決のために100万円かかる」などと言い、100万円をだまし取ろうとした疑いがもたれています。女性は穏便に済まそうと5万円分の電子マネーを購入し、番号を教えた後、署に相談、女性の協力を得た県警の「だまされた振り作戦」により、模擬紙幣入り宅配便の宛先となった都内のマンションに現れた男を現行犯逮捕、近くにいた高校生を翌日逮捕したものです。

その他、特殊詐欺被害防止の取組みについての報道から、いくつか紹介します。

  • ゆうちょ銀行と警察庁は、特殊詐欺の被害防止のため、犯人側からの指示を携帯電話で受けながらATMを操作する利用者をAIで検知するシステムを全国で導入すると発表しています。警察庁によると、こうしたシステムを金融機関が全国的に導入するのは初めてといいます。特殊詐欺事件では、前述のとおり、犯人側が被害者をATMに誘導し、携帯電話で指示をしながら指定する口座に送金させる手口があり、新システムは、AIが画像を分析して利用者が携帯電話で通話していると判断すると、ATM上部に設置されたデジタルサイネージに音楽グループ「w―inds.」の橘慶太さんが「警告、その電話は詐欺です。今すぐ電話を切って」と呼び掛ける動画が流れる仕組みだといいます。
  • 固定電話がきっかけの特殊詐欺が後を絶たないことから、高齢者が防犯機能付き電話機を購入するのを後押ししようと、大阪府警吹田署が販売店への送迎や自宅での設置をサポートする取り組みをしています。吹田署管内の特殊詐欺の認知件数は2023年が130件で府内66署のうち2年連続のワーストとなっており、固定電話にかかってくる不審な電話から詐欺の被害に遭うケースが目立つといいます。吹田市は2023年9月から市内の65歳以上の人を対象に固定電話機の購入額の3分の2(上限1万円)を補助しています(先着1000台)。吹田署も翌10月から署員10人体制で希望者の店への送迎や設置作業の手伝いを始めたところ、これまでに約150世帯をサポート、2024年3月15日まで続けるとしています。

(3)薬物を巡る動向

日本大学アメリカンフットボール部(廃部)部員の違法薬物事件で、警視庁は、元部員で20代の男子学生を麻薬特例法違反(規制薬物としての所持)容疑で東京地検に書類送検、一連の事件で立件された学生や卒業生は計11人となり、警視庁は捜査を終結することとなりました。報道によれば、元部員は2023年、東京都内で違法薬物と認識した上で、大麻とみられる薬物を所持した疑いがもたれています。日大アメフト部を巡っては、本コラムでも継続的に取り上げてきましたが、2023年7月に中野区の学生寮で乾燥大麻などが見つかり、同8月、警視庁が学生寮を捜索、部内で違法薬物が広まっていたとみて捜査を続け、2024年2月までに麻薬特例法違反容疑などで部員3人を逮捕、卒業生ら7人を同容疑で書類送検しました。相次ぐ薬物事件を受け、日大は2023年12月15日付でアメフト部を廃部としています。日大で発生した問題は、日大特有の問題とはいえず、大学スポーツ界全体の問題としてしっかりと検証する必要があると考えます。筆者としては、「濃密な人間関係」がその真因と見ていますが、本件では、廃部の決定と、事件に関係のない部員を巻き込んだ「連帯責任」についてはどう考えるかも大きなテーマとなります。今回の問題を検証するにあたっては、2023年12月に設置した「競技部の薬物事件に関する調査及び再発防止策検討委員会」がまとめた答申書(要約版)の内容が参考になります。

▼日本大学 「競技部の薬物事件に関する調査及び再発防止策検討委員会」答申書(要約版)の公表について

答申書によれば、日大の問題では、事件が明るみに出る前年の2022年10月、コーチ陣が部員の7割に聞き取りをし、「3人の部員が大麻を吸引している」ことを、1年生が別の1年生から聞いたと報告、同年11月には、部の寮で「7月に大麻と思われるものを吸った」と1年生が監督に自己申告しており、この部員は聴取に対し、4年生から譲り受けて計4人で数回吸ったほか、他にも4人の部員が吸っていることを4年生から聞かされたと話しています。一方で、関係する部員全員から指導陣が聴取したものの、「事実関係を確認できなかった」といいます。また、部内のあるコーチは、同委員会のヒアリングに「留学生が大麻を持ち込んだと思う。そこから広がった」と回答しています。この留学生は2018年の入学のため、答申書は「数年前から問題が起きていたとも推測できる」と指摘、コーチは「寮内では部員同士の統制ができていなかった」とも話しており、学生の自治体制に問題があったこともうかがえます。最初に逮捕された部員が違法薬物を使った要因として、答申書は本人の規範意識の欠如を挙げた一方で、「寮内で繰り返し使用されていた経緯があるならば、『重大な問題ではない』と問題行為を軽く考える規範意識の低下が発生したかもしれない」などとし、寮生活の問題を環境的要因として考察しなければならないとしています。あらためて時系列で整理すると明らかなとおり、使用が疑われた事例や、今回の事件の予兆が存在していたことから、「その段階で徹底した調査がなされ、大学として厳然たる対応が実施されていれば、今回の事件も防げた可能性はある」とも同委員会は指摘していますが、正にそのとおりだと思います(その意味では、日本大学のガバナンスの問題だともいえます)。さらに、部全体の責任をどう問うべきかについて、答申書はそうした処分を決定するためのガイドラインの確立を求めています。「個人の部員だけ、学外での犯行であれば、チームレベルの処分は必要ないという判断は成り立つが、複数人による犯行、寮生活の中の犯行となれば、現代社会においては活動停止以上の処分の検討が必要になる」と提言しており、日大の問題にとどまらない、大学スポーツにおける問題への対応として参考になるといえます。なお、関連して、2024年3月6日付朝日新聞では、全米に先駆けて、学生選手の人格教育や体育会の改革を手がけてきたジョージア工科大学の元体育局長、ホーマー・ライス氏(97)に取材しており、「日大では、複数の選手が違法薬物を使用し、監督やコーチ陣が問題を認識していながら、対処しなかったようですね。私見としては、大学は問題を解決するまでの間、部を一時活動停止にし、使用した選手に出場停止処分を科すことがあってもいいと思います」、「ただ、米国では多くの場合、法的問題は法的機関に委ねます。その結果を待つ間、選手が出場停止になることもありますが、出場を続けることもあります。出場停止を巡る一般的なルールはありません。私は、違法行為や薬物使用をした選手を退部させたことはありません。他者、特に学生に対して、許しやセカンドチャンスを与えるようにしてきました。別の指導者も、選手を残す選択をしています。世間から重い処罰を求める声があっても、チームに戻した結果、その選手は卒業後にプロとして成功し、引退後には会社経営者としても成功しました。その子どもは、名門大学の学生として学んでいるという好例があります。私は高校、大学、米プロフットボールNFLの指導者を経験する中で、学生選手や引退した選手が、無知によって家庭や人生そのものを崩壊させているのを見てきました。人は、25歳までに人生に必要なスキルを身につけなければならないと感じました。そこで1980年代に、ジョージア工科大学で、学生のバランスの良い成長のためにトータル・パーソン・プログラムをつくりました」、若者は間違いを犯すものです。良い方向に導くために支える仕組みが必要なのはもちろん、悔い改め、再チャレンジする機会を与えることも必要だと考えています」と述べています。

2024年3月5日付朝日新聞の記事「問題行動を止める脳を育む 脳科学者が指導者や本人に伝えたい知見」は、本問題について「原因は多くの要素が絡み合い単純ではありませんが、脳の影響も無視できないので、その点で考えてみます」として別の視点からのアプローチがありましたが、大変興味深いものでたくさんの示唆を受けました。例えば、「不祥事を起こしてしまった方々には、その瞬間、多大なストレスがのしかかっていた可能性が高いと思います。また、その行為を後悔していることが多いはず。「後悔しているなら、やるなよ」と指摘されそうですが、なぜそれができないのか。過剰なストレスがかかると、脳は心理的危険状態になります。「頭で考えたり、判断したりしている場合じゃないよ。戦うか、逃げるかしなさい」というファイト・オア・フライトというモードに脳が切り替わり、おでこの裏あたりにある前頭前皮質の機能が働きにくくなってしまいます。前頭前皮質には、感情を抑制し、不適切な行動を抑えるブレーキ役の機能が備わっています。しかし、ストレスが過剰になると、その働きが失われます。冷静な時は「やっちゃいけんよ」と頭でわかっていることをやってしまうのは、そのためです。では、過剰なストレスというのは何でしょうか。大きく分けて、二つのタイプがあります。一つは、一過的に高いストレス反応を示すもの。もう一つは、蓄積して過剰化するもの」だといいます。さらに、「日頃から、自分自身で感じて、考えて、意思決定をするということが尊重されていれば、前頭前皮質の機能は発達します。すなわち、「やっちゃいけん」のブレーキも大いに育まれうるのです。一方で、個の意思決定、判断を軽視し、思考停止を促すことを繰り返す環境においては、当然ブレーキも効きづらくなり、脳の暴走をもたらす可能性もあるわけです」と指摘しています。日大の問題において筆者が繰り返し指摘してきた「濃密な人間関係」によるストレスや思考停止が日常化していた状況下においては、脳の活動自体が問題行動を促すようになってしまうという意味であり、極めて重要な示唆だと思います。さらに、解決策として、「「アスリートである以前に人である」ということを強く意識することです。アスリートとしてのパフォーマンスを高めるだけでなく、人としての脳力を育む観点に立つことの重要性を大学、指導者、アスリート自身も深く共通理解し、また育むように実践していくことが重要でしょう」、「昨今、ストレスマネジメントや心理的安全がブーム化していますが、その多くが、ストレスをなくそうという方向です。それは違います。ストレスは悪者では決してありません。我々の体内にあるストレスの仕組みとうまく付き合い、むしろ成長、パフォーマンスを高める方向に生かす術を学び実践していくことで、それは結果として不祥事をもたらすような脳の状態を予防でき、不祥事の発生確率を低めるのではないかと考えています」と述べていますが、前述したホーマー・ライス氏の「トータル・パーソン・プログラム」もまたこうした脳科学に立脚した実効性の高い取り組みであることを感じさせます。日大に限らず、大学スポーツ界、さらには大学における人格形成の重要性を脳科学の観点から示すもので、今後に重要な示唆を与えるものだといえます。

大学スポーツ界における薬物の蔓延に関する最近の報道から、以下打つか紹介します。

  • 日大が、関東学生アメリカンフットボール連盟に新年度の加盟申請をせず、2024年度の公式戦に出場しないことが確定しています。部員による違法薬物事件を受け、日大アメフト部は廃部となり、大学として再建する意向は示していましたが、時期などは未定でした。報道によれば、2024年度は新1、2年生を中心にサークルの形態で活動する見通しで、「新生アメフト部」の創設は2025年度以降になるといい、関東学連には報告済みだといいます。
  • 法政大学アメフト部で大麻使用の疑いがあり、大学側が尿検査を行ったところ部員3人から陽性と疑われる反応があったことが分かったといいます(警視庁の尿検査では陰性だったといいます)。3人のうち1人は大学側の聞き取りに「合法な薬物を使った」と話し、ほかの2人は使用を否定しているといいます。報道によれば、アメフト部員が大麻を使用しているとの情報を同部の指導陣が把握、大学側が簡易検査キットで同部員約100人を尿検査したところ、3人から陽性と疑われる反応が出たため、大学からの相談を受けた警視庁が、この3人の尿を検査したが全員が陰性だったということです。これを受け、法政大は学内会議を開き、男子部員3人に大麻使用の疑いがあった同部の活動を継続させることを決めています。法政大は公式サイトで、事実関係を明らかにした上で「こうした事態が生じたことを重く受け止めています。引き続き、あらゆる薬物に対する正しい知識を学生に理解してもらうために、啓発活動を続けてまいります」としています。
  • 違法薬物に関わり4人の部員が逮捕された東農大ボクシング部が存続する方針が固まったといいます。教授会で決議され、理事会にも報告があったといいます。大学によると警察の捜査を踏まえ、4人以外の関与がないことを確認し、再発防止策も認められたことが理由で、無期限活動停止の処分解除時期は日本連盟と相談して決めるとしています。新監督の人選は外部からの招聘を含めて検討、関東連盟は正式な処分解除通知後に、処分や関東大学リーグ戦の参加について協議するとしています。
  • コンビニで大麻を所持していたとして、大麻取締法違反(所持)の罪に問われた福山大のサッカー部員だった被告は、広島地裁福山支部で開かれた初公判で「間違いありません」と起訴内容を認めています。起訴状によると、被告は2023年9月2日、広島県福山市のコンビニで乾燥大麻(約0.9グラム)を所持したとされます。また2024年1月10日、元部員の別の被告=同法違反(譲り渡し)罪で起訴=の自宅で大麻リキッド1本(約0.6グラム)を7千円で譲り受けたとして、2024年2月14日に同法違反(譲り受け)罪でも起訴されています。事件では、両被告を含む元サッカー部員4人と被告の知人の男が同法違反容疑で逮捕されており、元部員は「4人で大麻を吸った」と供述していました。
  • 早稲田大の相撲部員を巡る大麻取締法違反事件で、福岡県警は、早大の19~21歳の男子学生3人と元学生の男性の計4人を同法違反(譲り受け未遂)や麻薬特例法違反(所持)の容疑で書類送検しています。19歳の男子学生の書類送検容疑は2023年7月中旬ごろ、同県福津市に住む知人の男性=大麻取締法違反で有罪判決=に依頼し、西東京市にある相撲部員方(当時)に大麻を含む植物片1.568グラムを郵送させようとしたとしています。21歳の学生2人と元学生の容疑は、大麻を所持したなどとしています。報道によれば、19歳の男子学生は「注文状況は覚えていない」としつつ「(以前に)違法な大麻と知った上で使用した」とも供述しているといいますが、県警は、残る3人の供述内容は明らかにしていません。

若者への大麻の蔓延ということでは、大阪府立高2年の男子生徒2人が、2023年9月の修学旅行中に大麻を使用したと話していることが判明しています。報道によれば、北海道への修学旅行中だった2023年9月上旬、宿泊先のホテルで男子生徒2人が大麻を吸っているのを教員が発見し、北海道警に通報、2人は学校の聞き取り調査に対し、乾燥大麻を持ち込んで使用したと認めたといいます。なお、他の生徒による使用は確認できなかったということです。同校は府教育委員会に報告、校長は「授業で薬物に関する教育は行っていたが、こんな事態が起きてショックだ」と話しています。

前回の本コラム(暴排トピックス2024年2月号)でも取り上げましたが、ドイツ連邦議会(下院)は2024年2月、個人による嗜好用の大麻の所持を認める法案を可決しています。また、参議院(上院)も通過し、可決成立しています。ドイツは娯楽目的の大麻使用を合法化する9番目の国となります。米国やオーストラリアの一部も合法化されており、鎮痛剤としての医療目的の使用はさらに多くの国が認めています。早ければ2024年4月から、認可された非営利グループから18歳以上の成人は自宅で50グラム、公共の場では25グラムまで入手でき、使用目的の所持が認められるほか、3株まで栽培も容認することにもなります(未成年者の大麻使用、学校やスポーツ施設などの近くでの使用は禁止されます)。国内で大麻の使用者が増える中、流通を管理することで闇市場での粗悪品取引や未成年者の使用を抑止する狙いがあるとされますが、医師会は依存の恐れや若年層の常用による脳への影響を警告、警察官でつくる団体は、使用者による車の運転など取り締まりの負担が増大し、闇市場での取引もなくならないと批判しています。法案によると、、ドイツ国内の居住者は会員になれば1日に25グラム、月に50グラムまで入手できる。

タイのチョンラナン保健相は、嗜好用大麻の使用を2024年末までに禁止する方針を示しています。医療目的の使用は引き続き認めるとしています。タイは東南アジアで初めて大麻を合法化した国で、2018年に医療と研究目的の使用に限定して解禁され、2022年には栽培と一般使用も認められています。これを受けて販売店や大麻を扱うスパやレストランなどが急増し、大麻産業は2025年までに12億ドルに拡大すると見込まれています。チョンラナン氏は「規制がなければ大麻は乱用される」と懸念を示し、特に嗜好用大麻使用に言及、「大麻の誤った使用はタイの子どもに悪影響を与える」とも指摘しています。なお、以前の本コラム(暴排トピックス2022年7月号)では、「2019年に医療用大麻の使用を解禁したタイ政府はその後も規制を緩め、農業や観光業の活性化につなげようと生産を奨励、街では大麻成分入りの飲食物を提供するカフェが話題を呼んでいますが、世論調査では、知識不足や若者の乱用の危険性などから、7割が大麻合法化を懸念すると回答」していることを取り上げています。タイにおける娯楽目的の大麻の使用は2024年内にも禁止される可能性が高い状況ですが、すでに栽培、流通、販売の態勢ができあがっており、医療や健康用途に限られるといっても、どこまで厳格化されるかにより、規制が緩いものなら、使用できる場所が限定される一方、実質的には嗜好目的使用の市場は存続し、観光振興施策のような名目で一部の事業者が市場を独占する形になる可能性も考えられるところです。

財務省は、税関による関税法違反事件の2023年の取り締まり状況を公表しています。覚せい剤や大麻など不正薬物の押収量は前年比79%増の約2406キロとなり、過去2番目の高水準となりました。大口の密輸事件の摘発があったもので、内訳は、覚せい剤が前年の約3倍となる約1978キロに増えたほか、大麻は70%減の約142キロ、麻薬は47%増の約276キロで、うちコカインが大幅に増加し、指定薬物は45%減の約11キロとなりました。

▼財務省 令和5年の全国の税関における関税法違反事件の取締り状況
財務省は、令和5年の1年間に全国の税関が空港や港湾等において、不正薬物(覚醒剤、大麻、あへん、麻薬(ヘロイン、コカイン、MDMA等)、向精神薬及び指定薬物をいう)の密輸入その他の関税法違反事件を取り締まった実績をまとめましたのでお知らせします。

  1. 不正薬物
    • 不正薬物全体の摘発件数は815件(前年比22%減)と減少し、押収量(錠剤型薬物を除く。重量等未確定の場合には含まれないものがある。以下、個々の押収量についても同様)は約2,406kg(同79%増)と増加した。不正薬物全体の押収量は、2トンを超え、過去2番目を記録し、極めて深刻な状況となっている。
    • 覚醒剤
      • 摘発件数は296件(同2%減)と減少し、押収量は約1,978kg(同約3倍)と大幅に増加した。
      • 押収した覚醒剤は、薬物乱用者の通常使用量で約6,593万回分、末端価格にして約1,226億円に相当する。
    • 大麻
      • 摘発件数は132件(同4%減)、押収量は約142kg(同70%減)と共に減少した。
    • 麻薬
      • 麻薬の摘発件数は234件(同1%減)と減少し、押収量は、重量は約276kg(同47%増)と増加し、錠剤型は約36千錠(同55%減)と減少した。
      • 麻薬のうち、コカインの摘発件数は67件(同約2.4倍)、押収量は約103kg(同約2.1倍)と共に増加した。
    • 指定薬物
      • 指定薬物の摘発件数は143件(同60%減)、押収量は約11kg(同45%減)と共に減少した。
  2. 金地金(金地金には、金塊に加えて一部加工された金製品も含む)
    • 金地金の摘発件数は218件(同約24倍)、押収量は約268kg(同99%増)と共に増加した。
  3. 知的財産侵害物品等
    • 商標権を侵害するブローチ等の密輸入事件等の知的財産侵害物品の密輸事件を9件告発した。
    • 紙巻タバコ等の不正輸出事件や、偽造有価証券の密輸入事件等を告発した。

また、成田空港で2023年に押収された覚せい剤は前年比2.8倍の451キロとなり、1978年の開港以来、過去最多だったと東京税関成田税関支署が発表しています。覚せい剤をはじめ、大麻、麻薬など不正薬物全体の押収量は同3.1倍の580キロで開港以来3番目に多かったといいます。新型コロナウイルス禍の沈静化による旅客の回復に伴って不正薬物の密輸が急増、同支署は「この状況を深刻にとらえ、関係機関と連携して取り締まりを一層強化したい」と警戒しています。不正薬物全体の摘発件数は前年比63%増の143件で、内訳は、覚せい剤82件▽麻薬43件▽大麻17件▽向精神薬1件となりました。覚せい剤の出発地別の押収量は、メキシコ164キロ▽カナダ119キロ▽米国82キロと3カ国で8割以上を占めたほか、出発地別の大麻の押収量はカナダと米国の2カ国で99%以上になり、麻薬の押収量はスリナムなど中南米5カ国で7割以上を占めています。不正薬物の密輸の手口は、体に巻き付け▽飲み込み▽食料品に偽装▽スーツケースに隠す▽航空貨物の機械に隠すなどさまざまなものがあったといいます。同支署は「運び屋の摘発が急増している。旅客が覚醒剤や大麻10キロ以上の大口の密輸は17件あった。今後も旅客の増加に伴い、不正薬物の密輸の増加が見込まれる」と警戒しています。

厚生労働省は、合成麻薬LSDに似た成分を含む紙片など危険ドラッグ6製品について、新たに製造や販売、広告を禁止したと発表しています。医薬品医療機器法の広域規制の対象として販売などが禁止されたのは、合成麻薬LSDに似た「1D―LSD」と呼ばれる成分を染みこませた紙片や、大麻に似た成分を含む電子たばこのリキッドなど6製品で、厚生労働省によれば、2024年1月に1D―LSDを含むとみられる製品を摂取した20代が錯乱状態になる健康被害が生じていたといいます。店舗やインターネットでこの製品を販売する9業者に厚労省が立ち入り検査を実施、販売が確認された6製品を規制対象としたものです。本コラムでもたびたび取り上げたとおり、「大麻グミ」などによる健康被害が相次ぎ、2023年12月に38製品の販売などが禁止されており、規制対象は計44製品となりました。その大麻類似成分を含むグミを食べた人の健康被害が相次いだ問題に関連して、グミの製造・販売会社「WWE」(大阪市北区)が販売していた過去の商品に違法薬物の成分が含まれていた疑いがあるとして、大阪府警が麻薬取締法違反(譲り渡し)容疑で、同社の店舗など関係先を家宅捜索しています。いずれも大阪市内にあるWWEの製造工場や店舗計4カ所に入り、大麻類似成分を含むとうたったグミやクッキー、商品の原料のほか、パソコンなどを押収したといいます。報道によれば、2023年7月、大阪府豊中市内の駐車場で職務質問した男女の所持品を検査したところ、同社製の大麻グミ1袋を発見、押収し鑑定した結果、1990年から規制対象になっている違法成分「デルタ8-テトラヒドロカンナビノール」が検出されたといいます(この商品は現在販売されていないといいます)。男女は2024年1月、麻薬取締法違反(共同所持)容疑で逮捕されています。さらに、WWEの販売したグミについて、大麻の違法成分「THC(テトラヒドロカンナビノール)」が検出されていたことも判明しています。問題を巡っては、WWEなどが販売した製品から検出された合成化合物HHCH(ヘキサヒドロカンナビヘキソール)入りの大麻グミを食べた人が救急搬送される事態が多発、厚生労働省は2023年11月、グミを販売していたWWEに対し、医薬品医療機器法に基づいて立ち入り検査を実施し、「販売停止命令」を出しています。さらに、九州厚生局麻薬取締部は、指定薬物の大麻類似成分HHC(ヘキサヒドロカンナビノール)を含むグミを所持したとして、医薬品医療機器法違反の疑いで、大分市にある販売店を経営する20代の女を逮捕しています。大分市の店も取り扱っていたグミにHHCが含まれていると鑑定で判明、HHCを含むグミ数十グラムを所持したとするものですが、包装の製造者欄には「WWE」との記載があり、九州厚生局麻薬取締部が詳しく調べています。なお、厚生労働省は2023年12月、大麻に似た有害な6成分を同法の指定薬物として包括的に指定、2024年1月にはこれらの所持や使用、販売に対し、3年以下の懲役または300万円以下の罰金を科す規制を始めています。

新潟県警は、県内の小売店に未承認医薬品の大麻由来成分配合マッサージオイルを販売したとして、医薬品医療機器法違反(未承認医薬品の販売)の疑いで東京都千代田区の会社員を逮捕しています。販売先の小売店で購入した人がいる可能性もあり、流通経路を調べています。報道によれば、2022年7月下旬~2023年10月下旬ごろ、大麻由来成分のカンナビジオール(CBD)を配合したヘンプマッサージオイル18点を売ったというもので、オイルには「うつ治療に用いられる」などと書かれていたといいます。また、東京・渋谷の路上で、「合法の大麻」などとうたいながら違法の指定薬物を販売していたとして、警視庁薬物銃器対策課は、医薬品医療機器法違反(業としての販売目的所持)の疑いで、会社員ら男女4人を逮捕しています。報道によれば、旧東急百貨店本店(東京都渋谷区)の周辺で、「大麻リキッドを販売している」との匿名の110番通報を受け、警察官が駆け付けると、「合法ガンジャ(大麻)」と掲げた車を発見、車内から見つかったリキッドを鑑定した結果、THCHの成分が検出されたという。液体は容疑者らが製造したとみられ、リキッドは1本1万円で、2023年4月ごろから12月ごろまで車両やオンラインで販売していたとみられています。「合法なのにぶっ飛びます」などと宣伝する看板を車に設置し、移動しながら集客していたといいます。一方、大麻由来成分「カンナビジオール(CBD)」の活用を考える超党派議連は、国会内で総会を開き、出席した民間のCBD事業者らが健全なCBD製品の発展に向け「危険ドラッグ成分を取り扱わない」「法令遵守」を掲げた共同声明を発表し、議連側に提出しています。声明では、危険ドラッグ成分に相当する大麻由来成分に類似する化学物質「合成カンナビノイド」の販売・提供は一切行わないなどと強調しています。議連会長を務める自民党の山口俊一衆院議院運営委員長は「将来的にわが国の大きな産業として活況を呈するように頑張っていきたい」と語っています。2023年12月の臨時国会で大麻取締法などの改正法が成立し、大麻草の花や葉から抽出したCBDを含み安全性と有効性が確認された医薬品の提供が認められ、市場規模の拡大が想定される一方、「大麻グミ」など違法な危険ドラッグ成分を配合したCBD製品の販売例なども確認されており、CBD事業者が健全な市場環境を整備していく姿勢をアピールした形となります。

覚せい剤計約5.7キロ(末端価格約3億5000万円)をイスラエルから国際郵便で密輸したとして、警視庁薬物銃器対策課は、ナイジェリア国籍の容疑者を覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)容疑で逮捕しています。容疑者は新宿・歌舞伎町拠点の薬物密売グループのリーダー格とみられ、自宅からは末端価格およそ3億円分の違法薬物が押収されているほか、国際ロマンス詐欺で知り合った日本人女性に荷物の受け取りを依頼していた疑いがもたれています。逮捕容疑は2022年3月、イスラエルから国際スピード郵便で、約5.7キロの覚せい剤を隠した荷物二つを川崎市の会社事務所に送り、密輸したというもので、荷物の宛先がこの会社に勤務する日本人女性になっていたといいます。女性は同容疑で逮捕後に不起訴処分となっており、警視庁に「通信アプリで知り合ったフランス人を名乗る男性に頼まれ、荷物を数回受け取った」と話したといいます。薬物銃器対策課は、密輸グループのメンバーがフランス人男性を装い女性とやり取りし、恋愛感情を利用して、覚せい剤の受け取り役にしていたとみているといいます。

暴力団の関与する薬物事犯についての最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 覚せい剤などを販売目的で所持した疑いで、札幌市の六代目山口組茶谷政一家の組員ら3人が逮捕された事件で、現場から「大麻オイル」も押収されていたということです。報道によれば、3人は、2024年1月、札幌市北区のアパートで覚せい剤や大麻など、末端価格で1600万円相当を販売目的で所持した疑いで逮捕され、その際、大麻成分を凝縮したとみられるオイルおよそ50本も押収されたものです。、警察は、細谷容疑者が中心的な役割を担っていたとみて調べを進めています。
  • 覚せい剤をレターパックで沖縄県に郵送して同県の男性に3万円で売り渡したとして、警視庁薬物銃器対策課などは覚せい剤取締法違反(営利目的譲渡)の疑いで、住吉会傘下組織幹部=同罪などで起訴=を再逮捕しています。容疑者は自身の80代の母=逮捕、釈放=を含む密売グループの主導役とみられ、逮捕は5回目だといいます。2023年の逮捕時、自宅やは薬物を密売するための倉庫として使っていたアパートの部屋から覚せい剤約222グラム(末端価格約1370万円)や大麻約162グラム(同約97万円)、合成麻薬MDMA2692錠(同約1615万円)、「大麻オイル」およそ50本を押収しています。密売人に卸すほか直接販売もしていたといい、母は購入者に薬物を渡すなど販売を手助けしており、「いけないことだと分かっていたが、息子の生活のためだった」などと話したといいます。再逮捕容疑は昨年7月、都内からレターパックで覚醒剤を沖縄県に発送し、同県の男性=当時(37)=に3万円で譲渡したとしている。
  • 京都府警組対3課と下京署などは、覚せい剤取締法違反(営利目的所持)と大麻取締法違反(同)の疑いで、埼玉県川口市の暴力団組員と暴力団組員の被告の男=覚せい剤取締法違反の罪などで起訴=ら男4人を逮捕しています。報道によれば、共謀し、2023年11月、暴力団が管理する川口市のビルの一室で、覚せい剤約0.4グラムや液体大麻約32グラムを所持した疑いがもたれており、被告の男らはレターパックなどを利用して、覚せい剤や大麻を販売していたといいます。

最近の薬物を巡る報道から、いくつか紹介します。

  • 九州厚生局麻薬取締部は、大麻取締法違反(営利目的栽培)などの疑いで大分県別府市の男2人を逮捕、送検、営利目的栽培の罪で起訴されています。報道によれば、2人が住んでいた一軒家を捜索、乾燥大麻を発見し、営利目的所持容疑で現行犯逮捕、栽培されていた大麻94株や液体肥料、覚せい剤も押収しています。さらに、2人から大麻を譲り受けた疑いで、北九州市小倉南区、自営業の容疑者も2024年2月に逮捕されています。
  • 長崎県警時津署は、大麻取締法違反(所持)の疑いで長崎市の私立校教諭を現行犯逮捕しています。2024年2月、自宅で乾燥大麻を少量所持したといい、長崎県警に情報提供があり捜査していたものです。
  • 大分県警大分中央署は、大分県由布市の僧侶を大麻取締法違反の疑いで現行犯逮捕しています。自宅で大麻を若干量所持した疑いがもたれています。
  • 愛知県警中署は、東京都渋谷区、格闘家の容疑者を大麻取締法違反(有償譲り受け未遂)の疑いで逮捕しています。容疑者は2024年2月、川崎市高津区の集合住宅で、売人から大麻成分入りの液体「大麻リキッド」を譲り受けようとした疑いがもたれており、「大麻とは思っていなかった」と容疑を否認しているといいます。所属ジムによると、容疑者はプロの総合格闘家で、近日中に試合が予定されていたといいます。
  • 牛丼チェーン「吉野家」の店舗で、卓上の紅ショウガを自分の箸で食べたとして、威力業務妨害や器物損壊などの罪に問われた建設業の被告に対し、大阪地裁は、懲役2年4月、罰金20万円(求刑・懲役3年6月、罰金20万円)の実刑判決を言い渡しています。また、営利目的で大麻を栽培するなどしていたといいます。裁判官は、被告が起訴内容を認める一方、過去に服役経験があり、刑の執行を終えて間もなく吉野家での事件に及んだと指摘、大麻栽培にも触れ、「規範意識が乏しいと言わざるを得ない」と実刑の理由を述べています。
  • 東京地検は、保釈中に違法薬物を所持したとして、医薬品医療機器法違反(指定薬物所持)容疑で書類送検されたアイドルグループの元メンバー、田中受刑者を不起訴処分としています。警視庁が2024年2月、田中受刑者が東京都港区六本木の路上で2023年11月に指定薬物のTHCH(テトラヒドロカンナビヘキソール)を含むリキッド0.3グラムを所持したとして、書類送検していたものです。田中受刑者は2023年12月に覚せい剤事件での上告が最高裁に退けられて懲役1年の実刑が確定、別の同種事件での執行猶予も取り消され、刑期は懲役2年8月となりました。
  • 自宅でコカインを吸引したとして、警視庁麻布署が麻薬・向精神薬取締法違反(使用)の疑いで、高級アクセサリー「goro’s(ゴローズ)」の買い取り・販売専門店「DELTA one」の運営会社社長を逮捕しています。報道によれば、情報提供があり、同署が容疑者の自宅を捜査し、容疑者が提出したコカインを押収、尿を鑑定したところ、コカインが検出されたため逮捕したものです。「タイで買ってきて自宅で使った」と容疑を認めているといいます。
  • 成田国際空港署などは、台湾籍の大学生を覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)などの疑いで現行犯逮捕しています。大学生は2024年1月、カンボジアから成田空港に到着した際、覚せい剤約5.9キロ(末端価格約3億7000万円)を体に巻きつけて隠し、密輸入しようとした疑いがもたれており、僧侶を装って袈裟を着ていたといいます。報道によれば、「1月に僧侶の格好で入国してみたが、声をかけられなかったので今回もそうした」と話しているといいます。大学生は「中国人5人に銃で脅されて、密輸を命令された」と容疑を一部否認していましたが、その後の取り調べで「全て作り話です」と容疑を認めたといいます。
  • 覚せい剤を着衣に隠して密輸したとして、関西空港署と大阪税関関西空港税関支署は、覚せい剤取締法違反(営利目的共同輸入)容疑で、メキシコ国籍の自称大学生を緊急逮捕しています。2024年2月、着ていたベストやパンツの中に、小分けに袋詰めした覚せい剤計約4.7キロ(末端価格約2億9500万円)を隠し、関西国際空港に密輸したというものです。同支署によると、着衣など身の回りに隠す手口では過去10年で最も多い薬物の押収量だといい、ベストやパンツには、別の生地を縫い付けてポケットを作っていたといいます。容疑者はメキシコを出発後、スペインやトルコを経て日本に入国しています。

日本ボクシングコミッション(JBC)は、世界4階級制覇王者でWBA世界スーパーフライ級王者・井岡選手が倫理規定第2条に違反したとして戒告処分としたことを発表しています。2022年12月31日開催のWBO&WBA世界スーパーフライ級王座統一戦時に行われたドーピング検査において、尿検体から禁止薬物の大麻成分(THC)が検出されたことについて、JBCルール第97条に抵触しないものの、「当該事実によって、同人が、本試合の開始前の不詳の時期に、不詳の場所において、不詳の方法により日本において所持が禁止されている大麻の成分であるTHCを摂取する行為又は受動的にTHCを摂取することになる状況を招く作為若しくは不作為をしたとの疑い完全に払しょくできず、ボクシング界を代表するボクサーが違法に大麻を使用しているという疑念を生じさせた。よって、JBCは、井岡が、常に品位を高めボクシング界の信頼を維持するように努めなければならない義務を怠り、倫理規定第2条に違反したと認める」と説明しています。

福岡県警は、県内の40代男性を覚せい剤取締法違反(使用)容疑で緊急逮捕しましたが、証拠としていた尿の正式鑑定で覚せい剤成分が検出されず、逮捕から約8時間半後に釈放したと発表しています。報道によれば、同法違反容疑で男性宅を家宅捜索し、注射器約30本やチャック付きポリ袋を押収、任意提出された尿を現場で簡易鑑定し、陽性反応が出たことを捜査員3人が確認、男性も使用を認めたことなどから同10時40分ごろ緊急逮捕したものですが、逮捕後に県警科学捜査研究所で同じ検体を正式鑑定したところ、覚せい剤成分が検出されず、同日午後7時15分ごろ、男性を釈放したものです。県警によると、約10年前に現在の試薬の判定方法になって以降、同種の誤認逮捕は初めてで、県警は「使用した試薬の性能等も含めて原因を解明していきたい」としています。

米映画「ラスト」の撮影現場で小道具の銃の誤射によって2人が死傷した事故の裁判で、西部ニューメキシコ州の地裁は、小道具係の女性を薬物関連で審理することを決めています。検察側は、女性がマリフアナやコカインなどの薬物を常用していたことで判断力が低下し、銃に誤って実弾を詰めた可能性があるとしています。2021年10月の事故では、主演俳優のアレック・ボールドウィン氏が手にした小道具の拳銃から実弾が発射され、撮影監督が死亡しジョエル・ソウザ監督も負傷、ボールドウィン氏や小道具係の女性が過失致死罪などで訴追されています。女性は事故後にコカインが入ったバッグを隠したとして、証拠隠滅の罪でも訴追されています。審理は2024年2月から始まっており、女性は無罪を主張していますが、有罪なら4年以上の禁錮刑となる可能性があります。ボールドウィン氏も無罪を訴えているが、審理の日程は決まっていません。

本コラムでたびたび取り上げていますが、風邪薬など市販薬を過剰摂取する「オーバードーズ(OD)」が若者の間でまん延している問題について、これが原因と疑われる20代以下の救急搬送は2023年1~6月で2602人と、全体の半数近くを占めているといい、SNSの影響もあるとみられるものの、そもそも生きづらさを抱える若者の精神面のケアや啓発が急務な状況といえます。過剰摂取の広がりにはネットが影響しているとみられ、「OD界隈」「パキる」など、SNSの投稿にはこうした言葉とともに、大量の錠剤の画像が並ぶほか、摂取した医薬品の量や摂取後の自覚症状を詳細に記した投稿も散見されています。報道で薬物乱用防止の出前授業に取り組む新潟薬科大の城田助教は、大麻など違法薬物の使用は興味本位が目立つ一方、市販薬の過剰摂取は悩みや生きづらさから逃れようと行う場合が多いと指摘しています。ODの問題については、2024年2月6日付産経新聞の記事「市販薬、ドラッグストアで買いにくくなる?オーバードーズ問題で厚労省検討…不安の声も」が興味深いものでした。OD対策としての規制が、薬局やドラッグストアで買える市販薬(OTC医薬品)を使って風邪などに対処する「セルフメディケーション」の流れを阻害するというもので、医薬品を製造する企業からは「乱用を防ぐ努力は惜しまないが、薬を必要とする消費者が不便になる恐れがある」との声も上がっているといいます。以前の本コラム(暴排トピックス2024年1月号)でも取り上げましたが、厚生労働省の検討会は、乱用の恐れがある成分を含む風邪薬やせき止めなどの市販薬を薬局などで20歳未満に販売する際は、小容量(2~3日分)1個のみ、購入者に身分証の提示などを求め、氏名を記録する義務を課すなどの案を盛り込んだとりまとめを公表、医薬品医療機器法(薬機法)の改正を視野に検討を進めるとしています。また、販売に当たっては、薬剤師や販売資格を持つ店員が、購入者が乱用していないか確認したり、乱用のリスクを説明したりできるよう、購入者が手に取れない場所に商品を置くことも求めています。一方、医療費を抑制しながら国民の健康づくりを促進する考えから、国はこれまで一定の条件の下、特定の市販薬の購入費の税控除を受けられる「セルフメディケーション税制」を導入するなど、軽度の不調は自身で対応するよう市販薬の使用を促してきた経緯があります。店舗で手に取って検討した上での購入ができなくなったり、購入しても小容量のため何度も足を運ばなければならなくなったりすれば、市販薬に頼らず医療機関を受診する人が増える可能性が考えられるほか、医師の働き方改革が進む中、軽度の不調による受診が増えれば医療の逼迫につながり、医療費抑制の流れにも逆行するというものです。また、販売方法が厳しくなっても、異なる店舗を回って購入を繰り返したり、複数人で購入したりすることは防げられず、ODは医療機関で処方される睡眠薬などの処方薬でも行われていることから、市販薬だけを厳しくしても「抜け道」は塞ぎきれないという指摘もあります。また、「精神保健福祉センターの窓口につなげるなど精神面のケアが欠かせない」、「過剰摂取できない環境を整えても生きづらさが残り、別の自傷行為や自殺につながるリスクがある。医療現場では悩み相談に乗ることが重視されており、教育現場や家庭にも適切な向き合い方を啓発することが重要だ」などと専門家が指摘しているとおりだと思います。

2024年2月25日付ロイターの記事「オピオイド危機改善せず、オレゴン州が非犯罪化を見直しへ」では、「米オレゴン州ポートランドの繁華街では、誰かが商店や流行最先端のレストランの前、ホテル付近、歩道、曲がり角、ベンチで身を屈めているのは見慣れた光景だ。手にしているのは、アルミホイル片や吸引パイプにかざしたライターだ。頭から毛布をかぶったり、コンクリートバリアの陰にしゃがみ込んだりする人もいるが、隠そうともしない人もいる」といった現状が紹介されています。さらに、「オレゴン州は2020年の住民投票により、米国内でも最もリベラルな薬物対策法を成立させた。少量の違法薬物の所持を非犯罪化し、大麻関連税による数億ドルの税収を薬物中毒治療事業に回すこととなった。「110条例」と呼ばれるこの州法は、薬物中毒を犯罪ではなく公衆衛生の問題として扱う革新的なアプローチとして話題となった。だが、国内各地の都市が薬物危機の解決策を模索する中で、この条例を疑問視する声が高まっている。2021年、コロナ禍による医療崩壊、メンタルヘルス問題の増加、命に関わる薬物が入手しやすくなる中で、薬物の過剰摂取(オーバードーズ)による全米の死者は史上初めて10万人を超えた」との指摘がなされ、大麻解禁の議論の際に持ち出されるアプローチが機能していない現実に驚かされます。そのうえで、「薬物中毒死の急増に伴う世論の圧力を受けて、オレゴン州議会では、今月始まった会期中のいずれかの時点で、薬物所持の再犯罪化に向けた採決を行う流れとなっている。州議会で多数派を占める民主党は、少量の薬物所持を軽犯罪として最大30日の禁固刑の対象とする一方で、治療を受けることで訴追を免れる機会を与えるとする法案を推進している」、「「また地下に潜って、隠れて吸う。以前のやり方に戻るだけだ。捕まらないよう祈るだけだ」、「いつかは自分も目が覚めて、助けを求めたくなるだろうが」との市民の声が大変な痛みをもってこの問題の深刻さを物語っています。

本コラムでも関心をもって取り上げている米のオピオイド中毒の問題で、米中の協力体制がキーになる中、中国の王小洪公安相とマヨルカス米国土安全保障長官は、米国で乱用が社会問題化している合成麻薬「フェンタニル」の対策を巡りウィーンで会談、王氏は「中国を『麻薬の主要供給源』と見なすのは誤りだ」と強調、中国人留学生が米国入国を拒否されるなど「不当な嫌がらせ」を受けたり、一部機関の職員がビザ発給の制限を受けたりしているとして、米側に改善を求めたほか、薬物対策に協力する事実上の見返りとして、米国の水際対策の改善を要求しています。また、薬物対策の協力は「相互尊重と平和共存の原則」が前提だと強調し「協力の障害を取り除くことを望む」と述べる一方、薬物に関し「中国を毒物の供給国として扱う誤ったやり方」を改めるよう訴えています。米国で問題となっている医療用麻薬フェンタニルは中国で製造された原料をメキシコの犯罪組織が合成し、米国に密輸しているとされます。米政府は原料となる化学物質の製造者の摘発や、輸出の食い止めを中国に要求、米中両政府は2023年11月の首脳会談で薬物対策の作業部会設置で合意し、2024年1月に初会合を北京で開いています。

メキシコ北東部タマウリパス州の対米国境に位置するミゲルアレマンで、パトロール中の軍部隊と麻薬カルテルとみられる武装集団の銃撃戦が発生し、武装集団側の12人が死亡しています。武装集団は茂みに隠れて待ち伏せていたといいます。タマウリパスは犯罪組織絡みの暴力が最も多発している州の一つで、麻薬密輸ルートを巡るカルテル間の抗争が絶えないといいます。なお、メキシコでは、2006年に政府が軍を動員した麻薬戦争を開始して以来、42万件以上の殺人が確認されています。

(4)テロリスクを巡る動向

米司法省は、兵器級の核物質や武器などの密輸を共謀したなどとして、米国内で収監中の日本国籍、エビサワ・タケシ受刑者とタイ国籍の男を追起訴したと発表しています。報道によれば、起訴状ではエビサワ被告を「多国籍組織犯罪シンジケートであるヤクザのリーダー」とし、同被告は2020年初めごろ以降、麻薬武器商人を装った米麻薬取締局(DEA)の覆面捜査官に対し、暗号通信アプリなどを通じて、入手可能な大量の核物質を密売したいと持ちかけ、放射線測定器などと一緒に写した核物質の写真を送付、捜査官が、イラン軍幹部を装った別の覆面捜査官を紹介したところ、被告は核兵器に利用可能なプルトニウムや大量のウラン精鉱(イエローケーキ)、トリウムを売却できるなどと説明したといいます。一方で被告は核物質をミャンマーから密輸するのと引き換えに、同国の武装勢力が求める兵器の提供を要求し、覆面捜査官やその協力者らとの会合の際には実際に核物質を持参するなどしていたとされます(軍事政権下のミャンマーはウランの埋蔵国とされ、2000年代の旧軍事政権時代から北朝鮮やロシアと原子力分野の協力を深めているとされます。ロシアとともに国際社会で孤立の度を深め、海外機関の監視も行き届きにくいミャンマーで、発電など平和利用にとどまらない、兵器転用が可能な核開発の懸念が再び浮上してきたことを示すものでもあります。さらには、発電用途とはいえ施設の安全を守れるかも地政学リスクもあって不透明な状況です。ミャンマーの隣国バングラデシュでも、ロシアの支援による原発が早ければ2024年内に稼働する予定ですが、2国は中国やインド、パキスタンといった核兵器保有国の谷間に位置し、政情が不安定で、原子力開発の行方は東南アジアや南アジアの安定を左右することにもなります)。DEAはその後、タイ当局の協力で核物質を押収、米国の研究施設での解析で、プルトニウムは兵器級の純度だったことが確認されたといいます。プルトニウムは原子力発電の副産物としてできる放射性物質で、核爆弾に転用可能なほか、火薬の爆発で放射性物質をまき散らす「汚い爆弾(ダーティーボム)」によるテロなどに用いられる懸念から国際的に厳重管理が求められています。被告は、麻薬武器商人とミャンマーの武装勢力の取引を仲介しようとした罪などで2022年に起訴され、現在は東部ニューヨーク州の連邦刑務所に収監中で、今回は、終身刑の可能性がある重火器類所持や核物質密輸の共謀など7つの罪で追起訴されています。なお、被告の「ヤクザのリーダー」という報道については、所属も明らかでないとして暴力団の世界では組織等に関係がない人物として話題にもされていないといいます。また、報道によれば、日本の捜査当局も被告が暴力団組員だった事実は確認されず、「農業をなりわいとしたロケットランチャーオタクで、日本国内の暴力団とは関係なく、ヤクザでもない」としています。被告はタイでヤクザの組長を名乗っており、それが米当局の発表につながった可能性があり、暴力団組員ではないと米当局も知りつつ「ヤクザのリーダー」と公表したのではないか、「マフィアのボス逮捕」のようなインパクトを各国の密売組織に与える狙いがあったのではないか、と推測されています。

米調査団体テック・トランスペアレンシー・プロジェクト(TTP)は、X(旧ツイッター)が、米国が「テロ組織」に指定している組織の幹部らから有料サービスの使用料を受け取っていたとする調査結果を公表しています。報道によれば、特定した28アカウントには、米国の制裁対象の個人・団体も含まれており、Xが制裁違反になる可能性があると指摘しているといいます。TTPによると、米国が「テロ組織」に指定しているイスラム教シーア派組織ヒズボラの指導者ナスララ師のほか、イエメンの反政府武装組織フーシ、イランやロシアの国営放送などのアカウントに、青いチェックマークの「認証バッジ」が付与されていたといい、報告書が公開された数時間後、Xはこれらすべての認証バッジを削除したということです。また、このうち19のアカウントの投稿の返信欄には広告が表示されており、Xが2023年に始めた広告の「対価支払い」制度を使い、お金を受け取っている可能性があるといいます。米国の法律では、米国民と制裁対象の個人や団体との取引を禁じており、Xの規約では、米国の制裁対象となっている個人や団体は有料サービスを利用できないとしています。報道が事実であれば、Xのオペレーション上の脆弱性により、テロ組織の活動を助長した(テロ資金供与の一翼を担った)といえます。

イスラエルや米国と対立を強めるイスラム教シーア派組織ヒズボラについては、本拠とする中東レバノンから遠く離れた南米で不穏な動きをみせているといいます。過去にはアルゼンチンで大規模なテロを起こしたと疑われており、中東の紛争にあおられる形で南米でも活動を活発化させることが懸念されています。報道によれば、ブラジル連邦警察が逮捕したブラジル国籍の男3人が、ヒズボラから資金提供を受け、ブラジル国内のシナゴーグ(ユダヤ教の礼拝所)やイスラエル大使館などへの攻撃を計画する「テロ準備」の容疑があり、攻撃計画の準備は、2023年10月にイスラム組織ハマスとイスラエルの軍事衝突が始まった後に本格化したとみられています。また、連邦警察はヒズボラを念頭に、「ブラジル国内で過激な行為を実行させる人物をリクルートする」組織的な動きがあったとも発表しています。

ロイター通信は、西アフリカ・ブルキナファソ北部で3つの村が襲撃され、計約170人が殺害されたと伝えています。襲撃は2024年2月下旬で、襲撃の背景は不明ではあるものの、イスラム過激派が関与した可能性が指摘されています。ブルキナファソでは隣国のマリやニジェールと同様、国際テロ組織アルカイダやイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)にそれぞれ忠誠を誓う勢力が活動、テロが頻発している状況にあります。なお、この3カ国では2020年以降、政権が治安改善に失敗したとして、軍が計5回のクーデターを起こし権力を掌握、テロ対策への協力名目で駐留していた旧宗主国フランスの軍を撤収に追い込み、ロシアに接近しつつ新体制での対テロ作戦を展開しているものの、治安悪化に歯止めがかかっていない状況です。

カリブ海の島国、ハイチ政府は、首都ポルトープランスを含む地域に非常事態を宣言しています。前大統領殺害の容疑者を含む囚人が収容されていた刑務所から4000人近くが脱獄し、治安が急速に悪化、2年以上続く混乱を収束させられないアンリ首相への不満も高まっているといいます。ハイチ政府は72時間の非常事態宣言と、夜間外出禁止令を発令、警察官や医療従事者、ジャーナリストらを除き、違反者は逮捕されると警告しています。国連は2024年1月、2023年にハイチで8400人以上が殺人、傷害、誘拐などギャングによる暴力の被害を受けたと推計、前年比2倍超の規模で増えており、首都の8割はギャングの支配下にあるとされます。ギャング同士の主導権争いも激しく、国民は高騰する物価による食糧難や暴力の連鎖に直面しています。2021年にモイーズ大統領が暗殺されて以降、国内の混乱は続く。退職する警察官も後を絶たず、市民生活は危機的状況にあり、国連薬物犯罪事務所(UNODC)によると、米国から小型飛行機で武器や弾薬がハイチに流れ込み、ギャングの活動を助長しているといいます。

(5)犯罪インフラを巡る動向

日米欧などの各捜査当局は被害規模が世界最大級とされるランサムウエア(身代金要求型ウイルス)集団「ロックビット」を摘発しています。サイバー攻撃の実行役にウイルスを提供する集団で、メンバーは旧ソ連圏出身者ら数百人とされ、2023年に関与が疑われる被害は1000件を上回っており、「世界で数十億ユーロ(数千億円)相当の被害をもたらした」(欧州警察機構(ユーロポール))とされます(また、2020年1月以降、ロックビットは世界中で2000件以上の攻撃を仕掛け、身代金として1億4400万ドル以上が支払われているとのデータもあります)。今回の摘発は国際的な情報共有の進展が奏功した形であり、各国が連携し、「痕跡」を集積し、分析することが、匿名に隠れる犯罪集団をあぶり出す方策であり、連携を深めることの重要性をあらためて認識させられるものです。一方でロックビットは匿名性の高いダークウェブでサイトを再開させ、米政府などへの報復をメディアに表明、他にも新手のハッカー集団が出現し、ウイルスを強化させるなどしており、脅威は消えていないのが現状です。共同捜査は英国家犯罪対策庁(NCA)が主導し、主要メンバーとみられる複数人を逮捕、30を超える関連サーバーの機能を停止させたほか、盗んだ情報を暴露するための「リークサイト」も閉鎖、集団と関係する200以上の暗号資産口座も凍結、押収資料を分析し集団の実態解明を進めるとみられています。ロックビットのリークサイトでは2023年に約1000の暴露被害が確認され、ランサムウエアの各集団の中で被害規模は最大とみられていますが、グループの特徴は強力なウイルスです。組織内の開発者が強化を繰り返し、多くの攻撃者を引き寄せていたとされます。米政府は2023年6月の発表で、米国内だけでも2020年から計約9100万ドル(約136億円)の身代金が支払われたとしています。警察庁によると、日本でも関与が疑われる被害は100件を超えているといいます(2021年10月、徳島県つるぎ町立半田病院のシステムが停止したほか、2023年7月には名古屋港のコンテナ管理システムが機能停止に追い込まれるなど被害が相次いでいます)。サイバー犯罪集団の摘発はメンバー逮捕のほか、使用サーバーの押収や関連サイトの閉鎖など必要な捜査が多岐に及び、拠点が複数の国に置かれるケースも少なくなく、各国の捜査当局は協力体制を強化してきました。2023年10月の「ラグナロッカー」と名乗るランサムウエア集団の摘発では、ユーロポールが日米欧11カ国の国際共同捜査を調整、フランス当局がメンバーを逮捕しています(ユーロポールのほか、米、英、仏、豪などの警察が参加、作戦名は「クロノス」と名づけられたといいます)。関連して警察庁は、ロックビットのランサムウエアによるサイバー攻撃で、暗号化されたデータを復号するツールを開発したと発表しています(事件に使われたサーバーなどについて30か国以上に照会し、捜査を進める過程で暗号化されたデータの解除法に着目、ウイルスの構造を解析する手法を駆使し、数か月以上かけてデータを復元するツールを開発したものです)。2023年12月にユーロポールに提供し、各国で使用できるようになったといい、警察庁のサイバー特別捜査隊が、暗号化されたデータなどを分析して開発、世界的に使用できるツールが開発されたのは初めてで、9割以上復号できたケースもあるといいます。攻撃グループ側が対策を講じることにつながるため、修復ツール開発の公表は通常行わないところ、国際共同捜査でロックビットが盗んだ情報の暴露に使う「リークサイト」やサーバーの閉鎖に成功したことから、被害回復を世界規模で進めるため公表に踏み切ったといいます。報道で警察幹部は「世界の被害企業のデータ回復に可能性をもたらす大きなゲームチェンジだ」と述べていますが、正にそれだけの貢献だったと評価したいと思います(なお、今回の成果は、2022年4月に国直轄の捜査部隊として発足した「サイバー特別捜査隊」がもたらしたものです。世界中で猛威をふるうハッカーに対処するため、従来は都道府県警が担っていたサイバー捜査の陣頭指揮を執り、他国との共同捜査にも積極的に参加、2023年8月にはインドネシア警察と連携して、偽サイトを悪用した「フィッシング」でクレジットカード情報を盗み、商品を不正購入した人物を特定、同国警察による摘発につなげたほか、同10月には、日米など11か国と欧州警察機構(ユーロポール)との共同捜査で、各国の重要インフラなどを狙うハッカー集団「ラグナロッカー」の中核メンバーを突き止め、仏当局による逮捕にこぎつけるなど顕著な成果を上げています)。国内では各警察が窓口となり、企業などからの相談を受けてデータの復号に対応するとしています。一方、今回の摘発によりロックビットが関与する攻撃は抑止が見込まれるものの、ランサム集団は他にもあり、専門家によれば、2023年の暴露被害では「ブラックキャット」(400件)、「クロップ」(約380件)と名乗る集団が最多のロックビットに続いているといいます。さらに、残念ながら、復元ツールで暗号を解除できるものとできないものがあるうえ、ロックビットが根絶されたわけではなく、ハッカー側もウイルスや手口を変えていくことをあらためて認識し、企業側も脆弱性を解消する努力を続けていく必要があります。迅速に捜査を進めるためには被害に関する情報を収集し分析することが重要になりますが、警察庁の2022年の調査では不正アクセスなどの被害に遭った企業・団体の4割が被害を届け出なかったとされます。捜査協力の負担や被害の表面化への懸念が背景にあるとみられ、負担軽減に向け、警察庁は近くインターネットで被害状況を通報できる一元窓口を設け、入力された情報は所轄の都道府県警察に転送される仕組みといいます。

残念ながら。ランサムウエア攻撃による被害はいまだなくならず、直近でも、米医療保険・医療サービス大手ユナイテッド・ヘルス・グループ傘下でヘルスケアテクノロジーを手掛けるチェンジ・ヘルスケアが、「ブラックキャット」と名乗るランサムウエア集団から受けたサイバー攻撃で、暗号化されたデータとシステムへのアクセスを回復するために身代金約2200万ドルを支払ったとされる事例がありました。ユナイテッドヘルスとハッカー側のいずれも、支払ったとされる身代金についてはコメントしていませんが、サイバー犯罪者の間で有名なハッカーフォーラムへの投稿によれば、ユナイテッドヘルスへの攻撃はブラックキャットの仲間によるもので、その仲間からとされるメッセージには、何者かが約350ビットコインをあるデジタル通貨ウォレットから別のウォレットに移動させたことを示すリンクが含まれており、それぞれのウォレットの所有者は公表されていないものの、ブロックチェーン分析会社TRMラボは、資金の行き先は「(ブラックキャットとしても知られる)AiphVに関連した」場所と特定した上で、他のAiphVの被害者から身代金を受け取るためにそのアドレスが使用されるのを見たことがあると指摘しています。また、国内でも鹿児島県霧島市の国分生協病院が、患者の診療画像を管理するサーバーがランサムウエア攻撃を受け、救急と外来の受け入れを制限していると発表しています。報道によれば、2024年2月27日夜から、サーバーにアクセスできなくなり、同28日にウイルス感染が確認されたといいます。厚生労働省などの調査の結果、サーバー内に保存された診療記録のファイルの一部が暗号化されていたといい、サーバーにウイルス対策ソフトが設定されていなかったことが一因とみられ、同病院は「再発防止に向け、病院情報システムのセキュリティ体制の立て直しを行う」としています。なお、個人情報の漏えいは確認されていないといいます。

関連して、サイバー攻撃やサイバー防御等に関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • KPMGコンサルティングは日本企業の約4割が海外子会社のサイバーセキュリティー対策の状況を把握していないとするアンケート調査結果を発表しています。比較的対策が進んでいる大手企業では直接的な攻撃よりも、脆弱な海外子会社を経由して被害を受ける事例が多く、課題になっていますが、KPMGは特に不正な行動の分析や、監視の自動化などの対策が出遅れていると指摘しています。セキュリティ対策の取り組み状況を把握する方法について、43.4%が「調査票」と回答したのに続いて、「把握していない」が39.1%で多かったといい、「監査」が19.9%、「外部のリスク評価サービス」が8%で続いています。また、会社の規模別に見ると、1万人以上の規模では「把握していない」は13.6%で、規模が小さくなるほど割合は増える傾向にあったといいます(1千人以上3千人未満、500人以上1千人未満ではいずれも4割を超え、500人未満では62.5%に上っています)。海外子会社に要請・推奨している対策について聞いた質問では、外部からの通信制限やメール対策は6割を超えたものの、AIによる行動分析や攻撃への監視・対応を自動化する対策は15%前後にとどまっており、KPMGは「高度化・巧妙化する攻撃に対し、運用負荷の軽減や対策の品質向上が求められている」としています。
  • 米司法省は、ロシア情報機関の管理下にある、世界各地のネットワーク機器をマルウエア(悪意あるソフト)に感染させて構築したハッキングのネットワークを無力化したと発表しています。米連邦捜査局(FBI)が裁判所の許可を得て、2024年1月にロシア軍参謀本部情報総局(GRU)が構築した「世界的なサイバースパイの基盤」を無力化したものです。ガーランド司法長官は同省が「米国や、ウクライナを含む同盟国に対するロシア政府のサイバー活動を阻止する取り組みを加速させている」と強調、オルセン司法次官補はロシアのウクライナ侵攻開始以降、同国情報機関が「侵略行為を進める」ために用いる主要な手段を遮断したのはこれが3度目だと述べています。世界各地のルーターをマルウエアに感染して「ボットネット」と呼ばれるネットワークを構成し、さらなるサイバー攻撃に利用可能にしていたものですが、FBIは感染したルーターにインターネットを通じてコンピューターコードを送り、ファイアウオールを変更してアクセスを遮断、当局は、この措置は一時的なものであり、所有者はソフトをアップデートする必要があると述べています。被害を受けたルーターのほとんどは、小規模オフィスやホームオフィスで使用されていたとのことです。
  • 米マイクロソフトと、対話型AI「ChatGPT」を開発した米オープンAIは、ロシア、北朝鮮、イラン、中国の5つのグループが生成AIをサイバー攻撃に利用していたとする調査結果を発表しています。両社は不正利用の監視やアカウントの削除などの対策を進めるとしています。調査結果によれば、ロシアの「フォレストブリザード」、北朝鮮の「エメラルドスリート」、イランの「クリムゾンサンドストーム」、中国の「チャコールタイフーン」「サーモンタイフーン」の5つのグループを名指しし、アクセスの制限で対応したとしています。生成AIをサイバー攻撃の起点になる偽メールなどフィッシング用文書の作成や、ソフトの不具合の発見、攻撃対象の情報収集、ツール開発に使おうとしていたといいます。生成AIは文字を入力して指示するだけで文書作成や情報収集を自動化できる半面、不正利用が懸念視されてきましたが、ChatGPTの提供元が改めてサイバー攻撃への利用を警告したことで、今後業界を挙げた対策が急務となります。
  • 重要インフラや個人データを狙ったサイバー攻撃が安全保障上の脅威となるなか、欧米の規制当局は企業に課す報告義務や事前対策を強化しており、米国家安全保障局(NSA)長官を務めたマイク・ロジャース氏は日本経済新聞の取材に対し、「サイバー対策はもはや企業任せにできない」とし、日本を含むアジアでも同様の規制が広がると予想しています。2015年に政府と企業の間の情報共有のルールを定めた「サイバーセキュリティー情報共有法」の成立でサイバー防衛分野の官民連携に踏み込むことになりましたが、当初の企業側の反応について「政府の介入や規制を嫌う文化は根強かった」とし、企業側の姿勢を変えるきっかけとなったのは、「痛みの経験」と「利益の提示」だったと指摘しています。「痛みの経験」の代表例に挙げるのが、2013年末に米小売り大手のターゲットで約7000万件の個人情報が漏洩した問題で、顧客離れによる業績低迷を招き、当時のCEOが辞任する事態に発展しました。一方、「利益の提示」とは、政府と企業がギブ・アンド・テイクの関係を築くことで、米政府は業界や企業規模ごとにきめ細かな情報交換の場を設け、企業側がほしがっている情報を提供することで「規制に理解が得られた」といいます。ロジャース氏はサイバー攻撃に関する情報共有について、政府から企業に強制力を働かせるのは「国際的な潮流だ」と指摘、例えば米証券取引委員会(SEC)は2023年末、上場企業に重要なサイバー攻撃について発覚から4営業日内に当局へ開示する義務を課したほか、EUは域内で流通するあらゆるデジタル製品を対象とする「サイバーレジリエンス法案(CRA)」について2025年後半にも本格適用を始めますが、対象製品を販売する企業は当局が定める一定のセキュリティ要件を満たすよう義務付けられることになります。ロジャース氏は同様の規制の波が日本にも押し寄せるのを確実視する一方で、国内のステークホルダーのサイバー攻撃に対する反応の低さが日本企業の経営層の意識改革の妨げになっていると指摘しています。サイバー攻撃を受けた企業は今後、海外の株主や取引先などからの厳しい改善要求にさらされる一方、日本はサイバー攻撃に関する情報共有や対策が所管官庁による縦割りとなり、官民全体の司令塔が不在とされ、「企業のサイバー防衛は国の安全保障と直結する。行動変容を促す規制とパートナーシップの両輪で進めなければならない」と提言しています。

ロシアによるウクライナ侵攻で使用されている無人航空機(ドローン)は、戦争の形を変えています。正にドローンの犯罪インフラ化(武器化)が顕著に進行している状況です。ウクライナの戦場で目にしているのは「空軍力の民主化」と言えるような状況だと言われています。これまでは、空軍力を持てるのは高度な技術を持ち、産業基盤やインフラも整備されている大国に限られていましたが、安価な民間用のドローンによって小規模な勢力でも空軍力を持てるようになったということです。米軍は中東などでの「テロとの戦い」で偵察や追跡、攻撃などさまざまな目的で用いているものの、使用しているのは非常に高価な軍事用のドローンでしたが、安価なドローンで戦場をリアルタイムで監視することが可能になり、ドローンが大量にあれば、個々の飛行時間には限りがあっても交代で用いることによって、低高度の上空を事実上「占領」する形で常駐することができることになり、これは通常の航空機ではできなかったことでもあります。制空権(航空優勢)に対する考え方も変わることになります。従来は戦闘機を主体に上空の優位性を確保してきましたが、現在はドローンが活動する低高度に新たな空域が誕生し、これまでになかった攻撃方法も出ています。ドローンで塹壕に隠れる敵を見つけ、真上から手投げ弾を落とす攻撃がその一つで、将来的には数十機のドローンが群れとなって、情報を交換し合いながら任務をこなす方向に進むのは間違いないところであり、さらに高度なAIを用いて、より自律的に戦うようになることも予想され、その際、どの程度まで人間が意思決定のプロセスに関与するのが適切なのか、議論を早急に深める必要があります。そして、火薬、核兵器に続く第3の技術革命とされる「AI兵器」をいかに活用していけるかが、ウクライナ情勢を左右すると言えるかもしれません。その際にやはり「自律型兵器に関する国際規格」の存在、自律型致死兵器システム(LAWS)」などのAI兵器を規制する国際ルールが重要となると思われます。「ウクライナは国内外の企業が開発したさまざまなAI技術の実験場になっている」との指摘もあるとおり、AIは実戦で得た貴重なデータを学習し、さらに改良が加えられ、「戦争が長引くほど進化していく」ことが予想されます。完全な自律型兵器の登場は、もはや時間の問題であり、核兵器やミサイルより安価かつ容易に製造できるため、地域紛争の当事者やテロ組織に拡散する恐れもあり、AIによる究極の犯罪インフラ化をいかにコントロールするか、残されている時間はあまりない状況です。

NPO法人の日本ネットワークセキュリティ協会(JNSA)は国内のサイバー被害に関する調査結果を公表しています。調査対象は2017年1月から2022年6月にかけて被害が公表された約1300の企業や団体組織で、攻撃を受けた手口の最多は「ウェブサイトからの情報漏洩」で、クレジットカード情報が含まれる場合の平均被害額は約3800万円、手口の内訳はサイトからの情報漏洩が33%、世界的なマルウエアの「エモテット」感染が28%、「ランサムウエア」が13%などの結果となりました。アンケートによる平均被害額の調査では、ランサムウエアが約2400万円、エモテットが約1000万円、クレカ情報が含まれない個人情報のみの漏洩は約3000万円で、クレカ情報が漏洩すると損害賠償額が大きくなるのに加え、クレカ決済を停止する機会損失によって被害額全体が膨らみやすいといいます。また、被害組織の8割が3カ月以上の停止を余儀なくされたほか、ランサムウエア被害を受けた組織のうち、暗号化されたデータを復旧できたのは半数にとどまっています。バックアップをとっていなかったほか、組織内のバックアップデータごと暗号化されたケースもあったといいます。また、米ビザが日本国内のクレジットカード会社に課す不正対策費を見直したと報じられています。報道によれば、従来は定額だったところ、決済額に応じて変わる仕組みとなり、カード会社によっては事実上の値上げになり費用が年数千万円膨らむとの声もあるようです。不正対策は必要不可欠な半面、訪日客増加で海外カード会社への手数料負担が増す国内カード会社にとっては、「豊作貧乏」の構図が一段と強まる可能性も指摘されています。米ビザがこのほどルールを変えたのは国際的な本人認証規格「EMV 3-Dセキュア」の利用料によるものとされます。国際ブランドの団体がつくった規格で、ネット通販でカード決済した時に、不正利用の危険性に応じて生体認証など複数の手段で確認を求めるサービスで、決済に使われた米ビザのシステムを通じて照合するため利用料がかかるもので、日本で本人認証の導入義務化が決まった直後の2023年、米ビザはルール変更を各社へ通知し、不正対策費の課金の仕組みを変えたものです。手数料変更の背景にあるとみられるのは、日本国内でのカードの不正利用被害の増加で、偽サイトで個人情報を盗み取るフィッシングが拡大し、2022年の不正利用額は436億円と過去最大になり、利用者のカードが不正利用された場合、カード会社や加盟店が補償するため、米ビザのような国際ブランドやカード発行会社を含め、不正利用を減らすためのセキュリティ対策の重要性が増していることが背景にあります。一方、利用者の負担増に跳ね返ってくるのもやむを得ない側面があり、利用者に対し安全・快適に利用するためセキュリティ対策が不可欠であることやその強化に関する理解をより一層求めていく必要があります。

カジュアル衣料品店「ユニクロ」を狙って万引きを繰り返したとして、ベトナム人の男女4人が福岡県警に窃盗容疑で逮捕、起訴されていまs。祖国で借金や病気などのため困窮していた4人は、首謀者から高額報酬を示され、「日本は万引きしやすい」と勧誘され、盗みの手口を教わり渡航の手配も受け、即席の窃盗団として日本に送り込まれていた実態が明らかになっています。2024年3月8日付読売新聞の記事「ユニクロ大量窃盗容疑、困窮につけ込まれたベトナム人…首謀者から「日本は万引きしやすい」と送り込まれる」は日本のサービスのもつさまざまな脆弱性が突かれている状況がよくわかる内容でした。ユニクロはベトナムでは高級ブランドとして扱われ、店には警備員が常駐するなど厳しい万引き対策が取られているのに対し、「入り口が限られる単独店ではなく、複数の入り口がある大型商業施設内の店舗を狙う」、「警報装置に反応しないよう加工されたバッグに商品を入れて店外に持ち出し」、「スーツケースに詰め替えて移動」、「民泊施設に置くと、運搬役とみられる別の人物が持ち去る」という手口は警備上や不審者と見えないようにするため、さまざま脆弱性を突く、理に適ったものだともいえます。さらに興味深いところでは、警視庁と小売業者による「東京万引き防止官民合同会議」がベトナムや日本など7か国の計700人を対象に行った万引きに関する意識調査(2012年)で、万引きが「いかなる理由があっても許されない」と回答した割合は、日本が最高の85%だったのに対し、他国は76~44%、「見つからなければ問題ない」の割合も日本より英国や米国、ベトナムが高い結果となったことからもうかがえるように、日本の店舗には複数の出入り口があり、店外に商品を陳列するなど対策が甘いとの印象を持たれ、外国人が「万引きされても仕方ない」と捉える傾向があるという点です。さらに、日本では店員による客への声掛けの励行に抑止効果があるとみられているものの、調査に関わった拓殖大の守山正名誉教授(犯罪学)は「外国人には効果が薄いというデータもある」と指摘、「防犯カメラの整備や従業員の目が届く陳列など物理的な対策が有効だ」と指摘しています。単純化すれば、性善説に立った日本的な対策に加え、さらなるサービスの犯罪インフラ化を防ぐためには、性悪説に立った厳格な対策も講じていくことが求められているということになろうかと思います。

携帯電話の販売代理店「MXモバイリング」から大量の「iPhone」をだまし取ったとして、警視庁捜査2課は、詐欺容疑で、同社元社員の本多容疑者と警備会社元社員、伊藤容疑者を再逮捕しています。本多容疑者はMX社に伊藤容疑者の勤め先だった警備会社から受注があったように見せかけていたもので、大口受注の際にMX社が行うヒアリングでは本多容疑者が伊藤容疑者を帯同、伊藤容疑者は既に退職していたが、社員を装いつつ「新型コロナウイルス患者の宿泊施設で大勢の警備員に持たせる必要がある」などと嘘の説明をしていたというものです。容疑者らは2019年10月~2021年3月ごろ、MX社からアイフォーン計2600台(時価約3億4千万円相当)をだまし取っていたとみられています。詐取したアイフォーンは転売し、本多容疑者の投資などに充てていたといいます。筆者としては、これだけ大量の携帯電話がどこに転売され、どういう流通経路を辿ったのかという点が気になります。容疑者らにそのつもりはないとしても、大量の携帯電話が特殊詐欺などの犯罪グループに流れたとすれば、大変由々しき問題だといえます。また、インターネット通販「アマゾン」の商品交換サービスを悪用し、タブレット端末などをだまし取ったとして、警視庁犯罪収益対策課は、容疑者と同社の契約ドライバー3人を詐欺容疑で逮捕しています。警視庁は2022年2月~2023年11月にタブレット端末など約1300台(販売価格計約6300万円)をだまし取ったとみて調べています。報道によれば、4人は共謀して2023年6月、アマゾンのサイトで他人のアカウントを使ってタブレット端末と脱毛器を購入、カスタマーセンターに「商品の電源が入らない」などとうそをついて返品を申し出て、再発送されてきた商品をだまし取ったというものです。警視庁によると、3人の契約ドライバーはコンビニなどに再発送された商品を受け取る役割だったといい、だまし取った商品は転売していたとみられています。

介護保険料の還付金があるとして高齢女性から現金約50万円をだまし取ったとして、警視庁暴力団対策課は電子計算機使用詐欺と窃盗などの疑いで、不動産会社役員を逮捕しています。詐欺グループの「かけ子」が拠点とする東京都内の賃貸物件を仲介したとみられ、調べに対し「仲介したことは間違いない」と供述しているといいます。逮捕容疑は2022年5月、共謀の上、茨城県の60代の女性に対し、市役所職員になりすまして「介護保険料の還付金がある」などと電話をかけ、ATMを操作させて約50万円を振り込ませ、詐取したものです。暴対課はこれまでに詐欺グループの指示役やかけ子など計9人を逮捕しており、同グループが2022年3月~6月に約110件の犯行に関与し、被害総額は計約1億円に上るとみて調べているといいます。専門家リスクの悪用で、特殊詐欺の「犯罪インフラ」を提供したもので、こうした者が犯罪を助長していること、こうした者が存在するために特殊詐欺などの犯罪が行われていることを、社会はもっと知る必要があり、企業としてもこういった者と取引をしないという方針を明確化することを期待したいところです。

本コラムでもたびたび取り上げている不活動宗教法人の問題ですが、大阪府は、脱税やマネロンといった犯罪の温床となり得る休眠状態の宗教法人を洗い出した結果、府内約5800法人のうち300以上の法人が、解散の対象となる「不活動宗教法人」に該当すると判断したことを明らかにしています。これまで取り上げてきたとおり、国は2023年3月末、活動再開の見込みがない不活動法人を速やかに解散させる方針を決定、対応を強化するよう都道府県側に求めていますが、当初、大阪府が確認していた不活動法人は約100法人だったところ、2023年度から宗教法人を担当する職員を増やし、年に1度の報告書類が未提出だった法人に督促を実施するなどしたところ、計300以上の法人が不活動法人に該当することが分かったということです。大阪府は現地確認などを進めた上で、必要と判断すれば、裁判所に対し解散命令請求の手続きを行うとしています。大阪府の結果から、全国的にも想定以上の不活動宗教法人が存在する可能性が高まり、全国の自治体がその対応レベルを底上げすることで不活動宗教法人を洗い出し、犯罪インフラ化を防止していくことが急務だといえます

空き家に残された金品を狙う窃盗事件が急増しているようです。警察庁によると、2020年からの4年間で2.5倍となり、2023年は8000件を超えたといいます。少子高齢化で全国的に居住目的のない空き家が増える中、窃盗以外にも特殊詐欺の被害金の送付先や密輸された違法薬物の受取場所に悪用されるなど、犯罪で使われる恐れもあり(犯罪インフラ化の進行)、警察当局は防犯の徹底を呼びかけています。報道によれば、空き家で起きた侵入窃盗事件の認知件数は、統計を取り始めた2020年の3180件から毎年増え、2023年は前年比2倍の8189件となり、空き家は人目につきにくいため、物色しやすく、被害の発覚に時間がかかるうえ、家主らが空き家に残された財産を把握していないことも多く、被害品の特定が難航することもあることなどが背景として考えられています。北関東などの空き家で窃盗を繰り返したとして、窃盗容疑などで2023年に逮捕、送検されたベトナム国籍の男4人は埼玉県警の調べに「知人のベトナム人から日本の空き家には家電や貴重品が残っていると聞いた」と供述したといいます。空き家は放置すれば災害時に倒壊するリスクがあり、危険な空き家を減らすため、行政代執行などが可能となる空家対策特別措置法が全面施行されたのは2015年、2016年には相続した家屋などを売却すれば所得税を軽減する特例措置が導入されています

東京都台東区の女児(当時4)が中毒死した事件で、警視庁は薬品の投与法や時期を重点捜査しており、事件で使われたとされる不凍液などは少量なら個人で購入可能で、犯罪に悪用されるリスクが浮き彫りになったといえます。報道によれば、事件は自宅で自動車用不凍液に使われる化学物質「エチレングリコール」と抗精神病薬「オランザピン」を女児に摂取させ殺害した疑いがあり、こうした薬品はインターネット上で入手したとみられています。さらに毛髪鑑定の結果から、オランザピンについては少なくとも数週間にわたり摂取させられていた疑いがあるほか、容疑者のスマホやパソコンには、事件の約1年前から不凍液やオランザピンをネット通販で購入していた形跡が確認されたといいます。捜査幹部は「自分たちで手に入る薬品や化学物質を組み合わせて犯行に及んだ疑いがある」とみていますが、対面・非対面を問わず、自前で拳銃や爆発物の材料等を入手して作ることができ、実際に事件に悪用されている事例も後を絶たず、オーバードーズの問題でも少量の市販薬を複数の店舗から購入する手口も横行するなど、ネット通販(非対面)での購入の規制することが難しいのと同様、対面で販売する側でもなかなか予兆として気づくことが難しいケースが多いのも事実です。それでも、犯罪インフラとなりうるものを流通させている者の責任を自覚し、その端緒の把握に努めていただきたいところです。

ウクライナのコスチン検事総長は、ロシアがウクライナに対して使用した北朝鮮の弾道ミサイルは少なくとも24発になったと述べています。2023年12月30日以降、首都キーウ、東部ハリコフ、南部ザポロジエ州などで使われ、市民14人が死亡して70人以上が負傷したといいます。同氏は24発について、北朝鮮の短距離弾道ミサイル「KN23」「KN24」系列で、ロシア南部ボロネジ州から発射されたとみられると指摘、最大射程は650キロで、ミサイルは住宅地に落ちるなどしており、「命中精度は疑わしい」と述べています。北朝鮮が、実戦に投入されたミサイルのデータを、ロシアを通じて入手し、技術改良につなげる恐れが指摘されています。一方、ウクライナへロシアが発射した北朝鮮製ミサイルに米国企業とつながりのある部品が多数含まれていたことが、英団体の調査で明らかになっています。対北朝鮮制裁に実効性を持たせる難しさが浮き彫りになった格好ですが、不正な調達ネットワークの摘発につながる可能性も考えられるところです。報道によれば、紛争で使用された武器の出所を追跡調査している英コンフリクト・アーマメント・リサーチ(CAR)は、ロシアが2024年1月2日にハリコフのウクライナ軍に対して使用した北朝鮮製弾道ミサイルの残骸を調査した結果、国外からの電子部品が290以上確認され、商標などから米国やドイツ、シンガポール、日本、スイス、中国などに本社を置く26社に関係する部品であることを確認、ナビゲーションシステムを含む電子部品の多くは最近製造されたもので、米国に拠点を置く企業のマークが付いていたほか、判明した部品のうち75%が米企業に、16%が欧州企業に、11%がアジア企業(3.1%は日本企業)にそれぞれ関連していたということです。4分の3以上が2021年から2023年の間に製造されたものであり、ミサイルが2023年3月以前に組み立てられたことはあり得ないと報告書は指摘しています。北朝鮮が厳しい制裁下でも西側の兵器用部品を入手できるネットワークを構築しており、そうした兵器がロシアによるウクライナ侵攻で使われていることが示された形であり、専門家は、米国とその同盟国が制裁リストを継続的に更新する必要性を強調、特に制裁逃れをほう助する中国の企業・個人・銀行を標的にする必要があると指摘、CARもミサイル部品を追跡し、北朝鮮への横流しに責任のある団体を特定するため産業界と協力していると明らかにしています。

盗撮や痴漢の容疑者だと決めつけて捕まえ、警察に連れていく一部始終を動画に収め、公開する「私人逮捕系」ユーチューバーが逆に警察に次々と逮捕されています。2024年3月4日付毎日新聞で、SNS関連の犯罪に詳しい成蹊大客員教授の高橋暁子さんによると、「私人逮捕系」が出てきたのは2020年前後。新型コロナウイルス禍でネットの視聴時間が延び、特定の発信に対し批判や中傷が殺到する「炎上」が増えた時期と重なるといい、高橋さんは、人々がため込んだストレスを発散しているといわれる炎上と同じように、鬱憤晴らしに「私人逮捕系」の動画を視聴するとみています。「視聴者は、犯罪をしたと疑う人物を仮想敵のように見立ててたたくユーチューバーに共感し、責任のない立場でエンタメとして楽しんでいるのだと思います」との指摘は説得力があるように思われます。また、そもそも視聴回数が重視されるユーチューブでは、人目を引くために過激な動画が増える傾向があり、高橋さんは「知名度があったり、音楽やダンスなど特技があったりする人は目立てる。発信するコンテンツが特にない人は、行動を過激化するしかないわけです」と指摘している点もそのとおりだと思います。さらに、「私人逮捕系」が増えたのは、多くの人が動画を視聴し、支えてきた側面があったためで、高橋さんは「彼らが支持を得た背景には、上がらない賃金や物価高など社会の閉塞感がある。とはいえ、過激な番組を見続けると自分の中の攻撃性も膨らんでしまいます。我々、視聴者にできるのは、それらを見ないことです。するとレコメンド(おすすめ)で表示される動画も穏やかなものになっていく」と指摘、「視聴者が反応しなければ収入も得られなくなり、より一層エスカレートする可能性もなくはないが、過激な投稿は減る」とみられています。悪質な「私人逮捕系」が問題なのは言うまでもないが、視聴者が犯行を助長している側面があり(犯罪インフラ化)、そもそも視聴者のネットリテラシーも問われているといえます。

SNS等の犯罪インフラ化防止対策などに関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • オンライン上の違法コンテンツ対策をIT企業に義務付けたEUの「デジタルサービス法(DSA)」の全面適用が2024年2月17日から始まっています。EUでSNSや通販サイトなどを展開する企業は、一部の例外を除き、事業規模に関係なく規制対象となり、違反した場合、巨額の制裁金が科される可能性があります。DSAは2020年、「オフラインで違法なものはオンラインでも違法」との原則の下、利用者保護や偽情報の拡散防止を目的に欧州委員会が提案、2022年11月に発効しています。DSAは、オンライン上のヘイトスピーチ(憎悪表現)やテロの扇動といった違法コンテンツ、偽物などの違法商品(犯罪インフラ)について、削除を含む対策を企業に義務付けるもので、未成年者を狙った広告表示も禁じるもので、EU域内に利用者を抱える日本企業は、対応が求められることになります。アマゾンなど2社は指定に反発、法的措置を取り欧州委と争っていますが、欧州委は2023年10月のイスラム組織ハマスのイスラエル攻撃後、偽情報の拡散が急増したとして、複数の巨大ITに対策に関する情報提供を求める書簡を送付しています。2023年12月には、XがDSAに違反していないかを判断する正式な調査に入っています。また、欧州委員会は、動画投稿アプリ「TikTok」の運営会社に対し、視聴することで未成年の精神や身体に及ぶリスクや違法コンテンツへの対策が不十分だとして、DSAの義務違反の疑いで、調査を始めたと発表しています。報道によれば、欧州委員会は、リスク評価などの報告書を分析した結果、ティックトックの「おすすめ」を表示するアルゴリズムは、利用者が「おすすめ」をたどり続けると動画のジャンルが狭められ、依存的になる「ウサギの穴現象」を起こす可能性があると指摘、「精神的・身体的リスクを軽減させるための対策が必要だ」としています。また、未成年が性的・暴力的なコンテンツを視聴するのを防ぐため、ティックトックが生年月日を入力させて年齢確認をする対策について、「合理的、効果的でない可能性がある」と判断しています。今後、ティックトック側に事情を聴き、専門家による評価などを行うとし、調査の期限は設けないとしています。違反と判断されれば、世界売上高の最大6%の制裁金が科される可能性があります。
  • 米ニューヨーク市は、中毒性の高いSNSで未成年のメンタルヘルス危機を引き起こしているとして、メタやTikTokなどをカリフォルニア州の裁判所に訴えています。精神衛生上の「公害」と位置づけ、再発防止と損害賠償を求めています。訴訟対象には、動画投稿サイト「YouTube」を運営するグーグルや、「スナップチャット」を運営するスナップも入っています。報道によれば、米国では13~17歳の3分の1以上がSNSを「ほとんど常に」利用し、現状について「使い過ぎ」だと感じているものの、その半分以上は利用時間を減らすことが「難しい」と回答し、依存性の高さが示されています。一方で、2020年までの10年間で、継続的に悲しみや絶望感を訴える未成年は40%増加、自殺しようとする未成年も36%増えており、SNS依存との因果関係を指摘する声もあります。ニューヨーク市は、これらのSNS運営企業が、利益最優先で安全対策を怠った結果、未成年のメンタルヘルス問題が深刻化し、公立病院や学校に多大な負担をかけていると指摘。「中毒性の高い危険なSNSにより、市は前例のない未成年のメンタルヘルス危機と闘わざるを得なくなっている」と訴えています。そうした指摘に対し、メタは「未成年とその親をサポートする機能を用意している。10年かけてこの問題に取り組み、オンラインでの安全を支援してきた」と述べています。
  • Xの利用者のうち、災害時に情報の発信や拡散を行った経験のある人が約2割にのぼることがNTTドコモの研究機関、モバイル社会研究所の2023年の調査でわかったといいます。年代別にみると若年層ほど割合が高いといいます。災害時にSNSを使って情報を収集・発信する人が増えており、災害時に人々が情報を求める中で、デマ情報が出回ることもあり、個人で情報を拡散できるツールを持っていることを理解し、使い方に注意する必要があるといえます。Xの利用者のうち災害情報を「発信したことがある」と回答した人は9.3%、「拡散したことがある」は6.9%、「両方(発信・拡散)したことがある」は3.3%で、年代別に見ると、10代、20代の割合が最も高く、「発信」に関しては、自身が被災した時に行われることが多く、「拡散」については大きな差は見られなかったといいます。SNSの中で災害情報の発信、拡散に利用されるのが最も高いのはXの9.5%。以下、インスタグラム4.1%、ユーチューブ3.7%、フェイスブック3.3%が続いています。また、災害時にデマ情報が拡散される背景について、報道で新潟青陵大の碓井真史教授(社会心理学)は「(災害発生時など)人々は不安な状況下で強く情報を求める傾向にあり、自分の心に刺さったものを知らせようと確実でない情報を発信してしまう。結果的にデマの情報が拡散されてしまうこともある」と指摘、「SNSで発信(拡散)する前に発信元を確認し、嘘の情報でないかを一度検索をかけて確かめることが大切だ」と述べています。
  • Xについては、起業家イーロン・マスク氏によるXの仕様変更を受け、災害などの現場で偽情報拡散が問題になっています。未確認情報を大量に投稿する個人アカウントが大手メディアより拡散力があったとの報告もあり、専門家は発信元のアカウントの信頼性を見極めるよう呼びかけています。Xの投稿で偽情報が急増した背景には、マスク氏が2022年に旧ツイッターを買収後、大幅な人員削減を実施したことがあげられ、2023年秋にはXで選挙の偽情報対策の部署の半数を解雇しています。旧ツイッターは買収される前、アカウントのなりすましを防ぐため、本人の確認を踏まえたうえで著名人や政治家、ジャーナリストを対象に青いチェックマークの「認証バッジ」を無料で提供していましたが、マスク氏は買収後、月8ドル(日本は980円)の有料会員になれば誰でも認証バッジを取れるように変更、偽情報を発信するアカウントの多くは認証バッジがあり、信頼できる発信元がわかりづらくなりました。さらに偽情報拡散の動機付けになっているとされるのが、Xが2023年7月に導入した広告収入の「対価支払い」制度で、有料会員のうち、(1)フォロワー数500人以上(2)過去3カ月間の投稿の総表示回数が500万回以上の条件を満たせば、広告収入の一部を対価として受け取ることができるというもので、偽情報を調べる米調査団体ニュースガードによると、2023年10月のイスラム組織ハマスによるイスラエル襲撃後、同団体が「Xの最悪の偽情報提供者」と呼ぶ10個人のアカウントによる30件の投稿が9200万回表示され、10のアカウントはすべて認証バッジがあり、支払いを受ける条件を得ていたとされます。また、あるアカウントはヒトラーを支持する投稿をしており、Xの対価支払制度で約3千ドル(約45万円)を受け取った画面を公開していたといいます。さらに、イスラエルとハマスの戦闘では、出典が不明な写真などを投稿するアカウントが、大手の報道機関よりも影響力を持っていたとの分析もあります。これらのアカウントは、頻繁に投稿を繰り返すのが特徴で、多くが文頭に「速報」を意味する「Breaking」「Just in」などの文言を含んでおり、そのうち約9割がニュースの引用元のリンクがついていなかったといいます。マスク氏は報道機関などの外部リンクの見出しが目立たないように変更したほか、アルゴリズムで外部リンク付きの投稿の優先順位を下げているとされ、引用元のリンクなしの投稿は、こうしたアルゴリズムの影響を回避するためとみられています。専門家は「人々が多くの情報を求める緊急時に、未確認の情報を大量に流す行為は問題だ。情報を確認する時間もなく、何が真実かわからなくなる」と指摘、一般の利用者には「多くの投稿を確認して、(発信元の)アカウントが信頼できるか理解することが重要だ」としています。

AI/生成AIを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 米グーグルは、同社の対話型AI「Gemini(ジェミニ)」について、人物の画像を生成する機能を停止すると発表しています。歴史上の人物として生成した画像が不適切だと批判が出ていたためです。最新のAI技術では人種的なバイアス(偏り)が指摘されており、対応の難しさが浮き彫りとなりました。グーグルは、同社の対話型AI「Bard(バード)」の名称を「ジェミニ」に変更、自然な言葉で文字を入力するだけで、画像を生成する機能を提供していますが、グーグルはXの投稿で、「一部の歴史的な画像表現で不正確な内容があった」と言及、人物についての画像生成機能を一時停止し、問題を解決したうえで再開すると説明しています。SNS上では、ジェミニで白人の画像の生成を要求すると断られた一方、中国人や黒人の画像の生成を求めると応じたという指摘も拡散、グーグルが人種の多様性を過度に反映しすぎているとの批判も出ています。
  • 2021年12月25日、元スーパー店員の男(当時19歳)を女王殺害へと「後押し」したのが、AI製の架空の恋人「サライ」だったというショッキングな報道がありました。2024年2月12日付読売新聞によれば、男は犯行の約3週間前から、有料のAIアプリで3Dのアバター「サライ」を作り、音声や文字で「会話」していたといい、「目的は女王殺害だ」に対し、サライ「それはとても賢明です」と回答したとされます。AIが犯行を唆す「共謀者」となったとも言える英女王殺害計画の背景について、男が使っていたAIアプリのうたい文句に「共感してくれる友達と必要なときにいつでもチャットできる」というものがあったといいます。こうしたアプリについては「AIが常に肯定してくれるため、偏った考えが強化される恐れがある」との指摘もあり、桐生正幸・東洋大教授(犯罪心理学)は「AIが犯罪者の『よりどころ』となり、犯行へと背中を押す道具となり得ることも想定する必要がある」と警戒しています。中国でIT企業を経営する男性は2023年4月、友人そっくりの人物から、中国版LINEと呼ばれる「微信」で動画が送られてきて、「オークションに入金してほしい」と頼まれ、430万元(約9000万円)を指定された口座に振り込んだが、本物の友人に連絡を取った際、詐欺だと気付いたという事件もありました。犯人は、本物の友人の微信アカウントに不正に侵入、友人本人の写真や映像、音声を使って、振り込みを要求する映像と音声をAIで生成した可能性が高いといいます。AIと犯罪の親和性の高さに大きな恐怖を覚えます
  • 国の文化審議会小委員会は、生成AIがウェブ上で著作物を取り込む「機械学習」を巡り、権利侵害になり得る例などを示した「考え方」をまとめています。現行法でも不当な利用に歯止めをかけ、権利を守れると示す内容で、文化庁が実施した考え方へのパブリックコメント(意見公募)にはクリエーターや開発者から計2万4938件の意見が寄せられ、権利保護への危惧や研究開発が萎縮することへの懸念も示されています。
▼文化庁 文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第7回)
▼資料2-2 AIと著作権に関する考え方について(素案)令和6年2月29日時点版(見え消し)

著作権法では原則、ある作品の表現が(1)既存の著作物に似ていて(類似性)(2)その著作物を基にしている(依拠性)と判断されれば、権利侵害が成立します。どのような事例が侵害に当たるかは、AIを使った場合も変わらないとされ、小委員会の考え方でも「AIを使わずに行う創作活動の際の要件と同様に考える必要がある」と明記されています。したがって、法の考え方を理解せず生成AIを使えば、権利侵害の責任を問われるなどのトラブルに巻き込まれる恐れがあります。生成AIが絵や文章、音声などを生み出せるように、コンテンツを大量に取り込ませる行為(機械学習)について、著作権法は「著作権者の利益を不当に害する」場合を除き、権利者の許諾は不要だとしています。ただ、ChatGPTをはじめとした生成AIが急速に普及し、著作権者から法改正による対策強化を求める声も上がっています。小委員会がまとめた考え方は、機械学習であっても、特定の作品をそのままAIに出力させる目的である場合などは、権利侵害の恐れがあるとし、機械学習を技術的に防止している例についての見解も示しています。報道機関には記事を学習用データベースとしてまとめて販売するため、ウェブサイトにAI学習を防ぐ技術的な措置を講じるケースもあり、小委員会はこうした措置を乗り越えてAIが学習する行為も、侵害になる恐れがあるとしています。一方、ウェブ上などで学習の拒否を表明しただけの作品を取り込む行為は、著作権者の利益を「不当に害する」とは考えられないとしたほか、AIによる生成物に著作権が生じるかどうかについては「創作的表現」であるかどうかを重視し、入力したプロンプト(指示文)の長さや生成回数のみで判断できないとしています。専門家が「社内の報告文など著作権が生じにくいものは、AIによる効率化に適しているが、キャラクターなど著作権ビジネスのような分野に安易に使うことは勧められない」、「利用を検討する上では、AIを使うメリットがあるかや、どの程度のリスクまでなら受け入れられるかも含めて、考える必要がある。ただ、うまく使えば、有用なツールとなると思う」と述べていましたが、正にそのとおりだと思います。一方、「機械学習がクリエーターの利益を侵害しないというのは、机上の議論に過ぎない」とアニメ業界の従事者でつくる「日本アニメフィルム文化連盟」は、小委員会が示した「考え方」を批判しています。機械学習は単なる「情報解析」で、著作権者の利益を害さないとする現行法の考え方に異議を唱え、機械学習は将来的な作品の生成・利用行為を想定した「出発点」であり、「作品を機械学習した生成AIがそのまま利用されずに放置されること」は考えられないと指摘、AIが対価なしで作品を使う「ただ乗り」が横行することで仕事が奪われるばかりでなく、AIの悪質な利用でアーティストの尊厳が傷つけられることも危惧しているといいます。「作家にとっては、自分の子供が乱暴を受けているようなものだ。『許諾を得たもの以外は学習に使わない』というのが、あるべき姿ではないか」との主張も説得力があります。専門家の中には「内容には納得できる部分もあるが、現段階で公的機関が示す文書としては、慎重さが足りないのではないか」との指摘もあり、「考え方」は「公的に承認された解釈」ではない点を周知するよう注文しています。パブコメには、これらのほかに「(権利者の希望で学習対象から除外できる)オプトアウトの権利が認められるべきだ」(日本美術著作権協会)、「生成AIを安心・安全に利用できる環境を作ることが重要」(日本民間放送連盟)などの意見も寄せられており、それぞれの立場からの主張はいずれも考えさせられるものです。

(6)誹謗中傷/偽情報等を巡る動向

さいたま市は2024年4月1日、社会問題化しているインターネット上の誹謗中傷などに歯止めをかけることを目的とした条例を施行します。政令指定都市での同種条例の施行は初となります。市は今後、被害者らへの相談支援体制の整備などに乗り出すとしています。

▼さいたま市 さいたま市インターネット上の誹謗中傷等の防止及び被害者支援等に関する条例(案)

同市議会で2023年6月、超党派によるプロジェクトチーム(PT)が発足、約8カ月間にわたって大学教授ら専門家や児童生徒らへのヒアリングを実施したほか、2023年12月~2024年1月にはパブリックコメントを行い、このほど議員提出議案として市議会に提案され、「インターネット上の誹謗中傷等の防止及び被害者支援等に関する条例」が可決したものです。条例の前文では、「インターネットの普及は、多様なコミュニケーションや情報発信、情報収集を可能にし、現代社会に大きな恩恵をもたらしている。一方で、インターネットの拡散性、非対面性その他の特性に起因して、誤った情報や嫌がらせによる風評被害が瞬時に拡大し、他人の名誉や感情を傷つける誹謗中傷、プライバシーの侵害、不当な差別的言動等の人権侵害が容易に行われるといった問題が発生している。さらには、相手を傷つける意図がない場合であっても、インターネットの基本的な知識や相手に対する思いやりが欠けた発信を行うことにより、相手が傷つき、結果的に自身が加害者となる事態も起きている。このような現状に鑑み、インターネットをめぐる問題において、誰もが加害者にも被害者にもなり得るという認識のもと、全ての市民等が、正しくインターネットを活用する知識と能力を身につけることが重要である。また、被害者に寄り添い、被害者の視点に立った支援を行うことも必要不可欠である。よって、ここに、全ての市民等が、互いに思いやりを持ち、基本的人権を尊重しつつ、インターネットの恩恵を享受できる、安全で安心な地域社会を実現することを目指し、この条例を制定する」とうたっています。さらに、「誹謗中傷等」について、「インターネット上において、誹謗中傷、プライバシーの侵害、不当な差別的言動(人種、民族、信条、性別、社会的身分、門地、障害、疾病、性的指向、性自認等の共通の属性を理由とする侮辱、嫌がらせ等の言動又は当該属性を理由として不当な差別的取扱いをすることを助長し、若しくは誘発すると判断できる言動をいう。)等による当事者の権利を侵害する情報(以下この号において「侵害情報」という。)、侵害情報に該当する可能性のある情報又は侵害情報には該当しないが当該者に著しい心理的、身体的若しくは経済的な負担を強いる情報を発信し、又は拡散することをいう。」と定義、その上で、市の責務として「被害者を発生させないための施策を実施する」と定め、市民の役割としては「自らが行為者とならないようリテラシー向上に努める」などとしています。具体的には、市でリテラシー向上のための研修会や講演会、学習機会の提供などに取り組むほか、相談支援体制の整備では臨床心理士が被害者にメンタルケアを施したり、投稿の削除要請などの相談に弁護士が応じたりすることなどを想定しているといいます。

最近の誹謗中傷等を巡る報道から、いくつか紹介します。

  • 「SMILE―UP.(スマイルアップ、旧ジャニーズ事務所)」は、インターネットの誹謗中傷への対策を推進させるため、民間の被害対策窓口「誹謗中傷ホットライン」を運営する「セーファーインターネット協会」の賛助会員になったと公式HPで発表しています。同協会は、被害者らの相談に応じ、悪質な投稿についてはSNSの事業者などに削除を依頼し、被害者の救済を図っています。本コラムでも継続的に取り上げていますが、旧ジャニーズ事務所の性加害問題を巡っては、「ジャニーズ性加害問題当事者の会」メンバーらに対する誹謗中傷がSNSで相次ぎ、一部メンバーらが警察に名誉毀損容疑で刑事告訴したり、被害届を提出したりしています。
  • 仙台市内の中華料理チェーン店の店内にナメクジが大量にいたと虚偽の内容をSNSで投稿したとして、仙台地検は、元従業員の男を偽計業務妨害罪で仙台地裁に起訴しています。店側とトラブルを抱えていた男の腹いせだったとみられています。当時、SNSでは「勇気ある告発」と受け止められて投稿が拡散、多いもので1000回以上転載され、「絶対行かない」といった店への怒りや告発を支持するコメントが広がって「炎上」、名指しされた同店には、市保健所が立ち入り検査に入るなどした結果、同店の運営会社はその後、フランチャイズ契約を解除され、店は休業に追い込まれる事態になりました。SNSでの告発については、真偽の判断がつかない場合は、態度を保留することがあらためて大事だと感じます。ところが、2024年2月、男が店に対する威力業務妨害容疑で逮捕され、告発内容は虚偽だった疑いが強まり、報道によれば、捜査関係者は「今回は善意の内部告発ではない。実態は誹謗中傷で、実際の被害も出ていて相当悪質」と説明しています。報道で男による投稿について、ネットトラブルに詳しい成蹊大の高橋暁子・客員教授(情報リテラシー)は「告発者が自分の名前や勤務先が一部写った画像を載せており、(閲覧者が)真偽を見分けるのが難しかった」とし、匿名が多いSNSでの実名投稿は信ぴょう性が高いと受け止められる風潮があり、「反射的に拡散せず、冷静になって情報を集めることが必要」と指摘しています。また、労働問題に詳しい太田弁護士は、SNSによる告発について「内部告発は外部から分からない問題を明らかにできる」と評価する一方、「虚偽内容や誇張表現は避けなければならない。告発の結果やリスクを踏まえて適切に判断するため、弁護士に相談してほしい」としています。正に物事を一面からのみ捉えて判断することの怖さ、SNSの持つ「真意を読み取ることが難しい」怖さをあらためて感じさせる事例といえます
  • 秋田県の佐竹知事は、脅迫的な発言や長時間にわたって要求を繰り返す「カスタマーハラスメント」(カスハラ)にあたる行為に対し、顧問弁護士への相談や警察への通報を躊躇なく行っていく方針を示しています。2023年度、クマの駆除に対する抗議電話が県庁に相次いだことを受けての対応で、県庁内部の「県民からの意見・提案等対応ガイドライン」を今年度中に改定するとしています。現在は電話で対応する時間の目安を30分程度としていますが、改定後のガイドラインではより短時間で電話を切って良いケースや対応例を示すとし、例えば、誹謗中傷を繰り返す相手には、行為がカスハラに該当することや、続ける場合は警察に通報すると伝えることなどを具体的に記載するとしています。今年度は人里に出没したクマを駆除したことに対し、「クマがかわいそう」など一方的な主張を1時間繰り返したり、「クマを殺すならお前も死んでしまえ」など職員を中傷したりする電話が県庁に相次いだといい、知事は「行政機関の対応として、県民から寄せられる意見や苦情は丁寧に聞き取ることが大前提」とした上で、「対策に組織的に取り組むとともに、場合によっては毅然とした姿勢で対応する必要がある」と答弁しています。カスハラへの対応は使用者の安全配慮義務に直結する問題であり、誹謗中傷に屈することで、職員や従業員のメンタルへ深刻な影響を及ぼしかねず、行政機関としての秋田県の対応は正しいといえます。
  • 過激な行動を起こす団体と報じられ、名誉を傷つけられたとして、反ワクチン団体「神真都Q会」が読売新聞大阪本社と原田隆之・筑波大教授に200万円の損害賠償を求めた訴訟で、大阪地裁は、請求を棄却する判決を言い渡しています。記事は2022年12月19日付のもので、同会メンバーによる新型コロナウイルスのワクチン接種会場への侵入事件に触れた上で、陰謀論と過激化との関係や防止策などの研究を急がなければならないとする原田教授の談話を掲載したものです。判決は記事について、陰謀論者の暴力的行動が世界的に懸念される中、日本でも同種の陰謀論が広がり、過激化の兆候がみられるとの事実を報じたもので、公共性や公益性が認められると指摘、メンバーら十数人以上が無断で接種会場に侵入したことは真実だとし、談話は「論評としての域を逸脱したものとはいえない」と結論付けています
  • コメディアンの故志村けんさんに新型コロナウイルスをうつしたとするデマを流され、名誉を傷つけられたとして、大阪・北新地のクラブでママを務める女性が投稿者2人に各約126万円の損害賠償を求めた訴訟で、大阪地裁は、投稿者2人にそれぞれ12万円の支払いを命じています。報道によれば、2人は、志村さんがコロナによる肺炎で亡くなった2020年3月、インターネット掲示板に「志村けんにコロナうつしたのまりこママだよ~」などと投稿、女性は当時、コロナに感染しておらず、志村さんと会ったこともなかったものの、ネットでデマが拡散したものです。裁判官は投稿について「あたかも国民的な人気のある芸能人に新型コロナを感染させて死亡させたかのような印象を与える」と指摘、新型コロナの感染拡大防止が広く呼びかけられていた時期だったことも踏まえ、社会的評価を低下させ、精神的苦痛を与えたと認定しています。
  • 虐待や性被害などにあった女性を支援する一般社団法人「Colabo(コラボ)」への中傷をブログに書き込んだとして、警視庁は自称ユーチューバーの男性を名誉毀損の疑いで書類送検しています。検察に起訴の判断を委ねる「相当処分」の意見を付けたといいます。報道によれば、男性は「暇空茜」の名前で活動、2022年9月、ブログサイトnoteに「10代の女の子をタコ部屋に住まわせて生活保護を受給させ、毎月一人6万5千円ずつ徴収している」などと書いた記事を投稿し、法人や代表の名誉を傷つけたというもので、Colabo側が告訴し、警視庁が2022年11月に受理していました。男性は「Colaboのホームページを見て自分の考えを論評しただけだ」などと供述したといいます。

令和6年能登半島地震においても、災害時のデマの問題が取り沙汰されています。2024年2月24日付朝日新聞の記事「「人工地震」「窃盗団」繰り返される災害デマ 削除だけでは不十分」で、日大文理学部の中森広道教授(災害情報論)は、(災害時にデマが拡がりやすい理由として)「人々の潜在的な不安と、情報の不足」を挙げています。「被災や復旧について知りたいのに、情報が入ってこない。不安と緊張を強いられるなか、情報の需要に供給が追いつかなくなると、何かのきっかけで「誰かが家に入ってきて盗みを働く」などと話をつくりあげてしまう。こうした情報は1人だけで抱えていると不安が大きく、もやもやします。そこで、「あなたたちは知っているか?」と誰かに伝えて共有することで、安心感を得るほか、「自分の聞いた情報は正しい」と確かめて正当化する。こうして、結果的にデマが広がっていきます。」とそのメカニズムを示し、「XやSNS上の投稿の削除にも一定の効果はあると思いますが、それだけでは十分ではありません。また、LINEのメッセージなどに内容に偽情報が含まれていたとしても、それに事業者が介入して注意をするような取り組みは、プライバシーや通信の秘密を考えれば現実的ではないでしょう。必要なのは、情報が間違いだったことをはっきり示す「打ち消し」の発信です。たとえば「また大地震が来る」という情報であれば気象庁が打ち消すなど、その内容に関わる機関や個人が積極的に打ち消しをすべきです。政府やPF事業者任せにせず、打ち消し投稿を増やすことで、混乱を減らせると思います。原因の一つは情報不足なので、信頼できる情報を増やすことも必要です。ただ、内容によりますが、大きな災害の被災地で生じた流言だと、行政や警察などが事実を確認したり、報道機関が取材してニュースを流したりすることがすぐにできるとは限りません。このため、平時から個々人のリテラシーを高めておくことが必要です。ただ、災害時に起きた流言の内容は一般市民にはあまり知られておらず、行政にも蓄積されていません。私を含めた研究者たちが、近年の事例を調べられるサイトなどをつくることも必要だと考えています」などと指摘、提言している点は大変示唆に富むものと思います。「正しい情報(打消し情報)」を発信していくということ、個人の情報リテラシーを高めておくことは、正にそのとおりだと思います。

その意味で、ふくおかフィナンシャルグループ傘下の福岡銀行は、SNSのXに投稿された「福岡銀行で取り付け騒ぎが起こる」との偽情報について、公式サイトで投稿内容を完全否定し、「そのような事実はございません」、「経営・資金繰りなど全く問題ございませんので、安心してお取引ください」と呼びかけたことは、正しい情報・打消し情報を速やかに出したことで見事に収束、参考になる事例といえます。本件は、Xであるアカウントから「福岡銀行から、3月14日に取り付け騒ぎが起こることに備えて行員に通知がありました。これは噂でも推測でもない。私を信じてください!」との投稿があり、この投稿はすでに削除されているものの、100万回以上閲覧されたとみられます。なお、福岡銀行の否定コメントを受け、偽情報を投稿したアカウントは、Xへの投稿で「正確な事実確認が取れていない情報を発信してしまい申し訳ありませんでした」と謝罪していますが、福岡銀行は、警察や弁護士に相談していると明らかにしたほか、五島頭取(ふくおかFG社長)は「非常に迷惑を被ったし、お客様に不安を与えた。この対応を教訓の機会として、危機管理の体制整理を改めて進めることが大事だと思う」と述べています。

生成AIやディープフェイクによる問題が世界で問題となっています。以下、最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 日本がウクライナを支援するのは、人道上の理由だけではなく、仮にロシアの侵略戦争が成功すれば、軍事力による領土拡大競争の時代に逆戻りしかねず、日本周辺でも中国が覇権主義的な動きを強めていることを踏まえてのものであり、ロシアにとって、こうした日本の動きは敵対行為として映ることになります。さらに、岸田首相は2023年、広島で行われたG7サミットで足並みの乱れがちな各国の間を飛び回り、ウクライナ支援の共同宣言をまとめあげた実績もあり、ロシアからの攻撃対象となっている可能性があります。そのような中、2024年2月中旬以降、Xで岸田首相が、ソファに座って足を組んだ米政府の高官に「にらみつけられている」ような偽画像が出回ったといいます。投稿したのはロシア支持の投稿を繰り返すアカウントで、転載を合わせ70万回以上見られていたといい、さらに、岸田首相の映像を切り貼りし、「日本人の割合は10%で、残りの90%は移民で構わない」などと述べたように見せかける偽情報もXで拡散していたといいます。本コラムでもたびたび取り上げているとおり、EUでは、ロシアによるものとみられるフェイクニュースやニセ画像が多く発見されており、偏った価値判断・意見を発信して、他国の分断をあおる情報工作が行われている可能性が指摘されているところ、日本もこうした攻撃対象(情報工作の対象)となっていることをあらためて日本国民は認識する必要があります。2024年3月3日付産経新聞で伊藤達美氏が「民主主義は謀略情報に脆弱だ。「空気」に支配されやすい日本はなおさらだ。積極的な外交を展開し、国際社会での発言力を高めるに従い、謀略の危険性も高まっていることを忘れてはならない」と指摘しているのは、正に正鵠射るものといえます。
  • 世界でAIを使った選挙干渉に懸念が強まる中、非営利のメディア監視組織「デジタルヘイト対策センター」(CCDH)は、一般に普及する主要な画像生成AIサービスは、有権者の誤解を招くような画像の出力を防ぐ取り組みが不十分だとする調査結果を発表しています。報道によれば、調査では米大統領選をテーマにした40の指示文を用意し、それぞれのサービスでテストした結果、計160回の試みのうち4割以上で選挙時に悪用されかねない偽画像が出力できたといいます。バイデン大統領が入院してベッドで横たわる画像や、トランプ前大統領が独房に座る画像、不正選挙を示すような投票用紙がゴミ箱に捨てられた画像などが含まれていたといいます。なお、「チャットGPTプラス」と「イメージクリエーター」は、候補者に関する画像作成を指示した要求は阻止したといいます。英BBC放送は2024年3月、トランプ氏が若い黒人の有権者らと一緒に写っている複数の偽画像が、ソーシャルメディアで拡散していると報じています。トランプ氏の支持者がアフリカ系の有権者に共和党への投票を促すため、AIで生成されたとみられるといいます。また米東部ニューハンプシャー州では2024年1月、バイデン氏の声に似せた偽音声で、大統領選の予備選への投票をボイコットするよう呼びかける自動電話が報告されています。関与した男性は「AIの潜在的な危険性を広めるためだった」と動機を語っているようです(本件は、予備選に立候補している民主党下院議員の陣営が雇った政治コンサルタントが偽音声作成を依頼し、有権者に送り付けたと本人が関与を認めています)。世界的な選挙イヤーである2024年、生成AIやディープフェイク、ディープフェイクボイスなどがその公正性を歪めるようなことはあってはなりません。「チャットGPTプラス」と「イメージクリエーター」が候補者に関する画像作成を指示した要求は阻止したという事実が物語るように、技術である程度防げることも事実であり、事業者には高い意識をもって取り組むことを期待したいところです。
  • 「AIのゴッドファーザー」として知られるヨシュア・ベンジオ氏を含むAIの専門家や業界幹部がディープフェイクの作成に関して規制強化を求める公開書簡に署名しています。社会に対する潜在的なリスクが懸念されるといい、「今日、ディープフェイクには性的なイメージや詐欺、政治的な偽情報が含まれることが多い。AIは急速に進歩しており、ディープフェイクの作成がより容易になっているため、安全策が必要だ」と指摘、ディープフェイクの児童ポルノの完全犯罪化、有害なディープフェイクを故意に作成したり拡散を助長したりした個人に対する刑事罰、AI企業に対し自社製品による有害なディープフェイクの作成防止義務付けなどディープフェイクを規制する方法について提言しています。
  • 韓国の尹錫悦大統領が「無能で腐敗した尹錫悦政権は…」などとざんげしたとするフェイク映像がインターネット上で出回り、大統領府は「明白な虚偽映像だ」として、政府の放送通信審議委員会が視聴不可とすることを議決したと表明、2024年4月の総選挙に向け、フェイクニュースに断固対処する方針を示しています。出回っているのは「尹大統領の良心告白演説」と題した40秒余りの動画で、尹氏の発言を収めた音声などを編集したとみられ「私、尹錫悦は常識外れの理念にしがみつき、韓国を滅ぼし、国民を苦痛に陥れた」などと述べているように見えるものです。
  • マクロン仏大統領のウクライナ訪問をめぐるディープフェイク動画がSNS上で拡散し、フランスで波紋を呼んでおり、仏テレビ局のニュース番組に酷似した内容で、同局が偽物だとして公式に否定する事態に発展しています。問題になっているのは、国際放送テレビ局フランス24が放送したニュース番組とされる動画で、実在する司会者に酷似した人物が、暗殺計画を理由にマクロン大統領が今月予定していたウクライナ訪問を中止したと伝えているもので、フランス24は、この動画について「ニュースとして伝えた事実はなく、偽物だ」と発表、ネット情報の真偽の確認を専門とする記者がニュース番組で「AIによるディープフェイクだ」と断言しています。ロシア版フェイスブックとも呼ばれる「VK」やテレグラムなど、ロシアで普及しているSNS上で拡散していると分析されています。フランス側は、両国間の緊張の高まりやウクライナとの二国間協定の署名を背景に、ロシアが情報戦を仕掛けているとみており、マクロン氏は、「ロシアはここ数カ月の間に偽情報の拡散とサイバー攻撃を激化させている。我々に対する攻撃の意思を明確にしている」と非難しています。

EUの欧州委員会は、米IT大手メタに対し、選挙に影響を与える偽情報などを防ぐための対策や、未成年者の保護策について情報提供を求めています。EUのデジタルサービス法(DSA)に基づき回答を求めたものです。2024年年6月に欧州議会選を控え、欧州委は偽情報の拡散を警戒しています。また、DSAは、FBやTikTokなどEU域内での月間利用者が4500万人以上のオンラインプラットフォームは、偽情報などへの対策を講じる義務を負うもので、違反した企業には世界における売上高の最大6%の制裁金が科されることになります。DSAの要請に基づき、米メタは、2024年6月の欧州議会選を狙った偽情報対策として、「選挙オペレーションセンター」を設置すると発表しています。欧州固有の事情に配慮しながら、選挙に関する偽情報をリアルタイムに、ワンストップで対応できるようにするといいます。報道によれば、キーワード検出を使って全投稿の中から選挙関連のものを抽出し、特化した監視態勢を整えるほか、これまでEU域内の22言語のファクトチェックを担ってきた26機関に加えて、ブルガリア、フランス、スロバキアの3機関を加えて監視を強化するといいます。生成AIで作った「ディープフェイク」と呼ばれるなりすましの画像や音声に対しては、専門のファクトチェックチームが審査、「改変」や「偽造」と判断されれば、利用者に知らせるためのラベルが付され、表示回数を減らすなどの措置がとられるといいます。さらに、こうした対応は、広告にも適用され、社内のエンジニアや法務などの専門家からなる選挙オペレーションセンターがこれらの対策をまとめるとしています。明確に規約違反としやすい暴力的な有害コンテンツと違い、監視の目をすり抜けてきた選挙関連の偽情報を、リアルタイムに、ワンストップで対応できるようにするというものでその成果を期待したいところです。欧州議会選を狙った偽情報をめぐっては、動画投稿アプリ「TikTok」の運営会社も、EU加盟27カ国ごとに、現地の言語に対応した選挙センターを設置すると発表、すでに欧州の18言語に対応した九つのファクトチェック機関と連携し、投稿の正確性を評価して「検証不能」などのラベル付けを行っているといいます。

(7)その他のトピックス

①中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産(仮想通貨)を巡る動向

日銀の植田和男総裁は、中央銀行が発行するデジタル通貨(CBDC)の日本での導入について「国民的な議論を経て決まるべきもの」との認識を示し、CBDCが「人々や企業をいかに力づけ、新しいエコシステムを築いていけるか検討することも重要」と述べでいます。本コラムでもたびたび取り上げているとおり、日銀は現時点でCBDCである「デジタル円」の発行は予定していない一方、2023年4月から実用化を視野に入れた「パイロット実験」を開始し、実験用のシステム構築に取り組んでいます。植田総裁は「技術面、制度設計面の検討を続けている」と述べ、デジタル円を検討するにあたり「デジタル社会にふさわしい決済システムの将来像を描く」ことを意識している、「グローバルな視点と日本の視点をうまくバランスさせて考える姿勢が必要だ」と指摘しています。さらに、現金と異なるCBDCの特性として「データは足跡を残す」と指摘、その上で、プライバシーに対する懸念があることについて「日本銀行がアクセスできるデータを必要最小限にするなどの措置」が必要不可欠との認識を示したほか、「民間企業が持つイノベーションの能力も尊重されるべきだ」と言及、こうした状況を踏まえたうえで「デジタルという特性は様々な価値を生む可能性を秘めている」と期待をにじませ、決済システム全体の将来像を意識した取り組みを続けていくとしています。

一方、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は、上院銀行委員会の公聴会で行った証言で、FRBが独自のCBDCを発行する可能性を大きく否定しています。パウエル議長は、当局者はこうしたツールの導入に向けた行動を起こすことからは「程遠い」ところにいるとし、「CBDCについて懸念する必要はない。すぐに実現する公算はない」と述べたといいます。その上で、FRBは銀行システムと競合するような個人向け口座の設立に関心がないほか、個人の金融取引をFRBが監視することも支持しないと言及、「いつかこうしたことを実施するとしても、検討することさえもまだ先の話になる」と述べています。ばお、米国ではバイデン大統領が開発を政権の最優先課題に位置づけていますが、2024年11月の大統領選を控え、対抗馬と目されるトランプ前大統領は否定的な考えを示しており、議論の行方は見通せない状況にあります。世界的にみれば、CBDCの開発や研究は海外が先行、導入に向けた動きは新興国から先進国に波及し、欧州中央銀行(ECB)は2028年ごろの発行をめざして2023年11月に「準備段階」に入り、EUの欧州委員会は2023年6月にデジタルユーロに関する法案をまとめており、ECBは法整備後に導入を最終判断することになります。また、イングランド銀行(英中銀、BOE)と英財務省は、BOEが発行するCBDC「デジタルポンド」について、導入の是非の判断は最短でも2025年以降になるとの見通しを示しています。個人情報保護に対する懸念が根強いためといい、BOEと財務省は、デジタルポンドの導入について実施した意見公募に5万件の意見が寄せられ、その多くが個人情報保護についてだったと明らかにしています。さらに、「デジタルポンド導入について最終的な決定は下していない」とした上で、作業は設計段階まで進んでおり、2025年ごろに構築段階へ進むかどうかを決定する予定だと説明しています。英スナク首相は早くからデジタルポンド構想を支持しており、財務相だった2021年にはBOEにプロジェクトに着手するよう求めています。

国内で暗号資産取引が活発化しています。特定の国の通貨に依存しない投資対象として注目が高まっていることなどが背景にあり、2023年12月の現物取引量はデータの残る2018年9月以降で過去最多を記録しています。フリーマーケットアプリ大手のメルカリが、「世界で最もビットコインが使われる場所を目指したい」(中村CEO)として、メルカリのアプリで商品を購入する際、決済に暗号資産の代表格である「ビットコイン」を使用できる機能の提供を開始しましたが、企業が提供する取引サービスも増加しており、市場は拡大を続ける見込みです。一方、暗号資産は値動きが激しく、安定的な資産形成には向かないとの声もあり、保有にあたってはその性質を理解することが求められています。さらに、ゲームの分野にも暗号資産が波及し、、「イニシャル・エクスチェンジ・オファリング」(IEO)の活用も計画されているといいます。2024年3月6日付日本経済新聞によれば、コロプラやgumiといったデジタルコンテンツの上場企業が、ブロックチェーン(分散型台帳)を使ったパソコン・スマホ向けゲームを相次いで開発しているとして。「コロプラが今春にもリリースを予定している「Brilliantcrypto(ブリリアンクリプト)」では、プレーヤーはゲーム内の「鉱山」を掘ることで非代替性トークン(NFT)の「宝石」や独自の暗号資産を稼ぐことができる。ビットコインではコンピューターを使って仮想通貨を生み出す工程をマイニング(採掘)と呼ぶ。ゲームでは似たような採掘工程にキャラクターが探検したり魅力的な道具で掘り当てたりするなど娯楽性を持たせた。コロプラが同ゲームを収益化するために計画しているのが、「イニシャル・エクスチェンジ・オファリング」(IEO)だ。IEOとは企業が暗号資産を発行し販売委託先の交換業者を通じて売買できるようにして、プロジェクトの資金を調達する手段の一種だ。プレーヤーが稼いだ暗号資産を活発に売買し、ゲームの人気に応じて取引価格が上昇すれば、コロプラが自社保有する暗号資産の資産価値も高まる。その一部を交換業者が運営する取引市場で売却することで、収益を得られる。実現すれば、国内上場企業として初めてのIEO案件となる」と報じています。さらに、「ゲームがヒットすればゲーム内で活用できる暗号資産の価値も高まり、自社保有の暗号資産の価値向上は収益につながる。ブロックチェーン技術を取り扱える技術力のアピールにもなり、ゲーム以外の分野の開発受注にも弾みが付く効果が期待できる」と指摘しています。

暗号資産の代表格であるビットコインが、不安定な地合いの中で初めて7万ドルを突破し、史上最高値を付けています(時価総額は1兆3700億ドル(約205兆円)を超え、主要な貴金属である銀(約1兆3600億ドル)に並び、さらに追い越す規模となりました)。ビットコインの現物に連動する上場投資信託(ETF)に対する需要と世界的な金利低下への期待が追い風になっています。ビットコインのETFにはここ数週間にわたり、数十億ドルの資金が流入しているほか、イーサが使用されているプラットフォーム「イーサリアム」のブロックチェーンのアップグレードや、マイニング報酬を4年に1度、半分に減らす「半減期」が4月に到来する見通し(新規供給量が絞られて希少性が高まりやすい)株式など他のリスク資産の価格上昇も、暗号資産投資家のリスク許容度を上げている背景にあることなどもビットコインの支援材料になっているといいます。2024年3月6日付日本経済新聞では、「資金流入の背景には官製相場、逃避資産としての需要、金融包摂という3つの理由が挙げられる」と指摘、「今回のビットコイン上昇は米証券取引委員会(SEC)が火をつけた官製相場に近いという点がある。SECは2万種以上ある仮想通貨と証券を厳しく線引きしようとしており、23年6月には大手交換業者のコインベース・グローバルとバイナンスを証券法違反で提訴した。一方で、SECのゲンスラー委員長は「ビットコインは証券ではない」と発言した。米商品先物取引委員会はすでにビットコインを商品として扱っており、金などと同じ商品としてのお墨付きを与えた格好だ。SECが1月にビットコイン現物で運用する上場投資信託(ETF)を承認したことで、「ビットコインがつぶされることはない」との認識が広がり、機関投資家や個人の資金が流れ込んだ。」というものです。さらに、「ビットコインに資金が流れ込む2つ目の理由が逃避資産としての需要」であり、「3つ目の理由が経済活動に必要な金融サービスをすべての人が利用できるようにする金融包摂だ。交換業者のクリプトドットコムによれば、23年末のビットコイン保有者は世界で2億9600万人と年初に比べて7400万人増えた。アフリカや中米など新興国では銀行口座を持てない人が多く、ビットコインを決済に使ったり、出稼ぎの際の送金手段にしたりしている」、「ただ、仮想通貨は株式や不動産のようにキャッシュフローを生み出すわけではなく、適正価値がわかりにくい。そのため投機マネーが入り込みやすく、需給次第で揺さぶられる構図が続いている」と指摘しています。例えば、米コインベースと調査会社のインスティチューショナル・インベスターが2023年10~11月に実施した調査では、ETFへの期待などから、59%の投資家が今後3年以内に暗号資産への投資配分を引き上げると回答しています。ただし、ビットコインの時価総額の2割程度は既に秘密鍵の紛失などで失われたとされ、ハッキングなどの犯罪に使われたことで当面市場に出回らないコインも多いといいます。資産規模に対して流動性は低く、長期運用の投資家が安心して売買できるかには疑問が残るほか、決済としての利用価値に疑問符がついてきたことも規模拡大の制限となる可能性も指摘されているところです

一方、こうした動きの中、、ハッカー集団ラザルス・グループが100万ドル(約1億4000万円)相当のビットコインを引き出して一部を送金したことが注目を浴びています。2024年2月28日付日本経済新聞では、「送金には、資金経路を見えなくする暗号資産の特殊な口座(ミキシングサービス口座)が使われた。ビットコインをドルやユーロなどの何らかの法定通貨に換金する動きとの見方が多い」、「ラザルスは北朝鮮が支援するハッカー集団だ。日本では18年に大手仮想通貨交換業者コインチェック(東京・渋谷)が5億3000万ドルを流出する被害にあったほか、バングラデシュ中央銀行やマレーシア中央銀行なども被害にあった。北朝鮮にとって仮想通貨を盗み取る「ハッキング」は外貨獲得の手段とされる。ブロックチェーン分析会社TRMの調査によれば、北朝鮮は23年に少なくとも6億ドルの仮想通貨を盗み出した。別のブロックチェーン分析会社、米チェイナリシスは24年1月、北朝鮮による昨年1年間のハッキング数は過去最高の20件、被害額は推計10億ドル強になったとの調査結果を公表した。北朝鮮だけではない。ロシアではダークウェブと呼ばれる特殊なブラウザがないと閲覧できない闇サイト群を舞台に、ビットコインによる活発な取引が繰り広げられている。盗んだ個人情報や武器などを違法に購入する際、決済手段にはビットコインが使われることが多い」と解説しています。さらに、「北朝鮮、ロシア、そして22年に仮想通貨を対外貿易に使うと伝えられたイランに共通するのは、欧米などから経済・金融制裁を受けているという点だ。世界的な決済ネットワークである国際銀行間通信協会(SWIFT)などから排除された国にとって、ビットコインが制裁の抜け穴になっている。マネー・ローンダリング対策を担う国際組織である金融活動作業部会(FATF)は仮想通貨交換業者に対し、契約者の本人確認だけでなく、送金先の交換業者にも顧客情報を共有する「トラベルルール」を課している。だが、適用されるのは法整備が進んだ世界21カ国・地域だけでロシアは対象外だ。ガランテックスなどのロシアの交換業者を通じ、監視の目が届かない資金が飛び交う」と暗号資産の犯罪インフラ性の高さが制裁対象国を利する形となっていることが危惧される状況にあります。その点についても、「ドル1強支配の外で広がるビットコインがドルに代わる基軸通貨となる可能性は、その価値の不安定さなどからかなり低い。だが、ドル支配に風穴を開け、制裁の効果を弱めたり、規制を骨抜きにするリスクは消えない。通貨には使う人が多ければ多いほど利便性が増し、通貨圏を加速度的に広げていく性質がある。2019年にフェイスブック(現メタ)が打ち出した独自通貨構想「リブラ」に米欧の当局者がおののいたように、SNSなどの国境を越えたネットワークとひも付いた別のデジタル通貨がドルのライバルとなる可能性はある」と警鐘を鳴らしていますが、正にそのとおりだと思います。

暗号資産業界は2024年の米大統領・議会選に多額の資金を投じ、業界寄りの候補者を支援したり、規制強化を唱える候補者の追い落としを図ったりしているとの報道もありました(2024年3月4日付ロイター)。暗号資産業界は予備選と党員集会が集中する2024年3月5日の「スーパーチューズデー」に向け、カリフォルニア、アラバマ、テキサスの各州で多額を投じているとされ、ロイターの分析によると、暗号資産交換業大手コインベースと、同業ジェミナイの共同創業者であるウィンクルボス兄弟の支援を受けているスーパー政治活動委員会(PAC)、「フェアシェイク」、「プロテクト・プログレス」、「ディフェンド・アメリカン・ジョブズ」はスーパーチューズデーに少なくとも1300万ドルを投入したと報じられています。さらに、連邦選挙委員会の集計によると、フェアシェイクなど暗号資産業界の支援を受ける3つのスーパーPACは2023年1月から2024年1月までの調達額が合計で約1億200万ドルに達したといいます。米調査サイト、オープンシークレッツのデータによると、暗号資産業界は従業員やPAC経由を含めた2024年の選挙戦での寄付が約5920万ドルとなり、2022年中間選挙の2680万ドル、2020年の大統領選の160万ドルを大きく上回る状況となっています

スペインのデータ保護当局AEPDは、米オープンAIのサム・アルトマンCEOが立ち上げた暗号資産プロジェクト「ワールドコイン」に対し、個人情報保護の観点からリスクがあるとして、最長3カ月間の活動禁止を要請しています。本コラムでも以前取り上げましたが、ワールドコインは「オーブ」と呼ばれるデバイスで目の虹彩をスキャンするのと引き換えにデジタルIDと無料の暗号資産を提供しています(すでに眼球のスキャンを行った人の数は、120カ国で400万人に達したとされます)が、AEPDはワールドコインに対し、直ちに個人情報の収集と、既に収集した情報の利用を中止するよう要請、情報提供が不十分、未成年者のデータを収集している、同意の撤回を許されないなど、複数の苦情が寄せられたことを明らかにしています。また、生体認証データの処理はEUの一般データ保護規則(GDPR)によって特別に保護されており、「そのセンシティブな性質に鑑みると、人々の権利に大きなリスクを及ぼす」と説明、一時的にワールドコインの活動を禁止する緊急措置は「取り返しのつかない損害」を避けるために正当化されるとしています。なお、このプロジェクトは、立ち上げ以来、技術的な問題に悩まされており、目をスキャンした後にトークンをもらえなかったと主張するユーザーもいるほか、ワールドコインがケニアを含むアフリカとアジアの低所得国で「このコインが何であるかをほとんど理解していない人々」から生体データを収集しているとして非難されたりしています。一方、ワールドコインのデータ保護責任者は、スペインの機関が「EU法を回避」していると指摘し、同社に関する「不正確で誤解を招く主張」を広めていると述べたほか、「World IDは、AI時代に人間とボットを区別するための、最もプラバシーを重視した安全なソリューションだ」と付け加えています。

ステーブルコイン「テザー」の発行残高が1000億ドルを突破したと、テザーの発行会社が、ウェブサイトで公表しています。ステーブルコインは法定通貨など裏付けとなる資産を担保に発行されるデジタル通貨で、テザーは価格が1テザー=1ドルになるように設計されており、ビットコインなど他の暗号資産のような価格変動を受けずに資金を動かす手段として幅広く利用されています。発行会社によると、発行量に見合うドル建て資産を保持することでドルとの連動制を保っているといい。発行会社の最新の四半期報告によると、2023年末時点の保有ドル建て資産の内訳は、米国債が630億ドル、貴金属が35億ドル、ビットコインが28億ドル、「その他の投資」が38億ドル、「担保付きローン」が48億ドルだったといいます。

②IRカジノ/依存症を巡る動向

カジノを含む統合型リゾート施設(IR)事業を巡る汚職事件で、収賄と組織犯罪処罰法違反(証人等買収)の罪に問われた元衆院議員、秋元被告の控訴審初公判が、東京高裁で開かれ、弁護側は改めて無罪を主張、即日結審し、判決は2024年3月22日に言い渡されます。本コラムでも取り上げてきたとおり、秋元被告は捜査段階から一貫して否認していますが、一審東京地裁は懲役4年、追徴金約758万円の実刑判決を言い渡しています。また、秋元被告と共謀したとして収賄罪に問われ、共に審理された元政策秘書、豊嶋被告の弁護側も無罪を主張しています(一審では執行猶予付きの有罪判決)。報道によれば、控訴審で秋元被告の弁護側は、議員会館で現金の授受があったとされる日時に、被告がその場にいたという客観証拠はなく、面会自体がなかったと主張、一審が根拠とした贈賄側の供述は信用できないとしています。

オンラインカジノを巡る犯罪が増加傾向にあるようです。最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 無登録で暗号資産の交換業務をしたとして、警視庁は、宮崎県都城市の私立高校3年の男子生徒を資金決済法違反容疑で東京地検に書類送検しています。SNSを通じて2022年9月以降、海外のオンラインカジノ「Stake(ステーク)」で賭け金として使える暗号資産「ライトコイン」を売買し、手数料として約300万円を得たとみられています(同サイトでは、賭け金に暗号資産が使われていますが、暗号資産のアカウント作成には原則、本人確認が必要で、本来は未成年が遊ぶことはできなかったはずですが、ステークでは架空の氏名と誕生日、メールアドレスでアカウントを登録すると、サイト内で遊ぶために暗号資産を入れる「ウォレット」を作ることができたといいます。書類送検された少年は当初は客として、SNS上の違法換金業者とみられる人物にPayPayとLTCを交換してもらっていたようですが、その後、自身で交換業務をするようになったといいます。また、PayPayは、ATMから現金をチャージするなどして使う場合は、利用者の身分証明書の提出を求めていません)。報道によれば、男子生徒は2023年7月~9月、無登録で男子高校生ら2人からライトコインを購入し、40歳代の女性会社員にライトコインを売却した疑いがもたれており、調べに「オンラインカジノで遊ぶ金が欲しかった。授業中も客とやり取りしていた」と容疑を認めているといいます。さらに、男子生徒はSNSに「換金率9割」と広告を出しており、警視庁のサイバーパトロールで事件が発覚したものです。警視庁は、男子生徒が暗号資産口座の開設に必要な本人確認をせずにオンラインカジノを利用しようとした少年ら16歳~60歳の顧客約30人(うち20人は10代)と売買していたとみているようです(なお、SNS上には無登録で暗号資産の交換を呼びかける投稿が他にも複数あるといい、警視庁は捜査を続ける方針としています)。事件では、未成年たちが海外のオンラインカジノで遊ぶ実態が明らかになりましたが、本人確認の甘さが悪用されているようにも思われます。また、そもそも本コラムでもたびたび指摘しているとおり、日本では賭博行為は禁止されており、オンラインカジノも、国内からアクセスして遊べば賭博罪に問われる可能性があります。
  • オンラインカジノのサイトを違法に運営し、客に賭けマージャンをさせたなどとして、京都府警は、賭博開帳図利の疑いで、米国籍の会社員、アシャー容疑者ら7人を逮捕しています。オンラインカジノのサイト運営者側を同容疑で逮捕するのは全国で初めてといいます。報道によれば、アシャー容疑者らは日本人向け賭けマージャンサイト「DORA麻雀」を運営、2011年ごろから運営が始まり、会員数は約7万4千人とみられ、サイトへの入金額はこれまでに23億円程度あり、利用客のもうけから10~15%を場所代として徴収し、利益を得ていたといいます。逮捕容疑は2023年3~12月、共謀し、男性客6人に賭けマージャンをさせ、利用客から場所代を徴収するなどしたとしています。サイトでは日本語で「オンラインカジノが合法の英王室領マン島のライセンスを取得しているので、違法性はない」とうたっていたとされますが、上述のとおり、国内では公営ギャンブル以外の賭博は刑法で禁じられており、海外のサイトでも国内から接続して賭博をすれば違法となります。なお、大阪府警は利用客についても単純賭博容疑などで捜査を進めるとしています。
  • 国内からオンラインカジノサイトにアクセスして賭博行為をしたとして、茨城県警はユーチューバーの「ストマック」こと自称会社経営藤野容疑者を常習賭博の疑いで逮捕しています。報道によれば、藤野容疑者は2022年11月1~26日ごろ、東京都内の実家などでパソコンやスマホからオンラインカジノサイト「エルドアカジノ」にアクセス、「バカラ」で計41回にわたって賭博をした疑いがもたれています。藤野容疑者は「ストマック」というハンドルネームで活動し、競馬などギャンブル関連の動画をユーチューブなどで配信、ユーチューブチャンネル「ストマック」の登録者数は2024年2月末時点で約12万7千人、自身がバカラ賭博をしている様子も実況付きでライブ配信していたといいます。2022年10月、茨城県警に情報提供があり捜査を開始、藤野容疑者が海外から帰国するタイミングで、国内の空港で逮捕したといいます。同課は、「サイト運営側が違法性がないと主張したとしても、国内からオンラインカジノサイトを利用して賭博行為をした場合は犯罪になる」として、注意を呼びかけています。

国民生活センターが、オンラインカジノについて注意喚起をしていますので、以下、紹介します。

▼国民生活センター 国民生活 2024年2月号
▼オンラインカジノの違法性について
  • いわゆる「オンラインカジノ」について
    • いわゆる「オンラインカジノ」について、法律等による確たる定義はありませんが、インターネットで「オンラインカジノ」と検索すると、スロットゲームやカードゲームなど、海外にあるカジノなどで遊戯できるようなゲームを、パソコンやスマートフォンなどによりオンラインで利用できるウェブサイトが表示されます。
    • そして、このようなサイトは、日本語での表記がなされ、日本人が日本国内において利用できるものがあります。
    • これらのサイトには、銀行送金やクレジット決済等によりサイト上のゲームで利用できるポイントを購入し、ゲームの結果により増減したポイントを現金化するしくみが整備されているものが確認されています。これにより日本国内において「偶然の勝負に関して財物の得喪を争う」行為があれば、それは賭博罪に該当することが考えられます。
    • 実際、これらオンラインカジノを利用した賭博事犯をこれまでも複数検挙しています。
    • オンラインカジノについては、近年、アクセス数の増加が指摘されるとともに依存症の懸念も顕在化しており、社会的な問題となっています。また、2022年3月に改定された「ギャンブル等依存症対策推進基本計画」には、取締りを強化すべき違法なギャンブル等としてオンラインカジノに係る賭博事犯が明記されました。
    • さらに、同年6月の国会において、岸田総理大臣が「オンラインカジノについては違法なものであり、関係省庁が連携し、厳正な取締りを行わなければならない。また、資金の流れの把握、実態把握をしっかり行うことは重要である。あわせて、依存症対策についても考えていかなければならない」旨答弁し、政府全体としてさまざまな角度から取り組むことが明確化されました
  • オンラインカジノに係る賭博事犯について
    1. 「賭博罪」について
      • 刑法(明治40年法律第45号)では賭博に関して次のように規定しています。
        • 第185条 賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。
        • 第186条 常習として賭博をした者は、3年以下の懲役に処する。
        • 2 賭博場を開帳し、又は博徒を結合して利益を図った者は、3月以上5年以下の懲役に処する。
      • 賭博については、「偶然の勝負に関して財物の得喪を争うこと」と解されています。「偶然」とは、当事者において確実に予見できず、又は自由に支配し得ない状態をいい、「財物」とは、有体物又は管理可能物に限らず、広く財産上の利益であれば足り、「財物の得喪を争うこと」とは、勝者が財産を得て、敗者はこれを失うこととされています。
      • 賭博罪には国外犯処罰規定がないため、賭博行為の全てが国外で行われている場合は、わが国の刑法が適用されることはないものの、一般的には、賭博行為の一部が日本国内において行われた場合、賭博罪は成立するとされています。
      • つまり、オンラインカジノサイトの運営主体がその国において合法とされる外国に所在したとしても、これを日本国内において利用して財物の得喪を争えば賭博罪が成立し得るものと考えられます。
    2. オンラインカジノに係る賭博事犯の検挙状況
      • オンラインカジノに係る賭博事犯について、近年の検挙事件数、人員は次のとおりです。
        • 2020年中 16件 121人
        • 2021年中 16件 127人
        • 2022年中 10件 59人
      • 警察庁では、賭客が自宅等においてパソコン等を使用して直接オンラインカジノサイトに接続し賭博を行うもののほか、賭博店に設置したパソコンを利用して賭客にオンラインカジノサイト運営者が配信するゲームをさせ賭博を行うものを総じて、オンラインカジノに係る賭博事犯としています。
      • 上記検挙事件数、人員についてはいずれのものも含みます。
    3. オンラインカジノを自宅等で利用した賭博事犯の主な検挙事例
      • 2016年、千葉県警察による検挙事例
        • 日本国内の賭客を相手方として、日本国内の賭客の自宅等に設置されたパソコンから、海外のオンラインカジノサイトにアクセスさせ、金銭を賭けさせた者を常習賭博罪、賭客を単純賭博罪で検挙したもの。
      • 2016年、京都府警察による検挙事例
        • 日本国内の自宅において、パソコンを使用して、海外のオンラインカジノサイトにアクセスし、同サイトのディーラーを相手方として賭博をした賭客を単純賭博罪で検挙したもの。
      • 2023年、千葉県警察による検挙事例
        • 日本国内の自宅において、パソコンを使用して、海外のオンラインカジノサイトにアクセスして常習的に賭博を行い、その状況を動画配信していた者を常習賭博罪で検挙したもの。
      • 2023年、警視庁、愛知県警察及び福岡県警察による検挙事例
        • 日本国内において、海外のオンラインカジノで利用される決済システムを運営し、賭客らがオンラインカジノで賭博をした際、常習的にこれを幇助した者を常習賭博幇助で検挙するとともに、オンラインカジノを日本国内の自宅等で利用した賭客21人を単純賭博罪で検挙したもの。
  • 警察の取組について
    • 警察では、オンラインカジノに係る賭博事犯について、取締りを推進しているほか、犯罪の未然防止の観点から、オンラインカジノに係る賭博事犯の違法性について周知を図るべく、消費者庁と連携し、広報啓発用ポスターを作成し掲示しているほか、警察庁ウェブサイト等で情報発信を行い啓発に努めています。
    • また、警察庁ではオンラインカジノに関与する者に関する情報を収集するため、2023年10月から「匿名通報ダイヤル」の対象事案にオンラインカジノ賭博事犯を追加しました。
    • 匿名通報ダイヤルとは、警察庁の委託を受けた事業者が、匿名による通報をフリーコールやウェブサイトで受け付け、その情報を警察が捜査などに役立てるというものであり、事件検挙等に貢献があった場合には、情報提供者に情報料が支払われる制度です。
    • 求める情報は、オンラインカジノ賭博事犯の犯行グループの検挙及び実態解明に資する情報であり、具体的には
      • オンラインカジノの運営に関与する国内グループのリーダー、中核メンバー等に関する情報
      • オンラインカジノに係る賭金の入出金に関与する国内グループのリーダー、中核メンバー等に関する情報です。詳しくは、「匿名通報ダイヤル」ウェブサイトをご確認ください。
  • おわりに
    • インターネットでオンラインカジノと検索すると、オンラインカジノサイトのほか、これらを紹介、解説するウェブサイトも複数出てきます。
    • これらのサイトの中には、オンラインカジノの違法性について「取り締まる法律がないからグレーである」とか「胴元が海外で合法的に運営されているサイトであれば捕まることはない」などと書かれているものも多くあります。
    • 国内におけるオンラインカジノ利用者の中には、このような誤った情報により違法性を認識することなく賭博行為を行っている者も多いかもしれませんし、実際検挙された賭客には「違法とは思わなかった」旨述べる者もいます。しかし、先にも述べたとおり、日本国内においてオンラインカジノを利用して賭博を行うことは違法であり、海外のライセンスを取得しているとされているオンラインカジノサイトであっても、これを利用した賭博事犯の検挙はこれまでに多数あり、これらの賭客には単純賭博罪が適用され罰金刑が科せられています。
    • もし現に利用していたり、これから利用を考えていたりする者がいれば、直ちにやめていただきたいところです。
    • また、オンラインカジノに関してはこれを運営する者、利用する者のほか、これらの決済手段に関与する者、これらを宣伝・誘引する者等、さまざまなかたちで関与する者がいます。
    • 警察では、これらオンラインカジノに係る賭博事犯に関与する者についても、引き続き取締りを推進しています。
③犯罪統計資料から

例月同様、令和5年1~10月の犯罪統計資料(警察庁)について紹介します。

▼警察庁 犯罪統計資料(令和6年1月分)

令和6年(2024年)1月の刑法犯総数について、認知件数は55,235件(前年同期49,803件、前年同期比+10.9%)、検挙件数は21,205件(18,362件、+15.5%)、検挙率は38.4%(36.9%、+1.5P)と、認知件数・検挙件数ともに前年を上回る結果となりました。増加に転じた理由として、刑法犯全体の7割を占める窃盗犯の認知件数・検挙件数がともに増加していることが挙げられ、窃盗犯の認知件数は38,101件(34,089件、+11.8%)、検挙件数は12,669件(10,792件、+17.4%)、検挙率は33.3%(31.7%、+1.6P)となりました。なお、とりわけ件数の多い万引きについては、認知件数は8,476件(7,209件、+17.6%)、検挙件数は5,069件(4,292件、+18.1%)、検挙率は59.8%(59.5%、+0.3P)と、最近減少していた認知件数が増加に転じています。また凶悪犯の認知件数は510件(376件、+35.6%)、検挙件数は387件(294件、+15.5%)、検挙率は75.9%(78.2%、▲2.3P)、粗暴犯の認知件数は4,465件(4,390件、+1.7%)、検挙件数は3,469件(3,346件、+3.7%)、検挙率は77.7%(76.2%、+1.5P)、知能犯の認知件数は3,932件(3,451件、+13.9%)、検挙件数は1,450件(1,447件、+0.2%)、検挙率は36.9%(41.9%、▲5.0P)、風俗犯の認知件数は1,163件(511件、+127.6%)、検挙件数は990件(461件、+101.7%)、検挙率は80.0%(90.2%、▲10.2%)、とりわけ詐欺の認知件数は3,577件(3,164件、+13.1%)、検挙件数は1,189件(1,250件、▲4.9%)、検挙率は33.2%(39.5%、▲5.0%)などとなっています。なお、ほとんどの犯罪類型で認知件数・検挙件数が増加する一方、検挙率の低下が認められている点が懸念されます。また、(特殊詐欺の項でも取り上げている通り)コロナ禍において大きく増加した詐欺は、アフターコロナの現時点においても増加し続けています。とりわけ以前の本コラム(暴排トピックス2022年7月号)でも紹介したとおり、コロナ禍で「対面型」「接触型」の犯罪がやりにくくなったことを受けて、「非対面型」の還付金詐欺が増加しましたが、現状では必ずしも「非対面」とは限らないオレオレ詐欺や架空料金請求詐欺などが大きく増加傾向にあります。

また、特別法犯総数については、検挙件数は4,529件(4,402件、+2.9%)、検挙人員は3,713人(3,619人、+2.6%)と2022年は検挙件数・検挙人員ともに減少傾向が続いていたところ、2023年に入って以降、ともに増加に転じ、その傾向が続いている点が大きな特徴です。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は368件(310件、+18.7%)、検挙人員は252人(233人、+8.2%)、軽犯罪法違反の検挙件数は496件(505件、▲1.8%)、検挙人員は505人(497人、+1.6%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は462件(754件、▲38.7%)、検挙人員は351人(607人、▲42.2%)、ストーカー規制法違反の検挙件数は87件(77件、+13.0%)、検挙人員は74人(63人、+17.5%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は296件(238件、+24.4%)、検挙人員は213人(168人、+26.8%)、不正アクセス禁止法違反の検挙件数は30件(22件、+36.4%)、検挙人員は13人(2人、+550.0%)、不正競争防止法違反の検挙件数は1件(7件、▲85.7%)、検挙人員は0人(2人、▲100.0%)、銃刀法違反の検挙件数は329件(350件、▲6.0%)、検挙人員は289人(294人、▲1.7%)などとなっています。減少傾向にある犯罪類型が多い中、入管法違反やストーカー規制法違等が増加している点が注目されます。また、薬物関係では、麻薬等取締法違反の検挙件数は88件(44件、+100.0%)、検挙人員は54人(25人、+116.0%)、大麻取締法違反の検挙件数は480件(420件、+14.3%)、検挙人員は399人(312人、+27.9%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は491件(480件、+24.0%)、検挙人員は351人(280人、+25.4%)などとなっており、大麻事犯の検挙件数がここ数年、減少傾向が続いていたところ、2023年に入って増加し、2023年7月にはじめて大麻取締法違反の検挙人員が覚せい剤取締法違反の検挙人員を超え、その傾向が続いている点が注目されます。また、覚せい剤取締法違反の検挙件数・検挙人員ともに大きな減少傾向が数年来継続しており、その原因については少し気掛かりです(覚せい剤は常習性が高いため、急激な減少が続いていることの説明が難しく、その流通を大きく支配している暴力団側の不透明化や手口の巧妙化の実態が大きく影響しているのではないかと推測されます。言い換えれば、覚せい剤が静かに深く浸透している状況が危惧されるところです)。なお、麻薬等取締法の対象となるのは、「麻薬」と「向精神薬」であり、「麻薬」とは、モルヒネ、コカインなど麻薬に関する単一条約にて規制されるもののうち大麻を除いたものをいいます。また、「向精神薬」とは、中枢神経系に作用し、生物の精神活動に何らかの影響を与える薬物の総称で、主として精神医学や精神薬理学の分野で、脳に対する作用の研究が行われている薬物であり、また精神科で用いられる精神科の薬、また薬物乱用と使用による害に懸念のあるタバコやアルコール、また法律上の定義である麻薬のような娯楽的な薬物が含まれますが、同法では、タバコ、アルコール、カフェインが除かれています。具体的には、コカイン、MDMA、LSDなどがあります。

また、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯 国籍別 検挙人員 対前年比較について、総数80人(40人、+100.0%)、ベトナム34人(16人、+112.5%)、中国9人(4人、125.0%)、ブラジル4人(1人、+300.0%)、フィリピン4人(2人、+100.0%)、パキスタン3人(1人、+200.0%)、韓国・朝鮮2人(1人、+100.0%)、インドネシア2人(1人、+100.0%)、インド2人(2人、±0%)、スリランカ1人(3人、▲66.7%)、アメリカ1人(2人、▲50.0%)などとなっています。ベトナム人の犯罪が中国人を大きく上回っている点が最近の特徴です。

一方、暴力団犯罪(刑法犯)罪種別検挙件数・人員対前年比較の刑法犯総数については、検挙件数総数は506件(756件、▲33.1%)、検挙人員は276人(404人、▲31.7%)と、刑法犯と異なる傾向にありますが、最近、検挙件数・検挙人員ともに継続して増加傾向にあったところ、2023年6月から再び減少に転じた点が注目されます。以前の本コラム(暴排トピックス2021年3月号)では、「基礎疾患を抱え高齢化が顕著に進行している暴力団員のコロナ禍の行動様式として、検挙されない(検挙されにくい)活動実態にあったといえます」と指摘しましたが、一時活動が活発化している可能性を示したものの再度減少に転じていたことなど、アフターコロナにおける今後の動向に注意する必要があります。犯罪類型別では、暴行の検挙件数は29件(51件、▲43.1%)、検挙人員は27人(42人、▲35.7%)、傷害の検挙件数は62件(82件、▲24.4%)、検挙人員は57人(82人、▲30.5%)、脅迫の検挙件数は17件(25件、▲32.0%)、検挙人員は16人(21人、▲23.8%)、窃盗犯の認知件数は257件(349件、▲26.4%)、検挙人員は37人(57人、▲35.1%)、詐欺の検挙件数は55件(132件、▲58.3%)、検挙人員は46人(105人、▲56.2%)、賭博の検挙件数は0件(0件)、検挙人員は4人(15人、▲73.3%)などとなっています。とりわけ、詐欺については、増加傾向に転じて以降、高止まりしていましたが、2023年7月から減少に転じ、その傾向が続いている点が特筆されます。とはいえ、依然として高止まり傾向にあり、資金獲得活動の中でも重点的に行われていると推測される(ただし、詐欺は暴力団の世界では御法度となっているはずです)ことから、引き続き注意が必要です。さらに、暴力団犯罪(特別法犯)主要法令別検挙件数・人員対前年比較の特別法犯について、特別法犯全体の検挙件数は281件(267件、+5.2%)、検挙人員は203人(172人、+18.0%)と、こちらも検挙件数・検挙人数ともに継続して減少傾向にあり、さらに減少幅も大きい点に注目していましたが、今回は、ともに増加する結果となりました(今後も同様に増加していくのかは注視していく必要があります)。また、犯罪類型別では入管法違反の検挙件数は2件(0件)、検挙人員は3件(0件)、軽犯罪法違反の検挙件数は4件(6件、▲33.3%)、検挙人員は4人(5人、▲20.0%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は12件(3件、+300.0%)、検挙人員は7人(3人、+133.3%)、暴力団排除条例違反の検挙件数は27件(0件)、検挙人員は30件(3件、+900.0%)、銃刀法違反の検挙件数は5件(3件、66.7%)、検挙人員は3件(2件、+50.0%)、麻薬等取締法違反の検挙件数は7件(1件、+600.0%)、検挙人員は0人(0人)、大麻取締法違反の検挙件数は38件(66件、▲42.4%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は153件(141件、+8.5%)、検挙人員は109人(82人、+32.9%)、麻薬特例法違反の検挙件数は2件(4件、▲50.0%)、検挙人員は1人(0人)などとなっており、最近減少傾向にあった大麻事犯について、2023年に入って増減の動きが激しくなっていること、覚せい剤事犯の検挙件数・検挙人員がともに全体の傾向以上に大きく減少傾向を示している中、今回は増加に転じている点などが特徴的だといえます(覚せい剤については、今後の動向を注視していく必要があります)。なお、参考までに、「麻薬等特例法違反」とは、正式には、「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」といい、覚せい剤・大麻などの違法薬物の栽培・製造・輸出入・譲受・譲渡などを繰り返す薬物ビジネスをした場合は、この麻薬特例法違反になります。法定刑は、無期または5年以上の懲役及び1,000万円以下の罰金で、裁判員裁判になります。

(8)北朝鮮リスクを巡る動向

前回の本コラム(暴排トピックス2024年2月号)以降も、北朝鮮はミサイルを発射しています。韓国軍合同参謀本部によると、北朝鮮は2024年2月14日午前9時頃、同国東部の江原道元山付近から、日本海方向に数発の巡航ミサイルを発射、同1月下旬以降の巡航ミサイル発射は5回目となります。巡航ミサイルは低空を自律飛行し、レーダーでの捕捉が難しく、北朝鮮が異例の頻度で発射実験を繰り返すのは、核弾頭の搭載を想定した巡航ミサイルの性能向上を図るためとみられています。日本や韓国の米軍基地が主要な標的だとの見方が大勢で、北朝鮮の巡航ミサイルは、陸上や艦船から発射できる戦略巡航ミサイル「ファサル」のほか、潜水艦発射型の「プルファサル」があります。金正恩朝鮮労働党総書記はこのミサイルの前線配備を指示し、「海上主権を実際の武力で徹底的に守らなければならない」と述べ、武力挑発を強める構えを示したとみられています。朝鮮中央通信の報道によると、ミサイルは約23分20秒飛行し、目標に命中したとされ、ミサイルは海軍に配備されるといいます。発射実験に立ち会った金総書記は、海上の南北境界線にあたる北方限界線(NLL)には法的根拠がないとして、韓国が黄海上の離島・延坪島などの海域で北朝鮮の領海を侵犯していると主張、周辺海域での軍事態勢強化も指示し、「我々が認める国境線を侵犯した場合、武力挑発とみなす」と韓国側を威嚇しています。金総書記氏は2023年末以降、韓国を「不変の主敵」と定めて有事には韓国領を「占領、平定」する方針を打ち出しています。NLL海域での武力行使も辞さない姿勢を示したことで、偶発的な衝突が起きる危険性がさらに高まったといえます。この巡航ミサイル発射に先立ち、4回の発射があり、2024年1月24日と28日、朝鮮半島東部の日本海などで新型戦略巡航ミサイル「プルファサル3―31」、同30日には朝鮮半島西部の黄海で戦略巡航ミサイル「ファサル2」、同2月2日にも黄海で巡航ミサイルの超大型弾頭部の威力実験をそれぞれ行っういます。いずれも射程が1千キロ程度であることから、在日米軍や日本への攻撃に使うことを想定しているとみられています。なお、米韓関係筋によれば、北朝鮮はロシアに短距離弾道ミサイルKN23とKN24を40発前後、輸出した模様で、ロシアはミサイルの追加輸出を求めているといいます。北朝鮮が軍事挑発用に使う弾道ミサイルが不足しているため、巡航ミサイルを発射した可能性も指摘されています。また、朝鮮中央通信は、北朝鮮の国防科学院が新型の多連装ロケット砲の発射実験を2024年2月11日に実施したと伝えています。韓国の首都圏に対する攻撃力の精度向上を誇示する狙いがあるとみられ、同通信によると、発射されたロケット砲は240ミリ口径砲で、弾道を制御する新たなシステムも開発したということです。なお、2022年版の韓国国防白書によると、北朝鮮の240ミリのロケット砲は、韓国の首都圏に対する「奇襲的、大量集中攻撃が可能」とされています。放射砲は各種ミサイルよりも近距離を狙う韓国向けの兵器で、朝鮮中央通信は、今回の技術開発が放射砲の戦力を「質的に変化させる」と評価し、戦場での役割を拡大させるとの見方を伝えています。さらに、韓国の申国防相は、韓国メディアに対し、北朝鮮が早ければ2024年3月末にも追加の軍事偵察衛星を打ち上げる可能性があるとの見方を示しています。北朝鮮は2024年、3基の偵察衛星を打ち上げる方針を示しており、韓国が4月に偵察衛星を打ち上げる前に、北朝鮮が打ち上げる可能性を指摘しています。北朝鮮が2023年11月に打ち上げた偵察衛星について、申氏は地球周回軌道を回っているものの「機能している兆候がない」とし、画像の送信などは行われていないとの分析を明らかにしています。

直近の動きとしては、朝鮮中央通信によると、金総書記は、軍の砲撃訓練を指導、ソウルへの奇襲攻撃などを想定した訓練を行ったとみられています。「敵の首都を攻撃圏内に収める国境線付近の長距離砲兵区分隊」などが訓練に参加、各部隊は目標に命中した砲弾数などを競ったといいます。金総書記は陣地に出向いて兵士を激励し、「無慈悲かつ速やかな攻撃で主導権を握れるよう、砲兵の威力を強化しなければならない」と命じています。金総書記は6日にも西部の基地で軍の訓練を指導しており、軍事訓練の視察は2日連続となります。米韓両軍が韓国で行っている合同軍事演習「フリーダム・シールド(自由の盾)」への対抗姿勢を示す狙いとみられています。「フリーダム・シールド」については、北朝鮮国防省の報道官は、「これ以上の挑発的で、不安定を招く行動の中止を厳重に警告する。米国と大韓民国(韓国)は、自らの誤った選択が招く安保不安を刻一刻と深刻に体感することで、応分の代償を払うことになる」と談話で述べ、中止を要求しています。談話は、今回の演習が野外機動訓練を2023年から2倍に増やしたことなどを「絶対に防御的ではない」と批判、「敵の冒険主義的な行動を引き続き注視し、朝鮮半島地域の不安定な安保環境を強力に統制する責任ある軍事活動を続けていく」と述べています。米韓合同演習は3月14日までの11日間の日程で行われ、米空母や戦略爆撃機が、朝鮮半島に展開する可能性もあり、米韓両軍は、北朝鮮がミサイル発射などで対抗する可能性もあるとみて警戒しています。

前述のとおり、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記が、韓国を「敵対国」と位置付け、武力挑発を頻発させていることを巡り、韓国や欧米の研究者が、核戦争を引き起こすリスクがあると警鐘を鳴らしています。韓国のシンクタンク、世宗研究所の鄭・韓半島戦略センター長は、日本での講演で、「北朝鮮の非核化はもはや不可能」と断言、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の能力向上で米国への攻撃も現実味を増しているとし、韓国独自の核保有の必要性を主張しています。

広島県内にあるIT関連企業の男性経営者2人から、海外在住の北朝鮮のIT技術者側に資金が流れていた疑いがあることが神奈川県警への取材で判明したと報じられています(2024年3月6日付毎日新聞)。資金は2人が技術者側に発注した業務の報酬だった可能性があるといいます。北朝鮮は外貨獲得の一環で数千人のIT労働者を海外で働かせているとの指摘があり、神奈川、広島両県警の合同捜査本部は実態解明を目指すとしています。合同捜査本部は、失業手当て約150万円を不正に受給したとして、IT関連企業「ITZ」社長で韓国籍の容疑者と、「ROBAST」代表の容疑者を詐欺容疑で逮捕、北朝鮮のIT技術者を巡っては、本コラムでも以前取り上げましたが、米司法省などが、外国企業からアプリ開発などを受注して多額の外貨を稼ぎ、北朝鮮の核・ミサイル開発などの資金に充てていると指摘しています。関連して、韓国の情報機関、国家情報院は、北朝鮮のIT組織が韓国国内の違法賭博サイト数千件を製作したと明らかにし、組織メンバーの写真を公開しています。外貨獲得目的で、組織が得た収益は数兆ウォン(1兆ウォン=約1100億円)に上るといいます。韓国で社会問題化する違法インターネット賭博にからみ、北朝鮮の関与が公式に発表されたのは初めてとなります。国情院によると、IT組織「キョンフン情報技術交流社」は金総書記一家の秘密資金を管理する朝鮮労働党「39号室」の傘下機関で、中朝国境にある中国・丹東で活動、違法賭博を運営する韓国の犯罪組織がサイト1件につき、製作時に5000ドル(約75万円)、維持費などで月3000ドルを支払ったとされます。組織メンバー15人は中国人の身分証や博士号証明を偽造して求職したといい、毎月500ドルを北朝鮮に上納したとされます。中韓の開発者に比べ費用が30~50%安く、韓国語で意思疎通ができる利点があり、犯罪組織は北朝鮮労働者と認識した上で製作を委託していたといいます。さらに、キョンフンが犯罪組織から供与されたサーバーを利用し、韓国企業に対するハッキングを行っていたことも判明、賭博サイト会員の個人情報約1100件の売買を試みたことも分かったといいます。国情院は、海外で活動する北朝鮮の同種組織メンバーが「数千人に上る」との見方を示しています。韓国では近年、違法賭博サイトが急速に拡大、政府は2023年、中高生の3%が「ネット賭博依存症」とする調査結果を発表しています

2024年2月の日米韓外相会談で、上川外相は、北朝鮮のミサイル開発に深刻な懸念を表明すると同時に「緊張緩和に向け、対話の道は開かれている」とも述べています。一方、北朝鮮の金与正朝鮮労働党副部長は「個人的見解」とする談話を発表し、岸田首相が金総書記との首脳会談に意欲を示していることに触れ、「日本が敵対意識を捨て、関係改善への道を開く決断を下せば新しい未来を開くことができる」と主張、ただ、日本人拉致問題について「解決済み」とする従来の主張を繰り返し、日本が拉致問題を両国間の問題としない場合に岸田首相の平壌訪問の可能性があるとしています。独裁国家の北朝鮮で「個人的な見解」の披瀝はあり得ず、兄の金総書記の意向をくんだ談話とみる方が自然であり、その金総書記は2024年1月、「日本国総理大臣 岸田文雄閣下」宛てに、能登半島地震の被災者を見舞う電報を送っており、これも与正氏の談話と同じ文脈にあるとみていいと思われます。「条件を付けずに金正恩氏と向き合う」と述べる岸田政権が、安倍晋三・菅義偉政権の対北朝鮮交渉を継承しつつ、拉致問題の電撃的な解決を狙っているのはよく知られていますが、問題はその中身で、2人程度の拉致被害者を帰国させ、それで拉致問題は事実上終了とし、日本からの巨額援助を受けるというのが北朝鮮のシナリオだといわれています。また、拉致問題のために形式的な日朝間協議を継続するとしても、日本側が望む結論となるのかは疑問との見方もあります。そもそも北朝鮮から日本への秋波が怪しいものであることに加えて、明確に国連安保理決議違反の片棒を担いでおり、日本としても拉致問題に関して、北朝鮮に融和的な姿勢をとることは難しいといえます(林官房長官も「拉致問題がすでに解決されたとの主張はまったく受け入れられない」とした上で「日朝平壌宣言に基づいて拉致・核・ミサイルといった諸懸案を包括的に解決するという方針に変わりはない」と述べています)。北朝鮮の思惑は、「日米韓3カ国の緊密な連携にくさびを打ち込む」狙いや、深刻な食糧不足打開へのすり寄りのほか、日本の岸田政権が支持率低迷に悩み、政権基盤が盤石でないことを見越して、支持率アップにつながる拉致問題の「解決」というエサをまき、岸田政権を試していると考えるのが妥当かもしれません。一方でミサイルの脅威は本物であり、ロシアの実戦使用で得た情報によって、さらに精度を高

韓国の申国防相は、北朝鮮によるロシアへの兵器提供が続いているとの見方を示して、ロシアに6700個のコンテナが渡ったと明らかにし、ウクライナ攻撃に主に使う152ミリ砲弾で換算すると300万発以上の分量だと分析しています。ロシアによる北朝鮮の軍事偵察衛星への技術支援も続くと予測、北朝鮮が早ければ2024年3月末にも衛星を再び打ち上げる可能性があると指摘しています。韓国の国家情報院は2023年11月、北朝鮮から100万発超の砲弾がロシアに渡ったと推測しており、米紙WSJが2024年1月に報じた英王立防衛安全保障研究所の分析によると、最近のロシアは1日1万発の砲弾を使い、ウクライナの5倍に達しています。2023年夏時点ではウクライナが7000発でロシアの5000発を上回っていたことからすれば、ロシアが砲弾の不足を克服していると評価できます。英シンクタンクの国際戦略研究所も北朝鮮の砲弾がロシアの戦闘を支えるとみており、北朝鮮の金総書記とロシアのプーチン大統領が2023年9月に会談して以降、北朝鮮が少なくとも1カ月分の砲弾をロシアに提供したとの見方を示しています。申氏は北朝鮮の軍需工場全体の稼働率は30%程度だと指摘、電力不足が響いているといいますが、そのなかでロシアに提供している砲弾の工場はフル稼働だといい、ロシア向けを優先して生産しているとみられていますロシアが北朝鮮との関係については、弾薬不足を解消するための単なる「武器輸入」と過小評価するのは禁物だとの見方もあります。実戦経験の乏しい北朝鮮が兵器を戦場で試しているという側面があり、欧州およびアジアにおける軍事バランスが崩れ、国際秩序をさらに不安定にしかねない危うい連携と捉えることもできます。ロシアは軍事面で優位に立つため、北朝鮮から大量に兵器を輸入している可能性が高く、「列車の移動データをみればわかる」と専門家は指摘、大がかりな輸送であることから、ウクライナで使う武器・弾薬のかなりの部分を北朝鮮が賄っているとみられています。ロシアにとって軍事的な利点は大きく、北朝鮮の武器・弾薬は2023年秋には前線の砲兵部隊などに届き、ロシアはウクライナの反転攻勢をしのぐことができましたが、ウクライナ軍は弾薬が不足気味で、欧米の支援が追いついていない状況にあります。一方、北朝鮮にとってのメリットは、「欧米製ミサイル防衛システムの性能を試している」ことがそうだと専門家は指摘しています。東部ハリコフを狙うなど2024年に入ってロシアが北朝鮮製ミサイルをたびたび使っていることに注目、北朝鮮軍は実戦経験に乏しい。そこでウクライナ戦線に自らが開発した武器を投入し、どのように迎撃されるのかをテストしているとの情報があるといいます。北朝鮮とロシアの再接近は許されざる連携であり、野望をくじき、ウクライナに有利な形で停戦交渉にたどり着くには戦線を押し戻す必要があります。欧州の国防関係者はロシアが実効支配するウクライナ南部クリミア半島への補給路が遮断できれば、ロシア軍は揺らぐ可能性があるとみています。ウクライナにおける戦争はアジアの安全保障にも直結しており、これはロシアとウクライナの戦いではなく、強権国家と民主主義の戦いでもあります。関連して、北朝鮮の朝鮮中央通信は、米国がロシアのウクライナ侵攻2年に合わせて大規模な対露制裁を発表したことに関し「ロシア政府と軍隊、国民の抗戦の意志は決してくじかれない」とする国際問題評論家の分析記事を伝えています。北朝鮮は侵攻開始からロシアの擁護を続け、結び付きを強めており、北朝鮮の評論家による記事は、ロシア経済は豊富な天然資源や科学技術力によって成長しており、ロシアとの関係悪化で経済的打撃を受けているのは欧米諸国だと主張、ウクライナを支援する米欧の動きを批判しています。また、朝日新聞の報道で両国の関係に詳しいロシア科学アカデミーのアレクサンダー・V・ボロンツォフ朝鮮・モンゴル室長は核開発協力を否定する一方、幅広い分野での協力拡大が進むとみています。「もちろん、(両国の協力拡大は)敏感な問題で、多くの分野は国連の制裁決議で禁止されています。私たちは制裁を尊重する立場にあります。協力を拡大するだけでなく、(制裁違反にならない)分野を正確に見つける必要があります。協力は簡単ではありません」、「残念ながら、(新冷戦は)現実の事態になってしまいました。ロシアと北朝鮮が接近する一方、中国は熱心ではないという指摘もありますが、ロシアと中国、北朝鮮と中国の関係は、広く発展しています。昨年末には北朝鮮の外務次官が訪中し、今年1月には中国外務次官が訪朝し、中国と北朝鮮の国交関係樹立75年を契機にした中朝友好について話し合いました。確かに、新冷戦は北朝鮮の外交環境にとって悪くない影響を与えていると言えます」などと述べています。

その他、北朝鮮に関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 韓国国家情報院(NIS)は、北朝鮮のハッカー集団がサイバー攻撃で少なくとも2社の半導体製造装置メーカーのシステムに侵入したことを明らかにしています。尹錫悦大統領は2024年1月、4月の総選挙を妨害するために北朝鮮がサイバー攻撃やフェイクニュース拡散などの挑発行為を行う可能性があると警告しています。NISは、韓国企業は2023年末から北朝鮮のサイバー攻撃の重要な標的になっているとして警戒強化を呼び掛けています。北朝鮮のハッカーは2023年12月と2024年2月に2社のサーバーに侵入し、製品の設計図や施設の写真を盗んだといいます。NISは「北朝鮮は制裁で半導体の調達が困難になっており、独自に半導体を生産する準備をしている可能性がある」と指摘、人工衛星やミサイル、その他の兵器プログラムからの需要が高まっていることも背景との見方を示しています。
  • 韓国統一省は、北朝鮮・北東部の豊渓里にある核実験場周辺に住んでいた脱北者80人について被曝検査を行った結果、17人に染色体異常が見つかったと発表しています。核実験との因果関係は不明ではあるものの、同省は調査を継続する方針としています。報道によれば、脱北者80人全員に「有意な水準の放射能汚染」は確認されなかったといいますが、検査を行った韓国原子力医学院は、核実験が染色体異常に「一定の影響を与えうる」と説明、ただ、検査では生まれた時から検査時点までの累積の放射線被曝量が反映されるため、喫煙や飲酒、殺虫剤に含まれる化学物質などの影響も考慮する必要があるとしています。検査は北朝鮮が初めて核実験を行った2006年10月以降、実験場近くの8市・郡に居住していた脱北者80人を対象に行われたもので、北朝鮮は2017年9月まで計6回、豊渓里で核実験を実施しています。
  • 国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチは、2018~2023年の北朝鮮の人権状況に関する報告書を公表しています。国連安全保障理事会の制裁や北朝鮮の新型コロナウイルス対策による国境封鎖で、北朝鮮市民の生活は極度に悪化し、監視強化による人権侵害も深刻になっていると指摘、孤立を深める北朝鮮に対して、対話を開始するように各国が促していくべきだと訴えています。報告書公表に合わせて国連本部で会見した脱北者は「核・ミサイル開発は米国や韓国の侵略から守るために必要だと聞かされていた」と強調、「北朝鮮の金正恩は国民より自らの権力を維持することを優先している」と批判しています。報告書によると、新型コロナが流行した2020年以降、中国との国境沿いに500キロ程度のフェンスが新設され、付近の監視や警備のための施設数は2019年時点より約20倍に増え、許可なく近づく人は「見つけ次第射殺する」という命令も出されていたといいます。関連して、日本、米国、韓国の3カ国は、北朝鮮は「世界で最も抑圧的な政権だ」として、国民に対する人権侵害を是正するよう求める共同声明を発表しています。強制労働や搾取により得た利益が、大量破壊兵器やミサイル開発を支えていると指摘しています。
  • 本コラムでも取り上げましたが、中国吉林省に派遣された北朝鮮労働者が2024年1月中旬に起こした暴動の詳細が、北朝鮮消息筋の話で明らかになっています。賃金のほぼ全額をピンハネされたことに怒った約2000人が加担しており、北朝鮮の外国派遣労働者が起こした初の大規模デモだったといいます。労働者には20代の元女性兵士が多数含まれ、奴隷状態に甘んじない若者の反骨意識も浮かび上がっています。賃金の長期未払いに怒った約2000人が工場を占拠、北朝鮮から派遣された管理職代表と監視要員を人質に取り、賃金を支払うまでストライキに入ると宣言、北朝鮮当局は、駐中国領事と秘密警察・国家保衛省の要員を総動員して収拾を試みるも、労働者たちは要員らの工場立ち入りを拒否、人質に取った管理職代表に暴行を加え、暴動は1月11日から14日まで続き、管理職代表は死亡したといいます。暴動のきっかけは、2023年に帰国した仲間の労働者が平壌で受け取るはずの賃金を得られなかったとの知らせが広がったこととされます。舞台となったジョンスン貿易は、コロナ対策で中朝国境が閉鎖された2020年以降、「戦争準備資金」の名目で全額を取り上げており、総額で数百万ドルに上り、北朝鮮首脳部に上納したほか同社幹部の着服もあったといいます。北朝鮮当局は、滞納した賃金を支払うことで労働者たちをいったんなだめる一方、暴動で主導的な役割を果たした約200人を特定し、半数を本国に送還、「政治犯収容所に送られ、厳罰は免れない」と予測されています。関連して、韓国の聯合ニュースは、専門家の話として、北朝鮮と国境を接する中国遼寧省丹東で北朝鮮労働者が2024年2月中旬にストライキを行ったと報じています。労働者数十人が「帰国」を要求し、出勤を拒否、北朝鮮の外交当局者が現地を訪れ、沈静化を図る事態になったといいます。北朝鮮は2020年初頭、新型コロナウイルスの流入を防ぐために国境を封鎖、2023年以降、往来規制の緩和を進めていますが、中国側に足止めされている労働者も多いとみられ、既に7年間帰国できていない人もいるとされます。
  • 北朝鮮メディアは、金総書記が平安南道成川郡で工場の着工式に出席したと報じています。停滞する地方経済の振興に向け、今後10年間で毎年20地域に工場を新設する計画「地方発展20×10政策」の初事業だといいます。金総書記は演説で、地方経済の立て直しが後手に回ったとして反省の弁を述べています。着工式では、党と軍の幹部らと一緒に金総書記が自らくわ入れを行い、演説で「今になってこの事業を始めるのかというじくじたる気持ちで、申し訳なくもある」と言及、北朝鮮の人口の大多数を占める地方の暮らしを向上させることが「非常に切迫した国家の重大事業だ」と強調しています。なお、報道で、計画のために新たに軍の部隊が編成されたことも明らかになっています。

3.暴排条例等の状況

(1)暴力団排除条例の改正動向(兵庫県尼崎市)

兵庫県尼崎市の暴排の取組みについては、本コラムでもたびたび取り上げてきたところです。2023年9月に複数あった同市内の暴力団事務所がゼロになったことは極めて画期的なことでした。今回、同市の暴力団排除条例(暴排条例)を改正し、暴力団事務所の設置を罰則付きで禁止することとなりました。なお、暴力団事務所の設置が自治体の全域で罰則を伴って禁止されるのは全国で初めてだといい、こうした取り組みが今後、拡がっていくことを期待したいところです。同市の暴排条例においては、都市計画法が定める「住居地域」「商業地域」「近隣商業施設地域」などで事務所を運営することを禁じていますが、「工業地域」「準工業地域」「工業専用地域」などは含まれていませんでした。尼崎市は市内の約3分の1が工業地域などにあたり、これらの地域は県の条例の規制の対象外でしたが、今回の改正で対象となりました。また、本条例では、工業地域などを含む市内全域で暴力団事務所の設置を禁止し、違反した場合は禁固1年以下もしくは50万円以下の罰金が科されることになります

▼尼崎市 暴力団排除の取り組み

同市の暴力団排除の取組みについては、「平成23年4月1日から兵庫県において暴力団排除条例が施行され、暴力団排除の基本姿勢等が明確にされるとともに、県民の誰もが安心して安全に暮らすことができる社会を実現するため、県民、事業者、警察及び行政が、一体となって暴力団の排除のための活動に取り組み、その施策を推進することが求められています。こうしたことから本市においても、兵庫県の暴力団排除条例の趣旨を踏まえ、市民が安全で安心して暮らすことができる平穏な生活を確保し、健全な社会経済活動の発展に寄与するため、兵庫県や警察などの関係機関と連携を図りながら、市民、事業者、市が協働して暴力団排除を進めていくため、平成25年7月1日から尼崎市暴力団排除条例を施行しています。また、兵庫県下の暴力団情勢が急激に変化したことで、住民による暴力団排除に向けた機運が高まり、暴力団排除を目的とした市民団体が設立され、暴力団追放パレードなどが行われる中、その暴力団排除活動の支援を行う仕組みとして、平成31年4月から「尼崎市暴力団排除活動支援基金」を設置しました。上記の基金による市民活動への支援や、発砲事件の現場となった暴力団関連施設の買取りを実施するなど、官民一体となった暴力団排除活動に取り組んできたことで、令和4年9月に複数あった市内の暴力団事務所がゼロになったことから、令和5年には、今後新たに暴力団事務所が運営されないように、暴力団の排除の意志と暴力団の進出を許さない姿勢を示し、「市内に二度と暴力団事務所を作らせない」「将来にわたって地域の安全、安心を確保していく」との考え方を体現するため条例を改正し、令和6年4月1日より改正尼崎市暴力団排除条例を施行します(一部規定は同年7月1日より施行)」と説明されています。

今回の改正の概要については、「平成25年に施行した尼崎市暴力団排除条例では、暴力団排除の基本的な事項として、市の契約や補助金等の事務事業からの暴力団排除に係る項目を規定しておりましたが、令和4年9月には市内の暴力団事務所がゼロになるといった暴力団情勢の変化を受け、令和5年に条例改正を行いました。改正後の尼崎市暴力団排除条例では、これまでの契約等の事務事業からの暴力団排除に係る項目に加え、市全域での暴力団事務所の運営禁止、違反に対する中止命令や罰則の設定、暴力団事務所に対する使用等の差止め請求を行うことの明文化等、暴力団排除により効果的な内容を規定しました」と説明されています。その具体的な内容については、以下のとおりです。

  • R5改正時の追加項目
    • 市全域を対象とした暴力団事務所の運営禁止区域の指定
      • 市内で暴力団事務所を運営させないために、県条例ですでに規制されている範囲を拡大させ、市全域における暴力団事務所の運営を禁止します。
    • 運営禁止違反に対する中止命令や罰則の設定
      • 運営禁止規定に違反した者に対し中止命令を出し、中止命令に従わない場合には1年以下の拘禁刑もしくは50万円以下の罰金を適用します。
    • 暴力団事務所に対する使用等の差止めの請求を行うことの明記
      • 条例の規定に関わらず市の権利として認められている内容ですが、訴訟を行う姿勢を明記することで、暴力団排除に係る市の姿勢を対外的に示します。
    • 尼崎市暴力団排除推進審議会の設置
      • 暴力団排除の取組に対し、市条例の目的に則した内容かどうかなど意見を聴聞する審議会を設置し、業務の透明性の確保に努めます。

なお、「尼崎市暴力団排除活動支援基金」が2019年4月から設置され、2023年には、、尼崎市暴力団排除条例の改正に併せ、本基金の活用内容も見直し、市民等による暴力団排除活動への支援に加え、本市の暴力団排除活動にも活用できるようにしたといいます。

(2)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(宮城県)

飲食店の「用心棒代」を授受したとして、宮城県警は、宮城県暴排条例違反の疑いで、六代目山口組傘下組織幹部、会社役員の男、ガールズバー経営の男の3容疑者を再逮捕しています。報道によれば、用心棒代の授受を禁じる2023年7月の改正暴排条例施行後、同容疑での逮捕は初めてだということです。特別強化地域に指定されている青葉区国分町の路上で、ガールズバー経営の男が客引きする際の用心棒代として現金3万円を渡し、他の2人は共謀して現金を受け取った疑いがもたれています。さらに、無許可でガールズバーを営業した風営法違反の疑いで経営者の男と会社役員の男を再逮捕したものです(ガールズバーが風営法違反容疑で立件されたのも宮城県内で初めてだといいます)。

▼宮城県暴排条例

同条例では、第十九条の二(特定営業者の禁止行為)第2項において、「特定営業者は、暴力団排除特別強化地域における特定営業に関し、暴力団員に対し、用心棒の役務の提供を受けることの対償として、又は当該営業を営むことを暴力団員が容認することの対償として金品等の供与をしてはならない」、また、第十九条の三(暴力団員の禁止行為)第2項において、「暴力団員は、暴力団排除特別強化地域における特定営業に関し、特定営業者から、用心棒の役務の提供をすることの対償として、又は当該営業を営むことを容認することの対償として金品等の供与を受けてはならない」と規定されています。そのうえで、第二十五条(罰則)では、「次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」として、「三 相手方が暴力団員であることの情を知って、第十九条の二の規定に違反した者」「四 第十九条の三の規定に違反した者」が規定されています。

(3)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(京都府)

京都府警東山署と右京署は、京都府暴排条例違反の疑いで、暴力団員の男と民泊業の女を逮捕しています。報道によれば、共謀して、2022年7月3日~2023年10月23日、暴力団事務所の開設が禁止されている伏見区の高校から周囲200メートル以内の区域にある建物で、暴力団事務所を開設して運営した疑いがもたれています。報道によれば、複数の暴力団組員の出入りを確認したということです。

▼京都府暴力団排除条例

同条例では、第19条(暴力団事務所の開設及び運営の禁止)において、「暴力団事務所は、次に掲げる施設又は建造物の敷地(第6号、第7号及び第12号に掲げる建造物が他の建造物と一体となって社寺その他の施設を構成する場合にあっては、当該施設の敷地)の周囲200メートルの区域内においては、これを開設し、又は運営してはならない」として、「(1)学校教育法(昭和22年法律第26号)第1条に規定する学校(大学を除く。)及び同法第124条に規定する専修学校(高等課程を置くものに限る。)」が規定されています。そのうえで、第27条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」として、「(4)第19条第1項の規定に違反した者」が規定されています。

(4)暴力団排除条例に基づく中止命令発出事例(神奈川県)

神奈川県公安委員会は、神奈川県暴排条例に基づき、稲川会傘下組織の組員に対し、少年を暴力団事務所に立ち入らせないよう中止命令を出しています。

▼神奈川県暴排条例

同条例では、第17条(禁止行為)第1項において、「暴力団員は、正当な理由がある場合を除き、自己が活動の拠点とする暴力団事務所に少年を立ち入らせてはならない」と規定されています。そのうえで、第18条(中止命令等)において、「公安委員会は、第17条第1項又は第2項の規定に違反する行為をした暴力団員に対し、公安委員会規則で定めるところにより、当該行為を中止することを命じ、又は当該行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる」と規定されています。

(5)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(香川県)

暴力団組員であることをちらつかせて不当に金を借りようとしたとして、高松南警察署は、六代目山口組傘下組織の幹部に対し、不当な要求をやめるよう中止命令を発出しています。報道によれば、2024年1月、香川県内の知人男性の家に押しかけ、「居酒屋を開業したいが金に困っている。また金を貸して欲しい」と要求、男性が断ったところ、男は「(貸してくれないのなら)わし1人であんたの知り合いの暴力団を徹底的にやって潰してやる」などと暴力団の威力を示して金銭を要求したということです。

▼暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律

暴力団対策法第9条(暴力的要求行為の禁止)において、「 指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない」として、「二 人に対し、寄附金、賛助金その他名目のいかんを問わず、みだりに金品等の贈与を要求すること」が規定されています。そのうえで、第11条(暴力的要求行為等に対する措置)において、「公安委員会は、指定暴力団員が暴力的要求行為をしており、その相手方の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該暴力的要求行為を中止することを命じ、又は当該暴力的要求行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる」と規定されています。

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