HRリスクマネジメントトピックス

コンプライアンスやリスク管理に関するその時々のホットなテーマを、現場を知る
危機管理専門会社ならではの時流を先取りする鋭い視点から切り込み、提言するコラムです。

三匹(?)が語る!HRリスクマネジメント相談室(4)「指導を受けても、上司の悪口を言い続ける部下」(2019.1)

 職場におけるトラブルは複合的。社内の様々な関係者の協力を得て、複数の視点で捉えなければ、解決が難しい問題も多々あります。でもやっぱり最後は「人」!HRリスクマネジメントが重要です。

 職場における様々なトラブルを解決すべく、今、エス・ピー・ネットワークに生息する動物たちが立ち上がりました!初動対応や法的な責任、再発防止など、三匹それぞれの観点から熱く語ります。

 

【今月の三匹・プロフィール】

酉爺(とりじい):
普段は鶴で、週末はフラミンゴ(?) 下町生まれの下町育ち。寅さんやたけしさんに通じる素養を持つコンサルタント。昨年、赤いちゃんちゃんこに袖を通す。

イノシシさん:
森の音楽隊のトランペット吹き。3度のご飯よりとんこつラーメンが好き。リスクマネジメント関連の業界紙で働いていました。皆さまよしなに。

ネコさん:
猫なで声と鋭い爪をあわせ持ち、企業内での人事実務経験が豊富。社会保険労務士で、産業カウンセラーでもある。コンプライアンス違反を放置したら、「シャーッ!」ってしますよ。

 

今月のご相談は、こちら。

 内部監査室で、内部通報の担当をしている者です。先日、懲戒処分を受けた社員のことでご相談があります。

 ある部署から匿名で、「同僚のAさんが、会社や上司の悪口を言いふらしており、問題だと思う」と、内部通報がありました。メールの履歴を確認したところ、確かに、かなり悪質な罵詈雑言を連ねたメールを、社内の同僚のみならず、お客様にまで送りつけていました。主に上司の悪口だったのですが、「ウザイ」「低能」「使えない」、「こんな人を役職につける会社はおかしい」など、具体性のない人格否定の言葉ばかりで、Aさんと上司の間で何があったのかはさっぱりわかりません。周囲にそれとなくヒアリングしましたが、上司について、悪い噂は出てきませんでした。メールの送信履歴のみに基づき、Aさん本人に確認したところ、Aさんもメールを送ったことやその内容が不適切だということは認めたため、「会社の名誉や信頼を失う行為をした」こと、「社内の秩序及び風紀を乱した」ことをもって、懲戒規程に基づき、けん責処分となりました。
 しかし、処分を受けたにもかかわらず、まだ社内では、Aさんからの「悪口メール」が続いているようです。どうやらAさんは、上司が自分のことを内部通報で訴えたと思い込んでいるようで、「卑怯者」「内部通報窓口を買収した」などと、他部署へ吹聴しているようです。これは他部署に所属するAさんの同期が、内部通報窓口へ、Aさんからの「悪口メール」を転送してくれたことで発覚しました。
 「内部通報窓口を買収した」などと吹聴されるのは、制度の信頼性を故意に傷つける行為であり、非常に迷惑です。また、一度処分を受けているにもかかわらず、まだ「社内の秩序及び風紀を乱す行為」を止めないということになりますので、さらに重い懲罰を科すべきだと思っています。Aさんの態度が改まらないならば、会社としては、Aさんを解雇したいと考えますが、どういった条件をクリアすれば、解雇できるでしょうか。

【ネコさん】

 うーん、困ってしまいますね。Aさんには、何か上司に対する不満がくすぶっているようですが、具体的に何が起きているかが見えてきません。Aさんが「したこと」に対しては適正な懲戒処分が成されても、根本的な原因が解決されていないのですね、きっと。

<懲戒は何のためにあるのか>
 まず、見失ってはならないのは、「懲戒処分」の目的です。望ましくないことをした人に対し、懲戒処分を行うのはなぜかというと、再発を防止するため、という目的があるはずです。行動分析学的に考えると、「望ましくない行動をする」と、その後、懲戒処分という自分にとって「嫌なことが起きる」ということを学習させ、その「望ましくない行動」を「消去」させようということになります。「嫌子」出現による「消去」というメカニズムの応用です。
 懲戒制度を厳密に運用しようと一生懸命になりすぎると、この本来の目的を見失ってしまうことがあるようです。この望ましくない行動に対して、どのような懲戒が妥当か、手続きに不備がないかばかりに気をとられ、まるで「懲戒」が「目的」であるかのような対応をしてしまうご担当者様は、少なからずいらっしゃいます。懲戒の目的を常に意識するよう、心がけましょう。
 さて、この望ましくない行動を「消去」するメカニズムを、再発防止にうまく活用するには、まずは「何が望ましくない行動なのか」を、本人にきちんと理解させることが必要です。Aさんは、懲戒を受けた後は、お客様に対してはメールを送っていないようですね。ということは、Aさんは、「会社の名誉や信頼を失う行為」として、「お客様に会社や上司の悪口を送ってはいけない」という部分は、学習しているように感じます。会社としては、「社内の秩序及び風紀を乱した」ことも問題としていたようですが、そこが具体的に、Aさんには伝わっていなかったのではないでしょうか。説明したり、書面で渡したりしていたとしても、それが印象に残っていなかったり、本人が納得していなかったりすれば、行動の変容にまでは結びつきません。「やったことを認めた」に留まらず、その行動の何がどういけなかったかは、ご本人が納得するように伝える努力が、もう少し必要だったのかな、と思います。

<Aさんは、同じ悪事を「繰り返し」ているのか?>
 また、会社にとっては、「罵詈雑言を連ねたメールを社内の人に送りつけること」も「内部通報窓口を買収した」などと吹聴することも、どちらも「社内の秩序及び風紀を乱した」行為だと取れますので、Aさんは「また」社内の秩序や風紀を乱した、と捉えてしまいがちですが、Aさんにとっては、「全く別の話」と受け取られている可能性も高いと思います。少なくとも、Aさんには、内部通報制度の信頼性を「故意に傷つける行為」をしているという自覚は、おそらくないでしょう。Aさんが「内部通報制度を信頼できないと思っている」のであれば、Aさんはただ、自分が事実だと思っていることを言っているだけ、もしかしたら、周囲の人にも「騙されてはいけない!」と教えてあげようとしているくらいの気持ちなのかもしれません。「会社の制度を悪く言ったこと」ばかりを問題とするのではなく、Aさんが「会社の制度を信じられなくなった背景」にも注目し、根本的な対処(会社制度の信頼回復)をする必要があります。
 おそらくAさんには、上司に対して「納得できないこと」が、そのまま残っているのでしょう。これを放置することは、大きなリスクです。やはり、Aさんと上司の間に何があったのか、きちんと聴いてみる必要があると思われます。
 問題行動の原因を探ることなく、問題行動をやめさせることばかりに注力すれば、ますます不安や会社への不信感をあおり、別の問題行動を発生させるばかりです。問題行動が続けば「解雇」を検討したくなる気持ちもわからなくはありませんが、少なくともこのケースで、今「解雇」をチラつかせてしまえば、ますます問題行動を誘発させてしまいそうです。まだ解雇を考える段階ではありません。

<懲戒処分の前にすべきこと>
 「懲戒処分」を行うか、その程度はどれくらいが妥当かを検討するには、「事実確認」が必須です。このケースでは、メールの送信履歴をAさん本人に見せ、「確かにAさん自身が送ったものか」を確認することで、事実確認を行ったようです。
 さらに通常は、本人が「その行為をした理由」を確認します。顛末書等に書かせたり、説明の場を設けたりしますよね。何らかの機会は与えないと、懲戒の対象やレベル感を誤り、大きな問題に発展する可能性があります。
 しかし、自分がなぜそのような行為をしたか、説明するのが上手な人も苦手な人もいるはずです。「やったか、やっていないか」は簡単に答えられても、「なぜやったか」は、どう表現するか、どこまで書くべきか等、悩んでしまいませんか?特に、「顛末書」に書け!などと言われると、そんな馴染みのない書面にすらすら書ける人は限られると思います。
 書ける人には、書いていただけばよいと思います。しかし、自分で理路整然と書くのが難しい人には、積極的に「聴く」、「聴き出す」、「聴かせていただく」くらいの手間をかけなければ、再発防止に効果を発揮するような「懲戒処分」にはつながらないと思うのです。
 「聴く」ことには、話し手の「考えを深める」という効果もあります。Aさんの話をじっくり聴いていれば、Aさんは、何がいけなかったか、どうすればよかったかにきちんと気付き、さらなる問題行動には走らなかったかもしれません。外部への悪口メールの送信はやめているのであれば、Aさんは全く会社の指示を受け入れないわけでもなさそうですしね。今からでも遅くはありませんので、Aさんの「思い」をじっくり聴いてみましょう。
 やるべきことは一通りやり、それでもダメならば、次のステップを検討することになります。ダメなことはダメなのですから、ダメなままで放置する、Aさんの悪しき言動を(放置することで)許してしまうことは、あってはなりません。

【イノシシさん】

 こんにちは。イノシシです。会社や上司に対して、よほど鬱憤がたまっていると見えるAさん。一度処分を受けたにもかかわらず、次は矛先を「内部通報窓口」にも向け、「卑怯者」「内部通報窓口を買収した」などと、さらに上司の人間性を否定するようなメールを同僚にあてて送信しているそうです。さてさてどうしたものか…。

<「内部通報窓口」への誤解?>
 ちょっと気になるのは、100歩譲ってこの上司が、内部通報窓口に対してAさんから悪口を受けていることを精神的に思い悩み、相談してきたとしても、それはまったく会社員として「卑怯な行為」にはあたりません。ましてや「買収した」というのはまったくお門違いな発言なので、「内部通報窓口」そのものに対する何か大きな誤解あるかもしれません。Aさんは少し思い込みが激しい傾向があるかもしれませんので、そういう意味でももう少し丁寧なコミュニケーションが必要でしょう。ネコさんも書いておられるように、本気で周囲の人に「騙されてはいけない!」という正義感を持って発言やメールをしているのであれば、やはり処罰をする前に本人のさまざまな「誤解」をとく必要があると考えられます。なぜなら、考え方がすれ違ったままにしていると、お互い不幸な道を歩んでしまう可能性があるからです。社員が上司や会社の悪口を執拗にメールで書く場合、実は「私は会社のためにやっているのだ」「もっといい会社になってほしいから言っているのだ」と思いこんでいる場合がとても多いのです。

 ちょっと厳しい例になってしまいますが、いわゆる「セコム損害保険事件」(東京地判 平19・9・14 労働判例947号35頁)では、従業員が直属の上司や課長らの言動について、人事部の担当者に対して「会社に対し私も相当の考えを持っていこうと考えています」「管理職としての意識が足りない」「社長が、人様の前で頭を下げる日は近い」など批判的な文章を書いて再三にわたり送信。会社も従業員に対して指導・注意しましたが態度が改まらなかったため、解雇した事例があります。この時の判決文は以下のようなものでした。

 「雇用の定めのない従業員Xの問題行動・言辞の入社当時からの繰り返し、それに対するY職制からの指導・警告および業務指示にもかかわらずXの職制・会社批判あるいは職場の周囲の人間との軋轢状況を招く勤務態度からすると、XY間における労働契約という信頼関係は採用当初から成り立っておらず、少なくとも平成18年3月時点ではもはや回復困難な程度に破壊されていると見るのが相当である。それゆえ、YによるXに対する本件解雇は合理的かつ相当なものとして有効であり、解雇権を乱用したことにはならないものと言うべきである」(中略)「ここでXの言動として問題とされているのは、Xと会社のほかの人間、あるいは会社側のいずれの方がその当時言っていることが正しいかということではなく、Xの言い分がある程度正論であったり、あるいは会社をよくするためだったりという意思に発したものだとしても、その物の言い方なり、会社批判あるいは職制批判さらには自分の所属部署の上司たるA・B(※判例からの引用のため、本文中のA・Bとは人物が異なります)について人事のDにあからさまに苦情・報告する行動態度にある。自分の言っていることが間違ったことでなければ何を言ってもいいことにならないのは社会人として常識であるところ、Xの勤務態度は客観的に見て自己中心的で職制・組織無視の考え・行動が著しく、非常識かつ度を越したものと評価せざるを得ないレベルにある」と、非常に厳しい内容になっており、解雇は妥当であるとされました。

<SNSに書き込みをしてしまったら>
 また、もしAさんが上司の悪口をSNSに書き込むなどした場合はどうなるのでしょうか。SNSは皆さんご存知のように、業務に無関係な個人的な活動です。SNSの私的な書き込みに会社が過度に介入することは、企業として適切な態度ではないでしょう。しかし、例えばAさんが上司Bさんに対し、たとえイニシャルでもメールと同じように「ウザイ」「低能」「使えない」、「こんな人を役職につける会社はおかしい」などと誹謗中傷した場合はどうなるでしょうか。通常の就業規則では「会社の内外を問わず、会社の信用や名誉を毀損する行為をしてはならない」等の定めがあるはずなので、書き込み内容から明らかにAさんが所属している会社の上司について書き込んでいると分かるものであれば、これは会社の信用毀損や業務を妨害する行為と受け止められることもあり、書き込みの制限が認められる可能性が強くなると考えられます。それだけではなく、上司Bさんから個人的に名誉毀損罪、侮辱罪などによって訴えられる可能性もあり、この場合は刑事事件として逮捕される可能性も否定できません。
 また、近年では社員によるSNS炎上事件が後を立たないことから、最近では正規・非正規社員を問わず全ての従業員を対象として、就業規則にSNSへの業務内容に関する不適切な書き込みを禁止する旨の行動規範やガイドラインを盛り込む企業も増えています。Aさんが会社への不満を募らせてSNSへの書き込みなどの行動に走らないよう、ガイドラインの作成や研修を積極的に行うなど、けん制しておくことが必要かもしれません。この件につきましては前回書いていますので、そちらもご参考にしてください。

<日ごろからの職場の風土作りが大切~マルハニチロの事例~>
 さて、そもそもなぜAさんはここまで上司Bさんに対して厳しく当たるのでしょうか。日常から、何か社内でギスギスとした雰囲気などはありませんでしょうか。もしかすると一番必要なのは、日ごろからの風通しのよい職場の風土作りなのかもしれません。
 以前、マルハニチロの品質保証担当者の方にお話を伺ったことがあります。同社では2013年に子会社のアクリフーズにおいて、冷凍商品に毒物が混入された事件が発生。翌年には契約社員の男性が逮捕されました。社員による毒物混入事件ということで、当時はかなりセンセーショナルにメディアによって報道されました。同社は現在でも当時の食品回収を継続して行っており、その回収状況の詳細をホームページで公開しています。起こしてしまった事件は非常に残念なものでしたが、現在も継続して「最後の1袋を回収するまで終わらない」とする同社の製品回収の取り組みは、賞賛に値するものです。

■「アクリフーズ群馬工場生産品における農薬検出について」(第六十三報 2018年10月1日付

 アクリフーズという会社は、もともと雪印乳業の冷凍食品部門でした。それが01年の雪印集団食中毒事件による経営悪化から「雪印冷凍食品会社」として分社化され、その後2002年にアクリフーズに社名変更しました。ところが、03年に今度は雪印食品が雪印牛肉偽装事件を起こしてしまい、経営がさらに悪化。ニチロ(現在のマルハニチロ)に身売りされたと言う経緯がありました。もしかすると、度重なる親会社の不祥事事件で社員の皆さんの気持ちがすさんでいたこともあったのかもしれません。
 話をお聞きした担当者の方は「当社はフードディフェンスについてあらゆる取り組みを強化しているが、社員や関係者の悪意のある攻撃を防ぐことは大変難しい。当社では食品の安全・安心のために最も大切なのは職場の風通しのよい風土であると考え、『なによりも大切なものは、人と人の輪』との基本的な考え方のもと、フードディフェンスの取り組みを推進しています」としていました。とても根本的で、すばらしい取り組みだと思います。この様子は同社のホームページからも見ることができますので、ぜひ見ていただきたいとおもいます。

■フードディフェンスの考え方(マルハニチロHP)

 さて、皆さんの職場はいかがでしょうか?厚生労働省のHP「あかるい職場応援団」に、パワハラやいじめに関するチェック項目があります。3点以上チェックが入れば、要注意と言われていますので一度セルフチェックしてみてください。

■どんなパワハラかチェック(厚生労働省/あかるい職場応援団)

<管理職向け>

  • 部下や年下の人から意見を言われたり、口答えをされたりするとイラッとする。
  • 自分が間違っていたとしても、部下に対して謝ることはない。
  • 自分は短気で怒りっぽいと思う。
  • 感情的になって、すぐその場で叱っている。
  • 厳しく指導をしないと、人は育たないと思っている。
  • なんとなく気に入らない部下や目障りと感じる部下がいる。
  • 仕事のできない部下には、仕事を与えないほうが良いと思う。
  • 業績を上げるためには、終業時刻間近であっても残業を要請するのは当然だと思う。
  • できる上司は、部下の家庭環境などプライベートな詳細情報まで把握しているものだと思う。
  • 学校やスポーツで体罰をする指導者の気持ちは理解できる。

<職場環境>

  • 朝夕の出退社のとき、挨拶をする人がほとんどいない。
  • トップや管理職は、自分の職場にはパワハラは存在しないと考えている。
  • 人は厳しく指導することで育つという意識が強い職場だ。
  • 今の職場には失敗やミスが許されない雰囲気がある。
  • 業務上のノルマが厳しく求められ、目標が達成できなかった時のペナルティが大きい。
  • 上司に対して、意見や反論は言えない雰囲気だ。
  • 職場の誰かが困っていても、助け合える雰囲気ではない。
  • 職場内での問題について、職場内で話し合って解決しようと雰囲気がない。
  • 正社員やパート、派遣社員等、様々な立場の人が一緒に働いているが、上下関係が絶対的で、立場を意識した発言が散見される。
  • 人の陰口や噂を耳にすることが多い。

【酉爺(とりじい)】

 ホウホウ、またまた困った問題じゃのう。というか、困ったちゃん、困ったくんが今の世の中、いかに放置され跋扈しているのかの証左とでも言うべきじゃろかいな。今回の相談を時系列で整理してみると、まずAさんが会社や上司の悪口を言いふらしているわけだが…

  • その手段は、口頭だけではなく、メールも使用して複数人に送信している。
  • さらに、そのメールの送信先は社内だけでなく、社外(顧客)にまで送りつけている。
  • しかも、その内容は会社や上司に対する悪質な罵詈雑言である。

 この時点で、Aさんはメール送信とその内容の事実関係を認めたわけだから、けん責処分になったとのことだわな。取り敢えず一旦は、表面上は反省したと受け取れるわけじゃな。
 ところがところが、それもほんのつかの間、その後も「悪口メール」は続いたというわけじゃな。ここまでの経過でワシが気になるのは、けん責処分を受けたときのAさんの反応だわな。Aさんはこの処分を不承不承受けたのか、それとも真摯に反省して当該処分を重く受け止めたのか、皆の衆、どちらだとお思いになられるかな。
 さて正解はどちらでもないし、両方とも当たりなのじゃよ。不承不承受けたのであれば、処分に対する不平不満はずっとAさんの中では燻り続けていることになるし、処分後すぐに「悪口メール」が再開されたということは、”真摯な反省”も”重い受け止め”もAさんにとっては泡のような一瞬の出来事でしかないということだわな。要は、上司に対する不平不満の思いはAさんの中で断ち切れずに、ずっと継続しているのだな。

<しっかりした社内調査は不可欠>
 そこで、けん責処分を言い渡したのは、誰なのか気になるところやのう。内部監査室スタッフか、人事部スタッフか、あるいはAさんの直属の上司(今回メールに書かれた人である可能性も?)なのか、いずれにしても、メール内容に関する意図・動機についても、しっかりヒアリングをした上で、再発防止に繋げなければ意味をなさん。ただ単に、けん責処分にしただけで、それで済むと思ったら大間違いじゃよ。特に”悪質な罵詈雑言”として挙げられた「ウザイ」「低能」「使えない」、「こんな人を役職につける会社はおかしい」についても…

  • 一体何がどう「ウザイ」と判断されるのか。
  • 何の能力が「低能」なのか、またその判定基準は何か。
  • 何をもって「使えない」と思うのか、「使えない」と思ったときはどういうときか。
  • 他の役職者人事には納得しているのか。

 この辺りももっと深めてヒアリングできていれば、一回目の始末書の書き方も変わってくるだろうし、再発の牽制機能をより強化できたはずじゃよ。このとき「周囲にそれとなくヒアリングしました」とのことじゃったが、これではダメじゃ。通報者の保護に配慮しつつも、もっと当該上司の人物像・役職者としての評価が分かるように、またAさんの評価に対しても必要十分に行われるべきじゃったな。さらに、「悪い噂は出てきませんでした」とのことじゃが、これはあくまでも上司の話であって、Aさんの噂はカバーしていないのじゃから、ヒアリングとしては浅薄と言わざるを得ぬぞよ。
 ところで、今回内部通報をしてきたのは2名と考えられるわな。一人は最初に出てくる「ある部署から匿名で、『同僚のAさんが…』…」の通報をしてきた人、もう一人は、「卑怯者」「内部通報窓口を買収した」などと他部署へ吹聴しているメールを内部通報窓口へ転送してくれた同期社員。もしかすると、この二人は同一人物かもしれんぞ。特にこの同期社員はキーパーソンじゃよ。ワシの若い頃からそうじゃが、同期社員間ではいろいろな話が情報共有されておるからのう。
 この会社の従業員数が、数百人か数千人か、あるいは数万人いるのかは知る由もないが(本当は知りたいのじゃよ、業種も業態も、もちろん社名も!)、同期か年齢の近い同僚の複数人(同性異性含めて)にしっかり話を聞けば、Aさんの人となりや評判には大枠では近づけるものじゃよ。同様にこの上司(課長か部長かは分からぬが)の評価については、部下複数人に聞けば、その真偽も掴めるはずじゃ。ヒアリング対象者は何も嘘を付いてまで、Aさんなり、上司のことを庇う必要も動機もありゃせんもなあ。ましてや、社外の人間、特に顧客までもが「いやあ、あの課長(部長)はんには、いつもようしてもろうてますわ」、「ああいう人を上司に持てることは、部下としては光栄に思わな、いかんよ」などと評価しているならば尚更でっせ。そうすればいよいよ収集情報の信憑性は高まりますわ(この場合、得意先同士の幹部が不正の共犯関係にあるケースは全くの想定外ですよ)。
 いずれにしても、社内調査・社内ヒアリングは不正の原因究明や再発防止のために何にも増して、優先して行われなければならんのじゃよ。そして、その調査の正確性・厳格性・妥当性・信頼性が何よりも求められ、担保されなくては十分な機能・役割は果たせないことになる。その意味では、今回の初回のヒアリングはいかにも中途半端で、事の本質に迫れてないわな。

<Aさんの個性と常識>
 一回のけん責処分から、いきなり懲戒解雇に持っていくのは、ちょっと難しいのじゃなかろうか。二度目のけん責(前回より厳しい処分)があってもいいような気もするが、前回どうだったのか分からぬが、今回の始末書の内容と、そこに実効的な牽制効果が見られるかどうかがカギじゃのう。これまで散々Aさんへの疑義も示唆してきたのじゃが、ここで正反対に彼はとても良い人で、実はこの告発された上司というのが、実はとんでもないワルで、この会社もブラック企業の典型だったとした場合、どうなるかのう。
 まず、Aさんは何故それを内部通報しないのか、また通報制度自体に疑義があるのなら、何故所管官庁やメディアに告発しないのかとの素朴な疑問が思い付く。会社の風土や事業のやり方そのものに問題があるのなら、すでにネットや雑誌でも取り上げられているはずじゃし、内部監査室も通報件数でてんてこ舞いになっているはずじゃよ。要するに、そういうことにはなっていないということじゃがな。
 特に、Aさんは社内では(実際は社外も含めてじゃろうが)、自ら通報制度を活用することなく、只々「悪口メール」を発信し続けておる。しかも、最初のけん責を受けた後もなお、発信し続けているわけじゃ。これは最早尋常な行為とは言い難いわな。
 常識が時代の変化によって変わるとの言い様もあるようじゃが、これは間違い。正確には、変わるものと変わらないものとがあるということなんじゃよ。敢えて、人殺しとか他人の物を盗むなどの極端な例示はせぬとしても、Aさんには、以下だけでも常軌を逸した感情が横溢しておることが見て取れよう。

 (1)社内情報(特に人間関係に基づく悪口)を社外に流出させる(風評被害が念頭にない)。
 (2)けん責処分を受けてもすぐにメール送信を再開させている。
 (3)上司がAさんを内部監査室に通報したと思い込む。
 (4)上記をもって、「上司は卑怯者」、「内部通報窓口は買収された」と断じて吹聴している。

 さてどうじゃろう、皆の衆。Aさんは、常軌を逸した考え方、またモノの言い様をしていると言えるじゃろう。(1)と(2)は精神的に未熟で、自己制御できないガキ(いや失礼、お子様)に典型的な特質じゃし、(3)と(4)は正常な社会人の思考回路としては、滅茶苦茶で正当に機能していないわな。特に(4)に関しては、高々一課長(部長)が内部通報制度という会社の公式制度が買収可能であるとの思い込みの上に成り立っているので、最早何をか言わんやの状態じゃ。結局は、実年齢に見合った精神的成熟度を満たしていないAさんが、何らかの子供じみた理由と思い込みで、当該上司を嫌い、憎むようになったとのことなんじゃろうて。上司としては、何も思い当たることがないということになろうよ。そして、それが何なのかは彼の心の奥底に入り込んでいかないと分からぬことなのだが。おそらく、客観的に見ると、取るに足らないつまらぬことなのじゃろう(子供が我慢できないレベルのことなのだから)。
 さて、ここで問題の核心に入りますぞ。そんなAさんやAさんのような人々を分かってあげることが、本当に企業の仕事・使命なのかどうか、これは日本の教育制度や精神医療制度も含めて、総合的・複合的に考えていかなければいかん時だわな。
 かつて、不祥事が頻発し、性善説・性悪説議論が活発化する中、性弱説もよく唱えられたものじゃった。ただ、これは組織の論理やプレッシャーに押し潰されたビジネスマンが不正に手を染めざるを得ない局面を前提条件としていたものじゃったがのう。それが今じゃ、成長成熟進展説と未熟停滞説の二つで捉えないといかんかもしれんぞよ、皆の衆。
 各組織においては、公的資格とまではいかなくとも、少なくともその会社でやっていけるだけの資質や技能を持ってもらわなければ困るというものがある。若者であれば、それらの習得に対する可能性(本人のやる気と自覚)と組織人としての展望(組織としての受入態勢と人材育成プログラム)を見出せる者が採用で優先されるということになるわな。
 さて、ここでワシの新説、成長成熟進展説と未熟停滞説についてもう少し述べるかいのう。成長成熟進展説は人間のこれまでの自然な成長と”徳”に関連する成熟に裏付けられた、最も主流な人生ストーリーじゃったんだが、ただ近年は「サッスガー、オットナー」と呼べる人も少なくなったような印象もあり、”大人になりたくない症候群”の影響も見え隠れするのは寂しい限りと言うほかないわな。一方、未熟停滞説の方は非常に厄介ですぞ。
 精神的成熟を時の流れは待ってくれないし、幼少期・年少期に必要な躾を受けていなければ、性格は我が儘に向かってまっしぐらになってしまう。周囲で誰も注意も指導もしてくれないのだから、未熟のまま何年も停滞してしまうのも無理からぬところかもしれぬ。
 本人が間違ったこと悪いことをしても、それが間違っているとも悪いことだとも思っていないのだから、救いようがないわな。昨今、未熟停滞説と各種ハラスメントがドッキングして、問題解決をより複雑にしている傾向が見られることが大いに懸念されるのじゃが、ここは「発生した問題の所在」と「”問題社員”の何が問題か」を分けて考える必要があるということなのじゃよ。今回のAさんも”未熟停滞”の真っ只中におることはまず間違いないぜよ。利己と利他、自己満足と他者満足との間の相関関係・因果関係も何も分かっとらんのじゃからのう。こんなことをしても、自分の人生の末路を不幸にするだけじゃというのに。
 先程、ワシは「救いようがないわな」と書いたが、もう少し丁寧に言うと、「それでも企業が救うべきなのか」との重大な命題に行き着く。収益を上げ、事業を継続させ、企業価値を上げることを課せられてる資本主義体制の中に組み込まれた企業に、その”救い”の役割を担わせ、期待して良いものかどうか、これは従来のCSR、CSV、昨今のSDGsの延長線での考察に馴染むものかどうかも含めて、今後のより具体的な議論の展開は待ったなしだわな。
 全米オープンに続き、先の全豪オープンを制した女子プロテニスの大坂なおみ選手が試合中ラケットをコートに投げ付けるなどの行為が見られなくなり、関係者間によるアンガー・マネジメントが奏功したと言われておるわな。彼女自身もインタビューで「精神年齢が3歳」から「5歳に成長した」と話しているとも伝えられているのはご存知かな。このままいけば、実年齢にキャッチアップするのは時間の問題じゃな。これは本人の努力や自覚もさることながら、”チームなおみ”による強力なサポートが不可欠であったことを大坂選手自身が認めておるわな。
 さてさて、これと同様なことが企業社会、企業組織に持ち込めるかどうか、あるいはそれが妥当かどうか、今のワシも答えに窮するところじゃ。問題は企業論理でいくと、サポートされるだけの人材でなければならないということになるのじゃが、サポートされない者のサポートはどうするかの問題も検討課題にしなければならんのじゃよ。まさに日本企業・日本社会のあり方、日本人の生き様が問われてるとの認識が不可欠になるかもしれんのう。これはAIが誰の仕事を奪うかとの昨今の議論とは一線を画するものなのだろうか、画して良いものかどうか、まだ答えが出るには時間が掛かるに違いないだろうな。一つワシからのヒントを言わせていただくと、組織と個人(社員)間の相互貢献は成り立ち得るかとの命題に行き着く。さらに言えば、その相互貢献度合いと納得すべき”落とし所”がどこかとの問題に再帰していくことじゃろて。
 さて最後に、酉爺から一言申し上げたいことがある。皆の衆、よーく聞いてくだされ。
 精神的成長や精神的成熟とは、自分の感情を支配する欲とか憎しみとか嫉妬などに振り回されず、今一度向かい合い、見つめ直して心をかき乱すようなくだらないことの執着から離れること、即ち、本来の意味での心の自由を保つことなのじゃよ。そうすれば、上司や同僚や会社の悪口を発信・発散することなどバカバカしく思えてくるはず、「何をやってるんだ、俺は!」というふうになる。
 「Aさんよ、分かってくれたかいのう」。「なにー、うるせい、クソ爺だと」。君はまだまだ時間がかかりそうじゃな、まあ良い良い。ワシの一言に逆ギレした君の言葉には、ワシは再逆ギレはせんのじゃよ。
 逆ギレとは、指摘されたことが本当だったときの反応証明じゃからのう。ワシの出来ることと言えば、君の心が何の抵抗感なく素直になり、平穏を保てるよう祈ることだけじゃ。是非とも良い職業人生を送ってもらいたいのだ。心よりそう願う、君自身の人生な
のじゃからのう。

 「HRリスク」とは、職場における、「人」に関連するリスク全般のこと。組織の健全な運営や成長を阻害する全ての要因をさします。
 職場トラブル解決とHRリスクの低減に向けて、エス・ピー・ネットワークの動物たちは今日も行く!

※このコーナーで扱って欲しい「お悩み」を、随時募集しております。

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