天災は、忘れぬうちにやってくる!これから始めるBCP

安否確認システム導入のヒントとシステム候補

2022.08.30
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総合研究部 専門研究員 大越 聡

1.安否確認システム導入の意義

大規模災害時において役員・従業員(派遣社員、パート、アルバイト、協力会社含む)やお客様の命を守り、事業を継続するためには、初動対応において二次災害の防止措置や出社可能な従業員の参集を図ることを目的とした安否確認システムの役割は重要である。被災状況を把握し、必要な人員を速やかに業務にあたらせることで、回復のスピードは速まることが予想される。そのためには平時から安否確認の実施手順を定め、定期的に訓練することが有事の際に役立つ。

緊急時におけるBCP発動フローの図
緊急時におけるBCP発動フロー(出典:中小企業庁「BCP策定ガイドライン」)

2.安否確認システムの発報基準とBCP内での位置づけ

安否確認システムの発報基準は、各企業の業態によって異なる。

現在の気象庁から発せられる緊急地震速報は、最大震度が5弱以上と予想された場合に、震度4以上が予想される地域を対象に発表しているが、例えば大手企業などでは全ての事業所が耐震化しているオフィスビルに入居、もしくは自社ビルや工場は耐震化を施していることを前提として、震度5強以上の地震において自動発報することをBCP内で基準としている場合が多い。(同様に、災害対策本部は6弱以上で立ち上がる場合が多い)

ただし、それ以下の場合でも事業継続に深刻な影響を与える事案もある。例えば2018年に発生した大阪北部地震では震度5弱であったにもかかわらず、発生時間が通勤時間帯に当たったため電車等の通勤手段が麻痺し、多くの社員が出社できないケースとなった。

震度等級と周囲の状況の表の図
震度等級と周囲の状況(出典:内閣府防災)

このような場合に備え、発法基準には必ず、「そのほか、事業活動の停止リスクが発生した場合」「事業所が一日以上使用できない、あるいはそれが見込まれる場合」「業務遂行に必要な最低限の人数が確保できない場合」などを記載し、最終的には災害対策本部の判断で発報できるようにしておくことが必要だ。

また、中小企業の場合であれば、例えば飲食業などの場合は店舗が入居しているテナントビルによっては震度5弱程度でも建物に深刻な被害を受ける可能性もある。ガスなどの調理器具を扱うため、火災の危険性もある。それぞれの業態にあわせ、ハザードマップもにらみつつ、発報基準を検討しておきたい。

3.水害時における安否確認

水害の場合、安否確認の意味合いが少し異なってくる。いつ発生するか分からない地震と違い、水害は気象情報などによりある程度今後の予測が可能だ。したがって、安否確認システムを活用しながら「従業員への事前の注意喚起」をすることが重要となる。

5段階の警戒レベルと防災気象情報の図
5段階の警戒レベルと防災気象情報(出典:気象庁ホームページ)

本稿でもこれまで指摘しているように、「警戒レベル5」は既に災害が発生している状況であるため、「警戒レベル4」で避難が完了している必要がある。安否確認システムでは大雨の数日~約1日前に発せられるレベル1の「早期注意情報」、もしくは大雨の半日~数時間前に発せられるレベル2の「大雨・洪水注意報」を目安とし、該当する地域の従業員に対して注意喚起していくことが必要となるだろう。もちろん、特別警報が出た場合には安否確認システムそのものの発報が必要となる。水害が頻発する地域ではぜひ検討していただきたいポイントの一つだ。

4.安否確認システム運用における注意点

(1)連続発報の可能性

安否確認システムを運用する上で、「震度◎以上で自動的に発報」といったような基準を設け、自動化することは、地震は時と場所を選ばないため、非常に有効である。しかし2016年の熊本地震では短期間に震度7が2回、震度6強2回、震度6弱4回、震度5強5回、震度5弱14回と、震度5弱以上で合計27回の地震を観測し、何度も安否確認システムが発報されてかえって現場に混乱をきたした。このときの教訓から、「発報は3時間に一度」などの基準を設けた企業も多い。ただし、この場合は「大きな地震が何度も発生しているのに、なぜ安否確認システムは複数回作動しないのか」といった社員からの不満を招く可能性もある。事前にしっかりと理由を周知しておくことが重要だ。

(2)県をまたいだ出社の場合

安否確認システムは「拠点」主義をとっている場合が多い。2018年の大阪北部地震では県をまたいで出社している社員も多く、例えば「神戸から京都まで通っている従業員」が「大阪で被災した場合」に安否確認が発報されなかったケースがある。企業としては社員の住居や通勤経路等を把握したフォローも必要となる。このようなケースでは、システム上の設定だけでは対応が難しい面もあることから、近隣地域(居住していたり、電車が通行している前提)で、手動発信にて安否確認を行う等の運用も重要となる。

(3)細かい記載は反応を遅らせる

安否確認システムにおいて、選択肢を多く作り従業員の状況を逐一報告するよう作りこんでいるケースも見受けられる。しかし残念ながら、従業員から「家屋が倒壊しました」と連絡が上がってきても、企業として個人に対してとれる対応は少ない。状況を詳しく報告させるよりも、「本人と家族は無事か」「出社は可能か」など、必要最低限に絞ったシンプルな報告が望ましい。なお、暫定的に安否確認にメール等を使う場合は、とっさの状況でいくつもアドレスを選ぶ時間もないことから、メーリングリスト等を利用して、関係者に一斉に条項を共有する等の対策も必要となる。もちろん、そのためのアドレスやメーリングリストを準備・周知しておく必要がある。

(4)集計機能の有無

メーリングリストやLINE Worksなど、普段活用している手段で安否確認をするなど、安否確認システムを使わない方法もある。こちらは使い慣れているので従業員には分かりやすい反面、管理・集計がしにくいという欠点もある。専門の安否確認システムであれば「現在登録している社員は◎%。出社可能な社員は◎%」など、リアルタイムで管理・集計ができる。社員数や活用の方法に合わせ、検討していただきたい。

5.安否確認システムの候補

現在、各携帯キャリアとも安否確認システムを導入しており、その内容についてあまり大差はない。また、SECOMやALSOKといったセキュリティ会社においてもシステムにあわせ安否確認システムを開発しているほか、親会社やグループで契約しているシステムもあるはずなので、まずは親会社グループ会社のほか、自社が契約している携帯キャリアやセキュリティ会社に問い合わせ、内容を把握し、検討することが入り口となるだろう。

検討の際に考慮しなければいけないのは、安価なものは基本的に携帯アドレスや個人メールに飛ばすものが多いが、対象数が多くなると、個人的なアドレスの変更などが頻繁に行われるため訓練のたびにアドレス帳を入れ替えるといった作業が必要になる場合がある。そのような事態を防ぐために、社員全員にスマホを貸与している場合はアプリ型の安否確認サービスの検討も視野に入るだろう。小規模の組織であればメーリングリストやLINE Worksなど、通常活用している業務アプリで安否確認をする企業もある。

一方で東日本大震災以降、安否確認システムも大きく発達しており、アプリのなかで安否確認システムだけでなく災害対策本部の情報共有ツールとして活用できるものや、被害状況を地図に写真でアップできるものなど非常に高度なものも見られる。安否確認システムの運用と合わせて検討しなければいけないポイントだ。ただし、あまり高度なものを導入してしまうと使う方も頻繁な訓練などを通じてシステムに習熟する必要が出てくるので注意も必要となる。

その他で変わったところでは、ドコモのSMS(ショートメッセージ)を活用した一斉配信システムがある。これであれば最低限の情報にはなるが、電話番号の管理だけで対象に間違いなく配信できる。キャリアをまたぐことも可能だ。アジア圏では海外の安否確認も迅速に行うことができるという。自社の従業員数や貸与しているキャリアの状況等に合わせ、最適なものを検討していただきたい。

-以上

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