天災は、忘れぬうちにやってくる!これから始めるBCP

南海トラフ巨大地震対策BCP、バックキャスト型で2035年に向けて完成を急げ

総合研究部 専門研究員 大越 聡 総合研究部 専門研究員 大越 聡

資格:防災士 主な研究分野: BCM(事業継続マネジメント)、防災、リスクコミュニケーション、危機管理広報

2021.12.21
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地震による被害

南海トラフ巨大地震対策BCP、バックキャスト型で2035年に向けて完成を急げ

地震や水害が多発する昨今、特に地震について「実際のところ、いつまでにBCP(事業継続計画)を完成すればいいのか」と考えられているBCP担当者は多いだろう。現在、南海トラフ巨大地震については今後30年以内に70%~80%の確立で発生するといわれており、BCP策定自体は急務といえるが、例えば老朽化した工場の耐震補強などは莫大な費用も掛かるため、一朝一夕には完成しないのが現実だ。もちろんBCPの策定自体は企業にとって急務だ。しかしその計画を達成するためのロードマップにおいて、耐震補強や人員計画など、いつ完成を目指せばいいのかは非常に悩ましいところだ。

そのような状況のなか、筆者としては2035年を1つのゴールとして考えることをおすすめしたい。理由は後から述べるが、今からおよそ15年間を貴重な時間として捉え、着実に耐震補強やそのほかの様々な施策を確実に進めていくことが、かえってスムースなBCPの完成につながるのではないかと考える。15年というと長い時間に思われるかもしれないが、実はそうでもない。今年2021年は東日本大震災から10年にあたるが、残念ながら企業のBCPについては当時からあまり進歩していないのが現実だ。15年といえども、今から計画し、着実に実行なければ時間は無為に過ぎ去ってしまうだろう。長い闘いともいえるが、ぜひとも企業の皆さんには検討していただきたい。

防災科研の長期構想のターゲット「2035年」

国立研究開発法人防災科学技術研究所は2019年5月、「安全・安心な社会実現のための防災科学技術-国難災害を乗り切るためのレジリエンス・イノベーション」を発表した。

▼安全・安心な社会実現のための防災科学技術-国難災害を乗り切るためのレジリエンス・イノベーション(防災科学技術研究所)

本書では「具体の時間断面と到達目標(日本の防災のあるべき姿)を設定する」として、現在行っている研究の長期構想のターゲットを「2035年」に据えている。その上で、バックキャスト型のアプローチで同研究所が果たすべき役割と実施すべき項目を挙げている。

なぜ、2035年なのか。南海トラフ地震は最も古い記録では684年に発生しており、史実に記載のあるものでも過去3回の南海地震についてはおよそ90年から150年以内の間隔で発生していることが分かっている。以下に、日本で発生した主な地震を挙げてみる。

過去に日本で発生した主な地震

(※太字は南海トラフ地震)

『平安時代~安土桃山時代』

863年
864年
868年
869年
その後
878年
887年
1586年
1596年
17世紀初頭
越中・越後で大地震(北陸)    
富士山や阿蘇山が噴火       
播磨・山城で大地震(関西)    
M8以上の貞観地震(東北)     
肥後、出雲、京都、千葉で地震   
南関東でM7以上の直下地震     
M8以上の東海・東南海・南海の三連動地震
飛騨、美濃、近江でM8級の天正大地震(関西)
伊予、豊後、伏見でM7級の慶長地震(関西)
十勝沖から根室沖までM8.4級の地震

『江戸時代』

1605年
1611年
1615年
1703年
1707年
1717年
1854年
M8以上の東海・東南海・南海 三連動型の慶長大地震
M8級の慶長三陸地震(東北)    
慶長江戸地震           
M8級の元禄関東地震        
M8.4の東海・東南海・南海三連動型の宝永地震、同年富士山が噴火
M7.5宮城県沖地震(東北)     
M8.4の安政東海地震と、その4日後に発生したM8.4の安政東南海地震

『大正・昭和時代』

1923年
1936年
1944年
1946年
1948年
M8関東大震災(関東)       
M7.4宮城県沖地震(東北)     
M8.2昭和東南海地震(中部・関西) 
M8.4昭和南海地震(関西、四国)  
M7福井地震(北陸)

1605年の東海・東南海・南海の三連動型の慶長大地震から1707年の東海・東南海・南海三連動型の宝永地震までが102年、そして宝永地震から安政東海・東南海地震までが147年、そして安政東南海地震からおよそ90年後の1944年、1946年に昭和東南海・南海地震が発生していることが分かるだろう。とすると、次の南海トラフ地震については昭和東南海・南海地震からおよそ90年後の2035年に設定することは、科学的・客観的に見ても妥当性があると考えられる。

それでも可及的速やかにBCPの策定が必要

もちろん、昨今多発する水害や富士山の噴火、いつ来るか分からない首都直下地震など、南海トラフ巨大地震のほかにもBCP策定が急がれるものは多い。しかし、BCPを策定していくうちに分かることだが、首都直下地震については大阪や名古屋といった東京以外の大都市が生き残る可能性が高いため、代替拠点戦略が有効となる。そのため、最も気をつけなければいけない災害として、太平洋側の東海以南で広域に被害が発生する南海トラフ巨大地震を1つの目標にあげることは、特に大企業にとっては有効な手段といえるだろう。

BCPはあくまで「計画」である。いうまでもなく、まず企業にとって先に「計画」を作ることはとても重要だ。そして計画に沿って対策を施していくうえで、BCP完成のゴールとして2035年を設定することは、企業にとって限りある予算や資源のなかで対策を施すうえで重要なファクターの1つといえるのではないだろうか。

【発災直後の様相】建物・人的被害
  • 地震の揺れにより、約62.7万棟~約134.6万棟が全壊する。これに伴い、約3.8万人~約5.9万人の死者が発生する。また、建物倒壊に伴い救助を要する人が約14.1万人~約24.3万人発生する。
  • 津波により、約13.2万棟~約16.9万棟が全壊する。これに伴い、約11.7万人~約22.4万人の死者が発生する。また、津波浸水に伴い救助を要する人が約2.6万人~約3.5万人発生する。
  • 延焼火災を含む大規模な火災により、約4.7万棟~約75万棟が焼失する。これに伴い、約2.6千人~約2.2万人の死者が発生する。

これは内閣府が平成25年3月に発表した「南海トラフ巨大地震の被害想定について (第二次報告)」から「発災直後の様相」を抜粋したものだ。経済被害に至っては230兆円とも推定されている。私たちの活動は、この被害想定を少しずつ良い方向に書き換える作業と言える。もしも現在、BCP策定を躊躇(ちゅうちょ)している企業があれば、BCPは「万が一の時の備え」ではなく、「来るべき未来を、少しでも良い方向に書き換えるために必要な計画」と考え、取り組んでほしいと切に願う。

(了)

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