反社会的勢力対応 関連コラム

厳格な顧客管理は新たなステージへ
~AML/CFT・反社リスク対策のこれから

2021.09.14

取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人

人的ネットワークのイメージ

1.厳格な顧客管理は新たなステージへ~AML/CFT・反社リスク対策のこれから

(1)反社リスク対策は大きな転換期を迎えている

当社では、7月末から8月初旬にかけて、全国の「反社チェック業務を現在担当している、または過去3年以内に担当したことがある担当者」(サンプル数621名)に対してWebアンケートを実施しました。そこで明らかとなったのは「企業の反社リスク対策は反社会的勢力の実態に対峙できるレベルにない」という厳しい現実です。例えば、反社会的勢力の定義を明文化していない企業が3割程度しかないこと、元暴力団員や「半グレ」といった周辺者への対応基準が不十分であること、といった社内の認識の不統一という綻びから反社会的勢力が侵入するリスクを高めるおそれがあることが分かりました。さらに、反社チェックの対象範囲が狭く、実態が不透明化している反社会的勢力を見抜くだけのチェックのレベルになっていないことも分かりました。取引謝絶の場面においても、対象で言えば「取引先の役員等」、属性で言えば「暴力団構成員」が中心となっており、背後に潜む「見えにくい」反社会的勢力の排除や周辺者の排除は後回しとなってしまっている状況であることもうかがえる結果となりました。反社リスク対策の現状のレベル感と排除すべき反社会的勢力の実態との間には絶望的なまでのミスマッチがあり、このままではその差がますます拡大してしまいかねないおそれがあります。そもそも現行の反社リスク対策のレベルでは、反社会的勢力を見抜くことができず、反社会的勢力の実態についての無知も相まって、その結果だけを見て「当社の反社リスクは低い。対策は十分だ」との妙な思い込みや過信につながっている可能性があります。したがって、反社リスク対策のブラッシュアップや役職員の意識やリスクセンスの重要性も省みられることなく、実務は形骸化が進み(一方の反社会的勢力の不透明化は急激に進行し)、その結果、反社会的勢力の侵入にも気づくことなく、反社会的勢力の活動を助長しかねないリスクを自ら高めてしまっている・・・そのようなネガティブ・スパイラル(悪循環)に陥っているのが現状だといえます。まずは、自社の反社リスク対策の脆弱性を真摯に受け止めること、その解消に向けて、役職員の意識やリスクセンスを高め、反社会的勢力排除に向けた内部統制システムの再構築を図ることが急務だといえます。

▼【プレスリリース】反社リスク対策に関する実態調査(2021年)
▼反社リスク対策に関する実態調査(2021年)全体版

以下、主な調査結果・ポイントについて概要を紹介いたします。ぜひ、全体版についてもご一読いただきたく存じます。

本コラムでも取り上げてきましたが、2021年5月、福岡県の暴力団関係事業者に対する指名停止措置等において、代表者が密接交際者であるとして社名公表された九州の事業者が、2週間後に倒産に追い込まれる事態となりました。代表者の認識の甘さがすべてではありますが、あらためて反社リスクの重大さを認識させられる事例だといえます。翻って、取引等で関係のあった事業者についても、そのような重大なリスクでさえ事前に認知できなかった/認知出来ていても有効な対応を講じてこなかった(不作為)という点では、大きな課題が突き付けられたともいえます。そして、このことは、どの企業にあっても他人事とは言えないのではないかと思います。最近、人権問題の観点はサプライチェーンの問題へと拡大、「人権デューデリジェンス」として「サプライチェーンからの人権問題の排除」、その確認実務が喫緊の課題となっています。それとともに、セキュリティ対策や反社リスク対策も同様の構図だということをあらためて認識いただく必要があります。ランサムウエアなどのサイバー攻撃においては、比較的脆弱な中小企業の取引先を踏み台する「サプライチェーン攻撃」が増加しており、企業は自らを守るためにサプライチェーン全体を監視対象とすることが求められています。そして、反社リスク対策においては、当社は10年以上前から指摘していますが、「サプライチェーンからの反社会的勢力排除」の視点が重要です。それは東京都暴排条例における「関連契約からの暴排」(例えば、再委託先が反社会的勢力であれば、委託先に排除対応を求め、それができなければ委託契約を解除すべきとする考え方)を含むもので、直接・間接を問わず、反社会的勢力と「線」でつながってしまえば、自社も社会から批判される(最悪、取引を解消される)ことになることを想定すれば、実感できるものと思います。

さらに、特定危険指定暴力団工藤会のトップに福岡地裁が死刑判決を下しましたが、今後の反社リスク対策を考えるうえでは深刻な影響をもたらす可能性があります。判決自体は、暴力団の持つ強固な組織性をもとに、間接証拠を積み重ねて立証したという点では極めて画期的な判断であり、民事での特殊詐欺被害等に対する暴力団対策法上の使用者責任が最高裁でも認められたこととあわせれば、暴力団にとっては「大きな抑止」となることは間違いないと思われます(もちろん、本件は「当時の工藤会」の「強固な組織性」が際立っていたことが大きな要因のひとつであると考えられ、六代目山口組はじめ他の暴力団にも一律に適用できるかどうかは、疑問が残ります。さらに、半グレ等の周辺者の存在感が増している状況にあって、その論理を周辺者にまで適用していくことはさらに困難だと考えられます)。一方で、本判決を受けて、暴力団のさらなるマフィア化(地下化)や半グレ等の周辺者の活動のさらなる活発化が危惧されるところです。このような状況をふまえれば、企業は、周辺者をいかに捕捉していくか、より厳格な見極めが求められるようになるということです。具体的には、反社会的勢力の範囲を最大限に拡げつつ、法人の実質的支配者だけでなく、「実質的関与者」をできるだけ把握し、調査対象を拡げていくことが求められ、現行の反社チェックではますます通用しなくなる(見抜くことがより困難になる)ことを大変危惧しています。

そのような現実を前に、今まさに企業は、反社リスクの重大さを甘く見積もりすぎていないか、反社会的勢力の実態の不透明化や手口の巧妙化に対して十分な対策を講じているといえるのか、あらためて問われる局面だといえます。そのような問題意識もあって実施した本調査では、現時点の企業の反社リスク対策の実態を把握するとともに、反社会的勢力の実態とのミスマッチの状況を炙り出し、今後の実務において気を付けるべき点を提言することを目指しました。しかしながら、結論は冒頭指摘した通り、絶望的なまでにスマッチの状況が浮かび上がる結果となりました。本調査の詳細については、全体版を参照いただくとして、ここでは、結果のポイントを以下に紹介しておきます。

  • 反社会的勢力排除に向けた内部統制システムの整備状況はいまだ不十分である。とりわけ、業種でいえば、一般的に反社リスクが高いとされる建設業や不動産業、あるいは卸売/小売業、飲食業など、さらには従業員300人未満の中小企業における取組みの遅れが顕著である。一方、金融事業者や上場企業の取組みはそれ以外の属性に比べて取組みが進んでいるものの、上場企業であっても、内部統制システム上重要である、規程/マニュアル類の整備や反社チェック態勢の整備、社内研修の実施等でさえ5~7割程度の実施率で十分とは言えない状況となっている。
  • 反社会的勢力の定義を明文化していない企業が3割を占める。社内の認識が不統一であれば、その綻びから反社会的勢力が侵入するリスクは増大する。また、元暴力団員や「半グレ」の取扱いについても多様な状況が確認された。反社リスク対策において、事業者の自立的・自律的な取組みは望ましいが、一部の銀行を含めて反社会的勢力を限定的に捉えることは、反社リスク対策の実効性を著しく阻害することを厳しく認識する必要がある
  • 反社チェックに活用する情報については、本来、できるだけ多くの手法を組み合わせて多面的に実施することが望ましいが、「公助」「共助」「自助」を取り入れながら工夫している状況が確認された。また、業種によって活用する情報の選択が異なる傾向にあることも浮き彫りになった。ただし、自社で整備しているデータベース(DB)の情報量は(金融機関を除き)まったく不十分であり、残念ながら実務には耐えられない可能性が高い。同様に、最近、表面的かつ限定的なチェックツールを提供する会社も増えているが、当然ながらそのようなツールを活用するだけではやはり不十分である(そのようなチェックツールを活用して「見つからない」という結果に安住している実態もまた反社会的勢力の実態とのミスマッチを象徴するものだ)
  • 反社チェックの対象範囲について、現任役員すべてにまで拡げている事業者は5割、主要株主や主要取引先まで拡大している事業者は3割程度であり、反社チェックの実務において、実態の不透明化が進む反社会的勢力の実態とのミスマッチが起きていることが確認された。さらに、中小企業では「社名」「代表者名」までしか確認していない事業者が多いほか、金融事業者でさえ、十分に対象範囲を拡げていないことも確認された。この点が、現行の反社リスク対策における最大の課題だと指摘しておきたい。
  • 既存取引先の定期チェックについては、概ね7割程度はすでに実施している状況である。一方で、疑わしい取引等を認知した際に速やかにチェックを行う仕組み等は十分に整っておらず、反社会的勢力のアプローチに対する認知や初動対応の遅れが危惧される。
  • これまでに新規取引見合わせや既存取引先との関係解消など何らかの取引謝絶を行った企業は6割弱に及ぶ。ただし、金融事業者が8割に上る一方で飲食業は3割程度と、業種によってその水準にはバラつきがある。また、中小企業における取引謝絶の実務の遅れも明らかとなった。全体としては、反社チェックの実効性が高い属性ほど取引謝絶を行った割合は高い傾向にある。一方で、例えば、反社チェックにしっかり取り組めていない傾向が見てとれる不動産業においては、取引謝絶の経験の割合が75%にも上り、それだけ反社リスクの高い業種であることが推察される結果となった。
  • 取引謝絶の対象は、「取引先の役員/主要な従業員」が多い傾向にあり、対象の属性では「暴力団構成員」が多い。反社チェックの実効性と反社会的勢力の不透明化の実態とのミスマッチがあるものの、現状はこれらの「見えやすい」ところから取引謝絶を行っている状況にあると推察される。とりわけ銀行においては、「暴力団構成員」が8割を占め、「共生者」や「半グレ」、「その他の反社会的勢力」との取引謝絶は3割を切っており、その傾向が顕著である。反社会的勢力の不透明化の実態をふまえれば、取引謝絶に至っていないケースや、そもそも事業者が認知できていないケースがいまだ多数存在し、現状、保有している反社リスクは相当高い水準にあるものと考えられる。
  • 取引謝絶に向けた判断について、事業者が主体的に判断するケースが警察に照会するケースより多くなっている点は、自立的・自律的な取組みとして評価でき、さらには、5年卒業基準にこだわらず慎重さがうかがえる点も評価できる。また、同姓同名の確認(同一性の精査)の限界をふまえて慎重に対応している状況もうかがえる。一方で、その判断者(意思決定者)については、「反社会的勢力対応部著」等の判断と「取引担当部署」等の判断とで二極化しつつあり、後者の場合、けん制機能という点で危うさは否定できず、反社リスクを適切にふまえた慎重さが求められるといえる。
  • 反社リスク対策の全体的な課題としては、「社内で反社会的勢力排除の重要性や必要性に関する理解を得るのが難しい」、「反社会的勢力排除の意識の浸透やリスクセンスの醸成を図ることが難しい」、「実務に手間やコストがかかりすぎる」、「反社会的勢力の範囲の不明確さ(どこまでが排除対象かが不明確)」、「反社会的勢力に関する情報収集(どこまで情報を収集すればよいかわからない)」などが上位となった。

繰り返しになりますが、本調査から、反社リスク対策の実効性は、全体的に反社会的勢力の実態に対峙できるレベルにないことが明らかになっています。確かに金融事業者や上場企業などは相対的に高いレベルにあるものの、それでも反社チェックのレベルは十分ではない状況だといえます。また、とりわけ、反社リスクが高いとされる業種や、中小企業において取組みの遅れが顕著であることが判明しています。業種や企業特性などによっては、これまでの古い事業構造(政府指針以前に上場した古くからの上場企業はむしろ取組みが十分でないことは肌感覚で指摘できます)や企業体質(過去から取引しているから大丈夫、このくらいは取引慣行として仕方ない、問題ない、といった古い意識から脱却できていない企業も多いと推測されます)から脱却できていないことが背景要因にあることが考えられるところ、現状、その実効性の低い反社チェックのレベルや役職員の意識の低さは、反社会的勢力の活動を助長しかねないレベルといえ、経営トップはじめすべての役職員の意識面からの早急な改善、社内態勢の整備(内部統制システムの構築)がまずは必要だといえます。さらには、おそらくそれほどの時間的な猶予なく、現行の反社チェックはもはや通用しなくなる状況が現れるはずで、事業者の本気の対策が急務となっています。本調査結果をふまえ、自社の取組み状況を見つめなおし、しっかりと反社会的勢力と「対峙」して、「退治」できる「反社会的勢力に強い企業」になっていただくことを期待したいと思います。

さて、前述したとおり、工藤会トップに対する福岡地裁判決は大変画期的な内容だと評価できます(福岡地検は控訴しないとしていますが、当然ながら工藤会側は控訴しています。極めて画期的であるがゆえ、最高裁まで審理が持ち込まれる可能性が高いと考えられます)。判決文は入手できていませんが、2021年8月25日付毎日新聞でその要旨がコンパクトにまとまっており、以下、抜粋して引用します。

工藤会と被告

野村悟被告は1986年ごろ、工藤連合の2次団体の組長となり、90年に工藤連合(2代目)が発足した際、田上不美夫被告を序列2位に抜てきした。2011年に5代目工藤会が発足し、野村被告が総裁、田上被告が会長となり、序列が厳格に定められていた。野村被告は最上位の扱いを受け、特別な存在として見られ、工藤会内で実質的にも最上位の立場で、重要事項についての意思決定に関与していたと推認できる。重要事項に関し、執行部が両被告の意向を無視し、実行することは組織のありようから考えがたい。

元漁協組合長射殺

事件は両被告が被害者一族の利権に重大な関心を抱き、交際を拒絶される中で起こった。動機が十分にあり、両被告の関与がなかったとは考えられず、共謀が認められる。弁護人は起訴は公訴権を乱用した極めて不当かつ違法なもので無効だと主張するが失当だ。

元福岡県警警部銃撃

工藤会の最高幹部と直接会話できる数少ない捜査員だった被害者を襲撃するのは、工藤会にとって重大なリスクがあることは容易に想像でき、両被告に無断で起こすとは到底考えられない。

看護師襲撃

野村被告は被害者が勤める美容形成クリニックで受けた施術や対応に不満を抱いており、動機があった。他の組員に動機はなく、無断で実行した可能性はない。

歯科医襲撃

田上被告は港湾建設工事に影響力を有するとみられていた被害者一族の利権に注目し、被害者の父親に利権交際に応じるよう要求したが、父親は応じなかった。野村被告の関心事である利権介入に大きく関係し、多数の組員を組織的に動かす犯行を、田上被告が野村被告の関与なしに指示するとは到底考えがたい。

また、本件については、さまざまなところで有識者がその意義等についてコメントを述べていますが、筆者としては、概ね以下の堀内恭彦弁護士の見解のとおりと考えています(2021年9月6日付産経新聞)。以下、やや長くなりますが、一部抜粋して引用します。

判決は直接証拠がない中で多くの関係者の証言から「厳格な上意下達の組織性」があるとし、「トップの承諾なく組員が重大事件を起こすことは考えられない」との立論で指揮命令を認定した。・・・暴力団側もますます組織の隠蔽を図り、情報統制や証拠隠滅を徹底するなど、いわゆる「マフィア化」を加速させていくであろう。これに対応するには何よりも新たな立法も含めた総合的な暴力団対策が急務である。暴力団がマフィア化していくのであれば、諸外国のマフィア対策法を取り入れるなど新しい捜査手法を導入すべきである。例えば、組織のことを話せば刑を軽くするという「司法取引・刑事免責」、身分を隠して組織に潜入する「おとり捜査」、電話での会話をキャッチする「通信傍受要件の緩和」などである。また、暴力団の資金源を断つことも重要となる。海外の一部ではマフィアの金はマフィア側が「違法な収益ではないこと」を立証しない限り、没収や課税が可能とされている。日本でもこのような没収・課税制度を作ることによって資金源を断つことが容易になる。さらに、米国には「RICO法(米国組織犯罪規制法)」があり、犯罪組織のメンバーというだけで逮捕される。マフィアの存在そのものを非合法化しており、日本でも一考に値する。加えて、暴力団による被害者の民事的な救済も重要課題である。・・・例えば、被害者に代わって国や自治体が訴訟を起こせるようにするなど、公的機関が前面に出て対応する法律である。他方で、暴力団から離脱したいという者の支援や社会復帰の援助にも積極的に取り組まなくてはならない。わが福岡県では離脱した元組員を雇用した企業に給付金を出すなどしており、この制度が全国に広がることを期待したい。また、ドラマの世界のヤクザを見て憧れる青少年に「現実は格好いいものではない」と教えるのも大人の役割であり、教育・啓蒙活動もさらに推進していきたい。

その他にも、「従来は幹部の関与を認定するのに実行犯の具体的な自白が重要とされてきたが、判決は間接証拠の積み上げにより認定している。組織犯罪摘発の壁を破った画期的な判決だ。これまで民事訴訟では暴力団幹部の使用者責任が問える場面はあったが、刑事裁判でのトップ関与の立証は困難だった。今回の判決で捜査当局も積極的に立件しやすくなる可能性がある。暴力団排除の段階がまた一つ上がったと感じる。」(2021年8月25日付毎日新聞)、「暴力団の共謀を巡る判例では、組長のボディーガード役による拳銃所持で組長の共謀が問えるかどうかが争われた通称「スワット事件」がある。この事件で最高裁(2003年)は上意下達の特殊な集団という前提などを基に共謀を認めており、今回はそれをさらに進めた判決と言える。直ちに企業犯罪に応用されることはないだろうが、強固な組織性を持つ政治集団などへ適用できる考え方でもある。冤罪を生まないためにも、今後の捜査当局の運用法は注視していく必要がある。」(同)、「共謀は言葉のやりとりが重要視されがちだが、暴力団の世界の実態はそうではない。組織性の立証でトップの共謀が認定された事例として、今後の捜査に生かすことができるだろう」(2021年8月24日付毎日新聞)、「暴力団トップは直接自ら手を下さないのが当たり前の中、判決は『ヤクザ』の行動原理を改めて明示した形で援護射撃になる」(同)、「近年の組織犯罪はその立証に不可欠な上意下達の組織性が捉えにくくなっている。・・・有罪判決の効果は大きいが、組織の壊滅にはなお高い捜査力が求められる」(同)、「事実認定と量刑判断で暴力団の組織性が最も重視された。・・・組織犯罪に社会全体が厳しい視線を向けるなかで象徴的な判決。・・・・警察や金融当局、民間金融機関などが協力して犯罪収益の流れを追跡、分析するマネロン対策の強化で犯罪組織の実態解明につなげることが重要だ」(2021年8月25日付日本経済新聞)、「ピラミッド構造が厳密で、上位者が命じれば犯罪もいとわない暴力団の特異性を最大限重視した判断といえる。この判断が定着すれば、犯罪の黒幕として摘発が難しかった組織幹部の罪を問うことがより容易となる。捜査機関に新たな武器を与えることと同義だ。ただし、推論と推認を重ねる手法は冤罪の危険性とも背中合わせだ。その意味で、今回の判決は「もろ刃の剣」だと言わざるを得ない。」(2021年8月26日付西日本新聞)、「殺害被害者が1人の量刑についても「反社会集団の暴力団が計画的に実行している点で、はるかに厳しい非難が妥当で、極刑を選択すべきだ」と踏み込み、一般市民への相次ぐ襲撃で体感治安が著しく悪化したことにも言及した。凶悪な組織犯罪は許さないという、司法の意志が強く示された判決だったといえる。」(2021年8月26日付産経新聞)、「山口組の分裂抗争は兵庫などを舞台に7年目に突入した。警察庁によると、全国では計149件の抗争事件が発生しているが、組上位者の関与を裏付けた捜査は極めて少ない。暴力団対策に携わる兵庫県警の捜査員は「犯罪の実行にトップの判断が欠かせず、意思決定の仕組みが明確という点で、工藤会は特殊な組織だ」と指摘する。その上で「間接証拠の積み上げで、事件への関与を認めた司法判断がなされたことは大きい。山口組など他組織もうかつに抗争事件が起こせなくなり、一定の抑止になるかもしれない」と期待した。」(2021年9月9日付神戸新聞)、「工藤会が関与したとみられる事件で、被害届さえ出してくれなかった時代から大きく変わった。市民の暴排意識の向上で「警察対工藤会」から「社会対工藤会」になったと感じている。・・・工藤会が弱体化すれば、県内外の他団体が利権を求めて北九州を狙ってくる可能性がある。警察庁が「準暴力団」と定義し「半グレ」とも呼ばれる若い世代が中心の犯罪グループも幅をきかしており、動向を注視したい。・・・取り締まりと暴排活動の連動が欠かせない。組員の離脱支援の制度も充実し、元組員を受け入れる意向を示した協賛企業は今年7月末現在で386社に上る。刑務所に入れて終わりという時代から、アフターケアをして社会に引き戻さないといけない時代になった。」(2021年9月9日付毎日新聞)、といった有機者のコメントや社説があり、大変参考になりました。

なお、あわせて本件を指揮してきた福岡県警や福岡地検の奮闘ぶりについても多く紹介されていました。以下、主なものを一部抜粋して引用します。

2021年9月3日付毎日新聞「工藤会「鉄の結束」崩した捜査 キーマンが語る「頂上」までの軌跡」
まず取り組んだのが、福岡県警との協力関係の再構築だった。当時、県警は検察側に対し「事件を持ち込んでも起訴してくれない」と不信感を抱き、両者の関係はぎくしゃくしていた。「どんな情報でもいいから上げてください」。県警幹部へのあいさつ回りでは自身の経歴を熱く語った。「今度の支部長は変わっとるな」。その様子を見ていたのが、後に「戦友」と呼び合う北九州地区暴力団犯罪捜査課長で現刑事部長の尾上芳信氏(60)だ。刑事畑を歩む一方、警察庁への出向経験から法令解釈にも明るく、人事のてこ入れで工藤会対策の最前線に投入された一人だった。・・・なぜ工藤会捜査は難しいのか。壁になっていたのが組織の「鉄の結束」と野村被告による「恐怖支配」だ。まれに実行役の配下組員が逮捕されても、取り調べになると黙秘が続いた。野村被告や、ナンバー2で会長の田上不美夫被告(65)ら上層部の関与は全く解明できなかった。もし関与を話せば、自分や家族の命が危うくなると組員らは恐れていた。・・・そんな見立てを後押しする判決も出た。山口組系の組長を刺殺した事件で大阪高裁は14年1月、1審の無罪を覆して有罪判決を言い渡した。「複数の組員が犯行を準備・実行した場合は、組長の指揮があったと経験則上推認される」としたのだ。これを当てはめれば、梶原さんの事件を指示したのは野村、田上両被告しか考えられないという理屈になる。・・・野村、田上両被告は判決を不服として控訴し、審理は高裁に移る。オール警察・検察で臨んだ頂上作戦から間もなく7年。明確な物証がない中、関係者の証言を積み上げ、暴力団の組織性と犯行動機を解き明かした捜査手法は歴史に刻まれるだろう。ただ、ここに至るまで命をかけた一人一人の刑事や検事が残した爪痕はもっと深いのかもしれない。
2021年9月9日付西日本新聞「工藤会の捜査員「お宝が出ました」 トップの死刑判決、異例の舞台裏」
工藤会壊滅作戦は11日で着手から7年を迎える。14年1月、大阪高裁で暴力団捜査に「追い風」となる判決が言い渡される。神戸市で山口組系組員らが起こした殺人事件で、組長が下部組織を含む複数の組員らに指示したことを示す直接的な証拠はなかったが、裁判長は「複数の組員らが組織的に犯行を準備、実行した場合は、組長の指揮命令に基づいて行われたと推認される」と、組長に実刑判決を言い渡した。…従来の暴力団捜査は内部情報を入手するため、組員との付き合いを一定程度容認し、暴力団側が反発するような捜査は避けることもあった。だが尾上は容疑が固まった段階で先行して家宅捜索し、資料を押収するよう命じた。組員が抵抗する中、「隠れ事務所」とみられるマンション一室を捜索、金庫をバールでこじ開けたこともあった。中には資金の流れなど組織運営の実態を示す資料が入っていた。捜査員から「お宝が出ました」と報告があった。

さて、東京五輪も閉幕し、2つの山口組も大きな展開を見せ始めました。直近では、神戸山口組の中核である山健組で神戸山口組を離脱し、対立する六代目山口組との合流を模索しているといった報道がありました(2021年9月10日付読売新聞)。それによると、「兵庫県警は、特定抗争指定暴力団「神戸山口組」(本部・神戸市)から中核組織の「山健組」が離脱したと断定した。県警は、山健組が神戸山口組と対立する特定抗争指定暴力団「山口組」(同)への合流を模索しているとの情報を入手している。捜査関係者によると、山健組組長(62)は昨年7月以降、神戸山口組から離脱の意向を示して傘下の組長に同調を求め、山健組の組員が離脱する動きが出た。神戸山口組は昨年9月、山健組組長を除籍処分にしたという。組織運営を巡る対立が背景にあるとみられる。神戸山口組と山口組は2015年に分裂後、対立抗争を繰り返し、昨年1月に両組織は特定抗争指定暴力団に指定された。神戸山口組には昨年末時点で約1,200人の構成員がいたが、今回の離脱に700人程度が同調し、勢力は半分以下になるとみられる。県警は離脱が新たな抗争の火種になる可能性があるとして警戒を強め、各組織の動向を注視している。反社会勢力に詳しいノンフィクション作家の溝口敦さんは「山口組が山健組を引き入れれば、対立抗争を巡る情勢が大きく変わる可能性がある」と指摘する。」と報じられています。神戸山口組からの山健組の離脱問題は以前から指摘されていましたが、暴力団対策法上の指定暴力団への指定作業への空白期間の問題があり、これまでは「内部抗争」と位置付けていたものを、「断定」とした点は、大きな転換点を意味しています(つまり、離脱した山健組を新たに指定暴力団に指定すべきかどうかの見通しがある程度ついたことを意味していると思われます)。なお、週刊誌情報では、「六代目山口組に復帰するという堅い情報をもっているからではないか」、「離脱した山健組に対し、山口組は『手を出さないように』との通知を出していたようです。いずれ復帰することを見越してのことだったと言われています」(暴力団に詳しいジャーナリスト)といった見立てがあり真実味があります。そもそも神戸山口組は中核団体である山健組や資金力のある池田組が脱退、また事務所などを銃撃された岡山県倉敷市の傘下組織が解散するなど、弱体化に歯止めがかからない状況にあるものの、神戸山口組の井上邦雄組長は「一人でもヤクザを続ける」と周囲に宣言、人事も再編し臨戦態勢を緩めていない状況が続いています。六代目山口組側も、持久戦による体力消耗から早期終結を望んでいるとみられ、水面下での構成員の切り崩し工作や散発的な襲撃を続けてはいますが、糸口はつかめていない状況にあります。いずれにせよ、膠着状態が続いてきたところ、今回の兵庫県警の「断定」をきっかけとして、事態が急展開していくことが予想されることから、本コラムとしても状況を注視していきたいと思います。

また、2つの山口組の抗争に関連して、岡山県公安委員会や岡山県警が、特定抗争指定暴力団の六代目山口組と神戸山口組の活動を厳しく制限する県内の「警戒区域」のうち、岡山市の指定を延長せず、期限の10月6日までに解除する方針を固めたということです。両組織は10府県で特定抗争指定暴力団に指定されており、計20市町に上る警戒区域が解除されるのは全国初となります。同県公安委は、昨年5月に岡山市を拠点とする神戸山口組系池田組幹部への銃撃事件が起きたことで、同7月に岡山市を警戒区域に指定、池田組が神戸山口組を離脱したことを受け、岡山県警などが、岡山市で六代目山口組と神戸山口組の対立状態が認められなくなったと判断したということです。さらに、今後、池田組を指定暴力団に指定し警戒を続けるといいます。同県内では倉敷市と津山市も警戒区域で、両市の指定は延長される見通しです。一方、兵庫県公安委員会などは、六代目山口組と神戸山口組に対し、「特定抗争指定暴力団」への6回目となる指定の延長を公示しています。1年半を超える「長期戦」の指定は影響が大きく、拠点を手放す組織も出てきているといいます。警察庁によると特定抗争への指定以降、全国の警戒区域内で約30カ所の事務所が撤去されたといいます。報道によれば、兵庫県警の担当者は「シノギ(資金獲得)が厳しい中、いつ使えるようになるか分からない事務所の維持にお金を掛けられず、売却の意向を持つ組織も増えた」と述べています。また、本コラムでも取り上げましたが、兵庫県尼崎市では今年3月、同市が山口組傘下組織の幹部が住む自宅を、自治体として全国で初めて買い取りに踏み切っています。

その他、暴力団を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 工藤会判決を受けて、六代目山口組が傘下組織の構成員に対し、公共の場で銃器を使用しないよう指示を出しています。最高幹部である野村被告に死刑判決が言い渡されたことを受けた対応とみられ、指示は、口頭で傘下組織に伝達されたということです。
  • 本コラムでも取り上げましたが、最高裁第1小法廷は、稲川会系組員らによる特殊詐欺事件の被害に遭った女性が、組トップの辛炳圭(通称・清田次郎)元会長に損害賠償を求めた訴訟で、元会長の上告を受理しない決定をしています。これにより、1,320万円の支払いを命じた2審・東京高裁判決が確定しています。特殊詐欺事件を巡り、暴力団対策法に基づき組トップの責任を追及した訴訟で、賠償命令が確定するのは3例目となります。
  • 2021年8月17日付新潟日報によれば、新潟県暴排条例が施行され、8月で10年となり、住民らの暴排意識の高まりを受け、県内の暴力団勢力は2020年末時点で600人を割り込む590人となり、条例施行時から半減したと報じられています。しかし、暴力団の根絶には至らず、県警は「暴力団の排除は道半ば。社会全体で活動を続けていくことが重要だ」としています。企業は暴排条例を盾に、みかじめ料の支払いを拒めるようになったほか、「暴力団と判明した場合には契約を解除する」といった内容を盛り込んだ暴排条項を策定したり、取引先が暴力団関係者でないか確認を徹底したりする動きも広がった点で評価できる一方、新潟県暴力追放運動推進センターは「組織が存在しているということは、まだ資金が流れている証拠」と指摘しています。
  • 2021年8月20日付福島民友新聞は、「暴力団の根絶/要求に屈せず警察に相談を」と題する社説で、「暴力団を根絶し、県民が安全、安心に暮らしていける社会にすることが重要だ」と強調しています。報道によれば、同県内では各地方に暴力団が計36組織あるといいます。同県警はここ数年、殺人未遂や恐喝などの疑いで年100人前後の組員を摘発しているものの、今も約460人が県内を拠点に活動しているということです。福島市では今年7月、地元住民の会や県暴力追放運動推進センター、福島署、県弁護士会などが連携して、暴力団側との協議を進め、同市庭坂地区の組事務所の土地と建物の第三者への売却が完了、暴追センターなどが地元住民を支援し、訴訟などを通じて組事務所を撤去する制度を活用して、約3年かけて売却を実現させたという事案がありました。この建物で2016年に拳銃発砲による殺人未遂事件が発生したのをきっかけに、同センターなどが地元住民の意向を確認した上で、暴力団側との交渉を進めたということです。この事案が市民の意識を変えて、要求に屈せず警察に相談するなどして、最終的には暴力団の根絶につながることを期待したいと思います。
  • 東京都港区のTBS敷地内でタレントで映画監督のビートたけし(本名・北野武)さんが乗った車が襲われた事件で、銃刀法違反容疑で逮捕された40代後半の男が、住吉会系の組関係者であることが判明しています。事件に暴力団が絡んだ形跡はなく、組織性も確認できないということです。報道によれば、男は警視庁の調べに「6月下旬に土下座して弟子入りを頼んだが無視され、根に持っていた」と話しているものの、説明につじつまの合わない点もあるということで、男がたけしさんを一方的に恨んでいたとみており、器物損壊の疑いでも調べているということです。
  • 知人男性宅に押し入り、暴行を加えて現金などを奪ったとして、警視庁組織犯罪対策2課は、強盗致傷容疑で準暴力団「チャイニーズドラゴン」幹部ら30~38歳の男女4人を逮捕しています。報道によれば、容疑者は、以前から知人男性と金銭をめぐってトラブルになっており、犯行を計画したとみられているといいます。中国残留孤児2世らで構成されるチャイニーズドラゴンは、みかじめ料の徴収や薬物の密売などで資金を得ているとみられ、殺人や強盗などの凶悪犯罪に関与したとしてメンバーが逮捕されるケースは後を絶たず、警察当局との攻防が続いている状況です。特徴としては、「カネのためなら手段を選ばない集団」で、警視庁が認定するメンバーは400人以上おり、東京では歌舞伎町や上野、池袋などに支部を持ち、それぞれに総長を置く形となっているようです。なお、住吉会の2次団体幸平一家との「二足のわらじ」を履くメンバーもいるとされています。同じくチャイニーズドラゴンの犯罪として、バイクを販売したという嘘の契約情報を伝えて信販会社から代金350万円をだまし取ったとして、チャイニーズドラゴンのメンバーら3人が逮捕されています。容疑者らは都内の男性2人にバイクを販売するふりをして契約の書類を書かせ、その契約情報を信販会社に送信、信販会社からバイクの代金として350万円を送金させたもので、男性2人はローンを払い続けましたがバイクが届かないことから警視庁に相談し、事件が発覚したということです。

その他、反社会的勢力を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 2017年からガスの自由化が進められ、東京ガスと大阪ガスは大手のため規制が続いていたところ、今年10月1日から完全自由化されることになり、それにともなって反社会勢力への供給停止について約款に明記することになりました。具体的に、10月1日からどのように運用するかは今のところは不明ですが、反社会勢力と判明したことでガス会社がガスの供給を止めたという例はまだないようです。ユニバーサルサービスでもあるガスの供給においても反社会的勢力排除の取組みが求められるようになったこと、そこまで踏み込んできたことは大きな転換点になるといえますが、一方で銀行口座同様、組事務所や組幹部の自宅などから排除の手続きが進むものと推測されます。
  • 鹿島建設の天野社長は、建設業界の構造課題とされる多重下請けの見直しに着手する考えを明らかにしています。報道によれば、「世の中の仕組みがITやインターネットで変わりつつあり、効率よくしないと社会が成り立たない」と述べています。建設業界は、鹿島などの大手ゼネコンを頂点に、4次、5次まで下請け業者が連なるピラミッド型である点が特徴ですが、同社は「近いうちに(下請け業者を)2次くらいまでにしていきたい」との考えを示しています。ITを使って情報共有を図り、企業間の連絡・調整を効率化することで可能だといい、「協力業者との契約関係を透明にし、調達に関する規定といった仕組みを隅々まで徹底していかなければならない」と強調しています。反社リスク対策の観点からも大変歓迎したところであり、震災ビジネスといわれるように、複雑な下請け構造の中にフロント企業等が入りこんで、収益を中抜きする構図が問題視されており、それに対し建設業界は有効な手を打ってこなかったことを忸怩たる思いで見ていましたが、これを排除できることは極めて画期的なことだと評価したいと思います。

(2)グローバルな金融犯罪との戦いにAML/CFTの深化が不可欠だ~FATF勧告を受けて

FATF(金融活動作業部会)の第4次対日相互審査で日本は辛くも「観察対象国」指定を免れました。メガバンク以外の金融機関や暗号資産交換事業者、不動産業者・貴金属・宝石商や弁護士などDNFBPs(指定非金融業者・職業専門家)の取組みの遅れが指摘されたほか、継続的顧客管理(取引モニタリング)や実質的支配者の確認実務、休眠口座対策の実効性の低さ、テロ対策への意識の低さ、NPO法人等が有する「犯罪インフラ性」への対応の遅れ、「法人」のもつ「犯罪インフラ性」への理解の低さと対応の遅れ、国内法規制の弱さなどにも厳しい目が向けられる結果となりました。さらには、反社リスク対策における、金融機関が独自に整備している反社リスト(DB)の「正確性や確度の確保」に課題があること、スクリーニング偏重の傾向から「振る舞い検知」の取組みが遅れていること、口座解除の手続きに時間がかかりすぎるなどといった具合的な指摘もあった点は興味深いといえます。全体的に、事業者に対して、AML/CFTに係る事例や実務の意味、求められている義務をより一層深く理解し、実務の深化を図ることを強烈に促す内容となっており、その意味では、「重点フォローアップ国」という位置づけ以上に課題が山積みだといえます。政府としても、FATFの審査結果を受けて、必要な法整備を検討する「FATF勧告関係法整備検討室」を内閣官房に設置したほか、2024年春までに3回の改善状況報告が求められ、スケジュール的が余裕もそれほどない中、やるべきことが山積みとなっていることから、今後3年間の行動計画についても発表しています。金融機関による顧客管理が不十分との指摘に、対策が遅れた地方銀行などの監督を強化すること(AIを活用したAML/CFTのシステム共同化の可能性について議論を開始したばかりであり、金融機関ごとに抱えるリスクが異なる中、共同化がどこまで進むかは未知数という状況にあります)、犯罪組織がNPO法人を巻き込むなど手口が複雑化している実態に対しリスクの評価や監督が不十分だと問題視されたことへの対応、マネロン・テロ資金供与対策の厳罰化や法制度の不備への対応(法務省は来年夏をめどに、組織犯罪処罰法の「資金洗浄罪」や、テロ資金提供処罰法の「テロ資金等提供罪」について、法定刑の引き上げなどを検討するとしています)など、金融犯罪の急速なグローバル化に対応できていない行政の姿勢にも憂慮が示されていることから、金融行政全般の改善、官民挙げた対策の見直しが迫られているといえます。

以下、FATF勧告の内容の概要について、紹介します。まずは、金融庁が概要部分を公表しています。

▼金融庁 FATF(金融活動作業部会)による第4次対日相互審査報告書の公表について
▼概要部分(仮訳)
  • 日本は、これまで実施してきた多くの分析に基づいてマネー・ローンダリング(以下、マネロン)とテロ資金供与の主要なリスクをよく理解している。一方、国のリスク評価やその他の評価について、多くの面でさらに改善させることができる余地がある。テロ資金供与リスクの評価と理解は、テロ対策の専門家からはよく示されているが、テロ資金供与対策を担う他の日本の行政当局の職員には及んでいない。AML/CFTのための国の政策と戦略において日本は、暗号資産に関するリスクを含め、リスクの高いいくつかの分野に対処しようとしている。しかしながら、それらの政策と戦略はAML/CFTの活動に的を絞ったものではない。AML/CFTの実施面では、ほとんどの法執行機関の間で概ね良好な協力が行われているが、AML/CFT政策の策定のため、より一層の連携が求められる。
  • 大規模銀行(より高いリスクを有する金融機関として認識されているグローバルなシステム上重要な銀行(GSIB)等)を含む一定数の金融機関及び資金移動業者は、マネロン・テロ資金供与リスクについて適切な理解を有している。その他の金融機関においては、自らのマネロン・テロ資金供与リスクの理解が限定的である。金融機関がマネロン・テロ資金供与リスクについて限定的な理解しか有していない場合、金融機関のリスクベース・アプローチ(以下、RBA)の適用に直接的な影響を及ぼす。このような金融機関は、最近導入・変更されたAML/CFTに係る義務について十分な理解を有しておらず、これらの新しい義務を履行するための明確な期限を設定していない。指定非金融業者及び職業専門家(以下、DNFBPs)は、マネロン・テロ資金供与リスクやAML/CFTに係る義務について低いレベルの理解しか有していない。暗号資産交換業者は、暗号資産取引に関連する犯罪リスクについて一般的な知識を有し、基本的なAML/CFTに係る義務を実施している。疑わしい取引の届出の総件数(年ベース)は増加傾向にあるところ、疑わしい取引の届出の大部分は金融分野からのものであり、暗号資産交換業者の届出の実績も良いが、全体的にみて、疑わしい取引の届出は、基本的な類型や疑わしい取引の参考事例を参照して提出されている傾向がある。また、特定のマネロン・テロ資金供与リスクに直面している一部のDNFBPsを含め、全てのDNFBPsが、疑わしい取引の届出義務の対象になっているわけではない。
  • 金融監督当局間でリスクの理解に差はあるものの、主要なリスクに関する理解は適切である。金融庁は、金融セクターの規制・監督の主たる当局であるが、2018年以降、リスク理解に資する関連施策を実施し、リスク理解を改善させている。RBAの適用は、金融庁も含め依然として初期段階にあるものの、AML/CFTに係る監督の深度は徐々に改善しつつある。金融庁は、特定の金融機関との間で対話を行った場合、その後、緊密なフォローアップの取組を実施していることを示した。金融庁を含む金融監督当局は、金融機関に対する効果的かつ抑止力のある一連の制裁措置を活用していない。日本は、暗号資産交換業者セクターに対し、対象を絞り適時な法令及び監督対応を実施した。不備の認められる暗号資産交換業者に対して迅速かつ強固な対応を行ってきたことは認められるものの、マネロン・テロ資金供与リスクに基づく監督上の措置は改善する必要がある。DNFBPsの監督当局は、マネロン・テロ資金供与リスクの理解が限定的であり、リスクベースによるAML/CFTに係る監督を実施していない。
  • 日本は、全ての金融機関とDNFBPsが実質的支配者情報を保持することを義務付けられ、当局が実質的支配者情報を入手可能とするシステムを実施することに向けて重要なステップを踏み出した。しかしながら、法人について、正確かつ最新の実質的支配者情報はまだ一様に得られていない。国内外の信託、特に信託会社によって設立されていない、あるいは管理されていない信託の透明性に関しては、課題がある。法執行機関は、より複雑な法的構造を有する実質的支配者情報を備えるために必要な手段を有していないようであり、法人や法的取極めに関連するリスクは十分に理解されていない。
  • 金融インテリジェンス情報や関連情報は、マネロン、関連する前提犯罪、及び潜在的なテロ資金供与事案を捜査するために、広く作成され、アクセスされ、定期的に活用されている。これは、日本の法執行機関が自ら作成するインテリジェンス情報と、資金情報機関(FIU:警察庁犯罪収益移転防止対策室(以下、JAFIC))が作成する広範囲で質の高いインテリジェンス情報に基づいている。JAFICは、複雑な金融捜査に付加価値を与えている。法執行機関は、被疑者を特定し、被疑者間のつながりを理解するために金融情報を活用する傾向にあるが、資産の追跡のための活用については更なる強化が求められる。
  • 日本の法執行機関が追求するマネロンの捜査は、いくつかの重要なリスク分野に沿ったものである。日本の法執行機関は、それほど複雑ではないマネロン事案の捜査に豊富な経験を有するとともに、特定の組織犯罪を対象とした複雑な事案や外国の前提犯罪が絡むマネロンにおける複雑な事案の捜査を行った経験も少なからずある。国境を越えた又は国内での薬物の違法取引の大規模なマネロン事案の捜査には特に課題がある。マネロン罪で起訴された事案は全て有罪判決を得ているが、総合的なリスク・プロファイルに沿ってマネロン罪を起訴しているのは、ある程度にしか過ぎない。マネロン罪に適用される法定刑は、日本で最も頻繁に犯罪収益を生み出している前提犯罪に適用される法定刑よりも低い水準にある。実際には、マネロン罪で有罪判決を受けた自然人に適用される制裁は、概して言えば、適用できる刑の範囲の下限にとどまっている。執行猶予判決と罰金が頻繁に科されている。
  • 資産の拘束と没収については、詐欺事案に関してはよく示されているが、その他のいくつかの高リスクのマネロン前提犯罪に関しては示されていない。日本は、大量の金地金の押収を除き、犯罪に用いられた道具の没収には概ね成功的なアプローチで行っている。前提犯罪とマネロンに係る起訴猶予の全体的なレベルから見て、犯罪収益や犯罪に用いられた道具、相当価値のある財産の没収に関して課題がある。国境を越えた現金密輸のリスクがあるにもかかわらず、日本は、虚偽又は無申告での現金の国境を越えた移動についての効果的な検知と没収を行っていることを示していない。
  • 日本は適時かつ建設的な国際協力を行っている。刑事共助要請に応えるための国内プロセスはうまく機能している。日本は、他国・地域から資産の送還を受けた経験は少ないものの、同等の価値を持つ財産を国内で没収するための支援を他国に行っている。日本の犯罪人引渡しのための司法上の枠組みは強化されるべきであるが、日本は、他国からの犯罪人引渡し要請を実行できる能力があることを示している。日本は、監督や、マネロン及び前提犯罪の捜査を含むAML/CFTに関する情報交換のために、日常的に他の形態の国際協力を適時に活用している。
  • 日本の法執行機関は、幅広い情報源からの情報や金融インテリジェンス情報を活用して、潜在的なテロ資金供与を効果的に捜査・阻止している。しかしながら、テロ資金提供処罰法の不備と、起訴に対する保守的なアプローチ(7参照)が、日本が潜在的なテロ資金供与を起訴し、そのような行為を抑止力ある形で処罰する能力を制約している。日本は、リスクのある非営利団体(以下、NPO等)についての理解が十分ではなく、そのため、NPO等のテロ資金供与対策のための予防的措置を強化するために、当局がターゲットを絞ったアウトリーチを行うことができない。このため、日本のNPO等は、知らず知らずのうちに、テロ資金供与の活動に巻き込まれる危険性がある。
  • 日本は、金融制裁の対象者の指定・履行手続に遅れがあるものの、最近行われた、対象を指定するための行政手続の見直しにより、その遅れは大幅に短縮された。包括的な輸出入規制や日本による制裁対象の国内指定(独自指定)を含む、北朝鮮による大量破壊兵器の拡散を対象とした複数の他の措置は、対象を特定した金融制裁の実施における遅れをある程度緩和している。これは、日本の文脈から見て特に重要である。もっとも、対象を特定した金融制裁を遅滞なく実施するために金融機関や暗号資産交換業者、DNFBPsに対してスクリーニングを行う義務が課せられているものの、金融機関や暗号資産交換業者、DNFBPsによる対象を特定した金融制裁の実施は不十分である。当局は、大量破壊兵器との闘いに関連するインテリジェンス及び法執行機関の活動において良好な省庁間の協力と連携を示しており、意図せず制裁回避を助長する特定のリスクを有する個別の民間セクターに対し、効果的かつ積極的な働きかけを行っている。
  • 国内及び国境を跨ぐ薬物の違法取引を除き、日本の法執行機関が追求するマネロン捜査は、国のリスク評価やその他のリスク評価で特定された、いくつかの重要なリスク分野に沿ったものである。追求されているマネロン事案の大半は、第三者によるマネロン(サードパーティー・マネー・ローンダリング)はなく、自己によるマネロン(セルフ・ローンダリング)である。法執行機関は、国際協力による支援を受けて、外国の前提犯罪に関する捜査を少なからず行った経験を示した。法執行機関は、それほど複雑ではないマネロン事案の捜査に豊富な経験を持っている。法執行機関は、対象を特定して、特に組織犯罪に対象を特定して強力に捜査の焦点を当てて対応していることを示した。しかしながら、複雑な詐欺、大規模な外国の前提犯罪に関する利益獲得段階を含む資金の移動及び薬物関連犯罪の収益の流れには、十分な焦点が当てられていないように見える。検察庁が、非常に軽微な犯罪であることを理由に、マネロン事案の多数を起訴猶予処分としていることは、この懸念を強める。
  • マネロン罪で起訴された事案は全て有罪判決を得ているが、総合的なリスク・プロファイルに沿ってマネロン罪を起訴しているのは、ある程度にしか過ぎない。起訴に至ったマネロン事案の割合(30%)は、日本のマネロンリスクを考慮すると完全には正当化されないと考えられるが、しかしながら、他の経済犯罪の起訴率と同程度の割合である。かなり大多数の事案における執行猶予付きの判決を含め、マネロン罪に対しては低い刑罰が適用されているが、これは日本の状況と司法制度に沿ったものである。
  • 没収が行われていることは、詐欺事件に関しては十分に示されているが、その他の高リスクのマネロンの前提犯罪に関しては示されていない。法執行機関や検察官は、犯罪収益の剥奪に相応の力点を置いているようであり、日本は、資産を回復するための、概ね包括的な有罪判決に基づく没収制度を有している。起訴猶予となった前提犯罪、マネロン罪の全体的なレベルから、犯罪収益や犯罪に用いられた道具、相当価値のある財産の没収にいくつかの課題がある。日本は、差し押さえられた大量の金地金に関するものではないが、犯罪に用いられた道具の没収については、概ね成功的なアプローチを追求している。国境を越えた現金密輸のリスクがあるにもかかわらず、日本は、虚偽又は無申告の国境を跨いだ現金又は持参人払い式の譲渡可能支払手段の移動に対し、没収が効果的に行われていることを示していない
  • 日本では、テロ資金供与リスクが低いとはいえ存在するものの、テロ資金供与事案の起訴事例がない。特定の攻撃とのリンクがなければテロリスト又はテロ組織への資金提供は犯罪ではないというテロ資金提供処罰法の不備は、テロ資金供与罪の起訴が行われる可能性を狭めている。これらの不備や、起訴についての日本の保守的なアプローチ(マネロン捜査と起訴に関する7を参照)に照らせば、特定のテロ攻撃に直接資金を提供したことが明確な事案の場合を除き、日本が抑止力のある制裁を伴った有罪判決を得ることはできないように思われる。
  • 日本は、関連する国連安保理決議に沿って資産を凍結するために、指定された個人又は団体との支払いを禁止する法令の組み合わせを通じて、国連安保理決議1267/1373号に基づいて、対象を特定した金融制裁を実施している。対象の指定は、必要な手続のために遅れを伴っており、実施までに約1~3週間を要している。金融機関や暗号資産交換業者に制裁対象リストを基にスクリーニングする義務が課せられているとともに、日本で指定の効力が発生する前に対象の指定について金融機関等に対して連絡する仕組みがあることは、指定が発効するまでの遅れを僅かながら抑制している。指定の実施は大幅に遅れていたが、最近行われた手続の変更により、その後に行われる対象者の指定は2~5日に短縮された。
  • 日本では、NPO等セクターに関するテロ資金供与リスクについての理解が十分ではなく、テロ資金供与に悪用されるリスクがある一部のNPO等に対し、リスクに基づいた具体的措置を講じていない。複数の日本のNPO等がリスクの高い地域で重要な活動を行っており、日本の当局によるNPO等セクターへの効果的なアウトリーチやガイダンスを早急に強化する必要がある。会計報告を含む、NPO等の運営における説明責任、健全性、国民の信頼を促進するための包括的な仕組みは、日本におけるテロ資金供与対策の具体的措置の欠如を緩和するのに役立っている。
  • 年間の疑わしい取引の届出の総件数は増加傾向にある。届出の大部分は金融分野によるもので、三分の一は大規模銀行によるものであるが、FIU(JAFIC)のガイダンスに基づく基本的な類型や疑わしい取引の参考事例を参照したものである
  • DNFBPsは、マネロン・テロ資金供与リスクについて、低いレベルの理解しか有していないが、北朝鮮に関連する業務のリスクや、最近の事案から金の密輸に係るリスクについては、一般的に認識している。DNFBPsは、主に顧客の本人確認及び顧客が暴力団の構成員・関係者でない旨の確認といった、基本的なAML/CFTに係る予防的措置の適用に留まっている。また、全てのDNFBPsが、実質的支配者の概念に関する明確な理解があるわけではない。制裁者リストとの照合や高リスク国リストとの照合は、主に顧客が通常の取引形態や属性から逸脱した場合のみ実施されている。
  • 金融庁によるAML/CFTに係るリスクベースの監督は、まだ初期段階にあるが、徐々に改善しつつある。金融機関に対する初歩的な(initial)リスク評価は実施されているが、現段階ではRBAは主に固有リスクに主眼を置かれて実施されている。他の金融監督当局によるリスクベースによる監督の導入及びリスクの理解は、金融庁と比して、更に初期段階にある。
  • 日本は、法人が悪用される可能性についてある程度理解しているが、この理解は深度を欠いており、様々な種類の法人に関連する脆弱性についての十分な理解が示されていない。法的取極めの悪用に関連するリスクについての理解はない。法執行機関の間では、捜査に役立つ基本情報や実質的支配者情報の情報源について、ある程度の理解が不足しているようである。
  • 日本は、金融機関、暗号資産交換業者、及び大半のDNFBPsに実質的支配者情報の収集と検証を求め、公証人が新しく設立される会社の実質的支配者情報をチェックするようにする等、実質的支配者情報を確実に利用可能にするためにいくつかの重要な措置を講じている。しかし、これらの措置はまだ完全には実施されておらず、金融機関、暗号資産交換業者、DNFBPsによる監督や予防的措置の適用に不備があるため(上記の「監督」及び「予防的措置」を参照)、全ての事案で適切かつ正確な実質的支配者情報が利用できるわけではない。日本が金融捜査の一環として実質的支配者情報を利用したケースは非常に少なく、ほとんど全ての事案が、前提犯罪の捜査の一環として引き起こされた、単一の法人または法的取極めに関わるものである。これが、法人が悪用されている方法についての日本の限られた理解によるものなのか、利用可能な実質的支配者情報の不足によるものなのか、あるいはトレーニング不足等の他の理由によるものなのかは明らかではない。
  • 会社についての基本情報は、株主に関する詳細な情報を含めて、会社自身から入手可能であり、法人登記からも基本的な情報が得られる。しかし、会社が保有する情報を適時に入手できるかどうかは明らかではない。基本情報の提供を怠った場合の罰則は、一貫して適用されていない。
  • 優先して取り組むべき行動 日本は、以下に取り組むべきである。
    • 金融機関、暗号資産交換業者、DNFBPsがAML/CFTに係る義務を理解し、適時かつ効果的な方法でこれらの義務を導入・実施するようにする。これらにおいては、事業者ごとのリスク評価の導入・実施、リスクベースでの継続的な顧客管理、取引のモニタリング、資産凍結措置の実施、実質的支配者情報の収集と保持を優先する。
    • 前提犯罪の捜査の早い段階でマネロンについて検討することや、より広範な犯罪、特にハイエンドな犯罪収益の入手につながる高リスクの犯罪類型についての第三者によるマネロン(サードパーティー・マネー・ローンダリング)を優先することを含め、より重大な前提犯罪を対象としたマネロン罪の適用を増やす
    • 警察庁、法務省、検察庁の間で、検察庁の訴追裁量の適用を再検討することを含め、重大なマネロン事案の捜査・訴追の優先度を高めることに合意し、マネロン事案の起訴率を改善するための措置を探求し、マネロン事案の訴追を優先させる政策を実施する。
    • マネロン罪の法定刑の上限を、少なくとも日本で犯罪収益を最も頻繁に生み出す重大な前提犯罪と同水準に引き上げる。
    • 優先リスク分野について、資産の追跡捜査、保全措置及び没収をより優先的に行う。また、犯罪に用いられた道具及び密輸された現金又は持参人払い式の譲渡可能支払手段をより一貫して没収する。
    • リスクベースでのAML/CFT監督を強化する。これには、特定事業者において実施されている予防的措置の評価のためのオフサイト・モニタリングとオンサイト検査の組み合わせについて、その頻度及び包括性を強化することや、金融機関、DNFBPs、暗号資産交換業者による義務履行における肯定的な効果を確保するために、抑止力のある行政処分と是正措置が適用されることを含む。
    • テロ行為との関連性がない場合に、個々のテロリスト又はテロ組織の資金供与が犯罪化されることを確実にし、勧告5の分析で明らかになった日本のテロ資金供与の犯罪化に関するその他の技術的欠陥を是正することを確実にするために、拘束力があり強制力のある方法を採用するか、テロ資金提供処罰法を改正する
    • 対象者を指定した金融制裁を遅滞なく実施するために必要な更なる改善がなされ、対象者を指定した金融制裁を実施するための全ての自然人及び法人に係る義務が明確でありFATF基準に沿ったものであることを確保する。
    • テロ資金供与に悪用されるリスクがあるNPO等、特にリスクの高い地域で活動しているNPO等についての完全な理解を確保するとともに、リスクに見合ったアウトリーチ、ガイダンス提供、モニタリング又は監督を行う。
    • リスク評価の方法を引き続き改善し、マネロン・テロ資金供与リスクのより包括的な理解を促進する。これには、クロスボーダー・リスクや、法人・法的取極めに関連するリスクに特に焦点を当てることを含む。
    • 法人及び法的取極めに関する基本情報や実質的支配者情報が、日本の規制・監督・捜査の枠組みの一部として確立されるようにすることを確保する。

次に、報告書本文から、(とりわけ金融機関の)実務として押さえておく必要がある部分について、筆者の主観でいくつかピックアップしたいと思います(なお、以下は機械翻訳等であり正確性は保証できません。あくまでポイントを大まかに把握いただければと思います。詳細は以下の原文を参照ください)。

▼第4次対日相互審査報告 報告書本文(原文)
リスクの概要
  • 46.日本の犯罪発生率は、他の先進国と比較して低い。一般的な前提犯罪には、窃盗や詐欺などがある。2017年において、窃盗5を含む不動産犯罪からの収益の価値は667億円(約5億2800万ユーロ/6億4200万米ドル)と見積もられ、詐欺からの収益は610億円(4億8300万ユーロ/5億8700万米ドル)と見積もられた。違法麻薬や向精神薬からの収益は、違法収益の重要な源泉である。2017年には、日本との国境において1,000kg以上の違法麻薬(大部分はメタンフェタミン)が押収された。
  • 47.日本では組織犯罪集団(以下「暴力団」という。)が活動しており、マネー・ローンダリング(ML)が大きなリスクとなっている。2018年末現在、24団体が暴力団として指定されている。2005年以降、既知のアクティブなメンバーの推定数は減少しており、1960年代の約1/6になっている(2018年末時点で15,600人)。また、2010年以降、暴力団構成員ではないが、関係する個人【注:準構成員】の推定数が減少している(2018年末時点で14,900人)。暴力団構成員は、恐喝、薬物取引、違法な金銭の貸付け、違法な賭博及び性的搾取に関連する活動等、様々な犯罪に関与している。暴力団は、合法・非合法の事業における犯罪収益を洗浄している。暴力団による犯罪収益の洗浄のメカニズムは、日本の当局によれば、主として現金の使用に基づいている。暴力団は海外でMLなどの違法行為を行っていることが知られている。
  • 48.日本は、世界的な金融センターとしての地位から、海外からのMLリスクに脆弱であり、主要3行がG-SIBに指定されている。日本に本社を置く金融セクター・グループは、アジアおよび世界各地の投資、支店、子会社を通じて、幅広い市場で重要なプレゼンスを有している。このことは、資金洗浄・テロ資金供与対策システムに弱点を有する法域からのものを含む、国境を越えた潜在的な資金洗浄の脅威、及び海外から日本の金融システムに流入する不正資金の脅威に日本をさらす。
  • 49.日本は、1990年代半ばにオウム真理教による重大なテロの脅威を経験したものの、現在、多くの国と比較して国内テロの脅威は低い。紛争地域を旅行したり(あるいは旅行を試みたり)、紛争地域から戻ってくる日本人は比較的少ない。テロ資金供与(TF)のリスクが高い法域や中東諸国との国境を越えた資金の流れなど、日本の金融システムのグローバルな性格に関連したいくつかの脆弱性が存在する。
  • 50.日本は朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)に地理的に近く、一部の在日朝鮮人と北朝鮮住民との間には文化的なつながりがあることから、北朝鮮関連制裁回避の脆弱性が高まっている。日本とイランとの間の貿易量は、世界的な輸出統制体制の実施及び国家による輸出規制措置により、ここ数年大幅に減少している。イランから日本への輸入は2017年の985億円(7億8000万ユーロ/9億4900万米ドル)から2018年には770億円(6億1000万ユーロ/7億4200万米ドル)、2019年には72億円(5700万ユーロ/6900万米ドル)に減少した。日本からイランへの送金も、2018年の1590億円(12億6000万ユーロ/15億3000万ドル)から2019年の49億円(3900万ユーロ/4700万ドル)へと大幅に減少している。これらの減少は、イラン関連の制裁回避に関連する脆弱性を減少させた。日本からイランへの輸出は、2014-18年度の間、毎年約1000億円(7億9200万ユーロ/9億6300万米ドル)未満にとどまっている。
  • 57.オンサイトで特に注目すべき分野を特定するため、審査団は、日本から提供された国内のML/TFリスクに関する資料、及び信頼できる第三者の情報源からの情報(例えば、政府や他の国際機関による報告)をレビューした。審査員は、最新のNRA(犯罪収益移転危険度報告書)の調査結果とある程度一致する以下の問題に焦点を当てた。
    1. 北朝鮮との近接性、イランとの経済関係。日本と北朝鮮は地理的に近接しており、文化的なつながりがあること、日本とイランの貿易関係(最近は大幅に減少しているが)があることを考慮すると。審査団は、この文脈に照らして、国連制裁の実施の有効性及び制裁回避を防止するためにとられた措置を検討した。
    2. 地域の金融ハブ。審査団は、日本の金融セクターの国際的な要素、特にリスクの高い市場で活動している日本の金融機関のグループ、子会社及び支店、又は比較的資金洗浄・テロ資金供与対策が弱い統制の金融機関を調査した。研究チームはまた、日本で外国人労働者が急増していることを受けて、送金サービスや無許可の送金業者に関連する脆弱性にも注目した。
    3. 組織犯罪集団活動。審査団は、国境を越えた活動を含む暴力団のML活動に対処するために日本がとった戦略的アプローチを検討した。また、金融機関やDNFBPs(指定非金融業者および職業専門家)の銀行サービス等にアクセスする暴力団対策についても検討した。審査団はまた、MLを含む様々な犯罪活動の目的地および通過国として日本を標的にしている外国の多国籍犯罪グループに焦点を当てた。
    4. 現金の使用。2014年には取引の80%以上が現金で決済されたが、これは減少している。この評価では、現金支払いの透明性とトレーサビリティを改善し、現金の物理的輸送に関する統制の実施を監視するための措置に焦点が当てられた。審査団は、日本における取引ベースMLの予防と検出についても調べた。
    5. 暗号資産取引と新たな支払手段。日本は、暗号資産が広く受け入れられていることに加え、サイバー犯罪が脅威として認識される中、AML/CFT目的の暗号資産関連活動及び市場参加者に対する規制・監督措置を採用した。審査団は、暗号資産の使用およびその他のデジタル決済手段と、それを緩和するために講じられた措置に関連するリスクの理解に焦点を当てた。
    6. テロ資金供与リスク。審査団は、東南アジアの一部を含む世界的なレベルでのTFの脅威の増大を踏まえ、日本の大規模な国際金融セクターに関連する脆弱性と、この地域のリスクの高い法域との関係についての日本の理解に焦点を当てた。また、オウム真理教やその後継組織を中心とした国内テロやその資金調達に関する日本の理解についても調査した。
    7. 外国の贈収賄。日本企業はアジアの多くの新興市場やリスクのある市場で事業を展開している。審査団は、これがMLリスクに及ぼす影響、特に日本当局による外国からの贈賄の資金洗浄の検出と調査、及び国際協力の有効性との関連について検討した。
    8. 監督の枠組みと資源。日本の金融セクターは世界最大級だ。監督の金融セクターの構造には、国の機関と、いくつかの監督業務を担当する都道府県当局の指定が含まれる。審査団は、関係当局の能力とリスク認識、AML/CFT活動に割り当てられた人的・技術的資源、監督当局間の国際協力に焦点を当てた。
    9. MLの起訴。審査団は、2008年の日本の相互審査報告(MER)の結果を踏まえ、ML事件を起訴するために必要な証拠のレベル、裁判における様々な種類の証拠の役割を明らかにすることを求めた。
AML/CFT戦略
  • 69.暴力団の影響力に対抗することがこの戦略の中心的な部分であった。警察庁や国家公安委員会を中心に、暴力団など犯罪組織の存在基盤を弱める狙いがあった。また、警察庁は、都道府県警察に対し、暴力団及びその関係会社の取締り状況の調査・解明及び取締りの促進を指示した。これに加えて、2007年に策定された「民間企業と暴力団員等との取引等を防止するための指針」が適用された。2012年9月までに、警察庁及び関係省庁は、すべての公共事業から暴力団関係企業を排除する枠組みを構築し、2016年までにすべての都道府県が同様の措置を講じた。
法人及び法的取極め
  • 84.非営利団体(NPO)-6つの法律は、法人であるNPOに一定の義務を課しており、FATFにおけるNPOの定義において、活動の種類に応じて、これらの法人を6つのサブカテゴリーに分類している。6つの法律の下で設立された団体は、日本におけるFATFのNPOの定義に沿って「良い仕事」を行っている団体の大多数を占めている。*NPO法人の種類としては、「公益法人」「特定非営利活動法人」「設立教育機関」「宗教法人」「医療法人」「社会福祉法人」
国の資金洗浄・テロ資金供与対策の方針及び調整 主な調査結果
  1. 日本は、マネー・ローンダリング(ML)及びテロ資金供与(TF)リスクの主要な要素を十分に理解しており、主に、国家リスク評価(NRA)、脅威評価、類型報告書、及びリスクの要素を評価するための戦略的なインテリジェンス情報製品のいくつかを含め、実施されたML及びTFリスクの多数の評価に基づき理解している。
  2. しかしながら、NRAやその他の評価をさらに改善することができる分野は、クロスボーダー・リスク、疑わしい取引の届出の以前の報告に加えて、法執行機関および独立した情報源からの追加情報を利用して脅威や脆弱性への注目度を高めることを含む日本経済全体のより広範なリスクに対する理解を深めることを含め、多くある。
  3. 日本が直面しているテロ及びテロ資金供与のリスクが比較的低いことに留意しつつ、テロ対策の専門家は、テロ資金供与のリスクの評価と理解を十分に示している。しかし、このレベルの理解は、テロ資金対策(CFT)の役割を持つ他の日本の当局者には広がっていない。
  4. 犯罪対策閣僚会議(内閣総理大臣及び全ての閣僚が出席)及びFATF大臣間会合(関係する資金洗浄・テロ資金供与対策当局間の協力プラットフォーム)は、国内の資金洗浄・テロ資金供与対策の政策及び活動を設定する上で、限定的な役割を果たす。
  5. 国の資金洗浄・テロ資金供与対策の政策、戦略及び活動は、一般に、暗号資産リスクを含む、日本のより高い資金洗浄・テロ資金供与リスクの一部に対応することを目指している。その他の多くの主要なリスク分野(例えば、組織犯罪集団(暴力団)、金密輸、麻薬取引)は、強力な国家的リスク低減政策および活動の対象となっているが、これらの政策は犯罪者および密輸された、あるいは違法な物品または資産に焦点を当てている。MLコンポーネントに対処するための対象を絞った活動が欠けている。
  6. CFTの政策と活動は、よりリスクに焦点を当てているが、TFを訴追し、対象を特定した金融制裁(TFS)を実施し、TFリスクに取り組むために非営利組織(NPO)セクターを支援する活動には弱点がある。
  7. FIU(JAFIC)、警察庁(NPA)、金融庁(JFSA)などの主要な国家当局は、特定されたリスクと整合するように活動と優先順位の一部を調整するための措置を講じた。
  8. 資金洗浄・テロ資金供与対策の運用上の問題については、ほとんどの法執行機関(LEA)間で、一般的に良好な機関間協力及び調整が存在する。しかし、資金洗浄・テロ資金供与対策の方針と活動の策定と実施について、機関間の協力と調整には弱点がある。
  9. 当局は、大量破壊兵器(WMD)の拡散と闘うことに関連するインテリジェンス情報及び法執行の活動について、機関間で良好な協力及び調整を行っていることを示した。
  10. 民間機関はNRAなどのリスク評価結果を把握している。
推奨されるアクション 日本は次のことをすべきである。
  1. 以下を含む、改善されたリスク評価の方法論、範囲及びプロセスを用いたフォローアップ評価の実施を含め、ML及びTFリスクに関する利害関係者の理解を引き続き向上させる。
    1. さらに運用面でのインプットや、学術界や民間セクターの専門家のアドバイス、さらに充実した統計のセットを取り入れる
    2. 海外からの追加情報(例えば、国際機関からの報告)の活用の深化と対外リスク(クロスボーダー等)の分析
    3. 特に、暴力団グループの業務運営及び日本における資金の使途に関する資金の流れ並びに資金移動の方法及び手法に関する分析の強化
  2. 調整及び緩和のための政策及び措置に関し、
    1. 資金洗浄・テロ資金供与対策の国家的方針及び活動を設定する責任を負う共同機関を指定する
    2. 資金洗浄・テロ資金供与のリスクを効果的に低減するため、2020年以降の国の資金洗浄・テロ資金供与対策の優先順位を設定する戦略的枠組みの中で、国の資金洗浄・テロ資金供与対策の政策、目的及び活動を明確にする
    3. 資金洗浄・テロ資金供与対策の主要な調整機関に資金洗浄・テロ資金供与対策の作業を推進するための関連する権限及び資源と指導的役割を付与し、資金洗浄・テロ資金供与対策システムにおける各当局の特定の役割、ML/TFと効果的に闘うための目的及び活動を明確に定義する
    4. 資金洗浄・テロ資金供与対策システム全体において、NRAで特定されたリスクに応じた資源が確実に配分されるようにすること
国のML/TFリスクに対する理解
  • 103.評価は、国境を越えるリスクと、犯罪の実行と収益の洗浄に非公式の地下チャンネルがどの程度使用されているかに十分に焦点を当てるために、さらに改善される可能性がある。このことは、暴力団の犯罪行為と特に関連があり、その主たる洗浄手段は現金であることに留意する必要がある。例えば、覚せい剤の販売は暴力団にとって最も収益性の高い犯罪の一つである。法執行機関は麻薬の密輸と流通を追跡しているが、それに対応する現金の流れ、特に国境を越えての現金の流れを追跡することには同じように積極的ではない。これは、暴力団がどのようにして国外から薬物を調達しているのか、どのような国際犯罪組織と取引しているのか、AML/CFTシステムがどのようにしてこれらのリスクにさらされているのかを理解するための法執行機関にとっての課題となる。
  • 104.NRAは、一部の法人を高リスクの法人(例えば、「透明性のない」法人)とし、MLリスクの高い一部のカテゴリー(例えば、株式会社)を特定しているが、異なるタイプの企業構造に関連する脆弱性については十分に理解されていないようである(IO5参照)。法的措置に伴うリスクの包括的な評価は行われていない(IO5も参照)。
  • 105.日本は国際金融ハブ(IO.9参照)としての役割を果たしているにもかかわらず、TFリスクが低いという日本の評価は正確であると思われる。TFリスクの理解はテロ対策の専門家によってよく示されている。当局は、国内のTFリスクを効果的に理解し、低減するために、強固な監視を実施し、金融インテリジェンス情報を利用し、その他の措置を実施する。しかし、TFリスクの性質についての理解は、TFに対抗する上で重要な役割を果たす他の日本の当局者には広がっていない。さらに、NRAは、TFリスクに関する十分な詳細レベルに達しておらず、後者のカテゴリーの当局者やより広範な関係者を十分に教育していない。
  • 106.一般的に、ここ数年、日本当局が採用及び実施した資金洗浄・テロ資金供与対策の政策及び立法措置のほとんどは、2008年の相互審査報告で浮き彫りにされた欠陥に対応し、2012年に採択された改正FATF要件を実施しようとした。これらの措置の一部は、「日本を世界で最も安全な国にする」という2013年の包括的戦略に含まれており、この戦略には、テロ対策や資金洗浄対策の強化を含む、日本の安全と治安を改善するための一連の協調行動が含まれていた。この包括的な戦略の目標日は2020年だった。組織犯罪集団との闘いという日本の優先事項にも資する犯罪資金の追跡に焦点を当てた、もう一つの長期的なリスクベースAML/CFT戦略を更新する必要がある。
  • 108.その他の危険性の高い犯罪や脆弱な分野については、日本は過去数年間に国の政策や活動を策定した。その範囲はAMLよりも広く、AML全体の有効性に影響を与えた。例えば、日本は、暴力団の構成員及び関係者を特定し、その活動を妨害するための一連の措置をとった。これには、金融機関やその他の義務主体を含む企業が暴力団の構成員や関係者との取引関係を縮小するのを支援するための2007年の関連省庁のガイドラインが含まれる。暴力団対策は、2013年の2020オリンピック・パラリンピック競技大会を見据えた「世界一安全な国づくり戦略」においても中心的な役割を果たした。これらの調整された行動は、組織化された犯罪集団とその構成員および関係者の数を大幅に減少させ(2014年の53,500人から2018年の30,500人へ)、一定の成果をもたらした。しかし、これらの活動の焦点は、犯罪者自身を検出し、特定し、追跡することであり、犯罪者の活動に関連する資金の流れを追跡し、追跡することではなかった(以下とIO7と8を参照)。
  • 109.日本経済では、政策措置により現金の使用が減少しているが、現金全体の大規模な使用とMLスキームにおける現金の使用に伴う高いリスクへの対応は優先度が低い。暴力団関係者を含む多くの犯罪者が現金を主に使用していることは、JAFIC及び警察庁の調査により明らかである。大規模な現金支払いの優位性を減らしたり、人々が現金から電子形式の支払いや保管に移行することを奨励するインセンティブのための対策はまだ不十分である。現金ベースのMLのリスクが高く、現金集約度の高い社会では、現金閾値報告義務がなく、直接疑わしいクロスボーダーの現金申告のみがJAFIC及び警察庁に利用可能であることは注目に値する(IO6参照)。
所管官庁の目的と活動
  • 120.資金洗浄・テロ資金供与対策の政策(上記参照)で述べたように、一般的に、当局の予防措置及び捜査は犯罪者の発見及び特定に焦点を当てているが、可能な場合には、資金を追跡し、利用可能な資金又は資産をブロックすることは、その行動の主要な部分ではない。法執行機関は一般的に前提犯罪に焦点を当てており、MLの部分にはあまり焦点を当てていない。国税庁や証券取引等監視委員会は、例えば、彼らが責任を負う前提犯罪を調査しているが、MLの可能性があるいかなるものにも、検察庁(PPO)やその他の関連当局につながるフラグを立てないことを示している(IO7を参照)。
  • 121.しかしながら、JAFIC及び警察庁は、その活動及び優先順位を調整するための措置を講じており、例えば、検出及び調査された多数の事例が、日本において重要なリスクである暴力団主導の犯罪、詐欺又は薬物取引を含んでいることを示している(IO6及び7参照)。
  • 124.JAFICと金融庁は、特に金融機関が報告に関する方針や実務を改善するために協力している。疑わしい取引を報告する「参考事例」を監督当局が公表することを支援するための協力は、その具体例である。また、JAFICは、金融庁及び金融機関に対して、例えば違法薬物の販売及び高利貸しの行為に関する疑いに対する特定の警戒要因を強調した特定の報告傾向の分析も提供する。この協力は有用であり、特にリスクの高い分野(IO6参照)の戦略的分析に関しては、リスクベースのアプローチを支援し、義務主体にリスクへのエクスポージャーを通知するために、さらに発展させるべきである。その他の金融監督当局及びDNFBP監督当局は、疑わしさの報告についてさらに教育し、警戒を識別する手段を提供するために、JAFICとさらに協力すべきである。
IO.1全体のまとめ
  • 日本は、多数のML及びTFリスク評価に基づき、ML及びTFリスクの主要な要素を十分に理解している。国民と民間セクターのための主要な参考資料はNRAであり、2014年から毎年発行されている。NRAには、関係公共機関や民間セクターから意見が寄せられている。しかし、NRAには、インフォーマルな地下金融チャネルやクロスボーダーのリスクを含め、日本経済全体のより広範なリスクへの理解を深めることを含め、さらに改善できる分野がいくつかある。このことは、日本におけるMLリスクの主要な発生源であり続けている組織犯罪集団(暴力団)による犯罪活動の種類を考えると、日本にとって特に重要である。
  • 暗号資産に関連するリスクを除いて、日本の資金洗浄対策の政策及び活動の中で、リスクの高い犯罪類型及び脆弱セクターに対応するものはほとんどない。これには、日本で高リスク地域とされているキャッシュ・エコノミーの統制も含まれる。国の政策や活動が重要なリスク(例えば、暴力団、金の密輸、麻薬取引)への対応に重点を置いている分野はいくつかあるが、これらの政策はAML活動を対象としていない。
  • 資金洗浄・テロ資金供与対策の運用上の問題については、ほとんどの法執行機関間で一般的に良好な省庁間協力・調整が行われており、当局は大量破壊兵器の拡散防止に関連する執行活動について良好な協力・調整を示した。規NRAの結果を反映した優先順位の設定を含む、資金洗浄・テロ資金供与対策の政策及び活動の策定のための協力及び調整に関する更なる進展が必要である。
  • 日本はIO.1の有効性がsubstantialであると評価されている。
法的システムと運用上の問題 主な調査結果と推奨処置
  • 日本には非常に多くの金融機関とDNFBPs(指定非金融業者および職業専門家)があり、現行のメカニズムでは時間がかかり、資産を追跡する際にギャップが生じる可能性があると指摘している。
  • DNFBPs(指定非金融業者および職業専門家)からの報告は非常に少なく、貴金属・宝石の販売業者のみが2017年から2018年にかけて146件から952件に増加している。一部のDNFBPセクター(司法書士、公認会計士、弁護士、行政書士、税理士)は、STRの提出を義務付けられていない(報告義務と内報の項参照)。
  • STRが主に主要な類型や指標を反映しているため、ガイダンス及び参考事例が報告主体によって十分に利用されていないことを懸念している。
  • 154.金融機関は、主に主要な類型および指標と一致するSTRを報告するようであるが、STRガイダンスで提供されている多様な類型およびレッドフラグの届出には及ばない。疑惑の幅は、より精巧なシナリオや、より的を絞ったレッドフラグ指標とうまく整合していないという懸念がある。
  • 155.JAFICは、STRの品質を注意深く監視し、金融機関にフィードバックする。法執行機関のSTR使用に関するフィードバックは、報告が提供されたガイダンスと一致していることである。JAFICのモニタリングでは、保守的な報告や金銭的な閾値のみに基づく報告に問題は認めていなかった。
  • 165.JAFICの情報を活用した都道府県警察における新規事件の発生は、近年安定している(1,001件から1,124件)。インテリジェンス情報での事例が有意に増加した(1982例から8848例へ)など、JAFICからの展開が大幅に増加したにもかかわらずである。法執行機関は疑わしい取引の届出情報に基づいて訴訟を提起するが、それは法執行機関自身の分析からも行われており、このような訴訟の数は着実に増加している(前述のFIU情報が使用された完了例の数を参照)。JAFICと警察庁は、法執行機関のニーズを満たすために、どのようにして展開をさらに発展させることができるかをさらに検討する機会がある。
  • 166.詐欺は、JAFICのデータや警察の独自の分析に基づいて事件として開始され、完了したケースの主要な犯罪タイプだ。完了した薬物事件における県警察の金融インテリジェンス情報の使用は高いが、他のほとんどの前提犯罪件数は少ない。JAFIC情報に基づいて都道府県警察が開始したML事例数は比較的低かった(2018年の全ML事例511例中17例)。ほとんどのML事例は他の情報、特に並列的に行われた前提犯罪調査から生じる。JAFIC情報を用いた35の完了ML事例があった。ML事件における金融調査とデータの利用をさらに活用し、関連するすべての犯罪分野をより適切にカバーするための改善の余地がある。
IO.6に関する全体的な結論
  • 金融インテリジェンス情報と関連情報は広く開発され、アクセスされ、ML,関連前提犯罪、潜在的TF事例を調査するために定期的に使用される。情報はすべての法執行機関において金融インテリジェンス情報の第一段階の情報源として使用され、このデータとJAFICの情報に基づいて、相当量の分析と調査が開始され、完了した。金融インテリジェンス情報を利用して、容疑者を追跡するよりも、容疑者を特定し、容疑者間のつながりを理解することを支援する傾向がある。法執行機関は金融インテリジェンス情報を積極的に利用しているが、資産の特定と追跡はさらに発展させ、優先順位をつけ、関連するすべての犯罪タイプをカバーするように利用を拡大する必要がある
  • 日本はIO.6の有効性がsubstantialと評価されている。
MLの捜査および訴追と脅威およびリスク・プロファイルとの整合性、および国のAML政策
  • 185.日本の法執行機関が進めるML捜査は、国内および国際的な薬物取引を除いて、NRAおよびその他のリスク評価で特にリスクが高いと特定されたいくつかの重要なリスク領域と一致している(IO1参照)。日本は、捜査対象となっている資金洗浄の活動が、日本の脅威及びリスク・プロファイル並びに資金洗浄・テロ資金供与対策の国内政策とある程度整合的であることを実証した。NRAはi)暴力団、ii)来日外国人;(iii)特殊詐欺グループ を含む3つの主要なMLの脅威を特定した。暴力団のカテゴリーは、薬物取引の側面をいくつか取り上げているが、これらのカテゴリーごとに洗浄された金額が洗浄された金額全体に占める割合を示す関連統計がないため、特定されたML脅威の重要性を評価することは困難である。しかし、複雑な詐欺、大規模な外国の前提犯罪、薬物関連犯罪、環境犯罪などの他の前提犯罪からの収益を含む高利潤水準に十分な焦点が当てられているかどうかは不明である
  • 187.国内組織犯罪(暴力団)-法執行機関は、多数の暴力団関連のML事件で、薬物の不正取引と配布、詐欺、恐喝、スタンドオーバー、売春、ギャンブルなどの利益誘導活動に関連していることを示した。警察庁及び都道府県警察は、全国の暴力団及びこれらの国内団体に関連する多数のML関連事件について、資金面での捜査を重視していることを示した。最大の課題は、これらの組織犯罪グループのレベルで、より高い収益を生むML捜査を完了することに関連しているようだ。当局は、犯罪収益を特定する能力がないため、警察庁からの情報を活用して、暴力団個人及び関連事業者に対する適正な課税を確保するために、警察庁との連携を強化していることを強調している。
  • 188.特殊詐欺-法執行機関は、より複雑な詐欺問題に関連するMLの事例を数多く示した。これは「特殊詐欺」に分類される。特殊詐欺に関連するML犯罪の事例には、国境を越えた犯罪グループや国内の組織犯罪が含まれることが多い。特に2017年には、これらのML事例がML事例に大量に関与していたことが注目される。
  • 190.ハイエンドML(多くの場合、複雑な構造を伴う多額の収益)-日本の法執行機関は、多額の収益を伴う事例はあるものの、一般的に複雑な構造を伴うハイエンドMLの事例を特定できていない。麻薬、詐欺、組織犯罪、その他の条件付き犯罪のいずれかに関連して、複雑で国際的な事件が捜査された例はほとんどない。
  • 191.薬物犯罪-薬物犯罪は、日本のすべての前提犯罪カテゴリーの中で最も収益性が高いと思われる。法執行機関は、関連する犯罪企業のレベルでは比較的少ない関与する利益を得ているが、国内の薬物取引と流通に関連するかなりの数の暴力団関連ML事件を示した。大規模な薬物輸入(外国の犯罪集団を含む)に関連したMLの事例はほとんどない。最大の課題は、国境を越えた麻薬取引のより大規模なMLのケースを調査することにあるようだ。これには、これらの大規模な輸入による犯罪収益の流れと関連する犯罪企業の利益獲得レベルを調査するために、MLのケースを対象とするインテリジェンス情報の不足が含まれる。そのため、大規模な薬剤輸入に関連するML事例は比較的少ない。
  • 192.密輸-特定の期間を通じた、金の密輸と関連する租税詐欺による非常に重大な脅威にもかかわらず(特定されたML/TFリスクに対処するための国家政策の節を参照)、金の密輸犯罪と関連する租税詐欺に関連付けられるMLのケースはなかった。前提犯罪による有罪判決が多数あった。他の密輸事件に関連したML事例は非常に少ない。最も注目すべきは、野生動物の密売に関連したMLの事例がないことであり、これはMLの前提犯罪の適用範囲にギャップがあることに起因する。
IO.7全体のまとめ
  • 日本の法執行機関はある程度MLの追求を優先しており、特に重大な詐欺、組織犯罪及びいくつかの関連薬物事件に焦点を当てている。法執行機関は、金融調査と訴追の能力を十分に発達させてきた。しかし、ML事件の大半は非常に軽微な事件に関連しており、起訴は猶予されている。ML捜査のかなりの部分が起訴に進むのに十分な証拠を収集しておらず、複雑なケースのML捜査を実施することには大きな課題がある。実際に裁判にかけられるML事件については、完全な有罪判決率があり、MLのための法人の起訴が示された。しかしながら、MLには一般的に低い判決が適用されており、かなり多くの事例で執行猶予付きの保護刑判決が適用されている。日本は、MLに対する起訴および有罪判決のレベルが、その脅威、リスク・プロファイルおよびAML/CFT政策と一定程度のみ一致していることを示している。
  • 日本はIO.7の有効性がmoderateと評価されている。

テロ資金供与と拡散金融 主な調査結果と推奨処置

国のリスク・プロファイルに合致したTF活動のタイプの起訴/有罪判決
  • 251.国際テロやTFの脅威に関して、日本の脆弱性には、地域及び世界の金融センターとしての役割に起因する、国境を越えた貿易及び金融取引の量、頻度、範囲が含まれる(第1章参照)。テロやテロ資金供与の脅威にさらされている東南アジアや中東において、日本はこれら法域と重要な取引を行っている。これらは、金融機関とDNFBPs(指定非金融業者および職業専門家)によるTFリスクの理解の弱さによって悪化する(4参照)。
  • 252.危険因子には、紛争地域やその周辺でのテロリストやテロ組織による日本製品、特に中古車の需要が含まれる。イラク・レバントのイスラム国(ISIL)支援を目的とした渡航未遂事件を含め、紛争地帯への邦人の出入りは限定的であり、NRAは、イスラム過激派と疑われる者の存在に留意する。
  • 254.これまでに行われた訓練や暴力団関連のリスクに対処した経験にもかかわらず、日本のTF法の根本的な欠陥、特に特定のテロ行為と関連のないテロリストまたはテロ組織への資金供与が犯罪化されていないことは、特定のテロ行為への資金供与を含む極めて明白なTF違反(TC別紙、を参照。5.2)以外のすべてに対する有罪判決を妨げる恐れがある。IO.7でより詳細に議論されているように、検察官が起訴の可能性を追求する前に求めていると思われる非常に高い確信度は、これらの技術的欠陥の影響を悪化させる。
  • 260.JAFICと警察庁警備局は、フォローアップやアドホック分析を含め、緊密な連携を示した。JAFICが受領したTF関連STRの分析結果は、警察庁の調査結果に十分に反映されているが、金融機関に関する不備は、日本当局によるTFの効果的な特定を妨げている。具体的には、CDDおよび継続中のモニタリングの欠陥と、TFの類型およびレッドフラグ(4参照)に関する金融機関間のあまりにも基本的な理解のために、金融機関は、TF関連STRを起動すべきであった取引を見逃す可能性が高い。2018年に提出されたTF関連STRの大部分が、国連が指定した個人や団体とのつながりに基づいて提出されたこと、あるいは紛争地域との明らかな関連性を持つ取引に関与して提出されたことは、この結論を支持する。明確な紛争地域を含まないTF調査に関するJAFICと警察庁の専門家の経験は、日本が関与するTF類型はそれほど明確ではなく、TFの防御の第一線であることが多い金融機関は、TF理解の強化に基づきTF関連STRをより多く提出する可能性が高いことをさらに示している。これは、調査を開始するために当局に提供される情報の頻度と範囲に悪影響を及ぼす。
国家戦略と統合し、これを支援するTF捜査
  • 266.2013年以降、日本は毎年、政策の枠組みを改定し、日本を世界で最も安全な国にする戦略(IO1参照)を発表してきた。2018年の年次最新情報には、2015年のTF法の改正を含む、資金洗浄・テロ資金供与対策に関連する様々な立法措置が列挙された。また、日本は2004年にテロ防止行動計画を発表し、インテリジェンス情報におけるテロ関連の情報の収集、共有及び関係当局による分析の重要性を指摘している。日本は、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会において、テロ資金供与を実質的に含まないテロ対策指針を採択した。したがって、全般的に見て、日本にはテロリズムやそれ自体と戦うための意味のある最近の「国家戦略」がない。それにもかかわらず、第4章のTFの特定と捜査及びTFの有罪判決が可能でない場合に用いられる代替措置に記述された捜査実務に基づき、テロ対策捜査への日本の焦点はTFの要素を統合する。例えば、潜在的に過激化した個人によるものを含め、潜在的なテロ活動を妨害するための調査には、重要な金融調査が含まれている。これらの調査は、他の法域諸国と比較して外国人テロ戦闘員のリスクが比較的低いにもかかわらず、日本にとっては適切に優先順位が高い。しかし、TFの調査は、実際よりも稀少性が高いと考えられがちであり、警察庁警備局以外にも、財務省、金融庁を含むほとんどの当局にとって、その意義は不十分である。
  • 274.日本が代替措置に依存していることは、日本のCFTの実効性を低下させている。これは、存在するTFの脅威と脆弱性が低いことを公に認識するための一般的な取り決めの一環でもある。上記の事例(ボックス4.3)は、グループ-1のメンバーが処罰されて将来の活動を阻止される可能性があり、一般の人々が同様の活動に対して処罰を科される可能性があることを知らされるという、抑止をもたらす潜在的な起訴機会を提示したように見える。確かに予防と事後処罰の間にはバランスがあるはずだが、TFの脅威や脆弱性を認めることにためらいが見られることは、当局がTFの発生を認めたがらない可能性があるため、訴追の成功に別の障害をもたらす。
IO.9に関する全体的な結論
  • 日本はTFリスクが低いが無視できない。テロ対策に特化した法執行機関は、潜在的なTFやその他のセキュリティ上の脅威を理解し、包括的に調査し、積極的に妨害する。しかし、審査団は、法執行機関は、そのような混乱をもたらすために、より軽い犯罪や行政措置に基づく逮捕に主に依存していることを発見した。これらの代替措置は、潜在的なTFを阻害し、日本のCFTの有効性にプラスに寄与する。しかし、日本の検察慣行と日本のTF法の技術的欠陥は、訴追とその結果としての抑止に重大な障害をもたらす。テロ対策に特化していない当局、金融機関、DNFBPs(指定非金融業者および職業専門家)、暗号資産交換業者は、紛争地域との明らかな取引上の関与に依存し、TFリスクについて十分に繊細な理解を欠いている傾向がある。この理解不足は潜在的TFの特定を阻害する可能性がある。
  • 全体として、日本は、潜在的なTFが日常的に特定され、徹底的に捜査されるので、ある程度、Immediate Outcome を達成している。しかしながら、TFに対して効果的、抑止的かつ相応の制裁を科し確保する日本の能力には、複数の重要な要因が不利に働く。
  • 日本はIO.9についてmoderateの有効性を有すると評価されている。
TFS(対象を特定した金融制裁)の導入
  • 280.加えて、日本は、現行の金融機関及び暗号資産交換業者のスクリーニング義務を、金融庁の強制力のあるガイドラインを通じて課している。これは、金融機関と暗号資産交換業者に「日本国及び他の外国の当局によって執行される適用可能な経済制裁及び貿易制裁に関する法令を遵守し、及びその他の必要な措置をとること。」ことを求め、事実上、各規制当局が公表した制裁リスト(6参照)に対して顧客と受益者の名前をスクリーニングするために「依拠可能なデータベースおよびシステム」を使用することを義務付けるものだ。
  • 281.これらの措置は、新規及び既存の顧客を国連及びその他の制裁リストに照らしてスクリーニングすることを確実にするために、金融機関及び暗号資産交換業者に義務を課しているが、それらはすべての自然人及び法人に適用されるものではなく、日本におけるTFS(対象を特定した金融制裁)実施のための主要な手段であるテロリスト財産凍結法及び外為法に従って新たに指定された個人及び団体の資産凍結のための法的要件の遅延を完全に緩和するものではない。
  • 282.また、一部のDNFBP監督当局に対しても通知を行っており、DNFBP監督は、これらの通知をDNFBPsに送付しているが、これらの通知は、外務省又は国家公安委員会の通知が遅れて発出された後に行われる。
  • 283.2019年10月以降、日本は行政改革を実施し、遅延期間を2~5日に短縮した。これは「遅延なし」(24時間以内)ではないが、これらの改善により、TFS(対象を特定した金融制裁)の実装の遅延が大幅に短縮された。
リスクにさらされている非営利組織の標的を絞ったアプローチ、アウトリーチ、監視
  • 288.日本には、300,000以上の認定NPOが存在する、大きく多様なNPOセクターがある。数千のNPOが海外で活動している。認定NPO法人の数は、依然として約500を超えているが、そのごく一部が、武力紛争地域、活発に活動しているテロ組織、法の支配が脆弱な地域、南アジア、東南アジア、中央アジア(アフガニスタン、パキスタン、フィリピンなど。)中東(例:シリア、イラク、イエメンなど。)、アフリカ(例:南スーダン、コンゴ民主共和国、エチオピアなど。)等の深刻な政治的不安定が存在する地域において、人道支援等の重要な支援を行っている。しかし、このような活動の性質上、このような地域やその周辺で活動するNPOは、TF乱用の潜在的なリスクにさらされている。この証拠として、JAFICは、紛争地域やその他の高リスク地域でのNPOによる取引に関連する複数のTF関連STRを指摘した。
  • 290.6つのNPO法の下で登録が必要な活動はすべて、FATFのNPOの定義と一致している。登録の要件は、特定のNPOの本部に重要な情報を保管しておくことだ。これらの法律に基づく報告要件には、年次財務諸表の提出など、当局との定期的なやりとりが含まれる。このことは、日本がFATFの定義に該当する多くのNPOを特定できることを意味しているが、日本はこの情報を明確に編集したり、利用したりして、TFのために悪用される恐れのあるNPOに対する理解を深めていない。
  • 293.日本のNPOは、TFリスクの高い地域を含め、海外の紛争地域やその周辺で活動したり、活動資金を提供したりしているところも少なくない。非営利団体は、日本の非営利団体の支部や親団体が実施しているデューデリジェンス措置について、非常に一般的な観点から認識しているようである。しかし、日本のNPOは、紛争やその他の危険度の高い地域での人道支援活動に直接関与する者を含めて、そのような危険度の高い法域を含むTFリスクを認識していないようである。最近では、可能な場合にはTFを防止するために公的金融システムの利用を奨励した書面による書簡の例を除いて、日本の当局によるTFリスクに特化したアウトリーチは限られている。
措置とTFリスク・プロファイル全体との整合性
  • 299.さらに、一部のNPO、特にリスクの高い地域で活動しているNPOに対するTF乱用のリスク・プロファイルは、日本では理解されていない。日本で活動しているNPOは、限定的なTFリスクに直面しているように見えるが、よりリスクの高い国で活動しているいくつかの日本のNPOは、ある程度のTFリスクに直面している。リスクの高い地域で活動しているこれらのNPOは、全体として登録されているNPOの数と比べると少ないものの、リスクベース・監督を含む政府のアウトリーチ活動や、特にリスク低減のためのモニタリングは不足している。
IO.10の全体的な結論
  • 日本は、TFによるTFS(対象を特定した金融制裁)を遅れて実施しており、日本の制裁措置が、他の制裁対象者により間接的に又は他の制裁対象者と共同して所有され又は支配されているものを含む、制裁対象者が所有するすべての「資金又はその他の資産」に及ぶか否かは不明であり、また、日本の制裁措置は、制裁対象者の「指示又は代理」で行われる資金の移転を明確に禁止していない。日本は、金融機関のTF用のTFS(対象を特定した金融制裁)関連資産を限定的に凍結しており、これは日本のTFリスク・プロファイルと概ね整合的である。また、特定非営利活動法人については、リスクの高い法域やその周辺で活動している特定非営利活動法人が相当数存在するにもかかわらず(日本で登録されている特定非営利活動法人の数に占める割合は低いが)、日本の当局はTFリスクの悪用についてほとんど理解していない。
  • 日本はIO.10の有効性はmoderateと評価されている。
Immediate Outcome 11(拡散金融金融制裁)
  • 300.北朝鮮の大量破壊兵器(WMD)の拡散は、日本にとって生存上の脅威である。加えて、北朝鮮による歴史的な違法行為、特に1970年代後半から1980年代前半にかけての少なくとも17人の日本人拉致は、北朝鮮関連の脅威に対する国民の感度を引き続き高めている。その結果、日本は、拡散金融関連のTFS(対象を特定した金融制裁)の実施を通じたものを含め、北朝鮮の大量破壊兵器の拡散に対抗するための立法措置を講じ、多大な資源を投入してきた。にもかかわらず、日本は、北朝鮮の地理的近さ(近隣法域との海上貿易など)や、地域的・世界的な金融センターとしての日本の役割、そして国際貿易において重要な役割から、直接的にも間接的にも、拡散金融にとって重大な脆弱性にさらされている。
  • 305.これらの遅延の影響を緩和するために、財務省は、これらの更新日またはその前後に、そのような国連の更新に関する法的拘束力のない電子メールを金融機関に直接送信する。さらに、2019年10月以降、日本は行政上の改善を行い、遅延期間を2~5日に短縮した(IO.10参照)。加えて、金融庁の資金洗浄・テロ資金供与対策の強制力のあるガイドラインは、金融機関及び暗号資産交換業者に対し、制裁者スクリーニングメカニズムを利用することを義務付けており、これには、顧客及び受益者の氏名を、日本及び外国当局が提供する最新の国連制裁リスト(IO.10およびTC別紙、R.7参照)に照らしてスクリーニングする義務が含まれる。金融庁は、2019年6月26日付の書簡を含め、この要件に関するアウトリーチを実施している。
  • 306.これらの措置は、金融機関及び暗号資産交換業者に対し、新規及び既存の顧客を国連及びその他の制裁リストに照らしてスクリーニングすることを確実にするよう促すものであるが、これらの措置は全ての自然人及び法人に適用されるものではなく、日本におけるTFS(対象を特定した金融制裁)実施のための主要な手段であるテロリスト財産凍結法及び外為法に従って新たに指定された個人及び団体の資産凍結のための法的要件の遅延を完全に緩和するものではない。
  • 310.日本は国連指定以前に、北朝鮮関連の国連指定制裁対象者のうち相当な割合を国内指定している(表4.4の資金凍結先を含む)。2019年11月時点で国連が指定した80人と75団体のうち、日本が指定したのは32人、21団体だ。その結果、国連による指定に先立って適用されていた外為法の法的資産凍結要件は、これらの制裁対象者に対する官報告示として既に外為法の規制を引き起こしていた。このように、日本は、国連が指定する以前から国内に存在していた北朝鮮関連の国連指定個人・団体の1/3強について、遅滞なくTFS(対象を特定した金融制裁)を実施した。
  • 324.しかしながら、CDD/EDD及び3及びIO.4に記載されている金融機関とDNFBPs(指定非金融業者および職業専門家)間の継続的なモニタリングの問題により、TFS(対象を特定した金融制裁)の実施は妨げられている。財務省によるTFS遵守状況調査(外為法に基づく他の資産凍結措置及び日本が国連指定前に一方的に個人を指定している場合を含む。)において、金融機関の遵守状況に不備が頻繁に見られることは、制裁回避に対する重大な脆弱性を示している(下記表4.5参照)。
IO.11の全体的な結論
  • 日本のTFS(対象を特定した金融制裁)の実施は遅れており、資金やその他の資産のすべてを明確に把握しているわけではなく、2人の日本人が関わる国内取引には適用されない。しかし、その他の拡散防止措置は、日本が国連よりも先に拡散金融関連を国内で指定するなど、日本の拡散金融関連のTFS実施の実効性を高めるものである。北朝鮮を含む国境を越えた取引の全面禁止:民間セクターに対する、強固で洗練された、的を絞った支援(金融機関、DNFBPs(指定非金融業者および職業専門家)、非義務者を含む)。これらの措置のいくつかは、北朝鮮の核拡散防止に対する日本の優先順位を正確に反映している。加えて、金融機関、特にメガバンクは、輸出品の種類や地理的位置に関する北朝鮮固有のレッドフラグの恩恵を受けており、金融機関の特定と制裁回避の防止が改善されている。それにもかかわらず、監督当局は、TFS遵守のための金融機関間の手続き上の欠陥を特定しており、また、金融機関、暗号資産交換業者及びDNFBPs(指定非金融業者および職業専門家)による日本のTFS適用には重大な欠陥がある。金融機関、DNFBPs(指定非金融業者および職業専門家)、暗号資産交換業者に対するリスクベース監督を効果的に実施している日本では、これらの脆弱性をさらに悪化させている(IO.3および4も参照。)。
  • 日本はIO.11についてmoderateの有効性を有すると評価されている。

予防措置 主な評価結果及び勧告事項

金融機関向け
  1. 大規模銀行(より高いリスクを有するとされているGSIB等)を含む一定数の金融機関及び一定数の資金移動業者は、マネロン・テロ資金供与リスクについて適切な理解を有している。その他の金融機関は、自らのマネロン・テロ資金供与リスクの理解がまだ限定的である。一般に、これらの金融機関は、主に犯罪収益移転危険度調査書(以下、NRA)の評価に基づく、監督当局が指摘するリスクカテゴリーについて、例えこれらのリスクが自らの業務に関連しない場合であっても参照している。金融機関は、現金取引を介するもののほかは、前提犯罪とマネロンとの関連性や、犯罪収益がどのように銀行システムに侵入するかについて、深く理解していない。
  2. 金融機関がマネロン・テロ資金供与リスクについて限定的な理解しか有していない場合、金融機関のRBAの適用に直接的な影響を及ぼす。一定数の金融機関は、自らのリスク評価や、認識されたリスクに応じた低減措置を適用している。その他の金融機関は画一的な低減措置を適用し、顧客の本人確認、取引確認及び疑わしい取引の届出以上の措置は実施していない。
  3. 金融機関は、紛争地域への近接性に基づき、テロ資金供与リスクを理解しているようであり、金融セクターにおける他の類型のテロ資金供与については、報告も調査もされていない可能性を示している。金融機関は、イランや北朝鮮等のリスクの高い国々と関連のある取引については、特別な注意を払っている。
  4. 金融庁による2018年のAML/CFTに関する強制力のあるガイドラインは、金融機関によるAML/CFTに係る義務の理解や履行を促進する一里塚であった。しかしながら、全ての金融機関について、自らのリスクに応じた効果的なAML/CFT管理態勢(AML/CFTsystems)を確保するため、この基準のレベルは引き上げられるべきである。
  5. 一定程度の金融機関は、基本的なAML/CFTに係る概念、とりわけ、実質的支配者の確認・検証、継続的顧客管理等の、最近導入・変更された義務について、まだ明確かつ一律の理解を有していない。基本的な取引モニタリングシステムは一定数の金融機関で既にある程度導入されており、取引スクリーニングシステムはほとんどの金融機関で導入されているが、どちらのシステムもその効果は限定的である。金融機関は、法律上・規制上・監督上の新たな義務を履行するためにAML/CFTの枠組みや取組みを高度化する必要があるとの一般的な認識を有している。しかしながら、監督当局は、直接、対話を通じて監督している金融機関のみに対応期限を課している。その他の金融機関は、AML/CFTに係る義務の履行について独自の期限を定めているが、期限が延長される傾向にある。したがって、金融機関の顧客管理(CDD)の適時の改善や十分なAML/CFTに係る低減措置の適用に、深刻な懸念がある。
  6. 金融機関は、基本的な顧客の情報を収集しているが、このために金融機関の顧客に関する知識が限られており、かつ、この情報は通常更新されていない。金融機関は、顧客の特性に基づいた顧客リスク格付も、顧客属性等と取引記録との結び付けも行っていない。一定数の金融機関は、最近、新規顧客について完全なCDDを最近開始したところである。また、口座の売買や不正利用の蔓延は、金融機関が直面している深刻な問題である。これらの要素は全て、CDDの質、及び、有効性に更なる懸念を生じさせている。
  7. 金融機関は、いくつかの例外を除いて、リスクの高い顧客に対して適切な、厳格な顧客管理措置(EDD)を適用しておらず、多くの場合、EDDは、顧客の本人確認、及び、リスト照合に限定されている。
  8. 疑わしい取引の届出の総件数(年ベース)は増加傾向にあり、届出の大部分は金融セクターによるもので、三分の一は大規模銀行によるものであるが、これらはFIU(JAFIC)のガイダンスに基づいた基本的な類型・疑わしい取引の参考事例を参照したものである。
  9. ほとんど全ての銀行は、AML/CFTに係る内部管理態勢、方針、手続を確立している。その他の金融機関は、より基本的な内部管理態勢を適用しており、そのほとんどはコンプライアンス部署の中にAML/CFT管理機能を有している。
  10. 業界団体は、金融庁と協働して、AML/CFTに係る義務に関する金融機関の啓発や監督上の期待に係るコミュニケーションの役割を担っている。しかし、こうした取組みにもかかわらず、AML/CFTに係る措置に対する平均的な意識は依然として不十分である。
暗号資産サービスプロバイダ向け
  1. 暗号資産交換業者は、登録義務制度が導入されており、2017年以降、AML/CFT目的で適切に規制・監督されている。今のところ19社の暗号資産交換業者が、登録されている。
  2. 暗号資産交換業者は、暗号資産取引に関連する犯罪のリスクについての一般的な知識を有する。テロ資金供与リスクの理解は概して限定的である
  3. 暗号資産交換業者は、基本的なAML/CFTに係る義務を実施する傾向がある。一定数の暗号資産業者は、顧客の本人確認のために厳格な措置を適用している。一般的に、暗号資産交換業者は、自らのリスクに応じた低減措置や、厳格な顧客管理措置(EDD)又は特定の顧客管理措置(CDD)の適用について、当業態に特化した方針を有していない。
  4. 暗号資産交換業者の疑わしい取引の届出は、2017年に義務が導入されて以降、900%以上(2018年には7千件を超える届出)増加した。これは、主にFIUと、日本暗号資産取引業協会(JVCEA)が共同で行った一連の啓発活動やガイダンスの結果である。
  5. 暗号資産交換業者は、監督上の措置に従って、内部管理態勢を改善した。
指定非金融業者および職業専門家向け
  1. DNFBPs(指定非金融業者および職業専門家)のML/TFリスクに対する理解は低い。彼らは潜在的なTFリスクに全く気付いていないようである。一般的に、彼らは北朝鮮との関係を含む取引関係に関連するリスクを認識している。貴金属や宝石の販売業者は、最近の事件による金塊の密輸リスクをよく理解している。
  2. DNFBPs(指定非金融業者および職業専門家)は、資金洗浄・テロ資金供与対策上の義務についての基本的な理解を有している。いくつかの全国的な協会は、加盟社がその義務を理解し実行するのを助けるために、ガイダンスを加盟社に提供している。
  3. DNFBPs(指定非金融業者および職業専門家)は、主に顧客を特定し、顧客が暴力団の構成員等でないことを確認するとともに、顧客によっては取引の目的を確認するなど、資金洗浄・テロ資金供与対策の基本的な防止対策を講じている。全DNFBPsが実質的支配者の概念を完全に理解しているわけではない。TFS(対象を特定した金融制裁)リストのスクリーニングやリスクの高い国のリストのチェックは、顧客が通常のプロファイルから逸脱した場合に主に行われる。
  4. DNFBPs(指定非金融業者および職業専門家)のすべてがSTR提出義務を負っているわけではなく、実効性が著しく損なわれている。報告主体である場合、特定のML/TFリスクに直面していると特定されたセクターを含め、報告レベルは低い。

勧告事項

金融機関向け
  1. 引続き、マネロン・テロ資金供与リスクに基づく金融機関のコンプライアンス文化の変化を促すための適切な啓発、及び、研修を実施し、監督当局も関与しつつ、マネロン・テロ資金供与リスク及びAML/CFTに係る義務のより良い理解のために支援すべきである。
  2. 全ての金融機関に対して、自らの業務、商品、サービス、及び顧客に応じた適切なリスク評価の策定を求めるべきである。
  3. 3メガバンク向けのベンチマークの基準に平仄が取れるよう、金融庁AML/CFTガイドラインを高度化するよう更新すべきである。適切な取引モニタリングシステムの必要性を強調し、適切な継続的顧客管理との関連性を明確にすべきである。
  4. 全ての金融機関が新たな法律上・規制上・監督上の義務を履行するための、規範的(prescriptive)かつ適切なスケジュールを設定すべきである。
  5. 金融機関において、取引記録を考慮に入れた包括的、かつ、変化する顧客のリスク特性に基づく、顧客情報の検証方法の改善、及び、継続的顧客管理措置の完全な履行がなされるようにすべきである。
  6. 金融機関の複雑な構造を踏まえつつ、金融機関が、CDDデータと取引モニタリングを統合した、適切かつ包括的な、情報システムを導入することを確実に履行すべきである。その取引モニタリングは、金融機関の業務内容、特定されたリスク、並びに、顧客の取引パターン、及び、リスク特性に適合したものであり、また、適切な検知シナリオに基づく取引モニタリング・パラメータを有するものであるべきである。
暗号資産サービスプロバイダ向け
  1. AML/CFT義務の新たに課されたカストディアル・ウォレット・サービスについて、適時に履行するようにすべきである
  2. 「トラベルルール」の解決策が開発された際には、暗号資産交換業者とカストディアル・ウォレット・サービス提供業者が、電信送金に係る義務の対象となるようにすべきである。
  3. 引続き、暗号資産交換業者のマネロン・テロ資金供与リスクに対する理解を改善させると共に、暗号資産に関連する全ての新しい技術開発(新たなビジネスモデル、取扱候補の暗号資産及びその他の暗号資産に係るイノベーション等)が、マネロン・テロ資金供与リスクを勘案して分析されるようにすべきである。
  4. 暗号資産交換業者のコンプライアンス文化を継続的に強化するため、AML/CFTに係る義務の理解と実施に欠かせない指導やサポートを提供する。この際、各事業者のリスク評価及び当該評価に基づく全てのAML/CFTに係る義務の履行に重点が置かれるべきである。
  5. 暗号資産交換業者の特性に合わせた、より踏み込んだシナリオ設定に資するために、疑わしい取引の届出へ参考となる情報の提供を精緻化、そして調整すべきである。
DNFBPs(指定非金融業者および職業専門家)用
  1. DNFBPs(指定非金融業者および職業専門家)を対象としたML/TFリスクに関するアウトリーチおよび教育プログラムを実施する。
  2. ML及びTFリスクの類型、脆弱セクター及びガイダンス指標に関する情報を用いて、すべてのセクターに実際的なML/TFリスクレッドフラグを構築する。
  3. 特定されたリスクに対処するため、特に(i)継続的顧客管理の要件、(ii)EDD措置に焦点を当てた、適切かつ相応な資金洗浄・テロ資金供与対策の実施に関するセクター別のガイダンスをを含め、資金洗浄・テロ資金供与対策の義務に関するDNFBPの理解を高める。
  4. 疑わしい取引の届出の報告義務の遵守に対する監督の焦点と監督に基づき、DNFBPs(指定非金融業者および職業専門家)の意識を高め、疑わしい取引の届出の質を確保する。
  • 333.審査団は、監督対象となる業態(obligedsectors、特定事業者の業態)について、各業態の重要性とマネロン・テロ資金供与リスクのレベルを考慮し、日本の文脈における相対的な重要性に基づき、順位付けした(第1章、1.4.3で説明)。最終的に、審査団は、評価における考慮の重要度について、以下の結論を得た。
    1. 最も重要:銀行
    2. 重要:暗号資産交換業者、資金移動業者、信託会社、貸金業者、保険会社、金融商品取引業者、両替業者、不動産特定共同事業者、クレジットカード事業者、宅地建物取引業者、宝石・貴金属等取扱事業者、法律・会計専門家
    3. やや重要:ファイナンスリース事業者、郵便物受取サービス業者、電話受付代行業者、及び電話転送サービス事業者
    4. 重要性が低い:少額短期保険業者、短資業者、証券金融会社、特例業務届出者、商品先物取引業者、口座管理機関、電子債権記録機関、国債を取り扱う振替機関及び口座管理機関、並びに独立行政法人郵便貯金簡易生命保険管理・郵便局ネットワーク支援機構

マネロン・テロ資金供与リスクとAML/CFTに係る義務の理解

金融機関
  • 335.大規模銀行(より高いリスクを有するとされているGSIB等)を含む一定数の金融機関及び一定数の資金移動業者は、マネロン・テロ資金供与リスク及びAML/CFTに係る義務について適切な理解を有している。その他の金融機関は、自らのマネロン・テロ資金供与リスクの理解がまだ限定的である。金融機関は、マネロン・テロ資金供与リスクやAML/CFTに係る義務の履行に関する主要な参考先として、金融庁やその他の当局、特にNRAより得られた情報を利用する傾向がある。
  • 336.金融機関は、一般に、国際的な電信送金や現金取引とともに、暴力団、北朝鮮、外国人顧客を、より高いリスクがあると位置付けている。銀行口座の不正利用の主な事例の一つとして、口座乗っ取り(フィッシング・詐欺)や口座売買(出国予定の一時滞在者によるもの)に関連する詐欺が挙げられる。密輸の危険があるため、金に関連する取引もまた、懸念のある領域である。これは、概ねNRAの結論と一致している(1参照)。しかし、大部分の金融機関は、現金取引を介するもののほかは、前提犯罪とマネロンとの関連性や、どのように犯罪収益が金融システムに入り込むかについて、より深い理解を有していない。さらに、一定数の金融機関は、一定の特定の分野(例えば、閉鎖的なグループに属し、当該グループの会員であることにより本人確認が行われた顧客に対し、主にサービスを提供する銀行)に限定されているため、顧客基盤のリスクが低いとみなし、それゆえ、各顧客のリスク評価を実施していない。
  • 337.金融機関は、紛争地域への近接性に基づき、テロ資金供与リスクを理解しているのみと見られ、金融セクターにおける他の類型のテロ資金供与については、報告も調査もされていない可能性を示している。
  • 338.大規模銀行(より高いリスクを有するとされているGSIB等)を含む一定数の金融機関及び一定数の資金移動業者は、自らのリスクをより良く理解しているようであり、そのリスク評価に一定の具体的な要素又は指標(例えば、外国人顧客の国際送金の頻度、取引量等)を追加している。
  • 339.金融機関のAML/CFTに係る義務の理解は、限定的なようである。取引モニタリングシステムの利用と組み合わされた継続的顧客管理の考えに関する明確かつ一律の理解の確立について、課題がある。これらの義務は、犯罪収益移転防止法の改正や2018年2月に適用された強制力のある金融庁AML/CFTガイドライン(第1章参照)を通じて、最近日本の法制度に適用された。基本的な取引モニタリングシステムは一定数の金融機関で既にある程度導入されており、取引スクリーニングシステムはほとんどの金融機関で導入されているが、どちらのシステムもその効果は限定的であり、非常に高い割合で誤検知が見られる。既に取引モニタリングシステムを導入している大部分の金融機関は、独自のツールを開発しているが、異なるツール間で複雑性や有効性にばらつきがあり、また、それ以外の金融機関には手動で管理を行っているものもある。
  • 340.金融機関は、新たな義務を履行するためには、AML/CFTの枠組みや取組みを強化する必要があるとの一般的な認識を有している。しかし、これらのギャップに対処するために監督当局により課された明確な期限はなく、金融セクターの変化に対する取組みの遅さを考えると、直接金融庁と緊密な対話を行っていない金融機関が、どの程度、自らの施策においてギャップを速やかに理解・評価しているのかは不明である(3参照)。
  • 341.2018年の金融庁AML/CFTガイドライン(第1章参照)は、金融庁所管の金融機関がAML/CFTに係る義務を履行するための大きな一歩であったが、一定の改善が必要である。金融庁AML/CFTガイドラインは、全ての金融機関に共通の最低基準を設定し、所管金融機関における適切なAML/CFTの枠組みの履行を要求している。しかし、全ての金融機関における自らのリスクに応じた効果的なAML/CFT管理態勢(AML/CFTsystems)を確保するために、基準のレベルを引き上げる必要がある。金融庁マネーローンダリング・テロ資金供与対策企画室は、2018年5月に、ガイドラインのプリンシプルベースの指示を統合したAML/CFTに係る一連の義務が記載された「3メガバンク向けAML/CFTベンチマーク」を発出し、メガバンクが海外のグローバルなシステム上重要な金融機関(G-SIFIs)の国際的なAML/CFTに係る基準を満たすことを要求している。これらのベンチマークは、金融機関毎の複雑な特性に配慮しつつ、2つの異なる基準が存在するという状態を回避するため、金融庁AML/CFTガイドラインにリスクに応じた形で統合されるべきである。
  • 342.業界団体は、金融庁と協働して、会議、セミナー、研修活動を通じて、AML/CFTに係る義務に係る金融機関の啓発や監督上の期待に係るコミュニケーションの橋渡しの役割を担っている(3参照)。しかし、こうした取組みにもかかわらず、AML/CFTに係る措置に関する認識レベルは依然として不十分である(いくつかの金融機関を除く。第336及び第339パラグラフ参照)。
暗号資産交換業者
  • 343.暗号資産交換業者は、暗号資産取引に関連するリスク(追跡可能性の欠如、即時移転可能性、国境を越えた移転の容易さ、匿名化技術を含む技術革新の速度等)について一般的な知識を有する。過去数年間において日本に影響を及ぼした大規模な暗号資産流出事件(例えば、Mt Gox、コインチェック、Zaif)は、市場の脆弱性についての認識を引き上げる重要な事件であったが、こうした認識は、AML/CFTよりも消費者保護の観点によるものであった。したがって、暗号資産交換業者は、セクター固有のマネロン・テロ資金供与リスクよりも、暗号資産取引に係る消費者保護リスクにより焦点を当てている、と審査団は判断した。
  • 344.一般に、暗号資産交換業者は、NRAに挙げられているリスク要素以外に、自らが取り扱っている暗号資産の種類(匿名・非匿名)等の、多数の主なリスク要素を追加している。これは、当該セクターが率先して固有のリスク特性を判断している前向きな的な兆候である。
  • 345.2017年に暗号資産交換業者のAML/CFTに係る義務が導入された(第1章参照)。JVCEA(5.2.6参照)は、コンプライアンス文化をまだ改善させる必要があると認識していた。JVCEAは、金融庁と協力して、会員を対象に月次でAML/CFT勉強会を開催している(6.2.6参照)。2018年にいくつかの暗号資産交換業者に対して発出された業務改善命令を受けて、暗号資産交換業者は、現在、ほとんどの事例において、経営陣レベルでAML/CFTの問題に対処しており、金融業界出身のAML/CFTオフィサーを雇っている。
  • 346.現状、暗号資産交換業者は、顧客・ユーザーの特定、制裁者及び反社リストとの照合、NRAに基づくよりリスクの高い要素の特定及び疑わしい取引の届出等の基本的なAML/CFTに係る義務を理解している。
  • 347.資金決済法における暗号資産交換業者の定義の範囲のために、AML/CFTに係る義務は、暗号資産交換業者が提供するカストディアル・ウォレット・サービスには適用されない。しかし、このギャップを埋めるために資金決済法が2019年5月に改正され、オンサイト審査後の2020年5月1日に施行された。

リスク低減措置の適用

金融機関
  • 352.金融機関がマネロン・テロ資金供与リスクについて限定的な理解しか有していない場合、金融機関のRBAの適用に直接的な影響を及ぼす。一定数の金融機関は、自らのリスク評価や、認識されたリスクに応じた低減措置を適用している。その他の金融機関は、リスクに応じて十分に調整することなしに、画一的な低減措置を適用している。一般に、金融機関は、単なる法令等遵守への取組みに留まっており、例えこれらのリスクが自らの業務に関連しない場合であっても、監督当局によって指摘された基本的なリスクカテゴリー(主にNRAの結論に基づくもの)を参照している。実際、2018年の「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策の現状と課題」(「現状と課題」)で評価されたように、2018年8月時点では必ずしも全ての金融機関にRBAが浸透しているわけではなく、単なる顧客の本人確認、取引の確認、及び、疑わしい取引の届出のみならず、より有効性の高いリスク低減措置の実施が問題となった。
  • 353.ほとんどの金融機関は、新規顧客について、その属性を総合的に評価し顧客リスク格付を付すための適切な顧客管理(CDD)の仕組みを整備しているが、既存顧客については情報更新手続の途上である。一定数の金融機関は、CDDのためのツールを導入し始めたが、情報更新手続は進行中である(5.2.3参照)。よりリスクの高いリスクカテゴリーは、主に、NRAに分析・記載されているリスク要因(1参照)に基づいて設定されている。顧客のリスク特性は、主にリスト照合に焦点を当てている。顧客に関する情報は、取引関係の構築の際に取得した基本的な情報に限定され、かつ、この情報は大抵の場合、更新されていない。顧客の取引先や関係会社を検出し、これらを名寄せしたりグループとしてリスクを評価し、取引をモニタリングする仕組みはない。自主的に分析した顧客のリスク特性を、グループ内の異なる法人間で共有している金融グループは少ない。
  • 354.一定数の金融機関が自らの業務に関連するリスクを限定的にしか理解していないことを踏まえると、これらの金融機関が金融庁AML/CFTガイドライン(第1章1.4.5参照)が明記するRBAの基本をどの程度理解し、リスクに応じた低減措置を実施しているかについては懸念がある

顧客管理措置(CDD)の適用及び記録保存要件

金融機関
  • 360.金融機関は、実質的支配者の確認・検証や、取引モニタリングシステムと組み合せた継続的顧客管理等の顧客管理措置(CDD)の導入に、大きなギャップを有しているようである。情報更新とリスク評価の見直しが実施されていない多くの既存口座が存在している。
  • 361.取引関係の構築に当たって、潜在的な顧客が、制裁及び反社リストに該当する場合や必要な情報が不足している場合には、金融機関により取引が謝絶される。金融機関は、日本における他の事業者と同じく、暴力団・反社会的勢力関係者との関係を排除しなければならない(1参照)。金融機関がアクセス可能な、固有かつ公式の(暴力団)リストは存在しない。基本的に、金融機関は、自らの情報と警察庁や都道府県警察を含むその他の情報源、サービス提供会社からのデータに基づいて作成した独自のリストを有している。当該リストは、金融機関により継続的に更新されることが必要であり、その正確性や確度の確保については課題がある。
  • 362.既存顧客が反社リストに該当した場合、又は、既存顧客が暴力団員である、もしくは、暴力団員に関連していると疑われる場合、口座の活動は厳格な調査と管理により取引に制限が加えられる。組織犯罪に関連する口座解約の手続には、長期間を要するようである。
  • 363.金融機関は、取引関係の構築に当たって、顧客の住所等の基本的な顧客情報を収集・検証しようとしているだけのようである。口座開設のための写真付の身分証は、標準的なリスクの顧客にとっては必須とはならない。金融機関は、2016年に義務化されるまで、収集した基本的な顧客情報を更新しなかった。さらに、この新たな義務は体系的かつ適時に、既存及び新規の顧客に適用されていない傾向がある。
  • 364.実質的支配者に関する情報は、顧客の申告に基づいて収集されることが多いが、これは不十分な検証方法である。日本は、近年、有益な検証手段となる可能性のある、公証人主導の実質的支配者の登録制度を創設したが、いくつかの制約が確認されている(5参照)。
  • 365.金融機関は、口座の売買や不正利用の蔓延に係る問題に直面している(5.2.1参照)。口座の不正利用の容易性とその拡大は、金融機関が直面する主要なリスクの一つとして認識されているが、適用される顧客管理措置(CDD)の質と有効性に更なる懸念を生じさせている。
  • 366.継続的顧客管理について、金融機関は、金融庁AML/CFTガイドラインの規定に従い、正確かつ適切な顧客情報を保つためのシステムの構築を開始している。しかしながら、継続的顧客管理措置は、収集された顧客情報の更新及びリスト照合に限定されているように見られる。この手法に従って継続的顧客管理に係る措置を実施しても、金融機関が、顧客の特性と業務内容を結びつけ、予測される顧客の取引パターンからの逸脱の可能性を検知できるようにはならない。この弱点に対処し、継続的顧客管理に係る義務の履行の有効性を改善するためには、監督当局からの説明、又は、指導が必要と思われる(3参照)。2019年の「現状と課題」にあるように、一定数の金融機関は、顧客管理措置(CDD)や取引モニタリング、取引フィルタリング・スクリーニングについて、統合されたITシステムの活用・設計・導入を検討しているところである(以下参照)。しかし、これらのITシステムは、ほとんどの場合まだ導入されておらず、既に導入されている場合でも、その効果は限定的である(既に顧客のリスク特性に基づいて敷居値を調整した取引モニタリングシステムを導入しているメガバンクと一定数の地銀についても、非常に高い割合の誤検知等の多くの課題に直面している)。
  • 367.取引モニタリングに関しては、疑わしい取引を識別するために、顧客の特性及び取引パターンに注目する、適切な取引モニタリングシステムを整備しているのは、非常に限られた数の金融機関のようである。これらの金融機関は、一般に、自らのリスクを十分に理解している金融機関である(例えば、資金移動業者と一定数の銀行。上記参照)。
  • 368.一般に、適用されているリスク低減措置は、制裁者及び反社リストとの照合に限定されている。場合によっては、これらの措置は国際的な電信送金にしか適用されていない。しかし、金融庁AML/CFTガイドラインの指示に従い、一定数の金融機関においては、基本的な取引モニタリングシステムが整備されている。現在導入されているITツールの有効性は、大量のアラートが発生し、誤検知の平均比率が最大99%にのぼっていることからすると、不十分である。このことは、検知の指標が、単に、基本的なトリガー基準(シナリオ)及び敷居値に関連しているだけで、不適切に設定されていること示している。これらには、取引のパターンやマネロン・テロ資金供与の手法の検知シナリオが含まれるべきである。これらの要因は、金融機関が基本的なもの以外の疑わしい取引パターンを検知する能力を制限している(この点は翻って、金融機関及び国のリスク評価、及び、理解に影響を及ぼしている。1参照)。さらに、大量の誤検知を手作業でチェックする非常に時間のかかる作業は、金融機関がAML/CFTの枠組みを改善するための経営資源の活用に制約を加えている。
  • 369.一定数の金融機関は、取引モニタリングシステムを導入する過程にあるが、このようなシステムをまだ導入していない金融機関も多くある。信用組合等の小規模な預金取扱金融機関の11%が、手作業で取引をモニタリングできるものと判断して、ITツールを全く導入していない。これは、業務量が少なく、顧客基盤はリスクが低いものとみなしているためである。一定数の業界団体は、会員金融機関がスケールメリットを得られるように、共同化された取引モニタリングシステムを開発しているところである。これらのプロジェクトは進行中であるため、現時点では有効性を評価することはできない。しかし、関係する小規模の銀行によるAML/CFTに係る義務の履行を改善するために役立つツールとなりうる。
  • 370.最後に、金融機関は、継続的顧客管理及び取引モニタリングについて確認されたギャップへの対応について、監督当局から一般的な期限を設定されていない(3参照)。金融機関は、一般に独自の期限を設定しているが、期限が延長されることが多い。銀行は、既存顧客に対する顧客管理措置(CDD)の実施のため優先順位付けを始めているが、銀行が顧客に関して限られた情報しか持っていない場合には、RBAを適用することが困難であることが分かっている。その結果、金融機関が顧客に関する理解を改善し、適切なAML/CFTに係る低減措置を適時に適用することが容易ではなく、それが重大な懸念となっている。
  • 371.金融機関は、法律に従い、1万円(79.19ユーロ、96.3米ドル)の敷居値を超えた業務に関する記録を保持しているようであり、通常、(過去12ヶ月間の取引に係る要請については)、約3~5営業日で求められた情報を捜査当局に提供することができる。関係する金融機関の記録保存方法によっては、より過去に遡る一般的でない、又は、より複雑な取引の情報提供要請について、より多くの時間がかかる可能性がある。実際、監督当局によって課された記録保存に係る標準的な形式はなく、通常は犯罪収益移転防止法に従って7年間保存されている様々な情報(例えば、顧客に係る書類一式、当座預金取引等)は、それぞれ異なる方法及び場所で保存されている可能性があり、必要となる関連記録の作成をより困難にしている。

厳格な顧客管理措置(EDD)の適用

金融機関
  • 379.ほとんどの金融機関は、外国人等のリスクの高い顧客に対して、適切な厳格な顧客管理措置(EDD)を適用していないようであり、通常EDDは、本人であることの確認(例えば、金融機関は、リスクの高い顧客については、口座開設にあたって写真付の身分証明書のみを受け入れる)及びリスト照合に限定されている(5.2.3参照)。リスクの高い顧客に関する厳格な業務規程(operational rules)はなく、また、追加的又は厳格な低減措置の実施を担保するためのエスカレーション手続も存在しない。
  • 380.PEPsについては、厳格な顧客管理措置(EDD)の適用に技術的限界があるが、これは主に国内PEPsと国際機関PEPsの概念が国レベルで認識されていないためである(TC附属書12参照)。
  • 381.コルレス銀行業務については、金融機関は、新たな関係の構築を慎重に検証し、コルレス先の信頼性を適切に評価しているようである。いずれにせよ、コルレス銀行業務は、主要銀行・中規模銀行に限定されている一方で、小規模銀行は、大手銀行等に本サービスの提供を委託している。
  • 382.金融機関は、定期的に、リストベースの手法を通じて、テロ資金供与に関連する制裁者リストについて取引スクリーニングを実施している。この手法には、第三者の自動スクリーニングソフトウェアが含まれる。一般に、日本の当局の認識は、大規模金融機関が、(Wolfsberg Group等の)国際的なグループの取組みを遵守していることを拠り所としている。財務省は、国連安全保障理事会によるリストの更新について、更新の日、又は、速やかに、更新情報を金融機関に直接送付している(10参照)。
  • 383.日本の当局が、北朝鮮及び北朝鮮と関連のある者や法人に対する支払いを禁止していることから、金融機関は、イランや北朝鮮等のリスクの高い国々と関連のある取引について、特別な注意を払っている(11参照)。また、金融機関は、北朝鮮に面する日本の西海岸(九州地域)の港湾等の、これら2つの高リスク国に隣接する地域に関連する外為送金や業務(operations)にも、より一層の注意を払っている。外国と取引する顧客を有する一定数の金融機関は、主に北朝鮮を中心とした高リスク国への輸出に主に用いられる瀬取りを考慮に入れている。

届出義務及び内報の禁止

金融機関
  • 390.金融機関は、一般に、疑わしい取引又は疑わしい可能性のある取引を検知したときに疑わしい取引の届出を行っている。金融庁は、金融機関の疑わしい取引の届出をモニタリングしており、疑わしい取引が金融庁に提出されると、それらを分析のためにJAFICに転送する(6参照)。検知されてから、金融機関が疑わしい取引の届出までに要する期間は、問題ない合理的なレベルである(平均17日)
  • 391.疑わしい取引の届出の総件数(年ベース)は増加しており、過去5年間(2014から2018年)で年間約40万件となっている。金融機関は、届出全体の96%を占める。疑わしい取引の届出の三分の一は、大規模銀行によるものであり、金融庁が実施した2018年度のAML/CFTに関する調査によると、信用金庫や信用組合等の比較的小さなリスクにさらされている銀行の22%が、年度中に全く届出を行っていない。疑わしい取引の届出の大部分は、基本的な犯罪類型と疑わしい取引の参考事例に関するものであり、主にFIU(JAFIC)が銀行セクターに示したものである(6「疑わしい取引の参考事例」参照)。入手可能なデータによると(IO.6、表3.3参照)、疑わしい取引の届出の大部分は、FIUの指針に記載されている基本的な犯罪類型に基づいている。仮に適切な取引モニタリングツールが既に導入されており、より洗練された疑わしい取引の参考事例等を踏まえて、より精巧なシナリオを考慮していれば、検知される疑いの範囲と届出に含まれる情報の内容という両方の点で、届出が改善される可能性がある。このことは、金融機関によるリスクのより良い理解と組み合わさって、疑わしい活動の特定及び分析の継続的な改善につながるであろう。このことはまた、国レベルでのリスク全体のより良い理解にもつながるであろう(IO.1参照)。
  • 392.金融機関は、紛争地域やテロ資金供与リスクが高い地域に関連する取引を含む事案等の、テロ資金供与に関連する疑わしい取引の届出を行っている。JAFICは、これらの疑わしい取引の届出のうち、テロ資金供与が関与する可能性のある状況を特定している(6参照)。しかし、JAFIC及び警察庁によるテロ資金供与に関連する疑わしい取引の届出の調査の質は概ね高い一方(IO.9参照)、疑わしい取引の届出自体は、比較的基本的な検知事例を含む傾向がある。したがって、テロ資金供与にさらされている可能性について金融機関への更なる啓発や追加の疑わしい取引の参考事例及びシナリオの提供により、金融機関によるテロ資金供与の潜在的リスクのある取引の検知を支援し、複雑なテロ資金供与の手法の防止に寄与する必要がある。
  • 393.JAFICは、主要な銀行に対して、その疑わしい取引の届出に係る方針を直接フィードバックしている。
  • 394.内報を防止するための標準的な措置は存在しないが、2018年度の金融庁のAML/CFTに関する調査によると、銀行の73%が内報を防止するための社内規程(通常、疑わしい取引の届出マニュアル内に記載)を有している。その他の金融機関は主に、職員に対し、疑わしい取引の届出に関して内報を行わないように指導するための研修に依存している。
内部統制及びAML/CFTに係る義務の履行を妨げる法律上・規制上の義務
  • 399.日本では、AML/CFTに係る義務の履行を妨げる法律上又は規制上の義務は存在しない。
金融機関
  • 400.ほとんど全ての銀行は、金融庁AML/CFTガイドラインに沿ったAML/CFTの内部管理態勢、方針、手続を構築している。その他の金融機関は、より基本的な内部管理態勢を適用しており、そのほとんどはコンプライアンス部署の中にAML/CFT管理機能を有している。
  • 401.金融庁が実施した2018年度のAML/CFTに関する調査によれば、銀行の99%が第2線にAML/CFTを担当する部署を有しており、93%がAML/CFT監査を含む独立した内部監査部門を設置し、少なくとも年1回は研修を実施している。
  • 402.銀行グループについては、グループ全体の方針や内部管理態勢が定められている場合があるが、通常、海外に支店や子会社を有する場合は当てはまらない。
  • 403.金融グループの場合、方針及び手続は、一般に、グループの法人ごとに異なり、グループの全ての法人内で同じAML/CFTに係る義務を確保しているものではない。
IO.4に係る結論
  • 一定数の金融機関(大規模銀行及び一定数の資金移動業者を含む)は、マネロン・テロ資金供与リスクについて適切な理解を有している。その他の特定事業者(金融機関、暗号資産交換業者、DNFBPs)は、自らのマネロン・テロ資金供与リスクの理解がまだ限定的である。金融機関は、AML/CFTに係る義務についてより良い認識を有しているものの、これらの義務の履行については金融機関によってばらつきがある。一定数の金融機関は、自身のリスク評価や、認識されたリスクに応じた低減措置を適用し始めているものの、その他の金融機関は画一的な低減措置を適用し、顧客の本人確認及び基本的な取引スクリーニング以上のことは実施していない。加えて、金融機関は、一般に、継続的顧客管理や実質的支配者の確認・検証等の最近導入・変更された義務の概念についての理解が限定的であることや、新たな義務を履行する期限を設定していないために、これらの義務を十分に履行していない。取引モニタリングシステムは、既に導入されている場合でも、大幅に強化され、新しい顧客管理(CDD)ツールと統合される必要がある。また、強制力のある金融庁AML/CFTガイドラインで求められている義務も、リスクに見合った、全ての金融機関における効果的なAML/CFT管理態勢(AML/CFT systems)を確保するために強化、高度化される必要がある。
  • 他の特定事業者(暗号資産交換業者やDNFBPs)は、AML/CFTに係る義務の履行についてまだ初期段階である。疑わしい取引の届出は、特に 暗号資産交換業者について増加しているものの、基本的な類型や疑わしい取引の参考事例に基づいている。全てのDNFBPsが、疑わしい取引の届出義務の対象になっているわけではない。
  • 地域における最も重要な金融ハブの一つとしての日本の役割、日本の状況における金融セクターの重要性、重大なマネロン・テロ資金供与リスクにさらされている銀行や固有のマネロン・テロ資金供与リスクを有する暗号資産交換業者分野の出現を考慮すると、4については、いまだ大幅な改善(major improvements)が必要である。
  • 日本は、IO.4に関して、中程度のレベル(moderate level)の有効性を有すると評価される。
法人及び取極 主な調査結果と推奨処置
  1. 日本はここ数年、実質的支配者に関する情報に権限のある当局がアクセスすることを可能にするシステムの実施に向けて、一連の重要な措置を講じてきた。すべての金融機関、暗号資産交換業者、およびほとんどすべてのDNFBPs(指定非金融業者および職業専門家)は、CDDの過程で実質的支配者情報を取得、検証、および維持することを義務付けられており、2018年後半以降、公証人が新規企業の実質的支配者チェックを行う。
  2. それにもかかわらず、適切で、正確で、最新の実質的支配者情報は、まだタイムリーな方法で法人に一貫して利用可能ではない。
    1. 金融機関とDNFBPs(指定非金融業者および職業専門家)は、継続的なモニタリングの一環として、法人に関する既存のCDDを2016年の義務を満たすように改定する作業を継続中である。2016年以前は、金融機関は実質的支配者を特定する義務しか負わず、検証は要求されなかったが、それ以前に取引を開始していた顧客に関する実質的支配者の情報には課題が残っている。これらは、情報を更新し最新の状態に保つ必要があるその程度と、これらのCDD義務の遵守を監督するためのメカニズムに関連している(IO3およびIO4参照)。
    2. 設立時点での公証人による実質的支配者情報の収集は、2018年11月から実施されているのみであり、すべての会社の小さなサブセットのみを対象としている。さらに、当該情報は、関連する所管官庁が直接入手することはできない。また、受け取った実質的支配者の情報を公証人がどのように検証するかも不明だ。
  3. 日本は、法人のリスクについてある程度理解しているが、その理解には深みがないNRAは、実質的支配者の透明性のない法人を高リスクと認定しているが、日本の企業構造の違いによる脆弱性は十分に理解されていない。日本で運用されている法的取極め(国内外の信託)に関連するリスクは十分に理解されていない。
  4. 法執行機関による法人への調査が成功するのは通常、「フロント企業」や「シェル企業」が関与することが多い前提犯罪に対する調査の後である。これらの調査は、脆弱性とある程度一致するだけで、より複雑な所有構造を含む調査の証拠はない。法執行機関は、このような状況で実質的支配者を確立するために必要なツールを持っていないようだ。法執行機関がインテリジェンス情報上の実質的支配者情報の価値を理解することには、調査の一環としてこの情報から得られる有用性などの懸念がある。
  5. いくつかの基本的な情報は、商業登記所(例:氏名、所在地、代表取締役)から一般に直接かつ瞬時に入手できるが、その他の最新の株主情報を含む基本的な情報は会社からしか入手できず、法執行機関の遅延を引き起こす可能性がある。
推奨されるアクション 日本は次のことをすべきである。
  1. 日本において活動しているあらゆる種類の法人及び法的取極について、より包括的な評価を実施し、日本の状況においてそれらの法人又は取極がML又はTFの誤用に対して脆弱となるような法人及び取極の特徴をよりよく理解る。
  2. 実質的支配者に関する情報源をさらに強化し、情報の検証を促進する。これには、金融機関、暗号資産交換業者及びDNFBPs(指定非金融業者および職業専門家)の監督に実質的支配者の義務(特に、実質的支配者での変更を決定するために使用されるべき、継続的顧客管理を実施するための要件)を課すこと、及び、全ての金融機関とDNFBPsが、現行の要件が適用される前に取引を開始した顧客の実質的支配者情報を検証したことを確保するための特定の期限を設けることを含む。「IO3」も参照。
  3. 勧告25に沿って、国内外の信託、特に信託会社および信託業法に規定される企業が設定または管理していない信託に関する実質的支配者および統制の情報が利用可能で正確であることを確保するために、さらなる措置を講じる。
  4. システムが一元化されている場合、実質的支配者情報に関する公証人のデータベースに法執行機関が直接アクセスできるようにする。金融機関、暗号資産交換業者、DNFBPs(指定非金融業者および職業専門家)が実質的支配者認証公証人に依拠することができるのであれば、日本は、公証人が保持する実質的支配者情報の検証を強化することを優先すべきである。
  5. 法執行機関、国税庁、その他の所管当局を支援し、法人および法的取極めから基本的および実質的支配者情報へのアクセスをタイムリーに得るための仕組みについての理解を確保するために、ガイダンスを準備する。
  6. すべてのDNFBPs(指定非金融業者および職業専門家)がCDD義務の対象となり、法人である顧客に対するAML/CFT要件のより包括的な実施をサポートし、実質的支配者に関する情報が迅速に得られ、法人に関連する潜在的な疑わしい活動が検出されることを確保する(IO4参照)。
法的主体のML/TFリスク及び脆弱性の特定、評価及び理解
  • 472.法律関係者が関与するML犯罪及び金融犯罪を法執行機関が調査した経験は、権限のある当局が法律関係者のリスクを特定し理解するのに役立つ。2015年から2017年までの間に、実質的支配者法人が関与したML訴訟(すなわち、公訴の可能性を考慮して検察官に提出されたもの)は21件完了している。その大半は株式会社の悪用で、有限会社や特別有限会社の悪用もあった。株式会社の悪用が増えているのは、その社会的認知と信頼性の高さに起因しており、組織犯罪集団に悪用される可能性が高いと考えられる。
  • 473.日本における法人の脆弱性に関する日本の理解には重大な欠陥がある。NRAは、証券会社が悪用される可能性を高める一般的な側面を分析しているが、日本の状況で証券会社を脆弱性にさらす具体的な特徴については分析していない。これはまた、他の形態の法人にも適用され、MLの有罪判決を受けたケースには含まれないが、特定の脆弱性を持つ可能性がある。無記名新株予約権の脆弱性も評価されていない。
  • 474.NRAでは、3件の法人の悪用事例を取り上げている。これらの事例は、現場で提示された事例とともに、日本の法人が合法的な収益と違法な収益を混同して悪用されているというNRAの結論を支持している。前提犯罪の収益が「シェル企業」または[ボックス7.1参照]を使用して正当な収入として記録され、法人が不正な収益の洗浄に使用される場合には、同様の手法が頻繁に使用されるようである。JAFICはこれらの事例の分析を完了し、これらの事例に関連するリスク指標を法執行機関および義務主体に配布した。
  • 475.法人を悪用するために用いられた方法や技術の分析と理解は、広範なテーマを特定する一方で、深みに欠けている。例えば、より脆弱なセクターは、詳細に検討されていないようである。法人が非公式の名義人によって所有または支配されている場合は、NRAにおいてリスクとして参照される。しかし、日本に特有の非公式の名義人に関連するリスクについて、より詳細な分析やより深い理解は、NRAでは検討されておらず、所管当局によっても示されていない。暴力団との関係については、NRAにおいても、また、現場においても、当局からの照会があったが、日本においては、暴力団が法人を利用した資金洗浄等に用いている具体的な手法や手法について、理解を示さなかった。
  • 476.違法収益と企業の合法資金を混ぜたり、「ダミー」や「フロント」企業を使って違法収益を合法的に見せかけることによって、法人が悪用されていることは理解されているが、日本の法人を巻き込んだより複雑なスキームに伴うリスクは十分に理解されていない。日本では相当数の外国法人が活動しており、当局の推計によると、東京で新設される企業の約10%は、外国法人及び/又は所有の連鎖を伴う複雑な所有構造を有している(ただし、他の地域ではその割合は低くなる可能性が高い)。
  • 485.この手続きを行うために、公証人は実質的支配者の名前、住居、生年月日を収集し、実質的支配者が組織犯罪集団のメンバーとして認識されているか、UNSCR1267または1373の下でTFS(対象を特定した金融制裁)の対象となっているかを確認しなければならない。公証人は、実質的支配者がこれらのいずれかに該当すると判断した場合には、依頼人または実質的支配者に納得のいく説明を求めなければならない。公証人は公証人法に従って日本の法令に違反する証書を作成することができないので、これは事実上、実質的支配者が犯罪行為(暴力団の構成員として)またはテロ行為(指定された個人として)に関与している疑いがある場合(日本では組織犯罪集団の構成員は特定の犯罪ないが)、または、より一般的にMLまたはTFのために当該法人が誤用されると公証人が信じている場合に、公証人は法人の設立を証明することができないことを意味する。公証人は依頼人を「よく知って」いなければならない。
  • 486.証明の形式は要求されておらず、公証人は実質的支配者を証明するために依頼人によって提供された自己申告に頼ることができるが、これは日本の法律に違反する証書を作成していないことを確認する公証人の義務を果たすための公証人の裁量に任されている。実際には、公証人は、特に、何らかの種類の犯罪との関連があると疑われる場合には、報道など公に入手可能な情報のチェックを行うことができる。さらに、公証人に虚偽の陳述をした者は、5年以下の懲役または500,000円(3,959ユーロ/US$4,815)以下の罰金に処することができ、実質的支配者の情報に関する正確な情報を公証人に提供するようクライアントに奨励する。
  • 487.実質的支配者情報を収集する公証人の新しいシステムには、このデータセットの信頼性を低下させるいくつかの制限がある。公証人が取るべき措置についての期待はなく、あらゆる場合において公証人が実質的支配者情報を確認することができるように利用可能な情報源は不十分である。また、情報は登録時にのみ収集されるため、実質的支配者が将来変更される可能性があるため更新されない。
  • 488.会社設立プロセスにおける公証人の強化された役割は、実質的支配者情報の二次情報源を法執行およびその他の管轄当局に提供するために導入された。所管官庁が異なる情報源からの情報にアクセスし、クロスチェックにより情報の正確性を確保できるため、「多面的アプローチ」が一般的により効果的であると考えられている。
  • 489.この新しいメカニズムは、将来の法執行機関に重要な情報源を提供する可能性がある。公証人は依頼人から提出された申告書を保管しなければならず、大多数(約80%)は電子的に保管されている。紙の形式で保存された実質的支配者情報は、2020年4月から集中電子データベースに保存されるが、法執行機関に直接提供する計画はない。
  • 490.会社登記簿の信頼性を確保し、休眠会社の悪用を防ぐために、日本は12年間休眠していた多数の長期休眠会社を解散させる措置を取っている。また、5年間活動を休止していた一般社団法人及び一般財団法人の廃業を行っている(下表7.1参照)。これは1974年に初めて起こり、メディアの注目が、犯罪企業が休眠状態の商業登記簿上の会社を2014年まで散発的に利用し、それ以来毎年利用していたことを示した。休眠会社の悪用が頻繁に、あるいは広範に行われているかどうかは明らかではないが、プロセスを開始する理由や措置の影響はある程度限定されるかもしれない(特定のタイプの企業や長期間休眠状態にある企業だけを捉えることができる)。
法人に関する適切で正確かつ最新の基本情報及び実質的支配者情報への適時なアクセス
  • 500.法人に関する実質的支配者の情報は、可能な限り、金融機関、暗号資産交換業者及びDNFBPs(指定非金融業者および職業専門家)から入手することができる。JAFICは、CDDの過程で収集された実質的支配者情報は、法人が関与するML又はTFの疑いがある場合には、通常、疑わしい取引の届出の一部として義務主体から提出されることを確認した。この初期情報は、疑わしい取引の届出への対応で引き起こされた調査(IO6参照)に先立って、FIUがほぼすべてのSTRを公表したことにより、すべての法執行機関が入手できるようになった。
  • 504.また、非公式の名義人が、法人を通じたマネー・ローンダリングとの関連性を隠すために利用された事例も見つかっている。実質的支配者情報の検証における弱点(IO4参照)を考えると、非公式の名義人による洗浄は、重大な脆弱性を表している可能性がある。金融機関、暗号資産交換業者及びDNFBPs(指定非金融業者および職業専門家)は、暴力団の名称に関する様々な情報源にアクセスすることができる(ただし、これらの名簿の正確性は依然として問題である。IO4参照)。しかしながら、金融機関、暗号資産交換業者及びDNFBPsが、特により複雑な取極めが用いられる場合には、暴力団構成員のために行動する他の関係者を発見することは困難である。
  • 505. 現場での法執行機関からの説明は、実質的支配者情報が何を構成し、これがどのように基本的な情報と異なるかについて、一貫性のない理解があるかもしれないことを示した。実質的支配者情報を収集するメカニズムが比較的新しいことを考えると、実質的支配者情報を入手するために利用可能なメカニズムを理解する調査機関を支援するために、より多くのことがなされる必要がある。
IO.5に関する全体的な結論
  • NRAにおいてMLに高いリスクをもたらすものとして法人が特定されているにもかかわらず、日本では一般市民および民間セクター全体にわたって、法人および法的取極めに関連するMLおよびTFリスクの理解が低い。
  • 2016年10月以来、金融機関と大部分のDNFBPs(指定非金融業者および職業専門家)は法人と法的取極めに関する実質的支配者の情報を収集し、検証するための合理的な措置を講じることを義務付けられ、2018年11月以来、法人設立の一環として公証人が新会社の受益所有者の検証に関与している。しかし、これらの比較的最近の義務に関連した現行のCDD要件の実施における弱点は、実質的支配者情報の入手可能性にギャップがあることを意味する。法執行機関が実質的支配者の情報から得ている有用性に関する情報は限られているため、これらのメカニズムの有効性についても懸念が生じている。それにもかかわらず、現在必要とされている公証人、金融機関、DNFBPs(指定非金融業者および職業専門家)によるチェックは、新たに設立された法人の悪用を防ぐのに役立つはずである。地域的及び世界的な金融センターとしての日本の重要性及び国際貿易における役割、並びに犯罪者が日本国内の法人及び取極を利用するために採用している方法に関連して、法人及び取極の悪用を防止するために、また、実質的支配者法人及び取極に関する情報が適時に所管当局に提供されるために大きな改善が必要である。
  • 日本はIO.5についてmoderateの有効性を有すると評価されている。

2.最近のトピックス

(1)特殊詐欺を巡る動向

本コラムでたびたび取り上げましたが、新型コロナウイルスの影響で業績が悪化した事業者を支援する国の「持続化給付金」計400万円をだまし取ったとして、警視庁捜査2課は、元経済産業省のキャリア官僚の2人を詐欺容疑で追送検しています。報道によれば、2020年5、6月、2人が設立した事業実態のない「新桜商事」と「バートゾーデン」の収入が大幅に減ったと中小企業庁に虚偽申請し、2社の口座に給付金計400万円を振り込ませたもので、両被告は2020年12月~21年1月に新型コロナの感染拡大に伴う、別の経済支援策として中小企業庁が所管する「家賃支援給付金」計1,150万円を詐取したとして逮捕、起訴されており、同課が立件した不正受給額は計約1,550万円となりました。

このように給付金や補助金等の不正受給事案が後を絶ちませんが、中小企業のデジタル化を支援する国の補助金をめぐり、一部で不正受給の疑いがあるとして、事業を担う独立行政法人・中小企業基盤整備機構(中小機構)などが調査を始めたということです。報道によれば、不正受給の疑いがあるのは「中小企業デジタル化応援隊」の事業で、テレワークやオンライン会議を導入する企業のITの専門家への相談費用について、最大30万円を補助するもので、事業費は100億円で昨年度は約40億円が使われたといいます。機構を所管する中小企業庁は実態のない相談で受給する事例があったとみており、7月に相談の録画義務化など対策をとったということです。事業はコロナ禍の対策の一環として昨年9月に開始、審査など手続き業務は人材総合サービス大手に委託していたといいますが、審査の甘さが露呈した形となりました。

最近の特殊詐欺を巡る報道から、手口に着目していくつか紹介します。

  • 黒く変色した紙幣を元に戻す薬品代と偽って現金を詐取する「ブラックマネー詐欺」などで現金約1,500万円をだまし取ったとして、詐欺罪などに問われたカメルーン国籍の派遣社員の男に対し、名古屋地裁は、懲役5年6月(求刑・懲役7年)の判決を言い渡しています。報道によれば、男は他の者と共謀、2020年7~9月、外交官などになりすまし、60歳代の男女2人から、薬品代や架空の遺産の受け取りにかかる費用の名目で計約1,500万円をだまし取るなどしたもので、弁護側は「詐欺の故意はなかった」と無罪を主張していましたが、判決では「薬品で洗浄したら紙幣に戻るという話はうそだと知っていた」などとして退けられています。なお、「ブラックマネー詐欺」とは、単なる黒い紙切れを、紙幣を偽装したものだと偽り、被害者に売りつける詐欺のことで、実際に、黒く加工した紙幣を化学反応で元に戻す過程などを、被害者の前で実演することから、騙される例が多発、2000年前後から国際的に問題となっています。
  • 本コラムでも取り上げることが多い、恋人や結婚相手を探すマッチングアプリで恋心を抱かせ、現金などをだまし取る「国際ロマンス詐欺」ですが、被害が急増、国民生活センターによると、インターネット上の出会いに絡む投資トラブルの相談は2019年度に5件、2020年度は84件だったところ、2021年度は7月末までで既に84件に上っているといいます。新型コロナウイルス禍で外出の機会が減り、アプリでパートナーを探す人が増える中、相手を信じたい気持ちにとらわれると被害から抜け出せなくなる点に注意が必要といえます。最近では、山口県警光署が、ナイジェリア国籍で東京都の英語教師の20代の男を詐欺容疑などで再逮捕しています。報道によれば、2020年2~3月、何者かと共謀し、米企業の経営者を名乗ってSNSで親しくなった下関市内の60歳代女性に「滞納金を払うのに3800ドル必要だ」、「ハニー、お願いだから助けて」とうそのメッセージを送り、計233万円を振り込ませてだまし取った疑いがもたれているといいます。さらに、山形県内で7月末までに8件発生、被害総額は約4500万円に上り、いずれも解決には至っていないとの報道がありました(2021年8月23日付読売新聞)。ほとんどの被害者は、SNSや、恋人を探す「マッチングアプリ」で知り合っており、相手は、韓国や中国、シンガポールなどさまざまな国籍を名乗り、職業も医師や軍人などばらばらで、やり取りは日本語が主流だが、わざと片言の日本語を使い、外国人を装っているケースもあるということです。被害者は、金を送った後に相手と連絡がつかなくなったり、家族から指摘されたりして、初めてだまされたことに気づくといいます。
  • 特殊詐欺の被害金を取り戻すためにつくられた法律を悪用したとみられる新手の詐欺が、東京都内で明らかになっています。7月に文京区の60代女性が被害に遭った手口について、2021年8月21日付朝日新聞から一部抜粋して引用すると、「「あなたの夫の預金が不正に引き出された」。警察官を名乗る男は電話口で切り出した。「情報が漏れているため、ご家族のキャッシュカードを回収します」男はさらに続けた。「『救済法』で被害は補償される。これから伝える4桁の番号にカードの暗証番号を付けたものが申請番号です」と、女性に8桁の番号を復唱させた。2008年に施行された振り込め詐欺救済法は、被害者からお金が振り込まれた詐欺グループの口座を金融機関が凍結し、口座に残っているお金を被害を届け出た人に分配する仕組みだ。注意が必要なのは、分配されるのは被害者が詐欺グループの口座に振り込んだお金に限られ、犯人が被害者のカードを使って引き出した預金は対象にならないことだ。詐欺グループが救済法を持ち出してお金をだまし取る手口は珍しいといい、警視庁は警戒を強める。」と報じられています。なお、振り込め詐欺救済法については、金融庁のサイトでは以下のように説明があります。
▼金融庁 振り込め詐欺等の被害にあわれた方へ
犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律(以下、「振り込め詐欺救済法」といいます。)は、預金口座等への振り込みを利用して行われた詐欺等の犯罪行為により被害を受けた者に対する被害回復分配金の支払のため、預金等に係る債権の消滅手続及び被害回復分配金の支払手続等を定め、もって当該犯罪行為により被害を受けた者の財産的被害の回復に資することを目的としています。一般的に対象となる犯罪行為としては、オレオレ詐欺、架空請求詐欺、融資保証金詐欺、還付金等詐欺のほか、ヤミ金融や未公開株式購入に係る詐欺等が該当します。

被害にあわれた方は、この法律に定める手続を経て、失権した振込口座の残高を上限として、被害回復分配金の支払を受ける方法により、被害回復を受けることができます。

【救済を受けるための留意事項】

  • 被害に気付いたら、直ちに振込先の金融機関等へ連絡を!
  • 被害回復分配金の支払を受けるためには被害の申請が必要です!
  • 犯人が預金口座等からお金を引き出してしまうと救済は受けられません!
  • 振込手続によらない詐欺(例えば、現金を犯人に手渡ししてしまった、ゆうパック等に現金を同封して犯人が指定先した宛て先に郵送してしまった、というケース)は、振り込め詐欺救済法の適用は受けられません!
  • 山口県警岩国署は、岩国市の無職の70代の女を窃盗容疑で再逮捕しています。知人から預かったキャッシュカードを無断で使用し、同市内にあるコンビニ店のATMから47回にわたって計742万円を引き出して盗んだ疑いがもたれており、前月にも同様の手口で計173万円を盗んだとして逮捕されていました。この女には「1億円が当選した。手数料が必要になる」などというメールが届いており、それを信じて引き出した金を手数料として払っていたとみられています。騙された高齢者が、当選金欲しさに窃盗を犯してしまうという構図(犯罪が犯罪を生む構図)は大変悲しいものです
  • 茨城県警高萩署は、高萩市の80代の無職女性がニセ電話詐欺で現金300万円をだまし取られたと発表しています。警察が摘発に用いる「だまされたふり作戦」を悪用されたものだといいます。報道によれば、茨城県内では、作戦を逆手に取った手口の被害が増えているといい、同署は注意を呼びかけています。その手口については、「女性は自宅で6月中旬、警察官を名乗る男から「詐欺がはやっており、何かあれば、(指定の電話番号に)電話してください」との電話を受けた。その後の6月25日、孫を名乗る男からの電話で「会社の金を使い込んだ。2,000万円用意して」と告げられた。女性はニセ電話詐欺だと気づき、警察官を名乗った男に連絡した。「犯人の言う通りにして。私たちが捕まえる」と指示され、現金300万円を指定された場所に宅配便で送付してしまったという」といったものです(2021年9月10日付読売新聞)。特殊詐欺を防止するためには、手口等を周知しておくことが極めて重要ですが、その知識が悪用されることがあることも十分に知っておく必要があります(ただし、本件のように最初の電話の時点で、警察官であると信じこんでしまえば、なかなか途中で気付くことは難しいといえます)。
  • 外務省は、アフガニスタンから退避を希望する日本人を装い、航空機の費用としてSNS上で資金を募る事案があり、詐欺の疑いが強いとして注意を呼び掛けています(被害は確認されていません)。自衛隊機による退避支援が難航する状況が悪用された格好で、メッセージはSNSで知り合った人物から届き、アフガンからの出国に必要なプライベートジェット機の経費として送金を要請したものです。
  • 神奈川県警南署は、横浜市南区の60歳代女性が現金134万円と、キャッシュカードなど計18枚をだまし取られたと発表しています。キャッシュカードの口座からは800万円以上が引き出されたといいます。報道によれば、女性宅に家電量販店店員を装った女から「お客様のカードが使われそうなので警察を呼んだ」と電話があり、また、警察官を装った男や「銀行庁職員」の男女から「口座を止めるので暗証番号などを教えて。取りに行く男性にカードを渡して」などと立て続けに電話があり、女性は自宅を訪れた男に現金などを渡したというものです。
  • 他人のキャッシュカードを使い、コンビニエンスストアのATMで現金を引き出したとして、警視庁西新井署は、中国籍の20代の専門学校生を窃盗容疑で再逮捕しています。報道によれば、容疑者は中国人を中心とした特殊詐欺グループのメンバーとみられ、警察官をかたって女性宅に電話をかけた人物は「これから捜査員が自宅に向かうが、新型コロナウイルス禍なので話をすることはできない」と説明、捜査員役の男は一言も発せず、スマートフォンのスピーカー機能を使い、別の人物が女性にキャッシュカードを封筒に入れるよう指示したというものです。捜査員役の男が日本語を話せないため、こうした手口を使ったとみられており、その工夫(狡猾さ)には驚かされます。
  • 高校生が関与する犯罪も目立ちます。北海道警札幌東署は、札幌市東区の男子高校生(16)と神戸市垂水区の建設作業員の20代の男を窃盗容疑で逮捕しています。2人は、別の仲間と共謀し、札幌市東区の70歳代の男性からキャッシュカード4枚を盗み、北区のATMで約160万円を引き出した疑いがあり、警察官を名乗る男子高校生が捜査を装い、男性宅を訪れたということです。また、秋田県警秋田中央署は、愛知県西部に住む男子高校生(18)を詐欺と窃盗の疑いで再逮捕しています。高校生は、仲間と共謀し、秋田市内の80代の女性宅に警察官を装って電話し、「あなたの口座から不正な出金がある。キャッシュカード回収のため警察官を向かわせる」などとうそを言い、女性宅を訪れてキャッシュカード1枚をだまし取り、翌日、盛岡市内のコンビニ店のATMで現金を引き出して100万円を盗んだ疑いがもたれています。
  • 大阪府大東市の民家で今年3月、3人組の男が住人の高齢夫婦を脅して現金を奪おうとした事件で、大阪府警捜査1課と四條畷署は強盗未遂容疑などで、東京を拠点とするとみられる特殊詐欺グループの一員で指南役の40代の男を逮捕しています。報道によれば、夫婦宅は以前、数百万円の空き巣被害に遭うなどしており、こうした情報が犯行に悪用された疑いがあるとみられています。なお、当初は夫婦宅周辺で空き巣の機会をうかがっていたものの、夫婦が外出せず、被告からの指示で包丁や粘着テープなどを購入し、強盗に及んだということです。
  • 大使館職員を名乗る男から中国人の女性の携帯電話に、中国語で「あなたが中国で作った銀行のカードが犯罪に使われている。この犯罪に関与していることもわかっている」と連絡があり、その後、警察官をかたる男から「あなたには逮捕状が出ている」と告げられ、女性に送信されたショートメッセージのURLをクリックすると、名前や顔写真が入った逮捕状が表示されたといいます。警察官は「100万円を預ければ逮捕を引き延ばせる」と金を振り込むよう指示、女性は指定された日本の銀行口座に振り込んだというものです。他府県でも似たような手口で中国人を狙う詐欺が相次いでおり、警察では「被害に遭わないよう、身近な中国人に周知してあげてほしい」と呼びかけています。
  • 成協信用組合の職員になりすまし、定期預金の名目で高齢女性3人から計2,000万円をだまし取ったとして、元職員の50代の男が大阪府警に逮捕され、詐欺罪で起訴されています。偽造した預金証書で信用させていたといい、元顧客らも被害を訴えており、警察が調べているということです。
  • 大阪府内で特殊詐欺の被害が昨年を上回るペースで推移、手口の半数近くが医療費の還付などを装う「還付金詐欺」となっています。寸前で被害を免れた八尾市の70代の女性がその状況を語っていて参考になります。以下、抜粋して引用します。
「いつもお世話になっています。市役所の後期高齢の担当です」八尾市で1人暮らしをする自宅に、男から電話があったのは4月23日午前。「今までお医者さんにかかられていた件で、還付金が出ています」「2万円くらいありますよ」。年配の柔らかい声だった。2か月に1度、八尾市から医療費を知らせる通知が自宅に届いていた。通院しているのでもらえるのかと思い込んだ。約1時間後、今度は銀行員を名乗る男から電話があり「取引している銀行はどちらですか」「残高はいくらですか」と聞いてきた。少し違和感もあったが、丁寧な語り口を信じ、伝えてしまった。この男から「別の者がコンビニで待っているので向かってください」との指示を受け、通帳とキャッシュカード、保険証を持ってコンビニに向かった。到着後、顔見知りの市職員(52)に遭遇。経緯を話すと、不審に思った職員が市の担当課に電話し、うそが発覚した。女性は「詐欺の手口は知っていたのに、なぜだまされてしまったのか」と振り返った。被害を未然に防いだとして、八尾署は市職員に感謝状を贈呈。同署の井上正和・生活安全課長は「電話で『還付金』『今日中』『ATM』という言葉が出たら、怪しいと思ってほしい」と話すが、詐欺グループの巧妙な話しぶりに冷静さを失い、だまされる人が多いという。対策として「知らない番号や非通知の電話には出ず、留守番電話を聞いた上で、必要ならかけ直してほしい」と強調している。

次に、例月どおり、直近の特殊詐欺の認知・検挙状況等について確認します。

▼警察庁 令和3年7月の特殊詐欺認知・検挙状況等について

令和3年1~7月における特殊詐欺全体の認知件数は8,031件(前年同期7,948件、前年同期比+1.0%)、被害総額は152.2億円(156.4億円、▲2.7%)、検挙件数は3,487件(4,089件、▲14.7%)、検挙人員は1,274人(1,373人、▲7.2%)となりました。特に、認知件数・被害総額が減少し続けている点、一方で検挙件数の増加が続いていたところ、あらためて減少傾向に転じた点が注目されます(詳しくは分析していませんが、コロナ禍における緊急事態宣言の発令と解除、人流の増減等の社会的動向との関係性が考えられるところです)。うちオレオレ詐欺の認知件数は1,663件(1,214件、+37.0%)、被害総額は461.2億円(360.0憶円、+28.1%)、検挙件数は738件(1,157件、▲36.1%)、検挙人員は395人(337人、+17.2%)と、認知件数・被害総額ともに大きく増えている点が懸念されるところです。これまでは還付金詐欺が目立っていましたが、そもそも還付金詐欺は自治体や保健所、税務署の職員などを名乗るうその電話から始まり、医療費や健康保険・介護保険の保険料、年金、税金などの過払い金や未払い金があるなどと偽り、携帯電話を持って近くのATMに行くよう仕向けるものです。被害者がATMに着くと、電話を通じて言葉巧みに操作させ(このあたりの巧妙な手口については、▼ 暴排トピックス2021年6月号
を参照ください)、口座の金を犯人側の口座に振り込ませます。直近では新型コロナウイルスを名目にしたものが目立ちます。一方、警察庁によると、ATMに行く前の段階の家族によるものも含め、声かけで今年上半期は6,774件、約26億9,000万円と昨年同期を大きく上回る水準で特殊詐欺の被害を防いだといいます。報道によれば、警察庁は「ATMでたまたま居合わせた一般の人も、気になるお年寄りがいたらぜひ声をかけてほしい」と訴えていますが、対策をかいくぐるケースも後を絶ちません。なお、最近では、本コラムでも毎回紹介しているように金融機関やコンビニでの被害防止の取組みが浸透しつつあり、ATMを使った還付金詐欺が難しくなっているのも事実で、そのためか、オレオレ詐欺へと回帰している可能性が疑われます。最近では、コロナ禍の影響もあり、闇バイトなどを通じて受け子のなり手が増えたこと、詐欺グループにとって受け子は「使い捨ての駒」であり、仮に受け子が逮捕されても「顔も知らない指示役には捜査の手が届きにくことなどもその傾向を後押ししているものと考えられます。特殊詐欺は、騙す方とそれを防止する取り組みの「いたちごっこ」が数十年続く中、その手口や対策が変遷しており、流行り廃りが激しいことが特徴です。常に手口の動向や対策の社会的浸透状況などをモニタリングして、対策の「隙」が生じないように努めていくことが求められています。

また、キャッシュカード詐欺盗の認知件数は1,384件(1,922件、▲28.0%)、被害総額は20.2億円(28.6憶円、▲29.4%)、検挙件数は1,012件(1,528件、▲33.8%)、検挙人員は303人(409人、▲25.9%)と、こちらは認知件数・被害総額ともに大きく減少している点が注目されます(上記の考え方で言えば、暗証番号を聞き出す、カードをすり替えるなどオレオレ詐欺より手が込んでおり摘発のリスクが高いこと、さらには社会的に手口も知られるようになったことか影響している可能性があります)。また、預貯金詐欺の認知件数は1,520件(2,518件、▲40.0%)、被害総額は19.0億円(33.3憶円、▲42.9%)、検挙件数は1,272件(641件、+98.4%)、検挙人員は418人(454人、▲7.9%)となり、こちらも認知件数・被害総額ともに大きく減少している点が注目されます(理由はキャッシュカード詐欺盗と同様かと推測されます)。

その他、架空料金請求詐欺の認知件数は1,174件(1,088件、+7.9%)、被害総額は38.7億円(39.5憶円、▲2.00%)、検挙件数は147件(352件、▲58.2%)、検挙人員は75人(84人、▲10.7%)、還付金詐欺の認知件数は2,116件(876件、+141.5%)、被害総額は23.8億円(12.5憶円、+90.4%)、検挙件数は284件(262件、+8.4%)、検挙人員は55人(25人、+120.0%)、融資保証金詐欺の認知件数は96件(207件、▲53.6%)、被害総額は1.7億円(2.3憶円、▲26.1%)、検挙件数は12件(96件、▲87.5%)、検挙人員は8人(34人、▲75.0%)、金融商品詐欺の認知件数は18件(40件、▲55.0%)、被害総額は1.1億円(2.4憶円、53.3%)、検挙件数は7件(18件、▲61.1%)、検挙人員は11人(19人、▲42.1%)、ギャンブル詐欺の認知件数は38件(63件、▲39.7%)、被害総額は1.2億円(1.1憶円、+8.8%)、検挙件数は3件(23件、▲87.0%)、検挙人員は3人(6人、▲50.0%)などとなっており、オレオレ詐欺の急増とともに、特にコロナ禍の社会情勢をふまえて「非対面」で完結する還付金詐欺の認知件数・被害総額ともに大きく増加している点がやはり懸念されます。

犯罪インフラ関係では、口座開設詐欺の検挙件数は391件(376件、+4.0%)、検挙人員は223人(251人、▲11.2%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は1,263件(1,469件、▲14.0%)、検挙人員は1,008人(1,205人、16.3%)、携帯電話契約詐欺の検挙件数は102件(126件、19.0%)、検挙人員は83人(110人、▲24.5%)、携帯電話不正利用防止法違反の検挙件数は13件(18件、▲27.8%)、検挙人員は7人(16人、▲56.3%)、組織的犯罪処罰法違反の検挙件数は90件(57件、+57.9%)、検挙人員は31人(13人、+138.5%)などとなっています。また、被害者の年齢・性別構成について、特殊詐欺全体では60歳以上91.7%、70歳以上74.7%、男性26.2%:女性73.8%、オレオレ詐欺では60歳以上97.3%、70歳以上94.4%、男性19.1%:女性80.9%、融資保証金詐欺では60歳以上26.2%、70歳以上14.3%、男性76.2%:女性23.8%などとなっており、類型によってかなり異なる傾向にあることが分かりますが、概ね高齢者被害の割合が高い類型では女性被害の割合も高い傾向にあることも指摘できると思います。このあたりについては、以前の本コラム(暴排トピックス2019年8月号)で紹介した警察庁「今後の特殊詐欺対策の推進について」と題した内部通達で示されている、「各都道府県警察は、各々の地域における発生状況を分析し、その結果を踏まえて、被害に遭う可能性のある年齢層の特性にも着目した、官民一体となった効果的な取組を推進すること」、「また、講じた対策の効果を分析し、その結果を踏まえて不断の見直しを行うこと」が重要であることがわかります。なお、参考までに特殊詐欺被害者全体に占める高齢被害者(65歳以上)の割合について、特殊詐欺被害者全体に占める高齢(65歳以上)被害者の割合について、特殊詐欺全体では88.3%(男性23.1%:女性76.9%)、オレオレ詐欺96.6%(18.7%:81.3%)、預貯金詐欺98.6%(17.2%:82.8%)、架空料金請求詐欺47.9%(53.0%:47.0%)、還付金詐欺94.8%(24.8%:75.2%)、融資保証金詐欺17.9%(80.0%:20.0%)、金融商品詐欺55.6%(30.0%:70.0%)、ギャンブル詐欺31.6%(66.7%:33.3%)、キャッシュカード詐欺盗98.0%(18.9%:81.1%)などとなっています。

本コラムでは、特殊詐欺被害を防止したコンビニエンスストア(コンビニ)や金融機関などの事例や取組みを積極的に紹介しています(最近では、これまで以上にそのような事例の報道が目立つようになってきました。また、被害防止に協力した主体もタクシー会社やその場に居合わせた一般人など多様となっており、被害防止に向けて社会全体の意識の底上げが図られつつあることを感じます)。必ずしもすべての事例に共通するわけではありませんが、特殊詐欺被害を未然に防止するために事業者や従業員にできることとしては、(1)事業者による組織的な教育の実施、(2)「怪しい」「おかしい」「違和感がある」といった個人のリスクセンスの底上げ・発揮、(3)店長と店員(上司と部下)の良好なコミュニケーション、(4)警察との密な連携、そして何より(5)「被害を防ぐ」という強い使命感に基づく「お節介」なまでの「声をかける」勇気を持つことなどがポイントとなると考えます。まずは、金融機関の事例を紹介します。

  • 特殊詐欺の被害防止に貢献したとして、警視庁本所署は、朝日信用金庫の男性職員2人に感謝状を贈っています。勤務先に女性から消費税の還付金について尋ねる電話があり、詐欺と直感した2人が自転車で女性宅に急行して受け子の男を取り押さえたというものです。電話をかけてきた70代の女性と連絡が取れなくなったため、約3分で女性のマンションに駆け付け、同信金職員を名乗る男を取り押さえると、警察官に引き渡したといい、男が女性からキャッシュカード2枚を受け取った直後の確保で、被害を防止することができたということです。「体が勝手に動いた」とコメントしているようですが、大変勇気ある行動とはいえ、犯罪者の思わぬ反撃のリスクなどもあり、「身を守る」観点からの行動のあり方についても、日頃から検討しておく必要がありそうです。
  • 詐欺被害を未然に防いだとして、鹿児島県警鹿児島西署は、南日本銀行西田支店支店長代理の40代の女性に感謝状を贈っています。女性は、40代の女性客に応対、「外国人の知人が購入した機械商品の税関手続きのために、約400万円が必要」と説明し、他店の口座に振り込もうとしたことを不審に思い、同署に通報し、被害を未然に防いだものです。報道によれば、「日頃からお客さんに寄り添った対応を心がけたことが、防犯につながってよかった」、「今回は窓口に来てもらったことで、不審な振り込みに気づくことができた。怪しいと思ったら、行員に相談してほしい」とコメントしていますが、怪しいと思ったら相談できる顧客との日頃からの良好な関係性もまた重要だと気付かされます。
  • 高齢女性の詐欺被害を防いだとして、福井県警坂井署は、福井銀行丸岡支店の支店長代理の女性と職員の女性に感謝状を贈っています。丸岡支店を訪れた坂井市の70代の女性が「振り込みができなかった」などと窓口に相談、職員の女性が事情を聞くと、女性はインターネット上で知り合った不審者に薦められた商品を購入しようとしたが、同支店のATMで数十万円を指定の口座に振り込むことができず、別口座への入金を求められたといい、支店長代理女性は、女性の数十万円が振り込まれずに支店に戻ったことや、次の入金を急ごうとする女性の様子を不審に思い、坂井署に通報、女性を動揺させないように、巡回で支店に偶然立ち寄ったと装うよう依頼したといいます。その後女性は署員に説明し、詐欺被害を免れたものです。報道によれば、丸岡支店は日常的に詐欺被害に関する研修を実施し、窓口対応の行員の意識を高めていたということです。特殊詐欺被害にあう高齢者の行動様式にまで配慮して対応できているなど、日頃からの備えが活きていることを感じさせます。
  • 特殊詐欺の被害を未然に防いだとして、埼玉県警久喜署は、埼玉りそな銀行白岡支店の女性行員2人に感謝状を贈っています。報道によれば、接客カウンターにいた女性行員は、90代の女性から「リフォーム代として現金100万円を持ち帰りたい」と声をかけられたため、違和感を覚えながら話を聞くと、「見積書は持っていないが、とにかくお金が必要なの」とつじつまが合わず、詐欺を疑った2人は相談し、同署に通報したものです。女性は弟を名乗る男から電話で「100万円を用意して。銀行ではリフォーム代と言っておけば大丈夫」と言われており、2人は署員と一緒に女性を説得し、被害を防いだということです。犯罪者側が、銀行から疑われないように、「喪服を着て葬儀関係費用だと言えばよい」「リフォーム代と説明するように」などとあらかじめ指示をすることが多く、その辺りの情報を持っていれば、逆に違和感を感じやすくなると思われます。
  • ニセ電話詐欺を防いだとして、茨城県警那珂署は、筑波銀行の支店主任の女性と、支店長代理の女性に感謝状を贈っています。支店主任の女性、窓口で80代の女性から「妹の旦那が亡くなった。200万円の葬儀費用を下ろしたい」と慌てた様子で声を掛けられたため、高額なことなどから不審に思い、ニセ電話詐欺被害防止チェックシートを活用して聞き取りを行ったところ、内容から詐欺の疑いがあると判断し、支店長代理の女性に報告。この女性が同署に通報して被害を防いだということです。報道によれば、チェックシートは同行が運用している詐欺被害防止策で、「払い戻しは電話で頼まれたのがきっかけか」といった項目に二択で回答するもので、高齢者を中心に協力を求めているといいます。なお、参考までに、京都府警作成の「特殊詐欺チェックシート」を紹介します(金融機関用ではなく、高齢者向けのセルフチェックシートのあくまで一例です)。

息子や孫を名乗る電話で・・・

「風邪を引いて声が変わった」と言われた。

「電話番号が変わった」と言われた。

「友達と一緒に株を買った」と言われた。

「会社のお金を使い込んだ」「お金の入ったカバンを忘れた」と言われた。

「急にお金がいる」「すぐに振り込んでほしい」と言われた。

「誰にも言わないで」「内緒にしてほしい」と言われた。

「お金を宅配便で送って」と言われた。

警察・役所・銀行を名乗る電話で・・・

「あなたの口座が犯行に使われた」と言われた。

「あなたの口座が凍結されている・口座を凍結する必要がある」と言われた。

「医療費や税金などの還付金がある」と言われた。

「口座番号や暗証番号を教えてください」と言われた。

「お使いのキャッシュカードが古くなったので交換します」と言われた。

「通帳、キャッシュカードや現金を取りに行く」と言われた。

会社・弁護士から

「施設入所の権利があなたに当選した」と言われた。

「権利が不要であれば名義だけ貸してほしい」と言われた。

「後で返金するので、一旦、お金を支払ってほしい。」と言われた。

「宅配便で現金や通帳を送ってほしい」と言われた。

「あなたのやったことは犯罪だから誰にも言わないように」と言われた。

  • 特殊詐欺の被害を防いだとして、兵庫県警南あわじ署は、南あわじ市内にある金融機関の職員2人に感謝状を贈っています。ともに、介護保険料の還付名目でATMに誘導された客の異変を察知し、機転を利かせたといいます。JAあわじ島志知支所の職員は、携帯電話で話しながら支所内のATMを操作する高齢女性に気付き、呼びかけても、女性は「電話中だから」と操作を続けたが、金額の入力画面で「999999……」と打ち込むのを見て詐欺だと確信したというものです。もう一人は淡路信用金庫広田支店の職員で、やはり携帯電話で話しながら高齢女性が支店に入ってきたため、詐欺を疑い、女性が指示された先に電話をする際も付き添ったといい、女性が「職員に話を聞いてもらっている」と相手に告げると、電話は切れたということです。いずれのケースも、特殊詐欺の手口や被害者の行動の特徴などを知っていることからリスクセンスを働かすことができたものと思われます。
  • SNSなどを通して外国人の異性を語り金銭をだまし取る、「国際ロマンス詐欺」の被害を未然に防いだとして、中京署は京都中央信用金庫丸太町支店の職員3人に感謝状を贈っています。2021年8月21日付朝日新聞でその詳細が報じられています。国際ロマンス詐欺の場合、「外国人が「助けてほしい」と言ってくる」、「実はお金持ちだと装う」、「相手が異性」の3つの特徴があることを知っておくこと、お金を要求された場合には警察や第三者に相談することが重要となります。実はマニュアル化されていて、ほとんど同じ手口で詐欺を繰り返していることから、インターネットで調べれば、相手の特徴や言い分が似た事例が出てきて詐欺だと気づく場合もすくなくありません。また、SNSが全世代に普及し、これまでは接点のない外国人と知り合いたいという人も増えている背景も考えられ、顔が見えない相手でも、自分が善意で接していれば相手も善意で接してくれると思い込むことで、だまされてしまうメカニズムもあると感じます。「まさか自分は大丈夫」と思うことが最も危険であり、世代にかかわらず、SNSのコミュニケーションにどのようなわなが仕掛けられているか、注意する必要があるといえます。

次にコンビニの事例を取り上げます。

  • 特殊詐欺被害を未然に防いだとして、静岡県警浜松東署は、浜松市東区のセブン-イレブンと店員の女性に感謝状を贈っています。70代の女性客が電子マネー32,000円分を購入しようとしたところ、利用方法を知らないことなどを不審に思った女性店員が尋ねたところ、女性の携帯電話に、通販サイトを装って「至急連絡を」などと書かれたメールが届いていたため、店長と相談して同署に通報したというものです。
  • 特殊詐欺の被害を未然に防いだとして、北海道警札幌手稲署は、札幌市手稲区のセブン-イレブンのアルバイトの女性とオーナーの男性に感謝状を贈っています。アルバイトの女性は、同店で購入した電子マネーカードを持った80代の男性から「同じものが欲しい」と言われ、詳しく事情を聞くと、パソコンの修理費用名目で電子マネーカードを要求されていることが判明、アルバイトの女性から相談を受けたオーナーが同署に通報したものです。報道によれば、オーナーは、「一人ひとりのお客様の様子を注意深く見てね」と日頃から声をかけていたとのことで、日頃からの啓蒙が重要だと痛感させられます。
  • 特殊詐欺被害を未然に防いだとして、石川県警金沢中署は、ファミリーマートの店員4人と同店に署長感謝状を贈っています。アルバイトの女性が、60代の女性客から店内で電子マネーの売り場を尋ねられ、女性客が「パソコンのセキュリティをかけるのに、55,000円分の電子マネーを買ってくるよう言われた」などと話したことから詐欺を疑い、一緒に勤務していた別のアルバイトの男女2人も加わり説得を試みたといい、その後、説得を引き継いだマネジャーの女性が「家で電話をつないだままだから早く買って帰らないと」と話す女性客の自宅に同行し、110番するなど、同署員らと被害を防いだというものです。報道によれば、マネジャーの女性は「女性客が信じ切っていたので、説得が大変だったが被害を防げてよかった」とコメントしていますが、正に、お節介なまでの行動と根気強さが功を奏した事例といえます。
  • 特殊詐欺被害を未然に防いだとして、埼玉県警大宮西署は、さいたま市のファミリーマート店員の女性に感謝状を贈っています。電話で話しながらATMを操作していた女性を心配し、何度も声を掛ける行動力が客を詐欺から守ったものです。具体的には、「50歳代の女性が来店してATMを操作し始めた。女性店員は、女性が電話で指示を受けているような様子が気にかかり、店内に貼ってある詐欺の啓発文を指さして「大丈夫ですか」と声を掛けた。「違います。大丈夫です」と女性が答えたため、いったんレジに戻った。しかし、ATMの方からは「違う画面が出てきます」などと女性の声が聞こえてくる。その時、店の電話が鳴った。「聞きたいことがある」。怪しい電話の傍ら、女性はまだ操作を続けている。「ちょっと何か違う。おかしい」。女性店員は再び女性に声を掛けた。「お店にも変な電話がかかってきているのでやめましょう」。女性はあと一つの操作で金を振り込むところだった。」という状況だったようです(2021年8月29日付読売新聞)。振込の最中にコンビニに電話が入る事例は最近目にすることが多くなっており、(そのような事例を知らずとも)店員のお節介さとリスクセンスの高さが被害防止につながったものと評価できると思います。

最後に、一般人の見事な対応の事例を取り上げます。違和感を感じとることができるリスクセンス、お節介なまでの意識の高さと行動力など、大変参考になります。前述のとおり、警察庁は「ATMでたまたま居合わせた一般の人も、気になるお年寄りがいたらぜひ声をかけてほしい」と訴えていますが、ATMに限ったことではなく、特殊詐欺の被害者となるのが圧倒的に高齢者が多いという事実をもっと広く周知し、「気になるお年寄りには声をかけてみる」動きを拡げていきたいものです。

  • 還付金詐欺の被害を未然に防いだとして、20歳の大学生に神奈川県警藤沢署から感謝状が贈られました。JR辻堂駅近くのATMコーナーで、80代の女性が携帯電話で話しながら操作していたため、不審に思った大学生は「電話を切ったほうがいいですよ」と声をかけたものの、女性が通話をとめなかったため近くの交番に通報したというものです。署員が女性から事情を聴くと、還付金詐欺であることが判明し、被害を免れたということです。報道によれば、大学生は、特殊詐欺の被害が多発していることは知っていたということですが、「まさか目の前で起きるとは思わなかった。身近なところで起きているのだと実感した」とし、声をかけるのをためらったもののATMコーナーにある注意喚起のポスターに背中を押されたということです。ポスターの効用を改めて認識させられた事例です。
  • マッサージ師が常連客の行動に違和感を覚えたことで詐欺被害を防止したとして、埼玉県警新座署から感謝状が贈られています。具体的には、「男性は自宅で焦った様子で電話していた。電話を終えると「待っている人がいるので近くのコンビニまで送ってくれないか」。理由を聞いても話そうとしなかった。不審に思いつつ付いて行くと、茶髪の黒いTシャツを着た若い見た目の男がいた。渡辺さんの存在に気づくと男は目をそらした。男性は電話で聞いていた男の名前を呼んだが、男は応じずに足早に立ち去った。渡辺さんが男性に改めて聞くと、「100万円用意してほしいと言われた」。電話の相手は「孫の友人」で、「あなたの孫が借金で困っている」と言われたのだという。家に戻ると男性はまた電話をし始めた。渡辺さんが求めても、なかなか電話を代わってもらえない。「いっしょにいるのは誰?」と聞かれているようだった。「マッサージ師はいつ帰る?」と言われていたところで男性から電話を受け取った。「後でかけ直します」と言った相手に渡辺さんが電話番号を尋ねると、一方的に電話を切られた。渡辺さんは110番通報した。」(2021年8月29日付朝日新聞)といった状況だったようです。この事例も客に寄り添って電話を代わるといったお節介なまでの行動が功を奏した事例だといえます。
  • 警視庁竹の塚署は、特殊詐欺の電話を見破り「だまされたふり作戦」で容疑者逮捕に協力したとして、東京都足立区の町会長と、竹の塚防犯協会会長に感謝状を贈っています。息子をかたる男の声で「会社の積立金を確定申告していなかった。所得税がかかるため150万円を準備してほしい」などと複数回電話があったため、不審に思った男性から相談を受けた知人の町会長が同署に通報したものです。同署の指示で男性は「だまされたふり」をして電話でのやり取りを続け、自宅付近の路上に現れた30代の男性容疑者に偽札の入った紙袋を手渡したところ、張り込んでいた捜査員が詐欺未遂容疑で現行犯逮捕したということです。
  • 80代の女性が特殊詐欺被害に遭うのを未然に防いだとして、愛知県警豊田署は、いずれも豊田市内に住む介護職員の女性と自営業の女性に感謝状を贈っています。市内のスーパー駐車場にあるATMで、隣の機器を操作する女性を自営業の女性が不審に思い、順番待ちをしていた介護職員の女性も女性が5分以上操作していることに異変を感じ、2人で「おばあちゃんどうしたの?」と声をかけたというものです。女性は市職員を名乗る男の電話から、還付金が返ってくると信じ込んでいたが、ATMは振り込みの入力画面で、表示金額は「998,000円」だったことから、詐欺だと確信した2人は女性を説得して操作をやめさせ、110番したということです。居合わせただけの一般人が、協力して声をかけ、説得した点が大変素晴らしいことだと思います。

その他、特殊詐欺防止のためのユニークな取り組みについても紹介しておきます。

  • 大阪府内で特殊詐欺被害が増える中、大阪府警が地域部所属のパトロールバイク「青バイ」による「特別警戒」を始めています。青バイ25台が城東関目郵便局付近で見回りを実施し、ATMまで誘導して現金をだまし取る還付金詐欺への警戒を強めたといいます。大阪府警によると、今年1~7月の府内の特殊詐欺認知件数は、昨年同期から約200件多い806件で、被害額も約2億円多い約14億円に上るといいます。特別警戒は9月1日から実施しており、少なくとも1カ月間続ける予定で、個人の資産状況などを聞き出す「アポ電(アポイントメント電話)」が多発した地域のATMを重点的に巡回するとしています。
  • 長野県内で1~7月に発生した特殊詐欺の認知件数は95件(前年同期比24件増)、被害額は約1億5,700万円(同約2,650万円増)と昨年を上回るペースで推移しており、特に息子や孫をかたる「オレオレ詐欺」が急増していることを受けて、長野県警は抑止に向け、東京五輪の開会式パフォーマンスで話題を呼んだピクトグラムを活用することにしたということです。主な四つの手口を表現したピクトグラムを作成、各署の啓発活動で配布する物品やチラシなどで活用ししていくといいます。報道によれば、手口別ではキャッシュカードなどをだまし取る「預貯金詐欺」が23件と最多、カードを入れた封筒をすり替える「詐欺盗」、オレオレ詐欺、架空料金請求詐欺は各19件、被害者の年代は80歳代(44人)、60歳代(20人)、70歳代(19人)の順に多かったといいます。
(2)薬物を巡る動向

警視庁が昨年、大麻取締法違反容疑で検挙した少年の37%が、大麻には有害性がないと認識していたことが、警視庁が実施した意識調査から判明したということです。報道(2021年8月21日付時事通信)によれば、取り調べで100人(92.6%)が大麻は違法と答えたものの、有害性については23人(21.3%)が「あまりない」、17人(15.7%)が「全くない」と話したといい、その理由としては、「大麻が合法化されている国がある」、「依存性が弱い」などを挙げています。また、54人(50%)が「好奇心、興味本位」で大麻を使用し、少なくとも約40%がSNSを通じて大麻を入手していたことがわかったということです。検挙当時、18歳だった男子大学生2人はSNSで、取引を意味する「大麻手押し」と検索、埼玉県内の公園で売人から大麻を購入したといい、ある警視庁幹部は「SNSで安く容易に入手できるようになった」と指摘しています。関連して、直近では、大麻を紙に巻いた「大麻たばこ」を売買したとして、大阪府警が同じ大阪府立高校に通う3年生の男子生徒2人を大麻取締法違反(譲渡、所持)の疑いで逮捕しています。級友ら未成年の6人が大麻の使用を認めていることも判明、府警は校内を中心に大麻がまん延していた疑いが強いとみているということで、大変ショッキングだといえます。逮捕された2人は18歳の男子生徒と17歳の同級生で、いずれも大麻の吸引を認め、「大好きな音楽グループが楽曲のプロモーションビデオで大麻を使用しているような映像を見て、吸ってみたいと興味を持った」と供述しているということで、あまりの「軽さ」に驚きを禁じ得ません。報道によれば、巡回中の警察官が不審な動きを見せた同級生に職務質問したところ、大麻たばこを隠し持っていたため現行犯逮捕し、携帯電話の解析で男子生徒の関与も浮上、また、府警が2人の周辺を捜査した結果、級友や同校の卒業生ら17~18歳の6人も大麻を使ったことを認めたということです。本コラムでも紹介しているとおり、全国の警察が大麻事件で検挙した20歳未満の少年はこの10年間で11倍に増え、未成年の「大麻汚染」が深刻化している状況にあり、正に今回の事件が「氷山の一角」であることを示したといえます。

また、大麻を所持したとして、警視庁が大相撲の元幕内貴源治を大麻取締法違反(所持)の疑いで書類送検しています。元貴源治は7月の日本相撲協会の聞き取りを受けた際、当初は大麻の使用を否定し、国内で人気が高まっている食用オイル「CBDオイル」を使ったと説明したといいます。大麻の有害成分であるTHCが含まれている可能性があり、国内の製造・販売業者は海外の製造元の成分表示を信じるほかないという点には大変驚かされました。流通に関与する事業者らはもっと責任感と強い使命感をもって「排除」に取り組むことを期待したいと思います。

また、CBDオイルについては、直近でも厚生労働省から注意喚起がなされています(以下のとおり、事業者に危険を告知し、取扱いに相応の責任を求める内容となっています)。

▼厚生労働省 CBDオイル等のCBD製品の輸入を検討されている方へ
  • CBD(Cannabidiol(カンナビジオール))オイル等のCBD製品の輸入を検討されている方へ、必ずお読みください
    • この案内に基づき行う相談に対し厚生労働省が行う「大麻」に該当するか否かについての回答は、あくまで提出された資料に基づいて行うものです。実際に輸入しようとするものが「大麻」に該当しないことを判断するものではありません
    • なお、厚生労働省に対し提出した資料については、実際に輸入を行う際、再度、税関又は厚生労働省に対し提出する必要が生じる場合があります。
    • したがって、提出された資料に基づいて厚生労働省が「大麻に該当しない」と回答した場合であっても、輸入の際の税関若しくは厚生労働省の検査又は国内における検査でTHC(テトラヒドロカンナビノール)が検出された場合等には、「大麻に該当する」ものを輸入したものとして大麻取締法に基づき処罰を受ける可能性があります
    • 「大麻」については輸出についても禁止されていることから、上記の検査でTHCが検出された場合等には、相手国に返送することはできません。
      1. 方法等について
        • この手続きは、輸入者が行ってください。
        • メールでのみ受付を行っております。メール本文に輸入者の氏名(輸入者が企業の場合は、企業名及び担当者氏名)及び連絡先電話番号を記載し、下記3に記載の書類一式を添付して【問い合わせ先】のメールアドレス宛てに提出してください。なお、容量が大きい添付ファイルについては受信ができないため、容量の大きなファイルはお手数ですが分割圧縮したzipファイルを添付したメールを複数送信いただけますよう、お願いします。
        • 確認でき次第、メールに記載された連絡先にお電話いたします。
      2. 問い合わせ先
        • 対応部署:関東信越厚生局麻薬取締部
        • メールアドレス:CHECKCBD●mhlw.go.jp(迷惑メール防止対策を行っているため、を@へ置換してください。)

最近の薬物を巡る動向から、いくつか紹介します。

  • 大量の大麻を所持していたとして、岡山県警真庭署や中国四国厚生局麻薬取締部などの合同捜査本部は、会社員と無職の男の両容疑者を大麻取締法違反(営利目的共同所持)容疑で現行犯逮捕しています。2人が関係する岡山市北区御津のアパートの一室から、栽培中の大麻草105鉢が見つかっており、営利目的で栽培していた疑いもあるとされます。2人は共謀し、アパートで瓶に入った乾燥大麻1キロ(末端価格約600万円)を所持した疑いがもたれており、「大麻を所持していたが、営利目的ではない」などと容疑を一部否認しているといいます。同署に「2人が大麻を栽培しているのではないか」との情報提供があり、捜査を進めていたということです。なお、参考までに、埼玉県警のサイトに大麻栽培プラントに関する情報が掲載されていますので、紹介します。
▼埼玉県警察 大麻(乱用が急増中!)

本サイトによると、「大麻は、覚醒剤のような化学合成品とは異なり、高度な設備や専門知識がなくても生産することが可能なことから、私たちの身近な場所が、大麻栽培プラントとして利用され、違法薬物の供給源となっている可能性がある」、「大麻は「依存性がない」「安全・無害」「世界では合法」などという誤った情報を信じ、安易な気持ちで手を出すと大変危険」、「大麻は、脳神経のネットワークを切断し、やる気の低下、幻覚作用、記憶への影響、学習能力の低下などを引き起こすとともに、脳に障害を起こす可能性がある恐ろしいもの」などと警告しています。さらには、「こんな場所は要注意」として、「玄関の隙間や家屋の換気口から、大麻特有の青臭い・甘い匂いがする場合は要注意」、「光量の調節のためには、外の光をシャットアウトして暗闇を作る必要がある。大麻栽培プラントでは、雨戸や遮光カーテン等を閉め、さらに目張りをするなど、外の光の差込みや匂いの漏れなどを防いでいるケースが多い」、「人が生活している様子がないのに「電気メーターが常に早く回っている」、「常にエアコンの室外機が回っている」などの特徴がある」、さらには、「必要な作業のため、「連日深夜等に人が短時間立ち寄る」ほか、栽培に必要な「大量の土、肥料、電気設備、植木鉢、ダクトなどを運び込む」、あるいは、「収穫した大麻を、ダンボールやゴミ袋に詰め込み、人に見つからないように持ち出す」といった特徴がある」などといった専門的な情報まで掲載されています。

  • 最高裁第2小法廷は、覚せい剤取締法違反(所持、使用)の罪に問われた元読売新聞記者の上告を棄却する決定をしています。懲役1年6月、執行猶予3年とした1、2審判決が確定します。判決によると、昨年1~2月、東京都内かその周辺で覚せい剤を使用、2月3日、新宿区歌舞伎町の路上で覚せい剤を含む液体約5.6ミリリットルを所持したとされ、被告は当時、読売新聞北海道支社千歳通信部の記者で、病気療養のため東京都立川市の実家に帰っていたといいます。公判では「覚せい剤を使用、所持した認識はない」と無罪を主張したが、退けられています。
  • 覚せい剤を所持したとして、警視庁が元私立大学教授で自称フリーライターを覚せい剤取締法違反(所持)の疑いで現行犯逮捕しています。容疑を認めており、「薬物の売人から購入し、自分で使っていた」などと話しているといいます。容疑者がインターネットの掲示板に「シャブを使おう」などと書き込んでいたことから、同庁が自宅を捜索、クローゼットなどから覚醒剤と注射器が見つかったといい、以前、覚せい剤を使用した容疑で逮捕されたことを受けて大学を辞めたといい、「その後7年間やめていたが、やってしまった」と話しているということです。
  • 宮城県警仙台東署は、仙台市宮城野区萩野町の大学生(20)を大麻取締法違反(所持)の疑いで逮捕しています。大学生は8月中旬頃、自宅アパートで乾燥大麻を所持した疑いがもたれており、自宅からは乾燥大麻約160グラム(約96万円相当)、高さ約1.6メートルの栽培用テント、吸煙器具、栽培道具など31点が押収されたということです。大学生は、自宅前の路上で、自分が119番して駆けつけた救急車に体当たりしたとして、公務執行妨害容疑で現行犯逮捕されており、服用している薬を調べるため自宅を捜索して大麻などが見つかったものです。
  • 大麻を紙に巻いた「大麻たばこ」を所持したとして、神奈川県警茅ケ崎署は、東京消防庁足立消防署の消防士を大麻取締法違反(所持)の疑いで現行犯逮捕しています。パトロール中の警察官が容疑者の挙動を不審に思い、職務質問したところ、コンビニエンスストア敷地内で大麻たばこ1本を所持したというもので、「自分で使うために持っていた」と容疑を認めているということです。
  • アフリカの民族衣装風のワンピースの飾りボタン約1,300個の中に覚せい剤を隠して所持したとして、警視庁組織犯罪対策5課は、ナイジェリア国籍で住所・職業不詳の容疑者ら3人を麻薬特例法違反(規制薬物所持)容疑で逮捕しています。同課はナイジェリア人の密輸グループが組織的に輸入したとみて調べています。報道によれば、東京税関職員が覚せい剤計2.6キロ(末端価格約1億6,000万円)とすり替えた代替物を、神奈川県座間市内の路上で所持したなどとされます(コントロールド・デリバリー)。英国から国際郵便で2箱に分けて輸入されたワンピース計73着の飾りボタンに覚せい剤が2グラムずつ隠されているのを東京税関職員が発見して警視庁に通報したものです。
  • 米連邦破産裁判所は、医療用麻薬「オピオイド」入り鎮痛剤の中毒問題を巡って集団訴訟を抱える米製薬パーデュー・ファーマの再建計画を条件付きで承認しています。同社は2019年9月に連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請して経営破綻していました。報道によれば、計画には、創業家サックラー一族による45億ドル(約4,900億円)の資金拠出が含まれているといいます。本コラムでもたびたび取り上げてきましたが、オピオイド系鎮痛剤は従来薬に比べて依存症リスクが低いとして、1990年代に売り出されたものの、乱用による中毒患者が急増して社会問題となりました。米疾病対策センター(CDC)によると、1999~2018年に米国でオピオイド中毒により45万人が死亡、特にパーデューはシェアが高く、過去の積極的な販拡手法が明るみに出て、オピオイド中毒死を助長したとして問題視されています。
(3)テロリスクを巡る動向

警察庁は、東京五輪・パラリンピック大会の警備結果を公表、テロや運営を妨害するサイバー攻撃はなかったとしています。松本長官は「重大な違法行為の発生を抑止し、安全かつ円滑な運営に寄与できた。今回の経験を今後の警察活動に生かしたい」と述べています。一方、大会に関連する事件は9件あり、五輪開会式の7月23日、会場近くで抗議活動中の過激派「中核派」の男を警察官への公務執行妨害容疑で逮捕するなど、計12人を摘発したということです。世界中が注目した大規模イベントにおいて、テロやサイバー攻撃によって運営が妨害されるような事態がなかったことは大変高く評価できるものと思います。一方、世界に目を向けると、タリバン復権を巡って、テロの脅威が一気に再燃している事実は直視する必要があります。米同時多発テロ以降、「テロとの戦い」を標榜した20年、場当たり的な介入と撤退がもたらしたものは、努力と成果が無に帰した「徒労感」と、混乱とテロリスクの高まりでしかなかったことは厳しい現実です。結局、1つのテロ組織を弱体化に追い込んだとしても、別の組織が息を吹き返すことの繰り返しであり、もともと目指すものが違うイスラム過激派同士の覇権争いの激しさが増すのも当然のことだといえます。そして、「テロとの戦い」とは結局何だったのか、テロを抑え込むための最先端の武器がテロリストの戦闘能力の強化に資する「皮肉」、テロを抑え込むために別のテロ組織と連携するしかない「矛盾」も露呈してしまいました。国土と人心の荒廃がさらなるテロを生み出す悪循環を断ち切るのは容易ではなく、(タリバンの変化の兆しの見極めが難しい状況であり)国際社会の求める「寛容」の実現は不透明なままとなっています。一方で、アフガン情勢の悪化は、大量の難民や食料や医療の逼迫をもたらしており、政治的な思惑とは別に、国際社会による「寛容」な人道支援はまったなしの状況でもあります。

まず、直近のアフガン情勢について、ポイントのみ確認しておきます。事態が流動的であるため、確定的なことは一切言えない状況にありますが、以下に、筆者の考えに近いと思われるいくつかの論考と情勢分析等を抜粋して引用します。さまざまな論点・切り口があるものだと考えさせられます。

2021年9月7日付ロイター「アフガン、医療施設の90%が閉鎖危機に直面=WHO」
WHOの地域緊急事態担当責任者リック・ブレナン氏は6日、アフガニスタンでは数百の医療施設が閉鎖の危機に直面している、と明らかにした。欧米の資金提供者がイスラム主義組織タリバンとの交渉を禁止されているためだと説明した。アフガン全土にある2300の医療施設中、最大90%が今週中にも閉鎖に追い込まれる可能性があるという。その上で、WHOは500の施設に物資や設備、資金を供給して対応にあたっているほか、医療物資の空輸に向けカタールと連絡を取っているとし、「今後1週間程度のうちに、カタール政府からカブールに2─3機分の供給を行えるよう期待している」と付け加えた。さらに、WHOはアフガン北部マザリシャリフ経由で医療物資の空輸を続けるとともに、パキスタンから陸路でトラック輸送する方法も模索していると述べた。
2021年9月10日付毎日新聞「アフガン、人道危機 国連「国民97%貧困」警告」
アフガニスタンで人道危機が深刻化する懸念が高まっている。イスラム主義組織タリバンが8月15日に実権を握って以降、資産凍結などで経済は苦境に陥っている。国連アフガン支援団(UNAMA)のライオンズ代表は9日の国連安全保障理事会の会合で「数百万人が貧困と飢餓に陥りかねない」と述べ、アフガン国内に資金を流入させる必要性を訴えた。国連開発計画(UNDP)は9日発表の報告書で、アフガンでは2022年半ばまでに国民の97%が貧困に陥る可能性があると警告した。現状でもアフガンの貧困率は約7割。仮にタリバン政権下で国際的な孤立を深めて貿易が停滞するなどした場合、アフガンの実質国内総生産(GDP)は来年半ばまでに13%も減る可能性があるという。国連によると、アフガンでは人口の約半分に当たる1800万人以上が人道支援を必要としている。また大規模な難民の流出への懸念も出ており、21年末までに最大で50万人が国外に逃れる可能性がある。こうした中、国連は13日にスイス・ジュネーブで国際会合を開き、支援の拡大を呼びかける予定だ。
2021年9月10日付ロイター「アフガン資産凍結なら「深刻な不況」、国連が活用承認求める」
国連は9日、アフガニスタンを掌握したイスラム主義組織タリバンに同国が保有する数十億ドルの資産が渡らないようにした場合、「深刻な経済不況」が起き、貧困と飢餓に追いやられるアフガン人がさらに数百万人増える恐れがあると警告した。国連アフガニスタン支援団(UNAMA)のデボラ・ライオンズ事務総長特別代表は安全保障理事会で、「経済と社会秩序の完全な崩壊を防ぐために」、タリバンに悪用されないよう安全策を講じた上で、資金を迅速に使用できる方法を見つける必要があると強調。「経済がもう数カ月間、息絶えないようにする必要がある」とし、特に人権、ジェンダー、テロ対策の観点から、タリバンがこれまでと違う方法で行う柔軟性や真の意志を示すチャンスを与えるべきだと訴えた。アフガンの中央銀行が保有する100億ドルの資産の大半は海外に保管されており、欧米諸国がタリバンに圧力をかけるための重要な手段とされる。米財務省はタリバンへの制裁を緩和したり、国際金融システムへのアクセス禁止を緩和することはないとしている。国際通貨基金(IMF)も、新たな約4億4000万ドルの緊急準備金についてタリバンによる利用を阻止している。一方、中国やロシアは資産凍結解除を求め、中国代表は「これらの資産はアフガンに属し、アフガンのために使われるべきで、脅しや抑止の手段として使われるべきではない」と主張した。
2021年9月11日付日本経済新聞「アフガン物資不足深刻、赤十字職員「国際支援継続を」」
赤十字国際委員会(ICRC)のアフガニスタン南部、カンダハル地域事務所の藪崎拡子副代表(45)が10日、日本経済新聞などのオンライン取材に応じた。イスラム主義組織タリバンが掌握して以降、現地では食糧などの物資不足が深刻になっているほか、現金不足や物価上昇にも直面しているという。国際社会に対して「支援を止めてはいけない」と訴えた。藪崎さんによると、現地では空路、陸路ともに物流が滞り、物資が入りづらくなっている。干ばつにも見舞われている。「医療品や水、全てが足りない。今後数カ月で、多くの人が生死の瀬戸際に立たされる」と危機感をあらわにした。
2021年9月1日付日本経済新聞「タリバンと米国、テロ対策で「パートナー」に」
8月30日夜、米軍の最後の部隊がアフガニスタンを去った。アフガン人はいま、イスラム主義組織タリバンの支配下で待ち受ける厳しい時代を前に身構える。タリバンが前回、アフガンを支配したのは1996~2001年だ。だが、米国主導の軍事作戦でタリバン政権は崩壊した。タリバンの政府はシャリア(イスラム法)を厳格に適用し、アルカイダをはじめとする国際テロ組織を保護した。それから20年がすぎた現在、アフガンは戦闘で荒廃し、深刻な経済危機、干ばつ、新型コロナウイルスの感染拡大に苦しむ。過激派組織「イスラム国」(IS)が勢力を盛り返すなか、タリバンはこの国を再び統治することになった。・・・米政府が近く、タリバン政権と正式な外交関係を結ぶことはないかもしれない。だが、米国とタリバンは、タリバンも手を焼くような過激組織を警戒し、テロ対策を巡って水面下で協力するとみられている。アフガン情勢に詳しい政治学者のオマル・サドル氏は「公には、米国はタリバンを正統な政権として承認しないと言ったことになっている」と話す。「だが、双方は打算による取引をしているだけではない。タリバンはまるで(米国に)信頼されているパートナーのようにみえる」。
2021年9月1日付日本経済新聞「アフガン20年戦争、米国「敗北」対テロへ試される結束」
米国史上最長の「20年戦争」となったアフガニスタン戦争が苦渋の幕切れを迎えた。米同時テロ直後だった2001年10月のアフガン空爆以来、約2500人もの死者を出した駐留米軍が、イスラム主義組織タリバンの全土制圧を横目に30日、任務を終えた。撤収という名の「敗北」は超大国の威信低下と世界秩序の混迷を如実に映し出す。・・・アフガン民主化の挫折を意味する混迷の根底にあるのは、バイデン政権の不手際だけではない。アフガン情勢を力で制圧しようと試みた歴代の米政権による過信と誤算、そして無策の積み重ねでもある。・・・米国が安定のコストを一方的に担う時代が過ぎるなか、欧州や日本を含めた民主主義陣営はこれまでにない試練に立たされている。中国やロシアのような強権主義、タリバンが支配するアフガンのような「恐怖による統治」に勝るモデルとして発展途上国の支援や「テロ予備軍」の封じ込めに実績を残すことが求められる。民主主義の体制が世界秩序の安定と紛争や混迷の抑止の基軸となるためには、新たな協調のバランスが問われる。「米国頼み」からの脱却を進めながら、中国の台頭に対抗する強力な結束の枠組みを打ち出す必要がある。アフガン20年戦争の重苦しい終結は「民主主義の同盟」の価値を問い直す試金石でもある。
2021年8月19日付日本経済新聞「危うい自国優先主義 中東安定へ試される結束」
アフガニスタンでイスラム主義組織タリバンの攻勢が強まりつつあった初夏。「少なくともあと数カ月は遅らせたほうがよい」。米軍高官は8月末に迫る米軍の撤収期限の延期を提言したが、バイデン米大統領は耳を貸さなかった。米軍撤収のレールを敷いたのは「米国第一」を掲げたトランプ前大統領だ。だが、国際協調をうたい、「米国は戻ってきた」と宣言したバイデン氏も「際限なき戦いは米国の国益ではない」と、自国優先の考えを公言してはばからない。米国にとって、中東の安定は原油調達という実利のうえで不可欠だったが、シェール革命でこの地域への依存度はほぼゼロになった。さらに、「唯一の競争相手」とみる中国への対処を優先していることも中東への関心を失わせている。中東で米国の重しが外れたひずみは大きい。内戦が続くシリアでは独裁体制のアサド政権による自国民への抑圧がやまない。イラクやレバノンではイランが支援するシーア派武装組織が影響力を強め、サウジアラビアなど周辺国の警戒感は強まっている。原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡の安定が失われれば、中東に原油の9割を依存する日本を直撃する。欧州では、15年に起きたシリア難民の大量流入の再来を懸念する。
2021年9月3日付読売新聞「EU「即応部隊」創設 議論…防衛相理事会 アフガン退避 米依存」
EUは、スロベニア中部クラーニで非公式の防衛相理事会を開き、危機対応にあたるEU独自の「即応部隊」創設について議論した。アフガニスタンでの退避作戦で危機管理における米軍依存が浮き彫りとなったことから、自前の対応力の強化を図る機運が高まっている。EUのジョセップ・ボレル外交安全保障上級代表(外相)は「EUは他国の選択に頼らず、必要な時に、自立的に行動できるようになる必要がある」と強調した。即応部隊は、加盟各国からの人員約5000人で構成し、危機発生時に現地に即座に派遣することを目的とする。ボレル氏によると、現時点では全加盟国の了承は得られていない。EUは、新たな防衛戦略の2022年前半の策定を目指し、加盟国間の調整を続けている。11月に提案する戦略案に即応部隊の設置も盛り込みたい考えだ。
2021年8月31日付毎日新聞「タリバン復権の衝撃 「麻薬ゼロ」実現に疑問符 アフガン支援停止、資金難必至」
アフガニスタンで実権を掌握したイスラム主義組織タリバンの「麻薬ゼロ」宣言が、国際社会から疑念の目を向けられている。タリバンはこれまでも麻薬を重要な資金源としてきた上に、アフガンの国家予算を支えてきた国外からの支援が軒並み停止され、麻薬なしでは資金不足に陥るとみられているためだ。タリバンが水面下で麻薬ビジネスをさらに拡大させる懸念も指摘されている。タリバンは、ケシ栽培農家から「税」を徴収しており、麻薬ビジネスが収入源の一つだと指摘されてきた。国連薬物犯罪事務所(UNODC)は6月、国連安全保障理事会に対し、タリバンが19年にケシ農家から得た収入は1450万ドル(約16億円)だったと説明した。麻薬の製造・密輸などの収益も多額だ。国連の麻薬取引監視チームによる調査報告書は、麻薬ビジネスでタリバンが20年に得た収入は総額4億6000万ドル(約506億円)に上るとの推計も示している。アフガン国内の20年のケシ栽培面積は約22万4000ヘクタールと東京都の面積より大きく、前年比で37%も増加した。アヘンの製造・密売も含めた麻薬による利益はアフガンの国内総生産(GDP)の11%にもなる。政情の不安定化に伴う経済の悪化で、麻薬を栽培する人がさらに増える恐れもある。
2021年8月28日付ロイター「生体認証データ、タリバンに渡るか 収集を巡る議論再燃」
タリバンがアフガニスタンの実権を握り、扱いに注意を要するデータを手中に収めるのではないかとの懸念が生じている。これを受けて、プライバシー専門家の間では、支援機関や多国間機構によるデータ収集に必要な倫理規範をめぐる議論が再燃した。タリバンが首都カブールを制圧したことで、住民は、支援機関や治安部隊が維持してきた生体認証情報データベースが、自分たちの追跡に利用されるのではないかと不安を募らせている。プライバシー専門家は以前から、国連や開発機関による生体認証情報の収集、デジタル身分証明書の義務付けが、難民その他脆弱な立場にあるグループにとってのリスクを高めていると警告してきた。タリバンがこうしたデータを使って活動家や前政権関係者を標的とする懸念が生じたことで、テロ対策や国境管理における生体認証テクノロジーの利用の是非をめぐって緊急の議論が必要であることが浮き彫りになった、と人権活動家は指摘する。
2021年8月27日付時事通信「アフガン人情報、削除相次ぐ タリバン標的を懸念」
アフガニスタンでイスラム主義組織タリバンが実権を掌握したことを受け、日本国内の関係機関などでは、インターネット上に掲載したアフガン人の個人情報を削除、非公開にする動きが広がっている。過去の活動や外国との関わりなどを理由に、タリバンの標的になる恐れがあるためで、関係者は「皆が危険を感じている」と話し、対応を急いでいる。在アフガン日本大使館はツイッターやフェイスブックで情報を発信してきたが、いずれも過去の投稿が全く見られなくなった。SNSを運営するIT企業も対応を進めており、米フェイスブックは20日ごろから、自分のアカウントを簡単な操作でロックできる機能を新たに公開した。「アフガンの人々が素早くロックダウンするため」(セキュリティ担当)としており、ロックすると、友達登録していない人はプロフィル写真のダウンロードなどができなくなるという。
2021年8月17日付ロイター「タリバンのアフガン制圧、SNSの有害コンテンツ対策に新課題」
反政府武装勢力タリバンによるアフガニスタン制圧は、有害なコンテンツ対策を巡り米国のSNS大手に新たな課題を突き付けている。一部の政府がテロ組織と認定する団体をどのように扱うかについて明確な判断基準はなく、各社の対応にばらつきがある。最大手フェイスブックは16日、タリバンをテロ集団に指定し、同社プラットフォーム上でタリバンによる利用を禁止するほか、タリバンを支持するコンテンツを排除する方針を確認した。ただ、報道によると、タリバンのメンバーはフェイスブック傘下の暗号化メッセージングアプリ「ワッツアップ」を使ってアフガン人と直接対話を続けているという。フェイスブックの広報担当は、同社はアフガニスタンの状況を注視しており、ワッツアップはアフガン国内の制裁対象組織に関係があると判明したアカウントに対して行動を起こす構えで、アカウント削除が含まれる可能性があると説明した。専門家は「タリバンはある程度、国際関係のレベルで受け入れられている」と指摘。中国と米国がそれぞれタリバンと協議を開いてきたことを理由に挙げた。この事実が認識されるようになれば、ツイッターやフェイスブックなどの企業がタリバンを危険組織として排除するかどうかを主観的に判断することが難しくなると語った。
2021年8月30日付日本経済新聞「タリバン内の過激派と通じる「ISホラサン州」」
バイデン米大統領は、2001年の米同時テロの首謀者ウサマ・ビンラディン容疑者をかくまった国からテロの脅威を取り除く仕事が終わったと強調し、混乱している米軍のアフガニスタン撤退を正当化した。そして8月26日、あるジハード(聖戦)主義組織がバイデン氏に恐ろしいメッセージを送った。タリバンは独自のイスラム主義の目的を追求しており、アフガンの統治よりもグローバルなカリフ国家の樹立を望んでいるIS-Kとタリバン指導部は敵対関係にある。また、IS-Kはタリバンを米国と関係を持っていると批判してきた。・・・IS-Kはタリバンの復権を利用して組織の知名度を高め、資金と新兵を呼び込む力を強めるかもしれないと考えている。「結局のところ、テロリズムとは反エスタブリッシュメント(支配層)であり、タリバンは今やエスタブリッシュメントだ」と専門家。「このため問題は、IS-Kが育ち、発展するのに絶好な環境が生まれる要素がすべてそろっていることで、それが恐らく今後起きるだろう」
2021年8月29日付産経新聞「アフガン難民最大50万人増 UNHCR、年内に」
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は27日、イスラム原理主義勢力タリバンの実権掌握で混乱が続くアフガニスタンから新たに国外に逃れる住民が、今年末にかけて最悪の場合は50万人を超える可能性があるとした。UNHCRは、現時点でアフガンからの大規模な難民流出は起きていないものの、陸路で隣国のイランやパキスタンに逃れようとする人が少しずつ増え始めていると指摘。周辺国に難民受け入れを求めると同時に、国際社会が受け入れ国を支援するよう求めた。アフガンでは長引く紛争の影響で、居住地を追われて国内避難民となった住民が今年だけで既に55万人増加したとUNHCRはみている。
2021年8月27日付毎日新聞「タリバン復権の衝撃 難民危機再来を欧州懸念 排他主義刺激、右派政党台頭……受け入れ消極的」
アフガニスタンの混乱を受け、欧州では難民・移民の流入を警戒する声が強まっている。シリア内戦などの影響で100万人以上が流入した2015年の難民危機は各国で反難民・移民感情を刺激し、排他主義的な右派ポピュリズム(大衆迎合主義)政党の台頭を招いた。「危機」が再来すれば、欧州政治が不安定化する懸念もある。人道主義を掲げるEUも、人々の反難民・移民感情に配慮する姿勢を見せている。EUのボレル外務・安全保障政策上級代表(外相)は17日、「欧州への大規模な移民の移動を引き起こさないようにする必要がある」と発言した。・・・EU加盟国の間で、トルコなどに同様の協力を求めるべきだとする声が上がっている。だが、EUは東地中海の資源開発などでトルコと対立しており、トルコの影響力が強まることへの警戒もある。また人権状況が懸念されるトルコ、リビア両国との協力については人権団体などからの批判も根強い。EUは難しい対応を迫られることになる。
2021年9月7日付読売新聞「テロ温床 疑念拭えず…アフガン」
イスラム主義勢力タリバンが復権したアフガニスタンやアフリカ各地で、国際テロ組織「アルカイダ」やイスラム過激派組織「イスラム国」系の勢力が活動を活発化させる恐れが出ている。米同時テロから20年を経て、国際テロは減少傾向にあったが、「米軍の敗走」は、各地に拡散した過激思想を勢いづかせかねない。「欧米の治安機関の監視対象となっている過激派戦闘員が、安全な避難先としてアフガンに集まるだろう」。タリバンは国際テロの排除を表明する。しかし、タリバンの最強硬派「ハッカニ・ネットワーク」はアルカイダと軍事的つながりを保つとされる。過激思想に感化されたイスラム教徒がアフガンを目指す現状は、「イスラム国」が台頭した2014年当時のイラクやシリアを想起させる。両国には「イスラム国」などに参加するために86か国から約3万人が渡ったとされる。過激派は世界に散らばり、各地で「土着化」しながら活動を続けてきた。国際テロの潜在的脅威が消えたわけではない。特に懸念されるのが、アルカイダ系や「イスラム国」系組織が巣くうアフリカだ。アフリカの過激派組織は今のところ、欧米への国際テロよりも、その地域で為政者を倒し、イスラム国家を築くことに主眼を置く。・・・「無人機による空爆は、テロリストたちの計画や活動を妨害するのには大いに役立つが、テロ組織を破壊したり、その能力を奪ったりすることまでは出来ない」と断言。その上で、「テロ組織壊滅には地元のパートナーを支援し、打ち負かしてもらうほかはない」・・・バイデン政権は情報収集でタリバンと連携する可能性も否定しておらず、新たなテロ対策で難しいかじ取りを迫られる。
2021年8月21日付ロイター「アフガンが再び過激派の「聖域」に、国際社会に警戒感」
イスラム主義組織タリバンがアフガニスタンの政権を掌握したことで、アフガンが再び過激派らの「聖域」になるのではないか―。国際社会にはこうした警戒感が広がっている。タリバンは、アフガンを決して他国攻撃の基地として利用させないと表明した。しかし専門家は、2001年9月11日の米同時多発攻撃を実行したアルカイダや、アフガンの隣国パキスタンなどで活動する幾つかの過激派組織とタリバンは今なお関係を持っていると指摘する。国連安全保障理事会に先月、専門家が提出した報告書によると、アルカイダはアフガンの34州のうち少なくとも15州に拠点を築いている。過激派組織「イスラム国」(IS)も首都カブールをはじめ幾つかの州で勢力を拡大し、戦闘員を潜伏させているという。ISはタリバンと対立しているものの、どんな混乱も足場強化のために利用したり、政権樹立に伴って穏健化するタリバンから離脱するよう強硬派戦闘員をそそのかしたりする可能性がある、と一部専門家や政府当局者は警鐘を鳴らす。・・・タリバンはその成功によって、イスラム過激派の英雄になったと指摘。「過激派や若者を引きつけ、刺激する神話を形成する要素がそろっている。つまり過激な宗教イデオロギーを掲げ、険しい山岳地帯で戦闘員が果敢に活動し、そしてまず旧ソ連の侵攻、次いで米国に対して軍事的成功と勝利を収めた。そうした構図は、われわれが学ぶべき教訓と備えるべき事態の一部分に当たる」と述べた。
2021年9月6日付読売新聞「「戦闘員として殉教したい」「米国と戦う」…アフガン目指すムスリムの若者たち」
イスラム主義勢力タリバンに共鳴する若者が、アフガニスタンへの渡航を目指す動きがある。現地でタリバンと関係が深い国際テロ組織「アルカイダ」などに勧誘されれば、過激派の勢力拡大を招く危険をはらむ。〈アフガンへの移住は全イスラム教徒の義務だ〉〈イスラム統治を実現するためアフガンを目指せ〉米軍のアフガン撤収を受け、ツイッター上ではこんな投稿が相次ぐ。似た現象は、2014年にイラクやシリアでイスラム過激派組織「イスラム国」が台頭した時も見られた。世界各地からSNSなどで勧誘されたイスラム教徒が集結し、戦闘員となって自爆テロなどを敢行した。再び過激派が勢いづく懸念が持ち上がっている。

アフガン情勢とも深く関係しますが、米同時多発テロから今年9月11日で20年の節目を迎えました。「テロとの戦い」の20年でテロリスクはいったん減少したかに見えましたが、タリバン復権によって、一気に高まったといえます。この20年をどう評価すべきかについて、筆者の考えに近いと思われるいくつかの論考と情勢分析等を抜粋して引用します。こちらも、さまざまな論点・切り口があるものだと考えさせられます。

2021年9月11日付日本経済新聞「9.11から20年、米州の記者が振り返るあの日の衝撃」
米国本土が攻撃されたことでアメリカ人の間には怒りが巻き起こり、「US=我々」と「Them=彼ら」、「あなたはアメリカの敵か味方か」という単純な線引きがなされた。それまでのアメリカ人の多くは「アフガニスタンってどこにあるの?」という程度の理解だったが、明確な反ムスリム感情に置き換わった。恐怖心は「知らない、わからない、理解できないもの」に対して生じる。恐怖に裏付けられた怒りは今の反移民感情にも引き継がれているようだ。新型コロナウイルス禍でのアジア系へのヘイトクライム(憎悪犯罪)にも、そうした感情が垣間見える。グローバリゼーションとともに進んだ「世界はフラットで1つ」といったユートピア的な発想は逆回転したのではないか。9・11は米国社会の分断が進むきっかけになったと思う。
2021年9月10日付日本経済新聞「9.11から20年 米、危機の芽摘めずテロ組織2.5倍に」
世界に衝撃を与えた米同時テロから11日で20年となる。米国は8月末でアフガニスタン戦争に幕を引いたが、テロとの戦いに終わりは見えない。イラク北部で4日、過激派組織「イスラム国」(IS)と関係が疑われる男らが検問所で警官13人を銃で殺害した。世界はなおテロの脅威にさらされる。イラク、アフガン両戦争に従事したペトレアス元米中央軍司令官は「イスラム過激派との戦いは20年という期間では十分でない」と語る。20年に及ぶ戦争で米国は疲弊。イスラム主義組織タリバンの復権を許し、最終局面ではIS系勢力の自爆テロを受けた。投げ出したかのような撤収の失態も新たなリスクになりかねない。テロの脅威は「アフガンをはるかに超え、世界中に転移している」(バイデン米大統領)。米国務長官が指定する外国テロ組織は70を超え20年で約2.5倍に増加した。…「暗号資産の寄付集めを含む洗練されたサイバー技術だ」。米司法省は20年8月、アルカイダやISなどのテロ組織から数百万ドルの仮想通貨を押収したと発表した。米連邦捜査局(FBI)のレイ長官は6月、ランサムウエア(身代金要求型ウイルス)攻撃の脅威は、同時テロ並みだと危機感も示した。今後、多くのテロ組織がサイバー空間での活動を本格化させる懸念が高まっている。
2021年9月9日付読売新聞「9・11の前より「米国が安全になった」49%、10年で大幅減…アフガン撤収影響か」
米ABCニュースなどが8日発表した世論調査によると、2001年の米同時テロ発生前と比べ、「米国がより安全になった」と感じる人は49%で、10年前の調査から15ポイントも減った。ABCは、「米軍のアフガニスタン撤収を巡る混乱が影響した可能性がある」などと分析している。「米国がより安全ではなくなった」と答えた人は、逆に15ポイント増えて41%だった。バイデン政権は性急な米軍撤収によってイスラム主義勢力タリバンの復権を許し、アフガンがテロの温床に逆戻りする懸念が強まっている。別の設問で、同時テロをきっかけに「国が悪い方向に向かっている」と考える人は46%に上り、同時テロ後から続く調査の中で最も高くなった。
2021年9月11日付時事通信「「武器ビジネス」拡大の一途 軍事費は最高水準―米同時テロ20年」
2001年9月11日の米同時テロから20年。アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンや過激派の台頭で世界的にテロの脅威が増大したことを受け、民間企業を巻き込んだ「武器ビジネス」は拡大の一途だ。スウェーデンのストックホルム国際平和研究所によると、20年の世界の軍事費は1兆9810億ドル(約218兆円)と過去最高を記録した。首位の米国は全体の39%、2位の中国は13%と米中だけで半分を超えている。インド、ロシアと続き、日本は9位だった。過去20年間の軍事費拡大をけん引したのが、官民一体で「対テロ戦争」を進めてきた米国。国防総省や軍需産業、議会、大学などが結び付く「軍産複合体」が予算確保に動き、アフガンだけで1兆ドル以上を投じた。武器販売高の世界上位100社のうち4割が米国企業で、ロッキード・マーチンとボーイングが2強だ。世界では米同時テロ発生後、紛争地の戦闘業務や後方支援を民間軍事会社に委ねる「戦争の民営化」が加速。
2021年9月10日付時事通信「「9.11」前から続くテロの系譜 共鳴する個人・組織絶えず―米同時テロ20年」
アフガニスタンの首都カブールの空港で、米兵13人を含む180人超が犠牲になった8月26日の自爆テロは、過激派組織「イスラム国」(IS)系の「イスラム国ホラサン州」(IS-K)が犯行を認めた。米国は2001年9月の同時テロで始めた「対テロ戦争」で、国際テロ組織アルカイダやISを弱体化させたものの、過激思想に共鳴する個人・組織は後を絶たない。米側はアフガン、イラクの「民主化」にも着手するが、地元勢力などの抵抗で治安維持に失敗する。混乱したイラクやシリアで台頭したISは、最高指導者アブバクル・バグダディ容疑者を「カリフ」(預言者ムハンマドの後継者)とする国家樹立を宣言した。欧米ではインターネットを通じてISの思想に共鳴した個人による「ローンウルフ(一匹おおかみ)テロ」が起きた。世界各地に「州」と称するIS関連組織が生まれ、アフガンで活動するIS-Kも15年に設立されたとみられている。米国主導の有志連合の空爆などでISは支配領域を失い、19年10月にはバグダディ容疑者も殺害された。トランプ前米大統領は「彼のカリフ制を100%全滅させた」と高らかに宣言したが、米国への憎悪と過激思想は可視化されずに各地に分散された。米軍がアフガンから撤収した今年8月下旬、カブールを支配していたのは排除したはずのタリバンだった。9月に入って、ニュージーランドのスーパーでは、ISに共鳴した男が刃物で7人を襲うテロが起きている。
2021年9月7日付読売新聞「[米同時テロ20年]アフガン撤収、割れる評価」
「オースティン国防長官は、国際テロ組織アルカイダやイスラム過激派組織「イスラム国」が2年程度で復活する可能性があるとの見方を示していたが、私もそのような可能性を大いに危惧している。現時点で、隣国の基地は確保できていないようだが、それでも作戦上、越境攻撃は欠かせない。米軍も積極的に攻撃を仕掛けるとみて間違いないだろう。・・・これまでよりも中国との関係に多大な労力を割くことになるからといって、他の地域から目を離して良いということにはならないのだ。」「米国はこの20年で、アフガンで出来ることはやった。この紛争に軍事的解決はなく、アフガン人同士の解決策に委ねるほかはない。テロの脅威に目を向ければ、国際テロ組織アルカイダはアフガンでは弱体化した。彼らのイエメンやシリアなどの支部の方が、脅威は増している。脅威が低下した地域から兵を引き、より脅威の高い地域に対応するという行動は理にかなっている。今後の対テロ戦争で必要となるのは、脅威を把握するための情報共有の仕組みだ。・・・「軍事的解決はない」と幹部らが言い始めたのは、最近になってだ。その結論にもっと早く達していれば、事態は違っていたかもしれない。」
2021年9月8日付日本経済新聞「9.11から20年 アフガン、泥沼の歴史」
2009年に就任したオバマ米大統領は「テロとの戦い」を掲げてアフガンに米軍を増派した。並行して多用したのが無人機(ドローン)による爆撃だ。米外交評議会によると、オバマ政権が承認した無人機攻撃は542件。ブッシュ政権の約10倍で、300人以上の民間人が巻き添えになった。11年5月にはパキスタンの首都イスラマバード郊外に潜伏していたアルカイダ指導者のウサマ・ビンラディン容疑者を米軍が急襲し、殺害した。力の行使は禍根を残した。11年末に米軍がイラクから撤退しイラク戦争が終わりを迎えると、「力の空白」を突いて過激派組織「イスラム国」(IS)がイラク北部モスルを制圧した。カリフ(預言者ムハンマドの後継者)を頂点とする「国家樹立」を宣言した。ISは異教徒への「ジハード(聖戦)」を呼びかけ、「グローバル・ジハード」の波が世界へ広がった。・・・米国民の多くが01年の米同時テロへの報復戦争を始めたことに関し、ある程度は理解を示しつつも戦争が長すぎたと認識している。バイデン氏は米軍撤収後も軍事や経済分野での支援を継続する方針を強調するが、狙いは米本土の脅威となるテロの芽を摘み取ることにある。米国が20年間にわたってテロとの戦いを続けるなかで、中国やロシアは急速に軍事力を伸ばした。冷戦以来の大国間競争に突入し、バイデン政権はテロとの戦いに区切りをつけざるをえなくなった。アフガンではタリバンのほか、過激派組織「イスラム国」(IS)や国際テロ組織アルカイダが活動し、米軍撤収を機に反転攻勢をうかがう。01年のアフガン軍事作戦開始以降の米兵の死者は2461人。戦費は2兆2610億ドル(約250兆円)との試算もある。大きな負の遺産を残し、テロとの戦いは振り出しに戻った。
2021年9月10日付毎日新聞「迷走続けた米の対テロ戦 自殺従軍兵3万人超、戦死者の4倍」
同時多発テロに端を発したアフガン戦争と03年からのイラク戦争を抱え、米社会は疲弊した。米ブラウン大ワトソン研究所が6月に公表した報告書によると、同時多発テロ以降の戦闘行為で死亡した米兵は7057人。しかし、自殺した現役兵士と退役軍人の合計は4.2倍超の3万177人に上る。一方でアフガンでは推計4万6000人以上、イラクでは18万人以上の民間人が犠牲になった。退役軍人らはどんな理由で自殺まで追い詰められるのか。米ブラウン大ワトソン研究所の6月の報告書は▽戦場での過酷な経験による心的外傷やストレス▽軍隊の厳しい規律や訓練▽退役後の市民生活への適応の難しさ―などを要因に挙げる。さらに同時多発テロ以降の特徴として、即席爆破装置(IED)の普及とそれに伴う外傷性脳損傷(TBI)の増加を強調。イラクやアフガンの武装勢力が手製のIEDを多用し、米兵らは現地で常に爆発の危険にさらされた。そのストレスや、IEDの爆風で脳に損傷を負うTBIを患い、自殺リスクを高めていると指摘している。
2021年9月4日付読売新聞「[米国の行方 同時テロ20年]<下>不寛容強まる 「憎悪犯罪」少数派が声」
2001年の米同時テロをきっかけに、イスラム恐怖症が全米を覆った。米連邦捜査局(FBI)の統計によると、モスクへの放火など、米国内のイスラム教徒に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)は、同時テロを挟んで28件から481件に急増した。・・・ニューヨーク市警は同時テロ以降、中央情報局(CIA)と協力し、覆面捜査官や密告者をモスクや大学、企業などに潜入させ、イスラム教徒へのスパイ活動を続けてきたとされる。こうした活動がテロを未然に防いできたとの見方があるのも事実だが、空港の保安検査でイスラム教徒ばかりが別室で入念に調べられるといった理不尽な扱いが常態化しているとの指摘もある。不信の対象はイスラム教徒に限らない。新型コロナウイルスの感染拡大後は、アジア系への憎悪犯罪が急増した。中南米系移民やアフリカ系と白人保守層の対立も顕著だ。米社会はますます不寛容になりつつある。保守とリベラル、持てる者と持たざる者、都市住民と農村住民など、人種以外の対立軸を巡っても社会の分断が深まった。人口構成の変化、メディアの両極化、SNSの普及など、様々な要因が指摘される。20年前の同時テロが、長く封印されていた「異質なものへの憎悪」を解き放ったとの見方もある。「テロや過激主義は特定の宗教だけに起因するものではない。そういう認識が広がってきた」とも感じている。今年1月には、トランプ支持者による連邦議会占拠事件が起きた。米NBCの調査では、57%の人がこれを「テロ行為」と呼んで非難した。
2021年9月4日付時事通信「「対テロ戦」努力むなしく 過激派伸長のリスク再燃―米同時テロ20年」
「占領者を駆逐し権利を取り戻すにはジハード(聖戦)が正当な手段だと証明した」―。内戦下のイエメンが拠点のイスラム過激派「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」は、アフガニスタンを制圧したイスラム主義組織タリバンの勝利を称賛した。国際テロ組織アルカイダの流れをくむシリア反体制派や、パレスチナのイスラム組織ハマスからも賛辞が相次ぐ。タリバン復権で各地のイスラム過激派が勢いづき、2001年の米同時テロ以降20年に及ぶ「対テロ戦」の努力と成果が容易に水泡に帰すリスクが露呈している。中東などでは、米国の場当たり的な介入や撤退への不信感がこの20年間で深く根付いた。米国が関与を強めて一つのテロ組織が弱体化すれば、別の組織が勃興する。さらに教義や戦闘目的などで食い違う過激派同士の覇権争いも招き、政情不安に拍車を掛ける悪循環が続いた。
2021年9月6日付時事通信「テロ対応能力、大きく向上 焦点は組織から個人へ―元米高官・米同時テロ20年」
オバマ米政権で国土安全保障次官を務めたスザンヌ・スポルディング戦略国際問題研究所(CSIS)上級顧問は、時事通信のインタビューに応じ、2001年9月の米同時テロ後、国土安保省の創設などを通じ、米国のテロ対応能力が大きく向上したと語った。一方、テロの形態が変化し、組織に属さない個人による犯行が対策の課題になっていると指摘した。外国のテロリストの脅威が20年前と比べ「米国や同盟諸国など遠くの敵を狙った世界規模のジハード(聖戦)から、近くの敵を標的とするものに変わってきた」と分析。国外で米国人や米国の施設などがテロに脅かされるリスクは依然として残るものの、「国内の米国人に対する脅威は大きく低下した」との見解を示した。一方、SNSの発達で「人々の感情に効果的に働き掛けるプロパガンダ動画などへのアクセスが容易になった」と指摘。「多数で実行する大規模テロへの対応能力は上がったが、他者とつながりのない個人や少人数による『1回きり』の攻撃防止は、政府にとって引き続き極めて厄介な課題だ」と警鐘を鳴らした。
2021年9月9日付時事通信「対テロ名目で弾圧強化と批判も ロシア国内の脅威は低下―「9.11」から20年・プーチン政権」
米同時テロが起きた2001年9月11日の前後、ロシアでは南部チェチェン共和国の独立派との紛争が続き、大規模テロが頻発していた。プーチン政権は徹底的な掃討作戦を行い、20年後の今、国内でのテロの脅威は低下。しかし「テロとの戦い」名目で治安当局による人権侵害や反体制派弾圧が強まっているとの批判が絶えない。「ロシアは大規模なテロ組織を打ち負かし、無法者を一掃した事実上唯一の国だ」。プーチン大統領は8月24日、政権与党の会合でアフガニスタン情勢に触れながら誇らしげに語った。専門家は、米同時テロ以降の対テロ戦では「(米国よりも)ロシアの方が幾分成功した」と指摘。「国外から支援を受けていたチェチェンなどのテロリストを壊滅させた。一定の問題は残っているが大きな成功だ」と評価する。一方で治安当局の強引な手法に対する批判も出ている。政権が「対テロ」を都合良く利用し、反体制派弾圧を強める動きも目立つ。
2021年9月6日付時事通信「仏、やまぬイスラム憎悪 理解深める模索続く―米同時テロ20年」
2001年9月11日に起きた米同時テロは、イスラム教徒の割合が西欧では比較的多いフランスでも、イスラム教徒に対する憎悪や拒絶感を強める一因となった。130人が犠牲になった15年のパリ同時多発テロ以降、彼らへの風当たりはますます強まっている。一方で相互理解を深めようとする努力も続く。米同時テロ以降、仏国内の公立学校では、イスラム教徒がスカーフや顔全体を覆うブルカやニカブを着用することを相次いで禁止した。表向きは1789年のフランス革命を起源とする政教分離(ライシテ)の原則や女性の権利保護が根拠とされるが、イスラム過激主義に対する警戒感の高まりを反映しているのは明白だった。こうした政策が仏国内のイスラム教徒に疎外感を与え、テロに走らせる悪循環を生んでいると指摘する声がある。・・・仏国内では現在も移民系の若者らによるテロが続き、その反動で移民排斥を主張する極右政党が支持を集めている。8月にはイスラム教徒の過激化防止を念頭に、宗教団体への監視強化などを定める法律が公布された。ユス氏は「法規制の強化は大半のイスラム系コミュニティが社会に溶け込んでいる現状にそぐわない。さらなる混乱を生むだけだ」と懸念を示した。
2021年9月8日付時事通信「中国、対テロ戦の最中に台頭 米の矛先向けられ警戒―「9・11」から20年」
米同時テロが起きた2001年当時、中国は米国と共闘をアピールした。それから20年。対テロ戦争で消耗する米国を横目に、中国は経済・軍事面で台頭し、その覇権を脅かす存在となった。米軍のアフガニスタン撤退は対中戦略に資源を集中させる狙いがあり、中国は警戒感を隠さない。米国が対テロ戦に没入する中、中国は着々と国力を蓄えていく。12年に習近平氏が共産党総書記に就いて以降、南シナ海の人工島埋め立てを強行し、オバマ米政権はこれを止められなかった。さらに習政権は「反テロ」の名目で、新疆ウイグル自治区の独立派の取り締まりを強化。自治区に隣接するアフガンの過激派組織に対する米軍の攻撃は、中国の負担を「肩代わり」もしていた。

その他の最近のテロリスクを巡る報道から、いくつか紹介します。

  • 30人が死亡した2015年11月のパリ同時多発攻撃で、実行犯のうち唯一の生存者とされる被告ら20人に対する公判がパリの裁判所で始まりました。報道によれば、被告は自身の職業について「(過激派組織)『イスラム国』(IS)の戦闘員」だと述べたといいます。20人の被告のうち、11人は刑務所に収監されているほか、6人はすでに大半が死亡したとみられており欠席裁判となります。有罪となればほぼ無期懲役となる見通しです。ダルマナン内相は、ラジオ局フランス・アンテルに対し「国内におけるテロの脅威は、特に公判中に高まる」と述べ、注意を促しています。
  • 中国と蜜月関係にあるパキスタンで、巨大経済圏構想「一帯一路」を標的とするテロ事件が続発しています。中国を狙う武装勢力が跋扈し、7月には中国人技術者らが乗ったバスがテロ攻撃を受け、10人以上が殺害されました。中国側はパキスタンに労働者の安全確保を求めているものの、背景には「中国が地元の資源を奪っている」という根強い不信感があり、対応は容易ではないようです。
  • 本コラムでも取り上げましたが、中南米各地で移民や難民が増えています。近隣の貧困国で起きた自然災害や政情不安、新型コロナウイルスの拡大に伴う経済的苦境などが背景にあり、最終的には米国を目指す人が多く、バイデン米政権にとって難題になる可能性も指摘されています。米南西部国境の7月の拘束者数は212,762人となり、過去21年で最多となったと報じられています。現在、米南部国境は、中米のグアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドルとメキシコからの不法越境が多く、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、中南米地域で故郷を追われている人々は2020年末時点で1,835万人以上に達しており、世界全体(約8,240万人)の約2割を占めているといいます。世界では、イスラム主義組織タリバンが実権を握ったアフガニスタンからの難民増加に焦点が当たっているものの、中南米の移民や難民も大きな問題になっている点に注意が必要です。
  • NZ最大都市オークランドのスーパーマーケットで7人が負傷した先週の刃物襲撃事件を巡り、現場で射殺されたスリランカ籍の容疑者の男についてNZ政府が数年にわたり本国送還を試みていたといいます。報道によれば、容疑者は過激派勢力「イスラム国(IS)」に傾倒しており、監視対象となっていたとされ、法律によるこれ以上の収監は不可能だったとしています。容疑者はフェイスブックで過激派の攻撃や暴力的な過激主義を支持するコメントなどに同意を示していたことから、2016年に警察などにマークされるようになり、容疑者の難民認定はその後、不正に取得されたものだと分かったため、政府はビザの取り消しを模索、本国送還通知を出したということです。ただ、容疑者は本国送還に異議を申し立てていました。当局が脅威を把握していたにもかかわらず、容疑者の自由な行動を許していたことでNZのテロ対策法の抜け穴に疑問の声が上がっているということです。
  • ナイジェリア北西部のザムファラ州で、武装集団が学校を襲い、生徒73人を拉致した。本コラムでも取り上げてきましたが、ナイジェリアでは最近、身代金目的で学校から生徒らを集団拉致する犯罪が多発しており、昨年12月以降の発生は10件を超え、計1,100人以上が被害に遭っています。既に親元に戻った生徒も多く、90人が新たに解放されたばかりだったようです。拉致の増加を受け、複数の州が、リスクが高いとみられる学校を一時閉鎖、バイクで襲撃し森で野営する武装集団の活動を封じようと、燃料の販売やまきの運搬を制限する措置も始めているようです。あくまで憶測ですが、これだけ頻繁に行われ、多くが無事に解放されている状況だけみれば、「身代金ビジネス」として政府等と何らかの取引が行われていることを疑うべきかと思います。
  • ジュネーブでの生物兵器禁止条約(BWC)専門家会合に出席している専門家は、新型コロナウイルスのパンデミックで生物学的脅威に対する意識が世界的に高まる中、条約の順守を徹底するためにより強力な権限が必要だと強調しています。報道によれば、「パンデミックによって、生物学的事象の起源に関しては不確かさが避けられず、世界に連鎖的な影響を与えるような臆測や不信の念が広まる可能性があることが明確に示されたこと、生物兵器禁止条約は、重大な生物学的事象の起源に関する情報の収集と分析のための信頼できる検証機関を設立するのに適した立場にあると指摘しています。関連して、バイデン米政権は、新たな感染症によるパンデミックのリスクに備える国家戦略を発表、今後10年間に650億ドル(約7兆1,300億円)を投じるというもので、新型コロナウイルスの起源をめぐる混乱を教訓として、自然由来の感染症だけでなく生物兵器テロの脅威にも対抗する狙いもあると報じられています。報道によれば、ホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)と科学技術政策局が共同発表し、冒頭で、生物学的な脅威に備える「バイオディフェンス」の重要性を強調、中国の武漢ウイルス研究所からのコロナウイルス流出説を念頭に、実験室での事故や意図的な生物兵器の使用の可能性に至るまで、防衛力の向上を目指すと明記しています。
(4)犯罪インフラを巡る動向

2021年9月4日付産経新聞で、「説得力のあるフィッシング詐欺のメールを、AIが人間よりうまく”書く”時代がやってきた」と題する記事がありました。AIの犯罪インフラ化がここまできているのだと驚かされます。ただでさえ一定数の被害者を発生させているフィッシングメールがAIと結びつくことによりその成功率が飛躍的に上昇する可能性があるとすればこれは脅威以外の何物でもありません。しかし、実際にオープンソースの技術レベルでさえすでに「悪用」されうるところまできているようです。以下、一部抜粋して引用します。

人工知能(AI)にフィッシング詐欺のメールを自動生成させたところ、人間が書いたものよりもクリック率が高い文章をつくれる段階に到達したことを、このほどシンガポールの研究チームが発表した。使われたのは、高性能な言語生成アルゴリズム「GPT-3」と、AIaaS(サービスとしてのAI)のプラットフォームだ。・・・そもそも、量産型のフィッシングメールはシンプルで定型に沿っており、すでにかなり効果がある。一方、ターゲットを絞って個別化された「スピアフィッシング」のメッセージは、作成により多くの労力が必要だ。自然言語処理が驚くほど効果を発揮するかもしれないのは、まさにこの点なのである。・・・人が書いたメッセージのリンクよりも、AIが作成したメッセージのリンクのほうが、はるかに多くクリックされていたのである。・・・研究チームは、OpenAIのGPT-3プラットフォームと、個人の性格の分析に特化した別のAIaaSを利用して、同僚たちの背景情報や特徴に合わせたフィッシングメールを作成した。個人の性格の分析に特化した機械学習モデルは、個人の行動に関するインプットに基づいて個人の傾向や気質を予測するものだ。・・・それでも今回の研究結果は、AIaaSがフィッシングやスピアフィッシングの進化を加速させかねないという意味で、研究者たちが真剣に考えるきっかけになったことは間違いない。OpenAIは以前から、こうしたAIが悪用される可能性について懸念を抱いていた。・・・「言語モデルの悪用は業界全体の問題です。わたしたちは安全で責任あるAIの開発に尽力しており、この問題についても深刻にとらえています」と、OpenAIは『WIRED』US版の取材に答えている。・・・しかし現実には、悪用を取り締まるためにサービスのモニタリングを実施することが、合法的にプラットフォームを利用しているユーザーの権利を侵害する監視につながるというジレンマがあると研究チームは主張する。しかもやっかいなことに、すべてのAIaaSプロバイダがプラットフォームの悪用を減らそうと努力しているわけではない。いずれは詐欺集団に迎合するサービスが出てくる可能性すらある。・・・もしAIが生み出したフィッシングメールが人間が書いたものとそっくりになるなら、“被害者”にしてみれば詐欺を見破ることの難しさは人間が生み出すメールの場合と変わらないことになる。しかも、フィッシングメールが及ぼしうる被害は、かつてないほどに深刻なものになっている。・・・「たった一度だけ警戒心を解いてしまえば、それで終わりなのです」

このように犯罪インフラ化しつつあるAIの問題は深刻ですが、「犯罪摘発インフラとしてのAI」に期待が高まっている状況でもあります。警察が実施している実証実験について、2021年8月16日付朝日新聞でまとめられています。それによると、例えばマネー・ローンダリングが疑われる取引情報の分析では、金融機関などから届け出があった情報のうち、実際に事件の摘発につながった例をAIが機械学習し、ほかの情報を分析し、注意すべき度合いをスコアで判定して優先順位を付ける手法が定着しつつあり、警察庁も実用化向けて動いています。また、大規模イベント会場の警備で人混みの中から不審な点を探す実験では、会場周辺にいる群衆の模擬映像を使い、人の動きなどを分析してテロリストらが取ると考えられる不審な行動を推定、見つけだす方法で実施したところ、人がさほど密集していない場合は一定の精度が得られたものの、密度が高い条件下では人と人が重なり合うなどして不審点を見つける精度が低くなるといった課題もあります。一方、ストーカーや、パートナーらに対する暴力(DV)に関する相談で、危険度を分析する実験では、相談の際、被害内容や相手との関係性などを聞き取るチェック票について回答内容を分析し、どの程度危険かを判定することについては、警察官による判断の支援が可能との結果が得られたようです。さらに、2021年度に新たに始まっているのは、SNSの投稿から違法薬物に関する情報を見つける実験で、ネット上で使われる隠語などをもとに大麻などの売買に関する情報を分析、抽出し、書き込みの削除要請などの効率化を図る狙いがあるということです。SNSの投稿は数が多いうえに「隠語」が使われ、警察官らによるチェックには限界があるのが実態です。違法薬物の売買はSNS上の投稿がきっかけで行われるケースが多くなっていますが、「大麻売ります」などの直接的な文言ではなく、大麻は「野菜」、覚せい剤は「アイス」、対面販売は「手押し」といった隠語が使われるのが通常です。全国の警察はSNS上の犯罪関連情報をチェックし、警告文の投稿や運営会社への削除要請を行っていますが、違法薬物のほか、児童買春や特殊詐欺などが対象で、捜査に乗り出すケースもあり、今後の活用が期待されるところです。

さて、高級車の盗難のツールとしては電子キーが発する電波を中継、増幅して車を盗む「リレーアタック」が知られており、本コラムでも取り上げてきました。最近、車に機器を接続し、制御システムを不正に操る手口で高級車を盗んだとして、堺市の男らが兵庫県警に窃盗容疑で逮捕されるという事案が発生しています。被害が全国で計195台(総額約9億5,000万円)に上るとみられており、報道によれば、車の各部分に電子信号を送って制御する「CAN」を乗っ取ることから「CANインベーダー」と呼ばれる手口で、摘発は全国で初めてだということです。2021年8月31日日本経済新聞によれば、「車には「CAN信号」という配線が張り巡らされ、各部分に電子信号を送って制御したり、故障の情報などを感知し「車載式故障診断装置」に集めたりしている。この手口ではバンパーを外し、CAN信号につながる端子を引き出し、特殊機器で不正接続して制御システムに侵入、車を乗っ取っていたとみられる」と解説されています。なお、容疑者は、「暴力団関係者から依頼を受けて盗み、売却した」と容疑を認めており、機器は「知り合いから約200万円で買った」と供述しているということです。「CANインベーダー」は「リレーアタック」よりさらに防止することが難しいとされ(何者かが乗り込んだ際の振動などに反応する警報器の利用が推奨されています)、さらに、その背後に暴力団の存在がうかがわれる点は、すでに組織的に犯罪が行われている可能性を示唆しており、注意が必要な状況です。

相変わらずサイバー攻撃をはじめとするセキュリティ関連の脅威が顕著です。例えば、一般財団法人日本サイバー犯罪対策センター(JC3:Japan Cybercrime Control Center)は、悪質なショッピングサイトなどに関する最新の統計情報を公開し、改めて注意を呼びかけています

▼JC3 悪質なショッピングサイト等に関する統計情報(2021年上半期)

同協会では、一般社団法人セーファーインターネット協会が設けている窓口「悪質ECサイトホットライン」への通報内容について、集計・分析・情報提供を行っていますが、それによると、2021年上半期にJC3が共有した悪質なショッピングサイトなどの通報件数は、6,535件で前期(2020年下半期)の5,076件から3割近く増加、コロナ禍によりネットショッピング利用者が増えたことで、2019年から増加傾向が続いていましたが、ここに来てかなり大幅な増加を見せているといいます。「悪質なショッピングサイトを知った経緯(接触したきっかけ)」は、「インターネットの検索結果」(67.3%)が最も大きな割合を占めており、前期と大きな違いはありません。また「そのサイトを知ったデバイス」についても、「PCブラウザ」「スマホブラウザ」がそれぞれ45%ほどで変化はありません。一方、2021年上半期に見られた悪質サイトの特徴としては、調理器具・家電を取り扱う正規サイトを模倣した偽サイトに関する通報内容が目立ったほか、暗号資産投資サイトに関する通報件数が増加、この相談では「マッチングアプリやSNSで知り合った異性から勧められた」という内容が多く寄せられているということです。

また、警察庁から「令和3年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」が公表されています。身代金要求型のコンピューターウイルス「ランサムウエア」の被害相談が今年上半期に22都道府県警で61件に上り、昨年下半期の21件から約3倍に増えたこと、相談を受けた61件のうち27件は、支払いに応じなければデータを暴露すると脅す「二重恐喝」に遭っていたこと、攻撃者から支払い方法を指定されたのは29件で、うち26件はビットコインなどの暗号資産を要求されたこと(暗号資産別ではビットコインが24件、モネロは2件。匿名性が高く、資金洗浄が目的とみられること)、ウイルスの侵入口は、テレワークで使われる「仮想プライベートネットワーク」(VPN)などの通信システムが多かったこと(自宅などから会社のパソコンを遠隔操作できる機能「リモートデスクトップ」が7件、不審メールや添付ファイルが4件など、新型コロナウイルスの感染拡大で普及が進むテレワークのシステムが狙われていること)などが指摘されています。なお、被害多発の背景には、以前本コラムでも指摘しましたが、攻撃手法がネット上で拡散していることがあるとみられます。闇サイト(ダークウェブ)ではウイルス売買のほか、不正プログラムの開発や企業ネットワークへの侵入を手伝う人を募り、分業で攻撃を実行するケースも多いとされます。なお、。ウイルス対策ソフトなどを導入していた44件のうち、7割の34件は検出がなかったことから、適切な対策ソフトの選択や設定をしていないと被害防止に結び付かないケースがあると考えられます。また、警察庁は「感染経路の判明につながり、再発防止に役立つ」としてログ(通信記録)の保存を求めていますが、アンケートでは、ログをすべて保存していたと回答したのは有効回答39件のうち14件(36%)にとどまっており、このあたりも大きな課題だといえます。また、ランサムウエア攻撃においては、中小企業のサイバーセキュリティの脆弱性が狙われており、専門人材の確保の遅れなどが影響し、警察庁の調査で被害の6割以上を占めています。「二重脅迫」が主流になりつつあるところ、データに取引先や顧客の情報が含まれれば、重要な業務資料や個人情報の流出につながり、子会社や中小から情報が漏れ、親会社の大手や取引先が金銭要求される例(いわゆる「サプライチェーン攻撃」)が今後、日本でも増えていくことが危惧されます人権問題などで脚光を浴びつつある「人権デューデリジェンス」の考え方はサイバーセキュリティ分野においても同様であり、もはや自社だけ守りを固めていても十分ではなく、サプライチェーンにおけるサイバーセキュリティの底上げが急務だといえます。

▼警察庁 令和3年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について
  1. 情勢概況
    • サイバー空間が重要な社会経済活動を営む重要かつ公共性の高い場へと変貌を遂げつつある中、ランサムウエアによる被害が大幅に増加しているほか、サイバー攻撃が多数発生するなど、サイバー空間における脅威は極めて深刻な情勢が続いている。
  2. サイバー空間の脅威情勢
    1. 国内外で、ランサムウエアによる攻撃が多発。
      • 二重恐喝(ダブルエクストーション)の攻撃手口の拡散や産業制御システムに影響を及ぼしうるマルウェアを確認。
      • 被害企業へのアンケート結果によると、国内における被害も深刻化の傾向。
    2. サイバー攻撃による情報流出事案が引き続き多発。国内の政府機関や研究機関等で被害が発生。
    3. 警察庁が国内で検知したサイバー空間における探索行為等とみられるアクセスの件数は引き続き高い水準。
    4. インターネットバンキングに係る不正送金事犯は、発生件数が減少したものの、被害額は微減にとどまり引き続き高い水準。
  3. 警察における取組
    1. 宇宙航空研究開発機構(JAXA)等に対するサイバー攻撃事案について、事件捜査等を通じたアトリビューションにより、国家レベルの関与を解明。
    2. 犯罪インフラ化するSMS認証代行に関し、総務省と連携して業界団体へ本人確認の強化を要請。
    3. 重要インフラ事業者等とサイバー攻撃の発生を想定した共同対処訓練を実施したほか、サイバー攻撃事案で使用されたC2サーバのテイクダウン(機能停止)を実施。
    4. JC3と連携し、国内の金融機関等やワクチン接種予約を装ったフィッシングについて、注意喚起を実施
  • ランサムウエアによる攻撃については、国内外で二重恐喝(ダブルエクストーション)の攻撃手口の拡散や産業制御システムに影響を及ぼしうるマルウェアも引き続き確認されている。警察庁に報告された国内のランサムウエアによる被害件数は、前年下半期と比較して大幅に増加している。被害企業・団体等に対して警察が実施したアンケート調査の結果によると、被害の発覚後システム等の復旧までに相当の期間・費用を要している実態が認められるなど、その被害が深刻化している状況がうかがわれる。国外においても、5月に米国の石油パイプライン事業者最大手のシステムがランサムウエアに感染し、同社が運営する全てのパイプラインの操業が停止するなど、市民生活や広範な産業活動に影響を及ぼす事案等も発生している。
  • このほか、サイバー攻撃により情報が窃取される事案も引き続き多発している。国内においても政府機関や研究機関等が外部からの不正アクセスを受け、職員の個人情報等が流出した可能性がある事案が相次いで確認されたほか、警察庁が国内で検知した、サイバー攻撃の対象をインターネット上で探索する行為等とみられるアクセスの件数についても、継続して高水準で推移している。
  • また、警察では、4月、宇宙航空研究開発機構(JAXA)をはじめとする国内企業等へのサイバー攻撃を実行した集団の背景に、中国人民解放軍第61419部隊が関与している可能性が高いと結論付けるに至った。本事案を通じて、警察では、独自の実態解明や外国治安情報機関との緊密な連携により、サイバー攻撃への国家レベルの関与を明らかにするとともに、警察の全国ネットワークを駆使し、迅速な被害の未然・拡大防止を図った。
  • インターネットバンキングに係る不正送金事犯の発生件数・被害額は、ともに前年同期と比較して減少したものの、被害額の減少幅は小さく、引き続き大きな被害が発生している。これらの被害の多くは、金融機関や宅配業者を装ったSMSや電子メールを用いてフィッシングサイトへ誘導する手口によるものと考えられるが、インターネット上に情報を保存するメモアプリ等が不正アクセスされ、保存していたパスワード等の情報を窃取されたと思われるケースも確認されている。
  • サービス利用時の本人確認として広く用いられているSMS認証を不正に代行する「SMS認証代行」が確認されているが、これは、サイバー空間における本人確認の手段として広く用いられるSMS認証の信頼性を貶める悪質な行為であるとともに、特殊詐欺等に必要な犯行ツールを提供する犯罪インフラにもなっている。
  • このように、引き続きサイバー空間における脅威が極めて深刻である中、警察庁では、サイバー事案への対処能力を強化し、諸外国と連携した脅威への対処を推進するなどの観点から、令和4年度に警察庁にサイバー局を設置するとともに、一定のサイバー事案について直接捜査を行うサイバー隊を設置する組織改正を検討している
  • 企業・団体等におけるランサムウエア被害の実態(50件の回答)
    • 復旧に要した期間について質問したところ、44件の有効な回答があり、このうち、1週間以内に復旧したものが19件と最も多かったが、復旧に2か月以上要したものもあった。また、ランサムウエア被害に関連して要した調査・復旧費用の総額について質問したところ、39件の有効な回答があり、このうち、1,000万円以上の費用を要したものが15件で、全体の39%を占めている。
    • ランサムウエアの感染経路について質問したところ、31件の有効な回答があり、このうち、VPN機器からの侵入が17件で全体の55%を占め、次いで、リモートデスクトップからの侵入が7件で全体の23%を占めており、テレワーク等の普及を利用して侵入したと考えられるものが全体の8割近くを占めている。
    • 警察では、ダークウェブ上のサイトを分析しており、令和3年上半期において、ランサムウエアによって流出した情報等を掲載しているリークサイトに、日本国内の事業者等の情報が掲載されたことを確認した。掲載されている情報には、財務情報や関係者、消費者等の情報が含まれ、会社の評判を落とすなどといった記載がある。
  • 国外の事例
    1. 米国司法省による北朝鮮ハッカーの起訴
      • 2月、米国司法省は、過去のサイバー攻撃事案に関与したとして、サイバー攻撃集団「Lazarus」に所属する北朝鮮ハッカー3名を起訴したと発表した。起訴内容には、2014年の米国ソニー・ピクチャーズ・エンターテインメントに対するシステム破壊を伴うサイバー攻撃、2015年から2019年にかけて実行されたバングラデシュ中央銀行等に対する金銭窃取を目的としたサイバー攻撃、2017年に世界各国の政府機関、病院、銀行、企業等に被害を発生させたランサムウエア「Wannacry」を用いたサイバー攻撃等が含まれている。
    2. SolarWinds社製ソフトウェアのぜい弱性を利用したサイバー攻撃等に対する制裁
      • 4月、米国は、同国の大手ソフトウェア開発企業SolarWinds社製ソフトウェアのぜい弱性を利用したサイバー攻撃等に関連して、対ロシア制裁を発動する大統領令を発出した。外交官10名の追放、32の団体・個人への制裁対象追加等の措置が発動された。また、当該サイバー攻撃は、ロシア対外情報庁(SVR)を背景とするサイバー攻撃集団「APT29」が実行したと断定している。
    3. 米国石油パイプラインの操業停止
      • 5月、米国石油パイプライン事業者最大手のコロニアル・パイプラインのシステムがランサムウエアに感染したことにより、同社が管理する全てのパイプラインの操業が停止した。これを受けて、米国政府は、当該攻撃がロシアのハッカー集団「DarkSide」によるものであると断定した上、サイバーセキュリティ強化のための大統領令を発出した。
  • 犯罪インフラ化するSMS認証代行に係る対策
    1. SMS認証代行の検挙
      • 専門学校生の男は、令和元年9月、IP電話アプリのアカウント作成に必要な電話番号及びSMS認証コードを他人に譲渡し、アカウントを不正に作出させ、利用者本人の情報が登録されていないアプリを利用可能にした。令和2年7月、男を私電磁的記録不正作出・同供用で検挙した。
    2. 関係団体に対する要請等
      • サービス利用時の本人確認として広く用いられているSMS認証を不正に代行し、第三者に不正にアカウントを取得させる事例が確認されたことから、総務省と連携して、一般社団法人テレコムサービス協会MVNO委員会に対し、契約時の確実な本人確認を要請した。同要請を受け、加盟事業者の自主的な取組として、SMS機能付きデータ通信契約に係る本人確認実施が申し合わされた。また、警察庁では、都道府県警察に対し、SMS認証代行を含む犯罪インフラに関し、法令に違反する悪質事業者に対する取締りの強化を指示した。

経済安全保障の問題が最近クローズアップされています。それにともない、中国など海外への先端技術の流出防止対策を含む安全保障のための科学技術の活用や保護をめぐる重要度が高まっているといえます。あらゆる科学技術は軍民両用(デュアルユース)と認識され、先端技術の海外流出は安全保障上の脅威と位置づけられるのが国際的な潮流となっているのに対し、日本はその脅威認識がいまだ十分ではありません。技術開発をめぐる政府の方針を決める「総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)」の構成メンバーに防衛相が含まれていないこともその一端ですが、デュアルユースを巡る学術界の強い反発も背景にあります。例えば、今やAIはリスク管理や犯罪対策にとってもなくてはならないツール(犯罪抑止インフラ)となっています。民間ではAIを使った万引き防止スキーム(顔認証技術や歩容解析・行動解析技術等の活用)が実用化に向けて取り組みが進んでいますが、前述した警察庁の実証実験だけでなく、京都府警がいち早く導入したビッグデータを使った防犯対策は、盗撮や窃盗事件の摘発につながっているといいます。一方、このAIの軍事利用が加速する状況が見られます(反対派からみれば、AIの犯罪インフラ化の懸念が増している状況といえます)。米国防総省は、軍事システムにおけるAI導入の推進という点で、中国やロシアと競争状態にあり、その目的は、特定任務を果たすために自ら学習する能力を持つ、より高度な自律的システムを生み出すことにあるとされます。ただ、AIに依存することで、コンピューターに由来する判断ミスが起きる可能性が高まり、さらに、ロシアや中国とのあいだでAI軍拡競争が始まることで、グローバルな核の均衡が崩れかねず、核戦争危機における意思決定を加速する可能性すら懸念されるところです。これに対し、米グーグルは、AIの軍事利用を行わない旨、CEOが表明しています。これは、AIを軍事転用することへの社内の懸念が高まり、複数の従業員が抗議して退職したほか、約4,000人の従業員が「戦争のビジネスに参入すべきでない」とするCEO宛ての書簡に署名するなど、社内で批判が高まっていたことを受けてのものです。報道によれば、CEOは、「AIのリーダーとして、我々はAIを正しく使う特別な責務を感じている」として、AI技術を転用しない分野として「人を傷つけることが主目的の兵器」「国際的な規範に反した監視」などを挙げています。日本におけるデュアルユースのあり方については、学術界・産業界・防衛省などで立場の違いがあり、あるべき姿が描けていない状況ですが、すでに先行する国等が存在する以上、その脅威に対抗する必要も否定できません。今後、AIの活用が進むほど、人間の思惑を超えて対立を先鋭化させ、危機を現実化させてしまう可能性が高まっていることなども十分認識する必要があると言えます。

総務省は、携帯電話の契約締結の際に不適切な本人確認があったとして、携帯電話不正利用防止法違反でソフトバンクに是正命令を出しました。同社の元社員が2019年3~9月、不正名義による契約を39件締結、ブローカーとみられる人物から持ち掛けられ、契約に必要な本人確認書類はブローカー側から提供があったというものです。不正な回線が犯罪で使用されたとの事実は確認できていないというものの、詳細は不明です。携帯電話の犯罪インフラ化が指摘されて久しいですが、何らかの形で特殊詐欺などに悪用され、反社会的勢力の活動を助長する形となっていないか危惧されます。

▼総務省 ソフトバンク株式会社による携帯電話不正利用防止法違反に係る是正命令
  • 総務省は、携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律(平成17年法律第31号。以下「法」といいます。)に違反したソフトバンク株式会社(東京都港区)に対し、法第15条第1項の規定により、違反の是正を命じました。
  • 事案の概要及び措置の内容
    • 法は、携帯電話の新規契約等の際に、契約者等の本人確認を行うことを義務付けています。
    • ソフトバンク株式会社は、令和元年3月から同年9月までの間に、39回線の携帯音声通信役務に係る回線契約の締結をする際に、契約者の本人確認を法に規定する方法で行わず、法第3条第1項の規定に違反したものと認められます。
    • このため、総務省は、令和3年9月10日、法第15条第1項の規定に基づき、同社に対して違反の是正を命じました。
    • 総務省は、携帯電話が振り込め詐欺等の犯罪に不正に利用されることを防止するため、引き続き、法の厳正な執行に努めてまいります。
(5)誹謗中傷対策を巡る動向

前回の本コラム(暴排トピックス2021年8月号)で取り上げた「メンタリスト」のDaiGo氏が、動画投稿サイト「ユーチューブ」で、ホームレスの人や生活保護受給者を差別する主張をする動画を載せ、批判を集めた件は、本人が全面的に非を認め謝罪したことで収束に向かいつつあります。しかしながら、この問題は、本人の資質の問題として片づけるのではなく、誹謗中傷や誤情報・偽情報がSNSやインターネット上で蔓延するその背景にまで思いを巡らせることが大事だと考えます。

最近も誹謗中傷の事例が数多く報道されています。いくつか紹介します。

  • 人気アイドルグループ「AKB48」のアルバイトメンバーとしてかつて活動し、今はラーメン店を経営する梅澤愛優香さんが、SNSで繰り返し誹謗中傷を受け、ついに法的措置に出たと報じられています。報道によれば、根拠のない中傷が、単なる嫌がらせから、経営に大きなダメージを受ける事態に発展したためだといい、鎌倉市に10月オープン予定だった店で使う原材料の取引先に、フェイスブックで「(梅澤さんは)人間性に問題のある方」などと、反社会的勢力とのつながりをうかがわせる根拠のないメッセージが送られたことで、取引先から「反社会的勢力と関係がないことがはっきりしなければ取引できない」と伝えられ、出店は白紙になったというものです。誹謗中傷が深刻な被害をもたらす事例も後を絶たない状況ですが、反社リスクの重大さをこのような形で悪用されてしまうことは許されません。
  • 群馬県の山本一自身のツイッター投稿に、昨春以降、同じアカウントの投稿者から「大バカ」「詐欺師」などの書き込みが相次いだため、誹謗中傷のリプライをした人の発信者情報を開示するようツイッター社と携帯電話会社に求める訴訟などを東京地裁に提起して開示が認められ、投稿者から謝罪を受けたと明らかにしています。本コラムでも取り上げましたが、群馬県は、2020年12月にインターネット上の中傷被害者を支援する条例を施行しており、山本知事は「政治家としての批判は構わないが、表現の自由と人格攻撃は異なる」、「悪質な書き込みには断固として立ち向かっていく」、「自らが立ち向かうことで県民への啓発になる。モラルやリテラシーを再認識してほしい」と述べています。なお、知事が提訴することで表現の自由の萎縮を招く恐れがあるとの疑問については、「今回は個人の名誉を傷つける内容。表現の自由は常に尊重している」と述べています。筆者としても、表現の自由は尊重されるべきものとはいえ、一方で他人の尊厳を傷付けることは許されず、表現の結果に一定の責任を負うべきものと考えます。なお、政治家のSNS発信を巡っては、河野行政改革担当相がツイッターで相手の投稿をブロックする機能を多用していることが物議を醸しています。河野氏は誹謗中傷の防止が目的だとし、「礼節を欠いた人の書き込みはお断りをする意味でブロックしている」、「私のアカウントを見に来る方が誹謗中傷も読まなければいけないのは大変申し訳ない」、「インターネットの世界では誹謗中傷がはびこり、自ら命を絶ってしまった方もいる」などと述べています(山本知事は河野氏の行動を「ツイッターのルールなので、ブロックを使うことは正当化できる」と擁護しています)。なお、国会議員の場合はその立場上、「民主主義と表現の自由」のバランスのとり方には大きな課題があることは指摘しておきたいと思います。参考までに、群馬県の「インターネット上の誹謗中傷等の被害者支援等に関する条例」には、以下のよう「前文」が盛り込まれており、共感を覚えます。
インターネットの普及は、私たちの社会に大きな恩恵をもたらしている。人類史上、最大の発明の一つとも言われるこのツールを通じて、人々は世界のどこにいても、容易にコミュニケーションを図ることができるようになった。加えて、インターネットは、誰もが、あらゆる場所で世界とつながり、様々な情報を瞬時に入手することも可能にした。そのことで、一人一人が発信者になれる時代を到来させた。今や、世界中のあらゆるイノベーションは、インターネットの存在抜きには考えられないと言っても過言ではない。しかしながら、社会全体のゲームチェンジャーとなったインターネットにも光と闇がある。例えば、匿名性や不特定多数性等、その特性に由来する誤った情報や嫌がらせによる風評被害、悪口等を言いふらし他人の名誉や感情を傷つける誹謗中傷、プライバシー侵害等が安易に行われ、いじめの温床となる等の問題が世界各地で深刻化している。

インターネットでいったん世界中に発信された情報を消去することは困難である。そのため、インターネットが無かった時代には想像もつかなかった被害が続発している。被害者は、特にインターネット上の誹謗中傷又はプライバシー侵害により心理的、身体的に大きな負担を強いられている。さらには、発信者自身が、意図せず加害者となるような事態も頻発している。

県民の誰もが被害者にも加害者にもなり得るという認識のもと、私たちは、被害者に寄り添い、被害者の視点に立った支援を行うことが不可欠だと考えている。同時に、県民が被害者にも加害者にもならないために、正しくインターネットを活用する知識と能力を身につけることも極めて重要である。今こそ、表現の自由に配慮しつつ、県民をインターネットの負の側面から守るための必要な施策を講じていく必要がある

ここに、インターネット上で発信された情報により傷つけられた被害者への支援に関する基本的施策を明らかにし、展開することにより、県民が被害者にも加害者にもなることなく、自由かつ活発に情報を収集し、発信することができる社会、すなわち、誰もがインターネットの恩恵を享受できる、安全で安心な社会を実現することを目指し、この条例を制定する。

  • 政治家への誹謗中傷としては、ニュース配信サービス「ヤフーニュース」のコメント欄に、大阪府高槻市の北岡市議について事実無根の内容を投稿して中傷したとして、茨木区検が名誉毀損の罪で、同市に住む30代の介護士の男性を略式起訴したという事案もありました。茨木簡裁は、罰金10万円の略式命令を出したということです。具体的な経緯としては、「北岡氏がヤフーニュースに虚偽の内容を書き込まれたのは2018年。「今回の投稿は明らかな嘘。政治活動への影響も出るので見過ごせなかった」と同年11月、代理人弁護士を通じてヤフーに投稿者についての情報開示を求めたヤフーが開示を拒否したため、北岡氏は翌年1月、東京地裁に発信者の開示を求めて提訴。ヤフーは「投稿は北岡氏の社会的評価を低下させるものではない」などと争ったが、令和元年5月に同地裁から開示命令が出された。翌6月に同社から開示された情報には、面識のない男性の名前が記載されていた。北岡氏はこれを元に、同年9月、損害賠償を求めて大阪地裁に提訴。書き込みから約2年がたった令和2年8月、男性と和解し、解決金も支払われたが、北岡氏は「裁判で投稿を正当化する内容ばかり主張され、さらに心は傷ついた」と刑事告訴に踏み切った。」(2021年8月22日付産経新聞)というものです。総務省が委託運営するネット上の書き込みに関する相談窓口「違法・有害情報相談センター」によると、令和2年度に寄せられた相談は5,407件、センターが設立された2010年から約4倍に増加しているといいます。最も多い相談内容は、個人情報を流されたり、名誉を傷つけられたりするものといいます。投稿する側は「軽い気持ち」でしている一方、される側には大きな心理的な負担がかかるものであり、今後の議論で、侮辱罪や名誉棄損罪の法定刑の見直しや、民事上の損害賠償額の見直しが進むことで、安易な投稿の歯止めになることも期待されるところです
  • 愛知県の大村秀章知事へのリコール署名活動をめぐり、美容外科医の高須克弥氏から地方自治法違反容疑で刑事告発されていたジャーナリストの津田大介氏、精神科医の香山リカ氏、映画評論家の町山智浩氏ら4人について、愛知県警が名古屋地検に書類送検していたことが判明、起訴を求めない意見を付けたとみられています。報道(2021年9月9日付朝日新聞)によれば、津田氏は、自身のツイッターで「警察が必要な捜査を終え、検察に関係書類を送ったという意味でしかないので、特にコメントはありませんが、被疑者として捜査の対象になった場合たとえ不起訴になっても『前歴(前科ではない)』が付くので、理不尽だなと思います」と投稿、香山氏は代理人弁護士を通じて「手続き的なことだと理解している。捜査には協力している」とコメント、町山氏は取材に、「(投稿は)不正な署名を戒める意図で、自分が警告したことは間違っていなかったと思いました。今回は起訴されなくても、高須氏による告発は、今後、訴訟する財力を持つ者に対する批判を萎縮させる、明らかな訴権の乱用だと思います」と回答しています。「誰もが被害者にも加害者にもなりうる」こと、訴訟により表現の自由の萎縮効果をもたらしうることなど、考えさせられることも多いといえます。
  • 本コラムでも継続的に取り上げている化粧品会社ディーエイチシー(DHC)のウェブサイトに、在日コリアンを差別する吉田嘉明会長名の文章が掲載されていた問題で、茨城県守谷市は、同社との包括連携協定を凍結すると発表しています。報道によれば、市と同社は2017年、市民の健康増進などで連携する協定を締結してましたが、文章の掲載が問題化した今年5月、同社に公式見解などを求め、応じなければ協定解消を検討すると伝えていたところ、当初は非公表を求めたうえで社印のない回答書が送られてきたものの、複数回のやり取りの末に7月、「不快な思いを与えた方々に深くおわび申し上げます」とする公表可能な回答書が提出されたといいます。市は検討の結果、「会長の発言で傷ついた人がいる」(松丸市長)点を考慮して凍結を決めたということです。サプライチェーンからの人権問題の排除が国際的な要請として強まる中、守谷市の対応は当然のことであり、時代は「それを看過すること自体、問題視される」レベルになっています。
  • NHK広島放送局が昨年、原爆被害を伝えるため運用したツイッターの投稿が差別をあおったと批判された問題を巡り、広島弁護士会は、投稿が在日コリアンに対する差別を誘発したと認定し、発信方法に配慮するよう求める要望書を同局に提出しています。このツイッターは「もし75年前にSNSがあったら」という設定で、1945年8月20日に起こった出来事として投稿した「朝鮮人だ!」「乗客を窓から放り投げた」などの内容が差別扇動だとして市民や被爆者から抗議を受けたものです。同局はその後、投稿を削除しましたが、要望書は、NHKに差別を助長する意図があったとは言えないとする一方、投稿に乗じて在日コリアンを誹謗中傷するコメントが多数発信されたと指摘、「放送事業者の対応として極めて不適切で、結果として差別的行動を誘発、助長した」と結論付けています。
  • 関連して、日本新聞協会は、インターネット上のフェイクニュースなどに関し、検索サイトやSNSを手掛ける「プラットフォーマー」への規制については慎重に検討するよう求める意見を総務省に提出しています。報道によれば、表現の自由に配慮し、「プラットフォーマーによる自主的取り組みで課題解決することが望ましい」としています。前回の本コラム(暴排トピックス2021年8月号)で紹介した総務省「プラットフォームサービスに関する研究会 中間とりまとめ(案)」でも、米IT大手などによる国内の実態把握が進んでいないとして取り組み状況の開示など透明性の確保や、自主的取り組みを前提としつつも、改善されない場合は法的枠組みの導入など行政の関与を求めています。さらに、誹謗中傷の削除基準の共有や、第三者が真偽を確認する「ファクトチェック」の推進などを促す内容ともなっています。また、誹謗中傷の報告水準のばらつきを防ぐため、官民が協力する仕組みの検討も必要としています。本中間とりまとめ(案)から、あらためて重要と思われる内容を以下に紹介します。
  • 平成30年(2018年)1月~令和2年(2020年)10月の期間内に、5,223件の事案が人権侵犯事件として立件された。法務局においては、これらについて当該情報の違法性を判断し、そのうち1,203件について削除要請を実施したところ、プロバイダ等による削除対応率は68.08%であった。さらに、法務省は、投稿の類型別(私事性的画像情報、プライバシー侵害、名誉毀損、破産者情報、識別情報の摘示)の削除要請件数及び削除対応率についても公表を行った。有識者の分析結果によると、2020年4月のネット炎上件数は前年同月比で3.4倍であり、2020年の炎上件数は1,415件となっている。
  • インターネットのような能動的な言論空間では、極端な意見を持つ人の方が多く発信する傾向がみられる。過去1年以内に炎上に参加した人は、約5%であり、1件当たりで推計すると0.0015%(7万人に1人)となっている。書き込む人も、ほとんどの人は炎上1件に1~3回しか書き込まないが、中には50回以上書き込む人もいるなど、ごく少数のさらにごく一部がネット世論を作る傾向が見られるとの指摘がある。
  • また、炎上参加者の肩書き分布に特別な傾向は見られない。書き込む動機は「正義感」(どの炎上でも60~70%程度)となっている。社会的正義ではなく、各々が持っている価値観での正義感で人を裁いており、多くの人は「誹謗中傷を書いている」と気付いていないという分析結果が挙げられた。
  • モニタリングの結果、プラットフォーム事業者の誹謗中傷等への対応に関する透明性・アカウンタビリティ確保状況には差異が見られた
  • 各事業者において、積極的にAIを活用した削除等の取組が進められている。ヤフーは、「Yahoo!ニュースコメント」において2014年から機械学習による不適切投稿への対応を開始した。AIによる検知を通じて、1日平均約29万件の投稿のうち、約2万件の不適切な投稿(記事との関連性の低いコメントや誹謗中傷等の書き込みなど)の削除を実施している。Facebookは、AIを活用して不適切なコンテンツを検出している。AIは、コンテンツレビュアーがレビューするケースに優先順位をつけて、最も有害で時間的な問題のあるコンテンツを最初に処理できるようにしている。Googleは、機械学習を活用して不適切なコンテンツを検出している。
  • 有害なコンテンツのほとんどがシステムによって一度も視聴されずに削除されている。2021年3月の調査結果によると、直近1か月での偽情報への接触率は75%であり、3割程度の人は、偽情報に週1回以上接触している。偽情報を見かけることが多いジャンルは、新型コロナウイルス及びスポーツ・芸能系関連となっている。特に、直近1ヶ月の間での新型コロナウイルス関連の偽情報に接触した層は半数程度であり、拡散経験層は3割弱程度となっている。
  • 偽情報と気づいた割合は、新型コロナウイルス関連が9%だが、国内政治関連は18.8%と、ファクトチェック済みの偽情報でも多くの人が偽情報と気付けていない。情報リテラシー(読解力・国語力)が高い人は偽情報に騙されにくい。他方、ソーシャルメディアやメールへの信頼度が高いと偽情報に騙されやすい。また、マスメディアへの不満や自分の生活への不満が高いと偽情報に騙されやすい(特に、国内政治関連の偽情報)。
  • 偽情報の種類によって有効な行動は大きく異なる。新型コロナウイルス関連では「1次ソースを調べる」「情報発信者の姿勢やトーン、感情を考える」が有効、国内政治関連では「情報の発信主体を確認する」「情報が発信された目的を考える」が有効となっている。また、「ネットで他の情報源を探し、確認する」も全体的に有効となっている。
  • 拡散手段として最も多いのは「家族・友人・知り合いに直接話した」が3%。次いでメッセージアプリが多く、身近な人への拡散が多い。Twitterは3位の4.3%となっている。大量の人に拡散した「スーパースプレッダー」は全体で1%以下しかいないが、拡散数では約95%を占めるなど、ごく一部の拡散者が偽情報拡散の大部分を広めていた。一方、スーパースプレッダーはソーシャルメディアからの訂正情報で考えを変えやすい傾向にある。
  • 上記の中間とりまとめの本編でも紹介されていますが、「ヤフーニュース」のコメント欄は、1日平均32万件超の投稿のうち約2万件が連日削除されているといいます。複数のAIと人力を駆使し、不適切投稿のパトロールとともに、論理的な投稿を上位に表示することで健全化を目指し、技術は同業他社にも無償提供されているといいます。2021年8月21日付産経新聞によれば、同社の責任者は、「世の中で起きていることに対して、立場の違いを超えた他者の意見に触れることで自分の考えやニュースへの理解を深めることができ、社会問題の解決にもつながり得る。多様な声が集まる場所であり続けたい」と意義を述べた上で、「誹謗中傷をゼロにすることは無理でも、最小限に抑えることは可能だと思う」としています。さらには、「表現の自由とのバランスを取りながら、削除は慎重に判断している。自分で変えられない出自や人種、障害などへの侮辱、自殺や犯罪を助長する投稿は厳禁で、利用規約等にも明記しています」としつう、最近は「“諫める系”のコメントに『そう思う』の数が増えている」と自浄作用の出現という喜ばしい傾向も見られるといいます。記事の「誰もが表現の自由を享受できる時代だからこそ、自由には責任が伴い、品性が露呈する怖さを自覚しよう。どんなにAIが進化しようとも、誹謗中傷抑止の要は人間の心の中にある。これも、キレイごとだと批判されるだろうか。」とは正に筆者の主張と同じであり、共感を覚えました。
  • 新型コロナウイルスのワクチン接種と生命保険の支払いをめぐって、SNS上で誤った情報が夏以降広がっているといいます。「ワクチン接種を受けた人が死亡した場合、生命保険が一切おりない」といった投稿で、コロナやワクチンに対する不安感が拡散に拍車をかけている面もあるといわれています。報道によれば、誤情報の代表例は「ワクチン接種後に死亡した男性に死亡保険がおりなかった」とするツイッターの投稿で、9月に投稿され、健康体の52歳の男性が、ワクチン接種後に「心臓起因」で突然死した際、生命保険会社から接種を「薬物の治験」と見なされ、死亡保険金が一切受け取れなかったとしています。そのうえで、「残された家族はどうやって生きていけというのだろう」という投稿主の感想も載せているという状況です。当然ながらこれは誤情報であり、生命保険各社は「事実無根のデマ」として注意を呼びかけています。また、岡山県美咲町で4月下旬にあった新型コロナウイルスのワクチン接種のための予行演習の求人情報が、8月下旬になって「ワクチン接種を促すための演出」といった誤った情報とともにSNS上で飛び交ったといい、背景には、東京都が若者向けに実施した大規模接種の混乱が指摘されています。報道(2021年9月6日付毎日新聞)によれば、「テレビのヤラセ!渋谷の若者ワクチン接種会場!アルバイトエキストラ!時給1400円!」「若者が深夜から行列してたという報道あったけど、それもバイトだな」。若者に接種を促すため、この求人をもとにした“サクラ”だという見方が一部に広まったほか、ワクチンに懐疑的な情報を発信しているサイトでは「こうして行列を作ることで、多くの若者がワクチン接種を望んでいるかのように見せかけて、接種を受けたがらない若者たちの重い腰を上げようとしていることは間違いありません」といった主張に使わるなどしました。これに対して、リスクコミュニケーションの問題に詳しい千葉大の神里達博教授(科学技術社会論)が以下のように述べており参考になります。一部抜粋して引用します。
行政のちぐはぐな対応は人々の不信を招き、陰謀論の温床となります。・・・行政への不信が「何か裏があるはずだ」と思わせてしまった可能性はあります。しかし、これは表層的なことです。陰謀論は世界中で起きていますが、こうしたことが世の中に受け入れられるにはもっと大きな背景があるのです。・・・まずはネットワーク社会の特性です。PV(ページビュー)を稼いだりモノを売りやすくしたりするために、ウェブ上では閲覧者の関心があるものが上位に来る仕組みになっています。考えが近い人がつながりやすい特徴があります。さらにコロナは直接のコミュニケーションを遮断する力を持っています。・・・最も大きな理由は、政治が問題をうまく解決できていないことです。相手が期待したことをやってくれることで信頼が培われます。・・・専門家ですら予測できないこともあり、政治も混乱するのはある意味仕方ない部分もあります。ただ、本来は社会の分断を埋めていくことが役割だった政治が、今では分断を招く形になっていることも問題です。・・・大きな不安の中では、「この人たちが悪い」と言いたくなってしまう。メディアも本当のことを語っていないのでは、と疑われやすい。リアルなコミュニケーションが減った結果、自分が作り上げた狭い視野がどんどん固定化してしまう。それがSNSで共有され拡散される。陰謀論が広がりやすい条件がいくつもそろっているのです。・・・重要なのは情報発信の仕方です。信頼されている人が、自分の言葉で相手に伝わるように語らなければ正しく伝わりません。今のような緊急事態であればなおさらです。こうしたことが解決しない限り、これからも今回のような陰謀論が出てくる余地はあるでしょう。

なお、同じく2021年9月3日付の毎日新聞では、コロナやワクチンに関するツイートを分析した笹原和俊・東京工業大准教授(計算社会科学)が大変参考になりましたので、こちらも一部抜粋して引用します。

ワクチンに反対する層は、政治やメディアへの不信感があり、体制に反対する考えを持つ傾向がありました。反ワクチン派は『メディアが伝えない真実』などと、印象に残る刺激的な言葉で他の人に訴えかけていました」と話す。一方で、「ワクチン推進派は、正しい情報を真面目に発信するので内容に面白みや新しさがなく、中立派の人を引きつけにくい」として、「マーケティングや宣伝の効果と同様で、情報発信してもうまく響かない構造があります」・・・反ワクチン派のツイッターのリプライ(返信)を分析すると、メディアのコロナ関連の発信に批判する返信をしたり、中立派のユーザーに返信したりしている傾向が強かった。「メディアへのリプライは多くの人の目に触れ、自分の主張を宣伝できます。また、中立派に多くリプライすることで、反ワクチンの考えを浸透させる思惑も感じられます」・・・「反ワクチン派の主張の拡散に有効な対策をせずに放置すれば、中立的な層に大きな影響を与えかねない。陰謀論をかたくなに信じる人を説得するよりも、中立的な層に正確な情報を届け続けることが大事です」、「公的な立場から言っても、体制への不信感が強い反対派には響かないとして、「第三者の立場から発信する方が良いと思います」

同じく、誹謗中傷やフェイクニュース、誤情報、差別等に関する海外の報道からいくつか紹介します。

  • 米FBは、新型コロナウイルスワクチンに関する誤った情報を拡散している30以上のページを削除したと発表しています。ホワイトハウスはソーシャルメディア企業に対し、自社のプラットフォーム上で共有されているコロナ関連の情報について管理を強化するよう呼び掛けています。ワクチンを巡る誤った情報が国内の一部で接種が進まない要因になっているとの見方があるためです(この点は、日本の若者の間にワクチン接種に対する否定的な情報や偽情報等が拡散していることで、接種率が伸びない要因となっている状況と重なります)。デジタルヘイト対策センター(CCDH)の最新の報告では、ワクチン反対派のアカウント12件がオンライン上のワクチンに否定的な誤情報の3分の2近くを拡散していることが分かったということです(前述の総務省の中間とりまとめでも指摘されている「大量の人に拡散した「スーパースプレッダー」は全体で1%以下しかいないが、拡散数では約95%を占めるなど、ごく一部の拡散者が偽情報拡散の大部分を広めていた」との分析結果と同じです)。FBは、この報告の集計方法に異議を唱えつつも、同社ポリシーに違反したとして、これらのアカウントを所有する12人に関連する30以上のページやグループ、FBあるいはインスタグラムのアカウントを削除したと発表しています。さらに、これに加え、12人に関連した約20のページ、グループ、アカウントに対してペナルティーを科したことも明らかにしています。
  • 中国共産党の機関紙、人民日報は、インターネットプラットフォーム企業は、ネット上にうわさが広がることを取り締まるべきだとする論説を掲載しています。中国当局はこのところ、テクノロジー企業への規制を強化していますが、報道によれば、新型コロナウイルスの感染拡大の中、ネット上のうわさを抑制することは特に重要だと指摘、感染拡大が続く中「インターネット上のうわさは今までよりも有害であり、インターネットの健全な運営を確保するため、法律に基づき厳しく対処しなければならないと強調しています。その上で「良好なネットワークを構築するため、法執行機関や当局、インターネットプラットフォーム企業などが行動を起こし、協力する必要がある」と主張しています。指摘されている点については、まったくもって同意しますが、その強権発動が中国のやり方で行われるであろう点は危惧されるところです。
  • キューバ政府は、SNSなどの情報通信サービスの利用規制を強化する政令を公布しています。共産党一党独裁の同国では7月、異例の反政府デモが同時多発的に発生、ディアスカネル大統領は、敵対する米国がSNSなどを通じて市民を扇動したと非難していました。報道によれば、政令は「利用者は、電気通信や情報通信サービスを、国の安全や秩序を攻撃したり、フェイクニュースを流布したり、違法行為を犯したりするために使うことを阻止する義務がある」と規定、具体的には、デモ参加の呼び掛けや、反政府的な情報の拡散を防ぐ狙いがあるとみられています。同氏はSNSで「デマやサイバー空間のうそへの対策だ」と説明しています。
(6)その他のトピックス
①中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産(仮想通貨)を巡る動向

本コラムでもその動向を取り上げてきましたが、中米エルサルバドルは、暗号資産「ビットコイン」を世界で初めて法定通貨としました(なお、同国の法定通貨は2001年から米ドルが採用されており、二つ目の通貨として加えられました)。6月に構想を発表したナジブ・ブケレ大統領はツイッターの投稿で、「スターバックスコーヒー」などでの支払いにビットコインが使えるようになったことを何度も紹介、一方、政府が導入した「電子財布(ウォレット)」のアプリが一時ダウンロードできなくなるトラブルが起きたほか、ビットコインの価値は一時、17%も下落しました。8月の世論調査でも、国民の約8割がビットコインについて「信用できない」と答えており、本当に国民に浸透するのか、今後税金や給与の支払いなどに広がるのかなどが注目されます。とはいえ、ビットコインは銀行送金などよりも手数料が低いうえ、(ギャングが暗躍する同国では、米国への移民が後を絶たず、)米国などで働き母国に仕送りする国民が多い同国にとっては利便性が高いといえます(現状の年間の送金手数料は4億ドル(440億円)に達しているといい、この水準を引き下げることで、送金のさらなる流入を狙う意図もあります)。また、低所得者にもスマートフォンは普及している一方で約7割の国民が銀行口座を持たないため、「金融包摂」の観点から金融サービスの利用が広がる可能性も秘めていることは間違いありません。一方で、価格変動リスクが高いうえ、ビットコインの法定通貨採用を巡って、国際通貨基金(IMF)が法案可決直後の6月、「マクロ経済、金融、法律上の多くの問題を抱えている」(報道官)と懸念を表明、世界銀行も声明で「エルサルバドル政府からビットコインに関して支援を求められたが、環境面、透明性の点で欠陥があることを踏まえると、世界銀行として支援できる対象ではない」と表明しています。また、金融関係者の間では、マネー・ローンダリングに使われる可能性を指摘する声も多いうえ、格付け会社ムーディーズも新法の成立後にエルサルバドルの格付けを引き下げ、同国のドル建て国債は売り圧力にさらされるなど、船出から多くの問題を抱えているのも事実です。この点については、「財政上のリスクがある。エルサルバドルの公的債務は国内総生産(GDP)比で約9割に達している。(政府は変動に備えるために)信託基金を設けるが、元手は国民の税金だ。損失が出た場合は国民に跳ね返ってくる。仮想通貨の取引はマネー・ローンダリングや麻薬取引にも用いられる危険性があり、金融システムにとっても心配だ」「低成長が続いている。中南米域内の他国と比べても低い成長率だ。財政が悪化しているために十分な景気刺激策に動けないのが響いている。国内にはギャングによる暴力がはびこっており、外国から直接投資を十分に呼び込めていない。抜け出すのはなかなか難しい」(2021年9月7日付日本経済新聞)という。元中央銀行総裁のカルロス・アセベド氏のコメントは説得力があります。さらに、ジョンズ・ホプキンス大のハンケ氏は「市場が告げているのは、ブケレ氏の独裁的傾向と正気でない暗号資産構想が、通貨の混乱と経済崩壊を招くだろうということだ。米国にとっては、またしても不安定な中米国家が破綻して移民が押し寄せることを意味するだろう」と指摘しており、こちらも大変説得力があります。さらには、そもそも同国のブケレ大統領の権力強化の姿勢も大きなリスクと見做されている点も見逃せません。報道によれば、法廷通貨化前の9月3日、エルサルバドルの最高裁である憲法法廷は大統領の連続再選を可能とする判断を出し、米国から非難を浴びましたが、その数カ月前には、ブケレ氏が属する政党が過半数を握る立法議会が5人の最高裁判事を更迭し、ブケレ派の判事を送り込んでいたことも明らかとなっており、投資家は「市場を本当に揺るがしたのは、(ブケレ氏が)再選されるために制度をねじ曲げたというニュースだ」と指摘しています。このためにエルサルバドル債券のリスクプレミアムは、支払い能力を保っている新興市場のなかで最も高い水準に押し上げられています。中央集権的な強権発動により国民に大きな負担が強いられる可能性も現実味を帯びているといえます。

その他、暗号資産を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 中米エルサルバドルが暗号資産ビットコインを法定通貨とした9月7日、ビットコインは急激な値動きをみせました。8日の取引ではボラティリティは収束したものの、米証券取引委員会(SEC)が暗号資産交換所大手の米コインベース・グローバルを提訴する可能性を示したことで、暗号資産の先行きに困難な道が待ち受けていることが改めて認識されています。コインベースが、ユーザーが暗号資産の融資で金利を稼げる仕組み「レンド」を導入する計画について、計画を実行に移せば提訴するとの通知をSECから受け取ったと明らかにしたもので、これを受け、同社は少なくとも10月までレンドの導入を延期する方針を示しています(レンドは、顧客が同社を通じて、価格が米ドルに連動したステーブルコイン「USDコイン(USDC)」を別の顧客に貸し出し、年4%の利回りを得られる仕組みで、SECはこうした商品が有価証券に該当すると認識、コインベースが認可を取得しないまま取り扱いを始めれば提訴するとしたものです)。
  • ビットコインのボラティリティの高さはあらためて指摘するまでもありませんが、スタンダード・チャータードが新設した暗号資産リサーチ部門は、ビットコインの価値が、来年初めまでに現在の約2倍の10万ドルに達すると予測、中・長期的には最高で175,000ドルに上昇する可能性があるとの見方を示しています。イーサリアムについても、「構造的な」価値は26,000ー35,000ドルだと指摘、ただ、この水準に達するには、ビットコインが175,000ドル近くで取引されている必要があるとしています。レポートでは「ビットコインは、将来のキャッシュレスの世界で、世界中の銀行口座を持たない人々の間で、交換手段として、ピアーツーピア決済方式で主流になる可能性がある」と指摘、「循環的には、今年末から来年初めに10万ドル前後でピークに達すると予想している」としています。エルサルバドルの件もそうですが、筆者としては、「金融包摂」の観点からは可能性は高いものの、安定性・安全性・透明性といた観点からは多くの課題があると考えています
  • メキシコ中央銀行のディアスデレオン総裁は、ビットコインについて、中央銀行が発行する「進化した」不換紙幣というよりは物々交換の手段に近く、リスクの高い投資で、価値を維持する能力に乏しいという認識を示しています。メキシコでは、エルサルバドルのような動きに追随しない可能性を示唆したものといえます。報道によれば、同総裁は「ビットコインは日常使われる法定通貨ではなく、貴金属のカテゴリーに近い」とし、暗号通貨が通貨とみなされるためには、信頼された決済手段となる必要があるほか、価値を維持する必要があると指摘しています。
  • 一方、キューバ政府は、「社会経済上の利益のため」暗号資産の使用を認め、支払いに関連するサービス事業者に免許を与え、規制対象とすると発表しています。共産主義国のキューバは米国の制裁下にあり、国際銀行制度を介した決済が複雑になっているという事情があり、暗号資産の利用でこうした制裁を迂回できる可能性が考えられます(というより、すでに米国の制裁を迂回する方法として、暗号資産が一部で利用されています)。中南米諸国では暗号資産の利用が拡大、前述したエルサルバドル以外でも、ホンジュラスでは、暗号資産のATMが登場したほか、インフレが進むアルゼンチンやベネズエラでも、暗号資産への関心が高まっている状況といいます。
  • ビットコイン、イーサリアムや他の暗号資産を特定する識別子が9月に導入されるといいます。暗号資産をどのようにして監視するかが関係当局にとっては大きな懸念事項になりつつあり、4月に時価総額が過去最高の2兆ドルに達するなど、膨張しつつあるこの市場は急激な変動を経験、中央銀行は投資家が無一文になる可能性を警告しています。株式や金融派生商品(デリバティブ)には既に固有の識別番号があり、当局や市場参加者が取引のリスクを識別、追跡、数値化できるようになっています。専門家は暗号資産セクターの規模が拡大するにつれ、これをより追跡しやすくする識別手段が当局と市場にとって必要になると指摘しています。急成長中で、規制の網がかかっていない暗号資産市場が、主流の投資手法の特徴を取り入れようとする動きが本格化しているといえます。
  • 英金融行動監視機構(FCA)は、暗号資産の監督体制確立には慎重な検討を要すると指摘しています。英財務省はすでに、一部暗号資産の販売促進に規制が必要か、意見を公募していますが、ランデル長官は、当局が対応権限を持つべき根拠が2つあり、暗号資産の販促に起因する害を減らすことと、認可業者でのデジタルトークンを巡る監督対象でない行為が波及するのを防ぐことを挙げています。バーゼル銀行監督委員会(バーゼル委)は、暗号資産を銀行が保有する場合、損失が出た際に全額を補填できる十分な資本を有するべきとして規制案を示しています。前回の本コラム(暴排トピックス2021年8月号)でも取り上げましたが、FCAはすでに、暗号資産交換所バイナンスについて、適切な監督を受けていないとして、英国で規制対象の取引を行うことを禁じ、複数の要件を提示しています。それに対し、バイナンスは、FCAの要件を全面的に順守すると表明しています。さてそのバイナンスの関係では、英ロンドンの高裁が、バイナンスに対し、ユーザーがハッキングにより260万ドル相当の被害を受けたことをめぐり、ハッカーの特定と口座の凍結を命じています。報道によれば、高裁判事は、バイナンスにハッカーの特定、追跡、資産の差し押さえを行うよう求めたAI企業フェッチAIの訴えを承認、被害は比較的小規模だが、バイナンス関連では初めて公になった事件で、英国の司法システムが暗号資産プラットフォーム上での詐欺に対処できるかどうかをめぐる試金石となるとされます。
  • ビットコインの時価総額が一時100兆円を超えるなど、既存の金融システムの脅威になり得る存在は次第に大きくなっている半面、当局などによる包囲網も狭まっています。2021年8月18日付日本経済新聞電子において、米ボストン連銀のローゼングレン総裁は、暗号資産のデザー(USDT)について、「短期金融市場の新たな破壊者だ」と批判しています。法定通貨などとの連動をうたって価値を安定させる「ステーブルコイン」の代表格であるテザーは1米ドル=1USDTになるように運用されていますが、価値の裏付けは発行元のテザー社が持つ米ドル資産となっています。ところが、同社が5月に公表した保有資産は、3月末時点で現金や受託預金の割合が2割のみでコマーシャルペーパーが5割を占めており、ローゼングレン総裁は「リスクが高い資産が入っている」として批判につながったものと推測されます。確かにその指摘はそのとおりであり、本当に「ステーブル」なのかは甚だ疑問であり、(政府の後ろ立てをもたない)民間デジタル通貨のあり方はかなり難しい問題を内包していることが分かります。
  • 暗号資産取引所のリキッドは、ハッカー攻撃を受けたことを明らかにしています。被害総額は推定9,400万ドル以上とされ、同社はツイッターに「#LiquidGlobalホットウォレットが不正なアクセスを受けたため、コールドウォレットに資産を移している」と投稿、暗号資産の入出庫を停止したことを明らかにしました。資産の移動先を追跡しており、資金の凍結・回収のため、他の取引所と協力しているとも表明しました。ホットウォレットは、常にオンラインに接続されており、ユーザーが容易に暗号資産にアクセスできる一方、コールドウォレットは、オンラインに接続されておらず、通常は安全性が高いことは常識であり、日本の規制ではコールドウォレットでの管理が求められています。一方、分散型金融(Defi)を手掛けるポリ・ネットワーク、不正流出した約6億1,000万ドル分の暗号資産のほぼ全額がハッカーから返還されたと明らかにしています。

次に日本における暗号資産を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 暗号資産の交換事業を無登録で行ったとして、警視庁は、暗号資産「ワールドフレンドシップコイン」(WFC)を発行する「インバウンドプラス」(WFCに社名変更)元代表と、同社幹部ら計7人を資金決済法違反容疑で逮捕しています。WFCを購入したものの、現金化できなかった顧客が多かったといい、警視庁が事業実態を調べているといいます。報道によれば、7人は2018年11月~19年2月頃、金融庁に登録しないまま、50~70歳代の顧客の男女6人にWFCを販売した疑いがもたれています。同社は2018年頃、WFCの発行を開始し、各地で投資セミナーを開催、参加者によると、「会長」と呼ばれる元代表が、「中国の国営企業がWFCを決済に使う」「西アフリカで採掘したダイヤモンドを担保にしている」などと言って勧誘していたといい、また、投資関連会社「テキシアジャパンホールディングス」に投資した金が戻らなくなった投資家に対して、資金の穴埋めとして、WFCを提供していたともされます。WFCは、香港など海外の一部の交換所では実際に取引されていましたが、国内では現金化できないケースが相次ぎ、警視庁が今年1月、関係先を捜索して捜査していたものです。
  • 暗号資産や中央銀行のデジタル通貨など金融の技術革新が加速する中、金融庁は利用者を保護するため、規制の在り方について検討を始めています。7月には有識者研究会を新設、暗号資産をめぐっては、巨額の流出事案が発生したことを受け、金融庁は2019年の法改正で利用者の資産をより安全な方法で管理することを業者に義務付けるなど規制を強化しています。しかしながら、価格の不安定さに加え、マネー・ローンダリングへの対応が不十分とされ、一段の対策が急務となっている状況です。
  • 帝国データバンクと東京商工リサーチは、暗号資産関連の事業を手がけていたデジポケ社が、東京地裁から8月27日に自己破産手続きの開始決定を受けたと発表しています。負債は約101億円、債権者は約2,000人とみられるといいます。報道によれば、同社は2016年に設立され、暗号資産の預かりサービス(ウォレット事業)を展開、その後の資金決済法改正で事業を継続するには金融庁の許認可が必要となったところ、取れるめどが立たず、顧客から預かっていた暗号資産も返還できなくなったということです。
  • 暗号資産の取引を仲介する米交換所大手コインベース・グローバルの日本法が国内市場に参入し、取引を開始しています。日本法人の北澤社長は「暗号資産が安心安全に取引できるという認知度を広げたい」と話したといいます。コインベースによると、ビットコインのほかにもイーサリアムなどの代表的な暗号資産を取り扱うとし。同社は顧客からの注文に応じて暗号資産を提供、換金する業務を担うものです。2018年から準備を進めており、今年6月に登録が完了したということです。

中央銀行デジタル通貨(CBDC)について、最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 中国人民銀行(中央銀行)副総裁は、北京五輪組織委員会や選手村の決済を担う中国銀行の責任者に檄を飛ばし、デジタル人民元事業を強力に推進する姿勢を示したといいます。報道によれば、選手村や競技会場で外国人選手らも含めてデジタル人民元で買い物をできるようにする予定で、北京五輪はデジタル人民元を海外にお披露目する場となります。人民銀行は現地での実験を経て、2022年にも正式に発行する方針だといいます(7月に公表された中国人民銀行の中国デジタル人民元の研究開発進展白書によれば、2019年末から広東省深せん市や江蘇省蘇州市など5地域で実証実験を展開。2020年11月には上海市や海南省(海南島)など6地域を追加、デジタル人民元は飲食店や交通機関、買い物、公共料金の支払いなどに使われ、6月末までの実績は累計取引回数7,075万回、支払額約345億元(約5,900億円)に達したといいます)。本コラムで指摘してきたとおり、中央銀行が関与しないところで暗号資産の取引が膨らめば、これまで中央銀行が築いてきた金融システムが崩れかねないほか、マネー・ローンダリングなどに悪用される危うさも孕んでいます。デジタル人民元では資金の流れが透明化されマネー・ローンダリングのリスクを抑えられるほか、購買データ等のビッグデータがあらゆる施策に活用されることになりそうです。一方、米国のCBDCに対するスタンスは慎重ですが、米証券取引委員会(SEC)委員長は、暗号資産の現状を「西部開拓時代の無法地帯」と表現し、規制を整備すべきだとの考えを示しています。米連邦準備理事会(FRB)は、9月にもデジタル通貨に関する報告書を公表する予定であり(とはいえ、FRB内部では意見が割れています)、米当局は中国だけでなく、暗号資産や先行する民間のデジタル通貨にも目を光らせている状況です。
  • タイ中央銀行は、一般利用型のCBDCについて、2022年第2・四半期に一般向けの試験運用を行う方針を示しています。代替的な決済手段とする方向で、金融政策やマネーサプライに悪影響はないということです。
  • 中米ホンジュラスとグアテマラの中央銀行当局者は、CBDCを通した方法を含め、デジタル通貨を経済に導入することについて検証していると明らかにしています。ホンジュラス中央銀行のセラト総裁は、独自のデジタル通貨、もしくはCBDCの発行について、実証実験を実施するか検討を始めたと表明、グアテマラ中央銀行のブランコ副総裁は、「アイ・ケツァル(iQuetzal)」という名称のデジタル通貨発行の可能性について検証していると明らかにしています。
  • オーストラリア、シンガポール、マレーシア、南アフリカの中央銀行は、異なるCBDCを用いた国際間決済に関する試験を行うと発表しています。国際決済銀行(BIS)が主導し、より簡単かつ低コストで決済ができないか調査するというものです。複数のCBDCを用いた国際間決済のための共有プラットフォームのモデルをつくることが今回のプロジェクトの狙いで、こうしたプラットフォームを利用することにより、金融機関同士でCBDCを用いて直接決済することが可能になり、決済にかかる時間とコストを削減できるといいます。
②IRカジノ/依存症を巡る動向

カジノを中核とする統合型リゾート(IR)を巡り、、IR担当の内閣府副大臣時に贈賄側から現金提供や旅費負担を受けた収賄罪と、贈賄側に対し現金を提供して証言を覆すよう依頼した組織犯罪処罰法違反(証人等買収)罪の2つの罪に問われていた、衆院議員の秋元司被告が、東京地裁から懲役4年、追徴金約758万円(求刑・懲役5年、追徴金約758万円)の実刑判決を言い渡されました。IRを巡る汚職事件で逮捕・起訴された現職国会議員が、保釈中に贈賄側の証人を買収しようとしたとして、再び逮捕・起訴されるという異例の経過をたどった事件ですが、報道によれば、東京地裁は、「至れり尽くせりの接待を受けた」などと指摘し、立法に関する情報提供があったと判断、そのうえで「IR事業を所管する中央官庁の要職にありながら自覚を著しく欠き、特定企業と癒着し、職務の公正と社会一般の信頼を大きく損なった」、「重要な公職にありながら賄賂を受け取り、露骨な司法妨害に及んだ。被告には最低限の順法精神すら欠如している」などと厳しく指摘しています。ただし、「殊更に賄賂を求めたわけでなく、贈賄側のIR事業参入に特段の成果をもたらした形跡もない」と酌むべき事情を挙げ、「収賄に限っていえば刑の執行猶予を選ぶ余地が残されていた」ともしています。そして、実刑の決め手は結局、「証人等買収」という罰則規定だったということになります。本コラムでも紹介しましたが、マフィアやテロ組織の捜査で各国が協力する条約(国際組織犯罪防止条約・TOC条約)の締結に向け、司法の妨害行為を取り締まる法整備の必要性から、2017年施行の改正組織犯罪処罰法で新設されたもので、本来は、暴力団などの偽証工作を想定していたところ、初めて立件されたのは国会議員の事件という衝撃的なものとなりました。具体的には、2017年9月の衆院解散当日の現金300万円の授受については、元顧問2人の「議員会館で秋元議員に現金を渡した」との証言が、2人が残していた金額を記したメモなどの客観証拠とよく整合し、「十分に信用できる」と評価、「授受の場にいなかった」とする弁護側の主張を退けたほか、証人等買収は、買収資金の札束の帯封に秋元議員の指紋が残されていたことから「資金の一部を自ら準備し、買収を主導した」と認定、「収賄だけなら執行猶予の余地があったが、贈賄側の買収という前代未聞の司法妨害に及んだ。実刑は免れない」と結論付けたものです。なお、現金の授受を巡る検察側および弁護側のそれぞれの主張については、2021年9月5日付時事通信の記事がコンパクトにまとまっており、一部抜粋して引用します。

検察側は、衆院解散当日の2017年9月28日午後1時半ごろ、議員会館の事務所で秋元被告が中国企業の元顧問2人と会い、現金300万円を受け取ったと指摘。根拠は元顧問の証言や、当日の2人のメッセージのやりとりだ。一方、弁護側は公設秘書が管理していた当時の日程表に面会の記載がないことや、秋元被告のスマホに内蔵された時刻ごとの歩数を計測する健康管理アプリの記録に着目。アプリは同日午後1時40分ごろから約40分間、計測されずに止まっていた。弁護側の説明では、秋元被告は議員会館に立ち寄らず午後1時40分ごろ国土交通省の副大臣室に着き、スマホを机の上に置いた。アプリの記録はこの行程と整合しており、検察側の主張通り議員会館で面会後、午後2時前後に国交省に着いたならアプリは作動しているはずだと主張。「虚構であるがゆえに客観証拠との矛盾が露呈した」としている。これに対し検察側は、アプリは秋元被告が歩いていたはずの時間帯に止まっていたこともあるとして記録の正確性に疑問を呈し、「証拠価値を見いだすことは到底できない」と主張。日程表もあくまで予定を記載したもので、面会がなかったとは言えないと反論した。

なお、報道によれば、秋元被告は、この1審判決について「『秋元は悪である』という結論ありきで、到底承服できない」と批判し、改めて無罪を主張、判決後に身柄を拘束されたものの、1億円の保釈保証金を納付し、東京拘置所から保釈されています。被告側は判決当日に控訴しており、秋元被告は会見で「高裁では先入観なしに証拠関係をみてほしい」と述べ、次期衆院選に東京15区から出馬する意向も改めて表明しています。

さて、本コラムでも注目していた横浜市長選挙は、IR反対派の山中氏が推進派の林氏を破る結果となりました。早速、山中新市長は、先日開会した市議会で所信表明演説し「反対する声にしっかりと応え、誘致の撤回を宣言します」とIR誘致撤回を正式表明しました。山中新市長は既に、誘致に関する市の専門部署「IR推進室」の機能停止や、有識者による事業者選定の委員会を中止する考えを示しています。これに対して、大阪府の吉村知事は、「大阪には影響がない。横浜の動向にかかわらず世界最高水準のIRを実現させたい」とあらためて意欲を示しています(大阪府と大阪市が進めるIRには、米カジノ大手MGMリゾーツ・インターナショナルとオリックスの共同事業体が応募しており、今月中に事業者として選定される見通しです)。なお、大阪商工会議所は、新型コロナウイルスの感染拡大で壊滅的な打撃を受けた大阪の観光産業の早期回復に向けた要望書をまとめ、大阪府知事、市長に提出していますが、旅行者の新たなニーズを把握するための調査や、IR誘致に加え、2025年開催の大阪・関西万博を視野に、観光産業を担う人材育成などを盛り込んでいます。

このように、IRを巡っては、現職の国会議員が有罪判決を受けたこと、横浜市の撤退表明に加え、IR推進の旗振り役だった菅首相の退陣など逆風が相次いでおり、今後の動向にどのような影響が及ぶのか気になるところです。そして、最大の逆風は依然として猛威を振るう新型コロナウイルスであることも間違いありません。現状では、横浜市の撤退で名乗りをあげる大阪・和歌山・長崎の3地域には「追い風」にもみえますが、IR反対の民意が示されたことに加え、新型コロナウイルスの感染拡大は事業推進のブレーキになり得るためで、一部の投資計画には実現可能性を疑問視する声も根強くあります。とはいえ、大型投資が見込める点は魅力的でもあり、地元に大きな経済効果が期待できることから、申請準備を現在進めている自治体の首長は前向きな姿勢を崩しておらず、今年10月~来年4月、自治体からの整備計画申請を受け付け、最大3か所を選定する作業プロセスに基づき準備を進めています。なお、東京都など今も態度を明らかにしていない自治体もあるうえ、西日本に集中する結果となったことで、今回の選定で3か所を一気に決めてしまうかどうかの判断自体も含め、政府の判断に影響を及ぼす可能性も出てきたともいえます(東京都など他の自治体においては、この状況下でIR誘致に手を挙げるだけの大義名分を探すのは難しい状況だといえます)。さらに、前述の汚職事件の判決では、「(IR事業について)職務の公正および社会一般の信頼を大きく損なった」と指摘、今後、社会のカジノに対する不安感や嫌悪感などネガティブな側面が増幅していけば、誘致表明済みの自治体でも反対の声が強まりかねないおそれがあります。

長崎県のIR誘致については、オーストリア国有企業傘下の「カジノオーストリアインターナショナルジャパン」を事業予定者に決めたと発表されています。報道によれば、開業総事業費は3,500億円で、年間840万人の集客を見込んでいます。2024年後半の開業を目指しており、すでに長崎県は8月30日に同社と基本協定を締結、県と同社は区域整備計画を作成し、2022年4月までに国に申請する流れとなっています。中村知事は「伝統的で高級感があり、ハウステンボスの景観とも調和した世界最高水準のIR実現を目指す内容」と評価、事業者選定を巡っては、同社が優先交渉権者に選ばれていますが、審査に落選した事業者が「選考過程が不透明」などとして審査のやり直しを求める要望書を県に提出、県は「募集要項にのっとり、公平公正に審査した」と応じる事態にもなっています。

また、和歌山県は、県内に誘致を進めているIRの運営事業者として選定したカナダのクレアベスト・グループと8月25日に、今後、共同して作成する区域整備計画の費用分担などの諸手続きについて定めた基本協定を結んでいます。県は6月、クレアベスト・グループを優先権者候補として選定し、和歌山市と県公安委員会との協議を踏まえ、正式な優先権者としていました。今回の基本協定を受け、クレアベスト側は和歌山市内に事務所を開設し、国への申請期限である2022年4月28日までに県と区域整備計画を作成することとなります。

一方、東京都の小池知事は、IRの誘致を巡り、「検討作業については休止している」と述べています。報道によれば、「可及的速やかに行うべき新型コロナウイルス対策と、恒常的なもので少し人数を減らしながらやっていくなど(業務の)仕分けをしているところだ」としてコロナ対応を優先していると強調しています。小池都知事はこれまでIR誘致について「メリット、デメリット両面がある。総合的に検討する」との見解を示しており、「基本的に(これまでと)変わっていない」と話しています。なお、各種報道によれば、都の関係者からは、「都民の理解を得られない。(高速通信規格の)5G環境を整備することの方が重要」、(カジノを誘致している都市がアジアに多いことを挙げ)「ニューヨークやロンドンにはカジノがない。東京のような都市には必要ない」、「いま、東京都がIRに手を挙げるメリットも可能性も限りなくゼロに近い」、「コロナがこの状況ではやれるわけがない。経済浮揚になるとアピールしたとしても都民が賛成するわけがない」、「誘致を検討はしているが、コロナ情勢もあり今後の作業は見送るべきだと考えている」といった声が多いようです。

厚生労働省は、ギャンブル依存症の実態調査の結果を公表しました。依存が疑われる人は2・2%程度おり、ギャンブルで問題を持つ人は決して少なくないことを踏まえ、国の対策を考えるべきことが明らかとなっています。

▼ギャンブル障害およびギャンブル関連問題の実態調査報告書 概要
  1. 調査A「ギャンブル等依存および関連する問題についての全国住民調査」
    1. 国民のギャンブル等行動
      • 過去1年間のギャンブル等経験率男性1,781人(45.0%)、女性978人(22.9%)
      • 過去1年間にギャンブル等に使った金額(1か月あたり)中央値1万円
      • 過去1年間に最もお金をつかったギャンブル等の種類は宝くじが最多(総数2,556人中1,315人)、パチンコ(同404人)が次に多い
    2. 過去1年におけるギャンブル等依存が疑われる者(SOGS5点以上)の割合とそのギャンブル行動
      • 過去1年におけるギャンブル等依存が疑われる者(SOGS5点以上)の割合〔年齢調整後〕:全体2.2%(95%信頼区間1.9~2.5%)、男性3.7%(95%信頼区間3.2~4.4%)、女性0.7%(95%信頼区間0.4~1.0%)
      • 過去1年間にギャンブル等に使った金額(1か月あたり)中央値5万円
      • 過去1年間に最もお金を使ったギャンブル等の種類は、男性ではパチスロ(35.4%)、パチンコ(34.6%)、競馬(12.3%)の順、女性ではパチンコ(60.0%)、パチスロ(16.0%)、宝くじ(ロト・ナンバーズ等含む)(16.0%)の順で割合が高い
    3. 家族や重要な他者のギャンブル問題とその影響
      • 家族や重要な他者の中に、ギャンブル問題がある(あった)と回答したのは、全体の14.4%(男性:10.5%、女性18.1%)。問題の当事者との関係は、男性では「父親」5.4%、「兄弟姉妹」2.2%の順で、女性では「父親」6.7%、「配偶者」6.1%、「恋人・交際相手」2.6%の順で高かった。
      • 受けた影響について男女を比較すると、女性の方が「浪費、借金による経済的困難が生じた」「ギャンブル等をやめられない人に怒りを感じた」「家庭不和・別居・離婚を経験した」と回答した割合が有意に高かった。
    4. 「ギャンブル等依存が疑われる者」における「ギャンブル関連問題(多重債務、貧困、虐待、自殺、犯罪等)」との関連性
      • K6(うつ、不安のスクリーニングテスト)を用いて比較したところ、ギャンブル等依存が疑われる者(SOGS5点以上)は、5点未満の者より有意に抑うつ・不安が強いことが示された。また、これまでの希死念慮(自殺したいと考えたこと)や自殺企図の経験割合等についても、SOGS5点以上の者で高かった。
    5. ギャンブル等依存症対策の認知度
      • ギャンブル等依存症対策に関して、「知っている」との回答は、「パチンコ・パチスロの入店制限」は7.6%、「競馬・競輪・競艇・オートレースの入場制限」は5.8%、「金融機関からの貸付制限」が11.1%と低い割合であった。SOGS5点以上の回答者では、それぞれ
      • 25.0%、16.0%、19.6%とギャンブル問題がない者と比較して、認知度が高かった。
    6. 依存症への考え方
      • 病気になったのは「本人の責任である」と思う人の割合(「そう思う」、「強くそう思う」の合計)は、ギャンブル等依存症で72.6%と他の精神疾患(うつ病8.9%、アルコール依存症60.7%)、身体疾患(がん3.6%、糖尿病28.5%)と比べて高かった。
    7. ギャンブル等依存とコロナ禍におけるインターネットを使ったギャンブル等
      • 新型コロナウイルス感染症拡大前(令和2年1月時点)と比較し、インターネットを使ったギャンブルの利用が増えた(「する機会が増えた」との回答)は、SOGS5点未満の者では2.2%であったのに対し、SOGS5点以上の者では7.3%であった。
  2. 調査B「ギャンブル問題で相談機関や自助グループを利用する者の実態調査」
    1. 当事者の回答
      • 相談や援助を求めた経験は、公的相談機関の訪問者では「医療機関の受診」が最多(49.6%)で、次いで「自助グループ」(41.6%)、公的な相談機関(34.5%)、自助グループ有志では、自助グループ(75.3%)、次いで、「医療機関の受診」(58.0%)、「法律の専門家」(30.2%)の利用が多かった。
      • 過去1年間で最もお金を使ったギャンブルは、公的相談機関の来訪者、自助グループ参加者ともに、パチスロ、パチンコ、競馬の順で多い。
      • ギャンブルの問題に気付いてから自助グループに参加するまでの期間 【公的相談機関の来訪者】平均47.6か月【自助グループ利用者】平均63.1か月
    2. 家族の回答
      • 当事者のギャンブル問題に気付いてから自助グループや家族会等につながるまでの期間 【公的相談機関の来訪者】平均58.2か月【家族向け自助グループ利用者】平均55.5か月
      • 当事者のギャンブル問題から受けた影響 「借金の肩代わりをした」の割合が最も高かった(公的相談機関の来訪者63.9%,、自助グループ利用者77.8%)。次いで、「ギャンブルをやめられない人に怒りを感じた」、「浪費、借金による経済的困難が生じた」の割合が高かった
    3. 当事者における関連問題
      • 相談機関に来所した当事者を依存の種類によって、3つのグループ(ギャンブル依存群(64名)、クロスアディクション群(7名)、物質依存群(38名)に分類して、ギャンブル関連問題を比較した。
      • 「抑うつ・不安の問題を持つ者」および「希死念慮の経験がある者の割合は、3群で同程度であったが、「自殺企図」「子どもへの虐待経験」では、ギャンブル依存群は他の依存群より低かった。また、「触法行為を含む問題行為」の経験は、ギャンブル依存群では、家族や知人のカードを勝手に使った(31.7%)、会社のお金を横領した(22.2%)といった行為の割合が、物質依存群に比べて高かった。
  3. 調査C「ギャンブル関連問題に対応する相談機関の実態調査」
    1. ギャンブルの実施状況の確認
      • 全体の64.2%が「相談内容次第で状況確認」を行っている。関連問題の分野別に見た場合、「相談者全員に状況確認」を行っている割合が高いのは、「自殺」「多重債務」に係る相談機関(12.0%、10.3%)。
    2. ギャンブル問題が関与する相談の対応経験・紹介先
      • 「虐待」に係る相談機関で56.3%、「貧困」「多重債務」「自殺」に係る相談機関で7割以上で、ギャンブル問題が関与する相談に対応経験がある。
      • 相談事例があった場合の紹介先は、医療機関が40.6%で最多、次いで、精神保健福祉センターが38.2%、自助グループが35.2%。
  4. 全体のまとめと考察
    1. 全国住民調査の結果【調査A】
      • 過去1年間にギャンブル等の経験があるのは、男性の45.0%、女性の22.9%であり、SOGS5点以上でギャンブル問題が疑われるのは、男性の3.7%、女性の0.7%、全体の2.2%であった。
      • ギャンブル等依存が疑われるSOGS高得点の者では、5点未満の者と比べて、うつ・不安傾向が強く、希死念慮や自殺企図が多く、喫煙率や小児期逆境体験を有する者の割合が高かった(ただし、交絡因子の影響は調べておらず、有意とは断定できず)。ギャンブル問題への対策を検討する際、関連問題に対しても配慮が必要。
      • ギャンブル等依存症に対しては、他の疾患と比べて、病気になるのは本人の責任と考える者の割合が高かった。依存症は誰でもなり得る病気であるという正しい知識の更なる普及啓発が必要である。
      • SOGS5点以上でギャンブル等依存症が疑われる者では、コロナ禍でインターネットによるギャンブル等をする機会が増えた者が多い傾向が示唆された。これより、インターネットによるギャンブル等とギャンブル等依存症の関連について、今後より詳細な検証が必要である。
    2. ギャンブル問題で相談機関や自助グループを利用する者の実態調査【調査B】
      • 自助グループ利用者が問題に気付いてから自助グループに参加するまでの期間は、平均63.1か月、中央値は36か月と長期に及んでおり、より早期に参加できる環境作りが必要である。
      • 公的相談機関を訪れた当事者の依存対象を、ギャンブル等のみ、薬物・アルコールのみ、ギャンブル等と他の依存の合併に分けてギャンブル関連問題を比較したところ、抑うつ・不安、希死念慮・自殺企図、小児期逆境体験は、いずれの依存にも共通して、住民調査結果より高い割合で認められた。
      • 家族がギャンブル問題のある当事者から受けた影響は、公的相談機関、自助グループの利用者とも「借金の肩代わり」が最多で、「経済的困難」、「当事者への怒り」が過半数であった。
      • 家族が当事者のギャンブル問題に気づいてから相談機関や、自助グループを利用するまでの期間は、公的相談機関来訪者:平均58.2か月、自助グループ利用者:平均55.5か月と約5年が経過していた。より早期の介入が望まれる。
    3. ギャンブル関連問題に対応する相談機関の実態調査【調査C】
      • 多重債務、貧困、虐待、自殺といったギャンブル等に関連する問題の相談機関を対象として調査を行ったところ、回答した施設の64.2%が「相談内容によってギャンブル等の有無を確認している」と回答した。「ギャンブル問題が関与する相談の対応経験」は、児童相談所以外の機関ではいずれも過半数に経験があり、多くの機関でギャンブル問題に対応していることが明らかとなった。
      • 今後、関連問題を調査する際には、調査手法を含めた更なる検討が必要
③犯罪統計資料

令和3年1~7月の犯罪統計資料(警察庁)について紹介します。

▼警察庁 犯罪統計資料(令和3年1~7月分)

令和3年1~7月の刑法犯総数について、認知件数325,389件(前年同期357,190件、前年同期比▲8.9%)、検挙件数は150,248件(158,991件、▲5.5%)、検挙率は46.2%(44.5%、+1.7P)と、認知件数・検挙件数ともに減少傾向が継続している点が特徴です。なお、刑法犯全体の7割を占める窃盗犯の認知件数は218,220件(244,109件、▲10.6%)、検挙件数は92,105件(98,649件、▲6.6%)、検挙率は42.2%(40.4%、+1.8P)、うち万引きの認知件数は51,467件(50,259件、+2.4%)、検挙件数は37,101件(36,527件、+1.6%)、検挙率は72.1%(72.7%、▲0.6%)、知能犯の認知件数は20,085件(19,085件、+5.2%)、検挙件数は10,418件(9,790件、+6.4%)、検挙率は51.9%(51.3%、+0.6P)、詐欺の認知件数は18,277件(17,052件、+7.2%)、検挙件数は8,936件(8,273件、+8.0%)、検挙率は48.9%(48.5%、+0.4P)などとなっています。刑法犯全体の認知件数・検挙件数が減少傾向の中、万引きと知能犯、詐欺については増加傾向にあり、注意が必要な状況です。

また、特別法犯総数については、検挙件数は39,632件(39,001件、+1.6%)、検挙人員は32,609件(32,957件、▲1.1%)と昨年は検挙件数・検挙人員ともに微減となったものの、検挙件数についてはわずかながら増加傾向を示している点が特徴的です。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は2,564件(3,092件、▲17.1%)、検挙人員は1,872人(2,234人、▲16.2%)、軽犯罪法違反の検挙件数は3,994件(3,092件、+9.3%)、検挙人員は3,989人(3,602人、+10.7%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は3,887件(3,428件、+13.4%)、検挙人員は3,065人(2,885人、+6.2%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は1,148件(1,327件、▲13.5%)、検挙人員は936人(1,096人、▲14.6%)、不正アクセス禁止法違反の検挙件数は146件(235件、▲37.9%)、検挙人員は53人(56人、▲5.4%)、不正競争防止法違反の検挙件数は41件(33件、+24.2%)、検挙人員は42人(41人、+2.4%)、銃刀法違反の検挙件数は2,411件(2,473件、▲2.5%)、検挙人員は2,108人(2,174人、▲3.0%)、廃棄物処理法違反の検挙件数は3,695件(3,497件、+5.7%)、検挙人員は4,019人(3,872人、+3.8%)などとなっています。減少傾向にある犯罪類型が多い中、迷惑防止条例違反や廃棄物処理法違反が増加傾向にある点が気になります。また、薬物関係では、麻薬等取締法違反の検挙件数は460件(515件、▲10.7%)、検挙人員は267人(261人、+2.3%)、大麻取締法違反の検挙件数は3,691件(3,123件、+18.2%)、検挙人員は2,922人(2,623人、+11.4%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は6,281件(6,344件、▲1.0%)、検挙人員は4,222人(4,411人、▲4.3%)などとなっており、大麻事犯の検挙件数は前年に比べても大きく増加傾向を示しており、かなり深刻だといえます。また、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯国籍別検挙人員については、総数343件(311人、+10.3%)、ベトナム120人(53人、+126.4%)、中国54人(52人、+3.8%)、フィリピン23人(12人、+91.7%)、ブラジル21人(35人、▲40.0%)、韓国・朝鮮9人(19人、▲52.6%)、インド9人(12人、▲25.0%)などとなっています。

一方、暴力団犯罪(刑法犯)罪種別検挙件数・人員対前年比較の刑法犯総数については、検挙件数総数は6,528件(6,834件、▲4.2%)、検挙人員総数は3,661人(4,068人、▲10.0%)と前回増加したものの一転して、検挙件数・検挙人員ともに減少している点が特徴です。以前の本コラム(暴排トピックス2021年3月号)では、「基礎疾患を抱え高齢化が顕著に進行している暴力団員のコロナ禍の行動様式として、検挙されない(検挙されにくい)活動実態にあったといえます」と指摘しましたが、一時活動が活発化している可能性を示したものの再度減少に転じたのは、緊急事態宣言等のコロナ禍の状況や東京五輪に向けた自粛(一般的に国民的行事の際には、暴力団は活動を自粛する傾向にあります)などの要素もあることも考えられ、いずれにせよ状況の流動化とともに今後の動向に注意する必要がありそうです。犯罪類型別では、暴行の検挙件数は403件(518件、▲22.2%)、検挙人員は377人(489人、▲22.9%)、傷害の検挙件数は627件(799件、▲21.5%)、検挙人員は762人(920人、▲17.2%)、脅迫の検挙件数は208件(240件、▲13.3%)、検挙人員は200人(224人、▲10.7%)、恐喝の検挙件数は220件(229件、▲3.9%)、検挙人員は262人(288人、▲9.0%)、窃盗の検挙件数は3,225件(3,174件、+1.6%)、検挙人員は524人(644人、▲18.6%)、詐欺の検挙件数は902件(856件、+5.4%)、検挙人員は745人(605人、+23.1%)などとなっています。とりわけ、全体の傾向と同様、窃盗、詐欺については、昨年はコロナ禍の影響で大きく減少したところ、一転して増加傾向を示している点は注意が必要です。さらに、暴力団犯罪(特別法犯)主要法令別検挙件数・人員対前年比較の特別法犯について、検挙件数総数は3,899件(4,340件、▲10.2%)、検挙人員総数は2,611人(3,189人、▲18.1%)とこちらも昨年1年間の傾向同様、減少傾向が続いていることが分かります。犯罪類型別では、暴力団排除条例違反の検挙件数は20件(33件、▲39.4%)、検挙人員は54人(84人、▲35.7%)、銃刀法違反の検挙件数は60件(89件、▲32.6%)、検挙人員は45人(72人、▲37.5%)、麻薬等取締法違反の検挙件数は78件(94件、▲17.0%)、検挙人員は21人(29人、▲27.6%)、大麻取締法違反の検挙件数は662件(614件、+7.8%)、検挙人員は409人(426人、▲4.0%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は2,520件(2,828件、▲10.9%)、検挙人員は1,632人(1,945人、▲16.1%)、麻薬等特例法違反の検挙件数は72件(65件、+10.8%)、検挙人員は48人(51人、▲5.9%)などとなっており、薬事犯全体が大きく増加している中、暴力団犯罪については引き続き減少傾向を示している点が特徴的だといえます。

(7)北朝鮮リスクを巡る動向

北朝鮮が建国73周年を迎えた9月9日午前0時から、首都・平壌の金日成広場で軍事パレードを開催しました。報道によれば、金正恩朝鮮労働党総書記(総書記)は出席したものの、演説はしなかったといい、民間防衛組織などの予備戦力が中心とみられ、弾道ミサイルなどの戦略兵器は登場しなかったとされます(とはいえ、朝鮮人民軍の正規部隊ではなく民兵組織の「労農赤衛軍」と治安を担当する「社会安全軍」がパレードの中核を担った点については、労農赤衛軍は17~60歳の男性と未婚女性の労働者や農民らで構成された予備軍組織ではあるものの、規模は人口の約4分の1の570万人に上るといい、正規軍以外でも有事には即座に無数の予備軍を動員できる態勢を内外に見せつけたともいえます)。対外的なメッセージより、経済難に悩む国内向けの国威発揚の狙いがあると見られています。北朝鮮が軍事パレードを実施するのは、朝鮮労働党第8回党大会が行われた今年1月以来で、昨年10月にも、党創建75周年に合わせて実施されています。5年ごとの節目の年以外の記念日に閲兵式を行うのは異例であり、国内に向けてそれだけの強いメッセージを発信しなければならない状況にあることを推測させます。なお、その目的については、2021年9月10日付朝日新聞の記事にある以下のような見方が大勢かつ妥当なところかと思われますが、軍事パレードへの参加の持つステータスの大きさに大変驚かされました(一方で、「住民らを次々に動員して疲弊させ、体制批判を考えるいとまを与えない目的もある」との見方も存在します)。なお、一方で北朝鮮が核攻撃能力の拡充を続けている点には注意が必要だといえます。国際原子力機関(IAEA)の報告書によると、北朝鮮は今年7月以降、北西部寧辺の核施設で、プルトニウムを生産するための原子炉の操業を再開、原子炉稼働の兆候が確認されたのは2018年12月以来であり、今年2月中旬~7月初旬には、寧辺にある蒸気プラントが稼働したことも判明、使用済み核燃料の再処理に必要とされる約5か月間の期間と一致、報告書は、北朝鮮の核開発について、「国連安全保障理事会決議の明確な違反だ」として、深刻な懸念を示しています。バイデン米政権が北朝鮮に対し、非核化に向けた前提条件なしの対話を呼びかけていることとあわせ、今後の動向を注視していく必要があります。

韓国政府関係者は「米国はアフガニスタン情勢に集中し、対北交渉への余裕はない。北朝鮮は当面、内政に集中するのが得策と判断しているのではないか」とみる。北朝鮮は今年3月に短距離弾道ミサイルを日本海に向けて発射して以来、目立った軍事的行動を見せていない。北朝鮮国内は経済制裁、自然災害、新型コロナウイルス対策による国境封鎖という「三重苦」にある。正恩氏は2日の党中央委員会政治局拡大会議で、防疫対策の徹底や食糧問題などの解決に向けた措置を改めて指示した。韓国の専門家の間では、北朝鮮が経済の立て直しに向けて、建国記念日の軍事パレードで国威発揚をはかる思惑があったと見る向きが強い。ソウルの外交筋は「今回は正規軍ではなく、農民など予備戦力を主に動員した。対米牽制というよりは、食糧などの増産に向けて大衆の団結を鼓舞するのが目的だろう」と分析する。北朝鮮の政府機関にいた脱北者は「平壌だけでなく地方から多くの人が動員されたことに意図を感じる」と指摘。地方では軍事パレードへの参加は名誉なことで「家に帰ると、村中から祝福され、宴会が開かれるほど。それだけ住民の結束に大きな影響を及ぼす」と話す。

北朝鮮が新型コロナウイルスワクチンの公平な分配を目指す国際的な枠組み「COVAX」から割り当てられたワクチン297万回分の権利を放棄する意向を示したことが分かったということです。COVAXを主導する国連児童基金(ユニセフ)の報道官が明らかにしたものです。WHOは8月、COVAXが北朝鮮に中国の科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)製297万回分を割り当てたと明らかにしていましたが、北朝鮮が中国製を拒否したもようだということです。北朝鮮保健省は、自国への割り当て分を新型コロナで深刻な影響を受けている別の国に再配分しても構わないとの意向を伝えてきたといいます。なお、これに先立ち、英アストラゼネカ製約190万回分も北朝鮮に配分されたが手続きは滞っているといい、さらにその一方で、北朝鮮は数カ月以内にワクチンを受け取れるようCOVAXと協議を続ける姿勢も見せているといいます(北朝鮮が副反応を懸念してアストラゼネカ製の受け取りに難色を示し、不信感から中国製の導入もためらっているという分析もあります)。コロナ関連では、北朝鮮が、独自の新型コロナウイルス用PCR検査システムを開発したと報じられています。北朝鮮は、より感染力の強い変異株の拡大抑制策を強化していますが、公式には北朝鮮はこれまでに国内で新型コロナ感染者を確認していないとしている一方で、今回のパンデミックを国家存亡の危機と捉え、国境封鎖、移動制限、厳しい予防措置などを行っています。国営朝鮮中央通信(KCNA)も、政府が世界的に流行しているコロナ変異株のデルタ株とラムダ株の感染阻止を目指して対策を強化していると報じているということです。また、KCNAは、朝鮮労働党中央委員会政治局の拡大会議が平壌で開かれ、金正恩総書記が司会を務め、新型コロナウイルスの世界的な流行に対応するため、防疫対策を一層強化する必要があると指摘、「一瞬たりとも油断してはならない最も重要な課題であることを肝に銘じなければいけない」などと強調したということです。なお、会議で金総書記は、台風などの自然災害による被害を最小化するための危機管理対策を抜け目なく立てて、堤防補修や防潮堤工事に関する計画を積極的に立てるべきだと指摘、また、穀物の収穫期を前に、穀物の生産目標を必ず達成した上で、最大の収穫量を目指すよう指示したといいます。

さて、三重苦の北朝鮮ですが、国連は、グテレス事務総長が国連総会に提出した北朝鮮の人権状況に関する報告書を公表しています。報道によれば、新型コロナウイルス対策の国境封鎖で物流が停滞し、食料不足などが悪化しているとして、北朝鮮当局に対し改善への努力を求めています。報告書は脱北者への聞き取りなどを通じ、昨年8月から今年7月までの人権状況を調査、北朝鮮当局の新型コロナ対策に伴う営業制限や物流停滞で、慢性的な食料不足が一層悪化したと分析、国境封鎖などのため最新の情報を得ることは「非常に困難」だとしながらも、新型コロナ対策の規制は「人権状況を悪化させた」と結論付けています。このように、国連は、北朝鮮が新型コロナウイルスを封じ込めるために取った徹底的な措置が、人権侵害や飢餓など国民の経済的苦難を悪化させたと指摘していますが、北朝鮮は人権侵害を繰り返し否定し、人道状況の悪化は制裁が原因だと主張しています。関連して、新型コロナウイルス対策に伴う国境封鎖や農作物の不作の影響を受け、北朝鮮で厳しい食糧事情が続いていることから、北朝鮮当局は今夏ごろから、緊急措置として「国家食糧販売所」を各地に設け、市場価格より1~2割安く米やトウモロコシを供給しているということです。食糧価格の値上がりを抑制し、住民の不満を抑える狙いがあるとされますが、今後も十分に食糧を供給できるかどうかは不明な状況だといいます(なお、市場の設置は、食糧流通の主導権を市場から国家のもとに引き戻す狙いがあるとの見方もあるようです)。報道によれば、北朝鮮では5~6月、国内産の米やトウモロコシ価格が急上昇したほか、中国からの輸入に頼っていた砂糖や食料油などは価格が10倍以上に高騰し、「食料が市場にあっても高くて買えない」との悲鳴が住民から出ているといいます。

以下、北朝鮮の内部団結を図ろうとする動向を伝える報道を中心に、いくつか紹介します。

  • 北朝鮮の朝鮮労働党機関紙、労働新聞は、朴正天・前朝鮮人民軍総参謀長が党政治局常務委員と党書記に選出されたと報じています。新型コロナウイルス対応を巡り6月に政治局常務委員を解任された李炳哲氏に代わって党中枢入りし、金正恩総書記を除く軍序列でトップに就いた形です。本コラムでも取り上げましたが、李炳哲氏は核・ミサイル開発を主導、正恩氏側近として軍序列トップに上り詰めましたが、軍需工業部長からも解任されたことが明らかになりました。一方の朴正天氏は6月に李炳哲氏と共に問責対象となり、元帥から次帥に降格されたものの、今回の人事で明暗が分かれる形となりました(朴氏のわずか約2カ月での「復活」や軍部を重視する人事の背景には、人事によって軍部を掌握し、権力層を統制しようという金正恩総書記の思惑が垣間見えます)。また、軍需工業部長に昇格した劉進氏は、金正恩総書記が大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験や新造潜水艦を視察した際、同行が伝えられていました。また、北朝鮮は、8月25日、故金正日総書記が軍優先の「先軍政治」を始めたとされる日から61年の記念日を迎え、朝鮮労働党機関紙、労働新聞は論説で金正日氏が同国を世界的な軍事強国の地位に押し上げたとたたえ、「軍事力こそ国力だ」と強調しています。労働新聞は、金正日氏が党に絶対服従する軍をつくりあげ、国防工業は「どんな武器装備でも製造できる現代的で自立的な工業」に発展したと称賛した一方で、核兵器やミサイルへの言及はありませんでした。
  • 金正恩総書記は、国家事業などへの参加を志願した若者に祝賀文を送り、「我々は今、建国以来、最も厳しい局面に立っており、前代未聞の難関を不屈の精神力で突破している」と強調しています。米国などによる経済制裁を念頭に「悪辣な制裁や圧力、執拗な思想的・文化的浸透の動きによって、青年たちを変質させようとする帝国主義者のたくらみは水泡に帰した」とも述べています。北朝鮮では、中国経由で密輸されるK-POPなど「韓流」コンテンツが若者を中心に拡大、当局が統制を強化しているとも報じられています。今回の若者向けの発言には、若者が「韓国化」して体制が動揺することへの警戒とともに、国内の結束を高める狙いがあると考えられます。青年節は、北朝鮮で青年同盟が結成されたことにちなんだ記念日で、北朝鮮の各地で祝賀行事などが行われた。
  • 北朝鮮外務省は、8月26日に終了した米韓合同軍事演習を「米国の敵視政策の集中的表現だ」と改めて非難しています。そのうえで、「最強の戦争抑止力を不断に備蓄していく」とし、核・ミサイル戦力を引き続き強化する姿勢を示しています。また、演習により「国家防衛力と先制打撃能力を強化する必要性を痛感した」と強調、米国は自らをより厳しい安全保障の脅威にさらすことになると牽制しています。
  • 北朝鮮外務省は、ホームページに掲載した記事で「近年、(日本海の)わが国の経済水域に対する日本の不法侵入が露骨化している」と主張、海洋権益を守るために朝鮮人民軍総参謀部を含む関係機関が協議会を開いたと明らかにしています。記事は「不法侵入」の具体例には触れていないものの、日本の漁船や海保の船舶を指す可能性があります。北朝鮮は過去に日本の排他的経済水域(EEZ)と重なる海域を自国のEEZと主張、2019年には大和堆付近で北朝鮮船とみられる高速艇が海上保安庁の巡視船を威嚇する事件が起きています。また、北朝鮮は韓国同様、島根県の竹島を自国領と主張しています。

3.暴排条例等の状況

(1)暴排条例の改正動向(福岡県)

福岡県暴排条例の改正案が、福岡県議会の令和3年9月定例会に提出され、12月1日施行を目指すということです。執筆時点で提出議案は公開されていませんが、各種報道によれば、現行の同条例では学校や図書館などの敷地から200メートル以内での暴力団事務所の開設・運営を禁じているところ、改正案では、新たに認可外保育施設、子育て支援施設などを追加するといい、対象施設は約3,600か所から約12,290か所に増えることになります。さらに、都市計画法に基づき住宅用地や商業用地に指定されている場所での開設も禁止するとのことです。今回の改正によって福岡県の全面積に占める規制対象割合は7%から18%に広がり、市街地ではほぼ全域で事務所を開設できなくなることになります。また、現在確認されている暴力団事務所の約9割が含まれることになり、「事務所周辺では、これまで火炎瓶の投げ込みや発砲などの事件が起きてきた。危険から市民を守り、暴力団排除を一層強めていく」、「暴力団の資金獲得活動が活発な都市部に拠点をつくらせないことで、有効な暴力団対策になり市民の安心にもつながる」といった県警幹部のコメントが報じられています。なお、就学前の障害児発達支援施設(約300カ所)などは全国で初めて対象となるとのことです。暴力団事務所の開設・運営を禁じる規定は全国の暴排条例で見られ、その適用範囲を拡大する動きも見られていますが、ここまで拡大するのは福岡県が初めてと思われ、暴力団の活動を規制するという意味では有効な手段と考えられ、今後、他の自治体にも広がっていくことを期待したいと思います。

(2)暴排条例に基づく勧告事例(神奈川県)

暴力団員に車を販売するなどしたとして、神奈川県警暴力団対策課、神奈川県公安委員会は、神奈川県暴排条例に基づき、県内で自動車販売仲介業を営む70代の男性に利益供与と名義貸しをしないよう、また稲川会系組幹部に利益供与を受けて他人名義を利用しないよう、それぞれ勧告しています。報道によれば、2020年10月から11月までの間に、男性から普通乗用車と軽乗用車をそれぞれ1台購入し、今年2月には男性の名義を利用して別の自動車を登録したというものです。

▼神奈川暴排条例

まず事業者については、本条例の第23条(利益供与等の禁止)第2項「事業者は、その事業に関し、次に掲げる行為をしてはならない。」の「(7)前各号に掲げるもののほか、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなるおそれがあることを知りながら、暴力団員等、暴力団員等が指定したもの又は暴力団経営支配法人等に対して金銭、物品その他の財産上の利益を供与すること。」さらには、第26条の2(名義利用等の禁止)第2項「何人も、暴力団員が前項の規定に違反することとなることの情を知って、自己又は他人の名義を暴力団員に利用させてはならない。」に抵触したものと考えられます。また、暴力団員については、第24条(利益受供与等の禁止)「暴力団員等又は暴力団経営支配法人等は、情を知って、前条第1項若しくは第2項の規定に違反することとなる行為の相手方となり、又は当該暴力団員等が指定したものを同条第1項若しくは第2項の規定に違反することとなる行為の相手方とさせてはならない。」および第26条の2(名義利用等の禁止)「暴力団員は、自らが暴力団員である事実を隠蔽する目的で、他人の名義を利用してはならない。」に抵触したものと考えられます。その結果、第28条(勧告)「公安委員会は、第23条第1項若しくは第2項、第24条第1項、第25条第2項、第26条第2項又は第26条の2第1項若しくは第2項の規定に違反する行為があった場合において、当該行為が暴力団排除に支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあると認めるときは、公安委員会規則で定めるところにより、当該行為をした者に対し、必要な勧告をすることができる。」の規定に基づき、勧告が出されたものと考えられます。

なお、神奈川県暴排条例については、いくつかユニークな規定があり、例えば、「暴力団経営支配法人等」を排除対象と明記、具体的には、「法人でその役員(業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者をいい、相談役、顧問その他いかなる名称を有する者であるかを問わず、法人に対し業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者と同等以上の支配力を有するものと認められる者を含む。)のうちに暴力団員等に該当する者があるもの及び暴力団員等が出資、融資、取引その他の関係を通じてその事業活動に支配的な影響力を有する者をいう」と定義されています。全国の多くの暴排条例が、「暴力団員」「暴力団でなくなった日から5年を経過しない者」等のみ対象としているのに対し、ここまで明記している点は、企業の取組みにとっても大変有意義なことだといえます。また、第17条第2項では、「暴力団員は、少年有害行為(少年が犯罪による被害を受けること又は暴力団員がその活動に少年を利用することを特に防止する必要があるものとして公安委員会規則で定める行為をいう。)を少年に行う目的又は少年に行わせる目的で、少年に対し、次に掲げる行為をしてはならない。」として、具体的に、(1)面会を要求すること。(2)電話をかけ、ファクシミリ装置を用いて送信し、又は電子メールの送信等をすること。(3)つきまとい、待ち伏せし、進路に立ち塞がり、住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所の付近において見張りをし、又はこれらの場所に押しかけること、を禁止しています。さらには、「利益供与等の禁止」(第23条第2項)では、前述の「暴力団経営支配法人等」の排除との関連もあって、具体的に「暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなるおそれがあることを知りながら、暴力団員等、暴力団員等が指定したもの又は暴力団経営支配法人等に対して出資し、又は融資すること。」「暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなるおそれがあることを知りながら、暴力団員等、暴力団員等が指定したもの又は暴力団経営支配法人等から出資又は融資を受けること。」「暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなるおそれがあることを知りながら、暴力団員等、暴力団員等が指定したもの又は暴力団経営支配法人等に、その事業の全部又は一部を委託し、又は請け負わせること。」「暴力団事務所の用に供されることが明らかな建築物の建築を請け負うこと。」「正当な理由なく現に暴力団事務所の用に供されている建築物(現に暴力団事務所の用に供されている部分に限る。)の増築、改築又は修繕を請け負うこと。」「儀式その他の暴力団の威力を示すための行事の用に供され、又は供されるおそれがあることを知りながら当該行事を行う場所を提供すること。」が禁止行為として明記されています。

(3)暴排条例に基づく逮捕事例(愛知県)

名古屋市や岐阜市の風俗店から用心棒代を受け取ったとして、愛知県警は、六代目山口組2次団体弘道会系組長で高山組幹部と会社員を愛知県暴排条例違反などの疑いで逮捕しています。なお、高山組は弘道会の最有力組織の一つで、県警は昨年、組長とナンバー2を相次いで摘発しており、主要幹部が不在のなか、同容疑者が実質的に組の運営に関わっていたとみているといいます。報道によれば、現金は、店の経営者から容疑者の知人の夫婦を介して会社員に渡っていたとい、用心棒代の支払いが発覚しないよう複数の人を介したとみられています。さらに、六代目山口組2次団体平井一家の傘下組長も、暴力団排除特別区域にある飲食店2店舗から「用心棒代」として、現金合わせて43万円を受け取った疑いで逮捕されています。

▼愛知県暴排条例

報道から、特別区域内にある特定接客業者の関係する用心棒代の授受であり、会社員については、本条例第22条(特別区域における特定接客業者の禁止行為)第2項「特定接客業者は、特別区域における特定接客業の事業に関し、暴力団員に対し、顧客その他の者との紛争が発生した場合に用心棒の役務の提供を受けることの対償として利益の供与をしてはならない。」に、暴力団員については、第23条(特別区域における暴力団員の禁止行為)第2項「暴力団員は、特別区域における特定接客業の事業に関し、特定接客業者から、顧客その他の者との紛争が発生した場合に用心棒の役務の提供をすることの対償として利益の供与を受けてはならない。」の規定にそれぞれ抵触したものと考えられます。その結果、第29条「次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。」として、会社員については、第2項「相手方が暴力団員であることの情を知って、第二十二条第一項又は第二項の規定に違反した者」が、暴力団員については、第3項「第二十三条第一項又は第二項の規定に違反した者」がそれぞれ適用されたものと考えられます。

(4)暴排条例に基づく逮捕事例(北海道)

札幌市の繁華街ススキノ地区のビル内にある飲食店の用心棒代の授受をしたとして、北海道暴力団排除条例違反の疑いで、六代目山口組三代目弘道会福島連合構成員や飲食店の会社役員の男ら4人が逮捕されています。報道によれば、4人は共謀して、今年1月下旬ごろススキノのビル内で、容疑者が経営する飲食店の用心棒代として、暴力団員に現金12万円の授受をしていた疑いが持たれているといいます。なお、この飲食店経営者は、新型コロナウイルス対策の国の持続化給付金をだまし取った疑いでも逮捕され、公判中の身ですが、容疑者らが総額1億5,000万円の不正受給にかかわっており、一部が暴力団に流れた可能性があるとみて調べているということです。

▼北海道暴力団の排除の推進に関する条例

飲食店経営者については、本条例第20条の3(特定接客業者の禁止行為)第2項「特定接客業者は、暴力団排除特別強化地域における当該特定接客業に関し、暴力団員又は暴力団員が指定した者に対し、用心棒の役務の提供を受ける対償として又は当該特定接客業を営むことを容認させる対償として、財産上の利益の供与をしてはならない。」に、暴力団員については、第20条の4(暴力団員の禁止行為)第2項「暴力団員は、暴力団排除特別強化地域における特定接客業に関し、特定接客業者から、用心棒の役務の提供をする対償として又は当該特定接客業を営むことを容認する対償として、財産上の利益の供与を受けてはならない。」の規定にそれぞれ抵触したものと考えられます。その結果、第26条(罰則)「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」として、飲食店経営者については、「(2)相手方が暴力団員又は暴力団員が指定した者であることの情を知って、第20条の3の規定に違反した者」が、暴力団員については、「(3)第20条の4の規定に違反した者」が、それぞれ適用されたものと考えられます。

(5)暴力団対策法に基づく再発防止命令発出の事例(福岡県)

福岡県公安委員会は、暴力団対策法に基づき、太州会の日高博会長に今後1年間、「縄張り維持」などを目的とした組員の活動を禁じる再発防止命令を出しています。報道によれば、太州会会長への命令発出は初めてだといいます。太州会系組員が飯塚市内の飲食店にみかじめ料を要求した恐喝事件があり、今後も傘下組員が同様の要求を繰り返す恐れがあると判断したということです。日高会長は、組員が飯塚市内の飲食店と県内の建設業者に電話やメールの送信、面会要求などをしないよう指示、命令する必要があり、違反した場合、6月以下の懲役または50万円以下の罰金が科されることになります。

▼暴力団対策法

暴力団対策法の「第五節 縄張に係る禁止行為等」の第30条の6(縄張に係る禁止行為)では、「指定暴力団員は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等の指定暴力団員の縄張内で営業を営む者のために、次に掲げる行為をしてはならない。当該行為をすることをその営業を営む者又はその代理人、使用人その他の従業者と約束することについても、同様とする。」として、「一 用心棒の役務を提供すること。」と規定されています。そのうえで、本件のようにみかじめ料要求が続くものと考えられる場合には、第30条の7(縄張に係る禁止行為に対する措置)第3項「公安委員会は、指定暴力団員が前条第一項の規定に違反する行為をした場合において、当該指定暴力団員が更に反復して当該行為と類似の同項の規定に違反する行為をするおそれがあると認めるときは、当該指定暴力団員に対し、一年を超えない範囲内で期間を定めて、同項の規定に違反する行為が行われることを防止するために必要な事項を命ずることができる。」と規定されています。

(6)暴力団対策法に基づく仮命令発出事例(福岡県)

福岡県警は、工藤会の暫定トップの幹部ら3人に対し、暴力団対策法に基づき、2003年に大阪府東大阪市で全国チェーンのパチンコ店が銃撃された事件で服役中の同会系組幹部に、出所祝いや組織内での地位昇格を禁じる仮命令を出しています。報道によれば、同組幹部は年内に出所する見通しであり、今後、県公安委員会が幹部らに意見聴取し、本命令を出すか決めるということです。

なお、暴力団対策法においては、「第四節 暴力行為の賞揚等の規制」第30条の5において、「公安委員会は、指定暴力団員が次の各号のいずれかに該当する暴力行為を敢行し、刑に処せられた場合において、当該指定暴力団員の所属する指定暴力団等の他の指定暴力団員が、当該暴力行為の敢行を賞揚し、又は慰労する目的で、当該指定暴力団員に対し金品等の供与をするおそれがあると認めるときは、当該他の指定暴力団員又は当該指定暴力団員に対し、期間を定めて、当該金品等の供与をしてはならず、又はこれを受けてはならない旨を命ずることができる。ただし、当該命令の期間の終期は、当該刑の執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から五年を経過する日を超えてはならない。」と規定されています(なお、前提となる事件の詳細が不明のため、いずれの暴力行為に該当するかは推定できません)。

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