暴排トピックス

六代目山口組の「抗争終結」宣言と暴力団の「自壊」に向けた地殻変動

2025.05.13
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首席研究員 芳賀 恒人

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ゴム印に印刷された宣言

1.六代目山口組の「抗争終結」宣言と暴力団の「自壊」に向けた地殻変動

2025年4月7日、六代目山口組は、「抗争終結」宣言を一方的に行いました。さらに、六代目山口組幹部が兵庫県警本部を訪問し、神戸山口組、絆會、池田組との「抗争を終結させる」との趣旨の誓約書を兵庫県警に提出しています。神戸山口組等の反応は不透明で、警察当局は抗争に与える影響を注視している状態が続いています。六代目山口組は2015年に分裂し、2025年8月で丸10年となるところでした。篠田建市(通称・司忍)組長の出身母体である弘道会を中心とする支配体制に反発した直系組長らが組を離脱し、神戸山口組を結成、神戸山口組はその後、絆會に再分裂し、池田組も神戸山口組から離脱、この3団体はそれぞれ六代目山口組と抗争状態にあり、4つの団体はいずれも特定抗争指定暴力団に指定されています。2024年末の構成員らの数は六代目山口組が計約6900人で、対する神戸山口組は計約320人、神戸山口側では中核組織「山健組」をはじめ傘下組織の離脱が相次ぐなど、六代目山口組との勢力差が年々拡大していました。なお、2015年8月から2024年までに六代目山口組と神戸山口組との間で、拳銃を使った殺人事件などの抗争事件は100件以上発生しています。翌日、六代目山口組は、愛知県内の直系平井一家事務所で直系組長らを集めた会合を開き、同組ナンバー2の高山清司若頭や「直参」と呼ばれる直系組長のほとんどが出席しています。年末以外に、これほどの数の組長が一堂に会するのは異例となります。

当事者による「終結宣言」は、過去の暴力団抗争でも繰り返されてきましたが、今回は六代目山口組や神戸山口組などが特定抗争指定暴力団に指定されており、警察当局は抗争が終結しているか慎重に見極める方針とされます。昭和50年代の山口組と松田組との「大阪戦争」では、当時の山口組幹部らが報道陣を集めて抗争終結を宣言。56年に死去した当時の山口組・田岡一雄組長の跡目争いに端を発した一和会との「山一抗争」では、一和会会長が兵庫県警東灘署を訪れ、自身の引退と組織の解散を表明しています。しかしながら、今回は暴力団対策法に基づく特定抗争の指定解除の手続きも絡むため、「これで終わり」とはなりません。優勢とされる六代目山口組にとっても特定抗争指定の不利益は大きく、膠着状態を打開する「出口戦略」を模索していることが窺えます。ただ、双方が和平協議に入っている状況ではないので、警察当局から単なる生き残り作戦と見られる可能性も高いとの指摘もあります。問題は、神戸山口組側が白旗を揚げているわけではない点で、つかの間の「平和」の後に凄絶な闘いが起こるというのが暴力団の世界の常であり、過去、一和会の解散前には、抗争を終結させようとした山口組執行部の方針に反発した山口組系組員が一和会に対する銃撃事件を起こしたこともあり、今回の一方的な終結宣言が六代目山口組内部や神戸山口組側の反発を招く恐れもあり、兵庫県警幹部は「それぞれの組織の動向を注視していく必要がある」と話しています。

さらに大きな動きとして、六代目山口組の体制に関する動きがありました。高山若頭が新設ポストの「相談役」に就任し、若頭に竹内照明若頭補佐(弘道会会長)が就くことが決まったもので、これまで司忍組長は、「抗争が終結するまで人事を大きく変えない」という方針を貫いてきましたが、七代目への代替わりの動きとみてよいと思います。さらに、若頭は事実上組織運営のトップを担う役職であり、そのため竹内七代目体制への移行が始まったともみられています。竹内会長はそれまでの若頭補佐のなかでもっとも若い65歳(司組長が六代目に就任したのは63歳)で、警察やメディアの間では抗争を指揮した「高山七代目」が既定路線だと見られていました。高山若頭の力は絶大で、山口組初の「相談役」として、どのような形で組織に携わるか不透明にせよ、強い影響力を残すことは間違いなさそうです。また、竹内若頭は司組長、高山相談役の出身母体である弘道会出身で、3代続けて弘道会が若頭を占めることになり、組織内の不満にどう対処するか、今後の人事も注目されるところです(ちなみに弘道会は現在の野内若頭に引き継がれ、執行部入りも予想されており、弘道会支配はより一層強まるというのが大方の見方となっています)。

こうした暴力団の世界での大きな動きが今後、暴力団のあり様にどのように影響するかはわかりませんが、匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)との関係性の中でどうなるかについては、本コラムも検討してきたところです。例えば、以前の本コラム(暴排トピックス2024年12月号)で指摘したのは以下のとおりであり、筆者としては、六代目山口組の現状をふまえても大きな方向性としては、変わらないとみています。つまり、六代目山口組の「抗争終結」宣言や山口組の代替わりに向けた動きがあっても、そして、特定抗争指定が解除されたとしても、暴力団のあり様を巡る地殻変動からみれば表面的なものでしかないのではないか、暴力団の「自壊」は止められないのではないか、というのが現時点での見立てです

暴力団自体、暴力団対策法施行前までに有していた「任侠団体」としてのあり様、矜持を捨て、「お金がすべて」として資金獲得活動に勤しむ「犯罪組織」としての性格を強める方向に変質してきました。現在も「任侠団体」としての本質は一部残しながらも「犯罪組織」の側面が強く出ているといえます。つまり、本来の「任侠団体」としての暴力団の「自壊」が進んでいるのが現在の姿です。一方で、暴力団のもう1つの本質である「犯罪組織」の性格をより一層際立たせ、暴力団対策法によって封じ込められている暴力団が外部とのつながり(一体化)によって存在感を保てているのは、現在の「トクリュウ」の存在があってのことだといえます。トクリュウ自体は暴力団ではありませんが、その成り立ちや資金獲得活動において、両者は一体的な関係(暴力団対策法からみれば表と裏の関係)を有しているのであり、暴力団の「自壊」の先にトクリュウ/トクリュウ的なものがあるのはいわば予見されていたことだともいえます。さらに言えば、「任侠団体」とはもはや形式的なものに過ぎず、「任侠団体」らしくふるまう暴力団幹部自体、「犯罪組織」による資金獲得活動のうえに成り立っている構図であり、暴力団対策法の根幹である「結社の自由」を認める余地はもはやないところまで来ているといえます。ただ、だからといって、暴力団を完全に非合法化すれば、警察や市民、社会は、地下深く潜在化したその姿や動向を把握することはより一層難しくなるうえ、トクリュウの中核部分もまたさらに匿名化・不透明化が進むことになります。その結果、私たちが知らないうちに「犯罪組織」の肥大化を助長してしまう可能性さえあるのです。

暴力団の表面的な衰退とトクリュウの台頭という二元的な捉え方というより、両者は(その距離感はさまざまではあるものの)大きく見れば一体のものとして捉えることができると思います。その姿は、今後、「任侠団体」としての中核を小さく維持しながら、「犯罪組織」としての性格を一般社会と周縁部分が溶け合う形で社会の中に確実に存在していくことになるはずです(よく言われる「アメーバ状」ではあるものの、社会全体に根を張り巡らせて方々から栄養を吸い上げる「細菌」のようなイメージなのかもしれません)。闇バイトでも明らかなとおり、社会的な「貧困」の深刻化などを背景に、好むと好まざるにかかわらず、一般人の中に一定数、犯罪組織との関わりをもつ層が存在するのであり、社会からの犯罪者の供給は途絶えることはありません(すでに一般人を犯罪者に仕立て上げる「闇のエコシステム」は完成の域に達しています)。こうした状況をふまえれば、近い将来、暴力団対策法のあり方を見直す必要があるとはいえ、現時点では慎重であるべきといえると思います。

前回の本コラム(暴排トピックス2025年4月号)では、「令和6年における組織犯罪の情勢について」の公表を受けて、「今回初めて、2024年にトクリュウの資金獲得犯罪(特殊詐欺や強盗、覚せい剤の密売、繁華街における飲食店等からのみかじめ料の徴収、企業や行政機関を対象とした恐喝又は強要、窃盗、各種公的給付金制度を悪用した詐欺等のほか、一般の経済取引を装った違法な貸金業や風俗店経営、AVへのスカウト等の労働者供給事業等)により摘発されたトクリュウとみられる1万105人という「規模感」が公表されました。一方で、「主犯・指示役」は1011人で1割にとどまるなど、実態解明と被害抑止のカギになる主犯格や指示役といった中枢メンバーの摘発は十分とはいえない状況です。また、最近ではあえて暴力団員として登録しない者や警察が把握できていない構成員等も増えていることから、実際の暴力団構成員等については、統計上の数字の数倍に上るとの見方もあるなど、統計上の数字が実態を正しく表しているとは限らない点に注意が必要です」と指摘しました。筆者としては、正直、「トクリュウの定義(捉え方)が拡大されている」と感じ、もう少し状況を整理していく必要性を感じています。ただ、文春の報道において、「警察庁は3日、昨年一年間に検挙された「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」の人員が1万105人に上ったと発表した。トクリュウはSNSなどを通じて犯罪ごとに離合集散を繰り返すアメーバのような犯罪ネットワークを指す。トップダウンでメンバーが明確な暴力団と全く違う形態をとるため、その実態を追うために警察庁が考案した造語だ。「象徴的だったのは同時期に検挙された暴力団組員などが過去最少の8249人だったこと。組を辞めてトクリュウとして犯罪を続ける者もいるとみられ、暴力団対策からトクリュウ対策に舵を切った警察の見通しの確かさが裏付けられました」(警察庁担当記者)…「最近の警察発表では『トクリュウとみて捜査している』というのが決まり文句になってきました。匿名SNSを使ってやり取りするのは犯罪者の間ではもはや普通のこと。トクリュウではない組織犯罪の方が肌感覚では少ない」(同前)…「長官はじめ幹部連中の口癖は『トクリュウの下っ端ではなくトップを狙え』。ですが、警察や暴力団と違って明確なトップがいないのがトクリュウの特徴。現場には『トップって誰?』という戸惑いもあるようです」(同前)」との記述をみたとき、「本当に定義(捉え方)が拡大されているのではないか」との思いを強くしました。そうであれば、反社リスク対策への影響も大きくなります。反社チェックの実務において、トクリュウに該当するか否かも重要なポイントになってきていますが、「トクリュウには未成年が多い」こと(そもそも氏名が公表されない)や、「トクリュウとみられる」との報道だけでは、民間事業者がそれをトクリュウと断定することは実務的には困難」といった問題があります。その結果、実は、明確にトクリュウと認定された状態での公表情報が圧倒的に少ない現状があります。それに対し、警察としては「トクリュウとみている」という曖昧な公表をすればするほど、官民でトクリュウに関する情報量・質の圧倒的な乖離が生じることになり、トクリュウを含めた反社会的勢力排除という本来の目的を達成することが困難になっているように思われます。こうした状況に対し、反社リスク対策の実務としてどうすべきかは、今後も考えていきたいと思います(現時点では、民間事業者としてできる最大限の努力をしていくしかありません)。

暴力団やトクリュウが深く関与している特殊詐欺・SNS型投資・ロマンス詐欺の手口が高度化している現状については、本コラムでもお伝えし続けているとおりです。警察当局や私たちとしても、その対策を高度化していくことが急務となっていますが、犯罪対策閣僚会議から、これまでの対策をさらにアップデートした「国民を詐欺から守るための総合対策2.0」が公表されました。仮装身分捜査や架空名義口座の活用など、新たな手法を積極的に導入しようとする姿勢は高く評価できるものと思います。以下、その骨格について紹介します。

▼首相官邸 犯罪対策閣僚会議
▼国民を詐欺から守るための総合対策2.0(概要)
  • 現在の情勢
    • SNSやキャッシュレス決済の普及等が進む中で、これらを悪用した詐欺等の被害が加速度的に拡大する状況を受け、令和6年6月、「国民を詐欺から守るための総合対策」を策定し、官民一体となった対策を講じてきたところ、令和6年中の財産犯の被害額は4,000億円を超え、これは平成元年以来最も高かった平成14年当時の被害を上回る額であり、極めて憂慮すべき状況。その増分の大半を詐欺による被害額が占めており、詐欺への対策が急務。
  • 総合対策の改定
    • 一層複雑化・巧妙化する詐欺等の被害から国民を守るためには、手口の変化に応じて機敏に対策をアップデートすることに加え、犯罪グループを摘発するための実態解明、犯罪グループと被害者との接点の遮断等の取組が必要。
    • 令和6年12月に決定した「いわゆる「闇バイト」による強盗事件等から国民の生命・財産を守るための緊急対策」と統合するとともに、金融・通信に関するサービス・インフラの悪用を防止するための対策や、架空名義口座を利用した新しい捜査手法の検討等の新たな取組を追加して従来の総合対策を改定し、政府を挙げた詐欺等に対する取組を抜本的に強化
  • 「国民を詐欺から守るための総合対策0」における主な施策
  1. SNS型投資・ロマンス詐欺対策/ 特殊詐欺対策
    1. 犯行準備段階への対策
      • 携帯電話不正利用防止法上、契約時における本人確認が義務付けられていないデータ通信専用SIMについて、悪用実態を踏まえ、電気通信事業者に対して契約時における実効性のある本人確認の実施を働き掛けるとともに、契約時の本人確認の義務付けを含め検討。
      • 犯罪実行者募集情報の削除等の取組を促進するほか、犯罪グループの人的基盤となり得る非行集団等からの少年の離脱に向けた取組等犯罪への加担を防止するための取組を推進。
    2. 着手段階への対策
      • 詐欺に誘引するダイレクトメッセージ等が被害者等の端末に届く前にフィルターする取組や利用者が詐欺に誘因するダイレクトメッセージ等を受信した際に警告表示を行う取組を推進。
      • 契約変更等の機会も活用しながら、国際電話サービスを利用しない設定があることを一層強く国民に周知。また、将来的には、国際電話サービスを利用しない者に対する優遇措置等、国際電話を必要としない人への利用休止を促すような効果的な対策の導入を検討
      • 迷惑電話、迷惑SMS等の受信を防止又は受信した際の警告を行う有料のサービスについて、事業者に対し、無償化を含めた効果的な措置を要請するとともに、被害防止機能向上のためより効果的な方策を検討し、その普及や有効性の向上を図る。
      • 発信者番号の表示が官公庁等の電話番号に偽装されている手口について、国民に注意喚起を実施するとともに、関係事業者と連携して効果的な対策を検討し、速やかに実施。
    3. 欺罔段階への対策
      • 変化する欺罔の手口について、迅速・的確にその特徴や被害者層、具体的に講じるべき対策等を明らかにした上で、訴求対象・訴求内容と合致する広報啓発の手段を選定するなど、効果的な広報啓発を実施。
    4. 金銭等の交付段階への対策
      • インターネットバンキングの初期利用限度額の適切な設定、インターネットバンキングの申込みがあった際や利用限度額引上げ時の利用者への確認や注意喚起等の取組を推進
      • 預金取扱金融機関や暗号資産交換業者によるモニタリングの強化や、暗号資産交換業者への不正送金防止に係る取組を推進
      • 預金取扱金融機関間において不正利用口座に係る情報を共有しつつ、速やかに口座凍結を行うことが可能となる枠組みの創設について検討。預金取扱金融機関と暗号資産交換業者における情報連携・被害拡大防止に係る取組を推進。
      • 犯罪者グループの上位被疑者の検挙、犯罪収益の剥奪等を図るとともに、口座の悪用を牽制するため、捜査機関等が管理する架空名義口座を利用した新たな捜査手法や関係法令の改正を早急に検討。
    5. 犯行後の捜査段階における対策
      • 匿名性の高い通信アプリをはじめとする犯罪に悪用される通信アプリ等について、被疑者間の通信内容や登録者情報等を迅速に把握するために効果的と考えられる手法について、諸外国における取組を参考にしつつ、技術的アプローチや新たな法制度導入の可能性も含めて検討。
      • 通信履歴の保存の在り方について、電気通信事業における個人情報等保護に関するガイドライン改正や保存義務付けを含め検討。
      • 仮装身分捜査を、令和7年1月に制定した実施要領に基づき適正に実施し、詐欺や強盗等の犯人の検挙、被害の抑止を推進。
  1. ID・パスワード等の窃取・不正利用対策
    1. フィッシングサイトへの対策
      • フィッシングサイト判定の高度化・効率化のために生成AIを活用し、閲覧防止措置や警告表示による対策の効率化を図るなど、フィッシングサイトへの対策を推進。
    2. ・3.ID・パスワードやクレジットカード情報の不正入手・利用対策
      • 悪用のおそれのあるクレジットカード情報を国際ブランド各社に提供する枠組みを活用するほか、ECサイトの脆弱性を悪用したクレジットカード情報窃取対策の実施について、カード会社がEC事業者に対して適切に指導を行うよう監督。
      • なりすましメールの対象となる事業者に対し、関係省庁が連携し、メールのなりすまし防止技術(DMARC)の導入推進のため、必要に応じたフォローアップや受信拒否を要求するポリシーでの運用の働き掛けを実施。
    1. マネー・ローンダリングや現金化への対策
      • 預金取扱金融機関等によるモニタリングの強化、EC加盟店等との情報連携等
    2. 犯行後の捜査段階における対策
      • インターネットバンキングに係る不正送金等の実行時に、一般家庭からのアクセスに偽装するための踏み台として家庭用インターネット通信機器が悪用されていることから、その実態を調査・分析し、悪用実態を踏まえた対策を実施。
  2. 治安基盤の強化等
    • 犯罪グループの首謀者等の検挙、警察・検察におけるサイバー人材の育成の更なる推進、警察庁・都道府県警察間の連携強化等のため、態勢の充実強化を推進。
    • スマートフォン端末等の解析能力の強化、捜査に必要な情報収集の効率化のため、警察・検察の装備資機材の充実強化を推進。
    • 外国機関と連携し、詐欺等対策や邦人保護の取組のほか、情報技術解析の高度化を推進
    • 地方創生の交付金を活用した防犯カメラの設置等地域防犯力の強化に資する取組への支援を行うなど、防犯対策の強化を推進。
    • 詐欺等のほか、組織的な窃盗や強盗、違法・悪質なホストクラブ営業やスカウト行為、薬物密売、オンラインカジノ等多岐にわたる資金獲得活動に着目した取締り等を推進し、匿名・流動型犯罪グループの資金源への対策を推進。

「国民を詐欺から守るための総合対策2.0」における主な対策の方向性については、以下のとおりです。

  • 捜査員が身分を偽って闇バイト募集に応募して犯人グループに接触する「仮装身分捜査」について、一部の都道府県警が運用を始めています。警察庁は2025年1月に実施要領を策定し、全国の警察に発出していました。仮装身分捜査は、捜査員が別人に成り済ましてSNS上の闇バイトに応募し、身分証の提示を求められた際に架空の運転免許証などを示し、犯人側と接触して犯罪が発生する前に摘発するもので、応募者に捜査員が潜んでいる状況をつくることで犯行の抑止も期待されています。実施要領では、実行役の闇バイト募集を行っている強盗や詐欺、それらに関連する犯罪を対象とし、他の方法では摘発や犯行抑止が困難な場合に限定しています。
  • 特殊詐欺などの被害の深刻化を受け、警察などの管理下においた「架空名義口座」を犯罪グループに利用させ、被害金を凍結する捜査手法の導入などが検討内容として盛り込まれました。被害金の受け皿となる口座は、SNSで募集した闇バイトを通じて、犯罪グループ側に渡るケースが多く、そのため、警察が架空名義の口座を用意して暗証番号などとともに犯罪グループ側に提供する手法の導入を検討、この口座は金融機関と協力してモニタリングし、被害金が口座に入ったら凍結することを想定しています。また、被害金を追跡することで中枢メンバーを特定し、摘発にもつなげたい考えです。口座の譲渡は犯罪収益移転防止法で禁じられており、同法の改正の可能性も含めて今後議論を進めるとしています。
  • SNSを介したメッセージやマッチングアプリを入り口とした詐欺被害の深刻化を受け、政府の犯罪対策閣僚会議は通信分野での対策強化も打ち出しており、そのひとつが、スマホのデータ通信専用のSIMカードを契約する際の本人確認の厳格化です。現行の携帯電話不正利用防止法では、音声通話用のSIMでは契約時の本人確認を義務化していますが、データ通信用については定めておらず、大手事業者などによる自主的な確認にとどまっていますが、データ通信用でも、LINEなどの通信アプリを用いた通話はできることから、本人確認が不要な仕組みを悪用して大量に契約したり、アプリのアカウントの不正取得に悪用したりする事例もあり、政府は事業者へ実効性のある本人確認の実施を働きかけるほか、法改正による義務づけも検討するとしています。
  • 通信事業者に通信履歴の保存を義務付けられないかどうかも検討するといいます。詐欺集団はグループ内や被害者とのやりとりにアプリなどを使うことが多く、捜査機関は通信履歴を分析し、容疑者の特定や犯罪グループの実態解明を図るものの、被害を把握した時に履歴が残っていないケースがあるといいます。通信履歴の保存状況は事業者によって異なるため、犯行経緯の捜査へ役立てる目的で、一定期間の履歴の保存を事業者に義務付けることを検討するものです。総務省が国内でサービスを提供する通信、SNS事業者向けのガイドラインを改定し、一定期間の保存を推奨する見通しで、保存を義務付ける法整備も検討するとしています。
  • 犯罪に使われる金融口座への監視も強めるとしています。口座が不正利用された場合、金融機関の間で迅速に情報共有した上で、速やかに凍結できる枠組みの創設を検討します。
  • 警察庁は、被害金の受け皿に悪用されている不正な口座の売買について、罰則の引き上げに向けて犯罪収益移転防止法を改正する検討に入りました。口座開設時の本人確認の強化と合わせて、不正売買を抑止する構えです。2024年の特殊詐欺とSNS型投資・ロマンス詐欺の被害額は計約2000億円に上りました。7割以上は振り込み送金で、SNS上では口座の譲渡を呼びかける投稿が絶えず、警察当局は買い集められた口座が犯罪収益の送金先になっているとみています。実際、口座の不正売買は急増しており、警察庁によると、2024年の同法違反(口座譲渡など)容疑の摘発件数は4513件で、2023年から約3割増え、10年前の2014年(1651件)に比べると3倍近くになっています。個人の口座譲渡に対する同法の法定刑は、1年以下の懲役か100万円以下の罰金などで、組織犯罪処罰法の「犯罪収益等収受罪」(7年以下の懲役か300万円以下の罰金など)に比べて罰則が軽く。国会でも対策強化を求める意見が出ており、警察庁は有識者を交えて最近の手口や課題などを分析し、法定刑の引き上げを検討する見通しとしています。不正口座を巡っては、トクリュウがマネロンに悪用していることも判明しています。大阪府警などが2024年に摘発した決済代行業者は、約500社の法人名義の約4000口座を管理していました。SNSで名義人を募り、実態のない法人を設立して口座開設させたとされます。警察庁は関係省庁と連携して、法人口座への対策も強めることとしており、口座の詐欺への悪用対策としては、オンライン上での開設時に、本人確認を原則マイナンバーカードなどのICチップを活用する方針を決めています。
  • 「シグナル」や「テレグラム」という秘匿性の高い通信アプリに対し、容疑者の間で交わした通信内容や登録者の情報を素早く把握する必要性も指摘、海外の取り組みを参考にし、技術的なアプローチや法制度導入の可能性も含めて検討すると言及しています。現行法では容疑者のアプリの認証に必要な情報が判明した場合でも、警察が容疑者のふりをしてログインする捜査は違法となる可能性が高いため、改定案は「通信内容や登録者情報を迅速に把握することが重要で、技術的アプローチや新たな法制度導入の可能性も含めて検討する」と提起しています。また、不正アクセス禁止法の例外として特定の犯罪捜査に限定しサーバーへの侵入を認めるような手法なども想定、事業者による詐欺被害を誘引するSNS上のメッセージや電子メールの送信防止や遮断といった取り組みの推進も盛り込んでいます。
  • 金融機関や暗号資産(暗号資産)の交換業者と捜査機関の間で取引や口座情報を共有するための方策も盛り込まれています。不正な取引情報を把握して早期に口座を凍結するといった仕組みを設けるとしています。トクリュウは複数の金融機関の口座を持ち、だまし取った資金を次々と移し替えたり暗号資産に替えたりして保管しており、迅速な情報共有によってマネロンを防ぎ、被害金の差し押さえにつなげるとしています。
  • 総務省は、固定電話の国際電話サービスや不特定多数に送信するショートメッセージサービス(SMS)の悪用防止を、NTTや携帯大手などに要請しています。SNSを通じた特殊詐欺被害を防ぐための総合対策を受けた対応となります。固定電話の国際電話サービスなどを悪用し、特に65歳以上の高齢者の特殊詐欺被害が相次いでおり、迷惑SMSなどの手口も近年巧妙化していることから、業界団体を通じて事業者への要請に踏み切ったものです。

上記対策以外でも司法取引や通信傍受の活用もより深く検討されてよいものです。米国では、罪を認める見返りに検察が処分を減免する「自己負罪型」の司法取引が、活発に行われていますが、これに対し、日本で導入されている司法取引は共犯者ら他人の犯罪の捜査・公判に協力することで自身の処罰を減免してもらう「捜査・公判協力型」となっています。自己負罪型は「刑の減軽と引き換えに虚偽の自白が誘発される」などの理由で見送られた経緯があります。警察や検察が電話やメールなどの通信を秘密裏に受信する「通信傍受」の運用一つとっても、海外との違いは明らかで、日本では薬物事件や銃器犯罪などに限定され、警察庁によると、2024年は20件に過ぎないところ、英米では年間数千件が行われているといいます。日本の刑事司法が目指すのは、「事件の真相解明」であり、そのための基本的捜査手法が、動機や真犯人しか知り得ない事柄を聞き出す取り調べでした。近年、弁護側の黙秘戦術が拡大、無理やりにでも自白を得ようという姿勢が、不適切な取り調べを生むケースも増えてきたため、捜査当局からは「新しい手法が必要だ」との声も上がっています。自己負罪型の司法取引や通信傍受の拡充は、その代表例といえます。また、近年、秘匿性の高いメッセージアプリが幅広い犯罪で使用されていますが、諸外国の刑事司法に詳しい中央大の堤和通教授(刑事法)は、報道で通信傍受の拡充によって「ネット社会で猛威を振るうトクリュウなど、組織犯罪の拡大に対抗する手立てとなる」と強調しています。検察幹部も「通信傍受によって動かぬ証拠が集まれば、黙秘せず真相を話す被疑者も増えるだろう」と話しています。取り調べの適正化が喫緊の課題なのは、疑いの余地がありませんが、同時に、取り調べを「補完」する新たな武器を捜査当局に与えるべき時が来ているのかもしれません。

2024年に世間を震撼させた「闇バイト強盗」については、凶悪化を受け、4都県警が合同捜査本部を設置、警察庁が対象とする18事件すべてで、現場での犯行や被害品を回収する「実行役」47人(延べ70人)を逮捕、押収したスマホの解析や被害品の行き先などから首謀者の特定を進めている状況です。警察庁によると、全国で2024年、資金獲得を目的とした犯罪で摘発されたトクリュウのメンバー計1万105人のうち主犯・指示役は1割にとどまっており、摘発者の多くは末端の実行役でした。2025年に入って以降は、闇バイトに応募した人が海外に渡航するよう勧誘されたり、実際に渡航したりして、警察当局が保護する事例が明らかになるなど、新たな手口も確認されています。闇バイトの指示役らは脅しや巧みな言葉遣いで実行役を管理しており、闇バイトと分かっていても一度アクセスしてしまうと断ることが難しいのが現状です。全国の警察は動画サイトなどで闇バイトに応募しないよう呼びかけを強化していますが、学習管理を行うアプリを運営するスタディプラスが全国の高校生、大学生1592人を対象に同アプリ上で行った調査結果によると、SNSなどで闇バイトの勧誘や募集を見たことがある人は6.8%にとどまる一方、お金が欲しい時に勧誘されたら「断れないかもしれない」と答えた人は32.9%に上っています。中でも「闇バイトだと見抜けると思うが、断れないかもしれない」と回答した人は23.9%になりました。同社の担当者は「想定よりも大きい数値。闇バイトと見抜けても断れないという割合も高く、『相手が怖い』と感じているのではないか」と分析していますが、その通りだと思いますし、やはり若年層に対する啓蒙・啓発、リテラシー教育がますます重要かつ急務になっていると感じます。

SNSに投稿された「豪遊生活」への憧れから事件に巻き込まれるケースが相次いでいおり、被害者にも加害者にもなりうるとして、警視庁が注意を呼びかけています。ある捜査幹部は「稼げると勘違いした人をおびき寄せており、SNSが犯罪集団を作っている」と問題視しています。国などに無許可で500万円以上のリフォーム工事の契約をしたとしてリフォーム会社の実質経営者の男が逮捕・起訴された事件では、SNSで男が「スーパーサラリーマン」を名乗り、豪遊生活の様子を投稿、「社員の9割以上がインスタグラムを見て入社してきた」などと記していました。立正大学の小宮信夫教授(犯罪学)は報道で「SNSは犯罪を始めるのにコストパフォーマンス(費用対効果)がいい。不特定多数に網をかけ、誰かが引っかかれば良いという考えなのだろう」と犯罪グループ側の心理を分析しています。犯罪に加担する側は費用対効果や時間対効果を重視し、手っ取り早く稼ぎたいと考える人が増えているとし、「SNSでキラキラな生活の様子が目に入れば、『みんなやっているし大丈夫だろう』と犯罪を正当化してしまう」と指摘しています。

準暴力団「関東連合」元メンバーの山口容疑者は、カンボジアとベトナムに複数の拠点を置く日本人特殊詐欺グループのトップとみられ、埼玉県警などの捜査本部は、両国とタイを行き来しながら少なくとも30億円の詐取に関わったとみて、実態解明を進めています。なお、捜査本部が現地当局の協力を得て、海外から日本に移送、逮捕するなどした「かけ子」らは約50人に上ります。摘発のきっかけは還付金詐欺事件の捜査中に浮上したカンボジアの日本料理店だといい、弁当の配達先をたどると、プノンペンで8階建てビル1棟を借り切り、詐欺の電話をかけるグループの拠点を発見、2023年9月、依頼を受けた現地当局が急襲し、日本人メンバー25人を拘束、メンバーの多くは「稼げる仕事がある」などと誘われ、同年2月以降、同国に渡航していたものです。パスポートを取り上げられ、月1日しか休みは与えられず、毎日9時間近く電話をかけさせられていたといいます。オフィスのように机が並ぶ拠点からは大量の携帯電話、水溶紙に記載された約2万6000人分の名簿が押収されています。その後の捜査で、拠点急襲を知った別の日本人メンバーらがベトナムに逃走して新たな拠点を構え、詐欺を続けている可能性が浮上、同国当局はハノイ市内の拠点で8人を摘発、押収された携帯電話などを県警が解析し、山口容疑者の関与を裏付けたものです。

2024年、全国で発生した金属盗の被害額が2023年比約3億1200万円増の約135億9900万円に上ったことが警察庁のまとめで分かりました。銅の国際価格の上昇が背景にあるとみられ、太陽光発電所などの銅線ケーブルを狙った犯行が急増しています。政府は今国会に金属盗対策法案を提出、警察当局も、盗品と知りながら買い取りを進める悪質な業者の摘発を強化し、盗品の流通を絶つ方針です。警察当局は2024年以降、盗まれた銅線ケーブルの流通経路となっている買い取り業者の摘発を強化しており、捜査幹部は「犯行グループが盗んでも、買い取り先がなければお金にならない。業者を潰さなければならない」と指摘しています。警察庁によると、2024年の金属盗の認知件数は2万701件で、統計を始めた2020年の約4倍に達し最多となりました。被害品のうち金属ケーブルは1万1486件で半数以上を占め、そのうち太陽光発電施設の金属ケーブル盗は7054件に上っています。材質の過半数を銅が占めており、国際価格の上昇が影響しているとみられ、関東地方を中心に、山中や人目に付きにくい場所にある施設や工事現場などが狙われています。太陽光発電施設で発生した金属ケーブル盗で摘発された147人のうち75%が外国籍で、最多はカンボジア人の74人で5割を占めています。警察当局は外国人らによるトクリュウが各地で犯行に及んでいるとみています。流通を防ぐため、新規立法も進めており、これまでは切断されたケーブルは盗品の流通防止を目的とする古物営業法の対象外で、身分確認なしで売買できるといった規制の抜け穴が狙われていました。このため、政府は金属くずの買い取り業者に売り主の本人確認や取引記録の保存を義務付け、警察による立ち入り検査を可能とする金属盗対策法案をまとめ、今国会に提出しています。まずは銅を規制対象とし情勢に応じて追加を可能にするとしています。なお、金属ケーブルの切断に使われることが多い、ボルトクリッパーやケーブルカッターといった工具を隠し持つことも禁止するといしています。捜査関係者は「被害を事前に防げる可能性も高まる」と指摘、外国人の摘発が目立つことから入管難民法も改正し、犯行工具の隠し持ちで拘禁刑になった外国人を上陸の拒否や退去強制の対象に加え、警察は、根絶に向け徹底的に取り締まるとしています。

トクリュウが絡む悪質リフォーム事件が頻発しています。「屋根が壊れている」などと突如来訪する「点検商法」の摘発は2024年に過去最多の66件あり、トクリュウが絡む事例が目立ちます。被害を防ぐには自宅に入れさせず、警察に相談する対処法が重要になります。警視庁によると、一般的なリフォームは金額の7~8割を工事費が占めるとされますが、悪質リフォーム業者が持ちかけた契約は工事費の割合が3割程度で、請求額は大幅に水増しされているといいます。男らはSNS上で「初月100万円以上可能」と投稿しメンバーを募集、最大約150人が所属し、2019~24年に100億円超を売り上げたとみられています。警視庁はこの集団をトクリュウとみており、捜査幹部は「不安をあおり資産をむさぼる悪質な集団だ」と指摘しています。トクリュウが絡む犯罪はこれまで、強盗や侵入窃盗、特殊詐欺が目立っていましたが、消費者トラブルに詳しい岡田弁護士は報道で「SNSを通じて訪問や契約を担う実行役を集めやすくなり、リフォームを絡めた犯罪も増えている可能性がある」とみています。トクリュウが絡む犯罪は幅広く、2024年に首都圏で相次いだ広域強盗事件では事件前に被害者宅を訪問したリフォーム業者の情報が悪用された疑いも浮上しています。警察は実行役らの供述ややり取りの記録から、指示役や首謀者の摘発を急いでいます。

道仁会の組員が関わる特殊詐欺グループに現金をだまし取られたとして、東京都や千葉県などの50~90代の男女22人が、道仁会の会長ら幹部4人に計1億6000万円の損害賠償を求め、熊本地裁に提訴しています。報道によれば、熊本市内の同会組員が関与する特殊詐欺グループは2022年3月~6月、被害者の親族になりすますなどして、計約1億5000万円をだまし取ったとしています。組員は逮捕され、詐欺罪などで懲役9年の判決を受けています。暴力団対策法では、暴力団員が組織の名前を出すなどして資金を獲得した場合、組織のトップに損害賠償責任を問うことができます。弁護団は、詐欺グループが道仁会の威力を利用したと主張、「被害者の被害回復とともに、暴力団の資金源に打撃を与えることで、今後の特殊詐欺事案にも抑止効果があると考えている」としています。また、六代目山口組傘下組織組員が関与する特殊詐欺事件の被害者5人が、組トップの篠田建市組長ら4人に約2200万円の損害賠償を求める訴訟を福岡地裁に提訴しています。被害者側の代理人弁護士などによると、被害者5人は2021年、組員らに計約1800万円をだまし取られ、その後、組員らは福岡県警に詐欺容疑で逮捕され、実刑判決が確定しています。代理人弁護士は特殊詐欺の受け子などには資産がなく、被害者に弁償がされないケースが多いことを挙げ、「組織の責任として被害回復を求めることで回収の可能性が高くなる」と述べています。なお、福岡県警は2023年度から暴力団による組織的な詐欺事件などの被害者を対象に、提訴に向けた弁護士費用を負担する制度を導入しており、制度の利用は今回で2例目、特殊詐欺事件では初めてとなります。制度の対象は県警が立件して有罪が確定し、暴力団の関与が一定程度認められる事件で、公判記録のコピー代や弁護士の交通費といった提訴前の調査費用を助成するものです。利用1例目は工藤會の元組員の有罪が確定した恐喝事件を巡り、被害者が2024年10月に工藤會のトップら3人を損賠提訴していたものです。

稲川会の清田次郎(本名・辛炳圭)総裁(84)が川崎市の病院で死亡しました。清田総裁は5年前、稲川会の「会長」を後任に譲りました。組織の頂点を意味する「総裁」ではあるものの、「一線を引いた立場。企業で言えば相談役」(捜査関係者)ということです。六代目山口組の中核をなす2次団体・弘道会でも総裁と会長を置いており、「暴力団では、影響力が強かった先代には肩書を与えて、組織強化をはかる」(捜査関係者)と説明しています。川崎市を地盤とする清田総裁は、2010年から稲川会の5代目会長を務め、2019年に総裁就任してからは、他団体の幹部との会合などに出席、影響力はあり、最終的な意思決定には関与、実質的トップだったとみられています。総裁をトップとする認定は、司法の現場でもされており、稲川会傘下組織組員らによる事件を巡る損害賠償を求めた訴訟では、暴力団対策法に基づいて総裁をトップとして責任を追及していました。一方で、総裁となった後は稲川会内部での会議には出席せず、会長が取り仕切るのが通例だったといい、実務から引退しても「象徴」として残すことで、外交役や代替わりを円滑にする狙いがあったとみられ、捜査関係者は「死亡後も稲川会に大きな変化はないだろう」とみています。

神戸市にある神戸山口組の井上邦雄組長の自宅について、神戸地方裁判所が競売に向けた手続きを開始する決定を出し、土地と建物を差し押さえたことが分かりました。神戸山口組の井上邦雄組長は、元傘下組織の組員らと東京のコンサルティング会社との融資トラブルをめぐる民事訴訟で、暴力団対策法に基づき代表者責任を問われ、2024年12月、大阪高等裁判所からおよそ2億7000万円の賠償を関係者と連帯して支払うよう命じられました。コンサルティング会社は神戸市北区にある井上組長の自宅について競売を申し立て、2025年1月、神戸地方裁判所が競売に向けた手続きを開始する決定を出し、土地と建物を差し押さえたということです。一方、井上組長側はコンサルティング会社との民事訴訟の判決を不服として、最高裁判所に上告を受理するよう求めていますが、判決が確定したあと支払いがないまま手続きが進めば、裁判所が入札を実施することになります。なお、大阪府豊中市にある宅見組の入江禎組長の自宅が、土地と建物ともに差し押さえられたことが分かりました。民事訴訟で多額の賠償命令を受け、大阪地裁が強制競売の手続きの開始を決めたものです。訴訟は入江組長側が上告受理を申し立てていますが、判決確定後に支払いがなければ強制退去となる可能性があります。入江組長は一時、神戸山口組の副組長でしたが、2022年秋に離脱しています。訴訟は神戸山口組時代の融資を巡る事案で、同組トップの井上邦雄組長も賠償責任が認められ、自宅が差し押さえられたことがすでに判明しています。井上組長に次いで入江組長も活動拠点が流動的になる可能性があり、警察幹部は「警戒を続ける」としています。2024年12月の大阪高裁判決によると、東京のコンサルティング会社は2020年、10億円の融資を受ける条件として2億5000万円を宅見組側に送金、しかし融資は行われず、宅見組傘下組織組長(当時)は「うちの組織になんか文句あるんか」などと返金も拒否したものです。1審京都地裁は宅見組側の一連の行為を暴力団の威力を利用した資金獲得行為と認定、暴力団対策法に基づく代表者責任として、井上、入江両組長らに連帯して約2億7000万円を賠償するよう命じています。高裁もこの1審判決を支持、両組長側はこれを不服として上告受理を申し立てています。入江組長の自宅では2022年5月、乗用車が突っ込む襲撃事件が発生、神戸山口組からの離脱後も、六代目山口組と対立状態にあるとされます。

兵庫県公安委員会は、特定抗争指定暴力団の神戸山口組を暴力団対策法に基づき、改めて指定暴力団に指定しました。神戸山口組の勢力は、山口組から分裂した10年前と比べて約20分の1に減少、対立する六代目山口組が抗争終結への構えとも取れる動きを見せる中、4回目の指定となります。警察庁によりますと、神戸山口組の勢力は2024年末時点で構成員120人、準構成員200人の合計320人で、最も多かった2015年の分裂直後の6100人から激減しています。一方、対立する六代目山口組の勢力は構成員3300人、準構成員3600人の合計6900人です。

2024年9月、宮崎県宮崎市で発生した暴力団組員の銃撃事件を巡り、宮崎地裁は池田組傘下組織「志龍会」の事務所について、使用を差し止める仮処分を執行しました。宮崎県暴力追放センターによれば、事件の後、地元住民など数十人から事務所の使用差し止めについて相談や要請があったといい、これを受けて、宮崎県暴力追放センターは暴力団対策法に基づく訴訟担当制度を活用し、2025年3月、住民に代わって宮崎地裁に事務所の使用を差し止める訴えを起こしました。仮処分は、同4月18日に決定、同5月1日午前に執行されたということです。「志龍会」は、同6月7日まで「特定抗争指定暴力団」に指定されていて、これまでも事務所の使用が禁止されていましたが、今回の仮処分により今後一切事務所は使用できなくなります。

スカウトは近年、トクリュウと呼ばれる組織に連なり、ホストクラブで借金漬けにされた女性を風俗店で働く状況に追い込むなど社会問題になってきました。江戸初期の遊郭以来350年の歴史を持つ街・吉原で、経営者たちは、「摘発されれば街の灯が消える。違法勢力の資金源になるわけにはいかない」として、長年続いてきたスカウトとの縁を切り始めています。多くのスカウトグループは「会社」を模した組織をつくり、トップから末端まで階層別の役職を設けており、ある風俗店経営者がやり取りをしてきたのは、「関係の濃淡はあるが全部で30社ほど」で、警察から集中的に取り締まりを受ける大規模スカウトグループ「アクセス」「ナチュラル」も含まれていたといいます。報道によれば、「募集に応じて来る人よりスカウト経由の方が、店のコンセプトに合う女性が多い。使い勝手が良かった。でも、もう『ヤバい』と思った」と述べ、警察の摘発を恐れて手を切ったといいます。加えて、「スカウトバックの額がばかにならない」からでもあるといいます。風俗業界が犯罪組織の収益源になっている実態は深刻で、警視庁によれば、スカウトバックの収益はナチュラルで年50億円、アクセスは過去5年間で70億円に達したとされます。吉原のソープランド経営者でつくる一般社団法人「東京特殊浴場暴力団等排除推進協議会」の河村会長は「警視庁幹部から2025年1月に『スカウトとの関係を即日絶て』と強く指導を受けた。捜査は本気だと受け止めた」と話しています。同2月には、警察OBを呼んで「スカウト利用は反社会的勢力への上納にあたる」との講習会を開催、出席した130店余りに「今後一切、スカウトと関係しない」という誓約書の提出も求めたといいます。河村会長は「これまで、吉原の6割くらいの店がスカウトを使っていた。残念だが、うちの加盟店でも誓約書を出して裏で使い続ける店は一定割合あるだろう」といいます。一方、スカウトを使わないある経営者は「長期的にはその方が安定した経営ができる。従業員が辞めずに定着できる労働環境をつくれば可能だ」と話しています。

性風俗店に女性を違法にあっせんし、その紹介料である「スカウトバック」を隠したとして、警視庁は、スカウトグループ「アクセス」のリーダー遠藤容疑者を組織犯罪処罰法違反(犯罪収益の隠匿)容疑で再逮捕しています。遠藤容疑者は店舗側にSNSで「警察関係が厳しくなっていまして、履歴が残りやすい振り込み入金は避けてほしい」などと要求、現金は、バーチャルオフィスの私書箱へ郵送され、最終的に遠藤容疑者に渡っていたものです。遠藤容疑者はこれまでに、売春を目的と知った上で女性を性風俗店に紹介したなどとして、職業安定法違反(有害業務の紹介)容疑で7回逮捕されています。アクセスのメンバーは300人ほどとみられ、女性を派遣する店舗の開拓役やスカウト役などと役割が分担されており、専用サイトで契約店舗の情報をグループ内で共有し、閲覧に必要なIDやパスワードは毎月更新して情報が外部に漏れないようにするなど、徹底して管理していたといいます。摘発した幹部らのスマホの解析では、スカウト役向けに「逮捕案件」と称するマニュアルを作成していたことも判明、マニュアルでは、性風俗店とやり取りする際、女性がホストクラブに通って売掛金(ツケ)を抱えていても店側に伝えないよう求めており、売掛金を抱えた女性がスカウトらを通じて性風俗店で働くことが社会問題化しているのを意識したとみられています。さらに禁止事項として、「女性を脅す」「うそをつく」「未成年の紹介」「路上でのスカウト」を挙げ、こうした行為でスカウトが逮捕された事実を報じるメディアの記事も共有していたといい、摘発を警戒していたことが窺えます。警視庁が力を入れた捜査を進めているのは「大規模な人身売買」とみているためで、アクセスは2019~24年に性風俗店約350店舗から約70億円のスカウトバック(紹介料)を受け取っていた疑いがあることがわかっており、さらにアクセスが契約していた店舗は島根県を除く46都道府県の約1800店舗に上ったといいます。アクセスはSNSでの募集に応じてきた女性を、各店舗にあっせん、警視庁は2025年1~4月、あっせん先の性風俗店についても売春防止法違反(場所提供)などの疑いで9件摘発しています。スカウトグループの摘発としては、風俗店に女性を紹介したとして香川県警は、職業安定法違反の疑いで大規模スカウトグループ「ナイツ」のリーダー、大島容疑者を再逮捕しています。同容疑者の逮捕は3回目となります。再逮捕容疑は仲間と共謀し、20代女性2人を茨城県内の風俗店の経営者に紹介し雇用させたとしています。香川県警は大島容疑者と共謀したとしてスカウトの男2人も逮捕、また風俗店側から「スカウトバック」として現金計約4800万円を受け取ったとして組織犯罪処罰法違反(犯罪収益収受)の疑いで、大阪市北区の無職の男性を書類送検しています。ナイツは46都道府県にある300以上の風俗店に女性を紹介し「顧問料」などの報酬を得て約13億円を売り上げたとされます。

2.最近のトピックス

(1)AML/CFTを巡る動向

国際組織「金融活動作業部会(FATF)」が加盟国・地域に、2025年からマネー・ローンダリング(マネロン/資金洗浄)の過剰対応を見直すよう求めています。「金融包摂」の観点から、犯罪性が極めて薄い取引に多額の資金や人手をかけている現状を改め、金融機関の負担を減らし、犯罪リスクが高い取引を重点的に審査するように促すことを目的としています。AML/CFTの実効性確保とのバランスがより一層求められることになります。

▼金融庁 FATFによる金融包摂を促進するための基準改訂の実施及び市中協議文書「AML/CFT及び金融包摂に関するガイダンスの改訂案」の公表について
  • 金融活動作業部会(以下、FATF)は、令和7年(2025年)2月のFATF全体会合にて、「AML/CFT及び金融包摂に関するFATF基準」の改訂案が承認されたことを受け、令和7年(2025年)2月25日、当該基準の改訂を公表しました。
  • 今回の改訂は、リスクベースアプローチにおける比例原則(proportionality)と簡素化された措置に一層の焦点を当て、金融包摂をより促進することを目的とし、勧告1「リスク評価とリスクベースアプローチ」及び同解釈ノート、その変更に伴う勧告10「顧客管理」、勧告15「新技術の悪用防止」及び関連する用語集の定義を改訂しています。
    • ※リスクベースアプローチとは、金融機関等が自らのマネロン・テロ資金供与リスクを特定・評価し、これをリスク許容度の範囲内に実効的に低減するため当該リスクに見合った対策を講ずること。
  • また、FATFは、併せて「AML/CFT及び金融包摂に関するガイダンスの改訂案」(原題:「Public Consultation on AML/CFT and Financial Inclusion – Updated FATF Guidance on AML/CFT Measures and Financial Inclusion」)と題する市中協議文書を公表しました。
  • 本文書は、前述の「AML/CFT及び金融包摂に関するFATF基準」の改訂を反映したものであり、金融包摂の概念と現状及び金融の健全性(financial integrity)との関連性について記載するとともに、特に、低リスクシナリオでの簡素化された低減措置を中心に、リスクベースアプローチの実施に関するガイダンスやベストプラクティス事例を提供しています。
▼「FATFによる金融包摂を促進するための基準改訂及びガイダンスに係る協議について」(翻訳)
  • 世界中で約14億人がいまだに銀行口座を持たない中、今回の改正は、リスクベースのアプローチの下で比例性と簡素化された措置に一層の焦点を当てることで、金融包摂をより促進することを目的としています。この改正は、各国・地域に対して、より可能な環境を創出するよう奨励することにより、より多くの人々が金融サービスにアクセスし、利用できるようにすることを目的として、簡素化された措置を実施する際に、金融機関により大きな信頼性と保証を提供する。
  • この変更は、非営利団体、銀行、決済プロバイダー、保険会社、学者、会計士、弁護士、その他の国際機関などから140以上の回答を集めた公開協議によって通知されました。
  • 基準の変更点は次のとおりです。
    • 「相応」という用語を、特定されたリスクのレベルに適切に対応し、リスクを効果的に軽減する措置または行動として定義される「比例」に置き換えることで、リスクベースのアプローチの文脈でこの概念をどのように適用すべきかを明確にし、FATFの文言を金融包摂のステークホルダーやフレームワークの文言とより密接に一致させるため、提言全体を通じて行う。
    • 各国が低リスクシナリオでの簡素化された措置を許可し、奨励するための明示的な要件。これにより、AML/CFT制度における簡素化された措置を可能にする各国の義務が明確になり、各国がその実施をより積極的に提唱する動機付けがさらに高まります。これに伴い、金融機関や指定非金融取引専門職(DNFBP)においても、リスクの種類や程度に応じて対応の差別化を図ることが求められています。
    • 監督当局は、金融機関やDNFBPが実施するリスク軽減措置も見直し、考慮に入れることで、関連するリスクを部分的にしか理解していないことによる過剰なコンプライアンスを回避し、金融機関が義務を比例して実施していることを確認することが求められます
    • 非対面の取引関係および取引は、適切なリスク軽減措置が実施されていない場合にのみ、潜在的に高リスクの状況の例として考慮されることを明確にするための修飾子の追加。この改正は、多くの国で非対面でのやり取りが標準的なビジネス慣行になっていること、およびデジタルIDシステムの技術的進歩により、関連するリスクが軽減される可能性があることを認識しています。
    • 低リスクシナリオと低リスクシナリオにおける簡素化措置の適用と免除の適用に関連する要件のさらなる明確化

2025年2月に審査方針の基礎となる「勧告1」を改定し、リスクに応じた防止策を徹底するよう求め、2025年後半からの審査に適用するものです。同6月にフランスのストラスブールで開く総会で、改定した勧告の実施要項をまとめたガイダンスを正式に採択するとしています。具体的には、犯罪リスクが低いとみられる取引は金融機関のチェックを簡素にする対応を徹底するよう求めています。例えば出入金の回数が不自然に多い疑わしい取引と、通常の企業間送金といった合法な取引は銀行側でもある程度区別が可能であり、取引内容が合法だとはっきりしている企業や個人に対しては、顧客管理の頻度や本人確認の手順を減らすことが選択肢になるとういことであり、すべての口座を対象に同じ手順で確認すれば、重点的に調べる取引にあてる時間が減ってしまう点が懸念されていたものです。FATFの相互審査は過剰な対策を講じていないかにも注目し、効率的なAML/CFTが各国で実施できるようにする狙いがあります。また、金融機関の対応だけでなく、当局による検査や監督が適切に行われているかも調べるとしています。新興国などでは口座の開設や更新の際の本人確認を一律に厳格にした結果、銀行口座が持てない「金融排除」が起きており、FATFは金融サービスから取り残される人が出ていることを問題視しています。一方、デジタル技術の高度化で犯罪集団やテロリストの手口が多様になり、不正取引は日本でも増加傾向にあります。そうした状況に対し、大手銀行に比べ対策が遅れている地銀の中には、他行と連携して対策を進める例が目立ちます。例えば、全国銀行協会の完全子会社「マネー・ローンダリング対策共同機構」は2025年4月、銀行口座の出入金にマネロンの可能性があるかなどをAIが判別するサービスを開始、すでに7行が導入しています。AML/CFTを共同で行う背景には、一行ではコスト負担が重いという事情があります。チェックするシステムは共通化できる部分が多く、コストを抑えながら疑わしい取引をあぶり出すことで、FATFの新たな審査方針を踏まえて対策を進めています。

カード代替電磁的記録を用いた本人確認方法を新設することについて、警察庁が犯罪収益移転防止法の施行規則の一部を改訂するためパブコメを募集しています。

▼警察庁 「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則の一部を改正する命令案」に対する意見の募集について
▼概要
  • カード代替電磁的記録を用いた本人確認方法の新設について
    1. 犯収法施行規則の主な改正事
      • 行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(平成25年法律第27号。以下「番号利用法」という。)の改正により、個人番号カードと同等の機能(カード代替電磁的記録)をスマートフォンに搭載できることになったことを踏まえ、カード代替電磁的記録による本人特定事項の確認方法を新たに規定するもの。
        • ※情報通信技術の活用による行政手続等に係る関係者の利便性の向上並びに行政運営の簡素化及び効率化を図るためのデジタル社会形成基本法等の一部を改正する法律(令和6年法律第46号。以下「改正法」という。)によるもの。
        • ※本人の顔写真が表示されている個人番号カードの交付を受けている者に限る。
    2. 新たに規定する本人確認方法
      1. カード代替電磁的記録を構成する電磁的記録のうち、郵便局員等氏名、住居、生年月日及び顔写真の送信を求める
      2. 送信用プログラムと同等の機能を有するものを用いて(1)で求められた情報を送信
      3. 確認用プログラムと同等の機能を有するものにより、送信された情報が顧客であることを確認
    3. その他の改正事項
      • 上記の本人確認方法の新設に伴い、確認記録の作成方法について、カード代替電磁的記録を構成する電磁的記録に係る情報又はその写しを確認記録に添付する方法を新たに規定するほか、所要の改正を行う。

金融機関と金融庁の間の意見交換会における主な論点について、直近の資料が公開されていますので、以下、紹介します。犯罪収益移転防止法施行規則の改正、AIディスカッションペーパー公表、FATF 勧告 16(クロスボーダー送金)改訂案再市中協議の開始、証券口座乗っ取りへの対応など、重要なトピックが網羅されています。

▼金融庁 業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点
▼主要行等
  • 現下の国際情勢を踏まえた対応について
    • 米国の政策をめぐる不確実性が著しく高まっており、世界経済や企業投資にとどまらず、銀行財務の健全性にも悪影響を及ぼしかねない状況となっている。同時に、内外債券・株式市場のボラティリティも上昇している。各銀行においては、これらのリスクをコントロールすることはもとより、ストレス時でも取引先に寄り添った質の高い金融仲介機能を発揮できるよう、ストレスシナリオやアクションプランを含めたストレス時の対応方針を改めて確認する必要がある。
    • また地政学リスクの高まりを背景に、サイバーセキュリティに関するリスクが顕著に高まっている。
    • こうした目下のリスクを踏まえ、サイバー攻撃が起きることを前提に、システム障害の未然防止を図ることはもとより、サイバー攻撃によるものに限らず、業務停止時の業務の早期復旧や顧客影響の軽減のための組織の態勢整備等により、組織のレジリエンス(回復力、復元力)を高め、重要な業務を必要な水準で提供し続けられるようにすることが重要である。
    • レジリエンス確保のためには、重要な業務を特定し、最低限維持すべき水準を検討する必要がある。また、組織横断的な観点や利用者の視点を勘案しつつ、業務継続に必要な経営資源(ヒト・モノ・カネ)を配分することが重要であり、こうした検討や配分の適切性を検証し、見直すことが必要である。
    • この一連のプロセスにおいて、経営陣による主体的な関与とコミットメントが不可欠である。経営陣においては、新たな年度計画の実行を前に、今一度、自社及びグループのサイバーセキュリティやレジリエンス確保のための態勢の現状を検証し、改善する必要がある。
  • 金融犯罪対策に係る業界横断的な広報について
    • 継続的顧客管理について金融機関の利用者に理解・協力をお願いする内容の官民一体・業界横断的な広報について、全国銀行協会を中心として2024年12月より展開しているところ、2025年3月8日に朝日新聞朝刊の全面広告を掲載した。
    • 金融庁では様々な機会を捉えて繰り返し周知し、広く利用者の意識向上を図ることが重要と考えており、金融機関においても積極的に周知いただきたい。
    • また、継続的顧客管理に限らず、口座売買の撲滅など、金融犯罪対策に係る広報活動を官民一体で行いたいと考えており、引き続き御協力いただきたい。
  • 犯罪収益移転防止法施行規則の改正案の公表について(非対面の本人確認方法の見直し)
    • 近年、非対面での本人確認において、偽変造された本人確認書類が悪用されている実態があり、治安上の大きな課題となっている。
    • このような情勢を背景に、2024年6月21日に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」等において、「非対面の本人確認手法は、マイナンバーカードの公的個人認証に原則として一本化し、運転免許証等を送信する方法や、顔写真のない本人確認書類等は廃止する。」との記載が盛り込まれた。
    • これを受け、非対面での本人確認方法のうち、本人確認書類の偽変造によるなりすまし等のリスクの高い方法を廃止するため、警察庁において、犯罪収益移転防止法施行規則の改正案に係るパブリックコメントを開始した(2025年2月28日~同年3月29日)。
    • 口座開設時の確認等の実務に影響する改正であり、システム対応が必要となる金融機関もあると思われるところ、内容について御確認いただきたい。なお、対面での本人確認方法についても、今後警察庁において対策が検討されていく予定である。
  • AIディスカッションペーパー公表について
    • 金融庁は、2025年3月4日に、事業者の健全なAI利活用に向けた取組を力強く後押しし、今後、建設的な対話を行うための論点整理として、AIディスカッションペーパーを公表した。
    • 生成AIは金融分野においても利活用の検討が進展する一方で、リスクや規制面から利活用に躊躇する声も聞かれるが、技術革新に取り残されて中長期的に良質な金融サービスの提供が困難になる「チャレンジしないリスク」も踏まえ、顧客利便性や業務効率化に繋がる取組の進展を期待したい。
    • 本ディスカッションペーパーの分析は初期段階にすぎず、提示した論点も、技術革新やビジネス環境の変化に伴って大きく変わり得る。金融庁としては、今回提示した視点を起点に、今後も各金融機関との対話を強化しながら、具体的な施策について柔軟に検討を深めていきたい。
    • 本ディスカッションペーパーについて御意見や御提案があれば、是非お寄せいただきたい。
  • FATF勧告16(クロスボーダー送金)改訂案再市中協議の開始について
    • 金融活動作業部会(FATF)では、2025年2月末にクロスボーダー送金の透明性に関する勧告16改訂案について2度目の市中協議を開始した(2025年4月中旬期限)。
    • 勧告の改訂は、送金のコスト減、スピード向上、透明性向上、金融包摂の実現の観点からクロスボーダー送金を改善するための、G20・FSBを中心とする取組の一環として、主に送金の透明性向上の観点から、必要なマネー・ローンダリング(マネロン)対策等の確保を狙ったもの。2024年5月初旬にかけて実施した一度目の市中協議で頂戴した業界の皆様の意見も踏まえ、再度FATFで検討したもので、昨年の市中協議案と比較すると、多くの点において業界の負担にも配慮し、リスクに見合った対応とするための修正が加わっている。
    • それらは、1.送金の始点・終点の定義の明確化と決済ビジネスモデルの変化を踏まえた異なるプレーヤーの責任の明確化、2.送付人・受取人情報の内容・質の改善、及び、受取人情報の整合性の確認、3.カード決済への勧告16適用範囲の見直しを含む。
    • 金融庁としては、クロスボーダー送金の改善について、国際的に目標とされている、送金のコスト削減、スピード向上、金融包摂の実現という、それぞれの政策目的と並んで、マネロン対策等による透明性の向上も重要なものと考えている。また、今回の改訂案は技術的かつ複雑な論点が多く、影響を受ける利害関係者も多岐にわたることが予想されるため、金融庁としては、関係業界の実務担当者の皆様を対象とした改訂案に関する業界向け説明会を実施するなど、皆様の意見もよく伺いつつ、最終化に向けた議論に参画してまいりたい
▼日本証券業協会
  • インターネット取引における不正アクセス・不正取引事案への対応について
    • 今般、インターネットを利用した証券口座において、何らかの手段で顧客のログインID、パスワード等を入手した第三者により、顧客の身に覚えのない取引が行われる事案が複数の証券会社において発生した。
    • 現時点で不正アクセス・不正取引は収束しておらず、むしろ発生件数及び取引金額が急増している状況にある。
    • 不正取引を行った真の目的は不明であるが、従来、顧客口座への不正なアクセスは、顧客口座から金銭を窃取することが目的であると思われていたところ、今回、第三者への出金に至った事例はなく、低位株を中心とした国内外の株式を買い付けるという、これまでにない新たな不正の手口が確認されている。
    • また、金融機関のウェブサイトを装う偽サイトについて、足元では証券会社においても多数確認されており、特に今回の不正取引の急増と同時期に、自社を装うフィッシングサイトの検知件数も急増しているとの報告を証券会社から受けている。
    • これらの一連の問題を受けて、金融庁では2025年4月3日、証券会社の利用者に向けた注意喚起を実施した。また、顧客に対して一層の注意を促し、顧客資産を守る観点から、不正取引が判明した証券会社には、自社で不正取引が発生したことを明らかにするよう促している。
    • 各証券会社においては、顧客が不正アクセス被害にあわないための様々な認証強化機能を提供し、顧客に対して継続的にセキュリティ対策の強化を求めているものと承知しているが、フィッシングの手口の巧妙化や従来とは目的が異なる不正アクセスの手口が見られていることも踏まえ、セキュリティ対策は経営陣の責務と認識し、顧客被害の発生と被害拡大防止のために万全を尽くしていただきたい。
    • また、不正アクセスにより身に覚えのない取引の被害を受けた顧客に対しては、顧客の不安を解消するべく問い合わせや相談に真摯に対応し、被害解決に向けた誠実な対応をお願いしたい。
    • さらに、日本証券業協会においては、2021年に「インターネット取引における不正アクセス等防止に向けたガイドライン」を制定し、業界としてのセキュリティ水準の向上を図ってきたと承知しているが、フィッシングやマルウェアに起因した不正アクセスの急増、不正取引の手口の進化やインターネットで取引を行う顧客層の急拡大も踏まえて、本ガイドラインの見直しも含めて、不正アクセス事案への対策強化を早急にお願いしたい。
  • 偽広告等の情報収集等に係る四半期報告について
    • 投資詐欺被害等の増加を受け、2024年6月において政府で取りまとめられた「国民を詐欺から守るための総合対策」を踏まえた対応として、金融関係事業者団体等において、自らになりすました偽広告等に関する情報収集や注意喚起、積極的な削除要請等を実施するとともに、その実績について四半期ごとに金融庁に報告いただくよう、2024年9月に要請を行った。
    • 2024年10月にスタートし、2024年10月~12月期の実績について、2025年1月末に初回の報告を頂いたところ、日本証券業協会以外の事業者団体等も含めて、収集いただいた情報の総数は773件であった。また、同じく2024年10月に金融庁ウェブサイトに設置した偽広告等に関する情報受付窓口で受け付けた情報は同期間で55件となっている。
    • 各協会及び各証券会社におかれては、その多くをSNS事業者等への情報提供等まで繋げていただいており、これは要請に基づき適切に御対応いただいた結果だと考えている。
    • 一方、「1.インターネット取引における不正アクセス・不正取引事案への対応について」のとおり、最近、実在する証券会社を装った偽のウェブサイト(フィッシングサイト)に電子メール等で誘導し、顧客情報を窃取する被害が多発しており、このようなケースにおいても、これまでの対応と同様、金融犯罪抑止という観点からも、積極的に対応いただきたい。
    • (参考)令和6年9月17日会員代表者合同会議監督局連絡事項
    • 「国民を詐欺から守るための総合対策」について
      • 令和5年下半期以降、投資家や著名人になりすましたSNS上の「偽広告」等によって被害者を誘い込み、SNS上のやり取りで信用させ、金銭をだまし取る手口の詐欺等の被害が急増したことを受け、今年6月に、政府において「国民を詐欺から守るための総合対策」が取りまとめられた。
      • 総合対策の施策の一つとして、事業者団体等における偽広告等への適正な対応の推進が求められており、具体的には、貴協会を始めとする金融関係事業者団体において、横断的に、偽広告等に関する情報収集や注意喚起を行うとともに、自らになりすました偽広告等を発見した場合などには積極的な削除要請を行うことが求められている。
      • これまで、貴協会をはじめとする金融関係事業者団体の皆様と、本施策の具体的な取組内容について、事務的にご相談を重ねさせていただいたところであるが、今般(9月13日付けで)、貴協会及び協会会員等に対し、自らになりすました偽広告等に関する情報収集や注意喚起、偽広告等の積極的な削除要請の実施、並びにその結果について当庁への報告を求める要請文を発出させていただいた。
      • 投資詐欺被害の防止に向けて政府一体となって取り組んでいるところ、貴協会及び各社におかれても、要請文に沿った対応について、ご協力をお願いしたい
  • マネー・ローンダリング(マネロン)等対策の「有効性検証」の考え方・対話の進め方に関する文書の公表について
    • マネロン等対策については、各金融機関において2024年3月末の期限までに整備した基礎的な態勢の有効性を高めていくことが重要であり、マネロンガイドラインでは、各金融機関が自社のマネロン等対策の有効性を検証し、不断に見直し・改善を行うよう求めている。
    • また、今後の金融活動作業部会(FATF)の第5次審査も見据えると、各金融機関が自らのマネロン等対策の有効性を合理的・客観的に説明できるようになることも重要である。
    • 金融庁では、「有効性検証」に関する金融機関等の取組を促進するために、「有効性検証」を行うに当たって参考となる考え方や、実際の取組事例集を2025年3月に公表した。
    • 今後は順次、「有効性検証」に係る対話を各金融機関と行っていく予定であり、当局の具体的な対話手法や着眼点も公表文書に明記している。金融機関においては、これらの文書も参考に、経営陣主導のもと、「有効性検証」の取組を進めていただきたい。
  • 「疑わしい取引の参考事例」の改訂について
    • 金融庁が策定・公表している「疑わしい取引の参考事例」は、所管の特定事業者が疑わしい取引の届出義務を履行するにあたり、犯罪等に関連する可能性のある取引として特に注意を払うべき事例を例示したもの。
    • 今般、金融機関等におけるリスク動向や、昨今の金融犯罪の傾向等を踏まえ、非対面取引における具体的な観点の追記を中心に参考事例の改訂を行う。参考事例の見直しにあたり、警察庁策定の「疑わしい取引の届出における入力要領」も改訂され、併せて2025年6~7月頃に公表予定。
    • 各金融機関においては、改訂された事例を参考とし、疑わしい取引の届出業務を着実に実施するともに、足元で特殊詐欺等の被害が拡大している状況も踏まえ、犯罪等に関連する疑いのある取引に気づくことのできる、あるいはシステム等で検知できる態勢を構築し、金融犯罪等の抑止に繋げていただきたい。

前述の意見交換会での金融庁の指摘にもあるとおり、証券口座が不正アクセスで乗っ取られ、株式などが勝手に売買される被害が急増しています。金融庁が2025年5月8日に公表した同4月末時点の集計で、不正取引は件数が3505件、売買額が約3049億円に達し、同4月16日時点の前回集計と比べ、件数は2.4倍、売買額は3.2倍になったほか、証券会社をかたって「注意喚起」を呼びかけるメールも現れるなど、被害が止まらない状況です。金融庁によると、被害報告があったのは楽天、SBI、野村、大和、SMBC日興、三菱UFJモルガン・スタンレー、マネックス、松井、三菱UFJeスマートの証券9社で、前回集計から3社増え、5月に入ってさらに増えたとみられます。犯罪グループは、偽サイトに誘導するフィッシング詐欺などで証券口座のIDやパスワードを盗み、顧客になりすまして口座を操作、顧客の株式を売却し、代わりに中国企業株や取引量の少ない国内の小型株を大量に購入するケースが多く、大量購入で価格をつり上げる「相場操縦」で利益を得ているとみられています。前回の本コラム(暴排トピックス2025年4月号)でも示唆しましたが、当初は海外の犯罪組織の犯行とみられていたところ、(あくまで個人的な推測ですが)国内外の犯罪組織が続々と同様の新たな手口を用いて、この「令和版不公正ファイナンス」に加担している状況かと思われます。不正取引の報告件数は、2025年1月は39件、2月は33件でしたが、3月は687件、4月は2746件と急拡大、売買額は、1~4月で売却額が1612億円、買い付け額が1437億円で、いずれも4月分が9割を占めています。乗っ取られた口座には勝手に購入された株式が残っている場合があり、売買額は必ずしも損失額と一致しないものの、数千万円の被害を受けている口座もあるようです。日本証券業協会は、顧客が1月以降に被った被害について、加盟10社が一定の被害補償をする方針だと発表、各社は順次、補償に向けた手続きなどを決めて顧客に案内する予定としています(当初は「自己責任」と整理していたもの。保険においては免責となっている)。金融庁や警察庁は、口座ログイン時にワンタイムパスワードなど2要素以上を組み合わせる「多要素認証」を設定するほか、証券会社のウェブサイトには事前にブックマーク登録した公式サイトからアクセスするように呼びかけています。

▼警察庁 インターネット取引サービスへの不正アクセス・不正取引による被害が急増しています
  • 実在する証券会社のウェブサイトを装った偽のウェブサイト(フィッシングサイト)等で窃取した顧客情報(ログインIDやパスワード等)によるインターネット取引サービスでの不正アクセス・不正取引(第三者による取引)の被害が急増しています。
  • 不正取引が発生した証券会社数(社)/不正アクセス件数/不正取引件数/売却金額/買付金額
    • 2025年1月 2/65/39/約8億円/約0.7億円
    • 2025年2月 2/43/33/約1億円/約6億円
    • 2025年3月 5/1,420/687/約129億円/128億円
    • 2025年4月 9/4,852/2,746/約1,481億円/約1,308億円
    • 合計 ー/6,380/3,505/約1,612億円/約1,437億円
      • ※金融庁が現時点で各証券会社から報告を受けた数値を合計した暫定値であり、まだ判明していない不正アクセスや不正取引が存在する可能性があることに留意。
      • ※売却金額及び買付金額は、不正アクセスが行われた口座(被害口座)内における不正取引の金額を合計したもの(同一口座内で不正取引が繰り返された場合、売買金額が累積)。
      • ※不正取引の態様は様々だが、多くの場合、不正行為者が不正アクセスによって被害口座を勝手に操作して口座内の株式等を売却し、その売却代金で国内外の小型株等を買い付けるというもの。不正取引の結果、被害口座には当該国内外の小型株等が残ることになる。表中の「売却金額」「買付金額」はこのような不正な売却・買付代金の総額を示したものであり、当該金額は、不正取引により生じた顧客の損失額と一致しないことに留意。
  • ログインID・パスワード等の窃取、不正アクセス・不正取引の被害はどの証券会社でも発生し得るものであるため、こうした被害に遭わないためには、証券会社のインターネット取引サービスを利用しているすべての方において、改めて次のような点にご留意ください。
    1. 見覚えのある送信者からのメールやSMS(ショートメッセージ)等であっても、メッセージに掲載されたリンクを開かない。
    2. 利用する証券会社のウェブサイトへのアクセスは、事前に正しいウェブサイトのURLをブックマーク登録しておき、ブックマークからアクセスする。
    3. インターネット取引サービスを利用する際は、各証券会社が提供しているセキュリティ強化機能(ログイン時・取引実行時・出金時の多要素認証や通知サービス)を有効にして、不審な取引に注意する。
      • ※多要素認証:認証において、知識要素(PW、秘密の質問等)・所持要素(SMSでの受信や専用トークンで生成するワンタイムコード等)・生体要素(指紋、静脈等)のうち二以上の要素を組み合わせること。同一要素を複数回用いる多段階認証よりもセキュリティが強いとされる。
    4. パスワードの使いまわしをしない。推測が容易な単純なパスワードを用いない。数字・英大小文字・記号を組み合わせた推測が難しいパスワードにする。
    5. こまめに口座の状況を確認(※)するとともに、不審なウェブサイトに情報を入力したおそれや不審な取引の心配がある場合には、各証券会社のお問い合わせ窓口に連絡するとともに、速やかにパスワード等を変更する。
      • ※ログインする際は2.に留意し、ブックマークから正しいウェブサイトにアクセスする。
  • また、フィッシング詐欺のみならず、マルウェア(ウイルス等)による情報窃取の被害を発生させないためには、PC・スマートフォン等のソフトウェア(OS等)を最新の状態にしておくとともに、マルウェア(ウイルス等)対策ソフトを導入し、常に最新の状態に更新することが有効な手段となります
  • 証券会社のインターネット取引サービスを利用する際にご注意いただきたい事項として、日本証券業協会による注意喚起もご確認ください。
▼不正アクセス等にご注意ください!(日本証券業協会へのリンク)

その他、金融機関に関する偽広告やフィッシングメールに関する注意喚起も併せてご確認ください。

▼証券会社や日本証券業協会を騙ったSNS上の偽広告等に注意!
▼金融機関のマネロン等対策を騙ったフィッシングメールにご注意ください

以下の「サイバー警察局便り」(警察庁作成)もご確認ください。

▼PDF版

今回の証券口座乗っ取りを巡って、重要な論点ごとの状況を整理すると以下のとおりです。

  • 口座のIDやパスワード延べ10万件超が闇サイトなどで流通していることが判明しています。サイバーセキュリティ事業のマクニカ(横浜市)とイスラエルの調査会社KELAの共同調査によると、証券口座に関する延べ10万5千件の認証情報が匿名性の高い闇サイト群「ダークウェブ」などで確認され、認証情報は売買されるなどしていたといいます(あくまで「盗み取られた情報の一部で、氷山の一角だろう」と指摘されています)。なお、大半はフィッシングなどによるものとみられますが、一部は「インフォスティーラー」と呼ばれる不正プログラムにより、顧客のパソコンから抜き取られた可能性があることが判明しています(インフォスティーラーは偽メールに添付されたファイルを開いたり、海賊版のソフトウエアなどをダウンロードしたりすると感染する恐れがあります)。さらに、個人の端末に感染した不正プログラムにより情報が盗まれたことも新たに判明、偽サイトを通じた「フィッシング」との2つの手口で、サイバー犯罪集団が乗っ取りを繰り返している疑いが強まっています。国内で個人が持つ証券口座は2024年12月時点で3743万口座あり、漏洩が判明したのは単純計算で3%に当たるといいます。
  • IDやパスワードなどの「知識要素」に加えて、スマホやパソコンに通知が送られるなどの「所持要素」、顔認証や指紋などの「生体要素」の複数の認証技術を組み合わせる「多要素認証」(知識要素を組み合わせる「2段階認証」とは異なります)が有効な対策とされますが、ログイン時の多要素認証に対応していなかった証券会社もあるといいます。必須化の手法は各証券会社に委ねるものの、多要素認証を顧客が設定しなければログインできないようにするシステム改修を念頭に置いています。株取引は刻々と相場が動くため、多要素認証の必須化は「不便だ」との声もSNSなどで上がっているところ、日証協は取引執行時でなくログイン時の多要素認証であれば「迅速性が失われるわけではない」(松尾専務理事)との考えではあるものの、多要素認証を拒むと顧客が明確な意思表示をした場合などに証券会社が例外規定を設けることも認めるといいます。このあたりの「利便性とリスク対策の比較衡量」「自己責任」のバランスは難しいものがあります。また、現状では多要素認証必須化の時期や例外対応のあり方は各証券会社に委ねられていますが、犯罪集団による口座乗っ取りは顧客に損害を与えるだけでなく、株価操作によって適正な相場形成も阻害、被害が拡大する中で各証券会社は実効性あるシステム改修への素早い着手が求められるほか、日本証券業協会は継続して促す必要があるといえます。
  • 今回の問題において、被害補償の考え方が大きく転換される点も注目されます。証券業界はこれまで、証券会社には法的責任がないほか、顧客への損失補填は金融商品取引法で禁止されているなどとして、補償に後ろ向きでしたが、金融庁は今回のように第三者が不正アクセスで顧客に無断で取引をした場合は、同法の規制の対象外という見解を示したうえ、新NISA(少額投資非課税制度)の口座も被害に遭ったとみられる中、協会に早急な対応も求めたことから、証券業界は補償する方向に転じたとみられています。なお、不正アクセスをめぐって全国銀行協会は2008年、ネットバンキングで不正に引き出された預金について、顧客に過失がなければ銀行が原則補償するルールを策定しています。

株式投資名目でクレジットカードやスマートフォンをだまし取ったとして、福岡県警は、男性4人を詐欺容疑で逮捕しています。報道によれば、被害者は県内を中心に100人以上に上る見通しだといいます。4人は詐取したカードを利用して郵便局でレターパックを購入し、買い取り業者に転売するなどして計3億円を得ていたといい、県警は新たなマネロンの手口とみて捜査を進めているものです。4人の逮捕容疑は共謀して、福岡市博多区の駐車場などで福岡県内の男性会社員2人に対し、株式投資に利用するなどとうそを言い、クレジットカード計3枚やスマートフォン計2台などをだまし取ったもので、容疑者らは会社員らのスマホを転売した他、カードのショッピング枠を現金化するため、レターパックを大量購入して買い取り業者に転売したとみられています。その際、特殊な購入方法を繰り返していたといい、(1)カードの枚数や限度額を買い取り業者側に事前連絡(2)業者が購入可能なレターパックの枚数を計算し、福岡市内の郵便局に依頼(3)容疑者らが郵便局で購入―という流れだったといいます。福岡県警は郵便局と買い取り業者2店が重要な役割を果たしたとみています。レターパックは購入時に身分確認の必要がないことから大量購入しても足が付きづらく、転売する際も買い取り価格が安定しているため、容疑者側が目をつけた可能性があるとみて全容解明を進めるとしています。

SNS型投資詐欺の被害金のマネロンを巡る報道も相次いでいます。

  • 自社の法人口座に振り込まれたSNS型投資詐欺の被害金を正当な商取引と装ってマネロンしたとして、福岡県警は、雑貨品販売会社「川阪」代表ら中国籍の夫妻を、組織犯罪処罰法違反(犯罪収益仮装)の疑いで逮捕しています。福岡県警は同社名義の複数の口座に計約33億円の入金を確認しており、カンボジアなどの詐欺グループに流れた可能性があるとみているといいます。報道によれば、2は2023年6月、FX(外国為替証拠金)取引名目の投資詐欺の被害金2855万5242円について、何者かが19回にわたって同社名義の2口座に振り込んだ際、振り込み元を同社の取引会社2社の名義にし、犯罪収益の取得を仮装した疑いがもたれています。県警は、SNS型投資詐欺などの被害に遭った少なくとも43都道府県の約450人が振り込んだ金の行方を追跡、その結果、約1200の法人口座などを介し、この2口座を含む同社の複数の口座に計約33億円が集約されていたということです。仲介に使われた口座を詐欺グループ側に提供したとして、別の中国籍の男ら2人が犯罪収益移転防止法違反容疑などで逮捕、起訴されており、県警は男2人がカンボジアを拠点とする詐欺グループに関与したとみています
  • 匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)が絡む犯罪収益をマネロンしていたとみられる集団を警察が摘発しています。暗号資産を悪用し資金の流れを巧妙に隠していたものの、サイバー犯罪捜査の技法も生かし解明したものです。急増する詐欺被害の抑止に向け、警察はトクリュウを巡る資金網の遮断に総力を挙げています。特殊詐欺に関与したとして、警視庁と愛知県警の合同捜査本部が、マネロンを行う犯罪組織の幹部ら男女3人を詐欺容疑で逮捕していますが、容疑者らは特殊詐欺や投資詐欺、強盗といったトクリュウが関与する様々な犯罪の資金洗浄を担う「金庫番」だった疑いが強いとされます。指示役「ルフィ」らが主導したSNSの「闇バイト」に絡む強盗事件の被害金の一部をマネロンし、フィリピンに潜伏していた同事件の指示役に還流させたとみられますが、一連のルフィ事件で、被害金がマネロンされた疑いが浮上するのは初めてとなります。警視庁などは、複数の犯罪組織からマネロンを請け負っていたとみて実態解明を進めています。警視庁が詐取金の流れを調べたところ、暗号資産に換えられて海外の取引所を経由した後(後述する「ミキシング」の手法が使われていました)、容疑者が現金化していたことが判明、その後、別の容疑者を通じて、容疑者宅に運ばれたことがわかったといいます。警視庁は、容疑者らが特殊詐欺などで得た約11億円の一部をマネロンした上で、組織の活動資金などに充てたとみています。容疑者らは「ルフィ」グループの上位の指示役とも交流があったとみられ、警視庁の捜査では、同グループによる一連の強盗事件の一部の被害金約1000万円が、容疑者の自宅に運び込まれた疑いも判明、同庁は、容疑者が強盗の被害金も何らかの手段で出どころを隠した上で、フィリピンにいた指示役に還流させたとみています。
  • 前項の事件では、暗号資産の解明がポイントとなりました。そもそも被害者に現金を振り込ませた銀行口座は、暗号資産の口座とひも付き、入金されると暗号資産に換金される仕組みだったといいます。暗号資産はブロックチェーン(分散型台帳)上に取引履歴が公開データとして残るため、資金の流れを追うことができる一方、暗号資産の「ミキシング」という手法がかねて捜査の壁となっていました。ミキシングは複数のルートで口座に入った暗号資産の記録を混ぜ合わせ、再分配する仕組みで、サービスとして提供する海外事業者が確認されています。ミキシングを経た暗号資産は出所が分からなくなり、ブロックチェーン上での追跡が困難になります。今回は警察庁のサイバー特別捜査部がサイバー空間を巡る捜査ノウハウを提供、警視庁の各部署が持つ知見も生かしながら、犯罪収益が経由した暗号資産口座一つ一つを追跡、ミキシングによる隠匿工作も解読し、犯罪収益が流れたルートを把握できたといいます(部門の垣根を超えた捜査、連携の重要性が痛感させられます)。詐欺の被害金は最終的に日本国内に還流されて現金化され、容疑者の当時の自宅に運び込まれており、一連のスキームで現金化された額は、多いときに3カ月間で約11億円に上るとみられており、暗号資産のマネロンを解明した捜査は国内では異例といいます。SNSで離合集散するトクリュウは指示役と実行役との人的つながりが薄く、人間関係をたどる従来型の捜査では中枢メンバーの摘発は難しく、2024年に摘発されたトクリュウとみられる1万105人のうち、「主犯・指示役」は1011人で1割にとどまっています。このため警察当局は資金網を断ちつつ中枢に迫る捜査に力を入れているところ、警察庁のサイバー特別捜査部は2024年、インターネットバンキングの不正送金を巡るマネロンの流れを追跡するなどしてグループの首謀者を特定、逮捕しています。マネロンされてトクリュウに戻った犯罪収益は、別の実行役を雇うためなどに使われ、犯罪が繰り返される恐れがあります。警察幹部は「トクリュウの弱体化に向けては、資金の流れを断つことが重要になる」と強調しています暗号資産を悪用したマネロンはサイバー犯罪の分野でも横行しており、これまでには金融機関などを標的として暗号資産を盗む北朝鮮のハッカー集団が、第三国のミキシング事業者を利用していたことが判明、海外捜査機関も取り締まりを強め、米連邦捜査局(FBI)などはミキシングを解除する「デミキシング」と呼ばれる技術を開発、ミキシングを防止するため、サービスを提供する事業者の資産を凍結するといった制裁を科す動きも出ています

その他、マネロンやAML/CFTを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 全国の性風俗店に女性を斡旋し、摘発を受けた巨大スカウトグループ「アクセス」を巡る事件で、警視庁の特別捜査本部は組織犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)の疑いで、リーダーの被告=職業安定法違反罪で起訴=を再逮捕しています。2024年11~12月、ソープランドなど8店舗から、紹介料「スカウトバック」などの犯罪収益計約149万円を現金であることを隠して、郵便物の送り先などとして契約した実体のない事務所「バーチャルオフィス」に発送させ、隠匿したというものです。容疑者は入出金の履歴をたどられないようにするため、性風俗店に現金を「書類」などと偽って郵送で支払うよう勧め、小銭は音が鳴らないよう紙に挟むことなどを指示していたといいます。
  • コンプライアンス・データラボ社はAML/CFTのため企業の実質的支配者を確認できるソフトウエアに、サプライチェーン(供給網)に潜むリスクを常時監視できる新機能を追加するとしています。コンプライアンス・データラボはAML/CFTに欠かせない実質的支配者情報を金融機関の担当者がオンラインで把握できるソフトを提供しており、独自に開発した実質的支配者特定ロジックにより、100万件以上の大量データもオンラインで一括処理し把握できるのが強みとされます。この技術を活用し、2025年5月にも投入する新機能ではサプライチェーンの取引先がマネロンに関与していないか金融機関が監視できるようにするといいます。
  • 足利銀行は業界横断の顔画像による不正検知サービスを地方銀行で初めて導入したと公表しています。同行でウェブ口座開設を申し込んだ際の本人確認データを対象に、顔画像やほかの個人情報の使い回しがないかを確認し、不正口座の開設を防ぐもので、生体認証サービスを手がけるLiquid社が提供するものです。業界横断のデータベースをもとに、同じ顔画像でも氏名や生年月日が異なるなど、1社では発見が難しい不正を検知し、リスクの高い口座開設や取引を未然に防ぐとしています。不正の手口が巧妙化するなか、業界横断の対策が急務になっています。最近、リキッドシールドの毎月の不正検知件数は前年同月比の2倍に増えているといい、2025年3月末時点では累計1万件以上の不正を検知しているといいます。

(2)特殊詐欺を巡る動向

本コラムでもだびたびミャンマーなど東南アジアがオンライン詐欺の拠点となっていることを取り上げてきました。1万人もの外国人を巻き込んだミャンマーの国境地帯の詐欺は「闇のビジネス」の底知れない広がりを感じさせますが、国連薬物犯罪事務所(UNDOC)は、「世界的にみれば氷山の一角にすぎない」と指摘、さらに、東南アジア発のサイバー詐欺産業が急速にグローバル化し、南米やアフリカにも拡大していると報告しています。各国の摘発が進む中でも、犯罪組織は地域を越えて活動を移し、摘発を回避している実態があります。近年、東南アジアでは数万人の労働者を収容する大規模な詐欺拠点が多数出現、多くのケースでは人身売買で集められた労働者が、世界中の被害者を標的とする詐欺行為を強要されています。オンライン詐欺/サイバー詐欺産業は国境を越えた移動や密輸の必要なしに世界中に被害を広げられるため、他の国際犯罪よりも急速に拡大していると指摘されています。タイ、ミャンマー、中国などが取り締まりを強化する一方で、詐欺組織はラオス、カンボジア、アフリカ、東欧などの法の支配が弱い地域に拠点を移しており、中でもミャンマーでは内戦の混乱が悪用されているといいます。米国だけでも2023年には56億ドル以上の暗号資産詐欺被害が報告され、中には高齢者を狙う「ロマンス詐欺」も含まれますが、国連は、今が国際社会にとって「重大な岐路だ」と警告し、各国が連携して犯罪資金の流れを断つ取り組みを強化する必要があると訴えています。また、UNDOCは、「2023年時点で関わっていた人は、東南アジアを中心に推定25万人。今は少なくとも50万人と推定されます。被害額は数十億ドルという推計がありました」、「この犯罪は費用と比べて収益性が極めて高い。(首謀者である)雇用者が圧倒的な力を握り、人件費をそれほどかける必要がない。巨大な建物に数百万ドルをかけ、インターネット環境を整え、賄賂やマネロンの費用を払ったとしても、収益に比べれば、わずかな額にすぎません」、「技術の進歩で、ハッキングやランサムウェア、AIなどを導入したり、詐欺やマネロンの一部のプロセスを外注したりしやすくなった。暗号資産の普及や送金手法の多様化で資金のやりとりがしやすくなった影響もあります」、「ミャンマー周辺では、証拠を見る限り中国系マフィアです。中国本国からの圧力が強まり、アフリカなど、より離れた地域へ移動しています。例えば2カ月前にはナイジェリアで大規模な摘発があり、多くの中国人が拘束されました。彼らは司直の力が緩い場所を探しています」、「圧倒的に多いのはロマンス詐欺です。インフルエンサーになりすまし、投資詐欺をしかける例もあります。インターネットにつながっている国はどこであろうと標的になります。コールセンター詐欺と呼ばれていますが、電話を使うのは特殊な例に限られ、テレグラム、フェイスブック、インスタグラムなどのSNSを使ったオンライン詐欺が主流です」、「標的は先進国など資金を持つ国が多いですが、組織で働く者の中には対象国の言葉はもちろん、英語も話さない人もいます。しかし『この人物に暗号資産へ投資させたい』とAIに指示すれば、いくつもの言語で会話の文例を作り出してくれる。技術によって国境はあいまいになっています」、「日本に限った話ではありませんが、個人が孤立し、ネット上で人とのつながりを求めるようになった社会は、オンライン詐欺やロマンス詐欺に弱いです。犯罪者はそういう感情を餌食にします」などと指摘していますが、いずれも生々しい実態であり、今後の組織犯罪を考えるうえで重要な示唆が多く含まれています。なお、捜査関係者によると、タイ当局などに保護・拘束をされた後に帰国した日本人はこれまでに計10人で、うち5人が詐欺や別の事件で日本の警察に逮捕されています。報道によれば、少年や容疑者の渡航状況などの情報提供を日本側から受け、タイ当局がタイ国内での足取りなどを捜査した結果、容疑者が少年を連れ去っていた疑いが確認されたといいい、警察庁は「タイ当局が捜査を尽くし、日本との迅速な情報共有によって、容疑者の発見や証拠品の確保に大きく貢献した」と説明しています。海外の特殊詐欺の拠点の摘発はこれまでもフィリピンやカンボジアなどで相次ぎ、多数の日本人が日本に移送されるなどして警察に摘発されています。警察庁は、ミャンマーで詐欺にかかわった日本人がほかにもいる可能性があるとみて、タイをはじめとする関係国との情報交換などを強める考えですが、やはり、オンライン詐欺がグローバルに展開している以上、国際捜査連携が極めて重要となっており、警察庁の果たすべき役割も極めて大きいといえます

米財務省は、ミャンマー東部カイン(カレン)州の特殊詐欺拠点を巡り、地域を実効支配する少数民族武装勢力「国境警備隊(BGF、別名KNA)」幹部のソーチットトゥ氏ら3人に経済制裁を科したと発表しています。BGFが犯罪組織に土地を提供する見返りに収益を得て、警備も担当したと指摘、人身売買にも関与したと非難しています。米財務省は、ソーチットトゥ氏を詐欺拠点問題の中心人物の一人と指摘、同氏の息子2人も重要な役割を担ったとして、米国内の資産凍結などの制裁対象としています。ソーチットトゥ氏には英国が2023年、EUが2024年に経済制裁を科していました。BGFは2025年2月、隣国タイ政府の要請に応じ、中国系犯罪組織などが運営する詐欺拠点の捜索を本格化、働かされていた外国人29か国の7000人以上を保護しましたが、一方で犯罪組織との協力関係を断ち切っていないと指摘されています

関連して、主に中国、台湾、韓国、日本の出身者で構成される詐欺グループの犯行にとってネット環境は不可欠で、犯罪拠点では、通常回線以外のさまざまな手段で確実に接続できるよう資金をつぎ込んでいるとされます。このためUNDOCの人身売買・密入国地域コーディネーター(東南アジア・太平洋)、レベッカ・ミラー氏は、より幅広く網を張って接続を遮断するのが有効だとロイターの取材に話しています。2025年2月、タイとミャンマーの当局は協力してミャンマーの特殊詐欺グループ拠点への電力供給を停止し、インターネット通信回線を遮断しましたが、スターリンクや中国のスペースセイルといった人工衛星経由のネット接続サービス技術がミャンマーとタイの国境地帯で広く使われている以上、電力供給停止が大きな効果を発揮したかどうか疑問視されています。むしろ、今回の作戦については、タイ政府が特殊詐欺問題を深刻に受け止め、やろうと思えば多様な取り締まり手段を講じられるのだと示した象徴的な意味があったというのがミラー氏の見方です。タイは国境が穴だらけでネット機器から麻薬、人間まで密輸ルートの重要な中継地になってきた半面、同国は犯罪グループの活動を困難にできる力を持っていると指摘しています。同氏によると、犯罪グループの拠点にとって大事な「用心棒役」になっているミャンマーの武装勢力BGFに対してタイ政府は大きな影響力を有しており、ミャンマーの中央政府よりもタイが取り締まりに本腰を入れる方が意義はあると指摘しています。

警察官らを名乗る人物から資産を金地金(金塊)に換えるよう指示され、だまし取られる詐欺被害が相次いでいます。警察庁によると2024年6~12月、少なくとも10都府県で21件計9億円超の被害を確認、警察関係者は、不安定な国際情勢を受けた金の価格高騰や持ち運びやすさが背景と指摘、警察庁や貴金属店が注意を呼びかけ、対策にも乗り出しています。具体的な事例としては、「金融詐欺の逮捕状が出ている。身の潔白を証明するために資産を全て教えてほしい」と警察官を名乗る男から電話があり、SNSでやりとりを続けると「逮捕状」だとする画像も届き、検察官を名乗る別の男の指示で、約1億円を7.4キロの金塊に換え自宅玄関に置くと、何者かに回収されたというものです。仙台市では2024年11~12月、70代女性が2億円相当の金塊約13キロの被害にあっています。警察庁によると被害の10都府県21件のうち、京都が5件で最多だったといいます。金の店頭販売価格は3月に1グラム当たり1万6千円を超え、5年前の3倍近くになり、有事の安全資産とされ、ウクライナや中東など不安定な国際情勢を受け需要が高いのが要因で、被害の背景には価格高騰の他、現金よりかさばらず持ち運びやすいことがあるとみられています。専門家は、被害者が言われるがまま金塊に換えてしまうのは「嫌疑をかけられ、何とか無実を証明したいという心理からではないか」と解説、特殊詐欺はATMで振り込ませる手口が多かったところ、近年は金融機関職員による高齢者への声かけなどの対策が奏功していると指摘、金に換えさせるのは「(詐欺グループが)より成功確率の高い方法を探しているのだろう」と分析していますうが、筆者も同感です。警察官を騙る、SNSで警察手帳を表示させる、金地金に換えさせるといった特殊詐欺の手口は時代とともに変遷しています。特殊詐欺の被害が全国で初めて確認されたのは2000年前後とされ、以降は警察が対策を強化する度、詐欺グループが新たな手口で被害者を生み出す「いたちごっこ」が続いています。当初は息子になりすましてニセ電話をかけ、銀行のATMから送金させる「オレオレ詐欺」が主流で、警察が銀行に防犯強化を依頼、携帯電話で話しながらATMを操作する高齢者への「声かけ」対策を浸透させると、高齢者にコンビニでプリペイドカードを購入させ、カード番号を聞き出す手口が横行、警察がコンビニでの防犯対策も進めるといった経緯を辿っていますが、金塊を使った手口は、警戒が厳しくなった銀行やコンビニを介さず、最終的な受け取り方も「受け子」が直接回収する方法が取られています。警察は新たに貴金属販売店に注意を促すチラシを配り、店内での高齢者への声かけ対策の強化も依頼しています。一方、だまされる高齢者への注意喚起の難しさも露呈しています。ある事例では、2度の被害未遂があり、携帯電話の番号を変え、自宅の固定電話は海外からの着信を拒否する設定にしたにもかかわらず、大阪府警の警察官を名乗る人物から「あなたをだました容疑者をもうすぐ捕まえるから安心して」と電話がかかってくるなど詐欺とみられる電話は鳴りやまず、母親に「電話帳に登録した番号以外は出ないように」と注意もしているものの、高齢の母親はどうしても電話に出てしまういい、2度の被害についても「言われたから信じた。災難だった」と漏らし、多くを語りたがらず、だまされてしまったことに自責の念を募らせ、事件のことを早く忘れたいと考える高齢者は少なくない状況がうかがえます。

大阪府警が2025年1~3月末までに把握した「オレオレ詐欺」の被害のうち、8割以上が警察官をかたる詐欺だったといいます。偽の逮捕状などを示して現金をだます手口ですが、若者も被害に遭っているのが特徴です。大阪府警によると、同3月末までのオレオレ詐欺の認知件数は199件で、2024年同期の約5.4倍にのぼり、そのうち8割以上が警察官をかたる詐欺だったといいます。特殊詐欺は高齢者の被害が目立つ一方、警察官をかたる手口はスマホに慣れた若い世代の被害も少なくなく、2025年に入り、20~30代が約35%を占めたといいます。埼玉県でも同様の傾向にあるといい、県内の特殊詐欺事件は2025年に入って増加し、同3月25日現在の認知件数・被害額はともに過去最高を記録した2024年の同期を上回っています。特に増えているのが警察官をかたる手口で2024年同期比29件増の62件となり、特殊詐欺全体の約20%を占め、被害額も同約2億4000万円増の約3億4000万円で、特殊詐欺全体の約31%を占め、被害者宅から遠い警察を名乗り、SNSでのやり取りに誘導する手口が目立つといいます。また、特殊詐欺全体の約72%が固定電話に電話かかってきていたが、警察官かたりでは約64%が携帯電話にかかってきていたほか、金銭授受の約9割はネットバンクかATMでの振り込みだったという特徴がありました。さらに、長崎県でも警察官をかたる詐欺が増えており、国際電話を使い、末尾が「0110」の番号を着信画面に表示させて、警察からの電話だと誤信させる手口も増えているといいます。長崎県内では2025年1~3月に警察官をかたる詐欺被害は13件確認され、被害額は8135万円にのぼっています。ビデオ通話を利用して偽の警察手帳や逮捕状を見せた例もあったといい、被害にあった人のうち20代から30代が半数以上を占め、インターネットバンキングを利用して振り込みをさせられるケースが多かったといいます。全国的にも2024年後半から急増しており、警察庁の2024年の統計によると、警察官かたりが多数を占めるオレオレ詐欺の「その他の名目」の認知件数は4192件(前年比311.8%増)、被害額は約371億円(同614.8%増)にのぼっています。

▼国民生活センター 警察を名乗る電話に注意!-警察がLINEに誘導することはありません-
  • 警察を名乗る不審な電話に関する相談が全国の消費生活センター等に多く寄せられています。
  • 相談事例では、警察署で使用されることが多い下4桁が「0110」の電話番号を表示することで消費者を信用させる手口や、電話からLINEのビデオ通話に誘導し警察手帳を見せて、それを信用した消費者に個人情報を聞いたり、捜査の一環として金銭を振り込ませたりする手口がみられます。
  • 中には、相手が自分の個人情報(氏名や住所等)を知っている場合もあり、消費者が相手を信用してしまう要因となっています。20歳代~50歳代からの相談も寄せられており、電話口で「逮捕」等と言われて、仕事や生活への影響を恐れて焦って対応してしまう可能性もあります。
  • 警察がLINEのトークやビデオ通話で連絡を取ったり、金銭を個人名義の口座に振り込ませたりすることはありません。警察を名乗る電話があっても慌てず、いったん電話を切って、消費者ホットライン「188」または警察相談専用電話「#9110」番に相談してください。
  • 相談事例
    1. 警察を名乗る電話の後ビデオ通話に誘導され、個人情報を伝えてしまった
      • 昨日、スマホに警察官を名乗る人物から電話があり、「あなたの銀行口座が資金洗浄に使われている。すでに逮捕した犯人があなたと共謀していると言っている。LINEのビデオ通話なら出頭せずに済む」等と言われて、ビデオ通話に誘導された。ビデオ通話では相手から警察手帳を見せられ「被害届が出ている」などと言われた。相手の指示に従い、住所、電話番号、職業、銀行口座情報を伝え、運転免許証を提示した。約3時間通話が続き、金銭を振り込む必要があるなどと言われたところで、不審に思い電話を切った。金銭的被害はないが個人情報の悪用が心配だ。どうしたらよいか。(2025年1月受付 50歳代 男性)
    2. その他、以下のような相談も寄せられています
      • 下4桁が「0110」の番号から電話があり警察を名乗って逮捕状が出ていると言われた。
      • 2時間後に電話が使えなくなるとの電話の後、犯罪捜査のためと言われお金を振り込んだ。
  • アドバイス
    • 警察がLINEのトークやビデオ通話で連絡を取ることはありません。
    • 警察からと思われる電話であっても、所属や担当者名、電話番号、内線番号等を聞いた上でいったん電話を切り、警察署等の連絡先を自分で調べた上で相談してください。
    • 知らない番号からの電話は慎重に対応しましょう。また、非通知でかかってきた電話には出ないようにしましょう。
    • 相手が自分の個人情報を知っていたとしても驚かず、簡単に信用しないようにしましょう。自分からも個人情報を絶対に伝えないでください。
    • 不安を感じたり、不審に思ったりした場合は、すぐに消費生活センターや警察に相談してください。
▼警察庁 ビデオ通話を悪用した“偽警察官・検察官”の詐欺に注意!!
  • 警察官等をかたる犯人が、ビデオ通話を悪用する詐欺の手口を確認 警察官・検察官が突然スマホにビデオ通話をすることはありません!!
  • 概要
    • 近年、電話やビデオ通話を用いて、警察官や検察官を名乗り、信用させた上で金銭や個人情報をだまし取る詐欺の手口が確認されています。
    • 犯人は、パソコンやスマートフォンのビデオ通話を利用して制服姿や身分証の提示を行い、あたかも“本物の捜査員”のように見せかけて被害者を信用させます
    • このような手口は全国的に多くみられており、警察では注意を呼びかけています。
    • ある男性のもとに、“警察官を名乗る人物”から「あなたの口座が犯罪に利用されている可能性がある」と電話がありました。
    • さらに後日、今度は“大阪地検特捜部の検察官”を名乗る人物からビデオ通話があり、画面越しに身分証らしきものを提示されました。
    • その人物はビデオ通話の中で、あたかも本物の検察官であるかのように振る舞っており、男性はその人物を信用してしまい、最終的に現金をだまし取られるという被害にあってしまったのです。
  • 注意点
    • 現在、警察官や検察官を名乗る人物が、電話やビデオ通話を利用して接触し、金銭や個人情報をだまし取る詐欺被害が多く発生しています。
    • 最近では、警察官を名乗る男から突然電話があり、
      • あなたの口座が犯罪に悪用されている
      • スマホがもうすぐ使えなくなる
      • あなたに逮捕状が出ている(別途令状様のものが送信される)

      などと告げられるというケースも確認されています。

    • 警察官や検察官が、個人のスマートフォンに突然ビデオ通話をかけることはありません!!
    • たとえ、ビデオ通話で身分証を提示されても絶対に信用せず、不審な電話やビデオ通話を受けた際は、一度電話を切って最寄りの警察署にご相談ください。
▼総務省 不適正利用対策に関するワーキンググループ(第8回)
▼資料8-1 ICTサービスの利用環境を巡る諸問題について(案)~不適正利用対策をめぐる環境変化と新たな対策について~(事務局)
  • 総務省では、令和7年4月23日に、TCA((一社)電気通信事業者協会)に対して、固定・携帯電話、SMS及びメールを悪用した特殊詐欺等に対する対応に関して、要請を発出。
    1. 固定電話への国際電話サービスを悪用した詐欺等への対策
      • 新規、移転、切り替え時の契約変更時等の機会を捉えて、国際電話サービスを悪用した詐欺の可能性を説明し、契約の必要性の確認をすることや、国際電話サービスを利用しない者に対する優遇措置等、国際電話を真に必要としない人に対して利用休止を促すような効果的な措置を検討すること。
      • また、国際電話不取扱センターの体制強化を通じた国際電話サービスを休止する体制の整備、キャパシティ向上を見据えた運用改善等を検討すること。
    2. 携帯電話への電話サービスを悪用した詐欺等への対策
      • 詐欺に誘引する電話について、国際電話発の詐欺電話を含む被害の未然防止に向けて、利用者に提供する迷惑電話対策サービスの無償化を含むより効果的な措置を検討すること。
    3. SMS、電子メールサービスを悪用した詐欺等への対策
      • 詐欺に誘引するSMS、電子メールについて、被害の未然防止に向けて、利用者に提供する迷惑SMS、迷惑メール対策サービスの無償化を含むより効果的な措置を検討すること。
    4. 注意喚起・周知活動
      • 固定・携帯電話、SMS及び電子メールの利用者に対して、詐欺に巻き込まれる危険性について、効果的な注意喚起や周知活動を行うこと。
▼資料8-2 特殊詐欺の被害状況と通信技術の悪用実態(警察庁)
  • 令和6年中の特殊詐欺被害の約8割が電話による接触から始まっている。
  • メール・メッセージ等、ポップアップ表示もそれぞれ1割程度。
  • 犯人側から被害者の携帯電話に荷電する割合の増加が顕著。
  • 急増している警察官騙り(捜査・優先調査名目)の手口では、犯人側が被害者の携帯電話に荷電するものが約7割。同手口では、20~30歳代をはじめとする若年層の被害が目立つ。
  • 特殊詐欺に悪用される電話番号の種別では、令和5年の7月頃から、国際電話番号が急増。また、国際電話の増加とともに、1つの電話番号あたりの犯行利用回数が減少している可能性も示唆される。
  • 特殊詐欺に犯行利用された国際電話番号のうち、約8割が米国の電話番号
  • 正規の番号を偽装する手口とは別に、末尾が「0110」の電話番号を使用することで、警察からの電話に偽装する手口も見られる。
  • 悪用される番号の種別では、国際電話番号が多い。
  • 令和7年5月現在も犯罪実行者募集情報は引き続き流通しており、SIMカードの売買や、認証代行を勧誘する投稿も確認されている。
▼警察庁 不正に登録されたインターネットバンキング(IB)から送金される詐欺被害について
  • 事案概要(だましの手口)
    1. 実在する事業者をかたり、未納料金支払い名目で電話
    2. 口座番号・暗証番号(IB利用登録に必要な情報)を伝達
    3. 不正に被害者口座のIB利用登録手続き開始、被害者に本人確認作業を指示
    4. 被害者がワンタイムパスワードを伝達~被害者口座のIB利用登録完
    5. 不正に登録した被害者口座IBから、被疑者側口座へ送金
  • 注意点
    • 電話で口座の暗証番号を聞かれたら詐欺です!口座番号と暗証番号は、絶対に他人に教えてはいけません。
    • 通帳を記帳するなど、身に覚えのない取引がないか定期的に確認をしましょう!
    • 詐欺被害を防ぐには、家族の声掛けが重要です。詐欺の手口を話し合い、家族みんなで注意をしましょう!
    • 少しでも気になる点があれば、家族や警察(最寄りの警察署又は♯9110)に相談を!

今回から警察庁の公表方法が変わり、特殊詐欺・SNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等がまとめられています。また、最近の特殊詐欺の特徴やSNS型投資・ロマンス詐欺の特徴などもまとめられていますので、あわせて紹介します。

▼警察庁 令和7年3月末における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について
  • 最近の特殊詐欺の特徴について(令和7年3月末時点)
    1. 概要
      • 警察官等をかたり捜査(優先調査)名目で現金等をだまし取る手口が目立つ!
      • 令和7年3月末時点の特殊詐欺の被害額(0億円)の6割強(171.7億円)を占める。
      • 令和7年3月中の被害額は4億円と本年1月以降(1月51.8億円、2月54.4億円)継続して増加
      • 警察官を名乗る者がSNSのビデオ通話等でニセの「逮捕状」のほか、存在しない書類の画像を送信する手口を確認
      • 被害者側の電話種別について、携帯電話では20~30歳代の被害が急増。具体的には、携帯電話が約7割を占めており、携帯電話では20~30歳代の被害者が9%、固定電話では60~80歳代の被害者が74.8%を占める。
      • 犯行に利用される電話番号には、警察署を偽装するような末尾「0110」が見られるが、その多くは国際電話番号である。
      • 実在する警察署等の電話番号を偽装して表示させる手口を確認
      • 被害者が詐欺の受け子や出し子など犯罪の道具として使われる手口を確認
    2. 対策
      • 警察官を名乗る者から電話で捜査対象となっていると言われた場合は電話を切って警察相談専用電話(♯9110)に御相談ください。
      • それ以外の場合は、警察官の所属や名前を確認した上、一旦電話を切り、御自身で調べた警察署等の電話番号等に相談してください。
      • 携帯電話は、国際電話の着信規制が可能なアプリの利用をお願いします。
      • 固定電話は、国際電話の発着信を無償で休止できる国際電話不取扱受付センターに申込みをお願いします。申請書類は最寄りの警察署で受領できます。
  • 最近のSNS型投資・ロマンス詐欺の特徴について(令和7年3月末時点)
    1. 概要
      • SNS型投資詐欺の被害額は前月比で大幅に増加!
      • 令和7年3月中のSNS型投資詐欺の被害額は3億円と前月比で23.7億円増加しており、本年2月までの減少傾向から一転して大幅増加
      • 同月中の投資詐欺の認知件数473件中、「当初接触手段」が「ダイレクトメッセージ」のものは250件と前月比で78件増加
      • 「ダイレクトメッセージ」の内容は、「暗号資産への投資名目」が最多
    2. 対策
      • SNSを通じて連絡を取り合っていたとしても、実際に会ったことのない人から暗号資産を求められた場合は、詐欺を疑い、すぐに警察相談専用電話(#9110)に御相談ください。
      • 暗号資産交換事業者を利用する際は、金融庁・財務局に登録された事業者であるかについて、金融庁・財務局のホームページで確認してください。
  • 警察庁等における重点的な広報啓発の実施
    • 警察庁、警視庁、埼玉県警察、千葉県警察、神奈川県警察、愛知県警察、大阪府警察、兵庫県警察及び福岡県警察の関係警察において、令和7年4月25日から同月30日までの間、それぞれの公式SNSに広報チラシを投稿するなど集中的な広報啓発を実施。被害の発生状況等を踏まえ、警察官等をかたり捜査(優先調査)名目で現金等をだまし取る手口をテーマとして設定し、関係警察で足並みをそろえた取組を行うことにより、広報効果の向上を図ることとしている。
▼最近の特殊詐欺の特徴について(令和7年3月末時点)
  • 事例
    • 被害者の携帯電話に警察官を名乗る者から「あなたのクレジットカードがマネー・ローンダリング事件の犯人の自宅から発見された」「銀行口座を提供した容疑をかけられている」等と電話があった。その後、再び警察官を名乗る者から、SNSのビデオ通話で「身の潔白を証明するには口座のお金を調査する必要がある」等と言われた上、警察という印が押された「凍結捜査差押許可状」や「守秘義務命令書」の画像が送られたことから、その話を信じ、指定された口座に現金217万円を振り込んだ。その後も相手から他にキャッシュカードがないか聞かれたため、被害者が父親に相談する等した結果、詐欺であることが判明した。
  • 注意点
    • 警察はSNSで連絡することはありません。
    • 警察手帳や逮捕状の画像を送ることはありません。
    • 「凍結捜査差押許可状」や「守秘義務命令書」などという書類はありません。
    • 詐欺の受け子や出し子として犯罪の道具のように使われてしまう場合があります。
  • だまされないための対策
    • 警察官を名乗る者から連絡があった場合は、警察官の所属や名前を確認した上、一旦電話を切り、御自身で調べた警察署等の電話番号などに相談してください。
    • 携帯電話は、国際電話の着信規制が可能なアプリの利用をお願いします。
    • 固定電話は、国際電話の発着信を無償で休止できる国際電話不取扱受付センターに申込みをお願いします。申請書類は最寄りの警察署で受領できます。
▼最近のSNS型投資・ロマンス詐欺の特徴について(令和7年3月末時点)
  • 事例
    • 被害者は、韓国籍の女性投資家を名乗る者から、SNSのダイレクトメッセージを通じて知り合い、その後、SNSで交信を重ねたところ、「暗号資産の変動率を的中させるとボーナスを受け取れる取引所がある」などと偽の暗号資産取引所のサイトに誘導され、この話を信じた被害者は、暗号資産を購入の上、紹介されたサイトに暗号資産を送信し、合計約1,000万円相当をだまし取られた。
  • 注意点
    • SNSの見知らぬアカウントからダイレクトメッセージが届き、暗号資産への投資などの儲け話を持ちかけられた場合は、詐欺を疑ってください!
  • だまされないための対策
    • SNSを通じて連絡を取り合っていたとしても、会ったことのない人から暗号資産を求められた場合は、詐欺を疑い、すぐに警察相談専用電話(#9110)に相談してください。
    • 暗号資産交換事業者を利用する際は、金融庁・財務局に登録された事業者であるかについて、金融庁・財務局のホームページで確認してください。
▼令和7年3月末における特殊詐欺の認知・検挙状況等について
  • 特殊詐欺の認知件数は6,220件(前年同期比+2,479件、+3%)、被害額は276.0億円(+187.5億円、+211.8%)、検挙件数は1,405件(+51件、+3.8%)、検挙人員は477人(+8人、+1.7%)
  • オレオレ詐欺の認知件数は2,665件(+1,893件、+2%)、被害額は201.2億円(+160.8億円、+397.3%)、検挙件数は476件(+165件、+53.1%)、検挙人員は230人(+63人、+37.7%)、預貯金詐欺の認知件数は485件(+30件、+6.6%)、被害額は4.5億円(+0.4億円、+10.0%)、検挙件数は317件(▲83件、▲20.8%)、検挙人員は63人(▲53人、▲45.7%)、架空料金請求詐欺の認知件数は1,534件(+481件、+45.7%)、被害額は39.5億円(+17.5億円、+79.2%)、検挙人員は53人(+16人、+43.2%)、還付金詐欺の認知件数は923件(▲37件、▲3.9%)、被害額は17.2億円(+2.6億円、+18.0%)、検挙件数は204件(+4件、+2.0%)、検挙人員は45人(+6人、+15.4%)、キャッシュカード詐欺盗の認知件数は288件(▲60件、▲17.2%)、被害額は3.7億円(▲0.6億円、▲13.9%)、検挙件数は260件(▲112件、▲30.1%)、検挙人員は73人(▲24人、▲24.7%)、その他(「融資保証金詐欺」、「金融商品詐欺」、「ギャンブル詐欺」、「交際あっせん詐欺」、「その他の特殊詐欺」の合計)の認知件数は325件(+172件、+112.4%)、被害額は9.9億円(+6.8億円、+220.2%)、検挙件数は30件(+25件、+500.0%)、検挙人員は13人(±0)
  • 高齢者(65歳以上)の被害状況について、高齢被害者の割合は特殊詐欺全体では9%、男性19.8%:女性35.2%、オレオレ詐欺は46.4%、男性14.0%:女性32.4%、預貯金詐欺は99.4%、男性14.6%:女性84.7%、架空料金請求詐欺は37.4%、男性24.1%:女性13.3%、還付金詐欺は83.6%、男性34.2%:女性49.5%、キャッシュカード詐欺盗は98.3%、男性20.5%:女性77.8%、その他の20.3%、男性12.5%:女性7.8%
▼令和7年3月末におけるSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について
  • SNS型投資・ロマンス詐欺合計の認知件数は2,297件(▲6件)、被害額は0億円(▲31.8億円)、検挙件数は85件(+76件)、検挙人員は44人(+38人)、うちSNS型投資詐欺の認知件数は1,165件(▲535件)、被害額は130.1億円(▲89.2 億円)、検挙件数は46件(+42件)、検挙人員は21人(+17人)、SNS型ロマンス詐欺の認知件数は1,132件(+529件)、被害額は117.9億円(+57.3億円)、検挙件数は39件(+34件)、検挙人員は23人(+21人)
  • SNS型投資詐欺の当初接触ツールは4%、LINE15.4%、Facebook14.5%、X(Twitter)11.2%、投資のサイト
  • 2%、TikTok8.0%、マッチングアプリ5.6%、その他16.7%、被害時の連絡ツールはLINE88.1%、その他SNS8.5%、その他4.6%、被害金の主たる交付形態は振込69.4%、暗号資産27.8%、その他2.8%、当初接触手段はダイレクトメッセージ53.5%、バナー等広告27.6%、投稿7.9%、グループ招待6.0%、その他5.0%
  • SNS型ロマンス詐欺の当初接触ツールはマッチングアプリ2%、Instagram24.4%、Facebook18.5%、その他SNS12.4%、TikTok7.7%、その他3.9%、被害時の連絡ツールはLINE91.8%、その他SNS5.7%、当初接触手段はダイレクトメッセージ91.9%
  • SNS型投資・ロマンス詐欺のインターネットバンキング(IB)の利用率について、認知件数総数1,503件、うち5%、IB以外42.5%、被害額総額163.9億円、うちIB64.7%、IB以外30.3%

静岡県内で発生した特殊詐欺事件を巡り静岡県警は、関係先として静岡市の六代目山口組傘下組織の小西一家本部事務所の強制捜査に踏み切りました。トクリュウと暴力団が関係している可能性があるとみて捜査を進めています。報道によれば、小西一家は県内で発生した特殊詐欺事件について関与が疑われており、警察がこの事件について捜査を進めたところ、背後にトクリュウと暴力団が関わっている可能性が浮上したものです。静岡県警は2025年度から「匿名・流動型犯罪グループ対策室」を立ち上げ、トクリュウの中心メンバーの摘発に向け取り締まりを強化しており、今回はこのチームが主導し捜査を進めているものとみられます。また、埼玉県警は、ベトナム国籍の男女3人を詐欺容疑で逮捕しています。2024年10月、山形市の60代女性に警察官や検察官を名乗って「あなたの個人情報が暴力団の資金洗浄に使われている」「持っているお金を全て調べましょう」などと電話をかけ、現金340万円をだまし取ったとしています。報道によれば、3人はトクリュウで、詐取金を集約する「現金回収役」、被害者宅で現金を取る「受け子」、「運転手」などの役割を担ったとみられています。なお、このグループは7人が詐欺などの容疑で逮捕されており、合計6775万円の被害が確認されているといいます。

特殊詐欺、SNS型投資詐欺・ロマンス詐欺を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。金額の大きな事例を中心に取り上げています。

  • 佐賀県内在住の60代女性から1億4100万円をだまし取ったとして、佐賀県警はアルバイト従業員を詐欺の疑いで逮捕しています。女性はニセ電話詐欺で計約5億3540万円をだまし取られており、被害としては県内最高額といいます。報道によれば、容疑者は何者かと共謀して、警察官などを装って女性に電話をかけ、「お金を資金拘束します」などとうそを言い、現金1億4100万円をだまし取った疑いがもたれています。女性の携帯電話には2025年2月以降、長野県警の警察官や検事を名乗る男らから相次いで「逮捕状が出ている。拘束するかは検事が決める」「行動を監視している。ネットや人と接触しないように」などと連絡があり、同17日には「身柄拘束から資金拘束にかえる。警察職員が自宅に向かう」と言われたため、女性は同3月27日までに計6回、自宅に来た男に現金計約5億3540万円を手渡したといいます。親族に相談して詐欺だと気づき、4月3日に警察に被害を届け出たものです。
  • 石川県警白山署は、金沢市の50代男性がSNS型投資詐欺で、現金約1億4800万円をだまし取られたと発表しています。男性は2025年2月上旬頃、SNS上の広告を通じて、実業家や資産運用会社の役員を名乗る者らのグループチャットに参加、「指示に従って操作をすれば、投資の利益が得られる」などと勧められ、同3月1日~4月3日に計20回にわたってインターネットバンキングで送金したものです。
  • 熊本県警熊本南署は、熊本市内の80代女性が警察官や金融庁職員を名乗る人物らに約9900万円をだまし取られたと発表しています。同市内では別の高齢者も約4700万円をだまし取られる被害にあっており、同署が詐欺事件として捜査しています。2025年2月下旬~3月下旬、警視庁の警察官を名乗る人物らから「あなたの口座がマネロンに使われている。逮捕されないために保証金が必要」と電話で言われるなどし、約20回にわたり指定された口座に計約9900万円を振り込んだものです。また、同市内の70代女性も同3月上旬~4月上旬、総合通信基盤局職員を名乗る人物らから報奨金の調査名目で約4700万円をだまし取られました。
  • 島根県警松江署は、松江市の60代男性が、警察官をかたる男らから電話で指示を受け、約8000万円をだまし取られたと発表しています。男らは複数の電話番号を使用したとみられ、うち一つは着信画面に実在の警察本部の番号が表示されていたといいます。男性は2024年12月20日、警察官や検事を名乗る男らから電話を受け「財産が犯罪収益でないかを調査する」などといわれ、その後、男らの指示に従い、2024年12月から2025年1月まで18回にわたって複数の口座に計8219万円を振り込んだといいます。
  • 金沢市の70代女性は、2025年3月から4月にかけて警察官などを名乗る男の電話にだまされ指示された暗号資産の口座に約5200万円を送金してしまったということです。銀行の担当者から詐欺の被害にあっていないかと女性に連絡があり、だまされたことに気づいたものです。
  • 警視庁渋谷署は、東京都渋谷区内の60代女性が、大手通信事業者や警察官をかたる人物から電話を受け、約2800万円をだまし取られる特殊詐欺被害があったと発表しています。女性のもとには2025年1月上旬から3月下旬にかけ、「渋谷警察署の捜査2課のサイトウ」(渋谷署にそのような部署はなし)や、大手通信事業者の「コイケ」を名乗る人物から、「動画サイトの未納料金が発生している」「あなたの名前を使って詐欺をしている集団がいる。訴えられて裁判になるので費用を支払う必要がある」などと電話があり、女性は58回に渡り、現金計約2887万円を指定された銀行口座に入金したということです。
  • 岩手県警は、「警察官を名乗る不審者が同県大船渡市の住宅を訪れ、個人情報を聞き出す事案があった」として住民に注意喚起のメールを配信しましたが、訪問者が本物の警察官であることが判明したとして、訂正しています。メールは、事前登録した住民らに一斉配信する仕組みで、「警察官を名乗る男が、近くで事故があり犯人を捜していると言って家族構成を聞き出す事案が発生」と記述、「男の特徴は年齢30代で、警察官の制服に似た服装」などと強調、しかしその後、県警本部の警察官が大船渡署管内で交通取り締まりに関する聞き込み捜査をしていたことが判明、後刻「ご心配をおかけしました」と訂正メールを送信したといいます。
  • 「割のいいバイトありますよ」という甘言に誘われて2人の男性が「闇バイト」に応募、福岡県警は1人を逮捕する一方、もう1人は手厚く保護する結果となりました。した。保護された者は、「闇バイトだ」と思ったが、遊ぶ金がほしく、応じる意向を伝えたところ、言われるがままに自宅の外観や身分証を写真で送ってしまい、2024年12月中旬に特殊詐欺に加担する方向で調整が進んだものの、会社員は「これは逃げられない。もし断ったら家まで押しかけてくるかもしれないと恐怖に襲われた」と2024年12月中旬に県警に相談、県警が会社員を保護したものです。2人の明暗は、自己の利益のために突き進んだものと、寸前で思いとどまったもので大きく分かれてしまったことになります。福岡県警は「『高収入』『即日即金』などのワードを使った求人情報は闇バイトの可能性がある。少しでも違和感をもったり不安を感じたりしたら加担する前に警察に相談してほしい。確実に保護するので勇気をもって言ってほしい」と注意を呼びかけています。
  • 愛知県で発生した孫を装う特殊詐欺事件で、実行役を集める「リクルーター」を警視庁が摘発しています。端緒は、「受け子」役の高校生の不審な行動に気づいた母親の機転と、スマホのアプリだったといいます。「書類を運ぶだけで3万円」東京都内に住むこの母親は、高校生の長男からこんなアルバイトがあるという話を聞き、当初、これを重く受け止めなかったものの、その後長男は自身のスマホに、秘匿性の高い通信アプリ「シグナル」をダウンロード、さらに、2024年12月下旬に無断で外泊し、母親が行き先を調べると愛知県に行ったことが判明しました。こうした動きを察知できたのは、スマホの利用時間や課金などを制限する「ペアレンタルコントロール(保護者による制限機能)」を使用、アプリの使用状況や位置情報を母親と共有していたからでした。母親は断片的な情報から、実行役を集めるために高報酬で若者を誘う闇バイトの手口をニュースで見たのを思い出し、「長男が闇バイトをしているかもしれない」と警視庁小平署に相談、この情報を基にした警視庁少年事件課の捜査で、母親の長男を含む15~16歳の男子高校生ら3人が受け子役をした疑いが浮上、警視庁は、受け子役のリクルーターとみられる東京都東村山市のアルバイト男性(18)を、詐欺容疑で逮捕しています。長男ら受け子役の3人は、同容疑でいずれも書類送検されましたが、母親は警視庁に相談した理由を「これ以上、闇バイトをさせたくなかった」と話したといいます。

本コラムでは、特殊詐欺被害を防止したコンビニや金融機関などの事例や取組みを積極的に紹介しています(最近では、これまで以上にそのような事例の報道が目立つようになってきました。また、被害防止に協力した主体もタクシー会社やその場に居合わせた一般人など多様となっており、被害防止に向けて社会全体・地域全体の意識の底上げが図られつつあることを感じます)。必ずしもすべての事例に共通するわけではありませんが、特殊詐欺被害を未然に防止するために事業者や従業員にできることとしては、(1)事業者による組織的な教育の実施、(2)「怪しい」「おかしい」「違和感がある」といった個人のリスクセンスの底上げ・発揮、(3)店長と店員(上司と部下)の良好なコミュニケーション、(4)警察との密な連携、そして何より(5)「被害を防ぐ」という強い使命感に基づく「お節介」なまでの「声をかける」勇気を持つことなどがポイントとなると考えます。また、最近では、一般人が詐欺被害を防止した事例が多数報道されています。特殊詐欺の被害防止は、何も特定の方々だけが取り組めばよいというものではありませんし、実際の事例をみても、さまざまな場面でリスクセンスが発揮され、ちょっとした「お節介」によって被害の防止につながっていることが分かります。このことは警察等の地道な取り組みが、社会的に浸透してきているうえ、他の年代の人たちも自分たちの社会の問題として強く意識するようになりつつあるという証左でもあり、そのことが被害防止という成果につながっているものと思われ、大変素晴らしいことだと感じます。以下、直近の事例を取り上げます。

  • 国際ロマンス詐欺被害にあう寸前だった愛知県の女性を、男子中学生が救った事例がありました。男子中学生は立ち去ろうとしたが、落ち着かない様子の女性が気になり、「どうかしましたか?」と尋ねると、女性はスマホの画面を見せ、女性は「俳優」を名乗る男性から数万円分のアマゾンギフトカードを購入するよう頼まれ、買える場所を探しているところだったといいます。聞けば、その男性とは面識はないといい、「それは詐欺かもしれない。一緒に警察に行きましょう」と伝えるも女性はためらっていましたが、「知らない人からのお願いで高額のギフトカードを購入することは絶対に危ないですよ」と10分ほど説得、根負けした女性は忠告に従い、被害を防ぐことできたというものです。感謝状を贈呈した署長は「知らない人に声をかけることは大人でも簡単にできない。だまされている人を説得し、被害を未然に防ぐことは素晴らしい行動だった」とたたえています。
  • 出会い系アプリで知り合った女性に10万円を振り込もうとした60代の男性をロマンス詐欺の被害から救ったとして、群馬県警富岡署は、しののめ信用金庫下仁田支店の神宮係長に感謝状を贈呈しています。顧客と顔を合わせての丁寧なやりとりを踏まえて「怪しさは98%」と判断、県警への通報につなげたといいます。振り込みの目的について、男性は「外貨への両替」と語り、支店では取り扱いの少ない案件のため違和感を覚えた神宮係長は、質問を重ね、男性は「昨日からSNSでやりとりしている女性に、10万円を振り込む」というため、許可を得てメッセージを見せてもらうと「こんにちは」から始まり、「公式」と題された文章やドル円の相場、送金方法の選択肢が示されていたことから、「詐欺か、本当か。振り込めば利益を得られるのかもしれないが、振り込んでしまったら戻ってこない」その上で、男性の置かれた状況を検討し「怪しさは98%」と判断、支店内に案内し、さらに丁寧に話を聞き、被害を防止できたということです。
  • 来店客への積極的な声がけで詐欺被害を何度も防いだとして、松江市内のファミリーマート松江学園南店の店長で、お笑いコンビ「かまいたち」の山内健司さんの弟の剛さんが、警察庁の「特別防犯対策監」で俳優の杉良太郎さんから表彰状を贈られています。島根県警によると、対策監が個人を表彰するのは初めてといいます。剛さんは、2025年3月にSNS型ロマンス詐欺の被害を防止したとして、この日、松江署から10回目の署長感謝状も受け取ったといいます。
  • 特殊詐欺被害を未然に防いだとして福岡・南署は、福岡市中央区のコンビニ店員、熊沢さんに感謝状を贈っています。被害防止は5回目で、感謝状は2018、20年に続いて3回目だといいます。熊沢さんは「声かけと説得方法が大事」とこつを語っています。電子マネー2000円分を買おうする高齢男性を発見、目的を聞くと、男性が「当選金6億円を引き出すための手数料を送る」と答えたため、不審に思って警察を呼んで被害を防いだものです。声を掛けたのは、電子マネーの購入にまごつく様子を見たためで、「自分で使うために買う人は慣れている。しかし、戸惑った様子があれば被害を疑って必ず声を掛ける」といいます。
  • コンビニ店員の鋭い勘が、特殊詐欺の「出し子」の疑いがある男の逮捕につながりました。神奈川県警加賀町署は、ローソン横浜本町四丁目店に勤務する林さんと、店長の飯森さんに感謝状を贈っています。店内での男の様子に林さんが抱いた違和感が逮捕の決め手になったといいます。店内のATMを操作していた男性が、やけに長く、何度も暗証番号を間違えている様子で、レジ付近にいた林さんと頻繁に目が合い、「こちらの様子をやたら気にしているようだ」と感じた林さんは、清掃を装って男に接近、男は、洋服のポケットからカードを出し入れするなどしていたため、犯罪に関与している可能性が高いと感じた林さんは、同僚と情報共有し110番通報、男は窃盗容疑で逮捕されました。他人名義のキャッシュカード二十数枚を所持していたといいます。
  • 群馬県警前橋東署は、特殊詐欺被害を防いだとして、ローソン前橋朝倉町四丁目店の男性店長に感謝状を贈っています。6万円分の電子マネーカードを購入しようとした70代男性に用途を尋ねたところ、男性の返事が曖昧だったことから、男性のパソコンが使えなくなったことも確認、パソコン画面にウイルス感染を知らせる警告が突然表示され、動揺した高齢者が被害にあうケースが全国で相次いでいることから「詐欺だ」と直感し、最寄りの交番に届け出たといいます。男性店長は過去にも特殊詐欺被害を防いだ実績があったといいます。
  • 特殊詐欺被害を未然に防いだとして、大阪府警西成署は、大阪市西成区にある「ファミリーマート南開店」の店長と同店アルバイト(17)に感謝状を贈っています。2人はにコンビニを訪れた西成区内に住む70代女性が電子マネーの購入の方法と使い方を尋ねてきた際、不審に思い110番通報したもので、駆け付けた署員が女性に経緯を確認すると、「1万円分の電子マネーを購入すれば、9000万円を受け取れる」という趣旨のメールを複数回受け取っており、指示通りに電子マネーを購入しようとしていたことが判明、被害を未然に防いだものです。感謝状を受け取った店長は、過去にも詐欺被害を防いだ経験があり「今後もだまされている人がいれば助けたい」と話しています。
  • 広島県警が、特殊詐欺の被害を繰り返し防いだコンビニ店を「優秀店」として表彰する制度を設けており、この4年間で87店が優秀店として認められているといいます。被害防止で重要なのは「警察を『悪者』にすること」だといいます。警官がコンビニ店などを巡回し、「1万円以上の電子マネーを購入する高齢者には声をかけて」などと従業員に要請、声かけのハードルは高く、買い物客に「余計なお世話だ」などと怒られるのを恐れて、ためらう従業員もいるところ、「警察を『悪者』にしてください」とアドバイスしているといいます。県警は「お客さんに何か言われたら、『警察に言われている』と我々のせいにしてもらえれば。声かけのハードルを下げるのが大事なんです」と話しています。
  • 千葉銀行、京葉銀行、千葉興業銀行の千葉県内地銀3行と千葉県警は、詐欺への対応強化を柱とする連携協定を締結しています。不審な口座利用についての情報共有などを図り、被害抑止や取り締まりの強化につなげる狙いがあります。近年はインターネットバンキングを使って送金させる詐欺の手口が増えており、ATMに比べて被害が高額になる傾向があり、協定では、高額な引き落としがあるなど不審な口座の情報を共有、千葉県警からは、最新の詐欺の手口などの情報を銀行側に提供するというものです。千葉銀行は「近年は非対面の取引が多くなり、銀行員が直接抑止しづらくなっている。県警と金融機関が連携して対策を打つことを県民や銀行の利用者に広く知ってもらい、注意喚起につなげ、被害を減らしたい」と話しています。

(3)薬物を巡る動向

2025年5月9日付産経新聞によれば、「笑気麻酔」との名称で、SNS上で売られている新たな危険ドラッグが、沖縄県内で流通し、若者を中心に使用が広がっているとのことです。国内では未承認の医薬品成分「エトミデート」を含んでおり、厚生労働省や県などが注意喚起しています。意識混濁や手足の機能不全、意識不明になるなどの恐れがあるといい、海外では「ゾンビ・タバコ」と呼ばれて社会問題化する国もあるところ、日本国内では、使用に対する法的な規制はなく、所持や使用は取り締まることができないのが現状で、日本での蔓延が懸念されます。沖縄県薬務生活衛生課によると、エトミデートを使用することによって、意識混濁、手足のしびれ、手足の機能不全(動かなくなるなど)、酒に泥酔しているような状態になるといった症状が現れ、激しい眠気に襲われ、意識を失うこともあるといいます。沖縄県では2025年に入り、エトミデートを含む危険ドラッグを使用して体調不良を訴えたとみられる救急搬送の事例が相次いでおり、搬送者の多くは10~20代だといいます。Xなどを通して入手したとみられますが、実店舗での販売は確認されていないということです。

その他、薬物を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 佐賀県警小城署は、覚せい剤取締法違反(営利目的所持)と麻薬取締法違反(大麻所持)の疑いで、暴力団組員を逮捕しています。伊万里市内で、営利目的で覚せい剤約404グラムと、大麻を含有する植物片約0.693グラムを所持した疑いがもたれています。事件捜査の一環で伊万里市内で男の車を発見し、中から覚せい剤と植物片が見つかったものです。
  • 麻薬(THC)施用やコカイン所持の疑いで暴力団組員の男ら4人が逮捕されています。THC施用での逮捕は、2024年12月の麻薬取締法の改正後、静岡県内では初めてです。麻薬及び向精神薬取締法違反の疑いで逮捕されたのは、稲川会傘下組織員ら4人です。4人は、静岡県西部地区の20代男性から20万円を脅し取った疑いで逮捕されており、その取り調べの中で、採尿の鑑定結果から、組員の男と自称建設業の男、建築業の男がTHCを施用している疑いがあることがわかりました。また、解体業の男は自宅の捜査でコカインを若干量、所持していた疑いがあるとわかったため、逮捕に至ったものです。警察は、麻薬の入手経路を調べるとともに、暴力団が関与していないか、詳しく調べる方針です。2024年12月12日に「改正麻薬取締法」が施行され、THCについて残留限度値が設けられ、この値を超える量のTHCを含有する製品等は「麻薬」に該当し、使用についても罪に問われることになりました
  • 不正に大麻を使用したとして、兵庫県警神戸西署は、麻薬取締法違反(使用)の疑いで、会社員を逮捕、送検しています。改正麻薬取締法施行後、兵庫県内での摘発は初めてといいます。神戸市西区の商業施設の駐車場を巡回中の警察官が、容疑者を職務質問したところ、バッグから植物片入りのポリ袋を発見、植物片を鑑定した結果、大麻と判明し、同容疑者の尿からも大麻成分が検出されたため、同法違反(使用)の疑いで逮捕したものです。なお、容疑者は、職務質問の際に警察官を突き飛ばしたとする公務執行妨害の疑いなどでも逮捕されています。
  • 自宅で大麻を含む植物片を所持したとして、警視庁本富士署は麻薬取締法違反(営利目的所持)の疑いで、東京都港区の会社員を逮捕しています。自称格闘家の秋山容疑者は「大麻を持っていたことは間違いないが、営利目的ではない」と容疑を一部否認しています。東京・六本木の自宅マンションで、営利目的で大麻を含む乾燥植物片約67グラムを所持し疑いがもたれています。警視庁のインターネット捜査で秋山容疑者が2024年2月ごろに大麻の種子を購入した形跡があることが分かり、家宅捜索していたものです。秋山容疑者は自宅でテントを張り、LEDライトを当てて大麻を栽培していたとみられ、同署はほかに、大麻とみられる植物片400グラムも押収しており、鑑定を進めるとともに詳しい経緯を調べるとしています。
  • 関東信越厚生局麻薬取締部(麻取)は、「bay4k」の名前で活動するラッパーで、韓国籍の小売業韓被告を麻薬取締法違反(営利目的所持)の疑いで現行犯逮捕しています。韓被告は、町田市の自宅で乾燥大麻約2キロ・グラム(末端価格約600万円)を営利目的で所持したとして逮捕され、その後、起訴されました。麻取は、韓被告の自宅から吸煙用とみられる巻紙などを押収しています。韓被告は神奈川県内で、大麻に含まれる合法成分「CBD(カンナビジオール)」の関連商品を扱う店舗を経営しているといいます。
  • 岩手県警奥州署は、大麻や液状の麻薬をフィリピンから密輸したとして、麻薬取締法違反(輸入)の疑いで、フィリピン国籍の技能実習生を逮捕しています。共同で調査した函館税関大船渡税関支署も、関税法違反容疑で盛岡地検に告発しています。東京税関の職員が、国際郵便物の検査で大麻約4グラムと液状の麻薬約0.23グラムを発見したものです。
  • 福岡地検は、麻薬ケタミン約5キロを福岡空港で密輸したとして、麻薬取締法違反(営利目的輸入)の疑いで逮捕されたフランス国籍の男性を不起訴処分としています。男性は、フランスから台湾経由で福岡空港に到着し、ケタミンをスーツケースに隠し、輸入した疑いで福岡県警に逮捕されていました。
  • 覚せい剤取締法違反に問われた70代の男性の判決で、静岡地裁が、県警による採尿過程の捜査を違法と判断し、無罪を言い渡しています。男性は2023年2月、焼津市内で焼津署の警察官から職務質問を受けた際、警察官が裁判所に請求した令状に基づき尿を差し押さえられましたが、裁判官は、警察官が令状を請求するための報告書に、男性がかたくなに注射痕の確認を拒否していると、事実と異なる内容を記載していたと認定、令状執行のために男性を約4時間留め置いたことも「任意捜査として許容される範囲を逸脱した違法なもの」と指摘し、「一連の捜査手続きには重大な違法がある」と断じています。
  • 大麻を所持したとして大麻取締法違反の罪に問われた男性被告の判決公判が京都地裁であり、裁判官は「(男性被告と一緒に部屋を使っていた)男のみが大麻を所持していた可能性を排斥することができない」として、無罪(求刑懲役1年)を言い渡しています。男性被告は2024年8月、兵庫県西宮市の部屋で大麻草約25グラムを所持したとして起訴されていますが、部屋は男性被告と知人の男が使っており、検察側は、大麻の入った袋の付着物から検出されたDNA型が男性被告のものと矛盾しないと主張、弁護側は、大麻は男の物で、男性被告は所持していないと無罪を主張していました。判決は「付着物が被告人に由来している可能性を的確に判断することは困難」と指摘し、「大麻が被告人の所持に係るものであると断言できない」としています。
  • 中国湖北省にある火鍋レストランが料理に麻薬であるアヘンを混ぜていたとして、当局に摘発されています。店主は「風味と鮮度を高めて、多くの客を引き付けたかった」と供述、自宅でケシの実を砕いて店舗に持ち込み、中毒性を高めるための「隠し味」にしていたと見られています。衛生管理部門と警察が飲食店の食品安全調査を実施したところ、火鍋レストランの廃棄物からアヘンの化合物であるモルヒネの反応が出たことから、当局は店内の立ち入り検査を行い、怪しげな調味料の粉末を発見したといいます。地元司法当局は店主を有毒有害食品製造販売の罪で、懲役6ケ月(執行猶予1年)と営業収入の10倍の罰金を科すとともに、食品関連業界から永久に追放する命令を下しています。

山口県は、田布施町の田布施地域交流館で、あへん法で栽培が禁止されているケシ(アツミゲシ)の寄せ植えなどが誤って販売されていたと発表しています。同館で2024年4月にプラスチックポットに植えられた2株、2025年4月以降には寄せ植え1鉢と切り花6束が販売されており、出荷者が庭や畑に自生しているものをアツミゲシと気付かずに同館に出荷したということです。また、福岡市東区の「国営海の中道海浜公園」のネモフィラ畑に栽培が禁止されているケシが生えているのが見つかっています。アツミゲシとみられ、見ごろを迎えているネモフィラに紛れて10本ほど生えていたもので、園は保健所と協議し、2025年4月に根から抜いて焼却処分しています。来園者から情報提供があり、職員が確認したもので、生えていた原因について園は「ネモフィラの種や肥料にケシの種が混入していた可能性がある」としています。大麻やあへん系麻薬の原料となるケシは免許を持つ人以外の栽培が禁止されています。厚生労働省は自生する大麻やケシの除去を進めており、2024年度は全国で計約404万本が除去されています。5月1日~6月30日は「不正大麻・けし撲滅運動」の期間となっており、厚生労働省は発見した場合は各地方厚生局麻薬取締部や保健所などに通報するよう呼び掛けています。

2007年版犯罪白書で、「全犯罪者の30%に過ぎない再犯者によって、わが国の犯罪の60%が行われている」と戦後の犯罪状況を指摘して以降、刑事政策の焦点となってきた再犯の問題ですが、全国の弁護士会でも刑事弁護活動の枠を超え、元受刑者らの社会復帰を支えようとする動きが広がり始めています。2025年5月2日付産経新聞によれば、「よりそい弁護士制度」で、各地の弁護士たちが薬物依存症や障害がある元受刑者らのために奔走しているといいます。取り組みの背景には、「再犯者率」の高止まりへの危機感があり、犯罪白書によれば、近年刑法犯の摘発人数は全体として減少傾向にあるものの再犯者の割合は上昇、再犯者率は2022年のピーク時に49.1%を記録し、2023年も47%に上っています。仕事や住居がないこと、社会からの孤立が再犯リスクを高めると指摘されており、よりそい制度への期待は大きいといえます。報道で関係する弁護士が、「薬物事件や万引など、たとえ有罪判決を受けて服役しても、出所後に同じような犯罪を繰り返す人を何人も見てきた。こうした人たちが生き方を大きく変えるのは難しいと経験上分かるがゆえに「刑事裁判や刑罰に意味があるのか」と考えこんでしまうこともある」と述べているのが大変印象的で、再犯防止の取り組みが一筋縄ではいかない難しさがあることをあらためて痛感させられます。

薬物依存者の社会復帰をサポートするリハビリテーション施設「ダルク」の創設から2025年7月で40年を迎えるといいます。各地に設けられた拠点で支援を受ける人々は、自分の弱さと向き合いながら、段階的なステップを踏んで回復を目指していますが、周囲との関係構築がうまくできずに薬物に手を付けてしまう人も多く、社会全体で立ち直りを支える環境づくりが課題となります。また、ダルクは刑期を終えた人の受け皿としての役割も果たしています。一方、薬物依存は「孤立の病」ともいわれ、「回復には刑務所や支援施設、医療機関など継ぎ目のない支援の枠組みが重要」で、複数の「居場所」で依存者を包み込むようにサポートするのが大切だといいます。また、薬物依存に陥る人には発達障害などを抱えるケースも多く、薬を断つだけでは解決が難しい場合もあるといいます。「オーバードーズ」と呼ばれる市販薬の過剰摂取も若い世代を中心に問題となっていますが、背後には対人関係で悩みを抱える人が多く、困ったときに誰に相談したらいいのかを伝えることが重要となります。なお、国立精神・神経医療研究センターが2016年から2018年にかけて行った追跡調査では、ダルク利用者の断薬率は調査から半年で88%、2年で63%と、過去の研究と比較しても、断薬率は高い水準だといいます。

海外における薬物を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 米財務省外国資産管理局(OFAC)は、メキシコの麻薬カルテル「ラ・ヌエバ・ファミリア・ミチョアカーナ」のリーダーを含む4人に制裁を科しています。同時に、米国務省はリーダーらの逮捕につながる情報に対し、最大800万ドルの報奨金を出すことを発表しています。同局の声明によると、制裁の対象となった4人は全員兄弟で、米国が「外国テロ組織」に指定する麻薬カルテルに関係するとしています。米政府は、同カルテルが合成麻薬フェンタニルや、メタンフェタミン、ヘロイン、コカインなどの違法薬物を米国に密輸し、収益を洗浄していると述べていますが、同カルテルは恐喝、誘拐、殺人にも関与しているといいます。
  • コロンビア当局は、国内最大の麻薬密売組織の構成員217人を逮捕しています。当局は麻薬8トン、銃器123丁、弾薬1万5000発以上を押収、押収時に密売容疑者15人を射殺しています。治安部隊員24人を殺害した疑いが持たれており、ペトロ大統領は、治安部隊員を「組織的に殺害」する戦略を立てていたと非難しています。
  • ラオス北部ボケオ県で戦闘が発生し、少なくとも3人のラオス国軍兵が死亡しています。タイメディアは武装した麻薬密売組織が関与した可能性を指摘、戦闘の流れ弾は国境を越えてタイ北部チェンライ県に飛来しており、タイ国軍が警戒を強化しています。ボケオ県では2025年4月に覚せい剤メタンフェタミンの錠剤を当局が大量に押収しており、密売組織との緊張が高まっていました。ボケオ県はタイ、ミャンマーと国境を接する「ゴールデン・トライアングル(黄金の三角地帯)」の一部を構成しています。
  • 米中の貿易戦争が激しさを増す中で、両国間では合成麻薬フェンタニルの密輸取り締まり問題を巡る協議が続いていますが、米国側が中国の交渉姿勢を「不誠実」と非難するなど、先行きが見通せない状況にあります。トランプ大統領は、麻薬組織がフェンタニルの原料となる化学物質を入手するのを中国政府が防いでいないと主張し、これを理由にした中国製品への追加関税を発動、米政府は、麻薬組織がフェンタニルなどを製造するために使う化学物質の大半は中国の化学メーカーや輸出業者が提供し、それによって米国内で45万人近くが過剰摂取で苦しんでいると主張しています。これに対し中国側は、厳しい麻薬規制や密輸取り締まりを続けてきており、米国は自国の問題として中毒患者に対処しなければならないと反論しています。

(4)テロリスクを巡る動向

政府は、2万人を対象にした2024年の孤独・孤立の実態調査の結果を公表しました。孤独感が「しばしば・常にある」「時々ある」「たまにある」と答えた人の合計は4割ほどとなり、新型コロナウイルス感染拡大で自殺や経済的困窮がみられた2022年や2023年の水準から大きく変わらなかったといいます。孤独感の有無を尋ねたところ「しばしば・常に」が4.3%、「時々」が15.4%、「たまに」が19.6%で、「決してない」は18.4%となりました。男女別でみると男性の4.4%、女性の4.2%が「しばしば・常にある」と答えています。調査では新たにスマホの利用状況と孤独感の関係性も調べ、スマホの利用時間別でみると、8時間以上利用している人の13.3%が、孤独感について「しばしば・常にある」と回答し、全体平均より高い結果となりました。孤独・孤立はテロや無差別殺人等の背景要因ともなり、「社会的包摂」の観点から、孤独・孤立対策を行うことの重要性をあらためて認識する必要があります。

警視庁は2025年4月、公安部に「公安3課」を発足させました。捜査の対象はローンオフェンダー(LO)と呼ばれる単独テロ犯です。新組織発足のきっかけは、2022年に安倍晋三元首相が銃撃されて落命し、2023年に岸田文雄前首相が手製爆弾で襲撃された事件など、単独テロ犯罪の頻発です。本コラムでもだびたび取り上げてきましたが、LO犯罪の特徴は前兆把握が難しいことが挙げられます。人との関わりが希薄な単独犯については、団体や集会監視による見当たり捜査や、協力者の獲得などによるヒューミント(人的諜報)といった従来の公安的手法による経験値が決め手となり難く、た元、前首相襲撃事件にみられるように、LOの多くは逃亡を企図せず、多くの場合、犯行後の逮捕は現行犯となり、新組織の出番は限られることから、単独テロを未然に摘発するか、確実な情報を上げて警備強化に結び付けるなどの事例を重ねて、初めて存在を認められるといった難しさもあるといえます。ネット空間における悪意の抽出や、銃器や爆発物製造に関わる売買歴の監視などではAIの適正、積極的な活用など、新たな捜査手法も確立することが求められています。LO捜査の確立は将来的に、闇バイト犯罪やネット利用の特殊詐欺捜査などへの応用も期待できます。犯罪は時代の変遷を媒介に変容しており、捜査機関にも変化が求められています。

前述のとおり、2023年4月、衆院補選期間中に発生した岸田前首相襲撃事件から2年が経過しました。現職の首相を狙った犯行は、前年の安倍元首相銃撃事件を受けて要人警護が見直される中で起きました。警察はこの2つの事件で明確な脅威と位置付けられたLOへの対策を進めてきましたが、夏の参院選を控え、現場対応の難しさも浮かんでいます。インターネットが発達した現代では、社会に不満を抱く個人がさまざまな言説に触発され、容易に凶器や危険物を得て犯罪行為に及ぶことになります。こうしたLOのリスクは、2024年10月、衆院選期間中に男が首相官邸などを襲撃した事件でも表出しました。警察は各都道府県警の警備部門などにLO対策の「司令塔」を配置、「現実」と「インターネット」の両空間で、テロの前兆情報を収集・分析し、未然防止を図ろうとしています。ただ、LOのリスクは、「想定外」の場所で示された事案もあり、東京・霞が関で2025年3月、政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏が男に刃物で襲われました。立花氏は警護対象ではありませんでしたが、千葉県知事選に立候補し、街頭活動中で、SNSの告知などを見て訪れたとみられる男は襲撃時、「閃光手榴弾」を使用、現場にいた警察官らは、ブザー音を発するこの不審物に警戒し、観衆の安全確保に当たりました。岸田前首相の事件を念頭に置いた反応とみられますが、突発対応の難しさが改めて浮かび上がる形となりました。報道でテロ対策に詳しい板橋功・公共政策調査会研究センター長は「民主主義の根幹である選挙の安全を確保することは、警察の責務」とした上で、「警察が恣意的に有権者を遠ざければ政治への介入になる。個別の選挙活動については、政党側が安全対策を取るのが原則だ」と指摘、警護対象以外では、「襲撃の蓋然性が高い場合にのみ、政党の安全対策を警察がサポートするといった対応が現実的だ」としています。

観光のため来日したアメリカ国籍の70代の男性が、拳銃を所持したとして警察に逮捕されましたが、誤って銃弾とともに持ち込んでしまったといい、男性はその後に不起訴になっています。出国時と入国時に2カ所の空港で、危険物を持っていないか検査を受けているはずなのに拳銃が国内に持ち込まれることになった背景からは、完全に防ぐことができない現実とテロの脅威が間近に迫っていることを感じさせます。国土交通省によると、国連が定めた国際民間航空条約を批准した国では、ハイジャックやテロを防止するために出国時の保安検査を実施、日本もこの条約を批准しています。検査を実施する主体は国によって異なりますが、日本では航空会社かその委託を受けた警備会社が担当しており、爆発・発火の恐れがあるものや凶器になる可能性のあるものが荷物に含まれていないか、X線検査などで調べています。アメリカの空港では航空会社のカウンターで荷物を預ける際、機内への持ち込みが禁止されるものが説明されますが、報道によれば、「日本のように銃が禁止されている国に向かうなら、注意があったはずだ。でも、彼は荷物に銃が入っていることに気づいていなかったので、申告をしていなかったかもしれない」、「もちろん、全ての荷物をX線などで検査している」というものの、実はアメリカ国内の空港では年間6600丁もの拳銃が押収されており、逆に言えば、それだけの拳銃が「水際」まで持って来られているともいえます。男性もその一例で、なぜか誰も銃の存在に気づかぬまま出国してしまったうえ、チェックすべき荷物が多すぎたり、検査を担当するスタッフの練度が不足したりしていれば、見逃しが起きる可能性も否定できないのが現実のようです。世界各地でテロが頻発し、海外の空港が出国時に行う検査は強化されていますが、国によって検査方法が異なるという事情もあり、今回も他の荷物に隠れるなどして、拳銃や銃弾が検査をすり抜けた疑いもあります。そして、男性が到着した関西空港でも荷物の検査が実施されていますが、大阪税関によると、海外からの旅行客の検査は、申告された所持品を確認するのが基本で、場合によってX線検査をしたり、荷物の中身を目視で確認したりするといい、全てをチェックするわけではないといいます。こうした状況、チェックのレベル感が世間に知られることになれば、今後、意図的な拳銃の持ち込みが増える可能性は十分にあり、それをどう防いでいくが大きな課題となります。また、拳銃の市中での流通に関する問題としては、インターネットの通販サイトで、拳銃と同様の殺傷能力のある銃が「おもちゃ」として売られていることを警察庁が確認したといったこともありました。このような銃は拳銃に該当し、所持や販売などは銃刀法に違反することになり、警察庁は「見つけても購入せずに、警察に連絡してほしい」と注意を呼びかけています。警察はこれまでに銃刀法違反の疑いがある拳銃を約1100丁回収、2023年11月以降は、ホームページなどで注意喚起を始め、銃刀法違反(所持)の疑いで約30件を摘発、発砲された事件は確認されていませんが、出品されていた通販サイトは国内や米国、中国の業者が運営しており、警察庁は各業者に販売しないよう要請したものの、中国の一部の業者は販売を続けているといいます。

▼警察庁 玩具と称した真正拳銃について
  • インターネット通販サイトで販売されている海外製玩具拳銃の一部には、真正拳銃と同様の発射機能を有する違法な製品が確認されており、これまでに少なくとも16種類を把握しています。このような製品は、玩具と称していても真正拳銃に該当し、国内で所持した場合は犯罪となり、また、国内で販売する行為も犯罪となります。
  • 今後、新たな玩具と称した真正拳銃が販売されるおそれもありますので絶対に購入しないでください。
  1. 玩具と称した真正拳銃の特徴
    1. 製品の特徴
      • プラスチック製の薬莢と弾丸が付属しており、薬莢にはスプリングが内蔵されている
      • 撃針を有し、薬莢の雷管部分を打撃するとスプリングの力で弾丸が発射される
    2. 違法性のポイント
      • 銃身及び弾倉が貫通している
      • 弾倉又は薬室に実包の装てんが可能である
      • 撃針を有し、薬莢の雷管部分を打撃して弾丸を発射する撃発機構を有している
  2. これまでに把握している玩具と称した真正拳銃(16種類)
    • 回転弾倉式拳銃
    • 自動装填式拳銃
    • 単発式拳銃
    • 上下二連式拳銃
    • 四連式拳銃 など

北海道電力苫東厚真火力発電所で、何者かが錠を壊して敷地内に無断で立ち入り、盗まれたものはなく、侵入目的も不明という事件がありました。同発電所では数日前にも錠が壊されており、北海道電力は建造物侵入容疑で道警に被害届を出しています。報道によれば、不審者は、同発電所の東門から車で侵入、その様子が防犯カメラに映っており、門扉に取り付けられていた南京錠は切断されていたといいます。不審者は建物内には入らずに立ち去ったとみられ、不審物も見つからなかったようです。発電所は重要インフラでもあり、この発電所は、2018年11月の北海道胆振東部地震において「ブラックアウト」の起点ともなりました。テロ対策の文脈からも、不審者の侵入を許した警備態勢の見直しが必要ではいかと思われます。

2025年4月18日付日本経済新聞の記事「テロ対策、世界を駆ける 結城秀美さん」は大変興味深いものでした。映画で偶然知った犯罪情報分析官の仕事に憧れた学生が単身米国へ留学し、その分野の最前線で活躍、現在、国連薬物犯罪事務所(UNODC)管理官を務めている方ですが、とりわけ、「地下鉄サリン事件は世界でも極めてまれな事件です。世界に過激なテロ組織は多くありますが、高度な化学兵器を製造するほどの技術力に達し、実際に使用した例はほかにありません。米当局の関係者も生物・化学兵器を製造し、テロを実行した前例として非常に注目していました」、「日本もテロと無縁ではありません。在任中、国際テロ組織アルカイダメンバーで国際手配されていたフランス人の男が、不法に日本への出入国を繰り返していたことが発覚しました。新潟県などに潜伏し、中古車販売事業を営み、資金を稼いでいました。使用された偽造パスポートはICPOから各国に情報提供されていたにもかかわらず、入国審査に情報共有が行き届いていませんでした。こうした国際的な制裁網の不備を指摘するのも私の業務でした。空港の入国審査官への抜き打ち検査もしました」、「米当局の同僚は「事件以上に日本当局の関心のなさが最も驚異的だ」と驚愕していました。縦割り行政や司法制度などが障壁となり、事件は断片的にしか解明されていませんでした。教団には生物・化学兵器を大量に製造する技術力や工場がありました。米軍の元幹部や生物兵器の専門家らが参加し、事件として表面化しなかった事実も含めて点を線でつないでいくような作業をしました」という部分が印象的です。さらに、「テロ実行犯の多くは若者です。欧州などでは移民ルーツの若者らが差別されたり、社会的地位が低かったりする現状があり、不満を募らせて過激主義に走る傾向があります。地域の中で差別をなくすことがテロを防止できるかどうかの分岐点になります。教育の欠落によってテロリストの土壌ができると考えており、現在は若い人を巻き込んだ啓発活動にも力を入れています。テロは一度起きてしまうと非常にインパクトが大きいです。爆弾が爆発する前に防止することが重要です」との言葉は、筆者の最近の考えと同じであり、共感を覚えました。

2025年4月23日付朝日新聞の記事「SNSで拡散した憎悪が招いたテロ事件 娘のうそを信じた父の後悔」も考えさせられる内容でした。フランスで2020年に中学校の教員が殺害されたテロ事件は、ひとりの少女のうそがきっかけで、そのうそを信じ、正義感に駆られて教員を批判する動画をSNSで拡散した人物は、テロの共犯に問えるのか、そんな争点の刑事裁判で、パリの裁判所が下した判決は、テロがなくならないフランス社会の現実がにじむ結末だった、というものです。「裁判長はシュニナ被告とセフリウィ被告に対する判決の理由について「致命的な結果を望んでいなかったとしても、オンラインで憎悪をあおることで、テロ行為に加担した」と認定。シュニナ被告に対しては、娘のうそを「無分別に信じた」と非難した」、「今回の判決をめぐっては、遺族の被害感情に応え、フランスが重んじる政教分離の原則をめぐってイスラム教徒の生徒らへの対応に苦慮する教育現場を勇気づけると評価する声がある。一方、実行犯と面識がなくテロの意図を持たない被告がテロへの関与で有罪になったことで、テロ犯罪の定義を大幅に広げる判例をつくったという批判も出ている」という点がとりわけ考えさせられます。また、フランスのテロリスクを取り巻く状況としては、2025年4月26日付朝日新聞の記事「『なりすまし』でテロリストに 自分の国フランスが『恐ろしい』」も参考になります。2024年夏に開催されたパリ五輪開催直前、当時のダルマナン内相はイスラム過激派思想との結びつきが疑われる155人を「MICAS」と呼ばれる自宅軟禁措置の対象にしたと明らかにしています。2015年に130人が犠牲となるパリ同時多発テロ事件が起きるなど、フランスではイスラム過激派思想を背景とするテロが相次いでおり、政府にとって「テロとの闘い」は今も最重要の課題になっています。MICASは本来、非常事態宣言下でしか認められない措置でしたが、2017年に改正されたテロ対策法で平時での運用が可能になったものです。措置の対象になれば自宅付近から離れることを禁じられ、毎日警察署に出頭することが義務づけられるといいます。報道で取り上げられていたのは、SNSの「なりすまし」で被害に遭った側なのに対象になった事例で、「白い肌でイスラム教とは関係のない国の出自なら扱いは違ったかもしれない。自分の国であるはずのフランスが、今は恐ろしい」との指摘は考えさせられます。内戦を逃れるシリア人ら100万とも言われる人々が欧州に押し寄せた難民危機から10年、海を渡って欧州を目指す人々が再び増え始めたことで、移民・難民に対してより厳格な姿勢を示す国が後を絶たず、テロの「トラウマ」に今もさいなまれるフランスでは、2024年の総選挙で下院第1党に躍進した右翼「国民連合(RN)」が、テロの危険や治安悪化を移民と結びつけ、こうした動きが、難民や移民、その2世らへの差別の強まりにつながっているとも指摘されています。そして、INSEE(フランス国立統計経済研究所)は、幼い頃からフランスの教育を受けて言語の壁に阻まれずに生活できる2世代目以降の移民の子孫が、第1世代の移民よりも差別されていると感じる状況を「統合のパラドックス(逆説)」と表現しています

インドがカシミール地方でのテロ事件を受け、パキスタンへの報復攻撃に踏み切ったことで、双方が軍事作戦に移行するなどエスカレートしましたが、米国等の仲介により、即時停戦が実現しました(とはいえ、相互に停戦に違反しているとの非難合戦が続いており、予断を許さない状況です)。第二次大戦後に英領インドから分離独立した両国は、戦争と衝突を繰り返し、核武装にまで及んでいます。インドのミスリ外務次官は、印北部ジャム・カシミールで2025年4月に起きたテロについて、「パキスタン人とパキスタンで訓練を受けたテロリスト」によるもので、「犠牲者の多くは家族の目の前で至近距離から頭部を撃ち抜かれて殺害された」と怒りをあらわにし、パキスタンを「世界中のテロリストの隠れ家だ。国際的に追放されたテロリストが処罰されずにいる」と非難しています。インドとパキスタンは1947年に英領インドから分離独立。英国が、インド側に多いヒンズー教徒とパキスタン側で多数派のイスラム教徒を植民地支配のために巧みに対立させた経緯もあり、当初から関係は悪く、3度の戦争や大規模紛争を経て、2008年のインドの最大都市ムンバイでの大規模テロでは、インドがパキスタンからの越境テロを非難するなど深刻な対立が続いてきました。両国が信頼醸成に動けば、これに反発するイスラム過激派によるテロが起き、両国が非難し合うという構図が繰り返されている状況です。2025年5月7日付朝日新聞の記事「インドの大規模報復がはらむリスク パキスタンは「核」で警告」にテロ組織がどのように関係しているかが詳しく報じられています。例えば、「パキスタン軍によると、今回の攻撃はパキスタン側のカシミール地方から同国の最大州パンジャブ州にかけての少なくとも6カ所に及んだ。注目すべきはムリドゥケとバハワルプールというパンジャブ州の二つの都市が標的に含まれている点だ。ムリドゥケは人口1千万人を超す大都市ラホールから30キロほど。イスラム武装勢力「ラシュカレ・タイバ(LeT)」の本部がある街だ。インド側カシミールで観光客ら26人が殺害された今回の事件では、インドがLeTの関連組織とみる「抵抗戦線」が犯行声明を出した。事件はインドにとって、08年に西部ムンバイで160人以上が犠牲となった同時テロ以来、民間人を狙った最大のテロ。そしてムンバイ同時テロを実行したのがLeTだった、とインド側は断定している。バハワルプールは別の武装組織「ジャイシェ・ムハマド」の本拠地だ。こちらは01年に起きたインド国会議事堂襲撃事件をLeTとともに実行した、とインド政府が断定している組織だ。この時は、印パ両軍が国境線に百万人規模の部隊を動員し、全面戦争が懸念されたが、国際社会の強い圧力で最悪の事態は回避された。二つの武装勢力は米政府などからテロ組織に認定されているが、パキスタン側は形ばかりの摘発を行っただけで、事実上の野放し状態が続いているとみられていた。4月のテロの後、モディ首相は「残虐な行為の背後にある者たちは、正義の裁きを受ける」と予告していた。これまで手出しできなかった二つの組織を直接たたいたことになり、モディ氏は警告通りに本気で実行した。ただ、攻撃がはらむリスクがどこまで考慮されたのかは不透明だ」という点は、大変参考になりました。インドは慎重になりつつ、国民に満足感を与えられる攻撃は何だろうかと考え、結果、エスカレーションはさせないということを明確にしつつ、SNSに動画をアップするなどし、「やられたらやり返す」ということを国民に示したといえます。一方、パキスタンは、緊張を高め、国際社会に助けてもらおうとする戦略で、経済状況などを含めると全面戦争をする余裕はありません。カシミール問題は、特にパキスタン側にとっては国家のアイデンティティーに関わり、今回の事件に関わらず解決は非常に困難でもあります。

ロシア最高裁は、2003年から「テロ組織」に指定し、露国内での活動を禁止していたイスラム原理主義勢力タリバンについて、活動禁止措置の解除を決定しています。露検察当局が2025年3月、タリバンに対する活動禁止措置の解除を最高裁に請求していたものです。最高裁の決定は治安機関「連邦保安局」(FSB)に送付され、FSBが近くテロ組織の指定リストからタリバンを削除する見通しです。ロシアは2021年にアフガニスタンを掌握したタリバンとの関係を強化し、国際的影響力を拡大する思惑だとみられています。アフガン問題を担当するカブロフ露大統領特別代表は、今回の最高裁決定により両国間の障害が取り除かれ、適切な政治・経済関係の構築が可能になると指摘、露上下両院は2024年12月、過去にテロ組織に指定された団体や勢力について、その後に「テロ組織ではなくなった」などとする新たな情報があれば、検察当局の請求により最高裁が活動禁止措置を解除できると定める法案を承認。同月、プーチン露大統領が署名し、同法が成立していました

AP通信は、トランプ米政権が議会に対し、カリブ海の島国ハイチを拠点に活動するギャングを外国テロ組織に指定する方針を伝達したと報じています。米国には治安が悪化するハイチから渡航した移民が多数滞在しており、不法移民対策強化の一環の可能性があります。APによると、外国テロ組織指定の対象となるのは複数のギャングで、ハイチ各地で支配地域を拡大し、住民の殺害などを繰り返してきたとされます。トランプ政権は2025年3月、バイデン前政権下で一時的に入国を許可されたハイチなどからの移民の在留資格を取り消すとも表明していました。トランプ政権は既に、人身売買で知られるベネズエラの犯罪組織トレン・デ・アラグア(アラグアの列車)などを外国テロ組織に指定、メンバーらの国外追放を推進する根拠としています

米東部ペンシルベニア州ハリスバーグにある知事公邸で火災が発生し、州警察は放火やテロなどの疑いで容疑者を逮捕しましたが、動機は不明です。シャピロ氏は2024年の大統領選で民主党の副大統領候補に名前が挙がり、2028年大統領選候補の一人と目される有力者です。報道によれば、約20分で鎮火したものの、公邸の窓が割れたり家具が損傷したりするなどの被害が出たといいます。シャピロ氏は記者会見で「(放火は)標的を絞ったものだった。このような暴力は認められない」と述べています。シャピロ氏はユダヤ教徒で、前日にユダヤ教の祝日を祝っている様子をSNSに投稿していたといいます。

(5)犯罪インフラを巡る動向

前回の本コラム(暴排トピックス2025年4月号)でも取り上げましたが、インターネット上でプレーヤー同士がつながるオンラインゲームをきっかけに未成年が犯罪に巻き込まれる事例が相次いでいます。中には殺人事件に発展したケースや、言葉巧みに海外に連れ出され特殊詐欺に加担させられたケースもありました。ゲーム中に音声でやり取りをする「ボイスチャット」機能が悪用されており、外部からの監視が難しいことも事態を深刻化させています。警察庁によると、面識のない人とオンラインゲームを介して知り合って犯罪に巻き込まれた未成年は、2024年1年間に前年比10%増の98人で、うち56人は中学生で、ゲームタイトル別では「荒野行動」が27人、「We Play」が23人、「フォートナイト」が11人など、対戦などを楽しむ人気ゲームの悪用が目立ち、見ず知らずの人と協力して攻略するゲームも多い傾向にあり、プレー中にボイスチャットで戦略を話し合って親密になり、SNSでのやり取りに発展、その後に犯罪に巻き込まれるという構図となっています(オンラインゲーム/ボイスチャット機能の犯罪インフラ化)。警察庁によると、ゲームの上手な人に対する憧れや仲間意識が被害を助長させている可能性があるといい、インターネット犯罪に詳しい国際大学GLOCOM客員研究員の小木曽健氏は産経新聞で「犯罪者側に高いコミュニケーション能力がなくても、(被害者と)仲良くなれてしまう」と指摘しており、興味深いといえます。

総務省などが偽基地局による携帯電話への通信妨害を確認し、調査を開始しています。偽基地局は、通常の基地局と同じように電波を発信し、携帯電話やスマホを誤って接続させる仕組みで、誤って接続すると、不審なSMS(ショートメッセージサービス)などが送りつけられるほか、通信内容や個人情報が盗み見られたり、位置情報などが特定されたりする危険性もあるといいます。SNSでは、車載型の通信機器を搭載した偽基地局とみられる車両が確認されているほか、SNSに投稿された事例では、契約している携帯電話の回線が圏外になり、国内では商用利用されていない第2世代(2G)移動通信システムに切り替わった後に不審なメッセージが送られたといいます。メッセージは、中国語で「海外でのカード決済機能が停止されたため、URLにアクセスするように」という内容で、URLをクリックすると個人情報が漏洩する「フィッシング詐欺」とみられています。また、偽基地局の電波は届く範囲が限られるため、特定の場所にいる人々を標的にしているとみられています。具体的には、インバウンド(訪日客)が多い繁華街を車両で移動しながら、クレジットカード情報を盗み取るのが目的との見方が有力です。詐欺メールを送りつけられるだけで終わらない懸念もあり、携帯電話と基地局は互いに電波を出しており、音声や画像データを変換した電気信号を電波に乗せて送信するため、誤って偽基地局に接続してしまうと、通信内容が流出したり、位置情報が特定されたりする危険があり、過去には類似の手口として、パスワード入力が不要のWi-Fiルーターを設置し、接続した携帯電話の情報や通信内容を盗み見るというケースなどがありました。海外では数年前から、偽基地局が問題視されており、日本でも事例が確認されたことは、個人情報を狙う手口がさらに巧妙化していることを示しているといえます。

▼総務省 不法無線局の疑いのある無線機器(いわゆる「偽基地局」)からの携帯電話サービスへの混信~フィッシング詐欺等のSMSにご注意ください~
  • 昨今、都内周辺をはじめとする一部の都市において、不法無線局の疑いのある無線機器からの携帯電話サービスへの混信事案が発生しており、携帯電話が圏外となったり、フィッシング詐欺等の不審なSMSを受信したりするなどの事象が発生しています。
  • 実在するサイトを装って利用者を誘導するフィッシングは、近年、その手口がますます巧妙化していますので、怪しいSMSやメールのリンクをクリックしたり、IDやパスワード、個人情報などを入力したりしないよう、くれぐれもご注意ください。
  • 参考:国民のためのサイバーセキュリティサイト
▼フィッシング詐欺とは
  • フィッシング詐欺とは、送信者を詐称したメールやSMSを送りつけ、貼り付けたリンクをクリックさせて偽のホームページに誘導することで、クレジットカード番号やアカウント情報(ユーザID、パスワードなど)などの重要な情報を盗み出す詐欺のことです。なお、フィッシングはphishingという綴りで、魚釣り(fishing)と洗練(sophisticated)から作られた造語であるといわれています。
  • 最近では、電子メールの送信者名を詐称し、もっともらしい文面や緊急を装う文面にするだけでなく、接続先のWebサイトを本物のWebサイトと区別がつかないように偽造するなど、ますます手口が巧妙になってきており、ひと目ではフィッシング詐欺であると判別できないケースが増えています。
  • また、スマートフォンを対象として、電子メールやSMSなどのメッセージ機能からフィッシングサイトに誘導しようとする手口も増えています。
  • フィッシング詐欺の手口としては、以下のようなものが挙げられます。
    1. 電子メールやメッセージ機能でフィッシングサイトに誘導
      • 典型的な手口としては、クレジットカード会社や銀行からのお知らせと称したメールなどで、巧みにリンクをクリックさせ、あらかじめ用意した本物のサイトにそっくりな偽サイトに利用者を誘導します。
      • そこでクレジットカード番号や口座番号などを入力するよう促し、入力された情報を盗み取ります。
    2. SNSなどの情報でフィッシングサイトに誘導
      • SNSの投稿サイトにURLを載せ、クリックさせて誘導します。短縮URLを悪用し、一読しただけではアクセス先のURLが分からないものが多いため注意が必要です。
    3. 表示されているURLを本物のURLに見せかけてアクセスさせる手口
      • 電子メールやSNSに投稿されたURLを、実在するURLに見間違えるような表示にすることで偽サイトに誘導します。
      • 例えば、アルファベットの(オー)oを数字の0にしたり、アルファベットの大文字の(アイ)Iを小文字の(エル)lにしたりして、閲覧者が見間違えるのを待ちます。
  • 対策としては、以下の点に注意しましょう。
    1. 正しいURLや正規のアプリケーションを用いてアクセスする
      • 金融機関のID・パスワードなどを入力するWebページにアクセスする場合は、金融機関から通知を受けているURLをWebブラウザに直接入力するか、普段利用しているWebブラウザのブックマークに金融機関の正しいURLを記録しておき、毎回そこからアクセスするようにするなど、常に真正のページにアクセスすることを心がけましょう。事業者が提供している正規のスマホアプリを利用することも有効です。スマホアプリをダウンロードする際は正規の提供元(GooglePlayやAppStore)から入手してください。
    2. ドメイン名が正しいか、不審なサイトではないかを確認する
      • 正規のドメイン名が分かっている場合には、ブラウザの上部または下部に表示されているWebサイトのURLのドメイン名が一致しているかどうかを確認します。ドメイン名は「https://(ドメイン名)/」もしくは「(鍵マーク)(ドメイン名)」のように表示されます。
      • WebブラウザのURLに鍵マークが表示されているにもかかわらず、フィッシングサイトであるケースが増えています。鍵マークには、Webサイトとの通信が暗号化されているという意味と、Webサイトを運営している組織が実在しているといった全く異なる意味がありますが、いずれも同じように表示されています。鍵マークだけで安心せず、より詳しく、もしくは他の方法と組み合わせて確認しましょう。
    3. なりすましメールに注意する
      • 金融機関などの名前で送信されてきた電子メールやSMSなどのメッセージの中で、通常と異なる手順を要求された場合には、内容を鵜呑みにせず、金融機関に確認することも必要です。フィッシング詐欺であるかどうか判断が難しい場合には、メールの送信元の会社に連絡をしてみるのもよいでしょう。ただし、電子メールに記載されている相手の情報は正しいものとは限らないため、電話をかける場合には必ず正規のWebサイトや金融機関からの郵便物などで連絡先の電話番号を調べるようにしてください。

サイバー攻撃による被害が後を絶たず、最近では学校の卒業アルバムの業者の、子どもの写真と名前のデータが漏洩した可能性がある、という発表が相次いでいます。卒業アルバムを使ってディープフェイクポルノがつくられる可能性があるほか、SNSのなりすましなどに悪用されるリスクもあります。また、子どもの個人情報は成長段階に応じたビジネスに利用されやすく、データの価値が高いとされます。一方、卒業アルバムの業者は一般的に中小企業が多く、セキュリティが弱く、顧客とのデータのやり取りに紛れ、ウイルスに侵入されやすいことから、業界全体としてセキュリティへの意識改革が必要だと考えられます。

在留カードを偽造したとして、警視庁国際犯罪対策課は、いずれも中国籍の無職、2人の被告を入管難民法違反(在留カード偽造)の疑いで再逮捕しています。大田区のビル1室の自宅で、ベトナム、スリランカ、中国など7カ国の外国人の在留カード30枚を偽造したといいます。警視庁によると、2024年11月~2025年3月、偽造カードを毎日約50枚作製して1枚1万円で販売し、約7500万円を売り上げたとみられ、SNS上に広告を出し注文を受け付けていました。自宅から押収したパソコンからは、マイナンバーカードや戸籍謄本、学生証など外国人や日本人名義の偽造データ約1万件が見つかったといい、データは中国国内の指示役から送られたとみられています。2人は技能実習生として入国、2025年4月、出入国管理法違反(不法残留)の疑いで逮捕、起訴されています。

高級車の盗難については本コラムでもだびたび取り上げてきましたが、トヨタ自動車のランドクルーザーやアルファードといった高級車種が窃盗グループに狙い撃ちにされている状況が続いています。メーカーが対策を講じるたび新たな手口が現れ、自動車盗の被害は3年連続で増えています。犯行は最短1分半で完結し、不正輸出される事例が目立っています。警察庁によると、自動車盗は2024年に全国で6080件発生、ピーク時の2003年(6万4223件)と比べると1割未満の水準だが、2022年から増加傾向に転じています。発生地は愛知県が866件で最も多く、埼玉県(781件)、千葉県(706件)が続いています。2024年に盗まれた車のうち最も多いのはランドクルーザー(1064台)で、車種別の上位にはアルファード(488台)やレクサスLX(230台)など、新車価格が500万円を超えるモデルが並びます。手口の変遷は目まぐるしく、2010年代は電子的な暗号でキーを照合する盗難防止装置「イモビライザー」を特殊な機器「イモビカッター」で無力化させる手法が横行、対策が進むと、車のスマートキーの電波を増幅しロックを解除する「リレーアタック」が増加、キーをケースに入れ電波を遮断する対処法が広がり、2020年ごろからは制御システムに接続してドアを開ける機材「CANインベーダー」の悪用が始まり、直近は車が発する信号情報を複製し、スペアキーを作り上げる「ゲームボーイ」と呼ばれる機器を使った盗難が相次いでいます。とりわけ、CANインベーダーや「ゲームボーイ」を用いた近年の犯行は最短1分半で、被害増加の要因の一つにこうした電子機器の流入があるといいます。盗難車は海外に不正輸出されるケースが多く、警視庁の摘発事例では国内のヤード(資材置き場)を経由して、アラブ首長国連邦(UAE)やタイへ送られており、税関には正規の完成車や部品とする虚偽の申告が届けられていたといいます。税関でコンテナを開封する検査には1個あたり2時間程度かかり、税関関係者は「すべての貨物を開くのは貿易への支障が大きく現実的ではない」と指摘、エックス線による検査は短時間で済むものの、盗難車かどうかの判別が難しい問題があります。外国人・日本人の混合グループの摘発事例が目立つ一方、検挙率は4割にとどまり組織の全容は分かっていない状況です。海外でも人気が高い車種の発注を受け、国内の集団が盗む「ビジネスモデル」が形成されている疑いがあります。政府は2025年3月、太陽光ケーブルの窃盗で使われる工具を隠し持つことを禁じる新法案を閣議決定していますが、報道で園田名誉教授は「被害の大きさからみると、自動車盗で使われる電子機器への規制も一定の合理性がある」とみています。国会でも自動車盗難対策を巡る立法措置が議論され始め、警察による実行グループの徹底した取り締まりに加え、犯行ツールを絶つ方策を立てる必要があるといえます。

インターネット上にあふれる性的コンテンツなどの広告を巡り、子ども保護の観点から規制を求める声が強まっています。事態を重く見た政府は対応に乗り出す方針を示していますが、憲法21条が保障する「表現の自由」に抵触しかねないとの慎重論も根強く、先行きは見通せない状況です。政府は、保護者が子どものネット利用を管理する「ペアレンタルコントロール」や、有害サイトの閲覧を制限する「フィルタリング」の普及を進めてきましたが、不適切広告は後を絶たず、背景には広告システムの仕組みがあります。従来は媒体側(メディア)と広告主が契約し、審査を経た広告を載せてきましたが、近年「運用型」と呼ばれる広告が普及、広告枠に対し、閲覧者の属性や嗜好を踏まえ広告主による入札が瞬時に行われ、チェックなしに広告が表示される仕組みが主流となりました(利用者がサイトを訪れるたび、候補となる大量の広告との間で、瞬時に「オークション」が行われ、入札額や広告内容、ユーザーの属性などを総合したスコアが最も高い広告が、自動的に表示されるもので、個別に契約せずに効率よく広告を表示できるため、爆発的に広まる一方、短時間に膨大な広告配信が決まるため、事前に内容をチェックできない点が大きな懸念点となっています)。このシステムを日本に導入した株式会社フリークアウトの本田謙社長は、不適切広告の増加は媒体側が内容より収益を優先した結果だと指摘、「日本は無法地帯になっている。自主規制やガイドラインでは弱過ぎる」と述べ、法規制の必要性を訴えています。ただ、青少年インターネット環境整備法は「青少年有害情報」として「犯罪を誘因」や「わいせつ描写」などを例示するものの、政府が2024年9月に決定した第6次青少年インターネット環境整備基本計画は、憲法への配慮から「有害性の判断に国の行政機関等が干渉してはならない」と定めています。自民の山田太郎参院議員は、自身のXで「不快、見せたくないという理由で法律や行政による規制を求めるのであれば、表現の自由を全面否定することになる」と法規制に反対している一方、国民民主の伊藤氏は「表現の自由は大切だが、『エロ広告』に対応しない理由にはならない。ネットはすでにマス(メディア)であるとの意識を持ち、適正な広告表現を適用すべきだ」と求めています(筆者としても後者の考え方の立場です)。前述したネット広告の配信システムは、グーグルやメタのようなプラットフォーマーなどが運営していますが、プラットフォーマーは「広告内容を審査している」としているものの、内容はブラックボックスで非常に緩いのが実情だとの指摘もあります。厳しくチェックして広告が減れば、プラットフォーマーの収入が減る側面があることが否定できないためです(グーグルは、収益の8割を広告収入が占めています)。現在の法律では、ポルノ画像などを不特定多数に拡散させる刑法のわいせつ物頒布等罪や、18歳未満が被写体となる場合の児童買春・児童ポルノ禁止法に抵触しなければ、法律違反に問われることはない点も課題です。英国には広告表現についてのガイドラインがあり、性的な意味をほのめかす広告や、子どもが性的な対象として扱われた広告を事前に禁じており、消費者から苦情があれば、研究者や弁護士、広告業界出身者らによる機関が審査し、広告主に削除を命じることもあるといいます。有識者は「英国では、子どもに性的なコンテンツを見せないという意識が社会に浸透しており、自主基準にもつながっている。日本も、性的な描写や過激な表現に対する具体的なガイドラインや基準を策定し、悪影響を与える広告について、ゾーニングができる仕組みをつくっていくべきだ」と述べていますが、正に正鵠を射るものと思います。

NZの与党第1党、国民党は、16歳未満のSNS利用を禁じる法案を議会に提出しました。法案ではSNS事業者に年齢確認を義務付け、違反した場合には最高で200万NZドル(約1億7000万円)の罰金を科すものです。法案は、NZで社会問題化しているSNS上のいじめや有害情報の拡散から子供を守ることを主な目的としており、クリストファー・ラクソン首相、はXで「若者にとってSNSは必ずしも安全な場所ではないと認識し、対策を講じるべき時に来ている」、「子供たちをSNSの害から守りたい。SNS企業は社会的責任を負う」と強調しています。SNSを巡っては、オーストラリア議会で2024年11月、16歳未満の利用を禁止する同様の法案が可決され、2025年内に施行される予定となっています。

英防衛産業の複数の企業が社員に、中国製の電気自動車(EV)にスマホを接続しないよう求めたと英メディアが相次いで報じるなど、中国製EVを通じた情報漏洩リスクへの警戒心が英国内で強まっています。英紙ガーディアンは一連の報道を受けた解説記事で、「EVはハッカーに食い物にされる可能性がある」という専門家の指摘を紹介しています。EVにはマイクやカメラ、インターネットに接続するWi-Fiが備わり、ハッカーにとって「データを収集する機会が多い」ためだといいます。EVの通信機能は本来、メーカーが運転操作などに必要なソフトウエアを更新するためのもので、日進月歩の技術革新やエラーの修正に柔軟に対応でき、購入者にとっても車を整備工場や販売店に持ち込む手間が減る利点があるとされます。しかし、この通信機能が悪用された場合には、EVに接続したスマホやタブレットから情報が盗まれるリスクを伴います。米国や日本など多くの国のメーカーがEVを製造する中で、中国製EVからの情報漏えいが特に警戒されているのは、中国には国家の情報活動への協力を企業に義務づける2017年制定の国家情報法があるためです。

経済安全保障上の機密情報へのアクセスを官民の有資格者に限定する「セキュリティー・クリアランス(適格性評価)」制度が2025年5月16日から始まります。政府が保有し重要情報と指定したものを共有する企業と、その情報を扱う社員や役員らを国が審査して認定・適性評価するもので、クリアランスの取得は、各行政機関が必要に応じて企業に打診、企業側には応じる義務はなく、得られる情報の価値と生じる制約を考慮して申請するかどうか決めればよいものです。2014年施行の特定秘密保護法は防衛、外交、スパイ活動防止、テロ防止の4分野に限った情報保全の仕組みでしたが、今回の制度は経済分野にも拡大し、重要な物資の供給網やインフラの保護に必要な情報などが指定対象になります。国際基準の機密保護制度が生まれ、日本企業は国際共同開発などに参加しやすくなるメリットがある一方で適格性評価を巡ってプライバシー上の懸念も根強くあります。サイバー攻撃を巡る問題への対応にもメリットがあり、政府は外国から攻撃の情報を得ても民間企業には伝えにくかったところ、AIが言語の壁を取り払い、日本への攻撃が活発化する中、セキュリティー・クリアランス制度によって官民が一体で対策をとれるようになります。日本ではセキュリティー・クリアランス制度の身辺調査に関し、不利益取り扱いや就職差別等につながるなど、プライバシーの侵害を指摘する向きも少なくないものの、海外では資格を取れば自分に問題がないという証明になり、職場で権限が増えたり、給料が上がったりするといいます。一方、内閣府がきちんと身辺調査を実施できるかは課題となります。プライバシーを心配する声に配慮しすぎてしまう可能性があるほか、対象者が多いため、調査に当たる人員が確保できるかなどが懸念されます。しかしながら、海外は徹底的に調べていて、生ぬるい調査では国際的に通用しないと認識する必要があります。さらに、政府の意識改革も必要で、セキュリティー・クリアランスは民間企業と協力しないと機能しない制度であり、これまで政府は民間の技術にさほど興味がなかったところ、先端技術の軍民両用(デュアルユース)が進む中で、どの企業がどういう技術を持っているか、きちんと知る必要があります。専門家は「例えばサイバー攻撃の手口はクリアランスに関係なく共有すべき一方、攻撃者の背景情報は保持者だけで共有することが考えられる」と指摘、どのような情報が指定されるかが、今後の制度普及のカギを握るといえます。国益と企業活動の自由を擦り合わせるため、今後も官民で最適な運用を模索する必要があります。

KPMGコンサルティングが公表した、サイバーセキュリティに関する実態調査「サイバーセキュリティサーベイ 2025」によると、1億円超の被害があったと回答した国内企業が1割弱に上るなど、攻撃の激化が浮き彫りとなっています。同社は生成AIが悪用され、攻撃が巧妙化する中で、企業にとってサイバーセキュリティに関する業務負担が重しとなり、対策の整備に遅れが出ていると指摘しています。調査は国内の上場企業と年間売上高400億円以上の未上場企業を対象に、2024年8月から10月にかけて実施、125社が回答しています。被害が発生した攻撃は身代金要求型コンピューターウイルス「ランサムウェア」が10.7%と最多、ウェブサービスへの不正ログインや情報窃取(6.3%)、内部不正による情報漏洩(4.5%)が続いています。実際の被害につながらなかった攻撃を含めると、偽サイトに誘導する「フィッシング」をほぼ半数の企業が経験したと回答しています。さらに、生成AIの発達に伴い、自然な日本語の文章が作成されるようになっており「不正送金等を指示するビジネスメール詐欺」が増加していると指摘しています。子会社を持つ大企業において、本社がグループ子会社を含めた中央管理を行っていると答えた企業は29.4%で、大半はセキュリティの関連投資や人材確保などを子会社に任せている実態が浮き彫りとなりました。セキュリティ人材は世界的に不足しており、同社は、子会社ごとの運用は難しくなっていると指摘、欧米企業はグループ会社を含めた一括管理が主流で、人員とコストの削減を両立させていると解説しています。AIについては「質問・問い合わせへのアシスト」として導入している企業が36.1%で2024年の調査結果(10.9%)から、大幅に増加、「データ分析」や「マーケティング活動」などでの導入も進む一方、AIリスクを管理する組織やルールが「整備済み」と回答した企業は18.4%にとどまり、「ガバナンス(企業統治)や態勢整備を進める必要がある」と警鐘を鳴らしています。なお、サイバー攻撃への対応のあり方について、2025年4月16日付毎日新聞の記事「サイバー攻撃「日本企業は被害者でなく加害者」認識の甘さ」は筆者の考えと全く同じで、大変共感を覚えました。具体的には、「日本企業を標的にするサイバー攻撃が増えている。昨年末には日本航空や三菱UFJ銀行などでサイバー攻撃を原因としたシステム障害が相次いだ。今年3月には楽天証券にも被害が出ている。企業はいかにサイバー攻撃から身を守るべきか。サイバーセキュリティ事業を展開する「デジタルデータソリューション」の熊谷聖司社長に聞いた。…熊谷氏は「公表している企業は一部であり、表に出ていない事案も多い」という。熊谷氏は日本企業のサイバー攻撃に対する意識改革が必要だと説く。特に中堅企業のサイバーセキュリティ対策が不十分だという。「うちの会社の情報が漏れても大丈夫だ」といった甘い認識を持った中堅企業経営者もいる。またサイバー攻撃を仕掛けられた際に「被害者のような振る舞いをする企業が多い」のも問題だ。例えば顧客情報を漏えいした企業で「実害の報告は受けていない」という発表がよくある。しかし、漏えいした顧客情報がSNSでつながる「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」に渡り、犯罪に発展するケースもある。熊谷氏は「企業は被害者ではなく、セキュリティ対策を怠った加害者だという認識が必要だ」と指摘する」、「熊谷氏のもとにはサイバー攻撃を受けた企業から「まさかうちが狙われるとは」「しっかり対策しておけば良かった」という声が聞かれたという。熊谷氏は「サイバーセキュリティ対策に未然にしっかりと取り組んでいれば、サイバー攻撃による被害はゼロにはならないが、ほとんどなくなる」と強調した。企業はサイバー攻撃の事後対応だけでなく、未然に防ぐための対策が重要だ」というものです。

前述したとおり、子会社にリスク管理を任せている状況が明らかになっていますが、サプライチェーン(供給網)のサイバー防御の強化も必要な状況です。大企業への攻撃は、サプライチェーンで結びつく中小企業が踏み台になるケースがあり(サプライチェーン攻撃)、経産省が所管する情報処理推進機構の調査によると、中小の7割は組織的な体制を整備しておらず、過去3年間に被害にあった中小の7割が取引先にも影響が及んでいます。政府はサプライチェーンのサイバー防御の強化を促すため、アクセス権限の管理、重要データの暗号化などリスクの度合いに応じた対策の基準を明示するほか、外部の専門機関が評価して、政府調達の要件にすることも検討するとしています。2026年度から制度を導入、経済産業省と内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)が制度案の中間まとめを公表しました。それによれば、発注企業がサプライヤーに求めるセキュリティのレベルを指定、川上から川下まで共通の基準に沿って対応することで、供給網全体の対策を底上げするとし、5段階でレベル1と2は自主的な取り組みの表明で取得できるものの、今回、レベル3と4の基準を新たに示し、レベル3は一般的なサイバー攻撃に備える最低限の対策、セキュリティ担当者を決めて、対応手順をあらかじめ作ってもらうほか、IDやパスワードの設定、アクセス権限の管理を必要とし、自己評価を求めています。レベル4は供給停止や機密情報の漏洩など影響の大きなケースを想定、経営層への定期報告や、復旧にかかる時間に応じた詳細なマニュアルの整備が必要で、重要なデータの暗号化や、異常をすぐ検知できる監視体制の構築も要請、専門機関による第三者評価を原則にするとしています。レベル5は通信機器などに潜む未公表の弱点を突く「ゼロデイ攻撃」などの高度な脅威に対応できる水準を想定、内容は検討中で、2026年度までに詰めるとしています。サイバー防御の公的な認証制度は海外が先行、英国では国家サイバーセキュリティーセンターの制度があり、公共調達の必須要件に課す場合が多く、2023年までに12万以上の企業や団体などが取得しています。米国では2024年12月に国防総省の認定制度が発効、フランスではウェブサイトに安全性スコアの提示を義務づけています。

▼経済産業省 「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度構築に向けた中間取りまとめ」を公表しました
  • 経済産業省は、サプライチェーンにおける重要性を踏まえた上で満たすべき各企業のセキュリティ対策を提示しつつ、その対策状況を可視化する仕組みの構築に向けた検討を進め、本日、現時点での検討の概要を「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度構築に向けた中間取りまとめ」として公表しました。
  • 今後、2026年度の制度開始を目指し、実証事業や制度運営基盤の整備、利用促進に向けた各種施策の実行等を進めていく予定です。
  1. 背景・趣旨
    • 近年、サプライチェーンに起因するサイバー・インシデントを背景に、企業の取引においてもサイバーセキュリティ対策の担保が求められる中、受注企業が異なる取引先から様々な対策水準を要求され、発注企業は外部から各企業等の対策状況を判断することが難しいといった課題が存在しています。
    • こうした課題に対応するため、サプライチェーンにおける重要性を踏まえた上で満たすべき各企業の対策を提示しつつ、その対策状況を可視化する仕組み(「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度」)の検討を進めるべく、産業サイバーセキュリティ研究会ワーキンググループ1サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度に関するサブワーキンググループにおいて、制度の目的や位置付け、要求項目・評価基準の内容、制度の普及のために必要な施策等について有識者・産業界とも継続して議論を実施してきました。こうした検討内容を「中間取りまとめ」として取りまとめました。
  2. 「中間取りまとめ」の概要
    • 「中間取りまとめ」は、「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度」の概要を整理したものであり、以下の方針を示しています。
      1. 制度趣旨
        • 本制度に基づくマークの取得を通じて、ビジネス・ITサービスサプライチェーンにおける、取引先へのサイバー攻撃を起因とした情報セキュリティリスク/製品・サービスの提供途絶や取引ネットワークを通じた不正侵入等のリスクに対する適切なセキュリティ対策の実施を促し、サプライチェーン全体でのセキュリティ対策水準の向上を図る。
        • 具体的には、2社間の取引契約等において発注企業が、受注側に適切な段階(★)を提示し、示された対策を促すとともに実施状況を確認することを想定。
      2. 目指す効果
        • サプライチェーンにおけるリスクを対象にした上で、その中での立ち位置に応じて必要な対策を提示することで、企業の対策決定を容易・適切なものにする。
        • すべてのサプライチェーン企業が対象となるが、特にサプライチェーンを構成する中小企業は、セキュリティ対策におけるリソースが限られていること/自社のリスクを踏まえてセキュリティ対策を行うことはハードルが高いことから、活用による効果が大きい。
      3. 基準の考え方
        • 求められるセキュリティ対策について、各企業のサプライチェーンにおける重要性や影響度を踏まえた上で、区分を★3、★4、★5の3つに分けることを想定。具体的には、(1)ビジネス観点(データ保護・事業継続における重要度)及び(2)システム観点(接続の有無)の2点でそれらの区分を整理。
          • ※先行する自己評価制度の仕組みである「SECURITY ACTION」にて一つ星、二つ星の区分を設けているため、★3からの区分としている。
        • これらの考え方や海外での類似制度(英国の「Cyber Essentials」)や各産業のガイドライン(「JAMA・JAPIA自工会/部工会サイバーセキュリティガイドライン」や他の産業分野別ガイドライン等)の内容を踏まえつつ、米国立標準技術研究所(NIST)の「Cybersecurity Framework 2.0」等にも基づき、「ガバナンス整備、取引先管理、リスクの特定、システムの防御、攻撃等の検知、インシデントとの対応・復旧」の観点から、まずは★3及び★4についての考え方や対策事項・要求項目について整理を実施。
      4. 制度において設ける段階の考え方
        • ★3 Basic:全てのサプライチェーン企業が最低限実装すべきセキュリティ対策として、基礎的なシステム防御策と体制整備を中心に実施(自己評価(25項目))
        • ★4Standard:サプライチェーン企業等が標準的に目指すべきセキュリティ対策として、組織ガバナンス・取引先管理、システム防御・検知、インシデント対応等包括的な対策を実施(第三者評価(44項目)※)
          • ※第三者評価を原則とするが、評価コストの負担を抑える観点から、詳細は今後検討予定。
        • ★5:サプライチェーン企業等が到達点として目指すべき対策として、国際規格等におけるリスクベースの考え方に基づき、自組織に必要な改善プロセスを整備した上で、システムに対しては現時点でのベストプラクティスに基づく対策を実施(第三者評価(対策項目は今後検討予定))
          • (注)上位の基準はそれ以下の基準で求められる事項を包括するため、例えば、★3を事前に取得していなければ★4を取得できないという関係とはならない。
      5. 国内外の関連制度等との連携・整合
        • 先行する自己評価の仕組みである「SECURITY ACTION」(一つ星及び二つ星)、「JAMA・JAPIA自工会/部工会サイバーセキュリティガイドライン」や国際標準である「ISMS適合性評価制度」等とは相互補完的な制度として発展することを目指す。
        • 具体的には、現在の★3、★4の要求項目案は「JAMA・JAPIA自工会/部工会サイバーセキュリティガイドライン」の内容とも整合性を一定程度確保しており、同ガイドラインに基づく自己評価に際しての本制度での活用等、連携のあり方については、運営団体とも議論を進めていく。また、海外の類似制度についても、将来的な相互認証の可能性も念頭に、引き続き調査・意見交換を実施する。
▼サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度構築に向けた中間取りまとめ(概要)
  • サプライチェーン対策評価制度に関する現状整理(案)
    1. 現状認識(制度検討の背景)
      • 中小企業含めて多数の企業は取引先への製品・サービスの提供等を通じて、サプライチェーンを構成している。近年、サプライチェーンを通じた情報漏えい・事業継続に関するインシデントが頻発。その対策として、政府や重要インフラ企業のみならずその取引先についても、自主 的なセキュリティ対策を基本としつつ、適切なセキュリティ対策を課す必要があるが、複雑なサプライチェーン下で、様々な取引先から様々な要求事項を求められている状況。発注企業にとっては、正しいセキュリティ対策が取引先でなされているか不明確/受注企業にとっては(特に中小企業を中心に)過度な負担につながっている。結果として、サプライチェーン全体のセキュリティ底上げにつながっていない。
    2. 制度趣旨
      • 本制度に基づくマークの取得を通じて、ビジネス・ITサービスサプライチェーンにおける、取引先へのサイバー攻撃を起因とした情報セキュリティリスク/製品・サービスの提供途絶や取引ネットワークを通じた不正侵入等のリスクに対する適切なセキュリティ対策の実施を促し、サプライチェーン全体でのセキュリティ対策水準の向上を図る。
      • 具体的には、2社間の取引契約等において発注企業が、受注側に適切な段階を提示し、示された対策を促すとともに実施状況を確認することを想定(再委託先は発注者から見た直接の管理対象にはならないが、委託先を通じて必要に応じて管理することを想定)。
    3. 目指す効果
      • サプライチェーンにおけるリスクを対象にした上で(※)、その中での立ち位置に応じて必要な対策を提示することで、企業の対策決定を容易・適切なものにする。すべてのサプライチェーン企業が対象となるが、特にサプライチェーンを構成する中小企業は、セキュリティ対策におけるリソースが限られていること/自社のリスクを踏まえてセキュリティ対策を行うことはハードルが高いことから、活用による効果が大きい。
        • ※本来は各企業が自社のリスクを特定して必要なセキュリティ対策を個別に検討・実施することが望ましいが、リソースに限りのある中小企業を中心にただちにこれを実現できていない企業が一定数存在する。本制度は、包括的なリスク分析に基づき共通して求められる対策を示すもの。将来的には、こうした企業もより自社のリスク分析に基づいたさらなる対策の強化をしていくことが望ましい。
    4. 基準の考え方
      • 求められるセキュリティ対策について、各企業のサプライチェーンにおける重要性や影響度を踏まえた上で、複数区分(★3~5)に分けることを想定。具体的には、(1)ビジネス観点(データ保護・事業継続における重要度)(2)システム観点(接続の有無)の二点で整理。
      • これらの考え方や、海外での類似制度(英Cyber Essentials)や各産業のガイドライン(自工会・部工会ガイドライン、他分野別ガイドライン等)の内容を踏まえつつ、NISTの「サイバーセキュリティフレームワーク0」等にも基づき、「ガバナンス整備、取引先管理、リスクの特定、システムの防御、攻撃等の検知、インシデントの対応・復旧」の観点から、★3・4の考え方、対策事項・要求項目について整理を行った。
      • ★3は基礎的なシステム防御策と体制整備を中心に構成。★4はガバナンスから防御・検知・対応まで包括的な対策とすることを想定。
        • ※★5については、より高いレベルの対策としては、前述の通り自社やサプライチェーンに対する リスクアセスメントの考え方が求められるため、各企業におけるリスクに応じて対策を講じることを求めるISMS適合性評価制度との制度的整合性も含めて、位置付け・基準を引き続き検討。
    5. 国内外の関連制度等との連携・整合
      • 先行する自己評価の仕組みである「SECURITY ACTION」(★1、★2)、「自工会・部工会ガイドライン」や前述した国際標準である「ISMS適合性評価制度」等とは、相互補完的な制度として発展することを目指す。
      • 具体的には、現在の★3・4の要求項目案は自工会・部工会ガイドラインの内容とも整合性を一定程度確保しており、同ガイドラインに基づく自己評価に際しての本制度での活用等、連携のあり方については、運営団体とも議論を進めていく。また、海外の類似制度についても、将来的な相互認証の可能性も念頭に、引き続き調査・意見交換を実施する
    6. 制度において設ける段階の考え方
      • 先行する海外制度等の分析を通じて、★3については、一般的なサイバー脅威に対処しうる水準を目指すものとして規定。
      • ★4は、初期侵入の防御に留まらず、内外への被害拡大防止・目的遂行のリスク低減によって取引先のデータやシステム保護に寄与する点や、サプライチェーンにおける自社の役割に適合した事業継続を推進している点を改めて明確化。
      • ★5については、より高度なサイバー攻撃への対応として、自組織のリスクを適切に把握・マネジメントした上で、システムに対する具体的な対策としては既存のガイドライン等も踏まえた上で現時点でのベストプラクティスに基づく対策を実行する形を想定(★3・4の精査も踏まえ、今後さらに具体化)。
      • 上位の段階はそれ以下の段階で求められる事項を包括するため、例えば、★3を事前に取得していなければ★4を取得できないという関係とはならない。

ランサムウェア攻撃による被害が高止まりしています。一方で、実際に身代金を支払った割合は低下傾向にあるようです。その背景として、(1)企業のサイバーセキュリティ対応能力が著しく向上したこと、(2)企業が攻撃者との交渉において、正しい判断ができるようになったことの2つが考えられます。まず、企業はランサムウェア攻撃を受けた際に、攻撃者から提供される復号ツールに依存せず、自力でデータやシステムを復旧できるケースが増加しています。また、「盗まれたデータを公開しない」「今後の攻撃から保護する」といった攻撃者からの約束が、実際には何の保証もないといった理解も進んでいます(さらに日本の場合、保険で免責になっていることや「反社会的集団への利益供与はしない」との倫理が浸透していることが大きいと考えられます)。こうした無形の約束に対して身代金を支払うことへの慎重な姿勢が、全体に広がっているのです。加えて、ランサムウェア攻撃のリスクを認識した企業がセキュリティ対策やインシデント対応に投資を強化した結果、身代金を支払わなければならないほど深刻な被害を受けにくくなってきています。一方で、身代金の支払い総額は高止まりしたままです。身代金を支払う企業の割合が減少しているにもかかわらず、総額が増加している背景には、一度身代金を支払った企業が繰り返し標的にされる傾向があることが指摘されています。一度でも支払いに応じた企業は「交渉可能」とみなされ、再攻撃のリスクが高まるのです。そのため、支払う企業の数は減少しているものの、一企業あたりの支払額は増大する結果となっています。ガートナージャパン株式会社が2024年7月に公開した調査結果によれば、「身代金の支払いを行わない」という方針をルール化している企業の割合は、わずか22.9%だったことが明らかになっています。身代金を要求された際の具体的なルールが示されていない場合、現場で即時判断を迫られ、冷静さを欠いた結果、身代金を支払ってしまう可能性が高まります。そのため、経営陣の意見も取り入れつつ、身代金を要求された際の対応マニュアルを事前に作成しておくことが望ましいといえます。また、対応マニュアルの作成にとどまらず、従業員への定期的なトレーニングを通じて実効性を持たせることも求められます。その他、ランサムウェア攻撃による影響を軽減するためには、身代金を要求された際の対応のルール化に加え、「日頃からのバックアップ取得」「アクセス権限の最小化」「アンチウイルスとEDR(PCやサーバー(エンドポイント)の状況、通信内容などを監視し、異常や不審な挙動があれば管理者に通知するセキュリティ技術)の併用」「インシデント対応計画の策定」などの対策を行うことが重要です。

NECとKDDIは、国内最大規模のサイバーセキュリティ事業の協業に向けて基本合意したと発表しています。企業や政府機関向けに純国産のセキュリティーサービスを共同で提供する方針だといいます。NECは海底ケーブルや防衛向けシステムで高いシェアを持ち、KDDIは欧米など10カ国以上でデータセンターを運営しており、顧客企業のサプライチェーン全体を世界で守る安全保障の「黒子」に期待が高まります。サイバー防衛力の評価ツールを手掛ける米セキュリティ・スコアカード(SSC)が2023年9月から2024年9月を対象に実施した調査によると、日本国内のサイバー被害のうち取引先が原因だった割合は41%に上り、全世界平均(29%)を大きく上回る状況だといいます。また、両社は、ウクライナ情勢や台湾有事の可能性など地政学上の不安定さに対応し、日本の経済安全保障の強化にもつなげるほか、生成AIがさらに普及すれば、インフラとなるクラウドのセキュリティ対策はますます重要になることをふまえ、サイバー攻撃の予兆がないかといった通信監視活動や、異変を分析して攻撃元をつきとめる対処、サイバー防御に関するインテリジェンスの収集などで企業を支援、両社が培ってきたAIの知見も生かし、政府や企業のネットワークやシステムの脆弱性を分析したり、サイバー攻撃リスクの深刻度を自動でスコア化したりする作業にAIを活用、日本ではまだ労働集約的なサイバー防衛の業務の効率化につなげるといった狙いがあるといいます。国内ではサイバー攻撃を未然に防ぐ「能動的サイバー防御」の導入に関する新法案が今国会で成立する見通しであり、法施行後はサイバー攻撃を受けた企業に政府への報告などが義務付けられることになります。両社はこうした企業の体制づくりの支援にも乗り出すといいます。また、能動的サイバー防御が認められると、国は平時から通信を監視し、サイバー攻撃の兆候などがあれば、独立機関の承認を受けた警察や自衛隊が攻撃元のサーバーにアクセスして攻撃を無害化することになりますが、両社はこうした国の取り組みとの連携を強めるとしています。

インスタグラム、X、ユーチューブといったSNSアカウントの有償取引が横行しており、フォロワー数が多いアカウントは広告収入を期待でき、「不労所得」を得られるといわば投機の対象になっているといいます。多くのSNS運営会社は売買や譲渡を規約違反としていますが、取引の事実を特定するのが難しく、野放しなのが現状だといいます。SNSによっては、フォロワー数が多いアカウントは広告収入が見込め、企業から有料で宣伝告知を依頼されるケースもあり、人気アカウントを手っ取り早く「買収」することで、継続的な収益を得ようとしているものです。一方、仲介サイトの信頼性の問題や、悪意ある相手方に一方的にアカウント情報を奪われるリスクもあり、実際SNS上では、こうした仲介サイトを利用し、代金を支払ったのに肝心のアカウント情報が開示されず、逆にアカウント情報を伝えたのに代金を振り込んでもらえない、といったトラブルを訴える投稿も散見されています。さらに、反社会的勢力に個人情報が漏れ、犯罪に巻き込まれるリスクも否定できない状況でもあります。アカウント売買の横行について、運営者側が「積極的に規制すべきであり、少なくとも、管理するSNS上で売買を勧誘するアカウントがあればそれを凍結し、仲介サイトにも「積極的な対抗措置を取るべきだといえます。

朝日新聞社が実施した全国世論調査(郵送)で、「政治に関するSNSや動画の発信が増えることは、日本の政治にどんな影響があると思いますか」との質問について、「とてもよい影響」が9%、「ややよい影響」が38%、「やや悪い影響」が35%、「とても悪い影響」が9%となり、「よい影響」は合わせて47%、「悪い影響」は44%と、評価が割れる結果となりました。年代差が明らかで、18~29歳では「よい影響」は72%で、「悪い影響」の24%の3倍に上る一方、高齢層ほど「よい影響」は減り、70歳以上では26%で、「悪い影響」は64%と、逆転したといい、大変興味深いといえます。「政治や社会についての情報を知るのに、ふだん利用しているメディア」(複数回答)については、新聞(ウェブサイトも含む)は48%、テレビ(同)は81%、雑誌(同)は11%、「ヤフーニュースやLINEニュースなどのインターネットのニュースサイト」は58%、「Xやフェイスブック、インスタグラムなどのSNS」は20%、「ユーチューブなどの動画サイト」は25%などとなり、新聞・テレビなど利用限定層をみると、「よい影響」は26%にとどまり、「悪い影響」の61%が大幅に上回った一方。SNSなど利用限定層では、逆に「よい影響」は78%に上り「悪い影響」の17%を引き離す結果となりました。筆者の印象としては、SNSを使いこなすほどリスクに対する感度が鈍磨しているのではないかと感じています

生成AIを悪用したプログラムで「楽天モバイル」の通信回線が不正契約された事件では、中高生がSNSで簡単に違法情報に接触し、サイバー犯罪に関与している実態を浮き彫りにしました。「学校になじめず、ネットが居場所になっていた子も多かった。承認欲求に駆られ、エスカレートしたのではないか」と警察幹部が指摘していますが、専門家は情報モラル教育に加害防止の観点も必要になると指摘しています(筆者が以前から指摘しているとおりです)。一連の捜査では、年齢も居住地も様々な少年らが、オンラインゲームやSNSでつながった三つのグループの存在が判明しています。滋賀県米原市の当時の中学3年生(15)ら中高生3人は、不正接続と契約を行うプログラムを開発、匿名性の高い通信アプリ「テレグラム」を通じて知り合った人物から購入した他人のIDとパスワード(PW)を使って楽天の約2500回線を入手し、SNSで売却しました。この手口をまねたのが、ネット上で中傷やサイバー攻撃を行う無職少年(17)らで、中高生にSNSで接触してプログラムの提供を受け、今度は楽天のIDを入手、同様に回線を売却しています。米原市の中学生らが売却した回線の一部は、SNS上で流通し、東京都内の高校生ら別の少年グループによってチケット詐欺に悪用されていました。報道で、一連の事件を捜査した警視庁幹部は、「SNSで結び付いて犯罪を繰り返しており、もはやトクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)だ」と語っている点が興味深いといえます。摘発された少年らは、独学でプログラミングや犯罪の知識を得ており、オンラインゲームやその連絡に使うSNS「ディスコード」を通じて関係を深めたといい、ゲームの攻略法を披露しあうなかで、犯罪手口の情報も交換するようになったといいます。三つのグループが、回線の販売やチケット詐欺で違法に得た額は計約2000万円に上り、一部の中高生らは、犯罪収益を暗号資産に交換し、オンラインカジノに使っていました。一方、分け前を得ず「技術を認めてほしかった」と話す中高生もいました。また、テレグラムの「チャンネル」と呼ばれる掲示板には、他人のIDやPWが国別やSNS別に整理されて販売されており、偽サイトに誘導して個人情報を抜き取る「フィッシング」などで流出したものとみられています。専門家は、「個人情報の売買は主にダークウェブ(闇サイト)上で行われてきたが、テレグラムに移った」と指摘、テレグラムに書き込まれたサイバー犯罪関連のメッセージは2022年、約19億件に上り、3年前の2019の約70倍に達したといいます。

AIや生成AIを巡る各国の動向から、いくつか紹介します。

  • AIの開発促進と安全確保の両立をめざす「AI関連技術の研究開発・活用推進法案」が衆院本会議で与野党の賛成多数で可決、参院に送付され、今国会で成立する見通しとなりました。AIによる著しい人権侵害を確認した場合に開発事業者や活用事業者らを公表することが可能になります。AIの開発促進や規制に関する初めての立法措置で、過度な規制を避けるため事業者への罰則は見送られています。AIを安全保障上重要な技術と位置づけ、開発力を高めて国際競争力の向上につなげるとの理念を掲げ、全閣僚で構成して首相が本部長を務めるAI戦略本部を設置し、研究開発を進めるための基本計画を策定することになります。なお、近年AI技術を悪用した性的画像・動画「ディープフェイクポルノ」が広がっていることから、対策強化を政府に求める付帯決議もあわせて採択されています。委員会の審議では、ポルノ画像や動画の出演者の顔を別人の顔にすり替えるなどした「ディープフェイクポルノ」が強く問題視されました。日本では直接規制する法がないため、現行の法律で可能な対応や、新たな法規制の必要性が焦点になりました。
  • EUの執行機関である欧州委員会は、世界で初めて導入したAI包括規制の簡素化をめざすと発表しています。欧州企業を育成するため、煩雑な企業の手続きなど規制の一部緩和に取り組むとしています。EUは2024年5月にAI規則を成立させ、8月に発効しました。AIのリスクを4段階に分け、人権侵害など「許容できないリスク」が生じるAIの利用を禁じるもので、子どもや障害者らの弱さにつけ込むような悪用も認めず、悪質な違反には罰金を科すとしています。また、人間のプロファイリングを行うAIなど「高リスク」とみなされた製品をEU市場に投入する場合、企業にはリスク管理の仕組みの導入などが求められ、産業界からは手続きの負担が多くなると不満が出ていたもので、欧州委は事務負担を軽減することで、企業が円滑にAIを開発したり、利用したりする環境を整えるとしています。背景にあるのは、欧州のAI産業の出遅れで、米国ではオープンAIなど新興企業が多く生まれ、中国もDeepSeekが低コストの生成AIモデルを開発するなど米国と競っています。欧州委はまずは規制の簡素化を通じた企業の負担軽減を主眼とし、リスクに応じた企業の義務など規制の骨格は変えない方針としています。欧州委は2025年2月、環境や人権分野への対応に関する規制の一部緩和も発表、サプライチェーン上の環境・人権デューデリジェンス(DD)を義務化する指令の内容を見直し、施行時期も延期しています。フォンデアライエン欧州委員長ら執行部にはAI分野と同様、EUの厳しい規制が欧州企業の競争力をそぐとの危機感があり、欧州委はさらに他の規制でも簡素化措置を準備するといいます。
  • トランプ米政権は、移民の追跡、拘束を目的とした監視システムとAIの活用を強化、これにより正確性やプライバシーを巡るリスクが高まり、ほぼだれもが取り締まりの対象になりかねないとの懸念が浮上しています。国土安全保障省(DHS)をはじめとする移民管理当局は、公共の場に設置された顔認識スキャナーや南部国境で人間の動きを監視するロボット犬といったAIツールを、不法移民取り締まりの一環だと主張して利用しています。移民当局が使用する多くのAIツールは数年前から導入されていますが、現在、これらのツールの「対象範囲が大幅に拡大」しているうえ、収集されたデータにアクセスできる当局者の層も広がっているとの指摘があります。強化された監視網には、移民のソーシャル・メディア・アカウントを監視して個人情報を収集するバベル・ストリートのような民間請負企業のサービスも含まれています。DHSや米税関・国境取締局(CBP)などの機関は収集された情報を利用し、移民の所在地を追跡して家系図を作成したり、逮捕令状や強制送還の決定を正当化したりしています。デジタル権利擁護団体は、AIツールが「幻覚」と呼ばれる偽の回答を生成する傾向をあり、移民取り締りなど精度が求められる状況での使用は危険だとし、トランプ大統領が就任して以来、不正確なAIデータに基づいて移民当局が行動した事例が数多くあると、権利擁護団体は指摘しています
  • オーストラリア・シドニーのラジオ局が、生成AIで作成した女性を実在の人物と偽り、半年にわたり音楽番組の司会者としてひそかに使用していたことが批判を浴びています。ラジオ局はアジア人女性の写真と共に番組を宣伝、名字や経歴が紹介されないことや、話し方の特徴からリスナーが不審に思ったもので、有識者は「才能ある人材も多いのに貴重な役割をAIに渡すとは」と嘆いています。
  • 米セキュリティ会社「セキュリティー・ヒーロー」によると、2023年にネット上で確認されたディープフェイク動画は9万5820件で、うち98%は性的なもので、国籍別の被害で日本は全体の10%、韓国の53%、米国の20%に次いで3番目に多くなっています。被害が深刻化する韓国では2024年、ソウル大の卒業生の男らが卒業アルバムなどを悪用し、同窓生を含む60人以上の女性の性的ディープフェイク画像を流布したとして起訴され、その後、ディープフェイクの所持や視聴が厳罰化されています。また英国は2025年、子供の性的ディープフェイクを生成するAIツールの作成や所持などを世界で初めて違法とする法律を制定する方針を示しています。摘発も強化されており、欧州刑事警察機構(ユーロポール)は2025年、生成AIによって作成された児童虐待画像をインターネット上で販売したなどとして、容疑者25人を摘発、同2月には、日本で開かれた子供の性被害防止セミナーで、ユーロポールの捜査官は「AIの脅威は無視できない。社会で議論が必要だ」と述べています。国内では、鳥取県が生成AIで子どもの写真を使ったわいせつ画像の作成や提供を禁止する青少年健全育成条例を同4月に施行、県は国にも同様の規制を設けるよう求めています。
  • 2025年5月4日付朝日新聞で、フェイク情報を研究する国立情報学研究所の越前功教授は、じわじわと「信頼できる情報源の書き換えが進む」とみています。生成AIを利用してSNS上の複数アカウントで言説を広めてインフルエンサーらに取り上げさせ、それをメディアが報じるという事例が海外で起きているといい、報道内容は生成AIの出典資料となり、言説が再生産されていくことになります。実際、ネット上には特定の意図をもった偽物があふれており、越前教授は「専門家でも判別が困難なものを誰でも作れ、人々の思考がいつのまにか誘導される。長い目で見れば、生成AIは言論を揺るがす最大の脅威となりうる」と指摘しています。まだ問題化していませんが、生成AIを使ったプロパガンダ的な歴史改変は、容易に起こりうる状況にあります。過去の画像らしき偽物を作り出すこと自体に、技術的なハードルはなく、一般の人にはまったく違和感が無いものができ。専門家は見抜くかもしれないが、それらのファクトチェックは拡散しないという状況です。サイバー空間で言説を誘導して人々の思考を微妙に変えることは、戦略上とても重要で、実際にロシアでは問題になっています。生成AIでそれぞれ別個のペルソナ(人格)を設定したSNSアカウントを複数つくり、協調操作してある種の言説を広める、言説をインフルエンサーが取り上げれば、メディアが「こんな意見がある」などと報じ、「信頼できる情報源」にいったん載ってしまえば、あとは生成AIがその情報を拾ってくるという循環が生まれます。そして、偽情報の洪水で、ファクトに当たることが困難になり、偽の言説が人間の内部までに浸透し、思想を偏らせることになります。その影響は破滅的で、歴史の歪曲も含め、いま「知」とは何かが問われており、誰もが言説を拡散できる時代にあって、記者や専門家が、信頼できるソースに当たって記録を残す行為がとても大事になります。

(6)誹謗中傷/偽情報・誤情報等を巡る動向

ネットの表現空間の健全化をめざし、日本では2025年4月1日、SNS事業者に、誹謗中傷などの投稿への迅速な対応を義務づける「情報流通プラットフォーム対処法」(情プラ法)が施行されました。新たな制度は、事業者に対し、誹謗中傷などで権利を侵害された本人からの投稿削除の申し出があれば、7日以内に判断、通知するよう義務づけています。投稿の削除やアカウントの停止件数の公表も求め、対応が不十分な場合は国が勧告・命令を出せ、従わなければ最大1億円の罰金を科すとしています。また、言葉の壁で被害者が不利にならないよう、日本語で申請できる窓口を設けさせることも定められています。有識者と健全なネットのありようを話し合ってきた総務省は2024年、(1)ネット上の偽・誤情報や偽広告の流通、拡散(2)それらの原因になるアテンション・エコノミーやフィルターバブル(3)生成AIなど新技術によるリスクの加速化-の3点を目下のリスク・問題だと指摘しました。そのうえで、関連法の整備などハード面の対応とともに、啓発教育を通じたネット利用者のメディア情報リテラシーの向上によって、被害の防止を目指しています。有識者メンバーの一人は「偽・誤情報対策には特効薬がなく、ネットに絡む全ての関係者の努力が必要だ」と対応の難しさを語っていますが、筆者も同感です。なお、総務省は情プラ法の対象事業者に、インスタグラムを運営する米メタや短文投稿サイトX、LINEヤフー、ユーチューブのグーグル、TikTokの運営企業など5社を指定しています。指定された事業者は、後を絶たない誹謗中傷投稿への対応として、被害申告の窓口整備や削除基準の明示が義務付けられます。利用者が一定の規模を超える企業が対象で、総務省は指定の追加も検討しています。誹謗中傷や偽・誤情報などネット空間の問題は海外でも共通で、各国が試行錯誤を重ねており、韓国では2000年代にネット上での匿名の誹謗中傷や名誉毀損が社会問題化、被害者が自殺に追い込まれるケースもあり、関連法の改正を経て、2007年にSNS事業者らに利用者登録時の本人確認や実名情報の保存を義務づけました。ところが、表現の自由の制限への懸念が噴出、2012年には憲法裁が改正法を違憲と判断しています。ドイツでは2017年、ネット上のヘイトスピーチ規制などを目的に、SNS事業者に対し、違法な内容の投稿を速やかに削除するよう義務づける「ネットワーク執行法」が成立、適切な対応を怠った事業者には最大で5000万ユーロ(約81億円)の高額な過料を科す内容で、それを逃れるための過剰削除につながる懸念も指摘されています

インターネット上で広がるスポーツ選手らへの誹謗中傷に対し、所属するチームや団体が対抗措置をとる動きが広がっています。刑事告訴に踏み切ったり、投稿の削除を求めたりし、賠償金の支払いにつながったケースもあります。選手が悪質な書き込みへの対応に追われることなく競技に集中できるよう、国も支援に乗り出しています。2024年のリーグ戦で3位と好成績を残したサッカーJ1・町田は、選手や監督個人の人格を攻撃する書き込みがエスカレートし、矛先はスタッフや選手の家族にも向けられ、チーム全体への誹謗中傷は、多い日には1日1000件に上ったといい、2024年10月、悪質な投稿者を刑事告訴する方針を表明、その後、数人が「軽い気持ちで書いてしまった」などと名乗り出たものの事態は収まらず、2025年2月、一部について名誉毀損と侮辱の疑いで警視庁に告訴状を出し、受理されています。2022年には、SNSでプロ野球の投手に「死ね」と書き込んだとして、投稿者が侮辱容疑で書類送検されています(投稿者は不起訴)。また、日本プロ野球選手会は2024年7月、ネット上で「消えろ」「ゴミ」などと選手を誹謗中傷する書き込みがあり、弁護士による対策チームが裁判手続きで投稿者を特定したと公表、同10月には賠償金の支払いで示談するなどしたケースが複数あると発表しています。プロバスケットボール・Bリーグは2024年11月、審判への暴行を予告する投稿があったことを明らかにし、投稿者に削除を要請、削除された後、Bリーグは弁護士を通じ、同様の行為を繰り返さないよう求めています。スポーツ庁が2024年に公表した調査によると、113の競技団体のうち約35%にあたる42団体が、人手不足などを理由に誹謗中傷防止の取り組みを実施していない結果となりました。ネット上の権利侵害に詳しい田中一哉弁護士(東京弁護士会)は読売新聞で、不正確な情報に基づく批判や、プレーと関係なく選手らの人格を攻撃する内容については、投稿者の法的責任が追及される可能性があると指摘、国際大の山口真一准教授(社会情報学)は「勝敗を決めるスポーツは、見ている人も熱くなりやすく、誹謗中傷が生じやすい特性がある」と指摘、「投稿者はSNSに書き込む前に一呼吸置き、内容を確認する習慣を身につけてほしい」と話しています。スポーツと誹謗中朝という関係では、2024年夏のパリ五輪開会式の芸術監督で同性愛者であることを公表しているトマ・ジョリ氏がSNSで性的指向に関する多くの侮辱や殺害脅迫を受け、パリ検察が捜査していた事件で、裁判所は、被告7人に有罪判決を下しています。派手な女装の「ドラァグクイーン」らが登場する場面が物議を醸し、一部保守派や極右勢力からキリスト教的価値観への侮辱とされました。2024年10月に22~79歳の男女7人が逮捕され、判決では罰金最大3000ユーロ(約50万円)に、執行猶予付きの禁錮最大4月が科されました。

2025年5月5日付朝日新聞の記事「止まらない中傷、SNSの規制か「表現の自由」か 憲法学者の答えは」は、蔵野美術大造形学部の志田陽子教授の主張で、なかなか読み応えのある内容でした。そこでは、「社会の中には、異論を言いたくても同調圧力に押されて発言できない人たちがいます。その人たちがソーシャルメディアで社会に直接発信できるようになりました。そのこと自体は言論の自由度が高まって良いことです。痛みや困難を抱えている人たちに「分断をあおるから発言するな」と抑え込むことはしてはいけない。表現の自由の否定になりますから。ただし、個人の発信は新聞やテレビのようなコンプライアンスのチェックを受けていません。名誉毀損にならないか、個人情報の暴露にならないかというフィルターを通していない発信が、直接ぶつかり合っています。異論や批判をぶつけ合うことは健全な民主主義の一場面です。しかし、言論空間や社会空間から相手を排除、排撃するのは「表現の自由」の限度を超えています。誹謗中傷によって相手の生きる気力まで奪う言論はその最たるものです」、「「表現の自由」は罰や脅しに萎縮しやすい、脆弱な権利です。人格権の侵害に対しては法的な責任を問えますが、言論に法的な規制をかけるのは最後の手段にしてほしいと思います」、「誹謗中傷というのは抽象的な言葉です。そのまま法律論に持ち込むと、言論の自由度が相当な圧迫を受けることになりかねません。また、政府がSNSのファクトチェックを担うと検閲になってしまいます。憲法21条2項(検閲の禁止)は守らなければなりません。SNSの誹謗中傷に対しては、総務省はプラットフォーム事業者にコントロールを求める考え方です。4月には、被害を受けた人への迅速な対応を求める情報流通プラットフォーム対処法が施行されました」、「現代社会ではSNSによる情報の洪水が起きています。注目を集めて経済的利益を得るアテンション・エコノミーの動きは止めようがない。憲法には幸福追求権や職業選択の自由があり、SNSで利潤を得ること自体は否定できません。とはいえ、情報の受け手はその真偽や出所を確認せずに受け止め、流されてしまう。人格権を侵害したり、民主主義のプロセスをゆがめてしまったりする。言論の自由市場の中で良識を働かせて立ち止まることができるのがオールドメディアと呼ばれる新聞やテレビです」、「現代は生きにくさの原因が見えにくく、皆が不満を抱えています。憲法には「国民は国政の福利を享受する」とあり、国民は国政がどのようになされているのか、知る権利を持っています。「表現の自由」とはそうした血の巡りを円滑にするためのルールのはずです。SNSの洪水にのまれることなく、国民の知る権利に応え、民主主義の熟議に貢献する情報を伝えるのが新聞やテレビの役割です。多くの人がSNS疲れを起こした時、帰るに値する場所として「オールドメディア」が本来の良さを堅持していてほしいと思います」というものです。

総務省の有識者会議で、デジタル空間における情報流通の諸課題について議論が進められていますが、直近では「誘導型詐欺広告」の現状が報告されていました。近年、SNS等インターネット上に表示される広告において、権利者または権利者から許諾を受けた者を装い、あたかも真正品を販売しているかのように告知し、ユーザーを個別の取引に誘導して模倣品販売を行う等の事案を誘発するような広告(誘導型詐欺広告)が社会問題化しています。国際知的財産保護フォーラム(IIPPF)が会員向けに実施した調査結果ですが、偽情報・誤情報の問題とも共通項が多く、参考なります。

▼総務省 デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会 デジタル広告ワーキンググループ(第9回)配付資料
▼資料9-2 国際知的財産保護フォーラム(IIPPF)SNS詐欺広告WG発表資料
  • 誘導型詐欺広告の認知度は8割を超えており、会員内での認知度は高い。「いいえ」の回答者でも、定義の一部である模倣品の販売があることを知らなかったり、被害が見えていないだけで調査したいなどとの積極的な意見もあり、各企業で問題視されている様子が伺われる。
  • 被害にあったことが「ある」が4%で、「ない」の25.0%と比較し、11.4ポイント上回っている。「わからない」は38.6%で、「ある」と同程度の割合である。
  • 被害のある会員で把握している件数は、「10件未満」が最多で5%、次いで「10~50件未満」が25.0%である。一方で、「300件~500件未満」や「1000件以上」と被害が大きい場合もあり、誘導型詐欺広告の被害件数は会員によってばらつきがある。
  • 「Facebook」が最多で8%。被害のある会員のほとんどで、誘導型詐欺広告が確認されている。次いで、同じMeta系列の「Instagram」が43.8%である。「YouTube」が37.5%、「TikTok(日本版)」「その他」が31.3%と続く。「その他」としては「WeChat」などの海外SNSや、スマホアプリなどが挙げられていた。
  • 「商標権」は、被害のある会員の全てで選択されており、一番侵害されやすい権利といえる。「著作権」が3%、「不正競争防止法」が31.3%と続く。
  • 「自社によるオンライン監視」は、調査をしたことがある会員のほとんどで実施されている。他の手段としては、「一般人からの通報」が5%、「ベンダー等によるオンライン監視」が13.6%であった。
  • 会員によって対応の種類は様々だが、「プラットフォームへの削除要請」は、対応を取ったことのある会員の全てで行われており、代表的な対応策といえる。また「公式サイト等での注意喚起」の対応をしている会員も多い。
  • 「不満」と「やや不満」を合わせて8%で、誘導型詐欺広告への対応を行っている会員の7割近くが、プラットフォームへの対応に不満を持っていることがわかる。一方で「満足」と「やや満足」を合わせたポイントは、12.6%と少ない。
  • 誘導型詐欺広告の実態把握の難しさや巧妙化に対する意見や、対応が追い付かないといったコメントが多く寄せられた。この状況を是正するため、プラットフォーム事業者での審査や罰則の強化、さらには法規制やルール策定について必要と考える旨のコメントもある
  • 権利者において考えられる対抗策
    • 誘導型詐欺広告の監視・調査
    • プラットフォームへの削除要請
    • 発信者情報開示請求
    • 警告状の送付
    • 刑事摘発・行政摘発
    • 民事裁判の提訴
    • ホットライン等への通報対応
    • 注意喚起
  • 発見が難しく、対策もいたちごっことなり、根本的解決が難しい。まず、広告が膨大で調査も難しいから被害を把握すること困難である。対象を発見したとしても、被害が急激に拡大するため、削除要請対応が追い付かない。加えて、根本解決のため、発信者情報開示請求をしても、真の広告主の特定に繋がらない場合が少なくないし、時間もかかる。また、国外の業者であることが多く国境を越えて侵害行為を行っている場合に国内法を適用しての摘発や訴訟が難しいという側面もある。
  • 問題点の整理
    1. 被害規模が大きく、容易に拡大
      • 悪質なケースでは1日に数百件規模で掲載されるなど、急速に拡大している。特に、生成AIや広告作成ツール、翻訳ツールの活用により、広告の作成や出稿が容易になったことで、被害の増加に拍車がかかっている。現在は被害が少ないとされる企業であっても、突如として標的になる可能性がある。
    2. 削除方法が不明瞭・煩雑
      • 特定の広告が複数のアカウントから大量に拡散されるケースが多く、それぞれに個別の削除要請を行わなければならないため、対応には膨大な時間と手間を要する。さらに、プラットフォームごとに削除手続が統一されておらず、担当者の判断によって対応が異なる場合もあり、権利者にとって削除要請の負担は大きい。
    3. 権利者において被害の実態の把握が困難
      • Metaを除き、Xをはじめとするその他のプラットフォームでは、権利者が被害を把握しきれていない可能性があり、実際の被害規模との乖離が生じている。
    4. 広告主の特定が困難
      • 広告の検索自体ができない場合、そもそも問題の広告を特定することができず、発信者情報の開示請求や警告の送付が難しい。また、広告代理店が複数介在することで、広告主の情報が隠され、ダミーの連絡先が使われるケースも多い。そのため、発信者情報開示請求を行っても、真の広告主にたどり着けない状況が続いている。さらに、誘導先のサイトが詐欺サイトである場合、テスト購入による調査もセキュリティ上のリスクが高く、容易ではない。
    5. プラットフォーム事業者の対応
      • SNS等のサービスを提供するプラットフォーム事業者(以下「プラットフォーム事業者」という。)の一部においては対応が円滑に行われているとの回答もあったが、一方で、レスポンスが悪い、削除基準が不明確、対応を待っている間に消えて同種の広告が登場するなどの不満が寄せられている。
  • プラットフォーム事業者への提言
    1. 広告主に対する審査の強化・罰則の強化
      • 誘導型詐欺広告の拡散を防ぐため、広告主の審査と罰則を強化する必要がある。広告主の情報を明示し、新規アカウント作成時の本人確認や正規代理店である証明の提出を義務付けるべきである。また、悪質な広告主に対してアカウント停止や罰則を科し、同一の詐欺広告を一斉削除できるシステムの導入などが求められる。
    2. 広告検索機能の導入、改善
      • 現状、多くのプラットフォームでは広告の検索ができず、消費者の被害通報を受けても権利者が特定・対応できないケースが多い。Metaなど一部の事業者は検索ツールを導入しており、他のプラットフォームにも同様の仕組みを導入すべきである。
    3. 削除の迅速化
      • プラットフォーム事業者は削除の迅速化や基準の公表を主体的に行い、「〇日以内に対応」など具体的なルールを策定・公開することが求められる。これはプラットフォーム対処法の立法趣旨にも合致する。
    4. 権利者との対話・情報交換の強化
      • プラットフォーム事業者が権利者の侵害状況を十分に把握できていないことが削除遅延の一因となっている。権利者との情報交換を強化し、削除要請の明確化や事前審査の強化を進めるべきである。また、日本語対応の不足や判断の困難さを解消するため、日本語対応の担当者配置や事前協議の場の設置が求められる
  • 立法・政府機関への提言
    1. ガイドラインの策定
      • 情報流通プラットフォーム対処法では一定の削除手続が規定されているが、誘導型詐欺広告への明確な基準は未整備であり、権利者の不満が多い。統一的な基準の確立には、政府主導でガイドラインを策定し、侵害行為の類型化や削除基準の明確化を進めることが重要。検索ツールの導入、削除要請への対応や異議申立てへの対応に要する日数や広告主への罰則などプラットフォーム事業者において取り組みを強化、明確化すべき事項については、法令又はガイドライン等においても明記するべきである。
    2. 発信者情報開示請求の簡易化
      • 発信者情報開示請求の制度は改善が進んでいるものの、開示までに数カ月を要し、発信者の反対意見があると開示されないなど、実務上の課題が多い。その結果、権利者は誘導型詐欺広告の広告主を特定できず、迅速な対応が困難となっている。
      • 現行制度では意見照会が義務付けられているが、「権利侵害が明らか」な場合は照会を省略できる仕組みや、広告主の事前同意を取る制度など、法令や運用の改善が求められる
    3. 外国政府との連携
      • 侵害者が海外にいるが侵害は日本で起きているため、国内外で有効な対策が講じられない状況が続いている。これに対応するため、我が国の政府機関と外国政府・取締機関が情報共有を強化し、国境を越えた執行や摘発を可能とする条約の締結や体制整備を進めることが求められる。
    4. 消費者への啓発
      • 権利者のブランド毀損だけでなく消費者への深刻な影響も及ぼしていることから、啓発は重要。
  • 協力体制の構築
    • これまで、模倣品の問題においては、日本の権利者とECサイト等のプラットフォーム事業者が協議を重ねて、権利侵害情報が速やかに削除される体制が構築されてきた歴史がある。
    • この点、誘導型詐欺広告においては、広告が出現するプラットフォームが国外の事業者が運営するものであるため、日本の権利者との協議ができていないことにも一因があると思われる。
    • IIPPFは、模倣品・海賊版等の海外における知的財産権侵害問題の解決に意欲を有する企業・団体が業種横断的に集まっており、さらに我が国の政府、及び海外との政府機関等とも連携しており、この協力体制の母体となり得る。

2025年4月、SNS最大手の米メタ(旧フェイスブック)は、外部機関が投稿の事実関係を検証する「ファクトチェック」を米国で廃止したと発表しています。真偽の疑わしい投稿に利用者が注釈を付ける「コミュニティーノート」の適用を段階的に広げています。新たな仕組みには、偽情報氾濫への懸念がつきまといます。メタは2025年1月、コミュニティーノートへの移行を発表、ザッカーバーグCEOは、ファクトチェックについて、違反に関する判断の誤りや行き過ぎがあったと説明、新たな仕組みは、フェイスブック(FB)、インスタグラム、スレッズの傘下SNSで展開されます。メタの説明によると、コミュニティーノートは、誤解や混乱を招く投稿に対し、登録したユーザーが注釈を送付、意見が異なる登録者の「十分な数の同意」が得られた場合に公開されるもので、いじめや嫌がらせなどを含む注釈は削除されるといいます。コミュニティーノートは、実業家イーロン・マスク氏が買収したXが先行導入、スペインのファクトチェック団体「マルディタ」は、2024年6月の欧州議会選挙で偽情報が記された投稿の15%にしか注釈が付かなかったとの調査結果を公表、マルディタは「コンセンサス(複数の人の合意)を真実と同一視することで、ユーザーから貴重な情報を奪っている」と指摘、SNSの普及で情報があふれる中、人々が客観的事実よりも感情や信条を優先させる対応に警鐘を鳴らしています

台湾の情報機関、国家安全局は、中国がAIを利用して台湾に関する偽情報を拡散し、台湾住民を「分断」しようとしていると指摘しています。2025年に入り50万件以上の「物議を醸すメッセージ」を国家安全局が検知したとしています。中国は同3月の頼清徳総裁の中国に関する演説や、台湾積体電路製造(TSMC)の対米投資の発表といった機微なタイミングで、「(台湾)社会に分断を生む」目的で「認知戦争」を仕掛けたと指摘しています。「AI技術の応用が広まり成熟するにつれ、中国共産党がAIツールを使って物議を醸すメッセージの生成と拡散を支援していることも判明している」と述べています。さらに中国が台湾に対し「グレーゾーン」戦術を強化し、中国海警局船の台湾海域侵入や台湾に気球を飛ばす事案が2025年に急増したと指摘、台湾軍はその対応に追われ消耗しているといいます。

ミャンマーで205年3月に起きた大地震の後、混乱に乗じて営利目的でSNSに偽のニュースや動画を投稿する動きが広がっているとデジタル活動家らが警告しています。センセーショナルな画像、偽の救出劇の演出などによって恐怖心をあおったり、関心を高めたりしており、閲覧者が多い場合には作成者は数万ドルの広告収入を得る可能性もあります。専門家はロイターの取材に「偽の情報で金儲けをしている連中がいることを認識すべきだ」、「オンラインのコンテンツを規制している法律はほとんどなく、IT企業は人々の保護にあまり取り組んでいない」と問題視していますミャンマーは10年間の発展と不安定な民主主義を経て、2021年のクーデターで軍が権力を握って経済が壊滅、この地震は人口5300万人の貧困にあえぐ東南アジアの国にとって、大きな打撃となりました。ミャンマーでの誤報やヘイトスピーチに対抗するフェイスブックページを運営する草の根団体「デジタル・インサイト・ラボ」は、シリアやマレーシアで撮影された動画や、AIで作成された動画が拡散していると述べています。また、IT政策グループのホワット・トゥー・フィックスによると、SNS運営会社とコンテンツクリエイターが2024年に得た広告収入は、200億ドル(約3兆円)を超えたといい、ミャンマーの地震を巡る虚偽情報を監視している団体の創設者、ビクトワール・リオ氏は、コンテンツクリエイターはFBやインスタグラム、TikTokなどを利用し、投稿と一緒に表示される広告から収益の一部を得ていると指摘しています。たとえ虚偽の内容や、AIが生成した虚偽のコンテンツでも、閲覧回数が伸びるほど収入を多く得られる仕組みで、正確な金額を算出するのは難しいものの、2021年のミャンマーでのクーデターといった過去の有事では、こうした「詐欺師」らは数万ドルを稼ぐことができたとリオ氏は指摘しています。ファクトチェック会社ニュースガードと分析会社コムスコアの2021年の調査によると、誤情報ウェブサイトは毎年デジタル広告から26億ドルの利益を上げているといい、「ミャンマーの現状では、出回っている偽情報の大部分は金銭目的だ」という残念な状況です。

誤情報や偽情報を拡散してしまう心理的な要因について分析した日本経済新聞のシリーズから、いくつか紹介します。

  • 2025年5月8日付日本経済新聞の記事「事件現場を見たい気持ちが誤情報を生む 真偽に勝る好奇心が人間の性」では、「人間は好奇心が旺盛な動物だ。真偽が分からない事件の噂話にも興味を持ち、その現場を見てみたくなる。そんな人間の性(さが)は、誤情報を生む根源でもある」と指摘しています。「100年以上昔の関東大震災では火災に巻き込まれる人々の捏造写真が作られ、公的な文書に載るまでに広がった。時代を経ても変わらない人の欲望は、SNSやインターネットの普及で一層膨らむ」、「AIが生み出す本人と見まがう偽動画は、多くの人を欺く。ただ歴史を振り返ると、偽写真などの誤情報は情報通信技術が発達する以前から社会に広がっていた」、「なぜ偽写真が生まれたのか。沼田さんは「人間の心に潜む怖いもの見たさが一因だ」と分析する」、「心理学では誤情報を含む流言は内容が曖昧で、重要な情報を含むほど広がりやすいとされる。情報の正確さは問われない。人命や財産に関わる火災現場の写真は関東大震災に遭遇した人々にとって重要だが、報道による情報の発信は不十分だった。人々の好奇心をあおり、誤情報が広がる条件がそろったときに写真が捏造されたのかもしれない。それから100年余りを経た現在も、人間の心理は変わらない。むしろ、進化した技術が欲望をあおり、誤情報を拡散する。2024年1月に起きた能登半島地震では、SNSを通じて虚偽の救助要請や寄付を求める誤情報が飛び交った。誤情報は好奇心や金銭欲といった人間の性を映し出す鏡だ。渋谷准教授は「対策に特効薬はない。ファクトチェックや、SNSを使う人のリテラシーの向上など、複数の手段を組み合わせる必要がある」と話す。現代人は大量の情報があふれる社会で生きる。物事の真偽を問わずに知りたいと欲する性を自覚して振る舞うことが求められている。地震の直前にXの仕様が変わり、インプレッション(閲覧回数)を稼ぐと金銭的な利益を得やすくなった。東京大学の渋谷遊野准教授は「昔ながらの愉快犯や善意の情報伝達に加え、金銭目的で誤情報を広げる人が増えた」と分析する」というものです。誤情報は人間のもつ「性」であり、それを自覚して振る舞うこと、やはりリテラシー向上に向けた啓発が重要であることなど、参考になります。
  • 2025年5月7日付日本経済新聞の記事「SNSに巣くう誤情報を正せない 過ちを認めたくない心理が助長」では、「フェイクニュースなどの誤情報は、現代社会を動かすSNSに巣くう病理だ」との指摘から入ります。「人々は訂正記事を読むのを避け、ネットを検索すると誤情報がより真実味を帯びる。自分の過ちを認めたくない人間の心理が、誤情報の訂正を難しくしている」というこちらも人間の「性」として興味深いものです。「誤情報は誤解や勘違いにより多くの人々に拡散した、内容が間違った情報だ。個人や社会に危害を加える目的などで意図的に偽って作る偽情報を含むこともある。情報の内容が虚偽であるほかに、記事の見出しと内容が異なったり、誤解を誘う表現を使ったりする。「迷惑な誤情報はすぐに正すべきだ」。そんな声が出るが、簡単に事は運ばない。認知科学などの研究を通じて、誤情報を訂正できない可能性が見えてきた」、「なぜ人々は訂正記事を無視するのか。名古屋工業大の田中優子教授は「先入観や仮説を肯定するために、都合が良い情報を集める確証バイアスに近い状況かもしれない」と分析する。SNSやネットは読者が好む記事を選んで示す仕組みを備え、偏りが生じやすい。他人が誤解を解けないなら、自力で事実を調べるしかない。その選択肢を否定しかねない研究も出た。米セントラルフロリダ大学などは23年に英科学誌ネイチャーに掲載した論文で、ネットを検索すると誤情報を信じる人が増えるという研究結果を示した」とかなり驚くべき研究結果に驚かされます。「誤解が深まる理由は何か。研究チームは「誤った記事の見出しやURLを検索にかけるためだ」と話す。例えば「新型コロナ対策で都市を封鎖し、人工的な飢餓が生じる」という見出しの「engineered famine(人工的な飢餓)」という言葉を検索すると、信頼できない記事が多く表示された。「検索の方法を工夫しないと、質が悪い情報源に当たりやすい」と警鐘を鳴らす。これらの科学研究から垣間見えるのは、自らの過ちを認めたくない人間の心理だ。自分が信じる内容や価値観に反する情報に目を向けず、特定の見方に凝り固まる。ネットの普及で先入観に合致する情報を簡単に見つけられるようになり、その心理を保ちやすくなった。ただ、誤情報を正すのが難しいとしても、その数を増やさない努力はできる。あらゆる情報の真偽を確かめる時間は無いが、日本ファクトチェックセンターの古田大輔編集長は「真偽が分からない情報をSNSで拡散するのを踏みとどまることはできる」と話す。同センターなどの調査で誤情報を拡散した理由を尋ねると「興味深いと思った」「重要だと感じた」などの回答が多かった。悪意で誤情報を広げる人は少数だ。SNSが不特定多数の人々をつなぐ現代は、善意で伝えた情報も混乱を生む。情報の威力を理解する必要がある」というものです。こちらも、誤情報の拡散のメカニズムとして説得力ある内容でした。

その他、誤情報・偽情報を巡る論考が多数ありましたので、いくつか紹介します。

  • 2025年4月6日付読売新聞の記事「【デジタル影響工作】偽情報氾濫する「終焉」危惧…小説家 一田和樹氏 66」では、「情報空間のリスクが深刻化している。SNS上に偽・誤情報が拡散し、生成AIの普及でより増大すると危惧されている。偽・誤情報などを蔓延させて社会を不安定化させようとする「デジタル影響工作」は今、国家にとって最大の脅威の一つになりつつある」と指摘しています。ウクライナのサイバー戦を担う幹部をインタビューし、ロシアによる影響工作やウクライナの対抗手段を聞いたところ、同国政府の信頼をおとしめようとする影響工作に対し、国民からの信頼を維持するには「透明性のあるコミュニケーションと法律が重要だ」と強調していた点だといいます。国家を狙ったデジタル影響工作は、ロシアや中国、イランといった権威主義国だけでなく、米欧でも行われ、アジアやアフリカなどの新興・途上国「グローバル・サウス」では、国内の世論誘導や政党間の争いにも用いられています。また、影響工作の手口も巧妙化しており、ロシアはあえて発見しやすい偽・誤情報を流し、メディアなどに報道させることで情報不信を広げる「パーセプション・ハッキング」を行っているとされます。「パーセプション・ハッキングは、(1)「やはりロシアが関与しているかもしれない」と対象国の人たちに思わせ、情報への疑念を抱かせる(2)情報そのものへの不信感を広げ、発信する側の政府やメディア、専門家への信用を低下させる(3)民主主義や国の体制そのものへの不満を増大させ、社会を不安定化させるのが狙い」だといいます。さらに、偽・誤情報の広がりを一段と悪化させているのが生成AIであり、本物のような偽の画像や動画を簡単に作れる上、自動でSNSのメッセージを生成し投稿でき、AIにより偽・誤情報が世の中にあふれれば、「正しい情報だ」と誤って信用し拡散する人が増え、ますます氾濫する恐れがあるといいます。情報空間の中で偽・誤情報の占める割合が半分を超えると、主流派になり、新たな「事実」となってしまうといいます。リテラシーをいくら向上させても、情報の真偽の判断は難しくなるということです。また、日本では、偽・誤情報の早期発見、攻撃アカウント・投稿の削除、ファクトチェックに重点が置かれ、SNS事業者に偽・誤情報への対応を義務化することも検討されているものの、対症療法にすぎず、まずはその標的となる国内の諸問題を解消することこそ重要で、その上で、社会の信用基盤を再構築することが不可欠だといいます。信頼を取り戻すには、透明性を向上させなければなりません」、「メディアも、何をどれだけ報道し、報道しなかったかを読者・視聴者が把握できるよう、定期的に「透明性リポート」を出すべきです。各社が出せば、実際の被害や影響と比較し、取り上げる量が適切かといった議論もできます。偽・誤情報は爆発的に増えています。リスクが低いうちに基礎的な対策を取り、影響を受けにくい社会にするのが理想です。手遅れにならないよう、早急に政府、国民、メディアが相互に信頼できる態勢を作ることが求められます」との指摘はそのとおりだと思います。
  • 2025年5月1日付毎日新聞の記事「「つまらないが、事実」の話を流通させる 小泉悠氏の情報戦略」では、「日本人は勤勉なので、正しい情報を出すシンクタンカーはいるが、その政策情報を意思決定者に打ち込むロビイストはいない。自分と似た意見や思想を持った人が集まる「エコーチェンバー」のように、どんな情報も、面白い話や、陰謀論のような過激な方へ流れていきます。SNSで、人の怒りをあおり、PVを稼ぐ。正しくない話の方が波及します。「つまらないが、事実」の話をどう流通させるかが問われています」、「正しいことは、すごくつまらない。だからこそ、こうしたつまらなさに耐えるのが、今、とても重要だとも思うんです。特に、専門家や学者、私のような小説家も含めて、膨大な情報を収集し、知識を提供する立場にある者ほど、この耐えがたさに耐えて「つまらないが、事実」を積み上げるということが切実に問われている気がします。それに、こうした地道な積み重ねで全体を見渡すことこそ、不健全な希望にあおられるがまま暴走する政治の防波堤になり得るのでないかとも」というものです。こちらも筆者が日頃から感じていることを言語化されていたと感じました。
  • 2025年5月2日付朝日新聞の記事「フェイクニュースを見抜くコツ 古田大輔さんが勧める「三つの確認」」では、「新聞社やテレビ局が様々な情報にアクセスできるのは、市民の知る権利に奉仕するためです。マスメディアの人たちと話すと「ネット上のうわさを、なぜ我々が検証しないといけないのか」という声をよく聞きます。これだけ世の中に偽・誤情報があふれ、情報生態系の汚染に民主主義社会そのものが苦しんでいるのに、特権を与えられた報道機関が何もしないのは、役割の放棄じゃないでしょうか」、「ウソは一瞬でつけますが、検証するには時間がかかるため、ファクトチェックは偽・誤情報対策としては不十分です。だまされる人を減らすことが重要です」、「偽・誤情報は数が多く、センセーショナルな見出しで拡散しやすいのですが、ちょっと調べればウソだと分かるものがほとんどです。三つの確認を実践してほしいです。一つ目は「発信源の確認」。能登半島地震ではウソの救助要請が拡散しました。その発信者は直前の投稿が外国語だったのに、急に日本語に変わっていました。不自然です。発信者が本当にそこにいるのか、発信する情報を知りうる立場か確認しましょう。二つ目は「根拠の確認」。根拠を示さずに断定的なことを書いていないでしょうか。投稿に記事リンクが張ってあっても、その記事には根拠が全く書かれていないことがよくあります。三つ目は「関連情報の確認」です。災害時に情報が集まるのは消防や警察や自治体や国、またはそれらを直接取材している報道機関です。気になる情報を見つけたら、その情報に詳しいであろう機関が出している関連情報を調べましょう」というものです。ファクトチェックの不十分性をふまえ、「だまされない人を増やすこと」が重要であるとの指摘はそのとおりで、とりわけ「三つの確認」が参考になりました。
  • 2025年5月3日付産経新聞の記事「SNS上で進むメディア不信 マスメディアは「手の内」見せよ 立命館大・飯田豊教授」では、「新聞やテレビには公職選挙法や放送法を踏まえて候補者を公平に報じるという慣例があり、選挙中の報道には抑制的にならざるを得ない。そのためSNSで流布される真偽不明の情報に対して十分な検証報道ができず、「メディアは真実を隠している」といった陰謀論の拡大にも歯止めをかけられなかった。選挙報道に限らず、事件報道などでもマスメディアはプライバシー保護の責任などのために意図的に抑制的な報道をせざるを得ないことがある。そしてネットの発達以前、マスメディアが「伝えるべきではない」と判断した情報は基本的に国民は知り得なかった。だがSNS社会では、マスメディアが然るべき判断のもとに報じなかった情報でさえ広く一般に流布されてしまう。そしてそれが「マスコミが隠す不都合な真実」という捉え方をされることがあり、メディア不信を加速させている。一方で現在、SNSで信頼に足る情報を集めるのは困難だ。トランプ政権の成立に前後し、プラットフォーム側がファクトチェックの取り組みを後退させており、今後数年間で状況は一層悪化する恐れがある。相対的に、選挙を巡り統計に基づいた世論調査や大局的に見た報道を行えるマスメディアの重要性は高まっていく。だからこそ、有権者に求められるメディアリテラシーも変わってくる。従来は「メディアの情報を疑い、真偽を見抜く」ことが必要と言われてきた。しかし、マスメディアは基本的には信頼できる情報源だというコンセンサス(合意形成)が失われている現代社会では「メディアの情報を疑う」という考え方そのものがメディア不信を助長し、かえってSNSで流布されるフェイクニュースを受け入れる下地となってしまっている。その代わりに求められるのが、マスメディアの報道の基準や特性を理解し、またSNSが偽情報で溢れていることを認識するというメディア論的なリテラシーだ。マスメディアがいかにプライバシーや公平性に配慮して事件や選挙の報道を行っているか。いかに日常的にファクトのチェックを行っているか。その限界や弊害まで含めて理解することで、SNSもより安全に賢く利用できるようになるはずだ。そこで、マスメディアには積極的に自らの「手の内」を明かすことが求められる」、「SNS規制も、伝統的なメディアリテラシーも、SNSの暴走を抑え込む特効薬にはならないだろう。それでも、一般市民がマスメディアの特性やSNSの不確かさをリテラシーとして身につけるということは、症状を少しでも改善するための漢方薬的な一助になるはずだ」というものです。とりわけリテラシーのあり方として、「メディアの情報を疑う」というより、「マスメディアの報道の基準や特性を理解し、またSNSが偽情報で溢れていることを認識するというメディア論的なリテラシー」が必要だとの指摘は目から鱗の発想だと思いました。
  • 2025年5月1日付朝日新聞の記事「偽・誤情報を広げる「モンスター」 特効薬はないから 山本龍彦さん」では、「の耐性を獲得していくことです。デジタルの情報空間が、うそでも誹謗中傷でもいいからとにかくアテンションを取れば良いというようなアテンション・エコノミーの構造になっているということへの理解も重要だと痛感しています」、「結局、ユーザーのリテラシーを高め、最終的に市場での圧力につなげるということが重要になってきます。そのためには、透明性も重要です。食品に例えれば、添加物をガンガン使っている事業者がいたとしても、法律で表示が義務づけられているので、消費者はその食品に添加物が使われているかの有無や材料、生産者も加工者も分かります。透明化することによって私たちは合理的な選択ができるわけですよね。今、情報の流通に関してその透明性が非常に低くなっていると思います」、「アテンション・エコノミーというモンスターは、巨大で非常に手ごわいです。特効薬はありません。この構造に立ち向かっていくためには、リテラシー、透明性などを高める法制度、メディアによるアルゴリズム監視などを総合的に組み合わせていく必要があるでしょう」というものです。リテラシーや透明性というキーワードが他の論者と共通していることが浮き彫りになっています。
  • 2025年5月3日付日本経済新聞の記事「憲法が問う「表現の自由」 SNS偽情報、権利乱用は認めず」では、「表現の自由は身勝手を許す権利ではない。日本の憲法は12条で国民の権利や自由の乱用を戒めている。社会全体の利益である「公共の福祉」のために利用する責任にも触れている。SNSと「表現の自由」、憲法の関係が問われている」、「憲法制定時に想定しなかったサイバー空間上にも脅威は広がる。交通・医療・金融など国民生活と密接な重要インフラが狙われる。国が平時から通信を監視し、攻撃の予兆をつかんだ段階で相手サーバーに侵入し無害化する「能動的サイバー防御」の関連法案は今国会で成立する見通しだ。時代に合わせて専守防衛の範囲は広がっている」、「憲法24条が問題になるのは選択的夫婦別姓だけではない。同性婚を認めない民法などが違憲だとする訴訟も相次いでいる。全国で5つの高裁判決でいずれも違憲となった。「個人の尊厳を著しく損ない不合理」などと認定している。最高裁が今後、統一判断を示すとみられる。国会の議論に波及する可能性がある」というものです。能動的サイバー防御や選択的夫婦別姓の問題などもそうですが、憲法制定時には存在していなかった「SNS」と憲法の関係性についてはあらためて議論する必要があるというのは正にそのとおりだと思います。

(7)その他のトピックス

①中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産を巡る動向

中央銀行デジタル通貨(CBDC)は「今の段階では何の役に立つのか分からない技術」と評されることが少なくありませんが、トランプ米大統領が米独自のCBDC「デジタルドル」の開発を禁止したことで、むしろCBDCの開発は理にかなった道筋になっているとロイターが指摘しています。CBDCは法定通貨のデジタル版で、中央銀行が発行・管理し、法定通貨と同じ保証を与えるものです。米シンクタンクの大西洋評議会が昨年の米大統領選の投票直前に発表した調査によると、米国など134カ国、つまり世界経済の98%を占める国がCBDCを検討し、うちほぼ半数で計画がかなり進んだ段階にあるといいます。しかしながら、トランプ氏は大統領に就任した2025年1月、米国の政府機関がデジタルドルを創設、発行、推進することを禁じる大統領令に署名、これは民間部門で暗号資産(仮想通貨)やステーブルコイン(法定通貨に裏付けられた暗号資産)の推進を図ろうとする取り組みの一環と目されています。トランプ氏のこうした政策で、CBDCなどデジタルマネーが進化していく過程で米以外の国が独自ルールを設定する余地が残ることになります。ただ、CBDCを巡る賛否は交錯しており、賛成派は金融取引のコストや複雑さが減り、デジタル経済の普及が進むと主張、反対派は、既存技術でも同じ恩恵を受けることは可能で、CBDCは個人のプライバシーを脅かし、政府による監視や管理の手段になり得ると警戒しています。中央銀行の観点からすると、民間でステーブルコインがデジタル通貨界を支配するようになるのであれば厳格な規制が欠かせないため、中央銀行が自らデジタル通貨を発行するのがより簡単な選択肢となりえますが、CBDC導入の理由として最も説得力があるのは、世界が新たな経済ナショナリズムの時代に突入し、ドルがもはや信頼の置ける通貨ではなくなるかもしれないという点にあります。つまり国主導のデジタル通貨は国家にとって金融安全保障の問題になりかねないということです。デジタル決済競争で取り残されるリスクが特に高いのは欧州で、ユーロ圏のクレジットカード取引の約3分の2は非欧州系企業によって決済処理されているといいます。さらに米テクノロジー系アプリがユーロ圏の小売決済のほぼ10%を処理しており、しかもその利用は急拡大しており、加えて、現在存在するほとんどのステーブルコインが米ドルに連動しているため、ステーブルコインの使用が増えるほど欧州通貨圏内におけるユーロの優位性が損なわれかねないことになります。一方、中国はこの分野で先行、デジタル人民元の利用は加速しており、2023年6月から2024年6月の間に取引件数が3倍強に急増しています。米中貿易摩擦が激化している今、中国がCBDCを長期的な戦いの道具として使い、ドルを国際金融の基盤から引きずり下ろそうとする恐れがあります。そして、もし米国が主要経済国の中で唯一CBDCを発行しなければ、ドルの国際金融システムにおける支配的地位は著しく低下するリスクがあります。CBDCが国際決済に広く使用されるようになった場合はこうしたリスクが特に高まるといえます。国際決済銀行(BIS)は、互換性のあるCBDCが導入されれば、異なる通貨間および国境を越えた決済がより効率的になり、コストと時間を抑えられると指摘しています。

トランプ米大統領が掲げる暗号資産超大国構想を分析するときに、どうしても時価総額の大きなビットコインの準備資産組み入れに関心が向きがちですが、ホワイトハウスに出入りし始めた米暗号資産業界関係者らからは、どうもビットコインは「看板」であって、トランプ氏の本命は価格が安定するよう設計されたステーブルコインとの声が出始めているといいます(2025年4月20日付日本経済新聞)。米議会下院で最近、2つの法案が可決されました。1つが「CBDC反監視国家法」で、米連邦準備理事会(FRB)が個人に直接サービスを提供することを禁止し、金融政策においてCBDCの使用を禁止することを目的とするものです。もう一つは「ステーブルコインの透明性と説明責任に関する法律」で、ステーブルコインは法定通貨や金など裏付けとなる資産を担保に発行し、価格が大きく変動しないよう設計された電子決済手段で、日欧ではすでにステーブルコインを規制する法律が整備されていますが、米国ではいまだ規制はありませんでした。この2つの法案は裏表の関係にあり、民間企業や金融機関が発行するステーブルコインの信用力を上げることで流通を促すと同時に、米ドル建てのCBDCの発行可能性を潰すもので、トランプ米大統領が2025年1月23日に署名した暗号資産政策を巡る大統領令の内容を法制化する狙いがあります。トランプ米大統領氏は「中央銀行によるデジタル通貨の創設を絶対に許さない。自由に対する危険な脅威だ」と述べていますが、背後にはデジタルドルが登場することで利用価値が下がることを憂慮する暗号資産業界からの多額の政治献金があります。一方、世界的にみれば、CBDC開発競争は、ドル建てのステーブルコインだから安心という論拠はどこにもなく、ドル建てステーブルコインの発行者の保有資産が債務を上回っているかを常に監視する仕組みは整っていません。万が一、発行主体が倒産しても預金保険のような利用者保全の仕組みは整備されておらず、金融システムへの波及が懸念されるところです。一方、米連邦準備理事会(FRB)のウォラー理事は、ステーブルコインは国内決済システムに有益だが、多種多様なステーブルコインの流通を米金融システムが支えきれるとは思わないとの見解を表明しています。同理事はFRBで決済システム対応を担っていますが、「私個人はステーブルコインを強く支持している。3年以上前から、決済システムに競争と効率性、スピードをもたらす可能性があると主張してきた」、「(ステーブルコイン規制の)法律が成立した後、100種類のステーブルコインが流通するだろうか。私はそうは思わない」とし、FRBが独自のデジタルドルを採用する必要性はないとの見解も改めて示し、民間部門が決済システムの革新をけん引するのが最善だと主張しています。

暗号資産の規制の1つに「トラベルルール」がありますが、その対象法域が追加されています。

▼金融庁 「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令第十七条の二及び第十七条の三の規定に基づき国又は地域を指定する件の一部を改正する件(案)」の公表について
▼資料1 トラベルルールの対象法域について
  • 我が国は、暗号資産・電子決済手段の取引経路を追跡することを可能にするため、暗号資産交換業者・電子決済手段等取引業者(VASP)に対し、暗号資産・電子決済手段の移転時に送付人・受取人の情報を通知する義務(トラベルルール)を課している。
  • 通知対象の国又は地域(法域)の法制度が整備されていなければ通知の実効性に欠けること等に鑑み、トラベルルールの対象は、我が国の通知義務に相当する規制が定められている法域に所在する外国業者への移転に限ることとしている。
  • 今般、各法域におけるトラベルルールの施行状況(注)を踏まえ、下表の法域を追加するもの。(注)各国のFATF相互審査結果及びそのフォローアップ報告書、法令・ウェブサイト等を参照し確認したもの
  • 現在の対象法域 28法域
    • アメリカ合衆国、アラブ首長国連邦、アルバニア、イスラエル、インド、インドネシア、英国、エストニア、カナダ、ケイマン諸島、ジブラルタル、シンガポール、スイス、セルビア、大韓民国、ドイツ、ナイジェリア、バーレーン、バハマ、バミューダ諸島、フィリピン、ベネズエラ、ポルトガル、香港、マレーシア、モーリシャス、リヒテンシュタイン、ルクセンブルク
  • 今回追加する法域 30法域
    • アイルランド、イタリア、ウズベキスタン、英領バージン諸島、オーストリア、オランダ、キプロス、ギリシャ、クロアチア、ジャージィー、スウェーデン、スペイン、スロベニア、スロバキア、チェコ、デンマーク、トルコ、ナミビア(暗号資産のみ)、ハンガリー、フィンランド、フランス、ブルガリア、ベルギー、ポーランド、マルタ、マン島、南アフリカ共和国、ラトビア、リトアニア、ルーマニア
▼資料2 トラベルルールについて
  • 暗号資産・電子決済手段の移転に係る通知義務(トラベルルール)
    • 暗号資産・電子決済手段の取引経路を追跡することを可能にするため、暗号資産交換業者・電子決済手段等取引業者(以下「VASP」という。)に対し、暗号資産・電子決済手段の移転時に送付人・受取人の情報を通知する義務を新設
  • 対象とする移転[法第10条の3、第10条の5]
    • 国内VASPへの移転・外国VASP(注1)への移転を対象とする(個人・無登録業者は対象外)。
    • 金額、種類にかかわらず、全ての移転を対象とする
  • 除外される移転[政令第17条の2、第17条の3]
    • 我が国の通知義務に相当する規制が定められていない国又は地域に対する移転については、除外する。(告示指定)
  • 通知事項[規則第31条の4、第31条の7]
    1. 送付人情報
      1. 自然人
        • 氏名
        • 住居or顧客識別番号等
        • ブロックチェーンアドレスor当該アドレスを特定できる番号
      2. 法人
        • 名称
        • 本店又は主たる事務所の所在地or顧客識別番号等
        • ブロックチェーンアドレスor当該アドレスを特定できる番号
    2. 受取人情報
      1. 自然人
        • 氏名
        • ブロックチェーンアドレスor当該アドレスを特定できる番号
      2. 法人
        • 名称
        • ブロックチェーンアドレスor当該アドレスを特定できる番号
  • 通知事項の記録・保存義務[規則第24条]
    • 通知した事項・通知を受けた事項について記録・保存義務を課す。

金融庁は、ビットコインなど暗号資産の規制の在り方に関する報告書を公表しています。暗号資産は現在、電子マネーなどの決済手段を扱う資金決済法で規制されていますが、投資対象として人気が高まっている実態をふまえ、金融商品取引法の規制対象とする案を提示、株式などと同様、投資家保護策の強化やインサイダー取引規制の適用など安全な投資環境を整備する方向です。2025年夏にも、金融審議会(首相の諮問機関)で金商法改正に向けて議論する見通しだといいます。さらに、金融庁は環境整備とともに、現在は最高55%としている暗号資産売買の利益にかかる税率を、株式などと同様一律20%に引き下げる議論も進めたい考えだといいます。報告書は、暗号資産の口座開設数がのべ1200万口座を超え、預託金残高が5兆円以上に達しているとして、「投資対象として位置づけられる状況」と明記、また、株式や債券といった伝統的な運用手法とは異なる「オルタナティブ投資」として「資産形成に資する」と指摘、発行体がなく、分散型管理を特徴とするブロックチェーン技術が使われており、「デジタル経済の発展のため、取引をより健全に発展させることが重要」と環境整備の必要性を訴えています。そして、金商法による暗号資産の規制を「選択肢のひとつ」と指摘、暗号資産の交換業者に顧客へのリスクに関する説明を義務付けるほか、投資助言行為や無登録業者による勧誘などに対する規制を検討することの重要性を強調しています。

▼金融庁 「暗号資産に関連する制度のあり方等の検証」ディスカッションペーパーの公表について
▼(別紙2)暗号資産に関連する制度のあり方等の検証(概要)
  • 現状認識等
    1. 暗号資産の投資対象化の進行
      • 2019年金商法改正時と比べ、暗号資産を巡る状況が変化。暗号資産の投資対象化が進展し、少なからぬ内外の投資家において暗号資産が投資対象と位置付けられる状況が生じている。
      • 国内では、暗号資産交換業者における口座開設数が延べ1,200万口座超、利用者預託金残高は5兆円以上に達し、投資経験者の暗号資産保有者割合は約3%で、FX取引や社債等よりも保有率が高くなっている。また、米国では、ビットコイン現物ETFに投資する機関投資家が1,200社を超えている。
    2. ブロックチェーン技術等の発展/健全な暗号資産投資
      1. Web3の健全な発展は、わが国が抱える社会問題を解決し、生産性を向上させる上で重要。ブロックチェーン技術を基盤とする暗号資産取引の拡大は、デジタルエコノミーの進展につながり得る。
        • ※暗号資産には大きく分けて、(1)基盤となるブロックチェーン・ネットワークにおいて広く流通しているもの(ビットコインやイーサ等)と、(2)その流通を前提として特定の目的(プロジェクト運営等)のために発行されるものがある。
      2. (2)の暗号資産の取引が活性化することは、プロジェクト等を通じたイノベーションの促進に寄与する。
      3. (1)の暗号資産は、(2)の暗号資産の発行・流通の基盤を担うとともに、その流動性の高さから暗号資産間や法定通貨との交換等において重要な役割を果たしている。
      4. 暗号資産はボラティリティが相当程度高いものの、その取引に係る適切な投資環境整備を図ることで、オルタナティブ投資の一部として、リスク判断力・負担能力のある投資家による資産形成のための分散投資の対象にもなり得る。
    3. 詐欺的な投資勧誘等
      1. 国民の投資対象としての認識が広まっている反面、詐欺的な投資勧誘も多数。金融庁にも、暗号資産等に関する苦情相談等が継続的に寄せられている(足下、月平均で300件以上)。
      2. 暗号資産取引に関する投資セミナーやオンラインサロン等も存在。中には利用者から金銭を詐取するなどの違法な行為が疑われるものも生じている。
  • 環境整備の必要性
    • 今後、暗号資産取引市場が健全に発展するためには、更なる利用者保護が図られ、暗号資産取引について国民から広く信頼が得られることが不可欠。その信頼を失って我が国におけるイノベーションへのモメンタムが損なわれることのないよう、必要な環境整備を行っていくことが必要。
    • 一方、規制を過重なものにすると、利用者や事業者の海外流出を招くことで結果的にわが国の競争力を削いでしまいかねないことにも留意しながら、諸外国の規制動向も踏まえた検討が必要。
    • 利用者保護とイノベーションの促進のバランスの取れた環境整備が重要。
      1. 情報開示・提供の充実
        • 暗号資産発行時のホワイトペーパー(説明資料)等の記載内容が不明確であったり、記載内容と実際のコードに差があることが多いとの指摘がある
        • 現状の交換業者に対する自主規制では、暗号資産の発行者に正確な情報開示・提供義務がない
      2. 利用者保護・無登録業者への対応
        • 近年、海外所在の業者を含め、交換業の登録を受けずに(無登録で)暗号資産投資への勧誘を行う者が現れているほか、金融庁にも詐欺的な勧誘に関する相談等が多数寄せられている
      3. 投資運用等に係る不適切行為への対応
        • 暗号資産取引についての投資セミナーやオンラインサロン等も出現。中には利用者から金銭を詐取するなど違法な行為が疑われるものもある
      4. 価格形成・取引の公正性の確保
        • 米国等でビットコイン等の現物ETFが上場されるなど、国際的に暗号資産の投資対象化が加速
        • IOSCO等で、伝統的な金融市場と同程度のインサイダー取引も含めた詐欺・市場乱用犯罪への対応強化等が勧告されている。また、欧州等でも法制化等の動きがある
  • 規制見直しの基本的な考え方
    • 前頁で記載した諸課題は、情報開示や投資詐欺、価格形成の公正性等に関するものであるため、伝統的に金商法が対処してきた問題と親和性があり、金商法の仕組みやエンフォースメントを活用することも選択肢の一つ
    • 規制見直しを図る対象を検討する場合、暗号資産の性質に応じた規制とする観点や取引等の実態面にも着目し、以下のような2分類(類型(1)、(2))に区分して検討することが考えられるか。
    • 具体的な規制の見直しに当たっては、暗号資産が株式等の典型的な有価証券とは異なる特性を有することを踏まえながら、適切な規制のフレームワークを検討する必要。
    • 類型(1)【資金調達・事業活動型】
      • 資金調達の手段として発行され、その調達資金がプロジェクト・イベント・コミュニティ活動等に利用されるもの
      • 調達資金の利用目的や調達資金を充てて行うプロジェクト等の内容について、暗号資産の保有者(利用者)との情報の非対称性等を解消する必要性が高いのではないか
    • 類型(2)【上記以外の暗号資産】(非資金調達・非事業活動型)
      • 類型(1)に該当しないもの(例:ビットコインやイーサのほか、いわゆるミームコイン等を含む。)
      • 実態としてビットコイン等は流通量が多く、利用者が安心して暗号資産の取引できるよう適切な規範を適用するなどの環境整備を行っていくことが重要ではないか
      • また、いわゆるミームコインを対象としたり、ビットコイン投資等を名目とする詐欺的な勧誘等による利用者被害も多く生じており、ビットコイン等に限らず、広く規制対象として利用者保護を図る必要性が高いのではないか
    • 留意点
      • 分散化の進行により暗号資産の性質が類型(1)から類型(2)へ移行し得ることも念頭において整理を行う必要。
      • 資金決済法上の暗号資産に該当しないNFT(Non Fungible Token(非代替性トークン))の利用の実態面に着目すると、何らかの財・サービスが提供されるものが多く、またそうしたNFTの性質は様々であるため、一律に金融法制の対象とすることには慎重な検討を要するのではないか。現状では、規制見直しの対象は資金決済法上の暗号資産の範囲を前提に検討を進めることが考えられるのではないか。
      • いわゆるステーブルコイン(デジタルマネー類似型)は、法定通貨の価値と連動した価格で発行され、発行価格と同額で償還を約するもの(及びこれに準ずるもの)であり、広く送金・決済手段として用いられる可能性がある一方、投資対象として取引されることは現時点において想定しにくいため、規制見直しの対象とする必要性は乏しいのではないか。
  • 情報開示・提供規制のあり方
    • 情報の非対称性を解消し、投資者(暗号資産の保有者)が投資に際して暗号資産の機能や価値を正しい情報に基づいて判断できるよう、情報開示・提供規制を強化する必要があるのではないか。
    • 検討の方向性
      1. 類型(1)【資金調達・事業活動型】
        • 暗号資産への投資に当たり、暗号資産の信頼性と価値に影響を与える情報が重要。具体的には、暗号資産に関する情報(そのルールやアルゴリズムの概要等)や暗号資産の関係者の情報、プロジェクトに関する情報、リスクに関する情報等が考えられるか。
        • こうした情報を最も正確に開示・提供できる者は、当該暗号資産の発行により資金調達する者であるため、当該者に対し、投資者との情報の非対称性を解消するための規制を設けることが考えられるのではないか。
        • 一方、全ての暗号資産の発行を一律に規制するのではなく、多数の一般投資家に対し勧誘が行われる暗号資産の発行等について規制することが考えられるのではないか。
        • 留意点
          • 情報開示・提供の方法や内容等については、暗号資産が株式等の典型的な有価証券と異なる特性を有することを踏まえ、トークンビジネスの発展に過度な制約とならないよう留意することも重要。
          • 開示・提供される内容の正確性の担保については、監査法人による監査やコード監査等は現実的ではないとの指摘もあり、交換業者や自主規制機関により一定の確認を行うことも選択肢として考えられるか。
      2. 類型(2)【上記以外の暗号資産】(非資金調達・非事業活動型)
        • 類型(1)の暗号資産とは異なり、特定の発行者を観念できないものが多く、その発行者に対して情報開示・提供義務を設けることは馴染みにくいと考えられる。
        • 当該暗号資産を取り扱う交換業者に対し、暗号資産に関する情報の説明義務や、価格変動に重要な影響を与える可能性のある情報の提供を求めることが考えられるか。
        • 留意点
          • 自ら暗号資産の発行やその設計等に関与していない交換業者に対し、どこまで継続的に情報提供を求めることが適当であるかについて留意が必要。
          • 情報提供に際して交換業者は公開情報に頼らざるを得ないことや、同じ暗号資産を扱う交換業者が多数あること等を考慮する必要。
  • 業規制のあり方
    • 暗号資産が投資対象となっている現状を踏まえ、利用者保護の観点から、発展途上であるトークンビジネスやイノベーションへの影響にも配慮しつつ、暗号資産投資に係る業規制を強化する必要があるのではないか。
    • 検討の方向性
      • 現行法上、暗号資産の売買・交換等を業として行う行為には、法令に基づく交換業規制及び日本暗号資産等取引業協会(JVCEA)の自主規制が課されている。こうした規制を全体として見ると、金商法令に基づく規制と概ね同様の規制体系が整理されている。一方、当該自主規制の中には金商法では法令レベルのものもあるが、利用者保護を図る観点から、これをどのように考えることが適当か検討が必要ではないか。
      • 無登録業者による違法な勧誘を抑止するため、より実効的かつ厳格な規制の枠組みが必要ではないか。
    • <参考>
      • 資金決済法上、無登録で暗号資産交換業を行った場合、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金又はこれらの併科(第107条第12号)。
      • 金商法では、無登録で金商業を行った場合の罰則は5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又はこれらの併科(第197条の2第10号の4)。無登録で金商業を行う旨の表示や勧誘をすることについても1年以下の懲役等の対象(第200条第12号の3)
      • 金商業者については監視委の検査対象となり、無登録金商業者に対しては裁判所の緊急差止命令(の申立て)も可能(金商法第192条)。
      • 暗号資産取引についての投資セミナーやオンラインサロン等が出現している現状に鑑みれば、暗号資産交換業に該当しない現物の暗号資産を投資対象とする投資運用行為や投資助言行為について規制対象とすることが適当ではないか。
      • また、組織的な詐欺等の犯罪収益の移転のために暗号資産が悪用されていることや、事業者がハッキングを受けて暗号資産が流出することによりテロ資金の供与につながる懸念も存在する。この点、暗号資産に対する規制は一定の整備がなされており、引き続き、交換業者における業務の健全かつ適正な運営が確保されるよう、実務面での取組みが期待される
    • <留意点>
      • 金商法では、業務内容に応じた参入規制等の緩和類型や顧客の属性に応じた行為規制の緩和類型が設けられており、規制の見直しを検討するに当たっては、こうした規制の柔構造化を図ることも適当ではないか。
      • 上記のような業規制のあり方の検討は、交換業者が基本的にゲートキーパーとしての役割を果たしている現状を踏まえたものであり、ノンカストディアル・ウォレットに基づくDEX(分散型取引所)での取引が将来的に拡大する可能性もあることから、将来の実務の進展に留意する必要。
  • 市場開設規制のあり方
    • 多数の当事者を相手方とする集団的な取引の場を提供する場合、適切な価格形成や業務運営の公正性・中立性は重要であることから、金商法では取引プラットフォームに市場開設規制が課されている。
    • 暗号資産に関しては、暗号資産証拠金取引について、現在、一部の業者は顧客同士の注文のマッチング(板取引)を行っているが、「金商法上の『市場』とまでは評価される状況にない」との整理の下、取引所の免許を求めていない。
    • 暗号資産現物取引において、顧客同士の注文のマッチング(板取引)を行っている暗号資産交換業者も存在
    • 検討の方向性
      • 顧客同士の注文のマッチング(板取引)は、一定の価格形成機能を有するとも考えられる。一方で、多くの暗号資産について、同一の銘柄が海外の取引所も含めた多数の取引所(暗号資産交換業者)で取引されている現状に鑑みれば、個々の取引所の価格形成機能は限定的とも考えられる。
      • 他の交換業者でも取引されている暗号資産については、仮にその交換業者が倒産した場合でも、顧客にとって取引を行う場所は他にも確保されており、また、他の交換業者で取引されていない暗号資産であっても、暗号資産の取引は交換業者を通さず取引し得るものであることも、暗号資産取引の特性として挙げられる。
      • こうした点を踏まえると、多数の当事者を相手方とする集団的な取引の場を提供する以上、適切な取引管理やシステム整備が必要ではあるものの、現時点では、こうした暗号資産の取引所に対して、金融商品取引所に係る免許制に基づく規制や金商業者に係るPTSの規制のような厳格な市場開設規制を課す必要性は低いと考えられるのではないか
  • 暗号資産のインサイダー取引への対応
    • 暗号資産に係る不公正取引については、金商法において、上場有価証券等に係る規制と同様に、不正行為の禁止に関する一般規制等が設けられているが、インサイダー取引を直接の規制対象とする規定はない。
    • 金商法上、上場有価証券等について未公表の重要事実を知った内部者は、その事実の公表前に取引を行うことが禁止されている。また、証券会社、金融商品取引所と証券取引等監視委員会の有機的な連携に基づく市場監視により、規制の実効性の確保を図っている。
    • IOSCO勧告や欧韓の法制化の動き等も踏まえ、暗号資産に係るインサイダー取引について抑止力を高める観点から何らかの対応強化を検討することが必要ではないか。
    • 様々な課題があるため、規制や市場監視態勢のあり方について更に検討を深めていく必要がある。
    • いずれにせよ、インサイダー取引を含め、不公正取引規制の実効性を確保する観点から、業界・当局の市場監視態勢の向上も重要ではないか。
      1. 案A:上場有価証券等のインサイダー取引規制と同様、重要事実等をできるだけ具体化した形式犯的規定を導入
        • 暗号資産の仕組みや関係者の多様性を踏まえた個別具体的な要件の定立が必要。
      2. 案B:EU・韓国と同様、重要事実等を具体的に列挙するのではなく、抽象的・実質犯的規定を導入。(情報の「利用」等を要件とし、例えば「重要事実」については「投資判断に重要な影響を与えうる未公表の事実」と抽象的に規定。)
        • 上場有価証券等に係る規定と異なる規定振りとすることへの合理的説明が必要
        • 抽象的な規定の場合、処罰対象の明確性についてどう考えるか。
      3. 案C:米国と同様、不正行為一般の禁止規定(不正の手段等の禁止)を活用。(特に悪質な行為をガイドライン等で明記)
        • 処罰範囲が不明確とならないようにどこまで明確に書けるか。
        • 暗号資産の仕組みや関係者の多様性を踏まえつつ、悪質な行為をどの程度具体的に列挙できるか。

最近の暗号資産を巡る報道から、いくつか紹介します。

  • EUの欧州証券市場監督機構(ESMA)は、暗号資産業界が成長し、従来の金融市場との関連が強まるにつれ、同業界の問題が将来的に金融の安定性全般にリスクをもたらす可能性があると警告しています。ESMAのエグゼクティブディレクター、ナターシャ・カゼナベ氏は、「EUの金融市場は現在、広範な政治的・地政学的展開から生じる厳しい圧力にさらされている」と述べたものです。トランプ米大統領が貿易相手国に対する相互関税を発表して以降、世界の株式市場は暴落し、暗号資産も下落するなど、依然として不安定な取引が続いています。米当局はまた、暗号資産と従来の銀行セクターの間にある障壁の一部を取り除くことを目指しています。カゼナベ氏は「暗号資産市場はまだ比較的小さい。しかし、現在の市場環境では小規模な市場での混乱でさえ、われわれの金融システムにおけるより広範な安定性の問題を引き起こす可能性がある」と述べています。
  • スイス国立銀行(SNB、中央銀行)のシュレーゲル総裁は、暗号資産はSNBの準備資産の基準を満たしていないとの認識を示し、暗号資産ビットコインを準備資産に加えるよう求める声を退けています。暗号資産を推進する人々は、トランプ米大統領の関税措置がもたらした経済の混乱により、SNBは準備資産を分散させる重要性が高まったとしてビットコインを購入すべきだと主張、スイスの憲法を変え、SNBにビットコイン保有を義務付けるための国民投票を呼びかけています。シュレーゲル氏は「暗号資産は現時点で、われわれの準備通貨の基準を完全には満たしていない」と反論、暗号資産は流動性に懸念がある上、価値が「極めて大きく」変動すると問題点を指摘しています。
  • 米暗号資産交換業大手コインベースは暗号資産の価格について2025年4月中旬に発表したリポートで「暗号資産の冬の到来の兆候だ」と指摘しています。取引を増やしたい交換業者が、市況低迷が長引く可能性に言及するのは珍しいといえます。代表的な暗号資産であるビットコインの価格や、時価総額上位50の暗号資産の価格でつくる指数「COIN50」は2025年3月以降、200日移動平均を一時下回り、「長期的な弱気トレンド入りの可能性を示す」といいます。2022年の米交換業大手の経営破綻など不祥事や不正流出に起因する冬の時代が繰り返され、取引が長期低迷した2018~19年や2022~23年にも価格は200日移動平均を下回りました。関係者は「米政権の業界振興策が具体化し、25年後半の相場は上昇基調になる可能性がある」との声もあるり、際に冬が到来するか、市場の見方は分かれています。
  • クウェート当局は、暗号資産のマイニング(採掘)業者の一斉摘発に乗り出しています。当局は停電を引き起こす電力危機の主因とみており、夏前に電力網の負荷軽減を図っています。同国内務省によると、当局はマイニングに利用されている住宅を「広範に」摘発、マイニングについて「電力を違法に搾取している。停電を引き起こす可能性があり、一般住宅や商業・サービス地域に影響するほか、公共安全にも直接的に影響する」と指摘しています。一方、同国電力省は、電力危機の主な原因はマイニングだけではないとも言われています。今回の摘発は、同国最南端アルワフラの住宅で行われ、電力省によると、約100棟がマイニングに利用されており、一部の電力消費は最大で通常の20倍に達したといい、摘発後、同地域の電力消費は55%減少したといいます。
  • 暗号資産交換業大手のコインチェックは、同社のXのアカウントが第三者に不正ログインされたことを受けて全サービスを一時停止しました。暗号資産取引の基幹システムへの影響は確認されていません。同社によると、2025年4月28日午前8時ごろからXアカウントが第三者に不正ログインされ、顧客情報を盗み取るフィッシングサイトへ誘導する第三者による投稿があったといいます。コインチェックは2024年末時点で220万口座を保有する。顧客の預かり資産は約1兆1000億円に上り、業界で25%のシェアがあります。
②IRカジノ/依存症を巡る動向

2030年秋ごろの開業を目指し、日本初のカジノを含む統合型リゾート(IR)の本体工事が始まりました。大阪府・市は万博後の経済成長のけん引役を託していますが、カジノは各国間の顧客獲得競争が激化しているうえ、オンライン化も進んでおり、その成否は「非カジノ分野」でいかに独自色を打ち出せるかに懸かっているともいえます。報道によれば、大阪IRの開業を前にシンガポールでは水族館やテーマパークを拡充、中国政府の監視強化など先行き懸念が台頭するマカオも、各事業者が新たな高級ホテルや劇場の開発で多角化を進めるほか、次の有望市場としてタイへの進出を模索しています。オンラインカジノについては、調査会社360iリサーチとグローバルインフォメーションによれば、世界のカジノ市場のうちオンラインの割合は2030年に22.09%に達する見込みだといいます。大阪IRの区域整備計画では、伝統芸能の舞台や、華道・茶道・香道の「三道」に最先端のテクノロジーを組み合わせたシアターや体験スタジオなどを整備するとしているほか、万博会場も閉幕後、「世界クラスのウォーターパーク」や「サーキット」の誘致を想定、IRと連携しホテルやMICEの整備を進めるとしています。一方、ギャンブル依存症対策などの重い課題も残っています。IRは年間5200億円の売り上げを見込み、そのうち8割をカジノで稼ぐ計画ですが、カジノの来場者の7割を日本人が占めると想定されており、ギャンブル依存症への懸念は強いといえます。IR実施法では依存症対策として、日本人や国内在住の外国人について7日間で3回、28日間で10回までの入場制限を設け、入場料6000円を課すとしています。また、大阪府も、アルコールなども含めた依存症について相談から治療までワンストップで支援する「大阪依存症センター(仮称)」を設置、夜間・土日も相談できる見込みです。さらに、大阪府は2023年度から3年間を対象とした計画で、府内全ての高校などで啓発授業などを毎年実施するといった、九つの重点施策を掲げて取り組んでいます。しかしながら、公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」の田中紀子代表は、報道で国や府が進める対策は不十分だと指摘、「入場料6000円が歯止めになる根拠はない。他団体との連携や人材育成といった支援態勢も一朝一夕には構築できないので、より早期のセンター開設に向けて取り組むべきだ」と指摘、近年、オンラインカジノが蔓延している状況を踏まえ、家族連れなどが初めてIRでギャンブルに触れることで、IRがオンラインカジノに手を染める「ゲートウェー(入り口)になりかねない」とも批判、「カジノができれば、必ず一定数が依存症患者になる。行政はその点をうそ偽りなく広報した上で啓発に取り組むべきだ」と指摘していますが、正にその通りだと思います。

本コラムでもだびたび取り上げている、タイ政府が推し進める「カジノの合法化」法案については、同国の世論の反発を招いているようです。治安の悪化などを懸念する声が強く、2025年4月上旬に予定していた国会の審議は先送りとなり、一部の与党も反対するなど、連立政権の分裂の火種になりつつあるといいます。問題の法案の正式名称は「娯楽複合施設法案」で、商業施設や劇場などを備えたIRの開発を促すもので、草案にはカジノの設置に関する文言も含まれ、カジノ合法化が主目的と解釈されています。仏教の教えが深く根ざすタイでは公営宝くじや競馬を除く賭博行為を長く禁じてきましたが、それでも政府が合法化に動くのは経済的な利益が大きいと判断したためです。タイの経済成長率は東南アジアの主要国のなかで最低水準が続くことに加え、トランプ米政権の高関税政策にともなう世界経済の混乱も向かい風になる可能性が高いという背景があります。また、タイは仏教徒が人口の9割を占めますが、最南部はイスラム教徒が8割ほどに達し、タクシン政権は2001~06年にこの地域の独立運動を弾圧し、無実の人を含む多数の犠牲者を出した過去があります。住民のタクシン氏への反感はいまだに強いうえ、同地域は地政学的な重要性も増しており、中国の広域経済圏構想「一帯一路」の一環として中国からシンガポールへの接続を目指す鉄道網の中継地点として、タイ政府も地域の物流網改善に取り組んでいるところです。最近でも、タイでは大麻の合法化を急いだため、薬物依存症の問題が深刻化した経緯があり、カジノIRについては、慎重な進め方が求められているといえます。

特殊詐欺犯罪の国際的な拠点として問題が顕在化したミャンマーの前の一大拠点はフィリピンでした。マニラ中心部の元犯罪拠点は、かつて政府公認のオンラインカジノ「POGO」として営業、当時、人身売買の被害者ら約730人が施設内で監禁され、特殊詐欺に加担させられていたといいます。高額報酬や渡航費無料といった甘言で外国人を呼び寄せ、パスポートを取り上げた上で、厳しい監視のもと働かせ、逃げれば暴力を振るい、従えば一時的な優遇を与えるなど、心理的にも支配していく手口だったといいます。POGOは、ドゥテルテ前大統領が税収増を見込んで規制を緩和したことで急拡大、2019年までに約400件のライセンスが発行され、一つのライセンスを取得した事業者が、そこから枝分かれして複数のカジノを運営できる仕組みであり、一時は国内に10万カ所近く存在、主に中国人向けのオンラインカジノを運営しつつ、ロマンス詐欺などの拠点としても機能していたといいます(マルコス大統領は2024年7月、POGOの全面禁止を表明しましたが、現在も地下に潜った約100カ所の違法拠点が残っているとされます)。また、「大量の犯罪者がフィリピンに流入した」ことや「フィリピン人になりすました中国人らが、安全保障上の重要な土地を取得するなど、安全保障の危機にさらされている」ことも問題となっています。こうした状況から、ミャンマーの摘発が強化されれば、結局、別の国で再び拠点が生まれることになるのだと考えさせられます。追い詰めれば姿を消し、別の場所でまた息を吹き返すといった「いたちごっこ」が続くことになりますが、諦めたら犯罪組織の勝ちになるとの危機感をもち、粘り強く摘発し続けることが重要だと思います。

オンラインカジノの世界的な伸長とともに、公営ギャンブル以外の賭博が禁止されている日本でも深刻な問題が生じています。芸能人やスポーツ選手が「オンラインカジノの違法性を認識しないまま興味本位で利用」(プロ野球)、またオンラインカジノにのめり込んだ警察官が(違法性を認識しながら)オンラインカジノを行っていたケースや、金融機関の口座を有償で譲渡、特殊詐欺事件に悪用される事件(複数の被害者から計千数百万円の現金が振り込まれたといいます)、オンラインカジノで賭博し、その資金を無登録貸金業者から借りる際に銀行口座や同僚らの個人情報を提供した事件なども発生しています。また、オンラインカジノを利用したとして、千葉県警は、浜松市中央区の男子高校生(16)を単純賭博の疑いで書類送検するなど、若者にも浸透していることが窺われます。この事件では、2024年11月頃、インスタグラムのログイン画面を模した偽サイトを開設するなどしたとして、不正アクセス禁止法違反容疑でも書類送検されています。報道によれば、サイバーパトロールで、男子生徒が偽サイトに誘導して個人情報をだまし取る「フィッシング詐欺」のツールを販売していることが判明、男子生徒は「3人に販売して約20万円を売り上げ、オンラインカジノなどで使った」と話しているといいます。高校生がこのような複数の犯罪に加担していた事実に驚かされますが、やはり若者に対する啓発・啓蒙、教育が極めて重要だと痛感させられます(すべてを抑止できるわけではありませんが、実際に犯罪に悪用され被害が生じる、資金が反社会的勢力に流れるといった悪い循環を断ち切る取り組みとして、地道に続けていくしかありません)。

こうした悪循環を断ち切るために、もう1歩踏み込んだ対策が必要となりますが、2025年5月7日付産経新聞の社説「オンラインカジノ 強制遮断の実現に知恵を」は、筆者としても強く同意できる内容でした。具体的には、「「通信の秘密」との兼ね合いで問題があるのは理解できる。それでも国民の健康と財産を守るために知恵を出し合い、有害な違法オンラインカジノのブロッキング(強制遮断)を可能にしたい。深刻な社会問題になっているオンラインカジノ対策を考える総務省の検討会が始まった。カジノサイトへの接続を強制遮断し、閲覧できなくするブロッキングの検討が最大論点だ。海外オンラインカジノ業者が現地で合法でも、日本から賭ければ違法だ。日本では違法との認識が薄く、警察庁の調査では利用経験者は約337万人、賭博額は年間1兆2423億円に膨れ上がったと推計される。憂慮されるのは利用者の6割に依存症の自覚があることだ。スマートフォン一つでどこでもいつでも入金から配当受領まで完結できるため、依存症、経済的困窮に陥るスピードが非常に速い。深刻な状況なのだ。政府は3月、ギャンブル依存症対策の基本計画を閣議決定し、広告排除やクレジットカード決済をできなくするなどの策を挙げた。ただ根本的解決策はブロッキングの実施である。実施にあたっては、通信会社が全顧客の通信先を確認しなければならない。この行為が憲法が保障する通信の秘密に抵触する可能性が出てくる。平成30年、漫画を無断掲載する海賊版サイトのブロッキングが検討されたが、通信の秘密に抵触するとして見送られた。国内で行われているのは児童ポルノサイトのブロッキングのみだ。被害児童の人権侵害を重視し、「緊急避難」として強制遮断を認める法的建て付けだ。海外カジノ業者は日本を狙い撃ちにしている。依存性を高めるアルゴリズムを使い、再三の違法性指摘にも耳を貸さない。法的困難性は高かろうが、「国民を侵す病理」として緊急避難の対象とできないか。賭博に特化したブロッキングの制度化も検討に値するのではないか。検討会は夏にも中間の論点整理をまとめる方針だが、できない理由を並べるのでなく、「どうしたらできるか」の知恵を多角的に提示してほしい。一方で政府は、日本でサービスを提供しているオンラインカジノ業者に強い態度で中止を指示すべきだ。国民を守るとの強い意思を示してもらいたい」というものです。ここにきてようやく自民党がネット広告やSNSでのカジノサイトへの誘導を違法化する法改正の方針を示していますが、これまで政府は何もしてこなかったに等しく、現在の蔓延状態は国の無為無策が招いたとの誹りを受けても仕方なく、違法性の周知と摘発を強力に推し進め、広告規制や「ブロッキング」によるカジノサイトへのアクセス制限の導入をためらうべきでありません。

総務省は、青少年のインターネット利用に係る最新のトラブル事例を踏まえ、その予防法等をまとめた「インターネットトラブル事例集(2025年版)」を作成、公表していますが、今回新たに、オンラインカジノの違法性等の周知を強化するため、警察庁、こども家庭庁と連名でチラシを作成しています。チラシが掲載されているページ(インターネットトラブル事例集 オンラインカジノは犯罪です!)から、紹介します。

▼インターネットトラブル事例集 オンラインカジノは犯罪です!
  • その国で合法なサイトでも、日本からアクセスして賭けると「賭博罪」などの犯罪行為にあたります。友達を誘ったり、広めたりするのも犯罪です(賭博罪、常習賭博罪、賭博ほう助罪など)。
    • ※国内で合法なのは、法律に基づく公営競技(競馬、競輪、競艇、オートレース)や、宝くじ、totoなどのスポーツ振興くじだけです。(ただし、20歳未満による投票券の購入等は法律で禁止されています。)
  • オンラインカジノの多くは、銀行口座にひも付いたアカウントを作り、ポイントを購入してゲームを行い、獲得したポイントを換金する仕組み。初めは無料で誘い込み、犯罪と気が付かない場合も。
  • 「オンラインカジノは海外で合法に運営されているから大丈夫」「日本には取り締まる法律がない」「違法だと知らなかったと主張すれば罪にならない」などの情報は、すべて誤りです。必ず、警察につかまります。
  • ネットで検索すると、紹介サイト「おすすめのオンラインカジノ」や、オンラインカジノを利用する動画が出てきますが、思わず利用してしまう危険があります。アクセスしないようにしましょう。
  • こどもでも簡単にオンラインカジノのサイトにアクセスでき、大変危険です。ご家庭でも、こどもがオンラインカジノのサイトにアクセスし、賭け事をしないよう注意をし、危ない様子を見かけたら、声掛けをしてください。
  • フィルタリングは有害なサイトへのアクセスを制限できます。こどものスマホにフィルタリングを設定し、オンラインカジノ対策を徹底しましょう!
    • ※18歳未満が使用する端末へのフィルタリング設定は法律上の義務。

違法なオンラインカジノ利用の抑止策を検討する総務省の有識者会議で、ギャンブル依存症の治療に力を入れる国立病院機構・久里浜医療センターの松崎尊信氏らが現状を説明、オンラインギャンブルによる依存症患者は多額のお金をかけ、借金の総額が大きくなる傾向があるといい、「オンラインカジノは国の規制が及ばないところで広がっている。国が対策を行うべき喫緊の課題だ」と指摘したほか、有識者会議のメンバーで「ギャンブル依存症問題を考える会」の田中紀子代表は、オンラインカジノ経験者の6割以上が利用開始から1か月以内に借金を始めるとの調査結果を提示。ブロッキングを含めた複合的な対策を求めています。この有識者会議は、カジノサイトへの接続を強制的に遮断する「ブロッキング」の実施に向けた検討が柱になります。閲覧自体をできなくするブロッキングへの期待は高いものの、前述したとおり、実施には「通信の秘密」を巡る問題などのハードルを越える必要があります。有識者は、「オンラインカジノという大変な病理に対処するため、ブロッキングは重要な選択肢たり得る」、「海外には賭博対策に特化した機関を設け、ブロッキングを行っている国もある。日本も対策が急務だ」、オンラインで賭博をする人は若年層の割合が高く、1回当たりの賭け金や借金は、競馬場に通う依存者らより多い傾向にあるといい、「ゲーム感覚でのめり込み、依存症になるまでの時間が速い。スマートフォンから簡単にアクセスできるため、生活から切り離して治療するのも難しい」などと指摘しています。抑止手段としては最も強力である一方、ブロッキングを実施するには通信会社が全ての利用者の通信先を確認する必要があり、これが通信の秘密に抵触する行為になります。オンラインカジノは依存症リスクが高く、一刻も早い対策が急がれるものの、主なサイトの拠点は海外にあり、運営者の摘発は困難で、警察庁の分析では、日本語に対応する上位40サイトはいずれも、カジノの合法国・地域に拠点が置かれていた。現地では処罰対象とならず、捜査協力を得るのは困難であり、国内から海外サイトへの賭け金総額は年1兆2423億円と推計され、警察は、賭け金の決済を代行して手数料を得ている「決済代行業者」の摘発を強化しています。また、「匿名・流動型犯罪グループ」(トクリュウ)が参入し、カジノを舞台にマネー・ローンダリングをしている疑いもあります。こうした困難な状況にあるとはいえ、総務省としては、明確なルールを定めて、通信会社が適切に実施できるような環境整備を目指しています。有識者会議ではブロッキングと通信の秘密との整合性や、具体的な制度設計について検討、カジノサイトの利用を抑止する、ほかの対策についても議論、青少年の特定サイトの閲覧を制限する「フィルタリング」や警告文の表示などについても検討する方針で、2025年夏頃をめどに論点を整理する方向です。

関連して、与野党は、違法なオンラインカジノ対策について国会内で協議し、自民、公明、立憲民主3党がカジノサイトの開設禁止などを柱とするギャンブル等依存症対策基本法改正案を提示、今国会での成立を目指すとしています。海外のカジノに日本からアクセスして金を賭ける行為は賭博罪に問われるものの、現在、こうしたカジノへの誘導広告を規制する法律はない状態です。改正案では、スマートフォンのアプリなどを含めてオンラインカジノサイト開設のほか、インターネット広告やSNS投稿などによるサイトへの誘導を禁止、違法であることを明確に位置づけ、警察などから削除要請を受けたプロバイダーが対応しやすくする狙いがあるといいます。また、違法性の周知徹底を図るための措置も講じるとしています。海外で合法的に運営されているオンラインカジノでも日本国内で利用すると賭博罪に当たるものの、インターネット上では合法をうたってカジノサイトへ誘導する広告などがあります。

競輪や競馬など公営ギャンブルの投票券の購入はいまやオンラインが8~9割を占めることが、政府の調査で明らかになったと報じられています(2025年4月28日付朝日新聞)。コロナ禍で急増して以降、行動制限が緩和されたあとも高止まりしているといいます。オンライン購入はギャンブル依存症に陥りやすい懸念があるほか、違法なオンラインカジノの摘発も続いていることから、政府は対策が急務となっています。内閣官房ギャンブル等依存症対策推進本部事務局の調べでは、公営ギャンブルのオンライン購入の割合は2023年(中央競馬以外は年度)、地方競馬が90.0%、中央競馬が83.0%、競輪81.4%、オートレース80.9%、ボートレース78.5%で、2019年は最も高い地方競馬でも78.0%、最も低い競輪は54.9%だったところ、コロナ禍で外出が制限された2020年に急増、中央競馬は一時92.7%まで上がったといい、その後、中央競馬は下がったものの地方競馬は高いままで、オンライン率が他よりも低かった競輪も8割を超えるようになっています。オンライン購入が増えたことで、バブル崩壊後に下がった売り上げも伸びているといいます。一方、すでに述べたとおり、オンライン購入は、時間や場所を選ばずアクセスでき、実際に金銭を賭けている感覚が乏しいため、依存症になりやすいとされます、政府は2025年3月、改定した「ギャンブル等依存症対策推進基本計画」を閣議決定、クレジットカードによる後払い決済を見直したり、依存症が疑われる人のアクセスを制限しやすくしたり、購入傾向を分析して効果的な依存症対策につなげたりするといった強化策を打ち出しています。

③犯罪統計資料から

例月同様、令和7年(2025年)3月の犯罪統計資料(警察庁)について紹介します。

▼警察庁 犯罪統計資料(令和7年1~3月分)

令和7年(2025年)1~3月の刑法犯総数について、認知件数は169,637件(前年同期157,384件、前年同期比+7.8%)、検挙件数は69,665件(66,329件、+5.0%)、検挙率は41.1%(42.1%、▲1.0P)と、認知件数、検挙件数がともに増加している点が注目されます。刑法犯全体の7割を占める窃盗犯の認知件数が増加していることが挙げられ、窃盗犯の認知件数は113,194件(106,059件、+6.7%)、検挙件数は40,603件(38,675件、+5.0%)、検挙率は35.9%(36.5%、▲0.6P)となりました。なお、とりわけ件数の多い万引きについては、認知件数は25,972件(23,714件、+9.5%凶悪犯の認知件数は1,656件(1,527件、+8.4%)、検挙件数は1,485件(1,331件、+11.6%)、検挙率は89.7%(87.2%、+2.5P)、粗暴犯の認知件数は13,339件(12,707件、+5.0%)、検挙件数は11,023件(11,118件、▲0.9%)、検挙率は82.6%(87.5%、▲4.9P)、知能犯の認知件数は16,381件(13,409件、+22.2%)、検挙件数は5,141件(4,584件、+12.2%)、検挙率は31.4%(34.2%、▲2.8P)、とりわけ詐欺の認知件数は15,112件(12,190件、+24.0%)、検挙件数は4,228件(3,721件、+13.6%)、検挙率は28.0%(30.5%、▲2.5P)、風俗犯の認知件数は4,024件(3,560件、+13.0%)、検挙件数は3,777件(3,081件、+22.6%)、検挙率は93.9%(86.5%、+7.4P)などとなっています。なお、ほとんどの犯罪類型で認知件数が増加しているほどには検挙件数が伸びず、検挙率が低調な点が懸念されます。また、コロナ禍において大きく増加した詐欺は、アフターコロナにおいても増加し続けています。とりわけ以前の本コラム(暴排トピックス2022年7月号)でも紹介したとおり、コロナ禍で「対面型」「接触型」の犯罪がやりにくくなったことを受けて、「非対面型」の還付金詐欺が増加しましたが、現状では必ずしも「非対面」とは限らないオレオレ詐欺や架空料金請求詐欺なども大きく増加傾向にあります。さらに、SNS型投資詐欺・ロマンス詐欺では、「非対面」での犯行で、(特殊詐欺を上回る)甚大な被害が発生しています。

また、特別法犯総数については、検挙件数は14,115件(14,738件、▲4.2%)、検挙人員は11,148人(11,876人、▲6.1%)と検挙件数・検挙人員ともに減少傾向にある点が大きな特徴です。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は1,121件(1,185件、▲5.4%)、検挙人員は749人(826人、▲9.3%)、軽犯罪法違反の検挙件数は1,300件(1,511件、▲14.0%)、検挙人員は1,273人(1,528人、▲16.7%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は1,141件(1,473件、▲22.5%)、検挙人員は802人(1,050人、▲23.6%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は1,221件(1,060件、+15.2%)、検挙人員は945人(805人、+17.4%)、銃刀法違反の検挙件数は923件(1,027件、▲10.1%)、検挙人員は778人(899人、▲13.5%)などとなっています。減少傾向にある犯罪類型が多い中、犯罪収益移転防止法違反等が大きく増加している点が注目されます。また、薬物関係では、麻薬等取締法違反の検挙件数は1,935件(339件、+470.8%)、検挙人員は1,434人(194人、+639.2%)、大麻草栽培規制法違反の検挙件数は29件(1,526件、▲98.1%)、検挙人員は29人(1,248人、▲97.7%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は1,791件(1,670件、+7.2%)、検挙人員は1,163人(1,118人、+4.0%)などとなっています。大麻の規制を巡る法改正により、前年(2024年)との比較が難しくなっていますが、大麻事犯の検挙件数がここ数年、減少傾向が続いていたところ、2023年に入って増加し、2023年7月にはじめて大麻取締法違反の検挙人員が覚せい剤取締法違反の検挙人員を超え、その傾向が続いています(今後の動向を注視していく必要があります)。また、覚せい剤取締法違反の検挙件数・検挙人員ともに大きな減少傾向が数年来継続していたところ、最近、あらためて増加傾向が見られています(覚せい剤は常習性が高いため、急激な減少が続いていることの説明が難しく、その流通を大きく支配している暴力団側の不透明化や手口の巧妙化の実態が大きく影響しているのではないかと推測されます。言い換えれば、覚せい剤が静かに深く浸透している状況が危惧されるところです)。なお、麻薬等取締法が大きく増加している点も注目されますが、2024年の法改正で大麻の利用が追加された点が大きいと言えます。それ以外で対象となるのは、「麻薬」と「向精神薬」であり、「麻薬」とは、モルヒネ、コカインなど麻薬に関する単一条約にて規制されるもののうち大麻を除いたものをいいます。また、「向精神薬」とは、中枢神経系に作用し、生物の精神活動に何らかの影響を与える薬物の総称で、主として精神医学や精神薬理学の分野で、脳に対する作用の研究が行われている薬物であり、また精神科で用いられる精神科の薬、また薬物乱用と使用による害に懸念のあるタバコやアルコール、また法律上の定義である麻薬のような娯楽的な薬物が含まれますが、同法では、タバコ、アルコール、カフェインが除かれています。具体的には、コカイン、MDMA、LSDなどがあります。

また、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯国籍別検挙人員対前年比較について、総数、総数は185人(201人、▲8.0%)、ベトナム69人(63人、+9.5%)、中国32人(28人、+14.3%)、ブラジル12人(16人、▲25.0%)、フィリピン11人(14人、▲21.4%)、インドネシア6人(3人、+100.0%)、韓国・朝鮮は5人(8人、▲37.5%)、パキスタン5人(7人、▲28.6%)などとなっています。ベトナム人の犯罪が中国人を大きく上回っている点が最近の特徴です。

一方、暴力団犯罪(刑法犯)罪種別検挙件数・人員対前年比較の刑法犯総数については、、検挙件数総数は1,925件(2,066件、▲6.8%)、検挙人員総数は914人(1,200人、▲23.8%)、暴行の検挙件数は94件(109件、▲13.8%)、検挙人員は80人(101人、▲20.8%)、傷害の検挙件数は154件(196件、▲21.4%)、検挙人員は178人(220人、▲19.1%)、脅迫の検挙件数は42件(66件、▲36.4%)、検挙人員は42人(62人、▲32.2%)、恐喝の検挙件数は69件(70件、▲1.4%)、検挙人員は77人(85人、▲9.4%)、窃盗の検挙件数は822件(945件、▲13.0%)、検挙人員は140人(173人、▲19.1%)、詐欺の検挙件数は428件(349件、+22.6%)、検挙人員は198人(246人、▲19.5%)、賭博の検挙件数は12件(33件、▲63.6%)、検挙人員は11人(25人、▲56.0%)などとなっています。とりわけ、詐欺については、2023年7月から減少に転じていたところ、あらためて増加傾向にある点が特筆されますが、資金獲得活動の中でも活発に行われていると推測される(ただし、詐欺は薬物などとともに暴力団の世界では御法度となっています)ことから、引き続き注意が必要です。

さらに、暴力団犯罪(特別法犯)主要法令別検挙件数・人員対前年比較の特別法犯について、特別法犯全体の検挙件数は760件(970件、▲21.6%)、検挙人員は467人(647人、▲27.8%)、入管法違反の検挙件数は3件(10件、▲70.0%)、検挙人員は4人(7人、▲42.9%)、軽犯罪法違反の検挙件数は6件(8件、▲25.0%)、検挙人員は4人(8人、▲50.0%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は5件(24件、▲79.2%)、検挙人員は4人(25人、▲84.0%)、暴力団排除条例違反の検挙件数は4件(30件、▲86.7%)、検挙人員は8人(33人、▲75.8%)、銃刀法違反の検挙件数は9件(21件、▲57.1%)、検挙人員は5人(15人、▲66.7%)、麻薬等取締法違反の検挙件数は176件(35件、+402.9%)、検挙人員は89人(12人、+641.7%)、大麻草栽培規制法違反の検挙件数は7件(164件、▲95.7%)、検挙人員は3人(102人、▲97.1%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は436件(531件、▲17.9%)、検挙人員は256人(352人、▲27.3%)、麻薬等特例法違反の検挙件数は39件(20件、+95.0%)、検挙人員は22人(5人、+340.0%)

などとなっています(とりわけ覚せい剤については、今後の動向を注視していく必要があります)。なお、参考までに、「麻薬等特例法違反」とは、正式には、「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」といい、覚せい剤・大麻などの違法薬物の栽培・製造・輸出入・譲受・譲渡などを繰り返す薬物ビジネスをした場合は、この麻薬特例法違反になります。なお、法定刑は、無期または5年以上の懲役及び1,000万円以下の罰金で、裁判員裁判になります。

(8)北朝鮮リスクを巡る動向

防衛省は2025年5月8日午前、北朝鮮が同日午前8時~9時台にかけて同国東岸付近から複数の弾道ミサイルを北東方向に発射したと発表しています。このうち、午前9時20分頃に発射された1発は、最高高度約100キロ・メートル、約800キロ・メートル飛行し、日本の排他的経済水域(EEZ)外の日本海に落下したといい、そのほかのミサイルも日本のEEZ外に落下したとみられています。韓国軍合同参謀本部によると、発射地点は北朝鮮東部・元山付近で、複数の種類の短距離弾道ミサイルが発射されたとみられ、北朝鮮による弾道ミサイル発射は2025年3月10日以来となります。中谷防衛相は、飛距離800キロ・メートルに達したミサイルは変則軌道で飛行した可能性があると明らかにした上で、「我が国や地域、国際社会の平和と安全を脅かすもので、関連する国連安全保障理事会決議に違反している」と非難しています。北朝鮮は、ウクライナ侵略を続けるロシアに自国の短距離弾道ミサイルを提供しているとされ、今回の発射は、ミサイルの性能向上を図った可能性があります。なお、韓国軍によると、発射されたのは複数の種類のミサイルで、関係者によると、短距離弾道ミサイル「KN23」や超大型放射砲(ロケット砲)と呼ぶ「KN25」が含まれているとみられ、いずれも北朝鮮が軍事協力を深めるロシアに供給されているとみられています。韓国軍関係者や専門家は今回の発射について、ロシアへの輸出などを念頭に置いた性能の点検や、飛行の安定性を確かめるための実験だった可能性があるとの見方を示しています。防衛省によると、北朝鮮は2019年以降、低空を変則軌道で飛行する短距離弾道ミサイルを繰り返し発射、変則軌道のミサイルは落下地点までの軌道が読みづらく、迎撃が難しいという問題があいます。一方、北朝鮮は発射を短距離弾道ミサイルにとどめているため、トランプ政権への様子見を続けているとの見方が日本政府内にはあります。ただ、実戦での経験を積むことでミサイルの性能はより高まることになるため、政府は警戒を強めています。官邸幹部は「発射数は抑制されているが、ミサイルの運用能力や技術力の向上に必要な発射は着実に進める考えだろう」と指摘、変則軌道のミサイル追跡にはレーダー能力を強化しなければならず、政府内では「北朝鮮のミサイル能力の向上に応じた防衛体制強化が必要」(官邸幹部)との意見は根強くあります。なお、北朝鮮国営の朝鮮中央通信は、北朝鮮が長距離砲とミサイルシステムの能力を向上させるための合同訓練を行ったと伝え、訓練には金正恩朝鮮労働党総書記が立ち会ったといいます。報道によれば、訓練には600ミリ口径の多連装放射砲(ロケット砲)と戦術弾道ミサイル「火星11」が使われたといい、訓練の目的を達成し、「核危機事態に迅速に反応できる指揮、動員システムの信頼性が検証された」と評価しています。また、金総書記は「核武力の戦闘準備態勢を不断に完備することが非常に重要だ」と強調、「長距離攻撃能力と効率性を持続的に向上させる事業に力を入れなければならない」と訴えています。

韓国の情報機関・国家情報院(国情院)は国会報告で、ロシア西部クルスク州に派遣された北朝鮮兵の死傷者が、死者約600人を含む約4700人に上るとの分析を明らかにしています。報告によれば、負傷者のうち約2000人は北朝鮮に移送され、首都・平壌などで隔離されているといい、犠牲となった兵士の遺体はクルスク州で火葬後、北朝鮮に移送されています。国情院は北朝鮮がこれまで2回にわたり、兵士計約1万5000人を派遣したとみており、3回目の派遣についても「可能性を完全に排除できない」としています。また、部隊は約半年間で、ドローン(無人機)のような近代的な兵器を使用することに慣れ、戦闘能力向上の兆しを見せているといい、ロシアに軍隊を派遣し武器を供給する見返りとして、北朝鮮は偵察衛星や無人機、対空ミサイルの技術支援を受けているようだと指摘しています。なお、北朝鮮は、金総書記の命令でロシアに派兵し、ウクライナとの戦闘に参加していることを初めて認めています。ロシア側は、将来の北朝鮮への軍事支援の可能性を示唆しており、日本を含む東アジアの安全保障環境への影響も懸念されるところです。ウクライナ軍が2024年8月にクルスク州への越境攻撃を始めたことなどを受け、金総書記が露朝の「包括的戦略パートナーシップ条約」第4条の発動に該当すると判断し、派兵を命じたといいます。同条約4条では、露朝のいずれかが武力侵攻を受けて戦争状態に陥った場合、「あらゆる手段で軍事的、その他の援助を提供する」と定めています。金総書記は参戦した兵士を「正義のために戦った英雄」とたたえ、首都・平壌に近く「戦闘偉勲碑」を建て、兵士の家族を特別に待遇する方針を示しています。一方、ロシア軍は、プーチン大統領にクルスク州全域の奪還作戦を完了したと報告し、北朝鮮兵の参戦が同条約に基づくものだと公式に認めていました。プーチン氏は、金総書記らに「心から感謝する」とし、「ロシア国民は北朝鮮の特殊部隊の偉業を決して忘れない」と述べています。国際法違反のロシアの侵略への参戦公表は、北朝鮮を侵略者と認めたことになります。ロシアと北朝鮮はいずれも日本の隣国であり、露朝の軍事的結託は、日本の安全保障を損なうものです。

2025年4月17日付産経新聞の記事「ウクライナ戦争で負傷した自国兵を薬殺し、補償金を稼ぐ北朝鮮」はより生々しい実態が示されています。具体的には、「韓国で、北朝鮮とつながる人物に取材して得た情報によると、北朝鮮は昨年10月に約1万2000人の将兵をロシアに派遣したが、今年1月にさらに約2万人を追加で派兵した。驚くのはその計約3万2000人のうち、3月末段階で戦死者は約1万人で、負傷者も1万人以上に上るのだという。通常、戦死者と負傷者の数が1対1になることはなく、ほぼ1対2となるが、なぜこんなに戦死者の割合が高いのか。西岡氏の情報では、北朝鮮は重度のけがを負って治療しても身体障害者となると判断された兵に対し、現地で薬物注射をして殺しているとされる。重傷者を帰国させると戦死者が多い実態が漏れるだけで、身体障害者となれば労働力にもならないので殺しているという残酷で理不尽極まりない話である。そして戦死者の遺体は現地で処理され、家族の元には何も戻らない。居住地の朝鮮労働党組織が家族には「訓練中に死亡した」として死亡証明書を渡し、絶対に他人に漏らすなと厳命しているが、死亡補償金なども一切支払われていない。ロシアは派兵された北朝鮮軍に対し、将校は月給2500ドル、兵士は同2000ドルを支払い、死亡時には補償金として3万ドルを出しているが、これは全額が金正恩党総書記の統治資金となり、家族には一銭も入らないというのである。1ドル=143円で単純計算すると、金氏は将兵の月々の給与のほか、1万人分の死亡補償金として430億円近い金銭を得ていることになる。自国民の命を何とも思わなければ、まさにぬれ手であわなのだろう」、「もう一つ、西岡氏が番組で明かしたのは、北朝鮮の原子力潜水艦建造に対し、ロシアのプーチン大統領が全面協力しているとの情報だった」、「ロシア側は原潜の設計図も必要な特殊鋼板も小型原子炉も既に北朝鮮に提供しているという。北朝鮮による派兵が、プーチン氏にとっては本当にありがたかったということではないか。北朝鮮が核ミサイル搭載型の原潜を保有すれば、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を使わずとも米国本土を核攻撃できる。そんな米本土が脅かされる事態になることを、トランプ米大統領は許容するだろうか。日本は当然として、国際社会はもっと北朝鮮の動向と実態に目を向けるべきだと改めて感じた」というものです。こうした情報から、北朝鮮がロシアに派兵した理由について、得るものの方が格段に大きく、国連安全保障理事会(安保理)で拒否権を持つ常任理事国のロシアを味方につけている以上、対北朝鮮の制裁強化はなくなり、ロシアが北朝鮮に頼らなければいけない分野が出てきたのが、これまでと違い、露朝関係に変化が生じているといえます。2014年から2019年まで対北朝鮮制裁を監視する国連専門家パネルのコーディネーターを務めたヒュー・グリフィス氏は、「北朝鮮の貢献は戦略的に極めて重要だ。金総書記の支援がなければ、プーチン大統領はウクライナでの戦争を遂行することは不可能だっただろう」と指摘しています。ロシアが北朝鮮に依存を強める現状は兵器・人員不足に苦しむ証左であり、西側諸国は、侵略者である露朝への圧力を最大化するタイミングだともいえます。

ロシアによるウクライナ侵略では、北朝鮮製の弾道ミサイルが使用されていることが明らかになっています。ロシア軍による2025年4月24日未明のキーウへの攻撃では、2024年7月以来で最悪の被害をもたらしましたが、ゼレンスキー大統領によると、初期調査では、北朝鮮製の弾道ミサイルが使われたとみられるといいます(ウクライナの軍事ブロガーは、北朝鮮製の弾道ミサイル「KN23」(火星11A)の破片だという写真をSNSに投稿しています)。そして、ウクライナの高官2人は、ロイターに対し、北朝鮮の新型ミサイルは1年以上前にウクライナで初めて使用されたものと比べ著しく精度が向上していると指摘しています。さらに、北朝鮮の170ミリ自走砲がウクライナ国境に近いロシア領内の基地に配備されていたことも明らかになっています。読売新聞によれば、北朝鮮は、継続的に露側に兵器を供給しており、前線で武器や弾薬が枯渇するロシア軍の「継戦能力」を支えている実態が明らかになったとしています。米経済誌フォーブスによると、2022年2月にロシアがウクライナに侵略を開始した時点で2000両あった自走砲は、2024年12月頃には戦闘で800両以上を失い、さらに交換用の砲身の不足などから数百両が使用不能だといいます。ウクライナ侵略を巡っては、米露間などで停戦交渉が進んでいますが、戦闘はいまも続いており、ロシアは前線で不足する火力を北朝鮮から自走砲の供与を受けることで、補完している状況です。

ロシアと北朝鮮は、両国を結ぶ自動車橋の建設を開始しています。豆満江に橋を架けるもので、戦略的パートナーシップの強化に向けた取り組みの一環だといいます。1959年に開通した両国を結ぶ鉄道橋「友情橋」の近くに建設、全長850メートルで、ロシアの高速道路に接続する予定だといいます。長年にわたって議論されていましたが、プーチン大統領が2024年、訪朝した際に建設で合意したとされます。ロシアのミシュスチン首相は、自動車橋の建設について「友好的な善隣関係を強化し、地域間の協力を拡大するというわれわれ共通の願いを象徴している」と表明、「起業家は輸送量を大幅に増やし、輸送コストを削減できる。信頼できる安定した形で様々な製品を供給する体制が整い、貿易と経済協力の拡大に貢献する」と述べています。

英国を拠点とする非営利の調査機関「オープン・ソース・センター」のジェームズ・バーンCEOは、国連安保理の会合に出席し、北朝鮮が安保理決議に違反して中国と石炭などの取引を拡大させていることを明らかにしています。同センターが衛星画像や船舶情報などで解析したところ、2024年以降、北朝鮮が外国籍船を使って石炭や鉄鉱石など中国への違法な輸出を拡大させ、過去6か月の取引額は数千万ドル(数十億円以上)に上ったといいます。取引の頻度は2024年9月時点は月1回だったところ、2024年10月以降は月3回程度と急増しているといいます。バーン氏は、北朝鮮が積み込みの場所を隠すため、船舶の位置に関する偽情報を発信して北朝鮮の領海外にいると見せかけるなど「手口が巧妙化している」と指摘しています。また、米国のドロシー・シェイ国連臨時代理大使は「中国が安保理決議に違反している明らかな証拠だ」と非難しています。中国の代表は半島情勢の安定化などを求めたが、北朝鮮との取引については言及を避けています。会合は、北朝鮮制裁の履行状況を調べる安保理の専門家パネルの廃止から1年が経過したことを受け、米国などが要請したものです。会合開催を要請した米国やデンマークなどがパネル復活を呼び掛けましたが、ロシアは「西側の偏った情報を集める信頼できない組織だ」と提案を一蹴、北朝鮮と関係を緊密化させるロシアは2024年、パネルの任期延長決議案に拒否権を発動、パネルは同4月末で活動停止を余儀なくされました。日米韓など11カ国は、代替組織「多国間制裁監視チーム(MSMT)」を設置しましたが、ロシアのネベンジャ国連大使は会合で「(MSMTは)国際社会からの委任がなく正統性はない」と主張しています。

北朝鮮のサイバースパイが米財務省の制裁に違反して米国内に2つの企業を設立し、暗号資産業界の開発者をマルウエア(悪意のあるプログラム)に感染させようとしていたことが分かったと報じられています(2025年4月25日付ロイター)。サイバーセキュリティ会社サイレント・プッシュの研究者によると、2つの企業はニューメキシコ州とニューヨーク州で設立されており、他にも計画に関与している企業が1社あるものの、米国内では登記されていないとみられます。サイレント・プッシュの幹部によると、求職者を狙う北朝鮮のハッカーが隠れみのを作るために実際に米国で合法的な企業の設立に成功するのは珍しく、このハッカー集団は北朝鮮当局の傘下にあるハッカー集団「ラザルス」の下部組織だとされます。このうちの1社のウェブサイトに掲載されたFBIの通知によると、同社のドメインは「偽の求人広告で個人を欺き、マルウェアを配布するために使われた」として差し押さえの措置を受けたといいます。

北朝鮮出身を名乗る知人に運転免許証の画像などを提供し、インターネット上で仕事を受注する手助けをしたとして、警視庁公安部は、いずれも日本人の会社員の男と個人事業主の男を私電磁的記録不正作出・同供用の幇助容疑で書類送検しています。同庁は、身分を偽ってIT関連の仕事をする「北朝鮮IT労働者」による不正な外貨獲得活動の一環の可能性があるとみて実態解明を進めています。2人の送検容疑は、2020年9~10月、それぞれ自身の運転免許証の画像と銀行口座番号について、海外で知り合った北朝鮮出身を名乗る知人にメッセージアプリで送信、何者かが2人になりすまし、ネット上でクラウドソーシングの大手サイトのアカウントを不正取得する手助けをしたというものです。クラウドソーシングは、仕事のマッチングを行うサービスで、アプリやホームページの作成などの仕事を発注する企業と、不特定多数の個人らとの仲介役となるものですが、2人になりすました人物は、このサイトを介して仕事を受注、日本の企業が発注したもので、報酬は2人の名義の銀行口座にそれぞれ振り込まれ、2人は手数料として約1割を受け取り、残りを知人から指定された海外の銀行口座に振り込んだといいます。ネット上の住所に当たるIPアドレスは国別に割り当てられており、クラウドソーシングのサイトには、北朝鮮側からアクセスした履歴が残っていたといい、サイトに登録されたアカウントには、朝鮮語の変換ミスとみられる文言の記載もあったということです。このサイトには身分証なしでも登録でき、身分証を提示すると認証が付いて信頼性が高まる仕組みで、捜査関係者は「本人確認が徹底されているとはいえず、偽装が発覚した段階ではすでに情報を抜き取られている可能性がある」と指摘しています。警察庁などは2024年3月、北朝鮮のIT労働者が日本人になりすまして日本企業から仕事を受注している疑いがあると注意喚起、本人確認手続きの強化や、不審なアカウントの探知などを求めています。国連安保理決議で、北朝鮮労働者による資金が北朝鮮の核・ミサイル開発に利用可能とならないようにしなければならないとされており、企業が北朝鮮IT労働者に業務を発注し報酬を払うのは外為法などに違反する恐れがあると指摘しています。国連の専門家パネルは2024年3月の報告書で、北朝鮮のIT労働者が身分を詐称して外国で仕事を請け負うケースがあるとして、不審なアカウントのメールアドレスのリストを公開、公安部は、今回のアカウントに使われたメールアドレスがこのリストと一致したほか、プロフィルの日本語に不自然な点があったことなどから、なりすましと判断したといいます。なりすましで得た情報は、ハッカーによるサイバー攻撃にも悪用されているとみられ、各国が警戒を強めています。安保理の専門家パネルの報告によると、北朝鮮のIT労働者は北朝鮮国内に約1000人、国外に約3000人いると推定され、海外は中国やロシア、東南アジアなどで、北朝鮮国内のグループも口座開設や資金洗浄で海外のカウンターパートを利用、オンラインのプラットフォームで国籍や身分を偽り、各国の企業からアプリやソフトウエア開発などを安価に請け負って荒稼ぎしているとみられ、獲得資金は推定で年間約2.5億~6億ドルに上るとされます。警察庁によると、北朝鮮のIT労働者らは身分証明書を偽造したり、日本に住む血縁者や知人を代理人にしたりして、発注側とフリーランス技術者を仲介するサイトに登録、代理人が報酬の一部を受け取り、残りを海外に送金するという流れで、資金移動業者を介するケースもあるといいます。IT労働者が得た情報を基にハッカーが暗号資産関連企業などにサイバー攻撃を仕掛けるなど、北朝鮮による組織的とみられる外貨獲得の構造も浮かんでおり、警察庁によると、「北朝鮮IT労働者によるなりすましでは、同一の身分証明書を用いて複数のアカウントを作成している」、「日本語が堪能でない」、「一般的な相場より安価な報酬で業務を募集している」、「暗号資産での支払いを提案する」などの特徴があるといいます。さらに、生成AIを用いた偽装の手口も確認されており、企業の情報流出のリスクに加え、資金の軍事利用など安全保障上の問題もあると指摘されています。米国に本社を置くセキュリティ関連会社「KnowBe4」は2024年、身分を偽って応募してきた北朝鮮IT労働者とみられる人物を採用していたことを公式ブログで公表し、「世界中の何千もの組織が、北朝鮮の偽IT労働者を誤って雇用している可能性がある」と警鐘を鳴らしています。同社が米連邦捜査局(FBI)などと連携して調査した結果、応募書類に添付されていた写真はAIで加工された精巧な偽画像「ディープフェイク」で、身分情報も盗まれたものであることが判明したといいます。2024年3月の国連安全保障理事会の専門家パネルの報告書によると、写真の加工だけでなく、採用面接の質問に対する回答作成に「チャットGPT」などの生成AIが用いられている可能性があるといいます。リアルタイムの画像生成や顔の入れ替え、全身アニメーションなど、より高度なAIの使用も予想されています。

その他、北朝鮮を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 北朝鮮で2023年以降、刑務所の新設や拡張工事が急ピッチで進められていることが窺えるといいます。北朝鮮専門英語ニュースサイト「NKニュース」のコリン・ツウィルコ記者が衛星写真の解析から明らかにしたもので、刑務所の新設が衛星写真で確認されたのは初めてで、厳しい経済状況が続く中、強盗や窃盗など一般犯罪が増えていることや、北朝鮮当局による「思想犯」の取り締まりの強化を裏付ける可能性があります。
  • 北朝鮮メディアは、訪朝しているベラルーシの政府代表団と北朝鮮政府が貿易や機械製作、農業、保健医療などの分野で連携を深めるための議定書に調印したと報じています。ウクライナ侵攻を巡りロシアに派兵するなど支援を続ける北朝鮮は、ロシアの同盟国ベラルーシとも関係を強化しています。
  • 金書記は、平壌のロシア大使館を娘と訪れ、第2次世界大戦の対ドイツ戦勝記念日に祝意を示しています。金総書記のロシア大使館訪問は異例だといいます。金総書記は「(両国)関係の長い伝統、崇高な思想的基盤、不屈の同盟を強化し、発展させていく」と述べています。
  • 北朝鮮の金総書記が、モスクワで開かれる対ドイツ戦勝80年式典への参加を見送りましたが、北朝鮮の最高指導者が他国を訪問する際は伝統的に単独での接遇を好み、2国間の首脳会談を通じた外交を優先、金総書記も多数の国の首脳が集まる国際行事に出席した経験はなく、別の日程で改めて訪露を調整する見通しだといいます。一方、北朝鮮と中国との関係がぎくしゃくしていることが要因となった可能性も指摘されています。北朝鮮の宗主国的立場を自任してきた中国は、北朝鮮がロシアと事実上の軍事同盟条約を昨年締結するなど対露傾斜を強めていることに不満を抱いているとされます。北朝鮮も、朝鮮半島の非核化に言及した2024年5月の日中韓首脳会談の共同宣言を「内政干渉だ」と批判するなど、対中姿勢の変化が指摘されています。
  • 朝鮮中央通信は、金与正朝鮮労働党副部長が、日米韓外相が北朝鮮の完全な非核化を目指す方針を確認したことについて反論する談話を報じています。非核化は「実現不可能な妄想だ」と強調、北朝鮮に非核化を求めることは主権を侵害する行為だと指摘、「日米が抱く安保上の懸念に対する解決策は北朝鮮の現状を揺るがす一方的な現状変更の試みを完全に放棄し、正面衝突を回避する方法を模索することだ」と主張しています。
  • 北朝鮮の朝鮮中央通信は、新たに建造された5000トン級駆逐艦の進水式が西部・南浦市の造船所で行われたと報じています。金総書記が出席し、「わが海軍の武力を現代化する上で突破口が開かれた」と演説、駆逐艦は2026年にも海軍に引き渡される見通しといいます。駆逐艦には「超音速戦略巡航ミサイル」や「戦術弾道ミサイル」などの攻撃兵器を搭載でき、金総書記は「地上作戦に対する海軍の関与を強められるようになった」と強調、今後も巡洋艦などを続けて建造し、「遠洋作戦艦隊」を設ける考えを表明しています。海自幹部は新造艦について「武器を目に見える形で艦上に配備して威圧するロシア海軍艦というよりも、武器を内蔵してステルス効果も狙う日米韓中の艦船に似ている」、「新造艦の建造には計画段階から含めて2~3年かかるのが普通だ」とし、ロシアのほか、中国や南北関係が良好な時期の韓国からの技術導入、サイバー攻撃による情報取得などの可能性も考えられると指摘しています。
  • 北朝鮮メディアは、同国のミサイル総局が5000トン級の新型駆逐艦に搭載された巡航ミサイルなどを試射したと報じています。金総書記が視察し「海軍の核武装を加速させるための選択する時期が来た」と述べ、担当部門に指示を与えたといいます。韓国メディアは、駆逐艦は核弾頭を搭載した複数種類のミサイルを運用し、海上での発射が可能だとの軍事専門家の分析を伝えています。弾道ミサイルも装備可能とされますが、今回は発射されていません。軍事分野に詳しい外交筋は、海上では艦船の索敵能力が重要で、ミサイル攻撃が実際にどの程度の脅威になるかは駆逐艦のレーダーの性能次第だという見方を示しています。なお、駆逐艦にはロシア製と似た兵器も確認されているといいます。
  • 北朝鮮メディアは、金総書記が戦車工場を視察し、最新の戦車と装甲車を配備することが陸軍の近代化に最も重要だと述べたと報じています。金総書記は、現代戦における戦車の役割や目指すべき方向にも言及、北朝鮮が派兵支援したロシアのウクライナ侵攻での戦闘経験が念頭にあるとみられます。北朝鮮メディアは、戦車や装甲車の装備の高性能化やAI技術の活用が軍需工業部門の中核的な課題に位置付けられており、実際に成果が出ていると強調、一方、製造ラインの近代化の早期実現も目指すとしており、兵器の更新が本格化するには時間がかかる見通しです。なお、北朝鮮の通常兵力は韓国と比べ、老朽化が進んでいると指摘されています。

3.暴排条例等の状況

(1)暴力団対策法に基づく禁止(損害賠償請求等の妨害の禁止)命令発出事例(熊本県)

2025年5月、組員が関わった特殊詐欺事件で被害を受けたとして、22人が当時の道仁会幹部4人に対し、およそ1億6000万円の損害賠償を求める訴えを起こしました。提訴に伴い、原告の安全を確保するため、熊本県警察本部と福岡県警察本部は道仁会のトップらに対して、暴力団対策法に基づき暴力団員が15日間原告らに接触することなどを禁じる仮命令を出しています。熊本県公安委員会では禁止の期間を延長する「本命令」に向けた手続きを進めようとしており、道仁会側への意見聴取を行ったところ、聴取には、幹部の代理の暴力団員が出席し、この中で「受け子を勧誘した人物は道仁会の組員ではない」、「証拠は裁判で出す」などと主張しています。県公安委員会では、今後、意見聴取の内容を踏まえて審議し本命令を出すかどうか決めることにしていますが、本命令が出される見込みです。

▼暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律

暴力団対策法第三節(損害賠償請求等の妨害の規制)第三十条の二(損害賠償請求等の妨害の禁止)において、「指定暴力団員は、次に掲げる請求を、当該請求をし、又はしようとする者(以下この条において「請求者」という。)を威迫し、請求者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他の請求者と社会生活において密接な関係を有する者として国家公安委員会規則で定める者(第三十条の四及び第三十条の五第一項第三号から第五号までにおいて「配偶者等」という。)につきまとい、その他請求者に不安を覚えさせるような方法で、妨害してはならない」として、「一 当該指定暴力団員その他の当該指定暴力団員の所属する指定暴力団等の指定暴力団員がした不法行為により被害を受けた者が当該不法行為をした指定暴力団員その他の当該被害の回復について責任を負うべき当該指定暴力団等の指定暴力団員に対してする損害賠償請求その他の当該被害を回復するための請求」が規程されています。そのうえで、第三十条の三(損害賠償請求等の妨害に対する措置)において、「公安委員会は、指定暴力団員が前条の規定に違反する行為をしている場合には、当該指定暴力団員に対し、当該行為を中止することを命じ、又は当該行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる」と規定しています。

(2)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(大分県)

大分中央警察署は、飲食店経営の男性に対し、暴力団の威力を示して現金を要求したとして、不当な贈与要求行為を行わせないため、六代目山口組傘下組織組員に暴力団対策法に基づく中止命令を発出しています。報道によれば、この男性組員は2024年12月、大分県内で飲食店を経営する男性に対し、暴力団の威力を示し、約3か月に1回、3万円を払うよう要求したといいます。

暴力団員については、暴力団対策法第九条(暴力的要求行為の禁止)において、「指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない」として、「二 人に対し、寄附金、賛助金その他名目のいかんを問わず、みだりに金品等の贈与を要求すること」が規定されています。そのうえで、第十一条(暴力的要求行為等に対する措置)において、「公安委員会は、指定暴力団員が暴力的要求行為をしており、その相手方の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該暴力的要求行為を中止することを命じ、又は当該暴力的要求行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる」と規定されています。

(3)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(沖縄県)

沖縄県警沖縄署は、「現役のヤクザだよ」などと暴力団の威力を示し、20代男性に不当贈与要求行為をしたとして、暴力団対策法に基づき、旭琉会二代目功揚一家構成員と、要求行為に加担した自称建築作業員の男性、無職の男性に中止命令を発出しています。

暴力団構成員に対する中止命令発出は前項のとおりですが、同法第十条(暴力的要求行為の要求等の禁止)第2項において、「何人も、指定暴力団員が暴力的要求行為をしている現場に立ち会い、当該暴力的要求行為をすることを助けてはならない」と規定されています。そのうえで、第十二条第2項において、「公安委員会は、第十条第二項の規定に違反する行為が行われており、当該違反する行為に係る暴力的要求行為の相手方の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認める場合には、当該違反する行為をしている者に対し、当該違反する行為を中止することを命じ、又は当該違反する行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる」と規定されています。

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