山口組分裂から1年~非合法化に向けた議論を(2016.9)

2016/09/14 / 取締役 総合研究室 主席研究員 芳賀 恒人 プリント

1.山口組分裂から1年~非合法化に向けた議論を

 昨年8月、六代目山口組から13人の「直参」と呼ばれる直系組長が離脱して新たに神戸山口組が結成されました。この1年、六代目山口組は、神戸山口組に関与した者について絶縁状を発出するなど、組織の引締めを図ってきましたが、神戸山口組についても、六代目山口組傘下組織の構成員を傘下に加え、過去に六代目山口組を除籍となっていた元直系組長を神戸山口組直系組長として復帰させるなど勢力の拡大を図るとともに、全国各地で開催された傘下組織の親睦会に、直系組長が出向いて指示を行うなど、組織の引締めを図っています。
 分裂後の1年で、六代目山口組の直系組長は56人にまで減少、一方の神戸山口組は24人にまで拡大しています。また、事件の発生頻度の高まりや全国への広がり、凶悪化等が懸念されたことから、警察当局は、今年3月、状況を総合的に勘案して対立抗争の状態にあると判断、警戒や摘発を強化したほか、国家公安委員会は、4月に神戸山口組を新たに指定暴力団に指定、6月には六代目山口組についても9回目の再指定をしています。
 警察庁は、先日、対立抗争状態にあると認定した今年3月7日~8月24日、対立抗争とみられる事件が17都道府県で37件発生し、逮捕者は900人以上に上ると公表しました。さらに、「特定抗争指定」を視野に、対立抗争状態にある両組織の監視や情報収集を強化しており、最近では、兵庫県警が、指定暴力団山口組の総本部前に「特別警戒所」を設置したほか、指定暴力団神戸山口組の本部事務所近くにも警戒拠点を設ける方向と言われています。

 ただ、今回の分裂では、全国で小競り合いやトラブルが相次いでいるものの、両団体ともに、厳しい規制がかかる「特定抗争指定暴力団」に指定される事態や組長ら幹部に対する使用者責任が問われる事態を避けたいためか、表立って激しい抗争には至っていません。「特定抗争指定」されれば組の存続自体が危ぶまれる事態になりかねず、「組の存続」に強い危機感を抱き、本来の「ヤクザの行動原理」にさえ優先して自重している状況にあります。

 これだけ規制が厳しくなって暴力団がその存在を自ら誇示できない状況(さらには、資金獲得のために、ご法度とされる「詐欺」や「覚せい剤の密売」、「窃盗」等になりふり構わず手を染めている状況や、報復などの「ヤクザ」としての筋を通した行動すらできない状況)が続くのであれば、そろそろ、暴力団の存在そのもののあり方について、社会的な議論を深めていくべき時期に来ているのではないかと感じます。暴力団の「金」至上主義への変質は、自らを、自らで、社会的に存在が許されない(害悪でしかない)ところまで追い込んだ(自爆した)と言えますし、社会や警察は、暴力団対策法や暴排条例等を駆使して、徹底的に資金源を断ち、暴力的不法行為を厳しく取り締まることや、コンプライアンスの浸透によって暴力団に対する「社会的需要」はもはやないとするところまで社会の認識が変化し、彼らの活動を著しく制限すること、弱体化・壊滅に向けて追い込むことに成功しつつあります。
 もはや、暴力団は、「今の形のまま」での存続は難しく、先のATM不正引き出し事件のように、振り込め詐欺グループや海外の犯罪組織など外部の犯罪グループ等と連携しながら、表向きは組織の規模を縮小させながら、より「柔軟な」「あいまいな」形で、そして、最終的には完全に地下に潜在化するマフィアのような形態に変容していくことが予想されます。そうなれば、「今のままの」暴力団は組織としてあまり意味を成さなくなるうえ、その構成員等にとっても、暴力団員であるメリットもほとんどなくなるとも考えられます(ただし、そのことは、何も社会や事業者にとって暴排の取組みが終了することを意味するものではありません。いつの時代でも、様々な形で反社会的勢力的なものは存在します。「反社会的勢力排除」という概念はますます拡大するとともに高度化・巧妙化し、むしろ、社会や事業者にとっては一層難しい対応を迫られることになると思われます)。

 そもそも暴力団対策法によってその存在(枠組み)が定義されている日本はむしろ異例です。犯罪組織の存在そのものを否定する場合もある外国の法制を参考に、今回の分裂を機に、暴力団そのものの「非合法化」に取り組むべきではないかと考えます。この点については、前国家公安委員会委員長を務めた河野氏が、退任記者会見で、明確に、「暴対法を改正して、暴力団の存在そのものを許さずということに向けて更なる一歩を進めてもらいたいと思います」と踏み込んだ発言をしている点が注目されます。さらに、河野氏は、自らのブログで、国家公安委員会委員長の「引継書」を公開、その中で、「暴力団に対処する制度の強化」として、「暴力団対策法に基づく指定暴力団の指定期間の撤廃及び分裂団体への指定の適用継続に係る法改正」「海外の組織犯罪対策に係る制度を調査し、各制度の歴史的経緯、運用状況、各制度を支える捜査手法等を踏まえ、より効果的な暴力団対策に資する法整備」を掲げています(「より効果的な暴力団対策に資する法整備」については、記者会見の発言をふまえれば、非合法化に向けた法整備の検討を意図しているものと推察されます)。

 今の暴力団は、過去の暴力団のあり方や社会的な立ち位置とは全く異なるものとなっています。そして、考えてみれば、そのような今の暴力団を警察や社会が作り出してきたものだとも言えます。そうであるならば、今後、暴力団の存在自体を許さない枠組みを、官民挙げて作り出していってもよいのではないか、そのような時期にきているのではないかと思うのです。

 さて、次に、直近の暴力団情勢について、警察庁からの公表資料を紹介します。

警察庁 平成28年上半期における暴力団情勢

 平成19年以降、暴力団構成員等(暴力団構成員及び準構成員その他の周辺者をいう)の検挙人員は減少傾向にあり、平成28年上半期(以下、当期)においては、9,426人と前年同期に比べ908人減少しています。このうち、構成員の「詐欺」の検挙人員が、前年同期に引き続き、「窃盗」の検挙人員を上回っている点が注目されます。また、暴力団構成員等の検挙人員のうち、主要団体(六代目山口組・神戸山口組・住吉会・稲川会)の暴力団構成員等が占める割合は約8割で推移しているところ、当期においても7,621人と80.9%を占めており、寡占状態が続いていることが確認できます。
 さらに、検挙されたもののうち山口組直系組長について注目してみると、六代目山口組直系組長10人(前年同期比+1人)、弘道会直系組長等(直参)12人(同+6人)、弘道会直系組織幹部(弘道会直系組長等を除く)13人(同+3人)など、幹部の検挙が進んでいることが分かります。
 また、神戸山口組を指定暴力団に指定して以降、両団体の対立抗争に起因するとみられる不法行為の発生件数は減少(3月7日から神戸山口組の指定効力発生前である4月14日までに26件、その後は5月に1件、6月に2件)していることなどが注目されます。また、近年、(特定危険指定暴力団工藤会などに代表される)暴力団等によるとみられる事業者襲撃等事件が相次いで発生していましたが、平成26年以降大きく減少し、当期においては、2件発生(前年同期比+1件)にとどまっています。

 さらに、喫緊の課題である暴力団離脱者支援を巡る動きとしては、本コラムでもご紹介した通り、平成28年2月、14都府県(東京、茨城、群馬、神奈川、静岡、岐阜、愛知、三重、大阪、鳥取、高知、福岡、佐賀及び鹿児島)の社会復帰対策協議会が、「暴力団離脱者の雇用意思を有する事業者に係る情報の共有」「暴力団離脱者の受入れ先協議会による就労後支援の強化」等を内容とする「暴力団から離脱した者の社会復帰対策の連携に関する協定」を締結(その後、2月に青森、3月に熊本が加入)しています。

 その他、箇条書きとなりますが、本報告書については、以下のような点がポイントと思われます。

  • 当期においても、金融業、建設業、労働者派遣事業、風俗営業等に関連する資金獲得犯罪が敢行されており、依然として多種多様な資金獲得活動を行っていることがうかがえる
  • 当期における暴力団構成員等に係る組織的犯罪処罰法のマネー・ローンダリング関係の規定の適用状況については、犯罪収益等隠匿について規定した第10条違反が23件(前年同期比+3件)、犯罪収益等収受について規定した第11条違反が10件(同▲8件)
  • 当期における暴力団構成員等、総会屋等及び社会運動等標ぼうゴロによる企業対象暴力及び行政対象暴力事犯の検挙件数は222件(前年同期比+10件)
  • 暴力団対策法に基づく中止命令の発出件数は減少傾向にあるが、当期においては、705件と前年同期に比べ▲113件との結果(抗争状態にあったにもかかわらず、中止命令の件数が大きく減少している点が特徴的だと言えます)
    • 形態別では、資金獲得活動である暴力的要求行為(9条)に対するものが497件(前年同期比▲74件)と全体の70.5%を、加入強要・脱退妨害(16条)に対するものが91件(同▲12件)と全体の12.9%を、それぞれ占める
    • 暴力的要求行為(9条)に対する中止命令の発出件数については、不当贈与要求(2号)に対するものが198件(同▲63件)、みかじめ料要求(4号)に対するものが77件(同▲20件)、用心棒料等要求(5号)に対するものが186件(同+21件)
    • 加入強要・脱退妨害(16条)に対する中止命令の発出件数については、少年に対する加入強要・脱退妨害(1項)が4件(同▲4件)、威迫による加入強要・脱退妨害(2項)が76件(同▲11件)
  • 当期における暴排条例に基づいた勧告等の実施件数は、勧告が40件、指導が1件、中止命令が5件、再発防止命令が1件、検挙が3件(前年同期は勧告が40件、中止命令が4件、検挙が5件)
  • 平成27年中の暴力団関係相談の受理件数は5万2,619件であり、このうち警察で2万2,637件、都道府県センターで2万9,982件を受理している

 主要団体以外の動向では、工藤会関連の裁判で、平成25年に法廷で証言しないよう被害者を脅したなどとして、証人威迫や恐喝などの罪に問われた工藤会系組幹部の控訴審で、福岡高裁は、一部無罪とした一審・福岡地裁小倉支部判決を破棄し、懲役8年を言い渡しています。報道によれば、組幹部が同被告の名前を出して被害者を威迫したとして、「被告が指示したと考えられる」と共謀を認定したうえで、「暴力団ならではの思考は根深く、刑事責任は重い」と指摘しています。類似の事例としては、最近でも、工藤会系の組幹部が殺人未遂罪に問われた福岡地裁小倉支部の裁判員裁判で、同幹部の知人の男2人が裁判員に「声かけ」をしたとして裁判員法違反(請託、威迫)容疑で逮捕された事件や、市民への襲撃事件などで逮捕され、勾留中の最高幹部ら工藤会関係者約20人について、福岡地裁が、本や雑誌など書籍類の差し入れを禁じる決定をしたという事例などが想起されます。いずれも、正に、「最も凶暴」(米財務省)と評される工藤会の恐怖と混乱を招く手法に驚かされます。司法の場における暴排として、(前例のない脅しへの対応も予想される中)今後も適切かつ毅然とした対応を望みたいと思います。

 さらに、直近では、工藤会が関与したとされる一連の一般人襲撃事件で、被害者の一部が工藤会トップら幹部を相手取り、暴力団対策法に基づく損害賠償請求訴訟の提起を検討しているとの報道もありました。福岡県弁護士会の民事介入暴力対策委員会が被害者と協議を重ねているということであり、使用責任賠償責任の追及によって、最高幹部らの逮捕が相次ぐ工藤会に新たな打撃を与えることができるのではないかと期待されます。

 さて、福岡県警等による工藤会に対する「頂上作戦」は、開始から丸2年が経過し、その間、幹部や系列組員ら延べ193人を逮捕したほか、計78人が組織を離脱し、組員数は500人を切るまでに組織の弱体化をもたらしたと評価できると思います。ただし、その一方で、九州最大規模の指定暴力団道仁会の動きにも警戒が必要な状況のようです。道仁会は、九州全体でおよそ1,010人を抱え、約800人の工藤会より大きな組織ですが、最近、組織固めを進め、加入の強要や離脱の妨害への中止命令も急増している状況にあります。福岡県警HP上の「平成27年12月末の暴力団勢力」によれば、他の団体が人数を減らす中、道仁会と浪川会は逆に増やしていることが分かります。もともと山口組とも抗争し、最近まで九州誠道会(現浪川会)と抗争状態にあり、「特定抗争指定暴力団」に指定されていた武闘派でもあります。工藤会の弱体化に乗じた今後の動向には十分な注意が必要です。

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2.最近のトピックス

1) 共謀罪創設を巡る動向

 「共謀罪」の創設については、本コラムでもたびたび取り上げてきましたが、今回、政府は、過去3回廃案になった経緯をふまえ、適用の対象を絞り、構成要件を加えるなどした新たな法改正案をまとめています。報道によれば、2020年の東京五輪やテロ対策を前面に出す形で、罪名を「テロ等組織犯罪準備罪」に変えるなど、テロ対策の一環として明確に位置づける、過去の法案では「団体」としていた適用対象を、テロ組織や暴力団、振り込め詐欺集団などを念頭に置いた「組織的犯罪集団」と明記し、「4年以上の懲役.禁錮の罪を実行することを目的とする団体」と限定、また、「組織的犯罪集団としての活動」「2人以上の具体的な計画」「犯罪実行の準備行為」などを犯罪の構成要件として検討しているとのことです。過去、批判を浴びた点に配慮はしているものの、「組織的犯罪集団」や「準備行為」などの定義がややあいまいで、当局による拡大解釈の余地を残しているといった批判も当然ながら予想されるところであり、既に、大阪弁護士会は、廃案になった内容とほぼ変わらないとして批判しています。

大阪弁護士会 共謀罪新法案の国会提出に反対する会長声明

 本声明では、引き続き「市民の自由と権利が脅かされるおそれがあるというべきである」こと、「今般の刑事訴訟法改正に盛り込まれた通信傍受制度の拡大に新法案が加わったときには、テロ対策の名の下に市民の会話が監視・盗聴され、市民社会のあり方が大きく変わるおそれさえあると言わなければならない」などと指摘しています。

 以前の本コラム(暴排トピックス2015年12月号)でも指摘していますが、そもそも共謀罪の検討が必要な背景としては、最近のテロリスクの高まり以外にも、国連が2000年にテロや国際的な犯罪を未然に防ぐことを目的とする「国際組織犯罪防止条約」を採択したことがあげられます。日本も2000年に署名していますが、国内法が未整備のため(共謀罪がないため)批准には至っていません。さらに、先進国で同条約を批准できていないのは日本のみという状況で、国際的なテロリスクに対応してくために必要な情報が(各国の諜報機関等との連携ができないため)得にくく、日本が「抜け道」となって、国際的な信用失墜ばかりか、国際的なテロ包囲網を骨抜きにしてしまいかねません(一方で、日本弁護士連合会は、「共謀罪を設けなくても国際組織犯罪防止条約の批准は可能」とする意見書をまとめています)。

 自民党幹事長も今国会での成立に拘らない姿勢を示すなど、共謀罪創設を巡る動きはまだまだ不透明ですが、テロリスクや反社リスクを低減させ、国際的な犯罪対策の連携に貢献するという意味でも、「日本が条約を批准すること」が重要であるとの共通認識のもと、速やかな対応が求められます。

2) 特殊詐欺の動向

 前回の本コラム(暴排トピックス2016年8月号)では、平成28年上半期の特殊詐欺全体について、認知件数は6,443件(前年同期比▲570件、▲8.1%)と上半期として5年ぶりに減少する結果となったこと、また、被害額は198.4億円(▲41.8億円、▲17.4%)で、昨年に引き続きの減少とはなったものの、依然として高水準で推移しており、引き続き十分な警戒が必要な状況だと指摘しています。今回公表された平成28年1月~7月の特殊詐欺の認知・検挙状況等についても、全体的には上半期の傾向を引き継いでいると言えます。

警察庁 平成28年7月の特殊詐欺認知・検挙状況等について

 特殊詐欺全体の平成28年1~7月の認知件数は7,647件(前年同期8,172件、▲6.4%)、被害総額は225.4憶円(同275.2億円、▲18.1%)となり、認知件数・被害総額ともに大きな減少が続いています。内訳として、オレオレ詐欺の認知件数が3,292件(同3,576件、▲7.9%)、被害総額が90.9億円(同101.2億円、▲10.2%)、架空請求詐欺の認知件数は1,881件(同2,292件、▲17.9%)、被害総額は88.4億円(同98.7億円、▲10.4%)、融資保証金詐欺の認知件数は234件(同276件、▲15.2%)、被害総額は3.9億円(同3.3億円、+18.2%)などとなっていますが、還付金詐欺については、認知件数1,904件(同1,317件、+44.6%)、被害総額22.8億円(同13.7億円、+66.4%)と、認知件数・被害総額ともに増加傾向にあります。

 また、前回の本コラムでは大阪の「おおさか特殊詐欺被害防止コールセンター」の運営開始についてご紹介しましたが、今後新たに、うその電話で被害者をだます手口を封じるために、犯行に使われた番号に電話をかけ続ける新たな作戦(電話を鳴りっぱなしの状態にして、犯人が電話しようにもできなくする、北海道警の取組みで成果があった作戦)を警察庁主導のもと全国に拡げることとなりました。北海道での導入事例では、相手が応答すると、警察を名乗って「犯罪への利用を直ちに停止し、出頭するよう警告する」という音声を流したところ、7割を超える回線の解約が確認できたということです。電話は、特殊詐欺の「三種の神器」のひとつであり、それを無力化することの威力は大きいものと推測され、今後速やかに広域で展開されることを期待したいと思います。

 なお、これまでも取り上げてきたATM不正引き出し事件については、最近では以下のような動きがありました。本事件については、広域にわたって様々な暴力団が同一の案件に関与していたことが明らかになっており、これらの事実をふまえれば、今後の暴力団の動向については、海外の犯罪組織や振り込め詐欺グループなどとの連携を視野に入れながら見極めていく必要性を感じさせます(言い換えれば、反社リスクを、国際的な組織犯罪対策・金融犯罪対策の視点から捉えるべき状況になっていると言えるかもしれません)。

  • 警視庁組織犯罪対策特別捜査隊は、不正作出支払用カード電磁的記録供用と窃盗容疑で、指定暴力団山口組系組長と、同組員の両容疑者を逮捕しています。知人らを現金引き出し役の「出し子」に勧誘し、偽造クレジットカードを手渡したうえで、現金は組員が回収したとみられています。
  • 愛知県内で計380万円を引き出したとして窃盗罪に問われた2人について、名古屋地裁は、懲役2年(求刑・懲役3年)の実刑判決を言い渡しています。報道によれば、被告が「全国で行われた組織犯罪とは知らなかった」と主張していたのに対し、地裁は、事件直前に渡された偽造クレジットカードの暗証番号が全部同じだったことなど、「何らかの犯罪組織が手引きしていたと十分理解できたはずだ」と指摘したとされています。
3) テロリスク/テロ資金供与対策(CTF)の動向

 7月に発生したバングラテロ事件の教訓をふまえて、外務省と国際協力機構(JICA)は、途上国で政府開発援助(ODA)に携わる日本の非政府組織(NGO)ら国際協力事業関係者のための新たな安全対策策定に向けた最終報告を取りまとめています。前回の本コラム(暴排トピックス2016年8月号)では、中間報告の骨子を紹介しましたが、今回は、今後の具体的な施策が盛り込まれた報告書の中から、危機管理上重要と思われるものをいくつか紹介したいと思います(下線部は筆者)。

外務省 国際協力事業安全対策会議第5回会合の開催(結果)

国際協力事業安全対策会議最終報告

  • 7月に南スーダンで発生した衝突事案により、事業関係者やNGOの職員が退避を余儀なくされたが、このようなテロ以外の事案における安全確保の方途についても、この機会に改めて見直すことが必要である。
  • 在留届の提出及び「たびレジ」への登録は、事業関係者やNGOが外務省の海外安全情報を始めとする邦人保護のための情報を確実に受け取る上で最重要の基礎となるので、その徹底を期すことが安全対策における全ての基本となる。
  • 在外公館及びJICA在外事務所は、定期的に又は事前予告なしに、緊急事態の発生を想定した連絡訓練(電話、メール、SMS等を活用)を実施する。その際、事業関係者やNGOにも参加を呼びかけ、関係者の危機意識の向上及び連絡方法の改善を不断に図っていく。
  • ハード・ソフト両面の防護措置の強化のため、民間の警備会社の活用が適当な場合は、それも活用する。また、危険度が高いにもかかわらず現地当局による警備・警護が十分に得られない国においては、民間警備会社による武装を伴う警備・警護を活用することを検討し、その際、必要に応じ、現地当局の側面支援を得るべく同当局に働きかける
  • 在外公館及びJICA在外事務所、資金協力と技術協力のプロジェクトサイト・事務所・宿舎、事業関係者の職員等の移動経路等におけるハード面での防護態勢を可能な限り確かなものとすべく、脅威度の高い国を中心に、安全対策の専門家(外部専門家を含む)による定期点検を実施する。
  • 脅威度の高い地域においては、邦人保護のいわば「最後の砦」となる在外公館及びJICA在外事務所が保有・リースする通信機器、防弾車、警護員等を増強する。在外公館及びJICA在外事務所の警備強化のため、必要に応じ、現地の関係当局にも協力を要請する。
  • 危機発生後の対応について、JICAは、自らの国際協力事業をめぐって事件・事故が発生した場合には、外務省等の協力を得つつ、直接被害者に対する支援に全力をあげるとともに、直接被害者はもとより間接被害者(現地・国内のプロジェクトメンバー、同伴家族等)のプライバシー等に十分配慮しつつ、メンタルケア等の支援を行うための態勢を充実化させる。
  • 南スーダンにおいて、JICA職員のみならず、多くの事業関係者、一部のNGO、更には当該事業関係者の下で労務を提供している外国人も共に退避の対象としたことを踏まえ、外務省及びJICAは、内閣官房、内閣府、防衛省を含む関係省庁との連携の在り方等を検討するため、関係省庁と共に、特定のシナリオを対象にした机上演習を行い、手順等についてマニュアルを整備する。この机上演習は、原則として本年中に実施することとする。

 本報告書全体を通して、「事前のシミュレーション(机上訓練や緊急連絡訓練等)の実施」や「専門家による適切なリスクアセスメント」の重要性、「脅威度の高い地域に対する重点的な防護態勢整備に向けた投資(いわゆるリスクベース・アプローチの採用)」、「関係者間の情報共有と緊密な連携」などが示されているほか、やはり、日本としての自助努力だけでなく、「現地の関係当局」との連携・働きかけが極めて重要なポイントとなると言えます。開発途上国の支援という崇高な使命を貫くために、自助・共助・公助の何れの面からも速やかに万全の態勢を構築していく必要があると言えるでしょう。
 なお、本報告書の「最後に」には、「今日の国際情勢を考えれば、もはや、日本人であれば被害に遭うことはないと想定することはできない。本最終報告に盛り込んだ安全対策が実効性あるものとなるためには、日本国内において広範囲の関係者の安全に対する意識が根本的に変わっていくことが必要であり、外務省及びJICAは、この目的のために関係省庁と協力していく」との記載があります。日本人の危機意識の希薄さは、国際的な脅威の中では全くもって無力であり、あらためて「安全に対する意識」「リスクに対する意識」を根本的に変えていく必要があると痛感します。

 さて、本報告書にも盛り込まれていますが、外務省では、早速、国際テロ情報収集ユニットの強化に着手しています。バングラテロ事件後に開催された「第25回犯罪対策閣僚会議」で、国際テロ情報収集ユニットの体制強化を含め、情報収集・分析等のテロ対策に万全を期すよう内閣総理大臣から指示があったもので、今般、本ユニットに、外務本省及び在外公館を合わせて40名程度を増員することが発表されています。なお、本ユニットは、昨年12月に新設され、発足後、機動的・精力的に活動し、収集・集約された国際テロ情報は、官邸・政策部門や関係省庁に迅速に提供され、情勢判断や政策決定に活用されています。

外務省 国際テロ情報収集ユニットの緊急増員告

 さて、国際的にはテロが頻発している状況に変わりはありませんが、一方で、最近、国際的なテロ包囲網の強化の成果か、大規模テロ計画を事前に察知し、未然に犯行を防いだ事例も報告されるようになっていますので、以下、いくつか紹介したいと思います(下線部は筆者)。

 これらの事例からは、様々な端緒情報や捜査手法の高度化が摘発に寄与している状況がうかがわれ、あらためて、テロが身近に迫っているという「危機感」や日常業務の中で得られる「違和感」、端緒情報を通報するという社会的システム(が存在し機能していること)、専門家による高度な情報分析力や技術的な解析力などが、未然防止には必要であることが分かります。また、(あってはならないことですが、)事業者としても、役職員の中に不審な言動等が見受けられるといった情報が何らかのルートを通じて組織的に把握できること、懸念を察知した場合に、カウンセリングの実施や社内のコミュニケーションを通じた急進化の阻止、警察等との連携、といった社内対応のあり方についても、検討が必要ではないかと思われます。

  • リオデジャネイロ五輪期間中に、水道を化学物質で汚染する方法で大量殺人を狙っていたブラジル人グループが摘発されています。警察が容疑者らの通話アプリの記録を解析し、判明したと言います。報道によれば、ISに感化されたメンバー同士で、「五輪は米国人やイラン人らを殺す絶好の機会だ」「水道に化学物質を混入すれば歴史に残る」とのメッセージをやり取りしていたとされますが、化学物質の取り扱いに不慣れで、入手には至っていなかったようです。
  • パリの代表的な観光名所であるノートルダム大聖堂の近くで、5本のガスボンベを搭載した乗用車が見つかり、捜査当局がテロ事件として捜査中です。現場近くの飲食店従業員が、不審な車があると通報したもので、当局は車の所有者を含む7人(うち5人が女性)の身柄を拘束、何人かは当局の警戒対象だったということで、うち女性の1人はシリアのISメンバーから指示を受けていたということです。
  • フランス当局は、イスラム過激思想に染まり、テロ計画を準備していたとして、パリ近郊で3人の女性を逮捕しています。ガスボンベを積んだ車が放置されている(上記の)事案を受けて、その捜査の一環で摘発したということです。報道によれば、「実行が間近だった」といい、リヨン駅などを標的にしていたとされます。
  • 英で、ISの共鳴者とみられる兄弟を含む若者3人が、テロ準備などの容疑で逮捕されています。爆発物製造のための化学薬品を入手しようとしていたとされ、首都ロンドンでの大規模テロ計画を初期段階で未然に摘発することに成功しています。報道によれば、銃の入手も試みていたといい、不特定多数の市民を狙う可能性もあったということです。
  • 平成13年9月11日に発生した米同時テロから15年が経過しましたが、報道によれば、国際テロ組織アルカイダ指導者のザワヒリ容疑者は、動画共有サイトに投稿された映像メッセージで、「われわれに対するお前たち(米政府)の犯罪」のために起きたと主張、米国の方針が続く限り、同様のテロが「何千回でも繰り返されるだろう」と警告しています。

 また、本コラムでは、以前から米アップル社とFBIの間のスマホロック解除問題について考察していますが、(後述する)ツイッター社の対応なども含め、これらの問題は、プライバシー保護や表現の自由とテロリスクの緊張関係という視点や、テロリスクとソーシャルメディアのあり方という視点から慎重に検討する必要があります。この点に関連して、ツイッター社は、テロ行為の助長や他者への脅迫があったとして使用を止めたアカウントの数が2015年半ば以降で約36万に上ったと発表しています。今年2月に発表した12万5000から約3倍にまで増えていることになります。米では、ISなどの思想がインターネットを通じて流れることに強い懸念があり、ツイッター社は停止アカウント数を公表することで、反テロリズムの姿勢を明確に示していると言えます。

【注】グーグル社の上記の取組みは、プライバシー保護や表現の自由に対して、テロリスク対策をより重視した形ですが、一方で、同社は、提携先を通じて米情報機関に全投稿へのアクセス権を確保させていたところ、当該提携先に情報機関へのサービス提供をやめるよう要請しています。政府系情報機関の情報収集に協力しているイメージをもたれることを恐れての措置と言われており、この辺のバランスは難しいと感じます。

 さらに、最近では、「暗号化」の解読技術を巡っても緊張関係が生じています。これまで電話の傍受などは、テロの容疑者を追跡し、通信を監視するために用いられてきましたが、今やISなどのテロリストの通信には、エンドツーエンドの暗号化機能を標準装備したオンラインプラットフォームやアプリである、フェイスブックの「ワッツアップ」やアップルの「アイメッセージ」などが利用され、その結果、情報機関にとって解読不能になっているという大変深刻な問題に直面しており、プライバシー保護に厳格な欧州ですら「暗号化」の禁止の検討をしているとのことです。一方、ロシアではこの夏、テロ対策の名目で、携帯電話での通話やネット上で送受信されたすべての文書や音声、動画などを通信会社が最大半年間保存し、連邦保安局(FSB)など特務機関が法的制限なしにアクセスできるという新法が成立しています(さすがにここまで強制されることになれば、重大な人権侵害のおそれがあるのではないかと思われます)。

 このように、相変わらず、捜査当局と事業者、あるいは利用者(一般市民)の間には、テロ対策と表現の自由や知る権利、プライバシー保護の間でまだまだ深い溝がありますが、テロリスクの高まりを背景として、テロ対策の緊急性や公益性の高さ、ソーシャルメディアのもつ活動助長性の高さを共通認識としつつ、乗り越えていかなければならない課題だと言えるでしょう。

4) アンチ・マネー・ローンダリング(AML)の動向

 直近で、犯罪収益移転防止法違反に絡む暴力団関係者の事件が報道されていますので、ご紹介します。また、前述の「平成28年上半期の暴力団情勢」にて取り上げられていた事例についてもあわせてご紹介します。

  • 和歌山市内のインターネットカジノ店からみかじめ料名目で現金9万円を受け取ったとして、組織犯罪処罰法違反(犯罪収益収受)の疑いで、指定暴力団山口組傘下組織組長ら5人が和歌山県警に逮捕されています。7月にインターネットを介して客に賭博をさせたとして、常習賭博の疑いで、カジノ店経営者の男や従業員3人を逮捕していましたが、その後の捜査で組長らに現金を支払っていたことが判明したということです。
  • 米国の銀行から詐取した現金4,500万円を銃器の販売代金と偽り、米国の銀行から県内の銀行にある自分名義の口座に入金させ、日本国内の銀行口座から不正に引き出したとして、愛知県警国際捜査課などは、元山口組系暴力団組員ら3人を組織犯罪処罰法違反(犯罪収益の隠匿)と詐欺の疑いで逮捕しています。
  • 【暴力団情勢から】神戸山口組傘下組織幹部が、貸金業法違反に係る犯罪収益の帰属を仮装しようと企て、同幹部が管理する他人名義の口座に返済金を振込入金させ、犯罪収益等の取得につき事実を仮装した事例(岡山、5月検挙)
  • 【暴力団情勢から】住吉会傘下組織幹部が、他人が売春により得た収益を、その情を知りながら収受した事例(群馬、1月検挙)

 AMLの領域でのトピックスとしては、いよいよ本年10月1日に、改正犯罪収益移転防止法(犯収法)が施行されます。まずは、今回の主な改正点について、あらためてその主要な項目を確認しておきたいと思います。

1.内部管理態勢の強化

  • 統括管理者の選任・配置
  • 取引のリスク評価・特定、事業者作成書面の作成等
  • 必要な情報の収集・分析、確認記録等の継続的精査
  • 高リスク取引等への対応
  • リスクベース・アプローチに基づく必要な監査の実施

2.取引時確認態勢の整備

  • 法人顧客との取引における実質的支配者の確認
  • 本人確認書類の適切な取扱い
  • 厳格な顧客管理の必要性が高いハイリスク取引について、外国PEPsに該当する顧客等との取引の追加
  • 敷居値以下に分割した取引についての取引時確認の実施

3.疑わしい取引の届け出態勢の整備

  • 危険度調査書の内容を勘案すること、ハイリスク取引に応じた異なる深度による確認

 以下、今回の改正の具体的なポイントについても、いくつか簡単にご紹介しておきたいと思います。

(1) 顧客管理

 国内で従来行われてきた「本人確認手続き」のみでは、FATF(金融活動作業部会)が求める顧客管理措置を満たしておらず、FATFから、「厳格な顧客管理」(EDD;Enhanced Due Diligence)や「継続的な顧客管理」の採用について勧告を受けています。それと関連して、AMLにおけるいわゆる「KYC(Know Your Customer)」については、「本人確認(Customer Identification)」「顧客管理(CDD;Customer Due Diligence)」「厳格な顧客管理(EDD)」の3つの段階で構成されていますが、あらためてその関係を整理しておきたいと思います。

 第1段階の「本人確認」は、本人特定事項(住所・氏名・生年月日)の確認(と検証)のプロセスであり、第2段階の「CDD」において、リスクの高低、リスク特性を判断するための手続き(判断に必要な顧客情報の取得)を行うことになります(例えば、職業・事業内容、国籍等の属性情報、取引の内容、目的等)。「CDD」の結果、ハイリスクであると判断した顧客・取引に対し、さらに踏み込んだ情報の取得・確認を行う第3段階目のプロセスが「EDD」であり、最終的な取引可否の判断を行うための、詳細の情報の入手、統括管理者の意思決定を行うプロセスだと言えます(例えば、PEPsとの取引、自社のリスク評価基準で「高リスク」と判断される顧客などが該当します)。

 今回の改正では、FATFの要請に基づき、「EDD」のプロセスまで導入されることになります。また、「継続的な顧客管理」については、「当該取引時確認をした事項に係る情報を最新の内容に保つための措置を講ずるもの」として、例えば、本人特定事項を最新の情報にしておく、その他届出内容等の変更の有無の確認などが該当し、今回の改正でも一部採用されていますが、既に取引を開始している顧客について義務付けられていない点が課題として残っています。


(2) 法人の実質的支配者の確認

 従来は、法人の実質的支配者について、法人が該当する場合や存在しない場合が認められていましたが、FATFの要請(勧告)に従い、実質的支配者の定義が変更され、最終的に「自然人」までさかのぼっての確認が必要となりました。なお、最終的な「自然人」の確認事項としては、「当該自然人の本人特定事項(氏名、住居、生年月日)」+「実質的支配者と顧客の関係」となり、当該法人顧客の代表者等(取引担当者)からの申告によって確認することとなります。具体的には、例えば、「資本多数決法人(株式会社や投資法人等)」における確認手順は、以下の順番で行うことになります。

  • 当該資本多数決法人の議決権の総数の2分の1を超える議決権を直接または間接的に有している自然人か(事業経営を実質的に支配する意思又は能力を有していないことが明らかな場合を除く)
  • 当該資本多数決法人の議決権の総数の4分の1を超える議決権を直接または間接的に有している自然人か(事業経営を実質的に支配する意思又は能力を有していないことが明らかな場合を除く)
  • 出資、融資、取引その他の関係を通じて、事業活動に支配的影響力を有する自然人か(該当するものの例としては、法人の意思決定に支配的な影響力を有する大口債権者や取引先/ 法人の意思決定機関の構成員の過半を自社から派遣している上場企業/法人の代表権を有する者に対して何らかの手段(出資、融資、取引、その他の関係)により支配的な影響力を有している自然人)
  • 当該多数決法人を代表し、その業務を執行する自然人か
5) タックスヘイブン(租税回避地)を巡る動向

 財務省は、パナマ文書ショックの震源地であるパナマと日本は、両国が国際的な課税逃れを防ぐため、租税情報を交換する協定に署名したと発表しています。財務省によれば、本協定は、OECDが策定した国際基準に基づく金融口座の情報交換に必要な自動的情報交換を含む両税務当局間における実効的な情報交換について規定するものであり、一連の国際会議等で重要性が確認されている国際的な脱税及び租税回避行為の防止に資することとなるとしています。

財務省 パナマ共和国との租税情報交換協定が署名されました

 このパナマ文書を巡っては、デンマーク政府が、文書の一部データを匿名の情報提供者から900万デンマーククローネ(約1億3800万円)で買い取ったことを明らかにしています。自国民の課税逃れを調査するためで、政府によるパナマ文書の購入が判明するのは初めてとなります。

 また、世界的に租税回避行為に批判が集まる中、財務省と国税庁は企業や富裕層に租税回避策を指南する税理士に仕組みの開示を義務付け、タックスヘイブンに資産を移すなど悪質な税逃れを把握することを目的として、成功報酬を受け取るなどした税理士に具体策を開示させ、拒んだ場合の罰則も設ける方向で検討を進めているようです(同様に、英政府も、課税逃れの手法を助言した銀行や会計士、弁護士などにも罰則を科す、最大で顧客が免れた税金の全額を負担させるといった検討が進められています)。悪質な行為やそれを助長するような行為に対する規制の強化によって、AML/CTFにも資する取組みとなることを期待したいと思います。

 さて、租税回避行為を巡る動向としては、欧州委員会が、米アップル社がアイルランドで受けている法人税の優遇措置を、「違法な国家補助にあたる」と認定し、アイルランド当局に対し、アップルが優遇を受けた2003~14年の税額分として、最大130億ユーロ(約1兆4800億円)を追徴課税するよう指示、世界中に波紋が広がっています。これに対し、アップル社は法的措置を取る方針を明らかにしています。報道によれば、欧州委に対し、「欧州での投資と雇用創出に深刻で有害な影響が出る」と警告、欧州委の決定は、「EU加盟国の課税権に壊滅的な打撃を与える」としています。また、アイルランドが、「課税主権に対する侵害」と異議申し立てを表明しているほか、米国政府や議会関係者らからも、「狙い撃ち」との批判が噴出しています。一方で、米企業が国外で節税する背景には、主要先進国で最も高い法人税率があり(アップル社のクックCEOは、「税率が適正水準になるまで米国に戻すことはない」と明言しています)、税制の抜本改革は米の大きな課題になっています(加えて、アップル社が追徴に応じれば、米国の課税に対する税控除が発生し、税収減につながるとも言われています)。

 租税回避行為の問題については、本コラムでも、以前から「タックスヘイブンは企業の競争力維持のために必要不可欠な存在と考えられている以上、過度な規制は経済的な活力を削ぐ方向に作用すること、『格差』の拡大が政治不安や経済不安をもたらす可能性があることなどにも配慮し、それらのバランスをどのように取っていくか、各国・地域が自らの置かれている立場を超え、租税回避行為の適性化に向けて、いよいよ本気度が試される段階になった」と指摘していますが、今回のアップル社の問題は正に本気度を試す「試金石」だと言えるでしょう。そして、タックスヘイブンがマネー・ローダンリングやテロ資金供与の舞台として、犯罪を助長する側面があり、暴力団等の反社会的勢力が現実にタックスヘイブンを利用している実態がある以上、この問題については、米欧だけでなく、日本も主導的な役割を果たすべきだと言えます。

6) 忘れられる権利の動向

 昨年12月、自分の名前を入力すると犯罪行為を連想させるページが表示されるとする男性が、プライバシー権の侵害を理由に検索結果47件の削除を求めて申し立てていた仮処分申請で、東京地裁は、ヤフーに11件の削除を命じる決定を出しましたが、今般、東京地裁(別の裁判官)が、ヒットしたサイトの「タイトル」や「アドレス」を含め全ての内容を削除すべきだとして、ヤフー側の異議申し立てを退けました。削除の範囲を明示した司法判断は初めてだと思われます。ヤフーは、違法な記載部分だけを削除する(タイトルやアドレスは削除する必要がない)との自主基準を設けていましたが、報道によれば、今回の決定は、「タイトルやアドレスも削除しなければ、閲覧者が男性の人格権を侵害する記事内容に極めて容易にアクセスできる」と指摘して、ヤフーの基準を否定する内容となっています。

 本件については、今後の動向を注視したいと思いますが、関連して、平成28年8月24日付朝日新聞に、グーグル社の法務顧問のピーター・フライシャー氏へのインタビュー記事が掲載されており、大変興味深い内容でしたので、以下、簡単にご紹介しておきたいと思います。

 記事によれば、グーグル社は、EU司法裁判所の判決を受けて、「削除の要請を受けたら検討し、必要なら削除の義務を負う」ことになり、削除要請に応じる態勢を整えてきていること、欧州では既に150万件の削除依頼が来ており、1件毎に検討している状況が続いているということです。その中で、削除の基準として、同氏は、「罪を犯した人なら、どのくらい前なのか、犯罪は軽微なものなのか、公共性の高い犯罪か」「私人の軽微な犯罪歴は、削除の判断になりやすい」「専門的な職務に関連する情報なのかも重要な基準・・・公共の利益のため政治的な演説はできるだけ残す方針」などを例示しています。
 また、本件の困難性として、「グーグルが持つコンテンツではなく、他者のコンテンツに対する判断」をしていることになる点を指摘しています。また、「裁判所の手続きとは大きく異なり、当事者がいない。削除依頼を出した人の話に依拠して判断しなければならない」との問題提起もあります。そして、グローバルな対応が迫られる中で、「忘れられる権利は、もともとは発信された元の情報の問題」「欧州においても、忘れられる権利の定義は完璧なものではなく・・・憲法上、『表現の自由』がより強くうたわれる米国では『ない』ということならそうなる」「その国の法律の中で、プライバシー権と情報に対するアクセス権が、バランスの取れた形になっているかが一番重要」などと述べています。

 ヤフーにしろグーグルにしろ、検索エンジンを提供することによってユーザーが望むコンテンツに辿りつけるという「利便性」と「知る権利」「表現の自由」の要請を充足するサービスを提供していますが、それが「人格権の侵害」とどう折り合いをつけるのか、そして、そもそも元の情報はコンテンツ提供者(新聞社など)であって、それを第三者である検索サービス提供事業者が、削除要請申請者の言い分だけを頼りに、(裁判所の要請を充足するか試行錯誤しながら)独自の判断基準で、削除の可否を決定する、という二重三重に歪な構図の中で行わざるを得ないという、「忘れられる権利」の持つ定義や意義のあいまいさ、国や地域による独自の解釈の深化に向けた動きが、ここにきて際立ってきているように思われます。

7) 犯罪インフラを巡る動向

ダークウェブ

 「ダークウェブ」と呼ばれるサイバー空間が、違法な個人情報やコンピュータウイルスの売買に悪用される事例が相次いでおり、警察もサイバーパトロールや解読、摘発に乗り出しています。本コラムで、過去、ビットコインの悪用リスクの観点から紹介してきた、違法薬物などを取引する闇サイト「シルクロード」などは正にそれに該当します。FBIは、同サイト運営者を麻薬の不法取引、コンピューターへの不正侵入、マネー・ローンダリングなどの容疑で逮捕しましたが、同サイトは、世界中から90万人以上が利用登録しており、12億ドル(約1170億円)に上る取引を仲介し、8000万ドル(約78億円)以上の仲介手数料を得ていたと言われています。

 さて、一般的なブラウザーでアクセスできるウェブサイトは、「サーフェスウェブ」とも呼ばれており、その下に「ディープ(深層)ウェブ」という世界が広がり、多くはデータベースで、その最下層にあるのが「ダーク(闇の)ウェブ」だと言われています。このダークウェブへのアクセスは匿名化され、追跡が著しく困難になっていることから、世界中から犯罪者が集まり、拳銃からドラッグ、コンピュータウイルス、盗んだクレジットカード番号や銀行口座や身分証明書情報など非合法コンテンツがやりとりされていると言います。

 ただし、ダークウェブ自体は匿名性が高いというだけで、ダークウェブそのものは違法ではなく、その利用には、海外の複数サーバーを自動で経由し匿名化することで、IPアドレスなどから利用者の所在がわかりにくくなるソフトウェアである「Tor」が使われています。実は、この「Tor」も万全ではなく、脆弱性もあり身元の特定も可能となりつつあり、アメリカ政府はすでに解読して大規模な犯罪組織をいくつも摘発していると言われています。

 米政府だけでなく、日本の警察によるダークウェブにかかる摘発事例も出てきており、今後もダークウェブを巡る犯罪の摘発が進むものと期待したいと思います。


バイク便会社

 今年4月、自分の会社のバイク便を使い、高齢女性から詐取した現金を受け取ったなどとして、警視庁と新潟県警の合同捜査本部は、詐欺などの疑いで、バイク便運営会社元代表ら男女10人を逮捕しています。被害者に対し、無関係な個人宅へ現金を郵送するよう指示し、到着した現金を、バイク便を使って回収するというもので、郵送先は高齢者宅が多く、「役所から委託を受けて配達状況を調べているので、荷物が届く」などと説明して信用させていたということです。

 本事例に限らず、最近、特殊詐欺などの犯行グループが詐取した現金を回収するため、バイク便の運営会社を設立する手口が相次いでいるとの報道がありました。被害者に怪しまれずに受け取り、捜査対象になっても「集配を依頼されただけだ」として摘発を免れようとしているとのことです。正規業者は基本的に現金を集配しないとされる一方で、悪質な事業者が増えて、詐欺を助長する犯罪インフラとなりつつあり、注意が必要です。

8) その他のトピックス

仮想通貨/ブロックチェーンを巡る動向

 前回の本コラム(暴排トピックス2016年8月号)でも紹介しましたが、香港を拠点とする仮想通貨ビットコインの取引所「ビットフィネックス」において、ハッキングによって約12万ビットコインが盗まれるという事件が発生、被害額は、2014年に発生したマウントゴックス社事件依頼の規模となる約6,580万ドル(約66億円)相当に上りました。また、仮想通貨イーサを通じクラウドファンディングで150億円を調達した投資ファンドが6月に約3分の1の資金が不正に引き出されるなど、仮想通貨の「窃盗」事件が相次いでいます。報道によれば、実は、過去6年間でビットコイン取引所の約3分の1がハッカーによる被害を受けたという調査結果があり、これに対して、別の調査によれば、米国で事業展開する6,000の銀行の中で、2009~2015年にシステム侵入によるデータ流出があったと公表したのはわずか67行と、全体の1%にすぎないとされています(また、これとは別に、証券取引所については、半数強がハッカーによる攻撃を受けたとの報告もあります)。

 経済産業省が今年4月にとりまとめて公表した「ブロックチェーン技術に関する調査報告書」においても、仮想通貨のベースとなるブロックチェーン技術の今後の課題として、「理論的な検証がなされていない。同時に、実サービスへ応用した場合の実証も少ない。既存のシステムと考え方が大きく異なるため、サービスレベルやセキュリティ確保の方法論なども定まっていない。よって、技術面、ビジネス面の双方で、より詳細な検討が必要である」との指摘がなされているほか、日銀総裁も、仮想通貨の技術が、「金融に大きな変化をもたらす」とする一方、情報の安全性確保などが課題だと述べています。

 サイバー攻撃の潜在的な標的になりやすく、脆弱性を突く新手の犯罪手法との「いたちごっこ」が続く限り、どんな技術、仮想通貨、金融メカニズムでも攻撃から100%安全となるようには設計できないものと認識し、これまで以上に堅固な情報セキュリティ態勢を構築していく必要がありそうです。そのような状況にもかかわらず、現実には、金融機関をはじめ、様々な分野でブロックチェーンを活用した新たなサービスの実証実験が進んでいます。また、金融庁も、先の資金決済法の改正で仮想通貨を「通貨」と認めた以上、仮想通貨購入時に消費税がかかるのは二重課税だとして税制改正要望で取扱いの明確化を求めるなどの普及に向けた環境整備も進みつつあります。さらには、国際間の競争激化もあり、事業化には相当のスピード感が求められていますが、その一方で適切なリスク対策・規制のあり方、慎重な検証もまた重要な論点だと言えます。


サイバーセキュリティを巡る動向

 事業者とサイバーセキュリティの観点から、最新の動向について、いくつか紹介しておきたいと思います。

警察庁 平成28年上半期におけるインターネットバンキングに係る不正送金事犯の発生状況等について

 平成28年上半期の不正送金事案の発生状況については、発生件数が857件、被害額は約8億9800万円(平成27年下半期は740件、約15億3000万円/平成27年上半期は755件、約15億4300万円)と、件数は増えたものの、被害額は▲41.3%減という劇的な変化が見られました。警察庁も、主な要因として、信用金庫の被害額の大幅な減少(1年前の平成27年上半期の信金・信組の被害額は約5億3200万円だったところ、今期は約2700万円まで減少)によるところが大きく、ウイルス感染端末の早期検知等の対策によるものと考えられる、としています。ちょうど1年前の本資料では、被害が「銀行から信用金庫や組合等の金融機関に拡大している」と指摘されており、信用金庫等における取組みがこの1年で急速に進んだことがうかがえます。
 参考までに、都市銀行等の被害額は1年前の約7億3900万円から約6億8200万円(▲7.7%)、地銀は約2億4200万円から約1億7500万円(▲27.7%)となっています。ただし、都市銀行等については、法人口座の被害額は減少(▲約3億2700万円)したものの、個人口座の被害額は増加(+約3億200万円)している点が気になります。

 なお、不正を防止するツールとして、本報告書では、「個人口座の被害の約6割がワンタイムパスワード利用なし」「法人口座では、電子証明書を利用しての被害はなし」と指摘しており、ワンタイムパスワードや電子証明書を確実に活用することが今のところ有効な防御策であると言えると思います。

 また、不正送金先口座は、中国人名義のものが約6割とほぼ横ばいである一方で、関連事件の検挙状況でも中国人が6割を占め、さらにその占有率が増加する傾向にあるなど、国際的な犯罪組織により日本の金融機関が狙われていると考えられる状況が続いています。

 一方、当期の不正送金を阻止できた額が約1億2600万円であり、阻止率は14.1%であるところ、平成26年下半期の阻止率が31.4%で直近では最高だったことを考えれば、まだまだ改善していく余地はあるものと推察されます。そのような中、金融庁が、金融機関に対するサイバー攻撃への対応を強化するため、メガバンクや地方銀行、保険会社など計約80の金融機関が参加する初めての大規模合同訓練を10月に実施すると発表しました。このような地道な取組みが成果につながるものと期待したいと思います。

 なお、具体的な脅威についても、いくつか参考までに紹介しておきたいと思います。

トレンドマイクロ 日本と海外の脅威動向を分析した「2016年上半期セキュリティラウンドアップ」を公開

 本レポートでは、国内ランサムウェア被害報告件数が前年同期比約7倍で過去最悪、検出台数も前年同期比約9.1倍と、ランサムウェアの被害拡大の勢いは衰えていないことが報告されていますが、前述の不正送金事案の状況と関連したところで言えば、平成28年上半期は、国内のネットバンキング利用者を狙うオンライン銀行詐欺ツールの国内検出台数が増加し、前年同期比約2倍に増加したということです。さらに、同社の分析によれば、国内の37の金融機関のシステムが攻撃対象となっていることが判明しています。
 また、金融機関以外にも、複数の金融機関が共通の金融システムを使用する共同化システム(11%)も狙われており、攻撃者が比較的小規模な金融機関では対策が進みにくいと認識し、その攻撃対象を拡大しているものと推測されるとレポートされています。前述の警察庁の見解によれば、信金・信組レベルまでは対策が進んでいることが示唆されていますが、本レポートの結果とあわせれば、信金・信組レベルやさらに小規模の金融機関が、正に今、「草刈り場」となっている状況がうかがえます。

 その他、本レポートにおいて特徴的な指摘として、平成26年頃より、経営者になりすまして、社内の財務会計担当者などに偽の送金指示などを行うビジネスメール詐欺(BEC:Business E-mail Compromise)が猛威を振るっているということであり、当期に同社が収集したBEC関連メールを分析したところ、2,496社の米国企業のほか、218社の日本企業が狙われていたことが判明したということです。同社では、「今後は日本国内拠点を持つ企業への攻撃が本格化する可能性があるため、経営者層と財務会計担当者間で情報共有を密に行うなど警戒が必要」と注意喚起していますが、見方を変えれば、正に、内部統制システムがどれだけ実効性をもって機能しているかが問われる状況になっているとも言えると思います。

 もう一つ、日本年金機構の情報漏えい事案が記憶に新しい、「標的型メール攻撃」に関する最新の動向をご紹介いたします。

NRIセキュアテクノロジーズ 企業のサイバーセキュリティに関する動向を分析~標的型メールの侵入リスクはゼロにはならず、それを前提とした多層防御が必要~

 本レポートでは、およそ従業員の8人に1人、役員の5人に1人が標的型メールに添付されたファイルを開いたり、URLをクリックしたりしたという分析結果となっており、この割合は、過去3年にわたり、大きな改善が見られず、標的型メール攻撃は依然として脅威であると考えられると指摘しています。標的型メール攻撃対策として、トレーニングを実施することも有効だと言われていますが、繰り返し実施することで一定程度までエラーを低減させることは可能ですが、それは「ゼロ」にはならないこと(先日の旅行業大手の大規模情報漏えい事案では、同社が定期的に訓練をしていたにもかかわらず、防げなかったことが分かっています)、攻撃者の手口がより巧妙になっていきていることをふまえれば、仮想通貨の項でも指摘したように、完全に防ぐことが難しいとの前提のもと、多層的な防御策を講じていくことが求められています。


平成28年上半期における薬物・銃器情勢

 平成28年上半期は、元プロ野球選手や芸能人などの覚せい剤事件での逮捕が相次ぎました。薬物の中でも覚せい剤はとりわけ暴力団の資金源となっている実態はよく知られていますが、有名人との取引が彼らの収益の「安定性」に貢献している側面もあるとの暴力団幹部の話は興味深いものです(平成28年9月8日付産経新聞)。それによると、「有名人は発覚を恐れ密売人とコネができればそこだけと取引する。値引き交渉などはしない。逆に高額を提示しても、言い値で買い取ってくれる上客」とのこと。また、覚せい剤1キロを700~800万円で仕入れ、(最近は、一般人にも深く蔓延して第4次乱用期と言われており、供給過多で下落傾向にあるとはいえ)1グラム7万円で販売すれば7,000万円の売り上げとなり、正に「儲けが確実なシノギ(資金源)」でもあります。そもそも、山口組などは、薬物は「ご法度」とされているものの、シノギが厳しくなっているうえ、分裂抗争への備えのためシノギにかけられる時間も少なくなる中、「手っ取り早く確実に儲ける」ことができる覚せい剤に依存せざるを得ないといった事情もあるようです。

 一方の銃器については、山口組の分裂抗争での発砲事件や先日の和歌山発砲事件など拳銃による犯罪が増加しているように感じます。ただ、拳銃が使用される事件は市民生活を脅かす最たるものであり、徒らに分裂抗争で使用されることがあれば、確実に、両団体とも「特定抗争指定」されることになるでしょうから、抗争での使用については、使用される場面は局所的な突発的なものに限られるという側面もあります。また、一時期、抗争を見据えて拳銃の価格が高騰しているとの情報も流れましたが、これについても、既に一定程度流通していることとあわせて考えれば、現時点では取引が急激に増えるといった状況にはなりにくいのではないかとも推測されます。

警察庁 平成28年上半期における薬物・銃器情勢(暫定値)

 当期の薬物事犯(覚醒剤事犯、大麻事犯、麻薬及び向精神薬事犯、あへん事犯)の検挙人員は6,251人で、前年同期比+40人(+0.6%)とほぼ横ばいであるものの、覚醒剤事犯の検挙人員は4,864人で、前年同期比 ▲212人(▲4.2%)減少、大麻事犯は1,175人で、前年同期比+233人(+24.7%)増加している点が特徴的です。なお、大麻事犯については、上半期の人口10万人当たりの検挙人員は、20歳未満が1.3人(前年同期比+0.5人)、20歳代が3.8人(前年同期比+0.8人)、30歳代が2.6人(前年同期比+0.6人)と、若年層を中心に引き続き増加傾向で推移している一方で、初犯者率は76.8%と低下傾向にあること(これに対して、覚醒剤事犯の再犯者率は64.8%と年々増加傾向にあり、年齢別では50歳以上が83.1%、40~49歳が72.2%となっており、覚せい剤事犯と大麻事犯とでは対照的な傾向となっています)など、大麻はゲートウェイドラッグとして若者に、覚せい剤は常習性・依存性の強さもあって中高年層に、それぞれ薬物犯罪の裾野の拡大につながっているという懸念があります。

 また、薬物事犯全体における暴力団構成員等の占める割合は47.2%であり、外国人の占める割合が6.0%であることと比較すれば、いかに暴力団が薬物をシノギとしているかが分かります。さらに、覚せい剤事犯における暴力団構成員等の占める割合については51.8%と、大麻事犯28.1%などと比較して突出して高いことも特徴です。また、暴力団構成比率は、六代目山口組が27.0%、神戸山口組が15.9%、住吉会17.2%、稲川会16.4%、工藤会・松葉会4.0%などになっており、平成27年末の人数構成比率の、六代目山口組30.1%、神戸山口組13.0%、住吉会15.6%、稲川会12.4%、工藤会2.3%、松葉会3.6%と比較して、わずかとはいえ組織による覚せい剤への依存度が異なる傾向が読み取れる点も興味深いところです。

 その他、当期の覚せい剤の押収量は786.0kg(前年同期比+656.6kg、+507.4%)と大幅に増加していること(ただし、神戸山口組傘下組織幹部らによる漁船を利用した大量覚せい剤密輸入事件(99.9キロ)/航空貨物を利用したメキシコからの覚せい剤密輸入事件(25.2キロ)/台湾人による帆船を利用した大量覚せい剤密輸入事件(597.0キロ)といった大口の摘発事例が相次いだことも要因)、覚せい剤密輸入事犯において、航空機利用の携帯密輸、いわゆる「運び屋」による密輸入事犯の検挙件数が減少している点などの特徴もあげられます。

 また、数年前に猛威をふるった危険ドラッグについては、当期の検挙人数は473人減(前年同期比 ▲215人、▲31.3%)となり、国や自治体・業界団体等の取組みが奏功し、現時点ではかなり鎮静化している状況がうかがえます。ただし、その入手先としては、相変わらずインターネット経由が196人(構成比率46.1%、前年同期比+16.8ポイント)と最も高くなっていますので、引き続き、不適切なサイトのパトロールといった地道な取組みが求められます。

 一方、前述した通り、当期の銃器発砲事件の発生件数は17件(前年同期比+14件)と急激に増加しており、このうち暴力団等によるとみられるものが12件(前年同期比+9件)増加、六代目山口組と神戸山口組の対立抗争に起因するものが4件発生しています。また、拳銃の押収丁数は139丁減少(前年同期比▲30.8%)、うち、暴力団から押収した拳銃は22丁減少(▲21.4%)しています。


商業登記規則の改正

 平成28年10月1日に、商業登記規則第61条が改正され、同日以降の株式会社・投資法人・特定目的会社の登記の申請に当たり、添付書面として「株主リスト」が必要となる場合があることとされました(商業登記規則61条2項・3項、投資法人登記規則3条、特定目的会社登記規則3条)。

法務省 「株主リスト」が登記の添付書面となります)

 まず、平成28年10月1日以降、「登記すべき事項につき株主全員の同意(種類株主全員の同意)を要する場合」「登記すべき事項につき株主総会の決議(種類株主総会の決議)を要する場合」に必要となり、株主全員について次の事項を記載した株主リスト(以下4点を代表者が証明)を添付することになります。なお、前者の場合は株主全員が、後者の場合については、「議決権数上位10名の株主」「議決権割合が2/3に達するまでの株主」について対象となります。

  • 株主の氏名又は名称
  • 住所
  • 株式数(種類株式発行会社は、種類株式の種類及び数)
  • 議決権数

 さて、今回の改正の理由については、パブコメ募集文書(改正の概要)において、以下のように説明されています(下線部分は筆者)。

 近時、株主総会議事録等を偽造して役員になりすまして役員の変更登記又は本人の承諾のない取締役の就任の登記申請を行った上で会社の財産を処分するなど、商業・法人登記を悪用した犯罪や違法行為が後を立たず、消費者保護又は犯罪抑止の観点から商業登記の真実性の担保を強化する措置をとるべきであるとの意見、要望が関係方面から寄せられている状況にあり、更なる商業登記の真実性の担保を図る必要がある。また、国際的にも、登記所において法人の所有者情報を把握して、法人の透明性を確保することにより、法人格の悪用を防止すべきであるとの要請がされている。

 株式会社の主要株主等の情報を商業登記所に提出することは、不実の株主総会議事録が作成されるなどして真実でない登記がされるのを防止することができ、登記の真実性の確保につながるとともに、法人の透明性が確保でき、関係者が事後的に株主総会決議の効力を訴訟等で争う場合等においても有益となる。

「商業登記規則等の一部を改正する省令案」に関する意見募集 改正の概要

 ただし、懸念される点としては、目的に「真実性の確保につながる」とあり、「真実でない登記はされない」建てつけを取っている限りはその通りであるものの、添付された書面の正確性について事前にチェックが行われるわけでなく、株主リストの偽造も考えられるところであり、必ずしも「真実性の確保」を全て担保することにはならない点が挙げられます。にもかかわらず、本ルールの制度化(義務化)がなされる背景としては、当日に改正施行される犯罪収益移転防止法(改正項目の中でも、「実質的支配者の特定実務の厳格化」)やテロリスク対策(テロ資金の封じ込め対策としてのペーパーカンパニー対策の強化など)、あるいは租税回避行為排除の文脈における国際的な方向性に沿った規制強化の側面が強いのではないか(例えば、AML/CTFの観点から疑わしい事業者を「虚偽の登記」の視点からあぶり出す可能性等)とも推察されます。


原子力規制委員会/内部脅威対策の強化

 原子力規制委員会は、原子力施設でのテロ行為を防止するため、施設内で働く作業員がテロ組織と通じていないかなどを調べる身元確認制度を導入することを決めました。従来から、国際原子力機関(IAEA)が身元確認の制度化を勧告していますが、主な原子力利用国で日本だけが導入していないことから検討が進められていたものです。

原子力規制委員会 第30回原子力規制委員会 配布資料

資料3 内部脅威対策の強化(個人の信頼性確認制度の導入等)のための規則等の制定について

 この「内部脅威対策の強化」の具体的な内容としては、核物質を扱う区域に立ち入ったり、重要情報を扱ったりする作業員について、テロ組織や暴力団と関係がないことなどを誓約する申告書を提出する、事業者は公的な証明書の提出を求め、場合によっては面接でその情報を確認する、犯罪歴や薬物依存の有無、海外渡航歴などの情報も確認するといったものです。

 なお、以下は、「内部脅威対策の強化(個人の信頼性確認制度の導入等)のための規則(案)等に対する御意見とその考え方について」における原子力規制庁のコメント部分の抜粋となります(下線部は筆者)。

  • 個人の信頼性確認は、テロ行為等を防止する目的の限度で経歴を確認するもの
  • 個人の信頼性確認は、原則として自己申告書の確認、面接及び適性検査で行われるものであるが、事業者が保有する対象者に関する核物質防護上の過去の懲戒歴等の情報や、その他の情報を総合的に勘案する
  • 個人の信頼性確認は、原子炉等規制法に基づき事業者に要求している特定核燃料物質の防護措置の一環として行うものであることから、事業者が実施主体となる
  • 改正案の第16条の3第2項第26号イ(1)の「暴力団」は、「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」第2条第2号に規定されるものだけを指している
  • 自己申告の時点では告示に規定されている犯罪の経歴を求め、最終的には、それを踏まえた面接の結果等を総合的に勘案して、核物質防護に関係するものであるか否かを事業者において判断することとなる
  • (IAEAガイドラインには「暴力団」が含むとは読み取れないとの意見に対し)国際的にもブラックマーケット等を通じたテロと組織犯罪の結び付きが指摘されており、暴力団との関係を確認することは、内部脅威対策の強化には当然に包含される
  • (「犯罪歴や、精神疾患の有無などは新たな差別・不当労働行為を生む可能性があり、さらに必要以上の個人情報を収集される危険性がある。これらは、個人情報保護法や憲法との関係で問題がある」との指摘に対して)これらのような情報であっても、公益上の必要性から各法令において当該情報の収集が制度化されている。原子力施設のテロ対策等は、公益上の必要性が高く、その一環としての個人の信頼性確認制度は、重要な対策であると考える
  • 原子力施設における内部脅威対策は個人の信頼性確認制度のみで達成できるものではないため、今回の原子力規制委員会規則の改正においては、防護区域に監視装置の設置を事業者に義務付けることとしている など

 テロリスク対策の中に暴力団排除の考え方を包含しつつ、センシティブ情報の収集においても、「公益性」の観点からかなり踏み込んでいる点は高く評価できるものと思います。しかしながら、事業者が主体的に取組むことは当然としても、その情報収集については自助努力の範囲と読み取ることができることから、その実効性には自ずと限界があること、事業者が作業員の「同意」を得て、「自己申告」に応じてもらう(さらに「適性検査」と、必要に応じて「面接」を行う)仕組みが中心であり、やや事業者の主観(主体性とは異なります)に依存した、「性善説」に傾きがちな印象や懸念があり、グローバルスタンダードから見ればまだまだ不十分なチェック態勢であることは否めません。

 これまで、日本は、官民ともに、外的脅威はもちろん、(内通者の存在を含む)内部脅威(内部犯行)に対する危機意識や事態想定に欠け、その結果、具体的な対策も中途半端なものとなっているように思われます。2020年に向けて、原発を始めとする重要インフラに対する5つの空間(陸・海・空・宇宙・サイバー)および内部脅威に対するテロ対策実務の深化は急務であり、そのような究極のリスク管理・危機管理においては、事業者の主観を極力排した、厳格な、性悪説に基づくチェックが必須であると言えます。


みかじめ料返還訴訟で和解

 指定暴力団山口組系組幹部にみかじめ料を脅し取られたとして、飲食店を経営していた男性が山口組の篠田建市組長ら3人に、使用者責任に基づき、みかじめ料の返還と慰謝料約3,200万円の損害賠償を求めた訴訟について、名古屋地裁で和解が成立しています。

 同様の使用賠償責任に関する訴訟については、前述の通り、特定危険指定暴力団工藤会の一般人襲撃事件の被害者が準備を進めている件のほか、最近、山口組の傘下組織の組員から詐欺被害を受けた香川県内の50代男性が、この組員の他に、篠田組長と傘下組織の組長に使用者責任を問い、約7,600万円の損害賠償を求めて高松地裁に提訴した訴訟で、篠田組長と傘下組織の組長が、男性に解決金6,000万円を支払うことで和解した事例がありました(なお、組員に対して、高松地裁は、不法行為責任を認定し、約3,000万円の支払いを命じています)。さらに、同様のものとして、名古屋市で飲食店を経営していた女性が平成25年に同様の訴訟を名古屋地裁に起こして係争中のほか、指定暴力団共政会傘下の組長や組員にみかじめ料を脅し取られたなどとして、広島市内の風俗店経営者ら3人が、同会会長ら4人を相手取り、脅し取られた現金や慰謝料など計約2,200万円の賠償を求めて広島地裁に提訴したという事例があります。

 ご存知の通り、平成20年の暴力団対策法の4回目の改正によって、「暴力団員がその暴力団の名称を示すなど威力を利用して資金獲得活動を行い、他人の生命、身体または財産を侵害した時は、その暴力団の代表者が損害を賠償する責任を負う」こととされ、組長の使用者責任が問いやすい環境が整備されています。暴力団の資金面への直接的な打撃、弱体化の有力な手段として、また、一定の抑止効果も期待できることから、今後も積極的に活用していくべきだと言えます。


組事務所使用差し止め

 以前の本コラム(暴排トピックス2016年5月号)で取り上げた事案の続報となりますが、神奈川県厚木市の、かつて山口組系の組事務所として使われ、平成14年に起きた発砲事件で組員1人が死亡した事件を契機として、平成15年に横浜地裁小田原支部が組事務所として使わせない仮処分決定を出していた建物に、今年2月、2トントラックがこの建物に突っ込む事件が発生した件について、住民らは、六代目山口組と神戸山口組の分裂に関連し、仮処分決定が守られていないとして、金銭の支払いを課すことで心理的に圧迫し、義務を守らせる「間接強制」を求めていたところ、東京高裁は住民の訴えを全面的に認め、組員が建物に立ち入ったり、銃器の保存場所として使ったりすることを禁じたうえ、違反した場合には100万円の支払いを命じています。


山梨県警および福岡県警の暴排啓蒙の取組み

 山梨県警は、暴力団から地域の青少年を守ろうと、啓発用の短編漫画「最悪の選択」を制作し、県内の高校などに配布しているほか、YouTube県警公式チャンネルでも公開中ということです。前回の本コラム(暴排トピックス2016年8月号)でもご紹介した通り、山梨県暴排条例が8月から改正施行されたのに合わせたものということです。

山梨県警察 漫画「最悪の選択」

 なお、同様の先行取組み事例(青少年向け啓蒙資料)として、福岡県警のものが充実していますので、あらためて紹介いたします。

福岡県警察 【暴力団関係動画】「暴力団員の社会復帰に向けた広報動画」

福岡県警察 【暴力団排除マンガ】「こんなはずじゃなかった・・・」

福岡県警察 【暴力団排除マンガ】「こんなはずじゃなかった・・・2」

福岡県警察 暴力団排除冊子 「暴力団を許さない!」

福岡県警察 頑張っています!暴排先生


ビッグデータによる審査

 リクルートホールディングスが、ビッグデータを活用した、融資の申し込みや審査がオンラインで迅速に簡潔する仕組みを構築し、成長余地のある中小企業に素早く融資できるサービスを提供すると発表しています。

リクルートホールディングス 新たな事業の開始に関するお知らせ(2016年8月24日)

 中小企業の中には急ピッチな成長の一方で、財務面の評価が追いつかず、十分な与信が得られない場合も多く、そこに反社会的勢力の「足の速い金」が入り込む余地を作っていたのも事実です(リスク管理の脇が甘い事業者に対し、相当早い段階から、将来性のある有望な企業をターゲットに、資金的・人的な面で反社会的勢力が関与する実態が最近、顕著になっているように感じます)。また、同社と同様に、楽天は、「楽天市場」に出店する企業を対象に、最短で翌日に融資するサービスを既に始めており、これらの審査において、反社チェックがスピーディかつ厳格に実施されている限りは、有望な企業への反社会的勢力の侵入を予防するという意味では、極めて意義深いものと考えます。

 また、最近、筆者がある経営者から聞いた話となりますが、アメリカでは、与信審査等に「ビッグデータ」が活用されているのはもはや当たり前であり、そのデータには、インターネットやSNS上の風評等も含まれているということです。その中で、例えばフェイスブック上の友達リストの中に問題のある人物が含まれていれば、それは審査上問題になる(ネガティブに影響する)とのことであり、その「友達」を直接にはよく知らない場合(例えば、友達の友達)であっても、そのような問題ある人物との「接点」を持っていること自体が、交友関係に問題がある(自身の脇が甘い)と判断されうるリスクがあると言うことです。したがって、「安易に友達申請を許可しない」、もっと言えば、「そもそもSNSはやらない(閉鎖する)」というスタンスの方が良さそうだということにもなります。

 当社も、厳格な反社チェックを行う際には、SNS上の交友関係にも着目しますので、それ故に、ビッグデータとして(同姓同名の問題や、問題あると判断する基準のあいまいさなど)機械的に処理されることの怖さはよく分かっています。非対面でつながることのリスク、悪意をもってネット上やSNS上でネガティブ情報を流布されることの影響の大きさ、一方で、忘れられる権利の動向なども含め、ビッグデータ時代の新たなリスクとして、厳しく認識すべき状況だと言えると思います。


イタリア地震復興からのマフィアの排除

 先月24日に発生したイタリア中部を襲ったM6.2の大地震では、発生が未明の時間帯のためほとんどの人が就寝中であったことや、歴史的建造物が多かったこと、その結果、建造物に耐震性の強弱のある建物が混在していたこと、手抜き工事の疑いなどの複合的な要因などから、大変大きな人的・物的被害をもたらしました。現在も、復旧に向けた取組みが行われているところですが、今後の復旧・復興に向けた大きな課題のひとつが、「マフィア」の介入だとされています。現地の新聞が、「復興事業は犯罪集団にとってうまみが大きい」と強調し、予算の無駄を省くには、反社会的組織の排除が欠かせないと指摘しているようです(平成28年8月31日付時事通信)。実際に、7年前に中部ラクイラで発生した地震(死者309人)でも、復興事業を巡る汚職事件が起きたことは記憶に新しいところです。

 本コラム(暴排トピックス2016年5月号)でも、「震災ビジネスと震災におけるリスク」として、「彼らの本当の目的は、震災復興・復旧ビジネスへの参入であり、被災者等の社会的弱者を搾取の対象とする貧困ビジネスの展開であることに注意する必要があります。実際、東日本大震災後、復興事業に絡む違法な労働者派遣、貸付金の詐取などで暴力団員が何人も検挙されています」と指摘しています。洋の東西を問わず、震災は、反社会的勢力(反社会的組織)にとってはビッグビジネスでもあるということであり、国や自治体、事業者は、その点を十分に認識して、下請けやビジネスチェーン全体にかかる業者等に対する厳格な健全性チェックの実施や不適切な下請事業者を排除できる契約体系・モニタリングの実施、適正な水準での発注・予算の遂行など、「参入に高いハードルを設定すること」や「旨み自体をできる限りなくす」という視点を持って、反社会的勢力が公共事業や復旧・復興フェーズに関与できないスキーム構築に注力する必要があります。

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3.最近の暴排条例による勧告事例ほか

1) 栃木県の勧告事例

 塗装業者が、元請け業者に工事代金を支払わせる目的で暴力団の威力を利用し、指定暴力団住吉会系組員にコンビニエンスストアで現金20万円を供与、同組員も現金を受け取ったとして、栃木県公安委員会は、塗装業者に同県暴排条例に基づく勧告(金品供与の禁止)を、組員に同条例に基づく勧告(金品受供与の禁止)を出しています。

2) 奈良県の勧告事例

 奈良県公安委員会は、平成27年11月8日ころから平成28年6月7日までの間、奈良県内等で行う入れ墨の彫り師としての事業に暴力団の威力を利用する目的で自己名義の普通乗用車1台を無償で貸した男に対して、同県暴排条例違反(利益の供与の禁止)で勧告、またその事情を知りながら普通乗用車1台を無償で借り受けていた指定暴力団神戸山口組傘下組織の幹部の男に対しても、同県暴排条例違反(利益の供与を受けることの禁止)で勧告を行っています。

3) 兵庫県の勧告事例

 兵庫県警は、暴力団事務所と知りながら、指定暴力団神戸山口組の直系組織や傘下組織の事務所で、壁紙や床タイルを張り替えるなどの内装工事をしたとして、同県内の内装業の男性に対し、再び工事しないよう同県暴排条例に基づいて勧告しています。報道によれば、男性は以前にも直系組織事務所の内装工事をしており、「知人に頼まれた」と話しているとのことです。なお、指定暴力団神戸山口組を巡って同県公安委員会が勧告を出すのは初めてだということです。
 同様の事例としては、直近では、愛知県公安委員会が、昨年、愛知県内の指定暴力団神戸山口組系事務所で、抗争対策として窓を鉄板でふさぐなどした工事をしたとして、名古屋市の建築会社と神戸山口組系の会長と組長に対し、同県暴排条例に基づき今後行わないよう勧告したという事例があります。

4) その他の勧告事例(平成28年上半期の暴力団情勢から)

 前述の「平成28年上半期の暴力団情勢」においても、当期に行った勧告事例が掲載されていましたので、紹介します。

  • 飲食店経営者が、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなることを知りながら、二代目熊本會幹部に同店を会合場所として使用させたことから、同経営者に対して勧告を実施し、同幹部に対しては、勧告を実施した上、これに従わなかったことから氏名等を公表した事例(熊本、1月)
  • 土建業経営者が、暴力団の威力を利用する目的で、稲川会傘下組織組長から通常の価格を大きく上回る数十万円でカレンダーを購入して同組長に財産上の利益を供与したことから、同経営者及び同組長に対し、勧告を実施した事例(神奈川、1月)
5) 山梨県の中止命令発出事例

 山梨県警笛吹署は、同県暴排条例で暴力団員の出入りを禁止した標章表示店に入店したとして、暴力団幹部に中止命令を行っています。山梨県暴排条例については、前回の本コラム(暴排トピックス2016年8月号)でご紹介した通り、8月1日の改正により、甲府市中心街、石和温泉街が暴力団排除特別強化地域に設定され、標章表示店への暴力団の立ち入りが禁止されました。本事例は、改正後、初めての中止命令発出事例となります。

6) 京都府の中止命令発出事例

 公衆トイレの工事をめぐり、京都市職員に施工業者を指名停止するよう不当に要求したとして、京都府警は、暴力団対策法に基づき、指定暴力団会津小鉄会傘下組員に不当な要求を禁じる中止命令を出しています。公共事業について不当な契約を要求することを禁止した同法の条項の適用は全国初ということです。

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