リスク・フォーカスレポート

店舗のロスと実態把握編(第3回)(2015.12)

2015.12.24
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 本レポートでは、これまで、第1回で小売店舗におけるロスの発生状況について、ロスの原因やそれを誘発する各要因を取り上げ、理論的な観点から説明しました。第2回では、当社が扱った店舗監査の事例から、特に店舗内の管理体制に不備があった事例を取り上げ、監査に至った経緯、監査から抽出された運営上の問題点を考察することで、ロスの削減に向けた改善方法について実務に則して解説しました。
 最終回となる今回は、万引きや内部不正といった、不正が原因でロスが発生した店舗の監査事例を紹介しながら、店舗におけるロス対策の問題点とその改善方法のポイントを考察していきます。

1.B社事案の概要(そもそもの経緯)

 B社では、以前より万引き対策を行っていたが、毎月の売り上げ計上の際に発生するロスがなかなか削減されないため悩んでいた。
 同社は、定期的に本社の担当者によって店舗の視察を行っていたが、毎回店舗の管理体制に不備があることから、従業員による内部不正が生じており、それがロスの原因ではないかと考え、当社へ監査業務について問い合わせがあった。

 上記のように、B社では既に店舗内で万引き対策を行っているにも関わらず、その効果がみられないため、ロス削減に繋がっていない状況にあった。
 本レポートの第1回でも説明したように、万引きの対策を行うには、店舗の業種・業態、扱っている商品、店舗の敷地の広さ等を考慮し、各店舗に合わせた対策が必要になる。また万引きが発生しやすい店舗では、一般的に、店舗の見通しが良くない、従業員が店舗内を巡回していない、防犯カメラがない(あるいは、効果的に配置されていない)、といった従業員の商品(それを売ってお金になること)に対する意識の低さが、特徴として挙げられる。さらに、こうした環境は万引きだけでなく、そもそも商品に対する意識が薄いため、内部不正が発生しやすい環境でもあるといえる。そのため、当社による監査を行う前に、まず現時点で本社側が把握できている店舗の管理体制の他、店内の清掃・整頓状況や従業員の商品管理意識を把握し、その上で必要な監査内容を決めていく必要がある。例えば、破損したままの商品が長期間置かれている、売り場の電気が切れたままになっている、欠品の商品が多い、商品の在庫確認に時間がかかる等の兆候があれば、商品や売り場に対する意識が低く、万引きや内部不正、廃棄を含めて大きなロスを生んでいる可能性が示唆されるのである。そこで当社は、店舗の管理体制の現状についてヒアリングするため、B社を訪問した(なお、本社レベルで把握している現状と店舗レベルで把握している現状認識が異なることも当然にあるが、そのような事態もそれ自体をリスクと考えるのが、当社の立場である)。

2.店舗調査による検討事項の把握

 B社の本社側で把握している、店舗内の管理体制において主な問題としては、従業員があまりルールを守っていないことに対する懸念があった。特に、レジ金の取扱方法におけるルールを守っていないのではないかとの不安を抱いており、その他には「従業員が店舗内で商品を購入した際の手続きについて、店舗責任者が現状を把握しておらず、ルールの遵守状況が曖昧ではないか」という不安があった。

 上記ヒアリングの結果、店舗の管理体制について、内部不正の対策に係る管理体制そのものが曖昧であり、十分に機能していない可能性が把握できた。そこで、当社はB社に対して、店舗全体の状況確認と特に懸念している従業員の商品購入時のルールの内容、違算の発生状況、商品ロスの打ち分け等をヒアリングしつつ、主に万引きと内部不正に対する防犯面の管理・運用体制について、監査(実態調査)を実施することとなった。

3.店舗の監査結果

 店舗監査の実施にあたっては、B社では全国規模で定期的に本社の社員による監査を行っているが、その結果に基づき、売り上げに対するロス率が高く、管理状況に問題のある10店舗を抽出し、今回の当社による監査の対象店舗とした。
 監査内容としては、「防災対策」「商品管理」「人の管理」「金銭の取扱」といった項目を軸とし、商品売場やバックヤードは勿論のこと、特に従業員が頻繁に出入りする休憩室や事務所、店舗外に面している窓や出入り口の防犯状況、駐車場など外から侵入しやすい箇所などもチェック対象として内部不正の可能性がないか検証することを目的とした。

 監査を実施した結果、各店舗でみられたロスの原因として、防犯管理体制が行き届いていないことが特に多く確認された。例えば、防犯上、具体的に不備のあった箇所を大別すると、(1)レジ、(2)バックヤード、(3)商品、(4)従業員の休憩室・事務室、(5)侵入盗の対策の5つに分類できた。以下、監査により抽出された問題点と、当社が指摘した事項および提案した改善方法について解説していく。

1)監査により抽出された問題点

(1)レジ

  • レジカウンター付近の引き出しに、商品に取り付けている防犯タグを解除するための自鳴タグ解除キーや防犯解除シールが保管されていたが、引き出しは施錠されておらず、誰でも持ち出せる状態であった。
  • 返品や訂正に対応するレジマイナス記録表に、お買上げレシートを貼付けるルールとなっていたが、適切に対応されていない状態であった。

(2)バックヤード(倉庫の状況も含む)・事務所

〈バックヤード〉

  • バックヤード内に、施錠されていない小さな倉庫があり、倉庫内には、POPや備品等が乱雑に置かれていた。そのため、一時的に商品を隠して置いたり、室内でパッケージを壊して中身を取り出したりするのが容易な状況となっており、商品の飲食等の不正が行われる可能性があった。
  • バックヤードの奥に、店外に直通する扉があり、その扉から従業員用の駐車場が近いことから、人目を避けて車両に戻れるため、容易に商品を持ち出し車両に隠すことができる状況であった。
  • バックヤード内に非常扉があるが、内側から施錠されていないため、従業員が人目に付くことなく店外に出ることができる状況であった。また、非常扉は外側の道路と通じていることから、関係者以外でも容易に出入りができる状態でもあった。
  • 売場で展示品として飾っていた商品を、倉庫内に下げた後、その取扱い方針(例えば、廃棄なのか返品なのか、値引き販売なのか等)があいまいなまま倉庫内に放置されており、壊れたり、従業員が持ち帰ったりしても誰も気が付かない状態だった。

(3)商品

  • 食品売り場において、盗難されやすい酒類などの高額商品に、防犯シールの処理が施されているものと、処理が施されていないものがあり、商品によってバラつきがある状態だった。
  • 盗難されやすい人気化粧品に、防犯シールの処理が施されているものと、処理が施されていないものがあり、また売場に不必要に在庫商品そのまま陳列されており(空箱販売等を行わずに)、一般的な万引きだけでなく、大量窃盗被害も生じやすい状況でもあった。
  • 高額な電化製品について、例えば、テレビの展示には在庫商品を使用していたが、商品棚との結束ができておらず、簡単に盗み出せる状況であった。
  • 売場内で、ゲーム機、貴金属類、ブランド品等の高額商品を飾っているショーウィンドウに扉の施錠や開閉式防犯ブザーが設置されておらず、簡単に持ち出せる状況だった。


(4)従業員の休憩室・事務室

〈休憩室〉

  • 従業員の貴重品は、勤務時間中は金庫内に保管するルールであるが、実際には金庫内保管されておらず、各自のロッカー内に置きっ放しのため、盗難にあってもおかしくない状況であった(金庫内に社員が常駐しているわけでもないため、出退勤時や休憩時に都度、貴重品の受渡しができない状況であったため、ルールそのものが合理性を欠いていた)。
  • 従業員が帰宅する際、持ち物検査として担当者が鞄の中を確認するルールがあるが、実際には持ち物検査を受けずに帰宅している従業員が相当数いる状況であった。
  • 従業員の休憩室は、財布等の私物が放置され、その他にも社内の書類や商品のようなものが雑然と放置されており、ルール遵守や整理整頓を含む管理意識の低さが伺える状態だった。


〈事務室〉

  • 返品商品、廃棄商品(破損品)について、規定の置き場を設定しておらず、事務所内に点在しており、返品するのか廃棄するのか、判別できない状況であった(そもそも事務所内が整理整頓されていない状況であった)。
  • 店舗ルールとして、サンプル・試供品の業務使用が必要な場合には、使用管理表を作成する決まりとなっていたが、従業員はほぼ使用管理表を作成しておらず、ルール自体が形骸化している状況であった(そもそも、サンプル品や試供品は販売促進のため、お客様に提供すべきものであり、ルールを逸脱して私的に使用・持ち帰ることが、内部不正になりかない点についての意識がなかった)。
  • 事務所の掲示板に、本社から決められた掲示物(経営理念、火災時の対応など)が全く貼られておらず、ルール等の従業員への告知・周知に関する意識が希薄であった。また、本社からの通達等は変更・改定の都度、最新のものが掲示されなければいけないにも関わらず、古いものがそのまま掲示され、内容が更新されていないため、従業員に必要な最新のルールが伝わっていない状態であった。


(5)侵入等の対策

  • お客様用の駐車場は、24時間開放されている(利用できる)状態であり、店舗には機械警備による防犯センサーが設置されていないため、侵入盗が事前に調査していた場合、容易に侵入・滞留しやすい状況であった。
  • 事務所には高額なものが保管されているが、機械警備などの侵入盗への対策が行われていないため、侵入盗と内部犯行者が繋がっていた場合等、容易に盗まれやすい状況であった。
  • 従業員の出入り口に防犯カメラは設置されているものの、出入り口付近に照明等もなく、不審者が身を隠していても気付きにくい状況であった。
  • ごみ置き場は雑然としており、外部からの侵入を防止する柵や防犯カメラ、人感センサーライト等もなく、容易に立ち入ることができる状況であったため、放火されやすい状況であった。また、ごみ置き場付近にはタバコの吸殻も落ちており、そこに何者かが滞在していたことが推察できる状況であった。

2)SPNによる考察・対応方法の策定(改善ポイント)

 監査の実施を通じて、全般的な店舗内の管理体制について把握したところ、上記のように防犯体制の不備が確認される結果となった。
 今回の監査においては、防犯面を中心に監査しているが、防犯対策としてはお客様による万引きや侵入盗への対策のみならず、従業員による内部不正対策も視野にいれておく必要がることから、監査報告に当たっては、売場の商品管理面だけでなく、バックヤードや非常口など、お客様でなく従業員が利用する場所の問題点や意識面も指摘している。
 そこで、今回確認された問題点に対して、以下に当社から提案した個々の改善策について、その必要性も含めて解説したい。

(1)レジ

 レジカウンターに保管されている自鳴解除キー等は、従業員が容易に持ち出せる状態であり、レジマイナス記録票のルールが適切に遵守されていないことから、不正が行われた場合でも証拠を得られない状態であった。
 レジ付近は内部不正が発生しやすい場所であり、例えば従業員とその友人の共謀によって、商品を購入したように見せかけた犯行を行ったり、または従業員がレジ金を少額ずつ着服したりなど、商品の盗難や金銭の着服といった不正が多発しやすい場所といえる。無人のレジにある買い物袋や会計シールを使った万引き等は以前から頻繁に起きており、防犯タグの解除機を放置しておくことは、万引き等を余計に誘発しかねないリスクがある。そのためレジ付近の防犯対策については、不正の未然防止、また不正が発生した場合でも証拠が残るような、厳重なルールの取り決めや業務フローの見直し、そしてチェックリストや店長等の巡回による、ルールの運用の厳格化が必要である。

(2)バックヤード・事務室

 バックヤードは、隠れやすい死角が多く、また外部と通じている扉付近には、防犯処理が施されていない状態であった。非常扉や外に通じる扉付近は、非常時以外は、開場されないような内側からの施錠と、防犯カメラによる監視・記録保存が必要である。
 内部不正が発生する手順として、勤務中に会計が済んでいない商品を隠しておき、勤務後に人目につかないように店外へ持ち去る方法や、廃棄商品に紛れ込ませてその後持ち去る方法等も以前から多くみられるところである。店舗側の対策としては、在庫数を「見える化」して、所在不明の場合のすぐに発見できる仕組みを整備して商品の移動や持ち出しにけん制をかけると共に、人目を避けて外出ができてしまう箇所を可能な限りなくし、不正が行われにくい店舗の環境作りが必要といえる。
 不正は、不正の機会、不正の動機、正当化事由の3つの要素により発生するとされる(不正のトライアングル)が、内部不正対策については、業務の性格上、往々にして種々の「機会」を利用できる従業員が関与することから、その「機会」に不正を行わせないような種々の対策が不可欠であることは言うまでもない。

(3)商品

 防犯シールや防犯処理の対策が曖昧であったため、ルールや業務フローのあらためての確認・見直しが必要である。
 酒類など、飲食物の盗難に関しては、窃盗犯の自己消費が目的であることが多く、常習犯による継続的な被害が発生しやすい上、酒類については未成年者による窃取・飲酒による重大事件等が発生した場合は、企業への批判等による売上減にもつながりかねない点に注意が必要である。また、化粧品については、商品サイズから隠しやすく、中身だけ抜き取る方法による窃取も可能であるため、クリアテープによる包装で抜き取れないようにすることや空箱を陳列してレジで商品を渡す等の対応が必要である。特に、人気化粧品は、海外やインターネットでの高額での販売が可能であることから、大量窃盗の被害も非常に多く、サンプル品を置く等して、可能な範囲で陳列数を少なくすることで、大量盗難によるロスを抑止することが重要になる。
 なお、大量窃盗犯は、陳列数、防犯処理状況、配置、出入り口、逃走経路、従業員の有無や状況等を事前に下見している可能性が高い上、集団で行われる傾向にあることから、防犯対策には相応のコストや手間もかかることになる。傾向として、大量窃盗の被害が発生する店舗は、特に売場での陳列数が多い店舗が狙われやすい傾向があることに留意し、陳列の仕方を工夫することで、そもそもそのような大量窃盗団を寄り付かせない対策が重要になるのである。

(4)従業員の休憩室・事務室

 事務所内には返品商品や廃棄商品が乱雑に置かれ、休憩室内では、従業員の持ち物の管理が曖昧であった。そのため、従業員の私物が盗まれるといった、従業員間による不正が発生しやすく、またこうした環境は不正への抵抗意識が低くなり、次第に店舗の商品(また金銭)にまで不正の手が伸びる可能性が高まってくる。また、雑然とした環境下では、「物」に対する意識が希薄であり、個数や状態に対しても注意が向かないため、持ち出し等されても気付きにくく、長期間にわたって不正が行われ、日が金額も相応になるリスクがある。
 さらに、被害にあった従業員は、同僚や職場に対する不信感から退職に繋がる等、人材流出・退職によるロスも発生する可能性がある。
 対策として、休憩室や事務室の整理は徹底し、常に管理している(管理されている、監視されていると感じさせる)状況をつくることが必要である。整理・整頓は不正対策としても有効であることを改めて認識してほしい。

(5)侵入等の対策

 駐車場が24時間開放されている状態であり、夜になると人気も無くなることから、盗犯が事前に下見をしたり、または従業員に内通者がいたりした場合、店内への侵 入は容易であり、高額な保管物の持ち出しが可能になってしまう。そのため対策としては、窓の破壊防止、機械警備の設置等の対策を施し、侵入盗に狙われ難くする対策、また万が一侵入されたとしても、盗難の被害を出さない対策が必要となる。
 そのほか、閉店時や開店時をはじめとする定期的な駐車場内の巡回・チェックにより長時間駐車している車両の有無・車種・車両ナンバー等の把握、不審車両のチェック、車内に長時間留まっている人がいる場合の声がけと排除、駐車場利用ルールの掲示やアナウンス等も重要になってくる。
 また、従業員の退店時間帯を狙った押し込み強盗等も従来から頻繁に起きていることに鑑み、従業員入り口付近の防犯対策や視認性の確保、退店時の防犯対策の指導などの対策も必要となる。
 さらに、火災等により商品や店舗の焼失を防止するためにもごみ置き場周辺の防犯対策や巡回等も実施することが重要となってくる。

 さて、ここまで、店舗内の個々の問題点と改善方法を合わせて解説してきた。今回の監査結果からは、防犯面に不備がある結果となったが、店舗の防犯に関して、本社側の意識は高く、必要な対策やルール・規定等を定めて取組んでいたにも関わらず、店舗では実施されていなかった。
 考えられる理由としては、本社と店舗の意思疎通の場面が少ないこと、それと関連して、本社の考えと現場の実務に間に乖離がある可能性があると考えられる。このような内部統制的な要因に対して、しっかりと対策を行っていかなければ、緻密に計画・策定された対策やルールも、現場では有効に活用されず、組織としての対策は功を奏さないことに注意しなければならない。

4.対応後の改善・結果

 B社では、当社が提案した改善方法をもとに改善策を検討し、以下のような改善策を実行していった。

 本社側で、防犯面に関する店舗のルールや規定を改めて明確に打ち出し、店舗側へ実施するよう、一斉に促した。また、本社の考えと店舗の実務の間に乖離が無いのかどうかの確認、および店舗側でも問題意識を持って、自主的に改善に取り組んでいるのかどうかを確認するため、定期的・計画的な店舗監査の実施と現場における直接対話・指導、その結果についての報告会を毎月実施した。

 上述した対策に取り組んだ結果、B社では1年間で総額2億円程のロス削減に繋げることができた。

 今回の事例では、店舗で発生したロスの原因として、従業員による内部不正の可能性が示唆されたことから、店舗の防犯面について監査を行った。店舗の防犯対策を行う際、ロスの発生原因が不明確である場合、当社のこれまでの経験からは、そのロスは「万引き」によるものだと考えがちで店舗責任者は万引き対策に重点を置くことが多い。
 しかし、今回は内部不正を意識した防犯対策を実施したところ、ロスの削減に繋がったことに注目すべきでる。実際上、ロスの発生要因として、万引き等の外部不正に意識を向けることは大切だが、万引きが発生しやすい店舗環境は、従業員の内部不正の可能性も高い環境であることを忘れてはならない。

5.B社事例の全体考察とまとめ

B社の事例では、万引きだけでなく、内部不正による被害も大きいことを説明してきた。
 店舗で発生した不明ロスの原因を、店舗に関わりのない外部者による万引きであるとする場合、店舗に置かれている商品を一度に店外へ持ち出すには、その数に限りがある。計画的な大量窃盗なら、一度に大量に持ち出す犯行も可能であるが、それでも実被害は数十万円相当が限度である。また一度に数十万円分もの商品が持ち出された場合、陳列棚の商品が明らかになくなっていることから、店舗側で万引きを早い段階で認知できることが多く、その後の対策も行われやすい。
 小売店で販売している商品は、電化製品や酒類など高額な商品を扱っている業態もあるが、ほとんどの場合、取扱商品は日用品、文房具、飲食物など、低価格の商品であることが多いだろう。こうした商品が、一店舗で一日数十万円程度も万引き被害にあっているなら、相当数の商品が売場から持ち出されていることになるため、万引きだけが不明ロスの原因とは考え難いということになる。
 店舗の商品(または金銭)の損失が不明ロスとして、勤務日に発生しているならば、店舗の商品や金銭に接しても、何ら不自然でない従業員による内部不正の可能性が浮上してくるため、その状況と実態を調査する必要が出てくる。内部不正の場合、従業員は店舗内の防犯状況を熟知していることから、管理体制の隙をついて、頻繁に、また継続的に不正を働くことが可能である。このような状況では、不正が発生した際の被害金額や商品数も、一回の犯行で発生する額はさほど多くなくとも、外部の万引き犯よりも店舗の商品(もしくは金銭)に接することが多いため、被害額は累積的に増大する可能性があることに留意しなければならない。すなわち、気付いた時にはかなりの被害金額に発展してしまうことも考えられる。
 不正が発生しやすい店舗では、一般的に、商品がなくなっても被害が見えにくく、店舗内のルールが曖昧で、後で発覚する可能性が低い等の状況が見られる。今回の監査結果からも分かるように、バックヤードや休憩室の様子からみて、従業員に対する警戒心が薄く、従業員による内部不正の対策に力を入れていないことも、ロス削減の観点からは重要な問題として考える必要がある。
 内部不正の対策を講じるには、店舗の責任者が不正は違反行為であるとの明確かつ厳粛な意識を持ち、常に商品や金銭回りの管理を怠らない原則とその姿勢を強く打ち出すことが必要である。管理しやすい環境を作るため、整理整頓も重要な不正対策なのである。
 また、内部不正の発生を防ぐためには、労務やコンプライアンスといった視点も考慮しなければならない。店舗の環境を整備することも勿論重要であるが、従業員が勤務先の雇用、勤務体系、対人関係等に何らかの不満を持っている場合、店舗の規則やルールを守ろうとする意識が低くなり、不満に対する腹いせで犯行に至る可能性も考えられるためである。
 内部不正が原因になっている場合、店舗内に存在する問題についても目を向けることが求められ、店舗責任者や本社側はできれば目を背けたい事実も含まれているかもしれないが、現場のリスクを確実に抽出することによって、被害が大きくなる前に、早目の対策を打ち出すことができるのである。

6.総論

 本レポート(全3回)では、店舗で発生するロスの主な原因には、万引きと内部不正があり、その他にも、商品管理の不備、規定やルールの不順守、従業員の教育不足等がロスの発生を誘引する可能性があることを説明してきた。そのような多様な要因・リスクがロスを発生させているのだが、明らかに高額なロスが生じた場合は、その背景には内部・外部からの不正による犯罪が発生している可能性がある。
 不正には大きく分けて、従業員による内部不正と、悪意あるお客様による万引き(外部不正)があることは、度々触れてきた通りである。
 不正はロスが発生する深刻な要因であるため、店舗内で不正が多発しているようであれば、すぐにでも店内の防犯体制を強化もしくは改善を行い、外部不正や内部不正に対応する危機管理の体制を整える必要がある。どのような危機管理対策、危機管理体制の構築が必要であるかは、店舗の監査等を通じて、実態を踏まえて判断・実施する必要があり、防犯カメラや防犯ゲートの機械警備の強化だけで解決するものではない。不正が生じるには、生じるなりの理由、つまり、そもそも不正が発生しやすい店舗の環境というものがあり、その環境を改善することによって、ロスの発生を誘引する個々の要素に着目した各種不正防止策を講じ、実施していくことが求められる。言い換えれば、防犯面・商品管理面等の事象のみにとらわれることなく、そこで生じた事象をミドルクライシスと考え、当該ミドルクライシスを発生させた組織的要因(体制面、運用面、マネジメント面、コミュニケーション面、機器システム面等)を分析・把握していくことが不可欠である。
 店舗内に存在・散在する諸々の問題を把握するためには、店舗全体を総合的に監査した方が良いが、総合的な監査を行うには、時間や手間がかかる。そのため、本レポートで取り上げたB社事例のように、不正の横行が疑われ、早急な監査が必要な場合や、対象店舗の状況、個別的な事情により、総合的監査が難しい場合は、特に問題となっている部分(監査項目)を重点的に把握する方法もある。当社が提唱するミドルクライシス・マネジメントのアプローチを用いれば、懸念される事項についての部分的な監査を実施することで、そこで認められた事象をもとに対策・検証が必要と考えられる組織的要因を分析し、そこから他の分野の監査を通じた検証につなげていくこと、そしてこの過程を通じてロスの発生要因を特定・改善してロスを低減させていくことが可能となるからである。

 しかし、こうした環境改善は、店舗責任者だけでなく、大規模な、全社的な取り組みを要請する。つまり、個々の店舗の環境を変化させるには、現場だけではなく、本社サイド、とりわけ、経営層の意識改革が不可欠である。本社や経営層が各現場の実態や本音を十分把握することによって、社風や社内環境の改善を目指し、本社も現場も同じ意識・目線で業務に当たることが求められている。そのため、本社サイドに、また別のロス要因が存在するようでは、お話しにならない。
 上述した各種の問題点を踏まえつつ、会社や店舗の状況に合わせた適宜・適切な監査を行うためには、まずは監査内容もリスク抽出のために必要なチェック内容で実施することが望ましい。内部の眼だけでは不十分であれば、客観的な監査を担保するために、第三者による監査を実施することも必要である。
 当社では、店舗における各種のロス対策はもちろん、長時間労働に起因する種々のロスや労務管理体制の改善によるロス低減についても、これまで多くの支援を行ってきていることから、定量的なロスはもちろん、定性的なロスの低減のためにお悩みの会員企業様は、お気軽にお問い合わせいただきたい。

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