専門家の集まるBCPカフェ

企業が新社会人に教えたい・伝えたい防災知識(前編)

2026.04.20
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エス・ピー・ネットワークのBCP担当者たちが、最近起きた事象をテーマに座談会形式でざっくばらんに語り合う「BCPカフェ」。個人の防災から職場のBCPまで、様々なテーマについて、企業のBCPご担当者のヒントになるよう、わかりやすく話し合います。

災害への日頃の備えに防災グッズ
本日の参加者
大越 記者、広報担当、企業の危機管理専門誌編集長等の経験を経て現在はBCP策定コンサルタント。災害のみならず感染症、海外危機管理、危機管理広報などの様々な分野を担当する。
永橋 損保会社等にて、防災・リスクマネジメント・危機管理等の実務経験を経て現職。災害のみならずERM(全社的リスクマネジメント)や情報セキュリティ等の幅広い知見を持つ。
小田 BCP担当歴6年目の中堅担当者。BCP策定支援や演習支援、研修などを実施。防災士。
植野 BCP担当歴1年目の若手担当者。前職では保育士として防災教育を実施。現在はBCPについて勉強中。防災士。
田中 BCP担当歴1年目の若手担当者。BCPに加え、災害後のケアにも関心があり目下勉強中。臨床心理士/公認心理師。
笹嶋 BCP担当歴3年目の若手担当者。前職は防災関係の研究機関で広報対応に従事。現在はBCP策定や訓練・演習の支援を実施。座談会の進行を担当します。防災士。

※西尾は今回からBCP修行の旅に出ており、しばらくの間「BCPカフェ」は不参加になります。

 

若い人にとっての「災害」

笹嶋: 今回から田中さんが「BCPカフェ」に参加することになりました。よろしくお願いいたします。
田中: よろしくお願いいたします。
笹嶋: 今回のテーマは「企業が新社会人に教えたい・伝えたい防災知識」です。4月から新社会人が入社されるという企業さんが多いと思うのですが、会社側としてどういう事をお伝えすれば良いのか、新社会人の側も、新社会人になった人はこういう防災対策をすると良いのでは、という事でこのテーマにしました。
ただ、最近はどうなんでしょうか。学生のうちから防災意識というのは高まっているものなんでしょうか。
大越: 若者としてはどうなんですか。
小田: 私も今時の若者ではなくなりつつありますが、災害は報道で見るくらいでしょうか。防災教育も、やっている学校はやっている、くらいのような。
永橋: 防災という考えもそうなんだけど、今の若い人で一番慣れていると思うのは感染症だと思いますね。災害の一つとして感染症が起きて、自分たちに何が起きたのか、どういう影響が起きたのか、というのが身近な感覚かもしれません。
植野: 確かにそうですね。
笹嶋: 大きな災害、というよりは大きな感染症、新型コロナの方が今の若い人にとっては身近な災害だったかもしれませんね。
大越: あれは完全に災害でしたね。
笹嶋: 田中さんは植野さんと同時期に入社して、こういった危機管理の企業に入社したわけですが、元から防災意識のようなものは高かったんですか。
田中: もともと家族が備蓄というか、ストックを作っておく感じだったので、そういう意味では身近に感じてはいました。なので意識というか、こういうグッズがあるんだな、こういったものが必要だな、何個くらい必要なんだなというのは家庭レベルでは知っていました。
笹嶋: 素晴らしいですね。
田中: ただ、例えば企業で大きな地震が発生した場合3日間は会社に留まるとか、そういった帰宅困難者のルールのようなものは全然知らなかったです。学校でもそういうルールは教えていないと思うんです。以前大学に職員として籍を置いていた時がありましたが、大学内で学生向けにそのような知識を周知している様子は、私が知る限りではありませんでした。
 
あとは、身内に大学生がいるんですが、学生にとって身近なのは、学校から送られてくる安否確認のメールくらいの印象です。本人がメディアなどで触れていない限りは、災害は自分事ではなく、「そのうち来る何か」くらいに考えているんだろうなと見てて思いました。「国が何とかしてくれるだろう」みたいなのもあるんじゃないかなと。
小田: 今の大学生って大学から安否確認のメールが来るんですか。
田中: 届いているようです。身内は、「みんなしておくものだよ」みたいな感じで登録していました。私も在学中に登録していた覚えがあります。
笹嶋: それは任意なんですか。
田中: 任意であったかは記憶が定かではないのですが、大学に言われたから「登録するもの」と捉えていました。新入生であればなおのことだと思います。それこそ大学は実家が東京の人ばかりじゃなかったので、地方で大きな地震がある時とかも全部安否確認が来ていたみたいです。
植野: 今検索したら大学からの安否確認システムはいくつも出てきますね。
笹嶋: それこそコロナがあったので各地で一気に広まったのではないでしょうか。「この日この教室に感染者がいた時間帯があって、その時間帯に講義を受けていた人は濃厚接触者の疑いがあるので体調に気をつけましょう」のような連絡をするために。

新社会人に防災の研修をする理由

小田: このコラムも、新社会人向けの防災を話題にしておりますが、新社会人の方だと「どうして会社員が防災?」と感じる人がいると思います。もちろん自分の身を守るためでもありますし、あまり避難所や外部を頼っていては助かる命も助からないという事実もあります。例えば、東京都の人口が約1400万人、東京都の昼間の人口が約1700万人ですが、東京都が用意している避難所の収容人数はたったの約280万人です。現実的な問題として、外部を頼りすぎるのではなく、ご自身の身はご自身で守らなければならないという話なんですよね。
 
会社視点で考えてみると、新社会人の方にとって、「災害が起きた時に『会社を守ろう・会社を続けよう」」という話は遠い話題に感じると思います。ただ、業種によっては災害時にも止めることのできない業種もありますし、そうでない業種であっても、速やかに事業を復旧させ、災害後も速やかにお客様にサービスを提供することは大事なことです。このように、お客様のために「災害時にも会社を守ろう」「災害時でも会社を続けよう」となるとやはり社員ひとりひとりが「まず自分を守る」ことが不可欠なのです。自分が助かっていないと、その先の会社を守ることや会社を続けることもままなりません。防災とビジネス(日々の業務)は一見つながりが薄いように感じますが実はつながっている、ということはやはり新社会人の方にはお伝えしておきたいです。
永橋: 全国ということで考えた時、地方の新社会人を対象とした場合は、加えてその都市の10万人あたりの消防署や救急車の数、そういったところも教えるのが必要だと思っています。
以前、防災教育を担当した際、避難所の数や病院の数というのももちろんですが、地域の消防署などのデータを見せて「災害時は救急車が来ないから、自分がケガをしても助けが来ませんよ」「この数だと自分は中々救急車で運ばれないですよね、ケガしないようにしましょうね」というのをそれぞれの地域で出したりしましたね。
笹嶋: このコラムを見るのは都市部の方だけではないですから、そういったのも重要な視点だと思います。
小田: 大越さんがよく仰っていますが「自分の命も守れない人には会社も守れない」。そういう意味で新社会人の方には、防災についてご理解いただきたいですね。
大越: そういえばこの間移動中に植野さんと話した時、「目黒巻[1]」についてきちんと話してなかった事を思い出しました。小田さんと笹嶋さんには話しましたよね。
笹嶋: 当社に入社した当初にこういうのがあるんだよ、のような感じで教えていただいた記憶はありますが実際にやってみよう、まではやっていないかもしれません。
小田: 教えていただいて、研修などで1、2回やったような記憶はあります。
大越: マイ・タイムライン[2]」もそうですけど防災ワークショップなどで、自分事にする系のワークショップは新社会人の方に研修などでやってみても良いかもしれません。
「目黒巻」はその名の通り巻物形式になります。5分後に何やっているのか、1週間後、1年後にはどうなっているのかを自分でイメージしながらやっていく、この世界では有名なものですね。東京大の目黒公郎先生が考案したので「目黒巻」と言います。
植野: 私も大越さんから話を聞いて、「目黒巻」を使って、新社会人の方へ伝える方法を考えていました。しかし新社会人の方って会社の一日の流れがイメージつかないのではないかと思い、そこでつまずいています。
私がネットで見たのは介護施設の例でしたが、そういうとこは結構やることが決まっていまして、実際にやっていた方々も新卒というわけではなくて。
大越: 一番初めの設定はきちんと決めてあげることが重要ですね。例えば金曜日の夜中に地震が起きたらとか。じゃあ会社と連絡はいつとる?とか。夜中に発生するとか、その方が書きやすくなりますので試してみてください。
小田: 新社会人という事であれば、個人的には震度や揺れについても教えておきたいですね。「震度6弱」と言われてもどれくらいの揺れかわからない人はいると思いますので。震度5強、6弱、6強くらいはどれくらいの揺れなのか知っていても良いかもしれません。
※参考:「震度と揺れ等の状況(概要)」(気象庁)
笹嶋: 東日本大震災が2011年で、15年前だから大卒が入社するとして当時小学校に入るくらいの方たちですか。地震の揺れについてピンとこない人もいるかもしれませんね。
大越: 東日本大震災で思い出したんですが、東京は当時「震度5強」で「ほとんど被害はありませんでした」という方もいますが、、実は東京都でも建物の天井が落下するなどして8名が亡くなっているんですよね。そう考えると「震度5強」は大丈夫です、のような言い方も気を付けないといけないなと先日改めて思いました。
[1] 東大の目黒先生が考案した、災害時の状況を自分自身の問題としてイメージするトレーニングツールのこと。「災害が発生した後、自分がどのような状況に置かれ、何を思いどう動くか」を考えて作成する。

[2]自身で作成するタイムライン(防災行動計画)の事で、台風等の接近による大雨によって河川の水位が上昇する時に、自分自身がとる標準的な防災行動を時系列的に整理し、自ら考え命を守る避難行動のための一助とするもの。

【ポイント】

  • 自分の命も守れない人は会社も守れません。自分が被災した時は助けがすぐに来ないものとして、自分の身を自分で守れるようにしておきましょう。
  • <企業担当者向け>「目黒巻」や「マイタイムライン」など、自分で手を動かしてもらう形式の研修も、自分ごととして捉えてもらうには有効!

「BCPカフェ」参加者が持ち歩く・持ち歩きたい防災グッズ

小田: コラムの最後は、「簡単なことから始めましょう」という方向で話したいところですが、小さなことであれば、机の中に備蓄用にお菓子を入れておく。とかもありますよね。ただ、「本当に災害が発生したときに、周りの人がお菓子など持っていない中、自分だけ、一人だけそれを災害時食べられますか?」という話を以前同僚としたことがあります。
永橋: 気にしなくて良いと思いますよ。
笹嶋: それはその人が日頃から備えていた自助の成果です。
大越: その通りなので、もし隣の席の人が備蓄をやってなかったら少し渡してあげるくらいでいいのではないでしょうか。
植野: 私も出来ることから…という事で普段持ち歩く用の防災ポーチを実際に作ってみました。ただ備えれば備えるほどポーチが大きくなってしまって。皆さんの中でこれは入れておいた方が良い、みたいなものってありますか。
 
▼植野さんの防災ポーチ。ポーチの中にも色々入っています。
防災ポーチ
大越: 鉄板で言うとホイッスルは小さくても良いので1個入れておいた方が良いですね。ただ、「これが正解だからこれだけ用意してください」ではなくて防災グッズはどんどん進化していくので、普段使いできるものを防災について意識しながら、興味がわいたものを少しずつ買っていくのが大事かなと私は思います。
小田: 以前防災関連の展示会に行った際、簡易トイレを紹介していた方には、過去、ニュースにもなった、長時間に及び電車内の閉じ込めの際の事例を紹介してもらったことがあります。長時間電車内に閉じ込められ、どうしても我慢が出来なくなってしまう事例もあったとの事でした。
想像しただけで恐ろしいことですが、人間の尊厳にかかわるダメージなども考えたとき、何か1つ持ち歩くとしたら私は簡易トイレかなと思いますね。1個持つだけで意識が大分変わるかなと。
笹嶋: 私は携帯ラジオです。被災してライフラインも電波も使えなくなった時、すべての情報を数日間、ラジオから手に入れていましたので。電池は外した状態にして電池式の携帯ラジオをずっと持ち歩いています。後は、この会社に来て大越さんと小田さんの話を聞いて簡易トイレは持つようになりました。
永橋: ラジオで言うと、手巻きの充電式でラジオと懐中電灯が一体化しているのを一時期持ち歩いていました。あと大切だなと思うのはゴミ袋ですね。簡易トイレを使ったとしても処分はしないといけないですし、ゴミは何か食べても出ますし。あとは常備薬について何日分かはプラスアルファで持っていた方が、何らかの疾患を持った人、疾患ではないけれど普段飲んでいる方には必要じゃないかと思います。
田中: 皆さんの言っているものは全部あった方が良いなと思いつつ、原点的なところで言うと水が大事だなと。自分のデスクには500ml一本必ず入れています。自分で生み出せないし、心のゆとりにもつながるので水でもお茶でもデスクに1本入れておくと良いのかなと思います。
 
▼田中さんがローリングストックしている飲み物。この日はお茶でした。
飲み物
▼笹嶋さんの携帯ラジオ、持ち歩いて擦れもありますがきちんと動作します。
携帯ラジオ
大越: あと、私は自宅にはLEDランタンが3~4個ありますね。LEDなので1週間は持つので。1個2,000~3,000円くらいです。ほかにはLEDのヘッドランプを持っています。頭にもつけられるんですが、面白いのが、アタッチメントがあってこれをつけると普通のライトにもなれて1個で何役かが出来ます。
昔は懐中電灯も言われていましたが、ヘッドランプだと両手が使えます。やはり家の中でも両手は使えた方が良いので私はこっちを推奨しています。
田中: 衛生の話などもしてしまうと保湿のためにワセリンをおすすめします。栄養状況や置かれている環境が悪くなるので肌が乾燥したり荒れたりするんです。かといって、災害時に化粧水や乳液、リップクリームの用意は中々現実的ではないと思います。ワセリンは肌や唇等、広く使えるので1つあると便利です。
大越: 避難所ではおにぎりとかパンとか炭水化物に偏りがちになるので口内炎が流行るんですよね。
田中: ポーチに入れる余裕がある場合はビタミン系のサプリなんかがあると良いですね。
大越: 是非入れてほしいですね。いつも飲んでいるサプリがある場合は特に。
田中: 話すとたくさん出てきてしまいますね。

【ポイント】

  • 防災グッズに正解はないので、興味がわいたり、普段使いが出来たりするものを日頃から少しずつ買っていきましょう。

 

前編まとめ

笹嶋: 今回はこの、皆さんおすすめの防災グッズ紹介をまとめにしたいと思います。大変話が盛り上がりましたので、前編・後編で掲載したいと思います。次回もどうぞお楽しみにしてください。

【今回のまとめ(ポイントの再掲)】

  • 自分の命も守れない人は会社も守れません。自分が被災した時は助けがすぐに来ないものとして、自分の身を自分で守れるようにしておきましょう。
  • <企業担当者向け>「目黒巻」や「マイタイムライン」など、自分で手を動かしてもらう形式の研修も、自分ごととして捉えてもらうには有効!
  • 防災グッズに正解はないので、興味がわいたり、普段使いが出来たりするものを日頃から少しずつ買っていきましょう。

※「BCPカフェ」では、エス・ピー・ネットワークのBCP担当者たちに扱ってほしい防災・BCPに関するテーマを随時募集しています。

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