暴排トピックス

トクリュウ壊滅に向けて~官民挙げて違法なビジネスモデル解体に注力せよ

2025.06.10
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首席研究員 芳賀 恒人

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1.トクリュウ壊滅に向けて~官民挙げて違法なビジネスモデル解体に注力せよ

警察庁は、各都道府県警の刑事部長らを集めた会議を東京都内で開き、楠長官は、2024年の特殊詐欺やSNS型投資・ロマンス詐欺の被害額が過去最悪を上回ったとし、「まさに今が詐欺被害の拡大を止める正念場」と述べ、特殊詐欺などの犯罪には、SNSなどでつながる「匿名・流動型犯罪グループ」(トクリュウ)が関わっているとして「わが国の治安対策上の大きな脅威。最重要課題は中核的人物の解明・検挙」と指示しています。警察庁によると、トクリュウは特殊詐欺やSNS型投資・ロマンス詐欺のほか、インターネットバンキングの不正送金やクレジットカードの不正利用などに関与しており、こうした金融犯罪だけで2024年の被害額は2600億円超にのぼります。それ以外にも、若い女性客に多額の借金を背負わせるホストクラブ、オンラインカジノ、住宅の悪質リフォームといった問題にも関わっているとみられています。また、トクリュウを巡っては2024年、関連事件で約1万人が摘発されましたが、大半が末端の実行役で、「主犯・指示役」も逮捕者全体の約1割を占めるが、複数存在するであろう大がかりなグループそのものや、犯罪のビジネスモデルの壊滅には至っていません。ある警察幹部が「今まではトクリュウの術中にはまっていた。いわゆるグループの『支店長』クラスが捕まってもビジネスモデルは残り、一番上の者はのうのうと生きている」、あるいは「県警ではおぼろげながら組織の上位者が見えていても、摘発は難しいと考えて報告してこないことがある。その意識を変えないといけない」と指摘している点は言いえて妙であり、これまでの捜査のあり方が限界にきていることを端的に示していると思います。こうしたトクリュウの壊滅に向け、2025年秋には警察庁で情報の集約・分析を行い、警視庁に捜査員を集結させる新たな捜査態勢を構築することも発表しています。楠長官は「違法なビジネスモデルを解体することでグループの資金力に打撃を与えることが重要」と訓示しています。

トクリュウの中心人物の摘発に向け、警察が対策を抜本強化すると発表しています。警察庁に司令塔組織を新設するほか、警視庁に全国から精鋭の捜査員200人を結集させ、警察の総力を挙げて治安上の脅威に対処する構えとしています。情報の分析からトクリュウの「ターゲット」を特定した上で、集中的に取り締まる態勢の整備に向け、警察の組織を改編するとしています。警察庁に2025年10月に新設される「匿流情報分析室」は、犯罪収益の流れを追跡するサイバー部門や刑事部門などの情報も横断的に集約・分析、首謀者らを特定して、全国警察に情報共有するのが主な任務となります。これに対応するのが、警視庁が新設する副総監をトップとする「匿流対策本部」です。部長級の「対策監」が指揮を執り、約140人態勢でマネー・ローンダリング(マネロン)や組織犯罪情勢などの分析を専従で行うこととし、同本部には10月に100人、2026年4月に100人の捜査員が46道府県警から出向するといいます。実際の事件捜査は、警視庁が刑事部内に新設する「特別捜査課」(約450人態勢)などが担うことになります。治安対策に詳しい東京都立大の星周一郎教授(刑事法)は「トクリュウは多様な犯罪を広域展開しており、部門や都道府県警の垣根を越えた組織改編には意義がある。新たな捜査手法については乱用の懸念を抱かれないよう、法的課題の整理を進める必要がある」と指摘していますが、正にその通りかと思います。警視庁は組織改編に伴い、「組織犯罪対策部(組対部)」を刑事部に統合、組対部のノウハウや情報を刑事部に結集させる必要があると判断したものです。刑事部には特殊詐欺事件などのトクリュウ捜査を担う「特別捜査課」を新設、同庁幹部は「既存の枠組みに当てはまらないトクリュウに対峙するには、部門の壁を取り払い、警察の総合力を発揮する必要があった」と語っています。今回の再編で発足から22年の歴史を持つ警視庁組織犯罪対策部は刑事部と統合し、組織図から消えることになります。指揮系統を一本化することで、情報の共有と捜査を円滑に進めるのが狙いで、統合により、組対部にある5課1隊のうち、暴力団対策課と薬物銃器対策課、犯罪収益対策課、国際犯罪対策課の4課は、刑事部に移り、情報分析などを担っていた組対総務課と組対特別捜査隊の捜査員は、新設されるトクリュウ対策本部や特別捜査課などに再配置されることになります。警察当局の取り締まりに加え、暴力団排除の機運や取り組みが一般社会に浸透したこともあり、全国の暴力団構成員と準構成員らは、2004年の約8万7000人から毎年減少、2024年末には約1万8800人と、20年前から8割近く減り、初めて2万人を下回りました。入れ替わるようにして、近年はトクリュウが台頭し、闇バイトによる詐欺や強盗が相次ぐなどして治安上の脅威になっています。ただ、トクリュウと連携したり、実質的に傘下に収めたりして資金獲得活動をする暴力団も存在するなど、脅威は依然として残っており、警視庁幹部は「組織犯罪対策の重要性が低下したわけではない。トクリュウ対策ではその考え方をさらに発展させていく必要がある」と強調しており、筆者としても評価しています。

今回は単なる組織改編にとどまる話ではなく、注目されるのは(1)対策本部に全国の警察から計200人の捜査員を集める(2)警察法にもとづく「態勢の指示」の適用を前提にしている―の2点だと日本経済新聞が指摘していますが、筆者も同感です。報道では、「これまでも海外で日本人が巻き込まれた国際テロやサイバー犯罪などで適用されたことはあるが、こうした例は事実上管轄のない事件。国内で起きる一般事件に適用されれば、初めてのこととなる。つまり警視庁はトクリュウに対し、全国から捜査員を集めて指揮し、全国各地で起きる事件の捜査に対処することが可能になる。「準・国家警察」としての機能を持つということだ。携帯電話やSNSを使う詐欺は国内、海外のどこからでも仕掛けられる。犯罪で得たカネはインターネットバンキングを経て暗号資産に換えてロンダリングされるなど、犯行のほとんどがネット空間で完結するケースもある。警察が自分たちの管轄や担当部門にこだわっていては、捜査はうまく進まない。SNSの分析や暗号資産の追跡、電子機器から証拠を見つけ出す「デジタルフォレンジック(電子鑑識)」の解析を行う人材などを集約し、総力戦で臨む必要がある」のは間違いのないところです。さらに、「トクリュウは組織犯罪捜査のあり方も変える。実行犯や事件現場の捜査から組織上部へと突き上げる従来の手法に加え、様々なデータを細大漏らさず集約・分析して中枢部を浮かび上がらせていく「横断的・俯瞰的」な捜査が求められる。こうしたアプローチは暴力団の非公然化や外国人組織犯罪の浸透などを受け、1990年代ごろから検討されてきた。警察庁も組織犯罪対策のシステムを導入するなどしているが、十分な成果が上がってはいないと指摘される。警察は暴力団組織の壊滅に向け、過去数次にわたって直接、組長クラスの摘発を狙う「頂上作戦」に打って出た。今回の体制はトクリュウ版の頂上作戦を目指すものともいえるが、名前も居場所もわかっている組長と、正体が見えないトクリュウ首謀者とでは難易度が違う。今回の体制強化では警察庁も「匿名・流動型犯罪グループ情報分析室」を設置して警視庁の対策本部と情報を共有していくとするが、重複による非効率の懸念もある。警察庁はここ数年で、海外から仕掛けられるサイバー攻撃などを国の責任で対処するよう組織・権限を再構築した。同様に治安を揺るがす犯罪組織の解明や対策、「ターゲット」の設定は国の直轄で行うのが効果的ではないか。海外の情報も含む全国的なデータベースの構築や、分析ツール・ノウハウの開発、諸外国や他省庁・他機関を巻き込んだ制度の改正といった作業が必須になるからだ」という指摘も頷けるところがあります。また、「トクリュウとの闘いで警察はさらに、組織や法執行のあり方について変更を迫られるかもしれない。もっとも国民の立場からすれば、トクリュウの分析や捜査を「どこがやるか」「どうやるのか」、に大きな意味はない。「とにかく警察はどこまでやれるのか」。この一点だけを注視している」という指摘は正に正鵠を射るものといえます。また、今後も課題は山積しており、海外に拠点を置くトクリュウもいるため、海外の捜査機関との連携強化も必要となります。スマホの解析能力の向上も必須です。「トクリュウの撲滅を目指すには、規模を擁する警視庁が相当頑張らないと進まない」と警視庁幹部は覚悟を示していますが、正に強い危機感と覚悟が今求められているといえます。

トクリュウ壊滅に向けては、新たな捜査手法も活用する必要があります。SNS上で実行役を募るトクリュウに対して、捜査員が身分を偽り接近する「仮装身分捜査」は一部で導入が始まっています。警察が架空名義の口座を開設してひそかにトクリュウ側へ提供し、資金の流れを調べる「架空名義口座」の活用も検討するとしています。かねて治安上の脅威だった暴力団の勢力は準構成員を含めて1963年の約18万人をピークに減少、1992年施行の暴力団対策法を段階的に改正して締め付けを強め、弱体化が進んでいる一方、トクリュウは急速に普及、SNSを悪用して勢力を拡大させています。関与が指摘される金融犯罪の被害額は2024年に計約2631億円に上り、2023年比で71.3%増加、5年前の2019年(約615億円)と比べると4倍を超える水準になっています。2024年には首都圏を中心にトクリュウが絡む凶悪な強盗事件も続発し、市民の体感治安は悪化しています。警察庁が2024年10月に実施した調査で、ここ10年で日本の治安が「悪くなった」「どちらかといえば悪くなった」とした回答は76.6%を占めています。元福岡県警本部長で京都産業大学の田村正博教授(警察行政法)は「トクリュウの犯罪は首謀者を摘発しなければ歯止めがかからない。迅速な情報共有や捜査の効率化のため組織の壁をなくすのは合理的だ」とみています。再編の実効性を高めるためには「現場の捜査員一人ひとりにいたるまで、新組織の役割や設置の意図を深く理解することが重要になる」と指摘、治安の維持に向け「警察組織の全リーダーが、トクリュウへの対処に責任を持って臨む必要がある」と語っており、筆者も同感です。

前回の本コラム(2025年5月号)において、筆者はトクリュウの捉え方に以下のような疑問を呈しました。要は、警察は「行為要件」を重視してトクリュウを捉えていますが、民間事業者としては、反社会的勢力排除の文脈から「属性要件」としてのトクリュウに着目せざるを得ない状況にあります。警察がトクリュウとみなしていても、そのような報道がなされない限り、民間事業者は属性としてのトクリュウなのかどうか見極めるための情報が圧倒的に少ない現状があり、本来的な反社会的勢力排除を、「官民における情報の質・量の圧倒的な乖離」が阻害しているのではないかということです。結論的には、トクリュウの中核部分に近い者を属性として排除しつつ、闇バイト等で犯行に及んだ周辺部分に位置する者の行為を個別に勘案して対応を検討する、といったことになっていくものと考えられます。その場合、実行犯としてのトクリュウを、すべての取引から完全に排除することには課題が残ることになります。

「最近の警察発表では『トクリュウとみて捜査している』というのが決まり文句になってきました。匿名SNSを使ってやり取りするのは犯罪者の間ではもはや普通のこと。トクリュウではない組織犯罪の方が肌感覚では少ない」(同前)…「長官はじめ幹部連中の口癖は『トクリュウの下っ端ではなくトップを狙え』。ですが、警察や暴力団と違って明確なトップがいないのがトクリュウの特徴。現場には『トップって誰?』という戸惑いもあるようです」(同前)」との記述をみたとき、「本当に定義(捉え方)が拡大されているのではないか」との思いを強くしました。そうであれば、反社リスク対策への影響も大きくなります。反社チェックの実務において、トクリュウに該当するか否かも重要なポイントになってきていますが、「トクリュウには未成年が多い」こと(そもそも氏名が公表されない)や、「トクリュウとみられる」との報道だけでは、民間事業者がそれをトクリュウと断定することは実務的には困難」といった問題があります。その結果、実は、明確にトクリュウと認定された状態での公表情報が圧倒的に少ない現状があります。それに対し、警察としては「トクリュウとみている」という曖昧な公表をすればするほど、官民でトクリュウに関する情報量・質の圧倒的な乖離が生じることになり、トクリュウを含めた反社会的勢力排除という本来の目的を達成することが困難になっているように思われます。こうした状況に対し、反社リスク対策の実務としてどうすべきかは、今後も考えていきたいと思います(現時点では、民間事業者としてできる最大限の努力をしていくしかありません)。

この認定のあいまいさという点では、子どもと接する仕事に就く人の性犯罪歴の確認を事業者に義務付ける「日本版DBS」で、就業規制の対象となる「性加害のおそれ」を認定するケースとやや共通するものがあると感じています。日本版DBSは2024年6月に成立したこども性暴力防止法に基づく制度で、事業者が業務で子どもに接する従業員について、性犯罪歴の有無を国に照会して確認する制度ですが、制度では「特定性犯罪」とされる不同意性交等罪や不同意わいせつ罪などの刑法犯などを確認する一方、犯罪歴がなくても、認められると配置転換などの対応が事業者に義務づけられるものに「性加害のおそれ」もあり、その要件などが焦点の一つになっているものです。「おそれ」に該当するケースとして「児童対象の性暴力があったと合理的に判断される」や「児童と連絡先を交換し、私的なやりとりをするなどの不適切な行為があったと合理的に判断される」などが示されたほか、対応策として、児童や保護者から申し出があれば被害拡大防止のため、加害が疑われる従業員を一時的に対象業務から外し、自宅待機や別業務に当たらせることや、私的なやりとりなど不適切な行為があったと判断される場合は指導や研修を実施し、段階的な対応を取ることなどが具体例として挙げられています。犯罪歴という「属性」がなくても、「行為」等によって「おそれがある」と合理的に判断されることを許容するものであり、判断にはかなりの困難が伴うことが想定されます。トクリュウの「属性」がなくても、民間事業者が「行為」等によって「トクリュウとみなす」ことで、どれだけ反社会的勢力排除の実効性が確保できるのかを、考えさせられます(反社会的勢力としての「属性」が明確でない場合、個人情報保護法上、第三者提供が困難になり、反社情報の提供の枠外となりますので、民間事業者が自ら情報を収集していくことにもなります)。

トクリュウの捉え方という点では、Wedge ONLINEにおける溝口敦威氏の連載も興味深いものでした。例えば、「匿流や闇バイトが行う犯罪に対し、メディアや警察はよく「暴力団の資金源になるかもしれない」などとコメントを付している。実際に全国紙が「組員と匿流が一緒に犯罪を行う例があり、匿流が得た資金が暴力団へ流れているとみられる」と警察の発表を報じるものもある。事件が暴力団絡みになることでより重要度を増すと考えているのだろうか。だが、読み違えも甚だしい。確かに、匿流幹部の中にはヤクザ好きがいることはいるし、中には暴力団にケツ持ち(後見人)を頼んでいる幹部もいるが、両者は別物であり、ふつう人事面でも資金面でも交流はない」、「匿流メンバーが暴力団に接近する理由はない。だが、逆にヤクザからの接近はある。匿流の行う、たとえば特殊詐欺の実入りがいいと知れば、見よう見まねで自分でも始める。あるいはそれこそ闇バイトに応募してでも、「受け子」や「出し子」、集金、本部への送金役、リクルーターなどの役を請け負う。ただ、そうした仕事の実入りは少ないから「暴力団の資金源」にはなりようがない」、「暴力団も匿流も下位メンバーや使い捨て要員に対する“冷たさ”は同じだ。匿流は内界と外界をきっちり分け、彼らが外界に属すると見る闇バイト応募者らに対しては、彼らの犯罪結果に対して知らんぷりをする」、「警察は暴力団に対しては組員の個人データさえ蓄積している。対して匿流については情報の蓄積がまるでない。なにしろ匿名型で流動的だから、基礎資料がまるでなく、暴力団相手と違って特別法もない。」、「暴力団の組によっては、若手の志望者をあえて未登録で通す場合がある。組に登録すれば、組に近づく警察官にいずれ組員と知られてしまう。そうなると身辺を洗われ、若い者が最初から辛い目に遭う。だから秘密組員で通すという理屈である」、「警察に組員と知られたら最後、その者は(5年間どころか実際には)生涯、暴力団の組員と烙印を押されたのと同じになる。だからいわば親心として新規入組者を組員登録しないのだが、これは組員のアングラ化を意味する。他方、半グレの方は1ジョブごとに組む相手を自由に変える。おまけに同業者とのつながりなどはないから、組織とメンバーの情報はほとんど外部に出ない」、「彼らの日頃の動きがこうだから、警察は彼らの組織やメンバーをデータベース化できない。暴力団に対してはほぼ完璧に把握できているが、対照的に半グレではデータなし状態が続く。暴力団については法的な定義ができ、それを暴対法に結実させている。だが、半グレは定義しようがなく、半グレに対して特別法を準備することも難しいだろうと見られている、「警察も取締りの重点をどこに置くべきか、もう少し考えた方がいい。何かというと警察は「暴力団の資金源になる恐れがある」として、暴力団中心に取締り体制を組み立ててきた。しかし、暴力団の及ぼす害は覚醒剤に突出している。国民に与える経済的損失はむしろ半グレによる特殊詐欺や強盗の方が大きいとか、意外な事実が浮上するかもしれない。そして何より半グレを規制する法制度を素早く用意することである。幸いにして今のところ、反社勢力が国民の生命を直接的に脅かしている事実はない」、「暴力団という組織犯罪集団の存在を「指定」して認めるという暴対法のあり方を見直し、日本も諸外国同様、「組織犯罪集団自体が違法」という国際標準に改めていくべきではないか。平成という時代を通じて暴対法や暴排条例が「世の中の当たり前」となり、国民は安堵しているかもしれないが、先述した刑務所暮らしに伴う社会的なコストや半グレの勃興といった不都合な真実が直視されることは少ない。もちろん筆者は暴力団の存在を認めるべきだと言っているのではない。だが暴力団“封じ込め”の裏面でこうした深刻な事態が起きていることをわれわれはもっと認識する必要があるのではないか」というものです。筆者のトクリュウの捉え方とは趣が異なるものの、最後の「組織犯罪集団自体が違法」という国際基準に改めていく場期ではないかという点は完全に同意します。

トクリュウを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • フィリピンの入国管理局が、同国を拠点とする元日本人暴力団員らの犯罪組織「JPドラゴン」のリーダーとされる吉岡容疑者の身柄を拘束しています。JPドラゴンは、「ルフィ」などと名乗る広域強盗事件の指示役とされる今村被告=強盗致死罪などで起訴=らの特殊詐欺グループとつながりがあったとみられています。吉岡容疑者は同国北部ルソン島で拘束されたといい、福岡県警が2023年6月、警察官を装って日本人に電話をかけ、キャッシュカードを盗んだ特殊詐欺事件に関わったとして、窃盗容疑で逮捕状を取っていました。JPドラゴンを巡っては2024年、警視庁が幹部の男を逮捕、また、フィリピン入国管理局2025年5月、福岡県警が逮捕状を取っていたメンバー7人を拘束しています。吉岡容疑者はフィリピン滞在歴が10年以上とみられ、タガログ語を話し、闘鶏ギャンブルやオンライン賭博、カラオケ店経営などを手がけていたといいます。入管は吉岡容疑者の住居2カ所を監視し、軍とも連携して行方を追っていたとされ、声明では「大規模な窃盗や通信詐欺の犯罪組織」の拠点を事実上解体したとして、拘束の意義を強調、「フィリピンを国際手配者の隠れ家にしないという私たちの決意の表れだ」と訴えています。日本の警察当局は今後、フィリピン当局側に身柄の引き渡しを求める方針です。
  • トクリュウと共謀し、路上で男性を脅したとして大阪府警捜査4課は、暴力行為処罰法違反(集団的脅迫)容疑で、六代目山口組一心会会長の能塚容疑者と同会組員、トクリュウメンバー3人の計5人を逮捕しています。一心会とこのグループは互いに用心棒関係にあったといいます。同課は、暴力団とトクリュウが結び付いているとみて実態解明を進めるとしています。能塚容疑者は「直参」と呼ばれる六代目山口組直系団体のトップで、グループは数十人規模で大阪・ミナミを拠点に活動しているとみられています。
  • 電子申告・納税システム「e―Tax」で虚偽の確定申告を行い、所得税の還付金を不正に受け取ったとして、高知県警は、東京都港区の自称自営業の男ら17~49歳の男女10人を詐欺、詐欺未遂の疑いで逮捕しています。県警はトクリュウによる事件で、他にも数百人が関与したとみています。県警によれば、10人は、税務署で身分証明書を示して利用者識別番号(ID)などを取得する役割と、そのIDで虚偽申告を行う役割に分かれていました。IDの取得役は、SNSの募集などで集まったといいます。事件は、別の詐欺事件の捜査の過程で発覚、県警は、詐取した金の一部が男に流れていたことから、グループの上位者とみています。
  • 悪質なホストクラブを規制する改正風俗営業法が成立しました。女性客に多額の借金を背負わせて売春などを強要するような非道を許してはならず、警察はじめ関係機関は法律を厳格適用し、悪質ホストを根絶していただきたいと思います。悪質ホストを巡っては、客に恋愛感情を抱かせて高額なシャンパンなどを次々に注文させ、売掛金(ツケ)により借金漬けにする行為が社会問題化していました。また、客を性風俗店勤務などに紹介したホストやスカウトが紹介料を受け取る「スカウトバック」が横行し、被害拡大に拍車をかけていました。改正風営法は、こうした行為を禁じるもので、「恋愛感情その他の好意の感情」につけ込んだ飲食の要求などを「してはならない」と明記し、営業停止など行政処分の対象としています。スカウトバックの横行にはトクリュウの関与も指摘されています。今回の風営法の改正により、規制を強化したのは妥当ですが、問題は、実効性をどう持たせるかで、実際のところ、すでに「自浄」が形骸化しており、「悪質ホストクラブへの支払いに追われて女性が売春をする実態は変わっていない」という実態も聞こえてきます。施行後は店への立ち入り捜査なども積極的に行うなど取り締まりを強化し、卑劣なビジネスを一掃してほしいと願っています。
  • マンションに警棒のようなものを準備して集まったとして、大阪府警は23日、愛知県で活動する「匿名・流動型犯罪グループ(匿流)」のトップで、フィリピン国籍のタキワキ容疑者ら男4人を凶器準備集合容疑などで逮捕しています。このグループは「ブラックアウト」と名乗り、大阪で活動する別のトクリュウとトラブルになっているといいます。府警はグループ同士の抗争の可能性もあるとみて捜査しているといいます。4人の逮捕容疑は共謀して、大阪府東大阪市のマンション内に侵入し、警棒のようなものを準備して集合したというものです。付近の防犯カメラ映像には同日朝、バンダナやマスクを着用した十数人が車3台に分乗して現れ、マンションに入る姿が映っていました。一方、マンション内の部屋の中には入らず、その後解散したといいます。このマンションの一室には数日前に大阪のトクリュウとみられるメンバーがいたことが確認されており、府警は4人がこのメンバーを狙った疑いがあるとみて調べていています。
  • 広島市に住む2人に必要のない屋根の修繕工事の契約をさせようとした疑いで、暴力団組員の男ら6人が逮捕された事件で、広島県警は、東京都内の関係先を家宅捜索しています。東京都葛飾区の暴力団組員ら6人は、2025年1月と2月、広島市内の2軒の住宅を訪れ、「瓦が2枚ほどずれている」などとうそを言って、修繕の必要がないにもかかわらず屋根のリフォーム工事を契約させようとした疑いがもたれています。6人は「マニュアル」に沿って訪問販売していて、そのマニュアルには、「付近で工事をしている事を装って訪問をする」「信用を得るために高齢者にウケる話をする」などと書かれていたということです。2025年2月にも、千葉県の別の会社が同様の手口で3人逮捕された事件でも使われており、警察は組織的な犯行とみて全容解明を進めるとともに、契約で得た金が暴力団の資金源となっていた可能性もあるとみて捜査しています。
  • 点検を装って住宅の屋根を損壊した上、補修が必要だとうそを言い工事代金を詐取したとして、福岡県警は、住宅リフォーム会社社長ら3人を建造物損壊と詐欺、特定商取引法違反(不実の告知)の容疑で逮捕しています。共謀して2024年6月、同八幡東区の女性宅の屋根瓦を故意に損壊した上、「前の事業者がずさんな工事をして屋根が壊れている。工事が必要」などとうそを言い、工事代金計75万円を詐取したとしています。県警生活経済課によると、3人は2024年2~11月、「煌(きらめき)リフォーム」という屋号で、屋根瓦の修繕や給湯器の取り換えをしており、少なくとも延べ契約57件、約5800万円の売り上げを得ていたとみられています。2024年7月に複数の住民から「リフォーム工事を依頼したことがない業者から突然訪問を受けた」と戸畑署に相談があり発覚したものです。押収資料などから屋根を人為的に損壊した疑いが浮上、県警は、トクリュウが関与している可能性もあるとみています。
  • 「点検商法」で不要な工事代金を詐取するなどしたとして、神奈川県警は、伊勢原市の会社員ら5人を詐欺と特定商取引法違反(不実の告知)容疑で逮捕しています。会社員らはリフォーム会社「アストモホーム」の社員らで、2022年2月~2024年9月、12都府県で約620件の工事を契約し、約5億7000万円を売り上げていたといいます。会社員らは「サンテック」「サンテック建物管理」の社名でも点検商法を繰り返していたとみられ、行政処分を受けると別の社名で同様の行為を続けていたといいます。5人が関与した売り上げは計約9億9700万円に上るとみられ、県警は資金が暴力団に流れていた可能性もあるとみて捜査しています。
  • 分電盤の交換工事などの名目で金をだましとろうとしたとして、香川県警は、東京都港区の無職の男(詐欺罪などで起訴)ら男3人を詐欺未遂容疑で逮捕しています。男の知人から全国の高齢者ら130万人以上の名簿を押収しています。県警はトクリュウで、名簿を悪用したり販売したりする目的で所持していたとみています。3人は共謀し、2024年8月、愛媛県内の70代女性宅を訪れ、分電盤などについて工事する意思がないのに、「古いから漏電しても困るので換えた方がいい」などとうそを言い、現金75万円をだましとろうとした疑いがあります。名簿は、男の知人が持っていたUSBメモリーに記録されており、この女性らの氏名や住所、電話番号、生まれた年などが含まれていました。USBメモリーについて、知人は県警に「男から『俺の仕事の結晶を渡すので持っておいてくれ』と言って手渡された」と話したといいます。
  • 出会い系サイトに登録した女性から利用料名目で現金を詐取したとして、警視庁は、詐欺グループ幹部で東京都江東区の職業不詳の男を組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺)容疑で逮捕しています。実態のない出会い系サイトや女性向け副業サイトを運営し、2023年1月以降、全国の約1万人から計約53億円をだまし取ったとみられています。サイトに登録した女性らにチャット利用料などを求めていましたが、実際のチャット相手はグループが手配した「サクラ」だったといいます。グループにはサクラが所属する「運営」、クレーム処理を担当する「法務」、詐取金を分配する「経理」の3部門があり、警視庁は男が全部門の統括責任者だったとみています。このグループを巡っては、警察当局が2024年6月、東京、宮城、埼玉など5都県の拠点を摘発、これまでに計約90人を詐欺容疑などで逮捕しています。末端メンバーは互いの本名などを知らず、警視庁はトクリュウとみて実態解明を進めるとしています。

大阪や兵庫などの8府県警は、各府県の公安委員会が、六代目山口組(神戸市)と絆會(大阪市)の特定抗争指定暴力団への指定を3カ月間、延長すると発表しています。抗争が終結していないと判断したものです。6月19日に官報公示する予定で、延長後の期限は9月20日までとなります。水戸市で六代目山口組傘下組織幹部を射殺したとする罪で、2024年5月に絆會幹部が起訴され、神戸市のラーメン店で六代目山口組傘下組織組長を射殺したなどとして、6月に起訴されています。また、岡山や兵庫など7府県の公安委員会は、六代目山口組と池田組(岡山市)の特定抗争指定暴力団への指定を3カ月間、延長すると発表しています。延長後の指定期限は9月7日となります。

分裂抗争中の六代目山口組が、抗争終結の意向を示す「宣誓書」を兵庫県警に提出してから2カ月が経過しました。この間、六代目山口組は最高幹部の交代など抗争に区切りを付けるような動きをみせる一方、対立組織側に目立った反応はなく、先行きは不透明なままとなっています。六代目山口組の人事が新たな火種となる可能性もあり、警察当局は情勢を注視しています。六代目山口組が宣誓書を提出したのは2025年4月7日、それからわずか10日ほど後の同18日、六代目山口組では20年ぶりにナンバー2である「若頭」が交代しています。高山清司若頭が新設ポストの「相談役」に就き、後任には竹内照明若頭補佐が昇格したもので、両氏は名古屋市を拠点とする直系組織「弘道会」出身で、篠田建市(通称・司忍)組長の下で続く弘道会支配体制がさらに強固になったとみられており、竹内若頭が将来的に七代目組長となるとの見方も強まっています。神戸市灘区に本部を置く六代目山口組では、五代目までの組長は兵庫県内を地盤としていましたが、2005年に六代目に就任したのは弘道会初代会長の篠田組長で、ナンバー2にも弘道会2代目会長の高山若頭が就きました。こうした弘道会による「名古屋支配」に関西拠点の直系組長らが反発、2015年に離脱したのが分裂抗争のきっかけとなりました。以降、抗争状態が続いていますが、対立する神戸山口組は引き抜きなどが相次ぎ、勢力が減退、同様に六代目山口組と対立する絆會(同)、池田組(同)と合わせても構成員などは約600人で、六代目山口組の約6900人とは大きな差があります。終結宣言は、こうした状況を背景にした六代目山口組による一方的なものだとみられています。六代目山口組には抗争終結によって、組事務所の使用禁止など活動を厳しく制限する特定抗争指定を解除したい思惑があると指摘されますが、対立組織側の動きが見えず、実際に抗争が終結するかは見通せず、過去に特定抗争指定が初適用された道仁会と九州誠道会(いずれも福岡県)の抗争では、双方が解散や終結を表明してから約1年後の2014年6月に解除されました。一方、1981年に死去した当時の山口組・田岡一雄組長の跡目争いに端を発した「山一抗争」では、1988年2月に両組織内で終結決定の通達があったにも関わらず、1992年5月に警官が銃撃される事件が発生しています。ある捜査幹部は「竹内若頭が七代目組長となれば、反発する組員もいるだろう。あらたな内紛のきっかけになるかもしれない」と分析、慎重に情勢を見極め、警戒を続ける考えを示しています。なお、高山相談役については、警察に提出した抗争終結宣誓書に記されていた名前が彼だったこともあり、執行部を外れ、それによってけじめをつける形で、弘道会出身者に若頭の座を譲りつつ不満を抑え込み内部分裂を回避する狙いがあるとも言われています(その意味では、高山相談役の院政が続く可能性も否定できないところです。あるいは、高山若頭の時代には怖くて離脱できなかった組員の大量離脱も考えられるとの指摘もあります)

その他、暴力団に関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 住吉会傘下組織組員が関与した特殊詐欺で被害を受けた高齢女性らが、同会の関功・元会長(故人)に計約7000万円の損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は、暴力団対策法に基づく「使用者責任」を認定し、元会長の相続人に計約6500万円の賠償を命じる判決を言い渡しています。判決によると、組員が関与した特殊詐欺グループは2018年10~12月、介護施設の入居権購入の話を持ちかけた上で、「業者間でトラブルがあり、解決金が必要だ」などとウソを言い、女性らから計約6000万円をだまし取ったものです。暴力団対策法は、傘下の組員が暴力団の「威力」を利用して財産を侵害した場合、トップらも賠償責任を負うと規定しており、判決は、組員がグループの仲間に対し、自身が暴力団員であることを告げて離反を防いでいたことから「威力を利用した」と判断、当時の住吉会の代表者だった元会長の賠償責任を認めています。
  • 東京都公安委員会は、稲川会(本部・東京都港区)の「代表する者」について、2025年4月に病死した清田次郎(本名・辛炳圭)総裁から内堀和雄会長に変更したと暴力団対策法に基づき5月29日付の官報で公示しています。警察庁によると、稲川会の勢力範囲は神奈川県を中心に17都道県に及び、2024年末現在の構成員は約1600人(準構成員らを含めると約2800人)と、最大勢力の六代目山口組(構成員約3300人)、住吉会(同約2100人)に次ぐ規模となっています。なお、故清田氏の会葬には多くの暴力団関係者が参列し、億単位の香典が集まり、非課税で組織として受け取ったとみられています(義理事には大きなお金が動くということです)。
  • 神戸山口組傘下組織の西脇組の事務所(神戸市西区玉津町上池)が、尼崎市で不動産事業を営む個人に売却されたことが分かりました。事務所では六代目山口組との分裂に伴う抗争事件も起き、地域住民から追放運動が起きていました。登記簿によると、事務所は鉄骨3階建て(延べ約250平方メートル)で、1987年に建築されており、組の関係者が売却の意向を示していたといいます。西脇組は1970年代に山口組の2次団体となり、神戸市西区で長年活動、2015年の分裂後は神戸山口組に所属し、事務所では神戸側の会合や行事が開かれていました。2020年1月に「特定抗争指定」を受けてからは使用が禁じられ、組員も立ち入れなくなっています。しかし2023年7月、六代目山口組系組員の運転するトラックが門柱に突っ込む事件が発生、県道沿いの住宅街に建ち、付近には児童館や保育所、通学路もあるため、住民らが同年12月から追放運動を展開していました。住民の委託を受けた暴力団追放兵庫県民センターが訴訟を起こし、2024年9月に神戸地裁が事務所の使用を差し止める仮処分を決定したため、仮に抗争が終わって特定抗争指定が解除されても、事務所は使えない状況となっていたものです。兵庫県警によると分裂以降、兵庫県内の暴力団施設が撤去されるのは32カ所目となるといいます。また、県警は売買に際し、暴力団対策法や県暴力団排除条例への違反がないか確認したといいます。
  • 沖縄県警は、ホテルをだまして暴力団関係者を宿泊させたとして、電子計算機使用詐欺の疑いで糸数容疑者ら3人を逮捕しています。糸数容疑者は旭琉會の2代目会長であり、旭琉會は沖縄県唯一の指定暴力団で、2024年末時点の構成員数は約210人です。他に逮捕されたのは北谷町漁業協同組合の組合長と、妻で自営業の2人の容疑者です。逮捕容疑は2023年3~4月、宿泊約款で暴力団員の宿泊を拒絶する北谷町のホテルに対し、組合長夫婦を宿泊者とする虚偽の宿泊予約を申し込み、糸数容疑者と関係のある暴力団関係者を宿泊させたとしています。糸数容疑者が夫婦に予約を依頼、妻が同3月26日ごろにホテルのホームページから予約した上、4月14日ごろにホテルにチェックインし、県外から訪れていた複数の暴力団関係者を2泊させたもので、逮捕された3人は宿泊はしていないといいます。
  • 極東会傘下組織組員による特殊詐欺事件の被害者3人が、会長ら幹部と組員計5人に計約1900万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は、会長らの使用者責任を認め、計約1600万円の賠償を命じています。裁判長は、会長らは組織を支配する地位にあったと認定、暴力団員が「威力を利用した資金獲得行為」で他人の生命や財産を侵害した場合、代表者が賠償責任を負うとの暴力団対策法の規定が適用されると判断しています。暴力団としての威力を用いていないとの組員側の主張についても、「バックにやくざがいる」と言って詐欺の受け子を従わせていたことなどから、暴力団の影響力を犯行グループの運営に利用していたとして退けています。判決によれば、被害者らは2019年1月、親族が至急金銭が必要だとうその電話をかけられるなどして、組員らに計約1300万円をだまし取られたといいます。
  • 三河地方の露天商でつくる愛知県東部街商協同組合(現・愛三協和協同組合)が六代目山口組傘下組織・平井一家の薄葉暢洋組長に対し、支払ったみかじめ料など計約2020万円の返還を求めた訴訟は、名古屋地裁で和解が成立しています。組側が和解金を支払うほか、組合員との接触を禁じ、便宜供与も受けないとする条項が設けられたといいます。訴状などによると、組合は「賦課金」や祭礼時の「場所代」の名目で組合員から集めた現金を、組側にみかじめ料として支払ってきたといいます。組合は愛知県公安委員会から勧告を受けましたが、再び組側に500万円を供与したとして、2023年に団体名が公表されました。組合は各地の祭りなどに出店できなくなりましたが、その後は暴力団との関係を断つと決め、体制も一新、現在は出店が許されるようになったといいます。原告側代理人の宇都木寧弁護士によると、露天商が暴力団から被害金の返金を受け、関係を断つ確約をさせるのは異例のことであり、宇都木弁護士は「露店組合の健全化にあたり、全国各地の参考事例になる」と話しています。
  • 敦賀市にある、元暴力団の関係者が所有する不動産について、市は治安対策の観点から購入する方針を決め、関連する予算案を2025年6月から始まる市議会に提出することになりました。敦賀市に拠点を置いていた神戸山口組傘下組織・正木組(消滅団体認定)の元暴力団関係者は、市の中心部に鉄筋コンクリート製の4階立ての事務所を所有、市は、この土地や建物の所有者たちから売却の意向を受け、およそ2年間検討を続けてきましたが、このほど話がまとまり、取得するための費用およそ7000万円を盛り込んだ予算案を市議会に提出することになりました。警察によれば、元暴力団は現在、活動実態のない団体とされていますが、市は、もし別の暴力団が市内に進出した場合、拠点として活用される可能性などを踏まえ、治安対策の観点から購入を決めたということです。市は今後、議会で予算案が承認されれば契約を結び、2025年秋にも取得を目指すことにしていますが、その後の活用方針はまだ未定ということです。敦賀市の米澤市長は、「北陸新幹線が開業して市内が活性化する中で反社会的な勢力の進出も考えられる。市民の皆様には、心配が取り除かれるということでご理解いただきたい」と話しています。なお、全国で自治体が暴力団事務所などを購入した例は、過去10年間で5件ありますが、全て現役の暴力団で、消滅団体の事務所を購入するのは珍しいといいます。

2025年6月から拘禁刑が導入されました。暴力団離脱者の支援が重要なポイントとなる中、社会復帰を目指す取り組みは、大きな影響を及ぼす可能性があります。時事通信で刑務所での勤務経験がある元法務官僚の浜井浩一・龍谷大教授(犯罪学)は「刑務官は私的な会話をせず、受刑者を視線から外さないなど、危険な存在として監視することが徹底されていた。不適切な行動を取れば押さえ付けるという発想になっていた」と説明、受刑者が自ら考え、行動する機会を奪ってきたと指摘しています、出所後も就職先になじめず、再犯防止につながらない側面があったといいます。その反省も踏まえて導入される拘禁刑については「全体として社会にとって良いと思う」と評価、ただ、きめ細かい処遇を実施するには現在の職員数では足りず、「圧倒的に増やさないといけない」と強調、「受刑者は社会に戻ってくる。どのようになって戻ってきてほしいのかを私たち自身が考えないといけない」としています。拘禁刑の導入は、犯罪や非行をした人の立ち直りを地域で支援する民間ボランティア「保護司」の活動にも関わります。全国保護司連盟の吉田研一郎事務局長は「出所後に孤立させず、そばで寄り添う人の存在が大事だ」と述べ、就職などのハードルが高い中、保護司らが悩みを聞きながら支えることが必要だと指摘、特性が以前より把握できるようになれば、保護司も刑務所から情報を引き継ぎ一貫した対応ができるとし、「なり手にとってもポジティブな影響がある」と期待しています。

また、法務官僚として刑務所や少年院の施策を担当し、現在は罪を犯した人の立ち直りを研究する福山大人間文化学部の中島学教授は朝日新聞で、「刑務所は「苦しい場所」でなければならないという意識が根強くありました。刑法が義務づけてきた「刑務作業」は刑罰のためにあり、懲役刑はそれを義務としてきました。「懲罰主義」という考えに根ざしたもので、刑務所としても、市民感覚としても、広く受け入れられてきたものでした」、「従来の刑務作業の問題は、それが社会復帰後の就労と全く無縁のものが大半だったことです。しかも、受刑者は施設が一方的に割り当てた作業を指示どおりに実施するだけでした。受刑者は出所後、再び犯罪を起こさず、必要な支援を受けながら社会の一員として生活できる能力が必要になり、自ら様々な選択をして生きていかなければなりません。多くの刑務作業は、そうした能力に結びつけるという視点がありませんでした」、「まずは、受刑者を「罰を受ける対象」から、再犯をしない「更生の主体」としてとらえ直すことが重要です。受刑者が社会に戻り、犯罪から離れた場所でどう暮らしていくのか、そのためにどんなアプローチができるのか。過剰収容が解消される一方、近年は高齢者や障害・依存症のある人など、受刑者の背景が多様化しているという課題が顕在化しています。犯罪に至るのは、本人の問題だけではなく、むしろ孤独や経済的な困窮という生活環境に由来する問題が絡み合っていることも多いのです。それを克服するには、一方的に作業を強制するよりも、出所後の生活の質を上げるための指導や教育が必要です。言ってみれば「生き直し」の支援です」と述べており、理念として深く共鳴できるものです。

さらに、NPO法人「監獄人権センター」代表の海渡雄一弁護士は、朝日新聞で「「更生を信じる」という言葉を、法務省が使ったことは非常に驚きました。私たちが活動を始めた30年前は、「受刑者の人権」という考え方さえなく、暴行や虐待さえ、規律秩序の名の下に日常的に行われていました。その後進ぶりが国際社会からの批判にさらされ、活動を始めた私たちが掲げたのが「対象者を信じる」という理念です。30年が経ち、法務省の考え方と、私たちの考え方が重なったと感じています」、「進め方がやや性急だと感じています。個々の受刑者の事情に応じたきめ細かな処遇のためには、まず、対応する職員の数を増やし、質を高めなければなりません。相当の試行錯誤が求められるはずです。刑務官が社会復帰に関わるためには、専門的な研修を受けるなど一定の資格要件を設ける必要もあります。実際に再犯率を低く抑えることに寄与している様々な社会復帰のための施設に行って学ぶなど、研修にもしっかりお金をかけなくてはいけません」、「元受刑者たちの事情や状況を、しっかり受け入れてくれる場所や人が必要です。それは彼らが安心できたり、守られていたりする環境であって、センターとしても、人権侵害への対策をやめるわけではないですが、受刑者の社会復帰の支援に、活動の重点を移してきたという経緯があります」、「受刑者の社会復帰のためには、刑務所だけでなく市民社会も、「排除」から「共生」へと意識を変えていくことが欠かせません。彼らが自立し、社会に貢献できるよう、私たちにも彼らを温かく社会に迎え入れ、共に生きていく姿勢が求められています」と述べている点も共感できるものです。

海外の暴力団組織について、2025年5月19日付産経新聞の記事「中国、台湾のやくざ組織取り込みへ 武力侵攻時に破壊活動要求 「分布図」作成で実態把握」は大変興味深いものでした。具体的には、「中国当局が台湾への浸透工作において、各地の黒幇(ヘイバン、やくざ)を利用していることはよく知られているが、その実態は不明なところも多い。そうした中、中国側が台湾のやくざの資金源や勢力規模、所持する銃の数量などを詳細にまとめた「黒幇武装勢力分布図」を作成していたことが明らかになった。台湾侵攻時に内乱を起こさせる工作を進めている実態を台湾メディアが報じた。中国軍による海上封鎖で台湾社会はパニックとなり、中国側と内通するやくざ組織が武装蜂起して動乱が発生する-。台灣で初めて中国による浸透工作と武力侵攻を扱ったテレビドラマ「零日攻撃(ゼロ・デイ)」の予告編の1シーンだ。昨年8月に取材したプロデューサー兼脚本統括の鄭心媚氏は、制作にあたっては多くの専門家から助言を受けてリアリティーを追求したと語っていた。台湾の情報機関「国家安全局」が今年1月に公表した中国スパイに関する報告書によると、中国当局は台湾のやくざを取り込み、「金銭に困窮している現役軍人を物色」させ、台湾政府の情報を探っている。さらに中国による武力侵攻時にはやくざ組織に対して「五星旗(中国旗)を掲げて内応し、破壊活動に協力するよう」要求しているという。では中国側は具体的にどうやって台湾のヤクザを取り込んでいるのか。台湾の調査報道ネットメディア「鏡報新聞網」が5月に報じたところでは、台湾当局は最近、中国側が台湾のやくざ組織を研究し尽くした資料「黒幇武装勢力分布図」を発見した。計3万字に達するこの資料は、ほぼ台湾全域のやくざ組織を地図に落とし込んで詳細に分析。「勢力範囲」や「所有武器の推計数」「動員の速度」「ボスの連絡方法」「組織を監視する警察の拠点場所」などが記されていた。資料はさらに、各組織を取り込む際の「リスク評価」も記載。「反応が前向き」なA級と「態度が不安定」なB級、「立場が不明でさらなるテストを要する」C級の3段階に分けて評価されていた。台湾の情報当局者が鏡報新聞網に語ったところでは、中国当局はやくざ組織の資金源を把握した後、そのカネの流れを断つなどして脅迫し、中国側に取り込んでいる。中国で闇ビジネスを展開しているやくざ幹部が現地で当局の庇護を受けているケースもあり、そうした者たちを取り込むのは「赤子の手をひねるように易しい」という。…強大な権力を利用してやくざを脅し、台湾統一のために協力させている中国当局のやり口は、文字通り「やくざ顔負け」の所業だ」といったものです。国家存亡の危機において、やくざが果たす役割の大きさには驚かされます。

2.最近のトピックス

(1)ML/CFTを巡る動向

G7財務相・中央銀行総裁会議は、マネー・ローンダリング(マネロン)などの金融犯罪への対策強化を各国に呼びかける文書を出しています。北朝鮮による暗号資産の窃取や詐欺が前例のない水準に増えていることに「深刻な懸念」を表明、北朝鮮が関与するハッカー集団「ラザルス」などを念頭に置いています。窃取した資金は核やミサイルの開発に充てているとされます。共同声明と合わせて公表され、金融犯罪が世界経済の成長に悪影響を及ぼしていることや、手口が高度化していることをふまえ、国際的な連携などを求めています。世界におけるマネロンの総額は世界全体の国内総生産(GDP)の約2~5%と推計され、近年は国際詐欺集団が犯罪収益の送金に暗号資産を利用するケースが目立っており、複数の経路を使って短時間で送金するため、回収は極めて難しいとされます。一部の先進国では暗号資産交換業者への規制や監督が浸透し、一定の成果を得ていますが、世界全体を見渡すと対策が進んでいない国や地域が多く、そうした国が抜け穴となり、取り締まりが不十分になる恐れがあります。

金融機関と金融庁の間の意見交換会における主な論点について、直近の資料が公開されています。主要行等との会合で示された論点から一部紹介します。

▼金融庁 業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点
▼主要行等
  • マネロン等対策の「有効性検証」の考え方・対話の進め方に関する文書の公表について
    • マネー・ローンダリング(マネロン)等対策については、各金融機関において2024年3月末の期限までに整備した基礎的な態勢の有効性を高めていくことが重要であり、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン(マネロンガイドライン)では、各金融機関が自社のマネロン等対策の有効性を検証し、不断に見直し・改善を行うよう求めている。
    • また、今後の金融活動作業部会(FATF)の第5次審査も見据えると、各金融機関が自らのマネロン等対策の有効性を合理的・客観的に説明できるようになることも重要である。
    • 金融庁では、「有効性検証」に関する金融機関等の取組を促進するために、「有効性検証」を行うに当たって参考となる考え方や、実際の取組事例集を2025年3月に公表した。
    • 今後は順次、「有効性検証」に係る対話を各金融機関と行う予定であり、当局の具体的な対話手法や着眼点も公表文書に明記している。金融機関においては、これらの文書も参考に、経営陣主導のもと、「有効性検証」の取組を進めていただきたい。
  • 口座不正利用等防止対策強化に係る要請文のフォローアップについて
    • 特殊詐欺を始めとする金融犯罪については、各金融機関において対応を強化いただいているものの、犯罪の手口もより巧妙化・多様化している。
    • こうした状況を踏まえ、2024年8月、法人口座を含む預貯金口座の不正利用等対策の強化について、要請文を発出した。
    • 意見交換会等で既にお伝えしているとおり、金融庁では、本要請を受けた各金融機関の対応状況のフォローアップとして、2025年1月24日、各金融機関に対し、要請への対応状況に関するアンケートを発出し、2025年2月末に回収を行った。
    • アンケート結果については、各金融機関の対応状況を集計・分析の上、公表する予定である。また、金融機関向けのより詳細な説明会も別途行う。
    • アンケート項目の中で、未着手と答えた金融機関の割合が多い項目も見受けられた。未着手と回答した項目が著しく多い等、自主的な取組状況が把握できない金融機関については、個別にヒアリングすることも検討している。
    • 今回のフォローアップは、今後も継続して行う予定である。各金融機関においては、経営陣主導のもと、計画的に対策を実施し、不正利用対策の更なる強化・底上げを図っていただきたい。
  • 「疑わしい取引の参考事例」の改訂について
    • 金融庁が策定・公表している「疑わしい取引の参考事例」は、所管の特定事業者が疑わしい取引の届出義務を履行するにあたり、犯罪等に関連する可能性のある取引として特に注意を払うべき事例を例示したものである。
    • 各金融機関においては、改訂された事例を参考とし、金融機関におけるリスク動向や、昨今の金融犯罪の傾向等を踏まえ、非対面取引における具体的な観点の追記を中心に参考事例の改訂を行う。参考事例の見直しに当たり、警察庁策定の「疑わしい取引の届出における入力要領」も改訂され、併せて2025年6~7月頃に公表予定である。
    • 疑わしい取引の届出業務を着実に実施するとともに、足元で特殊詐欺等の被害が拡大している状況も踏まえ、犯罪等に関連する疑いのある取引に気づくことのできる、あるいはシステム等で検知できる態勢を構築し、金融犯罪等の抑止に繋げていただきたい

本コラムでもその動向を注視している証券口座の乗っ取り問題をめぐり、匿名性が高いネット空間「ダークウェブ」上の闇サイトなどに、日本の証券口座のID・パスワードといった認証情報が少なくとも約14万件掲載されていたことが、セキュリティ会社の調べで分かったと報じられています(2025年5月24日付朝日新聞)。乗っ取られた口座の認証情報が闇サイトで売買され、さらに悪用されたとみられます。企業のサイバーセキュリティ対策を手掛けるマクニカ(横浜市)が、イスラエルのセキュリティ会社KELAと協力し、ダークウェブの闇サイトなどを調査したところ、日本の証券会社名と口座のログインID・パスワードが大量に投稿され、氏名、住所や取引に使う暗証番号まで載っている例も確認できたといい、乗っ取り被害を公表した国内証券14社について集計したところ、5月23日時点で計13万7914件に上ったといいます。国内で残高がある証券口座数は3月末時点で約3860万件で、単純計算で0.3%にあたります。マクニカの専門家は盗んだ情報を売るためにダークウェブ上などに載せるが、『こんな良い情報があるぞ』とサンプル的に一部の情報を見せる」と指摘。「約14万件はその集計で氷山の一角。実際は10倍流出していてもおかしくない」と指摘しています。今回の証券口座乗っ取り問題では、闇サイトで口座情報を買い取るなどした犯罪グループが本人になりすまして口座を操作、口座内の株を売却した資金で超安値の別の株を大量に買い、株価をつり上げて利益を得たとみられています。金融庁の5月末時点のまとめでは、不正取引は1~5月に5958件、売買額は5000億円超となっています。闇サイトなどを介した口座売買は暗号資産などで行われたとみられていますが、やり取りは匿名で、発信元の特定は難しく、同専門家は「ウェブ上では中国語で、口座を乗っ取る方法の議論や、残高が多かった大口口座の宣伝が盛んに行われている」と指摘し、「大部分は中国系だろう」と分析しています。ダークウェブは、それ自体が違法ではなく、匿名性があるネット空間で、当初は人権団体やジャーナリストがプライバシー保護のために利用、特に言論の自由がない人たちの発信ツールでしたが、匿名性に目をつけた犯罪組織が悪用し、違法薬物や銃器、クレジットカード情報など、非合法なものを売買するようになっています。ダークウェブ上の闇サイトは、入るのに100ドル(約1万4400円)の預入金が必要なものもあり、証券口座を含む様々な情報が検索・購入できるといいます。

▼金融庁 インターネット取引サービスへの不正アクセス・不正取引による被害が急増しています
  • 実在する証券会社のウェブサイトを装った偽のウェブサイト(フィッシングサイト)等で窃取した顧客情報(ログインIDやパスワード等)によるインターネット取引サービスでの不正アクセス・不正取引(第三者による取引)の被害が急増しています。
2025/1 2025/2 2025/3 2025/4 2025/5 合計
不正取引が発生した証券会社数(社) 2 2 5 9 16
不正アクセス件数 96 71 1420 5279 3556 10422
不正取引件数 39 33 687 2910 2289 5958
売却金額(億円) 約0.8 約1 約129 約1540 約1101 約2772
買付金額(億円) 約0.7 約0.6 約128 約1346 約993 約2468
  • ※金融庁が現時点で各証券会社から報告を受けた発生日ベースの数値(暫定値)であり、まだ判明していない不正アクセスや不正取引が存在する可能性があることに留意。
  • ※売却金額及び買付金額は、不正アクセスが行われた口座(被害口座)内における不正取引の金額を合計したもの(同一口座内で不正取引が繰り返された場合、売買金額が累積)。
  • ※不正取引の態様は様々だが、多くの場合、不正行為者が不正アクセスによって被害口座を勝手に操作して口座内の株式等を売却し、その売却代金で国内外の小型株等を買い付けるというもの。不正取引の結果、被害口座には当該国内外の小型株等が残ることになる。表中の「売却金額」「買付金額」はこのような不正な売却・買付代金の総額を示したものであり、当該金額は、不正取引により生じた顧客の損失額と一致しないことに留意。
  • ログインID・パスワード等の窃取、不正アクセス・不正取引の被害はどの証券会社でも発生し得るものであるため、こうした被害に遭わないためには、証券会社のインターネット取引サービスを利用しているすべての方において、改めて次のような点にご留意ください。
    1. 見覚えのある送信者からのメールやSMS(ショートメッセージ)等であっても、メッセージに掲載されたリンクを開かない。
    2. 利用する証券会社のウェブサイトへのアクセスは、事前に正しいウェブサイトのURLをブックマーク登録しておき、ブックマークからアクセスする。
    3. インターネット取引サービスを利用する際は、各証券会社が提供しているセキュリティ強化機能(ログイン時・取引実行時・出金時の多要素認証や通知サービス)を有効にして、不審な取引に注意する。
      • ※多要素認証:認証において、知識要素(PW、秘密の質問等)・所持要素(SMSでの受信や専用トークンで生成するワンタイムコード等)・生体要素(指紋、静脈等)のうち二以上の要素を組み合わせること。同一要素を複数回用いる多段階認証よりもセキュリティが強いとされる。
    4. パスワードの使いまわしをしない。推測が容易な単純なパスワードを用いない。数字・英大小文字・記号を組み合わせた推測が難しいパスワードにする。
    5. こまめに口座の状況を確認(※)するとともに、不審なウェブサイトに情報を入力したおそれや不審な取引の心配がある場合には、各証券会社のお問い合わせ窓口に連絡するとともに、速やかにパスワード等を変更する。
      • ※ログインする際は2.に留意し、ブックマークから正しいウェブサイトにアクセスする。
  • また、フィッシング詐欺のみならず、マルウェア(ウイルス等)による情報窃取の被害を発生させないためには、PC・スマートフォン等のソフトウェア(OS等)を最新の状態にしておくとともに、マルウェア(ウイルス等)対策ソフトを導入し、常に最新の状態に更新することが有効な手段となります。
  • 証券会社のインターネット取引サービスを利用する際にご注意いただきたい事項として、日本証券業協会による注意喚起もご確認ください。
▼不正アクセス等にご注意ください!(日本証券業協会へのリンク)

業界関係者によると、野村、SBI、楽天の3社に集中しているといいます。また、証券口座を乗っ取る手口としては、証券会社をかたったメールを送って偽サイトに誘導し、入力させたIDやパスワードを盗む「フィッシング」が多く、民間企業でつくるフィッシング対策協議会によると、個人から報告が寄せられたフィッシング詐欺メールのうち、「証券系」が急増、1月は102件、2月は787件だったが、3月は1万351件、4月は6万2851件に膨らみ、報告全体に占める証券系の割合は、3月の4.1%から4月は25.5%に増え、クレジット・信販系(26.2%)に次いで2番目となったといいます。業界関係者は、特定の会社に被害などが集中した理由として、知名度が高く口座数が多い点を指摘、当初は乗っ取った口座で中国企業の株式が買われるケースが多く、中国株を取り扱う社が重点的に狙われたともみられますが、犯罪グループは標的とする証券会社を広げているとみられています。フィッシング対策協議会は「一般的に犯罪グループは、保有するメールアドレスのリストに対し、無差別に偽メールを送りつけている」とし、証券会社をかたる際には「ユーザーが多そうなブランドから狙いをつけ、成功率などをみながら対象を拡大していくと考えられる」と指摘しています。本件については、警視庁が不正アクセス禁止法違反容疑で捜査を始めています。特定企業の株を不正に購入し、株価をつり上げる「相場操縦」が行われた疑いもあり、金融商品取引法違反容疑も視野に調べるとしています。証券口座の一部には、中国が発信元とみられる不正アクセスの形跡があり、警視庁は、警察庁サイバー特別捜査部と連携して特定を急いでいます。取引された株は、株価が安い銘柄で、主に中国企業の株だといいますが、日本企業の株の取引も確認されているといいます。朝日新聞によれば手口の例としては、「まず犯人側が、ある中国株を事前に買っておきます。その後、不正にログインして乗っ取った口座にある株などを売却し、代わりにその中国株を大量に購入して価格をつり上げるのです。対象となった株は、短期間で価格が乱高下しています。恐らく犯人側は、株価が高騰したところで売り抜けているのでしょう。乗っ取られた被害者の口座には価値の低い株だけが残り、大きな損失を被ります」と解説されています。また、日本経済新聞では、「。これは、とある低位株の板情報だ。ある日の取引は120円台で始まり、30分ほどで株価が180円台に上昇。182円で100万株を超える売り注文が出されると、181円で150万株あまりの売り注文が壁を作る。すると181円に300万株近い買い注文が入って株価がつり上げられた。その数分後、売り注文に押されて数十円分急落した―。この銘柄と乗っ取りとの因果関係は不明だが、中小型株で取引時間中に特段の手掛かりが見当たらない乱高下が常態化している」と指摘されています。さらに、以前は偽メールの日本語が不自然だったものが、生成AIの登場で誰でも自然な文面をつくれるようになったことも被害の拡大に影響していると考えられます。偽サイトに誘導するフィッシング詐欺以外にも、不用意に開いたメールの添付ファイルや、何げなく閲覧したウェブサイトから感染する「マルウェア」(不正なプログラム)もあり、感染すると、知らないうちにIDやパスワードが第三者に流出する高度なものもあるといいます。

対策として「多要素認証」が推奨されています。多要素認証は、ウェブサイトにログインする際、IDやパスワードに加えてワンタイムパスワードなどの他の情報の入力も求める安全対策で、5月29日時点で76の証券会社が必須化を決めたとされます。一方で、多要素認証も突破されるリスクがある点も認識しておく必要があります。具体的には、犯罪グループが多要素認証を突破する「リアルタイムフィッシング」という手法があります。朝日新聞によれば「犯罪グループはまず、利用者に証券会社をかたった「フィッシング」メールを送って偽のウェブサイトに誘導し、入力させたID・パスワードを盗む。そのID・パスワードを使って本物のサイトにアクセスする。すると多要素認証が機能し、利用者本人にワンタイムパスワードや認証コードがSMS(ショートメッセージサービス)やメールで送られる。犯罪グループはワンタイムパスワードなども偽サイトに入力させる仕組みを構築しており、それも盗んで本物のサイトに入力し、ログインに成功する。詐取した認証情報をその場で使うため、「リアルタイムフィッシング」と呼ばれる」というものです。多要素認証では、指紋や顔などの生体認証を使う「パスキー」という技術もあり、フィッシングのリスクがなくなるとされ、一部の証券会社が導入を検討中だといいます。これだけ大規模な範囲で行われている状況を鑑みれば、犯罪組織が深く関与していると考えるのが自然かと思います。そうであれば、その手口は急速に進化し、洗練されることになり、対策のスピード感に問題があれば、簡単に「陳腐化」「無効化」されることになります。危機感とスピード感を持って対応することが求められているといえます。また、警察の捜査も同様で、こうしたサイバー犯罪では第三者のサーバーやパソコンを乗っ取り、「踏み台」と呼ばれるIPアドレスを使う手口が多く、踏み台が海外にあれば、ICPO(国際刑事警察機構)を通じて対象の国・地域に照会をかけなければならず、照会する作業などに時間がかかり、捜査は容易ではなくなります。今回、乗っ取られた証券口座へのアクセスは、発信元が中国とみられるものが確認されており、他国の捜査機関との連携が重要なポイントとなると思われます。また、証券取引等監視委員会は、日々の値動きと株が売り抜けられたタイミングを照らし合わせながら、相場操縦が行われたかどうかを調べるとみられますが、利益を得た口座の名義人を特定できても、調査権が及ばない国外の口座であれば、証拠の収集は極めて難しくなります。さらに犯罪グループを特定できたとしても、相場操縦罪の適用には「一般投資家に株価が自然に変動していると誤解させ、取引に誘い込む目的(誘因目的)」が必要になりますが、株価をつり上げてから売り抜けるまでの間隔が極めて短ければ、他の投資家を誘い込むという目的の立証は難しくなります。また、筆者が最も重要と考えるのが「を不正に売り抜けたことで上がった収益がどこに向かったのか」という点です。資金の流れを追う捜査も重要になるということです。

デジタルを悪用した金融犯罪の深刻化に伴い、そのベースとなる本人確認のあり方の見直しの検討が進められています。とりわけ犯罪インフラ化している携帯電話やSIM、SMS、海外電話番号、既存番号へのスプーフィング(なりすまし)など多岐にわたっています。総務省のWGでの直近での検討状況を一部紹介します。

▼総務省 不適正利用対策に関するワーキンググループ(第10回)
▼資料10-1 ICTサービスの利用環境を巡る諸問題について(案)~不適正利用対策をめぐる環境変化と新たな対策について~(事務局)
  • 特殊詐欺、闇バイト等対策関連
    1. 特殊詐欺、闇バイト等対策(固定・携帯電話対策)
      • 国際電話不取扱センターの体制強化、キャパシティ向上、運用改善等
      • 新規・切替等の顧客に対する利用休止申請に係る周知対応
      • 国際電話を使用しない顧客に対する効果的な措置
    2. 特殊詐欺、闇バイト等対策(SMS/メール対策)
      • 昨年末より、一部キャリアの回線で、ユーザー宛てに闇バイトを募集するSMSが届いていたが、現在は闇バイト募集にかかるSMSの申告件数は減少
    3. 既存番号へのスプーフィング(なりすまし)
      • 携帯・固定電話のディスプレイの表示を警察署の番号にするなど、電話番号を偽装するケースが報告されている
    4. 海外電話番号による詐欺電話
      • 海外電話番号が、簡単にアプリで取得可能なところ、使い捨て可能な番号として、詐欺のツールに使われうる状況
  • 携帯電話本人確認のルール関連
    1. SIMの不正転売
      • SIMの不正転売が増加し、詐欺への転用等の可能性が指摘されている中、転売の防止に向けてどのような効果的な対策が考えられるか。
    2. 法人の代理権(在籍確認)
      • 法人の担当者が契約を行う場合における在籍確認の手法について、法令上の規定がなく、事業者によって異なる取扱いとなっている中、利用者視点に立ってどのような方策が考えられるか。
    3. 他社の本人確認結果への依拠
      • 携帯電話の契約時における他社の本人確認結果への依拠について、これまでの議論を踏まえ、利便性と不正対策のバランスの観点から、どのように考えるべきか。
    4. 追加回線
      • 2回線目以降の回線契約時の本人確認について、法令上の要件が1回線目とは異なっている中、昨今の犯罪手口の巧妙化、高度化に対し、どのような効果的な対策が考えられるか。
    5. 上限契約台数
      • 上限契約台数について、本人確認が適切になされない場合に、大量不正契約に繋がる可能性があるが、利用者のニーズと不正対策のバランスの観点から、どのように考えるべきか。
    6. データSIM
      • データSIMの本人確認について、法令上の要件が音声SIMと異なっている中、昨今の犯罪手口の巧妙化、高度化に対し、どのような効果的な対策が考えられるか
  • SIMの不正転売の事例について
    • 事業者による不正検知が困難である中、犯罪抑止の観点から当面とりうる対策として、不正転売の違法性について政府および事業者が利用者に対してわかりやすい周知啓発を一層強化していくことに加え、事業者による与信強化や定期的な本人確認なども考えられるのではないか
  • 法人の代理権(在籍確認)
    • 法人契約については、現行の事業者の取組も踏まえつつ、利用者目線に立って予見可能性を高める観点から、来店する担当者と法人の関係性を明らかにするために最低限必要な書類(電子的なものも含む)の提出を求めるなど、所要の規定見直しが求められるのではないか。【省令事項:携帯電話不正利用防止法施行規則第4条】
  • 他社の本人確認結果への依拠
    • 他社の本人確認結果への依拠については、一部事業者からのニーズが認められるものの、昨今の犯罪手口の巧妙化、高度化も踏まえると、ID/PASSの不正入手への対策や他の見直し事項の議論の進展を見極めた上で、依拠先の本人確認の保証レベルが高く最新の本人特定事項となっていることや、依拠元の当人確認が適切に行われることなど、依拠が適切にできる要件を整理した上でルール整備を行うことも視野に、改めて本WGにおいて検討を深めてはどうか
  • 追加回線の本人確認
    • 大手モバイルキャリアを舞台としてSIMの不正発行事案の捜査で立件したeSIM約100件のうちの17件が音声SIMであり、2回線目以降で本人確認の手続きを一部省略してSIMが不正発行されたものであったことが判明
    • 簡易な本人確認手法には一定の利便性が認められる一方、現任にそのような手法が犯罪の起点となっている点をふまえれば、当人認証制を向上させるべく、デジタル庁の本人確認の手法に関するガイドラインも参考に、厳格化に向けた規定の見直しが必要ではないか。その際、犯罪実態をふまえ、すべての回線契約(音声SIM、音声SIM付AppleWatch)に等しくルールを適用するかどうかについても検討すべきではないか
  • データSIMの本人確認
    • SNS型投資・ロマンス詐欺いかかる被疑事件で使用されたSIMについて、令和6年4月から9月までの間に都道府県警察から警察庁に報告され、把握できたもので、SIM種別の特定に至ったものは244件。そのうちの185件はSMS機能つきデータ通信SIMであり、残りの59件は音声SIMという結果(SMS機能がついていないデータ通信SIMについては対象外)
    • 把握した185件のSMS機能つきデータ通信SIMについて、約59%に当たる110件については、事業者による自主的な本人確認はなかった。残りの41%に当たる75件は、事業者による自主的な本人確認がなされていたが、外国の身分証明書が使用されるなど、事業者としても本人確認が困難なものであり、本人確認が実質的に機能していないものが多数あった。
    • データSIMについては、悪用の実態が確認されたことをふまえ、一部の事業者ですでに自主的に行われている本人確認の取組を確実に行う観点から、義務化について検討すべきではないか。
    • ただし、義務化を検討するにあたっては、貸与時の本人確認の規律も参考に、対象SIMや利用用途(訪日外国人やIoT機器)等に関して、利便性と不正利用のバランスの観点から利用実態や実効性に配慮した規定とすべきではないか

金融犯罪とマネロンの関係性がよくわかる事例をいくつか紹介します。

  • 特殊詐欺グループに売り渡すため、事業実態がない12の法人の名義でスマホを不正に購入したとして、警視庁国際犯罪対策課は、会社役員=組織犯罪処罰法違反で起訴=を詐欺容疑で再逮捕しています。容疑者らは国内外の複数の特殊詐欺グループが得た犯罪収益約500億円をマネロンしたとみられています。警視庁は、容疑者らが契約したスマホはトクリュウなどに渡り、特殊詐欺グループに警察官をかたるうその電話などで使われるスマホを供給し、マネロンを請け負って手数料を得ていたとみているといいます。再逮捕容疑は2022年1~3月、実体の無い会社名義でスマホ14台(販売価格計約61万円)やSIMカード4枚を契約し、通信事業者からだまし取ったというものです。ほかに中国籍の女性2人も詐欺容疑で逮捕されています。容疑者が経営する会社は格安スマホを展開する仮想移動体通信事業者(MVNO)の販売代理店で、その立場を悪用し、2022年1月~24年8月に142回線のスマホ契約を結び、うち55回線を特殊詐欺グループに提供したとみられ、スマホはマネロンに利用したインターネットバンキングの口座開設にも使われたとされます。容疑者は2025年2~4月、SNS型投資詐欺で得られた資金をマネロンしたとして、組織犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)の疑いで逮捕、起訴されています・
  • 特殊詐欺に関与したとしてマネロン組織の幹部らが逮捕された事件で、警視庁などは、別の架空請求詐欺に関与したとして、いずれも職業不詳の2人の両容疑者を詐欺容疑で再逮捕しています。2人は仲間と共謀して2023年3~5月、通信事業者らを装って、新潟県の50歳代男性に「サイト登録料が未納になっている」とうその電話をかけ、現金計約4730万円を詐取した疑いがもたれており、詐取金は、海外の取引所などに開設された暗号資産の「ビットコイン」や「テザー」などの複数の口座を経由して現金化され、男の自宅に現金を持ち込んでいました。男の自宅には、指示役「ルフィ」らのグループによる強盗事件の被害金の一部約1000万円が運び込まれていた疑いもあり、同庁はマネロン後にグループに還流したとみています。また、容疑者らは、共謀して2023年3~5月、通信事業者などになりすまして栃木県の70代男性に架空請求の電話をかけ、90回以上にわたって計約5960万円をだまし取ったといいます。警視庁によれば、被害金は約30の銀行口座に振り込まれた後、暗号資産に交換され、少なくとも30の暗号資産口座や海外の取引所を経由していたとみられています。その際、資金の流れを匿名化する「ミキシング」サービスが利用されていたといいます。

金融庁がオンラインカジノにかかる賭博事犯防止等について、金融事業者に対して要請しています。オンラインカジノがマネロン事犯と深く関わっていることを受けてのものとなります。

▼金融庁 オンラインカジノは、あなたの身を滅ぼします
▼金融事業者への要請 オンラインカジノに係る賭博事犯防止等について(令和7年5月14日)
  • オンラインカジノについては、海外で合法的に運営されている場合でも、日本国内から接続して賭博を行うことは犯罪となり、賭博罪等で検挙されるおそれがあります。警察においては、オンラインカジノに係る賭博事犯について取締りや広報啓発を推進しているところですが、オンラインカジノの利用を防止していくためには、国内においてオンラインカジノに係る為替取引が行われないための対応も必要であると考えております。
  • つきましては、傘下会員に対して、
    • 日本国内でオンラインカジノに接続して賭博を行うことは犯罪であることについて利用者へ注意喚起すること
    • オンラインカジノにおける賭博等の犯罪行為を含む法令違反行為や公序良俗に反する行為のための決済等のサービス利用を禁止している旨を利用規約等で明らかにすること
    • 利用者が国内外のオンラインカジノで決済を行おうとしていることを把握した場合に当該決済を停止すること

など、オンラインカジノに係る賭博事犯の発生を防止するための取組みを実施いただくよう周知方宜しくお願いいたします。

▼(参考)警察庁ウェブサイト「オンラインカジノを利用した賭博は犯罪です!」

その他、海外におけるマネロン等を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 米政府は、イランの石油・軍事部門が米制裁を回避するために構築したマネロンのネットワークの関係者らに制裁を科したと発表しています。イランに「最大限の圧力」をかける中、核開発を理由とした原油禁輸や金融制裁を逃れようとする試みに圧力を強化したものです。米財務省によれば、新たに制裁対象とした個人・企業は30以上にのぼり、ベセント財務長官は声明で「イラン政権にとって『影の決済システム』は重要な生命線だ」と指摘し、今後も締め付けを強める方針を示しています。制裁対象は、イラン政府とつながりが深いイラン国籍の兄弟が経営する複数の両替所やその関係者らで、既に制裁下にある国営イラン石油公社(NIOC)やイラン革命防衛隊で対外工作を担うコッズ部隊などのため、イラン産原油や石油化学製品の輸出に関わる代金決済を繰り返し、多額の現金を調達していたといい、原油などの代金決済には、香港やアラブ首長国連邦(UAE)で設立したフロント企業を利用していたとされます
  • イランの最高調停機関が、国際的な組織犯罪の防止に関する条約を承認したと、国営メディアが報じています。マネロンやテロ資金の取り締まりが不十分な「ブラックリスト」指定解除への一歩となり、通商や投資の機会拡大に向けた取り組みが進む可能性があります。イランはFATF(金融活動作業部会)のブラックリストに2020年から掲載されており、金融市場からの孤立を深めています。国営メディアによると、公益判別評議会はパレルモ条約を承認、今後の会議でテロ資金供与対策(CFT)への参加を検討するといいます。外国企業は、イランが投資家を誘致したいのであればFATFの規則を順守することが不可欠としていますが、イラン当局は穏健派と強硬派の間で意見が分かれていました。なお、公益判別評議会とは、議会と、最高指導者ハメネイ師が監督する聖職者と法学者で構成される護憲評議会との間の対立を調停する機関です。
  • ロイターによれば、インド政府筋は、インドはFATFに対し、パキスタンを「グレーリスト」に加えるよう働きかけることを明らかにしています。また、世界銀行によるパキスタンへの資金援助にも反対する予定だと説明しています。パキスタンは2022年にグレーリストから外されたことで、危機的状況に陥っている経済の回復に不可欠な資金調達の道が開かれていますが、グレーリストに再び入れられた場合、金融システムの欠陥が是正されるまでFATFが監視を強化することになります。インドとパキスタンの係争地カシミールでは2025年4月、イスラム教徒がヒンズー教徒観光客らを銃撃し、26人が死亡する事件が発生、インドは事件への報復として、インダス川の水資源の配分を定めた2国間協定の停止を含めた措置を講じています。パキスタンは事件への関与を否定し、インドが2国間協定を停止したのは戦闘行為だと反発している状態にあります。インド政府筋は、パキスタンがグレーリストから外される条件を満たしていないため、再び入れるべきだと主張、また、インドが国際通貨基金(IMF)に対し、パキスタンはIMFから融資を受けるたびに武器の購入が急増していると伝えたことも明らかにしています。

(2)特殊詐欺を巡る動向

警察庁は、特殊詐欺とSNS型投資・ロマンス詐欺の2024年の統計確定値を公表、被害総額が約2000億円で確定しました。特殊詐欺は2025年2月公表の暫定値より約3億9000万円減り、約717億6000万円(前年比265億円増)、SNS型投資・ロマンス詐欺は計約3億9000万円増え約1271億9000万円(同816億8千万円増)となり、いずれも過去最悪でした。特殊詐欺の認知件数は2023年から2005件増え21043件、SNS型投資詐欺は4142件増の6413件、ロマンス詐欺は2249件増の3824件でした。特殊詐欺の被害は大都市圏に集中しており、認知件数は東京都が最多の3494件、7都府県が全体の64.5%を占めました。一方、SNS型投資・ロマンス詐欺の認知件数は大阪府が最多の1024件、兵庫県が914件で続きました。

深刻な特殊詐欺被害を食い止めるため、大阪府では2025年8月から、高齢者が携帯電話で通話しながらATMを操作することなどを禁止する改正条例が施行されます。大阪府警淀川署は、ATM操作をする機会が多いコンビニエンスストアの店員らを対象に、高齢者への声掛け訓練を行っています。大阪市淀川区のコンビニであった訓練には店員ら約50人が参加。電話をしながらATM前にいる高齢者役の警察官に声をかけて、電話を切るよう促しました。店員が「ATMで還付金は戻ってこないんです」と伝えても取り合わない高齢者役、「警察にも止めてくださいと言われている」と言うと、ようやくATMの操作をやめる状況を体験したといいます。大阪府警によると、コンビニで発生する特殊詐欺の被害は、「還付金を受け取れる」などと言われ、電話で指示を受けながらATM操作をしたりプリペイドカードを購入させられて番号を伝えたりするケースが多いといいます。そのため大阪府の改正後の条例では、ATM前で65歳以上の高齢者の携帯電話での通話を禁止するほか、プリペイドカードの販売で一度の会計が5万円を超える場合は詐欺の恐れがないか、店員らが確認することなどを義務づけるもので、対策を「義務」として定めた条例は全国初といいます。

パソコンがコンピューターウイルスに感染したと偽り、修理費名目で金銭を詐取する「サポート詐欺」に関与したとして、警察庁は、インド中央捜査局との国際共同捜査で同国籍の20代の男6人を詐欺容疑などで逮捕し、同国内のコールセンター2か所を摘発したと発表しています。2023年8月以降、東京、大阪、福岡など28都道府県の約200人から、電子マネーや暗号資産計約1億8000万円相当をだまし取ったとみています。日本の警察が、国際共同捜査で海外拠点のサポート詐欺グループを摘発するのは初めてだといいます。容疑者らは、米マイクロソフトを含む企業のテクニカルサポート担当者になりすまし、偽のコールセンターを運営しており、警察当局者がインドメディアに明かしたところでは、被害者のパソコン画面に偽のウイルス警告やフィッシング詐欺のメッセージを表示、カネをだまし取るために、システムが感染していると偽って、特定の電話番号に電話するよう指示していたものです。偽警告画面を簡単には閉じられないといった被害者を動揺させる巧妙な手法が増えています。また、サポート詐欺では、遠隔操作された場合は詐欺だけでなく、機密情報の流出や不正なプログラムの埋め込みといった被害も生じる可能性があります。これまでアダルトサイトからの誘導が主流でしたが、近年は「まとめサイト」やブログといった多くの人がアクセスするサイトが入り口になる事例が相次いでいます。被疑者の日本語が不自然で、通話中にヒンディー語の会話が聞こえたことや、着信番号にインドの国番号が表示されていたことがインドでの摘発につながったといいます。また、今回の事件では、サイバー空間の犯罪情報を収集している一般財団法人「日本サイバー犯罪対策センター」が、不審な警告画面の情報をマイクロソフト社に提供、同社は独自の分析結果を警察庁に共有、警察庁サイバー特別捜査部はこうした情報に加え、暗号資産の解析ツールを使うなどして犯罪収益の流れを追跡、容疑者に関する情報をインド当局に提供し、摘発につなげたといいます。インド当局は、サイバー金融犯罪の摘発を強化しており、日本人をターゲットにした今回の捜査では、同国北部デリーなどの19か所の拠点を捜索しています。日本を標的とする詐欺グループは近年、アジア諸国に拠点を置いており、警察庁は各国の警察当局との連携を強化しています。

警察官を騙る詐欺が猛威を振るっています。最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 警察官を騙る詐欺では、偽の逮捕状が悪用されますが、そもそも本物の令状を見たことがない人も多く偽物と判別することは難しいといえます。一方で、詐欺だと見抜くポイントも存在し、実際の警察はSNSで令状の画像を送ることはなく、口座を指定して現金を送金させることもないという点です。警察が絶対に行うことがない行為としては、「警察官がSNSやメッセージアプリで連絡する」、「警察手帳や逮捕状の画像を送る」、「HP上に名前を記載した逮捕状を掲載する」、「現金を送ったり出させたりする」、「わいせつな行為を要求する」の5つです。また、国際電話を日常的に使わなければ、携帯電話の場合は、国際電話の着信規制ができるアプリの使用、固定電話の場合は無償で休止できる国際電話不取り扱い受付センターへの申し込みを警察では呼びかけています。また、特殊詐欺は対策が練られるたびに別の手口に転じ、以前に流行した手口も記憶が薄れたころに再び行われると、だまされてしまうという繰り返しです。とはいえ、コツコツと積み重ねてきた資産を巻き上げられるのは極めて残念であり、詐欺の撲滅のためには捜査当局の摘発だけでなくわれわれの犯罪手法に対する知識の向上も必須だといえます。
  • 警察官をかたる特殊詐欺被害が相次ぐなか、聴覚障害者らがメールで110番するシステムを悪用した新たな詐欺の手口が静岡県内で4件確認されています。正規のシステムを使って身分証の画像を送信させることで、本物の警察官が対応していると信じ込ませる狙いがあるとみられます。静岡県警生活安全企画課によると、メールでの110番への身分証画像の送信は、2025年4月中旬までに県内で4件確認され、いずれも、警察官を名乗る人物から携帯電話の通話やSMSで指示を受けていました。まず、「あなたが口座開設詐欺に加担した疑いがある」などと連絡があり、その疑いを晴らすために、実在する他府県警の110番システムのメールアドレスに身分証の画像を送信するように求められたといいます。さらに、「通信不良で画像が届かない」として、フリーメールのアドレスに再送信するよう指示を受けた後、捜査費用として暗号資産での送金を要求されていたといいます。
  • 警察官からの電話を装って現金を振り込ませたうえ、「24時間監視する必要がある」と告げられて裸の映像を送らせるといった新たな手口の被害が2025年に入って少なくとも6件確認されています。裸の映像を送った後に脅されるケースもあり、手口の巧妙化、悪質化に警察庁は注意を呼びかけています。「口座が犯罪に利用されている」。ある女性の携帯にかかってきた電話で、相手は警察官を名乗り、こう告げたといい、相手はビデオ通話で「警察手帳」を見せ、女性は身の潔白を証明するために現金が必要だと迫られ、指定された口座へ入金、さらにビデオ通話で「身体的な特徴を確認する」と言われ、女性は服を脱いで上半身裸にさせられたといいます。通話はその後に唐突に切れ、女性は警察へ相談したといいます。そのほかにも、「タトゥーが入っているか確認する」として裸になることを要求するケースや、入浴中の映像を送った女性は後日、自身の裸の画像が送られてきて、「全部あるからな」と脅されたといいます。被害者はいずれも女性で、ビデオ通話へ誘導して裸になることを要求する手口でした。
  • 警察官を騙る詐欺では、携帯電話に国際電話からかかってくるケースが多く、警察庁は不要な国際電話の着信規制をするとともに、「警察はSNSやメッセージアプリで連絡することはない」とニセ警察官詐欺に注意を呼びかけています。警察庁によると、特殊詐欺の被害額は、2025年に入り4月末までに約391億8千万円が確認され、そのうち警察官をかたる手口は約247億3千万円で6割を占めています。20、30代の被害者も増加している点も特徴です。犯行に利用される電話番号は「+80」などから始まる国際電話が多くなっています。また、被害者が犯行グループに取り囲まれて、受け子にさせられ、新たな被害者とともに金融機関で現金を振り込まされる手口も確認されています。別の手口では、被害者宅の固定電話に電話があり、自動音声ガイダンスで「問い合わせをしたい場合は続けて番号を押して」などと言われ、番号を押したところ警察官を名乗る男が出て、メッセージアプリを携帯電話にインストールするよう指示された上、「あなたのお金が犯罪に関与しているか判断する」と言われ、1億2930万円を振り込まされた事例も発生しています。
  • 「+1」や「+44」から始まる国際電話の番号の着信をきっかけとした特殊詐欺被害が増加しているとして、京都府警が注意を呼びかけています。2025年5月を対策強化月間と位置付ける中京署は、主要駅で毎週水曜夕に相談ブースを設置し、国際電話から固定電話への着信を停止させる手続きの相談に乗り出しています。2024年の京都府内の特殊詐欺の被害件数は201件に上り、被害総額は約11億円、中でも注意が必要なのが、国際電話を悪用する手口で、警察庁によると、昨年1年間に特殊詐欺に使われた電話番号を分析したところ、当初はインターネットを使ったIP電話の「050」も目立っていましたが、2024年9月から国際電話番号の使用が急増するようになりました。電話番号の先頭にある「+」以降の数字は国コード(国番号)と呼ばれ、日本からの発信であれば「+81」に続いて国内の電話番号が表示され、「+1」は米国やカナダ、「+44」は英国からを意味し、特に注意が必要です。国番号だけを変え、警察署や行政機関をかたる手口も存在するといいます。
  • 警察官をかたる人物が金地金(金塊)を購入させてだまし取る新手の「特殊詐欺」が全国で確認されており、警察庁によると、2024年の被害総額は少なくとも10都府県で計9億円超に上っています。警察庁によれば、同種の手口の全国統計は未集計であるものの、2024年だけでも京都府で5件(被害総額2億9921万円)、東京都で3件(同1億1440万円)、宮城県で1件(同2億712万円)など10都府県で計21件(同9億1210万円)の発生が確認されています。被害者は68~84歳でいずれも高齢者でした。背景の一つが「金の高騰」ですが、それ以外にも、警戒が厳しくなった銀行やコンビニを介さないことや、最終的な受け取り方も「受け子」が直接回収する方法が目立つことが挙げられます。警察は新たに貴金属販売店に注意を促すチラシを配り、店内での高齢者への声かけ対策の強化も依頼しています。

金融機関を装って企業に電話をかけて偽サイトに誘導し、法人口座の情報を盗み取る「ボイスフィッシング」の被害が2024年11月以降、2025年4月末までに国内約80社に上り、計約28億円が不正送金されていたことが分かりました。個人口座に比べ、1日の送金限度額が高く設定されている法人口座が狙われているとみられ、各地の警察が不正アクセス禁止法違反容疑などで捜査しています。ボイスフィッシングは、電話をかけて音声(ボイス)で偽サイトに誘導し、IDやパスワードを入力させて盗み取る「フィッシング詐欺」の一種で、警察庁によると、2024年11月に約20件発生、一時沈静化したものの2025年2月は約20件、3月は約30件、4月も約10件確認され、山形、埼玉、東京、香川、沖縄など10以上の地域で発生しています。主に中小企業が狙われており、タクシーや不動産、食品、電子機器メーカーなど業種は様々ですが、地方銀行や信用金庫、大手銀行を装い、「電子証明書の更新が必要」などと自動音声の電話をかけてくるのが特徴です。山形鉄道の事例では、「ネットバンキングの情報更新が必要です」と代表番号に、地元の山形銀行を名乗る自動音声の電話があり、職員が音声ガイダンスに従ってボタンを押すと、銀行員を装った男につながり、「手続きに必要」だとして会社のメールアドレスを尋ねられ、間もなく、URLが記載されたメールが届き、職員は偽サイトに誘導されたことに気づかないまま、IDやパスワードを入力、その後、会社の口座からほぼ全額の1億円超が不正送金されたといいます。今回の被害は一定期間、同じ地域の企業に集中して発生、電話帳など地域別の番号リストを使っている可能性や、リストに基づいて自動音声で電話する「オートコール」というサービスが悪用されている可能性が指摘されています。国際電話番号からの着信が目立ち、警察当局は、海外の犯罪組織が日本の中小企業を標的にしているとみていますフィッシング対策協議会によれば、2024年のフィッシングの報告件数は約171万8000件で、5年前の2019年(約5万5000件)から約30倍と大幅に増加しています。これに伴い、ネットバンキングを通じた不正送金も増えており、2024年の被害額は過去最悪だった2023年と同水準の約87億円に上っています。ネットバンキングによる1日あたりの送金上限額は、個人の場合100万~1000万円が一般的なのに対し、法人の場合は取引状況によって数千万や億単位としている金融機関もあり。法人口座は多数の出入金があり、不審な取引があっても、金融機関側が取引を直ちに停止しづらい面があります

カンボジアが拠点の特殊詐欺に関与したとして、福岡県警は、会社役員ら4人を詐欺未遂容疑で逮捕しています。うち3人については、福岡県大野城市の会社員男性を詐欺電話をかける「かけ子」としてカンボジアに送り込んだ職業安定法違反容疑でも逮捕しています。拠点では日本人と中国人が共同で詐欺に加担していたとみられ、県警は全容解明を進めています。会社員男性は3人の一部から借金をしていて、2025年1月ごろに「返済のためカンボジアで働け」と指示され、仕事内容を告げられないまま3人と共に渡航すると、現地の案内人に首都プノンペンから車で約2時間半の郊外へ連れていかれたといいます。そこには2メートル超の塀があり、入り口に拳銃を持った警備員がおり、セキュリティチェックを経た先に4階建ての建物があり、かけ子とみられる日本人や中国人ら10人程度が滞在、別に指示役もいたといいます。会社員男性は一時帰国して県警に自首し3月に逮捕、その後、福岡地検が男性を処分保留で釈放、福岡県警は3人がかけ子を募る「リクルーター」だったとみています。カンボジア絡みでは、警察庁が、カンボジア北西部ポイペトを拠点とする特殊詐欺グループを現地当局との国際共同捜査で摘発したと発表しています。日本を標的として警察官を装う詐欺電話をかけていたとみられ、現地当局が29人の日本人の身柄を拘束、トクリュウの海外拠点だった疑いがあります。警察庁は拘束した人物の情報を収集し、日本で逮捕状が出ている容疑者が含まれていないかなどを調べています。愛知県警の捜査で、ポイペト地区の事務所や4階建ての宿泊施設などが詐欺電話の拠点になっている疑いが浮上し、警察庁が外務省を通じ、情報提供していたものです。タイ国境に接するポイペトは近年、生産や物流の拠点として発展し、カジノホテルなどでもにぎわっていましたが、2025年2月にも国際詐欺拠点が摘発され、タイ人など200人超の外国人が発見されました。警察庁によれば、2019年以降に日本を狙う特殊詐欺グループの海外拠点をカンボジア、タイ、フィリピンなどで計14カ所摘発、警察庁はさらに摘発を強化するため、国際的な捜査網の構築を急いでいます。日米英のほか、ASEAN各国などの実務者級を集めた国際会議を2024年に開き情報共有の仕組みを確認、警察幹部は「培った信頼関係が今回の捜査にも生きている」と話しています。

ミャンマーを拠点とした特殊詐欺事件でうその電話をかける「かけ子」役を勧誘したとして、愛知県警組織犯罪特別捜査課は、住所不定、無職の容疑者を詐欺容疑で逮捕しています。名古屋市瑞穂区の男子高校生(16)=同容疑で逮捕=らを勧誘した「リクルーター」役だったとみられています。逮捕容疑は高校生らと共謀し2025年1月14日、警察官などを名乗り米国滞在中の三重県鈴鹿市の男性会社員に「口座が犯罪に利用されており、疑惑を晴らすために指定口座に金を振り込む必要がある」などとうその電話をするなどし、現金990万円を送金させ詐取したとしています。容疑者は秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」を使い、高校生に「海外でプログラムを学べる」「高収入を得られる」などとうたい勧誘したとみられ、かけ子役らをミャンマーに渡航させるため、パスポート申請の補助や航空チケットの手配、空港への送迎なども担っていたといいます。また、ミャンマーを拠点とした国際的な特殊詐欺事件を巡り、宮城県の男子高校生をタイからミャンマーに移送したとして、仙台地検は、被拐取者国外移送の罪で、住所不定、無職の別の容疑者を起訴しています。起訴状によると2025年1月10日、氏名不詳者と共謀し、誘拐された当時17歳の男子生徒を船に乗せるなどしてタイからミャンマーに移送したとしています。生徒はオンラインゲームで知り合った人物から「簡単な作業でお金がもらえる」と誘われ、タイに出国、同被告にミャンマーへ連行され、詐欺に加担させられたとみています。

なお、米財務省は、ミャンマー東部カイン(カレン)州の特殊詐欺拠点を巡り、地域を実効支配する少数民族武装勢力「国境警備隊(BGF、別名KNA)」幹部のソーチットトゥ氏ら3人に経済制裁を科したと発表しています。BGFが犯罪組織に土地を提供する見返りに収益を得て、警備も担当したと指摘、人身売買にも関与したと非難しています。米財務省は、ソーチットトゥ氏を詐欺拠点問題の中心人物の一人と指摘、同氏の息子2人も重要な役割を担ったとして、米国内の資産凍結などの制裁対象としています。ソーチットトゥ氏には英国が2023年、EUが2024年に経済制裁を科していました。BGFは2025年2月、隣国タイ政府の要請に応じ、中国系犯罪組織などが運営する詐欺拠点の捜索を本格化、働かされていた外国人7000人以上を保護、一方で犯罪組織との協力関係を断ち切っていないと指摘されています。

神奈川県警は、福岡県の80代女性から現金計約1480万円を詐取したとして、詐欺容疑で、住所不定、無職の容疑者を再逮捕しています。容疑者が警視庁渋谷署の警察官をかたり、タイから詐欺電話の「かけ子」をしていたとみて、捜査しています。再逮捕容疑は2024年12月~2025年1月、他の人物と共謀し「特殊詐欺グループの犯人があなた名義の通帳を利用している」などとうそをつき、指定した東京都内のアパートに現金を送らせたとしています。容疑者は詐欺電話のかけ子を勧誘したとして2025年3月、神奈川県警に職業安定法違反(有害業務目的労働者募集)容疑で逮捕されていましたが、横浜地検は不起訴処分としています。

高齢者から現金をだまし取ったとして、警視庁などは、六代目山口組傘下組織「国粋会」幹部の容疑者ら男女4人を詐欺容疑で逮捕しています。だましとった金の受け子グループを統括する立場として暴力団幹部が特殊詐欺に関与していたといいます。4人は共謀して2024年10月、都内の90代男性に対し、医者や息子を装って「のどに腫瘍ができて声がかすれている」「検査時に忘れたポーチに取引先から入金があるカードを忘れた。現金が必要」などとうそを言い、現金300万円をだまし取った疑いがあります。警視庁は、このグループが2024年10月、高齢者5人から計約1000万円をだまし取ったとみています。似たような手口による被害者2024昨年1月~2025年1月に約80人おり、被害額は約3億円に上るといいます。捜査幹部は「山口組の『特殊詐欺をやってはダメ』とする組員への指示は見せかけに過ぎず、深く関与しているのが実態だ」と指摘しているのは、正にそのとおりだと思います。

2つのグループの拠点が一斉摘発され、100人以上が逮捕されたSNS型投資詐欺事件で、大阪府警は、新たに詐欺の疑いでリクルーター役の自称飲食店経営の容疑者ら男3人を逮捕しています。逮捕容疑は2023年12月~2024年1月、沖縄県の20代男性会社員から投資名目で約150万円をだまし取ったとしています。大阪府警によると、容疑者らは投資を誘うメッセージなどを送る「打ち子」らを採用するリクルーターとして活動し、だまし取った資金の一部を管理していたとみられています。詐欺事件を巡っては、大阪府警が2024年7月に大阪市内などにある2つのグループの活動拠点を一斉摘発し、これまでに108人を逮捕していました。大阪府警は中心人物とみられる住居不詳の会社役員ら男4人を公開手配し行方を追っています。

令和7年4月末時点の特殊詐欺、SNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について、警察庁から数字が公表されています。今回から、公表の様式が変わり、ポイントが示されるなど、大変分かりやすくまとめられています。

▼警察庁 特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の 認知・検挙状況等について
▼最近の特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の特徴について
  1. 最近の特殊詐欺の特徴について(令和7年4月末時点)
    1. 概要
      1. 警察官等をかたり捜査(優先調査)名目で現金等をだましとる手口が依然として増加
        • 令和7年4月中の被害額は75.7億円と本年1月以降(1月51.8億円、2月54.4億円、3月65.4億円)継続して増加
        • 令和7年4月末時点の特殊詐欺の被害額(391.8億円)の6割強(247.3億円)を占める
        • 令和7年4月中の既遂1件当たりの被害額は753万円で、他の特殊詐欺の既遂1件当たりの被害額295万円の約2.5倍と多い
        • 認知件数は増加、特に20歳代、30歳代は継続して増加
        • 20歳代、30歳代の既遂1件当たりの被害額は252万円
        • 40歳代以上の既遂1件当たりの被害額が1052万円であることから、20歳代、30歳代の認知件数が増加することで、既遂1件当たりの被害額を押し下げていると認められる
        • 特殊詐欺の検挙件数・検挙人員は、前年同期比でいずれも増加
        • 犯行に利用される電話番号の多くが「+80」等から始まる国際電話番号
        • 被害者が、犯行グループに取り込まれ、犯罪の道具(受け子)にさせられ、新たな被害者と共に金融機関を訪れて、現金を振り込ませる手口を確認
        • 被害者の固定電話や携帯電話機に通信会社などを名乗り自動音声ガイダンスで電話(「2時間後からこの固定電話は使えなくなる。」「使用する場合は1番を押してください。」などとガイダンス)
        • 自宅に固定電話しかない被害者であっても、自動音声ガイダンスの番号を押すと警察官を名乗る者につながり、被害者宅に携帯電話機を送付して、ビデオ通話によるやり取りをした上、金銭をだまし取ろうとする手口を確認を確認
    2. 事例
      • 被害者宅の固定電話に自動音声ガイダンスで「この電話は強制的に使用できなくなる」「問合せをしたい場合は続けて番号を押して」等とアナウンスがあり、被害者が番号を押したところ、警察官を名乗る男につながり、「あなた名義の口座を買った者がいる」等と言われた上、メッセージアプリを携帯電話機にインストールするよう指示された。その後、検察官を名乗る男から電話があり、「あなたのお金が犯罪に関与しているか判断する」等と言われ、指示に従い合計1億2,930万円を指定された口座に振り込んだ。更に金の支払を指示され不審に思った被害者が家族に相談した結果、詐欺であることが判明した。
    3. 注意点
      • 警察はSNSで連絡することはありません。
      • 警察は警察手帳や逮捕状の画像を送ることはありません。
      • 警察はホームページに氏名を記載した逮捕状を掲載することはありません。
      • 警察は一般人の方に現金の出金を依頼することはありません。
      • 警察から携帯電話機が送付されてきたら詐欺を疑ってください。
    4. だまされないための対策
      • 警察官を名乗る者から電話で捜査対象となっていると言われた場合は電話を切って警察相談専用電話(♯9110)に御相談ください
      • それ以外の場合は、電話をかけてきた警察官の所属や名前を確認の上、一旦電話を切り、御自身で警察署等の電話番号を調べるなどして御相談ください
      • 携帯電話は、国際電話の着信規制が可能なアプリの利用をお願いします
      • 固定電話は、国際電話の発着信を無償で休止できる国際電話不取扱受付センターに申込みをお願いします。申請書類は最寄りの警察署で受領できます
  2. 最近のSNS型投資・ロマンス詐欺の特徴について(令和7年4月末時点)
    1. 概要
      1. SNS型投資詐欺の認知件数・被害額は2か月連続で増加
        • 令和7年4月中の投資詐欺の認知件数及び被害額は、いずれも前年同期比で減少しているが、いずれも2か月連続で増加
        • 金銭等の要求名目は、令和7年3月中は「暗号資産投資」が最多であったところ、同年4月中は「株投資」が最多
        • SNS型投資詐欺の検挙件数・検挙人員は、前年同期比でいずれも増加
        • 「当初接触ツール」は、「Instagram」が最多、「YouTube」が前月比で倍増
        • 「当初接触手段」は、「ダイレクトメッセージ」が最多
        • 金銭等の要求名目は、「株投資」が最多
      2. SNS型ロマンス詐欺の認知件数は3か月連続で増加
        • 令和7年4月中のSNS型ロマンス詐欺の認知件数は439件と前月比で24件増加しており、本年1月から3か月連続で増加
        • 令和7年2月以降2か月連続で被害額は減少しているが、令和6年5月以降毎月30億円以上の被害が発生
        • SNS型ロマンス詐欺の検挙件数・検挙人員は、前年同期比でいずれも増加
        • 「当初接触ツール」は、「マッチングアプリ」が最多、「TikTok」「Facebook」が前月比で大幅増加
        • 「当初接触手段」は、「ダイレクトメッセージ」が最多
        • 金銭等の要求名目は、「暗号資産投資」が最多
    2. 事例
      • 被害者は、マッチングアプリを通じて女性をかたる者と知り合い、SNSで交信を重ねたところ、「一緒にお金を稼いで家族を育てたい」「一緒に家庭の幸せ基金を作ろう」などと投資を勧誘され、この話を信じた被害者は、相手の誘いに応じて、携帯電話機に「投資用のアプリ」を入れ、投資サイトのサービスセンターをかたる者と連絡を取り合いながら、現金の振り込みを始め、暗号資産への投資名目や手続をキャンセルしたことに対する違約金名目などで、合計約340万円を口座に振り込み、だまし取られた。
    3. 注意点
      1. SNS型投資詐欺
        • 犯人は、投資用アプリ等の画面上で、利益が上がっているように見せかけたり、当初は利益の払い戻しに応じたりするなどして信用させることで、更に現金を要求してきます。
        • 相手の薦めでアプリをダウンロードして利益が上がっていても、「必ずもうかる」などと収益を保証された場合は、詐欺の可能性があります。
      2. SNS型ロマンス詐欺
        • ロマンス詐欺の犯人は、恋愛感情や親近感につけ込むため、甘い言葉を繰り返しささやきます。
        • 一度も会ったことのない人から、お金の話をされた場合は、詐欺の可能性があります。
      3. 共通
        • ダイレクトメッセージが届いて、知り合った相手でも、一度もあったことがない人から、暗号資産への投資などのもうけ話で資産形成などを持ちかけられた場合は、詐欺の可能性があります。
    4. 対策
      • SNSやマッチングアプリ等を通じて親密に連絡を取り合っていたとしても、一度も会ったことのない人から暗号資産等への投資を求められた場合は、詐欺を疑い、すぐに警察相談専用電話(#9110)に御相談ください
      • 暗号資産交換業者を利用する際は、金融庁・財務局に登録された事業者であるかを金融庁・財務局のホームページで確認してください
      • マッチングアプリ上で知り合った後、早い段階でLINEに誘導された場合は詐欺を疑ってください
      • このほか、事業者が提供する防犯情報を確認することも有効です

最近の特殊詐欺、SNS型投資・ロマンス詐欺に関する報道から、いくつか紹介します。金額の大きな事例を中心に取り上げています。

  • 北海道警札幌東署は、札幌市東区の60代男性がSNS型ロマンス詐欺で計4億600万円をだまし取られたと発表しています。男性は2024年11月、イギリスから帰国した日本人女性を名乗る人物とSNS上で知り合い、2025年2月上旬に「おじさんの安定したデータの助けを得ておじさんの言うとおりにするだけです」「収益の安定的な成果を実現することができます」などの片言の日本語のメッセージで投資を勧められ、その後、男性は5月20日まで10回にわたり、指定された口座に計4億600万円を振り込んだといいます。相手から紹介されたサイトには、運用益が3500万ドル(約50億円相当)に達していると表示されていましたが、一部を払い戻そうとした際に高額な手数料を請求されたため、不審に思って同署に相談したものです。
  • 大阪府警は、大阪府内に住む男女2人が警察官をかたる詐欺被害に遭い、計約4億円をだまし取られたと発表しています。偽の逮捕状などを送って信用させる手口で、府警が注意を呼びかけています。特殊詐欺捜査課によると、2025年4月下旬に80代女性に兵庫県警などを名乗る男性から電話があり、女性の口座が詐欺事件の振込先になっていると言われ、逮捕状や捜索差し押さえ許可状の画像も送られてきて、「このままだと逮捕されることになる」などと指摘された女性は、指示に従って金の延べ棒や金貨など時価総額約2億7000万円を玄関先に置いてだまし取られたものです。70代男性も3月下旬から4月下旬に警視庁などを名乗る男性から電話を受け、「口座が事件に使われている」などと言われ、相手が指定する口座に計1億3000万円を振り込んだものです。大阪府警によると、2025年5月9日現在で警察官をかたる詐欺被害が府内で約300件発生し、被害額は約21億2700万円に上っています。
  • 福島県警白河署は、県南部在住の50代男性が、SNSで知り合った人物から投資話を持ちかけられ、計約1億8千万円分の暗号資産をだまし取られたと発表しています。男性は2025年3月上旬に「(改ざんを防ぐ)非代替性トークン投資サイトで簡単に利益が出せる」と勧誘され、その後LINEで「投資の利益金を出金するには税金が必要」などと言われ、4月下旬までにネットバンキング口座からアプリを通じ複数回にわたって暗号資産を送ったといい、金額が増えたため知人に相談し、被害に気付いたものです。
  • 京都府警上京署は、京都市上京区の50代のパート女性が、資産運用のサイトで知り合った人物に暗号資産の運用を持ち掛けられるなどして、計約1億1600万円を詐取される被害にあったと発表しています。女性は2025年2月ごろ、サイトで知り合った人物に「暗号資産市場は10年に一度しかないビッグチャンスを迎えている」などと持ち掛けられ、20回以上も指定された口座に振り込んだりネット送金したりするなどしたといいます。女性は1人暮らしで、「老後の資金を増やそうと思った」などと話しています。4月末に親族に話したところ詐欺の可能性を指摘されて府警に相談、被害が発覚したものです。
  • 青森県警野辺地署は、県内に住む40代男性がSNSを通じて株取引を勧められ、約6000万円をだまし取られたと発表しています。男性は2025年1月、X(旧ツイッター)で株投資の投稿をしている人物にメッセージを送信、投資アプリなどを紹介され、3~4月、指定された口座に計約2800万円振り込み、その後、男性が利益の出金を依頼したところ、サービス料や保証金が必要だと言われ、さらに計約3200万円送金したといいます。
  • 青森県警捜査2課などは、県内の80代の女性から現金2000万円をだまし取ったとして、ともに東京都足立区の無職の17歳(犯行当時16)と15歳(同14)の少年を、詐欺と組織犯罪処罰法違反の疑いで逮捕しています。女性は2024年12月に別の詐欺被害に遭い、現金4千万円をだまし取られていました。少年2人は他の者と共謀し、女性からさらに現金をだまし取ろうと計画し、2025年2月に「保証金として2000万円を裁判所に支払ってもらう必要がある」などと電話をかけ、足立区内に現金2000万円を送らせた疑いがあります。17歳少年が配達員から現金を受け取り、15歳少年はその場にいたといいます。
  • 岩手県警北上署は3日、北上市の50代男性が「SNS型ロマンス詐欺」の被害に遭い、計約4600万円をだまし取られたと発表しています。男性は2025年4月、SNSで知り合った女性から「おじのアドバイスを受ければ 儲もう かる」と言われ、おじをかたる人物と投資会社のLINEアカウントを教えられ、指示された口座に約50万円を振り込むと「(投資の)利益分」として入金があり、信じた男性はその後も複数の指定口座に十数回にわたって送金、1回に最大800万円を入金したこともあったといいます。男性は投資会社の運営を名乗る人物から「異常な利益を得ているのでアカウントを凍結した」と連絡があり、凍結解除名目で追加の送金を求められたことなどから弁護士に相談、同署に被害届を提出したものです。

ニセ電話詐欺で高齢女性から1200万円を詐取したとして、福岡県警は、住所不定、無職の70代の女性を詐欺容疑で逮捕しています。自身も2025年3月に約5000万円相当の詐欺被害に遭った後、詐欺グループに加担し、報酬をもらっていたとみられています。女性は4月、何者かと共謀し、福岡市東区の80代の女性方に「犯罪に加担した可能性があり、入金しないと無実が証明できない」と電話し、1200万円を自身の口座に振り込ませた疑いがあります。女性はほかにも計約580万円を送金、さらに1200万円を振り込もうとしたが、不審に思った金融機関が警察に連絡し、駆け付けた警官が説得して阻止したものです。だが、翌々日には容疑者の女と一緒にやってきたといい、女性は警察官に対し、「養子に出した隠し子への償いの金」とうその説明をし、容疑者の女も自身の身分証を示し、自らが隠し子だと主張したため、警察官も送金を止められなかったといいます

本コラムでは、特殊詐欺被害を防止したコンビニや金融機関などの事例や取組みを積極的に紹介しています(最近では、これまで以上にそのような事例の報道が目立つようになってきました。また、被害防止に協力した主体もタクシー会社やその場に居合わせた一般人など多様となっており、被害防止に向けて社会全体・地域全体の意識の底上げが図られつつあることを感じます)。必ずしもすべての事例に共通するわけではありませんが、特殊詐欺被害を未然に防止するために事業者や従業員にできることとしては、(1)事業者による組織的な教育の実施、(2)「怪しい」「おかしい」「違和感がある」といった個人のリスクセンスの底上げ・発揮、(3)店長と店員(上司と部下)の良好なコミュニケーション、(4)警察との密な連携、そして何より(5)「被害を防ぐ」という強い使命感に基づく「お節介」なまでの「声をかける」勇気を持つことなどがポイントとなると考えます。また、最近では、一般人が詐欺被害を防止した事例が多数報道されています。特殊詐欺の被害防止は、何も特定の方々だけが取り組めばよいというものではありませんし、実際の事例をみても、さまざまな場面でリスクセンスが発揮され、ちょっとした「お節介」によって被害の防止につながっていることが分かります。このことは警察等の地道な取り組みが、社会的に浸透してきているうえ、他の年代の人たちも自分たちの社会の問題として強く意識するようになりつつあるという証左でもあり、そのことが被害防止という成果につながっているものと思われ、大変素晴らしいことだと感じます。以下、直近の事例を取り上げます。

  • 大阪府警羽曳野署は、千葉県市川市、無職の男を詐欺未遂容疑で現行犯逮捕しています。被害者が捜査に協力する「だまされたふり作戦」で逮捕につながりました。男は氏名不詳者らと共謀、2025年5月~6月、大阪府藤井寺市の70代女性宅に、東京国税局職員などをかたって「銀行口座に不正な入金がある。身の潔白を証明するために資産を確認する必要がある」などと電話をかけ、現金400万円をだまし取ろうとした疑いがもたれています。女性は電話を受けてすぐに特殊詐欺の手口と気づき、同署に相談、その後、東京都内のアパートに現金を送るよう指示があったため、同署員が宅配業者を装って空箱を届け、男が受け取ったところを現行犯逮捕したといいます。
  • 詐欺被害を未然に防いだとして、銀行とコンビニ店の従業員に千葉北署から感謝状が贈られています。いずれも詐欺の可能性を指摘しても納得しない相手に、粘り強く対応を続けたことが功を奏したケースでした。ローソン稲毛作草部店店員の敦賀さんは2025年3月、プリペイドカードの棚の前で悩んでいる様子の70代男性に理由を聞いたところ、「言えない。もういい」と怒られたものの、男性をなだめながら110番通報、駆けつけた警察官が説得して被害を防いだものです。また、京葉銀行宮野木支店の原田さんと山川さんは2025年2月、息子をかたる相手にだまされ、300万円を引き出そうとした80代女性に理由を尋ねたところ、「瓦の修理に必要」と言われたが、請求書もないことなどから詐欺の可能性を指摘、女性は怒りつつも、本物の息子に電話し、詐欺が発覚したものです。同署で感謝状を受け取った原田さんによると「だまされているかも」と言うと、怒られることも多いといいます。それでも「お客さんに寄り添った対応していきたい」と話したといいます。同署によると、詐欺の被害者は相手の話を信じ込んでいる上、様々な名目ですぐに払うようせかされており、その間は他人の意見を受け入れないことも多いといいます。千葉北署の大丸署長は「自分は大丈夫だと思う方も多い。みなさんが最後の防壁です」と感謝を示しています。
  • 島根県警は、特殊詐欺被害を何度も防いだとして、松江市のコンビニエンスストア「ファミリーマート松江学園南店」店長で、人気お笑いコンビ「かまいたち」の山内健司さんの弟の剛さんに県警本部長感謝状を贈っています。剛さんは2018年から、来店客への積極的な声かけで被害を未然に防いできたといいます。この日、特殊詐欺対策を話し合う県警の幹部会議に合わせて開かれた贈呈式で、丸山直紀本部長から感謝状を受けた剛さんは「店全体の取り組みが評価された。スタッフにも感謝を伝えたい」と話し、その後、報道陣の取材に応じ、健司さんから「もらいすぎだから、そろそろ断ってもええんちゃう」と言われたことを明かして笑いを誘っていあといいます。
  • 特殊詐欺被害を食い止めたとして、大阪府警鶴見署は、大阪市鶴見区の会社員、高橋さんに感謝状を贈っています。一度は被害者の女性から疎まれながらも、粘り強く見守り、特殊詐欺を阻止した行動がたたえられまし。2025年4月、高橋さんは駅前の無人ATMブースで通話する80代女性を発見、女性は大阪府東大阪市職員を名乗る男から還付金についての説明を受けていたといい、高橋さんは通話内容などから「詐欺っぽい」と判断、「大丈夫ですか。詐欺じゃないですか」と声を掛けたところ、女性は「大丈夫やから」とややいらだった様子で高橋さんを振り切り、約200メートル離れたコンビニエンスストアまで移動、それでも、高橋さんは110番しながら後を追い、女性がコンビニATMを操作し始めたところに署員が到着し、犯人側は電話を切ったといいます。
  • 特殊詐欺の被害を未然に防止したとして、岐阜県警垂井署は、表佐郵便局で勤務する三宅さんと安江由美さんに署長感謝状を贈っています。2人は、同郵便局を訪れた70代女性が500万円を送金しようとしたのを不審に思い、女性から事情を聴いて送金するのをやめさせたといいます。女性が携帯電話をかけながら来局し、落ち着かない様子で再び携帯電話をかけに局外へ出るのを見て、「ちょっと、おかしい」と気付いたといいます。さらに、女性に送金理由を尋ねると「リフォーム代」と答えたが、送金先が個人名だったことなどから特殊詐欺の可能性が高いとして、垂井署へ通報したものです。佐藤署長は「女性は犯人から『使い道を尋ねられたらリフォーム代と答えるように』と指示されていたようだ。2人とも女性をよく見ており、機転のきく対応が素晴らしかった」と評価しています。
  • 特殊詐欺の被害を未然に防いだとして、岩手県警北上署は、日本郵便北上郵便局に感謝状を贈っています。岩手県北上市内の90代女性が北上郵便局を訪れ、窓口職員の稲葉さんに「8億円が当選したと書かれた手紙が届いた。手数料3000円分の郵便為替をドイツに送らなければならない」と話したため、特殊詐欺被害を疑った稲葉さんはすぐに上司に相談し、署に連絡が入ったというものです。北上郵便局では2024年も似たような事案が起き、被害を食い止めたといいます。
  • 三重県警津署は2025年5月、SNS型投資・ロマンス詐欺による被害を未然に防いだとして、津南が丘郵便局と三菱UFJ銀行津支店にそれぞれ感謝状を贈っています。不審に思った場合の声掛けや懸命な説得が功を奏したといいます。津南が丘郵便局で4月、慌てて駆け込んできた70代の女性が、窓口で数百万を「今日中に振り込みたい」と話し出したため、対応した朝熊局長は女性が振込先として示した口座が個人口座であることを怪しみ、同僚と「SNS上のなりすましかもしれない」と、いくつかの例を提示して説得し、被害を食い止めました。また、三菱UFJ銀行津支店では、来店した80代の男性が「暗号資産で得た利益を出金するため、国税庁へ税金を支払わなければならない。お金を融資してほしい」と相談を始めたため、職員がおかしいと思い、詐欺であることを伝え続け、信じ込んでいた男性を思いとどまらせたといいます。谷口支店長は「銀行で用意している、詐欺防止のための質問が並ぶヒアリングシートが役に立った。警察と連携して店頭でも啓発していきたい」と話しています。
  • 投資系のユーチューバーになりすまして、現金100万円を振り込ませる詐欺の被害を防いだとして、愛知県警刈谷署は、西尾信用金庫東刈谷支店の杉浦さんらに感謝状を贈っています。来店客への声掛けを徹底している杉浦さんは、「詐欺で間違いないと思いました」と述べています。銀行を訪れた60代の女性は慌てた様子で、口座の引き出し上限額を「100万円にしたい」と話し、理由は「経済評論家のユーチューバーの投資話にのる」からと話しあことから不審に思い、女性に振込先を尋ねたところ、証券会社を通じて投資する話だったのに、女性のLINEの画面を見せてもらうと、個人のネット銀行の口座が指定されていたことから詐欺だと確信したといいます。上司を通じて警察に通報、何度も帰ろうとする女性に対し、「絶対に詐欺だから警察を待とう」と説得もしたといいます。

その他、特殊詐欺、SNS型投資・ロマンス詐欺等を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 警察官をかたり80代女性から現金をだまし取ろうとしたとして、大阪府警は、詐欺未遂容疑でマレーシア国籍の男を現行犯逮捕しています。詐欺被害が疑われる口座情報を警察側と共有する協定に基づき、金融機関から情報が寄せられ、摘発につながったといいます。逮捕容疑は何者かと共謀し、警察官などをかたって女性に電話をかけ、「口座が不正利用されている」などとうそをつき、現金をだまし取ろうとしたとしています。金融機関から情報提供が大阪府警にあり、捜査員が女性宅を訪ねたところ、警視庁の警察官を名乗る男の指示で、女性が1000万円超を引き出していたことが分かり、府警が警戒していると、男から女性に、引き出した現金を紙袋に入れて自宅前に置くよう指示があったため、現金回収に訪れた容疑者を捜査員が現行犯逮捕したものです。
  • 「金利が得られる」などと言った上で現金300万円をだまし取ったとして、福岡県警筑紫野署は、佐賀県基山町の無職の70代の女を詐欺容疑で逮捕しています。50代の息子が犯行に気づき被害女性に伝えたことで事件が発覚したといいます。女は2022年6月下旬、元パート仲間の福岡県筑紫野市の80代の女性に、実在しない会社経営者に渡す名目で現金の工面を依頼、女性宅で現金300万円をだまし取った疑いがもたれています。この経営者に預ければ「多くの金利が得られる」と以前から女性に話をしていたといいます。この女性と一緒に働いていた約20年前から現金をだまし取っていた旨の説明をしており、被害額がさらに膨らむ可能性もあるといいます。事件は女性が2024年7月、女の50代の息子から「母があなたをだましている」と伝えられたことで発覚、息子は女から借金を頼まれ理由を追及したことがあり、その際、現金をだまし取った人に払う金利のためだと犯行を打ち明けられたといいます。署は、押収したメモなどから、現時点でこの女性を含め計22人から総額約2億580万円が女に渡ったとみており、経緯を詳しく調べています。
  • 特殊詐欺の電話をAIで判別するシステムを共同開発している兵庫県尼崎市と富士通、東洋大は、市内の高齢者宅で実証実験を重ねた結果、システムが詐欺を見抜ける精度が8割を超えたと発表しています。富士通は社内で製品化の検討を始めています。実験では、特殊詐欺の手口を模倣する生成AIシステムが、電話で市役所職員を名乗り、滑らかなAI音声で「還付金があるので10万円を返したい」「本人確認のために生年月日を教えて」などと提案、高齢者の「どうすれば受け取れるか」などの質問に臨機応変に答えつつ、判別装置が生理反応のデータを収集し、高齢者が電話にだまされているかどうかを判定、実験後に高齢者に種明かしをし、詐欺の電話と気づいていたか否かを聞き取ると、システムは82%の精度で、高齢者がだまされているか気づいているかを的中させたといいます。詐欺の可能性が高いと判定すれば、家族のスマホに「親が詐欺の電話を受けている」と自動通知するシステムも開発済みで、3者は「実験データを生かし、製品化へ向けた検討を進めていく」としています。
  • 山形銀行は個人向けインターネットバンキングで振込限度額を新設するとしています。当日扱いの新規振込先への振り込みについて、1日あたり合計50万円を上限とするもので、ネットバンクを悪用した不正送金被害を防ぐ狙いがあります。同行のネットバンクは利用者が振込・払込限度額を自分で設定でき、すでに1日あたり50万円未満に設定していれば、その金額が上限となります。なお、これまで実績のある先への当日・予約扱い振込や新規先への予約振込は引き続き、その範囲内でできるといいます。
  • 電話で警察官を装い不安をあおる特殊詐欺の被害が急増していることを受け、警視庁と大手携帯電話会社4社は、協力して被害防止に取り組む「ストップ!詐欺」共同宣言を行っています。警視庁の鎌田副総監は「国際電話などで携帯にかけてくることが多い。着信対策が極めて急務だ」と強調しています。4社は、詐欺の疑いがあるメールや迷惑電話の拒否を設定するサービスを紹介、警察官を装う詐欺は「あなたは容疑者だ」と脅してLINEなどでのやりとりに誘導するものが多く、警視庁特殊詐欺対策本部によると、この手口による2025年の東京都内の被害額は、4月末時点で約69億9千万円に上り、既に2024年1年間の約69億6千万円を超えています
  • 島根県警が作成した「電子マネー販売確認シート」を使って、特殊詐欺被害を防ぐ事例が出ています。同シートには「他人から購入を頼まれていますか?」「パソコンウイルス感染、携帯電話・有料サイトの未払い料金の支払い等に利用しますか?」など三つの設問が並び、「はい」か「いいえ」で答えるようになっており、一つでも「はい」があると、「詐欺の可能性があります。購入しないでください。すぐに警察に相談してください」との記述に導かれるものです。この確認シートは、店員が特殊詐欺被害に遭おうとしている客とスムーズにやりとりできるように県警が作成し、県内のコンビニに2024年11月ごろから配布しているといいます。
  • 「電話de詐欺」を防止しようと、警察庁の特別防犯対策監で俳優の杉良太郎さんが、千葉市中央区都町の住宅を戸別訪問し、住人に対策を呼びかけています。電話de詐欺では国際電話の悪用による被害が全国的に相次いでおり、杉さんは戸別訪問で国際電話の発着信を無料でブロックすることができる「国際電話不取扱受付センター」(0120.210.364)への申し込みを促しました。千葉県警生活安全総務課によると、同県内では2025年1月~4月に詐欺が疑われる「予兆電話」を含めた詐欺電話の認知件数は約5000件あり、そのうち約7割が国際電話からの着信だったといいます。杉さんは「海外からの詐欺電話が増えている。人ごとだと思わず、我がごとだと思って対策してほしい」と話しています。

(3)薬物を巡る動向

とりわけ若者の間でコカインの蔓延が深刻な状況です。警察庁によると、全国の警察が2024年にコカインの密売や所持で摘発したのは前年比214人増の586人となり、2015年(86人)の約7倍に上り、過去最多となったといいます。年代別では20代が5割超と最多で、30代が約2割、20歳未満が1割強となっており、低年齢層の摘発が目立っています。一方、摘発者に占める外国人の割合は2015年から2021年までは2~4割でしたが、2024年は1割超にとどまりました。以前は外国人らを介して売買されていたところ、SNSの普及などで流通が一般に広がったことが背景にあるとみられています。国連薬物犯罪事務所(UNODC)の報告によると、2022年のコカインの生産水準は過去最高の2700トン超で、使用者は推計2350万人に上り、日本国内への密輸も増えているとみられ、2024年、水際で押収されたのは2023年の約5倍の231.8キロに上っています。警察庁は「コカインは大量に摂取すれば死亡する可能性もある危険な薬物だ」として注意を呼びかけています。

コカインに限らず、大麻の蔓延も深刻な状況となっていますが、とりわけタイからの大麻の密輸が急増しています。本コラムでも取り上げましたが、タイで大麻の栽培が合法化された2022年を機に流入が止まらず、2024年の同国からの密輸事件の摘発は2023年比約7倍の185件で全体の47%を占めています。日本では若年層の乱用が懸念されており、税関は検査技術を民間から公募するなど水際対策の強化を急いでいるといいます。報道で税関関係者は「大麻の密輸は日に日に増えている。現場で必死に食い止めている状態だ」と危機感をあらわにしていますが、財務省によると、全国の税関が大麻の密輸を関税法違反で摘発した件数は2024年に390件(2023年の約2.9倍)と過去最多となり、押収量も約344キロと2023年比で倍増しました。最大の原因はタイからの密輸の急増です。2024年は大麻の摘発件数の47%、押収量の50%を占めましたが、2021年にはそれぞれ1%程度に過ぎなかったところ、2022年にタイ国内で大麻草の栽培や一部流通が合法化されたことを契機に、同国では大麻農家が急増、同国政府はその後規制を強化しましたが、「いったん生産過多でだぶついた大麻が、若年層を中心に使用が広がる日本をターゲットに流入している」(税関関係者)との見方もあります。厚生労働省によれば、2023年に薬物事件で摘発された1万3815人のうち、大麻関連は6703人と過去最多となり、統計がある1951年以降で、覚せい剤の摘発人数を上回ったのは初めてでした。インターネットやSNSの普及で入手ルートも多様化し、世代別でも30歳未満が7割を超え、大麻は使用時の抵抗感が比較的薄いとされ、「ゲートウエードラッグ」としてより副作用の強い薬物への依存の契機になるとの懸念も根強くあることは本コラムでもたびたび指摘しているところです。国内への流入を食い止める水際対策の重要性が高まる一方ですが、インバウンド(訪日外国人)客などの増加で、検査には効率化も求められています。報道によれば、税関は渡航者の様々な情報を基にしたリスク判断など、密輸を防ぐ独自のノウハウを持っており、東京税関の担当者は「新技術の導入で摘発能力を一段と向上させていきたい」と話しています。

東京・歌舞伎町の「トー横(東宝ビル横)」などに集う少年少女らから相談を受ける活動を20年以上にわたり行っている公益社団法人「日本駆け込み寺」の事務局長を務める男が、コカインを所持(その後使用も)したとして警視庁に逮捕された事件で、代表理事は「許されないことだ。世間に対してとても申し訳ない」と謝罪しています。同法人では田中容疑者をすべての役職から解任しています。また、報道によれば、相談者の20代女性に「オーバードーズ(市販薬の過剰摂取)をするくらいならコカインのほうがいい」と勧めたといいます。田中容疑者はコカインを2回使ったと説明、所持していたコカインは(購入履歴が残らないよう)「歌舞伎町で数日前に外国人から2万円で買った」と供述しているといいます(その後、自宅からコカインや微量の大麻が押収されています)。事件を受けて、新宿区の吉住区長は、自身のX(旧ツイッター)を更新し、区と同団体との連携を停止するよう庁内に指示したことを明らかにしています。吉住区長は事件について「個人の行為であっても相談者を関わらせたとすれば非常に重要な事態だ」との認識を示し、「正確な情報収集と現時点での連携停止を指示した」と投稿しました。悪質なホストクラブが利用客に多額の売掛金を背負わせる問題を中心に解決を図る「青少年を守る父母の連絡協議会(青母連)」も関連団体として設立、新宿区は各種問題の解決に向けた連携関係を続けてきました。さらに、三原じゅん子こども政策担当相は、内閣府として同法人に必要な措置をとると明らかにしています。三原氏は「悩みを抱える多くの方々に寄り添う事業を行う公益法人において、今般のような事件が発生したことはきわめて遺憾。事実関係の把握に努め、公益法人認定法上の報告徴収、勧告、命令、認定取り消しなど必要な監督措置を適切に講じたい」と述べました。一方で、同法人の代表理事は、行政や民間団体から受けていた年間計約4400万円の補助金や寄付が相次いで打ち切られ、運営が「あと1カ月ほどしかもたない」との窮状を明らかにしています。同会や関連団体の活動は、生きづらさや困難に直面した方々の救済や社会からの孤独・孤立問題への対応として尊いものであり、何らかの形で継続できるようになることを強く願っています。

最近の薬物の摘発事例に関する報道から、いくつか紹介します。

  • 合成麻薬MDMAの結晶約14キロをスーツケースに隠して密輸しようとしたとして、大阪税関関西空港税関支署は、関税法違反(禁制品輸入未遂)の疑いで香港出身の住所不定、無職、劉容疑者を大阪地検に告発しています。報道によれば、14キロをMDMAの錠剤で換算すると約1億6千万円に当たるといい、容疑者は2025年5月、氏名不詳者と共謀し、MDMAの結晶約14.4キロをスーツケースに隠して、カナダの空港から関西空港に密輸しようとしたところ、関西空港の税関職員による検査で発覚したものです。大阪府警が、麻薬取締法違反の疑いで逮捕するも、「荷物にMDMAが入っているとは知らなかった」と容疑を否認していたといいます。
  • 薄いゴムで包んだコカインを87個飲み込むなどして営利目的で密輸入したとして、大阪府警関西空港署は、麻薬及び向精神薬取締法違反容疑で住居不定、職業不詳のブラジル人、ラモス容疑者を逮捕しています。報道によれば、2025年4月、薄いゴムのようなもので包んだコカイン87個(約675グラム、末端価格1688万円相当)を体内と着衣に隠しブラジルから関西国際空港に密輸入した疑いがもたれています。87個のうち46個は胃から見つかり、28個は胃を通過していたため、自然排出を待って回収したほか、13個は関空到着までに体外に何らかの理由で出ており、靴下に包んで股間に隠していたといいます。
  • 麻薬のケタミン約41キロ(末端価格約9億円)をスーツケース2個に隠して密輸しようとしたとして、東京税関羽田税関支署は、関税法違反(禁制品輸入未遂)の罪でフランス国籍の住所不定、自称調理師アミラ・容疑者東京地検に告発しています。報道によれば、日本の捜査当局が摘発したケタミン密輸の押収量としては過去最多であり、告発容疑は2025年4月、ドイツのフランクフルト空港から羽田空港にケタミンを密輸しようとしたとしたもので、税関職員がスーツケースを検査して発見、関税法違反と麻薬取締法違反の疑いで現行犯逮捕しています。容疑者は「高額報酬の仕事を紹介され、スーツケースを運んだ」と話しているといいます。
  • 南アフリカから覚せい剤約3.9キロ(末端価格2億2600万円相当)を成田空港に密輸したとして、東京税関と千葉県警は、覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)などの疑いで無職、野村容疑者を現行犯逮捕しています。報道によれば、職員の税関検査でスーツケースの底から見つかったといい、野村被告は「預かっただけだ」と容疑を否認しているといいます。また、南アフリカに滞在していた理由を「新しい仕事を始めるため」と説明しています。野村被告はSNS上で知り合った、カタールの首都ドーハにいるという知人から「荷物を受け取ってほしい」と指示を受け、2025年4月17日に羽田空港から南アフリカへ出国、滞在先のホテルでスーツケースを預かり、26日に成田空港に到着したものです。
  • 東京都内のホテルで覚せい剤や、コカインを所持したとして、警視庁は、麻薬取締法違反と覚せい剤取締法違反の疑いで、不動産投資会社「レーサム」(2025年3月に東証スタンダード上場廃止、東証プライム企業ヒューリックの完全子会社に)創業者で元会長の田中容疑者と、職業不詳の容疑者を逮捕しています。報道によれば、2024年6月、東京都千代田区内のホテルで、コカイン約0.859グラムと、覚せい剤約0.208グラムを所持したというもので、田中容疑者らがホテル滞在中にトラブルになり、警察が駆け付け、2人が去った後にコカインと覚せい剤の計3袋が見つかったものです。その後の家宅捜索で、自宅のキッチンからジョイント(紙巻きたばこ状の大麻)43本とコカインの入った袋など計12袋が押収されています。
  • 経営するラーメン店で大麻成分を抽出した「大麻オイル」を製造したとして、京都府警捜査5課などは、自営業の男を麻薬取締法違反(営利目的製造)の疑いで逮捕しています。報道によれば、男は2025年2月、自身が経営する店舗2階の従業員スペースで乾燥大麻を加熱するなどし、麻薬に位置づけられる大麻オイルを営利目的で製造した疑いがもたれています。店で大麻の密売が行われているとの情報があり、京都府警が同3月に店を捜索し、クーラーボックスから乾燥大麻約21.5グラム(末端価格10万7500円相当)などを押収したといいます。京都府警は、男が市販のオーブンレンジやかくはん機を使って大麻オイルを製造したとみています。容疑者は男性客への大麻草の営利目的譲渡容疑などで逮捕・起訴されていました。
  • 福島県警田村署は、無職の20代の男と、いわき市と田村郡の男子高校生(いずれも16歳)を覚せい剤取締法違反(使用)容疑で逮捕しています。報道によれば、3人は2025年4月下旬頃から5月1日の間に覚せい剤を使用した疑いがもたれています。4月下旬に同署管内のコンビニ店の駐車場にいた3人に署員らが職務質問をし、尿検査をしたところ陽性反応が出たものです。
  • 大麻を所持していたとして、宮崎県警宮崎北署は、高校2年の男子生徒(16)を麻薬取締法違反(所持)容疑で逮捕しています。学校の所持品検査で分かったといいます。男子生徒は、県内の高校で大麻0.2グラムを所持、同日朝、生徒は学校で所持品検査を受け、学校側が生徒の持ち物から大麻のようなものを発見し、警察に通報したものです。
  • 警視庁新宿署は、大麻を所持したとして、航空自衛隊入間基地所属の3等空曹の男性を麻薬取締法違反(所持)の疑いで書類送検しています。報道によれば、2025年2月7日、東京都新宿区歌舞伎町のコインパーキングで大麻リキッド1本を所持していたほか、基地内の隊舎の自室で乾燥大麻や大麻リキッド複数本を所持していたというものです。新宿署によると、警察官の職務質問で3等空曹の上着から大麻リキッドが見つかり、同署が翌8日、家宅捜索したところ3等空曹の部屋から大麻が見つかったものです。SNSなどを通じて大麻を入手したとみられ、任意の取り調べに対し、「自分で使用するために所持していた」と容疑を認めているといいます。
  • 拳銃や覚醒剤を所持したとして、警視庁は、東京都日野市の無職の男を銃刀法違反(拳銃加重所持)と覚せい剤取締法違反(営利目的所持)容疑で逮捕しています。報道によれば、男は2025年3月、山梨県上野原市の建物内で、回転式拳銃1丁と実弾4発のほか、覚せい剤約60グラム(末端価格約348万円)を所持した疑いがもたれています。男が拳銃を所持しているとの情報があり、警視庁が捜査していたもので、親族宅を捜索したところ、倉庫内から実弾が込められた拳銃や、封筒に入った実弾20発などが見つかったもので、密造拳銃とみられ、同庁が入手先などを調べているといいます。
  • 警視庁町田署は、車内で覚せい剤などを所持したとして、覚せい剤取締法違反(営利目的所持)と麻薬取締法違反(営利目的所持)の疑いで、住所不定、無職の後藤容疑者を逮捕しています。容疑を認め、「違法薬物の密売人をして利益を得ていた」と供述しているといいます。逮捕容疑は、2025年4月、埼玉県飯能市内で、停車中の車内に覚せい剤約68グラム、大麻約916グラム、コカイン約229グラム、MDMA約50グラム(末端価格計約1450万円)を所持したとしています。署によると、容疑者は2025年4~5月、金銭トラブルになっていた相手や、その知人の男性に集団で暴行を加え、監禁するなどしたとして、逮捕監禁や傷害などの容疑で2回、逮捕されていました。
  • 静岡中央署は、静岡刑務所に収容されている知人に覚せい剤を郵送しようとしたとして、覚せい剤取締法違反(譲り渡し)の疑いで無職、松本容疑者を逮捕しています。逮捕容疑は2025年4月、知人に宛てた封筒に若干量の覚せい剤を封入して郵送し、譲渡しようとしたものです。刑務官が封筒を調べた際、便箋とともに覚せい剤を発見したといいます。

福岡市にある「海の中道海浜公園」の花畑で2025年4月下旬、あへん法で栽培が禁止されているアツミゲシが自生しているのが見つかったといい、通報を受けた園は数本を確認し、焼却処分したといいます。アツミゲシの種がネモフィラの種か肥料に混入し、自生したとみられ、過去に同様の事例はなかったといいます。厚生労働省によると、5~6月が開花のピークで、2023年度に全国で除去された違法ケシは約69万本でしたが、2024年度は約92万本に急増し、「見つけたら保健所や警察署に通報してほしい」と呼びかけています。禁止植物が自生していても土地の所有者は摘発されないものの、無断で抜き取ると法律違反になる恐れがあり、同省はホームページで禁止植物の見分け方を公開しています

その他、海外における薬物を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 米疾病対策センター(CDC)は、米国における薬物過剰摂取による死亡者数が2024年は27%近く減少したことを明らかにしています。減少幅としては過去最大で、2019年以来の低水準となりました。CDCの推計によると、米国での2024年の薬物過剰摂取による死亡者は約80391人と、2023年の110037人から減少、専門家らは、麻薬鎮痛剤「オピオイド」の拮抗薬「ナルカン(ナロキソン)」が広く入手できるようになったことが、この減少に大きく貢献したと指摘しています。CDCの推計によると、オピオイド関連の死亡者数は2024年は54743人と、2023年の83140人から減少、過剰摂取による死亡者数は2023年後半から毎月着実に減少しているといいます。フェンタニルを含む合成オピオイドによる死亡者数も前年比約37%減少し48422人となりました。フェンタニルは依然として米国のオピオイド危機の中心にあり、過剰摂取死の最大原因となっています。CDCはまた、薬物過剰摂取は依然として18~44歳の米国人の主要な死因だと述べています。一方、麻薬撲滅活動の関係者の間では、米政権が進める政府予算削減により過剰摂取の死亡者数の減少が逆転し、これまでの成果が水の泡になる恐れがあると懸念の声も広がっています。
  • 米司法省がメキシコの麻薬組織「シナロア・カルテル」幹部を「麻薬テロ」の罪で起訴しています。同容疑での起訴は初めてといいます。メキシコ北部で昨夏から累計で1200人が死亡するなど極端な治安悪化を招いており、麻薬カルテルの徹底的な摘発を宣言しています。米当局がカリフォルニア州の裁判所に訴えを起こし、シナロア・カルテルのインスンサ・ノリエガ容疑者と息子が対象で、コカインや合成麻薬「フェンタニル」などを米国に密輸した疑いがあるとしています。司法省は13日の記者会見で「シナロア・カルテルの指導者たちへ。おまえたちはもはや狩る者ではなく、狩られる側だ」と警告しています。トランプ米政権は2025年2月、シナロア・カルテルを含む中南米の8組織を外国テロ組織に指定、このうち「ハリスコ新世代カルテル(CJNG)」や「ラ・ヌエバ・ファミリア・ミチョアカーナ」を含む6組織がメキシコの麻薬カルテルにあたります。テロ組織指定によって米国内の資産は凍結され、構成員は米国だけでなく他国への渡航も難しくなり、資産の差し押さえによって活動も制限されます。また、当局にとってはテロ組織指定により、外国と連携した捜査が可能になるほか、関係国が歩調をあわせて捜査すれば摘発の確実性が上がり、米国が捜査協力を迫ったり、身柄の引き渡しを求めたりする根拠にもなります。本コラムでもたびたび取り上げていますが、シナロア・カルテルはメキシコで最も凶悪な麻薬組織の一つで、拠点があるメキシコ北部のシナロア州は派閥抗争が原因で急速に治安が悪化、2024年8月以降に起きた同州での殺人による死者は1200人を超え、2023年同期の約3倍の水準となっています。
  • メキシコ北部チワワ市は、麻薬カルテルをたたえる曲を披露したとして、人気バンドに36000ドル(約515万円)を超える罰金を科したと発表しています。「ナルココリド」と呼ばれるこうした音楽は国境を越えて人気が急上昇しており、メキシコでは複数の州が規制に乗り出す事態となっています。このバンドは、2025年5月に行ったライブで演奏した曲の約3分の1がナルココリドだったといいます。市当局者は「犯罪を美化したり、暗に犯罪者に言及したりした」と指摘しています。同バンドはロス・トゥカネスは演奏中に麻薬密売人の名に触れたとして、2008~23年に地元である北西部ティフアナ市での公演を禁じられていたといいます。
  • コロンビア当局は、国内最大の麻薬密売組織の構成員217人を逮捕したと発表しています。当局は麻薬6.8トン、銃器123丁、弾薬1万5000発以上を押収、押収時に密売容疑者15人を射殺したといいます。治安部隊員24人を殺害した疑いが持たれており、ペトロ大統領は、治安部隊員を「組織的に殺害」する戦略を立てていたと非難しています。
  • インドネシアの麻薬取締当局は、スマトラ島沖で覚せい剤のメタンフェタミンを約2トン押収したと発表、薬物の押収量としては同国で過去最高規模だといいます。当局は、これらの薬物がゴールデン・トライアングル(黄金の三角地帯)の麻薬シンジケートに関連があるとみています。同地域はミャンマー北東部とタイ、ラオスの一部が接する場所で、日本やニュージーランドなど向けに麻薬を製造してきた長い歴史があり、当局の責任者はロイターに、これらの薬物はインドネシアのほか、マレーシア、フィリピンなど東南アジア諸国にも輸送されていたと説明しているといいます。2025年5月にはインドネシア海軍が、西部の同じ海域で約2トンのメタンフェタミンとコカイン4億2500万ドル相当を積んだ船舶を拿捕しています。インドネシアの麻薬規制法は世界で最も厳格な水準で、麻薬密売には死刑が適用されることもあります
  • 中米コスタリカで、刑務所に外部から麻薬を運んでいたとみられる猫が「逮捕」されています。SNSで「ナルコミチ」(麻薬猫)と名付けられ、注目を浴びているといいます。コスタリカ司法省のフェイスブックやメキシコのメディアによると、コスタリカ東部リモン州の刑務所に侵入しようとしていた猫に職員が近付いたところ、体に何か巻き付けていたため捕獲、大麻235グラムとコカイン67グラムが見つかったといい、何者かが刑務所の受刑者に麻薬を渡すために猫を使ったとみられています。ハトを使って刑務所に麻薬を運ぶ手口は過去にありましたが、気まぐれな猫を訓練するのは至難の業で、これまで成功したかどうかは疑問の声が出ています。猫は「処罰」されることなく、動物保護施設に引き渡されたといいます。

(4)テロリスクを巡る動向

2022年7月に起きた安倍晋三元首相の銃撃事件から3年が経とうとしていますが、ここにきて公判前整理手続きが大詰めを迎え、争点の骨格が見えてきたようです。2025年5月28日付朝日新聞によれば、「弁護側は殺人罪について争わない一方、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)が事件に与えた影響を情状面で主張していく方針。なかでも量刑上のカギを握りそうなのが、銃刀法違反をめぐる争いだ」、「整理手続きで焦点になったのは、教団の影響をどう立証するかだった。弁護側は「正しい量刑判断のためには教団の影響を解明することが不可欠」として、専門家の視点で生い立ちを分析する「情状鑑定」を奈良地裁に請求。だが検察側は教団の問題と犯行の悪質性は分けて考えるべきだと反対し、却下された。これを受けて弁護側は、宗教学者を大阪拘置所に勾留されている山上被告に複数回、面会させた。面会の結果は今後、意見書などの形で証拠化していくとみられる。教団の影響とともに、量刑を決めるうえで大きな争点になりそうなのが、銃刀法違反の成否だ。山上被告は「拳銃等」を公共の場で撃ったという「発射罪」にも問われている。使われた手製銃はそもそも拳銃等に当たるのか―。それがポイントとなる」、「奈良地検は今回の手製銃を「砲」と位置づけているが、4種の明確な定義は同法にない。このため裁判の積み重ねも踏まえた「社会通念」に沿って判別され、おおむね片手で撃てるものが拳銃、両手で持つライフルが小銃と呼ばれている。砲は「口径20ミリ以上のもの」とされるが、それ以上の判断基準はなく、拳銃や小銃などと違って裁判例も乏しい。関係者によると、弁護側は手製銃はむしろ散弾銃に近く、同法の「その他の装薬銃砲」に当たるとして発射罪については無罪を主張する模様だ。この点に弁護側がこだわるのは、発射罪の法定刑が極めて重いからだ。「その他の装薬銃砲」の所持なら懲役3年以下か50万円以下の罰金だが、発射罪は上限が無期懲役と格段に重くなる。殺人罪と合わせれば死刑求刑もあり得るのに対し、弁護側としては、発射罪を落とせれば量刑を大きく減らせる」といった状況のようです。いずれにせよ、3年以上公判が開かれないのは異例であり、量刑だけでなく、この事件の特異性がどこにあるのかなど、今後の動向が注目されます

組織に属さない「ローン・オフェンダー」(LO)らによるテロの発生を防ごうと、警視庁は、東京都内の不動産関連3団体と、不審情報の通報などに関して協定を結んでいます。最近のLOらが関係した事件で、共同住宅の一室を武器や爆発物の製造・管理のために使うケースがあったといい、不動産業者との連携強化で未然防止につなげる狙いがあります。協定を締結したのは、東京都宅地建物取引業協会、全日本不動産協会東京都本部、日本賃貸住宅管理協会東京都支部の3団体で、協定では不動産業者に対して、管理する物件で薬品や火薬の臭いがする、深夜・早朝などでも金属音や工作音がする、大量の薬品瓶が捨てられている、などの不審な情報を把握した場合に通報するよう求めています。警視庁本部で開かれた締結式で、鎌田徹郎・副総監は「不動産事業者と連携してテロや犯罪を許さない住環境作りを実現していきたい」と話しています。関連して、LOによるテロなどの違法行為を未然に防止するため、警察庁は、東京都内で公益社団法人全日本不動産協会幹部に講演しています。異音や異臭など違法行為の前兆となるような情報について、警察への積極的な通報を呼びかけています。講演では、警察庁公安課ローン・オフェンダー等対策室の中村寛室長が、2022年の安倍晋三元首相銃撃事件や2023年の岸田文雄前首相銃撃事件など近年のLOによる事件を紹介、その上で、居住者から不動産事業者に対し、前述したような不審な兆候についての連絡があった場合、事業者から110番通報か、管轄署の警備課に連絡してもらうようお願いしています。全日本不動産協会の竹内秀樹専務理事は「業界団体が一致団結して未然に犯罪を防ぐために周知していきたい」と述べ、中村室長は「過去の事件では近隣の方が、異音に気づいていても連絡していない場合もあり、何かあれば連絡してほしい」と訴えています。筆者の立場から言えば、「不動産事業者における暴排」も同様の取り組みが必要だと感じています。実際、賃貸契約者と実際の居住者の実態が異なるケースがあり、暴力団事務所や特殊詐欺のアジトとして物件が提供されている事例も数多くあります。近隣準民が「怪しい人が数多く出入りしている」「若者らが数多く出入りしている」「1日中、電話をしているような声がする」といった不審な兆候を感じることが可能なケースも多いと推測され、本事例同様、警察への通報につながってほしいものだと思います。

日本では宗教的・政治的な背景をもつ「テロ」というより、「無差別大量殺人」のような形が多く見られます。その要因について、関西国際大学の心理学科コラム「拡大自殺と無差別大量殺人」は参考になります。例えば、「無差別大量殺人の場合、その場で容疑者も自殺することもあれば、自分では死にきれないので、大量に人を殺めることで死刑判決を求めるケースも含まれている。後者は、自殺するにしても、自分ひとりで死ぬのは「あまりにも惨めで、馬鹿馬鹿しい」と考えるタイプである。また、殺害の対象に、普段から恨みを抱いているとは限らず(池田小学校事件)、全く無関係で手当たり次第に殺害することもある(秋葉原事件)。大量に殺すためには、恨みよりも、警戒心のない人が多く集まる場所、殺害が容易な対象を優先して選ぶ(池田小学校事件、川崎のカリタス学院事件、相模原の津久井やまゆり園事件)。そして、被疑者には犯行後の逃走意思が最初からなく、その場で逮捕されるか、自ら出頭する。海外なら警察官に射殺されることもある(この場合には間接自殺と呼ぶ)」、「無差別大量殺人の背景には、自己愛性パーソナリティ障害、反社会性パーソナリティ障害があることが多く、長期の欲求不満、経済的困窮の他、家庭問題や人間関係の悩みを抱えている場合もある。従って、孤立感・絶望感に苛まれ、抑うつ状態になっていてもおかしくない。そして、自暴自棄になり、自らを不遇な状況に追い込んだ社会全体を、最後にあっと驚かせ、一泡吹かせてやろうする。そういう意味では、自分自身を最後に際立たせ、輝かせたいという、自己承認欲求も含まれていると推測される」、「自爆テロ、無理心中、無差別大量殺人をひとくくりにして拡大自殺というカテゴリに入れてしまうことには同意できない。自爆テロは、ジハード(聖戦)と騙されて自己の宗教的階級を高めることと引き換えに実行することが多く、学歴がある若者も少なくない。無理心中の場合は、一方的な思いから相手を巻き添えにして自殺するケースもあるが、この人(子どもなど)をひとりではこの世に残してはおけないという利他的な思いから実行することもある。そういった点で、無差別大量殺人後の容疑者の自殺とは明らかに異なる。彼らは、多くの人を一度に殺害できる場所を優先的に選択し、対象に恨みがあるかどうかは二の次であることが多い。情性欠如で、利他的な要素はかけらもなく、要求不満・他責的傾向・自己顕示欲があり、社会への恨みと復讐心に満ちている」といった点はとりわけ参考になります。2025年5月22日付毎日新聞の記事「「誰でもいい」殺人はなぜ起きる 元家裁調査官が行き着いた答え」においても、同様の分析がなされていると思います。「無差別に人を襲い、容疑者がそう動機を説明する事件が、後を絶たない。…多くの場合、根底に「本当は自分のことをもっと見てほしい」という思いがあるのだと思います」、「。やった本人がどこまで自覚できているかは分かりませんが、何か大きな事件を起こしたらニュースで取り上げられるし、誰かが自分に目を向けてくれる。理解してくれる。そういう期待を持って事件を起こす例は、これまで私が関わった中でもいくつかありました。「誰でもいいから襲いたかった」と言いますが、丁寧に気持ちを聞いていくと、実は家族や周囲に理解してもらえない気持ちを抱いていたケースが多い。本当は「誰でもいいから自分を分かってほしい」のです。「少年院に行きたい」とか「死刑になりたい」と供述するケースも、多くは同じような本音が潜んでいます」というものです。あるいは、2025年6月3日付毎日新聞の記事「「人間と話すのって、いいね」 無差別事件の背景に孤独・孤立?」においても、「経済のグローバル化に伴う非正規雇用の増加、インターネットの普及によるライフスタイルの変化、少子高齢化、未婚化、新型コロナウイルスの感染拡大……。00年以降、地域や職場、家庭といったあらゆる場で人と人とのつながりが希薄化し、孤独を感じたり社会から孤立したりする人が増えたと指摘される。実際、内閣府が24年に実施した調査によると、孤独感があると答えた人の割合は約4割に上った。秋葉原事件から8日で17年。中島教授は「孤独・孤立を放置すれば、今後も深刻な事件が起きかねない」と警鐘を鳴らす」、「「誰でもよかった」事件が、年を追うごとに、ターゲットを具体化させているというのが近年の状況だと思います。…やはり、行政や福祉のサポートが必要です。孤独を抱えた全ての人を救うことは難しくても、救える人は必ずいるはずです。また、「承認のリソース」も欠かせません。承認のリソースとは、社会における自身の価値や存在意義を感じるための基盤のことです。具体的には、「自分はここにいてもいい」と感じられる環境が必要で、家族や職場、同級生といった「強いつながり」だけでなく、趣味仲間や飲み屋でたまに会う人など「弱いつながり」も重要です」といった指摘があり、やはり「テロ対策には社会的包摂の視点が欠かせない」ことを痛感させられます。

国内における最近のテロを巡る報道から、いくつか紹介します。テロあるいはテロ同様の態様の事件への対応のあり方や実効性があらためて問われていることが感じられます。

  • 原子力規制委員会で核セキュリティを担当する長崎晋也委員は、2021年に発覚したテロ対策不備の改善を進めている東京電力柏崎刈羽原子力発電所を視察し、フェンスの新設状況などを確認、終了後の取材に「しっかり対応できていると感じられた。安心した」と評価しています。柏崎刈羽原発では、社員によるIDカードの不正利用や侵入検知設備の故障が相次いで発覚し、規制委は事実上の運転禁止を命令、2023年12月に解除しています。改善策として、立ち入り制限区域を縮小して管理対象者数を限定するほか、複数の生体認証を導入。長崎氏は出入りする人の本人確認をする様子や、侵入を防ぐ設備の運用状況も視察しています。稲垣所長との意見交換では「(対策は)ハードとソフトがかみ合い機能するものだ」と指摘し、現場での意識向上に向けた取り組みも尋ねています
  • 近年、住宅街で銃を発砲し立てこもるといった事件の発生が相次いでいます。80代の被告が殺人未遂などの罪に問われている蕨郵便局(埼玉県蕨市)での立てこもり事件は、国内でも銃による暴力が身近に起こりうることを改めて知らしめました。拳銃所持が厳格に規制されている日本で、発砲事件はなぜ起きるのかについて、さいたま地裁で始まった同被告の裁判員裁判では、検察側は「被告が元暴力団員で、現役時に入手した旧ソ連の軍用拳銃「トカレフ」を事件に使用していた」ことを明らかにしています。発砲の動機については「郵便局や病院との間にトラブルがあり、報復しようと考えた」と指摘しています。押収した拳銃の中には、旧日本陸軍の自動式拳銃「南部14年式」などが含まれていたといい、密輸方法は近年では、国際郵便や現地調達、漁船や貨物船による持ち込みなどが確認されているほか、手製銃や所持許可を得ていた散弾銃などの使用が確認されています。さらに、発砲事件の被告は社会とのつながりが希薄なケースも目立つと毎日新聞は指摘しています。
  • 無施錠の校門から学校に侵入される事件も後を絶ちません。2001年に起きた大阪教育大付属池田小の児童殺傷事件を機に、文部科学省は「原則施錠」を求めてきましたが、2025年5月にも東京都立川市の小学校で傷害事件が起きています。付属池田小事件から6月8日で24年となりますが、教訓が生かされていないのが実態です。立川市の事件では、危機管理マニュアルでは、「正門は施錠しない」と規定されており、児童の遅刻や給食業者の出入りを考慮した措置だといいます。事件後、東京都教委と市教委は各校に校門の施錠を求め、同小はマニュアルの見直しを検討しているといいます。池田小事件で、宅間守・元死刑囚は開放されていた東門から侵入、裁判で「施錠されていたら門を乗り越えてまで侵入しなかった」と述べています。文科省は翌2002年、不審者侵入時の「危機管理マニュアル」を策定し、全国の学校に登下校時以外の校門の施錠を求めました。そして、文科省は事件が起きる度、全国の教育委員会に「原則施錠」の通知を出し、施錠できない場合、警備員を配置したり、校舎を施錠したりするよう求めている一方、実際の判断は市町村教委や各校に委ね、実態の全国調査は行っていません。ある市教委によると、「地域住民の出入りが頻繁」、「交通量が多く、校門前で車を止められない」などの理由で施錠を見送る市立学校があり、市教委も「施錠は困難」と許容しているといい、他の市教委も「保護者ら来訪者が多い学校では、解錠の対応で職員の業務に支障が出る」と無施錠を認めているといいます。「原則施錠」というルールを自ら守らないことで生徒を危険に晒しているのが実態であり、そうした危機意識がなく、利便性や周囲の声に迎合しているままでよいのか、あらためて文科省が強いスタンスを示してもよいのではないかと、筆者は考えます。

海外におけるテロを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。「農業テロ」に関するものなど、大変興味深いといえます。

  • 米連邦検察は農作物に被害をもたらす病原菌を米国に違法に持ち込んだとして、中国籍の男女2人を密輸や共謀などの罪で起訴しています。ロイターによれば、米司法省は持ち込まれた病原菌について、一部の作物に悪影響を与える「赤カビ病」を発症させ、農業テロ兵器に転用できる菌に分類されていると説明、同省は「国家安全保障上、極めて重大な懸念事項だ」と言及しています。男は女が所属する米ミシガン大で研究に使うため、違法と知りながら病原菌を持ち込んだと供述しているといい、FBIの訴状によると、現在中国に滞在している中国籍の男が2024年7月に知人の中国籍の女を訪れた際に病原菌を米国に持ち込んだとされ、男の渡米前から研究内容などについてやり取りしていたことも判明しているといいます。
  • レビット米大統領報道官は、西部コロラド州で2025年6月1日に起きたイスラエル支持を訴えるデモへの襲撃事件に関し容疑者は「不法滞在していた」とし、「トランプ政権はテロを支援する外国人訪問者に一切の容赦をしない」と述べ、不法滞在者による犯罪への対応を強化する方針を改めて示しています。レビット氏は、憎悪犯罪(ヘイトクライム)や殺人未遂の疑いで訴追されたエジプト国籍のモハメド・容疑者が2022年8月にエジプトから観光ビザで入国したと説明、ビザの期限が切れた後も滞在を続け、亡命を申請してバイデン前政権から労働許可を得ていたとして同政権の対応を批判しています。襲撃事件はイスラム原理主義組織ハマスに拘束されている人質の解放を求めるデモの参加者らに容疑者が火炎瓶を投げつけ、12人が負傷したもので、米連邦捜査局(FBI)によれば、容疑者は1年前からイスラエル支持者への攻撃を計画していたとされます。イスラエルを巡っては、5月に米首都ワシントンのユダヤ博物館でイスラエル大使館の職員2人が銃撃されて死亡する事件も起きており、レビット氏は不法移民対策を強化する必要性を主張し、不法滞在者による犯罪の取り締まりや強制送還を進める考えを示しています。
  • スウェーデンの治安機関SAPOは、国内のテロ脅威レベルを5段階評価の上から3番目の「高まった(elevated)」に引き下げたと発表しています。SAPOは2023年、スウェーデン国内の反イスラム活動家によるコーラン焼却事件がイスラム教徒から激しい反発を招いたことを受けて、脅威レベルを上から2番目の「高い(high)」に引き上げていたものです。SAPOはスウェーデンが過激派の標的として名指しされていた時期があったものの、現在はより一般的な「西側諸国の一部」として扱われる傾向が強まっていると指摘、SAPOのフォンエッセン長官は「スウェーデンは国際的な暴力イスラム主義勢力にとって、もはや以前のような最優先の標的ではなくなった」との見方を示し、「伝統的な意味での暴力的過激主義による攻撃の脅威は以前ほど高くはない」と述べています。その一方で、スウェーデンが攻撃の脅威から完全に解放されたわけではなく、テロ脅威レベルの評価にかかわらず攻撃は常に起こり得ると強調しています。
  • ドイツ内務省は、同国内で2024年に確認された政治的な動機による犯罪が2023年比40%増の約84000件に上り、2001年の調査開始以降、最高だったと発表しています。右翼的な思想が動機とみられる犯罪が大きく増え、全体の半数を占めたといいます。政治的な分極化や過激化が背景にあるとみて、取り締まりの強化などを進める方針としています。内務省の動機の分類によると、右翼的な思想が約42700件、左翼的な思想が約9900件、このほかは外国や宗教に関するものなどとなっており、とくに右翼的な思想が動機とみられる犯罪が前年から48%増と大きく増えています。ドブリント内相は「民主主義に対する最大の脅威は、右翼過激主義から来ている」と指摘しています。国内では極右政党が台頭していますが、会見では直接的な因果関係については言及されませんでした。政治的な動機による犯罪には、政治家への暴力や選挙ポスターなどの器物損壊、ヘイトクライム、憲法に反する反民主主義的な組織の宣伝などが含まれ、件数は過去10年で2倍以上になっており、政治的な扇動にも利用されるソーシャルメディアの普及なども影響しているとみられています。2024年は、欧州議会選などで選挙関連の犯罪が前年比約5倍の11700件と増えたことも影響したほか、イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が始まった2023年10月以降、中東での紛争の関連とみられる犯罪も増えており、2024年は同68%増の7300件に上りました。反ユダヤ主義が動機とみられるヘイトクライムなども増えており、ナチス・ドイツによるホロコースト(ユダヤ人大虐殺)の過去があるだけに、ドブリント氏は「ドイツの歴史的な責任を考えれば、決して容認できるものではない」と述べ、警戒感を示しています。また、ドイツ検察は、極右のテロ組織に参加し、難民への襲撃を企てた疑いなどで、10代の少年ら5人を逮捕したと発表しています。ドイツでは過激な極右勢力に参加する若者が増え、社会問題となっています。報道によれば、テロ組織は2024年4月ごろに設立され、「難民や政治的な敵対者への襲撃を通じ、ドイツの民主主義体制を崩壊させる」ことを狙っており、少年らは難民申請者の滞在施設への放火を実行したり、計画したりしたとされ、殺人未遂や放火などの容疑でも調べが進められているといいます。フービッヒ法相は声明で、逮捕された5人全員がテロ組織の結成当時、未成年だったことが「特に衝撃的だ」と述べ、若者の過激化を防ぐ政策の必要性を訴えています。また、ドブリント内相は21日、事件について「これまで、我々が大きな懸念を抱いていた現象だ」と述べ、ネットなどで結びついた若者たちが急進的な右翼思想に触発され、過激化することに強い警戒感を示しています。
  • イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)は、声明を出し、シリア暫定政府軍を攻撃したと発表しています。テロ組織監視団体SITEなどによると、ISがシリア暫定政府に対する攻撃を主張するのは2024年12月のアサド政権崩壊後初めてとなります。ISは、シリア南部スウェイダ県で軍の車両に爆発物を仕掛けたと主張、在英のシリア人権監視団によると、砂漠地帯で、遠隔操作型の地雷によって部隊の3人が負傷したほか、軍に同行していた男性が死亡しています。
  • インドのモディ首相は、パキスタンが「救済「を望むのであれば、自国の「テロリストのインフラ」を排除する必要があるとの考えを示しています。モディ首相は「パキスタンとの対話は、テロを巡る問題に限定される」とし、国際社会にもこれを伝えるとも述べています。係争地カシミール地方のインド側で4月下旬に発生した観光客襲撃事件を受け、インドはパキスタンのテロリスト施設を攻撃したと発表、トランプ米大統領は、米国の仲介による協議の末、双方が停戦に合意したと発表しています。
  • ポリオ(小児まひ)の根絶に向けた取り組みが続くパキスタンで、再び感染拡大の恐れが出ています。2025年6月に入り、これまでに流行が収束していた地域でも新たな感染が報告されています。パキスタンでは、政府などが主導して、子どもを対象にポリオ根絶に向けたワクチン接種キャンペーンを実施していますが、感染はむしろ拡大傾向にあります。2024年は73件が確認され、2021年の1件から急増、背景には、長年の「反ワクチン」運動が関係しているとされます。「ワクチンは西側の陰謀で、子どもを不妊化してしまう」といった主張を信じて、接種を拒む人も少なくないといいます。さらに、パキスタンでは、2011年に国内で米軍に殺害された国際テロ組織アルカイダのウサマ・ビンラディン容疑者の捜索に際して、米国が予防接種を装って諜報活動を行ったとされ、そのため、ワクチン接種の従事者や警護員らを標的としたイスラム武装勢力によるテロ攻撃が後を絶たない状況にあります。米紙WPによると、テロは近年増加し、2024年だけで少なくとも20件の襲撃事件があったといい、特に国の南西部でテロが増え、ワクチン接種が進まないために感染が急拡大しているとの見方もあります。
  • インドネシアのイスラム過激派組織ジェマ・イスラミア(JI)のパラ・ウィジャヤント元最高指導者が仮釈放されています。JIは2024年6月に解散を発表、動向が注視されています。報道によれば、仮釈放は2025年5月27日付で、JIは日本人を含む200人以上が死亡した2002年のバリ島爆弾テロの実行組織で、パラ氏は2008年に最高指導者となりました。反テロ法違反容疑で逮捕され、2020年に禁錮7年の判決を受けていました。パラ氏は2013~18年、戦闘経験や訓練などを目的に100人近いJI構成員をシリア内戦に派遣しましたが、解散発表後、警察監視の下で脱過激化と非暴力を元構成員に説いています。

(5)犯罪インフラを巡る動向

物件を所有する不動産会社代表になりすまして土地取引をもちかけ、売買代金計約14億5000万円をだまし取ったとされる「地面師」事件で、グループ側が、不動産会社代表に金を貸したとする虚偽の「借用書」を役所に提出し、代表の住民票の写しを入手していたことが分かったといいます。法律上、本人でなくても訴訟提起などの必要性が認められれば写しが交付される制度を悪用した格好です。グループ側は(1)入手した住民票記載の個人情報を基に、(2)偽の運転免許証を作成し、(3)それを利用して代表になりすまして印鑑登録を勝手に変更、(4)「正規」の印鑑登録証明書を入手、さらに、(5)その印鑑登録証明書や偽の株主総会の議事録を法務局に提出し、登記簿の内容も変更、結果的にグループ側は、自らを物件所有者と示す公的書類を入手、これらを用いつつ、グループの一人が「(本来の所有者の)おいにあたる」などと交渉相手に嘘をいい、土地取引を持ち掛けていたというものです。報道で大阪市は、提出された借用書などの記載内容の確認は行うが、原則、当事者への連絡などは行わないと説明しています。「地面師」グループが売買をもちかけた3つの土地・建物は、いずれも地価が高騰する大阪・ミナミの繁華街に位置する好物件で、転売での利益も期待できるため、購入希望者が多く、不動産業界の「われ先に」との心理が利用された可能性があります。

盗難が相次ぐトヨタ自動車「アルファード」など高級車がナンバープレートを付け替えられ不正に流通している疑いが浮上しています。警視庁が盗難車を別の車と偽って運輸局に登録したとされる自動車整備会社を摘発、車の一部は暴力団組員が使っていたことが判明しました。報道によれば、容疑者らは盗難車の車台番号が打刻された部分のパーツを、オークションなどで入手した別の車のものに取り換え、虚偽の車台番号に基づいて運輸局にナンバープレートを申請し、不正取得していたとされます。車は住吉会傘下組織系組員が乗っており、2023年に都内の暴力団事務所に車が突っ込む事件があり、使われたのが盗難車と判明、流通ルートの捜査でナンバーの付け替えが判明したといいます。突かれたのは、車の登録申請やナンバーの取得に関わる「封印委託」と呼ばれる制度の隙だといいます。道路運送車両法などによると、新規にナンバーを取得する際には原則として所有者が車を運輸局に持ち込む必要があり、ナンバープレートを取り付ける作業は「封印」と呼ばれ、これも原則は国が行うと定められていますが、全ての車を運輸局に持ち込み手続きを進めるのは所有者、運輸局側双方の事務負担が大きく、一定の要件を満たした団体や販売店に封印作業などを委託できる制度が1951年に導入されました。委託が認められた業者は車を運輸局に持参しなくても、書類上の手続きでナンバーの申請・取得を済ませられることになりました。警視庁は容疑者が暴力団側と結託し、運輸局の審査を免れるために封印委託を不正に使ったとみて調べています

ベトナム科学技術省は2025年5月、同国の通信サービス事業者に対し、メッセージングアプリ「テレグラム」を遮断するよう命令しています。テレグラムの利用者によるものと疑われる犯罪の捜査に協力しなかったためだといいます。文書は通信事業者に、テレグラムを利用できないようにする措置を講じた上で、結果2025年を6月2日までに科学技術省に報告するよう命じています。文書によれば、警察は同国におけるテレグラムの9600件に及ぶチャンネルとグループの68%はアプリを通じて詐欺、薬物の密売など違法行為を手がけており、テロとの関連が疑われる事案もあるとしています。文書は、違法なコンテンツを監視、削除、阻止するようソーシャルメディアに義務付けた法律をテレグラムが順守しなかったと非難、科学技術省の担当者はこの措置について、政府が犯罪捜査の一環として求めたユーザーデータの共有にテレグラムが応じなかったことを受けたものだと説明しています。

特殊詐欺等の金融犯罪やトクリュウの関与する犯罪における犯罪インフラの最新の状況について、いくつか紹介します。

  • 政府の個人情報保護委員会は、特殊詐欺グループの一員とみられる人物に個人情報を提供していた東京都中野区の名簿販売会社「ビジネスプランニング」に対し、個人情報保護法に基づき、不適正な提供を中止させる緊急命令を出したと発表、同法に基づく緊急命令が出るのは初めてで、特殊詐欺グループの利用など取引の悪質性を問題視した結果となります。同委への届け出によると、同社はインターネット上の公開情報の閲覧や、市販されている電話帳の購入などから個人情報を収集、販売していますが、同委は、警察から「特殊詐欺グループの被疑者から、ビジネスプランニングの銀行口座に送金があった」との情報提供を受け、4月に同社に立ち入り検査を実施していました。同社は2023年5月から2024年10月にかけて、違法行為に利用される可能性を認識しながら、被疑者とされる人物に全国の高齢者らの氏名や電話番号などを複数回にわたり販売していたもので、販売された個人情報の件数や、実際に特殊詐欺に悪用されたかは明らかでないといいます。同法は、個人の重大な権利が侵害され緊急の措置が必要な時、同委は個人情報取扱事業者に違反行為の中止を命令できるとしています。同委は、同社に個人情報を提供された高齢者らが特殊詐欺グループから連絡される可能性があり、平穏な生活を送る権利が侵害されているとして、緊急命令に踏み切りました。
  • 不動産の内覧を装って上がり込んだアパートの空き部屋で、特殊詐欺の被害金を受け取ったとして、警視庁は準暴力団「打越スペクター」のメンバーとみられる容疑者らを逮捕しています。同様の手口は全国でおよそ60件確認され、被害総額は4億4000万円に上っているということで、警視庁は関連についても調べています。報道によれば、2024年2月、足立区に住む80代の女性に対し息子を装って「税金を滞納して口座が凍結された」などとうその電話をかけて、現金600万円を宅配便で送らせたとして詐欺の疑いが持たれています。現金の送り先として指定されたのは都内の賃貸アパートの空き部屋でしたが、容疑者らは架空の不動産会社を名乗って管理会社に内覧を申し込み、現金の受け取り場所として悪用していたとみられています
  • 特殊詐欺に関与したとして、警視庁と宮城県警の合同捜査本部が、住所不定、職業不詳の男ら3人を詐欺容疑で逮捕しています。男らのグループは2025年1月以降、東京や大阪、千葉など7都府県の民泊施設14か所を転々としながら、詐欺の電話をかける「かけ子」をしていたといいます。また、報道によれば、男らは宿泊サイトで民泊施設を予約し、約1週間ごとに拠点を変えていたといいます。捜査員らが潜伏先の千葉県内の民泊施設を捜索したところ、詐欺に使ったとみられるスマホ約15台が見つかっています。
  • 会社名義の口座を不正に買い取ったなどとして、大阪府警サイバー犯罪捜査課は、犯罪収益移転防止法違反の疑いで、韓国籍の自営業、金容疑者を逮捕しています。大阪府警は金容疑者が、特殊詐欺などを繰り返すトクリュウに銀行口座などを提供する「道具屋」だったとみているといいます。逮捕容疑は共謀し、2023年9~10月、知人の30代男性に指示して、コンサルタント会社名義の3つの銀行口座のキャッシュカードや暗証番号などを買い取ったとしています。2024年1月、大阪府内に住む20代男性の銀行口座が不正にアクセスされ、約90万円が流出する事件が発生、送金先がこの会社名義の口座だったことから、府警が経緯を捜査していたもので、金容疑者はほかにも口座を買い取り、「犯罪インフラ」として不正アクセスや特殊詐欺の被害金の送金先口座として使用させていた可能性があるといい、詳しい経緯を調べているといいます。
  • JR新橋駅周辺で「酒に酔って寝ている間にクレジットカードを勝手に使われた」といった相談が急増し、警視庁愛宕署に寄せられた相談は2024年1年間で400件を超え、2025年はそれを上回るペースで増えているといいます。ある雑居ビルには、各階にあるキャバクラやガールズバーの看板が掲げられているが、なぜか2階だけ空白になっており、このビルのエレベーターで2階のボタンを押しても反応がなく、止まらないといい、空きテナントに見えるこの2階が、実は頻繁にクレカ不正利用のトラブルが起きる「現場」のひとつだといい、普段は閉まっていて、看板も出していないといいます。客引きが客を連れて行くときだけ、バーとして営業しているとみられています。筆者も、エレベーターのとまらないフロアがある雑居ビルを調査した結果、暴力団関係者とのつながりが認められたことがあります。

法人税約3200万円を脱税したとして、東京国税局が通信関連会社「ワールドネット」と同社の代表取締役を法人税法違反の容疑で東京地検に告発しています。携帯電話の「かけ放題」を悪用し、異なる通信事業者間での通話に発生する接続料を意図的に増やす「トラフィック・ポンピング」で得た利益を圧縮したとみられています。異なる通信事業者間で電話をかけた際には、発信側の事業者が着信側の事業者に通話時間に応じた接続料を支払う仕組みがあり、着信側は他社からの電話が多いほど収入が増えるため、利用者に他社の「かけ放題」プラン(定額)に契約してもらって自社への通信量を増やし、その報酬として「着信インセンティブ」を利用者側に支払う事業者が現れています。こうした行為は「トラフィック・ポンピング」と呼ばれています。トラフィック・ポンピングを巡っては、総務省が2022年末頃から対策の議論を始め、2024年9月にガイドラインで禁止を明文化、同省は「詐欺的な行為で不適正」としています。

一部のネット広告が犯罪組織の資金源になっていることは、本コラムでもたびたび指摘してきるところです。2025年6月4日付朝日新聞の記事「ネット広告、企業の無関心が民主主義を壊す? 経営層に足りぬ危機感」で、専門家が的確に指摘しており、大変参考になりましたので、一部紹介します。例えば、「スマホやパソコンに、次々に現れるネット広告。時に怪しげなウェブサイトに大手企業の広告が表示されることもあります。こうした現状がなぜなかなか改善しないのか」、「広告主である企業の立場から、ネット広告の健全化に取り組んできました。依然として状況が改善しないなか、深刻な課題と捉えているのは、企業側の意識がとても低いことです。たとえば詐欺まがいのサイトに自社の広告が出てしまえばブランドイメージを損なうばかりか、犯罪集団に資金を提供していることになりかねません。企業にとっては、決して看過すべきではない事態です。一方で、ネット広告の仕組みはとても複雑です。自社の広告が、どのサイトにいつ、どんなふうに掲載されたのかを広告主が正確に把握することが、とても難しいのが現実なんです。逆に言うと、問題のあるサイトに自社の広告が出ても、気づかないし、世間からバッシングされない。そのため、広告主である企業の経営層が、テレビCMほどにはネット広告に関心を持たないのです。とはいえ、どんなサイトでも、とにかく広告の閲覧数だけ稼げればいいというのでは、あまりにも企業として無責任でしょう。従来とは異なる知識やスキルが要求されるネット広告の世界で責任を果たすためには、日ごとに進化していく技術に太刀打ちできるプロフェッショナルな人材を社外から招いたり、社内で育てたりして対策することが大切だと思います。それにはもちろんお金がかかります。企業の経営層が、ネット広告の問題を経営課題として認識し、そこにリソースを割く決断をする必要があります。海外のグローバル企業と比べると、国内の動きはあまりにも遅々としています」、「ネットではクチコミ情報がSNSなどで大量に流れ、メディアも多様化する中、テレビCMだけでブランドを作るのがとても難しい。むしろ企業の総合力、本質的な価値が問われる時代になっています。アクセス稼ぎのために取材をせずAIなどで量産される低品質な記事や、偽情報サイトなどに広告費が流れる一方、新聞やテレビのように、取材に手間暇をかけて報道するクオリティーメディアが収益化に苦労しているのも看過できません。私たち広告主の無関心や無策が民主主義を壊してしまうのではないかと、現状をとても危惧しています」というものです。

世界自然保護基金(WWF)ジャパンと中央大が、絶滅が危惧されて国際的に漁獲制限が行われているウナギに関する最新研究結果を公表、それによると、世界各国で稚魚の違法取引が後を絶たず、日本国内で流通する中国産ウナギはこれまで主流だったニホンウナギだけではなく、北米原産種が多くを占めるようになっており、世界中で繰り広げられている「ウナギ争奪戦」が犯罪組織の資金源になっているとの指摘もあり、「絶滅危惧種なのになぜ食べるのかと、和食の否定に結び付くことを危惧している」とWWFジャパンの植松周平氏は強調しています。稚魚は大群で接岸したところを網などで簡単に捕獲できるため、違法漁業の標的になりやすく、香港のウナギ養殖には、マフィアが関わっているという指摘もあります。EUが2010年にヨーロッパウナギの輸出入を禁止し、同時期にニホンウナギの不漁が重なったことで、以降は密輸やヨーロッパナギ以外の需要が増加、植松氏は「ウナギを大量消費する日本が、知らないうちに違法な漁業を支えてしまっている可能性がある」と指摘している点は、日本人として認識しておくべきことだと思います。

全国の警察が2024年1年間に相談を受けたストーカー事案のうち、GPS(全地球測位システム)機器や「紛失防止タグ」で居場所を特定されたとの申告が計883件に上ったことがわかりました。特に紛失防止タグの悪用が急増しており、同庁は法規制を検討しているといいます。警察庁がGPS機器や米アップル社の「Air Tag」などの紛失防止装置で居場所を特定する行為に関する被害相談を分析した結果、2024年は883件で2023年(682件)の約3割増となりました。紛失防止タグはこのうち370件で、2023年(196件)の2倍近くに急増しています。2021年に改正されたストーカー規制法では、相手の車や所持品に無断でGPS機器を取り付ける行為などを禁じており、この規定に基づく2024年の摘発件数は39件に上りました。一方、タグの近くを通行した他人のスマホを介して位置を送信する仕組みの紛失防止タグは、同法の規制対象外になっています。企業側は不正対策として、紛失防止タグを仕掛けられた被害者のスマホにタグと一緒に移動していることを通知する仕組みや、持ち主から離れたタグから自動的に音が鳴る機能を導入していますが、悪用はいまだ続いており、警察庁は紛失防止タグを規制対象とすることを視野に、同法改正の検討を進めています。関連して、子供を犯罪から守るためのGPS機器が悪用されるストーカー事件が発生しています。男が一方的に好意を募らせた相手の自転車にGPS機器をひそかに設置し、位置情報が男に通知されるようにしていたものです。女性の自転車には、気付かぬ間に子供の見守り用GPS機器が取り付けられており、子供が学校や塾といった指定の場所に到着すると、保護者のスマホに通知が届くように設定できるほか、寄り道を防止するためにアプリ上の地図で移動経路も確認でき、通ったルートは数カ月間、保存されるといいます。また、前住所に送った封筒入りのGPS機器が転送されることで、新住所を把握しようとしたとみられています。また、鍵や財布といった貴重品に取り付ける米アップルの「Air Tag」が悪用された事例もあります。

国内で2024年に出荷された太陽光パネルの約95%が海外製であることが産経新聞の集計で分かりました(2025年5月21日付産経新聞)。うち8割超を中国製が占めるとみられ、国内流通分のほとんどを依存している状況が浮き彫りになりました。中国製の太陽光発電システムを巡っては、一部で送電網に障害を引き起こす恐れがある不審な通信機器が搭載されていたと報じられており、安全保障上の観点からも重大な懸念を孕んでいるといえます。欧米で複数製品から仕様書に記載のない不審な通信機器が見つかったとロイター通信が報じています。遠隔操作で送電網に不具合を生じさせ、広域停電を引き起こす恐れもあるといいます。安全保障上の懸念は極めて大きく、日本政府は国内で流通するパネルを含む中国製品で同じような事案がないか確認を進めています。日本が脱炭素社会を目指す上で太陽光発電は欠かせず、政府は従来取り組む脱中国化を念頭に置いた関連製品の輸入先の多角化や、国内企業による次世代型の「ペロブスカイト太陽電池」の開発支援などを急ぐ必要があります。

クレジットカードの不正利用に関する手口について最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 犯罪組織が不正入手したクレジットカード情報を利用する際、「キャリア決済」と呼ばれる決済手段を使う手口が問題となっています。キャリア決済は、商品購入代金を月々の携帯電話料金とまとめて支払うことができるサービスで、インターネットでの買い物の際、カード番号を入力する手間がないことなどが利点ですが、警視庁は2025年5月、キャリア決済でオンラインゲーム内の通貨を不正購入したとして、ベトナム国籍の男を電子計算機使用詐欺容疑で書類送検していますが、男は同決済の支払い方法に他人のカード情報をひも付けていました。キャリア決済は、商品購入のたびにカードの名義人に利用通知が届く仕組みにはなっていません。男はベトナム人犯罪組織のメンバーで、同決済を悪用することで、不正利用の発覚を遅らせようとしたとみられています。被告はベトナムを拠点とした犯罪グループの指示役から、ゲーム利用者のIDとパスワードを入手してゲームにログイン、ゲーム内の通貨を購入する「課金代行」をしていたとみられています。指示役は、ゲーム通貨を安く入手したい利用者を募り、不正購入した額から2割引いた額を利用者から報酬として取得、少なくとも2023年7月~2025年1月、月200万~300万円程度を売り上げていたといい、被告は月15万~20万円を生活費としてグループから受け取っていたとみられています。一部の通信事業者はカード情報を登録する際に多要素認証を導入しておらず、不正なカード情報で登録できるほか、SIMカードの利用に応じて、月当たりの上限額が10万~20万円程度まで引き上がる仕組みとなっています。被告らのグループは上限額が高くなったSIMカードを「ヌォイ(ベトナム語で『育てる』の意味)シム」と呼び、利用料金を一定期間、適正に支払ってから通貨購入に使っていたといいます。今回、カード情報が使われた3人のうち2人は以前に不正利用された後に再発行したカードでも被害に遭っていたといいます。携帯や公共料金などの決済はカード会社が自動的に引き継ぐサービスがあるためで、犯罪グループはこうした点も熟知していたとみられています。なお、自宅からは他人名義の携帯電話169台、SIMカード1228枚のほか、他人名義のクレカが約400枚見つかったといいます。
  • イオンカードで99億円の被害が生じた大規模な不正利用は、クレジットカードの「オフライン決済」(オーソリゼーションを省略・後回しにする仕組み。一定の金額以下の取引で信用情報を照会せずに決済を承認する)が狙われたものでした。決済時間を短縮し加盟店側の負担を軽くする利点がありますが、犯罪集団がスマホの「機内モード」を併せて悪用すると詐欺行為を止めにくい状況です。利用者は決済にかかる時間を短縮できるメリットがあり、カード会社や加盟店も信用情報の照会に必要な手数料や通信量を減らせるメリットがあり、高速道路の自動料金収受システム(ETC)やレジ前の行列を避けたい小売店でニーズがあるとされます。イオンカードがベトナム人集団に狙われた詐欺事件では、このオフライン決済の隙を突かれ、他人のクレカ情報をスマホの決済アプリへ連携させたうえ、通信が遮断される機内モードに設定していたといいます。不正利用の疑いがあるとしてクレカの利用を止めた場合でも、機内モードにしたスマホは外部からアクセスできず、決済アプリは使える状態が維持され、持ち主側からは実質的に打つ手がない状態となっています。犯罪集団はクレカや口座に関する認証情報をネット上で売買しており、まずは情報を盗まれないようにすることが大切で、警察などは不審なメールを開かず、ブラウザーのブックマークからサイトを訪問するといった基礎的な対策を呼びかけています。カード番号の規則性から電子商取引(EC)サイトで総当たり的に数字を入力し、実在する番号を割り出す「クレジットマスター攻撃」も脅威となっているほか、ECサイトに不正なプログラムを組み込み情報を盗む「ウェブスキミング」という手法も現れています。
  • オフライン決済では、加熱式たばこを不正購入したとして、コンビニ経営者らが逮捕された事件でも悪用されています。非接触決済サービス「Apple Pay iD」を不正利用されてもクレジットカードを停止できないという仕組みが悪用されました。警視庁犯罪収益対策課などによると、同サービスは不正利用が確認された場合、カード会社がオンラインで遠隔操作し、登録されたカードを無効化して利用できないようにすることができますが、犯罪組織などがスマホを機内モードに設定して、電波を遮断すると、カード会社はカードを無効化することができず、不正利用を止められず、被害拡大が続くことになるものです。逮捕されたコンビニ経営者らはこの仕組みを悪用し、オフライン決済で加熱式たばこの購入を繰り返しており、この店舗の被害額は半年間で約1億円に上るとみられています。新宿区内の別のコンビニでも2月、他人のカード情報を登録した交通系ICカードでたばこを不正購入したとして、中国籍の男2人が逮捕されました。この店舗でも被害は計約4500万円に上っており、警視庁はいずれの事件でも不正転売組織が背後にいるとみて、実態解明を進めています。

SMS認証の悪用への対応について、総務省で検討が進んでいます。

▼総務省 デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会 デジタル空間における情報流通に係る制度ワーキンググループ(第9回)配付資料
▼資料9-1 警察庁ご発表資料
  • SNSアカウント登録におけるSMS認証の課題
    • SNSのアカウント登録に際して、SMS認証を用いている事業者は現にあるところ、不正に取得した携帯電話番号、本人確認がなされていないSMS機能付きデータ通信専用SIMの電話番号、海外の電話番号が認証に用いられていたり、SMS認証代行業者を利用して登録がなされている実態があり、SMS認証による「本人確認」では、真の利用者の特定に課題がある。
  • SMS認証に用いられている電話番号
    1. 不正に取得した電話番号
      • 本人確認書類の券面の偽変造による不正契約等により携帯電話をだまし取る詐欺や、自己名義の携帯電話を他人に譲渡するなどの携帯電話不正利用防止法違反行為により不正に取得した電話番号を使用して、SMS認証が行われている実態
      • 課題
        • 本人確認記書類が偽変造されていた場合、真の利用者(被疑者)の特定は困難
        • 匿名性の高いSNSを利用して譲渡が行われていた場合、真の利用者(被疑者)の特定は困難
    2. SMS機能付きデータ通信専用SIM
      • SNS型投資・ロマンス詐欺に利用されたSNSアカウントに紐付けられた電話番号の中には、SMS機能付きデータ通信専用SIMの電話番号が用いられている実態があり、本人確認がなされていないものを確認
      • 課題
        • 本人確認を実施していない事業者については、本人確認記録がないため、利用者(被疑者)の特定は困難
    3. 海外電話番号
      • SNS型投資・ロマンス詐欺に利用されたSNSのアカウントに紐付けられた電話番号を対象にした調査(調査期間 R6年4~9月)では、把握できた電話番号1485件のうち956件(約64%)が海外電話番号を用いてSMS認証が行われている実態
      • 課題
        • 利用者の特定のためには、海外電話番号を管理する海外事業者に照会をする必要があるが、回答を得られるまでの期間や回答が得られるかについて課題あり。
    4. SMS認証代行業者の番号
      • アカウント登録時、真の利用者(被疑者)に自己が管理する電話番号と認証コードを提供し、真の利用者が本人確認(SMS認証)をすり抜けることを可能にさせる「SMS認証代行」が存在。
      • 課題
        • SMS認証代行業者を特定出来たとしても、真の利用者(被疑者)の特定は困難
        • SMS認証代行業者の特定すら困難な場合あり
  • 今後の検討に対する警察としての要望
    • SNSアカウントの登録時にSMS認証を実施したとしても、不正な方法で取得された携帯電話番号の利用や本人確認が不要なSMS機能付きデータ通信専用SIMの利用等により、SNSアカウントに紐付く携帯電話番号の真の利用者にたどりつくことは困難なのが実態であり、匿名・流動型犯罪グループは、こうした手法によりその匿名性を担保。
    • SNSアカウントの本人確認の厳格化のみで全てが解決するわけではないが、アカウント開設時に公的個人認証を求めたり、本人確認を行った国内電話番号の登録を求めたりすることや、SMS機能付きデータ通信専用SIM契約時の本人確認義務付けに関して検討を進めるなどの対策を行う必要があるのではないか。

本コラムでその動向を注視してきた、サイバー攻撃に先手を打って被害を防ぐ「能動的サイバー防御」導入に向けた関連法案が参院本会議で与野党の賛成多数で可決、成立しました。政府は、国内外でサイバー攻撃が相次ぐ現状を踏まえて防御体制の整備を急ぎ、司令塔となる新組織「国家サイバー統括室」を7月にも発足させる方向です。法案は、「官民連携の強化」「通信情報の利用」「侵入・無害化措置の実施」の3本が柱となり、外国が関与する通信情報を平時から国が監視し、電気や鉄道など基幹インフラへのサイバー攻撃を警察や自衛隊が未然に無害化できるようになります。国会審議では、サイバー攻撃の脅威が高まる中、野党もおおむね法案に対して理解を示していたものの、憲法21条に規定された「通信の秘密」を巡り、立憲民主党、日本維新の会が衆院で修正を求めたため政府は当初の政府案を修正し、通信の秘密の尊重規定や第三者機関による国会報告事項の具体化などを盛り込みまし。国家サイバー統括室は、内閣官房に設置されている「内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)」を発展的に改組、警察や自衛隊の連携を調整し、民間企業との情報共有にも携わることを想定、事務次官級の「内閣サイバー官」をトップに据える方向です。また、政府側の活動をチェックする独立機関で多くの専門家を擁することが求められることになります。制度が本格的に始動する2027年度までに人材を確保、育成できるかが課題となります。サイバー攻撃への対応に特化した自衛隊の専門部隊は2023年度末時点で約2000人にとどまり、2027年度までに倍の約4000人に拡充する方針を掲げていますが、サイバー攻撃が増加する中、官民の人材争奪戦は激しさを増すことが想定され、待遇面では国をはるかに上回る民間企業も多く、報酬の桁が違うこともあるなど人材獲得競争は熾烈なものとなります。また、約4000人を集められたとしても、中国(約30000人)や北朝鮮(約6800人)に比べると少なく、政府は、防衛省のある東京・市谷に自衛隊と警察の合同拠点を作るなど、連携を円滑化し、限られた人材を有効に活用したい考えです。憲法が保障する「通信の秘密」との兼ね合いを担保するために新設される独立機関「サイバー通信情報監理委員会」にも人材は必要で、警察や自衛隊による侵入・無害化措置を承認したり、政府の通信情報監視状況が適切かをチェックしたりする役割が求められます。さらに、「守りから攻め」に転じる体制づくりのカギは民間組織との連携となります。従来のサイバー対策は被害が発生してから対処する警察主体の事件捜査が主でしたが、関連法の成立で、サイバーセキュリティ政策は新たな領域に入ることになります。ロシアによるウクライナ侵略では、武力とサイバー攻撃を組み合わせた歴史上初めてとされる大規模なハイブリッド戦が繰り広げられています。また、台湾では国家の分断を狙ったとみられるSNSの偽情報にさらされ、政府が中国の関与と指摘、日本でも2025年1月、(中国政府の関与が疑われる組織的活動を背景とした)中国系ハッカー集団が先端技術や安全保障に関連する企業や団体を標的とした大規模なサイバー攻撃が発覚し、警察庁が注意を呼びかけています。そうした中、未知数なことは多く、例えば、全体量の3割を上限とした国際海底ケーブルに流れる通信監視で、攻撃者の動向がどこまでつかめるのか、ハッカーの攻撃を断つため国内外のサーバーに侵入することが実際にできるのかなどが挙げられます。他方、外国政府の介入やハッカーからの反撃など一定のリスクを覚悟する必要があり、これまで以上に欧米との密接な連携や情報の分析能力が求められることになります。官民連携が重要といっても、ある大手通信事業者幹部は、「民間から情報を一方的に吸い上げるだけにしか見えない。具体的なメリットが見えず、政府にどこまで協力すべきか様子見の段階だ」との指摘があり、政府も民間との情報共有のための協議会設置を予定するが、基幹インフラ事業者や機器の製造・販売業者を主な対象にしており、民間の幅広い知見を生かせるとは言い切れない枠組みとなっています。このままでは「官民連携の強化」が絵に描いた餅になりかねない可能性があります。

▼サイバーセキュリティ戦略本部 第43回会合(令和7年5月29日)
▼サイバー空間を巡る脅威に対応するため喫緊に取り組むべき事項
  • サイバーセキュリティに係る新たな司令塔機能の確立
    • 内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)は、「国家安全保障戦略」において、サイバー安全保障分野の政策を一元的に総合調整する新たな組織(以下「新組織」)に発展的に改組することとされているところ、サイバーセキュリティ基本法等に基づくサイバーセキュリティの確保に係る総合調整も含め、その役割を拡充し、我が国のサイバーセキュリティに係る官民の対応力を結集し、主導する司令塔の役割を担うこととなる。
    • 近年、大きな脅威となっている、国や重要インフラ等に対するサイバー攻撃キャンペーンに対しては、安全保障上の影響度を考慮しつつ、サイバー脅威に関する全ての利用可能な情報による付加価値の高い分析を行うとともに、攻撃に関する技術・背景情報等に係る同盟国・同志国等との情報協力や攻撃者の特定等の国際連携、及び官民双方向の情報共有等の官民連携を強力に進め、悪用された脆弱性や攻撃手法に係る迅速かつ効果的な情報提供・注意喚起等、被害の未然防止・拡大防止を含めた対応を行うとともに、将来の脅威に備える必要がある。
    • このため、政府の司令塔として対応を主導する新組織を中心に、関係府省庁や公的関係機関(国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)等)、一般社団法人JPCERTコーディネーションセンター(JPCERT/CC)、一般財団法人日本サイバー犯罪対策センター(JC3)等の民間団体、民間事業者等が連携し、AI等の先端技術の活用を含め、高度な情報収集・分析能力を担う体制・基盤・人材等を総合的に整備する。
  • 巧妙化・高度化するサイバー攻撃に対する官民の対策・連携強化
    1. 新たな官民連携エコシステムの実現
      • サイバー攻撃の巧妙化・高度化や、社会全体へのDXの浸透により、官のみ・民のみでサイバーセキュリティを確保することは極めて困難であり、官民が各々で保有する情報を、双方向かつ迅速に共有し、連携することが不可欠であるところ、既存の枠組みも踏まえつつ、新たな官民連携のエコシステムの実現を図る必要がある。
      • その求心力となる官民双方向の情報共有を推進するため、新組織を中心に官民連携基盤の整備を進め、機微度等に応じセキュリティ・クリアランス制度を踏まえ、適切な情報保全・管理に基づき、提供先・内容・目的等に応じて、関係機関等と連携し、情報共有の起点となる、政府から有益な情報を積極的に提供するとともに、インシデントに係る各種報告について、民間の負担を軽減するため、ランサムウェア攻撃等の類型から、順次、様式の統一を実施し、報告先の一元化についても、必要な制度改正等を行う
      • また、官民連携の前提となる認識共有・信頼関係の醸成を図るため、サイバー脅威の動向や対応の方向性等につき、個別毎や分野横断的に、実務者層からマネジメント層まで、平素より複層的に官民間での対話を継続的に実施するほか、関係機関等との連携による対処支援・相談等に係る機能の提供や、民間における対策強化に向けたリスクアセスメントの実施支援など、2025年日本国際博覧会等の大規模国際イベントにおける官民連携の成果等を活かした取組についても、新たな官民連携のエコシステムの要素として発展的に実施していく。
    2. 政府機関等のセキュリティ対策水準の一層の向上及び実効性の確保
      • 我が国の国民生活及び経済活動の基盤全体の水準の向上を図る観点から、先ずは政府機関等のセキュリティ対策水準の一層の向上を進め、重要インフラ等の対策水準の向上を主導する必要がある。
      • 新組織は、公的部門等が同対策について範となるよう、政府機関等の横断的な監視体制について、政府全体のシステム整備やデータ活用の方針等を踏まえ、関連技術の実証も含め、公的関係機関(NICT及びIPA)と連携し、強化・高度化を進める。加えて、新たな評価手法の導入による監査の高度化・重点化を進め、その結果を踏まえた注意喚起・是正要求及び必要に応じた基準等の見直しを行うことにより、セキュリティ対策水準の向上及び実効性の確保を図る。
      • また、政府機関等において、より実効性のあるセキュリティ確保に向け、IoT製品に関するセキュリティ要件適合評価制度9を調達の選定基準に含める。
    3. 地方公共団体・医療機関等のセキュリティ対策向上
      • 重要インフラ等のうち、地方公共団体については、来年度より、地方自治法に基づき、サイバーセキュリティを確保するための方針の策定が義務付けられるところ、当該方針に基づく対策を着実に推進するため、単独での対策が困難な小規模自治体も念頭に、自治体情報セキュリティクラウドの推進や、デジタル人材の確保・育成に対する支援等を実施するとともに、地方公共団体のサイバーセキュリティ対策の強化のための更なる取組を進める。
      • また、医療機関等については、インシデント発生による診療等への影響を最小限とするため、ガイドラインに係る周知啓発や、復旧に向けた初動対応支援等を実施するとともに、攻撃の侵入経路となり得る外部ネットワーク接続点の管理支援を進める。
    4. 政府機関・重要インフラ等を通じた横断的な対策の強化
      • サイバー攻撃による影響は、サイバー空間内にとどまらず、官民・分野の境界を越えて、横断的に影響が波及する事態が想定されるところ、政府機関・重要インフラ等を通じ、横断的に対策の強化を図る必要がある。
      • このため、政府機関・重要インフラ等について、高度な侵入・潜伏能力を備えた攻撃を検知するため、システムの状況から侵害の痕跡を探索する「脅威ハンティング」の実施拡大に向けた支援を行っているが、令和8年夏を目処に官民の行動計画の基本方針を定め、支援の加速を図る。
      • また、インシデント対処等における実践的対応力を強化するため、対処において必要となる資機材の充実強化を推進し、国際連携も考慮しつつ、初動対処や情報共有等の目的や規模に応じた演習を体系的に実施するとともに、その有効性についても適宜検証を行う。加えて、対処を担う要員について、公的関係機関(NICT及びIPA)による演習プログラムの強化・活用等により、能力構築を進める。
      • その上で、技術・脅威の動向、国民生活への影響や、基幹インフラ制度等との整合性や政府機関等に共通的に必要とされる対策を勘案しつつ、分野毎の特性を踏まえ、重要インフラ事業者等が分野横断的に実施すべき対策に係る国の施策について検討を進め、令和8年度に新たな基準を策定する。
    5. セキュアバイデザイン・セキュアバイデフォルト原則の実装推進
      • 社会全体へのDXの浸透により、あらゆる場面で導入・利用されるソフトウェアやIoT製品のセキュリティ確保につき、ユーザ企業等による対応には限界があることから、セキュアバイデザイン・セキュアバイデフォルト原則に基づき、製品ベンダ等によるサイバーセキュリティ確保を強化する必要がある。
      • このことから、国際的な動向等にも留意しつつ、IoT製品等のセキュリティ対策等の達成状況を可視化する取組17、ソフトウェアの透明性確保と安全なソフトウェア開発実践に関する取組、及び一定の社会インフラの機能としてソフトウェアの開発・供給・運用を行っている事業者について、顧客との関係で果たすべき責務等を策定する取組を推進し、普及・浸透を図る。
    6. 中小企業を含めたサプライチェーン全体のレジリエンス強化
      • サプライチェーンの一部に対するサイバー攻撃が、全体に影響を及ぼしうる状況を踏まえ、中小企業等を含めたサプライチェーン全体のレジリエンス強化に向けて、対応力に応じたセキュリティ対策の実装拡大を図る必要がある。
      • このため、サイバーセキュリティ対策に係る意識向上に向けて、民間団体・ボランティアや金融機関等と協力し、基本的なサイバーセキュリティ対策等に係る情報・ノウハウ・支援等について、効果的な周知啓発を進める。
      • また、リスクに応じた対策水準の提示や、対策サービスパッケージの提供、専門家への相談等の中小企業向けの支援を推進するとともに、取引先への対策の支援・要請に係る関係法令の適用関係の明確化に向けて、今年度中に事例を公表することを目指す。
  • サイバーセキュリティを支える人的・技術的基盤の強化)
    1. 官民を通じたサイバーセキュリティ人材の確保・育成
      • 様々な領域において、マネジメントから実務まで、サイバーセキュリティに関して求められる役割・スキルが多様化しているところ、それを担う人材の育成・確保が、官民を通じて急務となっている。
      • サイバー攻撃対応を担う関係政府機関等における高度人材の確保に向けて、積極的な民間人材の活用や、高度人材の育成のため高度演習環境の構築を進める。また、新組織においては、民間人材を受け入れ、業務や研修等を通じ、官民で知識・ノウハウの共有を図る枠組みを構築する。
      • さらに、我が国全体として効率的・効果的にサイバーセキュリティ人材の育成・確保を図る観点から、官民を通じ、処遇等を含めた実態把握や、キャリアパス設計等を進めるため、求められる役割・スキル等を整理した官民共通の「人材フレームワーク」策定に向けた議論を開始し、年度内に結論を得る。
      • また、我が国のサイバーセキュリティ人材の底上げに向け、初等中等教育段階におけるセキュリティ教育や、高等教育機関向け「モデルカリキュラム」におけるサイバーセキュリティに関する内容の充実を図るとともに、若年層を中心に、国際的に通用する高度人材を育成・発掘するため、公的関係機関(NICT及びIPA)や民間団体における取組を推進するとともに、国際的なセキュリティ技術競技会の国内開催等、我が国のプレゼンス向上にもつながる場の提供を行う。
    2. 我が国の対応能力を支える技術・産業育成及び先進技術への対応
      • サイバーセキュリティ産業振興戦略等を踏まえ、脅威に関する情報収集・分析に不可欠であり、我が国の対応能力の基礎となるサイバーセキュリティ関連技術について、官のニーズを踏まえた研究開発・開発支援・実証の実施・拡充及びそれらを通じた技術情報(マルウェア、脆弱性、管理ログ等の一次データ)等の提供や、マッチングやスタートアップ支援等を通じた政府機関等による積極的な活用等により、国内産業の育成及び早期の社会実装を推進し、官民双方の分析力・開発力を向上させ、国産技術を核とした、新たな技術・サービスを生み出すエコシステムの形成を図る。
      • AI・量子技術等の先端技術について、サイバーセキュリティに及ぼす影響等、我が国のサイバー対応能力強化の観点から、国際的な動向等を踏まえつつ、早急に対応を進める必要がある。
      • AIについて、安全性の確保に向けて、AIセーフティ・インスティテュート(AISI)等と連携し、国際的な動向も踏まえ、開発・運用に係るガイドラインの策定や、海外機関と連携したAIに対する攻撃に係る研究開発等、サイバーセキュリティの確保に係る取組とともに、AIを活用したサイバー攻撃情報の分析の精緻化・迅速化等を推進する。
      • また、政府機関等において、生成AIの調達・利活用に係るガイドラインを踏まえ、AI利活用の推進とリスク管理の両立を図る。
      • 量子技術については、その進展に伴い、現在広く使われている公開鍵暗号の危殆化が懸念されているところ。そのため、諸外国や暗号技術検討会(CRYPTREC)における検討状況を踏まえ、多岐にわたる課題に対応するための関係省庁による検討体制を立ち上げ、政府機関等における耐量子計算機暗号(PQC)への移行の方向性について、次期サイバーセキュリティ戦略に盛り込む。
  • 緊密な国際連携を通じた我が国のプレゼンス強化
    • 国境を越えるサイバー攻撃への対応には、緊密な国際連携が不可欠であるところ、これまでのサイバー分野における対処及びルール整備に関する国際社会への貢献を発展させ、我が国の一層のプレゼンス向上を図るとともに、国際連携による対応の実効性を一層向上させる必要がある。
    • サイバーセキュリティに係る国際的なルール整備に関し、諸外国との制度的な差異も認識しつつ、共同原則の策定やパートナーシップの構築等を視野に、二国間、多国間関係を強化し進展させる。
    • さらに、国際社会における日本のプレゼンスの向上に向け、特に、アジア太平洋地域においてサイバーセキュリティ分野を主導する観点から、同盟国・同志国と連携しつつ、国際場裡で日本の取組や経験を積極的に発信する機会を増やす。
    • また、ASEAN、太平洋島嶼国等の対応能力の底上げが必要な国や地域に対し、日本の技術や強みを活かした能力構築プログラムの提供を通じ、独自の協力関係の構築・強化を進める。

金融庁が地方銀行のサイバー対策の底上げに動いています。2024年度から地銀に疑似的なサイバー攻撃テストを実施したほか、攻撃する側のヒントとならないよう対策に関する一部リポートを非公開とするなど、地銀が金融システム安定への盲点となる事態を防ぐため警戒レベルを一気に高めています。報道によれば、「職員ではない人が地銀に入り、オフィス内でサイバー攻撃の準備ができた」「初期のIDを変えていなかった端末からサーバーに侵入できた」「推測されやすいパスワードのままでいたことからネットワークに侵入できた」といった事例は、金融庁のサイバー攻撃テストの結果の一部です。金融庁は2024年度から複数の地銀にサイバーテストを実施、ホワイトハッカーが地銀のネットワークに実際に侵入し、攻撃する側の視点から防御体制や脆弱性などを検証したといいます。システムといった技術面だけでなく、サイバー攻撃への組織的な対応の状況などを探る狙いがあった。テストでは、職員が業務後にパソコンをシャットダウンしていない、初期IDをそのままにしている、パスワー非公開にしたのは「サイバー攻撃の手口などに悪用される情報を攻撃側にできるだけ伝えないようにするため」といいます。金融庁が神経をとがらせるのは、金融機関を狙ったサイバー攻撃が急増していることが背景にあります。米アカマイ・テクノロジーズが検知した2024年の国内銀行へのサイバー攻撃数は10億9300万件と、2023年と比較し2.6倍に増え、パスワードを変更していないといった基本的な対応手順が守られていないことがサイバー攻撃への「隙」となるケースが見つかりました。地銀はメガバンクといった大手銀と比べ、対策に回せる人員や資金が不足しがちで、企業のサイバー対策を支援するデジタルデータソリューションの熊谷社長は「システム上の備えはあっても、地銀経営陣が十分リスクを理解していないケースがある」と指摘しています。2030年代半ばにも実用化が見込まれる量子コンピューターを悪用したリスクの高い攻撃が将来は想定され、金融庁は次世代暗号通信技術「耐量子計算機暗号」(PQC)を活用したサイバー防御への移行を呼びかけています。システム改修などに多額のコストがかかることも想定され、単独での対応が困難となれば、他の地銀との連携・再編といった選択肢も浮上するなど、今後の地銀経営の判断で、サイバーリスクの存在はさらに大きくなります

警察庁によれば、2024年に被害報告のあったランサムウェア攻撃222件のうち、中小企業は140件と6割以上を占めています。2023年は102件(全体197件)で、中小企業が標的となる攻撃は増加傾向にあります。ランサムウェアによる被害の影響は小さくなく、警察庁が企業・団体に実施したアンケートによると、復旧にかかった期間(有効回答126件)は「6日以内」が33件で最も多く、次いで「1カ月未満」と「(回答時まだ)復旧中」がいずれも31件、復旧にかかった費用(同102件)は「1千万円~5千万円」の28件が最も多く、「1億円以上」も8件ありました。復旧に要した期間が長いほど、かかる費用も高くなる傾向がみられています。そもそもサイバーセキュリティ関連の人材不足も課題で、サイバーセキュリティ関連の資格試験などを行う「ISC2」(米国)の2024年の調査によると、日本国内のサイバーセキュリティ人材は約17万人不足しているとされます。中小企業のサイバーセキュリティに対する意識を底上げしようと、グーグルは2025年3月に「Japan Cybersecurity Initiative」を立ち上げ、経済産業省と連携し、全国の中小企業へ向けたサイバーセキュリティの無償トレーニングプログラムを提供する予定で、普及啓発を進めていくといいます。担当者は「中小企業のセキュリティーリテラシー向上が、日本のサプライチェーン(供給網)全体のリスク低減に不可欠」と指摘していますが、正に正鵠を射るものといえます。

政府の知的財産戦略本部(本部長・石破首相)が「知的財産推進計画2025」を決定、AI・デジタル時代の知的財産制度の確立や、AI・量子などの新領域に関する国際的なルール形成の主導、日本が強みを持つコンテンツ産業を活用した地方創生を柱に掲げ、国際競争力の強化につなげるとしています。同計画は知的財産の保護や活用について施策の方向性を示す文書で、毎年策定しています。今回は、生成AIへの対応や、アニメ・マンガ・ゲームといった日本の知的資本を最大限活用する道筋を示し、国際競争力を持つ付加価値を創造する環境整備に重点を置いています。知的財産制度では、生成AIが日本の発展に「大きく寄与する可能性がある」とし、利活用推進を掲げています。その上で、AIを利用した発明や創作が増えれば、AI開発者側の貢献をどう評価するかが課題になるとし、発明者の認定基準を明確化する方策を検討するとしています。AIを利用した著作物の権利問題を巡っては、学習元の著作物の権利保護に関する法的ルールの周知・啓発を継続、AI事業者による学習元の情報開示が不十分なため、透明性を確保する仕組みも検討するとしています。

AIに関する新法「人工知能関連技術の研究開発および活用の推進に関する法律」が参院本会議で成立しました。AIを悪用した世論操作や人権侵害などのリスクが顕在化し、欧米が規制と推進で揺れる中、日本はリスク対応と研究開発の促進の両立に軸足を置く方向を示しています。バランスを重視して罰則規定を設けなかったため、「中途半端」(野党議員)との指摘もあり、国民の安全を担保できるのか不安も残りますAIのリスク対応を巡り、EUでは2024年5月に規制法が成立、危険度を4段階に分類し、最も重大な違反行為には最大3500万ユーロ(約57億円)などといった制裁金を科すものです。これに対し、トランプ米政権はAI規制を強めるバイデン前政権の方針を撤回、各州によるAI規制を10年間禁止する動きにも出ており、推進にかじを切っています。こうした中、日本の新法は、世界に後れを取るAIの研究開発を厳しい規制で妨げないよう罰則規定を見送りました。悪質な事案は刑法など既存法令で対処するほか、国が調査し、研究開発機関や事業者名を公表することで抑制を図るとしています。AIを悪用した偽情報の拡散や巧妙化した犯罪は後を絶たず、国会審議では、リスク対応の不十分さや被害の防止拡大に向けた実効性のある対応を求める指摘が相次ぎ、中でも、児童買春・ポルノ禁止法では明確な規定がない「ディープフェイク」(AI作成による偽の動画や画像)への対応が焦点となりましたが、付帯決議で取り締まりの強化が示されるにとどまりました。利用者データの収集が不安視される中国のAI新興企業ディープシーク(深度求索)などの新たな事案に関し、対策が盛り込まれていないことへの懸念も示されています。繰り返しになりますが、AIを悪用した偽サイトや合成音声による詐欺、偽・誤情報の作成、実在する子どもなどの顔を使った「性的ディープフェイク」の被害など、AIによるリスクは顕在化しています。AI新法では、国民の権利や利益を害する重大事案が生じた場合、AI提供事業者に原因究明や情報提供を求め、国が調査・指導するとしています。一方で技術革新を妨げる恐れを考慮し、罰則など直接的な規制は盛り込まれず、リスク管理と研究開発促進の間で、実効性をどう確保していくかが最も重要なポイントとなりそうです。

▼内閣府 AI戦略会議(第14回)
▼資料1-1 AI法の概要
  • 人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(AI法)の概要
    1. 法律の必要性
      • 日本のAI開発・活用は遅れている。
      • 多くの国民がAIに対して不安。
      • イノベーションを促進しつつ、リスクに対応するため、既存の刑法や個別の業法等に加え、新たな法律が必要。
    2. 法律の概要
      1. 目的
        • 国民生活の向上、国民経済の発展
      2. 基本理念
        • 経済社会及び安全保障上重要 研究開発力の保持、国際競争力の向上
        • 基礎研究から活用まで総合的・計画的に推進
        • 適正な研究開発・活用のため透明性の確保等 国際協力において主導的役割
      3. AI戦略本部 本部長
        • 内閣総理大臣 構成員:全閣僚 関係行政機関等に対して必要な協力を求める
      4. AI基本計画
        • 研究開発・活用の推進のために政府が実施すべき施策の基本的な方針等
      5. 基本的施策
        • 研究開発の推進、施設等の整備・共用の促進 人材確保、教育振興
        • 国際的な規範策定への参画
        • 適正性のための国際規範に即した指針の整備
        • 情報収集、権利利益を侵害する事案の分析・対策検討、調査
        • 事業者等への指導・助言・情報提供
      6. 責務
        • 国、地方公共団体、研究開発機関、事業者、国民の責務、関係者間の連携強化
        • 事業者は国等の施策に協力しなければならない
      7. 附則
        • 見直し規定(必要な場合は所要の措置)
    3. 世界のモデルとなる法制度を構築
      • 国際指針に則り、イノベーション促進とリスク対応を両立。最もAIを開発・活用しやすい国へ。
▼資料1-2 今後のAI政策の進め方
  • 人工知能(AI)戦略本部の設置
    • 法律附則※1の規定に基づき、公布の日から三月以内に設置予定。
      ※1 AI法附則(施行期日)第一条 この法律は、公布の日から施行する。ただし、第三章及び第四章並びに附則第三条及び第四条の規定は、公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。(「第四章(法第19条~第28条)」は、AI戦略本部関連の規定。)
  • 有識者会議の設置
    • 政令又はAI戦略本部決定等により設置予定。
  • AI基本計画の策定
    • 有識者の意見も踏まえつつ本部で案を作成し、パブリックコメントを経て、AI戦略本部決定/閣議決定予定。
  • AI指針の整備
    • 既存のガイドライン類との関係を分かりやすく整理しつつ、内閣府で検討予定。
  • 情報収集、調査研究
    • (1)主要な業種の活用実態調査、(2)主要なAI開発者の安全性向上対策の情報収集、(3)最新の技術や活用事例の調査、(4)国民の権利利益を侵害する案件・事象の調査を内閣府で実施予定。
  • 国際協調
    • 関係府省庁の協力の下、広島AIプロセス、GPAI※2、AISI※3等の活動の更なる推進 ※2 GPAI(The Global Partnership on Artificial Intelligence)は、人間中心の考え方に立ち、「責任あるAI」の開発・利用をプロジェクトベースの取組で推進するため、2020年6月に発足した、政府・国際機関・産業界・有識者等のマルチステークホルダーによる国際連携イニシアティブ。 ※3 AISI(AI Safety Institute)は、AIの安全性に関する評価手法等を検討・推進するため、2024年2月に独立行政法人情報処理振興機構(IPA)に設置された機関。

AI/生成AIのリスクに関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 生成AIを悪用し、実在する子どもや成人女性などを性的に加工した画像や動画「性的ディープフェイク」が国内で急拡大しています。偽の性的画像は以前から問題になっていましたが、生成AIの登場で事態はより深刻な局面に入り、新たな問題にも直面しています。ディープフェイクは顔や背景は元のままで、体が生成された裸であることが多く、顔と体の継ぎ目部分も分からないなど、より精巧にもなっています。2024年ごろまで1枚の画像が1枚のヌード画像に加工されるパターンが多かったところ。たった数カ月で、偽画像だけでなく、動画、音声まで見かけるようになってきているといいます。基となる画像は著名人に限らず、一般人もターゲットになり、SNS上に個人がアップした写真や卒業アルバム、学校行事写真が狙われています。そして、被害はインターネット上だけで終わらない恐れがあり、SNSに投稿された性的画像や動画には「私と性行為をしましょう」といった虚偽の文言が添えられているケースがあり、住所や本名、学校名までさらされることもあります。日本では直接規制する法律はないのが実情です。被害に遭った場合は、刑法(名誉毀損など)や児童ポルノ禁止法で対処されると政府側は答弁していますが、実際には「警察に相談しようとしても立証のハードルが高かったり、既存の法律では取り合ってもらえなかったりするケースも多いといいます。政府は既存法での対応と併せ、AI法に基づいて今後策定する開発や活用の指針に性的ディープフェイク対応も盛り込む予定だとしています。「不適切な画像」や「差別・偏見」を助長する生成の抑制に努めることを記載するよう検討しています。性的ディープフェイクの被害が多い国々では、法による直接規制が進んでいます。韓国では2024年9月、所持や視聴などに刑事罰を科す法案を可決、州単位で規制してきた米国は2025年5月、性的ディープフェイクを含む性的画像・動画について、本人の同意無き公開を犯罪とみなす連邦法が成立、米セキュリティ会社による性的ディープフェイク動画調査では、日本は2023年、韓国、米国に次ぎ、世界で3番目に被害者が多かったといいます。
  • 鳥取県は、生成AIを悪用し、児童らの画像を加工して性的な偽画像を作成、提供することを禁じる県青少年健全育成条例について、「過料5万円以下」の行政罰を新設する方針を固めています。実効性を高める狙いがあるといいます。2025年4月1日施行の改正条例では、生成AIで18歳未満の画像を加工して生成された性的な画像を「児童ポルノ」と定義、作成や製造、提供を禁止しましたが、罰則は設けていませんでした。条例を再び改正し、知事が違反者に、生成AIを使った偽の児童ポルノの削除を命じることができると規定、従わない場合は違反の内容と氏名を公表できるとし、「違反者は5万円以下の過料に処する」と明記するほか、条例に基づいて被害申告を受け付ける窓口は既に設置されており、今後、罰則の適用基準や方法を協議するとしています。
  • トランプ米大統領は、本人の同意を得ず元交際相手などの私的な写真を流出させるリベンジポルノを規制する法案に署名し、同法が成立しています。画像の拡散を犯罪とし、生成AIを悪用して作った偽のみだらな画像も対象としています。インターネット事業者に対し、被害者の要請から48時間以内の削除を義務付けています。トランプ氏は「AIの画像生成技術の台頭に伴い、無数の女性たちが露骨な画像の拡散で苦しめられてきた」と述べています。法案は上院を全会一致で通過後、下院も圧倒的な賛成多数で可決されています。
  • 企業による生成AIの活用が広がる中、クラウドなどで運用するAIモデルがサイバー攻撃の標的になるリスクが浮上しています。モデルに不正な入力を与えることで開発者の意図しない情報を引き出したり、モデルが参照する社内の機密情報を盗んだりする新たな攻撃手法が想定されています。ランサムウェアなど従来型の攻撃とは異なり、生成AI特有の脆弱性に対応する対策が求められることになります。サイバーセキュリティ大手のトレンドマイクロは2024年末、企業が運用する生成AIモデルのリスク調査をまとめています。クラウド上のソフトウェアの「倉庫」にあたるコンテナレジストリーをインターネット上で確認し、合計8817件が外部から見える露出状態にあることを突き止めました。本来は非公開であるはずのこれらのコンテナレジストリーにはユーザー認証が設定されておらず、外部から誰でもアクセスできる状態で、さらに、このうち6259件(約70%)は外部からの書き込み権限が有効で、ソフトウェアの改ざんや不正アップロードが可能でした。2023年の同様の調査では、調査したソフトウェアやシステムにAIモデルは含まれていませんでしたが、今回は1453件のAIモデルが確認されたといいます。この結果についてトレンドマイクロの専門家は「AIモデルが実際に攻撃された例は報告されていないものの、狙われるリスクが確実に高まっている」と指摘しています。
  • プロンプトインジェクション(生成AIを意図的に誤作動を起こさせるような指令入力を与え、提供側が出力を禁止している情報(開発に関する情報、犯罪に使われうる情報等)を生成させる攻撃)の新しい手口として専門家や研究者が警戒を強めているのが「リンクトラップ」という攻撃手法だといいます。攻撃者はユーザーが入力するプロンプトに不正な命令文を紛れ込ませ、AIが「回答はこちら」などと案内しつつ、機密情報を埋め込んだリンクを提示するよう仕向け、ユーザーがそのリンクをクリックすると、回答とともに機密情報が攻撃者の用意したサーバーに送信され、盗み見られてしまうものです。ユーザー自身は不正な命令を入力していないため攻撃の検知が難しく、AIの出力を信じてリンクを開いたユーザーが、結果的に情報の運搬役になってしまうのがこの手口の巧妙な点だといえます。生成AIの登場以降、ビジネスメール詐欺にフェイク音声や画像を組み合わせるなど、サイバー攻撃の手法は急速に進化しています。今後は、人の指示を待たずに業務を遂行するAIエージェントや、パートナーとして活動するAIアシスタント、さらにはAIロボットが登場し、自動運転など交通や社会インフラを含む幅広い領域でAIが意思決定を担うようになるとみられています。AIモデル自体が攻撃対象となる時代においては、クラウド上のAIへのアクセス権限を厳格に管理することが、最優先の課題となります。トレンドマイクロは「すべてのアクセス要求をリアルタイムで検証・判断するゼロトラストのアプローチが有効だ」と指摘しています。さらに今後は、AIが生成する出力の異常検知や、モデルそのものの信頼性や改ざんの有無を継続的に監視するなど、新たな観点からのセキュリティ対策が求められることになります。
  • NECはKDDIと国内最大規模のサイバーセキュリティ協業で基本合意しました。純国産のセキュリティーサービスを共同で提供する方針で、NECの中谷最高セキュリティ責任者(CSO)は「対策に使うAIは国産でないと正しい判断は下せない」と述べています。さらに、「ブラックボックスになった基盤をベースに安全保障を担うのは相当なハンディキャップになる」、「活用するAIも国産のものでないと、正しい判断は下せないだろう。自分たちでそのAIの判断を解釈できることが重要だ」、「国を守るためのセキュリティと、重要インフラなどの企業を守るセキュリティも基本は同じだ。大事なのはサプライチェーン(供給網)全体でセキュリティ対策を施すことだ」、「委託先や海外現地法人などでサイバー攻撃を受けて、企業が間接的に被害を受けるケースが発生している。自衛隊は自分たちのネットワークを守るために、細かい取引先を含めたセキュリティ管理を徹底する。重要インフラについても同様の対策が必要になる」などと指摘しており、すべて正鵠を射るものといえます
  • 防衛省は、AI活用の兵器の研究開発をめぐり、AIのリスクを管理しながら利用を進める「AI適用ガイドライン」を初めて策定し、発表しています。ドローン(無人機)などAI兵器開発について「人間の責任の明確化」などを要件としています。中谷元・防衛相は「新しい戦い方への対応や人口減少の急速な進展の中で、防衛力の維持・強化のためにAI活用を進めていく」と述べたうえで、今回のガイドラインについて「AI活用に伴うリスクを軽減しながら、恩恵を最大化できる内容だ」と強調しています。具体的には、研究開発の対象を「高リスク」と「低リスク」に分類、例えば、攻撃対象をAIが特定し、そのままミサイル発射につながるなら「高リスク」、AIが対象を特定しても扱いを人間が判断する場合は「低リスク」と判断されます。「高リスク」の場合、防衛省が研究開発の可否を法的・政策的な観点から審査、国際法や国内法を順守できない場合や、人間が関与できない自律型致死兵器システム(LAWS)にあたる場合は開発できないとしています。さらに、有識者会議が技術的審査を実施、運用者の関与が可能かといった「人間の責任の明確化」のほか、誤作動を低減する「安全性の確保」、AIシステムの「検証可能性・透明性の確保」など七つの要件を確認するとしています。実際の審査は、審査体制が整う来年以降になる見通しです。一方、「低リスク」の場合は、防衛省などが「自己点検」するといいます。AI兵器は誤った判断をする恐れがあるため、国際的に開発の規制のあり方が論議されています。今回のガイドラインはAIのリスク管理の目安を示すことで、日本国内での兵器開発のAI活用を推進する狙いがあります。
  • 公正取引委員会は、生成AI市場に関する初めての実態調査結果を公表、現時点での競争は活発だとしつつ、他事業者からは米巨大IT企業に優位に進むことを懸念する声が上がっていると指摘、市場支配力が強まらないよう引き続き警戒するとしています。公取委は生成AIの関連市場を、「インフラ」「モデル」「アプリケーション」の三層構造で捉え、市場の核となるのは基盤モデルで、その開発にはGPU(画像処理装置)などの計算資源や学習データといったインフラが欠かせず、利用者には基盤モデルが組み込まれたアプリケーションの形でサービスが届くことになります。モデル開発に欠かせない学習データについては、「(誰でもアクセスできる)オープンなデータが枯渇している」との意見が寄せられています。生成AIは大量のデータを学習することで性能が上がるため、巨大ITは「SNSなどで新たなデータを取得できて強い」などの見方もありました。モデル開発では、オープンAIやグーグルなどの米国企業が巨額の資金を投じて激しく競争しており、「今後数社による寡占状態になるのは避けられない」との意見も出たといいます。モデルを開発する国内事業者は「後発企業のプロダクトを簡単には導入してもらいにくい状態にある」と意見、公取委は、それ自体は問題ではないとしつつ、「新規参入者の排除目的に使うなどすれば抱き合わせ行為として問題になる」と指摘しています。公取委の久保田・調整課企画官は「デジタルプラットフォーマーのように支配的になると取り返しがつかなくなってしまうので、それを未然に防ぐ狙いがある」と話し、今後も調査を続ける方針だといいます。
  • 対話型AI「ChatGPT」を開発した米オープンAIは公表した報告書で、自社のAI技術を秘密工作に利用する中国人グループの数が増えていると明らかにしています。確認された工作は一般的に規模が小さく、ターゲットも限られているとしつつ、その範囲と採用される戦術は拡大しているといいます。同社は定期的に、マルウエア(悪意のあるプログラム)の作成や偽コンテンツの生成など、プラットフォーム上で検出された悪意ある活動に関する報告書を公表しています。一例として、オープンAIは、台湾中心のビデオゲームへの批判など、中国に関連するソーシャルメディアへの投稿を生成したChatGPTアカウントを禁止しています。
  • 2025年5月26日付日本経済新聞の記事「「AI評価」時代の落とし穴 企業の説明責任、より重く」は示唆に富む内容でした。具体的には、「貴殿はAIによる審査の結果、不合格になりました」。こんな通知を受け取ったとしたら、すんなり納得するだろうか。データに基づく判断だからと説明された時、審査基準を詳しく知りたいと思わないだろうか。EUの裁判所が2月、消費者のこうした釈然としない思いに企業がきちんと応えるべきだという趣旨の判決を下した。携帯電話の契約を申し込んだ消費者が自動で出された評価で信用力不足と判断され、契約を拒否されたことから裁判になった。判決では、個人データの保護を定めた一般データ保護規則(GDPR)に基づき、消費者はAIなどで自動的に判断を行った企業に対し、使ったデータや基準の説明を求めることができるとした。注目したいのは、企業が果たすべき義務を明確にしたことだ。自動判断の際の手順や原則について「簡潔で分かりやすく、簡単にアクセスできる説明が必要」とした。例えば評価に使った複雑なアルゴリズムを開示するだけでなく、簡潔で分かりやすい説明にする必要があるという。難しい数式を理解できる消費者は少なく、形式的な開示では意味がないという姿勢が徹底している。企業は消費者に寄り添い、丁寧な説明を求められる」というものです。また、「欧米では、AIで人を評価することは省力化につながる一方、人の生活を変えてしまうリスクがあるという認識も広がり始めている。仮に公正性を欠く評価が出た場合、データ上の問題だけではなく、AIを使った企業も注意を払う責任や説明する責任があるという潮流が生まれている。日本でも、AIを取引先の審査や社員の評価に活用する動きが出ている。人的資本の重要性が高まる中、同様の考え方が不可欠になる」との指摘は正に正鵠を射るものといえます。
  • 日本新聞協会は、「生成AIにおける報道コンテンツの保護に関する声明」を発表、新聞社などのニュースサイトが、設定でAIによる無断学習・利用を拒否する意思を示しているにもかかわらず、無視する事業者がいるとして、意思の尊重を求めています。著作権法ではAIの無断利用の拒否に関する明確な規定はなく、一方、著作権者の利益を不当に害する場合は、権利侵害になる可能性があります。新聞協会によると、新聞社などのニュースサイトのほか、記事を提供している国内の主要なポータルサイトの多くが、AIの無断学習・利用の拒否を示す設定をしており、AI事業者に尊重するよう求めています。技術的に対策するため、学習データ収集プログラムの名前の公表を義務付けることなども訴えています。また、インターネット検索に連動してAIが回答を生成するサービスが急速に広がり、ユーザーが参照元のウェブサイトを訪れない「ゼロクリックサーチ」が深刻化し、報道機関のコンテンツにただ乗りするサービスや機能が展開されていると指摘。政府に対し、著作権法などの従来の枠組みにとどまらない総合的な対応も求めています。
  • AIが自らを改良しはじめる超知能の時代が到来した場合、それは人間にとって善とみなせる進化になりうるのかのカギを握るのが、AIによるデータ学習の質となります。偽の情報を意図的にAIに「偏食」させ、敵対する勢力を混乱させているのがロシアです。メディア格付け機関の米ニュースガードは2025年3月に公開した報告書で、ロシア政府系機関が150のウェブサイトでウクライナ戦争などに関する偽情報を年間数百万件発信していると告発しています。テクノロジー企業は自社のAIの性能を高めるためにネット上のあらゆる情報をかき集めますが、ロシア勢はそこにつけ込んだといえます。オープンAIや米マイクロソフトなどの主要なAIが偽情報を発信するウェブサイトのデータを学習しており、AIが誤った情報を発信し、さらにそれが別のAIの学習データとして使われれば、負の連鎖はどこまでも続くことになります。いずれ登場するであろう超知能が人類に役立つものになるかどうかは、現世代が正しい「食育」をAIに教え込めるかにかかっているといえます
  • メルカリは、AIでユーザーの利用状況を分析する取り組みを始めたと発表、トラブルにつながる行動がないかチェックし、一定基準を超えると利用停止にするとし、トラブル時は利用者間での解決を重視する姿勢だったが、そうした対応を批判する声が高まっていることを受けて、信頼を回復させ、ユーザー離れを防ぐとしています。同社は「AIによる高度な監視で、悪意のある不正利用者を徹底的に排除していく」と述べています。過去のトラブルから不正利用者に多い行動を分析、他の利用者から低評価や通報を受けた回数のほか、取引のキャンセル割合の高さなどをAIでチェック、トラブルにつながる行動は他にもあるが、「詳細を明らかにすると対策を取られるため、非公開」としています。出品者・購入者問わず月間利用者2300万人ほどの利用状況を全て分析、分析結果が一定の基準を超えた場合、利用制限をかけ、本人に通知した上で一定期間、取引できないようにするほか、改善が見られない場合などは「悪意ある不正ユーザー」と判断し、無期限に利用を停止する可能性もあるといいます。同業も不正対策には苦慮しており、LINEヤフーが手掛けるYahoo!フリマとYahoo!オークションは1000万件以上の取引データから学習した情報を元に偽物の出品を見抜くAIを導入しています。

SNSと選挙の切り口からSNSの犯罪インフラ性にふれた最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 誤解を招く恐れのある投稿に、役に立つ背景情報を追加し正確性を高めるXの機能「コミュニティノート」に対し、「Xの偽・誤情報対策は、選挙ではほぼ機能していない」といった報告が相次いでいます。2024年秋の兵庫県知事選では立候補者に関する投稿に計160件超のノートが作られましたが、一般に公開されたのはわずか5件にとどまりました。藤代教授は「候補者や支持者の主張がぶつかり、協力者間の立場の違いから見解が一致しなかったり、評価が集まらなかったりして、公開基準に達しなかったとみられる」と分析、「選挙では偽・誤情報の拡散を防ぐ役割は果たせていない」と指摘しています。同様の問題は海外の選挙でも指摘されており、国際NPO「反デジタルヘイトセンター」は、2024年の米大統領選に関する誤解を招くXの投稿283件(2024年1~8月)を分析、209件(74%)には正確な内容のノートが作られたが公開されず、投稿自体は計約22億回も閲覧されていた一方、公開されたノートの閲覧数は、元の投稿の1割未満にとどまったといいます。Xを巡っては、イーロン・マスク氏による2022年の買収後、不適切な投稿への監視や制限が緩和され、偽情報が急増したとされ、同センターは「Xがコミュニティノートに過度に依存し、信頼と安全のコストを削減することで誤解を招くコンテンツの無防備な拡散を許している」と指摘、同社に投稿監視の戦略を早急に再検討するよう勧告しています。2024年1月の能登半島地震ではコミュニティノートが効果を発揮した可能性が指摘されています。澁谷・東京大准教授(社会情報学)の分析では、同1~3日に491件のノートが作られ、東日本大震災時の画像を使い、能登半島の被害状況と誤解させるような投稿には、誤りを指摘するノートが作られ、公開率は20%に達しています。澁谷准教授は「偽・誤情報への修正や注意喚起で役割を果たした可能性がある」とみています。
  • 2025年5月31日付読売新聞の記事「「SNSと選挙」課題残す…読売新聞 報道と紙面を考える 第34回懇談会」は有識者による議論が大変有益だと感じました。「2024年は日本における『SNSと選挙』の転換点だった」と指摘したのは山口氏。兵庫県知事選の投票率が前回を約15ポイント上回ったことを挙げ、「選挙への関心が広がった」とSNSのプラス面を評価、一方で、政策以外のセンセーショナルな情報が注目を集めたり、対立を過度に強調したりする特性も指摘、社会の分断につながるとしたうえで、「選挙後、議論もできなくなるような状況が各地で起きれば、民主主義の危機に陥りかねない」と警鐘を鳴らしています。木内氏は、SNSは瞬時に情報を得るには便利で、多くの人にメリットをもたらしているとしつつも、「偽情報を含め悪影響を与えるコンテンツ(内容)を抑えることが必要だ」と強調。SNSの長所と短所を理解した上で、「様々なメディアから適切な情報を得ることが望ましい」と述べた。坂東氏は、情報の受け手側の意識向上が重要だと訴えた。新聞やテレビなど既存メディアは情報の正確性をチェックする機能を持つが、SNSは「言いたい放題」の側面があるとし、「情報社会で振り回されず生きていく武器として、リテラシー(情報を読み解く力)を身につけなければならない」と話した」、「木内氏は「SNSを通じた偽情報で国民が判断を誤ったり、人権侵害が助長されたりすることは、社会にとってマイナス」と危機感を示した。SNSを運営するプラットフォーマーが、投稿内容により責任を持つべきだとし、「対応に必要なコスト負担を、一定程度は利用者に求めてもよいと思う。正しい情報をSNSから得られるのは利用者にとっても有益なのでは」と語った。米田氏も「偽情報自体も問題だが、その影響によるとみられる嫌がらせ行為は放置できない」と述べた。偽情報への規制の実効性については、「警察による選挙違反の取り締まりは、公平性・公正性の観点から各陣営の違反の全体像を見た上で行うため、原則として投票日後になる。選挙に影響を及ぼす偽情報に罰則で対応することには限界がある」とした。山口氏は、法規制を行うには表現の自由とのバランスが重要だと指摘。「将来的に法律が拡大解釈され、政権が言論弾圧に使う可能性も十分にある」と述べた。閲覧回数が増えるほど多額の広告収入が入るSNSの仕組みに触れ、選挙期間中に限り、SNSの選挙関連コンテンツの収益化停止を提言した。表現の自由を守りつつ、収益目的の偽情報や過激な言説を排除する効果が期待できるとした」、「「ファクトチェックはスピードが大事。『能動的な選挙報道』が必要だ」と指摘した。現在、ファクトチェックの多くは民間団体が行うが、人員や資金面が脆弱だ。山口氏は「人材が豊富で取材を重ねられるマスメディアこそ、真偽不明の情報を検証することができる」とし、迅速で正確な調査報道に努め、質が高いコンテンツを発信するよう求めた。」と言った内容です。
  • 選挙をめぐるSNSの偽情報に対し、政党や政治団体自らが対策を打ち出しています。一方、2024年夏の東京都知事選に立候補したAIエンジニアの安野貴博氏(34)が立ち上げた政治団体「チームみらい」は、AIを活用した「AIファクトチェッカー」を発表、SNS上の投稿について、公約集や公式発表などに照らして正誤を判断、AIの判別内容をスタッフが確認した上で結果を公表するとしています。コードを公開し、他党にも活用を呼びかけています。公明党は党に関するSNS上の情報について、このチームみらい」が一般公開したツールを利用するとしています。

(6)誹謗中傷/偽情報・誤情報等を巡る動向

アスリートに対するSNSでの誹謗中傷が常態化し、スポーツ団体は暴言や脅迫の早期発見や、選手の支援に追われています。投稿者を割り出して損害賠償を求めるには迅速な対応が不可欠で、「時間との闘い」も強いられている実態があります。2025年5月26日付読売新聞によれば、読売新聞社が2025年3~4月にスポーツに関する全国世論調査(郵送方式)を実施した結果、SNSにおける、スポーツ選手やチーム、競技団体に対する誹謗中傷は深刻な問題だと「思う」と答えた人は92%に上り、SNSの負の側面への問題意識の高さがうかがえる形となったといいます。また、SNSによる誹謗中傷に対する法整備について十分だと思うかを聞いたところ、「思わない」が87%で、「思う」の10%を大きく上回りました。スポーツ選手がインターネットなどで、競技以外のことについてプライバシーがさらされることが問題だと「思う」は91%、「思わない」は8%でした。日本オリンピック委員会(JOC)は、2026年のミラノ・コルティナ五輪で日本選手のSNSを監視し、投稿の削除要請などに動く態勢を検討中だといいます。パリ大会では、AIが暴言や差別用語を検知する国際オリンピック委員会(IOC)のシステムに任せたところ、結果が届いたのは閉幕後と遅かったといいます。日本選手団副団長だった土肥美智子氏は「医療と同様に現場の素早い対応が重要」と指摘しています。スポーツに限らず広がる被害の対策として情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)が2025年4月に施行され、悪質な投稿を迅速に削除する仕組みが整った一方、被害者が損害賠償を求める場合は投稿者を特定する必要があり、手続きに半年ほどかかるとされます。大手プロバイダーの多くは、手がかりとなるIPアドレスなど「通信ログ(記録)」の保存期間を約3か月間に設定しているといい、対応が遅れれば投稿者にたどり着けないことになります。総務省では2025年3月、通信ログの保存のあり方について有識者による作業部会で検討が始まっており、弁護士は「法手続きの実効性を高めるためにも、保存期間を長くするなどの対策強化に期待したい」としています、また、福山平成大の河野准教授(スポーツ社会学)は、「スポーツへの関心が高い人ほどSNS上の諸問題を深刻と考える傾向にあるが、日本代表戦などでは関心の高さがかえって敗戦への失望を大きくし、誹謗中傷につながったケースもある。スポーツを取り巻く人たち全体で解決に取り組まなければならない」と指摘しています。

SNSを中心としたインターネット上で、報道機関に所属する記者個人らへの誹謗中傷や侮辱的投稿が拡散されるケースが相次いでいることを受け、日本新聞協会は、「根拠のない批判や脅迫的な言葉で業務を妨害するなどの不当な攻撃は断じて許されない」とする声明を公表しています。声明では、報道機関は多様な言論を尊重し、報道に対する正当な批判や論評には真摯に向き合うと明言、その上で、SNSでは事実に基づかない誹謗中傷に加え、記者の個人的な情報や写真が投稿されて人権が侵害される例が増えていると指摘し、「こうした行為によって正当な取材活動が脅かされれば、民主主義を揺るがすことになりかねず、決して看過できない」と強調しています。さらに、協会に加盟する報道機関各社が「不当な攻撃からはあらゆる手段を講じて記者らを守り、安全を確保する」とし、人権侵害行為に対して厳正に対処する決意を表明しています。さらに、被害を受けた記者らの心のケアなど、サポートを行うとも表明しています。SNSを巡っては、2024年11月の兵庫県知事選などで、記者の顔写真をさらして容姿をあげつらうほか、取材対象者との関係について事実無根の内容を書き込んだ投稿が拡散されるなど、被害が深刻化していました。

新型コロナ感染症の流行下で、感染症専門医としてテレビや新聞などで情報発信していた埼玉医大総合医療センターの岡教授(感染症科)をSNS上で中傷したとして、侮辱罪に問われた男性会社員に対し、さいたま地裁は、罰金20万円の判決を言い渡しています。判決によれば、被告は2023年6月、岡教授についてSNS上で、「ハゲ」「クズ中のクズ」などと投稿、被告側は「批判の趣旨で、侮辱に当たらない」などと主張していましたが、判決では「身体的特徴や思考に対する否定的評価を示し、侮辱に当たることは明らか」と認定、「(投稿が)ネットに残存することによる伝播可能性の高さに照らしても、その刑事責任は軽いものではない」と非難しています。

総務省が発表したSNSなどで拡散され社会問題化している偽・誤情報に関する実態調査では、実際にあった15種類の偽情報のうち、その内容を一つでも見聞きした上で「真実」と誤認していた人が47・7%と半数弱に上る結果となりました。さらに接した人の4人に1人が家族や友人に話したり、SNSに書き込んだりして拡散させたことも分かりました。偽情報を拡散した理由で最も多かったのは「驚きの内容だった」の27.1%。「興味深いと思った」や「他の人にとって有益だと思った」といった回答も20%を超え、全体の9割がリテラシーの重要性を認識する一方、理解力を高めるための取り組みは実施していない人が多いことも分かりました。利用者が偽情報を信じやすい実態を踏まえ、政府は理解力を高めるための呼びかけを強める考えです。また、ネット情報の正しさを判断する基準として「自分で論理的・客観的に考えた結果」「自分の意見や信念と一致している」を挙げた人の割合は、60代以上が他の年代よりも高くなりました。他方、偽・誤情報に気づくきっかけは、ネット版を含めた新聞やテレビ、ラジオ、雑誌などからの情報発信が上位を占めました。SNSやネット情報の正誤に対する判断基準を尋ねたところ、全体では「公的機関が発信元・情報源である」が41.1%、「自分で論理的・客観的に考えた結果」が37.2%と続き、また、「メディアが発信源・情報源である」は15.2%で、「自分の意見や信念と一致している」の15.1%と拮抗しており、メディアへの信頼が高いとは言えない実態も浮き彫りとなりました。年代別でみると、60代は「自分で論理的・客観的に考えた結果」がもっと高く、「自分の意見・信念」も2割超とほかの世代よりも高く、10代は「公的機関」が5割を超え、次に「専門家」でした。一方、偽・誤情報に気づくきっかけは「テレビ・新聞(ネット版含む)」が39.6%、「テレビ・新聞以外のマスメディア」(同)」 が30.4%、「ネットニュース」が28.8%でした。また、動画共有サービスのコメント欄(28.4%)や動画共有サービスの動画(20.4%)も、偽・誤情報に気づくきっかけとして活用されていました。

ネット上の誤情報や偽情報を信じている人が、誤りを正すことにつながる方法を、名古屋工業大や理化学研究所、東北大などの研究チームが明らかにし、専門誌に発表しています。2025年5月26日付朝日新聞によれば、誤った情報を信じている人はその誤りを正す記事を避ける傾向がみられるものの、そうした自分の傾向を振り返ってもらうような支援が効果的だといいます。ネット上の誤情報・偽情報がSNSを介して急速に広がり、社会に深刻な影響を与える事例が増えている中、その対策の一つがファクトチェック(FC)です。情報の真偽を検証し、正確な情報を共有する取り組みが進められているものの、誤った情報を信じている人は、その誤情報を訂正したFC記事も避ける傾向が確認されています。具体的な調査では、(1)自分がFC記事を積極的にクリックするタイプか、避けるタイプかなど、二つの質問で自身を振り返ってもらう(2)信じている誤情報のFC記事をクリックされやすいように記事リストの上位に置く(3)特に何もしない、の三つにわけて取り組んでもらったところ、信じている誤情報を訂正するFC記事をクリックする傾向が低いグループでは取り組み後に、FC記事へのクリック率が(2)で33ポイント増、(1)は14ポイント増となり、(3)に比べて統計上、明確な差が出たといいます。一方、正しい情報に考えを改めたかについては、(1)は効果が確認され、(2)(3)に比べて明確な差があり、効果が1週間後も続いた一方、(2)はクリック数は最も増えたにもかかわらず、考えを改める効果は乏しかったといいます。こうした結果を受けて、心理的な壁を克服するための有効な支援方法として、研究チームの田中・名古屋工業大教授(認知科学)は「『クリックしましょう』とか『考え方を変えましょう』などと強制せず、自分のクリックの傾向はどうだったかなと自律的に振り返ってもらうことで、自分はどのように情報と向かい合いたいかを考え、その結果、自らクリックをして、読んだ訂正情報をもとに、誤情報を吟味するようになったのではないか」とみています。研究チームは今後、訂正情報をより効果的に伝える方法の開発をめざすといい、「表面的なクリック数だけをみるのではなく、どのようにしてクリックを促すかの質を評価していく必要がある」と指摘しています。

2025年6月3日に投開票された韓国大統領選では、インターネットで「不正選挙論」に絡んだフェイクニュースや主要候補者の虚偽の画像・動画「ディープフェイク」などが拡散しました。結果として選挙に対する信頼感が損なわれており、今後に大きな課題を残しています。韓国ではこれまでも選挙に敗れた陣営の一部が「不正選挙」を主張してきており、ここ数年は、ユーチューブなどで拡散がしやすくなりました。ある調査で中央選挙管理委員会に対して「非常に不信感を持っている」と「不信感を持っている」と答えた人の割合は合わせて42%にのぼり、特に保守系政党「国民の力」の支持者では、75%に達しています。また、公共放送KBSによると、事前投票が行われた5月30日、南東部・蔚山の警察署に「中国人が投票している」との通報があったものの、警察が確認すると、この人物は中国人ではなかったといいます。しかし投票所前で「中国人探し」をする人もおり、ヘイト行為として問題視されています。 生成AIを利用して本物であるかのような精巧な画像・動画を作る「ディープフェイク」も拡散、候補者の動画を加工し、実際に言っていないことや、していないことを、実際にしたかのように見せる動画が出回りました。韓国の公職選挙法では、投開票日の90日前から選挙運動関連のディープフェイクの作成と拡散が禁止されており、選管や警察はモニタリングと取り締まりに追われました。中央選管によると、4月から6月2日まで10448件のディープフェイクの画像や映像について、通信機関に削除を申請したといい、2024年4月の総選挙での削除申請は約3カ月で388件であり、大幅に増加したといいます。

総務省は、インターネット上の偽・誤情報対策を話し合う作業部会にSNSに関する論点整理案を示しています。投稿者に報酬を支払う収益化の仕組みを災害時など特定の場面で停止することを検討すると盛り込みました。論点案は収益停止を導入する場合、対象となる情報や収益の種類、停止する期間などを検討する必要があるとし、作業部会メンバーの大学教授や弁護士からは「災害や選挙など特定の場面においては導入することも考えられる」との意見が出たといいます。広告収入を目的に偽情報を投稿しインプレッション(閲覧回数)を稼ぐケースが相次いでおり、収益化の停止によって歯止めをかける狙いがありますが、実質的な表現規制につながらないよう対象をどう限定するかが課題になります。論点案はSNS運営事業者が発信者に払う収益として(1)広告閲覧に応じた報酬(2)投稿への反応・返信などに応じた報酬(3)閲覧者から発信者への「投げ銭」(4)利用者の有料コンテンツ購入への成果報酬を例示、今後、停止対象の議論を深めることになります。アカウント開設時の本人確認の義務付けも論点に挙げています。本人確認のないアカウントと交流しない選択ができるように義務付けるのは許容できるかなども検討、生成AIを使った偽情報への対応にも触れ、AIが生成した情報だと明示するようSNS事業者に求める場合、どんな表示が可能かを協議するとしています。

与野党は、国会内で選挙に関するSNS上の偽情報対策を協議しています。EUの対応を参考に事業者による自主規制を柱にする案が出ています。SNS規制に反対するトランプ米政権との間合いを計りながらの難しい検討作業となります。SNS選挙のルールは、注目を集めることがお金になる「アテンションエコノミー」への対応が焦点になります。SNSは投稿の閲覧や動画再生の回数が増えるほど収益が上がるため、一部の投稿者は関心を集めるため偽情報を流したり、他人への中傷につながりやすくなったりするとの指摘があります。会合では、SNS事業者が申し出を受けて迅速に投稿を削除する仕組みについて意見を交わし、事業者が削除要請を受け付ける体制を整えたり、投稿者の本人確認を強化したりすべきだとの声が出ています。規制の手法を例示しつつ、最終的に事業者に委ねる考えを示し、具体例として、偽情報を投稿して収益を稼ぐ発信者への支払い停止などを挙げています。政党や候補者から投稿削除の要請を受け付けるため、窓口や手続きの整備も含めています。AIで生成した動画や画像について、利用者に警告を表示するよう提示、著名人による特定の政党・候補の支持表明を装う偽動画などは、有権者の投票判断に大きな影響を及ぼすリスクがあり、他の候補者らの名誉を傷つける投稿は即日削除を促すとしています。投稿者へ照会せずに削除すれば憲法が保障する「表現の自由」に抵触する恐れがあるとの懸念を踏まえ、投稿者の異議申し立てに応じて投稿を復活させる仕組みも合わせて提唱しています。SNS事業者への規制はEUに先例があり、2022年に施行したEUのデジタルサービス法(DSA)は事業者に偽情報などの有害コンテンツの排除を求めています。ドイツ当局はDSAに基づき、2025年2月の総選挙に合わせて事業者を審査、偽情報の拡散が念頭にあり、グーグルやメタ、マイクロソフトなどを対象に「違反行為」が起きた場合への備えを確認しています。国際大学の山口真一准教授は自主規制を柱とするルールに関し「表現の自由とのバランスや技術的な限界を考慮すれば妥当なアプローチだ」と述べ、偽情報の投稿に対する収益の支払い停止について「アテンションエコノミーに一定の抑止効果が期待できる」と指摘しています。一方で偽情報を判断する基準などは定まっておらず「具体的な運用面に課題が多く残る」とも強調しています。SNS規制はトランプ政権との関係も考慮する必要がある。規制で先行する欧州と対立の火種になっているためで、バンス米副大統領は2025年2月にドイツで演説し、欧州のSNS規制に関して「検閲」「民主主義の破壊」などと批判、自身に近い保守的な主張を抑え込もうとしているとの警戒が背景にあるとされます。

家庭教師を派遣する「家庭教師のトライ」の運営会社が、登録会員にオンラインで提供している映像学習サービスの教材で、水俣病が遺伝するという誤った内容の動画と文章を配信していたことが分かりました。熊本県水俣市の患者・被害者団体が環境省を通じて訂正を求め、すでに削除されています。「水俣病被害者・支援者連絡会」と同省によると、文章には「この病気が恐ろしいのは、遺伝してしまうことです。妊婦さんが水俣病にかかり、生まれてきた赤ちゃんまでもが発症することがありました」などと記載されていました。水俣病は同市のチッソ水俣工場から海に排出されたメチル水銀が魚介類に蓄積され、それを多食したことで発症する脳神経疾患で、妊娠した母親の胎盤を通じてメチル水銀を取り込んだ胎児性患者は存在しますが、遺伝する病気ではありません。なお、同社は、問題の経緯と再発防止策を公表、担当講師に動画撮影を任せ、チェック段階でも誤りを見落としたことが原因だったとし、視聴回数は、2015~21年に配信された同社の無料アプリでは多くて7000回程度、2016年投稿のユーチューブでは7373回だったとしています。その上で、担当者への水俣病に関する研修の実施や、教材のチェック体制強化などの再発防止策を打ち出しました。

ワクチンに関する誤情報について研究している東京大と東北大のチームが、「新型コロナのワクチンの有効性データは捏造されている」などといった情報の影響がなければ、死者数を減らすことができたとの研究成果を国際科学誌に発表しています。アンケートでは、「ワクチンの安全性のデータは捏造されている」、「製薬会社はワクチンの安全性についての懸念を隠蔽している」、「政府は予防接種と自閉症の因果関係を隠している」など、七つの誤情報について信じているかどうかを聞いたところ、一つでも信じていると答えた人は、ワクチンを接種しないと決めた「忌避者」では36.6%に上りました。ワクチン接種済みや接種予定の「受容者」では8.5%となりました。研究チームの推定では、2021年末時点で日本全体のワクチン接種率は83.4%で、数理モデルを使い、ワクチン忌避者が誤情報を信じないで受容者と同じ割合でワクチンを打った場合を計算すると、接種率は88.0%に上がったといいます。逆に、ワクチン受容者の中で誤情報を信じている人がワクチンを打たなかった場合、全体の接種率は76.6%に下がる結果となりました。同年の新型コロナによる死者数約14000人をベースに、接種率やワクチンの有効性、感染者数、変異株の種類などから予測シミュレーションを行ったところ、実際より接種率を上げられた場合は431人の死亡を回避できたといいます。一方、誤情報への対応に失敗して接種率が下がった場合、死者数は1020人増えたといいます。研究チームは、「詳細な数字の分析はまだだが、21年当時に比べて誤情報を信じる人は急増傾向だ。現状のまま次のパンデミックを迎えると、事態が深刻化する恐れがある」と指摘しています。

(7)その他のトピックス

①中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産を巡る動向

中央銀行が電子データの形で発行する「中央銀行デジタル通貨(CBDC)」の導入可否を検討する政府と日銀の連絡会議は、2回目の中間論点整理を公表しています。CBDCは法定通貨として日銀が発行し、スマホのアプリやカードを通じて即時に決済が完了する形を想定しています。導入について中間整理では「予断するものではない」と明記し、諸外国の状況や経済情勢などを見ながら検討するとの見解を示した。

▼日本銀行 中央銀行デジタル通貨に関する実証実験「パイロット実験」の進捗状況(2025年5月)
  • おわりに
    • パイロット実験では、「実験用システムの構築と検証」と「CBDCフォーラム」を両輪とした多角的な検証と議論を続けている。
    • 今後は、実験用システムを用いた性能試験等の検証をさらに進めるとともに、机上検討を含む検証内容のCBDCフォーラムでの議論などを通じて、実務上の知見を実験用システムの検証に反映していく。また、CBDCフォーラムでは、現在活動中の6つのWGでの検討を続けるとともに、WG横断的なテーマを切り口とした議論も行う予定である。
    • わが国でCBDCを発行するかどうかは、現時点では決定しておらず、今後の国民的議論のなかで決まっていくものだが、日本銀行としては、その議論の前提となるよう、CBDCに関する検討を引き続きしっかりと進めてまいりたい。

実証実験等から、将来の「デジタル円」の発行に向け、決済記録の管理方法やキャッシュレス決済事業者が参加しやすい環境整備などが検討課題に挙がっています。諸外国の検討状況や社会情勢の変化を踏まえつつ、引き続き期限を決めずに議論するとしています。論点整理ではまず法律上の扱いが課題に挙がり、CBDCを金銭と同等に定義すべきか、差し押さえなどを行う際の手続きを整備すべきか、といった論点、プライバシーの保護とデータ活用の両立といった論点も今後、詰めていくことになります。CBDCの決済に伴うデータは金融事業者の業務や公的調査などに活用することが可能ですが、利用者の個人情報保護も同時に担保するような取り扱いや管理方法を検討すべきだと指摘されたほか、マネロンの疑いのある取引が発生した際、警察などに報告する体制を整えることも必要だとしています。キャッシュレス決済事業者との共存関係の構築も論点となります。われ方に関しては既存の決済ビジネスを置き換えるものではなく、異なる決済手段の相互運用などをサポートする基盤となる可能性に言及、通常の買い物で消費者がCBDCを利用する以外にも、CBDCが橋渡し役となることで現在は難しい異なるアプリ間の送金が可能になることも想定されるとしたほか、小規模店舗や医療機関など主に現金が利用されている場面では「キャッシュレス決済を利用していない主体も利用・参加しやすい環境を確保する」とするなど、誰でも利用しやすい運用方法を検討していく必要があります。

近年、通貨のデジタル化の動きがじわりと加速、米国では、価格が法定通貨に連動する暗号資産であるステーブルコインの存在感が高まっており、法整備の議論が進行中です。一方、中国ではCBDCのクロスボーダー利用が拡大、欧州でも、CBDC導入に向けて準備を加速している状況にあります。本コラムではCBDCの検討の動きを追っていますが、発端は、2019年6月にFB(現メタ)が突如打ち出した「リブラ計画」でした。リブラ計画に対し、国際的に流通するデジタル通貨の誕生に多くの国が危機感を抱いたことが今の流れにつながっています。CBDCの開発にとりわけ積極的だったのが中国で、もともと中国政府は、人民元の国際地位向上を戦略的に進めており、2015年には、世界の銀行間の決済システム「国際銀行間通信協会(SWIFT)」に対抗し、「人民元クロスボーダー支払システム(CIPS)」という独自の決済システムを構築、2016年には人民元が国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)通貨バスケット入りを果たし、次の一手として、デジタル人民元の国際決済利用を推進しています。デジタル通貨のメリットは、一般に、(1)銀行口座を持てない人々にも決済機能を提供できる、(2)紙幣に比べて取引コストが安く社会全体の効率化が図られる、(3)タンス預金の概念がない(基本的にオンラインで保有される)ため、マイナス金利をより多くの層に適用することができる、(4)国外持ち出しをより厳密かつリアルタイムで捕捉できる、などがあります。CBDCとステーブルコインはいずれもデジタル通貨ですが、運営主体が大きく異なり、CBDCは各国の政府または中央銀行が発行体となるのに対し、ステーブルコインは、テザー社やサークル社等の民間企業です。ステーブルコインは、CBDCほど信用がないため、これを補完するための安定資産を持つ必要があり、現在、世界で本格的に流通しているCBDCは、中国、バハマ、ナイジェリアの3か国等に限られ、このうち、世界一使われているCBDCはデジタル人民元となります。一方、ステーブルコインは、リブラ計画の頓挫で国際的な決済通貨としての開発は影を潜めたものの、その後、値動きの激しい暗号資産への投資の滞留資金等としてプレゼンスを高めています。米国では、バイデン前政権が2022年にCBDCの検討を発表したものの、トランプ大統領は、就任早々CBDCの発行を禁止する大統領令に署名、代わりに、民間ベースのステーブルコインの推進を表明しています。CBDCは、その国の信用力から逃れることはできません。一方のステーブルコインの(暗号資産業界内の取引が大半とはいえ)取引量はクレジットカード並みに増加しており、侮れない存在になっています。もし、その裏付資産が、例えば金(ゴールド)や主要国の通貨バスケットなど、一国の信用力に左右されにくいものに設定された場合、米政府に危機が迫った瞬間に、一気にプレゼンスが高まる可能性も考えられます。米政府は8133トンの金を保有、株式や債券などと違う値動きをする代替資産として保有されており、この機能をビットコインが担えると米政権は考えています。米財務省も2024年10月に公表したリポートで、ビットコインは「金融機関などを介さずに暗号資産などを売買できる分散型金融(DeFi)の世界における価値の貯蔵手段、いわゆる『デジタルゴールド』として使われているようだ」と分析する。しかしながら、デジタルゴールドは盤石ではなく、ピクテ・ジャパンによれば、ビットコインは2018年ごろから米国株との相関性が強まる局面が増えているといいます。報道で大槻奈那氏は「リスク分散効果は(金よりも)限られる」と指摘、麗澤大学の中島教授は「暗号資産は流動性や安全性など外貨準備としてふさわしい条件を備えていない」と指摘しています。長期投資を前提とする年金基金による短期投資の実態(長期の保有をしていない実態)はビットコインが投資資産として未熟であることを示しています。いずれにせよ、デジタル通貨の巡る動きは、世界の通貨とそれに関わる情報戦の勢力図を変える可能性を秘めていることと言えそうです。

そのステーブルコインについては、JPモルガン・チェースなどの米銀大手が共同発行を検討していることが明らかになっています。トランプ米政権や米議会がステーブルコインの振興に動くなか、銀行側は新たな決済手段としての利用を模索しています。ビットコインなどの暗号資産は日々の価格変動が大きいのに対し、ステーブルコインは決済への応用がしやすいとされます。銀行は特に国境をまたぐ送金や決済の迅速化、コスト低減につながるとみて、実用化を探っています。暗号資産企業にこうした取引需要を奪われないよう対抗する意図もあり、銀行がステーブルコインを取り扱うようになれば、暗号資産市場は飛躍的に拡大する可能性があります。ただステーブルコインも他の暗号資産と同様にサイバーセキュリティの確保が不可欠で、過去には「価格の安定」という触れ込みに反して急落した事例もあり、問題が生じた場合に金融システムへの波及を防ぐ措置など課題は多いのも実情です

日本では、現在開会中の国会において、海外を本拠とする暗号資産交換業者が経営破綻した際に、日本の顧客資産が国外流出する事態を防ぐ命令を出せるようにする改正資金決済法が成立しました。暗号資産の現物のみを扱う海外の業者には金融商品取引法に基づく同様の命令を出すことができないため、資金決済法でも破綻時に日本の投資家が保護されるように措置することになります。公布後、1年以内に施行されます。また、暗号資産交換業者と利用者を引き合わせる「仲介業」も新設され、交換業者よりも規制を軽くし、ゲームアプリ内で暗号資産をやりとりするなど新たなサービスが生まれやすくすることを狙っています

日本暗号資産等取引業協会(JVCEA)や日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)は、2024年5月に発生したDMMビットコインの不正流出事件を踏まえ、連携強化が必要と判断し、会員企業に暗号資産業界のサイバー対策の知見共有を目的とした新組織JPCrypto-ISAC加入を呼びかけましたが、正会員の構成メンバーは12社と、国内に登録する暗号資産交換業者の半数に届かず、最大手のビットフライヤーやマネックスグループ傘下のコインチェックは参加しませんでした。ビットフライヤーは「セキュリティは競争領域であり、膨大な投資をしてきた。このノウハウに企業価値があり、簡単に公開するのは難しい」と話していますが、大変考えさせられます。ひとたび流出が起きれば業界全体がダメージを負うのであり、短期的な損得を抜きにして協力しないといけないのではないかとも考えられるためです。同様に大きな脅威に晒され、膨大な投資を必要とするAML/CFTにおいては、金融業界を挙げて、官民連携のもと対策の高度化を推し進めている現状と比較すると、暗号資産業界全体のセキュリティ・レベルの向上はスピード感に欠けることとなり、北朝鮮をはじめ、犯罪集団からの恰好のターゲットとなること、それにより利用者の資産が脅かされる事態となり、業界全体への不信感(不審感)をさらに高めてしまう結果になりかねません。実際、不正流出はその規模を拡大する一方で、2025年2月には、世界各国で取引所サービスを展開するBybitが不正アクセスに遭い、約14億6000万ドル(約2200億円)相当の暗号資産が盗まれています。北朝鮮のハッカー集団によるものとされます。北朝鮮が関与した点では、DMMビットコインの不正流出と共通しています。この事件では取引管理を委託していたソフトウェア会社Gincoが狙われ、ハッカー集団はヘッドハンティングを装い、採用前の試験をかたって悪意のあるコードをGincoの従業員の業務用端末で実行させたとみられ、従業員の認可情報を窃取してサービスの土台となるシステムに侵入し、新たに不正な出金指示を追加したとされます。以前はウォレットから送金する際のパスワードに当たる「秘密鍵」を盗み取って不正送金を実行する手口が主流でしたが、管理が厳重な秘密鍵そのものを盗むより、取引を承認する手続きに介入する攻撃手法に移っています。分析会社の米チェイナリシスが公表した暗号資産犯罪リポートによると、2024年の暗号資産の不正取引は500億ドルを超え、3年前比でほぼ倍増、ハッキング件数は303件とこの10年で最多となりました。とりわけ北朝鮮が関与したハッキングは13億4000万ドルと前年の2倍に急増、高度化する犯罪者集団の手口に対応するには、暗号資産業界が同じ方向で対策を強化していくことが不可欠ではないでしょうか。そもそも日本は、かつて世界最大の暗号資産取引がありましたが、相次いだ巨額の不正流出事件により顧客離れが進みました。その後の規制強化で安全対策の水準は上がりましたが、それを上回るペースで犯罪集団のレベルも上がるいたちごっこが続いており(すべての金融犯罪において同様の構図にあります)業界連携、官民連携の深化が不可欠な状況です。

暗号資産に関する国内外の最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 暗号資産交換所大手の米コインベースは2025年5月、サイバー攻撃によって顧客情報が盗まれたことに伴う被害額が1億8000万~4億ドルに上る可能性があるとの見通しを示しています。コインベースは、正体不明の相手から特定の顧客口座に関する情報と内部データを入手したと脅迫する電子メールを受け取り、一部顧客の氏名、住所、メールアドレスなどが盗まれたものの、パスワードもしくはログイン認証コードはハッキングされなかったものの、だまされてハッカー集団に送金してしまった顧客には返金するということです。ハッカー集団は、金を支払ってコインベースの従業員や取引業者から協力者を獲得し、情報を入手したとみられています(コインベースはこれらの従業員を既に解雇したと明らかにしています)。コインベースは、ハッカー集団から要求された2000万ドルの支払いを拒否、逆にハッカー集団に関する情報提供に2000万ドルの懸賞金を設定したほか、こうしたサイバー攻撃防止に向け、米国に新たなサポート拠点を開設するとしています。
  • 暗号資産の交換業を無登録で営んだとして、大阪府警は、資金決済法違反容疑で、住所不定の会社役員ら2人を逮捕しています。報道によれば、容疑者は2025年2月に同容疑で逮捕された男3人に指示を出しており、中心的役割を担っていたといい、全国でセミナーを開催して勧誘、約340人に販売し約12億円を売り上げていたといいます。逮捕容疑は共謀して2021年4月~23年1月、国の登録を受けず、顧客3人に現金計約3200万円を金融機関の口座に振り込ませるなどし、暗号資産「コルヌ・コピア」を販売した疑いです。
  • トランプ米大統領は、自ら発行に関わる暗号資産「$TRUMP」の上位保有者220人を集めた夕食会を開催しています。トランプ氏一族は暗号資産ビジネスを展開しており、同氏は政策面でも暗号資産の普及を後押しする姿勢を示しており、利益相反の疑いや、法律が禁じる外国人の政治献金を実質的に可能にする抜け道になるとの懸念が強まっています。米国では外国の干渉を排除するため、外国人の政治献金が禁じられていますが、米ブルームバーグ通信によれば、最上位25人の大半は米国人が利用できない外国の暗号資産取引所で$TRUMPを購入、投資家を通じて外国政府から資金が流れ込んでいる可能性も指摘され、トランプ氏への影響力行使を狙った実質的な賄賂との見方もなされています。なお、2025年5月26日付日本経済新聞によれば、夕食会に参加した一人は中国出身の大富豪、ジャスティン・サン氏(暗号資産トロンの創設者)で、2023年にはSECから市場操作などの罪で提訴された人物です。トランプ氏はほかに、大統領選期間中の2024年9月に暗号資産ベンチャー「ワールド・リバティ・フィナンシャル」への関与を発表、トランプ氏の息子2人が経営に参画する同社はステーブルコイン「USD1」を発行、中国系の大富豪やアラブ首長国連邦(UAE)から多額の投資を集めています。また、メラニア夫人の名前が冠されたミームコイン「$MELANIA」も発行されています。
  • パキスタン財務省は、暗号資産ビットコインの採掘(マイニング)とAIデータセンターに電力を供給する国家的な取り組みの第一段階として、2000メガワットの電力を割り当てると発表しています。財務省はこの取り組みについて、政府系機関「パキスタン暗号資産評議会」の主導で、余剰電力の収益化、ハイテク雇用の創出、外国投資の誘致を目指す広範な戦略の一環と説明しています。今回の割り当てはデジタルインフラ展開に向けた最初の段階だとしていますが、パキスタンのエネルギー部門は、電気料金高騰や過剰発電能力などの課題を抱えているほか、太陽光発電の急速な普及で高コスト対策として代替エネルギー源に目を向ける消費者が増えたことで状況が一段と複雑化しているといいます。
②IRカジノ/依存症を巡る動向

あらためて大阪でのカジノを含む統合型リゾート施設(IR)は、大阪・関西万博の会場隣接地に整備され、2030年秋頃の開業を目指しています。年間2000万人の来訪と、約5200億円の売り上げが見込まれています。IRにおいては、ギャンブル依存症対策が大きな課題となっていますが、大阪市議会は、ギャンブル依存症対策を強化する条例案を反対多数で否決しています。深刻化するオンラインカジノによる被害を軽減するため、自民、公明両党が提出しましたが、政治団体・大阪維新の会や共産党は「全体として未完成で不十分な内容だ」と反対していたものです。条例案には、小中学校カリキュラムへの依存症予防教育の導入や、24時間対応の相談窓口の設置が盛り込まれていました。なお、ギャンブル依存症対策を巡っては、大阪府が2022年、全国で初めて条例を施行しており、維新の岡田妥知市議は「市が独自条例を制定するより、既存の府条例を十分に活用すべきだ」と訴えています。なお、関連して、事業会社「大阪IR」が、社名を「MGM 大阪」に変更するといいます。米リゾート大手MGMリゾーツ・インターナショナルのブランド力を活用し、国際的な知名度の向上を図っていくといいます。大阪IRには、MGMの日本法人とオリックスが約41%ずつ出資し、パナソニックHDや鉄道大手など、関西を中心に22社が残りを出資しています。社名変更後も、この出資比率は変わらないといいます。MGMは世界35か所で、カジノやホテル、劇場などの総合レジャー施設を運営し、年間9000件以上のショー・イベントを手がけており、世界大手のエンタメ企業としての認知度をいかし、大阪への有力コンテンツの誘致や、富裕層の誘客に弾みを付ける狙いがあるとみられています。

本コラムで以前から取り上げてきましたが、オンラインカジノの蔓延が深刻化しています。警察庁が民間業者に委託した調査によると、オンラインカジノの利用経験者は約337万人にのぼり、このうち約197万人が現在も利用し、年間の賭け金総額が約1兆2423億円と推計されています。海外の賭博事業の許可を得た業者が運営しており、中米のサイトが多くを占め、巨額の金が海外に流出し、犯罪グループの関与も懸念されています。その背景の一つは、ユーチューブなど動画サイトによる影響で、オンラインカジノの動画大量に投稿されて興味をそそり、賭けてしまう人もいると思われるほか、「無料版」のうたい文句もきっかけになっています。最初はルーレットなどオンラインカジノを利用できる無料ポイントが提供されても、あくまで入り口で、次第に負けてポイントがなくなり、自ら金を賭けていくことになるケースも少なくないとされます。宣伝に有名人が起用されたケースもあり、「スポーツ選手や芸能人が広告塔になり利用者の心理的なハードルを下げた」(警察幹部)との指摘もその通りだと思います。オンラインカジノに手を出すのはこういった巧妙な仕掛けに加え、「金がほしい」「ヒリヒリとした感覚がたまらない」というギャンブル依存や、ネットへの依存という病的な心理が影響しており、常にスマホから利用できる手軽さは、公営ギャンブルにはない魅力でもあります。総務省の調査では、令和5年時点で平日1日当たりのネットの平均利用時間は194.2分に上り、この10年以内で2倍以上に増え、特に若い人たちの利用時間が突出し、平日では20代、休日では10代が最も長く、オンラインゲームや動画視聴、SNSなどの利用が目立つといいます。オンラインカジノの世代別の利用者も20代や30代が多く、10代も含めた若年層の利用が顕著となっています。総務省の有識者会議では、オンラインカジノの通信を遮断する「ブロッキング」も議論され始めました。有効な手段だと期待される一方で、かつて児童ポルノのサイトが社会問題になった際も、コンテンツが複製されるミラーリングサイトが次々と出現して「モグラたたき」のような状況になった経緯があり、効果は未知数だという声もあります。中国などブロッキングが日常的に繰り返されている国もあるなか、ネットをめぐる自由度は、日本が他の国と比較すると群を抜いており、その結果、オンラインカジノの事業者側にとって、日本人は絶好のカモになっているといえます。ある程度の利便性や自由度を犠牲にして、オンラインカジノの蔓延を食い止めることは公共の利益に適うものだと筆者は考えます。

民間企業でつくるスポーツエコシステム推進協議会は、国内居住者が海外のウェブサイト経由で違法に行うスポーツベッティング(賭博)の賭け金が年間6兆5000億円に上るという推計を発表しています。警察庁も2025年3月、国内居住者のオンラインカジノの賭け金が年間1兆2400億円に達するという推計を公表しています。2024年の国内居住者によるスポーツベッティングの総額6兆5000億円のうち、日本のスポーツを対象とした金額は約1兆円で、2024年度のスポーツ振興くじの売り上げ1336億円を大きく上回っています。一方、海外の居住者が日本のスポーツを対象に行うベッティングの賭け金も総額4兆9000億円に上り、金額の半分以上はJリーグなどのサッカーを対象としています。

その他、最近のオンラインカジノを巡る報道からいくつか紹介します。

  • 海外のオンラインカジノの賭け金を巡るマネロン事件で、カリブ海のオランダ領キュラソーを拠点とするオンラインカジノの運営に関与し、日本国内の客を相手に賭博を行ったとして、神奈川県警は、東京都中央区の会社役員ら、オンラインカジノの決済システム管理役9人を組織犯罪処罰法違反(組織的常習賭博)容疑で逮捕しています。報道によれば、9人は他の者と共謀し2024年4~5月、国内の不特定多数の賭客に対し、オンラインカジノ「コニベット」で賭博をさせた疑いがもたれており、管理する決済システムを通じてアクセスさせ、約1カ月間でのべ約3600人から賭け金約26億3千万円を集めたとみられるといいます。県警は9人が海外の少なくとも6サイトの決済システム運営に関与したとみており、2024年7月までの約1年間では、管理する口座への賭け金入金は約900億円にのぼるといいます。県警は、匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)が事件に関わっているとみて、全容解明を進めるとしています。端緒となったのは特殊詐欺をめぐる捜査で、「短期間で尋常ではない件数の入出金がある口座がある」との不審な法人名義の口座の存在を把握したことでした。オンラインカジノは海外に拠点を置く業者が多く、捜査は難航することが多いところ、今回はIPアドレスなどからサーバーを特定、サーバーのデータを差し押さえて分析し、客が入金する口座は分散して割り当てていることがわかったといいます。常時10口座ほどが稼働し、頻繁に入れ替えられていたという。特定の口座に入金が集中して不審な取引とみなされ、口座が凍結されるのを避けるためとみられています。休眠状態の口座を購入するなどして約500の口座を用意し、資金の流れを複雑化させていたとみられるといいます。なお、県警は2025年2月以降、オンラインカジノで得た収益約42億円を複数の口座に不正に移動させた組織犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)容疑や、支払い督促を装って凍結されたカジノ用の口座から預金を引き出した詐欺などの疑いで、9人のうち3人を逮捕していました。新たに逮捕された6人は、賭け金や売り上げの管理統括役、オンラインカジノ用の独自決済システム「バーチャルペイ」の運営や保守の担当者などを担当していたといいます。
  • 海外のオンラインカジノで賭博を繰り返したとして、警視庁が、X(旧ツイッター)上で「明鏡止水」と名乗り27000人以上のフォロワーを抱え、カジノサイトを宣伝して報酬を得ていた「アフィリエイター」の男を常習賭博容疑で逮捕しています。2022年夏以降の賭け金総額は約280億円に上るといい、オンラインカジノを巡る賭博事件の個人の賭け金としては、過去最高額とみられています(1日の最高賭け額は約7億円、最終的な収支はマイナス4000万円ほど。「アフィリエイター」としての活動では、100人以上を紹介して約700万円を受け取っていたといいます)。オンラインカジノの蔓延の背景には、運営元を手助けするアフィリエイターの存在が指摘されています。政府は対策強化に乗り出しており、今国会中の成立を目指すギャンブル等依存症対策基本法改正案には、サイトに誘導する広告の掲載や、SNSなどでのサイトへの誘導行為を禁止することが盛り込まれています。警察当局はアフィリエイターの摘発を進めており、埼玉県警は2024年9月、自身のユーチューブチャンネルでカジノサイトを紹介していた30歳代の女を常習賭博ほう助容疑で逮捕、岡山県警に2025年1月に摘発された男女4人は、約20のカジノ運営会社と契約を結び、誘導した客の負け分の一部を受け取っていたとみられています。
  • 海外のオンラインカジノを利用したとして、北海道警は、釧路方面本部管内の警察署に所属する40代の男性巡査部長を単純賭博容疑で札幌区検に書類送検しています。勤務時間中の利用も確認され、道警は減給100分の10(6か月)の懲戒処分としたといいます。報道によれば、巡査部長は2023年10月~2024年5月、海外のカジノサイトに自身のスマホから接続し、約3600回にわたってバカラなどに計約8万8000円を賭けた疑いがもたれています。署内に貼られたカジノサイトへの注意喚起のポスターを見て違法性は認識していたといい、取り調べには「ばれないと思った。負けた分を取り返したかった」などと供述しているといいます。
  • 海外のオンラインカジノで賭博をしたとして、東京簡裁は、吉本興業のお笑い芸人2人を単純賭博罪でそれぞれ罰金10万円とする略式命令を出しています。報道によれば、2人は「9番街レトロ」のなかむら★しゅん氏、「プリズンクイズチャンネル」の最強の庄田氏で、東京区検が、2人を含む吉本興業のお笑い芸人6人を同罪で略式起訴していたものです。
  • 人気グループ「JO1」の所属事務所は、メンバーの鶴房氏が過去にオンラインカジノを利用していたとして、10日間の活動自粛を決定したと公式サイトで発表しています。事務所は「オンラインカジノの違法性に関する周知が不十分だった面があり、本人も利用していた期間は違法性を十分に認識できていなかった」などと説明、謝罪しています(JO1はNHK紅白歌合戦に3年連続出場した男性11人組)。

金融庁は公式サイト上でオンラインカジノの危険性を訴えるページを開設、警察庁と連携して警鐘を鳴らすとしています。「オンラインカジノは、あなたの身を滅ぼします」と題し、各省庁からの要請などを一覧できるようにしています。金融庁は、全国銀行協会や日本資金決済業協会などの業界団体に対し、警察庁とともに参加の金融業者への注意喚起を要請しています。警察庁によるとオンライン上で行われる賭博事犯の検挙数は2024年中に計279人となり、前年に比べ2.6倍に増え、「違法性を認識せずに行っていたというケースも多い」(金融庁の担当者)といい、対策を急いでいます。

▼金融庁 ギャンブル等依存症問題啓発週間について
  • 毎年5月14日から5月20日は、ギャンブル等依存症問題啓発週間です。多重債務相談窓口では、借金に関する相談を受け付けています。ギャンブル等による経済的なお悩みがありましたら、まずはご相談ください。また、ギャンブル等のための資金を新たに借り入れられないようにする「貸付自粛制度」があります。詳しくは下記をご確認ください。
  • ギャンブル等依存症について
    • ギャンブル等依存症とは、ギャンブル等にのめり込んでコントロールができなくなる精神疾患の一つです。これにより、日常生活や社会生活に支障が生じることがあります。
    • 例えば、ギャンブル等を原因とする多重債務や貧困といった経済問題に加えて、うつ病を発症するなどの健康問題や家庭内の不和などの家庭問題、虐待、自殺、犯罪などの社会的問題を生じることもあります。
    • ギャンブル等依存症は、適切な治療と支援により回復が十分に可能です。しかし、本人自身が「自分は病気ではない」などとして現状を正しく認知できない場合もあり、放置しておくと症状が悪化するばかりか、借金の問題なども深刻になっていくことが懸念されます。
▼厚生労働省(依存症の理解を深めるための普及啓発事業 特設ページ)
  • 依存症は本人の意志の強弱や性格の問題でなるわけではなく、依存する物質や行為を使用したことがあれば誰でもなる可能性があります。
  • 依存症は適切な相談や治療により自分らしい日常生活を取り戻すことができます。
  • ご本人やご家族が依存症のことを知り、早く相談や治療につながり回復の道を歩むこと、社会が依存症のことを知り、誤解や偏見がなくなり皆で支え合う社会となること、を目指します。

違法なオンラインカジノの規制強化に向けたギャンブル依存症対策基本法改正案が、衆院を通過し、今国会で成立する公算が大きくなりました。サイト開設や利用を誘導する発信を禁止し、違法ギャンブルへのアクセス抑止を図る狙いがあります。改正案ではオンラインカジノサイトの開設を禁止、「リーチサイト」と呼ばれる紹介サイトによる情報発信も禁止し、違法情報と位置付けてユーチューブやインスタグラムなどのSNS事業者らに削除を促すものです。また、行政には違法性の周知徹底を求めています。総務省は対策を議論する有識者会議を設置し、サイトへの接続を強制的に遮る「ブロッキング」などについて検討しています。また、総務省は、違法なオンラインカジノ利用の抑止策を検討する有識者会議の第4回会合を開いています。カジノサイトへの接続を強制的に遮断する「ブロッキング」などの対策について、プロバイダーの事業者団体や検索サービス事業者が課題などを指摘しています。会合で日本インターネットプロバイダー協会は「全ての利用者の全ての通信を網羅的に検査するのがブロッキングだ」とし、憲法が保障する「通信の秘密」を制約する行為だと指摘、ブロッキングを実施する場合、事業者が大きなリスクを負うとして、「どうすれば法的な安定性のある立法になるのか、条件を詰めてほしい」と述べています。また、IT大手LINEヤフーはカジノサイトに関するヤフー検索の取り組みを説明、オンラインカジノに関係する語句で検索された場合、警告を表示するなど「カジノサイトの利用を踏みとどまらせる仕掛けにしている」としつつ、次々と新しいサイトができる懸念があり、「検索事業者だけの取り組みには限界がある」と指摘しています。出席者からは「決済業者の支払いブロックなど他の対策も実施を目指すべきだが、どれも決め手とならない。ブロッキングも排除せずに検討することが必要だ」(山口寿一・読売新聞グループ本社社長)との意見が出たほか、「総務省だけでなく、ほかの省庁も含んだ総合的な対策が必要だ」(前村昌紀・日本ネットワークインフォメーションセンター政策主幹)との主張もありました。

▼総務省 オンラインカジノに係るアクセス抑止の在り方に関する検討会(第4回)
▼資料4-1 これまでにいただいたご意見を踏まえた検討の基本的視座について(事務局)
  • 検討の基本的視座(案)
    • オンラインカジノの弊害は深刻であり、アクセス抑止策を含めた多面的・包括的な対策が必要ではないか。
    • ブロッキングは、すべてのインターネット利用者の宛先を網羅的に確認することを前提とする技術であり、憲法の規定を受けて電気通信事業法が定める「通信の秘密」の保護に外形的に抵触し、手法によっては「知る権利」に制約を与えるおそれがある。通信事業者がブロッキングを実施するためには、合法的に行うための環境整備が求められるのではないか。
    • 具体的には、(1)ブロッキングは、他のより権利制限的ではない対策(例:周知啓発、検挙、フィルタリング等)を尽くした上でなお深刻な被害が減らない場合に実施を検討すべきものであること(必要性)、(2)ブロッキングにより得られる利益と失われる利益の均衡に配慮すべきこと(許容性)、(3)仮に実施する場合、通信事業者の法的安定性の観点から実施根拠を明確化すべきこと(実施根拠)、(4)仮に制度的措置を講じる場合、どのような法的枠組みが適当かを明確化すべきこと(妥当性)という4つのステップに沿って、丁寧に検証することが適当ではないか。
    • また、上記の検証に当たっては、主要先進国において、立法措置の中でブロッキングを対策の一つとして位置づけている例も参考にすべきではないか。
  1. ブロッキング以外の対策が尽くされたか?(必要性)
    • 児童ポルノでは検挙等の様々な対策を尽くした上でラストリゾートとしてブロッキングが導入されたことを踏まえれば、オンラインカジノについては、クレジットカード決済に係る国内店舗側からの対策、国外のサイト開設者に対する日本向けジオブロッキングの要請といった他の対策を進めていくべき。(森構成員)
    • ブロッキングに回避策があることを踏まえ、ブロッキングを含めた技術的対策について評価していくべき。(黒坂構成員)
    • ブロッキングは、技術的に有効であるならば、オンラインカジノという大変な病理に対する重要な選択肢たりうるが、通信の秘密を侵害することから、解釈であれ立法であれ、実施する場合の根拠や対象となる範囲について丁寧な分析が必要である。(鎮目構成員)
    • ブロッキング以外の実効的な手段の不存在を踏まえるべきであり、提供行為の違法化に関する議員立法の動きを注視するとともに、支払いブロッキングについても追及すべき。ブロッキングを認めるにしても、他の手段を尽くした上で最後の手段として行うことを大前提として、丁寧に議論していくべき。(山口構成員)
    • オンラインカジノがもたらす弊害、特に依存症の問題はきわめて深刻であり、実効性のある対策が重要。その上で、ブロッキングについては、これまでの議論を踏まえて法的に検討すべきであり、特にブロッキング以外の手法が尽くされたか、それらの手法に限界があるかについて丁寧に見ていく必要がある。(曽我部座長)
    • 補充性は、他の手段によって弊害の排除が合理的に期待できるかという観点が重要。これまで他の方法を尽くしていないことのみにより補充性を否定することは難しい。(橋爪構成員)
    • ブロッキングを行っても抜け道があり、オンラインカジノの利用を十分に防止できなければ、避難行為としての適格性を有していないと評価され、これを正当化することは困難。(橋爪構成員)
    • ブロッキングの有効性については、深刻な依存症の方への効果だけでなく、ライトユーザーが依存症に陥ることの防止についての効果といった観点もあるのではないか。(曽我部座長)
  2. ブロッキングにより得られる利益が失われる利益と均衡するか?(許容性)
    • ブロッキングの必要性、それに伴う弊害等の反対利益を含めてバランスの取れた検討・分析を行うべき。(橋爪構成員)
    • オンラインカジノの保護法益は、児童ポルノと海賊版の中間に位置づけられるのではないか。オンラインカジノの弊害は、賭けた本人の自己責任もある一方で、闇バイト等の犯罪行為の入り口となったり、家族が不幸に見舞われたりすることから、単なる財産的被害というだけでは捉えられない問題である。(田中構成員)
    • オンラインカジノの被害実態について、規模だけでなく被害の広がりを含めて正確に理解する必要がある。被害の実態を明らかにすることにより、それに応じて有効な対策の在り方を検討していくべき。(黒坂構成員)
    • オンラインカジノは、匿名・流動型犯罪の拡大や国富の流出、スポーツベッティングにおける知的財産権の侵害等、様々な弊害をもたらすものである。海外の取組を参考にしながら、対策を講じていくことが急務。(山口構成員)
    • ブロッキングにより得られる利益と失われる利益の比例性について、エビデンスベースでみていくべき。(曽我部座長)
    • 賭博罪の保護法益である勤労の美風という社会的法益は観念的な利益にすぎず、法定刑も低いため、これだけでブロッキングを正当化することは困難。ブロッキングの議論においては、賭博罪固有の保護法益だけではなくて、オンラインカジノに伴う固有の弊害の大きさをどのように見積もるかという観点が重要。(橋爪構成員)
    • 法益の比較も重要。能動的サイバー防御のようにサイバーセキュリティと通信の秘密に相補う性質がある場合とは異なり、児童ポルノ、海賊版又はオンラインカジノのように、全く違う法益との関係で通信の秘密の侵害が正当化されるかどうかを考える場合には、緊急避難と同様に別個の法益が並び立つかどうかを検討すべき。(森構成員)
  3. 仮にブロッキングを実施する場合どのような根拠で行うか?(実施根拠)
    • ブロッキングの議論は、第三ラウンドであり、児童ポルノや海賊版の議論の蓄積の上で議論すべき。(曽我部座長)
    • 海賊版の検討時の枠組みを踏まえて検討し、合法的にブロッキングを行う必要があると考えられた場合、オンラインカジノについては、法解釈でなく新規の立法措置により行うべき。(山口構成員)
    • 新規立法の例として、コミュニケーションの本質的内容に関わる情報を取得対象から除外した能動的サイバー防御法案の例が参考になるのではないか。(山口構成員)
  4. 仮に制度的措置を講じる場合、どのような枠組みが適当か?(妥当性)
    • ブロッキングの新規立法を行うに当たっては、憲法が保障する検閲の禁止との関係上、行政から独立した機関(一般社団法人等)が遮断を請求することが考えられる。(山口構成員)
    • ブロッキングを広く認めすぎると国民の知る権利やサイト運営者の表現の自由を侵害しかねないため、オンラインカジノの中でも遮断対象を限定すべきであり、日本の主権が及ばない外国のサイトや、合法・安全を謳ってユーザーを誤認させるサイトに限定する等が考えられる。(山口構成員)
    • 通信の秘密とオンラインカジノの依存症対策の類型的な価値を天秤にかけて制度化することになるのではないか。通信の秘密と依存症対策という正当な利益がぶつかる場面なので、緊急避難をベースラインにした上でそれを類型化し、ある程度緩和しながら議論をしていくというのが刑法の観点からの感覚。(橋爪構成員)
    • 海賊版の検討時にブロッキングを実施する前から訴訟が提起された経緯に鑑みれば、本件も憲法訴訟が提起されるのは必至。仮に立法するとすれば、どのような検討をしたのか、なぜそれが違憲でないかが問われる。(森構成員)
    • 仮にブロッキングを実施する場合、児童ポルノの取組も踏まえるべきではないか。(長瀬構成員)
    • 仮に立法する場合には、緊急避難の要件に準じなければ憲法違反となるのか、必ずしもそこまでは必要ないのかについて、能動的サイバー防御に関する議論等も参照しながら、検討していく必要がある。(曽我部座長)
③犯罪統計資料から

例月同様、令和7年(2025年)1月~4月の犯罪統計資料(警察庁)について紹介します。

▼ 警察庁 犯罪統計資料(令和7年1~4月分)

令和7年(2025年)1~4月の刑法犯総数について、認知件数は232,134件(前年同期221,929件、前年同期比+4.6%)、検挙件数は91,268件(85,517件、+。7%)、検挙率は39.3%(38.5%、+0.8P)と、認知件数、検挙件数がともに増加している点が注目されます。刑法犯全体の7割を占める窃盗犯の認知件数が増加していることが挙げられ、窃窃盗犯の認知件数は154,678件(150,167件、+3.0%)、検挙件数は53,205件(49,934件、+6.6%)、検挙率は34.4%(33.3%、+1.1P)、となりました。なお、とりわけ件数の多い万引きについては、認知件数は34,426件(32,447件、+6.1%)、検挙件数は23,024件(21,187件、+8.7%)、検挙率は66.9%(65.3%、+1.6P)となっています。その他、凶悪犯の認知件数は2,248件(2,068件、+8.7%)、検挙件数は1,908件(1,753件、+8.8%)、検挙率は84.9%(84.8%、+0.1P)、粗暴犯の認知件数は18,594件(17,836件、+4.2%)、検挙件数は14,712件(14,663件、+0.3%)、検挙率は79.1%(82.2%、▲3.1P)、知能犯の認知件数は22,425件(18,761件、+19.5%)、検挙件数は6,544件(5,602件、+16.8%)、検挙率は29.2%(29.9%、▲0.7P)、とりわけ詐欺の認知件数は20,864件(17,208件、+20.9%)、検挙件数は5,411件(4,539件、+19.2%)、検挙率は26.0%(26.4%、▲0.4P)、風俗犯の認知件数は5,557件(4,891件、+13.6%)、検挙件数は4,895件(3,981件、+23.0%)、検挙率は88.1%(81.4%、+6.7P)などとなっています。なお、ほとんどの犯罪類型で認知件数が増加しているほどには検挙件数が伸びず、検挙率が低調な点が懸念されます。また、コロナ禍において大きく増加した詐欺は、アフターコロナにおいても増加し続けています。とりわけ以前の本コラム(暴排トピックス2022年7月号)でも紹介したとおり、コロナ禍で「対面型」「接触型」の犯罪がやりにくくなったことを受けて、「非対面型」の還付金詐欺が増加しましたが、コロナ禍が明けても「非対面」とは限らないオレオレ詐欺や架空料金請求詐欺なども大きく増加しています。さらに、SNS型投資詐欺・ロマンス詐欺では、「非対面」での犯行で、(特殊詐欺を上回る)甚大な被害が発生しています。

また、特別法犯総数については、検挙件数は18,846件(19,498件、▲3.3%)、検挙人員は14,848人(15,593人、▲4.8%)と検挙件数・検挙人員ともに減少傾向にある点が大きな特徴です。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は1,121件(1,185件、▲5.4%)、検挙人員は749人(826人、▲9.3%)、軽犯罪法違反の検挙件入管法違反の検挙件数は1,609件(1,677件、▲4.1%)、検挙人員は1,076人(1,156人、▲6.9%)、軽犯罪法違反の検挙件数は1,718件(1,974件、▲13.0%)、検挙人員は1,678人(1,978人、▲15.2%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は1,519件(1,840件、▲17.4%)、検挙人員は1,093人(1,319人、▲17.1%)、ストーカー規制法違反の検挙件数は380件(389件、▲2.3%)、検挙人員は324人(314人、+3.2%)、児童買春・児童ポルノ法違反の検挙件数は1,064件(1,115件、▲4.6%)、検挙人員は561人(632人、▲11.2%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は1,544件(1,353件、+14.1%)、検挙人員は1,204人(1,032人、+16.7%)、銃刀法違反の検挙件数は1,239件(1,368件、▲9.4%)、検挙人員は1,054人(1,174人、▲10.2%)などとなっています。減少傾向にある犯罪類型が多い中、犯罪収益移転防止法違反等が大きく増加している点が注目されます。また、薬物関係では、麻薬等取締法違反の検挙件数は2,692件(493件、+446.0%)、検挙人員は1,970人(290人、+579.3%)、大麻草栽培規制法違反の検挙件数は39件(2,094件、▲98.1%)、検挙人員は35人(1,659人、▲97.9%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は2,459件(2,348件、+4.7%)、検挙人員は1,599人(1,556人、+2.8%)などとなっています。大麻の規制を巡る法改正により、前年(2024年)との比較が難しくなっていますが、大麻事犯の検挙件数がここ数年、減少傾向が続いていたところ、2023年に入って増加し、2023年7月にはじめて大麻取締法違反の検挙人員が覚せい剤取締法違反の検挙人員を超え、その傾向が続いています(今後の動向を注視していく必要があります)。また、覚せい剤取締法違反の検挙件数・検挙人員ともに大きな減少傾向が数年来継続していたところ、最近、あらためて増加傾向が見られています(覚せい剤は常習性が高いため、急激な減少が続いていることの説明が難しく、その流通を大きく支配している暴力団側の不透明化や手口の巧妙化の実態が大きく影響しているのではないかと推測されます。言い換えれば、覚せい剤が静かに深く浸透している状況が危惧されるところです)。なお、麻薬等取締法が大きく増加している点も注目されますが、2024年の法改正で大麻の利用が追加された点が大きいと言えます。それ以外で対象となるのは、「麻薬」と「向精神薬」であり、「麻薬」とは、モルヒネ、コカインなど麻薬に関する単一条約にて規制されるもののうち大麻を除いたものをいいます。また、「向精神薬」とは、中枢神経系に作用し、生物の精神活動に何らかの影響を与える薬物の総称で、主として精神医学や精神薬理学の分野で、脳に対する作用の研究が行われている薬物であり、また精神科で用いられる精神科の薬、また薬物乱用と使用による害に懸念のあるタバコやアルコール、また法律上の定義である麻薬のような娯楽的な薬物が含まれますが、同法では、タバコ、アルコール、カフェインが除かれています。具体的には、コカイン、MDMA、LSDなどがあります。

また、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯国籍別検挙人員対前年比較について、総数246人(243人、+1.2%)、ベトナム84人(76人、+10.5%)、中国38人(36人、+5.6%)、ブラジル17人(19人、▲10.5%)、インドネシア8人(3人、166.7%)、インド8人(4人、+100.0%)、バングラディシュ5人(1人、+400.0%)、パキスタン5人(7人、▲28.6%)、韓国・朝鮮5人(11人、▲54.4%)などとなっています。ベトナム人の犯罪が中国人を大きく上回っている点が最近の特徴です。

一方、暴力団犯罪(刑法犯)罪種別検挙件数・人員対前年比較の刑法犯総数については、、検挙件数は2,422件(2,720件、▲11.0%)、検挙人員は1,267人(1,553人、▲18.4%)となりました。犯罪類型では、強盗の検挙件数は20件(29件、▲31.0%)、検挙人員は35人(49人、▲28.6%)、暴行の検挙件数は111件(147件、▲24.5%)、検挙人員は89人(131人、▲24.4%)、傷害の検挙件数は217件(251件、▲13.5%)、検挙人員は255人(274人、▲6.9%)、脅迫の検挙件数は70件(79件、▲6.9%)、11.4%)、検挙人員は87人(74人、▲9.5%)、恐喝の検挙件数は84件(88件、▲4.5%)、検挙人員は97人(108人、▲10.2%)、窃盗の検挙件数は964件(1,310件、▲26.4%)、検挙人員は184人(221人、▲16.7%)、詐欺の検挙件数は564件(424件、+33.0%)、検挙人員は265人(319人、▲16.9%)、賭博の検挙件数は17件(33件、▲48.5%)、検挙人員は41人(50人、▲18.0%)などとなっています。とりわけ、詐欺については、2023年7月から減少に転じていたところ、あらためて増加傾向にある点が特筆されますが、資金獲得活動の中でも活発に行われていると推測される(ただし、詐欺は薬物などとともに暴力団の世界では御法度となっています)ことから、引き続き注意が必要です。

さらに、暴力団犯罪(特別法犯)主要法令別検挙件数・人員対前年比較の特別法犯について、特別法犯全体の検挙件数は検挙件数は1,087件(1,347件、▲19.3%)、検挙人員は680人(873人、▲22.1%)となりました。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は3件(14件、▲78.6%)、検挙人員は4人(11人、▲63.6%)、軽犯罪法違反の検挙件数は7件(9件、▲22.2%)、検挙人員は4人(8人、▲50.0%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は8件(32件、▲75.0%)、検挙人員は6人(32人、▲81.3%)、暴力団排除条例犯の検挙件数は6件(32件、▲81.3%)、検挙人員は8人(34人、▲76.5%)、銃刀法違反の検挙件数は16件(28件、▲42.9%)、検挙人員は18人(20人、▲10.0%)、麻薬等取締法違反の検挙件数は252件(57件、+342.1%)、検挙人員は128人(23人、+456.5%)、大麻草栽培規制法違反の検挙件数は8件(247件、▲96.8%)、検挙人員は3人(150人、▲98.0%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は624件(734件、▲15.0%)、検挙人員は373人(474人、▲21.3%)、麻薬等特例法違反の検挙件数は52件(26件、+100.0%)、検挙人員は33人(6人、+450.0%)などとなっています(とりわけ覚せい剤については、今後の動向を注視していく必要があります)。なお、参考までに、「麻薬等特例法違反」とは、正式には、「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」といい、覚せい剤・大麻などの違法薬物の栽培・製造・輸出入・譲受・譲渡などを繰り返す薬物ビジネスをした場合は、この麻薬特例法違反になります。なお、法定刑は、無期または5年以上の懲役及び1,000万円以下の罰金で、裁判員裁判になります。

(8)北朝鮮リスクを巡る動向

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記が2025年、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の許宗萬議長に毎年送っていた新年の祝電を送らなかったことが関係者への取材で分かったということです。対日工作の重要拠点であり、絶大な集金力で北朝鮮指導者の金一族を支え、70年の節目を迎えた朝鮮総連ですが、近年は組織員の離脱や対北朝鮮制裁などによる集金力の低下が響き、組織の弱体化が進んでいますが、本国からの利用価値や関心が低くなっているとみられています。金総書記は2024年、韓国を「敵対国家」と位置づけ、南北統一政策の放棄を表明しましたが、結成以来「祖国の自主的平和統一」を掲げてきた朝鮮総連との間に大きな溝が生まれています。2025年5月26日付産経新聞によれば、新年の祝電は正恩氏から朝鮮総連の活動に対する指針を示す役割を持ち、もっとも重要視されており、例年送られていたものであり、また、朝鮮総連幹部訪朝の取り消しや、同年4月に開催された平壌国際マラソンに朝鮮総連体育連合会が招待されなかったことなどから、総連内部では、本国の「総連冷遇論」も芽生え、不満や不信の声が噴出しているといいます。朝鮮総連は日本社会にさまざまな不利益をもたらしてきたと同紙は指摘しています。さらに、「一つは組織的脱税だ。総連系商工人の税務書類を総連が代行して作成し、税金を大幅に減額させていた疑惑がある。北朝鮮への送金の背景にも組織的脱税があったとみられる。第一次安倍晋三政権以降、厳格な法執行が行われるまで続いていた。もう一つは言論に対する暴力的な圧力だ。北朝鮮の人権侵害や不法行為に対する言論に対し、激しい抗議をしてきた。現在の組織の衰えはすさまじい。拉致事件を認めた際に多くの人が総連を抜け、在日本大韓民国民団(民団)に入ったり、日本に帰化したりした。」などと指摘しています。一方、朝鮮総連の影響が指摘される全国の朝鮮学校に対しては、今も道府県や市区町から多額の補助金が支給されていますが、各地の朝鮮学校では統廃合が進み、児童や生徒数は年々減少、在籍生徒数に準じた補助金も減額の一途をたどっています。朝鮮学校は学校教育法で「学校」と認定されず、都道府県が認可する「各種学校」と位置付けられており、政府は北朝鮮による拉致問題や総連との関係を問題視し、2013年に無償化の対象外としましたが、一部の自治体は補助金を支出、文部科学省によると、2022年度は計93自治体(道府県・市区町)で計2億3064万円に上っています。

産経新聞の報道の一方で、北朝鮮メディアは、金総書記が同5月25日の朝鮮総連結成70周年に合わせて書簡を記したと報じたと毎日新聞が報じています。金総書記は、在日同胞の祖国訪問が「愛国者として成長する不可欠な工程だ」とし、さらに奨励する考えを表明、国内行事に母親や若者を招く方針だといいます。日本で朝鮮学校が高校無償化などの教育支援から排除されているのは「差別」だとも言及、「日本人との親交を深め、活動に有利な環境を整えなくてはならない」と求めています。「祖国と同胞社会に少しでも心を傾けてくれる同胞であれば、国籍にかかわらず偉大な国民の一員として守る」とし、主敵とみなす韓国の出身者を同胞として受け入れる姿勢も明らかにしています。

韓国軍は、北朝鮮が2025年5月22日午前9時ごろ(日本時間同)、日本海側の咸鏡南道宣徳付近から巡航ミサイル数発を発射したと発表しています。韓国軍が発射の兆候を捕捉し、動向を追跡していたといいます。北朝鮮は「戦略巡航ミサイル」などと称して核弾頭の搭載を想定した巡航ミサイルの開発や発射実験に注力しており、米原子力空母の朝鮮半島近海への展開に対抗する狙いとみられています。巡航ミサイルは、低空を変則的に飛行するため、従来のミサイル防衛システムでは探知や迎撃が難しいとされます。

国連安全保障理事会(安保理)の対北朝鮮制裁の履行状況を監視する「多国間制裁監視チーム(MSMT)」(国連安保理専門家パネルに代わり2024年10月に発足した新組織で、フランスや英国、ドイツなど計11カ国が参加)の報告書で、北朝鮮は、ロシアに対しウクライナの重要な民間インフラへのミサイル攻撃の強化支援を行い、2万個以上の軍需品コンテナや、900万発の砲弾およびロケット砲弾薬を供給したとみられると指摘されています。これに対しロシアは見返りとして、北朝鮮の弾道ミサイル誘導性能の向上支援に向けたデータのほか、防空装備、対空ミサイル、電子戦システムを提供したとみられています。同チームは報告書で「少なくとも予見可能な将来において、北朝鮮とロシアは、関連する国連安保理事会の決議に違反する形で軍事協力を継続し、さらに深化させる意向がある」と指摘、さらに、北朝鮮の支援は「重要な民間インフラに対する的を絞った攻撃を含む、ロシアのウクライナに対するミサイル攻撃能力の強化に貢献した」と指摘しています。北朝鮮は、2023年9月にロシアへの弾薬輸送を開始して以来、少なくとも100発の弾道ミサイル、自走砲、長距離多連装ロケット砲を輸送したと発表しています。これに対し北朝鮮メディアは、北朝鮮外務省の対外政策室長が談話を発表し、「MSMTは西側の地政学的利益に従って活動する政治的手段であり、他国の主権的権利の行使を調査する正当性はない」と指摘、MSMTの行動は「敵対的」で、北朝鮮の主権を「著しく侵害」するものだと非難しています。さらに、ロシアとの軍事協力は、一方が武力攻撃を受けた場合に軍事援助を提供することを義務付ける両国間の条約に基づいており、合法だと主張しています。

韓国国防省傘下の韓国国防研究院は、北朝鮮がロシアへの派兵や弾薬供与などの軍事支援で得た経済効果は総額で約28兆7000億ウォン(約3兆円)に上るとの推計を発表しています。現金だけでなく兵器の現物取引や技術開発支援の費用も盛り込んだといい、北朝鮮の軍事開発に充当される恐れがあると指摘しています。弾薬や砲弾の供与の割合が最も大きく約27兆4000億ウォンと算出、短距離弾道ミサイルや対戦車兵器、122ミリと152ミリの砲弾、長射程砲などが対象で、コンテナ2万1000個分を船舶で輸送したほか列車や航空便でも搬出した可能性に言及しています。派兵支援の効果は約4000億ウォンと見込んでいます。北朝鮮兵は月額2000ドル(約29万円)のほか一時金が支払われているとし、1万1000人に1年間支払われた金額を計上しています。また、技術支援では、ロシアが軍事偵察衛星や原子力潜水艦の開発を後押しすることで約9000億ウォンの費用を削減する効果があると分析しています。北朝鮮メディアは2025年5月以降、金総書記が戦車工場や砲弾の生産工場、ミサイルの発射訓練を視察したと相次いで報じており、公開された写真では、いずれの視察先にも日米韓が短距離弾道ミサイルと見なす超大型放射砲(多連装ロケット砲、米軍呼称「KN25」)やその発射台、発射管が写り込んでいました。放射砲のロシアへの追加輸出に向け、生産能力と性能を誇示する狙いがあったとの見方があります。さらに、韓国国防研究院は、金総書記がプーチン大統領に政府専用機の譲渡を求める可能性があるともみています(北朝鮮の航空機は老朽化し中国など周辺国への移動にしか使われていません。プーチン氏は既にロシア製高級車を金総書記にプレゼントしています)。

北朝鮮関連のハッカー集団による各国のIT技術者へのサイバー攻撃の一部が、ロシア極東を経由していたことが、セキュリティ会社「トレンドマイクロ」の調査で分かりました。同社は、ウクライナ侵略に伴う両国の接近のほか、ロシアのインターネットインフラは北朝鮮と比べて整っていることが背景にあると指摘しています。同社専門家によれば、北朝鮮関連のサイバー攻撃でロシアとの接点が確認されるのは初めてだということです。日本を含む各国のIT技術者にはヘッドハンティングを装ったサイバー攻撃が繰り返されており、同社が攻撃の実態を調査したところ、IPアドレスについて、北朝鮮との国境付近にあるロシアのハサンやハバロフスクに割り当てられたものを経由していたことが判明したといいます。

米国で実力派とされる北朝鮮問題の専門家が、北朝鮮の核保有を短期的に容認し、トランプ米大統領と金総書記の関係構築を通じて核リスクを低減すべきだとする米政府への提言書を発表しています(2025年5月25日付毎日新聞)。非核化に関し「放棄する必要はないが長期的で願望的な目標」として扱うべきだとしています。トランプ大統領は金総書記との接触に意欲を示し、既に北朝鮮を「核保有国」と呼んでおり、完全な非核化を掲げる日韓両政府は、核保有を容認する動きに警戒を強めています。提言は、圧力により非核化を目指すアプローチは北朝鮮の挑発を助長していると指摘、米国の情報機関や軍が北朝鮮の核を現実的なものとして受け入れる一方、外交や政治の舞台で非核化を強調するのは「支離滅裂だ」とし、米朝の関係改善と安定的な共存を短期目標にすべきだと論じています。北朝鮮への信頼醸成措置として(1)朝鮮戦争の終結宣言(2)朝鮮半島への戦略兵器の配備停止(3)米韓演習の縮小(4)米国民の訪朝禁止解除―を挙げています。一方、非核化の優先度が後退することに日韓が反発することにも触れ、北朝鮮を当面、核拡散防止条約(NPT)非加盟国でありながら事実上の核保有国のインドやパキスタンなどと同様に扱い、非核化の長期目標ともバランスを取るべきだとし、また、朝鮮半島の緊張緩和が、韓国で再燃する核保有論の抑制につながるという見方も示しています。

タス通信は、ロシアのセルゲイ・ショイグ安全保障会議書記は、北朝鮮の秘密警察トップの李昌大国家保衛相とモスクワで会談したと報じています。ショイグ氏は、北朝鮮兵が露軍と協力して露西部クルスク州をウクライナ軍から奪還した行為を「偉業」と評価し、謝意を伝えました。ショイグ氏は会談で、両国関係について「日本の軍国主義を打ち破った栄光ある伝統を継承している」と述べています。ビャチェスラフ・ウォロジン下院議長が2025年8月に、露安保会議副議長のドミトリー・メドベージェフ前大統領が同10月に、それぞれ北朝鮮を訪問することも明らかにしています。さらに、ショイグ氏は訪問先の北朝鮮で金総書記と会談しました。両国の軍事分野などの協力を規定した包括的戦略パートナーシップ条約の調印から同6月19日で1年を迎えるのを前に、条約の履行などについて協議したとみられています。北朝鮮はパートナーシップ条約に基づいてロシアに軍部隊を派兵しており、ウクライナが越境攻撃した露西部クルスク州での戦闘ではウクライナが制圧した地域の奪還に貢献、タス通信は、「クルスクの解放に貢献した朝鮮人部隊の記憶の継承」についても協議されるとの見通しを伝えています。

米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)は、2025年5月21日に北朝鮮が新たに建造した駆逐艦の進水式で起きた事故を巡り、造船所で横倒しになった駆逐艦を撮影した衛星写真を公開、艦首が陸上に残ったまま艦尾部分が海側に投げ出された様子が捉えられており、CSISは事故原因について、この造船所が主に貨物船や漁船の製造を手掛け、「大型艦の建造や進水に関する専門技術が不足していた」と分析、駆逐艦の就役が当面見込めない上、最終的には廃艦になる可能性もあると指摘していました。その後、北朝鮮分析サイト「38ノース」は、同駆逐艦が、直立の状態に戻されたとの6月2日の衛星写真の分析結果を明らかにしています(船尾のヘリコプター離着陸帯のマークが見えるのを確認)。駆逐艦は同5月の進水式で横倒しになり、一部始終を目撃した金総書記が、「断じて容認できない深刻な重大事故であり、犯罪行為に該当する」と激怒したと言われています(関係者らの法的責任を厳しく追及するよう指示、今回の事故を重大に扱う目的は、「部門関係なくまん延している無警戒、無責任と、非科学的な経験主義的態度に警鐘を鳴らすこと」にあるとも強調したとされます。事故を受け、朝鮮労働党による統制を強め、軍内部の引き締めを図った可能性があります)。38ノースによると、作業は人力で、5月29日の画像では、作業員が岸壁で駆逐艦につないだとみられるロープを引いていたとされ、6月下旬の朝鮮労働党の重要会議、中央委員会総会までの復旧を目指しているとされます。

北朝鮮外務省は米国の次世代ミサイル防衛システム「ゴールデンドーム」について「非常に危険で脅威をもたらす取り組み」と批判しています。トランプ米大統領は、ゴールデンドームの設計を選定したと発表、開発費用は1750億ドルで、ロイターによれば、北朝鮮外務省の米国研究所は、ゴールデンドーム計画について「『アメリカ第一主義』の典型的な産物であり、独善的で傲慢、高圧的で恣意的な行為の極みであり、宇宙核戦争のシナリオだ」と表明したといいます。ゴールデンドームは、地球を周回する数百基の人工衛星ネットワークと、高性能センサー、迎撃装置を活用して、中国、イラン、北朝鮮、ロシアなどから発射された敵のミサイルを撃墜する構想で、中国はこの構想に「深刻な懸念」を抱いているとし、米国に開発中止を求めています。一方、北朝鮮は2022年に宇宙開発法を改正し、国防目的での宇宙の軍事利用を解禁していたことが、38ノースの調査で分かったといいます。宇宙の軍事化に反対し、平和目的の利用に限定した従来の文言を削除、自国の宇宙開発計画に対して「非友好的な行為」を試みる国には対抗措置を取ると警告する内容も含まれているといいます。米国やロシア、中国による宇宙の軍事利用が進む中、北朝鮮は2023年に初の偵察衛星を地球周回軌道に投入、2022年の法改正は、宇宙開発の積極推進を狙う姿勢を裏付けるものといえます。また、38ノースは北朝鮮で2024年に販売されたスマホを入手、法律をデータベース化したアプリが入っており、法改正の中身が判明したものです。宇宙開発法の条文は改正前の23項目から48へと大幅に増えたといい、38ノース専門家は「北朝鮮の宇宙戦略が成熟しつつあることを示している」と指摘しています。

2025年5月24日付朝日新聞によれば、核やミサイル開発で経済制裁を受ける北朝鮮が、外貨獲得などのため希少な野生動物などを捕獲し、中国に密輸しているとの調査結果を英ロンドン大学などの研究チームがまとめたということです。1990年代の経済危機以降、野生動物を水面下で取引する闇市場が急成長したと分析しています。北朝鮮は、野生生物の国際取引を規制するワシントン条約に加盟しておらず、国連の調査などでも違法取引の実態はほとんど明らかになっていません。一方、国際NGOの調査では、トラの骨でつくる漢方の薬用酒が中国に密輸されていると報告されるなど、希少な野生動物の違法取引が存在するとみられています。研究チームは、北朝鮮は1990年代より食料事情が改善されているものの、「中国などの闇市場向けに野生動物の捕獲や取引が減った証拠はない」と警告、中国はワシントン条約に加盟しており、北朝鮮との違法取引は条約に違反すると指摘しています。

3.暴排条例等の状況

(1)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(兵庫県)

神戸・三宮のスナック店経営者からみかじめ料を受け取ったとして、兵庫県警組織犯罪対策課と生田署などは、兵庫県暴力団排除条例(暴排条例)違反の疑いで、六代目山口組傘下組織組員と、同組員を逮捕しています。報道によれば、2022年6~7月、同条例で「暴力団排除特別強化地域」に指定された神戸・三宮地域にあるスナック店の経営者から、みかじめ料としてそれぞれ現金2万円を受け取った疑いがもれており、同課などは2人とともに、現金を支払ったスナック店経営者の女も同条例違反容疑で逮捕しています。組員の男2人は同じ組織に所属しており、他の飲食店などからもみかじめ料を回収していた可能性があるとみて、捜査を続けるとしています。なお、組員は、神戸・三宮地域の飲食店計4店舗について、経営者らからみかじめ料を受け取ったとして、2025年5月に同条例違反の疑いで逮捕されていました。さらに、支払った側の経営者の男ら3人も同条例違反容疑で逮捕されています。男は神戸・三宮の客引き集団「ガッキーグループ」の主導的立場で、「匿名・流動型犯罪グループ(匿流)」とみているとのことです。

▼兵庫県暴排条例

暴力団員については、同条例第29条(暴力団排除特別強化地域における暴力団員の禁止行為)第2項において、「暴力団員は、暴力団排除特別強化地域における特定営業の業務に関し、特定営業者から、その営業を営むことを容認すること若しくはその営業所等における顧客、従業者その他の者との紛争の解決若しくは鎮圧を行うことの対償として利益の供与を受け、又は指定した者に当該利益の供与を受けさせてはならない」と規定されています。また、経営者については、第28条(暴力団排除特別強化地域における特定営業者の禁止行為)第2項において、「特定営業者は、暴力団排除特別強化地域における特定営業の業務に関し、暴力団員又は暴力団員が指定した者に対し、その営業を営むことを容認すること又はその営業所等における顧客、従業者その他の者との紛争の解決若しくは鎮圧を行うことの対償として利益の供与をしてはならない」と規定されています。そのうえで、第35条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」として、暴力団員については、「(4)第29条第1項又は第2項の規定に違反した者」、経営者については、「(3)相手方が暴力団員又は暴力団員が指定した者であることの情を知って、第28条第1項又は第2項の規定に違反した者」にそれぞれ該当すると思われます。

(2)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(神奈川県)

社交飲食店を経営していた当時、暴力団幹部にみかじめ料を渡したとして、神奈川県警暴力団対策課と厚木署は、神奈川県暴排条例違反の疑いで、厚木市の無職の男を逮捕しています。報道によれば、みかじめ料を渡した店側を摘発することが可能となった2022年の条例改正以降、初適用となったといいます。逮捕容疑は、2023年5月24日と2024年1月17日、相手が暴力団員と知りながら用心棒料やみかじめ料として現金計9万円を渡したとしています。また、みかじめ料を受け取ったとして、稲川会傘下組織幹部も逮捕しています。2人は15年ほど前から知り合いで、男が社交飲食店を開店した2021年12月から2025年1月まで、毎月現金約2万~約5万円をみかじめ料として稲川会系幹部の男に渡していたとみられています。

▼神奈川県暴排条例

同条例第26条の3(特定営業者の禁止行為)第2項において、「特定営業者は、暴力団排除特別強化地域における特定営業に関し、暴力団員に対し、用心棒の役務の提供を受けることの対償又は当該営業を営むことを暴力団員が容認することの対償として利益の供与をしてはならない」と規定されています。また、第26条の4(暴力団員の禁止行為)第2項において、「暴力団員は、暴力団排除特別強化地域における特定営業に関し、特定営業者から、用心棒の役務の提供をすることの対償又は当該営業を営むことを容認することの対償として利益の供与を受けてはならない」と規定されています。そのうえで、第32条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」として、元経営者については、「(3)相手方が暴力団員であることの情を知って、第26条の3の規定に違反した者」、暴力団員については、「(4)第26条の4の規定に違反した者」にそれぞれ該当したものと考えられます。

(3)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(東京都)

禁止区域で暴力団事務所を運営したとして、警視庁暴力団対策課などは、東京都暴排条例違反(事務所の運営)の疑いで、住吉会傘下組織組員ら男4人を逮捕しています。報道によれば、2024年6月17日ごろから2025年2月26日ごろにかけて、共謀の上、東京都清瀬市内の図書館の敷地周から90メートルほどのマンションで暴力団事務所を運営したというものです。事務所は容疑者の親族名義で2023年1月に契約されており、別の事件を捜査する過程で発覚したものです。東京都暴排条例では、図書館のほか、学校や、公民館、児童福祉施設などの敷地周辺200メートル以内での暴力団事務所の運営を禁止しています。

▼東京都暴排条例

同条例第二十二条(暴力団事務所の開設及び運営の禁止)において、「暴力団事務所は、次に掲げる施設の敷地(これらの用に供せられるものと決定した土地を含む。)の周囲二百メートルの区域内において、これを開設し、又は運営してはならない」として、「七 図書館法(昭和二十五年法律第百十八号)第二条第一項に規定する図書館」が指定されています。そのうえで、第三十三条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する」として、「一 第二十二条第一項の規定に違反して暴力団事務所を開設し、又は運営した者」が規定されています。

(4)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(沖縄県)

沖縄県警沖縄署は、暴力団の威力を示して、那覇市の飲食店経営者にみかじめ料と用心棒料を要求したとして、暴力団対策法に基づき、旭琉会2代目沖島一家構成員と自称建築作業員の男性に中止命令を発出しています。2人はいずれも「分かりました。もう近づきません」などと述べたといいます。

▼暴力団対策法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)

暴力団員については、暴力団対策法第九条(暴力的要求行為の禁止)において、「指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない」として、「二 人に対し、寄附金、賛助金その他名目のいかんを問わず、みだりに金品等の贈与を要求すること」が規定されています。そのうえで、第十一条(暴力的要求行為等に対する措置)において、「公安委員会は、指定暴力団員が暴力的要求行為をしており、その相手方の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該暴力的要求行為を中止することを命じ、又は当該暴力的要求行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる」と規定されています。

(5)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(静岡県①)

静岡県警浜松東警察署や刑事部捜査第4課などは、暴力団の威力を示して、金品などをみだりに要求したとして、暴力団対策法に基づき、稲川会傘下組織組員らに対して中止命令を発出しています。報道によれば、組員は2025年2月、静岡県西部地区に住む20代の男性に対して「死ぬより金を出した方がいいだろ」「示談書を書け」「飛んだら友達も家族もやるぞ」などと言って、暴力団の威力を示し、現金20万円などを脅し取ったというものです。また、御前崎市の自称・建設業の男と磐田市の建設業の男は、組員が要求をしている現場で、その行為を助勢したとしています。男性は、男らとトラブルになり金を脅し取られたということで、2025年3月に警察に被害届を出し、男ら3人は、同4月に恐喝と強要の疑いで逮捕されていました。

暴力団員については、前項と同じとなりますが、その場にいて組員の行為を助勢していた男性らについては、第十条(暴力的要求行為の要求等の禁止)第2項において、「何人も、指定暴力団員が暴力的要求行為をしている現場に立ち会い、当該暴力的要求行為をすることを助けてはならない」と規定されています。そのえで、第十二条(暴力的要求行為等に対する措置)第2項において、「公安委員会は、第十条第二項の規定に違反する行為が行われており、当該違反する行為に係る暴力的要求行為の相手方の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認める場合には、当該違反する行為をしている者に対し、当該違反する行為を中止することを命じ、又は当該違反する行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる」と規定されています。

(6)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(静岡県②)

静岡県警は、暴力団の威力を示して、みかじめ料や用心棒料の支払いを要求したとして、稲川会傘下組織組員に対して、暴力団対策法に基づき中止命令を発出しています。報道によれば、2024年12月、掛川市内の接待を伴う飲食店に対し、暴力団の威力を示して、みかじめ料や用心棒料の支払いを要求したというものです。男は店の40代男性経営者と20代男性従業員から現金を脅し取ろうとしたとして、2025年5月に恐喝未遂の疑いで逮捕されていました。なお、暴力団対策法上の根拠については既述のとおりです。

(7)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(長崎県)

長崎県警は、2025年2月、知人の男性に対し不当に金銭を要求した六代目山口組傘下組織組員ら4人に対し、暴力団対策法に基づく中止命令を発出しています。出しました。報道によれば、男らは2025年2月、長崎県内の自営業の男性に因縁をつけ、「うちの組員ば安く扱うなよ」「うちの代紋はそんなに安かもんじゃなかとぞ」などと話し、不当に金銭を要求したということです。男性は男らが暴力団員であることを認識していて、男性から話を聞いた知り合いが警察に相談し男らの行為が発覚したものです。男らは男性に対する行為について概ね認める主旨の話をしていて、警察は、男らに暴力団対策法に基づく中止命令を出したものです。なお、暴力団対策法上の根拠については既述のとおりです。

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