SPNの眼

対応検証の重要性~コロナ禍の対応を振り返る~

2023.10.30
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総合研究部 研究員 長谷部 純菜

2020年1月頃から新型コロナウイルス感染症の感染が拡大し、企業においてはさまざまな対応が要請され、都度対応してきたと考えられる。その中で、社内・各現場には、様々な経験・知恵・ノウハウ・反省が蓄積されているはずである。2023年5月8日から、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけが「新型インフルエンザ等感染症(いわゆる2類相当)」から「5類感染症」になった。

この区切りにおいて、一度これまでの対応を振り返り、総括して、次回感染症が流行した際に対応に困らない体制を構築しておくことはいかがだろうか。

「対応を検証して総括する」という点でAAR(After Action Review)という手法がある。今回の対応全体がどうだったかを総括し組織的な教訓とすることを大きな目標としている。

本稿では、AARという手法の紹介と、コロナ禍を振り返り総括するにあたってのポイントを述べていきたい。

1.はじめにAARとは

AAR(After Action Review)とは、もともと米軍が用いた振り返り手法の1つで、計画と実際のずれを可視化し、その原因と対策を考えることで次の対策に生かしていく考え方である。

日本でも水害対応で取り入れられている「タイムライン防災」は、もとは米国でAARの1つとして提案され、2012年に米国ニューヨークを襲った「ハリケーン・サンディ」の対策にも活用された。2012年にニューヨーク州、ニュージャージー州を襲った「ハリケーン・サンディ」では、実際にAARから生まれた「タイムライン防災」を活用し、上陸の3日前からニューヨーク州知事らは「緊急事態宣言」を発表。住民が避難する地域を指示するなど準備を着々と整え、被害を最小限に抑えた。ニュージャージー州バリヤーアイランドでは家屋の全・半壊が合わせて約4000世帯に上ったが、事前避難により人的被害はゼロであった。米国カリフォルニア州では、企業などに災害が発生した後のAARの作成を義務付けている。

その後、日本の実情に合ったタイムラインの策定・活用をはじめ、大規模水害が発生することを前提とした防災・減災対策が進められた。「タイムライン防災」では、災害発生120時間前、48時間前、24時間前、災害発生と、災害発生5日前から「誰が」「何を」「いつ」実施するか明確にするようになっている。

現在では、感染症や災害(地震、台風、水害)等の対応においてAARとして「対応検証報告書」が多く作成されている。

2.AAR(対応検証報告書)の作成手法

AARを作成する目的は、対応の流れや活動内容の実態を整理するとともに、対応上の問題を洗い出し、体制面や運用面の改善やマニュアルの修正につなげていくことである。また、AARを元に、次の災害に向けた運用面の充実・強化を図りつつ、新任担当者の教育教材に利用するなど、効果的な活用をすることができる。

作成のポイントとして主に次のような事項が挙げられる。

  • 事象(感染症や災害など)の全体像が分かる
  • 対応の流れやいつ、どこで、何をしたかなどの対応を記録する
  • 対応の実態に関する課題や改善策を検討する
  • 次の災害の備えとして各種資料が整理されている
  • 新しい担当者や未経験者などが事象そのものとそこで行われる対応のイメージを理解できる

感染症や災害においては、被害や影響などによって対応の方針や優先度が変わるという特徴がある。例えば「地震」の対応検証報告書を作成したとして、震度5弱と震度7では被害や影響が全く異なると考えられる。そのためAARにおいては、対象とする感染症・災害対応等の特性を明確にした上で、組織内・各現場に蓄積された様々な知識・ノウハウ・反省を集約していくこととなる。また、改善策や課題を整理する際は、対象事象の対応に対する考察に加えて、他の事象へ適応できることを視野に入れた考察の両面で検討することが望ましい。

AARとして取りまとめるために、準備段階として災害の概要や対応を集約し、第一段階で対応行動の整理を行い、第二段階で課題の検証、改善方策の検討し教訓化する必要がある。それぞれの段階に応じて説明していきたいと思う。

(ア)準備段階

準備段階では災害や感染症等の概要や対応を集約する必要がある。そのため下記のような資料を集約することとなる。

  • 危機管理規程などの関連規程、計画、マニュアル
  • 災害/感染症等の概要、タイムライン、被害や影響
  • 社内通達や社外発信した文書
  • 実際の対応と流れが分かる資料

まずは実際の対応において、いつどこで誰がどのような業務を行ったのかを時系列で整理し、業務の流れを確認できるようにする。これらを取りまとめるために、社員に向けてアンケートを実施したり、社長や担当役員など複数人にインタビューをしたりすることなどを通して、当時の実態を洗い出すこととなる。

(イ)第一段階

第一段階では対応行動の整理を行う。準備段階で取りまとめた資料を元に、組織活動における対応の流れの整理、個々で実施された業務の流れの整理、実施した活動内容の整理を行う。タイムラインや業務フロー、なぜその対応を実施したのかなど、業務内容について詳細に洗い出す。その場面で使用した資料などを関連付けることにより、課題の検証時に活用することができる。

(ウ)第二段階

第二段階では、課題の検証や改善方策の検討行う。この際、独自の検証と他者による検証の2つを実施することで、より実効性の高い検証を行うことができる。独自の検証においては、担当者間での反省会を通じて行うもの、計画やマニュアルとの整合性の検証を行うものの2点が挙げられる。他者による検証は、有識者、第三者による指摘、対応に関連する機関の担当者による意見の聴取などが考えられる。課題の検証を行う際は、次に挙げる事項などを重点的に検証すると効果的である。

  • 本来実施すべき対応や実行が求められていた業務のうち、実施できなかった事項
  • 実行されたものの効果的な対応となり得なかった事項

上記について、規定やマニュアルなどの体制面に起因する問題なのか、対応する組織の能力面に起因する問題になるのかを課題として整理する。そして、課題改善のために、現行の規定やマニュアル等の修正や策定、対応力向上の取組などの検討を行い、改善案を作成することとなる。

体制面に起因する課題は、規定や計画、マニュアルの修正に必要な箇所、不備や未策定の部分があるのかを検討する。また、能力面に起因する課題は、個人の知識や技能の向上を必要とするものか、組織間連携など組織の対応力を向上させる必要があるのかを検討する。それぞれ改善の方向性を定め、一つ一つの課題の改善案を作成する。より深刻な影響があった場合や、異なる事象の対応においても活用できるような内容にすることでより実効性の高いものとなる。

これらを「対応検証報告書」として取りまとめることとなる。AARの活用方法としては、組織体制や業務内容の改善の根拠、次の事象発生時の対応の指針・参考、マニュアルとして補完するもの、教育・訓練に係る教材としての活用が挙げられる。取りまとめたものを、「次」の対応のために有効活用していくことが重要である。今回の対応の教訓を「次」に活かすことを考えると、手間と時間はかかるが資料の取りまとめと、課題の検討を実施する必要がある。

3.実例

実際にどのようなAARが公表されているのか見ていきたいと思う。国内では、地方自治体における災害や感染症の対応について、事後に検証する形で活用されているケース(対応検証報告書)が相当数存在している。かなり手厳しい評価をされているものもあるが、検証報告書の形でそれを公表し、次の対応に生かす狙いがある。水害や新型コロナウイルス感染症の行政が作成したもの、企業が作成したものを参考例として以下で紹介していきたい。

平成27年9月関東・東北豪雨の鬼怒川水害における常総市の災害対応について検証している。災害対策本部会議と事務局の連携不足など、問題点を明確にして検討されている。情報の流れなどについても検討されている。

新型コロナウイルス感染症の7回の波での対応を取りまとめ、対応についてそれぞれ課題と重点的に検討すべき事項を記載している。この報告書を踏まえ、今後の感染症予防計画や体制整備等に議論を深めるとのことだ。

台風15号での対応を検証している。それぞれの対応について事実関係と課題、今後の検討の方向性が取りまとめられている。企業の対応検証報告書が公表されているものはあまりないので参考にして欲しい。

4.コロナ禍を振り返る

2020年から2023年上半期にかけてのコロナ禍を下記で大まかに振り返っていきたい。約3年間の間で様々な方針やガイドライン、状況の変化があった。振り返ってみると、そういえばこういうこともあったなと思う方もいるかもしれない。

(ア)2020年

1月20日 中国 国家衛生健康委員会がヒトーヒト感染が確認されたと発表

1月27日 厚生労働省 新型コロナウイルスを指定感染症に

1月30日 総理大臣を本部長とする「新型コロナウイルス感染症対策本部」設置
WHO 新型肺炎について中国国外にも感染拡大の懸念が出てきていることから、「国際的な公衆衛生上の緊急事態」を宣言

2月13日 「新型コロナウイルス感染に関する緊急対応策」基本方針を発表

2月26日 「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」を発表

3月28日 「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」発表。「3つの密」を避けるように指示

4月7日~5月25日第一回緊急事態宣言

5月 4日 「新しい生活様式」を公表

7月22日 「Go To トラベル」キャンペーン開始

11月頃 厚生労働省の接触確認アプリ「COCOA」の運用開始

(イ)2021年

コロナワクチンの接種開始

7月23日~8月8日 東京オリンピック開催

(ウ)2022年

 3月17日 企業などでは「濃厚接触者の特定など必ずしも行う必要なし」との見解

10月11日 「野外ではマスク着用は原則不要」厚労相

(エ)2023年

2月10日 マスク着用「3月13日からは個人の判断で」政府が決定

5月 5日 WHO「国際的な公衆衛生上の緊急事態」宣言を解除

5月 8日 新型コロナウイルス「5類」移行

NHKが作成している「新型コロナ関連記事全記録」では、NHKで報じたコロナ関連のニュースがまとめられている。コロナ禍を振り返る上でぜひ参考にして欲しい。

例えばどのタイミングで、在宅勤務ができるように整備したか、社内にアクリル板を設置することになったかなどもう思い出せないのではないだろうか。記録として残しておかなければ、対応自体も風化してしまう。世の中の動きに合わせて、どのような対応や社内通達、社外発信をしたのか取りまとめることで、整理することができる。自社の対応だけをまとめた場合、なぜこのような対応をしたのか分からなくなってしまう可能性があるため、世の中の動きもあわせて取りまとめておく必要がある。

5.まずはこれだけでも

AARを実施する労力をかけられないと考える企業も多いのではないだろうか。その場合は、10年後の担当者が困らないように最低限、下記のような整理をしておくことが望ましい。

  • いつ何をしたかを記録する
  • 業界団体等のガイドライン集約する

「対応検証報告書」として残すことができなくても、一つのフォルダの中に格納しておき、次回同様の対応が発生したときに確認することができるようにしておくことが重要である。

まずは、「社内通達」やリリースなど「社外への情報発信」を取りまとめておく必要がある。また、新しい制度の導入や物品の購入など、いつ何を行ったかについても集約しておく。これらをまとめておくことで、同様の事象が起きた時に、前回の対応を参考に対応することができる。

新型コロナウイルス感染症に対して業界団体等のガイドラインが出ている。一つの指標として、保存し残しておくことを推奨する。インターネット上に挙げられているデータは埋もれてしまったり、削除されてしまったりすることも多々あるからだ。

その上での余力があれば、規定やマニュアルが整備されていないものについて策定や、マニュアル、対応体制の構築をする。また、今回の社内通達や社外への情報発信を元に、ひな型を作成しておくことで、次回対応時に活用できる。

6.おわりに

約3年間のコロナ禍で様々な変化や対応があった。それらを一度総括しておくことで、「次」同じような事象が起きたとしても対応できる体制を構築していくことができると考えられる。同じような事象というのは、新型感染症かもしれないし、地震などの災害かもしれない。このようないつ起きるか分からないものに対する準備を常に考え続けることは難しいと考えられる。だが、直近で起きた事象の対応を総括して「次」に向けた改善を行うことは手を付けやすいのではないだろうか。

日本では対応を検証しようとすると、過度な配慮が働きがちである。社内で対応を検証すると角が立ってしまう、これまで対応を検証したことがなくノウハウがない等の理由で、検証をせずに終わってしまうこともある。これは、新型感染症や災害の対応という貴重な経験をうやむやにしてしまうことは大きな損失と言えるだろう。

社内での実施のハードルが高いのであれば、第三者に依頼することも一つの手だ。当社では、コロナ禍の年表にあわせて社内の対応を整理し、実施した対応についてアンケートやインタビューなどを提供できる。これらを通して、対応ができていたかの検証を行い「次」への備えを行うことができる。

新型コロナウイルス感染症対策を総括して次に備えたいけど、社内リソースが足りない、取りまとめたはいいものの、次に生かすための体制構築ができないなどお困り、お悩みの方は当社まで遠慮なくご相談ください。

以上

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