リスク・フォーカスレポート

熊本地震 第1回(2017.2)

2017.02.22
印刷

はじめに

 今回のリスクフォーカスレポートは、2016年4月に発生した熊本地震について、全3回にわたってお送りしたいと思います。第1回は、公的機関の公表文書等により熊本地震の全体像を整理し、加えてライフラインの復旧状況を熊本地震以外の震災と比較します。そして第2回、第3回では、当社が実施した熊本視察の内容を踏まえて企業として震災発生時に何ができるのか、震災が起きていない平時に何ができるのかを考えていきたいと思います。

 この場をお借りして熊本地震で被害に遭われた皆様に心よりお見舞い申し上げます。皆様の安全と、被災地の1日も早い復旧、復興をお祈りいたします。

熊本地震の概要

(1) 被害状況

 2016年4月14日21時26分に熊本県熊本地方の深さ約10kmでマグニチュード(M) 6.5の地震が発生しました。また、同年4月16日01時25分に同地方の深さ約10kmでM 7.3の地震が発生しました。これらの地震により熊本県で最大震度7を観測し被害を生じました。一連の地震活動は熊本県熊本地方から大分県中部にわたり、熊本県阿蘇地方では4月16日のM5.8の地震により最大震度6強を観測したほか、大分県中部では4月16日のM7.3の地震発生直後に別の地震が発生し、最大震度6弱を観測するなど、M7.3の地震発生直後から地震活動が見られました(*1)。集計によると、4月14日から4月30日までの間で震度5弱以上の地震は、実に22回に上っています(*2)

 また、熊本地震の被害状況は甚大なものとなっています(*3)。同年12月14日現在(本稿執筆時点)、人的被害は熊本県内だけでも死者161名、重軽傷者2,620名、物的被害(建物被害のうち住宅被害)は、同じく熊本県内だけでも全壊8,360棟、半壊と一部損壊を合わせて170,485棟となっています(なお、直近の報道によれば、熊本・大分両県における、いわゆる「災害関連死」の数は149人となり、震災による直接死50人、昨年6月の豪雨の死者5人とあわせ、204人に上っています)。

 他方、避難所の状況は、同年12月14日現在、避難所数0箇所、避難者数0名(同年11月18日をもって県内全避難所を閉鎖)となり、同年4月17日のピーク(避難所数855箇所、避難者数183,882名)から大幅に減少しています。また、ライフラインの状況は次の通りです。電力は、最大停電戸数477,000戸(同年4月16日)から完全復旧(同年4月28日)しています。ガス(西部ガス管内)は、最大供給停止戸数105,000戸(同年4月16日)から、家屋倒壊その他の事情により供給再開ができない箇所を除くすべてに対するガスの供給が再開(同年4月30日に)されました。水道(上水道のみ、以下同様)は、最大断水戸数(各自治体の累計数のため日時不明)445,857戸から、(家屋等倒壊地域を除いて)断水が解消(同年7月28日)されています。なお、同年7月28日まで断水が解消されなかった地域は南阿蘇村であり、その他の地域は同年4月下旬から、遅くとも5月上旬には断水が解消されました。

 ライフラインの復旧に概ね2週間程度かかったことを、その他の震災発生時と比較してみたいと思います。

 2007年度(平成19年度)から2011年度(平成23年度)までの5年間、文部科学省の研究委託事業による委託業務として実施された「首都直下地震防災・減災特別プロジェクト(*4)」の研究の一部をご紹介します。具体的には2011年度第4回成果発表会において岐阜大学教授の能島氏を始めとしたチームによる資料「東日本大震災におけるライフライン被害と今後の課題(*5)」になります。この資料の12頁によると、阪神・淡路大震災(1995年1月17日)では、震災発生から1週間後の電気・ガス・水道の復旧率は、それぞれ100%、約2%、約50%となり、2週間後の復旧率は、それぞれ100%、約8%、約62%となります(ガスがほぼ100%復旧したのは3月31日、水道は3月20日前後)。

 また、同資料では(東北電力管内に限定された数値にはなりますが)東日本大震災(2011年3月11日)では、震災発生から1週間後の電気・ガス・水道の復旧率は、それぞれ約95%、約9%、約50%となり、2週間後の復旧率は、それぞれ約95%、約22%、約66%となります(2011年4月18日以降、どのライフラインも100%近く復旧)。なお、地方都市における地震の状況も比較するため、新潟県中越沖地震(2007年7月16日)を加え、震災発生から2週間経過時点のライフラインの復旧状況を下表に示します。

図表1 災害発生から2週間経過時点におけるライフラインの復旧率の比較

阪神・淡路大震災
(1995年1月17日を起点)
新潟中越沖地震(*6)
(2007年7月16日を起点)
東日本大震災
(2011年3月11日を起点)
熊本地震
(2016年4月14日を起点)
電気
対象戸数
2,600,000戸
8,176戸
8,910,000戸
477,000戸
2週間経過時点の復旧率
100%
(1月31日)
100%
(7月18日)
約95%
(3月25日)
100%
(4月28日)
完全復旧
(特殊事情除)
4月18日以降
ガス
対象戸数
860,000戸
30,978戸
460,000戸
105,000戸
(西部ガス管内)
2週間経過時点の復旧率
8%
(1月31日)
約15%
(7月30日)
約22%
(3月25日)
ほぼ100%
(4月30日)
完全復旧
(特殊事情除)
3月31日
8月27日
4月18日以降
水道
対象戸数
1,260,000戸
(兵庫県のみ)
41,614戸
2,200,000戸
445,857戸
2週間経過時点の復旧率
62%
(1月31日)
約95%
(7月30日)
約66%
(3月25日)
ほぼ100%
(5月上旬)
完全復旧
(特殊事情除)
3月30日前後
8月4日
4月18日以降

出典:筆者作成

 震災ごとにライフラインの復旧対象戸数が異なることは承知のうえで、単純に2週間経過時点でのライフライン復旧率だけに着目すると、電気はどの災害においても概ね100%近く復旧しています。このように、大地震発生時のライフラインの復旧に関しては、電気から回復していくことはほぼ共通の特徴と言えます。

 一方、ガスは、熊本地震を除く過去の災害においてはいずれも25%に満たないにもかかわらず、熊本地震においてはほぼ100%復旧しています。また、水道においても、熊本地震発生から2週間経過時点での復旧率が高いことが読み取れます。繰り返しになりますが、都市部と郊外ではライフラインの密集度が異なり、またどの箇所が、どのように損壊したのかによっても復旧までにかかる日数は差があることは容易に想像できます。それでも、数字上は熊本地震におけるライフラインの復旧が比較的スムーズに進んだことが読み取れます。

(2) 行政の対応(*7)

1)応急仮設住宅の建設

16市町村で4,303 戸の建設に着手し、11月14日までに全て完成。

2)災害ボランティア等の活動状況

  • 全国社会福祉協議会の対応
    • 熊本県社協及び大分県社協に職員を派遣し、各県社協とともにボランティアのニーズを調査。(4 月14日~16日)
    • 避難所への救援物資の仕分け及び配送等の支援については、全国社会福祉協議会及び県・市町村社協が、支援を要する市町等の情報を熊本県から受け取り、ボランティア活動を専門とするNPO団体等に対してスタッフの派遣を要請(4月18日)。これを受けて、日本生活協同組合連合会等より支援の申し出があり、42名を派遣。

  • 災害ボランティアセンターの設置に向けた対応
    • 一般市民や学生等によるボランティア活動については、県・市町村社協において、災害ボランティアセンターを開設し、被災家屋の片付けや応急仮設住宅への転居の手伝い等を実施11月13日までの延べ人数(累計116,801名)。

3)警察庁の対応

  • 交通警察活動
    • 日本道路交通情報センターのホームページ等により、一部通常と異なる交通規制が行われている九州自動車道の通行についての注意を促す広報を実施(4/17~)
    • 九州自動車道の通行止め区間のう回路である国道3号での信号操作による渋滞緩和対策の実施(4/17~4/30)
    • 白バイ部隊及びオフロード部隊で、崩落し通行できない道路のう回路検索を実施(4/17~4/21)
    • 交通部隊を九州自動車道植木IC付近に配置するなどして、物資輸送車両等に対する益城熊本空港IC方面への誘導等を実施(4/19~4/29)
    • 九州自動車道益城熊本空港IC及び嘉島JCTにおいて、車両総重量25t超の車両の一般道への誘導等を実施(4/29~5/1)
    • 主要交差点での交通整理、交通誘導、突発事故事案対応に従事(4/16~5/20)

  • 生活安全・地域警察活動
    • 被災住宅街に対するパトロール活動の強化等をメール、ツイッター、防災無線等で情報発信(4/17~)
    • 熊本県警察では、移動交番車を活用した避難所での警戒・要望把握活動を実施(4/15~5/25)
    • 特別自動車警ら部隊が被災(不在)家屋における盗難防止パトロール及び駐留警戒活動を24 時間体制で実施(4/16~6/29)
    • 福岡、佐賀、長崎及び鹿児島県警察から派遣された女性警察官からなる特別生活安全部隊が、避難所における防犯指導、相談対応等を実施(4/18~4/26)
    • 特別生活安全部隊たる警視庁きずな隊が、避難所における防犯指導、相談対応等を実施(4/19~5/28)
    • 派遣部隊車両により、派遣県名を告げて、空き巣被害の防止、デマ情報に対する注意喚起のマイク広報を実施(4/21~6/29)
    • 茨城、長野、岡山及び広島県警察から派遣された女性警察官からなる特別生活安全部隊が、避難所における防犯指導、相談対応等を実施(4/27~5/5)
    • 大阪府警察、和歌山、香川及び愛媛県警察から派遣された女性警察官からなる特別生活安全部隊が、避難所における防犯指導、相談対応等を実施(5/6~5/14)
    • 神奈川、福岡、佐賀、長崎、鹿児島県警察から派遣された女性警察官からなる特別生活安全部隊が、避難所における防犯指導、相談対応等を実施(5/15~5/23)
    • 埼玉、千葉、兵庫、奈良県警察から派遣された女性警察官からなる特別生活安全部隊20 人が、避難所における防犯指導、相談対応等を実施(5/24~6/1)

  • 特別機動捜査部隊が、被災地において犯罪が多発する地域等におけるよう撃捜査等を実施(4/18~6/28)
    • 熊本地震に関連した犯罪検挙状況
       窃盗26 件(侵入21 件、非侵入5件)
       詐欺8件
       公務執行妨害2件
       器物損壊1件
       県条例違反1件
       特商法違反1件計39 件(追送致6件含む)

4)厚生労働省の対応

  • DPAT(災害派遣精神医療チーム)の活動
    • 6月23日から熊本DPATが活動。活動地域は、熊本市保健所圏域及び益城町、御船保健所圏域(益城町を除く)及び宇城保健所圏域、阿蘇保健所圏域(西原村を除く)、菊池保健所圏域及び西原村、の4地域。避難所巡回、個別対応など、地域ニーズに即した対応(7/13)
    • 県外からのDPAT 派遣については、熊本DPATに引き継いだ上で6月末に終了。
    • 行政職員等のメンタルヘルス相談、啓発活動は、熊本県精神保健福祉センターが熊本DPATと連携し対応。

 上記内容からは、熊本地震に関して、(震度7こそ記録したものの)一見すると比較的スムーズにライフラインの復旧が進み、行政も各方面の対応を実施していたように見受けられます。しかしながら、災害発生時には、こうした記録からは読み取れない現場の実態確認が不可欠と考え視察を実施しました。査察については、全部で三回実施しています。それぞれの査察時の状況については、第二回目以降でご紹介します。


【参考資料】

(*1)気象庁、地震調査研究推進本部地震調査委員会「平成28 年(2016 年)熊本地震の評価」2016年、p1(一部加筆)

(*2)気象庁地震火山部、平成28年(2016年)熊本地震の関連情報「震度1以上の最大震度別地震回数表(平成29年2月10日現在)

(*3)内閣府非常災害対策本部、平成28 年(2016 年)熊本県熊本地方を震源とする地震に係る被害状況等について

(*4)文部科学省ホームページ

(*5)首都直下地震防災・減災特別プロジェクト、「東日本大震災におけるライフライン被害と今後の課題」、2012年

(*6)新潟県、新潟県中越沖地震の被害状況

(*7)内閣府非常災害対策本部、平成28 年(2016 年)熊本県熊本地方を震源とする地震に係る被害状況等について、pp23-75より一部修正


Back to Top