"ポスト真実"時代の企業広報(1)~ポスト真実とは~(2017.5)

2017/05/31 / 総合研究室 専門研究員 石原 則幸 プリント

"ポスト真実"とは

 昨年来"ポスト真実"あるいは、"ポスト・トゥルース"という言葉を頻繁に見聞きすることが増えている。関連する記事も多く、それらを解説する書籍も複数出版されている。

 また、専門家によるサイトなども多数あるので、読者の皆様の中には"今さら感"を持たれる方々もおられることと思う。そのような方々にはご容赦いただく形になるが、本リスクフォーカスレポートにおいては、"ポスト真実"が注目されるにいたった経緯を振り返りつつ、それが企業危機管理や企業広報とどのような関係性を有するのかについて、論考を進めていきたい。


 "ポスト真実"という言葉自体は、すでに1992年に使われ始めているのだが、それがにわかに注目されるようになったのは、昨年、世界最大の英語辞典『オックスフォード辞典』を出版するオックスフォード大学出版局が、2016年の「時代を最もよく表す言葉(Word of the year)」として選んだことによる。またその際に"ポスト真実(post-truth)"とは「世論を形成する際に、客観的な事実よりも、むしろ感情や個人的信条へのアピールの方がより影響力があるような状況」を示す言葉だと定義した。


 我々日本人にとっては、「Post-」という修飾語は、「過ぎ去ったもの」や「次に来るもの」とのニュアンスが強く、所謂メディア情報も新旧取り混ぜて玉石混交であることは、直近では最早一般的認識にまで至っていると推察されるので、実は「Post-」が「脱」と訳されてもいるので、「脱・工業化社会」のように"ポスト真実"の時代はとうの昔から現出しているともいえる。つまり、「もう終わったもの」と理解してしまいやすい。ただ、「Post-」は転じて「重要ではない」という意味にもなっているのである。

 逆説的に言えば、"ポスト虚偽"の時代はあったのだろうかとの疑問も生じる。また、そのような時代が仮にあったとして、それは長く続いたのだろうか、という問いも成り立ち得る。それは新聞・テレビといった旧来のメディアの役割や機能や使命の客観的な分析を前提とするはずであるし、今日的なネットメディア(SNSやキュレーションメディア)の客観的な分析にまで、当然のことながら視野に入れなければならない。


 そもそも"ポスト真実の政治"という言葉自体があったが、これも同様に政策の実効性や妥当性、客観的な事実より、個人的信条や感情にどれだけアピールするかが重視され、その結果により世論が形成されていく実態や社会のことを意味し、ポピュリズムという形ですでに体現されているとも言えよう。ポピュリズムが、曲がりなりにも民主主義の一形態をなしていたとしても、それが"ポスト真実"の傾向を強め、混乱を深めるだけに終始してしまえば、ファシズム回帰への一過程という位置付けを得ただけになるのかもしれない。

"ポスト真実"の背景

 そのような中で、オックスフォード大学は何故、昨年の「Word of the year」として、"ポスト真実"を選んだのだろうか。それは、昨年6月の英国のEU離脱是非を問う国民投票(Brexit)と同年米国大統領選挙にその傾向が顕著に現われたからだと言われている。

 また、同年日本ではDeNAに代表される虚偽情報をばらまいたキュレーションサイト「WELQ」の問題も生じ、同様に"ポスト真実"の文脈で語られることになり、大いに批判が集中した。同じように虚偽ニュースに騙された(あるいは、騙されて被害を被った)といっても、我が国で大きな問題となったのは、英米の選挙絡みのマタ-とは若干趣が異なる(もちろん同様のケースもあるのだが、それについては本連載中に言及したい)。


 英米のケースが、何故取り立てて大きく扱われたかといえば、ともにそもそもが注目を集める一大イベントであったことに加え、前者ではEU残留派が、後者ではヒラリー・クリントン候補が勝利すると予想されていたからである。大方のマスメディアの予想もそうであった。この二つの出来事には、共通する背景があると言われている。その大きな要因の一つが中間層の没落である。

 そして、それをもたらしたのはグローバルエコノミックスであり、開かれ過ぎた自由貿易であるとされる。国境を自由に移動する国際金融と巨大多国籍企業が自国の富を収奪し、貧富の格差を拡大し続けたのである。それにより、ただでさえ失業のリスクが高まっていた中間層の雇用の機会を低コストの移民と人権を保護された難民が奪っていくという構図が出来上がってしまったことが挙げられる。


 従来、このような場合は政策の転換を求めて、政権の交代が選択されるのであるが、今や、グローバリズムは全世界を覆っており、米国では共和党と民主党、英国では保守党と労働党、日本においても自民党と民進党との間に大きな政策の違いが見出せにくい状況になっている。先般の仏大統領選挙でマクロン氏が既存の巨大政党ではなく、独立系候補として立候補したことにも一脈通じることである。各国とも選挙時には投票率が低いが、それに反比例して無党派層は増大しているのである。

 グローバリズムや自由貿易、あるいは新自由主義は、決して反民主主義を標榜しているわけではないが、結果的に著しく不平等な状況を作り出してしまった。それらの政策を各国のマスメディアも後押ししていたこともあり、彼らもまた巨大企業や一部の政治家・官僚と同じエリート集団として、グローバリズムの恩恵を受けている仲間として見られるようになってきた。これが一般大衆の既存メディアへの不信感を増幅させ、"ポスト真実"の様相をより明確に浮き上がらせることになった。

 これら一連の大衆や中間層の不満を各国の既存政党が十分に吸い上げられなくなったとき、その不満は容易に"論理"から"感情"に変質する。そして、この"感情"が嫌悪や憎悪を先鋭化させ、自分とは異質なもの(移民や特定宗教など)という捌け口を見つけ出し、そこに直線的に向かうのである。この状況は、"ポスト真実"的情報が跋扈しやすい土壌をますます生成していく循環に陥ったのである。


 米国では民主党から共和党へ形としては政権交代したわけだが、周知の如くトランプ氏は歴代の共和党候補の中でも極めて異色な存在であるため、トランプ派と反トランプ派の対立を単純に共和党と民主党のそれに置き換えることは、妥当ではない。

 英国では首相がキャメロン氏からメイ氏に移行はしたが、総選挙前なので政権与党は保守党のままである。但し、Brexitは既定路線であるため、直近に予定されている総選挙がその結果とともに、どのような"ポスト真実"的情報が繰り広げられるのか注目される。


 "ポスト真実"と一口に言っても、その様相と内実は実に複雑怪奇としか言いようがない。次回は、"ポスト真実"という時代状況を自らの陣営に有利に働くように、敵・味方、双方が激しい"内戦"を繰り広げている米国の状況をより詳しく見ながら、"フェイクニュース"の種類や経緯について述べる。

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