SPNの眼

暴排トピックス番外編(2013.2)

2013.02.06
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 前回「暴排トピックス番外編」としてレポートさせていただいた第二弾として今回も暴力団が関係し社会的に問題となっているものについてレポートさせていただこうと思う。

1.生活保護ビジネス①~組織的なピンハネ

 様々な貧困者を対象とした「貧困ビジネス」の態様があるが、最近、虚偽の「暴力団」の脱会届などを提出して生活保護を不正受給して逮捕される暴力団組員の事案などが発生していることから、ホームレスなど生活保護受給者を狙った「生活保護ビジネス」について紹介する。

 「生活保護ビジネス」は、公園等で集めたホームレスを「無料定額宿泊所」に住まわせ、食事などの最低限の便益を与える代償に、支給された生活保護費の大半を搾取する、いわゆる「囲い屋」と呼ばれるビジネスである。その裏には、暴力団や右翼団体が絡んでくることもある。

 最近も、宿泊施設に居住する生活保護受給者から生活保護費の一部を着服したとして埼玉県警が、業務上横領容疑で、元指定暴力団山口組系組幹部で、不動者関連会社社長ら5人を逮捕。施設が開設されてから現在まで約6千万~7千万円が横領されていた可能性があるとみて、現金の使途などを調べているとの報道がなされた。

 彼らの手口としては、まずホームレスなど困窮した人々のために公園などで炊き出しを行う。主催するのは、弱者救済を標榜するNPO法人、ボランティア団体等であり、炊き出しの握り飯等と一緒にチラシを配布するが、そのチラシにはフリーダイヤルの番号とともに「生活相談乗ります」と記述がされている。定期的に食事を提供し続けると、飢餓感から解放されるため、殆どのホームレスは警戒心を解くようになる。そこで、住居と食事を提供する話と、生活保護受給の話を持ちかける。そして、NPO等の助言に従い「無料低額宿泊所」に入所してみると、生活保護を申請するように指導され、約12万円の生活保護費を受給するが、食費や様々な名目で搾取され、手元に残るのは僅か1万円ほどになるからくりである。暴力団員が生活保護の不正受給を働く事例は多く、これこそが未就労者を組織化して生活保護を受給させ(面接の対応マニュアルまで作成していると言われる)、それをピンハネするような貧困ビジネスの典型である。

 あるNPOが運営する宿泊所では、入所者が寮長で、おまけに元暴力団組員だったという話もあるし、暴力団組長の身分を隠して生活保護費計460万円を不正に受給したとして、詐欺の容疑で、大阪府警により山口組系暴力団組長夫婦が逮捕された事例があった。

 このような暴力団による「生活保護ビジネス」に対して、厚生労働省は、平成18年の通達において、「暴力団からの脱退届及び離脱を確認できる書類(絶縁状・破門状等)」「誓約書(二度と暴力団活動を行わない、暴力的言動を行わない等)」「自立更正計画書」の提出の要請するなどにより、暴力団から離脱させるなどの対応処置を行うよう求めてきた。そして、更に、平成24年度からは保護申請時に暴力団員でないことの申告を求める仕組みを始め、暴力団員であることが判明した場合、暴力団員であることが明らかな時期に遡って費用徴収を行うことの徹底を図るとしている。先の事例にもあげたように、暴力団による生活保護ビジネスが問題となった大阪府でも、「大阪府被保護者等に対する住居・生活サービス等提供事業の規制に関する条例」が平成22年11月に届出制で罰則付きに改正(平成24年3月一部改正)されている。

 しかし、生活保護の受給からの暴力団の排除については、実際の実務における水際対策は各自治体まかせ、窓口、担当者まかせであり、自治体側の統廃合等も含めたマンパワーの不足による実態確認の甘さ(認定時やその後の継続的なチェックの甘さ)も相俟って、暴力団構成員やその関係者の把握もなかなか進まず、このような不正を食い止める有効な手立てがないのが現状である。

<ahref=”http://www.pref.osaka.jp/attach/11609/00094023/kaiseijyourei.doc”target=”_blank”>大阪府被保護者等に対する住居・生活サービス等提供事業の規制に関する条例

2.生活保護ビジネス②~薬の不正転売

 暴力団による「生活保護ビジネス」には、生活保護受給者を利用して向精神薬の転売を図る新手の「貧困ビジネス」もある。

 生活保護法では、生活保護受給者は、福祉事務所が発行する医療券を使うと、指定医療機関で投薬や手術などが無料で受けられる。ここに暴力団が注目し、医療費のかからない生活保護受給者に病気を装わせて受診させ、処方を受けた向精神薬を廉価で買い取って、インターネットで転売するという構図である。

 既に、麻薬及び向精神薬取締法違反(営利目的譲渡、所持)などの事件が起きている。例えば、平成22年10月に大阪で発生した事件では、不眠治療などに用いる向精神薬約1,000錠をインターネットで知り合った数人に約12万円で販売し、3年間で2000万円近く稼いだことが報道されている。この事件では、知り合いの暴力団関係者を通じて生活保護受給者に向精神薬の入手を依頼するため、医療機関に通わせ、医師に「眠れない」などとウソの症状を申告させたとしている。前述のいわゆる「囲い屋」は、本人に医療負担がない点を悪用させ、医療機関をはしご受診させて大量の向精神薬を入手し転売している。この事件では、ハルシオンやエリミンどの睡眠薬や、レキソタンやデパスなどの精神安定剤の30数種類の向精神薬や医薬品が押収されている。1ヶ月に1種類あたり約220錠を入手した例もあるという。

 実際に、平成22年に厚生労働省が実施した全国調査を見ても、1ヶ月間に2,746人の生活保護受給者が複数の医療機関から向精神薬を処方されていたことが分かっている。この調査では、重複処方が多い自治体としては、東京都781人、大阪市146人、徳島県130人、北九州市112人などと発表されている。平成23年の調査においても、複数機関から向精神薬を処方している実態が確認されており、大阪市などでは、ケースワーカーを増員するなどして来年度以降も調査を継続する方針とされている。

3.日本証券業協会「暴力団データベース」の運用

 このニュースを眼にして、「これで反社チェックが廉価で完全にできて安心出来る」と思った読者もいるのではないだろうか。しかし、実際には、既に当社のメルマガ等でも何度も説明されているように、暴力団は、その組織実態を隠蔽し、活動態様を偽装・不透明化させている。このような現状を踏まえると、現在の状況を完全することは極めて困難であり、そもそものデータベースには完全性に関する限界があるのであり、その意味で、このデータベースを使って反社チェックが足りるかというと、十分とはとても言いがたい。

 実際に、統計等をみても、同協会が利用できる警察庁のデータベースに登録されているのは、暴力団構成員と脱退後5年以内の元暴力団構成員3万3千人と報道されているが、一方で、昨年4月に警察庁が毎年公表している「平成23年の暴力団情勢」においては、平成23年末の暴力団構成員等の状況としては、

 暴力団構成員及び準構成員70,300人

(内訳)暴力団構成員32,700人

 暴力団準構成員37,600人

 となっている。

 要するに、日証協に提供されるデータベースに収納されているデータ量は、警察が把握している暴力団構成員等の半数に満たない数なのである。さらに言えば、「平成23年の暴力団情勢」において公表されている暴力団員数は、警察が犯罪捜査や暴力団組事務所等活動拠点の視察活動により把握した数値であり、共生者や密接交際者も含めた未把握の暴力団構成員や関係者等が存在することは否定できないのである。

 また、実務的な観点から見ても、データベースの照会で得られる回答は、データベースに登録された暴力団関係者に関しての該当の有無のみで、実際に暴力団組員と確定するためには、各都道府県警に個別に改めて照会しなければならない。そして、照会した対象者とデータベースに登録されたものが同姓同名者なのか、同一人物なのかという判断は、警察ではなく、データベースの利用者、すなわち皆さんが行なわなければならないのである。

 同一性の判断は、指紋の照合やDNA鑑定でもしない限りは不確定なものとなることは否定できないが、民間事業者がこのような形で同一性を確認することは不可能である。したがって、事業者は、これらに代わる判断基準を明確に定め、自己の責任において判断していかなければならないのであり、このような実質基準の策定が不可欠であるといえる。

 結局、100%の反社チェックが事実上不可能であるという現状を踏まえると、反社会的勢力排除の取組みにおいて一番大切なことは

 「社内で反社会的勢力を排除する体制がいかに構築されているか」

 ということであり、この点を踏まえて次のような観点から、社内規定を整備すること等が望ましい。

①反社チェックには、どのデータベースを使ったか…ということよりも、自分達の会社で、反社チェックを必要とする取引を定め(全ての取引を対象とすることがベストだが、自社のリスク管理の観点から基準を設けることもありうる)、反社チェックの対象や対象の範囲などのポリシーを明確に定めて、どのようなスキームで反社チェックを実施するか、契約以前に相手方が暴力団等の反社会的勢力等と関係がないことを表明させ、反社会的勢力との関係が明らかになった場合、一方的に契約を無効にすることが可能であるとともに当方の処分に対し一切の異議申し立てをしないということ等を表明させ、書面化させておくなどの必要な措置を講じて、企業の社会的責任に基づいて説明責任を果たせるかを追求すること。

②万が一の際に説明責任を果たすためには、自社の定めたルールや基準を、日頃から「厳格」かつ「例外なく」運用していることが必要だとの緊張感を持続していくこと。

③そして反社チェックの網を抜けて潜在した反社会的勢力の存在が明るみに出た時、如何に速やかに関係を遮断できるかを追求すること。

 同協会のこの取組みにおいても、データベース利用上の様々な制約があり、証券会社の全ての業務をカバーできるわけでもなく、相変わらず「自助努力」が求められる状況にあるのであって、公的なデータベースが出来たから安心…ということは、今の段階ではいえないのである。

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