新型コロナ対策 関連コラム

新型コロナウイルスや豪雨災害を見据えたBCP(事業継続計画)強化の着眼点

2020.10.06

執行役員(総合研究部担当) 主席研究員 西尾 晋

タイトルイメージ図

1.はじめに

国内では、ようやく新型コロナウイルスの感染症の感染拡大も小康状態となり、経済活動の再開やGo Toトラベルキャンペーン影響等により、東京では街中の人出も明らかに増えている。一方、海外では、トランプ米国大統領の新型コロナウイルスの感染が報じられた。一刻も早い回復を願うばかりである。

さて、当社では、2020年10月15日に、第一法規株式会社から、「成功事例から導く中小企業のための災害危機対策」という災害対策・BCP(事業継続計画)に関する書籍を刊行する運びとなった。BCPという言葉に馴染みのない方もいること、当社としては特にBCPを整備していない企業は防災との融合を図ることが合理的と考えていることから、今回は「災害危機対策」という書名とした。

ただ、本年においては、災害対応に関するBCPもさることながら新型コロナウイルス感染症対応に関するBCPへの関心も高いことから、出版社側の強い要請もあり、新型コロナウイルス感染症対策のBCP整備の勘所を特別編として収録した。

広告はこれくらいにして、今回は、同書籍の発刊のタイミングに合わせて、新型コロナウイルス感染症や豪雨災害に関するBCP整備・強化に向けた論考を行うことにした。

特に本年7月の九州豪雨の際、被災地を視察して、今回の被害の規模に驚愕したことを踏まえて、BCPについて改めて考える機会があった。今回は、その内容も盛り込んでみたい。

2.新型コロナウイルス感染症対策としてのBCP整備について

(1)総括の必要性

BCPを整備し、強化していく上での重要なポイントは、(1)「鉄は熱いうちに打つ」こと、(2)自社の経験・英知を最大限活用すること、(3)従業員全員(可能な限り多くの従業員)に当事者意識を持たせることである。この観点から有効なのは、「総括」である。

特に新型コロナウイルス対策に関しては、「喉元過ぎれば熱さ忘れる」とならないように、今こそ、「総括」を行うことが重要である。

(2)感染症BCPの強化・見直し

新型コロナウイルス感染症対策に関して、「BCP整備・強化はいつやるか」に関しては、「やるのは、『今』であり、できるだけ早く始める」ことが重要である。何よりも記憶も意識も鮮明なうちに、進めるのが効率的だからである。

また、「BCP整備・強化はどうやってやるか」については、「BCPの種は、自社の経験、事例の中に眠っていることから、今回新型コロナウイルス感染症の一連の対応の経緯等をフルに活用する」ことが効果的であると言える。

BCPについては、フォーマットにあてはめて作成している企業も少なくないが、フォーマットを使ったBCPの整備は、自社の実情に合わせたカスタマイズがうまくいかないのが大きな課題であるが、自社の対応経緯を「総括」することで、自社の組織体制や実情を踏まえて、何ができたか、何が課題かを明確にできるメリットがある。

そして、「BCP整備・強化は誰がやるか」に関しては、「今回、各部門・現場で、様々な苦労があったはずであり、担当部門任せではなく、各部門・従業員が主役となって行う」べきである。各部門の従業員を主役として進めることで、現場の知恵を生かすことができ、自社の事例の総括を通じて、自社のナレッジがより明確になるからである。

(3)日本企業では敬遠されがちな総括

日本では、「総括」は往々にして行われない。総括のプロセスが、往々にして、当時の対応等に関する評価・責任追及の場に変わってしまうからだ。今から見れば、明白な事項も、対応当時は情報すらないという状況は危機対応においてはよくあることで、後付けの講評は無意味である。

どの段階で自社では何をしたか、その時はどのような情報に基づき、どういう基準で判断したかなどを、時系列を用いて精査・整理して記録し、必要に応じて、効果測定をしながら、課題を明確にしていく。このような「総括」をすることで、社内にある知見や経験値を記録することから始めていくことが重要である。

当社では、AAR(After Action Review)の手法を用いた「総括」を推奨している。AARは、もともと米軍が用いた振り返りの方法の一つで、計画とのズレを可視化し、その原因と対策を考えることで、次に活かしていく考え方である。

具体的には、

  • 何をやろうとしたのか? What Was Your Plan ?
    まず何をやろうとしたのか?行動の目的や目標、計画を改めて確認する
  • 実際には何が起きたか? What Happened ?
    目的や目標、計画に対して、実際にはどのようなことが起きたか、結果を振り返る
  • なぜそうなったか? Why It Happened ?
    なぜズレが生じたのかを考える。失敗した際には失敗した原因を、逆に上手くいった場合にも上手くいった理由をしっかりと深掘りする。
  • 次回どうするか? How To Do Better ?
    失敗の原因や成功の要因を把握した上で、次どうすればより良い結果を得られるかを教訓化し、対策を講じる。

という形で、一連の対応経緯を総括していくものである。

総括やAARは、それ自体が、次の同種の危機におけるBCPの骨組みとして機能する。そこに、多くの経験値が集約されているからである。その意味では、最も、総括やAARは、効率的にBCPの整備・強化を行っていくための合理的な方法論ということができる。

3.災害対策のBCPの整備・強化に向けて~豪雨災害に関して

(1)豪雨災害を踏まえたBCPの在り方~2020年九州地方7月豪雨からの考察

当社では、本年7月15日、16日に、7月初めの豪雨・河川氾濫により甚大な被害が発生した九州地方の被災地を視察した。巨大河川である球磨川では、まさかここまで水が来るとはと、今回の災害の規模の大きさを目の当たりにして、改めて自然の脅威を認識した。

その一方で、これまで長い間様々なBCP研究を行ってきた経験を踏まえても、やはり、「原因事象型」BCPの有用性・有効性を再認識した。私は、過去の論考においても、東日本大震災以降で主流になった「結果事象型」BCP(最近では、機能停止型BCPとも言うようだ)には危機管理の実務からは大きな欠点があることを指摘してきた。これは主に、「結果事象型」BCPが結果、すなわち、事業に必要な各種インフラが被害を受けることを前提とした場合、そのような甚大な被害をもたらした災害の状況下では、交通機関の運休や通信遮断等が発生するため、被害確認のみならず関係者の招集にも大きな障害があることという災害対応の実際の姿を踏まえた考察を論拠としていた。

今回の九州地方での豪雨を受けて感じたのは、原因事象型BCPの事業継続に関するプロセスの網羅性による優越性である。すなわち、豪雨災害のような比較的予測可能な災害の場合は、事前の天気予報等に基づき、被害発生が想定される前から、減災や重要な事業インフラの確保・維持に向けてアクションを起こすことが重要であるが、これは、原因事象型BCPにより可能になるということである。

水害に対しては、国土交通省でも、タイムラインを使ったタイムライン防災が提唱・活用されている。このタイムラインは災害発生72時間前からの各ステークホルダーのアクションプランを定めたもので、水位等のモニタリング等により被害発生の可能性が比較的予測可能な水害で活用されているように、予測可能災害については、同様に、災害発生前の事前の被害低減・事業インフラ維持の施策が重要になる。

(2)タイムライン的発想で、事前対策が可能な原因事象型BCP

原因事象型BCPについては、インシデントごとにBCPを策定することから、水害・豪雨災害等については、警報や天気予報等を勘案して、雨の降り始めの段階をBCPの発動基準として、その段階でBCPを立ち上げ、被害発生までに先手必勝で、従業員の避難と、事業に不可欠なインフラを守るための措置などの被害低減策を行うことができる。

結果事象型では、そもそも結果(=被害)の発生がBCP発動の基準となることから、理論的に考えれば事前の被害低減のプロセスは観念しにくい。防災の延長線として対応できるという論者もいるであろうが、防災の取組とBCPは別の取組であるとする従来の政府の立場に立つと、重要な事業インフラの被災回避策は「事業継続」のプロセスであることから、そもそもその取り組みを「防災」の取組として行うことは、論理破綻が起きているのである。

理屈はどうであれ、事前の被害低減策が打てるにもかかわらず、その対策を組織的に検討・実施できずにみすみす被災の事態を招くようなBCPでは実用には到底耐えられない。危機管理の基本は、「予測・予防・対応」であるが、予測が可能な災害については、様々な端緒を活用して早い段階で被害を予測し、被害が予測された時点でBCPを立ち上げ、先手必勝の対策実施により被害の発生を予防し、被害を最小限に食い止めて、その後の対応で事業継続を図るという危機管理こそが最も合理的かつ効率的であり、原因事象型BCPには、このように、予測・予防・対応のプロセスすべてが組み込まれており、災害対応に必要なプロセスが網羅されているのである。

今回の九州地方豪雨のように甚大な被害が予測される場合、人命を守るためにも、早い段階でのBCP発動と戦略的な先手必勝対策こそが重要であり、このようなBCPは原因事象型BCPによってこそ実現可能なのである。

(3)BCP整備の段階に応じたモデルの使い分け

改めて、危機管理の実務、災害対応の実際を踏まえた場合は、特にこれからBCPを整備しようとする企業は、原因事象型BCPで主要災害に対するBCPを整備することをお勧めしたい(入り口の部分はインシデントの特性により若干異なるが、大きな対応の流れは共有でき、デメリットはそれほど大きくない。むしろ災害特性に応じた対応ができる点で、メリットがある)。一方で、既にBCP、特に原因事象型BCPで整備している企業は、よりBCPの実効性を高める意味で、結果事象型BCPも併用することは有益である。原因事象型BCPにより必要なプロセスを網羅して足元を固めた上で、事業インフラそれぞれの被害を前提として(被害確認プロセスの結果を踏まえて)、各事業インフラの復旧要領を精密に作り込むという結果事象的アプローチは、BCPを発展・深化させていく上では有用な考え方であると言える。

BCPについては、導入整備期は分かりやすい原因事象型で、発展・強化・見直し期は結果事象型で、と段階的に整備していくことが有用であろう。

(4)原因事象型によるBCP策定に関するまとめ

原因事象型によるBCP策定に関するまとめ

さて、原因事象型BCPを整備する場合の策定のイメージについて、ここでは、冒頭で紹介した書籍に掲載した図等も活用しながら、簡単に説明しておく。

①「原因」となるインシデントの設定

まず、結果事象型BCPの問題点やイメージのしやすさ、防災対策との連携がしやすい等の理由から、原因事象型BCPの策定プロセスによることを選択する。そこで問題となるのは、どのインシデントを原因事象とするか、である。その点については、「危機管理」は「最悪の事態を想定し、準備・対応するもの」であることから、最悪のインシデントになりうるものを考えることが重要である。その意味では、東日本大震災のような大規模海溝型地震を想定しておくことが望ましい。

大規模海溝型地震を想定することで、地震だけではなく、津波を想定できるので水害系も含めた検討が可能となる。また、現在発生が想定されている南海トラフ地震(東海・東南海連動地震も含む)も海溝型地震であり、大規模海溝型地震を想定することは十分に合理性があると言える。

BCPの観点からすれば、熊本地震や新潟中越地震のような局地地震(内陸型地震)と、東日本大震災のような広域地震(海溝型地震で津波が発生する場合に多い)とでは、復旧までのスピードも異なってくることは念頭に置いておくべきであろう。局地地震の場合は、被災地が特定地域に集中するため、周辺地域を含めた広域支援・復旧が可能であるが、広域地震の場合は被災地自体が広域になるため支援・復旧人員や物資等がどうしても分散してしまう。その分、復旧までにどうしても時間を要することになる。その意味で、大規模海溝型地震を想定することは、最悪を想定するという危機管理の観点からも合理的なのである。

ちなみに、津波や水害等の後は被災地では感染症が流行ることがある。新型コロナウイルス感染症が流行した今年、避難所における感染症対策が課題となったが、災害対応の分野では以前から災害、特に水害発生後の感染症対策は重要な項目とされていた。その意味で、大規模海溝型地震を想定することで、感染症対策も視野に入れることができるのである。

②BCPの対応プロセスの違い~予測可能かどうかは重要な視点

その上で、災害には「予測可能かどうか」という視点で整理することが重要である。先に述べたように、災害には相当程度予測が可能なものと、予測が難しいものがある。精緻な分析が目的でないので、水害、降雪、台風など気象災害は前者、地震は後者と考えてよい。噴火については、可能なものと難しいものがあるので、予測不可能災害に分類しておく方がよいであろう(最悪を想定するという意味で)。ちなみに、新型感染症も、少なくともBCPが問題となりうる感染拡大期については、予測可能に分類してよい。

したがって、予測可能災害の場合は、事前の防災対策+αとしての「リスクマネジメント」(第1フェーズ)、被害回避・減災対策、事業移管等の先手対応(第2フェーズ)、災害への対応・被災後の対応(第3フェーズ)という大きく3つのプロセスで進めていく必要がある。一方で、予測不可能災害の場合は、上記の第2フェーズを実施するのが難しい(2次被害の発生防止という限定的な意味では実施可能)ため、第1フェーズと第3フェーズという2つのプロセスが進めていくことになる。このあたりを図示すると、下記のようになる。

BCPの対応プロセスの違い

分かりやすく言うと、地震は「起きてから避難し、事業復旧」に当たる、水害は「起きる前に避難し、事前の減災・被害低減対応」を済ませる、ということだ。

なお、第1フェーズは、防災対策を含めて事前に実施しておくべき項目であることから、BCPとしての動きは、「第2フェーズ」以降で実施・展開されていくことになる。

③第2フェーズの重要性~特に豪雨災害の場合

予測可能災害については、「予測・予防・対応」のプロセスに従い、被災までの時間的余裕を勘案して、守るべき資産(従業員も当然に含む)について、それまでに何ができるかを検討して速やかに実行に移し、BCPにおいて重要な事業インフラを守る必要がある。事業継続上、重要な事業インフラの被災を免れることができるかどうかで、BCPの実効性も大きく左右される。原因事象型BCPで策定し、予測可能災害については、第2フェーズの対応要領をしっかりと盛り込んでおく必要がある。

参考までに、この第2フェーズの対応要領の大きな流れをご紹介しておきたい。なお、今回の書籍では、第1フェーズと第3フェーズの内容は詳細に記載しているが、ここで紹介する第2フェーズの内容の詳細は記載されていない。ここで初めて紹介する内容であり、本稿読者に先行して公表するものであることを付記しておく。

【第2フェーズの大まかな流れ】

BCP第2フェーズの大まかな流れ

被災までの限られた時間の中で、できるだけ被害を最小限に食い止めるため、全社員が一丸となって、効率的かつ戦略的に、しかも迅速に動く必要がある。国土交通省のタイムラインでは72時間前から、誰が何をするかの行動指針が明確にされているが、企業においても少ない持ち時間の間で、誰が何をするかを明確にしておく必要がある。

実際上は、原因事象型BCPでは、水害・台風等の予測可能災害の場合は、それが「予測」された時点でBCPを立ち上げる(これは、原因事象型BCPでBCPを整備されている企業においても、現行のBCPがこのような予測可能災害に対応した立上げ基準となっているか、確認しておく必要がある)必要があるので、実際上は対策本部にて判断していくことになる。

④担当部門のおける情報収集の重要性

一点、重要な点を補足しておく。

この第2フェーズを効果的に実施するためには、事前の情報収集が重要である。早い段階で、災害の兆候を把握して、被害の発生を予測できれば、それだけ持ち時間が増えることになる。したがって、対策本部ないし担当部門における情報収集班(機能)の役割が重要となる。どのような形で情報を収集するか、そこまで規定しておく必要がある。

実際上は、担当部署で情報収集し、被災の可能性があった場合は、BCPを発動して対策本部を立上げて、第2フェーズの対応に移っていくことになることから、BCP以前のプロセスである防災対策として、情報収集体制を整備しておくことが不可欠であると言える。

今回は災害に関しては、豪雨災害を中心に記載する方針であることから、豪雨災害に関する情報収集としては、例えば、

▼大雨警報(土砂災害)の危険度分布
▼指定河川洪水予報
▼アメダス:全国
▼雨雲の動きと今後の雨
▼天気図(実況・予想)
▼気象庁 期間合計降水量一覧表
▼気象警報・注意報
▼気象警報・注意報(図表形式):早期注意情報(警報級の可能性)
▼気象庁 過去の気象データ検索
等を参考にして、情報収集を行うことが望ましい。

また、もともとの拠点の被災リスクは、ハザードマップを確認して予め、把握しておく必要がある。危険が迫ってから、一からハザードマップを調べているようでは遅い。ハザードマップの分析については、下記のサイトが有用である。

▼ハザードマップポータルサイト (国土交通省)~身のまわりの災害リスクを調べる~

4.さいごに

今回は、豪雨災害を主眼において、BCP整備に向けた大枠を説明してきた。避難の要領等も含めて、新刊書にも詳しく書いてあるので、そちらを参照いただくとして、本稿の最後に、豪雨リスクについて言及しておきたい。

気象庁のデータによると、1時間で50㎜や80㎜の雨がふるケースが統計上有意で増加している。

アメダスで見た短時間強雨発生回数の長期変化について

まずは、大雨が明らかに増えていることを正しく認識しておく必要がある。防災対策であれ、BCPであれ、災害発生のリスクを正しく認識することが重要である。リスクに関する正しい認識があって初めて、「予測・予防・対応」が可能となることに留意いただきたい。

なお、1時間に50mmの雨が災害発生のリスクのある雨であることの知識・認識も必要になる。気象に関する知識はなくても、気象庁や国土交通省のホームページでは、各種の基準や教材も公表されており、内容的にも日ごろから活用できるものもある。その意味では、まずは担当部署の方は防災関連の所管省庁を含めたホームページをしっかりと見ることから始める必要がある。

雨と風の強さについても、数値だけではどの程度のものかイメージしにくいという方も少なくないであろう。参考までに、分かりやすい資料を紹介しておく。

▼気象庁:雨と風

自然災害の予測・予防を行う上では、次の点に留意しておかなければならない。

まず、「歴史は繰り返す」ということだ。災害事象の発生原因は本来、科学的なものであり、構造的なメカニズムに基づくものは、同じメカニズムで再び起こる。だから、歴史は繰り返すのだ。もちろん複合的な要員が絡みあいメカニズムの解明が難しいものはあるにせよ、そのような例外事象を殊更強調することなく、「同じ災害は再び起こる」こと、そして豪雨災害については、「日本及び近海の温暖化により、より悪化する可能性がある」ことを常に念頭に置いておかなければならない。

次に、「人間は、自分達の状況は過小評価しがち」ということだ。人間は判断・行動の局面で、様々なバイアスがかかる。詳細は割愛するが、往々にして、「自分に甘い」ことが、事態を悪化させることを肝に銘じておく必要がある。災害発生時ですら、「自分たちは大丈夫」と考えがちだ。実際に災害がおきていない防災対策・BCM整備の過程なら猶更である。企業のBCPを見ても、なぜか情報収集がスムーズに行われる前提、電気が使える前提、社長以下の対策本部を構成するメンバーが問題なく稼働できる前提であることが非常に多い。実際は情報収集は容易ではないし、ライフラインも甚大な被害を受けるし、安否確認に時間を要するにもかかわらずである。

最後に、「自然に対して人間は無力」であることだ。確かに可能な限り、防災対策を推進すべきであるが、強固な建造物で自然の脅威を制御しようとしても、無理もあることは東日本大震災で田老町の巨大防潮堤が脆くも破壊された事実を見れば明白でである。治水対策等の減災対策にも限界があるが、対策があると、かえって安心・安全を過信してしまうという更なる悪循環をもたらすことがある。あくまで被害拡大を遅らせ、あるいは少しでも遅らせるための対策であるにもかかわらず、堤防や防潮堤など対策されていることを理由に「逃げない」「対応しない」が往々にして起きてしまう。物理的な構造物が人間心理に大きな油断をもたらす現実があることを直視しなければならない。最近は、わざわざ危険な場所に近づき、写真撮影を行う人もいるが、もっての他である。

健全なリスクセンスを養い、オオカミ少年を恐れずに、避難や事業継続対応を地道に行い、いざリスクが迫れば迅速かつ優先的に対処する。当たり前であるが、これこそが、防災・BCPの整備・強化を進めていく上で、非常に重要であることを改めて認識して欲しい。

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以上

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