小売業における、IoT、AIの有効活用(2016.6)

2017/06/21 / 総合研究室 上級研究員(課長) 伊藤 岳洋 プリント

小売業における、IoT、AIの有効活用

皆さま、こんにちは。

本コラムは、消費者向けビジネス、とりわけ小売や飲食を中心とした業種にフォーカスした経営リスクに注目して隔月でお届けしております。今回はIoT、AIなどが小売業にどのようなインパクトをもたらすか、言い換えると小売業がそれらをどう有効に活用するかを経営の視座から考察していきます。


 革新的な技術進歩によりあらたなビジネスツールが登場し、それに伴い様々な新しい言葉や概念、技術が絶えず発生しており、こうした新しい概念やアイディアに混乱している方もいらっしゃるかも知れません。そこで、こうした新しい概念について見ていきたいと思います。IoT(Internet of Things)、ビッグデータ(Big Data)、そしてビッグデータの解析手法としてのAI(artificial intelligence)、コグニティブビジネス(cognitive business)などのビジネスツールが、爆発的に拡大するデータの活用を通じて産業やビジネスの基盤を変えようとしています。しかもこのデータは量的に莫大であるだけでなく、非構造化された膨大なものとして存在し、経営は新たな対応を必要としています。

 しかしながら一方では、IoTの潜在的危機として「多くの企業が多くのヒト・モノ・カネを投入し、IoTを構築したものの、大量のデータを収集した後に期待される効果を実現できずに困惑している」(Lee[2016]pp.62-63(*1))という事実もあります。IoTには、IoTをインターネットや通信技術を活用した(単独の)製品を対象にする文字通りのIoTと、ビッグデータを介在したビジネスモデルに着目する2つがあります。前者では、たとえば、不動産会社の内覧業務利用に特化したスマートロック「iNORTH KEY(イノースキー)」があります。仲介物件の内覧の際、管理会社に鍵を取りに行く手間を省き、いつ誰がどの鍵を開錠・施錠したかを把握できます。このことにより、業務の効率化や入退室に関するセキュリティを強化できます。


 それでは、IoTを構成要素から3つの視点で整理してみましょう。まずは、IoTの構成要素であるInternetとThingsです。インターネットは通信ネットワークの視点(接続)であり、モノはRFIDなどセンサーなどの視点です。第3は先の2つから生み出されたデータをいかに表現し、蓄積し、接続し、検索し、組織化するかという価値創造という経営的な視点です。先の2つはIoTを技術的な側面から支えるインフラとして捉えることができます。ポーターらは、「インターネットは、人をつなぐにせよ、モノをつなぐにせよ、単に情報を伝達する仕組みに過ぎない。接続機能を持つスマート製品がいかに画期的かというと、理由はインターネットにあるのではなく、モノの本質が変化している点にある」、「この種の製品は、戦略面で数々の新しい選択枝をもたらす。価値をどう創造、確保するか」であると述べ、ビジネスモデル視点の重要性を指摘しています(Poter and Hepplemann[2016]pp.30-31(*2))。重要なことは、企業がこれらの仕組みを使って価値を創造できるビジネスに変革できるかにあります。

 IoTのその価値創造という視点のフレームワークでは、取得、収集、伝送、分析、可視化、モデル化、最適化、制御のフローを実世界とITの世界で示しています。まずは、実体空間からセンサーによって「取得」し、データ系列として「収集」し、ネットワークによって「伝送」され、それぞれ意味のある明確なデータに昇華させる「分析」が行なわれます。この分析は情報の獲得であり、情報は意思決定に必要なデータの提供です。意思決定に必要なデータの生成には、蓄積されたデータを「目的」にしたがって検索し、選別し、整理するというマネジメントが前提となります。このマネジメントのツールとして分析は「可視化」をもって実社会にもたらされます(可視化はデータのみによって可視となるのではなく、実際の現場でも故障などの障害によって見えるものになります)。

 次にモデル化段階以降が、「最終的に実世界側を『制御』するために、実績を理解する、つまり実世界の『モデル』をサイバー空間に作る」プロセスになります。「モデルとは実世界に存在する『状態』が分かっていて、さらにそれぞれの状態にはどのようにすれば到達できるのかが分かっている状態を作る」(三木[2016]p.88(*3))ことです。「モデル化」ができると、目的を達成するためにもっとも最適な道筋が示され(「最適化」)、サイバー空間で見出された最適解が実世界に伝わり「モノ」を制御することでシステム目的が完結します。このように最適化システムにおいても目的が鍵となり、目的の達成が「制御」です。

 このプロセスをビジネスプロセスに当てはめれば、「分析」が性能低下や故障の原因を探る診断であり、「制御」が性能低下や故障の予測であり、「最適化」が問題解決となります。実例として、テスラのモデルSの品質改善をポーターらが取り上げています。


 ビッグデータの解析手法としてのAIは、小売企業においてもその活用に期待が掛かっています。特に顧客との個別のリレーションシップにおいて、嗜好にあわせた販売促進が可能になります。それは、顧客の過去の行動に関するビッグデータを解析することでニーズにあったプロモーションを展開することです。たとえば、スマートフォンで来店客を判別して属性や購買履歴に応じた商品情報やクーポンを届けるなど個別の販促の仕組みが考えられます。また、顧客が外国人である場合は、棚に設置した小型の電子看板に外国語で情報を表示することも可能です。このような新しいサービスは、一般に実験を経て本格導入されます。特に大胆な変更に対してはどのような反応があるか予測できないという場合があります。業界を一変させるような革新的なアイディアは、経営幹部の経験や一般常識に馴染まないことが多いものです。それにもかかわらず、リスクを伴う改革や費用のかかる提案を厳格にテストする企業は多くはありません。それは、ほとんどの企業が適切な実験に資金を出したがらず、しかも実験することも相当難しいからです。実験のプロセス自体は簡単に見えても、さまざまな組織的・技術的な課題があるため実行することは難しいのです。


 実際の小売ビジネスの大半は、店舗ネットワーク、販売地域、商圏内の顧客特性、競合店とそのサービス、など複雑な要因が関係してきます。その中での実験は、推定される原因(独立変数)と観測される効果(従属変数)を分離し、他の要因を一定にしたうえで、前者の独立変数を操作して後者の従属変数の変化を調べなければなりません。この操作とその後の注意深い観察・分析によって因果関係に関する知識が得られノウハウの蓄積となるのです。ただし、そのような知識やノウハウを得るため、実験に費用や手間を掛けて価値があるものにするには、企業は実験の目的を明確にし、実験結果を受け入れる組織的な合意を事前に行ない、結果の信頼性を担保することが重要です。

 小売業におけるAIの活用は、先に述べた販売促進が有力ですが、その他にもオペレーションコストの削減やロスの削減などにもその活用が期待されます。オペレーションコストの削減では、RFID技術を使ったICタグを商品に添付することでレジの無人化や省力化の推進を経済産業省が主導し、大手コンビニエンス・ストア5社が同じシステムを利用する計画があります。瞬時に会計がセルフで行なえることやその在庫情報を活用した様々なオペレーションの効率化、製造・流通のロス削減が期待され、小売業にとってはイノベーションと言えるものです。ただし、前述のとおり、このようなイノベーションは、実験によってその成否をあらかじめ測っておく必要があります。

 アメリカの大手デパートチェーンのJCペニーは、クーポンや在庫一掃セールをやめ、有名ブランドを積極的に誘致し、テクノロジーの利用によってレジやレジ係をなくすという大胆な計画を実行しました。ところが売上は急落し、損失が膨らんだ結果、わずか17ヵ月後に180度方針転換をしました(Thomke and Manzi[2016]p.78(*4))。デパートとコンビニエンス・ストアでは、従業員と顧客のコミュニケーションにおける質や頻度の違いはあれど、小売・サービス業では人による接客は必要な要素であり、顧客満足度にも大きく影響すると考えられます。コンビニエンス・ストアであっても、地域性や顧客層を無視した計画はするべきではありませんし、そうした要素を実験でも検証すべきでしょう。

 ロスの削減では、万引きなどに対する防犯システムや内部不正の防止など防犯面での期待があります。万引きでは、高齢者の犯罪や外国人による集団窃盗の増加が問題として報告されています。防犯カメラと連動した顔認証システムはすでに一部の小売業で導入されています。現在は、過去の万引き犯や万引き犯の可能性がある人物の画像と入店している顧客の画像とを照合して一致するかを判断する要素をAIが担っています。認証の精度は、マスクや帽子の着用でも若干の精度の低下があるものの見分けられるまで向上しているということです。さらに認証技術が進化することが容易に予想され、少ない画像からも見分けが可能になるはずです。さらには、歩き方の特徴から人物を見分ける技術もあり、顔認証など他の技術との組み合わせによってさらに精度の高いシステムが登場する可能性があります。

 顔認証システムなどを活用した防犯システムには、2つの問題があります。ひとつは、顔のデータに関するものです。改正個人情報保護法では、DNA、顔、虹彩、声紋、歩行の様態、手指の静脈、指紋・掌紋などを「身体の一部の特徴を電子計算機のために変換した符号」にした場合「個人識別符号」に該当し、個人情報と定義しています。つまり、このようなデータを取得する場合は、利用目的を事前に公表したり、本人に通知したりする必要があります。さらに、プライバシー権の侵害にあたらないか法的なハードルもあります。データ取得に関する問題をクリアしたとしても、個人情報の第三者提供の問題があり、財産の侵害という例外規定を盾にしてもその活用が自由に行なわれるには、法的なリスクに鑑み事実上の制限があると受け止められているのではないでしょうか。

 もうひとつは、小売・サービス業における顧客心理の問題です。大多数の善良な顧客が「監視」に対して気持ちが良いか、という疑問です。顧客は潜在的にモノやコトの購入には本来、楽しさや喜びを求めています。そのような心理を無視することは、顧客の支持を失うことに直結します。「監視」性を技術の進展により和らげたとしても、顧客満足の追求と不正の抑止は小売・サービス業にとって、どこでバランスを取るかは経営判断とならざるを得ない永遠のテーマかも知れません。

 防犯システムを導入しても最後に残されるのは、不正に対する対応です。最後はどうしても人が対応せざるを得ません。顔認証システムで過去の万引き犯やそれが疑わしい人物が来店した時に、どのように対応するのか防犯上の統制が定まっていないとシステムの効果は十分に発揮できないことになります。疑わしい人物が来店した場合、その情報をどのように誰に伝えるのか、その後のアクションは誰がどのように行なうのか、また、その人物のさまざまなパターンの行動にどのように対処するのか、それらが責任者と従業員に共有されていて組織的な対処が取れるかなどの統制をあらかじめ定めておく必要があります。技術進歩による新しい分野の法的な知見や万引き犯に対する対処のノウハウを組み合わせた専門性が必要になります。

 革新的な技術進歩によりあらたなビジネスツールが登場し、それらを見てきましたが、最終的には価値の創造ができるかということになります。そのプロセスでは、それらの特徴を理解したうえでビジネスモデルとしての目的を明確にして活用することが求められます。そこには技術的な視点と経営的な視点との両方から戦略を考える必要があります。


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【参考資料】

(*1)Lee J[2016]『インダストリアル・ビッグデータ』日刊工業新聞社

(*2)Porter and Heppelmann[2016]『IoTの衝撃』DIAMONDハーバードビジネス・レビュー編集部編訳、ダイヤモンド社。

(*3)三木良義[2016]『IoTビジネスをなぜ始めるのか』日経BP社

(*4)Thomke and Manzi[2016]『人工知能』DIAMONDハーバードビジネス・レビュー編集部編訳、ダイヤモンド社


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注目トピックス

改正個人情報保護法の全面施行

 改正個人情報保護法が2017年5月30日に全面施行されました。あらためて改正のポイントと事業者が守るべき内容を確認していきましょう。

個人情報保護委員会HP

改正のポイントを整理すると

  1. 個人情報保護委員会の新設
    • 個人情報取り扱い事業者に対する監督権限を各分野の主務大臣から委員会に一元化
  2. 個人情報定義の明確化
    • 利活用に資するグレーゾーン解消のため、個人情報の定義に身体的特徴等が対象となることを明確化
    • 要配慮個人情報(本人の人種、信条、病歴など本人に対する不当な差別又は偏見が生じる可能性がある個人情報)の取得については、原則として本人同意を得ることを義務化
  3. 個人情報の有用性を確保(利活用)するための整備
    • 匿名加工情報(特定の個人を識別することができないように個人情報を加工した情報)の利活用の規定を新設
  4. いわゆる名簿屋対策
    • 個人データの第三者提供に係る確認記録等を義務化(第三者から個人データの提供を受ける際、提供者の氏名、個人データの取得経緯を確認した上、その内容の記録を作成し、一定期間保存することを義務付け、第三者に個人データを提供した際も、提供年月日や提供先の氏名等の記録を作成・保存することを義務付ける)
  5. その他
    • 取り扱う個人情報の数が5,000以下である事業者を対象外とする制度を廃止
    • オプトアウト規定を利用する個人情報取り扱い事業者は所要事項を委員会に届け出ること義務化し、委員会はその内容を公表
    • ※オプトアウト:本人の求めに応じて当該本人が識別される個人データの第三者への提供を停止する場合、本人の同意を得ることなく第三者に個人データを提供することができる

  6. 外国にある第三者への個人データの提供の制限、個人情報保護法の国外適用、個人情報保護委員会による外国執行当局への情報提供に係る規定を新設

 飲食・小売業においても知っておくべきと思われる改正のポイントをみていきます。

 「取り扱う個人情報の数が5,000以下である事業者を対象外とする制度を廃止」したことで全ての事業者が個人情報保護法の対象となります。つまり、営利、非営利を問わず個人情報をデータベース化して事業活動に利用していれば該当することになります。具体的には、企業だけでなく、個人事業主、NPO法人、自治会、同窓会なども該当します。

 「1.個人情報保護委員会の新設」は大きな変更になりますので、認識を持つ必要があります。これまでは主務大臣、またはJIPDECなどの機関へ事故報告していました。全面施行後は、個人情報保護委員会に報告するのが原則です。ただし、特定個人情報が漏えいした場合は報告経路がやや複雑です。認定個人情報保護団体(協会など)の対象事業者は認定個人情報保護団体に報告します。また、個人情報保護委員会の権限が事業所管大臣に委任されている場合は、所管大臣に報告します。それぞれの機関を通じて個人情報保護委員会に報告される場合と事業者が直接個人情報保護委員会に報告する場合に分かれています。

 また、従業員100人以下の事業者(個人番号利用実務実施者を除く)は、次の4項目全てに当てはまる場合は、個人情報保護委員会への報告は要しません。
  • 影響を受ける可能性のある本人全てに連絡した場合(本人への連絡が困難な場合には、本人が容易に知り得る状態に置くことを含む)
  • 実質的に外部に漏えいしていないと判断される場合
  • 事実関係の調査を終了し、再発防止策を決定している場合
  • 委員会規則に規定する重大事態に該当しない場合

 ただし、これらの条件を安易に判断してしまいますと、報告義務を怠るという結果を招きかねません。公表の必要な場合と同じく「漏えい等事案の内容等に応じて」判断していくことになりますので、専門家に相談するほうが無難でしょう。その他にも例外規定も多いことから解釈や対応は慎重に判断することが求められます。


 改正のポイントのうち「2.個人情報定義の明確化」のなかの「個人情報の定義に身体的特徴等が対象となることを明確化」では、「個人識別符号」を設けています。「個人識別符号」には大きく分けて2つです。ひとつは、「サービス利用や書類において対象者ごとに割り振られる符号」であり、公的な番号、具体的には旅券番号、基礎年金番号、免許証番号、住民票コード、マイナンバー、各種保険証等が該当します。クレジットカードや銀行口座番号については、様々な契約形態や運用実態があり、およそいかなる場合においても特定の個人を識別できるとは限らないことから「個人識別符号」としては位置づけられてはいません。ただし、このような情報も氏名や住所など他の情報と容易に照合できて特定の個人を識別することができる情報は、これまで通り個人情報に該当するので注意が必要です。

 もうひとつは、「身体の一部の特徴を電子計算機のために変換した符号」であり、具体的には、DNA、顔、虹彩、声紋、歩行の様態、手指の静脈、指紋・掌紋などが該当します。上述した通り、一部の小売業において導入が始まっている顔認証システムには注意が必要です。カメラで撮影した顔の画像から抽出した「顔認証データ」は個人情報と定義されます。個人識別符号のうち、「特定の個人の身体の一部の特徴を電子計算機の用に供するために変換した文字、番号、記号その他の符号であって、当該特定の個人を識別することができるもの」が「顔認証データ」を個人情報と定義することの根拠になります。これまで「顔認証データ」が個人情報に当たるかは曖昧でしたが、改正法は氏名や生年月日などと同じ個人情報と位置づけたことになります。

 個人情報を取り扱う事業者は、利用目的を事前に公表したり、本人に通知したりする必要があります。したがって、防犯カメラを通じて収集したデータの利用目的を店頭に告知するなどの対応が必要であると考えられています。このようなデータの収集には顧客や利用者の不安も大きいため、業界団体が自主ルール作りを進めています。顔認証カメラメーカーなどで構成する「日本万引き防止システム協会」では、漏洩防止の徹底などを盛り込んだ、「防犯カメラや画像認識システムの安全利用のお勧め」( http://www.jeas.gr.jp/ )を2016年12月から案内しています。窃盗団対策や常習万引者対策などに高画質カメラや顔認識システムの普及が急速に進んでいる一方で、関係方面から「従来のCCTV(映像監視システム)のための管理規定では、管理面や情報利用の範囲において安全対策面が不十分な可能性がある」(日本実務出版ニュース・セキュリティナビ)などとの声に対応したものと思われます。

 「顔認証データ」は小売業においてマーケティングや防犯にも利用されつつあります。高度な分析や瞬時の判定など価値を創造することは間違いありません。一方で、お客様の権利や利益を侵害しない運用が求められます。そのうえで、事業者が最低限遵守しなければならない義務は十分に理解しておく必要があります。


日本の将来推計人口(平成29年推計)、国立社会保障・人口問題研究所

 国立社会保障・人口問題研究所は、平成27年国勢調査の確定を受けて全国将来人口推計(日本の将来推計人口)を公表しています。

 「日本の将来推計人口とは、全国の将来の出生、死亡、ならびに国際人口移動について仮定を設け、これらに基づいてわが国の将来の人口規模ならびに、男女・年齢構成の推移について推計を行なったものです(対象は外国人を含めた日本に在住する総人口)」(国立社会保障・人口問題研究所HP

 人口の統計資料は他に総務省統計局の人口推計などがありますが、こちらはある時点でのいわゆる結果の推計です。それに対して、日本の将来推計人口は、将来の出生、死亡等の推移は不確実であることから、複数の仮定に基づく複数の推計を行ない、これらにより将来の人口推移について一定幅の見通している点が異なります。将来の出生推移・死亡推移についてそれぞれ中位、高位、低位の3仮定を設け、それらの組み合わせにより推計を行なっています。

 日本の人口の構成、および、推移は小売業において消費者や労働者の両面の変化を意味しますので、企業戦略に大きな影響を与えるものです。経済に影響を及ぼす外的要因は予測が困難な事象が多いなかで、人口の変化は急激に起こらず緩やかに進むことから比較的予測の確実性が高いといわれています。ほぼ確実に分かっている変化であるからこそ、その変化を認識して対応していくことが必要です。以下に推計のポイントをまとめます(推計はいずれも出生中位推計)。

 総人口の推移は、2015年の1億2,709万人(同年国勢調査)から以後長期の減少過程に入ります。平成52年(2040年)の1億1,092万人を経て、平成65年(2053年)には1億人を割って9,924万人となり、平成77年(2065年)には8,808万人になると推計されています。

 年少(0~14歳)人口は、1980年代初めの2,700万人規模から平成27年(2015年)国勢調査の1,595万人まで減少しました。今後、平成33年(2021年)に1,400万人台へと減少します。その後も減少が続き、平成68年には、1,000万人を割り、平成77年(2065年)には898万人の規模になると推計されています。

 生産年齢人口(15~64歳)は戦後一貫して増加を続け、平成7年(1995年)の国勢調査では8,726万人に達しましたが、その後減少局面に入り、平成27年(2015年)には7,728万人となっています。今後、平成41年(2030年)、平成52年(2040年)、平成68年(2056年)にはそれぞれ、7,000万人、6,000万人、5,000万人を割り、平77年(2065年)には4,529万人となります。

 老年(65歳以上)の推移は、平成27年(2015年)の3,387万人から平成32年(2020年)には3,619万人へと増加します。その後しばらくは緩やかな増加期となりますが、平成42年(2030年)に3,716万人となった後、第二次ベビーブーム世代が老年人口に入った後の平成54年(2042年)に3,935万人でピークを迎えます。その後は、一貫した減少に転じ、平成77年(2065年)には3,381万人となります。

 生産年齢人口に対する年少人口と老年人口の相対的な大きさを比較し、生産年齢人口の扶養負担の程度を大まかに表すための指標として従属人口指数があります。老年従属人口指数(生産年齢人口100に対する老齢人口比)は、平成27年(2015年)現在の43.8(働き手2.3人で高齢者1人を扶養)から平成35年(2023年)に50.3(同2人で1人を扶養)へ上昇し、平成77年(2065年)には74.6(同1.3人で1人を扶養)となるものと推計されています。この老年従属人口指数と年少従属人口指数を合わせた値が従属人口指数で、生産年齢人口に対する年少・老年人口全対の扶養負担の程度を示します。従属人口指数は、生産年齢人口の縮小傾向のもとで、平成27年(2015年)の64.5から平成49年(2037年)に80.5に上昇し、その後平成77年(2065年)に94.5に達します。平成77年(2065年)では働き手1.06人で1人を扶養する計算となります。


 これらの推計の数字からは、日本社会が直面している人口問題の厳しさが読み取れます。生産年齢人口が減少、または全人口に対する比率が低下し、経済に負の影響を及ぼすという、いわゆる「人口オーナス」現象が深刻になっていることをあらためて示しています。そして、「人口ボーナス」で生じる高度成長後、いったん「人口オーナス」期になったあとの少子高齢化は半永久的に継続し、元に戻ることはありません。

 つまり、小売企業の経営者の頭の中に「人口オーナス」への対応を基軸とするフレームワークを持つことが必要です(ただし、対照的にグローバルでは「人口ボーナス」のフレームワークになります)。これからの人口の変化に対して対策を取らないまま、人口オーナスの深刻な影響を迎える小売企業の経営者が、「想定外だった、だから仕方ない」「自分の責任ではない」と言うかも知れません。これこそが「真のリスク」なのです。このリスクファクターに対して真摯に向き合いながら取り組み、自己変革することが求められています。

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